大祓百鬼夜行㉕~電波塔の死闘・終焉誘うは絶対の愛情~
●全ては"愛"から始まった
――ああ 愛しきUDCアース。
スカイツリー・ゲイン塔から広がるUDCアースの町並みを愛おしそうに見つめるは此度の元凶そのもの。
愛故に彼女――かつて忘れ去られしUDCアースの大いなる邪神が一柱、『大祓骸魂』は此処に帰ってきた。
――あなたを思う 私の愛は揺るがない。
――愛するUDCアース あなたを永遠にしたい。
愛おしそうに懐刀「生と死を繋ぐもの(ヤマラージャ・アイビー)」を握りしめて。
――あとひと刺しで それが叶います。
鈍ではあるが、時間をかければあらゆる物を殺せる刀。殺せば過去となり、骸の海で永遠の存在となる。
それが大祓骸魂の願いなれば、呼応するかのように空がまさしく幽世を描き始めていく。
――猟兵たちよ 止められますか。
電波塔の頂上で、あなたたちを待っています――そう奴は微笑んだ。
●それは終焉へのタイムリミット
「皆さん、覚悟はよろしいですか?時間の猶予は最早ありません」
東方親分、西洋親分、竜神親分、新し親分――4人の親分を打倒した猟兵たちは、ついに大祓骸魂と対峙する権利を手に入れた。
終夜・日明(終わりの夜明けの先導者・f28722)は招集した猟兵たちに向けて現在のUDCアース東京・スカイツリー・ゲイン塔付近の映像をモニターで見せる。
その上空は最早本来あるべき夜の星空の姿などではなく、まるでカクリヨファンタズムの世界そのものと言っても過言ではない様相を醸し出していた。
「大祓骸魂は身に纏う虞の力を用い、此度の戦争で発生したあらゆる事象を力としてきます。僕が予知したのはこれまでの親分たちが持っていた虞の影響……その場にいるだけで我々猟兵の"真の姿"が曝け出されるカクリヨファンタズムが如き空間を展開するものです。
まあ、端的に言えば"最初から全力全開でブチ当たってぶっ飛ばしてこい"というある意味では単純明快でわかりやすくはありましょう。
ですが、カクリヨファンタズムの妖怪たちがわざと己が身を危険に晒さなければ僕たちが認識することすら叶わなかった程の遙か彼方に忘れ去られし存在。
そしていち早くに忘れ去られたということは、"それほどまでに人類が危険と判断し追放せねばならなかった存在でもある"と言えます。決して油断してはいけません」
大祓骸魂の用いるユーベルコードは3つ。
一つ、骸魂に取り込まれオブリビオンと化した妖怪たちを統率し、己と配下全ての能力を強化するもの。
一つ、時間をかければあらゆる概念をも殺す懐刀「生と死を繋ぐもの」の複製を生成・操作するもの。
一つ、神智すらも超えた虞により、場を狂気的な愛が満ちた彼岸花畑に染め上げるもの。
これらに立ち向かうには、猟兵たち自身が親分戦でそうしたように、虞の充満した空間に体を預け、真の姿を晒して戦うより他にない。
真の姿でなければ、奴の討伐は敵わないのだ。
「大祓百鬼夜行のリミットまであと3日――それまでに奴を倒せなければ、二つの世界に未来はない。
ですが、あと3日までに迫りながらも僕らもカクリヨファンタズムの住人たちも諦めなかった、諦めなかった結果がこの道を拓いた!
ならば我々が奴を倒さずして何とするか!
親分たちが、妖怪たちが、二つの世界を護る為に我々の背を押してくれた恩義に報いる為にも!僕たちは決して立ち止まるワケにはいかないんです!
……勝ちましょう。何が何でも生きて帰って、勝利の朗報を妖怪たちに聞かせてやりましょう!」
激励と共に、少年兵士は猟兵たちを最後の戦場へと送り届ける――。
御巫咲絢
Q.バズリトレンディで最後じゃなかったのかって?
A.そのつもりだったんだけどラストバトル書きたかったのとそろそろシリアス書かないと書き方を忘れそうだったんです。
はいこんにちはこんばんはあるいはおはようございます!初めましての方は初めまして御巫咲絢です。
シナリオ閲覧ありがとうございます!御巫のシナリオが初めてだよーって方はお手数ですがMSページもご一読頂けますと幸いdせう。
やっぱラスボス戦、出さずにはいられませんでした(最後最後詐欺ばっかりしていて大変申し訳ありません)!!!
大祓百鬼夜行も残すところあと僅かとなりましたがボスが開いたからにゃ何がなんでも勝ってみせようじゃあありませんか!
という猟兵の皆さんの気概に御巫もできる限りお答えできればなーと思いまして、純然たる最終決戦戦闘シナリオをお届け致します。
尚、大祓骸魂については「倒しても従来のオブリビオン(妖怪に骸魂が取り憑いたもの)」と違い"救うことはできません"。ご了承くださいませ。
●シナリオについて
当シナリオは「戦争シナリオ」です。一章で完結する特殊なシナリオとなっています。
このシナリオには以下のプレイングボーナスが存在します。
●プレイングボーナス
真の姿を晒して戦う(🔴は不要)。
●プレイング受付について
プレイング受付は『5/29(土)8:31~23:59まで』
執筆は早くて29日の深夜、遅くても5/30(日)の昼より開始致します。
受付開始前に投げられたプレイングに関しましては全てご返却致しますので予めご了承の程をよろしくお願い致します。
頂いたプレイングは『5名様は確実にご案内させて頂きます』が、『全員採用のお約束はできません』。また、『執筆は先着順ではなく、プレイング内容と判定結果からMSが書きやすいと思ったものを採用』とさせて頂きます。
以上をご留意頂いた上でプレイングをご投函頂きますようお願い致します。
それでは、皆様の熱いプレイングをお待ち致しております!
第1章 ボス戦
『大祓骸魂』
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POW : 大祓百鬼夜行
【骸魂によってオブリビオン化した妖怪達】が自身の元へ多く集まるほど、自身と[骸魂によってオブリビオン化した妖怪達]の能力が強化される。さらに意思を統一するほど強化。
SPD : 生と死を繋ぐもの
自身が装備する【懐刀「生と死を繋ぐもの」】をレベル×1個複製し、念力で全てばらばらに操作する。
WIZ : 虞神彼岸花
【神智を越えた虞(おそれ)】が命中した対象にダメージを与えるが、外れても地形【を狂気じみた愛を宿すヒガンバナで満たし】、その上に立つ自身の戦闘力を高める。
イラスト:菱伊
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠山田・二十五郎」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●
UDCアース、スカイツリー・ゲイン塔。
その空は先程グリモア猟兵がモニターに移した時よりも世界という境界線が揺らぎに揺らいだ歪な色をしていた。
それを見上げていた紅の双眸が、猟兵たちへと向く。
――待っていましたよ。
大祓骸魂は口を開かない。頭の中に直接語りかけてくる。
酷く不快な感覚だ。
まるで頭の中をごちゃまぜにしようとするかのように、わざとらしく慈しむような声で、狂気の淵に落とさんとするかのような。
故に猟兵たちはより一層決意を新たにする、"このオブリビオン・フォーミュラは決して倒さなければならない"と。
かつて忘れ去られし大いなる邪神が一柱である所以をその思念の一言だけで身を以て知ったが故に。
――さあ、猟兵たちよ。
――私の愛を、受け止めてご覧なさい。
決して開かぬその口元は、やけにひどく穏やかに緩んでいた。
黒木・摩那
いよいよ決戦です。
忘れたくなるくらいに危険な存在ということですが、ここで怯んでいては今まで相手をしてもらった親分達や他の妖怪たちに申し訳ないというもの。
大祓骸魂を全力で倒します。
真の姿発動! 姿形は変わりませんが、瞳の色が赤くなります。
体の奥底からみなぎってくる力。
これならば行けます。
魔法剣『緋月絢爛』で戦います。
まずは大祓骸魂の居場所をよく確認した上で、UC【胡蝶天翔】を発動。
周囲にある物や壁を黒蝶に変換します。
これを煙幕代わりにして、相手からの攻撃を妨害しつつ、【ダッシュ】で近づいて、【衝撃波】を込めた一撃をお見舞いします。
●黒蝶を纏いて翔けるは冥界の迷い子
酷く頭をかき乱すような思念の声に黒木・摩那(冥界の迷い子・f06233)は酷く眉を顰める。
サイキッカーである彼女は思念による意思疎通の類には他の猟兵よりある程度造詣が深い。
故に、より大祓骸魂が秘める底知れぬ狂気の片鱗を強く味わってしまったのだ。
誰よりも早く忘れ去られた――それは即ち、何よりも危険故に人類史から追放されたということであるということを嫌でも理解せざるを得ない不快感に苛まされる。
「(――ですが、ここで怯んでいては今まで相手をしてもらった親分たちや他の妖怪たちに申し訳ないというもの)」
元より立ち向かう以外に選択肢はない。ここまでこられたのはカクリヨファンタズムの住人たちの協力があればこそなのだ。
故に、この慈母を気取るかのような微笑みを浮かべる狂気の化身はここで倒さねばならない。
愛剣たる魔法剣『緋月絢爛』を構え、虞が溢れる空間に身を委ねれば摩那の瞳が血のような紅へと変わる。
真の姿は猟兵によって様々であり、著しく姿を変える者もいれば、そうでない者もいる。
摩那は後者だ。だが身体の些細な変化以上に内側の変化は著しい。
体の奥底から間欠泉が噴出するかのような勢いで力が漲るのを感じていた。
「(――これならば行けます)」
大祓骸魂は摩那のその力の変化を感じ取りながらも未だその笑みを崩しはしない。
まるで子の成長を目の当たりにして微笑んでいるかのような母親を気取ったような笑みを浮かべてその場に佇み一歩たりとて動かない。
だが刹那、摩那の横を"ナニカ"がかすめていったような感覚がした。
通り過ぎただけというのに酷くぞくぞくとして、寒気が走るような気味悪い感覚――後ろを振り向けば、コンクリートで土も水もないスカイツリー・ゲイン塔頂上の床から彼岸花がその芽を伸ばし、血のように真っ赤な花を咲かせていた。
見てはいけないと直感的に悟る。ただの彼岸花畑ではない、これは大祓骸魂の狂気(あいじょう)を直視してしまうようなものだ。
すぐに前を向き直し、摩那はスマートグラス『ガリレオ』と索敵ドローン『マリオネット』を同期させ、大祓骸魂の位置を確認する。
目算で測ってはズレる場合がある。幸いにもステルス性が強いおかげか、気づかれることなく位置を把握することができる。
神の叡智すら超える程の虞は、その場にいるだけでいくらでも発することができ、外したところで自らの愛情(きょうき)で満たせるのだから必要以上に動くことはない――と思っているのか、それとも。
摩那にはこの愛を騙る狂気の化身の考えなど及ばないし理解できないし、決して理解してはならないと考えているが、一つだけはっきりしているのは現在、猟兵たちより自分が有為に立っていると確信していることだけはわかった。
ならば、それを覆してやろうじゃないか。
「"天に漂いし精霊よ。物に宿りて我に従え。姿さずけよ”」
【胡蝶天翔(パピヨン・ノワール)】。
静かに紡いだ詠唱句が、スカイツリー・ゲイン塔内半径107m内に存在するあらゆる物や壁を胡蝶にして天高く羽撃かせる。
それはさながらスカイツリー・ゲイン塔から黒い蝶の竜巻が発生したかのようで、幽世とを映す境界揺らぎし天空と相まってまさに常世の如き幻想的な有様に見えることだろう。
無数の黒蝶が視界を阻み、互いが互いを、否、大祓骸魂は摩那を捉えることができなかった。
まあ、と少しばかり意外な表情を見せて、視線をちらりちらりと左右に振るが、やはり黒蝶の波に目の前の景色が次々呑まれて。
「!」
刹那、一瞬だけルーン文字の煌めきが見えたかと思ったと同時、大祓骸魂の頭に強い衝撃が走る。
すてん、とその場に転んだ――と言うには派手に吹っ飛んでいつの間にか戻っていた壁に全身を打ち付ける。
摩那の『緋月絢爛』の一閃が衝撃波と共に振るわれ、先手を取ることに成功したのである。
大祓骸魂の頭からつぅ……と血が滴っていく。
だがそれは妖怪たちに流れる血とも人に流れる血とも全く違う、酷く異質な色。それがまた酷く不気味で、ダメージを受けながらもにこやかな微笑みを絶やさぬその在り様はまさに狂気の邪神と呼ぶに相応しいと言えた。
――見事なお手前で。
脳内から精神の奥底に入り込もうとするかのような似つかわしくない優しい声に摩那は再び眉を顰める。
「(何というか、これだけで虞知らずがなければならない意味を嫌でも理解してしまいましたね)」
この邪神の虞はまさしく本能的恐怖を呼び起こす狂気そのものだ。
新し親分から授かった虞知らずの精神(ちから)がなければあっという間に呑まれることだろう。
だが、先手は確かに猟兵側が取ることができた。いくら邪神とは言え頭部を攻撃されたダメージは後を引くハズである。
人の形をしている以上、頭でモノを考えているのだから・人であろうとあらざろうとそれはそう簡単には変わらない。
とはいえ深追いして逆転されてしまっては元も子もないと、摩那は次なる猟兵に後を託してグリモアベースに帰投する道を選ぶのであった。
大成功
🔵🔵🔵
隠神・華蘭
★の段落は口調・八百八狸で召喚された者が喋ります
やむを得ませんね
真の姿・赤い着物の怨み狸になりましょう
鉈での切断と小判ばらまきの範囲攻撃で妖怪達が集結するのを防ぎつつ戦います
反撃は逃げ足と化術木の葉変化で避けますが、傷が蓄積しましたらUCを使い『彼女』を喚びます
わたくし流こんてぃにゅーってやつです
★
寝ていろ役立たず、終わらせてやる
大祓に近い妖怪共に炎をぶつけ燃やし
この場より遠くへ尾から毛をばらまきそれらを化術で剣山に変えてこれ以上邪魔者が近寄るのを防ぐ
〆に大祓の首に鉈切断を……!?
気が変わりました、わたくしが終わらせます
残った力で己の鉈の先端を化術で尖らせ大祓の背後からだまし討ちで突き刺します
水鏡・多摘
よかろう。やれる限りの全力をくれてやる。
龍神の一柱として汝が如き邪神は滅ぼすが宿業故に。
止める、ではない。骸の海に還れ。
空中浮遊と空中機動で空中戦を仕掛ける。
配下共には龍符に破魔の力と水の属性を乗せ投擲し念動力で当てて削る。
その間天候操作で濃霧に変え視界を悪くして符の行方を視認し辛くさせる。
そしてある程度龍符を撒いたらそれを起点に結界術で壁を作り出しオブリビオン達を分断。
生じた隙に念動力で大祓骸魂の足を引っ張り体勢崩しを狙いつつ、一気に大祓骸魂へと飛び込み全力を込めたUCを叩き込む!
※アドリブ絡み等お任せ
真の姿は水龍、通常姿の龍の体、服や装飾が清浄な水に変化し雷雲を羽衣のようにして纏っている
●荒魂たる竜神と八百八の恨み狸
――さあ、次は何方が止めにきますか?
不気味な色の血を流しながら大祓骸魂は絶えず微笑む。
「止める?――そのような生易しいものではない」
それは何も無い場所から突然水が湧き出づるように龍の形を成し、雷雲を羽衣として身に纏う真の姿を解き放ちし竜神・水鏡・多摘(今は何もなく・f28349)。
邪神を滅ぼすという竜神の一柱が背負いし宿業は信仰を失えども決して潰えることはない。
故に此度も邪神を滅ぼす為に再び現世に舞い降りるのは当然のことである。
おや、と大祓骸魂は意外そうな表情を浮かべた。
まるで嘗て顔を合わせたことがあるかのような反応をだ。
――竜神。なんと懐かしい。
「汝が如き邪神は滅ぼすが宿業。骸の海に還れ」
絶対的な敵意を以て対峙すれど、大祓骸魂はまるで昔を懐かしむかのように微笑み続ける。
決してその奥底を見せはしないと言うかのように、奴はその微笑みを崩さない。
「やれやれ、とんでもなく骨が折れそうですねぇ」
少し遅れて駆けつけた隠神・華蘭(八百八の末席・f30198)もその不気味なまでの穏やかさに全身の毛がよだつかのような寒気を感じていた。
これまでの戦場を制圧したことにより著しく虞を抑えることはできたが、それでも少しでも油断したらあっという間に呑まれてしまいそうな程の圧倒的な虞がこの空間を支配している。
「(これはやむを得ませんね。あんまり喚びたくはないんですけど……)」
"今の自分『では』勝てない”――そう嫌でも直感した。
本当に今回ばかりはとんでもなく骨が折れそうだが、猟兵としてそのような戦いを何度も経てきたのだから今更とも言うだろう。
――おいでなさい。
――私の愛し子たちよ。こちらへおいで。
大祓骸魂は空にそっと手を伸ばす。
幽世との境が曖昧な空から現世に侵蝕するかのように降り立つは――未だ骸魂剥がれずオブリビオンと化した妖怪たちの群れ。
どうやら大祓骸魂の虞をより間近で受けてしまったものたちであろう。最早完全に各々の意志や本来の姿の原型すら残しておらぬ泥人形と化した有様だ。
その一人ひとりを大祓骸魂は慈しむように撫でる。自らの手が、衣服が、泥で汚れる度に子を慈しむかのような微笑みは一際花を開かせ、反して華蘭と多摘はオブリビオン達の姿に眉を顰めずにはいられなかった。
「最早元の姿ですらないなんて、惨い有様ですね」
「だが、恐らく虞の影響によるものであり完全に取り込まれているワケではなかろう。今のうちに骸魂を剥がせばどうにかできようぞ」
「そうですね、どのみち人海戦術でフルボッコは勘弁願いたいのです。まずは周りを片してしまわないと」
華蘭は地上から、多摘は上空から攻めに出る。
オブリビオンがこのまま集まれば集まる程大祓骸魂の力が増してしまうのだから、それは避けなければならない。
まずは多摘が上空から水と破魔の霊力を込めた龍符を濃霧と共に放つ。
深い霧が視界の阻害に直結し、大祓骸魂の周囲にいたオブリビオンを的確に攻撃、その聖なる水にて泥を洗い流すと、確かに元の妖怪であろう姿ははっきりと映し出された。
骸魂がまたその身を泥で包もうとするのを抑止するかのように、龍符に込められた霊水は降り注ぎ続ける。やがてその霊水は床を浸し始めるが、それらに全て破魔の力が込められているのだから抑止には十二分だろう。そして何よりもこれも全て彼の計画の内であるが故に。
一方で華蘭は懐から小銭を取り出し、オブリビオンたちに投擲した後一気に接近して鉈で切断しにかかる。
泥を切り裂けば、その中身が露わになる。しかしすぐに頭部――恐らく口と思われる部分から溢れんばかりの泥を吐き切り裂かれ露わになった肌を覆い隠した。
「グロテスクな光景はお呼びじゃないの、です、よっ!」
反撃に飛んできた鋭利な針と化した泥を木の葉変化で躱しながら、とにかく大祓骸魂からオブリビオンを遠ざける。
ヒットアンドアウェイを繰り返し、大祓骸魂の元へと集まるのを阻止し続けるがその代償として引きつけ続けたことにより包囲されてしまう。
そこから先、華蘭は防戦一方であった。致命傷は回避できれども小さな傷が重なれば当然体力というものはそれに比例して削られていく。
このタイミングで助けに入るであろうところだが、多摘は敢えて華蘭に構わず龍符を撒き続けた。
それは何故なのか?
答えは彼は華蘭の動きが明らかに"誘っているもの"であると理解していたからに他ならない。
華蘭は意図的に自らを追い込んでいるのだ――そうでなければ喚び出せないのだから。
「!」
足元にぶちまけられた泥に足元を掬われ、華蘭はついに地に倒れる。
それを狙い、オブリビオン達が一斉に泥を凝固させた刃で貫かんとしたその時だ。
『役立たずが』
そんな苛立ちの声と共に青白い炎が泥人形たちを覆い、泥の刃から水分を奪い去りぽろぽろと崩し去る。
華蘭の眼前には自らと同じ顔をした赤い着物の八百八狸――真の姿の自分自身が不機嫌そうに立っていた。
自らの瀕死をトリガーに真の姿、かつての自分自身である恨み狸をユーベルコードで呼び出したのだ。
『貴様はそこで寝ていろ。終わらせてやる』
真の姿の華蘭は周囲を一瞥し、青白い火の玉を大量に大祓骸魂に近い妖怪共にぶつけ、次々とその泥毎骸魂を焼き尽くす。
そして周囲には尻尾から毛を針を飛ばすような勢いでばら撒き、化術でそれを鋭利な剣山へと変え床を埋め尽くした。
多摘の龍符による床を覆う霊水に浸った毛が変わったソレにオブリビオンが降り立てば、すこしちくりとしただけでもオブリビオンにはとてつもない打撃となり近寄ることは非常に難しい。
これ以上増援が増えるのを阻止したも同然であった。
そしてそれを好機と多摘はばら撒いた龍符を起点に結界術の術式を即座に組み上げた。
邪なるモノを拒絶する見えない壁が大祓骸魂を包囲し、オブリビオンがこれ以上奴の元に集まるのを防ぐ。
おやまあ、と大祓骸魂は少しばかり目を丸くする。これでは子供たちがこっちにこれない、と言いたげに。
それと同時にぐらりと大きく体勢を崩す。
多摘の念動力により足を無理やり引っ張られたのである。状態を把握する前に既に大祓骸魂の眼前には荒魂と化した竜神が一柱肉薄し――
「邪神よ、彼岸に還るがいい!」
ユーベルコードによる渾身の龍尾の一撃が大祓骸魂の腹を捕らえる。
肋骨が、背骨が折れるような音を確かに聞きながら、大祓骸魂は壁に叩きつけられ、崩れる瓦礫の中に呑まれた。
多摘は目を細めてその瓦礫の山を見る。
これが普通の人間であったならば確実に死亡しているが、相手は人ではなく邪神が一柱。
まだ立ち上がる可能性は十二分にあり、その推測の通り大祓骸魂は瓦礫の中から再び立ち上がった。歪な折れ方をした身体をばき、ぐき、と戻しながら。
『骨をへし折っただけでは平気で立ち上がるか。ならその首を跳ね飛ばして――』
「いえ、気が変わりました。わたくしが終わらせます」
『!』
鉈を構えて肉薄しようという真の華蘭の目の前で、大祓骸魂の腹を鋭い刃が貫いた。
残る力を振り絞って、華蘭が背後からの騙し討ちを果たしたのである。
「これで……顔色一つぐらい変えてくれませんかね?」
ぎぎぎ、と人体からは決してしてはならぬ音と共に大祓骸魂は振り向いて。
口からごぽりと血を溢れさせながら、その目は確実に先程までの不気味で気が狂いそうな笑みとは別の意を示している。
それは彼女たちの連携は確かに大きな打撃を与えたのだと確信できるモノであった。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
アスカ・ユークレース
滅ぼしたい程の狂気的な愛…気持ちは分からなくもないけど……だからこそ、絶対に阻止しないと。巻き添え食らうUDCやカクリヨの住民だってたまったもんじゃないだろうし…
相手の攻撃はドローンを飛び石代わりにした◆ジャンプステップと紐状の流体金属を利用した◆ロープワークで避けて対処
耐えられない程の狂気ではないと思うけど極力、ね
チャンスが来たらUCを放つ
◆聖の属性攻撃を付与し◆範囲攻撃
真の姿
ヒト型の青いノイズとスパークの迸る液体のような姿で歩行能力を持たないため常に宙を泳ぎ移動、◆瞬間思考能力&◆継戦能力強化型※イラスト未発注
アドリブ絡み歓迎
月夜・玲
単純明快で良いじゃない
元々救う気はない、君は邪神に近い
だからこそ興味深い
私はUDCメカニック
邪神を研究し力を得る者
君の存在は私の中で生き続けるよ
●
圧縮空間にアクセス
外装、解凍リミット解除
私の真の姿は姿は変わらないんでね、その分上がった力で外装をフル活用出来る
四剣抜刀
さあ行くよ
【Overdrive I.S.T】起動
蒼炎、雷の剣を4本1組で運用
此処には私が25人居る
少しズルいかもしれないけれど、数で圧倒させて貰うよ
私はダメージを受けないように後方へ移動5組を護衛として近くに置き、『オーラ防御』の盾と『武器受け』で攻撃を防ぐ
残りは大祓骸魂へ突撃
波状攻撃で斬撃を与えて追い詰めていくよ!
アドリブ等歓迎
●閃き揺らめく雷炎の中で羊が歌う
「滅ぼしたい程の狂気的な愛……気持ちはわからなくもないけど」
それは愛する者がいる故の共感。
だがアスカ・ユークレース(電子の射手・f03928)はだからこそ阻止しなければとより決意を固くする。
――どうして?
大祓骸魂はきょとん、と首を傾げた。不思議だと言わんばかりに。
――そこまで愛しているのに、永遠のものにしようとしないのですか?
「説明したところできっと理解できないでしょうね」
――そう。
少しだけ残念そうにそう返し、けれど表情は不気味なまでに笑みを浮かべる大祓骸魂。
きっと奴にとっては"共に永遠に在り続ける"ことこそが何よりもの愛情なのだろう。
バーチャルキャラクターであるアスカとしては、その在り方を求めることは決して間違っていると言い切ることはできない。
だが、その為に他者を犠牲にすることは違うとは断言できる。
このオブリビオン・フォーミュラを討伐する理由なんて、たったそれだけで十分なのだ。
「けど、私が貴女を倒す理由は簡単よ――愛するのは構わないけれど、それで巻き添え喰らう人たちはたまったもんじゃないの。だから倒す。それだけの単純明快な理由なのだから」
「いいじゃない、単純明快で」
そこに駆けつけたもうひとりの猟兵、月夜・玲(頂の探究者・f01605)はアスカの言葉を肯定しつつ、大祓骸魂を興味深そうに見つめる。
――あなたも、私の愛を止めにきたのですね?
「そうだね。けれど君の存在は私の中で生き続けるよ」
玲はUDCメカニックだ。邪神を研究し、それによって力を、叡智を得る者。人類の発展となるやもしれぬ新たな扉を開くと同時に、人類を護る為の刃を生み出すことのできる者。
元よりこの大祓骸魂を救う気はない――そもそも救うという行為事態が不可能であるが――が、嘗ての邪神であることから彼女が興味の矛先を向ける理由として十分だった。
――さあ、止められますか?猟兵たちよ。
それは神の叡智すらをも超える禍々しい虞。決して目に捉えることはできないがそれでも脅威と感じるには十二分すぎる程のおぞましいモノが、大祓骸魂から溢れ出る。
目視不可能なその狂気に至る塊をアスカも玲も直感的にどこから飛んできているかを察知し、散開して回避。
そして真の姿にその身を変えるのだ。
「圧縮空間にアクセス。外装、解凍リミット解除――」
玲の携える模造神器、『System[Imitation sacred treasure]』――通称I.S.Tがその本来の力を解き放つ。
真の姿を解き放った今の玲だからこそ身体に負担をかけることなく扱える最終形態とも呼べる外装の姿を現した。
「四剣抜刀――さあ行くよ、システム多重起動!」
【Overdrive I.S.T】――それは常人では耐えられぬ程の負荷と引き換えに、それぞれ百振りもの雷と蒼炎をそれぞれ纏った剣を具現化させる……即ち、その剣を四振りずつ携えた現在の真の姿の玲の分身を25人生み出したのである。
これがUDCの力をも再現する模造神器を操るユーベルコード、しかしその分デメリットも大きい。
玲本人が傷を負うだけで、この25人の分身はあっという間に消え去ってしまうのだ。
「此処には私が25人いる。少しずるいかもしれないけれど、数で圧倒させてもらうよ!」
25人のうち5人をユーベルコードを解除されぬよう護衛として配置し、残り20人が大祓骸魂へと殺到する。
そして一方でアスカは大祓骸魂が放つ虞をドローンや流体金属を紐状にしロープワークを利用して回避することで相手を引きつけていた。
青いノイズとスパークが迸る液状体のような姿で宙を泳ぎながら、著しく強化された瞬間思考能力が彼女の直感も同時に強化されたことにより不可視の虞という狂気の塊を回避し続ける。
彼女が避ける度にスカイツリー・ゲイン塔のあちこちに彼岸花が咲き乱れていくが、それを互いに気に留める様子は一切ない。
段々と戦場がおぞましいまでの愛情(きょうき)に満ちる。
元より高い狂気耐性を持ち得るアスカはその程度で不安定に陥り等はしないが、ここまで狂気が充満した上であの虞を身に受けることは極力避けたいことであった。
「(耐えられない程の狂気ではないと思うけど――)」
万一ということもある。相手はオブリビオン・フォーミュラなのだから、甘く見て勝てる相手では当然ない。
防戦一方の状態を敢えて作り上げ、アスカは機を待ち続ける。
ずっと、ずっと、獲物を狩る為に息を潜め続ける狩人のように。
そして機は訪れた。
四振りずつ剣を携えた玲の分身の斬撃が大祓骸魂を捉えたのだ。剣のうち一振りが奴の脇腹を抉るように斬りつける。
ここまでのダメージが確かに蓄積しているのか、大祓骸魂は玲の分身が接近していたことに一切気づくことなく無防備にその一撃を食らったのである。
いったい何が起きたのだろう、ときょとんと首を傾げてすらいる大祓骸魂は理解する間もなく不気味色の血で己が服を染め上げて。
反射的に虞を放てども、それも四刀の前にいとも容易く切り伏せられ、彼岸花の花が散る。
だがそれでも玲たちの斬撃は止まらない。
80本の雷と蒼炎の剣から繰り出される波状攻撃は攻撃の暇を与えぬ程に追い詰めていく。
そしてその畳み掛けにより大祓骸魂の力が弱まったのを好機とし、アスカもついに動いた。
「"癒やしたまえ、赦したまえ、祈りたまえ”」
それはまるでミサの祝詞のような詠唱句。
めぇ、と戦場に似つかわしくない羊の鳴き声が響き――202匹もの羊が、戦場を覆い尽くすかのように姿を現す。
その足がくしゃ、と彼岸花畑を踏みしめれば、まるで冬を迎えたかのように枯れ、戦場の狂気が薄れていく。
めぇ、めぇと羊たちは合唱するように鳴き、大祓骸魂の虞を相殺し、永劫の眠りへと誘う。
「"暗鬱たる過去の幻影よ、その眠り努めて覚めることなかれ”――」
滅ぼしたくなる程の狂気的な愛情に理解を示せるからなのか、それともただ純粋にこれが最適解と判断したのか。それはアスカにしかわからない。
【白羊の眠り(アリエス・ヴィーゲンリート)】の鳴き声は、大祓骸魂の魂を浄化へと導かんとする――。
――ああ、ああ。
――眠るのね。永遠に。
――でも、まだあちらが眠ってないの。眠るなら一緒がいいわ。それまで待たなくては……
大祓骸魂の足下に、再び狂愛の彼岸花が咲き乱れ――辛うじて意識をつなぎ止めたようだ。
放たれる虞を取り込んで彼岸花は異常成長し、まるで檻を作るかのように大祓骸魂を包み込む。
「閉じこもった……!?」
「恐らく防衛機制か何かかな……けど、あと一押しまできたのは間違いないみたいだね」
玲は空を見上げて言う。
境界線が曖昧であった空が、少しずつ元の様相を見せつつあったのだ。
それは即ち、大祓骸魂の虞が弱まりつつあるということの証明に他ならなかった。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
リーゼロッテ・ローデンヴァルト
【SPD】
※アドリブ連携大歓迎
※『ナインス・ライン』に搭乗して滞空・俯瞰
※別称を好む
◆心情
(闇)医者・傭兵・猟兵…
どの立場でも、生死を繋がれるのはゴメンだよ
死は生きて想うモノ、でも抱えちゃ重いモノ
その重み、体感してみなよっ
◆真の姿
『マトリクス・メモリ』を機体の仮想鍵穴に装填・起動
そしてオペ47番【マトリクスドライブ・グラビティ】開始
各封印を限界一歩前まで解除すると外装換装
一回り細身の機体になりつつ、アタシの巨乳も復活♪
◆行動
発生源を再現する事で広範囲に魔法陣を全力展開
超重力で分裂した懐刀を全て地面に縫い止め
大祓骸魂も抑え付けたら全て高速連射で撃ち抜くっ
アンタが望んだセカイ、もうココには無いのさ
●汝、生に在りて死を想え
――ああ、ああ。
――空が、境目が、消えていく。
――あとひと刺しなのに、ダメよ。ダメ、ダメ……
彼岸花の檻の中で大祓骸魂は空に手を伸ばす。
――ダメよ、ダメ。
――私たちはひとつになるの。一緒に。永遠に……
その意志に呼応して、「生と死を繋ぐもの」がふわりと浮かぶ。
円を描くように宙を泳ぎ、分裂するように複製がいくつも作られて。生死の境目を再び繋ごうと、その鈍な刃はそのままはるか上空へ――
行くことはなかった。
その全てがまるで猟銃に撃たれた鳥のように、からんからんと地面に落ちていく。
彼岸花の檻を裂くように落ちたことで、、大祓骸魂の視界に巨大な機械人形――リーゼロッテ・ローデンヴァルト(リリー先生って呼んでよ・f30386)駆るキャバリア『ナインス・ライン』が入る。
――邪魔をするのですね。
「当たり前さ。(闇)医者、傭兵、猟兵……どの立場でも生死を繋がれるのはゴメンだよ」
リーゼロッテは猟兵であり、傭兵であり、そして医者である――闇、という字はつくのだが――。
傭兵も医者も常に死とは隣り合わせの職業だ、それが自分の死も含まれるのか含まれないかの差でしかない。
彼女はこれまでの人生でたくさん命の灯火が消えるところを見てきた。同時に死の淵から生へと這い上がる者も。
命に携わる職であるからこそ、生と死の境界がどれほど大事なのかをリーゼロッテは誰よりも理解していた。
「死は生きて想うモノ、でも抱えちゃ重いモノ……その重み、体感してみなよ――【マトリクス・メモリ】、装填」
『ナインス・ライン』コクピット内、光学式の疑似鍵穴に鍵と化したメモリが装填され、起動を始めると同時にその巨大な躯体が著しく変化を始める。
外装が普段のものとは全く別のソレに換装され、一回り細いモノとなるが発揮されるパワーは当然、従来の倍などというものではなく出力が上昇された真の姿だ。
それを操縦するリーゼロッテ自身もあどけない少女のような外見が一回り成長し、妖艶な美女のそれへと変化し、身体のキャパシティが増加された分の出力及び耐久性も当然ながら著しく上昇する。
「認証完了。現象再現用ホロアーカイブ、リローデッド――オペ47番【マトリクスドライブ・グラビティ】開始!」
刹那、先程「生と死を繋ぐもの」を撃ち落とされ、からんと地に落ちた程度なんて可愛い程の重圧がリーゼロッテの半径105m以内圏域全てに展開された魔法陣により引き寄せられる。
狂愛の彼岸花の檻が重力に耐えきれず手折られるどころかぐしゃぐしゃに潰れ、大祓骸魂の身を護るものが全て排除される。
大祓骸魂の身体もまた地面に縫い止められ、身動きが取れない。
骨の軋む音がする。
今まで猟兵たちから受けた傷口という傷口が圧迫され、不気味色の血液が潰れた彼岸花畑を染め上げていく。
そしてそれを狙い据えるリーゼロッテ。ターゲットは最早動き用がなく、完全なるロックに成功しているも同然だ。
「――アンタが臨んだセカイ、もうココには無いのさ」
けたたましく響くビームマシンガン『BS-804LW-LEX スカベンジャー』の発砲音。
彼岸花畑の展開されたスカイツリー・ゲイン塔の床が崩れ落ちる。
その身を蜂の巣の如く貫かれた大祓骸魂は、なす術なくタワーの頂上から真下へと、まるで天国から一気に奈落へと向かうかのように一直線に落ちていった――。
大成功
🔵🔵🔵
朱酉・逢真
心情)世界を滅ぼすなんとやらってェかい? ひ、ひ。その愛は此岸を侵す病。その愛は"いのち"を脅かす毒だ。お前さんのあり方を俺は赦(*あい)そう。それも"いのち"の形ってモンさ。俺は俺のシゴトをするよ。
行動)かつての邪神。それも忘れられるほど恐れられた存在…いわば人類種のトラウマだ。さぞかしたくさん愛(*ころ)しただろう。さァおいで、此岸に憧れし彼岸の"いのち"よ。お前さんらは、ああ片時も忘れなかったろう。笑え、咲え。ご覧、お前さんが永遠にしたやつらだ。真っ向からお前さんの愛、拒絶してるぜ。指差し呪っている。"お前がキライだ"と。動揺で動けンくなった一瞬に、俺は持てる限りの病毒を宿し、突撃しよう
●彼岸からの声
――ああ、ああ 空が……
ボロボロの身体を尚起こし、大祓骸魂は空へと手を伸ばす。
ああ、愛しい愛しいUDCアースを永遠にする為の幽世の空が消えていく。
私はあれと一つになるハズだったのに。
片時も忘れたことなんてなかった。いつしかまたあの愛しい世界に戻るのだと。
やっと戻ってこれたのに、やっと一緒になれるのに。
その表情は慈母を象ったような不気味な微笑みという仮面がとうに剥がれ落ちていた。
身体を起こし、彼岸花の舟を咲かせ、再び天へ舞い戻ろうとする。
骸の海で、愛しい世界を永遠にする為に……
だが再び頂上に戻ることは叶わず。
一枚の朱い羽根がひらりひらりと舞い落ちたその時、彼岸花は途端に枯れ腐る。
ボロボロの身を再び床に投げ出され、起き上がった時に目の前には一羽の朱ノ鳥が佇んでいた。
名を朱酉・逢真(朱ノ鳥・f16930)――凶星たる本質を宿す、疫病を媒介せし神が今ここに降臨したのである。
「かつての邪神。それも忘れられる程恐れられた存在……謂わば人類種のトラウマだ、さぞかしたくさん愛(ころ)しただろう」
――いとしい、いとしい、世界の子らを殺(あい)す。それは当然のことではないの?だって、そうしたら永遠に一つになれるのだから。私は私が愛(ころ)した子らのことを忘れたことはないわ。
その顔に余裕はないが、自らの思考は至極当然とでも言うかのように。
一切の迷いなく言う姿に逢真の口から笑みが溢れる。
「ひ、ひ。その愛は此岸を侵す病。その愛は"いのち"を脅かす毒だ」
――そんなにおかしいかしら?
「いいや?お前さんの在り方を俺は赦(あい)そう。それも"いのち"の形ってモンさ」
赦(あい)した上で、自らの為すべきことをするだけのこと。
命は増えすぎても減りすぎても困ると神は言う。
生と死の帳尻を合わせるのが逢真の役目ならば、不必要に命を減らすオブリビオンを討伐するのも当然その中に含まれるのだ。
「”稱すは片陰 対の忘遠、いと古き吾が一側面”」
逢真と大祓骸魂の間に、大きな大きな穴が開く。
「さァ――おいで、此岸に憧れし彼岸の"いのち"よ」
決して見えぬ底なしの穴、彼岸と此岸を繋ぐ【凶星の異面(キ)】――そこからは骸の海と同一にもすら思える空気が放たれる。
大祓骸魂は骸の海という一つの”彼岸”の在り様を揺り籠かなにかと思い、愛する世界を引き入れようとしているが、それは違う。
彼岸は一時の安らぎを与える場所に過ぎず、永遠に居座り続けるような場所ではない。
疲れた魂を癒し、再び循環の中に戻るかそうでないかを選ぶ選択の地。
故にここには、数多もの此岸に思い焦がれる"いのち"たちが集まっており、逢真は敢えて彼らを呼び寄せたのだ。
――ああ、かつて永遠にした、愛し子たちが……?
大祓骸魂はまるで期待を寄せるような目をしてそれらを見ていた。
"いのち"たちは穴から飛び出して、逢真の周りに集う。
『――』
「お前さんらは、ああ片時も忘れなかったろう」
逢真は意を告げる彼らの言葉を聞き、大祓骸魂へと視線を向けさせて。
そしてこう告げるのだ。
「笑え、咲え」
『――』
その"いのち"たちが叫んだ言葉は当然、大祓骸魂にとって望んでいたものではなかった。
大祓骸魂の表情がますます崩れ去り、見開く目から不気味な色の雫が頬を伝う。
それは受け入れられないという意志の現れ。
何を言っているのかわからないと振る舞う様子に、逢真は現実を語って聞かせてやる。
「ご覧、お前さんが永遠にした奴らだ――真っ向からお前さんの愛、拒絶してるぜ。指差し呪っている。
――“お前がキライだ"と」
――そんな。
その言葉は今までで一番人に近いような感情が籠もったように震える。
何故?
どうして?
愛するからこそ永遠にしたい、だからたくさん愛(ころ)してきたのに。
その為に私は帰ってきたというのに。
邪神として産まれ、誰よりも早く忘れ去られた存在は、自身の愛(きょうき)を信じて疑っていなかった。
猟兵たちに否定されても尚曲がらなかったモノが、かつて永遠にしたモノたちによって否定されることで初めて揺らいだのである。
――私は わたしは ただ た だ ……
呆然としたその目には、朱ノ鳥が翼を広げて目の前に迫りくることすら最早見えていなかった。
何が起こったのかわからぬまま、大祓骸魂は逢真が持てる限り宿した全ての病毒を身に受けてぼろぼろとその身体を崩していく。
それは砂のように粒子になりもすれば、液体のように溶けてもいくが、どの道全部が跡形もなくなることだけは変わらない。
狂気(あい)に満ちた彼岸花の枯れ果てた姿も、同時に風に晒されていったのだ。
――そして、幽世と現世との境界は再び再構築される。
UDCアースの上空がいつも通りの星々煌めく夜空に戻った頃には"いのち"たちも彼岸に帰り、閉館時間を等に過ぎた電波塔は何事もなかったかのように静寂に包まれていた。
誰一人として犠牲を出すことなく、生死の循環を正常に保ったまま。
長い長い百鬼夜行は、こうして静かに終わったのだ。
大成功
🔵🔵🔵