大祓百鬼夜行㉕〜愛シ哀シと涙雨
●
男は、腰に佩いた刀の柄をコツコツと叩く。
「行ってくれるだろ?」
大祓骸魂の喉元まで手が届く。
愛しいUDCアースを壊して、骸の海で永遠を過ごせるようにと、微笑んでいる。
狂っているからこその深い深い愛で、UDCアースを破壊するという。
狂おしいほどの愛だ。
だからといって、彼女に差し出してやる義理はない。無論だ。UDCアースを礎に生きる命がある。
許せるはずがない。
見逃せるはずはない。
大祓骸魂は、膨大な虞によって、東京上空を「カクリヨファンタズムが如き空間」に変化させ、『想い人』に会えたあの橋に立つ。
膨大な虞は猟兵にも多分に影響を与え――窮地になくとも、真の姿は引きずり出されるだろう。
「あの橋はやっぱり狭いし、大祓骸魂は容赦ねえ」
『想い人』に会えるかどうかは定かではないし、出会えたとて死者と一晩中語らってる余裕はない。狭い橋の上でどうやって戦うかの策は必要になる。
ただ――彼は紺瞳を伏せる。
「今まで戦った親分やらとは違って、大祓骸魂を救うことができねえ」
彼の掌上にグリモアが光る――真中に一輪のアネモネがふわりと開花。
「一途に想うからこそ、……いや、胸糞悪いことにゃ変わりねえ」
鳴北・誉人(荒寥の刃・f02030)は、嘆息を漏らす。
「どんな事情があるにせよ、そこで生きてる命がある。殺させるわけにはいかねえだろ――頼んだ、止めてきてくれ」
蒼いグリモアが東京上空の、虞の只中――ゲイン塔へと、導く。
●究極妖怪『大祓骸魂』
そっと笑むのは、白無垢の少女。
赤瞳に狂おしい虚無を湛えて、白磁の頬に笑みを刻み込む。
「愛するUDCアース、あなたを永遠にしたい――あと一刺しで、それが叶います」
ころころ笑う。
「猟兵たちよ、私を止められますか」
ころころと。
懐刀の刃を撫でて、足元に咲き乱れる彼岸花は赤く波打つ。
「電波塔の頂上で、お会いしましょう。待っています」
藤野キワミ
このシナリオは、「戦争シナリオ」です。
1フラグメントで完結し、「大祓百鬼夜行」の戦況に影響を及ぼす、特殊なシナリオとなります。
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プレイングボーナス
真の姿を晒して戦う(🔴は不要)/狭い橋の上でうまく戦う/などなど
一つで構いません。ボーナスが必要な場合は、戦場番号(⑧等)を記載してください。
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当シナリオは「やや難」につき、難易度相当の判定になります。
藤野キワミです。
最終決戦ですね、よろしくお願いします。
▼プレイング受付期間
・【5/29(土)8:31〜】受け付け開始。断章はありません。
・採用は先着順ではありません。戦争終結までには完結しますので、全員採用は約束しません。
・受付終了は当マスターページおよびシナリオタグ、ツイッター(@kFujino_tw6)にてお知らせします。
▼お願い
プレイングは心情に寄せていただいでも構いませんが、戦闘はします。
『想い人』と邂逅する場合はプレイングに設定を記載してください。
技能の使い方は明確にプレイングに記載してください。
プレイングの採用の仔細、ならびに同行プレイングのお願いはマスターページにて記載しています。
そちらをご一読ください。
それではみなさまのプレイングをお待ちしています。
第1章 ボス戦
『大祓骸魂』
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POW : 大祓百鬼夜行
【骸魂によってオブリビオン化した妖怪達】が自身の元へ多く集まるほど、自身と[骸魂によってオブリビオン化した妖怪達]の能力が強化される。さらに意思を統一するほど強化。
SPD : 生と死を繋ぐもの
自身が装備する【懐刀「生と死を繋ぐもの」】をレベル×1個複製し、念力で全てばらばらに操作する。
WIZ : 虞神彼岸花
【神智を越えた虞(おそれ)】が命中した対象にダメージを与えるが、外れても地形【を狂気じみた愛を宿すヒガンバナで満たし】、その上に立つ自身の戦闘力を高める。
イラスト:菱伊
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠山田・二十五郎」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
岩永・勘十郎
【⑮真の姿を晒して戦う(🔴は不要)】
「今までの妖怪たちの無念は猟兵が晴らしてやらんとアカン。
お前さんに対しての恨みはないが、お前さんが消える事が世の為になるんだ」
そう言ってマントを脱ぎ棄てると弓を取り出し本気の姿へ。
そのままUCを発動し透明化する。【忍び足】によって移動は悟られないだろう。敵の予測攻撃も【瞬間思考力】で把握。【戦闘知識】も相俟って、導き出す結果はほぼ確実に起こる事象なはずだ。そのまま【早業】と言える速度で回避する。
矢の攻撃で敵を無数に爆破し、曲射などを混ぜる事で位置を分かりにくくしパニックを起こさせる。こうなれば勘十郎の手の内。きっと【幸運】も味方するだろう。
●
さらさらと川が流れる音が満ちる中、戛然と橋を削る靴音は耳に新鮮だ。
「ああ、猟兵、待っていました――私を止められますか」
「そのために来たんだ」
厳然たる声音で、岩永・勘十郎(帝都の浪人剣士・f23816)は外套の留め具に触れる。渦巻く虞は彼にするりと沁み入ってきた。
「今までの妖怪たちの無念は、ワシらが晴らしてやらんとアカン」
「そうですか」
ころころと笑う女は、白無垢で。なにも怖いものはないというように、無邪気に笑む。
「お前さんに対しての恨みはないが、お前さんが消える事が世の為になるんだ」
愛しているから。あと一刺しで殺してしまえるから――そう言われて、放置は出来ないだろう。
勘十郎は触れていた留め具を外す。引き摺り出されるのは、真なる姿。
外套が橋に落ちた瞬間、勘十郎は《狗鷲》を構える。一度の瞬きの後には、彼は消えていた――大祓骸魂は首を傾げ、楽しそうに笑い続ける。
「かくれんぼですか、そう、お上手ですね」
足音を忍ばせれば勘十郎の位置は判らないだろうに。
「あと少しで、ひとつになれるのです、あと一刺しです」
大祓骸魂の声は、少し熱を帯びて勘十郎の耳朶を滑る。
百鬼夜行となって妖怪たちが白無垢へ集まっていく。列を成す妖怪たちは、彼女に力を与えていく。
「あなたたちの出番です、あのかくれんぼをしている猟兵を見つけておいで」
狛犬や稲荷の容の妖怪たちは、耳を聳たせ勘十郎の位置を探る――しかし、瞬間的に彼らの攻撃方法にあたりをつけて、今まで培ってきた戦闘知識も総動員して勘十郎は後退した。
矢を番える。
導き出した答えは、きっと大差なく起こるだろう――今の勘十郎の僅かな足音を聞きつけて妖怪たちは、果たしてこちらに牙を剥いた。
勘十郎の笑みは深くなる。
矢は勘十郎の気迫が伝播し、感覚はどんどん研ぎ澄まされる――離れ。
骸魂を取り込んでしまった妖怪たちが連鎖的に爆発していく。淀みない二射目は、もはや神業とも呼べるべき速さで番えられ射られた。
「ワシから逃げられると思うな?」
勘十郎の言葉に、はっとした大祓骸魂は、驚きに目を瞠った。
予期せぬ方向からの曲射で、一歩二歩と後退った先――不運にも――勘十郎にとっては幸運にも――蹲った達磨の妖怪に足をとられて尻もちをついた。
小さく悲鳴を上げて、慌てて立ち上がる。
「大丈夫です……あの猟兵を殺してくれるだけで構いません」
大祓骸魂の言葉に奮起した百鬼夜行――吶喊し見えない勘十郎へと吼える。
その機に乗じて勘十郎は、息を殺した。
今一度、【追跡光】が放たれる。大きく連鎖する爆破は、勘十郎の予想を超えない。どこにいるのかわからない敵からの攻撃に、妖怪たちはおろおろと取り乱す。
とっ。
鈍い衝突音は爆発の中、聞こえることはなかったが、それでも勘十郎は知覚。
彼の放った矢は、女の肩に突き刺さり、じわりじわりと白無垢を染めていく。
大成功
🔵🔵🔵
彼岸花・司狼
【狐狼】で参加
死にたくないから、死なせたくないから
殺されるまえに殺す。
これは、きっと、それだけの話
【目立たない】ように結城の技の影に隠れて、
敵の注目を【見切り】つつ上空まで移動。
上空でUCにより虞という負の感情を使って
雷を纏ったまま(【激痛耐性+限界突破】)最高の一撃を溜める。
溜め込んだあとは真の姿を解放しつつ、
チャージした雷を纏ったまま【捨て身の一撃】。
【野生の勘】に従って着弾点を修正し【残像】が残るような速度で空中からの雷を纏ったダイブキック(【鎧砕き】)を叩込む。
護堂・結城
【狐狼】
使用する真の姿は赤い妖狐
愛は千差万別、でも受け入れるかどうかはまた別の話よな
…外道狩り、始めるぞ
「てめぇ勝手に世界終わらされてたまるか」
指定UCを発動
雷羽根をばらまく範囲マヒ属性攻撃に紛れさせ、司狼を怪力で空中に吹き飛ばす
「骸魂になったてめぇらも縁のある妖怪を道連れにして満足かよ」
浄化の結界術で骸魂の力を削げるだけ削ぐ
「無差別殺傷は好みじゃねぇんだ、さっさと痺れろ!!」
殺気と覇気を込めた恫喝で麻痺に追い打ちをかけ、それでも動く奴は緑月を使った雷撃弾の制圧射撃で蹂躙する
痺れた妖怪を踏まないよう空中を翔け、落ちてきた司狼に合わせ、限界突破した速度で蹴りを叩き込む捨て身の一撃だ
●
穿たれた矢を抜いた女は、己の血で染まったそこを撫でる。
赤と緑のオッドアイが炯々と尖り、大祓骸魂を睨めつける。獰猛に笑むのは護堂・結城(雪見九尾・f00944)だ。燃える赤髪は、さらりと風に吹かれて揺れた。
「愛は千差万別、でも受け入れるかどうかはまた別の話よな」
愛する者を殺してまで手に入れたいと狂おしく思うのは、悪であるか――そんな答えのない問答をしている時間はない。
「死にたくないから、死なせたくないから……殺されるまえに殺す。これは、きっと、それだけの話」
あれやこれやと色々な理由をつけたところで、相手はオブリビオンであることに変わりなはい。
「ま、迷惑でしかねえな」
結城の言に彼岸花・司狼(無音と残響・f02815)は、こくりと肯く。
「私は漸うここまできました。今、愛しきUDCアースを殺して永遠にするのです」
ふたりに沁み入る虞は、己の内の真を引き摺り出される。
「てめぇ勝手に世界終わらされてたまるか」
結城の目の端に友が映る。もう一度頷いた灰色の髪は、徐々に黒みを帯びていく――司狼の中の力が膨れ上がる。
「……外道狩りだ。始めるぞ、司狼」
結城にだけ届くような返事をひとつ。蹴撃に特化した装甲を纏い、雷翼を広げた彼はふわりと浮き上がる。
列を成してどこからともなく集まりくる妖怪たちは、骸魂に飲まれている。大祓骸魂の元で共に力を高めあって、鼓舞し合って、強く強くなって、ふたりに牙を剥いた。
纏った【雷蹴鳳奏】の雷爪の先から電花が煌く。翼は強く空気を掻き混ぜた瞬間、雷羽根がばら撒かれ、妖怪たちの注目を逸らすことができた――大祓骸魂も、大慌ての妖怪たちを見たその一瞬だ――結城は司狼の躰を空中へと投げ飛ばす。
(「健気なのか、なんなのか、」)
凄まじい膂力で空中に放り出されるも、結城の派手な放電に隠れる司狼は、胸の内で呟く。
(「でも、やっぱりどうしたって、手放しで賛成できない」)
眼下では、麻痺の力が込められた雷羽根は橋上に降り注ぎ、百鬼夜行は痺れゆく。
「骸魂になったてめぇらも縁のある妖怪を道連れにして満足かよ」
大祓骸魂は答えないし、百鬼夜行は痺れる仲間の姿に怒りを爆発させる。
雷翼が空を打って、更なる羽根を撒き散らし、百鬼夜行から司狼をひた隠す。
橋の上に渦巻く負の感情は虞に纏わりついて、司狼の中に溜まっていく。
暴虐に屈さず、立ち塞がる困難があるならば、踏み潰す――茨の道だったとて、司狼は止まらない。
雷電が虞と共に溜まる。膨大に、溢れんばかりに。
司狼を隠す結城にも、その力の奔流は伝播する。それの完成は近づいてくる。なれば、結城にできることは、多くない。
「無差別殺傷は好みじゃねぇんだ、さっさと痺れろ!!」
浄化の力を織り上げた結界を展開。彼らの力を鎮められるだけ鎮め、凄絶な殺気と畏るべき覇気を込めた恫喝で妖怪たちを制圧していく――その奥で、大祓骸魂は赤瞳を丸めた。
司狼の髪が、深い黒に染まり上がっていた。
躰に溜め込んだ雷は、行き場を求めてバチバチと爆ぜる。
まるで雷のように大祓骸魂へと一直線に奔る――残像が生まれるほどの速度で落ちる司狼の捨て身の一撃は、果たして彼女を隠し護る傘を木っ端に砕き、白無垢を蹴り飛ばす。
猛烈な蹴撃で体勢を崩した大祓骸魂だったが、手心を加えるつもりは毛頭ない。
痺れて動けぬ妖怪たちを踏まぬように空を翔け、蹴倒された大祓骸魂へ追撃――加速による莫大な力が乗った捨て身の蹴撃が突き刺さった。
力が爆発する。
ふたりの雷電が空気を痺れさせて、震撼させた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
吉備・狐珀
UDCは私の愛する人が生まれた世界
あの人の愛する世界も思い出も決して壊させはしません!
この世界を護るためなら私も神を超えてみせよう。
兄様、私に力を貸してください。
真の姿(白い狐にまたがっ姿)を解放し、UC【狂炎舞踊】使用
神の有する知恵を超えた虞。
どこまで防げるかわかりませんがウケに補助してもらいつつ狂気も呪詛も全てを浄化するオーラと結界でかわし、ヒガンバナは我が剣の炎と斬撃で二度と咲かぬよう地形諸共焼却し破壊する。
相手は究極妖怪。
反撃の隙をみせることは禁物。
月代、ウカと共に衝撃波を放ち、さらに炎を燃え上がらせるのです!
みけさんはレーザーと砲撃で後方から私の援護とヒガンバナの焼却をお願いします!
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壊させるわけにはいかないのだ。
この世界は、狐珀にとっても大事な世界だ。
吉備・狐珀(狐像のヤドリガミ・f17210)はぽつり呟く。
彼女の内から溢れ出すのは、決意の力。白無垢の女を見据える。
彼女こそ、この世界を混沌へと叩き落そうとしている張本人――大祓骸魂。
「この世界は、私の愛する人が生まれた世界」
あの優しい紫瞳が哀しみを映すところは見たくない。
護る。
護ると決めた。
あの人の愛する世界も思い出も決して壊させはしない。
その為なら神をも超えてみせよう――狐珀の瞳が熾烈に燃える。
大祓骸魂の紅が引かれた唇が、そっと弧を描く。その微笑みに呼応し伝播していくのは、人智を越えた虞。
神の有する知恵を越えた虞――ぶわりと広がり、狐珀へと襲い来る。
「ウケ、手伝ってください」
展開するは堅牢なる浄化の結界。幾重にも張り巡らされる結界は、狐珀の聖性で編み上げられてその力をより強固なものへと変えていく。
これでどこまで防ぐことができるか分からない。
それでも。
「我求めるは炎獄と刃の閃き――」
絡繰り人形に宿した魂は、業炎を上げて抜いた神剣の刀身を燃え上がらせる。
狐珀の聖性は煉獄の炎へと姿を変える。
白狐の巨躯に跨って、戦乙女へと変じていく。
御するには大きすぎる力だ。しかし今の狐珀ならば――虞の影響を受けて、兄者の魂に触れて、心を固めた狐珀ならば、【狂炎舞踏】を踏めるのではないか。
「兄様、私に力を貸してください」
神剣は燃え上がる。
焼き浄める煉炎が振るわれて、虞は立ち消えるように散っていけども、それは地に落ちて瞬時に芽吹く。
「愛したのです、永久に共にいたいと願うのは、おかしいことでしょうか」
「戯れ言を言い合うつもりはありませんが、」
大祓骸魂の哀しみを映す赤眼を見据えて、「それでも」と狐珀は続ける。
「私はあなたのやり方に賛成できませんし、その是非も答えられません――だから、私もやりたいようにします」
護る。
この脅威から世界を護る。
愛する人から笑みを奪わないために、狐珀の命が少々削れることも厭わない。
「そう。私といっしょ」
大祓骸魂は、狐珀の言葉を面白がるようにころころ笑った。
相手は究極妖怪だ。反撃の隙を見せることは禁物。いくら彼女が無邪気な笑みを浮かべようとも、その眼に映る感情は虚無だ。
芽吹いたヒガンバナは、赤い波を作り上げたが、それを蹂躙するのは、炎を纏った斬撃波。
「月代」
普段と違う姿なれど、子竜は主人の声で空を翔る。
「ウカ」
黒狐が戦乙女の更なる刃となる。
「みけさん」
息つく間もなく強烈な光線が照射されて、狐珀の進む道を切り拓く。
赤い絨毯のようなヒガンバナは燃えていく、自壊するよう燃え広がる。
「壊すことは許しません」
轟々と燃え盛る炎の剣閃が、白無垢を突き刺し燃やし尽く。
「――――――」
なにかを囁いたらしいことが、僅かに動いた唇から知れた。彼女の声はあまりに小さくて狐珀の耳には届かない。
藍瞳は、静かに燃えゆく大祓骸魂を見据え続けた。
大成功
🔵🔵🔵
香神乃・饗
主様と会った橋の上で戦う
主様!新しい主を連れて来た!!
って言っても届かないかもっすけど
一つだけ礼を言っておくっす
お陰でずっと心配だった人に会えたっす
暫くはこっちに来るなって言われてるんっす
だから、俺は過去にはならないっす
世界に生きる人の明日を護って
今の主とともに今を生き明日に進むんっす
本当に好きなら
自然と過去に沈んでくるまで待ってるくらいの度量はないんっすか
待つのは辛くても!!
俺は負けない
大事な人たちが見てる
未来を見てかわす
狭くとも欄干を駆けたり左右に跳ねれば空間が使えるっす
フェイントをかけるように駆ける
途中足位置に剛糸をはり
挑発しおびき寄せ
転んだら
傘の死角から肉薄し
剛糸で絞め苦無で暗殺を狙う
●
香神乃・饗(東風・f00169)の黒瞳に映るのは、ずいぶんと傷に塗れてしまった赤瞳の女。
さらさらと流れる水の音は、黄泉へと流れる三途の調べか。
橋の上には、白無垢の女が一人。
それでも、欄干に腰かけて微笑む姿が見えたような気がして、饗の心臓は跳ねた。
「主様! 新しいあるじを連れて来た!!」
この声が届かなくても構わない。できるだけゆっくりおいでと言われたのに、早かったか――それでも逸る気持ちは膨れる。しかし叶わない。
あるじは、そこにいない。だから、気持ちを切り替えるように深呼吸をした。
黒瞳は確かに究極妖怪を映す。
「一つだけ、礼を言っておくっす」
彼女は首を傾げた。
「お陰でずっと心配だった人に会えたっす」
饗が饗として目を醒ました時から、ずっと心に引っかかっていた。傍で仕えたかったが叶わなかった。骸を抱いて虚無を知った。それでも歩み始めたあの時から――ずっと。
「主様には、暫くはこっちに来るなって言われてるんっす。だから、俺は過去にはならないっす」
手に握る苦無は、鋭く光る。
「この世界に生きる人の明日を護って、」
トッと小さく跳ね、鋭く呼気。大祓骸魂に向かって駆ける。
「今の主とともに、今を生き明日に進むんっす」
聞こえているか、届いているか、我があるじよ――饗はにっかと強く笑んだ。
負けられない。戦って駆ける饗のことを、大事な人たちが見ている。負けてしまうところを見せられない。
鈍でもあっても、無数にコピーされた懐刀の鋒鋩のすべてが饗を向けば、ぞわりと背が震えた――否、饗は怯まない。彼が見据えるのは、過去ではなくほんの少しの未来だから。
欄干を駆け、迫りくる刀の濁流を跳んで躱す。未来は刃の嵐だが、希望はある。明日が視えている。
素早く剛糸を欄干に巻きつけ、跳んだ。追いかけてくる刃を苦無で弾き落とす。
「本当に好きなら、自然と過去に沈んでくるまで待ってるくらいの度量はないんっすか」
「もう待ちました。たくさん待ちました」
がらんと大きな音をたてて落ちた懐刀を拾い上げ、愛おしげに撫でた大祓骸魂は、赤瞳に饗を映す。
「あと、一刺しです」
凄絶に笑む。いっそ恍惚と、その時を待ち侘びる彼女の姿に、饗は奥歯を噛み締める。
「待つのは辛くても!! それは、お前の我が侭っす」
大祓骸魂は動かない。ならば動かして隙を作る――この刀の防壁は厄介極まりない。未来を、希望を手繰り寄せる。苦無は手放せない。糸はある。着地の瞬間、橋板の隙間へ鋲を落とす。
体勢を低く保ったまま接敵、嫌がるように僅かに後退る。また鋲を落とした。
大仰に刃を躱して、細かな罠を張っていけば、大祓骸魂は饗の糸に捕らえられる――饗の斬撃から逃げんと動いた瞬間、張り巡らせた剛糸に足がかかり転倒。
饗は息を殺して死角へと入り込む。起き上がった刹那、細首に剛糸を巻き付けた。
「ぅくっ――」
「きょうからあすへ行くっす、過去を希うお前と違って」
張る糸に、渾身の力を入れて締め上げた。
大成功
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ヴォルフガング・ディーツェ
【狭い橋の上で戦う】
俺個人としては世界を壊してでも愛を貫く姿勢は嫌いじゃあない
だがな、君。少しばかりやり過ぎたんだよ
…世界とは、それほど重いのさ
ゲイン塔の連絡通路と【指定UC】を組み合わせて足場を工夫しながら「空中戦」を仕掛けよう
懐刀は守護のルーンを駆使した「全力魔法」「多重詠唱」「高速詠唱」「オーラ防御」の防護魔術で反らし、時に受け止める
接近したらガジェットを魔爪形態に移行し「グラップル」で近接レンジを維持した格闘戦を展開
「部位破壊」で内臓を抉り、毒を滴らせた爪の「属性攻撃」で静かに眠らせよう
なに、俺が「薬品調合」した速効性の猛毒だ
可憐なまま、夢を見たまま、静かに死の眠りに誘う事を約束しよう
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大きく咳き込んで、辛そうに喉をさする大祓骸魂の姿を見据え、溜息をひとつ。
しかしヴォルフガング・ディーツェ(花葬ラメント・f09192)は加減をしてやるともりは毛頭なかった。
「俺個人としては、世界を壊してでも愛を貫く姿勢は、嫌いじゃあない」
報われない愛の末の悲劇というのは、ごまんとある。そうしてそれは、往々にして人々の心を打ってきた。
「だがな、君。少しばかりやり過ぎたんだよ」
肩を射抜かれ、強烈な蹴撃に沈み、浄炎に焼かれ、頸を締められて――憐憫を誘うほどに弱々しく揺れているが、同情に値しない。
「あと少しなのです……もう少しなの」
血を吐くような声音に、ヴォルフガングは顔を顰める。
「やり過ぎなんだ。だから、こうして終わる……世界とは、それほど重いのさ」
「猟兵……猟兵……私を止めにきた、憎き猟兵……!」
最後の力を振り絞るように、膨大な数の懐刀が複製されて大祓骸魂を護るように展開された。
その刃すべてがヴォルフガングを捉えている。このすべてに刺し貫かれれば、ひとたまりもないだろう。
赤眼を眇め、風のルーンを身に纏う。出し惜しむことはなく、風の防護魔術を展開させて、刃がヴォルフガングに届くより前に、弾き返し、ときに受け止め、軌道をむりやり捻じ曲げる。
この防壁で刃のすべてを防ぎきることばできずとも、こちらに反撃の隙を創り出すことは可能になる。
ヴォルフガングはとんとんと跳ねた。
「遍く空と大地の精霊達、さあ、俺と共に踊ろう!」
楽しい【演舞】の時間だ。
橋上は狭い――ここであの数の懐刀を相手に立ち回るのは困難だ――ならば、空中を戦場に変えてやればいい。足場に展開するのは、風霊の力場。跳ねて、跳ねて、刃の嵐の只中で、本当に舞うように大祓骸魂との距離を詰める。
ごとり、ごとり。
懐刀は橋上に落ち、川へと落ちていく。
鈍であってもヴォルフガングの皮膚を裂いて飛び交う刃の嵐を抜けて、瀟洒な双腕輪に擬態する《スニークヘル》は、魔爪へと形態を変じた。近接レンジは維持したままに、凶爪を閃かせる。
「そろそろ、終わろうな」
それを躱しきるすべは大祓骸魂にはなかった。懐刀で防ぐ間もなく、腹を穿たれた衝撃に瞠目する。
手ずから調合した毒を塗り込んである爪は、血と共にだらりと猛毒を滴らせる。
腸(はらわた)を抉り裂かれ、速効性の猛毒が大祓骸魂を蝕んで、終焉へと誘う。
「、あ……ガ……」
小さな躰がふらりと揺れて、ヴォルフガングに寄りかかってきた――それを突き放す。
凄まじい虞を噴く女は、支えを失って力なく崩れ落ちた。飛び交った刀も落ちて消えて、砕けていく。
「可憐なまま、夢を見たまま、静かに死の眠りに誘う事を約束しよう」
大祓骸魂の躰は動かない。
呼気はだんだん細くなる。紅を引いた唇が薄く開いて、最後の懐刀が川へと落ちた。
どぷん。
あとに聞こえるのは、ただただ清冽で途切れぬ水音。
ヴォルフガングは、横たわり消えゆく姿を見つめる。
彼女の長い睫毛が頬に影を落した。
ゆっくりと、もうなにも映さない赤瞳が白い瞼に隠される。
白磁の頬は涙で濡れた。
●
愛しいUDCアース。
愛したひとよ。
いつのときも、あなたを――
大成功
🔵🔵🔵