大祓百鬼夜行⑱〜夢列車の噂
さぁさ走るよ夢列車。逃避行を、始めよう?
●昔話
ねぇ、聞いたことあるかい?
たっくさんの車輌の連なった、夢の機関車が夜空を走ってる場所があるんだって。
見付けるのは難しいけど、見付けたら乗るのは簡単さ。
夢列車に向かって叫ぶんだ。「僕も乗っけてくれ!」ってね。
そしたら夢列車が君を攫ってくれるよ。嫌なものなんてなにもない、夢の世界へ。
そんな謳い文句が、昔、在ったんだ。
そんな虚言を、昔、みんな、信じたんだ。
●UDC-Null
グリモアベース──今はカクリヨファンタズムの古びた民家の様を映したそこに、セロ・アルコイリス(花盗人・f06061)はいつもどおりの笑みで座す。
現れた猟兵に小さく手を挙げて見せて、
「ねぇ、UDC-Null、って識ってます?」
そう問う。
「UDC──今回は組織じゃなくて、怪物そのものの方の話ですね。アンディファインド・クリーチャー……Nullがつくと、『UDCじゃねーと証明されたもの』って意味になるらしいです」
へらり口角を上げて、セロは羊皮紙をめくる。
「この意味、判ります? つまり、『ただの虚言だ』って断言されたモンだ、ってことなんですけどね。ややこしいことに、『ただの虚言だって断言されたモン』が『やっぱり居た』ってのが、今回あんた達に逢ってもらいてーUDC-Nullってヤツなんです」
その正体は、骸魂と合体して帰還した妖怪だ。
だからこそUDC-Nullが悪行を働かぬうちに倒してしまおうという話なのだが。
「倒し方にコツがありましてね。『ただの虚言』がカタチを持ったモンなんで、『おまじないやしきたりの類』が効くらしいんです」
どのようなUDC-Nullが現れるのかは明確ではない。手許にあるのはかつて流布した『謳い文句』だけ。
「それでもまだ信じてるひとは居るみたいなんで。そういう『信じてるひと』達から話を聞いて、有効な『おまじない』を実践して欲しいんですよ」
場所は判らない。なにが現れるのかも判らない。もしかしたら──いつの間にか自らも呑まれてしまっているかもしれない。
昔話の虚言の中に。
「ま、呑まれたとしても『おまじない』さえ実行できりゃ、問題ねーんですから。怖いことねーですよね?」
左頬のハートのペイントを歪ませて、セロはそう笑って見送った。
朱凪
目に留めていただき、ありがとうございます。
昔懐かしのお伽噺、その残骸。朱凪です。
まずはマスターページをご一読ください。
▼遊び方
夜。聞き込みをしていただきます。
そしてUDC-Nullにまみえることができれば、聞き込みで得たおまじないを実行していただきます。以上です。
ただし、おまじないを実行するまでに遊んでいただくのは──逃避していただくのは、大歓迎です。
▼注意
幕間を追加してからの募集開始となります。
戦争シナリオであることは百も承知ですが、それ程迅速な執筆にはならないと思います。ご了承のうえ、ご参加ください。
お誘い合わせでお越しの場合、申し訳ありませんが『ひと組につき3名様まで』とさせてください。
では、逃避を楽しむプレイング、お待ちしてます。
第1章 日常
『おまじないを探せ!』
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POW : 忘れられたUDC-Nullの伝承を探し当てる
SPD : UDC-Nullの情報を迅速に集める
WIZ : UDC-Nullに有効そうなおまじないを考える
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種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●それはかつての夢の世界
こうだったらいいのに。
こうでなければ良かったのに。
そんな、『嫌なものなんてなにもない、夢の世界へ』行くための『謳い文句』。
きみ達は辿り着く。
きみ達の望む逃避の先へ。
そこには、きみ達以外の誰かもいるかもしれない。
そこにいる誰かは、きみと同じように逃避をしてきた誰か。きっと『おまじない』についても知っているだろう。
帰るためには、その誰かに聞けばいい。その誰かが語るのは真実ではないかもしれないけれど、真実なんてどうでもいいのだ。『おまじない』さえ成せば、事は為る。
それまでは逃避行を楽しむのも悪くない。
悪くない──だろう。
紫洲川・珠璃(サポート)
キャラの雰囲気は落ち着いたお姉さんの感じです
口数はどちらかというと少なく物静か
戦闘は果敢に攻め入り、
速度を生かした撹乱を主として手数重視の攻撃で戦います。
足は止めず常に動き回り、奇策より正攻法を好みます。
武器は主に一振りの刀(虚鐵)を両手持ちで使い、まれに脇差として所持している二本目を抜きます。
弓は事前に必要性がわかっていれば持ち込みますが、持っていないことも多く歯噛みすることも
ユーベルコードは基本は以下の順で制御しやすいので利用しますが
状況に応じて適切なものを利用します。
【使いやすい】⇔【使いづらい】
炎狐=妖剣解放<黒狐召喚<神狐召喚
●呼び声
「おかあさん……!」
紫洲川・珠璃(夜を追う者・f00262)は高い声に、その銀の耳を揺らした。
確か夜の踏切に差し掛かる場所でひとりの少女を見掛けたところだった。少女が空に向けて何事かを叫ぶのを見た途端──世界が変わった。
まるで周囲は花畑。
そして件の少女は、ひとりの優し気な女性に泣きながらしがみついていた。
珠璃は静かにそれを見遣る。見守る。見つめる。
状況は判らない。けれど判ることはあった。
少なくとも、あの『母親』は現世のものではない。オブリビオンそのものではなさそうだが、オブリビオンの、骸魂の気配がする。
見知らぬ少女はそんなことには気付かぬ様子で──否、気付かぬふりで、ただ母との会遇にむせび泣いている。
「そうだよね、おかあさんはいるよね、死んでなんかないよね」
『ええそうよ、リナ。お母さんはここに居るわ。死んでなんかない……ずっとここで暮らしましょう」
「うん……うん!」
そのやりとりに、珠璃の胸が鈍く疼いた。甘言。悪意のない害悪。隙なく『虚鐵』の鯉口を切りながらも『ふたり』にゆっくりと近付いた。
喪った者を求める気持ちは、珠璃にも理解できる気がした。
けれど。
「こんばんは、お嬢さん。……少し、お話ししても?」
見知らぬ少女は『母親』の服の裾を握り締め、珠璃を見上げてそれでも小さく肯いた。だから珠璃は敢えて『母親』を視界に入れないように気を配りながら、少女の前で膝を折り、視線を揃えた。
穏やかに、微笑んで。
「この世界から帰るためには、どうしたら良いか知っている?」
「え……。ぅん、と……夢列車から降りるのは、『とうひをやめたらいい』んだって。『バイバイ』って伝えたらいいって。でも……お姉ちゃんは、会いたいひとは、いないの……?」
少女は『母親』を見上げ、『母親』は少女へ微笑む。
珠璃はそれを見て淡く笑みを浮かべ──夜空色の瞳を真摯に少女へと据えた。
「私も会いたいひとはいるよ。……でも」
死者が生者の足を止めてはならない。生者は死者を理由に足を止めてはならないのだ。
小さくかぶりを振って、珠璃は少女の手を取った。
おそらくこれは、『夢列車』という怪異。喪った者と会うことができる空間、なのかもしれない。けれどこうした類の物語にはオチがある。
選ばない限り、永遠に帰ることができずに死に至る、と。
「……お嬢さん、あなたには、お母さん以外に会いたいひとは居ないの?」
お父さんは? きょうだいは? お友達は?
「あなたのことを、待っているひとはいないの?」
珠璃の言葉に少女の表情が曇る。思い当たる節があるらしい。かつての珠璃とは違って。
「……待っててあげる。だからちゃんと、『バイバイ』しよう?」
『母親』に、ではない。
この優しい、偽りの世界に。
少女が肯くまで、時間は掛かった。それでも彼女は、握っていた裾を離した。
成功
🔵🔵🔴
フィロメラ・アーティア
乗せてほしいと叫んだ夢の機関車
気づけば隣の席にはお兄様の姿
小鳥の羽も、髪に咲く花も
無ければずっと一緒にいられたのでしょうね
けれども其れは”フィロメラ”ではありません
此処では、お兄様の求める花も
咲いていないでしょうから
降りられる方法を探しましょう
見かけた乗客ひとりずつに
『おまじない』について尋ねます
ここは素敵なところですね
終着駅なんて無いのかもしれません
流れ星のように何処までも
それでも貴方は帰る方法を知っていますか?
帰れなくても良いのですよ
かえしてあげたいひとが居るというだけで
花は地上に、咲き誇るものなのですから
夢列車の主を探して見つけて
おまじないを実行して
それでは、さようなら
夢を叶えたアナタ
●待ち人あるいは
たたん、たたん、と。
無いはずの線路を車輪が噛む音は軽く。
ぱちり、瞬けばそこは車輛の内部だった。磨き上げられて重厚な輝きを放つ樫材の座席に、天鵞絨の張られた柔らかな座面。控えめにデザインされたシャンデリア。
けれどそれらの調度品たちも、彼女の目には留まらない。
吸い込まれるようにフィロメラ・アーティア(花盗人・f33351)の瞳はボックス席の隣に座る姿に釘付けになった。
「お兄様……」
あやめ色の瞳に動揺が走ったのは僅かのこと。なにせ彼女は自ら願ったのだ。夜空を走る蒸気機関車に、──乗せて欲しいと。
窓の外に流れる星々を眺めていた兄が、フィロメラの呟きに振り返る。微笑む。
愛する家族。今は、隣に居ることなど叶わなくなった彼。
その姿に、フィロメラは胸が詰まる想いで笑み返す。ああ、願ったのは己なのに。
──どうしてこんなに、さみしいのでしょう。
「小鳥の羽も、髪に咲く花も。……無ければずっと一緒にいられたのでしょうね」
彼女はオラトリオ。背を覆う黒い翼も青い花も、生まれてからのちに得たものだ。
そっと伸ばして、兄の手に重ねた掌。温かい。その事実にまた胸が圧される。兄は彼女の顔を優しく伺う。だからフィロメラはゆるりとかぶりを振った。花の香が泳ぐ。
「けれども其れは“フィロメラ”ではありません」
静かに告げて、座席を立った。
兄はなにを返すこともなく、気分を害した様子もなくただ彼女を見返す。当然のことだ。ここは『嫌なことなどなにもない、夢の世界』なのだから。
彼女の選択に、彼女の訣別に、彼女にとって不快な反応が返って来ることはない。
「……此処では、お兄様の求める花も咲いていないでしょうから」
降りられる方法を探しましょう。
ボックス席から緩やかに歩き出したフィロメラの背に、兄の声が届いた。
いってらっしゃい、と。
毛足の長い絨毯は足音を立てず、ボックス席のそこここにちらほらと同じように数人の影がある。
おしゃべりに興じる家族に、窓の外に視線を投じる老夫婦。寄り添う恋人たち。
この列車の主はとひと通り歩いてみたものの、見つけることはできなかった。
フィロメラは老夫婦たちのボックスの傍で足を止め、控えめに「もし、」声を掛けた。夫人が振り向く。
「ここは素敵なところですね。……終着駅なんて無いのかもしれません、──流れ星のように何処までも」
「ええ……それも含めて、素敵」
その瞳には夢見る光。しっかと夫の腕を抱いている。それでも。
「それでも、貴方は帰る方法を知ってますか?」
フィロメラの凛とした声に、老婦人はすっかり驚いて目をまん丸にした。フィロメラはたおやかに微笑んだ。
「帰れなくても良いのですよ。かえしてあげたいひとが居るというだけで、花は地上に、咲き誇るものなのですから」
否定するつもりはなかった。ただ“フィロメラ”にはそぐわない、ただそれだけ。
どこか哀し気に、どこか怯えたように教えてくれた老婦人は視線を逸らす。フィロメラは丁寧に礼を述べて頭を下げた。
「それでは、『さようなら』、──夢を叶えたアナタ」
成功
🔵🔵🔴
都槻・綾
何かが嫌になった訳でも
切望する熱がある訳でもないの
ただ――そう、
飽いた、と言うのが近しいかしら
人のいのちを幾つも見送って
出逢って別れて
けれども
変わらずに在り続ける己は
時の流れに取り残された迷子のよう
ふと
此の道は
いつまで――何処まで続くのだろうかと
胸にことんと何かが落ちて
堕ちて、
気が付けば
乗車していたみたい
目の前に佇む影
己と同じ容貌で
手を差し伸べてくる優しい笑顔
なんて残酷な、夢
もう要らないと器を棄てたあなたに
私は今でも何かを期待しているのだろうか
許しを――愛を?
あえかな笑みで
緩やかに首を振る
終ぞ取ることなかった主の手を
結ぶことは叶わない
夜を游ぐ影法師へ尋ねる『おまじない』
帰りの切符はお持ちかしら
●影法師とは向き合えない
彼がその列車の話を知ったのは、逃避行への期待ではなかった。
なにかが嫌になったわけでも、なにかを切望する熱もなく。
──ただ、……そう、飽いた、と言うのが近しいかしら。
彼は都槻・綾(絲遊・f01786)、性〈しょう〉はヤドリガミ。香炉に灯った真似事のいのち、仮初の肉体。
青磁の双眸を我知らず細める。
幾つものいのちを見送って、出逢って、別れて。
とぼとぼと歩み続けて来たこの路に、愉しみが無かったとは言わない。いとおしさが湧かなかったとは言えない。
けれども、なにに触れようとも、どんな色彩を溜め込もうとも、変わることなく在り続ける己に、飽いた。飽いて──しまった。
──時の流れに取り残された迷子のよう。
そう考えたとき口許に自嘲じみた笑みが浮かんだ。
嗚呼。この路はいつまで、何処まで続くのだろうかと、飽いたと嘯くほどに時を経てなお、己は子供なのだ。未だ歩むべき路すら見つけられず、途方に暮れている。
顔を上げると、そこにはなにもなかった。
乗車するつもりもなかったのだ。おそらく誰かの逃避に呑まれたはず。ならばどこかにその姿があるはずと、視線を巡らせた先。
綾は、息を詰めた。目を零れんばかりに見開いた。
なにもない、白い世界で佇んでいた狩衣姿の男が振り返る。
黒く長い髪をひとつに結わえ、青磁の瞳を持つ陰陽師の男が、綾を見止めて穏やかに微笑んだ。そして、手を伸ばす。
否。綾に向けて、手を差し伸べる。──おいで、と。そう紡ぐ声が耳を擽る。
「……なんて残酷な、夢」
綾の唇から声が零れた。
もう要らないと、欠けた器を棄てたあなたに私は今でも何かを期待しているのだろうか。
許しを──愛を?
「主さま!」
突如静寂を裂いたのは見知らぬ声。見れば壮年の男へと駆け寄る童のような姿。
「主さま、お帰りくださったのですね。わたくしは、わたくしはまだ斬れます!」
童がその小さな手に握り締めるのは、明らかに折れた脇差。わたくしは、と言うことはあの童もヤドリガミなのだろう。そして夢列車を呼んだのも、きっと。
壮年の男はもちろん、と言った類の返答を童に返す。
その光景を眺めたのち、綾は狩衣の男へと向き直った。同じ容貌の男へ、あえかな笑みを向けて──緩やかに首を振る。
「あなたの手を、結ぶことは叶いませんよ」
終ぞ取ることのなかった主の手を。
見ているからには、見られている。「……どうして?」純粋ゆえに残酷な問いが綾へと投げかけられた。
「同じ姿になるくらい、すきだったんでしょう?」
「……ええ。でも、」
続く言葉は、紡げない。特に主との邂逅に全身で歓びを示し逃避を図り続けている童の夢を折ることを綾は選べなかった。……否。己の中の回答を、口にするのが怖ろしかったのかもしれない。
「帰りの切符はお持ちかしら」
そして己の主に告げる。
最初で最後の、『左様なら』。
成功
🔵🔵🔴
杜鬼・クロウ
悟郎◆f19225
アドリブ歓迎
車内は校舎の様
虚言が事実に、ねェ
言霊には力が宿るとも言う
常に隣り合わせだよなァ
悟郎と聞き込み
今を楽しむ
こっくりさんの話が挙がる
正しい手順を調べておくか
こういうのは間違えて行うと災いが降りかかるっつーからな
探索途中に制服発見(服好き
学ランの釦は留めない
あァ、雰囲気は大事だな!
悟郎が優等生に見えるぜ、似合うわ
俺はグラサンしよ
ハハ、カツアゲされてェのか悟郎サン
こっくりさん準備
机に紙を敷き向かい合って座る
なンだよその質問!
俺に秘密なんざ…エ、勝手に指、待ッ
「どうがん」
髪型決めたり化粧してるのは兄貴や年上っぽく見せる為
…
よーし、悟郎
歯ァ食い縛れや
何発殴ったら記憶飛ぶ?(笑顔
薬師神・悟郎
クロウ(f04599)
兄貴と慕うクロウと一緒に『こっくりさん』について聞き込みを行う
学校や図書館のような場所なら情報を得られるだろうか?
UCも使用し効率的に行動しよう
無事に情報を得られれば、早速行う
学生服を着ればさらに雰囲気が出て良いのではないか?
俺は不良クロウとは正反対の七三眼鏡委員長風に仕上げてみるか
…場所が場所ならクロウにカツアゲされてるように見えなくもないかもな
さて、こっくりさんといえば質問だ
クロウの恥ずかしい秘密を教えてくれ
…落ち着け、クロウ
ここで俺を殴ればおまじないが正しかったと貴方の行動で証明されてしまうぞ
ここはすっとぼける方が良い
俺の安全のために必ず言いくるめを成功させよう
●ひみつ
「ハハ、優等生に見えるぜ、よく似合ってるわ」
けらけらと笑う杜鬼・クロウ(風雲児・f04599)の前のかっちりと学生服を着て詰襟も上までしっかりと閉じた男。灰の髪をぴしりと七三分けにして野暮ったい眼鏡を掛けているのは薬師神・悟郎(夜に囁く蝙蝠・f19225)だ。
望んだわけでもないけれど出自によって得た美貌はなんとかなりを潜めて。
「俺はどうよ? 似合うだろ?」
「……場所が場所なら、クロウにカツアゲされてるように見えなくもないかもな」
ちらと見遣れば彼が兄と慕うクロウは学ランのボタンを留めることもなく開いて、派手な黄ベースのTシャツを覗かせ、左右色違いの瞳を隠すようにサングラスまでしているものだから少なくとも優等生には見えない。
「ハ! されてェのか、悟郎サン?」
「……遠慮しよう」
見目ほど軽薄な男ではないのは百も承知だが、悪ノリを楽しむことができる一面も重ね重ね知っている。深追いはやめようと悟郎はそそくさとその場を離れ、校舎──へと世界を変えた車輌の中へと足を向けた。
瞼を伏せて意識を高め、技能を上げる。『おまじない』に対する聞き込みは、図書館、校舎の隅、そして放課後の教室へと至った。
「なあお前さ、『おまじない』ってなにか知ってるか?」
彼らの聞き込みは、『逃避から帰るため』のそれを訊き出すものではなかった。もはや『おまじない』そのものを楽しむためのそれ。究極的に逃避を楽しんでいた。
だから問われた少女は──逃避を続ける少女は、満面の笑みで応えた。
「そりゃあ、学校の『おまじない』と言えば『こっくりさん』でしょ!」
その邪気のない少女とのやりとりに、悟郎はクロウの蔭に隠れがちになりつつ、「それはどういうものだ?」と詳細についての聞き取りをなんとか継続した。
仲間を見つけたと嬉しそうに語った少女と別れて、彼らは早速その儀式に取り掛かる。
「やっぱり夢列車は本物だね。私のことを、オカルトのことを否定しない世界が、ここにある! 楽しんできてね、おにーさんたち!」
別れ際に少女が告げた逃避の言葉に、僅かの引っ掛かりを覚えながら。
夕焼けの差し込む教室で、ふたつ机をくっつけ向かい合わせに座る。雰囲気は大事だ。机上に置くのは文字や鳥居が書かれた一枚の用紙と、コインが一枚。
今は聴こえない車輪の音に思いを馳せ、クロウはサングラスの奥で微かに目を眇めた。夢列車。あるいは、UDC-Null。
「虚実が事実に、ねェ」
願うことは、なくはないけれど。そもそもが言霊には力が宿るとも言う。
「常に隣り合わせだよなァ」
なにが現実で、なにが虚構なのか。そんなもの、己の心ひとつで。
「……」
呟くクロウに黙って肯き悟郎もふたりでひとつのコインに指を乗せて、『おまじない』──否、儀式の開始を告げる言葉で喚ばわった。
そして、さてと悟郎は撫でつけた髪に違和感を覚えて片手で弄りつつ、視線を紙の上に据えた。
「こっくりさんといえば質問だ。……クロウの恥ずかしい秘密を教えてくれ」
「なンだよその質問! 俺に秘密なんざ……エ、勝手に指、待ッ」
力なんて入れていないはずなのに、ゆっくり、ゆっくりとコインが動いていく。
「おい悟郎! ふざけ──」
「俺もなにもしてない」
気が弱い癖に嫌にきっぱりと言い切った弟分とコインとへ、クロウは交互に戸惑いの視線を向ける。
『と』……『゛』……『う』……『か』……『゛』……『ん』……。……。
「……」
「……」
「……」
「……終りみたいだな」
ぽつりと悟郎が言って、
「よーし悟郎、歯ァ食い縛れや」
にっこりとクロウは笑みを向けた。いや、目はちっとも笑っていない。仕方ない、彼とて首筋に這い上がる熱を押し隠すのに必死だ。
「何発殴ったら記憶飛ぶ?」
確かにそれは恥ずかしい秘密。特に弟分には知られたくなんてない事実。ファッションが好き、服が好き。それはもちろんあるけれど、それは副産物。髪型に執心し化粧をするのはその『童顔』を隠すためだなんて!
「つーかここは『嫌なことなんてなにもない世界』なんだろ!」
なに堂々と暴いてくれてんだ。
「……つまりクロウは本当はそれをそんなには嫌がっていない、ということか?」
「よし悟郎とりあえず百いっとくか?」
「落ち着け、クロウ。ここで俺を殴ればおまじないが正しかったと貴方の行動で証明されてしまうぞ。ここはすっとぼける方が良い」
「今更だろーが!」
「待て、コインから手を離すな。クロウも言ってただろう」
「っ、間違えた手順にすっと災いが降りかかるっつーやつか……」
そしてふたりは、“終り”を告げる。
「「──『お帰りください』」」
それは別れの挨拶。
奇しくも逃避の世界は崩れ始め、緩やかに車輌へと戻った蒸気機関の一部が降下を始め──悟郎は内心、息を吐く。
……このまま、忘れてくれたら良いが。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
アビ・ローリイット
別に。行きたいとこがあるわけじゃない
帰りたいとこも
あ。
雪、と思ったら外
そっか。ずっと乗っててもよかったのに、俺の歩いてきた日々なんていつもこんな感じ
気付けば過ぎてく。楽な方へ楽な方へ、降って落ちる雪と大して変わらねーかも
「乗せてくれ」誰が頼んだんだよ
今だって嫌なことはそんなない。ない、ない、ない――何も、特にないな
手ぶらで歩く
景色は白い
だから、座り込んで湿った木を組む人が目立つ
なにそれ
火が欲しいの?
「嫌なものなんてなにもない此処は、本当になにもなくって、もう耐えられないんだ」
彼らが言う。点く筈もない火を懸命に求め、熱を探して
それが『おまじない』?
はは。よく、出来てんね
いいよ。俺のをあげる
●炎蝕反応
たたん、たたん、と。
無いはずの線路を車輪が噛む音は軽く。
アビ・ローリイット(献灯・f11247)はその単調な繰り返しの音を、ただ聴いていたはずだった。特筆好ましくもなく、かと言って不快でもないその音は、そよぐ耳に違和感なく届いていた、はずだった。
「あ」
──雪。
そう心に浮かべた途端、窓枠に掛けていた肘ががくりと落ちて「、」琥珀の目を丸くしたと同時に、獣の足がさくりと冷たい白を踏んで溶かした。
あーあ。
見上げると黒い空からちらり、はらり、降る雪。吐息を零せばそれはまた白く空へと流れていった。
──ずっと乗っててもよかったのに、俺の歩いてきた日々なんていつもこんな感じ。
気付けば過ぎてく。楽な方へ楽な方へ、降って落ちる雪と大して変わらねーかも。そこまで考えて、アビはあてどなく足を進めながらも首を傾げる。ゆらり、尾が揺れる。
──ずっと座って運ばれてんのと、雪みたいにただ落ちんのと、どっちが楽?
結局ずっと流されてんじゃねーの。
さく、さく、さく。白い世界を歩きながら、獣は少し考えて、そしてすぐに考えるのをやめた。
乗せてくれ、なんて。誰が頼んだんだよ。勝手に選んで、勝手に失望しただけでしょ。ねえ、かみさま。
雪でも遊べると少し前に知ったけど、ひとりではしゃぐ気にもなれない。
「逃避行、か」
戯れに零した声はやっぱり白く景色に融ける。別に、行きたいとこがあるわけじゃない。帰りたいとこも。
今だって嫌なことはそんなない。ない、ない、ない──何も、特にないな。
冷てーけど雪だって別に嫌いじゃない。歩くのだって苦痛じゃない。静かなのだって好きだし、独りだって嫌いじゃない。
白い景色を進んで、幾許か。
白のさ中にぽつんと現れたひとりの男性。座り込んで薪とも呼べないような木を組んでいる。近付かなくても匂いで判る。それはしっかり濡れている。
「なにそれ。火が欲しいの?」
道とも呼べぬ白い道に足を止め、アビは男に声を掛けた。点かないよ、それ。
虚ろな眼をしてアビを見た男は、疲れたように言う。
「嫌なものなんてなにもない此処は、本当になにもなくって、もう耐えられないんだ」
寒くもない。ひもじくもない。
「あー……」男の科白にようやくアビは至る。そっか。だから嫌なこと、特になかったんだ。
だから男はそれを変えようとしているのだと。卆らせようとしているのだと。
点くはずもない火を懸命に求め、熱を探して濡れた木を組んで。
「それが『おまじない』? はは。よく、出来てんね」
いいよ。俺のをあげる。
見つめる。同時に燃え上がる、エンジェルブルー。
けれど。「……あれ」燃えたのは木組みではなく、アビ自身で。
全身を包み込む蒼い焔。人型の炎。望まれたのは“こう”だったって、そんな姿。
「はは、」
望んでた? 俺が? 悔やんでた? 俺が? ──まさか。
こんなの逃避にも入んない。
「『ばいばい』すんなら、ちゃんと灰にしてよ」
焔は痛みすら与えず、意識すら奪わず。揺れる光の中でアビがわらえば、世界は歪んでひずんで、狂って毀れて、もとどおり。
──それでいいっておもってるよ、俺。
わりと、本気で。
成功
🔵🔵🔴
クロム・ハクト
夢への逃避と同時に向き合う場と捉え、暫し浸らせた後おまじないを行う
夢の世界、か
俺なら、ヴァンパイアのいない世界だろうか
とはいえ戦う事しか知らない身だ、戦う相手のいない世界というのも突然は困るな
いや、違うか
戦うこと以外も今は知るようになった
それは猟兵として覚えたこと
ならどちらにせよやっぱり留まる理由はないな
あんたは帰るおまじない、知ってるか?
これ以上は呑まれるぞ
これだけ描けるなら、それを掴むか、支えに抱いて生きる事もできるんじゃないか
あやふやじゃ出てきやしないからな(自身の想う相手を指して/もし現れてもしっくりこないだろう)
あんたの夢だからな、手助けはできてもどうするかはあんた次第だ
アドリブOK
●絵筆の軌跡
「夢の世界、か」
俺ならなにを思い描くだろう。クロム・ハクト(黒と白・f16294)が車輪の音を聴きながら浮かべたのはやはり、“悲願”だった。
ヴァンパイアの居ない、ダークセイヴァー。
夜と闇に閉ざされながらも、邪悪な意思が湧き出ることのない世界。
「……」
クロムは疑いを捨てきれない眼差しのまま、その世界を歩いた。夜の中でも咲く花。踏みにじられることのない畑。血の匂いのしない古城。
うちひとつの門扉を押して中へと入っても、奴隷や、剣闘士や、人買いや、血腥い宴を好む貴族領主たちは居なかった。ひとの気配に素早く相棒のからくり人形を構えクロムを温かく迎え入れ、もてなした。
そんな城がみっつ目にもなると、クロムの強張った指先も尾も、緊張に立っていた耳も次第に力が抜けてきた。とは言え。
──戦う事しか知らない俺にとって、戦う相手のいない世界というのも、突然は困るな。
目覚めてからずっと、目指し続けた道の先。
それがいきなり供されたなら、俺は、どうしたらいい?
力なく視線を落とす。五指に絡んだ糸。その先には戦いを共にしてきた相棒。
けれど俯くと同時に、ちゃり、と音がして──気付く。青色硝子のイヤーカフ。ああ、そうだ。
──戦うこと以外も、今は知るようになった。
世界は黒と白だけでは、なくなっていた。
小さく口角を上げる。それは猟兵として覚えたこと。
「そうだな。戦いがなくなったなら……お前の服を考えるのもいいかもな」
なんて、悪戯めいて囁いて。やることが見付かったなら、どちらにせよこの夢の中に留まり続ける理由はない。この逃避を、この虚言を、虚言でなくする。
そのためにクロムは、先に進むのだ。
歩いた先に見つけた、嬉し気に涙を零しながらヴァンパイアの不在を喜ぶささやかな宴に興じる老いた男性に彼は近付いた。
「あんたは帰るための『おまじない』、知ってるか?」
匂いと気配で判った。彼がこの世界を創り出した“逃避者”だと。
幻とは言えど宴の邪魔にならないよう、壁の蔭からクロムは問う。
否定するつもりはなかった。逃避自体が悪いものだとは思えなかったから。ただ、向き合う場だと思えたから。
「これ以上は呑まれるぞ」
「あ、あんたになにが判るんだ……! 絶望の夜の中で生きるくらいなら、私は、私は」
杯を掴んだままの男性の手が震える。その応えに、僅かクロムのこがねの双眸が翳りを帯びた。希望を抱いては摘まれ続ける生活が、彼の手に皺として刻まれていた。
「……あんたの夢だからな、手助けはできても、どうするかはあんた次第だ。だが」
壁に背を預け、視線を交わし合うこともないまま、クロムは告げる。創られた世界をもう一度見渡した。
「これだけ描けるなら、それを掴むか、支えに抱いて生きる事もできるんじゃないか。俺も手伝うと約束する。この景色が、現実になるように」
ただの虚言が形を持つこともできるなら。
「っ……!」
壁の向こう側で、詰まった嗚咽が聴こえた気がした。聴こえないふりをした。
がこん、とどこかで連結の外れる音がして、そして。
ゆるりと下降を始めた車輌の中、消えゆく“世界”の向こう側に、微笑む誰かを見た気がした。
大成功
🔵🔵🔵
夏目・晴夜
夕方と夜の間の空
一面に広がる稲穂の海
少し離れた所に見える小さな家
郷愁に駆られるその光景に、故郷だ、と思うと同時にこれが逃避だと気付く
何故なら私の故郷はこんな世界ではないですからね
これはいつか夢にまで見た、憧れの故郷の光景
成る程、確かに夢の世界というやつですね
ああ、でも実際に見ると素晴らしいですねえ
こんな所で生まれる事ができていたら、きっと暗い夜も怖くないでしょうに
夜が近付くに連れて肌寒くなっていっても、明かりの灯るあの家の木の扉を開けると
きっと暖かくて美味しい晩御飯の香りと優しく笑う母親がおかえりと出迎えてくれる
まあ、何もかも夢なんですがね
なので『バイバイ』
偽りなんて、このハレルヤには不要です
●無いもの強請り
鮮やかな夕焼けが濃紺の空に最後の彩りを照らし出す。
風吹けば、ざぁ……っ、と黄金の稲穂の波が見渡す一面に波打った。
そして少し離れたところにぽつりと立つ、小さな家。慎ましい炊煙の昇る煙突。
──ここは、
故郷だ。直感的に夏目・晴夜(不夜狼・f00145)は思った。同時に、逃避だ。直観的に晴夜は知った。
何故なら、彼の本当の故郷はこんな場所ではないからだ。
彼の故郷にあるべき、雪に固められた黒い土も、そこに咲いた白百合も、──Hallelujah. そう讃える声も、ない。
それどころか、つい先だっての冬の日、晴夜は目の当たりにしたばかりだ。滅びた故郷を。いとしくてにくらしくて嫌いだった領主さまの最期を。
だからこれは、いつか夢にまで見た、憧れの故郷の光景。
「成る程、確かに夢の世界というやつですね」
悪くないです。高慢に口角を吊り上げて、彼はえだまめと共に足取りもゆっくりと歩き出す。その、“見知らぬ生家”へ向けて。
暗がり広がり始めた空に応じて、家の窓にはあたたかな灯りが燈った。それを見た晴夜は、ぐぅ、と喉の奥を圧されるような感覚に陥る。
「ああ、でも実際に見ると素晴らしいですねえ。こんな所で生まれる事ができていたら、きっと暗い夜も怖くないでしょうに」
お、っと。小さく声を零して、彼は振り返る。少し坂道になった家路を、駆けて来る姿があった。その姿に──アメジストの双眸が不覚にも大きく揺れた。
それは、僕だった。
僕であり、僕ではなかった。
白い子犬と共に競うように駆けて来る顔は無邪気な笑みに飾られて、晴夜を見付けるとぱっと足を止め、礼儀正しくこんばんはと告げて、それから馳せ違っていく。
『いくよ、■■■■』
その頭に、狼の耳は無かった。
その声に、誰にも選ばれなかった諦観は無かった。
あれは──消して殺してしまいたかった愚図ではなかった。
ただいまあ、と明るい声で木の扉を小さな手で開く。肌寒くなり始める夜の景色を、家の灯りが切り取る。
『おかえりなさい、■■■■』
わざわざ屈んで、飛び込んで来る我が子をその腕に抱き止める優しい母親が、夕食の話をしながら晴夜に気付かず扉を締めようと背を向ける。
ああ──貴方の名前はなんだったんですか? 貴方はともだちになんと名前をつけることができたんですか? お肉を超えるような美味を、貴方は知っているのですか?
手を伸ばしてしまいそうになるほどの、これは、嫉妬? ……否。
「……まあ、なにもかも夢なんですけどね」
そう零した晴夜の声が聴こえるはずもないのに、“僕”が振り向いた。
『ばいばい、おにーちゃん』
そう、満ち足りた笑顔で手を振る。だから晴夜も手を振った。満ち足りた、顔で。
「はい、『バイバイ』」
偽りなんて、このハレルヤには不要ですと。
なにせあんなに与えられていなくても、──結局ハレルヤはこんなにも立派に育ったのですから!
腕の中にひょいと飛び込んできたえだまめをひと撫でして、そして晴夜は“故郷”を後にする。
迷いのない足取りは、こんなに素晴らしい想像を創り出すことができる、晴夜自身への誇らしさの顕現に他ならなかった。
大成功
🔵🔵🔵
ライラック・エアルオウルズ
唯の虚言が存在した、か
ものによっては、素晴らしく
素敵なものであるけれども
僕が夢見たような世界には
連れてはくれないだろうなあ
――貴方は、夢の機関車が
叶えてくれると信じているの?
捻くれた大人は信じ切れないが
最後の縋る場、としたくてね
どうか、僕にも教えてくれる?
《読心術/情報収集》
夢見がちな現実逃避
酷く覚えの有る心理状態だし
“似た者同士”は見付け易い
夜路に空をずうと見るよな
草臥れたひとに声を掛けて
己も同じとばかりに振る舞い
"僕も乗せて!"
邂逅が叶えば飛び込んで
窓に流れる星空を見れば
存外良い旅かもしれないが
終点には、興味がないよ
僕たちは現実に戻らねば
夢の世界は、もう御終いだ
まじない唱えて、途中下車を
●エンド・マーク
『ねぇはやく、リック。あちらにおもしろいものがあるのよ』
──おもしろいもの?
『フィオナとサミーがみつけたの、すばらしいんだから!』
──なあに? いくよ、まって。
眠い目擦って、そうしてベッドを抜け出した。きみ達と共にいろんな世界を冒険した。
パジャマに裸足で、空を走ったね。海の奥底の宝箱だって一緒に開けた。
ねぇまって、と伸ばした己の手が幼子のそれになっているのを見つけて、ライラック・エアルオウルズ(机上の友人・f01246)はぱちりと瞬いた。
途端に低かった視界が、一気に高くなった。手も大人のものに戻ってしまった。
魔法は、解けてしまった。
だから小さく彼は苦笑する。
「唯の虚言が存在した、か」
ものによっては、素晴らしく素敵なものではあるけれども。
──かつて僕が夢見た世界には、もう連れてはくれないのかなあ。
“僕も乗せて!”
夢見がちな現実逃避は、ライラックにとっては酷く覚えの有る心理状態だったし、“似た者同士”は見付けやすかった。
夜空を駆ける蒸気機関車を見つけたのは、ずうと其処を見上げていた齢十にも満たぬ少年の傍だった。
その少年は今、『おともだち』と一緒に夜空に浮かぶ雲の上で追いかけっこに興じている。さっきまでの疲れたような、草臥れたような気配はなりを潜め、無邪気に、純粋に。
(――貴方は、夢の機関車が叶えてくれると信じているの?)
出会って、ライラックは少年に訊ねた。少年はこくりと肯いた。
捻くれた大人は信じ切れないが、最後の縋る場としたくて。
(どうか、僕にも教えてくれる?)
他人事とは思えず、膝を折って視線を合わせた穏やかなライラックの低くやさしい声音に、少年は耳許に掌添えて教えてくれた。
おともだちが欲しいのと。夢列車なら叶えてくれるの、と。
雲の上を跳ねるこどもたちを見ながら、ライラックはそっと手を固める。
捻くれた大人──とまではいかなくても。
──僕も大人になってしまった。逃げてばかりもいられないし、それに。
逃げたいばかりの僕では、なくなってきたんだ。
左の薬指の環にそっと触れ、我知らず口角を緩める。
傍に件の少年が戻ってきた。遊び疲れたからひと休みだと、そう言って彼が座ると同時に、世界は夜空の上から蒸気機関車の車輌の景色へと切り替わった。車窓には流れる夜空が煌めいては消えていく。
磨き上げられた樫材のボックス席に、天鵞絨の座面。なるほどこうしていれば存外良い旅かもしれないが。ライラックは隣の少年へと向き直り、視線を合わせた。
夢の蒸気機関車、その終点には──興味がない。
物語を紡ぐ彼にそう思わせるのは、そこに続きがないからだ。揺らがぬエンド・マークは彼の可能性を摘み取るだけ。
「楽しんだら、僕たちは現実に戻らなくてはいけないね。夢の世界は、もう御終いだ」
「……どうして……?」
自分の望みを莫迦にもせず、己も同じと応じてくれたライラックの言葉に、少年はひどく衝撃を受けたようだった。けれど、ライラックは微笑む。
「僕と友達になってくれないかい? 貴方の物語を列車を降りても沢山聞かせて欲しい」
エンド・マークの向こう側を歩き出せるのは、主人公の特権だから。
「……ほんとう?」
少年の瞳に輝きが宿るのに、ライラックは小さく、確かに肯いた。
大成功
🔵🔵🔵
高塔・梟示
世に溢れる作り話が形を得たら
パニック映画も真っ青だな…
幸い此度は大人しい、だが放置は出来ない
人捜しなら探偵の仕事さ
失せ物探しで人の気配を辿る
誰か見つかれば、独りで不安だったと嘯いて
何故此処へ来て、どんな世界を望んだか
さり気なく話を聞こう
…わたし?
同行者と逸れたから一度戻りたいんだが
『おまじない』を忘れてしまってね…教えて貰えるかい?
嫌なもののない夢の世界か…
誰も死なない、殺さない――戦争も、寿命もない
そんな世界があったら漸くお役御免かな
そうしたら唯の「わたし」として生きられるだろうか
なんて、時を止めた世界では逢えぬ魂もあったろう
夢は何時か覚めるもの
そう、此の世に不可思議など有り得ない、のだから
●さいわいの世界
僕も乗せてくれ。
誰かが夜の踏切で告げる声を聞いた。その次の、瞬間。襲い掛かった巨大な咢に呑み込まれて、瞼を開くとそこには、明るい世界が広がっていた。
高塔・梟示(カラカの街へ・f24788)は琥珀の双眸で周囲を見回した。
「やれ……世に溢れる作り話が形を得たら、パニック映画も真っ青だな」
此度の話は幸い大人しい、と思っていたのだけれど。どういう構造か、己を取り巻く世界そのものが変容するとあれば放置はできない。
梟示は歩き出す。
見れば明るい世界に行き交う見知らぬ人々は皆笑顔で、武器のようなものを所持している者は居ない。更に歩を進めて知る。教会や寺の類──極端に言うと墓がない。
『嫌なものなんてなにもない、夢の世界』。
そんなものがあるとするならば、誰も死なない、殺さない──戦争も、寿命もない……そんな世界だろうかと、梟示が想定した場所がここなのだとしたら。
ゆらり、ひょろ長の身体が穏やかな笑顔に溢れる街を往く。
──此処なら、唯の「わたし」として生きていけるだろうか。
挨拶を交わし合う姿。あるいはそれを無視しても気を害した様子もなく過ぎていく。年老いた男女が多く見られるのは、死がないからなのだろうか。
安らぎを求める心地で、答え合わせの面持ちで。
進めた歩はけれど、一刻も経たぬ内に鈍った。死なぬが故に道は、空は、建物で埋め尽くされ、街頭のワゴンで売られているのは梟示も見たことのある固形のカロリーバー。
「……」
吐き出した紫煙は細く狭い空へと昇って消えていく。街の散策から、自然と足取りは探偵の、ひと探しのそれへと移り変わって行った。
そうして幾許か。広く緩やかな川面を石橋の欄干に上体を預けて眺めるひとりの男を目に留めた。纏うのは砂塵に汚れた兵装。軍帽の庇の下の眼差しは、明らかにこの世界の住民とは違っていた。
「やぁ。もしかして君も“列車”に願ったのかい?」
さり気ない仕草で隣に同じように欄干に肘を預けた梟示へと一瞥を寄越し、小さく首肯をひとつ。男はまた川面へと視線を戻した。
良かった、独りで不安だったんだ、なんて。嘯いてみても、男はくすりともしない。
「……争う日々に飽いたかい」
しばらく沈黙が落ちて、置くように問うた彼に男は初めて声を返した。
「君は帰りたいと願うか」
「……わたし? そうだな」
同行者とはぐれたから。そんな言い訳は用意してあったけれど。
目の当たりにしたこの世界と目の前の兵士らしい男の昏い眼に、くしゃと香染の髪を掻いて梟示は思案する。
「……、漸くお役御免かなと、そう思ったんだがね。どうも、思い描いていた世界ではないようだから」
彼は死神。
他者の生を奪うことを性〈さが〉とする生き方から解き放たれることを僅かなりと夢みたけれど。
──時を止めた世界では逢えぬ魂もあったろう。
梟示は隣の男の顔を見据える。『おまじない』を忘れてしまってね、と。
「教えて貰えるかい?」
夢は何時か覚めるもの。
そう、此の世に不可思議など有り得ない、のだから。
彼の視線に男は初めて梟示の瞳を見返して、そうして疲れたように笑った。
「……そう、だな」
ばいばい、と。
男が小さく呟けば、がこんと連結の外れる音がして。死のない世界は掻き消えて、現れた車輛の窓の外には、ゆっくりと降下する澄んだ夜空が続いていた。
大成功
🔵🔵🔵