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大祓百鬼夜行⑧〜今ひとたびの逢瀬ならば

#カクリヨファンタズム #大祓百鬼夜行

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 川はいつだって『隔てるもの』だ。
 川向こうは、隣のものだし、競い合う相手だし、異世界なのだから。
 だから、簡単には渡らない。黄泉の世界に行くのにだって渡し賃がいるくらい。

 だけど、川に掛かる『橋』はその隔たりを無くすもの。川を、境界を渡ることが出来る。自分が向こうに行くこともできるし、相手もまたこちらに来ることが出来る。

 でも気をつけて。
 向こうに行くことが出来るということは、相手があなたを連れていくこともまた出来るのだから。


 涼月・カティア(仮初のハーフムーン・f05628)は集まってくれた猟兵たちに今回の事件の内容を伝える。
「カクリヨファンタズムに時折顕れる『まぼろしの橋』は、渡った者を黄泉に送ると言われています」
 それは蜃気楼のように不意に顕れ、そして役目を終えたら消える。

 本来であれば『こちらから向こうへ送る』ものであるから、カクリヨファンタズムの妖怪たちも特に気にしない。『渡らないように』すればいいだけだから。
「しかし……渡ることが出来るはこちらだけではありません。『向こう』からも渡ってこれるのですから」
 向こう……すなわち、黄泉から。
「戦争の最中でなければ放置が正解なのですが……残念ながらこのまぼろしの橋も大祓骸魂の影響を受けてしまっているようです」
 結果、このままにしておけば大祓骸魂の力が増すことになるだろう。
「皆さんには、このまぼろしの橋を浄化する仕事を依頼したいのです」


 大祓骸魂の影響を受けたまぼろしの橋はそう簡単には消えないらしい。まぼろしがゆえに、攻撃やユーベルコードの効果も及ばない。
「そのため、この橋を浄化させるためには、『この橋が役目を果たせなかった』ことを証明する必要があります」
 橋の役目、それは人を渡すことだ。こちらから向こうへ、向こうからこちらへ。どちらも『出来なかった』となれば、橋は役目を終えて消失する。
 だから、猟兵の皆がやることは。
「この橋の上で、向こうから渡ってくる人と、夜が明けるまでお話ししていてください」
 『橋の上』で『相手を通さない』のであれば、別に喧嘩してようと騒いでいようと寝転んでいようと構わない。
「あともうひとつ。気を付けてほしいことがあります」
 それは向こうから渡ってくる人だ。

 それはあなたの、『死んだ想い人』。

 もしかしたらその人そのものではなく、幻影なのかもしれない。それでもあなたの目の前に立つその人は、生前のその人と何ひとつ変わらない。姿かたちも仕草も記憶も思い出も。

 猟兵たちに問われるのはたったひとつ。
「今はいない大切な人と……もう一度会う覚悟はおありですか?」
 カティアはそう言って、猟兵たちの目を見つめた。


 カクリヨファンタズムの川。その上に朧げに顕れるまぼろしの橋。
 その前に猟兵たちは佇んでいる。

 そろそろ刻限だ、橋の上に行かねば。

 橋を繋ぐのが幽世と黄泉ならば。その上を行き来することは『今だけ』は可能だ。
 でもそれは……猟兵として絶対やってはいけない。
 例え、あなたがそれを望んでいても、彼/彼女がそれを嘆願しても。

「気を付けてください」

 転送される際にグリモア猟兵から放たれた言葉をかみしめて。
 猟兵たちはまぼろしの橋へと向かうのであった。


るちる
 まいどお世話になってます、るちるです。
 彼方より此方へ。此方より彼方へ。普段は交わらない道なれど、まぼろしの橋の上ならば逢瀬も許されます。
 けれど、気をつけて。『渡る』ことだけは許されないのです。

●全体
 1章構成の戦争シナリオです。
 リプレイは皆様のプレイングに沿った雰囲気となります。お気軽にご参加ください。

 以下のプレイングボーナスがあります。活用してください。
『プレイングボーナス』
 (1)あなたの「想い人」を描写し、夜が明けるまで語らう。
 (2)あなたの「想い人」からの誘惑を跳ね除ける。

●1章
 日常『想い人と語らう』です。
 語らうになっていますが、しんみりとする必要はなく、普通におしゃべりしていてもいいです。また、殴り合いの喧嘩や宴会などなど、橋の上で一晩を過ごす行為ならば、『語らう』と同等とみなします(プレイングボーナスも同様)

●プレイング
 るちるは外部URLを参照しませんので、プロフィール・ステータスシートに載っていないことで必要な事はプレイングに記載ください。
 特に「想い人」の『名前』『キャラとの関係性』『今のキャラの想い』といったいった部分はプレイングにあると助かります。
 文字数足んないよって時はセリフ重視にして頂けると嬉しいです。
 後はるちるを信じていただければ(もちろん評価はまた別の話で、皆様のものです)

●PL様へ
 「想い人」は基本的に死んだ相手としてください。人である必要はありません。
 例外的に、当シナリオにおいては『参加者本人が「死んだ」と思い込んでいる』相手も可とします。


 採用人数については未定。執筆は土曜日夜から日曜日にかけてゆっくりやります。
 プレの受付開始はシナリオ公開されたら。改めて状況の説明を行う文章は追加ありません。

 それでは皆さんの参加をお待ちしておりまーす。
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第1章 日常 『想い人と語らう』

POW   :    二度と会えない筈の相手に会う為、覚悟を決めて橋に立つ。

SPD   :    あの時伝えられなかった想いを言葉にする。

WIZ   :    言葉は少なくとも、共に時を過ごすことで心を通わせる。

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

神坂・露
正確には想い人かどうかよくわかってはいないけど…。
ずっとずっと…あたしの心に残ってる人ならいるわ。
その人はあたしの最後の持ち主だった遊牧民の男の人。
まだ石だったあたしを一番大切に大事にしてくれた人。

あたしがあの時の石だって解ってくれるかしら?
そして温かい大きい手であたしを撫でてくれるかしら。
「えへへ♪ お久しぶりね。あたし…覚えてる?」
お話の初めはこんな感じで切り出すわ。
遊牧民で大切にしてくれてた頃のことを一つ一つお話する。
月の光の中で輝くあたしを優しい瞳で見守ってくれてたこと。
満月の夜はあたしに祈りを捧げてくれてたわよね。えへへ♪

誘惑はしっかりと断るわ。だって今は一人じゃないんですもの。




 てってってっと。
 『まぼろしの橋』の中ほどまで軽快に歩いていく神坂・露(親友まっしぐら仔犬娘・f19223)。まぼろしの橋を見つけた頃にはそろそろ日が暮れようとする時刻。
 誰そ彼刻とはこういう時間を言うのだろう……なんて言うのは露ではなくて、『彼女』の得意分野だ。だからこの場にそんなことを考える者はいない。

 ……いるとすれば。

 橋の上で露が立ち止まると、『相手』も驚いたように立ち止まる。橋の両端から同じように歩いて来たらしい。

(正確には想い人かどうかよくわかってはいないけど……)
 そう思っていたけれども。
(ずっとずっと……あたしの心に残ってる人ならいるわ)
 こうとも思っていた。
 だからこそ、この想いは繋がったのだろう。

 『持ち主』が自分より先にいなくなること。それはヤドリガミの宿命ともいえるかもしれない。
 長い時を経る彼女らだからこそ……でも、覚えている。
(あたしの最後の持ち主だった遊牧民の男の人)
 まだ自由に動く身を持たなかった頃の記憶。
(まだ石だったあたしを一番大切に大事にしてくれた人)
 石の中でも募り積もった想いが指し示すその人が、露の前に現れたのである。


 だがひとつ重大すぎる問題がある。
 それは露がブルームーンストーンの姿ではなく、ヤドリガミとして人の身を得ていることだ。
 ぶっちゃけ、次に会ったら人になってた、とかわからなくても相手に責任が無さすぎる。
(あたしがあの時の石だって解ってくれるかしら?)
 ほんの少し立ち止まったのは、そんな不安から。
 そして露が彼の持っていた石だとわかったとしても。
(温かい大きい手であたしを撫でてくれるかしら)
 今でも思い出す、石であった露の身を包む大きな温かい手。

 記憶は決して失われないけれども、目の前で拒否されたらそれはとても悲しい。

 悲しいけれども……露は勇気をもって踏み出す。
「えへへ♪ お久しぶりね。あたし……覚えてる?」
 覚えているはずがない。『この露』とは初対面なのだから。
 でも、それでも……目の前の男性は不思議そうに首を傾げた。露の言葉にではない、露から感じる……何か。そう、波動のようなもの。
 それはとても見覚えのある、いや大切にしていた。
「あたしのこと……わかる?」
 再度、露が問いかけたその言葉に……男性はゆっくりと頷きを返したのであった。

 月明りの中で。橋の上に座り込んで。
 露と男性は言葉を交わし合う。

 露が男性の手に渡った時のこと。
 彼の手の中で大切にしてもらったこと。
 そして……月の光の中で輝く露を優しい瞳で見守ってくれてたこと。

 それらの思い出をひとつひとつゆっくりとお話していく。
「満月の夜はあたしに祈りを捧げてくれてたわよね。えへへ♪」
 気恥ずかしそうに笑う露。それを男性は以前と変わらない、優しい瞳で見守る。

 楽しい時間は直ぐに過ぎてしまう。そろそろ……刻限だ。

 男性が問う。『また一緒に行くかい?』と。

 露はゆっくりと首を横に振る。『だって今は一人じゃないんですもの』と。

 そんな露を、露の頭を男性の温かくて大きな手が撫でる。ゆっくり優しく、まるで露が石であった頃ののように。
「えへへ♪」
 露は笑顔だけを返す。それ以上に渡せるものは、今は無いから。

 そして二人は背を向け合って『元の場所』へと歩き出す。
 橋から戻ってきて川岸に足がついた頃、朝日がまぼろしの橋を包み込む。

 橋は消え……胸に残るのは新たな思い出。

大成功 🔵​🔵​🔵​

砂月・深影
陽向……、こうしてまた会えるなんて夢みたいだね

深影との関係は双子の弟。今から5年前に亡くなっている。名前が現す通り、おっとりとしていて優しい性格の少年。感情豊かで素直。黒髪に金色の瞳。口調は深影と同じで、深影に対する呼び方は「みかねぇ」

ああ、姿が変わっているから驚かせてしまったかな。君がいなくなった後にちょっとあって今の姿になったんだ。(元は人間で黒髪)

陽向の元に行きたい気持ちがないわけじゃない。幼い子を庇ってオブリビオンに僕の目の前で殺された時、胸が張り裂けそうだった。そんな思いを他の人にさせたくないんだ。今そっちに行ったらそれができなくなる。だから待っていてくれないかな?……また会おう




(少し……早かっただろうか)
 砂月・深影(寒空に光る銀刀・f01237)は、『まぼろしの橋』の欄干に背を預け、空を見上げる。そこに浮かんでいるのは美しい月。今宵は静かな夜だ。

 まるで……有り得ないことでも起こりそうな。

「少し……遊ぼうか。『陽向』」
 手持ち無沙汰に語りかけるのはいつも共にあるからくり人形の『陽向』だ。深影の側で佇んでいた『陽向』の繰り糸を手にして。
 『陽向』の陽の光を思わせる金色の瞳を開く。立ち上がった『陽向』は深影の方を向いて……そして深影は『陽向』を繰る。まるで二人で踊っているかのように。
 それは傍目から見れば、ただの人形繰りの練習のように見えたかもしれない。ただ、今日の深影にとっては少し感傷的な、それでいて……少し物悲しい。

 そして、『想い人』は来た。

「……みかねぇ?」
 その声は薄暗がりの中から。聞き間違えるはずもない。忘れるはずもない。
 深影が声の方を向くと同時に『陽向』の動きが止まる。まるで眠るように……あるいは声の主に意識を移したかのように。
「陽向……こうしてまた会えるなんて夢みたいだね」
 そう言って、深影は微笑みを浮かべる。
 夜の帳の中から現れたのは深影の双子の弟、陽向。決して忘れ得ぬ……深影の『陰』。


 深影は思い出す。生前の彼を。
 名は体を表す、とはよく言ったものだ。陽向の名前の通り、彼はおっとりとしていて優しい性格をしていた。それでいて感情豊かで素直な少年。その風貌は『陽向』に似て……いや、『陽向』が陽向に似ているのだ。

 深影の瞳に映る陽向は何ひとつ変わっていない。あの日のままだ。それはとても嬉しくて……もしかして残酷なことかもしれない。
「……え? え?」
 しかし、当の陽向は困惑するばかり。もしかしたら、今の自身の状況がよくわかってないのだろうか?
 あるいは。
「ああ、姿が変わっているから驚かせてしまったかな」
 自分で『姉』と呼んでおきながら、記憶の姉とは違う深影の姿とのギャップに、自分自身で混乱しているのかもしれない。
 その様子を見て取った深影は、小さく息を吸ってから、ゆっくりと歩み寄る。
「君がいなくなった後にちょっとあって今の姿になったんだ」
 そう、かつて深影もまた人間で、その髪も陽向と同じ黒髪であった。深影が今のような姿になった理由は……今はいいだろう。
 『いなくなった』。その言葉に……陽向は吃驚した表情を見せて……そして視線を伏せた。どうやら記憶が繋がったようだ……死の直前まで。
「そっか……僕……」
「皆まで言わないでくれ」
 陽向の言葉を遮って。すっと陽向を抱きしめる深影。

 これはグリモア猟兵が言っていたように幻影だ。実際に陽向がここにいる、あるいは生き返ったわけではない。
 それでも……手に伝わってくる感触は生前の彼のままで。
 陽向を抱きしめているその時間は深影にとって、何ものにも代え難いものであった。


 そして二人は橋の欄干に背を預けて、言葉を交わしあう。

 陽向がいなくなった後のこと。
 深影が今の姿になった経緯。
 猟兵になった後のこと。
 そして……今。この橋と陽向のこと。

 深影の話に、陽向は嘆き、驚き、そして微笑みを返す。
 その笑顔を見て、深影はグリモア猟兵の話を思い出した。
(陽向の元に行きたい気持ちがないわけじゃない)
 きっと、それは深影の紛れもない本心だろう。
(幼い子を庇ってオブリビオンに僕の目の前で殺された時、胸が張り裂けそうだった)
 このまま陽向と一緒に橋を渡ってしまえば。そんな想いに囚われることもなくなることもなくなるだろう。今だって『陽向』を連れているほどに深影の想いは強いのだから。

 だがそれでも、深影は。
「そんな思いを他の人にさせたくないんだ」
 真っ直ぐに陽向の顔を見ながら、深影が告げる。『今そちらに行ったらそれができなくなる』と。
 陽向からの返事は……無い。深影の、次の言葉を……待っている。
「だから……待っていてくれないかな?」
「……みかねぇならそう言うと思った」
 それは花がほころぶような笑みとともに、陽向の口から零れて。
 釣られるように深影も微笑を浮かべる。

 そろそろ朝日が顔を出す刻限。今ひとたびの逢瀬の、終わりを告げる光が徐々に世界に満ちていく。

「……また会おう」
「うん。また」
 深影の視界に明仄の光が満ちていく。それは陽向の瞳と同じ色をしていて……優しく陽向を包み込んでいく。
 満ちた光が眩しくて、瞳を細めていた深影が再び目を開けた時。
 その場に残っていたのは、深影とからくり人形の『陽向』のみ。
「……さぁ、行こうか。『陽向』」
 橋の上で踵を返して、深影は『陽向』と共にいく。

 夢のような、幻のような、逢瀬はこの世に残らない。それでも……心に残るものがある。繋がるものがある。
 それを胸に。深影は再び猟兵として現世(うつしよ)に戻るのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

スリジエ・シエルリュンヌ
想い人:グルナード・シエルリュンヌ(ドラゴニアン)
義理の父娘。

お養父さま…!また再び、会えるとは…!嬉しい…!
(頭ふるふる)いいえ、これは泡沫の出来事。それだけは、忘れないように。

お養父さま。お養父さまの黒剣は、私が受け継ぎました。それにともなって、ユーベルコードも…。
私はこの二つと共に、世界を旅し、救いにいきます。守りにいきます。
かつて、里の守り人であったお養父さまのように。

ええ、隠れ里は続いてます。しっかりと続いています。
猟兵になった私ですけれど、たまに里帰りしています!

お養父さま。最後に…一緒に紅茶、飲みましょう。
私の入れた紅茶…お養父さまが帰ってこなかったあの日、初めて出すはずでした。




 今宵の月は美しい。透き通るような空に浮かぶ月に照らされて、川の水はさらさらと静かに流れていく。その上を渡る風は本来であれば早いのだろうに……今宵の風は妙にゆるやかで……優しい。
 それはまるで、今から起こることを包み込んで隠すように。
(もしも有り得ぬ逢瀬だとしても……)
 今宵ならば。

 『まぼろしの橋』の上でスリジエ・シエルリュンヌ(桜色の文豪探偵・f27365)は想い人を待つ。

「……スリジエ?」
 その声は向こう岸から渡ってきた人物から。薄暗い闇の中からゆっくりと浮かび上がるその体躯は長身のドラゴニアン。月明りが照らす銀のうろこが鈍く優しい光を放つ。
 その人物に向き直って、一度だけ瞬きをするスリジエ。

 ――ああ、間違いない。この人は紛れもなく。

「……お養父さま……!」
 スリジエは目端に涙を浮かべつつ、銀色のドラゴニアンの名を。自身の養父であるグルナード・シエルリュンヌの名を胸の内に抱くのであった。


(お養父さまにまた再び、会えるとは……! 嬉しい……!)
 スリジエはその衝動のまま駆けだそうとして……足を止める。そして頭を小さく振る。
(いいえ、これは泡沫の出来事。それだけは、忘れないように)
 目端に浮かべた涙を拭って。自分への戒めを抱いて深呼吸。顔をあげたスリジエはいつも表情で改めてグルナードと向かい合う。
 その時、気付く。

 グルナードの表情は険しい。

 その様子に首を傾げ、スリジエが言葉を発する前に。グルナードが強い語気で話しかけてくる。
「スリジエ。どうしてここに来た? 早く里に戻れ」
「えっ?」
 予想外の言葉にスリジエは戸惑う。見ればグルナードは敵意を発してこちらを見ている。
(……まさか……?)
 思い浮かぶのはサクラミラージュでの事件。影朧として復活したグルナードのこと。もし、彼がその状態なのならば。
 唇を噛みしめ、腰の黒剣――その際に彼から受け継いだ石榴剣に手をやるスリジエ。
 だが。
「奴らは必ず食い止める。お前は里で待っているんだ」
 グルナードもまた自身の石榴剣の柄に手をかけ、スリジエの横を通り過ぎる。
(……ぁ)
 スリジエの中で全てが繋がる。だからこそ……行かせてはならない。
 咄嗟に。橋を渡ろうとするグルナードの背中に手を伸ばして。
「……お養父さま」
 縋るようにグルナードのコートを掴むスリジエ。
「スリジエ!」
 それはグルナードにとって、行く手を遮ろうとする行為に映っただろう。スリジエの名を呼ぶ声にはわずかな苛立ちと怒気が込められていて。
 無理やりスリジエの手を振り払って、竜の守り人は、守るために征かんとする。

 ……それでも。
「お養父さま!!」
 スリジエは退かない。それは猟兵として……ではなく、養娘としての言葉。
「……!?」
 叫ぶようなスリジエの声に、グルナードが思わず振り向いて立ち止まる。そして……ようやく気付く。
「もう……終わったのです……」
 愛娘の姿が、成長していることに。そう告げるスリジエの腰に自身の黒剣――石榴剣が在ることに。
 唯一無二の黒剣が彼女の手に在る、ということは。それが意味することは。
「隠れ里は守られました。お養父さまのおかげです」
「……そう……か」
 スリジエが涙とともに紡いだ言葉に。グルナードは声を絞り出すのが精いっぱいだった。
 彼の戦いは、未練は……たった今、本当に終わったのだ。


「心地よい風ですね」
 橋の欄干の上に肘を置いて、川を眺めるスリジエ。スリジエの美しい髪を川を渡る風が撫でていく。
 そのすぐ後ろには直立したままのグルナード。

 状況は把握した。スリジエの言っていることも理解できる。だがそれでも、グルナードは今どうしていいか、ちょっと困惑している状態であった。
 だから、今は彼女の後ろに在るのが精いっぱいだ。

 そんな困った様子の養父の姿に、スリジエはくすりと笑みを浮かべて。話しかける。久しぶりの、養父娘の会話だ。
 色んなことを話す。スリジエのこと。猟兵のこと。グルナードのこと。
 そして。
「ええ、隠れ里は続いてます。しっかりと続いています。猟兵になった私ですけれど、たまに里帰りしています!」
 そう告げるスリジエの笑顔はとても眩しくて。グルナードの口端にも思わず笑みが零れる。
 そう、彼は、竜の守り人は。『守りたいモノ』を守り切ったのだ。

 だからこそ、スリジエもまた告げねばならない。
「お養父さま」
「……ん?」
 真面目な表情を浮かべたスリジエに対して、グルナードもまた居ずまいを正す。
「お養父さまの黒剣は、私が受け継ぎました。それにともなって、ユーベルコードも……」
「……」
 スリジエが両手でもって見せる石榴剣は紛れもなくグルナードの使っていたもの。それを見て、グルナードは言葉を飲み込んでしまう。
 決して『認めない』という意味の沈黙ではない。きっと……養父(ちち)としては今の感情を言葉にできないのだろう。
 継いでくれたことに嬉しさを感じる反面、それはスリジエが戦場に立ち続けるということだ。強さなど関係ない。彼が守ろうとしていた宝が命のやり取りをする場に出る、という話だ。それを喜んでいいのか哀しんでいいのかは、養父としては複雑だろう。

 たったひとつ。彼がこの場で認めていいと思ったことは。

 スリジエが自身の瞳に強い意志を宿していること。生きる希望に満ちていることだ。
「私はこの二つと共に、世界を旅し、救いにいきます。守りにいきます」
 それは希望ではなく、断言で……決意であった。
「かつて、里の守り人であったお養父さまのように」
「……そうか」
 グルナードの答えはとても短く。でもだからこそ、グルナードの想いが溢れるほどに込められた言葉。
 サクラミラージュの時は言葉をかわす暇がなかった。スリジエは今、本当に。この石榴剣を受け継いだのだ、と実感する。

 だが語らいの時間はそろそろ刻限だ。空が仄かに明るくなってきている。
「お養父さま。最後に……一緒に紅茶、飲みましょう」
 スリジエに促されるがままにグルナードは頷きを返す。
 待つことしばし……スリジエから手渡されたティーカップをグルナードは受け取る。
「私の入れた紅茶……お養父さまが帰ってこなかったあの日、初めて出すはずでした」
「……そうか」
 スリジエの悲しげな言葉に一言だけ返して。グルナードはティーカップを口元へ運ぶ。
 それは養娘の淹れた紅茶を初めて飲んだ瞬間。

「……」

「え?」
 スリジエが吃驚しながら顔をあげる。それはグルナードにしてはとても珍しい、スリジエの記憶をたどってもそんな言い方をしたことはごくわずかという……そんな感想。
 でもグルナードの感想は風の中に紛れて。スリジエの耳にかすかに届いた程度。
 もう一度聞き返そうとスリジエが顔をあげた時には、グルナードの姿は明仄の光の中に消えていた。
「…………」
 スリジエは開きかけた口を……閉じる。言おうとした言葉を飲み込んで。伝える相手がいないのだから、それも仕方ない。
 だから、胸の中に抱くことにする。

 朝日が昇ってきた。もうすぐこの橋も消えてしまう。
 それでも、それでもだ。
 この橋の上で語らい合った記憶は決して消えない。
 新たな思い出を胸に、スリジエは再び猟兵の世界へと帰還するのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年05月16日


挿絵イラスト