大祓百鬼夜行⑧〜もういちどだけあなたとよるを~
●それは現し世とあの良の境界線
「もし川に見たことのない橋を見かけたら、決して渡ってはいけないよ」
カクリヨファンタズムの妖怪たちは、子供の頃からそう親に語り聞かされて育つそうだ。
「まぼろしの橋」と言われるそれは、UDCアースの概念で言えば三途の川を渡る為の船と同義とされるものであり、橋を渡った者は黄泉へと送られ二度と現世には帰れない。
「……橋に佇むと死んだ想い人の幻影が現れる。その人にもう一度会いたいと願った人が、それを追いかけて黄泉へと渡る――それがどういうことを意味するかは、わかるよな」
地籠・陵也(心壊無穢の白き竜・f27047)が予知したのは、そのまぼろしの橋に佇んだ今は亡き想い人を追いかけて妖怪たちが黄泉に渡ってしまうという悲しい光景であった。
誰しももう一度会えるならと願ったことがあるだろう。そして、それが叶ったとしたら。
多くの人が二度目の別れを味わわねばならぬという現実を受け入れることができず、橋の向こうに消えゆく想い人を追いかけてしまうだろう。
そしてそれはその者が常世の存在となってしまうことを意味する――つまり、死に至ると同義だ。
「非常に心苦しい頼みをしてしまうことになるが……みんなには、その橋を浄化してもらいたい」
浄化する術。
それはその橋に佇むことで現れる「死んだ想い人の幻影」と、夜が明けるまで語り明かすこと。
もう二度と逢えないとされていた相手ともう一度向き合う……それがどんなに残酷なことかは猟兵諸君が一番知っているだろう。
かつて別離した後、オブリビオンと化したその人を手にかけた猟兵もどれだけいることだろうか。
未だ心の傷として癒えぬ者だっているかもしれないそんな中、このまぼろしの橋を渡ってしまう者が出る前に橋を浄化して欲しいというこの依頼。
間違いなく、最も残酷な宣言を突きつけているようなもの、それはこの件を予知した陵也自身が痛い程理解している。
だからこそ――。
「この橋の件は決して強制じゃない。向き合える覚悟ができなくて当然のことだから」
もし無理して行こうとするならそれはやめて欲しいと、切に告げた。
対処しなければならないのはこの橋だけではなく、他にも戦争を終わらせる為の戦いは多くのグリモア猟兵が予知している。
この橋にこだわらずとも戦争を終わらせる為に戦うことができるのだ。
「けど、それでも行くというのなら止めない」
乗り越えたいという決意を無碍にはできないから。
それは陵也自身が未だ持てずにいるものであるが故に、乗り越えようとする者がいるならば最大限に尊重したいと。
その勇気は間違いなく、猟兵たちの明日を切り拓く力になるものだから、と。
「……無事に戻ってきてくれ。俺がみんなに願うのは、それだけだ」
乗り越えられると信じている――そう視線で語りながら、陵也は猟兵たちを橋へと送り届けた。
御巫咲絢
猟兵たちのエモいプレイングが見たい(欲望ダダ漏れ)!!!!!
こんにちはこんばんはあるいはおはようございます、初めましての方は初めまして御巫咲絢です。
シナリオご閲覧ありがとうございます!御巫のシナリオが初めての方はお手数ですがMSページを一度ご一読くださると幸いです。
戦争シナリオ3本目。
ギャグを何回かやったらシリアスに反復横跳びしているMSによるしっとりめのシナリオをお届けします。
まぼろしの橋に佇み、現れた今は亡き想い人の幻影と気が済むまで語り明かしてくださいませ。
●当シナリオについて
当シナリオは「戦争シナリオ」です。1章で完結する特殊なシナリオとなっており、以下のプレイングボーナスが存在します。
●プレイングボーナス
あなたの「想い人」を描写し、夜が明けるまで語らう。
一応言っておきますが後を追うとかはダメですからね!!!約束だぞ!!!!
●プレイングについて
想い人について描写して欲しいことや言って欲しい台詞は余すことなく書いていただけると幸いです。
一応プロフィールや、別途参照URLで設定を書いている方はそれらも参考にして書かせて頂きますが、読解力不足で解釈違いを起こしたら本当にごめんなさい!!!(土下座)
プレイング受付開始は『5/14(金)8:31~』、締切は『クリアに必要な🔵の数に到達するまで』。
最低でも3名様はご案内予定ですが、「プレイングと設定を確認した上で書きやすい方から」採用させて頂く為不採用になる可能性が非常に高くなっております。
以上の内容をご理解の上、プレイングのご投函お願い致します。
それでは皆様のエモいプレイングをお待ち致しております!
第1章 日常
『想い人と語らう』
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POW : 二度と会えない筈の相手に会う為、覚悟を決めて橋に立つ。
SPD : あの時伝えられなかった想いを言葉にする。
WIZ : 言葉は少なくとも、共に時を過ごすことで心を通わせる。
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種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
尾守・夜野
POW
…もう殆ど忘れてるけど
あえるなら幻影でもいいから村の皆と会いたい…
でも生きてると認識してるから
多分俺は会えない
「…あ」
それでもと行って落胆し、帰ろうと背を向ければ気配が
…振り向けない
振り向くときっとそこにはいない
生死すら朧な影は正しく俺らの認識故だろう
「…なぁ皆はさ
恨んでるのか?
恨まれても仕方ねぇけどまだそっちにいけない
…終わらせてない」
皆(剣)だけでなく、俺も奴に変えられてこの罪悪感や決意すら誰かのだろうが
「…今日はさ
その宣言に来たんだよ」
俺は最初から誰でもあり誰でもない
それでも告げると決めたんだ
背を叩かれる
振り返ったそこには一瞬笑顔の皆がいた気がして
登った日を仰いで
「…いってくるよ」
●決意の灯
「(……もう殆ど忘れてるけど)」
尾守・夜野(墓守・f05352)はかつて自分が暮らしていた故郷の人々に想いを馳せる。
「(会えるなら、幻影でもいい。村の皆と会いたい……)」
今は存在すら地図の上から消し去られた、UDCアースのとある農村。彼が愛した村の人々は須らく邪神の贄にされ、その村を知る者は最早彼しかいない。
過去の記憶がなく身寄りがいるかわからない彼を村人が保護して、多分、満足の行く暮らしを送っていたのだろう――と、彼自身は解釈している。
断定系を用いることができないのは、彼自身が拾われてからの記憶が非常に曖昧だからだ。
多重人格者であるからか、自身も邪神の贄とされかけたからか、彼の覚えているモノが全て夜野本人のものかすらわからない。
故に村の人々全員を精確に思い出せるワケではない。ぼんやりとこういう人がいて、こういうことをしてもらったな……そういった程度しか想起することができなかった。
だがそれでも、彼にとって掛け替えのない人々であることに変わりはない。
「(――でも多分、俺は会えない)」
だが、夜野自身は村人たちの幻影に会える可能性については諦めていた。
村の人々たちは一つの刀となって今も彼と共に在る。
怨剣村斬丸――"生きろ"、"何故お前だけが"という相反する二つの呪詛が今も尚この剣に滲むのは、"素材"となった彼らが生きて今も叫んでいるからだと、彼は認識している。
死んでいると思っていないのなら、会える可能性は著しく低いだろうというのは夜野自身が一番よくわかっていた。
けど、けれど。それでも会えるかもしれないならと、「まぼろしの橋」の上に彼は立つ。
虞が広がっても尚色一つ変わらずせせらぐ川を照らす月夜の下、彼岸へ繋がる橋の向こうをぼんやりと見つめて佇んだ。
けれど、一向に幻影が現れる気配はない。
夜がどっぷりと更けても、それは夜野の前に姿を見せない……
「……まあ、わかってたさ」
言い聞かせるように夜野は独りごちる。
僅かな期待に胸を膨らませ、落胆している自分に言い聞かせ、落ち着かせるように。
生きていると思っているんだから、そりゃあ幻影だとしても会えないのは当然のことだろう。わかってたじゃないか――と。
まるで自嘲するようにも聞こえるような口ぶりでそう言って、夜野は踵を返す。……いや、返そうとしてふと立ち止まった。
「…………あ」
背を向けた途端に、気配がしたのだ。
彼らが、ここに"来た"のだと直感した。
もう記憶の中で、殆どが輪郭だけになってしまっているけれど。その気配は間違いなく、夜野が覚えている村の人々そのものだった。
目の奥が熱くなるのを感じる。けれど夜野は振り向けない。
振り向いてもきっと、そこには誰もいないから。
一振りの剣になって生きていて、完全に彼岸に旅立っているワケではない。生と死の境目すら非常に朧げで、形になりそうでなっていない影がそこにあるのだろう。それが正しく夜野の認識故に。
一つ呼吸して、夜野は口を開く。
「…………なあ、皆はさ」
声がひどく震えて、またもう一呼吸して。
「恨んでるのか?」
それは夜野がずっと聞きたかったこと。
村人たちももっとたくさんしたいことがあったハズだし、もっともっと生きていたかっただろう。
けれど自分たちは贄になり、夜野だけが生き残った。
だからこそ"何故お前が"と、剣と化しても呪詛を刻み続けているのだろうと夜野はずっと考えていたし、恨まれても当然だと思っていた。
ずっと自分だけが生き残ってしまったという罪悪感が夜野の中で延々と燻り続けている程に。
気配は何も答えない。
ただじっと、夜野の言葉を待っているかのように静寂だけがそこにある。
「恨まれても仕方ねえけど、まだそっちに行けない。……終わらせてない」
今も故郷は邪神の炎に絶えず焼き続けられている。
元凶たる邪神が自らの前に姿を現し、この手で消し去るその日がくるまで、どれ程恨まれようとも望まれようとも、夜野は彼岸へと渡ることはできない。
村の皆も、自分自身も全て奴に変えられた。だから今感じている罪悪感も、告げなければならないという決意も、自分のではなく誰かのモノかもしれないけれど。
「……今日はさ、その宣言に来たんだよ。俺は最初から誰でもあり誰でもない、それでも――」
告げると決めたんだ。
振り返っても誰もいない故に背を向けてはいるが、夜野の目は真っ直ぐと前を見て。
「!」
ふと背中を叩かれる。 まるでそれは背中を押すように、激励するかのように。
反応して振り向けば――村人たちの笑顔が見えた。
……ような、気がした。ほんの一瞬という僅かな間だけだが、それでも確かに笑う彼らがいたと思えた。
――いってきなさい。そう言ってくれる、彼らの姿が。
「……いってくるよ」
振り返った先の空に昇る日を仰ぎ、夜野は踵を返して消えゆく橋を下り此岸へと戻る。
――真っ直ぐ、前を向いて。
大成功
🔵🔵🔵
アリス・セカンドカラー
お任せプレ、汝が為したいように為すがよい。
亡き想い人の幻影か……それなら『あの子』アリス・ロックハートが出てくるのでしょうね。
私が猟兵に覚醒した『あの日』、私が討った……吸血鬼。そして、『あの日』以来私がエミュり続けている存在。故に私はセカンドカラー、そう2Pカラーだ。
シスターズとして、そして『あの子』の親友として過ごした日々。
『“ ”』
懐かしきあの頃の名で『あの子』の幻影が私を呼ぶ。言葉は少なく、あの頃のように重なり合う。まぁ、私がエミュってる存在なのでそういう存在である。
さて、お別れの時間だ。でも名残は惜しくはない。なぜなら『あの日』、私とあの子は『一つに』なったのだ。『永遠に』
●Alice
「亡き想い人の幻影――か」
アリス・セカンドカラー(不可思議な腐敗のケイオト魔少女・f05202)は橋の上で月を見上げる。
「それなら『あの子』……アリス・ロックハートが出てくるのでしょうね」
アリス・ロックハート。
姉妹(シスターズ)として、親友としてアリスはずっと彼女と共にあった。
しかしそれは永遠のものではなかった。猟兵に覚醒したことで、それが永遠のものではなくなってしまったから。
アリスが猟兵として始めて討伐した対象こそ親友にして姉妹であり――吸血鬼の一人だった、アリス・ロックハート。
それからずっと、アリスは彼女を模倣し続けて生きている。
故に彼女は『アリス・セカンドカラー』。
2Pカラーのアリスは決して1Pカラーにはならないしなれない。元よりなるつもりすらない。
『アリス・ロックハート』は『アリス・ロックハート』で、それを模倣するアリスは永遠に『アリス・セカンドカラー』でしかなく、決してそれ以上にも以下にもなりはしないのだ。
『" "』
懐かしい声が彼岸側から聞こえる。
『アリス・セカンドカラー』になる前の、親友しか知らぬ懐かしきあの頃の名で、幻影のアリス・ロックハートがアリスを呼ぶ。
「久しぶりね」
挨拶を返せば、アリス・ロックハートは穏やかに微笑んでアリスの頬に触れた。
かつてと変わらぬひんやりとしていて、それでいて確かな温もりがある手が心地よく、愛おしい。
抱きしめられればそっと背に手を回して抱きしめ返し、幸福感が互いを満たす。
『" "』
「――アリス」
互いに名を呼び合う。
それから先は必要以上に言葉はいらなかった。
あの頃のように重なり合うただそれだけで、互いの想いは互いの中に深く、深く沁み込んでいく。
アリスが模倣している存在なのだから、想いを共有する為の一番の術としてこれを選ぶのは至極当然のことで。
結界術から生み出した願望の器の中で、夜が明けるそのギリギリまで、深く――深く、二人のアリスは想いを交わし合い続ける。後悔なく互いを満たす為に。
だって、この時間は二度と訪れないのだから。
――だが。
それが終わっても、アリスは名残惜しく思うこともなければ寂しいと思うことは微塵もないだろう。
それは何故か?簡単だ、『あの日』、二人は『一つに』なっているのだから。
『永遠に』二人のアリスは共に在り続ける――ならば、何を名残惜しく思うことがあろうか?
触れ合う機会ができたという事実はとてつもなく幸運な事象ではあるけれど、共にあるのだから未練などこれっぽっちも存在しない。
故に満足したような顔でアリスは橋を去る。
一つになった二人のアリスは、これからもずっと一つになって世界を巡るだろう。
それが二人の在り方なのだ。
大成功
🔵🔵🔵
外邨・蛍嘉
相手:外邨・昌嘉(まさよし)
20代後半。緑髪に橙瞳。
「母上様…」
そうだね、会いたい想い人の一人だよ、実の息子ってのは。
忍の頭領家の跡継ぎで、頭領の仕事を覚えてる最中だったのにね。
息子も、息子の中にいる鬼も、抵抗しただろう?
「当然です。でも、敵わなかった」
そうだね。皆、腸抜かれ食われて死んだのさ。
仇が討てるかどうかわからないけれど。母は、まだそちらにいけないよ。
「それでこそ母上様です。会えて嬉しゅうございました…」
私もだよ。さて、夜明けか…。
「母上様。この言葉はおかしいのやもしれませぬが。お元気で」
※被害は兄(最初の死亡者)→夫→息子→孫(女)→自分(外邨家壊滅)の順。
そのあと、故郷壊滅。
●立つ岸は違えど
外邨・蛍嘉(雪待天泉・f29452)は忍の血族である。
彼女の生家である外邨家は忍であると同時に、鬼をその魂に封じる役目を持つ特殊な血筋の家。
それ故なのか、または別の理由があったのか……外邨家はある夏の日に故郷と共にその血が途絶えることとなったのだ。
兄も、夫も、息子も、孫娘も――そして蛍嘉自身も、腸を抜かれ喰われ果てた。
蛍嘉と兄は未だ現世に悪霊として留まっているが、他の家族は望まずして皆彼岸へと旅立った。彼女には会いたい想い人が複数いる。
「――母上様……」
橋に佇んだ蛍嘉の前に現れたのは、その内の一人。
緑色の髪に橙色の瞳を持ち、母親によく似た面立ちをした男性――蛍嘉の息子である外邨・昌嘉であった。
「昌嘉。元気にしてたかい?」
「もちろんです。彼岸の住人となったからと言って、鍛錬を怠ったことは一度もございません」
「それはよかった」
元気にしていたかいというのは少しおかしいかもしれないのだけどね、と後付けて言いながら、蛍嘉は変わらぬ息子の姿を見て微笑んだ。
昌嘉は外邨の忍の頭領家の跡継ぎとして、様々な事柄を覚えている最中であった。
能力面でも人格面でも頭領たろうとし常に研鑽を怠らぬその姿は蛍嘉にとっては誇りであった。
あのまま平穏に――忍に平穏という言葉は程遠くはあり、少々おかしい言い回しかもしれないが――時が過ぎ行けば、さぞ良き頭領となっていただろう。
約束されていたハズの未来が、夏の日に全て喰らわれることがなければそうなっていただろうと、今も思うことはある。
「……抵抗したんだろう?昌嘉も、昌嘉の中にいる鬼も」
「当然です。……でも、敵わなかった」
「そうだね。――皆、腸を抜かれ喰われて死んだのさ」
鬼を魂に封じる血族の一人として、息子もまたその魂に鬼を宿していた。
故に通字である『嘉』の字を名に含め「昌嘉」と名付けられ将来を期待されて育ち、忍としてあらゆる術も教わった。
だが修行中の身である息子はそれに敵わなかった。……当時の当代である蛍嘉の双子の兄が最初に殺された程の埒外の相手であったが故に。
蛍嘉自身も自らの中に住まう鬼クルワと共に最後まで抗おうと試みたが敵わず命を落とし、程なくして故郷そのものも滅びた。
「悪いね。仇が討てるかどうかわからないけれど……母は、まだそちらにいけないよ」
どのような理由があったとしても、死した後に猟兵となって現世に留まっているということはやらねばならぬことがあるということ。
そのうちの一つに、息子を始めとした家族の仇を討つこともあるだろう。
しかし、そのように強く決意していたとしても仇を取れるとは必ずしも限らない。相まみえることすらないかもしれない。
だが、どの道蛍嘉がまだ彼岸に行く為の理由たりえることはない。
彼女は己の為すべきことを為すまで、現世に留まり続けると既に決意しているのだから。
「――いえ。それでこそ母上様です」
あの頃とちっとも変わらぬ母の姿に昌嘉の表情は柔らかく綻んだ。それに釣られて蛍嘉の表情もより柔らかくなる。
「会えて、嬉しゅうございました」
「私もだよ。――さて」
蛍嘉は空を仰ぎ見る。
東の果てに月が沈み、空が徐々に白む。
「夜明けか……」
蛍嘉の足元、佇む橋が僅かに透け始めたように見える。
朝日が完全に登れば「まぼろしの橋」は音もなく消えていくだろう。名残惜しいと思わないかと言われると嘘になるが、これで本当にお別れだ。
為すべきことを成し遂げて、蛍嘉が彼岸へ行く資格を手にするその日まで。
「母上様。この言葉はおかしいのやもしれませぬが――どうか、お元気で」
「ああ。そっちもね」
互いに死者で、留まる先がこちらかあちらかというだけの違い。
確かに元気でと安否を気遣うのはある意味おかしな話なのだろうけれど、この母子はきっとこれで良いのだ。
最後の言葉を交わし、息子は彼岸へ、母は此岸へ――そして「まぼろしの橋」は、音もなく静かに姿を消す。
橋が消えた後に蛍嘉は藤の花を一輪、水面へと浮かべてから踵を返す。
「決して離れない」という花言葉を持つその花は、静かに川を流れて行った。
●
亡き想い人と向き合うという勇気は、これから増えるかもしれなかった悲しみが生まれることを確かに防いだ。
彼ら、彼女らの決意はきっと、彼らに良い未来をもたらしてくれるだろうと信じて、この報告書を締めくくることとする。
大成功
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