8
大祓百鬼夜行⑧〜対決ブルームーン

#カクリヨファンタズム #大祓百鬼夜行

タグの編集

 現在は作者のみ編集可能です。
 🔒公式タグは編集できません。

🔒
#カクリヨファンタズム
🔒
#大祓百鬼夜行


0




●まぼろしの橋
 貴方の瞳には何が映っていますか。
 貴方の心には何が在りますか。
 絶望と失望でしょうか。それとも後悔と憤怒でしょうか。
 そのどちらであってもいいし、どちらでなくてもいい。もしかしたら、もっと別のものもあったかもしれません。
 だから、今宵お会いしましょう。
『まぼろしの橋』で。

 そして語り合いましょう。
 優しくも物悲しい、そんな思い出に浸りましょう。ずっとずうっとは一緒には居られないけれど。
 それでも、もう一度会いたいと願ったから今此処に在るのです。

 もう一度、もう一度。

 その声と共に語り合いましょう。
 どんなに悲しくても時が止まらないように。どんなに苦しくても立ち止まることが許されないように。
 川の流れのように。
 当たり前のように夜更けまで――。

●大祓百鬼夜行
 ナイアルテ・ブーゾヴァ(神月円明・f25860)は、その瞳を伏せてグリモベースに集まった猟兵たちを出迎えた。
 彼女の瞳が開かれた時、その瞳は爛々と輝いていた。
「お集まり頂きありがとうございます。カクリヨファンタズムのある川に渡った者を黄泉に送ると言われる『まぼろしの橋』がかかりました」
 それだけを聞けば、オブリビオンによる攻撃ではないとわかるだろう。
 けれど、『大祓百鬼夜行』を止めるためには必要なことなのだ。

 この橋は佇んでいると『死んだ想い人の幻影』が現れるのだという。
 猟兵達も長く生きていれば、そういった者たちの思い出を持つことはあるだろう。ナイアルテも、それは変わらない。
「この『まぼろしの橋』を浄化するために必要なことは、今はもう居ない大切な人と夜が開けるまで語り合うことなのです」
 辛い記憶と向き合わなければならない者だっているだろう。
 会いたくて、会いたくて、けれど会えない者ならばこそ、この橋に取り憑かれる者だって出てくるかもしれない。

 カクリヨファンタズムならば特にそうだ。
 妖怪たちは忘れ去られてしまえば存在できなくなる。嘗て自分を知っていてくれた者がいたという思い出だけで生きてきたのならば、この『まぼろしの橋』は劇薬であろう。
 同時に猟兵達には覚悟が必要となる。
「もう会えないはずの想い人ともう一度会う覚悟。それがある方だけが、お進みください」
 ナイアルテは促すでもなく、静かに頭を下げる。
 私にも、と彼女は小さく呟いた。
 彼女にもまた在るのだろう。もう一度会いたいと願う存在が。

「私は拳で語り合いましたが、叶うならばもう一度と願わずにはいられません。いつかのあなたに、もう一度。けれど、これは対決なのです」
 過去との対決。
 語らいという対決。
 どうあがいても時は逆巻くことはない。後悔は戻らない。けれど、時の流れが残酷であるというのならば、人の歩みは、それらを乗り越えていける。

 ナイアルテは、猟兵達にその覚悟があるのだと信じるからこそ、彼等の背中を静かに見送るのだった――。


海鶴
 マスターの海鶴です。

 ※これは1章構成の『大祓百鬼夜行』の戦争シナリオとなります。

 カクリヨファンタズムの川にかかった『まぼろしの橋』において、あなたの『想い人の幻影』と夜が明けるまで語り合うシナリオとなっています。
 戦闘は起こりません。
 ただ、橋を浄化するために語り合い、朝を迎える必要があります。

 ※このシナリオには特別なプレイングボーナスがあります。これに基づく行動をすると有利になります。

 プレイングボーナス……あなたの「想い人」を描写し、夜が明けるまで語らう。

 それでは、大祓百鬼夜行を阻止する皆さんの物語の一片となれますよう、いっぱいがんばります!
257




第1章 日常 『想い人と語らう』

POW   :    二度と会えない筈の相手に会う為、覚悟を決めて橋に立つ。

SPD   :    あの時伝えられなかった想いを言葉にする。

WIZ   :    言葉は少なくとも、共に時を過ごすことで心を通わせる。

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

メイスン・ドットハック
【SPD】
想い人に会える橋のー
想っているというほどではないけど、僕としては興味がある人じゃけー、ちょっと覗いてみようかのー

邂逅:生んでくれたクリスタリアンの両親

ほほう、僕の生みの親ってこんな感じじゃったんじゃのー
父親の方がアメジストのクリスタリンで、母親がブルークリスタルとはのー
といえ、捨てられた僕にとってはあまり関係はないのー
憎んでいるわけでも、愛しているわけでもない。どっちかと言えば他人に近いのー
こうして会ってみても、「わー、こんな外見にある人達から生まれたんだー」くらいしか思わんし
ただ一言言うなら、これくらいかもしれんのー

一応生んでくれてありがとうのー。ま、僕はこれからも好き勝手やるけー



 生命は様々な形を持っている。
 それは言うまでもなく世界が無数にあるように、様々な形で人と人との縁を結ぶものだ。
 カクリヨファンタズムはそうした思い出の終着点であったのかもしれない。
 川にかかる『まぼろしの橋』は、佇むだけで『想い人の幻影』を出現させる。如何なることかはわかっていない。
 その橋を渡りきれば黄泉へと通じる。
 すなわち、死だ。

「想い人に会える橋のー」
 メイスン・ドットハック(ウィザード級ハッカー(引き籠り)・f03092)は基本的に引きこもっていることが多い。
 引きこもるために戦っていると言っても過言ではない。そんな彼女が『まぼろしの橋』まで出向くことは珍しいことであったかもしれない。
 オブリビオンと戦うわけでもない。
 現れる想い人と朝まで語り合う。ただそれだけのためなのに。
 メイスン自身は思っているというほどではないけれど、彼女自身としては興味がある人がいる。
 だから、ここに来たのだ。

 ぼんやりと佇んでいると黄泉路の向こうから幻影が輪郭を帯びていく。
 自分は知らないことであったからこそ、このような機会は逃すことができない。
「ほほう、僕の生みの親ってこんな感じじゃったんじゃのー」
 目の前にいるのはアメジストとブルークリスタルのクリスタリアンの男女であった。
 彼女の言葉通り、それが彼女の父親と母親であることは間違いない。

 父親と母親に会いたい。
 それは生物としてはある意味当然であったのかもしれない。けれど、捨てられたという事実が残るメイスンにとっては、あまり関係のない事柄であった。
「憎んでいるわけでも、愛しているわけでもない。どっちかと言えば」
 そう、他人に近い。
 互いに言葉を交わしたことのない間柄。
 それを家族と呼べるだろうか。思った以上にメイスンの胸のうちからは感情が漣も立たないのだ。

「……」
 語らう言葉はどんなものであったことだろうか。
 こうして会って見ても、こんな外見の二人から自分が生まれたんだととしか思わないのだ。
 愛憎一つ湧き上がらない。
 だって、喪ったわけではないのだ。喪われたのであれば、感傷の一つだって湧き上がるものだろう。
 けれど、最初から彼女にはいなかったのだ。
 恨み言も、家族としての言葉も浮かんではこないのだ。

 けれど、とメイスンはうなずく。
 言葉少なに。けれど、これだけは伝えなければならないとさえ思ったのだ。
「一応産んでくれてありがとうのー」
 感謝の言葉だった。
 誰に向けて良いのかもわからぬ言葉。それはきっと不幸せなことであったと、第三者から見たのならば思われただろう。

 メイスンには関係ない。
 だって、そう――。
「ま、僕はこれからも好き勝手やるけー」
 勝手気ままに生きていく。
 猟兵として生きてはいるけれど、それでも自分がやりたいと思ったことをやる。
 ただ、それだけなのだ。

 メイスンは朝まで彼等と対峙する。
 彼等というのは、あまりにも他人行儀だけれど。それでも、今はそれで十分なのだ。
「――……」
 小さな、か細い声が聞こえる。
 自分の道を邁進するメイスンの耳にそれが届いたのかはわからない。
 けれど、朝日昇る瞬間に、確かに耳に、彼女だけに届いたのだった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

大宝寺・風蘭
想い人は、かつてアリスとしてアリスラビリンスに召喚されてしまった際に共闘した、戦友にして親友にして、宿敵。後に、オブリビオン化した彼女に自らの手で引導を渡すことになってしまったが。

「生命体の埒外ってのも、悪くないもんだねぃ。こんな奇跡に巡り会えるんだから」
などと言うと、彼女は呆れるかもしれない。

互いに宿敵として対峙したときはゆっくりダベってられなかった。この機に話したいことなど山ほどある。
元の世界に帰ってからの話。平和な日常を取り戻したかと思いきや、猟兵として戦いを繰り返すハメになったこと。血縁なき姉がなぜかアイドルになっていたこと。
アリスラビリンスでの思い出話も。

「……夜明けが、憎いねぃ」



 枯樹生華の名を大宝寺・風蘭(狂拳猫・f19776)は今でも覚えている。
 彼女とは二度の邂逅があった。
 一度目はアリスとして。二度目はオウガとして。
 彼女の言葉はいつだって自分の背中を押してくれた。道なき道を征く勇気をくれた。戦友だと思っていたし、親友だと今も言える。
 そんな彼女に自らの因縁に決着を着け、引導を渡したのだ。
 あの日紡いだ言葉を風蘭は飲み込んだ。
『一緒に帰ろうって言えたら、最高なんだけど』

 その言葉は今日も紡ぐつもりはない。
 心の内側にしまっておくべき言葉だ。『まぼろしの橋』に立ち、ぼんやりと見つめている。黄泉路より迷いでたように『エルヴィラ』の姿が見える。
 やあ、とも久しぶりとも言えない言葉のままにお互い微笑んだ。
「生命の埒外ってのも、悪くないもんだねぃ。こんあに軌跡に巡り会えるんだから」 なぁに、それ。
 そんなふうに『エルヴィラ』が笑っている。
 風蘭は覚悟を持って、この『まぼろしの橋』に立っていた。
 自分の言葉に呆れたように笑う姿は、助けてもらったときと同じ笑顔だった。オブリビオンになってオウガと呼ばれ傷ついた顔は何処にもなかった。

 それが自分の見せる幻影であったのだとしても、何処か救われたような気がしたのだ。
「あの時はゆっくりと喋る時間もなかったけれど」
 今は時間がある。
 そうだ、夜明けまでは時間が在るのだ。風蘭はうなずく。
「ああ、この機に話したいことなんて山程ある」
「いいわね。夜明けまでの時間制限つきだけれど、そういう時間の使い方も悪くない。だから、付き合ってあげるわ。話してちょうだい。私が知らない貴方のことを」
 穏やかな微笑みが、眩しいとさえ思ったことだろう。

 元の世界に帰ってからの話。
 平和な日常を取り戻したかと思いきや、猟兵として戦いを繰り返すハメになったこと。
 血縁なき姉が何故かアイドルになっていたこと。
 話の種は尽きない。
「なあに、それ。そんなことってあるのかしら」
 エルヴィラは笑っていた。
 ああ、と思う。
 擦り切れるような記憶の摩耗、繰り返される悪夢。
 それら全てから解き放った自分の戦いは決してムダなんかじゃなかったのだと風蘭は思ったことだろう。

 あの時放った革命剣の一撃を今でも彼女は思い出す。
 二度と骸の海から滲み出すことはない存在。二度と会えることはないと思っていた存在と今こうして会話を繋ぐことができる奇跡に彼女の肩が震えていた。
「……泣かないで。貴方がそんな顔をしてはダメよ。貴方の路はいつだって自分で作り出せるものなのだから」
 寄り添う暖かさは、きっと風蘭の覚悟さえも緩やかに溶かしていく。
 緊張なんてしなくたっていい。
 あのときのことだって思い出さなくたっていい。

 時折、また今日のことを思い出してくれるだけでいいのだ。
 それだけで彼女は、枯樹死華ではなく枯樹生華として風蘭の心のなかに在り続けるのだから。
「……夜明けが、憎いねぃ」
 きっと目が染みているのは、気のせいだ。
「ありがとう。優しい貴方。名前を覚えていてくれて」
 エルヴィラの真心はきっと希望となって風蘭へと託されて紡がれた。
 それが篝火となったからこそ、今日という日があったのだろう。

 いつかのアリスの手を、朝焼けが昇るまで風蘭はいつまでも握りしめ、そして訪れた三度目の別れに笑顔で見送るのだった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

エカチェリーナ・ヴィソツカヤ
・心情
想い人の幻影が現れる、まぼろしの橋……か
きっと、私の前に現れるのは『ジェド・マロース』お爺様の幻影なのだろうね
それはきっと、心に色々なものが渦巻くのだろう

――けれど、あぁ、けれども

姑獲鳥を助ける為に、カタストロフを止める為に、『薄氷』の雪女と戦ったあの日
ブラウン管テレビに映し出されたあの追憶を乗り越えたのだから

今度もきっと……へっちゃらさ

・行動
伝えたい想いはたくさんあるさ
お祖父様が消えたあの日、とてつもなく悲しみが押し寄せたこと
放浪していたときの、寂しさ
今の私の姿を見て、『私』だと認識してくれるかという不安

けれど、きっと、最後に伝える言葉は

――ありがとうと、さようならだ



 あの時伝えられなかった言葉がある。
 それは後悔であったのかもしれないし、悲しみだけが海のように涙をこぼしたあの日のことであったかもしれない。
 エカチェリーナ・ヴィソツカヤ(ジェド・マロースの孫娘『スネグーラチカ』・f28035)はそれを思うと、様々なものが心の中に渦巻くのを感じていた。
 カクリヨファンタズムの川、そこにかかった『まぼろしの橋』。
 黄泉路より現れる『想い人の幻影』。
 それは彼女にとっては『ジェド・マロース』という存在であった。
 きっと、という思いがあった。

 もしも想い人の幻影が自分の前に形を伴って現れるのであれば、お爺様の幻影なのだろうと確信があったのだ。
「――けれど、あぁ、けれども」
 あの日もそうだったのだ。
 カクリヨファンタズム、雪が荒ぶカタストロフの最中、彼女はブラウン管に映るお爺様の姿。
 寂しいという思い。
 苦しいという思い。寂寞の思いは、澱のように胸の中に溜まっていく。
 堪えきれないほどの悲しみが身を襲ったあの日のことを思い出す。

 あの優しい祝福を受けたあの日の事を思い出す。
 そうすれば、寂しさは薄れる。苦しみは前を見るための力になる。
 あの日の追憶さえもエカチェリーナは乗り越えたのだ。だから、今度もきっと……そう、きっと。
「へっちゃらさ」
 エカチェリーナは、姿が変わってもあの人同じ言葉を紡いだ。
 へっちゃらさ、と魔法のように言葉を紡ぐのだ。想い人の幻影が自分の変わった姿を見て『私』だと認識してくれるだろうかという不安があった。

 伝えたい想いはたくさんある。
 お爺様が消えたあの日の、悲しみの大きさを。
 一人さまよっていたときの寂しさを。

 どれだけ言葉にしても足りないのだ。
「エカチェリーナ」
 その名を呼ぶ懐かしい声が胸を打つ。
 覚えていていくれた。わかってくれた。なのに何故という疑問よりも先にあふれる思いがあった。

 寂寞の思いが彼女の心を凍てつかせたのだとしても、そのどれもが彼女の足を止めるには値しない。
 彼女はいつだって乗り越えてきたのだ。
 あの寂しさも、苦しみも、悲しみも。全部、魔法の言葉と共に。
 だからこそ、エカチェリーナは笑うのだ。お爺様、と呼びかける声はいつだって笑顔でいたい。

 夜が明けていく。
 涙の後はもうない。もう遭うことはないのかもしれない。
 自分だって変わっていく。
 止めようのない変化がある。けれど、これだけはどうしても伝えたいのだ。朝日が昇る世界にあって、とびきりの笑顔で、あの日の幼き日を思い出させるような笑顔で。
 エカチェリーナは『ジェド・マロース』へと告げるのだ。

「――ありがとうと、さようならだ」
 またいつか会う日まで。
 二度とは訪れぬかもしれないと知りながらも、けれど自分は大丈夫だからと安心させるように。
 おとなになったね、と最後に声が聞こえた気がした。

 それはまぼろしであったかもしれないし、青い月のようにあり得ないものであったかもしれない。
 けれど、確かにエカチェリーナの心のなかに暖かさをもたらして、さらなる明日を進む糧となることだろう――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

董・白
【心境】
「『死んだ思い人の幻影が現れる』まぼろしの橋…ですか。」
世界には不思議な現象があるんですね。
うん、会いたい遠い時の人…いますよね。

【行動】
・SPD
会いたい人…おじい様は色々不味いので諦めます。
色々問題ある人でしたが、私には優しいおじ様でしたのですけど。

うん、今回私が会いたいのは僵尸として蘇生した私を救出して、崑崙のお師様へ預けてくださった武侠様…です。
あのわずかな時間でしたが、私なんかを助けてくださったこと。
お爺様の死と部下の裏切り、処刑…現実に打ち召された私を助けてくださった名も知らない武侠様。
あの日のお礼を幻影でも一言。
ありがとうございました。貴方のおかげで白は…今も生きています。



 カクリヨファンタズムは忘れ去られた者たちの終着する場所であったのかもしれない。
 妖怪たちがそうであったように、思い出さえも漂着する。
 形のあるもの、ないもの。
 どれもが等しく流れ着く。誰かの記憶も、誰かの思い出も。何もかもが流れ着いて、一時の慰めを齎すのかもしれない。
 そんな世界にあって『まぼろしの橋』はある意味で、当然の事象であったのかもしれない。

「『死んだ想い人の幻影が現れる』まぼろしの橋……ですか」
 世界には不思議な現象があるんだな、と董・白(尸解仙・f33242)は思った。
 そして、考えるのだ。
 自分が今会いたい人。そういう存在がいるのかと。すぐに思いついたけれど、それはやめておいた。
 脳裏に思い浮かんだのは、祖父であった。
 色々と拙いなと思ったから止めたけれど、彼女にとっては優しいお爺様であったのだ。
 だから、他の誰かが何を言ったとしても関係がない。
 白にとっては、それだけで十分だったのだ。

「あの時の武侠様……」
 そう、僵尸として蘇生した自分を救出して、崑崙の師匠の元に預けてくれた武侠を思い出す。
 橋の向こう側から、幻影が現れる。
 朧気に、けれどしっかりと覚えている。僅かな時間だった。あの時は礼を言う暇もなかったのだ。

 彼女は全てを手にしていた。
 けれど、全てを喪ったのだ。優しいお爺様も、地位も、名誉も、持てるもの全てをもたらされた手は、全てを喪った。
 あの日のことを思い出す。
 部下の裏切り。
 処刑という現実。

 どれだけ心が打ちのめされたことだろう。
 途方も無い絶望が己の身を苛み、苦しみだけが自分の中に蓄積していくのを感じた。
 けれど、何かもをもなくした手を取る手が一つだけあったのだ。
「名も知らない武侠様。きっとこれは幻影であった、あの方が死したわけではないのでしょう」
 だから、これはきっと白の自己満足だ。
 けれど、それでもいい。あの方が生きてくださっているのならば、これに勝る喜びなんてあるわけもない。

 どうか壮健であって欲しい。
 ただ、それだけを願う。輪郭を帯び、姿を鮮明にしていく武侠の前に立つ白は拱手でもって迎え、微笑んで頭を下げるのだ。
「ありがとうございました。貴方のおかげで白は……」
 喉が支える。
 よどみなく言えると思っていた言葉は、すんなりと出てこない。

 感謝してもしきれない万感の思いが、彼女の喉を支えさせているのならば、それは皮肉でしかなかったことだろう。
 あの日のように、武侠が手を差し伸べる。
 ああ、と白は溜息をつくように息を吐きだし、伝えるのだ。
 たった一言。
「今も生きています」
 誰かのささやかな掌が、一つの命を救い、多くの生命を救う戦いに身を投じている。
 貴方のしたことは間違いなんかじゃない。

 白はそれを証明したのだ。
 殺されて当然となじった者たちの前に立ち、毅然と白を救った武侠の正しさを、白は生きることによって証明してみせたのだ。
「成り行きだったのかもしれない。全てを喪ったものから生命までも奪おうとしなくても良いのではないかと思った」
 今、君の手には何がある。

 そう問いかける言葉に、白は夜明けまでになんと応えただろうか。
 それはきっと彼女の胸のうちにだけ秘められるものであったことだろう――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

馬県・義透
四人で一人の複合型悪霊だが、他三人は寝てる

第三『侵す者』武の天才
一人称:わし 豪快古風
生前の名:馬舘景雅(またち・かげまさ)。享年45
逢いたい人:妻の陽織(ひおり)。154cm。5つ下の元気娘

やはりひお…

「景雅様がもふもふしてない!背も低い!」

うん、陽織だの。わし、生前は狼獣人(種族キマイラ)で、も少し高かった(生前194cm)からの
しかし、一発でわしとわかるとは。気配でまるわかり?そうか

お主を目の前で亡くして。程無くしてわしも死んだが悪霊として戦っておるが

「景雅さま。こっち来たら容赦しませんからね!」

はは、そうだの

※陽織は、景雅に相応しく有ろうと武を修めて、二回攻撃のエキスパートになりました



 その名が意味するところを知る者はきっと世界で彼等四人だけであったことだろう。
 四柱の複合型悪霊である馬県・義透(死天山彷徨う四悪霊・f28057)は、ただ一柱のみを除いて全てが眠りに落ちた。
 空気を読んだとも言えるだろう。
 一柱『侵す者』――嘗ての名で記すのであれば、馬舘景雅は真なる意味で一人、カクリヨファンタズムの『まぼろしの橋』に降り立つ。

 ぼんやりとその時を待つ。
 いや、待ちわびていたと言ってもいいだろう。
 黄泉路より『想い人の幻影』が現れるという『まぼろしの橋』。
 その浄化のためには、幻影と朝まで語り合わなければならないというのだ。だからこそ、彼は思い浮かべたであろう。
 己の妻を。

 むしろ、現れる幻影が、妻以外であることなど考えられない。
 けれど、万が一ということもあるだろう。この身は一人のものではない。四つの悪霊が複合して出来上がった身であれば、如何なる不足があるやもしれない。
 それに彼の姿は生前のものとは違う。
 例え、妻が幻影となって現れたとしても、己を己と認識できるだろうか。
 輪郭を為していく幻影を前にわずかの躊躇いがあったかもしれない。

 けれど、そんな躊躇いなど大したことではないのだというように、それを吹き飛ばすような明るい声が響く。
「やはりひお……」
「景雅様がもふもふしてない! 背も低い!」
 開口一番に幻影が放った言葉はそれであった。
 うん、陽織だの、と納得する。
 彼の生前の姿は狼縦陣であった。もう少し背も高かったこともあったが、気配だけで自分だと看破したのだろう。

 少し誇らしい気持ちもある。
 わかってくれたという思いは当然のものであった。
「そんなの一発でわかりましたもの」
 これでも貴方の妻ですよ、と陽織は笑っていた。
 気配で丸わかりだったことも合わせて、景雅は笑った。共に笑い合うことなど最早できないと思っていたけれど。

 それでも再び逢うことがあれば、あの日の続きのように笑い合える。
 こんなにも素晴らしいことはない。
 あの日目の前で彼女を喪った。
 自分も死んだ。けれど、悪霊として今は戦っている。その言葉に日織が否定する。
「違いますよ。猟兵として、です。他のお三方もいらっしゃるのですね」
 危険な戦いばかりであろう。
 怪我だってするだろう。それはいつものことかもしれない。けれど、日織は目を伏せた。

 あの日織が、と思わないでもなかった。
 自分にふさわしくあろうと武を納めた彼女のいじらしさを今でも思い出す。
 だから、彼女の瞳が真っ直ぐに景雅を見据える。
 何を言うのかわかっていた。
 けれど、他ならぬ彼女の口から聞きたいと思った。それさえあれば、これが幻影の見せる一時の慰めであったのだしても、自分は戦えると思った。

「景雅様。こっち来たら容赦しませんからね!」

 たった一言。
 その一言だけで、きっと千年は戦える。戦い続けることができる。こみ上げるものがあったことだろう。
 すでに枯れ果てたものがこみ上げる。
 けれど、いつものように。
 あの日の続きのように、景雅は笑っていうのだ。

「はは、そうだの」
 終わらぬ日々がないように。
 明けぬ夜がないように。この一時は終わる。けれど、それでいいのだ。明日も、明後日も、自分たちの役目を果たすように。
 妻の幻影に見送られながら、景雅は『侵す者』へと戻ろう。ただそれだけが彼の歩みを、背を押すのだから――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

菫宮・理緒
想い人との語らい……それも『死んだ想い人』かぁ。
ひとりだけ思い当たるかな。

わたしが引きこもっていた頃に電脳世界で出会った人で、ほんとの名前も知らないんだけど、
わたしの【電脳潜行】を見て、わたしに電脳世界のことを教えてくれた、電脳の師匠。

いつも茶色のインバネスコートを羽織って、片眼鏡をかけて、紳士然としていたんだよね。

わたしは『博士』って呼んでたな。

博士がどうしてるかは解らない。
「わたしは電脳の海と一体化する」って言って、
それ以来どこにもいなくなっちゃったんだよね。

ひょっとしたら博士も、わたしと同じ能力を持っていたのかな?

もういちど会えるなら、
引きこもりでなくなったわたしを見てもらいたいな。



 想い人の幻影と語らうこと。
 それがカクリヨファンタズムの川にかかった『まぼろしの橋』を浄化するための唯一の手段であった。
 黄泉へと繋がる橋の向こうから現れるというのであれば、死せる者であろう。
 最早逢うことは叶わぬ存在。
 もしも、自分の前にそれが現れたのならば、人はどのように思うだろうか。

 共に在りたいと願うだろうか。
 それとも、決して交わらぬ日々に涙をこぼすだろうか。
 菫宮・理緒(バーチャルダイバー・f06437)はたった一人だけ思い当たる人物がいた。

 かつて引きこもっていた頃に電脳世界で出会った紳士。
 名前は知らない。
 片眼鏡を賭けてインバネスコートを羽織った紳士。いつも同じ服装だったことを覚えている。
 彼から学んだことは多い。
 彼女の電脳魔術は今も彼の教えが会ってこそだ。
「『博士』はどうしてるのかな」
 わからない。
 あの人はある日『わたしは電脳の海と一体化する』と言って、それ以来どこにも居なくなってしまった。

 もしかしたら、と理緒は思うのだ。
 もしかしたのならば、『博士』もまた自分と同じ力を持っていたのではないかと。
「だから、もう一度会えるなら」
 今の自分を見てほしいと願うのだ。
 引きこもるばかりであった自分しかしらぬ『博士』。どんな顔をするだろうか。『まぼろしの橋』の上にぼんやりとと立っていると、黄泉路より幻影が輪郭を結んでいく。

 ああ、と思う。
 懐かしいとも思うし、いつも隣にいたかもしれないとさえ思うような感覚が理緒にはあった。
「『博士』の言葉を全部信じるなら、いつだって私の隣にいたんだろうね」
「電脳の海と一体化すると言ったからね。驚いたかい」
 その言葉は幻影である。
 けれど、理緒にとっては真実だ。彼女は願ったのだ。いつも電脳世界でしか逢うことのなかった『博士』。

 自分の事情は全部知っている彼に、今の自分を見て欲しいと思ったのだ。
 けれど、今は猟兵として数多の世界を巡っている。驚いたかな、びっくりしたかな、それとも喜んでくれるだろうか。
「ううん。驚いてなんかない。どこにでもいてもどこにでもいける。それが電脳世界の良いところだから」
 そう教えてもらったのだ。

 ならばこそ、理緒は笑顔で語るのだ。
 今までの自分を。これからの自分を。あの日お別れをした『博士』の知らない自分を、自分の言葉で紡ぐのだ。
「君の瞳は世界に開かれたかい?」
 電脳世界で全部見えればいいのにと言った理緒の言葉を覚えているのだろう。
『博士』の言葉は思いの外優しかった。

 あの日告げた言葉。
 電脳世界から全てが見えればいい。
 けれど、今はどうだろうかと問いかける眼差しがあった。
 理緒はなんと応えるだろうか。
 その答えを楽しみにするように『博士』の微笑みは、夜明けの光に溶けていく。
「――……」
 満足そうな『博士』の顔を見送り、理緒は明日に立つ。

 今日であった昨日を背に、理緒は今日になった明日を生きるのだ――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

大町・詩乃
祀られてきたアシカビヒメを引っ張り出し、詩乃という名を与えた巫女にして親友である大町吉乃と
(口調は似ている。正確には詩乃が彼女の影響を受けた)

懐かしい思い出(基本、詩乃が彼女に振り回された)、そして死別後の事。
彼女は3度転生して、その都度人生を全うしたと笑った。
快活で行動力抜群で(大阪のおばちゃん並に)物怖じしなくて情に溢れた彼女らしくで、こちらも笑ってしまう。

でもちょっとだけ悔しいので「私の方はお友達と呼べる人が何人かできました。気になる人も」と言ってみる。

笑顔が返ってきた。
やっぱり敵わないなあ。

明け方近くに別れを告げる。
「また、どこかで会いそうな気がします」と彼女。
同意して笑顔で別れます。



 それは過去の日の思い出であった。
 ふとした折に今も思い出す眩い記憶。かつての名前、『アシカビヒメ』。
 祀られてきた神としての名ではなく『詩乃』という名を与えた巫女にして親友であった大町吉乃を思い出す。
 大町・詩乃(阿斯訶備媛・f17458)にとって彼女は、自分を振り回す存在であった。
 懐かしいと感じるのは彼女が悠久の時を生きる女神であるからだろう。

 人であった彼女とは流れる時間が違うのだ。
 けれど、詩乃が知る限り、彼女は三度転生して、その都度人生をマットしたと笑っていた。
 快活で行動力抜群で、物怖じしなくて情に溢れた彼女。
「あなたに私は――」
 名前をもらったのだ。
 自分という名前を。それを嬉しく思うことがある。きっと彼女に引っ張りだされなければ、今の自分はなかっただろう。

 彼女はカクリヨファンタズムの『まぼろしの橋』の上に立つ。
 黄泉路より幻影が現れる。想い人の幻影。猟兵である己の前に、彼女の姿が現れるのは当然であった。
 快活な笑顔。
 久しぶりとも言うことがないのは、彼女との間に分かたれた時間という溝すら簡単に飛び越えるようでもあったからだ。
「少し丸くなりました?」
 自分と同じような口ぶり。けれど、中身は別物のように快活であった。

 植物を司る自分よりも生命力に溢れているのではないかと思うほどに、彼女の笑顔は眩しかった。
 自分の殆どは彼女から影響を受けたものであった。
 口調も、喋り方も。
 けれど、彼女を前にして、こんなにも懐かしいと思うのは、なんとも悔しいのだ。
「いいえ。貴方らしいです」
 つられて笑ってしまう。
 それが吉乃の魅力であると言ってしまえば一言だ。けれど、それに自分がどんなにか救われたか知らないだろう。

 手を引いてくれたあの日から、自分の世界は広がったのだ。猟兵になった今でも世界は広がっていく。
「まだ一人で籠もっているわけではないでしょう? 聞かせてくださいな。あなたの冒険を。きっと楽しいことも、悲しいことも、喜ばしいことも、苦しいことも、いっぱい経験してきたのでしょう?」
 物怖じしない言葉は、詩乃にとってありがたいものであった。
 きっと親友と呼ぶのは彼女のような存在のことを言うのだと、詩乃は微笑んだ。

 語ることは多い。
 異世界のこと、猟兵になって出会った人びと、そしてお友達と呼べる人が何人かできたこと。
 それを伝えた時に吉乃は、本当ですか? なんて、意地悪な笑顔を浮かべていたけれど、本当なんですからと大袈裟に怒って見せたりしても、彼女は嬉しそうに笑うだけだった。
「もう、私ばかりがしてやられているような気がします。これでも私にも気になる人もできたんですから」

 強がりであったかもしれないし、少し吉乃に良いところを見せたくなったのかもしれない。
 言葉にしてしまえば簡単なことだったけれど。
「ふふふ……よかった。とても。貴方の笑顔が見れて。私の鏡写しなんかじゃない、貴方の笑顔が見れて」
 それはとてもうれしいことなのだと、親友の笑顔を喜ぶ彼女に詩乃は敵わないなぁ、と呟いた。
 困ったことに、少しも悔しくなくなってしまったのだ。

 けれど、どんなに楽しい時間も夜が明ければ終わる。
「また、どこかで会いそうな気がします」
 それはもう腐れ縁と呼ぶものであったかもしれないし、宿縁であったかもしれない。
 けれど、また再びきっと笑顔で会えるような気がした。
 だから、詩乃は笑顔で同意するのだ。

「私は貴方の笑顔が好きですよ。きっと、もっと、ずっと笑っていてくださいね。約束ですよ」
 いつかの日に手を握ってくれたように。
 詩乃の小指と絡まる吉乃の指先が何も分かたれることなく、夜明けの光に溶けて消えていった。

 それを見送り、詩乃は彼女が好きだと言った笑顔を浮かべるのだった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

フィア・シュヴァルツ
【勇者パーティ】
「願おうとも二度と会えぬ相手、か……」

不死たる我。
当然ながら、生きる時の異なる友も多くいた。
だが、それは詮無いこと。

しかし、サージェやルクスと一緒にいると、奴のことを思い出さずにはおれんな。

「勇者、盗賊、天才美少女魔術師という我らのパーティ。
不思議に思ったことはないか?」

そう、僧侶というパーティに必須な回復職がいないことを。

「……まさか、蘇生呪文を使えるシャインが真っ先にあの世に行ってしまうとはな。皮肉なこともあったものよ」

そんな風に想っていると――
なんとシャインが現れたではないか!

「よし、久々に仲間が揃ったことだし派手に宴会をするか!」

シャインも巻き込み朝まで騒ぐとしようか!


サージェ・ライト
【勇者パーティー】

まぼろしの橋…生と死の境界線ですねきっと

3人でここを訪れた以上思い出すのは
このパーティー的に……あの人しかいないでしょう
っていうか盗賊いうなシーフです!

こほん
ええ、私も本当はボケの方が得意なのです
というか、もうちょっとクノイチ的に潜んでいたいのです
でもこのパーティーにはツッコミがいません
いえ、居ました、このパーティーを支えていたあの人が…

あ、シャインさんお久しぶりでーす(ぺこり
いやーあなたなら噂していたら出てくるんじゃないかなーと!
いいですねーやっぱりツッコミのキレが違いますねー!
これで心置きなくフィアさんを任せて…え?いや?
そんなこと言わずに一緒にいきましょーよー!


ルクス・アルブス
【勇者パーティ】

わたしも個人的な想い人というのはいませんが、
確かに「パーティで」ならいらっしゃいますね。

「あの方ですか。そうですね、惜しい人を亡くしました」

それはそれとして師匠、
今さらっと自分だけ形容詞つけましたね?2つも。

でも、とっても腕のいい方だったんですよね。
回復とツッコミを同時にできるのは、あの人だけでした。

ある日、いつも通り師匠の開幕ぶっぱにツッコんだ直後……。
ツッコミ死とか、まさかほんとにあるとは思わなかったな。

って、ほんとに来てくれました!

「お久しぶりです!お元気そう、っていうのは変ですね」

わかりました師匠!
今日は美味しいものたくさん作っちゃいますね!

シャインさんも変わってない!


シャイン・エーデルシュタイン
【勇者パーティ】
「あら、ここは……?」

私はシャイン。
勇者のルクスさん、シーフのサージェさん、そして魔術師のフィアさんと共に旅をしていて……
そう、心労が祟り命を落として神の御下に向かったはずです。
それがなぜ、このような橋の上にいるのでしょうか?

「ああ、向こうにかつての仲間たちの姿が見えます」

フィアさんの暴走にツッコミを入れ、ルクスさんの行動に引っ掻き回され、サージェさんのマイペースに胸を痛めた日々……

それを思いだしたら……

「あなたたちっ!
まだそんなだらしない旅をしているんですかっ!?
これではおちおち死んでいられないじゃないですかっ!」

思わずツッコミと共に、黄泉の国から帰還してしまうのでした。



 縁とは不可思議なものである。
 どれだけ願っても結ばれぬ縁もあれば、切っても切れぬ縁もある。
 それが人生のおかしみであるというのならば、なんたる奇妙なことであろうか。誰もがカクリヨファンタズムの川にかかる『まぼろしの橋』の上にたてば、『想い人の幻影』が現れる。
 もう一度会いたいと願う心は妖怪も人も同じであったことだろう。
『まぼろしの橋』の向こう側は黄泉路である。
 そこより現れたのならば、死せる者であろう。

 例え、死が互いを分かつのだとしても、カクリヨファンタズムにおいては再び縁を結ぶ。
 それが猟兵であるのならば、生命の埒外にあるが故にさらなる奇縁でもって結ばれることだろう。
「願おうとも二度と会えぬ相手、か……」
 不死の悪魔であるフィア・シュヴァルツ(漆黒の魔女・f31665)にとって、それは当然のことであった。
 生きる時間が違う友人がいた。
 だがそれは詮無きことである。

 サージェ・ライト(バーチャルクノイチ・f24264)もまたいつもの三人で訪れた橋の上で物思いに耽る。
『まぼろしの橋』、生と死の境界線であろうことは言うまでもない。
 ルクス・アルブス(『魔女』に憧れる自称『光の勇者』・f32689)は、個人的な想い人はいないがパーティという一括で考えるのならば、思い起こす者がいた。
 それはサージェも同じであったことだろう。
 パーティ的にあの人しかいないだろうと思っていたのだ。

「勇者、盗賊、天才美少女魔術師という我らのパーティ」
「いや、ていうか盗賊言うなシーフです!」
 クノイチでなく?
 誰から言うでもなくフィアが言葉を紡いでサージェがツッコミを入れる。これでもサージェは本当はボケのほうが得意なのだ。というか、もうちょっとクノイチ敵に潜んでいたいのだけれど、このパーティには今ツッコミがいないのだ。
 えぇ~本当に~? と野暮なことは今回しないでおこう。

「……まさか、蘇生呪文を使えるシャインがまっさきにあの世に行ってしまうとはな。皮肉なこともあったものよ」
「あの方ですか。そうですね、惜しい人を亡くしました」
 それはそれとして師匠が、さらっと自分だけ形容詞を着けたことにルクスはツッコミたい気分を必至で押し殺した。
 二つも付けた。天才に美少女。欲張りセットが過ぎる。
 だが、思い返せばとっても腕のいい僧侶だったのだ。回復とツッコミを同時にできるのは、あの人だけだったの。

 そう、あれはある日のこと。
 いつもどおりにフィアが開幕ぶっぱにツッコんだ直後……。
「まさか本当にツッコミ死とか、ほんとにあるとは思わなかったな……」
「そうですね……このパーティを支えていたあの人……」
 ルクスとサージェではフィアは持て余す。
 いや、まあ、なんていうか、一緒になってごっちゃになっているだけな気がしないでもないが、それは野暮である。今言うべきことじゃないなと誰もが思っただろう。

 思い出にふける三人の目の前に幻影が形を結んでいく。
 それは黄泉路より悪霊として姿をと結んだ、シャイン・エーデルシュタイン(悪霊として蘇ったクレリック・f33418)であった。
 かつては勇者パーティとしてツッコミ役と回復を一手に担っていた僧侶。
「あら……ここは?」
 彼女は朧気な記憶のままに橋の上に立っている自分を理解する。

 自分の名前も言える。
 勇者であるルクスに、シーフのサージェ。そして魔術師のフィアと共に旅をしていたのだ。
 開幕ブッパするやつ、師匠のノリに悪乗りするやつ、潜んでないやつ。
 まあ、なんていうか、そう言う成れば心労がたたって生命を落してしまったのだ。神の御下に向かったはずなのに、何故か今もまだ橋の上にいる。
「ああ、無効にかつての仲間たちの姿が見えます」

 正直、どうなのだろう。
 フィアの暴走にツッコミを入れ、ルクスさんの行動に引っ掻き回され、サージェさんのマイペースに胸を痛めた日々……。
 客観的に言わせてもらえば、安らかに眠っていたほうがいい気がする。
 だが、しかし。
 そう、だがしかしである。思い出してしまった以上、ふつふつと湧き上がるのはツッコミの真髄。

「おお、シャインよ死んでしまうとは情けない」
「お久しぶりです! お元気そう、っていうのは変ですね!」
「あ、シャインさんお久しぶりでーす。いやーあなたなら噂をしていたら出てくるんじゃないかなーと!」
 三者三様である。
 いつものとおりである。涙が出そうなくらいにいつもどおりである。これは感激の涙ではなくて、まあ、あれだ。
 いつもどおりすぎて、呆れを通り越した上に一周回って怒りが爆発するやつである。

 あ、やべ、と三人の誰かが思った瞬間、火山が噴火するかのごとく怒号という名のツッコミが入る。
「あなたたちっ! まだそんなだらしない旅をしているんですかっ!? これではおちおち死んでいられないじゃないですかっ!」
 懐かしいツッコミにサージェは、キレが違うなーと思いつつ、これでフィアを任せておいていけると思ったが、そうは問屋が卸さない。
 シャインの矛先はサージェにも向けられるのだ。
 なんだそのクノイチらしからぬしのべてない感じは! 的な。

「よし、久々に仲間が揃ったことだし派手に宴会をするか!」
 フィアは聞いていないし、ルクスは師匠の言葉しか耳に入っていない。何、フィルタリングされてるの? その耳。
 シャインは頭痛の種がまた増えたような気がしたけれど。

 それでも悪霊となってまでも彼女たちを放ってはおけなかったのだ。
 こんなことがあるのだろうか。
 あるのだ。だって猟兵である。フィアもルクスもサージェも。
 そして、シャインだってそうなのだ。
 生命の埒外にある者。だからこそ、彼女たちはどんちゃん騒ぎを続ける。しみったれた空気なんて、このパーティには似合わないというように三人から四人に変わったパーティは、また元通りに。

 そして、今日もシャインのツッコミが冴え渡り、四人は再び同じ道を歩むことになるのだった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

朱鷺透・小枝子
初陣以来でしょうか、久しいでありますな、兄妹。
あれから、6年は経ちましたか、身長も、同じくらいになりましたね。
…そっちには皆いますか?

初陣で死んだ、兄の様な人に問う

故国の為に戦い死んでいった、数多の人間のクローン
尊敬する、血の繋がらない家族達は
「ああ、皆死んでる、兄妹」

……安心しました。
不名誉にも生き残ってしまったのは、自分だけなのですね。

「兄妹、皆死んでいる。君も…」

…?はい、故国を喪い、国の為にも死ねず、申し訳ありません。
ですが、なんと自分は敵を見つけたのです!

だから、そんな悲しそうな顔をしないで下さい。
兄弟姉妹に恥じぬよう、自分は戦い続けますから!

自覚する事ができない悪霊は、そう宣言した



 戦いだけが己の存在を肯定するものであるというのならば、今カクリヨファンタズムの川にかかった『まぼろしの橋』の上で佇む己は如何なる存在であったのだろうか。
 いや、これは対決である。
 己が思う『想い人の幻影』と朝まで語り合う。
 その覚悟を問う対決なのだ。
 朱鷺透・小枝子(亡国の戦塵・f29924)は自分の為すべきことを為すと、橋の上に立つ。
 誰が現れるかなんて、彼女にはすでに検討がついていた。

 黄泉路の向こう側に輪郭を結ぶ幻影。
 それをよく小枝子は知っていた。
 懐かしいような、そうでないような。不思議な気持ち。いや、感情と言っていいのか、それとも本能と言っていいのかさえ判別がつかぬままに小枝子は対峙する。
「初陣以来でしょうか、久しいでありますな、兄妹。あれから、六年は経ちましたか。身長も、同じくらいになりましたね」
 彼女の瞳の向こう側にいるのは、故国のために戦い死んでいった、数多の人間クローン。
 尊敬する存在。
 兄のような存在。初陣で死んだ彼の姿を小枝子は認め、そして事実を確認するように問いかけるのだ。

「……そっちには皆いますか?」
 問いかける言葉は己の存在を肯定するための言葉であったことだろう。
「ああ、皆死んでる、兄妹」
 どこか困ったような、悲しいような、そんな声色の兄のような人。
 けれども、小枝子は安心したのだ。
「不名誉にも生き残ってしまったのは、自分だけなのですね」
 小枝子にとって、それは不名誉なことであったけれど。
 それでも、他の皆は死ぬことができたのだ。それが誇らしいと思うのは、間違いではないだろうと彼女は思ったのだ。

 その思いが正しいのか、正しくないのかは、彼女にもわからない。
 けれど、兄のような人が頭を振る。
「兄妹、皆死んでいる。君も……」
 その瞳が何を言わんとしているのか小枝子にはわからなかった。理解を頭が拒んでいる。
 何故そんなことをいうのだろうか。
 ノイズが走るような感情を振り払うように小枝子は言葉を紡ぎ続ける。
「はい、故国を喪い、国のためにも死ねず、申し訳ありません。ですが、なんと自分は敵を見つけたのです!」
 オブリビオンを。
 世界の敵を。争いを生みだす権化を。それを打倒する力が今自分には宿っているのだと小枝子は誇らしげに言うだろう。

 兄の悲しそうな顔をどうにかして振り払いたいと思ったのだ。
 そんな顔をしないでくれと小枝子は願った。悲しげな瞳。なにかいいたげに開かれる唇を小枝子は遮るように言葉は放ったのだ。
「兄弟姉妹に恥じぬよう、自分は戦い続けますから!」
 だから、そんな顔をしないでくれと小枝子は叫ぶように言った。

 自分が既に死した存在。
 悪霊であるということを自覚できぬ悪霊。
 小枝子はそれである。きっと兄はそれを伝えようとしてくれていたのかも知れない。けれど。小枝子は止まれない。
 だって見てしまったのだ

 オブリビオンという存在を。
 世界を、人の和を乱す存在を。それを知ってしまったからには止まれない。立ち止まることは己が許されない。
 例え、己の存在がいびつなものであったとしても、小枝子は止まらないと決めたのだ。
 だからこそ、これは対決なのだ。

 戦って、戦って、戦い続けて。
 そのための宣言を小枝子は朝焼けの空に叫ぶのだった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

トリテレイア・ゼロナイン
貴女でしたか

宇治田 希様

UDCアースの依頼で出会った邪神の因子を持ち覚醒防ぐため結界内に保護、否、生涯軟禁状態だった少女
邪教団からの護衛任務で騎士としてお守りすると約束し、多くの猟兵と同じく無聊の慰みにと『外』の話をした少女
軟禁に倦み疲れ果てた内心を察することも出来ず

沢山の「助けられた誰か」の一人ではなく、誰かの特別になりたかった

【Forget-me-not】

哀しき願いの為、自ら邪神となった貴女を殺したこと
忘れたことはありません

何も言わず微笑むのは約束の履行に対してか
私の願望が反映された幻か

人を救う御伽の騎士とは

貴女の我儘は
私が希求する命題の標となりましたよ

ですので

行って参ります、新たな戦場へ



 忘れないでという声が聞こえたような気がした。
 それは電脳のゆらぎが見せる陽炎のようなものであったかもしれないけれど、カクリヨファンタズムの川にかかる『まぼろしの橋』の上では真実となってトリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)のアイセンサーに感知される。
 かつて、機械騎士は言われたのだ。
「優しいんですね、トリテレイアさんは。今もこうして私を思い出してくれる。私が人であったということを守ってくれる騎士」
 幻影の言葉は、トリテレイアにとって都合の良い、自分の願望が見せるものであったのかもしれない。

 けれど、その幻影が紡ぐ言葉は、あの日の誓いと変わることはなかった。
 UDCアース。
 それはカクリヨファンタズムに隣接する世界。だからこそだろうか。トリテレイアは目の前にいる、かつての邪神としての覚醒を防ぐために結界内に軟禁されていた少女――。
「宇治田 希様」
 漸くにして機械の音声が、その名を紡ぐ。
 あの日と同じように希が返事をする。それがどうしようもなく、トリテレイアの電脳にさざ波を立てるようであった。
 たくさんの『助けられた誰か』の一人ではなく、誰かの特別になりたかった少女。
 哀しき願いのために、自ら邪神となった彼女を殺したことをトリテレイアは一度だたりとて忘れたことはなかったのだ。

 彼女は自分をなじるでも、謗るでもなく微笑んでいる。
 それは約束の履行に対してか、それとも自分が彼女に微笑んでいてほしいと願ったからか。
 どちらにせよ、トリテレイアは言葉を紡ぐ。
 どれだけ炉心がきしむのだとしても、言葉を紡いで語り続けなければならない。それがこの『まぼろしの橋』を浄化するための唯一の手段なのだ。
 自分が辛いと感じることなんて、二の次なのだ。
 あの日と同じ用に自分は、彼女にとっての騎士でなければならない。

『人を救う御伽の騎士とは』

 それは今でもトリテレイアの中にある命題の標である。
「貴女の我儘は」
 ええ、とうなずく希の姿が電脳に焼き付いて離れない。どうしようもないことなのだ。ああするしかなかったのだ。
 邪教団から護衛し、騎士として守ると交わした約束。
 あの日、自分は無聊の慰めとして『外』の話をしたのだ。
 軟禁という環境。
 人の心を解することなく、その内心を察する事もできずに慰めなどと言った自分。

 そのどれもが、今の彼を突き動かす。
 騎士道精神が彼の心の炎であるというのならば、彼女の存在は炎を燃え上がらせる決して尽きることのない種火である。
「私が希求するものの標となりましたよ」
 願いが、想いが、トリテレイアという機械の騎士の背中を押す。

 もう一度聞こえたような気がしたのだ。
 私を忘れないで。
 ただ、かすれるような、消えてしまうような声がトリテレイアの中にだけ反響し、残響し続ける。
 だが、それを厭うことなどない。
 それこそが己が背負わねばならぬもの。

「行って参ります、新たな戦場へ」
 夜明けの光を背負い、トリテレイアは進む。振り返ることはないだろう。
 けれど、その決して振り返らぬ背中に言葉がそっと触れる。
 遠慮するように、けれど、少しだけ我儘を言うように。はにかむように、けれど、いつか大輪の花を咲かせるように。

「行ってらっしゃい、私の騎士――」

大成功 🔵​🔵​🔵​

メンカル・プルモーサ
想い人ねぇ…ふむ…未練…ああ、そういえば…
…付合いのあった老学者の一人を呼び出そう…死んでも元気そうな爺なことで…
(一人称:儂 メンカルへの呼び名:小娘 メンカルからの呼び名:爺)
…あの爺にはガジェット制御理論の決着がつかないまま死に逃げされたからね…
…お互いの理屈で(メンカルが)引いた図面を【何時か辿る絡繰の夢】で実体化…どちらがより良いか確かめようじゃないか…
(結果:片方は即応性、他方は安定性が優れている等一長一短)
…何?どうせなら両立させる…?
…締め切りは夜明けまで…やってやろうじゃないか…

夜明けぎりぎりでどうにか目処が立った…何、じゃあ後は任せる……?
…仕方ない…任されたよ、先生……



「想い人ねぇ……」
 メンカル・プルモーサ(トリニティ・ウィッチ・f08301)は、『まぼろしの橋』の上で独りごちる。
 死せる者の幻影。
 それと語り合うことこそが、この『まぼろしの橋』を浄化するための唯一の条件だという。
 自分に果たして、それだけ思い入れのある死せる者がいただろうかと彼女は考えた。
 思いの外あっさりと思い浮かぶ顔があったのは、意外だっただろうか。
 輪郭を結ぶ幻影を前に、メンカルはあの日の続きというように言葉を紡ぐ。

「小娘が偉そうな格好をしていることだ」
「死んでも元気そうな爺なことで」
 ため息をつく。
 幻影は以前付き合いのあった老学者の一人であった。共にガジェット制御理論について討論をよくしたものだった。
 結局、決着がつかないままに死に逃げされたことだけがメンカルにとって、心残りであったことだろう。

 死んでしまわれては、討論もクソもないのである。
 だからこそ、メンカルは思ったのだ。良い機会であるから、ここで論破しておこう。自分のためだ。心残りを払拭したいという願いだけだ。
 それ以上でも、それ以下でもないのだ。
 彼女の目の色が変わる。
 そう、ユーベルコード、何時か辿る絡繰の夢(ブループリント・プロジェクション)は、きっとこの時のために紡がれたものであろう。
「ほう、ガジェットの設計図か。小娘が引いたにしてはよくできている」
 口の減らない爺だな、とメンカルは思ったが、正直な所、あのときとは違うということを見せつけてやるという気持ちのほうが大きかったかも知れない。

「なら、そっちの設計図も見せてもらおう……この際だからどちらが良いか確かめようじゃないか……」
 メンカルが不敵に笑う。
 ここで決着を着けて、ゆっくり気持ちよく安眠したいのだ。
 けれど、幻影である『爺』もまた不敵であった。
「即応性ばかり求めるからそういう結論になってしまうのだ。戦いに挑むにしても、生活に根ざすにしても安定性こそが絶対よ」
『爺』とメンカルの設計図は、どちらも一長一短あるものであった。
 これで生前は互いの意見が食い違っていたのだ。

 けれど、別に悪感情があったわけではない。
 だって、誰かと言葉をかわすということはコミュニケーションだ。人から喧嘩をしているように見えて、二人の間にはこれで成り立っていたのだ。
 互いを研究者と認めるからこそ、成り立つコミュニケーション。余人には理解できないものであったかもしれない。
 未知を知るということは、路を作るということ。
 先人が作った路をたどるもいいだろう。枝葉を紡ぐようにそれるものいいだろう。どちらにしても、自分が決めるのだ。
「どうせなら両立させてはどうだろうか」
「……何?」
「できんというのか? 小娘はやはり小娘だな。己を小さくまとめるな。今、小娘を囲っているのは四辺を覆う壁でしかない。ならば、その囲いは自分で押し広げれば良い。限界なんて、その後からいくらでもついてくる」
 
 だから、己を囲うな、と『爺』が笑っている。挑戦的な笑みだ。
 締切はきっと夜明けまでだ。
 もう時間も少ない。けれど、メンカルの瞳は輝いていた。
「……やってやろうじゃないか……」
 互いに言葉をぶつけ、そうじゃない、ここはこうだと言い合いながら夜明けが迫っていく。
 設計図に書き込みされた文字はもう、図面が真っ黒になるほどであった。
 けれど、メンカルは仕上げたのだ。ギリギリであったけれど、夜明けの光が差し込む向こう側に佇む『爺』に尽きつけるのだ。

「できたじゃあないか。後は任せたよ、メンカル」
 その言葉にメンカルは面食らったかも知れないが、最後の最後でしてやられたとも思っただろう。
 どっちが心残りだったのだろうかと思われるほどの清々しい好々爺。
 そんな顔を見せられては、こちらも言わずには居られないのだ。

 老兵は去り、そして新たな可能性が路を繋いでいく。
「……仕方ない……任されたよ、先生……」
 満足げな笑顔は、なんとも面映い。だから、メンカルは瞳を伏せた。だって、朝日が眩しいから。
 きっとそうなのだ――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

メリー・ブラックマンデー
(アドリブ連携歓迎)
今はもう居ない大切な人…そうね、私が訪れたならやはり彼女の幻が現れるのかしら。
私の前に神器剣を振るっていた神器遣い。
時への畏れを糧とする私と違って未来への憧れを糧としていた竜神。
…何時からか、糧となる憧憬や希望を十分集められなくなったのを嘆き、時を永遠に止めようとした反逆者。
私が討った、大切な…

…おかしいわね。もう割りきったと思ってたのに。仮にもう一度会えたとしても顔を合わせる資格なんてないと思ってたのに。
…もっと話す時間がほしい、なんて思うだなんて。

…私、貴女のようにはならないわ。
貴女のように追い詰められて、身を滅ぼす者も作る気はない。
…うん。それだけは伝えたかったから。



 今はもう居ない大切な人。
 それを聞いて思い出すのは、いつだって己の手の内にある神器剣に由来する人物であった。
 メリー・ブラックマンデー("月曜日"がやって来る・f27975)はゆっくりと『まぼろしの橋』に立つ。
 もしも、『想い人の幻影』が現れるのであれば、メリーにとっては『彼女』が現れるであろうと考えていた。

『彼女』とは、メリーの以前に神器剣を振るっていた神器遣い。
 時への畏れを糧とするメリーと違い、未来へのあこがれを糧としていた竜神。
「そうよね。やっぱりあなたが現れるのよね」
 幻影が輪郭を結び、その姿を顕す。
 久しぶりの邂逅。
 何時からか、糧となる憧憬や希望を十分に集められなくなったのを嘆き、時を永遠に止めようとした反逆者の顔をメリーは見つめていた。

 自分自身が討ち、滅ぼした自分の大切な誰か。
「……おかしいわね。もう割り切ったと思ってたのに」
 もう乗り越えたはずだ。
 曜がくり返し、月なる始まりが時を勧めていく。
 その度にメリーは一つずつ強くなっていった。時を恐れる。それは時として当然の理であったのかもしれない。
 止められない。
 止まらない。
 逆巻くことはしない。

 それが時というものである。だからこそ、そこに希望や憧憬を見出すことは難しいのだ。
 だからこそ、『彼女』は絶望したのだろう。嘆いたのだろう。
 人の心に苦しみと悲しみだけがもたらされる時の流れの残酷さに彼女は心が折れたのだ。
「仮にもう一度会えたとしても顔を合わせる資格なんてないと思ってたのに」
「友達に逢うのに資格がいるのかしら」
 それは自分に都合の良い幻影であったのかもしれない。
 自分を肯定してくれる言葉がほしかったから出た言葉であったのかもしれない。

 けれど、今はそれが真実だ。
 討った自分をまだ友と言ってくれるのか。
「……もっと離す時間が欲しい、なんて思うだなんて」
 メリーは頭を振る。
『彼女』はメリーを責めるでもなく、慰めるでもなく佇んでいる。
 これはきっと対決なのだ。過去との対決。

 今の自分が現在に踏みとどまるための、未来という先の見えぬ暗闇に立ち向かうための試金石なのだろう。
 だからこそ、メリーは宣言するのだ。
「……私、貴女のようにはならないわ。貴女のように追い詰められて、身を滅ぼす者を作る気もない」
 もう二度と在ってはならぬことなのだと、己の手の中にある神器剣を掲げる。

 それは誓いであった。
 決して違えてはならぬ誓い。この誓いと共に彼女は進んでいくだろう。夜明けの光が差し込んでくる。
 どれだけ拒絶したとしても、月曜日はやってくる。
 決まった時間に。
 必ず遅れることなくやってくる。メリー・ブラックマンデーの名を恐れる者たちはこれからもずっといることだろう。
 来なくていい、なんて言われるかもしれない。

 けれど、それでも歩みは止めない。時は止めない。必ず恐れと共にメリーは言うのだ。
「だから、そんな顔しないでよ」
 泣き笑いのような顔を浮かべる『彼女』を前にメリーは微笑む。

 もう十分だ。
 これでいいのだ。だから、メリーは別れを告げる。過去に対決を。対決の後には別れを。
「……うん。それだけは伝えたかったから」
 貴女の悲しみが世界を止めるのなら、メリーのもたらす恐れが時を進める。
 追われるように走ることもまた、時には必要なことだ。
 だからこそ、メリーは言うのだ。

「今週も来てあげたわよ人間! ありがたく思いなさい!」
『彼女』の想いも背負って、未来は悲しみと苦しみばかりではないことを、その先にきっと希望があるのだと信じるように――。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年05月14日


挿絵イラスト