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大祓百鬼夜行⑧〜彼方から

#カクリヨファンタズム #大祓百鬼夜行

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#大祓百鬼夜行


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●大祓百鬼夜行
 カクリヨファンタズムのとある川に、不思議な橋が架かるんです。
 そう伝えたルル・ミール(賢者の卵・f06050)の蛇尻尾が、猟兵たちを見つめたまま静かに揺れた。

 橋の名は『まぼろしの橋』。
 幽世の川に架かったそれは異界へと通じる道だ。
 渡った者は黄泉に送られ――どうなってしまうかは、わからない。
 ただ、そこで佇んでいると『死んだ想い人の幻影』が現れるのだという。

「えっと……皆さんの中に、もう会えないけど、もう一度会いたい誰かがいて……」
 藤紫の瞳が少し震えて、伏せられそうになる。
 しかしすぐに上を向き、猟兵たちを映した。
「その人とまたお別れすることになっても、それでも会えるならって覚悟ができたら、声をかけて下さい。『まぼろしの橋』の近くまでお連れします」
 現れるのは幻影だ。連れ帰ることは出来ない。
 途切れた日々の続きをと、再び同じ時間を過ごそうとしても、それは叶わない。
 ただ、語らうことは出来る。
 伝えそびれた言葉。もう一度伝えたい言葉。
 一緒に作った思い出話。失ってからのこと。近況。
 新しい店が出来た、誰それがどうしたこうした――そんな他愛もない、どうでもいいような世間話だって。
「そして、夜が明けるまで一緒に過ごしてほしいんです」
 そうすれば『まぼろしの橋』は浄化される。
 幻影は橋と共に夜明けの彩にとけ、完全に消える。
 それは二度目の別れだ。喪失の痛みを、もう一度刻むことになるかもしれない。
 だからこそ。
「覚悟ができてから、向かって下さいね」
 でも、きっとそれって、難しいですよね。
 困ったように笑ったルルの手の上で、“本”がくるりと回転した。

●彼方から
 一歩踏み込めば、暗闇の中でことりと木の橋が音を立てる。
 その下からは、ちゃぽん、ちゃぽんと流れる水の音がした。
 シャボン玉のようなまあるい金の光が揺らめき漂っているから、視界には困らない。ふわり、ほわりと漂う光の中を少しだけ進んで――けれど、見えるからといって渡りきってはいけない。もし渡ってしまったら“あちら側”になってしまう。
 必ず立ち止まって――そしてそのままそこに居れば、会えるから。
 暗闇の向こう、あちら側からやって来た大切な人と。

 ああ。
 夜明けまでのひとときを、如何にして紡ごうか。


東間
 まぼろしの橋で会いませう。
 そんな感じの戦争シナリオをご案内。東間(あずま)です。

●シナリオについて
 受付期間は公開された日の8:31~24:00まで。
 導入場面はなし。
 必要成功数+αの少人数採用の予定。先着順ではありません。
 参加者数が成功必要数に達しなかった場合は、受付期間を一日追加の予定です。
 ※シナリオの性質上、採用はソロ参加の方のみとなります。
 ※納品後スケジュールと戦争進行度を見て、やれそうなら⑧を再び運営予定。

●プレイングボーナス:あなたの「死んだ想い人」を描写し、夜が明けるまで語らう
 それは誰で、どんな関係で、どんな人ですか?
 どんなことを語り合うのか等々、想いを含めた詳細を是非プレイングに籠めて下さい。
 相手は幻影ですので食べたり飲んだりは出来ませんが、触れたら、体温や触感があるようなないような。そんなふわっとした感じを覚えます。

 以上です。
 ご参加、お待ちしております。
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第1章 日常 『想い人と語らう』

POW   :    二度と会えない筈の相手に会う為、覚悟を決めて橋に立つ。

SPD   :    あの時伝えられなかった想いを言葉にする。

WIZ   :    言葉は少なくとも、共に時を過ごすことで心を通わせる。

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

泉宮・瑠碧
橋の上で待つのは…
明るく前向きな私の姉

最近は、夢の中で逢って
…どちらも
真実か幻かは分からなくても

笑顔の姿を見れば涙が溢れる
上手く笑えなくても
伝えそびれた事が、あって…

…好きな人が、出来ました

私を置いて逝く寿命の、人間で…
それでも、置いて逝きたくない…傍に居たい人です
選ぶ相手が人間なのは、似たもの姉妹…?

…姉様なら、それでも良いと…
明るい未来を描いたのでしょうか

…孤独は己との闘いで済んでも
得た今は…
また奪われる事が、怖い
たとえ、人にとっては、少し位でも
…私には、かけがえのない人、だから…

恐怖に泣き
大丈夫だと寄り添う姉は、生前のままで

見送る幻影の姉の背に…
生きていたら、と姉を想う

悲しみは、止まない



 漂う金の光は何なのだろう。
 そうっと伸ばした指先で触れた途端、しゅわりと光の輪郭がほどけた。けれど漂いながら元に戻っていく様に、泉宮・瑠碧(月白・f04280)は安堵したように息をつき――光漂う闇の先、現れた姿に目を瞠る。
 漂う光よりも淡い金色に染まった髪。前向きな内面を伝えるような明るい眼差しは、生きていた頃の――そして失った後、幾度か逢った時のまま。
「……姉様」
『ああ』
 最近では夢の中で逢った。あの時も今も、目の前にいる存在が真実か幻かはわからないけれど――こくり頷いて笑う姿も変わらなくて目の奥が熱くなる。漂う光と姉の姿がじわりと滲んで、涙が溢れた。
 ああ、見せたいのは涙ではなく笑顔なのに。上手く笑えていない気もする。
 それでも、瑠碧は跳ねそうになる呼吸を抑えながら口を開いた。
「姉様、私……伝えそびれた事が、あって……」
『大丈夫だ。ゆっくりでいい』
 ここにいるから。
 やわらかに笑う姉の声に、はい、と頷く。息を吸う。
「……好きな人が、出来ました」
 ちゃんと笑えたかわからない。けれど姉の目が丸くなってふんわり笑っていくのを見たら、笑えたかどうかよりも、伝えられたことで心がいっぱいになった。
『どのような人かな』
「私を置いて逝く寿命の、人間で……それでも、置いて逝きたくない……傍に居たい人です」
『……君もか。僕らは似たもの姉妹だな』
「……はい」
 姉も、共に居たいと選んだ相手は寿命の違う人間だった。それでも良いと、生きていた頃の姉は明るい未来を描いたのだろうか。けれど自分は――。
「姉様」
『何だ?』
「……孤独は己との闘いで済んでも、得た今は……また奪われる事が、怖いんです」
 他者にとっては“少し位”でも、瑠碧にとって『彼』はもう、かけがえのない人。
 傍に居てくれる彼を、傍に居たいと想う彼を、『誰か』や『何か』が遠い場所へ――それこそ、彼方へと奪われてしまったら。
「私、わた、し……っ」
 怖い。恐ろしい。炎も、誰かも、あの人を奪わないでほしい。
 手で顔を覆って泣く瑠碧をそよ風のようなものが包んだ。
 大丈夫、大丈夫だと優しい声がする。ああ、これも――、
(「……あの頃の……生前の、まま……」)
 そのままそうしていて欲しかった。
 けれど時は止まってくれず、淡く光を広げ始めた夜の中、瑠碧は泣き腫らした目で『姉』の背を見送り続ける。

 生きていたら、

 そう想うと涙が溢れ出して――止まらなかった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

フィッダ・ヨクセム
きッと奴は死んだだろう
……そう想うのは俺様の本体、バス停を歪めた怪力しか自慢のない学のない能天気な木こりの男の事だ

俺とは初対面、でもバス停を見せればあの日を思い出すだろうか
(ああ、あの時の役立たずの斧…?)

俺は憶えている
一日だけ所有し俺を振るッた奴の事
物でしか無かッたから文句さえ言えず、怒れなかッたし
だから今言うけどな

俺様は斧じャねェんだわ
どこをどうみたら木を切り倒せるように見える?
(ええ、斧との違いなく無い?)
結局俺が歪んで終わりだッただろ
馬鹿かアンタ、物は大事にしろよ

…でもアンタが本体を歪ませた歪からこそ
今は居場所を見つけられたよ
見つけて、貰えたよ
俺の道標にな
歪む事は…運命だッたのかもなあ



(「きッと奴は死んだだろう。……ああ、やッぱりな」)
 橋の途中で足を止めていたフィッダ・ヨクセム(停ノ幼獣・f18408)は、光漂う暗闇の向こうから硬い足音をさせてやって来た男を見て笑う。しかし向こうはフィッダを見るなり首を傾げた。
『誰だ、お前?』
 死んだこともだが、自分がわからないことも予想済みだった。
 なにせこの男――怪力自慢の脳天気な木こり男が見た自分は、人の身を得た今のこの姿ではなく、バス停だったのだから。そりゃあ自分を見てもピンと来ないだろうとフィッダは納得しながら、本体を前へと突き出す。
「これ見たらわかるか?」
『んん? ああ、あの時の役立たずの斧……?』
「アンタなァ」
 思い出して最初の言葉がそれか。
 納得の次に呆れを抱えながら、フィッダはまァいいかと軽く首をさすった。
「俺は、一日だけ所有し俺を振るッた奴の事憶えてんだよ」
 ただし物でしかなかった為、掴まれたところが怪力で歪められても文句さえ言えず、怒れなかったわけだが。だから今言うけどな、と、じいと目線を向ければ、木こりの目がキョトーンと丸くなる。
「俺様は斧じャねェんだわ。どこをどうみたら木を切り倒せるように見える?」
『ええ、斧との違いなく無い?』
「あるだろうが。結局俺が歪んで終わりだッただろ」
『切れなかったのは切れ味がよくない斧だからじゃなくて?』
「馬鹿かアンタ、物は大事にしろよ」
『それは…………まあ、悪い事したなあ』
 木こりが眉を八の字にして頬をぽりぽりと掻く。うーん、とすまなそうに唸るのを見て、ふは、とフィッダは笑うように息を吐いた。
 この脳天気な木こりを生き返らせたいとか、あの世に一緒に行くなんて思ってやしない。ただ言いたいことがあって、それを言えて――もう一つ。伝えておきたいことがあるだけだ。
「……でもアンタが本体を歪ませた歪からこそ、今は居場所を見つけられたよ」
『居場所?』
「ああ、見つけて、貰えたよ。俺の道標にな」
『……みちしるべ? よく、わからないな』
「……だろうなァ」
 木こりは自分の居場所である道標を知らないし、詳しく教える予定もない。
 ただ――。
(「俺が歪む事は……運命だッたのかもなあ」)

大成功 🔵​🔵​🔵​

旭・まどか
肩を並べてぼうっと橋の下を眺める
賑やかなお前は今日ばかりは一等静かで
何か喋ってよ、と言っても黙って首を振るだけ

さらさら揺れる跳ねた灰髪が蛍の様な仄光を反射して
きらきら輝いていて、きれい

――ねぇ、

じゃあ、僕が話題を提供してあげる

語るは最近の“僕のこと”
最近のぼくを、お前は、如何思っているの――?

ぽつぽつと語られる聲は決して夢では聞けぬもの
誰かを好きで居る事も
頬濡らし眠る事もぼくは出来ないけれど
――それでも、

うん、…うん
そうだね

お前は“ぼく”を肯定してくれる
――ううん、最初からずっと、受け入れてくれていた

お前のその深い、深い、愛情で以って

…けれど
気付いていないフリをしていたんだ
――ずっと、…今も、



 夜なのに光が舞っていて、暗い筈なのに不思議と明るい。
 そんな『まぼろしの橋』から見る川の川面は、漂う金色の光が走るように映っていた。それを、肩を並べてぼうっと眺めている。
「何か喋ってよ」
 旭・まどか(MementoMori・f18469)の言葉に、隣りにいる賑やかな筈の口は閉じられたまま。何も言わず首を振るばかり。
 今日ばかりは口だけでなく心も一等静からしいその髪に煽られた光が、ふわん、と舞って――また、ふわほわ漂い始めた。
 まどかの瞳にそれは映っていたけれど、何よりもまどかの心に彩を映していたのは、跳ねた灰髪が蛍のような仄光を反射した様だった。朝日を浴びた雪原のようにきらきらと輝いていて、きれいだった。
「――ねぇ、」
 ぱちり。
 隣が目を瞬かせてこちらを見る。その拍子にまた、髪が漂う光を撫でた。
「じゃあ、僕が話題を提供してあげる」
 まどかが語るのは、最近の“ぼくのこと”。
 どこへ行った。何を見た。何と戦った。最近の自分がしたこと、感じたことも、まどかは歩いてきた道を辿るように話していく。
「最近のぼくを、お前は、如何思っているの――?」
『……、』
 まどかの問いに、隣で耳を傾けていた口が小さく開かれた。
 そしてぽつぽつと語られるその聲は、確かな音となってまどかの耳に届いていた。
 直接頭に届くのでも、間に壁を挟んだような不明瞭さもない。
 決して夢では聞けぬものが、ぽつぽつと届いてくる。
(「誰かを好きで居る事も、頬濡らし眠る事もぼくは出来ないけれど――それでも、」)
 まどかは語られる聲に耳を傾けた。
 時折小さく頷き、「うん、」「……うん」と相槌を討つ。
 聞いている。聞こえている。
 示したその小さな印に向こうがどういう表情をしているかも、まどかは語る聲と共に受け止めて――そうだねと、ぽつりと呟いた。
(「お前は“ぼく”を肯定してくれる。――ううん、最初からずっと、受け入れてくれていた。お前のその深い、深い、愛情で以って」)

 けれど。

 まどかの目が、前を過ぎった光を追う。
 ふわり。ほわり。穏やかに上下して漂い、他の光とほわわんとぶつかって――互いに壊れないまま、光たちは緩く擦れ違って行った。
(「ぼくは、気付いていないフリをしていたんだ」)

 ――ずっと、
 ……今も、


 嗚呼。夜が、明けていく。

大成功 🔵​🔵​🔵​

コノハ・ライゼ
いつしか傍に立つ「あの人」を見る
同じ位の背丈、体格すら似ていて
以前は霞掛かって見えなかった顔も
幾度か似た現象に出会う内明確になった
瓜二つ、違うのは染めぬ髪と簡素な身なり位

生きてるよ、と言えば笑顔だけが返る
無意識や願望を見てるのではと、頬に触れ
この顔本物?と問えば
それも忘れちゃったの、と笑われて
拗ねてみせたり、けれどそんなやり取りも何故か心地好く

ねえ、どうしてオレに喰われたの
生きるなら、オレじゃなく――
遮るように唇に触れてくる指
静かに左右に首を振り

いつか分かるから
それまで生きて、コノハ

嫌だと言う前に薄らぐ身体
出来るのは困らせぬようただ頷くだけ
それでもこの別れは
あの日よりもずっと、暖かい気がした



「……いつ来たの」
 傍に立っていると気付いた時は、驚きが表情に出たかもしれない。
 けれど問いかける声にはそれを乗せずに抑え、コノハ・ライゼ(空々・f03130)はゆっくり隣へと体を向けた。
 傍に立っているから、そうすると同じくらいの背丈で体格すら似ているとわかる。
 それから――以前は霞がかって見えなかった顔も、見えていた。
 幾度か似た現象に出会う内、レンズのピントを合わせていくようにして明確になっていったのを覚えている。明確になるのが幽世だとは思わなかったけれど。
(「ああ。ホント、瓜二つ」)
 違うのは染めていない髪と簡素な身なりくらい。
 向こうは、自分を見てどう思っているのだろう。
「生きてるよ」
 そう言うと笑顔だけが返された。
(「まさか……」)
 何も言わないのは、自分の無意識や願望を見ているのでは?
 ここは幽世だ。しょっちゅうカタストロフが起きかけ、色々と不思議なことが起こったりと、そういうものが当たり前の世界。自分の心を源に、自分に都合の良い何かが現れても不思議ではない。
「この顔本物?」
 だから頬に触れて問いかけたのだけど。
『それも忘れちゃったの』
 笑われた。
 何だ、喋れるんじゃないの。そう言うのは何だか悔しくて拗ねてみせて――そんなやり取りも、どうしてだか心地良い。
 相手は自分が想う死者の幻影なのに、胸の奥がキリキリと締め付けられるような痛みなんて起きなくて、目の前を蛍みたいに舞う金色シャボン玉もどきを、瞳細めて目で追うことだって出来る。
「ねえ、」
『ん?』
「どうしてオレに喰われたの。生きるなら、オレじゃなく――」
 ぴたり。
 唇に触れてきた指で封をされてしまったように、コノハの言葉はそこで途切れた。
 すぐ傍の、向かいにある瓜二つの顔。同じくらいの背丈に体格をした『あの人』が、静かに左右に首を振る様が、瞬きを繰り返すコノハの双眸に光と共に映る。
『いつか分かるから』
 いつか、って、いつ。
『それまで生きて、』
 何ソレ。
『コノハ』
 待って。嫌だ。
 指の封を破るようにそう言おうとした。けれど、目の前の姿に朝日色が映っているのが見えて、
(「違う」)
 あの人の身体が薄らいでいる、刻限が来たのだと解った瞬間、コノハは相手を困らせないようただ頷くしか出来なかった。
 それでも、それ以上のことを出来ない自分を歯痒く思うことも、二度目の別れを泣いて叫んで罵るような気分にもならなかった。理由はよくわからない。ただ――透き通った夜明け色の中で迎えた二度目が、あの日よりもずっと、暖かい気がした。

大成功 🔵​🔵​🔵​

早乙女・翼
俺の逢うべき相手は解ってる
彼女が今の俺をどう思ってるか怖いけど…多分このままだと俺の心はあの時から前に進まないから

璃紗
お互い24の時に死別した恋人
信心深く優しい女性
俺に羽根が生えたのは彼女の死が切欠

…久しぶり
髪も瞳も黒じゃないし、こんな大きな羽根生えてて誰かと思った?

良かった…首から下、ちゃんとあるんだ
綺麗な姿に安堵し
俺? 俺は…こんなだけど
首の傷見せ、互いに首元触れて
痛かったろ?
俺は、そう、心がずっと痛かったさよ
君が殺されたずっと後悔してた
俺のせいで君はこんな目に…
済まない、今更謝っても遅いけど
(謝らないで、と前に向ける言葉の数々告げられ)

璃紗、大好きだった
ありがとうって、漸く言えたさね…



 自分が覚悟をなさねばならない存在が誰か、早乙女・翼(彼岸の柘榴・f15830)は解っていた。
 まぼろしの橋の欄干に手を添えながら、半ばと思われる所で足を止める。金の光でも照らせない橋の終わり――夜にすっぽりと包まれている先を見つめていると、ことり、ことりと足音が聞こえた。
 ゆっくりとした足取りでこちらに向かってきている。姿はまだ見えない。けれど強い予感で心臓がどくんと鳴った。
 向こうは今の俺をどう思ってる? まだ見えない答えが今、近付いて来ている。
(「怖い……けど、多分このままだと俺の心はあの時から前に進まない」)
 逢うと決めてここに来たんだ。
 引き返すな。
 翼が己を叱咤する間も足音との距離が縮まっていく。
 朧気な光が届く範囲に来たのだろう、じわりと浮かび上がったシルエットはふわほわ漂う光に包まれるようにして、一人の女性を現していた。
 歳は24。信心深く優しくて――翼がオラトリオとなる切欠となった女性。
「……久しぶり、璃紗。髪も瞳も黒じゃないし、こんな大きな羽根生えてて誰かと思った?」
 漸く口に出来た声に記憶のままの微笑みが返る。
『少し驚いたけど……』
 ちゃんとわかったと微笑んだその後に続いた声も、微笑みと同じ。24で生涯を終えるまでの彼女のままだった。
 死んだ時と違うのは、首から下がちゃんとあること。
 無残な最期ではなく、隣で笑っていた頃の綺麗な姿に翼は安堵する。
「俺? 俺は……こんなだけど」
 ほら、と見せた首の傷に璃紗の指先が触れた。翼も璃紗の首元に触れる。お互いに手を伸ばしたことに違和感なんて欠片もなくて、それがまた、胸の奥をずきりと刺す。
「痛かったろ? ……俺は、そう、心がずっと痛かったさよ」
 璃紗が殺されてずっと後悔していた。
 叶うなら時間を巻き戻したい。そうすれば、そうすれば――、
「俺のせいで君はこんな目に……」
 ふいに、首に触れていた手が後ろに回った。触れられた時は気にならなかったのに、抱きしめられた感覚は幽か。今の自分と璃紗は決定的に違う存在なのだと、今になって強く意識してしまう。
「済まない、今更謝っても遅いけど」
 ずっと言いたかった。
 自分のせいで殺されてしまった。まだ24だったのに。
『翼、謝らないで』
 怒っていない。
 恨んでいない。
『逢えて、嬉しかった』
 伝わる感覚は相変わらず朧気だ。けれど淡い金色が夜に射し始めても、璃紗の姿が夜明けに染まり始めても、彼女の言葉はハッキリと聞こえていた。
 ああ、もうすぐお別れだ。
「璃紗、大好きだった。……ありがとう」
 ずっと言いたかった。
 漸く、言えた。
『……泣かないで』
「それは……無理さよ」

大成功 🔵​🔵​🔵​

ディフ・クライン
橋に立つ初老の女性
オレの、製作者
…久しぶり、ニウェ
『久しぶり、フィフス』
髪を撫でる細い指
快活な笑み
…変わらないね
『貴方は変わったね。笑うようになった』
違う
オレまだ、あの頃と何も変わってない
心も未熟のまま
貴方の子の魂も未だ目覚めさせられてない

でも、オレにも友が出来たんだ
友と過ごした時間が心から大切で
オレに逢えてよかったと言ってくれて
エラーで生まれた人格のくせに
まだ消えたくないなんて、愚かな願いが生まれてしまって

『いいの、そのまま貴方は貴方として生きなさい』
『願ってはいけなかったのは私の方。ごめんね』
『いきなさい、ディフ・クライン・フィフス』
『アタシの息子』

ありがとう…

母さん

見送る背
知らず零れる




 顔のすぐ横を、金色の光がふわんと舞った。
 金色の光はディフ・クライン(灰色の雪・f05200)のベニトアイトをきらりと染めてから、橋の向こうからやって来る初老の女性を目指すように漂っていく。けれどその体を擦り抜けることは出来なくて、ほわん、と緩やかなバウンドを見せてほよほよと漂っていった。
「……久しぶり、ニウェ」
『久しぶり、フィフス』
 細い指が髪を撫でる。向けられる笑みは快活そのもの。
「……変わらないね」
 自分の記憶の中にある『ニウェ』は全て作られた後――意識が芽生えた後のものだから、それ以前のことはわからない。もしかしたら、自分を製作していた時も、こんな風に大切にされていたのだろうか。
『貴方は変わったね。笑うようになった』
 髪の次は頭を撫でながらの言葉に、ディフは静かに首を振った。製作者である自分が“変わった”と言うのに何が違うのかと、好奇を覗かせて笑うニウェをディフは瞳に映し、違うよとかすかに笑む。
「オレまだ、あの頃と何も変わってない。心も未熟のまま。貴方の子の魂も未だ目覚めさせられてない」
『フィフス……』
「でも、オレにも友が出来たんだ」
 ニウェの瞳がぱちりと瞬いた。
 驚いている表情が、きらりと、はっきりと、ディフの目に映る。
「友と過ごした時間が心から大切で、オレに逢えてよかったと言ってくれて」
 それが人形の心にさざなみを立てた。エラーで生まれた人格のくせに、“まだ消えたくない”なんて愚かな願いが生まれてしまって――それを、手放せないでいる。
 ぽろりとこぼれ落ちた声と一緒にディフは視線を逸した。製作した人形が自ら告げたエラーに、製作者であるニウェはどんな顔をしているだろう。どう、思っただろう。
 すぐ傍にいるのにそれを確かめることは出来ず、何も言えないままでいると頭から手が離れ――両頬を包まれた。え、と瞬く瞳に、舞う光と一緒に笑顔が映る。
『いいの、そのまま貴方は貴方として生きなさい』
「……ニウェ?」
 どうして。だって、これは。
『願ってはいけなかったのは私の方。ごめんね』
 頬を包んでいた両手がそうっと離れた。
 自分たちの間にスペースが出来て――広がっていく。
「ニウェ、」
『もうすぐ夜が明ける』
 そう告げた顔はあの頃のままだった。
 とん、と肩を押されて後ずさる。ほら、と促され、ディフは来た橋を戻った。足元が橋から地面に変わったそこで振り返ると、しゅわりしゅわりと金の光が朝日にとけていくところで――けれど。
『いきなさい、ディフ・クライン・フィフス』
 アタシの息子。
 届いた声は朝日にとけなかった。
「ありがとう……母さん」
 消えゆく後ろ姿を見送って――ふいに何かが頬を伝った。
 何だろう。
 指先で触れ、確かめて知ったそれは、目から溢れた感情の欠片。

 ひとつぶの涙が、夜明けを受けて煌めいた。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年05月14日


挿絵イラスト