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大祓百鬼夜行⑧~よみのきざはし

#カクリヨファンタズム #大祓百鬼夜行

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 さらさらと、水が流れる。
 うつくしい水は澄んで、川底が透けて灰色をしている。ぼんやりと煙っている。
 せせらぎは忘却の呼び声――この川は渡ってはいけない。入ってはいけない。
 そう、本能が告げる。
 でも――どうしても向こうにいかねばならぬ。
 それを告げるのは、予感のようなもの。
 そんな困惑の最中、周囲に視線を巡らせれば、忽然と、架かる橋が見えた。

 おいで、おいで。
 優しいあのひとが、懐かしいあのひとが、手招き呼ばう。
 さあ、黄泉路はこちらだ――。

●よみのきざはし
 カクリヨファンタズムの川には、時折、渡った者を黄泉に送る『まぼろしの橋』なるものが架かるという。
「なんでも、幽世にあぐんだ妖怪が渡るという、噂の橋なのだそうです――続く先は、黄泉。すなわちあの世、だそうでございます」
 忘れ去られた妖怪の世にも、冥府はありて。幽世に辿り着けぬ妖怪が往くばかりにあらず。
 アム・ニュイロワ(鉄線花の剣・f07827)は静かに告げる。
「その橋を……オブリビオン――大祓骸魂に取り込まれた妖怪が、占拠しています。皆様には、それを倒していただきたいのでございます」
 橋で待ち構えるオブリビオンは、まず『死んだ想い人の幻影』を見せて妖怪を橋に引き寄せ――黄泉に送る。
 そう告げれば詩的な響きも持つが、橋に踏み込めば最後、周囲は超空間となって、ブリビオンを倒すか黄泉に行くまで脱出不可能となる。
「生きるか死ぬか、いずれにせよ、どちらかが死ぬ……そういう空間になるということでございます」
 オブリビオンは兎も角、取り込まれた妖怪に罪は無い。だが、犠牲者を出せば、その妖怪が罪を背負うことになる。
 それを、見過ごすことはできぬと、軽く目を伏せ、アムは小さく頭を振ると。
 橋は狭く、また脱出もできぬ空間である。戦闘において、心得ておかねばならぬことだ。
「おそらく、幻を見ることでしょうか……それらは強烈な死を誘います。まずはそれに抗うことが肝要でございます」
 彼女はひたと猟兵たちを見つめ、続ける。
「けれど、皆様は誘いを承知で、挑む形でございますから、きっと心配は不要だと存じます。わたくしは、ただご武運を」
 此所で祈りお待ちしてございます、と。
 最後にそう告げ、説明を終えるのだった。


黒塚婁
どうも、黒塚です。
仏に逢うては……とか始まりそう。

●シナリオ捕捉
橋の上では、『死んだ想い人の幻影』が「こちらにおいで」というように、黄泉に誘ってきます。
ですが、別にそういう人がいない場合、見てもみなくても構いません(!)
どうぞご気楽に討伐にいらしてください。

橋の周囲は超空間となるので、飛んだりすることは可能ですが、あまり距離のある移動はできないものとお考えください。

=============================
プレイングボーナス……狭い橋の上でうまく戦う。
=============================

また、カクリヨファンタズムのオブリビオンは「骸魂が妖怪を飲み込んで変身したもの」です。飲み込まれた妖怪は、オブリビオンを倒せば救出できます。

●プレイングについて
導入などはありません。公開後から受け付けています。
ただし公開から大体2日程度を目安にプレイングは締め切る予定です。
(送信はできるかもしれませんが、ロスタイム扱いとさせていただきます)

全員描写はお約束できません。
先着順ではありません。
以上をご了承の上、ご参加くださいませ。

それでは、皆様の活躍を楽しみにしております。
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第1章 ボス戦 『縁切り屋』

POW   :    妖刀解放
【匕首】で攻撃する。[匕首]に施された【妖気】の封印を解除する毎に威力が増加するが、解除度に応じた寿命を削る。
SPD   :    眷属召喚
【召喚した狐霊】を巨大化し、自身からレベルm半径内の敵全員を攻撃する。敵味方の区別をしないなら3回攻撃できる。
WIZ   :    妖焔
レベル×1個の【狐火】の炎を放つ。全て個別に操作でき、複数合体で強化でき、延焼分も含めて任意に消せる。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠馬酔木・凶十瑯です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

終夜・凛是
死んだ人、か…
俺が一等会いたいと、願っているのは、にぃちゃんだ
にぃちゃん…
現れなければいい。だってそれは、生きてるってことだろ
もし、現れてしまったらとも思うけれど。何も現れない。
それにホッとする――
だって、いつか会えるってことだ

橋に踏み込む
なんにせよ、誰かが連れて行かれるのはダメだ
それに、妖怪も助けられるなら、助けたい

狭い場所なら、距離を取るのは難しいから突っ込んでいく
避けられたなら、その場で踏ん張って背後を取るように

相手も炎使うようだけど俺は炎、下手だから
もっと簡単で単純でうまくできる事で戦う
拳握って、殴るだけ

俺の全部乗せて、身体の中心に打ち込む
迷わず、まっすぐに
傷を受けても、気にしない



●不知
「死んだ人、か……」
 息を吐くついでと声を乗せたかのように、微かに。
 終夜・凛是(無二・f10319)は橋を見つめる。その一歩は、踏み出せずにいた。否、自分を誘う声を、姿を――待っていた。
(「俺が一等会いたいと、願っているのは、にぃちゃんだ」)
 寡黙な彼が、無愛想な表情を崩さぬ儘、その眼差しだけは――迷う様に、僅かに陰りを帯びていた。
「にぃちゃん……」
 呼んでみる。会いたいとは、思う。だが――。
(「現れなければいい。だってそれは、生きてるってことだろ」)
 答える声は無い――姿も見えない。
 ただ、途切れぬ水のせせらぎばかりが通り過ぎていき、彼の名を呼ぶ親しき声は、響かない。
 凛是は再び、小さく息を吐く。今度は、安堵の吐息であった。
(「だって、いつか会えるってことだ」)
 生きてさえいてくれるなら。
 胸の内で囁き――踏み出す一歩は、ざっくりと。最早なんの憂いも感じさせぬ。
 そして、橋に脚をかければ。さらさらと煩いまでのせせらぎの音色も、遠ざかった気がする。所謂、超空間というものに隔離されたのであろう。
 橋という舞台の上には、白い狐が一匹、欄干にもたれかかり、凛是を見ていた。
「いやはや因業――その淵を覗きながら、そちらは確りしておられる。幻は、お嫌いかな――或いは喪失を知らないか……」
「――」
 襟巻に口元を埋めるようにして、凛是は何も語らず、少し屈んだ。
 橋の幅は、彼が両手を広げて少し余る程度。橋の長さは、その三倍くらい。彼の視点から考えるのは、あと何歩踏み込めば届くか、だ。
「無言もまた解」
 匕首をそっと抜いた狐――縁切り屋は、軽薄な笑みを向けた。
 視線が交わる、それが合図。
 橋を蹴り、凛是は疾駆する。なるべく姿勢を低くして、相手の刃が触れぬよう。
 靡く襟巻を見極めるように、縁切り屋は腕を振り上げた。
 その短い刀身が、禍々しい気を解き放ち、秘めた力を発現する。ぞくりと、髪や尾が逆立つような嫌な感覚がしたが、構わず彼は堅く握った拳で挑む。
(「迷わず、まっすぐに――」)
 それが俺には炎を扱うことよりも簡単で。うまくできることだから。
 夕日色の瞳は揺るがず、敵を見る。
 振り下ろされた匕首は、凛是の銅の髪を、少し裂いた。
 凛是は一度、男の横を滑るように抜けて、強く地を蹴り転回すると、その遠心力も乗せ、その背を撃つ――。
 拳が骨を捉えるを、自らの痛みで確認しながら。彼はぶっきらぼうに、囁いた。
「誰も連れて行かせはしない……置いて行かせはしない」
 喪失の痛みなら、充分に。

成功 🔵​🔵​🔴​

双代・雅一
一瞬だけ

己と同じ顔をした男が此方を見つめていた気がした

……今の、は
幻影、にしては冗談が過ぎる
異空間に移行したと同時に消えたの確認して
なぁ、惟人…お前は此処に確かにいるよ、な?
(居るに決まってるだろう。お前が疑ってどうする?)
…だよな
狐に化かされた、と言う事か
はは、隔世とは本当に興味深い

ラサルハグェ、行くぞ
槍を手に敵と対峙
リーチを上手く活かしながら狭い橋の隅に追いやるように立ち回ろう
突くのも薙ぐのもお手の物だ
狐火にはUCの氷矢で相殺対抗
ついでに足元目掛けて撃ち込み、動きも封じてやろうか

悪趣味な幻影だ、が
(途中眼鏡かけて交代)
俺はまだまだ彼岸に逝けん
逝くのは手のかかる兄と同時と決めてるのでな…!



●彼岸
 双代・雅一(氷鏡・f19412)は――青の双眸を瞠り、凍り付いたように静止した。
 鏡に映った自分が、じっと冷めた双眸で此方を見ているような――。
「……今の、は」
 冷や汗が伝うのを、雅一は自覚した。
(「幻影、にしては冗談が過ぎる――」)
 頭を振って、彼が足早に橋桁の舞台に上がれば。
 すべては消え失せ、冷笑を浮かべる白い狐面の男がいるばかり――。
 ドクドクと脈打つような音が耳元で煩かった。逸る鼓動を宥めるよう、胸に抑え――雅一は、裡にある弟へ話しかける。
「なぁ、惟人……お前は此処に確かにいるよ、な?」
 ――だが、もしも。いらえがなかったら。
 刹那の恐怖を打ち消したのは、慣れ親しんだ、叱責だった。
(『居るに決まってるだろう。お前が疑ってどうする?』)
「……だよな」
 呆れを滲ませた静かな言葉に、これ以上無く安心し――彼は一度、堅く瞳を閉ざした。しつこく居座る残影を消し去るように。
 そして、再び開かれた青は。橋を睨むように、鋭い光を宿していた。
「見たくないと目を閉ざせば、それは確り刻まれ――見たいと望めば、消え失せる。幻というのは、得てしてそういうもので」
 狐――縁切り屋はいけ好かない笑みを浮かべ、雅一を観察するように見つめていた。
 対する男は既に戯れ言に乱される様子もなく、冷静に、自嘲する。
「狐に化かされた、と言う事か――はは、隔世とは本当に興味深い」
 息を吐いて、白衣のポケットに潜む白蛇に、声をかける。
「ラサルハグェ、行くぞ」
 白い蛇は彼の手の中で、氷で作り上げたような槍となり――彼はそれを隙無く構える。
 得物を振り回すのには充分とはいえ、狭い橋だ。
 その殆どをひと掻きで埋められる雅一に優位な戦場とも判断出来る。言うまでも無く、槍は突くものゆえ――この地形に適した武器だということは、明らかである。
「おっかない、おっかない」
 縁切り屋は笑って、指を鳴らす。周囲に狐火がぽつぽつと浮かんで、輪を作る。
「おっかないものは、燃すが一番――」
 興じるような声音と共に、狐火が雅一へと次々に飛来する。槍を前に構えたまま、彼は踏み込んだ。擦れ違う炎は彼の白衣を焦がしながら、くるりと空を転回して、再び襲いかかってくる――。
 それを振り返る事もなく。
「少し頭を冷やして差し上げようか」
 彼がそう告げれば、周囲の気温がぐっと下がる。
 背後に迫る狐火は――空に生じた氷の矢が横から貫かれ、掻き消える。同時に雅一は別の矢を操って、縁切り屋へと放つ。
「おっと」
 狐は軽く後ろへ退くが、橋を捉えた氷矢は、その地点からメリメリと音を立てて凍り付いていく。
 残る狐火でそれを溶かしながら、正面に迫り来る男へ避けがたい小さな狐火の弾幕を叩きつけてくる。
 氷の矢が加勢に、走り。
 氷と炎がぶつかり合う最中を、槍を真っ直ぐに構えた男が、駆け抜けていく。その、顔に。表情に、変化があることを、縁切り屋は気付いたか。
「悪趣味な幻影だ、が――」
 囁くのは、眼鏡をかけた雅一――否、惟人は、眉間にしわを寄せ。
 己にそっくりな像が――気弱に、離れるな、と言う。実に頼りなく。実に想像通り、忠実に。
「俺はまだまだ彼岸に逝けん。逝くのは手のかかる兄と同時と決めてるのでな……!」
 好戦的な微笑を湛え、発すが同時。
 目の前で溶けていく氷を念で纏め――槍にますます凍気を集めると、最後の一刺し。深々と――その懐に、刃を届かせた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

シリウス・クロックバード
橋上にて見えるのは
俺がまだ人であった頃、守護者としてあった頃、共にあった同胞達

あぁ……確かに、あの頃の俺は君達を救う為にあったのに
俺の衝動は、君達の為に動くことは無かった

冷静な守護者としてあった俺が…
この尽きぬ衝動に動かされ生きている事実を君達は笑うかな

死か、
……その誘いは受け入れられない

なにせ、まだ生きている奴がいてね
心残りがあるとしたらそれなんだ
先に死んでたまるか

放たれた炎には発煙手榴弾を投げる
弾幕を得る為だけど、さて何処まで通じるかな

俺はただ射線を得ることができればそれで良い
義眼で位置を確認し
忘れ時の星をよ、此処に

これがきっと、俺の最初で最後の我が侭なんだ
ごめんね。死ぬのは今日じゃない



●至願至愚
 ああ、と。
 シリウス・クロックバード(晨星・f24477)は口元に、柔らかな笑みを浮かべた。懐かしい友に向けたような、微笑。
(「俺がまだ人であった頃、守護者としてあった頃、共にあった同胞達――」)
 彼らと共に、守ってきた。戦ってきた。
 在りし日の記憶も確りと残っている。名前だって浮かぶだろう。
「あぁ……確かに、あの頃の俺は君達を救う為にあったのに――俺の衝動は、君達の為に動くことは無かった」
 複数の影が、狐面の男の後ろで揺れている。
 己が紡ぐ幻と会話をするシリウスに、狐――縁切り屋は厭な笑みを浮かべているだけで、特に口は挟まなかった。血の匂いを漂わせ、気怠げに欄干に身を寄せた儘。その所以を見守るつもりらしい。
 理解してか否か――シリウスはそちらを無視し。自嘲の笑みを浮かべながら、瞳の奥で、己の紋章をなぞった。
「冷静な守護者としてあった俺が……この尽きぬ衝動に動かされ生きている事実を君達は笑うかな」
 幻は、嘲笑などせず、ただ只管に愛おしげな視線を、優しい言葉を向けてくる。
 もう休め、もういいんだ。一緒に、いこう。
 永遠の安らぎが、こちらにはある――。
 死。橋を渡れば――死に至る。
「死か、……その誘いは受け入れられない」
 皮肉なことに、シリウスもまた死を知っている。知っていながら――衝動で、未だに生者のまねごとを続けている。
「なにせ、まだ生きている奴がいてね――心残りがあるとしたらそれなんだ」
 シリウスは仲間に平然と報告するようにも。憎らしげにも響く声音で、言い。
「先に死んでたまるか」
 彼にしては、驚くほど。力と感情に満ちた言葉を発する。それが、合図。
「そいつは残念――そうも無碍にされては、彼らも無念だろうに……」
 傍観していた縁切り屋が、仰々しく亡者を哀れみながら、狐火を送る。
「そうかもしれないね。でもそれが、浮世に関与すること叶わぬ死者のありようだとは思わないかい?」
 飛来する火球を他人事のように一瞥し、シリウスは一歩引きながら、発煙手榴弾を放り投げた。
 火種は向かってくる。
 発火した手榴弾はもうもうと周囲を煙で埋め尽くし、双方の視界を白く染めた。
(「さて何処まで通じるかな――」)
 焔が、彷徨うように煙を掻き裂いていく。
 直ぐにその影を捉えられぬよう、彼は屈んで、低い姿勢をとって、弓を引く。
 右の新緑の義眼が、測定済みの情報を演算に掛ける。そうして結ばれた像は、幻ではない――その皮肉に、笑いの息を吐き。
「いつか夜は明けるとも、星々は君の輝きを残す――忘れ時の星をよ、此処に」
 弦を鳴らし、剣矢を、射出する。
 丁度、スモークが狐火に焼き尽くされ、縁切り屋が、シリウスを再度捕捉した、その時には。
 狐は無数と分かれ、幾何学模様を描き複雑に飛翔する――剣矢・アルコルで埋め尽されていた。
 注ぐは星に連なる隕鉄を鍛えしと伝わる、即ち死の剣。
 白い男の身体を次々貫くその一撃の成果を見守る新緑は――その向こうの、幻を。今はもう形も無い残像を、見ていた。
「これがきっと、俺の最初で最後の我が侭なんだ」
 ごめんね。死ぬのは今日じゃない。
 君達に詫びを。伝えたい言葉は、本当なんだ――そう、嘯いて。

大成功 🔵​🔵​🔵​

花川・小町
【酔狂】
ふふ、面白い橋ねぇ
そんな場所故にこそ、いっそ愉しむ余裕も大切でしょう?

――それじゃ、危険な逢瀬と洒落込みに行きましょ

(この身は恋に焦がれ儚く燃え尽きた、廓の娘を写したもの
されど、心までは写さなかった
恋路黄泉路に誘い誘われる程に想うた相手は生憎と
けれど、噫――)

――そうね
貴女の事は確かに大切に想っているわ
(幻はその娘――嘗ての持主の姿を取り
果ての果てまで共に逝こうとすがりつく)

だけど、駄目よ
貴女は最期の最期まで一途に一人を想い続けたのだから
血迷うて私なんぞを誘っちゃいけないわ

ほら、お還りなさい

UCの衝撃波で幻を祓い炎を払い
清宵ちゃんと一差し舞う様に
欄干上から正面から
代わる代わるに肉薄を


佳月・清宵
【酔狂】
てめぇにかかりゃ、この瀬戸際すら楽しんだ者勝ちってか
ったくとんだ女だ

俺ァ命懸けの逢引なんぞ趣味じゃねぇんだが――

(なぁ?と肩竦めて見据える先は小町に非ず
嘗て始末をつけた女の幻
妖刀に呑まれ道を外れ――終ぞ引き戻せなかった手が、すがる様に誘ってくる)

…おいおい
同道は疾うの昔にお断りしたろ
てめぇに振り回されんのは懲り懲りだ
誘うならもっと面白味のある路にしやがれ

しつこい輩は嫌われるぜ――失せな
(引き戻せぬどころか引き摺り落とされちゃ、笑い話にもならねぇ

もういい
此でいい
幻であれ、これ以上狂う姿を晒す真似はさせぬ)

言葉と共に切り捨て
炎に炎ぶつけ返し相殺
器用に欄干利用し合い
後は唯剣舞に心を向けるのみ



●邂逅と離別
「ふふ、面白い橋ねぇ」
 花川・小町(花遊・f03026)が嫋やかに笑う。彼女の声音に潜む愉悦の色に、佳月・清宵(霞・f14015)は軽く眉を顰める。
 眼差しだけで示す、不可解という意思を読んで、小町は微笑んだまま、小首を傾げて見せた。
「そんな場所故にこそ、いっそ愉しむ余裕も大切でしょう?」
 相変わらずの調子に、短いとも長いともつかぬ半端な溜息を零して、
「てめぇにかかりゃ、この瀬戸際すら楽しんだ者勝ちってか――ったくとんだ女だ」
 清宵は惘れを隠さぬ。
「――それじゃ、危険な逢瀬と洒落込みに行きましょ」
「俺ァ命懸けの逢引なんぞ趣味じゃねぇんだが――」
 なぁ、清宵は肩を竦めて――軽い調子で長刀を手に、一歩踏み出す小町に続こうとして。
 二人揃って、はたと動きを止めた。

 視界に映るは、己によく似た娘。
 艶やかな着物に、華やかな化粧――廓の娘と一目でわかる。その眼差しは熱を帯びて、紅を刷いた唇は、微かに開いている。
 何かを、訴えるように。その言葉を、小町は知っている。
 何故ならば彼女はこの娘の姿を写した鏡台のヤドリガミである――。
(「……されど、心までは写さなかった」)
 彼女が辿った末路を、小町は知っている。
(「恋路黄泉路に誘い誘われる程に想うた相手は生憎と……けれど、噫」)
 ――さみしい。
 こちらを見つめる白い貌は、ただその一念だけを小町へ伝えて、手を伸ばしている。
 小町は、軽く目を伏せた。
「――そうね。貴女の事は確かに大切に想っているわ」
 姿を写すほどに――いとおしく、かわいそうな、娘。
 小町は優しく微笑んだ。
「だけど、駄目よ。貴女は最期の最期まで一途に一人を想い続けたのだから……血迷うて私なんぞを誘っちゃいけないわ」
 柔らかな声音で、囁き、諭す。
「ほら、お還りなさい」

 清宵の視界から――少しだけ前にいるはずの小町が、消えていた。
 姿が消えたわけではなく。その注意を奪ったのは、いるはずもない、女。
(「コイツは……」)
 斬った感触は遠い昔にもかかわらず、生々しく蘇る。
 それは、嘗て始末をつけた女の幻。
 妖刀を手にしたことで、道を外れ――終ぞ、引き戻せなかった相手。
 妙に白いその腕が、縋るように、清宵を誘う。
 ――さぁ、いらして。
 脳裏に響く声は――、そんな言葉を聴いたかのように、既知の響きを宿している。
 狐面の男は、浅く笑う。
「……おいおい。同道は疾うの昔にお断りしたろ」
 態とらしく溜息を零し、肩を竦め。
「てめぇに振り回されんのは懲り懲りだ――誘うならもっと面白味のある路にしやがれ」
 言の葉で、すっぱりと切り捨てる。
 仮に――いずれ、似たような処に落ちるにしても、それは今、あの女とでは――ない。
 何より、と。彼は笑う。
(「引き戻せぬどころか引き摺り落とされちゃ、笑い話にもならねぇ」)
 作り笑いを浮かべてはいるが、狂瀾の色を見せる女の姿を――冷静に見られぬ己も、いる。
(「もういい。此でいい――幻であれ、これ以上狂う姿を晒す真似はさせぬ」)
 鯉口を切って、片膝落とし、抜刀する。
「しつこい輩は嫌われるぜ――失せな」

 薙刀の衝撃波と、妖刀の一閃が、幻を払い。
 二人揃って、橋の欄干を駆る――申し合わせたわけでもない機の一致に、双方ともに知らず、笑む。
 狐面の男――縁切り屋は、目前に迫る二人へ、軽薄な笑みを向け、首を傾げた。
 隠せぬ血の匂い。全身を斑に染める朱と、まともに立つのがやっとの傷を負いながら。
 幻と対峙しながら、刃を向けた男女を興味深そうに眺めていた。
「修羅の道は、楽しかろうに。黄泉路もまた、楽しかろう……」
「口は禍の元だぜ」
 惘れ声で指摘する清宵の周囲には、ポツポツと狐火が浮かび始める。
 同時に縁切り屋も炎を並べて、直ぐ、放つ。清宵も敢えて、それに合わせて炎を操ると、炎同士を叩きつける。
 橋の上、朱と朱がぶつかりあい、熱が拡散する。
 小町が熱波を斬り裂きながら、欄干より跳び、縁切り屋の頭上へ、薙刀を大きく振り下ろす。
 匕首の短い刀身で、頭を庇うも、衝撃波までは消せぬ。
 彼女の軽やかな斬撃は、深々と男の身体を斬り裂くと、狐火は勢いを失い――代わり、清宵の炎が大蛇のようにうねり、食らいつく。
「ふふ、迷いのない――その邂逅は……、今の途への、解たり得ましたか? 所以を棄てて――本物となり得ようか?」
 炎に包まれながら、最後に、縁切り屋は問うた。
 減らず口を、と刀を返した清宵の代わり。小町が物寂しげな笑みを、オブリビオンへ向ける。
「あたし達は、今が愉しければ充分」
 そして一刀を、振り下ろせば。
 大祓骸魂は祓われて、何も知らぬ妖怪が一匹。ころりと、橋の上に現れたのだった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​


 斯くて、黄泉を繋ぐ幻の橋は、ひとつ消え。
 大凶に至る道一つ。
 川は素知らぬ儘、流れを止めることもなく、さらさらと行く。

最終結果:成功

完成日:2021年05月16日


挿絵イラスト