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大祓百鬼夜行⑲~踏み切りにゃーん!!

#カクリヨファンタズム #大祓百鬼夜行

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#大祓百鬼夜行


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●無限増殖線路に響く鳴き声
 深夜のUDCアース、『一度鳴ると長い』と評判の踏切前。
 コンビニの袋を提げた男性が、ぼんやりと信号を見上げて溜息をついた。
 この踏切に引っかかってしまうとは、実についてない。
 踏切を回避して遠くの歩道橋まで歩こうかとも考えたが、それはそれで面倒だ。明日は休みだし、のんびり待っても平気だろう。
 ……そう考えてから、どのくらい時間が経過しているか。男性は、気づいていない。
 自分同様に踏切を待つ人がぽつぽつと立ちすくんでいる。それが、『深夜の踏切』にしては、ずいぶんおかしな話であることを。
 どこかで、猫の鳴き声が聞こえる。こんな夜中であっても、猫は元気なものだな、と思う。
 それにしても、ここの踏み切りは長いものだ。……。

●グリモアベース
 今日も様々な事件への対処を行う、グリモアベースにて。
「カクリヨファンタズムでの大祓百鬼夜行に関連する事件が、UDC側へと流出したわ」
 コルネリア・ツィヌア(人間の竜騎士・f00948)はそう言って、百鬼夜行の現状ルートに加え、珍しく手にした端末を操作し、UDCアースと思しき風景の写真を呼び出した。
 それ自体は、何の変哲もない踏切を片方の道側から撮った写真だ。
「オブリビオン妖怪の群れがUDCアース側に現れた影響で、こちらの踏切が『迷宮化』を起こして、無限に増殖しているわ」
 手にした端末を操作し、写真の画像を無作為にたたたたた、と増やし、さらには増やした画像の透明度をランダムに上げ下げする。
 その操作を経て、改めて画像を見ると、それはもうむちゃくちゃな有様だった。線路も踏切も増殖し、降りたままの遮断機が交錯している。明らかに迷宮だ。
「UDCアースの人は、この状態を認識出来なくて、迷宮の真ん中で上がらない遮断機が上がるのを待ってる状態よ。電車も勿論通れない」
 認識阻害もあって、このままではUDCアースの物流にまで大きな影響を及ぼす。
「このままでは、物流は崩壊すると見られるわ。一箇所でつまずけば、あらゆるところにその余波が行くわけだから」
 一刻も早くオブリビオン妖怪を退治、骸魂に飲まれた妖怪の救助と共に、踏切の迷宮化を解除しなければならない。

「注意して欲しいのは、踏切の特性ね。無理に踏切を渡ると、謎の『妖怪電車』に跳ね飛ばされる羽目になるから、気をつけて」
 妖怪電車は、現象のようなものであるという。猟兵・オブリビオンお構いなしに、侵入者を跳ね飛ばす。
 認識阻害ゆえにUDCアースの住民は無理に踏み込む心配はまず無い。場外乱闘の危険は、猟兵とオブリビオンだけだ。
「だから、基本的には、踏切はきちんと守ること。増殖して延々増えて先が見えないだけで、踏切そのもの割と普通に上下してるから、そこを狙ってね」
 UDCアースの時刻表って偉大よね、などと感慨深そうに言って、コルネリアはふと付け加える。
「今回の敵は数が多くて縦横無尽だから、妖怪電車の特性をうまく使うといいと思うわ」
 そのまま、今回の敵の詳細説明に移る。
「敵はねこまたウィスプの群れ。西洋妖怪『ウィルオーウィスプ』の骸魂に飲まれた結果、鬼火を操るようになったねこまたよ」
 ふたつに分かれた尻尾に鬼火を宿し、化け猫達を召喚するねこまた。
 実に脅威的に、かわいいのである。
「かわいいは武器よね。見とれてる隙に飛ばして来る炎には幻惑効果もあるし、摩擦抵抗に強いから線路迷宮での機動力も厄介だし、化け猫達を呼ぶし」
 通用する脅威としては個体差、個人差があるが、ねこまたや化け猫たちのかわいい前足や伸び、上目遣いへの抵抗には強い意志力を持って挑むように、とコルネリアは告げる。
 『我、犬派ぞ?』といった自前の抵抗力があるひとは、全力で自分の武器を活かしてほしい。
「個体ひとつひとつはさほど脅威でもないんだけど、攻撃を当てるまでが大変……というのが、今回のネックになる部分よ」
 それぞれ工夫して欲しい、と、最後まで至ってナチュラル自然体なまま、コルネリアは猟兵たちへ告げる。
「大親分をはじめとした、ひとを愛する妖怪たちが奮闘してくれるこの機会を活かして、ひとつずつ事件を解決して頂戴。健闘を祈ります」


越行通
 こんにちは。越行通(えつぎょう・とおる)です。
 『大祓百鬼夜行』に関するシナリオをお送りします。

 OPでも説明しましたが、改めてまとめます。

 現場の踏切は単線の筈が数百本の線路や踏切に増幅しています。
 UDCアースの人々はその事実を現実と認識できていません。
 勝利条件はオブリビオンの集団を倒すことです。
 ただし、踏切を無視すると、謎の妖怪電車に跳ね飛ばされます。

(跳ね飛ばしに関してなんらかの防護策がない場合、戦場を退場した扱いになります)
(描写としては、『跳ね飛ばされて夜空の星になった』位のふわっとした感じです)
(『戦場の亡霊』を代表とした、代償系ユーベルコードの利用は有効です)

 上記を踏まえて、今回もプレイングボーナスが存在します。
『プレイングボーナス……踏切と妖怪電車を利用して戦う。』
 ねこまたたちは基本的に余裕綽々で踏切を渡り、縦横無尽に動き回っています。ビバ動体視力。
 踏切と妖怪電車の特性を利用して、うまく彼らを追い詰めてください。
 一回攻撃を与えさえすれば、無事に骸魂を剥がすことが出来ます。星になった場合も同様です。
 要するに、無限の線路をうろちょろするねこまたたちを、なんらかの方法でHITしてゆくシナリオです。
 どうか自分らしく、楽しんでプレイングをかけて下さい。

 皆様のプレイングをお待ちしております。
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第1章 集団戦 『ねこまたウィスプ』

POW   :    惑わしの鬼火
【二股に分かれた尾の先端に浮かぶ炎】が命中した対象を燃やす。放たれた【相手を幻惑する効果のある青白い】炎は、延焼分も含め自身が任意に消去可能。
SPD   :    顔を洗う
【夢中で顔を洗うことで】、自身や対象の摩擦抵抗を極限まで減らす。
WIZ   :    化け猫の集会
戦闘力のない、レベル×1体の【化け猫達】を召喚する。応援や助言、技能「【『おどろかす』や『化術』】」を使った支援をしてくれる。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

御園・桜花
「…おネコさまが凶悪に可愛いです」
線路の外で頽れた

「ごめんなさい、私は卑怯なことをします…」
猫じゃらし複数と木天蓼、猫用カリカリ持参
線路外でUC「花見御膳」使用し木天蓼たっぷりの猫ご飯作成
左右を見て安全に線路を渡りつつ線路上にUCで作った体力回復の木天蓼入り猫ご飯をドンと置き上に猫じゃらしを立ててささっと線路通り抜け
木天蓼入り猫ご飯を食べる猫達がやってきた列車にそのまま轢かれるのを見送る

その後も線路外で猫じゃらしを振って猫を呼び、近付いた猫が列車に轢かれるのを見送る

敵の攻撃が一般人に向かう時は盾受けして守る

自分の行動で精神的ダメージ極大なので家に戻ってから近所の猫集会に行きおやつを貢ぎまくる…




 UDCアースの線路を増殖させつつ、鬼火と共にねこまたたちは猫らしく線路迷宮を我が物顔で支配していた。
 くにゃりと丸まるもふもふ猫、もちもちした前足をぐぐっと伸ばし背を撓めて伸びをする猫、ふとくも愛らしい後ろ足を見せてぽてぽてと歩き、踏切が上がると同時に開幕ダッシュをかましてドヤ顔をする猫……。
「……おネコさまが凶悪に可愛いです」
 目の前の光景に耐え切れず、御園・桜花(桜の精のパーラーメイド・f23155)は線路の外で静かに頽れた。
 おネコさまという呼称から窺える通り、この光景は桜花にとって致死量のかわいさであった。
 それでも、それでも、やらねばならぬ。決意と共に、桜花は勢いよく頭を上げる。
 ぶっとい前足で顔を洗い、くわりと欠伸ひとつを終えたねこまたと、目が合った。
「ああああああ」
 桜花の嘆きをよそに、ねこまたはひょいひょいと足の先で器用に踏切を越えてゆく。お手本のような猫様イッツクールであった。
 閑話休題。
「ごめんなさい、私は卑怯なことをします……」
 悲壮な決意と共に桜花が取り出だしたるは、猫じゃらし複数と木天蓼、猫用カリカリ。
 数ある猫じゃらしから更に厳選した逸品たちに猫用カリカリを添える。
 そして、木天蓼に更にダメ押しのひと仕上げ。
「……参ります」
 桜花の手が閃き、たちどころに木天蓼たっぷりの猫ご飯が量産されてゆく。
 それらをきちんとお重に分けて盛り付け、猫じゃらしとカリカリを携え、桜花は左右を確認し、慎重に踏切を渡る。
 無限迷宮と化してはいても、目の前の踏切を渡るだけならば、注意していれば造作はない。
 なるべく早足で中央付近まで赴き、そこに、木天蓼入り猫ご飯(体力回復効果あり)をドンと置く。
 更に上に猫じゃらしを立て、良い感じに風に揺れることを確認してから、速やかに線路を通り抜けた。
 あとは、忍耐の時間。
「……なぁー?」
「んぁーー!」
 一体どこにそんなに居たのか。即座に集まってくるねこまたたちが、即刻木天蓼入り猫ご飯に群がる。
 すぐに完食しそうなくいしんぼも居たが、そこは木天蓼効果。食べるうちにふにゃふにゃになり、遅れたねこまたたちも充分に食事ありついている。
 そして勿論だが、彼らは線路のことは完全に無視した。
 摂理が働き、ライトと共に妖怪電車が迫る――!
「なぁぁぁぁぁぁぁ……」
「ふなぁぁんぁぁぁぁぁぁ……」
「あああああああ」
 真っ向からぼよよんと跳ね飛ばされ、ビリヤード玉のように天高く散ってゆくねこまたたちを、責任持って桜花が見届ける。
 ダメージの大部分は骸球が引き受けたようで、ねこまたたちはむしろ『ごはんー……!』という未練と共にお空の星になったようだが、桜花の心にはしっかりとダメージが刻まれた。
「まだです……まだ私の仕事は終わってはおりません……」
 ぐっと猫じゃらし各種を握り締め、さっさっと振って猫を呼ぶ。
 踏切を無視してダッシュする。電車が来る。ぼよよん。にゃーん。
 踏切を無視してダッシュする。電車が来る。ぼよよん。にゃーん。
 踏切を無視してダッシュする。電車が来る……。
「逃げずに私が守らなくては……一般人の方が危ない……見届け、守らなくては……」
 たまにテンションが上がりすぎて跳んでくる青白い鬼火を受け止め、消火しながら、桜花の目からハイライトが消えてゆく。
「家に戻ったら……近所の猫集会におやつを貢ぎまくる……」
 苦しみを受け止める桜花には、その資格があろう。
 ねこまたは着実に数を減らしている。
 功労者の桜花の、後日の幸せを祈りたい。

大成功 🔵​🔵​🔵​

臥龍岡・群青
アドリブ連携歓迎

もふもふ達は愛くるしいが、骸魂に取り憑かれているというのなら放っておけぬ
もふもふのもふもふに魅了されないように気を付けなければな……!

他にも気を付けなければならないのは、素早い身のこなしに幻惑の炎か
そのすべてを一度に解決するには……これだ!
大波を引き起こし、迫るもふもふ達を一度にざぱーん、だ!
鬼火ごと纏めて流せば幻惑の対策にもなるという訳だな

うまくざぱーんとやったら、そのまま猫達を踏み切りへと押しやるぞ
心苦しいが、これも世界を救うため
許せ……!

星になったもふもふ達もあとで帰ってくるのだな?
吹き飛ばした詫びと骸魂に身を捧げてくれた礼として、またたびなんかを用意しておこうか……




 線路迷宮のそこかしこに、いわゆる『猫だまり』が出来上がっていた。
 ただの猫ではなくねこまたなのだが、足で頭をぽりぽりかいたり、線路前を抜き足差し足で通り過ぎたり、安全地帯と定めた場所でまんまるになってすやすや寝ていたり。
 すやすや状態のねこまたのふたつある尻尾、その両方が好き勝手にへろんへろんと揺れるのを眺めていた臥龍岡・群青(狂瀾怒濤・f30803)が、ハッと我に帰る。
「……うむ、もふもふ達は愛くるしいが、骸魂に取り憑かれているというのなら放っておけぬ」
 気を取り直し威厳ある口調で言った群青の視界の端に、線路脇の草をたしんたしんと前足でたたくねこまたが過ぎる。
 にぁん。ふゃー。ぷー。……と、実に気の抜ける鳴き声まで聞こえる。線路を挟んで反対側、未だ攻撃行動に出ていないことから、油断しきっているのだろう。
 このまま距離を取り続けていれば、気が済むまで見ていられそうだ。いや、それはそれで大変まずいのだけれども。世界がふたつ滅んでしまう。
「もふもふのもふもふに魅了されないように気を付けなければな……!」
 ちらっと視線を向ける。ふたつに分かれた尻尾が、片方くるりんと輪を描き、もう片方がふやふやと揺れる。
「気をつけなければな!!」
 群青は拳を握り、頭を切り替えた。
 これよりもふもふを愛でる凪いだ心は一旦置いて、線路を開放する荒ぶる神威を見せるときである。
「もふも……手下が更に増える以外では、素早い身のこなしに幻惑の炎か」
 出来ればそのどちらも一発で解決したい。
 であるならば。
「これだ!」
 ゆらりと上げた片手で虚空を掻くように動かし、開いた踏切をたしん、と一足飛びに跳んで距離を詰める。
 敵対者の気配に一斉に跳ね起きたねこまたと、尾の先から浮かぶ数多の鬼火めがけて、群青が片手を振り下ろす。
「もふもふ、そして鬼火よ……そおれ、ざぱーん!」
 虚空より現れ出でた大波がねこまたも鬼火も区別なく、取り込むように流れる。
 幻惑の鬼火も、これはたまらない。
 何しろ、水は竜神たる群青の得意分野である。量と勢いでも、水の方に利があった。
「心苦しいが、これも世界を救うため。許せ……!」
 群青が手をぐるりと回せば、意を受けた水が渦を巻き、そのまま一塊の水となって踏み切りへと押し出される。
 その瞬間。あらゆる前置きや法則を無視して、妖怪電車のランプが世闇を切り裂いた。
 ねこまたも鬼火もまとめてボール状に包む水の塊ごと、錐揉み回転しながら、放物線を描いて飛んでゆく。
「……うむ。ホームラン級の当たりであったな」
 水の中で骸魂をお洗濯されながら星になったのを見届け、群青はちょっとだけ心が痛んだ。
 見た目がねこでもふもふでにゃんと鳴いても、れっきとした妖怪。しかも今回の戦においては、敢えて骸魂に身を捧げた天晴れな心意気であった。
 線路脇でのだらだらもふもふっぷりは脇に置こう。あれも生存のための戦略。あと骸魂の所為。
「吹き飛ばした詫びと、献身の礼に、またたびなんかを用意しておこうか……」

 この後、カクリヨファンアジア側でびしょぬれの猫又たちが無事発見された。
 その一報と前後して、またたびを携えた竜神の少女が目撃されたとかされなかったとか。
 それはまた、別のお話。

大成功 🔵​🔵​🔵​

勘解由小路・津雲
ねこまたとはいえ猫、その習性を利用するとするか
猫は驚いたり恐怖を感じたりすると、その場で体が硬直してしまうことがある
というわけで、線路を渡る途中のねこまたを驚かしてやるとしよう

【白帝招来】を使用し、巨大な猫……ではなく虎に変身。タイミングをみはからって「ガオーッ」と咆哮。耳がよいため、大きな音に弱いのも猫の習性だ

あまり遠くで吠えたら威嚇にはならんだろうから、ある程度近づかねばならんだろうが、無理に踏み切りは渡らず、踏切の外で地に伏せて、電車が通り過ぎたあとで立ち上がり驚かすとしよう。通過する電車が視界をふさぐのを利用するわけだ

……骸魂がはがれたら、もうあまり線路の近くで遊ぶんじゃねえぞ




 迷宮化した線路の一角、慎重に歩を進めた、陰陽師の風体をした男が居た。
 いくつもの踏切が並ぶ中、ひとまずねこまたの気配がない場所を見つけ、そろりと自分と線路を挟んだ反対側の様子を窺う。
 そちら側に何匹か溜まっていたねこまたのうち、一匹がひょこりと身を起こして、せっせと顔を洗っている。
 同じく毛並みを整えたり、放置されていたブリキ缶をつついていたりする他のねこまたたちの様子まで確認し、勘解由小路・津雲(明鏡止水の陰陽師・f07917)は納得したように、ふむ、と漏らす。
 ――ねこまたとはいえ猫、その習性を利用するとするか。
 憑代の人形を用意して、思いついた策を速やかに行動に移した。

 がたん、ごとん。がたん、ごとん。……。
 電車が通り過ぎ、音が止まり、ゆっくりと遮断機が上がる。
 津雲とは反対側に居たねこまたが、遮断機や信号の柱をちろりと見上げ、踏切を渡り始める。
 てぺてぺてぺ、と、まったく危機感の無い足取りで、ちょうど踏切の三分の一辺りまで来たところで。
 線路の向こう側。黒々と大きな何かが首をもたげたのを、ねこまたは、見た。
 風が吹く。大きな何かが息を吸った所為だと、その時のねこまたに理解する暇はなかった。
「グルゥガォォォォォォォォウ!!!!!!!!」
『ーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!』
 文字通り飛び上がったねこまたが、もんどりうつように引っくり返って転げる。
 直前にたっぷり顔を洗ったが故の摩擦抵抗のなさを活かしてぐるりと起き上がり、一目散に逃げ去る。悲鳴を挙げる余裕もない。滑るような逃げっぷりは、ウサギとだって良い勝負が出来そうだ。
 尻尾の骸魂は声の余波で吹き飛んでいた。しかしそれすらいまのねこまたにはわからない。頭の中は大きな声でいっぱいだ。

 ――さて。
 種明かしをすれば、逃げるねこまたを見送る『それ』は、真の姿である白虎と変じた津雲であった。
 黒々として見えたのは、電車が来る間に対面側の光源を背後にして潜み、地面に身を伏せたからである。
 猫は耳が良く、大きな音に弱い。この踏切の音には大分適応していたようだが、安心しきったタイミングで、大音量の虎の鳴き声を浴びせられれば、それはビビる。
 身を伏せたのも、威圧し、驚かすための下準備である。その効果は覿面で、先ほどのねこまただけではなく、反対側に居た別のねこまたたちまで尻尾を膨らませて逃げていく。
 その多くが咆哮により骸魂を吹っ飛ばされ、普通の妖怪ねこまたに戻っている。が、やはり、気づいていないようだ。
 三々五々逃げ出す中、どうやら一匹どんくさいねこまたが、つついていたブリキ缶に頭を突っ込んでしまい、うねうねと必死でもがいている。
「……あー」
 どうしたものか。津雲はしばし考える。これが普段のことで、人型ならば、することは決まっているのだが。
 ややあって、再び地に身を伏せ、向こう側からは完全に隠れて耳をそばだてる。
 音だけで判断することしばし。パニックに陥りながらブリキ缶と格闘していたねこまたは、ややあって、ずる、ぼと、という音を立てて、無事に脱出したらしい。
「…………んなーう?」
 慎重に草の隙間から覗き見ると、骸魂が剥がれたことに気づいたのだろう。不思議そうに二本の尻尾をうねらせ、周囲を見回し、ぽてぽてと線路脇の道を走ってゆく。
 そこまで見届けたところで、ようやく津雲はやれやれと息を吐いた。
「……もうあまり線路の近くで遊ぶんじゃねえぞ」
 青と白の縞がたなびく尻尾をはたりと振って、ねこまたが走っていった先を見送る。
 幽世では、踏切に気をつけて欲しいものだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

二條・心春
これは写真映えしそうですね。とはいえUDCアースの危機、このまま見過ごすわけにはいきません。

これは……かわいすぎます……!化け猫さんもとてもかわいいです!くっ、助けるためとはいえこんな子達を攻撃しなきゃいけないなんて……。とりあえずタブレットで写真を撮りましょう。
私は拳銃で遠距離攻撃するので踏切は守ります。アプリ「eyes of truth」でねこさん達を「索敵」して追いかけて、目視できたら電車が来る直前に【反射UDC弾】で攻撃です。電車が来れば動きを制限できるし、跳弾にも利用もできるはず。化け猫さん達にはスタングレネードを使って逆に驚かせましょう。貴方達を助けるためなんです。ごめんなさい!




 無限に広がるようにも思えた迷宮化は落ち着きを見せ始め、拡大のスピードは緩やかになってゆく。
 未だオブリビン化したままのねこまたを探し、ひとつずつ踏切を確認していた二條・心春(UDC召喚士・f11004)は、やや前方に見えたねこまたの姿に、思わず足を止めた。
 夜の線路のお隣を、月をお供にひょこりひょこり。ふたつの尻尾がくるりと上向き、我が物顔で小道を歩く。何様か?お猫様です。
「これは写真映えしそうですね」
 絵本などの表紙にも出来るかもしれない。そんな感想が頭を掠めつつも、心春は毅然と首を振る。
「とはいえUDCアースの危機、このまま見過ごすわけにはいきません」
 幸い、距離はそれほど遠くは無い。端末と拳銃を手に、心春が一歩を踏み出す。
 彼女の靴音を鋭く耳が拾ったか。歩いていたねこまたが彼女の方を見やり、ふるりと身体を震わせ、一声にゃあと高く鳴いた。
 鳴き声の響きが消える間もなく、あちらこちらから押し寄せる、猫、猫、猫。戦闘力のない、東方妖怪末端の化け猫たち。
 なぁんと鳴いて励ます白猫、何やら前足を動かし術の動作を行う黒猫、素早く跳ね回り心春を翻弄せんとする三毛猫。
 ぅな!!という鋭い声に視線を巡らせれば、ハチワレと茶虎と黒ブチの仔猫が一斉に声を挙げて心春を驚かせ、せわしなくとぺとぺぐるぐる走り回る。
 そんな舎弟たちの働きに、さあどう出るとばかりに心春を見つめるねこまた。尻尾を立てた臨戦態勢、先の鬼火もめらめらしている。
「これは……かわいすぎます……! 化け猫さんもとてもかわいいです!」
 心春の周囲をうろちょろする仔猫に、思わずよろめく。化け猫はもっともっと増えて周囲を取り囲み、ねこまたを応援するように鳴いている。
 ねこまたは、化け猫の包囲網を利用して逃げる気のようである。このまま見過ごすわけにはいかない。
「くっ、助けるためとはいえこんな子達を攻撃しなきゃいけないなんて……」
 そう言いつつも、とりあえずUDC管理用タブレット端末できっちりその光景を保存する心春。
 やるべきことをこなしつつ、しっかり撮っておく精神力が頼もしい。
 片手で端末を操作しながら、もう片方の手にあった拳銃を改めて握り直す。
 距離を取ったねこまたが、ひらりと身を翻して線路迷宮に逃げ込む。対し、索敵専門のアプリを即座に呼び出し、周辺の線路と踏切の開閉間隔と並行して、ねこまたウィスプの位置を検索、追跡する。
 どうやら護衛にも化け猫が複数ついているらしい。足止め中の化け猫も含めて、対処が必要だ。
 そう、これはどうしても仕方がないこと……!
「……ごめんなさい、貴方達を助けるためなんです。本当にごめんなさい!」
 詫びを入れながら心春は、化け猫たちの密度が高いところに、あるものを投げ込んだ。すかさず、自分の耳を塞いで目を閉じる。
 ずん、と腹に響く震動に猫たちが尻尾を逆立て、しかし逃げる間もなく、化け猫たちの中心で閃光と音が爆発した。
 目を開けば、一匹残らず気を失った化け猫たち。
 本来対UDC用手榴弾であり、殺傷能力も低いのだが、音に敏感な猫との相性が大変宜しかった。
 しばらくは動けないであろう化け猫たちにもう一度頭を下げ、心春はねこまたを追跡する。
 タブレット端末のアプリを参考に最短ルートで踏切を駆け抜け、電車が来る直前、行き止まりへと誘導するようにねこまたを追跡する。
 てんてんと走るねこまたの後ろ姿が目標地点に差し掛かったところで、心春は足を止めた。万が一にも、踏切に入り込まないように。
 計算通り、電車が来る。
 ――今!
 焦ったように急ブレーキをかけたねこまたとの距離、周辺の地形と電車の通過ポイントを着実に組み上げ、心春は引き金を引いた。
 迫り来る弾丸から逃れようとねこまたが身をひねるが、そもそも銃口は一見違うところを向いている。
 え、とねこまたが固まった。
 そして、心春の放ったUDCの力の篭った弾丸が周辺と電車に跳ね返り、跳弾となって、ねこまたの尻尾の先にある鬼火ふたつを、正確に撃ち抜いた。

 オブリビオンの打倒と共に、またひとつ、踏切が消えた。


 ――そして。
 たったひとつだけの踏切が上がり、待ちわびていた人々が溜息交じりに通過してゆく。
 幽世側からの迷宮化は解除され、ほんのりとした、すぐに忘れてしまうような違和感だけを残して、踏切はいつも通りに営みに戻ってゆく。

 なぁん。

 踏切を渡り終え、時計を見て溜息をついた誰かが、その鳴き声を聞いた。
 何だか謝っているような、一緒に辟易としてくれたような。
 不思議なタイミングの良さを感じて振り返ると、鳴き声の主と思しき姿は、すぐに何処かへと消えた。

 救われたふたつの世界のように、その場の誰も知らないところへ。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年05月17日


挿絵イラスト