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大祓百鬼夜行⑰〜疾走疾駆ハチヨン駆!

#カクリヨファンタズム #大祓百鬼夜行

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#大祓百鬼夜行


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●ぽんぽこコーン!
 彼女は悪戯っ子な妖狐の少女であった。
 悪戯といっても可愛いものばかりであった。彼女の化術はいつだって、くすりと笑えるものばかりであって実害はなかった。
 ただ彼女は遊んでいたかったのだ。
 楽しく、朗らかに笑っていたかったのだ。愉快に生きていたい。苦しいことや悲しいことは笑顔で吹き飛ばしてしまえ。

 だから、彼女は選択したのだ。
 自ら骸魂を取り込み、『大祓骸魂』が滅ぼそうしているUDCアースとカクリヨファンタズムを守るためにあえて『大祓百鬼夜行』として『大祓骸魂』の軍門に下る。
 そうすることで決して見ることのできぬ『大祓骸魂』を猟兵は認識できる。
 誰にも見られることのない忘れ去られた『大祓骸魂』が二つの世界を滅ぼそうとするのを止められる。

 そんな決死の思いもまた、オブリビオン化したことによって歪められる。
 かつての妖狐の少女が抱いていた『子供と遊びたい気持ち』は歪められ、子どもたちを食べたいという願いに変えてしまう。
「さあ、こっちだこんこん! さあさ、レースのはじまりはじまり!」
 オブリビオン『狐狸』つかさ、その姿は巨大な無用の長物のような目的のわからない超芸術ともいうべき、複雑怪奇に入り組んだ建物の頂上にあった。
 彼女の手には一台のおもちゃの四駆。
 それは今はもう廃れてしまった小学生男子がこぞって買い求め、遊んだおもちゃであった。

 その名も『疾走疾駆ハチヨン駆』。

 カスタム自在、コースを走り抜ける四輪駆動のおもちゃの車だ。
 色も、形も、パーツもよりどりみどり。さあ、遊ぼうと『狐狸』つかさが笑う。けれど、その笑顔の裏側には子供らを喰らいたくて仕方のない残虐な衝動が見え隠れしていた。
「で、でも……僕らは、その車のおもちゃ……? を持っていないんだけれど」
 集められた子供らが不安げに『狐狸』つかさを見やる。
 彼等はいつのまにか、この目的不明、用途不明、何のために建造されたのかもわからない超芸術トマソンに集められていたのだ。
 気がついたら、此処に居たのだ。状況理解も追いつかない。
 けれど、本能でわかってしまう。彼女の言う勝負に負ければ、自分たちの生命はないということを。

「大丈夫だコンコン! そこら中にいっぱい転がっているポンポコ! 今から一時間以内に組み立てて、レース開始。それまでに組み立てられなかった子らは残念無念失格コン! 勝負の前から敗北決定だポン!」
 それはそれでもいいのだと、『狐狸』つかさは笑う。
 だって、どちらにしても子供らは頭からばっくりと食べてしまうのだから――。

●大祓百鬼夜行
 グリモアベースへと集まってきた猟兵達に頭を下げて出迎えるのは、ナイアルテ・ブーゾヴァ(神月円明・f25860)であった。
「お集まりいただきありがとうございます。すでに皆さんは聞き及んでいることかと思われますが、UDCアース、カクリヨファンタズムの破壊を目論むオブリビオン・フォーミュラ『大祓骸魂』による『大祓百鬼夜行』が引き起こされてしまいました」
 彼女の語る『大祓百鬼夜行』。
 それは誰からも忘れ去られたが故に、猟兵の持つグリモアにも感知されることのないオブリビオン・フォーミュラ『大祓骸魂』による百鬼夜行である。

 無数の骸魂によってオブリビオン化した妖怪たちが一斉に『大祓骸魂』に群がり、列を為す姿は圧巻である。
「ですが、この百鬼夜行はカクリヨファンタズムの妖怪の皆さんの一計なのです。あえて骸魂を喰らうことで、オブリビオン化し、『大祓骸魂』の百鬼夜行に連なれば、私達のグリモアにも事件として認識することができるのです」
 苦肉の策であったことだろう。
 もしかしたら、自分たちも死んでしまうかもしれない策だ。

 けれど、彼等は愛おしき世界、二つの世界、UDCアースとカクリヨファンタズムを守るために生命すら投げ出す覚悟だったのだ。
「彼等の意志を、想いを無駄にするわけには行きません。また、彼等の生命も同様です」
 猟兵達はオブリビオン化した妖怪たちを殺すことはない。
 カクリヨファンタズムのオブリビオンは猟兵が打倒すれば、救出することができる。誰一人として犠牲にすることなく彼等を元の妖怪に戻すことができる。

「はい、ですが……今回のオブリビオン『狐狸』つかさは、UDCアースにおいて子供らを『目的がわからない建造物の集合体』即ち、超芸術トマソンに集め、彼等を喰らおうとしています」
 だが、その手段は集めて喰らうという単純なものではない。
 元の妖狐妖怪の少女の『子供らと遊びたい気持ち』が歪められた結果、遊び勝負で子供らを負かした上で喰らうという縛りを得ているのだ。

「これは私達にとっても有益な縛りです。元の妖狐妖怪の少女が意図してそうしたのかはわかりません。ですが、遊び勝負で強力なオブリビオンを負かせば、そのままオブリビオンを打倒することになるのです」
 その遊び勝負の内容が問題である。
 簡単な遊びならばいいのだが、オブリビオン『狐狸』つかさが持ちかけた勝負は『四輪駆動のおもちゃの車でのレース』である。

「『疾走疾駆ハチヨン駆』というそうなのですが……ええ、と……これです」
 ナイアルテが戸惑ったように実際の四輪駆動の玩具を手にしてみせる。
 何故かシルバーを下地にピンクからブルーへと鮮やかなグラデーションの施されたカウルを持ち、ローラーやらバンパープレートなどでカスタムが既に施されている。
 どうやら、超芸術トマソンがレース会場となっており、複雑怪奇な入り組んだ意味不明なコースを走るためには、猟兵たちも本格的に『疾走疾駆ハチヨン駆』、通称ハチヨンをカスタムしなければならない。

 幸いなことにパーツや本体はトマソンのあちこちに山積しているから、そこから自身で組み上げて、レースでオブリビオンを打倒しなければならない。
「私には、その……どういうものがいいのか皆目検討もつきませんが……この色合は素敵ですね。走らせて遊ぶものなのでしょうが、飾っておくのも楽しいですね?」
 何処か懐かしさを感じさせる玩具にナイアルテは微笑み、けれど、突如としてモータースイッチが入り、駆動したタイヤに驚いて取り落してしまった。

 猛烈なスピードで走り去る『ハチヨン』は、まるで転移を急かしているようであった――。


海鶴
 マスターの海鶴です。

 ※これは1章構成の『大祓百鬼夜行』の戦争シナリオとなります。

 目的も用途も不明な建造物、超芸術トマソンを玩具のレース会場へと変えたオブリビオン『狐狸』つかさとの勝負に挑み、強力なオブリビオンである彼女を倒しましょう。
 自らの生命を顧みず、猟兵達にオブリビオン・フォーミュラ『大祓骸魂』の所在を知らせようとした妖怪のみんなを助けるため、レース開始です。

 オブリビオン『狐狸』つかさは強力な敵であり、彼女もまたユーベルコードで猟兵のマシンを妨害してきます。
 これにみなさんもユーベルコードを駆使して対抗することが有効です。
 このレースに勝つことで、オブリビオンは打倒され、飲み込まれていた妖怪は救出されるでしょう。

 またこのシナリオに限り、皆さんのユーベルコードは懐かしの玩具『疾走疾駆ハチヨン駆』、通称『ハチヨン』から出ます。
 マシンは何故か所持していた自前のマシンでも構いませんし、トマソンに山積していた玩具の中からパーツやらなんやらを組み合わせて即席で作り出しても構いません。
 マシン名もあるとレースが楽しくなりそうですね。

 ※このシナリオには特別なプレイングボーナスがあります。これに基づく行動をすると有利になります。

 プレイングボーナス……子供を救出し、代わりに懐かし遊びを受けて立つ。

 それでは、大祓百鬼夜行を阻止する皆さんの物語の一片となれますよう、いっぱいがんばります!
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第1章 ボス戦 『『狐狸』つかさ』

POW   :    どろどろどろん!
戦闘力が増加する【巨大なダイダラボッチ】、飛翔力が増加する【上に攻撃力も高い鎌鼬】、驚かせ力が増加する【百面相をする釣瓶落とし】のいずれかに変身する。
SPD   :    化術大迷宮
戦場全体に、【トラップ満載の、化術で変化した自分自身】で出来た迷路を作り出す。迷路はかなりの硬度を持ち、出口はひとつしかない。
WIZ   :    三種の妖器
【宝珠の力による不動の呪い】【巻物から発動した幻術】【瓢箪から吹き出た毒霧】を対象に放ち、命中した対象の攻撃力を減らす。全て命中するとユーベルコードを封じる。

イラスト:麦島

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠天御鏡・百々です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 超芸術トマソン、それは無用の長物が重なり合った、複雑怪奇な構造物。
 其処は今やレース会場。
 様々な障害が君を待ち受ける。
「殺人バンクに、猛烈急カーブ、コースアウト必至のジャンプ台、ショックウェーブ、まあ、なんでもありだコンな!」

 さらにはオブリビオン『狐狸』つかさのユーベルコードが猟兵を襲う。
 だが、猟兵にだって自慢のマシンとユーベルコードがあるのだ。これしきのことで諦められては居られない。
「こんこん! お前たちの自慢のマシンは私のフォックスラクーンXが叩き潰してやるコンぽーん!」
 黒と黄色のカラーリングのマシンをレースにセットし、『狐狸』つかさは笑う。楽しくて楽しくて仕方がないといった様子だ。

 さあ、レースのはじまりだ。
 子どもたちが見守る中、猟兵たちは『狐狸』つかさの『フォックスラクーンX』に果たして勝利することができるのか。
 今、運命のシグナルが灯る――!
神代・凶津
おっと待ちなッ!ガキ共の代わりに俺達がハチヨンで相手してやるぜッ!
相棒の小さい頃、オモチャ屋で安売りしてたから買って遊んだもんよ。
だから押し入れから引っ張り出してきたぜ。相棒の自慢のカスタムマシン『桜花マグナム』ッ!(桜色の所々に鈴が付いたハチヨン。ローラーやタイヤ、モーターなどが良いものに交換されている正統派改造)
「・・・ッ!?な、何そんな懐かしい物を持ってきてんですか!?」

レーススタートだ。ブッチぎってやるぜッ!

ちい、敵が三種の妖器を放ってきやがった。ならこっちもッ!
「・・・千刃桜花。」
(マシンの鈴が破魔の桜の刃に変わる)
これで妖器を斬り刻んで浄化してやるぜッ!


【アドリブ歓迎】



 複雑怪奇なレース会場と化した超芸術トマソン。
 それは無用の長物、目的不明の建造物が積み重なり、つながり、一種のレースコースのようにも見えなくはない姿へと変貌していた。
 そう、今宵、此処で行われるのは『ハチヨンレース』である。
『ハチヨン』とは言うまでもなく、かつて一世を風靡した子供向け玩具である。当時は子供ばかりか大人まで夢中になった玩具であるが、時の流れは残酷である。

 四輪駆動の車の玩具は忘れ去れかけ、当時子供だった者たちはおとなになり、懐かしむ程度である。
 そして、今の子供らには馴染みのないものであり、オブリビオン『狐狸』つかさが勝負をふっかけても、それらを組み立てることすら敵わないのだ。
 レース開始までにマシンを組み上げられなければ、自動的に失格。そして敗北が決まってしまう。
 そうなれば、子供らはオブリビオンに食べられてしまうのだ。
「コンコン! 今どきの子供らはマシンを組み上げられないポンポコ! コンコン! これでお腹いっぱい子どもたちを食べられるポン!」
『狐狸』つかさは、元は妖狐の少女である。
 彼女は子供らと遊びたいという気持ちはあれど、食べたいとは思わない。それはオブリビオン化して歪められた思いである。

「さぁ~て、レース開始ぽん! 組み立てられなかった子たちは約束通り食べさせて――……」
『おっと待ちなッ!』
 しかし、その大口は既のところで止まる。
 シグナルが点灯する直前、食べられそうになっていた子供らを救ったのは、赤い鬼面をかぶった巫女服姿の少女であった。

 そう、我等がヒーローマスク神代・凶津(謎の仮面と旅する巫女・f11808)と、その相棒である桜であった。
 彼等は子供らを小脇に抱え、下ろして手にしたマシンを掲げる。
「猟兵ぽん! ずっこいぽん!その子は私がばっくりまるっとまるかじりするつもりだったのに!」
『ガキ共の代わりに俺たちが『ハチヨン』で相手してやるぜッ!』
 そういって掲げたのは、カスタムされたマシンである。
 ローラーやタイヤ、モーターなどは正統派のバランス型。
 そして、特筆すべきは、そのカウルである。
 桜色のカウルに所々鈴が取り付けられたマシン。

 その名も――!

『桜花マグナムッ!』
 こいつで勝負だッ! と凶津が叫ぶ。
 それは爆音を轟かせるほどの声量であり、相棒である桜は驚愕する。
 そう、そのマシンはかつて幼き頃に玩具屋で安売りしていたマシンだ。それを買って遊んだ記憶が蘇る。
 女の子であるが、だからこそ映える改造というものがある。
 幼い日にカウルを塗装し、精一杯可愛らしくデコレーションした思い出が次々と桜の脳裏に浮かぶ。
 
 だが、まあ保護者兼相棒の凶津が男の子らしい改造パーツをつけてすったもんだの可愛い喧嘩もあったことだろう。
「……ッ!? な、何そんな懐かしいものを持ってきてんですか!?」
 そんな思い出のフラッシュバックと共に桜が叫ぶ。
 ある意味で思い出したいような、思い出したくないような、微妙に気恥ずかしさが勝る記憶に慌てるのだ。
 だが、シグナルは無情に点灯し、レースがスタートする。

「こんこん! ならば、勝負コン! 私の『フォックスラクーンX』でぶっちぎってやるこん!」
 三種の妖器から放たれた幻影と毒霧が二人を包む。
 そして、スタートダッシュを遅らせた卑怯なるユーベルコードで『桜花マグナム』は『フォックスラクーンX』に遅れをとってしまう。
 だが、凶津たちのマシンはこの程度で破壊されるヤワなマシンではないのだ!

『ちぃッ、ならこっちもッ!』
「……千刃桜花(センジンオウカ)」
 放たれる凶津たちのユーベルコードは、『桜花マグナム』の鈴が破魔の刃となって放たれ、花弁のように旋風を巻き起こしながら毒霧や幻術を切り裂いて最初のストレートコースをぶっちぎっていく。
「コン!?」
 その速度はまさにマグナム!
 桜花嵐のような花弁を撒き散らしながら、最初のストレートを爆進する『桜花マグナム』はまさに神速!

『ブッチぎってやるぜッ! その程度の妖器、切り刻んで浄化してやるぜッ!』
 二人は思い出したことだろう。
 形は違うし、レースコースも違う。
 けれど、二人の視線が追いかけるマシンの輝きを。それは幼き日に見た、楽しい思い出。今は少し気恥ずかしいものであるけれど、二人で追いかけたあの日の思い出は、オブリビオンのマシンなどには決して負けることなく、『フォックスラクーンX』を凄まじい勢いで追い抜いてゴールを目指すのだった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

村崎・ゆかり
んー、いかにも男の子が好きそうな玩具ね。あたしの趣味じゃないけど、仕方ないか。
南下マシンもパーツも色々ある。
こういうの、あの子が喜びそうよね。羅睺召喚。これ、どうやってカスタムすればいいか。教えてくれる?

――よし完成。『パープルヘイズ』、レースにエントリーよ。
白いボディに紫のラインが入った、『迦利』と同系統のカラーリングね。
カーブで脱線しないことを重視したカスタムを加えて、基本的に全速力で突っ走る車。
『フォックスラクーンX』に妨害されたら、「道術」の方術『空遁の法』で転移して先へショートカットさせてもらうわ。

これはこれで、やり出すと熱が籠もるわね。
帰ったらちょっと研究してみようかしら。



 子供向け玩具と言えど、四輪駆動は本格的な作りをしている。
 プラスチックの車体。
 モーターを乗せ、電池をセット。ギアが回転し、シャフトから動力が伝えられてタイヤが回転する。
 その速度は確かに凄まじいものであり、速さ=すごい、という本能が男の子たちの、少年たちの心を揺さぶったのだろう。
 そうやって『疾走疾駆ハチヨン駆』は瞬く間にUDCアースに席巻したのだ。
 だが、悲しいかな。
 流行とは常に移り変わるものである。どれだけ隆盛を極めたのだとしても、必ず零落がはじまるものである。

 久しく忘れられたマシンたちは、活躍の再起を今か今かと超芸術トマソンの集合体である複雑怪奇なレースコースへの思いをいだき続けていたのだ。
 なにげなく、村崎・ゆかり(《紫蘭(パープリッシュ・オーキッド)》/黒鴉遣い・f01658)は山積されていたパーツを掴んで眺めていた。
「んー、いかにも男の子が好きそうな玩具ね。あたしの趣味じゃないんだけど、仕方ないか」
 これも『大祓百鬼夜行』の戦いに勝利するためである。
 強力なオブリビオンである『狐狸』つかさを打倒するためには、遊び勝負で打倒することのほうが有効なのだ。
 レースまでの時間は残り少ない。
 ならば、とゆかりは山積したパーツをみやり、己の式神である羅睺を召喚する。

 ゆかりではわからないことも、この式神ならば理解できるだろう。
 こういうのを喜びそうな式神なのだ。
「ね、これどうやってカスタムすればいいか教えてくれる?」
 羅睺の瞳が輝き、あれやこれやとパーツを選りすぐっていく。ゆかりにとっては、まるでわからないことだけれど、教えてもらいながらパーツを組み上げていくのは、やっぱり熱がこもるものである。
 組み上がった白いボディに紫のラインの入った、己のキャバリアと同じカラーリングのマシンは、愛着が湧くというものである。

「――よし完成。『パープルヘイズ』、レースにエントリーよ」
 丁度レース開始のシグナルが点灯する。
 急ぎゆかりはスタートを決め、『狐狸』つかさのマシン『フォックスラクーンX』に追いすがる。
「こんこん! 私のマシンに追いつこうなんて、百億年早いコン! はいドロン!」
『狐狸』つかさが化術によって、自分自身を迷宮へと変える。
 それはこの複雑怪奇な超芸術トマソンのコースをさらに難解な難所へと変えていくのだ。

 しかし、ゆかりもさるものである。
「現世の裏に無我の境地あり。虚実一如。空の一心によりて、我が身あらゆる障害を越えるものなり。疾っ!」
 自分を囲む空間を切り取り、転移する方術『空遁の法』(ホウジュツ・クウトンノホウ)によって、ゆかりは己のマシン『パープルヘイズ』を『狐狸』つかさの生み出した迷路のようなコースをショートカットするのだ。
「あ、ずっこいぽん! なにそれ、そんなショートカット私しらないコン!」
 えぇ!? と驚愕に見開かれる瞳。
 だってそうだろう。敵マシンを妨害しようとしたら、いきなり姿が消えてショートカットしているのだ。

 裏技とかそんなちゃちなレベルではない。
 さらに複雑怪奇なコースを『パープルヘイズ』はカーブを脱線しないことに重きをおいたカスタムで難なくコーナリングを決めていく。
 基本的に全速力、フルスロットルで速度を出す『ハチヨン駆』は、こういう難解なコースにおいては、やはりコースアウトを懸念するものだ。
 故に羅睺のアドバイス通り、コーナリングを重視したカスタムで正解であったのだ。
「そっちだって、自分をコースにするなんて反則でしょ! お互い様よ、それじゃ、お先に」

 ゆかりはいつのまにか自分の趣味じゃないと言っていた言葉を否定するように楽しげに笑いながら、『フォックスラクーンX』を後方に置いて、レースコースをぶっちぎっていくのだった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

水元・芙実
うーん、こういう小さな車をモーターで走らせる趣味があるってのは聞いたことあるわ。
でも先ずはコースを下見する方が先ね。
先にコースの情報収集しながらそれに合ったマシンを作るわ。

多分コース自体はカーブやギミックが多そうな感じだから、先ずはコースアウトしにくい設計ね、速度よりは安定性。
ただ重くし過ぎるとバッテリーの消耗が早いから、コース全長の把握は必須。必要な速度から逆算してバッテリーとモーターを選ぶわ。

レースが始まったらあちらの妨害も始まるだろうから、先読みして妨害を妨害するわ。
あなたは自分のマシンに自信がないのね?
なら私が作ったものが負けるわけがない!

勝つことよりも負かす事を優先したら勝てないわ!



 世の中には流行り廃りがある。
 当然のことであるが、忘れ去られ人々の記憶から喪われていくもののほうが多いだろう。
 カクリヨファンタズムは、そういった忘れ去られた思い出が行く着く場所でもあったのだ。
 目の前に広がる無用の長物と無目的な構造物が重なり合った超芸術とも言うべき、トマソンの集合体は男子向け玩具『疾走疾駆ハチヨン駆』のレースコースへと変貌を遂げていた。
 シグナルが点灯するまでに猟兵たちは己のマシンを組み上げるか、もしくは自前のマシンを用意しなければならない。

「うーん、こういう小さな車をモーターでは知らせる趣味があるってのは聞いたことあるわ」
 山積したパーツを手にとって、眺めていたのは水元・芙実(スーパーケミカリスト・ヨーコ・f18176)であった。
 彼女は狐耳を動かし、超芸術トマソンのレースコースを下見する。
 まずはコースの下見をして、レースコースの特性にあったマシンを組み上げることが、確実にオブリビオン『狐狸』つかさに勝つための方策であると彼女は導き出したのだ。

 そして、それは大方の予想通り正しいことであった。
 無用の長物、無目的な構造物の重なり合うコースは複雑怪奇。まっとうなレースコースを想像していたのならば、即座にクラッシュアウトかコースアウトまっしぐらである。
「コース自体はカーブやギミックが多いだろうって思っていたけど、バンクに隠しコース、ショートカット上等のアクロバティックな設計……ほんとまともじゃないコース設計ね……」
 意図してそうしたわけではない、方向性の定まらぬコース。
 これを初見でコースアウトなしで走破しろというのが無理な話だ。芙実は一通りコースチェックを終えて、パーツを手にとって己のマシンを組み上げていく。

「まずはコースアウトしにくい設計ね。速度より安定性よ。でも重くしすぎるとバッテリーの消耗が激しいから……」
 そうこうしている間にレース開始のシグナルが点灯する。
 完成したばかりのマシンを手に、芙実はレースに走り出す。他の猟兵たちもそうであったが、『狐狸』つかさのマシン『フォックスラクーンX』はユーベルコードに寄る妨害を行ってくる。

 スタートを決めて走り出した芙実のマシンは、『フォックスラクーンX』の背にぴったりと着く。
 どうせ妨害してくるのはわかっているのだ。ならば、先読みして妨害の妨害をするのだ。
「あなたは自分のマシンに自身がないのね?」
「はー!? ありますけど!? 自信ありまくりで困っちゃうくらいあるポンぽこ!?」
 芙実の物言いにカチンと来たのだろう。『狐狸』つかさは、煽られ散らかしている。それは先行した猟兵達が彼女のユーベルコードをあっさりと乗り越えてぶっちぎっていったからに他ならない。
 これ以上自分の前に行かせぬと、彼女は躍起になっていたのだ。

「なら、私が作ったものが負けるわけがない!」
 そう、芙実のマシンはコースの全長を把握し、綿密に計算され尽くしたセッティングで安定性抜群なのだ。
 妨害さえも織り込み済みであり、ユーベルコードを前提とした情報科学について(オーバード・データサイエンス)彼女は、『狐狸』つかさの行動をしっかりと予測していたのだ。

 つまり、自分より先に行かせぬために『だいだらぼっち』で自分のマシンを巨大化し、コースを塞ごうとするだろう。
 ならばこそ、下見をしていたコースのギミック、ジャンプ台が役に立つのだ。
 コーナーリングを曲がった瞬間に、そこにスイッチがあることを芙実は知っている。ローラーがカチン! と音を立て、コースのスイッチを押し込んだ瞬間、巨大化した『フォックスラクーンX』の頭上を軽やかに、されど弾丸のような速度で芙実のマシンが飛び越えていくのだ。

「なにー!? なんでそんなとこにジャンプ台が!?」
 しかも、『フォックスラクーンX』が巨大化したせいで、彼女のマシンは慢性的なバッテリー不足が懸念されるだろう。
「勝つことよりも負かすことを優先したら勝てないわ!」
 全部計算づくなのだと、芙実は勝ち誇りながら、マシンと共に『狐狸』つかさを躱し、ゴールへと一直線に走り抜けるのであった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

百鬼・智夢
四駆…遊んだ事はないですが、協力してもらえば大丈夫な筈、です…きっと

★リアムの力で善霊達を呼び出し霊障で組み立てを手伝ってもらいます
男性が…詳しいんでしょうか
【降霊】術でよりお詳しい方を呼び寄せます

赤と黒がベースのマシンを組み上げたら霊を取り憑かせます
名前…え、と……は…ハチ……?

基本的にはこちらで操作しますが…私の目だけでは罠を捌ききれないから
マシンに【オーラ防御】を張り
危険を感じたらリモコンの信号も無視して自走してください
一応…オーラには私が【破魔】を乗せておきます

なんでもありで…いいんですね?
では、失礼します

つかささんには【指定UC】で不幸をお渡しします
ミスの誘発を狙い有利に進めますね



 その言葉の響きの通り『疾走疾駆ハチヨン駆』は男児向けの玩具である。
 ならばこそ、女性にとってはあまり馴染みのないものであったのもまた道理であろう。
 知らない。遊んだことがない。
 しかし、それは些細な問題なのだ。どんな趣味にも、どんな遊びにも性差はあまり重要なことではない。
 問題なのは、それを楽しめるか否かである。
 だからこそ、百鬼・智夢(慈愛の巫女・f20354)は抱えたテディベア『リアム』を抱きしめる。そのテディベアの瞳が青く輝き、呼び出された善霊たちの霊障でもってマシンの組み立てを手伝ってもらうのだ。
「こういうもので遊んだことはないですが……ありがとう。協力してもらえば大丈夫、です……きっと」

 彼女が山積していたパーツを手に取ると呼び出された善霊たちが、ああでもないこうでもないとマシンをカスタマイズしていく。
 男性の善霊のほうがこういうのは向いているのかもしれない。
 詳しい霊を呼び寄せることができたのは、彼女の降霊術があってのことだろう。
 その霊は嘗て『ハチヨンファイター』と呼ばれる『ハチヨン駆』のインストラクターを勤めていた男性霊でった。

「これで完成……?」
 赤と黒がベースのカウルが装着され、セッティングが済んだマシンを智夢が見つめる。
 掌に乗ったマシンは電池の重量もあってか、ずっしりとした感触を彼女の掌に伝えただろう。
「名前……え、と……は……ハチ……?」
 自信なさげに呟いているのは、きっとそういう名前の付け方でよかったのかという戸惑いもあったのだろう。
『ハチヨン駆』だから略してハチ。そういう名前の付け方だってあっていい。誰が否定できようか。
 名前をつければ愛着が湧く。きっと『ハチ』と名付けられたマシンもまた応えてくれるはずだ。

 レーススタートのシグナルが鳴り響き、レースが開始される。
 智夢と共に走り出す赤と黒のカラーリングのマシン『ハチ』。智夢の操作で危なげなくレースをこなしていく。
 他の猟兵たちと『狐狸』つかさのユーベルコードの応酬に巻き込まれないように安定した走りを見せるのは、やはり女性ならではの細やかな気配りがあったからだろうか。
「ぽんぽこコーン! しゃらくさい猟兵たちは皆呪いにかかってしまえばいいコン! なんでもアリがこの『ハチヨン』レースの醍醐味ぽん!」
『狐狸』つかさのユーベルコードに寄って、視界を覆う毒霧や幻術。さらには宝珠の力でもってマシンのタイヤが止まる。

 けれど、智夢のオーラがそれをさせない。何故なら彼女はすでに、黄泉への入り口(ヨミヘノイリグチ)を開いている。
 触れたものにあらゆる不幸を齎すオーラを纏う幽霊を乗せた幽霊バスと無数の悪霊が住まう幽霊トンネルを『狐狸』つかさの前に展開していたのだ。
「貴方ならきっと歓迎されるわ…このトンネルの先、黄泉の世界で」
 彼女の瞳はユーベルコードに輝き、そして見ていただろう。
 降霊術によってマシンに憑依した『ハチヨンファイター』が視界を覆われてもマシンを操作し、罠という罠を躱していくのだ。

「それずっこいコン!? っていうか、え、このトンネルってもしかしてポン!?」
 そう、『狐狸』つかさのマシン『フォックスラクーンX』だけが智夢のユーベルコードの生み出した幽霊トンネルへと突入する。
 そこは不可思議な不幸がもたらされ、いつのまにか逆走するし、止まったかと思えば、つかさの手を逃れるようにあちこちに走り回る始末。
 逆に『ハチ』は智夢の想いに応えるように好走を続ける。
 不幸に見舞われることなく、順当に順位を上げていくのだ。

「なんでこんなことに――!? 私の『フォックスラクーンX』が!!」
「なんでもありで……いいんですよね? では、失礼します」
 慌てふためく『狐狸』つかさの横を智夢は一礼してから駆けていく。
 少しばかり楽しくなってきたかもしれない。智夢と降霊した『ハチヨンファイター』はハイタッチをして、ゴールへとひた走るのであった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

劉・涼鈴
四駆のオモチャでバトルだ!

自前で持ってるやつを使うよ! 最高速度に特化したカスタム!
AIで自律走行もできるけど、レギュレーション的に今回は外しておくね!
行ッけー! インフィニティ・ブレイカー!!

【ダッシュ】でぎゅぃーん!! 私も走って追っかける!!
敵がトラップに化けて妨害が仕掛けられたら、【身外身法】で分身して対処するぞ! 890人いるんだ、そうそう抜けられないぞ!
【怪力】で方天戟をぶん回して【なぎ払う】! 邪魔すんなー!

【ジャンプ】台から思いっ切りカッ飛んでショートカット(地形の利用)だ! かっとべブレイカー!!



 懐かしの玩具『疾走疾駆ハチヨン駆』。
 その思い出を持っているのならば、きっと猟兵であっても相棒とも言うべきマシンを持っていることだろう。
 そう、キャッチフレーズは『四駆のオモチでバトルだ!』であった。
 故に、劉・涼鈴(鉄拳公主・f08865)もまた『ハチヨンファイター』の一人でもあったことだろう。
 思い出せば、数々のレースを彼女は自前のマシンで走り抜けてきたのだ。

 この無用の長物、無目的な建造物が重なる『ハチヨンレース』のコースにおいても、これまで培ってきたファイターとしての勘は衰えることあなかった。
「最高速度に特化したカスタム! AIで自律走行もできるけど、レギュレーション的に今回は外しておくね!」
 なんでもありな『ハチヨン駆』であるが、レギュレーションがあるのならば、それに従わなければならない。
 とは言え、今回は『大祓百鬼夜行』である。
 そういうレギュレーションを無視して、オブリビオン『狐狸』つかさのマシン『フォックスラクーンX』をぶっちぎってもかまわないのだが、涼鈴の拳法家としての矜持がそれを許さない。

 いつだって正々堂々と敵を打ち破ってこそ、劉家拳伝承者である。
 レース開始のシグナルを前に、涼鈴はスタートダッシュを決める。いち早く抜け出したが、他の猟兵たちやオブリビオンの乱戦に巻き込まれてしまう。
 けれど、それでも体勢を立て直し、一気にマシンは最高速度に達する。
「色々妨害受けてたら、いつのまにか最後尾コン! かくなる上は!」
『狐狸』つかさの身体が化術によって分身し、様々な障害物へと姿を変える。悪辣な罠に化けた彼女は、もはやコース上の障害物そのものと言ってよかったことだろう。

「ワハハ! これで猟兵のマシンは通さないコン!」
 だが、妨害のユーベルコードが使われることなど百も承知である。
「レギュレーションを守らないなら、お仕置きだ!」
 涼鈴がマシンよりも早く一気に駆け込み、迷宮とかした障害物コースへと殴り込む。その瞳がユーベルコードに輝いたのを『狐狸』つかさは見ただろう。
 え、もしかして……。

「分身の術ッ!! 邪魔すんなー!」
 身外身法(シンガイシンポウ)によって890人の涼鈴が飛び出す。怪力で方天戟をぶん回して、一斉に障害物という障害物を薙ぎ払っていくのだ。
 その大集団を前に、『狐狸』つかさの化術が保つわけなどないのだ。盛大に吹き飛ばされながら、次々と障害を突破していく。
「そんな実力行使、力技なんてずるいコンー!?」
 障害物で走行を邪魔しようとしたオブリビオンが言うセリフではない。
 けれど、890人の涼鈴に蹂躙される姿を見ていると、なんとも哀れというか、憐憫の情が浮かぶのまた仕方のないことであったことだろう。
「行ッけー! インフィニティ・ブレイカー!!」

 叫ぶ涼鈴の声にAIを外していたとしても相棒であるマシン『インフィニティ・ブレイカー』は応えるのだ。
 どれだけの時間を共に遊んできただろう。
 その思い出がマシンの性能を引き出し、奇跡としか思えない速度を一気にはじき出すのだ。
 ジャンプ台を勢いよく走り抜けた『インフィニティ・ブレイカー』が風のオーラを纏うように凄まじい速度で空へと舞い飛ぶ。

「かっとべブレイカー!!」
 それはどんな力が立ちふさがろうとも壊して進む、そんな勢いのある走りっぷりであったことだろう。
 涼鈴と『インフィニティ・ブレイカー』は、『狐狸』つかさの『フォックスラクーンX』の齎す障害など物ともせずに、圧倒的な速度で走り抜けるのであった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ルリララ・ウェイバース
互いを姉妹と認識する四重人格
末妹で主人格のルリララ以外序列なし
キャバリア、アルアニマの愛称はアル

モーターがないような世界出身
「うん。分からないね。オモチャさん教えて~♪」
精霊懇願を使用
『ララ、それだけじゃ足りないわよ』
「ルリ姉の言うこともも最もだ。アルも手伝ってくれ」
パーツの声やアルの力を借りて組み上げる
「よし。お前は鹿を意味する故郷の言葉でアリエッティだ」

レースも精霊懇願。多分、加速とか曲がってくれる
「アリエッティ、いっけぇ」(リラ)
「こうなったら最後の手段だ」
組み立て中に【魔力溜め】で込めた魔力を解放
『雷さん、お願い、アリエッティに力を貸して♪』



 猟兵たちは数多ある世界を渡り歩く者たちである。
 生命の埒外にある存在であるが故に、それを可能とするのであろうし、また様々な種族や生い立ちを者がいる。
 ルリララ・ウェイバース(スパイラルホーン・f01510)もまたその一人であった
 精霊信仰の族長の娘であり巫女であった彼女には、複数の人格を姉妹として認識していた。
 ルリララとは彼女の主人格であり、その他にルリ、リラ、ララと言ったように複数の人格を保つ猟兵である。

 そんな彼女たちの出身世界はそもそもモーターという概念がない。
 ならばこそ、モータと電池、ギアで駆動する『ハチヨン駆』は奇異なる物体に見えたことだろう。
 それ以上に奇怪であったのは無用の長物、無目的な構造物が重なり合った超芸術トマソンを『ハチヨンレース』のコースにした、目の前に広がる光景であった。
 山積した『ハチヨン』のパーツやシャーシ、カウルなどを手にとって見るが、まるで理解が及ばない。
「うん。わからないね……」

 けれど、心配することはない。彼女たちには精霊がついている。彼女の願いは精霊たちに届けられ、精霊懇願(エレメンタル・リクエスト)を聞き届けた精霊たちが彼女たちに友好的に働いてくれるのだ。
 マシンを組み上げることから始めねばならず、キャバリアである『アルアニマ』もまた手伝ってくれる。
『ララ、それだけじゃ足りないわよ』
「ルリ姉の言うことも最もだ。アル、そのパーツが必要だ」
 精霊たちがパーツにやどり、マシンに最適なセッティングとカスタマイズを施していく。

 徐々に組み上がっていくマシンを見ていると、名前をつけなければという思いが浮かび上がってくるだろう。
 きっとこのマシンも名を欲している。
 精霊たちの声ではなく、直感で彼女たちはそう感じたのだろう。
「よし。お前は鹿を意味する故郷の言葉で『アリエッティ』だ。よろしく頼むぞ。さあ、レースの開始だ!」
 組み上がったばかりのマシン『アリエッティ』と共にルリララたちはシグナルが点灯するスタート地点へと駆け込む。
 ギリギリであったが、なんとか滑り込みセーフである。

 一斉に駆け出すマシンと猟兵、そしてオブリビオン『狐狸』つかさ。
『フォックスラクーンX』は出だしこそは快調であったが、猟兵たちの走行を邪魔するためにユーベルコードを放った辺りから、彼女のマシンの順位はまるで因果応報のように下がっていく。
 逆走したり、あっさり追い抜かれたりと散々である。
「『アリエッティ』、いっけぇ!」
 リラの声が無邪気に響き渡る。彼女たちのマシンは、その名の通り、鹿のような軽やかさで複雑怪奇なコースを走破していくのだ。

「ああ、もう! こんなにたくさん追いつかれるとは思っていなかったぽん! けど、喰らえ! 毒霧と幻術! あとは宝珠の呪い! フルコースだコン!」
『狐狸』つかさの放つユーベルコードがルリララのマシン『アリエッティ』を襲う。
 三つの妨害が一斉に遅いくれば、流石にマシンも保たない。
 けれど、この遊び勝負に負けてしまえば、子どもたちが食べられてしまう。

 そんなことは許してはおけない。
 だからこそ、ルリララの人格はこころを一つにする。組み立てていく段階で込めた思いは、魔力となってマシンに宿っている。
「こうなったら最後の手段だ」
 彼女たちのマシン『アリエッティ』は必ず応えてくれる。
 不動の呪いが飛び込んでくる。
 鹿の名の通り、毒霧と幻惑の術は躱すことができたが、不動の呪いを受けてしまえば、タイヤが止まってしまう。
 少しのロスだって今は惜しいのだ。

 その瞬間、ルリララたちは願ったのだ。
『雷さん、お願い、『アリエッティ』に力を貸して♪」
 真摯なる願いは、組み立てている最中に込められた魔力と呼応して、『アリエッティ』の車体を雷の魔力で包み込む。
 それは『狐狸』つかさのユーベルコードの呪いなど弾き飛ばし、これまで以上に『アリエッティ』を自由自在なるステップを踏むように跳ねさせ、一気に『フォックスラクーンX』の車体の上を飛び越えていくのだ。

 それはまさに彼女たちの願いに応えた結果であったことだろう。
 ユーベルコードで他者を妨害し、貶めようとする『狐狸』つかさの目論見など通用しないと知らしめるように、ルリララと『アリエッティ』は一気に駆け抜けていくであった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

臥龍岡・群青
車の玩具か
結構本格的だな……これ本当にわしでも動かせるんだろうか?
コースもなんかえっぐいな……
だが気後れしてばかりもおられん
さて、どうしたものか

こうなったら気合いだ
竜神としての気迫にハチヨン駆が応えると信じカスタムしていこう
わしがハチヨンを理解できずとも、ハチヨンの方が友好的に接してくれれば必ず……!
お前の名前は『大飛燕号』!
群青色に塗ってな。こう、船っぽいイメージだ!

カスタムした大飛燕号を片手にいざ勝負
確かにこれ白熱するのが分かる……楽しいぞ!
相手の呪いの妨害は背中の聖痕で祈り、浄化しよう
そういうの野暮ではないか!

これ、勝ったら大飛燕号は持ち帰ってもいいのだろうか
部屋に飾りたいなぁ……



 たかが玩具と侮ることなかれ。
 それが『疾走疾駆ハチヨン駆』である。様々なパーツでアップグレードできることはもちろん、カスタマイズで自分だけの『ハチヨン』を組み上げ、レースに出ることは、当時の少年たちの憧れでありステータスでもあったのだ。
 しかし、時の流れは無情である。
 流行が過ぎ去ってしまえば忘れ去られてしまうのが常である。
 全てが忘れ去られるわけではないけれど、それでもあの時の熱狂渦巻く興奮は人々から喪われていく。

 そうしたものの残滓が、今、無用の長物、無目的な構造物の集合体である超芸術トマソンに集まっていた。
 山積していたパーツを手に取り、臥龍岡・群青(狂瀾怒濤・f30803)は荒ぶる竜の神としてというよりも、一人の猟兵として興味深げに『ハチヨン駆』を見つめていた。
「車の玩具か。結構本格的だな……これ本当にわしでも動かせるんだろうか?」
 その言葉に応えるように手にしたマシンがタイヤを回転させる。
 おお、と群青が驚くと気を良くしたようにモーターが唸りをあげる。
 なるほど、群青はうなずく。

 確かに彼女は『ハチヨン駆』のなんたるかを知らない。
 けれど、彼女の竜神としての気迫に『ハチヨン駆』が応えると知る。それが竜神、神としての彼女の権能であろう。
「さあ、共に征くぞ。竜神様のマシンとして、そこのけそこのけ、『ハチヨン駆』が通る!」
 彼女のユーベルコード、白砂青松(ハクシャセイショウ)は、竜神としての覇気に触れた物体、生物を問わず、全てが彼女に友好的に為る。
 無論、『ハチヨン駆』であっても例外はない。
 カスタマイズを加えていく内に徐々に愛着が湧いてくる。玩具だとわかっていても、心に去来するものが在るのだろう。

 これが、嘗て少年たちの心を掴んで離さなかったものなのだと彼女は理解したかもしれない。
「お前の名前は『大飛燕号』!」
 群青は自身の名と同じカラーリングにカウルを塗り分け、船のような外装を持って空に掲げる。
 これで完成! となると心が踊るのだ。

 シグナルが点灯し、レースが開始される。
 他の猟兵たちとオブリビオン『狐狸』つかさとのユーベルコードを使った妨害と、妨害をさせぬと攻防が続く。
 その横をすり抜けようと走る『大飛燕号』の速度は上々だ。
 群青も共に疾走っているが、とても楽しい。これは本当に楽しいと、うきうきしたように胸が高鳴る。
「確かにこれ白熱するのが分かる……楽しいぞ!」
「でも勝負は非常なりコン! というわけで喰らえ、毒霧攻撃ー!」
『狐狸』つかさのはなったユーベルコードから幻惑と毒霧、そして不動の呪いが『大飛燕号』に飛ぶ。

 けれど、そんなもの群青と『大飛燕号』には通用しない。
「そういうの野暮ではないか!」
 一括するように群青が叫ぶと、彼女の背に負った聖痕が祈りとともに幻惑と毒霧、そして呪いを一瞬で浄化せしめるのだ。
 えぇ!? と『狐狸』つかさが驚愕する。
 まさかの一瞬でユーベルコードを無効化されたのだ。何故、と思う暇もなく『大飛燕号』がジャンプ台とコーナーを利用して宙に飛ぶ。
 正しく飛燕のように、そらとぶ船のように大胆にコースをショートカットして『狐狸』つかさの『フォックスラクーンX』を引き離すのだ。

 そう、まさに群青が『大飛燕号』を信じたように、それに『大飛燕号』が応えたのだ。
 なんということだろうか。
 心が震え、燃え上がるような感覚を群青は覚え、その見事な走りをするマシンを追いかける。
 ああ、と思うのだ。
 本当に心から思う。
「これ、勝ったら『大飛燕号』は持ち帰ってもいいのだろうか。部屋に飾りたいなぁ……」

 神とマシン。
 二つの間にある絆は、きっとこの戦いが終わった後でも色褪せることなく、きっと傍に在り続けることだろう。
 群青はたしかにそれを感じながら、ゴールを目指すのであった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

メイスン・ドットハック
【SPD】
四輪駆動の玩具かのー、つまりはレースじゃのー
まー、勝てばよかろうじゃし、チートもやむなしじゃのー?

UC「蛙は大海を知り、空の蒼さを知る」を発動し、ドクトル・アメジストを召喚
二人の電脳魔術士がやることは、電脳魔術製のチート性能のハチヨン「ロストリンク」の精製
外見は揚陸艦ロストリンクに車輪がついたものだが、雷を纏って超加速・稲妻のような切り返し・さらには放電でコースアウトさせると、チートだらけのマシン
これで情け容赦なく勝負を挑む

『いや、子供の遊びでこれはどうなんだい?』
勝てばよかろうなんじゃ、勝てばのー

トラップも雷で潰し、逆に相手を涙目にさせるレース展開を狙う
このクリスタリアン、容赦せん



 ふんふんふん、とうなずく声が超芸術トマソンの集積地たる『ハチヨン駆レース』のコースから聞こえてくる。
 何やら山積した『ハチヨン駆』のパーツを手に取り、うなずいている影があった。
 その影は特徴的なものであり、よく知る者は一発で影が何者かを理解しただろう。
 アメジストのクリスタリアである、メイスン・ドットハック(ウィザード級ハッカー(引き籠り)・f03092)は手にした『ハチヨン駆』のマシンをみやる。
「四輪駆動の玩具かのー、つまりはレースじゃのー」
 オブリビオン『狐狸』つかさは、子供らと遊びたいという気持ちを歪められ、子供らを喰らいたいと願った。

 懐かしの玩具『ハチヨン駆』レースでの勝負に負ければ、食べられてしまうという枷ができたのは、元となった妖狐の少女の抵抗であったのかもしれない。
 ならばこそ、このレースは絶対に負けるわけにはいかないのだ。
 そう、例えどれだけチートだと謗られようとも――。
「まー、勝てばよかろうじゃし、チートもやむなしじゃのー?」
 その笑顔がとても悪い笑顔に見えるのは気のせいだろうか。
 ユーベルコードに輝く、彼女の瞳。
 蛙は大海を知り、空の蒼さを知る(ドクトル・アメジスト)。それは彼女の祖先である猟書家『ドクトル・アメジスト』の完全再現体を呼び出すユーベルコードである。

 そう、まさかである。
 二人の電脳魔術士、異なる天才が二人いるのだ。そう、チートである。
「さて、協力して貰おうかのー」
『やれやれ、仕方ないね』
 二人の電脳魔術士が生みだすのは揚陸艦ロストリンクに似せたカウルに車輪が付いた『ハチヨン駆』であった。
 車体こそ彼女のよく知るものであったけれど、雷を纏って超加速、稲妻のような切り返し、さらには放電で敵をコースアウトさせるなど、チートというより最早玩具のレベルを越えている。

 レギュレーションなど知ったことかという声が聞こえてきそうなマシンに、共に作業していた『ドクトル・アメジスト』が引いている。
『いや、子供の遊びでこれはどうなんだい?』
 己の子孫であれど、彼女の再現された思考は正しいだろう。
 勝つためとはいえ、ここまで手段を選ばないというのもまた、そう褒められたものではないだろう。
 けれど、メイスンは快活に笑っていうのだ。
「勝てばよかろうなんじゃ、勝てばのー。二度目言うほど重要なことじゃけーのー」
 フハハハ、と笑うメイスンはどちらが悪役かわかったものではない。

 そして、レースが始まってしまえば、メイスンのマシン『ロストリンク』は猛威を振るう。
「もうそれ玩具じゃないコンね!? 兵器!? 兵器ポン! キッズホビーで世界征服しちゃう類の大人だったコン?!」
 オブリビオン『狐狸』つかさは、驚愕していた。
 彼女の化術で生み出した迷宮をメイスンのマシン『ロストリンク』はまるで無いかのように放電でぶち破っていくのだ。
 電撃で痺れた分身達が次々と木の葉に変わって消えていく。

 せっかく距離を離したのに、これでは無意味だ。
 というか、怖い。
 完全にあのマシンは殺しに来てるとさえ思うほどに『狐狸』つかさは涙目である。
「これが僕の電脳魔術じゃけーのー! フハハ! 罠なんてせこい真似とかするからじゃけーのー!」
 メイスンの高笑いと共に散々に『狐狸』つかさの『フォックスラクーンX』は追いかけ回すのだ。

 まてまてー待たないと放電するぞー待たないでも放電するけどー、とメイスンの容赦のない、これがもしも友達内ならば絶好イベント待ったなしの妨害を加え、『フォックスラクーンX』はじりじりと順位を下げていくのだ。
「まだまだ行くけーのー。楽しみにしておくんじゃけー、ほれほれ」
 誰もが思っただろう。

 そう、『ドクトル・アメジスト』も思ったのだ。

 このクリスタリアン、容赦せん――!

大成功 🔵​🔵​🔵​

菫宮・理緒
『ハチヨン駆』?
わたしの世界にも似てるのがあるけど、けっこう奧が深いんだよね。

今回はなんでもありっぽいし、メカニックの血が騒ぐね。
普段ならルール違反な改造もありかな!

ベースは梟さんっぽい流線型の車体をチョイス。
名前は『オウルチャージ』にしよう。
中にAIチップを入れて、姿勢制御のファンと可変エアロパーツをつけて、
ブースト用のバッテリーも積んじゃおうかな。

レースではAIとファンでスピードと空力を制御して障害をクリアしつつ、
『フォックスラクーンX』の妨害は【等価具現】で防ぐね。

ラスト1周までは我慢の走行。
最後にブーストで加速して一気に決めちゃうよ!

「ブーストオン! オウルウイング!……なんてね♪」



 数多ある世界を知る猟兵にとって『ハチヨン駆』とは聞き慣れない名前であったかもしれない。
 けれど、中には似たようなものを知っている猟兵もいたのである。
「『ハチヨン駆』? わたしの世界にもにてるのがあるけど、結構奥が深いんだよね」
 そう言ったのは、菫宮・理緒(バーチャルダイバー・f06437)であった。
 彼女の出身世界にも似たような玩具があったのだろう。
 それがどのような歴史を重ねているのかは、此処とはまた異なっているのだろうが、それでも応用ができないわけでもない。

 むしろ、今回の戦いは複雑怪奇にして奇想天外な仕組みが満載の超芸術トマソンがレースコースとなている。
 ならばこそ、なんでもありというルールの元、メカニックとしての血が騒ぐのだ。
 普段ならルール違反にレギュレーションで失格に為るような改造もアリなのだ。
 というか、オブリビオン『狐狸』つかさが、レギュレーションを設けていないのが悪いのである。
 こうなったときの猟兵は異常に強いことを、レースが始まって数分もしない内に彼女は思い知るのだ。

「『オウルチャージ』、いっけー!」
 理緒の叫びに応えるように梟を模した流線型のカウルを乗せた『ハチヨン駆』がコースを激走する。
 すでにシャーシの中にはAIチップが埋め込まれており、姿勢制御のファンと可変エアロパーツによって、複雑怪奇なコースを難なくクリアしているのだ。
 普通ならばコースアウトしてもおかしくない速度であるというのに、姿勢制御のファンが唸り、エアロパーツによって減速無しで急カーブをクリアしていくのだ。

「ず、ずっこい! 何そのパーツポン!? そんなパーツあったコン!?」
『狐狸』つかさが叫ぶ。
 いや、わかる。その叫び。もはや玩具の領域を越えている。
『フォックスラクーンX』もまたレギュレーションもクソもない怪物マシンであるが、それに輪をかけて上を行くのが理緒の『オウルチャージ』である。
 しかもブースト用のバッテリーさえも積んでいるのだ。

 このままではあっさりと抜かされてしまう。
 そうなってしまえば、『フォックスラクーンX』に勝ち目はない。けれど、『狐狸』つかさにはユーベルコードがあるのだ。
 不動の呪い、毒霧、幻惑。
 ありとあらゆる手段を持って勝てばいいのだ。もうほかの猟兵たちからの妨害は沢山なのだ。
 ここで一台くらい猟兵のマシンをクラッシュさせておかねば、『狐狸』つかさの名が泣く。
「というわけで喰らえ! コースアウトなんてなまっちょろいことは言わぬコン! そのままマシン毎ぶっこわしてくれるポン!」

 どっせいと、『フォックスラクーンX』から放たれるユーベルコード。
 しかし、その全てが一瞬で相殺される。
 え、と思う暇もなかった。
「悪いけど、それはもう散々先行した猟兵さんたちに使っているでしょ。もう見たからね。だから、簡単なんだよ」
 理緒の微笑む瞳はユーベルコードに輝いていた。そう、等価具現(トウカグゲン)である。
 電脳世界の情報を元に具現化した『狐狸』つかさの放つユーベルコードの等価存在を放ち、それを相殺したのだ。

「えええ――!? まさか、妨害しまくったのが、ここにきて裏目にでたコン!?」
「さあ、最後にブーストでかsくして一気に決めちゃうよ!」
 理緒の言葉に応えるように『オウルチャージ』のモーターが唸りをあげる。追加で積み込んだブースト用のバッテリーから電力が流れ込み、『オウルチャージ』の車体を猛烈なスピードに乗せるのだ。

 そして、この時溜めの可変エアロパーツとファンである。
「ブーストオン! オウルウィング! ……なんてね♪」
 まるで翼を広げたような姿に変形した『オウルチャージ』が空力を持って空を飛ぶのだ。
 もう『ハチヨン駆』という領域をとうに越えたマシンは、それを誇るようにコースを飛び、『フォックスラクーンX』を悠々とぶち抜いていくのだった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ミアステラ・ティレスタム
これは素晴らしい性能のおもちゃなのですね
この小さな車が走れるなんて驚きです

カスタマイズはコースアウトしない安定性が重要かと思いました
ローラーと車の重心に気を使って組み立てましょう
コーナーとジャンプの着地時の安定さが狙いです

後は祈るだけ
妨害も想定済みですよ?(ウインクしながら魅惑の視線を向ける)
自身が纏う加護の水+浄化で妨害は防ぎましょう
あら、いけません加護の水がコースの方に
コースの一部が水没してしまいましたね
わたしの車ですか?こんなこともあろうかと割れないシャボン玉の中に入れて水からガードさせておきました
わたしの車に空中浮遊のオプションもついたところで、このままゴールを目指してしまいましょう



 ヤドリガミであるミアステラ・ティレスタム(Miaplacidus・f15616)にとって、此処、超芸術トマソンのレースコースに山積した『ハチヨン駆』のパーツの山は、いつかの誰かの思い出の残滓のように思えたことだろう。
 熱狂し、忘れ去られた存在。
 その集積地と言ってもよかったことだろう。
 けれど、彼女の手のうちにあるパーツたちのどれもが嘆いてはいなかった。
 まるで一時の遊び相手になれたことお誇るように、未だきらめいているようにさえ見えたのだ。
「これは素晴らしい性能の玩具なのですね。この小さな車が走れるなんて驚きです」

 一台のマシンを手にとったミアステラは感嘆する。
 これから行われる『ハチヨン駆』のレースは、此処に集められた子供らの生命がかかっている。
 無論負けるわけにはいかないのだが、ミアステラはどのようにマシンをセッティングするか考えていた。
 レースコースは複雑怪奇である。
 どこにどんな障害があり、どんな罠やギミックが隠れているかわからないのだ。
 下手に走れば、走破することさえ難しいかもしれないと考えたのだ。
「ならば、コースアウトしない安定性が重要……ローラーと車の重心に気を使って組み立てましょう」

 どうすればいいのか。
 ミアステラは不慣れながらも、その真摯なる瞳でマシンを組み上げていく。すると無機物であるマシンのパーツが語りかけてくるようでもあった。
「なるほどコーナーとジャンプの着地時の安定さが大切と……やはりコースは難しいのですね」
 彼女がヤドリガミであるからこそ、パーツ達が語りかけてきたのだ。
 こうすればいいよ、こうしたほうがいいよとささやく声に従った結果、彼女のマシンは類を見ないほどにあらゆる環境に適応したマシンへと変貌を遂げる。
 そして、レース開始の時間が訪れ、完成したマシンを手にミアステラはスタート地点へと舞い降りる。

 順調に組み上げられたミアステラの『ハチヨン駆』は、シグナル灯るレース開始の合図と共に見事に走り続けていた。
 他の猟兵やオブリビオン『狐狸』つかさの放つユーベルコードの妨害にも負けず、しっかりとコースの中を走り続けていたのだ。
 これがレギュレーションのある大会であれば、恐らくミアステラのマシンが抜群の安定性でもって大会を制していたであろうとさえ思える見事な走りだ。

 しかし、それを面白く思わない者がいる。
 そう、『狐狸』つかさである。彼女はわざわざミアステラを妨害しようと距離を詰めてきたのだ。
「コンコン! 安定性ばかりを重視したマシンで私の『フォックスラクーンX』を抜けるとは思うなポン!」
 だが、ミアステラはウィンクして微笑む。
 その魅惑の視線は、誘奏視(プリマヴィスタ)。
 輝くユーベルコードは視線となって、ミアステラのマシンを妨害しようとする『狐狸』つかさのユーベルコードを味方につけてしまう。
 毒霧は晴れ、幻惑は歪んで形を為さないのだ。
「あっ、あっ! それずるいぽん! ずっこいぽん!」
 けれど、不動の呪いまでは防げないのだが、ミアステラの纏う加護の水と浄化が呪いを防ぐ。

 さらに幸か不幸か、ミアステラの加護の水がコースに溢れ、水没させてしまう。
 こうなってしまっては、電池とモーターで走る『ハチヨン駆』は故障してしまう。『狐狸』つかさのマシンも、もちろんミアステラのマシンも同様だ。
 けれど、ミアステラのマシンはかまわず水没したコースの中に突っ込んでいく。
「気でも違ったコン!? そんなことをしたら、マシンが壊れ――壊れてないポン!?」
 なんで!? と驚愕する『狐狸』つかさにミアステラは茶目っ気たっぷりにウィンクして種明かしをする。

「これはわたしの力。割れることのないシャボン玉であれば、マシンの保護も完璧です。それでは、ごきげんよう、オブリビオン」
 そう、彼女のマシンにはこんなこともあろうかと割れないシャボン玉の中に入れて水からガードしていたのである。
 なんというマッチポンプ! しかも空中浮遊の力すらマシンに付与していたミアステラのマシンは悠々と立ち往生する『フォックスラクーンX』を見下ろしながら、ゴールを目指して疾走……というより、浮遊しながら、難解なコースすらも大胆不敵にショートカットしていくのであった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

セルマ・エンフィールド
兎に角、このパーツからハチヨン駆を作って、レースで勝てばいい、と。
ただのレースであればあちらが有利でしょうが、ユーベルコードが使えるのであれば話は別です。
……とりあえず、なんとか準備時間内までには組み立てが終わるよう努力しましょうか。(不慣れな手つきでハチヨン駆を組み立てる)

ふぅ……ギリギリですがなんとか完成しました。名前は……「スノウハウンド」で。
機体はシンプルに組んで耐久性を重視。
出力は私が補います。
【絶対零度の狩人】で(単三電池の)寿命を代償に加速、機体が放つ絶対零度の弾丸で罠を凍てつかせ、迷路を踏破します。

やってみると愛着が沸くものですね。このハチヨン駆は持ち帰らせてもらいます。



 無用の長物、無目的な構造物の集合体である超芸術トマソンを前に、山積する玩具のパーツ。
 それは嘗て流行し、今は忘れられた玩具『疾走疾駆ハチヨン駆』である。
 此処はある意味で思い出の集積地であったのかもしれない。
 少年たちがこぞって買い求め、そして忘れていった思い出。パーツの山は、その残滓であったことだろう。
 だからこそ、今猟兵たちを助けることができる。

 この複雑怪奇なレースコースで行われるオブリビオン『狐狸』つかさが主催する『ハチヨン駆レース』は、集められた子供らの生命がかかっている。
 レースでの敗北即ち、子供らの生命が喪われるということである。
「兎に角、このパーツから『ハチヨン駆』を作って、レースで勝てばいい、と」
 セルマ・エンフィールド(絶対零度の射手・f06556)はすぐさま状況を理解していた。
 目の前には山のようなパーツ。
 正直、どれをどうすればいいのか、セルマにとっては縁がなさすぎてどうしようもなかった。

「ただのレースであればあちらが有利でしょうが、ユーベルコードが使えるのであれば話は別です」
 明確なセッティングプランが在るわけでもない。
 けれど、オブリビオンもまたユーベルコードで妨害しようとしてくることは確実だ。ならば、それに耐えられるようなマシンを組み上げなければ、セルマの勝利は愚か、走破すら難しいだろう。
 ともかくやるしか無いのだ。準備時間内までには組み立てが終わるように努力しなければならない。

 不慣れな手付きながら『ハチヨン駆』を組み上げていく。
 カウルの色も、セッティングもセルマ自身で組み上げたものだ。彼女自身が考え、工夫し、生み出した彼女だけの『ハチヨン駆』。
「ふぅ……ギリギリですが、なんとか完成しました。名前は……『スノウハウンド』」
 どこかセルマの瞳には誇らしげな輝きが在ったことだろう。

 レースが開始され、『スノウハウンド』が遅れながらも難解なコースを走破していく。
 そう、マシンはシンプルに組み上げて耐久性を重視した作りになっている。
 それはこの複雑怪奇なコースに仕掛けられたギミックや『狐狸』つかさの妨害ユーベルコードに潰されないためだ。
「とろとろ走っているとぶっ壊されても文句はいえないポン! それー!」
 オブリビオン『狐狸』つかさのユーベルコードに寄って、複数の『狐狸』つかさが、それぞれ化術によって障害物となり、『スノウハウンド』を叩き潰そうと迫るのだ。

「やはり、そう来ましたか。着順では敵わないのならば、相手のマシンを壊してしまえばいい。短絡的ですが、効果的であると認めましょう。ですが――」
 セルマの瞳が輝く。
 それは、己のマシンを、『スノウハウンド』を破壊させぬという絶対的な意志であった。
「バッテリーの寿命が落ちますが、仕方ありません。加速します……あなたは、ここで私を止めることはできない」
 その瞳がユーベルコードに輝く。
 そう『スノウハウンド』とは即ち、絶対零度の狩人(アブソリュート・ハンター)である。セルマのユーベルコードの発現によってマシンは絶対零度の冷気を纏、凄まじい加速を見せる。
 放たれる絶対零度の冷気を伴う弾丸が放たれ、『狐狸』つかさが化術によって?化した障害物全てを凍てつかせ、薙ぎ払っていくのだ。

「ち、ちちち、ちべたい!? な、なにするコン!? 死んじゃうコンよ!?」
 そんな『狐狸』つかさの悲鳴を横目に見ながら、セルマは『フォックスラクーンX』を追い抜き、ゴールへと迫る。
 レースが終わったのならば、『スノウハウンド』の役目も終わりだ。
 けれど、セルマはなんとも言い難い愛着が湧いている自覚があったのだ。
 自分が組み上げ、自分が考えたセッティング。
 色も、名前も、自分が付けたのだ。例え、もう役目がないのだとしても、今日という日のレースは消えない。

 戦いの後日、彼女の部屋の片隅に『スノウハウンド』は誇らしげに飾られていたことだろう――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ジャム・ジアム
アドリブ歓迎

その覚悟、全力で応えるわ
わあっ可愛らしい車ね
友達にこういうの好きな子がいるわ
ジアムもやってみたい。名前?……そうね複雑なコースだわ
青に白の一筋
『貫き』、全部ツラぬいて?

貴方はつかさ、ね。宜しく、つかささん

コースは目一杯味わうわ、せっかくだもの
あのジャンプ台、衝撃が凄そう
この子は元気だからカーブに着地
ちゃんと守ってくれるフレームとバンパーを

ふふ、粘り強い子、よろけても諦めない
えらい子ね
あら、邪魔しないで、悪い子は『しっぽの針』でお仕置きよ
化け術も毒もジアムは好き、比べる?
ねえ、そのコースもこもこしてるでしょう
『鼓腹』の狸たちなの、どう、走り心地は?
戻って来るまで、時間がかかりそうね?



『大祓百鬼夜行』は、カクリヨファンタズムだけではなく、UDCアースをも破壊せしめる『大祓骸魂』に敢えて連なる骸魂を飲み込んだ妖怪たちの決意によって起こった戦いである。
 誰からも忘れ去られたオブリビオン・フォーミュラ『大祓骸魂』。
 その姿を認識するためには、妖怪たちがオブリビオン化し、群がることに寄って猟兵に認識される必要がある。
 骸魂を飲み込んだ妖怪たちは己たちの死すらもいとわない。
「その覚悟、全力で応えるわ」
 ジャム・ジアム(はりの子・f26053)は妖怪たちの決死の覚悟を理解していた。
 彼等は愛おしき世界を守りたいと願ったのだ。例え、自分たちの生命が喪われるのだとしても、安いくらいだとさえ思ったのだ。

 そんな悲壮な決意を、悲しい儘の結末にはさせぬとジアムは、この『ハチヨン駆レース』のコースたる超芸術トマソンへと降り立ったのだ。
 目の前には無用の長物、無目的な構造物が折り重なり、これがコースだと言われてもにわかには信じがたいだろう。
 けれど、不慣れなことでもやらなければ、救える生命も救えないのである。
「わあっ、可愛らしい車ね」
 山積した『ハチヨン駆』のパーツから一台のマシンを手に取る。ああ、と小さな車にジアムは友人の中にこういうものが好きな人がいることを思い出して微笑んだ。

 自分もやってみたいと思っていたのだ。
 手にしたマシンのカウルは青に白の一筋。これを手にしたのが運命だと思えるような、閃きがジアムの脳裏に走る。
「そう、あなたのお名前は『貫き』、全部ツラぬいて?」
 手にしたマシンをもって、ジアムはくるくるとスタート地点へと立つ。
 レース開始のシグナルが点灯していく。
 隣りにいたのはオブリビオンである『狐狸』つかさ。彼女は骸魂を飲み込んだ妖狐の少女だ。
 子供らと遊びたいという気持ちを捻じ曲げられ、子供らを喰らいたいという想いに取り憑かれてしまっている。

 だからこそ、ジアムは微笑む。絶対に救うのだという意志を込めて。
「貴方はつかさ、ね。よろしく、つかささん」
「ふふん、私が絶対に勝って、子どもたちをばっくり食べるんだからポン!」
 レースの開始を告げるシグナルが灯った瞬間、一斉に走り出すマシン。
 その加速は玩具とは見紛う程の速度であり、ジアムはあっけに取られたことだろう。
『貫き』もまた遅れじと走り出しているが、ジアムは先ずコースをじっくり味わう。だって折角だからだ。
 ジャンプ台から飛び立つ瞬間も、降り立ってカーブに着地してローラーが回転して鋭いコーナーを曲がるときも、ちゃんと守ってくれるフレームバンパーが軋む音が聞こえる。

 それは悲鳴ではなくて、歓喜の声のようにジアムは思えただろう。
 またもう一度走れたという歓喜。
「元気いっぱいね。ふふ、それに粘り強い子。よろけても諦めない。えらい子ね」
 ジアムにとって『貫き』とはそういうマシンであった。
 確実にコースを踏破していく。どれだけ困難でもゴールを諦めないひたむきさを感じた瞬間、『貫き』とジアムを襲うのは『狐狸』つかさのはなった妨害ユーベルコードであった。
 毒霧と不動の呪い、そして幻惑。
「ハッハーポコ! これで一人脱落させるコン!」
「あら、邪魔しないで。悪い子はお仕置きよ」
 放たれるジアムの針が念動力によって飛ぶ。しかし、毒霧に阻まれて『狐狸』つかさのマシン『フォックスラクーンX』には届かない。

「当たらないコン! 私の化術を思い知ったポン!」
「化術も毒もジアムは好き、比べる?」
 何を、と彼女は思っただろう。何故なら、彼女は一方的にジアムへと妨害をしていたのだ。
 なのに比べる? 何と何を? そう思った瞬間、『狐狸』つかさと『フォックスラクーンX』が走るコースがもこもことしだす。
 次の瞬間、化術が崩れるように現れたのは、ジアムのユーベルコードによって召喚された狸たちであった。
 その鼓腹(ヘイワエノ・タヌキバヤシ)の上を『フォックスラクーンX』は走っていたのだ。

「妙にもこもこぶよぶよしていると思ったコン!?」
 これこそぽんぽこ変化である。
 狸たちの変化が解け、コースが消えていく。そう、ジアムと狸たちの化術と戦術が『狐狸』つかさの裏をかき、コースアウトさせていたのだ。
「どうだった、走り心地は? ふかふかでやわらかくって寝そべりたくならなかった? そう、それは残念。でも、戻ってくるまで、時間がかかりそうね?」
 なんて、微笑みながらジアムは遊び勝負の最中であるというの微笑みながら『貫き』と共に走る喜びに浸るのだった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ジェイミィ・ブラッディバック
ハチヨン駆が懐かしの玩具ですと…?
現在は第三次ハチヨンブームの真っ只中、ハチヨン駆はさらに進化しました
折角です、最先端のテックで強化されたハチヨンマシンをご覧に入れましょう!

最近購入した新型ハチヨンマシン「タキオンブレイカーZ-10」を改造します
ボディ材質変更、スタビローラー増設、モーター最新化、バッテリー電圧調整…メカニックとしての技術を全て注ぎ込みます
AI制御によるステアリング操作や加減速も実現、障害も自己判断で見切り回避可能です
ドリフトも出来ますよ

そして隠し機能…パワーブースター、オン!(指定UC)
(直線コースでアフターバーナーを吹かして推力移動)

これが本気の技術屋魂、これがテックの力!



「『ハチヨン駆』が懐かしの玩具ですと……?」
 そう愕然と呟いたのは、ジェイミィ・ブラッディバック(脱サラの傭兵/開発コード[Michael]・f29697)であった。
 超芸術トマソン。
 その無用の長物と無目的な構造物が折り重なった『ハチヨン駆レース』の会場において、彼はウォーマシンの体を震わせていたかも知れない。
 それはショックを受けていたのかも知れないし、憤りであったのかもしれない。
 何故なら、『ハチヨン駆』はブームが過ぎ去った後、少年たちの心から忘れ去られた玩具であるからだ。

 熱しやすく冷めやすいのが子供らの本質であったのだとしても、ジェイミィにとって、それは事実ではない。
「現在は第三次ハチヨンブーム真っ只中、『ハチヨン駆』はさらに進化しました。せっかくです、最先端のテックで強化されたハチヨンマシンをご覧に入れましょう!」
 この時点でオブリビオン『狐狸』つかさは、猟兵の押してはならぬスイッチを押したことを自覚すべきだった。

 けれど、悲しいかな。
 オブリビオン『狐狸』つかさは、もう『子供らと遊びたいという気持ち』を『子供らを喰らいたい』という願いに捻じ曲げられている。
 どうあっても子供らを食べなければ気がすまないのだろう。だからこそ、猟兵の押してはならぬスイッチを押したことに気がつけなかったのだ。
 レース開始のシグナルが点灯する。

 すでにジェイミィは先日購入した新型ハチヨンマシン『タキオンブレイカーZ-10』を改造していたのだ。
 そう、ボディ材質の変更、スタビローラーの増設、モーター最新化、バッテリー電圧調整……などなど、上げれば枚挙にいとまがない。
 わりとガチである。
 というかメカニックとしての技術の全てを『タキオンブレイカーZ-10』に注ぎ込んでいるのだ。
 もはやお化けマシンといっても過言ではない改造の仕上がりにジェイミィはうなずく。
 けれど、まだ足りないと言わんばかりにレース開始の時間まで入念に改造を行っていたのだ。

「ていうか、AI制御はずるくないコン!?」
『狐狸』つかさが叫ぶ。
 もはや、それは玩具と言っていい領域なのかすら怪しい。AI制御によってステアリング操作や加減速も実現しているのだ。
 さらに障害すらも自己判断で見切って躱すのだ。なんなら、ドリフトだってできる。
 ホントにキッズホビーか? と『狐狸』つかさ以外の者も思ったかも知れない。
 けれど、そんなことなど大人の財力の前には無意味である。
「そちらの妨害ユーベルコードなど無意味です。全て障害物も躱し、罠を張り巡らせる前にドリフトで回避してみせましょう!」
 ジェイミィの高笑いが聞こえてきそうなまでに、圧倒的な速度と制御で『タキオンブレイカーZ-10』はコースを躱し、難解なギミックすらも走破するのだ。

「えぇ……ドリフトはずるいコンね!? だけど、速度なら!」
「そして、隠し機能……パワーブースター、オン!」
 ん? と『狐狸』つかさは思った。そう、彼女のマシン『フォックスラクーンX』は今、『タキオンブレイカーZ-10』の背後に付いている。
 その状態でN-Ext. BOOSTER(ニュークリアフュージョンエクストラブースター)
成功率 70%(SPD)のアフターバーナーが火を吹けばどうなるのか。

 そう、言うまでもなく黒焦げである。
 直線コースに入った瞬間にふかされたバーナーの如きブースターが『フォックスラクーンX』のカウルの色を黒一色にするように吹き荒れ、スピードの彼方へとぶっちぎっていくのだ。
 遅れてジェイミィの声が響いてくるのを『狐狸』つかさは聞いたことだろう。
 勝ち誇った声であった。
「これが本気の技術屋魂、これがテックの力! 見ましたか! 速度こそが大正義なのですよ――!」

大成功 🔵​🔵​🔵​

佐伯・晶
妖怪達の為にも子供達を食べさせる訳にはいかないね
ここは僕が相手になるよ

予めUDC組織に相談して強力なモーターと
それを活かせる空力設計したカウル他パーツを用意

組み立てたら生命創造を使用し使い魔にしよう
知性があるから指示に従って加速したり
障害を躱したりできると思うよ

スタート台にセットしたら
このシュバルツローゼの性能を語って時間を稼ぎつつ
UCで加速力を貯めよう

名前の由来はいつものドレス姿と
謎の組織のマシンを使うライバルとかヒロイン枠っぽい
イメージで技術者達がつけてくれたんだ
くれたんだ…

化け術大迷宮を使われそうになったら
使い魔の力の状態異常でプラスチックの像になって貰おう
邪魔さえ無ければ負けないからね



 事前準備というのは何事においても大切なことである。
 殆どの場合、戦いとはいつだって唐突に始まりろくな準備ができない。けれど、今回の戦いにおいてはそれが可能であった。
 何故なら、骸魂を飲み込んだ妖怪である妖狐の少女は『子供らと遊びたい気持ち』故か、オブリビオン化したことによって『子供らを食べたい』という思いに変質してなお、遊び勝負という方法にこだわった。
 それはオブリビオン化したとは言え、猟兵と相対するのならば十分な隙と呼ぶにふさわしい。

 問題は、その遊び勝負の内容である。
 超芸術トマソンと呼ばれる無用の長物と無目的な構造物が重なり合った『ハチヨン駆レース』のコースにて、オブリビオン『狐狸』つかさに勝利しなければならないのだ。
 それは並大抵のことではないし、何より『ハチヨン駆』という玩具に触れたことのない佐伯・晶(邪神(仮)・f19507)にとって、それは難しいことであったからだ。
「それでもUDC組織に相談しておいてよかったよ。強力なモーターとそれを活かせる空力設計したカウル他パーツが用意できた」
 晶の手の中のマシンは組み上げた後、使い魔として使役することによって知性を持ち、こちらの指示に従って加速や減速が行えるようになっているのだ。

 これならば、複雑怪奇なレースコースであっても障害を躱すことで無事に走破することができるだろう。
 スタート台にマシンをセットし、シグナルの点灯を待つ。
「妖怪たちのためにも子供たちを食べさせる訳にはいかないね。ここは僕が相手になるよ」
「ハン! どうせ私のマシン『フォックスラクーンX』がぶっちぎるのだから、関係ないコン! 精々置いてかれないようにするポンね!」
『狐狸』つかさが、まるでフラグのような物言いをするが、晶は取り合わなかった。
 結果は走りでみせればいい。そう、このマシン『シュバルツローゼ』の性能を語るのは、ただの時間稼ぎだ。

 そう、今まさにスイッチを入れ回転しているはずの『ハチヨン駆』、『シュバルツローゼ』のタイヤは固定している。
 それは即ち、先制ユーベルコードである。
 晶の瞳がユーベルコードに輝いている。それは、邪神の手遊び(スタティック・アクセラレーター)。
 固定しているマシンの運動エネルギー蓄積により、超加速を得ることができるのだ。

「マシンの名前の由来はいつものドレス姿と謎の組織のマシンを使うライバルとかヒロイン枠っぽいイメージで技術者がつけてくれたんだ。くれたんだ……」
 ちょっとがっくりする。
 気落ちしてしまうのは無理なからぬことである。もともと男性であっても、今は少女の姿である。
 そう見られているのは仕方ないけれど、どうにも落ち着かないのだ。げっそりした瞬間、シグナルが点灯し一斉にマシンが加速する。
 固定されていたエネルギーが爆発し晶の『シュバルツローゼ』がトップに躍り出る。
 
 それはもう弾丸の如き速度であった。早いなんてものではない。
 一気に『狐狸』つかさの『フォックスラクーンX』を置きざりにして、コースを走り抜ける。
「フライング! フライングじゃないコン!? え、違う!?」
 それほどまでにぶっちぎりのスタートダッシュ。
 遠くなっていく『シュバルツローゼ』の姿に焦ったのか、ユーベルコードに寄る妨害を放とうと、分身した『狐狸』つかさを襲うのは晶の使い魔による状態異常の呪いであった。
 分身し、化術で迷宮になろうとした瞬間を狙われたのだ。
 一瞬でプラスチックの像へと姿を変えられた分身達が軽い音を立てて、コースのあちこちに落ちていく。

 それをみやり、晶は笑う。
「邪魔さえなければ負けないからね。そっちはそういうのが得意なんだろうけど、妨害の妨害をするのなんて、こっちも得意なのさ」
 晶ははるか遠くで多くの猟兵たちと妨害したり、妨害されたり、ひどい目にあっていたりする『狐狸』つかさをみやりながら、一気にゴールへと走り込むのであった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

朱鷺透・小枝子
操縦に耐えるには…頑丈である事。
後、レース場の情報も欲しいでありますな…

情報収集、小型自律兵器群を放ち、継戦能力、重量級カスタマイズパーツ収集とレース場の把握を並行。
モーターパワーを上げる為、電池に神器拳銃から引きだした電気を込めてエネルギー充填。『3番目の加速機』も発動。小型スラスターの推力移動で速度をさらに補う。

――完成、ディスポーザブルハチヨン号!(捻りのない命名)

瞬間思考力、妨害や走行を妨げるトラップを、スラスターの瞬間加速とジャンプで回避!
今だ、飛べ!ディスポーザブル!!

コースアウト確実の大飛びも、UCでの遠隔操縦、スラスターの機動を操り、的確にコースへの復帰、ショートカットを行う。



 如何なるレースにおいてもそうであるが、マシンの耐久力は言うまでもなく重要なファクターの一つであろう。
 どれだけ速度が出ようが、どれだけ旋回性能が高かろうが、ゴールまで走り切ることができなければ、そもそも勝利を得ることなどできやしないのだ。
 故に朱鷺透・小枝子(亡国の戦塵・f29924)が『ハチヨン駆』に求めたのは頑丈であること。
 そして、レースコースの情報もほしいと思うのは、彼女の戦術眼からは当然のことであった。

 けれど、問題はある。
 レースコースである超芸術トマソン。それは即ち無用の長物と無目的な構造物が折り重なる複雑怪奇なコースでった。
 そんな場所で情報収集を行っても、即座にレースコースすら、ギミックで変わってしまうかもしれない。
 ならば、と小枝子が選んだのは……。
「情報収集、小型自律兵器群での状況の確認……それを常に受け取れる状況にしておかなければ」
 そして、マシンは重量級カスタムパーツで固めるのだ。
 山積したパーツを集めつつ、レースコースの下見を把握していく。これだけでも多くの情報が集まったが、ギミックは全てを把握できるものではなかった。

「此処は適宣、ということでありましょうな」
 それにしても、小枝子にとって小型とは言え車両の玩具をカスタマイズするのは慣れたものであった。
 モーターパワーをあげるために、電池に神器拳銃から引き出した電気を込めて充填していたときには、それはレギュレーション的に大丈夫なのかと思ったが、これはオブリビオンとの遊び勝負である。
 レギュレーションもくそもないのである。勝たなければ、負けてしまえば、犠牲に為るのは子供らの生命だ。

 そして、猟兵を信じて骸魂を飲み込みオブリビオンとなって、あえて『大祓骸魂』の軍門に下った妖怪たちの覚悟を無駄にしてしまう。
「最後に、3番目の加速機(ガンマ・スラスター)を取り付ければ……」
 小枝子の掌にあったのは、完成した彼女のマシンであった。
 重量級の車体、そしてその重い車体は安定性抜群であったが、重量級故に加速が伸びない。
 それを補うためのスラスターである。

「――完成、ディスポーザブルハチヨン号!」
 あんまりにもひねりがない名前である。
 けれど、それでいいのだ。いつだって、こういう玩具は本人が満足することのほうが何よりも最優先される。ならばこそ、彼女のマシン『ディスポーザブルハチヨン号』は輝くのだ。

 そして、スタートを告げるシグナルが点灯し、猟兵とオブリビオン『狐狸』つかさとのレースバトルが開始される。
「コンコン! そんな重い車体で私の『フォックスラクーンX』を追い抜けるものかポン! 私の化術による迷宮地獄でずーっとぐるぐる回っているといい……ポン!?」
 だが、そんなユーベルコードの妨害など小枝子はまるでキにしていなかった。
 瞬間思考によって得られたコースへの最適解。
 そして、己のマシン『ディスポーザブルハチヨン号』ならば、その程度の妨害など妨害にはならないのだ。

『狐狸』つかさの目の前で『ディスポーザブルハチヨン号』がスラスターとジャンプ台によって迷宮の上空を軽々と越えていくのだ。
 重量級故にジャンプ力は足りないはずだ。
 けれど、小枝子のユーベルコードに寄って生やされたメガスラスターが、重い車体を強引に飛ばす……いや、吹き飛ばしているのだ。
「えぇー!? 走っているっていうか、飛んでるコン!?」
 もはや、それは車というにはあまりにもぶっ飛びすぎたマシンであった。
 けれど、着地し、さらにジャンプ台が『ディスポーザブルハチヨン号』の前に迫る。
 このままではコースアウト確実である。

 だが、小枝子は信じている。
 自分のカスタマイズを、自分のユーベルコードを。
 けれど、それ以上に信じるのは『ディスポーザブルハチヨン号』だ。必ず応えてくれるはずなのだ。
「今だ、飛べ! ディスポーザブル!!」
 小枝子の叫びに応えるように『ディスポーザブルハチヨン号』が飛ぶ。
 その雄姿を小枝子は忘れることはないだろう。
 的確にぶっ飛んだマシンがコースへと復帰し、『フォックスラクーンX』を置きざりにした凄まじいショートカットで、『狐狸』つかさをぶっちぎるのであった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

秋山・軍犬
この手の勝負で重要なのは
マシンに込められた想い、魂が重要なのだ
軍犬は男だから詳しいんだ(45歳男の子並み感)

なので、この場で最も子供達を守りたい
自分達と遊んでくれる心優しき妖狐を救いたい
想いが強いであろうトマソンに山積されている
ハチヨン駆のパーツに宿る魂に【指定UC】を介して
語りかけ協力を要請、パーツ達のアドバイスで
マシンを組み上げて勝負だ!

何? 相手はレースでUCを使ってくる?
だが、ハチヨン駆達の想い(パーツ)で組み上げられた
熱い魂を宿したマシンは、UC級…否
この勝負に限れば、UCすら超える力を宿している!(断言)

心優しき妖狐を救う為
吠えろ! 想いの欠片の合成獣、キマイラフォーミュラッ!!!



 男はいつまで経っても少年である。
 どれだけ図体が大きくなろうが、根本は変わらない。それを秋山・軍犬(悪徳フードファイター・f06631)、45歳はよく理解していた。 
『疾走疾駆ハチヨン駆』、それは彼にとっても馴染みのものではなかったかもしれない。
 けれど、彼は男であるから詳しいのだ。
「この手の勝負で重要なのは、マシンに込められた思い、魂が重要なのだ」
 そう言う彼の拳は握りしめられていた。
 そして、彼のユーベルコードは輝く。

 レースで勝つというわけでもなければ、敵を打倒したいという思いでもない。
 あるのは、この場で最も子供たちを守りたい、自分たちと遊んでくれる心優しき妖狐を救いたい、その想いが最も強いであろう存在を探り出す。
 その片手にあったのは『たのしい精霊術士(税込み2980円)(タノシイセイレイジュツシ)』という入門書であった。
 些か胡散臭い。
 けれど、軍犬の思いは本物であった。

 それに応えるように超芸術トマソンに山積されている『ハチヨン駆』のパーツに宿る魂がふわりと浮かび上がる。
 子供らを、妖狐を救い出すために、軍犬に協力してくれているのだ。
「ありがとうっす! これでこのレースに勝ってあの子らを救う事ができるっす!」
 軍犬の目の前で組み上がっていくマシン。
 それは山積していたパーツとは思えぬほどに光り輝いていた。まるで軍犬の想いに応えるように、パーツたちの魂が集結し、結晶となったようなマシンだった。

「さあ、行くっすよ!」
 レースのスタートを告げるシグナルが点灯する。
 軍犬のマシンは光り輝き、猟兵や『狐狸』つかさの『フォックスラクーンX』のマシンと比べても遜色ない……いや、マシンとしての完成度は凄まじいものがあった。
 軽快な走り、超芸術トマソンの複雑怪奇なコースを物ともしないコーナリング。
 直線では加速して、スピードにのってぐんぐん『フォックスラクーンX』を引き離していくのだ。

「コンコン!? なんだ、その速度は!? 追いつけない……ならばッ! コン!」
 化術によって分身した『狐狸』つかさたちが一斉に駆け出し、軍犬のマシンの前に化術によって障害物となって道を塞ごうとする。
 だが、そんなもの恐れるに足りない。
 何故なら、『ハチヨン駆』たちの想いで組み上げられた熱い魂を宿したマシンは、すでにユーベルコードと言ってもいいレベルにまで昇華されていた。
「――否!」
 だが、軍犬が叫ぶ。

 そう、この勝負に限って言えば、ユーベルコードすらも超える力を宿している。
 それだけの思いが、このマシンには込められているのだ。
「どれだけオブリビオンが邪魔をしようとも、心優しき妖狐を救うため」
 軍犬の震える握りこぶしが天に突き上げられる。
『フォックスラクーンX』がどれだけ高性能なパーツを搭載していようとも、どれだけユーベルコードが強力で妨害してこようとも、それらを物ともしない熱き魂があるのだ。

「吠えろ! 想いの欠片の合成獣、『キマイラフォーミュラ』ッ!!!」
 それが彼のマシンの名前である。
 数多の想いが集まり、誰かのためにと願う心が生み出した獣。
 それこそが、『フォックスラクーンX』との差をぐんぐんと引き離していく。そこにパーツの性能差は最早どこにもなかった。
『子供らと遊びたい』。
 その想いが見せるスピードは、オブリビオンの抱く邪念など触れていいものではないのだ。

 煌めくマシンと共に軍犬はぶっちぎりでゴールへと飛び込むのであった――。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

メンカル・プルモーサ
ハチヨン……似たようなのは小さい頃アルダワでもブームになってたから作ってたなぁ…
…山積みの玩具からパーツを組み合わせて…さらに改造も施して性能を上げてしまおう…
…バッテリーとモーターを改造して速度上昇…このままだとコースアウトしかねないからボディ提灯改造をした上で二段ローラーで安定性を確保…よし
…後は念のための一工夫…妨害してこないなら無駄で済むけど…
あとは空色に着色して完成…名付けて『ブルースカイ』…
…レーススタート…よし…良い勝負…
…む…UCで妨害してきた…けど…
…そのための一工夫…ボディの下に仕込んでおいた封魔の書の白紙頁…
【その符号、我が書中にあり】を発動…UCを吸収、そのまま返すよ…



 世界が形と場所を変えたのだとしても、変わらぬものがある。
 人の営みがあり、そして娯楽を得ていく中で、必然と少年少女の心をときめかせるものもまた然りである。
 ならば、『疾走疾駆ハチヨン駆』はどうであったことだろう。
 異世界を知る猟兵たちにとって、それは玩具であると同時に出身世界の幼き日を思い出させるには十分なものであったかもしれない。
「『ハチヨン』……似たようなのは小さい頃アルダワでもブームになってたから作ってたなぁ……」
 それが彼女のガジェット研究の礎になったのかは定かではないが、メンカル・プルモーサ(トリニティ・ウィッチ・f08301)は懐かしさを覚えたことだろう。

 超芸術トマソン、無用の長物と無目的な構造物が折り重なった、そここそが今回のレースコースである。
 メンカルにとって、山積したパーツは目をみはるものがあったことだろう。
 ガジェット研究で培った彼女の技術があれば、幼き日に組み上げた玩具以上のものができあがるのは誰の目にも明らかであった。
「車体はこれにして……タイヤはこれ……」
 パーツを吟味し、彼女の電子型解析眼鏡『アルゴスの眼』が煌めく。
 性能を吟味するのはもちろん、組み合わせてパーツ同士に相乗効果が生まれるのが『疾走疾駆ハチヨン駆』の楽しいところである。

 さらに彼女の改造技術によって性能が底上げされていく。
「バッテリーとモーターを改造して速度上昇……このままだとコースアウトしかねないから、ボディに改造を施した上で……」
 あちこちからパーツを探してきては、メンカルはマシンを組み上げていく。
 二段ローラーで安定性を確保して、カウルの色を空色の着色する。そうすれば、綺麗な空色を溶かし込んだような美麗なマシン『ブルースカイ』の完成である。

「これで完成……スタートには間に合ったね」
 メンカルの目の前でレース開始のシグナルが点灯していく。昔とった杵柄ではないが、つい改造に熱中してしまうあまり、オブリビオン『狐狸』つかさのユーベルコードに対する対策まで組み込んだのが時間ギリギリの真相である。
 けれど、軽快に走り出したマシンは、そんな事情など知ってか知らずが、楽しげに走り出していた。

「……よし……良い勝負……」
 メンカルは共にマシンと走りながら、コースを次々と踏破していく。
 バンクやジャンプ台、ウェーブコースなど、なんかく『ブルースカイ』は走り抜けていく。メンカルの施したバランスの取れた改造は、どれだけ複雑怪奇なコースであっても、走りを損なうことはないのだ。

 けれど、それをさせぬのがオブリビオンである。
「バランス型の良いマシンだコン! だけど、それだけでは勝負は決まらないのが『ハチヨン』レースコン! ここで立ち往生してもらうポン!」
『フォックスラクーンX』と共に走っていた『狐狸』つかさのユーベルコードが『ブルースカイ』を襲う。
 青い空色のカウルを覆う毒霧と幻惑。そして不動の呪いが『ブルースカイ』の走行を阻害するのだ。

 まともに受けた『ブルースカイ』は即座に動きを止め……なかった。
「――!? なんで止まらないコン!? 確かにユーベルコードはあったはず……!」
「まさか、言う羽目になるとは思っていなかったけれど……こんなこともあろうかと」
 そう、メンカルの電子型解析眼鏡が煌めく。
 彼女のマシン『ブルースカイ』のボディの下に仕込んでいた封魔の書の白紙頁から、メンカルのユーベルコードが発現する。

 その符号、我が書中にあり(ユーベルコード・キャプチャード)て、放たれたオブリビオン『狐狸』つかさのユーベルコードを防御し、吸収して解放することができるのだ。
 妨害にはなったユーベルコードの毒霧や幻惑、不動の呪いによって『フォックスラクーンX』はその走行を止めてしまうのだ。
「人を呪わば穴二つっていうやつ……だけど、この場合三つ、だね……」
 メンカルは放たれたユーベルコードの効果全てを開放し、『フォックスラクーンX』へとお返ししたのだ。

 モーターの停止した『フォックスラクーンX』と地団駄を踏む『狐狸』つかさを横目に見ながら、メンカルは逆転勝利を決め、ゴールへと駆け込むのであった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

フィア・シュヴァルツ
【勇者パーティ】
「ふむ、この小さな車を走らせる遊戯か。おもしろい。
我の魔力の冴えを見せてやろう!」

ククク、まずマシンのベースは、死霊術で召喚したデュラハンの馬車のミニチュアだろう?
そこに魔女の箒ジェットを装着!
前方に【竜滅陣】の発射口を設置して完成よ!(重戦車風マシンを持って胸を張る

これぞ、我のマシン、シュヴァルツ・ワーゲンよ!

「さあ、いくぞ、サージェ、ルクス!
勇者チームのコンビネーションを見せてやろう!
……全員まとめて吹き飛べえええ!」

ククク、勝者は我一人で十分!
味方も敵もまとめて、必殺の竜滅陣でリタイアさせてくれるわ!

「って、なにぃ、なぜ途中で止まるのだ、我のマシン!?」(エネルギー切れ


ルクス・アルブス
【勇者パーティ】

自動で動く車のおもちゃでレースとは燃えますね!

車はもちろん純白!
名前はシャイニングヒーローです!

でも、作り方が解らないので、
つかささんに『1時間できるつよいくるまのつくりかた』を聞きますね。

車が完成したら、勝負ですね!
「はい、師匠! そうです、吹き飛べえええ……え?」

師匠これ絶対狙ってましたね。
どうするんですか!
コースが師匠の胸みたいに更地じゃないですか!

車はいまのままでもういちどやりなおし?
再スタート?

師匠、どうします?
謝るなら電池変えてあげますよ?

再スタートしたら、つかささんの後ろについて、
タイヤを凍らせちゃいましょう。

サージェさん、いまのうちにゴールしちゃってください!


サージェ・ライト
【勇者パーティー】

お呼びとあらば参じましょう
私はクノイチ、世に潜み…あっやめて変な目で見ないでください(顔覆う
ちゃんと妖怪さんたちの想いを汲むために現れたのです!

ではでは早速ハチヨンの組立に
シリカ(猫)とミニシリカ(ピアス)の意見を入れつつ
スピード特化のカスタマイズ

よーし!これが私たちのプラチナシリカ(pシリカ)です!(猫耳ぴこぴこ

ではレース開始!
フィアさんがそういうのならpシリカが先陣を切りましょう!
って何してんのぺたん魔女ー!!

危うく自陣だけ滅ぶところでした
再レースですか?コース…ま、いっか
pシリカの猫耳は伊達ではありません
どんな環境でも猫のごとく走破できるのです!
勝負はいただきました!



 拝啓
 今日も姦しい三人組は元気です。なんて冒頭から始まるのはなんともおかしみがあるものであるが、今日もサージェ・ライト(バーチャルクノイチ・f24264)の前口上が世界に響き渡る。
「お呼びとあらば参じましょう。私はクノイチ、世に潜み……あっやめて変な目で見ないでください」
 お約束とは言え、毎度のことである。
 最近良く連れ立っているフィア・シュヴァルツ(漆黒の魔女・f31665)とルクス・アルブス(『魔女』に憧れる自称『光の勇者』・f32689)の冷静な瞳を前にサージェは顔を覆った。

 もう見慣れたからかもしれない。飽きられているというは、ちょっと違うかもしれないが、ちゃんとサージェは妖怪たちの想いを汲むために現れたのである。
 超芸術トマソン、無用の長物と無目的な構造物が組み合わさった複雑怪奇なレースコース。
 そこに山積した玩具のパーツ『ハチヨン駆』でもって行われる遊び勝負に勝利することこそが、猟兵たちの目的である。
 囚われの子供らを救出するために三人はレースでオブリビオン『狐狸』つかさのマシン『フォックスラクーンX』に勝たなければならないのだ。
「自動で動く車のおもちゃでレースとは燃えますね!」
「ふむ、この小さな車を走らせる遊戯か。面白い。我の魔力の冴えをみせてやろう!」

 もうフィアとルクスはやる気満々である。サージェはまだちょっと冒頭の恥ずかしさから復帰が遅れています。
 三人かしまし娘とは言え、それぞれに個性がある。
 それは当然組み上げる『ハチヨン駆』のマシンにも如実に出るであろう。
「もちろん純白! 名前は『シャイニングヒーロー』です!」
 勇者パーティの光の勇者を名乗るだけ在って、ルクスは名前と形から入るのだろう。作り方がわからないので、オブリビオン『狐狸』つかさに『一時間でできるよいくるまのつくりかた』を聞いたりしているところが、本当にビギナーなんだなぁっていう感じである。

 けれど、それ以上にえぇ…ってなるのがフィアのマシンであった。
「ククク、マシンベースは死霊術で召喚したデュラハンの馬車のミニチュアであろう? そこに魔女のほうきジェットを装着! 前方に『竜滅陣』の発射口を設置して完成よ!」
 その手に在ったのは、車というか、重戦車であった。
 キャタピラまで付いてたら、遊びが違っていたところであるが、なんとも独特なマシンである。
 形容しがたいと言えばいいのだろうか。ともかく、フィアは胸を張って宣言するのだ。
「これぞ、我のマシン『シュヴァルツ・ワーゲン』よ!」
 どんな敵が来ようとも木っ端微塵よ! と声高らかに笑っているが、そういう遊びじゃないんだけどなぁ、とルクスは内心で突っ込んだ。だって、口にして聞いてくれる師匠ではないからだ。

「よーし! これが私達の『プラチナシリカ』です!」
 そんな二人をよそにサージェも遅れてマシンを完成させる。
 組み立てられた『ハチヨン駆』は、白猫又のシリカとAIであるミニシリカの意見を取り入れつつ、スピード特化のカスタマイズが施されていた。
 他の二人と比べると随分と正統派というか、王道のカスタマイズである。
 だが、まって欲しい。
 なんで、マシンに猫耳がついているのだろうか。なんかぴこぴこしているし。意味があるのかと問われたら、多分あるのだろう。
 ベテランであれあるほどに理解から程遠いカスタマイズ。それさえも受け入れる裾野と器の大きいのが『ハチヨン駆』なのだ!

「さあ、いくぞ、サージェ、ルクス! 勇者チームのコンビネーションを見せてやろう!」
「うっ、師匠が」
「フィアさんが」
『コンビネーションとか言ってる……!』
 驚愕である。
 いつのまにそんな高度なことができるようになったのかとルクスとサージェはお母さんのような気持ちになりながら、レース開始のシグナルを待つ。

 ちょっとうるっと来たのも束の間である。スタートを切った瞬間、フィアの『シュヴァルツ・ワーゲン』の『竜滅陣』の発射口が火を吹く。
 なんで!?
「……全員まとめて吹き飛べえええ!」
「そうです、吹き飛べえええ……え?」
「って、何してんだぺたん魔女ー!!」
 総ツッコミである。
 いや、まじでなんで。なんでユーベルコードいきなりぶっぱした?

「ククク、勝者は我一人で十分! 味方も敵もまとめて、必殺の竜滅陣でリタイアさせてくれるわ!」
 オブリビオンもびっくりだわ。
 まっとうな遊び勝負じゃない。というか、レギュレーション的にとかの問題ではない。モラルですよ、モラル! モラルの問題!
「いや、それ普通に再スタートだからコン」
 冷静なオブリビオン『狐狸』つかさの言葉に、えぇ……となっているのはフィアだけであった。

「危うく自陣だけ滅ぶところでした……」
「ほんとですよ……絶対にぶっぱだけはしないでおいてくださいよ、師匠!」
 そんな二人にこってり怒られてフィアは殊勝に身を小さくしていたが、そんなことは関係ない。
 反省したとしても、またきっとやる。ぶっぱする。そういう魔女なのだ、フィアは。
 気を取り直して再スタートした三人。 
 けれど、フィアのマシンだけ様子がおかしい。そう、ぶっぱで電池切れを起こしているのだ。
「って、なにぃ、何故止まるのだ、我のマシン!?」
 さもありなんである。
 ルクスはTanz des Hagel(タンツデスヘイル)による氷の礫で『狐狸』つかさの『フォックスラクーンX』のタイヤを凍りつかせ、動きを止める。

「師匠が師匠なら弟子も弟子コンね!? いきなりユーベルコードぶっぱはずるいこん!?」
『狐狸』つかさとしては、中盤あたりで妨害しよーって思っていたのだろう。なのに、フィアとルクスは開幕妨害である。
 勝負としては正しいが、なんというか容赦がない。
 しかし、ぶっぱのせいでフィアの『シュヴァルツ・ワーゲン』は立ち往生。そして、そんなフィアに電池をあげるからごめんなさいしなさいと躾が始まっているルクスたちはレース以前の話である。

 追い抜くこともなければ追い越されることもない。
 けれど、忘れていては困る。そう、かしまし娘たち三人の最後の一人、サージェだけは当たり前にみたいに電光石火(イカズチノゴトキスルドイザンゲキ)の勢いでレースコースを走り抜けていた。
「『プラチナシリカ』の猫耳は伊達ではありません。どんな環境でも猫の如く走破できるのです!」
 そう、なんやかんやでフィアとルクスがお決まりのコント……あ、いや、やりとりをして、オブリビオンの目をひきつけている間にサージェのマシンはさっそうとぶっちぎってしまっていたのだ。

「えぇ……」
 これにはオブリビオン『狐狸』つかさもしてやられたという感情以上になんとももやっとした感情のまま、全ての猟兵達に勝負で敗北を喫し、その歪んだ想いを霧散させていく。
「ふふ、勝負はいただきました! これがクノイチとしての戦いですよ!」
 びしっ、とポーズを決めてサージェは、勝利を宣言し、また一人妖怪をオブリビオン化から救い出し、子供らをも救出して『大祓百鬼夜行』の一角を突き崩すのであった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年05月06日


挿絵イラスト