焼べて、焼べて、刃を成せば
●我が身、刀と墜ちて
弱き心で刃に触れてはならぬと言われておりました。
刃は心を写す魔物。猛き心でなければ触れれば最後、忽ちその心を喰われてしまうと。
『貴方は強くあらねばなりません。貴方ならきっと出来ると、母は信じておりますよ』
故に、何度も、何度も。そう言い聞かされておりました。強い目で見つめられておりました。
強く在らねばならぬと、強く為らねばならぬと。
脇目も振らず、振ることも許されず。無駄を省き、削ぎ落し。
風の調べを紐解くよりも風を切る音に耳を傾けて。星の瞬きを符に読むよりも切っ先の行方を追いかけて、心を、技を磨き続けました。
未熟な身に、他所へ心を傾ける暇がある訳がないと捨て去って。
強き心を持てと繰り返されて、その才に見合った心を持てと繰り返されて。
──胸に空いた虚ろを見て見ぬふりをしながら、ずっと、ずっと竹刀を振り続けておりました。
『どうして刀(私)に触れてはならないの?』
それはまだ、わたくしがまだ未熟であるから。強い、猛き心を持ててはいないのです。
『誰がそう定めたの?』
母が、父か、師が、兄弟子が。まだお前には早いと、そう繰り返すのです。厳しい目で私を射抜くのです。
だからならぬのです。
『そんなこと分からないわ。だって強さなんて、どれだけ人を殺めたかによるのだから。斬って、血を浴びて、そうして初めて強さは身体に馴染むものよ』
いいえ、いいえ。そんなこと、誰も言ってはおりませんでした。そのような言葉はまやかしです。
『それは貴方の周りが弱いからよ。弱いから、間違ったことを言う。なら試しに刀(私)を使って斬ってみなさいな。斬れたなら、貴方は強い。貴方の方が強いのなら、貴方が正しいわ』
……どうして、そのようなことを言うのでしょう。
『貴方が強いなら私は愉しい、それだけ。貴方が私を手に取れるなら、貴方の目的は叶うじゃない。それでおしまい、貴方は自由で、好きなことをなんだって出来るわ」
わたくしは……。
『私を使えれば貴方は強い。貴方は強く在らねばならないのでしょう。そうでなければ──』
わたくしは……──。
『貴方の胸に吹く風は、きっとたいしたの意味も無いものなのでしょうね』
●鬼へと化わり
気が付けば、あたりは一面血の海でした。
一つ、二つと数えていられたのは始めの内。次々と赤く染まる視界に、いつしか数など忘れてしまいました。
斬って、斬って、斬って、斬って。
多くの人を、沢山の目を斬りました。恐怖の視線を、驚愕の目を、絶望の、怒りの、悲しみの、数えきれない程のものを斬りました。
いつしかこちらを射抜く言葉も視線も無くなって、ようやくわたくしは息をつきました。
ああ、わたくしは強かった。
もう誰にも、強く在れと言わせはしない。
わたくしの身は、晴れて自由となったのです。
「それ、なのに……」
──けれど、けれども。
私は気付いてしまったのです。
……あんなに焦がれていた音も、光もいくら探せども既に無く。
赤く汚れてしまったこの身を吹き抜ける風は冷たくなるばかりで。
もう、なにもかもがわからない。
焦がれ続けてきた強さとは、斯くも闇夜の如き昏いものなのでしょうか。
●グリモアベースにて
「猟書家の幹部、『刀狩』。斃された奴の真似事をするヤツが事件を起こしやがった」
四辻・鏡(ウツセミ・f15406)は、やや不機嫌な面持ちで集まった猟兵達へと説明を始めた。
「刀狩のやり口は知っているな? 妖剣士が持つ呪われた武器へと憑依し、正気を失わせることで周囲を巻き込む大虐殺を行わせる。家族、親しいものを殺しまくった妖剣士は絶望から鬼へと墜ち、優秀な配下となる……それがやつらの算段って訳だ」
敵の目論見を簡潔に話すと、鏡はタブレットに一振りの太刀の映像を映し出した。
「事件を起こしたのは『凶刀』絶姫。血と戦いを好む妖刀から生まれた人斬りだ。遺志を継ぐなんてのも建て前、ただ強い奴を斬って楽しみたいだけだろうよ」
そして彼女が目をつけたのが、とある忍びの里に住む少年だった。
「名前は石蕗(つわぶき)。物静かで小柄な少年だが、特に剣の才において周りから抜きんでいて一目置かれていたらしい。最も、手合わせでは、の話だが」
鏡の説明曰く、彼はそれまで、真剣を用いての実践を行ったことがないそうだ。
「里の教えってヤツらしいな。師から刀を振るに値する人間と認められるまで、刀は与えられても抜くことは固く禁じられていたらしい。……コイツは中々、許しを貰えなかったみたいだな」
本人も周囲の期待に添えようと必死の努力をしていたらしい。一日でも早く一人前と認められる為に、来る日も鍛錬を重ね続けていたそうなのだ。
「それを、アイツが壊した。石蕗は己の刀に乗り移った絶姫の甘言に惑わされ、禁を破り刀を抜いちまうんだ」
そして妖刀の、絶姫の力に呑まれた少年は狂い──里の者全員を皆殺しにしてしまう。
「修羅に墜ち、行きつく先は鬼の道。このままにすれば石蕗は完全な化け物となり、敵の配下となるだろう。その前に、石蕗を止め、敵を倒して来て欲しい」
今から猟兵達を転送すれば、丁度石蕗が里の者を殺し尽くした直後に到着するだろう。鬼と化した直後であるその時なら、その手から刀を落とせば少年は正気に返るという。
「言うだけなら簡単なんだ。しかし、石蕗の力は妖刀と鬼へと化したことにより飛躍的に上昇している。舐めてかかると痛い目を見るのはこっちの方だぜ。くれぐれも気を付けていってくれ」
少年の隙を突き、無事に刀を取り落とせれば、刀に宿っていた絶姫は目論見を破られその姿を表すだろう。
しかし絶姫自身も、剣士としてかなりの使い手だ。その上、本性としての刀の性質や、かつての主を真似た術も操り、こちらの能力を封じる絡めても用いてくる。
「総合的に見りゃ石蕗よりも数段厄介で手ごわい奴だが……コイツとの戦いには、石蕗自身が助太刀に入ってくれるぜ」
彼が何を思って絶姫へと刃を向けるのか、それは猟兵達の言葉により変わるだろう。
けれどこの一時のみ、絶姫への激しい感情を爆発させた彼の技量はオブリビオンと渡り合える程の、猟兵に引けを取らない程の冴えを見せる。彼との共闘なら、強敵である絶姫も必ず倒せる筈だ。
「石蕗が何を聞き、何を思って絶姫の甘言に乗ったかは分からねぇ。何があったとしても、里の人々を皆殺しにしたのは他らなぬヤツ自身だ」
だが、と鏡は歯切れ悪くも己が見た光景から感じたことをそのまま言葉に表す。
「最後に、ほんの少しだけ正気に返った石蕗には……里への恨みは無い様に、見えた」
例え厳しい修行を強いられていたとしても。長く行き詰った状況に藻掻いていたとしても。
決して彼の中に憎悪の感情は無かったと。
そこに棲む感情を探ることができれば、鬼へと墜ちた彼を正気に戻す取っ掛かりとなるやもしれない。
「どちらにしても、決して楽ではない死合、それも連戦だ。お前さん達には無理をさせちまうことになるが、どうか一つ頼まれてくれ」
鬼と化したヒトの子の道を掬う為に。
思うが儘にヒトを堕とす剣鬼に制裁を与える為に。
「必ず、勝って戻ってきてくれよ」
鏡はそう言い、タブレットからグリモアを起動して転送を始めるのであった。
天雨酒
妖刀に剣士と言ったら浪漫ですよね。そんな趣味と好物を全力で猟書家に押し込めてみました、天雨酒です。
心情系となりそうな予感がしつつも、バトルはしっかり込めていきたいと思っております。
下記補足となります。
舞台はサムライエンパイアのとある小さな忍びの里。主に仕えるために一族が代々住み着き、技を継いでいます。
石蕗(つわぶき)……生まれながらに才に恵まれた小柄な少年。年端元服を間近に控えた頃。特に剣の才は卓越したものがあり、周囲から期待を寄せられています。寡黙で、自己主張をすることは滅多になかったようです。
今回のシナリオでは下記のプレイングボーナスが発生します。
プレイングボーナス……正気に返った妖剣士と共に戰う。
全章通して石蕗にどのように声をかけ、何を想い、どのように戦うのか。第一章でも説得の内容によっては彼の太刀筋に変化がおこるやもしれません。
●プレイング受付について
毎章、断章を投下後からのプレイング受付となります。
詳しい日時につきましてはマスターページ、Twitterにて告知していきますのでお手数ですがそちらをご確認お願いします。
それでは皆様、善き戦いを。
第1章 ボス戦
『月影』
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POW : 三途渡し
【魔法や超能力による干渉】を無効化し【掌打】による超高速かつ大威力の一撃を放つ。ただし、自身から30cm以内の対象にしか使えない。
SPD : 朧月夜
【無機物や霊体にも効く死毒を込めた苦無】【暗器を忍ばせながら放つ体術攻撃】【崩壊の呪詛を込めた忍刀】【による高速連撃】を対象に放ち、命中した対象の攻撃力を減らす。全て命中するとユーベルコードを封じる。
WIZ : 火遁 零式
【刀身が黒い業火で出来ている四尺の大太刀】の霊を召喚する。これは【焔の斬撃】や【戦場内全てを射程とする劫火】や【飛び道具を自動で迎撃し、焼却する魔炎】で攻撃する能力を持つ。
イラスト:Sugaken
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠シグレ・ホルメス」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●鬼は啼く
猟兵達が転送された先は夜も更けた忍びの里の中心だった。
周囲に動くものの気配は無い。それどころか、当たり一帯には生者の気配は一つとして存在しなかった。
理由など、今更探すまでも無い。
ぐるりと視界を廻らすだけでも視界に入るのは、夥しい数の死体。
男も、女も、子供も、老人も。皆一様に、鋭利な刃物で切られこと切れている。
人の死が生み出す無音と、噎せ返るような鉄の臭気だけが、そこには広がっていた。
その真ん中に、黒い塊があった。
夜よりも深い闇を湛えながら、時折内より仄暗い炎が溢れ混ざる異形の姿。
揺らめく黒と赤を纏った躰は本来の姿を伺い知ることはできない。
しかしそれの手に、未だ赤く血濡れた刀があること。
そして、この里の中で、唯一傷を負っていない存在であること。その事実が、この異形こそが事件を起こした少年であること物語っている。
「──く……ねば」
吐息の様な微かな声で、鬼が哭く。血のように赤い影を口から零しながら、赤い光を目に湛えながら、鬼は譫言のように繰り返す。
「つよく、在らねば」
其れだけが、彼に残された言葉であるかのように。それこそが、彼の寄る辺であるかのように。
祈る様に、呪う様に、幾度も幾度も繰り返し。
そしてぐるりと、赤い視線がこちらを向いた。
新たな証明を、いざ求めんと。
夜鳥・藍
◎
刃。
なんだかぐるぐるする。つわぶきが起こしてしまった事にではなく、絶姫がやろうとしたことにでもなく。
刃を持つことの覚悟、そのものに。
何かが引っかかる。……私は私として生まれる前は、刀を振るっていたのかな。その時はきちんと振るえていたのかな。
フードを一度深くかぶり呼吸を整えて落ち着いて。
今の私は剣を持っていますが、己が手で振るう事は稀。そんな私が何を言っても響かないかもしれない。
それでも振るう覚悟以上に。抜かぬ覚悟、斬らぬ覚悟。それもまた強さではないかな。
相手の攻撃を警戒し距離を取ります。
かつ回避されないようなるべく隙か背面を狙い、神器を投擲し攻撃、竜王の召喚を。
嵐の雷撃ならまだ通用するはず。
丸越・梓
アドリブ、マスタリング歓迎
_
事切れていた子どもの瞼をそっと手で閉じさせる
──間に合わなかった。この子も、この里の人達も、…刀の妖気に呑まれ"鬼"と化してしまった少年の心も。何一つ、護れなかった
強く在らねばならない。力がなければ何も護れない。
…己の過去を想う。護りたい人達は、俺の力不足で護りきれず、皆、この掌から零れ落ちて逝った。
俺のせいだ。俺が護れなかった。
けれど
他者を捻じ伏せる力だけが強さではない。
敢えて攻撃を身に受け血を吐きながらも真っ直ぐに少年を射抜き
その胸ぐらを掴む
「目を覚ませ」
妖気に呑まれるな。
思い出せ。
お前が力を欲してまで護りたかったものを。
お前の望む"強さ"とは、何だったのかを。
●斬れと、斬らねど
里に吹く風が孕むそれに、珂神・灯埜(徒神・f32507)は目を細めながら白縹の髪を押さえた。
噎せ返るような鉄錆の匂い。平穏の時ではまず存り得ない、血臭にどこか懐かしさを覚えるのは、彼女が豊穣を託された神でありながら、戦神としての性質を持ち合わせているからだろうか。
鼻を突く匂いの濃さで解る。数刻前、一体この場で何が起き、どれほどの命が消えていってしまったのかが。
灯埜の目の前に倒れ伏す人々が、どのように抵抗し、敢え無く一方的に切り捨てられていったことが。
犠牲者となった彼らの前に立つ。虚ろに開かれたままの、名前も知らない男の目がこちらを見つめ返していた。
物言いたげな視線に灯埜の視界が僅かに揺れる。
神たる灯埜はヒトに過剰に彼らに肩入れすることはない。彼らという種を愛してはいるけれど、それが大きな感情となることはないだろう。
交わっていた視線を断ち切るように目を伏せる。
「……黄泉平坂を進み、その先へ送ることはできないが」
けれど。それでも灯埜は神で、祷りを刻まれるものだから。
それくらいの弔いの念は、悼みは、彼女の中にも存在するのだ。
「迷わずに逝けるといいな。どうか安らかに、眠れ」
ほんの数秒、犠牲者への黙祷を送ったのち、灯埜は刀の鯉口を斬り、鬼へと墜ちた少年へと向き直るのであった。
ぐるぐる。ぐらぐら。
まるで、張りぼての地面に足をつけているようだ。
狂気へと墜ちた少年を前にして、今にも戦闘が始まるという前で、夜鳥・藍(占い師・f32891)の思考は渦を巻いていた。
目の前の少年が持つ血濡れた刀。その鈍い輝きに視界が離せない。
彼の姿を見れば見るほど、纏まらない思考の渦が加速する。
一体何が自分を、こんなにも動揺させているのだろうか。
つわぶきという名の少年が起こしてしまった悲劇に? いいや、違う。
では、彼を唆した妖刀の行いに? これも否だ。
彼にあって、そして自分もまた、関わっているもの。
「刃……」
己の腰にある小剣に触れ、藍はようやく己の迷いの正体に辿りつく。
それは、どうあるべきかという問いかけ。
刃を持つことの覚悟、そのものに。
彼が遂に出すことができず、違えてしまった問いかけが、藍の心にも圧し掛かっていたのだ。
「……私は、私として生まれる前は、刀を振るっていたのかな」
影朧の転生者である藍は、かつて『藍』ではない誰かとして生きていた筈だ。その時の記憶は持っていない筈だが、この胸の引っ掛かりはその時の因縁によるものなのだろうか。
今の藍は剣を多くは振るわない。けれど、『前』の自分が同じであったという保証もない。
その時は、今のように己の覚悟と対面することはあったのだろうか。
──そして、正しく。覚悟を持ってきちんと振るうことができたのだろうか。
今の彼のように、迷うことは無かったのだろうか。
「……今は、目の前のこと」
未だ混沌とする思考を切り替えるように、藍はフードを一度深く被り大きく息を吸う。そのまま何度か深呼吸を繰り返すと次第に頭の中の渦は消えていってくれた。
雷の名を持つ小剣を抜き、静かに腰を落とし、構える。
彼でない『誰か』が起こしたかもしれない過ちを、正すために。
始まった戦いの中へ、藍はその身を躍らせるのであった。
始めに動いたのは石蕗の方だった。
「……まだ、終わりませぬか」
生き残りか、それとも刺客か。集まった猟兵達がそのように見えたのだろう。やや辟易とした様子で提げていた刀を構え直し、灯埜と藍へと向き直る。
そのまま無造作に刀を振り上げたかと思うと──唐突にその姿が掻き消える。
いくら武に長けていようと、一度鬼へと墜ちたものと只人とではその身体能力は雲泥の差だ。相手はこのまま石蕗の姿を見失い、何が起きたかも分からぬまま胴体と首とを断ち切られ、絶命する。それで終いだ。
もはや仕合にすらならぬ、戦いとも呼べぬ、一方的な虐殺。その筈だった。
相手が見た目の通り、か弱き娘二人であったのなら。
「敵の技量すら、もうまともに見抜けないの?」
鋼と鋼の撃ち合う音。横薙ぎに振りぬかれた石蕗の刀を、灯埜の刀が受け止めていた。
只人では姿を追うことも難しい鬼の所作。しかし、猟兵である彼女にははっきりとその姿は見えていた。
既に臨戦態勢は整っている。腰を落とし、柄に手を添えたままの居合の構え。瞬き一つで距離を詰め、己の頸目掛けて飛んでくる一撃に抗するべく刃を走らせたのだ。
力に真向からぶつかるのは愚策。絶妙な加減で刀身を滑らせ、力の向きを逸らし弾いた。
一度目の攻撃を受けたからといって、油断することは出来ない。彼は剣士であり、同時に忍なのだ。その武器は刀だけである筈が無い。ここは間合いを維持し、出方を伺うべきだろう。
それでも、己の危険を一つ増やしてでも。
彼女は敢えて、その場踏みとどまった。
刃越しに、影に塗りつぶされた石蕗と視線が交わる。赤黒い影を揺らめかせる、鬼の眼。そこには何の感情も伺えない。そんな視線に、灯埜は鋭く問いかける。
「どうしてオマエは強く在りたかったの?」
誰かを護りたかったのか、自身の力量を認めて貰えず悔しかったのか。
「師が、親が、兄弟子が許さなかったのは何故か。オマエは何故だと思う?」
刀を抜いて、刃を使う。そんな簡単に思えることなのに。何故彼だけ、いつまでも許されなかったのか。
その意味を、彼は考えたことがあるのだろうか。
「ッ──!」
真横から鋭い気配。一歩退き身体を逸らせば、即座に攻撃を切り替えた少年の掌底が頬を掠った。
「させません!」
変幻自在の間合いから距離を取るべく、隙をついた藍が背後から神器たる鳴神を投擲する。黒塗りの小剣はたとえ叩き落とされても、彼女の念動力によって再び宙を舞い、石蕗の腕を浅く斬り裂いた。
「竜王招来!」
力強い言霊に応え、藍の呼びかけに応え竜王がその身を顕現させる。放たれる雷撃が狙う先は、配下たる刃が示した先。如何なる超常を無効化するとはいえ、神の力までは打ち消すことはかなうまい。閃光をまともに浴びた石蕗の影が一瞬、揺らいだように見えた。
「覚悟は、強さではありませんか」
そんな彼に、藍は意を決して言葉を投げる。
今の藍は、剣を持てども己が手で振るう事は稀である。故に、そんな彼女が刀を振り続けた彼に何を言ったところで響かないかもしれない。
けれど、振らないからこそ見えるものだってあるのだから。
「刃を振るという覚悟以上に。抜かぬ覚悟、斬らぬ覚悟。……それもまた、強さではないでしょうか」
刃を持てることが強さではない。強いものが必ず、刃を振るう訳ではない。
「ボクは想像でしか言えないが」
藍の言葉に合わせるように、灯埜が刀を握り直し、少年へと踏み込んだ。
「オマエは……ただ、大切にされていたのだと感じたよ」
里の彼らはもう二度と、口を開くことは無い。故に、その真実は二度と分からないけれど、迷うた彼を見捨てず、かといって強制させずそのままにしていた彼らには、彼らなりの思い出があったのではないか。
急いて教えることも無く、その心がいつか定まることを、見守っていたのではないかと。
刀を持つということの意味。
抜いても、抜かなくても、その行動に確固たるものが持てるように、と。
「――」
石蕗からの言葉はない。しかし纏う影が、微かに揺たように見える。
今だ。
灯埜の神力を受け、藍色の刀が炎を纏う。牽制に突き出された拳を避け、走る斬撃を掻い潜り、神たる少女はその御業にて、少年の邪心だけを削ぎ落す。
「斬る覚悟、揺らがぬ信念。……ただ、オマエの心を強くしたかったのだろう」
自らが気付き強くなれる時を、待っていたのだと。
まだ叶えられる筈の、常世からの願いを届けるために。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
馬県・義透
四人で一人の複合型悪霊。生前は戦友。
第一『疾き者』唯一忍者
一人称:私 のほほん?
武器:漆黒風
アイコンはUC使用イメージ
忍の里での悲劇…他人事ではないんですよねー。
あ、内部の三人。説教はあとで聞きます(UCで削る寿命が『疾き者』だけのため)
漆黒風を投擲。技量だけなので、干渉もなにもないですね。
近接では四天刀鍵での斬りつけも交えましょう。間合いには気を付けませんと。
さてー、あなた。『強くある』って、どのような『強さ』なんでしょうか?
戦いでしょうか?技量でしょうか?それとも、振るう心でしょうか?
何かを守るためでしょうか?何かを傷つけるためでしょうか?
私ですか?私はね、『皆が幸せにあるために』ですよ。
●故を問う
「里での悲劇……他人事ではないんですよねー」
辺りに倒れ伏す亡骸を前にして、馬県・義透(死天山彷徨う四悪霊・f28057)はぽつりと零した。
口調こそ普段と変わらず穏やかなものであったが、その瞳にはいくらかの悼みの色があった。
彼の故郷もまた、オブリビオンの襲来によって滅ぼされた。一切の慈悲もなく里の者たちは屠られ、馬県・義透を作り出す『彼ら』も例外に漏れることなく彼らの凶刃にかかり、一度は死したのだ。
だから、悪霊として、かつての戦友同士だった四人が複合された存在としてこの世に留まっている義透としては、この惨劇は他人事では無いのだ。
勿論全てが同じ訳では無い。オブリビオンに唆されたとはいえ、手にかけたのは目の前の少年であるし、黒幕の姿も違う。
死したものは戻らないし、さ迷って悪霊となることも……滅多なことではないだろうけれども。
それでも。
「あ、内部の三人。説教はあとで聞きます」
先に謝ると言うように義透は己の内に居る『彼ら』に宣言する。この術は、4人の中でも『疾き者』である彼だけの寿命を削ってしまうから。
義透の、『疾き者』として浮かび上がっている躰に力が満ちる。己の命を代償として差し出した術は壮年を過ぎた頃合いで止めた年齢を巻き戻し、肉体としての全盛期と、仮初の境地へ──彼が生きていれば至ってたであろう鬼の姿へと造り変えていく。
「さてー、あなた。『強くある』って、どのような『強さ』なんでしょうか?」
涼やかな銀灰色の瞳で少年を見据え、義透は問いかける。
馬県・義透は四人で一人。この術で、その均衡を傾けることになってしまったとしても。
目の前に映る惨劇が、自分とは全く無関係の出来事だとは、思えなかったのだ。
義透の手が閃き、黒塗りの棒手裏剣が放たれる。
光の加減で緑にも見える軌跡を生み出すのは、風絶鬼と成ったことにより極限に高められた義透自身の技術によるものだ。たとえ万魔に干渉し、超常を打ち消す忍びの術であったとしても、純粋な技術に寄って練り上げられた力までもを無効化することは出来ない。
こちらの手の内が通用しないと判断するや、少年はすぐさま地を蹴り、回避の構えを取った。
一つ一つが人体の急所へと狙いを定める手裏剣の軌道を見抜き、躰を捻り、すり抜けていく。放った技も忍びの技術。受ける者もまた忍び。それ故に、黒刃が何を狙い、どう走っていくのかも読みやすいのだろう。
──而してそれは、こちらも同じこと。
「先程の答え、どうでしょうか?」
回避を繰り変えす少年の懐へ、義透が打刀を手に斬り込んだ。
こちらの手が読まれるということは、それを回避する為の相手の行動もまた読めるということ。攻撃が疾く、鋭くあればあるほど、そして敵の練度が高ければ高いほど、無駄のない、最小の動きというものは絞られてくる。
幾つもの攻防の末に、義透は一瞬の隙を突いて踏み入ったのだ。
少年の影の躰から朱が飛ぶ。踏み込みと同時に振り抜いた義透の刃は、確かに彼の脇腹を斬り裂いていた。
しかし、少年は止まらない。己の手の中の妖刀を構えると、瞳を光らせ義透へと向かっていく。
そして義透も無論、攻撃の手を止めるつもりはなかった。
「『強さ』とは、戦いでしょうか? 技量でしょうか?」
それとも。
義透の打刀と少年の妖刀がかち合う。触れれば必殺の斬撃を受け止め、或いは躱し、さりとて刀以外が届かない絶妙な間合いを保ちながら、義透は剣鬼の業を捌いていく。
「それとも、振るう心でしょうか?」
「ここ、ろ……」
ぴくりと、少年の肩が震えた。
その空白を捕らえ、さらに一太刀。鍵模様の刃が影に覆われた胸を撫でていく。
「それは何かを守るためでしょうか? 何かを傷つけるためでしょうか?」
技量があれば強さになるか。折れぬ胆力があれば強さとなるか。
彼の中に何が在り、何が不足しているのか。それはおそらく彼自身にしか分からぬことだろう。
けれど、刃を振るには理由が必要なのだ。
何に向けて振り、何の前に翳すか。何と対峙し、何を背に置くか。
それを知る者であるからこそ、義透は毅然と彼を見据え、宣言する。
「私ですか? 私はね、『皆が幸せにあるために』ですよ」
それこそが、己を支える強さであると、彼へと示す為に。
大成功
🔵🔵🔵
ユエイン・リュンコイス
◎
強さを求める、か。若さ故にまだかと焦れ、早くと求める気持ち…分からないでもないよ。
だからこそ、此処で終わらせる訳にはいかないね。
【黒鉄機人】を繰りつつ【煉獄】を鞘走らせ、得物を手に真っ向から斬り結ぼう。生憎、ボクも焔の扱いには慣れているからね?
戦闘中、刀身へ熱量を注ぎ込み続けておくよ(切り込み、火炎耐性、継戦能力)
黒鉄機人は基本的にサポートに徹させる。手を出すのは危なくなった時くらいに留めるとしよう(グラップル、かばう)
そうして十分に熱量が溜まったところでUC起動。これは飛び道具でなく、また焔にて掻き消せるモノでもなし。
これは長き道程にて磨き上げられた技…先は長いんだ、焦る必要もなかろうさ。
●炎天、未だ高く
「強さを求める、か。若さゆえにまだかと焦れ、早く求める気持ち……分からないでもないよ」
ユエイン・リュンコイス(黒鉄機人を手繰るも人形・f04098)は、少年の未踏故の焦燥にいくらかの共感を覚えていた。
今まで猟兵として、数えきれない程の戦場を廻った。出会った強敵は数知れず、くぐった死線は数えきれない程。その度に機人を繰り、刃を振るい、生き延びる度に自分の未熟さを痛感し、己の力を磨いて来た。
この身は造り物ではあれど、稼働年数は外見の少女ものとさほど変わらない。たった十数年程度の蓄積では、求める境地には未だ届かない。また足りる訳がない。
故に、分かるのだ。求めてやまず、手を伸ばせど届かず。まだ、と身を焦がしてしまう心が。
だからこそ。
「此処で終わらせる訳にはいかないね」
かんばぜに映す表情は鋭利に、涼やかに。けれどもその胸に、絶えぬ炎の心を燃やして。
ユエインは未踏の剣士の元へと急ぐのだ。
その躰に秘する劫火の気配に感づいたのか。ユエインを前にして妖刀を下げた少年は静かに印を切り、地面に手をつく。途端、彼の目の前の大地から火柱が上がり、四尺もあろうかという大太刀が現れた。
「焔には炎……うん、悪くない手だね」
その刀身から漏れる黒い業火を見咎めて、ユエインは薄く笑う。
少年は呼び出した大太刀を手には取らなかった。そして大太刀も、即席の主を必要とはしなかった。
一人でに宙へと浮き上がった大太刀は、その切っ先をユエインへと向けると炎を撒き散らしながら走り迫ってきたのだ。
飛び掛かるような斬撃に対して、ユエインは追従させていた【黒鉄機人】を前へ。鋼鉄の腕を翳し、刃と炎を受け止める。その間に、ユエイン自身は手の中の炎刀【煉獄】を鞘走らせた。
「けれど生憎、ボクも焔の扱いには慣れているからね?」
抜刀と同時に湧き上がった熱風が、黒い業火を蹴散らした。
しかし未だ、煉獄の神髄である炎は緋金の刀身からは走らせない。それは来るべき時に、真に燃え上がらせる時の為にその想いのみを刀へと注ぎ込み続けておくのだ。
機人の影から飛び出したユエインが、大太刀と真っ向から切り結んでいく。主の技量を写し取っているのか、その太刀筋は苛烈。刀自身の重量も合わさって一太刀一太刀が驚く程に重い。
対するユエインはそれらを冷静に見極め、捌き、受け流し、あるいは機人を援護に回らせ凌いでいく。
目まぐるしい剣戟を繰り広げながら、ユエインは胸の内で時を数えながらそれが満ちるのを待つ。
あと少し。
横薙ぎの一撃を伏せて躱す。起き上がりつつ、伸びあがるように刀を振り上げて大太刀を弾き飛ばす。すぐに脇目も振らず、走り出す。行く先は無論、術者である少年だ。
まだ、もう暫し。
背後から風切り音と熱。横っ飛びに躱せば、今いた場所を水平に飛んだ大太刀が突き抜けた。
再び少年とユエインの間に大太刀が割り入る。
しかし──今。
満ちた気を感じたユエインが立ち止まり、大きく息を吸う。絶えず刀身に注ぎ続けてきた熱を、己の闘志を、限界まで膨れ上がらせる。
半身を大きく引き、捩じるように刀を後ろへ。
緋色の刀はより赤く、熱く、高く。
立ち昇るそれは、早く、疾く、眩く。
天つ空さえ焦がし、両断せしめる程に──ッ!
「これは、長き道程にて磨き上げられた技……」
刮目せよ。
「──焔閃・天焦空断ッ!」
振り抜くと同時に、万象を燃やし尽くす熱量と閃光が放たれる。練りに練り上げた気迫、そしてユエインの意思が込められて初めて成立する、全てを飲み込む煉獄の光。
それは、生み出した大太刀を瞬く間に塵へと変え、さらにその先に居た少年の闇を削ぎ落すには充分の威力であった。
「……まだ先は長いんだ。焦る必要も無かろうさ」
彼が固執する『強さ』とやらは未だこんなにも遠いのだと。ユエインは己の技量を以って知らしめたのだった。
大成功
🔵🔵🔵
トリテレイア・ゼロナイン
…幾度見ても『刀狩』とその後継の所業は許し難いですね
(さて、私の奉ずる道と異なる価値観で育まれた相手にどう接したものか。少なくとも無辜の民扱いは正答では無…)
敵の斬撃を武器受け、盾受けで防御
盾殴打で追い払い
(物も言わず制圧するのは『違う』と、私の根幹が結論づけるのです
里への恨みが無いならば、彼の修練の動機は…)
強く在らねば…ええ、その通りです
ですが何の為に?
誰の為に?
己が強さの求道の為だけなら、刀握らせぬ里から出奔する道もあったのです
忍とは主命果たす者(世界知識)
石蕗様
未だ主無き貴方は、何の為に、誰の為に強く在ろうとしたのです!
緩やかな挙動で掌打を誘導
見切って紙一重で躱し素早く剣の腹で叩き伏せ
マナン・ベルフォール
なるほど
強さを求めて、と
未熟な精神(こころ)で振るう強さ、とは如何程のものか
如何程の武人かと思うも中身はだいぶ未熟なようで
当てが外れたとつまらないと思いつつも油断もせず
相手の攻撃を見切りつつ相手の死角,意識の隙間を狙い暗殺の要領で不意打ち、鎧無視の功夫(uc)を叩き込みましょうか
少しばかり破魔の力を混ぜてみるのも一興
とりあえず太刀を持つ手でも狙ってやるのが優しさ,でしょうかね
特段,同情などの気持ちはないものの、助けようとする者を邪魔するつもりもなく
此処で彼の心が折れるならその程度だったということ
乗り越えるも超えぬも本人次第
妖刀もあまり参考にはならなそうですしね
●逃げぬか、逃げ得ぬか
身を焦がす業火を少年が払いのけ、次の敵を定めるその前に。
例えるならほんの少し、気まぐれで散歩道を変えたかのような軽い足取りで、マナン・ベルフォール(晴嵐・f28455)は少年の視線の先へと進み出た。
地面と水平に滑らせた妖刀の切っ先を手の甲で払い、軌道を逸らす。続け様に繰り出される斬撃も、間合いを見切り、徒手で丁寧に捌き、受け流していく。
(なるほど、強さを求めて、と……)
牽制にと打たれた拳を避けながら、マナンはふっと息を吐き目を細める。
確かに少年の剣筋、体術、間合いの詰め方、どれをとっても抜きん出たものがある。こうして軽く受け流している様に見せてその実、マナンにもそれほど余裕がある訳では無い。一手読み違えれば無事では済まないだろう。
しかしそれでも、思えてしまう。
「未熟な精神で振るう強さ、とは如何程のものかと思っていましたが……この程度が打ち止めですか」
当てが外れたもいいところだ、と。
「この程度……だと……」
気分を害したらしい少年が苛立たし気に問い返す。それに、マナンは不敵な笑みすら浮かべて繰り返し言ってみせた。
「ええ。如何程の武人かと思っていましたが中身はだいぶ未熟なようで。当てがはずれ、つまらないと申し上げたのです。これでは妖刀もあまり参考にはならなそうですしね」
強さとやらを求め、迷い、そして踏み外し。そうして辿り着いた先というものだからと見てみれば。
技ばかりが勝り、その真髄にはまるで届かぬ。ただ未熟な心が癇癪を起こしたようなものではないか。
殺すだけなら如何様にもできよう。何人でも屠れよう。しかし、それはマナンの興味を惹くものではまるで無かった。
「否……!」
鬼の否定が響く。その身を堕としてまで手に入れた者を軽んじられた怒りは、少年の身体をより深く、纏う闇を膨れ上がらせる。
「わたくしは……強い……」
太刀を諸手で構え、上段へ。練り上げられた気が腕へ、下肢へと走り、目に見えるかと思えんばかりの殺気があふれ出た。
「……強く在らねば、ならぬのだ!」
怒号と共に放たれた、一切のものを斬り伏せんとする一閃が振り下ろされる。
「失礼!」
それを真っ向から──我先へと急ぎ進み出たトリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)の大楯が受け止めた。
「……幾度見ても、『刀狩』とその後継の所業は許しがたいですね」
苦みにも似た嫌悪の感情は目の前の少年にではなく、この惨劇を起こした妖刀そのものへ。まだ若い少年剣士を惑わせ、貶めた非道に怒りを覚えながら、トリテレイアは気合と共に受け止めた妖刀を弾く。
(……さて)
対峙するは主の影となり、忠を尽くす筈だった忍びの幼子。対してこちらは弱者を救い、己が信に奉ずる白騎士。どちらも道を極める者ではあれど、その価値観は大きく異なる。
産まれる経緯も、生きる理由も、これまでの道も。全てが異なる相手に一体どう接したものか。如何な言葉をかければ、惑うた道を正すことができるのか、騎士は逡巡する。
(少なくとも、無辜の民扱いは正答では無いでしょう……)
あちらも武を極めんとした求道者。それこそ非礼となるだろう。
それではいっそ、言葉自体を捨てて力を持って相手を制するか。妖刀を手にした少年の力が如何に強大といえど、猟兵達総出でかかれば無力化するのは難しくない。強さを望むのであれば、より大きな力を見せるのも一つの方法ではないか。
しかし、その答えも『否』とトリテレイアは小さく首を横に振った。
論理的に言えば、効率的で言えば。己の電子演算が出す答えとしてそれは実用性の高いものであるだろう。
けれど、もっと奥深く。彼の根幹と言える部分が、その方法は認められないと訴えるのだ。
強さをと藻掻き、苦しむ彼を見捨てて良いものか。その心に手を伸ばさずして、何が騎士であるか。
──それは、彼が知る『強さ』ではない。
「強く……」
彼に問うべき答えを己の中に探しながら、トリテレイアは剣と盾を構え、再び少年へと向かうのであった。
戦況は猟兵二人に対して迎え撃つ剣鬼は一つ。
トリテレイアと少年の剣が幾度目かの衝突音を響かせた。只の人間とは思えぬほどの膂力を全身で耐えつつ、トリテレイアは盾を掲げ、当身を試みる。これは読まれていたのか、少年の足が僅かに下がる。
しかし、これこそが囮。本命は背後へと回ったマナンの拳。練り上げられた気を叩き込む様に、少年の胴体へと突き入れた。
これは直撃。しかし、即座に下がったマナンの表情は冴えない。
これでもまだ、通らない。彼の拳打は僅かに少年にたたらを踏ませる程度だった。
トリテレイアが陽動を引き受け、鬼の太刀を受ける。斬りつけ隙を作ったところにマナンが功夫で一撃を打ち込む。大まかな戦いの流れは作られて居るように思う。
しかしそれでも、二人は未だ彼に決定打を入れられずにいた。
一つにそれほどに受けへと回った彼の防御は強固であった。無理矢理隙を作り出してはいるものの、なかなかどうして決まらない。そして二つ目に、これが天賦の才が為せる業か、彼の反応がこちらに順応し始めていた。時が経つにつれ、不意を打ったはずの攻撃が通りにくくなっている。
「これは、何か切っ掛けが必要でしょうね」
どうしたものかと肩を竦めて見せるマナン。
それに対してはトリテレイアも同意見だった。このまま長期戦にもつれ込んでも、お互いに消耗するばかりである。
狙うは決定打に繋がる切っ掛け。
そして今だ、彼の中で燻る、少年の迷いへの想い。
それをもう一度、ぶつける。
「強く在らねば……ええ、その通りです」
打ち据えるは電子演算に基づいた尋常の動作。止められることまでも、影からマナンが攻め入ることすらも計算された最適解の動き。それを繰り返しながらトリテレイアは意を決して少年へと問いかける。
「ですが何の為に? 誰の為に?」
影から騎士を支える竜神は敢えて口を挟まない。未熟な剣士にやる同情の気持ちはない。けれども、別段彼を助けたいと願う者の邪魔をする道理もない。
ここで目を覚まし、何かを掴むのならまた一興。最後まで見誤り、心挫けて終わるのならその程度だったということ。乗り越えるも超えぬも、後は本人次第というものだ。
石蕗様、と彼の名をトリテレイアは呼ぶ。
「己が強さの求道の為だけなら、刀握らせぬ里から出奔する道もあったでしょう。しかし貴方様はここに残り、認められることを選びました」
彼はどんなに歯痒い思いをすれども、心苦しい日々を送れども、彼はこの里に残っていた。
一体何が、彼を止めたのか。一体何が、彼の背を支えていたのか。
「何が……」
返答の色は怒り。向ける眼光よりなお赤黒く、血のような炎を吐きながら鬼は呻き、刀握る手に力を漲らせる。
相手する騎士の剣は、反するように緩やか。ひ弱な太刀筋などいう様に打ち払い、剣士は体制を低くし、掌を鋼鉄の騎士へと向けて踏み込む。
「それしかないと言われ続けてきた、その定めが、貴方達に何が分かるというのですか!」
怒りを、恩讐を。こみ上げる感情を叩きつけるかのような必殺の掌打がトリテレイアへと迫る。
しかしそれこそが、待ち望んでいた契機。
激情故に狭まる視界。マナンがその隙間を滑り込み、繰り出される掌底をいなし、破魔の気を込めて打ち上げる。心の臓ではなく、太刀使う手のみを狙うのは彼なりのせめてもの優しさだ。
崩れる体勢、空白の隙間。
切っ掛けを誘い出した騎士が、剣の刃の腹を向けるように握り直す。
それしかなかったと吐き出した彼の言葉。そうだったのかと頷ければ、きっと楽なのだろう。
しかし、彼は騎士で、彼は忍びで。
ずっとずっと、強いものだから。
その意味をもう一度問いただせと。
「忍びとは主命を果たす者。未だ主なき貴方は、何のために、誰の為に強くあろうとしたのです!」
横薙ぎに振るった剣の腹で打ち据え、騎士は叫ぶのだった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
夜刀神・鏡介
◎
正直、彼には共感というか、同情というか……そういう思いがある
強くあらねばという思いを抱き、鍛錬を続けるのは俺もそうだ
鉄刀を抜き、相対しながら石蕗を見極める。観の型【天眼】
剣を交えればより効果的に相手を識れる
彼の剣の才能自体は間違いなく俺より上。俺が今上回っているのは単に経験の差でしかない
――だが、彼は何故剣を手に取ったのか。強さを得た先に何を求めたのか?
俺は果たすべき目的があるが故に強く在りたい
これまで剣を交えても、俺には彼の思いが伝わって来ない
自分を見つめ直せ、まずはそれからだ。お前はまだ、始まってすらいないと刀を一閃
尤も俺も迷いを抱える身。人に説教できるほど出来た人間なんかじゃないけどな
●未開を抜けて
正眼の構え。
鉄刀越しに、小柄な体躯の彼を見つめる。
夜刀神・鏡介(道を探す者・f28122)もまた、石蕗という少年の胸中を否定できずにいた。
共感と言えば良いのだろうか、同情と言えば良いのだろうか。とにかく近い思いが彼の中にもあるのだ。
『選ばれし者』として、強く在らねばならないという思いを抱き、そしてその為に鍛錬を続ける。そこまでも、彼と鏡介は変わらない。
だからこそ。彼のことをちゃんと、識らなければならない。
「その本質を……見極める」
『観の型【天眼】』。対象を観察し、あらゆる本質を見極める構えの一つ。その真髄を暴くことは即ち、一手先の利を得ることと同義。
鏡介は呼吸を整える。
今は只、彼の本当の心を知るために。そして、彼の凶行をこれ以上重ねない為に。ここで確実に、止めなければならない。
手から力を抜く。余分を捨て、何時にも反応し受け流せるように。
足には力を籠める。来るべきに最大の力で駆け、敵を圧倒できるように。
そして──踏み出した。
彼は石蕗を知らなければならない。高みを目指し、己を磨く者として。
そして、より深く、より効果的に見定めるために。
彼と刀を交え、相手を識るッ!
二人の間で血と汗が飛ぶ。
少年の力は予想以上だったと、そう思う。
真向からの打ち合いから手の読み合いへ。絡め手を牽制し、牽制され、間合いを詰めさせることは許さないけれど、離れることは許されない。
(彼の剣の才能事態は間違いなく俺より上……)
それでも辛うじて、彼の剣を受け、立ち回れているのは純粋に経験の差がもたらしたものだろう。
袈裟懸けの一撃を寸前で受け止めながら、鏡介は背中に冷たい汗が伝うのを感じる。
だからこそ、剣を通して、彼を観察し続けて感じるものに、鏡介は違和感を感じていた。
「……どうして、何もないんだ」
疑念は口を衝いて戦場に落ちる。
剣を通して見た彼は──ひどく、虚ろに思えた。
いくら剣を交えども、立ち昇る影の奥を見極めようと目を凝らせども、彼の思いが伝わって来ない。
まるで、何も抱いていないかというように。
大切な何かを失ったままでいるかのように。
それしかなかったと、彼は言っていた。けれど彼の心の中に何もない。
そんな虚ろを抱えたまま──彼は何故、剣を手に取ったのか。強さを得た先に、何を求めたのか。
鍔迫り合いの最中、鏡介は問い質す。
何故に、そこまで強く在ろうとするのかと。これまで幾人もの猟兵が問いかけ、そして答えがなかった投げかけ。
しかし、剣を交えてなら。天眼を駆使する鏡介なら、言葉は無くても、彼の思いを見極められる。
そこに座している思いは──やはり、虚ろ。
「俺は、果たすべき目的があるが故に強く在りたい」
鏡介は奥歯を強く噛む。
本当なら、鏡介自身とて未だ迷いを抱える身だ。人に説教できるほど出来た人間など、自分で思っていない。
彼の心の空洞の意味だって正直分からない。彼の苦しみの全てを理解だってしていない。
けれど、彼が強さの意味を未だ持てていないというのなら。強さの理由を、強さの目的を自分自身ですら知らずにいるのなら。
「なら、自分を見つめ直せ。まずはそれからだろう」
彼は始めるべきだ。石蕗という少年が生きる道を。
刀同士の拮抗を崩す。刃を滑らせ、注意していた間合いを無視して敢えて前へと踏み込む。そこは少年の掌打の射程だが、そんなの今は構うものか。
鉄刀を水平に構える。彼が迎撃に転じる前に、刀以外の凶器がこの身に触れる前に。速く、疾く、踏み込み走らせる。
近い思いを感じていた。同情すら彼にはあった。
だからこそ、何もない空洞の心が、誤ってしまった太刀筋が歯痒くて。
「お前はまだ、始まってすらいないんだ」
鏡介の言葉と共に放たれた一閃が、少年の影の鎧を斬り裂く。
割り開かれた影から、未だ未成熟の小さな身体が覗き見えた。
大成功
🔵🔵🔵
篝・倫太郎
強さってのは何も剣の腕だけじゃない
何の為に、何を支えに
手にした刀を振るうか
師匠は待ってたはずだ
お前が自らの手で掴むのを、知るのを
人の命を奪う太刀を持つ、その意味と覚悟に
人の命を奪わずに活かす強さに
お前自身が気付くのを、待ってたはずだ
技だけで語れるもんじゃない
心だけで語れるもんじゃない
お前はもうそれを知ってるはずだ
知ったお前が……
お前を唆した奴の傀儡になぞ、なれる訳ねぇだろうが!
攻撃力強化に篝火使用
衝撃波と破魔を乗せた華焔刀でなぎ払いの先制攻撃
刃先返して2回攻撃
適時距離を保ち、羅刹の膂力で振り抜く
敵の攻撃は見切りと残像で回避
暗視も使って対処
回避不能時はオーラ防御で防ぎ
武器受けからのカウンター
●奥底に宿すもの
「強さってのは、何も剣の腕だけじゃない」
篝・倫太郎(災禍狩り・f07291)は手の中の焔を滾らせる。望むのは、彼と向かい合う為の力。
災魔祓う焔の神力を薙刀に乗せ、覗き見えた少年の本体へ向けて駆け出す。
「何の為に、何を支えに、手にした刀を振るうのか。そこが肝ってもんじゃねぇか」
全力で振るった薙ぎ払いの一撃は少年の妖刀によって阻まれた。焔に乗せた破魔の衝撃波と妖刀の剣気がぶつかり合い、周囲の地面に罅が入る。散らされた力の残滓が両者を身体を傷つける。
それは倫太郎自身の躰も傷付けはするけれど、それは彼の躰も同じこと。影の躰はさらに弾かれ、晒されていた少年の部分をさらに広げていく。
──これまでの猟兵達との戦いで、少年の躰を覆っていた闇が少しずつ薄れ始めていた。
削り続けてきた成果か、少しずつ彼の心に変化が生じているのか。いずれにしても、繰り返し重ねてきた結果といえるだろう。
だからこの好機に、一気に畳みかける。
「師匠は待っていたはずだ。お前が自らの手で掴むのを、知るのを」
相手の反応を伺いながら、刃先を返して二度目の切り払い。勢いは足らないが、そこは持ち前の羅刹の膂力で強引に振り抜いた。
今度は浅く、少年の胸を裂く。再び赤と闇が散る。
その身が、人の躰が宿すものは本当に虚ろなのだろうか。
倫太郎は彼の師のことは知らない。其がどのような人となりであるのか。どれほどの強者であったのか、もう知る術もない。
けれど師は、弟子を導くものだから。
刃を封じ続けてきたのには理由があった。彼の師はその意味を正しく理解していた。
それならば、彼に足りないものをいつまでも放っておくだろうか。
彼ほどの才を持つ者なら、彼の行く先を案ずるものであるのなら。
──ずっとずっと、師は示し続けていたと、思うのだ。
剣は未だ止まらない。血と影を宿した刃が迫る。辛うじて見切り薙刀の柄で受けるも、二撃、三撃、と連続して斬撃が飛んでくる。
刀と薙刀、そして拳。互いの間合いの差を埋める様に、少年は倫太郎との距離を詰めにかかっていた。
「人を奪う太刀を持つ、その意味を覚悟に。人の命を奪わずに活かす強さに。お前自身が気付くのを、待っていたはずだ」
それは技だけで語れるもんじゃない。
それは心だけで語れるもんじゃない。
だからずっと、ずっと示されていた筈なのだ。
そんな、其を見続けてきた彼の心が本当に虚ろであるだろうか。
何もないと、空虚な刀を振るい続けられるものだろうか。
遂に体勢が崩される。かちあげられた得物と、その影から迫る殺気。
暗闇でも見通せる目は捕らえていた。少年の掌打が己が身体に迫るのを。
今なら回避を試みればなんとか間に合うだろう。一度距離を置き、間合いを図りながら再度攻めるべきだ。どこか遠くで、もう一人の己が囁く。
しかし──倫太郎は退かなかった。
気を集中させ、真っ向から相手の一撃を受け取める。得物を通してあらゆるものを破砕する打撃が体内を駆け巡る。
けれどまだ、立てている。まだ彼の目の前に、倫太郎は立てている。
故に、この言葉を届けられる。
「お前はその目で何を見てきた。幾度、教えてを受けてきた。何度、その背を見届けてきた」
目を見開け。
もう一度、その眼で己が底を見定めよ。
「お前はもうそれを知っている筈だ」
それは何も見えない恐怖と向き合うものだろうけれど、暗闇の中、沼を攫うようなものだけれど。
必ず、その手に触れるものはある筈だ。
だから。
だから。
届け。
「知ったお前が……そんなお前が。お前を唆した奴の傀儡になぞ、なれる訳ねぇだろうが!」
篝の焔宿した薙刀の柄が少年を打ち据え、残りの影を打ち払った。
大成功
🔵🔵🔵
珂神・灯埜
◎
戦場で噎せ返る様な鉄錆の匂いがどこか懐かしい
死して倒れ伏す人々に僅かに目を伏せる
黄泉平坂を進み、その先へ送る事はできないが
迷わず逝けるといいな
どうか安らかに眠れ
刀の鍔を指で持ち上げ黒い塊を見据え
いつでも抜刀できるよう柄に手を添える
どうしてオマエは強く在りたかったの?
誰かを守りたかったのか
自身の力量を認めて貰えず悔しかったのか
刀に神力を込めて焔を纏わせる
避けきれぬものは受け流し
気を見計らい確実な一閃を繋げよう
師が、親が、兄弟子が許さなかったのは何故か
オマエは何故だと思う?
ボクは想像でしか言えない
ただ大切にされていたのだと感じた
刀を持つ意味
斬る覚悟、揺らがぬ信念
オマエの心を強くしたかったのだろう
鹿村・トーゴ
◎
忍びが剣技に天賦の才か
戦国の世なら存分に活かせたが
…
生真面目な元服前のガキを鬼に仕立てやがったか
刀狩ってのは心底苛立たせてくれるよ
一族郎党皆殺しは
石蕗、お前さん独りの咎じゃない
けど
お前が忍びだから言うけど
自由にかこつけてアレの唆しに乗ったのはお前の落ち度
剣技の才は殺しの技じゃねーだろ
見境なしの
しかも身内殺しは忍びとしちゃ下の底
唆した刀狩を討ち返せよ
でなきゃお前は妖の使い走りだ
1m前後の距離を保ち【追跡/情報収集/野生の勘】で敵の剣筋を避け
被弾は【激痛耐性】→【カウンター】を狙い敵UCの威力と手にしたクナイにUCの威力を乗せ敵の掌を【串刺し/暗殺】
指を落としたり腕に深手を負わせ刀を落とさせたい
●目覚めるは
──何もかも、遅かったのだ。
既に事切れていた子供に近づき、丸越・梓(月焔・f31127)はその瞼をそっと手で閉じさせる。
全てが、間に合わなかった。この子供も、この里の人々も。そして刀の妖気に呑まれ鬼と貸してしまった少年の心でさえも。何一つ、梓が護れたものは無い。
この世の中にはたらればは存在しない。
あと少し早く、この場に駆け付けることができたのなら。妖刀がこの里に来る前に、事件の存在に気付けていたのなら。
いくらそう思えども、時は決して戻らないのだ。
ただ喪われたものが、傷ついてしまったものの未来が、彼の両肩に重く圧し掛かる。
──だから。
「……だからこその、強さだ」
そう独り言ち、梓は己の得物を抜き放つ。春に散る花の名を冠した妖刀を手に、一番、間に合わなかった彼の元へと駆け付ける。
傷だらけの少年は、もう体に纏う影を殆ど留めておくことも出来なくて。
けれど最後の意地とばかりに、その顔だけは未だ鬼のそれを残していて。
だから、梓は告げるのだ。彼が繰り返し言っていた言葉に、己の理由を添えて。
「強く在らねばならない。力が無ければ何も守れない」
黒いコートに身を包んだ青年と、闇の残滓を宿しながら戦う少年。二人の剣が目まぐるしく打ち合うのを見ている潜みし影が、一人。
二人の拮抗が僅かに崩れた。幾度もの打ち合いの末、少年の剣が梓の刀を弾き、その腹を蹴り飛ばす。
そうして二人の距離が離れたその瞬間、近くの木の上に潜んでいた鹿村・トーゴ(鄙村の外忍・f14519)はクナイを手に少年へと飛び掛かった。
「……ッ!」
位置は少年から見て完全に死角なのは計算済みである。それなのに、トーゴの不意打ちはいともたやすく少年に受け流される。
「忍びが剣技を、さらには天賦の才か……」
同じ忍びという生い立ちを持つ者として内心で舌を巻きながら、トーゴは体勢を立て直し、少年との距離を取る。
戦国の世なら、さぞかし存分に活かせたことだろうと思う。闇に潜み、主の命に従って暗躍するのが忍びの業だが、なにも刀を使う時がない訳では無い。
秀でた技があればその分、使える選択肢は増える。いざ戦いになった時、戦力としては言わずもがな。時が時なら名のある強者として噂されたのかも知れない。
しかし今は太平の世。戦いが無くなったわけではないけれど。力だけで支配できる世ではない。
そして彼は──力だけを手にして、道を違えてしまった。
「生真面目な元服前の餓鬼を鬼に仕立てやがったか。刀狩りってのは心底苛立たせてくれるよ」
募らせる憤りは目の前の彼にではなく、暗躍した妖刀へ。
彼は自分とは違う。相手はまだ、大人になりきれてもいない子供だ。妖刀の囁きが無かったのなら、彼自身が己の道に気付いた可能性は充分ありえただろう。
だから、トーゴはクナイを構え、彼と対峙しながら告げる。
「石蕗、一族郎党皆殺しはお前さん独りの咎じゃない」
この惨劇を仕組んだのはオブリビオンで、元をたどれば猟書家達の遺志だ。彼一人では、その悪意を退けることはできなかっただろう。
だから彼だけに、この咎があるわけではない。
「けど、さ」
相手の剣筋を見定めて、その全てを紙一重で躱して。もう一度は石蕗と彼の名を呼んだ。
これは同じ道をいくものだから。だからこそトーゴは言わなければならない。
「けどこれは、お前が忍びだから言うけど。自由にかこつけてアレの唆しに乗ったのはお前の落ち度だ」
その罪は一人で背負うべきものではないけれど──同時に全く背負わなくて良い訳ではないのだと。
「剣技の才は殺しの技じゃねーだろ。見境なしの、しかも身内殺しは忍びとしちゃ下の底」
お前はそれでいいのかよ。そう問い質すトーゴに少年が微かに頭を振る。
「じゃあどうすればいい。やるべきことがあるだろう」
尚も言い募る言葉を振り払うように突き出された掌底に対して、トーゴは手の中に意識を集中させた。
研ぎ澄ますは鉄の嘴。クナイを起点として、高密度に圧縮された空気を鶴嘴状に形作る。
そして得物を手にした手を、少年の掌に向けて殴りつけるように、ぶつけた。
「っ……!」
「唆した刀狩りを討ち返せよ」
両者の間で血と肉が弾け飛ぶ。トーゴの嘴は、自身の鋭さに加え、少年の冴えすぎた技の勢いをも味方につけて、彼の掌に深々と突き刺さっていた。
勿論まともに受けたトーゴとてただでは済まない。手の中のクナイは砕け散り、強引に受け止めた腕は骨が砕け、肉が裂けている。
それでも。痛みを堪え、歯を食いしばる。
言わなければならない。血の責は、同じ血を以って雪ぐしか成り得ないと。
彼の才は、その為に使うものだと。
「でなきゃ、お前はこのまま妖の使い走りだ!」
「……わた、くしはっ」
漏れ聞こえた彼の声は、微かに震えを帯びていた。
堪らず一歩引き、さらに距離を取ろうとした彼の退路に、体勢を立て直した梓が立ち塞がる。
「強さは、必要だろう」
両者に挟まれ、逃げ場を失い硬直する彼へと伸ばしその胸ぐらを掴み上げた。一度捕らえてしまえば、そこは大人と子供の体格差だ。小柄な躰は軽々宙へ浮き、少年は苦し気に藻掻き暴れる。
気にせずに、梓は少年を引き寄せ額を突き合わせた。
思い出す。この里の死者の顔を。救えなかった者達を。
──里の惨劇に、己の過去が重なる。
守りたい人達は自身の力不足で護り切れず。いつも、皆この掌から零れ落ちて逝った。
全て俺のせいだと。梓は思っている。俺が護れなかったと、梓は悔いている。
事実がどうであったとしても、梓はいつもそう己の無力を責め続ける。
だから彼は、強さを求めているのだ。
強くなければ、何も守り通すことが出来ないから。
けれど。
「けれど、他者を捩じ伏せる力だけが強さではない」
それだけでもまた──何もできないのだ。
胸に激痛。見下ろせば、少年の掌が己の胸にめり込んでいた。
四肢がばらばらになりそうなほどの衝撃。喉からせり上がる鉄臭さ。身体が軋み悲鳴を上げる。
「……それが、何だ?」
近づけば攻撃が飛んでくることなど承知、その上で、一切の防御を彼は取っていなかったのだ。
己の身よりも優先するべきことがある。
だから梓は腕に力を込め直し、影で覆われたままの少年の顔を睨みつける。
「目を覚ませ」
低く、言葉を叩きつける。彼の魂の奥底まで響く様、つよく、強く。
「妖気に呑まれるな。思い出せ」
彼が望む『強さ』とは何であったかを。
彼が何故、力を欲したのかを。
「お前は、そうまでして何を護りたかったんだ」
「……わたくし、はっ」
少年の声が戦慄く。
耐え切れないというように傷付いた手で覆った顔から、揺らいだ影が掻き消えていく。
今だ赤い瞳だけを宿した彼が、震えながら吐いた言葉は。
「違う、違うの、です……」
涙ながらの、否定の言葉だった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
月隠・三日月
◎
忍びの里の妖剣士と聞くと、他人事とは思えないな。
剣の才に恵まれた彼と、自分を重ねられるほど厚かましくもなれないけれどね。
お互い忍者だし下手な小細工はばれそうだな。一旦真正面から妖刀で斬りかかってやりあおうか。彼と私の実力差ならこちらが劣勢になるだろうけれど、それでいい。有利になるほど隙ができやすいものだからね。
機を見て【妖刀解放・大太刀】で刀身を伸ばし、彼の持つ妖刀を叩き落すように攻撃しよう。剣術が得意な彼なら間合いを意識するだろうからね、それをずらせば隙をつけるのではないかな。
大抵の場合、強さは手段だからね。彼は何のために強くなりたかったのかな。……いや、彼は本当に強く在りたかったのかな?
●疑念
違う、と彼は言った。
その言葉の意味を月隠・三日月(黄昏の猟兵・f01960)は考える。
聞けば彼は忍びの里に生まれた妖剣士。出生も近く、得物も同じであればどうしても他人事の様には思えない。
(……最も、私の場合はそれしか方法がなかったのだけれど)
剣の才に恵まれ、忍びとして生まれながら剣の道を選んだ彼と、戦いの才を見出せず、妖刀を以って力の不足を補う自分。
似たようで雲泥の差の両者を重ねられるほど、三日月は厚かましくもなれなかった。
「でも、それなら猶更だ」
生まれながらに才を与えられた少年。それ故に彼が得られなかったのは、力でも技でも無い強さだった筈。
それなのに何故、彼は『違う』と否定したのか。
「なっ──」
更に問い質そうと一歩踏み出した瞬間、泣き崩れていた石蕗の姿が掻き消える。
同時に背筋に走る悪寒。
頭より先に、身体の方が動いていた。
長年繰り返し、身体に染み付いた動き。腰に差していた妖刀を抜き、己の勘が告げるままに防御の姿勢を取る。
その直後、砲弾でも直撃したのかと思う程の一撃が横薙ぎにぶち当たってきた。
まともに受け止めた妖刀が軋む。生半可な刀では、そのまま真っ二つに折れていただろう。
もう体を覆う影はない。隠されていた顔も、晒されてしまって居る。彼の鬼としての身体は、その大部分が失われている筈だ。
それなのに、ここに来てまだ。この威力。
内心で驚愕しながら、石蕗へと視線を走らせた。
彼は、苦悶の表情を映しながら──赤い鬼火をその瞳に宿し、涙を流していた。
(嗚呼……)
そこで三日月は悟る。
彼はもう、止まれないのだ。その心も、身体も。
全ての元凶である刀を、その手からは引き剥がさない限り、決して。
(ならば……)
自分達が止めなければならない。彼を、彼のままでいさせるために。
渾身の力で石蕗の刀を押し返す。
同じ忍びであれば、下手な小細工など読まれるだけだろう。三日月は意を決して真正面から石蕗に斬り結ぶ。
実力差など最初から承知の上だ。一撃一撃が驚く程に重い。必死に腕と足を動かし、彼の剣に喰らいつく。それでも捌き切れない斬撃が徐々に身体に刻まれていく。
劣勢なのは火の目を見るより明らか。
──しかし、これでいい。
汗と血を流しながら三日月は笑った。
有利になればなるほど、相手には油断が生じる。そして油断は隙を生む。
強烈な一撃を受け止めきれず、三日月の身体が吹き飛ばされる。体のあちこちに擦過傷を生みながらも、何とか立ち上がる。
それを好機と見たのだろう。石蕗が刀を振り上げた。
傷付いた片手に代わるような、威力に集中させた大振りからの一撃。
「この時を、待っていたよ」
名も無き妖刀から符を引き剥がした。
封を破られた刀が使用者の精神を喰らい、本来の姿を取り戻す。ごくありふれた太刀の形から、彼の背丈に並ぶ程の大太刀へ。
伸びた間合いはそのまま、三日月の反撃の機を生み出す。刀自身の重さを活かして振り回し、狙うは石蕗の無傷の片腕。
そして石蕗は剣士であるからこそ──急激に変化した彼の距離に対応できない!
石蕗を斬りながら、三日月の思考は始めの言葉へと戻っていた。
強さを認められなかった石蕗。猟兵達が示した答えの欠片。
それら対しての、石蕗の「違う」の言葉。
それは本当にに拒絶だったのだろうか。
大抵の場合、強さとは手段だ。
生きる為、守るため、その他理由は多岐に渡るが、それでは彼は何の為に強くなりたかったのか。
いや、そもそも、何故、強く『在らねば』なのだろうか。
「……いや、あなたは本当に、強く在りたかったのかな?」
──彼は本当に、強さを望んでいたのだろうか?
大成功
🔵🔵🔵
ディスターブ・オフィディアン
第三人格で行動 ※アドリブ連携歓迎
心情:霊剣としての人格であり、妖刀によって鬼に堕とされた石蕗に救済の意思を抱いています
「友も師も今は無い。ならば一時、私があなたを導きましょう」
行動:村雨小太刀での接近戦に、誘導弾を組み合わせ連携攻撃。あわせて口頭で説得し、強さの先の目標・願いを思い出させる。
戦闘中は、武器受けで防御しながら二回攻撃や薙ぎ払いで攻撃
UCで氷の刃のような誘導弾を作成し、自身へ援護射撃
「あなたは充分に強い。その上で何を望むのです?」
「強さを求める修羅の道か、人を救う志士の道か。あるいは風と、星と共に生きる自由の道か」
破魔の力で絶姫からの干渉を妨害
「思い出しなさい、あなたの願いを!」
●願いを口に、夢想を胸に
両手を傷つけられて尚、妖刀を落とさずにいられるのはさすがの胆力か、それとも彼が求めるものへの執念か。
ディスターブ・オフィディアン(真実を 暴く/葬る モノ・f00053)はそんな石蕗に一種の感心を覚えながら近づく。
「だからこそ、疑念が残ります。あなたは充分に強い。その上で何を望むのです」
宿す人格の内、霊剣のヤドリガミを模倣した第三人格が表層に出ている彼はなんとしても石蕗を救い出したかった。
妖刀に妖刀に鬼に堕とされた少年。生まれついての才を持ちながら、けれど決して刃を振ることができなかった彼。
何故その身に余る力を求め、修羅へ墜ちてしまったのか。
今はもう、迷う彼を導く友も師も、この世にはいない。妖刀が、修羅が、彼らを皆殺めてしまった。
ならば今、このひと時。
「私があなたを導きましょう」
その言葉を合図に、ディスターブの周りに氷の刃が浮かび上がる。
まずは牽制。彼の魔力によって生み出された氷の矢は、彼の意のままにその一部を石蕗に向けて連続して射出する。
対する石蕗は動かない。いや、彼には動く必要がなかった。
「……いいえ」
ゆらりと、いつの間に召喚されたのだろう。二人の間に大太刀の亡霊が立ち塞がった。
途端、闇色の業火が燃え上る。炎は壁の如く石蕗を囲い、ディスターブの氷弾を瞬く間に水蒸気へと変えてしまった。
「……わたくしは、違うのです」
炎の向こう側で弱々しい石蕗の声が上がる。
「……導きなどなくとも、解っているのです。わたくしに皆様のような強さはない。だからわたくしは認められなかったのでしょう」
それを聞きながら、ディスターブは立ち塞がる大太刀へと斬りかかる。それの剣筋に石蕗ほどの冴えは無い。刀身から湧き上がる業火にさえ注意を払えば十分に対処可能だった。
炎を纏う斬撃を己の刀で受け止め、捌く。零れ落ちるように降り注ぐ魔炎に関しては、魔弾をあらぬ方向へ撃つ事で、その狙いを逸らした。
「それでも……わたくしは強く在らねばならなかった。あの目に応えなけばならなかった」
だから、違うのだと、少年は繰り返す。
彼の言葉は今だ要領を得ない。彼の手の中の妖刀がその心を曇らせているのだろう。
それならば。
ほんの少しの間、妖刀──絶姫の干渉を打ち消し、彼の真の言葉を聞き出す。
「では、あなたの真は何を欲するのです」
彼が強さの先に何を見据えていたのか。その胸につかえている本当の願いは何なのか。
「強さを求める修羅の道か、人を掬う志士の道か」
鬼を望む道でも良いだろう。善の道でも良いだろう。全く関係のない、些細なものだって構わない。
それは、彼自身の望みという強い言霊となって、彼の心を奮い立たせるだろうから。
「あるいは風と、星と共に生きる自由の道か」
「それは……っ」
ディスターブの最後の言葉に、石蕗は言葉を詰まらせる。
今だ。ありったけの破魔の魔力を込めて、魔弾を炎の壁に向けて射出。その奥に座り込んでいた石蕗から湧き上がる影、妖力を払う。
そして、叫んだ。
「思い出しなさい、あなたの本当の願いを!」
ディスターブによって清められた風が吹き抜ける。
その風に誘われるように、彼の唇が動く。
「ただ」
零れ落ちるように、どこか付き物が落ちたような口調で響く、石蕗の声。
「わたくしはただ……。
わたくしが望みながら、それでも捨てたものの意味が、欲しかっただけなのです」
不要なものだから、得られるわけがないと思ったから。だから自らの手で捨て去ってしまっていた。
それは眩くて、胸を震わせるほどに美しくて。捨て去るにはあまりにも尊くて。
しかしわたくしが歩む道は、これを捨てねばならないから。
これを捨ててしまうまでのものが、わたくしが生まれながらに敷かれた道だから。
求められなかったから、手に入らなかったから。
だから、思ったのです。
わたくしが強く在らねば。
わたくしを照らしてくれたあの眩しさは。わたくしが捨ててしまったあの光は。
ただの下らない、ありふれた幻想で終わってしまうと。
大成功
🔵🔵🔵
御桜・八重
全神経を集中、顔を突き合わせるような距離で、
剣を合わせて火花を散らす。
彼も、彼の母も周りの人も、強くなることそのものに
囚われ続けていたんだね…
強くなったと認められた時、
あなたはどんな言葉をかけて欲しかったの?
言葉には出さず、強い視線で彼に問いかける。
一瞬たりとも気を抜けない打ち合いの中で、
【三途渡し】の挙動を見切り、
掌打が胸を撃ち抜く瞬間、そこだけを桜の花弁に変えて、
身体を突き抜けさせる。
「捕まえたっ!」
何が起きたのか気づかせる間も与えず、
両手で頭を掴み、オーラを集中させた額で
渾身の頭突きを叩き込む!
誰も言ってくれなかった言葉を、わたしが言ってあげる。
もう、いいんだよ。
強くなくて、いいんだよ。
●灰を抄い、欠片を拾い
「ずっと、囚われ続けていたんだね……」
石蕗の告白を聞き終え、御桜・八重(桜巫女・f23090)は自身の胸を抑えそう言った。
石蕗の悲痛な声に、聴いているこちらまで胸の奥が痛む。
ずっと囚われていたのだ。彼も、彼の母も、周りの人も、強くなることそのものに。
彼に才を見出し、疑うこともせずその道だけを示し続けてきた里の人々。
それを当たり前のように受け入れ、己の本当の望みを捨ててしまった石蕗。
全ての歪みの始まりは、そこから始まってしまったのだ。
始めは小さいものだったそれはいつか澱となり、澱はやがて心を曇らせて……その弱みに、妖刀は入り込んだ。
だからこそ、彼の歪みは此処で──正す。
「石蕗くん」
その為に、八重は刀を抜く。刀身に桜花の煌めきを宿したそれを真っ直ぐに、俯く石蕗へと突き付ける。
まだ終われない、終わらない。
何故ならまだ、彼の手には妖刀があるから。彼の未練を、彼自身がまだ捨てきれてはいないから。
彼の心を曇らせる澱は全てこの場に置いていかせる。
その為に。
「戦おう」
──今度こそ、ちゃんと止めて見せる。
そう誓って、こちらを見返した彼に向けて、八重は走り出した。
辛うじて捕らえた鋼色の筋を辛うじて追いかけ、受け止める。
全神経を集中させて二刀を振るい、そうしてやっと彼の剣と並び立つ。一瞬たりとも気が抜けない中、八重と石蕗は幾度も打ち合い、切り結んでいた。
石蕗もまた、八重の言葉からその覚悟を見て取ったのだろう。その目は今だに赤いが、真剣そのものの表情で八重を見据えている。
一際大きく、鋼が悲鳴を上げる。顔を突き合わせるような距離で石蕗の刀と八重の刀がぶつかり合い、火花が散った。
八重の空色の目と、石蕗の今だ鬼宿す目が間近でかち合う。
(強くなったと認められた時、あなたはどんな言葉をかけて欲しかったの?)
言葉には出さない。強い視線だけで、八重は石蕗へと問いかける。
「……っ」
伝えたのは物言う視線か、はたまた交わした鋼の声か。言葉でこそ返さなかったが、石蕗の瞳が再び揺れ、伏せられる。
嗚呼、彼は。
『それ』すらも躊躇う程に、ずっとずっと。
(でももう、大丈夫だよ)
だから八重は──そっと笑みを浮かべた。
刃を滑らせ石蕗の攻撃を受け流し、誘うように両腕を降ろした。
ほんの僅かでも読みを違えれば、斬られるのは分かっている。
それでも、欲しかったものを彼自身が気付けるように。彼の苦しみを終わらせられるように。
八重の誘いに乗る様に、石蕗が掌打の構えを取る。
狙うは八重の心臓。まともに受ければひとたまりもないだろう。
彼の一挙一動を見て、見届けて──。
そして、石蕗の手が八重の胸を貫いた。
「捕まえたっ!」
桜が散り、春風のような声が響き渡る。
背中から突き出た腕をものともせず、彼女の腕が抱きしめるように石蕗の頭へと周り、そっと掴んだ。
「誰も言ってくれなかった言葉を、わたしが言ってあげる」
何が起きたのか把握しきれていない石蕗を捕らえ、それでもその表情は穏やかなまま、八重はそんな彼へと告げる。
「もう、いいんだよ」
石蕗の必殺の一撃は、確かに八重の胸を穿っていた。
現に今も、彼の腕は八重を通り背中へと突き出ている。
しかし受けた彼女の胸は──舞い散る桜の花びらへと変わっていた。
石蕗の攻撃が直撃するほんの少し前、八重は自身の躰の内、胸の部分だけをその名の通り花弁へと変え回避していたのだ。
「もういいの」
二刀を捨て、彼を抱きしめるように捕らえながら、八重は言い聞かせるように繰り返す。
果ての無い道を求めるのは、これでお終いだと。
歪みながら、それでも彼が大切にし続けてものは、そのままでも十分に、美しいと。
「強くなくて、いいんだよ」
そう、優しい声で告げて。
己の額を全力で、石蕗の頭へと打ち付けた。
つまるところの──頭突きである。
単純な、しかしこの距離では最大の不意打ちと威力を発揮する打撃技。
彼女の言葉で戦意を失い、また彼女の渾身の一撃を喰らった石蕗はそうして意識までも失って。
ようやくその手から、妖刀を手放したのであった。
大成功
🔵🔵🔵
第2章 ボス戦
『『凶刀』絶姫』
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POW : 遊んであげましょう
【凍てつく炎】【修羅の蒼炎】【呪詛の黒炎】を対象に放ち、命中した対象の攻撃力を減らす。全て命中するとユーベルコードを封じる。
SPD : 貴方、斬るわ
【殺戮を宣言する】事で【剣鬼として最適化された構造の躰】に変身し、スピードと反応速度が爆発的に増大する。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
WIZ : 私は刀、刀は私
【刀、又は徒手での攻撃】が命中した対象を切断する。
イラスト:奈賀月
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
|
種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠四辻・鏡」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●彼岸を招く赤き花
意識を失った石蕗が手放した妖刀から、仄暗い影が立ち昇る。
「全く、興醒めね」
氷の如き冷たい女の声が響く。
影から現れ出でたのは、少女の姿だった。
歳の頃は石蕗よりいくらか年上といったころだろうか。腰まで届く黒髪に色鮮やかな羽織。瞳は血のように紅い。その顔立ちは遠目からみても整っていることが分かるだろう。
しかし、花の様な見た目はあくまで仮初のもの。その証拠に、彼女から滲みでる殺気は只人であればそれだけで心の臓を止めかねない程濃く、邪悪なものだった。
凶刀、『絶姫』。
人斬りの為に生まれたかのような妖刀の化身であり、彼女自身も血と殺戮を欲する剣鬼。そして、今回の惨劇を手引きした黒幕。
「せっかく、手塩にかけて育てた花が開き、実を結びかけたのというのに。熟す前に落としてしまうなんて、なんて無粋なヒト達かしら」
言葉とは裏腹にさして残念そうでもなく絶姫は言う。その視線はすでに石蕗には向けられておらず、もう彼には興味がないと言っているようで。
「でも代わりに、もっと面白いものを見つけたわ」
──その血色の瞳は、真っ直ぐに猟兵達を見つめていた。
「刀狩に付き合ったのもただ、強者を斬る楽しみが増えればと思ってのこと。それを止めたのなら、貴方達も当然強いのでしょう?」
なら、殺し合いましょうと絶姫は微笑み、影から呼び出した刃を握る。
「あんな、つまらないことに心を奪われた弱き者にはもう用は無いの。私は強い人が好き。強い人を斬って、斬って、斬り殺したいのよ」
花のようなかんばせで鬼は嗤う。これから起こる死合に、喜びを隠しきれないというように。
「斬れば全て糧となる。……貴方達も、残らず私の糧とおなりなさい」
さぁ、遊びましょうと、絶姫は刀を振り上げて。
「私は凶刀。凶刀、『絶姫』。私はあらゆるものを絶つ刀」
嗤いながら、猟兵達を迎えるのであった。
●負けぬ花は遺志に咲き
全てが雪がれた訳はない。
迷いが、この身から消えた訳でもない。
実体化した妖刀を前にして、意識を取り戻した石蕗は血に染まった己の手を見下ろしていた。
傷つき、自身の地で赤く染まった両手。
しかし彼の目には、その血が己の罪の証のように見えた。
ただ、証明したかった。
ただ、否定したかった。
それだけの為に、どれだけたくさんの過ちを犯し、そしてどれだけ、犠牲を払ってしまったのだろうか。
強くなくてもいいと、包まれた。
張りつめていた緊張の糸が解けた様だった。
望みを、理由を、問われた。闇雲に強さを追うだけでは空であると、己を振り返れと叱られた。
亡き人々の想いに気付かされた。許されない厳しさの、裏の暖かさを思い出させられた。
強さを、教えられた。自分では知り得なかった多くの形。見ていながらも気付けなかったそれを示された。
そして己の中にも、探していたものはあると、諭された。
その強さを、本当の意味で掴み、そして正しく振るえなければ──何が強さだというか。
誰が、望みを口にできるのだろうか。
「……猟兵様、どうか」
傷ついた己の手を握りしめ、石蕗は顔を上げる。
不思議と傷の痛みはない。力も、体もあれほど酷使した筈なのに、驚く程身体は軽かった。
そんなことよりも、湧き上がるこの衝動に従わなければ、きっと本当の意味で何も始まらないと、本能が強く告げていた。
「わたくしにも、手助けをさせてください」
本当の意味で、強さを探す為に。
──彼は今一度、刀を手に取る。
篝・倫太郎
手助けするのはこっちだと思うけどな
石蕗にだって思う処はあるだろ
きちっと片ぁ付けようや、石蕗
前を向いて『これから』をお前が生きてく為にもよ
手を繋ぐを代償に始神界帰使用
詠唱と同時にダッシュで接近
鎧砕きと破魔を乗せた華焔刀のなぎ払いで先制攻撃
刃先を返し、吹き飛ばしも乗せた2回攻撃
三つの炎、全て当たらなきゃどうって事ない
敵の攻撃は見切りと残像で回避
回避不能時は衝撃波と吹き飛ばしで炎が命中しないよう対処
悪いな、てめぇの欲を満たしてやるつもりはねぇ
そもそもが……さして強くもねぇんだよ、あんた
それが俺達を斬ろうなんて、百年早ぇって話だ
陽動して挑発して
石蕗が一撃喰らわす好機を作る
まずは一太刀入れてきな、石蕗
夜刀神・鏡介
◎
どうやら幾らか吹っ切れたみたいだな。これは彼の転機……なら、それを掴めるように手助けをするのが、僅かながらでも先を行く者としての責務って奴だ。ならば行くとしようか、石蕗
――黎の型【纏耀】。神刀の拘束を解き、神気を身に纏う
あらゆるものを絶つと言うのなら、この身とこの刃を絶ってみせろ
放たれた炎を浄化の刃で斬り捨て、斬撃波と共に接近。敵の斬撃を受け流して石蕗が攻め込む隙を作りつつ、機を見て自身も攻撃
剣は凶器。それは事実。ならば確かにお前の言う強さにも一理あるだろう
だが、それだけが真理ではない。強さの形は人それぞれで、押し付けるものじゃない
さあ石蕗、奴にぶつけてやれ。お前が本当に求めた強さの事を
鹿村・トーゴ
◎
先の怪我を縛り固定
以降常時【激痛耐性】
正気に戻ったかい?石蕗どの
こっから正念場だぜ
オレ剣技はからっきしだがね石蕗どのは違う
妖刀女は手強いがあんたの腕なら渡り合えるよ
剣の冴えはこんな時の為だ
隙を見たら即やりな
だが石蕗どの…子供に酷だがよ忍びなら怒りに任せんな
冷静に殺り必ず生き延びろ
相討ち死なんかダメだぜ?
別嬪さん
あんたの望みも結構脳筋だねェ?
つまらんとか姐さんがつべこべいう事じゃねーな
この惨状でなきゃ手合せも楽しめたろーけど
UCで強化
代償流血を拭い視界確保
敵UC宣言と同時に一足に接近
右腕を黒曜石で覆い鉤爪状に強化
被弾覚悟で刃を弾き胴を裂く気で攻撃【追跡/カウンター/暗殺】
石蕗が斬る隙を作れたら
●初めの太刀
「正気に戻ったかい? 石蕗どの」
落としていた刀を取り、真っ直ぐにこちらを見た石蕗に真っ先に言葉を返したのは鹿村・トーゴ(鄙村の外忍・f14519)だった。
「どうやら幾らか吹っ切れたみたいだな」
続く夜刀神・鏡介(道を探す者・f28122)も、そんな石蕗の様子に安堵の笑みを浮かべる。
此処がまさに彼の転機と呼べるだろう。なら、それを掴めるように手助けをするのが、僅かながらでも先を行く者としての責務というもの。
「ならば行くとしようか、石蕗」
「こっからが正念場だぜ」
「……はいっ!」
申し出を快く受けた二人に、緊張の色を浮かべていた石蕗の顔が明るくなる。
「っていうか、手助けするのはこっちだと思うけどな」
何度も頷く彼の背を力強く叩くのは、篝・倫太郎(災禍狩り・f07291)だ。
相手は狡猾で、残忍な剣鬼。直接剣を交えずとも、その力は尋常でないことはこの距離からでも粟立つ肌が知らせてくれる。戦える者が増えるのは心強い。
それに──。
「石蕗にだって、思う処はあるだろ」
惨劇を唆したものと、唆された者。その罪を彼がどう取り、何を想うのか、倫太郎は敢えて口出しはすまい。その答えは彼自身が見つけたものだ。
けれど彼には彼なりの、決着の付け方があるのだと、そう思えたのだ。
「……ありがとうございます」
そんな倫太郎の考えを察したのか、石蕗はもう一度深く頷き、彼を見返した。
「……頭はまだ下げませぬ。それは、本当の意味で全てを完遂した時後に、改めて感謝を送らせて下さい」
「その意気だ」
「石蕗どの」
同士討ち覚悟で受けた片腕の傷を縛り、その手にクナイを固定しながら、トーゴは彼の名を敬意を込めて呼んだ。
此処までの戦いで負った傷は浅くはない。先の戦いで掌打をまともに受けた箇所はいまもじくじくと痛みと熱を生んでおり、このままではまともに使えないだろう。
けれど、そんなもの。この戦いの為なら幾らでも耐えられよう。
「オレは剣技はからっきしだがね、石蕗どのは違う。妖刀女は手ごわいが、あんたの腕なら渡り合えるよ。剣の冴えはこんな時の為だ。隙を見たら即やりな」
言外にその為の隙は何が何でも作ると告げ、だがな、とトーゴは言葉を続ける。
これは同じ忍びとして。そして、この里の生き残りとなった彼自身の為に。
「……子供には酷だがよ、忍びなら怒りに任せるな。冷静に殺り、必ず生き延びろ」
ましてや相打ちなどもっての外だと釘を指す。
「……承知しました。わたくし自身の為に、必ず、約束いたしましょう」
これは、復讐撃ではない。
迷うた先に光を差して貰った少年の、答えを掴むための戦いだ。
「きちっと片ぁ付けようや、石蕗。前を向いて、『これから』をお前が生きて行くためにもよ」
辿り着けなかった剣士の、辿り着く為の戦いは、こうして幕が開かれた。
「今ここに戻れ、カミの力」
詠唱と共に薙刀の封印を解いた倫太郎が、先陣を切る様に駆け出した。
敵の武器は太刀のみであるのに対し、こちらは薙刀。先の先を取ることにおいて間合いの分、こちらに利がある。
(相手が仕掛ける前に、こちらから攻めるッ!)
一息に絶姫との距離を詰め、武器本来の神力に破魔を込めた得物を横薙ぎに振るう。
鎧も纏わぬ少女一人程度なら軽々と両断できるような一撃は──しかしながら片腕一本、翳す程度に上げられた太刀一振りによって止められる。
「……少し、遊んであげましょうか」
にこりと、優雅ともとれるような笑みを浮かべて。彼女の反対の手に炎が灯った。
倫太郎の脳内で警鐘が鳴り響く。即座に刃先を返すことで相手の刀を弾き、牽制も兼ねた一撃を重ねる。しかし、これも難なく彼女の刀によってあしらわれる。
追うように放たれたのは、蒼白く燃え上がった炎。如何なる術か、蒼炎は瞬く間に蛇の如くうねり、退く倫太郎を呑み込もうと伸びた。
近くに来るだけでも皮膚が焦げ付きそうなほどの熱量が迫る。間一髪、転ぶようにして地獄の炎を避けきった。
「甘いわ」
途端、腕と、足に走る熱さにも似た痛み。見れば足と、地面へとついた手に霜が降りていた。
彼女の操る炎の内の、全てを凍らせる絶対零度の炎。動きを読んでいた絶姫が蒼炎と同時に走らせていたのか。
倫太郎僅かでも動けば凍った箇所は忽ち肉が裂け、血潮が噴き出す。まさに紅蓮地獄とも呼べる技。これでは十全の力で刀を振るう事は出来ないだろう。
しかしそれでも、倫太郎が怯むことは無かった。
「悪いな、てめぇの欲を満たしてやるつもりはねぇ」
神力で霜を吹き飛ばし、感覚を確認する。
いくら手足を、いくら痛もうが、動かない訳では無い。三つの炎、どうせ全てあたらなきゃどうということは無いのだ。
「そもそもが……さして強くもねぇんだよ、あんた。それが俺達を斬ろうなんて、百年早ぇって話だ」」
敢えて声高に、彼女が反応するだろう言葉を乗せて倫太郎は挑発の言葉を叩きつける。
この程度では全く、こちらの強さは揺るがないと見せつけるように。
彼女の目が、『本命』から一層離れてくれてるように。
「……遊びも過ぎれば毒を生むわね」
絶姫の笑みが冷たいものへと変わる。その背後から再び生まれる炎。残りの炎をけしかけて今度こそ、こちらの攻撃を封じてしまおうという目論みだろう。
上等だ。倫太郎は笑う。
三つの炎全てをけしかけるということは、絶姫はこちらの陽動にかかっているという証拠。
その分、彼女の攻撃はますます激しくなるだろうが、
「──黎の型【纏耀】」
陽動は何も、倫太郎一人では無いのだ。
【無仭】、解放。常で有れば厳重に保管されている神刀を白鞘から抜き放てば、刀身から漏れ出ずる神気が鏡介の体を覆っていく。己の寿命と削る代わりに至る、神器と人が完全に重なる境地。真の姿へと至った鏡介は、倫太郎目掛けて放たれた炎を真っ向から切り捨て、浄化の力を以って打ち消していく。
「あらゆるものを絶つと言うのなら、この身とこの刃を絶って見せろ」
二度、三度と、絶姫が再び炎を放つ。呪詛に染まった黒炎を、地獄から湧いた炎を、神刀は無力化していく。
今度は鏡介からの攻め込み。強い踏み込みに衝撃波が生まれ、蟠った炎の残滓を吹き飛ばす。
神速の勢いを乗せた上段からの振り下ろし。これも絶姫は難なく己の太刀で受け止めた。
絶姫の紅蓮の瞳と、神気で金色に染まった鏡介の目が交わる。
「剣は凶器、それは事実。ならばお前の言う強さにも一理あるだろう」
どんなに理由をつけても。刀は──武器とはそもそも人を傷つけるもの。その側面は確かに否定できない。それならば武器として全てを斬り、屍の山を築いた上にあるものも存在はするのだろう。
しかし、彼は、石蕗は違う。彼が欲していた理由は、彼が求めていた理由は別にある。
他ならぬ彼自身がそれに気付いたのだから。
鏡介は、先に立つものとして彼に背を見せるのだ。
「だが、それだけが真理ではない。強さの形は人それぞれで、押し付けるものじゃない」
「……所詮は弱者の言い訳ね」
「それは先の言葉、実行してから言って貰おうか」
絶姫の眉がピクリと動いた。思っての通り、彼女は己の強さと、そしてその名の由来に絶対の自信があるらしい。
なれば隙は、そこにこそ生まれるだろう。
「不快ね。斬ってあげようかしら」
気分を害されたと言うように絶姫の刃が踊る。野辺に咲く花でも蹴散らすかのように、炎を纏った斬撃が次々に鏡介を襲う。重さ、速さ、どれをとっても全てが人智を超えた領域。紙一重で受け流すなどと半端な考えでは忽ち細切れと化すだろう。
それほどに、絶姫の引いたからこそ。
次の一手が、最大限に作用する。
「──っ」
何かを察知した絶姫が瞬時に身を翻す。
直後、静かに距離を詰めていたトーゴが彼女へ肉薄し、巨大な石の塊を彼女に叩きつけた。
「ここまでお膳立てしてもらって、それで受けるかよ」
寸前で気配を察知し、両手に持ち替えた太刀で受け止めた絶姫にトーゴの背に冷たい汗が流れる。
彼が振るった武器は黒い光沢を持ち、先端が鉤爪の形状の手甲。
──否、それはその身に鬼を降ろし、より戦いに適した形へと変化させた彼自身の右腕だった。
その腕をあと少し、力尽くにでも押し切ればその皮膚を裂けると言うのに、全力を込めてもびくともしない。
華奢な体躯はあくまで見せかけ。その裡にある力は間違いなく、鬼としての力だ。
「別嬪さん、あんたの望みも結構脳筋だねェ?」
気を抜けばすぐにでも押し切られそうになる拮抗を保ちつつ、トーゴは口の端を釣り上げる。
トーゴとて、その身に鬼を抱えるもの。強者を前にすれば自然と気持ちは昂るものだ。この惨状でなければ彼女手合わせだって楽しめたのだろう。
しかし今は──彼女が為した全てが、胸糞悪い。
「でも、つまらんとか姐さんがつべこべいう事じゃねーな」
拮抗が破られる。
弾かれた反動で、トーゴの体勢が乱れた。その隙に絶姫は踏み込む。立て直しては回避も防御も間に合わない。
ならば、いっそのこと捨ててしまえ。
崩れたままの体勢に構わず地を蹴り、遠心力を乗せて右腕を振るう。同時に胴体に伝わる熱と衝撃。肩口から胸にかけて、鬼の刀が走っていた。
それでも、構わずに。伸ばされた爪先が狙うは攻撃直後に開いた鬼の腹。
鉤爪が墨染の衣へとかかる。裂かれた先から彼女の白い肌が覗き、微かに絶姫の目が見開かれた。
けれど、それまで。
その後の着地などもう、考えていなかった。
再び衝撃。落下前に蹴り飛ばされた体が何度も大地に打ち付けられ、転がっていく。
留めを刺しに行こうとする絶姫に回り込んだ倫太郎と鏡介がきりかかり挟撃を狙う。しかし放たれる炎がその勢いを押し留め、振われる絶姫はこともなげに躱していく。
ここまでしても当たらない。薄皮ひとつ、彼女に攻撃を届かせることが叶わない。
絶対の剣技の前、地獄と呪いを込めた炎の前に。全ての攻撃は受け流される。
そう、思わせた。
「石蕗!」
己の神力で炎を散らしながら倫太郎が叫ぶ。
反対では、満身創痍の鏡介が絶姫の攻撃を押しとどめ、起き上がったトーゴも援護に回っている。
道は拓いた。
動きは封じた。
「さぁ石蕗、奴にぶつけてやれ。お前が本当に求めた強さの事を」
「まずは一太刀、入れてきな!」
全ては、たった一撃。
『本命』の、彼の為に。
「──参ります」
闇から浮かび上がるように湧き出る気配。それは、教えられた里での技。
握るは覚悟宿す刀。迷い、一度は堕ちた天賦の才。
神速の踏み込みと石蕗の姿がかき消え、同時に銀閃が走る。
彼の姿が再び現れた一拍後。
絶姫の腕の服が裂け、血が噴き出す。
ここまで重ねて、間隙を縫って、漸く一太刀。
されど一太刀──入ったのだ。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
珂神・灯埜
◎
つまらないことか
オマエにはそう感じたんだな
ヒトの強さは腕っ節だけではない
単純な力だけの強さは脆く
心の強さは立ち上がり歩む為の力となる
ボクは――、心の強さこそ真に強いものだと思う
しかし絶姫、オマエが斬り合いを望むのなら
ボクも受けて立とう。参られよ、凶刀
嬲り嘲笑い血に染まったその刀、圧し折ってくれる
神力が白い焔となり具現し其の身を包み
刀を振り斬撃を飛ばし焔は辺りを囲い込む
いかに早かろうと狭めれば見えるものもあるだろう
石蕗。亡くした者は蘇らない
殺めた事実は覆る事はない
だか刀を握る覚悟、しかと見届けた
大丈夫、オマエは負けないよ
その心に宿る灯を感じたから
さあ、幕引きの時間だ
白き業火に焼かれてしまえ
●導の炎を携えて
己の腕に伝う血を手に取り、絶姫は忌々し気に唸った。
「……やって、くれたわね。そんな、つまらないことに執着したものの剣で私を傷つけさせるなんて」
「つまらないこと、か。オマエにはそう感じたんだな」
その言葉に、珂神・灯埜(徒神・f32507)は呆れの眼差しを向けた。
彼女は何も、解っていない。
「ヒトの強さは腕っぷしだけではない。単純な力だけの強さは脆く、心の強さは立ち上がり歩むための力となる」
例えば彼女の言葉に唆された石蕗が、鬼へと墜ちヒトから外れた力を得ても打ち破られたように。
例えばそんな彼が、己の過ちを知り、傷だらけの中でも尚再び刃を手に取ったように。
儚いヒトという生き物を立ち上がらせ、踏み出すその背を押し続けるのは、他ならぬ彼ら自身の心なのだ。
「だからボクは──、心の強さこそ真に強いものだと思う」
絶姫の謂う強さはそれには到底及ばないと。言葉ではなく金の視線に乗せて、灯埜は藍色の刀身を持つ護神刀を構える。
「それでも絶姫。オマエが斬り合いを望むなら、ボクも受けて立とう」
相手はまごうことなき剣鬼。正論で説き伏せるなど始めから思ってはいない。
ならば灯埜は、己の信ずることをどのように彼女に見せつけるられるか?
そんなのは簡単だ。彼女の血染めの力を、己の『強さ』を以ってして屈服させる。
「参られよ、凶刀。嬲り嘲笑い、血に染まったその刀、圧し折ってくれる」
厳かに告げ、灯埜は意識を集中させ神力を解放する。白い焔となって具現した力を身に纏えば、一時の喪失を代償に、少女の躰の動きは極限までに高められる。
灯埜の闘気を受け、対する絶姫は、
「ふ、ふふっ……」
まるで面白いものにでも立ち会ったというように、声を上げて笑い、
「貴女、斬るわ」
殺戮を、告げた。
絶姫の姿がかき消える。
脳が感じるよりも早く、五感が直接四肢を動かす。命無きものに生命の維持は不要とばかりに、身体はより早く動かすことを最優先とする。
ヒトの姿を保ちながら、しかしその造りを戦いにのみ重きを置いたカタチへと変えたその速さは先程とは比べ物にならないものだった。
押しつぶされそうな殺気と共に絶姫が斬りつける。その軌道は、辛うじて捕らえられる程度。視えたとしても、全てを受け、捌くのは尋常な技術では敵わない。
けれど、条件は灯埜とて変わらないのだ。
加速した躰で精一杯、凶刃を追う。白焔を放ち、衝撃波でいくら牽制をかけようとも彼女の剣は揺るぎもしない。
一つ、また一つ、と捌き切れなかった傷が躰に刻まれていく。流れる血で視界が霞む。刀を持つ手が汗で滑る。
それでも灯埜は、焔を駆る手を止めなかった。
「石蕗」
傷だらけになりながら、己の背後にいる石蕗へと語り掛ける。
「亡くした者は蘇らない。殺めた事実は覆る事はない」
それは彼自身とて十分に分かっていること。
その罪はきっと、ヒトの身にとっては永劫とも呼べる時間、彼を苦しめることだろう。
「だが、刀を握る覚悟、しかと見届けた」
けれど、彼は戦うと。その選択をしたのだから。
「大丈夫、オマエは負けないよ。だって──その心に宿る灯を、感じたから」
だからオマエは、進めばいい。
道は、もう示されているのだから。
ついと金色の瞳が示すは絶姫への道。
その言葉に、彼女の態度に引っかかるものを感じた絶姫は、周囲に視線を走らせはたと気付いた。
退路が、無い。
いつしか彼女は、灯埜が放つ焔によって取り囲まれていた。
「まさか、ずっとこれを狙って……!?」
いかに速かろうが、退路を狭め、絞ってしまえば見えるものも、あるのだ。
「さぁ幕引きの時間だ。白き業火に焼かれてしまえ」
驚愕の表情を浮かべる絶姫に迫るは二つの足音。
一つは人の願いを刻まれた戦神。
そしてもう一つは、心に灯を携え進む剣士。
二つの刃が交差するように、剣鬼の身体を斬り裂いた。
大成功
🔵🔵🔵
夜鳥・藍
◎
無粋なのはどちらかしらね。向こうの望みもわかるだけに、自分でもよくわからないため息が出る。
石蕗さんは前に出るのでしょう。なら私は援護を。
鳴神の投擲から念動力で操作し絶姫の行動の邪魔を。打ち払われても構いません。掠った程度でも当たれば竜王を呼べますし、そうした雷撃は炎を斬り祓うのに使えるかと。
私自身はクリスタリアンだけど、この身の内に剣(つるぎ)を感じてる。それは単純に藍晶石の形からだけど、だからなのか私はきっと十分に刃を振るえないと思う。これからもきっと。
でもそれでいい。きっとそれが私なのだから。迷いもするだろうけどね。あ、でも護身程度には使えるようにはなりたいかな。これは課題ね。
馬県・義透
引き続き『疾き者』
好き勝手言いますね、貴女。絶てぬものがあると知りなさいな。
そして、石蕗殿。ええ、共闘しましょう。今の貴方ならば大丈夫でしょうが…我を忘れぬように。貴方が、再び歩めるように。
悪霊がもたらすは、相対的な幸運。ええ、絶姫の運は、地の底にいってますので。不運にも絶姫の攻撃は空振り、そこへ石蕗殿の剣が届いたりね?
私は四天刀鍵での切りかかりですねー。合間に漆黒風の投擲も挟みますけれど。
貴女、その姿は長くもたないでしょう?まして、私が生命力吸収してますし。
寿命を削るとは、そういうことですから。
つまらないものかどうかは、あんたが決めることじゃない。
行くと決めた石蕗殿自身だ。
●己の選択
「無粋なのはどちらなのかしらね」
己の愉悦だけに忠実な絶姫の言葉に、夜鳥・藍(kyanos・f32891)は自分でも良く分からないため息をついた。
全てを斬り伏せ糧とし、ただ貪欲に強さだけを求め続ける。
なまじ向こうの望みもわかってしまうだけに、頭から否定し憎むことができない。
中途半端な葛藤を振り払うように、藍は絶姫の出方を伺っている石蕗へと声をかけた。
「石蕗さんは前に前に出るのでしょう。なら私は援護を」
「……感謝致します」
振り返り、お互いに顔を見合わせて頷く。
ふわりと黒い三鈷剣──鳴神が浮かび上がる。藍は手元にまできたそれを構えると、石蕗が駆け出すのと同時に絶姫へ向けて投擲した。
狙いは彼女の行動の阻害。
真っ直ぐ飛ばされた鳴神の軌道が不自然に折れ曲がる。受けようとした絶姫を大きく迂回し、その背後に回り込むように。
石蕗が絶姫に斬りかかる直線、死角からの刺突。注意を分散させるだけでなく、僅差で連続した攻撃を仕掛けることにより回避しにくい流れを作る目論見だ。
鬱陶しいと言わんばかりに絶姫が三鈷剣を弾き飛ばす。流れるような動きで次いで飛び掛かってきた石蕗の剣を受け止め、腹を蹴りを叩き込む。
堪らず空気の塊を吐き出し、石蕗の身体がくの字に折れ曲がる。
しかし絶姫の予想とは裏腹に、彼の体がその場に留まった。
「このっ……!」
石蕗は咄嗟に彼女の足を掴んでいた。それだけで身体が消し飛んでしまいそうな衝撃に苦悶の表情を浮かべながら、それでも頑として動かず、その場に立っている。
そんな彼に重なるように落ちてくる微かな金属の光に気付き、藍ははっとする。先程弾かれ、打ち上げられた鳴神だった。
慌てて念動力を走らせ三鈷剣を繰る。絶姫の位置からは、丁度石蕗の身体に隠れて三鈷剣の姿は見えない筈──!
「竜王、招来っ!」
その直前まで、切っ先が石蕗の影に隠れるように。かといって耐えてくれている石蕗の身体は一切傷つけないように。彼の脇から飛び出した剣が、片足を封じられた絶姫へと飛来する。
「なんですって……!?」
突如目の前に出てきた剣に、驚きの表情を浮かべる絶姫。強引に石蕗を引き剥がし、己の剣を翳す。
しかし、藍の鳴神はただ射出するための道具ではない。
彼女の意のままに、彼女の念動力によって動くのだ。
刃同士が触れ合う直前、その軌道が僅かに曲がる。すれ違う両者の得物。
そして、絶姫の頬を、三鈷剣の切っ先が撫ぜていった。
「竜王よ!」
藍が再び呼びかけの声を上げる。
召喚の条件は神器が目標に『命中』すること。たとえ掠り傷であったとしても、嵐の王は彼女の声に応えてくれる。雷が夜空を突き破り、絶姫へ向けて落とされた。
「なんて、悪運の強い……!」
雷撃を打ち払いながら退いた絶姫は、小さな違和感を感じていた。
石蕗へ向けた蹴りは充分の威力を以って居た筈だ。あれを運よく受け止められていなければ。そして、何気なく弾いた剣が彼の影に隠れる位置へ飛んでいかなければ。あんな攻撃を受けることはなかった筈だ。
一つ一つ上げれば小さなこと。それが重なり、想定外の結果を生み出している。
敵の力を見極めるのも強さの内。相手の程度など端から見透かしていた。
其れなのに、何故。
まるで、何者かが賽の目を悪い方へ、悪い方へと振っているような──。
「ああ、貴女の運は今、地の底ですからね?」
穏やかな壮年の男の声が、絶姫の違和感の答えを示した。
【死悪霊・『解』】。
悪霊がもたらすものは、相対的な幸運。運気、霊力、そして生命力──四悪霊である馬県・義透(死天山彷徨う四悪霊・f28057)の呪いは戦場内の敵全てのあらゆるを奪い、己の運気へと変えていく。
そして、この場の敵とは無論絶姫ただ一人。彼女の運気は全て、義透によって奪い取られていた。刀から顕現ている彼女の肉体とて、この力に長時間晒されればその存在を危うくできるだろう。寿命を削るという呪いは、そういうことであるのだ。
「好き勝手言いますね、貴方。絶てぬものがあると知りなさいな」
そして、と義透は地に伏している石蕗へと手を差し伸べる。
「石蕗殿。ええ、共闘しましょう」
理由なく、『強く在る』ことだけに捕らわれていた鬼はもういない。
「今の貴方ならば大丈夫でしょうが……我を忘れぬように」
ここにいるのは、己の未熟を知り、迷いながらも戦うことを選んだ少年だけだ。
そんな彼が再び歩めるようになる為ならば、義透は喜んで手を貸そうではないか。
義透の手を借り立ち上がった石蕗が深く頷く。泥だらけのその目には確かに、先程まではなかった強い光が宿っていた。
「運、なんて。そんなもので私の強さが揺るぐ筈ないでしょう!」
絶対と自負していた強さに傷をつけられたと感じたのだろう。絶姫が怒りを露わにし、二人に襲い掛かってくる。
言葉を交わす間は無い。義透と石蕗は互いに顔を見合わせ、呼吸を合わせながら二手に別れる様にその場を飛び退いた。
絶姫が追ってきたのは、狙い通り義透の方だった。挑発の言葉に乗ったのか、または曲がりなりにも敵の術中にあると判断の上、術者を狙う冷静さがまだあったのか。どちらにしても好都合だ。
絶姫の剣が義透の首元目掛けて迸る。しかしその直前、『偶然』にも蹴飛ばした小石が刃にあたり、『不運』にも必殺の太刀筋は彼の喉寸前を空振りで終わる。
間髪置かず、援護に回った藍の三鈷剣が斬り込み、絶姫の腕を斬り裂いた。
次に来るであろう雷撃を警戒し、絶姫は横に跳び退く。
その、移動した先に。
『不運』にも、石蕗の剣があった。
「っ──!?」
石蕗からすれば、絶姫が自ら斬られに来たようなものだ。至近距離からの不意打ちに、絶姫の胸が浅く斬り裂かれる。
さらに慌てて石蕗から離れれば、今度は義透が投げた某手裏剣が足へと突き刺さり、絶姫は悔し気に歯噛みする。
「おや、牽制で投げたつもりですが、”運悪く”当たってしまいましたか」
膝をついた絶姫を見下ろして、ふと義透の穏やかな笑みが掻き消える。開かれた目は外見は違えど、『疾き者』が辿り着いた鬼と同様の冷たさを宿している。
「つまらないものかどうかは、あんたが決めることじゃない。行くと決めた石蕗自身だ」
そう言い残し、義透そっとその場を退けば。
藍が呼び出した竜王が、稲妻の槍をまさに今、絶姫に向けて撃ち出さんとしているところだった。
藍は思う。
彼女自身はクリスタリアンではあるが、この身の内には彼らと同様の剣の存在を感じている。
それは単純に、藍晶石という石の形からなのかもしれない。しかし、その存在故に、藍はこれまでも、この先も、十分に刃を振るうことは叶わないだろう。
──けれど、それでいい。
石蕗が『強く在れ』ない彼でも、立ちあがれた様に。きっと、刃を振るえない『私』が、『夜鳥・藍』なのだ。
それでも多少、そう、護身程度には使えるようにはなりたいけれど。
(これは今後の課題ね)
そう、己の心の答えに笑みを浮かべながら。
竜王の神鳴りの鉄槌は、凶刀へと振り下ろされた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ユエイン・リュンコイス
連携アドリブ歓迎
刃を抜くにもそれに相応しい『格』と言うものがある。さて、キミはそれに値する敵手なのかな?
戦闘開始と同時にUCを起動。巨軀を以って相手の眼前に仁王立ち、質量を活かした拳打蹴撃を放つ。
かつて魔剣鍛治の里を護った際、相対した武将はコレに真っ向から打ち合って見せたよ。さて、此度はどうだろうね?
断てども尽きぬ黒鐡の神、注意を引くには打って付けだろうさ。巨大な手足で石蕗の姿を隠し、それとなく攻撃の隙を作って彼が攻め易い様に立ち回ろう。
彼が仕掛けると同時にコックピットより飛び出し、煉獄を手にこちらも斬り掛かる。
弱き者と切り捨てはするがね?
それに一本取られたキミは、さて、何と呼べばいいのかな。
●格を知れ
「刃を抜くにもそれにふさわしい『格』と言うものがある」
刃は人を選ぶ。それは斬る相手であっても同じことだと、ユエイン・リュンコイス(黒鉄機人を手繰るも人形・f04098)は思う。
彼女の手の中、緋色の鞘の中で眠るは、【閃輝焔刃『煉獄・赫』】。妖刀専門の刀鍛冶の一族、永海筆頭八本が一つに数えられる、主の意思に従い熱を生み出す名刀である。
「さて、キミはそれに値する敵手なのかな?」
石蕗との戦いでは惜しげもなく抜かれたそれを今だ鞘の内に納めたまま、ユエインは絶姫を前に悠然と言い放った。
「……それがどれほどの刀なのか知らないけれど。『凶刀』の私を侮られるのは、不愉快ね」
黒衣についた土埃を払い、対する絶姫も口元だけで微笑みを浮かべる。そこに先程までの怒気はない。虚を付かれた攻撃を受け、かえって頭が冷えたのだろうか。
既にいくつかの手傷を受けているにもかかわらず、彼女の気迫は衰えてはいない。妖刀から生まれ肉を得た身。肉の器は元から仮初と云えるもの上、今や骸の海から生まれた存在。その頑強さ、回復力は、おそらく一筋縄ではいかないだろう。
現に、彼女の身体についた小さな傷は既に塞がり始めているようだった。
ならばこちらも、圧倒的な質量で迎え撃つとしよう。
「──機神、召喚!」
ユエインの詠唱と同時に、命無きもの達が戦慄く。
彼女を起点として生まれる球形。その範囲内にある無機物全てが彼女に従い、彼女の意を作り出す。
それは鉄で作り上げられた巨人だった。
身の丈は50メートルは超えてなお余りある。周囲に存在した無機物だけでは飽き足らず、相棒である黒鉄機人、彼女の持つ装備、そして彼女の躰の一部さえも糧にして生み出す神の如き姿。
「かつて魔剣鍛冶の里を護った際、相対した武将は真向から撃ち合って見せたよ。さて、此度はどうだろうね?」
造られたばかりの鉄の拳を握りしめ、絶姫に向かって振り下ろす。機械神の手足は今やユエインの手足と言っても過言ではない。
握り拳一つだけでも、その大きさは絶姫の身体くらいなら簡単に押しつぶせるほどの大きさだ。圧倒的なまでの質量を前に、かの凶刀とやらは如何に出るか──。
「そんな……玩具のようなもので、見くびられたものね」
驚いたことに、絶姫は刀を構えると、落ちてくる拳に真向から迎え打ったのであった。
ユエインの拳を見切った絶姫が宙へ跳ぶ。空中で大きく身体を捻り、機械神の腕部へ向けて刀を一閃。それだけで、鋼鉄の外殻は真っ二つに断たれ、握ったままの拳が地響きを立てて大地へと転がった。
「なるほど……その名乗りは伊達という訳ではないことか」
ユエインは瞬時に破壊された片腕を再構築。材料さえあれば、損失した部分は幾らでも補える。
彼女の前では鋼鉄の躰も紙切れ同然と言えるかもしれないが、しかし、これでいいのだ。
絶てども尽きぬ黒鐵の神。絶対の質量の前では万物の硬さなど些末なもの。巨躯故の大振りの動きは、さぞかし彼女の注意を引けるだろう。
足元にうろつく小さな『鼠』など、気にも留められぬくらいに。
再び仕掛けたのはユエイン。絶姫の姿を捕らえるべく、再生した片腕を大きく振り抜く。絶姫が避ける方向を狙って、流れるように蹴打を叩き込む。
再び銀閃。機械神の片足が、六つ分割された。巨躯の躰大きく傾ぐ。
その影に。彼は潜んでいた。
「お、オオッ──!」
機械神の影で機を伺っていた石蕗が雄たけびを上げながら絶姫へと刀を振り下ろす。
彼が飛び出すのを見届けたユエインもまた、同時に機械神から離脱を図っていた。
滑り落ちるように落下し、煉獄を抜く。
燃え上がる焔。夜闇の中、赤い光が石蕗の刃の後を追う。
やがて交差するように、凶刀へと刻まれる二つの刃。
「弱き者、と切り捨てはするがね?」
残心を解き、火花の残しながら刀を納めユエインは炎に焼かれ顔をしかめる絶姫を振り返る。
「それに一本とられたキミは、さて、何と呼べばいいのかな?」
そして彼女が言った言葉にたっぷりと皮肉を付けて送り返すのだった。
大成功
🔵🔵🔵
マナン・ベルフォール
おや、少しは観れる顔になった様ですね
青年の様子にホゥ、と目を細め
あちらのお嬢さんに比べて多少は、といったところですが
確かに見た目は美しいですし切れ味も良さそうではありますがそれだけで。
自身が扱う品としては今ひとつ
、と
青年が戦うというのなら一つ、手を貸してみましょうか
【結界術】【天候操作】【破魔】により相手の攻撃を軽減させるなどしたうえで【見切り】【暗殺】【功夫】で炎を回避しつつUCで【鎧無視攻撃】を叩き込む方向でいきましょうか
アドリブ
絡み
歓迎
月隠・三日月
◎
私は敵の気を引くように立ち回ろう。
石蕗さんには敵の隙を見て一撃入れてもらうよう頼みたいな。石蕗さんの強さ、頼りにしているよ。
まずは【挑発】して敵の注意を引こうか。
「あらゆるものを絶つ……妖刀としては珍しくもない謳い文句だよね。それとも、お前はそこらの刀とは格が違うのかな?」とかね。
敵の使うユーベルコード封じの炎……【衝撃波】で吹き飛ばすか、あるいは【紅椿一輪】で斬れるかな。炎に形はないけれど、この技は『妖刀が当たったものを斬る』【呪詛】のようなものだから、効果があるかもしれない。
最悪ユーベルコードを封じられても、それはそれでいい。優位に立つ者ほど、油断やすいものだからね。
頼んだよ、石蕗さん。
●選択と鑑定者
おや、と額の汗を拭う石蕗の横顔を見たマナン・ベルフォール(晴嵐・f28455)は目を細める。
「少しは観れる顔になったようですね」
そこにいる彼は、つい先程までの『道を失い、鬼に墜ちた少年』とは大きく異なっていた。
と、言っても『完成品』には今だ遠い。道は今だ見えず、けれども暗闇の中でも漸く目を見開き、辺りを見回し始めたと言ったところだろうか。
しかし、逆にそれで良い。初めから完成したものなどありはしないのだから。
それでこそ少年の行く末に興味を持ちたくなるものだ。無意識にもそう思ってしまうのは、日ごろから『商品』を見定める仕事柄なのだろうか。
「あれを倒すという言葉、今だ心変わりはありませんか」
「無論。この身に代えてもとは言いません。けれど、わたくしはあれに示さなければなりません」
迷いのない石蕗の返答にマナンは喉の奥で笑う。
彼がそう望むのなら。
一つ、手を貸してみるのも悪くないだろう。
「あらゆるものを絶つ……妖刀としては珍しくもない謳い文句だよね。それとも、お前はそこらの刀とは格が違うのかな?」
月隠・三日月(黄昏の猟兵・f01960)は敢えて、絶姫が反応するだろう言葉を選び彼女へ問いかける。
勿論、その目的はこちらに注意を惹きつける為だ。
今までの戦闘から、彼女の逆鱗に触れるであろうことはおおよそ予測がついていた。
絶姫は何よりも、刀としての己の強さに誇りを持っている。それを損なうだろう言動を取れば、確実にこちらを狙ってくるだろう。──たとえ、それが彼らの陽動であると分かっていたとしても。
絶姫とて、ただ妖刀であると同時に剣鬼であり、そして戦士だ。おそらく、三日月の作戦などすぐに見抜いているだろう。
(それでも、絶姫は間違いなくこちらを狙う)
三日月にはそんな確信があった。
だって絶姫のまた、強さというものに捕らわれているのだから。彼女の性格上、その強さを侮った三日月を放って置くことはできないだろう。
(敵の隙を見ての一撃は頼む……石蕗さんの強さ、頼りにしているよ)
そう、己の作戦を伝えた時の石蕗は少しだけ緊張した顔をしていたけれど。
彼ならきっと大丈夫。これも、三日月の確信だった。
「ああ、確かに見た目は美しいですし、切れ味も良さそうではありますが……」
三日月の作戦に乗る様に、マナンが言葉を続ける。先程石蕗へと向けた、古物商としての目で絶姫へと向けて、頭の先から爪先へ、そして彼女の持つ刀までをさらりと眺める。
そして、大仰に肩を竦めると、苦笑を交えて嗤ってみせた。
「──それだけですね。自身が扱う品としては今一つ」
「それじゃ、大した違いは無いってことかな」
言い終わらない内に向けられる殺気。
その冷たさで、二人は目的が無事果たされたことを悟るのだった。
触れればこちらの力を奪う絶姫の焔が絶え間なく襲う。
マナンの結界がその威力を緩和させ、三日月が放つ衝撃派が炎を吹き飛ばすも、全てとまではいかない。絶姫の挙動を見切り、炎を躱していくも、既にマナンも三日月も体のあちこちに火傷と凍傷を追っていた。
防戦一方となる二人に、絶姫が勝ち誇った笑みを浮かべる。
「とんだ目利きもいたものね。その目に入っているのは硝子玉かしら」
「確かに、この目も衰えたのかもしれませんね。目で見えることだけに捕らわれたものを、『美しい』と言ってしまう様では」
皮肉にたっぷり色を付けて返せば、分かりやすく絶姫の表情が怒りに歪み、悍ましい呪詛を孕んだ漆黒の炎が彼女の手の中に生まれる。
あれを正面から受けてはいけない。本能的にそう感じた三日月は妖刀を抜き、マナンの前に立つ。
炎に形は無い。それ故に、斬撃による無効化は本来であれば不可能だろう。
しかし"これ”は違う。この技は、『妖刀が当たったものを斬る』という概念を叩き込む呪い。
「──落ちろ」
呪いには呪いを。
落つる其は花の如く。命狩る紅き刃は、その呪い自体を切り捨てる。
三日月の斬撃が黒炎を両断。その残滓までもが彼の妖刀の力により無へと帰す。
ほっと安堵の息を漏らす三日月。
──その耳元に、鈴の音を思わせる少女の残酷な声が響いた。
「囮くらい、私だって使うのよ?」
振り向く前に感じたのは熱さと痛み。
三色の炎に巻かれた三日月の手から刀が滑り落ちる。
炎の大きさは先程よりもずっと小さい。しかし、肝心なのはその全てを受けてしまうということ。
力を削り、封じられた三日月は妖刀の技をもう使えない。
けれど。
それはそれでいい。そう思った。
優位に立つものほど、油断はしやすいものだから。
己の勝利を確信した今こそ、絶姫の隙は大きくなろう。
だから。
「頼んだよ、石蕗さん」
「猟兵様ッ……!」
二人の後ろで機を伺っていた石蕗が悲鳴に近い声をあげた。
炎に焼かれる三日月を助けようと駆け出しかける彼にかけられる、竜神からの冷静な声。
「止まるおつもりですか?」
その言葉にはっとして、石蕗は伸ばしかけた手を引いた。
自ら進んで前へ出た彼は隙を見て一撃を入れて欲しいと己に頼んできた。
この強さを頼りにしていると。
己の浅ましさから強さを見失った、この剣を。
一人獲物をしとめた絶姫はうっとりと己の成果を見下ろしている。彼が示した機は今なのだろう。
彼が己を盾として作り出した好機。
ならば、己が為すべきことは──。
「これはなかなか……」
マナンは見届ける。
一度当てが外れたと思わせておきながら、この短時間で再び興味を惹くまでに変わった彼の選択を。
三日月の背後から飛び出し、絶姫に斬りかかる石蕗という名の少年を。
こちらの攻撃に気付いた絶姫が再び炎を生み出す。それが放たれる前に、先回りしたマナンは焔を湛える彼女の腕を打ち上げ、それを阻む。
直撃はしなくてもいい。彼女の攻撃を止められればそれで充分。
あとは、彼の一閃が妖刀の肉体を斬り裂いてくれるから。
さて、彼の未来は、どれほど輝くものになるのだろうかと、マナンはそっと微笑むのだった。
大成功
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ディスターブ・オフィディアン
第三人格で行動
心情:霊剣としての人格で、絶姫に強い嫌悪感を抱いています
葬送の霖を発動
「強者との戦いと、更なる高みを求める。その在り様まさしく修羅ですね。私は期待には応えられませんね。私もまた強さ以外のものを求める身ですし――」
「――あなたに斬られはしませんから」
敵のUCに対しては、村雨丸の刃に滴る破魔の水で対応、炎そのものを切り捨てながら肉薄
見切りと残像を駆使して戦闘
石蕗とは共闘し、彼が危険な場合は多少の被弾を覚悟しながら切込みフォロー
戦いながら、石蕗に声を掛けます
「己の望みを思い出したなら忘れぬことです。強さも刀も所詮は道具、手段に過ぎません」
「それに呑まれた先がアレです」
絶姫の姿を目で示す
●それは叶える為に
「強者との戦いと、更なる高みを求める。その在り方はまさしく修羅ですね」
その在り方に、ディスターブ・オフィディアン(真実を 暴く/葬る モノ・f00053)は苦い顔をする。
表層に現れている第三人格の彼は、元を辿れば霊剣のヤドリガミの写しである。
同じ刀から生まれた者として、彼女の考えはディスターブには受け入れることができなかった。
どちらが正しいという訳では無い。
彼女は刃としてヒトを斬ることに執着する。彼は刃として、ヒトを守ることに心を砕く。この心が刀の元にあった頃から、その誓いは変わらない。
「しかし残念ながら、私は期待には応えられませんね。私もまた強さ以外のものを求める身ですし──」
故に、二つの刀の反りが合う事は、絶対に在り得ない。
それにそもそもの話、
「あなたに、斬られはしませんから」
彼女の糧に甘んじるつもりも、毛頭ないのだ。
「さて、石蕗殿。まだ行けますか?」
隣に立ち、肩で息をする石蕗に声をかける。
「……大丈夫です。まだ、お役に立てます」
毅然と答える石蕗であったが、それでも彼の表情は疲労の色が濃い。無理もない、自分たちの戦闘の直後からここまで戦い通しなのだ。
それでも尚、立ち上がり、構えていられるのはその覚悟故か。
ならば無理に止めるのは却って無粋というもの。
「己の望みを思い出したなら忘れぬことです。強さも刀も所詮は道具、手段に過ぎません」
故に彼がかける言葉は制止ではなく助言。
このまま戦い続けるのであれば、それだけは忘れてはならないと念を押すように。
強く在らなければと言い続けた少年。その内に秘めていたのは捨てても捨てきれなかった、繊細な彼の心だった。
彼は、己の願いを護りたかった。願う己を護りたかった。
嗚呼、それも、手段だろう。
だからこそ彼は忘れてはならない。
その望みの為に、強さをどう使うかを。それは『在る』だけで証明するのではなく、何をするかで決められるということを。
さもなくば今度こそ鬼と成ってしまうから──。
「それに呑まれた先がアレです」
それすら忘れ、強さに溺れた果てである剣鬼をそう示した。
村雨丸の斬撃が絶姫の炎を切り捨てる。
残りの人格を一時的に封じることにより、ディスターブは親友の形見を本来の形へと復元させていた。
『村雨丸』──常は小太刀の姿であったそれは、元の姿の大太刀へ。かつてそれを振るっていた『彼』の人格も、完全に再現し、彼の存在自体を蘇らせる。
今、此処にいるのは一時の間、共の身体を借り受け己の信念を貫くヤドリガミそのものだった。
刃に破魔の滴る雫が払うは、斬り捨てた者の血ではなく妖刀の魔力。炎に宿った呪いまでもを清め、二人の剣士に道を拓いてくれる。
次の攻撃が届く前に、霊剣が踏み込んだ。絶姫の攻撃の手が炎から剣へと切り替わる機を読み、一息で間合いへと潜り込む。同時に振るわれた大太刀は彼女の黒髪を数本だけを散らして空を切った。すぐさま刀を返し切り上げるも、それは彼女の剣に捌かれる。
反対から石蕗の攻撃が割り入っての切り込み。互いに間合いの異なる得物での挟撃に、頃合いも十全。
絶姫が舌打ちをした。
「羽虫が、鬱陶しいっ……!」
石蕗の刃が絶姫を捕らえる。脇腹を裂かれながらも、絶姫の手が彼の前に翳される。
彼の目の前で膨らむ蒼炎。
いけない、そう思う前に、ディスターブの身体は動き始めていた。
「石蕗殿!」
大きく身体を捻り、大太刀を振りかぶる。気配を察知し、寸前で炎の矛先を変える絶姫。
蒼炎が迫る。彼の刀が降りるより、炎がこちらに届く方が速い。
刃の雫の加護があってしても、この距離にこの威力。さすがに無傷ではいられない。熱が肌を舐める。肉が焼け、血が滲み出る。
それでも。たとえこの身を焼かれようと、彼は刃を届かせると決めていた。
彼の信ずるものを、守るために。
「斬る──ッ!」
断ち切られた蒼炎の先、肩口から大きく斬られた修羅の鬼を見届けて、剣士は少年の身体を攫いその場を離脱するのだった。
大成功
🔵🔵🔵
トリテレイア・ゼロナイン
…私は戦う為に創造された身
今後の石蕗様の道行きへの助言は出来かねます
ですがこれだけは
ことが終われば里の者を弔いましょう、皆で
それからです
その為には…
放たれる炎を振るう剣の風と大盾で武器受け盾受けしかばいつつ、凍えて砕けた武装犠牲に接近
得物が無くとも…彼がいます
自身の背に隠した忍の一撃で注意逸らし
超重フレーム前腕部伸縮機構作動
リーチ伸びた●騙し討ち貫手UCで●武器落とし
絶姫本体と思われる刀を強奪
児戯と嘯き命弄ぶなら…玩具を取り上げる他に懲りぬでしょう
刀へし折り射程半分に
二つに折れた刀の一つを五倍に●限界突破した怪力で絶姫に●投擲
大地に●串刺し
(残りを忍びへ差し出し)
…再び握る覚悟は御座いますか?
●鬼を握る
「……私は戦う為に創造された身。それ故に、今後の石蕗様の道行きへの助言は出来かねます」
トリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)は理想を掲げた騎士である。
しかし同時に、彼は人の手により造られた機械兵であることも事実だ。
元より戦う理由も価値観も、生き様も、文字通り産まれた時から歩む道は異なる存在。
だから、彼は石蕗の選択の先について、多くを語ることを選ばなかった。
「ですが、これだけはご提案させて下さい──」
代わりに、と提案したのはこの戦いの後のこと。
「ことが終われば里の者を弔いましょう、皆で」
彼の何かが終わり、何かが始まるとしたら。きっとそれは、里の弔いが済んでからに違いないと、そう思うから。彼は敢えてすぐ先の未来を示した。
その為に。必ず生きてこの戦いを終わらせなければならないと。
騎士は剣士と共に、妖刀の鬼に向けて踏み出すのだ。
剣と剣が打ち合う為には、距離を詰めない事には始まらない。
剣と大盾を手に、トリテレイアが絶姫へと突進する。
絶姫の手から呪詛の黒炎が迸る。剣を薙ぎ払うことで起こした風で、吹き払い、被害を最小限に抑える。
蒼い焔が噴き出し、鋼鉄の身体を融かさんと迫る。これは盾を翳し、受け止めることで凌ぎきる。
そして三度、絶対零度の炎を続けて盾で押し留めた時。
遂に武装が限界がきた。
凍えた盾がトリテレイアの手の中で音を立てて崩れ落ちる。反対の手に残った剣も、既に柄の部分を残して凍り付き、絶姫の剣を受け止めるとこちらもあっさりと砕け散ってしまった。
「御免なさいね、大切なものだったかしら?」
絶姫はうっそりと嗤う。
「いいえ。護るべきものに比べたら、これ程の犠牲など些末なもの」
しかしトリテレイアの反応はどこまでも冷静だった。
何故なら、彼女と打ち合うべき本来の『剣』は──。
「それに、得物が無くとも……彼がいますから」
己の背後にあるのだから。
「御免──っ!」
後ろに控えていた石蕗が、彼の背を駆け上がり絶姫へと斬りかかる。
しかしそれも、決して避けない騎士の動きと気配を探ってしまえば読むのは容易い。絶姫は驚いた様子もなく攻撃受け止めると、刀ごと弾き上げてしまう。
「餓鬼の戯れにもそろそろ飽いたの。もうやめなさいな」
放物線を描き石蕗の遥か後ろの地面へと突き刺さる刀。
万事休すか──いいや、ここまでが、機械の躰の計算の内。
「それはどちらの向けてのことでしょうか」
石蕗へと気を遣ったその隙を突き、トリテレイアが無手のまま絶姫へと踏み込む。
「児戯と嘯き命弄ぶなら、玩具を取り上げる他懲りぬでしょう」
相手の身体の部位を突くことに特化させた貫手の構え。狙うは彼女の手の中にある妖刀そのもの。
目的に気付いた絶姫が下がる、その前に。
──超重フレーム前腕部伸縮機構作動。
トリテレイアの腕が、”伸びた”。
「……ッ⁉」
突如伸びた間合いにさしもの絶姫も反応しきれず、手を打たれ妖刀を取り落とす。
すかさずそれを拾いあげるトリテレイア。彼女の手が伸びるのを払いのけ、彼女の目の前でそれを真っ二つに叩き折った。
「何て、こと……!」
怒気を孕んだ絶姫の声。
折った刀の一部を投げつけ、絶姫の足を大地に縫い留めて、トリテレイアは一度その場を離脱する。
「石蕗様」
そして折った刀の柄の部分を差し出し、トリテレイアは傍らの石蕗に問うた。
トリテレイアの武装は壊れてしまった。石蕗の刀は遥か後ろ、今から取りに行くことは得策ではない。
「……握る覚悟は、ございますか」
故に、選ばせる。
己の心を狂わせた剣鬼の刀。握る手に取る覚悟はあるのかと。
──少年の答えは明瞭だった。
「覚悟は、この戦いを選んだ時より」
迷いなく受け取れられる絶姫の刀。折れた剣を構え、石蕗は動けぬ絶姫へと向け今一度走り出す。
大地に縫い留められた絶姫は未だに動けない。頼みの己の得物は、つまらぬと切り捨てた少年の手の中。
少年が、強く、強く、踏み込んで。
「これで──ッ!」
折れた刀が、彼女の胸へと深々と突き刺さった──。
大成功
🔵🔵🔵
丸越・梓
アドリブ、マスタリング歓迎
NG:味方を攻撃
_
石蕗を見て、フと穏やかに瞳細め
「ああ」
静かに、けれど確かに応え
この戦いは石蕗自身が乗り越えねばならぬもの
だからこそ俺は彼を最優先に庇いながら
夜を喚び、影として立ち回る
刀にも、物にも、オブリビオンにも
存在するもの全てに心があると知っているから
『絶姫』を斃すこと
彼女に唆され石蕗を止められなかったこと
結果村人達が死んだこと
全てを彼だけの責任にしない
俺もまた、共に背負う
_
戦闘後にて
石蕗を気にかけつつ村人達の埋葬を
丁寧に心を込め
彼らの魂が迷わぬように
石蕗を俺は責める気はない
唯罪を背負ってでも
いつか彼が前を向けるように
優しくその背を叩いた
御桜・八重
「あつつ… あはは、大丈夫大丈夫!」
額をさすりつつ石蕗くんに笑顔を向ける。
…うん、もう大丈夫だね。
なら、次はこっちの番。
「行こう、絶姫を倒すよ!」
絶姫は妖刀を手放した彼を『強くなることを止めた』と
侮蔑するだろうけど。
「なにか勘違いしてない?」
「石蕗くんはもう強くなる必要なんて無いよ」
「だって、彼は強いんだから」
挑発に乗って炎を放ってきたら【花嵐】を発動。
凍てつく炎を受け流し、続いて修羅の蒼炎、呪詛の黒炎を
神速の八連撃で斬り散らす。!
花吹雪の様に散る炎の中を、
「行けーっ!」
石蕗くんが突き抜け、必殺の一撃を放つ!
大切なものを見つけたら、
亡くなった皆にも教えてあげてね。
大丈夫。きっと喜んでくれるよ。
●意味と答え
絶姫が自身の胸に突き刺さった刀を引き抜く。
傷口から夥しい量の血が溢れ、彼女の墨染めの衣を濡らしていった。同様に足を縫い留めていた刃も抜き、破片はその場に放り捨てた。
赤く染まった手で折られた刀身をなぞる。彼女の指先に黒い炎が灯り、折れた箇所から刀身が伸びていく。
瞬き一つで、真っ二つに折られた筈の彼女の刀は元の妖しげな輝きを湛える妖刀へと戻っていった。
「おのれ、おのれおのれ……!」
しかし、絶姫の表情は晴れない。唇を自身の血で赤く染め上げながら吐き捨てるは呪詛の言葉。
生き延びてさえいれば、刀は幾らでも修復できよう。傷など時が経てばすぐに塞がる。
しかし、ここまで此処まで傷つけたという事実が腹立たしい。特に、一度は陥れた筈の赤子のような少年。歯牙にもかけない存在だった彼が、何故こうも憎たらしいのか!
「何故、あんなものの刃が私に届くというの! あんな、いつまでもつまらないことに執着する弱い人間の分際で!」
「執着するから、ですよ」
汗と泥、そして血に塗れた顔で、それでも石蕗は迷いのない表情で絶姫の視線を受け止める。
「強く在る事で価値を証明する。それはわたくしの好きなものを守るための強さと同義ではありませんでした」
違えてしまった手段に気付き、失っていた望みに気付いた。だから、今の石蕗の心は決して揺れない。
芯が通った刀は何よりも強く、折れないように。
「わたくしが欲しかったものは、わたくしがそのままでも尊いものだったのです。だから、わたくしは、その眩しさに胸を張れるように──強くなりたい。」
それは似ている様で、しかし本質から異なるもの。
「だから、この心を忘れぬ限り……貴女には負けませぬ」
そしてそれが、石蕗の出した答えだった。
●夜桜散りて帳を開け
どこまでも真っ直ぐな石蕗の言葉に、丸越・梓(月焔・f31127)は穏やかに目を細める。
彼は答えを示した。それが正しいモノであるかを決めるのは、他ならぬ彼自身が決めること。
だから梓は、ただ短く応え、彼の背中を押すだけなのだ。
「──ああ」
彼が望むなら、このひと時、梓の力は彼に預けようと。
「……うん、もう大丈夫だね」
その意思は、梓の隣で石蕗の言葉を聞いていた御桜・八重(桜巫女・f23090)も同じだった。
文字通り正面からぶつかり合った額は今も痛みが残っている。けれど、彼が答えを見つけることができたのなら。大丈夫、これくらい笑って吹き飛ばせる程の小さなこと。
「なら、次はこっちの番」
だから、八重は笑って拾ってきた刀を彼へと渡す。一刻も早く、彼の強さを絶姫に知らしめるために。
「行こう、絶姫を倒すよ!」
妖刀と退魔刀。二刀をそれぞれに持ち、絶姫へと挑みながら。そもそも、と八重は彼女の言葉に文句をぶつける。
「何か勘違いしてない?」
絶姫にとって妖刀を手放した石蕗は『強くなることを止めた』もの。それ故に彼女はずっと、石蕗のことを『弱い者』、『つまらない者』と侮蔑していた。
まずそれがずっと、八重にとっては腹立たしいのだ。
「石蕗くんはもう強くなる必要なんて無いよ──だって、彼は強いんだから。あなたよりずっと、ずっとね」
何故なら彼はずっと耐えてきた。降りかかる重圧にも、押し殺される心の痛みにも。
そして今はこうして、自分なりの答えだって見つけてみせた。
そんな彼が弱いなんて、決してないのだ。
「……冗談でしょう?」
「わたしは冗談なんて、言わない」
一笑してみせようとする彼女にくってかかると、あからさまに崩れる余裕。
狙い通り挑発に乗った絶姫が、石蕗諸共を焼き尽くさんと炎を呼び出した。
石蕗を守るため、彼の前に八重は立つ。
「いざ吹き荒れん──」
真っ先に飛んできた冷気を伴う炎を二刀で受け流す。細氷の煌めきに、彼女の刀身に浮かぶ桜の紋が反射する。
続く修羅の焔に、黒炎。これに八重は跳び上がり──。
「──花嵐!」
神速の剣技を以って、力尽くで斬り散らした。
桜花映す氷霧の中、細切れとなった火の粉が舞い落ちる様はまるで夢幻の如く。
そして、ひと時に舞い降りた桜吹雪の幕の道。開き疾るは耐え忍び咲く黄の花。
「行っけー!」
八重の声を背に受けて、石蕗がさらに速度を上げて突き進む。
「どうして……!」
絶姫が目を剥きながら声を上げた。
何故、追い詰められるのは自分の方なのか。何故、己よりも劣っている筈の彼に接近を許してしまうのか。
「私が、負ける?」
言ってから、己の言葉に頭の芯が熱くなる。
我が身は凶刀。全てを糧とし高みへ目指すもの。それが、敗北などあってはいけない。
まだだ、まだ間に合う。
この程度の攻撃、冷静になれば十分対処は可能だ。敵の軌道を見切り最小限の動きで避けて、すれ違い様に今度こそ首を刎ねてやろう。そしてそのまま一息に他の者達も──。
「──いいや」
逆転の一手に出ようととした彼女の周りに、夜闇より尚深い『夜』が落ちた。
自身が配下する夜の間。そこに絶姫を招き入れた梓は思う。
この戦いは、石蕗自身が乗り越えねばならぬもの。だからこそ、最後の一手は彼に委ねたかった。
刀にも、物にも、オブリビオンにも。存在するもの全てに心があると知っている。
鬼と成り、斃すべき『絶姫』であっても、それは例外ではないだろう。
だから梓は受け止めよう。
彼女に唆され石蕗を止められなかったこと。その結果、村人達が死んだこと。
この里で散っていった心を、この地で育む筈だった心を。全て彼だけの責任にはしない。
梓もまた、共に背負おう。
だから──。
夜の中、己の命を対価として九つに重ねられた彼の刃、その全てが絶姫の四肢を切り刻む。
「邪魔よっ……!」
痛覚を排除した躰を動かし、それでも尚彼女は足掻こうと梓を押し退ける。
けれど、もう、遅いのだ。
梓の夜の領域に一歩、石蕗が踏み入れて。
梓の力に強化された彼の刀は今度こそ絶姫を捕らえる。
「──お覚悟を」
そして遂に──鬼の首を、斬り落としたのだった。
夜が明けた後。
石蕗達は死んだ人々の埋葬に取り掛かっていた。
彼らの魂が迷う事など無いように。丁寧に心を込め、作業を終えた梓は隣で手を合わせる石蕗の様子をそっと伺う。
戦いの後、彼はもう涙を流さなかった。
ただ黙々と己が折った武器を拾い、己が斬った人々を背負い、そして埋葬を進めていた。まるで鬼となっていた間に自身が犯した罪と向き合っている様に。
「……石蕗を俺は責める気は無い」
「それでも、これはわたくしの弱さが……己と向き合わなかった心が招いた罪でしょう」
だから、と。石蕗は迷いなく、己に科した償いを口にする。
「わたくしは、この罪を忘れない。わたくしが犯した罪と、わたくしが見つけた望み。その全てを呑み込んだ上で、わたくしになれる強さを、もう一度探します」
復讐に捕らわれた鬼にはならない。かといって、償いの為だけに生きることもまたしない。
それでは今までの生き方と変わらないから、と。
「こんなの、甘いと笑われるでしょうか」
「大丈夫っ! だって、石蕗くんはずっと強いから、ちゃんと探せるよ!」
苦笑を浮かべる石蕗の言葉に、同じく作業を終えた八重が割って入る。
「それで、大切なものを見つけたら亡くなった皆にも教えてあげてね。きっと喜んでくれるよ」
八重の言葉を受け表情を和らげる石蕗を見て、梓は無言で目を細めた。
向き合うと決めた罪を背負ってでも、いつか彼が前を向けるように。
梓はまだ小さなその背を優しく叩くのであった。
全てが終わった後、里を後にする猟兵達を石蕗は入り口まで送ると申し出た。
腰には共に戦い抜いた刀。そしてその姿は旅の出で立ち。聞けばこの先、彼も答えを探す為の旅に出るという。
もう一度、それぞれの猟兵達と顔を見合わせる。
言葉は多く交わさない。必要な言葉はもう、戦いの最中に受け取っていた。
そして最後に。
「多くのご指導と手助け……有難うございました」
猟兵達に向け深く頭を下げ、彼らの姿を見送るのであった。
罪も咎も消えない。
正しさなど見つけた訳でもない。
けれど、答えは見つけたから。
きっと、少年の行く先は如何様にでも変われるのだ。
炉の中で、溶けた鉄がどんな形にでもなるように。
鬼へと落ちた彼が、再び人へと戻れたように。
──きっと、どんな未来にでも。
大成功
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