Friend as Fiend
真っ暗な病室。窓は無い。
光を放つのは只、部屋の一角に置かれたテレビの映像だけ。
映し出されるのは、とある街角の風景と『少年二人 大型トラックにはねられ死傷』のテロップ。
『昨日夜10時半頃、〇〇市△△町の県道で、自転車に乗っていた少年二人が、後ろから走ってきた大型トラックに撥ねられました。この事故で、近くに住む高校生、東出・風斗さん十六歳が頭などを強く打ち死亡、友人の十六歳の男子高校生も腕の骨などを折る大怪我をしました。警察は――』
淡々と読み上げられるニュース音声。
テレビはただそれだけを延々と繰り返し続け、病室のベッドに蹲る少年──雷也の心を苛む。
「そうだ……俺が……俺があいつを……!」
風斗。小学校に入ったばかりの頃からの親友。
大人しい性格で、いつも雷也の後をついて回っていた彼。
何かと物知りで、雷也の知らない多くのことを教えてくれた彼。
お互い、親の敷いたレールに逆らいたくて、二人で家出して。自転車の後ろに彼を乗せて、二人で何処かに向かおうと──。
「俺があいつを誘ったから……あいつだって躊躇ってたのに……」
悔恨の声を漏らす雷也、その身に重なるように、半透明の異なる姿が滲み出る。
マシュマロとも着ぐるみとも見える白い柔らかな風貌はユーモラスな印象を与えるが、其が夥しい血に汚れているとなれば只々不気味で。
その者はオウガ、アリスラビリンスに至り今やオウガブラッドとなった雷也と一体化したオウガである。
『アリス……アリス……ぼくが守るってキメタノニ……』
なれどそこから響く声は悲しく、雷也のそれと似た悔恨に塗れ。
『あの時、ぼくがそばにいなカッタカラ……邪魔するオウガを、すぐにやっつけられナカッタカラ……』
オウガの姿が浮かんでは消え、その度に雷也とオウガの悲痛な呻きが交互に漏れる。
「俺が……」
『ぼくガ……』
「あいつを……」
『アリスを……』
「『殺したんだ……!!』」
●
「――このオウガブラッドのお兄さんの罪の意識は本当だけれど。それを煽っているのは猟書家なんだ。自分のアジトの廃病院に閉じ込めて、罪の意識を煽って理性を奪って、完全なオウガに仕立て上げるつもりなんだよ」
予知を語り終えたグリモア猟兵、メニス・ソルタ(リトルヴィジランテ・f19811)は、己の見た光景の背後に、猟書家の新たな企みがあると告げる。
「このお兄さん――雷也が完全なオウガになっちゃう前に、何とか助けてあげて欲しいんだ。皆、お願いできるかな?」
乞い願うメニスに、猟兵達が頷けば。安心したような笑みを一時浮かべ、しかしすぐに表情を引き締め説明を開始する。
「皆が病院に着くと、雷也の中のオウガが身体を奪って襲いかかってくるよ。まずは、これを大人しくさせて欲しいんだ」
そのオウガは『まもれなかったともだち』。かつてアリスと共に旅をしていた愉快な仲間が、己の判断ミスからアリスを死なせてしまった自責のあまりオウガと成り果てた存在。雷也とは「己の過失で大切な人を死なせてしまった」共通点故に共感を覚えたのか、アリスラビリンスに召喚された彼と一体化しオウガブラッドと成らしめた。
故にだろうか、雷也が己の過ちに自責を覚える程にこのオウガの自責の念も強くなり、結果として暴走を始めてしまうようだ。
「皆のことは『アリスを狙うオウガ』と思い込んで攻撃を仕掛けてくるよ。このオウガへの説得は無理だけど、中の雷也はまだ意識を保ってるから、呼びかければ声は届くはず」
かつて親友を家出に誘い、結果として死なせてしまった事に対する罪の意識。これを和らげる言葉をかけてやると良いだろう。彼の自責を和らげれば、オウガの暴走の勢いも衰え、組し易くなるはずだ。
オウガを止めれば雷也は元に戻るが、それで終わりではない。
「黒幕の猟書家『リュカ・トワル』が出てくるから、これをやっつけて欲しいんだ。放っておけば、また雷也の罪の意識を煽ってオウガを暴走させにかかるから」
戦闘の際も、猟兵との交戦より雷也を煽ることを優先する傾向にある。彼の心を守る備えが必要となるだろう。
「その雷也もリュカと戦うつもりになると思うから、良かったら一緒に戦ってあげてね」
オウガが使っていたものと同じ鉈を武器とし、ユーベルコードでそのオウガを呼び出して戦わせる事もできる。但しこのユーベルコードは彼の血を代償とするので、回復系のユーベルコードなどで癒してやった方が良いかもしれない。
「と、こんなところかな。辛い気持ちに付け込んで悪いことさせようなんて猟書家の企み、きっちりばっちり叩き潰してやっちゃってね!」
そう結び、メニスが手にした木の枝を掲げれば。
その先から溢れ出すグリモアの光が、猟兵達を件の廃病院へと送り込んでゆく。
そして転移を果たしたその直後。
遠くで、盛大なる破壊音が轟いた。
五条新一郎
悪魔でも友達。
五条です。
さて此度はアリスラビリンスにての猟書家戦。
猟書家『リュカ・トワル』によって自責の念に囚われたオウガブラッドの少年を助け出し、かの敵の企みを打ち砕きましょう。
●このシナリオについて
このシナリオは『対猟書家戦』のシナリオです。
全二章で完結となります。
●目的
オウガブラッド『西住・雷也』の救出。
猟書家『リュカ・トワル』の撃破。
●戦場
アリスラビリンスのとある国にある廃病院。
雷也は最初病室の一つに囚われていますが、猟兵達が転移した直後にオウガ化して飛び出してくるので、病院内任意の場所で交戦可能です。
●NPC
『西住・雷也(にしずみ・らいや)』
オウガブラッドの少年(17歳)。
かつて親友の『東出・風斗(ひがしで・ふうと)』と共に家出した際に事故に遭い、彼が死んでしまった事に自責の念を抱いており、そこをリュカに付け込まれました。
後述の通り、立ち直らせることができれば第二章で共に戦います。
●第一章
雷也が変じたオウガ『まもれなかったともだち』との「ボス戦」です。
倒せば雷也は元に戻ります。
●第二章
猟書家『リュカ・トワル』との「ボス戦」です。
リュカは雷也を再びオウガ化させようとする行動を優先します。
●プレイングについて
タグの方にてプレイング募集状況を掲示致しますので、其方参照にてプレイングの方を送って頂ければと思います。
第一章は「雷也を説得する」ことでプレイングボーナスがつきます。彼の罪の意識を和らげる言葉があると良いでしょう。
第二章は「雷也と共に戦う」ことでプレイングボーナスが付きます。彼は鉈を武器とし、ユーベルコード『オウガ・ゴースト』を使用します。ただし代償は己の血、呼び出すものは『まもれなかったともだち』となります(この『ともだち』はユーベルコードは使いません)
それでは、皆様の心強いプレイングお待ちしております。
第1章 ボス戦
『まもれなかったともだち』
|
POW : だいじょうぶだよモウゼッタイニハナサナイ!
レベル×1tまでの対象の【髪や手足、対象がアリスなら胴体】を掴んで持ち上げる。振り回しや周囲の地面への叩きつけも可能。
SPD : ぼくがまもるよおいてかないでまってマッテマテェ!
対象への質問と共に、【アリスとの思い出】から【在りし日の自分】を召喚する。満足な答えを得るまで、在りし日の自分は対象を【アリスを狙うオウガとみなして、全力】で攻撃する。
WIZ : ひとりはさびしいよイッショニイテヨアリスゥ!
自身の【持つアリスの鉈】から【アリスと一緒にいたいという願望】を放出し、戦場内全ての【素手以外の抵抗するための力】を無力化する。ただし1日にレベル秒以上使用すると死ぬ。
イラスト:key-chang
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴
|
種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠バルタン・ノーヴェ」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
夢ヶ枝・るこる
■方針
・アド/絡◎
■行動
余りに酷いことをなさいますねぇ。
何とかやってみましょう。
【燦華】を発動、全身を『赤外線』に変換しますねぇ。
そして『F●S』各種を彼の手の届かない『上方』に展開しましょう。
電磁波である『赤外線』の速度と、実態の曖昧さを利用して回避を重視して動けば、彼に捉えられることはまず有りません。
その間に、『FRS』『FSS』による[砲撃]と、すれ違いざまの『赤外線の熱』による[カウンター]で、ダメージを蓄積させましょう。
そして、交戦中彼に語り掛けますぅ。
「事故に遭われた方は『躊躇っていた』とのことですが、『その結果、貴方と共に行くことを選んだ』、その方自身が決めたこと、ですよねぇ?」
「あああああアリスゥゥゥゥゥゥ! どこだい、どこにいルンダイ! アリスゥゥゥゥゥゥ!」
転移直後に轟いた破壊音、次いで響くは、狂的ながらも何処か悲愴な叫び声。既に亡きアリスを探す、元愉快な仲間のオウガの声。己と一体化したオウガブラッドの肉体を乗っ取り、オウガとしての本分に立ち返らんとするものの声。
「……余りに酷いことをなさいますねぇ」
其を為したるは、猟書家の悪辣なる策。グリモア猟兵から聞いたその経緯を思い返し、夢ヶ枝・るこる(豊饒の使徒・夢・f10980)が漏らした声音には不快感が滲む。このような策を弄した猟書家への。
「ですが、まずはオウガですねぇ。何とかやってみましょう」
なれど、今優先すべきはかのオウガだ。彼を止め、以て人間へと戻す。それが此度の、オブリビオン討伐と並ぶもう一つの任務。
「大いなる豊饒の女神、その象徴せし欠片の一つを我が身へ――」
ならば一刻も早くかの敵と交戦せねばならない。己の奉ずる女神へと祈りを捧げるるこるの身が、赤き光へと変じてゆく。そして奔りだす。悔恨に叫ぶオウガのもとを目掛けて。
「アウッ……! な、何ダヨコイツ……!」
病院の廊下を暴れ回るように駆けていたそのオウガ、誰にも止められないと思われた疾走が不意に止まる。己のもとへと迸り来た、赤き光によって。
「ぼくは早くアリスを迎えに行かなきゃいけナインダ! 邪魔すルナッ!」
喚きながら――迎えに行くべき相手が既に亡いことも狂気にて忘れ――その手の鉈を振り回すオウガ。なれど光を単純な物理攻撃で斬るなど当然だが不可能。何物をも捉えられぬ無為な攻撃をオウガが重ねる一方で。
(まずはその暴走を止めさせて頂きますよぉ)
赤き光――赤外線と化したるこる、その飛翔だけでも赤外線故に熱を帯び、かの敵への攻撃を可能とするが。無論のこと、それだけでは無力化などあまりにも遠い。故に、その身の周囲には数多の砲塔が浮かぶ。るこるの主武装たる浮遊兵器群だ。
廊下の天井付近に展開された浮遊砲台が、るこる自身の姿を為しているものより鮮やかな赤い光を放ち。オウガの身へと着弾すれば、見た目以上の苛烈な熱が、かの存在の生命力を奪い、弱らせてゆく。
「ウグッ……! 何だよ、何なんダヨォ! ぼくはアリスを守りタイ、迎えに行きたいダケナノニィ!」
一方的な攻撃を受け続け、喚く声音にも疲労や苦悶が色濃く生じる。そんな彼から離れ飛んだ赤き光が集積し、人の姿を成す――即ちるこるの姿へと立ち戻る。
「――随分と、ご自身の行いを悔いておられる様子でしたけれども」
明確な人の姿を捉え、血塗れの白き肉体を以て駆け迫らんとするオウガに対し、るこるが告げる声音は憐憫の色を帯びる。
「事故に遭われた方は『躊躇っていた』とのことですが――それでも『貴方と共に行くことを選んだ』のは、その方自身が決めたこと、ですよねぇ?」
「………!?」
(………!?)
オウガがびくりと身を震わせ、足を止める。るこるの言葉は、かつてアリスを守らんとしたオウガにも、その内に眠る雷也の意識にも刺さるもの。己の行動によって命を落とした大切な人の、それでも同調したのは彼ら自身の意志であるとする言葉。
「貴方が悪いわけではありませんし、勿論かのお方が悪いわけでもありません。言ってしまえば――そう、不運だったのですぅ」
続けての言葉の後、再度踏み込んだオウガがるこる目掛けて鉈を振るう。彼女の言葉だけではオウガは止まらず。なれど。
(俺が……悪いわけでは、ない……? そうなのか……風斗……?)
その内に眠る雷也の意識には、確かにその言葉は届いたのである。
成功
🔵🔵🔴
明日葉・雅
「自責の念につけ込むなんて、酷い事を……見捨てられません」
「まぁ、みーちゃんならそう言うよな。背中は任せた、いつも通りにだぜ?」
オルタナティブダブルにて明日葉と雅に分離
明日葉は黒剣、雅は懐中時計型デバイスを使用
敵との戦闘は明日葉が、説得は雅が行う
「俺はこっちだぜ?ほら捕まえてみせろよ」
「あーくん、煽っては駄目ですよ。貴方の想いは貴方だけのもの。彼は貴方を責める人ですか?」
「戯れてくる子供の相手してるだけだぞ。お前の想いはそんなもんか?」
「もぅ……貴方は彼の分も生きないといけません。たくさんの思い出話を作らずに会いに行ったら悲しませますよ」
説得が成功したら断罪の一閃にて斬る
アドリブ等歓迎
病院内に響き渡る、慟哭にも似た叫び声。徐々に近づくその声をオウガのものと判じ、明日葉・雅(咎喰らい・f07590)は身構える。
「自責の念に付け込むなんて、酷い事を……」
かのオウガの原型たる少年、その心を追い詰めた責め苦の程を想い、静かに義憤を示す。見捨てる事などできぬ、故に此度の任務へと参加を決めた。
「まぁ、みーちゃんならそう言うよな」
そこにかかるは雅とよく似た声質の、しかし声色の異なる声。いつの間にか、雅と寸分違わぬ装いの娘がもう一人――否、瞳の色だけが異なる娘がそこに居た。彼女は『明日葉』、多重人格者たる雅が内包する戦闘的な男性人格。それがユーベルコードの力で分離したもの。
「背中は任せた、いつも通りにだぜ?」
「ええ、前はお願いね、あーくん」
直接戦闘を担う明日葉は黒剣を手に前へ。一方の雅は懐中時計型のシンフォニックデバイスを手に、少年の心を救わんと決意を固める。
「アアアアア! アリス、アリスゥゥゥゥ! 待ってテ、こいつらやっつけたらすぐ行くカラネェェェェェェ!」
そして飛び込んできた、血塗れの白いオウガ。既に亡きアリスの敵を排除せんと、鉈を振り上げ眼前の明日葉へ斬りかかる。
「おおっと!」
然し不意打ちというわけでもないその攻撃、みすみす受ける明日葉ではない。軽やかに横跳びし回避してみせる。
「俺はこっちだぜ? ほら、捕まえてみせろよ」
「ウアァァァァァァ! こいつ、コイツゥゥゥゥゥ!!」
のみならず、オウガを小馬鹿にしたような声音で煽ってさえみせる。オウガは悔しげに唸りながら、鉈を振り回し攻め込んでゆく。まんまと煽られた形だ。
「あーくん、煽っては駄目ですよ……」
そんな彼の行為を、呆れ混じりに咎める雅だが。当の明日葉は「戯れてくる子供の相手してるだけだぞ」と悪びれる様子も無い。
「……それは兎も角。聞こえていますか、雷也さん?」
嘆息一つ、気を取り直し。雅はデバイスを起動しつつ呼びかける。かのオウガの内に眠る、本来の人格――雷也へと。
「貴方の想いは貴方だけのもの。どうか惑わず、真に信ずるべきものを見据えて下さい」
明日葉を追い回すオウガの動きに変わりは無い。なれどこの声、雷也へと届いていると信じ、雅は言葉を重ねる。
「彼は――風斗さんは、貴方を責める人ですか? 結果として死に至らしめたとはいえ、故意ではなかったのでしょう?」
真に信ずるべきものは、即ち当の亡き友。そう問いかける雅。
(そうだ、風斗……あいつは……あいつなら……)
鉈を振り回し明日葉へ攻めたてるオウガの動きが、僅かに鈍る。声は届いただろうか。
「お前の想いはそんなもんか? 友達を信じることもできないのかよ?」
「!!」
そこへ明日葉が追撃の一言。煽りとも、発破とも取れる言葉。図星を突かれたかの如く、オウガの動きが一時、止まる。とは言え間が悪ければ逆上させる可能性もあっただけに、雅は「もぅ……」と再び嘆息していた。
「ともあれ、雷也さん。貴方は、彼の分も生きないといけません。貴方だけが助かったのは、きっとその為なのでしょうから」
経緯はどうあれ、それが生き残ったものの務めであると説く雅。
「いずれ会いに行くならば、それまでの時間いっぱいの思い出話を。でないと、彼もきっと悲しみますよ」
生きる事にも迷っているだろう雷也へ伸べた、雅の言葉。オウガが尚も動かぬは、内なる雷也に其が響いた故であろうか。
成功
🔵🔵🔴
オルヒディ・アーデルハイド
この姿はあり得たかもしれない過去
そして起こりうる未来
もう一人のボクなんだよね
ボクもオウガブラッドだからね
なんとなくわかるよ
救うべき対象は雷也と一体化したオウガかな
言葉では難しいかもしれないけど身をもって証明しよう
雷也もオウガにとってまもる対象
暴走して身を滅ぼすのはよくないと気付けさせないと
交差する運命でオウガに身を委ね戦わせる
オウガとは運命共同体、お互いの信頼がなければなりたたない
基本的にオウガは素手だから抵抗を無力化される心配はない
ボクのオウガと雷也のオウガのどっちが上か力比べだね
がっぷり四つ組み合い投げ勝負
追い込まれるが最後はうっちゃる
「待っててねアリス、悪いオウガはボクが全部やっつけチャウカラァァァァァ!!」
病院跡三階。狂える叫びと共に己へ迫るオウガを、紫と藍の瞳に映し、オルヒディ・アーデルハイド(エンジェルのアリス適合者のクリスタルサモナー・f19667)は思う。
(この姿は有り得たかもしれない過去、そして起こり得る未来――もう一人のボクなんだよね)
自身もオウガブラッドであるオルヒディ。オウガたる悪鬼を封じた左手に一瞬、視線を落とす。一歩まかり間違っていれば、己も眼前のオウガと同様の存在となり果てていた――感覚的に、そう理解している。故にこそ。
(ボクの身を以て証明しよう。オウガと人が一つとなって生きること、その意味を)
オウガに対し、大切なことを理解させんと。ユーベルコードを発動する。己の内なるオウガに、一時、肉体の主導権を譲渡する――
直後。愛らしいオルヒディの双眸が、鋭さを増したかと思えば。彼は――彼の肉体の主導権を得たオウガは、床を蹴り弾丸じみた勢いにて、迫ってきていた白きオウガのもとへと飛び込んでゆく。
「ワァッ!? な、なんだコイツッ!? 邪魔をっ、邪魔をするナヨォォォ!!」
唐突に懐へ飛び込まれたことで、驚愕に固まりかけたオウガだが。すぐに立ち直ってオルヒディとの距離を取ろうとする。鉈を振るうには、互いが密着する程の距離を近すぎる。
だがオルヒディの内なるオウガはかの敵を逃さない。敵が退いた分を即座に踏み込み、鉈の間合いを許さない。
(オウガブラッドは。オウガと運命共同体であるもの)
故に相互の信頼が無くば成り立たぬ存在である。それはオルヒディの持論なれど、どちらかが欠ければ最早存在を維持できぬ存在であることに違いは無い。
「グフッ、ウガァァァッ! ア、アリスっ、アリスゥゥゥ! ボクは、ボクはァァァァ!」
白のオウガが逃げれば、オルヒディの内なるオウガが距離を詰める。その都度、繰り出される拳が、白いオウガの血塗れの肉体を抉るように打ち込まれ負傷を刻み込む。
(気付いて。今キミが守るべきは、もう居ないアリスじゃないって)
今の己の在り方と、それ故に守るべきもの。暴走するがまま、彼をも破滅の道連れとするは良くないことであると。気付くことを願いつつ、白のオウガへ拳を繰り出し続ける己のオウガの行動を見守る。
「ウグゥゥ、うぅ、な、なんダヨコイツゥゥ……?」
一方的とも言える攻勢を前に苦戦を強いられる白のオウガ、悔しげな呻きを漏らすが――そこで気付いた。己のそれに紛れて響く、少年の――雷也の呻きに。
「――アアアアア!!」
上がる叫びは、意を決したが如し。追撃せんとするオルヒディのオウガに対し、自分から踏み込み距離を詰め。大きな手で、オルヒディの細い肩を抱え込む。
(漸く理解した……かな)
敵の攻勢に対し、其を押し留めにかかる事こそ、宿主の身を守る為には最適解であると。その行動は気付きの証であろうと判ずるオルヒディだが、もう一つの問題に直面したことに気付く。即ち。
食い止めたオルヒディを、そのまま投げ飛ばさんとする白きオウガ。其に抗うべく、白のオウガの腰を掴むオルヒディのアリス。両者、がっぷり四つに組んでの投げ勝負。そうなれば、体格に勝る白のオウガが有利であると。
「ボクから……アリスから、離れろ離れろハナレロォォォォ!」
喚きながらオルヒディを押し込みにかかる白のオウガ。抗いきれず押し込まれてゆくオルヒディ、気付けば吹き抜けの際まで追い詰められていた。まさに土俵際。
だがオルヒディに焦りは無い。己の肉体を操るオウガならば、逆転の目はあると。そう信頼しているが故に。
そして、オウガは信頼に応える。丸々としたオウガの白い肉体、その腰辺りの肉を鷲掴みとしたかと思えば。
「……ウワァァァァァァ!!?」
豪快なうっちゃりを以て、逆に白いオウガを投げ飛ばし。三階の吹き抜けから下へ――一階の床へと、叩きつけせしめてみせたのである。
成功
🔵🔵🔴
牧杜・詞
いっしょに逃げた親友を死なせた?
なんだ、わたしみたいに自分の手で殺したわけじゃないじゃない。
それは事故よ。たしかに運はなかったかもしれない。
けれどいっしょに行くことを選んだのは風斗さん自身。
風斗さんはあなたを恨んではいないと思うわ。
むしろ自分の分まで生きて欲しいと思っているはずよ。
……わたしが殺した姉妹と同じで、ね。
誘ったことを悔いるのなら、風斗さんを忘れず精一杯生きなさい。
それが彼への手向けになるはずよ。
さて『愉快な仲間』だっけ。
あなたにも雷也さんの力になってもらえるといいのだけれど、無理みたいね。
せめて【新月小鴨】と【命根裁截】で綺麗に送ってあげるから、大人しくアリスのところへ逝きなさい。
遠桜・星黎凪
罪悪感を煽るなんて、酷いですね
そんなものに雷也さんをどうにかさせるわけにはいきません
雷也さん、あなたは悪くありません
運悪く事故にあってしまった、そのことを風斗さんも分かっているはずです
あなたもまた早く死んでしまったら、それこそ風斗さんは悲しむでしょう
彼の分まで生きぬいて、そして寿命を迎え再会したら、現世の土産話を語ってあげてください
戦闘は
キャバリアに乗らずに生身で戦います
瞬間思考で敵の次の動きを導き出し見切って回避
刀で桜花一閃を叩きこみます
「ウウ……ウウッ……アリス、アリスゥゥゥ……」
吹き抜けの下、ロビーと思しき開けた空間。床に広がる蜘蛛の巣じみた亀裂の中心から起き上がる、血塗れの白きオウガ。呻く声は痛みの苦悶か、喪失の悔恨か。或いはその両方か。
(うう……風斗……俺は……俺のせいで……)
オウガの呻きに、その宿主たる少年――雷也の嘆きもまた重なって響くかのようで。少なくとも、その場に行き着いていた二人の猟兵達にはそう聞こえた。
「……自分の手で殺したわけじゃないじゃない」
牧杜・詞(身魂乖離・f25693)は素っ気なく、しかし何処か憐憫を込めて呟く。自ら一族を殺害した己とは違う、故にそこに罪は無い、と。
「なのに罪悪感を煽るなんて、酷いですね」
一方、遠桜・星黎凪(桜花の機士・f29963)は、このような形で雷也を追い詰めてきた猟書家に対し憤りを見せる。こんなもので彼を如何にかさせる訳にはいかない、と改めて決意を固める。
「ウァァァァァ! アリスッ! アリスに近づクナァァァァ!!」
そこに轟くオウガの叫び。同時、飛び込んできた白い巨体が鉈を振り下ろし、咄嗟に回避行動を取った二人の元居た床を爆ぜ飛ばしてみせる。決して浅くはない傷を負いながら、尚ここまで動けるか。
「大した力ね。説得だけで何とかなれば……と思ったけど」
「弱らせつつ呼びかけるしか無さそうです」
嘆息する詞、眉根を寄せる星黎凪。其々に得物を抜き放つ。詞の手には白鞘の短刀『新月小鴨』。星黎凪の構えるはサムライブレイド。互い、合図をするでもなく、オウガを目掛け左右から同時に仕掛けてゆく。
「邪魔を、すルナァァァァァ!!」
詞を狙う、横薙ぎの一閃。詞は床を蹴る。その身は廻って蜻蛉を切り、オウガの頭上で頭を下向ける。
「確かに運は無かったかもしれない。けれど、一緒に行くことを選んだのは風斗さん自身」
オウガの内で嘆く雷也へと語りかける詞。同時、短刀持つ腕を閃かせれば、その軌跡を受けたオウガが苦しげに身悶える。詞の斬閃は肉を刻まぬ。刻むは只、命のみ。
「風斗さんだって分かっているはずです、あなたは悪くないのだと」
オウガの脇を駆け抜けざまに刃を走らせた星黎凪もまた、雷也へと告げる。白き肉体の裂けた合間から漏れ出る鮮血が、白を汚す赤黒を更に増やす。
(そうかもしれない……でも、俺だけのうのうと生き延びて……!)
痛みに両腕を振り回し暴れ回りながら、言葉にならない叫びを喚き散らすオウガ。其に紛れて雷也の更なる嘆きが伝わってくる。
「あなただけ生き延びるのは罪じゃない、寧ろ風斗さんだってそれを望んでた筈よ」
詞は己の身を掴まんとするオウガの腕を掻い潜り、腋下へ短刀を突き立てると共に言葉を返す。己が殺した姉妹達とて、同じことを願ったのだから――況や己が手にかかった訳でない相手ならば。
「あなたもまた早く死んでしまったら、それこそ風斗さんは悲しむでしょう」
あなたが風斗さんの死をそれだけ悲しんでいるように、と。振り下ろされた鉈を刀の峰に滑らせ捌いた星黎凪、逆袈裟の刃と共に言葉を繰り出す。刃はオウガの身を捉え、白に更なる赤を刻む。
「ウグ……ッ……アリス……アリスゥゥ……!」
身を刻まれ続けるオウガがよろめく。呻きに紛れ伝わってくるのは、戸惑うような雷也の思念。後一押しか。
「それでも悔いずにいられないなら。せめて、風斗さんを忘れず精一杯生きなさい」
それが彼への手向けになるはずよ、と言い添えつつ。新月小鴨を逆手に構え、詞は身を屈める。刃持たぬ手を床へとつける程に低く。
「そして寿命を迎えて再会したら。現世の土産話を語ってあげてください」
真っ当に生きられれば、逝き先はきっと同じでしょうから、と。星黎凪はサムライブレイドを正眼に構える。見据えるは、俯き身を震わすオウガ。
「……アアアアアァァァァァァァ!!!」
外からは猟兵達に、内からは雷也に抑え込まれた結果か。感情を爆発させるが如く雄叫びを上げながら、オウガは少女達目掛けて爆走する。
「暴れるんじゃないの。綺麗に黙らせてあげるわ」
地面すれすれからの声。詞が振り下ろされた鉈とすれ違うようにオウガの背後へと回り。人間なら延髄と言われる部位に短刀を突き刺して。
「これで、決めます……雷也さん!」
そして星黎凪が勢いよく踏み込み、サムライブレイドを振り下ろせば。オウガの白き身体は深く、深く斬り裂かれて。
「アア……アア、アァァァ……!」
断末魔じみた呻きと共に倒れたオウガ、その身が光を放ち、全身を包み込んで。
「……お、俺は……?」
ややあって光はその光量を衰えさせ、そして程なくオウガを包んでいた光が失われれば。代わって、そこには一人の少年――雷也の姿があった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
第2章 ボス戦
『リュカ・トワル』
|
POW : アレニエの罠
【予め戦場に張り巡らせた透明な蜘蛛糸】が命中した対象に対し、高威力高命中の【伸縮可能な円網状の羽による刺突】を放つ。初撃を外すと次も当たらない。
SPD : アリス・デセジェを憐れみて
戦闘中に食べた【猟兵やアリスの血と肉】の量と質に応じて【脚が巨大蜘蛛の八本脚に変化し】、戦闘力が増加する。戦闘終了後解除される。
WIZ : ヴェクサシオン
【自身が葬ったアリスの血肉】を給仕している間、戦場にいる自身が葬ったアリスの血肉を楽しんでいない対象全ての行動速度を5分の1にする。
イラスト:クニ
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
|
種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「スキアファール・イリャルギ」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
「……あんた達が猟兵か。ありがとう……おかげで、戻ってこれたみたいだ」
オウガと化した姿から元に戻ったオウガブラッドの少年、雷也は猟兵達に礼を告げる。
その表情は晴れやか――とまではいかないものの、苦悩や煩悶の影もまた見られない。猟兵達の説得の成果であろう。
「俺は悪くない――とは、自分じゃ流石に言えないけど。風斗の分まで、しっかり生きられれば――」
説得の末に見出した決意を語ろうとした雷也、だがその言葉は中途で遮られる。突如生じた、血腥い気配によって。
「――いけませんね。ご友人を死なせておいて自分だけのうのうと生き延びようとは」
そして流れてくる慇懃な声音。猟兵達がその主の方を見れば、背に八枚の翼を携えた少年の姿。猟書家『リュカ・トワル』だ。
「その罪は決して贖われるものではない。貴方は生涯、罪人として扱われるのです。聞きなさい、ご友人の『仲間』の声を」
差し出した指を蠢かす猟書家。其に操られるが如く、周囲から立ち上がるは何人もの少年少女。いずれもが、四肢が千切れ、臓物や骨が露出した悍ましい姿。彼の手にかかったアリス達の成れの果てか。
「あなたは最早、人として生きる事を許されないのです。ならば、許される道は――一つしかありませんね?」
仲間を求めるかのように手を伸ばす屍達。その腐臭と挙動、リュカの言葉。雷也の表情に再び苦悩が滲む。
「黙れ……! 風斗は、風斗はそんな事を望んじゃいない……!」
搾り出すような声。その手に、先程までオウガが振るっていたものと同じ鉈を握り、抵抗の意志を示す。
なれどその心境、ともすれば再び暴走に至りかねぬ薄氷の上。リュカを討つのみならず、彼を支え、共に戦うことが、猟兵達には求められよう。
※アリスの屍達は専ら雷也への精神攻撃用、兼リュカのユーベルコードの触媒となります。戦闘力はありません。
夢ヶ枝・るこる
■方針
・アド/絡◎
■行動
猟書家のご登場ですねぇ。
お相手致しますぅ。
『F●S』各種を展開し『FBS』を四肢に嵌め飛行しますねぇ。
そして『FMS』の半数を雷也さんの護衛に回し【誅剪】を発動しましょう。
『蜘蛛糸』も『初撃』で有る以上『攻撃』の一種、【誅剪】の効果で切裂けるでしょうし、それが難しくても『刺突』に対しては確実に[カウンター]による[切断]が可能ですぅ。
後は『FRS』『FSS』の[砲撃]による[範囲攻撃]を重ね、周囲の屍人諸共叩きますねぇ。
雷也さんがご自身でそう言えないのは仕方有りませんが。
「風斗さんの名を勝手に騙り、沢山の死者を貶める行い」を誅するのは、彼への贖いになると思いませんかぁ?
明日葉・雅
「貴方が元凶ですか。罪人は雷斗さんではありません、貴方です。処刑人、この体、明け渡します」
「久々の獲物が小僧とはな。まぁ、いい。その首もらい受ける」
「んじゃ、あっちのガキのフォローは俺の仕事になるわけか。あいつの邪魔すると後が面倒だしな」
UC発動第三人格へ体の使用権を受け渡し、オルタナティブダブルにて明日葉が分裂
武器は処刑人は黒剣を組換えた大鎌を、明日葉は大振りのナイフを使用
「小娘から聞いたが、姑息な手を使うようだな。貴様の首、刈り取らせてもらおう」
「雷斗、怒りは活力になるが、身を任せるな。心は静かに、体は熱く、神経を研ぎ澄ませろ。お前の友を愚弄したんだ、キツイ一撃を与えてやれ」
「猟書家のご登場ですねぇ」
「つまりはこの方が元凶、ですね」
猟書家リュカ・トワルと彼の率いる屍達を前とし、苦悩の表情を浮かべる雷也。そんな彼の横に、二人の猟兵が並び立つ。
「やはり現れましたね、猟兵達。オブリビオンと見れば躊躇なく殲滅しておいて、人間の罪人は無罪放免というわけですか」
猟兵達を前として尚、リュカ・トワルは余裕の態を崩すことなく。冷笑さえ浮かべてみせながら嘯いて。
「罪人とは雷也さんのことではありません。貴方です」
なれど明日葉・雅(咎喰らい・f07590)は決然と。黒翼の猟書家を真っ直ぐと指差し宣告する。対する猟書家、変わらず冷たい笑みを浮かべる。
「ご縁も何もなく、風斗さんを騙り、沢山の死者を貶める行い。立派な罪と言えるでしょぉ」
常と同様の緩やかな声音で語る夢ヶ枝・るこる(豊饒の使徒・夢・f10980)も、その表情は厳しく。
「僕は過去。死者と同じ側にある者。だからこそ、死者の代弁を為す権利があるというものさ」
一方のリュカは詭弁を以て返す。賛意を示すかのように周りの屍達が呻きを上げるが、其もまた彼の手による自演たるは明白。
「――これ以上は無駄、のようですね」
そう断じた雅、纏う雰囲気が一変する。赤と青の異彩を有していた瞳が、全き黒に染まると共に、纏う着物も真紅に染まる。
「――久々の獲物が小僧とはな」
黒き瞳の雅が口を開けば、その声音は老成した重みを帯びたるもの。『処刑人』、雅の内に宿る第三の人格。奪い、殺し、断罪を為すもの。
「まぁ、いい。小僧、その首もらい受ける」
携えていた黒剣を大鎌の形と変形させ、猟書家へと突き付け宣言する。
「ええ、きっちりと確実に。仕留めさせてもらいましょぉ」
るこるも同調し、四肢に嵌めたる戦輪を回転させてその身を宙へと浮かせる。
「そうはいかない。このまま、罪を無かったことにはさせないとも。そうだろう、雷也?」
薄笑みを浮かべたままのリュカは、徐に雷也へと話を向ける。急に話を向けられ、身を震わす少年。
「君の罪は決して許されない。君に殺された友が、その仲間が許さない。過ちを忘れ、のうのうと生きゆくなど――」
「う、うるさい……! お、お前に風斗の何が分かるってんだ……!」
続くリュカの言葉を遮るように叫ぶ雷也だが、その声音は震え、明らかなる動揺を示す。その身の輪郭に、先のオウガの姿が一瞬、重なる。
「言っただろう、僕は死者の代弁を為す者。君に、死した友人の言葉を伝える権利を――っと」
そんな雷也を更に追い詰めんと語り続けるリュカ、だが今度は振るわれたる刃にて言葉が断ち斬られる。
「過去が囀るな。黙して首を差し出せ」
雅の振るう大鎌である。宣言通りに猟書家の首筋を狙った一閃は、しかし咄嗟に跳び退いた彼には届かず。
「オブリビオンにも死者を語る権利はありませんよぉ」
そこへ上方からるこるの声、と共に降り注ぐ無数の砲弾。彼女に随う浮遊砲台群が放ったものだ。着弾したそれらは床に爆裂を巻き起こし、死者達を吹き飛ばしてゆく。
「思い出すがいい、君の友が死んだ理由を」
なれどリュカは無数の爆発を大した傷なく切り抜けて雷也へ肉薄。更なる言葉を囁きかける。
「君が家出になど誘わなければ。道連れを求めたりしなければ、彼は死なずに済んだ。違うかい?」
「う……煩い……! 誘ったのは俺だが、決めたのは……!」
問い詰めるかの如きリュカの言に反論を試みる雷也、然しその声音は震え、明らかに冷静なる態ではない。
「ほう、つまりは彼の自業自得と。薄情なことだ、それでも本当に友と思って――おっと」
そんな彼の有様を見て取り、更に煽りにかかるリュカ。怒りに任せるが如く振るわれた雷也の鉈を、大袈裟なくらいの跳躍で回避する。
「黙れ、黙れ……! お前が、お前が風斗を騙るな――っ!?」
その猟書家を追いかけようと駆け出しかける雷也、だがその肩が引かれ引き戻される。振り向けば、前方で再びリュカに攻撃を仕掛けんとしていた筈の雅の姿。否、瞳の色が此方は赤。
「雷也、怒りは活力になるが身を任せるな」
其は雅の男性人格『明日葉』。雷也のフォローを任せるべく、雅が残していたものだ。
「あいつの周り、見えない糸が張り巡らされている。そうやって冷静さを奪って罠にかける、ああいう手合いの考えそうなことだ」
明日葉の言葉に戸惑う雷也。そんな糸など見えはしないが――彼がそう言うならきっとそうなのだろう、そう判断する程度には彼へと信を置いている様子。
「体は熱くとも心は静かに。神経を研ぎ澄ませろ。そうすれば道は見えるはずだ」
続けての明日葉の言葉に頷く雷也。そして『道』は既に、今一人の猟兵によって整えられていた。
「雷也さん、此方をお供になさって下さいなぁ」
上空からのるこるの声。浮遊する鏡めいた銀の円盤が四枚、雷也の傍らへと飛翔してきた。
「この祭器があなたの道を切り開きますぅ。ご友人の名を騙る輩を誅すること、彼への贖いを為す為に」
雷也の前を守るように前方で旋回飛翔する銀盤。戸惑いを覚える雷也だが、意を決し頷き。改めて駆け出す。
「そうだ、お前の友を愚弄したあの野郎に、キツイ一撃を与えてやりな」
明日葉の言葉が更に背を押す。見据えた先では、友を騙ってきた猟書家が、処刑人の振るう大鎌を必死に躱す姿があった。
(――おかしい)
その猟書家――リュカは訝しむ。己の仕掛けた罠――ユーベルコードによって張り巡らせた不可視の糸に反応が無い。これに敵を引っかけ、背の翼を螺旋と為して貫き穿つ。それが彼の策であったのだが。
「小娘の言った通りだ。随分と姑息な手を使うようだな」
対する雅――処刑人は大鎌を振るいリュカに迫る。回避を続けるも、反撃の糸口が掴めない。否、反撃せんと繰り出す糸も、何故か彼女に届かない。
(何故だ……!?)
己の策が全て読まれて事前に潰されている。そうとしか思えぬ状況に焦りを覚えるリュカ。るこるのユーベルコードによって、己の繰り出す攻撃、その全てが断ち斬られている事実に、彼は気付かない。
「無駄なことよ。貴様の首、刈り取らせてもらうぞ」
振るわれた大鎌を跳び退き躱す。が。
「がっ……!?」
その背に叩きつけられる重い刃。振り向けば、怒りに燃える瞳。雷也であった。
「これ以上……風斗を、騙るな……!」
絞り出された叫びの、その直後。再び振るわれた断罪の鎌が、猟書家の身を確と捉えた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
牧杜・詞
あなたひょっとして頭が悪いの?
なぜ友人が死んだら自分が生きていてはいけないのかしら。意味がわからないわ。
それにその子たちは、彼じゃなくあなたが殺したんでしょう。
あなたの理論だと、あなたがまず生きていてはいけないんじゃないかしら。
ああ、ごめんなさい、生きてなかったわね。
……罪は購われない? 罪人して生きる? 当たり前じゃない。
もし生き残ったことを罪だと思うのならば、
贖罪の方法は生きて生きて、どんなことがあっても生き抜くことよ。
雷也さん、あんなのの言うことは聞く耳持たなくていいわ。
【識の領域】を発動させて、【鉄和泉】で翼と手足の腱を狙っていこう。
動きを止めたら、とどめは雷也さんにお任せしようかな。
遠桜・星黎凪
雷也さん、騙されてはいけません
彼らは別に風斗さんのお友達ではありませんし、たとえお友達だとしても友の友はあなたの友ならずともいいます
そもそも─彼らをあんな風にしたのはどうせあの男です
その罪はあいつのものであって、あなたには何の罪もありません
ですから遠慮なく倒してしまいましょう
基本的には雷也さんと連携し、刀で斬りかかりつつ
敵がアリスの死体を食べようとしたら煌桜斬空を先制攻撃で放ってインターセプト
私への攻撃は瞬間思考を用いて見切り、回避します
「……っく、ふ、ふふ……」
雷也の振り下ろした鉈に背を裂かれ、よろめき振り向くリュカ・トワル。苦悶の呻きは、しかし直ぐに笑いと変わる。
「無駄だ、無駄だよ。僕を殺したとしても、君の罪は消えはしない。君は、人として生きてはいけない」
いっそ憐憫すら感じさせる笑みで以て、己を睨みつける雷也を見返すリュカ。見透かすような視線に、思わず雷也がたじろぐ。
「抵抗せず、受け入れるんだ。君の罪を。君の在るべき――」
「――あなた、ひょっとして頭が悪いの?」
雷也を追い詰めんと語り続けるリュカの声を、横合いから放たれた怜悧なる声が断ち切る。猟書家と少年、双方が声の主の方を振り向けば。刀を携え歩み来る二人の少女。
「何故友人が死んだら自分は生きていてはいけないのかしら。意味が分からないわ」
先の声の主、牧杜・詞(身魂乖離・f25693)が、その声音と同じく冷たい視線を猟書家へと向けつつ歩み寄る。リュカ、冷笑にて応える。
「雷也さん、あの男に騙されてはいけません」
今一人、遠桜・星黎凪(桜花の機士・f29963)は雷也に歩み寄り、気遣うように声をかける。
「あのような事を言ってはいますが、彼らをあんな風にしたのは――どうせ、この男です」
そうしてリュカの方へ向けた視線は厳しく。彼の周囲に未だ集る幾つもの屍。アリスの成れの果て。
「あなたの論理で言うなら、あなたがまず生きていてはいけないんじゃないかしら?」
その言を引き継ぎ、詞がかの猟書家の在り方に疑問を呈する。そもオブリビオンである以上『生きて』はいない、とは思いつつも。
「――何を言うかと思えば」
分かり切ったことではないか、とでも言いたげに、端正なる貌に嘲ける笑みを浮かべるリュカ。睥睨するかのような視線と共に答えてみせる。
「人として生きるならば罪人さ。けれど――オウガとして生きるなら。人を殺すのは、当然のことだろう?」
それはオウガの――人喰いの怪物の論理。人を喰って生きている己らだから、人を殺そうとも罪にはならぬという、身勝手な救済。其を雷也に与えんとしていたのだ。
「――尚悪い、ですね」
星黎凪は静かに告げて、侍刀を抜く。いっそ淡々とした風の所作に怒気が滲む。
「――過去が、現在の振りをするんじゃないわ」
詞もまた、その手の打刀の刃を返す。『鉄和泉』、濡れた深緑色に煌めく刀。
「人は過去からは逃げられない。自分もまた過去とならない限りね……!」
リュカの笑みが深まると同時。彼の両手から奔る光の波。細長い糸が、三人を目掛けその身を斬り刻まんと振るわれる!
「くっ!?」
雷也は横っ飛びで回避するが、着地し損ね地を転がる。
「見えていますよ……!」
星黎凪は刹那の判断で以て糸の展開範囲と軌道を把握、最小限の動作で回避してみせる。
そして、詞は。
「――根源を示せ」
その一言を呟くと同時、身体から溢れ出す猛烈なまでの殺気。普段抑制している衝動を解放することで、持てる戦闘力の全てを解放。直後。
「――ぐっ!?」
リュカが呻く。つい一瞬前まで己の放った糸の軌道上に居た筈の詞が、真横からリュカを目掛けて斬りつけてきたのだ。
「速ぇ……!?」
圧倒的なまでの速度。雷也が思わず驚愕の声を漏らす。
「今のうちです、彼女に加勢し一気に攻めましょう!」
そんな彼を叱咤し、攻勢を促す星黎凪。応え、雷也もまた彼女と共に駆け出してゆく。
「くっ、いいのかい雷也! このまま帰れば君は罪人だ! 友殺しの罪を一生背負って――」
詞に続いて鉈を叩きつけにきた雷也へ、リュカが煽るように叫ぶ。だがその言葉は。
「そんなの、当たり前じゃない」
再度、詞の一言により遮られる。と同時に振るわれる深緑の剣閃が、猟書家の胸へ――先の猟兵との交戦で裂かれたそこへと更なる傷を刻む。
「生き残ったことを罪だと思うのならば。贖罪の方法は生きて生きて、どんなことがあっても生き抜くことよ」
勿論、人として、ね。雷也の方を一瞬振り向いて付け足したその言葉は、猟書家に向けたそれよりは幾分優しく。
「ぐぅ……っ、自分勝手な! そんなことを彼らが許すと思うかい……!?」
呻きながらもリュカは傍らのアリスの屍へ手を伸ばす。狙うはかの屍肉の捕食。完全に己の所業を棚に上げた行いである。だが。
「……な!?」
掴んだ手の感触が異様に軽い。見れば、彼が掴んだのは屍の片手だけ。その手首から根元は、何処からか飛来した桜色の斬撃波によって細切れとなり散っていった。
「彼らも別に風斗さんのお友達ではないでしょう!」
星黎凪である。リュカの狙いを瞬時に見抜いた彼女、其を阻止すべく刀を振るい、斬撃波で以て彼の狙うアリスの屍を遠間から解体してみせたのだ。
「彼らをそんな風にしたのはお前の罪! それを雷也さんのせいにしようなんて許すワケがありません!」
改めて距離を詰めつつ斬りつけにゆく星黎凪。対するリュカ、僅かに残った手の肉をどうにか喰らい。
「僕は助力をしようとしただけさ……! 雷也が己の罪を認め受け入れる為のね……!」
リュカの下半身がみるみるうちにメキメキという音を立て変形。蜘蛛の如き八本脚の姿となって地を走る。狙う先は――雷也。
「ぐっ……!」
鉈を構えつつも怯んだ様子の雷也。だが彼を支えるように、詞と星黎凪が隣へ降り立つ。
「雷也さん、あんなのの言うことは聞く耳持たなくていいわ」
詞はそう告げるや否や再度駆け出し。
「あいつの罪はあいつのもの。今この場において、あなたには何の罪もありません」
星黎凪が語りかけると共に、構えた侍刀に桜色のオーラが迸る。
「ですから――遠慮なく、倒してしまいましょう!」
目にも止まらぬ速度で以て、侍刀が幾度も振るわれる。その度ごとに、幾つもの斬撃波が迫る猟書家目掛けて撃ち出され。
「ぐあぁぁぁぁぁ!?」
リュカの全身を、蜘蛛足を斬り裂きその挙動を鈍らせる。更に奔る深緑の剣閃が、翼を斬り落とし両腕の腱を断つ。そして。
「俺の罪は――俺の意思で、贖ってみせる……!」
飛び込んだ雷也の振り下ろした鉈の一撃が、猟書家の脳天へと叩き落とされ。頭蓋を粉々に打ち砕く。
「――――」
それでも、猟書家は何か言おうとしたようだが。
「――死人に口なし。過去が、現在を語るな」
彼の背後へと滑り込んでいた詞が、鉄和泉を一閃。
リュカの頭部と胴体が、鮮やかな断面を残して泣き別れていった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ニケ・ブレジニィ
決着がついた事を確認した後
興奮している雷也さんにユーベルコードの『桜の癒し』で眠らせ、治癒を施す。
「あなたは何も悪くなんかない。
風斗さんはもう戻っては来ないけれど…今は、もうお休みなさい。」
これが親友を亡くした彼に出来る私からの精一杯の【慰め8】【心配り3】【優しさ3】です。
同時に、戦闘不能のオブリビオン『リュカ』の魂も『桜の癒し』で魂を転生へと導きます。
「もう鎮まりたまえ、あなたの名を忘れないように私は憶えておいてあげるから。」
リプレイのために、このキャラクターを自由に扱っていただいて全く問題ありません。
リュカ・トワルの身が崩れ落ちると同時、周囲のアリスの屍達もまた、正しく糸の切れた人形の如くその場へと崩れ落ちる。操作者の命脈が立たれたことで、彼らもまた全き屍へと戻ったのだ。
「はぁ、はぁ、はぁ――」
猟書家の血に濡れた鉈を手に、荒い息をつく雷也。本当に、決着がついたのか。その緊張が、戦況に対する興奮を呼んでいるようにも見え――
「――――」
戦場に吹き流れる、無数の桜の花びら。其を認識する間もあればこそ。雷也の身もまた、その場へと崩れ落ちる。死んだ訳ではない。眠りに落ちただけだ。
「――あなたは、何も悪くなんかない」
床に倒れ、眠る雷也の傍らに。妙齢の女性が歩み寄る。ニケ・ブレジニィ(桜の精の王子様・f34154)。その胸にひとつの願いを宿す、桜の精の猟兵だ。
「風斗さんは、もう戻っては来ないけれど――今は、もうお休みなさい」
眠る雷也へと、優しい声音で語りかけると。ニケは再び歩を進める。その先に、蜘蛛の下半身と人の上半身を持ち、頭部を失った屍。先の猟兵達との交戦にて敗れた猟書家『リュカ・トワル』のものだ。
「貴方も――疲れたでしょう?」
首の無いリュカの亡骸へと語りかけるニケ。その身の周囲に、再び桜花が舞い散る。癒しを齎す幻朧桜。ユーベルコードの産物。
花弁が亡骸へと降り積もるうち、首の無い蜘蛛人間の身体が徐々にその形を失って。土に還るかのように、病院の床へと溶け込んでゆく。
「もう鎮まりたまえ、リュカ・トワル。あなたの名を忘れないように、私は憶えておいてあげるから――」
消えゆく屍へ語りかけ、その消失する過程を見守り、見届けてゆくニケ。
彼女が願うは、可能な限り多くのオブリビオンの転生。それはサクラミラージュの影朧に限らない。この世界のオウガ達とて、彼女の願う転生の対象だ。
影朧以外のオブリビオンが転生を果たせるかどうかは分からない。分からないが――それ故に。試みる意味はあると。ニケは信じている。
そしてニケは踵を返し。眠る雷也の身を抱え上げると、病院の出口を目指して引き返してゆくのだった。
●
斯くして、猟書家『リュカ・トワル』は討たれ。雷也はオウガと化す危機を乗り越えることに成功した。
目覚めた雷也は語る。
「――寝てる間に、風斗が会いに来る夢を見たんだ。そしたら、あいつ――」
猟兵の皆が言ってくれたのと、同じ事を言っていたと。そう語る雷也の表情は、何処かすっきりしている様子であった。
「風斗の分まで、しっかり生きる――か。どうすればいいか、まだ分からないが……出来る限り、頑張ってみようと思う」
そう決意を新たにしたオウガブラッドが、果たして元の世界へと帰れたか、否か。それはまた、別の物語である。
大成功
🔵🔵🔵
最終結果:成功
完成日:2021年07月27日
宿敵
『リュカ・トワル』
を撃破!
|