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きみよ散れども

#サクラミラージュ

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#サクラミラージュ


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●きみよ散れども
 幻朧桜の降る庭は、あなたとの幼い日々が思い出されます。いとも簡単に木の上に登ったあなたを追いかけようとして、少しもよじ登れなかったわたしが泣きべそをかくと、笑いながらすぐに降りてきてくれた姿が眩しかった。
 帝都を護る為に學府へ入った時も、誇らしげな両親達とは真逆に、寂しさで泣きだしてしまったわたしを抱きしめてくれた手のぬくもり。
 すべて、すべてがわたしの大切な記憶であり、痛みでした。

「可哀想に、まだ姉を忘れられないのか」
「そう聞いていたんだがね、どうやらやっと元気になったらしい」
「なんでもお見合いパーティーを開くのですって。きっと華やかになるでしょうねぇ」
「本当によかった、ご両親もひと安心だろう」

 とうさまもかあさまも、わたしが笑顔でいてほしいという。
 わかっています、本当は二人も悲しんでいるのだと。だけど。

「琴音さん、俺は君と一緒になりたい。姉君の代わりにはなれないことはわかってる。婿だろうとなんだろうと構わない、君を愛してる――それはずっと変わらないんだ」
 わたしが姿を隠しても、欠かさず会いに来て手紙を置いてくれた誠一さんの優しさも。
 わかっています、それがどんなに尊い愛かも。だけど。

 だけど、ねえさま。彼がどんなにわたしを想ってくれていたとしても。
 わたしは、あなたを忘れて嫁ぐことなど出来ません。

 ――だからずっと、今度はずっと、わたしの傍に居てくださいね。

●ぼくまだ恋しや
「来て、くれて、あり、がとう、ござい、ます。サクラ、ミラージュ、の、事件、です」
 世母都・かんろ(秋霖・f18159)は高い背を軽く曲げてお辞儀をする。すぐさま手にしたタブレット端末を操作すれば、女性の声が淡々と説明を始めた。

「とある裕福な家柄の少女が、影朧を匿っています。名前は『水無月・琴音(みなづき・ことね)』、十八歳です。彼女には仲の良い學徒兵の姉が居ましたが、姉は影朧との戦いにより亡くなりました。傷ついた彼女は家に篭り続けていましたが、最近明るさを取り戻したのだと噂になっています。おそらく、匿っている影朧を姉が帰ってきたのだと思っているのでしょう。琴音を説得し、影朧の居場所を突き止め退治して下さい」
 今はまだ動きのない影朧も、いつかはこの家族を狂わせてしまう可能性がある。琴音との接触方法は、と猟兵が問う。かんろはこくりと頷き、端末を動かす。

「今回、彼女の住む屋敷で多人数のお見合いパーティーが開かれます。元気になった娘の婚約者、そして跡継ぎを探すという口実で、娘に様々な人間と会話させようと両親が提案したものです。元々、見目美しく家柄も良い彼女にはいくつもの縁談が来ていたのですが、ひと際彼女に熱烈な想いを抱いた青年が居ました。両親は彼に婿に来てもらえば良いと思っているようです。様々な世界を巡る猟兵にも、パーティーを盛り上げるために是非参加してほしいという招待状が来ています。皆様にはこのお見合いに参加して頂き、情報収集、または琴音に接触して頂きます」
 お見合いは性別年齢を問わず、立食パーティーの形を取っているため、ただ食事や会話を楽しむだけでも構わないという。跡継ぎよりも、姉を亡くした娘に楽しいひと時があればいいのだと両親は考えているらしい。

「彼女から影朧の所在が判明次第、影朧が匿われている場所へ急行、影朧と戦って下さい。なお、影朧は説得することで、桜の精の癒しがあればいずれ転生することが可能です。いずれにせよ、影朧の退治をお願いします――以上」

 傘を開けば、てるてる坊主が舞う。かんろはたどたどしく言葉を紡いだ。
「琴音さんも、ご両親も、傷ついて、います。けど、このまま、だと、もっと、傷つく、かも、しれない、から。お別れを、言う勇気、を、琴音さん、に、あげて、ほしい、です」
 はらりひらり、猟兵達は桜舞う帝都へ運ばれる。


遅咲
 こんにちは、遅咲です。
 オープニングをご覧頂きありがとうございます。

●成功条件
 オブリビオンを撃破する。

●1章『お見合いパーティー』について
 立食形式のパーティーです。情報収集はもちろんのこと、料理を楽しむだけ、好みの相手を探してお見合いするだけ、というイベントシナリオ系プレイングも歓迎です。

 合わせ、グループ参加の際は、グループ名かお揃いの絵文字、または呼び名とIDの明記をお願いします。
 グループ参加は最大【4名様】まで。

 NPCは琴音、琴音に想いを寄せる青年・誠一、他様々な人々が参加しています。

 以下の記号でお見合いシーンが可能です。
 ◇:NPCとのお見合い(どんな人が相手かor琴音となら名前を明記)
 ◆:猟兵同士でお見合い(合わせ参加、グループ参加の方のみ可)
   2(猟兵)対2(NPC)などの複合も可能です。

 ※お見合いせずとも、NPCとの会話は可能です。

 ※プレイング受付は5月30日(日)朝8時31分以降から。

 参加者多数の場合、再送前提の遅い進行となります。
 どの章からのご参加もお気軽にどうぞ。
 皆さんのプレイング楽しみにしています、よろしくお願いします。
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第1章 日常 『楽しいお見合いパアテイ』

POW   :    料理を楽しむ。

SPD   :    イケメンや美人を物色する。

WIZ   :    パアテイを盛り上げる為のイベントに参加する。

👑11
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種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

烏丸・都留
POWアドリブ共闘OK
<境界艦組>
お見合いは、◇◆どちらでもOK。


興味を引くように対象の姉によく似た雰囲気に変装し、料理に舌鼓を打ちながら、父母や知り合いと談笑、琴音さんの興味を引くようにする。

その興味を引くことで、影朧が少しでもアクションを起こせば、懐中羅針儀ΩやUCの効果でその場所を突き止め見方に密かに連絡する。

または琴音さんと二人の場を設けてもらい、「エレボスの影」のスキル:降霊で姉を自身に降し説得する。

戦闘発生時は、聖魔喰理扇により相手の攻撃やオブリビオンの理をを吹き散らし、破魔、浄化、精神攻撃を行い弱体化させる。


五條・須久那
SPDアドリブ共闘OK
<境界艦組>
お見合いは、◇◆どちらでもOK。

美人を物色してるふりをしながら、料理に舌鼓を打っている仲間の変装した姉っぽい猟兵に近づき、銀の酒杯(器物の模造品)で「お近づきのしるしに」とか言いながらその場の人たちにお酒を振舞い、父母達との談笑に参加、琴音さんの興味を引くようにする。

凡ゆる医療全般に通じているのでカウンセリング対応可。

戦闘発生時は、自身の装備:銀の酒杯の武装型模造品群で見方も含む攻性防御主体。
負傷者が出た場合は、結界を展開しそれらの治癒に専念する。



 大広間に集った人々の群れは、誰も彼もが煌びやかな衣装に身を包んでいる。テーブルを彩る料理は宝石のように輝いて、華やかな立食パーティーは随分と賑わっていた。
 この宴の主役である水無月・琴音はというと、かわるがわる彼女の前に姿を現す男性達に笑顔をつくっては、曖昧な言葉で退却させている。ふと、このパーティーを主催した両親へと視線を向ければ、父の友人達に混じって見知らぬ女性が談笑していた。
「このような席に招いて頂けたこと、嬉しく思います。現に今、こうして素敵な出会いを楽しめているのですもの」
「おや、お上手なことだ」
 烏丸・都留がくすくすと笑んで冗談を溢せば、周囲にもやわらかな空気が広がる。灰の髪は黒彩に変えて、瞳に青いコンタクトをはめ込む。褐色の膚を今は少しばかり白く染めあげ、ドレススーツを着た妙齢の女へと姿を変えていた。
 ちらちらと感じる琴音からの視線を受け止めつつ、もう暫く気付かないふりをしておく。都留が目を遣ったのは、黒髪の少年。五條・須久那は、にこ、と笑みを咲かせては、話しかけてくる見目麗しい女性陣から黄色い歓声を受けていた。
 紅海老茶の着物に赤墨色の袴を合わせた書生姿は、ぱっと目を惹くと同時に、須久那の端正な顔を目立たせているようだった。暫くして須久那と都留の視線がかち合った時、須久那が人混みを抜けだして両親と都留達へと近付く。
「ご挨拶が遅れてしまいました。――どうぞ、お近づきのしるしに。実家の酒造でつくられた物です」
 少年が彼らに差し出したのは銀の酒杯。では遠慮なく、と杯を受け取った大人達が、ひと口飲んで目を見開く。
「これは美味い! 初めて聞いた名の酒蔵だったが、是非もう一杯頂けるかな」
「よかった、なにせおれはまだ味わえない代物ですから」
 見知らぬ美酒を堪能する彼らの空気は、更に気安いものになる。少年は酒を振る舞い続けながら、会場に異変が起こらないか気を配っていた。琴音を説得するのは都留の仕事であり、自分はいざという時、影朧によって人々に危害が及ばぬようにすること。姉を亡くし、姉に似たマガツを囲う彼女の気持ちに、器の心がかちかちと震えていた。
 両親達の楽しげな姿を見て、琴音の都留と須久那への警戒心も随分と溶けている。
「そうだわ。私、是非琴音お嬢様ともお話がしたくて。よろしいかしら」
 都留の願いに快く応じた両親や友人達を須久那に任せ、都留は団欒の和から抜け出す。ぱちりと視線の合った琴音が頬を赤らめたのを、会釈で返して近付いた。
「はじめまして。琴音さんはこのパーティーの主役ですのに、こんな隅にいらっしゃるの?」
「……ええ、わたしは、あまり興味がなくて」
「そう、実は私もよ」
 返す女の声はやわらかく、きょとんとした表情の琴音にそっと耳打ちする。パーティーの会話に花を咲かすより、武術の鍛錬に勤しむ方が好ましいのだと。それを聞いた琴音が、きゅっと唇を噛む。
「……あの、その、ごめんなさい。わたしの姉も、あなたのような人だったから」
 はにかみながらも切なげな顔を見せた少女に、都留は優しい笑みを返す。するり、小さないのちある影が、『誰か』を女の身に降ろす。
「“変わってないね、琴音は”」
 瞬きした少女に、もう一度言葉を重ねようとした瞬間、琴音を見つけて声を掛ける男達が現れる。ごめんなさい、と小さく頭を下げて都留から離れていく少女の姿に、女は肩を竦める。琴音と入れ替わる形で、少年は女の傍へ。
「どうだった?」
「もう暫く時間が掛かりそうね。ま、きっかけくらいは作れたかしら」
 宴は、まだ始まったばかり。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

御園・桜花
「他の方の視点で情報補完出来ればと思いましたの」

パーラーメイドとしてパーティー用のケーキや食材等届けそのまま女給としてパーティーに参加

「屋敷内なら使用人、屋敷外なら別宅の位置情報をご家族から集めるべきかと」
UC「蜜蜂の召喚」使用
メインは屋敷の使用人達の噂話収集だが数匹は琴音と父にも付け別宅の位置情報を探る

「えぇ、本職はミルクホールの女給ですけれど、本日はご注文とお手伝いの依頼を受けましたので。このような大きなお屋敷ではお片付けも色々大変そうですね」
話が聞けそうな使用人には積極的に話しかけ普段あまり使用していない場所の清掃情報や最近近付かないよう言い含められた場所がないか噂話に紛らせながら聞く



 パーティーに必要な役者は、主役、客人――もっと重要なのは、宴を支える裏方達。華やかな舞台の裏では、使用人達が誰もがせわしなく行き交う。料理の配膳に空っぽの皿の取り下げ、酒を中心としたあらゆる飲み物の用意、全ては訪れた客人と主人達が心地よく過ごせるように。
 一人のメイドが、使い終わった皿をいくつも積んで調理場へ急ぐ。けれど途中、酒の瓶を手にしたボーイとすれ違いざまにぶつかるのを避けようとして、足を躓かせた。いけない、と思った瞬間目を閉じたものの、皿が落ちて割れる音は一度もしない。再び目を開けた時には、豊かな桜色の髪のメイドが全ての皿を受け止めていた。
「お怪我はありませんか?」
「平気よ! ああよかった、ありがとう! あら……あなた、お屋敷では見ない顔ね」
 ほっとした表情もつかの間、不思議そうに問うたメイドに、御園・桜花がにっこりと笑みを返す。
「えぇ、本職はミルクホールの女給ですけれど、本日はご注文とお手伝いの依頼を受けましたので」
 このような大きなお屋敷ではお片付けも色々大変そうですね、と会話を続けて、桜花はメイドと連れ立って裏方の世界へ。この忙しさにてんてこ舞いの使用人達は、頼もしい助っ人へ挨拶もそこそこに仕事を頼んでいく。
 新たな料理を運んでいる最中、桜花の耳に囁きが届く。
「琴音お嬢様、あまり楽しんではらっしゃらないわね」
「そりゃそうよ、元々人とお話するのは苦手な方だもの。旦那様と奥様に気を遣ってるんだわ」
「けど、大きな一歩と言えるんじゃないか? これなら鈴音お嬢様のことだって」
「シッ! 声が大きい」
 桜花が放ったちいさな蜜蜂の存在には気付かずに、使用人達は仕事の手を休めず噂話を続けている。ならば琴音と父親はどうだろう、とそちらを追う蜜蜂の囁きに耳を傾けた。
「琴音、大丈夫かい」
「……ええ、とうさま。楽しいわ。とても賑やかだから、少し緊張しているだけなの」
 やわらかでも無理が見え隠れする声色に、桜の精の胸が痛む。ふと、先ほど助けたメイドが休憩をとるために勝手口を出て行くのが見えた。すぐさま桜花も後を追い、お疲れ様と互いを労いあう。
「本当に盛大なパーティー、これだけのお屋敷でないと催せないでしょうね」
「広い分、それだけ掃除も何から何まで大変よ。旦那様も奥様も良い人だから、皆辞める気はないんだけどね」
「ご家族は四人……ごめんなさい、今は三人ね。使わないお部屋もあるでしょう?」
 申し訳なさそうに問うた桜花に、いいのよ、とメイドは返す。
「鈴音お嬢様のお部屋も、お客様用のお部屋も隅々まで綺麗にしているの。お嬢様のお部屋は、掃除する度につらくなるわ」
 屋敷内なら使用人、屋敷外なら別宅の位置情報を家族から集めるべき。桜花が次の質問を口にするよりも先に、メイドが寂しそうな笑みをこぼした。
「琴音お嬢様、あれでもだいぶ元気になったのよ。お姉様との思い出の場所には、まだ通ってるみたいだけど」
「――ねぇ、その思い出の場所って?」
 メイド達は囁きをかわす。

大成功 🔵​🔵​🔵​

臥待・夏報
料理食お料理
猟兵の食うものは実質全部タダ飯だもんね
いちUDC職員として、サアビスチケツトの仕組みには興味があるよ
うちでも実現できないかなあ……

本題を忘れるとこだった
目立たないように情報収集
夏報さんが調べたいのは、誠一という青年の評判かな

こういう場にはお喋りな笑い翡翠も湧く
無難な会話じゃ得られない情報を引き出すには、下世話な態度で揺さぶってやればいい
『御両親、あの青年にいたくご執心のようですけど
身元はちゃんとした方なのかしら?』

庇う奴も乗ってくる奴も居るだろう
他愛もない噂話の内容自体は信じない
重要なのは、誰に好かれて、誰に疎まれているか

単なる善良な一般人という結論が出たら……
それも立派な情報かな



 使用人達がせわしなく働くおかげで、パーティーを彩る料理も途切れることがない。サンドイッチにローストビーフ、更に手を汚さずつまめるピンチョスの類を中心として、フルーツの盛り合わせにデザートの数々。会話に花を咲かせる人々の賑わいをくぐり抜けて、小柄な女は次々と気になる料理を楽しむ。
「あ、それください」
 ボーイが銀盆に載せていたカナッペを指差して、臥待・夏報は自分の皿にもう一品。帝都において、猟兵の食事は実質全部タダ飯。いちUDC職員としては、サアビスチケツトの仕組みに興味があった。
「うちでも実現できないかなあ……」
 組織の食堂とは明らかに違う贅沢が楽しめるのだから、お食事券に近いものが可能になったなら。と、ちらと琴音の両親へと視線を向ければ、誠一という名の青年と言葉を交わしている。
 夏報が知りたかったのは、談笑する彼らを見つめる自分以外の視線。重要なのは、誰に好かれて、誰に疎まれているか。
 琴音や誠一と同年代に見える若者達の輪に、溶け込むように言葉を投げかける。
「皆さんも琴音お嬢様にお会いに?」
 話しかけてきた夏報を奇異な目で見る者は居ない。さして目立つこともなく、若者達は女を不思議と受け入れる。
「私は初めてお会いしたのですけど、咲き綻ぶ前の花の蕾のようなお方なのね」
「箱入り娘さ。控えめな仕草がなんともいじらしいじゃないか」
 そう返した青年は、恐らく琴音に言い寄っている一人なのだろう。彼の言葉に合わせて頷く者や、くすくすと声をもらす者。アタリと見て、お喋りな笑い翡翠を引っ張りだす。
「御両親、あの青年にいたくご執心のようですけど――身元はちゃんとした方なのかしら?」
 不躾な眼差しをそれとなく誠一へ流してやれば、ふん、と鼻を鳴らす。
「古い華族の長男だ、家を継ぐつもりはないらしい。琴音嬢の為だなんだと言うが、彼女の為だというなら、婿入りよりも適当な子女を嫁に貰うべきだろう。身を引くべきだと思うがね」
「琴音さんに相応しい家柄の方は大勢居るのにね」
 吐き棄てる青年をからかうように、女性が意地悪に囁く。すると、別の青年がにやにやと笑みを浮かべた。
「所詮財産目当てだろ、そもそも長女の學府入府を認めるような奇特な一家だ。ある意味お似合いだぜ?」
 噂話への感想は胸に秘め会話を続けようとした時、おい、と強い声をあげた者が居る。
「またくだらない噂を撒いてるのか」
「はん、相変わらずお優しいご友人だ」
 去っていく集団を見送って、二人の青年が夏報にそっと耳打ちする。
「――誠一は、親の力を借りずに事業を成功させてるんです。それも全部、家族を守れるようにと」
「あいつは名前の通り誠実で真面目な奴だ。かれこれ数年間、ずっと琴音嬢に一途でね」
 あんな話は、全部忘れてやってくれ。そう言い残した彼らは、堅実な会社社長の一人息子と、學府の支援に力を入れる華族の子息だったか。
 その後も、嘘と本当にまみれた雑談の輪にまざって確かめた結論は――『誠一という青年は、単なる善良な一般人』。
「まぁ、これも立派な情報かな」
 この情報に使い道があるかは、まだわからないけれど。

大成功 🔵​🔵​🔵​

雛瑠璃・優歌
【雛梅】
(外見:ポニーテールヘア、ノースリーブの大人っぽさとフリルの愛らしさで年相応風な青いパーティードレス)
ん、今日もあたしの異母弟(ひめ)が一番可愛い
「じゃあ姫、お願いね」
同じ弟妹の立場で琴音さんに話をしてあげてほしいって言って姫を連れてきたの
あたしは姉だし、…日頃も「貴女には分からないわ」って人に言われることあるから
大事な人を亡くした人を更に傷つけたくない
ご縁を求めて来たって事で他の参加者から情報を集めてみよう
言葉遣いは普通の敬語に
「こんにちは、雛瑠璃家の娘で優歌と申します。えっと…よかったらあたしと、少しお話して頂けませんか?」
(他人を感化させるタイプの無邪気だが自分への好意には鈍い)


梅小路・尚姫
【雛梅】
優歌に頼まれ、姫屋の看板娘ではなく、梅小路子爵家の令嬢としてお見合いに参加。
(◇お相手はお任せ)
全く、お人好しな義姉を持つと弟は苦労するね。
それにしても父さんがはしゃいで用意した赤いドレス、少し派手じゃないかな。
優歌位落ち着いたデザインにしてくれれば良かったのに。
さて、僕は見合い相手に愛想良く振舞った後、気疲れして避難するふりして琴音の傍へ。
「わたくし、姉がおりますの。色々危なっかしくて放っておけない人で……姉をおいて私がお嫁にいくわけには参りませんのに困りましたわ」
同じ妹…まぁ、実際は義弟なんだけど…として、親近感持ってもらうような話を持ち出して、彼女の気持ちや姉のことを聞き出すよ。



 屋敷の主が招いた客は、猟兵を除いてはある程度身分を保証された者が多い。それは実業家であったり、国民的スタァであったり、巷で人気の作家であったり、爵位持ちの子息であったり。少しばかり早口な青年の言葉に笑みと相槌を返す彼女――否、彼もその一人だった。
「ああ、失礼! 私ばかり話してしまって。梅小路家のご令嬢のお顔を拝見出来るとは思わなくてね……このように愛らしい人であればもっと、いや、何、これからお互いに見知っていけばいい。そうだろう?」
「ええ、わたくしもそう思います。あまり人前に出ることがなかったものですから……あなたのような方にお会いできて光栄ですわ」
 褒め言葉を適当に受け流しつつ、梅小路・尚姫はまさに美少女といった微笑を浮かべる。カフェー『姫屋』の看板娘は、今日は休業。それじゃよろしくね、なんてお人好しの義姉に頼まれてしまって、こうしてお見合いパーティーに参加している。
「(それにしても、父さんがはしゃいで用意したドレス、少し派手じゃないかな)」
 赤いフィッシュテールデザインに細かな刺繍の施されたドレスは、尚姫の魅力を十二分に引き立たせている。義姉くらい落ち着いたデザインにしてくれれば良かったのに、と頭の中でぼやきつつ、今は大人しく子爵家の令嬢としての顔を見せておく。
 国民的スタァらしいハイカラさんの青年は、確かに新聞の一面や雑誌の表紙で見た記憶があった。更に彼を押しのけるように此方へ話しかけてくる者は、大手銀行の副社長だと名刺を手渡してくる。
 自分の顔の良さは自覚しているものの、こうも代わる代わる話し相手が押し寄せるのは、看板娘姫ちゃんも多少うんざりしていた。
「ん、今日もあたしのひめが一番可愛い」
 琴音に引けを取らぬ人気を博している異母弟の姿を遠巻きに見て、雛瑠璃・優歌は一人頷いていた。彼女はというと、長い髪をポニーテールに纏めて、青のパーティードレスの裾を揺らす。 尚姫に同行を頼みこんだのは、同じ弟妹の立場から琴音と話をしてもらいたかったから。自分は姉であるし、日頃、人から『貴女には分からない』と言われることも少なくはない。なにより、大事な人を亡くした琴音を、更に傷つけたくはなかった。
 琴音は尚姫に任せるとして、自分は他の参加者から情報を集めることに徹する。年の頃は二十代から四十代の男女の輪に、こんにちは、と声をかけた。
「雛瑠璃家の娘で優歌と申します。えっと……よかったらあたしと、少しお話して頂けませんか?」
「おや、雛瑠璃とは。かの家にこんな素敵なお嬢さんが居たのか」
「うふふ、私達でよかったら。何か飲み物は要るかしら?」
 ノースリーブの肌見せで大人っぽさとグラデーションのフリルが愛らしい、どことなくあどけない年相応の姿。人懐っこいはにかんだ笑顔に、若者の何人かはどきりと頬を染める。
「パーティーには不慣れで。こんなに様々な大勢の人が居るなんて、驚きました!」
「水無月家は顔が広いからね。學府への支援も積極的だし、若者の事業や才能への出資も惜しまないんだよ」
「それだけに、鈴音さんのことは残念だったわ……ご家族も随分と消沈されてしまって」
 頷きあう客人達に、おずおずと言葉を返す。
「あたし、世間知らずなものだから、鈴音様のことはよく存じなくて……どんなお嬢様だったんですか?」
 無邪気な少女の問いに、大人達は優しさと悲しさの混じった表情で學徒兵の姉の話をした。幼い頃から少年のようなはつらつさで、凛とした少女であったこと。文武両道で、父の學府や若者への支援に影響され學徒兵として入府したこと。両親と妹の琴音をとても愛していたこと。
「……ふぅ」
 礼を言いその場を離れ、優歌は鈴音のひととなり、そして彼女の気持ちを想う。全てを理解できるなんて思わないけれど――家族を想う気持ちは、きっとよく知る感情と同じだから。
「ごめんなさい、お隣失礼しても?」
「ええ、どうぞ。大変でしたでしょう」
 優歌が情報収集に回っていた頃、愛想よく振舞い終えた尚姫は一人になった琴音に近付いていた。自分と同等の人数を捌いていた尚姫を見ていたのか、琴音も同席を受け入れる。
「わたくし、姉がおりますの。色々危なっかしくて放っておけない人で……姉をおいて私がお嫁にいくわけには参りませんのに」
 困りましたわ、とため息をついて気疲れした笑みを見せる尚姫に、琴音がぱちりと瞬きする。
「あなたも、お姉様がいらっしゃるの?」
「ええ。お人好しで、困っている人につい手を差し伸べてしまう……本当に、素敵な姉です」
「……わたしにも、素敵な姉が居ました」
 優しい表情を浮かべる尚姫の言葉に、琴音が想いをこぼし始める。幼い頃からずっと気弱な自分の手を引いてくれたこと、帝都の人々や傷ついた影朧を救いたいと學徒兵になったこと、そして自分も、深く深く姉を愛していたこと。
「――お姉様に、会いたいでしょうね」
「――いえ、大丈夫」
 此方の問いに、ぴくりと琴音の身体が動いたのを尚姫は見逃さなかった。琴音と別れ、姉の元へと合流する。
「琴音さん、話してくれた?」
「まぁね。会いたいかって訊いたら、大丈夫――だってさ」
 二人にとってその答えは、『再び会えたから』という意味に思えた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

丸越・梓
アドリブ、マスタリング歓迎

_

髪を後ろに撫でつけ正装を隙なく着こなし
凛々しく艶めく革靴で堂々と歩みを進める

見合いをする気は一切無く、情報収集に集中
水無月夫妻や琴音に挨拶と礼をし
軽く世間話から展開
愛想良く相槌を打つ

琴音にも、見合い目的ではなく一個人として会いに来たのだと態度で示しながら誠実に向かい合う
…俺もかつては長兄役だったからか、彼女の姉を想う気持ちに心あたたかくなり穏やかに瞳細め
けれど喪ってしまった事実や影朧を討たねばならない現実に酷く苦しくなる
勿論面に出さない
唯、討たねばならぬとしても
話せるのならその影朧の心を知りたいと思ったから
"姉君"に俺も逢うことは出来ないかと正直に問うた



 パーティーに気合を入れているのは、琴音目当ての男性客だけではない。客同士の新たな出会いを求める者もあって、趣旨通り殿方との新たな運命に胸をときめかせる乙女達も多い。実際、先程からとある一人の男に目を奪われる女性が後を絶たなかった。
 髪を後ろに撫でつけ、すらりとした長身が黒の正装を隙なく着こなした姿は、華やかな宴の中でもよく映える。けれど、声をかける女性陣には軽く会釈を返すのみで、丸越・梓は水無月家の情報収集に専念する。
「失礼、」
 誘いを短い言葉で断って、琴音とその両親の元へ。艶めいた革靴の鳴らす靴音は意外にも控えめで、凛々しく背筋の伸びた男は主催の彼らに礼儀正しく挨拶した。
「はじめまして、丸越と申します。この度はこのような機会を頂き感謝します。帝都に住まう様々な人々、何よりあなた方にお会い出来て光栄だ」
「ふふ、随分お嬢さん達から人気でしたわね」
「気になる相手は見つかったかな?」
 梓を見ていたらしい夫妻の問いに、いえ、と男は笑って返す。見合いではなく、帝都の人々との親睦を深めに来たのだと伝えると、それもまた歓迎だと父親は満足そうにしている。
「聞けば、ご夫妻は學府への出資に積極的だとか。感銘を受けました」
「ああ、影朧は危険ではあるが哀れな存在でもある。いつかは転生してヒトとしての人生を歩めるならば、帝都を守る學徒兵の力になれることは何でもしようと思っているよ」
 父親の言葉に相槌を打ちつつ、夫妻の後ろに隠れる琴音にそっと視線を送る。ぱちりと目が合った瞬間に逸らされたのを苦に思うことなく、梓は続けて夫妻と話を続けた。
「御両親のその考えに、亡くなられたお嬢さんもきっと心を決められたのだろう。とても立派な方だ」
 姉のことを耳にした琴音が、ほんのわずかに肩を震わせる。その動作に気付くことなく、両親はもう一人の娘への想いを口にする。
「鈴音は昔からちょっとやんちゃで、正義感の強い子でした」
「影朧の救済は、帝都の発展にも繋がる。私の言葉をよく繰り返しては、幼い頃の夢を叶えて學徒兵になった。悲しくはあるけれど、その背を押したことを悔いてはいないよ」
 亡くなった姉が愛されていたことが、梓にもよくわかる。つらく悲しい想いから、夫妻が立ち直ろうとしていることも。ふと、琴音が両親を呼ぶ。
「少し、庭に居ます」
 そう言い残した娘を気遣いながら見送る夫妻に、梓も挨拶して場を離れる。琴音を追えば、満開の幻朧桜が美しい庭の長椅子に座っていた。
「すまない、長く立ち話をさせてしまって」
「いえ……」
 合わない視線を無理には合わせず、梓は静かに口を開く。一個人として会いに来たことを、誠実さを態度で示せるように。
「鈴音さんの話を聞いてもいいだろうか。あなたにとって、どのような姉君だったのか」
「――だいすきな姉です。優しくて、強くて、賢くて。わたしが泣くたび、頭を撫でてくれて。女の子らしい服装が苦手で、殿方の装いを真似したりして、それがよく似合っていたの」
 琴音から見た他愛もない一人の人間の話は、どこか親しみやすい、けれど凛々しいものだったから。孤児院の長兄役だった梓の心があたたかく、穏やかな心地に包まれる。そっと瞳を細めながら耳を傾けつつも、琴音が姉を喪った事実と、彼女の隠す影朧を討たねばならぬ現実がどこかを締めつける。
 だからこそ。話せるのなら、琴音と、その影朧の心も知りたかったから。
「――“姉君”に、俺も逢うことは出来ないだろうか」
 正直に告げた梓の瞳に、目を見開く琴音が居た。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 冒険 『桜色の朧路』

POW   :    何がいようと関係ない。登り続ける。

SPD   :    何がいようと惑わされはしない。登り続ける。

WIZ   :    何がいようと振り返らない。登り続ける。

👑11
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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 何人もの猟兵達と話をした時から、否、父がこのパーティーに猟兵を招くと知った時から、琴音にはなんとなくわかっていた。
 帰ってきたねえさまの居場所を知られてしまったら。

 行かなくちゃ、会わなくちゃ。ねえさまに話さなくちゃ。

 パーティーで華やぐ屋敷を抜け出して駆けていく少女の姿を追えば、それは彼女と姉の思い出の場所への入口。
 桜満ちる連ね鳥居をくぐればくぐるほど、ゆく手を阻む者が見える。

 けれど何がいようと、猟兵達は此処をぬけて、倒さねばならぬ者が在る。
雛瑠璃・優歌
【雛梅】
「…ねぇ姫、さっき頂いたお料理とっても美味しかったの、一緒に食べよう?」
手を引いて、離れた所のテーブルへ連れて行くふり
実際其処は素通り
「追うよ、姫」
低めとはいえヒールで走るのは姫ほど慣れていないけど、今はまだ変身する時じゃない
見失わないように追いかける

これで何本目?と訊きたくなる鳥居と桜
不意に迫る人影があって思わず横をすり抜けた
だけど
「え…っ」
思わず足を止めそうになった
「奈々緒さ、」
腹違いの弟である姫の、今は亡きお母様
「…何で」
通り過ぎた筈なのに目の前に何度も現れる
手を伸ばされる
『優歌、』
「!」
その呼び方は、あたしのお母さんのものだ
「っ違う!」
傍に居る筈の姫の手を探して繋いで走り抜ける


梅小路・尚姫
【雛梅】
「ええ。行きましょう、お姉様」

優歌に誘われる形でその場を抜け出し、琴音さんを追う。
僕はいつもヒールのある靴で走ったり飛んだり跳ねたりしてるから余裕だけど、優歌は転ばないよう気をつけなよ?

鳥居を潜った先に見えたのは……。

「義兄、様……」

僕とも優歌とも母親が違う……梅小路家の正妻の一人息子で、嫡男。
文武両道で、眉目秀麗、人当たりの良い好青年で誰もが認める後継者。
いつも笑顔で、今もそう。
でも僕は……義兄様が怖い。
僕と同じ赤い目に、滲む得体のしれない欲が滲んでいるのが、怖い。
僕の名を呼ぶ声、差し伸べられた手を振り切り、前へ前へ!

気がつけば隣に優歌がいて。

「……大丈夫」

下手糞な笑みしか作れない。



 庭を駆け抜けていく琴音の姿が見えて、雛瑠璃・優歌は義弟の手を取る。
「……ねぇ姫、さっき頂いたお料理とっても美味しかったの、一緒に食べよう?」
「ええ。行きましょう、お姉様」
 梅小路・尚姫も笑顔で義姉に返すと、二人、手を繋いでご馳走の並ぶテーブルをそっと通りすぎる。
「追うよ、姫」
「優歌は転ばないように気をつけなよ?」
 低めとはいえ慣れないヒールで走るのは少しばかり大変だけれど、少女が王子様へと変身するのはまだ早い。反対に、尚姫は細いヒールで飛んだり跳ねたりはお手の物。口調は軽いものでも、言葉には義姉を気にかけた彩が乗る。
 見失わぬように追いかけた先、琴音がまっすぐに登っていく連ね鳥居は幻朧桜が降りしきる。居た、と最初に呟いたのはどちらだったか。迷うことなく共に薄紅に彩られた鳥居をくぐっていく。

 これで何本目になるのか訊きたくなるほどの鳥居と桜の群れに、ふと、影が伸びる。気にすることなく横をすり抜けて、優歌の呼吸が一瞬止まる。
「え……っ」
 止まりかけた足を無理矢理動かしても、脳裏に強く刻まれた女の貌を忘れることが出来ない。
「菜々緒さ、」
 腹違いの弟の、今は亡き母親の名が口をつく。振り切るように再び駆けだした先、そこでも彼女は待っていた。ぽってりあかい唇と、尚姫によく似た艶めく乙女の表情。言いようのない緊張を抱いて幾度通りすぎようと、鳥居の赤と桜の薄紅の中で女は優歌を待っている。
 なんで、と零れた少女の身体に、ひやりと冷たい汗が流れる。何度も逆再生されるキネマのような美しい光景の中で佇む女の姿は、目に入れるだけでひどく眩暈がした。気付けば繋いでいた手は空っぽで、大切な宝物を喪った気持ちでいっぱいになる。
 やわらかく微笑んだ女が、そっと手を伸ばす。この手を取ってしまえば、あたしは、
『優歌、』
 名を呼ばれた瞬間、強く後頭部を殴られた衝撃が全身を襲う――そうだ。だってその呼び方は、あたしのお母さんのものだ。
「違う――ッ!!」
 吐きだすように否定して、優歌は宝物の手を探した。

 帝都ならば見慣れた桜色と、無数に続く鳥居の赤色。義姉の背を追っていたつもりが、いつの間にかそこには誰も居ない。否、人は居た。その姿を目に留めた瞬間に、尚姫の心臓が早鐘を打つ。
「義兄、様……」
 尚姫とも優歌とも母親の違う男は、穏やかな笑顔で“おとうと”を見つめていた。梅小路家の正妻の一人息子である嫡男は、尚姫の知る姿のまま立ち塞がる。
 文武両道、眉目秀麗、人当たりの良い好青年は誰もが認める後継者――けれど、だけど僕は、あなたが怖い。
『尚姫、』
 あまく慾を孕んだうっとりとする声色に、ひくりとしろい喉が鳴る。同じ父親の“きょうだい”が、どうしてこんなにも恐ろしいのか。少年と同じ梅苺の瞳の奥に滲む、得体の知れない慾は、尚姫ただひとりを獲物にする獣のようで。荒くなる呼吸は、自分がうまく息を吸えていない証拠に他ならない。
 ――その目で、僕を見ないで。
『おいで、尚姫』
 こちらへ、と伸ばされる手が触れるよりも先、自身の脚を強く叩く。男の手を振り切って、ただひたすら前へ、前へ。
「尚姫――!!」
 ひどく、安堵する声がして。

 手を繋いで随分長く走り続けて、ようやく足を止める。どくどくと心拍の速さを抑えながら、優歌が尚姫の顔を見る。
「尚姫、平気?」
「……大丈夫」
 口の端を無理矢理歪ませた下手糞な笑みに、泣きだしそうな瞳。繋いだ手を離すことなく、二人は最後の鳥居を抜けた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

丸越・梓
アドリブ、マスタリング歓迎

_

ぽつんと佇んでいたのは亡き妹
かつて孤児院で共に過ごし
俺に一番懐いて甘えてくれた子
名を
「……マリー」

『おにいちゃん』
行かないで、と泣く君に微笑み抱き上げ
「──大丈夫」
その背を優しく叩く
「俺は傍にいるよ。大丈夫」
すると安心し始めたのか、泣き疲れやがて妹の瞼は重くなり
尚もあたたかくあやしながら
「マリーの好きなパンケーキを作ってあげような。
だから今は、ゆっくりおやすみ」
うん、と頷く声はどこか嬉しそうで
子守唄を唄う内
やがて君は眠ってしまった
同時に消えゆく君を最後まで見送り
かつてこの子達を護れなかった自身を酷く責めながら
それでも歩みを止めない
止めるわけには行かない



 薄紅色のわたあめが、赤い鳥居の隙間を埋めている。鳥居から覗けたはずの青空は見えなくて、男は静かに歩を進める。しばらく鳥居をくぐり続け、ほんの少し桜の光がとけて眩しさに瞬きした時。ぽつんと佇むこどもの姿は、丸越・梓が一度も忘れたことはない少女だった。
「……マリー」
 孤児院で共に過ごした妹は、もうこの世には居ない。けれど、梓に一番懐いて甘えた彼女は、あの頃と変わらぬ泣き虫の顔をしている。
『おにいちゃん』
 大きな瞳からぽろぽろ溢す涙は透明で、男の口から、ああ、ともれた声は愛情に満ちていた。行かないで、と素直に泣く妹に優しく微笑むと、梓は迷うことなく彼女を抱き上げる。幼子と言えど年の頃にしては軽い身体が、ひどく懐かしかった。
「――大丈夫」
 ぽん、ぽん。ゆっくりと一定のリズムをとって、あやすようにちいさな背をゆるく叩く。触れあう頬のやわらかさが心地よいのは、きっと梓もマリーも同じだった。
「俺は傍にいるよ。大丈夫」
 あの頃と同じ。兄のぬくもりに抱かれて、少女の瞼は次第に重くなっていく。泣き疲れて、安心した妹はいつもこうだった。
「マリーの好きなパンケーキを作ってあげような――だから今は、ゆっくりおやすみ」
『うん』
 頷いた声はどこか嬉しげで、ふくりといたいけに笑んだ気配がする。昔よりも低く通る声が子守唄を口ずさめば、きゅう、と離れたがらぬ腕の力が抜けて、少女はふわふわと微睡みに落ちていく。
 眠りに就いたちいさな身体が、端から桜の花弁にとけてはらはらと消えゆく。空っぽになった腕で、最後に花弁のひとひらを掴んだけれど、それもあっという間に消えていた。
 護れなかったいのち達をどれだけ数えても、彼女達は帰ってこない。その罪悪感は、梓の身をいつまでも苛み続ける。
 ――それでも、歩みを止めない。止めるわけには、行かない。
「君は、どう思っているんだろうな」
 それは、きょうだい達か、この先に居る琴音か、影朧か――誰を想った言葉だったろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​

御園・桜花
紗を被って顔を隠した白装束女が2人
黙って此方を向いて立っている
良く知っていて
全く知らない人達

幼い頃に居た屋敷の地下の座敷牢
時間になると彼女達が来て
無言で食事を与え湯浴みさせ着替えさせて去っていく
後から思えば何かの仕草を真似させようとした日もあった気がするけれど

彼女達の名前も
声すら知らない
だから
彼女達が何を話しても
きっとそれは私の願望
答え合わせは永遠に出来ない
あの里は滅び
全ての人が血塗れの肉塊になっていたから

「貴女達も誰かの計画に従って動いていたのでしょう。貴女達の名も望みすら知らないけれど。私は…語れる相手と、2度とこんな関係を作りません」

幻影に幻影は効かないだろうけれど
善き転生願い通り過ぎる



 幻朧桜にこの身が惹かれるのは、自身が桜の精だからか。あるいは、いつかは幻朧桜そのものに還る気配を感じているせいか。思いを頭の隅にやって、御園・桜花は鳥居を一本、また一本とくぐっていく。
 頭に冠する桜の枝に、はらはらと落ちる薄紅がまざりあうようで。つ、と見上げた視線を再び行くべき道へと向けた時、白い影が二つ伸びていた。
「……貴女達」
 紗を被って顔を隠した白装束の女達は、桜花に話しかける素振りは一切見せず、ただ黙って彼女を見つめて佇んでいる。桜花は女達をよく知っていて、全く知らなかった。
 鳥居の赤が差して、空を埋める桜がぼんやりと景色の輪郭を殺していく。桜の精の幼い記憶が、モノクロの映像で再生されていく。
 屋敷の地下にある座敷牢は冷たくて、どれだけ経っても変わり映えしない世界では、景色のひとつも見えやしない。ただ必ず、その時間になると女達はやって来た。桜花に食事を与えて湯浴みをさせ、着替えさせては去っていく。少女がどれだけ問うても、彼女達が口を利くことはなく。
 大人になった後から思えば、時折、何かの仕草を真似させようとした日もあった気がするけれど。それがなんだったかは、今もよくわからぬまま。
『   』
『   』
 初めて聴いた女達の囁きが、どのような言葉の形をしていても。きっと桜花の心には意味がない。だって彼女達の名前どころか、声だって知らないのだから。
 ――何を話していても、きっとそれは、私の願望。
 あの里は滅びて、桜花以外の全てが肉塊になったから。モノクロの記憶が、噎せ返るような血と臓物で彩られていく。
 永遠に答え合わせの出来ないことといに、それでも、桜の精ははっきりと告げる。
「貴女達も、誰かの計画に従って動いていたのでしょう。貴女達の名も、望みすら知らないけれど」
 私は……語れる相手と、二度とこんな関係を作りません。
 どうか、善き転生を。幻朧桜が桜花の願いに応じたように、桜吹雪が夢枕をつくりだす。
 そっと女達の傍を通りすぎたあとには、桜の雨が散るだけだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

臥待・夏報
『ゆく手を阻む何か』は、パーティーで見かけただけの水無月琴音の姿をしている
わたしはこれでいいから、だとか
ねえさまと一緒ならそれでしあわせ、だなんて
その言葉は彼女自身の意識から発せられているのか
それとも僕の無粋な想像なのかな

別にそれでいいと思うよ
君の周りの人たちがどれだけ優しかろうと
誰もに祝福してもらえる素敵な人生が待っていようと
何をしあわせと感じるかは君が決めることでしょう
僕は何ひとつ否定してない
迷っているのは、君自身だ

僕は美味しい料理を食べたり、友達と遊んだりしたいから
単なる仕事で君という他人のしあわせを壊しにいく
恨むんだったら、僕みたいなろくでなしのことだけ恨めばいい

これで全部
話はおしまい



 帝都の桜が尽きることは、きっと永遠にないのだろう。いや、なにか大きな戦争が起きた時、うっかり猟兵が敗けてしまえば枯れてしまうのかもしれない。甘いにおいのしない薄紅のわたあめがもくもくと、赤い鳥居の隙間を埋めて青空をかき消している。
 それは食後の散歩のように。大して急ぐこともなく、静かに鳥居をくぐる臥待・夏報のゆく手を遮って、水無月・琴音の姿を模した幻影が物言いたげな顔を見せる。
「言いたいことがあるなら言いなよ。此処には君を心配する両親も、君を恋願う誠一も居ないんだから」
 さして優しい声色でもなく、けれど突き放すでもなく。ただ夏報は、どうぞ、と提案しているだけ。どこか輪郭のぼやけた少女の唇が動いて、音が世界に伝わる。
『わたしはこのまま、このままでいいの』
『ねえさまと一緒なら、わたしはそれでしあわせなの』
 どうかどなたも、邪魔をしないで。幻が口にする言葉は、ぼんやりとした残響を遺して夏報の耳を通りすぎていく。
 その言葉は彼女自身の意識から発せられているのか。それとも、女の無粋な想像に過ぎないのか。パラパラ漫画のように、鳥居をいったりきたりする少女の姿は幾人にも増えては減って。藍色の瞳が瞬きひとつ落として、そう、と呟いた。
「別にそれでいいと思うよ」
 こてんと首を横に傾げて、視界に捉えた幻の群れに女は言葉を続ける。
「君の周りの人たちがどれだけ優しかろうと、誰もに祝福してもらえる素敵な人生が待っていようと。何をしあわせと感じるかは、君が決めることでしょう」
 僕は何ひとつ否定してない――迷っているのは、君自身だ。
 おぼろな琴音達の顔が、わっと泣きだしそうに歪む。この言葉も、全部ほんものの君に届くかなんて知らないけど。女は歩みを一度も止めずに幻全てに声をかけながら進んでいく。
「僕は美味しい料理を食べたり、友達と遊んだりしたいから。単なる仕事で、君という他人のしあわせを壊しにいく」
 ――恨むんだったら、僕みたいなろくでなしのことだけ恨めばいい。
 これで、全部。話はおしまい。ラストダンスの音楽も、とっくの昔に消えている。
 鳥居の向こう側は、もうすぐ。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『阿傍學徒兵』

POW   :    サクラ散ル
【軍刀が転生を拒む意思が具現化した桜の魔性】に変形し、自身の【使命感と転生を拒む意思以外のすべて】を代償に、自身の【攻撃範囲と射程距離、高速再生能力】を強化する。
SPD   :    サクラ咲ク
【日々の訓練で鍛え抜かれた四式軍刀の斬撃】が命中した対象に対し、高威力高命中の【軍刀から伸びる桜の枝々による拘束と刺突】を放つ。初撃を外すと次も当たらない。
WIZ   :    サクラ舞ウ
【帝都桜學府式光線銃乙号の銃口】を向けた対象に、【目にも止まらぬ早撃ちから放つ高出力の霊力】でダメージを与える。命中率が高い。
👑11
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種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は煙草・火花です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 連ね鳥居をぬけた先、そこは古びた神社の境内だった。幻朧桜の降りしきる中で、琴音ははらはらと涙をこぼしている。

「ねえさま、ごめんなさい。知られてしまったの。二人だけの秘密だったのに」
「泣かないで、貴女は悪くないのよ」

 琴音を抱き寄せる影朧は、そっと少女の頬の涙を拭う。そうして猟兵達へと向けた眼差しには、敵意が仄かな焔のようにゆらゆら宿っている。

「私はまだ何も成してはいない。そんな私が、転生などという生温いものを浴びていい訳がない」

 帝都の為に戦うことを誓った學徒兵の魂は、未だ使命と戦場に囚われたまま。
 桜を纏う軍刀の切っ先が、猟兵達に距離をつくる。

「――このいのちが散ることが、許されてなるものか」

 ねえさま、と泣く少女のお別れが、薄紅と晴天の下で幕を開ける。
リオ・ウィンディア
妹のことが心配だから転生しないの?
私とは逆ね
私は妹のことが心配だから転生したの
結果私が妹になってしまったけれど
___確か、そんな記憶よ
あの子たちに姉がいたという記憶も曖昧だけれども。。。

命なんて一つじゃないし、人生も一つじゃないし・・・あぁ、だからこそ今を全力で、後悔しないように生きたいわね
好いたもの同志を別れさせるのは辛いけれども、嫌な役回り喜んで受けるわ

第六感で避けつつダガーで早業・2回攻撃
歌に乗せてUC発動

何度巡るこの命 探すは使命 心の友
いつか会えると信じて私は行くわ
愛慕は未だつきぬ 絶えぬ
幽鬼に身を落としても 私は探し出そう 次の住まいを

きっとあなたは理解できない
その隙を突くわ



 桜舞う境内の石畳に、ふわりと少女が降り立つ。黒を纏った娘は、ねぇ、と影朧に問うた。
「帝都の為とか、使命だとか言っているけれど――妹のことが心配だから転生しないの?」
 金の瞳が瞬いて、リオ・ウィンディアの甘く幼い声が響く。影朧は堅い表情をさらに厳しくすると、ちらりと背後の琴音を意識したようだった。彼女の答えを聞くでもなく、そう、と少女は呟いて。
「私とは逆ね。私は、妹のことが心配だから転生したの」
 結果、私が妹になってしまったけれど――確か、そんな記憶だったように思う。あの子達に姉が居たという記憶すら曖昧で、けれどそれを頼りに、リオは愛する二人を探して旅に出た。
「それで、君は私に何が言いたい」
「そうね……妹を想う姉の気持ちは、ようくわかっているつもり。命なんて一つじゃないし、人生も一つじゃないし……あぁ、だからこそ今を全力で、後悔しないように生きたいわね」
 それが叶わなかった影朧の執着も、姉の面影にしがみつく琴音のことも。ちいさな胸にはどこかせつない感情がぷつりと刺さる。
「好いたもの同志を別れさせるのは辛いけれども、嫌な役回り喜んで受けるわ」
「相手が誰であれ、私はもう倒れるつもりはない!」
 そう宣言するよりも早く、影朧が光線銃をリオに向けて引き金を引く。連続で放たれる高出力の光線が音よりも先にリオへと届く。一見動きづらそうに見える豪奢な喪服が瞬時に消えて、一気に距離を詰めた。手回しオルガンの底に忍ばせた、ダガーの鋭い刃が陽光を反射する。
 短剣を振るう先は二度、同じ場所。光線銃を持つ左手を狙うと、すかさず影朧も軍刀で受け流し、二人は互いの刃を鳴らしあう。
「――ねえ、あなたは音楽がおすき?」
 唐突な問いに、くだらん、と影朧が一蹴する。なら好都合とエルフの娘は笑んで、あわい彩の唇に音と詞をのせる。

 ♪――何度巡るこの命 探すは使命 心の友
  いつか会えると信じて私は行くわ――♪

 たとえばそれは、やけに澄みきった今の空模様のようなソプラノで。美しい歌声に影朧は動じることなく光線銃を向けようとした時、自身の腕が急激に重くなったように感じる。戦場に心を置いてきた學徒兵に、音楽を楽しむ余裕などなかったろう。行動速度が驚くほど低下していることに、影朧は焦る。

「私に、何を――!」
 とん、と軽く地を蹴ってリオが舞う。振るった刃は再び、二度。
「きっとあなたは理解できない」

 ♪――愛慕は未だつきぬ 絶えぬ
  幽鬼に身を落としても 私は探し出そう 次の住まいを――♪

 けれどこの詞の意味は、もしかしたら。心のどこかでそんなことを思いながら、ちいさな身体は影朧の懐に飛び込んで、鋭い斬撃を与えた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

御園・桜花
「今上帝が世界を平らげ、世界大戦は終結しました。例え貴女が何の戦働きをしていなかろうと、その機会はもう失われたのです。それに…貴女と共に在ることで、水無月さんも御家族も、命の危険に晒されます。私は…転生を拒否する、貴女の意思を叩き折ります」

吶喊しUC「桜鋼扇殴打」
高速・多重詠唱で桜鋼扇に破魔と浄化の属性乗せ最前線で殴り合う
異形化した軍刀を叩き折るのが第一目標
敵の攻撃は第六感や見切りで察知して躱したりカウンターからシールドバッシュを合わせる

「此の戦いで満足したら、水無月さんが気になるなら!諦めず転生していらっしゃい。貴女に出来ることは未だあります。帝都に小競り合いがあるから、桜學府もあるのです」


丸越・梓
アドリブ、マスタリング歓迎


その使命は、転生の後に成しては駄目なのか?

交わす刃、嵐の様な剣戟の間に静かに問う
彼女の使命感や責任感に改めて見習うべき面も多々あり
益々自身も気を引き締め精進せねばと思うと同時
信念が強すぎるゆえの彼女の危うさに懸念を示す
これが彼女の本当の心なのか、ただ己の"正義"に囚われ自身の"真実の心"から目を背けているだけではないのか
もしそうなのであれば、…駄目だ
それはいつか絶対に後悔する
彼女の正義を否定するわけでは決してない
けれど
他の道を通ってその信念を叶える方法があるのではないか

…傲慢だと判っている
然し影朧へのお節介な心配と
姉を想う琴音へ
二人の力になりたいと一心に思ってしまう



 胴を裂かれた影朧の、黒と赤で統一された軍服のコルセットにじわりと染みが広がる。けれど未だ消えることのない闘志を宿した瞳に、丸越・梓は静かに対峙した。刀の切っ先は影朧に向けていても、男は言葉の刃を突きつけようとはしない。
「この程度の傷がなんだ。私は、まだ何も成してはいないのだから……ッ」
 苦痛に顔を歪める學徒兵に、御園・桜花はふるりと首を横に振った。梓が口にはしなかった事実を、帝都を知り尽くす桜の精は淡々と告げる。
「今上帝が世界を平らげ、世界大戦は終結しました。例え貴女が何の戦働きをしていなかろうと、その機会はもう失われたのです」
 それに、と続けようとした矢先、影朧が軍刀をひと薙ぎ。びゅ、と風を切る音と共に、刀に巻きつく妖桜がぶわりと咲き乱れる。転生を拒む影朧の意志が、昏い執着を持つ桜の魔性へと具現化されていく。
 ひ、とちいさな悲鳴をあげた琴音が後ずさるのを見て、桜花は再び強く声をあげた。
「――貴女と共に在ることで、水無月さんも御家族も、命の危険に晒されます。私は……転生を拒否する、貴女の意思を叩き折ります」
 桜花の吶喊を合図に、猟兵二人が一気に地を駆けた。女が瞬く間にまじないを紡げば、きよらかであわい光が鉄扇にのる。ずるりと魔性の巨腕が枝の如く伸びて、近付く二人めがけて振るわれる。同時にその場から飛び退けば、巨腕が石畳を強く打つ。
 腕を縮ませる魔性の隙をついて、桜花が鉄扇を鋭く叩きつけた。魔性の横っ面と見える部分を殴打すると同時、梓が影朧本体へと距離を詰める。
 はらはらと零れ落ちる花弁と同じ名で呼ばれる妖刀が、魔性を吐いた軍刀と刃を重ねる。瞬間的に何度も繰り返される斬り合いは、嵐のような剣戟を巻き起こす。
「その使命は、転生の後に成しては駄目なのか?」
「愚問だ、私は私自身に課せられた使命と責任がある! それを果たさずして、何が學徒兵だ!」
 まっすぐな眼差しに、ああ、と男は目を細める。影朧であろうと、その魂には見習うべきましろのものがある。力を得た者として、益々自身も気を引き締め精進すべきだろう――けれど同時に、強すぎる信念に囚われた彼女が、梓にはひどく危うく見えた。
 鍔迫り合いの最中、軍刀に咲く桜の枝が四方に広がる。一度軍刀から刃を逸らして、梓はこちらを刺し穿たんとする桜の枝を斬り払う。
 先ほどの答えが彼女の本当の心なのだろうか――ただ己の“正義”に囚われ、自身の“真実の心”から目を背けているだけではないのか。もしそうなのであれば、
「――駄目だ」
 再び影朧へと振るわれる刃には、彼女を慮る想いが宿る。だって目を背き続けていれば、いつか絶対に後悔してしまうから。
「君の正義を否定するつもりはない。だが、他の道を通って、その信念を叶える方法もこの世界にはあるだろう」
「ならば聞くが、私が私でなくなってしまったあとに遂げた使命が、私のものになるというのか!? ――私に、残るものがあるというのか!?」
 影朧の痛切な叫びが形になったように、無数の斬撃が梓を襲う。なおも愛刀で応戦する梓の真横、魔性のもう一方の巨腕が迫る。防ぎきれないと一撃を覚悟した瞬間、巨腕をくぐり抜け、桜花が飛びこみ鉄扇で力強く弾き返す。
「残るものはあるでしょう。貴女が守ろうとした帝都も、人々の営みも連綿と続いていきます。貴女が學徒兵を志したのは、手柄をあげてただ栄光へと上り詰める為だったのですか?」
 女はそう問うて、鉄扇を振るい飛びかかる。狙うのはただ一点、梓に意識を向けていた影朧の右腕が持つ軍刀の刃。鋼が鋼を断つ音がして、桜の魔性の形が揺らぐ。
 折れた刀に出来ることなどあまりに少なく、武器を無くした影朧を、梓は迷わず斬る。その一太刀は、肉体を傷つけることなく、學徒兵の根源へと辿り着く。
 呻き膝をつく影朧の姿に、梓は目を伏せる。
「……傲慢だと、判っている」
 それでも。影朧へとお節介な心配と、姉を想う妹の気持ちに触れてしまえば。二人の力になりたいと、男は一心に思ってしまった。
「此の戦いで満足したら、水無月さんが気になるなら! 諦めず転生していらっしゃい。貴女に出来ることは未だあります」
 帝都に小競り合いがあるから、桜學府もあるのです、と。桜の精が花笑む。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

臥待・夏報
何も成せずに死に損なうのがそんなに嫌かい?
……そう
だったら好きにすればいい
別に転生が成らなくたって、始末書を書かされたりするわけじゃあないもの

ペーパーナイフかなにか、適当な刃物を出して直走る
行き先は勿論――水無月・琴音だ

それ以外のすべてを代償にしても最後に残る使命ってのは
『帝都』だなんて曖昧模糊とした概念か?
違うだろ
君は本当に守りたかったものを守ろうとするはずだ
そうじゃなかったら、もう知らない

……まじで刃物持って走っただけなんだよね
學徒兵の本気の攻撃に敵うはずない
どんなにずたずたの身体でも――指一本、姉妹のどちらかに触れることができれば僕の勝ち逃げだ
通りすがりの走馬灯
さあてどんな過去が出るかな



「何も成せずに死に損なうのがそんなに嫌かい?」
 影朧が顔を上げた先、灰色の髪を揺らした女が居た。嘲笑う声色はかけらもなかったのに、學徒兵はその顔に怒りを露わにしている。それが答えなのだと受け止めて、臥待・夏報はほんのわずかな沈黙ののち、そう、と呟く。
「だったら好きにすればいい」
 別に彼女の転生が成らなくたって、こっちは始末書を書かされたりするわけじゃあないもの。コートのポケットから取り出したのは、装飾のないシンプルなペーパーナイフ。ふらりと足が向いて、夏報はまっすぐに駆けだす。
 先の猟兵達と同じく、夏報が此方へ戦いを挑んでくると考えた影朧が折れた軍刀の花を咲かせる。いまだ転生を拒絶する意思を砕かれていない彼女に呼応するように、桜の魔性が咲き誇った。
 ちいさな刃を手に走る夏報めがけて、魔性の腕が伸びる。危なっかしい足取りで腕を避けようとする女を止めようとして、影朧はその動きがおかしいことに気付いた。まるで此方のことはどうでもいいように距離を置いて、けれど目的はしっかりと定まっているようで。
「まさか、」
 學徒兵と魔性の横を素早く通りすぎていった夏報を――否、その標的へと振り返る。夏報の目指した行き先は、水無月・琴音その人だった。え、と驚きを隠せぬ少女の視界に、きらりと刃がひかる。
 それ以外のすべてを代償にしても最後に残る使命ってのは、『帝都』だなんて曖昧模糊とした概念か?
「違うだろ」
 転生すら拒んで彼女が本当に守りたかったものを、彼女は必ず守ろうとするはずだから。そうじゃなかったら――もう知らない。
「琴音……ッ!!」
 夏報が琴音へと間近に迫った時、必死の形相で叫ぶ學徒兵が桜の魔性の腕を無数に増やす。鋭い殴打と斬撃が夏報を襲い、コートも剥き出しの脚も全てがずたずたに切り裂かれ、ひどい打撲をつくる。けれど夏報は、唇の端に笑みを浮かべていて。
「……まじで刃物持って走っただけなんだよね」
 いくら猟兵といえど學徒兵の本気の攻撃に、付け焼き刃の戦闘訓練しか受けていないただの人間が敵うはずもない。かなり痛いなぁなんて思いながら、その瞳は恐怖に身を竦める琴音に向いていた。人差し指の一本が、少女の服の裾に触れている。
「――僕の勝ち逃げだ」
 途端、女の身体が四十九枚の写真へと変わる。桜の花弁と共に舞い散る写真の群れには、すべて幼い二人の少女が映っている。
 幻朧桜の下で鬼ごっこをする姿、完成した雪だるまを前にはしゃぐ姿、絵本を読み聞かせる姿と絵本を真剣に見つめる姿、お揃いの髪飾りで着飾ってはにかむ姿。
 最後の一枚は、すやすや眠る赤ん坊に指を握られ、ふくふくと嬉しそうな笑みを浮かべる少女。
「ねえさま、ねえさま……!」
 泣きだした琴音と立ち尽くす影朧の姿を、姉妹の過去が見ていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

雛瑠璃・優歌
【雛梅】
「貴女はもう帝都を守る立場じゃないよ。かつての貴女が刀を向けてた相手の側」
酷い事言ってるのは解ってる
「今のまま居続けるなら必ず帝都に滅びを招く。影朧の事、解ってるよね」
何も成してないから転生できない?
「ねえ、妹さんより大事な使命って何?」
もし偽りなく貴女の名が水無月鈴音だというなら
「學徒兵なら他にも居るよ。でも琴音さんの姉は貴女だけ」
許せない
いつまで兵士の顔してるつもり
「妹の淋しさに向き合いもせず何が成せるの?姉であることから逃げるな!」(UC発動)
優詩の姿は使わない
姫があたしに攻撃を当てる訳ない
宵海蛍雪を握って爆風の中突っ込む
この矜持と意志、絶対に負けない
あたしは優歌―姫の姉―だから


梅小路・尚姫
【雛梅】
「責任感が強いのは結構ですけれど。その使命感、元は誰の為のもので御座いましょう?」

そちらが學徒兵としての使命感と矜恃に全てを賭けてかかってくるなら、こちらはパーラーメイドの本気と覚悟魅せてあげる。
攻撃の射程と範囲を広げたとしてもそちらは一人、こちらは二人。
まずはUCの効果で飛翔し、空から飛梅をばら撒く。
致命傷狙いではなく、あくまでも優歌の接近と攻撃の隙を作る為のもの。
優歌の攻撃が届いたら、さらに援護射撃で追撃。

「貴女の未練は本当に使命感でしょうか?」

武器を構えたまま琴音にも視線を向け。

「私はパーラーメイドでございますが。お客様以上に世話がやける姉のことを顧みなかったことは御座いません」



 琴音と影朧の別れが、もうすぐそばまで近付いていた。きょうだいを分かつ役目が、きょうだいに委ねられている。雛瑠璃・優歌が、はっきりと影朧へ現実を突きつけた。
「貴女はもう、帝都を守る立場じゃないよ。かつての貴女が刀を向けてた相手の側」
 酷いことを言っているのは解っている。けれどこれが、今の自分が言うべき言葉だと知っているから。
「今のまま居続けるなら必ず帝都に滅びを招く。影朧の事、解ってるよね」
 少女の言葉に唇を噛んで、影朧がきっと優歌を睨みつけた。その眼差しが敵意に満ちていても、優歌は視線を逸らさない。
 ――何も成していないから、転生できない?
「ねえ、妹さんより大事な使命って何?」
 義姉の言葉に続けて、梅小路・尚姫は唇を動かす。梅苺の双眸は、どこか呆れたようでいてやわらかい彩をしている。
「責任感が強いのは結構ですけれど。――その使命感、元は誰の為のもので御座いましょう?」
「黙れ、黙れ、黙れ……ッ!!」
 切っ先を断たれた軍刀に、なおも根を張る桜が満開に咲き誇る。それまでとは桁違いの怖気と妖気を放出して、花の魔性がぶくぶくと肥大し具現化された。
 尚姫がヒールが鳴らすと、甘い梅の香りがその身を包む。そちらが學徒兵としての使命感と矜恃に全てを賭けてかかってくるなら、こちらはパーラーメイドの本気と覚悟を魅せてやらなくては。
 義弟が支度を始めた時、優歌もまた拳を握る。もし、偽りなく。彼女の名が“水無月・鈴音”だというのなら。怒鳴ってやらなきゃ気がすまない、叱ってやらなきゃ許せない。
「學徒兵なら他にも居るよ。でも琴音さんの姉は貴女だけ」
 ――この人は、いつまで兵士の顔をしているつもりだろう。
「妹の淋しさに向き合いもせず何が成せるの?」
 黄金に光り輝くオーラが全身を覆って、優歌は弾けるように叫んだ。
「姉であることから逃げるな!!」
 それが合図だったのか、二人が地を蹴って空へと飛びあがる。その背を両方追うように、魔性の腕が勢いよく宙へと伸びていく。花の異形の全身には、噎せ返るような桜の香りと花の群れが咲いていた。
「去り際に香る程度、それが嗜みではなくって?」
 ひらりと躱した尚姫は優歌よりも上空に陣取り、普段とは違う赤のドレスの裾を広げる。梅の花が零れ落ちるようにばら撒かれた無数の擲弾は、紅梅色の美しい爆炎とあわい香りを魔性と影朧に墜としていく。
「味方諸共爆撃するつもりか!」
 魔性の身体を盾にして、遥か上を飛ぶ尚姫を見上げて影朧が歯噛みすると、宙を舞うままの優歌は静かに首を横に振った。だって姫が、あたしに攻撃を当てるはずないもの。
 義弟の巻き起こした凄まじい爆風の中、優歌は鈴蘭水仙の刃を携えまっすぐに突っ込む。紅梅煙にきらきらと輝くきんいろは、尚姫には桜吹雪の中でとても尊いものに見えた。だから改めて、影朧に問う。
「貴女の未練は、本当に使命感でしょうか?」
 彼女と決着をつけるために、スタァとしての“小鳥遊・優詩”の姿にはならない。誰とした訳でもない約束だけれど、優歌はそうしようと決めていた。この矜持と意志は――絶対に負けない。
「あたしは優歌――姫の“姉”だから」
 空よりも海よりも澄んだ青色の刃が、魔性ごと影朧の身体を斬り裂いた。
 影朧が悲鳴をあげたと同時。魔性の全身に咲き乱れていた花が枯れると、その身が萎んで消えていく。その場で崩れ落ちた影朧に琴音が駆け寄って、猟兵達から庇うように影朧を覆う。
「もう、もうやめて! おねがい、ねえさまは、」
「琴音」
 力なく少女の名を呟く影朧に、ふわりと舞い降りた尚姫が琴音に視線を向けて微笑む。
「私はパーラーメイドでございますが。お客様以上に世話がやける姉のことを、顧みなかったことは御座いません」
 優歌が頷いて、ねぇ、と口にする。お別れの背を押すこの言葉は、きっと琴音を傷つけてしまうけど。
「愛している妹を、傷つけたくなんかないよね」
 猟兵達にぼんやりとした視線を投げて、影朧は目を瞑る。
「……琴音、」
 少しの沈黙のあと、影朧が弱々しい力で琴音を抱き寄せた。その身体の端々が、薄紅の花弁に成っていくのが少女にもわかって。琴音は震えて涙を溢す。
「私はちゃんと、琴音の姉で居られたかな」
「はい、ねえさまは、わたしのねえさまです! 強くて優しくて、尊敬できるだいすきなねえさまです! ――ずっと、ずっと!!」
 泣きながら必死に応えた琴音に、ふふ、と微笑った表情は、妹を想う姉の顔をしている。
「次に生まれてきたら、ね。私、また、あなたの、」
 言いきる前に、影朧が桜吹雪に消えて。わんわんと幼子のように泣き叫ぶ琴音の掌に、ひとひらの花弁が遺った。


 幻朧桜の降る庭は、あなたとの日々が思い出されます。
 幼い頃の記憶も、大きくなってからも、居なくなってからも。また、戻ってきてくれた時も。

「琴音さん」

 長椅子に座っていたわたしに、優しく声をかけてくれた誠一さんの元へと向かう。
 いいお天気だから、今日は二人で帝都の街へと出かけます。
 次にあなたに逢えた時、あなたの居ないわたしの日々も、楽しかったと言えるように。

 ――たくさん、話ができるように。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2021年07月01日


挿絵イラスト