湯煙に隠された謎を追え! カクリヨ連続殺妖事件!
●またかよカクリヨサスペンス劇場!
ぴしゃーん、ごろごろごろ。ぴしゃーん、ごろごろごろ。
稲妻が走り雷鳴轟く豪雨の一夜。体を貫くような雨礫が視界さえも遮る、そんな夜。
カクリヨファンタズムのとある町の温泉宿で、事件は起きた。
「ぴしゃーん、ごろごろごろ。ぴしゃーん、ごろごろごろ」
もう何度目か。
宿の外で雷神の叫ぶ声を真似てその者は、血に染まった湯船を見つめていた。
そこには湯から出ようと、否、襲撃者から逃れようと踠き、そして力尽きた妖怪の姿があった。
全身をずたずたに裂かれた体は湯煙に浮かび、小豆がばら蒔かれている。
「ぴしゃーん、ごろごろごろ。ぴしゃーん、ごろごろごろ」
同じ言葉を繰り返し、繰り返し。
男の友人であったその者は、騒ぎを聞いた他の妖怪が駆けつけるまで、ただひたすらに同じ音を繰り返していた。
●やれば出来るさカクリヨシリアス!
「ちなみに小豆は被害者、小豆とぎの所持品で犯人とは全く関係ないそうだ」
集まった猟兵たちを前に、簡素な木製の椅子に座る老婆はショットグラスのテキーラを呷る。
手持ちの札と場の札を睨み、ボロ机の先に座る猟兵を睨み付け。
「どうさね、ハートのフラッシュだ」
赤い二枚の手札を並べれば、相手方はにやりと笑い手札を開示。場と合わせてハートのストレートフラッシュ。
唸り声をあげて机に突っ伏したバルディエッタ・フランキスカ(パール・ホワイト・f32560)に、人も集まったんだから話の続きをしろと暇潰しに付き合っていた猟兵たちが声をあげた。
「しょうがないね。
この温泉宿では度々殺妖事件が起きててね、今回も同一犯の仕業とされているのさ」
何でそれで宿続けてんの?
当然の疑問に入る入らないは自己責任だからとバルババ。そういう問題かなぁ。
「この事件、特徴的なのは密室でもなけりゃ人目も憚らず行われている事さ」
にも関わらず、誰も犯人を見ていない。何故か。
バルディエッタはグラスにテキーラを注ぎ、ぐいと一口。大事な話してる時に酔うんじゃねえぞババア。
「宿の女将の証言によれば事件当日、いつものように騒ぐ男湯に集まった常連客が馬鹿騒ぎしていたらしいね。
そうして湯船に浸かっていた所で急に湯気が増えて視界もホワイトアウト、気付けば悲鳴が上がる始末でみんな男湯から逃げてきたそうだ」
そしてお隣の犬神警察署に連絡し、お急ぎだったので番台の豆腐小僧に犬神憑きになってもらい男湯を捜査したところ。
事件冒頭となる殺妖された小豆とぎと放心状態の垢嘗が発見された。
「男湯と女湯は隣合っているが抜け道はなく、出入口も番台のいる受付から男女に別れ、脱衣所、男湯と一本道。スタッフルームも無いときた。
犬神憑きによる迅速な対応だったからね、犯人は逃げる間もなかったはずさ」
そのはずが。
飛び込んで見れば犯人はおらず、怪しいと見た垢嘗は心神喪失、何より凶器すら見当たらない。
これがこの温泉宿で繰り返される殺妖事件なのだ。なんで宿封鎖しないの?
「一先ず犬神憑きの豆腐小僧が、男湯にいた関係者を受付に集めているよ」
集められたのは客人である船幽霊のフゥさん、成人男性サイズ海坊主のぼっさん、磯女ならぬ磯男のイソオの三人。
どいつもこいつも怨念の塊じゃん。
他にも三助の牛鬼ウッシーと犬神警察署に連絡した証言者、女将の濡れ女ヌレミちゃん、最後に番台であり犬神警察署からやってきた犬神憑き、豆腐小僧。
…………。ウッシー犯人じゃね?
と邪推はさておき、以上の六名である。女湯の客と垢嘗は事件に関係なさそうなので帰ってもらっている。
つまりザル捜査である。
「ま、犯行時間を鑑みても必要なのはこの六名で十分さね」
しかし、ここからが問題だ。
この事件の犯人、グリモア猟兵の予知によりオブリビオンてある事は確定する。だがオブリビオンは極めて狡猾で、妖怪を殺す時にだけ宿主の記憶を奪いオブリビオン化しているのだ。
犯行時以外は普通の妖怪を装い、宿主も骸魂に取り憑かれた事を知らず暮らしているのだ。
これが捜査の難航している理由のひとつである。そもそもなんで宿を閉鎖しないのよ?
「小豆とぎの死体は片付けられて温泉も綺麗になってるみたいだね。
拘束された妖怪たちのストレス軽減に男湯・女湯は解放されてるから、アンタらも湯船に浸かって妖怪どもから話を聞くといいよ。
なに、現場保存? なんだいそりゃ?」
アカンじゃないの犬神警察署。
と、言う訳で現在受付に集められた六人に尋問するも良し、殺害現場となった男湯で浸かりながらじっくり聴取するも良し、何の関係もない女湯できゃっきゃうふふするも良し。
なお番台兼警察の豆腐小僧がいるので男は男湯、女は女湯にしか入れないが、リラックスして事件の捜査に挑めるだろう。
猟兵たちよ、湯煙に隠された謎を解き、犯人を探すのだ!
そんな温泉に浸かりたくないって? そりゃそうだ。
「犯行当時は湯煙で隣の人も見えない様子と言われている。つまり男湯の連中はアリバイがあるようでないって訳さ」
そう、あれはまるで三十年前に起きたミシラシヒコ惑星のゲッソー船団襲撃事件の如く。
何やら昔話を始めるバルババだが、顔も赤くすでに酔っ払っているのだろう。
飲んだくれの話を聞くつもりなどなく、猟兵たちは温泉宿連続殺妖事件の捜査準備を進めた。
頭ちきん
頭ちきんです。
カクリヨファンタズムのとある温泉宿で連続殺妖事件が発生しています。特に必要ありませんが湯煙に潜む謎を説き明かし犯人を退治して下さい。サスペンス好きなプレイヤーにはオープニングの時点で犯人が分かるかも知れませんね。
それぞれ断章追加予定ですので、投稿後にプレイング受付となります。
それでは本シナリオの説明に入ります。
一章では六名の妖怪から情報を引き出し犯人を推理しましょう。
断章にて怪しい証言ばかり出てきますが、彼らは犯人と疑われたくないので自分に不都合な事実を隠します。
犯人と思わしき証言者に技能を使ったり温泉に浸かったりして証言をでっちあげ、もとい引き出しましょう。
猟兵はとりあえず温泉に浸かって証言など気にせず、適当な妖怪を犯人にでっちあげても構いません。
二章では推理の当たり外れによって登場の仕方は変わりますが、真犯人となるボス・オブリビオンが出現します。
高い戦闘能力を持つので注意して下さい。
三章は倒されたボス・オブリビオンの悪足掻きにより、大量の骸魂が解放されてしまいます。骸魂に飲み込まれた妖怪たちを救いましょう。
注意事項。
アドリブアレンジを多用、ストーリーを統合しようとするため共闘扱いとなる場合があります。
その場合、プレイング期間の差により、別の方のプレイングにて活躍する場合があったりと変則的になってしまいます。
ネタ的なシナリオの場合はキャラクターのアレンジが顕著になる場合があります。
これらが嫌な場合は明記をお願いします。
グリモア猟兵や参加猟兵の間で絡みが発生した場合、シナリオに反映させていきたいと思います。
第1章 日常
『幽世の秘湯』
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POW : のんびりゆったり温泉に浸かる
SPD : 温泉に浸かりながらちょいと一杯
WIZ : 湯船が広いから泳げるかも?
👑5
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種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●それぞれの証言!
case1.船幽霊のフゥさんの証言。
――事件発生時の様子は?
「あ、ああ。俺はいつもみたいに小豆とぎのぎっちょんから小豆を入れてる桶を奪って体を洗ってたんだ」
――待ってください、つまりあなたは被害者とよくトラブルを起こしていた?
「なななな何を言ってるんだ、桶を奪ったぐらいでトラブルなんて話にはならないだろ!」
――ですが小豆とぎのアイデンティティである小豆洗いを出来なくしたんですよね?
「そっ、それはっ、…………! そ、そうだ、あれは俺が貰ったんだよ! いやぁ、うっかりしてた!」
――小豆とぎが自ら桶をくれた、と。本当ですか? では先ほどの証言は記憶違い? それにしては常習的に桶を奪っているような発言でしたが。
「それも含めて記憶違いさ。いやぁー、怨念ってのは発言が物騒になっていけねぇぜ!」
――分かりました、話を進めてください。
「ああ、と言っても語れるほどの事なんて……そう……、あれは急に湯煙が酷くなってよ、悲鳴があがったんだ。ぎっちょんの悲鳴だ。あいつの親友とかいう垢嘗のナメッコ星人が湯煙に向かって行って、俺も驚いて桶を投げつけたんだ。
そしたら血が、温泉に広がって。後は怖くなって、みんなと外に逃げ出したのさ」
――その後は犬神警察署の方が来るまで、どのように?
「犬神憑きになった豆腐小僧の命令で、他の奴らと受付で大人しくしてたぜ。本当さ、噓じゃないって!」
――分かりました、ご協力ありがとうございます。
case2.成人男性サイズ海坊主のぼっさんの証言。
――事件発生時の様子は?
「あのぅー、実は、どうなってたのか私、よくわかってないんですよ。ド近眼なもので、みんなと一緒に逃げ出しただけなんです、はい」
――そうでしたか。所で、眼鏡はどうされました?
「あ、そういえばまだ掛けてなかったですね、うっかりうっかり」
――眼鏡は離れた場所にありましたが、迷いがありませんでしたね。
「ぎっくぅーっ!? いやなにあそこに置いたのが私なんですから場所は覚えていて当然だしそういう訳で特に迷いなく取れた訳でド近眼なのに変わりないし免許証にも眼鏡をかけることと条件が書かれていますから証明できますし私何も怪しいところなんてありませんですからはい!」
――めっちゃ喋ってますけど水飲んで落ち着いて下さい。
「あ、は、はぁ。すみません、お見苦しい所を」
――目、お疲れのようですね。
「はあ、まあ。少しキツい感じですね」
――ところで、コンタクトレンズって知ってます?
「ぎくぎくぎっくぅーっ!? ししししししし知らな知らないっす知らないです!」
――目に直接装着する眼鏡のようなもので、温泉などに入る際はうってつけでしょうねぇ。
「はははははい、そっそそそーですねはい知らなかったなそんなものあるだなんてあはははははは!」
――例えばコンタクトをつけた人が風呂場で眼鏡がないから見えないフリをする時って、何をしている時なんでしょうかね?
「ひえっ。……し、知らないですぅ……!」
――ご協力、ありがとうございました。
case3.磯女ならぬ磯男のイソオの証言。
――事件発生時の様子は?
「ええ、アタんんっ、オレは小豆とぎのぎっちょん、垢嘗のクソッタレなナメッコ星人と一緒にやってきたんだゼ」
――随分と昔からの知り合いのようですね。
「うふっ、実は彼が産まれた時からよ。あの子のおしめはアタシがげっほげほげっほ! オレが変えてやったこともあるんだゼ?」
――はあ。彼らとの関係は良好だったと?
「そうだゼ、それなのにあのクソッタレなナメッコ星人が出てきてからオレの事は知らんぷりだゼ!
きっとあのクソッタレがオレの悪口を吹き込んで裏で操ってたに違いないゼ! この前なんて、オレが引き離そうとしたのにぎっちょんが、……オレの事を……!」
――ストーカーって知ってます?
「お、そうそうそれだゼ! ナメッコ星人のヤツ、ストーカーに違いないゼ!」
――すみません、話を戻しましょうか。
「話、ああ。いつものように体を洗うぎっちょんと見てたんだが、相変わらず背中を洗うのが苦手みたいでついつい髪の毛を伸ばしていつもみたいに洗ってたんだが」
――すみません、事件発生時だけでお願いします。
「おう。何か、いきなり浴室が騒がしくなったんだゼ。何かが駆け回っているような、そしたら湯気が大量に沸き上がってきたんだゼ。
……それから間を置かずにぎっちょんの悲鳴が……湯舟が赤く染まって、慌てて助けにいこうとしたら、ぼっさんとかいうヤツに引っ張られて外に連れ出されたんだゼ!」
――ぼっさんに? 本当ですか?
「嘘吐いてどうするんだゼ。ずっとあいつに捕まってたからそのまま受付にいたゼ。そうじゃなかったら、……アタシがぎっちょんの横にいたのに……!
でも、ふへへ、湯舟の血、ひひっ、美味しかったなぁ、うふふっ」
――なるほど。ご協力ありがとうございました。
case4.三助の牛鬼ウッシーの証言。
――事件発生時の様子は?
「モー。この巨体だから湯室には入れないモー」
――ではなぜ三助に?
「え、いやなんでですかモー? 女将さんが決めた事だからわからないモー!」
――サイズ、変わったり出来るんじゃありませんか?
「……モ、モー……」
「お、ウッシーさん。お次もその爪で背中洗うの頼むよっ!」
「モーッ!?」
――フゥさんはあなたに洗ってもらったそうですが?
「モ、モモモ、モーゥ」
――よく分かりました。ご協力ありがとうございます。
「待ってくれモー! 爪のせいで疑われるかもと思っただけモー! 僕は何もしてないモー!」
――次の方、どうぞ。
「僕は無実だモーッ! そ、そういえば犬神警察署の犬神憑きと小豆とぎのぎっちょんはストーカー関係で何かトラブルがあったってもっぱらの噂だモー、あいつが殺したに違いないモー!」
――次の方、どうぞ。
「モーッ!!」
case5.女将の濡れ女ヌレミちゃんの証言。
――事件発生時の様子は?
「ええ、湯舟が血に染まっていて。なんだかいつもと違って湯煙が凄かったわ。大変だと思ってすぐに番台の豆腐小僧に犬神警察署に連絡してもらったの」
――なるほど。所でなぜヌレミちゃんは男湯に?
「えぇっへぇ!? いやなんだってそれは、……その……」
――何か理由がおありですか?
「べっべべべ別にネズミが出るとかそういう穴を知ってるから抜け道も知ってる訳じゃないとかそんな話じゃありませんですよ!?」
――抜け道があるんですか?
「やっべ、いえ違うんです! ……抜け道なんてありませんけど、その、ネズミの出入りする穴があって……」
――その穴から外部の者が侵入する可能性は?
「そ、それは、無いと思いますけど。小さいし、外に繋がっている訳でもありませんし」
――なるほど。それでヌレミちゃんはネズミ退治の為に男湯に?
「は、はあ、そんな所で」
――事件発生時、あなたは男湯のどこにいたんですか?
「あっ、えっと、それは、その、! だ脱衣所! 脱衣所に隠れていたんです!」
――隠れられる場所はありませんでしたが?
「湯上りタオルをちょちょいと被って、お客さんたちったら鈍感でしてねぇ、あはは!
あー、あ、あの、ネズミが出るってのは内密にお願いします」
――承知致しました。ご協力ありがとうございます。
case6.番台であり犬神警察署からやってきた犬神憑き、豆腐小僧の証言。
――事件発生時の様子は?
「何で本官が事情聴取を受けているでありますか? というか、あなたはどちら様でありますか?」
――質問に質問で返さないで下さい。疑問文は疑問文で答えろと学校で教わっているんですか?
「何この人めっちゃ怖い。
え、えーと、豆腐小僧は事件発生時、受付に隠していたエロほ――待つであります。同じおのことして守秘義務を行使するであります」
――では犬神憑きさんは事件発生時何を?
「本官関係なくない?」
――質問に質問で返さないで下さい。
「分かったであります! えー、本官は昼ドラを見てちょっとドロドロし過ぎていたのでショックを受けていたのであります。
それから連絡を受けて客人たちを受付に待機してもらい豆腐小僧に憑依し温泉内に突入、心神喪失状態の垢嘗、ナメッコ星人と被害者の小豆とぎ、ぎっちょんの遺体を確保したであります。その後はいつでも営業再開できるように清掃したでありますよ」
――現場保存とかなさらなかったんですか?
「明日も営業がありますし、速やかに現場を主人に返すのが鉄則であります」
――なるほど。ちなみに憑依された者の記憶はどうなりますか?
「記憶は残らないでありますゆえ、機密事項を漏らすことはないのであります!」
――つまり犬神憑きさんが被害者と何らかのトラブルにあり、例えばナメッコ星人に乗り移ってぎっちょんを殺妖しても?
「誰もわからないであります! ……というかなんでその事を知って……!? いや本官はそんな事してないであります! 警察がそんなことする訳ないであります!
そ、それに、湯気を大量発生する手口、犬神憑きとは関係ないであります! 本官は無実でありますぅ!」
――そうですか。ご協力ありがとうございました。
・以上が六名の聴取内容です。証言から犯人を推理し、自らの推理を補強する為に怪しい人物から推理に有利な情報をでっち上げ、もとい証言を引き出してください。
・恫喝など、証言を引き出す技能に制限はありません。何なら技量がなくともプレイングでどうにかできます。また湯船に浸かって貰うと気持ち良すぎて前後不覚になるため、好きなように証言をでっち上げることができます。
・ぶっちゃけ特に六名に関わらず湯船に浸かって犯人を適当にでっち上げて構いません。推理の正否によって演出は変わりますが、真犯人は現れるので気軽に犯人をでっち上げましょう。
・事情聴取に現れた謎の七人目はストーリーにこれ以上関わらず、また犯人として指定することはできないのでご了承ください。指定があった場合、ランダムで六名から選出致します。
リリ・アヌーン
アドリブ連携歓迎
秘湯に所持してる水着で
マナーを守って
テンション高く
ザブーンと入浴
「……ふぅ、お湯も
景色もいい感じで
癒されるわね~♪」
潜ればもっと美肌効果が
あるかもしれないわね
まだ誰も近くにいない
タイミングを見計らって
素早く潜り
温泉の底や周囲に
不審な点がないか
手探りして確認しておくわ
ザバァと浮上
容疑者の証言や事件の
内容を考える程
みんな怪しく感じるわね
私は三助と女将さんが
怪しい気がするわ
オカマ口調で何だか
他にもまだ色々知ってそうなイソオちゃんと入浴
被害者のぎっちょん
三助と女将の事を中心に
お店で培った愛想とコミュ力で優しく聞いてみる
私はエルフで耳も良い
物音や相手の声色の変化を気にしておくわ
UCは保険
惑草・挧々槞
湯から出ようとする様な体勢で力尽きていた、という事は、恐らく被害者は入口や洗い場側では無く湯船側から襲われたんでしょう。
怪しいのは海坊主氏と磯男氏、大穴で垢嘗(in犬神憑き)氏辺りかしら。
……と言うか、そもそも骸魂に憑かれていたのなら全ての罪は骸魂にあるんじゃない?
少々記憶違いがあったり、仮に殺妖自体に関与していたとしても、それは精神汚染の様な何かの影響を受けていたから──と、考えられなくは無いわよね?
疚しい事があったにせよ、それは全部骸魂のせい。今ならまだ〝そういう事に出来る〟。知っている事は何でも正直に話した方が良いと思うわ。
誰も何も話さないなら適当に海坊主氏が犯人という事にしましょう。
アドレイド・イグルフ
…………フム、頭痛が痛いってヤツだな?
もう皆が犯人でいいんじゃあないかと思考放棄をしかねるのもまた、犯人の手の内か
ワタシは現場、の隣の女湯に向かおう。そして浸かる。余計に頭が茹だるかもしれないだろう?
逆に考えるんだ。でっち上げてもいいさと。ワタシは良心と冷静さを今は捨てる
さあて誰を犯人に仕立て上げてやろうか!? 最初に目があったアイツにしてやろう!!
そうと決まれば、早速出会い頭に散弾銃でも頭蓋に突き付けるか。洗いざらい吐けば命は助けてやる。そして……キミがやってきた行いの隠蔽を、手伝おうじゃあないか。……知っているのはワタシだけだ
ワタシはキミの味方だ。キミを助けてやれる
楽になりたいだろう……?
アリス・ラーヴァ
アドリブ・連携歓迎
うーん、誰が犯人かよくわからなーい!
でも一人で推理する必要はないのよー
三人寄れば文殊の知恵とも言うしきっと皆で知恵を出し合ったら解決するのー
とりあえず折角温泉に来たのだから湯船に入ってから妹達と相談してみましょー
えーと犯人はー…三助の牛鬼ウッシーさんねー!
推理の根拠は、被害者は全身をずたずたに引き裂かれていたからその大きな爪で引き裂いたに違いないわー
あと、ウッシーさんが一番大きいから犯人だったら嬉しいという多数の意見が決め手ねー
ふっふっふ、ウッシーさん、動機は分からないけどこの動かぬ状況証拠を前にどー言い訳するのかなー?
早く素直に白状してオブリビオンを齧らせるのよー
●推理の前に必要なもの。そう、それは!
謎の七人目がまとめたそれぞれの調書の確認を終えて、リリ・アヌーン(ナイトメア・リリー・f27568)小さく溜め息を吐く。
なるほどと呟いた彼女は男湯へ目を向けた。
「まずは温泉に浸かろうかしら!」
「むっ、待つであります!」
上機嫌に受付から桶を貰おうとしたリリへ豆腐小僧こと犬神憑きが待ったをかける。彼女が目指したのは男湯、女であらば女湯に入るのが当然と言うのだ。
まあそうですね。
「そんな痴女行為、本官の目が黒い内はさせないであります!」
「……痴女……?」
言うに事欠く犬神小僧に頬をひきつらせていると、背後に忍び寄ったヌレミちゃん。
棒立ちな膝裏を軽く蹴り抜き、落ちたその体、首へするりと細い腕を通して絞め上げる。この濡れ女はどこの特殊部隊出身ですね。
「申し訳ありませんねぇ、お客さん! ごゆっくりどうぞ~」
もしもとあればUDCアースにてスナックも経営する彼女のこと、話術で簡単に切り抜けられたかも知れないが。宿の主としては翌日営業再開できるとは言えこれ以上影響が出ないよう、猟兵と協力したいのだろう。
それが本心かはともかく、絞め落とした豆腐小僧ボディを引きずるヌレミちゃんを見送り、殺してないから問題ないなとリリは再び男湯を目指した。
まだ人が集まっていない今がチャンスだ。
脱衣所で手早く脱げば現れる明るい紫色の水着。何がとは言わないが零れ落ちそうなでっけぇ何かをしっかりキャッチしており、胸元には【クロネコのペンダント】が照明の光を反射した。
髪を後ろでまとめて浴室の戸を引けば、湯気とともに熱気が広がる。
とは言え居心地が悪い程ではなく、湯気も視界を遮る程ではない。最奥の壁も難なく見える。
リリはお湯で体を流し、きちんと体を洗って湯船に足をつける。じんわりとした熱に身を震わせて笑みを見せ。
「ひゃっふぅー!」
ざぶんと大きく波打たせて飛び込んだ。
飛び込み可と書かれた張り紙があるからマナー違反ではないな!
広い浴槽を泳ぐようにしていたリリは一周もすれば肩まで浸かって一休み。
じんわりと伝わる熱に体も火照り、ほかほかとした熱気が全身に行き渡る。
「……ふぅ……。お湯も景色もいい感じで、癒されるわね~♪」
タオルで顔を拭きながら周囲を見回す。温泉宿とは言え山中にある訳でもなく、四方は壁に囲まれているが、四季に合わせた風景が描かれ華やかだ。
「疲労回復に美肌効果有り、と。潜ればもっと美肌効果があるかもしれないわね」
改めて周囲を見回し、まだ誰も来ていない事を確認して湯に潜る。
予想より透明度を保つ水中は見晴らしよく、特に不審な物は――あった。
「ぷはっ。何よこれ?」
拾い上げたのは細い竹筒。重りがついていて湯船に沈められていたようだ。ちょうど口にくわえられる細さで、中は空洞になってることが覗けば分かる。
「……吹き矢……? と言うほどの細さじゃない。もしかしてこれって、忍者とかが使うアレ?」
忍者とかが水中で使うアレっぽい何かを手に入れたリリは、他にも何かないかと周囲をくまなく探したが、見つかったのはネズミがいるとされた壁の穴だけだった。
(他には何もないか。……容疑者の証言や事件の内容を考えるほど、みんな怪しく感じるわね……)
リリが特に怪しいと考えたのはウッシーとヌレミちゃんだ。男湯に入る協力はしてくれたが、それがブラフでないとは言い切れないのだ。
「あら、他にも人が来たみたいね。一度上がって情報を整理しましょうか」
情報源になりそうな人物を見極めて、入浴接待で新たな証言を引き出すのもいいかも知れない。
リリはそう結論すると湯船から立ち上がった。
リリが男湯から上がるのと入れ替わりに、女湯へと集まる猟兵もいた。
「…………、フム。頭痛が痛いってヤツだな?」
一人は前髪を払いこの台詞、アドレイド・イグルフ(ファサネイトシンフォニックアーチャー・f19117)は中世的な顔立ちで自信に満ち溢れた表情を浮かべていた。現時点で浮かべる必要はないが、これが彼女の気質なのだろう。
「? 頭痛ですか?」
もう一人は御園・桜花(桜の精のパーラーメイド・f23155)。温泉宿には似つかわしくないメイド服姿だ。アドレイドの言葉に疑問符を浮かべているが、特にそこから会話を発展する気は無いようで、共に脱衣所の戸を開く。
アドレイドは受付で借りた風呂桶を用意しているが桜花の方は特にその様子もない、という所を見れば入浴のつもりはないのだろう。
「ギチギチ、ギィィィィッ! ギチチッ」
(うーん、誰が犯人かよくわからなーい!)
その二人の後から脱衣所にもう一人、否、一匹。重装甲車と言えどお構いなしにボリボリいけちゃう【挟角】を持つアリス・ラーヴァ(狂科学者の愛娘『貪食群体』・f24787)だ。あからさまに怪しい証言だらけの調書はぱくりと食べて、頭の上に風呂桶を乗せている。サイズ合ってないっすね。
「ギギッ、ギチギチ、ガチガチガチ!」
(でも一人で推理する必要はないのよー。
三人寄れば文殊の知恵とも言うし、きっと皆で知恵を出し合ったら解決するのー)
声の代わりにテレパシー能力で思念を飛ばしながらアリス。そう、ここには他にも猟兵がいるのだ、みなで力を合わせ、情報を整理し、多角的な視点から推理する。
名探偵など必要ない、これこそが現実的な犯人の特定方法だ!
「ギチチッ!」
(とりあえず折角温泉に来たのだから、湯船に入ってから妹達と相談してみましょー)
同一視点やんけ。
群体であるアリスらは意識も共有する群れとしての能力を持つが、同じ思考の存在が揃った所で犯人を特定できるほど推理する力というのは単純ではないのだ。
でもこの娘たちヴォーテックス・シティで有効策を打ち出した実績あったわ。前言撤回しとこ。
二人の後を追って脱衣所の戸を開いたアリスであるが、その巨体が邪魔して中に入れないようだ。
一歩下がり、左右を見回しても他に入り口はなく。
「ギチチッ」
(しょーがないわねー)
ぬばたまの瞳は誰もこちらを見ていない事を確認して、入り口の改修にかかった。
その間にも手早く衣服を脱いで、堂々と浴室に向かうアドレイド。すぱんと戸を開いた先で、男湯と同じく四季が描かれているが、こちらは男湯が昼に対し、夜の風景画だ。
「ふふん、なかなか良い雰囲気じゃないか」
「そうですね」
桜花はアドレイドの言葉に同意すると袖をまくり裾を上げ、ごく自然な流れで彼女を小さな椅子に誘い背中を流し始めた。
あれ、思ったよりメイド服が温泉に似合うぞ?
「……ふぃ~……。何か普通に背中を流して貰った訳だが」
心地好い温度が全身を解すような、血流も良くなったようですぐ全身に暖かさが伝播していく。それとは別に湯船に浸かったアドレイドは、一息入れて気まずそうな笑みを見せた。他者を魅了し絶対の自信を持つ彼女だが、頼みもしなければ自分でやろうとしたことを進んでされると落ち着きを無くすようだ。よく分かります。
そんなアドレイドが向けた戸惑いの視線など露知らず、桜花は壁を調べている。幾つか見当つけているのは古くなった壁の一部に空いた穴、ヌレミちゃん曰くネズミの抜け道だ。
「何か証拠になりそうな物品でもあったのかい、それともトリックを崩す仕組み?
ワタシはもう、皆が犯人でいいんじゃあないかと思考放棄をしかねているんだけど、それもまた犯人の手の内かなァ。君も浸かったらどうだい、余計に頭が茹だるかもしれないがねェ?」
知らない仲ではないだろうと、今度はこちらが背中を流そうとばかりのアドレイドであるが、桜花は大丈夫ですと微笑み返すだけで、次々と穴を覗いている。
「そんならいいけ、どっ!?」
「ギィイエエエエッ!」
(こんにちはー!)
ばっこんと派手な音と共に浴室にダイレクトエントリーしたのはアリスであった。その巨体とパワーを存分に活かして出入り口を破壊したアリスは、「お騒がせします!」と思念波を送るとこちらに背を向けて【アリスの糸】を使用し修復を始める。
正確には改良か。砕いた健在や壁を固めつつ、可動面積を広げて大型の存在も入れるようにしているのだ。
妖怪温泉なんだからこんぐらいしとくべきだよね!
はてもさても戸の改良を終えて湯浴みをと浴槽手前で鎮座するアリス。明らかにサイズミスの感のする風呂桶に、アドレイドはくすりと笑って立ち上がる。
「メイドさんはお忙しいだろうし、ここはワタシが洗ってあげよう」
「ギチチッ!」
(ありがとー!)
自分の風呂桶と合わせて二刀流でお湯を掛け流し、タオルでその【甲殻】を研磨するように汚れを落とすアドレイド。
裸の少女たちが触れ合う様は至福ですね。洗いっこしているようには見えないので表現には注意しましょう。
しっかり磨かれたアリスは再びお礼をアドレイドに述べて、体が冷えてしまったと語る彼女と共に湯船に浸かる。きちんと体を沈めるべく足を器用に折り畳んでいるが、高い火炎耐性を持つ彼女に温泉は効果あるのだろうか。
「! ……やはり、ありましたね……」
『?』
桜花の呟きに二人がそちらへ目を向けると、慌てたように穴から顔を離す桜花の姿があった。
「覗きは良くありませんからね」
「はあ、確かに、そうだねぇ」
「ギチギチッ」
苦笑する彼女に、アドレイドは温泉に蕩けたようにぼんやりと、アリスに至っては思念波すらなく言葉を返した。
ごっきゅごっきゅごっきゅごっきゅ。
実に美味しそうな音をたててコーヒー牛乳の詰まった瓶を傾けていたリリは、ぷはと満足げに吐息する。その隣で鏡写しのように腰に手を当てて瓶をあおいでいたのは惑草・挧々槞(浮萍・f30734)だ。
マドウクシャと呼ばれる彼女は火車と同一視される化け猫の一種だ。それが理由かは分からないが温泉には入っておらず。
でもコーヒー牛乳は美味しいからそりゃ飲むさ!
満足そうに小さな声を漏らし、唇をぺろりと舐め上げて挧々槞はじっとりした目をリリへ向けた。
「男湯に入っていたようだけど、何か手掛かりがあったのかしら?」
「こんな物なら」
「……竹筒……?」
濡れた髪を掻き上げて笑顔のリリに手渡された物に、きょとんとした顔で穴を覗く。
遠眼鏡のようにそれを覗いていた挧々槞へ、それは重りをつけて湯船に沈んでいたのだと語って聞かせた。
挧々槞はその言葉ににやりと笑い、瞳をリリへと移す。
「……ふむ……それ、面白そうね?」
家猫時代の数多の飼い主の趣味により、探偵の真似事の好きな少女、の見た目を持つ挧々槞は受付室に設けられたマッサージチェアーに腰を下ろす。
リリもそれに倣って隣に腰を降ろせば、たちまちマッサージチェアーでバイビングする乙女が二人。
「あああああ、これっ、て、忍者とか、が、使うアレ、かし、ら?」
「あああああ、た、ぶん忍、者とか、が使うア、レ、よ」
声を震わせる二人。忍者のアレで伝わる程に忍者のアレは有名なのだ。水辺に竹筒、それはイコール忍者のアレなのだ。
(被害者である小豆とぎのぎっちょんは、湯から出ようとする様な体勢で力尽きていた。
という事は、恐らく被害者は入口や洗い場側では無く湯船側から襲われたんでしょう)
声を出すとバイビングモードになってしまうので静かに考える挧々槞。ここでやはり怪しいのは同じく浴室に居たぼっさんとイソオだろう。
だがもう一人候補を挙げるならフゥさん、ではなく犬神憑き・イン・ナメッコ星人だ。謎というか幻の七人目の言葉通り、調書を考えれば見逃せない点である。
ふむ、と顎に指を添えるがバイビングしているので上手く添えれない。
素直に指を離してひじ掛けに手を置き、機械の為すがままに解されていく挧々槞とリリ。
「ああああ、と、は他の、みな、さ、んが戻っ、て来た、と、きに話、を聞、きましょう、か」
「ああああ、それ、がいいで、すね、え」
余談であるが、自らは現場などに赴かずに情報だけで推理を進める探偵を安楽椅子探偵と人は呼ぶ。受付室は現場じゃないんだよ!
しかし、極楽に顔の蕩けた彼女らを見れば、ただそれだけで安楽椅子探偵という言葉がぴしりとハマるのではないか。
残る猟兵らが受付室に戻ってくるまで、幸せそうな二人の声を聴く容疑者七名は暇そうにババ抜きに興じるのだった。
…………、あれ、七名?
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
逢坂・宵
ザッフィーロ(f06826)と
こういったものはとてもわくわくしますね
ええ、ザッフィーロ
楽しむべきところは楽しみ、お仕事もきっちりこなしましょう
まずは身体を洗いましょう
かれからの声にはお願いしますと笑って応え
背中を流してもらえれば、僕もかれの背を流しましょう
そう言えば、船幽霊のフゥさん
小豆とぎさんの桶を、どこに投げて何に当たったのでしょうね?
桶が当たったことで温泉の湯船に血が広がったようにも聞こえます、と問うてみて
「情報収集」を活用して相手に効果的な質問のやり方を確かめながら
「読心術」を使い相手の挙動と内心を探りつつ
質問に質問で返されたなら「言いくるめ」を使ってしっかり答えていただきましょう
ザッフィーロ・アドラツィオーネ
宵f02925と
殺人事件か…
まあ、とにかく温泉にて情報収集でもする事にするか…と
べ、別になんだ。温泉に浮かれては居るが確りと捜査もする故に、な?
宵と並び身を清めるも、泡のついた背が目に入れば
よければ背流しするがと声を投げ手を伸ばそう
…思わず見惚れたくなってしまうが目を瞑り雑念は散らそう
宵の声にはならばお願い出来るかと表情を緩め背を向ける
…牛鬼も背流しをしていたのだったか
背を向けて居る間は無防備だからな。話を聞きたいが…視界が見えぬふりをしていた海坊主も気になるな
…まあ、俺の宵に対する心持ちと同じだった…等はないだろうが。…ないよな?
そう当日の様子を『情報収集』にて情報を集められればとそう思う
黒木・摩那
温泉はいいですね。
でも、眼鏡にとっては湿気は大敵。
曇り止めを使っていても、やっぱり曇るんです。
かと言って、コンタクトは目に合わないんですよね。
いいですね、コンタクトできる人は>ぼっさん
で、犯人。
ずばり犬神憑きが怪しいんですよね。
いくら豆富小僧だって、捜査がザル過ぎでしょう。
事件も連続しているそうだし、そのいずれにも関与できそうなのは、警察である犬神憑きさんだけ。
白状するなら今ですよ。
今なら栄養に配慮した三食付き、かつ常時見守りで防犯もばっちりなワンルームがあなたのためだけに用意できます。しかも家賃無料で無制限にいつまでもいられるんですよ。
さぁ、白状しちゃいましょうよ【言いくるめ】。
●そして考察は始まって。
桜花が浴室を覗く少し前。
リリが出た後に男湯の脱衣所に現れたのは当然女子、なわきゃないんですよね。
「こういったものはとてもわくわくしますね」
逢坂・宵(天廻アストロラーベ・f02925)は脱いだ衣服をロッカーに入れて、連れ立つザッフィーロ・アドラツィオーネ(赦しの指輪・f06826)へ笑みを見せた。ザッフィーロはその黒髪に隠れたうなじの、目に焼き付くような白い肌からそれとなく目をそらした。
もちろん宵の言葉が殺人事件に対するものではなく、不謹慎だと怒った訳ではない。
「……殺人事件か……まあ現場は掃除されたとは言え温泉内、情報収集するにはもってこいだ」
自分も衣服をロッカーに収めながら、答えたザッフィーロはそっぽを向いたまま頬を掻く。
「べ、別になんだ。温泉に浮かれてはいるがしっかりと捜査もする故に、な?」
「ええ、ザッフィーロ。楽しむべきところは楽しみ、お仕事もきっちりこなしましょう」
口調とは裏腹の素直な態度に宵が思わず笑えば、ザッフィーロはその肌の色にも関わらず気づいてしまうほど赤面して俯いてしまった。
準備を終えて向かった男湯は、リリが入った時と特に変わりなく、湯気も視界の邪魔をするほどではない。犯行時の報告にあったような異常は見受けられなかった。
とは言え、まずは温泉だ。楽しむところはしっかり楽しむと、早速並んで湯を流す二人。
「すみません、シャンプーを取って貰っていいですか?」
「ああ」
「ありがとうございます」
シャンプーボトルを隣へと手渡して湯で髪を流す。顔の雫を払ってふと向けた視線の先に、こちらも濡れて、流れた泡を纏う宵の背中。
「宵。よければ、……背流しするが……?」
「お願いします」
笑顔で答えて向けられた生白い背中、その無造作な動きに全幅の信頼が感じられる。
思わず見惚れてしまいそうであったザッフィーロは目を瞑り、雑念を散らすべく首を振るう。
肌を痛めないようにしつつしっかりと垢を落とせば、今度はこちらがと宵が振り替える。ならばと背を預けたザッフィーロは、先の宵と同じく笑っていたか。
(…………、牛鬼も背流しをしていたのだったか)
背中を洗ってもらっていると、三助のウッシーが脳裏に浮かぶ。彼自身、自分の怪しさを理解していた様子で嘘を吐いていたが。
(背を向けて居る間は無防備だからな。……話を聞きたいが……、そういえば、視界が見えぬ振りをしていた海坊主もいたか)
こちらは理由が判別していないが、まさか連れ立つ宵に対する自分の心持ちと同じではあるまいなと鼻白むザッフィーロ。
(いや、待てよ?)
そもそもだ、見えない振りをする必要があるのだろうか。
ザッフィーロと同じような風があるなら見ないようにするだろう。ましてや男同士の入浴、見えない振りをするのはまた違うのではないか。
見えない振りをするということは、見る為ではないのか。
(いや、まさかな。…………、まさかな?)
自分の考えを否定しようにも拭い切れぬ疑惑に思わず険しい顔をするその裏で、宵もまた物思いに耽る。
彼が考えていたのは船幽霊のフゥさんだ。
調書の内容を考えれば小豆とぎのぎっちょんから奪った、もとい貰った桶が当たった事で、温泉の湯船に血が広がったようにも思える。
(フゥさんに直接、聞いてみた方がいいかも知れませんね)
「……すまん、宵、痛い……」
「あっ、すみません!」
考え事をしていたせいで一ヶ所を磨き過ぎてしまい、肌が赤くなっている。
謝罪して痛めた肌を労るが、このくらいは何ともないと肩越しに振り替える。
「さ、温泉に入って事件解決に向かうとしよう」
「ええ」
「この事件、上手く解決するのかしら?」
隣に座るウッシーからトランプカードを引いてヌレミちゃん。
「どうだモー、猟兵の皆さんを信じるしかないモー」
こちらはフゥさんから引いたスペードの二と、ジャックの二を合わせて場に捨てる。
君は爪一本しかないような手をしてるけどどういう理屈でガード持ってんの?
「ま、ま、どっちにしたって待つしかないさ。皆、今は風呂場を調べてるんだろ?」
犬神憑きの豆腐小僧からカードを引いたフゥさんのにやけ面が僅かに歪む。こりゃ当たりですねぇ!
「しかし本官、居眠りしていたとは一生の不覚であります! おーいおいおい!」
こいつ笑いを誤魔化す為に泣き真似してるぞ。
「居眠りっていうか、白目向いて誰かに襲われてるって感じだったゼ!」
それ以上言うなとヌレミちゃんの圧がイソオにのし掛かる。
「まあ、温泉ですから逆上せもしますよ」
風呂も入ってないのに逆上せて堪るか。ぼっさんは宥めるような笑みで適当なことを言い、隣からカードを一枚引き。
がっちりと指先の力で止められ抜けなかった。
「ん、あれ?」
「温泉はいいですね」
戸惑うぼっさんを前に笑みを見せたのは、トランプカードをがっちりと指先だけで抜けないよう押さえる黒木・摩那(冥界の迷い子・f06233)の姿。
「でも、眼鏡にとっては湿気は大敵」
「は、はあ」
やんなるね、といったご様子だが笑顔、笑顔である。気の抜けた声で同意とも取れない返事をしたぼっさんに、摩那は顔色を変えずに言葉を続ける。
「曇り止めを使っていても、やっぱり曇るんです」
無論、その間も指先の力は緩めないのでぼっさんはカードを抜こうと無駄な足掻きを続けていた。
「かと言って、コンタクトは目に合わないんですよね」
「んっ、ん~? 抜けなっ、い、んですけど!?」
「いいですね、コンタクトできる人は」
ぎっくーんっ!
明らかにこちらへ向けられた言葉に震撼するぼっさん。震える手を摩那の手札から下げると、摩那は眼鏡をかけ直して、やはり笑顔のまま自らの手札をぼっさんに押し付けた。
「忘れ物ですよ、ぼっさん」
「あっ、ひゃひゃひゃ、ひゃいっ」
次は摩那がトランプを引く番であったが、ここで手札を纏めて脱衣所の戸へ視線を向ける。
「そろそろ皆さん、戻って来るようですね」
「あーっ、そう。じゃあ皆、早く猟兵さんたちを待とうぜ~!」
暇潰しは終わりだと立ち上がれば、フゥさんも続き皆さんからトランプを回収していく。ちょっとジョーカー!
マッサージチェアーで蕩けていたリリも長い耳をぴくりと揺らし、動きを察したのか名残惜しげに椅子から立ち上がる。
「ほら、挧々槞ちゃん、お仕事開始よ」
「──はっ……?」
いつの間にか寝てしまっていた挧々槞はリリに起こされて目蓋を擦る。もうマッサージチェアーも動きを止めていて、欠伸を噛み殺しながら脱衣所から出てきた三人娘と男らを確認する。
「…………、それでは始めましょうか。犯人探しを!」
『おーっ!!』
ぽっかぽかに温まった猟兵らと一緒に容疑者たちも両手を突き上げ歓声を上げる。君たち自分の立場分かってるのか?
かくして、温泉宿連続湯煙殺妖事件の犯人決め、もとい犯人探しが始まるのであった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
御園・桜花
女湯から鼠穴探しつつ会話に参加
「最初は、鼠穴からの濡れ女の覗きでしょう。それに気付いて叫んだ小豆とぎ、隠れようとして周囲に霧を撒き散らした濡れ女、船幽霊が驚いて投げた桶が小豆とぎを昏倒させた所からこの話は始まります。…今が、殺り時では?と犯人に思わせてしまったのです」
「結論だけ言えば、今回は犬神の憑いた牛鬼ではないかと思います。引き裂かれていて、その時の説明が何も出来ないのは、その時の記憶が何もないからでしょう?犯人にされた実行者にやった記憶がなく血塗れになっていたら、何事も口をつぐむでしょうし。すぐ次の犯行をするためにも犯行を隠すためにも、現場を片付ける必要性は、真犯人にしかないですもの」
●容疑者への尋問を開始する!
揃いし猟兵、総勢八名のずらりと並ぶ姿を前に──、何か一人だけ目を瞑ってるな?
ともかく彼らを前に緊張した面持ちの犯人候補六名。容疑者じゃないよ、犯人候補だよ。
犯人確保の前にまずは本人たちの口から直接情報を聞いておきたいというのが猟兵たちの考えである。一番最初にこの温泉宿へやって来たリリが目につけたのは磯男のイソオである。
(オカマ口調で何だか、まだまだ他にも色々と知ってそうだしね)
と、言う訳で。
「入浴ターイム!」
「えっ、いきなり何なんだゼ!?」
「待つであります! 男女の混浴など本官の目が黒い内っへぐぅううう!」
イソオの手を掴んで男湯へと走り出したリリを捕えようとする犬神小僧、その背後から即座にヌレミちゃんが送襟絞を仕掛けた。これは苦しいですよ犬神憑き選手。
先の裸絞めとは違い、しばらくもがいた後、力なく垂れ落ちた腕にヌレミちゃんは豆腐小僧の体を開放し、良い仕事をしたと額の汗を拭う。もうこの人が犯人で良くない?
イソオがリリに連れ去られるのを見送り、挧々槞の視線が次に向くのはぼっさん。じっとりとした金の瞳で捉えた海坊主に声をかけようと口を開けば、その前に言葉を投げたのはザッフィーロだった。
「フゥさん、ぼっさん、ウッシー。事件発生時の話をまた聞かせてくれないか」
挧々槞は開いた口を閉じて腕を組む。
名前を呼ばれた三名は互いの顔を見ながら前に進み、とりあえずと先に名前を呼ばれたフゥさんが言葉を紡ぐ。
「聞かせるも何も調書見たんだろ? ……まあ……体を洗ってる最中に湯煙が酷くなって。
それで、湯船に浸かっていたぎっちょんの方角から声が聞こえたんだ。今思い返しても、やっぱりあれは悲鳴だったと思うぜ。
それを聞いてナメッコ星人はぎっちょんの所に向かって、俺も思わず風呂桶を、じゃねえぎっちょんの桶を投げたんだ」
いやー、会心の軌道だったぜ。
その光景を思い出して頷くフゥさん。話の続きによればその後、湯船に血が広がり、彼らは浴室から脱出したと言う。
「その桶ですが、ぎっちょんさんに向けて投げたんですよね?」
宵の言葉に、何故そんなことを聞くのかとばかりに目を丸くする。
「ああ、そうだけど?」
「その桶が頭などに当たるかして出血した可能性と言うのは?」
「さあ? …………っ! お、俺のせいで死んだって言うのか!?」
質問の意図に気付いたようで慌てて否定するフゥさん。勿論、死因は切り裂かれた事にあるはずだが。
「宵さんはあなたが犯人と言う訳でなく、きっかけになったのではないかと、そう考えているんじゃないでしょうか」
フゥさんの懸念に答えたのは桜花だった。
「……きっ……かけ……?」
「ええ、誤解させてしまい申し訳ありません。桜花さんの仰る通りです。
まだ犯人の影も形も捉えていない状況ですから、色々な想定が必要になるんです」
向けられた視線に頭を下げる宵。色々な想定の中にはストレートにフゥさんが犯人というものもあるのだが、上手く言いくるめられたのか溜飲を下げたご様子。チョロいぜ。
「桶を投げつけた時、何か他になかったか?」
ザッフィーロが言葉を重ねる。
桶を投げつけた時。
フゥさんは首を捻った。あの瞬間、何か違和感があったのだと。
「桶を投げて、感じた違和感。そうだ、あの時、俺は思ったんだ。音だ!
桶が壁に当たる甲高い音がしなかったんだ!」
それってぎっちょんに直撃したからじゃね?
やっぱりこいつ余計な事しでかしたんじゃなかろうかという空気が場に渦巻く中、宵は彼の言葉に嘘と思えるものがないと判断し、ザッフィーロと視線を交わす。
勿論それはフゥさん本人がそう思っているだけ、という事も有り得るが状況に誤差が生じていないのだから、犯人の可能性は低い。ザッフィーロはひっそりと溜め息を吐き、続けてぼっさんへ目を向ける。
無言で向けられたジェスチャーに、ぼっさんはおどおどしながら一歩前。フゥさんは一歩後ろだ、下がれ馬鹿野郎。
「そ、そのぅ、私は様子がよく分からなくてですね、はいぃ」
『じーっ』
「ひえっ」
あらゆる方向から向けられる疑いの目に、堪らず萎縮するぼっさん。しゃーないね。
ザッフィーロは彼に厳しい目を向けて腕を組む。
「ぼっさんには俺も気になっている事がある。というかまあ、皆も気にしている所だろうが、その見えない振りを何の為にしているのか」
「みっみみっ、みっ、見えない振りじゃないですけど!?」
「そういうのいいですから」
肩を思わず眉間を押さえて摩那の言葉。どうやらぼっさんは素直に喋る気はないらしい。
ここで踏み出したのはアドレイドだった。先程まで目を瞑っていた彼女であるが、今は開いた視線に自信に満ち溢れた笑みをぼっさんへ向けている。
(ワタシは湯船に浸かりながら、ずっと考えていたのだ。犯人を探す必要があるのか、と!)
法治国家では異端な考えであるが、カクリヨファンタズムではごく自然な考えと言わざるを得まい。多分。
そんな彼女の湯船で茹だる脳に唐突に閃いたのは、逆に考えるんだという天啓。
そう、犯人が分からないなら、探す必要がないなら、でっち上げてもいいさと。法治国家崩壊の瞬間である。
「ワタシは良心と冷静さを捨てた女だよ、キミ」
「ギチチッ、ギィイエエエッ!」
(良心はともかく冷静さを捨てる必要はないと思うのー)
「フフフ、耳に痛い言葉は聞き逃す、それが良心を捨てた強さだ!」
そうかなぁ。
アドレイドの言葉に首を傾げた一行であるが、一顧だにせぬ彼女はぼっさんの首にがっちりと腕を回して引き寄せる。ヘッドロックに近いですね、痛そう。
身元に唇を寄せて、囁く言葉はひっそりと。本来なら健康な男子として緊張せざるを得ない状況に羨ましいことこの上ないよ!
「さあてキミを犯人に仕立て上げてやろうか? そう、最初に目があったキミにしてやろうか!」
「っ、えーっ!? 何でそんな事を考えつくんです!?」
「良心と冷静さを捨てたからさ!」
「せめて冷静さは捨てないで欲しかった!」
やっぱり羨ましくないや。
心底の本音を返すぼっさんへ、その体と自分の体を利用し周囲の者に見えないよう突き出すのは【M870MCS】。
十八インチに及ぶ銃身を持つ、ポンプアクション式散弾銃。良い子の皆はマネしちゃ駄目だぞ。
ぼっさんはと言えば、鼻先へ突きつけられたそれが銃だと認識して動きを止めた。
銃口を鼻先に突きつけて、実に悪い笑みを浮かべるアドレイド。良心を捨てただけはありますよ。
「洗いざらい吐けば命は助けてやる。そして……キミがやってきた行いの隠蔽を……手伝おうじゃあないか。
そう、今なら知っているのは……ワタシだけだ……!」
「うっ」
分かりやすく命を天秤に脅しをかける。そこで更に対象へ利点を見せることで要求を飲ませ易くする。
実に効率的な脅迫だ。具体的に言うと映画でよく見る悪役の台詞ですね!
「…………、わ、私は、……その……!」
「みなさーん、大変よーっ!」
脱衣所の戸を勢い良く開き、現れたのは再び水着姿となったリリと、彼女の衣服を身に纏うもう一人の謎の女性。
いや、状況的に一人しかいない。
「イソオちゃん改め、イソメちゃんでーす!」
『…………、えっ?』
皆の視線はイソメちゃんではなく、ぼっさんに集中した。
●犯人逮捕! なお殺人犯ではない模様。
話は遡り男湯の脱衣所にて。
手早く水着姿になったリリに対してイソオの脱衣は遅く。男なら仕方ないよね、と言いたい所だが彼は全くリリの容姿に興味がないようだった。
「うーん?」
自分の体を見せないように服を脱ぐイソオに、怪しげにその姿を見つめれば。
男とは思えぬ体の丸みに気づき、思わず手を叩く。
「イソオちゃん、あなたイソメちゃんだったのね!」
「!! な、なんのことだゼ! アタ、いやオレはイソメちゃんなんだゼ!」
「合ってるじゃない?」
「あーっ、しまったぁーっ!」
崩れ落ちるイソメちゃんに、まあまあと肩を叩く。
せっかく浴室の前にいるのだ、落ち着かせる為にも蹲ったイソメちゃんを引きずり男湯に投げ込むリリ。
「ぶはっ、いきなり何すんの!?」
「まあまあまあまあ」
怒り顔で立ち上がるイソメちゃんの肩を抱き、共に湯船に浸かる。
彼女の怒りが続いたのは僅かな間、そんなものは温泉の魔力の前には無意味なのだ。
「はへぇ~。いい湯だぁ~」
「うふふ、温泉は素晴らしいものよね。愛なのよね」
温泉とは愛なのだ。異論は認めない。
さて。
「色々と聞かせて欲しいのよね、イソメちゃん。被害者のぎっちょんや三助のウッシー、そして女将のヌレミちゃんについて」
「ほへ? ぎっちょんわぁ、アタシのお婿さんなのー。前世の頃から約束されてるのよ~」
妖怪の前世ってなんやねん。
「そ、そう。どうして男湯に? イソオちゃんに変装してたのかしら?」
「それわぁ、あのクソッタレナメッコ星人の策略でぇ、アタシにぃ、ぎっちょん接近禁止命令が下されたからなのぉ。
だからぁ、イソオになってぇ、接近したのぉ」
「そうなのね。やっぱり、愛してるのねぎっちょんちゃんのことを」
「そうなの~」
うんうんとイソメちゃんの言葉をヨイショするリリ。ナイトスターリリーを経営する彼女の手腕と言うべきか。明らかにヤベー思考の相手だからとは言え、当然の如くヤベーと言えばトラブルに発展する。
そこを上手く流しつつ最低限の言葉で相手の心を一本釣り、これこそ夜の蝶の実力である。
なおナイトスターリリーとはアマリリスの別名の模様。
「よくこの温泉に来るのかしら。ウッシーちゃんやヌレミちゃんはどう?」
「今日が初めてよぉ。ウッシーわぁ、浴室をちょこまかしてて視界の邪魔だったわぁ。興味ないから何してるか分からないけどぉ、三助らしいから三助のお仕事してるんじゃなぁい?
ヌレミちゃんわぁ、受付にしかいないからぁ、分からないわぁ」
「なるほどねー。…………? ヌレミちゃん、受付にしかいなかったのかしら? 男湯の脱衣所から出てきたりしなかったの?」
「それは……なかったわ、ね~……」
リリの言葉にぼんやりとした様子で頷く。
やはりウッシーが浴室に入れないというのは嘘のようだが、ヌレミちゃんがずっと受付にしかいないというのは大きな疑問となる。
ヌレミちゃんの視点でしかないので見逃したとも取れるのだが、もしこれが事実であった場合、ヌレミちゃんはどのタイミングで男湯の様子を知ったのか。
(イソメちゃんが見逃すとすれば、事件発生時の男湯から避難した時のはず。慌ただしいその時点じゃ見逃すのもおかしくないわ。
でも、それだとその後のヌレミちゃんが男湯を確認して犬神警察署に連絡する、この流れでぎっちょんの死体がある男湯から出てくるヌレミちゃんを目撃しないはずがない)
と、すれば。
ヌレミちゃんが出てきたのはイソメちゃんたちが脱出したタイミングと同じなのではないか。
「そうそう、男湯で忍者の使うアレを拾ったんだけど、心当たりってないかしら?」
「……特に……な……いわ……」
「あら、ごめんなさいね長湯させちゃって」
浴槽で逆上せた様子のイソメちゃんを抱き起こし、湯船から出るリリ。その長い特徴的な耳でイソメちゃんの心音やら声色の変化やらにも気を遣っていたのだが、特に偽っている様子は見受けられなかった。
「まあ、一先ずお湯から上がって休みましょうか」
こうして脱衣所で一休みを入れ、胸元はともかく背格好は同じぐらいのイソメちゃんへせっかくだからと自らの服を着させた訳なのだが。
何故か皆の視線を独り占めしたのはイソメちゃんではなくぼっさんだった。
つまりイソメちゃんは恥女でぼっさんは痴漢ってことじゃん。
「ほーぅ。なるほど? 見えない振りはこの為か」
ザッフィーロの冷たい視線が背中からも伝わり、ぼっさんの顔がみるみると青ざめていく。
助けて。
表情だけで救いを求めるぼっさんに、銃を突きつけていた女は小さく笑う。
「勿論だとも、ワタシはキミの味方だ。キミを助けてやれるのはワタシだけさ。
……楽になりたいだろう……? 助けてやるとも」
銃を納めたアドレイド、ヘッドロックを解除すると。
「隙ありぃ!」
「ぎゃーっ! 目が刺激マックスーッ!」
一瞬にしてぼっさんの目に指を突っ込んだアドレイド、その指先には二枚のコンタクトレンズが!
やったねぼっさん、楽になれるよ!
「見ろーっ、そして確認しろ! これがぼっさんの目ん玉にぴったりとハマっていたコンタクトレンズだ~!」
「痴漢確定ーっ!」
「現行犯確保~!」
アドレイドの掲げたレンズに摩那も声を張り上げる。
無情にもここでザッフィーロに活を入れられ目覚めた犬神小僧、しっかりとぼっさんを引き倒してその手に手錠がはめられた。
悪は滅びたのだ!
「じゃー僕らは帰らせてもらいますモー」
「ガチガチガチ! ギエェェェ! ギチギチギチ!」
(まだよー、ウッシーさんは絶対に帰さないわー!
みんな~あつまって~)
(はーい!)
ユーベルコード、【貪食する群れ】。それはひとつの意志の元に集団行動する群れの能力を強化するもの。
アリスの呼び掛けを受けて現れたのはアリスそっくりの妹たち。そそくさと出口を目指すウッシーへ、素早く回り込んだアリス妹たちが絶対に逃がさないという鋼の意志を見せつける。
「アリスさん、まさか犯人が分かったんですか?」
桜花の言葉に自信たっぷり頷くアリス。そう、彼女には見えていたのだ、この事件の犯人が。
「モー! この流れ絶対に僕の事だモーッ!」
よく分かってんじゃん。ウッシーの叫びは虚しく響き。
●さあ、皆さんお待ちかね!
「少しお待ち下さい!」
「モー、女将さん助けてくれモー!」
待ったをかけたのは思い詰めた顔色のヌレミちゃんであった。彼女はじっくりとアリスの容姿をあらゆる角度から見つめ、「よし」と頷き受付のカウンターから小さな玩具のピアノを引っ張り出した。
「ヌレミちゃん、渾身の演奏をさせて頂きます!」
「こいつ何を言ってんだモー?」
玩具のピアノながらもきちんと流れる音楽は目を見張る所があるが、どことなく不穏なこの曲調はアリスのイメージにぴったりな、否、め名探偵アリスの推理紹介にぴったりな雰囲気の曲調だったのだ。
ヌレミちゃんがドヤ顔でアリスにウィンクすると、バトンを受け取ったようにアリスは重装甲をも紙屑の如く切り裂ける【前肢】をフレンドリーに振る。
そして。
「ギチチッ、ギチギチ、ギィーギギギ!」
(……えーと犯人はー……三助の牛鬼ウッシーさんねー!)
ですよねー。
ミステリアスなBGMに合わせてちょこちょこと歩く名探偵アリス。
「ギチチチッ、ギチギチ!」
(推理の根拠は、被害者は全身をずたずたに引き裂かれていた事によることよー。その大きな爪で引き裂いたに違いないわー。
あと、ウッシーさんが一番大きいから犯人だったら嬉しいという多数の意見が決め手ねー)
多数の意見?
出入口に固まるアリス妹たちは、わくわくしながらそれぞれ取り皿を用意している。
これ推理じゃなくて要望っすね。
「ギィイィエエエッ! ガチガチガチ!」
(ふっふっふ。ウッシーさん、動機は分からないけどこの動かぬ状況証拠を前にどー言い訳するのかなー?
早く素直に白状してオブリビオンを齧らせるのよー)
食欲全振りである。勿論、そんな理由で納得するはずがないウッシーさん。
「待ってくれモー、それは状況証拠に過ぎないモー! 動機もないのに僕がぎっちょんを殺すはずないモー!
それにこの体だと僕は室内に入れないモー!」
「ギチギチ!」
(もう入れるように男湯も改装したわー)
「意味がわからないモー!!」
実演するようにアリス妹がウッシーも入れるサイズとなった戸をパカパカしていると頭を抱えて蹲るウッシー。
それでなくともフゥさんの背中流しやイソメちゃんの目撃証言があるのだから、そのような言い分は通用しない。
しかしウッシーの言葉通り、彼には動機がないのだ。でもそれって必要かなぁ?
「皆さん、私からもよろしいですか?」
「どうぞ」
ここで、すと手を挙げた桜花へ宵は答えた。桜花は小さく会釈してウッシーの隣へ。
「この事件、実は難しいようでとても単純なものだと思うのです。
皆様の一時を、私に下さい」
歌うような声色。ユーベルコード【魂の歌劇】を始動させることで、自らの推理をきちんと全員へ届けるのだ。
桜花の登場に合わせて曲調を入れ替えるヌレミちゃん。気が利くぅ!
「まず最初は、鼠穴からの濡れ女──、そう、女将のヌレミちゃんの覗きでしょう
女湯から覗ける穴がありました」
おーい音楽止まったぞヌレミちゃーん。
「被害者である小豆とぎ、ぎっちょんさんはそれに気付いて叫び、ヌレミちゃんは誤魔化す為に男湯へ霧を撒き散らしたのではないでしょうか。
そしてぎっちょんさんの叫びに船幽霊が驚き投げた桶、こちらがぎっちょんさんの後頭部へ上手く命中してしまい、彼は昏倒してしまう」
そこから、この事件は始まったのだ。
桜花は全員の顔をひとつずつ見つめていく。
「……今が……、殺り時では? と犯人に思わせてしまったのです」
「つまり今回の事件は衝動的なもので、計画的な犯行ではなかったと?」
ザッフィーロの問いに、桜花は首を横に振る。
元々事を起こす気でその場にいた犯人が、タイミングを得たのだと。
疑いが離れたと感じたのか、いつの間にかヌレミちゃんの音楽が復活する中、桜花が目を向けたのは、なんとぼっさんを確保していた犬神憑きの豆腐小僧だった。
「結論だけ言えば、今回の事件は犬神の憑いたウッシーさんではないかと思います。
被害者は引き裂かれていて凶器はない、そして現場にいたはずのウッシーさんに事件発生時の説明が何も出来ないのは、その時の記憶が何もないからでしょう?」
「…………」
黙し、静かに桜花を見つめる犬神小僧と、アリスたちににじり寄られるウッシー。ウッシーさん周りも確認したほうがいいっすよ。
「犯人にされた実行者は、犬神憑きで罪を犯した記憶がなくとも血塗れになっていたら、何事も口をつぐむでしょうし。
そして、すぐ次の犯行をするためにも犯行を隠すためにも、現場を片付ける必要性は、真犯人にしかないですもの」
これらの特徴が符合する犯人、つまりそれは犬神憑き・イン・ウッシーしかいないという訳だ。
桜花の大胆かつ合理的な推理に対して、摩那も同意する。
「私も、ずばり犬神憑きが怪しいと考えていたんですよね。いくら豆腐小僧だって、捜査がザル過ぎでしょう」
豆腐小僧かどうかは関係ないじゃないか!
という突っ込みはさておき、摩那は根拠として事件の連続性を挙げた。桜花も着目していた点であるが過去の事件にも関与できるのはお隣の警察署に勤める犬神憑きだけだと踏んだのだ。
「白状するなら今ですよ。今なら栄養に配慮した三食付き、かつ常時見守りで防犯もばっちりなワンルームがあなたのためだけに用意できます。
しかも家賃無料で無制限にいつまでもいられるんですよ」
さぁ、白状しちゃいましょうよ。
犬神小僧に畳み掛ける摩那。ここで困ったのはアリスたちだ。桜花と摩那、二人の推理通りとなれば一番大きなウッシーさんから獲物が一番小さな豆腐小僧に変わってしまうのだ。
「ギヂギヂギヂッ!」
(あんな体じゃー皆で分けても全然足りないわー)
(どーしましょー)
(…………。ウッシーさんは共犯だから一緒に食べればいいんじゃない?)
(賛成ー!)
(異義なし!)
話は上手くまとまったようだ。ウッシーの背に虫酸ダッシュ。
「待つであります! 本官はストーカー対策が足りてないということで、確かに被害者のぎっちょんとはトラブルがあったであります!
ただそれだけで犯人と呼ぶには、弱いであります! それに連続で事件に関わっているのはウッシーやヌレミちゃんも同じこと。
あと即日撤収は都条例で決まっているのであります! 本官は無実でありますーっ!」
ふざけんなよ都知事。
事件現場即時撤収こそ犬神憑きの嘘に聞こえるが、他の容疑者が反論しない以上は事実なのだろう。
だが。
「そもそもだが、今回の事件は骸魂、つまりオブリビオンが絡むものだ」
「なので犬神憑きさんが本当に動機があるかないか、というのは関係がなくなってくるんですよね」
ザッフィーロと宵の言葉。ここがこの連続殺妖事件の難しい所と言えるだろう。
結局は乗り移られた者の感情に関係なくなってしまうのだ。影響はあるかも知れないが。
ここで挧々槞がこほんと小さく咳払い。
「私も犬神憑きが怪しいと考えてはいるのだけど。骸魂に憑かれていたのなら全ての罪は骸魂にあるんじゃない?
少々の記憶違いがあったり、仮に殺妖自体に関与していたとしても、それは精神汚染の様に何かの影響を受けていたから──、と。考えられなくは無いわよね?」
そう、確実性が無くなる故に。彼らの証言に対する揺らぎもまた、自らの疑いを晴らす為か、それとも記憶の空白を消す為なのか分からなくなってしまうのだ。
動機も証言も不確実なものへと変えてしまうこの一件こそ、骸魂による事件が如何に難しいか証明していると言える。
だからって解決諦めて事件現場を即時解放する都条例はおかしいと思います。
「まあ、疚しい事があったにせよ、それは全部骸魂のせい。今ならまだ『そういう事に出来る』。知っている事は何でも正直に話した方が良いと思うわ」
それは骸魂を炙り出す為の甘言。だがこの状況では確実な一手となるだろう。
「誰も何も話さないなら適当に海坊主のぼっさん氏が犯人という事にしましょうか、犯罪者確定ですし」
「えっ。えっ!? いやにしてもその変化球はおかしい!!」
ワッパかけられた妖怪がなんか言ってますよ。
しかしここで動いたのはウッシーであった。
「モー。確カニ浴室ノ記憶ガナイモー。絶対ナンカ操ラレテタモー」
「嘘臭ッ!?」
明らかに嘘っぽい発言のウッシー。凶器という証拠に最有力な自分の爪がある以上、骸魂の関与を疑わせる事で自らの潔白を証明しようというのか。
「モー、犬神憑キサンモドラマデショック受ケテタラシイモー。
キットソノ間ノ記憶ガナイハズモー」
「へっ?」
違うわ、全部他妖怪のせいにするつもりだわ。
猟兵たちの視線を受けて、遂に犬神小僧は膝をついた。
「……た、確かにドロドロドラマの後……ショックを受けて横になってからの記憶があやふや……ほ、本官は……本官が……!?」
見事に皆さんの話術にはまってますねぇ!
受け入れられない事実に直面したが如く震える豆腐小僧の体に、挧々槞は近づきその肩へと手を置いた。
「犬神憑き、この状況でハッキリしたわね?
私が思うに──、犯人は、あなたよ」
「…………!
ほ、本官が……やりました……っ!」
け、け、決着ぅーッ!
挧々槞のユーベルコード、【それならキミがやっていた(オール・ユア・フォールト)】。それは披露した推理の正否如何に関わらず、それを聞いた対象に信じ込ませるというもの。
つまり、こういう状況でのパワープレイに凄まじく、非常に有効な手段なのだ。
「大丈夫ですか。さあ、掴まって下さい」
「……うっ、ぐす……すみませんでありますぅ……」
崩れ落ちた犬神小僧を宵が立たせてやれば、彼から受け取った手錠をザッフィーロがかけた。更にそれを痴漢ぼっさんの手錠と手錠で繋げ、引き立たせた。
「お隣が警察署で助かるな」
「そうですね」
ザッフィーロの言葉に摩那も頷き、振り向いた先でさめざめと泣くイソメちゃんを宥めるリリを見つめた。
「ううっ。犯人が捕まった所で、ぎっちょんは……ぎっちょんはぁ……!」
「大丈夫よ、私たち猟兵がついてるわ。最初は辛いかも知れないけど、何とかなるわよ♪」
「リリさぁん!」
向日葵のような笑みを見せる水着リリに縋りつくイソメちゃん。何気に始動したユーベルコードが彼女の心を前向きなものにさせているのだが、それに気付いた摩那は安堵の溜め息を見せた。
だってストーカーだもんね、思い詰められて別の事件を起こした堪ったものではない。
「モー! 僕は関係ないモー!」
(待つのよー)
(噛らせるのー)
どたどたと逃げ回るウッシーを追いかけ回すアリスたち。まあウッシーはどう考えても下衆だから噛られていいと思う。
唯一推定無罪を勝ち取ったフゥさんとしみったれた曲を流すヌレミちゃん。
「とりあえず、もう帰っていいか?」
「大丈夫ですよ。傷害事件が適用されないようにお祈り致しますね」
「え、もう当たったの確定なの?」
桜花の言葉に肩を落とすフゥさん。
だが、これで一件落着なのだ。温泉宿連続湯煙殺妖事件は猟兵の力によって解決し、カクリヨファンタズムは平和を取り戻した。
「これは、必要なかったわね」
ふ、と小さく笑い挧々槞は忍者のアレをポイッとゴミ箱に入れる。
世界は残酷だ。骸魂の因果関係非ずとも、だがだからこそ、この世界に住まう妖怪たちは精一杯の日々を生きるのだ。
「──ってアホかああぁぁぁっ!! 終わらせるなァァッ!!」
平和に向かった温泉宿に、落雷のような怒号が響き渡った。
終わらせてくれよ!
大成功
🔵🔵🔵
第2章 ボス戦
『剣鬼『彼岸花のおゆう』』
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POW : 悪鬼剣『彼岸花』
【血を滴らせた大太刀『三途丸』】が命中した対象を切断する。
SPD : 悪童の爪
【鬼としての力を解放した左手】で攻撃する。また、攻撃が命中した敵の【血の臭いと味】を覚え、同じ敵に攻撃する際の命中力と威力を増強する。
WIZ : 鬼神妖術『羅生門』
レベルm半径内の敵全てを、幾何学模様を描き複雑に飛翔する、レベル×10本の【血で作られた紅の斬馬刀】で包囲攻撃する。
イラスト:tel
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「ガイ・レックウ」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●湯煙萌えて、華開くは艶やかなる剣の鬼。
空を舞う玩具のピアノが壁にぶつかり悲鳴を上げた。
頑固親父のちゃぶ台返しよりもド派手にぶっ飛んだピアノは可哀想であるが、きっと付喪神か何かが直してくれるであろう。
犯人であり推定オブリビオンの犬神憑き豆腐小僧が連行される中、唐突に怒り出したヌレミちゃん。女将さんがお客さんの前で怒るんじゃないぞ。
「貴様ら、本当にこれでこの事件が終わったと思っているのか。骸魂を捕えたと、本当に考えているのか!」
青筋を浮かべて問うヌレミちゃんに対し猟兵たちは顔を見合わせると、「でも実際捕まえてるし」とばかりにしょんぼりしている犬神小僧に目を向けた。
だから違うと言うのだ。地団駄を踏むヌレミちゃんは荒い呼気を落ち着かせて、怒りからか頬を引きつらせながらも笑みを見せた。無理すんなって。
「いいだろう、教えてやる。……事の顛末を……!」
それは事件の起こる前。
「よくある忍者が水面に潜むのに使うアレを持った私はいつものように男湯に侵入し、浴槽に潜んで品定めしていたわ」
話の触りの時点で全てが解決しそうな事を言い始めるヌレミちゃん。彼女はにやりと笑い、濡れ女である自分がずぶ濡れでも誰も違和感を覚えなかったろうと笑う。
そういう問題か?
「そして一番最初にお湯に浸かった小豆とぎのぎっちょん、は何か好みじゃないから襲うつもりなんてなかったわ。ただ彼は気づいてしまったのよ、浴槽内に潜む私の姿にね」
他の猟兵により、割と透明度があると報告された浴槽内。というかよくそこに潜もうと思ったね。
結果として叫び声を上げたぎっちょんの口封じを行う為、オブリビオンの配下となっていた火鼠を壁の穴から放ちお湯を蒸発、湯煙で浴室の視界を消したのである。
浴槽から逃げ出そうとしたぎっちょんは何故か飛来した桶が直撃して気絶してしまい、切り裂くに訳はなかったとヌレミちゃんは笑う。
「ふっ、分かるはずもあるまいが、これが事件の顛末だ。そう、この事件を引き起こした犯人は、即ちこの私なのだ!」
どどーんと自らを指しドヤ顔を見せたヌレミちゃん。確かにこの事件をあの手がかりの少なさで解決するのは難しい。だが近い内容を推理した猟兵もいた当たり、ヌレミちゃんが自慢げに笑うのもおかしい話だ。
否、濡れ女のヌレミちゃんではない、オブリビオンだ。
「だ、だけど、ヌレミちゃんには容疑者を引き裂く凶器が無いであります!」
「ふっふっふ、本当にそうかしら?」
犬神小僧の言葉に笑みを見せて。
その額からぞろりと角が伸び、ぐいと着物をはだけて足元の裾も広げ、帯を留める。瞳は血が差したように赤く染まり、勝気な表情へと変わればもはや、ヌレミちゃんの面影はない。
彼女の掲げた左腕には血が滴り、音を立てて変形していく。まるで幼虫が変態していくように、どろりと蕩けた肉が垂れ剥き出しの骨は形を変えた。
新たな肉を這わせたその手は鋭い鉤爪を備え、巨大な手は人一人あっさりと握り潰せよう。それあらば肉を切り裂くなど児戯に等しく。
「ば、馬鹿な、こんな妖怪がこのカクリヨファンタズムにいたでありますかっ!?」
「ちょっと違うな、私は!」
掲げた左手、その掌に閃光が生じると同時に差し出した彼女の右手へ温泉宿の天井を穿ち、雷が落ちた。
轟音と共に天より下されたのは抜き身の剣。深々と衝き立った刀を抜いて肩に乗せ。ヌレミちゃんであった者は猟兵らへ笑みを向けた。
「我こそは剣鬼、彼岸花のおゆう。この地とはまた別の地で千の妖を斬り殺し、紅へと染め上げた。この世界も同じくしてやろう。だが、私はお前たちのような弱妖に興味はない、貴様らなどはただの餌に過ぎぬ。
猟兵よ、私と戦え。それこそが望み、我が願い」
「……ま、まさかそんな事の為に……皆さんを……!?」
ワッパをかけられたガチ犯罪者のぼっさん。正義に燃えてそうな台詞ではあるが、手元の冷たい手枷を忘れてはいけない。
おゆうはぼっさんらを冷たい目で見下ろして、歯牙にかける程もない些末なことだと一笑に付す。
「数多の妖の血を吸いし我が愛刀、三途丸に貴様ら弱妖の血を与えるのは余りにも忍びない。だからこそ私自らの手で切り裂いたのだ。豆腐かと思う程だったぞ、貴様らの柔い体は。
くっ、ふふふふ、あーっはっはっはっはっはっはっは!」
哄笑し、溢れる邪気に圧倒される妖怪たち。
全ては自らが強者と戦う為に。そんな独り善がりな理由にこれ以上、カクリヨファンタズムの住民を巻き込む訳にはいかない。
猟兵たちは燃える瞳をこちらへと向けたおゆうに闘志を昂らせた。
・ボス戦になります。強者との殺し合いを渇望し続ける鬼で、その左手と大太刀だけでなく、妖術すら操る強敵です。
・温泉宿は屋根から床めがけて一部破壊されており、激しい戦闘に耐えられないかも知れません。
・壊れた家屋は暇を持て余すカクリヨファンタズムの住民が何とかしてくれるので、地形破壊などを利用しましょう。逆に倒壊に巻き込まれないよう注意して下さい。
・戦闘となる温泉宿にはまだ妖怪たちが取り残されています。彼らの被害はシナリオの正否に一切関与せず、オブリビオンも彼らを狙いませんが、この世界の為にも妖怪たちが戦闘に巻き込まれないようにしましょう。
惑草・挧々槞
敢えて判断材料にはしなかったけれど、やっぱり凶器は容疑者達が持ち得ていた代物では無くて骸魂由来の物だったみたいね……嘘じゃないわよ、本当にそう思ってたから。紙幅が足りなかった。
犬神さんは冤罪めーんご。それと避難誘導宜しく。
おちゃらけは兎も角。
あの爪が妖怪一匹を容易く殺傷せしめる力を持つ事は鑑識のお墨付き。ご自慢の大太刀は言わずもがな、他にも何かしてくる目はありそうね。
UCの効果で8回までなら死んでも死ぬ程痛いだけで済むし、避難の時間稼ぎついでに特攻かまして出方を探りましょうか。
敵の攻撃手段を詳らかにした後は他の人にお任せ。
通り魔的存在って余り好きじゃないのよね。こう、推理しがいが無いじゃない?
アリス・ラーヴァ
アドリブ・連携歓迎
あのお姉さんが真犯人だったのねー?騙されたのー
ちょっと不幸な行き違い合ったけど血は出ていないからセーフよねー(ウッシーさんについた歯形から目をそらしつつ)
ウッシーさん安心してー、アリスがウッシーさんの仇をとってくるわー
でもまずは一般妖怪さん達の避難が先ねー
宿を巣に作り替えて【アリスの糸】で補強して避難経路を確保、妹達の【団体行動】で皆を外まで【運搬】するのよー
この宿はアリス達で掌握したから、避難完了後は地形破壊したい人には協力するのよー
さらにホームの【地形を利用】して巣の中の瓦礫で【血で作られた紅の斬馬刀】をぶろーっく!
瓦礫の物陰から【集団戦術】で【不意打ち】しましょー
●真犯人をつかまえて!
肩に乗せた獲物をとんとんと、楽しみ選ぶように猟兵の面を眺めるヌレミちゃん、否、おゆうに対して惑草・挧々槞(浮萍・f30734)は苦虫を噛み潰したような顔を見せた。
「あえて判断材料にはしなかったけれど、やっぱり凶器は容疑者たちが持ち得ていた代物では無くて、骸魂由来の物だったみたいね」
それからちらとどこそこへ視線を向けて。
「…………、嘘じゃないわよ、本当にそう思ってたから。紙幅が足りなかった」
何の紙幅なんですかね。目が合った人ならばわかるのだろう。君だ君、目を逸らすんじゃない。
挧々槞と同じくその正体に衝撃を受けてしまった方がこちらにも。
「……ヌ、ヌレミちゃんが犯人だったのか……!」
完全に犯人を犬神憑きの豆腐小僧と思っていたザッフィーロ・アドラツィオーネ(赦しの指輪・f06826)は驚愕の眼差しを向ける。あの推理に全幅の信頼を置いていた、と言うよりも自供により犯人と確定して手錠をかけたにも関わらず、冤罪だったことが良心を咎めているのだろう。
犬神小僧も虚偽の報告してるんだからそのまま逮捕でいいと思います。
「僕の予測も、一部はまんざらでもなかったようで」
結果的に事件の謎のひとつとなってしまったスローイング桶シュートの件に思いを馳せて逢坂・宵(天廻アストロラーベ・f02925)。
とは言え、そこはもはや重要ではない。宵がザッフィーロへ視線を向ければ、彼も頷き引き連れた犬神小僧の手錠を外し、頭を垂れた。
「……冤罪をかけてしまうとは……すまぬ」
「申し訳ありませんでした」
「い、いえ、……本官も状況が飲み込めずに……!」
「犬神さん、冤罪めーんご」
ザッフィーロと宵両名の謝罪に愛想笑いを見せていた犬神小僧も表情を変えない挧々槞の言葉に凍り付く。
自供した止めの一撃が彼女によるものであるが、そもそも警察は容疑者を疑ってなんぼのもんじゃいなのである。間違ったらすみませんでいいって天才児も言ってた。
この場合は挧々槞さん警察じゃないけどそんなことは些末な問題なのだ。謝罪に誠意が見えないとかそんなもんどうでもいいのだ。
「あ、あのあの、私の方の手錠は外さないのですか?」
「確かに犬神憑きには冤罪をかけてしまい申し訳ないと思った。だがぼっさん、お前は駄目だ!」
「ええっ!?」
信じられない者を見るかのような目つきで断固拒否のザッフィーロに涙を浮かべるぼっさん。なんでそんな態度が取れるんだぼっさん。
彼らからは離れた所で、気絶しているウッシーの巨体。よっぽどの恐怖が彼を襲ったのだろう、群がっていたのはアリス・ラーヴァ(狂科学者の愛娘『貪食群体』・f24787)とその妹たちである。
彼女たちはぬばたまの瞳をオブリビオンに向けていた。
「ギギギギッ、ギチチ! ギエエエエエエッ!」
(あのお姉さんが真犯人だったのねー? 騙されたのー)
都合良く事実を改竄している気がしないでもないが、騙されたのなら仕方ない。善意には無罪を、悪意には有罪を、それが法律というものだ。
アリスは気絶したウッシーへと振り返り、そこかしこに歯形をつけつつも奇跡的に出血していないウッシーから再び視線を逸らす。
「ギチギチ、ギチチッ!」
(ちょっと不幸な行き違いがあったけど、血は出ていないからセーフよねー)
歯形がついても血が出なければセーフだぞ。カクリヨファンタズムの人狼などはそれを念頭に置いて噛み噛みしようね!
アリスらは即座に地形を把握するべく周囲に視線を走らせた。群体である彼女たちが別々に地形を把握することで多面的な情報を迅速に収集、共有することが出来るのだ。
「ギィ、ガチガチガチ! ガチ! ギチチギチギチギチ!」
(まずは一般妖怪さん達の避難が先ねー。ここをキャンプ地とするのー!)
(はーい!)
指揮官アリスの念波を受けて四方八方に散らばる妹たち。挧々槞はそれを横目に犬神小僧へ向き直るでもなく声をかける。
「犬神憑き、私たちの仲間が脱出の為の準備をするわ。それが終わったら避難誘導よろしく」
「わ、わかったでありますっ」
自分を陥れた相手と取れなくもないが、素直に聞き分けるあたりはさすがのカクリヨファンタズム住民だ。猟兵に対する信頼と、何より骸魂が転じたオブリビオンに対する危険性を理解していると言えよう。
「では、その準備が整うまでは僕たちが」
「守りに入るとしよう!」
宵が構えて床を突くは彼の名と同じ色と星の意匠が施されたウィザードロッド。【宵帝の杖】と名付けられたそれは星を司る魔法に特化しているものだが結界を張る力も有している。
自らを先端に後方の妖怪たちを守るべく結界を出現させた宵、それを守るべく傍らに騎士と佇むのはザッフィーロ。
「【stella della sera】, e 【Erhalt uns, Herr, bei deinem Wort】!」
右手には星と称したメイスを、左手には意識と連動する手袋型の発生器から祈りと共に顕現するエネルギーの盾を携えて。
「……賢しいねぇ……ん……?」
彼らが後衛となるならば。
その更に壁となるように前線へ並び立つ猟兵たちの姿に、おゆうは嬉々と顔を歪めた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
リリ・アヌーン
アドリブ連携歓迎
UCでラスボス登場みたいなヤバい感じのメロディーと歌詞で歌い
大鎌を持ち
漆黒のローブを纏った
ガイコツの死神様を創造
「……戦闘好きの貴女はこういうの好きでしょ?
お望み通り相手になってあげる。かかってきなさい」
キリッと普段ニコニコ糸目がちな瞳を見開き
マジモードな浴衣姿で
スタイリッシュなポーズで髪をかきあげ指クイクイして挑発
大物感を演出し
カッコつける
ウフフ、大太刀で切断しても実体がないから
無駄無駄よ
死神様の大鎌で斬られながらカウンター斬撃で
切断してあげるわね
ピンチな猟兵や妖怪さんがいたらオーラ防御と持ち前の怪力で近くにある柱や物等を利用してかばい応援
行動できるよう
時間稼ぎしてあげる
逢坂・宵
ザッフィーロ(f06826)と
おや、僕の予測は一部まんざらでもなかったようで
たいそう驚きを隠せないらしいかれには倣うように
申し訳ないと豆腐小僧さんに謝りましょう
「オーラ防御」を付加した「結界術」を張り
一般妖怪の方々の避難誘導を行います
怪我をした方がいらしたら「医術」で対応を
皆さんを安全な場所へと退避させられたなら
敵へと向き直ります
お待たせしました、おゆうさん
これよりは僕たちもお相手させていただきます
「見切り」を行い敵の隙を見出しつつ「衝撃波」で敵を「吹き飛ばし」
体勢を崩させます
崩せたならそのまま 【ハイ・グラビティ】を使用し敵の動きを封じ
さぁ、頼みましたよザッフィーロ
かれに一撃を頼みましょう
黒木・摩那
天井にこんな大穴開けて、今度は露天風呂をオープンするんですか?
強者と出会うために殺妖を繰り返すと合っては更生は難しそうです。
その挑戦受けて立つます。
相手が強敵なので、ここは力押しするよりも、受け流して援護を集めていきましょう。
魔法剣『緋月絢爛』で戦います。
UC【混沌弾球】で温泉宿をスキャン。
床や壁、天井を【ジャンプ】や【ダッシュ】で駆け抜けて、高さも生かして戦います。
また、攻撃の際に巻き込んだ天井の瓦礫や風呂場の桶や行李を【念動力】でおゆうにぶつけることで、牽制と集中の妨害に使います。
防御は【第六感】と【受け流し】で対応します。
機を見て、【重量攻撃】と【衝撃波】【功夫】で勝負を掛けます。
ザッフィーロ・アドラツィオーネ
宵f02925と
ぬ、ヌレミが犯人だったのか…!
豆腐小僧が犯人だったと思っておったというに!
宵の言葉に頷きつつも衝撃の表情でヌレミを見つつも豆腐小僧を見れば冤罪をかけてしまうとは…すまぬと謝ろう
だがぼっさん、お前は駄目だ!
戦闘時は手錠を掛けられた豆腐小僧とぼっさんを優先に現場の者達と宵を手の甲に展開した光の盾と手のメイスにて『盾・武器受け』で『かば』いながら行動
宵と連携し結界術で守りつつ頭上から落ちてくる瓦礫等は鎖を伸ばしたメイスで攻撃打ち払いながら避難を促そう
宵の声には任せろと、『怪力』を乗せた【鍛錬の賜物】にて敵を掴み地へ叩きつけんと試みようか
その後は皆とともに敵の体力を削って行ければ幸いだ
●見合って見合って。
「天井にこんな大穴開けて、今度は露天風呂をオープンするんですか?」
笑みを浮かべるおゆうに言葉を投げたのは、黒木・摩那(冥界の迷い子・f06233)。頭上にぽっかりと開いた穴を指で示してこれ見よがしの嘆息を放つ。
(……得物は大太刀に……肉体自身か。破壊するなら刀身、いや爪先と筋肉の繊維だな。随分と堅そうだが)
摩那の背後から敵を確認し、アドレイド・イグルフ(ファサネイトシンフォニックアーチャー・f19117)は大型の【ロングボウ】に矢を番えた。
各々が配置に着いた事を確認し、御園・桜花(桜の精のパーラーメイド・f23155)はおゆうへ口を開く。
「ヌレミさんは多分、素で軽犯罪者の恥女だったのでしょうけれど。剣鬼を名乗る割には、貴女もただの恥女ではないですか」
「何っ?」
「だってそうでしょう? 殺された方々の中には、身を守る術は紙の如くとも武器を扱えば一騎当千な方も居たかもしれません。
その方々が武具も防具もない状態を態々狙って手で引き裂く。剣鬼を名乗るも烏滸がましい、恥女で血狂いな殺人鬼の所業でしょう?」
おゆうは畳みかけられたその言葉に赤い眼を見開いたが、すぐに小さく笑って余裕の笑みを見せた。その程度の挑発など見え透いたことだ、そう語る彼女の左手は激情を抑えているのかか細く震えている。
ふむ。
やせ我慢の笑みこそ見透かされ、桜花が摩那とアドレイドへ視線を走らせれば、力強い頷きが返ってきて。
「やーい、痴女ー」
「痴ー女!」
「お前の母ちゃん痴ぃ~女っ」
母ちゃん関係ないだろ!
「ぐっ!! …………、ふっ」
心無い言葉の地獄のような責め苦に呻くおゆう。しかしそれも耐えて見せて、彼女は前髪をふわりとかきあげ再びの笑みを見せ。
「おどれら耳ん穴から指ぃ突っ込んで奥歯ガタガタガ言わせてしごうしちゃるけ、吐いた唾ぁ飲まんどけぃよう!!」
ぶち切れやんけ。
やはりやせ我慢に過ぎなかったのだろう、あっさりと短気は損気を見せつけたおゆうは左手を構えて突進する。
が、走る鬼女の眼前に落ちるは温泉宿の瓦礫。大きな礫の如きそれに即座に反応して飛び退いたおゆうは上を見上げる。一部破壊したとは言え、崩落が始まるほどの損害を与えていないはずと考えたのだろう。
「ギィイエエエエエエッ! ギヂギヂギヂ!」
(ウッシーさん安心してー、アリスがウッシーさんの仇をとってくるわー)
そこには天井に張り付く無数のアリスが温泉宿の破片を抱えていた。宿自体は各部をアリスの糸により補強されており、【アリスの巣こと別荘(アリスノオウチ)】と化していた。
無論、避難経路としての意図もある為に内部そのものを複雑に作り替えた訳ではないが、強度としては十分で、このようにアリスらが投擲する分の瓦礫確保に宿を破壊しても問題ないのだ。
「下らん小細工ぅ!」
赤の双眸がぬらりと光り、オブリビオンの影が一際大きく揺れる。同時に血の滴る大太刀・三途丸を振り回せば、飛翔する血飛沫に影が纏わりついて斬馬の刃と化し、四方八方へ飛び交った。
「ギチギチッ!」
(ぶろーっく!)
アリスの号令の下、せっせか投げつける瓦礫が斬馬刀を撃墜していく。
攻撃用と言うよりも、防御の為の布陣であったかと舌を巻くおゆうへ、摩那と桜花の間から放つアドレイドの一矢。
死角より放ったそれは、あっさりと異形の左手が掴み取る。
「隙を狙ったつもりか?」
ぺいっ、と矢を投げ捨てる額に浮かんだ青筋は、未だに冷めぬ怒りが残っているようで、三人を睨みつけた。飛び交う瓦礫も斬馬刀を撃墜する為とあらば、逆にそれを操作し三人娘への道を切り開く。
注ぐのが瓦礫程度であればこの左腕で砕くとばかりに激走する彼女の目の前に落ちたのは黒い斬撃、横薙ぎの一撃が颶風を伴い床のパネルを巻き上げ、深々と刻まれた傷は断裂を生む。
「何だと!?」
予想もせぬ一撃。直接こちらを狙われればと危ぶみ背筋に冷たい汗を流すおゆう。
何者かと虚空を睨みつければ、天井に張り付く無数のアリスの隙間から姿を見せた。
「流れ流れて星々の、遍く空は不変とも」
(あー、あー、あー♪)
(あーあー♪)
「蠢く悪鬼は死に花を、夜空の華と散るまでを」
(あーあーあー♪)
(VooOOoOOOOOooooo!!)
おどろおどろしい音楽はおゆうことヌレミちゃんが叩きつけたピアノから、壊れたせいか不規則な音が迫力を増し、夜の一間が溶け落ちたような影から姿を現す巨体に抱かれたリリ・アヌーン(ナイトメア・リリー・f27568)が歌い、コーラスをアリス妹が担当している。
最後なんかデスボイス入ってたね。
摩那らと並び降り立つ影は夜の闇の如きローブを身に、髑髏の空虚な眼がおゆうを射抜く。死神は腕に抱いたリリを下ろし、先の一撃を放ったであろう巨大な鎌を構えた。
「……戦闘好きの貴方は……こういうの好きでしょ? お望み通り相手になってあげる。かかってきなさい」
いつもの明るい笑みも消えて大きく開いた紫の瞳は敵を捕らえ、水着姿から浴衣へと着替えたリリは桜花らが囮となっている間に発動したユーベルコード、【ナイトメア・リリー】で創造した死神を仰ぐ。
死神と寄り添うような立ち姿で長髪をかきあげ、肩越しに振り返っておゆうへ指を向けた後、小さく曲げて挑発する。
剥き出しの牙はそのままに獰猛な笑みを浮かべるオブリビオンの顔が、リリへの返答となった。その好戦的な姿に摩那も小さく息吹いて刀身のルーン文字が万華鏡の如く移り変わる魔法剣、【緋月絢爛】を構えた。
「強者と出会うために殺妖を繰り返す、とあっては更生は難しそうですね。その挑戦、受けて立ちます」
二人からは一歩下がり、アドレイドと並ぶ桜花は連ねた鋼に桜の花びらが刻印された【桜鋼扇】を開いた。
後方では犬神小僧がアリスらの作成した避難通路を使用し他の妖怪たちを引きつれ避難を行っていた。戦闘前より彼らについていた宵と、彼を守るザッフィーロは巨体のまま気絶するウッシーを発見していた。
「……これは酷い……医術の心得はありますから、僕が傷を見ます。手当をした後は力仕事になりますから、ザッフィーロ、お願いできますか?」
「ああ、任せてくれ」
アリスの避難通路を利用することで先ほどから展開していた結界を解除し、傷の深さを診る宵に、イソメちゃんが受付にあった医療用具を受け取り手早く対応していく。
手錠をかけられたままのぼっさんと犬神小僧の後ろに隠れたフゥさんと違ってイソメちゃんはお役に立つね。
ザッフィーロはその手際の良さに頷きつつも、姿を現したオブリビオンはただの一人であるにも関わらず、いつの間にこれほどの怪我を負っていたのかと思案する。
(まだ分からない奴の能力か、とすれば警戒を怠る訳にはいかないな)
注意を引き付ける前線組にエールを送るが、よもやその前線組がかみかみしたせいだとは思うまい。
手当の終わったウッシーを自慢の怪力で引き摺るザッフィーロらを見送って、挧々槞は戦闘態勢に入ったオブリビオンと猟兵の構図にじっとりとした視線を向ける。
(おちゃらけはもう良いとして。
あの爪が妖怪一匹を容易く殺傷せしめる力を持つ事は鑑識のお墨付き、ご自慢の大太刀は言わずもがな、血の斬馬刀を飛ばしたり妖術も扱えるなら、他にも何かしてくる目はありそうね)
ここは、自分の出番でもあるだろう。
挧々槞は一人結論付けて、今まさに激突せんとする渦中へ身を投じていくのだった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
御園・桜花
「ヌレミさんは多分素で軽犯罪者の恥女だったのでしょうけれど。剣鬼を名乗る割には、貴女も只の恥女ではないですか。殺された方々の中には、防御は紙でも武器を扱えば一騎当千な方も居たかもしれません。その方々が、武具も防具もない状態を、態々狙って手で引き裂く。剣鬼を名乗るも烏滸がましい、恥女で血狂いな殺人鬼の所業でしょう?」
被害を少なくするため煽りに煽って自分だけを狙わせる
UC使用し桜鋼扇を使って舞いながら攻撃し更に煽る
敵の攻撃は第六感や見切りで躱す
カウンター出来そうな攻撃は舞いながら桜鋼扇で積極的にカウンター
「本物の剣鬼を名乗るなら。骸の海へお還りになって、転生なさいませ。何度でもお待ち申し上げます」
アドレイド・イグルフ
得物は大太刀に……肉体自身か。破壊するなら刀身、いや爪先と筋肉の繊維か。随分と堅そうだが……狙撃を開始する
戦闘では皆の援護に回ろう。誰かが襲われそうなら此方に興味が湧くようにヘイト稼ぎを。それと、敵の足場を攻撃して、逃げ道の先に味方の攻撃が重なるように誘導を、だ
ワタシは弱者だからなア……キミみたいな覗きのヘンタイと真正面から戦うなんてゴメンだ
強者との闘いを望む割には……ソコに行きつくまでの過程にセンスがないな。実に無粋だ。力技ばかりの紅に、彩りはあったか?
と、挑発してみるが。いくら激痛に耐性はあれどアレは受けたらマズイヤツだ! 回避する為にはローブを犠牲に投げつけ、ローブごと撃ち抜こう!!
●小手調べはここまでだ!
「ふん、ぞろぞろぞろぞろ、……イキがってまぁ……」
喉の奥でくつくつと笑い、おゆうは左腕を回す。
それが嬉しいのだろう浮かべた笑みは余裕の色よりも挑戦的な、だからこそ挑めと言われた彼女の血は滾るのかぎらつく双眸を猟兵たちへ向けている。
逆境すらも戦闘への昂りが勝っているのは、自身を鬼と呼ぶだけはある。
「そんならボチボチ、――行くぞ?」
身を屈め、ただの一歩で床を踏み砕いて低軌道のまま高速で接近する。動きを察したリリの死神が前へ出ると同時におゆうは口角を引き上げ、右を振るった。
血に濡れた鋭い刃が袈裟に斬り下ろすも、霞を斬るが如く手応えはない。
「――幻術……!?」
「夢か現か、さて」
頭上から断罪するように下された大鎌を左手で受け止めれば、駆け抜ける斬撃の余波が更なる断層を床に与えた。
しかし、刃ではなく柄を受けたおゆうそのものに怪我はない。勘の良い事だとリリが顔を歪めるリリと視線を交わす。
直後、飛来するのは殺傷力を十分に伴った一矢。死神の鎌を跳ね除けてこれをかわすおゆうは歯痒く射者を睨み付けた。
「どうやら猟兵というのは、小賢しい戦い方しか出来んようだな」
「……ワタシは弱者だからなア……キミみたいな覗きのヘンタイと真正面から戦うなんて、ゴメンだ」
「ぬぁあにぃい?」
アドレイドが続く矢を番える間の一言に青筋を浮かべる。
「やーい、痴女ー」
ついでに隣にいた桜花も煽れば頬を痙攣させて姿勢を正すが、大きく呼吸して気を落ち着ける。でもさっきもこのパターンで落ち着いてなかったよね。
び、と天井で瓦礫スタンバイ中のアリスらを示し、近づけばそれで攻撃するつもりだろうと鼻で笑う。アリスらはその言葉に顔を見合わせた。
瓦礫と言えど所詮は温泉宿、廃墟だらけの世界ならばいざ知らず、建築物の全てを弾とする訳にもいかない。故に天井に配置されたアリスらはおゆうの放つ斬馬刀の迎撃担当であるのだが、折角の勘違いを利用しない手もないのだ。
(そーよー)
(迂闊に近づいたらペシャンコよー)
アリスの妹たちが大げさな身振りを見せれば、おゆうは意地の悪い笑みを見せた。
「嘘を吐くな、それなら私が足を止めた時点で手を出しているはずだ」
(ギクーッ!)
「お前ら猟兵は群れる者、ただの一人でこの私に立ち回ろうとするはずがない。ならば上は私の攻撃封じか。だがそれだけで済むはずはないな、こうして死角が増える以上」
先の投擲された瓦礫に振り返る。
ここまで小賢しく立ち回るのであれば、それすらも利用するだろうと、向けられた殺意に瓦礫に巨体を隠して接近していたアリスは妹たちに慌てて行進停止の合図を送った。
「なるほど、観察眼はあるようね」
口にくわえた【キセルパイプ】を離して煙を吹く挧々槞。
「ほう?」
「挧々槞さん、前に出過ぎです!」
前衛として固まっていた摩那らよりさらに前へと進み出た小さな背に言葉をかけるが、自信満々の素振りで大丈夫だと振り向きもしない。
自分と比べるまでもなく小柄な少女らしい姿に、おゆうは眉を潜めた。
「何だ、何か策があるのか? 単身で我が前にその身を晒すなど」
「試してみる? 痴女さん」
不敵な笑みを見せた挧々槞に同じくおゆうも笑みを見せ。
「おどりゃその身を万にバラァして地に撒いてくれるわ、覚悟せいや!」
やっぱりぶち切れ痴女さん。
即座に構えた三途丸の刀身に、逆流するように血がその刃を覆う。周囲の囲う猟兵の存在など眼中になく、刃から迸る飛沫が無数の刃を形成する。
言葉通り万の肉片とするつもりなのだろう、迸る血流それぞれが削岩機のように唸りをあげて迫る。その一撃即死の攻撃を前にしても余裕は消えず、あろうことか挧々槞はその直撃を許してしまった。
「!?」
何の抵抗もなく一瞬にしてその身を削り取る自らの攻撃に、さしものおゆうも呆気に取られた様子で目を瞬かせた。
策もなく前に出てきたのかと、舌打ちして、オブリビオンは残る猟兵らに目を向けた。
「まあ良い、残り七人。何の足しにもならん小娘一匹では食い足らんわ!」
血の海に沈めた肉片を踏み躙り、おゆうは吐き捨てた。こめかみに青筋が浮かんでいるあたりまだ怒りは治まっていないようだ。
全く、酷いことをしてくれる。
踏み出した足をそのまま、背後からの言葉に動きを止めるおゆう。信じられないものを見る目で振り返った先に、汚れながらも五体満足の姿で血の海から立ち上がる挧々槞の姿がそこにはあった。
「馬鹿な、貴様っ! 何故!?」
「さて、ね。それにしてもその血、召喚の媒介になるだけでなく武器にもなるなんて。
幾許かは、命を賭ける価値がありそうね?」
嘯く彼女の発動したユーベルコード、【好奇心は猫を殺すが猫は九つの命を持つ(イッパイアッテナ)】は自らの命を増大し、またその知的好奇心を満たす為に不利な行動をすれば身体能力を増大する効力を持つ。
キセルを返して溜まった血を落とし、唇の端だけを持ち上げた挧々槞に得体の知れない凄味を察知し後退るおゆう。
「あら、気にするのは挧々槞ちゃんだけでいいのかしら?」
「!」
リリの言葉と同時に飛び込んだ死神の巨体をかわし、砕けた側壁を足場とするおゆう。だがその左肩の袖は切り裂かれ、白い肌から流れる血が見える。絶対的弱者と侮った挧々槞から予想外の出来事に傷まで受けた事が余程に苛立ったのか、剥き出しの牙に顔は青ざめて。
おのれ。
悔しさを滲ませる一言を転がす、眼下の猟兵たちを睨みつけた。
「いやー、いい様だなァ」
その姿を大声で嘲笑い、アドレイドは細めた目にこちらへ視線を動かすおゆうを映す。
「最初からそうだ。……強者との闘いを望む割には……ソコに行きつくまでの過程にセンスがないな、実に無粋だ。
小事であれ大事であれ、歴史にすらも華は必要だ。力技ばかりの紅に、彩りはあったか?」
「やーい、痴女ー」
「……言ってくれる……、いや今痴女関係なかっただろ!」
合いの手を入れる調子で痴女コールが挟まり、思わず桜華へ怒鳴り返す。
「おふざけばかりだがこっちの油断を誘おうという訳か! しかしその程度で、この私が――」
(捕まえたのー!)
「――ちょっ、馬鹿!」
反撃をと壁を蹴りつけ跳躍する直前、崩れた壁から顔を出したアリス妹の前肢がおゆうの足へと伸びた。度重なる挑発の隙に付け込まれたようだが、捕まりこそしなかったものの、それに足をかけられバランスを崩した彼女の体は変に勢いがつき、速度を伴ったおゆうは顔面から真っ逆さまに床へ激突した。
揺れる足場に事の顛末を見て、思わず眉間に指を当てる摩那。アドレイドすらも呆れる中で、桜花は両手を口元に添えて形を作る。
「やーい、痴女ー」
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
第3章 集団戦
『火鼠車』
|
POW : 見ないで下さい。祟ります。
自身が【敵意を含んだ視線】を感じると、レベル×1体の【燃え盛る牛車】が召喚される。燃え盛る牛車は敵意を含んだ視線を与えた対象を追跡し、攻撃する。
SPD : 餌の時間です。邪魔しないでください。
非戦闘行為に没頭している間、自身の【周囲の空間】が【高熱の炎に包まれ】、外部からの攻撃を遮断し、生命維持も不要になる。
WIZ : 死者は友達です。力を合わせて戦います。
戦場で死亡あるいは気絶中の対象を【片輪車兵】に変えて操る。戦闘力は落ちる。24時間後解除される。
イラスト:聖マサル
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●本気の大決闘!
倒立したかのような姿勢で固まっていたおゆうであったがそれも束の間、体を大きく揺らし、首の力だけで体を回転、立ち上がる。
鼻から垂れた一筋の血を左手の甲で拭う。表情の消えた顔で汚れた異形の手を見下ろして、視線を上へと向ければ、慌てて壁の中に逃げていくアリス妹。
(ごめんなさーいっ)
次に向けられた視線は大鎌を構え直す死神と、寄り添うように立つリリ。そして、首を巡らせた先に煙を吐く挧々槞の姿。
更に摩那、アドレイド、桜花と順に視線を変えて、再び垂れた鼻血が上唇に溜まると今度は左の袖で血を拭う。
空気が変わった。怒りに燃えた炎のような気配はなりを潜め、代わりに肌がひりつく雰囲気が場を支配していく。
重さを伴う沈黙に、さすがに桜花も煽りを止めて様子を見る中、おゆうの鋭い目が場を射抜き。
「本気にさせたな」
修羅の如く吊り上がった目に牙を剥き出す口、般若の如く歪んだ形相をそのままに足音すら置き去りにして死神の懐に潜り込んだおゆうに、焦りを生じて迎撃を命じるリリ。
おゆうはその一撃を柄で受けて弾き返し、返す刀をリリへと振り下ろす。
刹那の差。
「ぐうッ!」
滑り込むように二人の間に割って入った摩那は大太刀の一撃を魔法剣で受け、その重さに肺から空気が絞り出た。
直撃の瞬間、刃を傾け打点をずらした彼女はその力を受け流す。刃同士が滑り、落ちるおゆうの半身に思い切り下から蹴り上げる。
「摩那ちゃん、ありがとう!」
「まだ安心してられる状況じゃないですよ!」
さすがに体勢も悪く威力を発揮できるものではないが、オブリビオンを押し出すことに成功してリリも思わず摩那にお礼を述べる。
その間に開いた距離に射るのはアドレイドの一矢。
咄嗟に受けた左手を抉り衝き立ったそれに顔を歪めたおゆう、その頭上に待機していたアリス妹は、さすがにこの機会を逃す手はないとばかりに後生大事に抱えていた瓦礫を投下する。
「目障りな!」
自らと同等程度の大きさのコンクリートの塊を、矢で受けた左の拳で叩き割った。
口から火を噴き上げて、オブリビオンは目から怪光を発して大太刀を頭上で回す。
「三途丸よ、我が命に応えよ!」
死神の大鎌で割られた床の断層に刃を差し込めば、ぐつぐつと煮え滾るような血潮が三途丸の刀身から迸った。
「そびえろ羅生門!」
床の亀裂から噴出する真っ赤な鮮血から顕現する斬馬刀が津波の如く迫り来る。先の比ではない数に、大慌てで天井から瓦礫を投げつけるアリス妹天井部隊と、更に床に落ちた瓦礫をも迎撃に使用するアリス率いるアリス妹床上部隊。
幾何学模様のように複雑怪奇な軌道を描くそれも、各アリスの視覚情報を共有することで取り逃すことなく見事に撃墜する。だがそれこそは先と同じくアリスらの動きを制御する為のもの。彼女らもその目論見に気づかないではないとは言え、宙を乱れ飛ぶ刃を無視する訳にもいくまい。
走る刃と瓦礫を潜り抜けて駆ける鬼の目指すは矢を番える最中のアドレイド。
「全く、そんなやる気なんて出さなくてもいいのよ?」
「退けぇ!」
舌打ちして進路を塞ぐ挧々槞に三途丸を一閃する。おゆうにしてみれば不死身の敵を相手にする暇はないとばかりで、挧々槞はその凶刃に体を真っ二つにされた。
浴びる鮮血に染めた顔に浮かぶ笑みはどす黒く、小さな体を踏みつけて足を止めぬオブリビオン。
「いやァ、マズイマズイ! いくら激痛に耐性はあれど、アレは受けたらマズイヤツだ!」
「でしたらお任せを!」
子供の体とは言えあっさりと両断した三途丸の切れ味か、はたまたおゆうの怪力かに仰け反るアドレイド。迫る悪鬼を前に、そうはさせじと現れたのは妖怪たちの避難を終えて、急ぎ引き返してきた宵の姿だった。
肩で息をしながら、赤の軌跡を虚空に残し、迫る刃を結界で受け止める。
「お待たせしました、おゆうさん」
「――雑魚が! しゃらくさいわ!」
振り被る左腕。剥き出しの爪も反り返り、猛虎の如く袈裟切りが結界を容易く引き裂いたが、宵は半歩身を逸らし、紙一重にてこれをかわす。
同時に突き出した宵帝の杖がおゆうの鼻先に触れる。
「危険を退けるのが、僕の役目です」
「!」
生み出された衝撃の波がオブリビオンを為す術なく吹き飛ばし、壁に叩きつけた。この程度で堪える相手ではないだろう。事実、おゆうは床に転がると同時に怒りに燃える双眸を宵へ向けていた。
即座にでも反撃に動くには十分な気力。が、それも体が動かぬとなれば話は別だ。
「!? ……う……ぬうッ……!」
【ハイ・グラビティ】、杖の先端から放たれた不可視の重力波による対象の捕縛。縫い付けられたように床から離れぬ体に、おゆうは顔を真っ赤にして抵抗を試みるがままならないようだ。
「……星元来の重力を生み出すのは少々骨が折れるので……動かないでいただけますか。
さぁ、頼みましたよザッフィーロ!」
「任せろ」
床に縫い止められたおゆうの足をひっつかみ、全身の筋肉を硬直させ深く息を吐く。
「普段から鍛えているからな。……この程度ならば持てると思うのだが……さて!」
「ぬぉおっ!」
それは正に【鍛錬の賜物】、宵の重力を物ともせず野菜でも引っこ抜くかのようにおゆうを引き上げたザッフィーロは、勢いのまま背中越しの床に叩きつけ、その重みにバウンドすらできない体をさらに引き上げて壁に叩きつける。
アリスのユーベルコードにより強化された室内で、凶悪な威力を発揮する物理攻撃のえぐさであるが、その間にも目を背ける代わりに次の準備をするのが猟兵だ。
「【混沌弾球(カオス・フリッパー)】!」
「【バトル・インテリジェンス】!」
ほぼ同時にユーベルコードを発動させたのは摩那とアドレイドだ。摩那のかけるスマートグラス【ガリレオ】は、ただ温泉で曇る眼鏡ではない。それ自体がHMDウェアブル端末で内蔵された各種センサーからレンズ内に様々な情報を投影する最新機器だ。
「周辺状況を確認。予測計算開始。配置よし……機動開始……! 情報を転送します!」
「おお、こいつはいいなァ、最高だ!」
温泉宿内をスマートグラスで3Dスキャンし、その情報から地形、固定物、可動物の確認を行い更にその情報をアドレイドの頭上に浮かべたドローンへと転送する。
AI搭載型の戦術ドローン。これに自らの体を操縦させるという荒業により戦闘能力を高めたアドレイドにとって、地形情報をリアルタイムで更新する摩那の情報は非常に有効だ。
個の戦闘能力で上回るオブリビオンを相手に協力連携することは必須だが、個の戦闘能力を引き上げるのも重要だ。視線の先でおゆうの抑えつけに限界を見せた宵に、ザッフィーロは視線をその後方の摩那らへと向けた。
「いけるか!?」
「いつでもどうぞ!」
摩那の答えを聞くが早いかの大回転、ハンマー投げの要領で天井にぶん投げたその体へアリス妹たちが飛び掛かる。
凄まじい衝突音と振動を宿に響かせたおゆうの体は、衝突に巻き込まれないようすれ違い様に繰り出されたアリスらの前肢により深々と。
「ガヂガヂガヂッ!」
(みんなー、回避運動よー!)
(きゃーっ)
何と、ザッフィーロにより方向感覚も失ったかに見えたおゆうはその身を返し、天井に『着地』していた。ザッフィーロの攻撃により左の角は折れ、額も割れて出血しているがその闘争心に陰りはない。
更にアリスらの斬撃を受けた体は確かに切り裂かれているが、致命傷に至るものは見えず、その軌道の中でも身を捻り傷を浅くしていたのだろうと予測できる。
予測できるが。
(ここまで動けるか、彼岸花のおゆう!)
ようやく真っ二つにされたはずの体を引きずって立ち上がる挧々槞はその身体能力に驚きを隠せないようだ。
弾丸の如く飛び出したおゆうに対し、天井に張り付けていた糸を利用して回避運動に入るアリス妹たち。
「よぉーく見えるさ!」
跳ね回る巨体の間を摩那の情報により強化されたドローンの能力で、高速連射する矢が乱れ飛ぶ。アリスらを潜り抜けて迫る矢の連続に対してもおゆうは反応した。
「――隙を狙ったつもりかと……! 言ったはずだが!」
虚空を薙ぐ五条の光。
悪鬼の力が解放された左腕はそれだけで生み出す颶風が壁となり、アドレイドの矢を吹き散らし、同時にアリスらも地面に撃ち落された。
背中から落ちたアリス妹が足をばたつかせていると、それを隙と狙うおゆう。
「行かせません」
「いちいち癪に障る女め!」
ふわりと現れたメイド姿にオブリビオンの怒りが向けられた。
「幻朧桜の導く転生は、今生の終わりを告げるもの。例えこの世界に桜の枝が届かずとも、貴方の善き終わりを始めるための、最後の一指しを捧げましょう」
【桜花の宴】。
扇ぐ桜鋼扇から放たれた大量の桜の花びらがおゆうを覆うが一瞬のこと、それらを引き裂き現れた悪鬼の形相が桜花を捉えた。
速さも威力も超一級の大上段振り下ろし、しかし感情に任せたままの粗雑な一振りに足の位置を変えるだけでかわし、閉じた桜鋼扇でお留守となった足へ一撃を加えた。
「ちぃッ!」
舞うような動作で文字通り足元をすくわれ、前転するように左の拳で床を叩き受け身を取る。
その前方に立ち塞がるのはリリと死神、後方より屋内の瓦礫を足場として空より迫る摩那。連携の取れた配置に対し攻撃のタイミングは等しい。
「ならば一閃かッ!」
三途丸を構えて大回転の一薙ぎにしてくれると吠えたおゆうの太刀筋に割って入ったのは、たった一本のキセルパイプだった。
「――……? !?」
「通り魔的な存在って、余り好きじゃないのよね」
刃の根本から抑え込まれ、挧々槞は皮肉げに笑うとキセルパイプを返しておゆうの手首を取りに行く。
「推理しがいが無いじゃない? こういった戦いとはまた違って!」
「お、のっ、れぇえ!」
手首を固めに入った小柄な体に、その力に逆らわず三途丸を離し窮地を脱する。否。
前後から同時に刃で裂かれ、おゆうは初めて痛みによる叫びを上げた。
●鬼、崩れ。立つは八、と数多のそれと。
呻く、悲鳴、短いものは幾度かあれど、痛みにより叫んだのはいつ振りのことか。
無かったのだ。この世界に来るまで、ついぞ一度も。
「……き、さ……まら……!」
一撃を入れて冷や汗を浮かべて離れた摩那と、前線で壁となるべく立ち止まるリリ、そして挧々槞。
おゆうは自ら手放し床に転がる愛刀を、信じられないものだと見つめた。永い永い戦いの中で、強敵と思える者を相手にしても、自らそれを手放すことなどなかったのだ。
にも関わらず、今、彼女の右腕は肩口からばっさりと斬り捨てられていた。背中を裂かれて反応できず、死神の大鎌による一撃が彼女の利き手を奪ったのだ。
それもこれも、特に弱者と侮っていた挧々槞が決め手となった。彼女自身のユーベールコードによりその身体能力は遥かに強化されているが、それに加えおゆうの動きに陰りがあったことが攻め入る要因となったのだろう。桜花のユーベルコードだ。
非致死性の麻痺毒を伴う花びらを受けて、立ち上がる足も震えている。
闘志は益々、しかしその体は限界に近付いているのだ。
ならば止まるか? 答えは否だ。
「認めるとも、猟兵。貴様らは強い。だから、私は!」
「ギエエエエエッ!」
(隙ありーっ!)
何事か喋ろうとしていたオブリビオンを隙と見て、死角からちょこちょこと近づいていたアリスが襲撃、その巨体で伸し掛かる。
同時に地上に落とされたアリスの妹たちが砕かれた宿の瓦礫をせっせと束ねて巨大な塊を作り上げていた。
(準備できたわー)
(いつでもいけるのー)
「ギチチッ! ギッ?」
(りょうかーい! あらー?)
巨大瓦礫団子を作り上げ、その上に乗るアリスらの姿に轢き殺すつもりだとザッフィーロはその力技に思わず笑う。自分もそうだったが、改めて見せられると笑ってしまうものだ。
しかし。
「ギチチッ、ガチッ、ガチッ!」
(たーいへーん! 私ごと早く潰してー!)
物騒なことを言うアリスのその巨体を、下からおゆうの左腕が持ち上げる。じたばたと抵抗するが、司令塔であるアリスの命令を受けて巨大瓦礫団子が走り出す頃にはポイと脇に投げ捨てられていた。
このままではかわされる。アリスが動きを止めようと糸を、アドレイドも牽制の矢を放つ中、それらをかわしもしなければ受けもせず、その貌に笑みを戻したおゆうは異形の拳を握り振り返る。
「おおおおおおおおおおおおおっ!!」
(きゃーっ)
真正面から転がる塊を拳でもって粉砕し、その上で蹴り転がしていたアリス妹たちは大慌てで逃げ出していく。
喉の奥で笑い、燃え上がる双眸が天を衝く。転がる三途丸を左で拾い上げて鮮血を切る。
「よく分からんがアレは、吹っ切れた奴の顔だ」
強者を前にしてしがらみを捨てたか。ザッフィーロは生気を漲らせるおゆうを睨みつけた。
絶対的強者を自負していたであろう自分を捨てて、挑戦者として立ち上がったのだと。
「そんならボチボチ、――逝くぞ?」
三途丸を放り投げてリリへと疾走する鬼女、大振りの巨拳をザッフィーロが光の盾で受け止める。
「ぐっ!」
全体重を乗せた、受けも反撃も考慮しないただひたすらの全力パンチに反撃用に構えていた右手のメイスも左腕に添えてがっちりと受け止める。
それですら上半身が泳ぐ威力に、麻痺毒も出血と一緒に流れ出たかと舌を打つ。一撃を受け止めたザッフィーロから透過するように現れた死神が鎌を構えれば、その眼前に落ちてくるのは大太刀だ。
「ええっ!?」
「受け取れ!」
この為に投げたのかと目を丸くするリリ。おゆうはザッフィーロを蹴りで弾き、左手で受け止めた三途丸に血を滾らせた。
迸る鮮血は斬馬刀を呼び寄せて、全周囲へと放出された。攻撃どころの話ではなく、慌てて死神を手元に呼び戻し刃を防御させるリリ。
「吹っ切れたという言葉の意味、良くわかりましたよ」
思わず苦笑して結界を張る宵の後ろに隠れて、最悪だと逃げる間にちょん斬られた自らの手を見下ろす挧々槞。あの近距離から逃げた被害がこれで済んだだけマシというものだ。
「それで隠れたつもりか、舐めるなよ。私の剣は、こんなものじゃあないさ!」
旋回する斬馬刀が重なり、巨大な鉄塊と化す。
振り上げた左腕に合わせて頭上にそびえる鉄塔の如き影に、さしもの宵も思わず生唾を飲み込んだ。
「これはさすがにマズイですよ!」
「ギィイイエエエエエエエッ!」
(突撃ーっ!)
(はーい!)
傾きを見せた大鉄塊に、突撃をかけたのはアリス率いるアリス妹軍団。それぞれが頭を守るように先ほどおゆうに砕かれた瓦礫を乗せている。
各々の瓦礫に糸を付属し、即席の流星錘とばかりに回転させて総攻撃を仕掛けた。
「そんな礫でどうなる!」
数を合わせたとは言えこの質量差、止められる物ではない。
「それでも、攻撃を一点に集中させれば!」
正面からの攻撃はアリスに任せ、ひらと舞う摩那が向かうのは大鉄塊の背面。ガリレオによるスキャニングで損傷を与えられる一点を絞り込む。質量差が激しいとは言え、あくまで斬馬刀を組み合わせただけの代物だ。
攻撃を集中さえすれば。
「踏ん張ってまで迎撃する意味があるのかい!? まァいい、狙撃を開始する!」
摩那から送られた情報を元にアリスらと同じく一点を狙い射抜くアドレイド。
回避することは出来なくもなかろうが、これだけの刃の塊、着弾地点で爆発するようにばらけてしまえばそれこそ殺人雨と化すだろう。
「力押しか? いいだろう、やれるならな!」
降り注ぐそれを前に攻撃を集中すれば、幾つかは欠けても破壊するには至らず。軌道も変えずに落下する大鉄塊に、おゆうは口角を引き上げた。
無駄な足掻きだったなと、哄笑するそれを前に不適な笑みで返すのは桜花。
「いいえ、間に合いましたよ」
開く桜鋼扇に、扇げば花霞と吹雪く桜の花びら。
怒涛の勢いで遡る滝のように大鉄塊に突き進み、ぶち当たる。はらはらと散る桜に何の意味があるかと嘲るおゆうの眼前で、結界に直撃する直前弾け飛ぶのは大鉄塊だ。
「!?」
「所詮、斬馬刀は一緒に飛ばしてまとまっているだけの話です。一部を欠けば、その隙間にユーベルコードの力を持つ花弁がその隙間に入り込み、解体するのは簡単ですよ」
驚愕するおゆうに勝ち誇った様子で語る摩那。その足元で炸裂する斬馬刀はアリスらの瓦礫ぶんぶんによって弾かれ、或いは質量がばらけたことにより宵の結界に弾かれる。
必殺の一撃を自らの揶揄した無力な礫とされ、おゆうは。
「……くっ……くっくっくっくっくっ……!」
楽しそうに笑う。
三途丸をその口にくわえ、がちゃりと構えたおゆう。姿勢は低く、獣のように、全身をばねに結界を張る宵へ向かう。
ぶち破る。
言葉なくともその一念がかいま見えて、受けて立つとざかりに宵は猛進する獣の体当たりを受け止めた。
揺れる障壁に亀裂が入り、その顎にくわえた刃が貫き、食い破る。
「猟兵ィイイ!」
三途丸を吐き出し襲い来る悪童の爪を前にしても、宵は退かず。
「触れさせん!」
立ちはだかるザッフィーロのメイスが破壊的な左腕、その手首を打ち据えて攻撃を止める。爪を直接受けるでなく、的確に威力を削ぐことで先と違い右腕のひとつで止められた。
ならば空く左腕は。
「シィッ!」
鋭く息吹いて振るう盾が、おゆうの横っ面を殴り抜く。右腕を持たぬ鬼女は防げるはずもなくその体を傾げ、しかし足を引くだけで倒れるのを耐えたおゆうは、燃える瞳をザッフィーロへ向けた。
視線が絡む瞬間。
「退いて下さい、ザッフィーロ!」
「ぬうッ」
宵の言葉と同時に放たれた重力波がおゆうを捕らえた。唸り動きの止まったオブリビオンに足を退くザッフィーロだが、最初と違い這いつくばることなく、大股開きでその重力に耐えるおゆうの姿に目を見張る。
「ザッフィーロ!」
「……分かった……信じるぞ!」
再度の呼び掛けに声の主を信頼して後退する。後退する男を睨み付けるおゆう。それを抑える宵の額からは汗が零れ、その力が限界に近いことを察するに易く。
根比べだ。
潰れぬおゆうに笑みが灯るがその周囲を、渦巻くように埃が、塵が舞い上がる。脱衣所の行李や風呂場の桶もそれに続き、中心のおゆうを打撃する。
「こそばゆいわ!」
万来の力を込めたおゆうの豪腕が力場を振り解く。同時に巻き起こした風がそれらの物をかき集めた、摩那の念動力をも粉砕する。
「アリスちゃん!」
「ギチギチ!」
(はーい!)
死神とともにおゆうの隙を伺い旋回するリリの言葉を受けて、アリスらが粉砕された温泉宿の瓦礫を次々と投擲する。
おゆうへぶつける訳でもなく、その周囲に配置していくような投擲だ。視線を左右に走らせるおゆうから逃れるべく、瓦礫の陰に身を滑り込ませる摩那。
お次はかくれんぼか。
待つ気などなく、時間差を置かずに進むおゆう。右肩から流れる血を気にするでもなく、ただ挑戦者としての気概がそこにはある。
視線が右へと流れた一瞬の隙。
左より現れたアドレイドの矢が飛来し、足を狙われたそれに飛び退くおゆう。
「ぜえええっ!」
着地と共に飛び掛かる摩那は宝石型呪力型加速エンジン【ジュピター】により蹴り足の反発力を高め、おゆうに肉薄する。
一瞬即撃。
反応したおゆうの左腕の一振りを潜ってかわし、身を上げる動作も勢いに肩と背中を用いた体当たりを敢行する。功夫の積まれた一撃はダメージこそないが、おゆうを弾き飛ばすには十分な威力を発揮した。
「くっ!」
弾かれたたらを踏むおゆうの背後から現れた挧々槞と桜花。キセルパイプと桜鋼扇で彼女の膝裏と足を払い、転倒せさる。しかしこちらも負けてはおらず、転倒の勢いを利用して後転、立ち上がる形で二人の背後を取った。
「疾!」
振り返る動作を予備動作に、居合切りを思わせる構えから振るわれた桜鋼扇が開かれ、桜吹雪がおゆうを押し流す。
びりりと痺れる四肢に、これが麻痺毒の原因かと力の抜ける体に喝を入れて足を踏ん張るが、もはやそれは虚勢に等しい。
「…………っ。
……私は……満足……して、いる……!」
「……おゆうさん……」
「何してるの、早く下がって! 奴はまだ危険よ!」
震える体を引き摺って、それでも闘争の場に居続けようとする彼女に桜花は顔を歪めた。その様子に叫ぶ挧々槞だが、桜花は哀れみを持ち構えるは桜鋼扇。
「本物の剣鬼を名乗るなら。骸の海へお還りになって、転生なさいませ。
何度でもお待ち申し上げます」
桜花の言葉に力なく笑みを浮かべたおゆう。
直後、その瞳に光を灯して飛び掛かる。その体を覆ったのはアドレイドの投げつけたローブだった。挧々槞が正面から迎え撃とうとした桜花を抱き留めて回避、並び立つアドレイドの一矢が、視界を奪われたおゆうの胸に突き刺さった。
止めの一撃。
「――……っ!」
ならず。
「……こ、そ……ばゆいっ、わああああああっ!!」
「ひえっ、あれで止めで良かったろうに!」
「アドレイドちゃん伏せて!」
「伏せていろ、アドレイド!」
ローブを剥ぎ取り仁王立ち、異形の左腕を振り上げたそれにアドレイドは思わず非難するが、その脇を駆け抜けるのは黒い影と白い司祭。
既にかわす力も残っていない死に体の剣鬼へ、遂に死神の大鎌とメイスが致命の傷を与えたのであった。
●現る、火鼠車の怪!
激闘の末、崩壊した温泉宿の真ん中に倒れるおゆうを取り囲む猟兵たち。彼女は血を吐き出して大きく咳き込み、強者として戦った彼らを見上げた。
満足している。
その言葉を再び呟いた彼女は瞼を閉じる。だが、喉の奥でくつくつと笑う声には邪悪さが僅かに滲んでいた。眉を潜める猟兵に、おゆうは目を開くことなく言葉を続ける。
「派手に……吹き飛んだ、な……宿も……奴ら、にも……開放が……必要……だ……」
解放。
その言葉を繰り返す一人に、はたと気づいた者が声を上げた。
鼠だ。それは壁の穴に潜んでいたと言われる火鼠の存在。それに気づいた猟兵たちが浴室だった場所へ目を向けると、崩壊した壁から大量の火鼠が姿を現していた。
否、ただの火鼠ではない。その両足を火車へと変えて四方八方に散らばる彼らはからころと固い音をたて、縦横無尽に駆け巡る。
「……後は……お前たちの好きにするといい……猟兵も……骸魂、も……」
笑みのまま力尽き、もはや動かなくなったおゆうを残して火鼠たちへ向き直る。
崩壊したとは言え四方を囲む壁はまだ残る温泉宿。すぐにこの骸魂が外へ開放されることはないが、それも時間の問題だ。急ぎ処理せねばならぬ状況において、猟兵の一人が配管の割れて吹き上がる湯から必死に逃げ惑う鼠の姿を確認した。
彼らは水に弱いのかも知れない。利用しない手はないだろう。
彼らは顔を見合わせると、最後の戦いへと赴いた。
・最終戦は集団戦となります。温泉宿からの脱出を図る大量の骸魂を駆逐し、被害が外へ広まらないように注意しましょう。
・この骸魂は水に弱い性質を持っています。すでにぼっこぼこの温泉宿なので気にせず地形破壊により湯泉をそこかしこから噴出させて利用しましょう。浴槽、すでに噴出している湯を利用することも可能です。
・容疑者であった妖怪たちの避難は前章で完了しており、彼らの安否を気遣う必要はありません。
・とにかく数を増やし、またしぶとく生き残る能力をもった厄介な敵となります。範囲攻撃や地形・環境を利用して数を上回る攻撃を加えましょう。
リリ・アヌーン
キャー生理的にゾクゾクしちゃうネズミよ!?
しかも牛車まで沢山……!
ハムスターは好きなんだけどね
UC発動に必要な歌を
超早口で歌いながら
フェイントかけつつ
演技半分本気半分の必死なダッシュで逃げまとい
ながら
装備のリリちゃん
人形爆弾をポイポイ沢山
ばらまいて時間稼ぎな
威嚇攻撃
UC準備できたら
電撃を鞭や身体に付与
攻撃回数を重視した
鞭の乱れ打ちで
複数の敵と壊れかかった
地形を巻き込み
ヒステリックに悲鳴をあげながらも的確に
範囲攻撃して破壊
足場を悪くして敵の
スピードダウンを狙います
ネズミや牛車に触られたらカウンターの電撃パンチ
困ってる妖怪さんや猟兵がいたらかばったり
歌って敵を私に誘き寄せてサポートします
アリス・ラーヴァ
アドリブ・連携歓迎
わーい、ねずみさんが沢山なのー
折角のお客様だから自慢の別荘をアリス達で案内しましょー
はいはーい、ここはアリス達の別荘となっておりまーす
しばらく妹達との触れ合いを楽しんだらお帰りはあちらへー
でも一つしか無い出口付近の通路は【アリスの糸】で『火鼠車』ホイホイになっているから足元に気をつけてねー
それから道中に棲んでいる妹達に捕まるともれなく【捕食】されまーす
あ、お残しはしないから【片輪車兵】に変えるのは無理なのよー
無事に出口までたどり着けた『火鼠車』さんはおめでとー!
先着全員に出口で待ち構えている妹達に踊り食いされる権利を進呈ー
自慢のお宿だけどリピーターが見込めないのが玉に瑕ねー
●こいつ、喋るぞ!?
「ギチギチギチ」
(どーしましょー)
倒れたオブリビオン、おゆうの前に並ぶのはアリス・ラーヴァ(狂科学者の愛娘『貪食群体』・f24787)と群体であるその妹たちだ。
右腕もなく、傷つき倒れたのはヌレミちゃんの体であるが、アリスたちは互いに顔を見合わせていた。
(豆腐小僧さんより大きいからいいんじゃないかしらー)
(右腕はどこー?)
(あっ、まだ生きてるみたいよー)
妹たちの言葉にアリスが近づくと、上下する胸に確かに生きていると確認できる。これじゃ食べれないぜ!
仕方ないと考えたアリスらは斬られた右腕はどこかと周囲を見回した。必要ないなら食べちゃってもいいよねという訳だ。
「ギチチッ!」
(あそこよー!)
いくつものぬばたまの瞳が司令塔であるアリスの言葉に従う。
そこには斬られたヌレミちゃんの右腕に群がるネズミたち、否、火鼠車たちだ。
火炎を纏った車輪を後ろ足に、白い鼠が鼻をひくつかせている。
(わーい、ねずみさんが沢山なのー)
(あー! それアリスたちのよー!)
(返しなさーい!)
ぷんすこする妹たちの襲来に鼠たちは右腕に顔を寄せたまま、車輪の中央に配置された顔が彼女らへ視線を向けた。
「餌の時間です。邪魔しないでください」
(!?)
(きゃーっ、喋ったわー!)
アリスの妹たちも驚く驚愕の真実。ネズミは喋るのだ!
しかも口調だけはやたらと礼儀正しい。ハハッ!
「ネズミは喋りませんが、輪入道は喋ります」
「当然です」
(そーなのねー)
(知らなかったわー)
訂正しよう。
アリスの妹たちも驚く驚愕の真実。輪入道は喋るのだ!
だからなんじゃい。
「キャー、ネズミよ!?」
足下をちょこまかと駆け抜ける火鼠車に大慌て。こちらはリリ・アヌーン(ナイトメア・リリー・f27568)、アリスらと違いその見た目に強い嫌悪を抱いている様子。
「邪魔です」
「早く脱出しましょう」
好き勝手喋る車輪こと輪入道をからころ回して進む火鼠車は気色悪いと言うのか気分悪いと言うのか。
追い立てられるように逃走するリリに、アリス妹も大丈夫かとその後をついていく。まるでブレーメンの音楽隊のような大小入り乱れての大行列だ。
その先頭のリリが慌てているのだから隊列も乱れに乱れているが。
時折薄目から覗く瞳は鋭く周囲を見回していた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ザッフィーロ・アドラツィオーネ
宵f02925と
外に出すわけには行かんからな
この場で食い止めて見せようと手にしたメイスを構え宵と目配せを一つ
水に弱いならば温泉の中に落としていけばよかろうと【stella della sera】にて鎖を伸ばしたメイスを振るい宵と連携しながら火鼠を温泉や宵が噴出させたり、すでに噴出している湯に追い立て落とす様メイスを振るって行こうと試みよう
宵、向こうに行ったようだ…と
…言うまでもなかったかと言葉にせずとも伝わる宵の行動に思わず笑みを
いつも共に在る故、息があうな
宵の言葉には釣られる様な笑みを
ああ、解っているとも伴侶殿
そう笑いつつ共に敵を殲滅を続けようか
あぁ、本当に。斯様な時でも宵の呼ぶ星は美しいな
逢坂・宵
ザッフィーロ(f06826)と
彼の目配せを受けて頷いて
ええ、ここで一匹残らずネズミさんの駆除とまいりましょう
ザッフィーロと連携し、「衝撃波」でお湯の湧出範囲を広げつつ
同様に火鼠を「吹き飛ばし」て温泉の方へ追い立てます
この場から敵が外に出ないようにするための結界術は大規模すぎてもう使えないので
地道に逃げ道を封じて集めてゆきます
それから【サモン・メテオライト】を「一斉発射」により放ってお掃除を
撃ち漏らした敵を目で追えば
問題ありませんとかれに声をかけてユベコの追跡特性で追撃を
続いて投げられたかれの声には笑って
当然でしょう、きみの伴侶ですから
さあ、お掃除はまだ続きますよ
アドレイド・イグルフ
命が惜しければ、逃げるのは普通さ。ワタシだって、隙をついてそうするだろう。だが撤退の判断は常に己への弱っちい情けに従うべきだ
弓兵ってのは、遠くを狙える。さらには、こういう敵を追い詰めた状況には強気にもなる……
背中を向けた者から射ろう。矢が火で燃え尽きようとも逃がしはしない
文字通りの根絶やしだ。気は引けるが、良心はないと言ったろう
それに、だ。キミたちも覗きに加担していただろ。興味ないとか言ってもダメだぞ、痴女行為を止めなかったキミたちにも非がある。ダメだぞ!!!
狙う箇所は足、足元だ。地に縫いつけるよう態勢を崩す。だが、やはり火元への対処が先か……
水源を優先的に探しつつ、牽制と追い込みを!
●火鼠って別に燃えてる訳じゃないらしいっすよ。
すたこらさっさと逃げ始める火鼠車たちだが、所々破壊されているとは言え外に繋がる道を探しあぐねている様子。音をたてる車輪を回し、あちらへからころこちらへからころ。
鼻をひくつかせる火鼠車が体を起こし、空を見上げる。そう、おゆうの破壊した天井だ。
「あそこからなら出れそうですね」
「ですが、この体では難しいです」
「何か他の方法を考えましょう」
喋るのは車輪なんだよなぁ。
通常の火鼠であれば壁を伝い天井を登るも、後ろ足が輪入道とそっくり取り換えられていることを考えれば、ある程度の傾斜からはその細い両前足にで全て支えなければならない。
普通の鼠の運動能力ならそれも可能だが、車輪というハンデを背負って、否、足を引っ張られ正に足枷となって重みに登るのもままならない。
リリを追いかける火鼠車たちとはまた別の一団だ。
「外に出すわけにはいかんからな」
「おや?」
「誰ですか?」
別の道の探索へ向かう火鼠車一行の前に立ち塞がったのは、腕を組み仁王立つザッフィーロ・アドラツィオーネ(赦しの指輪・f06826)。
言葉の通りこの場で食い止めて見せるとザッフィーロは手にしたメイスを構え、目配せをひとつ。
「ええ、ここで一匹残らずネズミさんの駆除とまいりましょう」
目配せを受けた逢坂・宵(天廻アストロラーベ・f02925)は笑みを湛えて頷くと、警戒してこちらを見つめる火鼠車へ視線を移す。
なるほど、敵か。
火鼠車らは猟兵の存在に警戒を強めていく。とは言え身を伏せていても飛び掛かる様子はなく、じりじりと後退、この温泉宿からの脱出経路から、今度は猟兵からの逃走経路も探っているようだ。
そのまま鼠の体が脱兎の如く、身を翻して逃走を図るが、その背に突き立つ一本の矢が動きを止める。
「命が惜しければ、逃げるのは普通さ。ワタシだって、隙をついてそうするだろう」
振り返る無数の瞳に言葉を投げて次の矢を番えるのはアドレイド・イグルフ(ファサネイトシンフォニックアーチャー・f19117)。
矢を引く正眼がオブリビオンを貫き彼らに恐怖をもたらした。即座に背を向ける火鼠車たちにアドレイドの眼光は急速に冷めていく。
「だが撤退の判断は、常に己の弱っちい情けに従うべきだ」
自らの強い恐怖に負けて行う逃走など。次々と放たれる矢が穿つのは逃走の先頭を行く者たち、遠くの者たちから射抜けば驚いた火鼠車はひっくり変えるように進み道を変えて行く。
「……怯えているのか……大丈夫だ、血は流れん」
散り散りとなるオブリビオンに構えたメイスは、留め金を外すと同時に振り被るザッフィーロの動作に合わせて頭部が離脱。
内蔵した鎖が音をたてて伸びると鞭の如くしなる。
「ただ、少々衝撃はあるだろうが、な。
――【stella della sera(ステッラ・デッラセーラ)】!」
「危ないです」
「止めてください」
ぶん回すそれが熱い想いを秘めた流星の如く、地を走るオブリビオンたちは一薙ぎされ、その間もやたらと丁寧な言葉を発する車輪の顔。止めてよね、こっちが悪いみたいじゃないの。
などと言っていられないのが現状だ。火鼠車はまだまだ、それこそ履いて捨てる程いるのだ。ヌレミちゃんが口外したくないのも分かるというものだ。
「反応は良いが、車輪のせいかワンパターンだぞ!」
ユーベルコードの力により敵の回避能力を見切り、次に移動する場所を予測して次々と打突していく。そのまま追い立てるのはお湯が沸き出る箇所である。とは言え敵も目の前にあるそれに飛び込む真似はしない。
ならば。
「こういうのはどうです?」
宵のかざした宵帝の杖から放出された衝撃波がお湯の沸く床を粉砕し、噴出範囲を大きく広げる。更にお湯溜まりとなったそこへ吹き飛ばすべく衝撃波を撃ち込む。
ザッフィーロに追い立てられたこともあり次々とお湯に落ちていく火鼠車は、もがくように前足をばたつかせていた。車輪と言えば即座に沈み、噴き上げていた炎も蒸気を上げて湯気と化す。
「チュ~ッ!」
「おぉっと!」
お湯から大慌てで出てくる鼠はもはや火鼠という名すら正しいのかと困惑するほど、ただの濡れた鼠である。火鼠って別に燃えてる訳じゃないらしいっすよ。
足元を駆け抜ける火鼠を避けて、アドレイドは彼らを見送る。
(なるほど、あの輪入道が骸魂の本体という訳か)
邪気の抜けた火鼠の逃走は放置しつつも、狙うべきは輪入道の骸魂に飲み込まれた火鼠車だ。ザッフィーロと宵の連携によりお湯へと誘い込む事に成功しているとは言え数を前に全てを押し切れる訳ではない。
「さあ、背中を向けた者から射ってやろう。矢が火で燃え尽きようとも逃がしはしない、文字通りの根絶やしだ。
気は引けるが、良心はないと言ったろう!」
「聞いた覚えがありません」
「悪役の台詞ですよ」
「ふはははは、聞こえんなぁ、そんな言葉は!」
追い詰められ逃げ惑う敵の背を目にしては、強気になってしまうのが弓兵だ。楽し気にじゃんじゃか弓を引けば火鼠車たちから抗議の声が上がる。
抗議なんて悠長なことしてる場合じゃないと思います。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
御園・桜花
「ここは…ウンディーネに助力を頼みましょう」
UC「召喚・精霊乱舞」使用
水の精霊を呼び水属性の魔力球をガンガン敵にぶつける
ついでに掃除用のホース持ち出し生き残った水道に繋げてバシャバシャ水をかけまくる
「名は体を表す…彼等の性質が鼠で、その生き方が彼等の願いなら。残念ながら、私達との共存は難しいですもの。一体たりとも逃すわけには参りません」
特におゆうが片輪車兵に変えられないよう念入りに水まき
操られた場合制圧射撃で足止め
戦闘後は殺された妖怪達への鎮魂歌を小声で歌いつつ銭湯のお片付けを手伝う
「だって此処は、この地域に住む紳士淑女の社交場でしょう?お勤めを果たされたらヌレミさんもすぐ戻られるでしょうし」
惑草・挧々槞
あわよくば事件解決後にまたお湯いただこうかな、と思っていたけれど、この有様だと無理そうね。
既に結構疲れてはいるものの、だからこそ気合いを入れないと。早く終わらせて着替えたい気持ちでいっぱい。
《輪転天輪》で車輪を出して火車対決しましょうか。あちらは鼠、こちらは猫。同じ火車なら後は相性と地力の問題よ。
何やら水に弱い様子だから、動き回りながら魔王槌で地面を割って回る方針。
ところで、〝逃走〟とかは非戦闘行為に含まれるのかしら?
もし周囲が炎に包まれたとしても、無理矢理気味で良いなら一応自力で打開可能だけれど……まあ、敵の前に立ち塞がって攻撃を誘うなり、あるいは他の方に何とかして貰うなり、多分大丈夫よね。
黒木・摩那
やっと手強いおゆうを倒したばかりというのに、今度はネズミ退治ですか。
しかし、銭湯がねずみだらけになるのは衛生面でもダメですし、なによりねずみ算というくらいに時間が経てば増えるのがねずみというもの。
手早く片付けるのが一番です。
ヨーヨー『エクリプス』を使います。
ヨーヨーで温泉のお湯を水車のように跳ね上げて、ネズミを一方向に集めます。
また、隠れてるネズミもヨーヨーで壁や床を叩いて追い立てます。
そして、ネズミがある程度集まったところで、UC【風舞雷花】で一網打尽にします。
お湯で電気もいい感じにとやるようになって一石二鳥。
【電撃耐性】もあります。
●こーのネズミ野郎っ!
からころ逃げ惑うオブリビオンたちを横目に、ひっそりと溜息を吐くのは黒木・摩那(冥界の迷い子・f06233)。
「やっと手強いおゆうを倒したばかりというのに、今度はネズミ退治ですか」
やれやれとばかりの台詞に惑草・挧々槞(浮萍・f30734)も同様の気持ちなのか言葉を交わす。
「あわよくば事件解決後にまたお湯いただこうかな、と思っていたけれど、この有様だと無理そうね」
肩を竦めた小柄な体にこちらも頷き、摩那は改めて周囲を見回した。
「しかし、銭湯がネズミだらけになるのは衛生面でもダメですし、なによりネズミ算というくらいに時間が経てば増えるのがネズミというもの」
手早く片付けるのが一番です。
摩那の手元には超可変ヨーヨー【エクリプス】が握られている。ヒーロー戦争で入手されたそれは謎の金属により頑強、摩那の意思ひとつで質量も可変出来る優れ物だ。
並ぶ挧々槞の足元には燃える車輪が出現している。
【輪転天輪(ケルビムチャクラム)】、挧々槞の始動したユーベルコードはローラスケートのように配置されて彼女は首を回す。
「既に結構疲れてはいるものの、だからこそ気合いを入れないと」
摩那と同じく早く終わらせてしまいたい気分で一杯の様子で、着替えてしまいたいとも考えているようだ。
「……ここは……ウンディーネに助力を頼みましょう」
戦場こと温泉宿全体を見渡していた御園・桜花(桜の精のパーラーメイド・f23155)は、ぽんと手を叩き合わせて頷く。そのまた更に後ろにいたアリスは顔を傾げて壊れた温泉宿内にきょときょとと視線を走らせた。
おゆうとの戦いで補強した温泉宿も所々崩れており、またこれから崩壊予定なので再使用に望める状況ではない。しかし挧々槞のように再びお湯に浸かりたい者もいるのだ。
こんな言葉を聞いて匠の血が騒がない訳はない。
「ギィエエエエエエエエエッ!」
(折角のお客様だから自慢の別荘をアリスたちで案内しましょー!)
あれっ、そうなっちゃう?
そこらのロッカーを立て看板へと作り替えるアリスの後ろ姿に、改築した以上はすでに彼女たちの物との認識なのかと桜花は思わず緩めた頬を引き締める。
そこより離れてどかどかと走るブレーメンの先頭を行くリリ。と、彼女はこの光景に発想を得たのか早口言葉で歌を紡ぐ。
左右へ進路をそらし、火鼠車たちの移動距離を稼ぐようフェイントを交えているのは彼女の冷静な部分が垣間見えるが、覚束ない足取りもあったりと演技が全てという訳でもなさそうだ。
「どしよどーしよブレーメン♪ ブレーメン♪
ロバは脱走イヌネコニワトリ皆で目指そうブレーメン♪ ブレーメン♪
みんなで歌えば雷も驚く大絶唱で泥棒も撃退だ♪」
それは彼女のユーベルコード、【ヒステリック・リリー】に必要な歌唱である。
更にその間にもぽぽいぽいぽいとリズム良く投げ捨てられるのは、ニコニコと暖かな笑みを見せる【リリちゃん人形】だ。
「これは何ですか?」
「ぶつけないでください」
鼻先をひくつかせてリリちゃん人形に興味を示す火鼠車たち。集まった彼らは次に耳を寄せて小首を傾げた。
何やら中から音がする。勘の良いネズミさんはもう逃げ出してるぞ! 勘の悪いネズミさんはさようなら!
そこかしこで始まる爆発に湯泉まで吹っ飛ぶ火鼠車もいれば、逃走経路を見失って右往左往、パニックになる者すらも。
「ハムスターなら好きなんだけど、ね!」
空気の爆ぜる音。
爆弾により火鼠車はもちろん、ネズミさんがいなくなったことで急ブレーキをかけたアリス妹らにより追う者のいなくなったリリは余裕をもって足を止める。
その全身を覆う電気は毛髪を逆立たせて薄く開いた瞳は嗜虐的に歪み、取り出したのはグリップにネコマークの刻まれた【マタタビウィップ】。
一振り宙で空打ちすれば、虚空で音が鳴り響く。玄人受けする業物と名高いそれに、アリス妹らも前肢を叩いて拍手を送る。
「さあ、いくわよ?」
全身の電流がマタタビウィップの先端にまで流れ、蛇の如く地を走るそれが火花を散らす。
と、そこへ。
「へっ?」
「チュ?」
ぽとんと頭の上に落ちて来た者と、見上げたリリは目が合う。お湯に濡れたネズミさんである。
ザッフィーロや宵によって、あるいはリリ自身の爆弾によってお湯に追い込まれた火鼠車。
(あらー? 要らないならアリスが貰っちゃおーっと!)
硬直したリリの頭の上で困った様子の火鼠に前肢を伸ばすアリス妹。ちなみに小鳥さんが頭に乗ってるようなものではなく、小型犬ぐらいの大きさでっせ。
そんな獲物へ捕食者が触れた瞬間。
「――ひっ……!」
●火鼠車・駆除絵巻
温泉宿をつんざく悲鳴は、おゆうの咆哮すら思い出す。そんな大声量に宿中の視線が集まれば、中心にいるのはリリ・アヌーンだ。
「いやあああああああああああああっ!」
「チューッ!」
(きゃーっ)
「止めてください」
「危ないです」
ヒステリックな悲鳴から繰り出される鞭の嵐は電流により火花を散らし、それから逃げるはネスミにアリス妹たちに火鼠車。
しかし叫びとは裏腹にその鞭は味方や罪なき火鼠に触れることなく、的確に床を、あるいは火鼠車の車輪を狙いスピードが出せないように追い詰めていく。
「おいで精霊、数多の精霊、お前の力を貸しておくれ」
水底に揺蕩うウンディーネに、その力を。
桜花の呼びかけを受けて生じた精霊の力が、周囲のお湯をその手元に集中していく。
「発射!」
手元の水球から水の弾丸を連射、駆け巡る火鼠車たちを迎撃する。ユーベルコードによる召喚、【精霊乱舞】によりウンディーネより力を借りたのだ。
(ホース持ってきましたわー)
「ありがとうございます」
重戦車をも切り裂く強靭な【鋏角】を器用に扱って、アリス妹持ってきたそれを受け取る。
気絶したままのヌレミちゃんの周りに放水してオブリビオンたちが近づけないように配慮しつつ、その目はオブリビオンらへと向けられた。
「名は体を表す。彼等の性質が鼠で、その生き方が彼らの願いなら。残念ながら、私たちとの共存は難しいですもの」
一体たりとも逃すわけには参りません。
ひりつく敵意にその通りだとアドレイドが続く。
「それに、だ。キミたちも覗きに加担していただろ」
「何のことですか」
「別にホモサピエンス型の妖怪やツール型の妖怪に興味ありません」
「おぉっと、興味ないとか言ってもダメだぞ、痴女行為を止めなかったキミたちにも非がある。ダメだぞ!!」
めっ、と怖い顔をして見せたアドレイド。弓引くその手に番われたのは数多の矢。
そのままの姿勢で精神を集中していく彼女に何かを察したか、会話を止めて踵を返す火鼠車。
「この場から敵が外に出ないようにするための結界術は、大規模すぎてもう使えないので。
地道に逃げ道を封じて集めてゆきます」
「これ以上はやらせません」
「反撃開始です」
杖を構えた宵の姿に火鼠車たちは敵意を向けた。
「死者は友達です」
「力を合わせて戦います」
火鼠車たちの瞳が怪しく光ると周囲の死体が燃え盛る。炎が消失し、その中から現れたのは転がる車輪。
牛車の車輪となったそれは中央に顔を象り、怒りの形相を向けた。妖怪・片輪車だ。
「我は片輪車兵。死してあれど戦う刃なり」
「……いや車輪でしょ……」
半眼で呟く挧々槞の言葉は聞き逃し、車輪どもは勢いをつけて転がり、火鼠車と共に群れとなって宵へ襲いかかる。
集中する敵意。それを好機としたのは宵のユーベルコード。
「――あなたに、終わらない夜を」
サモン・メテオライト。
温泉宿の天井一杯に煌めく星の屑。それは敵意を向けたオブリビオンたちへ百を超える数となり降り注ぐ。
「これは敵いません」
「逃げましょう」
次々と撃破されていく無慈悲の雨に、さすがの数を武器とする火鼠車たちもまともに立ち向かえるものではないと理解したようで、積み上げられる仲間の屍を盾に逃走を試みる。
しかしそうは問屋が卸さないのが彼のユーベルコードだ。宵の目から逃れることは出来ず、まして彼らと同じ礫となった流星は逃走するオブリビオンを追撃する。
「問題ありませんよ」
「…………、言うまでもなかったか」
宵の言葉にメイスを振るうザッフィーロは笑う。
逃走先を示そうとした彼の言葉など受けるまでもなく、そして、声をかけるまでもなくザッフィーロの意図を読み取ってくれる。
「いつも共に在る故、息があうな」
「当然でしょう、きみの伴侶ですから」
互いに笑みを浮かべて二人、肩を並べて敵を射る眼光は力強く。
「さあ、お掃除はまだ続きますよ」
「ああ、解っているとも伴侶殿」
殲滅を続ける。
二人の交差する星はその意思を示すように、オブリビオンを砕き、穿ち、貫く。
その肉が血の底に沈もうと、その欠片が空に跳ね返ろうと、そこに敵の影がある限り止まりはしない。
あぁ、本当に。ザッフィーロは想う。
(斯様な時でも、宵の呼ぶ星は美しいな)
密かな満足を胸の内に。
「お次はワタシの番なんだがねェ。――【千里眼射ち】!」
ずばと射かけるは大量の。
宵の星屑にも負けぬとばかりに大量に射ち上げられた矢の数々は、地を逃げ行く火鼠車たちの前足を狙い違わず貫いていく。
「動けません」
「止めてください」
「まァそういうのは聞けない相談ってヤツさ」
降り注ぐ星と鉄槌、そして水の弾丸が動きを止めたられた火鼠車たちを撃破していく。
「逃げます」
「邪魔しないでください」
もういい加減諦めたらどうだいと言いたくもなる幾度目かの逃走。
だが今回の火鼠車たちは違う。車輪だけでなく、自らの周囲、空間そのものを炎で燃やす。断絶された空間の中でアドレイドたちの降り注ぐ矢は効果を成さない。
「なら、火車対決しましょうか。あちらは鼠、こちらは猫。同じ火車なら後は相性と地力の問題よ」
自信に満ちた笑みを見せる挧々槞。ローラースケートとなった輪転天輪が炎の帯を噴き上げて、逃げる火鼠車を猛追する。
だがその身の炎にて攻撃を無効化するのだ。追いついた所で意味は無いぞと、策が必要だとするアドレイドへ肩越しに振り返って彼女は笑みを見せた。
「こういうものは頭の使い様よ。さ、真面目に働くとしましょうか」
頭上で風切る音をたて旋回させるのは然る大妖怪から貰った、気丈さを讃える槌、を、挧々槞のファンシーな衣装に合わせてデコレートした【デコ魔王槌】だ。
「と~ぉう!」
「危ないです」
「子供が鈍器を振り回してはいけません」
「あら、見た目程じゃあないわ」
かわす火鼠車を追い立てつつ、デコ魔王槌の打撃が床を割る。噴き出るお湯を従えて、巡るは火鼠車の背中ばかりか。
(敵の前に立ち塞がり、攻撃を誘導するっていう手もあるけど)
頭の使い用とは言ったばかり。
挧々槞はお湯溜まりを増やしながら火鼠車を追い立て摩那へ目配せする。
「摩那!」
「さ、行きますよ!」
投げるエクリプスと右手の指先をつなぐ紐に左手を当て、車輪の如く大きく回転させる。挧々槞の作ったお湯溜まりに突撃し、水車の如く大回転、大量のお湯を跳ね上げた。
「止めてください」
「何てことを」
叫ぶ火鼠車。
彼らの周囲を燃やす炎は攻撃を無力化するユーベルコードであるが、そもそも水かけなどは攻撃ですらないのだ。オブリビオンにとって脅威であるが、危機と攻撃はイコールではない。
「なるほど、そういうことなら」
(まだまだホースあるわー)
(放水なの~)
桜花以下、アリス妹らも加わり四方八方からの放水攻撃、もといただの放水。ウンディーネによる水の弾丸は防がれるが、これは防げまいと火鼠車の炎を消化していく。
さすれば残るは炎の衣を剥ぎ取られたオブリビオンのみ。
「ようし、水源へ優先的な牽制と追い込みを!」
「総攻撃ですね!」
アドレイドに続いて摩那はエクリプスで彼らの隠れていた男湯と女湯を仕切る壁を叩く。振動により慌てて出て来たオブリビオンたちへユーベルコードを食らわせるのだ。
「励起。昇圧、帯電を確認。……敵味方識別良し……散開!
【風舞雷花(フルール・デ・フルール)】!」
放つエクリプスが解けるように七色の花弁へと変じ、帯電する。
雷と共に解き放たれたユーベルコードがオブリビオンを駆逐していく。だが彼らの抵抗は続く。生への執着、それこそ彼らがこの世界にたどり着いた意味でもあるのだから。
「見ないで下さい。祟ります」
おゆうと違い満足すべき道がそれしかない彼らは、燃え盛る牛車を産み落とした。
脱出にも使うつもりなのかそれらに乗り込む火鼠車。だがそれを逃す事など、猟兵の選択肢にはないのだ。
「きゃーっ、こっちに来ないでー!」
視線を向けられた相手に祟りを齎す存在として突進をかけたそれに、リリの放ったヘビー級ボクシングのチャンプも驚く鋭い踏み込みと腰の回転で撃ち出された豪快なストレートがカウンターとなって牛車を貫く。
爆ぜる電撃が中に乗る火鼠車ごと焼き焦がして、粉砕されたそれにリリは笑みを見せた。
「ウフフ、……こういうの……刺激的で好きでしょ?」
「あれはヤベーです」
「進路変えて下さい」
リリに恐怖を覚えたか進路を変える牛車の群れであったが、ずるりとその進路が変わる。だがそれは横滑りするような不自然な軌道の変化だ。
彼らを誘い込んだのは水の精霊。お湯溜まりが粘性をもって牛車の車輪に絡みつき、一か所に固まるように誘導、集う先に浮かぶは水球。
「精霊のご加護を」
「これは」
「まずいですね」
傅き祈る桜花。その流れと結果を予想した火鼠車らの言葉がまるで最期を飾るように、炸裂した水球から全周囲に放たれる針の如き弾丸が牛車の全てを貫いた。
その後も逃走を図る牛車へ隕石や衝撃波、あるいはメイスといった物理攻撃から電流に炎とオブリビオンを駆逐していく中で、ようやくと顔を見せたのはアリスであった。
這う這うの体で牛車から脱出し、散り散りになりながらも同朋の死骸や瓦礫の陰に隠れ進む彼らを無数のぬばたまの瞳は見逃さなかったのである。
「ギエエエエエエッ! ギチギチギチギチッ!」
(はいはーい、ここはアリスたちの別荘となっておりまーす)
「何ですか?」
「道案内?」
立て看板を持って現れた不審極まるアリスの姿にやはりオブリビオンたちは警戒していたが、看板に描かれた簡易地図に出入口の言葉を発見し文字通り飛びついた。正に地獄に仏と言った所だ。
「ギチギチ!」
(さあさ、こちら妹たちとの触れ合い場となりまーす)
(こちらへどうぞー)
(やったのー)
「何でしょう」
「嫌な予感しかしません」
前肢に後生大事に抱えられてどこぞへ連れていかれる仲間を見送れば、アリスは妹たちとの触れ合いを楽しんだ方々はこちらになりますと出入口へとつながる通路を塞ぐ瓦礫を押しのけた。
暗い通路に火鼠車は殺到するが、妹さんたちとの触れ合いを行ったネズミさんは何故か戻ってきませんね? まあコラテラルダメージって奴ですな。
「おや」
「何でしょう、車輪が」
「上手く動けません」
通路に入った火鼠車たちであるが、その車輪は粘着性を高めたアリスの糸が贅沢にもふんだんに敷き詰められており、通路の内側には『火鼠車ホイホイ』の名が記されていた。アリスが書いたのだろうか、だよな。
(いっぱい来たのー)
(活きがいいわー)
「嫌な予感が的中したようです」
「どうして外れなかったのでしょうか」
暗がりの中から、壁や天井に張り付いていたアリス妹たち。その顎からだらりと涎が垂れて、空腹と欲望に合わせて鋏角がガチガチと打ち鳴らされた。
「それでも我々は先に進みます」
動きの止まった同朋を乗り越えて、奥へ奥へと進む彼らの橋が遂に出口に辿り着いた時。
「やりました」
「脱出成功で――」
(――もぐぅーっ!)
顔を見せると同時にその面へかぶりつき、アリス妹らによる踊り食いが始まる。残る皆でお出迎えだよ。地獄しかねえぜ!
「ギチギチ、ギチチッ!」
(お残しせずに食べるのよー、片輪車さんになっちゃうからねー)
(はーい)
もぐっちょもぐっちょ、むしゃこらぱくぱく。
がっつく彼女らの様子を覗き込んだ摩那と桜花は顔を見合わせ、挧々槞は念の為と浮足立つアリスを呼び止める。
「あの、車輪のついてないネズミは食べないように、ね?」
「ギッ!? ……ギチギチ……」
(えーっ。わかったわー)
少ししょんぼりした様子で体を大きく震わせると、口からポンと火鼠を吐き出した。
●謎は湯煙と共に溶け消えて。
太陽も沈み周囲を闇が包んだ頃、ようやくネズミ退治の終えた温泉宿は、時を同じくして修繕するアリスら匠の活躍により、元通りとはいかないが温泉宿として十分な機能を取り戻せるほどに修復された。
気を失っていたヌレミちゃんの右腕はなぜか見つからなかったが、やはりそこは妖怪か失血死などということはなく、安静にしている内に自然と目を覚ましていた。
「ヌレミちゃんには殺妖容疑がかけられています。骸魂による凶行なので、都条例に照らし合わせて情状酌量の余地ありとなるでしょう」
「あなたたちの言う都条例って法律並みの機能があるんですか?」
火鼠に憑依した犬神憑きの言葉に、摩那は思わず突っ込むが。
当然とばかりに胸張るそれから一歩引いて、リリはタオルを肩掛けにヌレミちゃんへ笑みを送る。
「これで事件は解決ね。取り調べは受けて貰う事になるようだけれど」
「はい。骸魂に憑かれたこととは言え、私が起こしてしまった事件です。しっかり、罪を償おうと思います」
殊勝な言葉だ。また翌日出所とかそういう都条例だったりするんじゃなかろうか。
火鼠に引かれるヌレミちゃんを見送って、桜花は手に持つ竹ぼうきを脇に置く。温泉宿に戻るとおゆうにより命を奪われた妖怪たち、そしておゆう自身とその部下である火鼠車の為に鎮魂歌を捧ぐ。
その様子に挧々槞はそこまでする必要はあるのかとの率直な疑問を桜花に投じた。
「だってここは、この地域に住む紳士淑女の社交場でしょう? お勤めを果たされたらヌレミさんもすぐ戻られるでしょうし」
「まあ、一日で戻って来るかもしれないけどね」
桜花の言葉に皮肉げに口元を歪めて挧々槞。
だが彼女の言葉には大いに賛成しており、今のせっかく修復された湯に浸かろうかと脱衣所へ向かう最中だ。
その時、急にがらりと戸が開いて、お客らしき妖怪が顔を覗かせた。
(あらー、ごめんなさい。今は貸し切りなのー)
「そうなのかい? いやぁ、朝は酷い目にあったし、天気も良くなったからと思ったんだが……しょうがないな……」
しょりしょりと小豆を洗う音を残して去るその者の姿に、直視したアドレイドはぽかんと口を開いて周囲の仲間を見回した。どうやら彼女以外に他の誰も見ていなかったようで、番頭役のアリス妹も特に気にしていないご様子。
「…………、ふっ。まァいい。要らんことを考える必要はないのさ、モヤモヤはお湯とともに流すものだ」
アドレイドはそう嘯いて挧々槞、桜花に続く。
「ほう、天井の一部はガラス張りか」
「曇らないように工夫されているようですね」
男湯にはすでにザッフィーロと宵の姿。妖怪らを逃す為に尽力していたことから、一番風呂をとアリスにご招待されたのだ。
アリスの改築により、彼らの言葉通り天井の一部がガラス張りとなって夜の星空が見上げられる。露天風呂とまではいかないが、自然を感じるには十分な心地よさだ。
みなが温泉でゆっくりと疲れを癒している間、施設回りの不備をきっちりと修理して回っていたアリスは妹たちを引き連れて宿の入り口に集まっていた。
満月の光を浴びて浮かぶ温泉宿を見上げる。
「ギギッ、ギィイ、ギチチッ!」
(自慢のお宿だけどリピーターが見込めないのが玉に瑕ねー)
(そうねー)
(残念だわー)
…………。
彼女らの発言を深く考えるのは止そう。
こうして一騒動を終えた温泉宿。大量の火鼠の存在をライバル関係者にリークされ、衛生面に問題有りとされながらも証拠は全て食いしん坊さんの胃袋に収まっていたことから、お咎めなしとなった。
他にもここで起きた連続殺妖事件、被害者である妖怪たちは重症を負いながらも全て生きていたことが発覚し、犯人である骸魂に飲み込まれていた温泉宿の女将は問われる罪も軽くなり、更には被害者も訴えることをしなかったため無罪放免となった。この世界の刑事さん何しとるんじゃ。あと死亡判定出したやぶ医者どうにかしろ。
事件から僅か三日後には営業を再開し、巷の妖怪たちの憩いの場である温泉宿は益々と繁盛し地域貢献と円満な生活環境に一役買ったという。
例え罪が起きても流れても。それを深く問わずに受け入れる。そんな世界のお話だ。
忘れられた者たちの流れ着く場所で、だからこそここの住民たちは全てに対し大らかなのだろう。猟兵たちも、またこの世界に足を踏み入れた時はこの温泉宿を訪ねることがあるかも知れない。
事件当初よりも歪ながら立派になった温泉宿は、今もカクリヨファンタズムの一画で、ゆるゆると営業を続けている。
大成功
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