13
柊の都に雷の雨が降る

#サクラミラージュ #海外出張 #聖林 #ハリウッド #亜米利加 #雷禍

タグの編集

 現在は作者のみ編集可能です。
 🔒公式タグは編集できません。

🔒
#サクラミラージュ
#海外出張
#聖林
#ハリウッド
#亜米利加
#雷禍


0




●帝都、某飛行場にて
 左右にプロペラを持つ流線型の巨大な物体――飛行船。
 ルシル・フューラー(新宿魚苑の鮫魔王・f03676)が猟兵達を呼び出したのは、そんな飛行船が幾つも並ぶサクラミラージュの帝都にある飛行場であった。
「今回は目的地まで、アレに乗って行ってもらうよ。何しろ現場は、この帝都ではなく海の向こう――亜米利加のとある都市だからね」
 その中の一機を指して、ルシルは話を続ける。
 この世界では、帝都が世界を統一している。
 故に影朧救済機関「帝都桜學府」の任地も、帝都内とは限らない。
 海外からの要請が来ることもある。
「今回、海外からの依頼に『帝都桜學府』は超弩級戦力――猟兵をご指名ってわけだ」
 主に戦力的な理由が大きい。
「失敗した場合の影響も鑑みて、と言う部分もあるみたいだ。文化的な要地と言って良いんじゃないかな。人によってはそこを聖地と呼ぶこともあるみたいだからね」

 それは今は昔、帝がこの帝都を納め始めた頃の事。
 亜米利加でとある文化に関わる者達が、利権や法の問題から逃れて、当時は農村地帯に過ぎなかったその土地に集まったのが事の興り。
 そこがその文化を作るのに適した気候であったこともあり、それから時代は流れて大正700年代になった今、その文化の中心地のひとつに数えられている都市である。

「聖林――ハリウッドさ」

 かの地で撮影されたVFX西部劇は、亜米利加やこの帝都のみならず――世界中の銀幕で上映される名作と呼ばれるキネマが幾つも生まれているという。
「ただ、どんな世界のどんな場所でも、変わり者っているものなんだよね」
 VFX西部劇のメッカなどと呼ばれるサクラミラージュの聖林で、近年、西部劇からかけ離れたとあるキネマが発表された。

「鮫甘蕉。ルビはバナナシャーク。亜馬孫の奥地で見つかった新種の甘蕉の皮剥いたらサメが出て来た――というところから始まる、謎のサメキネマだよ」

 なんだそれ。
「なんだと言われても」
 ヒットしたの?
「それが結構ヒットしたらしい」
 何故だろう。
「で、そのキネマを撮った鬼才とか奇才とか言われてる監督、サンダー・ラフェンテ氏の元に、脅迫状が届いた。影朧キネマを作れ――と言うね」
 ただの愉快犯、と言ってられない理由がある。
 数十年前にも、似たような脅迫状が出されたことがあった。
 悪戯だろうと高を括っていた結果が、当時の犯罪結社が関与した影朧暴走事件。
「当時、脅迫を受けた監督と言うのが、様々なジャンルの西部劇キネマを作った、ジョーイ・スピンバーガー氏。ラフェンテ氏の大叔父に当たる人物だ」
 遠縁の子孫が、かつての事件と同じようなものに巻き込まれようとているのを、ただの偶と片づけるのは些か楽観的が過ぎると言えよう。
「現地に着いたら、聖林を観光がてら情報を集めて欲しい」
 件の監督、ラフェンテ氏に聞くもよし、近しいスタッフ、演者に聞くもよし。外部の人間の調査が入る事は、既に聖林全体に話が伝わっている。
 脅迫状の詳細や、それ送ってきた犯罪結社についての情報を集めるのだ。
「情報を集めて、犯罪結社の拠点を突き留めて、殴りこむ。猟兵に求められているのは、そういう事だよ」
 ルシルがあらかたの説明を終えると同時に、飛行船の離陸準備が整ったようで、ゴンドラにタラップがかけられた。
「それじゃ、行ってらっしゃい。飛行船内のシアター設備は、聖林で作られたVFX西部劇が余すところなく収録されているらしいよ。ラフェンテ氏のバナナシャークもね」
 飛行船で移動するのは、その為か。


泰月
 泰月(たいげつ)です。
 目を通して頂き、ありがとうございます。

 今回はサクラミラージュで、海外でのお仕事です。
 行き先は亜米利加、聖林。
 ハリウッドでございます!!!

 このシナリオでのサクミラのハリウッドは、VFX西部劇のメッカ、とか呼ばれているみたいです。
 大正でVFXあるの?と思った方。
 このシナリオではあるんだ。
 だってほら。よく考えたら、大正700年って、すごい未来じゃないですか。
 ウェスタンしつつも特殊効果撮影技術が発展してても、おかしくないと思ったんです。

 あとOPで出てる名前とか映画ネタについてはあんまりつっこまないでくれると、とても嬉しい。

 1章は、日常。
 ハリウッド観光がてら、情報集めてください。
 2章は集団戦。
 3章はボス戦となります。
 この構成上、影朧を使う犯罪結社について今回必要な情報は1章終わりか2章冒頭で判明します。

 2、3章で使われる影朧が決まっている都合、結社についてある程度の大筋は決めていますが、細かいところはプレイングからネタを拾って埋めていく予定です。
 推理や情報収集と言うよりネタ出し気分でどうぞ。

 プレイング受付は、3/25(木)8:30~となります。
 締め切りは別途告知しますが、27(土)くらいまでは多分大丈夫です。

 ではでは、よろしければご参加下さい。
160




第1章 日常 『キネマの天地』

POW   :    衣装を借りて撮影エキストラ体験

SPD   :    セットを探訪して名画の雰囲気を味わう

WIZ   :    役者たちと交流して記念のサインを

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

鳴上・冬季
「…サンダー氏ですか。よき名前ですね。気に入りました」
武闘派として表に立つより裏方として立ち回ろうと、表の職業である帝都桜學府所属のユーベルコヲド使いとして参加

「何故バナナシャークなのでしょう。アンモニア臭が少なく美味しいから?」
可能ならばバナナシャークを視聴してから監督に面会

「桜學府から参りましたユーベルコヲド使いです。聖林の鬼才、サンダー氏はご在宅ですか。バナナシャークや次回作の構想、近況をお伺いしても?」
相手が話しやすいよう傾聴と合いの手メインで会話
相手とある程度馴染めたら護衛
「おいで、黄巾力士。サンダー氏の邪魔にならない距離で、離れず彼を守り給え。超弩級戦力到着までの繋ぎにどうぞ」



●鬼才との邂逅
 亜米利加は聖林。
 キネマの街の一角に、重厚な建物が並んだ区域がある。
 ズラリと並んだ建物は、何れも外からは倉庫の様にしか見えないが、その全てが誰かのスタジヲであるという。その一つの前に、鳴上・冬季(野狐上がりの妖仙・f32734)の姿があった。

「桜學府から参りました、ユーベルコヲド使いです。聖林の鬼才、サンダー氏はこちらと聞いたのですが、ご在宅ですか」

 呼び鈴を鳴らし、冬季が己の所属と来訪の目的を告げる。
 ややあって、冬季の目の前のシャッターが、ゆっくりと上がって行った。
 中にはキネマの撮影に使うのであろう、様々な道具が無造作に並んでいた。その中で冬季の目を一際引いたのは、大きなサメの模型だ。かなり精巧に作られている。
 ――但し、半分だけ。
 サメならば尾鰭がある筈のそこが、バナナになっていた。
 その模型こそが、この建物の主が誰であるか雄弁に語っている。
「何故バナナシャークなのでしょう。アンモニア臭が少なく美味しいから?」
『サメとバナナのフォルムが、似ていると思ったからなんだが……』
 その模型に、映画を見た時も感じた疑問を冬季が思わず口走ると、奥の方から答える声が聞こえてきた。
 現われたのは、まだ若い白人男性。
 サンダー・ラフェンテである。

●雷の名の由来
『桜學府からってことは、この件だろう?』
 使い古された長机の上に、サンダーが数枚の紙を広げた。
「ふむ……と言う事は、これが?」
『ああ。脅迫状だ』
 頷くサンダーから視線を外し、冬季は紙面に視線を落とす。

 ――影 朧 キ ネ マ を 撮 れ !

 大きさが不揃いのフォントで書かれた、シンプルな要求。
 紙1枚を丸ごと使った要求。後の数枚は、逆に小さめに統一されたフォントサイズでつらつらと思想めいた文章が綴られている。
 その中には、サンダーを選んだ理由も書かれていた。

 ――雷をその名に持つ汝こそ、我らが秘蔵の影朧のキネマを撮るに相応しい。伝説の天翔ける雷鳴を託すのは汝を置いて他になし。

『見ての通り、この名前のせいでこうなったみたいだ』
 その中の一文を指さして、サンダーは口から大きな溜息を零した。
『そうかい……』
 冬季のフォローに、サンダーが顔を上げる。
『困ったことに本名だから、変えようがねえんだけどな』
 なんでも、生まれた日の天候が雷雨で、あちこちで雷鳴が響き、ついには落雷で停電した中に誕生したことからつけられたのだとか。
「次回作の構想など、お聞きしても?」
 溜息が止まらないサンダーに、冬季は話題を変えた話を振る。
『次回作なら、「ソレ」の予定だ』
 サンダーが指さしたソレ、は、なんと脅迫状であった。
『この件が片付けば、きっといいネタになる。影朧キネマを撮れ、なんて脅迫状をネタにした映画を撮れるのなんて、この聖林で俺だけの筈だ。連中がどんな影朧出して来るのかも、なんとなくわかるしな』
「と言いますと?」
 脅迫状の『伝説の天翔ける雷鳴』を指さすサンダーに、冬季は続きを促す。
『あるんだよ。この亜米利加にはサンダーが名前に入ってる古い伝説が』
 正確には、それは亜米利加の先住民族の間に伝わる伝説の鳥。

 ――サンダーバード。

『○○シャークVSサンダーバード。タイトルはそんな所かもな』
「良いですね。ならば事が無事に済むまでの繋ぎを置いておきましょう」
 脅迫状すらネタにしようというサンダーの言葉に頷いて、冬季は席を立ちパチンと指を鳴らす。
「おいで、黄巾力士。サンダー氏の邪魔にならない距離で、離れず彼を守り給え」
 自作宝貝の一つ、戦闘用人型自律思考戦車を護衛に置いて、冬季はサンダーのスタジヲを後にした。

大成功 🔵​🔵​🔵​

鈴・月華
飛藍(f16744)と

…私はどこに突っ込めばいいのかな
でも、サメは揚げると美味しいね。わざわざ襲撃して食べようとは思わないけれど

そっか。飛藍は断定出来る要素が無いと、誰も彼も皆同じなんだよね
任せられるのは構わないけれど…その前に、折角映画の聖地に来ているのだから、それっぽいのは食べてみたいかな

ああ、あれはハリウッド映画に出て来る刑事がよく持ってるお持ち帰りの…あれの中は大体中華かな。それでいいならお店探して買おうか

買うついでに店員に、キャストでもなさそうなのに、最近になってからよく見るようになった人達が居ないか聞いてみる

(なんだか、本当に刑事映画のシーンにありそうなことをしている気がする…)


黎・飛藍
月華(f01199)と
髪飾りの鈴が鳴らす少し独特な音と、声で月華だと判る

飛行船で流れていたサメ映画で分かったことがある
普通はサメを食おうとしないんだな

情報収集…と言っても、俺は所謂有名人とやらの顔を見ても一切判らない
映画関係者か一般人かの判別は月華に任せる

そうか。何か食うか
ならば行き交う奴らが持ってる白い箱が気になる
…中華。じゃあ、それでいい

月華が店員に質問したのを聞いて、俺も序でに聞いてみる
もしくは、だ。変な奴らがうろつくようになった場所でも構わない
後は、撮影予定が無いのに何故か人の痕跡があった場所とかか
映画監督に変な脅迫状を送りつけている輩がいるらしくてな。俺達はそいつらを探してる



●今回はサメは食べられない
 昼下がりの聖林の街を、癖のない白い髪を風になびかせる少女と、黒髪を背中で束ねた少年が並んで歩いていた。
「……」
「ん? どうした」
 隣から聞こえていた小さな鈴音が途絶えた事で、鈴・月華(月来香・f01199)が足を止めた事に気づいて黎・飛藍(視界はまだらに世界を映す・f16744)も足を止める。
「どうしたって……今すれ違った人、見なかったのかい? ロケット・リーだよ。アクションスタァの」
「誰かとすれ違ったのはわかるが」
 心なし声が弾んでいる月華に対し、飛藍はいつも通りに淡々と返す。
「所謂有名人だったのか」
「だったのかって……ああ、そっか」
 何の感慨もない飛藍に絶句しかけて、月華はその反応の理由に思い当たる。
「断定出来る要素が無いと、誰も彼も皆同じなんだよね」
「ああ。俺は所謂有名人とやらの顔を見ても一切判らない」
 躊躇いもなく月華に頷き返す飛藍は、過去に受けた人体実験の影響で他人の顔をうまく判別できない。
「ちなみにさっきすれ違ったのは、飛行船の中で見たサメ映画の中でサメに飛び乗ってフカヒレを手刀で斬り落としていたサメ仙人だよ」
「ああ。そう言われれば、わかる。顔はわからないが」
 月華がここまで言っても飛藍はその顔を思い出せないのだから、その役者本人とすれ違った事がわからないのも、無理からぬと言うものだ。
「映画と言えば、そのサメ映画で分かったことがある」
「うん? なんだい?」
 何とも勿体ない――と胸中で溜息を零しかけた月華は、飛藍の言葉に続きを促す。
「普通はサメを食おうとしないんだな」
「……私はどこに突っ込めばいいのかな」
 飛藍の返して来た一言に、月華の口から溜息が零れた。

●皆持ってる白いアレ
「ちょっと良いかな? 最近、急に良く見る様になった人とか――」
 2人の聖林の街中での聞き込みは、決まって月華がその口火を切っていた。
 飛藍が他人を顔で判別できない以上、誰に聞き込みをするか――と言う対象判別が月華の役目となったのは自然な事だ。
『急に良く見る様になった……なぁ?』
「もしくは、だ。変な奴らがうろつくようになった」
 飛藍も任せきりではなく途中から話に加わっているのだが、どうしても喋る数は月華の方が多くなっていた。
「悪いな、誰に聞くか判別任せきりで」
「任せられるのは構わないけれどね……」
 すまなそうにする飛藍の耳に、月華が頭を振って揺れた鈴の小さな音が届いた。
「流石に喉が渇いたし、何か食べたいかな」
 歩き回って話をしていれば、喉も乾くしお腹もすいてくる。
「そうか。なら何か食うか」
「折角映画の聖地に来ているのだから、それっぽいのは食べてみたいかな」
 何かないかと、月華は『聖林ガヰドマップ』を広げる。裏面の地図には、主要なレストランもバッチリ乗っていた。
「それっぽいのか……サメは何処かで売っていないのだろうか」
「サメは揚げると美味しいけどね。流石に売ってないんじゃないかな。内陸だし」
「そうか。サメを倒して食べるのは映画の中だけか」
「わざわざ襲撃して食べようとは思わないって」
 心なしか残念そうな飛藍の背を、月華は苦笑を浮かべてポンと叩く。
 とりあえず、サメは却下だ。
 フカヒレなら中華料理店にはあるかもしれない。恐らくお高いだろうが、サアビスチケットを使えれば問題はない。
 だがそれでは、ただの高級中華だ。
 聖林らしさがない。
 それは月華の求めるところではなかった。
『HEY、どうした?』
『ランチの店を探してるのか?』
 2人で地図を眺めていると、いかにも欧米系な白人とアジア系と思しき2人の青年が声をかけてきた。
「それだ」
 その声に地図から顔を上げた飛藍は、2人組の手元――彼らが手にしている、寺社の塔らしきものがデザインされた白い箱を指さした。
「さっきから気になっていた。行き交う奴らが持ってる、その白い箱」
 遠くでは判らなかったが、この距離で、それを持っている者達と互いに立ち止まって話したことで、飛藍は微かな匂いに気づいた。
 中に料理が入っている、弁当の類なのだろうと。
「ああ、それは聖林映画に出て来る刑事がよく持ってるお持ち帰りの……名称は良くわからないけど、中は大体、中華かな」
 月華の言うように、その紙の容器は中華料理のテイクアウトに良く使われる。
 一種の弁当箱である。耐水性に優れた厚紙を折って作られていて、水気や油分の多い中華料理を入れるのに向いているのだ。
「……中華。じゃあ、それでいい」
「聖林らしいし、それでいいならお店探して買おうか」
 飛藍と月華は頷き合い、地図を畳む。
『チャイニーズにするのかい? なら、そこの角を右に曲がってしばらく行けば、いい店があるよ』
『お勧めはレッドホットペッパーヌードルだ』
 訊ねるでもなく店を紹介してくれた2人組と別れ、飛藍と月華は示されたままに角を曲がり、歩いていく。
 程なくして、食欲をそそる香ばしい匂いが漂ってくる。
 匂いに誘われ辿り着いたのは『クンポーズキッチン』と書かれた赤い看板が目を引く中華料理店だった。
 お目当てのテイクアウトの白い箱は、店の前に置かれたテーブルの上に並んでいる。
『……食べていくかね。テイクアウトかね?』
 店主だろうか。やや太めながら眼光鋭い初老の男性が、2人に声をかけてきた。
「テイクアウトで。ええと……ソルトヌードルにしよう」
「サメ料理はないか……レッドホットペッパーヌードル」
 月華と飛藍は、男から白い箱を受け取る。
「ところで、キャストでもなさそうなのに、最近になってからよく見るようになった人達が居ないかな?」
 サアビスチケットを見せながら、月華は男に問いかけた。
「後は、撮影予定が無いのに何故か人の痕跡があった場所とか」
『どういう事かね?』
 飛藍も問いを重ねると、男は表情を変えないまま首だけ傾げる。
「サメ映画の映画監督に変な脅迫状を送りつけている輩がいるらしくてな。俺達はそいつらを探してる」
『成程。帝都から人が来ると行く噂は聞いていたが……』
 飛藍の言葉にひとつ頷くと、初老の男は、関係があるかわからないが、と前置きした上で話を続けた。
『最近、たまに十数人前の量のデリバリーの注文が入る事がある。届け先はグリフィスパーク。この街の北にある自然公園だ』
 それだけなら、おかしな話でもない。
 グリフィスパークで映画が撮影されることもあるし、撮影が始まれば、役者やスタッフを含め十数人の注文が入る事もあるからだ。
『だが、注文は映画会社からではないのだよ。先住民族に関するグッズや、そうした役の為のレンタル衣装を扱う会社だ。しかも、ウチに注文がない日は他の店でデリバリーを頼んでいるようだ』
 それだけの人数が、グリフィスパークにいるというのか。
(『なんだか、本当に刑事映画のシーンにありそうなことをしている気がする……』)
 思わぬ所から得られた情報に、月華は胸中で呟き小さな笑みを浮かべた。

 なお、中華料理弁当は普通に美味しかったそうである。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ミネルバ・レストー
…サメを題材にした映画、流行ってるのかしら
しかも、トンチキギリギリを攻めた感じの…?
こないだは、女神像がサメになるキネマを観たわよ

飛行船で移動中にウワサの作品を堪能してみましょ
…あー、えっと、深く考えたら負けなヤツね?
コレ、監督本人より近しいスタッフに当たった方がイイかも
たとえば、ベテランスタッフ…大叔父さま時代からの付き合いの人とか

昔にも似たような脅迫事件があったって聞いたけど
覚えてる範囲でいいわ、どんなだったか教えてもらえるかしら?
模倣犯、っていうスジもあるし、参考になると思うのよね
当時の事件は解決したのか、犯罪結社はどうなったか、とか

他の猟兵とも情報の照合ができたらいいけど、どうかしら



●トンチキそのものだった
 聖林へ向かう飛行船。
 その中のシアタールームの一席に座って、ミネルバ・レストー(桜隠し・f23814)はまだ白いスクリーンをぼんやりと眺めていた。
 その脇では、他の猟兵達が何やら機材を操作している。
 やがて準備が出来たのか、部屋の照明が落ちて暗くなった。
 始まるのだ。
 噂のバナナシャークが。
 言い出したのは誰だったか、なんだかんだで皆、気になっていたらしく気づけば鑑賞会の様な流れになっていた。
(「こないだは女神像がサメになるキネマを観たわね……サメを題材にした映画、流行ってるのかしら?」)
 また、トンチキギリギリを攻めた感じの映画なんだろう。
 なんとなくそう思うミネルバの前で、ついにバナナシャークが始まった。

 ――アマゾン探検隊は、奥地で巨大なバナナの木を発見した。
 そんなモノローグから始まって、なんかやたらとガタイの良い考古学者をはじめとした探検隊メンバーの紹介が終わるや否や、すっげえデカいバナナの木が映し出される。
 バナナの実も、凄まじくデカい。
『こりゃすげえ! 世界の食糧事情が変わるぞ!』
 目の色を変えた探検隊の1人がバナナの皮を剥いて――中から巨大なサメがコンニチワして、血飛沫ブシャーッ。
『バナナからサメだと!? そんなバカな!』
『落ち着け! 奴はあのバナナの中からは出てこられないようだ。距離を取れば、あのサメに食われることも――』
 フラグめいたことを言ったメンバーの足元から、新たなバナナの木が生えて、やっぱりサメが生まれて以下略。
 それからはなんか、凄かった。
 バナナシャークの木がアマゾンから世界に徐々に生息域を広げていく。
 生存競争が始まる中、どこからともなく現れるサメ仙人。
「……あー、えっと、深く考えたら負けなヤツね?」
 考古学者がバナナシャークの秘密が眠る古代遺跡を突き止め、バナナシャークの猛威を食い止めるべく、遺跡へ向かう辺りで、ミネルバは考えるのをやめた。

●過去の事件について
 バナナシャークを見て、ミネルバは一つ感じたことがあった。
「……アレ、監督本人より近しいスタッフに当たった方がイイかも」
 なんと言うか、その方が良い気がしたのだ。
 だからミネルバは、飛行船を降りた後、『帝都桜學府』のコネを最大限に使い、聖林の中で長く活動している年配のスタッフを探してみた。
 件の監督、サンダー氏のみならず、彼の大叔父――西部劇キネマ界にその名を遺すジョーイ・スピンバーガー氏とも仕事をしたことがある人物。
 それほど長く活動している人がいるだろうか、と言う疑問もあったが、条件に合う人物は案外とあっさり見つかった。
 若かりし頃は、様々な西部劇キネマで撃たれて死ぬ役から爆発で吹っ飛ばされる役のスタントまでこなし、不死身のスタントマンと呼ばれた男。
 一線を退いた後は監督もするようになった、ブルール・セゴール氏である。

「ええと、サンダー氏に届いた脅迫状の件の調査しててね。昔、彼の大叔父さまにも似たような脅迫事件があったって聞いたんだけど」
『ああ。その頃の話か。それであっしにねぇ……』
 ミネルバの問いに、ブルールは懐かしそうに目を細める。
「事件は解決したのか、犯罪結社はどうなったか、とか。覚えてる範囲でいいわ、どんなだったか教えてもらえるかしら?」
『あの頃の事は、よく覚えてるさ。スピンバーガーさんがいなけりゃ、今のあっしはいなかったかもしれないからねぇ』
 そしてブルールは語り出した。
 かつての事件では、脅迫状を送った疑いがかかったのは、亜米利加の先住民族解放運動団体であった。その団体は、南米の影朧カルテルとの繋がりを、以前から捜査機関に疑われていたのだ
 だが、脅迫した証拠も、影朧を保持している証拠もなかった。確たる証拠が得られないまま、その内に影朧暴走事件が起きてしまい――件の団体も影朧暴走の被害を受け、事実上の壊滅となってしまったのだと言う。
『民族問題はもう過去の事と言う人が多いが、果たしてそうかねえ。ま、あっしが話せるのは、このくらいだよ』
「ふぅん……ありがと。参考になったわ」
(「模倣犯ってスジも、まだ消しきれないわね……他の猟兵とも照合したいわ」)
 ブルールに礼を述べたミネルバは、胸中で呟きながら他の猟兵達と合流すべく、聖林の街へ繰り出した。

大成功 🔵​🔵​🔵​

リュカ・エンキアンサス
晴夜お兄さんf00145と
俺は映画を見る
移動中も映画を見て現場でも映画を見る
最近映画にはまってるんだ
情報収集?なにそれ
SF、ファンタジー、ホラー、何でも見る。恋愛でも恐竜でもアニメでもいい
パンフレット?いいよ。あ、ポップコーンは塩ね
映画を見倒して映画館来た客とか従業員とかに話を聞きながら犯罪結社の情報を集める。主にお兄さんが

で、ついて最初に見る映画は何にするの
これ?タイトルからは想像つかないけど…

…(鑑賞後)
お兄さん俺言ったよね。何でもいいけど後味悪いのだけはダメだって言ったよね。後味悪いのは現実だけで充分なんだけど
(腹いせにお兄さんの耳を引っ張っておく
次はこの萌え系鮫映画にするよ
ほら、行こう


夏目・晴夜
リュカさんf02586

私も映画は好きです
が、待って下さい
延々とハシゴするのはキツい

…お、着きました?助かった
よしリュカさん、情報収集に行きましょう
何それじゃなくて。行きますよ!

では映画館で情報を集めますか
監督のファンや映画界に詳しい人もいるかもですし
映画グッズと一緒に脅迫状のレプリカが売られてるかもですし
でも折角の映画館です。先に一本だけキメますか!
パンフとポップコーン買っときます
見る映画は、じゃあこれで

徹底して救いが無かった(鑑賞後)
ダメとは聞いてましたが、一人で見るのは怖いから一緒に見て欲しかったんですよね
超絶トラウマ映画だと大評判なんですよ、さっきの映画!

いや待って下さい、一本だけと――



●ジェット機でも成田-LAは10時間ある
 飛行船での空の旅は、優に10時間はあった。
 飛行船よりも速度の出る別の世界の航空機でも、日本からアメリカ西海岸の都市までのフライトは10時間になるのだから、無理もない事だ。
 つまり、リュカ・エンキアンサス(蒼炎の・f02586)と夏目・晴夜(不夜狼・f00145)には、件のバナナシャークに始まり、1作1作が2時間以上あるファンタジー系の長編3部作映画をまとめて全部見てもお釣りが出るほどの時間があった。
 そんな映画漬けだった空の旅が終わり、聖林に辿り着いて――。

「よし。俺は映画を見る」
「待ってください」

 珍しく強い意思の感じられるリュカの一言に、晴夜は思わずその肩を掴んでいた。
「私も映画は好きです。でも、飛行船の中であれだけ見ましたよね?」
「移動中も映画を見て、現場でも映画を見るんだよ」
 既に映画はお腹いっぱい見た気分の晴夜に対して、リュカの瞳には、もっと映画を見るんだという強い意思が感じられた。
「最近映画にはまってるんだ」
 リュカに何があったのだろう。
「それにほら」
 表情こそ変わらぬ――多分変わっていない筈だ――ものの、困惑を隠しきれない晴夜の前に、リュカは『聖林観光ガヰド』と書かれたパンフレットを広げる。
 裏面には、聖林の街のガヰドマップが描かれていた。
「ここが現在地で、ここと、ここ。こっちにもあるし、そこも――映画館が、こんなにあるんだよ」
 VFX西部劇キネマのメッカ。
 キネマ文化の中心地のひとつ。
 そんな呼ばれ方をしている聖林の街が、撮影だけで上映施設がないなんて言う事がある筈もない。むしろ1都市にある映画館の数としては、多いのではなかろうか。

「最初に見る映画は、お兄さんが選んでいいよ。SF、ファンタジー、ホラー。恋愛でも恐竜でもアニメでも。後味悪くなかったら何でもいい」
「1本だけですよ? 延々とハシゴするのはキツいですし」
 映画を見ている時間はない――なんて言っても聞きそうにないリュカの様子に苦笑しながら、晴夜はガヰドマップに視線を落とす。
 ご丁寧な事に、ガヰドマップには上映施設の位置だけでなく、現在の上映スケジュールまで記載されていた。
 見て行けよ、と言わんばかりだ。
「おや? これは確か……」
 その中に、晴夜は気になっていたタイトルを見つける。
 確か『とあるジャンル』で話題になっていた映画だ。晴夜も、機会があれば一度は見てみたいと思っていた――誰かと。
「最初に見る映画は決まった? 何にするの?」
「そうですね。この映画館に行きましょう」
 ソワソワしてるリュカに頷いて、晴夜はガヰドマップの一点を指さす。
「上映時間まで少しありますし、映画館で情報も集められるでしょう」
 考えてみれば、映画館と言う場所は情報を集めるのに悪くない。
(「監督や出演俳優のファン、映画界に詳しい人もいるかもですし、映画グッズと一緒に脅迫状のレプリカなんかも売られているかもしれないですし」)
「……情報?」
 晴夜が胸中で呟いていると、リュカの『なにそれ』みたいな声が聞こえてきた。
「リュカさん? ここに来た目的、忘れてないですよね?」
「……。……犯罪結社。覚えてる覚えてる」
 地図から顔を上げた晴夜に、リュカはやや間があってから返す。
「映画館来た客とか従業員とかに話を聞くんだよね。主にお兄さんが」
「まあ、そう言う事です。リュカさんも聞いて下さいね」
 押し付けようとしているのを隠そうともしないが、それでも胸中で呟いたのと同じ結論に至ってはいるリュカに、晴夜は再び苦笑を浮かべる。
「あとお兄さんが選んだ映画さ? タイトルからは想像つかないけど……」
「まあそこは見てのお楽しみでしょう」
「そうだね。あ、ポップコーンは塩だよ」
「はいはい。情報集めるついでに買っておきますよ」
 そして、2人は青い半球状のドームがある映画館へ足を運んで――。

●メリバですらないやつでした
 ――およそ、3時間後。
「…………」
「…………」
 無言で映画館を出てくる、リュカと晴夜の姿があった。
 2人とも、纏っている空気が明るくない。
 ああ、楽しかった――と言った雰囲気ではない。
 それは2人だけではない。
 同じ映画を見たであろう、映画館から出て来る大半の人が、2人と同じような重苦しい雰囲気を纏っているのだ。
 その原因は、上映された映画にある。
「徹底して救いが無かった……」
 ぽつりと晴夜が呟いた一言が、その映画を如実に表していた。
「もしかして……お兄さん、知ってたの? ああ言うのだって」
「ええ。ダメとは聞いてました」
 リュカの言葉に、晴夜が返す。
「超絶トラウマ映画だと大評判なんですよ、さっきの映画!」
 晴夜の続く言葉を聞いた直後、リュカの右手がゆっくりと上がった。
 そのまま静かに、晴夜の頭の方に伸びていく。
「お兄さん俺言ったよね」
「リュカさん?」
 リュカの声のトーンに何か嫌な予感のようなものを感じた晴夜だが、遅かった。
「何でもいいけど、後味悪いのだけはダメだって言ったよね。後味悪いのは現実だけで充分なんだけど」
「ちょ、耳はやめ……!」
 見たくないものを見てしまった腹いせに、リュカの手が晴夜の耳をもふっと掴む。
 そしてそのまま、リュカは歩き出した。
「次はこの萌え系鮫映画『ラブ&シャーク』にするよ」
「いや待って下さい、1本だけと――」
「ダメ。ほら、行こう」
 耳を掴まれたまま、晴夜はリュカに引き摺られていく――。

●ハシゴの成果
 晴夜の思惑に反して始まってしまった、リュカの映画館ハシゴ。
 だが、その中で思わぬ収穫もあった。
 3件目の映画館の売店を覗いた時に――気づいたのだ。
 上映されている作品とは関係のないグッズが、これまで訪れた全ての映画館の売店で売られていると言う事に。
「すみません。これを」
『はいはい……って、え? いいの?』
 晴夜がその中の一番小さい1つをレジに持っていくと、カウンターの向こうにいた女性は驚いた様に手元と晴夜の顔を交互に見やった。
 驚いたのはその品か、サアビスチケットを出した晴夜か。
「これ、他の映画館でも見たんですが、人気商品だったりします?」

『これねぇ……全っ然売れないの!』

 前者のようだ。
 そりゃそうだろう。大小様々なトーテムポールなんて。
「何で仕入れたんですか?」
『発注した覚えがないのに、納品に紛れてたのよねぇ。返品しようとしたけど、全部は受け付けられないって、無理やり押し付けられちゃってぇ』
(「ふむ……これは他の映画館も調べたい所ですが……」)
 女性の言葉に、晴夜は何か引っかかるものを感じる。
「行くよ、お兄さん。次はオールナイトのレイトショーだ」
「ちょ、リュカさん!?」
 まだまだ映画見たいリュカに引き摺られていった先の映画館でも、2人は何度もトーテムポールグッズを見つける事になる。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ガーネット・グレイローズ
※アドリブ・絡みなんでもOK

飛行船で運搬してもらった愛車「BD.13」を運転し、
夜の聖林市街をドライブ中。
バナナシャーク…予想に反してなかなか楽しい映画だった。
さて…今回私が向かう先はとあるカフェ。
ここで、かの怪作「バナナシャーク」の出演者と
会う約束をしたのだ。
当時の撮影秘話から始まり、ラフェンテ氏の
交友関係などを聞き出していこう。

大戦中、多くのプロパガンダ映画が製作されたことは
私も知っています。映画業界に巣食っている、影朧犯罪組織を
洗い出すのが今回の目的なのですよ。もちろん秘密は厳守し、
あなたの身の安全は保証いたします――

そんな取材の様子を、窓の外からメカたまこEXがじっと《撮影》していた。



●名優現る
 夜のハリウッド・ブルーバードを、優美な2ドアクーペが走っていく。
「バナナシャーク……予想に反して、なかなか楽しい映画だった」
 愛車「BD.13」のハンドルを握りながら、ガーネット・グレイローズ(灰色の薔薇の血族・f01964)は飛行船の中で見た、サメ映画の事を思い出していた。
 荒唐無稽なサメ映画かと思いきや、サイエンス要素やVFXを駆使した派手なアクションシーンまであって、見ていて飽きない映画だった。
 何故ガーネットが車の中でそんな事を思い出しているのかと言うと、恐らくこれから必要になるからだ。
 ガーネットが聖林で試みたのは、「バナナシャーク」出演俳優とのコンタクトだ。
 当時の撮影秘話から始まり、ラフェンテ氏の交友関係などを聞き出せればと思っての事だったが、サアビスチケットや『帝都桜學府』のコネを最大限に使いまくった。
 結果、メイン通りに面したカフェバーで会う約束を取り付けられたのだ。
 相手はバナナシャークの主演俳優。亜馬孫だろうが古代遺跡だろうが、鎖鉄球片手に乗り込んでいくアグレッシブな考古学者を演じた人物。
 2mを越える長身の巨漢で知られるベテラン俳優であり、なんでこんな大物がバナナシャーク主演をと話題にもなった男。

『ようこそ、帝都の客人。俺がクルント・シュワシュワネッギーだ』

●15代目を名乗る男
 映画の中では寡黙な巨漢を演じる事が多い人物だが、会ってみれば、クルントは中々に饒舌な男だった。
『言うまでもないだろうが、クルント・シュワシュワネッギーと言うのは芸名だ。タイショー100年前後に活躍した古の俳優にあやかってつけたのだ』
 聞くまでもなく、自らの芸名の由来を語ってくれるくらいには。
「映画で見る印象よりも、話し易いですね」
『HAHAHA! 役者なんてそんなものさ』
 カフェバーの奥のテーブルでハンバーガーとビールをお供に盛り上がった話が一段落ついた頃、ガーネットはクルントに向けて本題を切り出した。
「それで――サンダーさんの脅迫状の件ですが」
『――何を聞きたいのかね?』
 黒いサングラスを外して、クルントはガーネットに視線を向ける。
 バナナシャークの中では、その眼力でワニを追い払っていたクルントの視線を真っ向から見返し、ガーネットはゆっくりと口を開いた。
「大戦中、多くのプロパガンダ映画が製作されたことは私も知っています」
 プロパガンダ映画とは、何らかの政治的思想の喧伝を目的とした映画の総称だ。多くの場合、ドキュメンタリーに類される。
『プロパガンダ……か』
 影朧キネマを作れ――と言うものは、そうしたものに近い目的ではないかとガーネットは考えていた。
「映画業界に巣食っている、影朧犯罪組織を洗い出すのが今回の目的なのですよ。もちろん秘密は厳守し、あなたの身の安全は保証いたします――」
 だから知っていることを教えて欲しい。
 そう続けたガーネットに、クルントは険しい表情で口を開いた。
『ジェロニモ・フィフティーンと名乗る男がいる』
 かのアパッチ族の戦士から数えて15代目になる先住民族の末裔を自称している男だ。
『本人がそう信じ込んでいてな。そうした文化が失われない様にと、この街で先住民族の道具を模したグッズの卸やレンタル衣装を扱う会社を運営している』
 それだけならば、ちょっと言っていることがアレなだけの男だ。
 特にレンタル衣装は、この街ではエキストラ用に一定の需要もある。
『だが、彼には南米の危ない連中との交友関係があるという噂だぜ』
「危ない連中――影朧カルテルですか」
 ガーネットの問いに、クルントは明言を避けて話を続ける。
『さてねえ。だがその危ない連中は、サンダーの大叔父、スピンバーガー氏の脅迫状の時にも名前を聞いた気がするなあ』
「成程……参考になりましたよ」
 クルントに頷いて、ガーネットは窓の外にちらりと視線を向ける。
 メカたまこEXの眼が、2人の様子をじっと撮影していた。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『死に添う華』

POW   :    こんくらべ
【死を連想する呪い】を籠めた【根】による一撃で、肉体を傷つけずに対象の【生命力】のみを攻撃する。
SPD   :    はなうた
自身の【寄生対象から奪った生命力】を代償に、【自身の宿主】を戦わせる。それは代償に比例した戦闘力を持ち、【肉体本来の得意とする手段】で戦う。
WIZ   :    くさむすび
召喚したレベル×1体の【急速に成長する苗】に【花弁】を生やす事で、あらゆる環境での飛翔能力と戦闘能力を与える。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●情報整理
 聖林の街に猟兵達がついてから、色々あって一夜が明けた。
 一度集まった猟兵達は、互いに集めた情報を交換し、整理する。

 ・脅迫状に、先住民族の伝承に伝わるサンダーバードを示唆する文章があった。
 ・聖林中の映画館の売店に、トーテムポールの模造品が何故か売られていた。
 ・先住民族の末裔を名乗るジェロニモ・フィフティーンなる人物がいる。
 ・その人物は南米の影朧カルテルとの繋がりがあるらしい。
 ・その人物の会社で、大量のデリバリーの注文が入る事がある。
 ・かつて起きた影朧暴走事件でも、同じ南米組織の関与が疑われた。

 全てに関係しているのは、亜米利加の先住民族。
 そして、ジェロニモ・フィフティーンなる人物と南米の組織。
 映画館の売店で売られていたトーテムポールも、辿ってみればジェロニモ・フィフティーンの会社が販売元だと判明した。
 しかしその会社を訪ねてみれば、もぬけの殻。
 あるのは大量の、トーテムポールの返品ばかり。
 だが、怪しい場所はもう一つある。大量のデリバリーがあった場所。
 聖林の街の北の丘陵地帯に広がる自然公園――グリフィスパークである。

●一方その頃
『くそ、何だって俺達がこんな事を……』
『ぼやくな、さっさと穴を掘れ!』
 グリフィスパークの雑木林の中では、見るからに怪しい風体の黒ずくめの男達が、スコップを手にザクザクと穴を掘っていた。
『おお……! おお……! 何と言う事だ! 父祖たる精霊達よ、申し訳ない!』
 穴を掘る男達の中に混じって、一人、何かを嘆いている男がいる。
 その男だけ、出で立ちが違う。上半身は何も纏わず、惜しげもなくさらした赤銅色の肌には、何かの文様が描かれている。
 彼こそが、ジェロニモ・フィフティーン。
 そしてジェロニモ・フィフティーンの嘆きは、穴の中に埋められようとしている――バラバラになったトーテムポールに向けられていた。
『ちょ、ちょっと待て! 待ってくれ!』
『そいつが脅迫状なんか出さなきゃ、帝都から超弩級戦力が来る事も……!』
『うるせえぞ!』
 やがて、穴の中に別の黒服達が突き落とされる。
 穴から出られない様にだろう。その手足は、縛られていた。
『ジェロニモ氏にも問題はあるがなぁ。お前らがっ! カルテルの金を勝手に使ってトーテムポール作った挙句、大量返品になったのは確かだろうが!』
 黒服の中でも特に年嵩の男が、穴の中の男達に冷たい声で告げた。
『我らSBS――【Sombra Brumoso Sirviente】は、今度こそ失敗できねえ。また暴走事件で終わらせるわけにはいかねえんだ。組織の金を無駄に使ったこの失敗は、お前らの身体で償え』
 その言葉に、穴の中に落とされた男達の顔が青くなる。
『さあ、ジェロニモさん。やってくれ。『死に添う華』の種にのまれりゃ、こいつらでも超弩級戦力を足止め出来るだろ』
『トーテムポールを粗末に扱った罰を受けるがいいぃぃぃぃぃぃっ!』
 そして別の黒服の言葉に、ジェロニモ・フィフティーンはやおら立ち上がると、両手にトマホークを構え、穴の中の黒服達に投げた。
 そして――。
 流れた血に反応して、何かが蠢き出す。
 怪しい色に輝く、ツタの様な何かが。

 かくして、グリフィスパークに辿り着いた猟兵達を出迎えたのは、『死に添う華』に寄生され、まるでゾンビのようになった黒服達の群れだった。

=================================
 2章になりました。

 トンチキサメ映画の監督の元に届いた脅迫状から始まった聖林での活動は、唐突なゾンビ映画展開になりました。
 植物系ゾンビとの、集団戦になります。
 本体は植物の方です。『死に添う華』は、寄生した肉体を操るそうです。
 そんな感じのゾンビ化です。
 だってせっかくのハリウッドだし……。

 なお既に寄生されている影朧カルテルの黒服達は、助かりません。
 寄生させた方の黒服達は、一応、生かして逮捕推奨です。

 プレイング受付期間は、
 4/13(火)8:30~
 とさせて頂きます。
 締切は別途告知しますが、4/16(金)くらいになるかと思います。
=================================
リュカ・エンキアンサス
晴夜お兄さんf00145と

よし、さくっと全員殺そう(早く映画観たい
後味悪いのは現実で充分って言ったしね
…え?だめ?
……
お兄さんは俺に流石の殲滅力だ。頼りになる!と褒められるか、あの人たちに助けてくれてありがとうって褒められるか、どっちがいい?

……
(ちっ
わかったよ。じゃあ植物を狙って灯り木で撃ってく
やる気はないけど早く終わらせたいから、お兄さんの援護は考えずに全力で花びらっぽいほうにぶち込んでいこう
…(面倒だからやっぱり全部倒したいけど我慢はする

それ知ってるよ
おじいさんたちが銃を持って無双するガンアクションだよね
また後でと言わず終わったら見に行こう
きっと勉強になるだろうから3回ぐらい見よう


夏目・晴夜
リュカさんf02586と

いや全員殺しちゃ駄目ですよ!
どっちに褒められたいかと問われたら、まあリュカさんですけども
でも生きてる人は時間をかけて生け捕りにしましょう
全員殺して早く終わらせたらまた映画を見る羽目になる気がするのでね

という事で、向かってくる宿主は妖刀や落雷で私が食い止めておきます
なのでリュカさんは本体らしき植物の殲滅よろしく頼みました!

しかしこれは見事なゾンビ
ゾンビ作品も面白いですよねえ。今日はもう映画は見なくていいですが
因みにこないだ見たのはお爺ちゃん達が穏やかに過ごす老人ホームにゾンビが……
そうそう、それです。また後でその映画について語らいましょう!
いや、今日はもう見るのはいいです



●まるでゾンビ映画のようだ
『アァ……ア゛……ア゛……』
『ォ……ァァァ……』
『SHIT! 敵はアッチだ!』
『なんだこいつら! この影朧、全然言う事聞かねえぞ!』
 体中から怪しい色合いのツタが生えた華が咲いた黒服達に、同じ黒ずくめの明らかにカタギではない男達が襲われている。
「これはまた……見事なゾンビです」
「うん、ゾンビだね」
 そんな目の前の光景に、夏目・晴夜とリュカ・エンキアンサスは、思わず足を止めて互いに顔を見合わせる。

 ――ゾンビ。

 いわゆる、動く屍。
 ホラー系キネマの定番ネタでもある。
『ア゛ー……ヴ?』
『うげ! 眼玉落ちたぁぁ!?』
 その肌に血の気はなく、喉からは声でもない意味のない音を発するしか出来ず、内側から生え出した蔦に眼球を押し出されても、なんの痛みも感じてなさそうなんて、まさにゾンビであった。
「ゾンビ作品も面白いですよねえ。こないだ見たのは、お爺ちゃん達が穏やかに過ごす老人ホームにゾンビが……」
「それ知ってるよ。おじいさんたちが銃を持って無双するガンアクションだよね」
 目の前の様子に晴夜が思い出した映画に、リュカもすぐに思い至る。
「そうそう、それです。また後で、その映画について語らいましょう!」
 リュカも見ていたのかと、晴夜が目を輝かせる。
 だが――晴夜は失念していた。
 今のリュカに映画の話題を振れば、どうなるのか。
「また後でと言わず終わったら見に行こう」
 こうなるのである。
「今日はもう映画は見なくていいですが」
「行こう。丁度今夜のレイトショーで繰り返し上映やるって。きっと勉強になるだろうから3回ぐらい見よう」
「いや、今日はもう見るのはいいですって」
 また映画観たいモードになってしまったリュカは、映画はもういいと言う晴夜の言葉を聞かず愛用のアサルトライフル『灯り木』に弾倉をセットして――。

「よし、早く映画観たいから、さくっと全員殺そう」

 照準鏡も覗かずに、リュカは目の前の集団へと銃口を向けた。
「いや全員殺しちゃ駄目ですよ!」
「え? だめ?」
 慌てて晴夜が止めなければ、既に引き金にリュカの指が掛かっていた『灯り木』の銃口が火を噴いていただろう。
「同じ服装からして、どっちも悪いやつらみたいだし。全員殺して良くない?」
「だからこそ、生きてる方は生け捕りにしないと」
「後味悪いのは現実で充分って言ったし」
「いえ、後味の問題ではないですから!」
 映画に対する欲求で殺る気なリュカを、晴夜はまだ撃たせまいとする。
(「全員殺して早く終わらせたら、また映画を見る羽目になる気がするのでね」)
 しかも3回とか言ってた。
 またオールは勘弁したい晴夜である。
『おいこら、超弩級戦力!』
『助けろ! これは『死に添う華』だ。放っとくと街の連中にも寄生するぞ!』
 2人のやり取りに自分達を助ける気がなさそうだと感じたか、まだ生きてる黒服達が助けを求めているのか脅しているのか判らないことを言ってくる。
「あんなこと言ってるけど、お兄さんは俺に『流石の殲滅力だ。頼りになる!』と褒められるか、あの人達に『助けてくれてありがとう』って褒められるか、どっちがいい?」
「どっちに褒められたいかと問われたら、まあリュカさんですけども」
 ますます冷めた目になったリュカの問いに、晴夜は迷わず返す。
「うんうん。じゃあ、そう言う事で――」
「でも生きてる人は時間をかけて生け捕りにしましょう。情報源です」
 リュカが向け直した銃口に、晴夜がそっと手を置いた。
「……」
「……」
 ゾンビの呻く『ヴァー』とか言う音をバックに、2人は無言で顔を見合わせる。
 折れたのは、リュカの方だった。
「……(ちっ)」
「向かってくる宿主は私が食い止めておきます。リュカさんは本体らしき植物の殲滅、よろしく頼みました!」
 リュカの舌打ちは聞かなかったことにして、晴夜は白柴犬型絡繰人形『えだまめ』から鞘のない抜き身の刃を掴んで前に出る。
「わかったよ。じゃあ植物を狙って灯り木で撃ってく」
 その背中を見やり、リュカは構え直した『灯り木』の照準鏡を覗き込む。
『ア゛……? ……ウーァー』
『……ヴ……ォ……』
 その動きで何かを察したか、ゾンビ達も2人の方へ向かってきていた。

●雷光と星光が誘う死を穿つ
「ふっ!」
 短い呼気と共に晴夜が振るった『悪食』の刃は、しかしゾンビが掲げた腕を斬り飛ばせずに止められる。
「これは……」
 予想に反した手応えに晴夜が刃を引くと、切り口から見えたのは怪しく輝く『死に添う華』の蔦であった。
「そこまで寄生されていますか」
 呟く晴夜の目の前で、ゾンビの手を突き破って出てきた蔦が絡み合い、丁度鉄パイプくらいの長さの棒になる。
『ヴァァッ!』
 急にゾンビの動きが早くなり、下がった晴夜の目の前で、振り下ろされた蔦の棒がアスファルトを砕いていた。
「ああ、結構動けるゾンビでしたか……何なら走るタイプですね」
 ゾンビにも色々ある。動きが緩慢なタイプもいれば、走るゾンビだっているのだ。
 連中は後者かもしれない。
 だとしても、晴夜は慌てる事無く『悪食』を構え直し――。

「止まれ」

 短く命じる言葉と共に、晴夜は勢い良く刃を突き込んだ。胸に受けたゾンビが、その衝撃で数歩、たたらを踏んでよろける程の見事な刺突。
 だが晴夜に刺された胸の内にも、既に蔦は張り巡らされていた。
 故に、ゾンビは止まらない。
『ヴ……ァ゛……』
 意味のない音を漏らしながら、晴夜に向かってまた一歩踏み出して――ドーンッと耳を劈く雷鳴と共に、空から降ってきた稲光がゾンビを撃ち抜いていた。
 戻った静寂の中、膝をついたゾンビの身体から煙が上がる。

 謳う静寂。

 攻撃と共に発した命令を無視した相手を落雷で撃つ、晴夜の業。
 止まれ、と命じた晴夜の言葉は、初めからゾンビに聞かせる為のものではなかった。届かない方が良いものだった。
 晴夜の落雷はゾンビの身体の神経を、筋を焼いて断っていた。
 こうなっては、ゾンビであっても動かない筈だ。しかし動かなくなった体の中で、『死に添う華』が蔦を伸ばしていく。
 ターンッ!
 銃声が響いて、怪しく輝く華が散った。
「華は撃ったけど……文字通り根絶やさないとかな」
 それでもゾンビの身体の中で何かが蠢いているのを感じて、リュカは再び銃口を向け狙いを定める。
「……星よ、力を、祈りを砕け」

 届け、願いの先へ――バレット・オブ・シリウス。

 あらゆる装甲や幻想を打ち破る星の弾丸が、ゾンビの身体に風穴を開ける。体内に残っていた『死に添う華』の核とも言うべき球根ごと、撃ち抜いて。
「お兄さんの援護は考えなくていいよね」
「ええ。残りも手早く片づけましょう――そこにいろ」
 怪しい色の蔦と共に崩れて消えゆくゾンビを尻目に、命じる言葉と共に別のゾンビに刺突を放つ晴夜の後ろで、リュカは再び銃口を向ける。

 ――さして時間もかけずにゾンビを駆逐した2人に刃と銃口を向けられて、黒服達はすぐに降参したのは言うまでないだろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

鳴上・冬季
「ふむ、僵尸かと思いましたが、違うようですね。彼らは自我があり成長しますが、貴方達はただのオブリビオンのようだ」

黄巾力士従え無造作に戦場へ
敵が近付いて来たらUC使用
敵の攻撃は黄巾力士にオーラ防御で庇わせ自分は腕を組んで仁王立ち
「どちらにしろ近付くしか脳のない貴様らは、我が陣の贄となるしかない」
「我は迅雷公!我が雷の贄となること、幸運に思うがいい。いや、貴様らは既に思考も持たぬモノ以下であったな、ハハハハハ」

「ふむ、脆弱なただびとに陣を使うは過剰であるか。ならば…行けぃ、黄巾力士!殺さぬ程度に蹂躙してしまえ!」
ただの黒服だけになったら自分は手を抜き黄巾力士に無差別攻撃・鎧無視攻撃で蹂躙させる



●迅雷を称する所以
「おや。私の他にも、雷の術者がいるようですね」
 何処か近くで落ちた雷光に、鳴上・冬季が目を細める。
 雨も降っていないのに落ちた雷だ。それが誰か他の猟兵の術によるものであるのは、想像に難くない。
 そして――雷が落ちた対象も。
「ふむ、僵尸かと思いましたが、違うようですね」
 冬季は呟いて、空から視線を戻す。目の前には、怪しい色合いに輝く蔦の生えた『人間だったもの』が、こちらに向かって歩いてきていた。
 その肌には生気がなく、口や眼窩からは怪しくも鮮やかな華が咲いている。
「僵尸は自我があり成長しますが、貴方達はただのオブリビオンのようだ」
 見えない糸に動かされているかのような自我の感じられない動きに、冬季はその蔦や華が彼らを動かしているのだろうと察していた。
 そんなモノ、まともに相手をする必要もない。
「黄巾力士」
 冬季は腕を組んで仁王立ちしたまま、連れてきていた宝貝――人間サイズの戦闘用人型自律思考戦車を前にだし、迫るゾンビ達を防ぐ壁と成す。
『ヴ……ァ゛……』
『ォォ……ヴァ……』
 黄巾力士の放つオーラの壁に阻まれて、ゾンビ達の口から意味のない呻きが漏れる。
 所詮この程度――と冬季が溜息を零しかけた時、彼らに変化が起きた。
 その背中が突如蠢いたかと思うと、背中を突き破って生えたのだ――華が。眼窩から生えているものよりも大きな華が。
 重なった花弁が翼の代わりとなり、ゾンビ達が浮き上がる。
「ほう……そんな芸当も出来るのか」
 黄巾力士を飛び越えんとする様子に感心しながら、しかし冬季はそこから一歩も動こうとはしなかった。
 既に――敷いてあるからだ。
「既に貴様は我が陣の中。野鼠の如く逃げ惑え……八卦天雷陣」
 ドーンッと、耳を劈く雷鳴が冬季の周りにも響く。
 同時に空から降り注いだ稲妻が、黄巾力士の頭上まで届いたゾンビに降り注ぐ。
『ヴァッ……』
 撃ち落とされるゾンビだが、冬季の稲妻はそれで終わりではなかった。
 ドーンッ。
 再びの雷め――ドーンッ。
 響いた雷鳴が鳴りやむ前に、また雷鳴。
 雷鳴、雷鳴、雷鳴、雷鳴――!
 重なり過ぎて音が聞こえなくなるほどに、雷鳴が何度も何度も鳴り響く。

 八卦天雷陣・青天の霹靂。

 雷鳴が響いた分だけ空に雷光が瞬き、豪雨の如く続いた落雷が、既に雷火に焼かれているゾンビに次々と撃ち込まれる。
 翼代わりの花弁が散って。
 皮膚の下に蠢く蔦が焦げ、焼かれ、さらに焼かれて。
 最後には炭と化して――砕け散る。
「我は迅雷公! 我が雷の贄となること、幸運に思うがいい。いや、貴様らは既に思考も持たぬモノ以下であったな、ハハハハハ」
 冬季がついつい上げた高笑いが収まる頃には――雷に撃たれ続けたゾンビは、ただ焼け焦げた炭となっていた。
「ふむ……少しやり過ぎたか?」
 流石に火力が過剰であったかと、冬季は首を捻る。
「脆弱なただびとに陣を使うは過剰であるか。ならば……行けぃ、黄巾力士! 殺さぬ程度に蹂躙してしまえ!」
 陣を解いた冬季は、まだ生きている黒服連中に黄巾力士をけしかける。
 続いた雷光に視界をやられていた黒服連中は、あっさりと黄巾力士に抑え込まれた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

黎・飛藍
月華(f01199)と

…困った(中華まん食べながら)
どの黒服も同じに見える。何で組織の下っ端は皆同じ服を着ているんだ

とりあえず月華の言うことに従って、花弁塗れの黒服に【生の始めに暗く、死の終わりに冥し】を使う
花弁以外にも、パッと見で見分けが付きそうな何か…
そういえば月華、ゾンビは『死を恐れず迫って来る』とか言っていたな
つまり攻撃しているのにこっちに来るようだったら、問答無用で斬り捨てても何ら問題ない…だろう
まぁ、真面であれば自分の命を優先して逃げるか

根が伸びて来たら容赦無しに叩き斬る
餌になる気はないし、そういうのは趣味じゃ無い


ゾンビを片付け終わったら、会話可能っぽい黒服を月華に取っ捕まえて貰う


鈴・月華
飛藍(f16744)と
ゾンビは…死を恐れず迫って来るその様が生者に恐怖を与えるとか何とか
魔術から生物災害まで万能で、雑魚分類の敵役
でも数で攻めてくるから油断出来ない

うん、皆黒服だね
…んー、じゃあ私が攻撃してもいい黒服に花弁飛ばすから、飛藍は花弁付いた黒服を斬って

【昼は夢、夜ぞ現】でゾンビ黒服を攻撃
飛藍の目印にする為にも花弁塗れにする
噛み付き防止に、口が開いたらありったけ花弁詰め込む

ゾンビが走ったり這うのはまだ『ゾンビになったヒト』の範疇だからいいんだけど
飛ぶのはナンセンスだよ。ヒトは飛べない
飛んだらそれはクリーチャー


理由は解るけど…飛藍も働いてね
倒した後はこう言うんだっけ
で、足止めが何だって?



●黒を彩る白い華
「……困った」
「なにがだい? こんなに買い込んでしまった亜米利加味の中華まんが、口に合わなかったとか?」
 中華まんを食べ終えたのに眉間にしわを寄せた黎・飛藍の呟きに、鈴・月華がまだ幾つかの中華まんの入った紙袋を指差しながら返す。
「いや。これはこれで、悪くない」
 袋の中から新しい中華まんを取り出しながら、飛藍は前に視線を向けた。

『ア゛……ォォ……ア゛……』
『ォ……ァァァ……ヴゥ……』
『くそ! ここまで理性がなくなるとは……』
『こっち来るんじゃねえ!』
 怪しい色に輝く蔦や華を咲かせて徘徊する黒服がいて、それらから逃げ惑っている黒服達もいる。

「あの黒服は、敵なのか?」
「敵かと言われれば……そうだね」
「そうか」
 月華の答えに、飛藍の眉間にますます皺が寄った。
「どの黒服も同じに見える」
「ああ……うん。皆黒服だね」
 飛藍の表情の理由が判って、月華は頷いた。
「何で組織の下っ端は皆同じ服を着ているんだ」
 他人の顔が判別できない飛藍にとって、揃いの黒服と言うものは、個人の特徴を消されてしまったようなものだ。
「んー……私が攻撃してもいい黒服に、先に攻撃するよ」
 そんな飛藍の様子を見て、月華が助け舟を出す。
「花弁飛ばすから、飛藍は花弁付いた黒服を斬ってよ」
 告げて月華は、片腕を掲げた。肘から手首にかけて広がった袖が、重力に逆らって、ふわりと広がる。
「花の香りに溺れるのは如何かな?」
 月華の袖の中から、無数の白いものが飛び出す。

 ――昼は夢、夜ぞ現。

 袖の中に隠した暗器を花と変えて敵を撃つ業。
 数えきれないほどの月下美人の白い花弁が、白華の嵐と吹き荒れる。
「これで見分けやすくなったよね?」
「ああ。白い花は良く目立つ」
 振り向いた月華に、2つ目の中華まんを食べ終えた飛藍が頷く。ゾンビとなった黒服達に、突き刺さった白い花弁が彩を添えていた。
「それにほら」
『ヴ?』
『ア゛ァ゛ァ゛』
『ォォ……ヴォ』
 月華が視線を戻して指さすと、ゾンビ達は2人の方に向かってきていた。
「なんだ? 攻撃されて怒ったのか?」
「怒ったと言うか……ゾンビは、死を恐れず迫って来るその様が生者に恐怖を与える、とか何とか」
 敵の素振りに首を傾げる飛藍に、月華がゾンビについての知見を告げる。
「その発生原因も魔術から生物災害まで万能で、雑魚分類の敵役だよ。但し、数で攻めてくるから油断出来ない」
「……そんなにいないぞ?」
 月華の説明に、飛藍の首がますます傾く。
「今は、ね。ゾンビだとしたら、増える可能性がある」
 ゾンビが増えるのは珍しくない。特にゾンビに噛まれた者が新たなゾンビとなる――と言うのは、よくあるケースと言えよう。
「だから――こうしておくよ」
 月華は先とは反対の腕を掲げて、再び袖口から白い花弁を放つ。
『ヴー……ヴ? ヴボォ!?』
『ア゛ー……ァ゛?』
『ォォォ……』
 開きっぱなしで意味のない音しか零さないゾンビ達の口が、白い花弁で塞がれた。
「後は頼むよ」
「……持ってろ」
 まだ中華まんが残っている紙袋を月華に投げ渡し、飛藍が地を蹴って飛び出した。

●とっとと失せろと振るう刃
 紅い和傘を置き去りに、飛藍が駆ける。
「……」
 露わになった仕込み刀を、飛藍は無言で振り上げた。
 たった一太刀で、斬られたゾンビの腕が宙を舞う。
「……」
 血も流れないゾンビの切断面から、蔦が伸びる。
 しかし切れた腕が繋がる前に、飛藍は刃を翻し、さらに先で腕を切断した。
「……」
 新たな切断面からツタが伸びる前に、飛藍は返す刃で肩口を切断する。
「何度繰り返したって到達出来ないんだ。素直に失せろ」
 どれだけゾンビの身体を切ろうが、その中で蠢く『死に添う華』を切ろうが、飛藍が振るう刃の切れ味は衰えることを知らない。

 ――生の始めに暗く、死の終わりに冥し。

 その斬撃、刃で斬るには非ず。
 仕込み刀を当てた相手を『切断』すると言う業。
『……』
「餌になる気はないし、そういうのは趣味じゃ無い」
 屍だろうが、それを動かす蔦だろうが、屍を突き破って伸びる根だろうが、根に込められた死に繋がる呪いだろうが――刃を当てれば、全てが『切断』される。
 飛藍は一太刀で呪いごと根を切断し、返す刃でその胸元を切断した。その中に隠れていた、『死に添う華』の核とも言うべき球根ごと。
「……!」
 『死に添う華』が枯れて、ゾンビが崩れゆく。だがそれが消えきるのを待たず、飛藍はその場で踵を返して別のゾンビが伸ばしていた腕を切断した。
「そう言えば、ゾンビは『死を恐れず迫って来る』とか言っていたな」
 仲間が切り倒されたのを気にした風もないゾンビに、月華の言っていた事はそういう事かと、飛藍はひとり頷いた。
「まぁ、真面であれば自分の命を優先して逃げるな。それでも攻撃してきたこいつは、問答無用で斬り捨てても何ら問題ない……だろう?」
 確かめるような飛藍の言葉に、返ってきたのは鈴の音ひとつ。
 それで月華が頷いたと判断した飛藍は、今度は一気に踏み込み、ゾンビの身体を仕込み刀で真っ二つに切断した。
(「先のと同じであれば、これで枯れる筈だが――」)
 飛藍の予想通り、やはり身体の中心にあった『死に添う華』の球根が、その一太刀で切断されていた。

 ――バサァッ!

 そこに響いた、翼を広げたような音。
 見れば残るゾンビの背から、怪しい華が翼の様に広がっていた。それがただの飾りでないことは、ふわりと浮き上がったゾンビが証明していた。
「ゾンビは飛ぶのか」
「いやあ、飛ぶのはナンセンスだよ」
 感心したように呟く飛藍に、月華が呆れたように返す。
「ゾンビが走ったり地を這うのはまだ『ゾンビになったヒト』の範疇の動きだからいいんだけど。ヒトは飛べない。飛んだらそれはクリーチャー」
 告げて月華は、両腕を空に向けると、まだ残しておいた暗器を再び白い花弁と変えて袖口から放った。空に舞い上がった月下美人が、ゾンビの背に咲き誇る『死に添う華』とぶつかり――。
 白華も怪華も、互いに散って空に広がる。
 その中を、飛ぶ力を失ったゾンビが落ちていく。
「飛ぶのはナンセンス、らしいぞ」
 『死に添う華』が苗を増やして再び花弁を翼と咲かせる前に、飛び込んだ飛藍が仕込み刀でゾンビを一刀に切断していた。

 月華と飛藍の戦いを、ゾンビ化を免れた黒服達は物陰でずっと見ていた。
『た、助かった……いや、助かってねえけど!』
『これが超弩級戦力……』
 とても敵う相手ではない。『死に添う華』も倒された今、彼らに出来るのはそっと音を立てずに逃げる事だけだ。
 だが――。
「で、足止めが何だって?」
 2人の喉元に、背後の月華が構える白銀の大鎌の刃が突き付けられる。
「そいつらは捕縛できるのか。任せた」
 その声に月華が視線を向ければ、飛藍は紙袋から、流石に冷めてしまった中華まんを取り出している所だった。
「あのさぁ……理由は解るけど、飛藍も働いてね」
 どうせ見分けがつかないと丸投げしてしてくる飛藍に、月華は溜息を零す。

 ――後に、捕縛された黒服達はこう語ったと言う。
 軽々と大鎌持ち上げて脅してきた月華も恐ろしいが、ゾンビを散々斬り倒した直後に中華まん食べようとした飛藍の方が恐ろしかった、と。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ガーネット・グレイローズ
南米の犯罪組織が脅迫事件を起こし、謎のトーテムポールを
流通させていた?思ったより規模の大きい話になってきたな。
しかし、なぜトーテムポール。西部劇と何か繋がりがあるのか?
詳しくはジェロニモという男に聞いてみるとするか。

車を走らせ、グリフィスパークへ。
組織の構成員達から直接情報を入手しようと思ったが…
この状況は、いわゆる内ゲバという奴か?
伸びる蔓に囚われぬよう動き回り、スラッシュストリングを
《念動力》で操って周囲を切り払う。
そして【パイロキネシスα】を発動し、火球を飛ばして
植物ゾンビを燃やしていくぞ!
黒服達は《功夫》で叩きのめして制圧し、警察に連行するとしよう。
(アドリブ・絡み歓迎)


ミネルバ・レストー
誰も影朧の餌食にしろとまでは言わない案件なんじゃ……?
って、割とシャレにならない話になっちゃったわね
悪の組織の下っ端なんて、フィクションでもリアルでも末路は同じか

前にネットで「すぐわかる! ゾンビ対策」っていうのを見たのよ
何それうさんくさいって思ったけど、今こそ思い出すわ!
ええと……確か「低温への耐性がなければそこを突く」って
試しに【意思ある氷雪の舞】で一発かましてみましょう
命中して、手応えが良ければデータを活かして威力を上げて継戦ね
寄生してるのが植物だから、読みが当たるとは思うんだけど……?

最悪、氷が通じないなら「クイックドロウ」を使った拳銃に頼りましょ
銀の弾丸はないけど、やるっきゃないもの



●ゾンビを挟んで、猟兵2人
(「南米の犯罪組織が脅迫事件を起こし、謎のトーテムポールを流通させていた?」)
 他の猟兵達が得た情報と合わせて整理した情報に、ガーネット・グレイローズは内心で首を傾げていた。
 思ったより規模の大きい話になった――と思うのが半分。
 トーテムポールと西部劇に何の繋がりが――と言う疑問も半分。
(「詳しい話を聞いてみたいが……件の組織の者か、ジェロニモ・フィフティーンを名乗る男のどちらかを見つけないとな」)
 そう考えたガーネットは、グリフィスパークに愛車を走らせ――。
 とても話を聞けそうにない状況に遭遇した。

『ヴァー……ウ……』
『ウゴ……マ゛……』
『ァ゛ー……ヴァー……』
 怪しい色に輝く蔦や華が身体から生えた黒服が、何人も徘徊している。既に理性はおろか、生命も残っていないようだ。
『くそっ、来るんじゃねえ!』
『無駄だ。影朧に銃が通じるか』
 まだ正気の黒服もいるが、襲われそうになっている。
「この状況は、いわゆる内ゲバという奴か?」
 溜息交じりに呟いて、ガーネットは混乱の中へ踏み出した。

 一方その頃。
『ヴァー……ウ……』
『ウゴ……マ゛……』
『ァ゛ー……ヴァー……』
「……割とシャレにならない状況になっちゃってるわね」
 怪しい色合いの植物に寄生され、意味のない呻きを漏らす黒服達を挟んだ道の反対側では、ミネルバ・レストーがその状況に溜息を零していた。
「どう見てもゾンビ……なんか生えてるから、あれが原因ね」
 バナナシャークで、突飛な状況に耐性がついたのか。ミネルバは混乱していないわけではなかったが、冷静に状況を分析出来ていた。
「多分、自分達で持ち込んだ影朧なんでしょうけど……誰も影朧の餌食にしろとまでは言わない案件なんじゃ……?」
 だが、誰かが言ってしまったから餌食が出てしまったのだ。
「悪の組織の下っ端なんて、フィクションでもリアルでも末路は同じか……銀の弾丸はないけど、送ってあげる」
 そしてミネルバも、混乱の方へ踏み出した。

●百三之炎
 ヒュンッ!
 その風を切る小さな音は、ガーネットにしか聞こえていなかっただろう。
『ヴ?』
 スラッシュストリング。
 宇宙海獣の肉体すら斬りさくブレードワイヤーが、ゾンビの腕を斬り落とす。
 ヒュンッヒュンッヒュンッ!
 ガーネットは念動力でスラッシュストリングを操り、立て続けにゾンビの腕を、脚を斬り落としていく。
 それが普通のゾンビであれば――動けなくなっていただろう。
 だが彼らの身体に寄生した『死に添う華』にとっては、寄生した肉体とそこに伸ばした蔦の幾らかが欠損したに過ぎない。
 斬られた身体の切り口から幾つもの蔦が伸びると、斬り落とされた手足に絡みつき、強引に繋げていった。
「斬るのは効率が悪いか。ならば――」
 ガーネットはスラッシュストリングスを、斬るのではなくゾンビに絡みつかせる。
 動きを封じておいて、ガーネットはサイキックエナジーを高めにかかった。
「私の前に立ち塞がるものは、すべて焼き払ってやろう」
 ガーネットの前に、熱が生まれる。
 高まる熱は周囲の酸素も取り込んで、燃え上がった。

 ――パイロキネシス・α

 ガーネットのサイキックエナジーが生み出した100を越える炎の塊が、手足を繋げたばかりのゾンビに殺到する。
『ヴン゛?』
 避ける間もなく炎に包まれたゾンビが、あっという間に焼き尽くされた。
『オ……アァ……』
『ヴァー……ヴー……』
 寄生した『死に添う華』が、炎に危険を感じたか。残るゾンビ達の背中に幾つもの苗が生えて、あっという間に華を咲かせる。
 狂い咲いて重なった華が、翼の様にゾンビ達の背中に広がった。
 ――バサァッ!
 それが飾りでないことを示す様に、ゾンビ達が空に飛び上がる。
「飛ぶゾンビとは珍しい――だが、無駄だ」
 それを見たガーネットは、パイロキネシスの炎を全て空へと飛ばした。
 ゾンビ達の追撃に――ではない。
 炎はゾンビ達を追い越して、その頭上に集まり出した。100を越える炎の全てが、空の上で1つに集う。太陽が如き巨大な炎の塊が、空に生まれる。
 その熱量に、翼と咲いた『死に添う華』が、近づくだけでしおれていく。
 下降を始めた巨大火球から逃れる術は、ゾンビ達に残されていなかった。

●氷竜の魔女
 ――すぐわかる! ゾンビ対策。
 それをミネルバがネット見たのは、いつだったか。
「あの時は、何それうさんくさいって思ったけど……何が役立つかわからないわね」
 ミネルバは記憶を探り、何とか内容を思い出そうとする。
 その中で、自分に出来そうなものは――。
「ええと……確か『低温への耐性がなければそこを突く』ってあったわね。試しに一発かましてみましょう」
 方針を定めたミネルバは、ゾンビ達の方に掌を上にして片手を伸ばした。掌中から、雪と氷の結晶の様なものが現れる。
「……」
 目を閉じたミネルバが念じると――結晶が輝き始めた。
(「氷の塊……違うわね。温度を継続して下げ続けるには……よし」)
「さあ、行くわよ。情報解析は勝利への第一歩ね」
 ミネルバが両目を開くと同時に、結晶――アブソリュート・ウィッチが一際強く煌めいて、冷たい風が放たれた。
 雪と氷が混じり、吹き荒れる風。
 吹雪にも似た現象だが、この吹雪は指向性を持っていた。
 さながら、氷竜の吐息の様に。
 それは、かつてとあるネットゲームの中で、氷竜の魔女と呼ばれたアバターであったミネルバが得意とする氷雪の術。

 意思ある氷雪の舞――ブリザード・ダンス。

『ヴォ……ォォォォ……』
『ァァ……ア゛ア゛……』
 吹き荒れる氷雪をまともに浴びたゾンビ達の動きが、明らかに鈍くなる。元々血の気が全くなくなって土気色だった肌が、白い霜に覆われていく。
 だが――それでもゾンビは。
 寄生した『死に添う華』は、まだ動いていた。
『アエ゛……オ゛……』
 もう腕を突き破って芽を出す事は出来なかったか、ゾンビの口から蔦が伸びて来る。
「寄生してるのが植物だから、氷は弱いと思ったんだけど……」
 予想以上にしぶとい『死に添う華』に、ミネルバは目を細める。
 だが、ミネルバには見えていた。判っていた。
 氷の術が『死に添う華』に効いているのが。

 意思ある氷雪の舞は、アブソリュート・ウィッチの意思を目覚めさせ、攻撃と情報解析を同時に行う術なのだから。

「アブソリュート・ウィッチ。もっと冷たくしてやりなさい!」
 その言葉に応えて、放たれる氷雪が更に冷たさを増していく。
 ゾンビの口から伸びた蔦は、何か宿主が得意としていた得物の形を作ろうとしていたようだが――その形が判明する前に、完全に凍り付いていた。

●炎と氷の協演に挟まれて
 まだ寄生されていなかった黒服達は――見ていた。
 太陽の如き炎が、影朧ごとゾンビを焼き尽くすのも。
 離れていても冷たいと判る氷雪が、影朧の蔦や華も全てを凍らせるのを。
「見つけたぞ。叩きのめされたくなければ、大人しくして貰おうか」
「だって。良かったわね。拳で相手してくれるなんて、優しいじゃない」
 そして、笑顔で拳を固めたガーネットと、鋭い氷柱を携えたミネルバに、ほぼ同時に見つかった黒服達は――。

 無条件で降伏した。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『雷禍』

POW   :    雷抛
【怒れるままに電撃】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
SPD   :    雷珠
【雷球】を放ち、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。
WIZ   :    穿雷
【怒り】を向けた対象に、【積乱雲からの雷】でダメージを与える。命中率が高い。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠鈴・月華です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●黒服の供述
 ジェロニモ・フィフティーン。
 そう名乗る男が、本当にアパッチ族の末裔であるという証はない。
 事前の調査で判っていた事ではあったが、生け捕りにされた黒服達も同じ事を猟兵に語っていた。
『向こうから接触してきたんだ』
『自分は末裔だって売り込みでな』
『で、うちのボスと意気投合した』
 アパッチ族の末裔を名乗る男と、南米の影朧を持つ犯罪組織(カルテル)のボス。
 意気投合する要素がどこにあるのかと思うかもしれないが、あったのだ。

 ――所謂、自然信仰と言う要素が。

 墨西哥のマヤ、アステカ文明や、さらに南の秘露のインカ文明では、ジャガーを神として崇めていたという。そうした類の信仰は、亜米利加の地に航海者たちが訪れる以前から住んでいた人々の間にもあったそうだ。
 黒服達のボスとジェロニモ・フィフティーンは、共にそうした祖先から伝わる信仰心を大事にしている人物であった。
 それは、黒服達の属する影朧カルテルの名にも現れている。

 Sombra Brumoso Sirviente――影なる朧の僕。

 影朧を神格化しているかのように敬うからこそ、僕なのだ。
『ハリウッドを狙ったのは、ジェロニモ氏のアイディアだ』
『此処なら余所者も入り易いし、大道具ってことにしとけば色々運び込めるからな』
『まあ、トーテムポール作戦は失敗したがな……』
『トーテムポールグッズの中に、幻朧桜で作ったトーテムポールの中に『死に添う華』の種を混ぜて街中に広める計画だったが、まさか売れないとは……』
 猟兵が活動するまでもなく失敗してたそれ、計画だったのか。
 しかも売れる算段だったのか。
『ジェロニモ氏がそういう商品を扱ってると聞いて、ピンと来たんだ』
『そのジェロニモ氏が、余計な事するなとお冠だったがな』
『ライカで充分だと言ってたな』
 で、その肝心のジェロニモ氏は、何処に?

●春雷、孵る
 赤銅色の肌に白い塗料で何かの文様を描いたその男――ジェロニモ・フィフティーンの姿は、グリフィスパーク南東部にあった。
 たまにロケ地にも使われるという洞窟の中から、一抱えもある卵を抱えて。
『充分に祈りを捧げた……とは言えないが、超弩級戦力が来た今、猶予はない』
 そしてジェロニモ・フィフティーンは、抱えていた卵を置くと、洞窟の外に立てかけてあった大きなトーテムポールを振りかぶり――。
『時は来た!』
 卵に振り下ろした。
 メギッ、と鈍い音がして、卵の表面にヒビが入る。
 ヒビはどんどん広がって――卵の中から、紫色の輝きが溢れた。

 地上から空へ、紫電が昇っていく。

『ああ……そうだ。その姿が、見たかった』
 紫電の衝撃で仰向けに倒れたまま、ジェロニモ・フィフティーンは空を見上げ呟く。
 そこには、巨大な鳥が紫電を纏った白と紫の翼を広げていた。

 雷禍。

 それは嘗て、蟲出しの雷を放つ勤めにあって春の訪れを告げていた瑞鳥。
 いつしか、ただ雷を放つ存在と恐れられ、虐げられた影朧。
 それは亜米利加の先住民族の間に伝わる伝説の鳥、雷の精霊とも言われるサンダーバードとは、似て非なる存在である――筈だ。
『貴方がサンダーバードであろうとなくとも、関係ない。古き時代を忘れたこの亜米利加の空に! 雷の翼が! もう一度自由に羽撃く! ――それで充分だ』
 だがジェロニモ・フィフティーンは、その存在を重ねた。
『影朧キネマに残せないのは、残念だがな』
 遠くなっていく巨鳥を見送り、ジェロニモ・フィフティーンはぽつりと呟いた。

●監督魂
 一方、その頃。
『あれは……もしやサンダーバード?』
 サンタモニカ丘陵に立てられた、HOLLYWOODの巨大な文字看板。
 聖林のシンボルともいえるランドマークの上に、雷が迸っているのに、サンダー・ラフェンテは気づいていた。
 脅迫状を受け取っていた彼だからこそ、それが影朧によるもので。そこには超弩級戦力もいるだろうとも、思い至る。
 そして、彼の中の何かに火が付いた。
『こいつは……撮りに行くしかねえ!』
 影朧と超弩級戦力の戦いをカメラに収めるチャンスなど、もう二度とないかもしれないのだから。

=================================
 3章になりました。

 やや長い導入となりましたが、やる事はシンプルです。
 『雷禍』とのボス戦です。
 雷を放ち、雷を呼ぶ、かつての瑞鳥。
 と言うわけで、敵は基本的に空を飛んでおります。

 亜米利加、聖林遠征編。
 最後くらいは、シリアスに行きましょう。
 シリアスになる筈です。多分。

 なお、サンダー氏が撮影モードに入りました。
 彼の事は考えなくて大丈夫です。離れた所でカメラ回してます。
 但し、撮影されるかもしれません。
 と言うわけで、冒頭に以下の記号を書いておいていただくと、最後のエピローグ的な部分に何かあるかもしれません。

 ◎:顔出し上等
 ○:戦闘映像使うくらいなら
 ×:撮影禁止

 特に記載ない方は、×扱いとします。

 プレイング受付は、
 4/21(水)8:30~ とさせて頂きます。
 締切は別途告知しますが、最短で4/24(土)になります。
=================================
ミネルバ・レストー


卵を温めて孵化させるのかしらと思ったら、そういう……
影朧も影朧で、あんな喚ばれ方でいいのかしら
ねえ? クソダサドラゴン――【氷竜天翔・六花繚乱】
相手が空を飛ぶなら、「空中戦」でお付き合いしなきゃね

雷球で巻き込む味方をギリギリまで減らすため、単独行動を狙う
八尺瓊勾玉でドラゴンを制御しつつ、攻撃は氷のブレスで
敢えて先手を取らせて攻撃の軌道を読みやすくしてから「見切り」
目一杯近づいて氷の「属性攻撃」を乗せたブレスで反撃

ジェロニモがサンダーバードに思いを重ねる気持ちは分かるつもりだけど
そういうのこそ、映画とかのフィクションの中に留めておいて欲しいわ
影朧案件にされると、こういうことになっちゃうじゃない



●魔女は見ていた
「うん? 今、何か聞こえたような……」
 黒服達から得た証言を元にジェロニモ・フィフティーンを探していたミネルバ・レストーは、物音に木々を掻き分ける。
 そして見た。
『時は来た!』
 ジェロニモ・フィフティーンが、ダチョウのものよりも大きな卵に、大きなトーテムポールを振り下ろすのを。
「卵を温めて孵化させるのかしらと思ったら、そういう……」
 予想に反したトーテムポールの使用法に呻くミネルバの前で、卵の表面に入ったヒビがどんどん広がって――紫色の輝きが溢れた。
 眩しさに目を細めながら、ミネルバは紫電の動きを追って顔を上げる。やがて光が収まれば、空には卵から孵った『雷禍』が、元気に羽撃いていた。
「影朧も影朧で、あんな喚ばれ方でいいのかしら」
 空を見上げたままミネルバが開いた掌に、幾つもの氷の結晶が生まれる。
「ねえ? クソダサドラゴン――」
 ミネルバの掌を離れた氷の結晶は吹雪の様に吹き荒れて、渦を巻く。されどそれは吹雪の様に広がることなく、むしろ内へと収束していく。

 氷竜天翔・六花繚乱――ドラゴンライド・ライトバージョン。

「相手が空を飛んでるなら、空中戦でお付き合いしなきゃね? わたしを乗せる栄誉をあげるわ」
 氷の渦の中から現れた、深い青の鱗と氷に覆われた竜――アイストルネードドラゴンの背に乗って、ミネルバは『雷禍』を追って空へ飛び立った。

●氷竜VS雷鳥
(「――クソダサドラゴンより大きいんじゃない?」)
 近づくとわかる『雷禍』の姿に、ミネルバが胸中で呟いていた。
 コンドルの大きい個体は翼を広げると3mを越えると言うが、その比ではない。ジェロニモがそこまで知っていたのなら、サンダーバードに思いを重ねたのも頷ける。
「そういうのこそ、映画とかのフィクションの中に留めておいて欲しいわ。影朧案件にされると、こういうことになっちゃうじゃない」
 溜息交じりに呟くミネルバの視線の先で、『雷禍』が急に旋回した。
「見せて貰うわよ。わざわざ来てあげたんだから」
 ミネルバは氷竜の背で、八尺瓊勾玉を握る手に力を込める。
 冷たく輝く氷の勾玉に呼応し、氷竜の口から放たれた氷のブレスを、『雷禍』は1つ羽撃いて上昇する事でやり過ごし――。

 ――ピュィィィィィッ!

 猛禽類のものに似た鳴き声が、空に響き渡った。
 翼を広げた『雷禍』の周囲に幾つもの雷球が生み出される。
「何よその数――っ!」
 その数に思わず呆気にとられた直後、ミネルバは氷竜の背を叩いて急旋回させた。
 ――刹那、ミネルバたちのいた空を雷球が飛び過ぎていった。
「しかも速いなんて、厄介ね」
 次々飛んでくる雷球をぎりぎりで見切って避けながら、ミネルバは竜の背で呟く。
 それでも完全に避けきれているわけではなく、バヂッと電気が弾ける音がする度に、氷竜の翼の先から焦げた青い鱗と氷が飛び散っていた。
「でも、手の内は見せて貰ったわよ」
 傷が増えていく氷竜の背で、しかしミネルバは不敵に笑う。
 ミネルバが単独で空中戦を――敵の得意とするであろう空と言うフィールドでの戦いを選んだのは『雷禍』に雷を撃たせるためだ。
 先に撃たせれば、見ることが出来る。
 見せることが出来る。
「ま、やられっぱなしで終わる気なんかないけどね」
 残る雷球の直撃だけを避けて、ミネルバはやや強引に氷竜を駆って、一気に『雷禍』との距離を詰めた。
「やりなさい、クソダサドラゴン」
 目一杯近づいて放った氷のブレスが、『雷禍』の身体の半分を凍らせた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ガーネット・グレイローズ


雷を纏った巨大な鳥…あんなタイプの影朧もいるのだな。
しかし、空を飛ぶ敵ならばアレを出すしかないか。
キャバリア「夜の女王」を呼び出し搭乗
現状、飛行して戦うのならこれしかないからな。

機体を浮かび上がらせ《空中戦》だ。
浮遊砲PSDホーネットを射出、《念動力》で操って《レーザー射撃》。
かなりの巨体だが、結構敏捷だな。さらに高度を上げていくか!
《操縦》《第六感》で雷光の発射を予測し緊急回避。
彼の巨鳥が光輝く姿は神々しく、美しい。それが偽らざる感情だ。
だが今の奴は災いをもたらす影朧、放っておくわけにはいかない。
ゆえにここで撃つ!
終末異界兵器「ⅩⅦ:星」を発動、《属性攻撃》《弾幕》で
雷禍を包囲攻撃する。



●夜の女王、聖林に立つ
 雷雲もないのに空から雷鳴が響き、ガーネット・グレイローズは空を見上げる。
 そこには雷球を放つ巨大な鳥と、その周りを飛び回る青い竜がいた。
「雷を纏った巨大な鳥……あんなタイプの影朧もいるのだな」
 地上からでもわかる『雷禍』の大きさに、ガーネットは思わず腕を組む。
 サンダーバードを重ねた影朧が現れるであろう事は、予想出来ていた。だが、思った以上に大きく、そして空高くにいる。
 そんなに空高くで戦える手札となると、流石にガーネットも限られる。
「アレを出すしかないか……来い、夜の女王!」
 組んでいた腕を解いたガーネットの背後に、突如、光の柱が立ち昇った。
 光の中に浮かぶ、大きな人型の影。現れた黒と赤を基調としたややスリムなデザインのキャバリアの操縦席に、ガーネットが乗り込んでいく。
「目立つかもしれないが……いや、確実に目立ってしまうだろうが、飛行して戦うのならこれしかないからな」
 そして、ブラッドギア『夜の女王』が聖林の空に浮かび上がった。

●青き光の千刃
「さて……地上から見た限り、かなり敏捷だな。接近戦は難しいだろうな」
 キャバリアの操縦席で、ガーネットは呟く。
 空中戦専用機ではない『夜の女王』では、空中でドッグファイトと言うわけには行かないだろう。
「手数で攻めるとするか。浮遊砲PSDホーネットを射出」
 呟いたガーネットの意志に反応し、『夜の女王』の腰部装甲が開く。中から出てきたのは、幾つもの小さな機械――遠隔レーザー射撃デバイス。
 ホーネットの名の通り蜂を思わせる小型デバイスの群体が、ガーネットの念動力に操られ空に広がっていく。
 広がっていく群体の全てから、ガーネットの思念を受けて幾つものレーザー光線が放たれた。幾つかは空を切るが、その多くが『雷禍』の翼や身体に撃ち込まれる。

 ――ピュィィィィィッ!

 空に響く『雷禍』の鳴き声。
 光に撃たれた痛痒にか、苛立ちにか。
「さらに高度を上げていくか!」
 『雷禍』の身体から溢れ出る紫電が激しくなったのを見て、ガーネットは『夜の女王』をさらに高くに上昇させようとする。
 だがその時、操縦席に警告音が響いた。
「これは――!」
 その音でガーネットは気づいた。
 頭上の空から青が消え、代わりに暗く昏い黒灰色の雲が広がっている事に。

 積乱雲。
 内部に流れる気流によって激しい静電気を持ち雷を降らせる事から、単に雷雲とも呼ばれる種類の雲である。
 通常であれば、こんな僅かな時間で発生する事などあり得ない。
「雷雲すら従えるか――見事なものだな」
 ガーネットの口から、賞賛の言葉が零れる。
 紫電の輝きを纏い、自然の摂理を無視して雷雲を呼ぶ『雷禍』の姿に、ガーネットは神々しさや、美しさすら感じていた。
 だが、今の『雷禍』は影朧だ。
 災いをもたらす存在になってしまっている。
「放っておくわけにはいかない。故にここで撃つ! ――『武器庫』よ」
 積乱雲を消すのは難しい。
 それよりも、ガーネットは『雷禍』により大きな傷を与える一手を打つのを選んだ。
「異界兵器の一つ<星>を解禁する権利を求める……開門せよ」
 『夜の女王』のフレームの各所が赤く輝き、その周囲の空間に穴が開く。現れたのは、数えきれないほどの青く輝く光の刃。

 終末異界兵器「ⅩⅦ:星」――ワールドエンドウェポン・スター。

「避けられるものなら、避けてみろ!」
 一斉に飛び出した光の千刃が、空に複雑な幾何学模様を描く。
 青い軌跡の内側に『雷禍』が封じられ――その身体に突き刺さった光の短剣が爆発すると同時に、積乱雲から放たれた雷も『夜の女王』に落ちていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

鳴上・冬季


「ふむ。雷鳥如きに遅れを取ると思われるのは心外ですね」
上空見上げ独りごちた

自分も黄巾力士も飛べるので空中戦+空中機動で戦いを挑む
「たかが精霊の亜種如きに遅れを取るとあっては仙の名折れ。貴方も封神して差し上げましょう」
「我は迅雷公!ただの雷の化生如き一蹴してくれるわ!」
雷爆鎖で両羽の爆砕を試みる
黄巾力士突っ込ませ最前線で無差別攻撃で蹂躙させる
自分や味方への攻撃は黄巾力士にオーラ防御で庇わせる
黄巾力士は囮を兼ねているので、結果爆砕しても気にしない
サンダー氏の撮影にも気付いているが、どうせバナナシャークに置き換えられるのだろうと楽観視

「所詮は紛い物、本物には届かん。今から新作が楽しみだ。ハハハハ」



●憤怒の雷、神気の雷
「ふむ。あれが連中の切り札ですか」
 雷を纏った翼を広げ、雷球を空に放ち大きな積乱雲を呼ぶ。
 雷を操り天候すら変えてみせた『雷禍』の姿を、鳴上・冬季は同じ高さの空に浮かぶ黄巾力士の肩の上から眺めていた。
 人型自律思考戦車の自作宝貝である黄巾力士の用途は戦闘用。追加の宝貝・飛来椅と合わせれば、空を飛ぶ事も出来る。
「霊獣……いや、精霊の亜種と言ったところでしょうか」
 その肩に座して、冬季は冷静に『雷禍』の力を分析する。
 力を持った存在である事は確かだろう。
 だが――だからどうした。
「雷鳥如きに遅れを取ると思われるのは、心外ですね」
 目に傲慢な光が宿し、冬季は黄巾力士の肩からふわりと浮き上がった。

 宝貝・風火輪。

 両足首に嵌めた飛行装具の能力で、冬季自身も空を飛ぶ事が出来る。
「たかが精霊の亜種如きに遅れを取るとあっては、仙の名折れ」
 冬季は黄巾力士を従え、凍結と爆発で傷ついた『雷禍』の前を態と横切る様に飛んでから、その頭上まで上昇していく。
「貴方も封神して差し上げましょう」
 冬季の言葉を、『雷禍』がどこまで理解していたのかは判らない。
 だが、例え言葉の通じぬ者同士でも、言葉に込められた感情によっては通じる事だってあるだろう。
 『雷禍』はただ一つだけ、気づいて理解していた。
 空中に光の陣を描いている冬季に――見下されたのだと言う事だけは。
 その理解が、『雷禍』の中に渦巻く怒りに火をつける。

 ――ギュィィィィィッ!

 『雷禍』の嘴から怒りの鳴き声が上がり、その全身から荒れ狂う雷撃が迸る。
 冬季に対しても、幾つもの雷撃が向かって行き――その全てを、オーラの光を纏った黄巾力士が遮った。
 しかし、何発も間髪入れずに続く雷撃を受け止める内に、黄巾力士の纏う光の輝きがどんどん弱くなっていく。
「ほう。怒りの雷撃ですか」
 先に見たものに劣らず激しい雷撃を放つ『雷禍』に冬季は目を細め――その頭上で描き終えた陣が輝いた。

「八卦天雷陣・雷爆鎖」

 直後、冬季が空中に描いた陣から、稲妻が降り注ぐ。
 バヂィィィッ!
 冬季の稲妻と『雷禍』の雷撃が空中でぶつかりあい、雷華と爆ぜる。
「ですが、所詮は化生ですね」
 ぶつかった瞬間は拮抗したかに見えた両者の雷だが、次第に冬季の稲妻が『雷禍』の雷撃を押しやり始めた。
 冬季の放つ稲妻は、『雷禍』に真っすぐ落ちている。
 だが『雷禍』が怒りのままに放つ雷撃は、その周囲全方位に荒れ狂っていた。『雷禍』の方が範囲が広いが、その分、一点に対する勢いは冬季の稲妻が勝る。
 更に――『雷禍』の気が、何かで削がれた。
「この迅雷公を前にして僅かでも気を緩めるとは愚かな。一蹴してくれるわ!」
 僅かに勢いの落ちた『雷禍』の雷撃を撃ち破り、冬季の稲妻がその両翼に落ちる。
 その瞬間、稲妻が、爆ぜた。
 神気を込めた陣から降り注ぐ稲妻は、神気によって爆発する。故に――雷爆鎖。

 両翼を半分以上を爆砕され、飛行能力を大きく逸した『雷禍』が落ちていく。

「所詮は紛い物、本物には届かん。今から新作が楽しみだ。ハハハハ」
 それを見下ろす冬季の声と高笑いが、羽根が舞い散る空に響いていた。
 その姿もサンダーの回すカメラに映っていたが――どうせ何かサメに置き換えられるのだろうと、冬季は高を括っていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

リュカ・エンキアンサス

晴夜お兄さんf00145と
(お兄さんと俺の銃は映画に出ればいいと思うが俺はいい
(なんか嫌な気配(撮影者)を感じた
(それはそれで全力で遊ぶ

…お兄さんは羽がないからね
もっとこう、羽でも散らしてキラキラ輝いたら画面映え…じゃなかった
敬われると思うよ
なんかないの、そういう技
…いや、俺が目立っても困るでしょう

お兄さんを囮に基本は離れた場所から狙撃
折角だ。うたいの鼠で麻痺攻撃と援護射撃で裏方に回って…
はい、お兄さんそこでなんかかっこいい台詞言って
…(残念な人を見る目
……(何と言われると、もう残念ですね、としか
ええと…映画、楽しみだね?
そっか、お兄さん気付いてないのか
何でもない終わったらまた映画見に行こう


夏目・晴夜

リュカさんf02586と
(気配は特に感じない。平和

私は飛べないので、飛ぶ敵が相手だと実に厄介です
羽を生やす技は…残念ながら…
なので代わりにリュカさんが羽を生やす技を習得して下さい。六枚くらい!

呪詛の衝撃波を纏わせた足で雷球を蹴り付け【踏みつけ】相殺しながら足場にして接敵
切り裂くならやはり翼でしょうか
神格化されているようですが、地に落としてあげますよ
かっこいい台詞…?ハレルヤは常にかっこいいでしょうが!
至高、至上、至善、至貴――ハレルヤは至の四天王略して至天王を目指して今日も歩きます!!

なんだ、その目は
映画?また何か見たいのがあるんですか?
そうですねえ、終わって休憩いれたらまた見に行きますか!



●気づく人、気づかない人
(「ん?」)
 空に雷鳴が響く中、リュカ・エンキアンサスは『何か嫌な気配』を感じて、内心で首を傾げた。
 かつて戦場で、似た嫌な気配を感じた記憶が蘇る。
 姿の見えない狙撃手に狙われていた時の。
 だが、その時に一緒に感じた『死の気配』は欠片も感じない。
(「撮られてるだけ、かな」)
 ここは聖林だ。映画の街だ。騒ぎを聞きつけた誰かが、映画のネタにとカメラを回していてもおかしくない。
(「放っておいても害はなさそうけど、映画に使われるのは……」)
 遠慮したい――そう思いながら、リュカは隣に視線を向ける。
「……」
 夏目・晴夜は、珍しく難しい顔で雷鳴轟く空を見上げていた。
「どうしたの、お兄さん」
「いえ。私は飛べないので」
 リュカが訊ねると、晴夜は空から視線を外さずに返して来る。
 空では紫電纏う『雷禍』が羽撃き、それを追った猟兵だろう。氷竜が『雷禍』と空中戦を繰り広げていた。
「飛ぶ敵が相手だと実に厄介ですね。どうしたものか……」
 自信過剰と評されることもある晴夜だが、そもそも出来ない事に対しては、流石に自信の持ちようがないらしい。
「……」
 そんな晴夜の横顔に、リュカはある事に気づく。
 空の敵が気になるあまり、晴夜は撮影されてる気配にまるで気づいてないのだと。
 そして――リュカの中に悪戯心が生まれる。

(「よし。お兄さんだけ撮られる方向に持ってこう」)

 意訳。晴夜で全力で遊ぼう。
「俺もだけど、お兄さんも羽がないからね」
「羽を生やす技は……残念ながら……」
 そんな内心を隠したリュカの言葉に、晴夜は難しい顔のままひとつ頷く。
「ないなら生やしてみれば良いんじゃない?」
「え?」
 しかしサラッと無茶言ってきたリュカに、晴夜は驚いた顔を向けた。
「こう、羽でもブワーッと散らしてキラキラ輝いたら画面映え……じゃなかった、敬われると思うよ」
(「……画面映え?」)
 リュカが何を言っているのか図り切れず、晴夜は内心首を傾げる。
 その間にも、リュカの無茶ぶりは止まらなかった。
「なんかないの、そういう技」
「ないの、と言われても。ないから悩んでいるんです」
「じゃあ、作ろう」
 新たなユーベルコードを習得する。
 それは、猟兵にとって決して難しい事ではない。
 難しくはないが、そこら辺でちょっと飲み物を買ってくるような気楽さで、作ろう、と言われて作れるものでもない。
 リュカが何でそんな無茶を言い出しているのか――その理由を晴夜はまだ判ってはいなかったけれど、やられっぱなしでいる筈もない。
「リュカさんも羽を生やす技を習得して下さい」
「……いや、俺が目立っても困るでしょう」
 思わぬ晴夜の反撃に、リュカがそっと視線を逸らす。
「困りませんから、六枚くらい生やしましょう!」
 大天使かな。
「そういう派手なのは、お兄さんに――」
「いえいえ、リュカさんこそ――」
 どっちがどれだけ羽を生やすかで揉めていた2人の言葉が、遮られた。
 空が揺れたかと思う程の、青い光を伴う爆発の音に。
 それで空を見上げた2人の視線の先で、雷と雷がぶつかり――立て続けに雷が爆ぜて轟音を響かせる。
 やがて、『雷禍』の翼から飛び散った羽根が、2人の頭上に降ってきた。

●怨念の拓く路
 焼かれて焦げた羽根が宙を舞い、『雷禍』は大きく欠いた翼を広げている。
 落ちまいとしながらも、降下は止められていない。その一方で、嘴の前を飛び交う何かに気を引かれてもいるように見えた。
 どれだけ派手に羽を生やすか――そんな話が熱を帯びている内に、他の猟兵達によって事態は進んでいる。
「私は、何とか跳んでやってますよ」
「うん。任せた。援護はするから」
 その現実に、晴夜とリュカは瞬時に意識を切り替え、己の動き方を決めた。
 視線を交わし頷き合うと、リュカは木立の向こうへ駆け出す。
「さて――やりますか」
銃を手に木立の中に駆けていくリュカを見送り、晴夜は空に視線を戻す。
 妖刀『悪食』。
 手に馴染んだ柄を握り直すと、その刀身から暗い色の何かが煙のようにゆらりと立ち昇り出した。
 それは刀を持つ晴夜の手を包み込むと、腕を伝って全身へと広がっていく。
「残さず食べて差し上げます」
 それが足の先まで至った所で、晴夜は地を蹴って跳び上がった。

 ――周囲の木々より高くまで。

 一足でそこまで跳んだ晴夜が蹴った地面には、深い足跡が残されている。
「っ!」
 更に晴夜は何もない空中を蹴って、さらに高く跳び上がる。
 跳躍の瞬間、晴夜の靴底で暗い何かが爆ぜている。
 晴夜の纏ったそれは、怨念だ。
 携えた妖刀『悪食』がこれまで喰らい、蓄えた、呪詛をはらんだ怨念を纏う業。

 喰う幸福――クウフク。

 足裏から放つ衝撃波を推進力とし、晴夜は空へ駆け上がる。
 ――ピュィィィィィッ!
 落ち来る『雷禍』が鳴き声を上げ、空に生まれた雷球が地上へ向かって放たれる。
「目の当たりにすると、結構大きいものですね」
 向かってくる雷球に晴夜は目を細め――軽く空中を蹴って、雷球の進路から逸れる。そして眼下を過ぎる雷球に、晴夜は両足で踏み蹴った。
 バヂィンッと雷球が弾け、衝撃に乗って晴夜はさらに高く跳んでみせる。
 『悪食』の怨念は、纏えば使い手の晴夜すら蝕み続ける。
 だが――だからこそ。その衝撃波は雷球にも負けてはいない。負ける筈がない。
(「もう少し――」)
 『雷禍』との距離が詰まり、晴夜は『悪食』を構え直す。
「お兄さん!」
 そこに、地上からリュカの声が聞こえた。

●かっこいいとは
「飛べなくても跳べるじゃない、お兄さん」
 暗い怨念を纏った晴夜が空を跳んで昇っていくのを、木立の中に消えたリュカはバッチリ見ていた。
(「うんうん。このまま、お兄さんだけ映画に出ればいい」)
 銃くらいなら出ても良いかと思ったリュカだが、良く考えれば、銃が映ればリュカの手だって恐らく映る。うっかり顔まで映ってしまうかもしれない。
 そんな事を考えていると、空から『雷禍』の鳴き声が聞こえてきた。
 その音にリュカが再び空を見やると、丁度、晴夜が雷球を蹴って更に跳んでいた。
(「よし――お兄さんには、更に目立って貰おう」)
 そう胸中で呟いて、リュカは足を止める。
 晴夜が撃ち消した以外の雷球は、もう間もなく地上に落ちようとしている中で。
 だが、リュカは雷球には見向きもせずに片手を掲げ、拳銃型ガジェット『うたいの鼠』の銃口を空に向けた。

 今立っているその場所は、雷球が当たらないと判っているから。

 絶望の福音――10秒先の未来が見えるかの様な予測能力で見た通り、雷球はリュカの周囲の木々に落ちる。
 その雷光に照らされ、『うたいの鼠』の宝石の様な飾りネジが空色に光る。
 パンッと鳴った銃声は、リュカにだけ聞こえていた。
「お兄さん!」
 撃った麻痺弾が『雷禍』に当たったのを確かめ、リュカは晴夜の名を呼んで――。
「はい、そこでなんかかっこいい台詞言って!」
 声を張り上げた。

「かっこいい台詞……?」
 リュカに名前を呼ばれたかと思えば、かっこいい台詞を要求され、晴夜が流石に訝しむように眉間を寄せる。
 そりゃ、こんな空中でいきなり言われても――。
「何でわざわざ! ハレルヤは常にかっこいいでしょうが!」
 晴夜が訝しんだのは、そっちだった。
 この超絶自信家め。
「いいから! お兄さんのかっこいいとこ見てみたーい!」
「仕方ないですね……」
 リュカもリュカで煽るものだから、晴夜も次第にその気になって来る。
 戦闘中ですよ?
「至高、至上、至善、至貴――ハレルヤは至の四天王、略して至天王を目指して今日も歩きます!!」
 そして晴夜は思いついた中で『一番かっこいいと思った台詞』を声を大に張り上げながら、怨念溢れる妖刀を振り上げる。
 なんだろう、どんな意味なんだろうこれは。
 意味は判らないが斬撃は鋭く、羽の殆どを失った『雷禍』の翼が斬り落とされる。
 流石に完全に片翼を失っては、『雷禍』は成す術なく落ちるしかなかった。
「……」
 木々を薙ぎ倒して『雷禍』が落ちていくのを見届け、晴夜は空を蹴ってリュカの元に降りていく。
「どうでした? かっこよかったでしょう?」
「……」
 言ってやったという自信に満ちている晴夜に、しかしリュカは無言を返す。
 言えない。あれだけ煽った手前、言えるわけがない。
 残念な人にしか見えなかった、なんて。
「なんだ、その目は」
「……いや、その……ええと……映画、楽しみだね?」
 そんな様子を訝しむ晴夜に、リュカはどうしたものかと言葉を濁す。
 しかし助け舟は、意外なところから流れてきた。
「映画? また何か見たいのがあるんですか?」
 晴夜ってば、まだどこからか撮られてる事に気づいてないのだ。平和である。
「何でもない。終わったらまた映画見に行こう」
「そうですねえ、終わって休憩いれたらまた見に行きますか!」
 ここぞとばかりに乗っかったリュカに、身体を動かしてすっきりしたのか、晴夜も映画を嫌だとは言わなかった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

黎・飛藍


月華(f01199)と

随分と大きな鳥だな
大きいからぼんじりもそうなんだろう。何個分になるんだろうか
……わかった、食わない。だから殺気を向けるな(なのに俺でなく鳥を殺るのは何でだ…?)

飛び回るのは厄介だ。眠らせて落とすか
だがあの大きさだとすぐには眠らないだろう
少しでも時間稼ぎする方法は無いのか

なるほど蝶か。鳥は虫を食べるから…だから殺気を出すな
月華が蝶を放ったら【睡蓮香】を使って鳥を眠らせにかかる
ぼんじりを取ることが出来ないのは勿体無いが、口に出したら今度こそ月華に狩られそうだから言わない


あー、なんだ。ベロニカ?だったか
黒服の話で聞いた、顔以外の特徴で判りそうな奴
鳥を倒したら捕まえておくか


鈴・月華


飛藍(f16744)と

雷禍…雷火?
よし、ライカちゃんで
あのもさもさ羽毛の鳥胸を抱きしめたいなぁ…絶対幸せになれるよ

…何言ってるのあんな可愛い子食べる気なの?(飛藍に殺気)
食べる気なら飛藍より先に私があの子の息の根を止める

じゃあ、蓬莱蝶達を一斉にライカに嗾けてみるよ
蓬莱蝶に気を取られている間に眠くなってくれるといいけど
…飛藍、蓬莱蝶に物理的実体は無いからね…?

ライカが眠くなって地に落ちてきたら、大鎌を手に駆けて【完璧な兇手】
羽毛が喪われるのは勿体ないけれど…
下手に手加減したら、そっちの方がお互い苦しいものね


ベロニカ…?
ジェロニモのことかな
また何かするかもしれないし、見かけたら縛り上げなきゃだね



●それぞれの欲
「お?」
「あそこだね」
 紫電を思わせる光が空に昇っていくのを、黎・飛藍と鈴・月華は、少し離れた所で眺めていた。
 光の中に現れた影が紫電纏う大翼を広げ、大空に羽撃く。
「随分と大きな鳥だな」
「オオワシよりも大きいだろうね」
 その大きさに、飛藍も月華も少なからず驚きを覚えていた。
 だが――その先は違った。

「あのもさもさ羽毛の鳥胸を抱きしめたいなぁ……絶対幸せになれるよ」
 月華は天然羽毛布団になりそうな鳥胸に思いを馳せて。

「身体が大きいから、ぼんじりもそうなんだろう。何個分になるんだろうか」
 飛藍は食欲から羽毛を通り過ぎてその奥の鳥肉に思いを馳せる。

 そしてそれは、月華にとって聞き捨てならない言葉だった。
「……何言ってるの」
「む?」
 月華の声音が変わったのに気づいて、飛藍は小さく首を傾げる。
 声の変化は気づけても、表情の変化は判らない。
「ぼんじり? 食べる気なの?」
「うむ。ぼんじりは美味――」
 だから飛藍は月華の問いに、素直に答え――殺気を感じて、息を呑んだ。
「あんな可愛い子食べる気なの?」
「……」
 隠そうともせずに殺気を向ける月華に、流石に飛藍も押し黙る。
「食べる気なら飛藍より先に私があの子の息の根を止める」
(「食わせたくないのは判るが、なのに俺でなく鳥を殺るのは何でだ……?」)
 殺気が滲む月華の言葉に疑問を抱く飛藍だが、それを口に出そうとは思わなかった。
 言えば碌な事にならないのは、流石に分かる。その程度には、空気は読める。
 まあ読む以前の空気だという説もあるが。
「……わかった、食わない。だから殺気を向けるな」
 だから飛藍はそう言って頷くしかなかった。
「ならよし。雷禍……雷火? よし、ライカちゃんで」
 あっさりと殺気を引っ込め、勝手に『雷禍』の呼び方を考える月華の様子に、飛藍は小さく息を吐いた。

●飛ぼうという発想はない
 そんなやり取りをしている間に、他の猟兵が氷竜に乗って空中戦を繰り広げていた。
 その光景が、2人に目下の問題を突き付ける。
「飛び回ってるな……」
「そりゃあ、ライカは鳥だもの」
 そう。『雷禍』が空を飛びっぱなしだという事である。
 氷竜と入れ替わりに空に上がっていくキャバリアの様に飛行能力を持つものを使って空中戦を挑むか、何とかして『雷禍』を地上に近づけなければ、戦いにならない。
「厄介だ。眠らせて落とすか」
「飛藍、出来るの?」
 呟いた飛藍に、月華が首を傾げる。
「………………多分」
 たっぷりの間があって、飛藍はやっと答えた。
 今の飛藍が睡蓮の香を届かせられる距離は、90mを少し越えている。決して短い射程ではないと言うか長い射程だが、『雷禍』の様に自在に空を飛べる相手では、どれだけ射程があっても充分とは言えないのも事実だ。
「あの大きさだと、届いたとてすぐには眠らないだろう。少しでも時間稼ぎする方法が無いと、効かない気がする」
「成程。ライカが高くまで行かなければいいんだね」
 飛藍が自ら告げた問題点に、月華はすぐに答えを思いついた。
「――おいで」
 月華の周りに、淡い藤色の輝きが生まれる。
「なるほど蝶か」
 次第に数を増していく光の正体に、飛藍も気づく。
 それは冷たく輝く幽世蝶の一種――蓬莱蝶。
「じゃあ、ライカに一斉に嗾けてみるよ」
 月華が空を指差すと、蓬莱蝶の群れが一斉に空に飛び立っていく。
「気を取られている間に、眠くなってくれるといいけど」
「効果ありそうだな。鳥は虫を食べるか――」
 それを見上げ呟いた飛藍の言葉は、隣に生まれた殺気に途切れた。
「……飛藍、蓬莱蝶に物理的実体は無いからね……?」
「わかったから殺気を出すな」
 しばらくは月華の前で『食べる』とも言うまいと心に決めながら、飛藍は睡蓮の香を空まで届くように広げていった。

 ――蓬莱蝶は、飛んでいた。
 神気を持って空に描かれた陣から放たれる雷と、『雷禍』が怒りに任せて放つ雷がぶつかる間も。
 雷の撃ち合いに敗れて翼を大きく欠いて落ちていく『雷禍』の前にも。
 そしてそこまで落ちてしまえば、そこはもう睡蓮の香りの中。
 次第に増していく微睡の中、啄んでも食べられない蝶は、『雷禍』の中に残る本能を刺激して――少なからず気を取られていた『雷禍』を、怨念を纏った妖刀の一撃がその翼を斬り落とす。

 そして――『雷禍』は地に落ちた。

●せめて最後に見る夢は
「一気に落ちたな」
「……行こう」
 飛藍の返事も待たずに、月華は落ちる『雷禍』を追って駆け出していた。
 落ちた際に薙ぎ倒された木々を乗り越え進めば、片翼を失った『雷禍』がそこに横たわっている。残る片翼も羽はほとんど残っていない。
 もう二度と、空を飛ぶ事は出来ないだろう。
 それなのに――いや、だからこそか。
 月華の姿が映った『雷禍』の瞳にあるのは、怒りの色しか見えなかった。
 ――何故。
 ――何故、飛ぶ事すら許されぬ。
「飛藍、頼む」
「判った」
 何を――とはどちらも言わず、追いついてきた飛藍は頷いて月華を追い越し、『雷禍』の顔の横へと駆け寄った。

「――寝とけ」

 睡蓮香。
 空から降ろそうとずっと広げていた香を、至近距離から『雷禍』に浴びせる。
 『雷禍』の瞼が落ちるのに、時間はかからなかった。
 そこに、月華が歩いてくる。
「しばらくは寝てると思うぞ?」
「いいよ。羽毛が喪われるのは勿体ないけれど……」
 抱きしめるくらいの時間はある――そう告げる飛藍に首を左右に振って、月華は愛用の白銀の大鎌『鈴華』を、その喉元に突き付けた。
 戦いの中で汚れたとは言え、鳥胸に埋もれればきっと幸せを感じられるだろう。だがそうした情を感じてしまえば、それは時に刃を持つ手を鈍らせる。
「下手に手加減したら、そっちの方がお互い苦しいものね」
 だから、しないのだ。
 人形は迷わないから。

 完璧な兇手。

 本当は――そんな迷いや躊躇いを代償に振るった月華が振るった大鎌が、目を閉じたままの『雷禍』の首を、ごとりと斬り落とした。
 首が落ちると同時に、その身体から紫電も消える。
「……」
「……」
 『雷禍』が消えていくのを、月華と飛藍は黙って見やる。
「あー、なんだ」
 沈黙の中、先に口を開いたのは飛藍だった。
「ベロニカ? だったか」
「ベロニカ?」
 突然出てきた名前に、月華が首を傾げる。そんなのいたっけ?
「黒服の話で聞いた、顔以外の特徴で判りそうな奴」
「ああ……ジェロニモかな?」
「そうそれ」
 中の二文字は同じとは言え、何がどうなって飛藍の中でジェロニモがベロニカになったのだろう。そしてそれが判った月華も、なんかすごい。
「捕まえておくか」
「そうだね。また何かするかもしれないし、見かけたら縛り上げなきゃだね」
 飛藍の言葉に頷いて、月華は最初に光が昇った方へ歩き出す。
(「ぼんじり……やはり勿体無かったな」)
 その後をついて歩きながら、飛藍は最後まで捨てきれなかったぼんじりへの欲を惜しむように、胸中で呟いた。



●後日談――それぞれの末路と、未来の話
 サンダー・ラフェンテ氏に届いた脅迫状から始まった事件。
 それに関わった者達の生き残りの話をしておこう。
 まあ、一言で言えば、ゾンビにならなかった連中は全員掴まった。

 影朧カルテルの何人かは、組織の情報と引き換えに恩赦を貰ったり、二重スパイになる約束で強制送還で済んだ者もいたという噂もあるが――公的な記録の上では、全員もれなく亜米利加各地の刑務所に収監された事になっている。
 そして、ジェロニモ・フィフティーンだが――こちらは、公式に減刑が成された。
 嘆願があったのだ。
 なんと、当の脅迫を受けたサンダー・ラフェンテによる嘆願が。

『奴がどういう思惑だったかなど知らん。俺は被害を受けてない。それどころか、奴の企みのお陰で帝都から超弩級戦力が来て、その戦いをカメラに収められたのだ』
 それはサンダーにとって、減刑に値するものであった。

 そして――これは、更に幾ばくかの時が過ぎた、しかしそう遠くはない未来の話。
 サンダー・ラフェンテの新作キネマが、発表された。
 そのタイトルは『サンダーバードVSシャーク戦隊』。
 勿論、そのクライマックスの戦いには、件の事件の時に撮影した猟兵達の戦いに映像処理を加えたものが、ふんだんに使われている。

 つまり、シャーク戦隊とは猟兵達がモデルである。

 氷竜は北極の海で氷の力を得た鮫とエスキモーの少女のユニットになり、キャバリアはサメの生体組織を組み込んだサメ忍者ロボになり(爆発する短剣は手裏剣にしか見えなかったようだ)、陣から放たれる雷はロレンチーニ器官が発達したサメの術になり、怨念を纏い妖刀を振るう剣士は古代の鮫の呪いを受けた侍になり、劇中一度も姿を見せないギンザメスナイパーがいたり、ホオジロザメの姫が大鎌引っ提げて従者ともに参戦したり――と言った風に、まあなんと言うか、大まかな設定だけで情報過多な事になっているキネマである。
『猟兵の戦いが多彩過ぎて、どんなシャークにしても1種類じゃ足りなくなった。だから戦隊にして、全部使う事にした』
 とあるキネマ誌に、そんなサンダー氏のインタビュー記事が出たそうな。

 それがヒットしたかどうかは――未来の話である。

 ただ1つ付け加えるのなら。
 影朧と言う言葉は劇中はおろか宣伝でも一度も使われる事はないが、空を飛ぶ『雷禍』の姿も、そのキネマの中に使われる事になる。
 その姿を映像に残す――そう言う意味では、ジェロニモ・フィフティーンの望みは、叶う日が来ると言う事になるのかもしれない。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年04月27日
宿敵 『雷禍』 を撃破!


挿絵イラスト