篝火を灯せ、其は燎原の先駆けなり
●其は燎原の先駆けなり
――始まりは、ほんの小さな火の粉であった。
其処はどこにでもあるような、絞り尽くされ瘦せ衰えた村であった。明日飢えて死ぬか、今日歯向かって殺されるか。未来へ視線を向ける気力などなく、現状を変える力もない。偽りの希望を眼前にちらつかされ、その灯へ身を投げ入れる事しか出来ない弱者だった。
しかし、彼らは手助け有りきとは言え、確かに手にして見せた。紛う事なき、勝利を。
――それは煌々と燃え上がり、火花を散らす剣となった。
そして勝利は自信を生み、自信は行動へと繋がってゆく。絶望と諦念から決別した人々は柵を築き、武器を研ぎ澄まし、己が腕を磨き始めた。己の明日を、己自身で決める為に。然れど、その炎は未だ頼りなく。黒白の鉄靴にて踏み躙れらんとした。
だが、彼らは示して見せた。自分たちはただ守られるだけの存在ではない。
戦場で共に肩を並べる事の出来る……仲間である、と。
――そして今まさに、溜め込まれてきた熱量は解放の時を迎えようとしていた。
大木の頑丈な幹を芯材とした防壁と深い堀にに囲まれた、大規模な村。壁の上部には幾つもの篝火が焚かれ、不審な何者かが近づかないかどうか見張りの者が目を光らせている。手にする武器は真新しいマスケット銃や、ピンと弦が張られた弓。傍らに積み上げられた矢玉の量は、彼らの持つ物資の潤沢さを示していた。
そして防壁の中に視線を向けてみれば、内部に犇めくは人、人、人の群れ。その多くは兜や鎧に身を包み、手に手に武器を携えている。時折見える漆黒の金属鎧は恐らく黒騎士か。また鍛冶屋と思しき一角で物騒な道具を吟味しているのは、咎人殺しの一団。人形を従えた操り手が訓練をしている相手は、なんとダンピールと人狼に他ならない。その傍には治療役だろうか、オラトリオの姿まであった。
人類砦の確立、『闇の救済者』の発足、第五の貴族の勢力減。そうした要素が合わさった結果、遂に人類は乱立する小規模な反乱集団から、強力な武力を備えた反抗組織へと成長を遂げていたのだ。その数、質共に小規模な領主程度であれば十分に圧倒するだけのレベルへと達している。
相打ち覚悟の愚行から、防戦を経て、遂に反撃へと打って出る力を得た。
ならばあとは……こちらから攻め込むのみ。
村の中央に備え付けられた半鐘が高らかに鳴り響くや、内と外を隔てていた跳ね門が降ろされてゆく。橋代わりのそれと接続されるのは、良く整備された街道。大軍の移動に耐え得る道が続く先は、この地方一帯を治める領主の根拠地だ。
斯くして『闇の救済者』たちは手早く出立準備を整えると、討つべき敵の元へ一路出陣を開始するのであった。
●
「やぁ、みんな。先日はグリードオーシャンでの羅針盤戦争、お疲れ様。無事に勝利できたようで何よりだよ。さて、早速だけれど他の世界でも動きがあった。舞台はダークセイヴァー、場所は……これまでボクが二度予知した事のある、とある村だ。ただ、今回は悪い話じゃないよ?」
グリモアベースへと集った猟兵たちを見渡し、ユエイン・リュンコイスはそう口火を切った。彼女はそれまで読んでいた『中世欧州戦争史』を閉じながら、説明を始める。
「これまでボクたちが手助けして来た『人類砦』や『闇の救済者』たち。どうやらそれらがようやく実を結び始めた様でね。彼らは現在、あの世界としては大規模な軍勢へと変貌しつつある」
辺境地域を切り取ることによって生存圏を少しずつ伸長させ、各地の領主が討たれることにより点在していた集団同士が連絡を取り合う余地が生まれ……今や、複数の勢力が合流した『闇の救済者』は極めて強力な武力を伴うまでに成長していたのだ。
今回の向かうとある村も、かつて二度ほど猟兵たちの手助けを受けて危機を乗り越えている。それらを通して得た経験が、遂にいま花開こうとしていた。
「戦う事を決意した一般市民たちに加え、各地を放浪して敵を狩っていた凄腕の黒騎士や咎人追いも彼らの噂を聞きつけて参陣。更には人狼やダンピール、オラトリオと言った異種族とも対話を重ねて協力を取り付けている。その数は総勢1000名」
世界によってその数の大小は変動するが、この夜明け無き世界においてはまず大勢力と称して問題ないだろう。この世界の人々は長きに渡って搾取され、無造作に命を摘み取られ、生かさず殺さず飼い慣らされてきたのだ。それを考えれば、四桁を超える数は驚嘆に値する。
「装備も粗末な農機具や旧式の武器ではなく、きちんとした武具を行き渡らせられているみたいだね。矢玉や糧秣、医薬品の備蓄もかつてとは比べ物にならない……ここまでくるのに、並々ならぬ努力と忍耐が必要だったはずだ」
質も数も十分なレベルへと達した。そう判断した『闇の救済者』は遂に吸血鬼勢力へと反撃をしたのである。現在彼らは付近一帯を治める領主の元へと進軍を行っており、もうすぐ戦端を開く見込みである。
「となれば、ボクたちも手をこまねいている道理はない。今回キミたちに頼みたいのは他でもない。彼らと共に領主を討ってほしいんだ。本来であれば敵も大軍を用意して護りを固めているけど、今なら『闇の救済者』と共同して領主の元まで辿り着けるはずだ」
と、ここまで順調に説明していたユエインであったが、ふと小さく眉根を潜ませた。
「だけど、一大勢力となった『闇の救済者』については敵の上位階級……『第五の貴族』とて耳にしているはず。彼らが何の手も打っていないとは思えない。くれぐれも横槍を入れられないようにだけは注意してほしい」
オブリビオンを超強化する『紋章』を授けられた者は文字通りの一騎当千。ようやく形となった軍勢を滅ぼす可能性とて十分にある。不確定要素を警戒するに越したことは無いだろう。
そうしてユエインは説明を締めくくると、猟兵たちを送り出すのであった。
月見月
どうも皆様、月見月でございます。
先日、歩兵による槍衾戦術を体験したのですが、あれは凄まじいですね。
正面から相対すると数とリーチの差で為す術もなく突き殺されました。かつての戦場では槍が主役だったというのも頷けます。
という訳で、今回の舞台はダークセイヴァーでの大規模戦争となります。
それでは以下補足です。
●最終勝利条件
吸血鬼勢力の領土制圧。
●第一章開始状況
領主の根拠地である豪奢な館、その周囲に広がる平野で両軍が睨み合っています。
『闇の救済者』軍は黒騎士達が指揮する槍兵の槍衾を前衛とし、その間に歩兵部隊が展開。咎人殺しを中心に人狼とダンピールが遊撃手を務め、後方は弓兵と銃兵がオラトリオを始めとした支援員たちの周囲を固めています。
一方、領主軍はチャリオットを主力とした騎馬隊による機動防御戦を選択しています。戦車には騎手の他に、射撃武器や鎌などを手にした随伴戦闘員も搭乗しており、それ一騎で分隊を構築しています。
友軍と上手く連携を取れれば優位に立ち回る事が出来るでしょう。
●二章以降の動きについて
敵軍を突破出来次第、領主の館へと雪崩込んでの戦闘となります。配下は『闇の救済者』が引き受けてくれるので、猟兵は領主の相手に専念できます。
ただし、『第五の貴族』が差し向けた援軍が来る可能性もあり、そちらへの警戒も行っておくべきでしょう。
●過去作について
本作は過去に運営したシナリオとの若干関連がありますが、軽いフレーバー程度ですので知らなくても問題ありません。お気軽にご参加下さい。
●プレイング受付・進行につきまして
第一章投下時に受付開始日時を告知致します。
また3月は年度末とあって全体的に立て込む見込みですので、ご参加人数によっては再送をお願いする可能性があります。ご了承頂けますと幸いです。
それではどうぞよろしくお願い致します。
第1章 集団戦
『死地を駆け抜けるチャリオット』
|
POW : 駆け抜け、弾き、轢き倒す戦車
単純で重い【チャリオットによる突撃】の一撃を叩きつける。直撃地点の周辺地形は破壊される。
SPD : 馭者による巧みな鞭
【絡めとる鞭】が命中した対象を捕縛し、ユーベルコードを封じる。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
WIZ : 全力による特攻
自身が操縦する【ゾンビホース2頭】の【身体を鞭で強く打ちスピード】と【突撃による破壊力】を増強する。
イラスト:井渡
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴🔴
|
種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●燎原の如く、突き進むべし
戦場へと転送されてきた猟兵たちがまず感じたのは、強烈な熱気と無数の気配であった。サッと周囲へ視線を走らせれば、茫漠と続く平原を埋め尽くす完全武装の集団。様々な種族や兵種の入り混じったそれは『闇の救済者』たちの軍勢に他ならない。他の世界であれば兎も角、ダークセイヴァーでこれほどの人数が集結する事など今まであっただろうか。そのうえ一目見ただけでも皆士気を漲らせており、部隊として最低限の統率も取れている。これまでこの世界の各地で見受けられた悲惨さを思えば、驚嘆すべき進歩だ。
「っ!? 其処に居るのは誰だ!」
「領主側の斥候……いや、貴方がたは、もしや?」
と、猟兵たちが『闇の救済者』軍を眺めていると、周辺警戒に当たっていた見張り役もこちらの姿を認めたらしい。すわ敵かと武器を構えて誰何してくるが、すぐに相手が何者なのか気付いたようだ。武器を降ろすと破願して手を差し伸べて来る。
「皆さんは猟兵殿ですか! 各地での活躍は聞き及んでいます。まさか、この大一番の場に駆けつけて下さるとは……これ以上心強い援軍はありません。さぁ、どうぞこちらへ!」
その手を握り返しながら、猟兵たちは『闇の救済者』軍の中枢へと案内されてゆく。途中ですれ違う兵士たちはみな新たな参戦者に顔を綻ばせ、或いは見知った顔を見つけたのか懐かし気に手を振って来る者も居た。
そうして人の群れを進んだ先、敵陣を一望できる前線部で『闇の救済者』軍の指揮官たちが出迎えてくれる。鎧姿の黒騎士やマスケット銃を携えた若い狩人、ローブに身を包んだ咎人殺しの老翁や複数の人形を従えた操り手、燐光を纏う聖者の少女、……ユーベルコードこそ使えぬものの、誰も彼もが手練れの戦士たちだと一目見て分かった。彼らもまた、猟兵たちの参戦を歓迎してくれる。
「ようこそ、猟兵殿。これまでの経緯については既に報告を受けています。改めて感謝を示すと共に……是非とも、此度の一戦に力をお貸し頂きたい」
「こっちからあれやこれやと指図するつもりはないから安心してくれ。アンタらの戦闘力はずば抜けているからな、自由に動いて貰った方がお互いにとって良いだろ? 寧ろ、手伝いが必要なら何でも言ってくれや。協力する様に伝えておくぜ」
幸いにも、指揮官たちとの打ち合わせはとんとん拍子に進める事が出来た。これも今まで積み重ねてきた活動の結果であろう。前線で切り結ぶか、遊撃手として攪乱するか、後詰として臨機応変に動くか。何をするにせよ、支援を受けられるのはありがたい。
一方、敵陣へと視線を向ければ相手もまた陣形を組み上げつつあった。敵はチャリオットを中心として編成されており、速度を得る為か彼我の陣地は大分離れている。しかし、人外の加速力を以てすればこの程度の距離など瞬く間に踏破してくるだろう。その際の衝撃力を上手く往なさねば、浅からぬ損害を受けるのは想像に難くない。
「……どうやら、敵陣が動き始めたようだの。ありゃ仕掛けてくる気じゃな」
果たして、老咎人殺しの言葉通り領主軍に動きがあった。始めはジワリと、次の瞬間にはバラバラと雪崩を打ってこちらへと突撃を開始してくる。概算で接敵までおよそ数十秒といったところか。相手の動きを感じ取り、『闇の救済者』軍の間にも緊張が駆け抜けてゆく。
「全軍に通達、こちらも迎え撃つ。事ここに至りて、最早難しいことは言わん。領主に勝利し、そして生きて帰るッ! みんな、それだけで良い! ……行くぞぉぉおおおっ!」
――オオオオオオォォォォォォォォォッツ!
大地を揺るがす鬨の声と共に、『闇の救済者』軍もまた猛然と前進を開始する。槍を掲げ、刃を抜き放ち、矢玉を得物へと番え、そして。
此処に……世界を変える為の戦いが、幕を開けるのであった。
※マスターより
プレイング受付は11日(木)朝8:30~から開始致します。また、マスコメの記載通り、参加人数によっては再送をお願いする可能性がありますので、予め御了承頂けますと幸いです。
第一章は集結した『闇の救済者』軍と領主側の騎馬戦車軍団による大規模集団戦闘です。まずは前哨戦、敵軍を薙ぎ払い領主の元まで道を切り開いて頂きます。戦力的にはこちら側が優っていますが、友軍と連携する事によってより優勢に戦闘を進める事が出来るでしょう。
加えて、戦いたい場所(最前線、側面、後方など)のご希望があれば、出来るだけ添えるよう努力致します。
それではどうぞよろしくお願い致します。
シキ・ジルモント
ついに吸血鬼への反撃が始まったか
だとしたら、同じ世界に生まれた者として、手を貸さない理由は無い
宇宙バイクに騎乗して参戦
機動防御を行う騎馬隊を妨害・撃破を試みる
戦場を観察し、一定のラインを越えて攻め上がる、もしくは突出するこちらの部隊を標的とした、敵騎馬隊による奇襲と各個撃破を警戒する
敵に動きがあれば味方遊撃手へ援護と追撃を頼み、ユーベルコードを発動したバイクの速度で先んじて騎馬隊へ接近
側面から一撃離脱を繰り返して出鼻を挫き、機動力を殺いでから味方遊撃手と共に撃破を狙う
鞭は速度で振り切るか射撃で相殺(『スナイパー』)
目立つように動いて気を引き遊撃手への被害を防ぎたい
背中は任せたぞ、『闇の救済者』
秋山・小夜
アドリブ・絡み歓迎
大群が相手なら、遠慮なくぶちのめしても文句は言われませんよね、きっと。
というわけで二〇式戦斧 金剛を右手に、80cm超電磁加速投射砲グスタフ・ドーラ(80cm砲二門で一つのユニットという構成になっていますので、体の両側から前に砲身がのびる形になると思われます)を展開、装備すると同時にUC【華麗なる大円舞曲】を発動し、高速で駆け抜けつつ80cm砲をお見舞いしていくとします。
(可能であれば80cm超電磁加速投射砲グスタフ・ドーラを利用してUC【千本桜】を発動できたらと思います。)
一切の遠慮なく敵を叩きのめして、「歩く武器庫」の名が伊達ではないことを証明して見せますよ。
●双狼よ、その銃砲にて開戦を告げるべし
敵の戦車部隊が加速を開始し、友軍が迎撃態勢を急速に整えてゆく。両軍が激突するまで、時間にしておよそ数十秒。日常の中においてはあっという間に過ぎてしまう短さだが、戦場においては咄嗟に一つ二つ手を打てるだけの長さ。であれば畢竟、むざむざ敵群がやって来るのを待つ謂われなど無かった。
「……ついに吸血鬼への反撃が始まったか。だとしたら、同じ世界に生まれた者として手を貸さない理由は無い。これまで舐めさせられてきた苦渋の数々、余さず叩き返してやろう」
「大群が相手なら、遠慮なくぶちのめしても文句は言われませんよね、きっと。何事も始めの一撃が肝心です。精々、盛大に出鼻を挫いて差し上げましょう」
『闇の救済者』軍の最前線中央部より、猛然と飛び出した二つの影が在る。一つは内燃機関を滾らせる鉄騎へと跨った青年。もう一つは、舞うが如き軽やかな足捌きでそれに追従する乙女。シキ・ジルモント(人狼のガンナー・f09107)と秋山・小夜(歩く武器庫・f15127)、二人の銀狼は相手の機先を制すべく真正面からへ敵の戦闘集団へと吶喊してゆく。彼らの表情に怖れや怯えの色は微塵もない。それも当然の話だ――どうして、狼が死した馬群を恐れる理由があるというのか。
「さて、と。戦いは一にも二にも数とは言いますが、それも場合によりけりです。仮にも戦争というのであれば、重砲の一つも無ければ始まりません……『歩く武器庫』の名が伊達ではないことを、とくと証明して見せますよ?」
小夜は右手に57mm砲を備えた大戦斧を取り出しながら、スッと目を細める。身の丈を優に超える得物、これも確かに巨砲と言えよう。だが、足りない。開戦を告げる号砲ならば、それは何よりも強烈かつ鮮烈でなければならない。故にこそ、少女が次いで招き寄せたのは更なる武威。
ヌッと、彼女の両脇より一対の長大な柱が、否、柱と見紛うほど太く長い砲身が伸びてゆく。戦場に高々と聳え立つ極大重砲を従えながら、小夜は誇るように胸を張りながらその銘を口にする。
「これこそ、80cm超電磁加速投射砲『グスタフ・ドーラ』。砲声の響きは円舞曲、響き渡る雄叫びは観客の歓声、舞い飛ぶ鮮血は最高のドレス……さぁっ」
――一緒におどりましょう?
瞬間、二つの砲門より蒼雷を纏いながら大質量弾が解き放たれる。瞬時に音の壁を越え、衝撃波を放ち飛翔するそれらは、二条の直線となって敵の戦車群を吹き飛ばしていった。技術体系が中世レベルのこの世界において、それは余りにも未来を先取りした力。すわ、これにて早々に趨勢が決したか……と、思いきや。
「これは……!? なるほど、やはり数というは侮れませんね」
砲弾がまだ有効射程の途中であるにも関わらず、失速し勢いを失ってゆく。何事かと視線を走らせた小夜が見たのは、砲弾へ無数に絡みつく革の残骸。馭者が手にした鞭を巻き付けせる事によって勢いを減じさせたのだと理解した時には、既に敵戦車群の後続部隊が眼前にまで迫っていた。
「だが、今の一撃で相手の勢いをかなり削ぐことが出来た。衝撃力を失った騎馬など、持ち得る強みの大部分を失ったに等しい……体勢を立て直される前に出来る限り叩く!」
だが、突撃当初と比べてその速度はかなり遅い。シキはガォンと大きくエンジンを唸らせながら、カスタム宇宙バイク『レラ』の機首を大きく傾けた。敵味方の境目を一気に駆け抜けながら、大きく弧を描く軌道を取ってゆく。狙うは動きの鈍った相手の側面。戦車は前方に対して十全に威力を発揮できる反面、横腹は脆いものだ。
(二頭立ての馬は生きた屍、馭者と随伴の戦闘員もスケルトン、か……すれ違いざまに数発叩き込んだところで、効果は薄いな。で、あれば)
速度が減じたとはいえ、己も相手も相応の速度で動いているのに変わりはない。最短の交戦で最大の戦果を生むべく、シキは瞬時に狙うべき場所を見定めるとトリガーを引いた。果たして銃声が響いたのち、無傷の死馬が後方へと駆け抜けてゆく……後ろに牽引しているはずの戦車を置き去りにして、だ。
「チャリオットの強さはそれを牽く馬あってこそのものだ。こうなってしまえば、ただの脆弱な歩兵に成り下がる」
騎兵は人馬一体が為されるが故に脅威足りえる。馬のみ、兵士のみならば恐れる理由など何もない。相手もそれを理解しているのか、静止してしまった戦車よりすぐさま飛び降りると、遠ざかってゆくシキの背中へ手にした弩弓や鞭で狙いを定め攻撃を放つ……。
「同じ種族だというのに、これほどの差があるとはな。流石は噂に聞いた猟兵殿といった所か」
「だが、我らも負けてはおられん。積年の恨み、今こそ果たさせて貰うぞッ!」
寸前、猟兵たちに続いて飛び出してきた人狼の遊撃部隊が敵兵へと襲い掛かった。元来、彼らはその名の通り狼の如き身体能力を誇る者たちである。至近距離まで肉薄してしまえば骨だけのスケルトンに後れを取る道理などない。瞬く間に相手はバラバラに粉砕されていった。
「猟兵殿の持つ異能や装備には劣れども、我らも相応に研鑽を積んできたつもりだ。これも同胞の誼、この身は如何様に使ってくれて構わない」
遊撃部隊は引き際を見誤ることなく後退しながら、旋回して再び敵群へと接近を試みるシキに並走してくる。鉄騎の速度に追従できているのだ、彼らの言葉に偽りはないのだろう。
「なら俺が陽動として相手の注意を惹いている隙に、死角から追撃を頼みたい。勿論、今の様な援護もしてくれると助かる……背中は任せたぞ、『闇の救済者』」
「ああ、十全以上に役目を果たして見せよう!」
斯くして、シキは遊撃部隊と協働し敵陣を次々と撹乱してゆく。こうなれば全体の一部分とは言え、組織だった行動が完全に出来なくなる。仲間の活躍によって徐々に陣形を崩し始める敵群を眺め、砲撃を繰り返していた小夜は戦術の転換を決めた。
「砲撃は敵が密集していれば効果は大きいですけど、分散されては効率が落ちますね……ならばここは小回りの利く手を一つ。『歩く武器庫』と言えども、大味な技ばかりではありませんよ?」
猛突撃を敢行して来た死馬の頸を刎ねつつ、小夜は小さく指を鳴らす。瞬間、巨大な砲がボロリと崩れたかと思うや、無数の桜吹雪と化して彼女を中心に吹き荒れてゆく。一片一片が刃と化したそれらは周囲の戦車を絡めとるや、次々と再度の死を与えていった。
戦況は未だ緒戦。敵の数はまだまだ多く、戦いは始まったばかりだ。しかし、銀狼たちによる先制攻撃は戦況の天秤を着実に『闇の救済者』側へと傾ける事に成功するのであった。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
フェミス・ノルシール
やはり戦場は好きになれんな…血が流れるのは、処刑台だけで良い…
このような場へ足を運ぶのは、何年ぶりだろうか。
昔、何度か赴いたが…あの凄惨な光景をこれ以上生まぬよう、力を尽くそう…
私は最前線へ向かおう。
まずは、屍達を呼び出し、敵と接触させるとしよう。
足を止めれば、奴等の速度を殺せるだろう?
「さあ君達、贖罪の時間だ。思う存分、力を振るい給えよ」
…このままでは埒が明かないな。あまり好まないが、この剣を使う時が来たか。
「貴様等の罪、此処で断ち斬ってやろう」
(基本的に単独で突っ込んでアイアンメイデンやギロチンで仕留めていきます
UCでは呼び出した屍ごと敵を薙ぎ払います)
〜アドリブ・連携歓迎〜
メフィス・フェイスレス
この世界も漸くここまで来た……!
さぁ、叛逆の号砲を鳴らすわよ!
機動防御ね、それならその足を潰す!
体から大量の「飢渇」を滲ませて戦場に展開
戦場の影の闇に紛れて迷彩化させた「飢渇」の一群を先行させ
罠使いで「微塵」化、爆撃で破壊工作を仕掛けチャリオット部隊の体勢を崩す
直後にUCを発動、自身の腕と自身の周囲で陣形を組ませた「飢渇」の一群に迫撃砲を形成、共に「微塵」弾を一斉曲射して弾幕爆撃し敵部隊の陣形を崩す
さらに呪詛で支配された敵が無事な敵に襲いかかり、さらなる混乱に陥れる
ダメ押しで味方の弓兵と銃兵に一斉射撃を指示し、前衛兵に突撃を促す
さあ、今よ、蹂躙しなさい!敵に体勢を立て直す暇を与えないで!
●罪業を断つ刃、飢渇叫ぶ弾丸
前線中央部で凄まじい轟音が鳴り響いたのとほぼ同じ頃。前線左翼側でもまた、猟兵たちが『闇の救済者』軍と共に戦端を開かんとしていた。長槍を構えて密集陣形を取る前衛部隊の間から姿を見せるのは、継ぎ接ぎの傷跡が目を惹く死人の乙女。
「この世界も漸くここまで来た……! どうやら、あちらの戦場でも大分派手に始めたようだしね。さぁ、こっちも叛逆の号砲を鳴らすわよ!」
急速に迫りつつある敵戦車部隊を金の瞳で捉えつつ、メフィス・フェイスレス(継ぎ合わされた者達・f27547)は獰猛な笑みを浮かべる。一方、その横に佇むのは小柄な少女。外見に似合わぬ掠れた様な無謬さを滲ませつつ、フェミス・ノルシール(血に飢えし処刑者・f21529)はゆっくりと戦場へ視線を巡らせていた。
「さて……このような場へ足を運ぶのは、いったい何年ぶりだろうか。昔、何度か赴いたが……全くもって、酷い有様だった。あの凄惨な光景をこれ以上生まぬよう、微力ながら力を尽くそう……」
「なら、まずは相手の勢いを削ぐ必要があるわね。協力、お願いできるかしら?」
「ああ、勿論だとも」
メフィスの問いかけに対し、フェミスは静かに首肯する。混血鬼は手にした刃を地面へと突き立てると、鮮血の如き紅色の魔力を注ぎ込む。すると地面のあちこちがボコリと盛り上がったと思うや、無数の屍が這い出してきた。
「さあ、君達……贖罪の時間だ。かつて生在りし日に犯した咎を償うため、思う存分に力を振るい給えよ?」
彼らは全て、彼女が処刑人として刑を執行した罪人たちである。死してなお逃れられぬ罰に従い、死人の群れは敵戦車の眼前へと歩みだしてゆく。死体というものは脆い一方で、存外重いものだ。それが数十体と立ち並べば、障害物としての役目も十分に果たすだろう。対する敵は、どうやら突撃によって強引に引き潰すつもりの様だ。
「……一つ確認なんだけど、アレって攻撃に巻き込んだら不味いのかしら?」
「いいや? 場合によっては私も彼らごと敵を薙ぎ払うつもりから、気にせずとも良いよ」
念のため混血鬼に了解を取りつつ、死人はグッと身体へ力を籠める。すると体に幾条も走る傷跡から、タールの如き漆黒の粘液が染み出し始めた。無数の目と牙の生えた口を持つそれは、メフィスが抱く飢餓衝動の具現にして眷属だ。地面に広がる影へと溶けた眷属たちは、フェミスが呼び出した屍たちへと纏わりついてゆく。
相手も猟兵側が何かを仕掛けてくると理解はしているのだろうが、速度を緩める様子は無い。そのまま蹂躙すれば良いと考えているのか、それとも死者故に危険を危険だと感じる事が出来ないのか。瞬く間に彼我の距離はゼロへと至り、死馬の蹄鉄が屍を踏み砕かんと振り下ろされ……。
「そう言えば、この世界だと技術的にまだ普及はしていないのかしら。だったら、分からなくても無理はないわね。この屍たちは障害物であると同時に――」
地雷原でもあるのよっ!
蹄が屍を踏み砕いた瞬間、俄かに身体が膨れ上がったと思うや次々と爆発し始めた。撒き散らされる骨片は散弾の如く死馬や馭者へと突き刺さり、鮮血が赤い霧と化して相手の視界を塞いでゆく。メフィスの呼び出した眷属たちは爆発能力も備えており、フェミスの屍たちを利用する事によって通常よりもその威力を倍化させたのである。これには堪らず、戦車もバランスを崩し転倒してゆく。
「相手の陣形が崩れたわ! 今度はこちらから撃って出る番よ! さぁ、撃ち貫けッ!」
相手が立ち上がる暇をむざむざ待ってやる義理も無い。好機とばかりに死人が叫ぶや、周囲に展開していた黒き眷属たちが寄せ集まり幾つもの迫撃砲を形成する。主の意思の元に統一されたそれらは速やかに狙いを定めるや、曲射弾道によって爆弾と化した己の一部を発射してゆく。弧を描いて飛翔するそれらは着弾と同時に起爆。先程と同様に敵を吹き飛ばす一方、生き残った個体へも呪詛を付与していった。
「今はまだ序盤も序盤。本命はこの土地を治める領主……こんなところで悪戯に消耗するのも馬鹿らしいし、精々同士討ちでもしてなさい!」
呪いの効果は支配と隷属。死者故に自我が希薄だった馭者へは覿面に効果を発揮し、くるりと進路を変えるや味方へ襲い掛かり始める。そちらは混乱するに任せておき、砲口はまだ影響を受けていない敵部隊へと照準を合わせてゆく。
そうしてメフィスが敵部隊を混乱に叩き込む一方、相手もただ手を拱いている訳では無かった。馭者たちは同士討ちの原因が砲撃にあると見抜くや、鞭を振るって砲身を縛り上げる。ぎっちりと締め上げて次弾の発射を阻害すると共に、『闇の救済者』軍へ強引に向きを変えさせるつもりらしい。罷り間違って友軍へ誤射でもしてしまえば目も当てられないだろう……が、しかし。
「ふむ……それは些か以上に頂けないな。あまり好まないが、この剣を使う時が来たか。貴様等の罪、此処で断ち斬ってやろう」
漆黒の旋風が巻き起こったかと思うや、一瞬にして無数の鞭が断ち切られた。それを為したのは刀身を伸長させた断罪剣を手にせしフェミス。彼女はそのまま鞭が切れた事によって蹈鞴を踏む戦車へと駆け寄るや、横薙ぎに得物を振るう。それは嘶きを上げていた二つの馬首のみならず、戦車上で手綱を握る馭者の素っ首すらも真一文字に斬り捨てて見せた。
馬の頸より噴き上がるどす黒い穢血を全身に浴びながら、混血鬼は更に鋼鉄の処女や断頭刃と言った処刑器具を呼び出す。それら物々しい凶器を並べ立てながら、フェミスは飽くまでも淡々と罪人たちへ判決を告げる。
「これまで積み重ねてきた罪の数々、自らの血を以って償い給え……それが貴様の定なのだから」
その言葉を挑発と受け取ったのか、それは定かではない。しかし敵戦車たちはフェミスへと殺到し始め、処刑人は宣言通り相手に極刑を与えてゆく。これで完全に敵軍の統率は崩壊した。メフィスは背後で様子を窺っていた『闇の救済者』軍へ振り返るや、声を張り上げて駄目押しの号令を下す。
「さあ、今よ、蹂躙しなさい! 弓兵と銃兵は一斉射撃で援護、前衛は突撃! 敵に体勢を立て直す暇を与えないで!」
「お、おうっ! 前線を押し上げるぞ、進めぇッ!」
斯くして隊伍を組んで前進する『闇の救済者』軍により戦線が押し込まれ、敵の第一陣が跳ね返されてゆく。進めた距離はそこまで大きくないが、それでも目指すべき首魁へと近づけたことに変わりはない。
「やれやれ……やはり戦場は好きになれんな。血が流れるのは、処刑台だけで良い……」
そうして戦車の相手を友軍に引き継ぎながら、フェミスは周囲に聞こえぬようポツリとそう小さく独り言ちるのであった。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
ブラミエ・トゥカーズ
人が化物に抗う光景はいつ見ても良い物であるな。
立場が逆であるのが愉快な話であるが。
吸血鬼であることは全く隠さない。
最前面
吸血鬼に共をする豪気な者はいるであろうかな。
人形繰りや聖人なら、大丈夫か。
余が良いというまで待っておれ、
この世界では余はまだ現役であろうからな。
【POW】
戦の終わりは何も勝敗だけではないぞ。
余の暮らす世界では禁じ手になっておるがな。
御者は骨なのでUCで馬を狙う。
骨は他の者や、自身で物理攻撃を行う。
霧化し突撃を回避。
味方の少ない所に、病をばら撒く
猟兵として病は敵に、
妖怪として恐怖は敵味方問わない。
腐った血は好かぬ。
口直しはできぬものか。
運悪く罹った者にはUCなので解除可能。
●人外化生の矜持を此処に
「人が化物に抗う光景はいつ見ても良い物であるな。悍ましきを駆逐するのは、常にちっぽけな人間の意志であるが故に。尤も、此度は立場が逆であるのが愉快な話であるが」
戦端が開かれた直後に発生した両軍のぶつかり合いは、猟兵たちの活躍によって『闇の救済者』軍優位に進んでいた。槍衾が次々と死馬を貫き、飛び出した歩兵が敵兵を討ち果たす。中央部や左翼側で繰り広げられる戦闘を、右翼側に陣取ったブラミエ・トゥカーズ(”妖怪”ヴァンパイア・f27968)は楽し気に眺めている。
「……とは言え、この世界において人と化生の確執は極めて長く根深い。そうそう容易く埋まりはせぬか」
しかし一方、視線を己が周囲へと向けてみれば、彼女の周りだけ不自然に空白が生まれていた。常夜の世界であれば日傘は不要と従僕を下がらせた今、猟兵の周囲に存在するのは挑み掛かって来た敵の骸のみ。友軍であるはずの兵士たちは、それとなく距離を取りながら戦闘を行っている。
彼らがそうする理由はただ一つ……ブラミエが正真正銘の『吸血鬼』だからである。無論、彼女とてこの世界の歴史は承知の上。だがそれを踏まえても尚、己を偽る事など矜持が許さなかったのだ。
「故にこそ、以前訪れた際は敢えて村人と接触せなんだが……誰ぞ、吸血鬼に共をする豪気な者はいるであろうかな、と?」
そう小さく嘆息する吸血鬼であったが、ふとこちらへと近づいてくる人影を認める。それは陰鬱そうな雰囲気を纏った人形遣いの青年だ。彼は複数の戦闘用人形を操って敵戦車を叩き伏せながら、さりげなくブラミエの死角をカバー出来る位置へと陣取った。
「……どうか気を悪くしないでくれ。皆、頭で理解は出来ても感情が追いつかないのだ。詫び代わりに、俺が援護に回らせて貰おう」
「それについて気にはしておらん。しかし、汝は余を恐れぬのか?」
「実を言うと、俺も人形ばかり相手にしていたせいで人付き合いが苦手でな。除け者同士、仲良くしたいのさ」
それが本心か、はたまた冗句なのかまでは分からない。しかし、ブラミエはフッと愉快気に笑みを滲ませた。漆黒のドレスを翻しながら、彼女は身を屈ませる。
「であれば、余が良いというまで待っておれ。数少ない朋友を巻き込む訳にはいかぬ。なにせ、この世界では余はまだ現役であろうからな」
瞬間、吸血鬼は疾風と化して敵中へと飛び込んでゆく。当然、相手も突出した愚か者を粉砕せんと鞭を打ち鳴らし突撃を仕掛けて来る、が。
「……渇き飢え果て踊り狂え。知を棄て、地に這い、血を捧げよ。夜の主たる余のために」
衝突の寸前、乙女の姿は紅の霧へと溶けて消えた。だが、攻撃を受けたのではない。吸血鬼が持つ権能の一つ、身体の霧化である。赤い薄幕を戦車が潜り抜けた途端、死馬が全身の穴より穢血を撒き散らして倒れ込む。
「戦の終わりは何も勝敗だけではないぞ。鮮血の溢るる戦場が疫病と無縁でいられるはずもなし。尤も、余の暮らす世界では禁じ手になっておるがな」
そしてこれが、彼女の核となった存在の暴威。血液を媒介とした致死性伝染病である。古くから戦争と病毒は切っても切れぬ存在。況や、彼女の其れはその中でも一際強力なものだ。手始めに絶命させた死馬を起点に、病が瞬く間に広がってゆく。
「ふむ。血液を媒介とする故、骨身の馭者には効果が薄いか。これらを一つ一つ潰してゆくのは些か手間だな……いや、これは」
死馬を失った馭者や戦闘員に取り囲まれ、ブラミエは肩を竦めながら一対二振りの剣へと手を伸ばす。だがそれを抜き放つよりも先に、両者の間に飛び込んできた戦闘人形たちが敵へと襲い掛かった。繰り糸を辿れば、その源は先ほどの人形遣い。血の通わぬ人型であれば、病を気にせず戦う事が出来るという訳だ。
「成る程、前言に偽りなしか。そうした機転は嫌いではないぞ。だが、連中の腐った血は好かぬ。はてさて、口直しは出来ぬものか」
少しばかりの稚気を交えつつ、ブラミエもまた骨の群れへと挑み掛かる。斯くして数多の畏怖と一つの敬意を感じ取りながら、紅の霧は戦場を席巻してゆくのであった。
成功
🔵🔵🔴
万象・穹
皆が闘志に燃えている。それなら、私がやるべきことは一つだけ。
邪悪を退け、この世界を奪還しようとする彼らに道を開ける。
私が援護しましょう。チャリオットの機動戦を妨害するわ。
UC発動、神器の力を解放して『空中戦』、光の鎖で戦場の敵の行動を阻害、次いで光の槍を降らせて牽制する。(神罰・乱れ打ち・範囲攻撃・蹂躙)
射撃武器を持つ敵たちをこちらへ『誘惑』、闇の救済者へ攻撃が向かないように飛翔して『見切り』回避していくわ。
遊撃隊に、ただちにチャリオットに搭乗する敵たちを撃破してもらいましょう。
さあ、篝火を灯し、鬨の声を上げましょう。傲慢にも君臨する吸血鬼たちに、目にもの見せてやりましょう。
(アドリブ等歓迎)
●白き翼は吉兆を示す
「絶対に一対一で相手をするな! 最低でも三人以上で迎え撃て!」
「馬を倒しても気を抜くなよ、すぐに随伴している戦闘員が仕掛けて来るぞッ!」
剣撃と銃声、馬の嘶きと雄叫び。開幕直後の激突を経て、戦況は混戦へと移行しつつあった。再度の突撃を行うべく離脱を試みる敵戦車と、そうはさせまいと追撃を仕掛ける『闇の救済者』軍。自らもその真っ只中へと身を置きながら、万象・穹(境界の白鴉・f23857)は友軍の抱く士気の高さを肌身で感じ取っていた。
(皆が闘志に燃えている。それなら、私がやるべきことは一つだけ。邪悪を退け、この世界を奪還しようとする彼らに道を開ける……その為にも、まずは)
彼女もまた純白の退魔刀を振るって敵と斬り結んでいるが、死したる馬というのは中々に厄介な相手である。大きな馬体は暴れるだけでも脅威の上、元が死体のため痛覚が鈍い。加えて馭者や随伴戦闘員が手にした得物で反撃してくるとあれば、一騎仕留めるだけでも相応に時間を食ってしまうのだ。
「私が援護も兼ねて囮役となりましょう。馬と乗り手の攻撃を分散させれば、幾らか攻め易くなるはず。遊撃隊には攻撃を任せたいのだけれど、お願いする事は可能でしょうか?」
「それは構わないが、一体どうするつもりだ? こうも敵味方入り乱れていては、抜け出すことも儘ならんぞ」
穹の求めに対し、すぐさま応じてくれたのは近くで敵と交戦していたダンピールの部隊。しかし、その口調には疑問の色が滲んでいる。この混然とした状況下で、どうやって相手の注意を惹くというのか。その問いに対し、白鴉は言葉ではなく行動を以て返答とした。
「この太陽なき世界において、眩い光は嫌が応にも視線を引き寄せる存在よ……さぁ、光神煌翼。その力を今こそ示しなさい」
小柄な背に展開されるは、身の丈を優に超える光の翼。神器に籠められし力を解放した瞬間、穹は戦場上空へと舞い上がってゆく。右手に輝く槍、左手に煌めく鎖を握り締めて眼下を睥睨するその姿は、正に天使と形容するに相応しい。
「友軍が交戦している相手は良いとして、問題は再突撃の疾走距離を稼ごうと狙っている個体ですね。であれば、まずはチャリオットの機動戦を妨害するわ」
穹は手にした光鎖を投擲するや、戦場から離脱せんとする敵戦車を次々と絡め取っていった。そうしてピンと張りつめた鎖を御しながら、彼女は次に戦場全体へと槍の雨を降り注がせてゆく。威力こそそれなりではあるが、狙いは攻撃ではなく己の存在を敵に強く印象付けること。
果たして、身動きを封じられた敵戦車の戦闘員たちは弩弓やマスケット銃を構えると、次々とボルトや鉛玉を浴びせ掛け始めてくる。少なくない数の射撃攻撃に白鴉も幾ばくかの手傷を受けてしまうが、正にこれこそが彼女の望む状況だった。
「敵の火力がこちらへ集中したという事は、『闇の救済者』軍への攻撃が手薄になるという事。そして、戦場でそんなあからさまな隙を晒せば……」
――文字通りの命取り、よ?
穹がそう独り言ちた瞬間、ダンピール部隊は黒い疾風と化して敵戦車へ次々と取りついてゆく。接近に気付いた敵兵が咄嗟に武器を差し向けるも、その反応は余りにも遅過ぎた。地上のダンピールを相手取ろうとすれば、頭上より輝槍と光鎖が降り注ぎ。頭上の天使を叩き落さんと狙いを上げれば、漆黒の旋風が骨肉を引き裂く。兵を統率できる将が居ればまだ反撃の余地はあったのだろうが、そのような存在が不在である以上、敵戦車は為す術もなく蹂躙されるだけであった。
そうして馬の骸と白骨に戻った敵を見下ろしながら、穹は七色に輝く花より焔の魔力を取り出して戦車を焼き払ってゆく。それは戦果を示す灯にして、進むべき道を示す標でもある。
「さあ、篝火を灯し、鬨の声を上げましょう。傲慢にも君臨する吸血鬼たちに、目にもの見せてやりましょう。その為にも今はただ、前へと進むのみ!」
そうして光の天使は敵戦車を打ち破りながら、後に続く者たちを導いてゆくのであった。
成功
🔵🔵🔴
アリシア・マクリントック
フィーナさんと参加
絵に描いたようなチャリオット戦ですね。正面から戦うのは愚策。であれば……変身!セイレーンアーマー・神話形態!
フィーナさんの牽制に合わせて上空から奇襲をかけましょう。敵からの攻撃はルシファーで捌きます。そのまま乗り込んで乗員を蹴落としてやります。性質上敵の装備は長物か飛び道具。盾代わりのルシファーがあれば有利に立ち回れるでしょう。
無力化に成功したら反撃です。オブリビオンとはいえ御者がいるということは制御が可能ということ。逆にこちらが利用させてもらいます。乗馬と同じようにはいかないでしょうが、馬の扱いなら慣れています。
いざ突撃!フィーナさん、攻撃は任せましたよ!
フィーナ・ステラガーデン
アリシアと参加
気付いたらダークセイヴァーがやる気に満ち溢れた世界になってるわね!
ここは活躍時ね!張り切っていくわよ!場所は最前線!
なんなら敵陣にそのまま深く乗り込む感じよ!味方が巻き込まれないように!
思いっきり二人で引っ掻き回してやるわ!
チャリオットが突っ込んできたら牽制で属性攻撃による火球を放つわ!
動きが鈍ったら後はアリシアが勝手に乗り移ってくれると思うわ!
乗っ取りが完了したら後は私もアリシアの乗ったチャリオットに飛び乗って
運転はアリシアに任せるわ!私はUCを発動!黒炎の剣は真横に伸ばして
他のチャリオットをなぎ払っていくって作戦よ!
反撃はここから始まるわ!!
(アレンジアドリブ大歓迎!)
●天壌を征け、焔の刃よ
「気付いたら、ダークセイヴァーがやる気に満ち溢れた世界になってるわね! 前に来た時はまだちょっとした砦程度だったのに、まさかここまで大きくなるとはビックリしたわ!」
仲間が灯した篝火を道標として、『闇の救済者』軍がジリジリと戦線を押し上げてゆく。各部隊の指揮官の指示に従い統制を保って動く姿から、彼らが積み重ねて来た努力や訓練が透けて見えるようだ。今までの惨状からは考えられなかった成長ぶりに、フィーナ・ステラガーデン(月をも焦がす・f03500)の顔にも思わず笑みが浮かぶ。
「絵に描いたようなチャリオット戦ですね。相手は損切をしつつ、立て直しを図るようつもりの様です。それに付き合って正面から戦うのは愚策。であれば……」
一方、アリシア・マクリントック(旅するお嬢様・f01607)は対する敵の動きを油断なく観察していた。緒戦の衝撃力を完全に失ったとみるや、相手は一部の戦車を捨て駒に戦線を離脱。再度の突撃距離を稼ぐべく大きく迂回軌道を取り始めている。
敵主力がフリーハンドになるのは避けたいところではあるが、真っ向から相対するのは自殺行為だ。だが幸いにも、先行した仲間が友好的な戦術を示してくれている。ならば、それを活かさぬ手はない。
「変身! セイレーンアーマー・神話形態! フィーナさん、私が上空より奇襲を掛けます! 接近する為に牽制をお願いできますか!」
「もっちろん! 炎や火ならこっちだって負けていられないわ! 寧ろ、味方を巻き込まないように注意しなきゃいけないわね!」
アリシアの全身が白銀色のドレスへと変ずると同時に、その背中へ淡い虹色を放つ翼が展開してゆく。船沈めの妖鳥となって飛翔し始める令嬢の求めに対し、焔の魔法使いは魔杖をくるりと回転させながら快諾する。篝火を以て進むべき道を指し示すのであれば是非もない。戦場の何処からでも分かるよう、派手に燃やし尽くすまでだ。
「ここが活躍時ね! さぁ、張り切っていくわよ!」
迂回軌道を取っていた敵部隊が、遂に馬首を戦線へと向け加速し始める。相手の纏う速度と威力の程は、踏みしめる度に砕かれる地面を見れば一目瞭然。しかしフィーナは臆することなく友軍より離れて飛び出すや、幾つもの火球を相手の鼻先へと叩きつけてゆく。
「来るなら来なさい! 二度と這い出て来ないよう、馬も馭者も纏めて火葬し直してあげるわ!」
相手も多少の火傷や炭化ならば、死体としての強みを生かして強引に走り続ける事が出来るだろう。されど、着弾と共に解き放たれる衝撃波までは無視出来ない。堪らずバランスを崩したり、止むを得ず速度を減じさせる戦車がちらほらと現れて始めた。
その内の一騎、最も隙を見せた個体へと狙いを定めるや、アリシアが敵直上より急降下奇襲を仕掛けてゆく。まずは落下速度を活かし随伴戦闘員の一人を踏み砕くと、そのまま流れるような動作で刺突剣を抜き放ち、切っ先を敵兵へと突き付けた。
「すみませんが、これも戦場の習いというものです。この戦車、私たちが接収させて頂きます!」
相手の基本戦術は死馬による突撃と、同乗した戦闘員による蹂躙である。荷台部に乗る関係上、敵の主武装は槍や大鎌と言った長柄武器か弩弓を始めとする射撃武器……つまり、今の様に乗り込まれての極至近距離戦はそもそもとして想定されていないのだ。
とは言え、それでハイそうですかと頷く敵も居ないだろう。令嬢は咄嗟に向けられた弩弓の射線から身を捻って回避しつつ、回転力を乗せた刺突を繰り出す。紙一重で通り過ぎてゆくボルトの風切り音を耳朶で感じながら、返す刀で相手の頭蓋を刺し貫いた。
「再装填をさせる隙など与えはしません。後は身動きの取れない長柄武器遣いのみ!」
戦車は分隊規模を乗せて動ける程度には大きいが、さりとて槍や大鎌を十全に振り回せる程の広さは無い。況や、仲間がいる状況下では猶更だ。予備動作の小さい突きや振り下ろしなどでせめてもの抵抗を試みるも、軌道の分かり切った攻撃に当たるほど猟兵も間抜けではない。
繰り出される穂先や鎌刃を危なげなく掻い潜ると、アリシアは護拳による殴打や斬撃によって瞬く間に随伴戦闘員を無力化してゆく。その光景を虚ろな眼窩で馭者が見つめて来るも、相手は今もなお降り注ぐフィーナの火球から馬を逃がすので手一杯である。どこか焦ったような雰囲気を滲ませる馭者へ、令嬢はにっこりとほほ笑むと……。
「それでは、ありがたく利用させて貰いますね?」
躊躇なく馭者を叩き落とすのであった。オブリビオンとはいえ飽くまでも馬は馬。手綱さえ握ってしまえばこちらのものである。幸いにもアリシアの乗馬経験は豊富だ。全く同じとはいかないまでも、ある程度の制御は可能だろう。そのまま進路を仲間の元へ向けると、待ってましたとばかりにフィーナが荷台部に飛び乗ってきた。
「さっすがアリシア、これで無事乗っ取り完了ね! 『闇の救済者』軍に騎兵は居ないようだし、使える物は何でも使い倒すわよ!」
「農耕用なら兎も角、馬を軍事的に利用しようとすると膨大な手間や物資が必要ですからね。流石にそこまでは手が回らなかったのでしょう……ともあれ、ある意味ではここからが本番。いざ突撃です! フィーナさん、攻撃は任せましたよ!」
ピシリと令嬢が手綱を一打ちするや、死馬が嘶きと共に加速する。そうして速度を乗った状態で、後方の荷台へ陣取った魔法使いが側面よりヌッと杖の先端を突き出す。先と同じ様に火球を放ち、チャリオットではなくタンクとしての戦車を演じようというのか? 答えは、否。それよりもなお……。
「これも意趣返しみたいなものかしら? 尤も、威力はアンタたちの比じゃないけどね!」
より苛烈で、より豪快だった。煌々とした輝きを放ちながら伸びるのは、長大な炎の柱。杖の先端より吹き荒れる焔の魔力を以て、業火の刀身を形成したのである。奇しくもそれは敵戦車が行っていた大鎌による刈り取り斬撃と近しいものであるが、フィーナの言葉通り威力と射程は比べ物にならない。
アリシアが敵の密集地帯へ進路路取るや、フィーナは獰猛な笑みを浮かべながら杖を振り抜き、そして。
「なぎぃ……払えぇぇえええッッ!!」
敵戦車を次々と炎刃にて飲み込んでいった。相手は為す術もなく高熱に焼き尽くされ、戦車ごと炎に包まれてゆく。猟兵側の戦車が通り過ぎた後に残るのは、ブスブスと煙を上げる炭の塊のみ。
「百年にも渡って舐めさせられてきた苦渋、この程度の反撃じゃまだまだ止まらないわよ!」
「ええ、そうです! このまま、領主の元まで踏破してしまいましょう!」
右と言わず左と言わず、令嬢の駆る戦車の荷台で炎剣を振るう魔法使い。その焔の輝きは、何よりも雄弁に進むべき方向を友軍へと伝えるのであった。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
シャルロット・クリスティア
……そうですね。
では、数は多くなくて構いません。弓兵や銃兵……なるべく身軽な射撃兵をある程度貸してください。
小規模の別動隊を率いて、横合いから奇襲をかけます。
敵の主力、戦車による突進力と機動力は確かに脅威です。
正面からぶつかり合えば、こちらも少なくない被害を被ることになる。
……ですが、逆に言えば、足回りさえ潰してしまえば、槍衾で十分に圧し潰せる。
各位、狙うなら騎兵よりも馬を。コントロールを乱します。
直接的に倒すのは難しいですが、我々の働きが主力の被害量を左右することになると肝に銘じてください。
……勝つのは前提です。
ですが、この戦いは人が未来をつかみ取るためのもの。
……生きて、進みましょう。
ヴァネッサ・ラドクリフ
あたしこそかつて別の闇の救済者達に助けられたから、同じ志の貴方達の力になりたいよ!
敵が馬を使うなら乗馬できるあたしも救済者軍の側面の方々にワープする形でUCを使いつつ白馬で打って出るよ
(最前線でも後方でも馬という例外で足並みを乱してしまいそうだから側面にしたよ)
あえてあたし自身が孤立するように走らせて馭者の鞭によるUCをあたしに狙わせて
鞭が当たるギリギリのところで救済者軍にワープして鞭を空振りさせて
馭者の不意をついて救済者軍と連携して一気に敵を倒すよ!
卑怯とは言わせないよ、お前達にこれ以上命を奪わせないんだから!
あたし自身と救済者軍の為にも敵を一体倒す毎に鼓舞して士気を下げさせないよ
●銃弾と共に、現れよ駿馬
敵集団は有力な指揮官が居らず、かつ馭者や戦闘員たちの知能も高いとは言い難い。しかしかと言って、愚かと断じる事もまた危険だ。散々に陣形を乱された後、急速に後退してゆく敵集団を注意深く観察しながらシャルロット・クリスティア(弾痕・f00330)はスッと目を細める。
「潰走、ではありませんね。後退し、一度戦線を整理するつもりですか。余り深追いして突出しないよう、指揮官クラスに進言しておくべきですね」
敵が退くのは何も『闇の救済者』軍に恐れを為した訳ではない。相手は一時的な離脱からの再突撃程度では埒が明かぬと判断し、一度大きく距離を取って部隊の立て直しを図るつもりなのだろう。一方、大規模な戦争経験のない友軍では血気に逸って突出してしまい、各個撃破される危険がある。
その旨を近くに居た黒騎士へ告げると、彼は然りと頷いて部下へと注意喚起を行ってゆく。しかし、それはそれで新たな問題が発生してしまう。
「助言、感謝致します。しかし、相手に時間を与えてしまうというのも歯痒いものですね。現状はこちらが優勢ですが、戦の流れは水物ですゆえ」
「そうですね。では、数は多くなくて構いません。弓兵や銃兵……なるべく身軽な射撃兵をある程度貸してください。小規模の別動隊を率いて、横合いから奇襲をかけます」
黒騎士の懸念に対し、シャルロットは側面奇襲を提案する。役割上、少人数での行動となるため大打撃こそ期待できないが、陣形を整え直した友軍が前進する程度の時間は稼げるだろう。
「ふむ、了解した。すぐに志願兵を抽出し、貴君の指揮下へ回しましょう」
そうして黒騎士の手配によって弓兵と銃兵の混成部隊三十名が集結。シャルロットと共に敵の側面へと回り込みをかけてゆく。幸い、よく観察すれば身を隠す場所には事欠かない。そうして射撃ポイントまで到達すると、射手たちはそっと敵陣の様子を窺う。
「連中、まだあんなに居やがるのか……猟兵殿、こっからどうするおつもりで?」
「敵の主力、戦車による突進力と機動力は確かに脅威です。正面からぶつかり合えば、こちらも少なくない被害を被ることになる……ですが逆に言えば、足回りさえ潰してしまえば槍衾で十分に圧し潰せる」
弓を携えた元猟師と思しき兵士の問いかけに、銃使いは彼我の戦力差を分析しながら呟きを漏らす。今求められている役割は、友軍主力が有利に戦闘を行う為の下地を作る事だ。であればと、シャルロットは為すべき行動の方針を決める。
「各位、狙うなら騎兵よりも馬を。馭者のコントロールを乱し、少しでも時間を稼ぎます。直接的に倒すのは難しいですが……我々の働きが主力の被害量を左右することになると、くれぐれも肝に銘じてください」
「オーケイ。攻撃の合図は任せるぜ、猟兵殿?」
銃兵は鉛玉と火薬を銃口から注ぎ入れ、弓兵は矢を番えて弦を引き絞る。初撃でどれだけの損害を与えられるかが肝となる以上、タイミングのズレは厳禁だ。猟兵もまた大型機関銃を構え、引き金へと指を掛け……。
「撃ち方……始めッ!」
号令一下、弾丸と鋭矢が敵陣へと降り注いだ。事前に言い含めた通り、狙いは戦車を牽く死馬。銃声が響いた一拍の後、バタバタと巨体が地面へと崩れ落ちてゆく。
「次弾装填、急いでください。せめてもう一撃、入れられると良いのですが……っ!?」
戦果は上々。しかし、シャルロットの表情は硬いままだ。彼女は照星越しに敵がこちらへ一斉に顔を向けるのを見てしまっていた。嫌な予感は的中し、敵部隊の一部が猛然と突撃を開始してくる。第二射は辛うじて間に合うだろうが、果たしてそれで止め切れるのか。少女の脳裏に撤退の選択肢が浮かびかけた……その時。
「そうは、させないよっ!」
両者の間に白き影が飛び出したと思うや、先陣を切る敵戦車と交錯。すれ違いざまに馭者を真一文字に両断していった。真白き駿馬に跨り、長剣を手にせしはヴァネッサ・ラドクリフ(希望のプリンスを目指して特訓中・f30475)。側面で敵と切り結んでいた彼女は、味方が危機とみるや己が異能によって駆けつけてきたのだ。
「猟兵に救われたと皆は口にするけど、あたしこそかつて別の『闇の救済者』達に助けられたから……同じ志を持つ貴方達の力になりたいよ!」
そう強い決意と共に叫ぶヴァネッサは、騎馬を駆って臆することなく敵陣へと飛び込んでゆく。彼我の兵種内訳を見ても分かる通り、『闇の救済者』軍側に騎兵は存在しない。自分たちの装備に手一杯で、軍馬にまで手が回らなかったのだ。故に彼女は馬という例外で味方の足並みを乱すことを危惧し、単身遊撃手として立ち回っていたのである。
(まずは相手の注意をあたしだけに集中させる……攻撃するにしろ、撤退するにしろ、まずは時間を稼ぐのが先決だよ!)
ヴァネッサは敢えて己を敵中で孤立させながら、刃を振るって攻撃を仕掛けてゆく。単騎ゆえにすぐ倒せるだろうと言う侮りを誘いつつ、一方で無視出来ぬ程度には被害を与える。その絶妙な匙加減を見定めながら、騎士は相手の注意を味方から己へと引き寄せていった。
(一騎当たりの戦闘力は相手の方が上だけど、あたしの方が戦車のない分だけ小回りが利くみたい。注意すべきはやっぱり、馭者の鞭だね……!)
地面を歩く歩兵なら兎も角、双方ともに動き回っているのだ。射撃武器にしろ大鎌にしろ、当てるのは容易ではない。敵の数が数なので油断は禁物だが、走り続けていれば当たることはまずないだろう。それよりも警戒すべきは、馭者が時折繰り出してくる鞭である。
柔軟な動きでこちらを捕らえようとしてくるのに加え、一度捕縛されれば頼みの綱である異能が使用出来なくなる。もちろん断ち切ってしまえば良いだけの話だが、戦場においてその一瞬の隙こそが命取りになりかねない。
(そろそろ、区切りをつけたいところだけど……っ、あれは!)
周囲へと視線を走らせていたヴァネッサは、何かを認めて思わず目を見開く。その隙を突き、前後左右の進行方向全てが敵戦車によって塞がれてしまう。彼女の戦いぶりに、とうとう相手も本気になったのだ。騎士目掛けて蛇の如く鞭が一斉に忍び寄り、そして。
「……今だよっ! あたしを気にせずに撃って!」
「囮役、感謝します。少しばかり目先の敵に囚われ過ぎましたね?」
騎士の姿が掻き消えた瞬間、再びの弾雨嵐矢が敵戦車を襲ったのである。先ほどヴァネッサが瞠目した理由は己の危機ではなく、シャルロットが発した合図を見たからだった。二人の猟兵は意図的に敵を密集させると、タイミングを合わせてワープと射撃を実行。敵を一網打尽にしたのだ。
「卑怯とは言わせないよ。お前達にこれ以上、一つだって命を奪わせないんだから!」
「……既に勝つ事は大前提です。ですが、この戦いは人が未来をつかみ取るためのもの。ただ勝利するのではなく、誰も欠けることなく……生きて、進みましょう」
勝利し、そして生きて帰る。その二つを為してこそ、本当の意味で吸血鬼に打ち勝ったと言えるのだ。斯くして猟兵たちは引き際を見誤ることなく、射撃兵たちと共に後退してゆくのであった。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
リーヴァルディ・カーライル
…騎兵が槍衾に正面から突っ込んでくる?
成る程、敵はまだ此方を烏合の衆としか見ていないのね
…それならばそれで好都合。過小評価の代償を支払わせるだけよ
最前線でUC発動して510騎の黒騎士霊を友軍の武装に降霊、
蒼炎の魔力を溜め擬似的な黒剣や黒槍、黒炎の鎧に武器や防具の改造を施す
…聞け、救世の旗の下に集いし勇士達よ
汝らに授けたるは、黒き騎士の剣と黒炎の鎧なり
…その刃を以て、未だ我らを侮り嘲る愚者共に刻むがいい
この暗き世界を覆す我らの御名を。闇の救済者の名を…!
戦闘は兵達に任せ第六感が味方の危険を捉えたら、
敵の突撃の軌道を見切り最小限の早業で攻撃を受け流して、
大鎌をなぎ払うカウンターで迎撃するわ
●騎士よ、誇りある戦場を此処に
戦闘は緒戦を過ぎ、中盤戦へ移行したと言って良いだろう。敵戦車群は大幅な後退を終え、再度の突撃準備を完了させている。だが側面強襲を敢行してくれた猟兵たちの活躍により、『闇の救済者』軍もまた戦列を乱すことなく統制を保ったまま前線を押し上げる事に成功していた。
リーヴァルディ・カーライル(ダンピールの黒騎士・f01841)はそんな目覚ましい成長を遂げた友軍の動きを頼もしげに眺める一方で、敵の意図を見抜くと不快気に眉根へ皴を刻んだ。
「……騎兵が再び、槍衾に正面から突っ込んでくる? 成る程、敵はあれだけの被害を出したというのに、まだ此方を烏合の衆としか見ていないのね」
戦の進め方というものは様々だが、敵はどうやら飽くまでも己の強みを貫く方向で挑んで来るつもりらしい。だが、それも無理ならざること。騎兵や戦車は確かに強力だが、純粋な歩兵と違って役割の『潰し』が利かないのだ。加えて戦況は『闇の救済者』側が優位であれど、その差は未だ絶対ではない。突撃一つでひっくり返るのならば、それに賭けるのも一概に下策とは言えなかった。
「……それならそれで好都合。過小評価の代償を、己が命を以て支払わせるだけよ」
リーヴァルディが油断なく敵陣を観察している最中、チャリオットが再度の疾走を開始した。馭者が頻りに鞭で死馬を打ち据え、一気にトップスピードまで加速する。後方から射撃部隊が牽制の弓を放ち始めるが、敵もまたお返しとばかりに弩弓から放つボルトで槍衾を構成する歩兵を撃ち抜いてゆく。
「ぐっ……!? 負傷者は後送しろ、倒れたままじゃ敵味方問わず踏み砕かれるぞ!」
「連中も馬鹿じゃない。突撃前にこっちの数を減らそうって魂胆か……!」
崩れ落ちた兵士を仲間たちが引きずって後方へと運んでゆく。兵種構成を見て分かる通り、『闇の救済者』軍に騎兵は居ない。故にこそ、戦車にとって一番の脅威となるのはやはり槍衾だ。だが、それも数を揃えてこそ真価を発揮するもの。歯抜け状態であればその間隙へ己自身を楔として打ち込み、後続を以て戦線を寸断しようという狙いなのだろう。
そう、『闇の救済者』軍に騎兵は居ない。そんな大前提を――。
「……限定解放。来たれ、戦場に倒れし騎士達の魂よ。我らが戦友を護る鎧となり、敵を討つ刃と化せ!」
リーヴァルディは一瞬にして覆す。彼女が叫んだ瞬間、槍衾を構成していた兵士たちの足元から蒼炎を纏った黒馬が飛び出してくる。彼らは兵士を背中へ乗せると、魔力によって長剣や馬上槍、漆黒の鎧を纏わせてゆく。彼女は瞬き一つする間に、五百騎を超える騎兵を生み出して見せたのだ。
「こ、こいつは……!?」
「聞け、救世の旗の下に集いし勇士達よ。汝らに授けたるは、黒き騎士の剣と黒炎の鎧、そして盟友たる駿馬なり。さぁ、その刃を以て、未だ我らを侮り嘲る愚者共に刻むがいい。そう……」
――この暗き世界を覆す我らの御名を。闇の救済者の名を!
こうなってしまえば最早是非もない。猟兵の放つ檄を受け、兵士たちが敵戦車を迎え撃つべく猛然と吶喊してゆく。彼らの大半は馬の扱い方など知らぬ者ばかりだが、そこは武具に宿った黒騎士達が手助けしてくれていた。対する敵戦車は突然現れた騎兵に戸惑い、為す術もなく討ち取られ始めている
「とは言え、これはある意味で奇策。相手が混乱から立ち直れば、きっとまた盛り返してくるでしょうね。だから……」
前線を俯瞰しながら、リーヴァルディは禍々しい大鎌を取り出し構える。彼女は戦闘の主役を騎兵たちに任せながら、自身は危機に陥った味方の援護に徹してゆくのであった。
成功
🔵🔵🔴
シホ・エーデルワイス
アドリブ&連携歓迎
何故かしら…
漠然とですが嫌な予感がします
領主や援軍の情報が無いから?
…違う気がします…
いえ
今悩んでも仕方ありませんね
障害物の無い平野であれば騎馬の機動力は有効でしょう
なら
地形を変えましょう
救済者達の援護を最優先
危なければオーラ防御結界でかばう
【迷社】で曲角の多いい迷路を展開し敵の機動を削ぎ
壁から破魔の祈りを籠めた光で目潰ししつつ浄化攻撃
後は跳弾属性攻撃の誘導弾で馬の肢や車輪をスナイパーで部位破壊して
援護射撃
負傷者は医術で手当てし
戦闘の継続が難しくなった方は『聖鞄』に保護
それにしても人狼やダンピールの方々も一緒に戦ってくれているのね
皆の力が結束出来ているなら
きっと大丈夫でしょう
●天の時は地の利に如かず
突如として姿を見せた、『闇の救済者』軍に居ないはずの騎兵部隊。在り得ざる存在を前に敵戦車群も当初は面食らい被害を受けるものの、異能の効力が切れるのを待って反撃へと転じていた。
「くそ、動きが速い! それに当てようと近づけば、後ろの骨野郎共が邪魔してきやがる!」
「無理に当てようとしなくて良い! 手数を活かし、少しずつダメージを蓄積させれば十分だ!」
縦横無尽に戦場を駆け巡りながら、当たるを幸いに弩弓や大鎌を振るって生ある存在を鏖殺せんとするチャリオット。しかし、じわじわと負傷者の数が増えてはいるものの状況としては依然こちらが優勢だ。兵士たちの士気は未だ高く、敵戦車の突撃にもめげず果敢に反撃を試みている。
(何故でしょう。戦況的には問題ないはずなのに……漠然とですが、嫌な予感がします。領主の能力や『第五の貴族』が差し向ける援軍の情報が無いから?)
しかしにも拘らず、シホ・エーデルワイス(捧げるもの・f03442)の表情には何故か一抹の不安が滲んでいた。待ち受ける領主がいったいどんな存在なのか、危惧されている紋章持ちの刺客はいったいどのタイミングで姿を見せるのか。理由を探せば、それらしいものを挙げる事は出来る。
(確かに、懸念材料ではありますが……なんだか、違う気がします)
だが、どうにもしっくり来ない。言い知れぬ不快感に眉根を顰めるものの、敵の放ったボルトがすぐ傍を掠めるに至って思考が現実へと引き戻される。第六感を読み解くよりも、まずは眼前の敵をどうにかするのが先決だ。
「いまは悩んでも仕方ありませんね。さて、先に交戦していた方は味方の兵種を変える事で相手の意表を突いていましたが……であれば次は『地の利』を得るとしましょうか」
起伏の無い平野部は戦車にとって最高の戦場だ。一方で『闇の救済者』軍の主力である歩兵からすれば、遮蔽物がなく身を隠す事すら覚束ない。そんな状況を打破すべく、シホは懐から一枚の札を取り出した。
「焔さん。頂いた護符の力、お借りします! これがどうか、皆さんを護り導く標となりますように……!」
それを頭上高らかに投擲した瞬間、解放された魔力が戦場全体へと降り注いでゆく。すると燐光を纏いながら光の壁が形成され、一瞬にして複雑な迷宮を作り出した。狭く入り組んだ迷い路では、戦車の強みである速度を活かすことは不可能。その上、壁全体が微弱ながらも破魔の霊力を滲ませており、敵は其処に居るだけで常にダメージを受け続けるのである。
「なるほど、こいつは有難い……!」
「ただ、直線部へ不用意に飛び出すと敵の突進を受ける可能性があります。曲がり角や十字路を利用すれば、攻撃を受けることなく安全に戦えるでしょう。加えて……そうですね、今のうちに負傷者の方も回収してしまいましょうか」
手にした二挺拳銃で戦車の車輪部や死馬を撃ち抜きながら、シホは分隊ごとに散開した『闇の救済者』軍と共に敵を追い詰めてゆく。またそれと並行して負傷者へ治療を施し、自力で動けぬ者は異空間へと繋がる鞄へと収容し後送していった。
「思えば人狼やダンピール、オラトリオといった方々も一緒に戦ってくれているのね。皆の力が結束出来ているなら、何があってもきっと大丈夫でしょう」
ダンピールが人間と肩を並べ、人狼の遊撃隊が死馬を引き裂き、聖者が怪我人を必死に治療している。天の運、地の利、そして人の和。戦で重要視される要素の内、三つ目に関しては『闇の救済者』側にあるのは間違いない。
そんな今までは考えられない光景を見てようやく、シホの表情から不安と憂いの色が薄れ、僅かながら笑みが浮かびゆくのであった。
成功
🔵🔵🔴
桜雨・カイ
勝利し「生きて」帰る……そう言ってくれる事が嬉しい
ならば自分が望むのは、一人でも多くの人達を生かすこと。
友軍と共に闘います、手伝わせて下さい。
まずは近づかれる前に【念糸】を馬の足や車に絡ませて転倒や機動力の低下を狙います
できる限り、友軍にチャリオットが近づくまでに機動力を削ぎますので
後は友軍の攻撃をお願いします
もし突撃してくる時は【想撚糸】発動
広い網のように編んだ結界で、チャリオットの突撃を受け止め
衝撃や地形の破壊をできるだけ受け止めます。
そして一瞬でも敵の動きが止まっている間に
編まれた結界の隙間から矢や槍で攻撃して下さい!
(事前に友軍には伝えておく)
トリテレイア・ゼロナイン
大量のUC発振器を友軍譲渡
機械馬に騎乗し馬上から暗視とマルチセンサーで情報収集
戦況●見切り把握、自己●ハッキングスピーカー大音声で指示
連携練度を高める為、私が行うのは武装提供と指示の補助
長き戦いに臨む皆様を主体に戦って頂きます
弓兵、第一射放て!
曲射で鏃代わりのUC杭を遠方へ
放電で脚と速度奪い力場で即席防壁構築
固まる敵に第二射の矢の雨
突破してきますよ
銃兵、前へ!
戦列の後方疾走
馬上槍機関砲や格納銃器乱れ撃ちスナイパー射撃で援護
槍兵、前へ!
歩兵部隊、迎撃用意!
兵達の穂先のUCの放電で脚を再度奪い、己は馬の推力移動と怪力で槍振り回し飛び込み
やはり指揮より、こちらの方が騎士として性に合いますね…!
●か細き糸を杭に掛け、繋ぐは勝利のその先へ
(勝利し『生きて』帰る……未来を知らなかった人々が、そう言ってくれる事が何よりも嬉しい。ならば自分が望むのは、一人でも多くの人達を生かすこと)
戦場を覆っていた光の壁が消失した後、平原に広がるは倒れ伏す死馬と戦車の残骸、そして誇らしげに武器を掲げる兵士たちの姿。被害も無い訳ではないが、殆どが速やかに後送され治療を受ける事が出来ている。誰も彼もが最初に飛ばされた檄を護らんとしている姿に、桜雨・カイ(人形を操る人形・f05712)は深い感慨を覚えていた。
「彼らが今日を超え、明日の先へ至る為にも。私たちが出来得る限りの事はしませんとね」
「ええ、誠にその通りです。戦う為に作られたモノとして、騎士たらんとする者として……私もその本分を尽くすつもりです」
青年の口より零れ落ちた呟きに相槌を重ねるのは、機馬に乗ったトリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)。既に幾度かの戦闘を経て来たのだろう、彼と乗騎の全身を覆う装甲には凹みや折れ刺さったボルトが見て取れる。だが、それは単なる損傷ではない。彼が己の言葉を果たさんとした、何よりの証拠であった。
「とは言え、此度の戦いにおける主役は『闇の救済者』の皆様。我々が出しゃばり過ぎるのも、それはそれで良いとは言えぬでしょうから……これを配布するのに、少しばかりお手をお借り出来ますか?」
そう言いながら、トリテレイアが取り出したのは幾つもの鉄杭だった。手渡されたそれを掌の中で転がしながら、ふむとカイは目を細める。彼の観察眼は、それが単なる鉄で出来た道具では無いことを見抜いたのだ。
「これは……なるほど。分かりました、手伝わせて頂きましょう。どうやら、私の戦い方にも応用できそうですしね」
今は戦況も小康状態を保っているが、敵の再攻撃が行われるまでそう猶予は無いだろう。鋼騎士の申し出にカイは快く頷くと、二人で手分けして鉄杭を兵士たちへと配り歩いてゆく。果たして、敵方を監視していた斥候が警告を発するのと、二人が手持ち分を配布し終えたのはほぼ同時であった。
「敵戦車が真っ直ぐこっちへ突っ込んで来るぞ! 連中、これだけ倒しているってのにまだあんだけ居やがる……!」
「それだけ相手も我々を打ち破るのに必死という事でしょう。それでは、手筈通りに!」
歯噛みする兵士を宥めながら、トリテレイアが友軍へと指示を飛ばし陣形を整えさせる。前衛に槍を構えた歩兵、その後方に弓や銃を構えた射撃兵というスタンダードな構成。趣が異なるとすれば、弓に番えられているのが矢ではなく鉄杭という点か。
鋼騎士はギリギリまで有効打を叩き込める距離に敵が接近するのを待ってから、攻撃の合図を下す。
「今です! 弓兵、第一射……放てェッ!」
瞬間、ひゅうと無数の風切り音を引きながら杭が放たれる。それらの幾つかは敵に命中するものの、やはり矢とは重みも形状もまるで違う。大半の杭は敵に当たること無く、ただ地面へ突き立つだけだった。しかし、それで良いのだ。彼らの狙いは杭を遠くに飛ばすという、ただ一点だけだったのだから。
「これにて杭という支点が出来ました。次にすべきはその点と点を糸という線で繋ぐ事です!」
杭が乱立した瞬間、人形遣いは素早く両の腕を振り抜いていた。青年の指先から遠心力を伴って伸びるのは、無数のか細い糸。人形操作用のそれは太さに見合わぬ強靭さを持つうえ、繰り手の意思に応じて変幻自在に動かすことが可能である。カイは糸を地面へと這わせるや、杭と杭の間でピンと張りつめさせてゆく。
「速度を緩めれば衝撃力が失われ、出し過ぎれば糸に縛められる……こうなれば、自由に動くことは難しいでしょう?」
差し詰め、それは蜘蛛の巣といった所か。迂闊に踏み込めば足が引っ掛かり、藻掻けば藻掻くほど糸が絡まって身動きを封じる。猟兵の意図をなまじ見抜いてしまい、思わず速度を緩めてしまった個体がその餌食となった。
しかし一方、蹄鉄で杭を地面ごと踏み砕き、強引に突破せんとする個体もまた存在している。衝撃で杭が緩み、糸の張りが弱まってしまえばカイの策も効果を失ってしまうだろう。だが、それすらも猟兵たちにとっては想定内であった。
「策とは常に二重三重と張り巡らせておくもの。伊達や酔狂で初手に鉄杭を選んだわけではありません……魔法の杖のように万能ではありませんが、貴方たちを止めるには十分です!」
敵の突撃によって舞い上げられた鉄杭が、トリテレイアの命令に応じてピタリと中空で制止する。それらはかすみ網の如く糸を巡らせたまま、内部より高圧電流を解き放った。そう、カイの見立て通りこれは単なる鉄杭ではない。浮遊機能と放電能力を備えた、複雑かつ高度な発振器だったのである。
鋼騎士の発振器と人形遣いの念糸。二つの組み合わせによって形成されるは、高圧電流を纏った網糸の防御壁だ。加速していた戦車にそれを避ける手段はなく、為す術もなく絡め取られ電流によって焼き尽くされてゆく。
「弓兵は第二射を! 今度は普通の矢で構いません! 槍兵、前へ! 歩兵部隊も迎撃用意! こちらの攻撃と同時に電流は停止させますので、どうかご安心を!」
そうして攻撃を開始する友軍の背後を掛け巡りながら、トリテレイアは停止させた電流の代わりに内蔵火器による援護射撃を敵群へと叩き込んでいった。しかし、相手は馭者も馬も死体である。痛覚の鈍さを利用し、身体が千切れるのも厭わず糸の壁を通り抜けようとする、が。
「この糸は想いが紡ぐ糸。――痛みも記憶も、過去を全て抱えてその先へ進みます! 誰も彼も、こんなところで足踏みしている暇などありません!」
張り巡らされた念糸へ更なる糸が絡みつくや、捩じり合わさってより太く、より密に網を形作ってゆく。籠目に編み上げられた防御壁は『闇の救済者』軍の剣や槍は隙間から通す一方、敵の主武装である鞭や大鎌と言った武器は大きすぎてまともに振るう事が出来ない。
「これで相手の機動力に加え、攻撃能力も大幅に削ぐことが出来ました! 今の内です、編まれた結界の隙間から矢や槍で攻撃して下さい!」
「ふむ、ここが決め時ですか。私も攻め手に加わらせて頂きましょう。やはり指揮より、こちらの方が騎士として性に合いますね……!」
電流が第二の策と言うのならば、この籠目は第三の策。用意された幾つもの罠は着実に敵戦車を絡め取り、万全の状況を生み出してゆく。そうしてカイとトリテレイアもまた戦車と刃を交える事により、友軍の勝利へと繋げてゆくのであった。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
春乃・結希
モーラさん…あなたが壊そうとした砦が
今はこんなに大きく、強くなったんだよ
あなたとの戦いだって、思い出として、みんなの力になってるはず…
UCで空へ
上空から戦場を見回し、押し返されそうな前線へと急降下
速度を乗せたwithを叩き付け、直撃せずとも周囲への衝撃で混乱を狙う
もしかしたら前に砦で会った人達もいるかも
わっ、お兄さん達!お久しぶりですっ。まだ生きてたんですね!
軽口を叩きつつも、しっかり仕事はします
殴り合いなら、負けない…!【怪力】【重量攻撃】
前は勇気を与える側だったけど、今日は私達の方が貰っちゃったね、with…
希望への想いを未来へ結ぶ為に、私達も頑張ろう
暴風を纏い、次の前線へと飛んで行きます
●決して忘れぬ、かつての敵(とも)よ
「各指揮官は部隊の損耗を報告しろ! まだまだ前哨戦だぞ、へばっちゃいないな!」
「攻め守りの違いはあれど、対大軍戦は経験済みでさぁ! まだまだいけますぜ!」
戦闘開始から短くない時間が経過した頃。『闇の救済者』軍は開戦当初の位置よりも大きく戦線を押し上げる事に成功していた。現に始めは遠く朧気に見えるだけだった領主の拠点も、今では目の良い者なら詳細な輪郭を把握できる距離にまで縮まっている。敵戦車が十分な加速を行うにもある程度の広さが必要な事を考えれば、攻めれば攻めるだけ優勢になるとも言えるだろう。
そんな友軍の快進撃を見て、春乃・結希(withと歩む旅人・f24164)は戦闘中にも関わらず思わず笑みを零さずにはいられなかった。
「モーラさん……あなたが壊そうとした砦が、今はこんなに大きく、強くなったんだよ。敵対する立場としては、ちょっと複雑かもしれないけれど。あなたとの戦いだって、思い出として、みんなの力になってるはず……!」
思い出すのは半年以上前に発生した『辺境伯』軍による人類砦への侵攻について。防御陣地の構築、集団迎撃、そして強敵との一騎打ち……勝利したものの、決して楽な戦いでは無かった。だが、それらで得た経験が今回の大規模蜂起へと繋がったのは紛れもない事実だ。旅人にはそれが不思議と嬉しく感じられたのだった。
「『コレ』は虚勢に偽りを重ねた力かもしれないけど……それでも、今広がる光景だけは真実だから。みんなが見出した希望を、嘘になんてさせませんッ!」
己の強さではなく、集った仲間の強さを信じて少女は頭上へと飛び上がる。戦場上空を旋回して戦況を把握しながら、窮地に陥っている戦線を見つけると同時に急降下。位置エネルギーを速度と破壊力へと変換し、友軍を蹂躙せんとする敵戦車を刎ね飛ばしてゆく。
「……あの人たちは、もしかして?」
それを繰り返してゆく最中、結希は援護した銃兵の一団にふと目が留まる。彼らは地面に突き立てられるよう工夫された盾を装備しており、その上部には銃身を依託できるよう凹みが設けられていた。相手も猟兵の姿を認めると険しい表情から一転、破顔して声を掛けて来る。
「おっ、もしかしてお嬢ちゃんはこの間の! また助けに来てくれたのか、ありがとうな!」
「わっ、お兄さん達! こちらこそお久しぶりですっ。まだ生きてたんですね! それに、その盾はひょっとして……?」
「ああ、前の防衛戦で教えて貰ったのを改良したんだ。装填中はどうしても無防備だからな。身を隠せるようにしつつ、射撃時の台座としても使えるようにしたのさ」
彼らは以前、結希が手伝いを頼んだ青年たちであった。銃兵たちは挨拶を交わしている最中にも、地面に突き立てた盾越しに敵戦車へと弾丸を叩き込んでゆく。差し詰め、彼ら自身で編み出したパヴィース(突き刺し盾)と言った所か。
己の教えた知識を活用してくれている事、そしてそれを自分たちなりに発展させている事。記憶の忘却ではなく継承を目の当たりにし、少女の振るう刃にも益々力が入ってゆく。
「こちらはもう大丈夫そうですね……次の戦線を助けに行きませんと。お兄さんたちもどうかご武運を! 生きて帰ったら、一緒にお祝いしましょう!」
「おう! お嬢ちゃんも気をつけてな!」
周囲の敵を粗方殲滅し終えると、結希は別れを告げつつ再び飛翔してゆく。他の場所へ救援に向かう道すがら、旅人はそっと己の胸へと手を当てる。其処には戦闘の高揚感以外の熱が、確かに宿っていた。
「前は勇気を与える側だったけど、今日は私達の方が貰っちゃったね、with……。希望への想いを未来へ結ぶ為に、私達も頑張ろう!」
そうして結希は上空より急降下斬撃を繰り返しながら、友軍の前進を援護し続けるのであった。
成功
🔵🔵🔴
仇死原・アンナ
アドリブ共闘歓迎
常闇の世界で育った希望の種が育ち大樹となり実を結んだ…
世界覆う闇夜を晴らす時は近い…!
夜明けを迎える為にも…敵は倒す!私は処刑人だ!!!
最前線に向かい敵群を討とう
【地獄の百鬼隊】を召喚
悪魔兵士達を率いて真正面から突進、敵群を蹴散らそう
突撃する敵を悪魔兵士達の[怪力と集団戦術で蹂躙]してやろう
自身は鉄塊剣を[なぎ払い、鎧砕きと範囲攻撃]で戦車と馬を
真っ二つにしてやろう
友軍に攻撃が向かわぬように
[悪目立ちと存在感]で敵群を惹き付けて友軍を護ろう
友軍に向かおうとする敵がいれば
馭者に拷問具を投げつけ[誘導弾]で喰らいつかせ
馬車から落として妨害しよう
逃がすまいぞ…ワタシは処刑人だッ!!!
●頭を垂れよ、汝に罪在りき
「中央および右翼は敵を圧倒しつつあり! 左翼側は敵の抵抗激しく乱戦中!」
「ならば、予備戦力五十を回そう。ここが踏ん張りどころだ、何とか押し切ってくれ!」
領主配下の戦車部隊と『闇の救済者』軍の決戦はそろそろ佳境へ差し掛かろうとしていた。敵の残存戦力こそまだ相当数が残っているものの、戦線は開戦当初より大分押し上げられている。しかし一方でそれに比例し敵の抵抗も激しくなっており、領主の館周辺では一進一退の攻防が継続中だ。
「常闇の世界で育った希望の種が育ち、大樹となって実を結んだ……そしていま、新たな希望を摘み取らんとする圧制へ真っ向から挑むまでに成長を遂げている。世界覆う闇夜を晴らす時は近い……!」
『闇の救済者』たちと肩を並べて戦車の群れを相手取りながら、仇死原・アンナ(炎獄の執行人あるいは焔の魔女・f09978)の零す呟きには隠し切れない滾りが滲んでいた。無為無策の反抗ではない、苦し紛れの捨て鉢でもない。確かな準備と訓練に裏打ちされた軍勢が、絶対を誇っていた吸血鬼勢力と対等以上に渡り合う……その現実に形容しがたい喜びを覚えていたのである。
友軍の伝令役が先に叫んだ通り、彼女の居る左翼側は混戦状態となっている。追加の戦力を割いてはくれているが、それでも敵の抵抗は極めて激しい。五十人の増援で足りぬならばと、アンナは更なる人員を招き寄せるべく地面へ鋼鉄処女を象った剣を突き立てた。
「夜明けを迎える為にも……敵は倒す! 私は処刑人だ!!! 続け、地獄の兵士共! 武器を構え……進めッ!!!」
瞬間、地面に赤黒い焔が走ったかと思うや、その内部より完全武装した異形たちが飛び出してくる。彼らは地獄より呼び出されし、百を超える悪魔の兵卒集団だ。手にした武器に業火を宿しながら、百鬼隊は鏃陣形を形成しながらアンナと共に敵陣へと切り込んでゆく。
対する敵戦車も死馬に蹄を振り上げさせながら、体重差を活かしてそのまま踏み砕かんと襲い掛かって来る。だが、望むところだと処刑人は叫び返す。
「踏みしめた地面すら砕く蹂躙突撃……だが見た目通り、兵士共の膂力と耐久性は人の其れと比べ物にならんぞッ!」
果たして、死馬び両前足が悪魔兵たちへと叩き込まれる。余りの衝撃に地面へ罅割れが広がるも、攻撃を受けた悪魔兵自体は苦も無くそれに耐え切っていた。ぐっと力を籠めて重圧を押し返すや、どうと音を立てて戦車が横転する。慌てて馭者や随伴歩兵が飛びてくるが、その先に待つのは逃げ道ではなく断頭台だ。
「わざわざ頭を下げながら出て来るとは、殊勝な心掛けだな。これならば外す心配もないというものだッ!」
骨身で出来た敵の頸を刎ねるは、鉄塊を思わせる重厚な刃。その長く重い一刀は馭者や随伴員のみならず、馬の頸すらも一刀両断していった。鮮やか過ぎる手並みに、それまで他の兵士を相手にしていた戦車たちがくるりと馬首を翻らせ、一斉にアンナ目掛けて突進してくる。有象無象の歩兵なら兎も角、猟兵を放置していれば被害は広がる一方だと彼らも悟ったのだろう。尤も、そんな相手の転身も処刑人の狙い通りだった。
(我々が目立てば、その分だけ友軍への攻撃が手薄になる……敵も最早後がなく、逃亡の恐れも無い。で、あれば)
彼女は己の周囲を悪魔兵で固めつつ、地面へ己が得物を並べてゆく。拷問器具や首切り剣、棘付き鉄球鎖。それらが示す意味を、果たして敵戦車上の馭者や随伴戦闘員は読み取る事が出来たのだろうか。籠められた思いは様々だが、それを要約すると次のように表すことが出来る。
「一騎たりとも逃がすまいぞ……ワタシはッ!」
――処刑人だッ!!!
アンナはその宣言を真実とすべく、人間と悪魔の兵士たちと共に、死せる戦車たちへ次々と刑を執行してゆくのであった。
成功
🔵🔵🔴
落浜・語
【路地裏】
来るたびに立派になっていくよなぁここ。最初に比べたら本当同じとは思えないよ。いい意味でさ。
そんじゃ、今回も頑張っていい結果で終わる様にしようか。
色々みんなやってるみたいだし、俺は鼓舞して士気を上げるほうで働こうか。
UC『誰が為の活劇譚』を使用。
「闇に灯った微かな炎は、いつしか大きな焔となった。今こそ蜂起するべしと、集い結い、狼煙は上がる
更にその火を煽りましょうと、三度集まりますは猟兵方。此度語りますは、灯った焔を広めるためのモノガタリでございます!」
語りつつ、無いとは思うが正面以外からの攻撃にも注意しておこうか。
吉備・狐珀
【路地裏】
ここに来るのは初めてですが、ダークセイバーでこの規模の軍。
それに身につけた装備を見ても並みならぬ努力をされてきたのがわかります。
その努力、無駄にしないために必ず勝利を手にしましょう!
UC【協心戮力】
津雲殿が設えた特製の道路でそのご自慢のスピードが増したのなら。
ウカが降らした雨を私の氷属性の霊力で凍らせて作るのは氷壁。
凍結した道の終着点に急に巨大な氷壁が現れたら?
ウカ、雨を凍結した道の上にも降らせより滑りやすくなるのように薄い水の膜を作るのです。
ウケと月代は結界や衝撃波で『闇の救済者』軍の方たちの援護を。
彼らが無事で帰ってくるのを待っている人たちを悲しませるようなことにならなように。
ペイン・フィン
【路地裏】
コードを封じる鞭、か
さほど強くないとはいえ、数も多いし
事故要素も減らしておくべき、だよね
と言うわけで、コードを使用
今日の自分は、怪盗系な気分、だよ
前線で、隠密系の技能、特に、迷彩や目立たないなんかでうまく隠れながら、盗んでいこう
鞭、車輪の留め具、武器、何なら、馬をつなぐベルトなんかも
盗んで、壊したり燃やしたりしたら、次を盗む
今回は、皆も居るからね
自分が無理して、大規模攻撃しなくても良いならば
皆が力を出せるように、事故要因を削るのが良い、かな
勘解由小路・津雲
【路地裏】5名
この地に来るのも何度目か。そのたびに事態は好転している、が、同時に新たな敵の動きも見える。
なかなか簡単にはいかないものだな。だがそれでも、ここまでくればあと一歩と信じたい。
【作戦】
まずは式神を偵察に飛ばし、敵を監視。
あれか。普通なら槍衾で敵を怯ませることもできようが、ゾンビであればそうもいかんか。
で、あれば。
【エレメンタル・ファンタジア】を使用。氷結属性の雨を降らせ、辺り一帯の地面を凍らせよう。
雨を降らせるのは陰陽師の仕事のうちでな。
敵の勢いはたいしたものだが、そのスピードでこの状態の地面を上手く駆け抜けられるかな?
また、激しい雨は視界を制限し、仲間が身を隠す助けにもなるだろう。
ファン・ティンタン
【POW】光あれば影あり
【路地裏】
この世界はいつ来ても暗いね
照らすための光は、未だ定まらないけれど
明かりの邪魔になるものを除く役を任されようか
何処かでもレクチャーした気がするけれど、群が勢い付くためには勝利を自ら勝ち取る必要がある
猟兵が雑魚を蹴散らすのは簡単だけれど、それだけではただの保護者同伴だ
無理はさせず、されど苦労はさせる
育てるとはかくも大変な仕事だよ
【影蝤蛑】
前線を俯瞰できる位置から【星灯】を携えて戦況を見る
自軍の槍衾に敵の突進力へ抗する力があればよし
不足があれば、必要に応じて不安の芽を“摘んで”あげよう
影は無形、地形の影響もない
……ん
摘んではいけない赤も見える、誤射には気を付けようか
●最後の一押し、その背へ送り
「領主の館はもう目と鼻の先だ! 押せ、押しまくれぇっ!」
「長丁場だったがもうひと踏ん張りだぞ! これまでの訓練を、受けて来た屈辱を思い出せ!」
飛び交う銃声や剣戟の音、響く怒号と馬の嘶き。領主配下の戦車部隊と『闇の救済者』軍による戦闘は遂に終盤戦へと縺れ込み、領主の館近辺では一進一退の熾烈な攻防が続いている。そんな拮抗する戦況の天秤を傾けるべく戦場へと降り立ったのは、【路地裏野良同盟】の面々だった。
「……この地に来るのも、もう何度目になるのか。そのたびに事態は好転している、が、同時に新たな敵の動きも見える。自由を勝ち取るというのも、なかなか簡単にはいかないものだな。だがそれでも、ここまでくればあと一歩と信じたいが」
「確かに来るたびに立派になっていくよなぁ、ここ。最初に比べたら本当同じとは思えないよ。勿論、いい意味でさ。だからこそ、今回も頑張っていい結果で終わる様にしようか」
かつて打倒した蛇頭の嘲弄者、『辺境伯』の紋章を授けられた蒼黒の剣士。脆弱だった小村がここまで大規模な軍勢へ成長した事に感慨を覚えつつも、勘解由小路・津雲(明鏡止水の陰陽師・f07917)はこれまで立ちはだかって来た敵の数々を思い返していた。
今回も『第五の貴族』からの刺客という不安要素の影がチラついてはいる。だが、世界が大きく変わるかどうかの瀬戸際こそが今この瞬間なのだ。良き結果にならなければ噺をサゲられぬと、落浜・語(ヤドリガミの天狗連・f03558)は飄々としながらも言葉尻に決意を滲ませていた。
「物理的にも心理的にも、この世界はいつ来ても暗いね。世界全てを照らすための光は、未だ定まらないけれど……それでも、人々の心に種火が灯った。なら、明かりの邪魔になるものを除く役を任されようか」
それは紅の左瞳で戦場を観察するファン・ティンタン(天津華・f07547)とて同じであった。戦の勝敗は時の運という様に、此度の趨勢は未だ暗雲の中に隠され杳として窺い知れない。だが、人々が自らの心に灯した篝火を以てそれを払わんとしているのだ。であればこれまで関わって来た者として助太刀せぬ理由などなかった。
「私がここに来るのは初めてですが、ダークセイヴァーでこの規模の軍を形成すること自体が驚くべき事。それに身につけた装備を見ても、並みならぬ努力をされてきたのがわかります……その積み重ねを無駄にしない為にも、必ず勝利を手にしましょう!」
他の仲間たちとは違い、吉備・狐珀(狐像のヤドリガミ・f17210)がこの村の出来事に関わるのは今回が初めてだ。しかしそれでも、『闇の救済者』たちの戦いぶりを見れば彼らの経て来た道程を感じ取る事は出来る。用意した装備も、鍛えた練度も、裏を返せばそこまでしなければ勝てない相手だと身を以て知っているが故。勇敢さの裏に刻まれた苦渋を察し、狐像の少女は改めて必勝を誓っていた。
「それに今はまだ、前哨戦だからね……本番は対領主戦と、場合によってはその後も。だからこそ、ここで快勝して、次への弾みにしたいところ、だね」
怯え切った羊も、ひとたび勝利を手にすれば雄々しき獅子へと変貌する。その事実をペイン・フィン(“指潰し”のヤドリガミ・f04450)はこれまでの事件から十二分に学んでいた。もちろん常勝無敗とはいかないだろうが、それでも積み重ねる勝利の数は一つでも多い越したことは無い。勝てる時に勝つ。当たり前の様だが、存外馬鹿に出来ぬ考えだ
である以上、もはや勝利は前提条件。問題は『どうやって』ではなく『どのようにして』勝つかにある。だが五人はそれについて、既にある程度の考えを持っているらしい。彼らは視線を交わし頷き合うと、自らも戦線へと加わるべく飛び出してゆくのであった。
「さてさて、何をするにもまずは情報が無ければ始まらん。敵の様子は……ふむ、まぁ何とも陰気臭いものだな。死んでいるのである意味当然ではあるが」
戦争において物見や斥候が齎す情報は如何なる段階においても必要不可欠だ。故に陰陽師は初手でまず式神たちを敵陣へと遣わし、詳細な情報を読み取ってゆく。半ば分かっていたことだが、敵戦車を構成する存在に生者は居ない。馭者や戦闘員は骨で組み上げられたスケルトン、それを牽く馬も生きた屍である。
文字通りの死兵と化した彼らは飽くまでも徹底抗戦の姿勢を崩さず、突撃を繰り返すことによって戦線の押し戻しを図っていた。
「普通なら槍衾で敵を怯ませることもできようが、ゾンビであればそうもいかんか。痛覚が鈍い上、そもそもとして死を恐れないしな。物理的には止められようが、それは些か以上に手間だろう。で、あれば……そうだな。やはり狙うべきは足回りか」
ふと『以前にも似たようなことを森に施したな』と思いつつ、津雲は錫杖の石突にて地面を突く。良いか悪いかは別として、戦場で水気に事欠くことは無い。大地に流れ落ちる血潮と霊力を混ぜ合わせると、それらを天高く舞い上げてゆき、そして。
「……雨を降らせるのは陰陽師の仕事のうちでな。それにこの世界は陽が差さぬ故、気温も低い。であれば、地面を凍らせるのも苦ではないさ」
ザァッ、と。敵陣にだけ、水桶を引っ繰り返したかのような土砂降りが襲い始めた。降り注いだ雨は地面へ吸い込まれたと思うや、一瞬にして凍結してゆく。結果、地面の硬度が飛躍的に上がったうえ、無数の凹凸が生じる事となる。『闇の救済者』軍の歩兵であればまだ踏ん張りが効くだろうが、高速で動く戦車はそうもいくまい。
「確かに突撃の勢いはたいしたものだが、そのスピードでこの状態の地面を上手く駆け抜けられるかな?」
狙い違わず、路面状況の急変によってチャリオットが次々とバランスを崩してゆく。馭者も必死で鞭を打ち鳴らして死馬を制御しようとするが、こればかりはどうしようもない。転倒させず、蛇行するに留めている点は敵ながら賞賛すべきだろうか。
「敵の動きを封じるのに加え、この雨ならば味方の姿も紛れやすかろう。しかし念には念を入れて、何かもう一手打っておきたくもあるが」
「そうですね……折よく津雲殿が設えた特製の道路で敵戦車ご自慢のスピードが増しているのです。それを利用させて頂くと致しましょう」
術の成果を確認しながら思案する陰陽師に対し、であればと応じたのは狐像の少女。彼女は呼び寄せた黒狐をそっと抱き上げると、その前足に握られた宝玉へと霊力を注ぎ込み始めた。地面を覆う氷が水平方向の力だとすれば、狐珀がイメージするのは垂直の動き。降雨凍結の術式へ被せる様に、力の流れをもう一つ付け加えてゆく。
「凍結道路でスピードの出し過ぎは厳禁。そのうえ視界が悪いともなれば、より一層注意しなければなりません。でないとこんな風に……」
事故の原因になってしまいますよ?
瞬間、凍結した地面より競り上がるは半透明な長方形の群れ。それは雨粒を束ねて形成した、分厚い氷の壁である。真っ直ぐ進むことすら覚束ない戦車に乱立する氷壁を避ける余裕などあろうはずもなく、ある者は為す術もなく勢いよく壁に激突し、またある者は木っ端微塵に粉砕しながら地面へと投げ出されてゆく。こうなれば突撃云々どころの話ではない。
「これで相手が体勢を立て直すまで、かなりの隙が出来たはずです! 皆さん、今のうちに進軍をお願いします!」
「土壇場でこの支援はかなり有難い……っ! 猟兵殿が骨を折ってくれたんだ、俺たちも負けちゃいられんぞ! 進めぇっ!」
狐珀の言葉を受け、待ってましたと言わんばかりに『闇の救済者』軍が敵陣へと雪崩れ込んでゆく。相手も横転した戦車を遮蔽物に応戦してくるも、人類側の進撃速度は急場凌ぎの策で抑え込めるレベルではない。打ち寄せる波に崩される砂城の如く、隙を見せた敵から討ち取られていった。
「なるほど、つまり此処が一番の攻め時って訳だよな? なら、精神的にも勢いがあるに越したことは無いだろ。という訳で、ひとつ士気を上げるために語らせて貰うとしますかね」
物事には勢いに乗るべき『機』というものが往々にして存在するものだが、正しくそれが今だ。次々と前へ駆け抜けてゆく兵士たちを見送りながら、噺家は小さく咳払いをしつつ息を吸い込む。そうして勢いづく友軍の背を更に押し込む様に、語は朗々と言の葉を響かせ始めた。
「闇に灯った微かな炎は、いつしか大きな焔となった。今こそ蜂起するべしと、集い結い、狼煙は上がる。燎原の如く広がる篝火は、圧政晴らす希望となりて、今こそ此処に煌めきを放ち燃え上がります!」
彼の語る活劇譚は往々にしてその場の即興で作られるため、どうしても内容に粗さが生じてしまう事が多い。だが、此度の完成度は常の其れよりも一つ頭抜けている。しかしそれも当然だろう。無謀な反乱に端を発する一連の事件も、これで三回目。積み重ねた分だけ、言葉の一つ一つに重みが宿っていた。
「更にその火を煽りましょうと、三度集まりますは猟兵方。尽きること無き敵軍に挑み、道を開かんと大立ち回る! 此度語りますは、灯った焔を広めるためのモノガタリでございます!」
加えて、噺家の物語る調べは兵士たちを奮い立たせると共に、それとなく敵の位置や味方の動きについての情報が織り交ぜられている。以前にも同じ様な事を行ったのだが、戦場というものは一度始めると兎に角前方以外に注意が行かなくなるものだ。進むだけ進むのも良いが、それで敵に包囲されては元も子もない。
(此処までくれば早々危ない場面も無いとは思うが、戦況に絶対なんてないからな。罷り間違って『第五の貴族』直々の刺客が来たらとんでもない事に……っ!?)
故にこそ、語は活劇譚を絶え間なく紡ぎ続けながらも主戦場以外へと視線を巡らせていたのだが、今回はそれが功を奏した。ふと横合いへ視線を向けた噺家が見たものは、凍った地面を避ける様に大きく戦場を迂回する戦車の一団。敵の狙いはまず間違いなく、こちらの真横へ回り込んでの突撃蹂躙に違いない。
「やっぱり、十全に動ける戦車は早いな……! 側面防御が間に合うか、こりゃちょいとギリギリだぞ!」
「ウケ、月代! 万が一に備えて結界を張りつつ、衝撃波で牽制を! 彼らが無事で帰ってくるのを待っている人たちを、悲しませるような事などあってはなりません!」
咄嗟に噺家が警告を発すると共に、狐像の少女が白き友たちへと命じて援護に当たらせてゆく。しかし、猟兵の言葉に反応した『闇の救済者』軍が迎撃態勢を整えるのと、敵戦車がこちらへ到達するのとでは恐らく後者の方が早い。
このままでは防御を打ち崩され、浅からぬ被害を受けるのは目に見えている。故にあとほんの数秒、どうにかして時間を稼げないのか。そんな焦燥と絶望感が一瞬にして兵士たちの間を駆け巡り、そして……。
「なれば、その『数秒』を無理やり抉じ開けてみるとしよう。影は無形、地形の影響もなければ距離だってある程度は無視できる。さぁ、貴方たちが抱いている不安の芽を“摘んで”あげよう」
――ちょきりちょきりと太刀で裁ちて、ね?
死中に活を齎したのは、白き少女より伸びた影法師であった。ファンは槍衾の構築が間に合わないと判断した瞬間、慌てることなく腰に吊り下げていたカンテラを掲げるや、その前にスッと手を翳す。二本の指が浮かび上がらせたのは、影で出来た鋏。それをパチリと閉じた瞬間、猛然と突き進んでいた死馬が糸の切れた人形の様にもんどりうって倒れ込んでゆく。
「彼らは言わば、命無き肉体へ無理やり仮初の魂を押し込んでいるようなものだ。だから繋がりを断ってしまえば、後は勝手に成仏してしまう。無力化したのは数騎ばかりだけど、倒れた仲間を迂回して速度が落ちた……時間的にはこれで十分かな?」
「あ、ああ。助かった……! 猟兵殿が稼いでくれた時間、決して無駄にはするものか!」
『闇の救済者』軍は値千金の数秒をきっちりと活かし、迎撃陣形の構築を完了させる。そのすぐ直後にドンッという衝撃音が立て続けに響くものの、隊伍を組んだ槍歩兵たちは一歩も引くことなく死馬の巨体を貫き受け止める事に成功していた。そのまま戦車を弾き返すと、隊列の間から飛び出した歩兵たちがきっちりと残敵へトドメを刺してゆく。
主攻は友軍に任せ、飽くまでも援護役に徹するファン。彼女は率先して行動する兵士たちの姿を眺めながら、どことなく満足そうな表情を浮かべていた。
(何処かでもレクチャーした気がするけれど、群が勢い付くためには勝利を自ら勝ち取る必要がある。確かに猟兵が雑魚を蹴散らすのは簡単だ。だけど、それだけではただの保護者同伴……他人から与えられた結果では、成長なんて期待出来ないからね?)
そう、それこそが【路地裏野良同盟】の狙いだった。豪雨然り、凍結然り、活劇譚然り。もし仮に五人の行動を注意深く観察する者が居たならば、彼らが終始支援役へ徹していた事に気が付くだろう。猟兵たちは敢えて、自分たちが前へ出過ぎないよう意識しながら立ち回っていたのだ。
(無理はさせず、されど苦労はさせる。心配だからと手を出し過ぎるのも良くはないけれど、かと言って潰れてしまっては元も子もない。いやはや、人を育てるとはかくも大変な仕事だよ)
集団戦に領主の討伐、『第五の貴族』からの刺客まで。全て猟兵たちで討ち果たしてしまうのは確かに簡単かつ被害も少ない。だが、それでは意味がないのだ。悪意ある見方をすれば、それは上に立つ存在が吸血鬼から猟兵に変わっただけに過ぎない。それは真の意味で勝利したとは言えないだろう。これは彼らの戦いなのだ。善意からとは言えそれを横取りする様な真似を、【路地裏野良同盟】の面々は是としなかったのである。
(とは言え、今はまだ前哨戦。消耗しすぎないよう、適宜サポートはするけれど……ん。摘んではいけない赤も見えるし、誤射には気を付けようか)
迂回奇襲を目論んでいた敵部隊は粗方撃破する事が出来た。引き続き主戦場側を支援しようと視線を戻すファン。だが彼女は敵中に赤い人影を認めると、静かにカンテラを降ろす。少女の視線の先に居たのは、敵戦車を足場として縦横無尽に跳ね回るペインの姿であった。
(コードを封じる鞭、か。さほど強くないとはいえ、数も多い……念のため、事故要素は減らしておくべき、かな……そろそろ、自分も仕掛けて良いみたいだし、ね?)
四方八方から伸ばされる鞭を紙一重で避けながら、ペインはそう徒然と思案していた。側面へ人員を割くという事は、必然的にこちら側の戦力が手薄になる事も意味している。故に迂回部隊が現れた瞬間、彼は敢えて主戦場側へと身を投じ敵の攪乱を行っていたのだ。
だが後顧の憂いが取り除かれた今、『闇の救済者』軍もこちらへ注力する事が可能となった。であれば、そろそろ動くべき頃合いだろう。スッと、ペインは懐からツバメ型に折った紙飛行機を取り出す。
「今日の自分は、怪盗系な気分、だよ……雨に紛れれば、意外と死角に入り込みやすいし、色々と盗ませて貰おうかな」
投擲されたそれらが鞭に触れた瞬間、音もなく敵の得物ごと消失した。代わりに背中のオコジョを模したバックに幾ばくかの重みが生まれる。試しに手を突っ込んで中身を取り出してみれば、それはつい今しがたまで敵が握り締めていた鞭そのもの。己の掌と青年を交互に見つめる馭者を尻目に、指潰しは次なる得物を求めて駆けだしてゆく。
(狙うのは鞭以外に、車輪の留め具、武器、何なら、馬をつなぐベルトなんかも良いかもしれない、ね。まぁ、盗った所で使い道も無いし……再利用されないよう、燃やしてしまうのが一番良い、かな)
先ほどまで姿を晒していたのは、飽くまでも時間稼ぎの為。ペインが本気で姿を隠せば、降り注ぐ雨も相まって捕捉するのは非常に困難である。赤髪の青年は重要そうな部品を片っ端から盗んでゆき、敵の継戦能力を根こそぎ喪失させてゆく。本来であれば、拷問器具を使った大規模攻撃で追撃を仕掛けるのが彼の十八番だが、前述の理由もあって今回それは無しだ。
(いまは背中を任せられる人が、皆が居るから……皆が力を出せるように、自分は飽くまでも削り役だよ。こういうのも、偶にはいいかも、ね?)
そうして【路地裏野良同盟】の狙い通り、身動きが取れなくなった敵を友軍が包囲、殲滅してゆく。既に戦況の天秤は完全にこちら側へ傾いている。猟兵たちのサポートの甲斐もあり、『闇の救済者』軍は領主の館へと何時雪崩れ込んでもおかしくない位置にまで指を届かせることに成功するのであった。
成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴
ディルクニア・エリスランサス
アドリブ等歓迎
ッハ、壮観だねぇ
「救世主サマ」に縋る、っつぅ奇跡を乞うてただけの連中が。随分とまぁ
「オリジナル」のヤツも、グレる前にこの光景を見てりゃ俺が生まれる事も無かったかもしれんが……
ま、所詮は「もしも」の話か。ちゃっちゃと吸血鬼をブチ殺すかね
*
タンク型のパワーファイター兼魔法砲台
解決方法は大体腕力か魔力で吹き飛ばすという雑なもので、とても聖者とは思えない
*
方針:WIZ
戦闘前に酔いを維持する為の酒や煙草を要求
機動力には劣るため、最初から最前線に
チャリオットの車輪と馬の脚を狙い、UCの追尾魔力砲を連射
トドメは軍の兵達に任せ、援護役に専念
UCを維持する為に酒と煙草は手放さない為、奇異には映るか
●門戸を蹴破れ、対面の時は来たれり
「……ッハ、壮観だねぇ。『救世主サマ』に縋る、っつぅ奇跡を乞うてただけの連中が。随分とまぁ、派手にやるもんだ。空虚な大言壮語も中身を伴えば英雄譚ってね」
流れ落ちる血潮と漂う硝煙の匂いに交じるのは、甘やかな紫煙の香り。スゥと煙管を通して肺腑を煙で満たしながら、ディルクニア・エリスランサス(酔幻に溺れるヤサグレ模造天使・f30418)は皮肉気に口の端を歪める。既に前哨戦の大勢は決したと言って良い。それまでの戦場であった平原は既に踏破され、『闇の救済者』軍は領主の館を包囲するに至っていた。
だが館の周囲は金属製の柵や石造りの壁に覆われており、唯一の進入路である大扉の前には戦車の残存戦力が集結している。敵群は文字通りの肉壁となり、飽くまでも徹底抗戦の構えを崩すつもりはないらしかった。
「『オリジナル』のヤツも、グレる前にこの光景を見てりゃ俺が生まれる事も無かったかもしれんが……ま、所詮は『もしも』の話か。ようやく此処まで来たんだ。さっさと蹴散らして、ちゃっちゃと吸血鬼をブチ殺すかね」
ほぼ燃え切った煙草の葉を入れ替えつつ、ディルクニアは腰に吊り下げたガラス瓶を引っ掴むとその中身を喉へと流し込んでゆく。中身は度数の高い酒精。本来は傷病人の消毒用として『闇の救済者』軍が持ち込んでいたものだが、無理を言って分けて貰ったものである。当然、味など二の次な代物だが、彼女としては酔えればそれで十分だった。
「相手はすぐさま飛び出せるよう外向きに円陣を組みつつ、馬体と戦車で即席の橋頭堡を構築、ねぇ。数でごり押しすりゃあ磨り潰せるんだろうが、それだとこっちも無駄に疲れだけか。かと言って、ちまちま弓や銃で攻撃するのもまどろっこしいし……」
戦いに際し景気づけに一杯というのは良くある話だが、それを差し引いても些か度数が高すぎる。しかし通常であれば酔い潰れるような酒精も、彼女にとっては思考を巡らせるための必需品。寧ろ、喉を焼く熱さが逆に理性を研ぎ澄ませてゆくのだ。
「しょうがない……いっちょ、やるか。アルコールが回っている間くらいはまぁ、きちんと働かせて貰うぜ? 危ないから、お前らは下がってな」
どう攻めるべきかと遠巻きに眺める兵士たちを手で制しながら、女はゆらりと長身を揺るがせた。瞬間、彼女の周囲の空間が歪んでゆく。全身から漏れ出した魔力が一人でに術式を編み上げてゆき、幾つもの砲身を形作る。他世界において、高く厚い城壁が廃れた理由は何個か存在する。もし、その中で最も大きな理由を挙げろと言われたならば……。
「自慢の足も活かさずに仲良しこよしで固まってんだ。だったらお前、纏めて吹き飛ばすに決まってんだろ?」
発展し続ける砲の火力に意味を成さなくなった。そう答えるだろう。ディルクニアはそんな歴史をなぞるかの様に、敵中目掛けて魔力弾を一斉に叩き込んだ。連射式かつ多弾頭なそれは着弾と同時に爆発。敵の防御を一瞬にして吹き飛ばしてゆく。
「おうおう、こりゃまた汚い花火だ。これで後方支援のオラトリオと同じ聖者だって言って、信じるヤツが何人居るだろうなぁ」
そう自嘲交じりに呟くが、砲撃は正確にチャリオットの車輪と死馬の脚を集中的に撃ち抜いていた。だがピュンと、一本のボルトが彼女の頬を掠めてうっすらと血を滲ませる。どうやらダメージの浅かった個体が居たらしい。馭者の鞭を受けながら三本足で急加速を行うや、猟兵目掛けて吶喊を仕掛けて来る。
「あん? 今のでアタシが射撃戦型だと踏んで、接近戦にでも持ち込もうって狙いか。それも間違っちゃいないが……」
直撃すれば大ダメージは必至。だがディルクニアは慌てることなく傍らに突き立てていた長大な戦棍へ手を伸ばすと、それを思い切り振りかぶり――。
「……アタシはこっちもイケる口なんだぜ?」
真正面から、敵をフルスイングでかっ飛ばした。死馬の巨体が宙を舞い、元来た道を舞い戻る。そのまま大扉へと激突するや、他の仲間を巻き込みながら領主の邸宅内部へと消えてゆくのであった。
「さて、これで道は開いたと。それじゃあ、後は任せたんでヨロシク」
「何ともはや豪快な……! だがこれで道は開けたぞ、このまま一気に領主を討ちとれぇっ!」
もはや迷う必要は無しと『闇の救済者』軍が領主の館へと雪崩れ込んでゆく。その背中を肩を竦めて見送りながら、ディルクニアは煙管をぷかりと一服させるのであった。
成功
🔵🔵🔴
第2章 ボス戦
『不和と分断を煽る者』
|
POW : 吾輩が人類を再びこの世の偉大な支配種族にする!
演説や説得を行い、同意した全ての対象(非戦闘員も含む)に、対象の戦闘力を増加する【と同時に、自身への熱狂的で盲目な崇拝思考】を与える。
SPD : 嘘だ!嘘だ!奴らの言っている事は全てデタラメだ!
【自身を称え、失敗の責任を敵に擦り付ける嘘】から【対象の発言やUCの詠唱台詞に被せる様発言】を放ち、【挑発で調子を狂わせて妨害する事】により対象の動きを一時的に封じる。
WIZ : (依頼毎に設定)を抹殺する事で我々は豊かになる!
【自身の敵に対する偏見だらけの悪辣な陰謀論】を披露した指定の全対象に【与する者も含めて全員抹殺せねばという恐怖】感情を与える。対象の心を強く震わせる程、効果時間は伸びる。
イラスト:tora
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴🔴
|
種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「ララ・エーデルワイス」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●其の脅威は武力に非ず、より凶悪なるモノ也
猟兵たちの活躍により、『闇の救済者』軍は特に大きな損害を出すことなく領主の館へと到達する事に成功した。鉄柵や石壁に覆われた館唯一の出入り口である大扉を突破し、邸宅へと雪崩れ込んでゆく。内部は豪奢な館を中心として庭園が広がっており、領民たちのあばら屋と違って広々とした印象を受ける。しかし、中に辿り着いたからと言ってそこで勝負が決する訳ではない。
「内部にもチャリオットだと!?」
「それに生け垣や物陰からスケルトンも出て来た。野郎、まだ手勢を残してやがったのか!」
領主側も当然、全ての戦力を迎撃に投じたわけではない。手元に残していた戦力もまだまだ存在しており、それらが突入した『闇の救済者』軍を迎え撃つ。すわ再びの乱戦へ発展してしまうのかと、猟兵たちや指揮官級が危惧した……その時。
「全く以て……そう、全く以てこれは何たることか! よもや諸君らの想いがここまで強かったなど、この私の目でも見抜けなかった!」
声が響く。それは戦場の喧騒にも負けぬ張りがあり、不思議と耳へ滑り込む力強さもあった。ハッとその源へ視線を向ければ、館のバルコニーへ壮年の男が姿を見せている。纏う服の上等さから、男が領主である事は一目瞭然だ。一気に注目が集まる中、領主は再び口を開く。
「『闇の救済者』諸君、私の名はゲルペス・ボーツマン。吸血鬼よりこの地の統治を任された者だ。君たちとこうして顔を合わせられた事を、私はとても嬉しく思う。故にまずはどうか……諸君らに謝罪をさせて頂きたい!」
頭を下げる領主、ゲルペスの言葉にどよめきが広がってゆく。罵声でも嘲笑でもなく、まさか謝罪をされるなどと予想だにしていなかったのだろう。兵士たちは困惑した表情を浮かべながらも、相手の真意を測るべく続く言葉に耳を傾ける。
「確かに私は吸血鬼の支配に甘んじていた。不興を買わぬ様、諸君らを弾圧もした。しかしそれも、人類が生きる余地を僅かでも残さんとする苦肉の策だったのだ。無論、それを許してくれなどとは言わない。だが私は、諸君らがここまで力をつけた事が堪らなく喜ばしいのだ!」
謝罪の次は肯定。領主は怯む事なくバルコニーへと身を晒し、滔々と言葉を紡いでゆく。その様は堂々としており、発する内容も一見すれば人類側に寄り添ったものだ。当初は打倒領主の気炎を昂らせていた兵士たちも、一人二人と武器を降ろし始める。
「『闇の救済者』諸君! 君たちの主張、そして想いは痛いほどよく分かった。これだけの数、これだけの熱意を束ねた事に私は敬意を表したい。共に手を取り合いたいとも思う! いや、どうか協力させてほしい!」
一方で猟兵は目まぐるしく思考を巡らせてゆく。果たして、領主の真意は何なのか。人類の底力を目の当たりにして改心したのだろうか。それとも追い詰められた末に考え出した、苦し紛れの命乞いだろうか。
答えは――どちらも否。
「だが……果たして、諸君らの全員が本当に平和を望んでいるのだろうか?」
領主として、男が極めて強力な戦闘能力を持っている事を猟兵たちは看破する。だがそれ以上に、ゲルペスが持つ真の強みは其処でない事にもまた気付き始めていた。恐らく、相手の本質は煽動者だ。言の葉という無形の凶器を持って不和と分断を齎す存在。
で、あるならば。
そうした観点を持ってこの状況を顧みれば、これまで頼みとしてきた数の差が、必ずしも利ばかりではない事に猟兵たちは思い至ってしまう。
「大義なく、単に金品欲しさに参加した者は? 或いは万が一を考えて吸血鬼と通じ合っている者は? 居ないと断言できるのかね? ああ、そうそう。以前、私の館を訪れてくれたのはジョージ、いやジャックだったか……」
プロパガンダに流言飛語、デマゴーグや噂話は戦につきものであり、それらは時として凄まじい影響力を発揮する。勿論、『闇の救済者』たちは打倒吸血鬼勢力を固く誓った者ばかりだ。だが、ゲルペスの語る響きには心を蝕む呪詛が籠められている。指揮官級を始めとする手練れであれば跳ね除けられるだろうが、一般の兵士たちにそれを求めるのは些か以上に酷だろう。
或いはより少数であればまだなんとかなったかも知れないが、彼らの総数は四桁越えている。しかも、元を辿れば複数の集団が合流した組織……全員が全員をよく見知っている訳ではない。
「隣に立つ者は本当に信頼できるのかね? 今の今まで機を伺い、次の瞬間、襲い掛かって来ないと何故言い切れる? 負傷した友を襲ったのは本当に戦車なのか? どうなんだ!」
この男は確かに追い詰められている。だが同時に、己の力を最大限に発揮できる盤面を作り上げていたのだ。それを示すかの様に、徐々にだが攻勢の動きが鈍り始めてゆく。それを見て、領主はうっすらと酷薄な笑みを浮かべていた。
これ以上、この男に言葉を弄させてはいけない。たが、口先勝負では相手に分があるだろう。ならはどうするべきか。そんなのは決まっている。
ただ、行動で示せば良い。
これまで幾度もの難敵を打ち破ってきた猟兵の武威を魅せるのだ。始まりの出会いからこの戦いまで、目指すべき場所は変わらないと。
――さぁ、猟兵たちよ。この戦争の幕を引くべく、扇動者へ刃を持って返答とするのだ。
※マスターより
プレイング受付は19日(金)朝8:30~となります。
第二章は対領主戦となります。相手は猟兵と戦闘を行うと同時に館内や庭園を駆け回り、扇動演説を行って『闇の救済者』軍の連携や士気を崩壊させようと画策しています。現在は辛うじて領主配下の戦車やスケルトンを抑え込んでいますが、マイナス影響を受け続ければ戦線が崩壊し敗北する可能性も出て来るでしょう。
ですが猟兵たちが敵の言葉に惑わされず、揺らぐことなく戦う姿を魅せる事が出来れば、彼らの士気や結束を再び高める事が出来ます。
なお領主の強みは言葉による扇動ですが、通常の戦闘能力も十二分に備えています。主な武装はレイピアやナイフ、拳銃などとなります。
引き続き、どうぞよろしくお願い致します。
フィーナ・ステラガーデン
アリシアと参加
なんかよくわかんない事喋ってるなら空気を読まず遠慮なく属性攻撃で攻撃するわ!
ぐだぐだぐだぐだやかましいわああ!!
どの面下げて自分を棚に上げて上から目線で人を貶めようとしてんのよ!?
全部鏡にでも問いかけてなさいよ!
そもそも何でいちいち質問に答えてあげなくちゃならないのよ!?
あんたは散々虐げてきた領主!
すなわちクソ野郎!
クソ野郎とは話す価値無し!!
躯の海でその趣味の悪い髭の手入れでもしながら話を聞いてくれるママでも探して彷徨ってなさいよこのハゲ!!
というわけで気にせず戦闘続行よ!
アリシアと連携しつつUCで援護よ!
声を被せる?こちとら常【大声】よ!!
(アレンジアドリブ大歓迎!)
アリシア・マクリントック
フィーナさんと参加
確かに真に志を同じくする者など、一生に一度も会えないかもしれません。ですが……「疑え」というのであれば、私はまずあなたを疑います。理由は簡単です。あなたは信に足る証を立てていませんし、具体的な事実について何一つ語っていないからです。
このまま討論を続けてもよいのですが……あなたのやり方に付き合う理由もありませんね。行動で示すとしましょう。
マリア、変身です!ガンナーモード!フィーナさんと援護をお願いします!
私は剣を手に突撃します!フレンドリーファイアのリスクの高い戦い方を積極的に行う姿を見せて仲間を信じることの素晴らしさを示しましょう。まさしく背中で語る、というやつですね!
●愚言を掻き消すは輝く光条
「……さぁ、『闇の救済者』諸君! 内なる敵を排し、私と共に人類の繁栄を取り戻そうではないか!」
バルコニーで姿を晒し、滔々と言葉を垂れ流し続ける領主。自らの言葉が『闇の救済者』軍へ覿面に効果を発揮している光景を眺め、非常にご満悦な様子であった。上機嫌さと比例して、舌先の回り具合は益々加速してゆく。
さて、この手の言葉を弄する敵への対処法と言うのは幾つかある。だが、最もシンプルかつ手っ取り早い対応は何かと言えば……。
「訳の分かんない事をぐだぐだぐだぐだと……やっかましいわああああっ!!」
単純明快、相手を黙らせることである。フィーナはこちらを見下しながらペラ回し続けるゲルペス目掛けて、無数の火球を叩きつけた。だが、演説を邪魔される事自体は領主も想定していたのだろう。手摺を蹴って危なげもなくそれを回避する。
「やややや! これは何たる狼藉か! 折角私が対話で解決を図ろうとしていたのに、暴力を返してくるとは! 諸君、これだ! これこそが内なる敵の……」
「なぁにが内なる敵よ! どの面下げて自分を棚に上げて、上から目線で人を貶めようとしてんのよ!? 戦車部隊どころか配下まで待ち伏せさせておいて、何をどうしたら敵じゃないって言えるのよ! 全部、一人寂しく部屋の隅っこで鏡にでも問いかけてなさいよ!」
これ幸いにと猟兵を指差して非難しながら、ゲルペスは相手を論戦の出汁に巻き込もうとする。しかし、紅蓮の魔女は声を荒げながらも、そもそもとしてまともに言葉を交わし合う気など毛頭なかった。
「と言うか、何でいちいち質問に答えてあげなくちゃならないのよ!? あんたは散々虐げてきた領主! すなわちクソ野郎! クソ野郎とは話す価値無し!! さっさと討伐祝いの花火にでもなっちゃいなさいよ!」
反論ではなく罵詈雑言と化した怒声と共に、間断なく火球が領主目掛けて降り注いでゆく。領主は回避に徹しながらも言葉を弄して『闇の救済者』を味方へ引き込もうと試みていたが、こうも立て続けに爆音が響き渡ってしまっては演説も飛び飛びにしか聞こえない。まぁ仮に聞こえて共感したとしても、この灼熱の嵐の中へ飛び込むかどうかは甚だ疑問ではあるが。
「おのれ、野蛮人の小娘風情が。衆愚ならば衆愚らしく、私の言葉に大人しく従っていれば良いもの……!」
「理性的な反論がお望みですか? ならば少しばかり付き合いましょう。確かに、真に志を同じくする者など一生に一度も会えないかもしれません。ですが……『疑え』というのであれば、私はまずあなたを疑います」
小さく毒づく領主に対し、仲間の傍らで静かに相手の主張へ耳を傾けていたアリシアはまずそう切り込んでゆく。彼の話す内容について是非は置くとして、ただ聞いているだけでも思考に靄が掛かる様な感覚を彼女は覚えていた。恐らく、これが呪詛の影響なのだろう。これを戦闘直後で興奮している『闇の救済者』軍が聞いてしまえば、心の隙を突かれて転んでしまう可能性も十分にあり得た。
「理由は簡単です。あなたは信に足る証を立てていませんし、具体的な事実について何一つ語っていないからです。もしも、きっと、恐らく……どれもが仮定に仮定を重ねた論理。真の賢者ならば事実に基づいて語るもの」
令嬢が揺らがなかったのはフィーナが敵のペースを掻き乱してくれたことに加え、これまで培ってきた知性と理性が論理的に相手の矛盾点を炙り出してくれた事が大きかった。
「貴方の様な語り口を行う者を何というのかは簡単です。単なる詐欺師、それ以上でも以下でもありません」
『沈黙は金、雄弁は銀』と言う格言があるが、アリシアの言葉は正にそれだった。伝えるべき要点を抑え、余計なことは話さず端的に物事を述べる。ゲルペスの煙に巻くような多弁よりも、彼女の物言いの方が『闇の救済者』にとっては余程分かりやすいのだ。
その証拠に、両者の遣り取りを遠巻きに眺めていた兵士たちは得心が言ったように頷くと、領主配下の部隊を少しずつではあるが押し返し始めた。それを見てゲルペスは目を剥きながら、口角より泡を飛ばして捲し立てる。
「なっ……! どこの誰かは知らないが、領主という社会的地位に就く私を詐欺師呼ばわりとは! 相手に対するレッテルを張り、一方的に断じる行為こそが悪である! そも、私のこれまでの努力を聞きもせずにそう決めつけるなど!」
「このまま討論を続けてもよいのですが、あなたのやり方に付き合う理由もありません。私たちは戦いに来たのですから、この先は行動で示すとしましょう……マリア、変身です! ガンナーモードでフィーナさんと一緒に援護をお願いします!」
一先ず、領主の演説が齎す影響を和らげることが出来た。アリシアは己が言葉を偽りとせぬ為にも、自らの全身を白銀に輝くアーマーで包み込む。友である灰色狼もまた背中にガトリング砲を装着するや、仲間と共に弾丸をばら撒き始める。
「小難しい話は終わったのかしら? ならさっさと躯の海にでも帰って、その趣味の悪い髭の手入れでもしながら話を聞いてくれるママを探して彷徨ってなさいよこのハゲ!!」
「おい髭はまだいいとして、髪の話をするんじゃない! 吾輩はまだフサフサだぞ! 良いか、後退なんぞしとらんからな! っと、そんな事に反応している場合では無かったか。もし吾輩を口先だけの手合いと侮るならば、それが間違いだと教えてやろう!」
交戦は避けられぬと悟ったゲルペスは、ピストルとレイピアを取り出すと猛然と此方へと挑み掛かって来た。少なくともその言葉に偽りはなく、火球と銃弾を巧みに避けながらピストルでの牽制射と共に応戦してくる。
「チッ、動きだけはすばしっこいわね!」
「はははは、伊達に領主の地位には就いていないのだ。食事、運動、知識、技術……『闇の救済者』のような一朝一夕のにわか仕込みとは違う!」
「へぇ、だったら……とってもゴキゲンなヤツを喰らわせてやるわ!!」
相手の物言いにカチンときたフィーナは杖の先に二重魔法陣を展開するや、これまでとは比べ物にならぬ密度で火球を投射してゆく。それは飛礫や雨ではなく、最早濁流と言って良かった。ゲルペスも何とか直撃を避けているものの、脇を掠める火球の熱がチリチリと全身を焼き焦がす。
「クソッ、髪が焦げる。だが、これならば他の者も誤射を恐れて手出しが出来ぬはず……!」
「そう判断する事こそがあなたの限界です。私はフィーナさんとマリアを信じていますから!」
今は回避に徹し、魔力が付き次第に反撃を。そんな算段を組み立てていた領主の眼前に、白銀の甲冑が姿を見せる。相手の言う通り味方の攻撃が背中を討つ危険は当然あったが、アリシアはそれを恐れぬ姿を見せる事によって、仲間を信じることの素晴らしさを示さんとしていた。
「まさしく背中で語る、というやつですね! セイバーホールド……」
――フィニッシュ!
拘束光線で動きを封じてからの突進斬撃。それは狙い余さず命中して敵を吹き飛ばすと同時に、燦然と友を信じる事の意味を友軍へと魅せつけるのであった。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
秋山・小夜
アドリブ・絡み歓迎
なんというか、だいぶ頭が弱そうな奴に見えるんですが、油断しない方がいいんでしょうね。本気で抹殺しに行かせていただきます。
今回は右手に妖刀夜桜(漆黒の刀身を持ってます)、左手にソードメイス岩崩を展開し、同時にUC【桜月夜】を発動、遠慮なく殴り掛かっていくとします。
というか、ぐだぐだ口上を述べてる暇があったらさっさと領民に土下座でもしろってんですよ、この大馬鹿野郎が!(領主に向けてです。)
(可能なら、二〇式戦斧 金剛を取り出して投げつけるか、使用していない武器を散らしてUC【千本桜】を発動できたらと思います。)
●仁義を通さぬ愚か者へ鉄槌を
「う~ん……なんというか、だいぶ頭が弱そうな奴に見えるんですが、きっと油断しない方がいいんでしょうね。こう、何だか聞いていると頭がぼうっとしますし、これが呪詛の影響とやらでしょうか?」
先行した仲間の一撃を受け、思い切り吹き飛ばされた領主。生け垣の中へ突っ込んだ相手を眺めながら、小夜は微妙そうな表情を浮かべて小首を傾げる。傍から聞いていた限り、相手は典型的な小悪党と言った印象だ。
だが同時に、知らず知らずのうちに頭の動きが鈍っている事に気付く。とび抜けて賢いというよりも、周りを愚物化させるタイプなのだろう。ああ言った手合いは頭の良し悪しとは別に、存外悪知恵が働くものだ。
「まぁ、何はともあれ倒すべき敵には変わりません。こちらも本気で抹殺しに行かせていただきます」
頭を振って霞がかった思考を晴らしながら、小夜もまた参戦すべく得物へと手を伸ばす。右手に握るは漆黒の刀身を持つ流麗な刃、左手で振りかぶるは身の丈を優に超える巨大な剣鎚。剛柔それぞれの得物を構え、小夜は枝葉に引っ掛かって藻掻くゲルペスへと踊り掛かった。
「うぉぉっ!? まぁ待て、話せば分かる!」
「問答無用、磨り潰します!」
頭上より振り下ろされる剣鎚の一撃を転がって回避する領主。バキリと音を立てて生け垣が押し潰されるのを見て、相手は顔を青くしながらも舌先を走らせてゆく。
「そ、そもそもとしてだ! 何もここまで事を大きくせずとも、諸君ら猟兵が動けば済んだ話ではないのか! 悪戯に物事を騒ぎ立てる、これこそが人類を陥れようとする謀略の……!」
「おや、今度は陰謀論で攻めるつもりですか? というか、ぐだぐだ口上を述べてる暇があったらさっさと領民に土下座の一つでもしろってんですよ、この……」
――大馬鹿野郎がッ!
怒声と共にビュンと風を切って投擲されるは、先の前哨戦でも使用した砲撃機構を備えた戦斧。勢いよく回転しながら迫り来る刃を、領主は咄嗟にレイピアを振るって軌道を逸らし受け流す。追い詰められたように見えていても、それは上辺だけ。彼の言動は全て、相手の反応を引き出すための三文芝居に過ぎないのだ。
「もろともに、あはれと思へ、山桜。花よりほかに、知る人もなし……話を聞いて貰いたいのであれば、それ相応の仁義を通すのが筋というものです。それが為されない以上、話し合いのテーブルにつく事などあり得ませんよ」
「っ、しまった……!」
相手が攻撃を防いでいる一瞬の隙を突き、歩く武器庫は異能を発動するための詠唱を唱え終える。歯噛みする敵の眼前で少女の全身が漆黒に染め上げられるや、じわりとその姿が掻き消えた。ハッと領主が再びレイピアを構え直した瞬間、強烈な痛打が叩き込まれてゆく。
「なるほど、今のも防ぎますか。口先三寸よりも、本当はこちらの方が得意では?」
「だから、私は始めから対話での平和的解決を望んでいると言っているだろうが! そう、こうさせるのは全て貴様らのせいだ!」
鍔迫り合いの最中、そんな事をのたまいながらゲルペスは腰に差していたナイフを抜き放ち、小夜の顔面へ目掛けて投擲する。先ほどの意趣返しでも気取っているのか。それを防いだ猟兵を串刺しにせんと、レイピアの切っ先を差し向け……。
ふわりと、桜の花びらが視界に舞った。先に投擲した戦斧が解け、相手の視線を遮ったのである。目測がズレた刺突は敢え無く虚空を穿ち、返す刀で漆黒の刃が振るわれ、そして。
「どれだけ醜悪だろうと、まだ本音を言った方がマシな気がしますけどね?」
流れる様な一閃を以て、黒刃は領主の身体を袈裟に斬り裂いてゆくのであった。
成功
🔵🔵🔴
ブラミエ・トゥカーズ
【WIZ】
うむ、吸血鬼(疫病)を退治すればそれは素晴らしき進歩であるな。
とはいえ、良き味であったのに、
後から余計な味付けをされても不愉快であるぞ。
扇動者を挑発。
言い出した者が率先せねば人は着いてこぬぞ?
御伽噺の条件に合わない武器では殺せない。
自身に【攻撃が命中した】扇動者へUCを使用。
赤死病は過度の血への飢餓感を与え、血を飲めば楽になる。
血液パックを放り投げてやる。
ほれ、皆見て見よ。
こやつも吸血鬼であったぞ。
周囲に自身から【恐怖を与え】、【与する者】という条件を自身と扇動者に向ける事で上書きする。
人形遣い、他猟兵に退治される振りをする。
お伽噺的に条件にあった退治方法の場合、本気で慌てる。
●何を恐れ、何を信ずるか
「がっ、はっ! もう少しばかり攻勢が弱ければ、吾輩の言葉を十全に活かせるものを!」
猟兵たちとの交戦を経て、されども領主は未だ余力を保ったまま健在であった。このまま交戦していては堪らぬと、ゲルペスが向かったのは『闇の救済者』軍が戦闘を行っている真っ只中。猟兵側に大規模な攻撃を躊躇させつつ、あわよくば幾ばくかの兵士を引き込もうと言う魂胆なのだろう。
「ほう……そこまで言うのであれば少しばかり興味が湧いたな。余の前で得意の弁舌を披露する機会を与えてやろう。光栄に思うが良い」
「っ、ここにも……いや、待て。お前はもしや」
だが、そこで待ち受けていたのは悠然と佇むブラミエであった。領主は一瞬面食らうものの、相手が一体何処に立つ存在なのかを看破すると一転して笑みを浮かべてゆく。
「は、はははっ! 証拠を出せだの何だのと好き放題言われはしたが、それも後ろめたいことを隠さんとする焦りが故。さぁ諸君、御覧なさい! 頼みの綱としていた猟兵の中に吸血鬼が居るぞっ!」
領主の叫びに、ざわりと『闇の救済者』軍がざわめく。同じ戦場に立って居た者ならば兎も角、離れた場所で戦っていた兵士はブラミエの存在を良く知らなかったのだろう。彼女自身も誤魔化す様な真似などせず、沈黙を以て肯定と返していた。
「ほら見た事か、吾輩は間違っていなかった! 我々で争っている場合ではないのだ! この吸血鬼を討ち、そしてそのシンパも必ずや探し出して息の根を止める! そうすれば団結はより一層高まるのだから!」
領主の一方的な物言いに、近くで指揮を取っていた人形遣いが物言いたげな雰囲気を醸し出す。しかしブラミエはうっすらと笑みを浮かべながら目線でそれを制すと、くつりと喉を鳴らした。
「うむ、吸血鬼を退治すればそれは素晴らしき進歩であるな。事実、人は忌むべき病も完全に駆逐したのだ。それが出来ぬ道理もあるまい……とはいえ、良き味であったのに、後から余計な味付けをされても不愉快であるぞ」
吸血鬼としては己に向けられる畏怖の感情自体、憂うどころか歓迎すらしていた。裏を返せば、それは人々が強大な何かに挑まんとする意志の発露に他ならないのだから。故にこそ、それが外部からの妄言で濁らされる事に強い不快感を示す。
「さて、貴様の物言いに少なくない者が共感を覚えている様だが、どうにも動く気配がないな。こういった物事は得てして言い出した者が率先せねば人は着いてこぬぞ?」
――さぁ、有言実行も為政者の美徳であろう?
俄かに四面楚歌となった状況でも泰然さを崩すことなく、ブラミエは二振りの刃を鞘走らせて敵と相対する。こうなれば逆に、領主も動かなければ演説の内容に疑念を持たれてしまう。ゲルペスは小さく舌打ちしながら、レイピアを抜いて突き掛かって来た。
「裏を返せばこれも好機か……吾輩の正しさを証明すれば、続く者たちも出て来よう!」
胸元目掛けて繰り出される突きを、しかして吸血鬼はただ無防備に受け止める。肉を貫く手応えに領主はほくそ笑むが、ブラミエは特に痛苦を感じている様子もない。だが、それも当然だ。
「……心の臓を穿つなら、白木の杭を用意すべきだったな」
「なっ! が、ぁあああっ!?」
伝承に則った方法でなければ、御伽噺の吸血鬼は殺せない。逆にじわりと傷口から刀身を伝って鮮血が領主の手に触れたかと思うや、相手は目を剥いて苦しみ始めた。ブラミエの核たる病原菌を感染させたのだ。耐えがたい貧血、飢餓感、喘息に襲われ、息も絶え絶えな相手の前に、吸血鬼は何か液体の詰まったパックを放った。
「それを飲めば楽になるぞ?」
「っ!? ごっ、かはっ……うん? 何だ、これは? まさか、血だと!?」
朦朧とした意識の中、無我夢中でそれを飲み干すゲルペス。そこで彼は己が口にしたものが血液であった事に気付く。しまったと思い至った時にはもう遅い。
「ほれ、皆見て見よ。こやつも我が同類、吸血鬼であったぞ」
そのやり取りによって両者の関係性は『吸血鬼を討つ領主』ではなく、『敵同士の仲間割れ』と映ったことだろう。となれば兵士たちに躊躇う理由はない。ブラミエ諸共、領主を討たんと四方八方から武器を繰り出し追い立ててゆく。
「ま、待て! これは吾輩を陥れようとする罠だ! 聞き給え、諸君!?」
這う這うの体でゲルペスが逃げ出す一方で、ブラミエはと言うと混乱に乗じた人形遣いによってこっそりと人垣の中より逃されていた。
「てっきり一緒になって討伐されると思ったのだがな」
「なに、先ほど領主に反論出来なかった詫びだ」
「ふっ、律儀な性分だな。だが悪くはない」
そうして人形遣いの言葉にブラミエは苦笑を浮かべながら、追いかけ回されている敵の姿を愉快気に眺めるのであった。
成功
🔵🔵🔴
メフィス・フェイスレス
敵の前でペラペラと 度胸は認めるけど悠長ね
有無を言わさず黙らされる事は考えなかったの?
と言い放ちはするけど もう既に口を開かせてしまった
対策はあるけど いきなりそれをしても逆に混乱を広げられそうね
最初は味方にも隠して手を打つべきね
【微塵】の連続投擲で声を妨げ
先制攻撃ダッシュで気化させた【血潮】で喉を焼く毒攻撃を絡めつつ白兵戦
前もってUCを発動し迷彩化させた【飢渇】を展開させていた
耐性のない味方に密かに寄生させ更に無意識に【染】を使用させる事で
同じ手法で他の味方にも寄生させて呪詛耐性付与
ドーピングで戦意と戦力の増強をはかる
飛翔能力や各種技能 UCを使用させ共に敵を連携で追跡し足止めしつつ攻撃
●それは壮大なる自業自得
「お、おのれ……よもや、自らを出汁にして吾輩を巻き込むとは! これでは折角の演説が台無しではないか!」
領主は兵士たちの追撃から逃れつつ、そう苛立たし気に吐き捨てる。交戦していた猟兵をスケープゴートに兵士たちを引き込んだと思ったら、逆に諸共討伐されかけたのだ。相手としては訳が分からないと言った気分だろう。
「敵を前にして良くもまぁベラベラと……度胸は認めるけど悠長ね。さっきみたいなのは例外として、有無を言わさず黙らされる事は考えなかったの?」
「っ! 吸血鬼の次は死体が現れるとは。吾輩よりも余程吸血鬼勢力染みているな、猟兵は……!」
次に領主の眼前に立ちはだかったのはメフィスだった。先の交戦を見ていたのか、その言葉尻には若干の呆れが混じっている。ゲルペスもまた、一目見て相手が異形に類する手合いであると理解したらしい。しかし先ほどの経験もあり、すぐさま演説を打つ事に躊躇いがある様だ。一方のメフィスも口ではそう言いながら、相手の能力を過小に評価するつもりも無かった。
(とは言いつつ口自体は開かせてしまったけれど、相手もそうすぐに話始める気配も無い。なら、先に手を打ってしまうべきかしらね?)
彼女なりに対策は考えてきたのだが、それを十全に発揮するには少しばかり時間を要する。領主が口をまごつかせているのであれば是非も無し、下準備を進めつつまずは刃を交えるべきだと判断した。
「来ないの? それなら、こっちから行くわよっ!」
「っ! 舐めるなよ、例え言葉を弄せずともなぁッ!」
メフィスは先の前哨戦と同様、身体に走る傷口より無数の眷属たちを滲み立たせるや、それらを掬って次々と投擲してゆく。爆風は敵の全身を満遍なく打ちのめすと共に、衝撃で万が一にも相手の声を『闇の救済者』軍へ届けさせないと言う狙いがあった。
「爆ぜる粘液か! だが所詮は飛礫などと同じ要領だ、軌道は読みやすい!」
だが相手も然るもの。ピストルの抜き撃ちにより、投擲途中の眷属を次々と叩き落し始める。しかし、その程度は想定の範囲内だ。慌てることなくメフィスは眷属を投擲し続けてゆく。それも敢えて狙いやすい様に同じような軌道と速さで、だ。果たして、弾丸に貫かれた眷属が内部より赤い霧を撒き散らす。
「これは……ごほっ、がはっ!? 毒、か!」
「ご名答。喉が潰されちゃ、自慢の演説も振るえないわよね?」
咳き込む領主へ、屍人は全身より骨の武装を生やしながら白兵戦へと持ち込んでゆく。こうなってしまえば呼吸もままならぬゲルペスに抗する手立てはない。堪らずその場より離脱するや、味方を生み出すべく『闇の救済者』軍に向けて猟兵を指し示す。
「諸君、今度はアンデッドだ! ごほっ、見給え、毒を使う邪悪な手合いだぞ! これこそ正に討つべき敵だとは、ぐふっ……うん?」
この期に及んで躊躇ってはいられぬと捲し立てる領主だったが、不意に訝し気に演説を中断する。彼に向けられた兵士たちの視線は飽くまでも理性的なもの。端的に言えば、呪詛が浸透している気配がなかった。
「な、なんだ……様子がおかしいぞ」
「この黒い粘液、『飢渇に喘ぐ』って言うんだけどね? 爆発するだけじゃなくって、他にも色んな能力があるのよ。例えば……人間の身体へ入り込んで、ちょっと中身を弄ったりだとか」
――最高に便利で忌々しい躰でしょ?
ゲルペスの背後から戯け交じりの声が響く。これこそがメフィスの策。自らの眷属を兵士たちに寄生させ、戦意高揚や身体能力の強化、呪詛への耐性を付与したのだ。こうなればもう、領主の言葉に惑わされることは無い。
「は、ははははっ! 吸血鬼なぞよりもよっぽどバケモノじゃないか。これで救済者気取りとは、文字通りのお笑い草だぞ」
「そもそもの話、私を作ろうとしたのはその吸血鬼たち本人だよ。だからこれは、壮大な自業自得ね?」
乾いた笑いを上げる領主に対し、にっこりとほほ笑む屍人。文字通り一つとなった集団は、討つべき敵へと殺到してゆくのだった。
成功
🔵🔵🔴
シキ・ジルモント
賛辞にしては傲慢で、命乞いにしては必死さが無い
口先で惑わし疑いの種を植え付ける手合いか…全くもって気に入らない
宇宙バイクのエンジン音が大きく響くように思い切りふかす
黙れと口で言うより効果的だろう
味方には行って来るとだけ告げ、出せる限りの速度で宇宙バイクごと敵に突進
敵の演説に集中できないよう味方の注目を集めたい
声をかければ先と同様に背中は守ってもらえるだろうとも信じている
敵チャリオットを台にしてバイクごとジャンプ、高度を稼いでバルコニーへの射線を通しユーベルコード発動
バルコニーごと破壊するつもりで銃弾を叩き込む
言葉を伝えたいならそんな見晴らしの良い場所ではなく、彼らと同じ目線に立つのが礼儀だろう
●言葉なくとも、我らに仔細なく
「だ、『闇の救済者』諸君! 吾輩はこの短い時間で、多くの真実を目の当たりにした! やはり猟兵は危険な存在だ! 本物の吸血鬼や屍人を抱え、正に諸君らを弾圧してきた相手と同じである! 聡明な諸君らであれば、真に倒すべきは私ではないと分かるはずだ!」
邸宅内のあちこちを駆け回り、妄言を垂れ流しながら猟兵たちと交戦を続ける領主ゲルペス。一時的にだが己の演説が通じない状態となった兵士たちに取り囲まれた相手は、再び館の中へと避難。追撃から逃れるべく再びバルコニーへと姿を見せていた。
滔々と捲し立てる中年男の姿に、シキは忌々し気に眉根を顰める。
「賛辞にしては傲慢で、命乞いにしては必死さが無い。全てが上辺だけの虚飾といったところか。口先で惑わし、疑いの種を植え付ける手合い……全くもって気に入らないな」
「ただ、言葉に乗せられた呪詛は侮れん。聞いているとこう、無意識に引き込まれそうになるのだ。あればかりは無視できん」
鉄騎に跨った銀狼へ、同じ人狼の部隊が声を掛けて来る。せめてもの抵抗として耳を伏せているが、さして効果は望めぬだろう。そんな仲間の苦慮する姿を見て、猟兵はガォンと大きくエンジンを唸らせた。
「単純に黙れと言うよりも、こちらの方が効果的だろう。俺もこれ以上の戯言を聞くつもりはない。だから……行って来る」
「相分かった。ならばせめて、我らが同胞の進む道を切り開かせて貰おう!」
スロットルを全開にし加速を開始するシキに先んじて、人狼たちが領主を護る敵兵へと切り込んでゆく。響き渡る内燃機関の叫びが頭上で飛び交う演説を塗り潰すことで、彼らの狩猟本能に交じったノイズを排除していった。そうして作り出されたか細い直線を、鋼の騎馬が猛然と駆け抜ける。
「新手か……だが、それでどうするつもりだ。見たところ射程の長い飛び道具も持たず、空を飛ぶ翼も無い。出来る事など、せいぜい騒音で吾輩の言葉を遮るだけ。見よ諸君、猟兵と言えども所詮はこんなものだ!」
配下を片端から薙ぎ倒されながらも、ゲルペスの表情に焦りの色は無かった。地上からバルコニーまではかなりの高さがある。跳躍は愚か、騎馬で駆け上る事も難しいだろう。相手の狙いが演説の妨害であると断じ、領主は駆動音に負けじと更に声を張り上げてゆく。
(悪戯に言葉を弄ぶ者には決して分からないだろう。そんなものがなくとも意を通じ合う、俺たちの在り方はな)
見下し嘲って来る領主の表情を真っ直ぐに見据えながらも、シキは視界の端で人狼たちがチャリオットを追い立てる様子を捉える。彼らはシキの進路上へと死馬を追い立て、最適な位置とタイミングで両者が垂直に交差するようタイミングを計り、そして。
「獣らしさは本来、余り好くところではないが……こういうのは悪くないものだ」
「なぁ、はぁっ!?」
チャリオットを踏み台としてカスタムバイクが『飛んだ』。速度と入射角度を持ち前の技量で調整されたその跳躍は、みるみる高度を上げてバルコニーの高ささえも飛び越してゆく。そうして今度は逆に目を剥く相手の顔を見下ろしながら、シキは愛銃をホルスターより抜き放つ。
「言葉を伝えたいならそんな見晴らしの良い場所ではなく、彼らと同じ目線に立つのが礼儀だろう。本当に手を取り合う仲間だと考えるなら、な」
「お、おのれぇえええっ!」
相手もピストルを構えるが、何もかもが遅い。銀狼がトリガーを引いた瞬間、凄まじい轟音と共に弾丸が放たれる。バルコニーすらも破壊せんという意思を籠めて解き放たれた一撃は、果たして敵の肩口を貫通すると同時にせり出した足場を木っ端みじんに粉砕していった。
崩れ落ちるバルコニーと共に落下するゲルペスだが、それだけの大威力を放ったシキもまた無事では済まない。反動でバランスを崩し落下する彼を刈り取らんと、敵兵が落下地点に殺到してくる、が。
「そうはさせんっ!」
それらは瞬く間に人狼部隊によって殲滅されていった。そうして無事に着地した猟兵は小さく息を吐きながら微笑を浮かべる。
「すまない、助かった。だが、先と同様に背中は守って貰えるだろうとも信じていたからな」
「ふっ、当然だろう?」
肩を竦めて笑みを返してくれる同族たち。その間には確かに揺らぐことの無い信頼が存在しているのであった。
成功
🔵🔵🔴
フェミス・ノルシール
昔処刑した詐欺師を思い出す…彼奴は死ぬ直前まで饒舌だったが…君はどうだろうか?
彼奴と距離が離れるのは芳しくない…屍達を盾とし、道を作らせ、直ぐに向かうとしよう。
心にも無い言葉で領民への行いを語り、純心な者達に疑念を抱かせ煽るなど…許されない。そうだろう?
「君の罪は此処で償わなければならない」
声を出されると面倒なことになる。私の持つ呪いの縄紐で、奴を捕縛し口を封じてやろう。
「痛くは無いが、罪を重ねれば絞める力も強くなるだろう…大人しくするといい」
〜アドリブ・連携歓迎〜
仇死原・アンナ
アドリブ歓迎
…喧しい奴だな
申し訳ないが黙ってもらおうか…永遠に…
私は処刑人…死と救済を齎す者…
友軍に救済を…貴様のような奴には死を!
【十二匹の怒れる悪魔】で獄卒共を召喚
敵を[おどろかせ恐怖を与え]黙らせよう
…この獄卒共は貴様の話には興味はないみたいだ
こいつらの関心事はただ一つ…
貴様を甚振り、その血肉を貪り喰らう事…それだけだ!
さぁ行け獄卒共よ!今日は特別だ!
あの喧しい男を好きなだけ甚振り喰らうがいい!
鎖の鞭をぴしゃりと打ち、敵目掛け獄卒共を放とう
例え逃げようがどこまでも[追跡]させて敵の[逃亡を阻止]
その爪と牙で捕え[傷口をえぐり捕食し吸血]させ
敵の命を[蹂躙]してやろう…
●舌断ち頸絞め罪を処す
「ごほっ、がはっ!? おのれ、一度ならず二度までも……! 今のを見たかね、闇の救済者諸君! 吾輩から手は出していないにも関わらず、この乱暴狼藉。どちらが悪かなど一目瞭然だろうに!」
バルコニーごと撃ち落とされ、瓦礫の中から這い出て来る領主ゲルペス。肩を撃ち抜かれ、柱や石材に埋もれても口を閉じないのは敵ながら天晴と言うべきか。そんな相手の姿に、フェミスはふと遠い記憶が浮かび上がる。
「ふむ、大昔に処刑した詐欺師を思い出すな。彼奴は死ぬ直前まで命を繋げんと饒舌だったが……さて、君はどうだろうか?」
才能をきちんと活かせれば弁士なり何なりにもなれたのだろうが、領主の姿を見ていると人の性根と言うのはそう簡単に治らぬものなのかもしれない。老成しきった雰囲気を纏う処刑人が徒然とそんな事を想う傍らでは、もう一人の若き処刑人が苛立たしさを露わにしていた。
「……なんであれ、喧しい事に変わりはない。申し訳ないが黙ってもらおうか、永遠にな……ッ! もしそれを拒むのであれば良いだろう、好きなだけ喋らせてやる。悲鳴でも絶叫でも、思う存分にだっ!」
アンナは言葉尻に怒りを滲ませながら、じゃらりと鉄鎖の鞭を足元へ垂らす。それが何の為の道具か、フェミスも同業故に察しがついた。何であれ、処刑人が二人も目を付けたのだ。まともな末路など始めから用意されていはすまい。
「私は処刑人……死と救済を齎す者。友軍に救済を……そして、貴様のような奴には死を!」
「まぁ、死んだからと言って赦されるとは限らないがな。ともあれ、彼奴と距離が離れるのは芳しくない……であればいずれ加わる仲間として、屍たちにお迎えを任せよう」
領主も二人の姿に気付いたのだろう。一瞬だけ視線が交差しあうと、泡を食って逃げ出し始めた。あの調子でほうぼう駆けずり回られて、呪詛交じりの演説を垂れ流されるのはかなり厄介である。
それを防ぐ為に、フェミスはパチリと指を鳴らすや罪人の骸を召喚。追撃へと差し向けてゆく。『闇の救済者』軍に助力を求めるのも良いが、彼らでは呪詛の影響が馬鹿にならない。その点、自我の希薄な屍たちはうってつけと言えるだろう。
「なるほどな。そう言う類であれば、こちらにも手はある……獄卒共、貴様らの力を寄越せ……!」
それを見たアンナもまた、己が手勢を召喚すべく身体より地獄の炎を吹き上がらせる。燃え盛る炎より這い出しは十二体のおどろおどろしい悪魔たち。地獄界の第八圏、第五の嚢で亡者たちを罰する存在、マレブランケだ。フェミスの呼び出した咎人たちの骸へ目を取られる彼らへ、若き処刑人は思い切り鎖鞭を浴びせかけてゆく。
「マラコーダ、今回の目標はこれら死者たちではない。あちらの詐欺師だ……分かったらさっさと行けっ!」
悪魔たちは慌てた様子で飛び出してゆくと、屍たちに交じってゲルペスを追いかけ始める。こうなれば先に交戦した猟兵たちに負けず劣らずの異形軍団だ。背後より迫り来る死者と悪魔を指差し、領主はキイキイと騒ぎ立てゆく。
「ほら見ろ! 吸血鬼に死人、それに悪魔だぞ! これではいったいどちらが悪しき者か分かったものではない! 奴らを攻撃せよ、そうしなければ諸君らも纏めて地獄行きだ!」
ビジュアル面の凶悪さも相まって、少なくない兵士たちがその言に乗せられそうになったらしい。だが屍たちが肉壁となって身を挺して道を抉じ開け、悪魔と処刑人たちをゲルペスの元まで送り届けんとする。そんな罪人の成れの果てを横目に見ながら、フェミスはふむと小首を傾げた。
「そのような物言いは少しばかり心外だ。我々は処刑人、手に掛けるのは罪を犯した者のみ。翻って見るに、心にも無い言葉で領民への行いを語り、純心な者達に疑念を抱かせ煽るなど……許されぬ大罪だ。そうだろう?」
――君の罪は此処で償わなければならない。
そう宣告する処刑人に対し、領主もまた反論を返そうとする。だが、此処は法廷の場ではない。戦場であり、処刑場だ。故に認められるのは末期の遺言のみ。それ以外の言葉など、許されるはずもないのだ。
「事実を指摘しただけでこの言い草、これこそ言論の弾あ……ッ! !?」
「痛くは無いが、罪を重ねれば絞める力も強くなるだろう……精々大人しくするといい。自らの嘘偽りで、文字通り首が回らなくなるからな」
フェミスが手首を翻すと握られた紐縄が一人でに蠢き、するりと中年男の首へと巻き付いた。それは死に至るほどの力ではないが、呼吸を阻害し喉の動きを鈍らせてゆく。こうなれば少しは静かになるだろう。
「そもそも……この獄卒共は貴様の話には興味はないみたいだ。こいつらの関心事はただ一つ。貴様を甚振り、その血肉を貪り喰らう事……それだけだ! さぁ行け獄卒共よ!」
荒縄に縛められた男へ向けて、アンナの振るう鉄鎖に追い立てられた悪魔たちがにじり寄る。猛毒の牙と鉄の爪を備え、硫黄の吐息を零す十二体の悪鬼たち。言葉を発せられずとも、領主の顔にはありありと恐怖の色が浮かんでいた。
「今日は特別だ! あの喧しい男を好きなだけ甚振り喰らうがいい!」
殺到してくる悪魔を前にゲルペスは逃げ出そうとするものの、荒縄に繋がれてはそうもいかない。だが、太さのあるそれをすぐに断ち切るのも困難。故に領主は声一つ発せられぬまま、一対十二という絶望的な防戦を強いられる羽目になる。
「っ!? グッ! フゥッ!?」
レイピアとナイフを両手に持ち、必死で爪や牙を避ける領主。だが数の差は如何ともしがたい。少しずつ体に裂き傷が増え、流れ出た血が上等な衣服を上等だった衣服へと変えてゆく。良し悪しは別として、生きたまま化け物に貪られるなどこの世界では日常茶飯事だ。此度は其れがこの男になった、ただそれだけである。
「ぐ、ぅぅ……っ!? フゥンッ!」
悍ましい拷問地獄に放り込まれた領主だったが、どうやら命の危機に際して小賢しさが働き始めたらしい。ゲルペスは攻撃を受けた反動で敢えて大きく体勢を崩すと、悪魔の攻撃を利用して拘束を寸断させたのである。ばらりと解ける荒縄を踏みにじりながら、領主は息も絶え絶えにその場から逃げ出してゆく。
「ぜぇっ、ぜぇっ……! これが猟兵の本性だ! 敵と見るや嬲って楽しむ、これでは吸血鬼となんら変わらない! この矛先が諸君らに向かぬと、どうして言い切れようか!」
「おのれ、まだ減らず口を……っぅ!?」
相も変わらずペラ回す領主に怒り心頭のアンナは、すかさず悪魔たちを追跡させようとするが、両者の間へ『闇の救済者』と敵群が雪崩れ込んできてしまう。流石に友軍を弾き飛ばして進むことなど出来ない。
「済まない、屍たちが抑えきれなくなったようだ……だが、既に判決は下されている。そう遠からず、誰かの手によって裁かれるだろう」
肩を竦めて謝罪しながらも、そう告げるフェミス。彼女の言う通り、死刑執行までの猶予が長くない事は、誰の目からも明らかであった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
シャルロット・クリスティア
結局相手の事を掌で踊るだけの駒程度にしか考えていないくせして……
吸血鬼にもそうやって取り入りましたか。
詭弁に付き合う意味はない。正面から打ち込むしかなさそうですね。
真の姿を解放し、得物を旗槍に。
これでも本職は銃手です。拳銃の弾道くらいは見切られる。
そして残りの得物であればリーチにはこちらに分がある。不足はありません。
この御旗の輝きは、解放への意思そのもの。
悪しきを討ち、我らの手に未来を取り戻すための。
……私たちは、一人一人は弱く、脆い。
それでも、未来のために手を取り合うことはできる。
たとえ貴方の言が本心であったとしても、団結を乱し、不和を招く物言いを受け入れるわけにはいきませんね。
●輝ける御旗の元に、続けや友よ
「はっ、ははは! そうだ、ちゃんと聞かせてやれば目論見通り動くではないか。やはり家畜には愚鈍さと素直さが必要だ……さぁ、頼んだぞ我が同志、『闇の救済者』諸君! 共に裏切り者と吸血鬼を討ち果たそう!」
浅からぬ傷を負ったものの、それと引き換えに扇動を成功させた領主ゲルペス。彼は引き続き『闇の救済者』に対する言葉を垂れ流しながら、一度館の中へと退避する。彼は備え付けの医薬品や布を引き出すと、手早く傷口を塞いてゆく。
「多少段取りは狂ったが、ここからが本番だ。猜疑心や不信感は伝播するもの。僅かでも切り崩せれば、あとは一気に……!」
「それが貴方の本性ですか。まぁ、始めから分かり切ってはいましたが。結局相手の事を掌で踊るだけの駒程度にしか考えていない……吸血鬼にもそうやって取り入りましたか」
応急手当もそこそこに次の算段を練っていたゲルペスだったが、そこで背後から言葉を掛けられる。ハッと振り向いた先に居たのは冷ややかな視線を湛えたシャルロット。彼女の手には愛用の重機関銃ではなく、旗を備えた槍が握られていた。
「ふ、ふふふ。まさか、此処まで追って来るとは。招待した覚えはないのだがね……しかし、本性か。まぁ、考えてもみたまえよ? 私と手を組めば、吸血鬼も本当に倒せるやもしれんのだ」
傍らに立て掛けてレイピアを手に取り、じりじりと彼我の間合いを図りながら領主は親しげに語り掛けて来る。
「『闇の救済者』軍は確かに大きく育った。地方領主程度ならば圧倒できるほどにな。なら次に必要なのは交渉力、もっと言えば政治の力だ。私にはそれが有る。これも全て、諸君らの中に在る膿を出し切り、一枚岩とする為の必要行為なのだよ」
「良くもまぁ、そこまで支離滅裂な詭弁を弄せますね。余りに厚顔過ぎていっそ尊敬すらしますが」
勿論、皮肉ですけど。そう相手の言葉を切って捨てながら、シャルロットは呪詛による思考の鈍りを感じて眉を顰める。詭弁に付き合う意味は無い。ここは真正面から打ち破るしかないだろう。相手は細剣、こちらは旗槍。幸い、リーチ差的に優位はこちらにある。
「小さき灯は揺らげども、未だ消えることはなく……この御旗の輝きは、解放への意思そのもの。悪しきを討ち、我らの手に未来を取り戻すための。私欲になど利用はさせません」
そうして突き掛かる猟兵だったが、それを見てゲルペスの笑みは深まった。彼は隠し持っていたピストルを抜き放つや、機先を制して弾丸を叩き込む。
「駆け引きは重要だ、政治も戦いもな!」
「と同時に、反応の速さもです。これでも本職は銃手ですから。拳銃の弾道くらいは見切られます。しかしこの程度を駆け引きと称するなど、程度が知れますね」
しかしシャルロットは槍を巧みに振るうや、穂先に翻る旗によって弾丸を絡め取る。目を剥く領主目掛けて刺突を繰り出し貫くと、そのまま梃の原理を利用して館の外へと投げ飛ばした。
「ぐ、かはっ!? 折角、治療をしたというのに……小娘ぇ!」
「……私たちは、一人一人は弱く、脆い。それでも、未来のために手を取り合うことはできる。必要なのは疑い迫害する事ではなく、対話し違いを受け入れる事です」
無様に地面へ転がる領主を見下ろしながら、カツンとシャルロットは石突で地面を叩く。高らかに掲げられた槍の先では、白と金にて編まれた御旗が燦然と翻っている。それは誰を信じるべきかを、何よりも鮮烈に戦い続ける『闇の救済者』たちへと示していた。
「たとえ貴方の言が本心であったとしても、団結を乱し、不和を招く物言いを受け入れるわけにはいきませんね。膿を出して病原菌を招き入れるなど、本末転倒ですから」
「ぐ、ぅぅぅうううっ! っ、これは不味いか!?」
ジリと領主の周囲を兵士たちが取り囲む。既に先の扇動で巻いた呪詛は消え去っている。形勢不利と悟ったゲルペスは、兵士たちを振り払いながら再びその場より逃げ出し始めるのであった。
成功
🔵🔵🔴
トリテレイア・ゼロナイン
どの様な動機あろうと今は関係はありません
皆、己が危険を承知で戦いに身を投じたのです
命懸けた者同士の結束を、誰が疑うことが出来ましょう!
脚部スラスタ推力移動と怪力で屋敷破壊しつつ追跡し近接攻撃
(…嫌な手合いです
あそこまでの特化、『口』の再生力も尋常で無い筈
物理的な沈黙が難しいならば…)
忍びよらせた●操縦機械妖精でくすぐり演説妨害
同時に館内から回収させた貴金属を領主の足元に落とし
何を笑って…馬鹿にしているのですか!?
私達を煙に巻き、金品抱えての逃走の腹積もりとは
(論者の権威と信用貶める…
銀河帝国諜報員のそれと比べて児戯ではありますが
…やはり気分は良くありませんね)
弁解前にワイヤーで引き寄せ殴打
春乃・結希
例えお金の為でも、逃げる準備をしてても、それは駄目なこと?
この戦争を勝ち取るって思いが一緒なら、動機はなんでもいいと思うけど
…よく喋る人やなぁ…お喋りな男の人は、あんまり好きやないんですよねー
私の恋人は無口ですし
…ちょっと黙らせにいこうか
UC発動
wandererの移動力を上げ、移動する領主を追う【ダッシュ】
戦車や骸骨の相手も最小限、救済者達の上を飛び越えて
壁や天井を蹴ったり左右にステップを踏んだり、狙いを定めにくくしつつ
隙をついて懐へ飛び込む
口を動かす余裕を与えないために、ダメージを受けても攻撃の手を止めず攻め続ける【激痛耐性】
どんな言葉も、私には届きませんよ
私の心は、withだけのものだから
●醜態に剥げるは威厳の鍍金
「不味い、これは不味いぞ……猟兵側を攻めても力技で覆されるばかりだ。ならば、ここは初心に立ち返るべきか!」
這う這うの体で逃げ回るゲルペスは、徐々にではあるが己の不利を悟り始めていた。自業自得と言えばそうなのだが、かと言って素直に謝罪して許しを得よう等と言う殊勝な考えは端から存在していないらしい。
故にゲルペスはより与し易い相手、つまりは『闇の救済者』の一般兵士たちへと狙いを絞る。一部分だけでも抱き込めれば、決して小さくない混乱を招くことが出来るだろう。領主は『闇の救済者』軍本隊の前へ敢えて身を晒すと、如何にも後ろめたい事などないと言った風に演説を始めた。
「諸君、君たちは何の為に戦っているのか? それは人類の未来を取り戻すと言う、崇高な目的の為に他ならない! それは吾輩も尊敬するところだ。しかし悲しいかな、そうではない者も居るのだ!」
当然、友軍も馬鹿正直に黙って聞く状況ではない。矢や弾丸を浴びせかけ、兵士たちが次々と斬り掛かってゆく。それらをいなしながらも、ゲルペスに焦りはない。話さえ聞かせ続ければ、いずれ呪詛が浸透し思考を停止させると知っていたからだ。
「金品目的の参加者など、その最たるものだ! 諸君らの命運を金勘定の俎上へ乗せる、これは明白な裏切りに他ならない! そのような者が居れば、諸君らの大義に陰りが……」
「……んーー。例えお金の為でも、逃げる準備をしてても、それは駄目なこと? この戦争を勝ち取るって思いが一緒なら、動機はなんでもいいと思うけど。時にはそう言った分かりやすい人の方が、逆に信頼できる場合もあるけんね」
「生まれ……って、何だと?」
しかし、そこでふと差し込まれた疑問に演説が遮られてしまう。誰が邪魔をしたのかと視線を巡らせれば、小首を傾げる結希の姿があった。相手としては出来れば猟兵が現れる前に仕込みを済ませたかったのだろう。ここは逃げるべきかと領主はさりげなく後ずさるものの、その背後より第二の声が上がる。
「どの様な動機あろうと今は関係ありません。明日の為、金銭の為、保身の為……いずれにせよ皆、己が危険を承知で戦いに身を投じたのです。それに変わりはありません。であれば命懸けた者同士の結束を、誰が疑うことが出来ましょう!」
ガシャリと重々しい音を響かせながら、ゲルペスの身の丈を超える大盾が地面へと突き立てられる。その後ろより姿を見せたのはトリテレイア。相手の退路を断つように陣取った鋼騎士を見上げ、領主は己が挟み込まれたことを悟った。
「い、命懸けだからこそ、そうした些細な差が思わぬ隙を生む場合があるのだ! いざと言う時に隣の者が逃げ出すか踏み留まるか、極めて重要な問題だぞ!」
「……ほんとによく喋る人やなぁ。一を言えば五も十も返って来る。ただちょっと、お喋りな男の人は、あんまり好きやないんですよねー。私の恋人は無口ですし」
状況を打破しようと領主はあれやこれやと並べ立てるが、旅人には右から左に受け流されるのみ。既にこれまでの交戦で相手の種や本性は粗方割れているのだ。そも、猟兵側からすれば律儀に話を聞くつもりなど始めから無かった。
「ちょっと会話しただけでも、なんだか頭が重くなってきますね。痛みのない頭痛、みたいな……うん。これ以上喋らせるのは良くないけん、ちょっと黙らせにいこうか」
「くぅ、こうなれば是非も無し! 私も領主の地位に就く者だ、正々堂々受けて立とう!」
スラリと背負った鞘より恋人を鞘走らせる結希。それを見て交戦を避けられぬと見たゲルペスもまた、レイピアを抜き放ちそれに応ずる。そうして両者は真っ向から切り結ぶ……。
「などと思ったか、馬鹿め! 不利な状況に付き合うほど、吾輩も愚かではない!」
かと思いきや、領主はそのまま結希の脇をすり抜けると、配下に足止めを命じながら一目散に逃げだしてゆく。切っ先を空振らせた旅人は一瞬呆気にとられるものの、我に返ると慌てて追撃へと移行する。
「今のは少しだけカチンと来ましたよ……やっぱりお喋りな人は好かんね!」
脚部を覆う装甲鉄靴から蒸気を噴き上げさせるや、結希は思い切り跳躍。スケルトンや戦車を踏み台に、八艘飛びも斯くやという身軽さを以て逃げる背中を追い始めた。一方、一足早く反応していたトリテレイアは脚部スラスターで自らの巨躯を浮かび上がらせると、進路上の障害物を薙ぎ払いながら突き進む。
(……嫌な手合いです。私の電子頭脳すらもパフォーマンスの低下を検知しました。あそこまで特化した能力、恐らくは『口』の再生力も尋常で無いでしょう。物理的な沈黙が難しいならば……少しばかり絡め手でいきましょう)
追跡を続行しながらトリテレイアは肩部装甲の一部をスライドさせると、そこから幾つもの妖精型ドローンを出撃させてゆく。爆弾を内蔵した破壊工作向けのユニットだが、今重要なのは寧ろ小型ゆえの静粛性であった。
領主も当然ながら追手の存在に気付き、全力疾走しながらも演説を再開してゆく。よくもまぁ息が持つものだと舌を巻くが、逃げながらの呪詛汚染は厄介極まりない。
「諸君、隣の者を良く見張れ! 懐に金品を忍ばせているものは居るか? 逃げ出そうとしているものは? 敵だけなく味方も、ふ、ふへ、ふひひひひっ!?」
だが、唐突に言葉が途切れる。何事かと周囲の者が視線を向ければ、ゲルペスは何故かその場に立ち止まって頻りに身を捩っていた。気味の悪い笑い声を漏らしながら悶える度に、ボロボロと衣服の隙間から金品が零れ落ちてゆく。
「見ろというのであれば、まずは彼の領主自身を見なさい! いったい何を嘲笑い、我々を馬鹿にしているのですか!? 私達を煙に巻き、そのうえ金品抱えての逃走の腹積もりとは……これが対話を謡っていた者の本性です!」
「いや、ちが……ぐひっ、かはははっ!?」
これに関して、領主の言葉は真実である。先ほどトリテレイアが放ったドローン、それが相手の服の下へと潜り込み、全身を擽っていたのだ。予め館より回収していた金品も合わせてばら撒いてやれば、敵のイメージダウンは完了という訳である。
(裏工作によって、論者の権威と信用貶める。銀河帝国諜報員のそれと比べて児戯ではありますが……やはり、気分は良くありませんね)
暗闘も戦に付き物とはいえ、やはり性分的に受け入れがたいのだろう。鋼騎士は腕部ワイヤーを射出して敵を引っ掴むと、そのまま滅多打ちにしてゆく。その間に結希も相手に領主に追いついたようだ。旅人が最高速度を維持したまま斬り掛かる一方、領主は相も変わらず笑い転げたまま。これでは演説は元より、剣を握る事すら覚束ない。
「ひ、ひひっ! ま、まて、こっちはいま無防備で、ぶははははっ!?」
「それがどうしましたか? どんな言葉も、私には届きませんよ。私の心は……withだけのものだから」
仮に喋れたとしても結果は同じだと、少女は確信を以て断言する。例え言葉がなくとも、心は通じ合っていると信じるが故に。そうして速度を破壊力へと転化した一撃が、領主の胴体へと叩き込まれてゆくのであった。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
ディルクニア・エリスランサス
アドリブ等歓迎
ア"ァ? 何を言うかと思えば平和を望んでいるかどうかだのなんだの……
知るかよ、ンなもん
コイツらは「ソイツ」が欲しくて此処までの軍を作り上げた
見りゃ分かるだろうが
それがたかだか自分達以外への疑念程度で崩れるなら、所詮その程度だったって話だ
……いや
相互理解のための腹を割った話し合い程度さえ出来ないなら、いっそ滅んじまえ
けど、滅びたくねぇンならきっちり話し合え。無条件に信じ合うんじゃなくてな?
じゃねぇとアイツみたいな弁説が強い敵に付け込まれるぞ
なぁに。話し合う余裕の為に外敵を排除してぇっつうンなら、酒次第でアタシも手伝ってやるさ
こうやってな!
*
方針:
敵にマトモに喋らせずに、ブチのめす
●胸襟開き、いざ語れ
「これは、これは吾輩を陥れる陰謀だ……吾輩はただ、平和を望んでいる一市民に過ぎない! 耳の痛い助言も、全ては諸君らを想っての事なのだ! どうか分かってくれ!」
猟兵渾身の斬撃を受けてなお身体が上下に分断されなかったのは、果たして感心するべきか呆れるべきか。滂沱と鮮血が零れ落ちる傷口を押さえつけながら、それでもなお領主は言葉を垂れ流し続けていた。この状態ではまともに戦闘を行うのも難しいはず。故にこそ如何にも憐れみを買う様に振舞い、時間を稼ごうと言う狙いなのだろう。
「ア"ァ? 何を言うかと思えば平和を望んでいるかどうかだのなんだの……知るかよ、ンなもん。だったら、端からそうしてりゃ良かっただけの話だろうが」
だが、ディルクニアにその手の三文芝居は効果が薄いらしい。煙管から紫煙をくゆらせていた女は呆れたように眉根を顰め、顎をしゃくって『闇の救済者』軍を指し示す。
「コイツらは『ソイツ』が欲しくて此処までの軍を作り上げた。見りゃ分かるだろうがな。だってのに、それがたかだか自分達以外への疑念程度で崩れるなら……まぁ、所詮はその程度だったって話だ」
プカリと白い煙を唇の隙間より立ち上らせながら、ディルクニアはさもどうでも良さげに吐き捨てる。だがそこでふと何かを思いついたかのように眉根を顰めると、皮肉気に頬を歪ませた。
「いや……相互理解のための腹を割った話し合い程度さえ出来ないなら、寧ろいっそ滅んじまえ。敵に殺されんなら兎も角、仲間割れで全滅なんざ笑い話にもならねぇしよ」
猟兵の直截的すぎる物言いに、様子を見守っていた『闇の救済者』軍もざわつき始める。叱咤激励や警告を行った者は多かったが、ここまで突き放した内容は初めてだ。兵士たちの動揺を見て取ったゲルペスは、これ幸いにと俄かに勢いづく。
「な、何たる言い草だ……!? 諸君、聞いたかね今の言葉を! 余りにも情が無さ過ぎるとは思わんか! 所詮猟兵にとって、諸君らの戦いなどどうでも……」
「おう、お前の番はまだだ。ちょっと黙ってろ」
ズドンと、重々しい衝撃音が響く。領主のすぐ真横を何かが通過し、背後の壁面に深々と穴を穿っていた。前哨戦時にも使用した追尾砲撃術式である。強制的に相手の口を閉じさせると、女は続きを語ってゆく。
「そう早合点するんじゃねぇよ……アタシが言いたいのは、滅びたくねぇンならきっちり話し合えって事だ。つっても、思考停止で無条件に信じ合うんじゃなくてな? 相手が信じられるか、自分の頭で考えろ。じゃねぇと、アイツみたいな弁説が強い敵に付け込まれるぞ」
――ちょうど、今みたいにな?
言葉尻は荒々しいが、言っている事は至極尤もな内容。それを受けて、兵士たちは少しばかり己を恥じた様な表情を浮かべてゆく。ともあれ、己の危うさに気付ければそうそう甘言に乗せられることもないだろう。
「なぁに。話し合う余裕の為に外敵を排除してぇっつうンなら、酒次第でアタシも手伝ってやるさ……こうやってな!」
「っとぉっ!?」
そうして話を締めくくるや否や、ディルクニアは再び砲撃を叩き込む。今度は威嚇ではなく、当てる為に狙いをつけてだ。だが相手も不穏な空気を感じ取っていたのか、咄嗟に飛び退って間一髪直撃を回避する。
「さぁて、待たせたなぁ。こっからはアタシが相手をしてやるから、好きにペラ回していいぞ? 勿論、まともに喋らせる気なんざ更々ねぇがな!」
「この……! どいつもこいつも、酔っぱらいの戯言などを真に受けおってぇええっ!」
だが、猟兵の放つ砲撃は連射、多弾頭、追尾の三拍子が揃った手数と命中性重視の代物。徐々に手数が増えてゆく攻撃をいつまでも防ぎきれるものでは無く……。
「アタシは酔ってた方がまだ『マトモ』なんだよ」
砲撃の嵐を前に、ゲルペスは為す術もなく飲み込まれてゆくのであった。
成功
🔵🔵🔴
ヴァネッサ・ラドクリフ
お前の嘘を聞いてると昔を思い出してしまうよ
あたしも助けてくれようとした闇の救済者を最初は信じる事が出来なかった
でも彼らはそんなあたしさえも助けてくれた!
あたしはもう自分自身の絶望に屈しない!
最初はゲルぺスの発言を封じたり戦場を駆け回るのを防ぐよりも
確実にダメージを蓄積させる為に胴体や胴体を守る腕を重点的に
無言で攻撃していくよ
闇の救済者達に演説を始めようとしたら
あたしが想っている心情を口にしてあえてあたしへ注意を向かせて、
動きを封じる為に挑発する未来をUC『絶望の福音』で予想して
嘘を覚悟で乗り越えて一気に距離を詰めて刺突してやるんだ!
絶望の強さを認めているからこそ、もう絶望に従ってたまるか!
●想いを語るに多弁は不要
「ぐっ、がはっ……!? ここまで追い詰められるとは予想外だ。想定では連中の混乱に乗じて形勢を覆すか、せめて逃げる時間くらいは稼げる算段だったが……!」
『闇の救済者』軍が領主の邸宅へと雪崩れ込んでから、既に短くない時間が経過している。度重なる交戦の果てにゲルペスもまたかなりの深手を負っており、着実に追い詰められている様子が見て取れた。だが、相手が頼みとする武器は弁舌の巧みさだ。極論、舌と喉さえ無事ならば一手二手打つことも難しくはないだろう。
「何故だ……何故、こうも上手くいかん。有象無象の兵士たちには着実に響いている。猟兵とて影響を無視は出来ないのに……クソッ!」
領主は館の裏手、未だ『闇の救済者』軍の手が回っていない部分へと逃れ、少しでも体力を回復すべく呼吸を整えている。だが、みすみすそんな時間を与える義理など猟兵側には無かった。
「……きっと、一生分からないだろうね。切望を与える側に居続けて、苦難を知らないお前には」
「っ!?」
ハッとゲルペスが声のした方を見ると、そこには既に刃を手にしたヴァネッサの姿があった。攻撃から逃れようとしたせいで、周囲には声に応じる様な人影は見当たらない。男もまた大きく息を吸い込みながら、レイピアとピストルを抜き放つ。
「随分とまた、下から目線の物言いだな。上には上で苦労があるのだよ。特に吾輩の様な中間管理職にはな」
「…………」
「ふん、だんまりか。だがある意味、あれこれと詰まらぬ反論をしてくる者よりかは静かで良い。聴衆とは聞き、従う側なのだからな」
勢いよく少女が踏み込むのと、領主がトリガーを引くのはほぼ同時。ヴァネッサは胸甲の厚い部分で弾丸を逸らしながら、そのまま敵の懐へと肉薄。手にした長剣を袈裟に振るう。
「ふむ。太刀筋は悪くないが、かと言って突出している訳でもない。飽くまでも年相応といった所か……まぁ端的に言えば、年季が違うのだよ!」
「ッ!?」
だが、相手の剣の技量も中々のもの。手負いでありながらも、ヴァネッサと同等以上に渡り合ってゆく。相手は性格的にも能力的にも『強い者には弱いが、弱い者にはとことん強い』を地で行くタイプだ。眼前の猟兵を与し易しと判断し、勢いづいているのだろう。
「ははははっ、ここに来てツキが回って来たな! 丁度いい、このまま『闇の救済者』の元まで追い立て、吾輩の引き立て役としてやろう!」
攻防の天秤はジリジリと相手側へと傾いてゆく。そのまま押し出される様に館の裏から横手へと戦いの舞台が移り、それに伴って二人の姿が『闇の救済者』軍の視界へと移り込み始める。
「見給え諸君! 吾輩を卑劣にも闇討ちしようとした猟兵を追い詰めている姿を! 諸君らにも知らせず、一人で挑み掛かって来たのだ。そこに何らかの後ろめたい意図を感じないかね!」
聴衆が生まれた途端、これ幸いにと舌を回し始めるゲルペス。このまま猟兵を討ち取り、勢いに乗って呪詛を浸透させようと言う魂胆なのだろう。技量では己が優り、その上相手は終始黙りこくったまま。これならばいけるとほくそ笑む……が。
「お前の嘘を聞いてると、昔を思い出してしまうよ。あたしも、そうだったから。助けてくれようとした闇の救済者を最初は信じる事が出来なかった」
「っ! なんだ、何を言うつもりだ!?」
そこで遂に、少女は口を開いた。その内容は反論では無く、ただ己の心境を述べるのみ。理路整然とした理屈など、ヴァネッサは組み立てられない。だが、それでもと彼女は叫ぶ。
「でも、彼らはそんなあたしさえも助けてくれた! もう俯かなくて良いんだって、明日を諦める必要は無いんだって。だからあたしはもう……自分自身の絶望に屈しないッ!」
信じられなくても、信じてくれた。ならば今度は自分の番だ。例え疑われようと、彼らを信じ抜く。それこそが己が示せる何よりの『行動』なのだと、彼女は信じていた。
「絶望の強さを認めているからこそ、もう絶望に従ってたまるか! あたしたちはお前を、吸血鬼を倒して未来を手に入れるんだッ!」
「ほざけぇ、小娘ぇっ!」
怒りに駆られながらも、ゲルペスには驕りがあった。相手が格下で容易く黙らせられると見縊っていたのだ。ヴァネッサはそんな相手の傲慢を――。
「嘘を覚悟で乗り越えた一撃を、受けてみろぉおおっ!」
裂帛の叫びと共に打ち砕く。どれほどの差があろうとも、何をどう繰り出してくるか分かれば対処できぬ道理はない。少女の繰り出した斬撃がレイピアを握った腕を斬り裂き、赤々とした華を咲き誇らせる。
「が、あああああっ!?」
これには堪らず、領主も腕を抑えて踵を返す。どちらに味方すべきか、もはや一目瞭然だ。『闇の救済者』たちはヴァネッサの勇気を称える様に武器を掲げながら、領主を討つべくその後を追ってゆくのであった。
大成功
🔵🔵🔵
吉備・狐珀
【路地裏】
突然の謝罪と肯定
虚を衝かれても致し方ないでしょう
ですが謝罪をし協力を申し出ながら未だに兵士を下げない領主をどうして信じられましょうか
UC【鎮魂の祓い】使用
「生きて帰る」ことが並大抵でないことを一番よく知るのは皆さんです
力をつけ、武具を備え、闇雲に戦うのではなく何度も話し合い計画を立てたのでしょう?
館を訪れた者は直談判に訪れたのではないですか?
もしここに裏切り者がいるのなら、領主はもっと万全の準備を整えて迎え撃つことができたはず
怪我人や死人で溢れて、ここにたどり着くことすらできなかったでしょう
今日の日まで紡いだ時間は裏切りません
お互いを信頼しているから今この場に皆さんは立っているのです
ペイン・フィン
【路地裏】
信頼、というのは、簡単ではない、ね
ただ、一つ、誰でも、解ることがある
この中で、最も信頼できないのは……、目の前に居るアレだけ、だよ
コードを使用
深く、祈るような姿勢で、周囲の負の感情を喰らい、宿し、皆の心を解放する
同時に、技能も使用
落ち着き
慰め
優しさ
心を読み、喰らう、感情喰らいの自分だからこそ
そう言った、不安とか、恐怖が、どれだけ簡単に生まれるかも、知っている
……でも、大丈夫
自分が、それらを、引き受けよう
どうしても、気持ちが、晴れなくとも
今だけでも信じれば、それは、次に繋がる
だから、ほら
撃たれてもいない裏切りの弾丸なんて、まったく、怖くないんだ、よ
勘解由小路・津雲
【路地裏】5名
信頼を築くには長い時間がかかるが、壊すのは一瞬。そう考えるとなかなかやっかいな相手ではある。
だが、一番危ないのは戦況が不利なときで、今はこちらが優位、士気は高い。そう簡単には切り崩されんさ。
【作戦】
まずはちょこまか駆け回る領主の位置を特定せねばな。この式神は追跡に特化している。あんたがどこへいこうと、闇から闇へ、どこまでも追いかけるぞ。
仮に、家族を人質にとられるなど、やむにやまれる事情で裏切ったものがいたとしよう。それによって戦況が不利になったら大問題だ。
だが今は勝っている。ならば、この戦場にみんなが疑念を抱くような裏切りなど存在しないということだ、間違いない。
落浜・語
【路地裏】
なんか、こう……。
なんかこう、腹立つ野郎だな。顔面をストレートでぶん殴りたい感じに。
あんまりこういう話し方はしたくないんだが、このまままた適当言われるのも嫌だしな。『誰の為の活劇譚』の応用だ。
たとい本当に裏切り者がいたとして、なんで今、この状態でそれを大ぴらにしない?本当に動揺と衝撃を与えるなら、今このタイミングこそが一番だろ?
出てこないってならそれは、そんなもの存在しない。よしんば存在していたとしても、「闇の救済者」側に改めて寝返った。
であるならば、今こそ領主を叩き潰すときだろう
ちなみに嘘ってのは、適度に真実を混ぜたほうが信じてもらいやすい。
まぁ、俺は嘘なんて一言もついてないけどな
ファン・ティンタン
【WIZ】彼我の距離
【路地裏】
虚言、煽動、撹乱
こーゆー手合いの言動は、それそのものが真であるか否かはあまり重要じゃない
誰もが内に抱える闇の餌になれば、奴の思惑は達せられるのだから
で、あれば
端から妄言が耳に届かぬ状況を作ればいい
雄弁なる奴の口は一つだけれど、こちらには幾らでも話したがりがいるからね
【愉快な音楽隊】
優しく語るシルフの子らよ
遠くから独り滑稽に騙る奴に代わり、人々が己を信じられるよう、その耳元で囁け
投げつけられる大言壮語と、そっと届く奨めの言音
果たして、人々に沁みるはどちらだろうね?
最後のひと押しは、私自身が行動で示す
私は彼ら救済者の隣に立とう
人の道に具える物、それが私
奴は、どうかな?
●嘘とは重ねる程に追い詰められるもの
「なんか、こう……あれだ。そう、なんかこう、凄まじく腹立つ野郎だな。顔面をストレートでぶん殴りたい感じに。噺家としちゃどうかと思うが、それ以外の言葉が思い浮かばねぇ」
やはりと言うべきか、【路地裏野良同盟】の面々の中でまず真っ先に領主の言葉へ反応を示したのは語だった。『仏の嘘は方便、武士の嘘は武略』と言う様に、戦いにおける詐術は立派な戦術ではある。だが言葉と語り聞かせを生業とする噺家にとって、相手の在り様は受け入れがたいものなのだろう。正しく水と油と言って良い。
「戦況は見た限りやや混迷気味ですね……それも無理はありませんか。突然の謝罪と肯定をぶつけられれば、虚を衝かれても致し方ないでしょう。なまじ武器や魔法でない分、咄嗟の防ぎようもないですから」
「信頼を築くには長い時間がかかるが、壊すのはほんの一瞬。少しばかり身につまされる気分だが、そう考えるとなかなかやっかいな相手ではあるな」
戦況を見渡していた狐珀は少しばかり複雑そうに顔を顰める。大勢自体は『闇の救済者』側優位は揺らがない。しかしゲルペスが乱入した影響か、所々で統制の乱れが生じているらしい。戦闘を行いながら相手の心理面を突く手腕に、津雲も思わず舌を巻く。その横で件の敵の姿を探しているペインもまた、気持ちは同じらしい。
「信頼、というのは、簡単ではない、ね。築くのも、それを維持し続けるのも……でも、ただ一つ、誰にでも、解ることがある。この中で、最も信頼できないのは……、目の前に居るアレだけ、だよ」
「虚言、煽動、撹乱……こーゆー手合いの言動は、それそのものが真であるか否かはあまり重要じゃない。必要なのは『もしかしたら』という疑念の予知を生み出す事だ。誰もが内に抱える闇の餌になれば、奴の思惑は達せられるのだから」
相槌を打つファンの言う通り、相手にとっては自分への信頼すらも二の次なのだろう。始めは戯言だと切って捨てたとしても、そうした言葉は喉に刺さった小骨の様に尾を引くものだ。後はふとした切っ掛けで不信の種が芽吹けばそれで御の字。ある意味、武力を頼みとする輩とはまた別ベクトルの厄介さである。
「まぁ、この期に及んで誰を信ずるべきか見誤るような者は居らんだろう。得てして一番危ないのは戦況が不利なときだ。しかし今はこちらが優位で、かつ士気は高い。そう簡単には切り崩されんさ。懸念すべきはやはり、言葉に乗せられた呪詛か」
とは言え、状況が絶望的かと問われればそうでもない。どのみち、順当にいけば数の差で圧殺できる。気に掛けるべきは、言葉の内容自体よりもそれによって齎される心理的影響か。だがそれも決して強力なものでは無い。適宜支援すれば、十分に対抗できるはずだと陰陽師は断じていた。
「っ、居ました! 兵士の皆さんに追い掛けられている様ですけど……あれは、様子が」
「不味い、ありゃ演説をまともに聞いちまってるな……!」
と、そこで狐像の少女と噺家が領主を発見した旨を報せてくれる。しかし、状況はどうやら良いとは言えないらしい。仲間の指し示す方向へと瞬時に駆け出しながら、津雲が式神を取り出し放つ。
「居所の追跡はこちらで引き受ける。俺たちも現場へ急ごう。兎に角、奴の演説を止めねば始まらんからな」
「でも、舌でも切り落とさない限り、黙りそうにない、相手だね……」
そうして走り出しながら、相手の演説にどう対処すべきかと津雲とペインが言葉を交わし合う。それに対し、ファンはふむと思案しながら話題を継ぐ。
「で、あれば。端から妄言が耳に届かぬ状況を作ればいい。雄弁なる奴の口は一つだけれど、こちらには幾らでも話したがりがいるからね。戦争も論戦も、数は力だよ?」
そうして五人は領主の元へと向かいながら、対策を手早く打ち合わせるのであった。
「やぁやぁ全く、瀕死の男一人に此処までの手勢を差し向けてくれるとは! 『闇の救済者』諸君の私に対する評価が高くて、何だか申し訳ない。だからそう、怖い顔をしないでくれると嬉しいのだがね?」
ゲルペスは自らを追い詰めた兵士たちの顔を見渡しながら、そう皮肉気に頬を歪めていた。度重なる猟兵との戦闘により男の全身には無数の傷が刻まれており、既に瀕死と言って相違ない。それでも『闇の救済者』が攻勢の手を緩めぬのは、敵の厄介さを重々承知しているからだろう。
「まぁ、吾輩も愚かではない。こんな状況だ、己の命運が既に尽きた事は否定できん。だが、死ぬとしても自分一人というのは寂しいのだよ。だから、黄泉路の供周りを頼めるかね……ジャック。君と私の仲だろう?」
そう小さく肩を竦めながら、意味ありげに視線を向ける領主。無論、この発言はハッタリだ。兵士たちの中に見覚えのある顔など無い。だが、取り囲む者たちの視線がほんの僅かにだが、或る数人へと集中するのをゲルペスは見逃さなかった。
「君の家族を救ってほしいと以前懇願され、私はそれに応じた。忘れてしまったのかね? 少しでもその恩を覚えているのであれば、どうか、どうか吾輩に慈悲をくれないか!」
「おい、止めろ! 俺はお前なんて知らないぞ!?」
男はさも哀れな風を装うと、視線を向けられた兵士へと縋りつく。意味深な発言と共にありふれた名を出し、相手の挙動から該当人物を特定。後はそれらしい事を喚いて、親しい間柄であると周囲に思わせる……それは占い師などが使う『コールドリーディング』と呼ばれる手法に近しい。家族という曖昧な定義、応じたと言う成否を明言せぬ内容。どうとでも取れる物言いも、状況次第ではそれっぽく見えてしまうのだ。
「そんな事を言わないでくれ! つい先日だって、情報を吾輩にくれたじゃないか! タイミングを見て裏切ると言ったのにそうしなかった事は目を瞑ろう! だから、な!」
ゲルペスの言葉に宿った呪詛も相まって、『闇の救済者』たちの心に迷いが生じ始める。こうなれば相手からすればしめたもの。この兵士をスケープゴートにするなり、更に不和を広げるなり自由自在。さてどうしてくれようかと、領主は更に言葉を続けようとして――。
「……させ、ないよ。まずはその芽吹いた不信が、より深く、彼らの心へ根付く前に……自分が全部、喰らうから」
静かな、それでいて良く通る声が響いた。それと同時に清らかな旋律が奏でられた瞬間、戦場に漂う空気が急速に変化し始める。領主を討たんとしていた気負いや焦り、ジワリと滲みだそうとしていた仄暗い感情が、箒で掃き清められるかのようにある一点へと収束してゆく。ハッとゲルペスがそちらを見やれば兵士たちの奥、人垣の向こう側で深く祈る様に跪く赤髪の青年の姿があった。
(心を読み、喰らう、感情喰らいの自分だからこそ。そう言った、不安とか、恐怖が、それだけ簡単に生まれるかも、知っている……でも、大丈夫)
指潰しは感情を手繰るモノ。苦痛や絶望を与えると言う製造定義から踏み出し、今の彼はそれらを引き受け浄化する存在となっている。故にこそ、領主が振りまく有形無形の呪詛とは極めて相性が良かったのだ。
(自分が、それらを、引き受けよう。どうしても、気持ちが、晴れなくとも……今だけでも信じれば、それは、次に繋がる。だから、ほら……)
――撃たれてもいない裏切りの弾丸なんて、まったく、怖くないんだ、よ?
異能の発動には強い集中を要する。そのうえ兵士たちの数が数なので、直接言葉を掛ける余裕もない。しかし、それを憂う気持ちなど青年には微塵も無かった。彼の役目は『闇の救済者』たちの心を鎮め癒し、平静さを取り戻させること。代わりに言葉を叩きつけるのは、何よりも頼もしき仲間たちへと既に任せていた。
「……随分とまぁある事ない事、いや、ない事ない事をそこまでほざけるもんだ。こういう話し方は本寸法じゃないが、適当言われるのも嫌だしな。いっちょ論戦と行こうか」
そうして兵士たちを割って姿を見せたのは、語を先頭とした他の面々。当てが外れた形となった領主は咄嗟に言葉を紡ぐ事も出来ず、猟兵たちの反論を許してしまう。
「たとい本当に裏切り者がいたとして……なんで今、この状態でそれを大ぴらにしない? 動かなかった事をお前は詰ったが、本当に動揺と衝撃を与えるなら今このタイミングこそが一番だろ?」
「仮にそちらが言う様に、家族を人質にとられるなど、やむにやまれる事情で裏切ったものがいたとしよう。確かにそれによって戦況が不利になったら大問題だ。だが、実際はどうだ? だが今は誰が見てもこちら側が勝っているぞ」
噺家の指摘を補強する様に、陰陽師が言葉を継ぎ足しながら周りを示す。ほんのついさっきまで、『闇の救済者』たちは領主を討ち取るあと一歩のところまで追い詰めていたのだ。本当に相手の言う内通者や裏切り者が居るのであれば、こうなる前に動いているはず。或いはこの成功するか否かの瀬戸際こそを狙い、背中を刺すのが道理だ。
だが、そんな兆候など何処にもなかった。という事は、だ。
「ならば、この戦場にみんなが疑念を抱くような裏切りなど存在しないということだ。これは間違いないと断言できる」
「ああ、そうだ。出てこないってならそれは、そんなもの存在しない。よしんば存在していたとしても、『闇の救済者』側に改めて寝返った。だったらそれはそれで良い。今はそれよりも領主を叩き潰すときだろう。違うか?」
裏切り者扱いされかけた兵士にとって、二人の言葉はこれ以上ない救いに思えた事だろう。瞳を潤ませながら、何度も力強く頷いてくれていた。しかし一方、面白くないのは領主である。彼は我に返ると、すぐさま言葉を捲し立て始めてゆく。
「た、確かにその主張は一見して理屈が通っている様に思える! だが所詮そんものは結果論だ! 私と相通じた者の存在を否定する証拠にはならない! 味方を裏切り、そして吾輩まで裏切った蝙蝠を、諸君らは本当に受け入れられるのかねッ!」
飽くまでも悪印象を植え付け、少しでも不和の種を振り撒かんとするゲルペス。しかし、それに疑問を呈したのは狐像の少女であった。
「いいえ、それならば否定できますよ……何よりも、貴方自身の行動によってです」
「……なん、だと?」
憎々し気に顔を歪ませる領主に臆することなく、狐珀は真っ向から相手の視線を受け止める。彼女はこの館へと至るまでに見た光景を一つ一つ思い返しながら、静かに言葉を紡いでゆく。
「『生きて帰る』ことが並大抵でないことを一番よく知るのは、長年虐げられてきた当人である『闇の救済者』軍の皆さんです。力をつけ、武具を備え、闇雲に戦うのではなく何度も話し合い重ねた末に、此度の計画を立てたのでしょう? もし館を訪れた者が居たとすれば、内通ではなく直談判に訪れたのではないですか?」
実際、一番最初の領主に対する反乱を試みた事件の際も、そうして領主の暗殺や直訴を試みた者たちが少なからず居た。前のケースでは悉くが生きて帰らなかったが、この男の事だ。後々の事を考えてわざと無傷で帰させたとしてもおかしくはない。
「はっ! もしそうだとしても、それが吾輩の行動と何の関係があるのかね?」
「情報ですよ。もしここに裏切り者がいるのなら、貴方はもっと万全の準備を整えて迎え撃つことができたはず。そうなれば『闇の救済者』軍は怪我人や死人で溢れて、この場所にたどり着くことすらできなかったでしょう……ですが、実際はそうではない」
「と言うか、事前に情報を知っていたのに対処できなかったのならば、それはそれでとんでもない無能とも言えるだろうしね?」
戯けて肩を竦めるファンの言葉に、領主の表情はいよいよ以て憤怒へと染まってゆく。だがそれとは対照的に兵士たちの顔には笑みが浮かび、白き刃の言葉を聞いて吹き出す者とて居た。勿論、猟兵たちの反論が理論立っていたというのも理由の一つではある。しかし同時に、ファンがそれとなく忍ばせていた精霊たちによる助力も決して小さくないと言えるだろう。
(遠くから独り滑稽に騙る奴に代わり、人々が己を信じられるよう。その耳元で囁き語れ、優しきシルフの子らよ。忌むべき戯言を打ち消して、我が友の言葉を風へと乗せて運んでおくれ?)
指潰しが兵士たちの悪感情を取り除き、噺家や陰陽師、狐像の少女が理論武装で相手を打ち崩す中、白き刃が行っていたのは言葉の拡散だ。本来は演奏を奏でる小さく楽団を、此度は拡声器の役に従事させたのである。これにより猟兵たちの語り掛けは掻き消される事無く兵士たちへと届き、一方で領主の演説は不明瞭な響きとなっているはずだ。
(加えて、それとなしに励ましの言葉も織り交ぜている。投げつけられる大言壮語と、そっと届く奨めの言音……果たして、人々に沁みるはどちらだろうね?)
そう内心で自問自答するファンだが、結果など確かめるまでも無い。兵士たちの表情を見れば、そんなものは一目瞭然だった。
「今日の日まで紡いだ時間は裏切りません。お互いを信頼しているからこそ、今この場に皆さんは立っているのです。あのような愚言に耳を貸す必要はない、そうでしょう?」
「そして人の道に具える物、それこそが私たちだ。翻って見るに奴は、どうかな?」
そうして最後のトドメとばかりに狐珀が相手の言葉を切って捨て、ファンや喰らう悪感情の無くなったペインを始めとする【路地裏野良同盟】の面々が『闇の救済者』と並び立つ。もうこれ以上何を言った所で、彼らの心にヒビを入れる事は不可能だ。
「が、ぎ、くぅぅぅぅッ……!?」
それを何よりも分かっているのはゲルペス自身だろう。歯を砕かんばかりに噛み締めながら立ち上がると、もう用はないと言う様に踵を返して逃げ出し始めた。演説が通用せず、数の差も圧倒的。余計な時間を浪費するよりも、一度退いて仕切り直そうと言う魂胆なのだろう、が。
「おやおや、無言で逃亡とは少しばかり拍子抜けだな。だがそれも無駄な足掻きだ。この式神は追跡に特化している。あんたがどこへいこうと、闇から闇へ、どこまでも追いかけるぞ」
だがはいそうですかと見送ってやるほど、猟兵たちもお人好しではない。津雲は予め敵に張り付かせておいた式神からの情報を頼りに、ぴったりと敵を追従してゆく。雪崩を打って追い立ててゆく兵士たちと共に、他の面々も次々と追撃を放ち始めた。
「指、膝、皮膚、痛みに毒……生憎、ピンポイントで舌や口を得手とする、兄姉は居ない、ね。まぁ、動きを封じるだけでも、十分かな?」
ペインが手首を翻すや、九条の鉤爪付き鞭が相手の手足を絡め取る。服を破り肉へと食い込みながら動きを封じると、間髪入れずに仲間たちが二の太刀、三の矢を放つ。
「声には声を、音には音を……そのねじ曲がり切った性根を少しでも正して差し上げます!」
「まぁ、一方的に話すだけ話して、こちらの言葉を聞かないってのも失礼な話だしね。偶には聞き手側に回ってみなよ……ちょっとばかり、うるさいだろうけど」
狐珀が鳥の姿を象った笛で調べを奏でるや、清らかな音色と共に魂迎鳥が空を舞う。その背にちょこんと腰を下ろすは、ようやく本分が来たと意気込む小人の音楽隊たち。鳥の翼が領主を打つと同時に、耳元では妖精たちが手にした楽器を思い切り打ち鳴らしてゆく。
「があああっ!? やかましいぞ、どいつもこいつもッ! どうして吾輩が貴様らの戯言を聞かねばならん! それはお前たちの役目だろうが! 何故、黙って従わぬのだ!」
これには堪らず、領主は耳を抑えて転げまわる。そんな領主目掛けて……。
「……何故かって? それじゃあ、本業からのアドバイスだ。嘘ってのは、適度に真実を混ぜたほうが信じてもらいやすい。まぁ、最も?」
――俺は嘘なんて一言もついてないけどな!
語による奏剣の一撃が、これ以上ないほど鮮やかに叩き込まれるのであった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
桜雨・カイ
あの…機を伺って襲うなら、合流前の方が良いと思うんですが…戦車の被害相当ですよね。
それに戦車以外の人が襲ったのを見た人いますか?
【援の腕】発動、呪詛を相殺するためにみんなに問います
…向こうと発言のタイミングがかぶってしまいますね
それでは大声で、せーのっ
『隣に立つ人は本当に敵だとおもいますかーっ!?』
確かに見知らぬ人と戦う事に、不安に思うのは分ります
でも短い間でもお互いを見てきましたよね
互いに協力したり手を差し伸べられたりしませんでしたか?
それでも不安なら
もし不審な行動をする人がいたら声を上げて下さい、文字通り飛んでても助けにいくと約束します
だからそれまでは共に前を向いて進みましょう
●問うてみよ、敵に友に己の心に
「げほっ、ごぷっ……! 今のは確かに分が悪かった。ああ、認めようとも! だが『闇の救済者』はまだまだ数が居る……一部が駄目でも、他を取り込みさえすれば!」
強烈な一撃を受けて、領主の口の端より血の塊が零れ落ちる。喉ももうまともな状態ではないだろうに、相手はまだ諦めてはいないようだった。或いは弁舌を弄する者として、このまま負けっぱなしではいられないという意地か。命からがら追撃を振り切ったゲルペスは、まだ己が接触していない部隊の前へと姿を見せる。
「諸君、吾輩だ、領主のゲルペスだ! 少しばかり話を聞いてくれないか! 見ろ、この身は既に死に体だ。最後の頼みと思って耳を傾けてくれ!」
当然ながら兵士たちは武器を構えるものの、相手の演技も真に迫っていた。事実、死に掛けている事に間違いはないのだ。どうやら先の交戦時に叩きつけられた『嘘には適度に真実を混ぜたほうが信じ込ませやすい』と言う言葉を実践しているらしい。思わず、兵士たちの敵意が僅かに鈍る。
「『闇の救済者』軍の中に吾輩と内通して居る者は確かに存在する! そやつらは今も機を窺い、いやもう既に行動を開始している! だが、吾輩は恐らくもう助からぬ……故に道連れとして、その者の名を諸君らに教えよう!」
死と言う真実によって、領主は己の言葉に説得力を持たせていた。無論、このまま死ぬ気など更々ない。相手が仲間割れを起こしたところで抱き込むなり、その隙に逃げるなりしようという狙いである。ゲルペスはそのまま言葉を続けようとする、が。
「いや、あの……機を伺って襲うなら、きっと合流前の方が良いと思うんですが。そもそもとして、そちらの戦車も相当な被害ですよね?」
どこか困惑した様な口調の指摘がそれに水を差す。何者かと視線を走らせれば、そこに佇んでいたのはカイ。彼は相手の演技に乗せられることなく、小首を傾げながら疑問符を浮かべていた。
「それに戦車以外の人が襲ったのを見た人いますか? 幾ら戦闘の最中とは言え、これだけの人数です。どさくさに紛れて行動を起こしても、必ず見られてしまうと思うのですが」
「そ、それは言いだす切っ掛けが無かっただけで、思い当たる節がある者は多いはず……!」
「そうですか? なら聞いてみましょう」
飽くまでも裏切り者は存在すると主張するゲルペスに対し、カイはくるりと『闇の救済者』へと向き直る。彼は領主から見えないようさりげなく両腕を掲げると、その先から穏やかな燐光が溢れ出してゆく。それらは兵士たちの頭上へ降り注ぐと、優しく全身を包み込んでいった。
(個別に答えてもらっても、相手はきっと途中で遮ろうとしてくるはず。ならここは……)
相手からすれば、カイの行動は好ましくないはず。故に質問のタイミングを悟られぬ様に細心の注意を払いながら、青年は大きく息を吸い込み、そして。
「お、おい……聞くならば吾輩の話を!」
「隣に立つ人は、本当に敵だと、おもいますかーっ!?」
そう、シンプルに問い掛けた。その言葉へ呼応する様に光がより一層輝いたかと思うや、領主の演説によって浸透していた呪詛が兵士たちの中から弾き出されてゆく。
「確かに見知らぬ人と戦う事に、不安に思うのは分ります。でも短い間でもお互いを見てきましたよね。互いに協力したり、手を差し伸べられたりしませんでしたか? もし直接話したことが無くても、同じ目標に向かって努力する姿がそこにはあったはずです」
こうあるべきだ、きっとそうだ、であるに違いない。そんな結論ありきの押しつけがましい言葉ではない。カイはただ、兵士たちの心の中に在る記憶に呼びかけてゆく。そうした綾模様の中にこそ、彼らが見つけるべき答えがあると青年は知っていた。
「……それでも不安なら、もし不審な行動をする人がいたら。どうか遠慮せずに声を上げて下さい。文字通り飛んでても助けにいくと約束します。だからそれまでは、横を疑うのではなく、後ろを振り返るのでもなく」
――共に前を向いて進みましょう。
そうして、柔らかにほほ笑むカイ。そんな猟兵の姿に感化されたのか、兵士たちも口々に領主の言葉に対する否を叫び始める。大きなうねりとなった『答え』と共に青年が振り返ると、其処には既に領主の姿はなく……ただ、転々と続く血の跡だけが残されているのであった。
成功
🔵🔵🔴
リーヴァルディ・カーライル
…口舌で何とかするならば、戦端を開く前にすべきだった
既に武器を取り戦いが始まった以上、お前の言葉に何の意味も無いと知れ
"精霊石の耳飾り"を使い音の精霊の視角を頼りに敵の声の周波数を暗視してUCを発動
敵UCを打ち消す超音波のオーラで防御して敵の発言を受け流しつつ、
自身の言葉の存在感を増幅して仲間達へ伝え、
大鎌の刃に分子間結合を切断する超振動の魔力を溜めて切り込み、
怪力任せに大鎌をなぎ払う振動属性攻撃のカウンターを放つ
…奴の戯れ言に騙されないで
仮に奴の言葉が全て真実だとしても、今までの悪業が赦される道理は無い
…思い出しなさい。貴方達が何の為に戦うのかを。何の為に立ち上がったのかを…
●遅きに失する失言に報いを
「こんな筈では……こんな筈ではなかった。数が多ければ多いほど、我が弁舌によって状況を引っ繰り返せる余地があったはずなのだ。そうだ。こんな、筈ではぁ……ッ!」
転々と地面に紅の跡を残しながら、領主は息も絶え絶えと言った様子で館の中を逃げ回っていた。既に配下の大半は討ち取られ、あちらこちらで散発的な抵抗を行っているのみ。館の外はほぼ制圧されており、まだ入り組んだ屋内の方が逃げやすいと判断したのだろう。
まぁ、最も――。
「……口舌で何とかするならば、戦端を開く前にすべきだった。武力衝突を始めから回避するか、十分な戦力がある状態における戦術の一手に留めておいた方がまだ賢明と言える。だが既に武器を取り戦いが始まった以上、お前の言葉に何の意味も無いと知れ」
「っ!?」
『闇の救済者』軍の一般兵士なら兎も角、猟兵相手には無駄な抵抗と言わざるを得ないのだが。もはや柄を持つ握力も無く、襤褸布で強引に縛り上げた細剣を向けた先に居たのはリーヴァルディ。しかし切っ先を突き付けられても尚、彼女の視線は冷ややかなままだった。
「減らず口を抑えれば、まだほんの数秒でも逃げ延びられたものを」
彼女が此度発動させた異能は海泳ぐ獣の力をその身へ宿す事。特に音に秀でた種類である為、耳飾りに宿った精霊の発する音波を頼りに領主を探すつもりだったのだが、相手の様子はその手間すら省ける有様であった。カシャリと、敵に応ずるが如く猟兵も得物である大鎌を構える。
「武威に自信がないのであれば、精々囀ってみるが良い。私はその全てを踏み砕き、お前の首級を『闇の救済者』たちの前へ掲げて見せよう」
「きっ、くぅぅ……おおおおおおっ!」
もはや逃げ延びる事は不可能だと悟るや、ゲルペスは得物を手に挑み掛かって来る。相手は手負いだが、時として窮した鼠は猫を噛み殺す。慢心も油断も無く、ただ淡々とリーヴァルディは刃を振るい、敵の攻撃を受け流してゆく。
「吾輩も被害者だ! ただ弁舌が得意だったと言うだけで領主の地位を押し付けられ、領民の不満を受け止める生贄にさせられたのだ! 吸血鬼の暴虐と領民からの恨み辛みの板挟み……そう、これを被害者と言わずして何という!」
「同情はしてやろう、それが本当であればな。やらされたという割には血色が良く、纏う服も上等。十分な対価を得ていたようにしか思えん以上、十中八九嘘だろうが」
被害者を装って同情心を引き出そうと言う魂胆なのだろうが、それを主張するには些か以上に無理があり過ぎる。少女は無感情に答えながらも、異能の応用による超音波で相手の声を相殺。音量を小さくすることによって、呪詛による影響を最低限に抑え込んでいた。
「それでもまだ、その主張が通ると思っているのならば……良いだろう、試してみるが良い」
打ち合いの回数が十を超えた頃、鎌刃へ魔力を収束し終えたリーヴァルディは相手の攻撃合わせてカウンターを放つ。見た目に似合わぬ剛力で放たれしは、超振動による分断斬撃。ゲルペスも咄嗟に得物で防がんとするも、刀身を叩き折られながら館の外へと弾き飛ばされた。扉をぶち破って転がり出て来る領主の姿に、『闇の救済者』たちの注目が一気に集まる。
「私は、吸血鬼によって無理やり、働かされてきたのだ……諸君らは、憎むべき敵を、間違えては……!」
「……奴の戯れ言に騙されないで。仮にこの言葉が全て真実だとしても、今までの悪業が赦される道理は無い。取れる選択肢は幾つもあったのに、それを顧みなかったのだから」
瀕死の状態となってもなお演説を試みる領主。遅れて館より歩み出て来た少女は、そんな醜態を見下ろしながら小さくため息を吐く。敵から視線を外したリーヴァルディは、友軍の兵士たちへと向き直る。
「思い出しなさい。貴方達が何の為に戦うのかを……何の為に、立ち上がったのかを」
交わる視線の数々に、迷いや躊躇いの色はなかった。彼らはそれぞれの武器を手に取ると、ジリと領主へにじり寄る。
「おい待て、やめろ……吾輩に、近寄るなぁあああっ!?」
もはや抵抗する気力すらなく、男の叫びは殺到する兵士たちの中に飲み込まれてゆくのであった。
成功
🔵🔵🔴
シホ・エーデルワイス
嫌な予感が的中
あれは
古今東西全世界で普遍的に潜み
多様な価値観が集えば
少なからず発生する不協和音
あれは滅ぼせない
一時は退けても
他者との絆が弱まり猜疑心が芽生え
分かり合おうとしなくなった時
何度でも形を変えて現れる
ただ倒しただけでは痼りが残る
社会にとっての永遠の宿敵
【星奏】
聖銃の発砲音で敵の言よりも心に響く
優しい破魔の旋律を楽器演奏し
絆の賛歌を歌唱して
救済者達を鼓舞しつつ
敵を射撃
どうか忘れないで
苦難を共にした仲間との絆を
鵜呑みにしないで
仲間を貶める流言飛語を
気を付けて
曖昧な情報は不安になり易いから
信じよう
皆で力を合わせれば大丈夫
敵の攻撃は第六感と聞き耳で見切り残像回避か
激痛耐性のオーラ防御結界で防ぐ
●勝利の調べと、不吉な遺言と
「なぁぜだあああああっ! 何故どいつもこいつも、愚直に信じるだの何だのと! 寧ろ貴様らこそが、疑う事を知らん思考停止の家畜共だろうがあああっ!」
領主の邸宅に絶叫が響き渡る。追い詰められた結果、辛うじて保っていた紳士然とした建前もかなぐり捨て、壮年の男はただただ雄たけびを上げていた。既に全身へ幾つもの傷が刻み込まれ、瀕死寸前と言っても良い。それでもなお、領主ゲルペスは舌先を動かすことを止められなかった。
「吾輩に従えば、貴様らは繁栄できたのだ! 不穏分子を消し、同調せぬものを排除し、一つになってこそ人類は偉大なる種族になる……その唯一の機会を、貴様らはみすみす棒に振った! 何とも愚かで早計な選択だったと、いつか後悔するだろう!」
『闇の救済者』軍に包囲され、配置していた手勢は粗方討伐済み。もはや、逆転の一手はあり得ない。だが一方で、兵士たちもまた未だに不安感を拭い切れないでいた。無論、呪詛の影響は先の猟兵たちによって取り除かれてはいる。しかし本当にこれが正解なのだろうか。相手の言葉全てが真ではないにしろ、幾ばくかの理があるのではないか……そんな漠然とした懸念が胸中に蟠っていたのだ。
「嫌な予感が的中しましたね……あれは古今東西全世界で普遍的に潜み、多様な価値観が集えば少なからず発生する不協和音。人が人としての個を持ち、感情を備える以上、常に付き纏い続ける闇です」
シホは忌々しそうに眉を顰めながら、相手の在り様をそう分析する。実を言うと、あの男の様な人物はそう珍しくはない。近所の噂好きから一国の指導者まで、同じような性質を持った者は枚挙に暇がなく、だからこそ悩ましい存在だった。
「故に、あれは滅ぼせません。一時は退けても、他者との絆が弱まり猜疑心が芽生え、分かり合おうとしなくなった時……何度でも形を変えて現れる。皆さんの抱える心配は、恐らく間違ってはいないでしょう」
そう告げながら、シホはそっと領主を取り囲む輪の中へと歩み出る。その手に握られしは、黒白二挺の自動拳銃。彼女はその銃口を、敵ではなく頭上へと差し向けた。
「ただ倒しただけでは、必ず痼りが残る。社会にとって永遠の宿敵……だからこそ、その憂いを断ち、再来を少しでも遠退かせる為にも」
――心を籠めて奏で紡ぎましょう。
トリガーが押し込まれた瞬間、銃口より解き放たれしは幾つもの煌めきを放つ無数の色彩たち。それらは単なる火薬の爆発ではなく軽やかなる旋律を奏でながら、太陽も月も無き暗黒の夜を飛翔してゆく。
「例えいつか、疑いが胸に芽生えようとも……決して忘れないで、苦難を共にした仲間との絆を。鵜呑みにしないで、仲間を貶める流言飛語を」
それは鮮やかな色と旋律によって編み紡がれる弾幕結界。こうして共に戦ったこの瞬間を、いつまでも色あせることなく一人一人の心へ焼き付ける事が出来る様に。シホは次々と輝星を打ち上げる。
「どうか気を付けて、曖昧な情報は不安になり易いから。そして信じよう……皆で力を合わせれば、きっと大丈夫だから」
「何ともまぁ、御綺麗なモノじゃないか。吾輩を前にしてもう祝勝気分とは。随分な悪趣味と言わざるを得んね」
頭上に広がる幻想的な光景を眺め、ゲルペスはそう皮肉気に口の端を歪めた。刀身が折れ、刃毀れした細剣を拾い上げるやヒュンと軽く風を切る。すわまだ抵抗するのかと『闇の救済者』軍に緊張が走るが、それをシホは手で制した。
「……最後に、何か言い残すことはありますか?」
「わざわざ確認してくれるのか、何ともお優しい事だ。さて、恨み節ならば幾らでもあるが……それじゃあ、ふたつだけ。まず一つ目は祝辞を。おめでとう諸君、吾輩との戦いは君たちの勝ちだ」
男は切っ先をシホへと突きつけ、刺突の構えを取る。この状況下で届くとは彼も思ってはいないだろう。或いはそうする事が、領主としてせめてもの果たすべき責務と考えているのか。ゲルペスは瀕死の身体に鞭を打って挑み掛かりながら、次なる言葉を紡ぐ。
「そして、二つ目は……――」
「……っ!?」
相手の動きに反応し、無数の輝星が四方八方より降り注いだ。着弾地点で幾つもの光が爆発し、男の姿を覆い尽くしてゆく。果たして閃光が収まった時……甘言を弄す領主の姿は跡形もなく消え去っていたのであった。
「俺たちは勝った、のか? これで本当に、終わり?」
「ああ、そうだ。これで戦いは御仕舞いだ……俺たちは勝ったんだ! それも生き残った上でだ!」
始めはポツポツと、次の瞬間には堰を切ったような大歓声が沸き起こる。武器を掲げる者、互いに抱き合う者、感極まって泣き崩れる者。誰も彼もが全身を使って、喜びを表していた。それを微笑ましく思う一方、シホの表情は未だに硬いままだった。
(……やはり、来ましたか)
その原因は領主が最後に残した第二の言葉。耳にこびりついて離れない、その不快な音の羅列は。
――『人族鏖』の紋章を授かった騎士が、もうすぐそこまで来ているぞ?
そう、彼女へと告げていたのだった。
大成功
🔵🔵🔵
第3章 ボス戦
『深淵に沈みし騎士』
|
POW : 蝕まれし聖光の剣
【聖剣の力を解放し、極光放つ聖剣のなぎ払い】が命中した対象にダメージを与えるが、外れても地形【を崩壊させながら深淵が広がり】、その上に立つ自身の戦闘力を高める。
SPD : 闇に翳る残光
レベル×5本の【破魔の光】属性と【深淵の闇】属性の【朽ちた聖剣から剣閃】を放つ。
WIZ : 今は歪みし聖裁
【触れたすべてを蝕む深淵の闇】が命中した対象に対し、高威力高命中の【闇に蝕まれた者を滅する聖なる光】を放つ。初撃を外すと次も当たらない。
イラスト:ハギワラ キョウヘイ
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴
|
種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠アルトリンデ・エーデルシュタイン」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
※マスターより
三章断章は24日(水)ないしは25日(木)の夜頃に投下予定です。
引き続きどうぞよろしくお願い致します。
●人族鏖殺の騎士、来たる
――領主『不和と分断を煽る者』ゲルペス・ボーツマン、討たれる。
その一報が『闇の救済者』全軍へと駆け巡った瞬間、天が割れんばかりの大歓声が響き渡った。高らかに武器を掲げ叫ぶ者、感極まって泣き崩れる者、傍らの友と抱き合う者。その場に居た者はみな、自分たちが手にした『勝利』の意味を全身で噛み締め、表し、そして何よりも歓喜している。犠牲と引き換えに一矢報いたのではない。不意を突いて辛うじて目的を果たしたのでもない。真っ向から吸血鬼勢力の一角とぶつかり合い、完全に打ち破った……この世界に生きる人々にとって、その事実は計り知れない程の意味と重みを持つのだ。
無論、彼らの戦いはこれで終わりではない。奪取した領地の整備や受けた被害の回復、人類側の反抗を潰さんとする周辺勢力への対処など、やるべきことは山積みである。しかし今だけは何もかもを一先ず横へ置き、勝利を祝う権利が『闇の救済者』たちにはあった。
だが……その輪の中に、猟兵たちの姿はない。彼らがそっと喜びの中より抜け出したことに気付いたのは、恐らく指揮官級の者たちくらいか。さりげなく敬意を表してくれる彼らに見送られながら、館の裏手へ回るとそこから続く道をひた駆けてゆく。
平原を貫く、荒れ果てた旧い街道。連戦で疲労した身体へ鞭を打って走る猟兵たちの脳裏には、晩鐘の如く危機感が鳴り響いていた。言い知れぬ焦燥に突き動かされ、前へ、ただひたすらに前へと突き進んでゆく。そして、その果てに――。
「……ふむ。貴様らが姿を見せたという事は、ボーツマンはやはり死んだか。半ば予想していたとは言え、少しばかり意外だったな」
街道上に、一人の騎士が佇んでいた。ぱっと見、その外見は極めてみすぼらしい。元は煌びやかな装飾が施されていたと思しき甲冑は朽ち果て煤け、手にした剣は切っ先が半ばよりへし折れている。しかし、その身に纏う威圧感は先の領主とは比較にならないほど強烈だった。それは幾層にも重なった巌とも、水銀の如き重さを持つ清流とも評せる。だが猟兵たちがまず真っ先にイメージしたのは、これまで交戦して来た『辺境伯』や『第五の貴族』……つまりは『紋章』持ちのオブリビオン。その直感を裏付けるかのように、コツコツと騎士は己の左胸を指先で叩く。
「深き淵へと沈んだ我が身に名乗れる銘など既に残ってはいないが、それでも一角の戦士に礼を失する訳にもいくまい。貴様らの予想通り、我こそは『第五の貴族』より『殺戮者の紋章』を与えられた騎士也。下されし命は……人族鏖(じんぞくみなごろし)である」
そう、この騎士こそゲルペスが死に際に告げた刺客。単騎で『闇の救済者』軍を全滅させ得る実力を持った、正真正銘の強者であった。数多の戦車と愚言を弄する領主、それら全てを容易に凌駕する絶対的な個。眼前の相手を万が一通してしまえば、一瞬にして手にした勝利が雲散霧消してしまうと猟兵たちは瞬時に理解する。故に、その場に駆けつけた者たちは我知らず武器を構え、術式を編み、思考を巡らせてゆく。全力で当たらねば敗北は免れ得ぬ相手だと、経験が警鐘を鳴らしていたのだ。
「あのボーツマンのことだ。あれやこれやと喚き散らし、貴様らの神経を大いに削ったのだろう? 安心しろ。ここから先は……剣火を以てのみ語らうとしよう」
猟兵たちへ応ずるように騎士もまた得物を構える。確かな鍛錬を感じさせる、隙の無い動き。もしかしたら、その所作に蒼黒き剣士の面影を見る者も居るかもしれない。しかし扱う技術がなんであれ、一瞬でも気を抜けば地へと斃れるであろう事は間違いなかった。
きっと、『闇の救済者』軍の兵士たちがこの戦いについて知ることは無いだろう。
故に感謝も無く、賛辞も無く、栄光もまた得られない。
決して明かされぬ、大団円の裏側。
だが、それでも……やらねばならぬ。
遂に燃え上がった反抗の篝火を、むざむざ消させる訳にはいかないのだ。
――さぁ、猟兵たちよ。
勝利に勝利を重ね、絶対の希望をこの世界に打ち立ててくれ。
※マスターより
プレイング受付開始は27日(土)朝8:30~からとなります。
28日(日)が諸般の事情により潰れる見込みの為、期間を置いて再送のお願いをする事になる見込みです。4月3、4日頃での完結を目指して進行出来ますと幸いです。
という訳で第三章は『殺戮者の紋章』を授けられた騎士とのボス戦となります。戦場は第一章と同じく平原、相手は文字通り一騎当千の実力を持った強敵です。これまでの紋章持ち同様、左胸に宿った紋章が弱点となります。
それでは引き続き、どうぞよろしくお願い致します。
秋山・小夜
アドリブ・絡み歓迎
ようやっと本丸が出てきましたか。まぁ、遠慮なくつぶすだけなんですけれども。
妖刀夜桜を腰に差した状態でUC【桜月夜】を発動、直後に右手に二〇式戦斧 金剛を展開し、紋章を主に狙っていく感じで砲撃と斬撃を混ぜた一撃離脱を仕掛けていくことにします。
なんかよくわからないですけど、騎士が相手ですからね、こちらも速度と重量で対抗しますよ。
もちろん、本気で潰しにかかるとしますけどね。
(可能なら、使用していない武器を散らしてUC【千本桜】を発動できたらと思います。)
●砲火斧刃、武威に舞うは桜花
(ようやっと本丸が出てきましたか。まぁ、こちらとしてはやるべき事は変わりません。遠慮なくつぶすだけなんですけれども……はてさて、相手の実力は如何ばかりでしょうか)
最初の対戦車戦と同様、まずいの一番に先陣を切ったのは小夜であった。ジリと彼我の間合いを図りつつ、彼女は相手の様子を窺ってゆく。『紋章』による底上げは勿論あるだろうが、元々の実力自体も高いであろうことが僅かな所作からも読み取れる。
「であれば、まずは一手。どの程度強さなのかを図るとしましょう……夜桜」
力量定からぬ相手に切り込む事は当然ながら危険の多い行為だ。されど少女は気負う事無く、流れるような動きで手を腰元へと向ける。そうして指先が妖刀の柄に触れた瞬間、小夜の身体は予備動作なしで弾丸の如くその場より飛び出した。
「ほう、中々に早い。得物は斧、いや……これは砲か」
「一目で見抜くとは、それなりに観察眼はあるようですね。まともに受ければ武器は愚か鎧すらも軽々と貫徹する口径ですよ?」
猛然と踏み込んで来る猟兵に対し、騎士は言葉尻に疑問符を滲ませながら剣を構える。相手の疑念が確信へと変わるより先に小夜は戦斧の柄を握り込むや、刃の中に隠された発射孔より砲弾を撃ちだした。だが相手も砲撃に合わせて足を引き半身の前後を反転させると、くるりと上弦軌道に刃を翻して鉄の塊を苦も無く両断してゆく。
「大砲仕込みの斧とはまた珍しい得物を扱うものだ。威力は申し分ないだろうが、使い手を選びそうだな」
「いえ? 私としては特に不便は感じませんね……この通りに、です!」
だが、砲弾の種類は徹甲榴弾。斬られると同時に誘爆し、騎士の全身を鉄片と衝撃で蹂躙してゆく。直撃ほどの威力は期待できないが、相手の身動きを封じると同時に爆煙で視界を塞ぐ事に成功。その隙に小夜は大きく側面へ回り込むと、今度は斧刃を横薙ぎに叩き込んだ。
「全身を金属鎧で覆った騎士が相手ですからね。生半可な攻撃が通用しない以上、こちらも速度と重量で対抗しますよ? 強引に防御を抉じ開けて、紋章を叩き潰せれば初手としては上々でしょうから」
「なるほど、なるほど。言葉に違わぬ重さと身軽さだ。本来は両立しがたい要素をこうも強引に取り入れるとはな。ならば我は手数にて対抗してみるとしよう」
だが、斧刃の一撃は敵の構えた長剣によって紙一重で阻まれていた。見た目はボロボロだが、決して鈍らという訳ではないらしい。その刀身からジワリと黒白の輝きが滲み出たと思うや、大斧を弾き返しつつ百を優に超える斬撃が小夜へと襲い掛かる。
(手数勝負と言いながらも、一発一発の威力は十分必殺に値する……一撃離脱に徹して正解でしたね)
小夜は紋章を重点的に狙いつつ、決して深追いしないと交戦当初から決めていた。そのお陰もあり、襲い来る多重斬撃から辛くも逃れる事に成功する。身体を掠める黒白の刃によってうっすらとあちこちに紅が滲むものの、直撃する攻撃は斧刃と砲撃で相殺してゆく。とは言え、これでは近づく事すらままならない。
(このままでは千日手。余り時間を掛けるのは得策ではないでしょう。そろそろ、頃合いですが……っ!?)
どう攻めたものかと思案する小夜だったが、斬られた傷口に違和感を覚えた。ちらりと視線を向けるや、血の紅に交じるはドロリとした漆黒。彼女はそこから騎士の握る聖剣へと繋がる魔力の流れを感じ、それが何を意味するのか瞬時に悟る。
「これは……誘導ですか」
「然り。先の攻撃に混ぜておいた深淵の欠片。それを辿り走るは、かつて帯びし聖光の一端である。さぁ、受け取るが良い」
長剣から迸る凄まじい魔力。それが攻撃へと転化されれば、無事では済むまい。必殺必中の一閃を放たんと騎士が得物を振り被り、そして――。
「すみませんが……手数についてはこちらも策がありましてね?」
「なに……ぐっ!?」
斬撃が放たれる。だが剣閃は僅かに逸れ、小夜を掠めるだけに留まった。それだけでも強烈な威力だが、直撃するよりは遥かにマシだろう。一方、騎士は苦し気に身を捩っている。甲冑の隙間より零れ落ちるは、一片の花びら。
「これは……腰に差した刀が変化したもの、か。大斧ばかりに注目していたが、そちらが消えていた事にも気付くべきだったな」
騎士が視線を向けるのは、猟兵の腰に吊られた空鞘。小夜は初手の砲撃が防がれ、斧撃を叩き込むまでの間に妖刀を花びらへと変え、相手の鎧の隙間から内部へと侵入させていたのである。
「本来なら正攻法で攻略したかったのですが、手段は選んでいられませんからね。これも戦場の習いです」
だが直撃を避けたとはいえ、相手の一撃は苛烈を極めていた。少女も無事では済まず、装束が血に濡れてゆく。だが小夜は初手のぶつかり合いにて相手の手の内を明かさせることに成功し、見事に己が役割を果たしたのであった。
成功
🔵🔵🔴
ブラミエ・トゥカーズ
余の様な暗がりの生き物に貴公の光は眩しすぎるわけであるが。
白木の杭ではないがその剣ならば余とて危険であろうな。
騎士に対して相応の儀礼をもって対応。
まずは剣をもって戦う。
身体能力まかせの力技。
聖剣では死にはしないがかなり痛い。
【SPD】
人の真似をした茶番はお互い止めとしようか。
霧に変化し、薄く広くなる事で剣閃の被害面積を減らす。
少量体内に飲込ませ幻覚を付与。
蝙蝠の群れに変化し、高速でひっかきや噛み傷など軽傷をあたえ、
血行不良を促進。
剣閃の命中、回数が低下させる。
狼に変化し、騎士に絡み付く事で剣の間合いの内側から攻撃。
すまぬ。
言い忘れていたが、変化した余は不死である。
驚いてくれたかな?
アレ絡歓迎
●異形を討つは騎士、されど――。
「ふむ……これは予想外だったな。良い意味でも、悪い意味でもだ。侮ったつもりは無いが、早々にこちらの手札を暴かれるとは」
ガシャリと鎧を響かせつつ、騎士は左胸を擦りながら体勢を整えてゆく。黒白の斬撃群と深淵を目印とした極光、己が異能の二つを使用させられたにも拘らず、相手の口調にはどこか面白がるような雰囲気が滲んでいた。
「しかし見せ札という言葉がある様に、札を捲ってみたところで安心は出来んな。特に余の様な暗がりの生き物に、貴公の光は眩しすぎるわけであるが……白木の杭ではないが、その剣ならば余とて危険であろうな」
一方、先陣を切った仲間に引き続いて姿を見せたブラミエは、敵へと向ける視線に僅かな警戒を滲ませている。これまでの彼女は己が『吸血鬼』の特性を存分に活かした立ち回りをしていた。それは正しい弱点、手順でなければ己を弑せないという余裕があったが故。翻って見るに、相手の握る得物はそうした数少ない有効打の一つである事は明白だ。
(光だけでなく『深淵』と言う闇も内包している、か。半ばこちら側に足を突っ込んでいるのも厄介さに拍車を掛けているな。だがかと言って、攻め手を変えるのも性に合わん)
『吸血鬼』と言う属性はブラミエの存在理由と言って良い。不利だからと言って曲げられる様な物では無いし、そもそもそんな選択など彼女の矜持が許さないだろう。である以上、弱みを超える強みで押し切るだけだ。黒き貴族はスッと、腰に差した二振りの剣を鞘走らせる。
「聖と不浄を手繰る者は、何も貴公だけに限らんぞ。まずは騎士殿に敬意を表し、我が刃を以て相対するとしよう」
「これは親切誠に痛み入る。ならばこちらからも返礼だ。先手は譲る故、どうぞ好きに打ち掛かって来ると良い」
字面だけ見れば極めて慇懃な応答だが、その意味するところは挑発だ。今の発言を翻訳すれば、『先ほどは自分が手の内を見せたのだから、今度はそちらから明かして見せろ』となる。そう言われてもし少しでも臆した素振りを見せれば、貴族としての沽券に関わるというもの。
「では……その言葉に甘えさせて貰おうか」
小さく肩を竦め薄く笑みを浮かべた瞬間、ブラミエは一気に敵の間合いへと踏み込んだ。人外由来の膂力と瞬発力を存分に活かして攻撃圏内へと捉えるや、力任せに得物を振り抜く。
「大上段からの切り降ろし……ならば、これだな」
対して、騎士は切っ先を猟兵に突き付ける形で大上段に構えると、斜め前方へとステップを踏む。『雄牛』と称される構えから放たれたのは、高めの水平回転切りだ。振り下ろされる双刃を圧して軌道を逸らしつつ、側頭部目掛けて斬撃を叩き込む。
「っ! 異能ではなく、純粋な術理か。嫌いではないが、かなり痛いな」
「今のをかなり痛いレベルで済ますとは。こちらの自信が揺らいでしまうぞ?」
だが当然、吸血鬼は耐久性も尋常ではない。猟兵は構う事無く攻撃を続行し、騎士もまたそれをいなしてゆく。猟兵の身体能力は驚異的だが、戦況は技量に優る騎士側がやや優勢といった所か。ある程度打ち合った所で、義理も此処までだとブラミエは一旦距離を取る。
「これでは埒が明かんな。そろそろ、人の真似をした茶番はお互い止めとしようか。如何な強固な鎧とて、霧までは防げまい」
ある意味で今からが本番だ。吸血鬼は人の形を脱ぎ捨てると、己の肉体を霧へと変化させて騎士へと襲い掛かった。物理攻撃を無効化しつつ、甲冑の隙間より入り込むや相手の肉体を蝕み始める。
「なんだ、貴族芝居はもう終わりか? だが、これでこちらも遠慮は無しだ」
ならばと、騎士もまた異能を解放し無数の斬撃で霧を吹き散らさんとする。しかしその瞬間、それらは無数の蝙蝠へ変化したかと思うや、斬撃を回避しながら爪や牙を突き立ててゆく。相手も動ずることなく迎撃を試みるものの、いきなりガクンとその動きが鈍り始めた。
「これは毒……否、疫病の類か。蒼き血の如き外見をしていると思えば、流れていたのは赤黒い穢血とはな!」
「すまぬがそういう訳だ。加えて言い忘れていたが、変化した余は不死である。さて、驚いてくれたかな?」
気付いた頃には時既に遅し。騎士は牽制がてらに斬撃を放つものの、精度威力共に精彩を欠いていた。その好機を見逃さず、ブラミエは狼へと姿を変えて四方八方より相手へと襲い掛かる。それらの牙に宿るは狂乱を齎す病。相手の身体能力も尋常ではないだろうが、今暫くの弱体化は免れないだろう。
病毒さえ巡り切れば、もう長居は無用だ。余計な反撃を喰らう前に、吸血鬼は挑発交じりの問い掛けだけを残し悠然と後退してゆくのであった。
成功
🔵🔵🔴
メフィス・フェイスレス
いかにも自分がメインディッシュですと言わんばかりのツラね
【宵闇】で空に飛び攻撃と地形破壊を回避
【飢渇】のオーラ防御を展開し闇に紛れて【微塵】爆撃弾幕の投下で攪乱、追撃をかわす
元からあの領主より強い力を感じてたけどあの深淵に立ってからさらに強大になってる
なら、地に足を付けさせなければ良い話よね
爆風に紛れダッシュで接近し【骨身】で斬りかかり、敵の武器受けを誘いすれ違い
その隙を突いて不意打ちで【尾刃】を巻き付け怪力で空中に投げ飛ばす
空中の敵に突撃する事で迎撃を誘いUC発動
巨大化した【顎門】で敵の攻撃を捕食
展開した【飢渇】と己の躰からコピーしたUCを乱れ撃ちする
私達にとってはアンタすらも前菜なのよ
●輝きすら喰らえ、満ちぬ飢餓よ
「病毒まで扱うとは、全く以て厄介極まりない。だが、この手に握られしは朽ちれども聖剣と謡われた一振り。浄化の手妻ならば備えている……尤も、げに恐ろしきはそれでも癒しきれぬ病巣の深さか。全く、底の見えぬ連中だな、猟兵とやらは」
小さく咳き込む騎士、その相貌を覆う兜の口元からは紅が微かに滲んでいる。紋章によって強化された身体能力と聖なる武具の威を以てしても、身体を蝕む病原体を駆逐する事は叶わないらしかった。とは言え、それだけで倒れてくれるほど軟な相手でない事は、猟兵とて百も承知だ。
「上から目線でこっちの力量を寸評とは、随分と余裕じゃない。いかにも自分がメインディッシュですと言わんばかりのツラね」
間違いなく相応にダメージを与えられてはいる。それでもなお余裕綽々と言った様子の騎士に、メフィスは呆れたと苛立ちの混じった溜息を漏らす。相手にとって、ゲルペスもその配下の戦車隊も、替えの利く駒に過ぎないのだろう。だが、それも当然かもしれなかった……この騎士たった一人で、領主を圧倒した軍勢を容易く鏖殺できるのだから。
「メインディッシュか。これはまた独特な表現だ。であればそれを前に、貴様は如何にする?」
「はっ、そんなの決まっているじゃない」
――残さず余さず食い尽くすだけよ。
そう言い放つと同時にメフィスが大きく身を捩ると、継ぎ接ぎだらけの身体がボコりと盛り上がる。騎士もまたそれが何らかの予備動作であると見抜き、形を成す前に打ち崩さんと瞬時に聖剣を振り抜いた。刀身の内側より溢れ出した輝きが俄かに膨れ上がったかと思うや、剣閃に沿って世界が白に塗り潰されてゆく。
「……鳥でもないのに空を飛ぶ、か。つくづく飽きさせてくれぬな」
草原を舐める様に広がる白き破壊。そして、その浸食から間一髪上空へと逃れた黒き影。騎士が籠手を翳して上空を見やると、それは骨で出来た翼で飛翔する死人の姿であった。敵の頭上を旋回しながら、メフィスは眼下の光景に眉根を顰める。
(地形ごと斬り飛ばすなんて、馬鹿げた威力ね。それに元からあの領主より強い力を感じてたけど、生み出した深淵に立ってからは更に強大になってる。あの状態の相手に真正面から挑み掛かるのは愚策でしかないわ)
光が消えた後に現れたのは破壊された地面ではなく、黒々とした沼を思わせる深淵の闇であった。常人が迂闊に踏み入ればたちまちの内に足を取られかねない様相だが、騎士はさして困った様子も見せずに佇んでいる。それどころか、放たれる威圧感は先ほどの比ではない。差し詰め深淵へと変貌した部分は、相手が切り取った領土といった所か。
(なら……地に足を付けさせなければ良い話よね!)
メフィスは空中でくるりと身体を反転させると、羽ばたきと共に無数の黒粘塊を降り注がせ始めた。それらは全て、爆発物と化した己が飢餓衝動である。着弾と共に爆ぜ飛ぶと、深淵を吹き散らして相手の視界を狭めてゆく。
「兜と言うものは頑丈だがどうにも視野が狭い。この程度の爆発なら然程の脅威にならんとは言え、地味に厄介だな。況や、相手が空を飛ぶ手合いとくれば猶更か」
騎士は得物を右肩口へ垂直に構え、どこから猟兵が来ても良いように迎撃態勢を整える。果たして爆撃が止んでから一拍の間を置き、深淵すれすれを飛翔しながらメフィスが吶喊を仕掛けて来た。
「頭上と見せかけて水平方向より回り込んだか。だが、それも想定の内!」
「そう? なら、これもお見通しよねッ!」
飛翔速度を乗せた骨の武具と、朽ちた聖剣がぶつかり合う。そのまま両者は入れ違う様に交錯するかと思いきや、グンと騎士の身体がくの字に曲がった。ハッと視線を巡らせれば甲冑に巻き付く骨尾。それは確かめるまでもなく、メフィスの腰部へと繋がっている。
「そお、れぇっ!」
彼女はそのまま力任せに相手を引きずり倒し、勢いよく空中へと放り投げた。こうなれば深淵による強化は見込めまい。だが相手もされるが儘である筈もなく、聖剣に再び光を収束させ始める。着地までの時間を稼ぐために、斬撃を放たんとし――。
「随分と力技だが、ある意味での最適解か! だが、こちらもそう易々とは……!」
「いいな……それ、欲しい」
バクリと、瞳と牙を内包した粘液が解放前の輝きを貪った。内部を焼き尽くされながらも極光を吸収し終えると、メフィスの全身から同種の光が噴き上がり騎士へと叩き返されてゆく。消化しきるまで、およそ一分半。その間だけ、死人は敵の力を得る事に成功したのだ。
「メインディッシュ? 馬鹿言わないで。私達にとってはアンタすらも前菜なのよ、この世界を解放する為のね!」
そうして相手が地面へと落ちるまでの数瞬、メフィスはあらん限りの輝きを以て騎士を蹂躙してゆくのであった。
成功
🔵🔵🔴
フィーナ・ステラガーデン
アリシアと参加
ん!ぶっちゃけ他の人がいない方が戦いやすくていいわね!
え、影の剣士!?何それアリシア!
そんなあだ名あったの!?格好良いわね!!
ってわけで最終戦ね!
いつもどおり属性攻撃でアリシアの援護したりしつつ戦うわ!
どうにも炎の通りが悪いわね!確か紋章を狙えばいいのよね?左胸ね!
騎士の聖剣の一撃に合わせてUCを発動させるわ!
熱線の狙いは聖剣よ!灰に変えることは難しくても一瞬の隙を作り出すことくらいは出来るんじゃないかしら!
後のトドメはアリシアに任せるわ!
ところでこの戦い、誰も見てないなら報酬でないのかしら?
お腹すいたわ!!
(アレンジアドリブ大歓迎!)
アリシア・マクリントック
フィーナさんと参加
堕ちたとはいえ相手は騎士。相応のおもてなしをしないといけませんね。こういうのはどうでしょうか?変身!スカディアーマー!
影の剣士・アリシア=マクリントック、見参!民を護るは力あるものの定め。いざ勝負です!
戦いがあったことすら悟らせないことこそ守り手として至上。我が誇りにかけて、あなたの悪しき力はここで全て受け止めてみせましょう。
相手の攻撃に合わせての反撃でこちらの剣も確実に当てていきます。
立つのも辛くなるほど傷ついてからが影の剣士の本領。光あればこそ影はより濃くなります。あなたの光が生み出せし影の力受けてみよ!『傷こそ我が力なり』!
●深淵に沈む聖光、疾影と踊りし煌焔
「……なるほど、なるほど。ボーツマンを不甲斐なしと哂ったのは早計だったか。僅か三戦でこれとは。愉快ではあるが、楽しんでばかりもいられんな」
地面へと叩き落された騎士が、首を振りながら身を起こす。猟兵と言う敵手が強い事は肌身で感じていた。しかし、その方向性は千差万別。紋章持ちは面白そうに喉を鳴らすが、その動きからは遊びが消えてゆく。業腹だが、相手からすれば準備運動が終わった程度の認識なのかもしれない。だが、それならそれで結構。
「ん! ぶっちゃけ他の人がいない方が戦いやすくていいわね! それにこっちはもう既に嫌ってほど体を動かした後よ! つまり、最初から全力全壊! スタートダッシュからして勢いが違うのよ!」
ダンッと地面を踏みしめて、真っ向から相対するはフィーナ。戦車軍団と弁舌領主を討ち果たし、既に彼女のエンジンは十二分に温まっている。解放の瞬間を待つ熱量は全身を駆け巡り、少女の身体からうっすらと陽炎を立ち昇らせる程だ。
「堕ちたとはいえ相手は騎士、ですか。であれば敵とは言え、相応のおもてなしをしないといけませんね。そちらに合わせて、こういう趣向はどうでしょうか?」
一方、その横に立つアリシアは相手の姿を見てスッと目を細める。相手は奇を衒わない、ある意味で騎士らしい騎士だ。それ故に弱点や短所を突く戦法は幾らでも思いついたが、彼女は敢えて同じ土俵に立つことを選ぶ。それは相手に対する敬意故だが、無論勝算あっての選択だった。
「変身! スカディアーマー!」
掛け声とともに、令嬢の全身が漆黒の装甲に覆われてゆく。それは先の戦闘で纏った鎧と比べ、防御を重視したタイプに見える。或る神話において武の頂点に立った女傑、その名を冠した甲冑は銘に恥じぬ重厚感を備えていた。
「影の剣士・アリシア=マクリントック、見参! 民を護るは力あるものの定め、高貴なる義務! さぁ、いざ尋常に勝負です!」
「え、影の剣士!? 何それアリシア! そんなあだ名あったの!? なんだか凄く格好良いわね!!」
手にした刃の切っ先を相手へ突き付け、そう高らかに名乗りを上げる貴族令嬢。そんな仲間の姿に、紅蓮の魔女はキラキラと目を輝かせる。アリシアは相変わらず毅然としているが、ほんの少しだけ頬が紅いのは気のせいだろうか。ともあれそんな猟兵たちの遣り取りを眺め、騎士はゴリと兜越しに頭を掻く。
「……ランツクネヒト曰く『戦の伊達衣装は死に際の愉しみ』か」
「生憎と死ぬつもりはありません。戦いがあったことすら悟らせないことこそ、守り手として至上の結果。我が誇りにかけて、あなたの悪しき力はここで全て受け止めてみせましょう」
「であれば、それを大言壮語で終わらせてくれるなよ? そんなものはボーツマンだけで十分だからな」
騎士は手にした刃にどろりと汚泥の如く漆黒を纏わせるや、纏った金属の重みを感じさせぬ軽快な動きで踏み込んで来た。振り下ろされる左斜め上からの斬り降ろしに対し、アリシアは柄が特殊な形状をした突剣を盾代わりとして受け流す。
(傷つく事は最初から織り込み済みですが、下手に受ければ一撃で戦闘不能にまで追い込まれる……さじ加減が少しばかり難しいですね)
威力を殺しても尚、衝撃に手が痺れる。狙いを果たす為にもダメージレースは上等だが、その前に斃れては意味がない。刀身に纏わされた深淵さえどうにかなれば、まだ戦いやすくなるだろう。そんな仲間の意図を瞬時に見抜き、すかさず援護に動いたのはフィーナだった。
「深淵だろうが何だろうが、ようは魔力の一種みたいなもんでしょう? だったら、私に焼けない訳はないわね! そもそも、炎が闇に負ける道理はないもの!」
彼女は杖を突きだすや、躊躇なく立て続けに火球を放ってゆく。炎の熱が漆黒を焦がし、煌々とした輝きが闇を焼き払う。それによって刀身を覆っていた深淵が消滅するものの、当然ながら敵のみならず至近距離で切り結んでいたアリシアも巻き込んでしまう。しかし、フィーナが攻勢を緩める様子は無い。荒れ狂う焔は漆黒の装甲表面へ触れた途端、吸い込まれる様に掻き消えていたからだ。
「無力化、相殺……或いは吸収か?」
「こらっ、余所見してるんじゃないわよっ!」
騎士は爆炎にさして堪えた様子も無く、眼前の現象に疑問符を浮かべる。一方、相手にこちらの狙いを見抜かれてはならぬとフィーナは益々苛烈に爆炎を叩きつけてゆく。だが、甲冑越しには今一つ効果が薄いらしい。騎士は装甲表面より深淵を滲み立たせ、焦熱を緩和していたのだ。
「どうにも炎の通りが悪いわね……なら、やっぱり紋章を重点的に狙うべきね! 確か場所は左胸だったかしら! そこなら流石に通るはずよ!」
そこで魔女は火球の狙いを騎士の胸元へと絞り始めた。すると相手は左足を後ろへと引き、防御の構えを取り始める。手首のスナップを利かせ、直撃弾のみを斬り捨ててゆく。無論、遠間からの攻撃故に命中精度はそこまで高いとは言い難い。しかし眼前の敵と斬り結んでいる最中に間断なく攻撃が飛び込んでくるのも、それが脅威かどうかは別として非常に鬱陶しいものだ。
「……どうやら、幾つもの意味で援護役を先に叩いて置いた方が良さそうだ。こういった大味の技は余り好みではないのだがな。この極光を焼き切れるかどうか、是非とも試して貰おうか」
騎士は聖剣の柄を両手で握り締めると、背に付かんばかりに大きく振り被る。瞬間、堰を切ったように膨れ上がった光が刀身を形成。一時的にではあるが、かつての姿を取り戻す。
「受けるが良い。これが全てを塗り潰す輝き也」
そこから放たれる一撃は正しく必殺。例え外れたとしても世界そのものを歪めて破壊し、全てを深淵へと沈めるだろう。そんな白き絶望を前に、しかしてフィーナは深く静かに息を吸い込んでいた。先ほどまでの荒々しき『動』とは打って変わった、研ぎ澄まされた『静』。相手が柄を握る手へ力を籠めた瞬間、魔女はカッと目を見開くや――。
「……そこよッ! いっけぇえええええっ!」
抜き撃ちの如く、杖を構えた。刹那、その先端より迸った一条の紅が、白き津波を斬り裂いてゆく。面ではなく線へと圧縮された膨大な熱量が、波濤の如き光を貫いたのだ。先の発言も相まって咄嗟に騎士は左胸を防御するが、フィーナの目標はそこではない。狙うは攻撃の源である、聖剣そのもの。
「っぅ、狙いはこちらの得物か……! だが朽ちても聖剣、この程度で溶け墜ちるほど軟ではないぞ?」
「ええ、悔しいけど灰に変えてやるのは難しいでしょうね! でも、一瞬の隙を作り出すことくらいは出来るんじゃないかしら! トドメは任せたわよ……」
――アリシアッ!
その呼び声に応じ、紅と白の光を突き破って黒き鎧が騎士の眼前へと飛び込んで来た。魔女が相殺したとはいえ、斬撃の余波は令嬢の全身を散々に蹂躙している。だが、これこそが最上。斃れるか斃れぬか、そのギリギリの傷こそが彼女の欲していた条件なのだ。
「立つのも辛くなるほど傷ついてからが影の剣士の本領。光あればこそ影はより濃くなります。貴方の光に加え、フィーナさんの炎も合わされば猶更です。さぁ、二つの光が生み出せし影の力、とくと受けてみよ!」
――傷こそ我が力なり(スカー・バスター)!
己が受けたダメージを威力へと変換し、更には呪詛を上乗せして叩き返す、因果応報の刺突。騎士も咄嗟に応戦しようとするが、常ならばまだしも構えを崩された状態で対応する事は至難の業であり。
「影国の女王とはよく言ったものだ……見事也。ここはいったん仕切り直すとしよう」
左胸を貫かれると同時に、騎士は勢いよく後方へと吹き飛ばされていった。足が地を離れ、放物線を描きながら平原の向こう側へと消えてゆく。追撃するのも一手ではあったが、攻撃の前段階として些か以上に傷を負い過ぎていた。ぐらりと身体を傾がせるアリシアを、駆け寄って来たフィーナが慌てて抱き支える。
「だ、大丈夫かしらアリシア!?」
「ええ、何とか。ただ、土壇場で詰め切れませんでしたね。咄嗟にわざと後ろへ飛んで、威力を殺されてしまいました。一応、呪詛は流し込めましたが……」
「ううん、それでも十分よ! よくやってくれたわ!」
ともあれ、役目は十分に果たせた。続きは他の猟兵に任せても問題はないだろう。そうなると途端に緊張の糸が途切れ、くぅと小さく魔女のお腹が鳴る。戦闘に続く戦闘で、胃袋の中はとっくに空っぽだ。
「……ところでこの戦い、誰も見てないなら報酬でないのかしら? とってもお腹すいたわ!!」
「領主討伐だけでも大戦果ですから、何かしらのお礼は貰えると思いますよ。そうでなくとも、祝勝の宴くらいは催されそうですしね?」
二人で顔を見合わせ、クスリと笑みを零し合う二人の少女たち。戦いの行方は未だ定からぬ。然れども、燃え上がったこの篝火が消えることは無いと、彼女たちは確信を以て信じられたのであった。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
仇死原・アンナ
アドリブ歓迎
…何も言うまいぞ
希望の篝火を護る為に…貴様を斃すッ!
我が名はアンナ!処刑人なり!
[覚悟]を胸に宿し、仮面を被り真の姿の[封印を解こう]
敵の放つ攻撃を[戦闘知識で見切り]つ回避
[破魔と呪詛]の力纏いし鉄塊剣での[武器受けやなぎ払い]で
剣閃を[受け流し]切り払おう
救済者達を…この世界灯す希望を護る!
さぁ来い、処刑人達よ!共に剣を抜き戦え!!!
細剣で己の身を切り血をばら撒き
【来来十二身将】を発動
分身達の召喚で[不意打ちし敵をおどろかそう]
分身達と共に剣を振るい[鎧無視攻撃で蹂躙]し
隙をつき胸に宿した紋章目掛け[早業]で細剣を抜き振るい
[貫通攻撃で串刺し傷口をえぐり]止めを刺してやろう…!
●我ら処刑人、汝が心臓を抉り穿たん
「やれやれ、まさか逃げの一手を打たされるとはな。どう言い繕っても、痛み分けと評するのが精々だろう。ここは悪態をつくより、見事也猟兵とでも持ち上げておくべきか。同じ土俵で後れを取るなど、良い訳のしようもない」
「同じ土俵、か……他の猟兵の様に、貴様の流儀に合わせる者ばかりとは思うな。元が騎士だろうが何であろうが、貴様は私が処刑すべき咎人に過ぎない」
貫かれた胸元を抑え、自嘲の言葉と共に騎士は思わず膝をつく。まるで首を垂れるかの如き相手の前へと姿を見せたのは、漆黒の処刑人。相手の眼前に仁王立つアンナは連戦の疲労など微塵にも感じさせず、その総身に嚇怒の念を漲らせていた。
「故に……もはや何も言うまいぞ。希望の篝火を護る為に……貴様を斃すッ! 我が名はアンナ! その頸を断つ処刑人なり!」
彼女はそう力強く叫びながら、黒死病医を思わせる仮面を被る。文字上で評すればただそれだけの行為だが、相貌が覆い隠された瞬間、その身から放たれる威圧感が濃密さを増してゆく。これこそが処刑人としての正装、つまりはアンナの本気であった。
「名乗りに返せぬ我が身の不明を恥じよう。こちらとて、剣火を以て斬り結ぶのは望みの上だ。この首欲しくば、来たりて取るが良い」
それに対し、騎士は立ち上がると朽ちた聖剣を構える。双方が臨戦態勢へ移行した瞬間、それを合図として両者が眼前の敵目掛けて挑み掛かってゆく。まず機先を制したのはアンナだった。折れた刃と比べ、彼女の手にした得物は鉄塊と見紛う巨剣。当然ながらリーチ差は大きく、先に相手を攻撃圏内へと捉える。
「真正面から受ければ、剣は無事でも我が身が只では済むまい。ここは小手先の手妻で凌がせて貰おう」
それに対し、騎士は斬撃軌道から逃れる様に右斜め前方へ身を滑り込ませると、まるで扇の如く得物を半円状に回転させた。【横木】と名付けられた構えから放たれる、弧の斬撃である。狙いは錆色の大剣を握る手元。切っ先は左手の甲を斬り裂き、紅の飛沫を以て剣閃を彩った。
「さて、このまま押し切りたいところだが……」
「させると思うかッ!」
騎士はそのまま深淵と極光の多重斬撃を放たんとするが、それを許すほど猟兵も甘くはない。刀身に纏わせた破魔の霊力で漆黒を、呪詛の浸食で純白を相殺。技の出掛かりを潰して追撃を防ぐ。アンナは攻撃後の隙を狙い返す刀で横薙ぎに剣を振るうが、攻撃が失敗したと見るや相手は既に距離を取って護りを固めていた。
両者の技量は互角といった所か。だが、アンナは腕比べをしに来たのではない。眼前の敵を打ち倒すため此処に居るのだ。押し切れなければ、別の一手を打つだけだった。
「救済者達を……この世界灯す希望を護る! その為ならば、幾らでも喜んで血を流そう! さぁ来い、処刑人達よ! 共に剣を抜き戦えッ!!!」
鮮血に染まる左手を掲げるや、より傷口を広げる様に処刑人は細剣を突き立てる。流れ落ちた血液は十二の塊へと収束し、それらはアンナと瓜二つの姿へと変貌していった。封神武侠界の仙人から授けられし、分身の秘術。十二体の映し身はそれぞれ鎖鞭や細剣、様々な拷問器具を手に騎士を取り囲む。
「千変万化の眷属に吸血鬼ときて、今度は己の複製を生むとはな」
「一対一で拮抗ならば、十二を以て必勝を期すまでのこと! 抗えるものなら足掻いて見せるが良い!」
「なに、一対十二ではなく、一対一を十二回と考えればまだ容易いものだ」
呆れとも驚嘆ともつかぬ声を漏らす騎士へと、十二人の処刑人が殺到してゆく。当然ながら、それぞれが入れ代わり立ち代わり交差する事により、本体を悟らせない様にしている。対して相手は刀身に黒白の魔力を纏わせたかと思うや、再び無数の斬撃によって猟兵を迎撃していった。
手数と言う点では、互いの異能を含めて実力伯仲。然れども、騎士が一人で十二人を相手取っているのに対し、分身体は本体とはまた別個に思考し動く存在だ。幾ら攻撃回数が同等とは言え、それを一人で放つのと複数人で分担するのでは掛かる負担が段違いである。結果、処刑人たちは全身を切り刻まれながらも全員が騎士を間合いへと捉える事に成功していた。
「耐久力を見誤ったか……せめて半分でも接敵前に仕留められるかと思ったのだが」
「我らは全て処刑人! 幾ら鎧で身を固めようと、断罪より逃れる事能わずッ!」
飛び退って仕切り直そうとする相手に対し、分身が四肢へと鎖鞭を絡みつかせて身動きを封じる。それでも手首のスナップを利かせて斬撃を放ち続ける騎士へと、巨剣や様々な拷問器具による連続攻撃が叩き込まれてゆく。そうして纏う甲冑を歪め崩し、左胸の紋章へと射線を通すや――。
「さぁ、止めを刺してやろう……!」
最後に本体が紅に濡れる細剣を抜き放ち、神速の刺突を繰り出した。その一撃は鋼板を貫き、紋章を穿つ。余りの威力に四肢を拘束していた鉄鎖が引き千切れ、甲冑に包まれた身体が勢いよく弾き飛ばされてゆくのであった。
大成功
🔵🔵🔵
トリテレイア・ゼロナイン
その剣の光…嘗ては…
いえ、過去は過去でしたか
名乗れぬことはお気になさらず
私はトリテレイア
騎士の道を志し今は人類に与する物
いざ、尋常に…!
小回り効かぬ推力移動は最小限に
大技牽制の為に距離を詰め兆候見切れば反撃
体躯のリーチ活かし攻め手を潰すよう怪力で振るう剣や盾で防御
精神疲労の面では此方が有利(継戦能力)
削り取らせて頂きます
緊急時は格納銃器による紋章への瞬間思考力超至近距離乱れ撃ちスナイパー射撃で仕切り直し
…焦れましたね
待っていたのです、その技を
嘗て闇を祓った光の一撃を!
UCを剣に接続
ワイヤーアンカーでハッキング
力場出力限界突破
私の後ろに…通しはしません!
極光を剣の力場で受け止め反射
紋章へ叩き込み
リーヴァルディ・カーライル
…名乗られた以上、此方も名乗り返しましょうか
私はリーヴァルディ・カーライル
お前の主の吸血鬼共が泣いて恐れる吸血鬼狩りよ
…お前にも馳走してあげるわ、吸血鬼狩りの業を
過去の戦闘知識を基に敵の殺気を暗視して行動を見切り、
UC発動して聖剣の斬撃波を空間ごと大鎌でなぎ払い切断、
敵UCの深淵の闇ごと虚無空間に放逐して受け流し、
カウンターで怪力任せに大鎌を投擲しながら切り込みUCを再発動
…聖剣の光、深淵の闇。確かに脅威だけど…無駄よ。私には届かない
左胸の紋章を狙い極限まで虚の魔力を溜めた手刀を放ち、
虚無空間のオーラで防御ごと敵を呑み込む虚属性攻撃を行う
…この業は空拳でも撃てるもの。無手と侮ったお前の不覚よ
●誉れを謡え、騎士たちよ
「ごふ……ッ! いやはや、全く。鳴り物入りで駆けつけてみればこの体たらくとは。手強き敵手に対し、名乗りを上げられぬ事がつくづく悔やまれるな」
立て続けに紋章へと叩き込まれた攻撃は、さしもの騎士とて堪えるものだったらしい。立ち上がる所作に僅かではあるがよろめきが見える。確かに、騎士は強い。単純な単体戦闘力であれば猟兵を凌駕するだろう。しかし、こちらの使う異能は千差万別。初見でそれらを対処するのは如何な強者とて至難の業だ。
「その剣の光。嘗てはきっと、貴方も……いえ、過去は過去でしたか。振り返っても、最早栓無きこと、ですね」
そんな姿を見たトリテレイアは、何がしかの感慨を抱いてアイカメラを明滅させる。眼前の騎士は過去の残照と成り果てて、果たして強くなったのか、脆くなったのか。朽ち折れた剣が纏う燐光から読み取れる情報はそう多くはない。鋼騎士は小さく首を振ると、思考パターンを戦闘用へと切り替えてゆく。
「名乗れぬことはどうかお気になさらず。私はトリテレイア・ゼロナイン。遥か宙を支配した帝国によって建造され、今は騎士の道を志し人類に与する物。この世界が明日を迎える為、貴殿に勝負を挑みたく」
「そうね……名乗られた以上、此方も名乗り返しましょうか。手加減も酌量もするつもりは無いけれど、これも戦の作法。私はリーヴァルディ・カーライル。お前の主の吸血鬼共が泣いて恐れる吸血鬼狩りよ」
重盾を構える白蒼の騎士の横に並び立つは、漆黒の大鎌を携えし黒騎士。リーヴァルディは敵の様子に一切の油断も慢心も滲ませず、ただ打倒の意思のみを滲ませている。相手は徐々に気力体力が削られているが、そもそもとしてこちらも連戦を経てきた身。故に、ようやく互いが同条件になっただけに過ぎない。楽観視など出来ようはずも無かった。
「気にするなとは言うが、こうも堂々とした振る舞いをされると流石にな……とは言え、我も弁舌を回しに来たのではない。武に殉ずる者の言葉はやはり『コレ』だろう?」
猟兵たちの戦意に反応し、騎士もまた折れた刃を構える。この場に居る者の目的は須らく『眼前の敵を討ち滅ぼす』こと。それを明確に伝える手段など、一つしかない。
「であれば、これ以上の問答は無粋と言うもの。いざ、尋常に……!」
「ええ、勝負と行きましょうか。お前にもとくと馳走してあげるわ、吸血鬼狩りの業をね」
三者は相手を己が攻撃圏内へと捉えるべく、一斉に敵目掛けて踏み込んでゆく。そんな中、まず先手を取ったのは騎士。手の内を隠す必要はもう無いと言わんばかりに聖剣を振り抜くや、刀身より極光を迸らせる。出の速さを優先した為に威力は四割程度といったところだが、目的は猟兵の機先を潰すことだ。防ぐなり避けるなりで一手消費させれば良し、命中せずとも着弾地点が深淵に変われば無駄撃ちとはならない。
(初手は牽制……狙いから言えば、もう少し本気の一撃が欲しいところですね。この程度であれば、まだ装甲と盾で防げますが)
対して、トリテレイアからすればそれはある意味で嫌な攻撃と言えた。彼の望みとしてはより強力な一撃を求めていたのだが、これでは些か不十分である。小回りの利かぬスラスターによる推力移動は最小限に抑えつつ、鋼騎士は重盾を前面に構えて攻撃を受け止める事を選ぶ。理想としては極光を凌いだ後に距離を詰めてのカウンターだが、そう易々と通るかどうか。そんな一抹の危惧を電子頭脳へ走らせる、が。
「……この程度で牽制とは、少しばかりこちらを侮り過ぎと言える。選ぶのは回避でも防御でもない。そのまま、突き進むのみ!」
追い抜くように飛び出していったのはリーヴァルディだった。彼女は迫り来る白き破壊に臆することなく、得物である大鎌を振り被る。わざわざ相手が強いる選択肢を選んでやる義理などない。黒騎士が鎌刃へと纏わせるものは光でも闇でもなく、あらゆるものを飲み込み消滅させる虚無空間だ。猟兵の繰り出す斬撃軌道に沿って、漠々とした白が薄紙の如く斬り裂かれ消滅してゆく。これならば、外れた極光が深淵を生み出すこともないだろう。
「様子見混じりとは言え、今の斬撃を相殺するとはな。どう転んでも利になる様に立ち回ったつもりなのだが……!」
「合理と言えば聞こえは良いが、戦場では予想外など常に付き物。驚くばかりであれば、このまま押し切らせて貰う!」
騎士の言葉を構成するのは驚愕半分、感嘆半分といったところか。目論見が外れた一瞬の虚を突き、リーヴァルディはそのまま手にしていた大鎌を勢いよく投擲する。戦闘の最中に武器を手放すなど本来であれば愚の骨頂だが、この場には猟兵が二人居るのだ。何ら問題などなかった。
「っ、今度はこちらに選択を求めるか! だが……!」
「二人掛かりを卑怯とは言いますまい。これも戦場の習い、確実に削り取らせて頂きます!」
騎士は頭上で旋回させた聖剣で大鎌を弾き返しつつ、そのまま切っ先を前方へと突き付け迎撃準備を整える。瞬間、間合いを詰めたトリテレイアが間髪入れずに斬り掛かってゆく。大上段からの切り下げに対し、相手は弧を描くような斬撃で手元を狙うものの、鋼騎士は瞬時に大盾をずらしてカウンターを防いだ。
「……ふ、む。異能ではなく純粋な剣術なのだが、こちらも対処されるとはな」
「『雄牛』の回転斬、『横木』による弧円斬……以前、同じ技術体系を扱う方と相見えましたので」
「かっは! なるほど、モーラを倒したのは汝らだったか。道理で手強い訳だ!」
トリテレイア、リーヴァルディは共に以前の『辺境伯』襲撃に関わっていた。その際に得た経験が、巡り巡ってこの場の優位へと繋がっていたのである。騎士の扱う技から察するに、何かしらの面識があったのだろうか。残念だが、いまそれを確かめるような余裕はない。
「ええ、故に……その恐ろしさも、対処方法も身に染みています!」
騎士が放つは左右上下から打ち込まれる四連撃、そして防御を崩した瞬間に繰り出す本命の五撃目。トリテレイアは咄嗟に後ろへと飛び退きつつ、内臓銃器を一斉展開して弾幕を張り追撃を防いでゆく。
「っ!? 妙に硬いと思えば、総身全てが鋼の絡繰りか……だが、距離を取ったな?」
機を見るや、再び騎士は聖剣へと光を収束させ始めた。今度は先の様な牽制ではない。正真正銘、世界を歪める本気の一撃だ。対してトリテレイアもまた、剣を構えて真っ向勝負の構えを見せる。
「……焦れましたね? こちらは待っていたのです、その技を。嘗て闇を祓い、吸血鬼を屠ったであろう極光の一撃を!」
それは斬撃と言うよりも輝く壁、純白の波濤と形容した方が適切だろう。その圧倒的なまでの暴威に対し、鋼騎士は手にした剣を有線にて自身と接続。制御機構を解除するや、最大出力で偏向力場を発生させる。
必殺の極光を切っ先に収束させ、それを跳ね返す。これこそが彼の策だった。ミシミシと全身が軋みを上げ、関節部に多大な負荷が掛かる。けたたましく鳴り響く警告をねじ伏せて、トリテレイアは自壊覚悟で腕を伸ばし、そして。
「……いまっ、です!」
「ああ、感謝する。さぁ、これで道は開けたぞ!」
必殺必滅の一撃を、相手へと叩き返した。楔型となって猛然と飛翔する極光と共に、疾風の如く飛び出していったのはリーヴァルディ。機能停止寸前の仲間へ感謝を残しつつ、回収していた大鎌を手に騎士の懐目掛けて踏み込んでゆく。
「これは……!? 否、元は我が剣より出でし光。そちらに関してはまだ耐えられよう。問題は汝か、黒騎士!」
「逃走を選ばず、飽くまでも挑んで来る点は褒めておこう。尤も、こちらは端から逃す気など毛頭ない……!」
輝く楔を甲冑に食い込ませながら、騎士は猟兵と斬り結ぶ。動きに制限が生じているにも拘らず、相手は最小限の動作を以てリーヴァルディの攻撃を凌いでゆく。しかし、此処まで追い詰めておいて押し切れぬなど吸血鬼殺しの名折れ。なればと、彼女もまた有効打を狙って大鎌を振るう手に力を籠める。
「力んだか。勝機を前に焦る気持ちは分かるが、時としてそれが命取りとなるものだ」
だが、それを見抜いた騎士は猟兵の得物を刀身で絡め取るや、頭上へ高々と弾き飛ばしてしまう。こうなればリーヴァルディは先ほどと同じ無手。対抗手段を失った相手へと、紋章持ちは三度目の極光を浴びせかけんと試みる――が、しかし。
「聖剣の光、深淵の闇。確かにどれも脅威だけれど……無駄よ。私には届かない。絶対にね」
吸血鬼殺しの表情に浮かぶのは諦念でも焦燥でもない。いっそ平静さとも言える、勝利への確信だった。攻撃動作を行いながらも疑問を拭い切れぬ騎士が視線を走らせると、猟兵の掌に魔力の流れを感じ取る。それは先ほど極光を切り裂いた、虚無の力。
「馬鹿な、汝の得物は飛ばして……いや、そうか!?」
「この業は空拳でも撃てるもの。無手と侮ったお前の不覚よ!」
リーヴァルディの異能は発動させるのに特定の武器を必要とはしない。だが、敢えて大鎌を強く印象付ける様に立ち回る事で、何かしらの道具が必要だと相手に思い込ませたのだ。土壇場で生じた、一瞬の隙。それは勝敗を分かつには余りにも大きすぎる差であり。
「さぁ……虚空を穿ち、虚無へと還れ」
防御動作も、甲冑の鋼板も、あらゆる防御を貫いて。虚ろなる空間を纏った手刀の一撃が、騎士の左胸に宿る紋章を深々と穿ち斬り裂いてゆくのであった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ディルクニア・エリスランサス
騎士サマ、ねェ?
あぁ。別に『ソッチ』側に居る理由とかが気になるワケじゃねェのさ
聖者だって民衆にグレて虐殺おっ始めるような世界なンだし。そういう事もあるだろうよ
*
方針:
シンプルに真っ向勝負
交戦前に拝借した酒を飲み干し、多少真面目に戦棍を把持
怪力と頑強さを武器に、あくまでも自分のペースを保ち
逆に騎士のペースを力尽くで乱す
深淵の闇とやらは防護魔法である程度無視
闇に誘導されて聖光が来るなら、それを逆手に取り軌道を予測
負傷覚悟で【魔力砲撃】をクロスカウンター気味にぶつける
*
つーか「闇」と戦うとか、聖者みたいで無茶苦茶嫌だし
さっさと終わらせてェンだがよ
かと言って、負けるのは癪でな?
勝ちを譲る気はねェンだ
●酔い狂わぬ理性の博打
「優っているはずの威力勝負でも後れを取るとはな。些か、『紋章』の身体強化に頼り過ぎたらしい……騎士として技量を軽視すれば、後塵を拝するのも道理という訳か」
騎士が左胸へ手を這わせると、そこだけポッカリと装甲が抉り取られていた。紋章の治癒力ゆえ血こそ流れていないが、蓄積しつつあるダメージは決して小さくはないだろう。全身を覆う鎧も開戦当初はまだ重厚感があったが、今はもう度重なる戦闘によって幾つもの傷やヒビが刻まれている。正に満身創痍と言った有り様だ。
「なるほど……騎士サマ、ねェ?」
それでもなお立ち上がる騎士を前に、ディルクニアはうっすらと目を細めながら咥えた煙管より紫煙を立ち昇らせてゆく。肺腑へ十分な量の煙を行き渡らせると、血中へと溶け込んだニコチンが意識の覚醒を促していった。そんな斜に構えた態度にジロリと視線を投げかけられ、女は気怠げに手を振る。
「あぁ、いや。別に小馬鹿にしたり、『ソッチ』側に居る理由とかが気になるワケじゃねェのさ。聖者だって民衆にグレて虐殺おっ始めるような世界なンだし。長い人生、そういう事もあるだろうよ」
こんな風にな、とディルクニアは煙草の火を消し、代わりに開戦前に拝借していた酒精の残りを喉へと流し込む。おおよそ戦闘に臨む者の行動ではない。だが、彼女にとってはこれこそが最適解。騎士もまた、猟兵とはそういう者であると交戦を経て理解していた。
「文字通り酔狂な連中だな、猟兵とやらは。こちらを非難するばかりでなく、理解を示した上で流儀に合わせ……ある意味、やり難い手合いとも言える」
「なに、深い考えあっての事じゃねェよ。そっちの方が気楽だってだけの話さ。んじゃ、良い感じに酔いも回って来たし……アタシも始めるとしますかねェ」
空になった酒瓶を放り捨て、次に手を伸ばしたのは身の丈を優に超える戦棍。柱と見紛うばかりのそれは、如何な聖剣と打ち合っても押し負けるものではないだろう。寧ろ甲冑相手にとって、下手な斬撃よりも余程脅威と言えた。
「生憎そっちと違って技だ何だってのは、財布の中身と同じで持ち合わせが無くてな。力任せに叩き潰させて貰うぜ?」
そう言って、ディルクニアは無造作に戦棍を横薙ぎに振り抜く。たったそれだけの動作だが、膂力と質量から繰り出される威力は尋常ではない。下草を巻き上げ、大気を引き裂きながら側面より騎士へと襲い掛かる。
「なに、それをどうにかするのが技だ。少しばかり、説得力が揺らいでしまっているがな……さて。対処法は槍と同じようなものだが、凌ぎきれるかどうか」
退くに早く、進むには遠い。であればと騎士は剣を戦棍の軌道に対して傾斜させ、受け止めるのではなく勢いを受け流さんと試みる。接触の瞬間、余りの衝撃に脚が地面へとめり込むものの、戦棍の軌道を逸らすことに成功。そのまま一撃を加えんと切り込んで来る。
「大技狙いで痛い目を見たからな。まずは一撃、確実に当てる」
「はッ、させねェっての!」
深淵の付与を狙う騎士に対し、ディルクニアは己が身体を軸として得物を半回転させると、石突部で攻撃を受け止めた。結果、期せずして両者は鍔競り合う形となる。純粋な膂力では猟兵に軍配が上がるだろうが、騎士は重心や姿勢を小刻みに変えながら拮抗状態を維持してゆく。
「深淵、ねぇ……つーか『闇』と戦うとか、聖者みたいで無茶苦茶嫌だし。正直に言えばさっさと終わらせてェンだがよ」
全身に力を籠めながら、女は戦棍と押し合う聖剣へと視線を向ける。全体に燐光を纏いながらも、罅割れた欠損箇所からはジワリとタールの如き深淵が滲み出ていた。それを見て何か忌々しい記憶が浮かんだのだろうか。眉根に皴を刻みながらディルクニアはそう吐き捨てる。
「ならば道を開けるなり、さっさと負けてくれた方が我としては助かるのだがな」
「ぬかせよ。我ながら矛盾していると思うが、かと言って負けるのも癪でな? 勝ちを譲る気はねェンだ」
「ならば、押し通るのみ!」
騎士はグイとねじる様に聖剣を動かすや、遠心力を利用して深淵を飛ばす。飛沫程度の微量ながらも、猟兵の身体へと付着したそれは誘導の標として機能し始めた。瞬間、刀身より溢れ出した極光が刀身を形成。闇に墜ちた者を裁かんと、在りし日の全力を再現し始める。
「そいつは良いンだがよ……来ると分かってるもンをどうにか出来ない道理はねぇっての!」
それに対し、ディルクニアは真っ向勝負にて迎え撃つ。防御は最低限、回避は端から選択肢に無し。破壊と浄化を織り交ぜた、乾坤一擲の大砲撃。邪悪を滅する極光と俗を極めた光線一条が、極至近距離でぶつかり合い、そして――。
「ぐ、む……!?」
「痛み分けなンざ最初から覚悟の上……つまり、ダメージレース的にはアタシの勝ちってな!」
全身を浄化の輝きに焼かれ、吹き飛ばされるディルクニア。だがその表情が示すものは苦痛ではなく勝利の確信。視界の端に焼き穿たれた左胸を抑える騎士の姿を捉えながら、彼女は勝ち誇ったように不敵な笑みを浮かべるのだった。
成功
🔵🔵🔴
シホ・エーデルワイス
アドリブ&連携歓迎
強敵ね
けど
救済者達の安全を気にせず戦える分
全力で挑めます
目潰しの誘導弾で味方の援護射撃
敵が私に近づいたら覚悟を決めて第六感と聞き耳で剣筋を見切り
残像回避か
闇を浄化する呪詛耐性のオーラ防御を纏い
カウンターの零距離射撃や銃身で斬撃を受け流しつつ
捨て身の一撃で【樹浄】を左胸の紋章狙いで貫通攻撃の部位破壊
戦後
地形を崩壊させた深淵が残っていれば
【樹浄】で聖霊樹を植え浄化の結界を張る
ゲルペス・ボーツマン…
依頼≪罪は冷たく静かに降りしきる≫で思い出した前世の末路が脳裏を過る
守っていた人々に処刑された私にとって彼は天敵でした
けど
今回抗い方を示して共に戦った皆さんに感謝を
お陰で吹っ切れそうです
桜雨・カイ
たとえこの戦いを知る事はなくても
今までこの長い道を切り開いてきたのは彼ら(闇の救済者達)です。
そしてこの先へ続いていく道を守る事ができれば、それで十分です。
【錬成カミヤドリ】発動
一部を残して錬成し、半数を盾に、残りを攻撃へ
意識をこちらへ引きつけ、残していた一部を死角側より時間差攻撃
攻撃をしかければ紋章がある左胸を庇うと予想して
そちらではなく聖剣を集中して攻撃(【武器落とし、部位破壊】)
他の人が攻撃しやすくなるように、少しでも攻撃力を削ります
戦うのはひとりではないのですから
●光差さぬとも、己の心に刻みて進め
「捨て身の覚悟、か。なるほど、確かにいまの我には持ちえぬ気概と言える。土台、格上に挑む機会などそう無いからな……こうも手酷くやられては、愚かなどとは笑えんよ」
そう自嘲気味にぼやく騎士の胸元からは、しゅうしゅうと白い蒸気がうっすらと尾を引いていた。度重なる紋章に対する攻撃により、開戦当初と比べて着実に相手の動きは鈍っている。だが兜の奥より零れ落ちる言葉は、焦りも怒りも滲んでいない平静そのもの。その底知れなさに、シホはこの場に立つのが猟兵だけである事に感謝していた。
「戦闘力は勿論、精神面も含めて間違いなく強敵ね……けど、救済者達がこの場に居なくて良かったかもしれないわね。彼らの安全を気にせず戦える分、こちらも全力で挑めます」
「……たとえ、此処で行われる戦いを知る事はなくても。今までこの長い道を切り開いてきたのは彼ら自身の努力に他なりません。ならば、明日へと続いていく道を守る事さえできれば、私はそれで十分です」
だがそれは同時に、『闇の救済者』に猟兵たちの戦いを知る機会が永遠に訪れない事も意味していた。どれほどの危機が迫り、どれだけの血を流して未来の芽を護り抜いたのか。そしてそれに伴う感謝も、賞賛も、報酬も発生しない。
だがそれで良いのだと、カイは仲間の言葉を引き継ぐ。何も、それらを欲してこの場へと赴いたのではない。戦いに臨む者たちの一助と成らんが為、ただそれだけを願っての事なのだから。
「そう、ね。個人的にも、今回の事件には思うところがありますし……それはそれで、きっと良いのでしょう」
ふっと、青年の言葉に笑みを零すシホ。ともあれ、余り時間を掛け過ぎては猟兵の不在に気付いた友軍が騒ぎ出しかねない。知られざる戦いは、知られないままでこそスマートなのだ。蛇足の襲撃者は早々に骸の海へとお帰り願うべきだろう。
「誉れを望まず、ただ何某かの為に身を奉ずる。全く、深淵に墜ちた身からすれば眩しくて敵わんな」
そんな猟兵たちの姿に騎士は兜の奥で目を細める。皮肉ではない、ただただ純粋な感嘆だ。その視線が見つめているのは、果たして目の前の敵か、それとも在りし日の己自身か。カイはそんな相手に対し、我知らず問いを零していた。
「堕ちても尚、騎士を称するのであれば……刃を納めて頂けると幸いなのですが」
「それが出来ぬ相談であることは、汝も承知の上だろう? すまじきものは宮仕え、こちらにも為さねばならぬ目的がある」
騎士は小さく肩を竦めると、問答は終わりだという様に聖剣を構えてゆく。半ば予想していた答えとは言え、カイは一瞬だけ痛まし気に瞳を閉じる。だが次に瞳が開かれた時、そこには猟兵としての決意が浮かんでいた。
「……前衛役は私が務めます。遊撃はお任せしても良いですか?」
「ええ、勿論。そちらも余りご無理はなさらないで下さいね」
二人もまた手早く役割分担を決めるや、それぞれの役目を果たすべく行動を開始する。シホが手にした黒白の二挺拳銃で牽制射を放つ中、カイは己自身である絡繰り人形へと意識を集中させてゆく。
「数としては彼らの丁度十分の一ですが、質で劣るつもりはありません。こちらも持てる全力を以て挑ませて頂きます!」
瞬間、青年と瓜二つの姿をした人形が草原を埋め尽くす。増えた複製はぴったり百体。狐の面をつけたそれらへと、カイは高速で思考を巡らせながら指示を下してゆく。壁役を担う約半数は『闇の救済者』に倣って隊伍を組ませ、敵を包囲する様に前線を押し上げさせる。一方、残りの人形たちは敢えて散らし、伏兵として攻撃の機会を虎視眈々と狙わせていた。
「二重の意味で木偶と切り捨てるには出来が良い。それにこうも殺到されては見通しも利かん。となれば、まずは数を減らすか」
騎士は聖剣を肩口の高さで垂直に立てる。【屋根】と称される構え、そこから放たれるは左右斜めからの斬り降ろし。囲まれぬよう足を動かしながら、右からは極光を、左からは深淵を、それぞれ刃とした斬撃を流れる様な動作で次々と放ってゆく。
「良くて二撃、当たり所が悪ければ一撃とは……! ですが、これで相手の意識は嫌でもこちらへと向くはず」
相手の殲滅速度は脅威の一言だが、それでも人形たちの数が数だ。全てを切り伏せるにはそれ相応の時間を要する。その間隙を縫って遠間より狙いを定めるのはシホ。
「やはり、良く纏まった集団と言うのは良いものですね。下手に身を晒せば斬撃が飛んできますが、タイミングを合わせて射線を開いて頂ければ……!」
通常は人形たちが二重三重と敵を取り囲んでおり、攻撃を届かせることは至難の業だ。だがカイが仲間の動きに合わせて位置を調整してくれる事で、攻撃の瞬間のみ射線を通す事が出来た。敵の姿を捕捉出来るほんの一瞬に合わせ、少女はトリガーを引いて弾丸を放ってゆく。
「だが逆に、人形共の動きさえ見落とさなければ攻撃のタイミングは読みやすい。弾丸を切り落とす事とて容易い事ではある……が、こうも逃げ回られては埒が明かぬな」
己目掛けて飛翔する銃弾に対し騎士は体の前で水平に得物を構えるや、くるりと手首を翻して扇の如く刃を走らせる。弧を描く斬撃によって攻撃を斬り払うものの、反撃に転じようとした瞬間にはもうシホの姿は人形の向こう側へと消えていた。
「卑怯とは言いませんね? 『闇の救済者』たちが示してくれたように、数とは力です。例え個で劣ろうとも、数多を束ねれば強者を打倒しえるのですから」
「それを覆すのもまた、武の醍醐味と言うものだぞ?」
「これは……!? 何という身体能力ですか!」
カイの言葉に対し、騎士は手近な人形を切り伏せるやその骸を踏み台として跳躍。甲冑の重量を感じさせぬ身軽さを以て、群れ為す人形を足場にしながら瞬く間に壁役の群れを突破し始めた。予想外の機動に離脱は間に合わないと判断するや、シホは拳銃を十字に交差させ身構える。
「先ほどまではそちらの距離だったが、ここまで近づけば我が間合い。さぁ、捉えたぞ?」
「っ!? ですが、勝ちを確信するには些か早計と言わざるを得ませんね……!」
騎士は腰だめに剣を構え、刺突の姿勢を取りながら迫ってくる。シホは相手の左胸を中心に銃弾を放って少しでも勢いを削がんとするものの、その進軍は止まらない。そのまま切っ先が少女へと届く、寸前。
「……予備の戦力はここぞと言う瞬間まで取っておくものですよ? 戦うのは何も、ひとりきりではないのですから」
複数の人影が下草の中から躍り出たと思うや、騎士目掛けて四方八方から襲い掛かった。カイは包囲が突破されたと見るやすぐさま潜ませていた攻撃役を掻き集め、仲間の援護へと回していたのだ。人形たちは相手の紋章ではなく、少女へ突き立てられんとする聖剣へと狙いを絞って殺到する。無数の手で刀身を鷲掴みにされては、さしもの騎士とて攻撃を続ける事は難しい。
「闇雲に紋章を狙っても防がれる可能性が高かったですからね。武器の使用を封じられれば、幾ばくかは攻撃力も減じさせることが出来ましょう」
「これは……流石にどうしようもないか。忌々しいが有効だ。しかし、むざむざやられるつもりも無し!」
振る事も抜く事も出来ず、無数の人形たちによって聖剣はがっちりと固定されていた。ならばと騎士は得物を躊躇なく手放すや、掌に深淵を生み出す。聖剣を封じるべく、攻撃役の人形たちは文字通り手が取られている。その間にシホを仕留めてしまおうと言う魂胆なのだろう。だが、少女はそれよりも先に覚悟を固めていた。
「絶望の中でも灯が生まれた様に、深淵の畔にも樹は芽吹く……これがとっておきです!」
漆黒の闇塊が投擲されると同時に、一発の銃弾が放たれる。それは吸い込まれる様に深淵へと着弾するや、内部から闇を突き破って無数の枝葉が飛び出した。弾頭には穢れを吸収して育つ種子が封じられており、その能力によって攻撃を相殺したのだ。
「已むを得んな。ここは仕切り直す!」
シホが続けて次弾を繰り出す一方、騎士は深淵を人形へと叩きつけた。瞬間、聖剣から眩いばかりの光が溢れ出したかと思うや、その場で凄まじい爆発が起こる。半ば自爆紛いで聖裁を誘発する事により、攻撃を防ぎつつ強引に拘束から脱したのだ。濛々と立ち上る土煙が晴れると、其処には人形と深淵の残骸が残っているだけであった。
「……すみません、逃げられてしまいましたね」
「いえ、恐らくは相手も無事では済まないはず。私たちの役目は十分に果たせたと言えるでしょう」
駆け寄って来るカイの謝罪に、問題ないとシホは首を振る。与えた手傷は勿論、強引な方法で脱出を図ったのだ。無傷であるとは到底考えにくい。辺りには先の激戦が嘘のような静寂が降り、思わず緩んだ緊張と共にため息が零れ落ちる。
(墜ちた騎士も脅威でしたが、それ以上にあの領主……『不和と分断を煽る者』ゲルペス・ボーツマン。かつて、守っていた人々に処刑された私にとって彼は何よりの天敵でした)
少女の脳裏に過るのは取り戻した己の過去。ある意味それらも心の隔絶が招いた事態と言える。罷り間違えば、かつての惨劇を再演した可能性とて十分にあり得たのだ。
だが、実際はそうならなかった。それもひとえに、猟兵たちが『闇の救済者』を鼓舞し続けたからに他ならない。ちらりと視線を横に向ければ、カイが気遣う様に視線を向けて来る。先の領主討伐時も彼は同じように兵士たちの気持ちに寄り添い、不信の芽を摘むことに心を砕いていたのだ。
「あれ、どうしましたか? まさか、どこかお怪我でも……?」
「……いえ。ただ、今回抗い方を示して共に戦った皆さんに感謝を、と。お陰で色々と吹っ切れそうです」
そう言ってシホは辺りに広がる深淵へと銃口を向け、引き金へと力を籠める。決別の銃声と根付いた聖霊樹は、少女の心境を現すが如く天目掛けて聳え立つのであった。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
シキ・ジルモント
目立つバイクは置いてきた
真の姿を解放(月光に似た淡い光を纏い、犬歯が牙のように変化し瞳が輝く)
更に連戦の疲れで鈍る動きをユーベルコードで補い、代償を考えず常に発動
聖剣からの剣閃の放出を察知し回避する為、敵の剣と構えに注意
構えは反撃にも利用
剣を高く構えるなら薙ぐように胴へ向けて、低く構えるなら頭を狙う射撃を見舞う
何度か撃ってみせた後は同様の場所を狙うと見せかけて上体への防御を誘い、フェイントで脚へ攻撃
左胸の紋章を狙う為、体勢を崩し隙を作りたい
隙ができたら立て直す前に、増大した速度で左胸へ射撃を撃ち込む
闇の救済者たちが気付く前に決着を
この戦いを彼らが知る必要は無い
勝利の余韻に水を差すのは無粋だろう
●疾く仕留めよ、何も無きと告げんが為に
ゆらりと、平原の中心に甲冑姿が気配もなく佇んでいる。猟兵の攻勢から逃れる為に自爆紛いの一手で仕切り直したせいか、全身からはうっすらと白煙が立ち上っていた。度重なる交戦を経て騎士の命は着実に終わりへと近づきつつあるが、それでも下草に紛れて様子を窺うシキは楽観視する気持ちになどなれない。
(……出し惜しみが出来る相手ではないな。追い詰めてはいるが、こちらの疲労度合いも無視は出来ん。となれば、狙うは短期決戦。損耗度外視で畳みかけるより他ないか)
追い詰められるほどに、相手の纏う雰囲気が鋭さを増している様に感じられたからである。それはまるで朽ちた聖剣が研ぎ直されるが如し。この手の敵は時間を与えれば与える程に危険度が増してゆくタイプだ。銀狼は音を立てないよう注意しながら愛銃のマガジンを引き、再度残弾数をチェックしてゆく。
(目立つバイクを置いてきて正解だったか。僅かでも優位が取れる条件は確保しておきたいからな……では、そろそろ仕掛けるとしよう)
思考を戦闘へと切り替えた瞬間、狩猟本能が膨れ上がり総身の毛が逆立つ。うっすらと月光を思わせる燐光が浮かび上がり、犬歯が伸びると共に瞳が爛々と輝きを放ってゆく。その姿は正に、獲物を駆る肉食獣そのもの。シキは身を低く伏せてタイミングを計るや、勢いよく地を蹴って疾風の如く飛び出した。
「……ッ!? 新手かッ!」
「流石に気付かれるか。だが!」
瞬間、猟兵の方を振り向いた騎士と視線が交わる。だが感付かれたところで他に取るべき選択肢も無し。シキは流れる様な動作で自動拳銃を構えるや、相手の左胸目掛けて弾丸を放つ。
「そう何度も攻撃を通させては、失った武名に恥じると言うものだ」
しかし、相手は左足を半歩退いて僅かに射線をずらすや、腰溜めからの突きにて鉛を割断した。尤も、この程度は銀狼としても想定の範囲内。一手防御に費やさせる事に成功したならば、後は畳みかける様に先手を取り続けるのみ。
(これまでの交戦を見た限り、相手は複数の型を切り替えながら戦闘を行っている。確かにどれも完成された技術ではあるが、同時に型である以上それに対応する『返し』もまた見えてくると言うもの)
だらりと切っ先を下げた状態から放たれる上中段への刺突には、それよりも高い位置にある頭部を狙い。高々と掲げられた刃より繰り出される回転斬撃には、薙ぐ様に胴体部へと照準を定め。飛び交う黒白の斬撃を紙一重で掻い潜りながら、シキは立て続けに銃弾を撃ち込んでゆく。
「マスケット銃を相手にしたことなど無数にあるが、それより小さいにも関わらず性能は段違いだな。威力は元より、連射性や手数の多さも比べ物にならん」
だが相手も然るもの。上半身は絶えず斬撃を繰り出し続けると同時に、下半身は見た目に似合わぬ機敏さでステップを踏み続けている。それに伴い僅かに体の向きを変える事で、傾斜した装甲によって弾丸を弾き受け流していた。
(確かに厄介だが、やはり左胸の紋章を狙った時は防御が硬くなる。やはり、相手からすれば其処を狙われるのは避けたいらしい。となれば、あとはどう護りを抉じ開けるかだが……狩りも戦闘も、根幹は同じか)
空になった弾倉を交換しつつ、シキはさっと甲冑姿へ視線を巡らせる。そうして瞬時に作戦を組み立てるや、猛然と相手の上半身に攻撃を集中させ始めた。頭部や左胸と言った分かりやすい弱点は勿論、聖剣とそれを握る腕部にも弾丸を浴びせかけてゆく。
「狙いは武器落とし、か? 同じ手が通用するかと言いたいところだが、二の轍を踏まぬとも限らん。全く、隙を見せるものでは無いな」
先に交戦した猟兵は相手の得物をがっちりと封じ、戦闘力を半減させると言う戦術を取っていた。恐らく、それが強く印象付けられているのだろう。益々騎士のガードが上へ上へと上がってゆき、それに伴い両足の動きも加速し、そして。
「……動けなくなった者から先に斃れる。そういう意味では、足回りを潰すのは基本中の基本だ」
「これ、は……!? そうか、誘導されていたのか!」
狙い澄ました一射が騎士の脚部関節を撃ち抜いた。これこそがシキの狙いだ。どんな武術であろうと、体勢を崩してよいと教える流派は存在しない。その致命的な隙を引き出す為に上半身を攻め立てた上で、敢えて当てにくい脚部を狙ったのである。
「闇の救済者たちが気付く前に、速やかな決着を。この戦いを彼らが知る必要は無い。ただ、何も無かったと告げるだけで十分だ。勝利の余韻に水を差すのは些か以上に無粋だろう?」
銀狼はぐらりと身体を傾がせる相手へ速やかに躍りかかる。牙の代わりに銀の拳銃を紋章と宛がうや、躊躇う事無く引き金に力を籠め。
――ズドン、と。
重低音を響かせながら、弾倉に残っていた最後の一発を放つのであった。
成功
🔵🔵🔴
吉備・狐珀
【路地裏】
彼らの勝利が露と消えることのないように
絶対にこの先へは行かせません
真の姿になりてUC【狂炎舞踊】使用
殺戮者の紋章で一騎当千の力を手に入れたのなら
私は炎と剣技を得意とする兄の力を借りるとしようか
まずは先制を仕掛け薙ぎ払い、刀身を纏う炎で騎士の周囲を囲み行動に制限をかける
炎は闇も呪いも怨念も全てを包みこみ浄化する、歪んだ聖裁を防ぐ結界代わりになるでしょう
攻撃の手は休めることなく、剣の斬撃と炎属性の衝撃波で騎士にさらなる追撃を仕掛ける
敵を破壊する獰猛な赤よ
闇に堕ちた者を破滅へと導く灼熱の赤よ
炎の剣が舞う様は
全てを飲み込む嵐の如し
我が剣舞と共に舞い踊り
誇りと大志を失った彼者を討滅せよ
勘解由小路・津雲
【路地裏】5名
陰と陽の属性持ちか。しかし、ペインと違い調和がとれておらぬようだ。互いが殺しあっている。
それを武器として使っているようだが、果してあんたにとって吉と出るかな?
【作戦】
あの攻撃、対処するにはファンの護りで初撃を防ぐのが最善か。だがそれでは、守るだけで攻め手を欠く。
ならば、あえて【霊符】を使った【浄化】の【結界】で攻撃を受けよう。
だが相手は紋章で強化された手練れ。これだけで防ぎきれるものではないだろう。それでいい。聖なる光を誘発させ、そこに【鏡術・反射鏡】を発動。
誰よりも自身が深淵に蝕まれている様子、その攻撃はさぞやきくだろう。これで多少の隙が生まれるはず。
さあ今のうちに攻撃を!
ペイン・フィン
【路地裏】
ダークセイヴァー
闇に沈み、なお、救いを諦めない世界
そして、今、この場に、篝火は灯った
夜は光に照らされ
恐怖は知識で克復され
絶望は希望に変わっていく
そして常世の世界は、日を取り戻すだろうね
だからこそ、貴方に、ここから先を通すわけには、いかない
闇の中から生まれた光を
影の中にあって、尚照らされるそれを、消すわけには、いかない
コードと真の姿を同時に発動
今までとは違う、力の解放
怨念の黒でもなく
浄化の白でもない
合わさって、どっちも等しく制する
灰色の霧と姿を取る
手にするのは、霧を纏って、灰色の羽の形状に変わった"名無しの禍惧枝"
剣劇と共に仰ぐように振るい
仲間の炎と共に舞、更に強める
常世に火を灯す
落浜・語
【路地裏】
ここまで来たら、語られようが語られまいが、大団円でオチを付けたいところだよなぁ?
最後まで気を抜かずに行こうか。
真の姿解放。鬼の真似事でも、してみようか。
UC『死神騙り』使用。
騙るもなにも、オレ自身なんだがまァいいさ。
大太刀なんでそこそこ広い【範囲攻撃】になるが、味方攻撃するわけにゃいかねェんで、うまく避けてくれ。
【フェイント】もかけつつ、左胸にある紋章を狙えるのであれば、そこを中心に狙っていく。
あちらさんの攻撃は、【見切り】つつ【浄化】と【呪詛】でそれぞれ相殺できりゃいいがさてはて?
まァ、守りは周りに任せて、オレは攻めに徹しますかねェ。
ファン・ティンタン
【WIZ】奮刃領域
【路地裏】
光ったり陰ったり忙しい人だね
私としては、先のゲスみたいな奴の方がブチのめしやすいのだけれど……さて
少々、身を張らないといけないかな
環境を整えるよ、攻めは任せた
【剣樹海】
【真の姿】たる一振りに成り、大地に刃を立てる
己が刃が、生えし複製が、触れ征く道を埋め尽くす剣樹の茂り
私が敵と認める者を刺し穿ち阻み留む白の地獄
複製の末枝とは言え、それらは【浄化】の権能のカタチだ
そう易々と蝕めるとは思わないで欲しいものだね
嫌と言う程に、邪魔をさせてもらうよ
今のあなたや、私みたいに、白と黒を確と分けるのも一つの道だけれど
いつかはきっと、それだけでは立ち行かなくなる
さあ、あの羽を見るといい
●灯の影にて、闇より出でる事はなく
「ふ、む……紋章は未だ辛うじて無事、か。しかし、これが無ければ既に倒れてもおかしくはないダメージだ。そう考えると、些か以上に複雑な気持ちになる。積み重ねたものでは無く、与えられた力で立つなどと」
そう独り言ちる騎士の全身から放たれる威圧感は、開戦当初と比べれば些か以上に衰えが見える。だが、それも無理はない。既に猟兵との交戦は十を超えているのだ。如何な強者とは言え、その損耗具合は決して軽くはないだろう。しかしそれ以上に、己の鍛錬ではなく紋章の能力強化によって生かされているという事実が、彼にとっては余程堪えている様であった。
だが、不意に騎士は言葉を止めて顔を上げると、得物の柄を握り締め直す。此処は戦場。いつまでも気を緩め、再度の奇襲を許す様な愚は犯さない。投げかける視線の先では歩み寄って来る五つの人影が見える。新たな猟兵、それは【路地裏野良同盟】の面々であった。
「剣術の技量に加え、陰と陽の属性持ちか。しかし、ペインと違い調和がとれておらぬようだ。あれでは互いがお互いの長所を殺しあっている。寧ろ逆に、そのような状態で良く戦ってこられたものだ」
「傍から見ていれば、光ったり陰ったり忙しい人だね。ただ、武人と言う軸が揺らいでない点は悪くないかな。まぁ私としては、先のゲスみたいな奴の方がブチのめしやすいのだけれど……」
ふむと顎を撫ぜて敵手の様子を観察する津雲の横では、ファンが微苦笑を浮かべて肩を竦めている。霊力や呪術系の素養が高い彼らにとって、相手の在り様は極めて歪だ。聖に属する力をベースとしながらも深淵と言う不浄に塗れ、騎士としての振る舞いを貫くと同時に吸血鬼へ付き従っている。能力的にも心理的にも、二律背反する要素が共存していると言って良い。或いはそれすらも一緒くたにしてしまうのが、オブリビオンの恐ろしさなのだろう。
「まぁ、ここまで来たら、語られようが語られまいが、大団円でオチを付けたいところだよなぁ? どんでん返しは物語の華だけど、今回ばかりは蛇足でしかない。という訳で、最後まで気を抜かずに行こうか」
だが、今は過去について語るべき時間ではない。この蜂起の、『闇の救済者』の、そしてこの世界の未来を左右する場である。予想や期待を裏切って喜ばれるのは、それがより良い方向へと向かうからこそ。ここで逆転負けを喫したとあっては友軍に顔向けできぬと、語は適度に肩の力を抜きつつ気合を入れ直していた。
「ええ、そうです。彼らの勝利が露と消えることのないように、絶対にこの先へは行かせません。このまま無事に帰り、何事もなかったのだと告げる為にも……貴方にはこの場で斃れて頂きます」
その気持ちは狐珀も同じである。『知らねば仏、見ぬが秘事』を目指すのであれば、こちらもまた言わぬが花というものだ。『闇の救済者』が戦車軍団を破り、愚言を弄する領主を討ち、その果てに独立を勝ち取った。死力を尽くした戦士たちが知る物語はそれだけで良い。彼らがこれ以上、陽の差さぬ戦場へ足を踏み入れる必要は無いのだ。
「ダークセイヴァー……闇に沈み、なお、救いを諦めない世界。そして、今、この場に、篝火は灯った。夜は光に照らされ、恐怖は知識で克復され……絶望は希望に変わっていく。
そして常世の世界は、日を取り戻すだろうね。いつか、必ず」
ぞわりと、周囲に広がる深淵を塗り潰すかの如くペインの全身から霧が滲みだし、それと比例する様に青年は少年へと若返っていった。先の陰陽師が告げた様に、安寧と苦痛については彼も一家言ある身だ。昏きより出でて陽を望んだ物と、輝きから墜ちて深淵に沈んだ者。好対照とも言える相手に、何か思うところがあるのかもしれない。
「自分からも、もう一度告げよう……貴方に、ここから先を通すわけには、いかない。闇の中から生まれた光を、影の中にあって、尚照らされるそれを……消すわけには、いかないから」
「理由が何であれ、目的が何であれ、やるべき事はそう変わらん。我はボーツマンと違い、舌先の走りはそこまで良くはないのでな。ざっくばらんな物言いとなってしまうが、とどのつまりはこういう事だろう?」
――目の前の敵を切り伏せる、ただそれだけだ。
そう告げながら騎士は聖剣を構える。相手の戦意に応じて猟兵たちもまたそれぞれの得物を抜き放ち、術式を練り上げてゆく。言葉によってどうにか出来る段階はとうの昔に過ぎ去った。圧政にせよ、融和にせよ、平和へと至る道程には常に流血が付き纏うもの。それを理解しているが故に、その場に居る者は誰も迷わない。
斯くして六つの人影は、開戦の合図も号砲もないまま、どちらともなく挑み掛かってゆくのであった。
「……さて。こちらも少々、身を張らないといけないかな。幸い、相性自体は悪くなさそうだからね? 環境を整えるよ、攻めは任せた」
戦闘を開始したとはいえ、五人を相手に正面から突っ込んで来るほど騎士も捨て鉢ではない。刀身にぞるりと深淵を纏わせるや、剣閃の軌跡に沿ってそれを投擲して来る。鎌鼬の如く襲い来る漆黒の斬撃を回避しながら、ファンは人の姿を崩し一振りの白刀に姿を変えて地面へと突き立つ。
「吸血鬼に死人、絡繰り仕掛けの騎士の次は刃へ変ずる乙女……つくづく大道芸染みているな、汝らは」
それが何事かの事前準備であること明白。騎士は狙いを白き刃へと変えるや、その純白を汚すべく漆黒の闇塊を投擲する。命中すれば深淵に蝕まれるだけでなく、二の太刀として極光が襲い掛かって来るだろう。地面へ切っ先を食いこませたファンに避ける術はないように思える、が。
「誉め言葉として受け取っておくよ? さぁさ、とくと御覧じろ。これなるは己が刃が、生えし複製が、触れ征く道を埋め尽くす剣樹の茂り。私が敵と認める者を刺し穿ち阻み留む白の地獄なれば」
瞬間、深淵と白刀の間に無数の刃が生えた。ファンの本体である刃と瓜二つのそれらは攻撃を阻む障害物と化し、触れる端から闇塊を斬り裂き浄化してゆく。結果、相手の攻撃は白き刀の眼前へと迫った時点で、ボロリと崩れ自壊してしまう。
「複製の末枝とは言え、それらは浄化の権能を示すカタチだ。そう易々と蝕めるとは思わないで欲しいものだね。まだまだストックは山の様にある。嫌と言う程に、邪魔をさせてもらうよ?」
「我が極光と近しい力、か。なるほど、深淵が通らぬのも道理か。だが、汝は其処より動けぬと見える。であればこの剣山を踏破して、その元まで辿り着けば良いだけの事!」
しかし、それで臆する様な手合いであれば始めから苦労はしなかった。そもそも千を超える軍勢を単身で壊滅させようとやって来たのだ、今さら無限の刃を恐れることなどあり得はしない。四方八方から繰り出される刃を往なし、押しのけ、砕き折りながら些かも速度を減じさせる事無く迫り来る。
「確かにあの攻撃、対処するにはファンの護りで初撃を防ぐのが最善か。だがそれでは、守るだけで攻め手を欠く。現に向こうは意に介さず踏破しているしな。敵を侮るつもりは無い、ここは念には念を入れておくとしよう」
剣樹海が突きによる点、斬撃による線を担うのであれば、陰陽師が為すべきは面を形成する事。素早く狩衣の袂より霊符を取り出すや、刃の間へうっすらと輝く半透明の結界壁を構築してゆく。異能による剣山と比べれば効果は劣るものの、深淵の浸食を抑え込むにはこれにて十二分。脅威だが物理的に対処できる白刀群、それには劣るものの範囲が広く避けづらい結界。相手からすればどちらを選んでも厄介極まりないと言えるだろう。
「極光斬撃によって、一帯を深淵で塗り潰すか……? 否、この状況で足を止めるのは悪手以外の何ものでもない。動きを止めれば単なる的であると、先ほど身に染みて学び直したばかりだろうに!」
先の交戦結果により騎士の膝頭は銃弾で穿たれ、今も装甲表面を鮮血が伝っている。しかし痛みと死、どちらがマシかなど問うまでもない。騎士は進行方向へと深淵を投擲して浄化能力を一時的に中和、間髪入れずに極光を叩き込むことにより進路を確保しながら突き進む。
「あの勢いだとまず確実に突破して来るな。となれば仕方がない。柄じゃないが、少しばかり鬼の真似事でもしてみようか。騙るもなにも、オレ自身なんだがまァいいさ」
「相手が死力を尽くす以上、こちらも手の内を伏せてはいられません……殺戮者の紋章で一騎当千の力を手に入れたのなら、私は炎と剣技を得意とする兄の力を借りるとしようか」
白き刃と陰陽師が護りを固めてくれたのならば、次は攻勢に移る頃合いだろう。噺家と狐像の少女は迫る敵の姿を睨みながら、それぞれ真の姿を解放する。語は普段の洋装から緋色の着流しを肩に掛けた和甲冑姿へと、狐珀は大きな白狐を伴い十拳剣を抜き放つ戦乙女へと変ずる。普段は援護役に徹する事の多い二人だが、此度は敢えて前へと出る事を選択していた。
「刃と結界で足りぬと言うのであれば、更に焔も馳走して差し上げます。炎は古来より闇も呪いも怨念も、全てを包みこみ浄化する存在。歪んだ聖裁を防ぐ結界代わりになるでしょう!」
白狐に跨った狐珀は先んじて飛び出すと、刀身に纏わせた焔で騎士の周囲を焼き払ってゆく。草原に生い茂る下草は青く水気を含んでいるが関係ない。赤々とした炎の輝きは白い刀身によって乱反射し、周囲一帯を焦熱の煌めきによって浸食していった。
「燃える大地に乱立する剣山……こう言っては何ですが、まるで地獄絵図を思わせる有様ですね」
「なに、悪鬼羅刹を騙ろうってんだからな。寧ろ丁度いいさ。それにほら、白い刀身に灯る炎が蝋燭みたいだし……いやま、それは良いとして。切った張ったは久方ぶりだがどこまで通用しますかね、っと!」
黒漆の鞘より大太刀を鞘走らせながら、続いて語が騎士目掛けて切り込む。相手の得物が切っ先半ばよりへし折れている事も相まって、そのリーチ差は見た目以上に感じられる。だが、騎士は相手を一目見て力量の程を把握したらしい。零れ落ちる言葉尻には面白がるような感情が滲んでいた。
「重心や体の動かし方から察するに、先の言葉はあながち嘘ではないらしい。これまでの攻防にて与し易しと思われたのならば、少しばかり侮り過ぎだと言いたいところだが」
「そんなつもりは無いんだがな。まぁ、こいつを味方へ当てないよう気を付けるのにも一苦労しているってんだから、そう思うのも無理ないが。さて、浄化ばかりってのもバランスが悪いし、ここらで一つ趣向を変えるとしましょうかね!」
そう自嘲気味に叫ぶ噺家の右瞳がじわりと黒に染まる。瞬間、大太刀が漆黒に染め上げられたかと思うや、まるで何かに取りつかれたかの如く凄まじい勢いで斬撃が叩き込まれ始めた。乱立する剣山を斬り飛ばしながら振り抜かれる一撃は、威力だけであれば熟練者のそれと遜色ないだろう。
「なるほど、見るべき部分は確かにある。しかし、些か以上に隙が……っ!?」
大振りの攻撃と言うのは、得てして無防備になりやすい。振り抜いた後に返す刀を浴びせんと騎士は機を窺うが、間髪入れずに二撃目が襲い来る。ならばその次をと意気込むも、立て続けに三撃目。終わらない。大太刀は息つく間もなく、縦横無尽に舞い踊り続けてゆく。
「複製とは言え、周りの刀も一応身内扱いになるのか……ヤドリガミだからこそってところだな、こりゃ。まァ、守りは任せて、オレはこのまま攻めに徹しますかねェ!」
「四、五……六! まったく、いったい幾度続ける気なのか!」
発動した異能による連撃は九まで続くが、相手がそれを知る由もない。聖剣の耐久性に任せて凌いでいたものの、八連撃目には堪らず足を止めて黒白の多重斬撃を繰り出した。一発一発の威力は劣るが、そのぶん手数に優る。迫る八撃目を相殺し、九撃目を跳ね返す。と、そこで死神による強化が失われ、がくんと噺家の動きが目に見えて鈍る。対して、今度は逆に騎士の攻撃が俄かに加速してゆく。
「連続攻撃も九で打ち止めか! そうと分かれば……」
「させません! 敵を破壊する獰猛な赤よ。闇に堕ちた者を破滅へと導く灼熱の赤よ。忌むべき黒白を塗り潰せ!」
今度こそ相手を切り刻まんと息巻く騎士だったが、すかさず狐珀がフォローへと回る。逆巻く焔を手繰って漆黒の斬撃を焼き払い、純白の飛刃は手にした剣で切り払う。五人は互いの手の内を裏の裏まで知り尽くしている間柄だ。どのタイミングでどう動くべきなのか、今さら声を掛け合うまでもない。
「よくこちらを対策しているな。いや、ああまで手妻を晒せば然もありなんか。だが、一朝一夕の付け焼刃で届く程、我が剣技も甘くはないぞ!」
突き立つ剣群、張り巡らされた結界、燃え盛る炎に斬り掛かってくる剣士たち。状況は四面楚歌と評するのも生温い。然れども、騎士は一歩も退くことなくそれらと渡り合う。無傷での勝利は早々に捨て、被弾を前提として立ち回り、防御するのは頭部や紋章の宿る胸部のみ。そうした捨て身の勢いは、徐々にではあるが猟兵側を圧し始める。
「っ、二人掛かりでも止められませんか……!」
炎は鎧で防がれ、剣技は変幻自在の軌道を以て防がれる。その一つ一つに派手さは無いが、最小限の動きで最大の効果を狙ったものであることは明白だ。異能の反動から立ち直った語と連携して挑むものの、まるで暖簾に腕を押しているような感触だった。
戈を止めると書いて『武』、その本質は劣が優を凌駕するための技術である。それを熟達した武人が扱えば、いったいどれ程の力を発揮するのか。噺家と少女は現在進行形でそれを目の当たりにしていた。仲間たちによる妨害支援があって尚これなのだ。本当の意味で対等に戦っていれば、どれほどの苦戦が強いられたのか想像するだに恐ろしい。
「二対一でも押し返せないって、こいつは虎牢関の呂布か何かかよ!? あちらさんの攻撃は浄化と呪詛でそれぞれ相殺できればと思ってたが、それ抜きでもここまで腕が立つとはなぁ……!」
「なら……三人目が要る、ね? 自分も加勢させて、貰おうか」
となればと、万が一に備えて控えていたペインもまた攻防へと加わってゆく。体の大きさこそ普段より小さくなっているが、放たれる威圧感は逆に増大しているほどだ。それを相手も感じ取っているのか、侮る様な様子は見受けられない。寧ろ、どこか興味深そうな雰囲気すらあった。
「汝……我と近しく、されど決定的に違う気配がするな。興味深くもあり、忌々しくもある。何とも不可思議な心持ちだ」
騎士が与り知る事ではないが、いま少年の纏っている霧の色は普段と異なっていた。血の様な赤黒でも無ければ、清らかな純白でもない。その中間とも言える薄暗い灰色のヴェールが、ペインの全身をうっすらと覆っていたのである。彼は枝を思わせる骨を武器として、騎士と真っ向から打ち合ってゆく。
(今までとは違う、力の解放……相手もそれを、感じ取っているみたい、だね)
怨念の黒でもなく、浄化の白でもない。そのどちらをも混ぜ合わせ、バランスを取りながら等しく制御する。極光と深淵を使い分ける相手に合わせた彼なりの最適解だ。そういう意味では、騎士の抱いた感想は的を射ていた。
「自分も、光と闇を、たくさん見て来たから……その上で、いま此処に立って居る。過去に墜ちた貴方とは、違うと断言、出来るよ」
「ああ、確かに汝と我は違うだろうさ。そうした者が一緒くたに集うと言うのもまた、戦場の面白さと言える。だが、結果はどのみち二つしかない。勝つか、負けるかだ!」
騎士は敢えて前へと踏み込むことにより、猟兵と己の間合いをゼロまで詰めた。鍔迫り合いどころか、掴みあっての肉弾戦を行うべき距離。相手は腰をグッと落として力を溜めるや、反動を利用して三人を弾き飛ばす。
「っ、しま……!?」
「今ので全員に深淵を塗布した。流石に対多戦は骨が折れる故、済まないが浄化される前に纏めて墜とすとしよう!」
押しのけた反動で一歩踏み出すや、体勢を崩した猟兵たち目掛けて騎士は聖剣による裁きを下す。欠け落ちた刀身を極光が補い在りし日の姿を再現すると、更にはその威力までをも蘇らせんとし――。
「三人纏めて、か。だったら、これ以上のタイミングもあるまい。こちらはその輝きを今か今かと待っていたのでな」
「なんだ、それは。盾、いや鏡だと? それで何を……否、まさかっ!?」
両者の間へ不意に、一枚の鏡が出現した。よく磨き抜かれた円形の金属鏡。それは津雲の核たる器物に他ならない。つるりとした表面は眩いばかりの光を乱反射させながら、左右の反転した世界に騎士の虚像を映し出してゆく。光に鏡、その結果猟兵が何を狙っているのか。騎士もどうなるかを悟ったものの、攻撃動作を止めるには余りにも遅きに失しており。
「気を付けると良い……不用意に私をのぞきこんでは、いけないよ?」
解き放った極光が、そっくりそのまま騎士目掛けて跳ね返された。それは悪しき者を裁き滅する浄化の輝き。確かに猟兵たちも交戦の最中で深淵に蝕まれているだろうが、この場で一番深く浸透されているのは騎士本人に他ならない。である以上、今のカウンターは覿面に効果を発揮するはずだ。その予想を証明するかのように、相手は全身を焼かれ堪らず数歩後ずさっている。
「誰よりも自身が深淵に蝕まれている様子、故にその攻撃はさぞや効いただろう。さあ、今のうちに反撃を! 相手の事だ、僅かでも猶予を与えればすぐさま立て直してくるぞ!」
「さっきから無尽蔵なのを良い事に、好き放題へし折ってくれたね? ものはついでだ。奥深くまで根付いている邪気を徹底的に祓ってゆくと良い。なに、遠慮はいらないさ。要らんと言っても受けて頂くよ」
陰陽師の言葉へ真っ先に反応し、ファンが再び剣群を以て騎士を攻め立てゆく。白き刃と違って、深淵は再使用が可能となるまで回復に幾ばくかの時間を要するはず。であれば彼女に出来る事は、その瞬間を出来る限り遅らせる事。最初の宣言通り、嫌がらせとしてはこれ以上ないほど効果的である。
「く、かぁ……確かに、今のは堪えた、な。我が敵を鏖殺せんと放った一撃だ、当然と言える。だが……敗因が自滅では、騎士としての矜持が保てぬというものだッ!」
既に纏う甲冑からは強靭性が失われ、白刀の切っ先が突き立つたびにボロボロと鉄片が零れ落ちる。だが相手は剣群を刀身半ばより斬り落とすと、矢の如く突き立てたまま継戦の意思を示す。
「だったらもう一度だ! さっきと同じ九連撃、耐えられるもんなら耐えてみやがれ!」
「炎の剣が舞う様は、全てを飲み込む嵐の如し。我が剣舞と共に舞い踊り、誇りと大志を失った彼者を討滅せよ! これ以上、自らの本懐を忘却したまま暴虐へと与する事こそ、騎士の名誉を汚すことなれば!」
続けて語と狐珀が叫びに応ずるや、先程と同様に大太刀と十拳炎剣を手に斬り掛かる。構図自体は変わらないにも拘らず、結果は誰の目から見ても明らかなほど変化していた。受け流せていた斬撃に凌ぎきれず、跳ね除けていた炎が体を焼き焦がす。弱点である左胸でさえ、辛うじて防げていると言った有り様。度重なるダメージを何とか抑え込んでいたものの、先のカウンターによって遂にその箍が外れたのだ。
「オ、オオオオォォォッ!」
今の騎士を支えるのは技術でもなく、紋章による強化でもなく、ただ気力の一念のみ。しかしたったそれだけのはずが、相手はなおも驚異的な粘りを見せつけて来る。鬼気迫るその戦いぶりは使命を果たさんとする義務感か、武人としての矜持か。どちらにせよ、相手は手負いの獣に等しい。早々に仕留めねば、負けはせずとも手痛い一撃を喰らう可能性が高いだろう。
「戦場における末路は二つ、勝つか負けるか。そう言ったのは確かに我だ。だが……まだだ、まだ終わらん。結果が明らかとなるその瞬間まで、足掻いて見せよう!」
「……今のあなたや、私みたいに、白と黒を確と分けるのも一つの道だけれど。さて、この場の結果を見る限りはどうだろうね?」
猛り吼える相手に対し、刃と化したままのファンはふとそう問いかけた。それは敵のみならず、自らに対しても投げかけられた言葉。籠められた真意を測りかねたのか、騎士は得物を構えたまま押し黙る。白き刀は返答を待たずに先を続けてゆく。
「何も今回が特別という訳じゃない。いつかはきっと、それだけでは立ち行かなくなる。貴方の在り様は私にとって他山の石だ。だから……さぁ」
――あの羽を見るといい。
そう告げると共に、灰色の風が吹く。ハッと騎士がそちらを振り向くや、小さな影が視界へ飛び込んで来る。それは昏き霧を従えたペイン。彼の手に握られていた骨は濃灰を纏い、かつて在りし翼としての姿を取り戻していた。奇しくも猟兵のみならず、携えた武器もまた騎士のそれを極めて近しいのは何の因果だろうか。
「『闇の救済者』たちは、手を取り合った。人種も、職種も、乗り越えてね。それは統制が無いとも、言えるかもしれない。でも裏を返せば、寛容さと、懐の広さを示しているのだと思う。だからこそ……」
翼刃と共に戦場を覆っていた炎が舞い上げられ、高々と天まで伸びてゆく。騎士は一瞬だけ抵抗することを忘れ、ただただそれを見上げていた。相手がその光景に何を思うのか、兜越しに窺い知る事は出来ない。そうして、そのままペインは灰翼を振り下ろすと……。
「……彼らは常世に、火を灯したのだから」
煌めく焔の中へと、墜ちた騎士を飲み込んでゆくのであった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ヴァネッサ・ラドクリフ
ここからは闇の救済者の仲間としてだけでなく、猟兵として目覚めた責務を果たさないと
それがあたしの目指す王子様だ!
必ず闇の救済者軍も共に戦う猟兵の皆も守る【正義の誓い】を立てながら
絶望の黒と希望の白の二色の王子様としての真の姿に変身して戦うよ
弱点の左胸を狙いたいけど敵もそれを分かっているから
焦らず革命剣とテットの二刀流で少しずつ屋敷から遠ざけさせる為に剣戟を繰り返すよ
敵の剣に力が解き放たれる瞬間を見逃さず、
極光のなぎ払いを払おうとする左または右とは逆方向側にギリギリで避けて、
深淵の地形に立たれる前に二刀流で聖剣を一瞬でも抑えつけ霊力を宿し伸ばした髪の毛で左胸を狙うよ!
絶対に、負けないんだからね!!
●その篝火は、次の手へと渡されて
煌々と、焔の輝きが戦場を照らし出す。篝火と言うのは荒々しく、破壊と言うには荘厳な光景。その紅蓮の中から騎士が歩み出て来る。相手の姿は正に満身創痍。十を優に超える戦闘を経て、殺戮者の気力体力は既に限界を超えているだろう。だが、この場に未だ立って居る事だけが真実だ。
「……まだ、だ。全力の百分の一、千分の一であろうとも、『闇の救済者』全てを屠るには事足りる。そう、まだ、終わらん……!」
何が彼を突き動かすのかまでは分からない。だがそれが相手にとって何よりも『重い』ものである事に間違いはないだろう。しかし、それは猟兵側とて同じこと。よたよたとした足取りで街道を辿らんとする騎士の前に、小さな人影が仁王立つ。
「残念だけど、この先へは行かせないよ。ここからは闇の救済者の仲間としてだけじゃない。猟兵として目覚めた責務を果たす。あたしの背中に在るのはみんなの未来……絶対に守ってみせるよ! それがあたしの目指す王子様だ!!」
それは右手に長剣、左手に布槍を握りしめたヴァネッサであった。彼女も対戦車戦と領主の討伐、二つの戦いを経て浅からぬ疲労を覚えている。にも関わらず揺らぐことなく立ち続けるのは、騎士と同じく背負う物が在るがゆえ。そんな敵手の戦意に反応する様に、騎士もまた我知らず聖剣を【屋根】の形に構える。
「……名乗られよ、猟兵殿。貴殿の名誉だけでなく、果て逝く者への餞として」
「ヴァネッサ・ラドクリフ。まだまだ半人前だけど、『王子様』と『正義の味方』を目指す者だよ。その為にも、必ず闇の救済者軍も共に戦う猟兵の皆も守るんだから!」
高らかな誓いと共に少女姿が変わりゆく。白を基調としたアーマードレスの一部が漆黒に染め上げられ、モノトーン調へと装いを変えた。絶望の黒と希望の白、二色を纏う王子様。これこそ道半ばながらも、彼女の目指す理想の具現である。
「なればその言葉、偽りでないと示してみよ。来い、先手は譲ろう」
その申し出は善意か、誘いか、はたまた打ち掛かる体力すらも惜しんだか。だが、来いと言うのであれば踏み込むまで。少女は左右の得物を振り被り、真正面から敵へと挑み掛かる。
(弱点の左胸を狙いたいけど、相手もそれを分かっているだろうから……まずは焦らずに剣戟を繰り返すよ。チャンスは絶対に来るはずだから!)
左手の布槍で相手の聖剣を絡め取って封じながら、右手の剣で小刻みに攻撃を仕掛けてゆく。一撃の威力に頼らず、手数で少しずつ相手の防御を打ち崩さんと言う狙いだ。一方の騎士は手首を翻して拘束を払いのけ、足捌きの反動を利用してヴァネッサの攻撃を受け流す。消耗の激しさから騎士の動きに大仰な派手さはなく、技量故に猟兵は攻勢に踏み込み切れない。そんな拮抗状態の斬り結びが十合を超えた辺りで、先に動いたのは相手側であった。
「余力を考えれば、放てるのは一度きりか。受ければ我が虐殺は開始され、凌ぎ切れば汝の勝利が確定する。さぁ、正真正銘最後の一刀だ。死力を尽くして臨むが良い!」
騎士が掲げた聖剣から光が迸り、長大な刀身を形成する。そこから放たれる暴威はこの戦闘中に何度も見た。直撃すればまず耐え切れず、仮に回避したとしても生まれた深淵に立たれてしまえば戦況が覆ってしまう。ならば、勝機を見出せるのは僅か一瞬のみ。
(まずは斬撃を全力で回避するのが大前提! その上で深淵の地形へ立たれる前に決める……あたしが勝てるとすれば、それしかないっ!!)
半ば賭けに近い作戦ではある。だがやると決めた以上、少女もまた覚悟を決めた。自分から見て左斜め上より放たれる斬り降ろし。瞬きすら惜しんでその軌道を見極めると、ヴァネッサは勢いよく右前方へと飛んだ。
瞬間、己のすぐ左脇を荒れ狂う極光が通り過ぎてゆく。巻き上げられる土砂と草葉が体に当たるのを感じながら、相手の懐目掛けて地面を踏みしめる。輝きが消え去った直後、斬撃へ沿うように草原が漆黒の闇へ変貌しているのが見えた。騎士がその上に立つべく足を踏み出すと同時に、返す刀で猟兵目掛けて逆軌道の切り上げを繰り出す。少女は手にした武器で斬撃を受け止めながら、全体重を掛けてそれを押し返し……そして。
「……髪は女の命、とはよく言うが。よもや命取りになるとまでは、予想せなんだ」
重なり合った両者の影。騎士の聖剣が革命剣と布槍で絡め取られている一方、ヴァネッサは相手の左胸へと頭を押し付けていた。単なる体当たりではない。霊力を通した髪の毛を傷口へと滑り込ませ、内部に宿る紋章を絡め取ったのだ。
「せぇ、のぉっ!」
蹈鞴を踏む様に少女が飛び退くと、それに伴って宝石の如き蟲が引きずり出される。ヴァネッサはピクピクと痙攣するそれを切っ先で刺し貫いて、完全に止めを刺す。死闘と激戦を重ねた『第五の貴族』が刺客、その幕切れは極めて呆気ないものであった。
「……見事、と言わせて貰おう。汝は、汝らは確かに我を討ち滅ぼした。此度の戦い、猟兵と『闇の救済者』たちの完全勝利である」
騎士がこれまで動けていたのも紋章の強化があってこそ。それが無くなった今、もはや彼の死は確定的だ。だとしても、最後の瞬間まで無様を晒す気はないのだろう。左胸にぽっかりと空洞を開けたまま、敗者は勝者へと賛辞の言葉を述べる。
「だが飽くまでも我は吸血鬼勢力が持つ戦力、その一つに過ぎん。本気を出せば、同レベルの存在が多数投入されるだろう。我一人でこれだけの大騒ぎなのだ。況や、複数となればどうなるかなど明白。それでもなお、汝は……」
「……関係ないよ。私たちは、絶対に負けないんだからね。これからも、ずっと!!」
続けて紡がれた問いかけが言い終わる前に、ヴァネッサは答えを口にしていた。その表情の一切の迷いはなく、ただただ曇りなき決意のみが漲っている。それを見た騎士は首を振りながら小さく肩を竦めたのだが、もしかして笑ったのだろうか。それを確かめる前に、墜ちた騎士は朽ちた聖剣を敬意を表する様に構え……
「そう、か……ならば、精々」
――鍛錬に励むと良い、若人よ。
闇が晴れる様に、光が消える様に。傷だらけの甲冑は風に晒された塵芥の如く、跡形もなく崩れ去っていった。カラリと寂しく音を響かせるは、一切の力を失った聖剣。折れてなお戦いを耐え抜き、唯一残されたそれをヴァネッサはそっと拾い上げる。
「……絶対に、強くなるよ。いつか立派な王子様になる為にも、ね」
ひゅるりと、草原に一陣の風が吹き荒ぶ。それに乗って、遠くから人々の歓声が微かに耳へと滑り込んできた。『闇の救済者』軍と離れてからもうだいぶ時間が経ってしまっている。そろそろ戻らねば、物見の一人二人くらいやって来てしまうかもしれない。少女は小さく深呼吸して気持ちを切り替えると、胸を張りながら元来た街道を歩いてゆく。
此処は常闇の世界、ダークセイヴァー。
今だ陽光は闇夜に覆い隠され、平穏も安寧も杳として見通せぬ。
しかしこの大地に、確かな篝火が灯った。希望と言う、誰もが焦がれ続けた輝きが。
それは多くの者の手を介し、いずれあらゆる場所へと燎原の如く広がってゆくのだろう。
夜明けはきっと、そう遠くはない。大きなうねりとなって、世界を覆すはずだ。
猟兵たちは強く確信しながら、共に肩を並べた戦友たちの元へと戻ってゆくのであった。
大成功
🔵🔵🔵