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付喪神

#サクラミラージュ

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#サクラミラージュ


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●黄泉返りし者
 それは突然の出来事であった。
 廃品処理施設。
 そこに廃棄されていた人形が、突如動き出したのだ。
 突然の出来事に驚く職員達。
 取り押さえようとするが、並大抵の膂力では無い。
 見かけは女の姿をしているが、大の大人三人でも抑えきれない。
「みんな、どいてろ!」
 どうせ廃棄されていた物。ならば壊してやろう。
 そう考えフォークリフトで突っ込んでいき、破壊を試みようとした。
 だが、それは無駄に終わる。
 蒸気機関のエンジンが白煙から黒煙に代わろうとも、その者をいささかも動かすことはできなかった。
「うわ、うわわわわっっ!」
 逆にフォーリフトを片手で持ち上げられ、狼狽の声を上げてしまう。
 無造作に放り投げられ、機械の破砕音が辺りに響く。
 そしてそこから、火の手があがった。
「化物だ……」
「影朧だ……逃げろ!」
 蜘蛛の子を散らし逃げ惑う人々。
 たった今、この世に生を得た影朧は、ぼんやりとした声で呟き、歩み出していく。
「謝らないと……。あの方に遭わないと……」
 帝都に出現した影朧は、周囲の惨状にも構わずに、目的地へと向かうのであった。

●グリモアベースにて
「帝都にて、影朧が現れました」
 ここはグリモアベース。
 ライラ・カフラマーンは居並ぶ猟兵たちに深々と頭を下げていた。
 その背後に生じている霧には、さきほどの光景が幻となって現れている。
 頭を上げると幻は雲散霧消していき、周りの霧と溶け込んでいった。
「ですが我々が考えるものとは、些か状況が違うものと考えられます」
 出現した影朧は弱く、猟兵相手では苦戦するようなモノではないらしい。
 現世の未練が、彼の者を呼び出したのだ。
 ですから、とライラは続ける。
「あの世界で言うところの『成仏』、未練を叶えさせてあげれば影朧は消滅するでしょう」
 本来ではあれば害になる影朧は倒すべき存在であるが、あの者はそこまでの脅威ではない。
 倒して無害化するのも、執着を満たして無害化するのも、同じ事である。
 今回ライラは、穏便な方法で解決を目指そうと皆に依頼を願うのだった。
「ともあれあの影朧は生まれたばかり。感情と理性のバランスが未熟なため、周囲に被害をもたらしかねません。まずは皆さんは現地に赴き、影朧の相手をしてやってください。
 暴れることによって力のコントロール、理性が生まれるだろう。
 そうすれば自分がどうしたいのか、はっきりするに違いない。
「あの影朧からは後悔、謝罪の念が垣間見えます。皆様、影朧のその気持ちが成就するように、手助けしてくださいませんか」
 ライラが杖の先で地面を軽く叩くと、霧が変化し姿を形どる。
 それは帝都の街を行く、影朧の姿であった。
「普段とは違う依頼内容でございますが、救済の道に影朧や人も変わりないものと私は考えます。救われるものなら、救いたいと思います」
 そう言ってライラは、猟兵達に深々と頭を下げたのであった。


妄想筆
 春ですね。妄想筆です。
 今回は影朧を救済する依頼となっています。

 一章は現れた影朧との対決となります。
 とはいってもその力は弱く、猟兵が本気を出せばすぐに破壊されてしまうでしょう。
 ほどほどにあしらい、周囲に被害を持たらさないように誘導してください。
 自我が生まれた影朧は、自分がしたかった事を満たすために移動しはじめます。
 二章は目的地へと向かう影朧の保護です。
 猟兵達はすでに影朧が無害化していることを知っていますが、街の人々は当然知り得ません。
 影朧を排除しようと、また怯えて逃げようとします。
 彼らをなだめつつ、影朧を誘導してください。
 三章は目的地についた影朧の望みを叶えることです。
 『誰かに会って謝罪したい』
 その影朧の想いを見守るか手助けするかは自由です。

 オープニングを読んで興味が出た方、参加してくださると嬉しいです。
 よろしくお願いします。
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第1章 ボス戦 『試作パーラーメイドロボット『藤咲さん』』

POW   :    致命的欠陥
【力の制御が甘くなった怪力の一挙手一投足】が命中した箇所を破壊する。敵が体勢を崩していれば、より致命的な箇所に命中する。
SPD   :    オール・ワークス! 藤咲さんカスタム
対象の攻撃を軽減する【戦闘メイド服姿(己の怪力でも破れない)】に変身しつつ、【独自理論設計で改善不可能な欠陥由来の怪力】で攻撃する。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
WIZ   :    ユーベルコヲドと戦闘技術はパーラーメイドの嗜み
【転生ウォーマシンが参考にされた戦闘モード】に変形し、自身の【メイド業や得意分野で力を発揮する演算能力】を代償に、自身の【耳が発光。怪力と特殊部隊顔負けの戦術行動】を強化する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はトリテレイア・ゼロナインです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 廃品処理施設場が火に包まれていた。
 幸いに火災に巻き込まれた人々はいない。
 人気のない場所で、何者かの影が、炎より現れた。
 その身に火の害は無い。
 だが、動く容姿のあちこちから、軋む音が聞こえる。
 なぜなら彼女は、ロボットだから。
 パーラーメイドロボット。
 人々に奉仕する目的で製造された試作品の機械人形。
 それが『彼女』である。
 熱気を背に歩く彼女の頭は、今だぼんやりとしている。
 何かを成さなければいけなかったような気がする。
 何処かへ行かなければならなかったような気がする。
 だが思い出せない。
 そのもどかしさを発散させるように、彼女は家屋の壁面を叩いた。
 ストレス発散の発露であるが、そのあおりを受けた家屋は、もろくも吹っ飛ばされて延焼を拡げる手助けをした。
 自分がしたかったことはこれだろうか。
 これではないような気がする。
 感情がぐるぐると体内を駆け巡る。
「わた、わた……しは……ダレ?」
 もどかしさ。
 それを吐き出そうと、『彼女』は進み始めた。
エウトティア・ナトゥア
アドリブ・連携歓迎

うーむ、街中でオブリビオンを倒さずあしらえとはライラ殿も面倒な事を仰る。
弱いとはいえ、あの怪力で殴られたらわし死んじゃうのじゃが…
危ないから【巨狼マニトゥ】に【騎乗】して遠目に窺がっておくかな。
まあ、愚痴は後じゃ、まずは精霊達に願って炎を鎮めるかの。
さて、あの人形の相手は精霊に任せるのがよいか、この地には八百万柱の強力な精霊が居ると聞いておる誰か相手してくれるじゃろ。
精霊殿よ、あの人形を適当にあしらっておくれ。
…なんじゃマニトゥ?うん?八百万はそんな意味ではない?…知っていたのじゃよ?(震え声
ま、まあ、そんな事よりわしらは他に巻き込まれた一般人が居ないか周囲を見回るのじゃよ。


都筑・やよい
未練がロボットを動かしたのかしら
だとしたら、可哀想だわ
なんとかして救ってあげたい
そう思うのはおこがましいことかしら

私の力はまだ未熟
だから初撃の符、一枚に賭けるの
UC使用、この初撃の一枚が私にできる全て

止まって、ロボットさん、落ち着いて
私たちは味方だよ
貴女の後悔を探しに行こう
みんな一緒なら、必ず見つかるはずだから

もどかしい気持ちはよくわかるよ
でも、何かにあたっていても始まらない
まずは落ち着いて、思い出してみて

私には周囲に被害をもたらさない方法がないから
【祈り】を込めて必死に説得するよ

落ち着いて、一緒に行こう

アドリブ歓迎です



 燃えさかり、延焼を続ける建物。
 それを遠巻きに見つめ、エウトティア・ナトゥアはため息をついた。
「やれやれ、倒さずあしらえとはライラ殿も面倒な事を仰る」
 遠くから様子を眺めていたが、影朧の力は本物だ。
 他の個体より弱いのかもしれないが、あれを振り回されては自分ではひとたまりもない。
「でも可哀想」
 都筑・やよいが同じく影朧を見つめている。
 その目に映るのは、エウトティアとは違った色だ。
「なんとかして救ってあげたい、そう思うのはおこがましいことかしら」
 ため息をつくように、都筑の口から言葉が漏れた。
 あの影朧は人々を殺めようとしているのではない。
 ただ、未練を抱えてこの世に留まっている。
 それを、何とかしてあげたい。
 都筑の言葉には、そういった気持ちがありありと込められていた。
「いやいや、おこがましいことなどとはありませんぞ」
 マニトゥの頭を撫でて、エウトティアが笑う。
 自分たちはあの者を倒すのではなく、救いに来たのである。
 ここでこうやって立ちつくしていても仕方があるまい。
 都筑の言葉で決心をした。
「じゃが、まずは火の勢いを止めたほうがいいのう」
 彼の者を救っても、炎に巻き込まれては無駄足というもの。
 この場を収束する必要がある。
「都筑殿、わしはあの炎を押さえ込む。奴を頼んでもよろしいか」
「ええ、任せてください」
 かけられた言葉に、都筑は力強く頷くのであった。

 壁を蹴り、屋根を上って見晴らしの良い場所へとマニトゥが駆ける。
 ここからなら、辺りが良く見渡せる。
 灰燼と化す前に、早々にはじめるとしよう。
 両手で杖を掲げ、エウトティアは天へと祈りを捧げた。
「天地を掌る精霊よ。その力を現せ!」
 彼女が祈るは、この地におわす八百万の柱達。
 水と、風の姿を伴って、その中の二柱が顕現した。
「ぐ……」
 姿を現すと同時に、エウトティアの身体がふらついた。
 精霊の力は思った以上に強大だ。
 今は二柱がやっとというところか。
「都筑殿が相手をしてくれて助かるわ。独りでは抜けがあったやもしれぬな」
 エウトティアが微笑んで精霊に語りかける。
 彼らは呼びかけに応じ、形を震わせた。
 突風が水を巻き上げる。
 それは空に雲を生み、激しい雨となって地に降り注いだ。
 天の恵み。
 威を誇っていた炎の壁は、慈雨に背中を打たれ身体を縮こませていく。
 轟々と降り注ぐ雨の中、エウトティアは己の役目を果たせたことに、満足な笑みを浮かべた。
「さてお二方、火が鎮まればあとは都筑殿の援護を頼みますぞ」
 踵を返し、マニトゥは施設の周辺を見回ろうとする。
 火は一時くいとめたが、延焼に巻き込まれた者がいないとも限らない。
 それらの救助へとエウトティアは向かうことにしたのだ。
「さすがは八百万柱の強力な精霊が居る御地よ。二柱でもなんとかなりそうじゃな」
 何気ないひとこと。それにマニトゥが吠える。
「……なんじゃマニトゥ? うん? 八百万はそんな意味ではない?」
 実際に八百万の数がいるわけではない。大勢の精霊がいるだけだ。
 マニトゥにそう突っ込まれたエウトティアは苦笑する。
「……知っていたのじゃよ?」
 間違いなど些細なこと。影朧を押さえ込めば正解よ。
 頷いて、エウトティアはマニトゥと一緒に駆けるのであった。

 雨が止んだ。
 これで火を気にせずに近づける。
 都筑は影朧が見える位置から、相手に見つからないように様子を伺っていた。
 やはり他の影朧と違って、暴れまわる様子は見えない。
 害意を成す存在ではないというのは本当のようだ。
 しかし都筑の顔からは不安が拭いされてはいなかった。
 この場を任されたものの、猟兵としてまだまだ自分は未熟だと思っている。
 はたして、自分に出来るだろうか。
 握りしめる手に力がこもる。
「ううん。やるんだよ、ね」
 威を決し、都筑は飛び出した。
 視界に入った影朧が、身体をこちらにむける。
 絡繰の音がなす駆動音。
 その音を察知し、都筑は身を躱した。
 大振りの、動作があからさまの、剛腕の一撃。
 簡単に躱すことが出来た。
 だが建物の柱がそのあおりを受け、割り箸を砕くより容易くへし折れ小気味の良い音をまき散らしていく。
 距離を取り、身構える都筑。
 しかし反撃は無く、向こうへと影朧が独楽のように回りながら遠ざかっていく。
 無様に壁にぶち当たり、動きはそこで止まった。
 弱い。
 そうグリモア猟兵は評した。
 だが都筑は、その姿に弱さでは無く、哀れさを感じた。
「……御免ね」
 完全に後ろを向いた、背後からの奇襲。
 その事を詫びながら、都筑は相手を止める一撃を放った。
 符が吸い込まれるように放たれ、縫い止められた様に影朧の動きが止まった。
「止まって、ロボットさん、落ち着いて。私たちは味方だよ」
「あ……あ……」
 身体を軋ませながら、首をこちらへと向ける影朧。
 その眼をまっすぐに受け止めて、都筑は声をかけた。
「貴女の後悔を探しに行こう。みんな一緒なら、必ず見つかるはずだから」
「あ……あ……」
 コウカイ……。
 後カイ……。
 後……悔……。
 後悔?
 影朧の眼に、光が宿る。
 そうだ、探さねば。
 アレを探さねば。
 光が強くなると、影朧は自分を縛り付けている何かがあることに気づく。
「アア、ああああああ!」
 咆哮。
 符は一瞬にしてい破られ、駄々をこねるように両腕を振り回しながら、影朧が近づいてくる。
 一陣の風が、都筑を掬い上げた。
 ふわりと、離れた場所へと彼女が着地する。
 都筑は、風に力を感じていた。
「……神様」
 エウトティアが呼びだした精霊に八百万の源を感じ、微笑んだ。
 助力。
 彼女は一人ではない。
 それは、あの影朧にもいえること。
「うん、神様。みんなで、一緒に、彼女を救いだそう」
 ふわりとまた、都筑は着地する。
 あえて、影朧の正面へと。
 「もどかしい気持ちはよくわかるよ。でも、何かにあたっていても始まらない。まずは落ち着いて、思い出してみて」
 シャンシャンと鈴を鳴らしながら、都筑はにこりと笑って、再び語りかけるのだ。
 その鈴に応えるように風が舞い、小雨が都筑と影朧へと降りかかる。
 慈しみの小雨。
 それは影朧の頬を叩き、正気を取り戻すいざないを果たした。
「わ……わたしは……」
 影朧の眼が光を取り戻した。
「私の名前は……藤咲です。ロボット、という名ではありません」
「ごめんなさい、藤咲さん。貴方はどうしたいかな」
 攻撃では無く、呼びかけに応えてくれた。
 そのことを嬉しく思い、都筑の顔に笑顔が浮かぶ。
「藤咲です。藤咲です。藤咲藤咲藤咲藤咲――」
「えっ……?」
 きょとんとする都筑。
 その姿へ、猿のごとく襲いかかる藤咲。
 虚をつかれた。
 今度は白いシルエットが、都筑を救いあげた。
「ナトゥアさん!?」
「間一髪というところじゃな!」
 マニトゥが二人を背に乗せて、距離を取る。
 藤咲が襲いかかる様子はない。
 ただブツブツと、下をむいて何事かを呟いている。
「ナトゥアさん、彼女は……」
「わかっておる。彼奴はわしらを攻撃しようとする意志はない」
 感情と意志がうまくコントロール出来ていない。
 例えるなら自分の意志をうまく伝えれずに癇癪を起こしている幼児といった所か。
 だが、先ほど都筑の呼びかけに反応を見せてくれた。
 一筋縄ではいかないが、先に進んだことは事実だ。
「住人が火事に巻き込まれた事態はなかったぞ。あとは奴の駄々をあやしてやろうとするかのう」
「ええ、そうですね」
 このまま語り続ければ、きっと光明がみえる。
 それを確信し、都筑は藤咲にむかって手を伸ばした。
「落ち着いて、一緒に行こう?」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

音羽・浄雲
※アドリブ、連携歓迎です。

「無力化、望むところです」
影朧、救いのある救う余地のあるオブリビオン。
かねてよりそれを見定めてみたかった浄雲にとってまさに願ったりといわんばかりの依頼であった。
足止めも自分よりも暴に優れる存在を御するのも忍者には茶飯事。文字通りの搦め手を影朧へと放たんとする。
「音羽忍法【絡新婦】。貴方の意図も我が掌に」
倒すのでなければ足さえ止めてしまえばあとは如何様にでもなる。
また、万全を期す為放った糸は彼方此方に張り、己の弱点と自覚する力負けにも対策を施していた。
「貴方の無念はわたくし達が晴らしましょう。仔細をお聞かせ願えませんか?」



 死に臨みて死す定め。
 それが忍びの道。
 幾度相手を屠ってきたか音羽・浄雲は覚えていない。
「無力化、望むところです」
 浄雲の表情は、心なしか明るい。
 殺すのではなく、生かす。
 果たしてそのような任務に自分は相応しい存在か。
 影朧、救いのある救う余地のあるオブリビオン。
 目の前の藤咲を見据える浄雲は無手、何も持ってはいない。
 当然だ。
 今の自分は死の運び手などではないのだから。
「藤咲殿、気を静められませ」
 敵ではなく、護衛対象として語りかける浄雲であったが、殺気を感じ飛び跳ねた。
 轟音。
 その威を軽やかに躱し、浄雲は着地する。
 排熱のせいか、藤咲の頭部が赤熱し、煙をあげていた。
 建物を突き破り、なお進まんとするその姿は、まるで暴走列車だ。
「いかなければ……いかなければ……っ!」
 破砕した家屋が、瓦礫となって行く手を塞ぐ。
 溺れる者が藁をも掴む。
 放り投げた板の破片が、放物線を描いてどこかへと飛んでいった。
 その眼に、浄雲は映っていない。
 ただ行くべき場所を目指して突き進む、亡者の姿であった。
「哀れ。しかして、私は貴女を止めなければなりません」
 彼女の行動に悪意はない。
 ただ、純粋な動機によって感情のままに動いているだけだ。
 それはしかし、周りに被害を及ぼす結果となる。
 止めなければならぬ。
 浄雲は、そのためにここへと来たのだから。
 忍びの両掌から糸が伸びる。
 そこかしこに、まるで蜘蛛のようにへと多方に伸びていく。
 その伸びる糸に影朧が触れると絡まり、勢いを受け止める。
「音羽忍法【絡新婦】。貴方の意図も我が掌に」
 ぎしり、と糸がたわみ、伸びて引っ張られる。
 凄まじき膂力。
 並の者なら防ぐことは困難ではあるが、修羅場をくぐってきた猟兵は、このようなことは幾度となくくぐり抜けてきた。
 よって、耐えられる。
 浄雲が疾風のように動くと、糸が幾重にも重ね張られ、引きちぎられるのを防いだ。
 即席のハンモックの中で、影朧はうごめき、悶える。
「動かない……どうして?」
「それは、私が身を封じているからです」
 悪しき者なら、このまま縊り殺すは簡単。
 しかし浄雲はそうせず、藤咲にむかって優しく問いかける。
「先ほど、貴方は行かなければと申していました。その行動に破壊は必要無いと存じます」
 蠢いていた姿形がおさまった。どうやら話を聞いてくれる分別は出てきたようだ。
「貴女は……ダレ?」
「失礼しました、私は音羽・浄雲と申す者。あなたの無念を晴らす者です」
 浄雲の両掌がもう一度振るわれた。
 蜘蛛の巣は晴れ、現れるのは影朧。
 暴れる様子は見られない。
「貴方の無念はわたくし達が晴らしましょう。仔細をお聞かせ願えませんか? 貴方は何処へ行こうというのです?」
 浄雲の問いかけ。
 それに藤崎は、長い沈黙のあとに応えてくれた。
「私は、私を造ってくれた方へ、謝らないといけないのです」

成功 🔵​🔵​🔴​

四王天・燦
人類の夢が詰まったロボメイドさんだ!
色欲よりも好奇心全開ハイテンションでウザいかもしれね

フェイントを交えた幻惑的なステップで接近してペタペタ触る
ビームとか出ないのかな?
やばい反撃が来たら侍仕込みの柔術で受け流すぜ

何がしたい?
どこに行きたい?
ガソリンか、エレキテルか、もしかして水素が欲しいのか?
藤咲さんの周りをうろついて攻撃衝動をおびき寄せ、攻撃を見切りながら話しかけるぜ

消耗なりで藤咲さんが落ち着いてきたら零式の炎で癒してみる
もいっちょ浄化の符を貼り付けてメイド和服の汚れも焼き祓ってやんよ
何処に行くにしても女の子が廃棄場にいたままの傷つき汚れた姿ってのは戴けない
特にメイドたるもの何時も綺麗にだぜ



「人類の夢が詰まったロボメイドさんだ!」
 喜びを隠さず、四王天・燦が藤咲に近づく。
 人の形にして人にあらず。
 そのような存在は、燦の興味を惹くものであったからだ。
 混濁とする影朧にむかって、興味津々とばかりに触ろうとする。
 肌に触れてみれば、それは人肌の感触では無く、陶器のような質感があった。
 轟。
 凄まじい速さで繰り出される剛拳を、燦は体術をつかって華麗に捌く。
 燦もまた、歴戦の猟兵だ。
 荒事には慣れている。
 だが、次の言葉には心を刺された。
「軽々しく触らないでください……不快です」
 不快。
 そう、不快と言った。
 この娘には感情がある。
 人であろうとしているのだ。
 燦は己の不明を詫びた。
「ああ、ごめんごめん。可愛い子をみるとついね。レディを軽々しく扱ったら駄目だよな」
 藤咲は無表情にこちらを見つめている。
 だが、手をあげるつもりはない。
 理性。
 たどたどしくではあるが、自我が生まれつつあるのだ。
(ちょっとファーストコンタクトは失敗かな?)
 顔はにやけを崩さずに、次の一手をどうしようかと燦は考えていた。
 喜怒哀楽。
 その内の感情の一つ。怒り、嫌悪の感情がこちらに向けられているのを感じる。
 藤咲は続ける。
「それに、私はロボットではありません、藤咲という名前があります」
 冷たい声。
 その声に燦は苦笑した。
 何と愚かなことか。
 藤咲さんを、物扱いするなどとは。
「ごめんよ、藤咲さん。アタシは四王天・燦、アンタをエスコートするものさ」
「エス、コート?」
「そうさ」
 両腕を広げ、大げさに燦はぐるぐると回って藤咲から離れる。
「こんな煤けた場所じゃ、せっかくの美人が台無しさ。藤咲さんは何処かに行きたいんだろう? どこに行きたい? ガソリンか、エレキテルか、もしかして水素が欲しいのか?」
 くるくると両手をひろげながら、燦は藤崎の周囲を回る。
 相手を舞踏にさそうかのように。
 轟。
 またもや凄まじき一撃。
 しかしそれも軽やかに躱す。
 ひらりと着地した燦の身に、声がかけられた。
「……申し訳ありません」
 謝った。
 そう。
 影朧である藤咲が、自分に対して謝ってくれたのだ。
 感情はいまだコントロール出来ていないのだろう。
 だが理性と自我は、確実に芽生えつつある。
「怪我の功名ってやつかな」
 業。
 燦の指が打ち鳴らされると、炎が藤咲を包んだ。
 燦は影朧を滅ぼしに来たのか?
 否。
 か弱き女性を殺めることなど、燦の思考にはない。
 一瞬にして炎がおさまると、煤埃が払われたうら若き女中の姿が現れた。
「何処に行くにしても汚れた姿ってのは戴けない。特にメイドたるもの何時も綺麗にだぜ」
 にこりと笑って燦が手を差し伸べる。
「アンタ、何処かへ行きたいんだろ? アタシたちが一緒についていってやるさ」
 長い、いやわずかばかりの沈黙。
 燦の言葉に、藤咲は首を縦に振った。
「……ええ、私は行かねばなりません。街へいかねばならないと……そう、感じるのです」

成功 🔵​🔵​🔴​

月白・雪音
…人造機械の身なれど、宿った意思は確かな様子。
それは現世に留まることは許されざるものですが、
かように恐怖される内に焼け落ちるべきモノでも無いでしょう。


UC発動にて、攻撃ではなく動きを封じる事を主目的として状況展開
相手の攻撃を野生の勘、見切りにて予測し、被害を広めかねない攻撃は受け流し止めて
怪力、グラップルにて関節など身体動作の要となる部分を固めて拘束


…意思を得たとて、その目的が定まらねば行く先はただ遠のくのみ。
今は個が定まらぬ混乱あれど、貴女の目的が破壊そのもので無いのであれば、
選べる道は在りましょう。
今は一時立ち止まり、己と相向かう時です。
その身は機構なれど、『貴女』はそこに居るのでしょう?



 焼け落ちた建物に、桜が舞う。
 そして、白雪もまた。
「……人造機械の身なれど、宿った意思は確かな様子」
 静かに現れたのは、着物に身を包んだ月白・雪音の姿であった。
 藤咲と同じく無表情に見つめ、相手を見据えるその動きは、相手を倒すためではない。
 藤咲がどんな存在か、見計らっているのだ。
 影朧。
 猟兵が倒すべき存在。
 しかし月白と対峙するこの者は、とてもそのような脅かすモノとは思えない。
 そして、捨て置くべきものではないことも。
「私は、行かねばなりません」
「そのようですね」
 この世に残した想い。
 それが凝固して生まれたのが影朧だ。
 彼女はやがて、そこへ行くのだろう。
 ならば今一度その目的、真意を問わねばならない。
「……意思を得たとて、その目的が定まらねば行く先はただ遠のくのみ。今は個が定まらぬ混乱あれど、貴女の目的が破壊そのもので無いのであれば、選べる道は在りましょう」
 彼女は先へと行かせよう。
 だが、影朧の恨となる部分は、ここで殺す。
 白雪が呼吸を整え、四肢に練気をみなぎらせる。
 それに反応したのか、藤崎が剛腕をあげて襲いかかってきた。
 避ける?
 否。
 白雪は避けない。
 あえて、受け止める。
 常人なら背骨がへし折られるほどの膂力。
 それを白雪は腕で受け止め、その裂帛を押しとどめる。
 自らを、激情を受け流す避雷針と化して。
 涼やかな顔。
 しかし足下の泥土はへこみ、窪み、その力を想像させていた。
 だが白雪の声に、乱れはない。
「この一撃、それが貴女の真意ではないでしょう。今は一時立ち止まり、己と相向かう時です」
 藤咲は離れない。
 万力のような手で、白雪に掴み取られ、離れることが出来ない。
 お互い見つめるあうような形。
 藤崎の眼は、白雪の深謀な瞳に吸い込まれていった。
「その身は機構なれど、『貴女』はそこに居るのでしょう? 藤咲……貴女の目的は何ですか?」
 白雪の瞳の灯と同じあかりが、藤咲の眼にも宿る。
 吸って、大きく息を吐いた。
「私の目的は、彼に会って謝ることです」
「彼とは?」
「私を造ってくれた方、棟方 功志様です」
 今までとは違う動揺。
 それを感じ、そっと白雪は手を離す。
 うなだれた藤咲の顔は、無表情ではなかった。
 初めて見せる貌。
 物憂げな顔がそこにあった。
「私は、棟方様を……殺してしまったのです」
 瘧にかかったかのように彼女は震えた。
 しかし、暴れる様子は無い。
 彼女は影朧ではない。
 感情を持った人間なのだ。
 衝動を抑え、前に進もうとする自分と同じくして。
「そうですか」
 過去に何かあったかは、ここでは問わない。
 行く先々で、明かされることもあろう。
「ならば行きましょう、貴女が選んだ道へと。そして私たちが、その道へと同道致します」
 火は消し止められた。
 あとは前へと進むのみ。
 藤咲と猟兵たちは、目的地へとむかうために移動を開始した。

成功 🔵​🔵​🔴​




第2章 冒険 『はかない影朧、町を歩く』

POW   :    何か事件があった場合は、壁になって影朧を守る

SPD   :    先回りして町の人々に協力を要請するなど、移動が円滑に行えるように工夫する

WIZ   :    影朧と楽しい会話をするなどして、影朧に生きる希望を持ち続けさせる

👑7
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

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 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
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 大失敗[評価なし]

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 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


「急げ! 火事があった場所だ!」
 學徒兵が慌ただしく、処理施設のほうへと向かう。
 影朧が出現したという報告を受けたためだ。
 街の人々も、そこから離れる者、また野次馬で近寄ろうとする者と様々だ。
 そのような喧噪は、猟兵達の耳にも伝わってくる。
 このまま目的地へと向かうとすれば、人の眼につくのは必定。
 影朧、いや藤咲をどう納得させるべきか。
 すでに無害化しているのを猟兵達は確認しているが、他の人はそうは思わないだろう。
 無用なトラブルは回避し、なるべく穏便に済ませたいものだ。
「ええと……何処でしたでしょう」
 藤崎は自我を取り戻したが、記憶は曖昧らしい。
 目的地へと辿り着くのに、街のあちこちを巡り歩く必要がありそうだ。
 人助け。
 苦笑する猟兵達。
 化物を退治するより難儀な依頼になりそうだ。
 護衛対象である藤崎は、うろうろと歩み始めている。
 先回りすべきか一緒についていくべきか、それとも人々に協力を仰ぐべきか。
 棟方とは何者なのか、ついていけば聞けるかもしれない。
 ともあれこの燻った場所から、いい加減立ち去るとしよう。
エウトティア・ナトゥア
アドリブ・連携歓迎

うーむ、行先も尋ね人も詳細不明と。
まず棟方殿の情報から当たるが近道か?
名は『棟方 功志』
藤咲殿を造ったという事は、工学やからくりに関係する技術に造詣が深い可能性が高い事。
そして恐らく故人である事。
意外と絞れるのではないか?
幸いそれなりに文明的な世界じゃ、ユーベルコヲド使いとして行政府に協力を要請して戸籍などの情報を集めるか。
他には官憲への根回しかの?
混乱が起こればお互いに不幸じゃ、状況の説明して先導や警護等をお願いしておくのがよいじゃろう。
という事で偉い人、よしなにお願いしますのじゃ。
なに、大丈夫じゃよ。(わし以外の)猟兵が責任をもって事態を収拾いたしますのじゃ。


都筑・やよい
【礼儀作法】【コミュ力】を使い、周囲の一般人に
事情を話したり、安心させるよう計らったりしながら
藤咲さんと「棟方さん」を探します

まず棟方さんとはどういう関係だったのか聞いてみて
どうして謝罪したいのか聞けたらいいな
言いづらそうなら、他の猟兵さんに任せたり
少し時間をおいてみたりします

街の人にも聞ければいいのかな
棟方さんという方を知りませんか?
周囲が緊張しているようなら【歌唱】で雰囲気を和らげたいな
この世界の歌は知らないけれど
通じるものはきっとあると思うから

歌で藤咲さんの心も落ち着いて
行く場所を思い出せればいいのだけども

アドリブ、絡み歓迎です


音羽・浄雲
アドリブ、連携歓迎です。

影朧、不思議なものだとつくづく浄雲は思う。
凄まじいまでの膂力に前後不覚に陥るほどの情念、まさしく人外のそれを抱えながらも君が代に障りをなさんとするわけでもない。
「とはいえ・・・・・・市井の人々には些か刺激が強いでしょうか」
素早く印を結んで使いを放ち、障害となるものが無いか目を光らせる。
「さてさて、道すがらお話でも致しませんか?」
尋問でもなければ諭す訳でもない。その胸中にあるのは純然たる興味。
何故影朧となるに至ったのか、藤咲の求める先はなんなのか、ゆっくりと本人の口から答えを導き出すよう会話を重ねんと試みる。



 影朧を鎮静化するのはひとまず成功した。
 しかしこれからの目的地が定かでは無い。
 藤咲の記憶がおぼろげで、確証がないためであった。
「うーむ、行先も尋ね人も詳細不明と。まず棟方殿の情報から当たるが近道か?」
 エウトティア・ナトゥアが首を捻る。
 藤咲の口から出た棟方 功志という名前。それが今回の事件の鍵となるのは間違いないだろう。
 しかし、殺してしまったとはどういうことだろうか。
「棟方さんとはどういう関係だったのか、聞いてみたらどうかな」
 提案するのは都筑・やよい。その目は藤崎をむいていた。
 藤咲は謝罪したいと言った。
 その線を解きほぐしていけば、当人がいる場所もわかるかもしれない。
「そうですね。ですがお二人方、急いだほうが宜しいかと」
 音羽・浄雲がエウトティアと都筑に先を急ぐように促した。
 随所へと飛ばしていた【外道】、その眼がこちらへと向かってくる學徒兵の姿を確認したからだ。
 遭遇してしまえば、少し厄介な騒動になるのは違いない。
「ふむ、ではわしが出張るとしようかの」
 ひらりとマニトゥに乗って先を行こうとするエウトティア。
 都筑と浄雲がついてこようとするが、藤咲の供をするようにお願いする。
「お主たちは藤咲殿から話を聞いてやってはくれまいか。わしは官憲の連中に根回しをしてくるのでな」
 ポンポンとマニトゥの頭を撫でて、二人へと笑う。
「それに囮は、目立つ方が良かろう?」
 なるほど、街中をこのような巨狼がうろつくとなれば、通報先はそこへと逸らせるかもしれない。
 藤咲への矛先は、確実に減る。
 だが、影朧の気配は分かる者には分かる。
 その時は、浄雲と都筑の出番であろう。
「確と」
「ナトゥアさんもお気をつけて」
 互いに言葉を交わして、猟兵達は施設跡を後にする。
 影朧の想いを成就するために、猟兵達は街を行くのであった。

 花咲く帝都街の通り道。
 そこに歩くは麗しき娘が三人。
 藤咲に伴って歩く、都筑と浄雲であった。
 こうして歩いていると、普通の人間となんら変わらない。
 浄雲は、度々人に仇なす影朧を屠ったことがある。
 しかしこうして傍に見る藤崎は、そのような気配は全く無い。
 処理施設で相まみえた時は力をふるわれたが、それも危害とは言いがたい。
「不思議なもの、ですね」
 息を吐くように呟いた一人言。
 しかしそれは聞かれてしまったらしい。
「何がですか?」
 都筑が顔をこちらへと。それに苦笑して浄雲は返した。
「いえ。私たちが白昼堂々、影朧と一緒に連れ立っていることですよ」
「ああ、それもそうですね」
 藤咲の様子に変わりは無い。
 あたりを見回しながら、ゆっくりと歩を進めている。
 二人は何かあってもいいように、左右へと並んで歩いていた。
「とはいえ……市井の人々には些か刺激が強いでしょうか」
 【外道】を周囲へと徘徊させ、辺りを警戒する浄雲であったが、今のところ官憲の姿は見られない。
 騒動が無ければ衆目には目立たず、恐慌を引き起こすこともないだろう。
 あとは、影朧がどうしたいかだ。
 ちらりと藤咲を一瞥すれば、その唇が動いた。
「……そういえば」
 誰彼に聞かせるのでもなく、己に言い聞かせるような、そんな言葉。
「こうやって、棟方様と、一緒に歩いたことが、あるような気がします」
 藤崎の顔は無面目。
 その顔をのぞき込むように、明るい顔で都筑が声をかけた。
「本当ですか?」
「はい、確か、こんな桜並木の道だったような……気が、します」
 声をかけられ、藤咲はゆっくりと首を縦に振った。
 一緒に、二人連れ添って帝都の街を散歩したことがあるのだという。
「棟方様は、私に、よく、話しかけてくれました、色々なこと、私のこと」
 ぼそりぼそりと、藤咲は語る。
 昔の現状に近い行動が、彼女の記憶を呼び覚ましたのだろう。
「貴女は、なぜ影朧になったのですか?」
 良い兆候だ。
 その記憶に波紋を起こそうと、浄雲が問いかける。
「……わかりません。しかし、棟方様に対する贖罪の、気持ち。それは、ここに、あります」
「どうして、あなたはそんなに謝りたいと思っているの?」
 都筑が問いかける。
「それは、私が、棟方様を、殺したからです」
 己の手を、じっと藤咲は見つめた。
 立ち止まり、彫像になったかのように。
「この手に感触が残っています。あの方をつきとばしたことに」
「突き飛ばした?」
 それはどういうことだろうか。
 先を聞こうとした猟兵。藤咲から圧が漏れ始めるのを感じる。
 良くない兆候だ。
 街中で暴れる。
 その気配を察知した浄雲が、腕を動かそうとした。
 それより先に、都筑が動いた。

  晴れたある日の散歩道 大きな青空 優しげな陽射し
  そしてむこうからやってくる あなたの笑顔
  ああ なんて素敵な一日かしら
  今日をどうしてすごそうかしら
  とりあえず あなたと手を繋いで
  この道まっすぐ 歩いていたい

 突然の歌声に、道行く人々が足を止める。
 都筑の声に、藤咲と浄雲も動きを止めた。
「落ち着きました?」
 突然のパフォーマンスは、影朧の暴走を防ぐのに役だったようだ。
 周りから受ける視線を照れくさそうに、都筑は笑いはにかんだ。
「ええ」
 良かった。
 ひとまずは落ちついてもらったようだ。
「助かりました」
 浄雲も礼を述べる。
 しかし、とっさの機転でなだめるのには成功したが、周りの注意を引いてしまったようだ。
 辺りから三人を見つめる視線をひしひしと感じた。
「どうします?」
 浄雲が都筑に尋ねる。
 好奇の群れをかいくぐって進むのは、逆に注意を高めることになるだろう。
「う~ん。開き直って街の人たちにも聞いて見るのはどうでしょうか? 人を探していますとか」
 なるほど。
 確かに、影朧のことがバレていなければ、別段怪しい行為でもなんでもない。
 幸い二人いる。
 一人は続けて藤咲から情報を聞き続ければいいだけだ。
 そうと聞けば善は急げ。
 都筑は、とりあえず一番近い人に聞いて見ることにした。
「あの、棟方さんって方知っていますか?」
「嬢ちゃん、それを俺らに聞くためにわざわざ歌ったのかい?」
「あはは……」
 わいのわいのと、街中に出現した歌姫に人だかりが生まれる。
 あちらはあちらで何か入手は出来そうだ。
「さてさて、道すがらお話でも致しませんか?」
 浄雲が藤咲に声をかける。
 藤咲の目は、人だかりの中央にいる都筑にむけられていた。
「……どうしました?」
「いえ、こういうときは……ありがとう、というべきなのでしょうか」
 ありがとう、とは先ほどの出来事だろうか。
 藤咲と同じく浄雲も都筑のほうをみて、にっこりと微笑んだ。
「そうですね。彼女が帰ってきたら是非貴女の口から伝えるといいでしょう」

 一方その頃。
 エウトティアは居並ぶ學徒兵と対峙していた。
「ということで大丈夫じゃよ。(わし以外の)猟兵が責任をもって事態を収拾いたしますのじゃ」
「では、あらわれた影朧はそちらで対処してくれると?」
「うむ、そういうことになるな!」
 この世界の住人は、猟兵達の能力には一目置いている。
 その自信に溢れた彼女の言葉に、學徒たちは矛を収めざるを得ない。
 エウトティアが見たところ、彼らは現場に急行していただけで、影朧そのものの姿は確認していないようだった。
 これなら大丈夫だろう。
 追随する官憲に、彼女は尋ねた。
「処でお聞きするが、この街の戸籍や地図は頼めるかのう」
「はっ、それが事件の解決になるのなら」
 猟兵という身分は、こんな時はありがたい。
 さしたる苦労もせず、彼らは協力を申し出てくれた。
 とりあえず署まで行く道すがら、エウトティアはこれまでのことを整理していた。
 『棟方 功志』
 あのような絡繰り機関を造れる御仁は、そうそう多いものではない。
 そして、殺してしまったという言。
 おそらく今は故人ではあるだろうが、業績はそんな易々と消えないはずだ。
 調べ物は柄では無いが、やってみる価値はある。
「ムナカタ、ムナカタ、ムナカタ……」
 署の連中と一緒になって、戸籍の内容とにらめっこするエウトティア。
 やがて、それと思わしき謄本に突き当たる。
 『棟方工房』
 代々工芸品を製造している老舗の店だ。
 戸籍をさらに調べてみれば、店主の名前は違ってはいたが、祖父の名は棟方 功志ときている。
「ふむ、これは当たりじゃな。死因は……病死?」
 どういうことであろうか。
 書類上は大往生を遂げている。
「ふむ、おかしいのう?」
 あの影朧は、自分が殺したと言っていたはず。
 しかし書類をみても、殺害されたという記録はない。
 まさか病院で殺害している訳もない。
 そんなことがあれば真っ先に記録に残っている。
「ともあれ、聞くべきことが増えたのう」
 工房の場所の地図。功志の死亡調書。
 それらを複製し、エウトティアはマニトゥにまたがった。
「行くぞマニトゥ。この一件、まだまだ聞かねばならぬことがありそうじゃわい」
 仲間と合流するため、彼女は駆けだした。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

四王天・燦
風のまま気の向くままか
しゃあねえ、ちっとデートといきますか
浮気じゃないからな!

おう學徒兵の諸君、お勤めご苦労さん
藤咲さんが気になるのは仕方ない…アタシもロボメイドは気になったもん
ロボだからって藤咲さんじゃなくなるわけでないんだから気にし過ぎるない、立派な個性だよ

影朧だの言われたら稲荷巫女のお説教で説得するよ
制御は戻っているし悪いやつじゃない
アタシは彼女に転生してもらいたいんだ
猟兵がついてる大丈夫だ

さて藤咲さん
寄道しようぜ
カフヱで一息入れてもいいっしょ
記憶が戻る切欠って意外なものかもしれねーぜ

彼女の目的が叶うのは良いことだが同時に輪廻の環に逝く時だと思う
今の内に現代のこの世界を楽しんで欲しいんだ



「おう學徒兵の諸君、お勤めご苦労さん」
 道すがら、四王天・燦はすれ違う學徒兵へと声をかけた。
 仲間達の働きによって根回し済みとはいえ、末端に伝わってないとも言い切れない。
 そんな警戒を内に秘めつつ、燦は藤咲と一緒に街を歩いていた。
「先のことは謝るよ、ロボメイドは気になったもん。でもね、ロボだからって藤咲さんじゃなくなるわけでないんだから気にし過ぎるない、立派な個性だよ」
 軽快に口説き、燦は藤咲の心を解きほぐそうと試みていた。
 藤咲に変わった様子は見られない。
 ただ、ゆっくりと歩いている。
「どう? 大分歩いたけど、何か思い出せた?」
「……今のところ、何も」
「そうかい。さて藤咲さん、寄道しようぜ。カフヱで一息入れてもいいっしょ」
 燦は指さしたのは街角のカフヱ。
 どこにでもある、平凡な喫茶店だ。
「そう、ですね」
 特に断る様子も無く、藤咲も同意してくれる。
 一度探索を止めて、二人は喫茶へ入ることにしたのであった。

 飲み物と食べ物の良い薫り。
 店内のくつろげる空気を味わいながら、燦は質問する。
「こういう所にも、棟方さんと一緒に来たの?」
「そう、ですね……」
 店内をぐるりと見回し、藤咲は答えた。
「来たと思います。あの方は、人を観察するのが好きでした」
「へえ、じゃあ散歩もその一環だったのかもね」
 喋りながら、ひとつどうぞとケーキを差し出す。
 言われるままに藤咲は食した。
 こうしていれば、普通の人間となんら変わらない。
 彼女はこの世に生を得てやってきた。
 それは歪んだことであり、留まることは藤咲のためにはならない。
 しかしだからこそ、こうやって楽しむ時間があってもいいのではないかと燦は考えていた。
 この依頼が終われば、彼女は消滅する。
 だが儚いひとときだからこそ、良い記憶で満たされるべきなのだ。
 影朧の想い。悲しき記憶。
 それが、燦は気になっていた。
「気になったことがあるんだけどさ」
 テーブルの上に置いたのは、書類の束。
 棟方 功志の死亡調書である。
「棟方さんは、病院で息を引き取ったんだ。病死さ。アンタは病を扱えるのかい」
「いいえ……」
 おずおずと両手をさしだし、手の平をみせる。
「私は、棟方様を殺してしまったのです。この手で、突き飛ばして」
「いいや、違うね。傷害による死亡じゃない。功志さんは老化による病気、誰かに殺されたわけじゃない」
 燦が真剣な表情で藤咲を見つめる。
「アタシも色々な世界で悪い奴をぶっとばしてきた。アンタは悪いやつじゃない。アタシの勘だけど……そんな気がするんだ」
 差し出された両手を握り、燦は頷いた。
「だからさ、思い出して欲しいんだ。藤咲さんが功志さんを突き飛ばした時のことを」
 真っ直ぐな眼差し。
 それを真っ直ぐに受け返して、藤咲は答える。
「私は、棟方さまと散歩中に、あの方を突き飛ばしてしまいました」
 それは不意打ちに近かった。
 余所見をする馬車から彼を救おうと、とっさに手が出たのであった。
「私に力が宿ると同時に、彼は大きく吹き飛ばされました」
「それから?」
「それから……」
 藤崎の眉が歪む。
 思い出したくない記憶。
 それは影朧たる彼女の源泉に違いない。
 だがその絡みつく糸が解ければ、輪廻へと浮かびあがれるだろう。
 たぐり寄せて吐き出そうとする彼女の心を、燦は辛抱強く聞こうとしていた。

成功 🔵​🔵​🔴​

月白・雪音
…些か騒ぎが大きくなり過ぎたようですね。



…そうですね。藤咲様、貴女が棟方様という方に造られたのならば、
何処かにその『印』が刻まれている筈です。
そこに棟方様の作業場に当たる場所の手掛かりの一つも在れば、
行く先の指針となりましょう。
…大変不躾では御座いますが、少々体表を確認させて頂けますか?

情報収集、礼儀作法、野生の勘の技能も交え、
藤咲様の体表を確認し、製造者の印字などが残されていないかを確認
衣服で隠れている部分の確認は行わず。
手掛かりが見付かれば人々に彼女が今は無害であること、
自分達が見ている事を伝え、
何か知っている事は無いか聞き込みを

手掛かりが見つからなければ棟方様の名前にて聞き込み



「……大変不躾では御座いますが、少々体表を確認させて頂けますか?」
 月白・雪音が藤咲にそう問いかけた。
「はい、宜しいですが」
 了解を得て、月白はそっと彼女が差し出した腕に手を伸ばす。
 こうして触ってみれば、人ではない感触がはっきりとわかる木工のような手触り。
 自分とは違う存在であるが、こうして生きている。
 月白は何か証拠、印となるものを見つけたかったのだ。
 さすがにうら若い乙女をまさぐる訳にもいかない。
 こうやって見える範囲で確かめるのが関の山だ。
 彼女の髪をかき上げうなじを見れば、やはり目当ての『印』があった。
「失礼致しました」
 深々と頭を下げ、非を詫びる月白。だが収穫はあった。
 技術者というのは、己の作品を誇る。
 この印は棟方が彼女を造った証。
 藤咲の生まれ故郷は棟方工房で間違いないだろう。
 確証は出来た。
 しかし今だ謎がある。
「藤咲様、道程の標は立ちました。しかし道に架ける橋には今だ至らず。貴女は本当に棟方殿を殺害したのか。それ不確か故に」
 これまでの騒ぎを月白は思い返す。
 現れた時、彼女は周囲に暴を振りまいていた。
 しかしそれは、感情を制御出来ないが為である。
 人を殺めるような存在とは、どうしても思えないのだった。
 害意。
 彼女には、それがない。
「さればこそ思い出して欲しいのです、棟方様のことを。貴女は、如何様にして暴を制御出来なくなったのでしょうか」
 藤咲の手に、そっと己が両手を重ねる。
 相手を屠るのではなく、生かすための拳。
 彼女には、自我が芽生えている。
 それはどうしようもない衝動を抑えるに足る成長と信じている。
 過去という壁に阻まれた記憶。
 それを暴くために、彼女はきっと、前に進んでいけるだろう。
 重ねた手に、桜の花びらがひとひら落ちた。
「……思い出しました」
 藤咲は、ようやく過去の一件を思い出してくれたのだった。

 棟方は絡繰師の家系である。
 他者によって動かすのではなく、自立して動く人形。
 それは功志の目標であり、先祖の悲願である。
 駆動部に錯誤していた彼が目をつけたのは、影朧エンジンであった。
 軽量化と力強さ。
 それが求めうるものだと信じた。
 開発は成功であり失敗であった。
 立ち上がり、走ることも物を掴むことも出来るようになった。
 しかし、そこに行けと命じなければ、人形は何も出来ない。
 彼女には『心』がない。
 棟方の目標は、心を造ることになった。
 多くの人は嗤った。気が触れたと抜かす者もいた。
 だが彼は、そんな中傷にめげず人形を連れて街へと繰り出した。
 藤咲と名をつけ、眼に映るものを逐一彼女に説明した。
 赤ん坊は大人によって環境を把握する。
 ならば人形は人間によって、何かを掴めるに違いないのだ。
 そう信念をもって藤咲を連れだっていたある日、二人の前に余所見運転の車が突っ込んで来た。
 藤咲は、棟方が危機に陥ると判断した。
 すると、身体が勝手に動いた。
 はじめて己の意志で伸ばした手は、棟方を大きく突き飛ばす。
 加減を知らぬその双掌の威は、彼を道路の向こうへと飛ばした。
 車の軌跡を外れ、その線に触れた藤咲を代わりに飛ばして。
 藤咲の世界は、そこで罅が入る。
 あちこちに損傷を受け、動けないでいるのだ。
 彼女が見たのは、道路にうずくまる棟方の姿。
 藤咲の身体の奥で、何かが爆発する。
 哀しみ。後悔。
 それが、藤咲に生まれた『心』が最初に感じた物であった。

「理解致しました」
 過去を隠され、月白は確信得る。
 やはりこの者は、邪悪な物でなどない。
 その先がわからないのは、おそらく破損が酷く『意識を失った』のであろう。
 それならば、記憶が曖昧なのは説明がつく。
「なれば、棟方の工房へと急ぎましょう」
 棟方は死んではいない。
 藤咲によって助けられ、天寿を全うしたのだ。
 今、戸籍に残っているのが証拠ではないか。
「はい。私は……棟方様に謝りたいと思います」
 それは墓前か、遺族に対してか。
 いずれにせよ。行けば分かるであろう。
 どのようなことがあるにせよ、護ってみせる。
「ご随意に。工房までの道は私が同道致します」
 彼女が目的地へと辿り着いた時、どうなるのか。
 今の段階ではわからない。
 だが、道に光明がみえたことは確かであった。

成功 🔵​🔵​🔴​




第3章 日常 『いずれまたどこかで』

POW   :    湿っぽいのは嫌いなので笑顔で送ろう

SPD   :    言葉に想いを込めるのが大事だと思う

WIZ   :    祈りを…ただそれしか出来ないから

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 棟方工房。
 製造工場に連なって、昔ながら邸宅がある。
 社員であろうか。
 工場の方には何人かの人が手を動かしていた。
 猟兵と一緒に辿りついた藤咲は、その建物をしばし眺めため息をついた。
「……ここに違いありません」
 皆様ありがとうございますと、深々と頭を下げる。
 しかしその足が、前に進むことはなかった。
「何故でしょう。あれほどここへ来たいと思っていたのに、前に進むことが出来ません」
 それは、人の心でいうところの怯え、恐れであろうか。
 今はこの工房は功志の息子である功之介が切り盛りしているらしい。
 このまま藤咲を見守るべきか、それとも手助けをするべきか。
 何かひと声でもかけるべきなのだろうか。

※参加者全員まとめての描写になります
※影朧が消滅したあと、軽いエピローグを挿入します
※完全アドリブでよければ◎を 描写が必要なければ×を
※(×の方は依頼後すぐに帰還した扱いになります)
※○~~~~~と記載あれば適宜アドリブを入れて描写致します
※プレイングは4月16(金)8:30~より送信してくださるようお願いします
エウトティア・ナトゥア
アドリブ・連携歓迎 ◎

ほうほう、人形に心を宿すとは棟方はなかなかの術者じゃのう。
木石にも精霊は宿るのじゃ、人形に魂が宿ってはいかぬ道理もあるまい。 経緯をたどると気に病むのも分からなくはないが望まれて生まれたのじゃ、棟方殿も謝罪より他に聞きたい言葉があるような気がするがのう。
まあ、わしがとやかく口を出す謂われも無い事じゃ。
ここは見守るのとどめておくのがよいじゃろう。
とはいえ、背中を押すくらいはしてやってもよいか。
(【魂石のブレスレット】へ【祈り】と共に細流の調べを発動)
気休めかもしれぬが心魂を癒す精霊の歌じゃ、哀しみや後悔以外の気持ちも思い出せるかもしれぬのう。


都筑・やよい

藤咲さん、勇気を出して

最初の一言は藤咲さんに声をかけてもらうつもり
詳細な状況説明は私たちがしたほうがいいかと思うの
でも、謝罪…というか、藤咲さんの今の思いは
きちんと彼女に告げてもらいたい

棟方さんのお墓が近くにあれば、お墓参りを提案します
藤咲さんも功志さんのほうが話しやすいだろうから
口ははさみません
きっと伝えたいことはいっぱいあると思うの

よかったね、藤咲さん
これで思い残すことはないのかな
他にも心残りがあれば、付き合うよ?
影朧とは言え、蘇った心
その気持ちを最後まで大事にしてあげたいから

基本的に他の猟兵さんの動きを尊重します
…私はまだ、未熟だと思い知らされたから

アドリブ歓迎です


四王天・燦
藤咲さん…悪いがお胸を触っちゃうぜ、怒らせる為にね
喜怒哀楽をもっかい認識させてあげるよ

アンタは棟方功志の完成形だ
心を持ったことをちゃんと報告してやんな
謝罪ではなく、息子さんに父の偉業を自慢するのがアンタの仕事だ

ぐいぐい背中を押しちゃうぜ
門戸を潜ればなるようになるさ
できるフォローはするけど…必要かなぁ?

なあ功之介さんよ
良ければ、藤咲さんを再び作ってあげられないかな
ここにいる藤咲さんの転生先になるかなんて分からないけれど、偉大な奇跡を絶やさない為にもさ

○◎

藤咲さんは多分最初から転生できたと思う
ただ生前の誤解を克服しなきゃ綺麗に転生できなかったんじゃねーかな
転生した彼女はきっといい顔してんだろうよ


音羽・浄雲
アドリブ、連携歓迎です。


足が止まる、前に進めない。
成程、と浄雲は合点した。
「進みましょう。貴方は己の想いの正体を知らねばなりません」
それが残酷な選択であるかも知れない以上、進めなくなってしまった者の背中を押すのは難しい。
「為すべきことを為しましょう」
人には天命というものがある。
強き想いの結晶である影朧とて例外ではない。
むしろ、彼女こそがもっともそれを理解し、果たさねばならない存在とも言える。
故に浄雲はその背を押す。
「貴方の棟方殿への想い入れは本物です。故にこそ、影朧になるほどまでに募らせた想いの正体を明かしましょう」
浄雲が薄く微笑む。
まだこの影朧は血に塗れていない。故に救いたいと。



 踏み込めないでいる藤咲。
 さんざん街を歩いてきたその足は、今はその門を跨ぐことが出来ないでいる。
 成程、と音羽・浄雲は合点した。
 この先で起こることが彼女は怖いのだ。
 だが、ここで引き返してしまえばそれは心残りとなり、再び藤咲は影朧へと堕ちてしまうであろう。
 そのようなことはさせじと、浄雲はまず最初に声をかけた。
「進みましょう。貴方は己の想いの正体を知らねばなりません」
 謝りたい。
 その言葉を、ここにいる猟兵達はしかと聞いている。
「藤咲さん、勇気を出して。伝えたいことがあるんだよね?」
 都筑・やよいも背中を押す。
 藤咲は惑い、考え、そしてそれを実行するために前に進もうとしている。
 彼女は人に害を為す存在ではない。
 街で一緒に歩いてきた都筑は、そう感じていた。
「もし話すのが怖いならば、私たちが手伝ってあげます。想いを、残しちゃ駄目です」
 二人の言葉を藤咲は真摯に受け止める。
 こうべを上げて、一歩踏み出した。
 しかし、二歩目は止まる。
 大きく息を吸い込み、藤咲がため息をついた。
「先に行くのに言い知れぬ物がとぐろを巻いています……これが、恐怖という物なのですね」
「そうじゃな。そしてそれを感じるということはお主は間違いなくヒトじゃよ」
 エウトティア・ナトゥアが手を伸ばした。
 彼女の左手に身につけていた蒼いブレスレットが、陽光をうけて優しく光る。
 その輝きを藤咲へと託し、エウトティアは歌った。

  水は高き処から低き処へと 流れ流れて世を潤す
  窪みは満たされ 大地は生を得る
  たとえ流れ落ちて零れようと 雨となって世を潤す
  願わくば哀しみ怒りも流れ落ちて
  流れ流れて 消え去らんことを

 柔らかい風が吹いた。
 その風は、藤咲の恐れの心を包み癒した。
「落ちついたかのう?」
「……ええ。ありがとうございます」
「 経緯をたどると気に病むのも分からなくはないが、お主は殺した訳ではないのじゃ」
 突き飛ばしたということは既に分かっている。彼女は殺人を犯したわけではないのだ。
 それ故気に病むことではないのだが、その罪悪感がこの世へと留めていることは事実だ。
 罪を自覚する。
 それもまた、人の心故か。
(人形に心を宿すとは棟方はなかなかの術者じゃのう)
 エウトティアは目の前の藤咲を造った者は何者か、興味が出ていた。
 もし生きていたとしても、悪し様に言うことはないと感じていたのだった。
 浄雲がまた声をかけた。
「為すべきことを為しましょう」
 人には天命というものがある。
 棟方が天寿を全うできたのは、ひとえに彼女の行動によるものだ。
 そしてそれは、強き想いの結晶である影朧とて例外ではない。
 彼女もまた、天命を全うすべきなのだ。
 しんみりとした空気がそこにいる者たちを包んだ。
 そしてそれを四王天・燦が破壊した。
「たーーーーっち!」
 燦は両手を突き出すように、藤咲の胸部に触れた。
「きゃっ!?」
 反射的に手が出る。
 あえて避けずに燦はそれを受ける。
 威は落ちていたが、結構な衝撃が身体を包んだ。
「四王天殿?」
「燦さん?」
「な、なんじゃ一体?」
 他の猟兵も完全に虚をつかれ、素っ頓狂な声をあげる。
 その声を受けながら、イタタと燦が起き上がった。
「みんな固いよ。せっかく藤咲さんが実家に帰ってきたんだ。おかえり、ただいまだろ?」
 軽口を叩きながら御免御免と藤先へと近づく燦。
「緊張は解けたかい?」
「え、ええ……まあ」
 困惑した藤咲の声。
 まだ恐れは残ってはいるが、先ほどのサプライズによって小さくなっている。
 足を動かせなくはない。震えは先ほどよりおさまっていた。
「アンタは棟方功志の完成形だ。心を持ったことをちゃんと報告してやんな。謝罪ではなく、息子さんに父の偉業を自慢するのがアンタの仕事だ」
 そう。
 藤咲は嫌なことがあればこうやって怒れるし、不安があればこうやって立ちすくむ。
 彼女は立派なヒトなのだ。
 ならば笑顔で、楽しい記憶を語れるはずなのだ。
 それを、伝えてやればいい。
「自慢……?」
「そう、アンタは棟方さんを殺したんじゃ無く救ったんだ。そしてそんな自分を造ったのは棟方なんだよ。なら、その生き証人であるアンタは、胸を張って報告してもいいんじゃないかな」
 自慢。
 その発想は無かった。
 自動人形に鱗があればきっと落ちていたことであろう。
 別の意味で立ちつくす藤咲に、都筑が声をかけた。
「もし、自分が影朧であるということが不安なら、それは私たちが説明してあげます」
 ここにいる者たちは猟兵なのだ。そして自分も。
 影朧を倒すのではなく、祓う。
 みんなそういう思いに違いない。
 みんな、藤咲の背を押したいに違いないのだ。
 都筑に賛同するように浄雲が声をかけた。
「貴方の棟方殿への想い入れは本物です。故にこそ、影朧になるほどまでに募らせた想いの正体を明かしましょう」
 薄く微笑む浄雲。
 それに都筑は頷く。
 そしてエウトティアも。
「まあ、わしらがとやかく口を出す謂われも無い事じゃがの、恐れていては何も踏みだせんぞ?」
「あーあー、また湿っぽくなっている。こういうときは笑っていこうぜ」
 やれやれと首を振る燦。
 四者四様の励まし。
 それを充分に身へ受けて、藤咲は笑った。
 そう、笑ったのだ。
 グリモア猟兵に送られてのち、猟兵は藤先が笑うのを初めてみた。
 深々とお辞儀をして、彼女は言った。
「みなさん、ありがとうございます」
 振り返り、棟方の家へと藤先は向かう。
 後ろを見ず、立ち止まらず。
 その背に視線を送りながら、猟兵たちもあとへと続いたのであった。

 猟兵の身分というのは便利な物だ。
 突然の来訪といえども、さして不審がられることなく迎え入れられた。
 ソファーへと座る藤咲はどこか落ち着かない様子であった。
 猟兵達はその席の後ろ側へと陣取り、見守ることにした。
 客室へと招かれ、やってきた男。
 その人物は自分を棟方 功之介と名乗り、向かいの席へと座った。
「父について話があるとか」
「はい、私は藤咲といいいます。貴方の父親に造られました」
 藤咲は功之介に対し、己の境遇を語り始めた。
 功志に造られ、過ごした日々。
 そしてあの日、生みの親である功志を突き飛ばしてしまったこと。
「私は、あの日のことをずっと謝らなければならないと思っていました。この腕に宿る力、それを理解してからは富に感じます。当人には既に会えないようですが、こうして、謝罪しに参りました」
 深々と頭を下げる藤咲。
 それをみつめ、しばし考え込んでから功之介は口を開いた。
「……それなんですが藤咲さん、頭を上げて貰えませんか」
 功之介はどこからか、書類を持ってきた。
 日に焼けた古い本、そして煤けた写真を。
 そこには功之介に良く似た人物と、藤咲が写っていた。
「私の口から説明するより、それを読んだほうが良いでしょう。父の日記です」
 言われるままに手に取り、日記を開く。
 藤咲の後ろから、猟兵達も覗き込む。
 そこには、功志の筆跡で、あの日の後のことが記されていた。

 不意をつかれ突き飛ばされた功志は病院に入院するはめとなっていた。
 重傷とは言えないまでも、それなりの怪我を負って寝込む功志の頭に去来するのは、藤咲のことであった。
 命令などせずに藤咲が動いたことは、あの時功志も見ていたのである。
 己を突き飛ばした藤咲と、先ほど自分が位置を通り過ぎてそれを跳ね飛ばす自動車。
 意識を失う前に見たものは、破砕され身動きしない藤咲の姿であった。
 病院に担ぎこまれたのは自分一人。
 藤咲は物言わぬ人形としてそこにうち捨てられてしまったらしい。
 はやく安否を確認したいところだが、こういう身では動くことも出来ぬ。
 退院した功志には既に、藤咲が何処へ運ばれたのか様としてし知れなかった。
 功志は落胆した。
 自らの代わりとなって、藤咲は逝ってしまったのだ。
 彼は悔やみに悔やみ、そしてやがて、再び腕をふるうことを決意した。

 日記を読み終えた藤先が、顔をあげた。
「父はあなたのことを憎んではいませんよ。むしろ失ったことを悔やんでいるようでした」
 だから謝る必要もないと、功志が声をかける。
「でも、私は棟方様に怪我を……」
「貴方が突き飛ばさなければ、私も社員も路頭に迷っていたかもしれませんよ? 礼を言うのはこちらの方です」
 穏やかに笑う功志。
 なるほど、命の恩人を邪険にする理由もない。
 迎え入れられるのは当然か。
「私は……私は、どうすれば……」
 要領をいまいち掴み切れていない藤咲。
 生まれたばかりの彼女には、どうすればいいかわからないのだろう。
「じゃあ、お墓参りに行くのはどうかしら?」
 都筑の言葉に功之介は頷いた。
「それは良いですね。父も恩人に喜ぶことでしょう。あとで案内しますよ」
 空気が和気藹々と変化していく。
 そんな中、今度は燦が口を開いた。
「なあ功之介さんよ。良ければ、藤咲さんを再び作ってあげられないかな。ここにいる藤咲さんの転生先になるかなんて分からないけれど、偉大な奇跡を絶やさない為にもさ」
 功之介の腕前がどうなのか、それは知らない。
 ひょっとしたら余計なお節介なのかもしれない。
 だがそういう可能性があってもいいのではないか、そう考えた燦は真摯に頼むのであった。
 功之介は居並ぶ面々に対し、微笑んだ。
「ふむ、それはまず工房を見て貰いましょうか」
 そうして嬉々として席を立ち、藤咲たちを工場へと案内するのであった。

 棟方工房。
 そこでは人形が造られていた。
 藤咲と同じような、人形たち。
「父の技術はここに生きています」
 ここにいる人形達は、人々の役にたつために随所へと送られる。
 看護施設や養護施設、助けが必要な場所へと。
「貴女が父を助けてくれなかったら、こうやって人々を支えることはなかったでしょうね」
 彼女たちは、いわば藤咲の妹のような存在だ。
 そして藤咲はそんな彼女たちの居場所をまもったようなものだ。
 工房の製造過程をじっと見つめる藤咲に、功之介ははにかんだ。
「でもまだ、与えられた役割しか出来ないですけどね。父のようになるにはまだまだです」
 何気なく手を握り、感謝の意を伝える功之介。
 その掴まれた手を、藤咲はじっと見つめていた。
 どれほどの時間が経ったであろう。
 誰かしらが、墓参りへ行こうと促した。

 穏やかな春の陽気。
 共同墓地の一角に、棟方家の墓はあった。
 そこへ花を手向け、藤咲は物言わず立ちすくむ。
 後ろにひかえる猟兵達は何も言わない。
 彼女は功志と、これまでのことを振り返り、埋め合わせているのだ。
 それはきっと言葉に出来ないことであり、とても一言二言で言い表せるものではない。
 それを理解しているからこそ、猟兵はあえて声をかけなかった。
 長い長い黙祷が終わった。
 振り返り、藤咲は笑顔で猟兵たちに礼を述べる。
「みなさん、何から何までありがとうございました」
「よかったね、藤咲さん」
 我が事のように都筑がつられて笑う。
「これで思い残すことはないのかな。他にも心残りがあれば、付き合うよ?」
 ひとまずは落着したわけだが、他に未練はないだろうか。
 そう思って尋ねたのだ。
 藤咲が返す。
「いえ、未練はありません」
 猟兵たちを、墓を、空をみあげて、藤咲は笑った。
 心の底から嬉しさが溢れているような、そんな顔であった。
「御本人には直接声をかけられませんでしたが、みなさんのおかげで胸のつかえがとれたような、そんな気持ちです」
 こういうのを晴れ晴れしいというのですね。
 藤咲は気恥ずかしそうに微笑んだ。
 ここに来てからというもの、彼女の感情の起伏は誰が見ても分かるものだった。
 最初に出会った時の、茫洋とした印象は見られない。
 彼女は間違いなく『心』を持っていた。
 ああ、と藤咲が呟いた。
「そうですね、一つ心残りを見つけました。みなさんにはご足労ですがつき合って頂きたいと思います。宜しいでしょうか?」
 もちろん、と都筑は首を縦に振る。
 皆は、と振り返れば同じ気持ちであった。
 影朧の心残り。
 それを昇華するために、猟兵たちはもうしばらくつき合うことにした。

 日が傾きはじめて、春といえども些か風が肌寒くなってきた。
 しかし不満を申し出すものはいない。
 墓から少し離れた場所での、即席野点。
 藤咲が入れた茶を猟兵達はそれぞれ受け取り、口をつけていた。
「加減はどうでしょうか」
「ええ、結構なお手前と存じます」
 藤咲の言葉に、堂に入った作法で茶を頂く浄雲。
 それにならい、しゃちほこばって茶を頂く都筑。
 エウトティアは冷ましてもらった茶をマニトゥと分け合い、燦は菓子を頬張りながら片手で茶を飲み干していた。
 これまでつき合ってくれた礼として、藤咲は猟兵達に茶を振る舞うことを申し出ていた。
 彼女たっての希望である。拒否する者はいなかった。
「それは良うございました」
 藤咲の手つきは確かだ。
 感情を抑制できず破壊することも、動作があやふやなこともない。
 彼女の意志で誰かの役に立ちたいと思い、そしてそれを成し遂げた。
 棟方が理想としたその先へと、彼女は進められたのだ。
「何度礼を申し上げて言いか、私にはわかりません。ですが、みなさんが頂いている姿を見ているうちに、満たされたような気がします」
 代わりを用意しましょう、と藤咲が席を立つ。
 その姿は茶道具の場所へと。
 そして、がしゃんと音がした。
 静けさ。
 誰も語る者などいない。
 分かっていたこと。
 未練を無くした影朧に、この世に生きる力などありはしない。
 だが、彼女は満たされて旅だった。
 夕陽を浴びながら桜の花びらがひらひらと、湯飲みに落ちる。
 それを飲み干して猟兵達は藤咲に、そして棟方の墓へと乾杯を捧げたのだった。

●それから~

 桜ふぶく帝都の街。
 マニトゥの背にまたがりながら、エウトティアは空を見上げていた。
「木石にも精霊は宿るのじゃ、人形に魂が宿ってはいかぬ道理もあるまい」
 今回の件は非常に骨が折れる難儀なものであったが、良いものを見させてもらった。
 藤咲の言葉は、きっと棟方へと届いたに違いない。
 なぜなら彼女は満足げに微笑んで逝けたのだから。
「生前の棟方殿に会いたい気もするが、それは無理な話じゃのう」
 もし棟方が転生したのなら、藤咲は傍へと転生出来るのだろうか。
「ひょっとしたら、自分で藤咲殿を呼び起こしてしまうかもしれんのう? どう思うマニトゥ?」
 転生した棟方が再び技術者として腕をふるう未来もなくは無い。
 ただ惜しむらくは、それを確かめるすべが自分にはないことだ。
「おお!」
 良いことを思いついたとエウトティアが柏手を打つ。
「わしも頑張れば精霊を宿した人形を造れまいか? そうじゃろマニトゥ!」
 目をキラキラとして輝かせるエウトティアに、相棒は辛辣な目をむけた。
 長く生をともにしてきたが、彼女が楽器をふるうことをあっても、工作具を用いたところなどついぞ見たことは無い。
 だが。
 未来の可能性は誰にでも残されているのだ。
 彼女の好奇を満たすために、マニトゥはエウトティアの指ししめす方角へと駆けるのであった。

 人々がくつろいでいるカフェー。
 その中でカップを手に休んでいる都筑。
 店内を見渡せば、接客をするパーラーメイドの姿。
 その姿に、都筑は藤咲の姿を重ねていた。
 彼女は己の心に向き合えただろうか。
 自分にとってこれがベストという選択をしたつもりだが、不安が残る。
 ひとくちカップに口をつけて、自分を落ち着かせた。
 自分は充分に、動けたはずだ。
 影朧が消滅し、あれからなにごとも起きてないことが証拠では無いか。
 しかし、と都筑は己の行動を省みる。
「まだまだ、勉強不足だな。私って」
 今回の件は自分の未熟さを知る、いい結果になったと思う。
 藤咲が成仏できたのも、他の猟兵の協力があってこそ。
 まだまだ猟兵としての力が足りないと、都筑は思い知っていた。
 しかし、都筑に焦りはない。
 自分はこれから。まだまだなのだ。
 藤咲は、立ち止まり振り返り、己を顧みて前へと進んだ。
 ならば生きている自分が、前へと進まなければ恥ずかしいではないか。
 もし彼女が転生したのならば、いつかきっと逢える。
 その時、成長した自分を見て貰おう。
「ご馳走様でした。勘定ここに置いていきますね」
「はい! ありがとうございました」
 明るいメイドの声を背に受けながら、都筑は店をあとにするのであった。

 棟方工房。
 そこの製造風景をみながら、燦は独り酒をあおっていた。
 目に入るのは、藤咲と同じくメイド姿の人形達。
 彼女達は与えられた行動しか今は出来ない。
 だがもし、心が宿れば藤咲と同じく自立出来るようになるだろう。
 人が思いを寄せるから心が生まれるのか。
 それとも器がそれに応えようとして心が生まれるのか。
 それは燦にはわからない。
「藤咲さんは多分最初から転生できたと思う」
 独り呟いて、また酒をあおる。
 彼女には人を思いやる心があった。
 その心が慚愧の念を生み、心残りとなって影朧へと変貌したに違いない。
 他人は、たいしたことがないと一笑にふせるかもしれない。
 だが、棟方を突き飛ばした件は、それほどまでに彼女の心を穿ち、この世へと縛りつけていたのだ。
「もし転生したのなら、あの娘たちのどれかになるのかな?」
 それとも案外、功志と一緒に人として生まれ変われるのかもしれない。
 もしかしたら、席を横にする幼なじみとして。
「だったらちょっと灼けちゃうねえ。アタシがお邪魔虫みたいじゃないか」
 まあいい。それはそれとして。
 藤咲が転生したのなら、今度は祝い酒といこう。
 そう思いながら、燦はまだ見ぬ淑女に杯を捧げたのである。

 影朧。
 まことに不思議な存在である。
 人々の思い、過去がこの世に現れたもの。
「ひょっとしたら彼女の膂力は、助けたい一心によって身に宿ったものかもしれませんね」
 こぶしをにぎり、まんじりと浄雲は微笑む。
 救えた。
 返り血に塗れ魑魅魍魎、悪鬼の群れを屠ってきた己が、人を救う存在と成り得たのだ。
 屍山血河を築き重ねてきた自分が成せた偉業。
 ありがとう。
 そう彼女は言った。
 だが自分も、藤咲に礼を言いたい気分であった。
 人を殺める前に影朧を正道へと正し、輪廻へと導くことが出来た。
 今回の件、まことに価値があったと浄雲は覚える。
 故に、いささかの不安も覚えるのだ。
 この手で、多くの敵を殺めてきた。
 自分は、救われるのだろうか。
 彼女のように、微笑んで逝けるのだろうか。
「考えても詮無きことですね」
 苦笑する浄雲。
 彼女と自分は違うのだ。
 藤咲は成すべきことをして逝ったのであり、己もまた成すべきことをするのみであり。
 しかし。
「我が天命、今だ見えず」
 顔をあげた浄雲の顔は、仕事人に戻っていた。
 依頼を果たした場所に、忍びのいる価値は無し。
 一陣の風が吹くと、浄雲の姿は消えていた。
 風は春に浮かれる桜の花びらを巻き上げ、ひらひらと、墓にその身を横たえるのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年04月18日


挿絵イラスト