4
羅針盤戦争〜狂王のメランコリア

#グリードオーシャン #羅針盤戦争 #七大海嘯 #カルロス・グリード #オブリビオン・フォーミュラ #五の王笏島

タグの編集

 現在は作者のみ編集可能です。
 🔒公式タグは編集できません。

🔒
#グリードオーシャン
🔒
#羅針盤戦争
🔒
#七大海嘯
🔒
#カルロス・グリード
🔒
#オブリビオン・フォーミュラ
🔒
#五の王笏島


0





 全ての島が発見された。『舵輪』は既に滅びて、自らも三と四の分身を失った。拠点が制圧されればその度に兵は他へと流れるだろう。恐らく他の七大海嘯も長くは保つまい。我自身も。そして妻も。『侵略形態』の準備は進めているが果たして間に合うかどうか。
「――思考が早過ぎるのも困りものだな」
 鎧の感触を確かめながら、カルロス・グリードは自嘲するように笑った。
 なるほど、帝竜の力とは全く大したものだ。尋常でない速度で思索が進む。だが今のは使い方が良くない。後ろ向きに過ぎる。これでは宝の持ち腐れだ。力に振り回されるようではいかぬ。如何に強大な力であろうと御さねばならぬ。
 分身と言えど、我は王だ。王には王の相応しい振る舞いというものがある。如何に不利な戦局であろうとも、悲嘆に暮れるのは王の姿ではない。手がある内は打たねばならぬ。
「じっくりと対策を練るとしよう」
 『王笏』は静かに思考を再開した。猟兵は直に到着するだろう。だが、今の王には永劫にも等しい時間がある。
 形勢は傾いた。だがそれだけだ。未だ結末は決まっていない。


「戦争、王笏、帝竜。以上。 ……すみません、ちゃんとやります」
 カルパ・メルカはそう言って、そそくさと襟を正した。
 高額賞金首の方々は今の単語の羅列だけで概ね理解されたかもしれないが、そうでない方も多いかと思われるので改めて説明させて頂く。戦争の話だ。
 長らくグリードオーシャンで繰り広げられている羅針盤戦争は、そろそろ終盤と呼んで良い局面に差し掛かった。今のところ状況は順調に推移しており、既に敵組織の首領格である七大海嘯の拠点を全て発見して、一部の制圧が完了する段階にまで進んでいる。
 とは言え、終わりそう、と、終わった、とはイコールではなく、気を抜くには聊か気が早い。そんな訳で未だ手を緩めず、勢いのままに残る拠点を制圧しましょう、というのが今回の依頼である。具体的には、
「『王笏』の……何番だっけ。あの、あれ、ドラゴンのヤツ」
 オブリビオン・フォーミュラ、カルロス・グリードの分身体の一つである『五の王笏』を相手取って頂く事となる。
 カルロスの分身体はそれぞれ異なる世界の力を具現化しており、今度の敵はアックス&ウィザーズに由来する力を扱う。その力とは、帝竜ベルセルクドラゴンの鎧。
「あれです、恐ろしく早口のヤツ。思考速度が凄くて、滅茶苦茶パワーが強い」
 鎧を纏ったカルロスは、ベルセルクドラゴンと同じ高速思考能力と超戦闘力とを同時に身に着けた、正に小さな帝竜だ。オリジナルと異なり四本の腕こそ持たぬものの、ブレス攻撃などの飛び道具が加わった分、対応力は増しているとも考えられる。
 それだけでも油断ならぬ強敵だが、加えて今回は取り巻きがいる。
「スケルトン・エルダー・ドラゴン、と呼ぶそうで。見た目は完全に骨なんですが、命令を受けるとその古竜の骨が動き出すとか何とか」
 内臓を持たぬからか生きた竜のようにブレスの類は吐けず、かつ身体の作りも脆いようだが、とにかく数が多い。何らかの対策を用意すべきだろう。無論、カルロス自身が繰り出す先制攻撃への対処も用意した上で、だ。楽な戦とは言い難い。が。
「残念な事に、コイツ放っといたら戦争勝てないんですよね」
 なので、良い感じにお力添えをお願いします。娘はそう締め括り。
 小さく、グリモアが瞬いた。


井深ロド
 語彙力を試されている、井深と申します。
 ラストスパートです。お付き合い下さい。

 プレイングボーナス……敵の先制攻撃ユーベルコードに対処し、同時に「白骨化した古竜」にも対応する。
55




第1章 ボス戦 『七大海嘯『五の王笏』カルロス・グリード』

POW   :    アリエント・ドラゴーン
【鎧から放射される凶暴化ブレス】が命中した対象にルールを宣告し、破ったらダメージを与える。簡単に守れるルールほど威力が高い。
SPD   :    エスパーダ・ドラゴーン
【鎧の身体強化】による素早い一撃を放つ。また、【肉体をドラゴン化する】等で身軽になれば、更に加速する。
WIZ   :    イーラ・ドラゴーン
【自身または竜に対する敵意】を向けた対象に、【負傷の分だけ威力を増す狂える竜のオーラ】でダメージを与える。命中率が高い。

イラスト:hoi

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

シキ・ジルモント
白骨化した古竜の体は脆いようだ
敵の物理攻撃の範囲外から、銃や投擲したグレネードの爆風によって、囲まれないよう多くの古竜を倒したい
数を減らすと同時に、倒した古竜の骨の山を身を隠す遮蔽物として利用する為だ

遮蔽物がいくつかできるまでカルロスの先制攻撃は回避専念、古竜も盾として使って防御する
遮蔽物の準備が整ったら身を隠して相手の出方を待つ

ブレスで遮蔽物ごと薙ぎ払う為に動きを止めるか、遮蔽物の妨害を嫌って背面や頭上へ回るか…
奴のような高速思考は真似できないが、これまでの戦闘経験から相手の行動パターンを予想する事なら不可能ではない
強化された速度であっても動きを読みやすい瞬間を狙い、ユーベルコードで反撃する



 王笏島の大地を爆発の響きが衝き抜けた。
 それは投擲弾の炸裂音。島の木々にぶら下がる果実より一回り小振りな球体は、小さな身からは想像も付かない声量と、更にそれ以上の威力を主に示した。飛散する生成破片は白き古竜へと深々と突き刺さり、再びその身を物言わぬ骨へと変える。
 ――随分と脆いようだ。
 シキ・ジルモントは静かに対象を観察する。かつて群竜大陸での戦争の最中に古竜平原で見た骨とは別種のものなのか、異能を阻む力は感じられない。あるいは帝竜の思考能力を以てすれば差異の理由にも辿り着けたのかもしれないが、しかし彼は帝竜でなく人狼であり、研究者ではなく銃手である。その思考は敵群の効率的な撃滅にのみ注がれた。脆い分には特に不都合はない。振り下ろされた爪から身を躱しながら白銀の銃で返礼すれば、新たな個体も容易くその機能を停止する。
 数こそ多いが、しかし悪い状況ではない。むしろ好都合。島中に骨の古竜が溢れているという事はつまり、自然『王笏』よりも先にそれらと接敵するという事。仕込みの時間が長く取れるという事だ。迫り来る骨の顎を掻い潜り、一射、二射。音の数だけ破壊の力が撃ち込まれて、竜の骸が地に沈む。少しずつ、だが着実に、シキは白骨の山を拡大し。
 やがて、本番の時が来た。
「狙いは我ではなかったかな、猟兵?」
 幾つかの戦場で目にしたものと同じ顔。耳にしたものと同じ声。だがそのどれより原始的で荒々しい気配を露わにして、『五の王笏』が戦場に立つ。
 前座は終わり、ここよりの相手は真打が務める。

 更なる轟音が王笏島の大地を揺さぶる。
 竜と化したカルロス・グリードの膂力は正しくベルセルクドラゴンと同じもの。かつて古竜を滅ぼした暴威を以てすればその絞り滓など塵に等しい。黒赤の影が駆け抜ければ、白の影は木の葉のように軽々と宙に舞い、細切れとなって地に墜ちる。
 大した馬鹿力だ。内心で感嘆の言葉を吐き出して、しかし表情には出さず、シキはただ黙して戦場を駆ける。木々を盾に、スケルトンドラゴンを囮に。視界の陰へ、意識の死角へと。まともに喰らえば徒では済まないだろうが、喰らわなければどうという事はない。そして猟兵はその為の準備をしてきた。危ういところだったが辛うじて間に合った。周囲には自らの手と、相対する狂戦士を利用して築き上げた遮蔽物の山。
 白骨の城砦の内、シキは密かに息を潜めて。拳銃を静かに“そこ”へと向けた。

 竜鎧の齎す思考は速く、広く、深い。
 ブレスを以て障害諸共に薙ぎ払うか。迂回して頭上や背面から襲い掛かるか。それとも真っ向から壁を殴り崩すか。幾つかの選択肢がそのリスクと共に瞬時に脳裏を過り、秒も掛からず仔細な検討が完了する。全く無駄だ。この程度の仕掛けなど時間稼ぎにもなりはしない。
 カルロスが一歩を踏み込んだ。僅か一歩。だが帝竜の一歩は人狼の、猟兵の一歩よりも遥かに大きい。ただの一歩で王は獲物の姿を捉え、次の一歩で一撃を加える。終わりだ。刃の竜は暴風となって戦場を奔り、そして。
「……!?」
 王笏の眼が見開かれた。視線の先、銃口が過たず己が真芯へと向けられている。何故。一瞬に思考が展開し、しかし遅い。
 敗因は一つ。彼が『王笏』であった事。他の分身とどれだけ異なる力を身に着けたとてその本質は変わりなく、彼もまたカルロス・グリードその人に他ならない。そして猟兵は知っている。戦場に於いて彼がどのように思考するか、直接相対して知っている。如何に高速であろうとも、無駄だ。そも思考した時点で誤りだったのだから。
 人狼の掌の中で、静かに引鉄が絞られた。竜の歩幅は広く、故にその道の途中で歩みを止める事はできない。加速した思考が告げる。この銃弾は、不可避だと。
「…………」
 そして。三度、致命の音が王笏の島を貫いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

仇死原・アンナ
アドリブ歓迎

帝竜を騙る強欲なる王め…
貴様を討ち取る為に来たぞ…我は処刑人也!

過去の[戦闘知識]を思い出し攻撃を[見切り]つ回避
鉄塊剣での[武器受けとジャストガード]で防御
損傷には[激痛耐性]で耐えよう

古竜共はUCでキャバリアを召喚
大剣マカフトゥを振るわせ[範囲攻撃と鎧砕き]で蹴散らそう

古竜共を蹴散らしたらキャバリアに敵を[追跡]させ攻撃
[悪目立ちと存在感]で敵の目を惹き付けてもらおう

隙見て鎖の鞭振るい敵を[ロープワークで捕縛]
そのまま[怪力]で振り回し敵を地面に何度も叩きつけ攻撃
そうしてキャバリアの足下に目掛け叩き付けたら
キャバリアの[踏みつけと重量攻撃]で敵を踏みつぶしてやろう…!



 稲妻が天から落ちた。
 それは頭上を覆う木々の屋根を圧し折りながら仇死原・アンナへと迫り、猟兵が鉄塊の如き剣を防御に掲げれば、その表面を削りながら脇へと逸れた。至近、交戦中だった骨の古竜が巻き添えを喰らい、粉砕されて風に散る。
 否、これは落雷ではない。彼女の眼はそれを確かに捉えた。一の王笏島のように視界を遮るものも、邪神のように見るものを狂気へ誘う気配も此処にはない。如何に速かろうと見誤る筈はなく、何より掌に伝わる感触がその正体を伝えていた。降り立ったこれこそが刑を執行すべき相手であると。
 大地を穿ったもの、多世界侵略船団コンキスタドールの王が静かにその身を起こす。
「外したか。だが、帝竜の身というのは存外に悪くない」
 この実戦で慣らすとしよう。七大海嘯カルロス・グリードはそう言って、尊大な所作で猟兵を見下ろし。
「帝竜を騙るか、強欲なる王め……」
 アンナ・アンダルシャナは冷たく、しかし微かな怒気を籠めて大剣を構え直す。
 静寂は一瞬。
 俄かに緊張が高まり、やがて血戦の火蓋が切られた。

 連打の音が響く。
 拳の怒濤が大剣の腹へと突き刺さった。辛うじて阻むも、驚くべき衝撃がそれを支える両手を蝕む。寸前で見切った蹴撃は肌を掠める暴風で以て脅威を訴え、意識が向いた瞬間手刀の一閃が剣と見紛う切れ味で皮膚を裂く。
 そして魔女は己を襲うものの正体を理解した。これは到底人間に出せる膂力ではない。人体に出せる速度ではない。では何か? 彼女は、それを出せるものを一つ知っている。
 ――帝竜。
 これはかつて帝竜戦役で触れた記憶と間違いなく同一のもの。他でもない己自身の戦闘経験が、王の言葉に偽りはないと告げていた。これは既にヒトではない。竜だ、と。
 嗚呼、だが。
 ――ならば尚の事、討ち取らねばならぬ。
 かつて生の流転する地で、己の死を願う言葉を聞いた。帝竜自身が、自らは存在してはならぬと語ったのだ。ならば、帝竜を僭称する王もまた、この世に存在すべきではない。敵の言葉がどうあれ、為すべき事に変わりはない。
 ――我は処刑人也。貴様を討ち取る為に来た。
 故に。貴様以外に、かかずらっている暇はない。
「心の臓に焔を宿せ」
 アンナの命を受けて、それはゆらりと立ち上がった。幽鬼の如き姿、生命を感じさせぬ眼窩に、だが確かに力の気配を宿す鎧の巨人。一目でそれと分かる、尋常ならざるもの。
 異質な駆動音を響かせて、異形の巨剣が天に掲げられた。古竜共の相手はこの死の女神が務めると、そう告げるかのように。

 それは原初の巨人ユミルの子。骸の海から黄泉還りしもの。地獄の業火を宿した巨人は今一時の命の灯を得て、己が名に違わぬ務めを果たす。
 イシュ・タブ。死者を天へと誘うもの。巨神がマクアウィトルを振り下ろせば、骨の竜は楽園へと導かれるかの如く、瞬く間に土へと還る。一振り。二振り。旋風が巻き起こる度に戦場は静けさを増していく。
 七大海嘯の視線が僅かに上を向いた。そうだろう。その筈だ。あれは王笏の八つの姿の中にはない力だ。あの存在感を目の当たりにして無視はできまい。そして、類稀なる思考速度を持つが故に、王にとって考察は下策ではない。選択肢から外れはしない。
 一瞬。ほんの一瞬だけ割かれた思考の時間。常ならば問題にもならぬその一瞬、しかしアンナはそれを見逃さない。当然だ。処刑の邪魔をした周囲の雑音は既にない。後はただ粛々と役目をこなすのみ。
 鎖の鞭が宙を奔る。鉄球が王の身に喰い付いた。カルロスは瞬時に反応し、だが遅い。単純な力比べであれば魔女は帝竜の敵ではなかったが、しかし対戦するものは両者の膂力ではない。帝竜の力が勝負の土俵に上がる前、そこにあるのはヒトと変わらぬ重量のみ。
 炎獄の執行者が鎖を手繰り、王の五体が空を舞った。
 アンナの膂力もまた埒外のもの。秘めたる怪力は尋常の領域を遥かに凌ぐ。一方的に力を発揮できる状況ならば手を誤る可能性はなく、そして彼女は敵に力を発揮できる環境を与えはしない。仮に与えるとすれば、それは敵を凌ぐ力が場にある証左に他ならない。
 故に、王の身が大地に叩き付けられた時、頭上に“それ”があるのは必然。
「踏み潰してやろう……!」
 そして、刑は執行される。
 巨人の踵が、眼下へと衝き落とされた。

成功 🔵​🔵​🔴​

ベアータ・ベルトット
まず、骨竜達に銃弾を撒いて注意を引き付けるわ
王笏の立ち位置を意識し、常に骨竜達が間に入るよう、機脚のブーストダッシュで駆け回る
思考力に驕ってるようだし、ちょいと挑発してやろうかしら。業を煮やしてブレスを撃ったら、骨竜を盾にして回避―そのまま群れの中に飛び込む!
…血迷った?言ってなさいよ

UCを発動して手足の捕食吸収機能を強化
今、私の振るう一挙手一投足が獣の牙となる

骨竜共を喰い荒らして機関の動力に変換し、銃弾を生成―経口摂取で口内にもリンを蓄え、機腕銃と火炎弾で纏めて片付けるわ

続けて赤霧を放出し、闇に紛れてブレスを牽制―暗視デバイスで捉えた王笏に、とびっきりの銃弾を浴びせてやる
アンタにもお裾分けよ



 古竜が吼えた。
 正確には、そのように見えた。威圧的な声を発する器官は骨の五体から既に失われて、しかし秘めたる力を余さず伝える攻撃的な所作。それは肉の鎧を纏っていた頃と変わらぬだけの恐怖を辺りに振り撒いた。もしも近隣の島民などがこの眼前に晒されたなら、ただ萎縮し、座して死を待つのみだったに違いない。
 だが、この場にいるのは戦う術を持たぬ衆庶ではない。猟兵だ。骨竜と彼女とは捕食者と被食者との関係に非ず。ベアータ・ベルトットは無数の敵意に晒されながら、その程度では全く話にならぬと、弾幕の返礼で以て応じた。
 機械の腕の内部、仕込まれた機銃が唸りを上げる。放たれた威は白骨の身に確りと喰い込んで、竜の軍勢を更に猛らせた。

 古竜が吼える。
 だがベアータの振る舞いには聊かの影響もない。当然だ。如何に五月蠅く喚こうとも、その牙で実際に喰らい付けねば意味はなく。そして彼女の足は、肉も皮も持たぬ痩せた足に捕まる程に鈍くはない。
 脚部の加速機構が作動して、爆発的な速力でサイボーグが奔る。増幅された脚力は骨達を遠く置き去りにして、しかし諦め切れぬ連中はただ徒にそれを追う。狭い空間に巨体が犇めき合って、やがて多大な渋滞を引き起こした。
 この調子ならこちらは当分問題ない。ベアータはそれを捨て置いて、視線を更に奥へと動かした。敵群の奥、不気味に様子を窺う人影が見える。骨の軍勢を壁とする位置取りが上手く効いているのか、それとも何かしらの手札を伏せた上で機を待っているのか。その立ち姿から内面を推し量る事は敵わない。
 ――なら、試してみようかしら。
「御大層な衣装を持ち出した癖に、怖気付いて見てるだけ?」
 内面が見えないなら、外面に出させれば良い。どうせこのままでは埒が明かないのだ、結果がどうあれ挑発してみて損はない。そう猟兵が煽ってみせれば。
「ご所望とあらば、状況を動かすとしようか」
 視線の先、カルロス・グリードは鷹揚に返し、そして。
 帝竜が吼えた。
 今度のこれは比喩ではない。『王笏』の鎧が放つ衝撃は骨竜のそれと違い、生前と同じ力で以て大気を震わせる。竜の吐息は異能の色を帯びて、戦場を一直線に貫いた。
「……ッ!」
 それは骨の盾の隙間を縫って、ベアータの赤髪を掠めて抜ける。なるほど、七大海嘯の余裕の理由はこれか? どうやら今の盾では防御の厚みが全く足りない。辛うじて躱せはしたが、思考速度の差を思えば第二射の精度は今より上がるだろう。この距離は不味い。ならばどうする? ――愚問だ。
 脅威に晒された娘は、一歩前へと踏み込んだ。
「血迷ったかね?」
 カルロスの声が耳朶を打った。言ってなさいよ。内心で吐き捨てて、猟兵はただ前へと駆ける。盾は今より薄くなるが構う事はない。重要なのは攻める事だ。半端な保身は必要ない。
 進む先は前。敵集団のド真ん中。

「――……」
 次に鼓膜を叩いたものは、果たして何だったのか。上手く聞き取れず、しかしそんな事は直ぐにどうでも良くなった。
 飢えていた。一刻も早く喉を潤したい。何かを口にしなければ気が済まない。ベアータの思考をただそれだけが支配していく。これが己がユーベルコードの代償によるものか、知らず凶暴化の吐息に触れた結果なのか判別は付かず。後者だとすれば先の言葉はルールの宣告だろうか。一時考えるも、直ぐに思索は衝動に塗り潰されて消えた。ただ喰らえ。残さず喰らえ。飢えだけが娘の総身を満たす。
 やがて、餓獣機関BB10が牙を剥いた。
 古竜が吼えて、だがそんなものは威嚇にもなりはしない。古竜は捕食者でなく、彼女は被食者ではない。彼女が喰らう側で、古竜が餌。機餓獣の四つ脚全てが捕食器官と化して暴れ狂う。骨竜の抵抗は叶わず、しかし乱れた隊列が逃走を阻む。嗚呼、最早これは闘争ではない。ただの食事だ。皿の上の贄は、ただ喰い散らされる未来を震えて待つのみ。
 そして。
 食べ終えたなら、次は後片付けの時間。
 骨ばかりで食い出がなかったが、お目当てのリンが多く摂れた。霧の材料が聊か少ないが、その分を補って余りある。肝要なのは手段ではない。結果だ。
 餓獣が吼えた。
 口腔内に秘された機構が喰らった骨を火炎弾へと作り変え、返礼とばかりに散撒いた。運良く逃げ延びた骨竜が背後から焼かれ、食い荒らされた残骸と共に崩れ落ちる。骨竜の軍勢は瓦解して、だがそれだけでは終わらない。
 ここまではオマケだ。狙いはあくまで本命にある。
 機腕の隠し銃が、過たず『王笏』へと向けられた。
 如何に思考力を誇ろうと、無駄だ。炎弾の火が周囲に延焼して煙となった今、観測するだけで判断材料は揃いはしない。そして感覚を獣と等しくしたベアータは、ただ強い鎧を着ただけのヒトとは違い、この“闇”の中でも獲物の臭いを逃しはしない。
「アンタにもお裾分けよ」
 餓獣の牙が喰らい付いた。幾度も、幾度も。十全に飢えを満たした今、連撃が途切れる気配は暫くない。

成功 🔵​🔵​🔴​

リーヴァルディ・カーライル
戦争、王笏、帝竜ね。オーケー、把握したわ

周囲の第六感に干渉する"写し身の呪詛"に武器改造を施し、
存在感のある骨竜の残像を自身に被せて敵集団に溶け込む

…木を隠すなら森の中。私の姿を見失った以上、敵が次に打つ手は…

過去の戦闘知識から敵のUC発動を捉えたら"吸血鬼狩りのペルソナ"を起動
敵意も殺意も無く機械のように敵を討つ疑似人格で敵UCを受け流しUC発動

…疑似戦闘人格リーヴァルディ02限定起動…承認

魔刃に対竜属性の魔力を溜め空中戦機動の早業で乱れ撃ち、
敵の死角から切り込み大鎌をなぎ払う2回攻撃を行う

…刃に満ちよ竜殺の理。我に背く諸竜を鏖殺せしめん

…ぶっつけ本番だったけど上手くいったみたいね



 静寂が戦場を支配した。
 音の止む理由は一つ。敵の不在。激戦の喧騒は悉く途絶え、猟兵を狙う命を帯びた古竜らは襲うべき獲物を見失い、ただ当て所なく島を彷徨う。
 決着が付いた、訳ではない。
「オーケー、把握したわ」
 作戦説明の場でリーヴァルディ・カーライルがそう告げたのは、今よりほんの少し前の事。そこから転送の手続きなどを踏まえると、今ちょうど交戦が始まっている筈の時間である。尚余談だが、彼女は最初の三語のみで状況を理解したが、諸々の都合で結局一通りの説明が終わるまで待たされた。
 さておき、移動に際して不都合が生じた訳でもない。
 予定通り、彼女は既にそこにいた。
 王笏の島を歩む骨竜の輪郭が、僅かにぼやけた。それは写し身の呪詛。残像を生み出し操る秘術。呪いが模る姿は何も使い手のそれに限った話ではない。術式に改造を施された今、写し身は骨竜と寸分違わぬ分身となった。木を隠すなら森の中。“木”の残像をその身に纏った娘は、敵集団へと溶け込んで消えた。
 無論、完全な擬態ではない。見るものが見れば気付くだろう。だが白骨と化した古竜らは識別、索敵の能を十全に備えてはいない。そして『王笏』がこれを目にするには、少しばかり“森”の規模が巨大に過ぎた。見咎めるものは最早おらず、“木”は気取られる事なく堂々と敵陣の中を歩み往く。
 ――私の姿を見失った以上、敵が次に打つ手は……
 リーヴァルディが思考した次の瞬間、それが戦場を奔り抜けた。

 敵の姿が失せたとて、それで気を緩める程にカルロス・グリードは愚かではない。彼はコンキスタドールの長、その頂点たる七海を統べる王だ。その沈着な思考は帝竜の異能の後押しを得て、尋常ならざる領域にまで加速する。そして。
 竜鎧の秘める闘気が俄かに膨れ上がり、ベルセルクの怒りが王笏島全域を呑み込んだ。
 敵がどこに潜んでいるか分からぬというなら、隠れ得る場所全てを対象とすれば良い。簡単な理屈だ。憤怒の竜は自らに害意を向ける全てのものを喰い殺す。敵愾が僅かであれ数多であれ平等に。猟兵が戦いの為この島に降り立った時点で、これを逃れる術はない。
 だが。
 ――手応え、なし。
「……ふむ」
 カルロスは短く呟いて、静かに思索を再開する。本当にこの場に潜んではいないのか、攻撃を喰らった上で尚気配を隠し通しているのか、あるいは。違和の正体を探らんと、王の頭脳が高速に機能して。
 しかし、一手遅い。思考から正解へと到る為に必要なものは速度だけではない。情報の取捨選択、適切な経路設定、様々な要因がそこに絡み。そしてそれらは、場数を踏む事により徐々に最適化されていく。故に。
 誰より多く対『王笏』戦を経験したリーヴァルディが、高速思考の一手先を進む道理。

 ――疑似戦闘人格リーヴァルディ02限定起動……承認。
 それは弱い心を覆い隠す少女の仮面。敵意なく、害意なく、殺意なく、ただ粛々と化生を討つ疑似人格。機械的な戦闘システムは怒気の網に触れる事なく潜り抜けて、遂に七大海嘯の眼前へと辿り着く。
「……刃に満ちよ、竜殺の理」
 王の頭上、百一振の魔刃が宙を舞った。魔力結晶に力が満ちる。それは竜を屠る輝き。対竜属性。火や水だけが魔法属性の全てではない。神話生物の殺傷に特化した魔性の光が天を照らす。竜なる種に属する以上、例え帝の称号を冠しようとも例外とはなり得ない。
 『王笏』は回避を望み、しかし成らず。如何に高速で思考しようとも、そのパターンはカルロスのものだ。考えるまでもなく、既に少女はそれを知っていた。
 王の背後、死角より黒騎士が踏み込んだ。大鎌が閃く。
「我に背く諸竜を鏖殺せしめん」
 グリムリーパーが翻る。一閃、竜鎧の隙間を穿ち。二閃、血が溢れ、王の脚が止まる。
 そして、結晶の刃が落ちた。
 十。王の迎撃を相殺する。
 二十。王の防御を削り取る。
 三十。王の五体を縫い留める。
 四十。五十。六十。魔光の雨が降り注ぐ。帝竜狩りの業が、過去の亡霊を刻んでいく。

成功 🔵​🔵​🔴​

トリテレイア・ゼロナイン
大勢が決したなどと油断するつもりは御座いません
例え其方が逆転を収めようと、今この場で五の王杓を折り、確実に打撃を入れさせて頂きます

ワイヤーアンカーを大盾に接続し●怪力とロープワークで鉄球の如く振り回し古竜の骨を一掃
同時に帝竜ブレスの回避の為の場所を作り、センサーでの情報収集による鎧のエネルギーや温度変化から発射タイミングを●見切り脚部スラスターの●推力移動での横跳びで回避

遠隔●操縦で呼び寄せた機械馬に運ばせたUCを装着し飛翔

頭上よりのご無礼は失礼
全力で相対させて頂きます、王!

照準レーザー乱れ撃ちスナイパー射撃
瞬間思考力で古竜含めロックオン
重力波で高速思考の動きを封じ、最大加速で突撃
剣で刺し貫き



 銀河帝国の超技術が生んだ科学の眼は、ヒトや獣のそれよりも高精度に作られている。より速く、より多く、より広く、より遠くのものを視界に捉え。それらを細緻に観察し、計測し、分析し、集積し、検証する。情報は力だ。戦闘の規模が大きくなればなる程に、その重要性もまた飛躍的に増大する。僅かな漏れも残さぬように、ウォーマシンは戦場を俯瞰して、やがて全身に配されたセンサー群が反応を示した。
 脅威となる敵性体、多数。正面に、側面に、背面に。真っ向から迫り来るものが、死角より隙を衝かんとするものが、地形の陰に潜み機を窺うものが。無数の白骨化した古竜が戦域を埋め尽くし、猟兵を包囲している。
 ――大勢が決した、などと油断するつもりは御座いません。
 トリテレイア・ゼロナインはその思考の通り、油断なく身構えた。劣勢からの大逆転劇は何も自身が愛する御伽噺の中だけに限ったものではない。窮鼠が猫を噛むならば、追い込まれた竜が噛み砕くものは一体何か。楽観はし難い。
 故に。
「確実に、打撃を入れさせて頂きます」
 敵の戦力は未だ十全で、意気も軒昂。それでも尚、その上から『王笏』を叩き折らねばならぬ。騎士は不退転の決意を示し。
 やがて、戦端が開かれる。

 白光が閃いた。
 それは綺麗な円弧を描き、島の空を滑っていく。海賊が掻き集めたものか、竜が生前に貯め込んだものか、反射した光が島に残された財宝を照らし出した。鮮やかな金銀の対比はまるで物語の中のような光景にも思えて、しかし実態は幻想からは程遠い。
 白光が骨竜にめり込んだ。それは盾だ。ウォーマシンの巨体を覆い隠す程の大型盾は今野蛮で原始的な質量兵器と化して、死に損ないを一息に薙ぎ倒す。そして、それだけでは終わらない。機械騎士がワイヤーアンカーを手繰り、脚部パイルで固定した五体を捻る。スラスターにより加速した回転は、その力をワイヤーで繋がれた大盾へと余さず伝えた。
 一周。二周。白光が奔り、軌道上の影を悉く粉砕して廻る。どこも敵だらけという事はどこに打ち噛ましても敵に当たるという事だ。ウォーマシンの取り得は眼だけではない。膂力に於いても竜に劣らず、戦力と戦術の両輪で以て瞬く間に敵陣を舗装していく。
 旋回の度、センサーから十、二十と反応が消え。
「……!」
 そして、新たな脅威が現れた。

 熱源反応。
 一条の光が戦場を貫いた。アリエント・ドラゴーン。騎士の手で掃除された戦場に障害となるものは最早なく、竜鎧から放たれた異能の吐息は逸れる事なく獲物に迫る。高速の思考が算出した最大効果の奇襲攻撃。
 だが、障害が消えたのはトリテレイアとて同じ事。足元、ユーベルコードの威に劣らぬ灼光が爆ぜた。脚部推進装置が全開で稼働して、猟兵が跳ぶ。推力に物を言わせた強引な機動は全く粗略で、しかし理外の加速力を生み出した。ブレスは肩鎧を焙るも致命傷にはならず、回避成功。咄嗟の判断で手放した盾がマルチジャックの枷から解かれて彼方へと飛び、延長線上の骨竜を圧し潰す。
「騎士らしからぬ様だな?」
 乱雑な所作を見てか、襲撃者カルロス・グリードが嗤った。その声に僅かに含まれた色は、あるいは王らしからぬものを纏う己への自嘲だろうか。
「申し訳ありません、王よ」
 トリテレイアは非礼を詫びて、告げた。これから更に酷くなります、と。
 機械騎士が愛馬の名を呼んだ。竜の咆哮が拓いた道を走り、“それ”が来る。鋼鉄騎馬ロシナンテⅡが。機械馬の牽引する騎士らしからぬ拡張兵装、複合型重力制御装備が。
 迎撃の第二射が放たれて、だが遅い。
 更なる推力を得て、騎士が跳ぶ。否、飛ぶ。その姿はもう騎士のそれではない。それは正しく、銀河帝国の戦闘兵器。
「ご無礼を」
 異形と化した騎士が飛翔して、最後の攻防が始まる。

 空が爆ぜる。
 続くブレス第三射は戦機の放つレーザー光と搗ち合って、対敵へと達する事なく宙だけを灼いた。相殺。否。機械騎士が騎士の姿を棄ててまで求めた力は、この程度のものではない。
 光撃は一手では終わらず、輝く雨が戦場全域に降り注いだ。援護に走らんとする古竜が出鼻を挫かれて蹌踉ける。一体だけではない。索敵は開戦直後に既に完了していた。牽制の閃光は過たず全ての標的を穿ち、残存戦力の干渉を余さず阻む。
 これで一騎討ちに水を差すものは消え去った。
「全力で相対させて頂きます、王!」
 トリテレイアが駆けた。増設スラスターがその背中を大いに押して、流星の如き神速で天から降る。
「来るが良い、騎士よ」
 だが、カルロスは臆する事なく迎撃体勢を取った。高速思考が猟兵の戦略を看破する。帝竜の鎧が脈動し、王の五体に力が満ちる。超戦闘力で以て正面から捩じ伏せる構え。
 そして、両者の一撃が交差した。

 トリテレイアの剣は、騎士の道の如く真っ直ぐに放たれた。白刃は、竜鎧の奥深くへと迷いなく喰い込んで。
「……儘ならぬものだ」
 七大海嘯の反撃は、二門の追加兵装が発した重力波に阻まれた。絶好の機を逃し、猟兵の鎧を僅かに削るに止まる。そして、追撃を繰り出す余力は既にない。
 『王笏』の身が、傾ぐ。
 これが決着。
 いつかとは逆転した形での激突は、いつかと同じ結末で幕を下ろす。
「――……」
 王の分身が何事かを言い掛けて、しかし声には出さず、静かに骸の海へと消えていく。騎士はただ黙して見送り、やがて戦場を後にした。
 死闘は終わり、平穏の気配が島を満たす。『五の王笏』が黄泉還る事は最早ない。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年02月27日


挿絵イラスト