羅針盤戦争~鬼火と冥鳥へ告げる
●グリモアベース
全ての敵拠点の島が発見された、と報が入ったグリモアベースにて。
「聞いての通り、拠点を見つけて本体を叩ける段階に入ったわ。そこで、七大海嘯がひとつ、『鬼火』フライング・ダッチマンの討伐をお願いします」
コルネリア・ツィヌア(人間の竜騎士・f00948)が、結論から切り出した。
「拠点である鬼火島には、配下の幽霊船が集結しているわ。それらをうまくかわして、島に上陸。鬼火の喉元まで一気に食らいついてちょうだい」
幽霊船をかわさず突破しても良いが、大艦隊は数が多く、更に奇襲を得手とするために、いちいち探して倒すより、何らかの手段で戦闘そのものを回避、引き離してしまった方が効率が良い。
無論、敵を支配下に置いて攻撃するなど、フライング・ダッチマン撃破の手段とするならば話は別である。
ともかく今回の優先順位は『鬼火撃破』、その為の判断は猟兵たちに任せる、とコルネリアは述べた。
「相手は、必ず先手で攻撃用のユーベルコードを放ってくるわ。これ自体はどうしても動かせない。防御なりカウンターなり、攻撃される前提で心持ちや準備をしておいて」
後手に回ることにはなるが、考えようによっては、それも戦術に組み込めるだろう。
そしてもうひとつ、先制攻撃の対処と同時に、頭に入れておいて欲しいことがあるという。
「『鬼火』は、『何度殺されても瞬時に蘇生する』という、特質的なユーベルコードを常に用いているわ」
言葉を切り、どう言えば伝わるか、と少し考え込んでから、コルネリアは続ける。
「概念的というか、言葉遊びに近いのかしら。鬼火の蘇生能力は、『あてどなくさまよう』ことが由来みたいなの。……強固に『迷い続けている』から、決して船は沈まない、ような」
それを代償というべきか信念というべきかは、わからない。
「対抗するには、『迷いなき心』を見せること。迷いのなさを感じたとき、蘇生のユーベルコードに綻びが出る」
傷つかないものに、傷がつく。死なない幽霊に、死を与える。そのきっかけ。
具体的な所は、まさにそれぞれによるだろう。
たとえば、重ねた経験や自分への自信に裏打ちされた『確信』かもしれない。
あるいは、ただひたすらに敵を穿つことだけを考える『一途さ』かもしれない。
あるいは、何に迷うのか心底不思議に思う『在り方』かもしれない。……。
「『鬼火』フライング・ダッチマンは、青い炎の身体を持つ幽霊。手下たちも全てそう。恐らくは、海中で無念に満ちて死んだ者たち」
資料を読み上げるように淡々と、コルネリアは言う。
「鎖の先の球は骸。燃え盛る邪悪な魂の集合体。骸球は『口』から炎を溢れさせる。身体はすべて怨念で燃える青い炎。高速で移動し、寿命を削りながら青炎を放つ。――これまでは、寿命を削ったところで、何の痛手もなかった」
炎にくべられた全ては、死者の怨念。オブリビオンという過去の中でもわかりやすく、報われない。
「肩に乗る炎の鳥を、愛鳥ゼンタと呼んで、いつも共にある。ゼンタは青炎の羽を降らせて、戦場全体を、生者を蝕む炎の海へと変える」
そうして今まで、無数の島々を襲い、殺戮と略奪を繰り返してきた。
どこか義務的に。それが自分の役目だというように。
「ユーベルコードもそうだけれど、『幽霊船の船長とはこういうもの』をかたちにしたような存在ね」
これらの情報の中のどれかが、己の中の『迷いなき心』を定めるきっかけになれば、とコルネリアは呟く。
「身も蓋もない話をすると、迷うから強い迷わないから強い、なんて話でもないのよね。最後の決め手は、生き様や在り様」
ここに来て話を聞いて、戦場に赴くと決めた者。
それだけで、自分にとっては敬意を示す相手なのだと、コルネリアは告げる。
「貴方達の生き様が、フライング・ダッチマンを制すると、私は信じます。――武運を祈ります」
越行通
こんにちは。越行通(えつぎょう・とおる)です。
『羅針盤戦争』のシナリオ、ボス戦をお送りします。
いよいよグリードオーシャンも大詰めということで、『鬼火』討伐戦となります。
それに伴い、プレイングボーナスがあります。
『プレイングボーナス……敵の先制攻撃ユーベルコードに対処した上で、「迷いなき心」を見せる。』
概ね、オープニングにある通りです。
迷いのなさにも、示し方にも、色々なタイプがあると思います。
言葉、態度、戦い方。
どうか、自分らしく、自由な在り様を示してください。
今回のシナリオについては、基本お一人ずつ、もしくはグループ参加や連携OKの方同士で、早めにお返し出来たらと思います。
皆様のプレイングをお待ちしております。
第1章 ボス戦
『七大海嘯『鬼火』フライング・ダッチマン』
|
POW : 鎖付き骸球
【『燃え盛る邪悪な魂』の集合体である骸球】が命中した対象を燃やす。放たれた【骸球の『口』から溢れ出す】炎は、延焼分も含め自身が任意に消去可能。
SPD : ブルーフレイムカトラス
自身に【怨念の青き炎】をまとい、高速移動と【カトラスからの青炎】の放射を可能とする。ただし、戦闘終了まで毎秒寿命を削る。
WIZ : 冥鳥の羽ばたき
【飛び回る愛鳥ゼンタが青炎の羽】を降らせる事で、戦場全体が【生者を蝕む青き炎の海】と同じ環境に変化する。[生者を蝕む青き炎の海]に適応した者の行動成功率が上昇する。
イラスト:爪尾
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
|
種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠山田・二十五郎」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
馬県・義透
四人で一人の複合型悪霊。生前は戦友。
第二『静かなる者』霊力使いの武士
一人称:私 冷静沈着
武器:白雪林
似ているからこそ、相容れない存在なのですよ。
幽霊船団は闇に紛れたり、ダッシュで残像残したりでかわしましょう。
先制攻撃へは…我らも悪霊である以上、生者ではないので。言い換えれば呪いですから、適応しますよ。
物理攻撃も来るでしょうから、四天霊障による結界術+オーラ防御で受け流します。
反撃は早業+二回攻撃+制圧射撃で。
一の矢【四天境地・『雪』】、二の矢は破魔+水属性攻撃の矢を。
炎ごと凍れ、鬼火。
矢には迷いがはっきりでますからね。ぶれぬ矢こそ証明なり。
我らは、今を生きる者の守護者なり。生者を守るものなり。
●
骸のごとき幽霊船の影が、暗い海にぽつぽつと浮かび上がる。
不意に現れてはいずこかへ隠れる、その合間を縫うように、ひとつの影が進んでゆく。
船の見張りが、くるりと頭を巡らせ、影の輪郭を捉える。
武士のような影へと、紫の光が追いすがる。だが、光が撫でたと思いきや、そこにはなにもいない。
船団の合間の闇を伝い、残像を残して男は走る。
――それは、まさに矢のごとく。
溢れる青い炎が見える。天へと揺らめく炎の上方で、旋回する鳥から羽が舞い降りて、鬼火の島に生者を蝕む青い炎が満ちる。
常人であれば崩れ落ち、呼吸もままならぬ筈の環境にあって、男は、隙の無い佇まいを崩さない。
それどころか、動作のひとつひとつが洗練されてゆく。溢れ出す炎で笑う、『フライング・ダッチマン』と同じく。
「猟兵。どうやら、わが愛鳥ゼンタの羽は、心地よいようだな」
「この通り適応はしますよ。ですが」
問われた猟兵――馬県・義透(死天山彷徨う四悪霊・f28057)の周囲に、冷気が立ち込める。
携えた弓は凛と白く、時折見せる仄かな青色は、何処か周囲の炎とも似ていたが。
「似ているからこそ、相容れない存在なのですよ」
突きつけた言葉と同時、距離を詰めた『鬼火』のカトラスを、冷気の壁が絡めとり、弾く。
荒れ狂う炎と冷気がぶつかり合う只中にありながら、義透は滑らかに霊力の矢を練り上げる。
周囲の景色など無いかのように。何千何万と繰り返した動作を、寸分違わず。
「死するもの同士、狂うも良かろうよ!」
冷気の壁を砕かんとカトラスを振るう『鬼火』は、笑っていた。
その矢の向こう、義透の両の目を見るまでは。
――矢には迷いがはっきりでますからね。
「故に、ぶれぬ矢こそ証明なり」
膨れ上がった霊力の矢が放たれ、分裂し、氷雪を嵐のごとく降らせる。
一の矢は荒れ狂う氷雪のかたちで、『鬼火』を――フライング・ダッチマンの時間を止める。
つがえた二の矢には、静謐な破魔と水の霊力が練り上げられて。
「我らは、今を生きる者の守護者なり。生者を守るものなり」
迷いなく、告げる。
仮にこの矢が外れても。幾度でも幾度でも追い詰め射ると、証明するように。
「炎ごと凍れ、鬼火」
『鬼火』の炎が渦巻く胸を、守護者たちの矢が貫いた。
大成功
🔵🔵🔵
ペペル・トーン
生者は私だけなんて寂しいわ
1人ぼっちで寂しい心地は冷たいけれど
青々とした海の炎で消えたら、少しは温かくなるかしら
ねぇ、教えてくれる?なんてね
私にはあの子達との絆も、約束もあるの
痛いのはイヤよ、でも知らないままの私もイヤ
守られてばかりでお飾りなんて、つまらない
貴方達が守るように、私も貴方に答えたいの
おいでおいで、私を好きな貴方達
心配なお顔も可愛らしい貴方達
私達はずっと一緒よ
ぎゅっと触れたか分からない手を握って
大丈夫、貴方達がいるものと微笑めば
さぁ、行って 私の小さなお友達
許さないと怒れるままでいいわ
そんな人らしい貴方達が好きよ、とても
例え生と死で離れていても
私がいる限り、楽しい話を綴っていくの
●
鬼火島上空を、青炎の鳥が飛び回る。
冥鳥の羽によって、鬼火のための炎が燃え盛る地獄に、ひとりの少女が佇んでいた。
「生者は私だけなんて寂しいわ」
甘い砂糖水の髪が炎に煽られていながら、どこか歌のような囁きをこぼす。
「1人ぼっちで寂しい心地は冷たいけれど。青々とした海の炎で消えたら、少しは温かくなるかしら」
熱気の中で揺らぐソーダ水の少女は、どの炎より大きな炎へと笑いかける。
「ねぇ、教えてくれる? ――なんてね」
ひどく場違いな、淡くも見える少女を見ても、鬼火は変わらずカトラスを構える。
「お前は猟兵だ」
「そうよ」
「ならば、われらの敵だ」
音を立ててカトラスが振られ、火の粉が散る。
それを見ても、少女は一歩も下がらない。
いまにもじりじりと、焼かれ、あるいは蒸発してしまいそうであるのに。
「私にはあの子達との絆も、約束もあるの」
髪を飾る真紅と、同色の瞳を、前髪から覗かせて。
「痛いのはイヤよ、でも知らないままの私もイヤ。守られてばかりでお飾りなんて、つまらない」
広げ、捧げる両手が述べる先は、『鬼火』ではなく。
「貴方達が守るように、私も貴方に答えたいの」
ここよ、と招くように。
「おいでおいで、私を好きな貴方達」
瓦礫で出来た魚の船が、戦場に顕れた。
魚の船から次々溢れ出す、甲高く悲痛で無邪気な怒りに満ちた声。
死したフラスコのこどもたち。その声に、姿に、少女は応える。
「心配なお顔も可愛らしい貴方達。私達はずっと一緒よ」
「――子の霊か。それも、外を知らぬ類!」
こどもの使うような、やわらかなフォルムの食器やおもちゃの雨を叩き落し、フライング・ダッチマンはカトラスを三度振るう。
幽霊たちと巧みに位置を入れ替え、生きた人と当たり前にするように手を伸べ、繋ぐ。
「大丈夫、貴方達がいるもの」
微笑んで、フライング・ダッチマンを見据えた少女こそ。
こどもたちの霊に慕われ、かれらをお話の主人公にするゴーストキャプテン――ペペル・トーン(融解クリームソーダ・f26758)だ。
「さぁ、行って 私の小さなお友達」
打ち鳴らす武器はこどもの持ち物でありながら、容赦なく鬼火の炎を吹き散らす。
怒りに満ちて炎を渡り、容赦なく『遊び』のお強請りを繰り出す様に、『鬼火』も認識を固めつつあった。
「許さないと怒れるままでいいわ。そんな人らしい貴方達が好きよ、とても」
鳥の青い炎を呑み、よくも、よくも、と頑是無く繰り返すこどもたちと共に、ペペルは戦場に立つ。
この場で、たったひとり。彼女だけが、生きて、炎に晒されている。
「例え生と死で離れていても。私がいる限り、楽しい話を綴っていくの」
ペペルと共に、彼らは、フラスコの外へと、冒険に行く。
フラスコの代わりに、お魚の中に入れて貰って。楽しい楽しい、彼らの毎日のお話。
感嘆に、『鬼火』の炎はいっそう燃え上がる。
「ああ、そうだ。その目は、間違いなく船長の目だ! ――手は抜かぬぞ、猟兵!」
大成功
🔵🔵🔵
栗花落・澪
幽霊船は【破魔】を乗せた光魔法の【範囲攻撃】で【浄化】
光は目眩しにもなるから、破魔で霊達の視界を焼いている間に突破を
先制は【高速詠唱】で水魔法と【呪詛耐性】を編み込んだ【オーラ防御】で身を護り
【空中戦】で少しでも炎の直撃を避ける
それでも防ぎきれない熱は【激痛耐性】で耐えて気にしない
怪我なんて後でいくらでも治療出来る
でも、ここで僕が負けたら多くを失う事になるから
僕はこの世界も
島の人達の笑顔も
全てを救い護るために戦う
【指定UC】を発動
戦場の全てが無理だとしても、一部でも構わない
破魔によって炎の海を浄化、上書きし
彷徨い続けるのも疲れたでしょ
貴方の心にも…光あれ
破魔を乗せた光の【全力魔法】で反撃
●
仄暗い海面を行き来する船めがけて、突然大規模な光が降り注いだ。
広がる光の前に多数の船がなすすべもなく塵と化し、ぎりぎり光を逃れた船が舵を切る。
ただ光というには、彼らにとって眩しすぎる。まして直撃したものを塵にするようなものならば――破魔の力操る猟兵がいるということだ。
だが、直撃した光の影響は大きく、多くはまともに船を動かすことも出来ず、光に焼かれた視野で敵らしき姿を探すものの、それらしき影は何処にも見えない。
浄化の光による混乱に乗じて、幽霊船はびこる海辺を突破し一直線に飛ぶオラトリオの姿があった。
陸の、ある地点を目指し一直線に飛ぶ彼へと、青炎の羽が降り注ぐのを感じながら、己の出来る限りの高速詠唱で防御を編み上げる。
降り注ぐ羽によってたちまち火の這う土地と成った、その上方へと逃れ、少しでも炎の直撃と影響を避けて。
それは万能の防御ではない。
彼自身、覚悟の上だ。地上に炎が広がっている以上、熱を完全に遮断することは出来ない。神聖な守りを重ね、やけどを免れているだけ、上等だ。
熱さに奪われる生命力、肌にちりちりと伝う痛みに、琥珀の瞳を険しく細めて歯を噛み締める。
――このくらいの痛みは、覚悟して来たのだ。
「自ら死にに来るとは。酔狂か? あるいはその、博愛とやらか!」
あきらかに聖に属する存在の飛来する姿を、フライング・ダッチマンはすぐに見て取り、鎖の先の骸球が、歯を鳴らしたような音を立てる。
膨れ上がる殺意を前に、避けきれないほど羽が近づき、炎が身を掠めても、速度を落とさない。
「怪我なんて後でいくらでも治療出来る」
熱気と呪詛の中、普段よりもいくらか掠れた声で、栗花落・澪(泡沫の花・f03165)はその決意を示す。
「でも、ここで僕が負けたら多くを失う事になるから」
青い炎の荒れ狂う上空、ひときわ多く羽が舞う只中で、澪は止まり、大きく翼を広げる。
「僕はこの世界も、島の人達の笑顔も、全てを救い護るために戦う」
広がる海、島に根ざした営み、それを見聞きした記憶、感情。
「全て、と言ったか。われらを前にしながら!」
『鬼火』は笑う。笑って、みせる。鬼火を形成する炎の一部が、取り残された幽霊船団の一部が、笑えずに怨念の炎を激しく燃やす。
澪は答えなかった。
ただ、行動をした。
「貴方の闇に、希望の輝きを」
瞬間。
澪を中心にして、この世のものとは思えぬ美しい花と破魔の光が、空を満たした。
『鬼火』は、愛鳥ゼンタを呼び寄せ庇い、カトラスを掲げ交戦の意思を捨てず。
しかし、纏う炎は、激しく揺らぎ、あるいは剥がれるようにして地へと落ちる。
「彷徨い続けるのも疲れたでしょ。貴方の心にも……光あれ」
その後押しのように、幽霊船団と同じ光が、真っ向から『鬼火』に叩きつけられる。
――疲れるものか、と言い返すがごとく抵抗する炎があった。
――もういいだろうか、というように地に落ち、小さく縮む炎があった。
――疲れなど忘れ果てた、と言い残して消えた炎があった。
『鬼火』の身を形成し、寄り集まる炎の中の怨みが、混ざり合っていた水が分かれるように複雑に乱れる。
「われらが責務は、終わってはおらぬ」
ごっそりと炎を、存在そのものを削られながら、『鬼火』フライング・ダッチマンが吼える。
「見事だ、神聖なるもの。見ての通りだ。それでも、それでも! 愛鳥ゼンタも、われも、いまだ眠りの日ではない!!」
大成功
🔵🔵🔵
塩崎・曲人
オゥイェ
いいねぇ、見るからに幽霊船の船長サンだ
オレともちょっと遊んでくれよ
っても飛び回って炎ぶち撒けられるのは困るんだけどな
素の人間だぞオレは
対策としてはチェーン全力で振り回して盾にする、と
それを貫通してくるなら
上着で受けて燃え上がったのを脱ぎ捨てるしかねぇな
んで、無事先制攻撃が終わったら
お待ちかねの反撃タイムといこうか!
オレ様の【喧嘩殺法】は!
敵が強いとか死んでも蘇るとか、グダグダ余計なこと考えねぇで目一杯ぶん殴る技なんだよぉー!
「オレは猟兵で!テメェはオブリビオン!そんだけ解ってりゃ十分だろうが!」
大体よ
迷ってるから死なないってんなら
人生の迷子のオレ様は不死身じゃなきゃおかしいじゃねぇか
●
「オゥイェ! いいねぇ、見るからに幽霊船の船長サンだ。オレともちょっと遊んでくれよ」
口笛でも噴きそうな軽い声と共に、鬼火の島に青年が立つ。
そこらの路地裏を歩いてきたとでもいうような態度で、青い暗闇にあってオレンジの髪がひときわ鮮やかだ。
軽薄そうな、何処か馴染み深さのある青年に、『鬼火』の炎で出来た口元がつりあがる。
「言ったな、小僧。否、猟兵!」
「うわっと! 炎ぶち撒けられっと困る。素の人間だぞオレは」
彼としては本気で――それでもやはり、猟兵に相応しき埒外の反応速度で、振るわれたカトラスからの炎を迎え撃つ。
あらゆる方向から放たれる炎に対し、全力でチェーン――鬼火の持つ鎖と比べても遜色の無いそれを全力で振り回し、表面をなぞる青炎を振り払う。
『鬼火』は、一切油断も手加減もしない。
この猟兵は、すでにしてここに立ち、己の炎を防いでいる。その事実を認め、理解すれば、手加減など出来るものか!
「あちぃ! って、マジ燃やす気だなァ!?」
掠めた炎を敢えて上着で受け止め、その動きのまま即座に脱ぎ捨て、地に叩きつけることで雑に火を消す。
鈍い音を立てて振るわれたカトラスからの青炎が、滴るようなものに一時的に収まったのを見て、ようやく彼は深呼吸を己に許した。
「っしゃ、何とか耐え切った。――さあ、お待ちかねの反撃タイムといこうか!」
チェーンを巻き取り、行きがけに幽霊船の舳先からかっぱらってきた棒を携え、塩崎・曲人(正義の在り処・f00257)は破顔した。
元々折れかけていたものを、適当にへし折ってきたものだ。炎相手の武器としても、いかにも頼りない。
だが、そんなことは、曲人にとってはまったくどうでも良いことだ。
「ヒャッハー!ブッ込み行くぜオラァ!」
炎の奥、フライング・ダッチマンの『顔』を、『目』を、ただ、捉える。
シンプルな話だ。――喧嘩をするならガンのひとつも飛ばすもの。
「なんとも活きが良いことだ。なるほど、お前は猟兵! われらを踏み越えるもの!」
「はっ、意味わからんがありがとよ! その通り、オレは猟兵だ!」
曲人の動きすべてが加速する。この世に自分と敵しかいない世界に在るように。
七大海嘯の名も、蘇生の特質も、思考から投げ捨てる。
グダグダ余計なこと考えながら殴ってられるか、という殴り方に、『鬼火』の炎が懐かしさと慄きに揺らいだことにも、頓着しない。
「オレは猟兵で! テメェはオブリビオン! そんだけ解ってりゃ十分だろうが!」
「そう、だ。その通りだとも……!」
全力の殴打を続ける曲人の一撃一撃に、青炎が揺らぐ。
生命力の塊のような打撃を、ただちに蘇生出来ない。怨みの炎が、ただ純粋な暴力で散らされる。
「大体よ。迷ってるから死なないってんなら」
棒を、ただ、しゃにむに振るう。
「人生の迷子のオレ様は不死身じゃなきゃおかしいじゃねぇか」
「――」
その言葉は、『鬼火』の何かを、引っかいたようであった。
だが、カトラスでの防戦と、それごと叩こうとする曲人の攻撃に、その何かはただ埋没し、見えなくなっていった。
大成功
🔵🔵🔵
水鏡・怜悧
詠唱:改変、省略可
人格:ロキ
迷い続けている、ですか。その割に幽霊船の船長としては迷いないようですね。
ケルベロスに搭乗。空中浮遊で幽霊船の上空を移動します。砲撃はケルベロスに仕込んだ風属性の魔銃で軌道をそらし、避けきれない分はオーラ防御で衝撃を和らげます。ぶつかっても液体金属なので傷はつきません。
火炎放射は魔銃を氷属性に切り替え、氷の壁で防ぎましょう。
信念と呼べるかは分かりませんが、私がこの戦場に来た理由は1つだけ。幽霊。不死。蘇生。そうなりたいとは思いませんが、実現の手段には興味があります。ゆえに私は、聞きに来たのです
「あなたの中身は、何ですか?」
あなたの、身体に。
●
幽霊船団の上空を、何処か不吉で冷ややかな存在が滑るように飛翔してゆく。
視認された瞬間から、幽霊船団による無数の紫の光がさかさまの雨のように殺到していた。
しかしその多くは目の前で軌道を逸らされ、命中しても姿勢を少しずらすのがせいぜい。すぐに姿勢を戻し、何らダメージらしきものも見えない。
そんな『得体のしれない』ものに搭乗した存在が、淡々と状況に対処しながら、フライング・ダッチマンを目指して飛翔する。
『鬼火』の方もすぐに接近に気づき、ぶわりと膨らんだ怨念の青き炎を解き放ち、謎の存在を駆逐せんとする。
奔流のごとき炎を前に、搭乗者は落ち着き払って携えた銃を構え、己が目の前に氷の壁を作り出す。
怨みの炎と、現象の氷はぶつかりあい、削りあい。
その果てに、耐え切れずに、互いを相殺した。
「迷い続けている、ですか。その割に幽霊船の船長としては迷いないようですね」
炎の欠片、氷の破片、共に謎の乗り物を傷つけることは出来なかった。――それは、金属であり、液体だったから。
「……猟兵。お前の、それは、何だ」
「すみません。説明が面倒です」
『鬼火』の疑念をばっさりと切り捨て、緑の目が、『鬼火』をじっと見つめる。
底知れない何かに対し、すぐ反応出来るよう油断なく身構えている『鬼火』の姿を見るその目は、まるで。
「猟兵。お前の目は、戦う目ではないように見えるが」
「……ああ」
わかりましたか、と、淡々とした声で、緑の目の男は、改めて言葉をつむぐ。
「信念と呼べるかは分かりませんが、私がこの戦場に来た理由は1つだけ」
「ほう?」
「幽霊。不死。蘇生。そうなりたいとは思いませんが、実現の手段には興味があります」
――その答え自体は、特におかしいものではなかった。
このありよう、幽霊や不死、蘇生に興味を持つ者は、これまでも相応の数がいた。ある種、当たり前の好奇心だ。
だが。だが、消えないこの悪寒は何だ。目の前のこれは、何だ。
「ゆえに私は、聞きに来たのです」
知りたいから聞く。当たり前のことを言う声音で、当たり前のことを言う。
「あなたの、身体に」
――それが、水鏡・怜悧(ヒトを目指す者・f21278)の、『ロキ』の、たったひとつの理由。
目の前のモノが呼び出し、空間のように広げたそれが、『拘束具付きの手術台と医療器具』であることが、『鬼火』にふたつの答えを教えた。
ひとつは、文字通り、これより身体に『聞かれる』のだということ。
もうひとつは――
「お前……! 往ける者でありながら、『置いてきた』ものか!」
断片的な言葉を、どれだけ汲み取ったのか。
『それ』は拘束具を放つ手を止めず、告げる。
「恐らく。あなたの想定するような、『置いてくる』ようなものを、持っていないんですよ」
凶器のかたちをした問いかけが、フライング・ダッチマンに殺到する。
――その会話に、それ以上、何も。
大成功
🔵🔵🔵
リーヴァルディ・カーライル
…人は生きている限り迷わずに前に進む事は出来ない
どれだけ強固な意志も、現実の前では容易く移ろい惑うもの
たとえ覚悟を決めて迷いを捨てたとしても、
それは他の選択肢から目を背けているだけ…
…だからこそ、人は誰かに想いを託すのよ
託された想いが重なって、連なって…やがて闇を照らす道になる
…認めるわ。私だけで迷い無き境地に至る事は出来ないと
だけど私は独りじゃない。多くの想いを背負って此処にいる
…怒りでも、憎しみでもない。この世界の為にお前を討つ
…それが"私達"の意志と知れ
敵の攻撃を呪詛耐性と"怪力の呪詛"のオーラで防御して受け流しUC発動
限界突破して無数の霊魂を大鎌に降霊してなぎ払い敵を浄化する
●
朽ち果てたマスト、青い炎揺らめく甲板、弾丸の代わりに怨念たちこめる砲台。生活の匂いがしない、ただ無数の霊を宿す入れ物となった船。
死者たちはただ戦のためだけにここにある。変化を知らず佇む船影を背に、銀の髪をなびかせて、女がひとり、鬼火島に降り立つ。
未だ燃え上がる青い炎、フライング・ダッチマン。
身に纏う怨みの炎も磨り減り、愛鳥をいたわりながら、それでもフライング・ダッチマンは立っていた。
いったい、何度『死んだ』ものだろうか。蘇生を阻害され、猟兵たちの度重なる攻撃を受けながら、未だにこの世にある。
――いったい、何が、そうさせているのか。
女が奔る。闇に溶けこむ黒い衣を守るように、複数の図形がごとき術式が展開される。
『鬼火』が鎖を重く振るい、骸球を解き放つ。燃え盛る魂は未だ滅びることなく、炎を吐きながら女へと振るわれる。
それは、音もなく阻まれる。
女を取り巻く術式――様々な世界のモチーフを備えた図形の群れ。
「妙なものだ。まるで、この海のようでもある」
膠着の末、骸球を弾き切った女を見て、鎖を手繰った『鬼火』は独り言つ。
攻撃をしのぎきった筈の女。その周囲に、未だ、骸球の魂たちの呪詛が取り残されている。
「……人は生きている限り迷わずに前に進む事は出来ない。どれだけ強固な意志も、現実の前では容易く移ろい惑うもの」
生者なきこの島において、静かな声は確かに鬼火のもとへ届いた。
女の左眼を核に、何かが起きている。それを察知し、『鬼火』は鎖を手繰る手を止めた。
「たとえ覚悟を決めて迷いを捨てたとしても、それは他の選択肢から目を背けているだけ……」
「それは生者の言葉だ。……あるいは、われら死者が投げかけるべき嘲笑かもしれぬがな」
女に相槌を打ちながら、骸球の魂が吐く炎を、足元に広げる。
女の言葉が、まるで呪文のように聞こえたがゆえに。
「……そう……だからこそ、人は誰かに想いを託すのよ。託された想いが重なって、連なって……やがて闇を照らす道になる」
女の周囲に、死霊、怨霊が渦巻いている。
かつては生きていたことを忘れていない霊も、この場には、まだ大量に残されている。それが、女のもとへ集い、手にした黒い大鎌を包み込む。
骸球が飛ぶ。大鎌が振るわれる。
両者は激突し――消されたのは、骸球のうちのひとつだった。
「……認めるわ。私だけで迷い無き境地に至る事は出来ないと」
無数の霊魂を大鎌に降ろし、リーヴァルディ・カーライル(ダンピールの黒騎士・f01841)は更に前進する。
幾度も襲い来る骸球、溢れ出す炎を、切り払いながら。
「だけど私は独りじゃない。多くの想いを背負って此処にいる」
「よく聞く言葉だ、猟兵。生者はよく、そのように言うのだ。託す、重なる、連なる、群れる」
「自分達は、違うと?」
「好きなように思えば良い。われらは、われら以外の何者でもない」
『鬼火』も、骸球をかたちづくる魂も、未だ燃え続ける。大鎌と打ち合うこと、数度。明らかに数を減らしながら、尚。
互いの得物を最大限活かさんとぶつかる争いの天秤は、リーヴァルディに少しずつ傾いてゆく。
一際強く骸球を打った、その勢いのままに大鎌を引いて、構える。
「……怒りでも、憎しみでもない。この世界の為にお前を討つ」
リーヴァルディの意思に沿って、霊魂が集う。
死者を浄化し眠らせる、それを為そうと。
「……それが"私達"の意志と知れ」
宣告と同時に、骸球も炎も飲み込み浄化する軌跡が、赤い三日月のごとく閃いた。
大成功
🔵🔵🔵
ヴィクトル・サリヴァン
迷いなき心、か。
…迷ってばかりのゆるシャチだけれども、譲れない事もあるんだよね。
幽霊船は素潜りと深海適応、高速泳法で海中深くを泳いで突破。
上陸して鬼火と相対したら飛び回る愛鳥に高速詠唱で重力の魔法を行使、地面に叩き落として青炎の羽ばらまきを阻止。
無理なら水の魔法で俺の体を厚めの水で覆い炎に直に触れないよう対応。
…こんな場所、戦場。本当なら来たくないんだけどね。
だけれども戦わないと未来が過去に押し潰される。
それならば傷ついてでも進むしかないじゃあないか。
そこに迷う余地はないよね?
UC使えるようになったら光属性と竜巻を合成、破魔の力乗せ幽霊を天に送る為の竜巻を鬼火にぶつける。
※アドリブ絡み等お任せ
●
幽霊船ひしめく海面の遥か下、暗く深い海の底を、凄まじい速度で進んでゆく影があった。
それは、おおきなシャチであった。
サメやクジラすら飲み込む、海の食物連鎖の頂点たる巨体も、海底に潜んでしまえば、幽霊たちには感知出来ない。
交戦もなくごくあっさりと鬼火島へと到達し、控えめに海面から顔を出したシャチは、小さく呟いた。
「迷いなき心、か。……迷ってばかりのゆるシャチだけれども、譲れない事もあるんだよね」
水面に出てあらわになったシャチの目は、随分と優しくまろい雰囲気をしていた。
シャチのキマイラたるヴィクトル・サリヴァン(星見の術士・f06661)が鬼火島に上陸して程なく、青い羽が風に乗って地に振りまかれた。
「もう見つかっちゃったか。ええと、風向きがこっち」
咄嗟に水を纏いながら視線を巡らせる。羽の舞う向きから逆算し、目当ての方角へ進みながらも魔法を編み上げる。
そして、目的の『それ』が目に入った瞬間。ヴィクトルは、溜めていた魔法を解き放った。
目に見えぬ空気の巨人が拳を振るったような圧が、その場に満ちる。
イメージするのは、広げた手を振り下ろすような圧力。そう、ちょうど――
「こう、べちっと」
「あ、愛鳥ゼンタ! 愛鳥ゼンタァァァァァァァ!!」
空を舞っていた鳥が、むごいほどの威力で地面に叩きつけられる。
本日もっとも悲痛だったかもしれないフライング・ダッチマンの声が、その場に響き渡った。
死なない船長の死なない鳥であるところの愛鳥ゼンタは、それでも滅びてはいなかった。ぴくぴくと痙攣するような動きが、まるで生き物のようだ。
纏う炎、作る表情すべてで憤怒を表現する『鬼火』が、片手に鎖、片手にカトラスの臨戦態勢に入る。
一方、自分の成し遂げたことに特に反応も見せず、魔法を練り上げながら、ヴィクトルはぼやいた。
「……こんな場所、戦場。本当なら来たくないんだけどね」
『鬼火』の炎がぶわりと膨れ上がった。『は?』という言葉も出ないほど怒っている。
「だけれども、戦わないと、未来が過去に押し潰される」
丸い目をじっと『鬼火』に注ぐヴィクトルの魔力が光を帯びる。
「それならば傷ついてでも進むしかないじゃあないか。そこに迷う余地はないよね?」
ヴィクトルは、自称する。自分は、迷ってばかりのゆるシャチだ。
だが、嫌なものは、ちゃんと、嫌と感じるのだ。
手段や過程には迷いが付きまとう。だからこそ、『そんなのはいやだ』という最初の心には、迷いなど介在しないのだ。
膨らみ襲い来る炎が、地に落ちたままの青炎の羽を浮かせる。
それを捻じ伏せるように、ヴィクトルもまた、練り上げた魔法を解放する。
ごう、と、凄まじい竜巻が巻き起こる。
輝く光の渦巻きが、次第に大きく、空を埋めてゆく。漂う死霊たちを、次々と巻き添えにしながら、『鬼火』へと迫る。
術者であるヴィクトルすら巻き込みかねない、神聖で危険な竜巻。
それでもヴィクトルは行使する。暴れ狂う光を、制御する。未来を押し潰す手を、跳ね除ける為に。
確かに、そこに迷う余地はないのだった。
大成功
🔵🔵🔵
アルフレッド・モトロ
戯画の姉御(f09037)と参戦!
折るなんてもんじゃヌルいぜ姉御!
海を荒らす不埒な野郎は灰さえ残さず【焼却】しねぇとな!
「故郷であるこの世界を死守したい」
迷わぬ心はこれ1つ!
先制攻撃は【プロトステガ】を構え【盾受け】する
姉御の分も【かばう】で引き受けて【気合い】で耐えるぞ!
俺だってブレイズキャリバーの端くれだ
【火炎耐性】もあるし多少は保ってみせる!
…姉御が奴に近づく“隙”さえできりゃそれで良い!
鬼火が拘束され次第
炎の中を【ダッシュ】で駆け抜けて
【力を溜め】たUCを【怪力】で叩き込む!
この拳にすべてを込めて【捨て身の一撃】だ!
さあ!溟獄の土産だ!
“本物の蒼炎”の熱さを知れ!
(アドリブ歓迎です)
桜田・鳥獣戯画
風に揺れる柳の枝は折れぬというが、海を彷徨う幽霊船もそうなのだろうか。
だが我々はその枝を折らねばならん。
それが猟兵ゆえな!
アルフレッド(f03702)と並び戦う。
先制攻撃はアルフレッドの火炎耐性に頼る! すまんありがとう!! 強いぞ艦長!!
…その炎、双方よく似ている。海に生きる者ゆえか。
鬼火の骸球攻撃の隙を突き、羽交い絞めなどで捕らえ、そのまま【ラストスタンド(POW)】を使い「自ら動けなくなること」で拘束。アルフレッドにUC攻撃を促す。
この海はアルフレッドの故郷でもある。立場ゆえか郷愁も感慨も人に見せぬ彼の心に、少しでも救いがあれば良いと願う。
(アドリブ歓迎です)
●
戦場を満たしていた青き炎の海は、いまや地面のあちこちに点々と痕跡だけを残す。
カトラスに集う怨念の炎も、その勢いを衰えさせている。
フライング・ダッチマン本人を形成する炎も、ごっそりと削り落とされて。
それでも、眠りの日ではないと、立ち続ける。
あてどなくさまよい続ける、幽霊船のように。
「風に揺れる柳の枝は折れぬというが、海を彷徨う幽霊船もそうなのだろうか」
燃え続ける鬼火の炎をねめつけ、鋭い眼差しの海賊がばさりとコートを揺らす。
「だが我々はその枝を折らねばならん。それが猟兵ゆえな!」
「折るなんてもんじゃヌルいぜ姉御! 海を荒らす不埒な野郎は灰さえ残さず焼却しねぇとな!」
不可能を可能にすると豪語した海賊に、強く地を踏んだオーシャンハンターが気勢を上げる。
――赤黒きコート靡かす海賊、桜田・鳥獣戯画(デスメンタル・f09037)。
――尻尾の蒼炎を吹き上げるエイのオーシャンハンター、アルフレッド・モトロ(蒼炎のスティング・レイ・f03702)。
ふたりの接近に気づいた鬼火は、鎖を構える。
鎖の先にある骸球は、かなりの数を減らしていた。それでも。邪悪な魂たちは、未だこの世にしがみつき、口元に炎を燻らせる。
「手筈通り、行くぜ姉御!」
「おう!」
海に生きるふたりが、弾丸のように走り出す。
治りきらない傷を抱えて尚、フライング・ダッチマンは迎え撃つ。
いま来る猟兵たちも、生ける者だ。
――あれらはきっとまた、われに傷をつけるだろう。
二人の、特にアルフレッドの目に浮かぶ決意に、フライング・ダッチマンは、それでも鎖を持ち上げる。
それは生きたいという渇望ではない。
遣り残しを、足りないという声を抱く骸球を、全身に力を込めて振るう。
それは生命力ではない。生きたいという渇望ではない。……。
「来やがったな……おら、こっちだ!」
走りながら、左手袋から展開した盾を構え、飛来する骸球へとかざす。
激突のダメージは防ぎきったが、溢れる炎は舐めるように盾を包み、アルフレッドへと火の粉を飛ばす。
「すまんありがとう!! このままいけそうか!?」
「こういう時ぁ絶対いけるって言うだろ!」
「それもそうだな! いま本当に最高に強いぞ艦長!!」
手繰られる鎖、繰り返し襲来する骸球の直撃を凌ぎ、アルフレッドは凄絶に笑う。
溢れて、アルフレッドを焼く青い炎。その傷口から、まったく別な炎が吹き上がる。
盾を構えた腕の上腕、踏み出した脚部、頬、肩。傷ついたあらゆるところから。
「俺だってブレイズキャリバーの端くれだ。多少は保ってみせる!」
傷口から溢れた炎は、やはり青色。
――その炎、双方よく似ている。海に生きる者ゆえか。
両者の炎の攻防、鎖と骸球の行き交う状況を観察しながら、鳥獣戯画は内心で呟く。
口に出したならば、さてこの艦長は、そしてあの鬼火島の主は、どんな顔をするだろうか。
防戦に徹したように見える『猟兵』のひとりから吹き上がる炎に、フライング・ダッチマンもまた気づいていた。
自分達ではない炎。生命が燃やす炎。明らかに海に生きる者と判る。
――。
あの盾を壊さねばならない。
あのふたりを近づけてはならない。
「炎を絶やすな! 絶えず燃やせ! 一面を炎の海へと変えろ!!」
一分の油断も許されない。
鎖を手繰り、炎を吐かせ、多方向に幾度も繰り出す。
――このまま、燃やし尽くさねばならない!
鳥獣戯画は、何も言わない。
ただ、来るべき瞬間、必ず見つかる隙へと、目を凝らす。
アルフレッドの身体から噴き出す炎が数を増そうと、ここで自分が逸っては、すべてが無駄になる。
それは、アルフレッドも同じこと。
盾を伸ばして骸球を落とし、炎を浴びて尚別な骸球の軌跡を逸らす。
傷がどうした。自分にとっては、武器が増えるだけだ。むしろ喜ばしいほどだ。
焦りこそが禁物だ。
……姉御が奴に近づく“隙”さえできりゃそれで良い!
何十分にも何時間にも思えるような死闘の中。
その時はやってきた。
地を蹴って飛び出した鳥獣戯画が、鎖のひとつを掴んで突出。
追いすがられる前にフライング・ダッチマンへと肉薄し、ぼろぼろの海賊服を掴み上げ、捻り、背後に回って羽交い絞めにする。
「猟兵、何を」
「アルフレッド!」
彼女の腕が敵を捉えた瞬間、彼もまた動いていた。
盾での防御を止め、走り出す。それを目に、彼女は己を変質させる。
「……これは。知っているぞ、無敵なる、砦……!」
「そう。最後の砦ってやつだ」
存在そのものが、変化する。無敵の代償に、一分の指も動かすことの出来ない城塞そのものへと。
人のかたちをした不壊の束縛と化した鳥獣戯画は、睫を揺らすこともなく、炎を超えて駆け抜けて来るであろうアルフレッドを信じる。
この海はアルフレッドの故郷でもある。
己の何に替えても、故郷であるこの世界を守りたいと、彼は願っている。
それが、必須条件である、迷いなき心であることは明らかだ。その上で、更に彼女自身の願いを重ねる。
――立場ゆえか。郷愁も感慨も人に見せぬ彼の心に、少しでも救いがあれば良い。
走る足の指先にまで込めた体重は、そのまま己の力になる。
炎を突っ切れば、目指す敵はすぐそこに居る。
足から体重をかけ、握った拳に力を込めると共に、全身の血が沸き立ち、燃焼し、蒼炎が噴き上がる。
「さあ! 溟獄の土産だ! 鬼火ィ!」
『鬼火』の目が見開かれ、身体そのものである炎が、膨れ上がる。
血潮を通して来たる炎、燃やす生命を歓迎するように。全身の力を使い、死せる青炎が燃え上がる。
「“本物の蒼炎”の熱さを知れ!」
「――!」
目で追えぬほど早く、熱い、噴火の如き拳の一撃が、フライング・ダッチマンの『中心』を抉る。
燃え上がる蒼炎は止まらない。噴火のマグマか、押し寄せる濁流か。フライング・ダッチマンという炎そのものを包み、存在を燃やしてゆく。
城塞へと変じた鳥獣戯画は、フライング・ダッチマンという存在を留める楔として機能し続ける。
逃げられない。
逃げる場所も、何処にもない。
この傷は致命的で、決して治らない。
愛鳥は、何処にも見えない。
――絶望的な状況にあって、ただひとつだけ、フライング・ダッチマンは、己に出来ることをした。
「見事だ」
われらの負けだ。
その言祝ぎを終えるまで、不遜な笑みを作り続ける。
来るべきでない眠りの日をもたらした『猟兵』たちは、同じ海を生きるものであったがゆえに。
炎が消える。
最初に、鎖つきの骸球が、塵となった。
次にカトラス、船長の帽子、コートが塵と消えゆく。
鳥はもう何処にもいない。炎が消えたときから、きっと、最後の眠りを共にした。
それらを確認し、鳥獣戯画はユーベルコードを解除して、アルフレッドへと向き直る。
ひどいありさまだ。全身、火傷だらけだ。ただでさえ盾を張り続け、そのうえあの炎の中を駆け抜けたのだから。
けれども。
顔を上げたアルフレッドの表情を見て、鳥獣戯画は清々しい気持ちで、大きく笑った。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵