羅針盤戦争~箱と鏡は金銀双鋏となりて
●六の王笏島へ
「この羅針盤戦争も後半戦に入った――そう言って良い状況だと思う」
ルシル・フューラー(新宿魚苑の鮫魔王・f03676)は、集まった猟兵達にそう話を切り出した。
所在の判らなかった七大海嘯の拠点は、次々と明らかになった。
既に幾つか、攻略完了したところもある。
「特にカルロス・グリードの『王笏島』が全て発見された。これは大きい」
七大海嘯の王たる者にしてグリードオーシャンのオブリビオン・フォーミュラー。
その本拠地たる島は、8つもある。
そして当然と言うべきか――その全てを制圧せねばカルロスは倒せない。
だが、制圧すべき場所は、全ての島の位置は明らかになった。
こうなれば、後はやるべきことは単純だ。
「というわけで、最後に発見された『六の王笏島』に向かって貰うよ」
カルロスは『王笏島』ごとに、異なる形態――異なる姿と異なる能力を持つ。
まるで、幾つもの世界から落ちてきた島からなるグリードオーシャンと言う世界を体現しているかのように。
「この『六の王笏島』のカルロスは、『アリスラビリンス』の力を具現化している。迷宮災厄戦の時のオウガ・オリジンを覚えてるかい? あんな感じで顔も手も、全てを飲み込む漆黒の虚無の身体になっている」
六の王笏のカルロスの力は、虚無の身体だけではない。
「金と銀の鋏。そのどちらもメガリスだ」
より厳密に言えば、メガリスの形を変えたもの。
『死者の力を奪う玉鋼の塗箱』を変えた『金の鋏』はコピー能力。敵の業を斬りその力を己の物とする鋏。
『分身を作るヤヌスの鏡』を変えた『銀の鋏』は増殖能力。カルロス自身を斬る事で自身を増やす鋏。
「言うまでもないと思うけど、強いよ。オブリビオン・フォーミュラーだ。『絶対に先手を取られてしまう』クラスの難敵だ」
どう足掻いても、後手に回る事だけは避けられない相手。
だがどんな能力を持っているか判っていれば、活路は見出せる筈だ。
それに――やらなければならない。
カルロスだけは倒さなければならない。
「この世界を『侵略形態』とやらにさせるわけにはいかないからね」
――この世界を再び『侵略形態』へと戻す。
予兆の中でカルロスが言ったそれの結果がどういう形になるのかは判らないが、猟兵達にとっても、この世界の島々にとっても、良い事ではないだろうから。
泰月
泰月(たいげつ)です。
目を通して頂き、ありがとうございます。
そう言えば、オブリビオン・フォーミュラーの戦闘シナリオを出すのは、これが初めての様な気がします。
このシナリオは、「戦争シナリオ」です。
1フラグメントで完結し、『羅針盤戦争』の戦況に影響を及ぼす、特殊なシナリオとなります。
六の王笏島。
アリスラビリンスの力を持つカルロス・グリードとの戦いです。
戦場は六の王笏島の一角。
基本地上戦です。カルロスはそのつもりです。
今回のプレイングボーナスは、
『敵の先制攻撃ユーベルコードに対処する』です。
OPに記載した通り、カルロスは『必ず先制攻撃』してきます。
先制される、という部分はどうしようもないが故のボーナスです。
プレイング受付期間は、
2/19(金)8:30~2/20(土)23:59まで、とさせて頂きます。
公開が19日の8:30以降だったら、公開時から受付です。
今回も再送はせず、失効までで書ける分だけの採用の予定です。
なお、リプレイ完結すると、敵戦力削れる他、七大海嘯支配下の別な島をひとつ解放することになります。
ではでは、よろしければご参加下さい。
第1章 ボス戦
『七大海嘯『六の王笏』カルロス・グリード』
|
POW : メガリス『銀の鋏』
自身の【体をメガリス『銀の鋏』で切り裂くこと】を代償に、【新たな自分】を戦わせる。それは代償に比例した戦闘力を持ち、【全てを飲み込む『虚無と化した漆黒の体』】で戦う。
SPD : メガリス『金の鋏』
【メガリス『金の鋏』の刃】で受け止めたユーベルコードをコピーし、レベル秒後まで、メガリス『金の鋏』の刃から何度でも発動できる。
WIZ : 虚無なる起源
自身が【地面や床に足を付けて】いる間、レベルm半径内の対象全てに【全てを飲み込む『虚無と化した漆黒の体』】によるダメージか【飲み込んだ物体を分解吸収し力と為すこと】による治癒を与え続ける。
イラスト:hoi
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠山田・二十五郎」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
リーヴァルディ・カーライル
…その銀の鋏の刃ならばお前を切り裂けるのね
ならば、その虚無は決して無敵でも最強でも無いということ
…それにもう対処法ならば思い付いている
その身に刻んでやるわ。吸血鬼狩りの業を…
第六感を頼りに敵の殺気や闘争心を捉えUC発動を見切り、
残像が生じる早業で攻撃範囲から離脱して受け流しUC発動
…全てを呑み込むのは脅威だけど、無駄よ
当たらなければ意味が無い事に変わりはないもの
…さて。同じ属性の力をぶつければ、どうなるかしら?
魔刃に虚属性の魔力を溜め空中戦機動の早業で敵を乱れ撃ち武器改造、
周囲の空間を切断して敵を虚無空間に封じる虚属性攻撃を行う
…刃に充ちよ、虚空の理。我に背く諸悪を放逐する力を宿せ
リュカ・エンキアンサス
虚無、か。厭だな
俺は、俺がなくなってしまうことが一番怖い
星鯨を呼び出す
同時に向こうも手数が増えるわけなんだけれども、そこは仕方がない。慌てず騒がず、星鯨を飛ばして相手の弱点や死角を探り、なるべく距離をとって性格に銃弾を撃ち込んでいこう
分身体の虚無により攻撃が通じないようであれば、本体の撃破に切り替えるけれども、そうでないならばなるべく分身体の掃除を優先
時間はかけても安全に、周囲に他の猟兵がいるなら援護射撃を行い制圧していく
…飲み込まれたものって、なくなってしまうのかな
それはなんであれ、少し…およろしくない
慎重な自分の戦い方は変えられないけど
色んなものがなくなってしまう前に、手を打ちたいところ
●銀の鋏が切る物
『来たか……猟兵共』
金と銀。
二振りの鋏を抱えた『カルロス・グリード』が、猟兵達を出迎える。
『終の王笏島まで到達したのだ。此処に来るのも時間の問題だろうとは思っていた』
淡々と告げる言葉は、どこから発しているのだろうか。
この六の王笏島にいるカルロスの顔は、漆黒だった。
何もない。漆黒ののっぺらぼう。
『その進軍速度、見事と言っておこう。故に、我らも相応に出迎える』
そう言って、カルロスは銀の鋏を手に取って――己の体に当てた。
ジョキン、ジョキン、と刃のこすれる音が響く。
左右の耳を削ぎ落とし。
両肩口を削ぎ落とし。
脇腹も左右を抉り削いでいく。
そうして斬り落とされた欠片は、落ちて散らばり――蠢いていた。
「……その銀の鋏の刃ならば、お前を切り裂けるのね」
カルロス・グリードのセルフ解体ショーを見やり、リーヴァルディ・カーライル(ダンピールの黒騎士・f01841)が確かめるように呟いた。
リーヴァルディが見ている前で、カルロスはわき腹よりも少し上、人間なら胃袋があるであろう辺りに鋏を入れて切り抜いていく。
カルロスが自ら身体に刃を入れた、その切り口は切る前と同じ黒が広がっていた。
欠片が斬り落とされたそのままになっている。そこから、血や、それに類する何かが流れ落ちる事もない。ただの黒が広がっている。
それが示しているのは――少なくとも、斬った傍から再生する事はないという事。
「ならば、その虚無は決して無敵でも最強でも無いということ」
『如何にも、その通りだ』
リーヴァルディの言葉を、カルロスは顔を抉りながら首肯する。
『汝らの刃でも』
『当たれば我らを斬り得るだろう』
『そしてこんな芸当が出来るのは』
『あのメガリスだけである』
幾つものカルロスの声が続きの答えをリーヴァルディに告げる。
最初のカルロスから削がれて斬られた身体の欠片は、既にその一つ一つが『新たなカルロス・グリード』となっていた。
『我が妻の様な増殖が出来れば、こんなものに頼る事もないのだがな』
『尤も、我が妻はあの身体を疎ましく思っているのだが』
メロディアの事をどう思っているのか。
それを訊ねる間もなく、増えたカルロス達が猟兵達に襲い掛からんと動き出す。
しかし、その何れの手にも鋏はなかった。
「徒手なんだ?」
ただ開いた掌を向けて迫るカルロス達に、リュカ・エンキアンサス(蒼炎の・f02586)が首を傾げる。
その直後、リュカの首元にあるマフラー『更夜』が風もないのにたなびいた。
カルロス達の方に。
「そういう事」
リーヴァルディの長い銀髪も、カルロス達の方に流れている。
「これは上げられないな」
リーヴァルディは髪を抑え、リュカもマフラーをぐっと引きながら後ろに下がる。
『新たな我らも、この我と同じ虚無の身体だ。飲み込まれぬよう気を付けたまえ』
そんな2人に、最初のカルロスが淡々と告げた。
●星鯨と虚無
リュカの傍らに、明かりが灯る。
「援護、頼んだ」
リュカがスイッチを入れた探照灯が、ひとりでにその手を離れて宙に浮かぶ。漂う光が空中に形を描く。
それが流線型の身体に翼の様な鰭を持つ鯨の形となった瞬間、構成する線がパァッと輝きを放った。
平面的に光で描かれた小さな鯨が、平面的なまま、93の群れとなって空を泳ぎ出す。
増えたカルロス達の、間を縫って泳いでいく。
「……」
その光を目で追いながら、リュカはアサルトライフル『灯り木』を無造作に構え、いきなり引き金を引いた。
『っ!?』
タンッと音がして、カルロスの1体の足が止まった。
星鯨の聲。
光で描いた鯨の群れは、戦闘能力を持たない。
その代わり、高い情報収集能力と、それをリュカに伝える力を持つ。彼らの声に耳を傾ければ、ろくに照準をつけずとも当てるくらいは出来る。
『攻撃的なものを感じなかったが……無視は出来ないか』
星鯨の特性に気づいたか、1体のカルロスが飛び交う群れに手を伸ばした。
「あ――」
リュカが止める間もなく、カルロスの開いた掌で黒が渦巻いて、星鯨の一体が吸い込まれて――消える。
「……」
92体になった星鯨に、リュカはしばし、押し黙った。
聞こえていた声は――いくら待っても聞こえない。
「……飲み込まれたものって、なくなってしまったのかな?」
すぐに口を開いて、リュカはカルロスに訊ねる。
『さて。どうなるのだろうな。我にとってはどうでも良い事だ』
とぼけて答えたのでないのは、カルロスの声の調子で判った。
『汝も飲み込まれてみれば、その答えは自ずとわかるであろう』
「それは、厭だな」
別のカルロスから続く答えに、リュカが嫌厭を口に出した。
「なくなってしまうのは、それはなんであれ、少し……およろしくない」
告げるその声は、リュカには珍しく怒りが滲んでいる。
星鯨は、また描けば召喚できるだろう。だからと言って、目の前で吸い込まれてそのまま消えてしまったなんて、リュカでなくとも、良い気などする筈がない。
「俺は、俺がなくなってしまうことが一番怖い。だから、色んなものがなくなってしまう前に、手を打たせて貰う」
消えるのも、消させるのも御免だと、リュカは再び銃を構えた。
●虚無と虚空
(「やりにくいわね」)
増えたカルロスの攻撃をやり過ごしながら、リーヴァルディが胸中で呟く。
戦ってみてわかった。
このカルロス達は、殺気や闘争心と言ったものが薄い。
まるで心までも、虚無にしてしまったかのように。
それでも――虚無ではない。カルロス達は漆黒の手を伸ばして来る。リーヴァルディを虚無に飲み込もうとしてくる。
「……全てを呑み込むのは脅威だけど、無駄よ」
そこにある攻撃の意思を第六感で感じ取り、リーヴァルディはカルロス達の攻撃を避け続けていた。
「当たらなければ意味が無い事に、変わりはないもの」
『道理だ』
『だがその回避』
『いつまで続くかな?』
「……」
カルロスの声に、リーヴァルディは無言を返す。
(「今は良い気になってなさい。すぐにその身に刻んでやるわ。吸血鬼狩りの業を」)
リーヴァルディは、無策で避け続けているわけではない。
転じるを機を、待っている。
「やりにくいな」
もう引き金を引いた数を数えるのも面倒になってきて、リュカは思わず呟いていた。
銀の鋏がそうと言うのではなく、カルロスの身体は血が流れないのだろう。
幾ら撃っても、カルロス達から血は流れない。
ただでさえ負傷が判りにくいのに、立ち位置を頻繁に入れ替えて来る。
星鯨の声が無ければ、リュカは狙いを集める事も難しかっただろう。
当たった銃弾がどうなっているのか。その体内に残っているのか、吸い込まれて消えているのかはわからない。
とは言え、銃が効かないという事でもなさそうだ。
だが銃弾を当てた一瞬、そのカルロスの動きが止まるのだから。
攻める機会を伺うリーヴァルディと、攻めあぐねるリュカ。
一度は距離の離れた2人が、カルロス達によって背中合わせに追い込まれた。
「なにか打つ手はある?」
「あるわ。こうバラバラに動かれると、やりにくくて」
どちらも振り向かず、リュカの問いにリーヴァルディが返す。
「なら、俺が少し動きを止める」
告げて、リュカはヒョウと口笛を鳴らした。
その音を合図に、70体ほど残っている星鯨が散開する。
星鯨たちからの声――届く情報が一気に増えた。リュカはその声だけを頼りに、狙いは付けずに『灯り木』を連射する。
撃たれたカルロス達が、その衝撃で僅かに止まった。
「……この刀身に力を与えよ」
そこに、リーヴァルディの声が静かに響く。
カルロス達の頭上に、100を越える魔力の刃が一瞬で造られていた。
吸血鬼狩りの業――魔刃の型。
『これほどの数を一気に……』
魔法増幅能力を持つ魔力結晶刃を召喚するリーヴァルディの業に、カルロスも驚く。
「数だけじゃないわよ。同じ属性の力をぶつければ、どうなるかしら?」
魔力結晶刃だけでは、虚無の身体に吸い込まれるかもしれない。
だからリーヴァルディは、さらにもう一手を重ねる。
「……刃に充ちよ、虚空の理。我に背く諸悪を放逐する力を宿せ」
魔力結晶刃に、虚属性の魔力を纏わせると言う一手を。
リーヴァルディが纏わせた属性、虚空の理は、空間を斬る力。
どことも知れぬ虚空へ続く空間への穴を斬り開く力。
虚空を斬る刃と、全てを吸い込む虚無の身体。
似て非なる二つがぶつかり合い――音も光もなく、互いに跡形もなく消滅した。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
高柳・零
草野さん(f01504)と
POW
「先制攻撃は自分が何とかしますので、カルロスへの攻撃はお願いします」
先ずは草野さんへの先制攻撃をオーラを全身に全力展開し、盾と魔導書を前に出して受け、更に無敵城砦を使用して2人分の攻撃を受け止めます。
当然、無事では済みませんが、草野さんさえ立っていればこちらのものです!
「草野さん、後は頼みます。例え相手が虚無でも、ヒーローの力なら負けないはずです!」
もし、カルロスの攻撃を受けてもまだ動けるなら、激痛耐性で耐えながら魔導書から衝撃波を2回攻撃で撃ち、草野さんの手助けをします。
「まだ、このくらいは出来ますよ」
アドリブ歓迎です。
草野・千秋
零さん(f03921)と
POW
零さん、先制攻撃を受け持って下さるのですか
さすがパラディン、聖騎士です
その心ヒーローと等しく強い
戦闘開始と同時にUC【Heroes anger awakening】を発動
誇り高き聖騎士の零さんが護ることにより、僕は強くなる!
仲間が傷つくのは心が痛いしですが
零さんの体の痛みに比べたらまったく
仲間が傷つくとか僕だって怒りますよ、そりゃあもう
漆黒の体は断罪の剣、光り輝くヒーローソードで攻撃
僕の勇気と心に反応して虚無も斬れるはずッ!
これが世界を越えて今を生きる者の力だ、思い知れ
サイバーアイの視力で目標を見定め
増加させた攻撃回数で怪力と2回攻撃で叩き斬る
●聖騎士とヒーローの矜持
「来ましたね」
「ええ、来ました」
高柳・零(テレビウムのパラディン・f03921)と草野・千秋(断罪戦士ダムナーティオー・f01504)の元にも、増えたカルロス達が迫っていた。
「では、手筈通りに。カルロスへの攻撃はお願いします」
数体のカルロスの前に、零が1人で飛び出す。
天霧の盾と秋雲の魔道書――零が構えた2つの盾から、カルロス達を阻むようにオーラの光が広がった。
零がカルロスの攻撃を防ぐことに専念し、凌ぎ切った所で千秋が攻撃に転じる。
先手を取れないならと、2人が立てた作戦。
『我らを阻むか』
『ならばその光、虚無にて消すまで』
零の光に阻まれたカルロス達は、その光に漆黒の掌を押し当てた。
直後、吸い込まれるように光が消えていく。
「うわ、オーラまで吸い込めるんですか!」
オーラ防御に自信があっただけに、零の頭の画面に驚きの顔が浮かび上がる。
だが――零とて、オーラだけでカルロス達を阻めるとは思っていなかった。
「はぁっ!」
零の頭の画面に浮かぶ表情が変わった瞬間、零の身体が光に包まれ、広げる光の質が変わった。
『む?』
カルロス達が、訝しむ声を上げる。
その掌で黒が渦巻くが――光が吸い込めなくなっていた。
『何かしたようだな』
『ならば、発生源を狙うまで』
カルロスの一体が、光から出ている盾の部分に掌を当て――。
『此処でもか!』
何も虚無に吸い込めず、カルロスが驚きの声を上げる。
――無敵城塞。
あらゆる攻撃に対しほぼ無敵になる業。
だがこの業はたった一つ、しかし大きな問題点をはらんでいた。
『く……』
『やるな……』
『どうしたものか……』
無敵状態の零を攻めあぐね、カルロス達が後ずさる。
1m、2mと、彼我の距離が開いていく。
『む?』
その内に、カルロスが気づいた。
『おい、もしや――』
『ああ――』
カルロス達は全て、同じカルロス・グリードから増えたカルロス。故にその考えはあっという間に、この場にいる全カルロスに伝わる。
そして――カルロス達は、前ではなく左右に飛び出した。
零が展開する光の外を抜けて、回り込んで後ろの千秋へ向かう。
『やはりか』
『あの猟兵、動けないようだな』
開くばかりだった零との距離で、カルロス達は零が動けない事に気づいたのだ。
「しまった!」
零は慌てて無敵城塞を解除し、振り向いて駆け出した。
『かかったな』
それこそが、カルロス達の狙い。
無敵城塞を解除した零に、反転したカルロス達の黒い腕が伸びる。虚無が渦巻く漆黒の掌が当てられる。
「あ――」
零の中から何かが、吸い取られる。
体力とか気力とかそういった、無形のものが。
「さっせるかぁぁぁぁ!」
そこに千秋の怒声が響いて、光が閃いた。
『ぬぉっ!』
『ちいっ』
光を纏った斬撃が、カルロス達を吹っ飛ばす。
「あー」
カルロス達の手を離れた零が、ぽてりと地に落ちた。
「零さん、大丈夫ですか!」
「しばらくは、ダメそうです。指一本、動かせる気がしないです」
俯せに倒れたまま、零が力ない声で告げる。
だが――これでいいのだ。
元より、千秋の分までカルロスの先制を受けて、無事で済むなど零も思っていない。千秋を無傷で残せれば、それでいいのだ。
「草野さん、後は頼みます。相手が虚無でも、ヒーローの力なら負けないはずです!」
「任せてください」
零のエールに、千秋が頷く。
「パラディン、聖騎士の心意気、見せて貰いました」
その誇り高き振る舞いを、ヒーローと等しく強い心を。
それに応える番だ。
「一つ言っておきますけどね。仲間が傷つくとか僕だって怒りますよ、そりゃあもう」
声に込める怒気を強めて、千秋がカルロス達に告げる。
声だけではない。
怒りは、千秋の全身を覆う闘気となって現われていた。
――Heroes anger awakening。
怒りを力と変える業。
守られたことで。
その背中をただ見ていたことで。
千秋の中に、溜まりに溜まった怒りの念が、力に変わる。
「この光は、勇気と心に反応する断罪の光だ」
全身を覆う闘気を制御し、千秋は両手で構えた剣に収束させた。断罪の剣が放つ蒼銀の輝きが、煌々と辺りを照らす。
『そんな光など、虚無で吸い込んで――』
「虚無も斬ってみせるッ!」
光を吸い込もうとカルロスの一体が伸ばす腕に、千秋が断罪の剣を振り上げる。
光が迸り――漆黒の腕が宙に舞った。
「これが世界を越えて今を生きる者の力だ、思い知れ!」
千秋が振り上げた刃を返して、振り下ろす。
断罪の剣から放たれた光の奔流が、目の前のカルロスを両断する。後ろの2体も光の中に飲み込まれ――声もなく消えていった。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
鵜飼・章
受け止めてくれると言ってしまったね
ならきみは僕に絶対に勝てない
コピーさせるUCは【確率空間上の可測関数X】
瞬間接着剤で鋏に貼らせてもらうよ
まあ攻撃してごらんよ
読心術で動きを読んだり
早業や逃げ足で避けるまでもなく
恐らく何故か全く当たらないだろう
【精神攻撃/恐怖を与える/挑発】で
敵を焦らせUCを乱発させるのが目的だから
当たらないという自信を持って
【落ち着いて】その場から動かない
僕のUCを甘んじてコピーした時点で
きみの負けは確定している
【言いくるめ】で更に圧をかけながら接近
何をされたのか知りたい?
教えない
運が悪かったね
敵がどうにかしてメダルを剥がす前に
【早業/暗殺】で背後を取り
鋏で頸動脈を切って退散
ガーネット・グレイローズ
ふふ、今度はオウガオリジンの物まねか……
芸達者じゃないか、ええ?カルロス・グリードよ。
武器はアカツキと躯丸の二刀流。
二本の剣で《武器受け》しつつ、《二回攻撃》を繰り出す。
【妖剣解放】を使ってからが本番だ。
《戦闘知識》《瞬間思考力》で技の流れを組み立て、
最適解を導き出す…だがそれも通用するか不確定だ。
加速したカルロスの鋏が胸に突き刺さる瞬間
《高速詠唱》でヴァンパイアバットの群れを召喚して
噛みつきによる《吸血》攻撃を仕掛ける。
だが、それはカルロスの視界を遮るための《フェイント》。
とっさに相手の死角に回り込み、ゼロ距離から
ブラッドエーテルの波動を体内にダイレクトに叩き込む、
《鎧無視攻撃》だ!
シリン・カービン
狩りで肝要なのは、獲物の長所を制すること。
つまり、『金の鋏』の刃にUCを当てなければよい。
初手は全速後退。
十分距離を取ったら火の精霊弾で狙撃開始。
カルロスは鋏で弾丸を弾いて防ぐでしょうが、
その瞬間に火の精霊弾が破裂。
虚を突いて顔などの急所を狙います.
これで倒せる相手ではないでしょう。
『狙撃を防がせる→急所狙い』を十分意識させたら、
いよいよ本命。
火の精霊弾で防御を誘い、鋏を振り切って動きの止まった瞬間に
【シャドウ・ステップ】を発動。
時の精霊の加護で瞬時に照準、鋏を握る指を撃ちます。
続けて速射。
金の鋏を構えられない間に火の精霊弾をありったけ撃ち込み、
体内で爆ぜさせます。
「あなたは私の獲物」
陽向・理玖
物騒な鋏持ってやがる…
刃で受け止めるって事は逆に刃に当てなきゃ大丈夫って事だろ
仮に受け止められた所で俺のUC何度も発動しても意味ねぇし
それ以上の攻撃すりゃいいだけだ
龍珠弾いて握り締めドライバーにセット
変身ッ!
衝撃波まき散らし残像纏いダッシュで間合い詰めグラップル
拳で殴る
と見せかけフェイントで即しゃがみ足払いでなぎ払いしUC
ヒット&アウェイ
攻撃上下に振り
鋏の軌道や動き予想し見切りつつ
下段や上段狙い
限界突破でスピード上げ緩急つけ攻め
戦闘知識も用い
こちらの動きは見切られぬ様にし攻撃
まぁ物騒とはいえ刃物は刃物だ
慣れれば動き位読める
暗殺用い背後から接敵
後ろからなら受け止めらんねぇだろ
貰った
拳の乱れ撃ち
●金の鋏が切るもの
『なんと……』
増やしたカルロス達の殆どを駆逐され、最初のカルロスが驚きの声を上げる。
だが、彼に驚いている時間はない。
黒いコートを翻し、その前に猟兵が飛び込んでいた。
「ふふ、今度はオウガオリジンの物まねか……芸達者じゃないか、ええ? カルロス・グリードよ」
朱と白――色の違う二振りの刃を構えたガーネット・グレイローズ(灰色の薔薇の血族・f01964)が。
『ふむ。その口ぶり、他の我にも会ったか』
「まあ、な!」
アカツキと躯丸。ガーネットが二刀を振るい――キンッと甲高い金属音が重なり響く。『む?』
二刀を金の鋏で受け止めたカルロスが、直後、何かを訝しむような声を上げた。
人の顔があれば、眉でもしかめていたのだろうか。
そんなカルロスの前――ガーネットの背中の向こうで、強い輝きが生まれる。
「変身ッ!」
虹色の光が柱と立ち昇る中から、陽向・理玖(夏疾風・f22773)が飛び出した。
光はドラゴンドライバーに龍珠を込めた証。
「物騒な鋏持ってやがるな!」
全身装甲姿の理玖が、吠えて固めた拳を突き込む。
『む――汝もか』
ガキンッと言う音の後、理玖の拳をやはり金の鋏で受けたカルロスが、またしても訝しむような声を上げる。
そこに――何処からか銃声が響いた。
「ガーネット達のお陰で、余裕で距離を取れました」
シリン・カービン(緑の狩り人・f04146)は、2人とは逆の方向に動いていた。
カルロスから距離を取った形だ。
その距離は、シリンの精霊猟銃の標準射程のぎりぎり内側。
そこでシリンは弾を込め、狙いを定める。
まず放つは、火の精霊弾。
『狙撃か』
何かに気づいて、カルロスが無造作に金の鋏を振るう。
瞬間、斬られた精霊弾から炎が弾けた。
『これもか――成程な』
抉った顔に炎を浴びながら、カルロスが得心が行ったような声を上げる。
『汝ら、我がメガリスの力を知っているのだな』
カルロスは、そう確信していた。
『ユーベルコードを使わなければ、業をコピーされることもないと思ったか?』
ガーネットの剣も、理玖の拳も、シリンの弾丸も。
何れもユーベルコードではない、彼ら自身の得物と技量による攻撃だ。
カルロスの金の鋏に、ユーベルコードを当てなければいい。
ただの攻撃ならば、カルロスは鋏で受けてもコピーは出来ない。
彼らが思った通りだ。
だが――。
『この鋏、業しか切れぬわけではない』
カルロスが、金の鋏を横薙ぎに振るう。
理玖のマスクに浅い傷が刻まれ、ガーネットの前髪が切られて舞った。
『使う気がないならば、ユーベルコードを使いたくしてやろう。その上で、全てを受け止め、斬ってくれる。このメガリス『金の鋏』でな』
カルロスが、金の鋏を振り上げる。
「言ったね?」
そこに、飄々と近づいてきた鵜飼・章(シュレディンガーの鵺・f03255)が確かめるように声をかけた。
「言ってしまったね。受け止めてくれると」
『だったら――どうだと言うのだ?』
章の言葉を訝しむカルロス。
「ならきみは――僕に絶対に勝てない。つまり、彼らにも勝てない」
薄い笑みを顔に張り付けて、章は告げる。
驕るでも虚勢でもなく。
ただ事実を告げる様に。
『大言を吐いたな。ならば汝の業から斬って奪ってやろう』
章に向き直るカルロス。
「行かせるか!」
その前に回り込んだ理玖が、回転の勢いそのままに拳を突き出す。
『またしても唯の拳……腕を片方斬り落としでもすれば、業を使う気になるか』
迫る拳を、カルロスは金の鋏を開いて待ち構える。
「うおっと!」
理玖は驚いたような声をあげて、慌てた様に拳を引いた。咄嗟に勢いを殺しきれなかったか、たたらを踏んでよろける。
カルロスが追撃に動く前に、紅が横から割り込んだ。
「っ!」
短い呼気を吐いて、ガーネットが二刀を振るう。
『だからただの剣など――』
その瞬間、理玖が沈んだ。
よろけてみせたのは、見せかけだ。
そうして身を低くしてから、回転からの足払い。
明鏡止水に繋がる、一撃。
カルロスがガーネットの二刀を弾くが、理玖の蹴りを防ぐのは間に合わない――人間の動きなら、間に合わない筈だった。
『人間を相手にしているつもりか?』
しかしカルロスは、自分の足を貫き抉る形になるのも構わずに、強引に金の鋏を差し込んで理玖の蹴りを受け止めてみせた。
『その業、貰ったぞ――』
「妖剣解放」
カルロスが声を上げた直後、ガーネットの持つアカツキの刃が朱く輝いた。
妖気を纏ったガーネットが、間合いの外で刃を振るう。
『それも貰うぞ』
迫る斬撃の衝撃波を、カルロスは脚を裂くのも構わず鋏を引き抜いて斬り散らした。
血も流れていない虚無の身体だからこそ、出来る芸当だ。
『さて、汝らの業。試させてもら――っ』
金の鋏を構えるカルロスが、何かに気づいて向きを変える。
『また、唯の狙撃か』
横薙ぎに振るった鋏から放たれた衝撃波は、シリンが撃った弾丸を散らし、そのまま真っすぐ飛んで行く。
「くっ!」
咄嗟に身を屈めたシリンの上を、衝撃波が過ぎていった。
『これは使えそうだな』
「――生きるべきか。死ぬべきか」
奪った業の効果を確かめたカルロスの耳に、届く声。
いつの間にやら、章がすぐ傍まで迫っていた。
黒いコートのポケットに入れていた両手をゆっくりと引き抜く。
『それも、我の物にしてくれる』
両手に何かを握った章が、何かユーベルコードを使おうとしていると察し、カルロスは鋏を倒して構えた。
盾の様に鋏を構えるカルロスの前で、章は両手を近づけ何かをすると――三本の指で挟んだ何かを、構わず鋏に当てる。
妖怪メダルが、金の鋏に貼り付けられた。
『……メダル?』
攻撃ですらない章の謎の行動を、カルロスは大いに訝しむ。
「まあ攻撃してごらんよ」
そこに章は余裕の笑みを張り付けて、告げた。
『その余裕、いつまで続くかな』
カルロスが、金の鋏を章に向ける。
その切っ先から、貼り付けられたものと同じようなメダルが放たれた。
●不運を呼ぶ賭博王
コツン。
金の鋏から飛び出したメダルが、木に当たって乾いた音を空しく響かせる。
『む?』
訝しむカルロスがメダルをどんどん放つが、その度に、空しい音が鳴り続けた。
『さては態と欠陥のある業をコピーさせたか。ならば先ほど奪った方を使うまで』
業を変えれば良い。
そう思ったカルロスは、鋏に妖気を纏わせ振り下ろす。
斬撃の衝撃波が放たれ――。
「僕のUCを甘んじてコピーした時点で、きみの負けは確定している」
衝撃波は、告げる章のコートの裾を掠めただけで、後方へ飛んで行った。
『な、に……』
流石にカルロスも、驚きに固まる。
『そうか、これか。貼り付けられたこのメダル』
カルロスも気づいた通り、そのメダルがカルロスの不調の原因だ。
≪確率空間上の可測関数X≫――ゼロサムゲーム。
『闇の賭博王ブラックレイヴン』の妖怪メダルを貼った対象に、あらゆるギャンブルに負ける不運を与える章の運天の業。
戦いがギャンブルと同じであるかと言えば、否であろう。
だが、戦いに運の要素が全く介在する余地がないとも言えない。
運も実力の内――という言葉もある。
尤も、章も運だけに頼ってはいない。小細工はしていた。
『なんだこれは……剥がれない』
カルロスが剥がそうとしても、メダルはびくともしない。
『一体、我は何をされた』
「教えてあげないよ。運が悪かったね」
困惑するカルロスに、当の章がしれっと告げる。
『さては、これは我の知らないメガリスか』
『メガリス? ただの瞬間接着剤さ』
驚くカルロスに、章がしゃあしゃあと告げる。
なんてもので貼り付けやがった。
『ならば、この虚無の身体で吸い込んで――』
メダルをはがそうと、カルロスは金の鋏を己の身体に差し込む。
カルロスは気づいていなかった。
メダルに気を取られ過ぎていたと。
「余所見してんじゃ――ねぇ!」
その隙を逃さずに飛び込んで来た理玖の拳を、まともに食らうまで。
●明鏡止水の境地の先
『ぐ――しまった。我としたことが』
(「よし! すぐに離れる!」)
たたらを踏んでよろけるカルロスだが、理玖はその前からすぐに離れる。
拳を入れた瞬間、その手応えで理玖は察していた。それが虚無の身体の特性なのかまでは判らないが、このカルロスに打撃の衝撃は残りにくいと。
隙を逃さず、特性を見抜く。
それこそが、先の足払いから続く業――明鏡止水。
その効果は、攻撃を当てた敵の『動きの癖やパターン、隙』を覚えるというもの。それ自体が攻撃ではなく、攻撃を当てた後に効果を得る類のものだ。
とは言え、コピーされた今、カルロスも同じ能力を得ている筈。
あの金の鋏に当たれば、カルロスも同じように理玖の動きを覚えて来るだろう。
ならば、当てさせない。覚えさせない。
(「動きを止めるな! 動いて動いて、動き続けろ!」)
突いた拳を軸に回り、横から肘を入れる。膝を沈めて低い蹴り――と見せかけ、逆立ちの要領で手をついて高い蹴りを放つ。
速度の緩急、上下の急転。激しい動きに、理玖の心臓の鼓動が早くなる。
「ヒュゥ……ヒュゥ……」
心臓が打つ早鐘も、呼吸の音が喘ぐようなものに変わったのも感じながら、理玖は攻める手を緩めなかった。限界を越えて動き続ける。
『汝、呼吸が掠れているぞ』
そこまでいけば、攻撃を当てずともカルロスも気づいた。
妖気を纏った金の鋏を振り上げる。
(「ヤベッ……うぉっ!」)
限界を超えた反動か。
咄嗟に離れようとした理玖が、脚を滑らせ後ろ向きに転倒する。
『逃す――うぉっ!?』
追って飛び出していたカルロスは、思わぬ転倒で伸びた理玖の足に、両足をスパーンッと払われてすっ飛んで行く。
『ごふべっ』
それも不運の結果だろうか。
カルロスが、顔から地面に落ちたのは。
●それぞれの速さ
『くっ、どうにも調子が……』
「出ないようだな!」
すぐに立ち上がったカルロスの前に、今度はガーネットが飛び込んだ。
妖気を放つアカツキと、その妖気を纏った躯丸。
『我の調子を狂わせた程度で、良い気になるな』
ガーネットが振るう二振りの刃を、カルロスの金の鋏が悉く受け止めた。
互いに妖剣解放を使っている状態。剣速はどちらも互角。
(「考えろ――奴の動きの先を読め!」)
だからガーネットは、思考を巡らせる。
自分の動きに対して、カルロスがどう動くか。どう動けば、同じ高速移動能力を得たカルロスの、上をいけるか。
「ふっ!」
『うぬっ』
二桁に昇る打ち合いの末、先に斬撃の衝撃を浴びせたのは、ガーネットだった。
たたらを踏んでよろけたカルロスの後ろに回り込んで、ガーネットはさらに一太刀振るい衝撃波を放つ。
『小癪な!』
カルロスが振り向きざまに振るった鋏が、空しく空を切る。
同じ能力でも、使い手が変われば違うのは当然だ。
高速で動き回るような戦い方と言うのは、この六の王笏のカルロスのそもそものスタイルとは離れていた。虚無の身体の力を最大限に活かすには、地に足をつけ、自分を増やして戦うのが本来のスタイルだ。
黄金の鋏でコピーしたとて、それが向いている能力である保証などない。
『ちっ――何処』
ガーネットを見失ったカルロスの顔面に、炎が広がる。
シリンが撃ち込んだ精霊弾の炎が。
「追いつけますか、私の影に」
炎が漆黒の頭部に吸い込まれる中、響くシリンの声。
されどその姿は、見えない。正確には、見えたと思ったら違う所に現れる。
シャドウ・ステップ。
時の精霊の加護により加速する業。
『なんという速さ。それも奪ってくれる』
だがそれは完全にシリン自身を強化する類の業だ。カルロスに対して、直接的に何かをするものではない。
故にカルロスがこの業をコピーするには、シリンに金の鋏を当てるしかない。
だが――。
「無理だな。ああなったシリンは、私よりも速いぞ」
その言葉通り、ガーネットの業をコピーして得た高速移動力よりも、今のシリンの方が速い。
ターンッ!
聞こえた銃声に、カルロスが咄嗟に身構える。
二度の顔面の狙撃から、顔を守る形に。
だがシリンが撃ったのは、金の鋏を握るその手元。
シリンが時の精霊の加護で得た速さは、駆けたり跳んだりする速さだけではない。精霊猟銃の照準を合わせる速さも加速していた。
結果――撃たれたカルロスの左手から、金の指輪が嵌った黒い指が焼け落ちた。
●虚無でも吸い込めないもの
『おのれ。我が指を、良くも』
取り落としかけた金の鋏を、カルロスは片手で何とか持ち直す。
そこに響く羽ばたきの音。
ガーネットが召喚したヴァンパイアバットの群れが、カルロスを取り囲む。
『この程度――振り払うまでもない』
しかしヴァンパイアバット達は、その牙を立てる前に、カルロスの虚無の身体の力によってその中に吸い込まれてしまう。
「ああ、そうだろうな」
ガーネットは、それで良かった。
ただ数秒、カルロスから周りを隠せればそれで。
「後ろからなら受け止めらんねぇだろ!」
呼吸を整えた理玖が、その隙に背後に回り込んでいた。
『甘いな。そう来ると思っていた』
――明鏡止水の読み。
判っていたと、カルロスは金の鋏を己に突き立てた。
「こっちだって、判ってんだよっ!」
――理玖も、明鏡止水。
カルロスが己の身体を厭わないのは、一度見ていた。
だから理玖は、その漆黒の身体から刃が突き出ても驚くことなく、その鋭さにひるむこともなく、拳を叩き込んだ。
数秒の間に、何度も何度も――連打を叩き込んだ。
刃で拳が切れるのも構わずに。
『ぐおっ!?』
その衝撃は、鋏を通してカルロスの中で暴れる。
カルロスの両手の指が健在であれば、そんな事は起こらなかっただろう。
衝撃で鋏が押し戻される勢いに負けて、カルロスの手から金の鋏がすっぽ抜けるなどと言う事は。
「言っただろう。きみの負けは確定していると」
忍び寄った章が、カルロスの耳元で囁いた。
鋏を取り落としたカルロスの首に、医療用鋏を突き立てて、引き裂く。
「これはまだ見たことがないだろう!」
間合いを詰めたガーネットはカルロスの身体に手をついた。全身を駆け巡るサイキックエナジーをの波動を、掌から直接叩き込む。
「あなたは私の獲物」
波動を叩き込んだ反動でガーネットが離れた時には、シリンが照準を定めていた。
装填した精霊弾を全弾、一気に撃ち込む。
カルロスの体内に、炎が爆ぜる。
『……見事だ。この虚無の身体、破るか』
吸い込まれずに燃え上がる炎の中から、カルロスの声が響く。
『大いなる神が『静観せよ』と宣ったのも――頷ける』
感心したような、カルロスの声。
本当に感心していたのかは――炎に焼かれていなくても、あの漆黒の顔では判らなかっただろう。
『業腹だが……この場は我の負けだ』
その言葉を最後に――カルロスはこの戦場から、消えた。
大成功
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