羅針盤戦争〜花見酒に誘われて
ひらり、ひらりと花弁が舞う。
季節を問わず桜花咲き誇るこの島は、サクラミラージュからのオトシモノ。
広き海へ漕ぎ出して、長い航海から帰る者達は、変わらず迎える薄紅に心を癒す。
島で待つ者達は、変わらぬ花と共に変わらぬ咲みで迎えるのだ。
当たり前に其処に在ることの幸せを、「おかえり」と「ただいま」に噛みしめる。
この島の恒たる花と、其の下にて交わす杯で。
●
「ただいまー!……って、帰れる先があるっていうのは、いい事よね?」
キミ達にはある?と、ひらりと黒髪を揺らした女が、集う皆の前にて告げる。
此度、猟兵達を大戦繰り広げられる大海へと誘うのは、愛徳・琥瑚(ひらひら・f23161)だ。手元に広がりゆく海図を広げながら、皆、頑張ってるわね!と、笑みを向けては話を続ける。
「今回、琥瑚さんがご案内するのは、年中桜の花弁が舞う、サクラミラージュ島の一つよ」
――島の名前は、『桜霞』って呼ばれてるんですって。
「年中桜に慣れてない島外の人達には、舞う桜の花弁で先が霞んで見えたり、サクラガスミ……桜が住む、みたいに掛けてるのかもしれないわね?」
そうして、薄紅の花が常に舞うその島は、元々美しい湧水を擁する地であったようで、其れは大海の世界にてひとつの島となった今も健在。
綺麗な水によって育まれた農作物や、果実は豊かに実り、そうして、酒造にも適した場であるという。また、海に囲まれた島ともなれば、海産物に至っては言わずもがな、だ。
島中央の巨大な桜は近くで見れば圧巻で、その雄大さを直に感じる事が出来るだろう。島の象徴ともいえる巨大な其れのみならず、島内には通常の大きさの桜も勿論、彼方此方と咲いている。
美しい景色に、美味しい食べ物や飲み物が育まれたなら、其れを目に口にと楽しみゆく機会も増やしたくなるもので。
「島の海賊達が長い航海に出ると、帰ってくるたび、お帰りなさいの宴会を催してるみたいよ」
そうして、丁度間もなく、ひとつの航海を終えた海賊船が島に帰ってくるらしい。
「……で、其れが今回の戦争にどう関係してくるのか、って事よね?」
だいじょーぶ!ちゃんと説明するから!と、からころと笑った彼女は言葉を続けた。
彼女曰く、その島に現在、一体のコンキスタドールが潜んでいるのだという。
「ほら、皆も聞いてるでしょ?ピサロって奴が、逃げる算段してるーって話」
その逃走劇に乗じて、自分も逃げちゃおーって隠れてるらしいのよ?と、人差し指を頬に当てた彼女は語る。
「生きててなんぼって話だし、私も気持ちはわかるけど……だからって、ほいほい逃がしてあげるわけにもいかないわよねぇ?」
そんなわけで、隠れてる相手を誘き出して倒してきて頂戴な!と、軽快な口調で集う猟兵達へと依頼を口にする。
隠れているというコンキスタドールは、元々、酒好きの女海賊であったらしいのだが、得たメガリスの呪いによって、ハネオツパイと言う酔わない生き物の姿と性質を持った身へと変じてしまったのだそうだ。
「鼠みたいな生き物らしいわよ?知ってる?ハネオツパイ」
お酒大好きなのに、酔った気分を味わえないって辛そうよねぇ?と続けた彼女は、再び説明に戻る。
潜みし相手はその様な状態故に、先の島で行われる宴に乗じて、酒や宴で楽しく騒ぎ、其の隠れた身を誘き出し倒してしまおうというのだ。名付けて、天岩戸作戦!と、指立てて告げた彼女の表現が正しいかどうかは……まあ、置いておくとしよう。
「お花見をしながら、美味しいもの食べて飲んで楽しんで、お仕事もこなせるって最高じゃない?」
乗るっきゃないでしょ?乗るでしょ?何なら、琥瑚さんが食べたり飲んだりしたーい!と、語る彼女は今回案内役である身を少しばかり呪っている様子。そう、しっかりとお仕事には専念しなくてはならない。
「まぁ、それなりに力のある相手みたいだし、逃げる気も満々みたいだし、何度も逃げては隠れに行っちゃうだろうけど……その分、島の色んな所で皆其々に楽しんで、都度都度、誘き出して頂戴!」
お仕事も勿論だけど、折角だもの、桜に満ちた島で、お花見も宴も純粋に楽しんできたらいいわ。と彼女は笑う。
「あ、でもでも、陽が落ちちゃうと宵闇に紛れられちゃうから、今回は陽の高い内にケリをつけて来て頂戴な。夜桜も綺麗なんだけど……お仕事優先で、夕方までに終えて来て」
夜桜はまたの機会に、其処だけ注意してほしい、と。
そうして、島に住む海賊達は、外からの者にも寛大で、お祭り騒ぎも好きな為、彼らの宴に混ざるにしても、個々で島内の花見をするにしても、歓迎ムードで迎え入れてくれるだろう、と添えて。
「目の前に在る楽しみは、目一杯享受しちゃうのが一番よ。今を生きて、想い出を刻める者の特権だもの」
――さ、キラッキラな一日にしてらっしゃい!
あ!出来たらお土産話だけじゃなくて、美味しいお土産も欲しいわ。なーんて!と、おどけて笑い添えながら、蝶飾りの煌めく杖を振り、彼女は君達を送り出すのだった。
四ツ葉
初めまして、またはこんにちは。四ツ葉(よつば)と申します。
此の度は当オープニングをご覧頂き、有難うございます。
未熟者ではございますが、今回も精一杯、皆様の冒険を彩るお手伝いが出来ましたら幸いです。
それでは、以下説明となります。
●シナリオ概要
グリードオーシャンにおける『羅針盤戦争』、1章完結のシナリオです。
◎【プレイングボーナス】海賊達と協力する。
当島に住まう海賊達による、帰還の宴が催される日と重なっており、島内あちこちで飲めや歌えのお祭り騒ぎ。来訪者にも歓迎ムードで、料理やお酒などを提供してくれます。
宴に混ざったり、其れらを有難く頂戴したらば、誘き出しに協力して貰ったという形で上記を満たしたとみなします。美味しく食べて飲んで花見をして下さればOKです。
OPに料理や酒、飲み物などの詳細は特に記載していませんが、割と何でもあります。島内で獲れた作物での料理や飲み物は勿論、航海から返ってきた海賊達の得た品々もあるでしょう。果実のジュースやノンアルコールカクテル等も存在しますので、未成年の方は其方をお楽しみください。其々、プレイングにお好みの物を添え、楽しんで頂けましたら幸いです。
★各章について。
ボス戦:『紅のフラップテイル』
お酒大好きなのにメガリスのせいで酔えない!キイイ!というジレンマを抱えている、元女海賊さんのコンキスタドールです。
いつかこの身を酔わせる酒に出会う為、こんなところで終われない、と。逃走を図るピサロ将軍について戦争から離脱する事を試みており、現在島に身を潜めております。
彼女の大好きなお酒や宴会を餌に、誘き出してパンチを重ね、骸の海へと還して下さい。
今回、時間帯につきましては、朝~夕方前までの陽の高い時刻でお考えください。プレイング内に時間帯の明記は無くて大丈夫です。
また、ステシ上の年齢で未成年の方の飲酒や、問題あるとみなした行動は不採用と致しますので、花見の場は無礼講とは言えマナーは守って下さいね。
●プレイングについて
【21日(日)8:31~23日(火)23:59】の受付です。
執筆可能期間に合わせまして、OP公開から少し長めのお時間を頂戴いたします。
お誘いあわせやご相談などのお時間にして頂けましたら幸いです。
断章の追加はございませんが、上記受付期間内であることを確認の上、送信願います。
受付前に頂いたものはお返しとなりますのでご注意ください。
内容的には、お出かけ・お遊び系ですので、戦争と気負わずお気軽に。
戦闘については、軽く触れて頂くか、UC指定で良きように致します。
勿論、戦闘メインにプレイング掛けて頂いても大丈夫ですが、採用数絞る事になった場合、採用率は下がります。
また、有難くも想定より多く目に留めて頂けた場合、採用出来ない方も生じる可能性があります。
その場合、先着順ではなく、筆走る方から順に、執筆可能期間内で出来る限りの描写、となりますので、ご了承頂けますよう、お願い申し上げます。
●その他
・同行者がいる場合は【相手の名前(呼称可)とID(f○○○○○)】又は【グループ名】のご記入お願いします。キャパの関係上、今回は1グループ最大3名様まででお願い致します。また、記載無い場合ご一緒出来ない可能性があります。
・逆に、絶対に一人がいい。他人と組んでの描写は避けたい、と言う方は【絡み×】等分かるように記載して頂ければ、単独描写とさせて頂きます。記載ない場合は、組んだり組まなかったりです。
・グループ参加時は、返却日〆の日程が揃う様、AM8:31をボーダーに提出日を合わせて頂ければ大変助かります。
では、此処まで確認有難うございました。
皆様どうぞ、宜しくお願い致します。
第1章 ボス戦
『紅のフラップテイル』
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POW : ランバリオン
戦闘中に食べた【酒】の量と質に応じて【酔えない怒りで】、戦闘力が増加する。戦闘終了後解除される。
SPD : Hangover!
【意識を混濁させる呪われたラム酒】が命中した対象に対し、高威力高命中の【怒りのこもったラッパ銃】を放つ。初撃を外すと次も当たらない。
WIZ : 泥酔の杯
【杯から呪われたラム酒の雨】を降らせる事で、戦場全体が【泥酔している様な状態】と同じ環境に変化する。[泥酔している様な状態]に適応した者の行動成功率が上昇する。
イラスト:なかみね
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「ナミル・タグイール」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
リラ・ラッテ
【夢氷花】
島の名の通り、桜咲く綺麗な島ね
桜都に馴染みのある円さんは、そう感じるのかも
お花見を賑やかにしたことがないから
今回はお二人とご一緒出来て嬉しいわ
どれも美味しそう
円さんは未成年ですものね
来年は一緒にお酒を楽しみましょう
クーラカンリさんは何がお好き?
私は果実酒を頂こうかしら
甘いお酒が好きなの
ええ、準備万端よ
円さんの掛け声に合わせて
かんぱーい!
ん〜〜!おいしい!
一緒に飲むお酒は美味しさが増すわね
私はそこそこ強いかしら
クーラカンリさんは凄く強そう
円さん雰囲気酔いなんて、かわいい
あれもこれも美味しくて
食べすぎちゃいそう
さあ、お仕事ね
しっかりお相手して、花見の続きをしましょ
百鳥・円
【夢氷花】
桜霞島ー!
なんだか親近感が湧きません?
あらら、まどかちゃんだけです?それは残念!
お花見は好きですよう
クーラのおにーさんとはお花見しましたね?
リラのおねーさんもお花見しーましょ!
わたしはノンアルジュースで失礼!
成人まであともーちょっとですの
もう暫しお待ちいただけると!
ささ、お酒の準備はオッケーです?
ではではいっきますよーう
せーの、かんぱーい!
んっふふーおいしーい!
雰囲気でほろ酔いになれちゃいますねえ
おふたりはお酒お強いんです?
わたしが酔っちゃいますね、あはははー
甘いものとしょっぱいものもたーんと食べましょ!
わたしはいーっぱい食べられますよう
お仕事も忘れずに!
ちょちょいーっと成敗ですよん
天帝峰・クーラカンリ
【夢氷花】
花見酒とはまた乙なものを
円にとっては見慣れた光景かもしれんがな
あの時の桜も立派だったが、此処のもまた凄いな…
さて、本来仕事に来ているのだから酒に溺れている暇などないのだが
これでおびき出すというのなら目一杯頂こうではないか
うむ、酌ご苦労。美人の酌ほど美味い肴はない
では乾杯
ほう、リラは見た目によらず酒には強いのか
適度に飲んで適度に酔えるのは良い事だ
私も酒は奉納されてきた身、それなりに強いさ
おっと、円は酒気に当てられたかな?
まぁ、お堅い席でもないのだし
多少羽目を外しても気にする事は無い
食べ物か…甘味か、塩気か迷うな
まずはこの鮭とばとやらを頂こう
敵襲か。さっさと片付けて宴席の続きをするぞ
●
ひらり、はらり。
巨大なる桜から雨の様に花弁が降る。
時に巻き起こる強き風を受けたなら、視界を包むよに増えし薄紅はまるで霞のよう。
咲き誇る桜の樹々を見渡し、其処彼処での宴へと視線を向けながら、口を開いたのは天帝峰・クーラカンリ(Birth by judgement・f27935)。
「花見酒とはまた乙なものを」
眦和らげ告げる彼の声を聞きながら、薄紅に染まる景を眺め、ほぅ、と感嘆の息を零したのは、リラ・ラッテ(ingénue・f31678)。
「島の名の通り、桜咲く綺麗な島ね」
「桜霞島ー!なんだか親近感が湧きません?」
リラの言葉を受け、島の名を口にしながら、裡に沸き起こる心地を言葉に変えたのは、百鳥・円(華回帰・f10932)。
「円にとっては見慣れた光景かもしれんがな」
「桜都に馴染みのある円さんは、そう感じるのかも」
親近感、と告げる彼女の言葉に返る二人の其れは、彼女の感覚を肯定しつつも、同意というには至らなくて。
「あらら、まどかちゃんだけです?それは残念!」
と、言葉でこそ残念がりながらも、告げる円の声音は明るいまま。
「お花見は好きですよう。クーラのおにーさんとはお花見しましたね?」
「あの時の桜も立派だったが、此処のもまた凄いな……」
そう告げるクーラカンリの脳裏に甦るのは、円と共に見た薄紅の景色。記憶の内に宿る其の景も忘れ難きものであれど、この島の桜も圧巻だ。
ふたりの言葉を聞いて、リラの眼差しも柔らかに緩められ、其処に宿るのは今日という日への心浮く感覚。
「お花見を賑やかにしたことがないから、今回はお二人とご一緒出来て嬉しいわ」
告げる言の葉は裡抱く心のまま。素直に響く声音を拾えば、くるりと振り返る円の瞳もきららかに。
「リラのおねーさんもお花見しーましょ!」
其れは、花咲くひとときを、三人で共にする素敵な合図。
そうときたなら、楽しき時間を満喫するための、準備を始めると致しましょう!
「さて、本来仕事に来ているのだから酒に溺れている暇などないのだが……」
と、少しばかり真面目な声音で話すクーラカンリであったのだが、これでおびき出すというのなら、目一杯頂こうではないか、と、口許緩めては彼方此方が宴会場と化した賑やかな通りを眺めて笑う。
自慢の料理は如何?美味しい飲み物は此方だ、と。右から左からと声が掛かる。島全体が大きな祭りの最中のようで、巡る三人の爪先も軽やかに。
どれも美味しそう、と、目移りするリラの隣ゆく円に向かって海賊の女がひらりと手を振る。
「其処のねーさん!とっときのワインは如何?」
「わたしはノンアルジュースで失礼!成人まであともーちょっとですの」
――もう暫しお待ちいただけると!
軽快な返しで、ひらりと応える円の言葉に、お嬢さん、ノンアルコールなら、此方なんかは如何です?と。隣の屋台から声が飛ぶ。
そうして差し出されたのは、3層仕立てのノンアルコールカクテル。円のまなこが抱く赤と青を上下に宿し、最上部には重なる赤から色を受け、ほのりと染まる白桜のよな薄いヨーグルト。
ならそれを!と、笑顔で受け取る円の姿に、リラの眦も柔らかく。
「円さんは未成年ですものね、来年は一緒にお酒を楽しみましょう。クーラカンリさんは何がお好き?」
微笑み告げて、もうひとりの彼には問い投げかけたリラの眸を不意に誘ったのは、色鮮やかな瓶が並ぶ一角。瓶そのものは透明だが、内に果実を抱く甘やかな其れは、うららかな日差しを受けて、宝石を蕩けさせた蜜のよう。
「私は果実酒を頂こうかしら。甘いお酒が好きなの」
浮かぶ果実がどれも彼女を誘うよで、迷う彼女に勧められたのは、彼女の眸に似た藍苺酒。移動中も零れぬようと、深めのグラスに紫色が注がれて、彼女の手に渡される。
「そっちのにーさんも、手ぶらじゃ寂しいだろうよ。これなんかどうだい、自慢の酒だ」
そう言って、クーラカンリを誘う男が手にするのは、美しい透明の酒。この島で育まれた米と水で丹念に作られた米酒のひとつ。口に運べば、最初はぴりとした辛みが新鮮な刺激を与え、後から香る仄かなあまさが心解すよな酒だという。
ならばそれを貰おうか、と。手を伸ばしたクーラカンリへ渡されたのは、空とも海とも思わせる淡き青を纏いし小ぶりな酒瓶とオマケの猪口。
内なる米酒は何処までも澄み、歩みゆく振動で液が揺れるとともに、煌く淡青がその影を映し、空翔ける風や波間を思い起こすよう。
其々に飲み物を手にしたならば、好みの席を見繕い、いざ、花見の時間!
「ささ、お酒の準備はオッケーです?」
告げながら、クーラカンリの酒瓶を受け取って、彼の猪口へと円が注ぐ。
「うむ、酌ご苦労。美人の酌ほど美味い肴はない」
礼を告げる彼に、明るく笑い返した円へと、リラもまた微笑み向けて。
「ええ、私も準備万端よ」
「ではではいっきますよーう。……せーの、かんぱーい!」
「かんぱーい!」
「乾杯」
円の掛け声に合わせ、三人の声と杯の重なる音が軽快に響く。
「ん〜〜!おいしい!」
「んっふふーおいしーい!雰囲気でほろ酔いになれちゃいますねえ」
「一緒に飲むお酒は美味しさが増すわね」
言の葉には変えず、静か舌を楽しませる味の変化を楽しむクーラカンリの横、受けた味覚からの感想を、其々に言葉に乗せる女性ふたり。
表現は其々であれど、桜花のもと共に交わす杯の格別さは浮かぶ笑みが物語る。
「おふたりは、お酒お強いんです?」
ふと、円はふたりの口にする酒の齎す其れへと思いが至り、何気ない問いを口にする。
彼女の純粋なる問いに、軽く視線を宙へ向け、思案ののちに告げたのはリラ。
「私はそこそこ強いかしら」
「ほう、リラは見た目によらず酒には強いのか。適度に飲んで適度に酔えるのは良い事だ」
無くなれば満たされし猪口を都度傾けながら、リラの言葉に彼が告げれば、其の様を眺めつつ彼女もまたもう一口と紫を傾けながら柔らかに。
「クーラカンリさんは凄く強そう」
「私も酒は奉納されてきた身、それなりに強いさ」
弧を描く口許は、発される声音は、其の言葉が真であることを物語るよう。そんなふたりのやりとりを、ひらひらとまなこも酔わすよな花吹雪を受けて、円の瞳が柔く緩まる。
そう、こんな空気が身を包むなら。
「わたしが酔っちゃいますね、あはははー」
「円さん雰囲気酔いなんて、かわいい」
「おっと、円は酒気に当てられたかな?まぁ、お堅い席でもないのだし」
多少羽目を外しても気にする事は無い、と告げる彼の眼差しの先、ふわふわと気持ちよさ気な円はご機嫌。それは、酒の席が齎すものだけでなく、この三人で過ごせる時間が心地いいからに他ならなかった。そう、それは他のふたりもきっと。
はじめの一杯で場の空気も出来上がったなら、それでお終いなんて事は無い。未だ未だ満たしてゆかなくては。心も、お腹も!
「さ、甘いものとしょっぱいものも、たーんと食べましょ!」
わたしはいーっぱい食べられますよう!と、景気よく手を挙げた円の言葉の通り、この席へと辿り着く前に迎えた多くの食べ物もまた、彼女達の前に広がっている。
「食べ物か…甘味か、塩気か迷うな。まずは……この鮭とばとやらを頂こう」
告げて手を伸ばすクーラカンリを追う様に、ふたりもまた、思い思いの食べ物へと手を付けて行く。
「あれもこれも美味しくて、食べすぎちゃいそう」
塩気も甘みも望むまま、盛られた皿は鮮やかで、心も舌をも満たしてゆく。
そんな満足げな笑みを浮かべた三人の元へ、ザッと音を立てて飛び出てきたのは、辛抱たまらんといった表情の獣姿の女だ。
「まったく、ああもう!なんてこった!こちとら我慢してるってぇのに、花見だ、酒だ、ご馳走だ?これ見よがしに見せつけやがって!」
「――……敵襲か」
「落ち着き払ったその様がいっそう腹立たしいねぇ!良いからアタシにもその酒よこしなぁ!」
苛立った様子の元女海賊に、策が実ったとばかりに、花見の席も一時中断。各々が速やかに戦闘の構えに入る。
「さあ、お仕事ね。しっかりお相手して、花見の続きをしましょ」
「もちろん、お仕事も忘れずに!ちょちょいーっと成敗ですよん」
「さっさと片付けて宴席の続きをするぞ」
綻ぶ様な賑やかさは、ほろ酔いの席は一時お預け。
あゝけれど、気心知れた三人ならば、きっと追い払うのもあっという間だ。
ラム香る雨が身を襲おうとも、酒に場にと酔い綻ぶ三人には桜花に重ねて彩るものでしかない。
炎と氷がその場に彩を尚重ね、女の身へと躍りかかったなら、真白の闇を抱きし翼がその後を追う。怒りに任せた女が鋭き爪を揮おうと、癒しの光が即座と仲間の身を癒してゆく。
芳しきラムの香り、舞う桜花と踊る色彩、煌めきをも携えて、この一戦さえも賑やかな宴の肴と変えたなら、酔えぬ女をあしらいゆこう。
そうして、尻尾を巻いたその背を見送れば、さあ今一度、やわく酔いしれるよなひと時を。三人で。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
狹山・由岐
千鶴さん(f00683)と
明るい時間から呑む背徳感
勿論仕事は確り片付けますが
景気付けに一杯貰いましょう
花見酒と云えば日本酒を供にしがちだけれど
折角だから帰還した彼等の戦利品を
シェリー酒なんて良いですね
葡萄色の瓶へと伸ばした手は空振り
浮く先追えば君の腕に収まる其れ
…おや。それじゃお言葉に甘えてお願いしても?
とはいえ僕だけ頂くのも申し訳ないので
貴方にも楽しめる一杯を
ミルクと桜シロップを合わせ
ベリーの滴を飾り付けに
降る薄紅の花弁を添えたなら
ひと足先に、大人の味見を如何でしょう
降り注ぐ柔い光と芳しい馨
自身の手元へも届いたひとひらに
花咲うように綻ぶ青年に
緩やかに唇が弧を描く
あぁ、少し酔いが回ったかな
宵鍔・千鶴
由岐(f31880)と
薄紅に染まる美しき島で
花見酒、なんて粋だね
仕事前の一杯、乾杯の音頭は俺が取ろうか
シェリー酒?どれだろうと視線彷徨い
彼らの戦利品の中から葡萄酒へ伸ばす手を
制止するように先に持って
由岐、今日は俺に沢山お酌させて?
柔い笑みを浮かべ
…え、俺に?
白に桜色が混ざり合い
ちょこんと乗った赤滴と薄紅の花
お洒落なカクテルの様なジュースに眸瞬いて
…わあ、可愛い…由岐、有難う
好きなものの組み合わせ、飲むの勿体ない位
きみからの大人のお裾分け、今日は少し背伸びして
グラスに葡萄酒を注ぎ
音重ね、薄紅の花へ翳して乾杯を
噫、由岐のグラスにも。花びら舞い落ち
ふふ、俺も。酔わない筈なのに、ふわふわ良い気分だ
●
ひらひらと、はらはらと、時に視界覆うよな花吹雪をその身に受けて、晴れた青と賑やかな島内の雰囲気を感じながら、ふたりはゆく。
「薄紅に染まる美しき島で花見酒、なんて粋だね」
そう口を開いたのは、宵鍔・千鶴(nyx・f00683)。
其の言葉を受けながら、頷き返す狹山・由岐(嘘吐き・f31880)は、明るい時間から呑む背徳感を裡に抱いていた。されど其れは決して悪いものではなく、その感覚さえも、これから迎える酒とひとときに深みを加えるスパイスだ。
「勿論仕事は確り片付けますが、景気付けに一杯貰いましょう」
「仕事前の一杯、乾杯の音頭は俺が取ろうか」
そんなやりとりを交わしながら、行き交う人並みを縫うようにふたりは、今日帰還した海賊船の、戦利品を扱う広場へと足を向けていた。
――花見酒と云えば日本酒を供にしがちだけれど。
折角だから帰還した彼等の戦利品を、と。そう提言した由岐の案に乗った形。
多くの異なる世界から零れ落ちた島が集まる、大海の世界。其の大海原を旅した船からは、様々なものが齎される。商いの糧にされる物も勿論あるが、宴のためと大盤振る舞い、宴を楽しむ者が自由に持ち出していい品を集めた場も設けられている。
そんな中、彼が目に留めたのは。
「ああ、シェリー酒なんて良いですね」
「シェリー酒?」
彼の告げた其れはどれだろうと視線彷徨わせる千鶴の隣、これですよ、と添えながら、葡萄色の瓶へと伸ばした由岐の手は空振り。
浮く先を由岐の視線が追えば、並ぶ戦利品の中から葡萄酒へ伸ばした彼の手を制止するように、先に持って行った千鶴が、其の視線に重なるよに柔い笑みを向け。
「由岐、今日は俺に沢山お酌させて?」
「……おや。それじゃお言葉に甘えてお願いしても?」
千鶴の腕に収まる其れと、彼の笑みを見比べ乍ら、由岐の眦も柔くなる。返る言葉に大きく頷いた千鶴の眸もまた柔らかだ。
とはいえ酌を受けるのが自分だけ、というのも申し訳ないもので。ならば貴方にも楽しめる一杯を、と、千鶴の為に由岐が足を向けたのは、好みのカクテルを作れるスペース。
好みをこと告げれば、その場に立つ者が作ってもくれるが、自身で作ることも可能な様子。
場を借りる承諾を受け、慣れた手つきで由岐が作りゆく一杯は、ミルクと桜シロップを合わせ、ベリーの滴を飾り付け。そうして、今日この地の想い出をと、降る薄紅の花弁を仕上げにそっと添えたなら。
「ひと足先に、大人の味見を如何でしょう」
「……え、俺に?」
パチリと眸瞬いた千鶴の目に映るのは、白に桜色が混ざり合い、ちょこんと乗った赤滴と薄紅の花。
そう、まだ本当のお酒を味わうには、あと数歩満たない千鶴の為に、大人の雰囲気を少しばかり味わえる、お洒落なカクテルの様なジュースが差し出された。
「……わあ、可愛い。……由岐、有難う」
手元に花が咲くよな其れは、千鶴の好きなものの組み合わせ。ああ、飲むのが勿体ない位だと、思いが溢れ言葉紡ぐのも訥々となる程に、己の為にと彼が作った杯をまじと眺める其の眸は、きらと輝いていた。
そんな彼の表情を見つめながら、由岐裡にも温かな心地が満ちてゆく。交わす杯の中身が決まったならば、相応しい場所を求めて、ふたりの爪先は並んで進む。
ちょっぴり背伸びをして、大人な時間を垣間見るなら、賑やかな喧騒の中よりも、少しばかり静かな場所が似合うだろう。
二人がここと決めたのは、眼下に海が見下ろせる、喧騒少し離れた岬のテラス。並木桜を抜けて辿り着く小さな広場のよな其処は、さほど広くない事も相まって、彼らと同じく静かに楽しみゆく者達が集っていた。
海に面する場以外は、その周囲も咲き誇る桜の木々が囲っており、花を見るにも、花に囲われた空を見るにも良き景だ。
並べられたテーブルの一つを選び取り、其々に席へと着いたなら、由岐の持つグラスへと千鶴の手から葡萄酒が注がれる。
降り注ぐ柔い光と芳しい馨に包まれて、視線向ける先には時共にする互いの姿。
その手の杯が満ち満ちたなら、どちらからとも無く其れを寄せ合い、音重ね、薄紅の花へ翳して乾杯を。小気味良い響きを互いの耳に残して、ふたりはひとくち、杯を煽る。
互いの舌を楽しませる味覚に、共に味わうひとときに、咲い合うふたりのその手元。其処に視線を向けた千鶴が何かに気づく。
――噫、由岐のグラスにも。
ふと溢れた彼の声に誘われ、視線を向ければ、ひらり、はらはらと舞い降りた薄紅が、由岐の鮮やかなシェリー酒をも飾っていた。
自身の手元へも届いたひとひらに、揃いだと花咲うように綻ぶ青年に、緩やかに唇が弧を描く。
「あぁ、少し酔いが回ったかな」
「ふふ、俺も。酔わない筈なのに、ふわふわ良い気分だ」
浮つく心地は恐らく酒気によるものだけではないだろう。柔らかな花弁が降る中で、芳しい杯を楽しみゆこう。恒では零さぬ会話さえ、面差しさえ、思わず溢れてしまうかもしれない。
そう、其れもまた、大人のひとときが齎すものであるのだから。
穏やかなる語らいを、邪魔するものも今はまだ少しばかり遠く。現れ出でても君となら。花散らす風の如くに駆け抜けて、彩重ね、続く今日を楽しめばいい。
――はらり。
互いの杯を、さらにもう一枚の花弁が彩った。
ふたつの杯にふたつの花弁。
まだ、重ねゆく時は始まったばかりだ。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
戀鈴・シアン
【硝華】
島の全てを見守る大きな桜
雄大な姿を見上げ
ふと視線を感じて隣を見る
俺が「ただいま」を言える場所は
持ち主夫婦が過ごしたあの家
だけじゃない
イトのいる場所なら、何処だって屹度そう
想いが同じと解れば笑みが零れて
桜霞の中で宴会だなんて、贅沢
俺達も混ぜてもらおうよ
きみの手を引いて人集りへ
料理には目移りしてしまう
イトが楽しそうでよかった
いいの?
差し出されれば素直に口を開く
お返し、いる?
お酒は飲めないから
ノンアルコールカクテルはどう?
気分だけでも楽しんでみよ
誰かにお勧めを聞いてそれを貰おうかな
イト、乾杯!
酒が飲める歳になったらさ
また此処に来て改めて乾杯したいな
そっと小指を重ねて
その時もどうか、きみの隣に
戀鈴・イト
【硝華】
桜を見上げる君の横顔が綺麗で
こっそり盗み見ては緩む口許を隠す
僕にとっても
帰る場所はシアンが居る所だよ
君の横に他の人が居る未来でも、きっと
とは言えずに
ふふ、本当だ
とびっきりの贅沢を目一杯味わおう
手を引かれてゆく
あれもこれも美味しいよ、シアン
目についた美味しそうなものに箸をつけて
シアン、ちゃんと食べているかい?
ほら、もっと食べて
あーん
お返しもしっかり貰ってしまおう
ノンアルコール?良いね、美味しそうだ
オススメを一緒に飲もう
きらきら光に透けて綺麗だね
臆、乾杯
喉を通る甘さにも舌鼓
約束だ
小指を差し出して、人々がするような結びを
絡んだ指をそっと上下に揺らす
何年後かの未来
君の隣に居られますように
●
島の全てを見守る大きな桜。其の雄大な姿を見上げ、感嘆の息を溢すのは、戀鈴・シアン(硝子の想華・f25393)。そんな桜を見上げる彼の横顔が綺麗で、隣でこっそり盗み見ては、緩む口許を隠しているのは、戀鈴・イト(硝子の戀華・f25394)だ。
イトからの視線を感じ、彼が隣を見れば、ふたりの青硝子のよな眸が重なった。
隣に立つイトを見映しながらシアンが裡に抱く思いを口にする。
「俺が『ただいま』を言える場所は、持ち主夫婦が過ごしたあの家だけじゃない」
――イトのいる場所なら、何処だって屹度そう。
そんな彼の言の葉を受け、柔らかに眦緩めたイトもまた紡ぐ。
「僕にとっても、帰る場所はシアンが居る所だよ」
そう届いたイトの想いが、自身の其れと同じと解れば、シアンのかんばせからは笑みが零れて。そんな笑みを柔らかに受け止めながら、イトかんばせも綻びゆく。
あゝけれど。
――君の横に他の人が居る未来でも、きっと。
そう、裡に秘めた一言は、音に乗せることは出来ずに。きゅっと自身の中にだけ包んで隠した。
そうして、どれだけの時間、ふたりで雄大なる桜を眺めただろう。共に見上げた景色と交わした想いを静かに裡へと刻んだなら、賑やかなひとときをも共にしたくて。
「桜霞の中で宴会だなんて、贅沢。俺達も混ぜてもらおうよ」
「ふふ、本当だ。とびっきりの贅沢を目一杯味わおう」
イトの手を引くべくと、差し出すシアンの手を取って。ふたりは共に人集りへと歩みゆく。
賑やかな島民達による宴会や、彼方此方で振る舞われる料理や飲み物に満ちた一角へと辿り着いたなら、ふたりの瞳も右へ左へ誘われて。
逸れぬよう、共とあるよう、繋いだ手はそのままに、シアンも海賊達が楽しげに勧めてくる数多の料理には、目移りをしてしまう。それはイトも同じようで、気になる料理を手招いては口へと運び、笑顔に満ちて食べ歩き。
手に持ち歩き食べられるような物もあれば、誰でも自由に皿から招けるよう、大きなテーブルにパーティー仕様で盛られた料理も沢山ある。
「あれもこれも美味しいよ、シアン」
目についた美味しそうなものに箸をつけて、嬉しげに告げるイトの顔を見たならば、それだけでもシオンの心は満ちるようで。
「イトが楽しそうでよかった」
と、眦を和らげて満足げに笑む。そんな彼の言葉も表情も、向けられる眼差しだって嬉しいけれど、折角美味しいものがこんなに沢山あるのだから、その“美味しい”だって共有したいのだ。
「シアン、ちゃんと食べているかい?ほら、もっと食べて」
近くにあったパスタをフォークでくるり。あーん、と、口許へと差し出したなら、パチリと瞬いた淡青の瞳が弧を描く。
「いいの?」
問う言の葉に、頷きで返されたなら、素直に口を開いて魚介の旨みがぎゅっと詰まった、香り高いパスタを堪能する。料理の味も勿論だけれど、イトより贈られたものならば、尚美味しさは増すようで。
「お返し、いる?」
そう告げて、次に差し出すのはシアンの方。彼の問いにも仕草にも満足げな笑み向けて、お返しもしっかり貰ってしまおう。
美味しい食事を楽しんだなら、もちろん飲み物も。けれどもふたりは未成年。
「お酒は飲めないから、ノンアルコールカクテルはどう?」
「ノンアルコール?良いね、美味しそうだ」
「そうだろう?気分だけでも楽しんでみよ」
そうと決まれば、誰かにお勧めを聞いてそれを貰おうか、と、辺りをくるりと見渡して。
そんなふたりに、景気良く声を掛けてくる者がいた。
「そこのお二人さん、楽しんでるかい?」
「うん、とっても!」
「そりゃあよかった、おっと、飲み物はまだかい?」
「丁度、何かオススメがないか聞こうとしていたところ」
「なぁんだ、そうなのかい!なら、ふたりにぴったりのやつがあらぁ!」
こっちこっちと気前のいい海賊に手招かれ、ふたりの瞳に映ったのは、今日の空のよな爽やかな青を湛えたグラスがずらり。
「凄い、綺麗……!」
「そうだろ、あんたらを見た時、こいつしかないって思ったのさ」
まだ未成年だろ?なら、こっちがアルコールなしだぜ。と、告げて渡された揃いのグラスを手に取って。
「きらきら光に透けて綺麗だね」
そう告げて陽の光に青を照らすイトの隣、シアンもまた同様に空へ向けて杯を掲げたなら、まるで其の手に空の色を迎えたかのよう。
勧めてくれた海賊へと感謝を告げて、揃いの杯を手に歩みゆくふたりの目がみとめたのは、添うように並び咲く二本の桜。
顔合わせ頷き合ったふたりはそこで足を止めて。
「イト、乾杯!」
「臆、乾杯」
カチンと、澄んだ音を響かせて、其の手の杯へ唇を寄せる。口当たりは爽やかで、喉を通る甘さにも舌鼓。
「酒が飲める歳になったらさ、また此処に来て改めて乾杯したいな」
そう告げるシアンに、眼差し柔らかにイトも頷き。
「約束だ」
言葉短かに、されど其の中に裡なる想いの全てを込めて。其の言葉と共に、彼へと小指を差し出して、人々がするような結びを、と。
差し出された小指に、シオンもまた己の小指を柔く重ねる。ふたつの指がしっかりと絡んだなら、そっと上下に揺らして。
――その時もどうか、きみの隣に。
――何年後かの未来、君の隣に居られますように。
ふたつの願いを空へ送り届けるよに、一陣の強き風が吹き抜けた。
優しき色を纏う桜花が風と共に空へ舞う。高く、高く。遥か彼方まで、其の空の如く澄んだ想いを乗せて。
視界を覆うよな桜花が晴れる頃、来訪者が現れるだろう。
小指の絆を示すよに、虹の煌めきと硝子の閃きが、結ぶように舞踊りて花咲いて、荒れる紅を穿つ様を双子桜が見守っていた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
終夜・嵐吾
【嵐雅】
せーちゃん、かんぱーい!
さてお味は…(ぐびっ)んまい…!
は~のどごしもええし後味もふんわり華やか
ええ酒じゃ
この酒を飲まんと人生の損じゃろ~!
と、騒いでおったら来るかの?と目配せ
敵の事はあるが楽しまんと損じゃし!
ささ、せーちゃんも杯があいとる~
ぐいっと!
ぐぐいっと!!
(毎度わしが楽しく潰れて介護されとるからの…たまにはせーちゃんを酔い潰してみたい…!)
こっちも美味しいよ、ほれほれ(とくとくそそぎ)
(……やはり酔わんなこやつ~)
お、わしにも?
のむのむ。ん~、うまい!
あっ、すまんの、のむ…(ぐび…
(ふにゃふにゃ笑ってご機嫌)
おさけおいし~(尻尾ばたばた)
せぇちゃ、おかわりじゃ~(ごきげん
筧・清史郎
【嵐雅】
ああ、酒は良いな、らんらん(乾杯しつつ微笑み
らんらんと酒はよく飲むが、花見酒も風流で良いな
いくらでも飲めそうだ(微笑み
きっと酒宴の賑やかさにつられてくるだろう、とこくり頷きつつ
その為にも、楽しく酒を酌み交わそう
ん、有難う、らんらん
らんらんにもお酌しよう
ふふ、ぐぐいっと、だな(いくら飲んでも全然変わらない
…ん?どうした、飲み足りないのか?らんらん(きょとり
ではらんらんも、ぐぐいっといこうか(お酌
らんらんが酔い潰れて俺が介抱するのはいつもの事だからな
折角だ、存分に楽しもう(お酌
ふふ、いつもの様に友も愉快な様子になってきたな(揺れる尻尾眺めつつ
ああ、おかわりか、心行くまで飲もう(にこにこお酌
●
この島のどの場所にいようと、等しく花弁は降り注ぐ。
吹き抜ける風に乗り、ひらりと舞い飛ぶ花弁は、ふたりの男が掲げる杯へもその身を映す。
「せーちゃん、かんぱーい!」
明るい声音を響かせて、手にした盃を高らかに掲げるのは、終夜・嵐吾(灰青・f05366)。其の姿を受けて、己の持つ盃をも掲げつつ、柔らかな笑みを湛えるのは、せーちゃんこと、筧・清史郎(ヤドリガミの剣豪・f00502)だ。
「ああ、酒は良いな、らんらん」
「さて、お味は……んまい……!」
ぐびっと、盃に満たされた実りの雫を一息に煽れば、キレのいい喉越しと、ふんわりと華やかな後味が彼の口内を潤してゆく。
「は〜、ええ酒じゃ。この酒を飲まんと人生の損じゃろ~!」
「らんらんと酒はよく飲むが、花見酒も風流で良いな」
いくらでも飲めそうだ、と微笑み杯を眺める清史郎の振る舞いは雅やか。
きゃいきゃいと賑やかに騒ぎつつ、不意に目を細めた嵐吾がパチリと目配せに載せるのは、この宴会に隠したもう一つの目的のもの。
――と、騒いでおったら来るかの?
そんな意思を、友へと送れば、柔らかな笑みと共にゆったりとした頷きが返される。
――きっと、酒宴の賑やかさにつられてくるだろう。
と、彼の仕草の内には、其のような意図が乗せられていた。
勿論、本来の目的である其れのことも忘れてはならないのだが、敵の事はあるが楽しまんと損じゃし!と、再び視線で語る嵐吾が盃へと酒を足せば、その為にも楽しく酒を酌み交わそう、と、同じく視線で語りて、手の杯を傾ける清史郎。
傍目には楽しく酒を飲み交わす姿にしか見えないが、其の奥に潜ませた意図を、互いに言の葉に変えずも通じ合うのは、ふたり重ねて来た時と縁の賜物だ。
「ささ、せーちゃんも杯があいとる~」
ぐいっと!さあ、ぐぐいっと!!と、友の杯が空と見れば、すかさず酌をする嵐吾の胸中は、純粋に酒を楽しませるというばかりではなく。彼と酒を共にすれば、毎度自分が楽しく潰れて介護されてしまうから。
――たまにはせーちゃんを酔い潰してみたい……!
そんな野望がふつふつと。そんな彼の胸中を知ってか知らずか、酌を受ける清史郎はにこやかな笑みを浮かべて。
「ん、有難う、らんらん」
そう、友の名を告げ嬉しげに、手の盃を彼へと寄せる。とくとくと、なみなみと、注がれた酒を清史郎が楽しげに煽れば、嵐吾はすかさず次の酒を手繰り寄せ。
「こっちも美味しいよ、ほれほれ」
飲んでみ?と、新たな酒を味見させゆく名目で、次から次へと徳利を傾けるも、柔らかな笑み湛える目の前の友は一向に酔った素振りを見せはしない。
「ふふ、らんらんにもお酌しよう」
注がれてばかりは申し訳なかろうと、清史郎も徳利へと手をかける。
「お、わしにも?のむのむ」
抱く野望で酌する側に回ってはいたが、彼も酒好きには変わりない。そして友からの酌が嬉しくないわけもない。嬉々とした顔で己が盃を彼へ近づけたなら、とくとくと、なみなみと、先の返しとばかりに注がれゆく。
「ん~、うまい!」
「ふふ、ぐぐいっと、だな」
再びふたりで互いに酒を口へと運ぶ。酌に専念していたひとときの分、清史郎の方が多く飲んでいるはずではあるのだが、けろりとした様子で舞う花弁に手を伸ばす余裕さえ伺える。
――……やはり酔わんなこやつ~。
と、目の前の強敵に焦れ始めた気持ちが、表情に現れたのだろうか。其の顔を見てきょとりと瞳を瞬かせた清史郎が口を開く。
「……ん?どうした、飲み足りないのか?らんらん」
先ほどの意思疎通は何処へやら。ジト目を隠せぬ友の視線を、其のように解釈した彼はそう告げて、ならばと一層笑みを深めたならば、徳利を掲げてにこやかに。
「ではらんらんも、ぐぐいっといこうか」
一瞬、えっ!とした顔をしたものの、うちに抱いた真意に気づかれるのも癪である。
「あっ、すまんの、のむ……」
と、既にやや酔いが回り始めたことをも隠すよに、彼の酌を素直に受けて。
――らんらんが酔い潰れて俺が介抱するのはいつもの事だからな。
そんな思いを清史郎が裡に抱いたのは、途切れがちに返事をした彼の様子もあるけれど、其れが常のことであるが故。
「折角だ、存分に楽しもう」
さて、そうして幾度の酌が互いに交わされた頃であろうか。
――おさけおいし~。
ふにゃふにゃと眦緩め、頬緩め。すっかりへべれけ状態で、灰の尻尾をばたばたさせているのは嵐吾の方。清史郎の方はと言えば、飲み始めた頃と全く様子変わることなく。
――ふふ、いつもの様に友も愉快な様子になってきたな。
あゝこれも、恒と変わらぬふたりの時間、と。ふにゃふにゃな友の様子に、ぶんぶんと振られる彼の尻尾に、微笑ましげな笑みを浮かべていた。
「せぇちゃ、おかわりじゃ~」
「ああ、おかわりか、心行くまで飲もう」
すっかり酔いが回り、ふわふわご機嫌な嵐吾と、そんな様子を眺めて楽しみ、請われれば応えゆく清史郎。
そんなふたりの元へ、満ちる酒気に誘われ現れた紅き女海賊の存在は、ご機嫌な宴を飾る余興の如く。
あゝ、ご機嫌な狐が、ようこそ存分に花を楽しみゆくがいい、と言わんばかりに招いた力宿す花吹雪に。花中にて、良き獲物を得たとばかりに笑み浮かべた青年が繰る、剣舞の如き閃く蒼き刀にと、鮮やかに返り討ちに遭うのは、お約束のよな展開で。
酒宴の延長ご機嫌に、悪くも楽しげな笑みを浮かべたふたりの酒の肴に変わった一戦が、足を引きずる女の逃走で一幕を終えたなら。
さあ、もう一杯といきましょう。
こころゆくまで、おかわりを。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
浮世・綾華
f09129/ユルグさんと
今日は晴れて良かった
乾杯後に紡ぐのは
以前共にみた四葩は雨音の傍らだったから
不思議と心地良い適当な言葉
今日は誤魔化しに乗ってあげましょ
宴の賑やかさに緩む表情
あんたってあんまり騒いでる印象ないですケド
歌ったり踊ったりってするんデス?
俺はま、気分が乗ったら…?
舞う姿を想像して
出来なくて少し笑った
器の水面に花筏
仰げば振る彩に軽口を交わし合うのも楽しい
酒、うまいですねえ
綻ぶ表情を酒のおかげにしようとも
上機嫌な口からは素直な言葉も零れよう
あんたと飲む酒もうまい
で、飲みすぎは注意よな
手合わせって話もしたケド
まずは共闘?
だいじょぶ。ちゃあんとお手伝いしますよ
…いーよ
それも楽しそうだ
ユルグ・オルド
f01194/綾華と
いやァこれも日頃の行いのおかげ
どっちがとはまァまァ
鳴らした杯に誤魔化して
ははん、何言いだすかと思えば
綾華ってば元気に交じりに行っちゃう方?
いらえて同じように返して
ああ、でも降る花の中で舞うなら綺麗だろうと
ひとひら寄せる所作も合いそうな男に掠めつつ
音にしないで笑ったならば
やや、笑ってンのはお互い様だわ
花を映して上機嫌
うまいッてンならなおのこと
んふふ、珍しく真直ぐ言う
のせられてやろうと並々注いで
当然だろなンて得意顔も破顔して
つって頭ぐしゃぐしゃにすんのは勘弁してやら
やァね、誰に言ってんの
惜しいと杯の一滴乾したなら
――ちょっかいかけいっても許してネ
●
天を仰げば、青々とした雲一つなき空。
降る陽光もあたたかく、舞う薄紅も相待って、一足早く春を迎えたよな心地。
「今日は晴れて良かった」
と、交わした杯の雫を一口迎え、浮世・綾華(千日紅・f01194)が、感慨深くそう紡いだのは、以前、彼と共にみた四葩の景が、雨音の傍らだったから。
「いやァ、これも日頃の行いのおかげ」
綾華の言の葉受けて、うすらな笑みを浮かべつつ、戯れめいて告げたのは、ユルグ・オルド(シャシュカ・f09129)。
――……どっちがとは、まァまァ。
にいやりと笑み深めて告げた其の先は、カチリと再び鳴らした杯の音で誤魔化して。
紡がれる言の葉は、真意を霞の向こうへ隠すよに適当であるというのに、彼の其れは不思議と心地良い。
――今日は誤魔化しに乗ってあげましょ。
と、二度目の杯の音へ耳傾けるよに、やわらかに瞼を伏せた綾華の口許も、ゆうるりと弧を描く。
桜に満ちた広場とあれば、集う者も彼等だけでなく、右に左に、宴の日を謳歌する島民もこの日集った猟兵達も賑やかに。
彼らの元まで届くその賑やかさに、思わず緩む表情のまま、ふと浮かんだ言葉が口をつく。
「あんたって、あんまり騒いでる印象ないですケド」
歌ったり踊ったりってするんデス?と、彼の赤を己の赤で見映して。綾華からの問いを受け、ぱちりとひとつ瞬いたのち、ははん、と笑い声を零したユルグは、
「何言いだすかと思えば。綾華ってば元気に交じりに行っちゃう方?」
そう、いらえて同じよに返す。
ああ、でも降る花の中で舞うなら綺麗だろう、と。ひとひら寄せる所作も合いそうな彼に掠めつつ、くつり、と音にしないで笑ったならば、
「俺はま、気分が乗ったら……?」
そんな風に返る言葉。
そう、返しつつ。舞う姿を想像して……出来なくて、綾華も少し笑った。
「やや、笑ってンのはお互い様だわ」
音なき笑いに音が乗り、重ね合うふたりの響きに誘われたのか、ひらりと一片、綾華の持つ器の水面に花筏。舞い来る柔き薄紅に、次は彼が誘われて。仰げば降る彩に、こうして軽口を交わし合うのも楽しい、と、笑んだ口許を一層深め。
「……酒、うまいですねえ」
思わず綻ぶ表情を、酒のおかげにしようとも、上機嫌な口からは、素直な言葉も零れようもので。
――あんたと飲む酒もうまい。
次いで溢れた言の葉を、器に花を映して上機嫌なユルグもまた逃すことなく。
――んふふ、珍しく真直ぐ言う。
彼から届く真っ直ぐな其れに、ユルグはにんまりと口端緩めゆきながら。あゝならば、此方ものせられてやろうと、彼の持つ杯へと並々注ぎ、当然だろ、なンて得意顔も破顔して。
「……つって、頭ぐしゃぐしゃにすんのは勘弁してやら」
にいやり告げては、手元でぐしゃりと撫でゆく真似すれば、戯れるよなやり取りに、再び互いの口元が綻んでゆく。
あゝ、なんと愉しき酒宴の時か。注いでは返し、紡げば返り。
この島の恵みに満ちた酒が美味いのも間違いないが、“うまい”と心から感じるのは、其れが自ずと言の葉に乗るのは、交わすのは、互いの存在ありてこそ。
そんな互いと交わす軽口も尚軽やかに、美酒煽る手元もついと進みゆき、刻と時も流れど。其の手の杯を一度ぴたりと止めて。
「……で、飲みすぎは注意よな」
徐に、彼へ花へと向けていた視線を緩り、目端の方へと移しゆく。がさり、と何者かが近づく気配を感じ取ったなら、さりげと杯を横に置き。
「あんたとは、手合わせって話もしたケド……まずは共闘?」
――だいじょぶ。ちゃあんとお手伝いしますよ
そんな言葉を送る綾華へ、にやりと視線返しつつ、
「やァね、誰に言ってんの」
と、一言告げて、惜しいと手にした杯の一滴乾したなら、ユルグもまた続きは後程と杯を置き。代わりに指先伸ばし手繰るは、馴染みし刃。其の手にしかと触れたなら、戯れめいた視線でひとつ。
――ちょっかいかけいっても許してネ。
「……いーよ、それも楽しそうだ」
楽しむならば心ゆくまで。彼とならば、素直な共闘のみならず、そんな戯れめいたスリルさえ、心弾み華やぐひとときと変わるだろう。
ラム酒の雨を降らせつつ、踊り出た酔えぬ女に、酒宴ではなく花演を贈ろう。
綾華の手にした武器が、舞う桜花に混じるよに、白菊の花弁へと姿を変えれば、嫋やかなれど、力宿した真白の其れが、女の身へと鋭く翔る。白き花嵐駆けし風が、この場にそぐわぬラムの香りを掻き消すように。
「噫!腹立たしいったらないね!花が咲こうが舞おうが、酒が足りない!酔いが足りない!」
重ね重ね、巡りし地で酒気に当てられ、されども望む酔いが叶わぬ女は、怒りのままと怒号をあげれば其の爪の鋭さを増し、視界に捉えたユルグへと肉薄する。しかし、刃に手を掛けし彼に近づくことは、飛んで火に入るなんとやら。彼の間合いへと、女の身が踏み入った瞬間、其の懐へと飛び込んだ疾き彼の一閃に、身を鋭く抉られる。
身を裂く痛みに顔を歪ませ、されどもまだ引かぬ様子の女へと、そう簡単に引かれてもつまらぬと、笑んだふたりの男は顔を見合わせ、剣と花はもう暫し舞い続ける。
花宴を彩る舞とするには、いささか物騒ではあるけれど、混じる怒号は趣すら無いけれど。
研ぎ澄まされた力を振るい合う時すらも、互いの身に記憶と思い出と刻まれゆきて、嗚呼、決して悪いものではないのだから。
そうして、彼女がその身を翻し去ったなら。
あとは他のものに任せたと、にいまり笑って仕切り直そう。先の一戦も言葉遊びの種に変えて。
あゝ、未だ、未だ。降る薄紅も旨き酒も、交わす刻も、味わい尽くすには足りぬのだから。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
雪華・風月
別の世界でもサクラミラージュの桜は綺麗に咲き誇り、愛されているのですね…
はいサクラミラージュの人間として誇らしく思います
異世界にて咲く桜を眺めて皆が花見を楽しんでる様子を見て破顔
お酒は飲めないのでジュースを、和食系をつまみながらも他の方たちに取り分けたり飲み物を注いだり
あまり食べれませんし、こういったことの方に気が向いてしまうのですよね【心配り】
さて、どうやら相手も釣れたようで…
雪解雫で空を斬り、周囲を幻朧桜の迷宮へ
酔えない姿へと変貌してしまったこと、敵ではありますが同情します
来世ではまた、楽しめると良いですね
●
ひらりひらひら、はらりはら。
絶えることなく舞う桜花。それは元より来る世界の名残。遥か離れた大海にありて、同じく咲かせる薄紅の花。
そんな花弁を瞳に映し、雪華・風月(若輩侍少女・f22820)は己の世界を写し見て。
「別の世界でも、サクラミラージュの桜は綺麗に咲き誇り、愛されているのですね……」
其の姿は、サクラミラージュの人間として誇らしく思う、と。風月は己が胸へと、てのひらを柔く添えゆきて。
雄大な巨大桜を、そして島に満ちゆく桜を、己が瞳に映るひとつひとつを裡へと刻むよに、島内を歩く。
異世界にて咲く桜を眺め、そこに集いし皆が花見を楽しんでる様子を見て、破顔する。世界が変わろうと、この花が人々の心を癒しているのだと、己が恒とする薄紅が、この地でも恒と寄り添い咲いているのだと、其のことがあたたかく彼女の心を包み込む。
「其処のねーちゃん!折角の宴だ、あんたも何か飲んできな!」
花や人、其処にある温もりを感じつつ、ふらりと歩む風月に、この島の海賊達から声がかかった。
「ええと、では……お酒は飲めないので、ジュースを」
「へへ、この島は作物も自慢なんだ、とびきりのを飲ませてやるよ」
にぃ、と機嫌よく笑った恰幅のいい女性は、ちょうど今が旬なのだと、甘みと酸味のバランス取れた、まるでルビーを溶かしたよな、鮮やかな赤を湛える苺ジュースを彼女へ差し出して。
「このまま飲んでも美味いがね、ちょいと先行きゃ自慢の牛乳振る舞ってる奴も居る」
気になったら足してもらいな。そう添えた女は快活に笑い、味は勿論、色も降る桜花のよな薄紅に変わるよと、こと添えて。
礼を告げ、桜と宴会の人々で満ちた広場を巡る風月は、彼方此方からかかる声や、香る料理に誘われて、心惹かれる和食を主にと箸伸ばしつつ。
彼女もまた、己を輪に迎えてくれた人々へ、料理を取り分けたり、飲み物を注いだりなどして過ごしていった。
元来、そうした心配りが彼女の身に沁み付いているようで、そうして人々と関わる方が、どこか心が落ち着くのだ、と。時に改めて己を見つめながら。
そんな風に過ごしていたなら、
「さて、どうやら相手も釣れたようで……」
穏やかな空気一変、凛とした眼差しで其方を見据えたならば、其の手を白き柄、青き鞘へと伸ばしゆき、雪解雫を抜き様に空を斬り、紅き女を含む己の周囲を幻朧桜の迷宮へと変えてゆく。
「なんだいこれは!冗談じゃないよ!酒に誘われきてみりゃあ、宴が消えて迷路だって?」
「……酔えない姿へと変貌してしまったこと、敵ではありますが同情します」
「五月蝿いよ!まだ酒の味も知らぬ娘っ子が!はん、アタシが其の味教えてやろうか!」
「結構です。未だ頂いたジュースで間に合っていますので」
ラムの雨を降らそうと、杯を掲げようとした彼女の腕へと一撃を見舞い其を阻み。
――来世ではまた、楽しめると良いですね。
心より、送る言葉を響かせて、これより暫し雪解けの花が舞う。
大成功
🔵🔵🔵
雨絡・環
アルフィードさん(f00525)と
お可哀想に
わたくしもお酒には強い方ですけれど
酔わねばいられぬ時も御座いますよね
アルフィードさんは
和酒を召し上がった事がおあり?
此は今年の新酒です
ささ先ずはご一献
呑みやすいお味を選んだつもりですが
如何かしら
実は何か肴も作ろうとしたのですが
何故か消し炭になってしまいまして
何時もの事ですけれど
あらま
多分アルフィードさんがお作りの方が
ずうと美味しゅう御座いますよ?
海賊の方々にもお酌して回ります
返杯を頂いた際にはニッコリ応じ
かの方がお越しなら【返し縫い】
酔うは酒気だけでは御座いませぬ
どうぞ沢山召し上がれ
御猪口の中に桜の花弁がひらり
風流ですこと
そのまま干してしまいましょう
アルフィード・クローフィ
環ちゃん(f28317)と
あーーー!気持ちはわかるなー
俺も強いから酔えないだよね
って美味しいお酒を飲めるなら別に酔わなくてもいいじゃないかな?
でも酔いたい時ってあるってきくし
ん?わぁーい!和酒美味しそう!
お酌してくれるの?ありがとう!
注いでもらって一口
ん!美味しい!
あら、俺はどんなのでも環ちゃん
の作ったの食べたかったなー
じゃ美味しいお酒のお礼に
俺のツマミをどうぞ!
海賊さん達も色々あるから沢山食べてね!
最恐の戯れ
神様や悪魔達が作ったお酒なら酔えない貴方も酔えるかな?
桜舞い散る中で飲むお酒っていいよねー
●
酒が好き、酔う感覚が好き。
其れなのに、酔うことが出来ないという件の女の話を聞けば、雨絡・環(からからからり・f28317)の眉は、つ、と下がり。
――お可哀想に。
と、ぽつりと溢れた言の葉は、心からの同情の念。
「あーーー!気持ちはわかるなー、俺も強いから酔えないだよね」
そんな環の呟き受けて、大きく頷きながら同意の言葉を紡ぐのは、アルフィード・クローフィ(仮面神父・f00525)。
うん、うん、と、大きく頷く首をふと止めて、何かに気づいたよに首傾げ。
――……って、美味しいお酒を飲めるなら、別に酔わなくてもいいじゃないかな?
「でも酔いたい時ってあるってきくし」
そう添えながらも、こてり、未だ少しの疑問符浮かべたよな彼の様を、環は柔き笑みで受け止めたなら、やんわりと。
「わたくしもお酒には強い方ですけれど、酔わねばいられぬ時も御座いますよね」
と、彼の言葉に重ねるように。
そう、酒に、酔いにと委ねるものは、必ずしも楽しいばかりではない。縋りて飲むのも、逃げにと変えるのも、酒の在り方の一つ。けれども其れは笑みのうちへ潜ませて。
「アルフィードさんは、和酒を召し上がった事がおあり?」
此は今年の新酒です、と。にこやかな彼女が持ち上げたのは、漆のよな艶やかな酒瓶に、こんこんと注がれ詰められた芳しき実りの雫。
「ん?わぁーい!和酒美味しそう!」
――ささ、先ずはご一献。
嬉々とした声上げる彼の為、そ、と、着物の袖支え、ゆうらりちゃぷりと瓶の内を音立てて、彼の杯を誘ったならば、澄んだ緑を湛えしかんばせが、浮かべる笑みもまた一層深まり。
「お酌してくれるの?ありがとう!」
紡ぐ声音も跳ねるよう。そんな姿が微笑ましくて、眦和らげた環もまた、流れるような慣れた動き、麗しき仕草で、差し出された彼の杯へとくと注ぎゆく。
「呑みやすいお味を選んだつもりですが」
杯を満たしゆく澄んだ雫と、仄かに香りたつ和酒の芳しさに、彼の眸も尚煌めいて。
――如何かしら?
添える環の言葉と視線にも後押され、一口運べば口内を満たす香りは芳醇でありながら、後味のすっきりとした優しい雫が、喉を裡をと潤してゆく。
「ん!美味しい!」
美味なる酒に舌鼓、綻ぶ彼の顔を眺めて満足げに環も笑む。
「実は何か肴も作ろうとしたのですが……」
――何故か、消し炭になってしまいまして。
何時もの事ですけれど、と添えながら、残念そうに、そして常そうなってしまう不思議を思うよに、頬に手を当て語る環を、きょとんと見返す彼であったが、ぱちぱちと瞬いたあと、
「あら、俺はどんなのでも環ちゃんの作ったの、食べたかったなー」
持ってきてくれたらよかったのに、と。そんな言葉すら続くよな、請う視線を環に向けた。彼からの言の葉を、視線を受けて、あらま、と口許へてのひら添えた環は眦緩めて。
「多分、アルフィードさんがお作りの方が、ずうと美味しゅう御座いますよ?」
そんな素直な言葉を返しゆく。
「じゃ美味しいお酒のお礼に、俺のツマミをどうぞ!」
そうかなー?と首を傾げつつも、そう続けた彼の持ち込んだツマミが披露される。
「海賊さん達も色々あるから沢山食べてね!」
と告げる言葉の通り、酒に合うツマミが並べられて、周囲の海賊達も色めき立つ。
「お、にいちゃん凄えじゃねえか!」
「私にもひとつおくれよ」
「こりゃうめぇ!」
あっという間に、彼らの周りには、わいわいきゃいきゃいと人集り。
そんな賑わいもまた楽しくて、アルフィードがもっと食べてと勧めゆく中、彼のツマミも有難く頂戴しつつ、集う海賊達へと酌して回る環の姿。
中には彼女へ返杯をとする者もおり、それにも都度都度柔らかな笑みと共に応じてゆく。
そんな賑やかな酒宴に誘われて、茂みの向こうから姿を表したのは紅き女。
「あゝ、此処でも賑やかなことだね!花見酒は美味いかい?その酒は酔える酒かい?」
幾度と闘いを経た彼女の体力は衰えども、その目は変わらずギラと燃ゆるよに。求るのは其の身を酔わす甘美な雫。
そんな姿を目に留めて、武器を構えるその前に、アルフィードは試してみたいことがあった。
戯れめいた神魔の力を注いだ雫を、一杯の器にひたと満たして。
――神様や悪魔達が作ったお酒なら、酔えない貴方も酔えるかな?
そう差し出された杯に、瞬きひとつ。
「……此れ、アタイにかい?」
訝しげな視線を向けながらも、彼が差し出す神と悪魔の力宿し豊穣の恵みをその口へと誘って。
口内を潤す味は今までにない刺激と甘さが入り混じり、濃厚な酒気が鼻を抜ける。一瞬クラ、と酔うよな目眩が襲った気もした、懐かしい感覚が戻った気がした……が。
それをも上回るのが呪いの力だろうか、そんな耽美な感覚は、瞬く間に消えてしまって、残るのは酔い切れない虚しさで。
「嗚呼、噫!……酔えない!酔えない!!」
女は頭を振って怒りを叫びに乗せる。
その様子を見て、駄目だったかー。と、残念そうな視線を向ける彼の隣、その行動を見守った環は柔く笑み。
「一瞬なりと、何かは届いたのではないでしょうか」
彼女を酔わせてあげたいと、その気持ちと為したものはきっと。わたくしにはそう見えましたよ、と。隣立つ彼へ微笑んだ環は、その手に蜘蛛の絲を生み出しながら、怒りに狂う女へとその視線を移して。
「酔うは酒気だけでは御座いませぬ。どうぞ沢山召し上がれ」
彼女の放つ絲に籠められし醒めぬ恋心。其れは叫ぶ女の攻撃の意思を奪いゆき、闘志を奪われた紅き女は、身を翻して再び島のどこかへ消えた。
去る背を負うことはせず、ふと視線を横へ向けたなら、御猪口の中に桜の花弁がひらり。
――風流ですこと。
柔らかに笑んだ環の手が其処へ伸び、くい、と花弁ごと飲み干して。そんな彼女の姿に、アルフィードも眦緩め口を開いた。
「桜舞い散る中で飲むお酒っていいよねー」
同意するよに頷く彼の姿に、飲み直しましょうか、と告げた彼女に彼も再び頷いて。
そうして桜下の酒宴は再開される。
どうか彼女も、いつか酔えますように。
そんな優しき願いを花風に乗せて。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
宵雛花・十雉
【花酔】
へぇ、お呪いを
大事にされてんだなぁ、櫻宵
ま、お呪いがついてんなら悪酔いすることもねぇだろ
へーきへーき
ささ、飲もうぜ
なんて呑気に言いながら酌をして貰う
いやぁ、綺麗どころ2人に囲まれちまって
酒も旨くなるってもんさ
花が嫉妬しちまうかもなぁ
お、食わせてくれんのかい?
悪いなぁ
んじゃあお言葉に甘えて…
お、ほんとだ
どっちも酒に合って旨いや
ひ、膝枕はさすがに遠慮しとくよ
なんでって…そりゃあ恥ずかしいから?
オレは1人しかいねぇよ
千織さんが猫なのもそうだし
段々と櫻宵の様子に違和感を覚える
おう、オレは平気さ
千織さん、もしかしてこれが噂に聞く酔っ払いモードかい?
やれやれ
早いとこ布団にでも何でも寝かしつけてやろ
誘名・櫻宵
【花酔】
お酒よー!私、お酒ってだぁいすき
酔い潰れないよう神様にお呪いかけてもらったの
十雉、千織、飲んで食べて騒ぎましょ
満面の笑みで2人の盃に桜酒をついでいく
花見をしながらお酒を飲む…素敵な一時ね!
2人にお酌しながら飲み続け
お酒に合うおつまみも分けてもらったの!
これも美味しいしこっちは初めて食べる美味よ!
はーい十雉、千織
あーんしてあげる
甘えて頂戴
膝枕する?しない?何で?
うふふ
目の前がぐるぐるするわよう
十雉が3人くらいいて豪華ね
千織ったらいつの間に猫ちゃんみたいになったの?
もふもふしていい?だめ?何で??
眠くなってきたわ
丁度いいお布団がいるわね
フラップテイルでしたっけ
桜のお布団に変えてしまいましょ
橙樹・千織
【花酔】
美味しいお酒があると良いですねぇ
あら、お呪い?
朱の神様も心配性ですねぇ
ええ、楽しみましょう
2人にお酌し、しれっと水も飲ませ
桜酒とは風流ですねぇ
景色と共に舌鼓
まあ、おつまみ?
私も初めて見ますねぇ
進められるままもぐもぐ
ふふ、十雉さんこっちも美味しいですよ?
悪戯っぽく笑ってあーん、て
私は膝枕ご遠慮します…むしろしましょうか?
ほんのりほろ酔い気分
目眩に十雉さんが3人…お呪いしても酔ってしまうのね
私は最初から山猫ですよ
うふふ、嫌です
理由?気分ですかね?
ひょい、と尻尾を揺らしくすくす笑う
十雉さんは大丈夫?
様子を窺い覗き込む
このタイミングで来るなんて
貴女も災難ね
さて
どうやって櫻宵さん連れて帰ろう…
●
花見の席に酒の席。
気心知れたる友との席と、想い馳せればこの地を常舞う花の如く、心もふわりと舞うもので。
「お酒よー!私、お酒ってだぁいすき」
嬉々と踊るよな声音で笑み咲かせるのは、その身にも桜宿す、誘名・櫻宵(爛漫咲櫻・f02768)。
「うふふ、美味しいお酒があると良いですねぇ」
そんな櫻宵の笑みに己もまた笑み重ね、そう告げ隣を行くのは、橙樹・千織(藍櫻を舞唄う面影草・f02428)。
「今日はね、酔い潰れないよう神様にお呪いかけてもらったの」
そう告げる櫻宵の表情は先と同じく明るくも、其の眼差しには柔と緩むものがあり。
「あら、お呪い?朱の神様も心配性ですねぇ」
「へぇ、お呪いを。大事にされてんだなぁ、櫻宵」
其の眼差しに、お呪いの響きに、櫻宵へと其れを施した朱き神の姿を浮かべた千織の言に続き、言の葉を重ねたのは宵雛花・十雉(奇々傀々・f23050)だ。
なぜそんな御呪いが必要なのか、なぜ其の朱き神が心配をしたのか、其の真意をまだ彼は知る由もなく。
「ま、お呪いがついてんなら、悪酔いすることもねぇだろ」
――へーきへーき、ささ、飲もうぜ。
呑気なまでに軽く告げた十雉の言葉で、ひらひらと舞う桜の下、彼らの宴は幕を上げる。
「十雉、千織、飲んで食べて騒ぎましょ」
そう告げては満面の笑みで、櫻宵はふたりの盃に桜酒をついでいく。
「ええ、楽しみましょう」
と、笑んだ千織も桜の酒をその盃に受け、十雉の杯も満たされて、其々の手元に桜の美酒が行き渡ったなら、乾杯といたしましょう。
「桜酒とは風流ですねぇ」
千織は手にした杯を傾けて、景色と共に舌鼓。そんな言葉に笑み深め、同じよに桜を見上げる櫻宵も上機嫌。
「花見をしながらお酒を飲む……素敵な一時ね!」
幸せそうに笑みながら、ふたりにお酌を続ける櫻宵の杯へ、千織もまた注ぎ返す。そう、時にしれっと水も混ぜながら。
ふたりの美女から代わる代わるに酌を受ける十雉も頬をやわと緩めて。
「いやぁ、綺麗どころ2人に囲まれちまって」
――酒も旨くなるってもんさ。
くい、と、飲み干した盃片手に花を見上げれば、はらはらと舞う薄紅の数が、何だかすこしばかり増えたような気もして。
「花が嫉妬しちまうかもなぁ」
なんで軽口も、ふわりと浮くよな気分の中なら、自然と溢れてしまうもの。
いい感じに喉が潤ってきたならば、酒には肴もつきもので。そうだわ、とパチンと手鳴らす櫻宵は、がさごそと。
「お酒に合うおつまみも分けてもらったの!」
道中、海賊達に分けて貰ったおつまみを、夜桜柄の重箱に詰め、ふたりの前に広げた。
「まあ、おつまみ?」
興味津々に視線を向けた千織の目に映るのは、己の知る馴染みのものもあれば、この地の郷土料理だろうか、はたまた海を超えてきたものか、初めて見る其れもある。
「これも美味しいし、こっちは初めて食べる美味よ!」
彼らから貰う際に味見もして来たのだろうか、眺めるふたりに料理を指し示しながら勧める櫻宵の顔はご機嫌で。
「ええ、これは私も初めて見ますねぇ」
ならば頂こう、と、勧められた其れへと自ら箸を伸ばす前に、にこやかな櫻宵の手に制止をされて。
「はーい十雉、千織、あーんしてあげる」
ひょいとその料理を摘んだ櫻宵の箸が、ふたりにむけて差し出され、顔見合わせたふたりはくすりと笑い。
「お、食わせてくれんのかい?悪いなぁ。んじゃあお言葉に甘えて……」
そう告げた十雉の口へとまずはひとつ。そうして、異なるツマミを今度は千織へと。
櫻宵に勧められるまま、もぐもぐと食んだ千織は、あら、と口に手を当てて。
「ふふ、十雉さん、こっちも美味しいですよ?」
櫻宵から受けた一口を彼が飲み下したのを確認し、悪戯っぽく笑ったなら、今度は千織が十雉へとあーん、て。彼もまた、そのまま素直に口へと迎え入れたなら、口に広がる自然の恵みと優しくも記憶に残る味。
「お、ほんとだ。どっちも酒に合って旨いや」
いやぁ、なんだか甘えちまってるなぁ、なんて。そんな言葉もついて出たなら、耳に拾った櫻宵は満足げに微笑んで。
「うふふ、存分に甘えて頂戴。……膝枕する?」
なんて、ふたりにそんな提案を。
「私は膝枕、ご遠慮します」
うふふ、と笑いを重ねて返したのちに、
――……むしろしましょうか?
と、微笑む千織の言葉も重なって、ふたりの視線は十雉へと。
「ひ、膝枕はさすがに遠慮しとくよ」
じ、と四つの眸を受けたなら、彼の声も吃って。
結局、どちらにも受け入れられながった櫻宵の膝枕。ぷ、と音を立てるよに頬膨らませ、
――……しない?何で?
拗ねたよな、そんな仕草を、問いを、真っ直ぐな視線と共に受けたなら。
「なんでって……そりゃあ、恥ずかしい、から?」
しどろもどろに、視線逸らして告げる十雉の頬は、ほんのり桜色。
あゝ、そんな和やかなやりとりを交わしながら、ほんのりほろ酔い気分を味わいながら、三人の時は過ぎてゆく。交わす杯の数も増え、幾つかの酒が空いた頃。
うふふ、と幸せそな笑い声を上げた櫻宵の様子が何やらおかしい。
「目の前がぐるぐるするわよう。あら、十雉が3人くらいいて豪華ね!」
突然発されたその言葉に、えっ?と櫻宵を見返すふたりの顔。
「目眩に、十雉さんが3人……お呪いしても酔ってしまうのね」
告げた千織の言葉を受けて、ゆうるり視線が其方へ向けば、尚ご機嫌に。
「あらあら、それに千織ったら、いつの間に猫ちゃんみたいになったの?」
「櫻宵さん、私は最初から山猫ですよ」
「おいおい、櫻宵さん、オレは1人しかいねぇよ。千織さんが猫なのもそうだし……」
告げるふたりの声を他所に、うっとりとまなこを緩ませて。そんな櫻宵の様子に段々と違和感を覚える十雉の横。
――もふもふしていい?
すす、と、その指先を伸ばし、彼女の柔らかな尻尾に触れるよに、千織に近づく櫻宵であったが、にっこりと笑み向けた彼女はきっぱりと。
「うふふ、嫌です」
「……だめ?何で??」
駄々をこねるこどものよに、むうと視線向けた櫻宵へと笑み返しつつ。
「理由?気分ですかね?」
ひょい、と逃げるよに尻尾を揺らし、くすくす笑う千織はあしらいに慣れている様子。
ふと、同席の彼はどうかしらと視線を向けて、様子を窺い覗き込む。
「十雉さんは大丈夫?」
「おう、オレは平気さ」
問いに、己の無事を返し告げ、それにしても……と改めて、ふにゃふにゃと夢心地な視線の櫻宵をその瞳に映し。
「千織さん、もしかしてこれが噂に聞く酔っ払いモードかい?」
問う彼に、苦笑い気味に千織が頷きで答えた、その時だった。
酒の匂いに、酔いの雰囲気に誘われた紅き女海賊ががさりと茂みから姿を表す。
はっと振り向くふたりの横、ふわぁ、と櫻宵は欠伸ひとつ。
「……眠くなってきたわ。あら、丁度いいお布団がいるわね」
――……フラップテイル、でしたっけ。
そのふわふわの姿をみとめれば、にいまり、口元に弧を描き、うふふ、と笑う櫻宵がゆったりとその身を起こしたならば、
「桜のお布団に変えてしまいましょ」
いい獲物を見つけた、と、眸が怪しくきらりと光る。そんな櫻宵の姿を見たならば、あらあら、と、千織は小さく声を溢して。
「このタイミングで来るなんて、貴女も災難ね」
「やれやれ、早いとこ布団にでも何でも寝かしつけてやろ」
顔を見合わせ武器構えたふたりと、お布団……と譫言のように呟きながら、桜化の力を繰り出す櫻宵により、その力の一部を桜布団の糧にされた憐れな元女海賊が、早々に尻尾を巻いて逃げ出すのはお約束の流れ。
静かになった桜吹雪の中。
目の前には、薄紅色の花弁でできた布団に横たわる櫻宵の姿。ふたりの視線を受けながら、すやすやと気持ちよさそうに眠る様子は、しばらく目覚める気配がないだろう。
――……さて、どうやって櫻宵さん連れて帰ろう。
途方に暮れたよな千織の声が風に溶け、或る意味、敵襲よりも深く頭を抱える問題が、薄紅に染まるその地に残されていた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
榎本・英
助手君(f22865)
助手君から受け取った料理を食べよう。
飲み物は君と同じ葡萄のジュース。
しかし、海賊の食事はとても豪華だね。
新鮮な海に幸が多めだ。
さて、助手君。
この魚はとても新鮮だ。
君にもあげよう。ぜひ食べてみて呉れ。
此方の貝も美味しい。
君の枝に興味津々のナツ。
君と言葉を交わし感想を聞いていると
ナツが君で遊び始めたではないか。
嗚呼。すまないね。
隣の海賊も混ざって賑やかな踊りに合いの手を入れよう。
私は近くの海賊と茶化しながら食事を進める。
おや。彼方に目的の者が。
鱈腹食べたら運動もしなければならないね。
行こうか。
雨野・雲珠
榎本先生と/f22898
※著作のファン
へへへ、榎本先生と二人でなんて夢のようです!
入った先でご一緒したことは何度もありますが、
二人で連れ立ってというのは初めてです。
全国の愛読者の方々に申し訳ない気持ち
わぁ、光栄です。いただきます!
白葡萄のジュースを飲みつつ、おいしいお魚を頂きつつ。
最近の新作について熱い感想をお伝えしながら
猫のナツさんともみくちゃになっています
は。楽しくて目的を忘れそうですが
これは天岩戸作戦…と思ったところで歌が始まりました。
歌と踊り。これです!
海賊さんと片腕を組んで、くるくる回ってみせましょう
♪荒波越えて海の果て、辿り着いたのは十五人…
――あ、見つけた!榎本先生、あそこです!
●
この島の各地にて、等しく桜は咲き綻んでいる。
其れは彼らの過ごすこの場所も同じくで、ふたりは海辺の桜を眺めつつ、ゆるりと歩を進めていた。
「へへへ、榎本先生と二人でなんて夢のようです!」
その頭部に桜の枝を宿し、嬉々として語りかけるのは、雨野・雲珠(慚愧・f22865)。彼の隣をゆく榎本・英(人である・f22898)が手掛けし著作のファンである雲珠の裡は、春めいた今日の日和のよに浮き立つようで、それは見上げる眸にも、語り掛ける声音にも顕れている。
何気なき日常の日々を、会話をと、共に重ねゆく機会であったり、同じ猟兵として、戦場や行き先で偶々顔を合わせる事などはこれまでにもあったけれど、こうして、ふたり連れ立って出かけられる機会となれば初めてで。
其れは、彼のファンである雲珠にとっては眩い時間。
――ちょっぴり、全国の愛読者の方々に申し訳ない気持ちです。
贅沢な現状を受けて、そわりと裡へも抱くものありながら、けれども折角の機会なのだ、素直に楽しまなければ損というもの。
ふつ、と浮き上がった其れに蓋をして、海辺を賑やかに彩る各所の宴会場から、そうして料理等を振る舞いゆく屋台から、と、掛かる声に瞳をきょろり。
賑やかなその空間は、英の赤き眸をも誘い往き、そうして、誘われるのはふたりだけではない。英の足元をついて歩く真白の仔。そう、仔猫のナツもまた、舞う桜の軌道に、香る料理に賑やかな声にと、ぴくりぴくりと耳や尾を反応させている。
過ごす場所を決めたなら、揃いの白葡萄の発砲ジュースを手に、乾杯がしたいお年頃なのです、と。そう告げた雲珠の要望も在り、和やかな乾杯の声が重なった。
彼らの前に並ぶ皿には、雲珠が英の分のジュースを取りに行った際、これもと添えてくれたチーズや果物、そうして戻る道中にも、彼方此方の海賊達からこれももってけと、次々に盛られていった料理が山と積んである。
「しかし、海賊の食事はとても豪華だね。新鮮な海に幸が多めだ」
目の前に並ぶ料理の数々に、にこやかにとそう告げて、英が最初に手を伸ばしたのは魚の刺身。
すぐ傍の海でとれた新鮮な物であればこそ、刃を入れたそれだけで十分に美味である。ぷりぷりとした身の食感も、舌を楽しませる魚の旨味と甘やかさも、頬を綻ばせるに十分で。
目の前で、ジュースを口に含んでいる彼にもこの味を、と、皿を其方へ寄せながら。
「さて、助手君。この魚はとても新鮮だ」
――君にもあげよう。ぜひ食べてみて呉れ。
「わぁ、光栄です。いただきます!」
彼から差し出された刺身の皿を受け取って、憧れの先生から勧めて頂けることの光栄さをも料理と共に噛みしめながら、その美味に、喜びにと零れ落ちそな頬を空いた手でそっと支えて。
そうして、大好きな著作の作家先生が目の前にいるとなれば、雲珠の話題は彼の最近の新作についても傾いて。其の著から受けた感動や、描写の細部に至るまで、熱い感想を伝え往く。語るものに熱入れば、自ずと力もまた入るもので、雲珠の両手は何時しか握り拳だ。
そんな様子の彼を微笑ましく眺めながら、伝わる感想の一つ一つを喜ばしくも裡へと刻みながら、言の葉をも交わし往く。眼端に捉えた白猫が、雲珠の頭の枝に興味を示しているのには気づいていたが、未だ目の前の料理が優先のよな真白の仔。まだ平気だろうと、一度視界から外し、彼の話の肴にと英が次に手を伸ばしたのは帆立貝のカルパッチョ。
「うん、此方の貝も美味しい」
そう、少しばかり舌鼓に意識を向けたその隙に、わぁ!という声が上がり、熱い語りが中断された。
ん、と視線を戻した英の眸に映ったのは、すっかりお腹が満たされて遊びにスイッチが切り替わった白猫のナツが雲珠をもみくちゃにしている姿。
「嗚呼。すまないね。ナツも構って欲しくなってしまったようだ」
「いえいえ!お猫さん、可愛いですし!遊んで頂けて光栄です、ナツさん」
けれども少し、手加減は欲しい所でもあるけれど。そんな事を思ったかどうかは定かではないが、わちゃわちゃと戯れる猫と青年。
そこではた、と気付いた様に、転がり戯れ往く雲珠の眸がぱちりと大きく瞬いて。
「は。楽しくて目的を忘れそうですが、これは天岩戸作戦……」
そこまで告げた彼の耳に、砂浜で踊り歌う海賊達の声が聞こえてくる。
「――……歌と踊り。これです!」
がばっ、と起き上がった彼が戯れていたナツを英に預け、行ってきます、と添えたなら、歌い踊る海賊達の輪に加わりに往く。
一緒に騒げるのは大歓迎、と、訪れた雲珠を快く迎え入れた海賊達と、片腕を組んでくるくる回って、此方を見ている英へと手を振った。
その姿を見とめた英もまた、隣の海賊とも混ざって賑やかな踊りに合いの手を入れるのだ。踊りに加わるのは聊か性に合わないが、あゝその分賑やかに、と。近くの海賊と茶化しながら楽しげに食事を進め、さり気なく場を盛り上げてゆく。
――荒波越えて海の果て、辿り着いたのは十五人……
通りゆく雲珠の歌声が、波間を抜ける海風に、舞う花弁にと乗ったなら。
「――あ、見つけた!榎本先生、あそこです!」
賑やかに歌い踊る声にと誘い出された紅き女が姿を見せた。雲珠の挙げた声と指先を追い、英もまたその姿を認知して。
「おや。彼方に目的の者が」
――鱈腹食べたら、運動もしなければならないね。
ゆっくりと立ち上がれば、共に食事をしていた海賊達へと一言添えて席を後にし、それぞれ異なる場所にいたふたりは並び立つ。
「行こうか。助手君」
「はい、榎本先生!」
ここからは暫し仕事のひと時、背負う箱宮から角に花咲く神鹿を喚び出した雲珠と、手に糸切鋏を携えた英はラムの香り纏う女と対峙する。
あゝ、怒れる女を鎮めたならば、今一度、桜舞う中乾杯しようと約束をして。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
花川・小町
【花守】
美味しいお酒と晴れやかな花々を心行くまで楽しんで良いだなんて、もう最高よね
――なのに伊織ちゃん、貴方は私を放って何処へ行く気?
うふふ、そういう事
貴方も、逃がさないからね
(天上に花、両手にも花――桜の下で、男衆より寧ろ美人海賊ちゃん達ときゃっきゃと酒盛始め)
お花にお酒にお料理――極めつけは女の子達まで、見渡す限り花も恥じらう瑞々しさで本当に極楽気分だわ
(上機嫌に盃交わしつつ、伊織ちゃんの下心を察せば――さらりとひよこ団子を取り分けたお皿で阻止し)
もう、がっつかないの
上機嫌序でに花弁と戯れる様に舞を一差――流れる様に誘き寄せた敵へUC衝撃波
ええ―せめてぱあっと、彼女は送り出してあげましょ
呉羽・伊織
【花守】
良い風情と風習が息衝く島だな
(花も笑顔も満開な様子と響く言葉に笑み)
んじゃ俺も彼処の美人サンとこの喜ばしい心地を分かち合いに――
だって姐サン!
邪魔者(ヒトを食物にする狐野郎というオマケ)がいるじゃんか~!
(姐サン一人勝ちの様相に
桜見上げ現実逃避したのも束の間――
すぐに腹満つ馳走も心満つ空気も楽しみ)
ウン、心身の保養にゃ持ってこいだ
あ、お嬢サン、俺にもソレ一口味見させ…うっ
(海賊チャンに声掛けた矢先
食べ辛い品渡され硬直)
料理は勿論美味しいケド!
ちょっとぐらい美味しい想いもさせてー!
煩いぞ狐!
敵察せば余興の奇術の如く
UCでさっと風切見舞
此の海に在ってはらなぬ者は、骸の海の海へ“お還り”、な
佳月・清宵
【花守】
空気も景色も華やかの一言に尽きるな、重畳重畳
佳き日に良き酒――其処に水差す影は払い、此方も愉しくやるとするか
(逃げる肴もとい伊織をひっ掴み)
またてめぇが玉砕して涙目で帰ってくる結末を防いでやったってのに、邪魔者たァ心外だ
ま、観念しな
今日の任は逃がさねぇ事、だからなァ?
(茶番も三者三様も毎度の事――二人の様子すらも肴に悠々と酒と花を満喫し)
水が良いと花も食も際立つな
酒も一等味わい深くなるってモンだ
(と、また始まった茶番に手を打ち笑い)
喉を潤し腹は満てども、花や春と無縁の渇いた野郎ばかりはどうしようもねぇなァ
敵察知時は合わせてUCで送火を
最早元の身にも還れぬならば
せめて盛大な餞を食らってけ
●
見上げし空は青々と高く広がりて、小高い場から臨んだならば、眼下には海の青もと見て取れる。視線を島の内へと向けたなら、巨大桜の姿も眸に映るのは言うまでもなく。
空気も景色も華やかの一言に尽きるな、と。身を包む全てに思いを寄せて、重畳重畳と口にするのは、佳月・清宵(霞・f14015)。
そして、視線を遥か先から近くへ寄せたなら、感じ行けるのは桜花の花弁が舞う其処で、宴と交わされる“おかえりなさい”。
「良い風情と風習が息衝く島だな」
すぐ側にて咲き誇る、花も笑顔も満開な様子と響く言葉に笑み乍ら、そんな声が思わず零れ往くのは、呉羽・伊織(翳・f03578)だ。
視覚のみならず、嗅覚にも意識向ければ、芳しい酒の香りや食欲そそる料理の香りが彼方此方で。
「美味しいお酒と晴れやかな花々を心行くまで楽しんで良いだなんて、もう最高よね」
頬に手を当てうっとりとした眸で告げたのは、花川・小町(花遊・f03026)。
三者三様、島より受ける印象を口にして。
「佳き日に良き酒――其処に水差す影は払い、此方も愉しくやるとするか」
あたたかくも賑やかな、宴の日。差す影払う仕事も忘れてはならないが、愉しむことこそ其処に繋がる。
「んじゃ俺も、彼処の美人サンとこの喜ばしい心地を分かち合いに――」
耳に拾った清宵の言葉にしたり顔で頷いて、ならば己は己の愉しみを、と、この場を後にすべく踏み出しかけた伊織の片足は、前へと進むこと叶わずその身ごと後ろへ引き戻される。
ぐえ。そんな声が聞こえた気がした。
「ホント最高……なのに伊織ちゃん、貴方は私を放って何処へ行く気?」
清宵により、首根っこを引っ掴まれた伊織に向かい、艶やかな笑みを浮かべた小町が一歩あゆみ寄り、その顔を覗き込む。
様々な想いを湛えた眸に真っ直ぐと見据えられ、う、と呻き声を上げながら彼は言葉を返す。
「だって姐サン!邪魔者がいるじゃんか~!」
“邪魔者”。伊織曰く、常日頃、己の事を食い物にする狐野郎……もとい、現在己を拘束している清宵を、じとと睨みながらそう告げて、ばたばたとその手から逃げるべく両の手足をばたつかせる。
「おっと、またてめぇが玉砕して、涙目で帰ってくる結末を防いでやったってのに」
――邪魔者たァ、心外だ。
ばたつかせる彼の動きなど意に介さぬよに、にや、と笑みを浮かべ告げた清宵の言葉を、小町が引き継ぐ。
「うふふ、そういう事」
満足げな笑みを浮かべた彼女の顔に、う、と彼は動きを止める。
「ま、観念しな、今日の任は逃がさねぇ事、だからなァ?」
掴んだ首根っこ其の儘に、ずるずると引きずられるよに清宵に連れて行かれる伊織は、嗚呼……と、桜降る空を見上げた。
「……貴方も、逃がさないからね」
そんなふたりの背を見つめ、ぽつりと笑み交じりに呟いた小町の言の葉は、先行く彼にも届いたかどうか。どちらであろうと、彼女の思う儘と為るのだろう。其れがこの三人の恒でもあるのだから。
そんな先のやり取りから、暫しの時が経ち往きて。
場は舞う花弁に、頭上を彩る桜花、酒宴の賑やかさと華やぐ桜咲く広場の一角。
天上に花、両手にも花。
そう満足げな詞を零しつつ、桜の下できゃっきゃと酒盛を始めた小町の傍には男衆より寧ろ、麗しき女性の海賊達が添うように華を咲かせて。
「お花にお酒にお料理……極めつけは女の子達まで」
――見渡す限り花も恥じらう瑞々しさで、本当に極楽気分だわ。
満足げな笑みを浮かべ上機嫌に傍の彼女らと盃交わしゆく。そんな小町一人勝ちの様な様相に、桜見上げ現実逃避。目の前で繰り広げられる茶番も、三者三様も毎度の事、と。二人の様子すらも肴に悠々と、酒と花を満喫しゆく清宵の杯に一片の桜の花弁が舞い降りた。そんな薄紅に、ふ、とまたひとつ笑みを零して。
「水が良いと花も食も際立つな。酒も一等味わい深くなるってモンだ」
と、周囲の賑やかさを横目に手元の杯を、つまみを楽しんでゆく。
さて、伊織はと言えば、はらはらと舞う桜の景に現実逃避をしていたのも束の間。伸ばす箸先、腹満つ馳走も、口を喉をと潤す酒の甘さも、心満つ場の空気もと、気付けばすっかり楽しみゆきて。
「ウン、心身の保養にゃ持ってこいだ」
――あ、お嬢サン、俺にもソレ一口味見させ……うっ!
すっかり気も取り直した様子の彼が、女海賊の一人にそう声を掛けた矢先、その言葉と行動に籠められた伊織の下心を察した小町が、さらりとひよこ団子を取り分けたお皿を彼と彼女の間に滑り込ませ、彼の目論みを素早く阻止する。
「……もう、がっつかないの」
そんな言葉と共に、己の目論みを阻止されただけでなく、食べ辛い品渡され硬直し。
「料理は勿論美味しいケド!ちょっとぐらい美味しい想いもさせてー!」
嘆き再び天を仰ぐ彼の様、一連のふたりの戯れめいたやり取りを眺めれば、清宵は再び始まった茶番に手を打ち笑い。
「喉を潤し腹は満てども、花や春と無縁の渇いた野郎ばかりはどうしようもねぇなァ」
「煩いぞ狐!」
あゝ、そのやり取りも、この三人における心地好き予定調和。
そんな賑やかな酒宴の席。
その場に満ち行く楽しげな空気に誘われるよに、ふら、と、その身に傷も増え行き身も聊か揺らぎながらも、褪せぬ焦燥感を纏うた獣の身をした女が現れる。
現れた彼女の存在を察知した三人は、その視線を此方へ向かい来る身へと向けた。
すかさず、率先して動いたのは伊織だ。先程までの雰囲気はひたと潜めて、されども飄々とした空気は消すことなく地を蹴った。
其れは宛ら宴の余興、奇術の如く。翻したその身から闇色染まりし暗器たる風切を見舞う。
伊織の姿を視界に捉え、其の手に握る杯より呪われしラム酒を放つ紅き女であったが、疾風の如き速さでその軌道を見切った彼には当たらない。
「ちぃ!ちょこまかと、鬱陶しい男だね!」
「ちょ、酷い言い草ぁ!敵にまでそんなこと言われるー?」
余裕からか、そんな軽口も交える彼の言葉に笑み一つ、上機嫌序でに花弁と戯れる様に舞を一差、と。流れる様に舞に乗せて衝撃波を放ち往くのは小町の技。其処に重ね飛ぶのは清宵の放つ狐火の炎。燃ゆる炎の中舞う様は、神事における神楽の様。
桜に舞う暗器に焔に衝撃波。此処に至るまでにも、体力削られ続けた紅のフラップテイルは、既に立っているのもやっとだ。其れでも、立つのは裡に在る渇望故か、はたまた窺い知れぬ何かを抱いているのか。対峙する彼らは其れを想像するしか出来ないけれど、彼女を如何するべきであるのかは、“知って”いる。
次で最期だと、頷き合えば呼吸を合わせ。
「ええ、せめてぱあっと、彼女は送り出してあげましょ」
「最早元の身にも還れぬならば、せめて盛大な餞を食らってけ」
「此の海に在ってはらなぬ者は、骸の海の海へ“お還り”、な」
贈る言葉も想いもまた、三者三様。
同時に繰り出す力は三種重って、酔えぬ女を呑込んだ。
その身の呪いを今は剥がすことは叶わずも
“還る”海にて、ひとときの眠りに抱かれますよう
願いを篭めて、貴女を送る“おかえりなさい”
あゝ、彼らの紡いだ其れも一つと加え、
今日と言う日に交わされる言の葉は、想いは、桜花と共に島内を満たしていった。
大成功
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