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羅針盤戦争〜not

#グリードオーシャン #羅針盤戦争 #七大海嘯 #メロディア・グリード

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●愛ではなく
 ある海域に突然、無数の七大海嘯『桜花』メロディア・グリードが姿を現した。

 水面をビロードの絨毯のように踏みしめて、むせ返るような甘い香りを漂わせ。麗しの竜王が次々と姿を現す。その数、数千。捨て置けば、数万にすら至りかねないほど。

 だが、そのどれもがメロディア・グリード本人ではない。

 豪奢にして繊細な艶姿は菓子細工。滑らかな水面はチョコレート。
 海底までチョコレートで満たされたこの海域は、「増殖する私の残滓達」そのもの。
 これが、無数のメロディア・グリード出現のからくりである。
 彼女は、『王笏』カルロス・グリードの助けとなるべく、一計を案じたのだ。

 その際に彼女は、己が想いを否定した。
 これは感情に基づく行いではない。利害関係に基づいた行いだと。よって、命を賭しても問題ないのだと。論理的に導いた答えによって、自己犠牲めいた献身を良しとした。

 七大海嘯『桜花』本人と同等の攻撃力を持つ分身による、海域内一斉攻撃。
 それをもって、海域内の猟兵を殲滅するのだと。
 竜王たる己を娶ったカルロス・グリードを、死なせる訳にはいかないのだから。

●手をこまねく暇もなく
 鳴滝・久遠(The Cyber-Sibyl・f03865)曰く、ことのあらましはこうだ。
 ある海域の海水全てがチョコレートに変わり、七大海嘯『桜花』メロディア・グリードの分身が無数に現れた。この戦時下で、これを捨て置いていい理由はない。よって、猟兵たちに対処を依頼したいと。
「端から見たらべた惚れよね、コレ。甘すぎて胸焼けしそう。本人は、論理的に判断を下したつもりでしょうけど」
 説明の最中、久遠はぼやく。ツインテールの先を弄って、唇をとがらせ。
「まあいいけど。鉄甲船は出すから、ぶっ叩いてきてちょうだい。攻撃力に目をつぶれば、数だけの相手だから。何せ、スイーツの塊だからね」
 ただ、その攻撃力が最大の問題点である。
 単発でも危険だし、散発的な攻撃が偶然重なるだけでも、十分過ぎるほどの脅威となり得る。もしも海域内一斉攻撃などされた暁には、海域内の猟兵たちが丸ごと殲滅されかねない。
「どう対処するか……ううん、攻撃タイミングを反らす? とにかく急いで数を減らす? 海域全体が敵みたいなものだけど、チョコレートって水より固まりやすいのよね……」
 久遠は、眉根を寄せてしばらく唸ると。ツインテールの毛先を人差し指にぐるぐる巻き付けては解し、思考を巡らせて。
「あっちは論理的に効率よく猟兵を殲滅するつもりだから、一斉攻撃に移る前に、何らかの予兆はあるはず。現場でそれを見切って対処すれば、こっちが有利になるはずなんだけど……」
 一斉攻撃への対処法として使えそうな要素を、幾つか列挙した。
「あなたたちなら、きっとやれる。だって、今までやってきたことの積み重ねが、七大海嘯『桜花』のこの行動を引き出したんだから」
 最後に、猟兵たちへそう告げる際には、手指の動きはすっかり止まり。瞳にも、猟兵たちを信頼する輝きが宿っていた。


貴宮凛
●ごあいさつ
 大変ご無沙汰しております。初めましての方は初めまして。貴宮凛でございます。
 突如として現れた「増殖する私の残滓達(スイート・メロディア)」の殲滅シナリオをお届けします。

●戦場と敵
 戦場は、溶けたチョコレートで満たされた海域です。熱くはありませんが、非常に滑らかです。海底までチョコレートたっぷりですが、ユーベルコードで固めたり、変化させることは可能でしょう。
 また、敵となる「増殖する私の残滓達(スイート・メロディア)」は、チョコレートやキャンディなどの菓子細工で出来ています。ですので、耐久力は高くありません。
 ただし、攻撃力は七大海嘯『桜花』本人と同等。それが数百数千飛んでくるのですから、何カ所かに偶然攻撃が重なっただけでも大惨事。海域内一斉攻撃が発生した暁には、いったいどうなることか。お察しください。

●プレイングボーナス
 一斉攻撃を受ける前に、可能な限り多くの「増殖する私の残滓達」を倒す。

 様々な手を講じて、一斉攻撃開始の予兆を引き出す。
(このシナリオのみの要素です)

 以上二点、いずれかの要素に基づいたプレイングには、ボーナスを差し上げます。
 活用して頂ければ幸いです。

 それでは、皆様のプレイングをお待ちしております。
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第1章 集団戦 『増殖する私の残滓『スイート・メロディア』』

POW   :    スイート・エンブレイス
【甘い香りと共に抱きしめること】による超高速かつ大威力の一撃を放つ。ただし、自身から30cm以内の対象にしか使えない。
SPD   :    キャンディ・ラプソディ
【肉体を切り離して作った毒入りキャンディ】を給仕している間、戦場にいる肉体を切り離して作った毒入りキャンディを楽しんでいない対象全ての行動速度を5分の1にする。
WIZ   :    チョコレート・ローズ
対象の攻撃を軽減する【融解体】に変身しつつ、【毒を帯びた薔薇の花型チョコレート】で攻撃する。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。

イラスト:hina

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●その献身に限り無く
 猟兵たちがまず目にしたのは、茶褐色を基調とした広大な海原。
 風に合わせて寄せては返し、荒れては波頭を大きくもたげ。運悪くその場に居合わせたものを、波間に飲み込み押し潰す。海水そのもののように振る舞うチョコレートの海。
 続いて目にしたのは、波頭に、波間に、偶然凪いだ海原に、海域のあらゆる所に現れる、豪奢なドレスを纏った艶姿。ある者は波の背を階段のように昇っては、別の分身と互いに抱擁を交わし。ある者は波間に飲まれては溶けて、泡として失せ。凪いだ海原が不意に沸き立っては、薔薇の花を模したチョコレートの嵐と共に、新たな艶姿が現れる。
 これらを含めたこの海域全てが、猟兵たちが迎え撃つべき相手。増殖する私の残滓『スイート・メロディア』、七大海嘯『桜花』メロディア・グリードの似姿たち。海域全体を埋め尽くしては煌めく、献身の菓子細工たち。
 死ねぬ竜王の似姿たちが、死んではならぬ伴侶のために、ただただいたずらに散っていく。己が焦がれを恋と識らず、己が想いを愛と解らず。己を顧みることのない無限の献身を、利害関係ゆえの取引と誤認する、notで満ちあふれた海域。
 これを地獄と呼ばずして、何と呼ぶべきか。
 
ニィエン・バハムート
とりあえずはとにかく【先制攻撃】の【範囲攻撃】で爆鳴気炎を敵軍勢にぶっ放しますわ!
無限に増える炎と爆鳴気の爆発による【衝撃波】で敵を【蹂躙】し戦列を混乱させてやりますの!

【オーラ防御】で自分の技の爆発や敵の散発的な攻撃を防ぎつつ、【野生の勘】で一斉攻撃に移りそうなタイミングの予兆を見出します。
私の息吹による爆発や爆音で敵は動きづらいでしょうから、一斉攻撃の準備のための動きによる違和感の【情報収集】はしやすくなっている…と思いたいですわね。

いずれにしろ予兆を見出したら【水上歩行】【空中浮遊】を駆使し海面を駆け抜け逃げます。途中、衝撃波を自分に放って無理矢理加速したりもします。

殲滅してやりますわ!



●竜王の蹂躙は果てしなく
「無限に増え続ける竜王の残滓を迎え撃つには、竜王の息吹以外に有り得ませんわね! そう、バハムートは偉大なる竜王ですから!」
 先陣を切ったのは、ニィエン・バハムート(竜王のドラゴニアン(自称)・f26511)だった。
 鉄甲船のマストに陣取り、茶褐色の大海原を緑色の瞳で見据えると。ニィエンはすかさず、鮫魔術の最秘奥を行使した。
 放つのは、水属性の鮫魔法と電撃を組み合わせて放つ、無限連鎖の爆鳴気炎。竜王には竜王を、無限には無限を。最速にして最大の効果範囲を誇るこの術こそが、開幕を告げる号砲に相応しいとばかりに。
 始まりは指を鳴らした程度の破裂音と、小さな火種だった。それを海水面に落とすと、火種は瞬く間に大量の爆炎と化した。
 飴細工のドレスが瞬く間ににカラメルと化して爆ぜ、チョコレートの巻き髪は焼き固められて吹き飛び。悲鳴も何も、爆炎と共に拡散し続ける衝撃波がかき消して進む。
「先制攻撃、成功ですのよ。このまま蹂躙しますわ! 七大海嘯との力比べ、たまりませんわね……!」
 ニィエンはマストから飛び降り、自身が広げた爆炎の合間を、オーラを張ってすり抜け進む。
 ニィエン自身が偉大なる竜王バハムートそのものであったなら、ブレスのひと薙ぎで事足りただろう。だが、残念なことにそうではない。繰り出したこの秘奥こそがバハムートのブレスであると信じ、無限に再生を続ける『増殖する私の残滓』を、無限の破壊ではね除けるのみ。
(「落ち着きなさい、ロマンに酔うだけではいけません。どんな小さな切っ掛けも、見出して拾うのです。相手が一斉攻撃に移るのはいつですの、どこが起点ですの?」)
 至近距離で受ければ即ダウンさせられかねない残滓の抱擁を、爆炎で拒絶し。チョコレートの水面を蹴り、衝撃波を利用して加速し、爆炎の増殖速度が残滓のそれに劣りそうならば、更なる火種を蒔いて進む。爆鳴気炎を伴って進む道行きは、最早、平面を塗り潰して支配域を広げるような動きに留まらない。チョコレートの海水面ごと『増殖する私の残滓』を超高温で焼き固め、掘り進む。
 鳴り続ける爆音で、『増殖する私の残滓』の囁きは聞こえない。爆炎のせいで、視覚にだけ頼るのも難しい。
(「直感を信じるのです。私こそが、真なる竜王の具現。無限を無限で刈り取るもの。いずれこの場に訪れる無限の死を、はね除け征服するもの!」)
 七大海嘯『桜花』の分身たちも、ニィエンたち猟兵も、どちらかが圧倒的な有利を得て蹂躙するとは想定していない。相手に何もさせずに飲み込んでしまうのが最善手だが、そうは行くまい。手傷とは呼びがたい消耗を互いに強い、その果てに勝機を見出すはず。いたずらに焼かれて滅び、再生し増殖するだけではないはず。
 菓子細工の艶姿はニィエンを抱き締めること叶わず、チョコレートの海原はただただ爆炎に削られ。螺旋を描きながら、巨大な半球状に海面が削れていく。
「もしかして……海底ですの!?」
 この海域で、チョコレートに変わったのは海水のみ。チョコレートは水よりも固まりやすく、溶けやすい。
 また、グリードオーシャンにおいて、猟兵は鉄甲船を使わねばならず。転移や飛行は大きく制限される。
 そして、動力が何であれ、船は水面を割りながら滑る乗り物だ。
「皆様、鉄甲船の位置に注意してくださいませ! チョコレートの斜面を滑り落ちて海底にまで飲み込まれたその時が、その時こそが……!」
 ニィエンは叫ぶ。戦端を開いた直後に得られた戦果としては、これは最上級の部類に違いない。
 だが、戦闘全体としてはどうなるだろうか。爆炎は止められず、衝撃波は走り続ける。でなければ、勝敗を司る天秤の傾きは、あっさりと猟兵たちを見放すだろう。
 彼女の叫び声を聞くことが出来たものは、果たして、どれだけいるのだろうか。

大成功 🔵​🔵​🔵​

中村・裕美
「……メロディア・グリード……ってことは……フォーミュラと結婚してる? ……残滓ってのも……ラブの残滓的な? ……リア充か。……滅ぼそう」

『水中用UFO』でチョコの中を潜って移動。視界が悪くても電脳魔術で周囲を【ハッキング】【情報収集】して進む。チョコの中なら【目立たない】しね

「……一気に……殲滅するわ」
敵を見つけたら【エレクトロレギオン】を大量召喚して一斉攻撃。相手の攻撃力が高いなら、防御度外視で数攻めする

「……そろそろ……潮時かしら?」
こちらの位置がバレて攻撃されそうになったら撤退。毒のチョコには【毒耐性】である程度耐えられそうだけど、無理はしないでおく
レギオンの攻撃もオートに切り替えよう



●薔薇の花嵐にも果てはなく
 一方その頃、海中にて。
 鉄甲船の誰に挨拶することなく、この海域へと侵入した中村・裕美(捻じくれクラッカー・f01705)の姿があった。
 濃厚なチョコレート海の中には、当然、日の光など届くはずがない。視界ほぼゼロ、水よりも粘性の高く、そもそも海域全体が『増殖する私の残滓』であるという、悪質な環境下。その環境下でも行動可能な手段が、裕美にはあった。
 水中用UFOと、電脳魔術による情報収集、並びにハッキング。最初のひとつは水圧……チョコ圧対策を兼ね、後のふたつは裕美の十八番。周辺環境を解析して得られた結果を視覚化して常時監視し、目立たないよう、チョコレートの淀みに偽装しながら進めば良い。
 後は頃合いを見計らって、エレクトロレギオンをリリース。一気に殲滅するという手はずである。
 侵入は順調であった。海の上は何やら騒がしいが、チョコの中の裕美には無関係なこと。
 ほんともう、大騒ぎしたいリア充はリア充同士、勝手に爆発しあって欲しい。私を巻き込むな。
(「誰にも見えない……見られない、真っ暗な、中。……それだけなら悪くない、悪くない、けど」)
 周辺環境の解析結果を監視しつつ、ふと思う。七大海嘯『桜花』メロディア・グリード、カルロス・グリードに娶られた、死ねぬ竜王。娶られた、グリード、ああだこうだ言いながらも相手に尽くしてる系ムーブとしての、この事態。
(「……もしかして既婚者? つまり、リア充? ……このチョコも、ラブの残滓的な? そんなこと、知りたくなかった……」)
 裕美のテンションは、マイナスの下限を振り切った。
「……私、リア充の、中か……。まわり全部、リア充。……ヤバ。爆破しないと」
 裕美は決意した。
 滅ぼそう。殲滅する。それしかない。だってリア充とか無理、一番ヤバい毒だ。私、この毒にだけは耐えられる気がしない。
「……レギオンを……3機だけ浮上させて、威力偵察。……七大海嘯の攻撃に……耐えられるとは、思わない……けど。継戦時間が……見たい」
 金色の瞳がフロートウィンドウの上を忙しなく滑り、3機のエレクトロレギオンがチョコ海から浮上して、近場の『増殖する私の残滓』に切断攻撃を仕掛けた。エレクトロレギオンの脚部クローが『増殖する私の残滓』に触れると、菓子細工の艶姿は自らどろりと溶けて衝撃を吸収し。不定形のチョコレートの固まりになると、内部から薔薇の花型のチョコレートが打ち出される。
 チョコレートが掠めたエレクトロレギオンは、暫くして機能不全に陥って墜落し。どろりと溶けるようにしてチョコの海に沈んでゆく。
(「……やっぱり、毒。融解……ううん、蝕む、損なう、って概念の植え付けかしら? ……チョコの食べ過ぎで……虫歯になる、みたいな」)
 だが、姿を変えた『増殖する私の残滓』もまた、暫くしてチョコの海と同化してしまう。
(「……自滅した。周辺のチョコ濃度も、微妙に下がってる気がする。……あの薔薇チョコ、命がけの反撃みたいな……そういうもの?」)
 毒の効果も込みで算出した攻撃力は、裕美の想定通り、他の七大海嘯に匹敵するレベル。耐久力を度外視した設計のエレクトロレギオンでは、長時間は耐えられない。この水中用UFOにしても、どこまで耐えられたものか。
(「……リア充に押し潰されてリタイヤは、イヤ……。直掩は付けずに、マニュアルで一斉攻撃。頃合いを見てオートに切り替えて、退き際を見極めよう」)
 ハッキングによるステルス――リア充偽装を続けながら、裕美は攻勢に移った。
「……一気に……殲滅するわ」
 どこかのリア充が撒き散らす爆風の中、縦横無尽に黒い影が駆け巡る。
 時には、荒波をかいくぐって獲物を駆る海鳥のように、チョコレートの波間を抜け。また時には、自らチョコレートの海に飛び込み、小型の肉食魚の群れのように、水中を高速で駆け巡る。
(「470、465……420。……薔薇チョコの弾幕がキツい。密集させたらダメ、一気に減らされる。チョコが毒性を帯びなければ、チョコの中でも問題なく動けるみたいだけど。私の居場所が割れた場合が危険。レギオンからのフィードバックも活用して、ステルス制御プログラムを更新。……こんにゃろう、コミュ障の私がリア充の中で偽装し続けてるってどういう状況だ。……ほんと、リア充爆ぜろ。私は忙しくて死にそう……!」)
 悪態を吐く合間にも、裕美は手を止めない。海域に展開していた『増殖する私の残滓』が、次々に薔薇の花弁型チョコレートを吐きだし。やがて、チョコレートの嵐が巻き起こる。
 海域の水面は僅かずつ下がり、射出したエレクトロレギオンは数を減らし。ハッキングによるステルスで確保した安全圏も、だんだんと狭められていく。
「……そろそろ……潮時かしら?」
 わざと海底を露出させられて着底させられたら面倒だし、リア充のラブアピールに付き合い続ける気なんてない。
 予想される損傷が軽微な間に離脱するしかないと、裕美は決めていた。
 何せ、ここはリア充だらけの毒の海。いつ爆発するか解らない、どろっどろの火薬庫のようなところ。
 自分のようなコミュ障にとっては、守りを固めていないと辛い場所なのだから。

大成功 🔵​🔵​🔵​


●notの海域
 猟兵たちの動きは、じわじわと海面上の『増殖する私の残滓』の数を減らしていった。
 ビターにミルク、ルビーにホワイト。様々なチョコレートが無残に砕けては、海面にたゆたい。
 本物と見紛うほど精巧に作られた飴細工のドレスも、あるものは砕かれ、あるものは溶かされ、散っていった。
 けれど、いくら海面上の数を減らし続けても、菓子細工の艶姿は増殖を止めない。
 カカオとミルク、それに砂糖が焦げる甘い匂いが立ちこめる中。
 『増殖する私の残滓』は、口々に猟兵の行いを否定する。焼いても、凍らせても、吹き飛ばしても、抉っても。
 それはただの、一過性の痛みに過ぎないのだと。その積み重ねは無駄なのだと。皆、甘い抱擁からは逃れられないのだと。
 戦況は間違いなく、猟兵有利に傾いているはずなのに。
 口付けとともに犠牲者を水底に導く水の精のように、『増殖する私の残滓』は歌う。
ラモート・レーパー
「はぁ……」
 あまりの匂いや量に呆れ返っている。
UCを使って日差しを強めつつ、空気中に温室効果ガスを増やして気温を上げる。海が黒に近い分普通の海より熱の吸収率は高いでしょう。
気温を上げることによってチョコも飴も溶かす。成分が分離するほどに。
「甘ったるい。本来の苦味が全然ないんだけど」



●notの試練
「甘ったるい。本来の苦味が全然ないんだけど」
 ラモート・レーパー(生きた概念・f03606)は憂鬱だった。
 まず匂いが酷い。甘すぎる。砂糖に乳糖、この感じだと蜂蜜も混ざっているだろうか。とにかく、甘いとされているもの全ての匂いがするかのよう。
 続いて量が酷い。当然のことだが、多すぎる。数と力を兼ね備えれば圧倒出来ないものなどないと言うのは、個という概念に執着のあるものの理屈だ。増えたくない、死にたい、愛していない――だから命を無限に削ることで、足止めなどという真似をする。
 滑稽を通り越して呆れ果てるというもの。愛も菓子もただ甘ければ良いなどと、誰が決めた。
「『『』の名において試練を与える』。……水よ、苦くあれ。日よ、近うあれ。空よ、熱を帯びよ」
 ラモートは見た目こそ10歳に届くかどうかの幼子だが、纏う雰囲気は人のそれではない。
 白髪、白肌、黒瞳に黒装束の幼女という概念が、ただそこにある。そうとしか言いようのないものであった。
 よって、ラモートの操るユーベルコードもまた、酷く概念的なものであった。
 グリードオーシャンという世界に関する知識を下地に環境そのものを操作し、海域全体に影響を及ぼする力。環境自体が変質するので、命中した、しない、という観点は意味を成さない。この環境に適応できないものは死に、例え運良く適応出来たとしても、相手よりも環境に適応したラモートは力を増す。
 まるで、殺気と恐怖に満ちた世界、そのものの具現であるかのように。
 今回は、日射量と温室効果ガスの急造による気温の上昇という形で発現した。
 チョコも飴も熱に弱い。軽く温めた程度で色艶が変わり、簡単に形を失う。菓子細工の艶姿とて、その理の内にある。
 そのまま溶けて消えるのに抗おうとでもしたのか、毒を帯びた薔薇の花弁と化して散りはするものの。それがラモートにどこまでの痛手を与えているのか、全く解らない。
「カカオはさ、苦いんだ。今更講釈する必要なんてないだろうけど」
 カカオの実は血のように赤く、内側の豆は、そのままでは苦い。様々な手を加えてやっと、甘みを帯びたチョコレートになる。
 この試練で甘い混ざり物を剥いで、本来の苦みを取り戻させてあげよう。黒みの強い水面は、ただの海水よりも熱の吸収率が高かろう。水分を失い、成分が分離していけば、増殖速度にも影響が出ようもの。ましてや、この試練への対処が自滅めいた毒薔薇の嵐では、そう長く保つまい。
 次々に菓子細工の艶姿が無残な姿に変わり、日照りと、内に溜まる熱に対処しきれずに、薔薇の花弁を撒き散らして果てる。
 ラモートはそのただ中でひとり、佇むのみ。
 脆い菓子細工の分身とは言え、『増殖する私の残滓』の攻撃力は七大海嘯である本体と同等。ラモートという存在が異常なものだとしても、何の影響もないはずがない。衝撃が、毒が、蝕まぬはずがない。ただ、ラモートはそれを表に出すのを否定しているだけ。
 『増殖する私の残滓』が儚く溶けて揺らぐのならば、ラモートはその対を体現している。ただそれだけのこと。
「好きにさえずるといい。試練が終わる、そのときまで」
 容赦の無い日照りが海を乾かしきるか、愛を知らぬ甘味の海が、終焉すら飲み込み無限に拡大するか。
 終焉は、ここに具現化した。

成功 🔵​🔵​🔴​

百地・モユル
チョコレートもキャンディも、熱には弱いよね?
業火の一撃に炎の【属性攻撃】と【範囲攻撃】【なぎ払い】をのせて桜花の分身たちに攻撃
延焼したらほかの敵にもダメージがいくかも

ときどき足元も狙ったらチョコを溶かして相手の足場を不安定にできないかな

相手の攻撃には【カウンター】【咄嗟の一撃】【武器受け】で対応

【情報収集】【学習力】【戦闘知識】で一斉攻撃の予兆を悟れないかな?
わかれば周囲の仲間に伝えるよ

アドリブ絡み歓迎


マユラ・エリアル
うーむ甘いな甘い
あまあまだな
珈琲が必要なくらいあまあまだ
あと海も甘ったるい匂いで正直キツい…
食欲無くすな…
過ぎたるは猶及ばざるが如しとはこの事か


チョコレートの海を「水上歩行」しながら魔力を集中
「全力魔法」で足元のチョコを凍らせて足場を作ろう
後は右手の鉤爪in vitro worldで邪魔な分身体を「串刺し」にして処理しながら『氷刃展開』を発動
氷の刃をそれぞれバラバラで運用、上空に展開して狙いを定め分身体に向けて射出
氷刃の雨で一気に倒し、周囲の海を一気に冷やしてやろう

どうだ?
冷えたチョコレートは動き辛いだろう?
貴様の攻撃の動きも読み易くなる
これなら、一斉攻撃もまるっとお見通しだ

アドリブ等歓迎



●氷炎交わり、結びに至る
「……いったい何だ、この有様は」
 マユラ・エリアル(氷刃の行方・f01439)は、そうぼやかざるを得なかった。
 まず、甘い。匂いも場の雰囲気も何もかもが甘い。
 続いて暑い。とにかく暑い。チョコレートも飴も確かに熱に弱いし、ここは炎や熱を操る猟兵の見せ場でもあろう。
 だが、この気温は何かがおかしい。チョコレートの海面からはどんどん水分が蒸発し、油分が浮いて。七大海嘯『桜花』の分身たちも、チョコレートを主体とした姿から、飴の内側にチョコレートを内包する姿へと変貌を始めていた。
「この感覚、戦場全体レベルで誰かが何かを仕込んだな。このままでは、バレンタインデーがホワイトデーになってしまう。だが、『氷刃』の名は伊達ではないさ」
 チョコレートの海が油とココアパウダーの混合物になろうとも、接地面を凍らせ、マユラは走る。集中させた魔力を足場の維持と氷刃の生成に回し、道を塞ぐ分身たちを、右の鉤爪で貫き砕く。飴で固まった表面は容易に砕けるものの、至近距離の反撃はかわしきれず。毒の影響を強く受けないよう、舞い散る薔薇の花弁を曲線機動で避けては、生成した氷刃を次々に上空へと展開する。
 氷の刃は、強烈な陽光でも溶けることなく上空に留まり、術者の号令を待つ。
「……む。もしかして、この妙な高温は……」
「すっごいねえ、氷のお姉さん。氷で虫眼鏡作ってるの? 小学校で習ったよ! 虫眼鏡で太陽の光を集めると、簡単に火が点くんだ!」
 マユラがいくつ目かの分身を砕いたあたりで、偶然隣り合った百地・モユル(ももも・f03218)がそう言った。
 口調と態度は年相応の幼さを見せるものの、鉤爪の一撃はあくまで状況への対処、本命は別にあると見抜いた眼力は、歴戦の猟兵のそれ。
「マユラ・エリアル。氷刃だ。……私もそんな気はしていたが、狙っているのはそれではないんだ」
「へー、ひょーじん……マユラ……マユラさん! ボクはモユル、百地・モユル! 良ければ教えてくれる? ボク、手伝えるかも!」
 炎を纏ったルーンソードで分身体を纏めて薙ぎ払いつつ、モユルが訊ねる。紅蓮に輝く高熱の炎は、分身体を焼き尽くした後も延焼を続け、近場の分身体の接近を拒む壁となり。マユラが固めた足場を一部溶かしては、モユルに甘い抱擁を仕掛けようとした分身体のバランスを崩す。
「構わないよ。氷と炎、普段なら相容れない者同士だが、この場では有効かもしれない。……その前に、右回りに避けるといい。薔薇が来る」
 そこをマユラの鉤爪が貫く。薔薇の花弁を避けきれず、マユラの身体を掠めるも。傷口を一旦固めることで毒の回りを抑え込み。
「攻撃には大なり小なり予兆が伴う。防御と反撃の際には、その予兆を見切ることが有効だ」
「うん、知ってる。この分身たちが、一斉攻撃してきたらダメって聞いたし」
 超高速の抱擁をすれすれでかわし、モユルが返す。
「確かにチョコレートも飴も熱に弱い。だから皆、溶かして回っているようだが。それだけではダメだ。 融解体……薔薇の花弁を飛ばしてくる直前の状態をそう名付けたが、ああなってしまったら、解りにくいだろう?」
「うん。まとめて燃やしたり、足場をぐらぐらーって不安定にしちゃえば解りやすいかなって思ったけど」
「そこで、私の氷刃の出番だ。……チョコレートの海の様子が変だが、この程度なら問題ない」
「……あ! 解った!」
「飲み込みが早くて何よりだ。解りやすい合図を心がけるから、見逃さないでくれよ?」
 マユラは笑い、モユルと別れた。仕掛けるには、氷の刃の数がまだ足りない。
 モユルもモユルで、次々に分身体を薙ぎ払いながら。出会った猟兵に、マユラの狙いを説いて回った。
「とんでもなく暑くなったこの海に、氷の雨が降るんだ。そのときまで頑張って!」
 業火一閃、紅蓮の炎が戦場を焼く。時に空振りの隙を狙われて分身体の腕に捉えられそうになるも、捨て身めいた返し刃で斬って捨て。
(「だいたい、分身体から30cm。その距離にさえいなければ、大ダメージは受けずに済む。ってことは、数が減ってるなら怖くないってことだ!」)
 若さゆえの学習力が、モユルの撃破速度を更に加速した。他の猟兵と連携して、海上に出ている分身体を潰し続ければいい。
 相手が異常な環境への適応と再生に手間取っている間に、氷の刃の数が十分揃えば勝ちなのだから。
 そうして、猟兵たちがそれぞれの得手で分身体を撃破し続けると。
 不意に空に、異変が起きた。
「……虹?」
 薄ぼんやりとしてはいるものの、戦場の空に虹が架かったのだ。上空を埋め尽くす無数の氷の刃が、太陽光を屈折し、反射したせいだ。
「天網恢々、疎にして漏らさず。氷刃の名は伊達じゃないという事だ、覚悟しろ」
 上空に展開した数百本の氷刃が、戦場全域に次々に降り注ぐ。
 水分を失って粘性を増した海は、瞬く間に凍り付き。分身体の再生のためにと波打てば、ひびが走る有様で。
 ひびの走り方や、向き、幅。固まった海面の傾き。分身体が再生する箇所と、その密度。
 それらの情報に基づいて相手の狙いを見定めることなど、歴戦の猟兵たちには容易いことで。
 『増殖する私の残滓』が、船ごと海底に飲み込んで抱き締めると言うのなら、その前に全てを終わらせれば良い。
「今だよ皆! 一気にやっちゃえ!」
 そうして、戦いは終わりを告げた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2021年02月15日


挿絵イラスト