羅針盤戦争~性悪説の証明
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「やぁ、来てくれてありがとう。早速だけれど、「鮫牙」の本拠地に攻め込むことが出来るようになったようだよ」
贄波・エンラ(Liar Liar Liar・f29453)は、自らの呼びかけに応じて集まった猟兵たちの姿を見ると、咥えていた煙草の火を消してそう言った。
グリードオーシャンで現在も続けられている「羅針盤戦争」。この欲望の海を牛耳るコンキスタドールの首魁達「七大海嘯」の一廉、「鮫牙」ザンギャバス大帝。彼が存在する「鮫牙島」の在処が、蒼海羅針域の中から発見されたのだと言う。
「「鮫牙島」で、ザンギャバス大帝と戦って欲しいということなんだけれどね……まず念頭に置いてほしいのは、ザンギャバス大帝は「無敵」であるということだ。幸い、「長時間暴れると飢餓状態になり獅子のような姿になって撤退する」という弱点がある。だけど今回は彼に、その飢餓状態を回復させてしまうかもしれない可能性がある」
エンラの見た予知によれば。猟兵達が近づけば、「鮫牙島」は海中に急速潜航してしまうらしい。ザンギャバス大帝との戦いは畢竟、海中となる。
「スペースシップワールドで手に入れた宇宙服は海中にも適応している。これを使うことによって、水圧や呼吸の心配はしなくていい。尤も、水中で戦うことには変わりないから、そこは各々工夫して戦って欲しい。水中戦闘の技能なんかがあればそれは役に立つだろうね。……問題は、鮫牙島の周囲には「凄まじい数の巨大鮫」が泳ぎ回っているということだ」
戦闘によってザンギャバスを飢餓状態まで追い込んでも、空腹になった彼は鮫を貪り食う。故に、戦いの鍵はどうやってこの無数の鮫を遠ざけるか、にかかってくるだろう。
「ザンギャバス自身はすでに知っているかも知れないけれど、極めて知能が低い。白痴と呼んで構わないだろうね。だから、作戦や策略は極めて有効になるよ。……それから、この戦いでザンギャバスを撤退させることが出来たら、鮫牙島そのものではないのだけれど……七大海嘯支配下の島を一つ、解放することが可能になるらしい。これは今後の羅針盤戦争を行っていく上でも極めて重要なことだ」
ザンギャバス大帝を直接倒すことは出来なくても、撤退させることに意義はあるというところだろうか。エンラはそう言うと、不意に猟兵たちに問いかけた。
「ここからは僕の独り言だと思って聞いてくれていい。……性善説と性悪説については知っているかな。人間……その他の種族も含まれるから、ここは知性体と言い換えようか。その本性は善性か、悪性かと言う話だ。僕は悪だと思っているよ。知性体が善性を習得するのは学習に依るものさ。その学習を全く行わず、行われず、或いは拒絶して生きてきた生命体は原始的な欲求を叶えるためにどんな手でも使う。気に入らないから殺す、邪魔だから破壊する、腹が減ったから食う。人の……いや、知性体の本性は、元々悪だ。それを、性悪説を証明するのが、まさにこの知性なきザンギャバスの行動だとは思わないかい?」
……関係のない長話をしてすまなかったね。
エンラは猟兵たちに詫びを入れ、手にしたグリモアを輝かせた。たちまち転移の門が現れる。
「それじゃあ、戦う準備が出来たら、僕に声をかけてくれ」
遊津
遊津です。羅針盤戦争のシナリオをお届けします。
一章完結、ボス戦。
難易度はやや難となっております。お気をつけください。
当シナリオには以下のプレイングボーナスが発生いたします。
※……敵の先制攻撃ユーベルコードと「巨大鮫を喰おうとするザンギャバス」に対処する。
「■ザンギャバス大帝について■」
七大海嘯の一廉「鮫牙」の首魁です。
無敵であるため、このシナリオで倒すことは出来ません。
(目的は彼を撤退させることとなります)
彼は必ず先制攻撃を行ってきます。これに対策することでプレイングボーナスが発生いたします。
指定ユーベルコード以外にも、アドリブの範囲内での戦闘が発生いたします。
知性が無いに等しい為、作戦や策略は極めて有効な相手となっております。
一通り暴れた末に飢餓状態になると獅子のような姿で撤退しますが、鮫牙島周辺の巨大鮫がいる場合はそれを喰らうことで飢餓状態から回復しようとします。
「■戦場について■」
猟兵が近づくと鮫牙島は急速潜航を行うため、またザンギャバス大帝自身が深海に存在するため、戦場は海中となっております。
スペースシップワールドで入手した体の動きを阻害しない透明な宇宙服によって水圧や呼吸の心配はしなくても良い状態にありますが、浮力などは働いています。
また、通常の船はその構造上「水に浮かんで」しまう為、深海での戦いとなる海中戦には適しません。
水中戦闘に関する技能があれば有利に動くことができるでしょう。(これらの技能を所持していないからと入って不利やペナルティが発生することはありません)
リプレイは猟兵が海中に入った状態から始まります。
当シナリオのプレイング受付は2/14(日)朝8:31~となっております。
(時間帯によってはマスターページ上部及びこちらのページのタグに受付募集中の文字が無いことがございますが、時間を過ぎていればプレイングを送ってくださって結構です)
プレイングを送ってくださる場合は、必ずマスターページを一読してくださいますようお願いいたします。
それでは、皆様のプレイングをお待ちしております。
第1章 ボス戦
『七大海嘯『鮫牙』ザンギャバス』
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POW : ザンギャバスハンド
レベル×1tまでの対象の【腕や頭】を掴んで持ち上げる。振り回しや周囲の地面への叩きつけも可能。
SPD : ザンギャバスファング
自身の身体部位ひとつを【竜、山羊、蛇、蛇のいずれか】の頭部に変形し、噛みつき攻撃で対象の生命力を奪い、自身を治療する。
WIZ : ザンギャバスポイズン
攻撃が命中した対象に【肉体の部位「蛇」からの猛毒】を付与し、レベルm半径内に対象がいる間、【肉体を侵食する猛毒】による追加攻撃を与え続ける。
イラスト:白
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠山田・二十五郎」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
ラヴィラヴァ・ラヴォラヴェ
【アドリブ・連係歓迎】POW
暴食の化身、お前は飢え続けるのがお似合いだよ☆
事前に「肉体改造」を自身に施し、自身の表面をヌルヌル成分と吐き気成分で覆います。
これで掴もうとしてもヌルヌルして掴めないよね!
対策したら次はUC【飢餓つくと肉肉しい惨劇】で肉塊になるよ!
肉体改造はそのままに、巨大鮫にわざと肉塊の一部を齧らせて鮫の内部で増殖して爆散★肉片に吐き気成分を纏わせよう!
吐き気成分ごと肉片や肉塊をザンギャバスにも食べさせて、内側のものを全部逆流させれば飢えるよね!
UCの飢え続ける匂いを海水に混ぜてもザンギャバスを飢え続けさせられるはず!
それに、水中戦はちょっと得意だよ♪
勝利の暁には羊肉で宴会だよ☆
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猟兵達が転移の門から「鮫牙島」に移動してくるなり、強い揺れが猟兵たちを襲った。勿論、これが地震などではないことはわかっている。鮫牙島が自らを揺らし、海中へ沈んでいこうとしているのだ。
最初に島に足を踏み入れたラヴィラヴァ・ラヴォラヴェ(ハラペコかわいいコックさん(可食・高栄養・美味)・f31483)を乗せたまま、島は深海へと達する。スペースシップワールドで入手した宇宙服のおかげで、深海の水圧に押しつぶされることも、呼吸に困ることもない。しかし水中の浮力はラヴィラヴァを水中に浮かばせる。
そして、やってくるのはぶよぶよと醜く肥え太った巨体――『鮫牙』の、ザンギャバス大帝。その周囲にはいずれ彼の餌になるのであろう巨大鮫たちが泳ぎ回っている。
『気に入らねえ、猟兵、コロす、コロす、コロすふしゅるるるるるぅぅぅぅ』
水中で如何にして音声を伝えてきているのか、あるいは思念そのものを飛ばしてきているのか――そのザンギャバスの言葉が彼女の耳に入ると同時、巨大なてのひらがラヴィラヴァに向かって伸ばされる。
そのときにはすでに、ラヴィラヴァの「仕込み」は終わっていた。彼女の身体には肉体改造が施され、表面はぬるぬるとした吐き気を催す――催吐性の成分で覆われている。
ラヴィラヴァを掴みあげようとするザンギャバス、しかし彼女の表面のぬるつきによっててのひらがどうしても滑ってしまう。掴めないことに癇癪を起こすように、ザンギャバスはラヴィラヴァの肉体をその拳で叩きつける。幾度も、幾度も。ぬるりとした表面によって滑っても、それでも尚。
「あ、がはっ、はは……」
ごぼりと大きな泡がラヴィラヴァの口から溢れる。
(まだ、まだ……!これからが第二段階だよ!)
ぬらりとザンギャバスの手から逃れると、ラヴィラヴァは自らのユーベルコード【飢餓つくと肉肉しい惨劇(ラ・ファミーヌ・デ・ラ・ヴィアンド)】を発動させ、自らの体を今度は増殖し続ける肉塊へと変える。同時に水中に広がる匂いは、嗅いだものを強烈に飢え続けさせる効果を持っている。そのままラヴィラヴァが向かったのは巨大鮫たちのもとだ。ラヴィラヴァの匂いを嗅いだ鮫たちは、当然に飢えている。肉塊に我先に齧りつく鮫たち。彼らの体内に入ったラヴィラヴァの肉塊は、その内部で爆発四散する。腹が爆ぜ、水中に鮫たちの血と肉片が漂った。その肉片に催吐性を持つ自らの破片を纏わせていくラヴィラヴァ。
肉塊となったラヴィラヴァが放ち続ける「嗅いだものを飢え続けさせる匂い」によって、ザンギャバスの空腹中枢も刺激されたのか、巨大なてのひらが漂う肉塊と肉片ごと巨大鮫を掴み上げて齧りつく。咀嚼し、飲み込み――けれどそれらが腹にたまる前に、巨大な口から肉片と肉塊が胃液とともに吐き散らされる。ラヴィラヴァが自らの体表面に纏わせた、催吐成分によって。胃の中のものを吐き出せば、自然腹が減る――ラヴィラヴァの狙いはそこにあった。
(ははっ、暴食の化身――お前は、飢え続けるのがお似合いだよ☆)
ラヴィラヴァの肉体は、催吐性の成分に塗れた肉塊として水中で増え続ける。己の匂いを嗅いだものは激しく飢える。飢え続ける。けれど、彼女を口に入れたものはその催吐性ゆえに吐き出さずにはいられない――自らを喰らう巨大鮫の腹の中で爆ぜ、水中に血と肉片を撒き散らし、その中に紛れる。ラヴィラヴァの匂いに飢餓感を煽られて鮫とともに肉塊のラヴィラヴァを食らい、吐き戻すザンギャバス。学習というものが出来ないのだろう、幾度も吐き戻しては喰らい、そして飢餓感を無理矢理に煽られて喰らい、吐き戻す。まさに無限ループだった。そして、吐き戻すたびにザンギャバスの肉体は確実に疲弊していく……!
勝利の暁には羊肉で宴会を開こう、そう考えるラヴィラヴァは、未だ肉塊として高速で分裂を続けるのだった。
大成功
🔵🔵🔵
枸橘・水織
最初の一手…ここを上手くしのげれば…
早業で球状の魔力結界(結界術・オーラ防御)を早業で形成、ARを使って表面に無数の棘を生成、掴んできた場合のカウンター
その状況から無理に投げて叩きつけたとしても魔力結界と痛覚耐性でダメージを軽減
その後、UCで下半身を鮫の姿に変えて反撃開始
全力魔法・結界術・オーラ防御で巨大な魔力の球を生成し、自分と鮫牙(…と共闘者)以外を外に締め出し、外と内を完全に遮断
これであなたは補給は出来ないよ
その後、先制攻撃の対処をした魔力結界を形成し、水中を泳ぎ回って回避重視、相手の隙をついて魔力弾で攻撃
UCの大技などに気を付けつつ、相手を動かして消耗を狙い飢餓状態を狙っていく
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『猟兵……うぅぅぅ、猟兵、気に入らねえ、気に入らねえ、コロす、コロす、コロす……!』
枸橘・水織(オラトリオのウィザード・f11304)は、音の伝わらないはずの海中で大帝ザンギャバスの声を確かに聞いた。
そしてたちまち迫ってくる巨大なてのひら。その先には、ぶくぶくと肥え太ったザンギャバスの肉体がある。
(最初の一手……ここを上手く凌げれば……!)
水織は即座に結界術によって、防護の膜を球状に展開する。錬金魔法を強化・補佐するための魔法の杖「ALCHEMY・Rod」を用い、防護膜の表面に無数の棘を生成した。
『があああああああ!!痛ぇぇぇぇ!』
棘だらけの球体を掴んだザンギャバスの絶叫が音の響かないはずの深海に谺する。それでもサボテンを鷲掴みにするように、ザンギャバスはそれを海底に叩きつけた。
球体の中の水織の体がシェイクされるように揺れる。叩きつけられる衝撃を結界によって緩和する、それでも殺しきれなかった激痛を、水織は唇を噛み締めて耐える。
(くっ……んっ、まだ……平気……!!)
自身のユーベルコード【AlchemyMutation(アルケミィミューテーション)】によって下半身を鮫に変え、水中での動きに適応させる。
迫るザンギャバスの手から逃れるようにひらりひらりと泳ぎながら、水織は「ALCHEMY・Rod」に魔力を籠める。これから使うのは先程と同じ結界術。けれどそれは自分ひとりを包むものではない、もっともっと広範囲に防護膜を広げさせるもの。当然、必要となるのは大量の魔力だ。水織の全身に溜め込んだ魔力を、最後の一滴まで絞り込むように手にした魔法の杖に注ぎ込む。そして展開されたのは水織と、そしてザンギャバスをも包み込むほどの、そして鮫たちの侵入を拒む、巨大な防護結界だった。
(これであなたは、もう補給は出来ないよ……!)
水織の張った結界によって巨大鮫たちとザンギャバスとは隔絶された。畢竟、ザンギャバスの意識は水織に向く。その強大な手が自身を掴み上げる前に、水織は最後の一滴まで出し尽くしたはずの魔力をもう一度自らの中から引き出して、先程と同じ球体の結界――ALCHEMY・Rodによって外殻に無数の棘を生やした――を形成しする。およそ学習するだけの知恵のないザンギャバスは、再び棘だらけの球状結界を掴もうとして痛みに絶叫を上げた。
今度は反射的に球状結界を掌から離したザンギャバスは、それでも水織をつかもうと手を伸ばしてくる。ずしん、と深海が揺れた。その手の追跡から鮫となった己の下半身を駆使して泳ぎ回ることで逃げ回り、水織は魔法の杖に四度目の魔力を籠める。身を守るものではない、それはもうすでに展開されている。立て続けに消費する魔力に、自分のほうが疲弊してしまいそうだ、けれど、けれど。水織とて、伊達にウィザードをやってはいない!
水織の背後に描き出された魔法陣から、次々と放たれる魔力の弾丸。それらは水織が泳ぎ回るのに合わせて動き、ザンギャバスへとぶち当たる。「無敵」と呼ばれたザンギャバス大帝だ、その程度では碌なダメージにもならない。けれど水織の攻撃は、そして回避し続けることでザンギャバスを動かし続けるという作戦は、確実にザンギャバスの体力を削ってゆくのだった――。
大成功
🔵🔵🔵
ビードット・ワイワイ
学ばず食いて暴れて戦いて
それが悪と思うならそれはそもそも違う話
生とはエゴの押し付け合い
エゴがあるから貴様は喰らい
エゴがあるから我らは倒す
より強いエゴが善となる
先制にアウトレンジキャンセラーで煙幕
51232892132人の凝縮垂らし拡散
血の匂いにて鮫を誘導更に鮫に催眠術かけ敵進行方向に誘導
煙と血と鮫にて攻撃の来る方向絞り未来予測演算機にて行動予測し見切り受け流し防ぐ
100体のメカモササウルスが血と煙幕の向こうより来たりて鮫を捕食
恐怖を与える鮫を散らす
メカモササウルスは敵に雷撃にて感電
翼で翻弄し体を回転させ海流乱し衝撃波と共に吹き飛ばし消耗させる
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ずぅん、ずぅん、ずぅぅん……
海底を、肥え太った巨体が移動してくる振動が水中に響いている。ザンギャバスがこちらへやってくるのは近い。
ビードット・ワイワイ(絶対唯一メカモササウルス・f02622)は、近づいてくるザンギャバスを待ちながら、グリモア猟兵の言葉を思い出していた。
――知性体の本性は悪性である。その善性は学習によって得られるものである、その学習を受けられなかった、あるいは拒絶した個体は気に入らないから殺し、邪魔だから破壊し、腹が減ったから食う。性悪説を、まさに学習をしなかった知性なきザンギャバスは体現している。そうビードットをこの海に転移させたグリモア猟兵は言っていた。しかし。
(学ばず食いて暴れて戦いて――それが悪と思うなら、それはそもそも違う話――)
――生とは、エゴの押し付け合いである。
(エゴがあるから貴様は喰らい、エゴがあるから我らは倒す――)
要は。より強いエゴが「善」と呼ばれるものとなるのだと、そうビードットは考える。
故に、これはエゴのぶつかり合いなのだ。コンキスタドールのエゴが強いか、猟兵たちのエゴが強いのか。エゴ。己こそがという「利己」。しかしそれを「自我」と置き換えるならば、まさにそれはあらゆる知性体が数多の世界で生き残るために続けてきた戦いの所以だ。その戦いに勝ったものこそが、世界で善と呼ばれるのだと、ビードットは主張する。
やがて。
ずぅぅぅぅぅんんんん………
より大きな振動を響かせ、ビードットの前にザンギャバス大帝が現れる。
(予知によれば――蛇の部位からの猛毒攻撃を行うには――こちらに攻撃を一撃でも命中させることが必須――ならば)
ビードットはEPアウトレンジキャンセラーによって水中に煙幕を張り、ザンギャバスの視界を眩ませる。そうして次に取り出したのは「51232892132人の凝縮」。4つの星々の人々の血液が保存凝縮された血液パックだ。血を海中に垂らし拡散させ、血の匂いに敏感な鮫を誘導する。その上でビードットは鮫たちに催眠術を掛け、進行方向を誘導した。
煙幕と拡散する血液、更に誘導されて泳ぐ鮫の群れにより、ザンギャバスの攻撃が来る方向を絞る。ビードットの頭部にある「未来予測演算機トゥメルギアス」がザンギャバスの行動を何十、何百、何千手先までも予測し、そのままに伸ばされるザンギャバスの掌を、拳を、獣や竜の部位からの攻撃を見切って受け流してゆく。
(来たれ、海を支配せし古代の海龍――海を制覇せし最新の海龍。二つ合わさり更なる進化を――海は我らに狭すぎた!)
――これより、新たな覇王の姿見せよう。
【実行仮想破滅・受け継がれ進化せし古代の海王(アクセス・イマジナリールーイン・リメンバシー)】。血と煙幕の向こうから海中に現れるのは、ちょうど百頭のメカモササウルス。呼び出されたメカモササウルスたちは鮫を喰らい、捕食する。ザンギャバスよりも先に、全てを食らいつくさんとばかりに。突如遅い来た機械じかけの古海竜の姿に、鮫たちは恐慌し、姿を消した。
そのまま百頭のメカモササウルスたちは一斉にザンギャバスに向かって雷撃を放つ。「無敵」と呼ばれるザンギャバス大帝である、それだけでダメージを与えられるわけではない。しかしビードットの狙いはあくまで消耗戦だ。メカモササウルスは翼で翻弄し、体を回転させて海流を乱して大渦を作り、そこにザンギャバスを飲み込んでいく。十分に目を回させたところで、極めつけには衝撃波によってジェット噴射のごとくに海中を吹き飛ばす。
目を回すザンギャバスの足が乱れ、深海に倒れ伏す。餌となる鮫は全てどこかに散ってしまっている。それでも、まだ鮫を食い荒らす程には飢えていないのか。起き上がろうとするザンギャバスが咆哮するのを、音の伝わらない水中でビードットは確かに捉えた。
百頭のメカモササウルスがザンギャバスを囲む。彼らの戦いは、未だ終わりの兆しを見せようとはしなかった――
大成功
🔵🔵🔵
岩倉・鈴音
天使と融合したネルソンがいれば食っちゃ寝ザンギャバスもいる。この海洋世界はバラエティーにとんでますね。
先制対策
猛毒耐性、水中戦、深海対応で距離をはなし回遊。近づかれたらオーラ防御で守りつつ回避。
鮫対策
ラプチャーで鮫さんをザンギャバスやチョコレートのない海域にとばします。
「ギャバっちの餌になるだけが運命じゃないでしょ。向かえ鮫の楽園へ」
戦闘
水中の岩とか隠れながらザンギャバスから逃げ回って空腹にさせます。
掴まれそうになったら切り込みや貫通で(窮鼠猫噛みな感じ)逃れます。
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(はぁ……天使と融合したネルソン提督がいれば、食っちゃ寝ザンギャバスもいる……この海洋世界は本当、バラエティーに富んでますねぇ……)
海中に浮かびながら、岩倉・鈴音(JKハングマン・f09514)はこの強欲の海の世界に思いを馳せる。スペースシップワールドで手に入れた宇宙服は水中での呼吸を可能とし、水圧にも耐えることが出来る。鈴音の髪の毛一房、一本たりとて海水に濡れることはない。
そうしている間にも、遠くからずううんと重く鈍い音が近づいてくる。これぞ鮫牙島の首魁、大帝ザンギャバスが近づいてくる音に相違なかった。やがて、ゆっくりと巨大なてのひらが見え。ザンギャバス大帝が、鈴音の前に現れる。
(「蛇の部位」の毒は攻撃に当たらなければ放てない……って感じでしたっけ。それじゃあ、逃げるに限りますか)
幸い深海に適応し、水中戦の心得もある鈴音だ。近づいてくるザンギャバスの掌、拳、或いは他の獣や竜の部位からの攻撃からも、距離をとって泳ぎ回る。それでも、海の中とは、そしてその巨体からは想像もできないほどに早い一撃がザンギャバスから繰り出される。
(おっと……!)
瞬時に自らの体表面に防護膜を張り巡らせる。体を掴まれるのは避けた。蛇の口から放たれた毒が、鈴音の体すれすれに漂って拡散していく。
(危ない、危ない……まぁ、この体、毒への耐性あるんですけどね。それでも攻撃は喰らわないのが重要、ってことで)
ザンギャバスから再び距離をとった鈴音の背後を、巨大な鮫が泳いでいく。ああ、そういえばこちらの対処もしなければいけないんでした、と胸中で独り言ち、鈴音は自らのユーベルコード【ラプチャー】を発動させた。
突如海中に現れた巨大な網が。無数にいる巨大鮫を絡め取る――否、海上へと掬い上げているのだ。
(ギャバっちの餌になるだけが運命じゃないでしょ。神の掬いです。ええとザンギャバスのいない場所……それからチョコレートの海域にも行っちゃ駄目ですよ、向かえ、鮫の楽園へ!)
無数にいた鮫たちがひと息の間に姿を消した。いるべき場所に送られたのだ。これでザンギャバスは鮫を喰らうことは叶わない。
『ふしゅるるるるるる……気に食わねえ、気に入らねえ、コロす、コロす、コロす!』
ザンギャバスの声がした。水の中で発されたその声は、はっきりと鈴音の耳に届いた。
癇癪を起こしたように、地団駄を踏んで暴れまわるように、ザンギャバスは鈴音を捕まえようとする。それをひらり、ひらりと泳いで躱し、時には岩などに隠れながら、鈴音は器用に逃げ回る。握り掴もうとしてきた掌へ向かって、「勝虎巣」でざくりと切り裂き、突き刺せば、ザンギャバスは絶叫を上げた。
(ンッフッフ、さあ、どんどん暴れなさい、そして消耗しなさい!お腹が空いたところで、食べ物は全部どこかにいってしまいましたよ――)
にんまりと笑いながら、鈴音はザンギャバスから逃げ続ける。海中の追いかけっこは、それからもしばらく続いたのであった。
成功
🔵🔵🔴
浅間・墨
ロベルタさん(f22361)と。
浮力を計算しながら斬るのは今回は困難なので。
【幻魔葬刻『黒死蝶』】で攻めたいと思います。
巨大鮫を喰らって数を減らることもできるかと。
私は巨大鮫達を大帝から遠ざける役をします。
確か鮫は亀やアザラシが凄く好物で寄ってくるらしいです。
なので極力それらしいように動いて誘導してみましょうか。
それから血の入った袋を三袋所持し一袋ずつ割ってみます。
血を検出する機能が備わっていてとても敏感らしいので。
寄ってきたら少しずつ距離を大帝から離してみようと思います。
そして巨大鮫達に向かって【黒死蝶】を放ち食べて貰おうと。
…人伝に聞いた話なのでどこまで真実なのかわかりませんが…。
ロベルタ・ヴェルディアナ
墨ねー(f19200)と。
僕は太った大帝のおっちゃんの相手をするよ。
相手っていっても戦うんじゃなくて煽って逃げる。
逃げる時に【紅妃舞】を範囲一杯に撒いておくねぃ。
花弁の数も封印を解き限界突破して底上げしておくよ。
…で。なるべく花弁を密にして常に僕の壁にしておく。
追いついたら僕が危ないからねぇ~。侮れないと思う。
あ。意味がないから海流も計算に入れて花弁を撒くよ。
「やーい♪ まだ、ここまでこれないの? 遅いじぇ」
「鬼さんこちら~♪ それじゃあ、僕は捕まらない…」
距離をとりながら他の仲間の邪魔をしないように煽る♪
煽りながら徐々に移動。巨大鮫から遠ざける。
同じように考えてる人達と連携してもいいよね。
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地響きの音がする。海底が揺れる。それが地震などではないことは、浅間・墨(人見知りと引っ込み思案ダンピール・f19200)にもロベルタ・ヴェルディアナ(ちまっ娘アリス・f22361)にもわかりきっていた。「鮫牙」ザンギャバス大帝が近づいてくる、合図だ――。
事前に打ち合わせていたとおりに、墨とロベルタは離れた。墨は巨大鮫をここから離す役割を、ロベルタはザンギャバスの相手を。
今日ばかりは、墨の手にはどの刀の握られてはいない。
(浮力を計算しながら斬るのは、今回は困難ですから……)
人伝手に聞いた話で、どこまで真実かは墨にはわからない話だが、鮫は亀やアザラシなどを好物としているという。だから墨は、小袖をヒレに見立ててそれらの真似をしながら泳いで回った。鮫を引き寄せるために。ある地点まで来たところで、手にしていた袋を割る。中からは袋にたっぷりと詰め込まれていた血が溢れ出し、海中に混じって漂い始めた。鮫が血を検出する機能に優れていること――即ち、血が流れた所に集まりやすいことも、聞いた話だ。たちまちに鮫たちが海中に漂う血に集まりだす。
墨は海中でひらりと迂回し、未だ血を溢れさせ続ける袋を持ったまま迫りくるザンギャバス大帝に背を向ける。そして、十分に離れた場所でもう一袋の血を詰めた袋を割った。急に濃くなった血の匂いに、鮫たちは墨を追ってくる。さらに墨は泳ぐ、泳ぐ、泳ぐ、手の中で血を流し続ける袋を抱え、巨大鮫たちが自分を追ってきていることを確りと確認しながら、ザンギャバス大帝から鮫たちを引き剥がすために。
懐に抱えた血の詰まった袋はあと一つきり。使い所を誤ってはならない。ザンギャバス大帝から、十分に離れたところで。けれど、血の匂いが薄れてしまっては鮫たちは墨を追うのをやめてしまうだろうから、遠すぎてもいけない。ここだ……そう確信できる場所まで鮫が追ってきているのを振り返り振り返り、そうして、割る。巨大鮫達が血と、そしてその中心にいる墨に群がった。鮫たちにとっては、血を流しているのが墨であっても、その手の中に抱えられた袋であっても関係ない。血の流れている所、即ち餌となる獲物が怪我をしている場所、だ。
(――舞、喰らえ……)
墨の手から放たれるは海中に描き出しながら黒い複雑な幾何学模様――【幻魔葬刻『黒死蝶』】。そのすべては八九十の黒い蝶が織り上げている。蒼い海の中をひらりひらりと舞いながら紋様を描き出すカラスアゲハの如き黒い蝶々、けれどそれは触れれば忽ちのうちにあらゆる物質や事象を喰らう悪食でもある。複雑に織り上げられた黒い織物が、それを織りなす蝶々が、鮫たちを包囲し、逆に食らっていく。蝶々の触れた場所から、巨大鮫たちの肉体が消失する。たっぷりと時間を掛けてザンギャバスから引き剥がされた鮫たちは、黒い蝶々に食われて消えていった――。
一方こちらは、墨を見送ったロベルタ。近づいてくるでっぷりと肥った巨体の持ち主、ザンギャバス大帝を前にして、ロベルタは墨とは反対方向に泳ぎ出した。
思い出す。気をつけなければならないのはザンギャバスの先制攻撃。蛇の猛毒。けれどそれは、まずはじめにロベルタに一撃でも攻撃を当てなければ噴出できない筈だ。ならばロベルタがすることは、ザンギャバスからの攻撃に一撃たりとも当たらない事だ――そう考えて。
(“Smontare il corpo”……!)
ロベルタは、「ユーベルコード」【紅妃舞(ファヴィッラ)】を、使った。使ってしまった。ザンギャバスは、ロベルタのユーベルコードよりも「早く」先制攻撃を繰り出してくると、そう言われていたのに!
ごぼりとロベルタの口からあぶくがこぼれた。ザンギャバスの手は舞い散る真紅の花びらよりも早く、ロベルタの体を捉えていた。握りつぶされるような痛み。内臓が口からこぼれ出てきそうになると錯覚しそうな。ザンギャバスの腕に巻き付いた――否、ザンギャバスの体から生えている蛇が、ロベルタに噛み付く。その痛みを、掴まれた場所全体に走る激痛を、奥歯を軋むほどに噛み締めて耐えた。
痛みを感じたのは、ロベルタだけではない。紅妃舞によって撒き散らされた真紅の花弁は、ザンギャバスの腕に絡みつき、切り裂く。「無敵」の名を持つザンギャバスだ、その花弁が大きなダメージとなることはない、けれど「痛い」という感覚を、花びらはザンギャバスに確実に与える。
『がああああああ、痛え、痛え痛え!!』
声を上げたザンギャバスの手の力が緩んだ、その隙にロベルタは手の中から抜け出した。体中に回る毒に視界がぐらぐらと揺れる、けれどロベルタは泳ぎ、ザンギャバスから距離を取る。
『まで……待でぇぇぇ、コロす、コロす、コロす……!!』
「やーい♪ まだ、ここまでこれないの? 遅いじぇ」
紅妃舞の真紅の花びらを、海流を計算して撒き散らし、わざと煽るように言ってやる。
「鬼さんこちら~♪ それじゃあ、僕は捕まらない……!」
ほんとうは。体内を蝕む蛇の毒によって視界は揺らぎ、吐き出してしまいたいほどに頭が痛んでいる。泳ぐために水をかくその手を動かすのも億劫だ。その全てを耐えて、ロベルタは泳ぎ回る。墨に頼るわけにはいかない。墨と出会ってはいけない。墨のところには、ザンギャバスの餌となる巨大鮫が集まっている、其れを引きつけるために墨はロベルタの元から泳ぎ去っていったのだから。誰に頼ることも出来ない中、毒に耐性もない体で、真紅の薔薇の花弁を盾にしながら、ロベルタはザンギャバスを疲労させるためだけに泳ぎ回る――。
成功
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木々水・サライ
【灰色】
無敵か……(ちらっと親父を見る)
はいはい、今回はアンタに全部譲るよ。
『切りたい』んだろ?
仕方ねぇなぁ……周りのは俺に任せろ!
先制攻撃には俺と親父の黒鉄刀の闇を予め撒き散らして対処だ。
闇に紛れて、出来る限り同じ場所にいないようにする。
UC【複数の白黒人形達】使って、8人呼び出す。
白、紅、蒼、翠、琥珀、灰、黄金、水晶の刀をそれぞれ持たせる。
複製義体達には鮫の方に行ってもらい、もし近づいてきたらザンギャバスを殴って追い返すようにしてもらうぞ。
……親父が嬉しそうにしてらぁ……。
そりゃそうだよな。切っても切っても死なない相手、だしな。
いや、思わねーからな。俺に同意求めるなよ。
金宮・燦斗
【灰色】
無敵! 今無敵と言いましたか!
サライ!! アレを私にくれ!!
……え? そりゃもちろん、切りたいですよ。
私は切るのが性分ですから。
先制攻撃に対してはサライと同じように黒鉄刀の闇を撒き散らし、闇に紛れて回避します。
私自身はザンギャバスの背後を取っておきたいですねぇ。
そして、敵が近づいてきたところでざっくりと切ってあげて。
UC【影をも超える狂気の黒】を使ってもう1本の黒鉄刀を使い戦います。
戦闘力と2本の黒鉄刀で、暗殺と医術を組み合わせた攻撃を連続で。
ああ、切っても切っても死なない! 最高だ!!
私が追い求めてたのはこれだよ、これ!!
サライ、見ているか!? 最高の実験体だと思わないか、コイツ!!
●
海底に響く重く鈍い音。ザンギャバス大帝が、そのでっぷりと肥え太った体を引きずりながら、こちらにやってくる音だ。
ここに来る前に聞いている。ザンギャバス大帝は、無敵だ。
「無敵……無敵、かぁ……」
黒鉄刀を抜き、木々水・サライ(《白黒人形》[モノクローム・ドール]・f28416)はちらりと、隣に立つ自身の「親父」の顔を見た。ぐるり、まるでホラー映画のように金宮・燦斗(《奈落を好む医者》[Dr.アビス]・f29268)の首が回ってサライを見る。
「うわ怖ええ!」
「無敵!今、無敵と言いましたか!っサライ!!アレを私にくれ!!」
糸目の下でぎらぎらとした狂喜が輝くのを見て、サライは溜息を付いた。
「あーはいはい、今回はアンタに全部譲るよ。……『切りたい』んだろ?」
「え? そりゃもちろん、切りたいですよ。私は切るのが性分ですから」
即答にサライがもう一度溜息をつこうとした時、ザンギャバスのぶくぶくと膨れたてのひらがこちらに迫ってくるのが見えた。
黒鉄刀、刀身から闇が溢れる刀。その闇は随分と濃くなって、ザンギャバスと自分たちの間を隔てていた。
『猟兵……気に入らねぇ、気に入らねえ……コロす、コロす、コロす……!!』
ぶつぶつと呟きながらザンギャバスの両手が竜と山羊との頭部へ変わる。二人を噛み殺そうとした頭は、しかし闇に目を晦まされて標的を見失った。
その隙にサライは闇を撒き散らしながら、燦斗から離れる。
(いち、に、さん……八人もいりゃあ、十分か)
自分自身の複製義体を呼び出して。彼ら一体一体が手にするのは光を溢れさせる白銀刀、
血のように紅い紅玉刀、蒼い雫滴る蒼玉刀、翡翠の輝き放つ翠玉刀、琥珀の煌きを持つ琥珀刀、見る位置によって刀身の色の異なる燐灰刀――そして、目も潰れるような黄金の輝き放つ黄金刀に、手にしたものの心によって色を変える水晶刀の計八振り。複製義体たちを巨大鮫の方へと行かせ、こちらに近づかせないようにする。
自らもザンギャバスから逃れるために離れようとして、海の中を動こうとして奇妙な感覚に陥った。幼少の頃に四肢を壊されて鋼のそれに変わって以来、サライは泳げない。海も嫌いだ。けれどこうして海の中にまで来ているのは、ひとえにスペースシップワールド製の宇宙服が
呼吸を可能にするから。溺れることがないからだ。それでも浮力は存在している。まるで、そう、サライにとっては月の上を歩いているように、ふわふわとした足取りだ。
(“泳ぐ”ってのには、それでもやっぱり慣れそうにねーなぁ……)
そう思いながら、十分に距離をとった彼が「親父」と呼ぶ男を見る。全部譲ると最初に言った。だからここから先は、彼の独壇場なのだ。
――燦斗はザンギャバスの竜の頭部から逃れ、同時に闇に紛れて彼の背後を取っていた。ぶくぶくと肥え太り、海の中では浮力も相まって動きも制御されたザンギャバスである。気付かれないように背後に回ることは燦斗にとっては簡単だった。そして、刀から放たれる闇にその身を隠しながら、ザンギャバスの体を黒き刀でざっくりと切り裂く。
『がァァァァっ、痛ぇ、痛え痛え痛え痛え!!』
「ふふふ、困りましたねえ……そんなに痛みに敏感に、叫んでくださったら……――こっちも興奮しちまうだろ、なあ?」
ぐずぐずに崩れるほど煮溶かしたスープのようにどろどろとした闇が、狂喜が、燦斗の薄く開いた目の下で渦を巻いている。
【影をも超える狂気の黒(ロゥクーラ・プレート)】。偽りの姿を脱ぎ捨て、燦斗は自らの衝動に身を任せる。
もう一振りの黒鉄刀を得て、燦斗は自らザンギャバスの懐に入り込む。その剥き出しの腹に刃を突き立てて、ずぶりずぶりと開腹手術の容量で腹を捌いた。大量の血とともに、ぬるぬるとした脂肪が溢れ出す。けれど、ザンギャバス大帝は「無敵」。その傷はすぐに綺麗に塞がってしまう。無敵!そう、その言葉が、燦斗にとってどれほど「嬉しい」ものか!本当ならば生かして帰さない、それはすぐに相手が死んでしまうから。だけれど今に至っては、それを何度も何度も、何度でも、切り刻めるのだ!
「ああ、切っても切っても死なない!最高だ!!……私が追い求めていたのはこれだよ、これ!」
暴れまわるザンギャバスを、理性を吹き飛ばしながら、ずたずたに切り裂き。すぐに回復するその肉体に歓喜する燦斗。
それを遠間に見ながら、サライは今日何度目かになる溜息をまた吐いた。
(あーあ、親父が嬉しそうにしてらぁ……そうだよなぁ、切っても切っても死なない相手、だしな)
海を苦手とし、この戦争中も出来る限り水中に入らないように苦心していたサライを、よりにもよって海中に引きずり出してきただけある喜びようだ。
「サライ、見ているか!?」
「はいはい、見てるよ」
「最高の実験体だと思わないか、コイツ!!」
「いや、思わねーからな。俺に同意求めるなよ」
燦斗の刀に斬り裂かれるたびに痛え痛えと叫び声を上げ、しかし無敵が故にその傷は瞬時に回復する。どれほど暴れまわろうとも、ザンギャバスはもはや燦斗を狂喜させるだけの存在だった。
サライと彼の複製義体たちが餌となる鮫たちを追い払ってしまったから、疲れ果てたザンギャバスが飢餓状態になろうとも彼が喰らう餌はもういない。散々に燦斗の玩具と成り果てたザンギャバスが獅子の姿になっていずこかへと逃げ去るのを、燦斗は名残惜しそうに見送った。
斯くして、ザンギャバスはいずこかへと消えた。けれどまたどこかで飢えを満たし、無敵のザンギャバス大帝はこの鮫牙島へと戻ってくるだろう。
羅針盤戦争の間に、ザンギャバスとの戦いを終えることができるのか。
猟兵の鮫牙島での戦いは、続くのだ。
大成功
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