羅針盤戦争〜天使は謳う、勝利の凱歌は主の為に
●舵輪島の幕間
「敵はついにここを見つけたか」
静かな声で、『七大海嘯『舵輪』ネルソン提督』は世界を、水平線を照らし始めた暁が海を照らす世界を、侍らす天使の一体もいないまま、一人でその光景を見渡していた。
今までの戦いでは己の分体は見事に大敗を喫した。
猟兵という存在を前に、向かい合った己の戦いの有り様全てを打ち砕かれた。
今――忌々しいその強敵と、再度打ち向かわないといけない。
同じ戦い方では、敗北は必定であろう。だが、痛手と共に敗北を喫した、今の己には一体何が残って言うというの言うのだろう。
――負けられない。だが、己の分体といえど、油断をした訳では決してない。
「無様な負けは、許されぬ」
ぽつりと、大海を前に思いが零れた。負けることなど、許されぬ。この『ネルソン提督』という名が己の存在である限り。
暁の海がまるで蒼の布を染め直すような美しさを持って、暁光をその頬に照らす。
すると――どこからともなく、ネルソン提督の意に反して、麗しき天使が羽根を広げ空を舞い始めた。
ネルソン提督の表情が、理解できないものを映すようにその瞳を見開かせ、それら天使の群れを見つめる。
――一体の天使が、そっとネルソン提督の元へ降り立ち、両膝をつき、そのマスケット銃を握り続けた男としての強ついた手を手に取ると、その甲に忠誠を誓う口付けを落とした。
「私に、尚。力を貸そうというのか」
ネルソン提督の心に浮かぶ。それは、今まで指令し、捨て駒として扱ってきた、天使の全てを己が身に宿す『最終形態(トラファルガーモード)』――それを、まさか天使の側から示してくるとは。
美しき暁に、ネルソン提督への祝福として、美しい純白の羽根が舞い落ちる。
コンキスタドールにあるまじき感銘と共に、ネルソン提督は天使に継げる。
「それは、お前達全ての、総意であろうか」
無数の天使が、歌を紡いだ。美しい旋律を以て。
――この主に凱旋の栄光を今一度掲げる為に。
「ならば――私に敗北の文字はない。必ず、栄光への道を切り開く」
――輝く未来を目にしながら、己が消える死地への覚悟を決める矛盾。それすらも、ネルソン提督の言葉と共に威光を放った。
●
「『舵輪島』が発見され、『七大海嘯『舵輪』ネルソン提督』が現れた」
見つけた以上、放置は出来ない。予知を行ったレスティア・ヴァーユ(約束に瞑目する歌声・f16853)はいつになく真摯な声で、猟兵達を正面から見据えて継げた。
「必ず、勝たねばならない戦いだ。だが――相手は、前回に手駒として利用していた天使達を、全て己の身体に吸収した。
単体の戦闘力は爆発的に上がり――そして、完全に『己の痛覚を断絶された身』となって、猟兵を待ち構えている」
グリモア猟兵は継げる。
「死ぬまでその身に痛みを感じず、あらゆる状態異常を無影響化する。毒にしようが眠りにしようが、向こうでこそないが彼の戦意に届くことはない。――かつてない、強敵だ。
それでも、尚頼む。彼にオブリビオンとしての敗北を。皆の勝利を心より待つ」
グリモア猟兵は、静かに場に集まった猟兵達に頭を下げた。
春待ち猫
プレイング受付【公開日の翌日08:35~】から。(詳細はタグとマスターページのご確認を頂けましたら幸いです)。
こんにちは、春待ち猫と申します。この度は戦争イベントです。
今回の戦闘難易度は【やや難】難易度が難しくなっています。油断、合わせの不一致などは、成功判定によりプレイングの採用そのものに影響致します。何卒、お気を付けの程を戴けましたら幸いです。
今回のプレイングは、書かせていただきやすいものを優先して執筆させていただきます。早い者勝ちではございませんが、執筆期間上、受付期間内にて早い方を優先させて頂きがちになりますので何卒ご了承ください。
この度は、再送の予定をたてておりません。期間内に、書けるだけ書かせて頂きましたものを都度お返ししてまいります。
今回のプレイングボーナスは、
プレイングボーナス……敵の先制攻撃ユーベルコードと「決戦形態(トラファルガー・モード)」に対抗する。
となります。
グループでのアクションとなります場合には、必ず絵文字や合い言葉等、短くて構いませんので、合わせと分かるものをプレイングにご記載下さい。宜しくお願い致します。
それでは、極めて戦闘条件の厳しい敵となりますが、
皆様の力の限りのアクションを心よりお待ち申し上げております。
第1章 ボス戦
『七大海嘯『舵輪』ネルソン提督』
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POW : 天使の銃
自身の【肉体に吸収融合した天使の軍勢】を【敵に応じた『天使武装』】に変形する。攻撃力・攻撃回数・射程・装甲・移動力のうち、ひとつを5倍、ひとつを半分にする。
SPD : 聖守護天使
【手から現れる天使達】で攻撃する。[手から現れる天使達]に施された【瞳を覆う聖なる帯】の封印を解除する毎に威力が増加するが、解除度に応じた寿命を削る。
WIZ : 天使槍兵団
レベルm半径内の敵全てを、幾何学模様を描き複雑に飛翔する、レベル×10本の【舵輪の脚から現れた天使達が放つ光の槍】で包囲攻撃する。
イラスト:シャル
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠山田・二十五郎」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
輝かしい払暁の中――舵輪島の砂浜にて。
姿を見せた猟兵を前に、一人の男が立っていた。
だが、その人の形に対して雰囲気と気配の密度は異形のそれだった。無数の天使と融合した決戦形態(トラファルガーモード)となった『七大海嘯『舵輪』ネルソン提督』は、最後のまだ『人間らしさの名残』であった、手にしていたマスケット銃を砂浜に投げ捨てた。
「始めよう、猟兵――決戦だ。
私は、栄光と共に勝利する!」
――心のどこかでは分かっていた。この決戦形態となるまで追い詰められた段階で、既に自分に光差す未来はないのだと。
だが、それでも尚進むべき道がある。己に身を捧げた存在がある。ならば進むべきこそ英雄の有り様だ。ネルソン提督はその威と共に、天使と同化した手を天に掲げ示した。
既に後退はない――己が道に猟兵が立ち塞がり、この身を打ち砕くその瞬間まで。
ガラティア・ローレライ
〈先制攻撃対策〉
ネルソンに向けてボトルシップから《ピュグマリオーン号》を呼び出して突っ込んでくる天使共の攻撃に対する盾兼ネルソンへの目くらましとして利用するわ
〈戦闘〉
ピュグマリオーンを囮としてネルソンに突っ込ませて攻撃を防いでいる間に攻撃準備
【海賊の連続砲撃】による複数の『砲撃』の『一斉発射』による『弾幕』で飛んでくる光の槍を防ぐ『対空戦闘』を行いつつネルソンに向けて『爆撃』を行っていくわ!
さてと、私の船をここまで穴だらけにしてくれたんだから修繕費としてその首級を頂いていくわよ!
出し惜しみなしよ!動く隙間も与えずにあんたの命が尽きるまで砲弾をブチこみ続けてやるわ!
ガラティア・ローレライ(呪歌のローレライ・f26298)が、無言で佇む『七大海嘯『舵輪』ネルソン提督』の前に立つ。
おぞましい数の天使と同化した存在から受ける威圧感は尋常ではないが、一切怯むことはない。ガラティアは、この場を勝利で染める為に来たのだから。
ネルソン提督が無言で、銀に暁光を受けるブーツの脚で爪先を打つ。それだけの仕草。だが、ガラティアは限りなく所作の少ないそれが、先制されたユーベルコードである事を即座に理解した。
ネルソン提督のブーツから光り輝く槍の鋒が見える。
「させるか!」
瞬間、ガラティアはストレージメガリスから取り出したボトルシップより、自らがそれに乗り海を駆る実寸大の船・ピュグマリオーン号を巨大な壁、そして攻撃を防ぐ物理の盾として出現させた。
それから一拍遅れて。ガラティアの元へ、ネルソン提督の側に無数の気配が増えた事を感じ取る。無音の内に相手の驚きが伝わってくる気がした。
だが、稼げる時間は長くはないだろう。その隙を用いてガラティアは即座に次の攻撃手段に移る。
ストレージメガリスから周囲空間に生み出すは、無数のデミカルヴァリンメガリス。
「弾幕と、三秒後に見えた光源方向に斉射! 細かく狙わずありったけぶち込みなさい!」
「――三隊に分かれ、左右上空より挟撃せよ!」
ガラティアと船体越しのネルソン提督の声はほぼ同時だった。
光り輝く天使が船を旋回し、ある天使は上空より一斉に閃光の槍を投擲する。
同時にガラティアの展開したデミ・カルヴァリン砲は、船の一部を破壊しながら無数の紋様を展開するようにこちらに迫り来る槍を打ち払った。
「まだ!『遠慮せず全弾ぶっぱなしなさい!』」
そしてなお近づいてくる槍を、ガラティアは己のユーベルコード【海賊の連続砲撃(パイレーツボンバードメント)】で指を差した天使ごと、無数の弾丸の雨を叩き付けて打ち落とす。
硝煙で辺りが見えなくなる。そして、煙が引いた時――ボロボロとなったピュグマリオーン号の縁先に、ネルソン提督がガラティアを見下ろすように立っていた。
そのブーツの爪先が、再び動く。
「余裕じゃない、私の船をここまで穴だらけにしてくれたんだから修繕費と侵入費、その他まとめてその首級を頂いていくわよ!
――出し惜しみなしよ! 動く隙間も与えずにあんたの命が尽きるまで砲弾をブチこみ続けてやるわ!」
無数の砲撃が展開されたこの空域は、既にガラティアの支配領域だ。
配置されたデミ・カルヴァリン砲が一斉に火を噴く。無数の弾丸はほぼ爆撃の領域となって、新たに生み出され掛けた天使ごとネルソン提督に叩き付けられた。
大成功
🔵🔵🔵
灯火・紅咲
天使さんですかぁ……天使さんってぇどんな血の色をしているんでしょうねぇ! くひひひひっっ!
まずは鬼ごっこといっくですよぉ!
遮蔽物が多くて視界も悪そうな森とかの中へと脱兎の如く逃げ込むのですよぉ!
お空を飛ぶ天使さんでもこういう場所は苦手でしょうしぃ、数の優位も多少減るのですぅ
ついでに香水と血液も逃げながら目晦ましとして投げつけてプレゼントですぅ! オシャレは大事ですよぉ、きひひひ!
うまーく逃げ込めたら隙を見て天使さんの一体を【だまし討ち】して【吸血】!
その血で天使さんにへんしーん!
イケメン提督さんのとこに戻りフリをしてからのー【だまし討ち】で提督さんの血もちゅぅちゅぅ頂いてやるのですぅ!
「天使さんですかぁ……」
先の戦いを見て、先程からうっとりとした表情を隠さない少女が、一人戦況を眺めている。
その視界に、弾丸の嵐を抜け外見があまりにも崩れたネルソン提督が目の前に現れた。だが、その姿は半透明に透けた天使の羽根が現れ覆うと、殆ど変わることのない外見を取り戻す。
猟兵達は一瞬息を呑むが、ネルソン提督に再生機能があるとは聞いていない。ならば、それは外見を取り繕う仮初めのものであると理解した。
「天使さん……あの天使さんってぇどんな血の色をしているんでしょうねぇ! くひひひひっっ!」
その様を見ていた少女――灯火・紅咲(ガチで恋した5秒前・f16734)は興奮を隠しきれない様子で笑い声を上げた。半透明の硝子のような天使、血が流れているとしたら、透明? 水銀? それとも目に見えぬだけで実は人間と同じ赤?
その笑いが耳に留まったのであろう。想い耽る紅咲を目に、ネルソン提督がこちらへ向けて手を指し示すようにかざされる。
次の瞬間、腕からぶわりと孵化するように天使の羽根が噴き上がった。生まれ出ずる複数の天使達が一斉に紅咲へと襲い掛かってくる。
「ひぇぇっ、でもドキドキしちゃいますねぇ! まずは鬼ごっこといっとくですよぉ!」
紅咲は迫り来る天使達を目にすると、踵を返して全力で走り出した。そしてすぐ近くに目に入った森の中へと逃げるように身を躍らせる。
数秒、紅咲が逃げるように走り続ければ、追い掛けて来た天使が甲高い悲鳴を上げるのを耳にした。視界が悪い狭い森林の中では、大きな翼で飛翔する天使の羽根は邪魔でしかない。
紅咲を追い掛けてくる天使の数は最初に目撃した3分の1まで減少していた。後を追うものは、その瞳を覆う聖なる帯を引き千切り、封印を解いた獣のように森林をなぎ倒しながら向かってくる。
「ついでにこれもプレゼントしちゃいますぅ!」
紅咲が一番近づいてきた天使に、血の香りがする香水・ブラッドコスメを瓶の蓋を外して不意討ち気味に投げつける。それが直撃した天使は視界を奪われ顔面を覆いその場で追撃を止め、地面の上を転がった。
「オシャレは大事ですよぉ、きひひひ!
……と、この天使さんが一番早いみたいですねぇ!」
見れば他の天使達は既にその気配すら見出せない。上手くこの一体を隔離し、逃亡に成功した紅咲は、謎の奇声と共に呻き転がっている天使の腕に噛み付くと、滴る銀色の血を思いきり啜り呑んだ。
そして、己のユーベルコード【万物は流れ転ず(ドレスアップ)】により、その姿を血を吸われ転がる天使と、まさしく瓜二つのものになる。
「さぁて、これでイケメン提督さんの所に――くひひひっ」
自分の元に透銀の天使が戻ってくる。
ネルソン提督はそれを以て先の猟兵の捕殺を確信していた。だが――
「その血いただいちゃいますよぉ!!」
天使に擬態していた紅咲は、その首筋に近づいた瞬間に変身を解き、ネルソン提督の首に己の牙を突き立て、躊躇いなく溢れる血を吸い飲み干し始めた。
痛覚の無さは、警戒ではなく、違和しか感じさせることはない。
僅かな遅れでネルソン提督は紅咲を引き剥がすが、受けた失血は確かにその身に刻まれた。
大成功
🔵🔵🔵
月凪・ハルマ
痛覚遮断、状態異常無効……これまた面倒な相手だな
まぁ、それが退く理由になる訳でもないが
◆SPD
【見切り】【残像】【武器受け】【第六感】【瞬間思考力】
全てを駆使して天使の攻撃を回避しつつ、同時に
【武器改造】で爆破機能を付与した手裏剣で迎撃を行う
敵の先制を凌いだら即座に【瞬身】発動
【忍び足】を使い、爆破手裏剣で起こした爆炎、粉塵、
周囲の遮蔽物などに身を隠しながら提督に手裏剣を【投擲】
(【目立たない】【闇に紛れる】)
隙があれば【早業】で接近して旋棍を叩き込み、
離脱して再度死角から手裏剣、の流れを繰り返す
増援の天使も【暗殺】等でなるべく速攻て潰して
向こうの数的有利を阻止したいところだな
不意に、違和感を受けた。ネルソン提督は己の口端から血が流れ出している事に気がついた。一瞬の茫洋。それから既に銃創の痕が無数に刻まれている血塗れの軍服が更に汚れる事も厭わず、己の血を拭き払い、ネルソン提督は今目の前に立つ一人の少年――月凪・ハルマを睨み付けた。
先程も現れた、腕から湧き立つ無数の天使達。先の己の失態を得て、その天使達の瞳は既に布に覆われていない。
虹彩のない銀の瞳が、一斉にハルマを見据えていた。
「もう最初から、本気ってことか」
ハルマが大きく一歩飛び退き、戦闘態勢へと移行する。同時に天使達は大きな翼を広げて、猛禽類もかくやという勢いで襲い掛かって来た。
「さっきからの痛覚遮断、それと状態異常無効……これまた面倒な相手だな。
――まぁ、それが退く理由になる訳でもないが」
それでも戦う意志が変わることはない。それが猟兵の役目だ。
ハルマはバックステップ中に完全に心を切り換えまずは目の前の天使達に向き合う。
襲い来る天使の手指に光が灯り、ハルマの腕を焼き落とそうとする。それを無意識のうちに本能が察知し身体が躱した。身に着けた飛天柳風がはためいた瞬間、ハルマの姿は不意に複数となったかのように分裂し無数の幻影を残した。
天使達の戸惑いが見えた刹那、ハルマは次に天使達が次に何をするのかを見極め、偶発的に狙われた天使の一手を忍者手裏剣で受け止める。
――刹那、それを持っていた指に焼けつくような熱が籠もり、ハルマは一度それを手放さずにはいられなかった。天使の攻撃が光子熱量で保たされている事を理解して、武器による防御を切り捨て、他に意識を集中させながら、飛び交う天使達の攻撃を全て打ち払う。
そして、別の忍者手裏剣に爆破機能を組み上げては、それを次々と天使達に突き立てて連鎖的に爆発させた。
「……防いだか」
天使達の攻撃を防ぎ切ったハルマに、ネルソン提督が初めて言葉らしい言葉を口にした。だが、当然それに感銘を覚える理由もない。ハルマは即座にユーベルコードユーベルコード【瞬身(シュンシン)】を発動させて、集中することで更に己の早さに付随する行動の速度を跳ね上げた。
開いてしまった相手との距離を、足音を消しては一気に詰め、相手の足元に爆破手裏剣を投擲し、轟の炎と粉塵を巻き上げる。更にネルソン提督との距離を詰め、己の早さによる波状攻撃と、近くの森林に潜り込んでは暗がりによる死角からの手裏剣投擲を繰り返していく。
重ねられていく攻撃。それは、ネルソン提督の背中に五枚目の爆破手裏剣が突き刺さり、連鎖的な爆発を起こさせた。
しかし――だがそれでも、痛覚のないネルソン提督の動きは、見ていて恐ろしい程に変わることはない。
既に、吹き出す血は枯れ始めている。そこらのオブリビオン以上に、その身には死の気配を漂わせている。だが、その猛攻を、駆り出す完全なる己の手足となった天使達の動きを緩慢にする事は叶わない。
――必中離脱を繰り返す中、僅かに距離が重なる隙を突いて、ハルマは魔導蒸気式旋棍をネルソン提督の頭部に叩き込んだ。
だが痛覚がないのは本当なのだろう。その行動すら己の隙だと錯覚してしまいかねないほどに、相手の動きには躊躇いが生まれなかった。
ダメージは確実に通っている。無為では決してない。だが、それでもネルソン提督の腕からは、何度目となるか分からない羽が生まれ出ずる。
「せめて、速攻で潰して数的有利だけでも抑える――!」
ハルマは、思考を切り換えた。せめてこちらと敵との数の利だけは抑えなければならない。ハルマは、ネルソン提督の腕から現れようとする天使達を、その稼働前に羽根を斬りもぐように、全て忍者手裏剣を以て、それらが形となる前に斬り捨てた。
成功
🔵🔵🔴
桜雨・カイ
前の戦いで使ったマスケット銃を…
相手にも信念があるようですが、私も譲れない思いがあります
さあ始めましょう!
先制攻撃は【ダッシュ・受け流し】でかわします
避けきれなかった分は【糸編符】で相殺。
初手はかわせました。
あとは彼(ネルソン)との勝負です。
【花嵐】発動
【天狗靴】で駆け回り槍を避けつつ天使達を倒していきながら、隙をみて彼にも攻撃していきます。(【ダッシュ】【二回攻撃】)
小さい傷でもいい
どんなに痛覚が失われても傷自体は残るはず。
少しづつダメージを蓄積させていきます(【傷口をえぐる】)
致命的損失を受ける前に仕舞われた、他の猟兵による船の壁。
桜雨・カイ(人形を操る人形・f05712)は、視野の広がったネルソン提督の背後にある、打ち棄てられたマスケット銃を目にした。
それは、今。目の前の敵が『己が過去、人であった』という概念を、この戦いの為に捨てた証。
己と共にある天使と、同じ色をしたネルソン提督の瞳が、ゆっくりとカイを見据えた。
――だが、カイにもそこに懸けた思いと同等、否この胸にはそれ以上のものが存在している。
「あなたにも、信念があるようですが――私も譲れない思いがあります。
さあ始めましょう!」
意を決したカイの声が響く。それを耳に、ネルソン提督が動いた。
その両脚から、慈愛を象る微笑みと共に光体の槍を携えた天使達が現れ、カイに向かって無数の槍を一斉に擲った。
円の中に立体の五芒に煌めく閃光を軌跡として描く槍が、カイを取り囲み貫こうと迫り来る。だが、槍が直線形状の武器である以上、その軌道上には隙間がある。取り囲まれれば串刺しとなるだけだが、それに包囲される前に、カイは槍の軌道を回避しつつ、ネルソン提督との距離を縮めるべく全力で駆け出した。
「カイ!!」
呼び声に応えるように己の現し身、そして器物本体でもある繰り人形・カイが複雑に飛び描き迫る槍を横に弾き流す。槍は本体の器物ではなく、最初にネルソン提督が目視したこちらへと迫っている事を理解し、カイは更に駆ける速度を上げた。それに伴い、避けられない槍は、己の所持する糸編符の効果に懸けて、躊躇う事なくその身に受けた。糸編符は確かに受けた分だけのダメージを確実に相殺し、懐に忍ばせた幾枚もが弾けるように破れ散る。
カイがネルソン提督との距離を詰める中、新たな槍を生みだした天使達が立ち塞がる。それをカイは念糸により一体の天使を捕縛し、同時に器物人形のカイが持つなぎなたが、もう一体の天使を貫き落とした。
戦場に浮かぶ一瞬の間――その隙を見逃すことなく、カイはユーベルコード【花嵐(ハナアラシ)】で、ネルソン提督に肉薄しようとしていた人形のカイを淡くも華やかな桜花の花びらに変えると、追い縋るように己を取り巻こうとする槍と、ネルソン提督本体を巻き込み、一斉に切り裂き叩き落とした。
「――ッ!」
完全に戦場の主導権を奪われたネルソン提督が、侭ならない様を鋭く疎むようにその表情に苦渋を浮かべた。
即座に見る者を魅了するように散った花びらが収束し、ネルソン提督の正面に仮面をつけた繰り人形が現れる。
そして、手にしたなぎなたが鋭い無数の傷を敵の胸元に刻みこんだ。
「――」
まさに一拍。反応の遅れたネルソン提督が、その傷を目に、驚くように後ろへと大きく飛び退く。
先程と同様に、半透明の天使の羽根が傷口を覆うように撫でる――だが、その外傷が消えることはない。
「見事だ、猟兵。……既に、見目すらも整える事は侭ならぬとは」
「傷自体が残るのであれば、少しずつでも――!」
この機を追い、カイが人形を繰りながら、下がる相手に更に追い打ちを掛ける。
――自分達は『過去』ではない。
この手は、伸ばし続ければ、必ずや勝利に届くと確信して――。
大成功
🔵🔵🔵
クロス・シュバルツ
アドリブ、連携可
覚悟を決めた敵というのは厄介なもの。とはいえ此方にも退けない理由はあります。正々堂々……とは言いませんが、戦いましょう
『オーラ防御』で防ぎ『激痛耐性』と『継戦能力』で行動への影響を抑え、負傷は『覚悟』の最短最速の『ダッシュ』で駆け抜け、先制攻撃を凌ぐ
凌いだ後はUCを発動して負傷を回復しつつ形態変化。まず増加・実体化した影を飛翔する盾に変えて身を守りつつ黒剣で接近戦を挑む
装甲強化は『鎧無視攻撃』、移動力強化は影を無数の飛翔する剣に変形させて包囲攻撃
自身の技能と影を操る能力で敵の強化能力に対して随時対処
痛覚を遮断していようと『部位破壊』で切り離してしまえば影響は免れないでしょう
先の海戦で、空を覆う天使全てと同化を果たしたネルソン提督が、その身から数多の白銀の天使を生み出しては地上に放つ。猟兵が同時にそちらへの対処も迫られるようになった中、ネルソン提督は数秒閉じられていた眼を開き、誰にともなく口にした。
「……痛覚とは、人間にとっては不可欠なものだ。それは、自らに己の危機を伝達し、存在を自己に知らしめる。
しかし、今あるものは、わずか眠りに近しい倦怠感のみ……覚えのある、死の感覚。
だが、それでも尚、負ける訳にはいかん。不本意であろうが――敵対する以上は、沈んでもらうぞ、猟兵!」
片腕でマントを翻し、ネルソン提督が吼える。その咆哮を聞いたクロス・シュバルツ(血と昏闇・f04034)は、その足を一歩、確かな決意と共に敵へと向けた。
「覚悟を決めた敵というのは厄介なもの。とはいえ此方にも退けない理由はあります。正々堂々……とは言いませんが、戦いましょう」
敵の星明かりのような白銀の瞳と、クロスの深淵を誘う夜闇の瞳が交叉する。瞬間――爆ぜるように戦端は開かれた。
クロスが舞い飛ぶ天使の群れを突き切り、一直線にネルソン提督の元へと走る。
同時に、ネルソン提督が右腕を大きく真横に振りかざした。ネルソン提督の身から湧き立った数体の天使が、その腕を抱き留めるように取り囲み溶け込むと、腕は純白に模られたガトリング砲へと変化する。
『天使武装』――生み出された腕は、ネルソン提督の攻撃力を高め、代価として移動力を奪い去る。ネルソン提督は自身を砲台にも近い身として、その銃口をクロスへと突き付けた。
――どれだけ防げるかは分からない。だが、クロスは己の身が傷付く事を厭わなかった。
距離を詰める駆け抜けざまに【血装】忌炎が輝き、外套【夜装】白月が黒月へと変化する。クロスの身から生み出された漆黒の闇が、放たれたガトリング砲の威力を削ぎ地面へ落とした。それでも残る無数の弾丸がクロスをかすめ、その身を容赦なく貫いていく。
しかし、それでもクロスは脚を止めず、ネルソン提督の眼前にまで辿り着くと、駆け続けるままに己のユーベルコードを発動させた。
「『これより始まるは、世界を覆う影の動乱』――【鳴動する無形の黒闇(ダークネス・ランブル)】」
クロスの闇に呼び掛ける声に、己の影は確かに呼応した。
影はコールタールのように湧き上がり、瞬時にその姿を、空を駆ける闇色の盾へと変えると、ネルソン提督のガトリング砲の弾を全て四方へと弾き飛ばした。同時にクロスの身から、負傷と共に流れ出た血を傷跡も残さず全て消し去っていく。それは、完全に相手の全てを完全に無力化した瞬間――クロスは、己が手に短剣へと形を変えた【葬装】黒羽を持つと、全力でネルソン提督の懐へと飛び込んだ。
機動を削がれたネルソン提督に、それを回避する術はない。
【葬装】黒羽は躊躇わず、天使の概念を持つ男の胸を貫いた。
「ガ、ハ――ッ!」
痛覚はない。だが、浴びるような息苦しさを吐き出せば、ネルソン提督の口からは大量の血が吐き出された。
「痛覚がなくとも――」
黒剣に手を掛けたままに、影の盾がネルソン提督を衝撃と共に突き飛ばす。相手が腕を別の武器へと変化させる前に、クロスは手に残った【葬装】黒羽を、麗しい漆黒の刀身を持つ長剣へと変化させ、ネルソン提督の腕であるガトリング砲を肩上より胴体から斬り落とした。
「――その部位ごと、切り離してしまえば影響は免れないでしょう」
クロスの言葉を肯定するように、ネルソン提督がその身を蹌踉けさせ、腕が重力に逆らう事なく地に落ちる。腕に宿っていた天使達の悲鳴が響き渡り、形成されていたガトリング砲は銀の塵となって、ただの腕となって転がった。
そして、その腕も――敵が一体のオブリビオンである証明として、黒い滲みが希釈されるように、空気に溶けて消え去った。
大成功
🔵🔵🔵
ナイ・デス
限界がいつかもわからない状況で、戦い続ける
それは……
私も、あなたのように
最期まで、戦う【覚悟】です……!
光を噴いて【推力移動ダッシュ】
包囲攻撃は、相応の速さで一点突破を選べば、前と後ろからのものしか当たらない、筈
その少ない槍から、当たるものだけ【第六感で見切り】避ける
避けられないなら【念動力】で無理やりでも前へ
足を止めたら、全てあたる
【激痛耐性、継戦能力】私はまだ、生きている。だから、止まらない
私は、勇者のパートナー
『いつか壊れるその日まで』……!
再生し、止まらない!
【生命力吸収】する光の【リミッター解除】
【範囲攻撃レーザー射撃】巨大な光剣のように【なぎ払い切断】
骸の海へ、還る時、です
ネルソン提督の右腕が、黒い塵となって消え去る。
ナイ・デス(本体不明のヤドリガミ・f05727)の目の前で、ネルソン提督は腕のあった空虚を、感情の薄い無言と共に目にしていた。
その光景に、ネルソン提督は呟くように唇を開き掛ける――瞬間、まるで同化吸収した天使の一部が身体から爆ぜ飛んだかのように、腕のあった傷口から白銀の翼が生え現れた。
赤く染まっていた傷口が、結果としてその異形によって塞がれる。驚きに目を見開いたネルソン提督は、一拍の間を置いて、その事象を受け入れるように言葉を置いた。
「……ふむ、まだ戦えるということか」
「それ、は……」
ナイが僅かに震えた唇を開く。明瞭となっていないだけで、この存在の限界が遠くない事は明白だった――それは、いつ途切れるとも知れず。しかし、なお躊躇わず、戦い続けようとするその姿は。
いつ、破壊と共に消えるかも知れない、本体を求める迷いを伏せ。同時に、いつ己が掻き消えるかも分からない恐怖を伏せ。
それらを全て投げ置き、一人の猟兵として常に何かを救い続けて来た、己の姿と重なった。
ナイは何よりも知っていた。気が狂いそうな程の恐怖を諫め、それでも戦い続けようとするその意志に、どれだけの覚悟が必要であるかを。
「ですが――私も、あなたのように――最期まで、戦う覚悟です……!」
「……、来い、猟兵。
その覚悟を打ち砕き――私は勝利を手に入れる」
ネルソン提督の両脚から、無数の輝く銀砂と共に、煌々と輝く槍を携えた天使の群れが現れ、ナイに向かって無数の槍を一斉に投擲した。それは立体的な魔方陣を彷彿とさせる軌道を伴い、ナイを包囲しようと疾走する。
何度となく見た天使の槍。その特性を知っていたナイは、足首に輝く聖なる光を伴わせ、それが爆ぜる勢いと共に駆け出した。
包囲前の一点を狙う全力疾駆。全体の統率の基軸となる先頭を駆ける槍を、ナイがサイコキネシスで挫き走れば、追撃してくる槍は前面と後方のみとなり、最低限、左右を気にする必要はなくなった。
それでも、天使の放つ槍は雨のように降り落ちる。立ち止まった瞬間に、今飛来する槍は全てナイへと突き立てられるであろう。
――敵の元まで、一歩たりとも立ち止まる事は許されない。
そして、精神のどこかが鳴らす警鐘に従い、ナイは躊躇わずにそれに従い槍を躱していく。しかし、視界のない背後からの攻撃全てを、無傷でやり過ごすことは出来ず、黒剣鎧にて弾かれない身体の部位が無数の槍によって傷付けられていった。
「それ、でも――!」
ナイは立ち止まらない。身体のどこかに受けた判断も出来ない激痛にも耐え切り、尚も駆ける速度を留めない。
「私はまだ、生きている。だから、止まらない――」
駆け抜けるナイの心の内、浮かぶのは今この島を照らす空の暁星が似合う一人の少女。己の心に勇気を灯し『私』という存在に名前をくれた、唯一無二の自分の勇者――
「私は、勇者のパートナー――まだ、しねない【いつか壊れるその日まで(リジェネレイター)】!!」
天使の包囲網を抜け、ネルソン提督に迫り発動させたユーベルコードが、ナイの身を眩いばかりの聖なる光で包み込んだ。
己の傷が全快し、その別側面を持つ溢れんばかりの輝きが、ナイの右手に際限なく集まり一振りの神々しい光剣を模す。
「骸の海へ、還る時、です」
そして――相手の存在するエネルギーそのものを吸収する、聖なる光を伴ったレーザーのように制限なく光爆ぜる剣が、天使の包囲網を抜け、完全に無防備になっていたネルソン提督の胴体を力一杯になぎ払っていた。
敵対する存在の力を奪う光が、ネルソン提督の腰を胴体から真横に断絶して切り払う。
「――!?」
ナイが息を呑む。どのような生命体であろうとも、胴体が二分されれば致命傷と成り得る。オブリビオンであろうとも、それは恐らく例外ではない――だが、
「――……」
ネルソン提督の胴体は、しかし二分された瞬間に、最初の腕と同様に、瞬時に傷に沿って生えた異形の羽根によってつなぎ止められていた――。
ネルソン提督は、数多の天使と同化してきた。その様は今、まさにその圧倒的な質量が、ネルソン提督の身体から爆ぜ溢れる瞬間を狙っているかのようだった。
回復ではない。ナイの与えた損傷は尋常ではない。
だがその一撃を受け、その身に天使の翼を刻んだ男は、明らかに異形の化け物と成り果て、尚もその場に立ち尽くしていた。
「存在そのものの力を奪うその神々しい光……それを受けて、まだ還るには彼方遠い、か……。
だが――否、否『この戦場を勝つ為ならば』これもまた、既に惜しむ身ではないであろう!」
そこには、ただ廃棄されたはずの『過去』――一体のオブリビオンが『現在』に黒の滲みを残し続けていた。
臨界を迎える身体に、オブリビオンとしての先は無く。
明瞭さに欠けた、その目的なき虚ろな意志も。悍ましい異形となりつつある、その姿も。
既に猟兵達の成果として重ねられたダメージにより、ネルソン提督はそれらが『完全な己の意志であったか』ですら喪失し掛けている事を、ナイを始めとして、その場の猟兵全員が感じ取っていた――。
成功
🔵🔵🔴
アリエ・イヴ
アドリブ◎
お前は…、俺にとっちゃいけすかねぇ野郎だが
誇りを守ろうという想いも
期待を、信頼を背負いきろうって姿も
ああ、ああ…悪くねぇ
“海賊”として、相手してやるよ
ロールボアのアリエ・イヴだ
しっかり覚えて逝け
【楽園の守護者】を呼び出して、一斉掃射
敵の攻撃にぶつけて相殺する
俺の船は、家族は
いつだって俺を助けてくれる
その信頼が揺らぐことは微塵もねぇ
相対することが叶ったら
真っ向勝負といこうじゃねぇか
剣に、全身に覇気を纏わせ
深く踏み込み切りつける
俺の船で凌げねぇ範囲の攻撃は
激痛耐性…甘んじて受けてやる
そのぶん高揚する熱をのせ限界突破
痛みは感じなかろうが
てめぇの脆さは変わらねぇ
同じところを
何度でも切ってやる
「……歌が、聞こえる。勝利を私に捧げんとする、天使達の歌声が」
右腕から生えた羽根から、身体を繋ぎ止めた白翼から、人にも聞き取れるまでに透明で明瞭なる歌声が響き始める。
「――猟兵。私は、負けぬ。
……この歌が響く限り、私に敗北は許されぬ。
この身、この膝が――地につくことは無いと知れ」
そして、まだ人の形を保つ左手が、静かにネルソン提督を目視していたアリエ・イヴ(Le miel est sucré・f26383)の姿をゆっくりと指し示した。
「お前は……、俺にとっちゃいけすかねぇ野郎だが」
アリエは天使を駒に使う先の海戦を知っている。しかし、分かるのだ。今、ここに立つネルソン提督は、既に『それ』とは完全に違うものだと。
「誇りを守ろうという想いも……期待を、信頼を背負いきろうって姿も――。
ああ、ああ……悪くねぇ」
アリエが静かに相手を見返す。オブリビオンとなって在り方が狂い、更には異形にまで姿を変えて尚、その瞳に正気の輝きを放つ様を正面から受け止める。
「――“海賊”として、相手してやるよ。
ロールボアのアリエ・イヴだ。
しっかり覚えて逝け」
「アリエ・イヴ……」
ネルソン提督が、確かにその言葉を形に追うように口にする。その口許が、初めて嬉しそうな笑みの形に刻まれた。
「――海賊に後れを取るほど、私は衰えてはおらぬぞ。
さあ、このグリードオーシャンの世界に沈め!」
動いたのはほぼ同時――だが、先制を取ったのはネルソン提督の方だった。
天翼と化した右手が正面に広げられると、攻撃力を犠牲にし、一枚一枚が銀剣にも等しい長さを持った羽が周囲に展開され、一斉にアリエへと襲い掛かる。
「『さぁ、漕ぎ出せ! 勝利に向かう航海へ!!』」
重ねるように高らかにアリエが謳い、ユーベルコード【楽園の守護者(ハニルバニア)】で、海賊船ハニルバニアの実体を伴う分霊体を喚び出して、砲撃を以て向けられたそれらを撃ち落とす。
アリエの船に懸ける信頼は、戦いの中において家族(ファミリー)に向けるもの。鉄の意志を伴い補完された感情は、決して揺らぐこと無く、海賊船ハニルバニアを更に強化していく。
「旋回せよ、我が翼!」
しかし、攻撃力を犠牲として代わりに攻撃回数を五倍にまで跳ね上げた銀剣の羽が、ネルソン提督の声に応えて船の左右と上空を越え、アリエに矢の如く降り注いだ。
「ちっ――!!」
アリエは咄嗟に後ろに下がりそれを躱すが、尚も降り続ける刃の羽を避け続けるのは至難の業だった――収める為には、近づくしかない。それを放つ相手を、巻き込むほどの至近まで。
アリエは前触れもなくユーベルコードを収めると、その状況を理解するのに一瞬の間を要したネルソン提督へと、一気にその距離を突き詰めた。
構えるレーシュと共に、その身から爆発的に噴き上がる存在感と覇気――。
「来るか、猟兵! ――否……海賊アリエ・イヴ!」
ネルソン提督は上空に翼を掲げ、生みだした銀羽を飛び込むアリエへと叩き付けるように放つ。
アリエは身体を抉る羽を受け、それでも駆ける事を躊躇わない。赤く飛び散る血が、アリエを鮮やかに染めていく。
「ハッ! 滾るじゃねぇか上等だ!!」
アリエが哮る。むしろその痛みが、熱が、より意識を明瞭に、限界まで昂ぶらせていく。
「――尚も止まらぬか、海賊!」
ネルソン提督から称賛の声が上がった。そして、アリエはついに相手も刃を放てない至近にまで辿り着く。
そのままアリエは、ネルソン提督が庇うように前に出した、右手の翼の先端をレーシェで斬り落とし。返す刃によって、おそらくはその身で一番脆いであろうネルソン提督の首筋へと、無数の斬撃を繰り出した。
「――ッ!」
驚きと共に、爆ぜるようにネルソン提督が後ろに飛び退く。
その斬り落とした羽根の先端から、更に三翼の翼が生まれる。同時に、ぎりぎりの回避の下に深い傷痕が刻まれた首からは、血の代わりに一翼の小さな羽根が噴き出した。
ネルソン提督は、自分の首筋から目視出来る細い翼を無言で見つめ、まだ生きている呼吸器官と共に告げた。
「私の消滅を願う者――私は、まだ『ここにある』。
天使達の歌が消えるまで、私はこの戦いを止めはしない――!」
成功
🔵🔵🔴
シェフィーネス・ダイアクロイト
ア〇
天使共から新たな力を得たか
耳障りな歌ごと全て射抜く
貴様は既に過去の存在だ
以前、提督の分身退治の時に手に入れた「Angel」の名を持つマスケット銃を足のレッグホルスターに仕舞う
仕留める時はこの銃で決める
メガリスの眼鏡で敵の位置や周辺状況把握
敵の銃撃には此方も二丁拳銃の射撃で正確に相殺
まず何処でも構わないので敵本体にUC使用して当てるのを最優先
銃で太刀打ち不可と感じたら接近戦へ
妖刀抜いて敵の足狙う
…ッ痛覚が無い、即ち怯む暇も与えずといった所か
負う怪我に対して此処迄動けるとは
手負いの獣程、面倒なものは無い!
(覚悟の強さが動かすか)
だが私も譲れん
刀を鞘に
呪殺弾込めた蒼炎で一点集中
勝敗を決する一撃を
「天使共から新たな力を得たか」
戦況を見つめ、機会を窺い続けてきたシェフィーネス・ダイアクロイト(孤高のアイオライト・f26369)が、過去の海戦と共に相手の挙動を見据えていた。
そして、手にしていたマスケット銃を、限界までの最短で撃てる形として己のレッグホルスターに収める。
「耳障りな歌ごと全て射抜く。
――貴様は既に過去の存在だ」
その言葉と同時に。シェフィーネスは躊躇いなく、ネルソン提督に向かい、抜き放った二丁拳銃の引き金を引いた。
しかし――シェフィーネスの先制と思われた銃弾が、突如軌道を変えて弾かれる。
メガリス・glasscopeが映した先、目にしたネルソン提督の左手には、いつの間にか一丁の白く輝く『天使武装』である短銃が握られていた。
メガリスが、捉えた相手の姿に異常値として幾つかの数値を弾き出す。
(移動速度――!?)
「――甘いな、猟兵」
刹那、視界から既にネルソン提督は姿を消していた。メガリスが警告する。同時に、捉えきれない後方から殺気を感じ、シェフィーネスはその場から弾け飛ぶように前方へ跳躍すると、振り向きざまにユーベルコード【金葩の禍(ロジック・クラック)】を発動させた二丁拳銃の弾丸を放った。
その瞬間、的確に、先程までシェフィーネスのいた場所に純白の弾丸が突き刺さり、放った弾はネルソン提督の左太腿を射抜いていた。
「――っ!?」
敵の動きが一瞬止まる。遮断された痛覚の代わりに顕わとなるそれは『対象の言葉や叫びの言の葉』の数に乗じたユーベルコードの追加ダメージ。
天使達の歌が重ねられたそれは、確かに手応えのあるものだった。しかし、ネルソン提督自身はそれをものともせずに、同じ速度で姿を消すと、常に己のメガリスがなければ捉えきれない死角から、こちらに向けて弾丸を撃ち付けてくる。
「……ッ」
咄嗟にシェフィーネスは、妖刀・赤衣餓狼を抜き放ち弾丸を防いだ。その衝撃を受け流すように、ネルソン提督の足元へと滑り込み『天使武装』に伴ってメガリスへと通知された、ネルソン提督の低下した装甲数値に賭けて、その左足を撫で斬り捨てる。
それを受け、ネルソン提督の膝から下が、あまりにもあっけなく斬り飛ばされた。だが、そこからは更に羽根が生え、ネルソン提督は怯む言葉一つなく、立て続けにシェフィーネスへと重ねるように弾丸を向けた。
(痛覚が無い、即ち怯む暇も与えずといった所か。負う怪我に対して此処迄動けるとは――)
「――手負いの獣程、面倒なものは無い!」
否応なく、その場に留まれないシェフィーネスの元へ、弾丸が地面を破裂させながら近づいてくる。
「手詰まりか、猟兵? ならば――」
――瞬間、短銃を構えたネルソン提督の表情が、目に分かる程に歪みを見せた。
その異変に天使が鳴く。
ついに、執念の限界が肉体に訪れた。酷使していたネルソン提督の瞳から、光がはっきりと奪い去られていく。
「ここまで、か――だが、負けぬ!」
シェフィーネスの姿を見失い、それでも虚空を見据え、ネルソン提督が気配のみを頼りに、尚も定まらぬ銃口をこちらに向ける。
(ここまで、覚悟の強さが動かすか……)
「――だが……私も譲れん」
譲れないものがある――シェフィーネスの胸にも、オブリビオンにすら負けぬだけの、譲り得ぬものが存在している。
刀を鞘に収め、シェフィーネスは前の海戦で手に入れた、ネルソン提督のマスケット銃『Angel』を構えた。
――狙うは一撃、今まで誰も穿つことの無かった、その心臓のみ。
短銃とマスケット銃、双方の音が響いた。
ネルソン提督の弾は、シェフィーネスの頬をかすめ。同時に、天使の名を冠した己の銃より放たれた、蒼炎を纏う呪詛弾は告死天使の呼び声として、違う事なくその心臓を撃ち抜いた――
ネルソン提督が、ようやくその動きを止める。
猟兵達が目にする中、そのまま仰向けに倒れ伏し。何も映らないはずの瞳に、暁の抜けた蒼色の空を見た。
「ああ……美しい、海が――見える」
震えるネルソン提督の、顔以外人間の形をほぼ唯一保った手が空に伸び――そのまま全てが、黒い塵となって消え去った。
『七大海嘯『舵輪』ネルソン提督』――撃破。
――天使の歌声が、もう聞こえることは無い。
成功
🔵🔵🔴