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月に叢雲、花に風

#サクラミラージュ #3名様はサポートです

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#サクラミラージュ
#3名様はサポートです


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●月に叢雲、花に風
「嗚呼、貴方は何処に居るのでせう」
 私は貴方と見た月を忘れてはおりませぬ。
 月の辺縁より滲むあかりが墨色を不規則に照らし大層綺麗でした。
 仄白い頬に不似合いなぐらいに勇ましく釣り上がった唇。帝都桜學府にて市井の人々を守護する貴方らしくて、月より眩しゅうございました。
 叢雲に覆われ足元から昏く見えなくなったところで、その日の邂逅はお終い。
 改めての花の元でお逢いした日も、私の心にくっきりと残っております。
 人を手向け見送る薄紅、春のとびきり。この世の盛りと咲く花の枝へ指を伸ばす貴方。直接は叶いませぬが、花にて頬に触れて下さった時の胸の鼓動は忘れられませぬ。
 然し、意地が悪い風がひゅるり、花は哀れな程に散って仕舞いました。
「何処……」
 貴方の最期の声は、私に「生きろ」と叫びました。
 どうしましょうか、私には意味を理解することが叶わなかったのです。
 ただ、青紫の貴方の唇より吐き出された鮮血が私を飾り、花と咲きました。
 それは、
 あの日見た愛しき薄紅とは似ても似つかぬ毒々しい彼岸花。
 忌々しいと触れたなら、細い花弁は無数に爆ぜて貴方のいない世界を焦がすのです。
 貴方ではないかという屍(すがた)を見いだしても「違う」との声と共に私は理解してしまうのです。
 此処に貴方はいないと誰が言ったのだ、その口を赦さぬ。
 泣きじゃくりたくて顔にてのひらをあてると、しゃかりと不快にしてざらつく紙の感触に、惨めな心になるのです。
 今宵も、月は昇らぬでしょう。
 ならば、星ならいかがでしょう。
 私が星となったなら、貴方は見つけて向かえに来て下さるでしょうか?
 嗚呼、
 愛しの、然れど名が思い出せぬこと哀しき■▼様。
 どうして、私を殺さずに貴方が消えたの?

●グリモアベースにて
 とりあえずと、男が掲げた煙草の灯の先にはサクラ咲く帝都の一角の画が浮かぶ。彩度が落ちた街角に、毒々しいまでの赫が、ぽつ、ぽつ、ぽつ、と増えていく。
「ここへ送るから至急に対処お願いするよ。影朧の久遠寺紅嬢より溢れる彼岸花は建物を蝕み、触れればその人の命を奪うからさ」
 そこまでで九泉・伽(Pray to my God・f11786)は口元に煙草を戻す。毒を吸い込み肺を汚すことしばし、再び唇を開いた。
「久遠寺嬢は甚く弱いから、そうそうキミらの手を煩わすことはないよ。そうね、重ねて言うと叩き伏せることができたなら、害意もほぼほぼなくなるよ」
 害意がないからどうだというのだ? 猟兵の中にはそんな問いを作る者もいるかもしれない。それを想定した言葉選びで伽は更に続ける。
「思い残して死にきれないってやつ、よく聞くでしょ? だから化けて出たーなぁんて。ね、久遠寺嬢の心残りを追ってみたくはなぁい? 俺はとっても気になる」
 でも事件を見いだした以上はここを護るのが役目。だから頼りがいある仲間へ託す一匙の好奇心。
「せめて彼女の本を綴じる最期のページが苦くなきゃいいなって、願ってる」
 叶えてよ。
 折り重なる紫煙の中よりの声を背に猟兵たちはサクラミラージュへの扉をくぐる。


一縷野望
 オープニングをご覧いただきありがとうございます
 1~3章でそれぞれ出来ることが違うので、1つの章だけの参加も歓迎です
 プレイングの受付は6月7日の朝8時31分からです

【採用人数】
 1章目は5名まで、追加で書けるなら+若干名
 以降は章の頭でお知らせします

【各章の概要】
●1章目
 帝都の町中での戦闘です。影朧の久遠寺嬢は弱いです
 猟兵が戦いを仕掛けると久遠寺嬢は防戦一方になるので、一般人への被害は出ません
 戦場は帝都の街角です
 落ちた看板や半壊した建物もあるので、その辺りの物を拾って戦うこともできます
 純戦でも、久遠寺嬢への語りかけでも、自分や身の回りを投影しての心情でも、その他やってみたいことがあればご自由にどうぞ

●2章目
 1章終了時に彼女の「やりたいこと」が判明します
 その願いを叶えるお手伝いをお願いします、詳細は断章にて
(状況次第にはなりますが、大正お出かけシナリオになるかもしれません)

●3章目
 浅草十二階での美人コンテスト『帝都百美人』に久遠寺嬢が参加します
 ライバルとしてでて競い合ったり、彼女をドレスアップしてあげたり、舞台に立つ前に励ましてあげたり……他、コンテストでできることならなんなりとどうぞ

 以上です。よろしくお願いします
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第1章 ボス戦 『『死人花の災厄』久遠寺・紅』

POW   :    花言葉は『諦め』
自身の装備武器を無数の【許婚の居ない世界全てを蝕む猛毒の彼岸花】の花びらに変え、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。
SPD   :    花言葉は『想うはあなた一人』
自身が【害意や許婚が帰らない悲嘆】を感じると、レベル×1体の【見れば狂気に陥る彼岸花に埋もれた屍人】が召喚される。見れば狂気に陥る彼岸花に埋もれた屍人は害意や許婚が帰らない悲嘆を与えた対象を追跡し、攻撃する。
WIZ   :    花言葉は『また会う日を楽しみに』
対象への質問と共に、【許婚により封じられた呪符の綻び】から【自身からレベルの二乗m半径を覆う彼岸花】を召喚する。満足な答えを得るまで、自身からレベルの二乗m半径を覆う彼岸花は対象を【無機物も有機物も朽ち果てさせる猛毒の香気】で攻撃する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は黒玻璃・ミコです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

大町・詩乃
先に影朧になったのは彼なのか彼女なのか、どちらなのでしょう?
判りかねる所は有りますが、恋情に焦がれる彼女を救いたいと思います。

帝都桜學府の一員として、周囲の方々に避難勧告します。
「大事に至らないと思われますが、危険は零ではありませんので、念の為、慌てずこの場から退去お願いしますね。」と優しく話しかける。
同時に結界術で「人除けの結界」を周辺に展開し、一般の方々の巻き添えを回避します。

「本当に出会った者同士には別れなんて来ませんよ。私はそれを知っています。」
と自分の経験を元に力強く答え、久遠寺嬢のUCを自分のUCで無効化。

「さあ、貴女が会いたい方の元に行きましょう。」と笑顔と共に手を差し伸べます。


政木・朱鞠
心の迷いの置き場が判らなくなっちゃう気持ちはわかるけど…貴方の暴走は見過ごせないんだよね。
今の状態では制御出来ない力を振り回すだけで記憶や思いも救われないまま全てを忘れてしまって、世界ごと骸の海の底に沈んでしまうよ…。
久遠寺ちゃんの未来を失わせないため、今は私達が貴方の暴走を一旦閉幕させてあげるね…。

戦闘【POW】
まずは彼女の正気を取り戻してあげないとね、足止めのため武器は拷問具『荊野鎖』をチョイスして【鎧砕き】や【鎧無視攻撃】の技能を使って体に鎖を絡めて動きを封じたいね。
心情的な攻撃なのかもしれないけど…『忍法・咎狐落とし』で咎の魂と本来の意識を切り離せれば良いんだけどね。

アドリブ連帯歓迎




 ひしゃげて落ちたカフェの看板、焼け焦げ折れ曲がる外灯、割れて道路にぶちまけられた硝子……全て全て、瓦礫の中央にて顔を覆い蹲る娘がやったのだ。
 その赫は、相も変わらず、ぽつ、ぽつ、ぽつ……と、根を張り双子花三つ子花と数を増やしていく。
 黄昏時の、奇妙な符を顔に貼りつけた娘の突如の凶行に、居合わせた人々が蜘蛛の子を散らすように逃げる。
 市井の者が恐慌状態に陥らぬよう、大町・詩乃(阿斯訶備媛・f17458)はまずは帝都桜學府の身分を名乗り、影朧と彼らの前に割り入った。
「大事に至らないと思われますが、危険は零ではありませんので、念の為、慌てずこの場から退去お願いしますね」
 万が一を考えて両手を大きく広げて盾となるつもりの詩乃。それでは己が久遠寺嬢と向きあわんと進み出たのは浅黒い肌の娘だ。
「久遠寺ちゃん」
 呼びかける政木・朱鞠(狐龍の姫忍・f00521)の目の前で爆ぜるように湧いた彼岸花は、荊野鎖が風に啼く度に消失していく。
「心の迷いの置き場が判らなくなっちゃう気持ちはわかるよ」
 荊野鎖を腕に巻き納め、朱鞠は視線をあわせた。
『うう、うぅ……■▼様、■▼様、どちらにいらっしゃるの……』
 感情の昂ぶりと共に、焔花は再び咲き乱れた。だが、彼女が破壊なぞ望んでいないのは成り立ちからも一目瞭然である。
 朱鞠は切れ長の瞳を眇めると、閉ざされた心に向けて懸命に呼びかけた。
「今の状態では制御出来ない力を振り回すだけで記憶や思いも救われないまま全てを忘れてしまって、世界ごと骸の海の底に沈んでしまうよ……」
 切々とした説得と啜り泣きが、すっかり人気の途絶えた街並みに染みいった。
 詩乃の施した結界が周囲一帯を風呂敷包みのようにつつみ、以後は何人たりとも惨事に巻き込まれぬと保障する。これで安心だ。久遠寺嬢を含めて今より哀しみが増えることはない。
(「恐らく、彼もそのようなことを望まないでしょう」)
 さぁ果たして、先に影朧になったのは彼なのか彼女なのか……そもそも彼は既に冥府に旅立っているやもしれぬけど……そのようなことを胸で転がしながら、詩乃は朱鞠に並び立つ。
「本当に出会った者同士には別れなんて来ませんよ」
 例えば彼が既に彼岸の存在ならば、彼女も其方があるべき場所。今世で叶わずとも、来世の路が開けている、桜咲き誇る此処はそういう優しい世界だ。
「私はそれを知っています」
 ひとを愛し、ひとを慈しむ――時にヒーローとして、時に巫女として、時に神として。
 詩乃の柔らかだが揺るぎない声音に、久遠寺嬢は符で覆われた容から指を剥がした。
『……けれども、あの方はいなくなってしまわれました』
「そうだね。久遠寺ちゃんの大切な人は、今は傍にいない」
 今度は彼岸花を打ち払わない、朱鞠は自分の二の腕が灼けるのも厭わずに腕を伸ばし、彼女の真っ直ぐな黒髪を撫でさする。
「でも、未来はわからないよ。彼女が言うように、私もまた逢えるって思う。ううん、逢えるように助けたいの」
 さらりと黒髪ゆらし頷く詩乃は、反対側から白魚の指を差し伸べた。
「さあ、貴女が会いたい方の元に行きましょう」
『…………う』
 頷いて手を取って、それでよりよき終焉に向かえる――筈だった。
『どうして、貴方方は■▼様ではないのですか? 私は『生きている』のに――』
 繰り言めいた問いかけと共に、久遠寺嬢は黄昏空に向けて腕を広げ立ち上がった。再び濁流めいた勢いで彼岸花が溢れ出す。
「そうですね、私は貴女の想い人ではありません」
 花に指を触れ、咲く傍から散らしながら詩乃は流々と質問への答えを紡いだ。
「私が想い人になってしまうのは歪みに他ならないからです。貴女は貴女だけの本来の世界を生きなければならないのですよ」
『私の、未来……?』
 答えを受け入れたか花の勢いが収まるもそれは一時。ぐるりダンスのように踊る仕草でらせん状に巻き上がる赫。
『どうして、月は翳るの? どうして、花は散るの?』
「――力尽くでも、暴走を一旦閉幕させてあげないと」
 朱鞠の荊にて分断される赫の花弁は、散り散りに地面を焦がす。素早く後ろに下がり即座に投げた荊は久遠寺嬢を絡め取った。
(「……理不尽に煽られる魂を、なんとか切り離せれば良いんだけど」)
 手繰り締め付けを強めた荊、だが彼女の肉体は一切傷付かず、痛みがないことに気付いたか唸り声も減じていく。 
『……どう、して』
 封じられた向こう側の瞳は大粒の涙を零した。気持ちの昂ぶりを伴うにも関わらず、花は、咲くのを一時止める。 

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

御園・桜花
「初めて貴女をお見かけした時、綺麗だな、と思いました。そして寂しそうだな、とも。だから、貴女が寂しくなくなるお手伝いをしたいと思ったのです」

UC「幻朧の徒花」使用
元々の毒耐性と敵UCによる負傷からの生命力吸収能力使用
猛毒の中、紅が驚いて逃げ出さないよう気持ちゆっくりめに近付いていく

「初めて会った私ですら、貴女にそういう想いを抱くのです。貴女に近しい方、親しい方は、より強くそう思われたことでしょう」
「私が貴女にしたい事は、貴女に近しい方がしたいと思った事と多分同じだと思いますから…」
ゆっくり近付いてい紅を抱きしめ、それから頭を撫でる

「貴女が苦しまず在る事が出来る方法…一緒に探させて貰えませんか」


神宮時・蒼
……心残り、逢えぬ、人。…何処か、身に覚えが、ある、お話、ですね
…出来る、ならば、彼女に、穏やかな、眠りが、訪れれば、と
…ボクに、出来る、でしょうか

害成すオブリビオンは、倒さねばならぬと分かっていても
寄り添いたいと灯る此の気持ちは一体
貴女の心残りは、思い出せることは、ありますか?
…残される、気持ちは、嫌と言う程、分かる、から
贈られる筈だった、祝いの品が、彼の最愛の人に届かぬ、無念、なら…
貴女の心の奥に宿る言葉を教えてください
其の憂いを、祓えたら、と、

零れる彼岸花が害成すのであれば、【属性攻撃】と【範囲攻撃】の炎で燃やして被害が増えぬように

言葉が届かぬならば、UCで意識を刈り取りましょうか


ヲルガ・ヨハ
アドリブ可

花を手折るのは容易い
なれど此処は
われが蜷局巻くいくさば
選び取り、踏みいったならば
容赦出来ぬ

【雲蒸竜変】で迫る
娘へ触れるは、わが拳と尾
"おまえ"が捉えるは瓦礫や屍人

お前はおぼえているのだろう
いとし男はなんと云った?

じわりじわり狂気に
或いは
いくさの熱に
浮かされ紡ぐ

星となるなら
まばゆい尾を曳き天を駆ればいい
迎えに往く?否

"われは、待っているのだ
あれが同じ高みへと
上り詰めるのを"

唇からほろり
落ちた言の葉に瞬く
嗚呼、これは?

水のよに胸へと沁み入る
おぼえのない言葉だった
されど
確かにわれのもので

嗚呼、人の子よ
恋しいか苦しいか
それは
お前がおぼえている証

そして
愛し君がお前の身の内に
共に在るということだ




 方々に結わえられた彼岸花は細い花弁を揺らめかせ、木々を喰い金属を溶かし硝子を蝕む。
 結界で隔たれた此の一角、建造物の形を保っているものは既に数少ない。まるで数百の時を経たうち捨てられた廃墟のようだ。
(「……心残り、逢えぬ、人。…何処か、身に覚えが、ある、お話、ですね」)
 この場の有様はそのまま久遠寺嬢の心象風景なのだろうと、神宮時・蒼(追懐の花雨・f03681)は胸を痛める。
(「……ボクに、出来る、でしょうか」)
 彼女に穏やかな眠りをもたらすことが。
 猟兵達の手で幾ばくかの落ち着きを取り戻したものの、久遠寺嬢の心は未だ嗟歎の中にある。
 切り出す言葉を探す蒼。傍らの御園・桜花(桜の精のパーラーメイド・f23155)も右に同じだ。
「まずは毒をなんとかしないといけませんね。お話はそれからです」
 人差し指を口元につけて桜花が首をことりと傾けたなら、頭頂に咲く薄紅が花びらを散らし桜花の躰を包み込む。
 彼岸花の放つ黒紅が薄紅に触れる度にしゅんと霧散するのを目にして、蒼は全てを理解した。
「……お願い、します。……手荒な、ことは、したく、ありません」
 蒼が杖を掲げれば宙に魔方陣が描かれる。円陣が一際赤く輝くと、四方八方へと焔弾を散らした。そうして建造物に居付き毒を放つ花をひとつひとつ逃さず燃やしていく。
 出来る事ならば、これを彼女に向けたくは、ない。
 ――だが、事態は一筋縄ではいかぬようだ。
『……ッ、……どうして、貴方は私を殺さずに消えたの?』
 符を濡らしボタボタと滲み出る涙は地面を潤して、フィルムの早回しの如くで花を赫き花を鬱蒼と咲かせた。
 その花は、地を侵さない。
 代わりに、屍を花の数だけ招き出す。その数は十や二十では済まない。
 なれど此処は、竜の神在りし戦場。彼らの跳梁跋扈は片時も赦されぬ。
 ヲルガ・ヨハ(片破星・f31777)の竜尾が地を浚い、屍人が浮き足だった所に浅黒く逞しき腕が伸びる。
 ごぎり、と、腕の元で頭蓋を割られた二体が無に帰した。
 ヲルガは久遠寺嬢を一瞥、振り上げた拳を彼女へ向けるのは控える。花を手折るのは容易い、が、あの花は悪意にて此の地を崩壊させているのではない。であれば制裁は無用。
“おまえ”が痩せ枯れた腕を掴めば、ヲルガの拳が突き刺さる。平たくなり砕け落ちるそれらをくぐり、今度はヲルガが屍の群れを“おまえ”の方へと押しやった。
 まるで二人でじゃれ遊ぶような所作の中、ヲルガは声を張る。
「お前はおぼえているのだろう」
 娘は相手に問うて花を咲かせる、ならばくるりひっくり返せばよい。
「いとし男はなんと云った?」
『――あの、方……は』
 なんと言ってくれたのだろう。私にこの符を貼り廻らして、どうしようとしてくれたのか。
 そもそも何故、彼は私にこの様な封印を施したのか――?
『…………』
 疑問に囚われたからか、屍達の動作が鈍くなる。
 銀糸靡かせすらりと伸ばした手刀はのろまどもを叩き斬り、面紗を隔てた向こうの唇は三日月を宿した。
「星となるなら、まばゆい尾を曳き天を駆ればいい」
 あるべき場所に収まるように両腕を差し伸べる“おまえ”へ、ヲルガはとっと軽く地面を蹴り抱かれに昇る。
「迎えに往く? 否」
 此処では共にあるが、
「“われは、待っているのだ。あれが同じ高みへと上り詰めるのを”」
 傍にいても同じではない。
「…………」
 嗚呼、と、竜の神は吐息を落としそれっきり。“おまえ”の容を見もせず胸元に手を宛がった。
 ほろり落ちた此は一体? おぼえない言の葉、されど確かにわれが嘯き、なんと胸にしっくりと染みこむことか。
『………………』
 無言の二重奏。
 ヲルガの問いかけにより、娘の記憶の匣に指がかかかる。
『私は……そう、待ってはいられませんでした。あの方を……私、私……肺病が……』
 けほり、と想い出したように咳き込めば、符の隙間より虫のように小さな彼岸花が吐かれ落ちる。それは久遠寺嬢の腕も灼き、傷つけていくのだ。
『私、死んでしまったのだわ……それで、こんな影朧に成り果ててしまって…………』
 嗚呼、と崩れる娘が産み出し続ける彼岸花を、一つ一つ桜花の花びらが包みとる。
『私が、あの方を……ッ、學府より派遣されたあの方を……殺…………ッ』
 そ、と。
 桜花は立てた人差し指を彼女の口元の部分に宛がった。もういいのですよ、と首をゆらし、畏れなき破顔を咲かせる。
「初めて貴女をお見かけした時、綺麗だな、と思いました。そして寂しそうだな、とも。だから、貴女が寂しくなくなるお手伝いをしたいと思ったのです」
 辛い事はしまっておいて下さいと、胸をとん、となぞる。
 彼女と彼の『事件』という記録はきちりと残せばよい。しかし、もはや誰も害したくないと啜り泣く彼女を責め立て無理矢理に送る必要も全くないのだ。
 桜花の解毒を頼りに傍らに辿りついた蒼は、躊躇わずにその手を取った。
 符は水分でふやけうきあがり、かすかに覗くは漆黒の瞳。哀しみと悔悟に染め上がる眼差しと相対し、そっと言葉を解き放つ。
「……この符は、貴女の想い人の、願い、なのですね」
 許嫁の久遠寺嬢が、どうかこれ以上、誰がを傷つけぬように。
 彼は彼女を撃ち払うまで心を鬼と出来ず致命傷を負った。けれど最期の力を振り絞って封印を施した。
『彼は、言いました『生きろ』と……私、死んでしまったのに……』

 ――命短く尽きた彼女へ、一つだけでも人として夢を叶えられますように、と。

 彼の深い想いを知り、桜花は愛された彼女を改めて見つめた。
 初めて会った今、桜花の胸には久遠寺嬢の想いを叶え、助けたいという気持ちがいっぱいに膨らんでいる。彼女を愛した許嫁の彼の願いの強さは如何ほどか。
 罪の重さにおののき項垂れる久遠寺嬢へ桜花は優しく声を掛けてから、そっとぎゅっと抱きしめた。
「許嫁の方は、貴女が儚くなってしまい、本当に寂しく思われたのでしょう。もしかしたら、影朧の貴女に相まみえて嬉しかったのかもしれません」
 きっと、嬉しかったに違いない。例え自らが命を堕とす羽目になったのだとしても。
 だからどうか自分を責めないでと、桜花は黒髪を優しく梳り撫でる。
(「……彼も、残されたくは、なかったの、かも、しれない、ですね……残される、気持ちは、嫌と言う程、分かる、から)」
 贈られる筈だった祝いの品が彼の最愛の人に届かぬ無念は、呪いと誹られた事より余程胸を締め付ける。
 そうやって許嫁の気持ちに辿りついた蒼だがそっと胸に秘めておくこととする。
「嗚呼、人の子よ。恋しいか苦しいか」
 それで、彼女が愛した彼が命を堕とすとは、なんという皮肉か。ヲルガは“おまえ”を確かめるように胸板に掌を宛がい続けた。
「それはお前がおぼえている証」
 死者が本当に此の世から追い出されてしまうのは、忘却された時、だから――。
「愛し君がお前の身の内に、共に在るということだ」
 彼女が彼を想い、願いへと昇華する限り、彼はまだ此処にいる。
「……貴女の心残りは、もっと、思い出せることは、ありますか?」
 楽しいこと、やりたかったこと、望み……と、蒼は指折り数え上げた。
「貴女の心の奥に宿る言葉を教えてください……其の憂いを、祓えたら、と」
『私の、言葉。願い……』
「貴女が苦しまず在る事が出来る方法……一緒に探させて貰えませんか」
 腕を解き柔らかに見つけ返す桜花と、平坦に真摯を宿す蒼の眼差しを見比べる娘へ、ヲルガは背を押すように鷹揚に頷いた。

『私……あの方が見つけてくださるような、星になりたいのです。この街で一番高い所で、輝きたいのです……』

 持ち上がった容は、そびえ立つ橙レンガの凌雲閣に向けられている。
「……天に届くような、塔。彼が、見てくれる……」
 ほつれ髪、ボロとなりつつある清楚なワンピースを身に纏う久遠寺嬢を蒼は上から下まで眺め一計を案じる。
「……うんと、奇麗に、しましょう。彼が目を逸らす、ことが、できなくなるぐらい。そして、塔に、のぼりましょう」
 そうだと手を叩き、桜花は懐から折りたたんだ紙を引き出した。
「そのまま出られるかはわからないのですが……」
 チラシには着飾った貴婦人の絵姿の重なり『帝都百美人』の飾り文字が躍る。
「一際輝くお星様――スタアになってはみませんか、久遠寺さん」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 冒険 『はかない影朧、町を歩く』

POW   :    何か事件があった場合は、壁になって影朧を守る

SPD   :    先回りして町の人々に協力を要請するなど、移動が円滑に行えるように工夫する

WIZ   :    影朧と楽しい会話をするなどして、影朧に生きる希望を持ち続けさせる

👑7
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。



 女性たるもの、控えめに夫の後ろを歩むべし。
 けれど「隣にいらっしゃい」と微笑みかけてくださった。
 もっともっと、ずっとずっと、貴方の隣で過ごしたかった。
 もうあの人はいない――。
 私も命尽きた身、本来であればすぐにでも旅立たねばならないのだけれども……彼がくれた時間、星のように輝きたい。かの人が天から見つけてくれるように。

 戦場の後処理は、帝都桜學府の面々が請け負ってくれるとのこと。
 であればと、猟兵達は久遠寺嬢が訥々と口にした願いを叶えるべく知恵を絞り行動を開始する。

****
【マスターより】
>受付開始、募集人数
20日朝8時半~ 
挑戦者5名(サポートさん含まず)を越えたら、受付けしめきりの可能性が出ます
5名様を越えた場合は、再送をお願いしつつ書かせていただく予定です

>プレイングでできること
・久遠寺嬢と対話
 近くのカフェにてお喋りタイム
 彼のことを聞き出すも良し、恋の話に花咲かせるも良し、一緒に『帝都百美人』に出ようも良し
 その他、弾みそうな話題であればなんでもOKです

・久遠寺嬢に服を見立ててあげる
 近隣には呉服屋、洋服屋、装飾品を扱う店があります
(他にもプレイングでご指定いただければお店は存在します)

・大正レトロの装飾品店でお買い物
 イベシナ感覚でどうぞ
 グループ参加は3名様まででお願いします

・その他
 ここまでのお話を見て「これをやってみたい」ということがあればご自由にどうぞ

>できるけれどもリプレイが短くなる可能性が高いです
・町の人や美人コンテストの係の方に話をつける
(いらっしゃらなかった場合は「話は通った」として事態は円滑に進みます)

 3章目は『帝都百美人』のコンテストのリプレイとなる予定です
 それではプレイングをお待ちしております
大町・詩乃
悲劇に終わった恋。
せめて少しでも良い形で新しい始まりに繋げられる様に頑張ります。
力不足が悔しいですが。。。

帝都桜學府の方々に、久遠寺嬢の想い人として下記条件に該当する人がいないか、【情報収集・コミュ力・礼儀作法で】礼儀正しくお願いして、聞いて回る。
・最近、影朧との戦いで亡くなった。死因はおそらく毒。
・若い男性。
・許嫁を肺病で亡くしている。
・符術を使う。

【第六感と幸運により】見つけられたら、お名前やお写真等の明らかな情報や、同僚の方から判る範囲で想い人の個性や嗜好等を教えて頂きます。
(イメージを掴み、第三章で降霊できればと考え中。)

服の嗜好等が判れば久遠寺嬢や服を身立てる猟兵さんに教えますよ~。




 もう離ればなれになってしまったのだ、この二人は。
 祀られし神である大町・詩乃(阿斯訶備媛・f17458)だが、力不足が悔しいと俯くは一時。久遠寺嬢も顔をあげ「輝く」と決めたのならば、自分もその願いに全力で寄り添い力になりたい。
 そんな詩乃が足を向けたのは帝都桜學府である。
 万年桜の花びらひらり、校門から出てくる久遠寺嬢と近い年頃の學徒兵達を呼び止める。礼儀正しい所作で頭をたれて名と猟兵だと名乗れば、彼らは尊敬の眼差しで挨拶を返してくれた。
「実は、人を探しています。最近、影朧との戦いで亡くなられた方なのですが……」
 顔を見合わせた後で、代表するように端正な面差しの青年が聞き返してくる。
「男性ですか」
「皆さんと同じぐらいではないでしょうか、若い男性だと思います。死因はおそらく毒です」
 ざわざわと、そう言えば級友のあいつが、こいつが……と、幾人かの名があがりだす。斯様に學徒兵は過酷な使命に身を費やしているのだと、詩乃は心を痛めた。
「許嫁の方を肺病で亡くされています。その……」
 許嫁が影朧だと言い淀み、符術を使われます、と差し替えた。
「……あの、三上先輩じゃないでしょうか」
 なんという幸運だろうか。
 髪を短くかり揃えた青年がおずおずと探し人の名を告げた。
「兄の学友でよく自宅に遊びにいらしてました。術士の流れを組む華族の方です」
「三上さんと仰るのですね。お写真やその方の人となりやお好きなことなどがわかれば嬉しいのですが……」
「兄なら詳しいと思います」
 そこでリーダー格の青年が挙手をし提案する。學符の応接室で会えるよう取りはからう、と。

 ――三上・清悟(みかみ・せいご)享年21歳。口数は少なめだが、果敢に戦場に赴き仲間の援護を得意とする男であった。
 三上の親友と名乗った青年はそう切り出した。
「亡くなり方がああだったから……許嫁に殺されてしまったと言ってもいいからね、実家の親御さんはひどく恨みに荒れて、學符への支援も断絶されてしまったよ」
「そうですか……ではお家に伺うというのは難しそうですね」
 青年は頷く。
「でも、清悟は彼女を恨むような奴ではないよ。それは俺が保障する。余り惚気ることはなかったが……ぼた餅を格好つけて食べたら緊張で喉に詰まらせて、それを見て彼女がはじめて笑ってくれたんだ、と言っていったけな」
 そうして詩乃の前に布包みを置いた。
「弟から事情は聞いているよ。家にある写真と形見を持ってきた」
 差し出された布包みを許可を得てから解くと、色白の繊細な面差しの青年と目の前の彼が並んで映る写真と、元は銀色であったであろう黒ずんだ懐中時計が出てきた。
「お借りしてもよろしいでしょうか?」
「ああ。清悟もきっとそれを望んでいるだろうから」
「ありがとうございます」
 詩乃は丁寧に包み直すと納めた。想いの籠もるこれらの力を借りて一時の邂逅を編みあげよう。きっと出来るはずだ。

成功 🔵​🔵​🔴​

神宮時・蒼
輝く、星に、なりたい、ですか。…とても、素敵な、願い、だと、思います
…ならば、その、切なる、願い、是非とも、叶えて、さしあげ、ませんと
…ボクが、何処まで、力に、なれるかは、分かりません、けれど

彼に見つけてもらう為に
彼の好みと、久遠寺様の好みを聞いてみませんといけませんね
彼がどんな方であったのか、どんな逢瀬を重ねたのか
其処から何かひらめきを頂ければ、と

襤褸を纏っていては、気持ちも負けてしまいます
綺麗になれば、心も、明るく、なれる、はず、です
髪も綺麗に致しましょう
ツゲの櫛と椿油で、艶と輝きを取り戻しましょう

きっと、彼の方は、貴女を見つけてくださるから
だから、信じましょう
貴女の想いを
…彼の想いを


政木・朱鞠
ヘタに『こうしたらどうかな?』のような上から目線のアドバイスをしてしまうと…久遠寺嬢がその言葉に流されてしまって彼女が本当に進みたい道を霞ませてしまったら意味がないよね。
彼女に提案させてそれに沿った話題やオシャレに発展させるように促してあげようかな?
話の流れによっては『帝都百美人』の話題も取り入れていきたいね。
どの程度楽しませられるかは未知数だけど、思いっきりやってみる価値はあるよね。

今後の事も考えると心残りを解消するというより、生きがいを鼓舞する【言いくるめ】になっちゃうけど、彼女にはいっそ今まで貯め込んだ不安とかの感情を受け止めてあげるから思いっきりぶつけて欲しいかな。

アドリブ連帯歓迎


ヲルガ・ヨハ
アドリブ可

嗚呼
お前は思い出せたのだな

そして願うか、人の子よ
微笑み

ならば先ず、
髪は女のいのちと云う

髪に櫛を通すのに
適した場所はあるだらうか?

触れられるのを厭えば別だか
丁寧に髪に櫛をとおそう
一房、一房手にとり整え

……おそれるものはあるか、人の子よ

なにゆえに、そうおもう?

のぞむ言葉をかければよい
着飾らず、背伸びせず、あるがままの言の葉を

次はその爪に
紅を咲かせよう

いくさがみたるわれが
この手ずから施すまじないだ
かならずやお前は
頂の高みへと昇り、煜く

焦がれ、苦しみ
そうして咲かせた赤のいろ
その指先は、求める男へと
おそらくはじめにふれる部位

焦がれる想いと共に
"再会"と"転生"うたう花
このいろこそ、相応しいと




 戦場となり避難した人々が、恐る恐る戻ってきて學徒兵と話しているのを見て、政木・朱鞠(狐龍の姫忍・f00521)は何かを思いついたようだ。
「ちょっと待ってて」
 不幸中の幸いとでも言うのか、さほど破壊されていないカフェを見つけて駆け込んでいく。
 客が全て逃げた店内にて、朱鞠は、今の久遠寺嬢には危険性がないことと、込み入った話がしたいので一時カフェを貸し切りたいと店主に頭を下げる。
 しばし後。
 おいでおいでと手招く褐色の仲間へ、面紗の眼差しを寿ぐように眇めたのはヲルガ・ヨハ(片破星・f31777)だ。
「嗚呼、お前が思い出せたことを、より明確なる形にする場が誂えられた」
「はい。輝く、星に、なりたい、……とても、素敵な、願い、だと、思います」
 神宮時・蒼(追懐の花雨・f03681)と、ヲルガの眼差しは久遠寺嬢の真っ直ぐな黒髪にて交差する。
「髪は女のいのちと云う」
 禍々しき彼岸花の赫は抜け落ちて、其処には漆黒だけが残る。
「はい……髪も、奇麗に、致しましょう」
 切なる願いを是非とも叶えたいと、蒼は口元を微笑みの形に解く。
『……ありがとうございます』
 おずおずと身をすぼめると、久遠寺嬢は二人についてカフェへと足を踏み入れた。

 符に封じられた面を持ち上げて、久遠寺嬢は物珍しげに周囲を見回した。
『失礼致しました。余りこういった所に来たことはありませんでしたので……』
「そうなんだね。いつもは想い人さんとどんなところに出かけてたの?」
 デート、という単語が通じるかわからずそう言い換えた朱鞠は、久遠寺嬢から話を引き出さんと水を向けた。
(「こうしたらどうかな?」ってアドバイスで流されてしって、彼女が本当に進みたい道を霞ませてしまったら意味がないよね」)
「其れはわれも聞きたい。どのやうに語らったのだ?」
 ヲルガが湯飲みに手をふれ首を傾ける隣、蒼も女給が置いた茶菓子を中央に進め伺う。彼に見つけてもらうため、彼と久遠寺嬢の好みは是非とも聞きたい。
『……恥ずかしいのですが』
 もじもじと身を竦め恥じらう様を微笑ましく見守りながら、三者三様の物言いで促され、久遠寺嬢はぽつりぽつりと語り出す。

 喧噪多い町中より、静かな自然を好んだ。
 晴れて婚約の身となり、夜桜を見に誘われ眺めたのが一番の思い出。

『風が吹き、散って仕舞いました。月も、雲に隠れてしまいました……消沈してしまう私に向けて、彼はこのように言ってくれました――月に叢雲、花に風。間が悪いという意味ではあるけれど、とても奇麗だと思いませんかって」

「へぇ、後ろ向きにならずに奇麗なところに目を向ける人なんだね。似たもの同士の恋人同士だったんだ」
 朱鞠は屈託なく歯を見せ破顔する。
「あなたも『帝都百美人』で輝きたいって、煌めきを見いだせて踏み出せたんだもの、すごいよ」
「はい。ボクが、何処まで、力に、なれるかは、分かりません、けれど……お手伝い、できる、こと、誇らしい、です」
 蒼は顎にあたて人差し指をしゅっとなぞり、ぱちりと瞳を瞬いた。
「桜が、お好き、でしたら、新しい服は、桜の意匠も、素敵、ですね……襤褸を、纏って、いては、気持ちも、負けて、しまいます」
『新しい召し物だなんて……宜しいのでしょうか……私、お金は持っておりません……』
 生家は彼女の手で潰えた。己の罪を想い出し俯く娘に向けて、かたり、と硬質なる音が響く。
「人の子よ、後悔なきまで望むがよい」
 ヲルガの指で置かれたツゲの櫛のたてた音だ。
「思い出せた願いは尊きもの」
 胸元に触れること存分に叶えども思い出せぬ『おまえ』を浮かべ、ヲルガはそっと久遠寺嬢の髪に指を触れる。
「ボクも、よろしい、ですか」
 別の形をしたツゲの櫛を手に、蒼は反対側から一房包みつまみあげる。
 ころりとした小さな壺には椿油が詰まっている。ヲルガにも勧め、二人は左右から櫛に髪を通す。絡めず引っ張らず、生前の艶と輝きを取り戻すように丁重に。
「すごいね。どんどん奇麗になってるよ」
 朱鞠は女給から借りた手鏡を掲げて久遠寺嬢を写して見せた。銀の面には照れて頬を染めた娘がひとり。
「……おそれるものはあるか、人の子よ」
 艶増した一房から指を離し、生気の抜けた一房に指を移す。そうして紡いだ問いに、くしゅりと符がしなる音をたてる。
『…………私が、逢いたいと思ってもいいのでしょうか』
 罪の深さに囚われる様子に理由を悟ったヲルガはこのように返した。
「のぞむ言葉をかければよい。着飾らず、背伸びせず、あるがままの言の葉を」
『私…………』
 湿る符を前に、蒼は手を止めるとそっと肩を抱いてさする。
「きっと、彼の方は、貴女を、見つけて、くださる、から……逢いたい、と、願われている、そう、ボクは、思います」
 命潰えて翳朧と果てた彼女に向けて彼は願ったのだ、生きて欲しいと。
 切なる願いが現在の久遠寺嬢の心に華焔を灯した、それをただ一人の彼へと向け輝きたい――嬉しいはずだ。
(「そう、信じたい、です」)
「うん、うん……不幸な巡り合わせの上で、更に自分の気持ちを曝け出すのは、怖いよね」
 朱鞠は彼女の畏れを全て受止める。
『はい……でも…………』
「逢いたい?」
 こくり、と頷いたのと同時に、ヲルガが最後の一房を解きほぐし終えた。彼女に見せるように持ち上げて、さらり、と零し落す。
 葉のさざめくようなかすかで耳障りの良い音に、ヲルガは満足げに微笑んだ。
「次はその爪に、紅を咲かせよう」
 包みを解き取り出された紅を、細やかな筆先で拾いあげて灯す。
「いくさがみたるわれが、この手ずから施すまじないだ。かならずやお前は、頂の高みへと昇り、煜く」
 モノクロにくすむ久遠寺嬢が艶やかなる華を纏い出す。その変貌にほうっと、朱鞠は感嘆の溜息をついた。
「お化粧は、勇気をくれるんだよ。神様のおまじないなら、ますます心強いよ」
「はい……とても、とても、お奇麗、です。久遠寺様、着てみたい服は、ありますか?」
 ドレス、和装……思いつく恰好を、あげる蒼。
 その間もヲルガは、丁寧に爪を磨いてから、ひとつひとつ爪にいろを灯していく。
 久遠寺嬢の視線が、指先から窓の外で現場の収拾にあたる學徒兵に向けられる。
 男性に彼の面影を見いだしているのかと思いきや、彼女が追いかけているのは羽織袴で闊達に走り回る女性學徒の姿だ。
「もしかしてあんな風に彼と一緒に駆け回りたかった?」
 病で伏せての最後で箱入り娘であれば、生前は叶わなかっただろう。
『隣にいらっしゃい、と仰ってくださったのが嬉しくて嬉しくて……私の体が健康ならば、もっともっと隣にいられたでしょうに』
「じゃあ、これから叶えようよ。久遠寺さんがハイカラさんの袴を着てるところ、見てみたいな」
 望みの欠片を見いだせた、朱鞠はすかさずそれが潰えぬように膨らませる。心を鼓舞して艶やかな思い出を作り、胸に抱いて還って欲しいから。
 椿油の蓋を閉じた蒼も小柄な身を寄せて、ぽふりと手を合わせた。
「呉服屋さんに、参りま、しょう。お気に召すのを、見つける、まで、何軒だって、まわり、ましょう」
『はい、はい』
 感極まりそれ以外の言葉が出てこない様に、蒼と朱鞠は擽ったそうな微笑みで返す。
「ふふふ、勇ましき乙女か。良いぞ良いぞ」
 焦がれ、苦しみ、それでもなお咲く花は美しい。求める男に最初にふれる部位へ、呪いを施したいくさのかみはくつくつと喉を鳴らす。
 真っ赤な彼岸花の色――。
「焦がれる想いと共に“再会”と“転生”うたう花。このいろこそ、相応しい」

 呉服屋をめぐる中、久遠寺嬢はすっかり三人と打ち解けていた。とっておきの内緒話、ぼた餅をつまらせた彼とはしたなくも吹きだしてしまったこと、それで一気に心が近付いたのだ、と。
 そんな久遠寺嬢が三軒目で選び取ったのは、緋色に白抜きの桜が無数に舞う着物、袴は指の化粧にあわせた深紅の色だ。
『あの……髪飾りは、これで、なんて……できるでしょうか』
 用心深く咲かせた彼岸花の大輪は、誰かを害す毒を一切持たず赤々と咲き誇っている。
『再会と、転生……再会を、願いたいのです』
「嗚呼、人の子よ。願いが望みを招き寄せるのだ」
 ねがえ、ねがえ。
「うん、そうやって思いっきりやってみる価値はあるよ」
 どの程度『帝都百美人』を見に来た観客を楽しませることが出来るかは未知数だけれども。参加への下準備はしっかり根回しする所存の朱鞠である。
「貴女の、想いを、届かせ、ましょう」
 呉服屋の鏡台を借りて久遠寺嬢をそっと座らせると、蒼は左側と後頭部に咲いた赤色の花に優しく手を触れる。
 毒を纏わず咲かせる精神力は、彼女の願いと『もう哀しみに囚われない』という強い覚悟の現われである。
 ――この想いを信じる。
 同時に……『生きて』と願った、彼の想いも。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​




第3章 日常 『帝都百美人』

POW   :    ファーストインプレッションを優先して投票

SPD   :    一通り見廻って自分が応援したくなる参加者に投票

WIZ   :    プロフィールなどの紹介文を読んだうえで吟味して投票

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●帝都百美人
 勇ましき帝都学府の學徒兵。
 羽織袴で闊達に駆け誰かの笑顔を守る乙女よ、勇ましく美しく咲き誇れ。
 憧れていた、あの人の隣で薙刀振るい戦うことを。
 危険を顧みず仲間を癒やすあの人をお守り出来たらなんて、絶対に叶わぬ夢だと諦めていた。
 この夢は自分でもわからなかったもの。私、こんなにお転婆だったのね……。

 ――あの人に一等見せたい姿で、私は塔に昇る。


*****
>マスターより
 帝都の誇る塔『浅草十二階』にて行われる『帝都百美人』を描きます
 既に鬼籍の久遠寺嬢の恋人『三上・清悟』に届けと、影朧の彼女がステヱジにあがります
 2章目の時点で、久遠寺嬢のドレスアップは済んでいます

【プレイングについて】
・久遠寺嬢を思っての行動は概ね何でも描写できます。ご自由にどうぞ

・影朧の彼女が参加できるよう根回しのプレイングも可能です
(ない場合は「根回し済み」として描写するので必須ではありません)

・コンテストは当日飛び入り歓迎! 美人コンテスト参加もできます。お好きなように着飾ってどうぞ

【募集開始日時】
22日の朝8時半~24日午前中いっぱいです
※24日の午後から作業にはいります、まとめて採用の予定です
政木・朱鞠
WIZで行動
美人コンテストか~…可愛い子を見れるから楽しみだけど、今回は久遠寺嬢を応援する体制を作らないとだね…。
変なプレッシャーをかけるのも良くないのかもしれないけど、和服なら帯留め…洋服ならブローチをプレゼントして。
アドバイスとは言えない位の曖昧な励ましだけど、舞台でのパフォーマンスでは勝ち負けを気にせず自分らしくほどよく緊張しても大丈夫…貴方のそのままの心をみんなにプレゼンをすれば良いんだよ。

…とは言ったもののちょっと心配なので、久遠寺嬢の状態を目視で調べたいので感覚共有した『忍法・繰り飯綱』を先行させるように放って、舞台裏から見守ってあげたいね。

連帯やアレンジOKです


神宮時・蒼
……結果は、どうであれ、誰かの、為に、輝きたい、と、思う、気持ちは、彼の方に、きっと、届く、でしょう
…それに、しても、意外と、帝都百美人に、参加、される方は、多い、の、ですね

久遠寺様が緊張なさっているようであれば
一番、魅せたい方を思い浮かべるだけで、良いと思います
と、一言助言を
本当に魅せたい方はおひとりだけでしょうから

…ヒトの、美醜は、いまいち、よく、わかり、ません、ので、動作が、綺麗な、方へ、投票、しましょう、か
投票は正当に、平等に行うべきですから

彼女は、無事に、彼の元へと、辿り、つけた、でしょうか
願わくば、来世も、共に
…今度こそ、幸せに、なれると、いい、ですね…


大町・詩乃
黒ずんだ懐中時計。
死を覚悟で銀が毒で黒ずむまで紅さんの傍で封印を施した清悟さんの愛の証。
写真でイメージを掴み、懐中時計を縁として降霊する道を開く!

この恋を新たに始める事ができますように。
二人の幸せを祈りUC発動、降霊能力上昇。

紅さんがステヱジに上がる前にUC効果+降霊で清悟さんの霊を呼び寄せ、話せるように霊体を構築。
清悟さんに「紅さんは貴方に見てほしいと思っています。見て、そして正直な感想と想いを伝えてあげて下さい。」とお願い。

全て終わった後、三上家と久遠寺家を訪れ、顛末を正直に話します。
悲しい結末ではありますが、お二人は本当に愛し合っておられました。
それだけは判ってあげて下さいとお願いします




 下町浅草は娯楽の殿堂。キネマ館やらが軒を連ねる中、颯爽と天までそそり建つのが浅草十二階『凌雲閣』だ。
 空に1番近しい展望台にて、帝都の美人が我こそはと着飾りお披露目、審査員や見物客の心を浚うのだ。

 ――さて『浅草十二階』の控え室。
 久遠寺嬢の参加を願い出た時、主催以下関わる者達は眉をしかめて難色を示した。
「みなさんの懸念はとてもよくわかります」
 政木・朱鞠(狐龍の姫忍・f00521)は普段よりかしこまった言葉使いで、大町・詩乃(阿斯訶備媛・f17458)の隣で身を固くする久遠寺嬢を振り返る。
「彼女、久遠寺さんに他者を害する力もその気持ちもないことを、この身に駆けて誓います……という言い方しか出来ません」
 再び真剣な瞳で主催らを見据え、言い切る。
「裏を返すと、ほんのひとかけらでも危ないのならこの様な所に彼女を連れてはこないわ。だって私は力なき人達の命を守るのが身上の猟兵だもの」
 素に戻りふふ、と口元を傾けたなら、後を引き取るのは神宮時・蒼(追懐の花雨・f03681)だ。
「……久遠寺様は、純粋に、帝都百美人に、参加、されて、輝いて、想い人に、みて頂きたいの、です……願いは、他の参加者様と、何一つ、変わりません」
 指を組み祈るように瞼をおろすと、蒼は切々と訴える。
「……ひとりの女性の、願い。飛び入り参加、歓迎との、懐深い、このコンテスト、受け入れては、もらえませんか」
 お願いしますと、全員が深く頭を垂れて真摯に願う。
『おい』
 腕を組み口をへの字に曲げていた主催は、脇に居る部下を肘でつついた。
『このお嬢さんの写真を撮ってやってくれ。ポスターにはるぞ、願いを添えてな』
「え……宜しいのですか……?」
「よかったですね、紅さん」
 自分のことのように喜ぶ詩乃と喫驚の久遠寺嬢へむけ主催は続けた。
『身の上話をもう少し、事情が分かった方が、他の参加者さんも観客も受け入れやすい』
「はい。あの……」
 詩乃に肩を押され久遠寺嬢は思いの丈を語り出す。それを傍に居た眼鏡の男がサラサラとメモに取り始めた。
『帝都百美人』の開場まで、もうすぐだ。


 店舗連なる十階から展望台まではぐるりぐるりの螺旋階段。壁には様々な美人さんの写真と意気込みが連ねられている。
 その中に勿論、久遠寺嬢の写真もある。

“――彼岸にいる許嫁に届け、わたくしの悲願。共に勇ましく駆け回りたかった!”

 明らかな異形の姿に怯む者達へは、係員が猟兵がいること、なにより彼女が他の参加者となんら変わらぬのだと説いてくれた。


 下階のデパアトから戻る朱鞠は、控えスペースで出番を今かと待ち構える娘達を目にした。
「ふふ、眼福ね~。可愛い子がたっくさん」
 黒に紅が走る和装に身を包む落ち着いた美女、愛らしいオーガンジーをふんだんにあしらったドレスにて花嫁を夢見る少女、などなど。
 可愛いを楽しめるのは、久遠寺嬢を受け入れたもらえたからだ。後は彼女の頑張り次第。
 ……とはいえ、プレッシャーを掛けるのも良くないし。
「準備はどう?」
「はい、深呼吸ですよ」
「は、はい……」
 詩乃に背を支えられた久遠寺嬢が胸を膨らませる。影朧であろうがただの人のように接する、もはや友人だ。
「……緊張、して、いますね」
 当然ですと頷いて、蒼は震える手を包み込んだ。琥珀と紅石の眼差しを彼女の眼の辺りに合わせて口元をゆるく解く。
「……一番、魅せたい方を、思い浮かべて、みて、ください……」
「久遠寺さん、紅さん」
 詩乃は毒で黒ずんだ愛の証を懐で抑え、隣から語りかける。
「はい」
 名を呼ばれ、持ち上がった面差し、
「かの方のお名前、わからぬと嘆いてらしたのを、お節介してもよろしいですか?」
 耳元に寄せて――三上清悟さん、と囁いた。
「あぁ……! そう、そうです……せい、ご……せいご、清悟様」
 大切に何度も何度も一つの名を呟く久遠寺紅……紅に、朱鞠はしみじみと噛みしめるように頷き口火を切る。
「舞台では勝ち負けを気にせずに、貴方の清悟さんへの想いをみんなにプレゼンをすれば良いんだよ」
 アドバイスと言えない曖昧な励ましだろうか? けれど紅は何かをつかみかけているようで。
「嗚呼、嗚呼、清悟様への想いを語って謳にして……それで、それで…………」
 スポットライトに当たるスタアを見たのは、まだ体が元気だった幼き日の1回。キラキラと輝く中で美声を響かせる様を思い出したら、頬にぺたりと指をあてて俯く。
「私、できるかしら……」
 シーソーのようにアップダウンとせわしない。しかし、随分と気持ちはほぐれてきたようだ。
「じゃーあ、おまじない。はい」
 パチン! 銀の留め金の反り返りを指で閉じて、朱鞠は一際輝く金色の星を象った帯飾りをつけた。
「お星様の色、輝けますようにってね!」
「和に洋の星細工、とってもお似合いですね。きっと気付いてもらえます、見つけてもらえますよ」
 詩乃は、紅嬢の切なる懇願を絶対に此の手で叶えると、今一度心中にある己の神性へと手を伸ばす。
「……本当に、魅せたい方、は、おひとり、だけ、でしょう、紅様……」
 蒼は、紅嬢の描く三上清悟という青年に、ひっそりと心がそそられている。影朧となり果てた許嫁を“生かす”ために、身を削り命を落した彼は己の在り方によく似ているものだから。
 ――彼は、こんなにも久遠寺紅という娘に思い焦がれを向けられている。モノである自分は…………。
「……紅様、舞台で、貴女が、想いを形にされる、こと……楽しみに、させて、ください……」
「はい」
 今までで一番晴れやかな返事を聞いて、蒼もまた一番の明瞭さで微笑んだ。傍目には微細だろうが、それでも。
(「ひとつだけ、逢わなくても、わかること、です……三上様は、絶対に、後悔、していない、でしょう……」)
 久遠寺紅嬢を“生かし”てこの日を迎えたことを、彼は心から喜んでいるに違いない。


 蒼と朱鞠は、一足先に観客席に赴いた。詩乃の行う“奇跡”に観客が驚いた時の対応も兼ねてだ。
 混乱を抑える為、久遠寺嬢の出番は一番最後にしてもらった。だから蒼は、舞台にあがる娘達を、真面目に品評して時を待つ。
(「……ヒトの、美醜は、いまいち、よく、わかり、ません……」)
 顔立ちよりも、魂を宿し振る舞う体に目が向いてしまうのは、体と本体が乖離している蒼のヤドリガミのサガか。
「紅さんには入れないの?」
 朱鞠が握りしめた投票用紙に視線をくれる。
「……投票は、正当に、平等に、です……」
 紅嬢への判官贔屓はなしで、指の先までピリリと整えられた今の彼女が最有力候補――そんな様子に朱鞠は成程、と鼻を鳴らした。
「あ、そろそろね」
 魂魄がスッと抜けて交わる感触、舞台裏に置いた飯綱が見ている紅は、胸をはり確りとした足取りで舞台袖へと向かっている。
「うん、大丈夫そうね」

『それでは最後の特別参加――影朧の久遠寺紅嬢、です!』
『久遠寺嬢は、ポスタアにもありますように、天国にいらっしゃる許嫁の方へ御心届けたいと、参加されました! さァ、輝きの一等星となれるか!』

 割れた音の紹介口上を聞きながら、詩乃は懐の包みを解き黒焦げたような塊を晒す。
(「これは、死を覚悟で銀が毒で黒ずむまで紅さんの傍で封印を施した清悟さんの愛の証」)
 強く、強く、宿る筈。
 写真に写る控えめな微笑み。現世では夫婦と為れず尽きてしまった命たち――来世へと旅立つ前に今一度の邂逅をと念じる。
(「清悟さん、紅さんは貴方に見てほしいと思っています。見て、そして正直な感想と想いを伝えてあげるため、どうか、どうか……!」)
 詩乃が降霊の儀へ身を浸す傍らで、マイクを手にした紅は、符の下の目を閉じる。
 予告されたとしても、影朧の登壇は、観客にとっては一大事――なのに、彼らはシンと水を打ったように静まりかえって一点に目を吸い寄せられている。
 それは、久遠寺紅に戦神が授けた紅の魔術。指に灯る赤色が切なる想いを物語る。此を穢すことは、何人たりとも赦されぬ――!
「……私は、体が弱くて、清悟様の隣で歩くことは出来ませんでした……清悟様がくださったつかの間の時間、私は確りと立ち、勇ましき袴の乙女、清悟様に見て頂けるよう、聞いて頂けるよう……歌います」
 すぅ、と息を呑み、続けて唇から紡がれたのは、戦場を駆る若者を讃える流行歌だ。
 大きく届けと歌えば音階は外れて仕舞う、だが想いの心は強く気高く滲む。巧みでなくても構わない、届かせるためには時に粗野であることすら必要である。

「♪嗚呼、命をくべて奔るふたり、ともに、ともに、私は家では待ちませぬ~」

 歌いきった刹那、響いたのは割れんばかりの拍手――ではなくて、

『驚いた』

 声の主は、學生服に家紋をあしらった着流しをインバネスコートのように着こなす青年である。
「…………?!」
 舞台裾へと振り返る紅は、在りし日の三上清悟がはにかむような笑みで歩いてくるのに目を奪われる。
 詩乃の降霊が、成った。
 聞いてはいたが驚きに声をあげる朱鞠の隣、蒼は僅かに色違いの双眸を見開いた。
 彼女が、無事に彼の元に辿り着けるよう心から願っていた。だがそれは決して目の当たりには出来ぬ筈の光景であった。
「……紅様、よかった、です……」
 心から、そう言える。
『嗚呼、紅さん』
 清悟は両腕を広げ冥府の者とは思えぬ程の朗々たる声音を響かせる。
『僕の許嫁が、こんなに勇ましい方だったなんて……!』
「あ、嗚呼、嗚呼……清悟……さま……」
 体の先端から伝う震えはじわじわと心の臓の位置に到達する。乾いた筈の眼窩からは涙が溢れて止らない。
 蹌踉ける娘を、もはや外聞なぞ関係ない身軽な男は駆け寄り抱き留める。
「清悟さま、私は……紅は、清悟さま……」
 ごめんなさい、と憂いかけた口元を塞ぐように両手で頬を包む。
『紅さん。貴女が堕ちて仕舞ったならば、僕の世界には永遠に星は見えなくなっただろう。そんな世を生きて何があるというのだね! だからね、あの日の僕は、何一つ、間違っちゃいないんだよ』
「清悟様……私は星になりたいと歌いました、聞いて頂けたのですね……」
 一等奇麗な一番星だと笑い、清悟は自らが施した符に指を触れる。
『もう、此は必要ない。紅さん……いいや、紅、お前の顔を見せておくれ』
 しゅるりと解けた元には、白銀に近しい柔らかな星色の瞳が涙で潤み輝いていた。
「清悟様!」
 感極まってしがみつく袴の乙女を學徒の男は抱きしめる。
『さァ、往こう。いいかい、紅。次の世で見失わぬよう、けっして此の手を離してはいけないよ』
「はい、はい……清悟様も、どうか離さないでくださいまし」
 指を繋ぎ合い抱きしめ合う2人の若者は足元から存在を佚していく。其れは、雲に隠れる月のように朧であり、風に散る花のように儚い。
『紅。次は、満月を見て、満開の桜も見よう』
「ええ、でも花より団子、いえ……ぼた餅、ですね」
 姿が完全に散逸した2人の死者は、最期に弾けるような笑いを残していった。
 その笑声に、蒼は来世の幸せを確信して胸に手をあてる。
「ねぇ、誰に投票するの?」
 なんて朱鞠の問いかけには一言、
「……内緒、です……」
 とだけ。


 後日。
「悲しい結末ではありますが、お二人は本当に愛し合っておられました――」
 それだけは判ってあげて欲しいとの懇願を、久遠寺家の者は滂沱の如く涙を流し素直に受止めた。
 三上家は門前払いの覚悟で向かったが、詩乃は驚くような歓待を受けた。曰く、親友の彼が先んじて『帝都百美人』の出来事を話しておいてくれたのだ。
「あなた様が清悟の霊を呼び寄せて下さったと聞きました。あやつは幸せに久遠寺のお嬢さんと天に還ったと……子の幸いを願うが親。もう何も言えませんよ」
「はい、とても楽しそうに次の世のことを語り笑っておられましたよ」

 破顔の旅立ち、万年桜の花びらの如く今頃どこかで2人が産声をあげているかも、しれない。


―終―

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2021年07月26日


挿絵イラスト