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羅針盤戦争〜あまくあまく、とろけるような

#グリードオーシャン #羅針盤戦争 #七大海嘯 #メロディア・グリード

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「『増殖する私の残滓達』よ、カルロスを助けなさい」
 どこからか響く声があった。言葉だけであれば切なる願いであった。
『世界』の脅威であったとしても、想いはひとと似るのであろうか。

 その海域に住むものがあれば、海の変わりように驚愕したことだろう。
 海は広く、青く青く澄み渡り、陽に輝き、夕に暮れなずむもの。
 この広い世界に生きてきた者たちすべてにとって。純朴な島の漁師から、略奪船を操る荒くれ者でも、海とは深い懐に生命を抱くあたたかさと、気まぐれに生命を奪う厳しさをもつ、母の如き存在であっただろう。
 天から降る声ののち、海上の一点の染みから、瞬きの間に『海』が変わった。
 漂うのは潮風ではなく。
 澄んだ水はどろりと濁り果て。
 甘苦しい匂いを放つ褐色の泥めいた何かに、海は変わってしまった。
 どぷりと粘りつく音を立てて、その水面を歩むのは、甘苦しい香をまとう女を模した『何か』。
 幾百、幾千と数えきれぬ、女の形をした『何か』。
 裳裾がふれ合う毎にちりちりと罅の入る音がする。気にもせず女たちは笑いさざめき、下された命を果たすために、水面を進む。

●グリモアベース
「菓子を模すなど、言語道断でございましょう」
 桜舞うグリモアベースの片隅で、花弁を手操りながら花筏・十織(爛漫・f22723)は誰にともなく呟いた。虚空には戦争の舞台であるグリードオーシャンの地図がある。
「七大海嘯『桜花』メロディア・グリード、の分け身が海域を覆っています」
 その数数百とも数千とも。他のグリモア猟兵がした同様の予知もあり、一体どれほどの数が海を覆っているのか。
 海は底まで溶けたチョコレートと化した。
 水面を行くのはキャンディやケーキ、クッキーにキャラメル、甘い甘い菓子で造られた『残滓達』。彼女らは七大海嘯と同格の力を持つ、存在そのものが大変な脅威だ。
「ですが、分け身は分け身。力こそあれ、繊細な菓子同様に脆くできております。皆様には『残滓達』の殲滅をお願いいたします」
 彼女らが一斉攻撃を始めてしまう前に。
 広範囲かつ数の多さには辟易するところ。点や線で潰すより、面で薙ぐほうが効率がよいだろう。
 問題の海域までは鉄甲船を手配すると、十織は付け加えた。勿論、転移場所の指定にも応じると告げる。
「討ち洩らせば、後の憂いとなりましょう。脆くとも力もつものにございますが――皆様であれば、大丈夫でしょう」
 食べ物を粗末にすることには抵抗があるが、この際そうも言っていられない。
 桜吹雪が視界を塞ぐ。
 甘さで息の詰まりそうな光景が、朧に浮かぶ。
「どうぞ、ご武運を」


高遠しゅん
 ご無沙汰しております、高遠です。
 ぴんときたプレイングから執筆、少数採用、早期終結の予定です。
 全採用はお約束しかねますので、ご了承くださいませ。
 複数でご参加の場合はお二人様まで。プレイング一行目に【お名前:ID】、同日送信をお願いします。

●戦場
 「増殖する私の残滓達(スイート・メロディア)」の大群の殲滅。
 チョコレートの海をぎっしり埋めつくしています。
 足場は鉄甲船からでも、近くに偶然あった岩礁からでも、ご指定があればプレイングにお願いします。いい感じに対応致します。

●プレイングボーナス
 一斉攻撃を受ける前に、可能な限り多くの「増殖する私の残滓達」を倒す。

 それでは、皆様のプレイングをお待ちしております。
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第1章 集団戦 『増殖する私の残滓『スイート・メロディア』』

POW   :    スイート・エンブレイス
【甘い香りと共に抱きしめること】による超高速かつ大威力の一撃を放つ。ただし、自身から30cm以内の対象にしか使えない。
SPD   :    キャンディ・ラプソディ
【肉体を切り離して作った毒入りキャンディ】を給仕している間、戦場にいる肉体を切り離して作った毒入りキャンディを楽しんでいない対象全ての行動速度を5分の1にする。
WIZ   :    チョコレート・ローズ
対象の攻撃を軽減する【融解体】に変身しつつ、【毒を帯びた薔薇の花型チョコレート】で攻撃する。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。

イラスト:hina

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

ポク・ョゥョゥ
ぽくだよー
あのねー敵たんの上空に転送お願いしますなのー
落ちる前にーいっぱいぽくっきーたべるおー
めっちゃたべるよー
いっぱいの相手に~いっぱいのぽくで突撃だ~

いっぱい降ってっくるぽくでぐるぐるぱ~んち~
きっくでもいいねー。あーぱくもお手伝いしてくるのー?
じゃああのねーチョコの海を氷のブレスでちょっと固まらせて~
そこを足場にしよねー着地して~跳ね返り体当たりあたーっく~
どんどんいくおーぽくも増えるおー

抱きしめられそうになったらぬるっと形を変えて逃げるの~
ぽくはちょっと身体が柔らかいぱんだなんだ~
あがめよー

でもたくさんのお菓子おいしそー
ちょっとのぽくなら食べてもいいかなー?
お仕事はちゃんとがんばるのー



●あまくてさくさく
 さくさくさく。もぐもぐもぐ。
 ポク・ョゥョゥ(よろしくなの〜・f12425)は、お空にぽこんと飛びだした。あんまり高すぎてうっすら雲の上ほどの、とてもとても高い空の上。
 ひゅーんと落ちながら、ポクは箱ぎっしりのクッキーを食べるのに夢中。ご自慢のぽくっきー、しっとりあまくて、おいしいの。
「けぷー」
 ポクのおなかはぱんぱんだ。
「がんばるのー。おーしーごーとー、なのー」
 ぽん、ぽぽぽん! ポクがふえた!
 食べたおいしいクッキーの数だけポクは増える。食べたクッキーの数以上に増えていく。だってぽくっきーはおいしいから、いつもよりたくさんふえるのだ!
 ひとりがふたり、ふたりがよにん、よにんが……すごいたくさんのポク! ぽくぽくぽぽぽんと増えていく。増えたポクもまた増えて、もう空いっぱいに分身が雨あられ。
 どれが本物かわからない。わからくてもみんなポクなのだ。

 ぷっぷこぺーと笛を吹いたら、雪のような白竜も降りてくる。
「ぱくー」
 すうっと大きく息を吸いこんだ白竜のぱくは、真下に向かって氷のようなブレスを吹きつけた。
 ごうごうと吹雪が海を凍らせる。たぷたぷチョコレートの海が、かちかち板チョコのスケートリンクに変わる。
 お菓子のお姫様は愛らしく首を傾げ、両手を掲げた。まるでこれから降りてくる王子様を抱きしめるように。
 ぐんぐん、ぐんぐん、落ちる勢いがつく。おいしいクッキーをたくさん食べて、いつもよりたくさんふえたポクたちは、いつもよりすごく強いのだ。
「「「ぐるぐる~ぱ~~んち!!」」」
 たくさんのパクたちが声を揃える。ぐるんぐるんと腕を回す。お菓子でできたお姫様に、落下の勢いで降りそそぐ。

 ドゴォ!! とあちこちで音がした。ファンシーな見た目からの強烈な一撃が、板チョコの海を覆うお菓子の姫君たちを粉微塵にしてゆく。一撃必殺ぐーぱんちを繰り出したポクは、ぽよんとゴム鞠のように弾んで、
「「「あたーっく~~」」」
 降ってきた勢いが勢いだ、弾む勢いも半端ではない。ぽよんとした弾み方は愛らしく、ゴスゥ!! と繰り出すキックは大砲の如く。
 抱きしめようと手を伸ばす姫君もあるが、ぽよんぽこんと増えたポクは勢いよく縦横無尽に破砕する。数でくるなら数で制する、ぽっくん先生さすがです。
「「「あーがーめーよ~~」」」
 白竜のぱくの吹くブレス効果も相まって、ぱきぱき板チョコスケートリンクで弾む無数のポクは、あっという間にここら一帯の『残滓達』を破壊した。
 そんな中で。
 ひとりのポクが板チョコに刺さったお姫様のかけら、チョコクッキーをぱくりと食べてみた。だって甘くておいしそうに見えたから。
「…………」
 しばし考えて。
「おいしーの~」
 めでたしめでたし。

大成功 🔵​🔵​🔵​

アムブネ・サレハ
甘味は嫌いじゃないが、こうも過剰ではなあ
いかな美姫だろうと主張が過ぎれば厭われるぞ
鼻先に皺寄せ、億劫そうに一瞥し

金鎖を手繰り呼び出したるは氷雪の大狼タルジュ
額にひとつ口づけ落とし
彼の存在を己の裡に
輝き増した黄金の瞳
愛しき下僕、お前を預かるよ

足場をとんと蹴り、皮翼で宙空へ
身に纏うのは雪の嵐
自らを中心とし波状に広がる氷の息吹
吹き荒れる風で毒花を巻き込み撃ち落とし
見渡す限りにひしめく女共を氷の贄に捧げよう
煩わしいもの全て凍てつかせ閉じ込めてしまえばいい
なあに、寿命の砂は惜しみなく持っていけ
終わりの見えぬ魔女の命数にも些か飽いた
尽きても構わんよ


冴木・蜜
死は恐ろしい
いのちの終わり 断絶だ

けれど
その終わりを見失ってしまったら
望んでも終われなくなってしまったら
それはきっと健全ではない

終わらせなければならない
邪魔はさせません

体内毒を濃縮し『無辜』
液状化した腕を
可能な限り引き伸ばした上で振り抜き
文字通り薙ぎ払いましょう

力で押すのは得意ではないのですが
一体一体は弱いそうですから
触れたものを全て融かしてしまいましょう

毒入り菓子が飛び交うかもしれませんが
問題ありません
私の身体は死毒そのもの
逆に毒入り菓子を利用し
私を濃縮します

腕を振る空間が無くなれば
身体を気化させ
彼女たちの隙間を飛ぶことで
接触し融かします

貴女の甘やかな毒ですら
底まで喰らってみせましょう



●甘き死を
 鉄甲船の舳先に立つ。アムブネ・サレハ(怠惰の魔女・f32144)は肌に髪に纏わりつく甘苦い香に辟易して、鼻先に皺寄せ溜息をつく。
「いかな美姫だろうと、主張が過ぎれば厭われるぞ」
 行く手を凍らせた先鋒の猟兵の働きで、船は幾分進みやすくなった。ざりざりと鉄甲船が水面を砕く音と、近づいてくる菓子の姫君たちの笑いさざめく声が、波音の消えた海原に聞こえる。
「死は恐ろしい……いのちの終わり、断絶だ」
 姫君達の笑みに背を向けて、冴木・蜜(天賦の薬・f15222)が物憂く呟く。
 七大海嘯『桜花』メロディア・グリードの分け身たち。強力過ぎるが故に、心と行動が乖離しても気づけない。いずれ歪みに歪んで、望んでも終われなくなってしまう。
 それはきっと、健全ではない。
 蜜は両手を見つめる。癒し手であろうとして、毒しか生み出せぬ手だ。
「終わらせなければ」
 俯いていた顔を上げ、前方の『増殖する私の残滓達』を見遣る。

「ぞんぶんに憂い、悩むがいいよ。若き者」
 蜜を見ていたアムブネは唇にそっと穏やかな笑みをのせ、軽く甲板を蹴り船首に上がる。女神の如く皮翼を広げ、祈るように繊手を上げる。呪力の金鎖を絡ませ手繰り寄せ、現れるのは氷纏う大狼。吐く息が凍気に白く煙った。
「愛しき下僕、タルジュ。お前を預かるよ」
 秀でた額にひとつくちづけ落とし、軽く羽ばたいて共に中空へと舞い上がった。
「ええ。私はいつも救いたくて……救えない。だから終わりを与えることで、救えると思いこみたいのです」
 蜜の空を抱くように掲げた腕が、指先から黒霧となって宙に溶けてゆく。否、広がって広がって、巨大な霧の翼となる。
 褐色の翼もつアムブネは、金の瞳で波うつ褐色の海に満ちみちた姫君達を見おろした。腕を一振りすれば、身を鎧う大狼が氷礫の風を喚ぶ。風は大嵐となり海を姫君を巻きこみ大竜巻を巻き起こす。
「こおり凍れ、哀れな娘」
 風にのせた詩は甘く響き、凍てつく風は菓子の姫君達を包む。姫君が散らす毒薔薇の花弁が風をいくらか弱めるも、氷つぶてに打ち貫かれ、姫君ごと音立て壊れて散った。うなる風が声すら残さず呑みこんで、巻き上がり落ちて砕け散る。
 毒含む薔薇を取り込んで、死毒で形作られる蜜は力を増す。甘い潮風を鋭く薙ぐ不可視の鞭で、氷嵐の届かぬ姫君たちを薙いだ。
 辺り一帯を薙ぎ払った蜜は、遂には身体ごと毒霧そのものとなって船を離れる。薄く広がった霧は嵐の勢いを借り、瞬く間に彼方まで届く。虚ろな目をした菓子の姫君達は、霧に包まれだけでぐずぐずと朽ち溶けて果ててゆく。
「――ただ触れることすら、叶わなくとも」
 蜜の囁きは、嘆きにも似ていた。

 荒れ果て波の形に凍りついた平地と、砕けた菓子の姫君の残骸のほかは、視界をさえぎるものがない。ここが海上であることは、彼方に浮かぶ鉄甲船だけが示しているようだ。
 ひとの姿に戻った蜜がたたずむ前に、アムブネが従僕をつれて降り立った。
「壊し奪うことは苦手か? 若き者」
 少女の姿をしていても、アムブネはひとの範疇から外れた時間を生きている。蜜も複雑ではあるが似たようなものだ。
 蜜は間を置いてから、応えた。
「終わりがくるのは、恐ろしくはないのですか」
 アムブネは金色の目を細め、少し微笑む。使役を取り込む技は命の砂粒を喰らってゆく。
「終わりが見えぬことに、些か飽いてもおるのでな」
「いのちの終わった先に、もし何かがあるのなら」
 蜜は視線を遠くに投げる。
「もっと恐ろしくも、恐ろしくなくなるのかもしれません」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ミネルバ・レストー
ばかね、そういうのを「好き」っていうんじゃないの?
まあ、写し身に言ってもしょうがないか
鉄甲船を借りるわね、できる限りのことはやってあげる

【永久凍土に乙女よ踊れ】、発動
チョコレートの海の表面だけだっていい、わたしの世界に変えてみせる
そっちが攻撃を軽減するなら、こっちは成功率の上乗せよ
どっちが勝つかしらね?

「範囲攻撃」で限界まで広げた氷雪地帯と降雪範囲
これで残滓たちを一体でも多く射程にとらえましょ
戦場を氷漬けのお菓子にさえ変えられればこっちのものよ
毒入りチョコだなんて丁重にお断りするわ、
雪を鋭い氷片に変える「地形の利用」で「一斉発射」
薔薇ごと打ち砕いてあげるわね

ひとかけらでも食べれば良かったかしら


鷲生・嵯泉
理由はともあれ……此の匂いに何時までも付き合っては胸焼けがする
早々に消し飛ばしてくれよう

獲剔、戦場での足場はお前に任せる
可能な限りの広範囲を潰せるよう、沈まぬ様に戦場を巡れ
1体たりとも逃さん――破群領域
海上に存在する敵、総てが的だ
五感で得られる情報の全てを戦闘知識でもって計り
動きを先読み見極めて先制しよう
動く事なぞ許さん、何を為す事も出来ず砕け散れ
フェイント絡めて躱す途を塞ぎ、確実に叩き潰してくれる

何を目的としているか知らんが、決して其れを為させはせん
思いが競り合うのであれば尚の事
護るべきを護る為に在る此の刃に懸けて阻んでくれる
疾く、潰えろ過去の残滓
お前達に相応しいのは骸の海だけだ



●甘く眠れ
 海は未だ汐風ならぬ、甘く苦く息も詰まる濃厚な風に満ちている。
 ああ――ミネルバ・レストー(桜隠し・f23814)は深く息をつき、ふるりと小さく頭を振る。
 極北の海、氷を削り進む船のように、鉄甲船は舵を切ってゆく。目の前には七大海嘯『桜花』メロディア・グリードの分け身である『増殖する私の残滓達(スイート・メロディア)』。彼女らには心も意志もない。ただ、本体の命令のままに世界を変えていくだけだ。
「――ばかね」
 一言、唇の中でささやいて。
 船の舳先に立ち、広く広く意識を広げる。視界に入る波うつ水面を、己の世界と組みかえるために。
 一瞬、時が止まる。がりがりと凍ったチョコを削る鉄甲船のエンジン音も、残滓達の遠いさざめきも、己の呼吸の音も。そうして両手のひらに凝らせた凍気を、解き放つ。
 鉄甲船を中心に、見わたす海の果てまでに吹雪が舞った。雪片が波間に落ちた場所から、水面が分厚い氷に覆われてゆく。まるで極地の如き、氷嵐吹きすさぶ雪原だ。
 男がひとり、船から雪原に消えてゆく。
 見送って、ミネルバはひとりごとの続きを口にした。
「そういうのを、『好き』っていうんじゃないの……?」

 一歩が沈む雪の原は、駆けるより飛翔した方が効率がいい――鷲生・嵯泉(烈志・f05845)は牙むく深海に棲む巨大魚を足場とし、『残滓達』の範囲に到達する。そのまま頭上の高さでゆるやかな弧を描く。
「一体たりとも逃さん」
 氷の足場から逃れた範囲。
 どろり粘つく足場に揺蕩う姫君の群れ。
 肌に刺さる視線と、たぷたぷと歩む足音と囁き。抱きしめんと伸ばされる細い腕を躱し、菓子とは違う甘い薔薇の香に眉根をよせる。すべてを認識し、知覚し、総合してユーベルコードの奇跡を放つ。
「――破群領域」
 抜き身の刀が光弾く鞭へと変わる。風を切る速度で尾を引き、ひと鞭、水面を薙ぐ。無数の姫君達が声もなく、腹から横に脆く崩され動きをとめ、水面に沈み溶けてゆく。
「『獲剔』、低く」
 水面すれすれの高さで、二度、三度、鞭に変えた剣を振るえば振るう毎、微笑みさえ浮かべた『残滓達』の群は、菓子屑と化して沈み果てる。飛沫を浴びぬよう再び高度を上げ、認識と破壊を繰り返す。
 爽快感など微塵もない。むせ返るほど立ちこめた甘く苦い匂いが、何故か嵯泉の心に僅かに爪を立てた。

 鉄甲船に陣を張るミネルバは、手の中に再び凍気を集中させた。氷の世界は自身の属する世界。肌を刺す冷気が心地よい。
 薔薇の花弁が、凍り付いた姫君たちの周囲に舞っている。手もとまで風が運んできた花びら一枚をそっと摘まんで、千々に散らせた。
「食べてあげたいけれど、毒だもの。折角だけどお断りするわ」
 どこかが苦しいのは、毒を浴びたせいではない。きっと。
「おしまいにしましょ。息ができなくなってしまいそう」
 胸が、苦しくて。
 おいで、わたしの基なる力――降りつづく雪と極地の冷気、動きを止めた薔薇の姫君たちに氷片の突風が吹き荒ぶ。突風は暴風と威力を増し、見わたす限りの氷像を切り裂き新雪に沈める。

 この海はこの世界の『海』とはかけ離れている。
 嵯泉の視界にもはや動くものもなくなった。褐色の海に沈んでゆく『残滓達』の残骸がつづくだけだ。この者らが何を思って世界を変えようとしたかにも、さして深い興味もない。
 それでは何が、心に棘を刺したのか。
 嵯泉は水面から空に視線を移す。高い位置にある陽に、柘榴の色した隻眼を細めた。
 姿形だけは女の姿だったせいか。愛しい者を抱きしめるように、微笑み腕を伸ばしたからか。否、あれらに意志など存在しない。
「結局、相応しいのは骸の海だけだ」
 風にだけ聞こえるよう、呟く。

「おやすみなさい、よい夢を」
「波に揺られて、眠ればいい」

 汐の香が戻ってきた。遠く、海鳥の渡る声が聞こえてくる。
 ざざ、ざざ、と聞こえるのは波の音。
 どこまでも青く遠く深く、海はすべてを呑みこんで凪いでいた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年02月17日


挿絵イラスト