羅針盤戦争~お前の賞金を数えろ!
●フラグって知ってるかな?
――海賊。
このグリードオーシャンでは、何らかのメガリスに打ち勝ち、ユーベルコードを得た者たちを指してそう呼んでいる。
大抵は何処かの島の統治者であり、海賊=悪、というわけでもない。
だが――コンキスタドールの海賊であれば、話は別だ。
「お頭ぁ! 最新の賞金首の手配書でさぁ!」
「へえ? どれどれ?」
下っ端の海賊から賞金首の手配書を受け取った女海賊『メリー・バーミリオン』は、その金額に目を丸くした。
「はっ! また金額上がってるじゃない! こんな短期間で、賞金首(お宝)がこんなに……ふふ、ふふふふふふふっ!」
メリーの口から、抑えきれない欲が笑いがこぼれる。
「でもお頭ぁ。大丈夫ですかい?」
「こいつら、七大海嘯様に賞金かけられてるんでしょう」
「やばい連中なんじゃ……」
下っ端の中には、突然現れた高額賞金首に慄く者もいる。
だが、メリーはそんな事、気にしていなかった。
「大丈夫だって! こいつら、どっか適当な島を襲えば助けに出てくるって書いてあるんだからさ!」
その為に、何処か適当な島を目指して、メリーの海賊船は進んでいるのだ。
「襲った島の連中を人質にとればイチコロよ。この船に直接乗り込んでこられでもしない限り、負ける筈がない!」
「「「さっすが、お頭ぁ!」」」
メリーが盛大にフラグ立ててく中、下っ端たちは感心して頷いていた。
●敵は賞金稼ぎ
「皆、今の自分の賞金額、把握してる?」
鉄甲船の甲板の上で、ルシル・フューラー(ノーザンエルフ・f03676)は猟兵達にそんな事を言い出した。
「敵に把握してるのがいる。コンキスタドールの海賊にして賞金稼ぎ、メリー・バーミリオン。通称、緋色のメリー」
蒼海羅針域(コンキスタ・ブルー)を広げる戦いの中、参戦した猟兵達の首には七大海嘯によって賞金がかけられている。
メリーは、その賞金を狙って動き出した。
「メリーは『何処か適当な島を襲えば猟兵がやって来る』と言う事を知っている」
そして、それを実行に移そうと、何処かの島を襲いに海賊船に乗って海に出たのだが――。
「派手に動き出してくれたおかげで、メリーの船までなら転移が可能になったよ」
この時点で、メリーのプランってば既に崩壊してる。
「向こうが賞金首として狙ってるなら――こっちから襲撃してやろうじゃないか」
島が襲われるのも放ってはおけない。
奇襲出来るし、何処かの島の被害も未然に防げる。
まさに一石二鳥である。
「ちなみにメリーは賞金首になっている猟兵全員の、顔と名前と賞金額を知っている。だから、賞金首の猟兵がいれば欲に目が眩んで、色々と隙が出来る」
何とも、わかりやすい。
「とは言え、決して弱い相手ではないからね。油断はしないようにね。それじゃ、行ってみようか」
泰月
泰月(たいげつ)です。
目を通して頂き、ありがとうございます。
そりゃ、あんな賞金額見たら目が眩むのいても仕方ないって。
このシナリオは、「戦争シナリオ」です。
1フラグメントで完結し、『羅針盤戦争』の戦況に影響を及ぼす、特殊なシナリオとなります。
猟兵の首にかかった賞金を狙って、コンキスタドールの海賊が動き出しました。
今回の賞金首ルールならではのシナリオですね。
プレイングボーナスは『賞金首になっている』こと、です。
賞金首一覧ページに名前があればOKです。高額であれば高額であるに越したことはないですが。
敵の海賊の船に転移で乗り込んでの戦闘になります。
よって、戦場は基本的に、敵海賊船の上になると思います。
プレイングは、公開時点から受け付けです。
締切は2/13(土)23:59までとさせていただきます。
なお賞金額についても、2/13(土)23:59時点の一覧のものを参照予定です。
今回も再送はせず、2/14夜までで書ける分だけの採用の予定です。
ではでは、よろしければご参加下さい。
第1章 ボス戦
『メリー・バーミリオン』
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POW : 野郎共、仕事の時間だ!
レベル×1体の【海賊船団員】を召喚する。[海賊船団員]は【したっぱ】属性の戦闘能力を持ち、十分な時間があれば城や街を築く。
SPD : お宝発見アイ〜伝説の海賊を添えて〜
対象のユーベルコードの弱点を指摘し、実際に実証してみせると、【大海賊の霊】が出現してそれを180秒封じる。
WIZ : 大逆転! 元の木阿弥大津波
自身の【サーベル】から、戦場の仲間が受けた【屈辱の数】に比例した威力と攻撃範囲の【津波】を放つ。
イラスト:和狸56
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「十六夜・巴」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
朱酉・逢真
心情)(フラグを)立てた直後に回収するとは恐れ入った。その芸人ダマシイ、敬意を表するぜ。全力で迎え撃とうじゃねェの。つっても俺の懸賞金、安くはないが高くもないってとこだがね。
行動)俺の首につられてくれりゃア御の字。近くにおいで。襲っておいで。無抵抗で受けてやろうとも。この《宿(身)》はかりそめ、壊れたとこで死にゃしねェ。むしろ毒・病原菌を山ほど浴びるはめンなるぜ。…ところでお前さんがた、ネズミを踏んづけたの気づいたかい? そうさネズミさ。航海においちゃア、最高にサイアクな生き物さ。さァさ増える増えるぜネズミの群れだ。攻撃すればするほど増えて、お前さんらを食い散らかすぜ。
司・千尋
連携、アドリブ可
今時盛大なフラグ立てる奴とか貴重だよな…
恨みはないが
俺の懸賞金アップの為に
潔く負けてくれ!
攻防は基本的に『翠色冷光』を使用
回避されても弾道をある程度操作して追尾させる
範囲内に敵が入ったら即発動
範囲外なら位置調整
近接や投擲等の武器も使い
範囲攻撃や2回攻撃など手数で補う
召喚された団員は早めに倒したいから最優先で狙う
敵の攻撃は細かく分割した鳥威を複数展開し防ぐ
割れてもすぐ次を展開
オーラ防御も鳥威に重ねて使用し耐久力を強化
回避や迎撃する時間を稼ぐ
間に合わない時は双睛を使用
欲望に忠実なとことか面白いから
嫌いじゃないけど
無関係な奴を巻き込むのは良くないぜ
海賊全体のイメージ悪くなるんじゃね?
●フラグは回収するもの
賞金稼ぎ『メリー・バーミリオン』の海賊船。
「この船に直接乗り込んでこられでもしない限り、負ける筈がない!」
「「「さっすが、お頭ぁ!」」」
メリーが盛大なフラグを立てて下っ端たちが大いに頷く――その時すでに、その船はグリモアによる転移先となっていた。
「今時盛大なフラグ立てる奴とか貴重だよな……」
「しかも立てた直後に回収するとは恐れ入った」
先陣切って転移してきた司・千尋(ヤドリガミの人形遣い・f01891)と朱酉・逢真(朱ノ鳥・f16930)の耳には、メリーの一級フラグ建築発言がバッチリ届いていた。
「お、お頭ぁ! なんか来たぁ!」
突然現れた2人に気づいて、下っ端が声を上げる。
「何かっておめぇ――って、あいつらは!」
その声に闖入者立の姿を見たメリーが、大きく目を見開いた。
「間違いない……間違いないぞ! 賞金額6,000Gの司・千尋! そして賞金額12,600Gの朱酉・逢真!」
「本当に、把握してらぁ。俺の懸賞金、安くはないが高くもないってとこだがね」
「それを言ったら、俺の賞金は君より安いからね」
喜色で声を弾ませるメリーに、名前も賞金額も言い当てられ、逢真と千尋は少なからず驚きを感じていた。
「お、お頭ぁ? どういう事でさぁ?」
「俺ら、まだどこの島も襲っちゃいませんぜ」
聞いていた話と違う――どう言うわけか『直接乗り込んできた』猟兵達を下っ端たちは訝しみ、恐れを抱く。
「おバカ共だね! お宝前にして、細かいこと気にしてんじゃないよ! 目の前に賞金首がいるんだよ!」
だが、賞金額に目が眩んだメリーは、そんな事気にしちゃいねえ。
「さあ野郎共、やっておしま――」
「消えろ」
メリーが上げかけた号令の声を、千尋の声と掌から放たれた青い光が遮った。
●翠光と灰獣
「うわーっ」
「く、来るなー!」
船の上に、下っ端海賊の悲鳴が響いている。
「うぼぁっ」
「な、なんだこれ……ぐえっ」
千尋の放った青い光弾は、甲板の上を縦横無尽に飛んでいた。
下っ端の1人を海へ吹っ飛ばしたかと思うと、まるで糸でも付いているように空中でくいっと向きを変えて、別の下っ端の頭を叩いて昏倒させる。
――翠色冷光。
「面白いほど欲望に忠実だな。そういうの嫌いじゃないけど、無関係な奴を巻き込むのは良くないぜ」
周囲の影響を受けない青い光弾が、千尋の意のままに操られ下っ端を倒していく。
「ちっ! やるねぇ! 野郎共、仕事の時間だ!」
それを見たメリーは臍を噛みながら、新たに海賊船団員の下っ端を召喚した。あっという間に、メリーの船の上に300人を越える下っ端が現れる。
「たった2人でこれだけの数、相手しきれるかい!」
(「もしかして俺らで終わり――と思ってんのか」)
さらにフラグを増やす――恐らく無自覚に――メリーに、逢真の口の端に、思わず小さな笑みが浮かぶ。
「その芸人ダマシイ、敬意を表するぜ。全力で迎え撃とうじゃねェの」
「余裕ぶってくれるじゃない! 野郎共、やっておしまい!」
逢真の笑みを余裕からと思ったメリーが、手にした刃を振り下ろす。
その号令を合図に、下っ端が2人に殺到した。
「この数は、早めに何とかしたいところだが――」
千尋は青い光を操り、まず手始めに一人海に吹っ飛ばす。この数なら、頭痛がひどくならない程度の大雑把な操作でも充分に当たるが、いかんせん数が多い。
流石に接近されるのは防ぎきれないと、千尋は光の盾『鳥威』を複数展開し、下っ端達の攻撃に備えた。
その一方で、逢真は何もしていなかった。
「さぁおいで。近くにおいで。襲っておいで。俺の首を取りにおいで。無抵抗で受けてやろうとも」
逢真は何も持たない両手を広げ、斬れるものなら斬ってみろと言わんばかりに、自分から下っ端の方へと近づいていく。
「……っ」
「……こ、このぉっ」
その姿に気圧される下っ端もいたが、意を決した一人が逢真に刃を突き立てた。
ズブリと突き刺さった刃が、逢真の背中から突き出る。
「い、今だ!」
「や、やっちまえ!」
自分たちの剣が届く――それを目の当たりにした下っ端達が、逢真に殺到する。
「――!」
それを見た千尋は、逢真に『鳥威』の一部を回そうとして――やめた。
逢真も猟兵なのだ。
ただでやられる筈がない。
「ははっ――はははははっ!」
船の上に、哄笑が響く。
笑っているのは、逢真だ。数人の下っ端の刃に貫かれたまま、嗤っている。
「残念。この程度じゃア、死にゃしねェ――むしろお前さんがたの方が、毒や病を山ほど浴びるはめンなるぜ」
ヒトの形を取っているが、逢真は疫毒のカタマリだ。その返り血を浴びる事は、逢真と言う疫毒を浴びるに等しい。
もうすでに何人かは、じわじわと――その身体を病に侵されている。
そうした事を理解は出来なくとも、下っ端達は感じていた。
得体の知れない不安と共に、逢真の言葉が嘘ではないと。
「おおっと、離れるかい」
徐々に自身の包囲の輪が広がって行くのを、逢真はニタリと笑みを浮かべて――。
「ところでお前さんがた、ネズミを踏んづけたの気づいたかい?」
海賊達をさらに不安に陥れる言葉を放つ。
「なに言ってんのよ。この私、緋色のメリーの船にネズミなんて――」
何かを踏んだ『ぶにゅ』っとした感触に、メリーの言葉が途切れる。
――チュゥ。
逢真の言う通り、ネズミがいた。
「……ネズ……ミ?」
「そうさネズミさ。航海においちゃア、最高にサイアクな生き物さ。さァさ増える増えるぜネズミの群れだア」
死出の行進――レミングズ・マーチ。
眷属のネズミを殺意ある怪物と変えて解き放つ業。
「ネ、ネズミだぁぁぁぁぁ!?」
「追い払え、いや、海に放り投げろ」
逢真の放ったネズミの群れに、海賊たちが混乱の坩堝に陥る。
「攻撃すればするほど増えて、お前さんらを食い散らかすぜ」
「叩きつぶ――ぎゃぁぁぁ!」
逢真が告げた直後、ネズミを攻撃しようとして逆に噛みつかれた海賊の悲鳴が船の上に響き渡った。
――そんな混乱の中。
千尋は青い光弾を、海賊達の間を縫って静かに進ませていた。ネズミにばかり気を取られている海賊達は、それに気づかない。
「恨みはないが、俺の懸賞金アップの為に――落ちてくれ!」
「なぁっ!? し、しまっ――!」
メリーが気づいた時には、青い光がメリーを海に叩き落していた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
二條・心春
敵の船に直接乗り込む、ですか。ちょっと怖いけど、島の人々が狙われるよりは私が狙われる方がましですよね。
敵の数は多数で、私の武器は拳銃と槍くらい……この相手にとって有利に思える状況なら、私にかかっている賞金に目が眩んできっと隙ができるはずです。
そこですかさずスタングレネードを投げて敵を目潰しして、その間に【召喚:雷鹿】でフルフュールさんを召喚します。翼を持つこの子なら、飛んで少し浮くことで船の揺れの影響を受けずに敵を狙えます。嵐で吹き飛ばし、まとめて雷に感電させちゃいましょう。これが私の本当の力です。次からはこの子達にも賞金をかけることですね!
上野・修介
※連携、アドリブ歓迎
「しかしながら、賞金首か」
正直複雑な気分ではあるが、敵に動揺なり侮りなり誘えるならば活用しない手もなし。
「上野・修介。賞金額3600G。推して参る」
調息、脱力、戦場を観据える。
目付は広く、敵の数と配置、周囲の状況を把握。
武器は徒手格闘
UCは攻撃重視で。
まずは雑魚から片付ける。
基本的な立ち回りは空手の三戦を用いて船上で体勢の安定性を維持しつつ、状況によって船の揺れを利用し、敢えて安定性を捨て転げる様に動き回りながら低く攻める、或いは近くの敵か周囲の遮蔽物を盾にする等で、包囲と被弾を回避しつつ攪乱。
雑魚の処理しながら機を伺い、敵将が隙を見せたら、最速で懐に肉薄し渾身を叩き込む。
●見た目は普通な2人
「お、お頭ぁ。大丈夫ですかい」
「あ、危なかった……」
海に落とされたメリーが、這う這うの体で船に這い上がって来る。
その時には先の2人の姿はなく、また新たな猟兵が離れた所に現れていた。
「ここが敵の船……いきなり襲われたりしなくて良かったです」
自分と海賊達との間に距離がある事を確かめ、二條・心春(UDC召喚士・f11004)が胸中で安堵の息を吐く。
自分達を狙っている敵の船に直接乗り込む――その行為に、心春は不安の類を少なからず感じていた。元々はUDCアースの普通の少女であったという心春の過去を考えれば、そんな懸念を抱くのも無理からぬものだ。
それでも、何処かの島の人々が襲われるよりは、と飛び込んだのだ。
そして飛び込んでみれば、懸念は杞憂であった。
「あれは……賞金額10,500Gの、二條・心春だね!」
そんな心春の名前と賞金額を、メリーは顔を見るなり言い当てた。
「本当に、賞金把握してるんですね……」
「賞金稼ぎの嗜みってもんさ。それで、後ろにいるデカいのは……」
メリーは感心する心春に笑って告げて、その後ろに無言で佇んでいる上野・修介(吾が拳に名は要らず・f13887)に視線を向ける。
「上野・修介か。賞金は3,600G!」
(「俺が賞金首か……」)
やはり名前と賞金額を言い当ててきたメリーの言葉に、修介は自分が賞金首になっているのだと、改めて思い知らされていた。
今回の戦争では、そうなると聞いてはいたが――自覚してみると、これが中々に複雑な気分になる。
だが――。
「如何にも。上野・修介。賞金額3600G」
「よーし、野郎共! 2人合わせて14,100Gの賞金首だ! 暫定ランクは66位と216位。さっきは取り損ねたが、今度は首を頂くよ!」
賞金を認めるだけで、メリーの目が欲に眩むというのなら。
活用しない手などなし。
「この首、容易くくれてやる気などない。推して参る」
「私だって、負けませんから!」
修介は拳を握り、心春は槍を片手に。向かってくる海賊に向かって駆け出した。
●喧嘩と雷鹿
「3,600Gの首、貰ったぁ!」
「甘い」
下っ端海賊が振り下ろした刃を、修介は手の甲で弾いて受け流す。
かつて師事した『先生』から修介に贈られた喧嘩用オープンフィンガーグローブは、ちゃちな刃なら防げるほど、しなやかで丈夫な素材で出来ている。
下っ端海賊の刃は鈍らではないだろうが、刃からずらして受ければ、流すくらいは難しい事ではない。
「ふっ!」
そうして態勢を崩しておいた一瞬、握った拳と体に力を込めて、修介は下っ端海賊の腹に拳を叩き込んだ。
「ひゃっひゃっひゃ、背中ががら空き――」
「はっ!」
背後を突いたつもりの下っ端海賊を、修介は刃が振り下ろされる前に蹴り倒す。
「ふぅぅぅぅっ」
修介は戻した足を円を描くように滑らせながら、深く息を吐いた。
両腕の肘を曲げて手の甲を相手に向けた『三戦』と呼ばれる空手の構えを取り、今度は吐いた分だけ大きく、深く、息を吸う。
呼吸という生きる上で当たり前の動作を意識して、決して絶やす事無く行う事で、身体から無駄な力を抜いていく。
(「――力は溜めず――息は止めず――意地は貫く」)
そうした一連の動作こそが、修介の業でありユーベルコード。
――拳は手を以て放つに非ず。
「くそ! なんだこいつ……!」
「見えない速さじゃないのに……攻撃が当たらねえ!」
「せいっ!」
船の揺れに合わせて身体を揺らす動きで下っ端海賊達の攻撃を掻い潜り、修介は一撃一撃、拳や蹴りを的確に叩き込んで、1人ずつ船から吹っ飛ばしていく。
派手さはないが、堅実な立ち回り。
1対多の戦い方は、嘗て喧嘩に明け暮れた過去で身体に染みついている。
「お頭ぁ! こいつも強い!」
「だったらもう一人のお嬢ちゃんを狙いな!」
下っ端から上がった泣き言に、メリーは曲刀を掲げて切っ先で示して告げる。
その刃の先では、心春がやはり下っ端海賊達と戦っていた。
片手に持つ槍で海賊達の刃を受け止め、弾いて、反対の手で持った拳銃を隙を突いてぶっ放す。しかし心春の動きは――あまり、洗練されてはいない様に見えた。
特に修介の動きと比べてしまえば、瞭然だ。
「2人とも、おかしな光とかネズミを召喚して来る様子はない。拳か、槍と銃――戦う手段はそれだけだ。なら、数で囲めばこっちが有利なんだよ! 野郎共!」
人知を越えたような派手な業を、2人は持っていない。
そう判断したメリーは、下っ端海賊を追加召喚して、数で一気に攻めにかかる。
だが――そう思わせることが、心春の狙いであった。
「私、召喚出来ないなんて一言も言ってませんよ?」
にこやかな笑顔で告げると同時に、心春は槍を甲板に刺し、空いた片手で何か円筒状の物を掴んで、放り投げた。
円筒状の何か――スタングレネードが破裂して、辺りが猛烈な光に包まれた。
「ま、眩しい!?」
「目が、目がー!?」
メリーも下っ端の海賊達も、まともに光を浴びた様子で両手で顔を覆っている。
その隙に、心春は銃もしまうとUDC管理用タブレット端末を取り出し、慣れた様子で画面を操作した。
心春が操作を終えたタブレット端末の画面から、何かが浮かび上がる。
それは次第に大きくなり、立体映像の様に透けていた姿が実体化していく。枝分かれした2本の大きな角を持ち、鳥の様な翼を持つ鹿に似たUDCへと。
召喚:雷鹿――サモニング・フルフュール。
「まとめて攻撃お願いしますね」
心春の言葉に応えるように、雷鹿フルフュールの角の間に紫電が生じた。バチバチと音を立てて紫電が爆ぜて、膨れ上がり――雷嵐となって解き放たれた。
「ぎゃばばばばばっ!」
「と、飛ばさばばばばっ!?」
吹き荒れる風と雷に、下っ端海賊達が船の上から吹っ飛ばされていく。
メリーだけは、曲刀を足元に刺して風を堪えてみせた。
「しびびびびびびっ」
それでも、雷撃までは避けられない。
「これが私の本当の力です。次からはこの子達にも賞金をかけることですね!」
心春の言葉も、聞こえているか怪しいものだ。
そこに、ダンッと踏み込みの音が響き渡る。
今だ収まりやらぬ雷を避けて飛び出した修介が、メリーに肉薄した。
(「あ、やばいっ」)
メリーが内心声を上げるが、雷撃をまともに浴びた身体はすぐには動かない。
「加減はしない。悪く思うな」
そんなメリーを修介は容赦なく殴り飛ばし――ぽちゃんっと海に落とした。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
神代・凶津
賞金首になっている猟兵全員の顔と名前と賞金額を覚えてるってるんなら、この俺『神代・凶津』が賞金首だってのも分かるだろッ!
・・・仮面外して顔見せろ?
いやいやいや、顔見せろも何も見せてるだろッ!?
賞金首の紙を見せてみろよッ!?
何じゃこりゃああああッ!?
俺名義なのに、相棒ばっかで殆ど俺写ってねえッ!?
納得いかねえ、どう思うよ相棒ッ!?
「・・・どうでもいいから、目の前の敵に集中して。」
ちきしょうがッ!式神【飛び鎌鼬】を召喚して乱戦に持ち込んでやるッ!
敵のボスに一気に近付いて攻撃を見切りつつ妖刀で叩き斬ってやるよッ!
あと、敵の大技は結界霊符で防ぐぜ。
【技能・式神使い、見切り、結界術】
【アドリブ歓迎】
●誰が写真を選んだか
「ぶはぁっ!」
2度も海賊船から海に叩き落された緋色のメリーだが、まだ残っていた配下の手も借りて、しぶとく船に這い上がって来た。
「この私が、2度も、溺れかけるなんて……こんな屈辱、初めてだ」
「いや、むしろ良く生きてるな」
臍を噛んで甲板に拳を叩きつけるメリーに、聞き覚えのない声がかかる。
「誰だ!」
声の方を見上げれば、長い黒髪が海風に揺れていた。
深紅の鬼面で顔を隠している、巫女服姿。その出で立ちからして女性だろう。
「……誰だ?」
その姿を見たメリーが、首を傾げる。
これまで猟兵達の顔を一目見ただけで、その名前と賞金額をピタリと一致させてきたメリーが。
「誰とはご挨拶だな。賞金首になっている全員の顔と名前と賞金額を覚えてるんなら、この俺『神代・凶津』が賞金首だってのも分かるだろッ!」
神代・凶津(謎の仮面と旅する巫女・f11808)の張り上げた声に、しかしメリーの表情は、ますます訝しがるものになった。
「神代・凶津だと? お前が?」
眉根を寄せたメリーが、まじまじと凶津の顔を見上げ――。
「はん! この緋色のメリーを騙そうったって、そうはいかないよ! 偽賞金首!」
何故かそういう結論に達した。
「はぁぁぁ? なんでだよ! 凶津は俺だ!」
「まだ言うかい! 舐められたもんだね! だったらその仮面を取って顔を見せな!」
凶津は本人だと主張するが、メリーは偽物だと譲らない。
「……仮面外して顔見せろ? いやいやいや、顔見せろも何も見せてるだろッ!?」
「見せてないから言ってんじゃないか!」
「だから何言って――……いや、ちょっと待て」
噛み合わない言い合いの中、凶津の中に、嫌な予感が湧き上がった。
「その手配書、見せてみろ」
凶津は返事も待たずに下っ端から手配書の束を奪い取り、パラパラと捲り始める。
そして――知った。
「何じゃこりゃああああッ!?」
自分の手配書に、どんな顔が映っているのかを。
「俺名義なのに、相棒ばっかで殆ど俺写ってねえッ!?」
――神代・凶津と言う人間はいない。
凶津と言う名を持っているのは、深紅の鬼面だ。巫女服を纏い鬼面をつけた身体は、神代・桜と言う女性の物である。
だというのに――。
手配書に映っているのは、鬼の仮面を外した桜の姿だった。
一応、仮面は桜が手に持っているので、全く映っていないわけではない。鬼の角の、先っぽちょっとだけは映っている。
「納得いかねえ、どう思うよ相棒ッ!?」
「五月蠅い」
自分が映っていないと騒ぐ凶津を外して、桜はメリー達に己の素顔を見せる。
「これでいい?」
鬼面の下から現れた桜の顔を見て、メリーの表情が一変した。
「……。……神代・凶津だったー!?」
「だからそう言ってんだろうが!」
真相が判って驚くメリーと、憤慨する凶津の声が船上に響く。
「……どうでもいいから、目の前の敵に集中して」
桜は淡々と告げて鬼面を被り直し、曲刀構えたメリーに向き直る。その表情は、なんだかとてもお怒りの様子だった。
「よくも、この私を騙そうとしてくれたね!」
「ちきしょうがッ! 好きで騙したんじゃねえ!」
「はぁ……式、召喚――飛び鎌鼬」
騙されたと怒るメリーと言い返す凶津の声を聞きながら、桜は溜息交じりに式神を召喚した。
「騙された屈辱、思い知りな!」
元の木阿弥大津波。
メリーの曲刀から放たれた大津波が、凶津達に迫る。
だが津波に飲み込まれる直前、凶津は結界霊符を引き抜いた。霊符の作る結界が、水を留める壁となる。更に、鉄すら切り裂く風を纏った鎌を持つ鼬の式神が、流れる水をも切り裂いて勢いを弱めていくいく。
「思い知――っ」
津波が収まった直後、結界の中にいる凶津にメリーが言葉を失う。
「くっ!」
そこに鼬の式神が鎌で斬りかかり――。
「覚えとけ! 俺が! この鬼面が、神代・凶津だ!」
声を張り上げながら、凶津が妖刀で斬りかかる。
重ねた刃と風の衝撃が、メリーをまたしても船から海まで吹っ飛ばした。
大成功
🔵🔵🔵
リーヴァルディ・カーライル
…思えば全員の顔と名前と賞金額を知っているのも大概だけど、
猟兵達の被害を集計して毎日々々更新する七大海嘯も相当よね…
…敵ながら卓越した情報収集能力を誉めれば良いのか、
その能力もっと他に有効活用する場があるとつっこめば良いのか…
…いや、まあ敵が能力の無駄遣いをしているのは歓迎なんだけど…
UCを発動して大鎌を武器改造して鏡の魔剣化して敵を写し、
メリーと同じ能力を持つ偽物を召喚して闘わせる
"…ちなみに、現在の全猟兵の賞金総額は?"
…いえ、別に深い意味なんて無いわ
毎日値がはね上がっているから…純然たる興味よ
今までの戦闘知識から最適な動作で敵の死角へ切り込み、
魔力を溜めた魔剣で敵を乱れ撃ち敵陣をなぎ払う
リュカ・エンキアンサス
賞金稼ぎか…ちょっと怖いな(棒読み
いや、ああいう夢とか浪漫とか追いかける人種はある意味尊敬する
俺には無理だ
…と、いうわけで
賞金首になっているらしいけれども少額であるので、ほかの賞金首さんに目がいっている間にこっそり死角に回り込んで撃とう
周囲に海賊がいるならそれを制圧してからメリー・バーミリオンへ
UCは封じられてもかまわず撃つ。大技を使えなくとも、こうして地味に削っていけばなんかこう、高額な方がすごい技で倒してくれるさ
俺は敵を倒せればいいので細かいことは気にしない
勿論、機会があれば遠慮なく全力で倒すけど
…仕事をするなら堅実にね
あちこち目移りして、結局一人も倒せなかったってなるのは、駄目だと思うよ
虹川・朝霞
本人の認識:浜を綺麗にして、蟹を食べてたら、何故か賞金かけられてた。
…賞金首という柄ではないのですが。
島を襲わせるわけにはいきませんし、利用できるなら利用しましょう。
【鉄雲】発動。シンプルゆえに弱点も見つけづらくなるんですよ。
これ、鉄下駄(本当はUDC圧縮体で超絶重い)と紫雲刀(重い)の両方ですしね。
紫雲刀で斬りつけ、鉄下駄でかかと落としをしましょう。
武器を奪おうとしても…本当に重いですからね?俺は怪力で持てますけど。優男に見えました?
防御は、展開している紫雲刀で結界術も使ってますから、それで弾きます。
●フラグは減ったら立てるもの
――トンテンカン、トンテンカン。
海の上に、木板を打ち付ける軽快な音が響き出していた。
音は、緋色のメリーの船から響いている。
「野郎共! 船の修繕を急ぐんだよ!」
船の上では、ずぶ濡れであちこち傷だらけのメリーが、追加で召喚した下っ端海賊達に船の修繕を急がせていた。
この下っ端達、時間さえあれば街でも城でも作ることが出来る。実はそれだけの技術を持っている、ある意味で優秀な下っ端なのである。
「早く直しとかないと、また賞金首が来た時に困るじゃない!」
メリーが大声で下っ端達を急かした直後だった。
「困る、ね……お望み通り、来てあげたわよ」
転移してきたリーヴァルディ・カーライル(ダンピールの黒騎士・f01841)の声が響いたのは。そして、乗り込んだのは彼女1人だけではない。
「知ってる。ああいうの、フラグって言うんだよね」
「何だか申し訳ないタイミングですな」
リュカ・エンキアンサス(蒼炎の・f02586)と虹川・朝霞(梅のくゆり・f30992)も、同じタイミングで転移してきている。
「さ、3人……!」
「今まで2人でも勝てなかったのに、3人……!」
ヤバい賞金首が3人と言う現実に、ざわつく下っ端海賊達。
「野郎共!」
そんな下っ端を、メリーが一喝する。
「いいかい。今度こそ、今度こそやるよ」
メリーの瞳は、燃えていた。
「まず後ろの帽子かぶってるのがリュカ・エンキアンサス。賞金額は1,500G」
「本当に賞金把握されてる。これが賞金稼ぎか……ちょっと怖いな」
これまで同様(例外はあったが)リュカも顔だけで賞金額を把握され、全然怖くなさそうな顔と全然怖くなさそうな声色で、怖いと言ってみせる。
「いや、アンタ怖がってないでしょーが。はい次!」
そんなリュカに突っ込んでから、メリーは視線を横に向けた。
「あの、なんか角生えてるのは虹川・朝霞。賞金額は1,800Gだよ」
「本当に、賞金首になってるんですね……」
メリーの口から賞金額を告げられ、朝霞はしみじみと呟く。
(「浜を綺麗にして蟹食べてただけなのに、なんで賞金かかったんだろう」)
蟹か、蟹なのか。
何故に柄でもない賞金首になったのかと自問自答しながら、朝霞は何も言わなかった。メリーが賞金額を気にしてくるなら、利用するまでだ。
「いいかい、野郎共。ぶっちゃけ、この2人は後回しでいい」
朝霞のそんな決意を知らず、メリーは視線を2人の間に向ける。
「あの銀髪の小娘。あれを狙いな」
「あの小娘ですかい」
「確かにちっこくて楽そうですが……」
メリーと下っ端海賊たちが『ちっこい』だの『小娘』だのと称しているのは、誰であろうリーヴァルディの事である。
「小娘と油断すんじゃないよ! あれは賞金額80,100G! 賞金額ランキング暫定3位のトップランク賞金首のリーヴァルディさ」
「……本当に、全員の顔と名前と賞金額を知っているのね」
やはり賞金額と金額順の順位まで把握してるメリーに、リーヴァルディは感心と呆れが混ざった溜息を零した。
そこまで把握しているメリーも大概だが、その情報を出している方が、リーヴァルディは異常に思えてならなかった。
その情報収集能力を考えると、凄まじい。敵ながら見事と褒めるべきか、賞金以外に有効活用できる場がなかったのかとつっこむべきか。
(「……いや、まあ敵が能力の無駄遣いをしているのは歓迎なんだけど……」)
「私達にかけられてる賞金って、七大海嘯の誰が出してるのかしらね。猟兵達の被害を集計して毎日々々更新するなんて、相当よね……」
「確かに。実は暇なのかも」
「蟹も被害なんですか……」
胸中で浮かんだ色々なものを飲み込んだリーヴァルディが誰に言うともなしに漏らした呟きに、リュカと朝霞が思わず頷いていた。
●弱点あったりなかったり
「悪いけど、折角船を少し直したとこなんだ! あんたらの力、封じさせてもらうよ」
向かってくる3人を見据えて、メリーが告げる。
「出来ますか?」
その視線と言葉を受け止め、朝霞が目を細めて――甲板を蹴って跳んだ。
「鉄も雲も、俺の思うままに」
空中で、鉄下駄を履いた脚を振り上げ、落下の勢いと共に振り下ろす。
ズドンッと鉄球でも落ちたかの様な重たい音が響いて、朝霞が踵から鉄下駄を落とした一帯がへこんでいた。
――鉄雲。
鉄下駄ともう1つ、紫雲刀の能力を向上させる龍の権能たる業。
どちらも重い朝霞の得物が、威力も重さも増している。
「武器の威力を上げたかい。だったら、奪っちまえば使えないね。野郎共!」
「「アイアイ、船長」」
メリーのお宝を見分ける眼は、朝霞の業がどういう性質のものか、その弱点をあっさりと見抜いてみせた。その上で、下っ端海賊達をけしかける。
「正解です。でもね……」
まずは足からと、鉄下駄に掴み掛って来る下っ端を放置して、朝霞は告げた。避ける必要などないからだ。
「ぐ、ぐぎぎぎぎ……う、動かない!」
「持てないでしょう? 本当に重いですからね?」
下っ端が鉄下駄を朝霞から脱がそうとしても、びくとも動かなかった。
「優男に見えました?」
掴まれているのとは反対の足を掲げて、朝霞が振り下ろす。
単純な一撃で、また甲板が沈んだ。
「く、くそ。ならその剣を――」
鉄下駄が無理なら紫雲刀を。狙いを変えて、別の下っ端が手を伸ばす――。
タァンッ!
乾いた音が響いて、下っ端の腕が撃ち抜かれた。
「い、いてぇぇぇ!」
「狙撃だ! どこからだ」
「あ、あそこだ! さっきの1,500Gのガキだ!」
周りの下っ端達がざわつき、柱の陰にいるリュカに気づく。
「賞金額で呼び分けるの、やめて欲しいかな……ま、いいけど」
淡々と告げて銃口を向けようとしたリュカが、スコープから目を外した。
「盾、か」
「へっ。狙撃対策くらいないと思ったか」
盾と言うほど上等なものではない。金属板を加工しただけという代物だが、幾らかの弾除けにはなるだろう。
だが――。
「……星よ、力を、祈りを砕け」
リュカは慌てず騒がず、魔術と蒸気の力で動く銃を構えた。
届け、願いの先へ――バレット・オブ・シリウス。
「ぎゃぁぁぁっ!?」
あらゆる装甲や幻想を打ち破る星の弾丸が、弾除けの盾をあっさりと撃ち砕いて、奥の下っ端海賊も撃ち抜いた。
「装甲無視の弾丸か……なら、簡単だ!」
それを見たメリーは、リュカの弾丸の業にも弱点を見出していた。
「見ての通りさ。私は――防具なんか着ちゃいない!」
「うん?」
メリーの声に、リュカが銃を構えたまま首を傾げる。
確かにメリーの恰好は、お世辞にも防御力などありそうには見えない。せいぜい、マントがないよりましなくらいだろうか。
「野郎共も似たような紙装甲だろう! だから盾を捨てな! そうすれば、あの弾丸はただの無駄撃ちになる!」
「あー……確かにそうか」
メリーの声で下っ端海賊達が盾を捨てるのを見て、リュカは思わず頷いてしまった。
確かに、これでは星の弾丸を撃つ必要は薄い。
そう感じた瞬間、どこからともなく現れた威厳のある壮年の海賊の霊が、魔術と蒸気の力で動く銃をむんずと掴んでしまう。ユーベルコード封じ。しばらく、星の弾丸は撃てなくなった。
「まあいいや、通常の弾丸で」
「え?」
全く動じてないリュカの言葉に、今度はメリーが目を丸くする。
「だってそっちも盾を持てないよね。持ったら、無駄撃ちの条件作れないよね? だったら、これで十分だ」
愛用のアサルトライフル『灯り木』を構えると、リュカは何の変哲もない銃弾で、下っ端海賊を次々と撃ち抜いていった。
「下っ端では相手にならないわね。でも、高額賞金首さえ取れば――」
「いいわ。あなたの相手はこの小娘よ」
飛び出してきたメリーの前に、リーヴァルディが立ちはだかる。
「……この世界に救済を。貴女の剣を借りるわ、プレア」
黒い大鎌『グリムリーパー』が、リーヴァルディの手の中で剣に変わる。鏡の様に周囲を映す、磨き抜かれた刃を持つ魔剣へと。
「どきな!」
「!」
メリーが振り下ろしてきた曲刀を魔剣で受け流し、リーヴァルディはその鏡の様な刀身にメリーの姿を映し込む。
「……ちなみに、現在の全猟兵の賞金総額は?」
「は?」
リーヴァルディが唐突に告げた問いに、メリーが目を丸くする。
次の瞬間、鏡の魔剣から飛び出したメリーの鏡像が、本物のメリーに向かって全く同じ曲刀で斬りかかった。
代行憑依・鏡像の魔剣――ポゼッション・プレアグレイス。
鏡の魔剣と変えた刃に映した対象の偽物を生み出す業。
リーヴァルディの嘗ての師が持つ鏡の魔剣をグリムリーパーで模倣したもの。
「な、なんだ! これは私なのか!」
「ええそうよ」
必死の形相で鏡像と切り結ぶメリーに、リーヴァルディは淡々と告げる。
生み出された鏡像は、本人と変わらぬ能力を持つ。
「弱点は、わかるかしら?」
鏡像相手に苦戦するメリーに、リーヴァルディが淡々と告げる。
しばし、鏡像とメリーの剣戟の音だけが甲板に響き続ける。
「……さっき、賞金総額を訊いたのは何でだい?」
やがて、切り結びながらメリーはリーヴァルディにそう訊ねてきた。
「……いえ、別に深い意味なんて無いわ。毎日、値がはね上がっているから……純然たる興味よ」
リーヴァルディは表情は変えず、しかし僅かに目を逸らして返す。
「ははは! あの質問が何かのトリガーになっていたんだろう! 答えれば消えるとかそういう事だね! だったら簡単だ!」
その仕草からそれが弱点だと思ったメリーの顔に、喜色の笑みが浮かんだ。
「賞金総額は――3,482,400Gだ!」
「………は?」
予想外に買ってきた答えに、リーヴァルディも流石に驚きを感じていた。
「賞金をごまかされる事だってあるからね。賞金稼ぎに、暗算は必須のスキル! 表計算ソフト? 知らないねえ!」
勝ち誇った笑みを浮かべて、メリーが鏡像に視線を向ける。
「さあ消えな! 消え――消え――え? え、ちょっ!?」
しかし消えずに斬りかかってきた鏡像の刃を、メリーは慌てて受け止める。
質問がトリガー。そこまではメリーの見抜いた通り。
しかし、鏡像が消える条件は答えに満足するまで、というものだ。
「さっき言ったじゃない。深い意味なんてないって。まさか本当に計算してると思わなかったから驚いたけど……知ったからどうという事もないわ」
初めから――満足する気などなかったのだ。リーヴァルディは。
更に、鏡像とメリーに互角の千日手をさせる気も、なかった。
「隙ありね」
「しまっ――」
魔力を溜めた魔剣を、リーヴァルディが薙ぎ払う。周りの下っ端も鏡像も巻き込んだ斬撃が、メリーを大きく後退させる。
タァンッ!
そこに銃声が響いて、リュカの撃った弾丸が、メリーの手から曲刀を落とした。
「っ!」
「うわっと!」
朝霞が振り下ろした鉄下駄の踵落としを、メリーはすんでで避けて後退る。
そこは船首の端だった。
バキッボキメキッ。
放ってもいても後がなかったメリーの足元から、何かが割れて壊れる音が鳴る。
「あ」
「「「あ」」」
メリーも3人の猟兵達も、そんな声を上げるしかできなかった。
先の踵落としが、船体に与えたダメージが最後の一押しになったのだろう。丁度メリーの立っている少し前で船首が割れて、その残骸と一緒にメリーは海に落ちていった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
榎・うさみっち
欲に目が眩んで身を滅ぼすことになるとはバカな奴め!
金にがめついロクデナシは長生き出来ないぞ!
フッ、俺のことももちろん知っているようだな?
そう、俺こそ賞金首うさみっち様だ!!(1800G)
あっ今「こいつあんまり大したことねーな」って顔した
これを見ても余裕ぶっこいていられるか?
いでよ、季節外れのせみっち軍団!
こいつらは全員俺の化身と言ってもいい
つまり1800G×435匹だ!!!(もちろん嘘
金が欲しけりゃ全員倒してみな!
縦横無尽・自由奔放に飛び回って敵を翻弄しながら攻撃!
耳元でやかましく鳴いたり
死んだフリしたり服の中に入り込んだりと
せみっちお得意のメンタル攻撃もお見舞いするぜ!
栗花落・澪
悪巧みはそこまでだー
乗ってあげたんだから褒めてよね
★靴に風魔法を宿して跳躍力を強化
【聞き耳】で音を聞き取り死角も補い戦況把握
【ダンス】のような動きで身軽に回避し
囲まれたら適当な船員さんに飛び乗り足蹴にすることも厭わない
でも一応謝っとくよ、ごめんね♪(【誘惑】)
お詫びに歌を贈ってあげる
【催眠術】を乗せた【歌唱】で皆まとめて足止め
…僕に従ってくれてもいいんだけど(お任せ
戦況をかき乱し統率も崩し
皆バラバラに動くように
そしたらメリーさんも狙いを定められないよね
でももし、仲間ごと巻き込もうとするなら
おいたはダメだよ
【指定UC】を発動
★杖で氷魔法の【属性攻撃】を発動し
津波が大きくなる前に本人ごと凍結させる
●賞金額詐欺
「お頭ぁ! また来ますぜ!」
何とか海賊船にメリーが戻った所に、また新たな猟兵が転移してくる。
その光に気づいた下っ端の声に、海賊船の上に緊張が走った。手段はわからないが、敵がこの船に直接転移してきている事と、それを止められないという事だけは彼らも理解している。理解しているから、メリーも配下も、固唾を飲んで見守るしかない。
「あ。お前は――!」
現れた猟兵の姿に、メリーがすぐに声を上げた。
「フッ、俺のことももちろん知っているようだな?」
その声を聞きながら、転移してきた猟兵は悠然と船の上を飛んで行く。
「そう、俺こそ1800Gの賞金首うさみっち様だ!!」
メリーに言われる前に賞金額を自己申告したは、榎・うさみっち(うさみっちゆたんぽは世界を救う・f01902)である。
「へぇ。うさみっちかぁ……」
固唾を飲んでいたメリーの口元に、薄い笑みが浮かんでいた。
「あっ今『こいつあんまり大したことねーな』って顔しただろ!」
「いやあ。さっき80,000G越えの大物賞金首とやり合ったばかりだからね。1,800Gは流石に霞むってもんよ」
むっとした顔になるうさみっちを、メリーが鼻で笑う。
メリーだけではない。
下っ端の海賊たちも、ニヤニヤと笑いだしていた。
全員、揃いも揃って、成す術なく負けたことを棚に上げて。
「手配書で見るより小さいじゃねぇか」
「あの小ささなら――俺達でも!」
フェアリーであるうさみっちの小さな身体に、勝機があると思っているようだ。
だがそれは間違いだ。
「欲に目が眩んで、俺様をただのちっちゃいのと思ってるな。それが身を滅ぼすことになるとも知らずに、バカな奴らめ! 金にがめついロクデナシは長生き出来ないぞ!」
うさみっちだって猟兵の一人。
ちゃんと、手は考えてある。
「へえ? そんな小さな体で何が出来るって?」
「これを見ても余裕ぶっこいていられるか?」
余裕の笑みを浮かべたメリーの視線を鼻で笑い返して、うさみっちは両手を掲げた。
「いでよ、季節外れのせみっち軍団!」
……ーっち。
……みーっち。
――みーっち。
声が、聞こえてくる。奴らは、いつの間にか船体外壁にびっしりとくっついていた。
遂に400体を越えるまでに至った、せみっち軍団が。
――みーっちみっちみっちみーっち。
「うぉっ!? なんだこいつら」
「ちっちゃ! きもっ!」
うぞうぞと船に乗り込んでくるせみっち軍団に、海賊達が目を丸くする。
「きもいとはなんだきもいとは! こいつらは全員、俺の化身と言える存在だぞ!」
その言葉に頬を膨らませながら、うさみっちは続けた。
「つまり、賞金額も同等。俺の本当の賞金額は1800G×435匹=783,000Gだ!!!」
「「「な、なんだってー!?」」」
うさみっちの出まかせを、信じるメリーと海賊達。
『『みーっちみっちみっち』』
だがその頃には、船に上がってきたせみっち軍団が、好き勝手に動き出していた。飛べるのを活かし、あちこち飛び回って、マストや帆柱に張り付いたりしている。
すごく、うるさいです。
「ふはははは! 喧しかろう! 金が欲しけりゃ全員倒してみな!」
すっかりいい気になったうさみっちが、声高に告げた直後。せみっちが1匹、メリーが振るった曲刀にスパッと斬って捨てられた。
「野郎共、落ち着きな! こいつら、弱いぞ!」
メリーの声に下っ端達も手に剣を構え、せみっちに躊躇なく攻撃を仕掛け出す。
「お、おい! こいつらは、俺と同額のなんだぞ!」
「だからこうして、ぶった斬ってんじゃないの」
慌てるうさみっちに、メリーが曲刀を振り回しながら告げる。
手配書には『DEAD OR ALIVE』と書いてある。
――つまり、生死を問わず。
「これで1800G! もひとつ1800G! 賞金が増える、船も静かになる。一石二鳥だよ、野郎ども!」
「1800G!」
「1800G!」
メリーも海賊達も、1800Gを合言葉にせみっちを容赦なく狩って回り出していた。
(「や、やべえ! これじゃ死んだふりをしても意味ないし……せみっち全滅する前に何とかしないと、俺様ピンチ!?!?」)
内心、冷や汗タラタラなうさみっちの背後で、光が瞬く。
誰が転移してきたのか――振り向いたうさみっちが、ぱぁっと目を輝かせた。
●氷のプリンセス
「1800G!」
『みーっちみぢぢぢぢぢっ』
「1800G!」
『みーっちぎゃー』
「うわ、何この状況」
豪華絢爛なドレス姿で転移してきた栗花落・澪(泡沫の花・f03165)は、船のそこら中で海賊達が何か虫のような物を斬ったり潰したりしている場面に、目を丸くした。
「ぴゃぁぁぁぁぁぁ!」
そこに、特徴的な悲鳴が聞こえてる。
「この声――もしかして」
「やっぱ澪だー! 助かったー!」
ぶーんっと飛んで来たうさみっちが、澪の背中にささっと回り込む。
「ところで澪の賞金、おいくら?」
「僕の賞金? 今は確か――」
「83,400G!」
うさみっちの問いに澪が首を傾げると、別な声が告げた金額が辺りに響く。
声の方に視線を向けると、メリーが曲刀の切っ先をこちらに向けていた。
「栗花落・澪! 金額83,400G! 賞金額ランク暫定2位の、大賞金首!」
「引っかかったな! せみっちはただの囮! こちらのプリンセスつゆりんが現れるまでの時間稼ぎだったのだぜ!」
「あ、うん。大体わかった」
賞金額言い当ててきたメリーと、何故か自慢げに返すうさみっちの言葉で、大体何が起きていたのかを悟った気がして、澪は苦笑を浮かべる。
だがすぐに表情を引き締め、メリーに視線を向けた。
「悪巧みはそこまでだー」
びしっとメリーを指さし、澪が告げる。
「あんたの賞金は、是が非でもいただくよ! 野郎共!」
乗ってと言うまでもなく、メリーが配下をけしかける。
だが――澪がこんなところにドレス姿で来たのには、理由がある。
マジカル☆つゆりんプリンセスフォーム。
ドレス姿で花びら舞わせて飛べるようになる変身能力を、澪は使ってからここに転移してきていた。先の状況がわからない為の、保険として。
つまり、澪の準備は万端。
「大人しく――」
「捕まり――」
「やがれ、このっ――」
「やっだよー」
海賊たちが何人でかかってこようが、今の澪を捕えられる筈もない。
「ごめんね♪」
風の魔法を込め翼の生えた靴で空を蹴り、掴み掛ってきた海賊達の、脚を、腕を、背中を、頭を蹴って。澪は海賊達の頭の上で、まるで踊る様に跳ねて回る。
「お詫びに歌を贈ってあげる」
――♪
――♪♪
響く澪の歌声。
頭上から降り注ぐ催眠の力を乗せた歌声が、海賊達の戦意を奪っていく。
「ぼんやりしてるんじゃないよ! 野郎共!」
そこに、メリーの声が響き渡る。
「僕に従ってくれてもいいんだけど……させてはくれないか」
メリーの声が、澪の歌声による催眠でぼんやりしかけていた下っ端海賊達の表情を、はっと引き締めさせる。
「賞金首に従わされてんじゃないよ! 捕まえな!」
更にメリーが号令を上げれば、下っ端海賊の腕が澪の足へと伸びてきた。
「おっと。おいたはダメだよ」
空中を蹴って跳んで海賊の腕から逃れながら、澪は聖なる杖『Staff of Maria』を曲刀を掲げるメリーへと向ける。
その切っ先には、水が渦巻いていた。
「そこからだと、仲間も巻き込むよ?」
「流されたら、また召喚してやるさ」
仲間を巻き込むことを厭わないメリーの言葉に、澪の視線が冷たくなる。
「足蹴にされた連中の分さ!」
「その剣ごと、凍っちゃえ!」
曲刀から水が、杖から冷気が同時に放たれる。
だが――実は澪自身も恥ずかしい『マジカル☆つゆりんプリンセスフォーム』は、ただ豪華な衣装になるだけではない。
その力で強化された『Staff of Maria』から放たれた氷の魔法は、メリーが放った津波が大きくなる前に凍らせる。
広がった冷気が、掲げた曲刀ごとメリーを氷に包んでいた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
戒道・蔵乃祐
七大海嘯の計略でしょうか…
幾つかの幹部の拠点も既に発見されていますから、各々に割かれる人手の分散を目論んでいるのかもしれませんが、
狙いがバレバレ過ぎて。陽動作戦には不適格な手合いでしたね
それならば速やかに脅威を排除し、きたる決戦に備えましょう!
◆
海賊船団員は戦輪を次々投擲して蹴散らします
【火界呪】にて【木阿弥大津波】に対抗
津波攻撃の飛沫と衝撃を念動力+焼却のパイロキネシスで相殺
サーベルの猛攻は侍刀で武器受け
残像+早業で切り結び、海賊剣術を見切り+読心術で学習
フェイント+ジャストガードでサーベルを跳ね上げ、不動明王の炎を纏いし炎剣灼刀の一刀両断。
クイックドロウ+切り込みで怪力の剛剣を打ち込みます
クロス・シュバルツ
アドリブ、連携可
賞金首を狩ろうとする者は、自らが狩られぬように気をつけろ……というのは何処の誰の言葉だったのか
まあ、狩る側が狩られる側にというのはよくある話ですよね
UC【禍つ影の領域】を発動、船上を闇に包んで『闇に紛れる』。
『暗視』で視界を確保し『目立たない』よう『忍び足』で歩いては配下の『暗殺』にメリーに不意打ちにと、敵が混乱している間に環境を活かして好き勝手に暴れさせてもらう
ところで、船上で津波を起こすというのは、自らをも巻き込んで危険だと思うのですが?
とはいえ巻き込まれてはたまらないので鎖を海賊船のマストの高所あたり巻きつけて『ロープワーク』の巻き上げで一気に移動して回避
ジャック・スペード
残念だったな――
お前の企みは既にお見通しだ
誰も傷つけさせはしない
海の藻屑と消えるが良い
リボルバーから炎の弾丸を乱れ撃ち
乗組員たちへ牽制を
これから起こることを考えると
船に少しくらい引火しても気にせずに
津波が放たれたら黒き機翼を展開
宙を加速しながら涙淵を抜き放ち
衝撃波で迫り来る波を斬ろう
多少の損傷は激痛耐性で堪えて見せよう
俺に掛けられた賞金など
ささやかなものだが――
当機とも剣舞を踊ってくれ
厭だ、なんて言わせないさ
勢いの儘、メリーに肉薄すれば
片腕に嵌めた鈎で其の身を抑えつつ
涙淵に焔を纏わせて、一太刀を浴びせたい
幾ら欠陥品といえども
そう易々と此の頸は渡せない
護るべきヒトが其処にいる限りはな
●賞金狩りの執念
「寒……寒……」
氷漬けから辛くも復活したメリーだが、全体的に血の気がなくなり、身体はガクガクと震えていた。
「賞金首を狩ろうとする者は、自らが狩られぬように気をつけろ……というのは何処の誰の言葉だったでしょうか」
緋色のメリーのその姿に、クロス・シュバルツ(血と昏闇・f04034)は何処かで聞いたそんな言葉を思い出していた。
だが見た目の哀れさとは裏腹に、メリーの中から賞金への情熱は失われていない。
「クロス・シュバルツ……賞金額は……16,200G! 中々の高額賞金だ!」
賞金首を狩ろうという意思は、メリーの中から消えていない。
むしろ賞金額を思い出し、元気を取り戻している。
「もはや執念じみてますね。これも、七大海嘯の計略でしょうか……」
その姿に、戒道・蔵乃祐(荒法師・f09466)はそう感じていた。
「幾つかの幹部の拠点も既に発見されていますから。賞金を餌に遊撃的に動く者を出すことで、各々に割かれる人手の分散を目論んでいるのかもしれません」
そうだとしても、メリー自身気づいていないのだろう。
「いずれにせよ、陽動作戦には不適格な手合いでしたね」
「なにをごちゃごちゃ言っている! 賞金額3,000Gの戒道・蔵乃祐!」
蔵乃祐の言葉が聞こえていないのか、メリーは曲刀を掲げて声を張り上げる。
「残念だったな――島を襲うつもりだった事も、裏にある目論見も。お前の企みは既にお見通しと言う事だ」
「目論見? 知らないねぇ。私は賞金首を狩るだけさ。この海にあるお宝は、賞金首だって――全て、私のモンだ」
ジャック・スペード(J♠️・f16475)の言葉に、メリーはニヤリと笑って返す。
それが、メリー・バーミリオンの根底だ。
緋色のメリーは、狙ったお宝を見逃さない。
だから、賞金首を諦めない。諦めるという事を――知らないのかもしれない。
さりとて、猟兵側も手を緩める理由はない。
「まあ、狩る側が狩られる側にというのはよくある話ですよね」
クロスの刻印が輝き、吸血鬼の血が騒ぎだしていた。
「速やかに脅威を排除し、きたる決戦に備えましょう」
「うむ。誰も傷つけさせはしない。海の藻屑と消えるが良い」
蔵乃祐は両手に戦輪を構え、ジャックは銀の回転式拳銃を握る。
最後の戦いが、始まった。
●黒霧広がり、明王炎猛り、機翼舞う
「賞金額暫定ランクは34位。そして272位と349位か。良い所じゃないかぁ。2位3位はヤバかったが、このくらいなら!」
クロスと蔵乃祐とジャックの賞金額の順位に、メリーが笑みを浮かべる。
メリーはまだ、気づいていなかった。
気づくべきだった。
賞金額の順位と、猟兵の実力の間に、何の因果関係もないという事に。
――Deus ex Makina。
機械仕掛けの神の名を冠した銀の歯車が噛み合うリボルバー。ジャックが向けるその銃口が火を噴いて、弾丸が放たれる。
「へっ。当たってねえぜ!」
「どこ狙って――うぉぁっ!?」
その弾丸が足元を穿ったのを見てほくそ笑む下っ端海賊だったが、次の瞬間、弾丸から燃え上がった炎に顔色を変えた。
「船ごと燃やしてまっても構わぬだろう?」
ジャックは躊躇なく、炎の弾丸を撃ち続ける。
「うわち、アアチチチ!」
「あっちだ。右舷側なら、まだ炎がな――うごふっ!」
燃え広がる炎から離れようとした下っ端を、蔵乃祐の投げた戦輪が切り裂いた。
「霧よ、世界を包め」
甲板に炎が広がる中、クロスが声を上げる。
次の瞬間、メリーの海賊船の甲板が黒い霧に包まれた。
「――この『霧』は俺の領域。容易くは超えさせません」
禍つ影の領域――イクリプス・ワールド。
クロスが放った黒霧は、中にいる敵の能力を減衰させる。中にいる者にとって、そこは明かりのない暗闇と同じ環境と同じだ。
「うぉ? なんだぁ!?」
「な、なにも見えねえ」
「お頭ぁ! どこですかい!」
「ええい、狼狽えるな野郎共!」
海賊達とメリーの困惑した声が聞こえる黒霧の中に、クロスは自ら飛び込んだ。
「……悪く思わないで下さいね」
自身に気づいていない下っ端海賊に聞こえない様に小声で囁いて、クロスは容赦なく極薄の黒い短剣を突き刺していく。
「ぐあっ!」
「うげぇっ!」
黒霧の中、断続的に響く下っ端海賊の断末魔。
「な、なんだい。何が起こって――」
流石にメリーの声も震え出す。そのメリーにも、クロスは暗闇の中で音もたてずに短剣を振りかぶり――。
「っ!」
「おっと」
ほとんど野生の勘でメリーが振り上げた曲刀が、クロスの短剣を阻む。
「そこまで動けるとは、大したものです」
クロスは素直に感心しながら、メリーの足を軽く払って転倒させ、その隙に大きく距離を取った。
「くそ! どこに――熱っ!」
暗闇の中で闇雲に動いたメリーが、燃え広がった炎を踏み抜く。
「よくも、私の船を――よくもやってくれたねぇ!」
黒霧の中から響く、メリーの怨嗟の声。
「津波がきそうですね」
巻き込まれては敵わないと、クロスは【冥装】罪茨の鎖を手近なマストの天頂に伸ばして巻き付け、巻き上げロープの様に使ってマストに上る。
直後――メリーの放った元の木阿弥大津波の水流が、黒い霧の中から溢れ出した。
蔵乃祐とジャックは、それを待っていた。
メリーが津波を使うのを。
曲刀から津波を放つなら、メリー自身もしばらく動けない筈だ。
迫る大波を前に、蔵乃祐の指が印を組む。
その形が表すのは、不動明王。
その名の通り、不動なる守護者たる存在。
「ノウマク サンマンダ バザラダン カン」
――火界呪。
真言を唱えた蔵乃祐の前に現れる、96の不動明王炎。
それら全てを合わせた轟炎が津波とぶつかり、真っ白な蒸気が吹き上がった。
同時刻。
「来たか。あの風――いや、大波すら越えてみせよう」
黒霧を突き破った大波を見たジャックの背中に、黒い機翼が広がった。
天翔る黒き機翼――チェロ・スターロ。
ジェットモードになったジャックは、煌めく粒子を残して津波よりも速く、空高くへと舞い上がる。
「……」
空中に逃れたジャックは、『涙淵』を抜く。
天竺葵の彫られた白縹に煌めく刀身を構え、ジャックは今度は津波に向かって自ら突っ込んでいった。
「ぐっ……」
思った以上に重たい衝撃が、ジャックの身体を襲う。
ギシギシと身体が軋む音を無視して、ジャックは波を斬って、抜けた。
「なんだと!?」
「俺に掛けられた賞金など、ささやかなものだが――当機とも剣舞を踊ってくれ」
驚くメリーの目の前で、ジャックは『涙淵』を構え直す。
「厭だ、なんて言わせないさ」
「言いやしないさ! 賞金額1,800Gでもお宝には違いないからねぇ!」
ジャックが振り上げた『涙淵』と、水流を放ち続ける曲刀がぶつかり合う。
「ぬぅ――ん!」
押し切ったのは、ジャック。
メリーの曲刀が跳ねあがり、水流が途絶える。
「その首、貰った――!」
だが刃を振り切ったジャックの首を狙って、メリーが曲刀を振り下ろし――。
止めた刃は『百八式山本五郎左衛門』。
別の世界では、妖怪の頭領とされる妖怪の名を持つ豪刀を、飛び込んだ蔵乃祐が差し込んで曲刀を止めていた。炎を背負ったその姿、まさに不動明王が如し。
「此の身欠陥品といえども、そう易々と此の頸は渡せない」
態勢を立て直したジャックも切りかかり、二振りの刃にメリーが防戦一方になる。
メリーは忘れていた。
或いは気づいていなかったのか。
放った津波は確かにクロスの黒霧を押し流したけれど、全てではない。
曲刀を前に向けて放った以上、波は前にしか流れていなかった。メリーの背後には、まだ黒霧が残っていたのだ。
「ぐっ……!」
押し込まれたメリーの足が、黒霧に突っ込む。
その瞬間、メリーの腕から力が抜けた。
赤熱した『涙淵』と、不動明王炎を纏った『百八式山本五郎左衛門』。ジャックと蔵乃祐が振り下ろした刃が、曲刀を灼き斬り、メリーも斬りさく。
斬られたメリーが、背中から倒れていく。力奪う、黒霧の中へと。
「……」
マストから降りてきたクロスが黒霧を晴らすと、そこには、メリーが羽織っていた赤いマントだけが残されていた。
大成功
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