羅針盤戦争〜深き淵より牙は目覚め
●鮫牙は進む
——そこは、死地であった。もぎ取られた腕が転がり、骨を露わにした肉塊が首だけを海へと向けている。這って逃げようとしたのか——或いは、ほんの一瞬、生きていた体がそちらを向いただけだろうか。割れた爪で、地を掴み、何かを叫ぼうとしていたコンキスタドールはその先の言葉を失ったまま転がっている。
「うるせぇ」
腕の一振りで骸が吹き飛んだ。ただの肉塊と化し、肉片と散る。方々に散ったコンキスタドールたちが、それでも多くが『それ』の方を向いていたのは覚悟か、或いは矜持であったのか。
『鮫牙』軍の強さの所以。
身の丈7m程の巨躯。鮫牙島——コンキスタドールの本拠地たるこの地であれば、ただの異形であれば数多といる。されど『それ』は違っていた。
「どいつもこいつもうるせぇ、うるせぇ、うるせぇうるせぇ——。コロす」
殺し、喰らい、殺し、喰らう。
腕の一振りで最後のコンキスタドールが潰れ、迎撃を叫んだ最後の一人さえ消し飛べば、ただ死地が残る。泥濘んだ土は血と肉塊で生まれ、押しとどめるを選んだコンキスタドール達が無残に転がる。
「——ぁ?」
部下の全てを喰らい尽くした『それ』はふいに、声を上げた。
「グリモア、グリモアの匂いだぁ……!」
それは狂気か歓喜か。
数多の感情をない交ぜにしたようにして『それ』は叫ぶ。グリモアだと。その匂いがすると。
「グリモアを使うやつ、ゼンブコロしてヤル……!」
七大海嘯『鮫牙』ザンギャバス大帝の咆吼が、血濡れの大地に響き渡った。
●深き淵より牙は目覚め
「おにーさん、おねーさん。来てくれてありがとう。結構大変なことになっているみたいなんだ」
ユラ・フリードゥルフ(灰の棺・f04657)はそう言って、集まった猟兵達を見た。
「七大海嘯の話は、きっともう聞いているよね。そのうちの一人——『鮫牙』が動き出して来たんだ」
そう言って、ユラは海図の一点を示す。
「クレイオス島に『鮫牙』ザンギャバス大帝が飛んで来るんだ。……うん、びっくりだよね。俺もびっくりなんだけど、どうやって、は置いて欲しい。来るのは事実だから」
そして来る以上、行われるのは数多の虐殺だ。
「『鮫牙』ザンギャバス大帝は、コンキスタドールさえ喰らうから」
それと、とユラは顔を上げる。
「この巨人よりも大きな身の丈7mもあるんじゃないかっていうおっきな存在七大海嘯『鮫牙』ザンギャバスは無敵なんだ」
予知によれば、それが分かっている。
「でも、勿論ちゃんと良い話も分かってるよ。弱点があるんだ」
『鮫牙』ザンギャバスは『長時間暴れると飢餓状態になり、獅子のような姿になって撤退する』のだ。
「だから、おにーさん、おねーさんには全力で 『鮫牙』ザンギャバスを迎え撃って欲しいんだ」
狙うは相手の消耗だ。敵が無敵である以上、それは厳しい戦いになることだろう。
「クレイオス島は魔法の残る島なんだ。竜と謳う島って言われていてね、二つ迎撃手段を持ってる」
ひとつが竜砲と呼ばれる魔法で打ち出される砲撃だ。
「嘗て共に戦った竜と騎士の作り出した力なんだって。道を切り開くための力なんだ」
魔法を込めて放つ設備だ。魔法に纏わる力を持たないものでも、願えば島は応えるだろう。それなりの力は持つが——その分、連射は出来ない。
「あと一つが、影縫い。この島に伝わっている魔法使いが放つ、敵の影を射貫く鎖なんだ。これで、一時足を止めることができる」
どちらも島の装備はあるが、使うことができるのはどちらかだけだろう。
「——でも、それは相手には分からない。
島の装備について知らないって事もあるし、何よりザンギャバスは知性派ってタイプじゃないみたいだから」
あらん限り暴れ、喰らい、貪るのだろう。
その巨躯を使い、衝動のままに全てを食らいつくし破壊するのだ。
「だから、上手く使って全力で攻撃して欲しい。すごい大変な戦いなのは分かっているから……おにーさんも、おねーさんも無茶だけはしないでね」
無傷で戦い抜くことはまず出来ないだろう。
相手の攻撃力も高い上に無敵だ。ただ、無策に真正面から向かえば傷を受けて終わるだけだ。
「ザンギャバスは、あの大きな腕から攻撃の他に、蛇・獅子・山羊・竜の部位を使って攻撃してくるから。それに距離を取っているからってだけで大丈夫とも言えないと思う」
迎え撃つ場所は、島の一角。古びた神殿だ。屋根は無く、黒き柱の立ち並ぶ巨大な空間。破壊はされるだろうが——そこが、尤も人里から遠いのだという。
どんなユーベルコードを使い、どの島の装備を使うのか。
迎え撃ち、支えきり——そうして、消耗させることができれば島の人々を守る事にもなる。
「本当に危険な時は、俺がちゃんとおにーさんのこともおねーさんのことも連れて帰るから。そこは安心して」
そう言って、ユラは猟兵達を見た。真っ直ぐに、信頼を寄せて。
「でもきっと、この戦いに本当の意味で勝つ事が出来るのはおにーさんやおねーさん達だけだと思うから」
グリモアの光が淡く灯る。誘いの灯りを杖に灯して、ユラは微笑んだ。
「いってらっしゃい。どうか、気をつけて」
秋月諒
秋月諒です。どうぞよろしくお願い致します。
懐かしい名前に思わず。どうぞよろしくお願い致します。
このシナリオは戦争シナリオです。
1フラグメントで完結し、「羅針盤戦争」の戦況に影響を及ぼす、特殊なシナリオとなります。
●プレイング受付について
2月11日(木)8:31〜
導入追加はありません。
0時を過ぎる場合は翌日の8:31〜だと締め切り的にハッピーです。
システム上、送信可能な限りは受付中です。
また、状況にもよりますが全員の描写はお約束できません。予めご了承ください。
期間内に書き上げられそうなものから書いていく形で行くため、ゆっくりめの受付です。
●『鮫牙』ザンギャバス大帝は全ての猟兵に襲いかかってきます。
●プレイングボーナス
島の装備やユーベルコードを駆使し、ザンギャバスを消耗させる
(ザンギャバスはパンチや蛇・獅子・山羊・竜の部位を作っての攻撃をします)
●島の装備について
2種のうち、どちらから一つを選択してください。
1)竜砲
→竜の咆吼に似た砲撃が発動する。命中力、攻撃力が高い。
嘗て、共に戦った魔法騎士の為、竜が残した力と伝わっている。
2)光の鎖
→敵の影を貫き、相手の動きを止める魔法の鎖が発動する。
嘗て、星の力を持つ魔法使いが、仲間を行かせる為に使ったという拘束魔法。
*島の装備は、ザンギャバスに対して有効ですが、能力としては猟兵の攻撃力の方が高いです。島の装備は、起動を願えば、発動します。
*島はアックス&ウィザーズを由来に持つようです。
逸話はふんわりネタです。威力などには関係ありません。
●同行について
キャパシティ上、複数の参加はお二人までとさせて頂きます。
プレイングに【名前+ID】若しくは【グループ名】を明記してください。
プレイングの送信日は統一をお願い致します。
失効日がバラバラだと、採用が難しい場合がございます。
それでは皆様、ご武運を。
第1章 冒険
『ザンギャバスに立ち向かえ!』
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POW : 全力の攻撃をぶつけ、敵の注意を引き付けて侵攻を食い止める
SPD : 防御と回避に徹し、敵に攻撃させ続けて疲弊を誘う
WIZ : 策を巡らせ、地形や物資を利用した罠に敵を誘い込む
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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
黒鵺・瑞樹
右手に胡、左手に黒鵺の二刀流
2)
光の鎖なのに影縫いっていうのが不思議な名前だ。光が当たったら影は消えそうなのに。
でも今は遠慮なく使わせてもらおう。
伽羅と陸奥と共に回避優先で攻撃を。当たったらシャレにならんようだしな。
的を散らす目的もあるけど、こいつ相手だとある意味あまり意味がなさそうだけど、手数は多い方が消耗させやすいだろう。
光の鎖を発動させ、動きを止めたところに攻撃をあてる。
相手の消耗優先なのでこちらは無理はしない。
特に伽羅と陸奥の二人には、攻撃を入れ替わる事で回復の暇を作るようにする。
敵の攻撃は第六感で感知、見切りで全力回避。UC空翔での回避も視野に。
それでも喰らうものは激痛耐性で耐える。
クネウス・ウィギンシティ
※アドリブ&絡み歓迎
「竜砲ですか、使えそうですね」
【POW】
●戦闘
クロムキャバリアに搭乗し、戦闘します。
「初撃に一発浴びせますか」
島の設備である「竜砲」、【スナイパー】向けのこの機体に付いている照準を利用し射程に入り次第、即【砲撃】します。
「焼き払え!」
「後はひたすら後退しつつ、攻撃を浴びせますか」
「GEAR:EXCAVTION」
肩のミサイルポッドからザンギャバスにミサイルを放ち、同時にUCを発動します。ミサイルが命中した瞬間、ミサイルをドリルに変形し体内に突き刺します。
「掘削、開始」
後は神殿の柱等の【地形の利用】、盾がわりに後退しつつありったけの弾薬を浴びせます。
「まだ、戦えます」
●黒鉄の射手
――轟音と共に、大地が捲れた。一拍の後、『それ』の着地点から瓦礫が吹き飛べば、大地が白く染まる。尤も砂埃など『それ』にとっては何の意味も成さないのだろう。低く、獣のように唸る声をクロムキャバリア<アルゲス>が関知する。
「……」
――接敵アラートと衝撃は同時だった。直撃はしていない。ただ、あれの襲来そのものが衝撃を生んだのだ。衝撃に神殿の柱が数本倒れ、飛び散った黒曜に、低く、ただ低く声がする。
「ウゼェ……」
「――」
敵戦力は1体。七大海嘯『鮫牙』7mオーバーの巨躯。襲撃スピードは――アルゲスの探知領域を振り切った。
(「来た、というよりは出現したという方が近いですか」)
響き渡るアラートに、クネウス・ウィギンシティ(鋼鉄のエンジニア・f02209)はクロムキャバリアの足を引く。アルゲスの敵感知は一瞬だった。接敵の警告も同時。攻撃反応は今でこそ無いが――すぐに来るだろう、とクネウスは思う。
七大海嘯『鮫牙』ザンギャバス大帝。
作戦情報通り、奴は『飛んで』来た。それが跳躍か、飛来か置いておくとして弧を描くようにしてきた奴の重量を受けて、既に神殿の一部は吹き飛んだ。柱が無事なのは、多少は頑丈だからか。だが、奴の一撃を真面に受ければ容易に崩壊するだろう。巨躯を持ち上げ、ゆらり、と砂埃の中でザンギャバスは立つ。
「――お前、邪魔ダロ」
くぐもった声が届いた次の瞬間、アルゲスが警戒を告げた。――相手の、急速な接近。
(「初撃に一発浴びせますか」)
相手の踏み込みに、機体を滑らせるようにして後ろに引く。この島の装備「竜砲」とアルゲスの調整は済んだ。不明なユニットの接続を告げるアルゲスに頷き、クネウスは照準を合わせた。
「焼き払え!」
ルォオオ、と竜の咆吼に似た音が響き――光が、来た。
「――ァア?」
帯のように届くそれは熱光線であった。魔術が関与しているのだろう。光の破砕に、踏み込んだザンギャバスが眉を寄せる。巨体が焼け、だが、その熱に、零れ落ちる血さえ蒸発させていく力に鮫牙は笑う。
「うぜぇな」
「――成る程な」
足止めの力は無く、だが威力は十分であればやることは一つ。
「後はひたすら後退しつつ、攻撃を浴びせますか」
コンソールに指を滑らせ、一気にミサイルポッドを展開する。熱の中、肉を、骨を晒しながらも来る巨躯は巨躯を詰めることを選んできたか。
「なんだよ、逃げんじゃねぇよ」
「生憎――……」
敵を正面に捕らえたまま、クネウスは一気に機体を後退させる。追いかける敵の踏み込みがその分、加速する。それは同時に、撃ち出したミサイルポッドがザンギャバスに当たることを意味する。
「うぜぇんだよ、このミサイル」
振り払う腕が、踏み込む巨体にミサイルがぶつかれば派手な爆発生まれる。熱はザンギャバスの頬を焼き払われる――筈だった。
「GEAR:EXCAVTION」
展開されたシステムが、ミサイルを着弾と同時にドリルに変える。払い落ちるはずであった弾頭は、その巨躯を穿つ兵器に変わった。
「掘削、開始」
「んだぁ?」
手に、肩にドリルがめり込んでいく。衝撃に、ザンギャバスが足を止める。払うように腕を動かすが足らない。蛇でも獅子の牙でも巨躯にめり込むドリルを止められなければ、湧き上がるのは正面の相手への殺意。
「お前、殺す。殺す殺す殺す!」
「――早いか」
ダン、と強い踏み込み。後退した分の間合いを一気に喰らわれ、その屈強な腕がクネウスのクロムキャバリアを掴む。機体が軋む。片腕で、その拳を受け止めながら、クネウスは息を吸った。
「まだ、戦えます」
警告アラートを無視して、全武装を開放する。ありったけの弾薬だ。元より使うことにはなるだろうと、そう思っていたもの。何よりこの機体——。
「零距離射撃も、出来ますので」
アルゲス、と己の機体の名を呟きクネウスは眼前の敵へとありったけのミサイルを放った。着弾は真っ正面。衝撃で浮かせた機体で、敵の掴みから離れる。滑るように、だが敵に姿を見せるように柱の隙間に滑り込んだのは――あと一人、駆け抜ける猟兵の姿が見えたからだ。
「伽羅、陸奥」
告げる言葉と同時に、風を纏う白虎が黒機を追う巨躯に食らいつき、竜の招く雷撃が落ちていた。
●黒刀の羽ばたき
「――ぁ? なんだ」
切り裂き、穿ち落とした雷と共に精霊の仔と竜は左右に飛んだ。追撃よりは回避を。深追いは元よりさせる気は無い。
(「それに……あの反応」)
傷はついている、と黒鵺・瑞樹(界渡・f17491)は巨大な敵を見据える。クロムキャバリアの攻撃も、伽羅と陸奥の攻撃も確かに届き、零れ落ちた血が床板を塗らし、骨を晒しているというのにザンギャバスに見えるのは苛立ちと殺意だ。そこに、痛みに対する反応が無い。
(「鈍いか……感じていないか、気にしていない。考えることはできるが、決めつけは危険だろうな」)
あれが強敵であることは瑞樹にもよく分かっている。だからこそ、伽羅と陸奥にも手伝ってもらっているのだ。
「あぁ? ウゼェのが増えたか」
「そうかもしれないな」
言って、瑞樹は身を前に飛ばす。低い踏み込み、懐深くを狙うように行けば、巨躯から拳が振り落ちる。
「潰す」
「伽羅、陸奥!」
高く、謳うように伽羅が啼いた。叩き付ける水流にザンギャバスの視線が一瞬、揺れる。肩に背負う竜が牙を剥いた。
『ァアアア』
「――光よ」
その牙が届くより早く瑞樹は告げる。力の発動にザンギャバスの影に紋章が描かれる。地にひとつ。あと一つは――中空に。
「影を穿て」
瞬間、無数の鎖がザンギャバスの影を射貫いた。牙を剥き、喰らおうとしていた竜が、振り下ろされる筈であった拳が――止まる。
「なんだぁ? おい、何した」
「さぁ。聞きたいか?」
光の鎖なのに、影縫いっていう不思議な名前だと思っていた。光があたったら影は消えそうだというのに。
(「でも、これは多分……」)
光を以て、その者を大地に縫い止める。この地に留め、この世界の法則を持って御そうとする力。嘗ての地でも、容易くは無い相手との戦いがあったのか。
(「仲間を行かせる為であれば、留めた人は命を賭けたのか……。でも今は遠慮なく使わせてもらおう」)
奴を消耗させる為に瑞樹は行った。跳ぶように巨躯の腕の下へ。胡にて手首を斬り上げ、ぎち、ぎちと鎖を鳴らす相手に黒鵺を抜き払う。
「お前、潰す。決めた。潰す」
ダン、と荒い踏み込みが戦場に響き渡った。
「来ます。左です」
「よっと!」
クネウスの警戒に、瑞樹は身を横に振り――柱を蹴り上げる。身を宙に置き、ザンギャバスの腕を足場に背後へと跳ぶ。
「落とす」
「悪いが、まだ――」
落ちる気は、無い。
着地の先、振り返り穿つ拳より先に瑞樹の黒いナイフが肉に沈む。薙ぎ払い、切り裂いた先で、身を後ろに飛ばす。ヒュン、と躱しきれなかった蛇の牙が届くが――浅い。
「これくらいなら……」
問題は無い。息をついて、瑞樹は敵を見据えた。奴を消耗が最優先事項だ。元より、無理はしない。することがあるとすれば――相応の、無茶くらいか。後方、クロムキャバリアが迎撃を告げる。炎の雨の中、瑞樹は二振りの刃を強く握った。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
祇条・結月
正直このタイプの敵は相性悪い
僕みたいに火力不足で小手先勝負のタイプだと
……ちょっときわどい戦い方になるけど
できることを、する
苦無の【投擲】で目を狙って攻撃
中ったところで効きはしないだろうけれど、それでいいよ
衝動で暴れてるんだとしても、こういう攻撃は鬱陶しいでしょ
致命打を受けないように、小回りを活かして立ち回る
とにかく【見切り】に徹しながら、直撃を受けるのだけは避けて
掠めても、ザンギャバスの獣に食らいつかれても足は止めず、ひたすらまとわりつくよ(激痛耐性)
僕がここにいる、当たれば殺せるって釘付けに
タイミングを見て≪鍵ノ悪魔≫を降ろす
そのまま竜砲発射
僕は当たらないけれど、そっちはこれで直撃
でしょ?
●柩が開き少年は告げる
「うぜぇ、ウゼェウゼェウゼェウゼェ!」
唸るような声と共に神殿の柱が砕け散った。身の丈7mもあろうかという巨体が、その腕を振るえば一撃は薙ぎ払いより単純な打撃に近い。丸く、重い体は重量もあり拳は容易く石畳を割る。
(「流石……ってところかな」)
ほう、と祇条・結月(銀の鍵・f02067)は息をついた。ぴりぴりと僅かに痛み頬は瓦礫が掠ったのだろう。闇雲に暴れられただけでも、七大海嘯『鮫牙』ザンギャバス大帝が周囲を破壊する。思えば、襲来のタイミングで神殿まで続く道を破壊しているのだ。着地点は抉れ、ぱっくりと口を開いた床は——落ちたら終わりとは言わないが、上がるのは少し面倒だろう。
(「正直このタイプの敵は相性悪い。僕みたいに火力不足で小手先勝負のタイプだと」)
火力特化で、体力も高い。動きの素早さこそ無いかもしれないが、この島に『飛んでくる』だけの力がある。間合いを取った所で、それだけで通用するとは思えない。
——どう戦う、と結月は思う。
自分が武闘派ではないことは理解している。成績も運動もそれなり。猟兵として劇的に成長した訳でも——まだまだ戦い慣れた訳でもない。まだまだ、半人前だと、そう自分で分かっている。
(「——分かっているからこそ」)
無茶のラインと、無謀のラインは分かっている筈だ。
多分、と舌の上に溶かして結月はザンギャバスを見る。正面、クロムキャバリアによる砲撃と、空に躱した剣士の刃が鎖と共に一拍巨躯を捉えていた。
「……ちょっときわどい戦い方になるけど」
すぅ、と一つ息を吸って、袖から苦無を落とす。伏せた瞳は一度だけ。ゆっくりと上げた先、結月は赤い瞳で真っ直ぐに敵を捉えた。
「できることを、する」
床を、蹴る。一気に、前に行く。ザンギャバスの視線がこちらを完璧に捉えるより先に、苦無を顔に向かって放った。
「なんだぁ?」
狙いは——目だ。眼球に突き刺さる前に、腕が来る。苦無を受け止め、払い捨てた巨躯が結月を見据えた。
「お前かぁ?」
「……」
そうだよ、と告げる代わりに苦無を取る。指先に絡め、軽く足を引けば、ザンギャバスが口の端を上げた笑った。
「お前ダァアア!」
「——ッ」
声は咆吼に似ていた。衝撃波を受けたかのように肌がざわつく。それでも迎え来る相手に結月は迷わずに苦無を放った。踏み込みを優先する相手ならば——。
(「庇わない」)
ザン、と結月の苦無がザンギャバスの目に中る。片眼が潰れ、だが拳は構わず来た。
「うぜぇ」
「——」
ぐん、と真っ正面。半ば反射的に結月は身を横に飛ばした。片腕に拳の余波が来る。痛みに一瞬、飛びかけた意識を強く握った拳でかき集める。転がるより先に床についた手で、体を支えて前に——跳ぶ。
結月の想定通り、目に中ったところで単純に効きはしなかった。
(「ある程度再生しているか、それともあの状況で見えているか。そのどっちにしても……」)
此処までは想定通り。
「衝動で暴れてるんだとしても、こういう攻撃は鬱陶しいでしょ」
ふ、と結月は息を落とす。唇が切れている所為で、血が滲む。致命打を受けないように、只管、小回りを活かしてザンギャバスに纏わり付いていたのだ。間合いは開けず、敵の懐に、腕の下を潜り、背後に付く。背に隙があるわけでも無い。食らいつく獣が結月を引き寄せれば、その付け根に苦無を払う。
「——は」
「コロす」
荒く息を吐き、結月はザンギャバスの拳を見据える。敵の視線は真っ直ぐに結月に注がれていた。近くにいる分、余計に。もうすぐに殺せるとそう、理解した目が結月を見下ろす。
当たれば、殺せるという目で。
「——コロしてヤル」
ゴォオオ、と風を纏い、ザンギャバスの拳は真っ直ぐに結月へと向かって振り下ろされた。影が頬に、肩に掛かる。当たれば——間違いなく無事では無い。
「……僕を、見るな」
その死地において、青年は紡ぐ。誘いの言葉は無く、ただ否を以て鍵ノ悪魔をその身に降ろす。己にかける鍵を以て、結月は大地から隔絶される。振り下ろす拳は、結月を潰す筈であった力は——ただ、地を叩いた。
「——ぁ?」
眉を寄せる巨躯を前に、境界を統べる権能を持つ悪魔をその身に降ろした青年は紡ぐ。
「僕は当たらないけれど」
迫るは青白き熱源。島に伝わる装備のひとつ竜砲。お前、と低く響いたザンギャバスの声に、吐息一つ零すようにして結月は告げた。
「そっちはこれで直撃でしょ?」
「お前ェエエエエエ!」
ルォオオオ、と竜の咆吼に似た音が響き、青白き光が七大海嘯『鮫牙』ザンギャバス大帝を焼いた。
「グルァアアア……!? なんだ、なんダヨ。お前ぇ、お前ェエエ!」
巨躯が、揺らぐ。ばたばたと落ちる血が、神殿の床を塗らす。着実にザンギャバスは消耗してきていた。
大成功
🔵🔵🔵
冴島・類
無敵の鮫牙についての知識は薄いが
行く先に虐殺がある上
ぐりもあに反応してるとも言うし
行かぬ理由がないね
島に残る嘗ての力をお借りしますよ
攻撃は部位によって動きも違うだろう
竜、蛇の射程を注意し、中距離で威嚇と
敵の動き見切りの為薙ぎ払いで攻撃
フェイント、残像などで動きをぶらし回避はするが
意識外からのものへの対策へ
連れの精霊、クレアに結界による防御補助を頼み
ある程度動きを見たら
攻撃の為、瓜江と踏み込む
その際、光の鎖を発動願い
至近に寄り切ってから
舞用い、力を込めた衝撃波を放つ
以降、鎖を数回使用可能なら
自分への攻撃回避は舞を使い
鎖は竜砲を使う味方への攻撃を防ぐ為
援護などに使えたら
こちらは、1人ではないからね
●無法の牙と二人舞
「す、コロすコロすコロす!」
怒号と共に、屈強な腕が神殿の壁を叩いた。僅か、残るばかりであった外壁が吹き飛び、柱に罅が入る。元より天井の無い場所ではあったが——随分とひらけたものだ。地団駄を踏み、ひび割れた床など七大海嘯『鮫牙』ザンギャバス大帝にとって気にする程のものでも無いのだろう。片眼に突き刺さっていた苦無を抜き、竜砲によって焼けた体を振るう。
「気に入らねぇ。お前も、お前も、オマエモ」
「……」
そこに見えるのは剥き出しの殺意と苛立ちだ。しとどに血を流せども、痛みを感じないのか。
(「或いは痛みがあっても、それで足を止めることなど無いのか」)
すぅ、と短く冴島・類(公孫樹・f13398)は息を吸う。戦場の熱を帯びた風が、白髪を揺らす。
(「無敵の鮫牙についての知識は薄いが、行く先に虐殺がある上、ぐりもあに反応してるとも言うし」)
強敵、だろう。相手はそも無敵だという。こちらの狙いは敵を消耗させることであり、その為には立ち続けるだけの覚悟がいる。
「行かぬ理由がないね」
ふ、と息を落とす。吐息一つ零すようにして類は静かに笑った。
「島に残る嘗ての力をお借りしますよ」
己は腰の一振りを。短刀に手をかける。銀杏色の組紐飾りがふらり、と揺れる頃には暴れるばかりの巨躯がこちらに視線を定めていた。
「おマエも、邪魔だろ」
「——」
告げる言葉と、同時に踏み込み来た。ダン、と響く音と同時に足裏に振動が来る。跳躍の方がイメージに近いか。
「さて」
とん、と類は後ろに飛ぶ。着地の先、身を低く沈めたのはザンギャバスの足元より蛇が伸びたからだ。
「シャァアアア!」
食らいつくその牙に短刀を滑らせる。ギン、と鋒が蛇の牙に触れる。ギ、と火花が散れば、先に類は短刀を持つ腕を振り上げた。
「ツブす」
巨躯が、来たからだ。
「生憎、まだ終わることもできませんので」
そのまま真横に飛ぶ。駆け抜けるようにしてザンギャバスの腹を薙ぎ払っていく。刃は肉に沈み——まだ浅いか。だが、敵の一撃は躱していた。
「——ぁあ?」
ガウンと地を叩き潰す一撃が床を割る。ぱっくりと下に向かってひび割れれば、思わず流石ですね、と声が落ちた。
(「できれば貰いたくはないですが……」)
は、と類は息を吸う。真面に切り結ばずにいたのは正解だろう。間合いとて、あちらが本気なればすぐ跳ぶように縮められるが——対応すれば良いのが、ザンギャバスだけであれば致命傷は避けられる。竜や蛇たちの射程を確認できていたのが良かったのだろう。
尤もその分、あちらの機嫌は逆撫でしているようだが。
「……ス、潰ス潰ス潰ス!」
グン、と振り返るようにして拳が来た。真面に狙いなど定められてはいない。だが、相手が巨躯である以上、半ば面を打つ一撃は類に——来る。
「クレア」
『 』
瞬間、謳うような声と共に類の眼前に炎が舞った。炎の精霊はこの地に残る、彼の地に似た気配を感じ取ったのか空にかかるように手を伸ばし、招く炎が類を守る結界となる。
キュィインン、と結ばれた力がザンギャバスの拳を受け止めた。一拍、その力を緩め——類に、届く。
「——は」
荒く吐いた息と共に、後ろに飛ぶ。抉られたか、痛みよりひどく熱い、と思う。だが、意識はある。体も——まだ、動く。
「瓜江」
血濡れの指先を、前に伸ばす。コトン、と一つ影が落ちた。カタン、とひとつ、寄り添うように手が伸びた。
「なんだぁ? おマエ」
眉を寄せ、低く声を零したザンギャバスへと類は——行く。
「風集い、舞え」
一歩、踏み込む先で常緑の瞳が僅かに煌めく。白い髪がふわ、と揺れ、はたはたと靡く衣が類を神霊体へと変えていく。踏み込みさえ軽く、反射的に振るわれた巨躯の拳を、類は舞うように躱した。
「——光よ、影を穿て」
それは、この地に残る力。中空に描かれた紋章から無数の光の鎖がザンギャバスの影へと穿たれた。
「——ぁ?」
一拍、敵の動きが止まる。その影の下へと類は深く身を沈めた。一差し、二人手を添え舞うように類の刃と瓜江の一撃がザンギャバスを切り裂いた。
「ァア、ァア……!?」
鮫牙が吼える。苛立ちと怒りを隠すこと無く。だが、流れ落ちる血が、ぐら、と揺れた巨体が確実に無敵の消耗を告げていた。
大成功
🔵🔵🔵
陽向・理玖
へぇ…無敵か
いいな面白ぇ
どれ程か試してやる
覚悟決め
龍珠弾いて握り締めドライバーにセット
変身ッ!
衝撃波まき散らし残像纏いダッシュで間合い詰めグラップル
フェイントに足払いでなぎ払い
拳で殴りUC起動
うわ肉の固まり…やべぇ
さすがにあの巨体からのパンチは
まともに喰らったらやべぇ
が
単純に暴れるだけなら見切りやすい
それに
避けながら確実に当てての長期戦なら
分もあるな
動きも癖も読めてきたぜ
ヒット&アウェイ
上下に攻撃揺さぶり
他部位の攻撃引き付けつつ
動き見切られぬ様残像や
限界突破で加速し
同士討ちも狙う
異形ではある
が人の形してんなら弱点も読める
暗殺用い
関節等弱い箇所を集中的に叩き部位破壊
壊しちまえば動けねぇ
締めだ竜砲
●救いの風、無敵の牙
「——ロす。コロす」
低く唸るような声と共に床が、割れた。身の丈7m程の巨躯が地を踏みならせば、神殿の床とてひび割れる。派手に空いた亀裂など、七大海嘯『鮫牙』ザンギャバス大帝にとっては気にもならないのだろう。既に竜砲によって身を焼かれ、骨を晒そうとも向けられるのはあらん限りの殺意であった。
——そこに、痛みへの怒りは無い。
それが無敵の所以か、将又衝動で暴れているが故か。だが、そのどれであっても——あいつが今もまだ、動き続けている事実は変わらない。
「へぇ……無敵か。いいな面白ぇ」
は、と陽向・理玖(夏疾風・f22773)は息を吐く。口の端を上げるようにして、唸る巨躯を見る。腕の一振りで神殿の柱には罅が入った。遠くない内にまた一本折れるだろう。今までの戦いで消耗しているのは確かだ。だが、その消耗がザンギャバスにとってのラインに到達していないのであれば——やることは、ひとつ。
「どれ程か試してやる」
覚悟を決め、理玖は龍珠を弾く。虹色の珠がが光り、キュインと響く音と共に握りしめドライバーにセットする。
「変身ッ!」
「——ぁ?」
僅か眉を寄せた巨躯へと理玖は一気に踏み込んだ。トン、と足音は軽く——残る身は、跳ぶように。一足で行けば、衝撃波をまき散らす。
「おマエ、お前もジャマだロ」
ぐん、と迎え撃つ拳がきた。真面に狙って来たものでは無い。半ば面に向かって放たれた拳が理玖に届く。
「——」
ゴォオ、と穿つ拳と同時に生まれた風が、横に身を振った理玖の残像を消し飛ばす。一撃が空を切れば、巨躯は踏み込みを選んできた。
「潰ス」
迫る相手に間合いを捕まれる前に、理玖はザンギャバスの懐深くに入り込む。下から、振り上げる拳が肉を叩けば、僅かに巨躯が揺れる。ザンギャバスの視線がこちらを——向いた。
「おマエ」
——来る、と理玖は思った。拳では無い、ザンギャバスの肩にいる竜の方だ。拳の追撃の代わりに身を回す。
「――見えた」
くる、と叩き込んだ回し蹴りを軸に、身を沈める。足払いを仕掛ければ、巨躯は揺れる。
「ぁ?」
ぐら、と僅か蹈鞴を踏めば、ただそれだけ床が啼いた。
「うわ肉の固まり……やべぇ」
拳に返った感触、足で感じた重み。反動はこちらばかりに返ってきている感覚だ。重いと言うべきか、密度がすごいと言うべきか。
(「ひとまず、あれで機敏だとか真面に考えて動いてくるとか無くて良かったってのはあるか」)
大ぶりの一撃、拳の間、ザンギャバスは苛立ちを見せる。暴れる時間は長く無いものの——明確な隙、だ。その間もあの竜やら蛇が煩くはあるのだが。
(「単純に暴れるだけなら見切りやすい」)
さすがにあの巨体からのパンチは真面に喰らったらやばいが——目的は、ここで倒すことじゃない。消耗させること。避けながら確実に当てていく長期戦であれば話は違う。
「分もあるな」
これは戦い方の話だ。ヒーローを知り、多くの敵を、戦場を知っているからこそ理玖は選べる。
「潰ス潰ス潰ス!」
ダン、と打ち下ろされた拳に身を逸らす。存外、回避は最小限で良い。相手は巨体。故に大きく避ければ大きく追ってくる。
「動きも癖も読めてきたぜ」
当てることより、振るうこと。
殺すと潰すという割に、狙いを定めてくるのはあの竜や蛇たちの方だ。獅子の爪が踏み込む理玖の腕に届く。ギィイ、と変身した体にダメージを刻んでくる。
「生憎、そのくらいで……!」
折れるような鍛え方はされていない。
爪が食い込んだまま、腕を振り上げる。あの獅子とてザンギャバスに拠るものだ。打ち上げるように腕を振るって、ギン、と響く爪音に身を沈める。牙を抜き、低く理玖は飛んだ。目指すは相手の懐。その影の下。
(「異形ではあるが人の形してんなら弱点も読める」)
一歩、二歩、三歩に瞬発の加速を叩き込む——跳ぶ。握る拳が狙うのは、相手の膝だ。
「こいつで……!」
「ルグァ!?」
ガウン、と下から理玖の拳がザンギャバスの膝を打った。一撃、二撃。巨体が傾げば支える関節部位を——打つ。
「ぁあ? んだよ、お前、お前オマエオマエオマエ!」
「壊しちまえば動けねぇ」
ぐらり、と傾ぐ体は支えきれずにザンギャバスは膝をつく。振動に、だが構わずに理玖は告げた。
「締めだ竜砲」
ルォオオ、と空より咆吼が響く。嘗て未来への道を開いた竜の砲撃が今、青白い光と共にザンギャバスに届いた。
大成功
🔵🔵🔵
ヴィクティム・ウィンターミュート
無敵、最強、絶対──強い言葉だ
だがそれだけなんだよ……特別なものなんかありはしない
『今』倒せなくても、必ずどこかで殺せる
それまでは遊びに付き合ってやるぜ…来な
光の鎖が俺好みだな
インファイトを仕掛けるとしようか──『そして、獣が解き放たれた』
影を貫く鎖で拘束し、側面や背面に回りながら変化した部位を優先的に切り裂く
今の危険感知能力と反射神経なら、それが出来るはずだ
俺がこうしてる間、お前の受けるダメージは常に9倍だ…これは、他人の攻撃にも作用する
拘束が解けたら、攻撃の部位を脚周りに変更
徹底的に機動力を削ぎ落し、進ませないようにする
あぁそれから…耳と目も狙ってやる
五感が潰されるストレスは相当なもんだぜ
●即ち勝利の為に
「お前モ、お前モ……オマエモオマエモ!」
七大海嘯『鮫牙』ザンギャバス大帝の声が、戦場に響いていた。身の丈7mもあろうかという巨体が腕を振るえば、とうとう神殿の柱落ちた。轟音と共に崩れたものさえ、気にはならないのか。鈍く光るザンギャバスの目は真っ直ぐに猟兵達をにらみ付けていた。
「コロす」
「……へぇ」
これは殺意だとヴィクティム・ウィンターミュート(Winter is Reborn・f01172)は思う。敵意も勿論あるが、殺意が強い。既に片膝を砕かれ、片眼にも深い傷を受けているが見え方に変動はあまり無いのだろう。
(「痛みによる怒りより、単純な苛立ち、か」)
感情ばかりの相手であれば実際の所、戦い易い。相手が無敵な上に強くなければ、これは『倒す』仕事だっただろう、とヴィクティムは——『Arsene』は思う。
「無敵、最強、絶対──強い言葉だ」
瓦礫を踏み越え、亀裂を目にする。崩れやすい場所、崩壊している神殿の本来の形を頭に叩き込み、その上でヴィクティムは敵を見据える。
「だがそれだけなんだよ……特別なものなんかありはしない」
「——ぁ?」
声に気がついたのだろう。暴れるように床を叩いていたザンギャバスが立ち上がる。ゆらり、と身を揺らし、拳が握られる。
「『今』倒せなくても、必ずどこかで殺せる」
これはそういう戦い。その為の道を付ける戦いであるのだから。
「それまでは遊びに付き合ってやるぜ……来な」
ゆるり、手を持ち上げてヴィクティムは笑った。口の端を上げて、緩く指先を曲げれば目を見開いたザンギャバスが地を——蹴った。
「おマエ、コロす!」
ゴォオォオオ、と巨体の踏み込みに風が唸った。床がひび割れ、破片が一気に後ろに流れる。真っ直ぐ、ただ向かってくる姿にヴィクティムは息を零し、拳を握る。
「光よ」
それは島の装備がひとつ。光の鎖は、踏み込む巨体の真上に紋章と共に現れた。
「影を穿て」
ヒュン、と無数の鎖がザンギャバスの影を射貫いた。進む筈だった足が空で止まる。
「——ぁ? なんだよ、これ」
「——は」
そいつは、と低く告げてヴィクティムは笑う。零す息と共に一気に床を蹴った。一歩目で瓦礫を飛び越え、二歩目で柱に足を掛け——真横へと、入る。
「俺のモノだ」
トン、と着地と共に、ヴィクティムは己という存在を研ぎ澄ます。チリチリと肌の焼けるような感覚と共に、凡てが届く。
「ギァアアア!」
「——遅い」
足を止めたザンギャバスに代わり、牙を剥いた竜をヴィクティムは躱す。身を逸らし、払い上げた拳で顎を打てば、鈍い音と共に牙が折れた。逆手に構えたナイフは迷わず獅子の頭に突き立てる。
「グァアアアアアア!?」
奇っ怪な叫び声と共に、獅子が動きを止めた。肩口が大きく落ちるのは変化した部位の一角を潰したからか。
(「——いや、それだけじゃ……」)
ない、とヴィクティムは身を横に飛ばす。足元、狙ってきた蛇に振り返りざまにナイフを振るう。
「お前、オマエオマエオマエ!」
「言っただろう。遊びに付き合ってやるって」
これは今の危険感知能力と反射神経だからこそ出来る術。研ぎ澄まされた感覚と共に、青い瞳が輝く。振り抜いたナイフを構え直す。
「俺がこうしてる間、お前の受けるダメージは常に9倍だ……これは、他人の攻撃にも作用する」
強化の術には代償も存在する。理解の上で、選んで使った術。は、と息だけを落とし、何がだと、なんだと繰り返し睨めつけるザンギャバスをヴィクティムは見据えた。
「これは、他人の攻撃にも作用する」
完璧な勝利という結果の為に。ヴィクティム・ウィンターミュートは己の寿命を薪とした。燃やし尽くすには、まだ足らずとも使うべき場所で使うように、軋む鎖が外れた瞬間に——行く。
「オマエェエエエエ!」
グン、と振るわれた拳に身を沈める。下を潜るようにして一気に背後に回る。相手が巨躯とはいえ、腕の関節には動く範囲というものが存在する。だからこそ、次に狙うのは脚だ。一撃で止まらずとも、浅く届く一撃があろうとも構わずヴィクティムはナイフを滑らせる。
七大海嘯『鮫牙』ザンギャバス大帝をこれ以上、進ませない為に。
「潰す、潰す……お前、コロす——……!?」
「そうかよ」
ふ、と吐息一つ零すように笑って、ヴィクティムはナイフを真横に振るった。
「五感が潰されるストレスは相当なもんだぜ」
滑るようにナイフは巨体から耳を落とす。いくら無敵とは言え、不便はあるのだろう。ぽとり、と落ちた耳に、ひとつ失った感覚にザンギャバスは吼えた。
「ァアアアアアアアア! ス、コロす、コロすコロす、コロす! おマエも、おマエも!」
全部、と告げる巨体から血が零れる。何か決壊するように。無敵の鮫牙は確実に、消耗していた。
——撤退に持ち込むまで、後、少しだ。
大成功
🔵🔵🔵
鳴宮・匡
◆夕立(f14904)と
竜砲を借りるよ
“無敵”の方向性にもよるけど
攻撃が通るなら、初手は銃での射撃で足の指を狙う
あの巨体だ、指一本崩れるだけでも姿勢を保てなくなるだろう
攻撃が通らないなら足を踏み出した先の地面を射撃で崩す
いずれにせよ、倒れなくても一瞬は動きを止めるはずだ
――そこに竜砲を撃ち込むよ
狙いは顔面
ダメージがなくても視界が遮られるから、罠を張ってもらう隙もできる
さほど知性がないのなら
見える相手を脇目もふらず追うだろう
夕立を追いかける相手を横合いから邪魔していく
……野生の獣のほうがまだ可愛いな、これ
消耗しきる前に離脱したいからな
ほどほどのところで竜砲の次射を入れてもらって
その隙に後退するよ
矢来・夕立
傭兵さん/f01612
▼方針
装備:竜砲での攻撃
鳴宮:射撃による牽制
矢来:罠の作成・誘導
竜砲。
名前からして飛び道具っぽいんで傭兵さんに任せます。
真っ向勝負で敵わないって、野生の獣みたいですね。あれも見た感じ獣ですけど。
であれば罠で体力を削るのがよいでしょう。
事前の《偵察》で地形を抑えておきました。
【紙技・文捕】。結構なんでも作れますよ。
紙垂のワイヤートラップ。棒手裏剣のまきびし。千代紙風船の地雷。
その場その場で罠を作って進行方向に展開。誘い込む形で逃げます。
いい感じに足止めをしてもらえる手筈なんで、こちらは息継ぎに困りません。そのはずです。
…このオレが餌になってやるのはちょっと腹立たしいですが。
●行き道拓きと影踏み
「——ス、潰ス、潰ス潰ス潰ス潰ス!」
轟音と共に神殿に罅が入った。巨体が地団駄を踏めば、床板がひび割れ、大理石の柱が轟音と共に崩れていく。——元より、天井の無い場所はあったが、此処までの戦いを思えば不思議は無かった。
七大海嘯『鮫牙』ザンギャバス大帝。
無敵、と言われる巨躯は、片眼を血に濡らし、膝からは骨を晒していた。肩口、腹、背に見える異形の半数を砕かれ、割かれながらも——まだ、動く。
「動くこと自体は、あまり不思議ではないけど……見えるのは苛立ちか」
鳴宮・匡(凪の海・f01612)は一つ息をついた。
「痛み自体より、不服が大きいのは……どう見るべきかな」
「あれが、本格的に地団駄だってことでしょうね」
僅か、瞳を細めた匡に矢来・夕立(影・f14904)はそう言って視線を上げた。
「負傷や痛みに伴う苛立ちより、こっちが潰れないことが気に入らないんでしょう」
「それであの大暴れ、か」
軽く肩を竦めるようにして、匡は息をつくと傍らの夕立へと視線を向けた。
「“無敵”の方向性にもよるけど、攻撃が通るみたいだから動こうか。竜砲を借りて」
「……えぇ。名前からして飛び道具っぽいんで傭兵さんに任せます」
それに、と夕立は隣へと視線を向けることなく——ただ、前を見る。その瞳に映すことにより忍びは敵を見据え、傭兵は気配を以て敵を捉える。
「ス……コロす、コロす! オマエモ、お前モダ!」
「あっちも、騒ぐだけの時間は終わったようです」
「——あぁ」
応じる言葉一つを合図に、二人は左右に身を飛ばした。ダン、と重い踏み込み一つ、跳ぶように来るザンギャバスが見えたからだ。グン、と一気に瞬発の加速を以て来るそれは、最早、壁が飛んでくるに近い。
「ロス……コロす!」
ゴォオオ、と風を唸らせ、ザンギャバスの拳が地を叩いた。振り下ろすより、半ば叩き潰すかのように来た一撃、外れたことは奴も気がついているか。ひび割れた床板を掴み、そのまま勢いよく振り返った巨体が見据えたのは——匡か。
「おマエ」
「視えた」
今こそ匡は敵を『視る』
己という全てを研ぎ澄まし、敵の動きを、挙動を、その生物にある揺れを——視る。見据える。見付ける。
ザンギャバスが掴んでいたのは床板。振るうだけでは腕の長さから見る間合いでは届かないが——派手な振り返り。あれは、肩を入れた動きならば——……。
「そこだな」
迷い無く匡は引き金を引いた。ガウン、と低く構えた銃口から一撃は足の指へと向かって放たれる。
「ぁあ? ぁあああ!?」
一撃がザンギャバスの足の指を散らす。軸となる筈だった足が揺らぐ。片手に持った瓦礫は空へと筈出て行く。不思議もない。この巨体だ。指の一本崩れるだけでも姿勢は保てなくなる。尤も、これが永遠とは思ってはいない。一瞬。だが、その一瞬でも——充分だ。
「——竜砲を」
合図の代わりに銃弾を詰め直す。滑るように銃を構え直し、ルォオオ、と高く響いた音に匡は、タン、と低く飛んだ。
——次の瞬間、青白い光が戦場を走り抜けた。ゴォオオ、と穿つ魔法の力だ。一拍、確かに足を止めたザンギャバスへと竜砲が届く。光が焼くのは——顔面だ。
「ぁああああああ!?」
「——」
その苛立ちは、怒りは獣の叫び声に似ていた。敵意より殺意。或いは本当に単純な苛立ちか。
「真っ向勝負で敵わないって、野生の獣みたいですね」
射線から飛び退き、柱の陰に立った匡へと夕立は視線を上げた。
「あれも見た感じ獣ですけど」
「……野生の獣のほうがまだ可愛いな、これ」
次の銃弾も足元へ。竜砲は顔面に直撃はしているが、焼けた肌を晒しながら鈍く光る瞳はこちらを探している。
「動き出すか」
「であれば罠で体力を削るのがよいでしょう」
告げて夕立は式紙を指に挟む。二つ折りにしたそれを宙へと向けて放てば紙垂のワイヤートラップが神殿の四方に張り巡らされる。神殿の状況は、現状も含めて把握している。亀裂こそ空いているが——今は、それが役立つ。
「マエ、おマエおマエ!」
ガウン、と重い踏み込みと同時にザンギャバスが来た。巨躯は、だがそれ故に、足元に弱い。ピン、と触れた紙垂が、戦場に無数の千代紙風船を生んだ。
「なん……」
なんだ? と告げるはずの言葉が、爆風に吹き飛ばされる。あれが、ただの紙風船であるわけでも無い。これは、紙技《カミワザ》を用いる忍びの仕事。
「さて」
敵前に身を晒し、罠を仕掛けては夕立は後ろに飛ぶ。誘い込むように、トン、トン、と進め——ふいに、足音を消す。音で誘い、動きで誘えば、見える姿が夕立だけとなっている事実にザンギャバスは気がつかない。
「おマエ、コロす……!」
「……」
グン、と突き出された拳に、銃弾が叩き付けられた。匡の銃弾だ。迷い無く、手首の関節を狙う。相手が巨躯であれば、それを支えるだけの力が体の何処かに掛かっている。
(「いい感じに足止めをしてもらえているので、こちらは息継ぎに困りません」)
ほう、と息を吐き、夕立は後ろに飛ぶ。ひら、と踊らせた折り紙を掴む。
「……このオレが餌になってやるのはちょっと腹立たしいですが」
暴れ狂う『鮫牙』の動きは、随分と鈍くなってきていた。随分と消耗しているのだろう。飢餓状態まで——あと、少しだ。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
クロト・ラトキエ
2)借用
消耗戦。ゲリラ戦。耐久戦…
随分と体験して、何度か死にかかってもきましたが。
いやはや、最上級のしんどさですねぇ。
僅かな救いは。
アレを神輿に担ぐ者も、知恵者や援軍も無い事くらい、ですか。
耐え攻撃し続け足止め…何て手もあるのでしょうが、
僕には向いても無ければ性質でも無い。
躱し、隠れ、一撃離脱に徹し、罠を張る…
故に。
先ず敵を視、識る。
一撃の強度は十分なんで…
速度。攻撃への対応、挙動は手足のみならず作成部位も。
無機物も喰らうか…
どう時間を食わせるか。
黒の鋼糸を張る。
細く、低く、歩みを邪魔する物。
高き場所、柱の陰より、
掛かった所へ放つ
――拾式
光の鎖も借り、隙を作り即離脱。
今はまぁ…独りじゃないんで
コノハ・ライゼ
親近感が湧かない訳じゃないケド……
頭の出来まで一緒にされたくはナイわねぇ
さてと、お願いするなら光の鎖(2)がイイかしら
合わせて使えば映える術があんのよ
どうせなら楽しまないとネ
オーラ防御纏い敵の目誘うよう駆け近付く
死角へは第六感併せ挙動見切り
攻撃を避け体勢維持、躱し切れない分は激痛耐性で凌いだら
カウンター狙い攻撃に使われた部位を足場に空中戦へ持ち込むわ
【彩月】の焔にマヒの毒を呪詛として乗せ
巨体もくまなく照らすよう範囲攻撃で配置するねぇ
光の鎖と合わせ縫い付けるよう結晶伸ばしたら
そこからしっかり生命力吸収して継続ダメージ与えようか
2回攻撃で隙無く縫い付け補食もし回復
反撃に備え、耐えていきマショ
●鮫牙に彩の月
「ス……コロすコロす!」
「――アラ」
ゴォオオ、と轟音と共に柱の一つが吹き飛ばされた。強い風と共に横を駆け抜けていった瓦礫にコノハ・ライゼ(空々・f03130)は肩を竦める。
「随分と暴れるわネ」
ため息じみた息をひとつ落とし、割れた床を、崩れた神殿を見る。構わない、と戦場として託された場所ではあったが、随分と壊れたものだ。床板はひび割れ――そも、最初の『襲撃』の時点で巨体が着地した場所は崩れた。
(「帰り道は大変そうネ」)
そう思いながらコノハは薄く笑う。ピリピリと肌に感じる強者の感覚。一手二手、ミスをすれば『あれ』の言う通りに殺されるのはこちらだろう。
七大海嘯『鮫牙』ザンギャバス大帝。
無敵と言われる巨躯は血に濡れ、肉を、骨を晒していた。足の爪は一部が砕け、膝に、異形の部位にと傷が目立つ。――そう、傷だ。相当な負傷。単純に見ればそう言えるというのに、違う、とコノハは息をつく。
(「あれは、こっちが死なないことへの苛立ちでショ」)
痛みから来る怒りのようなものは感じられない。敵意、殺意は分かりやすい程に。不服は地団駄を踏む姿を見れば良く分かり、獣の咆吼にさえ似た声は、飢餓状態に陥れば収まるのか。
「親近感が湧かない訳じゃないケド……頭の出来まで一緒にされたくはナイわねぇ」
まったく、と何度目かの息をつく。ダンダン、と床を叩く足が、残る大理石の全てを砕く前にこちらを向く。
「おマエ……おマエも、うゼェ」
「――ソウ?」
息をついて、コノハは口の端を上げるようにしてひとつ、笑った。
「オレは、楽しむつもりだけどネ」
トン、と前にコノハは跳ぶ。低く、一気に駆け出す。瓦礫を飛び越え、二歩目を大きく取って、崩れた柱に指を滑らせる。紫雲に染めた髪がふわり靡けば、瞬間、纏うのはオーラの防御だ。
「潰ス、潰ス潰ス潰ス潰ス……!」
グン、と拳が荒く突き出された。当てるというよりは、面に向かってただ振るわれただけ。――だが、それも巨躯であれば、攻撃となる。
「――」
壁のように迫ってきた拳に、コノハは身を横に振った。半ば無理矢理、横に飛ぶ。着地の先、指先で地を掴んで、滑る足を固定する。低く、四肢で床を掴み――迷わず、一気に前に出た。
「――ぁ?」
「失礼」
拳は振るわれている。腕は伸びきっている。前に出た体はすぐに戻らず、だからこそ、コノハはザンギャバスの腕へと乗った。トン、と軽やかに、足場にして身を空に飛ばす。天井など無い場所だ。高く、空中に身を置いた青年は仰ぎ見た巨躯へと笑う。
「照らしてアゲル」
宙に灯るは月白の焔。ひとつ、ふたつと数は増えて、数多に揺れればザンギャバスの頬に影が落ちた。
「――おマエ」
月白の焔は巨体をくまなく照らし出す。熱無き光が、この地、この戦場にある『鮫牙』の姿を。
「――光よ、影を穿て」
唇に乗せた合図と共に、空より無数の鎖がザンギャバスの影に向かって放たれた。キィンと高く響く音と共に、コノハは指を鳴らす。鎖と合わせ、月白の焔は玻璃の結晶を招いた
「――ぁぁ、ぁあああ」
光にて照らす、その巨躯へと。
「おマエ……おマエおマエおマエ!」
仰ぎ見たまま、ザンギャバスは止まる。吼える鮫牙と共に、肩の竜が牙を剥く。
「言ったデショ」
そこに、コノハは降りる。身を落とす。振り抜いた柘榴を構え――行く。ザン、とナイフが竜を切り裂いた。薙ぎ払った先、逆手に持ち直し肩口に突き立てる。
「楽しむつもりだけどネって」
「ろす……コロすコロすコロす!」
ぁああ、と異形の咆吼にも似た声が戦場に響き渡った。トン、と強く蹴って、コノハは距離を取り直す。は、と落とす息は浅く喰らった一撃にだ。痛みはあるが――しっかり貰うものは貰って食べてある。反撃に備え、耐えるように強くナイフを握る。
(「暴れた分、しっかり消耗してもらいマショ」)
流れる血も、骨も奴の終わりを見定めるには足りないが――動きが、確かに鈍くなっているのは分かる。斬り捨てた背の異形が、妙な動きをしているのも。
「遠からず、ネ」
「なるほど。そのようですね」
視線は前に向けたまま、背へとコノハは声を投げた。足音さえ響かせぬまま、男の声が返る。揺れる黒髪をそのままに、クロト・ラトキエ(TTX・f00472)は影を踏むようにして戦場にその身を晒した。
「消耗戦。ゲリラ戦。耐久戦……随分と体験して、何度か死にかかってもきましたが」
身の丈7m程の巨躯に驚いておけば良いのか、それとも痛みを基点とする忌避も恐怖も無いことにため息でもついておけば良いのか。
「いやはや、最上級のしんどさですねぇ」
――あれは、無敵だという。
傷は負っている。片眼に片足、関節に足の指。部位を狙い、動きを崩す。そうして、奴のひとつひとつの動きに猟兵は負荷をかけてきた。消耗はしてきているだろう。それは分かる。だが、相手が『無敵である』というのも事実だ。攻撃は通ってこそいるが、ダメージとしては蓄積されている様子は無い。
「僅かな救いは。アレを神輿に担ぐ者も、知恵者や援軍も無い事くらい、ですか」
「今は暴れん坊みたいデショ?」
「――えぇ」
それじゃぁ、と前に出たコノハを見送り、クロトは黒の鋼糸を指に絡ませる。暴れるばかりで知性は無く――だが、地団駄ひとつで神殿の床板を砕ききる。お陰で随分と荒れた地になった。構わず、と島の者は言ったらしいが――果たして、大穴が空くとまでは考えたか。
(「とはいえ、地下まで続く穴なんて出来るわけも無く……残っている柱もある。加護があれば、攻撃を受けることもできる」)
無防備でいれば容易く潰れるだろうが、対策を取ればある程度は受け止められる。傷は受けることになるだろうが。
(「耐え攻撃し続け足止め……何て手もあるのでしょうが、僕には向いても無ければ性質でも無い」)
躱し、隠れ、一撃離脱に徹し、罠を張る……。
それが己の戦い方だとクロトは理解している。何より生還を得手としてきた雇われ兵。影を踏み、影に紛れて行くのが己の姿であれば――……。
「ろス、コロすコロす!」
ゴォオ、とザンギャバスが拳を振り回す。狙うより、半ば暴れるように振るわれるそれは『当てる』だけだ。踏み込むであろう先に向けて、狙いを定めたものではなく。来たから向けた。当たったから返したというもの。
(「一撃の強度は十分なんで……。異形の部位は、本体より動きを補っている。頭の割れた竜が平然と牙を剥くあたり、どちらも無機物も喰らうか……」)
ならばどう時間を食わせるか、だ。
「――よっと」
後ろに距離を取るより、コノハが中に飛ぶ。懐深く、腕の下をくぐり抜けるようにして行った姿を視界にクロトは鋼糸を張り巡らせた。指先、絡めた糸を戦場の空気を撫でるように滑らせる。細く、低く、歩みを邪魔する物――トン、と轟音に足音を隠し、柱の陰を行く。最後、足音も無くクロトは僅かに高い場所を取った。
「――ぁ?」
――ピン、と音がした。小さな音。だが、その音と同時にザンギャバスが足を止める。振り下ろすはずの腕が宙に浮き――血が、滲む。そうして戦場に黒い鋼糸は姿を見せる。
「おマエ、おマエおマエおマエ!」
ぐん、とザンギャバスがこちらを見上げる。トンと軽やかにコノハが地を蹴り上げる。宙へと身をやった青年が再び招く焔と共にクロトは告げた。
「――拾式」
十三の業、内の十。其は自在に絶つ糸の檻。
「断截」
ザン、と無数の斬撃がザンギャバスに届いた。巨躯の深くに滑り込み、暴れるような声が響く。
「ぁあ、ぁああああ!?」
「……」
そこにあるのは、痛みでは無く怒り。苛立ち。紛れもない殺意に、クロトは薄く唇を開く。
「鎖よ――影を穿て」
発動するは、光の鎖。無数の鎖がザンギャバスの影を射貫き、暴れるはずの拳が止まる。振り返るはずの体さえも一時、止まってしまえば斬撃から逃げる術など最早ない。
「マエおマエも、おマエもおマエもおマエもおマエもぁああああああ!」
コロす、と鈍く、濁るようにして響いた声と共に七大海嘯『鮫牙』ザンギャバス大帝が吼えた。その咆吼に応じるように異形の部位が立ち上がり、ザンギャバスの姿が変わっていく。
「ァア、ァアアアアアア」
飢餓状態へと陥ったのだ。
獅子のような姿に変化すると、唸り声を残し巨躯は地を蹴った。この島にやってきた時と同じように、跳ぶようにして――撤退していく。
斯くして、七大海嘯『鮫牙』ザンギャバス大帝との戦いは猟兵達の勝利に終わった。無敵の牙を消耗まで追い込み、押しとどめた猟兵達を労るようにクレイオス島の風が優しく吹いていた。
大成功
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