羅針盤戦争〜邪なる『三の王笏』は、狂気を溢れさせて~
●『三の王笏島』
漂う瘴気は触れたモノの心をも濁らせる。
決して真っ当ではない。狂気をもって万物を浸食するものが、この島にはある。
いいや、この島そのものが邪神山脈そのなのだ。
――どくん。
来たる者達の気配に応じて脈打つ大地。
溢れんばかりの邪悪なる気配は、近くにいる全てのものを穢していく。
いいや、命を貪らんばかりの悪意をもって動くこの島の全て。
地面と岩が牙のように鋭く尖り、見た目は麗しくとも心を惑わす光を放つ。
此処に集う邪神は一柱にあらず。
無数の、それこそ尽きせぬ邪悪さを各々携え、爛々と妖しく輝く瞳を瞬かせる。
この島全体に蔓延り、無秩序に這い回る邪神たちは島の形さえ変える混沌を渦ませながら。
「さあ、来たか。猟兵たちよ」
声は島の奥より。
それは不気味なメガリスより次々と邪神を召喚させる、カルロス・グリードの発したもの。
今までの分身体の比ではない圧倒的な力と狂気を滲ませて佇むは、真なる『三の王笏』としての姿。
決して最初に会われた時のような存在ではない。
オブリビオン・フォーミュラの名に恥じぬ強烈に過ぎる破滅の力を宿した、ひとつの形態。
むしろ、この島全てを邪神共々操り、来たる猟兵を押しつぶそうとするかのようで。
「これも我のひとつの姿。これも、また我の持つ力のひとつ」
邪気と共に脈動する島、それそのものがもはや猟兵たちの敵。
カルロスが自らの周囲で脈打たせ続ける触手は、肉を裂いて血を吸う食虫植物めいていて。
いいや、それだけではない。召喚し続ける邪神の数、種類は、それこそ尽きせぬ彼の邪なる宝物庫より次々と。
これら全てを斬り伏せ、討ち滅ぼし、カルロスへと一撃を見回せねばならないのだ。
「さあ、見せてみろ。この海を、数多の世界を渡り、その身に宿した輝きを。それを奪い、貪り、侵して我が宝物のひとつとしてくれよう」
今より始まるは邪なる神を操る『三の王笏』との決戦。
邪神渦巻く島を震わせる激戦の火蓋が切られた。
●グリモアベース
緩やかなる声は、凪いだ海風のように。
或いは、来たる決戦を予知したが故の静かさをもって。
告げるは秋穂・紗織(木花吐息・f18825)。彼女は、ひとつの決戦の説明を語り出す。
「オブリビオン・フォーミュラたるカルロス・グリード。その一形態である『三の王笏』の座す島が判明致しました」
それは怒涛をもって攻め入る猟兵たちの誇る輝かしき戦果であり。
同時にさらに激しき決戦を始めるという事でもあるるのだ。
「かの魔王、かの始まりのアリスがそうであったように、複数の形態を持つのがこのカルロス・グリード」
故に、これを討ち滅ぼすだけでは完全な消滅にはなりはしない。
が、全ての形態、全ての『王笏』を倒せば、カルロス・グリードという存在を消せる筈なのだ。
ひとつたりとも、負けていい戦いは存在しないと紗織は目を細めた。
「……この形態では、メガリスより召喚したUDCアースの邪神と、それに汚染された大地、つまりはひとつの島そのものを操って戦うようですね。舞台は邪神山脈となった島」
自分達が立つ島、そのものが敵とも言えるのだ。
言うまでも無く、これまで通りに先制攻撃からは逃れられず。
かつ、カルロスが振るう地形全体をもって蹂躙するその力は途方もない。
「むしろ、そここそが隙とも言えるかもしれません。巨大に過ぎる力を、カルロス自身が完全には制御しきれていない部分があるようですから」
それはほんの僅かな隙だとしても、付け入る事が出来るのならば活路が見いだせるだろう。
貪欲なるカルロスと、狂気もたらす邪神。
それは完全な主従関係ではなく、隙あらば暴れ出すのが邪神の性質というもの。
「加えて、邪神山脈となった島にいるといっても、奥深くに隠れているのではなく、堂々と真っ向より姿を見せています」
転送して即座に攻め入る事が出来る筈。群れる邪神を蹴散らさなければ、などいう事はない。
だからと不意打てるような訳ではないのが困ったものですね、と苦く笑う紗織。
何しろ、カルロスは地面より尽きる事がないように次々と邪神と召喚して戦うのだから。
ただ、と。
「信じています。どんなモノが相手であれ、どんな禍々しい力と狂気に立ち向かう事になれ、皆さんならばきっと勝てるのだと」
失われない輝きは、勝利として目の先にあるのだと。
そう柔らかに微笑んで、紗織は皆を送り出すのだった。
遙月
何時もお世話になっております、MSの遥月です。
難易度は『やや難』でのオブリビオン・フォーミュラとの決戦をお送り致します。
この度は、カルロス・グリードの『三の王笏』。
UDCの邪神を操るその存在と拠点と存在を討ち滅ぼすべく、挑んでください。
以前の分身体とは、また全く違う力と力を持っている事にはご注意を。
『三の王笏』たるカルロスが本拠とする島は、それ自体がひとつの邪神のようなもの。
夥しい数の邪神が蔓延り、更にカルロスはメガリスで邪神達を操り、島の地形全体で攻撃してきます。
つまりは、島の全てと、島に這い回る邪神と、カルロス本人。この全てが敵という事。
逆にその巨大過ぎる力を、完全に制御は出来ていないようですが、どのように隙を見出し、一撃を見舞うかが勝負の分かれ目となるでしょう。
また、カルロス・グリードは必ず先制攻撃をして参ります。
それをどのようにユーベルコード以外の方法で凌ぐのか、というのが最初の肝心な点。
判定は難易度の通り、やや難しく、やや厳しくさせて頂きます。
採用に関しては出来るだけと思っておりますので、受付日時などをご覧くださいませ。
だいたいですが、私のキャパシーだと15名前後は採用予定。後は余力次第ですが、20名ほどはいけるかなという所ですが、戦争シナリオとの性質上、不採用があってもご容赦頂けますと幸いです。
(今回は断章の追加はなしで参ります)
それでは、どうぞ宜しくお願い致します。
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プレイングボーナス……敵の先制攻撃ユーベルコードに対処する。
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※ユーベルコード以外での対処となります。
第1章 ボス戦
『七大海嘯『三の王笏』カルロス・グリード』
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POW : 邪神「大地を喰らうもの」
【本拠地の島の面積】を代償に自身の装備武器の封印を解いて【大地を牙の生えた触手】に変化させ、殺傷力を増す。
SPD : 邪神「吼えたけるもの」
【目にした者の正気を奪う、漆黒の巨人型邪神】が現れ、協力してくれる。それは、自身からレベルの二乗m半径の範囲を移動できる。
WIZ : 邪神「輝き惑わすもの」
【光り輝く宝石のような美しき邪神】の霊を召喚する。これは【命中した対象を宝石に変える光線】や【敵の欲望をかきたて混乱させる輝き】で攻撃する能力を持つ。
イラスト:hoi
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠山田・二十五郎」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
カミーユ・ヒューズマン
「ぬはははは、待たせたのう皆の衆、お姫さんの登場じゃあ!」
先制攻撃はオーラで身を守った上、光線は浮遊するハートを盾にして、輝きもハートをブラインド代わりにして凌ぎます。
「ハートはわしに触れておらんからのう」
纏めて宝石になることはない筈。
「ゆくぞい、くらげたん」
凌ぎきれればUCを使って後ろにくらげたんを張り付けて飛翔。迎撃は軌道を急に変えるフェイントを交え回避。混乱した時は自身の影に隠れる形になってるくらげたんに叩いて貰って正気を保ちつつ肉薄し飛翔の勢いも威力に乗せた拳で殴りつけます。
「お姫さんとは皆の心の支えとなりその拳で絶望を物理的に排除する者ッ! そう、これがお姫さんパンチじゃああっ!」
歌というにはあまりに剛毅に。
邪気渦巻き、狂乱の如く風渦巻く島に声が響き渡る。
どのような災厄あろうとも、この姿を変える事などありはしないと。
「ぬはははは、待たせたのう皆の衆、お姫さんの登場じゃあ!」
勇猛にして剛毅なる漢の身体を、可憐なる姫の衣装で包む者。
カミーユ・ヒューズマン(セイレーンのプリンセス・f26887)が邪神の這い回る島の上で、声を上げるのだ。
臆す事はなく。
怯む所か、躊躇う事もなく。
彼を縛るのはただひとつの敗北からなる、約束だけだと。
一種の異貌とも言えるカミーユの姿。けれど、それを瞳におさめたカルロスは薄く笑う。
なんとも、猟兵というものは尽きせぬ宝か。
このような常とは異なる姿を、戦場で輝かせるのかと。
宝に表面の美醜は不要。
そこに矜持という光と色を宿すかが全て。
「ああ、待ったとも。故に、後は速やかに終わらせよう」
事実、邪神に囲まれれど恐怖のひとつ抱かないカミーユは勇敢なる者。姫と呼ぶべきか、漢と呼ぶべきかは。
「――勝者が決めればいい」
よってカルロスより召喚されるは美を司る邪神の霊だ。
見た目は麗しくとも、全てを惑わし、宝石へと変じさせる異能を司る邪なる一柱。
煌めくような光線がカミーユの身に降り注ぎ、貴石へと変じさせようとする。
「確かに邪神の霊格は凄まじいのう。が、わしが止まるとは限らぬよ」
それを受け止め、弾くのは浮遊するハート。
戦いの高揚の如く鼓動するそれが光線を防ぎ、周囲に散らす。
結果として地形そのものが宝石へと変じ、欲望を掻き立てる輝きを周囲に放つが、ブラインドとして展開する事で直視を防ぐ。
「ハートはわしに触れておらんからのう……流石に無傷とはいかんが」
見れば左腕の一部が宝石へと変化し、カミーユの藍色の瞳が内面に沸き立つ貪欲さで揺れている。
戦いを求めるならば、そう、ただ周囲の邪神たちと延々と、その命が果てるまで闘争に興じればいいのだと。
「いいや、否! ゆくぞい、くらげたん」
幻惑を振り切るように裂帛の声を張り上げ、くらげたんと名をつけたマスコットを後ろと貼り付け、ユーベルコードを発動されるカミーユ。
豪華絢爛なるドレスを身に纏い、舞い散る花びらと共に高速で飛翔するその姿。
「面白い。いいや、美しいといった方がいいのかな?」
「知らぬ、貴様如きの評など、わしは意にもとめぬ!!」
急激に軌道を変化させ、ジグザグに、それこそ縦横無尽にと翔る姿を、邪神の霊は捉えきれない。
巨大な姿と力を持つが為に、細かい一点への攻撃は苦手なのか。
地形ごと宝石となり、精神を掻き乱す輝きが常に放たれるが、背のくらげたんが容赦のない一撃をカミーユの背中に叩き込み、正気を保たせながら。
肉薄するはカルロス本体。
周囲に漂わせる触手が放たれ、カミーユの脇腹を抉って鮮血を散らせども、それすらも己が纏う花びらのひとつと従えて。
「お姫さんとは皆の心の支えとなり、その拳で絶望を物理的に排除する者ッ!」
激痛など知らないと、速度を緩める事なくカルロスへの懐へ。
握り絞めた拳は、それこそ自らの骨が悲鳴をあげるほど、強く、強く、何処までも強烈に。
「そう、これがお姫さんパンチじゃああっ!」
次なる触手と邪神の一撃が放たれるより早くと、高速飛翔の勢いを乗せたカミーユの拳打がカルロスの額へと撃ち込まれる。
吹き飛ぶカルロスの身体。追撃を阻むべく瞬時に触手たちが防壁を作るが、確かな手応えを感じてカミーユは吐息をひとつ。
残心と身を整え、次なる攻めへと構えを取って。
「狂気、絶望、邪悪なる神。そんな者はしらぬわ。UDC、メガリス、『三の王笏』……借り物の力ではなく、お前さんも漢ならば、その身の力で世界へと挑めっ!!」
数多の世界へと侵略を続ける船団の首領として。
奪い、盗み、蓄えた財宝の力ではなく、我が身と魂、脈打つ鼓動でこそ戦えへと叫ぶカミーユは、何処までも雄々しくて。
舞い散る花びらと、絢爛なるドレスとの対比はそれこそ奇妙すぎるのに。
己を恥じずに突き進む心こそ、誠の勇気なのだと周囲に告げるのだ。
大成功
🔵🔵🔵
二條・心春
まさかこの世界で邪神と戦うことになるなんて……UDCアース出身の者として、負けるわけにはいきませんね。
正気を奪う……邪神らしい強力な能力ですね。ですが、私はこれでもUDCを召喚する者です。「狂気耐性」を活かして目を開き邪神の能力に耐えて、島の地形を把握しながら「第六感」で攻撃を察知して避け、スタングレネードを王笏にぶつけて目潰しして、邪神の制御の邪魔をします。
その間に【超第六感】を使えたら、こちらのものです。これなら目を閉じても邪神の攻撃や島の地形、王笏の動き……全て感じ取れます。攻撃は拳銃を使い、UDCの子達の力を借りた「呪殺弾」を放ちます。
力で支配するだけでは、本当の力とはいえませんよ!
その心は平凡な少女だけれど。
何処までも気丈に心優しく。
自信がなくとも誰かの為に、心を通わせた存在の為に戦うからこそ。
二條・心春(UDC召喚士・f11004)は黒い瞳に、決意を秘めさせて邪神山脈と化した島を睨み付ける。
ふわりと流れた柔らかな茶色の髪。
けれど、それを揺らす風は、心春のよく知る邪念に満ち溢れていて。
「まさかこの世界で邪神と戦うことになるなんて……」
あらゆるものが降り注ぐがこのグリードオーシャンという世界。
他にあるものが、ここにはないという保証はないが、これはある意味の規格外。
だが、心春とて臆してなどいはしない。
元は心春の世界にあったもの。邪神と戦った経験は幾らでも。
ならば、積み重ねた今までが決して自分を裏切る事はないと信じて射るから。
「……UDCアース出身の者として、負けるわけにはいきませんね」
今もまた漆黒の巨人の姿をした邪神が大地より呼び起こされようとも怯む事なく、心を蝕むその狂気の姿を見つめる。
「正気を奪う……邪神らしい強力な能力ですね」
言葉にしながら、冷や汗を流すのは心春とてそれを無力化出来ていない証。
だが、完全に正気を奪えるわけではないのだと狂気に耐性を持つ心で応じている。島の地形に、巨人とカルロスの位置を把握しなければ、まずは始まらないのだから。
「……っ!」
事実、轟音を伴い頭上から振り下ろされる巨大な邪神の脚。
一撃で周囲の地形が粉砕され、転がって避けた心春の身を土砂の飛礫が撃ち据える。直撃を受ければ、タダではすまない。
「どうした? 逃げるばかりでは我には何も届かず、響かぬぞ」
「なら、私の一撃がその身に響き渡り、撃ち壊す瞬間を夢見なさい、カルロス」
心春が駆使するのは第六感。
巨人の動きを見切るのではなく、UDCとの触れ合いで目覚めたその感覚をもって先んじて動く。
どのように走破し、カルロスへと迫るかは先の一瞬で地形を見たのだ。ならば、後は巨人とカルロスの動き、流れるその狂気の気配を第六感で捉えればよいだけのこと。
「だからまずは、これがひとつめ」
よって、大地を砕く邪神の攻撃を避けながらもカルロスへと接近し、心春が投擲するのはスタングレネード。
殺傷力は皆無だが、強烈な閃光と音により敵の五感を潰す為のもの。
ましてやこれは異能や戦闘力に優れているUDCに対抗する為に用意されたものならば、その効果は言うまでもなく。
「一瞬、一瞬でいいんです」
心春の精神の奥で眠り閉じた感覚を開き、戦場全体まで広げるまで。
叶える為に必要な瞬間は、確かに作られているから。
それこそ花開くは秘め持つ超常さえ捉える第六感。五感ならぬものは霊感や透視、感情察知の類い、更には未来視さえをも併せ持つもの。
「さあ、これならば瞼を閉じていても……全てを感じとれます」
邪神の攻撃、その予兆たる風のざわめきも。
島を這いずり回るように流れる邪気の気配も。
そして、『三の王笏』たるカルロス本人の息遣いさえも。
全ては心春の掌の中のように。
捉えて、見透かし、支配するように先へと繋げる。
「メガリスで強引に召喚し、UDCを支配しているようですけれど」
ああ、つまる所、召喚士として我慢ならないのか。
最後に心春が捉えたのは、つまる所、自分が戦う動機。
UDCと心通わせた存在故に、メガリスで上から押しつけるような束縛の支配を忌み嫌うのだ。
絶対に相容れないと、手にした拳銃に想いを込めて。
そんな心春にこそ、手を貸すのだと彼女に自らの意思で従うUDCの子達が弾丸へと力を込める。
それは呪殺を秘めた弾丸ではあるけれど。
決して、何かを奪う為のものではない。
誰かを守り、その手を握るが為のひとかけら。
「力で支配するだけでは、本当の力とはいえませんよ!」
重ねて繋ぎ、結い上げたこの弾丸こそ本当の輝きだと。
邪神の攻撃を、カルロスの放つ触手を避けながら、放たれた弾丸が黒い火花と共に必中の軌跡を描く。
傍に伴う者のいないカルロスに、それを避ける事も、それを庇ってくれる者もいる筈がなく。
ただ侵略して世界を壊し、狂気で穢そうとした鼓動へと、弾丸が突き刺さる。
「成る程、一理ある。魅了して、惑わし、自らの旗下へと加えてこその王か」
それでも終わらないからこそ、オブリビオン・フォーミュラ。
一発の弾丸が心臓に刺されど、それは深手のひとつでしかないと笑う姿に。
「その有様こそ、何も支配し、共にあれない……強欲で、孤独なる姿だというのです」
心春の放つ更なる銃弾が、鉛の驟雨の如く降り注ぐ。
弾丸に絡み付く呪殺の念は、それこそ、UDCという同胞の呪縛をこそ断ち切ろうとするかのように。
終わることのない銃声が、次第に渦巻く邪念を打ち消していく。
UDCの霊と心を通じ合わせるが、心春の素質と魂ならばこそ。
超第六感にて『三の王笏』に操られるメガリスより聞こえる、悲しくも苦しげな声を終わらせるべく。
大成功
🔵🔵🔵
シルヴィア・スティビウム
冒涜的な異なる宇宙の獣。そんなものを従えてまで、あなたは何を求めるの
まあ、海賊が求めるものは、いつだって財宝だものね
その宝石のような邪神も、あなたが欲しがったのかしら
貴方の欲望を示しているかのようね
……もう話で引き延ばすのは限界かしら
輝きに対抗するなら、こちらも輝きで応じるべきなのでしょうけど、少し時間がかかるのよね
シルバーザダーク、輝きや光線に対抗して、自身の周囲に闇の属性攻撃で可能な限り偏光、時間を稼ぎましょう
輝くほど、影や闇は濃くなるの
心を侵す輝き、そんなものは、私のマウレファだけで十分だわ
捨てた方がいいわ、そんなもの
私の欲望? それは、私がこの手で掴むものだわ
貴方の手は借りない
ただひとつの貴石を核とするからこそ。
星の一章ほどの膨大な記録と共に、歩むからこそ。
数多を抱え、何処までも進むその苦難の道を知り、銀の少女は声を漏らす。
「あなたは何を求め、何処へと行こうとするの。カルロス・グリード」
問いかける白き姿は、シルヴィア・スティビウム(鈍色の魔術師・f25715)。憂いの消えることのない、くすんだ銀の眸を僅かに細める。
何処までいっても、強欲なるひとは満たされない。
何を得ようとも、それと同等の次なる渇きを得るのは、まるで海水を飲む遭難者さながら。
「冒涜的な異なる宇宙の獣。そんなものを従えてまで、あなたは何を求めるの」
それでも進むのが人の心というのなら。
ああ、記憶にある。記録にある。そうやって人の争いは終わらなかったのだと、シルヴィアは銀の眸を揺らすのだ。
「さて。我は輝かしき宝と、世界と、そして麗しき姫の為にだ」
「まあ、海賊が求めるものはいつだって財宝だものね」
溢れる無数の邪念が肺へと絡みつきながらも、言葉を続けるシルヴィア。
本当の宝というのならば、大地にある草花とてそうではないのか。
真心と想いがあってこその至宝。
それを踏み躙る限り、決してこの海賊の王は満たされない。
「ならば、お前もまた、我の財宝のひとつとなるがいい。奪ってこその、海賊だ」
シルヴィアの言葉を継ぐカルロスは、美しき邪神の霊を呼び起こす。
放たれる輝きがもたらすのは災厄に他ならず、真っ当な手段で乗り越えられるものではない。
それこそ、邪悪なる神の御技なのだ。
「その宝石のような邪神も、あなたが欲しがったのかしら」
「さて」
闇の裡でこそ銀に見える暗黒のオーラ、シルバーザダークを纏うシルヴィア。けれど、これだけで抵抗するには儚いとさえ言えるだろう。
だとしても。
「まるで、貴方の欲望を示しているかのようね」
手当たり次第に奪い尽くす邪悪なる輝き。
心を蝕む、尽きせぬ欲望の色。
「……もう話で引き延ばすのは限界かしら?」
目を閉じても、瞼を貫くはまさに宝石の輝きだ。
ならばと輝きと光線に対抗し、シルヴィアの周囲に濃密な闇が集う。
光を通さず、周囲へとねじ曲げて外へと誘うは偏光の質。
あくまで時間稼ぎにしかならず、シルヴィアの立つ地面そのものが宝石へと変わり、精神を蝕み、欲望を駆り立てる輝きとなっていく。
それでもシルヴィアに必要なのはただ時間だけ。
銀色の魔術師として、闇の奥から紡ぐは光滅の言霊。
『茫漠の果てより生まれ出でるもの』
周囲が、そして邪神の霊が輝く程、闇は濃くなる。
一方で鬩ぎ合うのが光と闇。光を塗りつぶすのが闇ならば、闇を払うのがまた光なのだから。
けれど、こんな光なんてシルヴィアにはいらない。
心を侵す輝き。そんなものは、奇跡の名残り香たるマウレファだけで十分なのだから。
心の内、魂に食い込むほどに深く存在する輝きなんて。
たったひとつで、過ぎるほど。
『創めであり終わりを齎すもの、輝きであり闇を齎すもの』
ならば、カルロスの身を突き動かす貪欲さは何なのか。
麗しの姫か。それとも、輝かしき財宝か。
世界を手に入れるという制服欲か。
――捨てた方がいいわ、そんなもの。
本当に大事なものはたったひとつ。
最初から、誰しもがその胸に抱えているものだから。
その重さだけで、自らが壊れそうになるのだから。
『来たれ蒼穹を焦がす極光……』
だから教えてあげよう。
身を焦がす、願いの光がもたらす破滅を。
長き詠唱を経て完成した破天の暁光は、島ごと焼き払わんと赫灼たる色を湛えて。
それこそ強欲という罪へと、天より降り注ぐ罰の如く。
「私の欲望?」
破壊しかもたらないそれを放つ寸前。
言葉を揺らすシルヴィア。まるで、カルロスという存在を、周囲が掻き立てる欲というものを、一蹴するかのように。
「それは、私がこの手で掴むものだわ」
貴方の、いいや、誰の手も借りないと破滅の赫灼が放たれる。
撃ち壊すは悉く。一直線にあるもの全てを飲み込む、光による破滅。
当然、それは邪神の霊とカルロスにも向かっていて。
「さようなら。ここであなたの強欲なる旅路の記録が終わる事を、せめてと祈ってあげましょう」
雷火によって焼き尽くされた島が、霊が、邪神が、焦げ付く匂いを立ちこめさせて。
それこそ戦とはこのようなものを示すのだと、極光の天罰が大地へと爪痕を残している。
或いは、それは宇宙を流れた星が、大地へと衝突したかのよう。
シルヴィアの闇の中でこそ銀の色彩を持つ心が知る、終わりの光景を再現したかのように。
そう、欲にかられて人殺しの繰り広げられた大地はこうなるのだと。
「捨ててしまった方がいいの」
微かに憂いの色を帯びさせて。
銀の眸をうっすらと伏せるシルヴィアの声は、瞬間の静寂へと溶けていく。
大成功
🔵🔵🔵
鞍馬・景正
島すべてが敵、と。
四面楚歌にも等しき死地ですが――仔細なし。
安全な戦場などあり得ぬのですから。
◆
まず襟巻で目隠し。
邪神を視認し心狂わされぬよう。
代わりに【第六感】を澄まし、邪神の気配と動きを探りましょう。
敵意を感じた瞬間、その方向へ【怪力】を乗せた斬撃の【衝撃波】を。
同時に跳躍し、斬風の反動に乗って離脱。
逃げた先にも邪神がいれば返す刃の【2回攻撃】で突破を。
間合いを稼いでから弓を取り反撃に。
【鵺落】で一射目は邪神と違う魔の気配をカルロスと判断し放ち、
その結果問わず、二射目こそ必中且つ神秘殺しの矢を。
彼の力と邪神の制御を奪い、その隙に矢の飛んだ先へ接近。
効果が失われるまで、羅刹の刃を馳走致そう。
凛烈なる竜胆の色彩は、この島からは浮いていた。
渦巻く邪気と妖念は尽きせず、蠢く神は全て災厄の招き手。
心を蝕む光こそ祝福だと悪意を滴らせて囀るのは、まさに欲に塗れた地獄絵図。
息苦しいと感じるのは鞍馬・景正(言ヲ成ス・f02972)の錯覚などではない。
このような空気、決して相容れないと胸の奥、脈打つ清冽なる志が断じているのだ。
「島すべてが敵、と」
つまりはそういう事。
何一つ、鞍馬の味方をするモノはなく。
鞍馬の想いを、正道を往くものを導く者はいない。
「四面楚歌にも等しき死地ですが――仔細なし」
だが、死線であるからこそ正剣はその姿を顕すのだ。
邪なる剣を前に、怯み、臆すなど断じてありえない。
むしろ、その真逆。己の道と、振るう正剣は此れだと死線の最中で振るうが鞍馬の武威と誇りなのだ。
誠実なるその姿と心の在りようは、まさに光風霽月。
剣の鋭さを知るが故に、迷いや揺らぎ、不信などありはしない。
「安全な戦場などあり得ぬのですから」
故にさらりと言葉を流し、襟巻きで己が目を隠す。
立ち上がった巨大なる邪神。その姿を見れば精神が侵されるが故に。
驚異と思うと同時に、決してそれを軽んじたりなどはしない。己に出来る事を何処までも突き詰めるが鞍馬という烈士なればこそ。
「目隠しのままで戦場を渡るとは。よほどの豪胆か、それとも、自負があるのか」
その姿を喝采するようなカルロスの声。
だが、それは鞍馬からすればなんとも軽い。
「敵手たるを重んじ、そして、今まで歩んだ自らの武の道を信じるだけのこと」
視野の変わり、広げて周囲を捉えるのは第六感。
否応なく肌に粘り着き、突き刺さる邪神とカルロスの気を捉えるは容易。
もっとも、それだけ強烈な相手だという事だが。
「敵と己、それを同等に信じるという事が、如何にして難しき事と言えまましょうか?」
それは精神の在り方。武芸者の心得のひとつ。
故に鞍馬の心は明鏡止水。揺れることなく、くすむことなく、竜胆の色を携え巨体を誇る邪神の前へと躍り出る。
抜き放つは濤景一文字。風雅なれど冷艶なる拵えの清美さは、邪神を討つに相応しく。
羅刹の怪力を持って振るわれる一閃は、如何なる神霊とて斬り裂く荒波の如き斬閃を紡ぐ。
信念宿りし一刀にて断てぬ者なしと。
邪神の巨体、その芯さえも斬り伏せて、流れる鞍馬の足取り。
耳飾りとして結われた玉飾りが、ちりんっ、と玲瓏なる音を立てて、その心を清め、心眼を研ぎ澄ますからこそ。
「まずは、一太刀」
目隠しあれど、鞍馬の切っ先より逃れられるものはなし。
むしろ表裏兼用の白黒の首巻きは剣風に靡き、糾えるが如く凶災を払うのだから。
――されど、正剣に魂を懸けし烈士なればこそ。
一太刀で喜ぶ事などなく。
自らが巻き起こした斬風の反動に乗り、大きく跳躍して離脱する鞍馬。
寸前までいた場所に突き刺さる邪神の巨大なる拳だ。
見えずとも、風を押しつぶすその轟音を見逃さず、避けた先に在る邪神の逆足へと放つは流麗なる剣閃。
剣の息吹に乗るかのように次々と放たれる斬撃は、幾重にも渦巻く嵐の如く。その最中にある邪神が如何に巨躯を誇れど、冴え冴えとした白刃がその身と邪気を斬り伏せる。
それら竜胆の眸に映す事なく。
されど、悉くを捉えて前へと進む鞍馬の動きは止まる事もない。
「そして真の敵。将たるは貴殿だ、カルロス。王を名乗るならば、逃げはしまい」
立ちはだかった邪神を斬り伏せ、間合いを取るや否や、鞍馬が持ち変えるは五人張りの剛弓。
きりりっ、と引き絞られる弦は氷が罅割れるような冷たく、美しく、厳かなるもの。
されど、鏃で狙われてなお、笑うがカルロス。
「素晴らしい剣と弓。我の財宝に加えたいものだ」
「貴殿は振るいし想いが、武具の真を定めると知らぬよう。そのような者に扱われれば、刃は嘆いて友を斬り、弓を自ずとその弦を千切らせよう」
戦を往きし武人の姿、示さんとばかりに放たれるは剛矢による一射。
かつては宮廷を騒がせし妖魔をも射殺さんと、銘づけられたその技は。
「――怪異、神秘の殺し業とはいかなるものか、お目に掛ける」
鞍馬の放つ一の射は、カルロスが周囲に侍らせる触手ごとその身を射貫く剛の鏃。ただ射貫くではなく、肉を弾けて骨まで響かせる。
のみならず、瞬く間もなく番えられる二の射に宿される必中の加護は八幡神の恩寵の如く。
一射専心、されど、続く二矢は言葉通りに神秘殺しの鏃を携えるのだ。
響き渡るは、真冬の凄風に似た冷たき音。
そして飛来するは、神秘と怪異が持つ闇をこそ射貫く鏃なのだ。
「何……?」
二矢を受けたカルロスが支配していた邪神、触手たちの動きが止まる。いいや、カルロスの支配の力こそが射殺され、操るメガリスの権能も剥ぎ取られている。
「瞠目して如何した。如何なる戦場も、自らの力で突き進むが、王の器」
双射の直後、肉薄するや否や剣閃を荒波の如く連続して繰り出す鞍馬。
カルロスの異能と邪神の制御を奪い、出来た隙にと自らが羅刹の刃にて切り込む姿は果敢にして清雅。
最早不要。効力の切れるまでが勝負と目隠しを取り、鞍馬の全霊を賭して振るわれる剛剣の乱舞。
肉を斬り払い、骨を斬り砕き、なお止まらぬとなお空気を斬り裂いて奔るは刀身が吼えるが如く。
瞬く白刃、邪気と鮮血の滴を、周囲へと舞い散らせながら。
今や竜胆の眸はカルロスという将を、王の貌と命を捉え、切っ先を瞬かせるのみ。
「如何か、羅刹の刃。その強欲なる魂、尽きるまで馳走致そう」
「悪くない。成る程、命と人生が成した至高の芸、魂の紡いだ至宝と断じよう」
幾重にも自らを斬り裂く刃に晒されながら、鞍馬の剣術を賞賛するカルロス。余裕がある訳ではなく、鞍馬が感じる相応の手応え。
深手は幾つも与え、けれど、なおこれが止まらないのは人型をしながら、別の存在だという証明。
肉体の負傷、眼球や肺、心臓を初めと臓器など形だけあるに過ぎない。
「ならば、その魂ごと」
圧し斬らせて貰うと振るう刃が、カルロスの芯を断つ。
滑る羅刹の正剣、真っ向より挑みて喰らい付くが故に、カルロスはそこから逃げる事は出来ず。
夥しい血液を散らして、欲に塗れた瞳を揺らすから。
「一刀の下に絶たせて頂きましょう」
その眼窩めがけて振るわれた刃が頭蓋骨ともども、カルロスの強欲に燃える瞳を両断する。
邪神を操る術が戻れば、これもまた再生の力を振るいて戻れども。
確かに刃が捉え、削り、斬り裂いた魂と存在の手応えは確か。
鞍馬が翻す波涛一文字。裂帛の勢いで奔る白刃は邪気を孕む血で汚れる事はなく。
天魔の如き漢を斬り伏せるまで、迅なるは斬風を嵐と伴い、真っ向より白き月弧を描く剣閃を繰り出し続ける。
四方、島の全てが敵というのならば。
その悉くを操るこのカルロスの魂、斬滅するまでと。
鞍馬の放つ剣気のみが、この島に清らかなる風を吹かせ、漂わせる。
それは剣神の息吹か。
邪悪なる存在の、薄らぎなのか。
――判らぬならば、ただ、判るまで切り結ぶのみ。
剣にて問い、武にて応える。
それが竜胆が武者の姿なればこそ。
戦が終わるその刹那まで、振るわれる羅刹の刃が吼える。
大成功
🔵🔵🔵
ロバート・ブレイズ
卵が先か鶏が先か
貴様等、私を如何様に『証明』すると言うのか
正気だと呼ばれれば返事をしよう。狂気だと蔑まれれば冒涜で返そう。嗚呼――私・俺は今現在、耐えているに違いない
狂気耐性で『自我』を維持し、奴の隅々までを『情報収集』して魅せよう。ヴェールを剥ぎ取る行為だ、最も、我々(unknown)は蠕動(どう)じぬがな
冒涜王――この精神(からだ)こそが無意識の領域、変幻自在(ナイアルラトホテップ)の国と知れ。貴様の魂を掻っ攫い、虚空の皮まで連れていこう
巨体の隙をついて『カルロス』を鉄塊剣で撲り潰す
必要であれば正気固定機を使用。成程、私の脳髄は蛆まみれで、貴様はそれに気付けなかったのだ――クカカッ!
神秘と秘密は、それこそ神聖なるもの。
暴かれぬが故に、侵されぬ聖域としてそこにある。
だが、此処にある魂は冒涜そのもの。
最も強烈な感情とは恐怖で有り、恐怖の中で最も強烈なものは未知である。
ならばこそ、彼、ロバート・ブレイズ(冒涜翁・f00135)を前にした時、それを定義せねばならないとひとは脅迫じみた思いが駆け巡る。
未知ではなく、既知として存在を固定せねばならないと、本能と魂を冷たく、冒涜的な指先でなぞるから。
「卵が先か鶏が先か。貴様等、私ほ如何様に『証明』すると言うのか」
ロバートの瞳の裡にあるのは混沌そのもの。
如何様にも定義づけられるからこそ、どのように扱い、証明すれば良いのか判らない。
それこそ、証明が為の立証ほど難しいものはないのだから。
真実があったとしても、証明がなければ、それはまた混沌の海に戻るのだから。
「嗚呼――私・俺は今現在、耐えているに違いない」
正気だと呼ばれれば返事をしよう。
狂気だと蔑まれれば、冒涜で返そう。
故に、沈黙と停滞たる今、この瞬間こそが、ロバートの内面を蠢かせるのだ。さらがら沸騰するように、粘つきながら、狂気とさえ言えない何かを泡立たせて。
カルロスが顎に手をあて、負傷した身体を邪神の肉片で補い、癒えていく時間を与えながらも。
「面白い。ああ、確かに、我の趣味の通りだ。ひれ伏し、服従するならば兵としてくれよう。先の知らぬ世界への、混沌たる先兵としてくれよう」
出したカルロスの応えを、ロバートはまず聞かねばならない。
「もしも敵対するならば、混沌渦巻かせる指輪として、宝物庫にいれてやろう」
だが、それに応じる気はないロバート。
敵意――というには僅かにズレたモノを感じ取り、カルロスが立ち上がらせるは見るモノの正気を奪う漆黒の巨人型邪神。
「何故」
それを直視しながら、心と精神に走り込む狂気に耐えて。
嘆くように、怒るように、悲しんで、憎むように。
つまりは全ての感情を均一の量と入れ込み、欠片も残らぬまで攪拌したモノを瞳に乗せて、ロバートは呟くのだ。
「わざわざ、ヒトの形を取る?」
混沌は不定形。わざわざ明確な形を取るのは、ああ、確かに、他者を浸食するが為に他ならない。
定義づけ、立証し、証明するが故に訪れる狂気。
だが、それはお互い様だ。深淵を覗くとき、深淵もまた等しく見返すように、ロバートは『自我』を維持ながら、敵意を向けた存在の隅々まで『情報収集』して魅せる。
神秘と不思議のヴェールを剥ぎ取り、邪神という冠を混沌の海へと堕とすべく。
相手も同様に侵すとはいえ、我々(unknown)は蠕動(どう)じぬがな為に。
――覗き返す深淵が、動じる事があるだろうか?
「さあ」
知れよ、溶けよ、この精神(からだ)こそが無意識の領域。
触れてはならぬ変幻自在の王国と知れと、魂だけを取り込む普遍的無意識の領域へと自らの身体を変じさせるロバート。
いいや、これをロバートという名で括ってよいのか?
混沌に名付けるという禁忌を侵して、さらなる混沌を呼び寄せてよいのか?
「ほう」
が、己が魂は己がものと歩むカルロスがロバートの前へと歩み寄り、しげしげと、奇妙な宝を見るような目でその姿を見て。
「呪われた財宝も、また面白い」
「クカカッ――私の脳髄は蛆まみれで、貴様はそれに気付けなかったか」
互いの精神と領域を浸食するふたり。
いいや、一柱と、貪欲なる王。
共に無意識の海底に至るモノなれば。
カルロスの掌がロバートの身体へと突き刺されば心臓、らしきものをえぐり出し。
炎の如き地獄を噴出させる鉄塊剣が、カルロスの脳髄を叩き斬る。
互いの傷口から湧き出すのは、狂気のウジ虫。
「いや、いや。それは互いにか――クカカッ!」
「少なくとも、そのようなユメを見ている。という事だろう。我らは共に」
故に、掻き消える姿。
いいや、一幕の光景。幻影であり、互いの精神を侵食しあったもの。
共に精神を疲弊させ、冷や汗滲ませるは、先ほどの攻防が精神領域の攻防だった事に他ならない。
事実、肉体への負傷は一切なく。
だが哄笑するロバートが、一体、何を見て得たのか。
それは決して解らない。カルロスもまた、薄ら笑うばかり。
全ては狂った、無秩序なる混沌の夢の如し。
悪夢と定義づけるにも生温く、それは更なる災いを呼ぶ手に他ならない。
大成功
🔵🔵🔵
トリテレイア・ゼロナイン
機械馬に●騎乗し触手蠢く邪神山脈疾走
センサーでの●情報収集で捉えるのは地形の隆起に触手の発生
●瞬間思考力で適切な足の踏み場を見切り●踏みつけ跳ね、時にスラスター●推力移動で飛んで駆け抜け
果てで待つ…王の現身が一つに至宝の兵器と称されまして
不服なれど、互い滅ぼす戦場のみならば、騎士と兵器はほぼ同義
この世界の安寧の為、終の王杓へ至る為…
三の王笏、騎士として折らせて頂きます
生える触手を馬上槍で叩き伏せ、格納銃器も撃ち放ち
●操縦するワイヤーアンカーで掴み四方へ投擲するは物資収納Sの手投げ弾
騎馬の脚が折れれば乗り捨て、剣盾で切り裂き打ち据え向かうは王へ
今の今まで充填していたUC解放
一刀の元に凪払い
渦巻く邪気を斬り裂くように、突き進むは戦機の白騎士。
肉の身体ではないから。
心はなく、電子回路だから。
そのような常識さえねじ伏せる混沌と狂気こそが、この島、この邪神山脈。
だからこそ止まりはしないのが、御伽の騎士たらんとするトリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)の気高き姿。
跨がる機械白馬「ロシナンテⅡ」は出力の限界まで振り絞られ、一気に、そして果敢に疾走し続ける。
「ほう、機械の騎兵か。ひとつ、試させて貰おう」
それを見つけたカルロスが先制として、牙の生えた触手群を繰り出すのは自らの力の格を見つけるように。
我は王であり、近づくならば、お前も確かなる格を示せと。
トリテレイアの周囲一帯が牙を持つ触手の群れへと変わり、暴虐と狂気をもってその装甲を粉砕しようと脈動する。
「ですが、押し潰すだけの技とは力のみ、単調で読めるもの。試しとしても、甘く見過ぎですよ、傲慢にして強欲なる王よ」
トリテレイアがセンサーで捉えるのは地形の変化と隆起。
それに伴う触手の発生を先んじて予測し、瞬間思考で適切なる次の足の踏み場を見つければ、愛馬にして機械馬のロシナンテに伝えて、次なる跳躍へと続けていく。
一度高く飛べば、スラスターの推力で空を翔け抜ける白き騎士の姿。
纏わり付く邪念など意に介さぬと、翠玉のようなセンサーアイが、まるで座すように待つカルロスの姿を捉える。
「果てで待つ……王の現身が一つに至宝の兵器と称されまして」
苦い声色は、それを誇りなどと思っていない証拠。
むしろ払拭したい呪いであり、苦悩を増やす心に刺さった棘なのだと。
故にこそ、違う分身体であれど、目の前のカルロスを討つべく、全力を以て突き進むトリテレイア。
後退、撤退など思考にないのは、勝利という輝きを知っているから。
恐怖を知らず、喪失を理解せぬ機械人形とは違うのだと、馬上槍を真っ直ぐに構えて。
「不服なれど、互いを滅ぼす戦場のみらば、騎士と兵器はほぼ同義」
ほぼであって、それは完全ではない。
違いを見せつけた上で、討ち滅ぼし、勝利で以て示すのだ。
それをもって、呪いの如き『至宝』の言葉を拭い去るのだと、トリテレイアの戦意が燃える。
「この世界の安寧の為、終の王笏へ至る為……」
故に一気に駆け抜け、飛翔し、僅かに残った足場へと着地すれば、更に跳ねて飛ぶ機械上の上で宣言する。
「狂気を呼ぶ『三の王笏』、騎士として折らせて頂きます」
逆に黙していたカルロス。
その瞳は何処か濁っており、他の猟兵に受けた負傷も、僅かな交戦の合間に、邪神の肉片を傷口に埋め込んで強引に癒やしている。
それでも負傷は確か。いうまでもなく、積み重なったものが、肉体ではなく精神や生命力、魂へと刻まれている。
「ならば来るがいい、『至宝の兵器』。何、殺戮に翔るのがいやなのだろう。誰かの為に戦いたいと、ようはそういう事なのだろう」
カルロスから一歩踏み込むのは、分身体が褒め称えた『至宝』を覗き込むかのようで。
けれど、これとあれは違うのだと、決定的な差を告げるのだ。
「所詮、殺すしか能がない。騎士と兵器の差はそこだ。いいや、騎士とて殺すしか出来ぬのが現実……空想に逃げず、現実の戦場を生きてみせろ」
「例え空想と笑われようと」
まず先制の一撃は凌げたのだと、身体の格納スペースから柄のみの剣を取り出すトリテレイア。
そのまま胴体のケーブルに繋ぎ、エネルギーの充填を始める。
会話もまたその隙を作る為の詐術で、騙しなのか。
結局は誇りと理想を掲げようとも、戦機の身でしかないのかと、自虐が過ぎるものの。
「現実に何を成すか。騎士の身とはそれでしょう。戦乱の海に、平穏の御伽を広げたとすれば」
「それは空想の夢語りを、後に続く子たちの指標と憧れとするか。よい、確かに、『至宝』だ」
故にと、指を鳴らすカルロス。
「ひとつ訂正しよう。貴様の抱く、その騎士道を含めて『至宝』なのだと。手にした者は幸いなのだと、我は思う」
「…………」
「最も、誰も手にできぬ呪いでも孕んでこその『至宝』だろうが」
それは創造主殺しという――主君殺しの性と宿命の事、なのか。
一瞬の迷いを振り切るように、再び機械馬を駆けさせるトリテレイア。白く煌めく疾風と化して、或いは、鋼鉄の流星のように真っ直ぐに駆け抜ける。
「最後は正面よりの一騎討ち。カルロス、王たる貴方が隠れもせぬというのならば、こちらも是非にもなし」
「ああ、我に全力の輝きを見せてみよ。それをねじ伏せ、手に入れてこその王」
傲慢なる宣言と共に、地面の一帯が牙持つ触手の群れへと変わる。
さながら、それは串刺しの森。
新たな贄と血を求めて、邪なる神の一部がトリテレイアへと殺到する。「ええ、全力で」
理想と現実の間で、揺れながらも。
迫る触手へと、勢いを乗せた馬上槍で薙ぎ払うように叩き伏せ、格納銃器も鉄火の雨として乱れ撃つ。
轟音と共に触手から噴き上がる血潮を純白の装甲で受けながら、更にワイヤーアンカーで四方へと投擲するは物資収納の裡に入れた手投げ弾。
「私が持つ、戦機としての、全てで。三の王笏は砕き、終の場所まで」
炸裂する爆炎と衝撃は、邪気さえ払うかのように。
止まる事のない銃弾は即座に白煙を吹き出し、触手の噴き出した体液で濡れる鋼の身体は、メタリックの光沢を失いながらも。
なお前へ。
更に前へと。
敵の座すその場所まで駆けよと、愛馬を走らせど。
「ならば、まずはその足だ」
足たる騎馬をと真下から迫った触手の牙が貫き、射貫いて止める。
装甲で補強されていたとしても、貪欲なる邪神の牙の前では無意味だと告げるかのように。
「ですが、私は未だに健在」
乗り捨てる勢いをもって、更に前へと跳躍するトリテレイア。
超重の戦機の重量で大地が割れ、踏み潰された触手が弾けるが、だから何だという。雑兵を幾ら屠れど、王が健在ならば決着は付かない。
剣と盾を展開し、更に踏み込んで迫る触手を斬り捨て、大盾で打ち据え、残るは僅か数歩。
「けれど」
「そこが、キリングゾーン。騎士よ、戦の申し子よ。見事、踏破してみせよ――殺すだけが能ではないと、剣の光で示すように」
言葉の通り、トリテイレアが踏み込むのを待っていたかのように四方八方、そして真上からも迫る触手と牙。
戦機の白を貪りて噛み砕くのが邪神の黒だと、唸るかのように。
掲げた盾は、五つ以上と連続した触手の牙に罅を刻まれ、更に十の触手を受け止めた所で砕け散る。
尋常ならざる戦機の怪力をもって剣で道を斬り拓くが、八つの触手を同時に斬り裂くには至らすが、上腕部ごと無数の牙で砕かれて後方へ。
それでも前へと進み、戦えるが戦機と知るからこそ、脚部を半ばまで粉砕する触手の薙ぎ払い。
「例え、この身が砕けても」
だが、脚を失えど何だと、スラスターを噴かせて進む先。
武器と片腕、片足を失い、更に気づけば格納銃器も砕けていても。
ほぼ全ての武器を失い、満身創痍の身だとしても、トリテレイアの瞳は諦める事を知らない。
「そこで止まれば、私の身には魂などないのだと、誇りなどただの記録とデータになってしまうのですから!」
脈動する事のないこの胸に、それでもと宿るものは確かにあるのだと。
盾を投げ捨て、今まで充填を続けていた剣の柄を握るトリテレイア。
一直線上に伸びるのは、白い粒子から生成された灼熱の刀身。
フォースナイトの素質はなくとも使用出来る変わり、出力に応じた充填時間が求められるもの。
そのエネルギーの確保の為に動きは鈍り、予測は荒れて、トリテレイアをしてこれまでの被害を許したのだから。
けれど悔いはない。
現実を見据えて勝利を求む冷徹さと、理想追い求める苛烈さは共にある。
身を犠牲にして、勝利を確信したが為にカルロスが隙を晒したというのならば。
この瞬間、白熱刃の一刀の元に邪なる者を薙ぎ払おう。
瞬いて放たれるは黎明の光のように白く輝く戦機の光剣。
「これは蛮勇でも、ましてや無謀でもありません。――願いし先へと、希望を携えて突き進む事こそ、理想の証」
故に、大気中の塵さえ焼き尽くしながら振るわれる一閃は静謐。
音さえも、その高熱の刃の元に焼き払っているのだから。
渦巻く邪気さえ、その白き粒子の元では掻き消えて。
「王よ。理想を希い、平和を望む。それが、私という御伽の騎士を目指す者なのです」
この想いと願いを、あらやる闇、どんな鋼をも斬り裂く光の刃として携えて、トリテレイアは進むのだ。
ぐらりと揺らぐカルロスの身に、甚大なる傷を刻んだのだと、確かに感じさせる。
カルロスの喉から言葉が漏れないのは、それほどに深い負傷を与えたという事で。
互いの距離を取るかのように、縦横無尽に、無差別にと土砂を巻き上げて走らせた触手の群れが互いを後方へと弾き飛ばす。
少なくとも。
強欲なる王、カルロスを以てしても、トリテレイアという者は掴めず、支配出来ない。
いいや、誰かの魂を奪う事など、誰にも出来はしないのだから。
光の刃と共に、トリテレイアの希望は輝き続けている。
携えるその身をも焼く、灼熱の理想と共に。
大成功
🔵🔵🔵
鈴桜・雪風
フォーミュラの本拠ともなれば、人智を超えた魔界になるのも当然ですか
しかしながら、それで怯んでいるようでは探偵も猟兵も務まりません
わたくしもわたくしの務めを果たすとしましょう
「狙うは王笏の首級ただひとつ……。鈴桜雪風、参ります」
敵の先手は狂気を招く邪神の召喚
ですがわたくし、帝都で陰惨な狂気には慣れ親しんでおりますので
眺め続ければ危ないでしょうが、ひと目見る程度は耐えられます
召喚に合わせ傘を目深に下げ、なるべく直視しないようにしながらカルロスと距離を詰めます
そして【その導きは幻灯のように】で邪神の狂気に負けないよう己の心を鼓舞し
傘から刀を抜いて、傘を投げ捨てると同時に一気に切りかかりましょう
からん、と響くは下駄の音色。
軽やかに、美しく。
眩い闇の奥底まで、回遊するかのように。
からんっ、と続く足音は、静かに規則正しい旋律で紡がれる。
決して、島に漂う邪気になど、囚われぬ足音だからこそ。
「なんとも、また」
優美な桜柄の和傘をゆるりと斜めに傾げて。
湖畔のような美しい色を湛える眸で、邪神山脈となったこの島を眺めるのは鈴桜・雪風(回遊幻灯・f25900)だ。
僅かに目を細めるのはこの島の有様だ。
這い回る邪神たち。闇よりなお昏き気配と、冷たき恐怖を揺らす景色。
「フォーミュラの本拠ともなれば、人智を越えた魔界となるのも当然ですか」
或いは狂気が渦巻く、人が棲まう事の叶わぬ魔境。
事実、動き回る巨大な邪神たちの悉くを討つなど、叶わぬ事なのだ。
けれど。
からん、かろん、と軽やかな下駄を鳴らして歩む鈴桜の歩みは止まらない。
見た目は麗しく、たおやかで物静かな令嬢であれども。
自らが成すべきことを、鈴桜は忘れたりなどしないのだから。
「さあ、あなたがカルロス。王笏たる首領ですね」
「如何にも」
数多の傷を負いながら、それでも佇むはカルロスの姿はまさに王。
恐れる事も、躊躇う事もありはしない。
ただ傲然と、傲慢と、支配するモノで全てをねじ伏せるモノ。
「ただ大分弱っていらっしゃるご様子。ふふ、私、猟兵でとあると同時に探偵でもありまして。察するに」
白魚のような鈴桜の指がゆるりて流れて。
ちりんっ、と金と銀の鈴が静かな音色を奏でる。
「心臓、脳。そのような重要な器官は複数あり、一度、斬られて穿たれても、その身に邪神の肉片をいれて補っているご様子」
ただそれも無尽蔵ではあるまい。
自分の身体の代替となるような性質がある邪神など限られており、ただでさえ戦闘が進むに連れて討伐されていく邪神たち。
その証とばかりに、開戦当初より島は小さく、海岸が近くへと来ている。
「そして、その身体は幾ら換えがきても、心と生命、魂までは補えませんでしょう」
鈴桜はくすりと微笑む口元を、優美な着物の袖で隠して。
目配せをひとつ。
どうでしょう。
当たっているか、外れているか。
黙って隠すなんて、ひどいお人と視線で訴えかける。
「その通り。この島、そのものが私のようなものだ」
「ならば、私達は確実にあなたを削っている。あなたの誠なる喉元へと、刃を突き立てよう近づいているのだと」
「無論。が、それがどれ程に遠いかは、その身で確かめてくれたまえ。如何に美しき令嬢といえど、この命という宝を渡す訳にはいかない」
優雅な言動で謎を暴いてみせた鈴桜。
だが、それは文字通り、この島ごとを相手にしているという事実に他ならない。
巨大に過ぎる規模と質力。
振るわれる力の深度。
確かに邪神を操るは、フォーミュラの姿のひとつとも言える。
「しかしながら、それで怯んでいるようでは探偵も猟兵も務まりません」
故にするりと。
下駄の音さえ静かに掻き消して、闇の裡を回遊する鈴桜。
一歩、一歩。
その間合いを計らせぬと、歩く様は一流という枠を越えた剣士にして、優雅で謎めいた令嬢のように。
ただ、今は果たすべきひとつの務めを胸に抱いて。
「狙うは王笏の首級ただひとつ……。鈴桜雪風、参ります」
それこそ、桜が舞い散るように音もなく。
するり、ゆらりと、カルロスへと歩み寄る。
先手として放たれた漆黒の邪神が立ち上がるが、ひと目見るや否や、傘を目深に下げて傾け、直視せぬようにと進み出る。
決して、自分の道と歩む先を奪わせない。
その先は、心の赴く先は、鈴桜が決めるものなのだから。
「……っ」
心を侵す邪神の気配に、爪を立てて堪える鈴桜。
たったひと目でこれ程の効力。だが、帝都での陰惨な狂気には慣れ親しんでいるのだ。
過去は変わらない。覆らない。
だからこそ、積み重ねた今までが、鈴桜の歩みを支える。
するりと迫れば、ほら、カルロスの姿はもうすぐそこ。
ならばと振り絞る導きは、幻灯のように。慰めで、優しさで、鼓舞で己の心が邪神の狂気に屈しないように。
「桜は散れど、その刹那を飾るもの。花は咲き誇る時と散る瞬間を、己が決めるものです」
「花は花なれ、人は人なれ、か。ならば、見事辿り着いてみせよ。さすはれば、一撃、防ぎも避けもしない」
「誓いますか?」
「その美しき声にかけて」
ならば否応なし。強まる邪神の狂気、その脈動に抗いながら。
眩いのではなく、粘り着く闇をゆるりと。
渦巻く邪念を、さらりと袖にするかのように。
『弱り、傷ついた魂でも、誰かが癒やし、導けば』
口ずさむは、祈りの歌。
優しさで邪気を祓い、何処にも辿り着けぬ妄念を慰めて。
それでもと燻る闇は、さあ、この先に。
決してこの心は、思いは、何者のも侵させはしない。
秘めるが花、美しさならばこそ。
鈴桜という綺麗な謎は、誰にも触れるべきではないのだから。
穏やかに、淡々と。自らの成すべき事を果たして、掻き消える幻灯の如く。
『輝きを取り戻る。そう信じましょう』
するり、ゆらりと。
桜色の影のように、揺らめく鈴桜の姿が、ついに。
――からんっ、とカルロスの隣で下駄を鳴らす。
「さあ、約束を果たして頂きましょう」
投げられるは、仕込み刀を抜きし和傘。
空を舞う優雅な桜の色彩が、強欲なるカルロスの視線を奪い。
刹那に空へと流れ、響くは玲瓏たる刃の音色。
神速を以て放たれたその軌跡を伺う事は出来ず、けれど、確かにカルロスの喉を斬り裂いて。
「一撃、との約束でしたが――私はそれ以上を、最善なるを望みますので」
言葉が流れた瞬間、カルロスの身に幾重もの斬閃が刻まれる。
何時、どのような切っ先が瞬いたのか。
誰も知らず、見えぬ謎めいて。
ただただ、美しい音色を奏でて、強欲なる王の身を斬り刻む鈴桜の秘めたる剣。
「さて、次は如何致しましょう」
噴き上がる鮮血のひとしずく、浴びる事なく身を翻して距離を取る鈴桜。
優美に、静謐に。
幽玄なる美を刃と桜のいろに乗せながら。
「その身に集う闇と謎を、刃で暴いて散らせましょうか。それとも、その首を椿が如く落とすのか……さあ、続きを、余韻の褪めきらぬ裡に」
からんっ、と。
邪神の制御を失ったカルロスへと、鈴桜の剣閃が瞬いて走る。
さながら、それは闇夜に浮かんだ月のように。
朧げながらも、確かなにこの場に光を零す。
大成功
🔵🔵🔵
フェルト・ユメノアール
邪神山脈……いくらオブリビオン・フォーミュラとは言っても島一つを操るなんて無茶苦茶だね
でも、負ける訳にはいかない
この世界を守る為にもこの戦い、絶対に勝って戻るよ!
戦闘開始と同時に『トリックスターを複数投擲』
敵の先制攻撃を少しでも逸らし、さらに『ワンダースモーク』を使用
光線を遮りダメージを軽減する
そして煙に紛れてカルロスへ接近、奇襲をかけるよ!
相手は格上、なら肉を切らせて骨を断つ!
現れろ!【SPウィングウィッチ】!
煙で視界を遮ったのは攻撃を避ける為だけじゃない
ウィングウィッチ召喚の動作を気づかせない為でもあったのさ
ボク自身を囮に敵の注意を引き付け、その隙をついて背後からウィングウィッチで攻撃する
手のひらをくるりと回せば。
現れて、また消えるは奇術のカード。
何のタネも仕掛けも御座いません、との言葉通りに、くるくると回る一枚を玩びながら。
緑色の瞳で戦場を見渡すのはフェルト・ユメノアール(夢と笑顔の道化師・f04735)だ。
「邪神山脈……いやいや、幾らオブリビオン・フォーミュラと言っても、島ひとつを操るなんて滅茶苦茶だね」
それこそ、メガリスというタネがあったとしても。
操作して支配する規模は底知れない。
貪欲なる海の王に相応しい力ともいえるそれを前に、カラフルな色彩を衣装へと纏うフェルトは身をくるりと翻す。
それでも、だからと臆すも、怯む訳にはいかないのだ。
目指すのは一流のエンターテイナー。
元気と笑顔が取り柄の道化師少女は聳え立つ絶望と狂気を前にしても、演出と明るさを忘れない。
「でも、負ける訳にはいかない」
ひらりと取り出すのは、これこそ真実の魔法のカード。
そして、もう片手には曲芸に用いられる派手な装飾の施されたダガー。
「この世界を守る為にもこの戦い、絶対に勝って戻るよ!」
決意を表して突き進めば、見える影こそカルロス・グリード。
感じる狂気、貪欲な妄念は鳥肌が立つ程。
これがオブリビオン・フォーミュラであり、邪神山脈を、この島そのもの操るもの。
決して相容れない存在。
故に開幕は素早く、何の合図も必要とはしない。
誰かを笑顔にする為にいるフェルトと。
数多の世界の全てを奪い尽くす為にいる、カルロス。
本能が、魂が天敵であると告げ、即座にフェルトの手で周囲へと投擲される無数の短剣、トリックスター。
何かに狙う必要もなく、召喚された美しき邪神の霊体へと突き刺さる刃。だが、それだけは止まらないと放たれる災いの光線。
美しくとも、それは触れれば宝石へと変じさせる呪いに他ならない。重ねてワンダースモークを地面へと叩き付け、カラフルな煙を周囲へと張り巡らせる。
完全には防げず、左腕と脇腹が宝石へと化しているが、フェルトは意に介さず突き進む。
実力差は承知の上。
動ける負傷ならまだマシであり、痛みがないのだから意識もクリアに。
相手は格上、ならば肉を切らせて骨を断つと、フェルトは煙に紛れてカルロスへと接近し、奇襲を繰り出す。
先に短剣であるトリックスターの投擲を見せたが為に、カルロスの注意は迫るであろう攻撃へと向いているのだから。
『現れろ! 漆黒の魔女、SPウィングウィッチ!』
煙幕に隠れて発動させたのは召喚術。
隠密魔法にて影の中を自在に移動させる魔女は、音も無くカルロスの背へと回り込み。
トリックスターを構え、躍り出るはフェルト自身。
動きを読まれ、周囲に漂わせる触手をもって迎撃するが、フェルトの笑顔は崩せない。
魔女はカルロスの影の中へと潜り込み、フェルトを攻撃した直後の瞬間の隙にと、刃を滑らせるのだから。
「さあ、タネも仕掛けもない、魔術の始まりだよ!」
その命を奪うべく、秘やかなる切っ先がカルロスの身を貫く。
揺らぐカルロスの姿。そこへと、今度はフェルトが畳み掛けるように短剣を滑らせば、深く斬り裂く二度目の斬撃。
前後を挟み、踊るはピエロと魔女。
刃を瞬かせれば、舞い散る血の赤き色彩。
「さあ、さあ、さあ! オブリビオン・フォーミュラたるカルロス・グリードの窮地、その脱出劇は如何に!?」
自らの身体の一部は宝石と化し、触手で肉を抉られてなお。
フェルトは笑顔とその明るい声でのパフォーマンスを忘れない。
呪いも狂気も払うように。
その道化師は、幸せなる夢に続く舞台を作り上げる。
勝利のその先に。
邪なる者が、尽きた後に。
最後の一幕は、夢と笑顔の喜劇であるべきなのだとフェルトは信じるのだから。
大成功
🔵🔵🔵
鵜飼・章
臥待さんf15753と
邪神島か…殺人事件の舞台になりそうだな
僕鈍いからか邪気が全然わからない
臥待さん何か感じる?えっ…
形になると流石に見えるね
【落ち着き/狂気耐性】で一旦存在を【受け流し】
【早業】で闇くん…友愛数で戦場全体を覆う
闇に染まれば漆黒も只の空気でしょう
物理攻撃の気配は【読心術】で察知
邪神に心はあるのか試そうか
UC【模範解答】
恐怖と優しさの闇で敵を包み
きみたちも僕の一部にしてあげる
まだ見えない?わからない?
そう
本当の恐怖はすぐ傍へ迫っているのに
誰かわからないものに消されるのは恐ろしいだろう
だから闇は晴らしてあげない
【精神攻撃】で臥待さんを補助
僕にも居るか判らない彼女の
銃声だけが聴こえた
臥待・夏報
鵜飼くん(f03255)と
えっ
これがいつもの仕事だったら即引き返して上の判断を仰ぐレベルの邪気だよ
きみの感覚どうなってるの……
こういう場合の対処法は、とにかく直視しないこと
闇くんの目眩しを頼りつつ、『G-anyMED-E』をかじって巨人の気配を黙殺する【呪詛耐性、狂気耐性】
UC【茜のいろはにほへと】
【闇に紛れる】ことが出来るなら、闇くんにだって紛れられる
鵜飼くんが注意を惹いている間、【目立たない】ように静かに移動
……『一部にされてる』のは夏報さんのほうでは?
考えると怖いから止めとくか
何処にでもいる衆愚その1の僕だからこそ
誰かの背後に立つのは得意だよ
カルロス・グリード
きみは頭を撃てば死ぬのかな?
邪神山脈と化した島に降り立つ影がふたつ。
見えずとも伝わる邪なる気配は、空気の中をひしめくように。
満ちて、溢れて、零れたものが今にも形を成しそうな中で。
「邪神島か……殺人事件の舞台になりそうだな」
柔らかな声を響かせるのは鵜飼・章(シュレディンガーの鵺・f03255)だ。
温和な表情を浮かべる貌は、いっそ優しげでさえある。
紫の眸を好奇心で疼かせながら、周囲を眺めるのはある種の作家の持つ、尽きせぬ好奇心じみていて。
これを書きたい。
これを書かねばならない。
正気を蝕む中で、くすりと笑ってみせる。
「僕、鈍いからか邪気が全然わからない」
けれど、悲しいのは鵜飼にそれを感じ取る事ができないということ。
常人なら鳥肌が立ち、一刻も早く此処から抜け出したいと思うだろうに。
「臥待さん何か感じる?」
そう尋ねられた臥待・夏報(終われない夏休み・f15753)は藍色の眸を瞠目して、問い返す。
「えっ」
「えっ」
信じられないと臥待が首を横に振るう。
さらりと流れる灰色の髪さえ、邪気に汚染されて色が黒ずみそうだと覚える程なのだ。
ここは決して、人の活動できる環境ではない。
ひとつの魔境。ならば、鵜飼が何も思わないのも確かなのかもしれないけれど。
「これがいつもの仕事だったら、即引き返して上の判断を仰ぐレベルの邪気だよ」
そうなんだ、と頷く鵜飼に溜息を零す臥待。
これだけではすまないだろうと、鵜飼へと細めた目で視線を投げかければ、やはり。
「だとしたらとても貴重だね。何としてでも、この景色を書かないと。童話作家として、必要なことだ」
「鵜飼くん、きみの感覚どうなっているの……」
そのうち、鵜飼の書いた童話が呪われた魔術書のように、禁書として指定される日が来るかも知れない。
もっとも、そんな未来のことを臥待は知らないし。
くずくずに溶けてしまった生きる理由の名残りの中で、漂うばかり日々なんて、どうでもいいのだと。
小さく、そして、薄く、笑みを浮かべる。
――だって、こんな鵜飼くんの傍で
邪神山脈に降り立つ僕は、まともだと言えるのだろうか――
正しい理性の指標なんて何処にもない。
ましてや邪神たちの這い回る、この島では。
「さて、その面白い寸劇も終わりかな?」
響き渡るは『三の王笏』たるカルロス・グリードのもの。
逃げも隠れもせずに迎え撃つ姿は、激しさはなくとも全力をもって。
一際濃くなる邪気がその意思を伝え、大地から這い上がるのは漆黒の巨人たる邪神だ。
心を蝕み、正気を飲み込む闇そのもの。
「形になると、流石に見えるね」
呟いた鵜飼の声が流石に掠れるのは、その存在の凶悪さ故に。
無言、無音。けれど、精神に直接、吼えたけるが如く流れ込む狂った言葉の奔流。
見たな。見たな。
ならば、果てるまで見続けろと、漆黒の巨躯がふたりを見下ろしていて。
「こういう場合の対処法は、とにかく直視しないこと」
慣れたように言葉にする臥待。
続けるのは、経験から成る邪神への対策。
邪神の幼生を身に宿すからこそ。
こんなものと向き合ってはいけないのだと、臥待は続ける。
「そう、真っ向から相手なんてしない。引きずり込まれないように、僕たちの領域の方へと引き摺り込む」
「了解だよ。ならすぐに隠してしまおう」
その存在と狂気の圧力を受け流しながら、素早く広げるのは、何時からか、此処にあったひとつの図鑑。
ぴらりとページをめくれば、そこから溢れるのは心ある闇。
鵜飼の囁きに応じて、形を変え、夥しい量となって小さな図鑑から流れ出す。
「闇くん……戦場全体を覆うか。闇も祖希は漆黒もただの空気でしょう」
「色が呑まれて溶ければ、確かにそうだね」
戦場を闇くんが覆っていく中、臥待が囓って飲み込むのは幾つかの水色をした錠剤。
UDC由来の幻覚を緩和する、徐々に耐性を生じさせる向精神薬。
綺麗だけれど、さながら、それは未来を囓って、飲み込み、今という瞬間に溶かしていくようで。
だから何だというのだろう。
ひっそりと闇の中で微笑む臥待は、漆黒の巨人の存在を黙殺する。
お前なんて見てあげない。感じてあげない。
なら、闇の中にぽつんと立つのは、ただの大きな影法師。
『見つかりっこ、ないよ』
呟くと同時に、気配が色褪せ、その存在が薄らいで闇に溶ける臥待。
何処にでもいそうで、何処にもいない。
空虚な臥待の存在感と願望を、邪神とカルロスは捉えることができなくなり。
「さて、こっちただよ」
地面へと振り下ろされた巨人の拳を、ひらりと避けてみせる鵜飼。
邪神に心はあるのかと問われれば、明確な答えは出ないだろう。
けれど、正気を侵そうとする意思がある以上、それはひとつの心の動き、ベクトルと言えるから。
鵜飼なら読める。人から浮き離れた精神構造は、誰そ彼その夕闇の中の如くと烟りながら、邪神の意思を読み取るのだ。
今、ここに確かなものはなにもない。
『――なんて、詭弁だ』
告げられた鵜飼の宣言と共に、闇の中で新たに蠢く気配。
優しく、けれど、恐ろしく。
ひたひたと濡れた足音を続かせるように、闇の中を巡る何か。
「きみたちも僕の一部にしてあげる」
ひたり、ひたり。
冷ややかな恐れと、これはきみを害さないという優しさ。
混じり合ったそれは、困惑を産んで。
その中を目立たないように静かに歩く臥待の姿と気配を、覆い隠す。
「まだ見えない? わからない?」
漆黒の巨人どころかそれを操るカルロスの心も、声と音で、いいや闇に含まれてしまった何かで浸す。
「ふむ。我も目には自負があるが、暗闇では何もな」
答えるカルロスは律儀だといえるだろう。
或いは、それが海の王たる自負か。隠れる事ができても、それをしないのは自尊心と傲慢の現れ。
「そう」
だから、声を。
きみの意識を奪う声を、さらに届けよう。
鵜飼は童話作家。良くも悪くも、ひとの心を引き摺り込むもの。
「本当の恐怖はすぐ傍へ迫っているのに」
ああ、その通りと音も無く、拳銃を構える臥待。
すぐ傍に無色透明、無音にして温もりも持たないモノとして、カルロスへと銃口を向ける。
それこそ、訪れを知らせぬ死神のように。
「カルロス・グリード」
名を、一度だけ呼んで。
闇の中で、恐怖を煽るようにゆっくりと。
「きみは頭を撃てば死ぬのかな?」
その言葉より早く、響き渡る銃声。
鉛の弾丸はカルロスの後頭部から額を撃ち抜き、中身を闇の中へと散らしていく。
常人ならば死が当然。
だが、揺らいだカルロスの身体がぐるりとうねるように、銃声の方へと振り向いて。
「そう問う君は、頭を撃てば死ぬから問うのだな」
だが、その横手から連続して放たれる銃弾。
位置を掴ませず滑るように動いた臥待が放ったものだ。
「死なないなら、死ぬまで繰り返すだけだね」
そして再び位置を変え、決して遠くはない。
むしろ、銃声から察するに近すぎる程の距離から放たれる、凶弾の数々。避ける事も叶わず、身に受けて、負傷を重ねる。
不死なんてものは、この世には存在しないから。
「何処にでもいる衆愚」
だからこそ何処にでも溶け込めて。
「その1の僕だからこそ」
永遠と、延々と、その1なる姿と立ち位置を変えて、臥待は銃撃を闇の中から迫る死神の指先で触れていく。
血と肉を、内部に詰めた狂気と強欲ごと、闇へと散らすカルロス。
「言ったでしょう。きみたちも僕の一部にしてあげる」
銃声に続けて、カルロスの心へと爪を立てる鵜飼の声。
――その『一部にされてる』のは、夏報さんのほうでは?
考えると怖い。
どんな感覚と感性、精神構造をしているかなんて。
深淵を覗くかのようで、鵜飼にはしたくないから、ただひたすらに、軽やかな引き金を引き続ける臥待。
幾つも死となる程の銃弾を、幾つもの死因となる急所に受けながら。
それでもふらりと動いて、臥待と鵜飼を捉えようとするのは流石にオブリビオン・フォーミュラ。
けれど、煽られた恐怖のせいで、どちらを優先すべきか判断がつかない。迷う指先では、闇の中では何も掴めず。
先のように、恐怖劇じみた動きで応じる事もできない。
「闇は、晴らしてあげない」
告げる鵜飼の言葉が、カルロスの心と精神へと傷を刻みながら。
何処にいるのか、鵜飼にも判らない。
彼女の銃声だけが、聴こえた。
ひたり、と。
――誰かの背後に立つのは得意だよ。
そんな囁きが闇の中で聞こえたのは、きっと、気のせい。
あらゆる情報を映し撮るとて、闇の中では、ただ溶け込むだけだから。
どんな羊の皮とて、ここでは意味がない。筈だと言い聞かせる。
渦巻く邪念、止まらない邪気。
邪神山脈という魔境の裡で。
その中で隠れ鬼に興じて遊ぶように、臥待と鵜飼は闇と恐怖を広げ、冷たい弾丸を放ち続ける。
それだけが、時の流れる証拠。
永遠などないのだと、カルロスが耐え忍ぶ、闇の中にある希望の一筋。
けれど――このふたりが、そんな優しいものを用意するのだろうか?
抱いた希望にこそ、恐怖の弾丸は冷たく突き刺さるのだから。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
緋翠・華乃音
目にした者の正気を奪うのなら、
目にしなければ良いだけのこと。
――それが最も合理的な戦術だろう?
確かに俺の感覚器の中では視覚――即ち“目”が一番優れている。
だがそれは飽くまでも五感の一つに過ぎない。
受容器から末梢神経系を通し、神経細胞を介して中枢神経系に。
“感じる”とはそういうことだ。
それは視覚じゃなくても可能である。
俺が視ているのは光が結ぶ像だけじゃないんだよ。
周囲の音を、空気の匂いを、肌に触れる風の流れを。
温度、湿度、振動、気配、殺気、思惟。
何もかもを視覚を用いずに“視る”。
それに五感の一つを封ずれば、他の感覚や直観・第六感はより研ぎ澄まされる。
さて――後の先。拳銃による反撃といこうか。
邪神山脈に立てば、否応なく押し寄せる邪悪なる気配。
全てが禍々しく、数えるのが馬鹿らしくなるほど。
這いずり回る者どもは、さながら混沌の様相で。
「だとしたら、見る必要などない」
瑠璃色の眸に論理の光を乗せて。
眼前に立ちはだかろうとする漆黒の巨人を見つめるは、緋翠・華乃音(終奏の蝶・f03169)。
雪月じみた銀の髪は、僅かに御空の色を帯びて、ふわりと柔らかに靡き。
精緻に整った白皙の美貌に、華奢な身体。
決して巨躯を誇る邪神に抗えないような、美しく、清く、儚い姿で、前へと歩む。
「目にした者の正気を奪うのなら、目にしなければ良いだけのこと」
そう口にして、両の瞼を閉じる緋翠。
「――それが最も合理的な戦術だろう?」
簡単な解であり、式もなんら間違いはない。
歪みの入る余地のないシンプルさ。恐れを抱かない静謐な緋翠の心の有様だからこそ、迷わず取れる選択肢。
淡く、淡く。
纏わる桜花にも似る甘き死の香りと共に。
一歩、横へと飛べば、そこに突き刺さる邪神の脚部。
「確かに俺の感覚器の中では視覚――即ち、“目”が一番優れている」
それは一種の常識。けれど、囚われるようでは届かぬ領域がある。
「だがそれは飽くまでも五感の一つに過ぎない」
受容体から末梢神経系を通し、神経細胞を介して中央神経に。
“感じる”とはそういうこと。
理系の中でも人体の構造を、命を扱うからの精密さと冷徹さで捉える緋翠。
それは視覚、瞳を介さずとも可能なのだと。
「俺が視ているのは光が結ぶ像だけじゃないんだよ」
事実、横薙ぎに振るわれる巨人の拳を、ひらりと寸前で避けてみせる。
緋翠の動きは氷上を滑るように美しく、決して偶然などではないと何度でも。
無粋な漆黒の巨躯では、冬に満つる百合の如く冷たく繊細な、白雪のような肌に触れる事は叶わないのだと。
避け続け、前へと進み、カルロスへと迫るその身をもって示す緋翠。
周囲の音を、漂う空気の匂いを。
肌に触れる風の流れを。
温度、湿度、振動、気配に殺気、巨人ではなくカルロスが放つ思惟。
全てを捉え、視覚を用いずに“視る”が緋翠の技なれば。
「それに五感のひとつを封ずれば、他の感覚や直感、第六感はより研ぎ澄まされる」
故にと、淀みなく腰より引き抜かれる拳銃、『to be silence.』。
魂を在るべき場所へと葬るべく、銃弾の込められたそれを、ぴたりとコルロスへと当てて。
「さて――後の先。拳銃による反撃といこうか」
カルロスが沈黙を保つのは、音による存在を確認されない為か。
緋翠の瞼を開かせる為の、誘いか。
けれど、それは叶わない。もはや緋翠の潜在意識下の直感が、因果すらも先見して解を得るのだから。
放たれる弾丸は必中の軌跡を描き。
人体の構造など無視したでたらめな混沌の急所を穿つ、致死の因へと至る。
響き渡る銃声は、軽やかに、美しく。
砕ける氷の音色のように、周囲へと響き渡る。
大成功
🔵🔵🔵
鈴久名・紡
島そのものを制御するには力及ばず、と言うことか
確かに、そのレベルの敵であるなら隙を突くしかないだろうな
微力であっても、何もしないより幾らかマシだな
先制対処
オーラ防御を展開し見切りと残像で回避し
適切な距離に一度下がる
視野に収めたことで損なわれる正気、もしくは理性
それらには狂気耐性で対処
以降の回避行動も同等に対処し
負傷には生命力吸収で対応
存在証明使用
完全形態の竜神へ変化し飛翔して空から攻撃
禮火を槍に形状変化させて刺し穿つ
邪神が活動的になればなるほど
それを制御する必要が出てくる
その時には極僅かな隙が出来るはずだから
それを狙う
別に俺自身がこの手で終わらせる必要はない
誰かが終わらせるその礎になれば僥倖
揺れるは邪神山脈と化した島。
けれど、それは猟兵との決戦が進む度に小さくなっていく。
呼び出した邪神の数だけ。
そして、討たれた邪神の数だけ。
何より、削られたカルロスの力の分だけ。
「島そのものを制御するには力及ばず、と言うことか」
呟くのは鈴久名・紡(境界・f27962)。
限りなく白に近い灰色の髪、その左の一房をさらり靡かせ、藍色の瞳でこの戦況を見据える。
力及ばず。確かに、それはその通り。
だが、こうして顕現した邪神山脈は本物。
尽きる底が未だ見えない邪気は、カルロスの持つ力そのもので、決して甘く見ることなど出来ないから。
「確かに、そのレベルの敵であるなら隙を突くしかないだろうな」
思慮を滲ませ、静かに呟く。
少なくとも。
「――微力であっても、何もしないわり幾らかマシだな」
何もせず、狂気と強欲の海に浸食されるなど。
紡には認められないし、許せないのだから。
山脈の裡、カルロスの影を見つけて踏み出した瞬間、地面より影が起き上がるように現れたのは漆黒の巨人。
見る者の正気を蝕む狂気の姿。しかし、それだけでなく、巨体をもって蹂躙する暴力そのもの。
「これが邪神。そう、タダではいかない」
オーラ防御を展開し、振るわれた巨大な拳の先を見切って、後方へと飛び退く紡。
ひらり、ゆらりと白灰色に揺れるは残された影。
そこへと再び拳を打ち込む巨人型の邪神に、果たして、どれほどの知性と理性があるのか。
思わずその漆黒の姿を瞳に映した紡の姿勢が揺れる。
「……っ。流石に直視は辛いか」
視野に収めただけで損なわれる正気と理性。
猟兵としての経験からなる狂気への耐性をもって対処するが、ごっそりと心を抉られたように、疼く痛みが胸とこめかみに走る。
続けて連打と、暴れるように放たれる巨人の殴打を避けながら、振るうは氷結する白銀の煌めき。
使用者の意思に応じて形状を変化させる小柄型の神器たる禮火。
銀月のように燦めく氷刃で巨人を斬れば、傷口を凍てつかせながら奪い去るは生命力。
ぴしんっ、と肉が凍てつく音と。
しゃりんっ、と氷が風を斬る音色が揺れて。
周囲に舞い散るは氷の欠片が成すは、薄青の花びらたち。
紡が振るう切っ先は狂気さえも凍てつかせ、操るものに変えるかのように。
そして瞬間に出来た隙を見逃さず。
『俺を俺たらしめる証をここに』
静かな声で紡がれる詠唱は、紡を飛翔力が増加する完全形態の竜神へと至らせる。
そのまま氷の欠片を纏いながら頭上へ飛翔。
冷たい風を渦巻かせて、今度は禮火を槍へと変じさせる。
「そう、俺がトドメを刺す必要はない」
唇から零すのは、ひとつの祈り。
冷風を吹き荒らしながら、狙うはただひとつ。
巨人型の邪神にとっては紡は頭上に舞い上がられた邪魔な存在。
四肢を振り回し、跳躍して暴れながら叩き落とそうとするが、それは叶わぬ事。
だが、邪神が暴れ回る程に活動的になればなるほど、カルロスはそれを制御する必要が出てくるのだ。
それは僅かな隙だとしても。
力を制御して支配におくべく、精神の手綱を引く事に他ならないから。
「これが、誰かがこの戦いを終わらせる、その礎となるように」
高速で滑空して舞い降りる紡。
全ての勢いを乗せ、氷結操る禮火の穂先をもって、カルロスの胸部を深く、深く、刺し穿つ。
空より奔るは青白き一筋、月光の如く静謐に。
ちりんっ、と涼やかなる氷の刃の音色が響いて。
ぱしり、ぱきりと肉と血管、骨が凍てつく音を続かせて。
「ああ、これで終わりはしない」
槍を、いいや、紡の腕を掴もうとしたカルロスの手。
それを払いのけ、再び空へと飛翔する紡の藍色の鋭い瞳が、無言の裡に告げている。
瞬間でも隙を見れば、何度でもその身を貫くのだと。
お前を討ち倒し、勝利するまで。
「この氷は、竜神の翼は、お前を倒すまで止まらない」
空を翔る姿は、例え邪神でも捉えきれず。
深く傷を負ったカルロスの支配から解き放たれた邪神は、ただ怨嗟を子供のように蹲る。
瞬間の場を制した紡のもたらした、ひととき。
そこへと続く者が現れると信じているから。
無数の氷と雪の破片を伴って、竜の翼がはためき空を舞う。
大成功
🔵🔵🔵
アネット・レインフォール
▼静
完全制御に至ってないとは言え
普通に考えれば島を対価に払う事は自殺行為だ
飛行出来ない以上、奴自身も海へ沈む事になる
何故だ?
邪神を足にするつもりか
別の手段を持っているのかは分からない
一つ言えるのは奴にとって目の届く範囲に価値あるものは無いという事だ
木を隠すなら森の中、か
▼動
念動力で刀剣をメガリス目掛けて投射し攪乱
触手や邪神は結界術でブロックを作り上空へ
回避時に鳥型や大型の邪神、船団の有無を確認
邪魔な敵は式刀で斬捨てつつ【破塵降雨】で吸収開始
安全地帯など無いと負傷覚悟で敵の只中へ飛込む事も検討
移動手段が見つかればUCで破壊を狙うが
予め投射した剣を避雷針に見立て
継続ダメージで曲げた稲妻をカルロスへ
何故だと、その謎へと漆黒の瞳は注がれる。
完全制御に至っていないとは言え、普通に考えれば島を対価に支払う事は自殺行為。
飛ぶ事が許されぬグリードオーシャンの海に、自ら共々と海へと沈む事になるのだから。
「何故だ?」
呟くアネット・レインフォール(剣の異邦人・f01254)は霽刀【月祈滄溟】を鞘から抜き放ちながら、鋭い視線をカルロス・グリードへと贈り続けている。
邪神を足にするつもりか。
或いは、別の手段を持っているのか。
「分からない。だが、共々沈む事さえ最後の手とあるのなら」
――奴にとって、目の届く範囲に価値あるものはないという事。
「木を隠すなら森の中、か」
青の漣を帯びた滄溟晶が粘つくような邪気を孕む空気を斬り払い、応えを求めるようにアネットが突き進む。
それを見届けるカルロスは、王たる傲慢と貪欲さで語りかけた。
「さて、我の価値観と、お前の価値観が同じとは限るまい。使わぬ武具に、飲まぬ美酒に、使い潰さぬ兵と奴隷に、価値はあるのか?」
殊更、今は世界を賭けた戦乱の中なのだ。
使わぬ戦の宝などたださび付き、朽ち果てるのみ。
「故に理解しろ。兵と王では、視点が違う。価値観が異なる」
「さて、な。俺はあくまで、武人だ。己の力を信じ、求める道を斬り拓くだけ」
故にと念動力で放たれる刀剣たち。
狙ったのはカルロスの持つメガリス。
アネットの携えるどれもが銘を持ち、大業物――いいや、戦いの中でこそ磨かれた二つと無い武具だと分かるからこそ。
ぎんっ、と鈍い音を立ててメガリスがその悉くを受け止め、カルロスが侍らせる触手が、記憶の籠もる刀剣たちを絡め取った事に、アネットの歩みが止まる。
「なっ……!?」
「ほう、これは中々の宝物。だが、投げて寄越す程度にしか価値はないらしい。――目が届き、手で触れられぬ範囲にないものは、価値がないか?」
まるで思いを読んだかのようなカルロスの言葉。
刀剣達を引き戻そうとしても、触手の力が強すぎて、カルロスの手中にて奪われたまま。
「さて、では我の宝の輝きをも見せてくれようか」
「くっ……」
最早、周囲に携えるは霽刀のみ。
地形が変化し、島の面積を代償に大地より放たれる触手の群れ。
迷わず跳躍し、結界術で足場となるブロックを作り、上空へと逃れるアネット。
だが、それを追撃する触手は自らの意思を持つかのようにうねり、蠕動し、飢えた牙をアネットへと走らせる。
迫る五本、冴え渡る霽刀の刃で斬り払い、血飛沫を空へと散らす。
だが、それを突き破って更に迫るふたつの触手と牙。脚部と腹部を抉り削って、後方へと抜けていく。
「どうした、探る余裕もなさそうだな。我より、この至宝の如き刀剣たちを取り返す事も叶わぬか」
「貴様が、仲間たちとの思い出を、思いの積もった武器たちに触れるな!」
周囲を見渡す――それもアネットにとっての失策だ。
今も見れば正気を奪う漆黒の巨人が歩き回り、惑わす輝きを放つ霊がいる。決して全体を探ろうなどしなければ、出来なかった隙へと。
「先へ、先へと。望むが侭に進めば、より強い力で挽き潰される」
四方よりアネットを打ち据える触手の群れ。
ひとの鮮血が飛び散り、反撃にと斬り刻まれた触手の一部が落ちれど、アネットの劣勢は覆せない。
「島を対価に。自らの危機としても? ああ、そうだとも。この島の誇る巨躯を、我の巨大な力を出し惜しみする事なく……お前達、猟兵を完全に踏み潰すのみ」
つまり、最初から手加減抜き。
王たるカルロスが前へと出てきているのも、アネットのような存在を引き摺り込む為。
決戦ならば、全力をもってこそなのだと。
「なる、ほど。……それならば、理解できる」
ようやく群れる触手が織りなす牙の波涛から逃れたアネットが、全身を鮮血で赤く染め上げながら口にする。
その唇からやはり血が溢れるも、意に介さない。
「周囲にお前の船団がないのは、広域の殲滅戦に巻き込まない為か。翼ある邪神がいないのは、元より退路を考えずの全力勝負」
「言っただろう、決戦と」
「潔いのか、それとも、傲慢なのか」
肩を竦めるカルロスに、傷だらけのアネットが宣言する。
「さあ、俺の刀剣たちを返せ。まさか、簒奪をよしとするのがお前の王の品格か」
「我に物申すは頭が高い。降りて自ら拾いに来い、黒き武人よ」
いいや、これで十分と全闘気を滾らせるアネット。
霽刀が帯びるは激しく、眩い程に輝く雷撃。
神の裁きの如く、地にある物を破砕すべく、強烈な稲妻が刀身へと凝縮されている。
だが、夥しい負傷と流血は、長くは戦えないとアネットに告げており。
『玖式・破塵降雨』
結界で作った足場を蹴り、一気にカルロスへと急降下する。
肉薄すれば当然、カウンターとして放たれる触手たち。邪悪さを醜悪さとして、牙を突き立てようとアネットへと向かうけれど。
「カルロス、お前はやはり、俺の仲間達の武具に触れる資格など、ありはしない」
憤激する雷神が振るう斬撃の如く、稲妻を周囲へと奔らせるアネットの鮮烈なる霽刀の一閃。
それは絡め取られた武具たちを避雷針として、それを絡め持つ触手たちへと降り注ぐ。
焼き焦げる肉。崩れ落ちる炭と、気化して立ち上る体液。
アネットに触れる寸前、触手達は消し炭と化して動きを止め、雷撃の余波を受けたカルロスもまた、たたらを踏んで動き止める。
その一瞬を見逃さず、未だ雷撃を纏う刀身を携え、構えて。
「穢れた欲望で触れた罪、贖って貰おう」
残る全身全霊を込め、アネットが繰り出すは迅雷の烈刃。
カルロスの胴を袈裟に斬り裂き、内部へと電流を流して灼き焦がすと供に。
「追撃だ――受け取れ、欲の尽きる事のない王よ」
着地した瞬間、余力など尽きたアネットの身から放たれるは、無からの一刀。
想いを宿してこそ武なればこそ。
信念の元に振るわれる剣は、条理さえをも覆すのだ。
脈打つ魂が尽きた筈のアネットの闘気が再び身体へと脈打ち、全霊よりなお強くと刹那に燃え上がる。
――あるいは、それは、
異邦に在りし、戦友たちの思いと力を借りるように――
「器が、形あるものが全てじゃない。そこに宿るものが、宝なんだ」
アネットの言葉と共に、刀身の切っ先まで満ちる鮮烈なる闘気。
完全なるゼロから振り絞られたそれは純然たる剣技として奔り、カルロスを逆袈裟に斬り裂き。
技をもち、勝利をもって鳴るが武人と。
鞘へと霽刀を収めたアネットが、その場で膝を付くのを拒み。
取り戻した刀剣たちを、念動力をもって手繰り寄せる。
まだなのだと。
この戦場で、屈したりしないのだと。
漆黒の眸は、尽きせぬ戦意をその裡で輝かせた。
大成功
🔵🔵🔵
鳴宮・匡
◆ニル(f01811)と
身の程を弁えないやつの末路、みたいな話なかった?
……何の神話だったかな
まあ、あいつを殺すのは神じゃなくて俺たちだけど
目(見切り・視力)と耳(聞き耳)、
それから咄嗟の判断(瞬間思考力)には自信がある
地形の変化や周囲の物音から
敵の初撃の規模・方向・狙いを予測推定、ニルに回避の方向を指示
回避自体はニルの力を借りるよ
……生身じゃできることが限られてるし
ニルの背に乗って上空へ
同時に【影装の牙】で銃を形成
回避を任せられるんだ
移動を犠牲に威力を上げるよ
いつも言ってるだろ、目はいいんだ
このくらいで外さないさ
お前に奪われていいものなんて何一つない
そのまま、骸の海に還ってもらうぜ
ニルズヘッグ・ニヴルヘイム
匡/f01612と
急に強い力ってのを手に入れるとさあ、匡
人って、神にでもなった気持ちになるらしいぜ
地面が全部敵になるなら上に逃げるしかないよな
串刺しになる前に巨大な氷で体を押し上げる
割れるまでの時間が稼げれば充分だ
幻想展開、【怒りに燃えて蹲る者】
捉えられる前に匡を乗せて飛び上がる
私も術師だから知ってるぜ
――過ぎた力ってのは、小回りが利かねえんだよ
高速で飛び回って攪乱と回避を行いながら、匡の攻撃範囲から外れないようにしよう
ジェットコースターみたいな動きするけど
お前ならそれでも狙えるだろ、親友!
邪神が何だ、こちとら竜だぞ
貴様らの道理に則って、ここはこう言ってやろうか
敗者に正義はないんだよ!
なあ、と。
人好きを思わせる快活な声が響く。
それは灰燼色の忌み子たるニルズヘッグ・ニヴルヘイム(竜吼・f01811)の一面。
死者の怨嗟も生者の情念も、全ては自らの糧。
呪詛を編む為にあるのだと、嗤う姿を知る者では想像出来ない明るさを持って。
「なあ、急に強い力ってのを手に入れるとさあ、匡」
親しき者には、優しく暖かき吐息をもって触れるのがニルズヘッグ。
呼ばれた鳴宮・匡(凪の海・f01612)はその二面性を知るのか、知らないのか。
今度は不変なる凪いだ笑みを浮かべて、頷くばかり。
「人って、神にでもなった気持ちになるらしいぜ」
それは変わらないこと。
ニルズヘッグと鳴宮の親なる友情のように。
表裏があれど、覆りも、切れる事もない思い。
「そういや、身の程を弁えないやつの末路、みたいな話なかった?」
同様に問い返す鳴宮。
悩めど応えは出ず、にこやかな笑顔を浮かべるニルズヘッグへと、肩を竦めてみせる。
「……何の神話だったかな」
それこそ、神にでもなった気持ちになるというニルズヘッグの言葉より、ふと思い出した記憶の泡。
鮮明に浮かぶことはなく、ただ、邪神を操るカルロスは、まるで自らが神になったように傲慢だという意図に同意しつつ。
焦げ茶色の眸で、先に立つカルロスを見据えて、まずは言葉で射貫く。
「まあ、あいつを殺すのは神じゃなくて俺たちだけど」
「いやいや、匡。神であろうとなかろうと、生きている者は殺せるんだよ」
違いないと笑って周囲を見渡す鳴宮。
この島そのものを操るがカルロス・グリード。『三の王笏』の力は紛れもない驚異。
だが、その強大さ故に地形ごとの変化は大きく、前兆が読みやすい。
況してや、あらゆる戦場、鉄火が弾ける激戦と死線を見て、捉え続けた鳴宮の瞳と耳ならば。
「最初は任せてくれ。ニル」
「おう、任せたぜ、匡」
言葉は少なくとも、意思の疎通と打ち合わせは十分。
戦意をひとつに束ね、立ちはだかるカルロスへと向ければ、王たる身として邪神操るメガリスにして応じる。
「今生の話はすんだか? ならば、後は奈落の底で幾らでも語り合え。その奈落さえも、いずれ我が支配する世界となるのだから。
揺れ動く地面、土砂を巻き上げて隆起する串刺しの牙たち。
それが訪れる寸前、鳴宮の視力は遠くの丘が掻き消えたのを見たから。
これが代償、攻撃の予兆だと読み、周囲を瞬間で捉える。
伝えるに言葉は遅すぎるから、鳴宮はニルズヘッグの服を掴み、右斜め上だと示す。
「おう、了解。任せておけ」
二人して跳躍し、地面の間にニルズヘッグが張り巡らせるのは巨大な此氷の壁だ。
文字通りの分厚い盾であり、牙の生えた触手が勢いづく前から押しつぶす。それでも怪力をもって罅割れ、砕けていくのは明白で。
だからどうしたと、傲然と笑うはニルズヘッグ。
串刺しを狙うのは分かっているのだから、上へと逃げるは当然。そして、カルロス程の相手の力を呪詛で編んだ氷で阻めるとも思っていない。
いいや、この氷などニルズヘッグの持つ力の一欠片でしかないのだから。
『生半可な刃が通ると思うな』
展開される幻想は、ニルズヘッグを黒き竜の姿へと変貌させるもの。
氷が割れるより早く、その双眸が赤く瞬き、四肢と翼を持つ黒の蛇竜へと変生させる。
その背へと鳴宮を乗せて羽ばたく風の音は、怒る竜の唸りの如く。
一気に空へと翔け抜けて、牙持つ触手たちから逃れて見せる。
「私も術師だから知っているぜ」
蛇竜の喉から流れるニルズヘッグの声。
敵ならば尊大な口調で嘲笑いながらも、守る意思をその裡に強く、深くと秘めて。
「――過ぎた力ってのは、小回りが利かねえんだよ」
「さて、我とお前を同列に語られても困るが」
一度は届かなくなった牙持つ触手。
だが、更に島の大地を代償として巨大化させ、ニルズヘッグの翼が飛ぶ高さまで、まるで濁流のように奔らせる。
だが、それを見切るは鳴宮の瞳と思考。
どんなに早くとも、どれほどの質量と数をもって攻めようとも、綻びを見つけてニルズヘッグへと伝えれば、高速で飛び回り攪乱と回避を行うニルズヘッグ。
さながら、死線を潜る兵の瞳を得た漆黒の竜。
黒き疾風と化して、連続して迫る触手たちを避け続ける。
急激な旋回はいうでもなく、螺旋を描いて上下し、右から左へといきなり方向を変える。
「ジェットコースターみたいな動きするけど」
ニルズヘッグの声は、けれど楽しげだ。
信頼をもって送るのだから、これから起きる勝利を確信している。
全てを見据える、凪いだ瞳へと。
祈るまでもなく、願う必要もなく、鳴宮は応じてくれるのだと。
「お前ならそれでも狙えるだろ、親友!」
ああ、と頷いて、蛇竜と化したニルズヘッグの背の鱗を撫でる鳴宮。
「変わりに、回避自体はニルの力を借りるよ……生身で出来ることが限られているし」
しかし、一種、その極致に立つ瞳を持つ鳴宮が自身の裡に在る、破滅を齎す黒き影を、その呪いにも似た生への活動を脈打たせる。
それは黒き海の深影より浮かび上がる、切り捨てられてきた心の集積体。全てを滅ぼす程の深き想念は、狙撃銃を形成する。
言うまでもなく、その裡に込められた弾丸は災厄そのもの。必滅の思いを黒々と輝かせて。
「いつも言ってるだろ、目はいいんだ」
回避を任せるからこそ、移動を犠牲に更にと跳ね上がる威力。
生きたい、生き残りたいと叫ぶ魂。
故にあらゆる戦場を駆け抜け、斬り裂く爪痕として在る、この一発。
鳴宮の目と腕、そしてこの渇望がある限り、あらゆる存在を穿つ一撃へとなるのだから。
「このくらいで外さないさ」
その言葉と共に放たれる、漆黒の閃光。
遅れて響く轟音は、幾つもの音の壁を越えた証。
何かを仕掛けるのだろうと触手を重ねて防壁のように構えていたカルロスだが、そんな守りなど意味がない。
弾け、粉砕され、肉も牙も欠片も微塵となって周囲へと散らすのみ。
闇よりなお黒く、昏く、魂の根源まで滅ぼすかのような銃弾は、カルロス・グリードという存在の核をうったような撃ち抜いている。
「邪神が何だ、こちとら竜だぞ」
鳴宮の銃撃ひとつで吹き飛ばされた邪神の触手たち。
なお迫る攻勢を易々と避けながら、ニルズヘッグは鳴宮のもたらした破砕の跡へと言葉を投げかける。
「貴様らの道理に則って、ここはこう言ってやろうか」
にやりと笑う、竜の笑み。
邪悪であるか、清冽であるか。
そんなものはお前達が決める事であり、これもまた必定。
「敗者に正義はないんだよ!」
弾けた肉から血霧の立ち籠めるその奥。
それでもゆらりと動くのは、流石はオブリビオン・フォーミュラの姿といえるだろう。
身体の半身が吹き飛ばされてもなお歩む。
傲慢と笑い、その唇で喝采をあげるのだから。
「素晴らしい。その力、その翼、その瞳。ああ、我が宝として欲しいぞ。我が兵として、従えたい……奪うべきと、この王笏は決めたぞ」
瀕死に近い身体でなお、ぞくりと恐怖を滲ませるような狂気と妄念の波動。
けれど、鳴宮の表情はいつも通り、凪いだ笑顔のままで。
「ああ、ニルの言う通り。カルロス、負けるお前にはなんの正義も、道理も、ありはしない」
煙を上げる銃から、空薬莢を排出し。
更なる深海の影より生み出した銃弾を、叩き込むように入れる鳴宮。
がきんっ、と鋼の歯車が噛み合うような音は。
それこそカルロスの破滅への秒針めいていて。
「お前に奪われていいものなんて何一つない」
終焉をここに告げるのだと、鳴宮の指先が刹那を刻む。
この一瞬、敗北を覚えるがいい。
ニルズヘッグのいった、敗者に勝利はないと――自分達が築き上げた鉄則の下で。
「そのまま、骸の海に還ってもらうぜ」
放たれる、二発目の破滅の影弾。
風も、空気も、湿度も塵も。
目標たるカルロスに至るまでの悉くを消滅させ、魂へと撃ち込まれるは神すら滅ぼす深影の牙。
微かな波紋を、音として世界に散らして。
トドメとばかりに、ニルズヘッグが吼える。
「さあ、敗者はその思いも、正義も、何もかも奪われる――お前がそうしてきたようにな!」
かの『三の王笏』カルロス・グリードが砕かれる。
例え肉体は邪神の肉片で補い、再生出来たとしても。
それはもはや、元のカルロスではない。混じり、濁り、淀んだモノは。
ただの強欲と狂気の塊の、残骸に過ぎないのだから。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ノエル・クラヴリー
『WIZ』
アドリブと負傷させなければ連携OK
◯心情
カルロス、私の全てを使ってでもあなたを倒します。
◯行動
私の身体はタールです、光線は【カウンター】で跳ね除けて相手にお返しします。しかし相手は邪神、流石にどこまで耐えられるか…【高速詠唱・全力魔法・浄化】で強化した【UC】で歌いながら進むといたしましょう。
私のような無機物に人間の欲望があるとでも?…と言いたいところですが、一つだけ心当たりがあります、殺害欲求です。
掻き立てるとはいつもの倍ということですよね。危険ですが逆に利用したら…?【覚悟】はできています。
カルロスの前まで来たら、【怪力・鎧無視攻撃】で強化したこの魔人の大斧で斬って差し上げます。
その黒い身体は星空のように。
いいや、実際に巡る宙の軌跡たちと共鳴する身体を持つのだ。
美しく、艶やかに、輝く身体と黄金の瞳を持ちながら。
復讐者たるはノエル・クラヴリー(溢れ流るる星空・f29197)。
「カルロス、私の全てを使ってでもあなたを倒します」
邪神を従えるが、かの『三の王笏』たるカルロス・グリード。
傲慢かつ貪欲に。
ならば、それを見せてみろと。
「我を討つ程の輝き、その裡にあるか見せてみるがいい」
召喚されるは美しき邪神の霊体。
放たれる光線は触れるものを宝石へと変貌させる魔性の煌めきだ。
ブラックタールの身体の中で屈折させ、鏡のように跳ね返すカウンターを放つノエルだが、身体の一部が宝石へと変わる事は防げない。
触れたのだ。ただそれだけで宝石へと変わる呪いが、その邪神の霊。
光り輝けど、それは呪いにて惑わすだけだ。
加え、放たれた光線が周囲の地面に触れれば、それだけで惑わす輝きを放つ宝石へと変じさせ、惑わしの輝きを増やしていく。
が、一撃は凌げたのだと、身体のいたる所を宝石と変えら、重い身体を引き摺って歩むノエル。
「が、これは呪い。それならば」
浄化の祈りを乗せて口ずさむは、共感した対象全てを治療する歌声。
早く、強く、スタッカートとクレシェントを織り交ぜて。
宝石へと変貌した身を復元し、黒と星の輝きを取り戻していくノエル。
そして。
「私のような無機物に人間の欲望があるとでも? ……と言いたいところですが、一つだけ心当たりがあります」
「ああ、大方の検討はつく。無機物、無欲、そう囀る心が持つのは何時も似たようなものだ」
ノエルが引き摺る大斧を見るカルロス。
魔人の大斧と名付けられたそれは、霧と共に現れる、自我を持つ両刃の斧。これが宝石となり、戦斧として振るえなくなる事だけはノエルは避けて、防ぎながら。
「ええ、殺害欲求――それが今や早鐘のような鼓動となり、この身を掻き立てるのです。そう、何時もの倍ではすまない程に」
これは危険だと分かる。
殺す事だけにしか目がいないのは呪いであり、攻め筋は荒く、守りなど投げ捨てるという事だと。
けれど――復讐者の姿とは、それでは。
胸の奥にある昏く淀んだ憎悪を、激しく燃やして己を駆り立てるものなれば。
自滅も厭わぬ、この歩みこそが、復讐の道のような気がして。
「ええ、覚悟は出来ています。とうの昔、遙かな過去で」
ああ、だから。
こうしてカルロスの前へと、気づけば立つのだ。
「見事。宝石の輝く惑わしに気を取られず、一念のみをもって辿り着いた」
賞賛するのは、やはり王たる身の故か。
その両腕を広げ、さあ、と身を差し出すのは、それで死ぬ事はないという傲慢さ故にか。
もはや、殺戮の衝動と欲望に駆り立てられたノエルには分からない。
「数多の欲望が雑念として、混じる雑な色として思いを穢すのならば、その殺戮への欲求は、まさに、混じりも疵もない宝石」
「黙りなさい」
カルロスの声はある意味で正しく。
純然たる殺戮、欲望をひとつしか持たないものなど、そうそういないのだから。
その全てを込めて、振るわれる大斧が、怪力を持って振るわれる。
例え骨でも岩でも、邪神であろうとも。
遮るものは皆、両断するのだと狂念を滲ませる刃がカルロスの身を斬り裂き、通り過ぎて。
噴き出す血潮の赤を、ノエルはその身に浴びるのだ。
熱く、熱く、更なる殺戮の刃をと――その心に焦がすように、焼き付けさせて。
再び振るわれる斧はカルロスの肉を断って肋骨を粉砕し、その身に深い傷跡を刻む。
大成功
🔵🔵🔵
リーヴァルディ・カーライル
…生憎だけど、お前の望みは叶わない
お前の命運は今日、此処で潰えるのだから…
過去の戦闘知識から召喚される邪神の能力を見切り
大鎌を武器改造して刃が鏡面の巨大剣化して身を隠し
敵の輝きや光線を呪詛を纏う鏡刃で反射するカウンターを試み
制御が乱れた隙を突いて切り込む早業でUCを発動
…邪神の力は確かに脅威だけど、
来ると分かっていたら対処は容易い
…何度も同じ手か通じると想うな
両掌に限界突破した闇属性攻撃の魔力を溜めて両手を繋ぎ
怪力任せに"闇の結晶"剣をなぎ払い
光を呑み込む暗黒のオーラで防御ごと切断する闇の斬撃を放つ
…見たいと言うならば、その両の眼を見開いて存分に見るがいい
…これが、お前を否定する世界の意志よ
邪気を孕む空気の濁りは、常闇の世界よりなお昏く。
這いずる者達がより、この島を淀ませ、穢して、風さえ忌むべきものほと変えていく。
これがオブリビオン。
その首領たるフォーミュラの姿だと、薄紫の眸がカルロスの姿を捉える。
「……生憎だけど、お前の望みは叶わない」
呟く唇から感情は読み取る事は出来ず。
動く事のない表情は、何かを訴える事もない。
ただ告げる言葉が全てなのだと、リーヴァルディ・カーライル(ダンピールの黒騎士・f01841)は示すのだと。
月のように美しい銀色の髪をさらりと靡かせて。
「お前の命運は今日、此処で潰えるのだから……」
ゆるりと。
するりと。
邪気で淀む空気を掻き分けて、ダークセイヴァーで産まれた狩人たるその姿を、カルロスの前へと晒し出すリーヴァルディ。
「ならば、明日の命を求めて、お前から奪おうか。ああ、皮肉めいて我の好みだ。過去たるオブリビオン・フォーミュラが猟兵から未来を奪うなど」
なんと楽しい事か。
傷だらけ。負傷は著しく、消耗は見た目よりも更に甚大。
邪神の肉片を埋め込んで傷を癒やし、身体を保っても、本質たる魂や霊格、生命力の限界はあるのだ。
ならばと、もはや言葉で遊ぶ余裕はないのだと。
カルロスの手招き一振りで召喚されるは美しき邪神の霊。
だが、リーヴァルディもまた幾つもの戦いを経た猟兵。過去のセイント宇知識から邪神の能力を見切るや否や、構える大鎌の刃を鏡面とする巨大剣へと変貌させ、身を隠す。
光線と輝きさえ届かなければ意味はない。
異能に振り切った能力とは、逆に、その前提条件を満たさなければ、幾度となく空回りするばかりの死神の鎌先なのだから。
「…邪神の力は確かに脅威だけど、来ると分かっていたら対処は容易い」
反射させる輝きと光線を、呪詛を纏う鏡刃で反射させるはカウンター。邪神の霊もまた、己の放った輝きで惑う。
「……何度も同じ手か通じると想うな」
リーヴァルディの唯一の誤算は光線が触れたものが悉く宝石となり、それらが惑わしの輝きを放っているということ。
制御が乱れ、カルロスが隙を晒したとはいえ、狙えるのは僅かな短期決戦。
「……大丈夫、一瞬で屠るから」
淡々としたリーヴィルディの冷たい声は、それこそカルロスへの宣告。
一瞬で間合いへと切り込み、早業で繰り出すはリーヴァイルディの秘術のひとつたる血の教義。
『……限定解放。テンカウント。吸血鬼のオドと精霊のマナ。それを今、一つに……!』
それは過去を圧縮して消費し、世界の自然現象として排出する技なれば。
両の掌に己の出力を限界突破した紡いだ闇属性の魔力溜めて、両手を繋ぎ、紡ぎ出すのは闇の結晶が形を成す、一振りの剣。
黒く、けれど美麗に。
破滅の色彩を燦めかせ、リーヴァルディの手によって半人半魔、神殺しの怪力を持って振るわれる斬滅の剣閃。
光さえ飲み込む暗黒のオーラは、身を護ろうと展開された触手をするりと、何の抵抗さえなかったかのように両断し、走り抜ける。
音を立てる事もない、静謐なる闇の斬撃。
カルロスの身を深く捉え、横一文字に斬り裂いて、更に翻る。
「……見たいと言うならば、その両の眼を見開いて存分に見るがいい」
リーヴァルディも自らの限界を超えた魔力の駆動に、軋む魂の存在を感じるけれど。
この闇の切っ先は、カルロスという魔を立つ為にあるのだと、指を強く水晶剣の柄へと絡める。
「……これが、お前を否定する世界の意志よ」
縦に一直線、唐竹割りと斬り伏せられる、全てを呑み込む闇の斬衝。
明日の希望も、過去の願いも、名残たる残滓も。
何もかもを骸の海へと、斬り伏せる闇がカルロスを斬り裂き、奔る。
そこに描かれるは、漆黒の月。
冴え冴えと、美しくも鋭い黒の軌跡を見せて。
破滅へと誘う闇が、『三の王笏』の魂の深くまでへと届く。
大成功
🔵🔵🔵
篝・倫太郎
片付けないと進まないってんだから
邪神狩り、頑張りますか
先制対応
見切りと残像で回避
回避行動は召喚された触手に噛み付かれる直前に行い
行動直後はジャンプして近い場所に留まらないよう注意
直撃回避を基本として
必要ならオーラ防御でジャストガード
以降の回避も同様に
ここで倒れる訳にもいかねぇからよ
先制攻撃をやり過ごしたらいざ反撃開始
手をつなぐを代償に始神界帰使用
生命力吸収と鎧無視攻撃を乗せた華焔刀で邪神共をなぎ払い
邪神共の動きやカルロスの動きは常に視界に収めて行動
邪神の制御行動の予備動作や予兆がないか注意しとく
タイミングや癖を掴んだらジャンプとダッシュで距離を詰めて
部位破壊を乗せた華焔刀で渾身の一撃を叩き込む
おぞましいものばかりで。
美しさなど、果てて朽ちたとばかりのこの邪神山脈たる島で。
緩やかな声が響き渡る。
「春桜、夏朝顔、秋竜胆、冬蝋梅――」
世界はかく美しい。
このような邪気に蝕まれたものばかりではなく。
いや、この狂乱の奔流を止めねばならないのだと、災禍狩りの血は、麗しき四季の彩り浮かべる心と共に脈打つのだ。
「片付けないと進まないってんだから」
琥珀色の眸を、ゆらりと泳がせて。
夜と月の美しさを、探すように。
愛しき場所とひとの傍へと、帰るが為に。
篝・倫太郎(災禍狩り・f07291)は、『三の王笏』たるカルロス・グリードへと刃を向ける。
「邪神狩り、頑張りますか」
背には羅刹紋[禍狩]が倫太郎の戦意に応じて浮かび上がり、携える薙刀の黒塗りの柄には朱線で描かれた焔が舞い踊る。
美しい刃紋が映える穂先は、災禍たる邪神の悉くを斬り祓うべくと、破魔の輝きを宿して。
「ほう、サムライエンパイアの羅刹とは珍しい」
その切っ先を向けられ、なお傲然と立つのがカルロス・グリード。
不遜なまでの自負で、尽きせぬ貪欲さが彼を駆り立て、命尽き果てるまで世界を彷徨わせるのだから。
「その美しき角、手折りて、我が宝に加えてくれよう」
「桜切る馬鹿、梅切らぬ馬鹿ってしってんのかよう」
倫太郎が含み笑いをした瞬間、先制として繰り出される大地からの牙持つ触手たち。
地形の変化ごと見切り、残像を伴いながらその場を跳躍。高さと距離が足りぬと見れば、薙刀の柄の先端、石突きで大地を叩いて更に跳ぶ。
さながら身軽にと大橋の欄干を飛び越え、跳び往き、翻弄するかのように。
軽やかに舞い跳ぶ倫太郎。その腰では鬼灯を模した根付けが厄を祓うい、勝利たる幸を招くべく橙の色を揺らすのだ。
迫る触手の牙には、オーラ防御を重ねた刀身でタイミング合わせて弾き飛ばし、逆その勢いを乗せて更に遠くへ。
避けて、逃げるは、鬼よこちらと。
「まったく、どっちが羅刹かね。ただ、なぁ」
安全な大地へと降り立った倫太郎が、カルロスへと疾走する。
「ここで倒れる訳にもいかねぇからよ」
さあ、反撃の始まりだとくるりと旋回させられる華焔刀。
ひとつの技能を代償に、その華焔刀に神力を取り戻されれば、斬風にて掻き消される邪神の瘴気。
刀身に乗せられた神力は生命を奪い、あらゆる守りを無視する災禍を祓う神霊の刃となって邪神たちを一気呵成に薙ぎ払う。
さながら荒れ狂う焔神の旋風。
巻き込まれればただでは済まさぬと、邪なるものを斬り捨て、斬り伏せ、更に前へと躍り出る倫太郎。
その瞳は決して、カルロスの姿を見逃さず。
踏み出す一歩、一歩をもって距離を縮め、華焔刀の間合いに収めるべく注視して。
「よぉ、迎撃で手一杯みたいだな」
今まで支払った代償の大きさはいざ知らず。
その身を穿った一撃。次なる者への、そしていずれ訪れる勝利への礎となるべくあった負傷も、消えてなどいない。
続き、連ね、重ねるが勝利の道と、カルロスが迎撃にと手繰る邪神たちの動きを見切り、予備動作や予兆、どうしてある攻め手の癖を読んで。
倫太郎がするりと避ける触手の連撃。
同時に、駆ける勢い乗せて、高く跳躍しながら一気に距離を詰めて。
「さあ、その顔に一撃、見舞わせて頂こうかぁ!」
ここはもう刃の間合いだと、燦めく神力宿す華焔刀の刃が、渾身の力をもって振るわれる。
寸前で避けようとするカルロスだが、もう遅い。その左の前腕へと刃が食い込み、骨を断って。
「終の王笏まで続く橋で出逢いし災いなめ海の王。災禍狩りとして、その鬼が如き腕、切らせて貰うぜ!」
その言葉の通り、左腕を斬り飛ばして見せる倫太郎。
吹き出る鮮血は少なく、変わりに流れ出すはどろどろと淀んだ邪神の気配。消耗著しい身体を、限界まで邪神の肉片で補い、そしてその果てが来たのだ。
左の腕の変わりにと揺らす触手の一本。
だが、それで何処まで戦うというのか。
「さあ、さっさと寝てしまいな。足掻く王なんざ、みっともねぇぜ」
「そこに欲あり、願いあり、麗しの姫いるというのに、足掻かない男はさらにみっともないと思うが?」
「……へへっ。言えらあ。なら、骸の海へと送り返してやるさ」
未練となっている欲も。
麗しの姫という存在も。
共に海の底へと沈めば、幸せなる夢で満たされると。
災禍を狩り終えた先、あらゆる者に祝福はあると倫太郎は信じて。
さあと、神霊の力を宿す華焔刀が翻り、カルロスの退路を断つ。
後は進むしかないのだと。
華禱の誓い交わせし存在が為にも。
――何時だって、あんたに恥じねぇ、俺でありたいんだよ
時を未来へと刻み続ける、この胸の鼓動に賭けて。
大成功
🔵🔵🔵
シェフィーネス・ダイアクロイト
アドリブ◎
分身とは対峙したが本人は如何程の力の持ち主か
見極める必要があるな
強大な力も使いこなせなければ宝の持ち腐れ
首輪が外れ気味の邪神共の動きが読み辛いが
邪魔な輩は全て塵と化せ
真向勝負は得意な猟兵に任せ、私は最小の労力で最大の成果を
此の島の特性に興味がある
故に後で調査したい
UC使用
触手を腐らせる薬か毒の瓶を多数用意
瓶を四方八方に投げる
絡んだ触手は不愉快そうに赤衣餓狼で斬る
(初撃さえ耐え忍べば
…ッ数が、幾分多い
耐性の方は…)
本体へ銃で威嚇射撃
触手の動き鈍らせ敵と距離を取る
邪神対応は本体への活路を拓く為に銃で蹂躙
基本放置
二丁拳銃で傷口抉る
呪殺弾で本体の心臓部狙う
其のメガリスは貴様の手に余る代物だ
さてと、吐息を零すは冷艶なる青菫の眸。
まるで宝石のように美しくとも。
情の温もりの一切がないのは、水底に沈んだ宝石。
救いあげる者など、ありはしないのだと。
想いは冷え切りながら、思考を巡らせる。
そう、思慮を重ねた冷徹な計算の上で策を講じ、海図の上に敵を乗せるだけ。
何故、自らが手を出さねばならないのか。
損と傷など、貰い手は数多なのだ。
「真っ向からの勝負など、それらの得意な猟兵たちに任せるに限る」
最小の労力で、最大の成果を。
小賢しいや、ずる賢いと罵るならば、それこそ自由に。
口にしている間に、更なる輝きを懐へと忍ばせて貰うだけだと、一瞬だけ瞼を伏せて。
待ちに待ち、敵の存在が明らかに衰弱するその時。
シェフィーネス・ダイアクロイト(孤高のアイオライト・f26369)は、その瞬間を見逃さない。
「ご機嫌如何かな、自称、海の王?」
礼節は相手の心を逆撫でするように。
産まれ持った気品を奥底に滲ませるからこそ、シェフィーネスの言葉は何処か冷たい氷の棘のように、相手の心に刺さるのだ。
「調子は悪そうだ。あれだけ戦ったのだ。褒めもしないが、蔑む事もありはしない」
だが、その青菫の眸が見つめるのは、カルロスの残された右腕が掴むメガリスの存在。
ああ、と唸る海の王たるカルロス。
深く消耗したとはいえ、『三の王笏』は蠕動する触手と共に、傲然とシェフィーネスの前へと歩み寄る。
「このメガリス、宝が貴様の望みか?」
「ご名答。が、それを持つ本人の力を見極める必要がある……いいや、あった」
「ほう」
メガリスを片手で玩ぶカルロスが目を細める。
続けるシェフィーネスは、斬り飛ばされた左腕を、斬り潰された右の瞳を見て。
「強大な力も使いこなせなければ、宝の持ち腐れ。……ほら、貴様の支配の衰えで、首輪の外れた気味の邪神共が、なんとも読みやすい動きで這いずり回っていよう」
「…………」
ただでさえ、カルロスをもってしても完全に制御出来ないのがこの邪神山脈。
今や大半の邪神が、無秩序な混沌を描きながら、共食いへと興じている。
理由は分からない。
知らずとも構わない。
所詮は意味と価値を持たない、淀んだ存在なのだから。
対峙した事のある分身体に近い程度には弱体化されたカルロスの存在だけが、シェフィーネスの冷たい思考の向く先。
「邪魔な輩は全て、塵と化せ」
告げるシェフィーネスの言葉と共に、擬態を解いて抜刀された赤錆の妖刀が斬閃を瞬かせる。
それこそ凶念を孕むような赤くも禍々しい妖しの刃が、蹲る邪神を両断して。
滴る血よりなお赤い刃文と魔狼絵巻の彫刻が、飢えたる牙の如く輝く。
「さて、カルロス。貴様も王なら敗北した後は分かるだろう。敗者たる王は全てを簒奪され、略奪され、土地も財宝も何も残りはせん」
「つまりは、このメガリスだけではなく、この島も欲しいと」
「鞭論、此の島の戸久世には興味がある。故に後で調査したい。だからと、全てを塵どもの代償として消してくれるな」
不遜に、けれど、美しく鋭利な笑みを貌に乗せるシェフィーネス。
どちらが貪欲なる海の主かと、カルロスが笑う。
ああ、ならばと。
それこそ、我を討ってみよと。
「さあ、隻腕と隻眼の王は、此処だぞ?」
島の面積を対価と捧げ、召喚されるは無数の触手、邪神たち。
土砂を巻き上げ、大地より這い出る無数の触手の牙。
だが、もはや衰えている。支配するカルロスの力は弱まり、狙いは荒く、勢いも遅く。
それこそ容易に捉えられるものを狙い、捕食者としての性質を表すだけ。戦いに用いるなど、到底不向きとなっている。
「ふん……が、所詮は数での押し潰しか。正道だが、それしか残っていないか」
絡んだ触手を不愉快そうに赤衣飢狼の赤き妖刃で斬り払い、前へと進むシェフィーネス。
それでも剣山の有様を呈す邪神の触手の群れ。無傷では通さないと、魔を宿す黒い森の如き姿でシェフィーネスの歩みを遮る。
かつての貪欲さ、勢い、激しさはなくなったとはいえ、これも邪神。
数をもってシェフィーネスへと迫る夥しい、悪意の牙。
即座に用意した多数の瓶を四方八方に投げるが、果たして、これを切り抜けられるのか。
(初撃さえ耐え忍べば……ッ……数が、幾分多いかろうとも!)
乱れ舞う赤の妖刃に撫で斬られ、シェフィーネスへと届かぬ牙たち。
そこへと破裂した瓶が、その裡に宿していた腐食の毒を撒き散らす。
(耐性の方は……いいや)
胸の中で問いただし、目の前で溶けて朽ちる触手たちを見つめる。
『Hope for the best and prepare for the worst』
唇が唱えた意味は、すなわち、備えあれば憂いなし。
無敵の万物を想像から想像し、戦闘に用いるシェフィーネスのユーベルコードに他ならない。
先制という特性上、カルロスへと最初から十全に扱う事は出来ずとも。
「ああ、これで十分。後は蹂躙といこう」
身ごと赤の妖刃を翻し一閃させ、カルロスへの道を斬り拓くや否や、イェフィーネスが手に取るは二丁拳銃。
刃で戦うのが勇猛で誇り高いのか?
魔術という叡智で闇を払うのが、そんなに素晴らしいか?
「知らん。黄金の以外、悉くが裏切るのが世だ。卑劣さで手に入れた金貨の方が、誇り高くとも、たかだか鋼の剣より素晴らしいのは当然だろう」
故にと黄金を錬成するかの如き技を操るシェフィーネスは、誰よりも自らが振るう物の価値を疑わない。
金以外、全ては裏切ると知っているのだから。
己の想いを、金へと変えてしまえばいい。
成す事すべての結果を、金へと繋げてしまえばいい。
――他に得て、懐にはいったものは、悉く裏切ってこの心に疵をつけるのならば、いっそ……。
そうして、カルロスへと次々と撃ち込まれる呪殺の弾丸たち。
威嚇射撃など不要と、脚を射貫き、肩を穿ち、腹部へと弾丸を叩き込み続けて力を奪う。
「蹂躙、といっただろう」
受け取れ、鉛の玉が貴様の命の対価だ。
二丁の銃で次々と撃ち込み、動く余力を奪っていくシェフィーネス。
「負ければ簒奪され、略奪される。当然だろう」
だからお前も、『三の王笏』たるカルロスも、またシェフィーネスを騙し、勝利を裏切らせる切り札を持っているだろうと疑って。
その力を削りに削るシェフィーネス。
弱った物に卑劣だ、一思いにといわれれば、笑って首を振っただろう。
見ろ、あれは生きている。
生きている以上、私のように卑劣で、私以上に道理を弁えぬ外道だろう。
何もかもを、奪い尽くすが人の性だから。
「これで人生の終幕だ」
心得て、弁えろと笑う冷たき美貌。
何も信じないが為に、銃撃の反動で揺れる銀の髪はまた氷のような色味を帯びて。
「其のメガリスは貴様の手に余る代物だ」
呪殺を込めた弾丸が、カルロスの心臓へと突き刺さる。
これにて終わり。
幕引きなのだと、吐息を零すシェフィーネス。
だが生きている限り、全てはシェフィーネスを裏切るのだ。
彼がそれを信じている限り。
金以外は裏切ると、疑うからこそ、事実もかく流れる。
「なっ」
カルロスの右腕が動くのだ。
メガリスを己が体内、心臓へと突き入れ、その肉体の裡へと仕舞い込む。限界を超えて邪神の肉片で癒やし、補った身体がまた更なる脈動を得て。
「切り札を使わせるとは、恐れ入る」
「まったく、何もかもが信じられん。まさに、人生は喜劇の如しか」
「世は所詮、コメディア・デラルテ。即興の喜劇に過ぎんさ。そこで何を求むかが、この海という舞台」
さあ。
何を望むのだと、最後の力を振り絞るカルロスが、一歩踏み出す。
「貴様は、その青い眸に如何なる輝きが映すを望む?」
聞かれる言葉に応じたのは呪殺弾。
身に負傷を受けるより早く、その場から抜け出すシェフィーネス。
「臆病――というよりは、狡猾だな。余力のあるお前を、我は常に警戒して戦わねばならんと」
故にこれは圧力をかける戦術。
島中から銃撃で狙われていると、予感させて、予測させて、精神を削ぐ。
「卑劣とは言わん。なんとも貪欲な、青の眸か」
青菫の眸が瞬き。
再び、呪殺弾がカルロスの身へと突き刺さる。
それでも止まらず、再生していくカルロスの肉体。
さながら、最後の灯火を燃やすように。
命と全霊をかけて、その歩みを再開させる。
もはや従う邪神は少数。
メガリスの権能も、自己維持に使っている以上。
「さあ、どうする。どうでる。――カルロス、貴様の秘宝は、私が頂こう」
冷徹なる青菫は、王が持つ輝きを簒奪すべく、その狙いを定めるのだった。
故に――孤高であり、孤独なのだと。
握るべき手を知らぬシェフィーネスは、裏切らぬ情を知らない。
いいや、忘却に棄てた記憶と温もりこそ、この手を掴んで引いてくれた、誰かの指先だから。
もはや握り返す事はなく。
引き金を絞り、命を奪う指先とするシェフィーネス。
冬の海風は東より吹き荒れ、肌へと突き刺さる寒さをもたらして。
静寂を、そこに。
小さな胸の空白にと、生み出した。
大成功
🔵🔵🔵
鷲生・嵯泉
御大層な題目を唱えた処で借り物の力を振るっているに過ぎん
況してや御し切れぬ力を扱おうなど、愚か者の火遊びだろうよ
目にする者を狂気に陥れると云うのなら別のもので“視る”まで
――伐斬鎧征、血符にて為さん
元より半分は見えぬ身……見えぬものを補う術は心得ている
音、匂いに空気の流れ、放熱と氣の揺らぎ
極集中した視覚以外全ての感覚と第六感で以って動きを見切る
致命に至らぬ多少の傷なぞ構いはしない
其の侭、邪神の力が制御不能に陥るまで、武器受け交えて躱し続けてくれよう
隙が生じれば此方の手番――なぎ払いで道を抉じ開け、怪力回した全力の踏み込みで接敵
其の首落とし、簒奪者に相応しい最後をくれて遣る
疾く潰えろ、残骸
そのようなモノ、紛い物なのだ。
幾ら御大層な題目を唱えた処で、借り物り力を振っているにすぎない。
況してや、御しきれぬ力を扱おうなど、愚か者の火遊びに過ぎないだろう。
童が長大な刀に振り回されるように。
いずれ自滅して、海に溺れていく、残滓に他ならない。
ましてや失った肉体を邪神の肉片で補い、癒やし、失った力を体内に取り込んだメガリスで無理に動かすなど。
「お前の目的も、理性も、心も理解出来ん。ああ、貴様が先に狂気という火に落ちた虫か」
ならばと災禍を払う鋭刀、秋水を抜き放ち、カルロスの前へと立つは鷲生・嵯泉(烈志・f05845)。
烈士たる彼から見れば、足掻きに足掻き、それでもと止まらぬ貪欲なる姿など、見るに耐えぬものなのだろう。
潔く、己が力で目的を達成してみせろ。
そして、それは今生を生きるという懸命の輝きの元でこそ、許されるのだから。
「最早、語る言葉もなし。疾くと消えて、骸の海へと還れ」
「が、我はまだ呼吸し、脈打つ。力あり、財宝ある。麗しき姫と、制した海ある限り、果てはせぬ」
それはさながら、亡者が溢れ変える海の王の呪い。
周囲に満ちて蠢く邪神の狂気と妄念は、これが従えているのだと確信する程。
深く、絡まり。
斬らねば、終わる事のない悪縁と災いと鷲生は知るのだ。
立ち上がる漆黒の巨人。見る者の正気を蝕むあれこそ、まさにその顕れ。
世の悉く、他社を見つめ合い、認め合うとする心を否定する者に他ならない。
ぎりっ、と柄を握り絞める指が強く、強く、秋水へと斬るという一念のみを伝えながら。
黒符に血を与え、備える鷲生。
「目にする者を狂気に陥れると云うのなら別のもので“視る”まで」
元より鷲生は隻眼。
人の視界の半分は見えぬ身なれこそ、見えぬものを補う術は心得ている。
瞼を伏せて石榴のような赤い眸、その鋭い眼光を隠す。
変わりにより鮮明に届くは音、匂いに空気の流れ。
放熱と氣の揺らぎは、確かなる敵の存在と位置を知らせるもの。
極限まで集中すれば視界の有無など微かな違いでしかない。
――所詮、この程度の残滓であるのならば。
視覚以外の全ての感覚と、第六感を以て、振るわれる巨人の拳を見切り、身を翻して避ける所か前へと踊る鷲生。
「――伐斬鎧征、血符にて為さん」
無為と教えてくれようと、頭上より振り下ろされた巨大な腕を踏み付け、更に上へ上へと疾走していく。
身と刀身に纏うのはユーベルコードを粉砕する氣であり、黒符が燃え上がる事で爆発的に増したスピードと反射速度は、もはや邪神如きに見切れるものではない。
駆け上がるや否や、邪神の頸を刎ねるべく奔る鋭刃。
切っ先の瞬きさえ遅れる程の剣速。旋のような剣風を翻せば、自重に従ってぽとりと落ちる邪神の頭。
「目を瞑ったと二体目を隠し出すとは小癪。が、そのような手では届かんと知れ」
鷲生の着地の瞬間を狙って迫る二体目の蹴撃を避けると同時に、すれ違い様にその脚を撫で斬る。
零れたのは血か、それともどす黒い邪気か。
確かめる事もなく、姿勢を正して鷲生が振るうは止まることのない連続剣閃。
邪神を討つ事を目標としているのではない。
尽きせぬものを幾ら討てど意味はない。
雑兵を討って終わる戦など、ありはしないのだから。
ならばと邪神が暴れ回り、斬られた激痛で更に苛烈に攻めるのを誘うまで。幾ら漆黒の巨体が攻撃を繰り出そうと。
「所詮、残滓を掻き集めた木偶だろう」
目にも止まらぬ速度で動く鷲生を捉えるどころか、掠める事さえ出ないのだから。
ならばと制御が完全ではないカルロスの掌から、邪神の操り糸が落ちるのも時間の問題。
瞬間、呆けたように邪神の意識が、息が止まる。
「では此方の手番。ああ、借り物で遊ぶが好きならば、王どころか領主も務まらんと知れ。貴様は」
言葉を止め、周囲をなぎ払う裂帛の剣閃。
道を斬り拓いてこじ開け、例えカルロスが身に纏わせた触手が迎撃に動く気配があれど、致命に至らす傷など構いはしない。
全てを意に介さず、突き進む烈士の切っ先。
鼓動が脈打つより早く、なお迅くと、認められぬ邪なる存在へと、秋水の刃を繰り出す鷲生の凛烈なる姿。
士とはかくやと。
命を燃やし、武芸と刀に信念を灯してこそ。
そして、その姿と褒め讃えられぬ王など。
「所詮はそれまで。浅く、底の知れた、いいや、底の抜けたがらんどうの器よ」
神速を以て怜悧なる三日月を描く刃、止まる事はなしに。
カルロスの頸、その血管と肉、骨の半ばまでを斬り裂いて。
けれど、あと一歩で両断する手前で止まる桐生。
其の首を落とし、相応しい最後を暮れて遣ると燃える気炎はそのままに。
「ふん、最後は相打ち狙いか。何処までも、浅い」
「最後まて、勝利を求め、足掻いて何が悪い? 我は、この、強欲なる海を、統べる王、なるぞ」
「斯様手な手を用いるなぞ、僭王に過ぎん。最後に自ら馬脚を現しただけだ」
鷲生が秋水の柄から手放した片手ではたき落としたのは、邪神の触手が持っていた牙だ。
最後まで一本を隠し持ち、交差の瞬間に瞼を瞑ったままの鷲生の胸へと突き立てようと。
それこそ、自らが遅く、首落とされた音でも烈士の鼓動を奪おうとする、虚ろなる強欲を誇る王を前に。
切っ先よりなお鋭き深紅の眸が、ついに見開かれる。
「貴様など所詮は簒奪者。弱きものから奪い、虐げて更に奪い、尊厳と心までも蹂躙する……などと」
王の名を冠する価値もないと。
頸に埋まった侭の秋水の柄へと再度、諸手を重ねて。
「椿の如く、首落とすには見苦しく。牡丹のように崩れる美もない。梅のように零れる涙とてないならば」
さあ、どうする。
「人として、王として如何に終わるを善しとする」
それこと応えは求めていない。後続、続いて受け継ぐ者に、祝福と光、未来をと渡すが王の務めなれど。
そんなものを残滓が認める筈がないと、鷲生は苦い程に知っている。
問いかけに、けれどカルロスが応えるのはひとつ。
これは過去の残滓だと、呪いの言葉を今際の際に。
「我は『三の王笏』なれば、今に我を砕けど――『終の王笏』にて、貴様を待ち、討ち滅ぼし、海の底へと投げ捨てよう」
「ならば是非もなし。海の果てで待っていろ」
全身の怪力乗りて、止まった刃が再び動く。
「疾く潰えろ、残骸。一も終もなく、此の刃が幕引きを暮れてやる」
貴様は何も持たず。
元の肉体も、邪神の肉片を掻き集めた、残骸そのもの。
そのままで消えろ。
至宝たるメガリスさえ失い。
借り物の力と権能を喪失した身で、ただ骸の海の果てに沈め。
今を生きる者から、未来を奪い取る指などあってはならのだと。
刹那、煌めく切っ先がカルロスの首を斬り払い、『三の王笏』という簒奪者に引導を渡す。
噴き上がる血潮すら、あまりに少なく。
その裡にあるのは、ただ、ただ、底の抜けた小さな器のように。
魂の回光返照の片鱗さえ見せず、その存在を骸の海へと溶かしていく。
――ならば、何を求めたのか。
「或いは、王である事は、ただの手段か」
僅かに憂うは、数多の世界へと侵略するカルロスの願い。
それが真っ当なものではなく、鷲生に言わせれば巫山戯た目論見なのは論ずるまでもない。
だが、果たして、此れのような王が、その中核なのか。
「度し難いは、決して相容れぬからこそか」
故に、鷲生もまた理解を拒む。
過去の残滓などと。
気づけば煙草へと指が伸び、火をつけている。
吸い込む最初の一息は、いつも、苦く、濃く、深く胸中を覆うから。
「……嗚呼、待っていろ。最果ての終の島で。再び、そして幾度でもその首を落として暮れる」
それに浸りながら、深い息を吐きながら。
言葉を零す鷲生。
もう、この島に這い回る邪気はなく。
いずれ、誰かの未来の芽を育てる大地になるだろう。
草花が生い茂り、畑が耕され、ゆったりと牛馬が歩むような。
「そんな誰かの未来を求め、譲れんだけだ」
鷲生は失われた物へと、瞼を伏せる。
取り返せない。取り返してはいけない。
それでも、護るものが今あるのだから。
此の手に在るものと、其の幸いが為に――波打ち、風吹けよ、このはてなき大海たる世界。
全ての命は、終わらぬ海の色から来るものなればこそ。
次なる心が為に、今は秋水を鞘へと戻す。
今はまだ。
此れの役割を終えた時ではないのだと、愛刀の柄を撫でて。
次なる敵の影を探すように、海の先へと石榴のような赤い隻眼が向けられた。
大成功
🔵🔵🔵