羅針盤戦争〜黄泉から来た渡し船
●地獄からの導き
幽霊船を模した漆黒の船島『濡らり島』。河童や魚人といった多くの水妖たちが棲むこの島は、もとはカクリヨファンタズムにあった幽霊船。
ある時は財宝を探しに、またある時は別の島の人々を驚かしつつ暮らしていた彼らに、最大の危機が訪れようとしていた。
空と海が荒れた日。島民の一人である女性の人魚が、荒波をものともせずに駆け抜け、船で佇む異形の妖怪に大きな声で告げた。
「船長!敵の大船団が此方に向かっているわ。間もなくこの島に到着する見込みよ」
「やれやれ、いよいよ来ましたか」
船長と呼ばれた異形の妖怪が、己の力を用いて遠方を目視した。
目線の先にあったのは、紫炎を纏った禍々しい船団……あれは地獄から来た渡し船か。
「……ははっ、これはだめですね」
敵の多くは大型の帆船で、多数の砲台が積まれていた。更にデッキには腰にカットラスを携えた亡霊の船員たちが多数存在する。
対する『濡らり島』の戦力は、島の長を含めた水の妖怪が二十数名程度、武装のないカヌーが数隻、そして島を取り囲む壊れた帆船。
この数であの大船団と互角に渡り合うのは、限りなく不可能に近い。
「此れ迄です……あたしはこの島と運命を共にしましょう。皆は逃げなさい」
「何を言っているんだ、船長!このまま奴等の好きにさせろと言うのか!?」
屈強な東方妖怪が、諦めの姿勢を見せる長に怒号を浴びせるが、どう見ても勝ち目がないこの状況では、そう選択してしまうのも無理はなかった。
このまま島で迎え撃てば、敵船の集中砲火を浴びて島ごと壊滅。砲撃をかいくぐって船に潜入できても、デッキにいる船員たちに斬られる……どの道倒されてしまうのだ。
「おいおい船長!最初から諦めてどうするんだよ!まだ何か方法が……」
「喚かない。私達は既に何度も“終わった”身なのですよ。今更だとは思いません?」
多くの妖怪が狼狽える中で、長をはじめとする一部の者は、滅びを受け入れていた。
だが、それを受け入れない者達も多くいて。
「クソッ、俺は逃げねえぞ……このまま好きにされてたまるか!」
「無理だよ!この人数でどうやって勝つっていうんだい?」
「……もう、一体どうすればいいの?」
纏まりを欠く妖怪たち。だがその間に、破滅の秋が刻一刻と迫っていた。
●起死回生の策
「皆は、フライング・ダッチマンの伝説を聞いたことがあるか?」
集まった猟兵たちを前に、質問を問いかける愛久山・清綱(飛真蛇・f16956)。
普段通りのっぺりとした仮面のように表情を変えないこの男であるが、この日は口調や目の輝きから察すると、相当機嫌がいい事が伺える。
その理由はというと。
「フライング・ダッチマン……英国に伝わる幽霊船の伝承だ。ある一人のオランダ人船長が、吹き荒れる風を罵った結果、呪いを受けた……彼の乗っていた船は幽霊船となり、以来ずっと世界を彷徨い続けている!」
こういうことである。彼はこういった話を好み、一度話し出すと止まらないのだ。
「俺が聞いたものは『船の名前がフライングダッチマン』というものだったが、UDCアースとかで聞いてみるとーーーー」
一向に話をやめない清綱の口が、一人の猟兵によって閉ざされた。
「……失礼、戦場の説明を始める。七大海嘯『鬼火』フライング・ダッチマンの配下『幽霊船の大艦隊』が、水の妖怪たちが住まうに向かっている」
この幽霊船は一隻だけでも強大な力を持つが、此度はそれが戦列を組んでいる。
只、その多くは奇襲用であるため、迎撃の準備を整えた上で挑めば、戦いを優位に進める事ができるーーーーーー筈だったのだが。
「現場はカクリヨファンタズムから落ちた『濡らり島』で、島民は全て水に纏わる妖怪だ。今現在、この島は極めて厄介な状況に置かれている。先ずはこれを見てほしい」
清綱の開いた地図を見て、猟兵たちは驚愕した。
島にある装備品は中型のカヌーと、バリケードのように張られたスクラップの帆船。
然も、予知の時点で既に艦隊が島に接近しており、島民たちは戦うか逃げるかで口論になってしまっているのだという。
「迫りくる驚異を前に小田原評定に陥っているようでは、全滅も時間の問題。先ずは妖怪達を仲裁し、彼らと共に迎撃に備えてほしい」
彼等が口論になった抑々の原因は、圧倒的な戦力差によるもの。故に力を持つ猟兵が現れれば落ち着きを取り戻し、協力してくれることだろう。
「彼等は全員『力自慢で目が非常によく、水中を自在できる』。これを活かした作戦を立てれば、大きな戦果を挙げる事も可能やもしれん。因みに俺ならばーーーー」
猟兵たちはまたしても驚愕した。清綱は自分なら「気概のある島民の背に乗って海中で待機し、潜水艦のように立ち回る」と言うのだ。
確かに彼等は水に強く、人間離れした肉体を持つが、そこまで危険なことをさせるというのか。
「仮でござるよ、か・り。他にも、カヌーを借りて海上戦に挑んだり、スクラップを再利用する策もあるだろう。その辺りは皆に任せる」
自分たちだけで戦うか、危険は承知で島民に協力を頼むか。
全ては猟兵の手に委ねられている。
「改めて言うが、状況はまさに絶望そのもの。だが俺は、そのような状況の中でこそ『兵』の真価が試されると思う」
如何なる窮地でも最後まで諦めずに戦い、起死回生を図る。それは、生きた者の務めだ。
「皆で奴等を黄泉に帰してやろうぞ……兵に、幸あれ!」
甘辛カレー
御無沙汰しております。やると決めたら諦めが悪くなる甘辛カレーです。
今回の物語は、諦めかけの戦士たちを救う物語をお送りします。
●敵
『幽霊船の大艦隊』との戦い。
敵は元々ボス級なので通常の集団戦と比べて難易度は高めですが、多くは奇襲向けと最初から判明しています。
迎撃の準備を行った上で海上戦に臨めば、プレイングボーナスが期待できるでしょう。
●島
東洋・西洋入り混じった水の妖怪たちが暮らす、幽霊船がモチーフとなったカクリヨファンタズム島です。
現時点の装備は中型のカヌーと、バリケードのように張られたスクラップの帆船のみ。
しかし妖怪たちは人間にはない力(怪力・視力・水中移動)を持つため、彼らの力を借りて戦うと大きな戦果を挙げられるかもしれません。
なお、清綱の述べた仮の作戦(士気の高い妖怪の背に跨って待機、潜水艦の要領で戦う)を実行するかは、皆様次第です。
それでは、幽霊の軍勢を黄泉に返してしまいましょう。
兵に、幸あれ!
●他
プレイングは即日受付、断章はありません。
また可能な限り全採用を目指しますが、基本はスピード重視です。
不採用になってしまった場合はご容赦ください。
第1章 集団戦
『幽霊船の大艦隊』
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POW : 『鬼火』艦隊一斉砲撃
【並んだ幽霊船が統制の取れた砲撃】を放ち、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。
SPD : 『鬼火』海賊団
レベル×1体の、【カトラスを装備した右手の甲】に1と刻印された戦闘用【『鬼火』海賊団員】を召喚する。合体させると数字が合計され強くなる。
WIZ : セントエルモストーム
自身の【マスト】から、戦場の仲間が受けた【攻撃回数】に比例した威力と攻撃範囲の【呪詛の紫光】を放つ。
イラスト:猫背
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
朱鷺透・小枝子
亡国の主に搭乗、操縦。
海岸から声をかける。
戦っていないのに、死んでもいないのに、
島と運命を共にするなどふざけているのですか!
『劫火業臨』で巨大化しながら、
生きているなら、敵がいるなら戦うべきでしょう!
酬いもせずに島と運命を共にするなどと、恩知らずも甚だしい!!
武器生成用霊物質で、彼等の為に銛や投網等の武器を生成します
そして、戦うならば勝つと、勝とうと思って戦わねばならない!
負ける事を前提に戦うなど、それこそ不名誉であり、島への不忠だ!!
シールドを纏いスラスターを吹かし、敵船へ高速推力移動。
その巨体をもって、船に当たり、怪力で叩き、裏返し、投げます。海に落ちた物達は、彼等に任せる。傷は直します。
寺内・美月
猟兵間通信網構築
アドリブ・連携歓迎
・当初スクラップ船に爆薬を仕掛け、島からの遠隔操作によって手動で爆発させる。
※安定した爆発のためなるべくスクラップ船を島から離し、爆発の被害に遭わないよう配慮。爆破前には通信で一報を入れるか、照明弾で合図。
・スクラップ船爆破後に此方もUC発動。爆破で破砕したもしくは減速した船舶を集中的に攻撃。
・WIZの敵UCを回避するため、UC召喚の砲兵部隊は設置型対艦誘導弾を用い、観測班と島民による観測結果を基に一撃必殺の射撃を行う。
・島民にはスクラップ船の移動、爆発により海に投げ出された敵兵の駆逐を要請。
●希望の光
いつ敵が襲って来てもおかしくないこの状況でも、妖怪達の口論は続いていた。
この船に自分達が幾度も救われたことを忘れたのか、船長が『逃げろ』と告げたのだからもういいだろうと、彼等の怒号は止まることを知らない。
「(嗚呼、何故こんな事に……)」
手で顔を覆い、溜息をつく異形の船長。最悪の形で訪れた運命を呪ったその時だった。
「待ちなさい!」
ふと、機械から発せられたような、歪んだ声が聞こえた。妖怪達が振り向いた先には、竜の如き頭部を持った、見るも悍ましいほど巨大化したジャイアントキャバリア『亡国の主』に搭乗した朱鷺透・小枝子(亡国の戦塵・f29924)の姿があった。
「戦っていないのに、死んでもいないのに、島と運命を共にするなどふざけているのですか!」
何の抵抗もせず、一人滅びを受け入れようとする船長に怒号を浴びせる小枝子。目に見えて分かるほどの戦力差があるとはいえ、全く抗う意思を見せない其の姿にたまりかねたのだ。
「あたし達は……いえ、あたしは既に“終わった”身。いない者ですよ」
「それでも“生きている”ではありませんか。生きているなら、敵がいるなら戦うべきでしょう!」
小枝子の発した言葉に、戦う意思のある妖怪達も続いた。『何もしないで死ぬより、何かをしてから死んだほうがいい』と。だがそれも、小枝子の癪に障ったようで。
「そして、あなた達も間違っている。戦うならば勝つと、勝とうと思って戦わねばならない!負ける事を前提に戦うなど、それこそ不名誉であり、島への不忠だ!!」
一部の妖怪達がハッと気づく。彼等は確かに『抗う』意思はあったが、『勝つ』意思はなかった。
戦って散れば結果的にこの島は終わる……島を本当に護るには、彼らに勝つ必要があるのだ。
「そんな事言ったって……こんなガラクタだけでどうしろというんだよ!」
多くの妖怪たちが沸き立つ中で、戦意のない妖怪は益々声を荒げた。
そもそも彼等が小田原評定に陥った原因は、この圧倒的というべき戦力差。
腕っぷしは強くとも、大船一隻に互角に戦うことはできない。それに能力頼みな戦い方をしていたために、大砲といった兵器は所有していない。
あるとすれば、船を囲むように置かれたスクラップの船のみ。
「その点に関しては心配ありません」
そこに漆黒の軍服を纏った若い男が姿を現す。寺内・美月(霊軍統べし黒衣の帥・f02790)、彼もまたこの島を護りに来た猟兵の一人だ。
何かいい策はあるのかと、妖怪達は美月に問いかける。
「壊れた船に爆薬をしかけて遠隔操作し、船の近くで爆発させて足止めするのです」
それは、頼りないバリケードの如く張られたスクラップ船を用いた作戦。船に爆薬を仕込み、焼き討ち船の要領でタイミングよく爆破させ、動きが鈍ったところを一斉に砲撃する作戦だ。
「時間がありません。至急帆船の用意をお願いします」
「分かった!デカい奴を用意するぜ」
美月の言葉に、妖怪達は船置き場に一斉に向かっていった。気づけば、戦おうとせず逃げようとしていた妖怪たちも帆船の取り外しに協力している。
只一人、うつむいたままの船長を除いては。
多くの船に大量の爆薬が乗せられたその時、遂に艦隊の第一陣が其の姿を現す。
敵船の観測は目が効き、かつ水を自在に移動できる妖怪たちが受け持った。極めて危険な任務ではあったが、彼らに恐れの心は一片たりとてなかった。
「お待ちください。もしもの時のために、これを」
そこに小枝子が妖怪たちに、霊物質で銛や投網といった武器群を妖怪たちに託していく。霊物質で装備できた装備があれば、万一倒し切れなかった船員と戦う事も可能だろう。
「準備完了……これより作戦を開始する」
美月の遠隔操作によって爆薬を乗せた船が一斉に動き出し、それと同時に幽霊船も姿を見せた。
船の軍勢は突如現れた幽霊船に勢いよくぶつかっていき、その様を海から確認した見張りたちが本拠に残った者たちへすぐさま合図を送っていく。
「行けます!」
「了解。全打撃部隊に発令…『地獄雨』発動」
合図を確認した小枝子の声に対応するように、爆弾を起動する音が静かに鳴る。幽霊船にぶつかった爆薬船が次々と勢いよく爆破していく中、美月に召喚された幾多の砲兵たちが一斉に制圧射撃を仕掛けていった。
超高速の装填からの砲撃は、まさに機関砲の如し。鳴りやまぬ砲弾の雨が幽霊船の艦隊を一気に吞み込んでいき、遂には一隻撃破することに成功した。
「此処からは私も行きます」
敵の混乱が確認されたことを見た小枝子も、シールドを纏って一気に仕掛けていく。この異常気象ゆえにスラスターによる移動も厳しいものがあったが、それでも『亡国の主』がよろめくことはなく、砲撃によって統制を失った幽霊船への接近に成功する。
「呑み込め」
近づくことさえできれば、幽霊船に残された運命は只々蹂躙されることだけだ。
『亡国の主』の巨体を以て敵の船に当たっていき、その腕でよろめいた船を一隻掴んでは海に叩きつけ、更に掴んでは海に叩きつけ……その姿はまさに、怒れる巨人の如き姿だった。
砲弾を受けた直後の艦隊に反撃する術はほぼ皆無に久しく、幽霊の船員とその大船は巨人の剛腕によって次々と海原の底へ堕とされていった。
弾幕の如き激しい砲撃、そして巨人の如き人型兵器の手によって幽霊船の第一陣は瞬く間に総崩れとなり、猟兵達は厳しいと思われた前哨戦に勝利することができた。
絶望に呑まれた『濡らり島』に、微かな希望の光が差したのである。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ラヴィラヴァ・ラヴォラヴェ
【アドリブ・連係歓迎】POW
幽霊って美味しいのかなぁ?
それはそうと、宴会の邪魔はさせないよ☆
事前に「肉体改造」を自身や島民に施し、視力関係を強化!
UC【素晴らしく肉肉しい晩餐】にて部下の肉塊を召喚し、肉の防壁と肉の砲台をメインとした砦を事前に形成!
戦闘は砲台で部下の肉塊を飛ばし、敵艦隊を超重力で圧し潰し沈没させる!
視力関係の強化で狙って飛ばしやすくなるはず!
可能なら妖怪達にも協力して撃ってもらおう!
ついでに増殖した肉塊は「料理」の材料にして皆に賄いとして振る舞う!
勝利の暁には幽霊肉で(!?)「宴会」だ!!
唐草・魅華音
劣勢時の決断の速さと判断は悪くない。けれど、時間稼ぎは必要でしょう?同行してくれる人を1人借りれれば、その時間稼ぎを請け負うよ、船長さん。
片道で問題ないよ。時間が稼げれば…べつに敵艦隊が壊滅してても問題ないでしょう?
……任務、鬼火海賊団の壊滅。任務開始するよ。
UC発動させ、ドローンを展開。【情報収集】して【戦闘知識】と照らし合わせ敵艦隊の砲撃予測地点を割り出し、そこを同行者に伝え、回避行動はその人を信じて任せるよ。
近づいたら同行者には撤退するよう伝え、【弾幕】を張って乗りこみ先を確保。乗りこんで【ダッシュ】で敵を翻弄しながら、刀で【切り払い】銃を【乱れ撃ち】して船を墜とすよ。
アドリブ・共闘OK
●妖怪たちは新たな地へ
前哨戦にて、艦隊が崩れ去っていくことを一人目の当たりにした船長。
だが、依然として幽霊船の進軍は止まらず、島民を撤退させる意思は変わらずにいる。だが勿論、彼はまだ逃げるつもりはない。
「(……敵はまだ多い、消耗戦になる前に逃がすべきか)」
「劣勢時の決断の速さと判断は悪くない」
現われたのは、唐草・魅華音(戦場の咲き響く華・f03360)。彼女は戦況を見てすぐさま味方に撤退を命じた船長を責めることはせず、寧ろ妥当だと判じていた。
「彼等を助けてくれるのですか」
「撤退に時間稼ぎは必要でしょう?私がその時間稼ぎを請け負うよ、船長さん。但し……一つだけ条件があるよ」
魅華音が提示した条件は、自身の作戦に1名の同行者を出すこと。その背を借りて敵船の付近まで運んで貰い、船のデッキに潜入して無力化する作戦。成功した暁には、撤退を許すとの事だった。
「それは本当なの?送ったら私の自由は約束してくれるのね?」
話を聞いていた人魚の女性が、水の音と共に現われる。恐らく彼女は、最初から逃げようとしていたものの、何もせぬまま一人で逃げる事に抵抗を抱いている者だと思われた。
「勿論。片道で問題ないよ。べつに敵艦隊が壊滅してても問題ないでしょう?」
水妖である以上、泳ぎにも潜りにも自信がある。其れに何かを果たした上で逃げれば、仲間に恨まれることもない。人魚は魅華音が出した条件を快く受け入れたようだ。
「幽霊って美味しいのかなぁ?」
「マズいんじゃねぇのぉ?って、オデらもオバケみたいなもんかなぁ」
一方、瓦礫のように積み重ねられたスクラップの上ではラヴィラヴァ・ラヴォラヴェ(ハラペコかわいいコックさん(可食・高栄養・美味)・f31483)は自身の能力を用いて、敵の迎撃に用いる砦を張っていた。これは増殖する肉塊による、重力属性の砦である。
「それはそうと、宴会の邪魔はさせないよ☆」
この他にも自身と協力者に強化を施し、見張りや砲台の準備など役割分担をしつつ作業を行っていたが、これがちょっとした問題を起こしたようで。
「おーい船長!あっちの方角に島が……あ、こっちのほうがいいかも」
見張りを頼まれていた妖怪が、勝手に新天地を探している。元良かった目が更によくなったため、より遠くの場所を目視で見る事が可能になっていたのである。
だが、この状況で任務を放棄する彼の為体には、流石のラヴィラヴァも注意せざるを得ない。
「……ごめん、チョっとだけ真面目にやってほしいな★」
「わーってるよ。“終わるまで”は手伝うからさ……あっ、早速お出ましだ」
その時、見張りがかなり遠くにいた幽霊船の存在に気づく事に成功する。この速い報告のおかげで、ラヴィラヴァの部隊は砲撃の準備を瞬時に整えられ、万全の態勢で戦闘を迎えられることに成功した。
だがこの時の彼女は、後にこの言葉が本当になる事を知る由もなかったのである。
「よーし、砲撃準備!みんなも協力してね」
砲台に立ったラヴィラヴァが、妖怪達と共に弾込めを始めていく。ラヴィラヴァ本人を含めた砦にいる者たちは直前に視力を強化していたため、敵に狙いを定めることは容易くなっていた。
「ここだ、撃てーっ!!」
的確に狙いを定め、落ちる地点を計算しつつ、轟音と共に重力を込めた一撃を一斉に放つ。
吹き飛ぶ超重力の砲弾が的確に大船の船体を捉えては的中し、その圧力でぐぐぐっと浸水させていき、やがてその姿が見えなくなるほど沈んでいった。
「弾はたくさんあるから、どんどん撃っちゃってもいいよ!」
更に、弾は自動的に増殖するものであったため、切れる心配もない。撃った後に再び弾を込めれば、十秒おきに再発射することも可能。
すさまじい力を誇る重力弾が、幽霊船の数を一気に減らしていった。
「……任務、鬼火海賊団の壊滅。任務開始するよ」
砲撃によって艦隊が荒れる中、魅華音は自身の周囲にドローンを転回。同行を受け入れた人魚の背に跨って現われた船へ向かった。海に落ちないよう足を踏ん張らせ、敵の船の砲撃地点を割り出す。
「こっちに砲弾が向かっているよ!」
更に移動の際は落ちてくる場所を水上移動に適した人魚に的確に伝えることで、スムーズかつ安全な移動を行う事ができ、瞬く間に接近に成功。
仕上げは弾幕を張り、乗り込み先を確保できれば乗り込みが可能だ。
「協力してくれてありがとう。後は私に任せて、早く逃げて」
「ありがとうね、恩に着るわ」
役目は果たした。心身共に軽やかになった人魚の女性が、意気揚々と去る。
その時彼女が発した合図を、視力の良くなった見張りが気づかない筈がない。砲撃を行っていた戦っていた妖怪達も、陣の外に出る事も躊躇わず海へ飛び込んだ。
「え、ちょっと!出たら危ないよ!?」
「オデら、“終わるまで”手伝ったよ。だからもう自由さァ!」
「アデュー!」
彼等も、『安全な脱出』を条件に猟兵達へ協力していた者たちだった。終わるまでというのはこのことだったのである。すると他に協力していた妖怪達も高笑いを上げ飛び降り、新天地を目指し去っていく。
「勝利の暁には宴会と思っていたけど……まあいっか★」
ラヴィラヴァはやれやれと苦笑いを浮かべ、彼等を見送りつつ砲撃を続けた。
其の頃、大型艦の乗り込みに成功した魅華音が右手に『MIKANE』、左手に『野戦刀・唐獅子牡丹』を構え、襲撃のタイミングを伺っていた。
「我はこの戦場を識り、御する」
流法(モード)、深識長慮。放ったドローンによって情報を収集・解析したことで戦術を構築した魅華音が一気に仕掛け始めた。
高速のダッシュで銃を持った敵の動きを翻弄しつつ、中距離に位置する敵をマシンガンによる乱れ撃ちで仕留め、カトラスで斬りかかってきた敵を斬り払っていく。
船員たちの攻撃方法も奪っていたため、彼等の攻撃を見切って躱すことは容易。効率的かつ完璧な戦術をとってくる相手を前に、船員たちに勝ち目はもはやないと言っても過言ではなかった。
「……お前で最後だね」
やがて最後に残った船長と思わしき敵の身も断ち、大型艦にいた船員たちは全滅。『濡らり島』に向かった幽霊船の艦隊が、また一つ崩壊したのだった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
水鏡・怜悧
詠唱:改変、省略可
人格:ロキ
「島の防衛、お手伝い致しましょう。荒れた海を安全な場所まで逃げるのは、上策とは言えませんからね」
無謀な戦いをしてまで守りたい場所というなら、自力で守れるようになって頂きましょう
幽霊船とて、船の形で移動する以上舵のあるものも存在するはず。水妖さんたちに見てきて頂きます
得られた情報を元に金属・毒・呪属性の触手で簡易魚雷を作ります。爆発して舵を壊すと共に、呪詛返しで幽霊船としての力を削ぎましょう。紫光の威力も弱められますし奇襲船の機動を奪えれば優位に立てます
紫光は光属性の触手で反射し防ぎます
動けない敵へは大砲で砲撃して貰います。砲弾への呪詛込めは水妖さんにお任せしましょう
●連携
「島の防衛、お手伝い致しましょう。荒れた海を安全な場所まで逃げるのは、上策とは言えませんからね」
戦いが続く中、水鏡・怜悧(ヒトを目指す者・f21278)も島に残った妖怪達と合流し、協力する旨を告げた。只彼は『護りたいものがあるならば、自力で護らなければならない』と考えていたが故に、初めから妖怪達に過酷な任を与える事を決めていた。
「幽霊船とて、船の形で移動する以上舵のあるものも存在するはず。皆さんに見てきて頂きます」
「承って候」
あまりに危険を伴う任であったが、闘志のある水妖たちは躊躇いもせずに飛び込んでいく。自分達は、好きでこの島に残った。今更後戻りをすることなどできまい。
「他の皆さんはまだ使えそうな砲台を探してください」
島に残った者達達は、遠距離からの砲撃を担当。スクラップ船の砲台は幾年も置いたままにされたが故にひどくさび付き、見るも無残な姿になっていたが、今ばかりはこれを使うしかなかった。
戦支度が整い、偵察部隊の配置も終わったその時、敵の襲来を告げるように風が吹き始めた。
偵察に向かった者の報告によれば、戦力は帆船型が3隻と、大型の櫂船型が1隻。
怜悧はその情報をもとにユーベルコードを解放。様々な属性を混ぜ合わせた幾多の触手を召喚、その一つ一つを小さくすることで簡易的な魚雷を生成した。
「これで……敵船の動きを止めます」
『行け』と告げるように怜悧が腕を振るうと、魚雷の形になった触手が幽霊船が現れた場所目掛けて海中を猛スピードで進み、次々と爆破してはその船体を大きく揺るがしていく。
進軍を大きく阻害された幽霊船の艦隊はふらふらとよろめきつつも、纏われた紫炎を怜悧のいる『濡らり島』に次々と放つ。
だが、炎の勢いは現れた時と比べるとあまりにも弱く、陣を覆うように張りめぐらされた光属性の触手にかき消される。
「炎の勢いが弱くなっている……?」
「触手ちゃんはこういうことも出来るんですよ?」
実は、作られた魚雷には呪詛返しの効果も含まれていた。元々呪詛によって燃え上がっていた炎はその力を弱められ、炎の勢いを弱体化させられていたのである。
「向こうの敵は皆様にお任せしましょう」
怜悧の魚雷によって動けなくなった船を仕留めるのは、妖怪達の役目。動力源である帆に狙いを定め、力の込められた砲弾を幽霊船目掛けて放ち、見事帆船を1隻仕留める事に成功。
やがて再び一斉発射された魚雷が、後方にいた櫂船に到達する。
櫂や船体で勢いよく爆発していくと、動力と呪詛を同時に封じ、その巨大な船体が瞬く間に海の底へ還っていき、現れた艦隊は全滅。
互いの力を活かしあった怜悧と妖怪達の、見事な連携による勝利であった。
大成功
🔵🔵🔵
メフィス・フェイスレス
敵も帆船、なら風向きの影響を受けるはずよね
私が奴らの注意を上空に逸らすから、その間に「微塵」(コレ)持ってって船底にくっつけてきなさい
UCで発生させた嵐で敵の進行妨害、嵐に乗せて散布した「飢渇」を甲板に投下して船員を攻撃
更に自身も空中ですれ違い様に帆を「骨身」で斬り落とすなどして戦力を削ぎつつ囮になる
迎撃の砲火は「オーラ防御」「対空戦闘」で回避・防御
「微塵」を妖怪達に持たせて水中移動させ、立ち往生している敵船隊の船底に設置させ、「爆撃」で船底に穴を開け
または開いた穴から妖怪達を侵入させて「破壊工作」を仕掛け沈没させる
あとの掃除は妖怪達に任せるわ
得意の水中戦なら亡霊なんて物の数にもならないでしょ
●微塵に還る
甲板から幽霊船の出現を待機しながらメフィス・フェイスレス(継ぎ合わされた者達・f27547)は、妖怪達と作戦会議を行っていた。
「私が奴らの注意を上空に逸らすから、その間にコレを持ってって船底にくっつけてきなさい」
手渡していったのは「微塵」。「飢渇」から変じるそれは、爆風と共に「骨身」の破片や「血潮」を撒き散らす爆弾だ。上空でメフィスが攪乱しているその間に、爆弾を取り付け沈没させるのである。
勿論やってやろう、と一人がそれを受けとろうとしたその時。
「………分かりました。あたし達にお任せを」
妖怪達が爆弾を受け取る前に、今まで沈黙を保っていた異形の船長が足を踏み出し、出された「微塵」を手に取った。その右手には、水に濡れて頼りない姿になった一本の櫂。
「アンタ、“最初から諦めてた”って聞いたけど……少しはやる気になったみたいね」
何もせずしてあっという間に敗北を悟り、挙句の果てにはたった一人で命を絶とうとしたこの男の為体を、メフィスは此処に来るより前に知っている。
しかし彼女は彼を咎めたり追及するようなことはせず、寧ろ歓迎するようだった。
「私が囮になるわ。アンタ達は合図を出すまで待機して」
妖怪達を率いたメフィスが、滑空しつつ現われた幽霊船の真上に立つ。そこにはある考えがあった。
彼女が高度を少しずつ上げたその時、彼女の背に肥大化した骨身の翼「宵闇」が現われ、戦場を覆うように吹き荒れていた風が益々勢いを増していく。
「見下ろすなぁ!!」
メフィスは巨大な翼を羽ばたかせると、真上から一気に仕掛けた。
其の身にオーラを纏って放たれる砲弾をかいくぐり、手にした武器で帆やマストといった部位をばっさばっさと斬り捨て、船の力を一気に弱めていく。
更には敵船の甲板に嵐を乗せて散布させた、あらゆるものを捕食する眷族「飢渇」がまき散らされた。幽霊をも喰らうそれは砲撃を行っていた船員たちへすぐさま向かっていき、そのまま喰らうことで砲撃を一気に食い止めたのである。
低空からの阻害と強められた嵐を同時に受けた幽霊船の帆が逆の方向へ膨らみ、その勢いがあっというまに失われていく。そう、敵の艦隊は幽霊船とはいえ、それでも風を受けて進む帆船。
進む方向から逆向きから強風を浴びれば、裏帆を打って速度を大幅に落とすこととなる。
機動力を奪われた幽霊船は、奇襲はおろか前に進むことも封じられたのだ。
「今よ、「微塵」を取り付けなさい!」
メフィスの合図と同時に、海面で待機していた妖怪達が一斉に動き出した。其々がその素早い泳ぎで気づかれることもなく接近、船の底へ爆弾を取り付けていく。
任を終えて船から完全に退避したその時、凄まじい轟音が戦場に鳴り響いた。
紅と紫の炎に包まれ、その船体がみるみるうちに粉々になっては海へ消えてゆく。
死せる者達の船が、「微塵」に還るのだった。
大成功
🔵🔵🔵
栗花落・澪
いい覚悟だね
残るは勇気、逃がすは優しさ
どちらも綺麗な心の表れだ
でも…根底は同じだよね
戦おう、一緒に
バリケードが脆いなら近づけさせなきゃいい
足場に広げるは【破魔】を宿した美しい★花園
幽霊はここに近づけない
誰か手伝ってくれる?
船の傍まで僕を運んで
それから…置いて逃げて
策があるんだ
風魔法を組み合わせた【オーラ防御】で呼吸確保
海中を進み、船の近くで【多重詠唱】
呼吸は確保したまま風魔法の【属性攻撃】で渦潮を起こし
船を直接攻撃
【聞き耳】で敵の様子を確認し妖怪さんを戻らせ
敵がより少ない側から植物魔法で伸ばした蔦をワイヤー代わりに
混乱する船内に飛び乗り
攻撃される前に【指定UC】
破魔の【浄化】で全方位攻撃するよ
ヨハン・バルクレイン
『諦めるな。見込みはある』
そうだよ、そのために俺らが来たんだからね
力自慢の皆、帆船を出来るだけ綺麗に立ててほしい。そこに俺が【UC】の応用で霧に浮かぶ大船団に見せてやるんだ。奴らの視線を釘付けにできれば大成功【化術、存在感、誘き寄せ】
俺らは【レディ】に乗って潜航して船尾側から襲いかかろう。泳ぎ上手の皆、道案内をお願いしてもいいかな?【騙し打ち、高速泳法、空中浮遊】
それじゃエレンあとは任せた
ー人格交代ー
修羅場じゃないか。覚えてろ
甲板に留まって【竜槍】のリーチを活かして【範囲攻撃、串刺し】。俺より大柄なら足に槍を引っ掛けて転かす
レディは船のへりにいる奴を叩き落としてやれ
落ちた奴ら?沈むんじゃないか
●天へ還る魂
猟兵たちの獅子奮迅の活躍により、『濡らり島』に現われた幽霊船は大幅に数を減らした。
だが、その戦いの渦中に紛れ、逃げ出してしまった者達も大勢いる。戦いが始まる前には二十名ほどいた妖怪達も、気づけば7名。例え勝利を飾れたとしても、これから元の形に戻ることは絶望的。
島を護るために戦ってきた者達の中にも、疑念の表情を見せる者がいた。
「勝てたとしても、こんなんじゃな……船長、どうするよ」
「……責を果たします」
船長は櫂を掴むと、一歩ずつ海に向かって足を踏む出す。悩めるもの達を置いていき、再び大海に出ようとしたその時だった。
「諦めるな。見込みはある」
「あなたは……」
死地へ赴かんとする彼の足を、ヨハン・バルクレイン(ふたりぼっち・f13945)が止める。
形は違えど、再び諦めようとした事を、彼は見逃さなかったのだ。彼はこの島を「終わったもの」と見做し、自ら散ろうとしているのである。
生きて護れている限り、諦めてはならない。ヨハンはそうは鋭いた。
「いい覚悟だね、船長さん」
そこへ、栗花落・澪(泡沫の花・f03165)も声をかける。
残って戦わんとする心は勇気、逃がさんとする心は優しさ。形は違えど根底は待ったく同じで、「仲間を護らんとする」美しき心の表れだと、澪は敬意を示していた。
「戦おう、一緒に」
「そのために俺らが来たんだからね」
残された妖怪達は、全員が二つ返事を返した。島の安寧を取り戻すために。
「皆、帆船を出来るだけ綺麗に立ててほしい」
船長の命で残った6人は、ヨハンと共に島を護る役目を担う。島そのものである船と、スクラップから出てきた船の群を怪力で次々と整列させていくと、小規模ながら船団のような姿になった。
だがやはり、頼りない姿なのは否めない。これでどう戦うのだろうかと妖怪は疑問を抱く。
「この島全体を、大船団に見せてやるんだ」
ヨハンの考えた作戦は、幻影蝶を用いて敵を惑わすもの。島全体を大艦隊に見せかけ、狙いをそちらへ向けさせる。その間に潜航しつつ接近し、海中から一気に攻撃するのだ。
そして澪は戦いを前に、島全体を頼りなく覆う廃材に迫りくる幽霊船を跳ねのける破魔の力を宿していった。相手と対を成す力を与えれば、敵が接近するのは難しい。
後は、艦隊まで澪を運ぶ妖怪が必要となるだろう。
「誰か手伝ってくれる?船の傍まで僕を運んで……」
「お任せください。あたしが運びましょう」
誰よりも速く名乗り出たのは、ずっと戦いを避けていた異形の船長。猟兵達の想いと強さが、彼の心を大きく動かしたのだろう。全てを諦め、滅びを受け入れた者の姿は最早存在しない。
全ての準備が整ったその時、敵が現れた事を告げるように空と海が荒れ始める。
一行は見張りの出した合図とともに、海へ飛び込んでいった。
「泳ぎ上手の皆、道案内をお願いしてもいいかな?」
船尾側からは空をも泳ぐ巨大なシャチ『レディ』に飛び乗ったヨハンが、妖怪達と共に海を進んでいく。目の前にある多くの敵船はまだ此方には気づいていないものの、いつ見破られるかは分からない。気取られる前に、スピードをつけて付けて海原を一気に進んでいく。
レディの力を借りて飛び上がると、長大な槍を右手に構えて一隻の船に乗りあがった。
「それじゃ、エレン。あとは任せた」
任せた?確かこのシャチは『レディ』と呼ばれていたような。
シャチ以外にも、まだいるのだろうか。同行した者達の一部が首をかしげる中、一行はヨハンの雰囲気が変わっていることに気づいた。
「修羅場じゃないか。覚えてろ」
現われたのはヨハンに宿された弟「エレン」。目を覚ました瞬間にあった敵塗れの光景に悪態をつきつつも、【竜槍ボリス】を大きく振るっては船員たちの其の身を斬り伏せていった。
甲板から次々と船員が襲ってくる中、巨大なレディも海面から援護を行う。船のヘリに位置する船員たち目掛けて海を大きく揺るがし、其の身を海の底へ堕としていった。
その連携によって船員たちは大きく数を減らしていき、一隻の船の動きが止まった。
正面からは、海中を進む船長の背に跨った澪も船への接近に成功した。
姿を見せず密やかに詠唱文を唱えると、海中から渦潮を巻き起こしていき、前線で砲台を撃つ船の動きを大きく揺るがしていく。既に傷を負っていた小型の一隻は此の一撃で沈めることができた。
「ありがとう船長さん、後は僕に任せて逃げて」
「はい、お先に……助けてくれて、本当にありがとうございます」
協力を惜しまなかった彼に別れを告げると、澪は意を決して敵船に蔦を伸ばした。
辿り着いた位置は、船員たちが集まる甲板の真ん中。その周囲には剣を抜き、今にも斬りかからんとする幾多の船員達と、彼等を率いていたと思われる者が一人。
「かかれ」と言わんばかりにそれが手を振るい、剣が一斉に抜かれたその時。
『全ての者に光あれ』
突如、身体がふわりと浮いた澪の身体が眩く輝き始め、戦場を一気に包む。淡い光が邪なる力を浄化し、船にとどめられていた魂を一つ一つ還していく。
こうして完全に船員たちの姿が消え去った時、最後の幽霊船たちはその役目を終えたかのように炎が消えていき、最期は光の粒に姿を変えて天へ昇って行った。
大成功
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