6
羅針盤戦争~来なさい猟兵、私は一撃で倒せる

#グリードオーシャン #羅針盤戦争

タグの編集

 現在は作者のみ編集可能です。
 🔒公式タグは編集できません。

🔒
#グリードオーシャン
🔒
#羅針盤戦争


0




●蛸も鳴かずば獲られまい
 そのコンキスタドールは、名をすきゅりん、といった。
 器用な手としても働く、うねる蛸足。
 吸盤の先には魚雷や錨、いかつい武器を引っさげ、
 腕には海賊の証たるカトラスを握る。

「ふ、ふふ……あはは……!」
 これだけの得物を手にすれば、笑い声も漏れるというもの。
 準備は万端、士気たっぷりに、すきゅりんたちは空へ向けて叫んだ。

「来なさい、猟兵たち! 体力自信ないから一回殴れば倒れるけど!
 要は殴られなければいいのよ、殴られなければ!!」

●フラグ回収珍道中~雷光と人食い鮫を添えて~
 しゅっ、しゅっ、しゅっ。
 わん、つっ、わん、つっ。だっきんぐっ。
 謎のかけ声でシャドーボクシングをしていたリグ・アシュリーズは、
 あなたたちの方を向くなり笑顔でこう言った。

「一回殴れば倒れるコンキスタドールをぺちんしに行きましょ!」
 このグリモア猟兵、血も涙もない。
 だが今はグリードオーシャンを巡る一大事の最中。
 攻め入る隙を見つけたとあらば、積極的に攻め込むのが吉だろう。

 とはいえ、万事無策で楽々勝利、とはいかないのがこの世の習わしだ。
 辿り着くまでが大変なのよね、とリグは漏らした。

「今回相手取るすきゅりんはね、力は弱いかわりにメガリスの力を得てるの。周囲の海域をまるごと雷電と竜巻で閉ざしちゃうくらいの、強力な力よ」
 とん、とん、とん、とん。
 竜巻の威力たるや、猟兵たちを運ぶ鉄甲船が飛ばされ引き裂かれるほど。
 いくら本体が弱くとも、近づけないのでは戦いづらい。
 おまけに竜巻の中では鋼鉄人喰い鮫が襲ってきたりと、片時も油断はできない。

「幸い、海域の近くまでは鉄甲船で案内できるわ! そこから先をどうやって切り抜けるかは、皆の腕の見せどころね!」
 キャバリアで突き進んだり、電撃自体に耐性を得たり。
 生命の埒外たる猟兵であれば、挑む人の数だけ策も生まれるはずだ。

 ひねって、アッパー。ひねって、右フック。
 頼りにしてるわ、と目配せひとつ残し、リグの手にグリモアの転送光が宿る。

「すきゅりんを全部倒せば海域の嵐はおさまるわ! 道中はびりびりさめざめでフラストレーション溜まるかもだけど、ここで皆が頑張れば七大海嘯への道も開けるはずよ!」
 だから今は着実に、ボディブローをねじ込むように――しゅっ、しゅっ。

「皆、気を付けていってらっしゃ……あっ」
 転送前の猟兵たちが最後に見たのは、手からグリモアがすっぽ抜け倒れるリグの姿。
 ずべーん、どてちん。
 このグリモア猟兵、しゃべるか運動するか、どっちかにしてほしいところではある。


晴海悠
 お世話になっております、晴海悠です!
 いよいよ開幕の羅針盤戦争、今回はちょっぴり風変わりなオブリビオンが待ち受けている様子。
 雷の嵐を抜けるまでは、油断こそできませんが。
 とりあえずノータイムで! 獲りにいきましょう!

『シナリオについて』
 1章のみで完結する戦争シナリオです。
 また、下記のプレイングボーナスに沿って行動すると、戦いが有利になります。

 プレイングボーナス……竜巻と電撃に対抗する。

『1章:冒険』
 電撃の竜巻に閉ざされた海域を突破し、その先にいるすきゅりんを(ワンパンで)倒しましょう。
 冒険の章ですが、フラグメントで示された困難にどのぐらい対処できたかで嵐突破の成功率が変わります。
 とはいえ、頂いた工夫はすべて加点方式で見ますので、どうぞ恐れず前のめりに考えてみて下さい。
 すきゅりんたちは殴ると一言あれば倒せます!

『プレイング受付について』
 シナリオ公開直後より受付し、成功条件を満たすまで執筆します。
 「工夫により高い成功率が見込める」または「キャラの個性が活きている」プレイングを中心に判定を行い、順に現地へとご案内する予定です。
 参加人数によってはまた次回となる場合もございますが、それでもよろしければぜひお越し下さい。

 それでは、皆様の豪快な右ストレートをお待ちしてます!
132




第1章 冒険 『電撃の竜巻で封鎖された海域を突破する』

POW   :    竜巻に巻き込まれた凶暴な「鋼鉄人食い鮫」の襲撃から身を守りつつ、すきゅりんのいる中心に向かいます

SPD   :    絶え間なく発生する稲光をかわして、すきゅりんのいる中心に向かいます

WIZ   :    竜巻の風に逆らわず、強風の流れを見切って、すきゅりんのいる中心に向かいます

👑7
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

火神・五劫
ふむ、蛸に似た足を持つ敵か
捌いて火を通せば食え…
いや、よそう
腹を壊してはいかんからな

鉄甲船が飛ばされる程の時化に対抗するとなると
俺の場合、小細工するよりは
身体ひとつでぶつかるが吉だろうな

念の為、火影の柄に絶縁テープを巻いておくか
そして

【鳳火連天】発動
必ず道を切り拓き、敵を撃つと強く誓い
『オーラ防御』を展開し
海面すれすれを浮遊しつつ一直線に全速前進!

進む最中も道中の驚異を『見切り』
持ち前の『怪力』で存分に刀を振るおう
『衝撃波』を起こす程の剣圧で
『なぎ払い』進み続けるぞ

波も、風も、雷も、鮫も
俺の行く手を阻むモノは全てぶった斬る!

すきゅりんとやら、捉えた!
(全速からの『頭突き』)

※連携、アドリブOK


レムリア・ザラタン
なるほど、自然現象を操って生み出した要塞というわけか
一筋縄ではいかんだろうが…なに、航海に危険が付き物なのは、宇宙でも重力下でも変わらんさ

さすがに人の体でこの荒れた海を渡るのは厳しいな
海上に顕現させた本体へ乗艦
展開したバリアフィールドの【電撃耐性】と【盾受け】で荒れ狂う雷と竜巻に対処しよう
…とはいえバリアだけで強引に抜けれるとは思っていない
艦のセンサーで周辺の【情報収集】をし、風の流れや海流の動きを見切って艦を進めるとしよう

後は鋼鉄鮫の対処か
装甲が厚いならば内部から攻めるまでだ
パルスウェーブの【範囲攻撃】で鮫達に【精神攻撃】を行い動きを止め、その隙に突破する

標的は見えたか?
ならば斉射開始だ


龍・雨豪
引きこもりなんて放っておけば良さそうだけど、侵攻ルート上に居られると確かに邪魔よね。
ちょっとノックしてクレーム入れてくるわ。

少し雷が激しいけど、こんなのは私達にしてみれば棲家に帰るようなものよ。
とはいえ、今の姿のままじゃ厳しいから『水龍の権能』の天候操作で竜巻を中和、もしくは減衰させてから悠々と内側に入らせてもらいましょ。
身の程を弁えない鮫が居たら、その鼻っ面をカウンターでぶん殴って再起不能にしてやるわ。

さてと、後は引きこもりの蛸さんを追い払うだけね。
「そこのあなた。私達が通るのの邪魔だから、引っ込んでてくれないかしら?」
すきゅりんの頭をノックするようにコツンと叩くわ。龍人の怪力で、だけど。


サーラ・ビアンコ
アドリブ歓迎 WIZ

ふむ、すきゅりんとやらを退治すれば良いのじゃな。
竜巻かー……妾軽いので心配じゃな。何もしなければ綺麗に上まで飛べそうじゃ。鮫が来ても一口じゃの。
電撃耐性があるのでびりびりはしないじゃろうが……どうやって抜けるかのぅ。
Pugno di gatto……妾の力でその辺の瓦礫なんかを鮫と風避けに動かし、時には乗ってサーフィンなんぞかましながら竜巻を抜けるとしよう。足場の確保は習熟しておる、踏み誤ったりなどするものか。
向かってきた鮫には鼻っ面に肉球ぱんちでどかーんじゃ。聞いた事があるぞ、鮫は鼻頭が弱点らしいのぅ。
抜けきったらすきゅりんというのもぱんちじゃな。
竜巻、大変だったのじゃぞ。


戒道・蔵乃祐
ニコリネさん(f02123)と共闘
この海域の航行船舶や、近海の住人は大丈夫でしょうかね

恐らく。七大海嘯と同等の呪いを発揮するメガリス
すきゅりんも彼等と同じく、カルロス・グリードが召集した王笏配下に相違ないでしょう

ただ先制攻撃能力ではなく
或いは嵐の制御に、力の大半を奪われてしまうのかもしれませんね

ならば話は明快簡潔。この海を越えて往くのみ
いざ!参りますか!


【地獄道】で海を凍らせて通り道に
限界突破+切り込みでニコリネさんのビークルに追従

落雷は念動力+聞き耳で気配を察知
投擲した戦輪を念動操作。上空で避雷針にして直撃を躱す
唵!

鋼鉄人食い鮫もすきゅりんも怪力でぶっとばします
天罰覿面
生命賛歌!(腹パン)


ニコリネ・ユーリカ
団長(f09466)と🐙退治

すごい大時化!
海域封鎖が続けば猟師も海賊も商売あがったり
航路の安全と自由経済は取り戻してあげたいところ
さぁ頑張るぞ(腕捲り)(だが袖は無い)

あの可愛い水玉パーカーが電光の羽衣?
メガリスって形に囚われないのね
これだけ脅威を見せてワンパンで沈むなんて
んふふ……乗り越えたくなっちゃう

勿論、お供します!(敬礼)なんだけど
鉄甲船でも進めない海域を……ウェーイ氷の道が出来たよ!
凍結路なら私に任せて下さいな
スタッドレスタイヤを装着した営業車Floral Fallalに乗り込み
落雷を車の装甲に流しつつ進む

接近が叶えばALLMakersTide!
宙空で帯電した工具をお見舞いするわ!


ビスマス・テルマール
電撃竜巻と鮫のコンボとは達が悪いですね……ここはこの鎧装で行きますか。

●POW
『早業』でUC発動
電撃竜巻には

『オーラ防御』に『属性攻撃(ゴム)』を込め、万が一に備え『電撃耐性』と『激痛耐性』で備え

『空中戦』で『推力移動』で加速し『第六感』で『見切り』して『残像』で回避

鋼鉄人食い鮫達は
電撃で消えてしまわない様に、或いは食われても『時間稼ぎ』も出来る様に
『属性攻撃(ゴム)&電撃耐性』を込めた『一斉発射』の『砲撃』を『範囲攻撃』の『弾幕』も含めて放ち、可能なら『地形の利用』もし『盾受け&ジャストガード』してやり過ごし

その隙を掻い潜って突破を
すきゅるん発見後『一斉発射』で

※アドリブ絡み掛け合い大歓迎



●彼方の雷雲
 遠く、海の彼方を見よ。
 あれに見ゆるは雷鳴の嵐、メガリス『雷光の羽衣』によってもたらされた騒乱。近づけば激しい雷に撃たれ、巻き込まれた鮫までもが襲い来るという。
「電撃竜巻と鮫のコンボとはタチが悪いですね……」
 ビスマス・テルマール(通りすがりのなめろう猟兵・f02021)。ご当地の味を追い求めるクリスタリアンの少女は、どうしたものかとため息まじりに思案する。
 どう料理しても美味しくはならない取り合わせ。ならばさっさと切り抜けるが吉と、機械の鎧を召喚する。
「ここはこの鎧装で行きますか」
 赤、黄、緑。三色のオーラがビスマスの身を包む。光が収まった時、ビスマスはハワイアンなめろう――アボカドやバナナをイメージした明るい色の鎧装に早着替えしていた。
「ふむ、蛸に似た足を持つ敵か」
 火神・五劫(送り火・f14941)敵の姿を見てふと呟く。
「引きこもりなんて、放っておけば良さそうだけど。通り道に居られると確かに邪魔よね」
 嫋やかに髪をかきあげ、龍・雨豪(虚像の龍人・f26969)はこざっぱりとした感想をよこす。
 しかし彼女とは考えていたことが違ったようで、五劫は「いや、そうではなく」と歯切れの悪い言い方で答えを濁した。
「捌いて火を通せば食え……」
 訪れる気まずい沈黙、波の音。
 残念ながらこの海域ではカモメもウミネコも鳴いてくれない。
「別に、止めはしないけど。ちょっとクレーム入れるだけだから、後はご自由に」
「……いや、よそう。腹を壊してはいかんからな」
 思いとどまる五劫を横目に、雨豪は「ふうん」と気のない返事をした。
「ふむ、すきゅりんとやらを退治すれば良いのじゃな」
 彼方の異変を察知するように、サーラ・ビアンコ(La fanciulla del gatto・f27059)の青い瞳が細められる。
 近づく嵐の気配に毛づくろい。べたつく潮風の味をぺぺっと吐き出し、続いて肉球の手入れにも余念がない。
 忙しないサーラをよそに、レムリア・ザラタン(Stargazer・f28070)は感心するような声をあげた。
「なるほど、自然現象を操って生み出した要塞というわけか」
 敵をとりまく雷鳴の海域は、中心へ向かい渦の様に風が吹きつけている。
 海面をも揺らす竜巻に、サーラは困ったように眉根をよせた。
「竜巻かー……妾軽いので心配じゃな。何もしなければ綺麗に上まで飛べそうじゃ」
 サーラの懸念は、体の小さい彼女ならではのもの。身につけた不思議な守りでびりびりは平気としても、風は防げず、鮫が来ればバクンと一口だろう。
「一筋縄ではいかんだろうが……なに、航海に危険が付き物なのは、宇宙でも重力下でも変わらんさ」
 勇気づけるようなレムリアの言葉に、サーラもまた頷きを返す。
「そうじゃのー。さて、どうやって抜けるかのぅ」
 乗り切る術を考えながら、サーラはじっとピンク色の手のひらを眺めた。

   ◇    ◇    ◇

 船が進むほどに波は高まり、うねる大海の抱擁にニコリネ・ユーリカ(花売り娘・f02123)はたまらず声をあげた。
「すごい大時化!」
 鉄甲船はみるみるうちに、嵐の海域へと近づいていく。重心を低く保っていたのが幸いした――普通の船ならとっくに転覆していただろう。
 戒道・蔵乃祐(荒法師・f09466)は、案ずるように周辺海域の様子を探る。
「この海域の航行船舶や、近海の住人は大丈夫でしょうかね」
 幸い、いまのところ通りがかる船もなく、人々が巻き込まれる様子はない。だが、遠くからも見える大竜巻。それは即ち、この海域を通る航路が軒並みストップしている事を意味する。
「海域封鎖が続けば、猟師も海賊も商売あがったり。航路の安全と自由経済は取り戻してあげたいところね」
 商売人ならではの心配を口にするニコリネに、蔵乃祐は然り、と頷きこう続ける。
「恐らく。雷光の羽衣とやらは、七大海嘯と同等の呪いを発揮するメガリス。すきゅりんも彼等と同じく、カルロス・グリードが召集した王笏配下に相違ないでしょう」
 あくまで推測ではあったが。敵の海域へのルートを塞ぐように現れたあたり、まったくの無関係ではないだろう。
「ただ、自身を強化までしないあたり。或いは嵐の制御に力の大半を奪われてしまうのかもしれませんね」
 御しえない力を持て余しているのだとしたら、攻め入る好機にほかならない。
「これだけ脅威を見せてワンパンで沈むなんて。んふふ……乗り越えたくなっちゃう」
 笑い声の中に、ニコリネはイタズラめいた嗜虐心を覗かせる。
 船はまもなく、航行不能な域に差し掛かろうとしていた。これより先は、猟兵たちの手で切り開かねばなるまい。
「さぁ、頑張るぞ」
 半袖服のない袖を捲り、ニコリネは気合を入れ直した。

●迸る雷霆
 押し寄せる外海の波は、いよいよ船の舳先をへし折りそうだ。
「さすがに人の体でこの荒れた海を渡るのは厳しいな」
 口にした言葉とは裏腹に、レムリアの声に困難の色は滲まない。
 次の瞬間、荒波を割って巨大な戦艦が姿を現す。これこそが彼女の本体――眠れる、神出鬼没の武装艦。
「さあ、艦を進めるとしよう」
 雷撃を受け流すべく多重のバリアを展開し、先端で風を割るように船は往く。
 レムリアの切り開く洋上を、白い小さなものが駆ける。流れ着いた木片をサーフボードがわりに、サーラが波間を縫って切り抜ける。
「足場の確保は習熟しておる、踏み誤ったりなどするものか」
 見えざる神の手、もとい猫の手『Pugno di gatto』。肉球で掴んだ漂着物を足場に、サーラは荒れ狂う海の上を駆け渡っていく。
 二人が海上を行くなら、ビスマスは空を。雷に撃たれないギリギリの高度を保ち、鎧装のスカート部分からジェットを噴き上げ突き進む。

 次々と進みゆく仲間の背を見て、五劫もまた決意を固める。
「これほどの時化に対抗するとなると、小細工するよりは身体ひとつでぶつかるが吉だろうな」
 ぞっとしない話ではあるが、芸に秀でた身ではない自覚がある。刀の持ち手を絶縁テープで包み、いざや当たれと心を決めた。
「我が魂の炎よ、天翔る翼と成れ!」
 魂より出づるは鳳火連天、鳳を象るオーラが身を包む。
 必ずや道を拓き、敵を討つ――誓いを胸に強く羽ばたけば、今こそ飛翔は叶う。雷撃を阻むように焔を巡らせ、海面すれすれを矢のように飛べば、蒸発した海水が瞬く間に霧の道を作っていく。
「有無! 豪気なお方は見ていて気持ちがいいですね」
 蔵乃祐はさも頼もしげに鳳の姿を見送り、自身も続こうと声を張り上げる。
「駆けて敵を討つ、話は明快簡潔。いざ! 参りますか!」
「勿論、お供します! ……と気持ちは大賛成なんだけど」
 敬礼を決めたポーズのまま、ニコリネは「どうやって?」という疑問に隣を見る。
 蔵乃祐はニコリネの疑問符を気にも留めず、手にした大連珠に念力を籠めた。
「鉄甲船でも進めない海域を……ウェーイ氷の道が出来たよ!」
 蔵乃祐の司る、地獄道。眠れる大自然の力を呼び起こし、顕現させたのは氷の道。敵陣へと御神渡りの如く繋がる道は、辛うじて車が通るほどの太さを築き上げた。
「ここまでお膳立てされたら張り切っちゃう! 凍結路なら私に任せて下さいな」
 花屋の車と侮るなかれ。スタッドレスタイヤを履かせた営業車『Floral Fallal』に乗り込み、ニコリネは徐々にアクセルを踏み込む。
 5速マニュアル四輪駆動とクセのある車だが、乗りこなせば味というもの。落ちる雷を外装に受け流し、ニコリネの車はしだいに加速を強めていった。

   ◇    ◇    ◇

 ニコリネが自慢のドラテクで駆る車の上、蔵乃祐は護衛を務めるように精神を研ぎ澄ましていた。
 落雷の近づく音を感知し、念力で飛ばした戦輪を上空に飛ばす。
「――唵≪オン≫!」
 戦輪を避雷針代わりにして直撃を躱すが、なおも腕ごと持って行かれそうな衝撃が身を伝う。
 見れば前方、先に飛び出した五劫も雷鳴の嵐に巻き込まれ、行き場を失っていた。
「……む、これは」
 拙いな――と口にする間もなく稲光が飛び交う。どうやら、最も雷の激しくなる海域に飛び込んだとみえる。
 このまま突き進めば、猟兵といえどどうなるか分からない。誰もが覚悟を決めた時、異変は起きた。
「少し雷は激しいけど。こんなのは私達にしてみれば、棲家に帰るようなものよ」
 魔力を帯びた髪を風の中へ垂らし、海原へ命じるように手の甲を掲げる。
 大陸風のドレスは雨に濡れていたが、雨雫の重みなど水龍の権能を発揮した雨豪の敵ではない。
「これぐらい、造作もないわ」
 水柱が雷を打ち消し、水面から空へと逆巻く風が嵐の勢いを弱めていく。
 本音を言えば少し、今の姿にしては無理をしていたが。敵を前に手控える性質でもないと、雨豪は余すところなく力を出していく。
 やがて、すぐ間近に雨上がりの空が見えた。すべて相殺とはいかずとも、強風だけならば先へ進むには十分だ。
「……ありがとう、助かった」
 短く礼を言い添え、五劫が飛び立つ。いくらか勢いの衰えた嵐の只中に、一行は余力を残して突き進んでいった。

●飢えた牙
 一難去ったと喜ぶ間もなく、更なる脅威が姿を現す。
 竜巻の中に黒い背びれが見えたかと思えば、次の瞬間それは襲い掛かっていた。
 鋼鉄の体を持つ、人喰い鮫。長きに渡り自由を奪われた鮫たちは、強靭な顎を誇示するように開き、猟兵たちへと飛びかかる。
「わ、妾は美味しくないのじゃー」
 自分を飲み込もうとする鮫の大口を、サーラは跳んで躱す。次々と襲い掛かる鮫から逃れようと、木の板にしがみつき風の中を駆けあがっていく。
「これは、全力で迎え撃つほかなさそうですね――Namerou Hearts Tuna! Banana! Avocado!」
 電子音のような声を発しながら、ビスマスがゴム弾を弾幕のように発射する。敵の第一波は撃退するも、とめどなく襲い来る鮫の嵐はキリがない。
 割って入った五劫が刀で斬りつけるも、鮫たちは次にどこから襲って来るか予測がつかない。
 窮地の仲間たちに活路を開くべく、レムリアは戦艦の操作に専念する。
「星の海とも電子の海とも勝手は違うが……いかな海であろうと航行能力は備わっているさ」
 展開していたバリアフィールドを変形させ、叩きつけられる鮫を弾くようにして先陣を切る。
 猟兵たちの先頭をゆく、レムリアの戦艦。甲板を借りて降り立った雨豪は、バリアを抜けてきた鮫を真正面から受けて立つ。
「身の程を弁えなさい」
 怪力の拳を、鮫の頭部に叩き込む。鋼鉄の頭部が轟音と共にひしゃげ、鮫は苦しそうに甲板でのたうち回った。

   ◇    ◇    ◇

 蔵乃祐の拳が、鮫の一体をまた屠る。
 暴れる巨体を海へと流した蔵乃祐は、今まさに飲み込まれそうなサーラの危機に気が付いた。
「む。危ないですよ……!」
 割って入ろうにも、間に合わない。鮫の顎が小さなサーラを噛み砕かんと開かれ――ばしん、と目に見えぬものがその頭部をはたき落とした。
 力の主は、非力にも見えるサーラ自身。神秘を秘めるふにふに肉球で、不可視の拳を見舞ったのだ。
「ぶしつけな輩はぱんちでどかーんじゃ。聞いた事があるぞ。鮫は鼻頭が弱点らしいのぅ」
 一説によれば、神経の集まる鮫の鼻は叩かれると嫌な場所らしい。
 不意打ちがよほど効いたとみえて、鮫は肉球の跡をつけたまま海へと沈んでいく。
 次々と鮫をはたき落とし、あるいは斬り裂いて海へ帰していく猟兵たち。しかし嵐に紛れ襲ってくる鮫の数は多く、対処がとても追いつかない。
「一体ずつではキリがないか……無論、バリアだけで抜けれるとは思ってないさ」
 ここぞ力の使いどころと見て、レムリアが航行速度を僅かに弱める。
 推力の代わり、前方に放たれたのは音の波。艦から放たれた索敵のソナーが、嵐の中に潜む鮫たちの居所を表す。
 潮目を読むのに使っていた全機関の力を、レムリアは攻撃へと振り向ける。
「装甲が厚いならば内部から攻めるまでだ……大人しくしてもらおうか」
 耳障りな音と共に、パルスウェーブが放たれる。ノイズ混じりの音波は次第に周波数を上げ、鮫の神経を狂わせていく。
 いかに鋼鉄の体を持とうと、巨体を動かす精神が萎えてはただの重りに過ぎず。嵐に乗る勢いを失った鮫たちは、力なく海へと落ちていった。

●さあ、ドアを開けて(物理)
 嵐の海域を抜けた先。
 そこには果たして、この嵐を巻き起こしていたすきゅりん達が待ち構えていた。
「げ……あの嵐を抜けちゃったの!?」
 やば、と声をあげて撤退の姿勢をとるも、遅い。すきゅりん達たちは既に、猟兵の射程圏内に捕らえられていた。
「さて、と。後は引きこもりの蛸さんを追い払うだけね」
 蛇に睨まれた蛙、なんてたとえがあるが、雨豪の正体は蛇どころではない。
 すきゅりん達の顔が瞬く間に青ざめる様子は、血の引く音すら聞こえそうだ。
「標的は見えたか? ならば斉射開始だ」
 レムリアの言葉を引き金に、猟兵たちの反撃が始まった。無数のレーザーが降り注ぎ、叫び声をあげる間もなく敵の姿がかき消える。
「あの可愛い水玉パーカーが雷光の羽衣? メガリスって形に囚われないのね」
 ニコリネはすきゅりんたちの容姿に意外そうに目を瞬く。
「或いは目に見えぬ羽衣を別に纏っているのかもしれませんが……倒してしまえば同じでしょう」
 蔵乃祐の言にそれもそうね、と笑って返し、ニコリネは無数の工具を手に掲げる。
「さて、とびっきり元気な子たちをお見舞いするわ! モノ作り魂の潮流、耐えきれるかしら?」
 宙に投げ上げた工具は雷電を帯び、幾何学模様を描いてすきゅりんたちへと襲い掛かる。
「ここまでのお礼、たっぷりさせてもらいますよっ!」
 ビスマスが無数のゴム弾を展開し、回転する勢いで一斉に放つ。鋭く食い込む弾力に、みぞおちを撃たれたすきゅりんが「ほげっ」と乙女にあるまじき声をあげた。
 続くように駆ける蔵乃祐もまた、連珠を握りこんだ拳を振りかぶる。
「天罰覿面、因果応報――生命賛歌!」
 ぼごん。女の子姿のオブリビオンにも容赦なく放たれる腹パンに、すきゅりんは「ちょっとは加減してよぉ……!」と涙まじりに訴え消えていく。
 伝え聞いた通り、悲しいぐらいに一撃で倒れていくすきゅりんたち。うち一体はサーラに見逃してくれるよう懇願したが、嵐にずぶ濡れの彼女にはもう通じない。
「恨み言はなしじゃ。妾たちとて竜巻、大変だったのじゃぞ」
 遠慮なくてしてしと肉球ぱんちで額を小突けば、すきゅりんは「あ、ちょっとイイかも」的な至福な笑みで倒れ込む。
「波も、風も、雷も、鮫も。俺の行く手を阻むモノは全てぶった斬る!」
 嵐を抜けきってなお勢いを弱めぬ五劫は、敵が目で追うのも敵わぬ速度で迫る。
「すきゅりんとやら、捉えた!」
 全速力、かーらーのー、ああっとまさかの頭突き! パチキです!
「そっち!? 斬るっていったじゃん!!」
 ツッコミに抗議の思いを託し、理不尽そうに見ながらすきゅりんは倒れ伏す。
 とうとう最後の一体となったすきゅりんに、雨豪がすたすたと迫る。
「そこのあなた。私達が通るのの邪魔だから、引っ込んでてくれないかしら?」
 背筋を立て威風堂々と歩み寄る雨豪に、すきゅりんは恐れおののき後ずさる。
「ねえ、待って、あなためちゃくちゃ力強いでしょ? チャイナ着た美人さんとか絶対地雷じゃん! もう私一人じゃ悪さできないから、見逃して……!」
 命乞いをされても歩みを止めず、雨豪は至近距離ですきゅりんの顔をのぞき見る。
「少しばかりお外に出たらどうかしら? この世界の、外だけど」
 当社比150%の優しい声で告げながら、額にコツンとノックをする――もちろん龍人の怪力をもって、だ。
 ぱちゅん、と何かが弾ける音。白目をむいたすきゅりんは「無理ィ……」と言葉を遺して仰向けのまま、風に消えていき。

 ほどなくして収まる嵐に、猟兵たちはこの海域の制覇を確信するのだった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2021年02月05日


挿絵イラスト