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羅針盤戦争〜野ばらは見たり

#グリードオーシャン #羅針盤戦争 #七大海嘯 #カルロス・グリード #オブリビオン・フォーミュラ #夕狩こあら #七大海嘯『一の王笏』カルロス・グリード

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「――妙な話になったな」
 細指を顎に宛てて、訝し気に言つ。
 枢囹院・帷(麗し白薔薇・f00445)も、これまで「辺境伯の紋章」や「番犬の紋章」の話をした覚えはあるが、それは吸血鬼が支配するダークセイヴァーでの事で、まさか、グリードオーシャンでその存在を知るとは――と、驚きを隠せないでいる。
 然しカルロス・グリードの分身体『一の王笏』が、ダークセイヴァーの力を具現化しており、かの世界にしか存在し得ない「紋章」を装備しているのは事実。
 帷は緋色の瞳を目尻に寄越すと、静かに言を継いで、
「より上位の吸血鬼から与えられる紋章は、取り付いた宿主を超強化する寄生虫型のオブリビオンだったが……今回のそれも、宿主を大きくパワーアップさせている違いない」
 更に今回の宿主は、分身体とはいえオブリビオン・フォーミュラ。
 異形の強化を果した彼は、凄まじい力を発揮するだろうと警戒を促した帷は、交睫ひとつ置いて説明を足した。
「これから皆にお願いしたいのは、ダークセイヴァーより落ちて来たと思われる島での一戦。紋章を装備した一の王笏と戦い、彼をやっつけて来て欲しい」
 転送場所は、野ばらの広がる丘の上にある、荒廃が進む古城。
 その島はダークセイヴァーのように常闇に包まれており、人の気配は無く手入れもされていない為、城壁は所々イバラに覆われ、崩れている部分もある。
 彼は「闇霧の紋章」「紅き月の紋章」「黒百合の紋章」という三種の紋章の力を巧みに使い分け、猟兵に先制を仕掛けて来るので、先ずは敵の攻撃に対する対策が必要になる。
 敵の先制を耐え抜いたなら、必ずや勝機を掴めようと、頼もしき猟兵の精悍なる表情を眺めた帷は、あわく咲んで、
「畢竟、簡単な話だ。どの世界の紋章も、等しく潰してしまえばいい」
 言うや、ぱちんと弾指してグリモアを喚んだ。


夕狩こあら
 オープニングをご覧下さりありがとうございます。
 はじめまして、または、こんにちは。
 夕狩(ユーカリ)こあらと申します。

 このシナリオは、『羅針盤戦争』における『一の王笏』の襲撃に対抗して戦う、一章のみで完結するボス戦シナリオ(難易度:普通)です。

●戦場の情報
 ダークセイヴァーから落ちて来たと思われる島、「野ばらの丘の城」島。
 野生の薔薇が広がる丘の上に廃城がある為、そのように呼ばれています。
 建物の景観は、スロバキアにある廃城「スピシュ城」をイメージして頂ければ幸いです。

●敵の情報:七大海嘯『一の王笏』カルロス・グリード
 グリードオーシャンのオブリビオン・フォーミュラの「分身体」です。
 ダークセイヴァーにしか無い筈の「紋章(取り付いて宿主を強化する寄生虫)」を装備し、異形化して襲いかかります。
 また当シナリオに於いてのみ、其々の紋章は身体の各部位に刻まれており、「闇霧の紋章」は右手の甲に、「紅き月の紋章」は左足の脛に、「黒百合の紋章」は背中に刻まれています。

●プレイングボーナス『敵の先制攻撃ユーベルコードに対処する』
 このシナリオフレームには、特別な「プレイングボーナス」があります。
 これに基づく行動をすると、戦闘が有利になります。

●リプレイ描写について
 フレンドと一緒に行動する場合、お相手のお名前(ID)や呼び方をお書き下さい。
 団体様は【グループ名】を冒頭に記載願います。
 複数での参加者様は一括採用のみで、個別採用は致しません。
 このシナリオに導入の文章はございません。

●プレイングと採用について
 早期完結を目指し、10名程度の採用とさせて頂きます。
 戦場は常闇に包まれていますが、プレイング冒頭に「✞」を記して頂けましたら、光源を用意した状態で戦闘を描写致します。文字数の節約にご活用下さい。

 以上が猟兵が任務を遂行する為に提供できる情報です。
 皆様の武運長久をお祈り申し上げます。
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第1章 ボス戦 『七大海嘯『一の王笏』カルロス・グリード』

POW   :    闇霧の紋章
【紋章の力】に覚醒して【触れた者の生命力を奪う黒き霧の体】に変身し、戦闘能力が爆発的に増大する。ただし、戦闘終了まで毎秒寿命を削る。
SPD   :    紅き月の紋章
【無数の三日月型の刃】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
WIZ   :    黒百合の紋章
自身の装備武器を無数の【触れたものを呪詛で侵す黒百合】の花びらに変え、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。

イラスト:hoi

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種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

シル・ウィンディア


うん、プレッシャーすごいね…。
でも、負けてられないからっ!!

対UC
全身を【オーラ防御】で包んで
【属性攻撃】で聖属性を【オーラ防御】に付与
呪詛に対して多少有効な防御になるはず…

あとは【第六感】を信じて
黒百合の動きを【見切り】
【残像】を生みだす速度の【空中戦】で回避し続けるね

直撃コースの場合は聖属性の【属性攻撃】の魔力【誘導弾】で相殺を図るね

攻撃は
【魔力溜め】を行いつつ詠唱開始!

回避機動で接敵して…
光刃剣と精霊剣の二刀流でヒット&アウェイっ!
あたっても当たらなくても、そのまま離脱だね

魔力が溜まって、詠唱時間が十分になったら
【限界突破】の【全力魔法】での《指定UC》!

さぁ、全部持ってけーっ!!


神樹・鐵火
カルロス...貴族...
あぁ、かの日の沈まぬ国のハプスブルグの者か?
高貴なる青い血はどうした?
家訓曰く、争いは趣味ではなかったと聞いたが...
いや、人違いならそれでいい

光源は私自らだ、周囲の茨ごと聖拳の火で焼き払う

攻撃は羅気による激痛耐性で軽減し
強い攻撃は轟拳を直撃寸前に炸裂させ相殺(ジャストガード)
見切りとダッシュで避けられる攻撃は避ける

霧になる紋章は...右手か
攻撃で伸びてきた右手をカウンターで掴み(武器受け)
怪力任せに粉砕する
...まぁ、どうせ元に戻るだろうがな
紋章が砕かれたら一時的に変身が解けて隙が出来る
すかさず美崩八勁をそのツラに叩き込んでやる


須藤・莉亜
「なんとなく気に入らないから、噛み砕いて喰らい尽くして吸い尽くして殺すね。」

自身の強欲髪を伸ばし毛先を炎に変え光源に。
呪詛の花びらは暴食外套の捕食能力とArgentaでの武器受けで防ぎ、なるべく手足以外の部位に呪詛がいかないように凌いでいく。

凌げたら、UCで吸血鬼化し、先ずは受けた傷を治してっと。
んでもって、敵さんの生命力を全力で喰らう。
喰らった生命力を自身の強化と再生に充て、呪詛をもらった部位は斬り落として再生させながら敵さんの喉元に噛みつきに行く。
あー、でも紋章は背中だっけか。
んなら、背中でも良いや。

生命力を奪い続けることで弱体化させ、手足を斬り刻めば噛み殺せるかな?


冴島・類


野薔薇も城も、随分雰囲気あって
こんな時でなきゃ、ゆっくり見たかったものだがね

紋章で強化された力、どこまでさばけるか
放たれる無数の刃の軌道を
致命傷になるものはフェイント交えた回避と
薙ぎ払い放ち、軌道を僅かでも変え
次手に反撃に出る為
肉は切られても、手足を落とされぬように
全てかわせるなんて思わない
取捨選択を、見切り使い瞬時にしたい

初手を受け切れば、瓜江を先んじて駆けさせ
その影から死角狙い踏み込み斬る
と、見せかけて
相縁で糸から分離させ操る瓜江に破魔の魔力込め
紋章のある脛を狙い、蹴撃を

やぁ、三つもつけてすごいですね
その満ちた力

この戦場の猟兵達が戦いやすくなるよう
力削げたなら
紋章ごと、砕いて潰してしまえ


月夜・玲
紋章…紋章かあ
別の世界の力を使いこなすフォーミュラか
侵略者っぽいといえば、そうなのかも
まあいいや、兎に角殴って確かめるそれが一番だもんね
さあやろうか、一の玉葱!
…一の王笏!


EX:I.S.T[BK0001]に騎乗
ライトで敵位置を確認しながら、射程に入らないよう周囲を走らせる
そして速度を上げて一気にカルロスへ突っ込む
ように見せかけて、敵攻撃射程の直前で私は離脱
バイクのみを突っ込ませてそれに攻撃させる!

ああ…バイクの修理費が…

兎も角、飛び降りると同時に《RE》IncarnationとBlue Birdを抜刀
【雷鳴・解放】を起動
高速移動で接近して稲妻を纏った斬撃を至近距離で放つ!
稲妻の味は如何?


リーヴァルディ・カーライル
…妙な気分ね。異界に赴いたはずが、まるで故郷に来たみたい…

…だけど世界が変わろうと私の為すべき事に変わりはない

…お前を討ち果たし、この世界を救ってみせる

暗闇を暗視し戦闘知識を頼りに敵の殺気や闘争心を見切り、
大鎌を武器改造して大楯に変形させ魔力を溜め、
呪詛耐性のオーラで防御して気合いで攻撃を受け流しUCを発動

…攻撃が来る。私の後ろに…!

…っ、耐えきった…。ならば、今度は此方の番よ

…お前から受けた呪詛を、まとめて叩き返してあげるわ

大楯に展開した魔法陣から召喚した限界突破した黒炎鳥を、
空中戦機動の早業で突撃し残像のように敵の体内に切り込み、
黒炎鳥が蓄えた呪詛を暴走させて闇属性攻撃の爆発を起こす


荒谷・ひかる
どうしてこんなところに紋章が!?
まさか、島ごと一緒に落ちてきちゃったんでしょうか……
って、落ち着いてる場合じゃないですっ!

先制攻撃に対しては、まずは一目散に逃げる
その際、風の精霊さんにお願いしたり、お手製爆弾を使う等して襲い掛かってくる黒百合の花弁を吹き飛ばして身を守る
暗いので、逃走経路は闇の精霊さんの先導に従う

何とかして反撃体制が整ったら【幻想精霊舞】発動
炎と風の精霊さんの力を合わせ「炎の竜巻」を発生させてもらい
黒百合の花弁を呪詛ごと焼き尽くしつつ、敵本体を攻撃します
炎は浄化の力のシンボルでもありますから、呪詛だってへっちゃらなはずです!


月舘・夜彦
【華禱】
この世界では存在しない紋章というものも宿しているのです
分身体であれ、そのままにも出来ません
私達が戦うことで情報も得られるのならば尚更

常闇には視力と暗視、聞き耳にて情報を集めて対応
先制攻撃は防御に徹する
刀を抜く暇が無い場合は残像にて回避しながら抜刀
見切りから二刀による武器受けによる防御
武器落としにて軌道をずらして負傷を減らす
負傷は激痛耐性、継戦能力にて反撃に備えられるよう致命傷は避ける

次は、私達の番です

先制攻撃を凌いだ後、駆け出して速やかに敵に接近して反撃
早業の幾重刃、2回攻撃併せ生命力吸収
幾重刃にてより強くより確実に、刃から生命力を吸収していき持ち直す
倫太郎と連携して接近戦を維持


篝・倫太郎
【華禱】
分身体、な……
まぁ、叩き続けりゃいずれは本命にあたるさ
紋章の謎についても同様だろ……
その為の一戦、きちっと対処してこう

先制対応
聞き耳や暗視も駆使して、見切りと残像で回避
回避不能時はオーラ防御でジャストガード
華焔刀で受け流せる攻撃は受け流す

負傷は激痛耐性と攻撃に生命力吸収を乗せて対処
以降の回避行動も同じく

業返し使用
先制攻撃を受けた際の攻撃は無効だよな
ま、気を取り直していくさ

ダッシュで接近し
吹き飛ばしと衝撃波を乗せた華焔刀でなぎ払い
二巡目の敵の攻撃は致命傷になりそうなのは回避し
華焔刀で確実に受けて流す

効果が切れるまで写した攻撃をお返し
夜彦の攻撃が通り易いよう、出来るだけ派手に立ち回っとく


カイム・クローバー

へぇ、あの忌々しいクソッタレな紋章をお持ちとは。お目が高い、って言うべきか。
アンタ、欲しいモンはどんな手を使っても手に入れるタイプ?

生命力を奪う黒き霧の体。ハッ、折角の伊達男が台無しじゃねぇか。
顔も服も分からねぇなんざオススメしないぜ、んなUC。
魔剣を構えて、魔力を秘めた斬撃。黒き霧の体を斬り伏せるぜ。
直接ダメージを与える訳じゃねぇが、強制的に変身解除だ。
そうそう、紋章の力の一つは右手の甲にあるんだっけ?可能なら右腕を叩き斬る。最悪、斬り落とせなくてもダメージが与えられりゃ良しとするか。

ま、分身体のアンタに言っても無駄かもしれねぇが。
機会がありゃ、本体に伝えとけ。――直ぐに会いに行くってよ?


栗花落・澪


この島自体は、童話の世界みたいで正直興味を惹かれるんだけど
ハッピーエンドのためにも悪役にはご退場願いましょうか

家具や壁等障害物となり得るものを盾にしつつ
炎魔法の【高速詠唱、属性攻撃】で攻撃対処
万一防ぎきれずに呪詛を受けても
【呪詛耐性】があるから進行を遅らせてる間に
【破魔】による【浄化】で対処を

花使いの身としては
綺麗な花を傷つけるために使うのはいただけないね
その美しさは心を癒し、救うためのものだと思うけど

【聞き耳】で些細な物音も逃さずに位置把握
今度は植物魔法により花弁を操り視界を奪い
灯りを敢えてその場に置いたまま移動する事で視線誘導
“まだそこにいる”と思わせて死角にまわり
【指定UC】で攻撃


朱赫七・カムイ
⛩神櫻


此処が常夜の島なのだね
私は未だこの世界に疎いけれど守りたいと感じるよ
世界の欠片が、浮かび揺蕩う宝石箱のような世界だ
きみに城の案内を?それは魅力的だ

この島に舞い降りた厄災を祓ったならば
サヨと花を愛でたいね

黒百合も紅き月も
私の巫女を傷つけるもの全て、絶ってみせよう

――再約ノ縁結

約す
サヨを守れと、世界へ結び
結界を張り威力を削いで

厄す
そなたの力を、そなたが齎すその未来を否定する
サヨが傷つくなんてことは、この世界に約されていないのだから
其のような厄は私が赦さない

桜が私を導いてくれるようだ
早業で駆け抜けてサヨの太刀筋をなどるよう切り込み、切断する

サヨ、大丈夫かい?
噫、並びたち戦うことの倖を感じるよ


誘名・櫻宵
🌸神櫻


薔薇に城は良く似合うわ
せっかく美しい薔薇が咲き誇る城を、私のかぁいい神と共に散策したいと思うていたら……嫌な虫の気配がするわね、カムイ

常夜のものはかの夜の中でのみ輝くものよ
美しい海に持ち込まないでほしいものだわ

私を守ってくれるの?
優しい神様
ならば私は、あなたを守る
私はカムイの巫女なのだから
美しい桜を咲かせましょう!
神力の結びに綻んで、三日月の刃を迎え撃つ
その黒百合は私の神に相応しくない
浄化と破魔の桜花でカムイを守る
侵させない

桜花の衝撃波に破魔と浄化の神罰こめ刃を断ち切るようになぎ払う
もっと、もっとはやく!
その背の紋章も、左足のそれも
抉り斬ってあげる

大丈夫よカムイ
あなたが一緒なのだから


鷲生・嵯泉

多世界の力も使う、か
勝手を赦せば被害が広がるばかりなのは明白
必ずや此処で止めてくれよう

散る花弁ならば、同じく散るもので抗するまで
黒符に呪詛耐性の力を加え、自身の周囲を囲んで阻むとしよう
越えるものが在らば、破魔を乗せた刃で以って斬り落とす
呪詛の扱いならば、お前よりもっと優れた者の遣り様を知っている
此の程度の呪詛なぞ比べるのも烏滸がましい
――蹂刀鏖末、檻と化せ
気をずらした全方向からの襲撃でもって集中を削ぐと同時
刃を囮にフェイント絡めて接敵
怪力乗せた一刀で、背後から紋章を穿ってくれよう

どれ程の数と為ろうが同じ事
骸の海より他に過去の残滓が行ける場所は無い
お前達の海も世界も在りはしないと心得ろ



 今宵、野ばらは見たり。
 常闇に閉ざされた同胞の美しさを。
 光に暴かれた己の美しさを。

 今宵、野ばらは見たり。
 常闇の島を音訪れた者の戰いを。
 光に浮き立つ戰士の美しさを。


 グリモアが光を解くに代わって、ほつ、ほつ、と燈火(あかり)が灯る。
 常闇が道を鎖すより先、桔梗色の髪の結びを解いた須藤・莉亜(メランコリッパー・f00277)は、折に金色の艶を彈く髪を伸ばして毛先を炎と變えると、其を光源に古城の壁を伝い歩いた。
「…………なんとなく気に入らないなぁ」
 朦然(ぼんやり)と言つ。
 漠然とした違和感や苛立ちの正体は何だろうと顧みるが、我が奥底に秘める吸血衝動がやけに疼くのは、今しがた聽いてきた話に吸血鬼の影が過るからか判然らない。

 若しかリーヴァルディ・カーライル(ダンピールの黒騎士・f01841)も、莉亜と似た様な感覚を抱いていたかもしれぬ。
「……妙な気分ね。異界に赴いたはずが、まるで故郷に来たみたい……」
 郷愁と同時に、決して拭えぬ吸血鬼への憎悪が膨らむ。
 ダークセイヴァーから落ちて来たと言う島の空気が、やけに肺腑に馴染むと、美しくも絶望の漂流う闇に佳瞳を巡らせた少女は、靜かに言を足した。
「……紋章の力も鹵掠(うば)われたものなのか……もしもそうだとしたら、忌わしき力を簒奪した者を討ち果たし、必定(きっと)この世界を救ってみせる……」

 リーヴァルディの言に首肯を添えた荒谷・ひかる(精霊寵姫・f07833)も、常闇の世界で紋章の力を目の当たりにした猟兵の一人にて、異世界で聽く其に小首を傾げる。
「――慥かに、どうしてこんなところに紋章の力があるんでしょう……?」
 島ごと一緒に落ちてきたのか、将又、略奪されたのか。
 俄に戰争が勃発して慌しくなったものの、未だ謎は明らかになっていない――と、暫し思案して歩いていた少女は、こつんっと荊棘に足を引っ掛け、
「――ふにゃ!」
 べちょ、と倒れそうになった處を草木の精霊が支えてやる。

 紋章の力に懸念を示すのは、鷲生・嵯泉(烈志・f05845)も同じ。
「数多の世界が島と落ちてくる此処で、我が物顔に其等の力を使うとは厚顔も甚だしい。勝手を赦せば被害が広がるばかりなのは明白」
 七大海嘯の跋扈も看過できまいが、目下の懸念は王笏だろう。
 彼の者にこの海を支配させてはならないと、隻眼の男は柘榴にも似た緋瞳を烱々と、
「――必ずや此処で止めて呉れる」
 と、怖ろしく怜悧(つめた)いバリトンを滑らせる。

 ――時に。
「これで如何だ」
 佳脣が「昏闇(くら)いな」と呟いたのも一瞬のこと。
 神樹・鐵火(脳筋駄女神・f29049)は不平を口にするくらいなら手を出す火神にて、我が聖拳に熾々と然ゆる炎を纏うや、一發ッ! 荊棘を絡ませた城壁に拳を呉れる。
 然れば如何だろう。
 炎は茨を伝って城中に燃え広がり、常闇の世界に古めかしい城を浮き立たせた。

 斯くして十分な燈火(あかり)を得た猟兵の瞳に広がるは、丘いっぱいの野薔薇。
 荊棘に覆われた古城は處々崩れてはいるものの、嘗ての風格が朽ちた訳でなく――、
「……こんな時でなきゃ、ゆっくり見たかったものだがね」
 と、光が届く限りの美園を眺むは冴島・類(公孫樹・f13398)。
 炎に照らされる長い睫は銀と輝き、その玲瓏に縁取られた翠瞳も煌々と、常闇から暴かれる城の何処かに居るであろう『一の王笏』を探す。

 丘陵を駆け上がる風が、颯ッと野ばらを撫で往く――。
 常闇から暴かれた佳景に瞳を遣った栗花落・澪(泡沫の花・f03165)は、琥珀色の髪を梳る風に佳聲を運ばせて、
「……この島自体は、童話の世界みたいで正直興味を惹かれるんだけど」
 目下、この島に必要のない邪氣を感じて胸が騒めく。
 薔薇の野生の美しさを穢し得る惡意が靉靆(ただよ)っていると、澪は繊手を胸に宛てつつ、緊張した面持ちで邪の気配を辿った。

 常夜の島、あかい光に浮かび上がった七彩斉放に、思わず嘆聲を零すは朱赫七・カムイ(約倖ノ赫・f30062)。
「…………宛如(まるで)世界の欠片が、浮かび揺蕩う宝石箱のような世界だ」
 不覚えず細む桜の龍瞳は、美し朱砂の彩を湛えて。
 未だこの世界には疎いが、昏闇の孤島でも慎ましく精彩を広げていた野ばらが健気で、この名も無き命を護りたいと思うし、彼等を脅かす“厄災”を祓ったならば、様々な世界を共に巡ろうと約束した桜龍と、この可憐を愛でたいと思う。
 而して玲瓏の瞳が繋ぐ先には、桜龍――誘名・櫻宵(爛漫咲櫻・f02768)がスッと通る鼻梁を野ばらの丘陵に向けており、
「靜謐に佇む古城に、ゆかしく咲く薔薇は良く似合うわ」
 ええ、とても――と。
 匂える紅脣より滑り出る佳聲は鈴を振るように美しいのに、何処か凛と張り詰めているのは、聲を持たぬ薔薇と、側にある大切な存在を護りたいと思うからか――。
 ゆうらと蕩揺する燈火(あかり)に、折に銀の艶を彈く桜鼠の睫は、その間から淸冽を帯び往く烱瞳を覗かせて、
「せっかく美しい薔薇が咲き誇る城を、私のかぁいい神と共に散策したいと思うていたら……嫌な虫の気配がするわね、カムイ」
「――噫、きみに城の案内をお願いしたなら、暗夜行も魅力的だと思ったのに」
 而してカムイも捉えていたか、優艶の目尻に皮肉の色を挿す。
 ――然う。
 猟兵と同じくこの島を音訪(おとず)れた、招かれざる者が、この城に居る――。

「……で、此処に来ているのはカルロス・グリードの分身体、と」
「ええ、八つの姿を持つ『王笏』の一つだそうで」
 炎に浮かび上がった古城に烱眼を巡らせる篝・倫太郎(災禍狩り・f07291)。
 而して彼の跫に佳聲を添えて続く月舘・夜彦(宵待ノ簪・f01521)。
 互いの死角を埋めるよう、戒心鋭く城内を歩いた二人は、不圖(ふと)、足元に轉がる煉瓦に焼け跡を見つけると、嘗てこの島が吸血鬼の戰乱に巻き込まれた歴史を垣間見た。
 夜彦は石畳に落としていた視線を我が盾に注いで、
「王笏は、この世界では存在しない“紋章”というものも宿しているとか……」
「ああ、上位の吸血鬼しか使えない力を、三つも宿しているというのが不可解だ」
 幽邃の湖水の如き翠瞳が懸念の色を搖らせば、暁と耀ける烱瞳を結ぶ倫太郎。
 然し大いなる謎の前に立ち止まる二人では無かろう。
 瞳を合わせた彼等はどちらからともなく踏み出し、
「分身体も、紋章の謎も。叩き続けていりゃ本命に当たるさ」
「慥かに、私達が戰うことで情報も得られるのならば尚の事」
「その為にも一戰一戰、きちっと対処してこうぜ」
「はい、やれる事を積み上げていきましょう」
 刃と盾、二人でなら其処に辿り着ける――と、影を揃えて歩み出した倫太郎と夜彦は、而して間もなく、闇に浮き立つ邪の渦動を捉える事となった。

 石畳にこつ、こつ、と乾いた跫が染み、靜かに音吐が添えられる。
『来たか。予知に從い世界を渡るという――猟兵』
 上質なネッククロスにフロックコートを合わせた紳士。
 切り揃えた前髪の奥より切れ長の瞳を注ぐ男が、カルロス・グリードの『一の王笏』とは、彼が放つ武威が示そう。

 その凄まじい圧を目の当たりにしたシル・ウィンディア(光刃の精霊術士・f03964)は、雪白の肌膚がぞくり粟立つのを自覚し、密かに息を呑む。
「うん、プレッシャーすごい……けど、負けてられないからっ!!」
 蓋し青空の如く澄める佳瞳は玲瓏の彩を翳らせず。
 引き下がる訳には往かないと、靴底に強く石畳を踏み締めたエルフの少女は、その身に六属性の精霊の祝福を纏い、邪より漲る凄まじい呪詛の浸蝕を阻んだ。

 尋常ならカルロスが放つ威に怖氣立つものの、中々の獲物だと品定めするよう正対したカイム・クローバー(UDCの便利屋・f08018)は、艶然を湛える程に余裕がある。
「へぇ、あの忌々しいクソッタレな紋章をお持ちとは。お目が高い、って言うべきか」
 畢竟、そこらへんのものを拾った訳ではあるまい。
 かの紋章を使う“本家”と同様、悪辣な手段で手に入れたのだろうと嗤笑った麗人は、細顎をしゃくるように訊ねる。
「アンタ、欲しいモンはどんな手を使っても手に入れるタイプ?」
『…………猟兵の中にも早死にする者が居るようだ』
 無論、これは挑発だが。王笏がカイムに答えたなら、空気は愈々張り詰めよう。

 緊迫が両者の間に満ちるが、月夜・玲(頂の探究者・f01605)は豪胆たるもの。
 愛機EX:I.S.T[BK0001]に跨った儘、前方にハイビームを投げ込んだ玲は、蒼白い前照灯に光闇を際立たせる邪影を見遣り、「ふぅん」と佳聲を置く。
「あいつが、一の玉葱……別の世界の力を使いこなすオブリビオン・フォーミュラか……侵略者っぽいといえば、そうかもね」
『待て、猟兵。今――“玉葱”と言わなかったか』
 若しや右手に持つレガリア(宝珠)がタマネギに見えているのかと、少し不安になった分身体は、彼女によく見えるよう其を光に翳してみる。何なら角度も變えてみる。
『戰場に玉葱を握り込んで来た者と思われたくない。どうかよく見て欲しい』
「…………。…………よし、一の王笏! さあやろう!!」
 畢竟、玉葱だろうと何だろうと殴るのが一番。間違いは気にしない。
 玲はアクセル全開、雄々しくもエッジの利いた轟音に空気を切り裂くと、颯然たる風となって疾り出した。

  †

『――愚かな。この海を誰のものと思っている』
 ダークセイヴァーから来たという島も、落ちてしまえば我が物だと顔を歪める男。
 一の王笏は右手の甲に刻む「闇霧の紋章」を暗々と搖らめかせるや、黒き狭霧と化し、正に須臾、『神殺しの魔剣』を手に間合いを詰めたカイムを悠然と迎えた。
 蓋し余裕を見せられたカイムも、皮肉を零すくらい胆力はあって、
「ハッ、折角の伊達男が台無しじゃねぇか。唯だ俺としては、顔も服も分からねぇなんざオススメしないぜ。んなユーベルコードはよ!」
 と、塊麗の微笑を連れて振り下ろす刃に、黒銀の炎を迸発(ほとばし)らせる!
 其は【必滅の刃】(スキル・スレイヤー)――カイムの魔力を炉と燃やした魔劔は灼熱を帯びて熾々烈々、黒霧に漂流う邪氣を灼いて“強制的に”變身を解除させんとした!
 これにはカルロスも瞠目して、
『ユーベルコードを斬る刃があろうとは……趣(おもしろ)い!』
 鹵獲するに値する、と端整の脣を吊り上げる。

『グリモアのみならず、この者達から奪うものは多くある様だ』
 狭霧と散って炎刃を逃れた王笏は、然し慾を収めた訳は無い。
 次いで強慾の的とされた鐵火は、間もなく飛び込んだ黒霧の塊を半身を引いて躱すと、すれ違い様に美しくも鋭いコントラルトを置いた。
「――分身体よ、魂を分けた主の名をカルロスと云ったな」
 何千年と時を生きる鐵火は、この男の名に聽き憶えがある。
 慥か貴族の名だったと流眄を注いだ處で、あぁ、かの日の沈まぬ國のハプスブルグ家の者だったと、再び姿影を成す紳士に紅脣の端を持ち上げる。
 至近距離から放たれる拳に猛々しい轟拳を合わせた鐵火は、凄まじい衝撃に翡翠の髪状(かんざし)を梳らせると、二人を中心に疾走する波動に古城の壁を波打たせた。
 而して止まぬ拳撃を間に、言は鋭利く交されて、
「高貴なる青い血とやらはどうした?」
『扨て、自身の目で確めるか』
「ほう、随分と根性がある。其の方の家訓曰く、争いは趣味ではなかったと聞いたが……自ら島に赴いて覇権争いとは、豈然(よもや)人違いかもしれん」
 検めよう、と絞られる麗瞳は、周囲の炎に烱々と燿う。
 美し肢体に刻まれた刺青もまた熱した鐵の如く輝きながら、打撃を角逐させる毎に火粉を散らし、身に染む激痛を灼いて昂ぶり往く――!

 若しか、或いは。
 カルロスが嘗ての英姿に非ずとは、鐵火の言う通りだったかもしれない。
 何せ彼は猟兵の力に醜い征服慾を燃やしており、
『麗し黒百合の花よ、侵略者を呪いに蝕め』
 言うや、男の背に刻まれた紋章が光ったか判然らない。
 蓋し分身体ながら歴とオブリビオン・フォーミュラの力を有する彼の魔力を吸い上げた紋章は、手に持つ王笏を黒百合の花葩と變えると、漆黒の呪いの花を丘陵一帯に舞わせ、等しく生命力を鹵掠し始めた――!

 ぶわり廃城を包む呪詛に逸早く気付いたシルが、柳葉の眉を顰める。
「ッッ、すごい花瓣の量……精霊の加護がなければ呼吸も儘ならない……!」
 一息で肺腑に染み入る呪詛に咳込みながら、然し少女はよく風を読もう。
 花瓣の動きは即ち風の動きだと、眉根を寄せつつも冷靜に風の流れを見極めたシルは、ひらりと精霊布のマントを翻すと、爪先を蹴るや上に、上に――宙空に遁れた。
「可視化された呪詛と思えば、こわくないよっ!」
 花脣を滑るは虚勢でなく、邪に組み敷かれぬ勇気。
 追い掛けて戰ぐ黒い乱舞に残像を蝕ませ、疾風の如き回避機動で紫闇を翔けたシルは、繊手に握る二振りの光刃で黒百合の花弁を切り刻むッ!
 いざとなれば聖属性の魔彈で相殺する手立ても備えた少女なれば、機転は十分優れて、風の層――つまり呪詛の隙間に花車を割り込ませたシルは、急降下するなり光刃劔『エレメンティア』と精霊劔『六源和導』の閃爍二条を叩き付けたッ!
「あたっても当たらなくても……この一瞬が次の一瞬を呼び込めるなら……!!」
『ッ、!!』
 咄嗟に黒百合の花片を集めた分身体が、呪詛の防壁にシルの光刃を彈くが構わない。
 彼女は彈かれた勢いで再び宙空へ、時を埋めるように攻め込む仲間に次撃を預けた。

 シルとほぼ同時、呪花乱舞に気付いて踏み出るはリーヴァルディ。
 自身も呪詛を巧みに扱い、耐性も持ち合わせる彼女が、咄嗟に仲間を庇い立つ。
「ッッ、私の後ろに……!」
 繊手に握る大鎌『過去を刻むもの』を眼前に構え、魔力を漲らせるや大盾に變形させた佳人は、呪詛の花嵐より仲間を護ると同時、己もまた『呼符』の加護に浸蝕を抑えつつ、「闇霧の紋章」の力を――その本質を見極めんとした。
(「この感じ……やっぱり憶えがあるような気がする……」)
 ダークセイヴァーで長らく戰う身は、紋章が持つ力の禍々しさがよく判然る。
 如何なる手段で手に入れたかは知れるまいが、紋章を前にした以上、己の為すべき事に變わりはないと花脣を引き結んだリーヴァルディは、紫苑色の麗瞳に光を湛えて煌々と、衝撃に耐え、痛痒を凌いだ。

 黒百合の花言葉は、「呪い」――。
 呪詛を染ませる暗紫褐色が、悪意を叩き付けるように迫る光景は、櫻宵の麗瞳には余程醜く映ったろう。
「常夜のものはかの夜の中でのみ輝くもの。美しい海に持ち込まないでほしいものだわ」
 云って、玲瓏の彩に凛然を萌した瞬間、カムイが踏み出る。
 白磁の繊手は間もなく神刀『喰桜』を抜いて、
「私が絶ってみせよう。私の巫女を傷つけるものは、厄は、私が赦さない」
 と、邪氣の渦動を聢と睨め据えたなら、彼に守られた櫻宵がふうわと頬笑む。
「私を守ってくれるの? 優しい神様」
 やさしいは、うれしい。
 仄かに櫻の馨の漂流う背にそと麗瞳を細めた櫻宵は、交睫ひとつ置くや、優婉と雄渾を混ぜた闘志を輝かせ、神刀『屠桜』を抜いた。
「ならば私は、あなたを守る。私はカムイの巫女なのだから」
「噫、私の巫女は頼もしく――並びたち戰うことの倖を感じるよ」
 支え合える事の歓びと倖せを感じる。
 愛する人を守らんとする力が、澎湃と横溢(あふ)れるのが判然る。
 以心伝心、二人は邪を祓う桜龍の牙を振り被り、
「そなたの力を、そなたが齎すその未来を否定する。サヨが傷つくなんてことは、この世界に約されていないのだから」
 萌芽発露、【再約ノ縁結】――!
 サヨを守れと、世界へ約を結び合せたカムイは、破魔の結界を張って呪詛の威力を削ぐと同時、朱砂の太刀を一閃ッ! 災を断ち倖へと變える斬撃に、花嵐を凪と化す!
 傍らでは櫻宵が血桜の太刀を揃えており、
「黒紫に艶めく黒百合は、私の神に相應しくない」
 侵させない、傷付けないと、強い意志を結んだ断禍の斬撃を疾走らせる――!
 然れば漣々(はらはら)と零れ散る黒百合は、花片の一枚一枚を断たれ、呪詛の籠められた欠片が石畳に落ちるより速疾く浄化された。

「成程、これが紋章の力……って、落ち着いてる場合じゃないですっ!」
 視界に飛び込む黒百合の嵐に、はわわ、と狼狽えるひかるはと言うと――、
「えっえっえっと……お手製爆弾で吹き飛ばしたり、散らしたりできるでしょうかっ」
 ――いや。
 ゴソゴソ、とポシェットに手を遣る少女よりも、彼女の友たる精霊達が早かろう。
「わわわっ……」
 風の精霊が迫り来る嵐を相殺する中、古城の石煉瓦達と結託した大地の精霊が、ズモモ……と堆く城壁を形成し、而して防禦が整った場所には、闇の精霊がこっちだとばかり、少女の手を引っ張って避難させる。
「……ありがとう、精霊さん達……」
 ここまで完全自動(オート)。
 而して専用シェルターにぴったりと収まったひかるは、ホッと胸を撫で下ろすと同時、精霊達に感謝を示すと、彼等を集めてヒソヒソ、反撃の策戰会議を始める事にした。

「呪詛の耐性はあるけど……消耗戰にはしたくないかな」
 澪は無理は出来ない身体にて、邪悪な風を感じた瞬間に双翼を羽搏かせる。
 聖性に溢るる翼は高みより古城を俯瞰すると、今だ形を遺す円塔の堅牢を頼って盾に、黒百合の禍々しい氣の浸蝕を禦いだ。
 而して生命力の奪取を拒みながら、澪は狂える程に舞う黒百合に柳眉を顰めて、
「……綺麗な花を傷つけるために使うのはいただけないね」
 己もまた花を使う身として義憤が募る。
 花の美しさは、心を癒し、救う為にあろうと凛然を萌した佳人は、我が身に宿れる厖大な魔力を炎と燃え立たせると、うねり来る黒百合の乱舞を浄化の炎に迎えた。
「敵意を示すに、その“形”は必要ないよ」
 悪意に満ちて迫った花瓣は、澪が紡ぐ淸らかな炎に包まれると、片々(ヒラヒラ)と、瀲灔(チラチラ)と散って消えるのだった。

「――散る花弁ならば、同じく散るもので抗するまで」
 黒手袋に包まれた硬質の指が、懐を潜って取り出すも紙片も黒。
 黒百合に滲む呪詛を見極めた嵯泉は、黒々と塗り潰された符に破魔の霊力を籠めると、其を結界の如く己が周囲を巡らせて呪詛の浸蝕を阻む。
 万一にも霊障壁を超えるものがあれば、退魔の一刀『晶龍』に打ち払う用意もあるが、其を超えられる程の呪詛では無いと見極めてもいる。
 彼は神氣と角逐する黒百合の乱舞を冷嚴と見据えると、低く短く言ちて、
「所詮、この程度」
 呪詛の扱いならば、己はもっと優れた者の遣り様を知っている。
 此の程度の呪詛を「呪詛」と、同列に較べるのも烏滸がましい――と冷罵した嵯泉は、かの男の美しき其を思い浮かべつつ、滅惡の刃を喚び召した。
「――蹂刀鏖末、檻と化せ」
 而して黒い花嵐を断つは、不可視不可避の刃。
 光も音も殺した其は見えまいが、幾何学模様を描きながら嵐の中を飛翔し、花片が触れる毎に黒百合の呪いを掻き消していく。

「うん、やっぱり気に入らないから、噛み砕いて喰らい尽くして吸い尽くして殺すね」
 決めた、と言つなり外套を翻したのは莉亜。
 彼が贄と認めた瞬間、其に應じて健啖を暴いた外套――通称“グラさん”は、舞い踊る黒百合の花片を翩翻(ヒラリ)と包んで捕食し、呪詛も美味いと嚥下する。
 而して莉亜の周囲に並んだ95本の銀の槍も、繊麗の躯が邪氣に蝕まれぬよう高速旋回して盾を成しつつ、漸う魔に傾く主の「變容」を完遂させた。
「先ずは受けた傷を治してっと……――さぁ、遊ぼうか」
 満月と煌く烱瞳が示すは、【不死者の血統】(イモータル・ブラッド)――己に流るる吸血鬼の血を表層に表した莉亜は、内なる吸血衝動を禍々しき慾のオーラと漲らせると、爪先を蹴るなり獲物めがけて、王笏めがけて矢の如く疾ッた!
「扨て、どっちが先に死ぬんだろうね?」
『――ッ!!』
 未だ黒百合が呪詛を振り撒くが構わない。
 呪詛に食まれた部位を躊躇なく斬り落とし、須臾に再生させながら強靭を得た莉亜は、質量を有した状態の王笏の喉元へ噛みつく――ッ!!

『ッッ、ァッ!!』
 激痛を奥歯に嚙み締め、損傷した部位を闇霧と化して逃れる王笏。
 一歩飛び退いた左脚に「紅き月の紋章」が耀いたか判然らないが、カルロスの分身体は刻下、無数の三日月刃を放って猟兵を遠ざけた!

「倫太郎」
「ああ、理解ってる」
 格上の相手にて、攻撃を先制される事は覚悟していた二人である。
 分身体とはいえ、強慾の海を統べる者の力を見極めようと――情報収集の意図もあったろう。鋭く五感を研ぎ澄ませた夜彦が、防禦に徹して斬撃を捉えた。
「全ては躱せずとも、視えれば対処は叶うかと」
 視力のみに頼らず、肌膚に触れる風に聽く。
 然れば冷靜怜悧の心眼には三日月刃の軌跡が視えようか、夜彦は刀柄に手を掛けた儘、先ずは半身を退いて邪刃を躱すと、次いで迫る弓張月の禍には我が愛刀『夜禱』を抜いて軌跡を往なし、更に霞瑞刀 [ 嵐 ]を抜いては二刀の捌きに風刃を緩衝した!
 この時、衝撃の餘波が白皙を裂くが構わない。
 我が隣で同様に攻撃を禦いだ倫太郎に流瞥(ながしめ)を注げば、彼もまた幾許の損耗を得ながら、胸の前に構えた華焔刀 [ 凪 ]に紋章の力を受け取っていた。
 果して彼は口の端を伝う血も拭わずに囁(つつや)いて、
「出る場所は還る場所……今こそ其の業はその身に戻る」
 流轉帰依、【業返し】――!
 華焔刀を一振りして繰り出る三日月刃には、其で攻撃した術者こそ喫驚を隠せまいか、時にして約1分半、全き同じ性質を有する冱撃がカルロスを掣肘する!
 刹那や寸毫を競う者に、その時間は永劫にも感じられたに違いない。
『紋章を宿さずに、かの世界の力を行使するなど……!!』
「ああ、猟兵なら出来る」
『ッッ、ッ!!』
「手の内を知らないのはお互い様という事です」
 沈着を崩さぬ二人が忌々しかろう。
 分身体は幾許の焦りを滲ませつつ、手に持つカリスト(宝珠)を握り込めた。

「闇霧、黒百合ときて紅き月の紋章……幾重に強化された力を、どこまでさばけるか」
 城の壁も炎を焚べる荊棘も、等しく蹂躙する弓張月の脅威――その速度や射角、軌道を怜悧に見極めるは類。
 無論、彼にも公平に平等に冱月の刃が襲い掛かるが、彼は選択を誤らず、
(「全て躱せるなんて思わない。手足を落とされぬよう――創痍は肉まで」)
 最小の動きで躱し、或いは短刀の鋩に往なし。
 致命傷は残像に受け取らせて、己は反撃に繊麗の十指を操る!
「――往こう、瓜江」
 血濡れた繊指が赤糸を濡らすが、絆した縁は畢ぞ断たれず――先行する絡繰『瓜江』の影に潜み、全き死角から踏み出た類は、銀杏色の組紐飾りをふわと搖らしたかと思うと、淸冽の氣を帯びた一刃を喉元に付き付けた――ッ!
「やぁ、紋章の力を三つもつけてすごいですね」
『ッッ!!』
「その満ちた力……削がせてもらいます」
 大きく身を反らした瞬間こそ、足元が疎かになるもの――と。
 佳脣を滑るテノールは宛ら冬枯れの野辺の如く。
 この瞬間、類の半身たる『瓜江』が破魔の神氣を漲らせて蹴撃一閃ッ、紋章が刻まれる左脚の脛を強襲して轉ばせたッ!

 この時、巧みなハンドリングで三日月刃を躱していた玲が一氣に距離を詰める。
「ベルクフリート(見張り塔)! 今でも十分、役に立ってくれる!!」
 嘗ては籠城も出来たという壁の強度は、刃を凌ぐに十分。
 而して好機を待ち侘びたと急加速した玲は、愛機の流線型ボディに纏う青い燐光を帯と引いて速く迅く――円塔を疾走するや高みより跳躍したッ!
「親方ッ、空から女の子が!」
『ッッ、ッ――!!』
 真上からの強襲――!!
 高速回転するタイヤに押し潰され、鐵機の重量で凌轢されたカルロスは、膝を折るなり背中まで石畳に押し付けられ、五体投地の屈辱を味わうしかなかった。

  †

『ッ、ッッ……この儘では……!!』
 曲がり形にもオブリビオン・フォーミュラの力を映す身が、石畳に鮮血を零す。
 全身を駆け巡る激痛に焦燥した王笏は、生命力を欲するように踵を蹴ると、急ぎ眼前の鐵火へ、彼女の細首を摑むべく右掌を伸ばした!
 生命力を鹵掠(うば)えるか――否。断じて否。
 烈火と燿う美神は、怜悧く鋭利く囁いて、
「闇霧の紋章は右手だったな。これだけ闘り合えばもう判然る」
 間合いもスピードも把握した鐵火ならでは、咽喉の代わりに右手首を摑ませた凄艶は、己も邪の手首を力任せに握って粉砕――ッ! 紋章ごと右手を漆黒の狭霧と化す!!
『だが――ッッ!!』
「噫、元に戻すのだろう。私が拳を呉れて遣るのは其の隙だ」
『ッ!!』
 乾坤發勁(イケメン滅びろ)ッ、【美崩八勁】――!!
 明勁、次いで暗勁と、神速で打ち込まれた打突は雷撃の如き激痛を疾らしめ、邪の躯に秘める悪しき力ごと霧散させていく――ッ!!

「……随分と欲しがっているようだから、返してあげるわ」
 ここに大瑠璃の聲を置くは、リーヴァルディ。
 漆黒の大鎌を大盾に、呪詛の花嵐を耐え切った少女が、盾越しに凛乎と言つ。
 この時、闇色に染む筈の大盾が玲瓏と艶を彈いたのは気の所為でなく――己に刻まれた呪いを魔法陣に流し込んで輝かせたリーヴァルディは、【限定解放・血の獄鳥】(リミテッド・ブラッドフェネクス)――呪いを燃やして羽搏く黒炎の獄鳥を召喚した!
 仲間を庇い出たのが至極剴切な戰術だったと――今更気付いても遅かろう。
 少女は低く冷たく佳聲を囁(つつや)いて、
「……大盾に刻まれる血の魔法陣は、極限なく呪いを増幅し……血の獄鳥は、私がお前から受けた呪詛を炎と燃やして翔ける……!」
 翔ければ如何なるかは、衝撃が言を代わろう。
 大翼を広げたのも一瞬、光の速迅さで王笏の懐へ飛び込んだ黒炎鳥は、我が身に蓄えた呪詛を暴走させて“自爆”ッ!! 闇属性の大爆発に邪躯を彈いた――!!
「……お前から受けた呪詛を、まとめて叩き返してあげる」
『ッッッァァアア!!!』
 而して男は圧倒的衝撃に打ち上げられ、歪に拉げた躯を石畳に打ち付けた!

 この時、ひかるがたたたっとシェルターより繊影を現す。
 激痛を踏み締め、間もなく立ち上がろうとするカルロスの穢れた双眸には見えまいが、聢と精霊たちと絆を結んだ可憐は、傍らで雄渾と胸を張る彼等に「お願い」をした。
「炎の精霊さん、風の精霊さん! いい感じのをお願い!!」
 顕現発露、【幻想精霊舞】(エレメンタル・ファンタジア)――!!
 親友の願いを聞き入れた炎と風の精霊は、がしっと腕を組むや「炎の竜巻」を生成し、石畳に叩き付けられたばかりの邪を灼熱の旋風に吹ッ飛ばす!!
『なっ、んんっ……これは――ッ!』
 闇霧の身体に變われば、聖なる炎が僅かな水分をも焼き尽そう。
 ならばと防禦に纏わせた黒百合の花片は、然し刃の如く斬り付ける煉獄旋風に灼かれ、忌わしき呪詛が看々(みるみる)浄われていく――。
 何故だと眉を蹴立てる分身体には、ひかるが答えよう。
「炎は浄化の力のシンボルでもありますから、呪詛だってへっちゃらです!」
『ッ、く……ッッ!!』
 猛炎の渦に包まれたカルロスには、少女の凛々しき花顔は捉えられない。
 然し全身を切り刻む竜巻と、創痍を焼き付ける焦熱が、彼女に代わって「えっへん」と得意顔をしたような――気がした。

 ひかるが(嚴密に言えばお友達の精霊さんが)炎の竜巻にカルロスを打ち上げた瞬間、乗じる隙が生まれたと次撃を継ぐは澪。
(「乱気流で体勢が崩される間に……!」)
 この時、カルロスは澪が“其処に居る”とは思ってもなかったろう。
 植物魔法で花弁を操り、魔眼の視界を狭めていた佳人は、先に身を隠していた円塔付近に灯りを敢えて置いており、カルロスも塔の蔭に猟兵が居ると思っていた。
 聢と頭数を把握していた心算の分身体は、それだけに大いに足元を掬われたろう。
 己の予測を操作されていた王笏は、慮外に割り込んだ炎撃に酷く混乱させられ、
「ハッピーエンドのためにも悪役にはご退場願いましょうか」
『ッ、ッッ――!!』
 顕正、【浄化と祝福】(ピュリフィカシオン・エト・ベネディクション)――!
 諸有る種の鳥を模した炎が99体、竜巻に打ち上げられたカルロス目掛けて飛び立つと、バードストライク――ッ! 全き無防備の躯に破魔の炎が次々と衝突(ぶつ)かり、更に王笏を高く高く打ち上げた!!

「――扨て、これだけ灼かれりゃ身体も小さくなっちゃいねぇか」
 紫紺の天蓋に打ち上げられた邪を地上に迎えるカイムは、相變わらず綽然を崩さず。
 シュウシュウと黒霧を解く分身体を視つつ、彼が立ち上がるまで猶予を與えた麗人は、略奪者にさえ騎士道精神を見せたか――或いはオブリビオン・フォーミュラの分身体たる彼に「使い」を頼みたかったからか判然らない。
『……ッッ愚かな……この海で我に抗うとは……ッッ!!』
「アンタこそ、まだ俺達に抗うみたいだな」
『ッ、ッ』
 劣勢に追い込まれて猶も反駁する邪氣に結ばれるよう踵を蹴ったカイムは、身丈に及ぶ魔劔ごと矢の如く飛び込み、轟ッと燃え盛る黒銀の炎に斬り払う。
 目線は右手の甲。
 而して疾走する斬撃も、其処に刻まれる「闇霧の紋章」を捕えて――、
「ま、分身体のアンタに言っても無駄かもしれねぇが。機会がありゃ、本体に伝えとけ」
『ッッ、ッ!!』
「――俺達が直ぐに会いに行くってよ」
 寸断――ッ!!
 血飛沫を噴いて宙を躍った手首が猛炎に包まれ、甲に印される紋章を灼く!!
 切り離された右手は石畳に落ちるや黒霧と消えて音は無く――今やカイムの伝言だけがハッキリと鼓膜に迫るのだった。

「俺達は分身体だからと言って侮らないし、一つと見逃す心算(つもり)も無いぜ」
「一つ一つの島が野望を打ち砕く鑰になると――信じていますから」
 全貌が視えぬ今、視える場所に光を置くのだと、倫太郎と夜彦の信念は搖るぎない。
 右手首を喪失した今こそ、残りの紋章で攻撃を仕掛けて来るだろうと警戒した二人は、予測通りに射掛けられた三日月の禍刃に敢えて進み出る。
 其は戰略というより氣力であったか――彼等が幾重にも大きく見えたのは錯覚でなし、澎湃と漲る闘志にカルロスは気圧されたのだろう。
「何度でも撃って来いよ。俺の華焔刀が確実に受けて返す」
『ッッ……!!』
 云って、派手に立ち回ったのは倫太郎。
 業(カルマ)を返す華焔刀は、未だ燃え続ける荊棘の炎に美しく刃紋を輝かせながら、まるで己も炎を繰り出すかの如く赫光を踊らせる。
 辛うじて彼の鋭刀を逃れたのも一瞬の事。
 カルロスは倫太郎の斬撃を左に遁れた刹那、その回避行動こそ待ち侘びた夜彦の烱眼に捕らえられ、一瞬――時を止める。
「次は、私の番です」
『――――!』
 拒絶の三日月刃を掻い潜り、僅か一足で間合いに侵襲した夜彦は、残像すら許さぬ早業で二刀を同時に振り抜いたッ!
「見極めるは……幾重の末」
 二刀一閃ッ、【幾重刃】――!!
 既にカルロスの立ち回りや攻撃の癖を覚えたならでは、一縷の反撃も出来ぬタイミングで放たれた斬撃は、肩から胴に掛けて大きなサルタイアー(斜め十字)を刻み、夥多しい血潮を噴き上げて吹き飛ばしたッ!!

『ッッ、ぐァァアアア嗚呼!!』
 而して大きく後退する分身体を迎えるは嵯泉。
 合計980本、如何な認識も拒む【蹂刀鏖末】を全方向に展開していた彼より遁れられる術は無く、体勢を崩した隙に一斉に鋭鋩を揃えた刃が、今こそ屠りに掛かる――!
「どれ程の数と為ろうが同じ事。骸の海より他に過去の残滓が行ける場所は無い」
『なっ、ンだと……ッッ』
 カルロスが知覚できるのは、隻眼の男の冷ややかな科白のみ。
 端整の脣を擦り抜けるバリトンは冬の寂寥に染む虎落笛の如く――かの風が冷気を連れる様に、嵯泉も血の気の引くような冷徹を滑らせた。
「お前達に如何な海も世界も在りはしないと心得ろ」
 言うや、如何な術式も無効にする刃が全身に突き刺さる。
 目に視えぬ楔に挙措を止められた瞬間、99本目の刃が――『晶龍』が嵯泉の手ずから背中に突き刺さり、闇の帳を切り裂くような絶叫が響き渡った!

「サヨ、大丈夫かい? もう一度、鋩を揃える事が出来ようか」
「大丈夫よカムイ、あなたが一緒なら――全てが叶う」
 この時、タンッと輕やかな跫を奏でるはカムイと櫻宵。
 呼吸を揃えて踏み込んだ二人は、先ずは“桜獄大蛇”の力に覚醒した櫻宵が、美し繊指に握り込めた『屠桜』を振り抜き、冱ゆる一刃に空間ごと存在を断ち斬らんとする!
「その背の紋章も、左足のそれも。みんな抉り斬ってあげる」
 咲かせて。
 散らせて。
 奪って。
 喰らって。
 刃鳴閃々、【朱華】(ハネズカグラ)――!!
 破魔の霊氣を籠めた桜花の衝撃波が速く疾く翔ると、その嚮導(みちび)かれるようにカムイが『喰桜』の鋭刃を添える。
「桜が私を導いてくれるようだ」
 黒百合も、紅き月も。
 私達の前には厄災とは成り得ない――。
 桜龍が描いた太刀筋をなどるよう切り込んだカムイは、その眼路いっぱいに噴き上がる王笏の血飛沫を甘んじた。

「――それで、黒百合の紋章は背中だっけか。んなら背中からでもいいや」
 今なら背襲出来ると、莉亜も判断が頗る早い。
 吸血鬼化して身体能力を格段に飛躍した彼は、分身体が弱体化した瞬間に襲い掛かり、先ずは反撃の兆ある手足を『Argenta』の鋩に捉えるや、霧と化す前に切り刻む!
『ぁぁああ嗚呼アアッッ!!』
「黒百合の紋章って美味しいのかな」
 激痛に身を強張らせる王笏に対し、首を刎ねられても心臓を潰されても死なない莉亜は飄然たるもの。
 彼は銀の刃にフロックコートを裂かせると、濤と横溢(あふ)れる血汐を白皙に受け取りながら、ペロリと赫い舌を舐め擦った。
「うん、食べれば判明るか」
 端整の脣を滑るテノール・バリトンの美しきこと惨たらしいこと。
 而してその脣は、間もなく肉を味わった。

『ぜぇァァアアア嗚呼嗚呼!!!』
 食まれた部位は仕方なし、残りを黒霧と變じて逃れた邪は、果して逃れ切れようか。
 其の答えは、『枯れ尾花』を一振りして風を呼んだ類が示そう。
 たとえ霧と變じようと、風なら“掬える”と――刹那、麗瞳に湛える光が帯と引いた。
「此処は島。何処まで行こうと逃れられる筈が無く」
『ッ、ッ!!』
「そして、野ばらが踏み荒らされるのも忍びなく」
 颯然たる颯を一薙ぎ、王笏の足元に疾走らせた類は、体勢を崩した分身体が冷たい石畳に輾転つより速く『瓜江』を向かわせると、破魔の力を籠めた五指に顔面を聢と摑ませ、その儘――仰向けに崩し倒したッ!

『ぐ、ッッあ……!!』
 先程は腹這いに、そして今は仰向けに倒れたカルロスが、不穏を感じて起き上がる。
 痛みを味わっている暇は無い。先刻は轉んだ隙にバイクに轢かれたのだ。
 而してその不安は的中したか、一瞬、眩む程のハイビームを注がれた彼は、己へと進路を結ぶ玲の突貫を見破るが、三日月の鋭刃が切り裂いたのは彼女の“愛機のみ”。
 鐵騎が破損する音に紛れて溜息が零れたのがそうだろう、
「ああ……バイクの修理費が……! 車検も近いのに手痛い出費だよ!!」
『な、に――ッ!?』
 逆ギレの聲は何処から? 目の前だ!!
 強烈なライトに幻惑された王笏が眼路いっぱいに映した玲は、愛機を犠牲に懐へと侵襲を果すと、【雷鳴・解放】(ライトニング・リリース)――!
 霹靂を纏う《RE》Incarnationと、雷電を放つBlue Birdの二振りの閃爍に花顔を白ませながら、稲妻の澎湃と漲る斬撃を零距離で叩き付けたッ!!
「――さて、稲妻の味は如何?」
『ッ、ぐッッ……ァッ……!!』
 時が止まる。意識が飛ぶ。
 全身を駆け巡る紫電閃雷に痙攣した手は玉葱を落とし、反撃は――叶わない。

「畳み掛けるよっ!!」
 この時、紫紺の天蓋から金絲雀の聲が降り注ぐ。
 佳聲の主はシル――空中からヒット&アウェイを繰り返して連携を繋いでいた少女は、同時に我が身に宿した厖大な魔力を六芒増幅術で強化・増幅させており、今こそ六属性の精霊の力をひとつに束ねる。
 美し花顔を煌々と白ませたシルは、其を巨大な魔力砲撃と撃ち出し、
「さぁ、全部持ってけーっ!!」
 解放、【ヘキサドライブ・エレメンタル・ブラスト】――ッ!!
 空から流星の注ぐ如く、燦然と輝く光の一条を邪の一点に結んだ。

『ぜぇァアア嗚呼ッッ……――!!』
 最早、一の王笏は耐えるだけの器を持たぬ。

 神樹・鐵火の美崩八勁を!
 リーヴァルディの限定解放・血の獄鳥を!
 荒谷・ひかるの幻想精霊舞を!
 栗花落・澪の浄化と祝福を!
 カイム・クローバーの必滅の刃を!
 篝・倫太郎の業返しを!
 月舘・夜彦の幾重刃を!
 鷲生・嵯泉の蹂刀鏖末を!
 朱赫七・カムイの再約ノ縁結を!
 誘名・櫻宵の朱華を!
 不死者の血統を覚醒した須藤・莉亜の牙を!
 冴島・類と相縁に絆された瓜江の撃を!
 月夜・玲の雷鳴・解放を!
 そして、シル・ウィンディアのヘキサドライブ・エレメンタル・ブラストを――!!
 世界に選ばれし猟兵の「埒外の力」を受け取った王笏は、漆黒の狭霧となって霧散し、影一つ残さず骸の海へと還ってゆく。

 而して後には。
 灯の光に浮かび上がった野ばらが、その美しき姿を見せるのみであった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年02月05日


挿絵イラスト