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銀河帝国攻略戦⑥~宇宙船内のお掃除

#スペースシップワールド #戦争 #銀河帝国攻略戦

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「はー……何だか大変な事になってるみたいですね」
 他人事の様にヘロドトスの戦いの顛末についての感想を漏らすグリモア猟兵、ラック・カルスは、次にあなた達猟兵の方を向いて話を始めた。
「解放軍ってご存知ですか? 悪の帝国に仇名す伝説の集団……が、出来上がりつつある。みたいな感じらしいです。はい」
 お前の事では絶対に無いだろうなと、集まった猟兵の中の誰かが言葉を投げ掛けて来るかもしれないが、ラックの方は飄々とした様子だった。
「みなさんもまた、その戦いに参加する事になるんでしょうが、とてもとても残念な話として、僕がこれから紹介するお仕事は、派手なタイプのそれではありません。もっとこう、裏方的なって言うか、話し合いで決着付けられるならそれで良しとする様な、そんなお仕事でして」
 この時点で、何人かの猟兵は別のグリモア猟兵の元へと向かうかもしれないが、そんな光景をラックは眺めつつ、残る猟兵達に向けて話をする。
「戦争って、まあ嫌な事もありますし、戦争なんて反対だーって人達は少なからずいます。僕達の方が戦争を仕掛ける側なので、そういう事言われると、ちょっと居心地が悪いですよね。だからむしろ、あっちの居心地を悪くしてやれって、そういうお仕事をあなた達に依頼したいんですよ」
 ラックはそう言うと、猟兵達それぞれに紙に書かれた資料を渡して来る。
「スペースシップワールドなのに紙媒体なんだとか文句言わないでくださいね。昨日の夜、一生懸命作ったので僕がショックを受けます。内容については、まあ、書かれている通りのものです」
 マグダラス・マグロリット。男性。43歳。政治家としてはまだまだ若手であるが、その若さの勢いでもって、それなりの支持を集めている。
 宇宙船の隅々までを清潔にをスローガンに、とあるスペースシップ内における自動掃除機械の増産と旧式から新型への代替えを行政側から推し進めている、そんな人間の資料が猟兵達の元へと届く。
「身なりも立派ですよね。背筋もピンとして、声も良く通って、言ってる事も話を聞いていれば、確かにその通りだなと思わせてくる。そんなタイプの人ですが、この度、反戦集会を開くつもりらしいです。ただ、この人、そういう軍事的な部分で目立つ政治家じゃないはずなんですよねぇ」
 そんな彼が、突然に、これから始まるだろう戦争に対して、彼が所属するスペースシップの不参加を訴え始めている。
 これは何かあるぞとラックは猟兵達の方を見る。
「予想ですが、銀河帝国の息が掛かってますね。結構、煽り屋としての才能がありそうな人なので、放って置いたら、少なくとも一隻のスペースシップが戦争に参加しなくなるかも。政治家なんてだいたいそんなもんかもしれませんけど」
 そんな政治家とどうやって戦えば良いのか。猟兵の誰かがラックに尋ねると、ラックはマグダラスについての資料を手で示しながら答える。
「どんな手段を使っても良いです。反戦集会で、彼に恥をかかせてください。彼が反戦集会にて演説を行う予定の、自動掃除機に銃は装備できないみたいな演説に反論したり、彼の事務所に潜入して、彼にとって不都合のある物を見つけ出したり、正面から、戦争をする事に対する価値を論じても良い。そこはみなさんに任せます」
 政治家と言えども、軍事系の知識は薄い人間である。付け入る隙は色々とあるとラックは話す。
「戦争とか戦いとか、そういう経験なら、みなさんの方が絶対に上でしょうね。期待してますよ。具体的に何をって言うのは、みなさんの心の中に浮かんでるものに対してとだけ。それではみなさんに幸運を」
 悪い顔を浮かべるラック。そんな彼の言葉に頷く猟兵は、この仕事を始める事になるだろう。


ゴルゴノプス
 このシナリオは、「戦争シナリオ」です。
 1フラグメントで完結し、「銀河帝国攻略戦」の戦況に影響を及ぼす、特殊なシナリオとなります。

 ゴルゴノプスみたいなものです!
 戦争シナリオが始まりましたね! 1フラグメントのみで終わるものですが、一生懸命書かせていただきます! 色んなプレイングを提出いただければなと思っている次第です!

 それではよろしくお願いできれば幸いです!
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第1章 冒険 『⑥裏切者を暴け!』

POW   :    多くの市民の集まるイベントに乗り込み、情熱的な演説等で『解放軍』参加への機運を盛り上げます。

SPD   :    銀河帝国派の政治家の事務所などを捜索し、汚職や銀河帝国との内通に関する証拠を見つけ出し、公開します。

WIZ   :    反戦集会や公開討論等に乗り込み、銀河帝国の息を受けた反戦派政治家の意見を論破します。

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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

波狼・拓哉
ふっふーん。こういう裏方で色々出来そうなのは楽しそう。探偵としては捜索の腕の見せ所…!
取り敢えずばれないように変装し目立たたないようにして政治家の事務所や住宅にお邪魔しよう。ロープや地形を利用して上手いこと侵入するか!
第六感や探偵の仕事してて身に付いた失せ物探しの技能を使い証拠を捜索。鍵がついてる引き出しとか金庫とかは怪しいんで衝撃波であんまり大きな音が出ないようにして壊してみよう。
証拠が見つけ次第、撮影して他の所で行動してる猟兵に送ろう。自分はこの政治家が行動し難いように部屋の破壊工作とか殺傷能力をなくした仕掛け罠をレプリクラフトし時間稼ぎが出来るように。
後は行動が済み次第速やかに逃走かな。


ネグル・ギュネス
裏切り者か。
私が一番嫌いな類だよ。
容赦なく炙り出してやる。

【鳴宮・匡】と同行
彼が事務所捜索をしている間に、時間稼ぎを兼ねて、【公開討論】に乗り込んで、論破する

【WIZ】
さて、私も戦で身体の半分や、記憶の大半を喪った身だ。
市民の方々の恐怖は、嫌という程わかる

機械化した部分を全員に見せながら語る


だが、参加しないからと言って、銀河皇帝が見逃してくれる道理は無いぞ?
良くて植民地からの奴隷、悪けりゃ皆殺しだ

何故、あんたらは、政治家のやつらは、大丈夫って言い切れるんだ?
───種明かししてやろうか。

テメェだけ助かろうとする裏切り者が、いるからだよ!

証拠は、ある!なあ、鳴宮ァ!

【他班と協力可能、アドリブ可能】


竹城・落葉
 成程、この政治家は敵の息が掛かっているのだったか。なら、放置しておく訳にはいかないな。
 我は市民達に向かって情熱的な演説を行い、市民を扇動するぞ。
 諸君、どうやらマグダラス・マグロリットという政治家は、優秀な機械を用いて戦争を行うみたいだな。機械なら、自身を危険に晒す事なく戦えるというものだ。……つまり、貴方方(戦闘用人格だが敬語を用いた)の仇を、機械が代わりに打ち取るという事だ。それでは、物足りなくは無いか。親しい人を奪った仇を、自らの手で打ち取れぬとは、悔しくないのか!?ならば、機械に任せず、自らの手で、かの悪逆非道な輩に、正義の鉄槌を下してやろうではないか!


鳴宮・匡
◆ネグル(f00099)と同行
◆他、同道する猟兵と必要に応じ連携
◆アドリブ等歓迎

【SPD】
演説中なら、懐はきっと手薄だろ
……逆に言えば、それでもなお警備があるとすれば怪しいよな

【情報収集】で根城の在処を探るか
もしくは関係者らしき人間を【追跡】
必要なら【影の追跡者の召喚】も使おう
出来るだけ見咎められたくない、【忍び足】で【目立たない】ように向かう
警備がいたら……、まあ、少数なら手荒に黙らせるか
一応、面倒だから殺さないぜ

中の捜索は手早く済ませたいな
妨害が入っても面倒だ

手に入れた証拠はネグル達に預ける
あとはそっちの仕事だぜ
表に出るなんて柄じゃないからさ
うまくやれよ、「解放軍の英雄」様、……なんてな


照崎・舞雪
【情報収集】【忍び足】【目立たない】を活用して事務所に潜入捜査
銀河鉄道の怪人にも操作強力してもらう

「うーん、いっそサクっと暗殺しちゃうって手も…冗談なのです。そういうこと考え梨にするとこっちの立場が悪くなる的なサムシングですね、わかってます」
「内通の証拠とかってどういう奴でしょうね?馬鹿正直に手紙残してたりとかはしないと思いますが…え?この世界だと手紙とか使わない?そ、そうなのですか」


ジョン・ブラウン
プロパガンダかぁ……まぁ、ね
故郷じゃ全身タイツのヒーローだって戦争国債売ってたし
そんなもんだよね戦争なんて

でもやるからにはしっかりやるさ
愛国者なんてガラじゃないけどね

「みんな、聞いてほしい。今この宇宙に危機が迫っている」

「奴らは全てを奪っていくぞ、それこそゴミを掃除するように僕らの家を、職場を、家族を」
「頭を下げて縮こまってれば助かる?とんでもない、彼らを見てもまだそう思うかい」
ユーベルコードによって今現在も帝国に苦しめられる人々の助けを求める声と姿を投影する

「帝国は強い、でも僕らは立ち向かう。一人ひとりはゴミのように小さくたって
集まればそれは星屑のように輝けるんだ。」

「一緒に、戦ってくれ!」


レナ・ヴァレンタイン
※他猟兵との絡み、アドリブ

まあ、生きようとすることに罪はないさ
だがこいつが処刑台の列の後ろに回る対価に世界が焼かれると困るのでな

事務所内に入り込んで捜索する
金庫か、引き出しか、それとも隠し部屋か
こじ開けるものが必要ならユーベルコードでぶった切って開く
旧型から新型への全面移行となればそれだけでも巨大利権だ

それを政策から推し進めるとなれば、政敵や政策反対派への裏工作や賄賂、もっと直接的に脅迫や暗殺がやられているかもな。その大元に銀河帝国が絡んでるのだろう

指令所や資金の不審な流れがないか調査
データ、書類、メモ書き。全部もっていくぞ
これが警察捜査なら令状でもいるんだろうが、今回は省略だ


シズホ・トヒソズマ
【SPD】

※他猟兵との絡み、連携OK

帝国も嫌な手を使ってきますね……なら、潔白ならそれでいい、フェアな手で行きましょう!
着用者は現地捜索、マグダラスさんに反抗したい方希望です

【迷彩1・目立たない1】で事務所付近に潜み、隙があれば【鍵開け2・ハッキング1】で鍵を開けて潜入
見張りなど隙がなければ、スプレッドシンクロで分身を作り、見張りを誘き寄せて貰い離れた隙に潜入

事務所では【忍び足2・迷彩1・目立たない1】で気配を消しながら調査
端末や監視カメラは【ハッキング1】で調べたり無力化し、施錠個所は【鍵開け2】で調べ、証拠は【撮影1】、終ったら【逃げ足1・ダッシュ1】で即離脱し、その後悪事の証拠は情報公開


神威・くるる
せーじとかおしょくとかふしょーじとか
そういう難しいこと、うち、わからへん……
なぁ、おじ様?うちに教えて?
詳しゅう、やさしゅう、手取り足取り……
(事務所の秘書さんや事務員さんを【誘惑】しつつ【催眠術】で情報を引き出して)
(事前にこっそり忍び込ませた猫ちゃんの背にカメラとマイクを乗せておく)

(撮影した内容をイベントで凪がしてもらうんも面白そどすなぁ。ふふ)


ヴィクティム・ウィンターミュート
戦うだけじゃなくて、プロパガンダ絡んで政治的闘争もあんのな…いいね、分かりやすくていい。レッグワークは俺の本分さ。情報収集なら百戦錬磨ってね。

ユーベルコードで透明になって、事務所に潜入しよう。【情報収集】で致命的な証拠を探す。鍵がかかったものには【鍵開け】で対処。
電子機器は【ハッキング】して、大事なデータをすっぱぬいてやる。俺ぁ【盗み】は大得意なんだ。証拠は聴衆にぶちまけて…あぁ、そうだ。
どうせならイメージががっくり落ちるコラ画像なんか作ってやろう。
そうだなぁ。銀河帝国の女士官に、あられもない姿で鞭を打たれて興奮しちまってるコラとかどうだ?なーに、俺はハッカー。証拠のねつ造も何のそのってね


シャーロット・リード
【WIZを使用】

戦争……ですか
人が傷つくのは駄目なことです
だから戦争に反対するのも正しいことです
ただそれが敵の工作であれば許せないのです!

【存在感】でアピールしつつ集会に乗り込んでいきます

戦争に反対するのに反対なのですよ!
清潔を掲げているのはいいことです。
しかしあなた自身は清潔ですか!
周囲を清潔にしていても、1つ汚れがあれば清潔とはいえないでしょう!

汚れを無くすのが掃除なら誰かの痛みを無くすのが戦争です
戦争で誰かの痛みが増えるかもしれません
ですがやらなければ痛みが増える一方なのです!
掃除をしないと汚れがたまるように!

あなたの行為は目の前のものを無視しているだけです!
それは清潔ではないのですよ!


蒼焔・赫煌
【POW】

今!
世は正に大海賊じd……あっ!
違う、違う!
宇宙戦争時代、スペースウォーよ、スペースウォー!!

ねーねー!
キミたちはあの銀河帝国っていうオブビリオンたちに困っていないのかしら?
困ってないとしても困ってる人たちを見て、なにか思ったりすることはないのかしら?
可愛いボクには大いにあります! なぜなら正義の味方だから! ヒーローだから!

今そこに困っている人が居るなら助けるのが可愛いボクの務め!
でも、可愛いボクの力だけじゃできないこともあるんだ!
でもキミたちと一緒ならきっとできる!
間違いない!
何故なら可愛いボクがそう言うからさ!
一緒にヒーロー、してみないかいっ!

【アドリブ、他の方との絡みは歓迎】


アイゼル・ローエンシュタイン
派手じゃない仕事だって派手にやるだけよ
この私だもの


WIZ
反戦集会に紛れ込む

演説に待ったをかけて割り込み壇上へ
騒がしいようなら、軽い【属性攻撃】を空に撃って注意を引くわ

皆、騙されてはだめよ
平和を語るだけでは平和を守ることは出来ないわ
帝国を倒さなければ、次はあなた達の船がヘロドトスと同じことになるのよ

戦うことの意義を説きつつ、【賢者の影】でマグダラスを尋問

彼が急にこんなことを言いだすなんて、おかしいと思わない?
さぁ、痛い目に合いたくなかったら本当のことを言いなさい
あなたは銀河帝国と繋がっているわね?
掃除機械の製作会社との癒着でも揉み消してもらうのかしら?

本当に掃除されるべきはあなただったみたいね


リチャード・チェイス
(それは、清々しい朝だというのに目玉焼きの黄身が割れてしまったような事だ。
よくある事。単にそれだけの……それだけの事なのだが、嫌に心にささくれを残す。

集会の準備中、そばのバイクの暖気音が五月蠅かった。
演説の掴みになる第一声に、客の馬鹿デカイくしゃみが被った。
清聴する会場に何故か鹿が闊歩していて機材のコードを抜かれた。
一番前に座っているくせに、完全に鼻提灯を膨らませて寝ていた。
その癖、起きたら「え、寝てませんよ?」とオーバーなアピールをしてきた。
質問を受け付けたら、要領を得ない長いだけの話をされ時間を浪費した。

何なんだ、あの鹿は)


ジェニファー・ジェファーソン
…戦争を常に肯定する訳ではありませんけれど。しかし、民衆が民衆の選ぶ道を正しく選択出来なくしてしまうことは則ち圧力でありますわ。ロックで打倒して踏破すべき障害ですわ。
真正面から以外に選択肢はありません。POW判定でお願いします。
演説に対する意見としては…戦争とはロックから遠いものですし命は大事です。しかして、命とは各々が撰び取る人生を自由に選ぶ権利を行使する為に必要なのであって、自由を選び取れない時には、それは命をかけてでも抗うべきという考えを話しますわ。
わたくしが尊ぶのはあくまで皆様が皆様の心に持つ自由意思(ロック)。なんらかの邪魔が認められた場合、ユーベルコードで物理的に粉砕します。


クネウス・ウィギンシティ
アドリブ&絡み歓迎

「当方エンジニア故、そういうことであればお任せあれ」

【POW】
方針:技術スタッフもしくは外部専門家(アドバイザー)として演説に乗り込みプレゼン
技能:【メカニック】【武器改造】【防具改造】

「自動掃除機に銃は装備出来ますが、実用性皆無・荒唐無稽・計画不足ですね」
「こちら資料をご覧下さい。
猟兵による銀河帝国への『勝利』した依頼の戦闘データになります」
「2ページに結論をまとめております、戦力・運用・コスト面を考慮すると『ユーベル・コードにはユーベル・コードで対抗するのが最も効率が良い』ことがお分かりなるかと思います」

「(指定UCを提示し)やるなら、これぐらいやらなきゃ無理ですね」



 普段は比較的穏やかであるこのスペースシップであるが、今日に限ってはざわついた雰囲気に包まれている。
 宙域においてその軍事力を背景に侵略を続ける銀河帝国。その帝国に反旗を翻したという解放軍の噂。
 その二つの集団がぶつかる中で起こるであろう戦争の予感。
 それらの情報が集積した結果であるかの様に、若手政治家、マグダラス・マグロリットが集会を開催したのである。
「我らがスペースシップ『シンチェ』はこれまで、危険の只中にあったか? 否だ! その平穏は時に刺激を求める心を生み出すだろう! だが、やはりそれに否と私は叫ぶ!」
 拡声器が無くとも良く通るそのマグダラスの声が、集まった民衆の興味を惹くのにそう時間は掛からなかった。
 このままであれば、人々はマグダラスの言葉に同調し、このスペースシップは銀河帝国との戦いに不参加を決め込むかもしれない。反戦の指導者。それはどんな時であろうとも、一定の支持を集めるものだ。
 だが、それを良しとしない人間も存在している。



「うーん。さくっと暗殺という手もありますか?」
「多分無いです。全然無いです。刃物を取り出そうとしないでください。何かに飢えた様な視線を周囲に向けないでください。頼みますから」
 マグダラスが集会を開き、演説を始める中、その隙にとばかりに、彼の事務所前へとやってきている猟兵達。
 その内の二人、照崎・舞雪と波狼・拓哉は、集会により人気が少なくなった事務所へ、当たり障り無く侵入するための作戦を練っていた。少なくとも、波狼の方はそのつもりである。波狼の方は。
「冗談ですよ、冗談」
「本当に冗談ですか? なんで刃物を仕舞う時に名残惜しそうにしてるんです?」
「分かってます。分かってますって。そういう事をすると私達の不利になる。だからしてはいけない。ちぇーーー」
「わざとらしい舌打ちもしないでくださいって! まったく……警備が薄いとは言え、政治家なんて影響力の塊なんですから、そういう荒っぽい事をすれば、この世界で猟兵の立場は悪くなるでしょう?」
 これから悪意と暴力の塊である銀河帝国と戦おうとしている時に、反抗する側が似たような方法を実行するとなれば、冗談にもならないと波狼は心の中で呟く。
「けれど、事務所にこっそり侵入して、反戦派の政治家についての情報を集めようとするなんて。過激さは無いかもしれませんけど、悪どさはそれ程変わらないのでは?」
「まあ……確かにそうなんですけどね」
 照崎の言う事ももっともであるが、それでも血が流れない方法を選ぶ努力はすべきだと波狼は考える。
 つまり、当たり障りの無い侵入方法を考えるという最初の話へ戻って来た。
「……正面からでは無く、建物の上からなら」
 政治家の事務所と言うだけあって、それなりの物が用意されている。波狼が見上げれば、三階程の高さに、一階ずつがかなり広い印象を受ける、そんな建物が見えている。
 清貧さを演出するためか、デザインを言えば無機質な印象を受けるものの、部屋数は多いはずだ。その分、調査しなければならない数も多い。
「あら、やっぱり人の事言えなくありません?」
 波狼が取り出したロープを見つめて、照崎が呟く。街中で刃物を持ち出すまともな人間がいない様に、ロープを取り出す人間だって、その類の人種だろうと、照崎は波狼を見た。
「血は流れないから……良いでしょう?」
「文句は無いですね。正面から刃物を持ち出して侵入よりかは、さらに手早そうです」
 照崎の基準はそこにあるかと頭の痛い思いであったが、今や他人の事を言えぬ波狼。
 幾つかある窓のどこから侵入しようかと目星をつけて行くと、事務所前から路地裏へと少し入ったところの三階部分に、鍵が開いていそうな窓を見つけ、ロープを投げつけた。先端にかぎ爪の様な引っ掛かりもあって、そのまま登れる状態を作り出す。
「手慣れてますねぇ」
「いやはは……こういうものの慣れなんてありませんよ……本当ですよ?」
 信じていなさそうな雰囲気の照崎は、さっそくそのロープを登って行く。波狼もそれをすぐに追った。
 あからさまに不法侵入なのだから、誰かに見られればそれだけで通報される事になるだろう。侵入自体も素早く行う必要があった。
 そうして入った先にあった場所はと言えば、事務員の休憩室らしき場所である。
「窓の鍵が開きっ放しの部屋なんて、こんな場所くらいですもんねぇ。どうします? 銀河帝国と実は結びついていたみたいな証拠がこんな部屋に……あったり無かったり? お手紙一枚ありませんが」
 きょろきょろと部屋の内部を見回している照崎。単なる部屋でしか無いのだが、どこか物珍しそうである。
「スペースシップワールドで手紙のやりとりなんて過去の遺物でしょうに」
「え? 無いのですか? 手紙? ではどうやって文通などを?」
 心底不思議そうに尋ねてくる照崎に波狼はどう返したものかを迷う。迷ったあげく、波狼は実際に見せる事にした。こういう部屋には必ず一台はある端末だ。薄い板と液晶の画面が壁に埋め込まれる様に配置され、波狼はそれに触れる。
「お、おお……おお?」
 良く分かって居なさそうな照崎に対して、波狼は画面を操作がてら説明を始める。
「こういう端末には、色んな情報が内側に収められています。もっとも、部外者の俺達では多くの情報は得られ無い様にもなってるわけですね。けど、それでも得られる情報の中には、これから他の経路で侵入してくる仲間達にとっての有用な情報があったりするわけで……こんな感じに」
 波狼は操作の後に画面に映し出された、事務所内の地図データを照崎に見せた。
「はー……最近の水槽は屋敷の地図が飾られているんですねぇ」
「そういう意見は斬新かな……」
 とりあえず、有用な情報は手に入った。照崎を見ながらそう判断した波狼は、事務所近くに来ている他の猟兵達へ、手に入れた地図の情報を送る。
 勿論、自分達はさらに事務所内の捜査を続けるつもりだが、時間が限られている今は、調査効率を上げる事こそが重要であった。



 波狼や照崎の様にこっそり侵入する事を選ぶ猟兵も居れば、正面から事務所へ向かう猟兵もいる。
 神威・くるるもまたそんな猟兵の一人であったが、だからと言って、おたくの事務所のボスが何か悪さをしていないかと馬鹿正直に尋ねる彼女では無かった。
「ややわぁ。うちぃ、だから言うてる通り、道に迷うてしもうてなぁ。ちょっとおたくはんの事務所で休ませてくれへんかって頼んでるだけやないのぉ」
 神威が猫なで声かつ甘ったるい言葉を投げ掛けるのは、事務所の守衛らしき人物だった。
「い、いや、そう言われてもだね。知らない人間を勝手に入れるわけには行かんのだよ」
 中年程度の体格の良い男であるその守衛は、身体を預けんばかりに接近してくる神威に対して、かなり押されている様子であったが、それでも最後の一線は越えない様には努めている。
(これはこれでちょいとばっかしショックやわぁ)
 多少なりとも魅力を感じて、事務所内部へ通してくれて、あわよくば情報なんかも聞き出せたりと思っていた神威であったが、守衛を説得しようとするところからなかなか進めずに居た。
「ああ、どないしまひょ。うち、道に迷うて、人を頼ろうとしていけずされて、なんやもう、くらくらして来たわぁ」
「ええっ……そ、それは大変だが……」
 こうもなれば、もはや意地とばかりに守衛にしな垂れかかろうとする神威であったが、そこに待ったが掛った。
「まったくです。職務と目の前の快楽。どちらを取れば良いかと迷うその気持ち。私は理解できますよ」
「ん? ああ、分かってくれるかね? 何とも悩ましい事で……え?」
「気持ちが伝わり合いましたね! ところで隙あり!」
 守衛の隣で、別の声が聞こえた。守衛がその声に同意しつつ、いったい何者だと振り向いた瞬間、紫色の全身スーツが守衛を包み始めた。
「ええ……? な、なんやの? いったい?」
「おっとご安心を。少々、この方との意気投合を利用して、さらに身体までもを利用させていただいた、ヒーローマスクというだけの事ですので」
 現れたそのヒーローマスク、シズホ・トヒソズマは、ちょっとでも意見に同意した守衛の身体を乗っ取る様にその身体を包んでいた。
「いや、ちぃとも安心できへん姿なんやけどね?」
「分かります。分かりますよ。今は急遽、意識を失わせていただいていますが、ちょっとでも意識を取り戻されれば、一時的な意気投合も反抗されて、この状態が解けるわけですから、不安に感じるのは仕方ありません」
「いやいや、そこやあらへんし」
 紫色のスーツを着込んだ体格の良い男という姿になってしまったシズホを見て、神威は何と言えば良いのか戸惑う。
「むぅ。では、関係者の意識を失わせてしまうと、情報を聞き出せないという事が心配なので?」
「……せやね、とりあえずそこから不安を消して行きたいところやね」
 もっと大きな不安、例えばその格好とか、外見とか、姿とか、それらが沢山あるものの、すべてをここで解決するのはきっと贅沢だろうと神威は思う事にする。一種の現実逃避だ。
「その点はご心配無く。私がこうやって力を発揮する事で!」
 シズホは自らのユーベルコードを発動するや、彼女の隣に、まったく同じ姿のもう一人の守衛が現れる。
「ややわぁ、もっと心配になったんやけど?」
「ですから安心してください。この分身は、私の着用者の意識を持ったまま、協力的になってくれるという優れものなのですよ」
「今の格好、優れてるどころか人間力は大分下の方やけどね?」
「そこはほら、行動力で補えばよろしいでしょう?」
 どう補ったら、まったく同じ紫色した全身スーツの男二人を前にした状態から、もうちょっとマシな状態になれるのだろうか。純粋に神威は疑問を持ち始める。
「……うち、目の前の現実に対して、ちょっと贅沢やったんかもしれへんね。うん、とりあえず協力的っちゅう事で満足する事にしたわ」
「ふふふ。やはり同じ猟兵として、理解し合えるところがある様ですね」
「受け入れたわけやないで? そこだけは線引きさせてな? うちの人生言うたらええんやろうか、そういうのの沽券に関わって来ると思うんやわ? けど、とりあえず何か、面白い事でも話してくれれば、助かるわぁ」
 言いながら、シズホが召喚した分身の守衛に話し掛ける。強力的だか何か知らないが、ちゃんとこちらに愛想笑いを浮かべて来ているのがとてもとても見ていて辛い。
「任せてくれ。良い情報とも言えば、君は事務所で休みたいのだろう? なら好きなだけ休んでくれて結構だ! 中に入るには、これを使えば良いだろう! 守衛用のマスターキーでな! 大半の場所の扉はそれで開くはずだ!」
 言いながら、分身の守衛は、神威にカードを一枚渡して来る。恐らくは、事務所へ侵入する上で役に立つものではあるだろう。
「えっとな? これはこれで助かるんやけど、他に、面白いもんとか無いやろか? こう、ここの事務所の一番の上の人が、なんや怪しい事をしとったとか?」
「はっはっは! まったく知りませんな!」
 良い笑顔で言ってのける守衛の分身。神威は視線を合わせるのが辛くなってきたため、シズホの方を見るも、そこにもやはり紫スーツの守衛の姿がある。
「まあ、守衛ですからね。政治家が悪行していたとしても、知れる立場では無いでしょう」
「……せやけど、これだけ辛い気持ちになってるんやさかい、もうちょっと良い事があって欲しかったわぁ……」
 言いながら、神威はマスターキー用のカードキーを手で弄ぶ。とりあえずは役には立つだろうそのカードキーを見つめながら、彼女は大きな溜め息を吐きたくなった。



 事務所内の見取り図と内部の移動に使えるカードキー。それらが揃えば、後の調査は楽になる。他の猟兵達の努力に感謝しながら、彼女、レナ・ヴァレンタインは事務所内を内部の人間にバレぬ様に移動していた。
「と言っても、集会に人員を割いてくれていなかったら、バレて騒ぎになっていたかもしれないな?」
 時々、人の気配を感じては柱の陰などに隠れ、気配が無くなれば歩き出すを繰り返し、レナは事務所内の廊下を進んでいた。これでも探偵業で培った技能で、バレぬ様に移動する程度なら出来る……のだが。
「おーっと、ひぃ! あそこに人が居やがったのか。危うく出くわすところだ。いやあ、探偵さんとやらが居てくれて助かったぜ」
「私は今のところ、君が居るせいで迷惑しているがね」
 言いながら、レナは同行者である男、ヴィクティム・ウィンターミュートを見つめた。
 男性としてはやや小柄な印象を受け、レナともそろほど背丈が変わらず、頼りの無さを感じてしまうのであるが、レナが事務所へ向かう段になって、彼は協力を申し出て来たのだ。
「安心しろって。俺がついてれば絶対に役に立つ。というより、俺がいなきゃ、あんたが向かう先に辿り着いても、碌な情報は得られないさ」
「大した自信だが、それが本物であると祈りたいところだ。行くぞ、だらだらしていればまた人が来る」
 レナは言いながら、ヴィクティムを先導していく。
 何度か事務所内の人間とすれ違い掛けながらも、バレぬ様に少しずつ。一方で時には大胆に。何時だって、誰かにバレずに移動すると言う事は、相手の思いも寄らぬルートを進むと言う事。
 そうして、漸くレナとヴィクティムは目当ての場所へと辿り着く。
 事務所のボスである、マグダラスの執務室。今は留守であるため、その扉には鍵が掛かっているものの、既に別の猟兵が手に入れてくれたカードキーのおかげですんなりと開いてくれた。
「おっじゃましまーすってな」
「返事をする輩はいないぞ」
「わーってるって」
 ヴィクティムとレナは二人して執務室の中へ入るや、部屋の様子を確認する。
 政治家の部屋と言うだけあって、豪華、いや、荘厳と表現できる様な外観をしている。壺や妙な形のオブジェなどが部屋の調度品であり、一方で無駄に立派な仕事机と使う事があるか分からない本棚が部屋の多くを占領している。
 部屋の隅には頑丈そうな金庫もあり、この部屋には価値があるものばかりだぞと自己アピールを続けていた。
 そんな部屋の中において、ヴィクティムが真っ先に目を付けたのは金庫……では無く、仕事机の上に置かれたPC端末であった。机と一体化する形になっているが、基本的な操作は理解できるもの。ヴィクティムはそう判断して、それに触れる。
「で? これからそれにハッキングを仕掛けると、そういうわけだ?」
「おおよ。あんたは出来るかい? 俺は出来る。だからここまで案内して貰った。俺はどっかに隠れてこそこそ進むっつう専門家じゃないからよ」
「私とて、そんなものの専門家であるつもりは無い」
 ただ、ヴィクティムの様に電子系の技能に優れているわけでも無いため、今はヴィクティムを頼らなければならない状況だった。
「案内しただけの価値を示せと、ただそれだけを言うだけだ」
「価値ねぇ。自分が向けられてみると、あんまり良い表現のされ方じゃねえよな、それ」
 言いつつ、ヴィクティムは端末を操作し、その端末に何かしらの端子を接続し、次には自身が用意したらしき携帯端末に接続するや、次にはそちらの操作を始めた。
「ハッカーとかいう人種は、もっとPCの前でカタカタと指で何かを叩くものだと思っていた」
「何時の時代の人間だよ、それ。今どき、電子機器内部を探るとなれば、机の上で何でもできるなんて自信満々でいるよりも、技師みたいに外からアプローチを掛けるのが大事なんだよ」
 言うや、時々、PC端末と一体化した机の一部を剥がし、またそこに端子を接続したり、再び操作をしたりと言った事を行い続けるヴィクティム。
「おーしおし。駄目じゃないかマグダラス、こんなセキュリティじゃ、中身を覗いてくれって言ってるみたいなもんだぜ? 俺がさくっと、スキャンダラスな内容を捏造して仕込んでおいてやろうか?」
「別にそんな事をしなくとも、政治家やっててスネに傷の無い人間なんかいないよ。探せば脅す材料なんかは幾らでも出て来る」
「へぇー、探偵さんは言う事が一味違うってか? けど……ああ、へぇ、マジかよ。マジでありやがった」
 ヴィクティムは端末から引き出した情報を覗く中で、それを見つける。銀河帝国とマグダラスが取引した時の記録だ。
「ふむ。やはりと言うか、当然あるというか……」
 レナもまたヴィクティムが端末に映し出した情報を覗く。何時、どこで、どういう取引を銀河帝国と行ったか。その情報がしっかりとその画面には映し出されていた。
「おっほー、じゃあこのデータを集会の方に行ってる他の猟兵に送れば、それでマグダラス君バイバーイって事か」
「いや、これは弱いな。あくまでデータでしかない。しかもハッキングして手に入れたデータだ」
「不正に手に入れた証拠は証拠能力が無いって事かよ」
「さっき、自分でデータを捏造できると言っただろう。向こうがそう主張してきたらどうするつもりだ」
 簡単に作り出せる情報は、その分だけ価値が低くなる。もう少し、確固たる物が必要なのだ。
「物……実際の証拠が必要なんだよな……待てよ? マグダラスぅ、駄目だろ? 大事なものがある場所をメモるなんて、若手政治家として最低だぜ?」
「どうした? 何か見つけたか?」
「部屋の金庫に、直近の取引きでサンプルとして貰ったもんを隠してるってよ。この次回取引き予定になってる奴だ」
「……確かに。これがあるのは致命的だな。データと照合させれば、十二分にスキャンダラスだ」
 政治生命がどうなるかなどは知りもしないが、少なくとも集会の一つや二つ潰せる程度の証拠ではあるだろう。ヴィクティムはそう判断し、金庫のロックを解除しようとするが……。
「おいおいおい。マジかよ、ちょっと待ってくれって。こんなハイテク揃いの宇宙船の中にある金庫が、電子系統一切不使用の、物理ロックのみなアンティークってどういう事だよ」
「つまり、こうされる事を望んでいるんだろ」
 ハッキングではどうしようもならないと頭を抱えているヴィクティムを後目に、レナは右肘に内臓されている超熱量の光刃で持って、金庫の扉を叩き切った。悩む時間など不要とばかりの、ヴィクティムから金庫が物理的に閉じられていると聞いてからのノータイム。
 結果、金庫は鉄が焼け爛れる匂いを立てながら、その中身をレナ達に見せてくる。
 雑に光刃で扉を完全に解体すると、レナはその中にあったものを取り出した。手に持てるくらいの重量の、平たく丸い、それなりの厚みのある機械。このスペースシップ内では自動掃除機と呼ばれているものの一台がそこにあったのだ。
「大胆だねぇ。だが、時間を掛けずに終われて良かったって言っとこうか? 兎に角今は手に入れたデータを送信して、そっちの方は物理的に集会場まで送らなきゃな」
「時間はあまり無さそうだ。集会場へ向かうのなら、今すぐにでも……ちっ、しまった」
 ここに来て、漸くと言えば良いのか、事務所内に警報が鳴り始めた。侵入が気付かれたか、金庫を無理矢理開いたのが不味かったか。
 何にせよ、逃げるにしても時間が掛る状況になってしまう。
「どうする? 俺達だけで逃げる事は出来るだろうが、それにしたって時間を掛ければ……あん?」
 ヴィクティムはコツコツと、窓が叩かれる音を聞く。今居る場所は三階のはずだがと窓を見れば、向こう側に人影が存在していた。
「……何だ、いったい」
 レナは内側から鍵を開き、窓の外にいる人間を確認する。
 そこにいたのは一人の男だ。何体もの人影が重なり、持ち上げ合い、その頂点に座っている一人の男が、レナとヴィクティムを見返していた。そうしてその男、鳴宮・匡は口を開く。
「運び屋は必要かい?」
「何だ猟兵か」
 言うや、レナは鳴宮に対して、先ほど金庫から取り出した自動掃除機を渡す。
「ここは私達が食い止める。お前はそれを持って集会場へ行け。分かったな?」
 レナがそう言うや、鳴宮は笑って頷いた。
「向こうでは知り合いが頑張っててな。その援護になるってんなら、そりゃあ必死に向かわせて貰うさ」
「そうか。なら、さっさと行くと良い」
「りょーかい。あ、けど、もうちょっと愛想とかあった方が良いと思うぜ? じゃあな」
 レナから自動掃除機を受け取った鳴宮は、足場にしている影を崩し、一気に階下まで降りるや、集会場へと走って行く。
 残されているのはヴィクティムとレナのみ。
「……さっき、私“達”が足止めするとか言ったか?」
「悪いか? どうせ、私達の役目はここで終わりだ」
「機械をぶん殴らなきゃならない仕事がまだ残ってんだよなぁ」
 言いながら、二人は、警報によりやってきた何人もの警備ロボを見つめて構えを取る。荒事は極力避けたかったが、今は時間を稼ぐ事こそが役目であった。



 一方、マグダラスの集会においては、彼の演説が最高潮を迎え様としていた。
「みなさん。ここに集まった皆々様方! そうしてスペースシップに暮らすすべての方々! 今はその熱き思いの中に、ほんの少しの冷静さを芽生えさせていただきたいのです! 戦いは悲惨です。美しく保とうとしてきたこの船が、血と硝煙に汚れる。そんな姿を、あなた方は本当に見たいと言うのですか!」
 マグダラスの声を聞いて、集会に来ていた猟兵達は、不味いと思い始めていた。
 マグダラスは予想以上に場を盛り上げるのが早い。それはつまり、演説が予想より早く終わりそうになっていると言う事。
 彼は会場に集まる人間達に対して、熱く語り掛け続けているが、話題は収束に向かいつつあった。
 マグダラスの事務所に、彼のスキャンダルを調査に向かっているはずの猟兵達からは、まだ連絡は来ていない。
 今のままでは彼を真に追い詰める事は出来ないが、それでも、動かなければならない時が来ている。集会場の猟兵達はそう考え始めていた。
「私のスローガンをどうか思い出して欲しい! 宇宙船の隅々まで清潔に! それはつまるところ……?」
 と、マグダラスの演説が途中で止まる。会場全体を見つめる様だった彼の視線もまた、一点で止まる。
 その視線の先にあるのは、集会の最前列。見ようと思えば何時だって見れたはずなのに、あまりに近くて気付けなかったその場所で、大きな鼻提灯を膨らませながら、こっくりこっくりと寝入っているそれが存在していた。
(なんだあれは……?)
 そんな疑問を抱えてしまったせいで、マグダラスはその言葉を止めたのだ。
 マグダラスに視線を向けられたそれも、視線に気が付いたのか、子守歌代わりにしていた演説が聞こえなくなったのか、はっと顔を上げる仕草をする。
 視線が合う。それは人間らしい顔で無いため、どういう類の表情かは知らないが、それでも、何か愛想笑いを浮かべた後、周囲をきょろきょろと見渡し、そうしてまた正面を向いて、私は寝てはいませんでしたよと言った様子で、マグダラスを見返して来た。
(あれは……鹿?)
 鹿と表現されたそれの名前をリチャード・チェイスと言う。集会の最前列に位置取り、何故か熱心に演説を聞こうとして、むしろ全力で寝ていた彼であるが、今は寝ていた事を取り繕うのに必死だ。
 その必死さは、意図してのものでは無いだろうが、マグダラスの演説に、一瞬、いやかなりの秒数の隙を作った。
 何だか分からないが今がチャンスだ! 猟兵達の何人かはそう考えたのだろう。リチャードについてはとりあえず無視する事にして、マグダラスの演説に異議を唱え始める。
「みんな、聞いてくれ! 僕が語るのはラブ&ピースの話じゃなくてワールド&ウォーみたいな話で恐縮なんだけど……今、この宇宙には危機が迫ってる! 特大の危機だ!」
 立ち上がった猟兵の一人、ジョン・ブラウンは、マグダラスの演説に看過され始めた観衆達に向けて言葉を発する。
「なっ、一体なんなのだね君は!」
 マグダラスに言葉を投げ掛けられるものの、ジョンは彼の言葉を無視した。そもそも、目の前の鹿については何も言わなかったのに、自分の演説くらいにいちいち反応するなとジョンは言い返したかった。
「銀河帝国ってのがどういう連中か、みんなはもう理解してるんじゃないか? 奴らは……何だって、根こそぎ奪っていくぞ! それこそ、ゴミを掃除する様に、自分達の邪魔になるのは何だってだ! 戦いを避けたいから避けられるなんて思っちゃあいけない。そんなのは単なる希望でしか無いって事、これを見れば分かるはずだろう?」
 ジョンは自らのユーベルコードを発動し、自らの腕部デバイスから、宇宙中で繰り広げられる銀河帝国の非道と、それによって苦しむ人々の悲鳴を周囲に投影する。
「帝国は強い。あまりにも強くって、人を虫けらの様に扱ってくる。そんな奴に、不戦を訴えて、こうならない保証なんてあるかい?」
 空間に投影されるその光景はリアルであった。無防備ではいられないと思わせてくるリアルがそこにある。だが……。
「その苦しみが真実だと言うのなら、銀河帝国が真に強大で慈悲無きものなのだとしたら、それこそ戦う意味とは何か! 少年、君は君が皆に地獄を進もうと提案している事に気が付いているのか!」
「恐怖を抱く事は自然な事だ! けど、恐怖に抗う行動っていうのは、縮こまる事じゃあなく、共に戦い向き合う事なんだ。みんな、お願いだ、一緒に戦おう!」
 マグダラスとジョンの言葉がぶつかり合う。それらは観衆に届くものの、観衆に決断を下させるには不十分であった。
 どちらが間違っているのでは無く、どちらも正しい類のもの。観衆には二人の言葉がそう聞こえていた。
 だが、他の猟兵はジョンに続いて行く。
「傷つく事が怖いというのは分かるのですよ。けど、そちらの方の言う通り、その恐怖に抗う手段は、逃げる事では無いのです!」
 シャーロット・リードもまた立ち上がり、観衆に訴えかけて行く。
「綺麗に綺麗に宇宙船を保ったって、そこに今、ここに映された人々の悲鳴が何時だってこびりついているのですよ。誰かの痛みは、決して、掃除機なんじゃか消えません。痛みを知って、立ち上がる事しか、消し去る事なんて出来ないのです」
「君らは何だ! 明らかに戦いを煽っているではないか。私の問いに答えるが良い。それらの言葉は、地獄へ進ませる方便では無いのかね!」
 マグダラスの言葉に、シャーロットは首を横に振った。
「地獄と言うのなら、目を背ける事こそ、延々に心が痛めつけられる地獄です。戦いの中でしか救い出せないものがあるのなら戦うべきなのです!」
 シャーロットのその言葉に、観衆の何人かは共感していく。ジョンが映し出す光景に対して、目を背けていられない人間もいるのだろう。だからシャーロットは宣言する。
「私は、戦争に反対するのに反対なのですよ!」
「ええい。この映像も、君達の意見も、単なる幻で無いと誰が言えるのか! 思い出してくれ諸君! 我々が見るべき問題は、現実は! 戦争だとか誰かの痛みとか、そういう類のものでは無く、もっとこう……壁の染みが最近気になるとか、そういうものであった事を! それこそが我々のリアルであったはずだ!」
 マグダラスは猟兵達の勢いに押され気味になって来たからか、演説にキレが無くなって来ていた。
 しかし、卑近故にと言うか、地元密着型と言うか、むしろ共感し易い話題に映って来たためか、明確にマグダラスの意見に共感する観衆も現れ始めている。
 彼らの場合、どれだけの言葉を重ねられても、戦争をリアルとして考えられないタイプなのだろう。
 そんな人々に向けても、猟兵は言葉を向けて行く。
「ねーねー! キミ達はさ、銀河帝国に苦しめられた事は無いの? これまで一切、困ってはいなかったって言える? 遠い世界の、どこかの勢力だと思ってたりはしない? それはノーだよ、絶対にノー!」
 蒼焔・赫煌は、難しい言葉を使わない。使えない。だからこそ、ごくごく単純な話をここでするつもりであった。分かりやすく、とても身近な話。
「だってみんな、まずこの映像を見て困ってる。でしょ? すっきりしないもん。悲鳴なんて聞かされると、その日一日、ぐっすりと眠れない。絶対絶対そうでしょ!」
 細かい事を考えない。直感的な事のみを語り掛ける蒼焔は、やはり幾らかの観衆達の関心を呼び込んでいた。
「けどね、すっきりしない事をすっきりさせる事が出来る。そういう方法があるんだ。それってつまり、ヒーローになることさ! ヒーローになって、困ってる人を助けちゃえば、その日一日安心して眠れる。これからボク達がしなきゃならないのはそういう事! そういう事なんだよ!」
 戦争と人助けを同列に語る。安直に思えるかもしれないが、そもそもマグダラスを支持する層の幾らかが、そういう安直さを求めていた。故に、また場の雰囲気は猟兵達側へと傾いて行く。
「よーしよしよし。良い調子だ。やっぱり演説って、ああいうノリの良さが一番だよね」
 蒼焔が演説を続ける間に、こっそり場を離れたジョンは、同じく隙を見てその場を離れたシャーロットと顔を突き合わせていた。
「うう、なんだかとっても煽ってるみたいで、申し訳ないのですよ」
「プロパガンタって、結局はこんなのになっちゃうから、悲しいよね。故郷じゃさ、全身タイツのヒーローが戦時国債売ってたりして、正義とか悪とかじゃ括れないのが戦争なんだろうね、きっと」
「けど、そういう話をわたし達もしているのです」
 シャーロットはそう呟くと、再び、演説を続ける蒼焔の方を見た。
「戦争に思う事ってないかな? ボクには大いにあるよ! ボクもまた、なんとヒーローだったからさ!」
 やはり勢いのある蒼焔の演説。というよりかは彼女のコンサートかと思える雰囲気に、シャーロットは、自分達はもしかして真性の煽り屋なのではと思えて来てしまう。
 そんな彼女に、ジョンは語る。
「そんな難しく考える必要は無いよ。罪に思う必要も無い。そもそも今の演説自体、準備が整う前の時間稼ぎなんだから……このままだと、結局はこっちが不利になる。どれだけ煽ってもだ。げ……もう時間切れ」
 ジョンはそう言うと、その場で倒れた。途端、この場において、観衆を煽っていた一番の要因である、彼が投影していた映像が消え去ってしまう。
「ちょ、ちょっと、大丈夫なのです!?」
 シャーロットは慌ててジョンを見ると、彼は倒れた姿勢のまま、なんとかシャーロットの方を見返そうとしていた。
「さっきの映像……映してると、僕の方に何らかのダメージが来る仕様でさ。胸糞悪い内容だったから、身体に毒が回ったみたいだ」
 所詮は時間稼ぎのための付け焼刃だ。どこかに不備が出てしまう。
「うおーっと! ええー、さっきまで映っていたものが消えて、あのあの……えっと、みんな、ヒーローになりたいかー! え? おーって聞こえないぞー!」
 勢いに乗る形の蒼焔の演説だったが、ジョンの映像音声が途切れた事で、その勢いを一気に失ってしまう。
 焦る猟兵達に対して、マグダラスの方は笑みを浮かべていた。所詮はここまでの相手かと高を括り始めたとも言える。
「皆さん。若者たちが若者たちらしい事を仕出かしたのを許していただきたい! 彼らの若さは、時に向こう見ずになるものなのですから! 罪に思うべきではない」
 偶然か何でか知らないが、僕と同じ様な事を言いやがってとジョンは歯軋りしたくなるものの、気分の悪さから力の無い呻きが口から洩れただけであった。
「ま、まだ。まだなのですか!? 今ここで、あの政治家のスキャンダルを突き付けられれば、それで何とかなるのに」
 だが、未だ事務所へ向かった猟兵達はやって来ない。このままではマグダラスの思惑通りに、スペースシップ内の意見が反戦へと傾いてしまう。
「となれば、最後の手段だけれど、さらに場を動かすしか無いかしら……ね」
「けど、時間稼ぎとしてするなら、それこそ最終手段になってしまいますわよ?」
 シャーロットと倒れるジョン。それぞれの横に、さらに猟兵が立ち上がる。アイゼル・ローエンシュタインとジェニファー・ジェファーソンの二人だ。
 彼女らもまた、この集会場で、マグダラスのスキャンダルを待ち、時間稼ぎを行うためにここに居る。
「ほ、他に手段も無いしね。僕は任せるよ」
「私もなのですよ……もしかしたら、あと少しで、来てくれるかもしれないのです」
 ジョンとシャーロットに託され、まずはジェニファーがマグダラスが居る方へと向かう。
「若さを理由に、その行動が無軌道だとするその言葉。むしろ傲慢と受け取りましたわ! 抑圧であると!」
「ま、また現れるか君達は!」
 次々と自らの演説を遮る様に現れる猟兵達に、遂にはうんざりとした視線を向けて来るマグダラス。
 ジェニファーの方は別にそれで構わなかった。そういう気分にさせるのが目的なのだから。
「抑圧を打ち砕くものこそ、ロック! 自由意思の塊。それがロック! 観衆の……いえ、観客の皆様! いい加減に退屈してきたのではありませんこと? ああしなければ駄目。こうしたら悪い。ここにはそういう抑圧しかありませんのよ!」
 ジェニファーが狙っているのは、場の雰囲気そのものを崩す事だ。勿論、崩したところで、この場の目的そのものが戦争反対が賛成かの話し合いなのだから、一時的なものでしか無いのだが、それでも、一時的でも時間を稼げれば良いとジェニファーは考える。
 もっとも、話題は多分に彼女の趣味が見え隠れしている。
「抑圧とは、圧力とは、打倒すべき障害! 皆様、今こそ立ち上がって、ロックの原点を思い出してくださいまし! 自由を思うそのロックを! 戦争はロックから程遠いかもしれませんが、命をどう扱うかの自由が奪われるというのなら、戦いも辞さない。それもロックであったはずですわ!」
「ロックロックと! いったい君は―――
「シャアアラアアアアップ!! ですわ!!!」
 ジェニファーは爆音を発生させる自らのユーベルコードにより、地面を音で粉砕する。
「ロックを遮ってはならない! それが分かりませんの!」
「おい! これテロリストではないか!? そうでなくとも器物破損だろう!?」
「あ、しまったですの」
 少々、テンションが上がってしまった。時間稼ぎにしたところで、無理矢理なそれは暴走もしがちだ。マグダラスを怯えさせる事には成功しているが、観衆もまた怯えた表情を浮かべている。
「やれやれ、だからこそ最終手段なのだけれど。お互い、やりたくなかったわね」
 ジェニファーに並ぶ形で、アイゼルがやってくる。ちなみに、マグダラスの言葉に反応した警備ロボに囲まれた状態でだ。
「直接的暴力は無しですのよ?」
「分かってる。それをしちゃあ反戦どころか何も無くなってしまうもの」
 だからアイゼルは、空に向かって暴力を振るう。魔法による一撃を、空に向かって放ったのだ。
 既にジェニファーが周囲の目を集めていたところでのアイゼルの行動に、むしろ辺りは静まり返る。それが合図だとばかりにアイゼルは口を開いた。
「皆、騙されてはだめ」
 アイゼルもまた、語り掛ける先は観衆だった。マグダラスは帝国と組んでいる。そうであれば、彼自身を説得する事に意味は無い。
「平和を語る言葉についてもそう。言葉だけでは何も守れない。帝国を倒さなければ、次はあなた達の船がヘロドトスと同じことになるのよ」
 観衆を見回し、そうして語り掛ける。マグダラスに対して必要なのは、説得ではなく糾弾であると。
「彼が急にこんなことを言いだすなんて、おかしいと思わない? 彼はそういう事を語る政治家だったかしら? 思い出して。違うわよね?」
 観衆が、これまでとは違った形にざわつき始める。それはこれまでとは違う事を語られているからだろう。
「彼が反戦を訴えるのは、それが銀河帝国の利になるから。彼は銀河帝国と繋がっている! 戦争に参加するスペースシップが減れば、それがそのまま銀河帝国の有利になるからよ!」
 猟兵達が真に語りたいのは、こういう事であった。反戦を訴える政治家は、その実、裏切者であると糾弾する事。それが狙いであったのだ。
「馬鹿な!? いったい何の証拠があってそれを言うか! それこそ、民衆を騙すための安易な騙りに過ぎないのではないかね!」
「それは……」
「それは?」
「……これから判明する、かも?」
 本当に、これが時間稼ぎの最後の手段だった。証拠を出す前段階まで進ませる。そうして証拠はまだここに無い。つまりは……これが失敗するとすれば、時間切れを意味している。
「ふっ、やはり追い詰められて適当を抜かしただけでは無いか! 良いか、この船に銀河帝国に付く裏切者などいるはずも―――
「それはテメェさ、マグダラス・マグロリット。銀河帝国に通じている政治家さんよ」
 そうして、漸く、ネグル・ギュネスがやってきた。彼はその手に携帯端末を所持している。まるでそれが、マグダラスを糾弾する証拠であると言う風に。
「次から次へと!」
「それだけテメェを許されねえ奴が多いって事さ。私もテメェを許さねえ。自分一人の利益のために、大多数を騙すなんてことはな。この端末に、テメェと銀河帝国の取引きに関わるデータがすべて揃ってるんだよ!」
 そのネグルの言葉に対して、冷や汗を流し始めるマグダラス。一方、アイゼルの方は内心、胸を撫でおろしていた。本当に、ここに来て漸く証拠が来てくれた。本当にギリギリだったが、なんとか間に合ったのだ。
「しょ、所詮は幾らでも改ざんが可能な物に過ぎない! お前達が私を貶めるために作り出した物では無いと、誰が言える!」
「いい加減、折れたらどうですの! このデータはそもそも、あなたの事務所から見つかったものですのよ!」
「そう。それに、これ以外にも証拠は存在しているわ」
 苦し紛れの反論に対して、シャーロットとアイゼルはこれまでのうっ憤を晴らすかの様に、畳み掛けて行く。
「ぐうう……しょ、証拠だと、それがここに!?」
「いや、ここにはない」
「は?」
 言ってのけるネグルに対して、マグダラスでは無くアイゼルが疑問符を浮かべる。
「ちょ、ちょーっと待ちなさいよ! 今のタイミングって、もう全部、ここに証拠が揃ったからこそのそれでしょう!?」
「とは言っても、まだここに届いてないからなぁ」
 呟くネグルに対して、次はマグダラスが笑い始める。
「はっ……はぁーっはっはっは! それ見た事か! やはりお前達は信用ならぬ。我らがスペースシップを危機に貶める存在なのだ!」
「おっと、ちょっと言い方が不味かったみたいだな。勘違いさせて悪かったが……証拠はもう届く! なあ、鳴宮ァ!」



「ったく、無茶させてくれるよな」
 呟きながら、まだ集会場まで距離のあるビルの上に立ち、そこから集会場を見下ろす鳴宮・匡。
 彼はマグダラスの事務所で預かった自動掃除機と、アサルトライフルをそれぞれの手に持っていた。
 まだ証拠品と集会場の距離は遠く、未だに鳴宮の手の中に存在している。
 だからこそ、これから、その距離を一気に縮める必要があった。そのための行動として、まず鳴宮は自動掃除機を集会場の方向へ投げる。
 しかし、それで届くのなら苦労は無い。さらなる勢いを足してやる必要があるのだ。そのために鳴宮は、アサルトライフルを構えている。
「はっ、うまくやれよ、「解放軍の英雄」様……なんてなぁ!」
 ライフルから射出された弾が落ちる自動掃除機にぶつかり、さらに向こうへと自動掃除機を運ぶ。その次の弾も、その次の弾も自動掃除機を集会場へと運んで行く。
 鳴宮の技能がその繊細な射撃を可能としたのだ。
 鳴宮と集会場の距離は未だ遠いが、それでも、証拠品は遂に集会場へと届く事になる。



 まるで狙っていたかの様に、マグダラスの前に、その自動掃除機は落下した。
「……こ、これが、これが何だと言うのだ! これは私が代替えを推進していた新型の自動掃除機では無いか! こんなものが、何の証拠になると!」
「おや、おやおやおや。これはおかしい。これは妙だ」
 落下してきた自動掃除機に近づく猟兵クネウス・ウィギンシティ。彼はエンジニアとしての気質から、その自動掃除機についての妙をすぐさま察した。
 もっとも、既に猟兵同士で仕込み済みの発言でもある。
「何が、何がおかしいと言うのだ。そんなもの」
「いえいえ、この掃除機は生半可なものではありません。だって、これ、相当な高さから落下してきたのですよ? しかも見てください、弾痕らしきものが付いているのにそれが貫通していない。というより、装甲ですかね? そこで止まっている」
 装甲。クネウスの発したその言葉には、ある種の物々しさがあった。単なる便利な道具なだけでは無く、もっと違う存在意義があると、そう伝えてきている。
「見てください。他にもほら、ここ。この部分。丁度、銃火器をラックできる様にもなっています。十分な装甲と火器を携帯できる構造。自動掃除機としての機能は、そのまま移動能力として利用できますから……うん。十分に兵器の一種と分類できるでしょう」
 クネウスの一言一句が、マグダラスの顔を青ざめさせていく。だが、そこで終わるはずも無い。
 また別の猟兵、竹城・落葉がマグダラスと、観衆に対して語り掛けて行く。
「なるほどなるほど。この自動掃除機は確か、データに寄ると銀河帝国との取引きの中でサンプルとして与えられたものだとか。そうして貴様はそれを受け入れ、今後は単なる新型の自動掃除機として宇宙船内に配備するつもりだったと……これはどういう意味を持つかな?」
「そ、それは……う、宇宙船を……隅々まで……」
「自動掃除機とはよく言ったものだな。この銀河帝国から受け取った兵器が、宇宙船内に多数配備された時、いったい何を掃除するつもりだったのか。我が耳に聞かせてみろ」
 竹城は続けて問い掛けるものの、マグダラスは生気を失った様な顔を浮かべて、呟くのみだ。
「私は……私はただ、戦争に巻き込まれぬ様に……」
「訂正。この銀河帝国よりの兵器を宇宙船内に持ち込んでいる以上、既にこのスペースシップは戦争に巻き込まれています。それも銀河帝国を利する形で」
 クネウスのその言葉は、マグダラスに向けられたものなのだろうが、しっかりと周囲の観衆にも聞こえるものであったため、周囲をざわつかせ、さらには混乱もさせていく。
「落ち着いてくれ! 貴方方に罪は無い! だが、この機械がここにある限り、もう無関係ではいられなくなったと、そう伝えているだけだ」
 竹城が言う、その“だけ”こそが、観衆に衝撃を与えていた。
 反戦を唱えていたはずの集会が、その実、既に戦争に巻き込まれていたと告げられる驚愕。混乱するなと言う方が無茶な話だった。
「ええっと……はい。気休めかもしれませんが、この戦闘用自動掃除機と表現できるかもしれない兵器ですが、兵器と言えども、掃除機としての機能が邪魔で、あまり有用な兵器と言えないかもしれません。おや、本当に気休めにもなりませんでしたか」
 自分達にとっては特大の爆弾だと言うのに、クネウスからそれ以外の用途としては大して役に立たないと表現されたのだ、気分が良くなるものでは無いだろう。
 それでもと、竹城は叫ぶ。
「貴方方は再び選ばなければならない。こんなものを貴方方に内密に用意しようとした者が叫ぶ反戦と、銀河中で立ち上がる者が現れた解放軍としての参戦かを!」
 些か、誘導的な言い方であったかと竹城は内心思うものの、観衆に関しては、ここまででとりあえずは良しとする。これから、彼らが何を選択するかは、もう決まり切った様なものだったからだ。
 そうして、残される政治家のマグダラス。彼をずっと見つめていたネグルは、一歩足を進ませ、彼へと近づく。
「馬鹿な事したよ、あんた。銀河帝国に付いたって、奴らのやり口を見ていれば、大事にしてくれるはずが無いって、分かるもんだろう?」
「私は……ああああああ……」
 マグダラスの嘆きが会場に響く。この後に及んですら、彼の声は周囲に良く響くものであった。



「とまあ、そういう事であったのだよ」
 誰に言うわけでも無く、リチャード・チェイスが、誰もいなくなった会場にぼんやりと呟く。
 一人、やはり眠くて眠っていたところ、どうにも取り残されてしまったらしく、今はスペースシップの天井をぼんやりと見つめていた。
「かくして、猟兵達の努力に寄り、この宇宙船は戦いの地へと向かう事になった。戦争は未だ燻る火と言った程度。激化していくのはこれからであり、猟兵達の戦いは始まったばかり……なのだが、みんないないね? どこ行ったのかな?」
 寂しく呟くリチャードの声は、やはり寂しく会場に響く。
 何にせよ、この度の猟兵達の仕事は成功だ。また別の戦いに挑戦するも、これより後は休息を取るのも、各々の自由であった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年02月02日


挿絵イラスト