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大正スパヰは夜桜に舞う

#サクラミラージュ #幻朧戦線 #スパヰ甲冑

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#スパヰ甲冑


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●🌸
「やあやあ皆さん! 温泉に行ってみたいと思いませんか!」

 猟兵たちの前に立つ千束・桜花(浪漫櫻の咲く頃に・f22716)が、仰々しく両手を広げる。

「帝都によって世界は統一されてはいるものの、国というものはそれほど単純なものではありません。損得や思想によって対立が起こることは未だあります。帝都の情報を集め、他の国々よりも優位に立とうという国はやはりあるんですよねっ!」

 つまり、スパヰがいるということです! と、桜花は目を輝かせて両手をぐっと握った。

「スパヰですよ、スパヰ! 浪漫がありますね、ええ浪漫がありますとも! 自国にスパヰが入っているという危機的状況でありながら、不謹慎にも興奮してしまっています!」

 ひとりで盛り上がっていることに気付いて、こほん、と咳払いを一つ。

「普段なら多少の取り締まりを行うだけで問題はないそうなのですが、どうやら影朧戦線に情報を流しているスパヰがいるようなのです。人間同士のやり取りならともかく、影朧戦線に情報を流しているとなれば許せません! 見つけて懲らしめてやりましょう!」

 いま一度拳を振り上げ、桜花は熱弁する。
 全ては帝都の平和を守るため。

「それで、そのスパヰがいるというのがどうやら温泉街のようでして! 皆さんには温泉街に行ってもらいます! 帝都のなかでも特にきれいな桜が咲くようでして、到着するころにはきっと素敵な夜桜を見られるでしょう!」

 良いですね夜桜、なんて楽しそうに語りながら、桜花は猟兵たちを見送った。
 帝都の平和を守るため……。


るーで
●ご挨拶
 ごきげんよう、るーでです。
 しっとりしたいなぁ、温泉とか……遊郭とか……!と思っていたらいい感じのフラグメントがありましたね。

●概要
(一章)
 🏠日常です。
 夜の温泉街でのんびりと過ごしながらスパイの痕跡を探していただきます。
 普通に日常を楽しんでいただければめちゃくちゃわかりやすいところに痕跡があるので基本的に気付きます。

(二章)
 ⛺冒険です。
 遊郭に逃げ込んだスパイを探すために猟兵にも潜入していただきます。
 奉公人や遊女として紛れ込んでよし、客として入ってよしですがトラブルには気をつけて。
 雰囲気はプレイングによりけり、といったところです。
 スパイの潜入はガバガバなのですぐ見つかります。

(三章)
 👿ボス戦です。
 スパイと戦っていただきます。
 比較的猟兵優位でコメディテイストな戦闘になるかと思います。
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第1章 日常 『桜舞う温泉街でのひととき』

POW   :    飲食店や、お土産屋がある通りを散策する。

SPD   :    湯畑を見たり、屋形船に乗る。

WIZ   :    温泉に入ったり、手湯や足湯を楽しむ。

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●帝都のマル秘情報とは……
「ククク……帝都の全て、コレで全て丸見えデス」

 双眼鏡を片手に男がつぶやく。
 月明かりを反射する水面に映し出されたのは、黒い影。
 桜舞う温泉街で、巨大な陰謀を孕んだ小さな笑い声が夜空に消えた。
ニノマエ・アラタ

スパヰか。
俺はスパヰではないが……。
眼光の鋭さをやわらげ、
所作に特徴的な動きをみせず、
口調も丁寧やわらかに。
目立たぬ、を心がけよう。
通りを散策し、
土産物屋をひやかし、人の集まる場所へ足を運ぶ。
それとなく影朧戦線の噂話や、不穏な影をそっと集める。
湯気のたつ温泉饅頭の屋台は避けて通れない、かもしれない。
少しぐらいは自分の楽しみに気を向けても良かろう。
そういう説明がされていたはずだ。
人に紛れ、人の波にのり、夜桜の下を歩きながら痕跡を探すが、
それを残してしまうようなスパヰは、相当無粋な輩だろう。
見つけても感情は表に出さず。
なんだろうねぇ、と周りに合わせはするけれども。
夜桜見物の方が大事というていで。



●夜桜、人波、時々饅頭

「温泉饅頭2箱、いただけるかい」

「まいど!」

 桜舞う温泉街の通り。
 湯気のたつ温泉饅頭の屋台の前で、ニノマエ・アラタ(三白眼・f17341)は穏やかに微笑んだ。
 店主はニノマエの姿をちらりと見ると、笑顔で応じる。
 釣り銭を受け取るとニノマエは通りの散策を始めた。
 客の愛想が良ければ、店員の態度も柔らかくなるというものだ。

(反応は上々、こんなものだろうか)

 この調子ならば、店員から怪しまれることもなく歩き回ることができるだろう。
 ニノマエが本来持つ視線は、一般人に紛れるには鋭すぎる。
 普段の口調は、人から話を聞くには角が立ちすぎる。
 こうして目立たないように表情や口調を変えるのも、ニノマエにとっては容易いことだ。
 ───尤も、温泉饅頭の買い食いは個人的な楽しみではあるが。

(悪くない街だ……)

 人波に紛れて、ふらりと歩く。
 温泉と桜の香りに包まれたこの道は、観光客と多数の店で賑わっている。
 普段のニノマエは無口で無愛想な男だが、こういった雰囲気が嫌いなわけではない。
 プライベートで来てもいいかもしれないなと思うと、口元も緩んだ。

「ねぇ聞いてよあんた」

 舞い散る夜桜の下、ふかふかの生地と甘いあんこを堪能しながら通りを散策し、土産物屋を回るニノマエの耳に飛び込んできたのは、店員の女性の声だ。
 声をかけられたのが自分だと気付いたニノマエが、女性に穏やかな態度で答える。

「おっ、どうかしたのかい」

 本当に重要な情報は、こういった何気ないところにあるものだ。
 ニノマエは話しかけてきた女性の方へと近寄って、興味があることを表す。

「ここに双眼鏡は無いかって聞いてきた男がいたんだよ。記念撮影する人は多いからさ、撮影機じゃないのって聞いたら、すぐどこかへ行っちゃって。なんだったんだろうねぇ」

「はぁ、それは不思議だねぇ。近くに珍しい鳥でも居るのかな」

 腕を組んで首をひねる女性に同意して、その間に自分も思考を巡らせた。

(双眼鏡か……こんなところに痕跡を残すとは、無粋な輩だ)

 この温泉街で見られるものを、わざわざ双眼鏡を使って見るのであれば、スパヰの潜伏場所はある程度絞られる。
 スパヰの潜伏先に当たりをつけたニノマエは、夜を舞う桜に導かれるように、ひと気の少ない方へ歩いていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

臥待・夏報
やっさん(f18885)と

サアビスチケットで豪遊するの、そろそろ罪悪感薄れてきたな……
でも遠慮して安めの宿を選んじゃったりもして、夏報さんも小市民っていうか

情報収集のことはお風呂でさっぱりしてから考えよう
いやー戦う令和人にはまず休息が必要だよなー
(手拭いを適当な庭石へ放る)
(この女、周囲に人目がなくなった途端がさつになる習性があった)

……え
えっ
……もしかしてここ、男湯……?

あっ混浴か!
道理で安いと思った!
間違えた訳じゃないなら良かっ……良かったのか?(湯の中でうずくまる)

やっさんこそなんで、(耳を見る)(背の傷を見る)(尻尾のあたりはやめておく)人目のない所の方が良いもんね……
な、なんかごめん


安喰・八束
臥待(f15753)と

折角の温泉街だ、仕事は湯治ついで
俺も随分とトシだからなあ…
(適度に鄙びた露天)
(ズパァン!入っていく体中傷だらけの狼耳狼尾のおっさん)
(エンパイアの田舎者は混浴を意識しない)

……お
おう
……何でこんな所にいるんだ、臥待……?

(意識しないが!
知り合いの女人の裸身に目を背ける情が
狼にもあった!)

…イヤ楽にしてくれ
そっちは見ねえし
振る舞いに文句付ける気もねえよ
然しお前さん、もうちっと良い宿泊まりゃ良いだろうに
悪い事は言わんから

(怪しい影があれば「狙い撃ち」で礫を投げつける
手傷を負わせりゃ追いやすくもなる)(咄嗟の一撃、スナイパー、追跡)

…ほらな


……今回は古女房、使えんかも知れんな



●アクシデント!

 辺りを包み込む湯けむりと桜の花びら。

(いやー、戦う令和人にはまず休息が必要だよなー)

 手拭いを手に入ってきた臥待・夏報(終われない夏休み・f15753)が、開放的に身体を伸ばす。
 ここは温泉街の中でも少し端にある小さな宿の、露天風呂。
 店の規模に比例しているのか、露天風呂もあまり広くはない。
 本来は猟兵であればサアビスチケットによって温泉宿も無料で泊まり放題なのだが、人によっては少し罪悪感もあるようで……。

(遠慮して安めの宿を選んじゃったりもして、夏報さんも小市民っていうか)

 ひとり苦笑いして、かけ湯をする。
 持っていた手拭いを庭石へ放って、湯に足を入れた。

 一方で、ここはその露天風呂へと続く脱衣所。

(俺も随分とトシだからなあ……)

 服を脱いで手拭いを手にした安喰・八束(銃声は遠く・f18885)は、身体に付いた傷に軽く指で触れて、温泉へと思いを馳せる。
 暖かい温泉で、一気に肩まで浸かって息を吐けば、どれだけ心地よいかを想像すると、狼の尻尾がゆらゆらと揺れる。
 気分良く手拭いを肩に掛けた八束は、ズパァン! と小気味よい音を立てて脱衣所の戸を開けた。

「……え」

「……お」

 入ってきた狼男が先客に気付くのと、油断しきった女がその音によって振り向くのは、同時だった。

「えっ」

「おう」

 温泉で羽根を伸ばしていたら人が入ってきた。
 男だ。
 しかも、知人の男だ。
 わっと浴びせかけられるような情報に、夏報の動きは止まった。

「……もしかしてここ、男湯……?」

 固まった身体とは対照的に、思考は加速していく。
 いくらなんでも、男湯に入ってくる女だと思われてしまうマズい。

(だけど、やっさんはそれほど驚いてはいなかった! せいぜい、見知った顔がいることってくらい! ここは女である夏報さんがいてもおかしくはない場所!)

 そう、ならばそこから導き出される結論はひとつである。

「あっ混浴か! 道理で安いと思った! 間違えた訳じゃないなら良かっ……良かったのか?」

 それはだれにもわからない。
 合点のいった夏報は、身体を隠すためか、照れを誤魔化すためか、湯の中でうずくまる。

「……何でこんな所にいるんだ、臥待……?」

 手拭いを頭に乗せ、湯の中に腰を下ろして大きく息を吐いた八束が、膝を抱えた夏報に語りかけた。
 猟兵である夏報にはサアビスチケットが支給されており、無料で高級宿に泊まることができるからだ。
 尤も、それは八束も同じではある。

「やっさんこそなんで───」

 不満げに口元を尖らせた夏報の目についたのは、八束の傷だらけの身体だ。
 人狼の居ないサクラミラージュでは不思議に思われないだろう狼の耳や尻尾はともかくとして、傷は目立つのではないだろうか。
 それに、あまり見られたいものではないかもしれない。

「───ひと目のない所の方が良いもんね……」

 頭の中で一本線が通ると、夏報は視線を八束の身体から反らした。
 見られたくないのでは、というのにはもちろん自分も含めているからだ。

「……イヤ楽にしてくれ。そっちは見ねえし振る舞いに文句付ける気もねえよ」

 八束は湯を自分の肩にかけながら、口角を上げる。
 自分から人に見せるものでもないが、見られて恥ずかしいものでもない。

「然しお前さん、もうちっと良い宿泊まりゃいいだろうに。悪い事は言わんから」

 そう言いながら、八束は手の届く範囲にあった小石を拾って、近くの茂みへと投げ込んだ。

「ウップス!」

 なにかに当たる鈍い音と共に、茂みの中から男の声が聞こる。
 それから、がさがさと茂みをかき分ける音が聞こえて、少しすると静かになった。

「……ほらな」

 八束が大きく口を開けてからからと笑うと、夏報はいつもより少しだけしおらしく頷いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

千桜・エリシャ
◎【理解しがたい】

温泉よ!温泉!
も、もちろんお仕事も忘れてなくてよ?
えーっとスパヰだったかしら?
スパヰさんも温泉を楽しんでいるのかしらね
ならば私たちも楽しみませんと!
それにうちの宿以外の温泉を知る機会ですわ
さあ!参りましょう!

風情があっていいこと
あら、牡丹は誰かとお風呂は初めてですの?
ではお背中を流してあげますわ!
お加減いかがかしら?私、上手ってよく言われますのよ
さて、身体も洗ったら温泉へ――あら、牡丹?
湯船ではタオルを取らなくてはだめでしょう?えいっ
女の子同士なのですから恥ずかしがることありませんのに
…?
私の胸になにかついていて?
あらまあ、蕩けた顔しちゃって…可愛いこと
ぎゅっと抱きつきにこっ


毒藥・牡丹

【理解しがたい】

温泉…!ってあんた、これは仕事なんだからしっかりしなさいよ
そもそもこっちはあんたとだなんてこれっぽっちも納得してな──
はぁっ!?なんでそうなんのよ!!
やるなら真面目にや、あっ、ちょっと、引っ張んないでよ!!

(こ、これが温泉……)(ごくり)
えっ?あっ、ええそうね、せっかくだから……っていやいやいや絶対厭よ!!厭ったら厭!!!
……なによ
はあッッッ!!??あ、あ、あああ、こ、ちょ、ちょっと返しなさいよそれ!!!
そういう!!問題じゃ!!ない!!!
ほんとに最ッッ悪……だからこんな女と一緒になんて……
はっ!?はぁっっ!!??べ、別になんでもないわよ!!

っっ……う、うっさい……(ぶくぶく)



●ごちそうさまです😉

「温泉よ! 温泉!」

 舞い散る桜と観光客で賑わう温泉街の大通り。
 からからと軽い調子で下駄を鳴らしながら、千桜・エリシャ(春宵・f02565)はくるくると舞うように歩いていた。

「温泉……! ってあんた、これは仕事なんだからしっかりしなさいよ」

 隣を歩く毒藥・牡丹(不知芦・f31267)は、眉をひそめてエリシャに向かって指を立てる。
 エリシャの視線がそれている間に一瞬だけ乗ってしまったのは内緒だ。
 それを誤魔化すように、エリシャへと捲し立てる牡丹。

「そもそもこっちはあんたとだなんてこれっぽっちも納得してな───」

「も、もちろんお仕事も忘れてなくてよ?」

 エリシャは牡丹の文句を遮るように両手を前に出して、それから口元に人差し指を当てて首を傾げた。

「えーっとスパヰだったかしら? スパヰさんも温泉を楽しんでいるのかしらね。ならば私たちも楽しみませんと!」

「はぁっ!?なんでそうなんのよ!!」

 強引に話を進めるエリシャに牡丹は反論するが、エリシャは聞く耳を持たないといった様子で牡丹の腕を抱くように腕を絡めた。

「それにうちの宿以外の温泉を知る機会ですわ。さあ! 参りましょう!」

「やるなら真面目にや、あっ、ちょっと、引っ張んないでよ!!」

 そうして向かった温泉宿の一つ。
 街の中心を流れる川を見下ろすことのできるこの宿の露天風呂は、街の中でも評判が良い。

(こ、これが温泉……)

 立ち上る湯気と、混ざり合うように舞う桜。
 月明かりもすっかりとぼやけて、プリズムのように広がっていた。
 生まれたままの姿にタオルを巻いた牡丹も、思わず息を呑む。

「風情があっていいこと。 あら、牡丹は誰かとお風呂は初めてですの? ではお背中を流してあげますわ!」

「えっ? あっ、ええそうね、せっかくだから……っていやいやいや絶対厭よ!! 厭ったら厭!!!」

 一通り景色を堪能したエリシャは、牡丹を洗い場へ引っ張っていった。
 抵抗虚しく、背中を向けて座らされた牡丹。
 その華奢な背中を、エリシャが洗う。

「お加減いかがかしら?私、上手ってよく言われますのよ」

 手慣れているだけあって、上手い。
 関心して声が出そうになるのを抑えて、牡丹は抵抗しないことを返事とした。

「さて、身体も洗ったら温泉へ───あら、牡丹?」

 これから温泉へ浸かろうというときである。
 エリシャが牡丹の装いを見て、声を上げた。

「……なによ」

 濡れた黒髪に白い肌と、華奢な体を包むタオル。
 絵になる光景ではあるが、温泉宿の女将が気にするのは、それだけではない。

「湯船ではタオルを取らなくてはだめでしょう? えいっ」

 そう言って、牡丹が巻いていたタオルを剥ぎ取るエリシャ。
 一瞬、牡丹は固まった。

「はあッッッ!!?? あ、あ、あああ、こ、ちょ、ちょっと返しなさいよそれ!!!」

 それから、はっとして一気に顔が赤くなる。
 腕で身体を隠すように自らを抱いて、牡丹は片手をエリシャへと伸ばした。

「女の子同士なのですから恥ずかしがることありませんのに」

 おほほと笑いながらタオルを畳みつつ、牡丹の手を躱すエリシャ。

「そういう!! 問題じゃ!! ない!!! ほんとに最ッッ悪……だからこんな女と一緒になんて……」

 何度かタオルを取り返そうとするも、身体を隠そうとして動きに制限のかかった牡丹と、自由に動き回るエリシャでは、捕まえられるはずもなく。
 諦めて文句を言う牡丹が視線を落とす。
 目に飛び込んできたのは、牡丹とは対照的に豊かな胸。
 口が動きを止めて、思わず凝視してしまう。

「……? 私の胸になにかついていて?」

 視線に気付いたエリシャが胸に手を乗せ、首をかしげる。
 でっかいものがついているのである。
 圧倒的存在感に、同性ながら牡丹も息を呑んだ。

「はっ!? はぁっっ!!?? べ、別になんでもないわよ!!」

 いくら対抗心を燃やしても追いつけないと思えるほど圧倒的格差ショックを誤魔化すように、牡丹は温泉に浸かる。
 足先から肩まで全身が暖かくて、先程まで目のつり上がっていた表情も思わず緩む。

「あらまあ、蕩けた顔しちゃって…可愛いこと」

 くすくすと笑いながら隣に腰を下ろすエリシャ。
 胸は浮いた。

「っっ……う、うっさい……」

 顔を花のように赤くした牡丹は、口元まで湯に沈んでぶくぶくと泡を作る。
 そんな会話をしていたときである。

「ン"! エ、エモ……」

 川側の仕切りの向こうから、男の声が聞こえた
 それから、走って遠ざかっていく音。

「……ねえ、今のって」

 声の聞こえた辺りを調べてみると、仕切りに小さな切込みがある。
 少し離れるだけで気にならない大きさではあるが、ぴったりとくっついていれば反対側を覗くことができそうだ。

「いけない子が……スパヰさんがいたのかしらね。ああ、牡丹のタオルを取ったところも見られてしまいましたわ。重要機密ですのに」

「───ッッッ!!」

 牡丹の悲鳴とも怒号とも取れる声が、桜舞う夜空に響いていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

マリアンネ・アーベントロート

スパヰということはつまり珍しい情報がほしいわけだよね。
そして珍しいものと言えば空飛ぶ五円玉、つまり私の出番だね。

ゆったりと足湯に浸かりつつ、五円玉を飛ばそうか。88個、合計440円の編隊飛行……さぞかしスパヰの興味を惹くに違いないねっ。
スパヰが尻尾を出したら440円の総攻撃が始まるよ。440円の催眠術を食らうといい、ってねっ。

……私? 私はほら、足湯でまったりするのに忙しいから。
まったりし終わったあとに五円玉が催眠術を撃っていた場所にいけば、痕跡とか手がかりとかあるんじゃないかな。たぶん。



●魅惑の足湯

「なるほど、完璧に理解したね」

 暗躍するスパヰと帝都桜學府の秘密。
 それを守るためには別の情報でスパヰを炙り出す必要がある。
 つまりマリアンネ・アーベントロート(ゼーブスタスの催眠術師・f00623)の空飛ぶ五円玉の出番である。
 そうか?

「さ、行っちゃえ、五円玉たち」

 そう言ってマリアンネが手のひらに乗せた五円玉たちに語りかけると、不思議なことにいくつもの五円玉が空を飛び始めた。
 88個、合計440円が一糸乱れぬ編隊飛行で温泉街を飛び始めるのを見送ると、マリアンネはもう一つの目的に集中する。

「やらなきゃいけないことが山積み……できる女は辛いね」

 ふっ、と微笑み、足元に目を向ける。
 今のマリアンネは、素足だ。
 スパヰ探しは五円玉に任せて、マリアンヌ自身は集中しなければならないもの、それは。

「おお~……つま先からぽかぽか」

 ───足湯である。
 この寒い季節、足先の冷えは体調に関わる。
 つま先が冷たいままでは猟兵の仕事もままならない、当然である。

「効能、効能は……」

 疲労回復、神経痛、不眠症、動脈硬化、高血圧、打撲、切り傷、冷え性、血行促進、美肌……。
 足湯の正面に置かれた看板の説明を読んでいくマリアンネ。

(無いか……豊胸……!)

 心のなかで肩を落として、足先を暖めるだけで良しとした。
 実際、足湯に浸かっていると、足から伝わった熱が体中に行き渡る感覚がある。
 身体が暖まると、じっとりと汗が滲み出た。
 身体が冷えないように、その汗をタオルで拭いていく。

「おお……こころなしか肌がつやつやに」

 とりわけ、ふとももがすごい。
 肌はしっとりもちもちで、発汗によってラインもすこしスッキリしたようにも感じる。
 どこへ出しても恥ずかしくない立派なふとももだ。
 なぜふとももばかり……と思いながら足湯から出て、マリアンネは改めて看板へと目を向ける。
 少し寂れた看板にかかれていた、富土桃ノ湯の文字。

「なるほど、ふとももの湯だったわけだね」

 納得がいったような、いかないような。
 そんな表情で、マリアンネは五円玉編隊が飛んでいった方向へと歩いていった。
 きっと世にも珍しい空飛ぶ五円玉を見たスパヰが、なにか痕跡を残しているだろうから。

大成功 🔵​🔵​🔵​

朱葉・コノエ
◎【盗人と鴉】
永一様の提案に乗せられて温泉街の調査へとやってはきましたが…
…気がつけば何故か入浴場へと足を運ぶことに。
永一様…本当にこれも調査の一環なのでしょうか?
観光を満喫しているようにしか思えないのですが…

私のみ街に出ようとも思いましたが、この男を一人にさせてもかえって危ないというもの
監視も兼ねて仕方なく入浴いたします

…私が背中を洗え、と?…仕方ありません
私の背中は別にあとで一人で洗えますが…わかりました。

…誰かと入浴するというのはいささか初めてではありますが…いえ、やはり今は仕事に集中するといたしましょう。


霑国・永一
◎【盗人と鴉】
あらすじ
「猟兵の仕事も出来るし、温泉を知るのは旅館警備してるコノエ的にも間違いなく得さぁ」と面白半分な盗人の口車に乗せられたコノエ
温泉街を調査という名の観光を行いつつ
「いやぁいい温泉だねぇ、コノエ」
気付けば二人は混浴に来ていた

てな訳でコノエと温泉楽しむとしよう
ははは、道中同様訝し気な視線だなぁ
うん、これも調査だよ調査(適当)

まずは体を洗わねば。うーむ、背中に届かない。悪いけどコノエ、背中だけ頼むよ
助かったよ。んじゃ、コノエの背中も流すよ。翼が微妙に妨げになるけど、上手く流そう

いやぁ調査は良いものだねぇ。美人と温泉堪能できるし
おや、真面目だなぁ。文字通り羽を休めてからでいいのに(笑



●勤勉/怠惰

 視界を曇らせる蒸気。
 心を惑わす夜桜。
 入浴場にはふたりの男女。

(どうして混浴など……)

 タオルを巻いて白い肌を隠した朱葉・コノエ(茜空に舞う・f15520)は頭の中で何度も自分に問いかけた。
 しかし答えが出てくるはずもなく、疑問と疑念がぐるぐると回る。

「いやぁいい温泉だねぇ、コノエ」

 コノエとは対照的に、霑国・永一(盗みの名SAN値・f01542)は、隣の鴉天狗の少女へ胡散臭い笑みを浮かべた。
 ことの発端は、永一がコノエを温泉街の調査に誘ったことにある。

「猟兵の仕事も出来るし、温泉を知るのは旅館警備してるコノエ的にも間違いなく得さぁ」

 そんな口車に乗せられて着いてきたのは良いものの、温泉街に来て永一のすることと言えば、買い食い、土産物屋の散策、そしてついには入浴である。

「永一様……本当にこれも調査の一環なのでしょうか? 観光を満喫しているようにしか思えないのですが……」

「ん? あぁ、大丈夫。心配いらないよ。自分の身で体験して調査してるだけさ」

 道中、何度尋ねてもこう返ってくるばかり。

(私のみ街に出ようとも思いましたが、この男を一人にさせてもかえって危ないというもの)

 最初はなんとか仕事に戻ろうとしていたコノエも次第に諦めが強くなっていった。
 結局、監視も兼ねて仕方なく入浴することにしたわけだ。
 コノエがため息を吐いている横で、永一は入浴前に身体を洗い始めた。

「うーむ、背中に届かない。悪いけどコノエ、背中だけ頼むよ」

 スポンジをコノエに差し出し、背中を向ける永一。

「……私が背中を洗え、と?

 スポンジを受け取りはしたものの、コノエは訝しげな顔をした。
 温泉で背中を流すサービスがあるというのは聞いたことがあるが、自分がそれをやったことはない。

「これも調査だよ調査」

「……仕方ありません」

 永一が適当な理屈を捏ねると、コノエも渋々といった様子で永一の背中を洗い始めた。
 剣術で鍛えた腕力は、ここでは要らない。
 愛刀の手入れをするように、優しくスポンジで擦る。

「ああ、いい気持ちだ。その調子だよコノエ」

「ん……そうですか」

 永一が声をかけると、コノエは少しだけ気恥ずかしそうに顔を背けた。

「助かったよ。んじゃ、コノエの背中も流すよ」

「私の背中は別にあとで一人で洗えますが……」

 永一の背中を流し終えたところで、永一がスポンジを渡すよう、手を差し出す。

「温泉を知るんだろう? 流してもらう方も体験しなくちゃ」

「……わかりました」

 そう言われては、とコノエも諦めてスポンジを渡し、タオルをはだけさせた背を向けた。
 永一の前には、蒸気で汗ばむ白い背中に、しっとりと濡れた黒い翼。

(いやぁ、すっかり無防備だねぇ……)

 あまりに隙だらけの背中を向けられては、悪戯心が湧いてくるというものだ。
 スポンジから泡を取って、素手で背中に乗せていく。

「んっ……あの……永一様、何か……」

「いやぁ、この方が上手く洗えるのさ」

 背中に柔らかい泡が触れるばかりで、想像していた感触とは違う。
 それから背中に、暖かくて少し硬い感触。
 スポンジではない何かが、背中を擦っていく。

「え、永一様……?」

「スポンジでは翼が妨げになってねぇ」

 素手だ。
 ふわふわの泡を乗せたコノエの背中を、素手で洗っていく。
 翼の付け根、首筋、
 指先で身体のラインをなぞるように。
 そして"手を滑らせて"そのまま前へ───。

「永一様」

「ああっと、冗談、冗談だよ。ちゃんと洗うよ」

 キツめの警告が飛んできてしまっては、これ以上は続けられない。
 ぱっと手を離して、残りの広い部分をスポンジで洗った。
 不信感がさらに強まったコノエと、軽薄そうに笑う永一。
 身体を洗い終えたら、湯に浸かることにした。

「あぁ、コノエ。湯に浸かるときはタオルを取らないと」

 永一がコノエのタオルを指す。
 俺も外さないと、と腰のタオルに手を伸ばしたところで、コノエがそれを制止する。

「それは嘘です永一様。ここの混浴ではタオルは取らなくても良いと脱衣所に書いてありました」

「くっ、知っていたか」

 この男は本当に……とコノエは肩を落とした。

「いやぁ調査は良いものだねぇ。美人と温泉堪能できるし」

 湯に浸かりながら、永一が空を見上げる。
 夜桜と美人。
 これほど温泉に合うものはない。

「……誰かと入浴するというのはいささか初めてではありますが」

 永一を見張るように見ていたコノエも釣られて空を見上げて、暫し目を閉じる。
 あくまで仕事で来ているのだ。

「……いえ、やはり今は仕事に集中するといたしましょう」

「おや、真面目だなぁ。文字通り羽を休めてからでいいのに」

 どうせ誰かが見つけてくれるさと、永一は笑った。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

雨宮・いつき
まったく、太平の世を脅かそうとする者は、どこの世界にもいるんですね
ましてやその中でも一等危険な方達と繋がりがある間者ですか…
僕も及ばずながら平和の為、お力添え致します

こういう時は人海戦術です
分身達を温泉街に放ち【情報収集】にあたらせましょう
伝令と空からの目として八咫烏達もつけます
不審に思われないよう、みんな別々の服装をさせて
温泉街でお店を営んでいる人達などに怪しい人物を見かけなかったか伺ってきて下さい

さて、僕自身は観光客を装って、湯畑や夜桜でも眺めながら情報統括のために待機しておきましょう
…折角なら、御勤め抜きで楽しみたかったものです

おや、もう帰ってきて…
…温泉饅頭、買ってきてくれたんです?



●お稲荷様密集地帯につき

 観光客で賑わう温泉街。
 ここはサクラミラージュ、桜と朧と陰謀渦巻く帝都である。

(まったく、太平の世を脅かそうとする者は、どこの世界にもいるんですね)

 世は帝都によって統一されたとはいえ、元の国の勢力圏はそのまま。
 これが人間同士の争いであれば、まだ良かった。
 帝都の取り締りで、十分に防ぐことができる。

(ましてやその中でも一等危険な方達と繋がりがある間者ですか……)

 それが影朧に繋がるものだとすれば、話は別だ。
 猟兵たちの出番である。
 温泉街の外れへやってきた雨宮・いつき(憶の守り人・f04568)は、沢山の分身たちの前に立った。
 子供程度の大きさの分身たちは皆、怪しまれぬようそれぞれ違う服装だ。

「いいですか皆さん、人海戦術で情報を集めます。伝令を兼ねて八咫烏をつけます。何人かは八咫烏を使って空から怪しい人がいないか調べてください。他は沢山お店がありますから、お店の人に聴き込みを」

 いつきがテキパキと指示を出すと、分身たちも温泉街全体へ散っていく。
 情報を集めるなら、やはり数を出すのが一番だ。
 しかし情報というものは、誤り、重複し、捻じ曲がるもの。
 統括する存在が必要になる。
 本体であるいつきは、観光客を装って、湯畑と夜桜を眺めながら近くで待機することにした。
 手のひらを掲げると、桜の花びらがひとつ、暖かい空気に乗って飛んできた。
 桜のほのかに甘い香りと温泉の硫黄の香りが混じって、独特な香りがする。
 風情があるなぁと、手のひらに乗った花びらをまた風に流して見送る。

(……せっかくなら、御勤め抜きで楽しみたかったものです)

 のんびりしようかと思っていたいつきの視界に、分身のひとりが目に入った。

「おや、もう帰ってきて……」

 なにか見つけたのかと目を向けると、分身は温泉饅頭を手に、目を輝かせて尻尾を振っていた。

「……温泉饅頭、買ってきてくれたんです?」

 頼んだことではないが、湯畑や夜桜を眺めるばかりでは味気ないと思っていたところだ。

「ありがとうございます、一緒に食べましょうか」

 お世話になっている人たちにもお土産を買っていこうか、なんて考えながら、いつきは美味しそうに饅頭を頬張る分身の頭を撫でた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

霞・雪花
湯煙のまろびでる街路に導かれて古きよき家屋を見渡して散策、楽しむの。
こつり、こつり。草履の裏音を鳴らして。
時折、今や見物の夜桜が烙印された焼きまんじゅうやたい焼きを片手に石畳をお散歩、しちゃうわね。

まあ、美味しそうな餡子!う〜ん。……絶品、ね!

ついつい、美しい景観と湧き上がる観光地の雰囲気に呑まれて、
飲み食いを楽しんでしまうんだ。
そんな楽しむ時間も夜もすがら、街の隅々まで散策して「気配探し」も忘れずに。
どこにいても気を緩むことなく辺り、観察しちゃうの。

お口の端に餡子をつけたお茶目、残したり。
それ拭う嬉しみもお散歩に交えたり。

すご〜く、楽しい、愉しい。
綻ぶ気持ちは過去にはなかった乙女のたのしみ。



●あゝ素晴らしきかなこの世

 木造の家屋が並ぶ街路に、夜桜が舞う。
 湯煙を纏うは、シルクのような髪と、白雪の如き肌。
 心地よく草履を鳴らしながら、霞・雪花(龍神に焦がれる雪の花・f19167)は温泉街を歩いていた。

「うん、素敵な街!」

 賑やかで、華やかで、どこを見ても興味深い。
 ───街の人々はというと、白く煙る桜吹雪の中に咲いた雪の花に目を奪われているのだけれど───

「そこのお姉さん、たい焼きひとつどうだい?」

 気の良い店主が、雪花にたい焼きを差し出した。
 少ししてから自分に声をかけているのだと気付いた雪花が、店に寄る。

「まあ、美味しそう!」

 香ばしい生地と、しっとりとした餡。
 未だこの世に馴れないエルフの食欲を唆るには十分なものだ。

「う~ん。……絶品、ね!」

 小さな口でしっかりと味わい、雪花は明るく微笑んだ。
 その髪や肌の色から冷たいという印象を受ける女ではあるが、笑って見せれば、それはまるで氷細工の花。
 美しく、儚く、触れれば砕けてしまいそう。

「おまけしちゃおうかなぁ!」

「嬉しい! 優しい店主さん、好きよ」

 そんな笑顔を見られた店主も、儲けたものだと笑った。
 この街は、景観も人情も美しい。
 ついつい、雰囲気に呑まれて目的を忘れてしまいそうになる。
 たい焼きの次はおまんじゅう、その次はおせんべい。
 観光地だけあって、食べ物の種類は豊かだ。

(このまま全部食べていっちゃおうかな)

 買い食いを楽しみながら、雪花は時折気配を探った。
 街の人々の話に聞こえる、不審な影の噂。
 調査が仕事だということは、忘れずに。
 とはいえ───。

(すご~く、楽しい、愉しい)

 楽しんだって良いじゃない、乙女なのだから。
 お店の人に言われてから気付いた口の端の餡子を拭って、また隣の店へ。
 草履の音が少し弾んで、温泉街に響いて消えた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

メルト・プティング


大好きなベアータ(f05212)さんと温泉ですっ
スペワで人工温泉には入りましたが、天然の温泉は初めて!
これはテンションアゲアゲですよ!

温泉は気持ち良いし、桜の花は綺麗だしで極楽ですねぇ~
落ち着いた雰囲気、さいこ~
え?お仕事?だいじょーぶですっ
UCで召喚した子達が周囲を警戒…あ、あの子達も温泉で蕩けてる…

ま、まぁその時が来ればあの子達も頑張りますからっ
今は楽しみましょう、ね?
ベアータさんが持ってきてくれてたドリンクを誤魔化すようにお酌して、かんぱーい

…?
あれ、ゆったりしてるベアータさん、いつもより綺麗に見えるよーな
温泉の効能というやつでしょーか
ふへへ、温かすぎてよくわからなくなってきたのですー


ベアータ・ベルトット


親友のメルト(f00394)とお花見露天風呂

肌を晒すの慣れてないから、実はちょっぴりドキドキしてたり。でも、あったかくてとっても心地いい
闇に映える桜の花、それを眺めるメルトからも、何だか目が離せない

「たまには、こういう落ち着いた雰囲気も良いわよね」
リラックス…とはいえ今も仕事中。UCで周囲の警戒は怠らず
…って、メルトの子分達めっちゃ蕩けてるじゃないの。本当に大丈夫なんでしょうね?
楽しむのも良いけど、本分忘れちゃダメよ

さっき寄った店のオススメ品、名物の桜シロップを使ったカクテルジュース
お互いのグラスに注いで、決起の乾杯!

綺麗で美味しくてあったかくて…はぁ、至ッッ極幸せだわ…(私までとろーん…)



●湯けむりマジック

「温泉は気持ち良いし、桜の花は綺麗だしで極楽ですねぇ~」

 全身が温もりに包まれて、メルト・プティング(夢見る電脳タール・f00394)は心地よさそうに声をあげた。
 温泉から立ち上る蒸気を、夜桜で蓋をしたような温泉だ。
 スペースシップワールドで人口の温泉に入ったことはあるものの、初めての天然の温泉に、メルトのテンションも上がっていく。
 湯船の縁に身体を預けるようにして、身体の力を抜いた。

「たまには、こういう落ち着いた雰囲気も良いわよね」

 隣に腰を下ろしたベアータ・ベルトット(餓獣機関BB10・f05212)が、桜を見上げるメルトを眺めて呟いた。
 ベアータはこうして肌を晒して人と触れ合うのには馴れていない。
 小さく抱いていた緊張も、温泉の暖かさで解れていった。

「ねぇメルト、お仕事は忘れてないわよね」

 身体はリラックスしながらも、ベアータは五感を研ぎ澄ませて周囲の警戒をする。
 屋根の上、脱衣所、近くの茂み。
 いまのところ、問題はない。
 メルトはというと、すっかり身も心も温泉に蕩けきっていた。
 周囲の警戒は、ユーベルコートで召喚したキャラクターたちに任せてある。

「だいじょーぶですっ。あの子達が周囲を警戒……」

 そう言って、召喚したキャラクターたちがいるであろう方へと目を向けたメルト。
 メルトがそこで言葉を続けられなかったのは、メルトの召喚したキャラクターたちも、すっかり温泉で蕩けていたからだ。

「あー……」

 これにはメルトも肩を落とした。
 彼らによる警戒は見込めないだろう。

「本当に大丈夫なんでしょうね? 楽しむのも良いけど、本分忘れちゃダメよ」

「ま、まぁその時が来ればあの子達も頑張りますからっ。今は楽しみましょう、ね?」

 やれやれといった表情のベアータに、桜シロップのカクテルジュースをメルトの注ぐ。
 温泉に来る前に立ち寄った店で買った名物だ。
 ベアータもメルトのグラスに注ぎ返して、自分のグラスを少し持ち上げた。
 ゴーグルを掛けた女と、眼帯の女。
 夜桜が見守るなか、グラスを傾ける。

 ───乾杯。

 ちりん、と小気味よい音が夜桜と共に空を舞った。

 桜の色と香りを楽しみながら、酒を飲むふたり。
 次第に気分が高揚して、頭もモヤがかかったようにぼやけていく。
 メルトは隣で酒を楽しむベアータへ目を向けた。

(……? あれ、ゆったりしてるベアータさん、いつもより綺麗に見えるよーな。温泉の効能というやつでしょーか)

 温泉か酒のせいで、心の箍が外れかかっているのだろうか。
 視界はぼやけているのに、ベアータの顔だけははっきりと見える。
 心地よさそうに目を閉じるその姿が、やけにメルトの目を引いた。

「ふへへ、温かすぎてよくわからなくなってきたのですー」

 すっかり茹だった頭では、考えても仕方がないことだ。
 ベアータもまた、温泉と酒のせいだろうか、うっとりと夜空に浮かぶ桜を見つめる。

「綺麗で美味しくてあったかくて……はぁ、至ッッ極幸せだわ……」

 今はただこの心地よさに流されたい。
 ふたりは、かき混ぜれば湯に混じってしまいそうなほどに、身体の芯まで蕩けていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

シャルロット・クリスティア
敵を知り、己を知れば……。
戦は事前の情報から。相手も馬鹿ではないようで。
はてさて、早いところ見つけられればいいのですが……と。

さすがに街中で機関銃を背負って歩くわけには行きません。
最悪その場で生み出すこともできますし、警戒されないためにも丸腰の方が良いですかね。

しかし……楽しめと言われましても、仕事中と思うとあまりそう言う気分になれないのは性分ですかねぇ。
気を抜ける時には抜く、と言うのは大事なことだとは思うんですが。やれやれ。
(などとぼやきながら浴衣姿で通りをうろつく15歳)
(最終的に屋台の客寄せに捕まっていろいろ食い歩きする15歳)



●夜は短し楽しめ乙女

 夜の温泉街に、桜が舞う。

(なんて……なんて危険なところに来てしまったのでしょう)

 宿で浴衣を借りたシャルロット・クリスティア(弾痕・f00330)は両手から食べ物の入った袋を下げ、周囲の警戒をしながら、通りを歩く。
 ここは温泉街のど真ん中。
 観光客と土産物屋や飲食店の店員でごった返し、誰もが楽しそうに笑っている。
 初めは、ただ帝都に潜入したスパヰを探す仕事で来ただけのつもりだった。
 ところが現地に着いてみれば、温泉を楽しめと自由行動になった。
 気を張っていたところに突然はしごを外されて、すっかり力が抜けてしまったわけだ。

(楽しめといわれましても、仕事中と思うとそう言う気分になれないのは性分ですかねぇ)

 今もどこかに居るであろうスパヰのことを考えながら、温泉街を歩くシャルロット。
 自分がスパヰだったら、どのようなところへ行くだろうか。
 高官の取引や接待に行われていそうな高級宿か。
 はたまた温泉自体に目をつけて源泉か。
 そんなことを考えながら歩いていたところ、目についたのは温泉饅頭だ。
 焼印のひよこと目が合った気がして、じっと見つめ返す。

「嬢ちゃん、食べてくかい?」

 温泉饅頭とにらみ合う少女に話しかけてきたのは店主だ。

「あ、いえ、私は仕事中なので……」

「一個サービスしとくよ」

 からからと笑いながら店主が饅頭をひとつ、強引にシャルロットの手の上へ。
 もらったものは仕方がないと、ひとつ食べてみる。
 甘い。
 しっとりした皮に包まれたこしあんが、口の中を甘みで埋め尽くしていく。

「嬢ちゃん、美味しそうに食べるねえ!」

 店主の言葉で、シャルロットははっとした。
 どうやら、無意識に頬が緩んでいたようだ。

「ひ、一箱ください……」

 誤魔化すように饅頭を買い込んで、シャルロットは慌てて店を離れた。
 そこで待っていたのは、向かいの店の店主である。

「見てくれ、こいつはこの街がうちにしか置いてない、蒸しプリンさ! 濃厚な卵と牛乳を砂糖と一緒に甘く蒸しあげて、ちょいと苦甘いカラメルを掛けてやれば、プリン本体の甘みがぐっと引き出される。だけどそれだけじゃあただの美味いプリンだ。うちのはね……舌の上で溶けるんだよ。まるで暖められたストーブの上に雪が落ちたときのようにね」

「それ、いただきましょう」

 仕事中だというのに、想像しただけでもう頬が緩んでしまった。
 こうなってしまえば、即決が合理的である。

「お嬢ちゃん、こっちのもどうだい!」

「あ、行きます行きます」

 こうして気付けば、行く先々の店で食べ物を買っていたというわけだ。
 温泉街は危険な誘惑がいっぱいだ。
 これではスパヰを探すだなんて、とてもできたものではない。
 けど───。

(機関銃、置いてきてよかったですね……)

 両手は食べ物で埋まってしまったから。
 先程買った団子を美味しそうに頬張りながら、乙女は心のなかで愛銃に謝った。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 冒険 『夜桜遊郭夢想譚』

POW   :    専門知識を売りに用心棒や料理番などの奉公人として潜入する。

SPD   :    大盤振る舞いの羽振りの良さを披露して客として潜入する。

WIZ   :    己の美しさ、礼儀、教養を武器に遊女として潜入する。

👑7
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●追走、潜入、大人の世界

「まさかワタシが見つかるトハ……」

 黒いスーツを身にまとい、双眼鏡を首から下げ、団子を頬張る男が、板張りの廊下を歩く。
 彼こそ、帝都の温泉街に潜入していたスパヰである。
 少々痛い思いをしたせいか、時折頭のたんこぶを手で抑える。

「主さん、なにかけちなことでもありんしたか?」

 彼の隣には、髪を結い上げた美しい貌の女。
 ここは夜桜舞う遊郭。
 温泉街が表の顔だとすれば、遊郭はこの街の裏の顔。
 彼は温泉街から遊郭まで逃げてきて、ほとぼりが冷めるまで馴染みの遊女と過ごそうというわけだ。

「何デモありませんヨ。少し身を隠そうカと思っただけデス」

「ほんざんすか? 主さんもすっかりわちきのおゆかりになりんした。ゆっくりして行きなんし」

 遊郭は、客が客である限り、客を裏切らない。
 もしスパヰを探して騒動を起こせば、彼は遊郭の協力を得て、たちまち逃げ出してしまうだろう。
 彼を見つけるためには、どうにかして遊郭に潜入することが必須だ。
 遊女として、奉公人として、客として……。
 方法は、猟兵たちに任された。
霞・雪花
随分と散策ふらふらりと、道の果てまで、来ちゃった
おっきな屋敷、豪華絢爛な祭囃子に奥から乙女の声がちらほらと
能ある鷹は爪を隠す
静謐の中にはきっと、闇夜は溢れてしまうもの
賑やかさに紛れるならばここご妥当、ね
そうっと青女の福音で周りのおなごを寝むらせて遊女の化粧室へ忍び込んじゃおっかな〜

赤紅のくちびる、眞白なお肌──うーん。わたし、才能あるかも!

袖口から出した遊女の指名札を自分の名前に置き換えて
行き交う周りには売り飛ばされた新人の振りをして潜入、しちゃう

う〜ん、ごめんなさい。帯の結び方、分からないの。ねね、教えてくださらない?

遊郭勤めの世話役に新人っぷりの演技、忘れずふりして



●心澄み渡れば、雪原の如く

 提灯の灯りに照らされた桜が、女の紅を彩る───。
 ここは帝都に住む男なら誰もが一度は訪れたいと考える夜桜遊郭。
 大きな建物と、明るい囃子。
 格子の奥では、女たちが買っておくんなんしと艶めかしく声をあげるのだ。
 その揚屋のひとつの、化粧室でのことである。
 遊女たちはここで身支度を整え、男たちの前に出る。
 白粉の香りが充満する中で、何人もの遊女たちが眠っていた。

「ごめんね、ちょっとだけ寝ててね」

 手を合わせていた霞・雪花(龍神に焦がれる雪の花・f19167)が、首を傾げて微笑む。
 遊郭への潜入は、彼女たちを眠らせて行うことにした。
 ここなら、衣装も道具も、なんでも揃っている。
 寝ている遊女の化粧道具を拝借して、鏡を見ながら赤紅を唇に乗せてみる。
 雪花の真っ白な肌に乗った紅色は、まるで雪原に咲いた華のようで───。

「うーん。わたし、才能あるかも!」

 それからすぐに、乱暴な足音。
 扉が開いて、雪花も思わずそちらを見た。

「うわっ、なによこれ!」

 やってきたのは、他の遊女たちよりも少し年上の、番頭新造だ。
 深いえくぼと、額の大きなシミが目を引く。

「みんな寝ちゃったみたい。疲れてたのね」

「疲れてたってこうはならないわよ! あんた、新しい留袖新造の子? あんたで良いからちょっとおいで。表に華が足りないのよ」

 番頭新造は雪花の手を引いて、表へと連れて行こうとする。
 一歩前へ出た途端、はらりと落ちる雪花の帯。

「う~ん、ごめんなさい。帯の結び方、分からないの。ねね、教えてくださらない?」

「あーもう、仕方ないわね……ほら、こっち来て」

 手慣れた様子で雪花の帯を結ぶ。
 きっと、普段から人の帯も結んでいるのだろう。

「ありがとう! あなた、優しいのね。あなたみたいな人、好きよ」

「べつに、あんたのためじゃないわよ。若い新造の面倒を見るのはあたしの仕事だから」

「わぁ、お仕事熱心! きっともうすぐ花魁ね」

 無邪気に喜ぶ雪花とは対照的に、番頭新造の顔は暗い。

「……あたしが何年ここにいると思ってんのよ。現実はもうわかってる。あんたみたいに顔の良い子があっという間に駆け登っちまって、あたしみたいな醜女はずーっと端金で客を取るのさ。その後は縫い子か、うまくやって遣手か……いずれにせよ、あたしという華はもう枯れるばかりよ」

「そんなことないわ!」

 落ち込む番頭新造を、雪花は否定する。

「お、お世辞はいいわよ」

「お世辞なんかじゃない。あなた、こんなにきれいなんだもの!」

 ずいと近づいて、雪花は彼女の手を握る。
 傷もシミもない、作り物のように美しい雪花の顔がすぐそばに来て、番頭新造は目をそらした。
 番頭新造の容姿は、あまり優れたものではなった。
 かむろとして売られた当初から、それがコンプレックスだった。
 振袖新造になることもできず、客を取り続け、下の子の面倒を見る日々。
 すっかり乾いていた心に、雪花の明るさが潤いを齎す。

「真心で接すれば、きっとみんな気に入ってくれるわ。ねっ?」

 その上で、これほど強く肯定されては、改めて否定することもできない。
 しばらく黙ったあと、番頭新造は悩みを吹っ切るように声をあげた。

「こうなったらあんたを何が何でも花魁まで押し上げてやるわ! 遣手としてもう一度華咲かせてやるんだから!」

「えっ、そっち?」

「まずは言葉から! あんだそんな言葉遣いじゃ客前に出せやしない!」

「わっ、はぁい」

 返事はしてみたものの、雪花の仕事はスパヰ探し。
 遊女としてずっと働くことは、できないのだ。
 このあと、雪花が遊郭から居なくなったことを大層悲しんだようだが、遣手として立派に遊女屋を切り盛りするようになったとか。

大成功 🔵​🔵​🔵​

雨宮・いつき
ゆうかく
ええと、確か女の人が男の人に接待をする場所でしたっけ
そんな所に逃げ込んで…もしやここの関係者に仲間が?
なるほど、それなら正面から乗り込んで騒ぎを起こせば逃げられるのは必至ですね…
では奉公人として潜入して間者の足取りを追うとしましょう
一応、女の人に化けておいた方が怪しまれませんよね?

他の猟兵の方が一撃入れたらしいという話ですし、多分間者は怪我をしてるんじゃないでしょうか
料理の係として働いて、他の奉公人の方にそれらしい客を見かけたり聞いたりしなかったか、それとなく伺ってみます
素直に教えて頂ければ良し、何か知ってそうで教えて貰えないなら、こっそりと【誘惑】の術をかけて素直になって頂きましょう



●お芋の行方

「ちょいと! こっち手伝っておくれ!」

「はーい!」

 遊郭の炊事場で、気の強そうな女性が声を張り上げる。
 それに応えて、やってきたのは黒髪の少女。
 女性の姿に変身した、雨宮・いつき(憶の守り人・f04568)だ。
 遊郭は女の世界。
 中に入れる男は、主人か、客か、力仕事のための奉公人くらいだ。
 仕事の無い時間があって、それでいて中を歩いても怪しまれない炊事場に飯炊きとして入ればそれが達成できると思い、いつきは女の姿に化けることにしたというわけだ。

「なんですか?」

「担当がサボってんのか、芋の皮が全然剥けてないんだ。あんた、頼めるかい」

 それくらいならお安い御用だと、いつきは芋の皮を剥き始めた。

「しかしあんた、見ない顔だね。新入りかい。その年でこんなとこ来ちまって……大変な生活だったんじゃないかい?」

「あ、あはは……いえ、田舎の出なので」

 飯炊きの女がいつきに同情的な視線を向ける。
 この女が見ているのは、いつきの偽りの姿。
 勝手に勘違いしただけだが、騙しているようで少し心が傷む。

「そういえば……お客さんの中に怪我をしてる人がいませんでした? ちょっとだけ見えてから、僕、気になってしまって」

「ん? ああ、そういや天桜太夫ンとこの客がここに来る前に頭をぶつけたとかで、かむろが氷を貰いに来ていたね」

 それだ、と心のなかで小さく頷く。
 情報自体は、あっという間に手に入った。
 あとの問題は、ここを怪しまれずに離れることだ。

「しっかしあんた、身体も小さけりゃ、喋り方もおとなしいね。せっかく可愛いんだからもっと胸張って生きな!」

 飯炊きが豪快に笑って、いつきの背中をばんばんと叩く。
 こんなにぴったりくっつかれては、とても離れられそうにない。
 このまま仕事を続けて終わらせても、そのころにはスパヰは逃げ出してしまっているだろう。

「あの!」

 芋の皮むきを手早く済ませながら、いつきは改めて飯炊きに声をかける。

「実は……僕、天桜太夫さんをひと目見て来たいんです! 前々から憧れてまして……」

 花魁は、遊郭の花形。
 男どもがこぞって憧れるその華に、少女が憧れるのは珍しいことではない。
 いつきの言うことは珍しい話ではないのだ。

「だめ、ですか……?」

 だが、いまは仕事中の身だ。
 人手の足りない炊事場でひとり抜けるとなると、大きなしわ寄せがこの飯炊きにいくことになる。

「…………仕方ないね、行っておいで。客に見つかるんじゃないよ」

 だが、飯炊きはいつきが炊事場を離れることを許した。
 ───本当に仕方ない、という顔ではあるが。

「いいんですか?」

「元々サボりの代わりに入っていた半人前さ、いなくなったところで痛くも痒くもないよ。ほら、行った行った」

 いつきを炊事場から追い出すように、背中を押す飯炊き。
 炊事場から出たところでいつきは一度振り返り、頭を下げて廊下を歩いていく。

「……半人前……ってぇいうには、ずいぶんと仕事が早い子だね」

 すでにいつきの剥き終えた芋の山を見て、飯炊きは笑った。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ニノマエ・アラタ

客として遊郭を訪れる。
羽振りの良さを自慢するわけじゃない、だけどちょいと遊びたい。
そんな、よくいる印象の薄い一般客としてな。
どんな遊女がいいかって?
ああ、気の利く子が一番だな。
まあここにいるのは別嬪(べっぴん)さんばかりだろ?
良い女を揃えてるじゃないか、とさりげなくおだてておく。
部屋に通されるまでの諸々も情報のうちだ。
遊女には双六でもしながら、話し相手になってもらおう。
盤上の出来事に例えながらスパヰ(怪しい人)のことを聞いてみる。
このままだと、怪盗が探偵に捕まって一回休みになる。
探偵に見つからないように、怪盗はどこへ逃げると思う?等。
遊郭の雰囲気を楽しみながら、金払いは気前良くいきたいねえ。



●おさればえ、主様

「ねえ主様、わっちを買っておくんなんし」

 格子で閉ざされた狭い世界で、遊女たちが声を上げる。

(これが遊郭か……)

 ニノマエ・アラタ(三白眼・f17341)は揚屋の前を通りながら、籠の鳥を眺めていく。
 なかなか体験し得ない、貴重な感覚だ。
 着飾った女たちに求められると、悪い気はしない。
 とはいえ本来の目的は、遊郭を楽しむことではない。
 ここに潜むスパヰを見つけ出すことだ。

「旦那、どの子にしやす?」

 二階へと上がる階段の前で、揚屋の主人がニノマエに声をかけてきた。

「いやぁ、迷ってしまったね。多少は垢抜けてなくても気の利く子にしようかと思っていたら、別嬪さんばかりだろう?」

 明るく、愛想よく揚屋に応えるニノマエ。
 ここでのニノマエは、周りから浮かない程度に小金持ちで、ちょっと遊びたいだけの一般客だ。
 如何にも初めて──事実そうではあるが──といった様子を見せて、揚屋の様子を見る。

「ああ旦那、それなら良い子がいますよ。お部屋はですね……」

 女達を褒められて悪い気がしないのか、揚屋は小声でニノマエのそう告げて、部屋の場所を指した。
 揚屋の顔から、御強にかけようというような意図は見えない。
 おそらく、本当に推めている遊女なのだと思うと、ニノマエはそれに従っておくことにした。

「ゆるりとしておいきなんし、主様」

 部屋に着くと、遊女がひとり、頭を下げて待っていた。
 目元は子を見る母のように柔らかく、頬が桜の花のようにうすら紅い女だ。

「今日はよろしく頼むよ」

 優しく声をかけると、女はただにこりと微笑んだ。
 それから、双六をしながら他愛もない話に花を咲かせた。
 観光列車で起きた不思議な事件。
 相手を誘ったり、思いながら渡れば結ばれるという橋の噂。
 女は、ニノマエの語る話ひとつひとつで表情をころころと変える。
 だが、ときおり双六の盤上や話に例えてスパヰについて聞き出そうとしたが、そういうとき女はきまって話をはぐらかした。

「主様、なにか聞きたいことがありんしょう?」

 女の言葉に、ニノマエの目元がぴくりと動く。

「口調や表情は繕ってありんすが、堅気の人の目ではござりんせん」

「それは……」

 気が利く子とは思ったが、ここまで察しが良いのは想定外ではあった。
 どう誤魔化そうかと、ニノマエが視線を落として頭の中で偽りのストーリーを組み立てていく。

「───ようざんす。詳しくは言いなんすな」

 その思考を遮ったのは、遊女の言葉だ。
 はっとして顔を上げると、女はうっとりと微笑んでいた。

「ただ、男の目に惚れた女の戯言と思っておくんなんし。定めて、主様の探し人は天桜太夫の部屋におりんす。この階の一番奥のにござんす」

 遊女は本来であれば幾度と通って、心と身体を許していくものである。
 だが普通の客ではないなら、もう二度と会うこともないかもしれない。
 だからその一度で、生き様を見せてほしい。
 そう言っているような気がした。

「……助かる」

「おさればえ、主様」

 ニノマエは礼とばかりに財布ごと机に置いて、深々と頭を下げる遊女に背を向けて、スパヰがいるであろうという天桜太夫の部屋へと向かうのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

マリアンネ・アーベントロート

なるほど、バレないように潜入する必要があるってことだね。そんなときこそ催眠術の出番っ。あ、五円玉は今回おとなしくしててね。
セクシーで色気のある大人の遊女に見えるように催眠をかけて潜入していくよ。振る舞いとかで違和感を持たれても催眠術をかけてこういい感じに相手の認識をふわふわさせれば大丈夫、バレたりしないから。
あとは催眠術で魅了した他の遊女から情報を聞き出して、スパヰを探そうか。客を裏切らないっていう信念を催眠術で曲げさせるのは心が痛むけれど、これもスパヰを捕まえるため。催眠術で記憶を消したりアフターサポートもしておこうかな。



●虚空からの攻撃

「ねえ知ってる? あそこのお客様……」

「知ってる知ってる! ……だよね!」

 噂好きのかむろたちが、廊下で身を寄せて語り合う。
 ここは遊郭の一画。
 女の野望と陰謀が渦巻く、遊女たちの居所である。

「なにかあった?」

「真莉愛太夫!」

 遊女に扮したマリアンネ・アーベントロート(ゼーブスタスの催眠術師・f00623)が声をかけると、かむろたちはマリアンネに頭を下げた。
 マリアンネの身体や振る舞いは、お世辞にも遊女向けのものではない。
 真っ当に潜入しようとしても、おそらく見習いから始まって、情報を得られるのは当分先になってしまうだろう。
 その時間をカットするため、マリアンネは揚屋の主人から遊女に至るまで、催眠にかけた。
 今、周囲から認識されるマリアンネは、他店からやってきた即戦力遊女・真莉愛太夫である。
 誰もが振り向く美貌も然ることながら、この遊郭で最も胸が大きいともっぱらの噂である。

「いえ、真莉愛太夫のお耳に入れるようなことでは……」

 すっかり恐縮してしまったかむろたち。
 これでは話を聞くのも一苦労だと思っていると、やってきたのは元々この遊郭で遊女をしている菖蒲太夫だ。
 真莉愛太夫がやってくるまでは、この遊郭で一番の胸の持ち主だった。

「真莉愛太夫はずいぶんと面倒見が良くありんすなぁ。わっちなど自分のことで精一杯で、かむろに話しかける暇などおざんせん」

 マリアンネが遊女に見えているということは、少なくとも催眠にかかっているということだ。
 嫌味な女ではあるが、おそらく遊郭内の事情には詳しいだろう。

「そんなこと言わないで、遊郭のこと教えてくれないかな」

 指で小さなハートを作り、更に催眠にかける。

「……わかりんした。こっちへ着きてきておくんなんし」

 少し間を開けて、菖蒲太夫は自室の方へと歩き出した。
 おそらく、ふたりきりになろうとしているのだろう。
 その後ろをマリアンネはのんびりと着いていった。
 それから菖蒲太夫の部屋へ着いたとき、先に入るように言われたマリアンネは、菖蒲太夫の横を通って部屋の奥へと進む。
 ゴテゴテとした装飾の多い、派手な部屋だ。

「ふ、ふふふ、ふたりきりになりんしたね、真莉愛太夫……」

 ぴしゃり、と戸の閉じる音。
 マリアンネの後に部屋に入った菖蒲太夫が、扉を締めたのだ。
 ろうそくの明かりもなく、窓から飛び込んでくる明かりだけが、菖蒲太夫の赤らんだ顔を照らしていた。

「わっちは、わっちはひと目見たときから真莉愛太夫の、その乳房のことが……!」

 息を荒げながら、おもむろに近づいてくる菖蒲太夫。
 手をわきわきと動かして、いやらしく揉みしだく真似をする。

「そんなにあるんだから少しくらい触っても良いでありんしょう」

「ないんだなぁ、これが」

 自分の言葉に傷付いて落ち込んでいる場合ではない。

「これはもしや、結構なピンチでは?」

 菖蒲太夫の目がマジだ。
 血走った目で、いまにも食い掛からんとマリアンネの胸元(虚空)を見ている。

「はぁ……はぁ……心配ありんせん、わっちが太夫を乳房だけで極楽まで連れて行きんしょう! 大人しくしなんう"ッッ!」

 その胸に向けて飛びかかった直後、顎に強い衝撃を受け、菖蒲は気を失った。

 ──。
 ────。
 ──────。

「はっ、豊満革命!」

 倒れていた遊女が目を覚ますと、そこは自分の部屋だった。
 頭がぼんやりとして、気を失う直前のことを何も思い出せない。
 なにか、すごく大きくて柔らかいものを追っていたような……。
 しかしなにか大切なことをしていたわけでもないだろうと結論づけて、すぐに今日は振袖新造たちをどうやっていびろうかという悪巧みを始めた。

(どうやらうまくいったみたいだね)

 遊女が無事目を覚まし、記憶の消去もうまく行ったことを確認していたマリアンネ。

(まさか胸元に潜ませていた五円玉が役に立つとは……)

 認識阻害で見えない胸元に五円玉が隠れられるスペースがあるとは、遊女も思っていなかっただろう。
 たぶんだれも思ってなかった。
 思わないだろうそりゃあ。

(さて、天桜太夫の部屋は、っと……)

 不審な客がいる場所は、意識を手放した遊女から催眠で聞き出しておいた。
 いつもの服に着替えると、マリアンネは目的の部屋へと向かうのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

メルト・プティング


引き続きベアータ(f05212)さんとっ
温泉は目一杯楽しんじゃったので、そろそろ頑張らないとですね

ボクは遊女に扮して、お客姿のベアータさんと連れ添って調査行動
【誘惑】【存在感】【コミュ力】をフルに発揮、和装も着熟しゴーグルも(ちょっと恥ずかしいけど)外して遊女になりきっちゃいますよー

それにしてもベアータさん、その変装似合ってるのです
あ、カッコイイって意味ですよ?

途中ちょっかいを出してくる方が居たら、もうお客さんが居ますのでーって…って、わわっ
ベアータさん、なんか積極的!?や、潜入捜査的には正解ですけれど!
想定外の事態に目も真っ赤になっちゃうし、動揺しちゃうし、もう流されるままなのですよー!?


ベアータ・ベルトット


メルト(f00394)と潜入捜査…って。遊郭って所謂そういうトコだったのね…べ、別に問題無いわよ!

慣れない和装にハットを被り。男性客に扮して並んで歩く
普段の雰囲気と全然違う遊女姿、しかも素顔のメルトに心がかき乱されて
「ぁ…えっと。うん、綺麗よ」

UCを発動して情報収集を……したい。したいんだけど…!ダメ、集中できない!
艶めかしいメルトの振舞いに、甘い匂いに…
演技でしかないのに、胸のドキドキが止まない。我が友ながら、恐るべき色香だわメルト…あぁもう、男たちの視線がうっとうしい!手ェ出すんじゃないわよ!
メルトの肩をぐいっと抱き寄せて、威嚇してやる!
触れた先からまた眩々と…

捜査は式神の蛙に任せるわ…



●瞳も頬も赤くして

 格子の中に閉じ込められた籠の鳥が、買ってくんなましと声を上げる。

「主人、奥で座っていた子を」

 そこへやってきたのは、帽子を被った男だ。
 二階に上がると、揚屋に言いつけて遊女を呼び出す。
 男装で客に扮したベアータ・ベルトット(餓獣機関BB10・f05212)だ。
 遊女に扮し、揚屋に連れてこられたメルト・プティング(夢見る電脳タール・f00394)
はにこりと微笑んだ。

「よろしくですよー」

 煌びやかな和服と髪飾り。
 赤い目元を彩るシャドウ。
 ブラックタールの肌にどうやって塗ったのか、薄く塗られた口紅。
 いつもとは違う様子のメルトに、ベアータは先制パンチを受けたようだった。

「メルト、ゴーグルはいいの?」

 ベアータが小声で尋ねる。
 普段なら、メルトはあまりゴーグルを外さない。
 解析やハッキングツールとして便利なのもあるが、何よりもメルトのコンプレックスを隠すことができるからだ。

「ちょっと恥ずかしいですけど、和装と合わないですからねー」

 メルトは前髪に手を伸ばしながらはにかむ。

「それにしてもベアータさん」

 あまり周りに話を聞かれるわけにもいかない。
 メルトはベアータにそっと近づき、耳打ちした。

「その変装似合ってるのです。あ、カッコイイって意味ですよ?」

「そ、そうかな」

 満更でもない、といった様子のベアータ。
 すっかりメルトのペースに乗せられている。

「そういうときはありがとって言うんですよ。それで、ボクを見て言うことは?」

 そう言うとメルトは少し前に出て、腕を広げて、遊女姿を見せた。

「ぁ……えっと。うん、綺麗よ」

 まだ照れてしまって直視はできないけど、というベアータの態度に、メルトは満足気に頷いた。
 近くの部屋から、男の声が聞こえたのはその時だった。

「おお主人、良い子が入ったじゃないか。水揚げするなら呼んでくれよ」

 羽振りの良さそうな客が、メルトを指して揚屋に言いつける。

「ッ!」

 それを聞いていたベアータは、即座にメルトを抱き寄せて、男の視線を遮った。
 これは私のだ、と言わんばかりに、睨みつけながら。

「こ、困りますよ旦那ぁ」

 これに困ったのは揚屋の主人だ。
 上客の要望には答えたいし、謎のご新規さんも掴んでおきたい。

「ベ、ベアータさん、なんか積極的!? や、潜入捜査的には正解なんですけど!」

 睨み合いの元となった当人はというと、ベアータの強い意思表示が引き金となったのか、顔の代わりに目が真っ赤になっていく。
 普段ならゴーグルで隠せるが、今日はそうもいかない。
 恥ずかしそうに両手で頬を覆った。

「行こう、メルト」

 ベアータはメルトの腕を引いて、素早く個室に移動していく。
 それから部屋に着いて、戸を閉じた。
 周りの目がない場所まで来たら、一気に力が抜けた。
 緊張の糸が切れたからか、それとも隣でしおらしくなってる相棒が可愛すぎるからか。
 いずれにせよ、少しの間、動けそうにない。

「いやーもう、捜査は式神に任せるわ……」

 ベアータの呼び出したカエルが、ぴょこんと跳ねた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

朱葉・コノエ
◎【盗人と鴉】
ひとまず情報は得られ、潜入も完了いたしました
さすがにこの姿のままでは少し怪しまれますね…
…やむを得ませんが、ここは永一様の案に仕方なくなるといたしましょう

遊女の格好に着替え、無言のまま指名された永一様の前へ
源氏名は紅烏、とでも名乗りましょう
…くれぐれも潜入捜査という事をお忘れなきよう、永一様

潜入自体は楽におこえたようですが客室内は……
…永一様、お戯れはそこまでですよ
(仕込んでいた短刀を永一の首筋に当て)
本当に、油断も隙もない方…

水を持ってくるよう頼まれれば、その意図を理解し内部の捜査を開始する
なるべく気配と息を殺し、短時間のうちに戻るとしましょう
戻ったら永一様に報告いたします


霑国・永一
◎【盗人と鴉】
さて、調査(?)は堪能したことだし、情報のあった遊郭に潜入しないとなぁ。という訳で――

あ、俺は一名で。それで遊女は紅烏を指名するねぇ。
やぁ、新人遊女コノエ。良く似合ってるじゃあないか、流石はサムライエンパイア出身だ
ははは、文句は客室で聞くよ

潜入は完了。客室内ならそんな演技しなくても平気さぁ。万が一に備えて軽く練習はした方がいいかもだけど。(本当に抱いたら後が面倒だし、当然練習だけど、面白いから少しからかうかぁ)
では、失礼っと。まずは…(正面から抱き寄せ、首筋に顔を埋める…だけ。少しはだけさせて押し倒…)おお怖い(笑)
あ、喉渇いたし水頼むよコノエ(半端に止めて内部探索宜しくの意)



●油断も隙も

 格子越しにキセルを伸ばし、男を誘う遊女たち。
 その前を歩きながら、霑国・永一(盗みの名SAN値・f01542)は見知った顔を探した。

(さて、もう潜入できてるかなっと)

 遊郭への潜入。
 女であれば遊女に、男であれば客に扮して入るのが合理的。
 だから遊女と客でいこうと、唆したのは永一だった。

「あの赤い目の子で」

 座敷にいる女を指して、永一が言う。
 揚屋の主人は、珍しいものを見る目で永一を見てから、揉み手で永一に近寄る。

「紅烏ですね、やあ旦那、お目が高い。あれは新しく入った子なんですがね、愛想はないけど器量が良くて……」

「そういうのは大丈夫だから。連れてきてくれる?」

 揚屋の言葉を遮り催促した永一の前に連れてこられて、無言で頭を下げる紅烏と呼ばれた遊女。
 遊女に扮していた朱葉・コノエ(茜空に舞う・f15520)だ。

「やぁ、新人遊女コノエ。よく似合ってるじゃあないか、流石はサムライエンパイア出身だ」

 揚屋が離れたところで、永一が小声で語りかける。

「……くれぐれも潜入調査という事をお忘れなきよう、永一様」

 対してコノエは、冷めた目で永一を睨みつけて、それからまた口を閉ざす。
 人に見られる場所で余計な口を開くのは良くない。

「ははは、文句は部屋で聞くよ」

 へらへらと笑う永一は、案外うまく変装しているコノエの白いうなじを、じっと眺めていた。
 部屋に着いて戸を閉めると、もう二人きりの空間だ。
 窓際に立って、永一がコノエに語りかける。

「さて、もうそんな演技はしなくても平気さぁ。万が一に備えて軽く練習はした方がいいかもだけど」

「練習、ですか」

 はて、とコノエが首を傾げた。

「そうそう、ここがどういうところか知っているだろう?」

「それは……少しだけ」

 ここは遊郭。
 極上の女を抱くために、男たちは財の限りを尽くすのである。
 気付けば、永一はコノエの正面に立って肩に手をおいていた。

「では、失礼っと」

 コノエがまだ戸惑っているうちに、永一が屈んで、コノエの首筋に顔を埋めた。

「…………っ」

 永一の鼻先がコノエの細い首触れると、小さな吐息が漏れる。

「緊張してる?」

 コノエの反応を見て、永一がくすりと笑った。

「いえ……驚いただけです」

「こういうときは、少しだけって答えるものさ」

「はぁ……そうですか」

 コノエがあまり興味なさげにそう答えると同時に、永一はコノエの肩を掴んで、畳の上に押し倒す。

「この白い首筋に赤い跡をつけてみたかったんだ」

 目を細める永一。

「……永一様、お戯れはそこまでですよ」

 永一の首筋に、冷たい感触。
 コノエの仕込んでいた短刀が、永一の首筋に当てられていた。

「おお怖い。少しからかっただけじゃないか」

 永一は両手をあげ、へらへらと笑いながらコノエから離れた。

「本当に、油断も隙もない方……それに水揚げ前の遊女は、芸はしても客は取りません」

 襟を正して起き上がりながら、コノエは小さく呟いた。

「バレたか。あ、喉乾いたし水を頼むよ、コノエ」

「水、ですか……あっ、少しお待ちください」

 永一の意図を察したコノエは、すぐに部屋から出ていった。
 足音を消し、息を殺し、急いで遊郭をぐるりと回る。
 情報収集だ。
 すぐに戻ってきたコノエが集めた情報を永一に伝えた。

「……ということで、おそらくスパヰは天桜太夫の元にいます」

「上出来だよコノエ。じゃああとは他の人に任せて続きを……」
「永一様」
「冗談だって」

 怒ってくれてよかった、本気にされても面倒だし、と心の中で思いながら、永一は目的の部屋へと向かう。
 その後ろを、コノエは首筋を擦りながら黙って着いていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

シャルロット・クリスティア
◎【銀蒼】

いやはや、呼びかけに応じてもらって助かりましたユアさん。荷物がえらく増えるわ、一人で上手く入る方法が浮かばないわで困ってたんです。
あ、温泉まんじゅう食べます?

それで潜入ですが……
……え?二人して遊女として入り込む?
いや、私が客としてユアさんを取れば楽なんじゃ……あ、これもしかしなくとも私で遊びたいだけですねわかったわかりましたから引き摺るのやめてください。
こういうの、恥ずかしいんですが……。

しかし、二人して指名入ったら面倒ですね。何とか抜けだす隙を見つけないと。
そうなったときは……ユアさんに目を引きつけてもらって、こちらで飲み物に眠り薬でも混ぜて、ですかね。
ほら、さっさと行きますよ。


ユア・アラマート
◎【銀蒼】

まったく、人の使い方をようやっと覚えてくれたようで嬉しいよ
お前からの呼び出しなら、いつだって大歓迎だからな
とりあえず。荷物しまえ?(持参エコバック)

まあ、お前も私のことをいい加減理解しているな。少し遊ぼう(まんじゅうもぐもぐ)
遊女と見習いという組み合わせなら、むしろ指名客として潜入するよりは自然だぞ?
だから着飾ったシャルが見たい

なに、指名を受けたら客は私が相手するよ。私を誰だと思っている
甘言なり体を寄せるなり、気を引く手段ならいくらでもあるぞ
だから、薬を盛るのは任せるからな?

騒ぎを起こすのはまずい。悪いが私達に目をつけた客にはぐっすりしてもらおう
さて。それじゃあ、本命を探しに行こうか



●夢中へご招待

「え? 二人とも遊女としてですか……?」

 遊郭に潜入するとなった段階で、シャルロット・クリスティア(弾痕・f00330)は応援を呼ぶことにした。
 決して食べ物を買いすぎたからでは……買いすぎたからではない……ッ!

「そうだ」

 饅頭、たい焼き、その他諸々の食べ物をエコバッグに器用に詰めながら、手伝いに来たユア・アラマート(ブルームケージ・f00261)はシャルロットにびしっと指を立てた。

「いや、私が客としてユアさんを取れば楽なんじゃ……」

 そのときシャルロットの脳裏に電撃が走る。
 ユアがあえて非効率な方を選択をする理由に思い当たることがあったのだ。

「あ、これもしかしなくとも私で遊びたいだけですねわかったわかりましたから引き摺るのやめてください」

「まあ、お前も私のことをいい加減理解しているな。少し遊ぼう」

 聞いているのかいないのか。
 ユアはもちもちふわふわの温泉饅頭を食べながら、観念したシャルロットを引き摺っていった。

 それから遊郭に入るまではトントン拍子だった。
 揚屋を捕まえて、ユアがふたりを留袖新造として遊郭にねじ込むまで十分も掛からない。
 着替えて、化粧し、髪を結い、指名札が店先に並ぶまでもう数十分。
 格子に入って数分でユアが指名され、シャルロットもそれに着いていくことになった。

(ああ、やるとなったら一瞬ですね、ほんと……)

 個室の前に膝を着いて、シャルロットは大きなため息を吐いた。
 頭が上下すると、細かな装飾の髪飾りがしゃなりと揺れる。

「そんなに暗い顔をするな、シャル。せっかく着飾っているんだ、胸を張れ」

 ユアはというと、これから客を取ろうというときであっても、いつも通りの様子だ。

「客の方は私が相手をするから、シャルは様子を見てこれを頼むよ」

 そう言って、ユアが白い包み紙をシャルロットに渡す
 シャルロッテが頷いてそれを懐に仕舞うと、ユアは客の待つ部屋の、戸を開けるのだった。

「待たせたな、客人」

 そこに待っていたのは、恰幅の良い男だ。
 年は四十か五十といったところだろうか。
 精力旺盛というよりは、好事家の金持ちといった雰囲気だ。
 黒の洋服を着て、煙管を吹かしていた。

「おお、やっと来たか……おっほ、やっぱり美しい銀髪じゃのう」

 綺羅びやかな和服に銀髪を纏わせて歩くユア。
 緩く巻いた髪が、一歩ごとにふわふわと揺れる。

「し、失礼します」

 続いて入ってきたのは、シャルロット。
 編み込んだ金糸の髪が、ロウソクの灯りで白く光る。

「お主も良いのう、良いのう。少し初い態度が堪らん」

 客が嬉しそうに笑うと、吸っていた煙が鼻から溢れた。

(うわぁ……見るからに成金って感じですね)

 顔には出さないけれど、シャルロットはちょっと引いた。

「さて客人、今日は何をしようか。舞か、琴か」

 一方でユアは、気兼ねなく客の傍に腰を下ろして話しかけていく。
 生理的に受け付けない男であっても、客は客だ。

「んおっふふふ、そうじゃのう……とりあえずもっと近う寄ってなぁ」

 そう言って客は、ユアに手招きをした。
 乞われるままに膝立ちで二、三歩寄れば、もう男の手の届く距離に。
 躊躇なくユアの肩を抱いて引き寄せる。

「ん、初会から欲張るじゃないか」

 男にもたれ掛かるようにして、ユアは耳元で囁いた。

(うわっ、ユアさんってばあんなことを……!)

 それを見ていたシャルロットは気が気ではない。
 戦場では冷静な狙撃手だが、まだ十五の少女だ。
 目の前で繰り広げられる密なスキンシップに対して、あまりに抗体がなかった。
 客の手がユアの胸元やふとももに伸びたときには、自分の目を覆い隠してしまった。

「なあ客人、そろそろお酒が飲みたくなってきたんじゃない?」

 男の気分が高まってきたところで、ユアが近くの机へと視線を向ける。
 触れ合っている間にシャルロットが用意した酒だ。

「ああ、喉が渇いて来たなぁ。1杯貰おうか」

「こ、こちらに。どうぞ……」

 はっとしたシャルロットが、客にグラスを差し出す。
 受け取った客はそれを一気に呷った。

「んおぉ、腹から頭までかぁっと来たあ……」

 そう言ったかと思うと、一気にまぶたが重くなったのか、微睡んだ目で頭が揺れ始め、客は畳の上に倒れた。
 すぐに、心地よさそうないびきが聞こえてくる。

「うわっ、えげつないほど効きましたね……眠り薬」

 部屋に入る前にユアからもらっていた包み紙。
 その中身は、眠り薬だった。
 ユアが客の気を引いている間に、酒に混入したのだ。

「これでしばらくは起きないだろう。さて。それじゃあ、本命を探しに行こうか」

 夢の中で存分に堪能しているのであろうか、気持ちよさそうに眠る男を布団の上に転がすと、ふたりは遊郭の奥へと向かった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

千桜・エリシャ
◎【理解しがたい】

私たちは花魁になって潜入してみましょうか
牡丹は遊郭がどういうところかご存知?
えーっと、そうね…ごにょごにょごにょ…おわかり?
うちの宿も昔は遊郭でしたのよ?
い、今はただの宿ですけれどもね!
さあ!とにかく着替えましょう!

ふふ、どうかしら?牡丹も可愛らしいこと
そんなに恥ずかしがらずともいいのに
源氏名はそうね…
私は夜桜で牡丹は百花というのはどうかしら?
さあ、参りましょう!
お座敷に上がって二人で接客を
それとなく情報収集できないかしら
ほら、牡丹もご奉仕して
私はこの程度ならば慣れていますもの…ひゃっ!
お触りは許しませんわ!と鉄拳制裁
あっ…
そ、その辺に転がしておけばいいかしら?ほ、ほほほ…


毒藥・牡丹
◎【理解しがたい】

そうよ、元はと言えばその為に来たんだから……
へっ?そ、そりゃ知ってるわよそれぐらい!ま、まぁでも?一応確認のために聞いてあげるわ
………(ぽっ、ぼぼぼぼっ)な、なな、なな………な……ッッ!!!
ふ、不潔だわ!不純だわ!あ、あり得ない……!!
じ、じゃあもしかして今でもそういうのやってるわけ!!??
ちょっ、ちょっと!誤魔化さないでよ!!ちゃんと答え──

こ、この格好は……うう……これで人前に出るの…?まして殿方の前に…?
う、うるさいっ!
……あ、あんたにしてはまぁまぁいい名前なんじゃないの?

(手を出されなかったら出されなかったで複雑な面持ち)
全く、馬鹿な男もいるものね……こんな女に……



●繚乱

 スパヰを追いかけて見れば、あたりは賑やかな温泉街から華やかな遊郭へと姿を変え、羽振りの良さそうな男と艶やかな女ばかりに。
 豪華絢爛に着飾り、付き人のようにかむろを連れた女が、道の真ん中を歩いている。
 花魁のお通りだ。

「私たちは遊女になって潜入してみましょうか」

 そんな姿を眺めて、どこか遠くへ思いを馳せるように微笑む千桜・エリシャ(春宵・f02565)が、道すがら提案する。

「そうよ、元はと言えばその為に来たんだから……」

 忌々しげに唸る毒藥・牡丹(不知芦・f31267)は、スパヰを見つければ拳を握って今にも駆け出してしまいそうだ。
 乙女の全てを覗いた罪は重い。
 それを理解らせてやらねばならない。

「牡丹は遊郭がどういうところかご存知?」

 気迫だけで周囲の人を圧倒する牡丹の様子を見て、エリシャが尋ねる。

「へっ?そ、そりゃ知ってるわよそれぐらい!ま、まぁでも?一応確認のために聞いてあげるわ」

「えーっと、そうね……」

 ここで否定するのは火に油かと判断したエリシャは、牡丹の耳元に口を寄せる。

「まずはお客様の……」

「……」

 最初、牡丹はなんの話だか理解できなかった。

「……をお口で……」

 しかし、エリシャの語る遊女の仕事が具体的な話になると、一気に顔が赤くなっていく。

「な、なな、なな……」

「あとはお客様の望むように……」

「な……ッッ!!!」

 話が進むごとに青くなったり黄色くなったりして、しまいには想像力の限界を超え、何も考えられなくなってしまった。

「おわかり?」

「ふ、不潔だわ! 不純だわ! あ、あり得ない……!!」

 こともなげに尋ねるエリシャと、叫んだり呟いたりとすっかり落ち着かない牡丹。

「うちの宿も昔は遊郭でしたのよ?」

「じ、じゃあもしかして今でもそういうのやってるわけ!!??」

 さらりと加えられた情報で、牡丹の思考がどんどん吹っ飛んでいく。

「い、今はただの宿ですけれどもね! さあ! とにかく着替えましょう!」

「ちょっ、ちょっと!誤魔化さないでよ!!ちゃんと答え───」

 牡丹の背中を押して、強引に進めるエリシャ。
 揚屋に声をかけると、とんとん拍子で遊女として雇われることに。

「こ、この格好は……うう……これで人前に出るの…? まして殿方の前に…?」

 借りることのできた煌びやかな和服。
 上品なようにも見えるが、少し動くだけで脚が付け根まで露わになり、これが男の劣情を誘うためのものだと思うと、牡丹のなかで羞恥心がどこまでも膨らんでいく。

「ふふ、どうかしら? 牡丹も可愛らしいこと」

 隣で着替え終わったエリシャは、脚だけでなく胸元も大きく露出して、見る者を魅了していた。
 牡丹と同じ形の服であるはずなのに、いや、同じ形の服に違う大きさのものが収まろうとしたからだろうか、帯の上に乗った胸が襟元を広げて、肩まで露出しているのだ。

「う、うるさいっ!」

 牡丹も褒められれば満更でもないが、相手がエリシャとなると、素直には受け取れない。
 巨大な大福から目を逸らして、頬を膨らませる。

「そんなに恥ずかしがらずともいいのに。源氏名はそうね……私は夜桜で牡丹は百花というのはどうかしら?」

「……あ、あんたにしてはまぁまぁいい名前なんじゃないの?」

 目を逸らしたまま頷いて、ふたりは指名札を表に掛けてもらうのだった。
 それから、エリシャが客に指名され、牡丹がそれについて行くことになるまで、それほど時間は要らなかった。
 部屋に入ると、客のねっとりとした視線が、エリシャと牡丹に向けられた。
 ふたりはそばに寄るように言いつけられて、早速エリシャが近寄って身体にしなを作る。

「ほら、牡丹もご奉仕して。私はこの程度ならば慣れていますもの……」

 小声で牡丹に促している間に、客の指がエリシャの白い太ももに伸びる。

「ひゃっ! お触りは許しませんわ!」

 次の瞬間、繰り出された拳が見事に客の顎を捉えた。
 短い悲鳴をあげて倒れる客。

「あっ……つい癖で」

「うわっ」

 牡丹が客の顔を覗き込むが、完全に気絶していた。
 綺麗に顎に入ったため、外傷もなく脳を揺らしたようだ。

「そ、その辺に転がしておけばいいかしら? ほ、ほほほ……」

 "折った"かと思って内心焦っていたのを、口元に手を添えて誤魔化すように笑うエリシャ。

「全く、馬鹿な男もいるものね……こんな女に……」

 客がエリシャに夢中だったため、指一つ触れられることのなかった牡丹は、複雑な面持ちで大きなため息を吐いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

安喰・八束
臥待(f15753)と

遊郭…
戦働きの若え頃は兎も角
嫁貰ってからはとんと縁遠かったが…
これも、仕事だ
("古女房"に布を被せて手を合わせ)
すまん。

…という訳で
臥待、金貸してくれ

派手に遊んでいる風に身形を整えて遊郭へ
新入りで毛色の珍しい奴がいい
…何かぎこちねえ動きの奴?
構わんそれでいい今すぐ連れて来い(ボロが出る前に)
勢いと言いくるめと金の力で臥待を一夜買おう

あのなあ…俺は慣れねえお前さんを案じてだな
それでお前さん、俺が「そうだ」と言ったらどうすんだ?
……やめとけ、お前さんにゃ向いてねえよ

さて、冗談は終いだ
半矢の獲物を狼猟師が逃すかよ
奴はもう、牙の先だ


臥待・夏報
やっさん(f18885)と

遊郭の潜入って難しいと思うんだよね
現代と文化が違いすぎるし
独特の作法とか多いから、下手に喋れば喋るほどボロが出そう

……いや、おおむね同じ作戦を考えてるとは思うんだけど
やっさん、も少し言い方選ぼ?
奥方が拗ねても知らないぞ?

夏報さんも遊女らしい格好を整えて
できるだけ「目立たない」ように振舞うよ
あくまで主演男優はお客様役のやっさんのほう
見つけ次第ちゃんと回収して、どさくさで店の奥まで連れてってね

ぎこちないだのそれでいいだの、黙って聞いてりゃ言い放題だな……
なんかほら、ぎこちない方が良いとかなんとか本で読んだよ
エンパイアでは違うの?

そりゃ参考にするんだよ
ああいう獲物を釣る時に



●たぶんそういうところ

(遊郭……戦働きの若え頃は兎も角、嫁貰ってからはとんと縁遠かったが……)

 口元に手を当てて、安喰・八束(銃声は遠く・f18885)は大きな屋敷を見上げた。
 装飾自体は和風ながら西洋建築の構造を取り入れた華やかな茶屋で、遊女たちが客を取っている。
 スパヰが逃げ込んだのはこのあたりだろう。
 追跡には潜入が不可欠だ。
 愛銃である"古女房"に布を被せてると、手を合わせる。

(これも、仕事だ。すまん)

 仕事だから仕方ない、仕方ないのだ。
 そう自分と銃に言い聞かせた八束が、自分の懐を確かめる。

「臥待、金貸してくれ」

 羽振りの良い客として入るには、些か手持ちが心許ないのである。
 隣を歩く女に、しれっと声をかけた。
 女に金借りて女遊びたぁどういう了見だい!

「……いや、おおむね同じ作戦を考えてるとは思うんだけど」

 やっさんの頼みなら断るわけにもいかないし、とつぶやきながら、臥待・夏報(終われない夏休み・f15753)が財布から紙幣を抜いて八束に渡す。

「ナニ、お前さんが俺を客に取りゃ回収出来るだろう?」

 ちょいと店の取り分を抜かれるかもしれんが、と加えて、金を受け取った。

「やっさん、も少し言い方選ぼ? 奥方が拗ねても知らないぞ?」

「実際に寝る訳じゃあるまいし」

「そういうところだよ」

 それから、夏報は遊女として、八束は身なりを整えてから客として、それぞれ遊郭へ。
 野暮ったい服はハイカラなスーツに着替え、髪も整髪料で整えてた八束が、揚屋の主人に声をかける。

「新入りで毛色の珍しい奴がいい」

「ええ? そりゃあ居やすが、うーん」

 水揚げをしたいだとか、若ければそれでいいだとか、そういうタイプの客は少なくはない。
 主人も、八束がそういう客なのかと思っているようだ。
 悩んでいるように見えるが、実際は難色を見せることで、問題が起きたときのためにあくまで選んだのは八束であることを確定的にしているのだ。

「問題でもあんのかい」

「いやね、まだ教育も済んでないから動きがぎこちなくてね」

「構わんそれでいい今すぐ連れて来い」

 そんな主人の思惑も知らず、少し多めの報酬を主人に叩きつける。
 金も払って責任も客持ちなら、何もいうことはない。
 主人が夏報を呼びに行き、ふたりが部屋で再開するまで、それほど長くは掛からなかった。

「ぎこちないだのそれでいいだの、黙って聞いてりゃ言い放題だな……」

 部屋でふたりきりになってすぐ、不機嫌そうな夏報が口を開いた。
 華やかな衣装と結って飾りつけた髪。
 黙って微笑んでいれば様にもなったかもしれない夏報の遊女姿だが、相応しい仕草も言葉も身についていないため、あまり遊女感がない。
 もし八束が即決で夏報を買わなかったら、面白がった好事家が買っていたかもしれない。

「あのなあ……俺は慣れねえお前さんを案じてだな」

 聞いていたのか、なんて言いつつ、八束は着慣れないジャケットを脱いだ。

「なんかほら、ぎこちない方が良いとかなんとか本で読んだよ。エンパイアでは違うの?」

「それでお前さん、俺が『そうだ』と言ったらどうすんだ?」

 脱いだジャケットを、夏報に向けて放る。
 バサッと開いて、見事顔にかかった。

「そりゃ参考にするんだよ。ああいう獲物を釣る時に」

 顔にかかったジャケットを取りながら、夏報は悪い笑みを浮かべる。

「……やめとけ、お前さんにゃ向いてねえよ」

 その様子を見て八束は肩をすくめた。

「こんなにかわいい夏報さんを前にして、向いてないとな」

「そういうところだぞ」

 袖を捲り、狩りの準備をする八束。

「さて、冗談は終いだ」

 入ってさえしまえばこちらのものだ。
 逃げ込んだスパヰを探して、ふたりは遊郭の中を歩き始めた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『スパヰ甲冑』

POW   :    モヲド・零零弐
【マントを翻して高速飛翔形態】に変身し、レベル×100km/hで飛翔しながら、戦場の敵全てに弱い【目からのビーム】を放ち続ける。
SPD   :    影朧機関砲
レベル分の1秒で【両腕に装着された機関砲】を発射できる。
WIZ   :    スパヰ迷彩
自身と自身の装備、【搭乗している】対象1体が透明になる。ただし解除するまで毎秒疲労する。物音や体温は消せない。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●装着、スパヰ甲冑

「オゥ、見つかってしまいましたカ」

 天桜大夫の部屋へやってきた猟兵たち。
 彼らを見て、スパヰはすぐにもう逃げられないと察した。

「カマンッ! スパヰ甲冑!」

 ぱちん、と小気味良く指を鳴らすと、スパヰの後ろに黒いマントをつけた影朧甲冑が現れる。
 素早くそれに乗り込むと、遊郭の外へと飛び出した。
 パワーはそれほどでもないが、機動力はかなりのものだと推測できる。

「さあ、来なサイ! 全員返り討ちにして大夫の膝枕でひと休みしてから本国に帰らせてもらいマス!」
霑国・永一
◎【盗人と鴉】
おや、狭い場所は不利との判断か、或いは懇意にしている遊郭への配慮か飛び出して行ったなぁ。
では、俺達も行こうかコノエ。ここに来てからもう十分に『遊べた』し、そろそろ俺も仕事をするよ。
ははは、視線が痛いなぁ

コノエにあっちの《俺》を見せるのは初めてだけど、まぁ上手くやれるだろう(狂気の戦鬼を発動)
『ハハハハッ!俺様の足を引っ張んなよ?カラスの小娘ッ!』
機関砲とはしゃらくせぇ!高速移動で死角に移動をしながら衝撃波をぶっ放しまくって叩き潰してやらァ!あのカラスの小娘に気を取られたり、小娘の攻撃で隙を晒そうもんならバンバン利用してブチ当てに行くからよォッ!
『ハッ!誰にモノ言ってやがる小娘!』


朱葉・コノエ
◎【盗人と鴉】
…どうやらスパヰは外へと逃げ出したみたいですね。
外に逃げ出したならこちらとしても辺りの人々を巻き込まずに済みますから好都合です
…行きましょう、永一様。戯れの時間はもう十分でしょう?

風を切って移動する最中、永一様の気が変わった…?
それが貴方のもう一つの顔…というわけですか
さながら凶々しく吹き荒ぶ暴風のよう…ですが
「…そちらこそ、この程度でやられては困りますので」
翼を広げて、敵の関節部を狙いながら居合斬りを放っていき動きを封じます。
どんな絡繰であれ、接合部は脆いはずでしょう…
奥義・裂斬雨でその全てを切り裂いてみせましょう。
「この程度の速度で根を上げてはいないでしょう……永一様」



●風よりも疾く
 遊郭から飛び出したスパヰ甲冑が、温泉街の空を飛ぶ。

「こちらとしても辺りの人々を巻き込まずに済みますから好都合です」

 窓からその様子を見た朱葉・コノエ(茜空に舞う・f15520)が、刀を手にそれを見上げた。
 その間に、スパヰの後を追って猟兵たちが次々に窓から飛び出していく。

「では、俺達も行こうかコノエ。ここに来てからもう十分に『遊べた』し、そろそろ俺も仕事をするよ」

 窓枠に足をかけた霑国・永一(盗みの名SAN値・f01542)がコノエに手を差し出した。

「……最初から真面目にお願いします」

「ははは、視線が痛いなぁ」

 コノエがジト目で永一を見てその手を押し退けると、永一は信用されてないねぇと小さくつぶやいた。
 ここまでの行いを考えれば当然である。
 実際、仕事をするのは永一であって永一ではないのだから。

 コノエは空を、永一は屋根や木を足場に、スパヰを追いかける。
 永一は上空を飛ぶコノエにちらりと視線を送った。

(コノエにあっちの《俺》を見せるのは初めてだけど)

 永一の持つもう一つの人格。
 これからコノエと共に戦うのは、そちらの永一だ。
 永一のもう一つの人格は、粗暴で、戦いを好む。
 もしかしたら攻撃に巻き込むかもしれないが───。

「───まぁ、あとは適当に上手くやってくれ」

 永一がゆっくりと目を閉じ、それから次に開いたときには、目つきが変わっていた。

『ハハハハッ! 俺様の足を引っ張んなよ? カラスの小娘ッ!』

 風を切って飛ぶコノエに向けて、地上から大きな声で捲し立てられる。
 コノエの眉尻が、少し上がった。

「それが貴方のもう一つの顔……というわけですか」

 甲冑の力で飛ぶスパヰや、翼を使うコノエに負けず劣らずの速さで、屋根や木を蹴って進む永一。

「オウ、クレイジィですネ……」

 上空からスパヰに機関砲で打たれれば、弾丸を空間ごと殴り抜いて、衝撃波で防ぐ。
 驚異的な身体能力だ。

(さながら凶々しく吹き荒ぶ暴風のよう……ですが───)

 ───頼りには、なる。

「……そちらこそ、この程度でやられては困りますので」

『ほざけェッ!』

 地上を駆ける永一が、スパヰ甲冑に向けて衝撃波を放つ。
 だがスパヰの動きは速く、遠距離からの衝撃波だけでは捉えられそうもない。
 近付くためには、より速く。
 コノエは鞘に収めた刀に手をかけたまま、翼を大きく広げて加速した。
 迎撃の機関砲を躱しながら地上へ目をやると、永一も人外の脚力で先程よりも速く、高く跳ぶ。

「この程度の速度で根を上げてはいないでしょう……永一様」

『ハッ! 誰にモノ言ってやがる小娘!』

「イチャつくなら帰ってくだサーイ」

 軽口を叩きながらも、機関砲が当たらなくて焦るスパヰ甲冑。
 下から飛んできた永一の衝撃波を再び躱す。
 だがそのときは、今までのようにはいかなかった。
 躱すために高度を変えた瞬間、コノエが肉薄したのだ。
 刀に手を添えたままスパヰ甲冑の目前に迫る。

「───奥義、開眼」

 白刃が、空に踊る。
 コノエがただ一度刀を抜くと同時に放たれたのは、数多の斬撃。
 スパヰ甲冑の全身を余すことなく、とりわけ関節部分を集中的に、斬り刻む。

「ウップス! 腕ガ!」

 弾かれた甲冑の両腕につられて全体が大きく仰け反った。
 まずいと思ったスパヰの視界に飛び込んできたのは、月を背負った黒い影。

『ハハハハッ! じゃあなァッ!』

「ここまで跳んデ───!?」

 永一が拳を振り下ろして、装甲が大きく拉げたスパヰ甲冑は地面へと落ちていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

シャルロット・クリスティア
◎【銀蒼】

手元にあるのはナイフと散弾銃……あーもう、やっぱり機関銃用意しなかったのは失敗でしたか!
幸い、こちらは複数、挟みこんで追いましょう!

窓を飛び出し、屋根伝いに追走。
位置取り、牽制射撃も駆使して少しずつ包囲網を狭めていく……のは良いんですが、この格好、普段と違うのもあってちょっと走りにくくて……うわっ、と!?

……。
……あの、見えました……?

ま、まぁ隙になったんなら逃さずに追い詰めるだけです!

正直、こんなの上手くなっても別に嬉しかないんですけど!
ユアさんもお相手いるんですから、もうちょっと恥じらい持ってくださいよ、もう!


ユア・アラマート
◎【銀蒼】

今回はいつもの狙撃は無理そうか
まあ大丈夫だろう。狙い撃つばかりがお前の得意じゃないんだしな

屋根の上でシャルと挟撃を展開
さあさ、私の花吹雪から逃げられると思うなよ?少しずつ追い詰めてやろう
ふむ、しかし大丈夫かシャル。その格好で動くのは慣れてないだろうし……あ

大丈夫か?けどでかしたぞ。敵にも都合よく隙ができたことだし、今のうちに叩き込むぞ!
これが狙ってできるようになれば、お前も立派なハニートラップの使い手だぞ。自信を持っていい
まあ、これがバレたら少し怒られるかもしれないが。私は動き慣れているんで平気だよ
ああ、ただアイツには内緒にしてくれ?
とりあえずだ、イイものを見たお代は支払ってもらうぞ



●ピンクのフリフリ事変
 夜闇の中を、金色の髪が揺れる。
 先程まで遊女に扮していたシャルロット・クリスティア(弾痕・f00330)の手元にあるのは、いくつかのナイフと散弾銃。

「あーもう、やっぱり機関銃用意しなかったのは失敗でしたか!」

 遊郭の窓から飛び出し、屋根伝いにスパヰを追走しているところだ。
 携行しやすいからと射程の短い武器ばかり持ってきたのが仇になった。

「まあ大丈夫だろう。狙い撃つばかりがお前の得意じゃないんだしな」

 隣を走るユア・アラマート(ブルームケージ・f00261)が、銀髪を風に靡かせながら微笑む。
 月の光を受けて、その髪が星の河のように輝いていた。

「さあさ、私の花吹雪から逃げられると思うなよ?」

 手のひらに銀色の花吹雪を浮かべながら、ユアはスパヰ甲冑を見上げた。
 甲冑の動きは、かなり速い。
 今は猟兵たちの追撃で阻害はされているが、自由に飛ばれると攻撃を当てるのは骨が折れると、すぐに分かった。

「シャル」

「ええ、挟み込みましょう!」

 ユアが声をかけると、シャルロットが頷く。
 行き先を塞ぐようにシャルロットが散弾を撒き、ユアの花刃が後ろから追い立てる。
 この組み合わせならば、近いうちに追いつけるだろう。

「ふむ、しかし大丈夫かシャル。その格好で動くのは慣れてないだろう……」

 問題は、スパヰを追いかけ続ける体力だ。
 ユアはともかく、シャルロットは和服には不慣れで、時折走りづらそうにバランスを崩す。

「確かに普段と違うのもあってちょっと走りにくくて……うわっ、と!?」

 そうして続けるうちに、シャルロットの帯も緩んで、服も乱れていく。

「あっ」

 ついには和服の裾が大きく捲れ上がり───。

「……」

 数瞬固まり、それから慌てて裾を抑えるシャルロット。

「……あの、見えました……?」

 耳まで赤くしながら、恐る恐る尋ねる。

「ピンクのフリフリでしたネ! いけマセン、和服の時は下着はつけないものデス」

 それに対して、甲冑がピシっと指をたててはっきりと答えた。

「~~~~っ!!!」

 シャルロットが片手で裾を抑えたまま、散弾銃を連射した。
 しっかり止まっていたスパヰ甲冑は、シャルロットの散弾を躱してまた飛び始める。

「これが狙ってできるようになれば、お前も立派なハニートラップの使い手だぞ。自信を持っていい」

 ユアは笑いながら、再びスパヰを追いかけ始めた。

「こんなの上手くなっても別に嬉しかないんですけど! ユアさんもお相手いるんですから、もうちょっと恥じらい持ってくださいよ、もう!」

 未だ赤いシャルロットは散弾銃を撃ちながら、ユアに小言を漏らす。

「まあ、これがバレたら少し怒られるかもしれないが。私は動き慣れているんで平気だよ。ああ、ただアイツには内緒にしてくれ?」

 スパヰ甲冑を追って走りながらも、脱げず、はだけずに動き回るユア。
 動き慣れているというだけのことは、ある。

「とりあえずだ、イイものを見たお代は支払ってもらうぞ」

 手のひらに無数の花刃を溜めたユアが、上から襲いかかるように飛んだ。
 シャルロットの散弾の牽制により逃げ道を失ったスパヰ甲冑は、月を背負って宙を舞うユアをただ見上げるのみ。

「ピンクのフリフリの押し売りデスネ!」

 落下しながら、花刃の塊を押し付けるユア。
 触れると同時に、その塊を炸裂させた。

「見られたのは私なんですけど!!」

 至近距離での炸裂は甲冑に大きな傷を作り、シャルロットの叫びと共にスパヰ甲冑は炎をあげながら吹き飛んだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

メルト・プティング


ベアータ(f05212)さんと!

遊女姿で飛び出して、そこにゴーグルを装着して臨戦態勢っ
戦闘ならコレは必須!あと、さっきの余韻でまだ目が赤いので、恥ずかし…

って、ひゃあ、気づいたらお姫様抱っこされてるー!?
確かに合理的ですけれど、大胆というか…
や、というか別にイチャついてませんから!そーいう戦術ですからー!!
…そうですよね?

サポートをお願いされて、気持ちを切り替え
迷彩で消えるといっても、完全に世界から消えるわけじゃない
ベアータさんに回避を任せて、ボクはその隙を見つけ出すのですっ

演算と解析を終えれば、UCを発動!丸裸にしちゃうのです!
あとはトドメを刺すだけ!やっちゃうのです、ベアータさんっ!


ベアータ・ベルトット


メルト(f00394)と共闘…って、アンタ。そのカッコ明らかに動き辛いでしょ
でも、着替えてる余裕は無いし…仕方ない

メルト、しっかり捕まんなさいよ!
担いで走る!…あれ?コレっていわゆるお姫様抱っこ、よね…だ、駄目っ!んなコト意識してる余裕無いわ!
当ッたり前でしょっ!戦術よ、戦術!

探査能力はアンタのが上。サポート頼むわよ
私の方でもプログラムを研ぎ澄まし、機脚のブーストダッシュで駆けまわり回避。…メルトは絶対に守り抜くわ
メルトが示す方へ、足先からの吸血光線で反撃よ

っ!?敵の姿がフツーに見える…メルトのUCの効果ね!
ありがと、メルト。――眼帯。外してもらっていいかしら?
決めの一撃を敵に向け―放つッ!



●Hold me tight
「あっ、逃しませんっ!」

 赤い目を隠すようにゴーグルを装着しながら、遊女姿で飛び出すメルト・プティング(夢見る電脳タール・f00394)。

「……って、アンタ。そのカッコ明らかに動き辛いでしょ。でも、着替えてる余裕は無いし……仕方ない」

 その後を追って飛び出したベアータ・ベルトット(餓獣機関BB10・f05212)が、メルトの脚と腰に手を回して、抱えて走る。
 かっしひと抱えて、負担のかからないように。

「メルト、しっかり捕まんなさいよ!」

「はい!」

 勢いに乗って、メルトもベアータの首に腕を回してしまった。
 どういう形で抱えられているか気付いたのは、その後である。

(って、ひゃあ、気づいたらお姫様抱っこされてるー!? 確かに合理的ですけれど、大胆というか……これじゃ目が赤いまま全然戻らないんですけど!)

 口を噤んだメルトが緊張でベアータの襟元をぎゅっと掴む。

(……あれ? コレっていわゆるお姫様抱っこ、よね……)

 それによって今の姿勢がどういうものか、ベアータも思い至る。

(だ、駄目っ! んなコト意識してる余裕無いわ!)

 口元がにやけそうになるが、飛び交う機関砲を躱しながら全力で走るベアータの脳は、それにリソースを割くことを許してはくれない。
 ところが、驚くべきことに敵の砲撃はぴたりと止んだ。

「ン"ン"ッ! 百合イチャエナジーの高まりを感じマス!」

「や、別にイチャついてうませんから! そーいう戦術ですからー!! ……そうですよね?」

「当ッたり前でしょっ! 戦術よ、戦術!」

「オノレ、ワタシが百合スキーなことを利用するトハ!」

「いや、それは知らないわ」

 こうして騒いでいる間に、スパヰ甲冑はステルス機能をいれて姿を隠した。

「あっ! ずるい、消えましたよ!」

「探査能力はアンタのが上。サポート頼むわよ」

「任されましたっ」

 迷彩で消えるといっても、ただ見えなくなるだけで、そこにいることには変わりない。
 時折放たれる機関砲をベアータがブーストダッシュで躱しながら、メルトが解析する時間を稼ぐ。

「ベアータさん、あそこに!」

「そっちね!」

 メルトの指す方向へ、吸血光線を放つベアータ。
 しかしそこに居たであろうスパヰ甲冑は姿を消してまた闇に紛れる。
 手応えは、無い。

「くっ、外れた!」

 散発的な反撃では根本的な解決をできない焦りが、ちりちりと心を炙る。

「心配無用です! もう、演算と解析は終えちゃいました!」

 一方で、メルトは明るくベアータに語りかける。
 スパヰ甲冑のステルス迷彩が解除されるのは、同時だった。

「っ!?敵の姿がフツーに見える……」

「これくらい朝飯前ですっ」

 目が合うふたり。
 微笑みあって、ステルスが妨害されたことに狼狽えるスパヰ甲冑へと目を向けた。

「ありがと、メルト。――眼帯。外してもらっていいかしら?」

「わかりました! やっちゃうのです、ベアータさんっ!」

 メルトが優しくベアータの頬に手を添えて、右目の眼帯を外す。
 ぬるり。
 ベアータの眼窩から現れたのは、獣の舌だ。
 それが自在に動いて、丸見えのスパヰ甲冑を追う。
 その先端がスパヰ甲冑の装甲を貫くと、舌から分泌された溶解唾液により、甲冑が急速に腐食していく。

「ノオゥ! 甲冑ガ!」

 瞬く間に、腐食が広がっていく。
 あの様子では、そう長くは保たないだろう。

「ベアータさん、やりましたよ!」

 ベアータの腕の中ではしゃぐメルト。

「あっ、えっと……そうね」

 その顔の近さに、メルトを抱きかかえたままなのを思い出して、ベアータは気まずそうに真っ赤な顔を背けた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ニノマエ・アラタ

桜舞う夜の邂逅に決着を。
遊郭ってのはまさに一夜の夢ってやつだな。
…スパヰ捕り物帖、楽しめたぜ。
だが、おまえが流す情報で苦しむヤツらがいるとなりゃあ、
終わらせなければ。
この温泉街のためにも、な?

そんなに惚れた大夫がいるなら、もっと大事にしてやりゃ良かったろ?
膝枕は夢のまた夢になりそうだ、逃げ切れると思うか?
などと話しかけてスパヰの声を引き出す。
恰好良くマントのはためかせる音も、仇となるだろうか。
少しの物音も逃さず、音の出た方向めがけて桜を散らす。
苦鳴があがればそれもまた目印になるだろう。
視界と呼吸を塞がんばかりの桜吹雪でスパヰの存在を見切り、
妖刀にて一閃。その太刀筋は夜の闇に紛れる暗殺のそれ。



●満天桜に包まれて
 猟兵たちとの戦いで損傷が目立つようになったスパヰ甲冑は、そのステルス機能を使ってすっかり隠れてしまった。
 飛び去る音を聴いた者はおらず、まだ近くにいることはわかっている。
 なんとなしに、ニノマエ・アラタ(三白眼・f17341)は空を見上げた。
 温泉街の夜空を、桜が舞っている。
 先程までいた遊郭の灯りに照らされた桜が、空の境界をぼやかして、あたかも終わらない夢の世界を作り出しているかのようだ。
 しかし、スパヰ捕り物帖はここで終わる。
 彼ら猟兵の手によって。

「惚れた大夫がいるなら、もっと大事にしてやりゃ良かったろ?」

 ニノマエが虚空へと、そこにいるであろうスパヰへと語りかける。

「影朧などと手を結ばなければ、きっとあの大夫とも良い関係を築けただろう。だが、それも仕舞いだ」

 スパヰの返事は、無い。
 だがそれでも、感情の揺らぎを感じる。
 怒りや苛立ちのようなものが、張りつめた空気を、舞い散る桜のさざめきを通してニノマエに伝わる。

「お前は逃げ切れない。情報を持ち帰ることも、大夫の膝を借りることもできずに、全て終わる」

 膨れ上がった負の感情を包み隠すことは難しい。
 だがそれでも、スパヰは物音を立てず、姿を現さない。

(少々間の抜けたところはあるが、大したやつだ)

 感情的な行動を抑えるのはスパヰに必要な技術。
 心の中で感心しながらも、ニノマエはほくそ笑んだ。
 いつの間にか空を埋め尽くすほどに増えていた、桜吹雪には気付かれなかったからだ。
 妖刀の柄に手をかけて、音もなく踏み込む。
 夜の帳を包み込む桜を斬り裂く一閃は、姿の見えないスパヰ甲冑を完全に捉えていた。

「クッ、何故ここガ……!」

 ステルスを解除して、全力で飛び上がるスパヰ甲冑。

「出直してこい。次があればの話だが」

 愛刀を一度振ってから鞘に納めて、ニノマエは終わりだと宣言するかのようにその先端をスパヰ甲冑へと向けた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

臥待・夏報
やっさん(f18885)と

屋外に出てくれたのは好都合だけど……
やっさん、ちょいと目立つ場所まで運んでくれないか?
この格好動きづらいにも程がある
ジャケットの下ぐちゃぐちゃなんだよな

ん、ここで大丈夫
姿の見えないスパヰに呼びかけ注意を惹くよ
えー、観念して投降することだ
今なら天桜大夫が君を待っている
思い出せるだろう?
彼女との燃えるように熱い夜(適当)

UC【渇かない涙があれば】
奴の望む光景を映した写真は
その視線を縫い止め、目を逸らせば視神経を焼く
どちらにせよ大きな隙になる筈だ

(あらぶる古女房さんをみて)
なんか悪いことをしたような気がする
あのう、そんなに怒らないでやってくれませんか
駄目かな……
駄目そう……


安喰・八束
臥待(f15753)と

…何がどうしてそう着乱れる…
何にせよその格好では満足に歩けまい
御所望とありゃ横抱きにして連れて行く
…姫抱き?お前さんの世ではそう言うのか?
然し軽いな
お前さんもうちっと肉を付けろ肉を

臥待が写真を晒したならどのみち奴の目は奪える
気の逸れた隙に臥待から離れ、奴を狙い易い位置に移動
今まで窮屈な思いをさせて済まんな"古女房"
被せた布を剥ぎとり、珍妙な鉄人形目掛け
「狼殺し・九連」全弾呉れて…(スナイパー)

(一発毎に派手に火を吹く銃身)(傷口をえぐる)
俺が悪かった
(銃声の怒号)(傷口をえぐる)
然しこれも仕事でだな
(暴発する最後の一発)(傷口をえぐる)

……勘弁して呉れねえか…(激痛耐性)



●これはダメですね

「ありゃ、行っちゃった」

 桜とともに夜空を舞うスパヰ甲冑を目で追いながら、臥待・夏報(終われない夏休み・f15753)がつぶやく。

「やっさん、ちょいと目立つ場所まで運んでくれないか? この格好動きづらいにも程がある」

 走って追いかけようかとも思ったが、遊女姿のままではとてもではないが走れそうにない。
 ここまで来る間ですら、肩ははだけ、脚もほとんど見えている状態だ。
 上に羽織ったジャケットの裾を摘んでぱたぱたと遊ぶ。

「……何がどうしてそう着乱れる……」

 安喰・八束(銃声は遠く・f18885)が眉間を抑えて呟いた。
 仕方なしにと、夏報を抱き上げる。
 夏報を横向きにして、脚と腰に手を回して。
 いわゆるお姫様抱っこというやつだ。

「お姫様抱っこはちょーっとまずいんじゃない? 夏報さんが純情な乙女だったら喜んだかもしれないけど、流石に恥ずかしさや奥方への申し訳無さが勝つぞ」

「……姫抱き? お前さんの世ではそう言うのか?」

 夏報がいくら言葉を並べても、八束はこういう男だ。

「あー、わかんないならもういいや」

「そうか」

 早々に諦めて、大人しく抱えられることになった。
 よくわからんという顔で、八束は夏報を抱えたまま遊郭の外へと飛び出した。

「然し軽いな。お前さんもうちっと肉を付けろ肉を」

「このやろ、余計なお世話だ!」

 ビシっと口で効果音を付けながら、八束の顎に向けて右の拳が飛んだ。

 それから、八束は夏報を抱えて遊郭の外を走る。
 スパヰ甲冑はまだこの温泉街上空で戦っており、逃げ出すわけでもない。
 適当に高い建物の屋根まで上がれば、夏報の目的としては十分だ。

「ん、ここで大丈夫」

 屋根の上に降ろしてもらった夏報。
 声を張ればスパヰに声は届くが、急に接近されたら逃げられる、そんな距離だ。

「えー、スパヰに告ぐ。観念して投降することだ」

「アーハン?」

 夏報が写真を掲げて、スパヰへと声をかけた。
 夏報のユーベルコードは、相手の望む情景の写真を作り出し、視線を釘付けにするというものだ。
 相手が目を逸らすと呪詛の炎が視神経を焼くという二段構え。
 つまり、見ても見なくても注意を引きつけられるというわけだ。

「今なら天桜太夫が君を待っている」

 懇意にしている太夫がいるのだ。
 これを利用しない理由はない。

「ノー、ワタシを待たなくてもイイ! テェテェ!」

 だが、スパヰの答えは否だった。
 にもかかわらず、スパヰは写真を食い入るように見ている。
 写真の内容が見当違いだったわけではない。

「どゆこと?」

 ぺらりとめくって写真を確認する夏報。
 そこに写っていたのは、美しき天桜太夫とそのかむろが見つめ合う光景だった。

「こ、こいつ……! 自分は関わらないで推しを眺めていたいタイプの百合好き!」

 一方でスパヰ甲冑が写真に夢中になっている頃、夏報を屋根の上に置いてきた八束は、近くで別の建物に潜伏していた。

(今まで窮屈な思いをさせて済まんな"古女房")

 猟銃にかけていた布を取り払い、空を舞うスパヰ甲冑に狙いを定める。
 野生の動物の狡猾さと比べたら、高速移動するだけのスパヰ甲冑で、しかも夏報の持つ写真に気を取られているとあっては、ただの的でしかない。

(さあて、何発要るだろうか)

 まずは一発、引き金を引いた。
 辺りに響く、重い銃声。
 弾はスパヰ甲冑の胸へと当たっている。

「俺が悪かった」

 二発目も、やはり同じく重い音。
 再び胸に打ち込まれる銃弾。

「然しこれも仕事でだな」

 関係ないと言わんばかりに、三発目もまた、鈍く響く。

「ワタシ、八つ当たりされてマセン? アウチ!」

 これには打たれまくっているスパヰも困惑した。

「あのう、そんなに怒らないでやってくれませんか」

 おずおずと屋根の上から顔を出す夏報。
 銃声は変わらず、重く鈍い。

「駄目かな……」

 駄目だといわんばかりに、最後の一発は砲身内部で爆発した。

「あだッ!」

 衝撃で弾け飛んだ部品が、八束の頭に直撃する。
 額から血を流して、八束は倒れた。

「駄目そう……」

 夏報が両手で顔を覆って肩を落とす。

「……勘弁して呉れねえか……」

 古女房の雷さんの痛みに耐えながら、八束がつぶやいた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

雨宮・いつき

判断が早い
まったく、なんて往生際の悪い人なんでしょう
大人しくお縄につきなさい、と言って聞くような人でないのは百も承知
僕もスパヰを追って遊郭の外へと向かい、白虎を呼び出して騎乗します

こんな街中で飛び回って、おまけに機関砲まで放つなんて…
街の人たちに流れ弾が当たらないようにするために、相手の射撃はあえて避けません
冷撃符で【結界術】を込めた大きな氷の壁を作って砲弾を受け止めて
氷越しに相手の動きを見て、白虎の操る流体金属を放ちます
甲冑ということはそれも金属、磁力を込めた流体で周囲を包み込んで引き寄せれば、そう易々とは逃げれないはずです
その甲冑の両腕両脚を固めて捕まえて、奉行所へ突き出してやりますよ!



●狐虎捕物帖

「すみません遊郭のみなさん、ご迷惑をおかけします」

 呼び出した白い虎に跨りながら、雨宮・いつき(憶の守り人・f04568)は遊女や主人に頭を下げた。
 戦いになった途端、スパヰは遊郭から飛び出した。
 逃げるというより、機動力を活かすつもりだろうか。
 戦場は街へと移り、機動力が必要になる。
 そこで呼び出したのが、この白虎だ。
 いつきを乗せられる大きさがあり、速い。
 白虎に跨りスパヰを追って飛び出したいつきが、空を見上げる。
 猟兵たちとの戦いで容赦なく放たれる両腕の機関砲。
 死傷者こそ出ていないが、街にも流れ弾が降り注ぐ。

(軽率な……! 許せませんね)

 スパヰ甲冑の腕が、スパヰを追って屋根の上を走るいつきと白虎にも向けられる。

「1発も通しません……!」

 そう言いながらいつきが取り出したのは、一枚の護符だ。
 人差し指と中指で挟んだそれを、前に掲げる。
 護符に込められていたのは、冷気の力。
 結界術に組み込んで発動すれば、いつきの前に分厚い氷の壁が現れた。
 スパヰ甲冑から放たれる機関砲。
 それを、氷の壁が阻んていく。

「向こうが透けて見える盾というのは便利ですね……!」

 氷越しにスパヰ甲冑の位置を確認し、白虎へと指示を出すいつき。
 白虎はただの移動手段として呼び出したのではない。
 その力は、磁力と液体金属の操作。
 機関砲の掃射のために空中で止まっていたスパヰ甲冑へ向けて、液体金属が伸びる。
 氷の盾越しにはっきりと見えている腕を掴むなど、容易いことだ。
 その腕に絡みつくと、隙間から中に侵入し、がっちりと絡め取った。

「さあ、大人しくお縄につきなさい!」

 いつきが叫ぶと同時に、磁力を込めた液体金属の力でスパヰ甲冑が地上へと引っ張られる。

「お断り、デス……!」

 その力に抗うため、マントを翻して全力で飛行しようとするスパヰ甲冑。
 腕を引っ張られていようと、お構いましだ。
 液体金属の下へ引きずり落とそうとする力と、甲冑の空へと飛ぼうとする力。
 張力に甲冑自身が耐えられず、関節部がひしゃげて、ついには砕けた。
 そのおかげで、液体金属からは逃れることになったスパヰ甲冑が、ステルス迷彩を起動し、姿を隠す。

「流石に捕縛して終わり、とはいきませんでしたか……」

 白虎の頭を撫でて、両腕を失ったまま隠れたスパヰ甲冑を探した。

大成功 🔵​🔵​🔵​

毒藥・牡丹
◎【理解しがたい】

やっっっと追いついたわよこの覗き魔!何がスパヰよ!
こそこそしてやることがそんなことだなんて恥ずかしくないわけ!!??
……は?今なんて?
~~~~っっ!!ゆるっせない!!
千桜エリシャ!その刀借りるわよ!!あいつ叩っ斬ってやるわ!!

ああ~~……!もう!!重いし長いし全然振れないじゃないの!
あんたよくこんなもの平気で持ち歩いてるわね!?
………あんたその見た目で頭まで筋肉だったりしない?

はぁ……もう全部あんたに任せるわよ……
えっ、はぁ!!??ちがっ……頼ってるわけじゃないわよ!
癪だけど!あいつは!絶対に!許せないから!仕方!なく!!
いいから早くやって!!!
(……綺麗すぎて、ほんと厭)


千桜・エリシャ
◎【理解しがたい】

もう牡丹ったら落ち着いて
そうして冷静さを欠いては敵の思う壺ですわ
…って、ちょっと!?
あなた、剣術の心得がありますの?

…なかったみたいですわね
えっ、この刀そんなに重かったかしら?
失礼ね!私は脳筋ではありませんわ!
あなたこそ非力過ぎるのではなくて!?

…もう返してくださる?
あまりこの刀を長い時間持たないほうがいいですわ
あら、その言い草
私を頼ってくださっているのかしら?
ふふ、まあいいですわ
お手本を見せて差し上げますから
そこでよく見ていなさい

さて、牡丹の重要機密の分
その御首で払っていただきますわね
どこにいらっしゃるかなんて音や気配でわかりますもの
――ほら、そこ
では御首をいただきますわね



●月下桜鬼
 夜桜舞う温泉街での戦いも佳境を迎え、スパヰ甲冑はすでに大きな損傷を受けていた。

(このままだとマズいデスネ……)

 空高く飛び上がったように見せて、ステルス迷彩を使って実際は地上に潜伏することで猟兵たちの視界から逃れたスパヰ。
 しかし、ここにいて見つかるのも時間の問題だ。

「見つけたぁぁ!!」

 スパヰが隠れている湯畑の近くから、大きな声が聞こえた。
 遊郭から追いかけてきた毒藥・牡丹(不知芦・f31267)だ。
 袖をまくり、息を巻き、スパヰ甲冑を睨みつける。

「あら、もうこんなに傷ついて……少し遅れてしまいましたわね」

 ゆっくりと歩いてきた千桜・エリシャ(春宵・f02565)が、牡丹の後ろから顔を出した。
 その手には、身の丈よりも長い大太刀。
 これを取りに戻っていたのだろうか。

「ともかく! やっっっと追いついたわよこの覗き魔! 何がスパヰよ! こそこそしてやることがそんなことだなんて恥ずかしくないわけ!!??」

 顔を赤くして叫ぶ牡丹。

「国宝級のまな板の話デスカ~? 恥ずかしいのはアナタの胸ですネ、隣のボインに分けてもらったらどうデスカ、ハハハ!」

 対してスパヰは、勝利こそ諦めたものの、逃亡を諦めてはいなかった。
 大きな隙きを作ることができれば、このふたりを躱して逃げることができるかもしれない。
 そこで選んだのは言葉による挑発だった。
 考えは悪くなかったかもしれない。
 ただ、少々狙う場所を間違えてはいたのだが───。

「……は? 今なんて?」

 スパヰの言葉に、露骨に怒りのボルテージを上げる牡丹。
 一周回って、憤怒の炎は静かに燃えている。

「もう、牡丹ったら落ち着いて。冷静さを欠いては敵の思うつぼですわ……ってボイン!?  私のことですの!?」

 エリシャが牡丹を宥めようとするが、牡丹の怒りは明らかに限界を超えていた。
 ついでに自分のことを言われていると気付いたときに、驚いて胸が揺れる。

「~~~~っっ!!ゆるっせない!! 千桜エリシャ! その刀借りるわよ!! あいつ叩っ斬ってやるわ!!」

 牡丹が、エリシャの持っている大太刀へと手を伸ばし、奪い取るようにしてそれを借りた。

「牡丹あなた、剣術の心得がありますの?」

 仕方ないと、エリシャは手を離して得物を牡丹に預ける。
 しかしエリシャの得物は、小柄で非力な牡丹が扱うにはあまりに重く長い。
 鞘から抜き放つことすら、まともにできなかった。

「ああ~~……! もう!! 重いし長いし全然振れないじゃないの!」

「……なかったみたいですわね」

 エリシャへ向けてヒステリックに叫ぶ牡丹。
 溜め息をもってエリシャはそれを受け止めた。

「あんたよくこんなもの平気で持ち歩いてるわね!?」

「えっ、この刀そんなに重かったかしら?」

 エリシャの言葉に、牡丹は少し引いた。
 とてもではないが、真っ当な人が振り回せるものではないと感じたからだ。

「……あんたその見た目で頭まで筋肉だったりしない?」

「失礼ね! 私は脳筋ではありませんわ! あなたこそ非力過ぎるのではなくて!?」

 実際、エリシャの大太刀はかなりの質量がある。
 使いこなすには、かなりの怪力か、卓越した体捌きが必要である。

「……もう返してくださる? あまりこの刀を長い時間持たないほうがいいですわ」

 尤も、大太刀を使えないのは、重さや長さだけではないが───。
 結局すぐにエリシャへ返されることになった。

「はぁ……もう全部あんたに任せるわよ……」

 スパヰへの怒りがすっかり発散されてしまったのか、牡丹はやけに落ち着いていた。

「あら、その言い草、私を頼ってくださっているのかしら?」

 牡丹の様子を見て、エリシャが誂うように笑う。

「えっ、はぁ!!?? ちがっ……頼ってるわけじゃないわよ! 癪だけど! あいつは! 絶対に! 許せないから! 仕方! なく!!」

 スパヰを指差して、牡丹は誤魔化すように大声を出した。

「ふふ、まあいいですわ。お手本を見せて差し上げますから、そこでよく見ていなさい」

「いいから早くやって!!! 厭な女ね!!」

 急かす牡丹に笑みを返して、エリシャが大太刀に手をかける。

「さて、牡丹の重要機密の分、その御首で払っていただきますわね」

 ここからは、真面目に戦う時間だ。

「お断りしマス! 帝都の秘密は平たい胸にありと世界中に伝えねばならないノデ!」

 スパヰは散々嘲ると、ステルス迷彩を起動して姿を隠した。

「☓☓☓☓☓☓☓☓☓☓☓ッッ!!!」

 とても言葉にできないような暴言が牡丹の口から無尽蔵に飛び出すが、エリシャの心は波1つ無い水面のように穏やかだ。
 心配ありませんわ、とエリシャが告げる。

「どこにいらっしゃるかなんて、音や気配でわかりますもの」

「───ほら、そこ」

 エリシャが振り向きながら、なにもない空間に視線を送る。
 スパヰは、ステルス迷彩で視覚的には完全に隠れている。
 エリシャから見えていないはずにも関わらず、スパヰは甲冑のなかで、強烈な殺気を感じた。
 〝死〟の一文字が、脳を過る。

「では御首をいただきますわね」

 始めから決まっていたかのように自然な動作で振るわれる大太刀。
 その刃は、舞い散る桜を纏いながら大きな半月を描いて、スパヰ甲冑の頚へと吸い込まれる。
 スパヰ甲冑の頭部が夜空を飛び、小さな音を立てて湯に落ちた。
 桜吹雪を浴びながら、エリシャが大太刀を鞘へと納める。

(……綺麗すぎて、ほんと厭)

 エリシャの剣術を見ながら、牡丹は考えていた。
 見惚れてしまったことには気付かれていないといいな、と。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年02月14日


挿絵イラスト