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マンション逸哭館の攻防

#デビルキングワールド

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#デビルキングワールド


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●狂気の産物
 それは正に、冒涜と恐怖と戦慄を煮詰めたが如き怪物だった。
 その身の丈3mに迫る威容、その身体を何に例えた物か……強いて言うならば干からびたミイラ、線虫、そしてヘドロを捩り合わせ背に人の半身の生えた竜の形に成形する。……その作業を齢3つ4つ程の幼子か悪意に満ちた狂人辺り任せれば、或いはこの様な姿になるのかも知れない。
 出鱈目に積み重ねたおもちゃ箱の様な建築物の前、その身をユラユラと僅かに揺らしながら立つその異形。
 だが、それに挑む様に対峙する者達がいた。
「……俺たちが大人しく言う事を聞くと思ったら大間違いだぜ……」
 獣人だろうか。獣の如き容貌と毛皮を備えた人型の彼らは、一様に威勢のいい態度と姿ではあったが……如何せん相手がねじくれた怪物である。その迫力に大きな差があると言わざるは得ない。
 よく見れば獣達の大半はその膝を震わせ、その表情には薄っすらと恐怖が滲み出ている。だが、彼らは引かない。なけなしの勇気を絞り出し、ちっぽけな矜持を手の中に握りしめ、断固たる意志で萎えそうな足を支え立ち続ける。
『………グラァ……ラァラ……アアアアアアアアアアアアア』
 その覚悟を圧し潰すが如く響いたその声は、文字通り地獄の奥の奥の光の一切届かぬ闇の先から沁み出たかの如く……ただただ重く、暗く、ねじ曲がっている。
『アア……ア……ヤやヤ……ヤチ……』
 グジリと鈍い音を立て、その首を捻ったそれは。丸で今初めて言葉を発し始め出したが如くたどたどしく、忌まわしいその声を響かせた。
『……ヤチン……ハラエ』

「「「断る!!」」」

●地獄の館
「と言う訳で、ちゃんと家賃を払おうとしないこの滞納者達を退治して下さいませ」
 薄っぺらい淑女仕草を張り付けた朗らかな笑顔を湛え、ハイドランジア・ムーンライズ(翼なんていらない・f05950)はアッサリキッパリそう頼んできた。
「待って?」
 猟兵の一人が物言いを入れた。そりゃそうだ。
「はい」
 エセ淑女は大人しく待つ。
「倒すって獣人の方か!? その物凄い怖い化け物じゃなく!?」
「化け物だ何て、女性に向かって失礼ですわよ?」
 何か釈然としない事この上ないリアクションが返って来た。
「マンション逸哭館。デビルキングワールドに幾つもある、増築を繰り返し迷宮のように入り組んだ高層マンション……通称『マンションダンジョン』の一つ。そして彼女はその管理人のキョウコさん、今年で27歳になる種族ラスボスの未亡人ですわ」
 未亡人って情報は必要だったんだろーか。
 そう思いつつも、猟兵達の目にユックリと理解が広がった。かの世界に住むラスボスと言う種族は、その性根が優しければ優しい程見目が恐ろしくなると言う生物学のバグ見たいな生態をしている。……きっと滅茶苦茶優しいんだろうなキョウコさん。

「デビルキング法により悪行こそが推奨されるあの世界では、家賃滞納悪魔自体は珍しくもないただの風物詩ですわ。雇われたギャング達が冒険者よろしく乗り込んで取り立てを行う事もです。……ただ、今回は彼らの後ろにオブリビオンの影がありますの」
 ヘルミ、『邪竜の鍵を秘めし地獄の王女』と謳われたかつての貴人。生前はデビルキングワールドに相応しく純で優しく、人々の為にその命を捧げる程の人物であった彼女だが……オブリビオンとして蘇れば当然変節せざる得ない。
「彼女はそのマンションに住む家賃滞納悪魔達をまとめ上げ、取り立てのほぼ全てを撃退しています。いいえ、それだけではなく彼らを忠実な軍団へと統率し、マンションを要塞として大規模な虐殺を執り行おうと企んでおります」
 それは恐ろしい悪行だ。デビルキング法に則って考えるなら寧ろ素晴らしい英雄行為なのかも知れないが、しかしその糸を引くのがオブリビオンであれば……その先にあるのは世界の滅びだろう。それは本末転倒と言う物だ。
「ヘルミはマンションの最奥の部屋に住んでいます。倒す為にはマンションダンジョンに乗り込んで頂く必要があります」
 だが仮にもダンジョンと呼ばれる建造物。当然一筋縄ではいかない。
「造りが入り組み迷路やアスレチックと化している事は当然として、随所に有害な瘴気が発生しておりますわ。また、その瘴気で変質した建材や家財がセンサー兼トラップ兼モンスターと化し、侵入者に襲い掛かります。それと、集まって液状化した瘴気が強力な酸の池と化して其処かしこに水溜まりを造ってますわね。常人であれば半刻と保たず生きてはいられないでしょう」
「待って。待って?」
 二度目の物言いが入った。
「何なんだその危険地帯は! それもヘルミの仕業なのか!?」
 当然と言えば当然すぎるその疑問に、ハイドランジアはそれはもう薄っぺらく微笑んで答える。
「ああ、いえ。瘴気は管理人さんが常日頃から分泌している物なので、マンションの元々の仕様ですわ?」
「そのマンションに家賃を払いたくないのは寧ろ普通の事じゃないかなあ!?」
 悲鳴のようなツッコミに、グリモア傭兵はようやく笑顔を引っ込め。
「俺もそー思う」
 ついでに淑女の猫も投げ捨てて真顔で答えた。
「でもしょーがねえだろーよーオブリビオンの仕業なんだから。つべこべ言わずチャチャーっとやっちゃって下さいよー」
 物凄い勢いでぶっちゃけだした。挙句そそくさとグリモアを輝かせ出す。……面倒くさくなりやがったなこの女。
「あ、管理人さんが良い人なのはマジなんで。出来るだけマンションは壊さねーでやってくれな」
 しかもついでの如く無茶振り迄してきた。図々しい話である。


ゆるがせ
 御無沙汰しておりますゆるがせです。
 デビルキングワールドの冒険をおひとつ。

●第1章:冒険『イェーガー:インポッシブル』
 OPで説明されている通りの鬼畜ダンジョンです。常人ならすぐ死にます。ただ猟兵の皆さんは大まか常人じゃないので頑張れば踏破できると思います。断章で実例を描写しますので、それを参考にしたりしなかったりしながら踏破してやって下さい。
 ハイドランジアはああ言いましたが、マンションの破壊の有無は依頼の成否には関わりません。気にしても良いし気にしなくても良い。
 後、管理人のキョウコさんはモブなのでリプレイには基本出ません。設定的には別所に避難しています。絡もうとしても描写はされないのでご注意下さい。

●第2章:集団戦『悪そうなお兄さん』
 平均的なデビルキングワールドの悪魔さん達。各種獣の悪魔的な人々、大まかガラの悪い恰好した獣人的な見目だと思って下さい。
 ちょっと可也良い感じに素敵な三下パワーを誇る皆さんなので、蹴散らしたり脅したりぶちのめしたりして無力化しましょう。
 ただし彼らはオブリビオンではなく「魔界の一般住民」です。殺さない様にお気をつけを。ただ凄い丈夫で頑丈なので多少斬ったり打ったり燃やしたり凍らせたりする位なら全然大丈夫です。

●第3章:ボス戦『邪竜の鍵を秘めし地獄の王女・ヘルミ』 
 生前良い人今大悪人的な地獄王女さん。腹筋凄い。
 デビルキング法に忠実に行動してる辺り、ある意味生前の性格が残ってるのかも知れませんが。それはそれとしてオブリビオンです。凶悪ですし強力です。お気をつけあれ。
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第1章 冒険 『イェーガー:インポッシブル』

POW   :    常人には不可能なパワーを使い侵入する

SPD   :    常人には不可能なテクニックを用いて侵入する

WIZ   :    常人には考え付かないプランで侵入する

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🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●みんなの家
 誰もが逃げ走り、泣き叫ぶ館。故に逸哭館。
 増改築の積み重ねにより迷宮と化したそのマンションに足を踏み入れた猟兵達。その彼らに数多の視線が突き刺さる。……それは住人達の目か。違う、それはこの建物其の物の目。
 天井に壁に床にパチリと開きギョロリと蠢く大小数多の目、目、目……瘴気に拠って変質した建物は、今やそれ其の物が半ば生物と化した怪物である。
 目だけでは無い、耳が、鼻が、至る所で発生し猟兵達を観察している。そう、これ等は館のセンサーなのだ。侵入者を認識し、その情報を知る為の。
 今、逸哭館は猟兵達と言う『異物』を感知した。

 ギ ガガガガガ ギィィィ
   ギャリ ギリ ニチャ
     ジャリリリリ ガゴン グォグォ

 そして館は動き出した。
 壁の木目が捻れ紐の如き触手となって侵入者を襲う。縛り上げ絞め殺そうと。
 出し抜けに床に空いた大口にはゾロリと牙が生え、踏み外した者の足を齧り千切ろうとする。
 出し抜けに落ちて来てカシャンと割れた蛍光灯の破片はカチカチと繋がり乍ら増殖し、巻き付いた物をズタズタに切り裂く大蛇と化す。
 急に壁が倒れて来るのは当たり前で、倒れて来る途中その壁の表面にはヤスリが浮き上がりぶつかった存在を擦り潰そうとする。そして、避けた所を狙って今度は天井も落ちて来るだろう。
 ペタンペタンと歩んでくるのは抉れ捲れペラペラの人型になったステンレスバケツ、割れて繋がり直し巨大な蜘蛛の様な姿になった竹箒、窓の縁に溜まった雨水で育った黴が固まってできた泥人間、全ての異形が大した強さでは無い。猟兵であれば鎧袖一側だろうが、けれどその数は無尽蔵。
 窓ガラスが割れ破片が襲い、また割れ破片が襲い、そして割れ破片が襲う。無限に割れ続ける窓ガラスはいつ見ても割れて居ない。
 全てが悪意を持ち、全てが害意を持ち、全てが敵意を剥き出しにしている。余りにも明白な事実、『逸哭館は侵入者を許さない』。つまり、この建物全てが敵なのだ。

 けれど猟兵達は最奥を目指し進まねばならない。
 地獄の主を屠る為に。
チル・スケイル
デビルキングワールドの交渉は、(ある意味)難易度が高いので、こういう高純度戦闘依頼は助かります

では、出撃します。吉報をお待ちください

さて。
冷気放射杖を両腕に構え、凍気を浴びせながらシンプルに侵入します

液状の障害はそのまま冷凍。
薄い敵や小さい敵も冷凍。
大型の敵は、焦らずじっくり冷気を浴びせ凍らせます
床に開く口か…壁や床を凍らせ、作動を遅らせます

後の戦闘に備え、とにかく何から何まで凍らせます

武装構え…よし。
3。2。1。
突入!



●凍れる館(※外的要因)
『では、出撃します。吉報をお待ちください』
 出立の際、そう言ったチル・スケイル(氷鱗・f27327)は非常に頼もしく見えた。
 その称号に相応しく氷を思わせる竜鱗、空の様な色合いの髪と瞳、そしてその身中を巡るは氷の魔力たる凍気。竜派ドラゴニアンたる彼女はその全ての要素を以て氷竜の如き風格を備えている。それで居て力をひけらかす事のない礼儀正しさとクールな態度。
 まあ、端的に言えば彼女は知的で優秀に見える猟兵だった。
 そんな氷鱗の乙女が今、蠢く魔窟……いやマンションの入り口で冷静に呟く。
「デビルキングワールドの交渉は難易度が高いので、こういう高純度戦闘依頼は助かります」
 交渉に関しては、難易度の前に『ある意味』と言う心の声が挟まって居たりする。だがそれは全くその通りの話だ。住人の突き抜けた善性とデビルキング法の混ざり合ったこの世界の社会通念は……まあ、有体に言って他の世界の住人からするとややこしい。それを下敷きにした住人との交渉は……と言うか会話からして時にディスコミュニケーションを生みかねないのだ。
「さて」
 そして構える武器は火炎放射器……では無く冷気放射杖『マルヴァールマ・スロワー』。その形状が思わせるそれとは真逆に、冷気を放射する事に長けた魔法の杖の4連装。これに限らず。彼女は銃火器に似た見目の魔杖を愛用している。
 そして初手から思い切り武器を構えている彼女は。つまりまあさっきの高純度戦闘依頼と言う言葉と合わせて見るに、既に戦闘態勢……。半ば化物と化した逸哭館への突入は、最早探索や冒険では無く戦闘。……確かにある種筋が通った理屈ではあるか。
「武装構え……よし。3。2。1。突入!」
 駆け出したチルの足取りに迷いや緩みは無い。

『ギィイィ──ギ!? ────』
 熱光線を放った電球の化け物が、放たれた凍気によって熱光線毎ガチガチに凍り付き落ちる。落ちた先は瘴気が集まってできた酸の池であり、本来ならばボチャンと音を立てる所だった筈だが……
 ──ゴトン
 響いたのは鈍い音だ。何故なら酸の池もまた冷たい暴威によって既に凍り付き、少し滑りやすい以外は只の堅い床と化していたのだから。その上には電球以外にも異形化した建材や家財達が転がっている。その全てが一様に凍り付いている事は言うまでもない。
「……(凍れ)」
 戦いの時間と心得ている間のチルは寡黙だ。この態度もある意味ではクールと言えるのかも知れない。振るう魔杖から、或いはその美しい鱗に追われた身体から放つのは絶対零度の凍気。ユーベルコード【氷術・凍(アイスフリーズ)】。氷魔法を冷やし凍らせる魔法であると定義するならば、正に一つの到達点と言える究極。小型であったり薄い形状の異形等は瞬時に凍らせ、悲鳴すら上げさせずにその場に冷凍。
『ゴァガガガ……ガ……ガガ……』
 壁や天井が変異した大型の異形とて、焦らずじっくり冷気を浴びせ続ければ程なく凍り付く。冷凍完了。
 足元がグパリと開き、その身を喰らおうと牙を生やしても。
「っ」
 寡黙でなければ『おっと』位は言ったかもしれないが、その程度。何故ならチルは壁や床にも凍気を浴びせ凍らせている。凍り付いた全ては当然作動を遅れ、油断していない彼女は余裕を以て回避できる。
 要するに、ドラコニアンのウィザードが今回取った作戦は恐ろしくシンプルな侵入法だ。冷気放射杖を両腕に構えて凍気を浴びせながら進む。
 敵は凍らせる罠も凍らせる。後の戦闘に備え、とにかく何から何まで凍らせる。
 出立の際、彼女を見送った者がこの有様を見たならきっと評価をかなーり変えていた事だろう。『……あ、この人、割と脳筋だ』と。
 だが、同時に『頼もしい』と言う評価には変化はあるまい。何もかも冷凍しながら進むその有様は確かに飛んだシンプル・イズ・パワープレイだが、見方を変えれば危険な要素全てを迅速に圧殺しているのだ。しかも、手段が冷凍であるが故にマンションの損傷は最低限に抑えられている。
 やってる事は脳筋、結果は非常にクレバー、しかしてその正体は……まあ、彼女自身だけが知っている事なのだろう。多分。

成功 🔵​🔵​🔴​

クレア・フォースフェンサー
家賃を踏み倒す輩というと、逸哭館というよりも矢荷鳴荘といった感じがするのう
加えて幽霊屋敷とあらば、客席から「後ろ後ろー!」とか言う声も聞こえてきそうじゃな

さて、それはさておきじゃ
ハイドランジア殿曰く、できるだけマンションは傷付けぬようにとのことであったな

ならば、キョウコ殿と一日入居又は借金取りとしての契約をしてこよう
これでわしもこのマンションの関係者というわけじゃ
無数の目に契約書を見せつけつつ、最奥の部屋へと向かうとしようぞ

もし、わしに手を出してくるような触手やら掃除道具があったならば、それは誤動作という奴じゃな
正当防衛として光剣でしばき、作動停止に追い込んだとて、キョウコ殿も文句は言うまいて



●円熟の道行き
「家賃を踏み倒す輩というと、逸哭館というよりも……他の下宿の感じがするのう。例えば宴会ばかりしている様な……」
 他に心当たりでもあるのか、クレア・フォースフェンサー(UDCエージェント・f09175)は記憶を漁る様に呟いた。デビルキングワールドにはダンジョン化した賃貸物件の類が幾つもある、彼女はその一つの事を言っているのかもしれない。多分。きっと。
「加えて幽霊屋敷とあらば、客席から『後ろ後ろー!』とか言う声も聞こえてきそうじゃな」
 ……うん。まあ、これはデビルキングワールド関係ではあるまい。彼女……正確にはUDC製の人造人間たる彼女に宿った魂は、剣技と弓技を極めた武芸者なのだが……実は近年の人物なのかその身に成ってから嗜んだのか、最近の芸能や娯楽にも通じている様だ。……最近だ。最近って言ったら最近である。
──パチパチリ パチリパチリパチリ
 微かな、けれど確かに何かが開く音が四方八方より聞こえて来る。見やれば壁に床に天井に開く大小様々の目。そしてそれには劣る数ながら疎らに見える耳と鼻。『侵入者』である彼女の存在を確認するべく発生した、逸哭館の生きたセンサー類。
「さて、それはさておきじゃ。ハイドランジア殿曰く、できるだけマンションは傷付けぬようにとのことであったな」
 けれどクレアは焦らない。マイペースに呟きながら、その美しい美貌を巡らせ無数の目達を見回し。
「ならばこうじゃ」
 そしてその目達に向け、懐から取り出した一枚の書簡を広げて見せる。
『入居届』
 そんな題字から始まる契約書。それは、クレアが事前に管理人であるキョウコと交わした一日入居の証だった。……館が異物を攻撃すると知り、事前に契約を行ったのだ。
「これでわしもこのマンションの関係者というわけじゃ」
 それこそが彼女の作戦。一日入居又は借金取りとしての契約を結べば、なるほど彼女が館に足を踏み入れる事は道理の所業となる。エージェントである彼女らしい、理論と世知に長けた考え方だ。管理人の合意と、『入居の方がより関係者感が強いと思います(意訳である。実際は何かおどろおどろしい呻き声だった)』との意見により、彼女は今日一日だけこの逸哭館の住人なのだ。
「では、最奥の部屋へと向かうとしようぞ」
 果たして無数の目達は次々に閉じて行き、『あ、それなら良いです』とばかりに常設なのだろう少数を残して殆ど消えた。満足気に頷いた剣豪は柔和な笑顔のまま、道すがらの目に一応契約書を見せつけつつ進む。

『ギャガッガガガガア!!』
「これは誤動作という奴じゃな」
 襲い来るタイル製のゴーレムが如き異形の拳を、練達の見切りで文字通り紙一重に躱しつつ、クレアは溜息を吐く。
 左右から当時に伸びる木目の触手。絡まれればその乳白色の肌を捩じ切らんばかりに縛り上げるだろうそれらを、武器すら抜かずヒョイといなす。変わらずその柔和さとマイペースさに陰りはなけれど、その目には少々の呆れが浮かんではいた。
「と言うかこれ。館がわしが入居者だと理解していても、触手やら掃除道具達はそれを理解する頭が無いんじゃな」
 別に作戦が無駄だった訳では無い。館が認めて以降、彼女に対する積極的な異形化や攻撃、罠の生成は起こらなくなっている。……ただまあ、普段からマンション内をうろついている異形達はそんなの知らんわとばかりに攻撃して来る訳だ。……それは、逆に言えば本当の意味で此処に住んでいる入居者達にもこんな風に攻撃して居ると言う事であり……そりゃ呆れもするだろう。
 数は減ったが0にはならない逸哭館の脅威……だが、クレアにして見ればそれはそれだけの話だ。剣豪の手が愛用の光剣に伸び……。
 ヒュガッ
 言葉通りの一閃。
 迫り来た無数の異形がその動きを止め。そして思い出した様にその身を二つ三つに別れさせて崩れて行く。ユーベルコード……いや、ユーベルコードの域にまで磨き上げられた剣豪の【本気Ⅱ(ホンキ)】が、一刀の元全ての敵を作動停止に追い込んだのだ。
「正当防衛じゃ。キョウコ殿も文句は言うまいて」
 結局その物腰を一切乱さず、清潔な身なりに汚れや傷一つ付けぬまま。達人は歩を進める。奥地へと。

成功 🔵​🔵​🔴​

神羅・アマミ
何やら因縁めいたものを感じ此度の戦場へと駆けつけたが…
わかってたらこんな場所来とうなかったよ…
でも、仕方ない!
やるしかない!

既に建造物かも怪しい異界とあらば、邪魔な障害は片っ端からブッ壊していけば手っ取り早いじゃろ。
ていうか既に壁だの天井だのが勝手に崩壊してくるし!
そんなわけでUC『板付』を用い、【地形破壊】効果で全てを破壊し【吹き飛ばし】最短ルートを進む!
魁なんちゃら塾名物の直進行軍ってやつじゃよー!

どうせ多少ブッ壊しても壁の一つや二つ雑草みたいに自生してくんじゃろ?
それに迫りくる触手や怪物を退治してやるんじゃからむしろ住人は感謝してほしい。
いや、不法居住者なんじゃからそんな配慮もいらぬ!!



●軋む館(物理的に)
「何やら因縁めいたものを感じ此度の戦場へと駆けつけたが……」
 歪み悶える異形のマンションの前、その声は口調の重々しさに反して若い。
「わかってたらこんな場所来とうなかったよ……」
 ガックリと肩を落とす神羅・アマミ(凡テ一太刀ニテ征ク・f00889)。年寄り染みた喋り方は最近流行のロリババアとも言えるが。彼女の実年齢は13歳、正真正銘の純正ロリ……コホン、少女である。
『ギァ……!』
 そんないとけない矮躯に飛び掛かったのはステンレツの獣……バケツが捲れ捩り合わさった異形。その灰髪に飾られた白肌に齧りつこうと大口を開け。
「でも、仕方ない! やるしかない!」
 そんな気合の言葉と共に、無造作に張り飛ばされた。
──ガン! ゴガッ ゲグシャ
 一瞬で遥か廊下の先のT字路の壁まで吹き飛んだ異形は、そのまま壁にめり込みヘシャげる。アマミは羅刹、その右頭部と左肩に角を備えた鬼なのだ。少女であれど、その力を侮るなど不可能。
「既に建造物かも怪しい異界とあらば、邪魔な障害は片っ端からブッ壊していけば手っ取り早いじゃろ」
 そんな鬼の娘が割と聞き捨てならん事を言い出した。……だが確かに出来るだけ破壊しないで欲しいとは言われたが、絶対破壊するなとは言われていない。
「ていうか既に壁だの天井だのが勝手に崩壊してくるし!」
 うん。それも確かに。
 実際、懐から出したシュガースカルを掲げその身に紺色の胸当てや無骨な篭手、甲冑の大袖に力帯等を纏い戦闘形態となり行くアマミに対し、そんな隙は逃さないとばかりに左右の壁と天井の一部がガラガラと迫って居た。
 変身中の攻撃は御法度……何てマナーを知る異形では無いのだろう。寧ろその壁面にギザギザの棘を、天井の方には刃が生え出しており殺意満載。鬼の怪力とて、三方からの大質量を一度にどう相手取ると言うのか……
「ゴチャゴチャすんじゃねーしゃらくせー!」
──ガッ グォンッッッ!!!!!!!
 轟音が鳴り響き、壁面と天井が呆気なく吹き飛び砕け散る。
 アマミはただ床にその小さな拳を叩き付けた。それだけだ。それだけで衝撃波が荒れ狂い、床の建材が剥がれ槍衾の如く四方に尖り、それらが迫る異形を迎撃し剰え破壊し切ったのだ。正に鬼の暴威、これが格闘ゲームであればきっとゲージとか消費する技だろうド派手さ。ユーベルコード【板付(イタツキ)】。ただシンプルに固く握った拳の一撃が、その重さを以て全てを破壊する。その手一つで地形すら変える暴力の究極。
「そんなわけで全てを破壊し吹き飛ばし最短ルートを進む!」
 聞き捨てならんを通り越して真っ向酷い事を言い出した。可哀そうな管理人……いや、自業自得か。と言うか現時点でオブリビオンが何一つ悪くないままマンションが破壊されつつあるのだが、何だろうこの事態。
「いかなる障害物があっても止まったり曲がったりせずひたすらに直進する行軍じゃよー! 男の中の男を育てる組織の名物じゃと本で読んだ!」
 その本は信じない方が良いと思う。
 ともあれアマミは先のバケツがヘシャゲているT字路迄歩を進め。
「憤ッ!」
 迷わずその壁を拳で粉砕した。……道なりに進む気すら無い有言実行である。
「コイツで一網打尽! 死ねーッッ!!」
 そして迫る異形を叩いて砕く。殴る。砕く。殴り砕く。粉々にする。異形達を鎧袖一側……そして建物も鎧袖一側。
「どうせ多少ブッ壊しても壁の一つや二つ雑草みたいに自生してくんじゃろ?」
 まあ言っている事は正論なのだが。兎も角絵面が凄い。
「それに触手や怪物を退治してやるんじゃからむしろ住人は感謝してほしい。いや、家賃滞納悪魔はもはや不法居住者なんじゃからそんな配慮もいらぬ!!」
 それもまあ、その通り。
 と言うかワルなほどクールでカッコ良いと言う価値観のデビルキングワールドだ。実の所、容赦のない暴力を以て進むアマミの姿は寧ろ『最高にイカした破壊魔』として(家賃払ってる方の)マンション住人達の間で伝説となるのだが……それはまた別の話である。

成功 🔵​🔵​🔴​

ヨツユ・キリングミー
■動機
「またもヘルミ……。嬢にとってのあの存在が人の拠り所である場所にかかわっている。これが何を意味するというのか? わかるかのぅ?」

適当に問いかけるが「ふふ。いずれわかる」とか何もわかってない感。

■行動
可燃物撒いて火を点ける。

「何が妨害じゃー! こうしてやれば妨害とかしてる場合じゃないじゃろがー! おらおら、燃えてもええんかー! ええのんか!」

一見非道で侵入者にとっても無謀な行いに見えるが、逸哭館なら消火するだろうし、煙も排出すると信じている。信じているからこそできる行動なのだ。お願い逸哭館! 負けないで!

「思い出すのぅ! わしの森が焼かれた火を! クソがー! 愚かなオブリビオンどもがー!」



●阿鼻叫喚(本当に)
「またもヘルミ……」
 そう呟いたのは銀髪のエルフ。森に住むとされる長命種、そのうら若く美しい容姿を見た目通りに判断するのは早計だろう。事実、ヨツユ・キリングミー(死なずのキリングミー・f06016)の血の様に赤い瞳に宿った光は、到底年若い小娘に宿せる深みでは無い。
 その彼女がまたもと言った、終端を迎えた過去の映し身であるヘルミ。それ故に同じ姿形で別個に存在が確認し得るとされるオブリビオンでもあるヘルミ。その彼女とヨツユの間にどの様な因縁があったのか。それは分からないし、実の所それは重要では無い。
「嬢にとってのあの存在が人の拠り所である場所にかかわっている」
 呟く様に小さく、それで居て詩でも吟じる様に朗々と響く紡がれる言葉。彼女の語る『嬢』と言うのが誰であるのか。同じ仕事に関わる知己の猟兵であるか、また別の存在か。そして『あの存在』とは……。それも分からないし、そして重要では無い。
「これが何を意味するというのか? わかるかのぅ?」
 試す様に、或いは諭す様に、もしかしたら赦す様に……赤い双眸は僅かに細められ、その問いかけは尚も謎めく。
 そもそも、話しかけられているのは誰なのか。マンションの住人か、行き会った猟兵か、親しい知己か、或いは……第三の壁を超えた先の誰かなのか。だが矢張り重要では無いのだ。
「ふふ。いずれわかる」
 優しくも悪戯な様にも見える笑み。最後まで曖昧な言葉。何もかも全く重要では無い。何故か。何故ならば、そう。
 この女、別段特に何も分かってないくせに適当言ってるだけだからである。

「何が妨害じゃー! こうしてやれば妨害とかしてる場合じゃないじゃろがー!」
 そしてヨツユは火を点けた。
 何に? マンションに。ご丁寧な事に可燃物を撒いた上で。
「おらおら、燃えてもええんかー! ええのんか!」
 ……何してんのこの人。何してるのこの人!?
 先行したとある猟兵が破壊の限りを尽くした事もあり、マンションには建材や家具の欠片が随所に転がっていた。つまり何が言いたいかと言うと……良く燃える。
 マンション逸哭館は今、それはもう盛大に火事の危機に瀕していた。
『ギガガガガガァ!』
 ガゴ ゴゴギィギ ギリィ
 異形達が、変異した建材が蠢く。ヨツユを攻撃……する訳では無い。と言うかそれ所じゃない。家が燃えてるんだもの。家が! 燃えてるんだもの!!
「ほほう。そうくるのか……矢張りな」
 偉そうに腕組みして頻りに頷くヨツユ。また適当言ってやがる様にしか見えないが、実は決してマジモノのヤバい人と言う訳では無い。彼女には彼女なりの考えがあるのだ。即ち彼女の考えはこうだ。
 そう、逸哭館が尋常でない館だと言う事は分かっている。だからこそ火を放った。一見非道で侵入者にとっても無謀な行いに見えるが、異形たる逸哭館なら消火するだろうし、煙も排出すると信じているのだ。
 信じているからこそできる行動なのだ。
『ギャアアアアア! ギシャアアアアア!!』
 ギィギィギィ  ギィ……
 断末魔見たいな声が聞こえるし。大半の異形は右往左往してるだけにも見えるし。瘴気と炎が化学反応起こしてよりヤバそうなガスが発生しているし。今目の前で何か半ば炭化した異形が目の前で力無く倒れ伏して動かなくなったけど。
 ……お願い逸哭館! 負けないで!
 うん、やっぱりモノホンで良いんじゃないかなこのエルフ。
「思い出すのぅ! わしの森が焼かれた火を! クソがー! 愚かなオブリビオンどもがー!」
 何やらフラッシュバックでも起こしてるのか、あらぬ事叫んでるし。
 燃え盛る焔の中、響き渡る怒りの叫び声……怖い。普通に怖い。と言うか彼女
の過去に一体何があったのだろう……。
 とは言え、ヨツユの読みが外れていた訳では無い。火の手はやがて館自身の力によって鎮火されたし、良い感じに炙られた異形達はその異性を大きく減じていた。寧ろ彼女の狙い通りである。
 流石、かつて多くの世界と戦場を渡り歩いて来た歴戦の猟兵と言うべきか。……いや、やっぱり違う気もする。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ハルア・ガーラント
逸哭館……名前も内部も危険そうな場所
一刻も早く最奥に辿り着かないと!

床や壁に触れないよう飛んで移動します
時折安全そうな場所で休憩を挟みますが迅速な移動再開を

キョウコさんごめんなさい、あなたの分泌物が翼についたら泣きそうなので……
身体全体を[浄化]効果を持つ[オーラの障壁で防御]するのも忘れません

妨害が激しくなってきたらUC発動
障害を減らして先へ進みましょう
UC効果が乗らなかったものへは〈銀曜銃〉に[マヒ攻撃]をのせた[誘導弾]で動きを止めて逃げます

ふっ、わたしの早さについてこれますか?
逃げている最中に考える厨二的台詞
だって侵入者を許さない徹底的なスタンス、こちらも逃避しないとやってられません!



●挫けぬ翼
「逸哭館……名前も内部も危険そうな場所」
 ハルア・ガーラント(宵啼鳥・f23517)の声には少しの怯えが浮いていた。歪みねじくれるマンション、蠢く異形達、漂う瘴気……気の弱い性分のハルアの内心に不安が広がるのも無理はない。
「一刻も早く最奥に辿り着かないと!」
 だが、翼の乙女は己を鼓舞する。
 グッと拳を握りしめ、無意識に曲がっていた背筋をピンと伸ばす。反動で豊かな胸が少し跳ね、新緑の眼(まなこ)が行き先を真っ直ぐに見据えた。
『ギカ ガシカガショジカカカョウカカショー!』
 その視界の先、燃え盛る焔を纏った異形が支離滅裂な叫びをあげながら走り抜ける。
 幸いソレは他に気が言っていたらしくハルアの存在には気付かなかったが、走り去ったその跡には熾火の線と、熱に焙られボコボコと泡立つ謎の液体の川が出来ている。
 ……正直、気が弱くなくても怯んで良い気がする位には嫌な絵面だった。
「床や壁には触れないようにしましょう」
 彼女が翼を広げたのも、至って順当な判断と言えるだろう。

「キョウコさんごめんなさい、あなたの分泌物が翼についたら泣きそうなので……」
 宵啼鳥の羽を羽搏かせ、進むハルアは少し申し訳なさそうな呟きを零す。
 その身体全体を包むのはオーラの障壁だ。宿った浄化の力は瘴気や謎のガスを遮りず、小さな異形であれば寄せ付けぬ力を発揮している。だが、その瘴気や異形の大本が性根の優しい女性だと思うと、まるで彼女を心無く拒否しているような気がして心苦しいのだろう。ハルアの持つ気の弱さと裏表の性根の優しさ故だ。……種族ラスボスに生まれていたら彼女も大概恐ろしい見目になりそうではある。
 先を急げど急がば回れ。比較的安全な場所を見つけては休憩を挟み英気を維持し、動く時は迅速に飛ぶハルアは、結果的に順調なペースで進行している。
 だが奥地に近づくと言う事は、妨害が激しくなっていく事と同義でもある。
『カチカチカチカカガガガガガガチ』
 建材を一度粉々に砕け散らせ、その破片を出鱈目に組み上げた様な形状の異形が群を為して迫る。破壊を経たその姿は一層不気味で恐ろしい。
──ゴガガガッ ガゴッ ガゴゴッ!!
 同時に、硬く扉を閉じたままのロッカー達が鈍い動きで幾つも転がって来る。中に何かいるのかガタガタ震える其れは凍えるような冷気を纏っていた。
 数多の異形に囲まれ、其処は俄かに死地と化す。
「……いいえ、どんな場所だって」
 ハルアは祈る様に瞑目した。しかしそれは、諦めから神に縋ったのではない。
 その柔らかな唇から紡がれるのは美しい歌。その歌声が響くうち、犇めいていた異形の幾つかがその動きを止める。その合間から生え出すは柔らかな新芽、見る見る伸び育ち繁茂し周囲を草木の揺り籠と変える。
 ユーベルコード【クレイドル・オブ・ライフ】。己の居場所を此処ではない何処かに重ね合わせるこの術は無機物を天の獄に自生する植物へと変える。瘴気によって歪めどもあくまで家具や建材である異形達には覿面の効果を発揮するのだ。
『ギァ アアア ア』
──ギシギシギシギシギシギシギシギシ
 だが、障害は減ったものの0にはならない。
 歪み切った余り己の属性迄喪ったのか、異形化の著しいモノ達には祈りも歌も届かず。変わらずハルアの柔肌を狙ってその腕を伸ばす。
「近寄らないでください!」
 遮ったのは光の銃弾。ハルアの握る『銀曜銃』から放たれた魔弾は持ち主の願いを写し、異形の手や咢を正確に撃ち抜き、籠められた麻痺の魔力がその身の自由を奪う。
 ハルア・ガーラントは心優しく、気が弱くて涙もろい女性だ。だが同時に、側頭に咲く月下美人の花を煌めかせ幾度もの戦いを駆け抜けた猟兵でもある。数を減らした異形の群等、恐れる……には足りてもその前進を止めるには足りない。
「ふっ、わたしの早さについてこれますか?」
 翼をバサリと大きく羽ばたかせ、一気に加速する。置き土産とばかりに道中考えていた厨二的な台詞を言って置くのも忘れない。
 と言って別に煽っている訳じゃない。
「侵入者を許さない徹底的なスタンス……」
 逃げている最中にちょっと現実逃避していただけだ。あれだけ数を削って尚四方八方から這い寄る異形達、障壁に浄化されつつも尽きる事無く迫り続ける瘴気、周囲から聞こえる異音や叫び声、或いは断末魔。
「こちらも逃避しないとやってられません!」
 どれだけ強くなっても怖いものは怖いし、延々迫られればストレスだって溜まるのである。だが勿論、どれだけ苛まれようとも彼女がその意志を折る事だけは決して無い。『自分にもできること』がある限り。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『悪そうなお兄さん』

POW   :    やっちまってください、アニキ!
戦場に、自分や仲間が取得した🔴と同数の【子分】を召喚し、その【野次】によって敵全員の戦闘力を減らす。
SPD   :    ダチを可愛がってくれたじゃねえか
全身を【強そうなオーラ】で覆い、共に戦う仲間全員が敵から受けた【負傷】の合計に比例し、自身の攻撃回数を増加する。
WIZ   :    おいおい、俺たちと遊んでくれるってのか?
【見事なやられっぷり】を披露した指定の全対象に【『なんか、もうどうでもいいかな』っていう】感情を与える。対象の心を強く震わせる程、効果時間は伸びる。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●獣達の邪悪なる咆哮
「オウオウオウ! 中々やるようじゃねえかリョーヘイ共!」
「生きてココまでたどり着けたのは褒めてやるぜぇ!」
「実際本当に凄いよな。つくづくこのマンションおかしくね。悪って言うかおかしくね」
 マンションの最奥に向かう道の途中、ポッカリと開いた中庭と思しき広場。進むには必ず通る必要のある此処で猟兵達の行く手を阻んだのは、前情報にもあった獣人染みた見目の悪魔達だった。
 身にまとうのはレザー系やジーンズにタンクトップ、装身具には鉄のトゲトゲ等の剣呑な装飾の付いた装飾品、手に持つのは鉄パイプや釘バットやコンクリートブロック、全体的に髑髏とか焔や化物等の如何にもな模様。
 見た目からしていかにも悪そうな集団である。
「お前らの中にも中々イッパシの悪が居る様だが……まだまだ甘いぜ!? 俺たちのボスであるヘルミ様の悪さに比べれば……じ……じ……えーと、子供のワーイワーイ見たいなもんだ!」
「そうだそうだ! 正直悪すぎてちょっと目を疑ったが、それでもヘルミ様がこの先俺たちに見せてくれるって言ったビッグな悪に比べたらちっぽけだぜ! ビッグで悪だぜ!? 何かもう言葉からしてすごそうだろ!!」
「まー、具体的な内容はいっさい聞かされてないけどな。」
 ……頭も悪そうだった。
 尚、最初の彼が言いたかった言葉は『児戯』だと思われる。
「ヘルミ様はな! すげえんだぞ! そして悪いんだ! 具体的に言えって言われるとちょっと困るから聞くなよな!!」
「そうだそうだ! そしてもちろん! そんな悪に従う俺たちも相当な悪人だぜ! 何せ家賃払ってないし! 後……えーと、家賃払ってねえし! ……何せ家賃払ってないからな!!」
「うん、正直他にはなんもしてないぞ。ヘルミ様の命令待ちだ」
 そして中々良い感じにイキっていた。
 強く(悪的に)カッコ良いリーダーを得て増長しているのが目に見えて分かる集団だった。何か微妙に冷静な奴も混じってるけど、全体からすると数パーセントだった。
「お前たちもひーふーみー……ええと、何かいっぱい来たようだが! 数に物を言わせれば勝てると思ったら……あ、俺らの方が多いな。今のナシ! ナシな!? 3秒ルールだ!!」
「て言うかそう言えばさ。ヘルミ様が『リョーヘイ達が来る』って言ってたって事は、やっぱお前らって全員リョーヘイって名前なの? すげえ偶然だな! 女も居るのにさー」
「……何かごめんな。こんなんでもこいつ等真剣なんでさ。付き合ってやって?」
 何かこう、微妙に力の抜ける集団ではある。
 だが油断してはいけない。彼らの体躯は決して侮れぬ大きさだし、思い思いに持つ武器はどれも剣呑。……そして何より。彼らはこの頭のおか……もとい、危険極まりないマンション逸哭館の住人、この環境で生活を続けて行けるだけの丈夫さを保証された猛者なのである!
「ヒャハー行くぜ! カクゴしやがれー!!」
 先頭に立つ狼の悪魔の叫びを皮切りに、悪魔達は一斉に襲い掛かって来る。
 さあ、戦いの時間だ。
チル・スケイル

(凍りついたフロアに敵をおびき出し、有利に戦う予定だった)
…うーん
(だが現実はどうだ。屋内なのに焼け野原だ。未だに煙いし暑い)

…氷竜様
(偉大なる氷竜の霊がバーンと出てくる)

・氷竜はフロア中に絶対零度の息をヒュゴーって吐く
・チルも冷気放射杖で凍気をシュゴーってやる
・煙も熱も吹っ飛ばし、ディザスター映画みたいな感じになる

・相手はUCの特性上、攻撃を喰らわないといけない
・結果、色んなポーズの獣人氷像がズラリと並ぶ

・今更なんかもう色々とどうでもよくなったとしても、敵が動けなければ問題ないですよねっ
・仕事はちゃんとやる。ボス残ってるし
・『悪魔は頑丈です』という情報を過信しているきらいがある


クレア・フォースフェンサー
この世界の者達は良い子すぎる故に絶滅寸前に陥ったという話を聞いておったが――
どちらかと言うと、単純に馬……うむ、まぁ、多くは言うまい

さて、わしらの目的は最奥の部屋におるオブリビオンを倒すこと
こやつら住人は更生させてやりたいところじゃが、法が悪を推奨しておるとなるとそうもゆかぬな
まぁ、少し考えの方向を変えることくらいはできるじゃろうて

遠間から死なぬ程度に光弓で痛めつけつつ、奥へと進もう
近付く者がいたならば、その頑丈さを称賛しつつ、鈍器状に形成した光剣でボコボコにしようぞ

悪なき力が無力であるのと同時に、力なき悪もまた無力じゃ
おぬしらは悪を為すにはまだまだ未熟
まずは身体を鍛えることから始めるのじゃな



●地獄絵図
「この世界の者達は良い子すぎる故に絶滅寸前に陥ったという話を聞いておったが――」
 迫る軍勢に対し、しかし柳に風とばかりに泰然自若とクレアは呟く。
「行くぜ行くぜ行くぜ俺は行くぜー!」
「そうか行くか!」
「行くなら行かねえとな」
 そして悪魔達は思い思いの武器を振りかざしながら……何か激突の寸前でちょっと足を止めて威嚇に移っていた。ちょっと怖くなって先ずは猟兵達の様子を見る事にしたらしい。……威勢だけは無駄に良いんだがなあ。
「どちらかと言うと、単純に馬……うむ、まぁ、多くは言うまい」
 ハッキリと言わないだけの情が、この達人剣士にも存在した。
「……」
 一方チルは少し難しい顔で中庭を見回している。
 元より彼女は探索の時点で凍結の術を盛大に撒き散らしていたが、それは只のパワープレイだけではなく後の布石でもあったのだ。……つまり、凍りついたフロアに敵をおびき出し、有利に戦うと言う戦略。氷の魔法を得意手とし氷鱗と詠われる彼女からすれば、相当な有利が取れる予定だったのだが……。
「……うーん」
 だが現実は焼け野原である。屋内なのに。と言うか何で燃えたんだ。本当に何で燃えたんだ。……だが、流石に本当に焼け野原と言う訳では無い。所々に火種は残りチリチリと焼け、未だに煙たいし全体的に暑いけれども。
「熱っ! 炭踏んだ!?」
「冷たっ!? こっちは凍ってる!?」
「ああ、それでそっちは燃えてないんだな」
 実はこれ、チルが氷の魔法で散々凍らしていた御蔭なのだ。寧ろそれが無ければマンションの半ばまでが焼け落ちる位はしていた可能性があり、それを防いだ彼女は逸哭館の恩人だったりするのだが……現時点では悪魔達は勿論、チル自身にすら自覚のない後情報である。獣の悪魔達が引く理由にはなるまい。
「さて、わしらの目的は最奥の部屋におるオブリビオンを倒すこと」
 改めて確認する様にクレアが言う。練達の弓兵でもある武芸者入りサイボーグは言葉と共に慣れた仕草で弓に矢を番える。
 それは眩く輝く光の弓矢、彼女愛用の武具である。
「こやつら住人は更生させてやりたいところじゃが、法が悪を推奨しておるとなるとそうもゆかぬな」
 まぁ、少し考えの方向を変えることくらいはできるじゃろうて……と、そんな調子の言葉と共に放たれた矢は無数。
「ギャアアアア!?」
「アイエ!? 何で! 何で一人でこんな数!?」
「刺さ! 刺さってるめっちゃ刺さってる痛い刺さると痛い!?」
 そりゃ痛いに決まってるわな。
 だが驚愕の悲鳴が上がるのも無理はなく、正に雨の如き光の矢が悪魔達を襲った。しかもその全てが遠間からとは思えぬ程正確に狙いを付けられ、死なない程度に痛めつけようと言う彼女の意図通り急所を外した位置ばかりを射抜いている。ユーベルコードの域にまで練り上げられた絶技、先にも見せた彼女の【本気Ⅱ】。
「……氷竜様」
 そして静かな、されどハッキリとした声が響く。
 それは思案の後に方針を固めたチルの呼びかけ。対象は勿論悪魔達では無く、猟兵でも無い。
『────』
 呼び声に応え幻の様に突然に、されど確かに存在感と冷気を纏って現れたのは言葉通り偉大なる氷竜の霊。かつて在った名も知れぬ祖竜。今は喪われた筈の命脈には代わりにチルの氷雪の魔力が巡り、その巨躯に吹雪を纏い連れている。
 ユーベルコード【氷術・召竜(アイスドラゴン)】によって彼方より呼ばれた竜は、カパリとその咢を開き。ヒュゴーって冷気を吐いた。ヒュゴーって。
 同時にチルも同調する様に凍気をシュゴーってやる。シュゴーって。
「「「ヒアアアアアア……!?」」」
 悪魔達の悲鳴が響き渡り、即座に薄れた。何せたちどころにカチコチに凍り付いて行くもので。
 無造作に吐き散らされるその冷気は絶対零度。チルの持つ冷気放射杖『マルヴァールマ・スロワー』から放たれる凍気とてそれに追従する威力。中庭の随所にあった熱源や煙はあっと言う間に駆逐され、冷やされ霜が降り凍り付いて行く様は丸でディザスター映画で描写される天変地異の如しだ。
 本当に殺さないで済ます気があるのか君らと言いたくなる絵面が、『悪魔は頑丈です』という前情報があるから仕方ないのである。……過信している気もするけど。
 ついでに矢の雨も別に止んでない。身を凍らせる冷気が荒れ狂い鋭い矢が降り注ぐ……あっと言う間に中庭は悪魔達にとっての地獄と化した。
「うぎゃあああ! ちくしょう負けてたまるか! でもメゲそうだから応援プリーズ!」
「よし来た! アニキやっちまってください!」
「アニキなら大丈夫! 矢にも寒さにも負けないっす! アニキは最強なんだ!」
 目には目を、召喚には召喚をと言う事か。悪魔達もまた召喚の術を使い子分達を呼びつける。まあ、生憎偉大な祖霊とかでは無く子分なのでその効果は応援して鼓舞する事だけだが……しかし丈夫さには定評のある彼等、心が折れなければそれなりに頑張れるのも事実なのだ。
「ほお……この状況でも前に薦めるか。大した頑丈さじゃな」
 武芸者の女が賞賛の声を漏らした。楽しげに少し細めた目の視線の先、凍りかけた身体をハリネズミの様に矢だらけにしつつ。それでも気合だけで進み、遂には肉薄寸前まで来た悪魔達が居た。
「へ、へへへ! どんなもんだ。さあ俺たちと遊んでもらおうじゃねえか!」
「寒……だが負けねえぜ! 遊ぶって言ってもだるまさんが転んだとか鬼ごっこじゃねえぞ!」
「一々ヒユを説明するなって……ともあれ容赦はしないぜ!」
 少し嬉し気な態度は、美しい容貌と恵まれたスタイルを持つクレアの賞賛が来た事もあるだろう。ついでに言えばチルとて美しい白鱗とクールな風情を持つ。哺乳類系の悪魔達の好みかは分からないが……まあ、いっちょう自分達の凄い所を見せてやろうと言う気概の足しにはなっている様だった。
「うむ、それでこそ男(おのこ)じゃな。では」
 クレアは満足げに笑うと光剣を抜いた。殺さない様にと言う気遣いだろうか、光は鋭い刃では無く鈍器状に形成されている。
「「「えっ」」」
 悪魔達は或いは彼女は弓だけの武芸者だと思って居たのかもしれない。だから、近づけさえすればこっちのものだと。だが実際の所クレアは剣技と弓技の二つの技を極めており……。
 ついでにチルと祖竜の放つ冷気と凍気は中庭中を荒れ狂っているので距離とか関係ない。
「「「あれえ!?」」」
 つまりまあ、近付こうが何だろうがボコボコにされる事に違いは無いのであった。

「なるほど。確かになんかもう色々とどうでもいい気分にはなりますね」
 神妙に頷くチルの目前、獣の悪魔達がズラリと並んでいた。
 ……正確には、カッチコチに凍り付いて獣人氷像と化した彼らがである。力尽きたタイミングがそれぞれ違うので思い思いに色んなポーズとなっている……割と、逃げようとしてたり叫びのポーズ取ってたり小指と人差し指と親指立てて舌出してたりと、何とも間抜けと言うか、見事なやられっぷりと言うか……その姿は敵のやる気と戦意を削ぐ一種の精神攻撃の域に達したお間抜けぶりなのだが……
「敵が動けなければ問題ないですよねっ」
 言い切るチルの言う通りである。事前情報でこうなる事を予見していた彼女の作戦通りなのだ。やられぶりを見せつけるには逆に言えば『先ずは攻撃を受けねばならない』、であればその攻撃で動けない状態にまで追い込んで置ければ戦意を削がれても今更関係ない。故に凍り付かせる攻撃を徹底した。
 それは計算高いと言っても良い判断力であり、予想外と言うか予想出来てたまる的な火災により当初の予定を崩されてからの切り替えしである事を思えば見事な策士ぶりだ。
 やり方がスーパー力押し極まるけども。
「悪なき力が無力であるのと同時に、力なき悪もまた無力じゃ」
 諭す様なクレアの言葉。彼らはオブリビオンでは無くこの世界の住人である限り、彼等には今後がある。だから最初に自身で行っていた通り、その思想を少しでも良い方向に向けようと言葉を尽くしているのだ。
「おぬしらは悪を為すにはまだまだ未熟。まずは身体を鍛えることから始めるのじゃな」
 氷像相手に話してる状況はちょっとあれだが、何気に何体もの氷像が微かに首のあたりを頷く形に動かしていた。矢だらけになり凍り付いても尚、意識を保っている者が多いらしい……呆れた丈夫さだった。結果的にチルの認識は過信でも何でも無かったと言う有様……寧ろどうやったら死ぬんだろうこいつら。
「仕事はちゃんとやりましょう。ボス……ヘルミは残ってますし」
 削がれたやる気を補充する様にドラゴニアンのウィザードは呟く。
 中庭は無暗と広く、悪魔達の数は多い。彼女らが大暴れしても尚戦いの全ては終わっていないのだが、それでも二人が前に進むのを邪魔できる距離には残って居ない。……正確には居るけど凍り付いてる。者によっては追い打ちとばかりに矢で縫い付けられたり、鈍器で殴られて昏倒したりもしてる。
 そうして2人の猟兵は頷き合い、次なる戦地へと歩を進めたのであった。
「「「…………寒い」」」
 残された彼らが動ける様になるまでどれ位かかったか、その後どれ位鍛錬に傾倒する様になったかは……まあ、また別のお話と言う奴だろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

神羅・アマミ
な…なんという見事なまでに「蹴散らしてください」と言わんばかりの三下ムーブ!
とは言えこいつらはマンションの構造と違って雑草みたいに勝手に生えてこんわけじゃからな、手荒な真似は避けねばなるまい。

虚仮威しのオーラを身に纏うようじゃが、虚勢を張るなら妾だって大したもんじゃぞ。
「貴様らー!ヘルミだかヘチマだか知らんが…猟兵様に歯向かうって意味をわかっとるんじゃろうなー!」とかなんとか、全身から【殺気】を発し【大声】で一喝!

そして真の姿・メカニカルスパイダーへと覚醒し放つUCは『出禁』!
負傷に応じて強くなるとあらば、【マヒ攻撃】や拘束で無力化してしまえば大して暴れることも叶うまい。
神妙にお縄を頂戴せよ!


ハルア・ガーラント
●WIZ
あ、わたしの名前はハルア・ガーラントです

大きい相手、しかも集団となるとどうしても恐怖感が生まれます
早々にUCを発動しやられる前にやっちゃいましょう!
悪魔達は頑丈と聞くので多少手荒くても大丈夫……ですよね?

敵集団を聖碇で[なぎ払い、吹き飛ばし]ていきます
攻撃は[オーラの障壁で防御]しますね
無意味に翼を広げたり〈咎人の鎖〉を指に巻き遊んだりして厨二心を刺激、隙を生み出す行動も忘れずに
知り合いには見せられない

見事なやられ光景に圧倒されちゃ駄目と己を[鼓舞]
あなたは吹き飛ぶ時足が曲がってた、それにあの人は声が小さい
三下を極めるならやられ方も徹底的に!

こういうのあらさがしって言うんですけどね!


ヨツユ・キリングミー
■目的
わしらの目的は此奴らではない。ゆえにムダに命を散らす必要はないわけじゃ。できる限り、穏便に戦いを収めたい。
「これは敵の心を攻める戦いじゃ。命を奪い合う必要はない。慈愛……」
相手の心ボキ折ったら勝ちじゃろ?

■行動
こういう連中には舐められたら負けだし、ビビらせたら勝ちなんで、ものも言わずにいきなり撃つ。苦情を言われたらキレる。

「すっぞらー! 戦争に合図が必要とか、おぬしらお花畑の妖精かー! わしは森の妖精じゃ! 森は常に戦場じゃ! エルフッ!」

わしは常に冷静なんで、これはそういうふりじゃよ。

「わしはエルフのヨツユ。此奴は戦場の亡霊じゃー!」
UCが発動したらかわいく紹介してあげるんじゃ。



●第一印象は大事
「オウオウオウ! 何だあ!? 可愛い娘っ子が揃ってるじゃねえか! お前ら一体何しに来やがったいや本当に美人だな!?」
「此処危ないから逃げた方が……あ、じゃなくて。可愛がってやるから覚悟しろよお?」
「可愛がるって言うのは別に良い子良い子って頭撫でたり遊んであげたりするって意味じゃねえからな。悪しからず」
 獣の悪魔達は最高潮だった。無理もあるまい、其処に並んでいるのはアマミ、ハルア、ヨツユの3人。詳しく言うなら『見た目はローティーンの可愛らしい少女』と『可憐な天使然とした乙女』と『見た目だけは若く美しい銀髪の妖精』である。ついでに肌の色は3人揃って白系。そう言うコンセプトで揃えたアイドルトリオじゃないかって位の絵面である。
 悪を標榜する彼らからすれば正に恰好の獲物。……まあ、デビルキングワールドの住人らしい善人ぶりがちょっと漏れかけてはいたけども。兎も角調子にも乗ると言う物。
「な……なんという見事なまでに『蹴散らしてください』と言わんばかりの三下ムーブ!」
 アマミがいっそ感動した様な声音で呻く。とても分かるが中々容赦のない評価だった。
「でも……大きい相手、しかも集団となるとどうしても……」
 反面ハルアは少しだけ怯えの色を出している。戦えば戦乙女もかくやと言う彼女だが、それでも矢張りビジュアル的な圧迫には恐怖感が生まれると言う物なのだろう。
「嬢よ、怯える事は無いぞ。そもそもわしらの目的は此奴らではない。ゆえにムダに命を散らす必要はないわけじゃ」
 ハルアの肩を優しく叩き、静かに言葉を紡いだのはヨツユだ。『できる限り、穏便に戦いを収めたい』と語るエルフの言葉に、ハルアは少し驚いた様にその赤い瞳を見返す。
 その落ち着いた声と知性的な主張から、目前の彼女が見目通りの年齢ではない事を薄々察したのだ。良く見ればヨツユの背に負われているのはアサルトウェポン。よく手入れがされているがそれでも消え切らぬ古傷が見えるその得物は、彼女の猟兵としてのキャリアの長さを雄弁に語っている。
「確かにこいつらはマンションの構造と違って雑草みたいに勝手に生えてこんわけじゃからな、手荒な真似は避けねばなるまい」
 アマミが同意の言葉を返す。ヨツユとは元々面識のある彼女からすれば、その見目からのギャップに戸惑う理由がないのだろう。自然体のまま視線は悪魔達の方を向いたままだ。
「謂わばこれは敵の心を攻める戦いじゃ。命を奪い合う必要はない。慈愛……」
 死なずのキリングミーと詠われたエルフは、いっそ穏やかとも言える声で語る。
「何だあお前らビビってんのか!?」
「今すぐ逃げ帰るなら見逃してやっても良いぜー?」
「いや実際、破壊魔とか放火魔とか悪としちゃイカしてるんだけどとばっちり食ったら危なそうな奴が居るらしいしなあ。帰るなら早めがいいぞー」
 その穏やかな態度を見て取ったのか、悪魔達もヤイノヤイノと煽って来る。後普通に忠告もしてくる。この世界の悪魔は本当に基本人が良いのである。
 そんな彼らを優しい微笑すら浮かべてヨツユは見回し。
「つまり相手の心ボキ折ったら勝ちじゃろ?」
 ハルアの顔の上に大きな『?』が浮かんだ。アマミは『知ってた』って感じでスルーした。そしてヨツユは手慣れた動作でアサルトウェポンをクルリと構え、先頭の獣の悪魔を撃ち抜いた。
「「「えっ」」」
 額の真ん中に思いっきり穴をあけられてぶっ倒れた仲間を見て、獣人悪魔達が一斉に唖然とする。尚、倒れた悪魔は普通に生きてるようだが流石に昏倒している。
「オイイイちょっと待てや!? ものも言わずにいきなり不意打ちか!?」
「名乗りも挨拶もせずに奇襲は失礼って本に書いてたぞ!?」
 流石の悪魔達も苦情を言って来た。冷静になったらデビルキング法的に寧ろカッコ良いと思うのかもしれないが、直後なので。
「すっぞらー! 戦争に合図が必要とか、おぬしらお花畑の妖精かー!」
 ヨツユは間髪入れずにキレた。一片の隙も無い完璧な逆ギレである。
「わしは森の妖精じゃ! 森は常に戦場じゃ! エルフッ!」
 何言ってるんだろうこの人。
 と言うかエルフと言う種族に多大な風評被害が振り撒かれた気もする。後、最後のは何。掛け声?
「あ、わしは常に冷静なんで、これはそういうふりじゃよ。こういう連中には舐められたら負けだし、ビビらせたら勝ちなんでな」
 と思ったらクルリと振り返り、悪魔達に聞こえない程度の声でフォローを入れて来た。これも歴戦の猟兵らしい作戦と演技……と言う奴なのだろうか。正直、傍目には危ない人にしか見えない気もするが。
「「「ふざけんなー! ダチを可愛がってくれた礼はするぜえ!!」」」
「うっせー! ハラワタぶちまけ曝しゃー!!」
 怒りからか、全身から強そうなオーラを迸らせ突撃して来る獣達に銃弾をばら撒くエルフ。何か色々言いたい事はある感じの前置きは挟んだが、此処に悪魔達と猟兵の激突が……。
「貴様らー! ヘルミだかヘチマだか知らんが……猟兵様に歯向かうって意味をわかっとるんじゃろうなー!」
 始まる直前、戦場を大音声の大喝が響き渡った。
 獣達の足が思わず緩む。大声の主、あどけなさの残る少女と侮って居た筈のアマミ。その全身から発される殺気に本能的な恐怖を呼び起こされたのだ。
「虚仮威しのオーラを身に纏うようじゃが、虚勢を張るなら妾だって大したもんじゃぞ」
 ニヤリと笑うアマミの呟き通り。先程まで悪魔達が纏って居たオーラは目に見えて薄れている。萎縮しているのだ、神羅アマミと言う羅刹の内から漏れる鬼の武威に。
「見せてやろう。妾の真の姿……メカニカルスパイダー!」
 その手の中のシュガースカルが光を放ち、アマミの姿が変わる。青少年の魂を震わせ、性癖もちょっと歪ませそうな変身バンクを挟み、その後に現れたのは……紅い巨大機械蜘蛛の背に乗る、自身も同色の戦闘スーツに身を包んだアマミの姿。
「「「げげえ!?」」」
 真の姿……生命体の埒外とも称される猟兵の奥の手である。なるほど『猟兵様に歯向かうって意味』としては最高峰の類と言える。要するに、三下相手に全力全開必殺モード。……虚勢所かガチ中のガチじゃなかろうかそれ。
「虚無の安寧が訪れるまでの刹那、己の罪過を省みるがよい! 死ねーッッ!!」
 情けも容赦も無いアマミの叫びが響き、改めて戦いの火蓋は切って落とされたのであった。
 ……多少、一方的になりそうではあるけども。

●外道修羅道畜生道
 だが意外や意外、獣の悪魔達は善戦していた。
 いや、実際問題彼我の戦力差が圧倒的な事に違いは無い。
「神妙にお縄を頂戴せよ!」
 機械仕掛けの蜘蛛に乗り戦場を縦横無尽に走り抜けるアマミ、そして赤い颶風が右に左に奔る度に……。
「がががっ!?」
 悪魔が一人、また一人と倒れ伏す。
 ユーベルコード【出禁(デキン)】、メカニカルスパイダーのロボットアームが打ち据え、怯んだその四肢を蜘蛛糸が縛り、解く間を与えず麻痺電撃がトドメを刺す。一瞬の交差の内にその全てが成される。実力高しと讃えられるデビルキングワールドの悪魔ですら、躱しきれぬ赫々たる三重奏。
「仲間の負傷に応じて強くなるとあらば、麻痺や拘束で無力化してしまえば大して暴れることも叶うまい」
 そう、悪を標榜してしかも悪魔の癖に彼らは『仲間が倒れるたび傷つくたび俺が強くなる』的な正義臭い力を持っているのだ。だからこそ、その特性を封じる。
 かつ、動きを封じればそれ以上手荒な真似にはならないと言う、最初のアマミ自身の言にも沿う非常に理に適った戦術なのだ。別に一方的に蹂躙する為に過剰戦力を投入した訳では無いのである。
 が。
「一方的に打ちのめして動けなくして放り出し辱める……何てぇ悪(ワル)なんだ……」
「ああ、よっぽど性根から邪悪で無きゃ出来ねえことだぜ」
「……イカしてるな」
 獣の悪魔達は何かキラキラした目で見て来るのである。ちなみに彼らは褒めている。誉めて居るんです彼らの価値観からするとこれは誉め言葉なんですだから怒らないでやって!
 そう、根本的な所で違い過ぎてややこしいが此処はデビルキングワールド。根が良い子で真面目な住人達が『悪こそ良い事!』と言うデビルキング法に則り、悪であれば悪であるほど褒め称え憧れると言うそんな環境なのだ。
 つまり、アマミでコレなのだからヨツユはと言えば。
「すっげえ! 正に悪魔よりずっと悪魔の所業だぜエルフのヨツユ!」
「会話も交渉も命乞いも一切聞かねえ! マスク被った殺人鬼かよヤベエ!!」
「て言うか何言っても理不尽にキレて来るの怖ぇ! 悪だ! 滅茶苦茶な悪だ! イカし過ぎだぜ!!」
──ガガガガガガガ!
 ヨツユ達は二人掛かりで銃弾をバラ撒き、悪魔達は蹴散らされた。
 ……二人?
「なあ姉御。気が付いたらアンタ増えてね? 装備は同じかつ同じくらい美人で可愛いのが……」
 悪魔の言葉通り、気が付いたら普通に姉御呼ばわりされてるヨツユの隣に。何やら不気味な空気を纏った影の様な、でもなんか可愛いのが。
「わしはエルフのヨツユ」
 あ、はい。それは知ってます。
「此奴は戦場の亡霊じゃー!」
 エルフの猟兵はかわいく紹介してくれた。こう、例えて言うなら不思議な事と夢を叶えてくれる神様を信じてる様な少女っぽい感じに……ええと、兎も角可愛いって本人が言ってるんだから可愛いんだよ納得しよう。
 ユーベルコード【戦場の亡霊】。己が戦いの場に置いて瀕死になった時、ともがらとも言える亡霊を召喚する戦場傭兵の術式。……え、いや、発動条件瀕死って。
「……実はさっき腰の方からピシリと言う音がのぅ。これを西方では魔女の一撃と呼ぶんじゃよ。ともかく患部を温めるのが大事じゃ」
「いや、なら知恵袋披露してないで戦うの止めて休めよ」
 比較的冷静な方の悪魔が思わずマジレスを投げる。
「っけんなー! 戦場では日和った奴から肉袋になるんじゃ! エルフッ!」
 返って来たのは謎の逆ギレだった。
 まあ、実はそのユーベルコード、発動後本人は戦えないなんて言ってないからなあ。
「ヒュー! ヤベエ。ヤバ過ぎるぜ姉御、流石の理不尽ぶり」
「見た目は美人なのに言動が邪悪を煮詰めて丁寧に濾した見たいな有様……いや、美人だからこそその邪悪さが際立つぜ」
「ああ。ワルミ様と出会う前だったら子分にしてくれって頼んでる位のドス外道さだ」
 繰り返すが、彼らは褒めているのである。物凄い尊敬を感じて居る程に。
 ……だが、だからこそヨツユの威圧戦術も滅茶苦茶怯んで効果自体はあるものの、ギリギリで心が折れるまで行かない。寧ろ『このカッコ良い悪達に俺たちの悪っぷりを認めさせたい!』的なモチベーションを感じて居るきらいすらある。
「「釈然とせんのじゃがー!?」」
 2人の不満が綺麗にハモった。
 ……いや、アマミは兎も角ヨツユは自業自得だと思う。

●今どきの黙示録
 三度目の正直と言う言葉がある。最初とその次は上手くいかなかったけど次こそは成功するぜと言う意味だ。
 悪を尊ぶデビキンの民として、強く滅茶悪い(※悪魔達視点)アマミとヨツユを認めた彼等ではあるが。それはそれとしてボスであるワルミの命令には忠実であろうとするし、別に痛い目に合うのが好きな訳じゃない。見た目の可愛さ綺麗さで油断してたらボッコボコにされたこの流れは失敗以外の何物でもなかった。
 だから、そんな彼らの一部が後方のハルアに殺到したのは余りに当然の流れと言えた。
「ちょっと気の弱そうな美人のお姉さんを狙う! これぞ悪だぜ!!」
「見た感じ天使様みたいだから尚の事だぜー! て言うか堕天してないの初めて見た気がする!」
「ゲッヘッヘ! 今度こそ遊んでやるぜ弄んでやるぜー! 心に傷を残したりトラウマになったりしない範囲で残虐になー!!」
 邪悪な(微妙でも何でも無くあからさまに配慮の言葉が聞こえた気もするがそれは気のせいだ。良いね?)言葉と共に迫る悪魔達。対する天使はと言えば。
「あ、わたしの名前はハルア・ガーラントです」
 丁寧な挨拶である。ヨツユの不意打ちに『名乗りも挨拶もせずに~』と言う苦情が出たのを覚えていたのか。それとも純粋に気遣いと礼儀故か。
 これには悪魔達、内心ちょっと癒されながら勝利を確信した。この女性は大丈夫だ、さっきの二人と違って見た目通りの清楚で可憐で優しい胸の大きめの乙女だ。要素だけ抜き出すとちょっと引く位優良物件過ぎて不安が沸くが兎も角大丈夫。今度こそ自分達は悪の悪に拠る悪らしい戦果を……そう考え会心の笑みを一様に浮かべた。
 所で、二度ある事は三度あると言う言葉もある。
──ドカーン!
 何ともシンプルな轟音が響き、悪魔達が数匹宙を舞った。
「「「えっ」」」
 薙ぎ払われ吹っ飛んでいく仲間を見送って、振り返る無事だった悪魔達。
「悪魔達は頑丈と聞くので多少手荒くても大丈夫……ですよね?」
 そんな事を言いつつ、少し不安げに眉根を寄せ確認するハルアの困り笑いは中々に可憐だった。その手に巨大な碇をまるで重さを感じないかの様に持っていなければだが。
「……それは何?」
「天獄製の聖碇です。この<咎人の鎖>と接続して使うんです」
 比較的冷静な悪魔の質問に答えつつ、聖鎖をジャラリと見せるハルア。翼の根元付近に絡み付いたそれは持ち主の意思を汲む様に蠢き、悪魔達はちょっとカッコイイなと思った。まあ、そのカッコイイ武器が向けられてるのは自分達なのだけど。
 ユーベルコード【アドラーアンカー(アドラーアンカー)】、召喚された碇は仄白く光を放っている。
「ええと、じゃあ何で後方に居たんだ?」
 それはどう見ても近接武器だ。
「早々に発動してやられる前にやっちゃいましょうって思っていたんですけど、あのアマミさんって人とぶつかるとお互い危ないかなと思って」
 高速機動で駆け回る巨大蜘蛛とブン回される巨大な碇……確かに危ない。だから間と距離を開けようと言う気遣い。また、獣人悪魔達も飛び道具を使う様子は無いため、待って居ても別に先手を取られる心配は無かった。
 なるほどなーと納得する悪魔達。そして問題のアマミとはちゃんと距離が開いてる。と言うか悪魔達は半ば彼女から逃げるようにしてハルアに突撃して来たのだから当たり前だ。つまり最早何の憂いも無い訳で。
「……あ、俺知ってる。これダメなヤツだ」
 そうですね。
──ドカーン!
 ガニマタにバンザイした昔懐かしい感じのポーズで悪魔達が吹っ飛ぶ。
「こなくそー!」
 悪魔達の反撃。……しようとした所を、オーラの障壁にブチ当たってベシャリとへばりついた。
──ドコーン!
 お返しにと横薙ぎにぶっぱなされた一撃で、また数体がマンションの壁に獣人型のめり込み穴を開ける。
「……ふふっ」
 と、翼をバサリと広げた宵啼鳥の乙女が、ちょっとほの暗いビジュアル系笑顔で掲げた手の指を揺らめかす。すると絡みつく蛇の様に<咎人の鎖>がジャリリと巻き遊ばれ、そのちょっとオサレでカッコ良い仕草に心の中の中学二年生を刺激された悪魔達が動きを止めた。
「おお!?」
 こんなの友人知人には絶対見せられないなあと思いつつも、隙を生む為に無理を押したハルアの作戦である。
──ベキバゴキーン!
 天高く吹っ飛んだ数匹がお空の星になった。
「……うう」
 一方的な戦いなものの、その光景を前にしたハルアは少し眉根を寄せている。彼らのその余りに見事なやられっぷりの光景にちょっと気圧されかけているのだ。
 だが彼女も猟兵、それで『なんか、もうどうでもいいかな』何ていう感情に負けてしまったりはしない。
「圧倒されちゃ駄目……やってやります!」
 己を鼓舞し、近くに倒れ伏す悪魔をビシッと指さす。
「あなたは吹き飛ぶ時足が曲がってた!」
「えっ!? あ、はいすいません?」
「それにあの人は声が小さい!」
「いやアイツもとっさだったろうし……あのその、いやごめんなさい」
 まさかのダメ出しだった。
 ハルア自身内心で『こういうのあらさがしって言うんですけどね!』って思ってたりもするが、それでも圧倒されそうな己の心を立て直すには有効らしい。瞳に力を取り戻したハルアの言葉を前に、へしゃげたりめり込んだり潰れたりしていた悪魔達も思わず居住まいを正し謝る。……本当に丈夫だな君ら。
「三下を極めるならやられ方も徹底的に!」
 いや、彼らが極めようとしてるのは悪の道であって三下道じゃ無いと思うが。
 死屍累々の戦場の中。巨大な碇を片手に叱る天使、叱られる悪魔達。少し離れた位置では銃弾と罵倒が荒れ狂い赤い蜘蛛が腕を振るい蜘蛛糸と電撃をばら撒く。何とも言葉にし辛いその絵面は、悪魔達全員が音を上げるまで今しばらく続くのであった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​




第3章 ボス戦 『邪竜の鍵を秘めし地獄の王女・ヘルミ』

POW   :    唱和せよ!我が真の名を!
【自ら折っていた角を再生させ、完全覚醒体】に変化し、超攻撃力と超耐久力を得る。ただし理性を失い、速く動く物を無差別攻撃し続ける。
SPD   :    いい加減ムカついてきたぜ…コイツの出番だ!
【リボルバー】を巨大化し、自身からレベルm半径内の敵全員を攻撃する。敵味方の区別をしないなら3回攻撃できる。
WIZ   :    俺のダチに挨拶しな!
戦闘用の、自身と同じ強さの【水を自在に操り読心能力を持つ人魚】と【超高熱の人体発火能力を持つ青年】を召喚する。ただし自身は戦えず、自身が傷を受けると解除。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は神羅・アマミです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●ヘルミと言う女
 かつて正常な生命であった時、その女は純情で優しい気質だったと言う。それがデビルキングワールドの住人故の生来の物であるか、或いは角と言う形で生まれ持った邪悪さを抑えようとしたある種の保身であったのか、それは分からない。今や当人ですらもう覚えていないのかも知れない。
 オブリビオンとして蘇って後。悪を尊び推奨するデビルキング法を知った女は、生前は決して行わなかったであろう悪事を次々と為し、経験を重ね悪の徒党の主へと成長した。目的は先ず社会の破壊、行く行くは悪事の末たる世界の終末。それは、その角に宿った邪竜の鍵の囁きがオブリビオンと化した事で表に出る様になったのか。それとも、単に国是であるデビルキング法に忠実かつ真面目に向き合い過ぎているだけなのか。
 ただ一つ確かな事。それは彼女が期待に応える女だと言う事だ。
 かつては献身の人柱として。
 今は邪悪のカリスマとして。

●悪の首魁
「……それで、ノコノコと逃げ帰って来たってわけか?」
 何百Dなのだろう。山と積まれた金の山の上に無造作に座ったヘルミの声は寧ろ静かだ。しかし、その細められた目の奥に見える冷たさたが、それは所謂嵐の前の静けさだと何よりも雄弁に語って居る様だった。
「……そそそ、その。リョーヘイ達がメチャクチャ強くて……」
「お前らが弱えんだろ」
 震える声の弁明を一言の元に切って捨て、ゆっくりとした動作で立ち上がる。そのまま近づく先、床に直で座り縮こまる獣の悪魔の前に歩み寄り、コートのポケットに両手を入れたまま上体を曲げ、サングラスの奥の怯えた目を覗き込む。獣の悪魔は一層怯え、その圧迫と視線から逃げるように顔を俯かせる。
「俺は寛容だ……優しいって意味だ。多少のヤンチャは多めに見るし、ボスである俺の名前を素で間違う位のボケは流してやる。実際バカだから仕方ねえしな」
 すいません。あ、いや、僅かな笑顔を見せ難しい言葉の解説すら挟んで来るヘルミに、悪魔は僅かな希望を見つけた様に顔を上げる。ひょっとしたら許されるのではないかと。
「……だが、役立たずは別だ」
 ヒゥと、声にならない悲鳴が漏れる。顔を上げた先、目が合ったヘルミの瞳の奥に一体何を見たのか。
 ヘルミは片手をポケットから出し、パチリと指を鳴らす。座る悪魔の背後の床がグパリと顎の如き穴を生じさせる。その下に見えるのはただただ闇……どれだけ深い穴なのか。
「俺は役立たずは嫌いだ。足しにならねえばかりか面白くもねえ。いっそ裏切り者の方がずっとマシだぜ、叩き潰す時に楽しめるからな。なのにお前のつまらなさはなんだ? だから……」
 慈悲を求める様に只管震える悪魔を前に、しかしヘルミは一切の躊躇を見せず背筋を伸ばし。
「死ね」
 無造作に部下である悪魔を蹴り落とした。
 細く長い悲鳴が響き……やがて止む。
「…………」
 無言で佇むヘルミ。そしてこれまで、仲間が処刑されるのをただ黙って見ていた他の悪魔達。猟兵達の猛攻から逃げ帰って来たのは、彼らも同じ立場だ。その上で一体何を思うのか……沈黙が暫しその場を支配し。

「「「かっけええええ!!!!!」」」

 悪魔達の大喝さいが沈黙を粉々に砕け散らせた。
「さいっこーっすよヘルミ様ー!」
「やっぱ悪の組織で失敗したらこれだよなー!?」
「テンション滅茶苦茶上がるっすわー! ヘルミ様万歳!!」
 大興奮である。大大興奮である。後、大大大馬鹿かな……。
 ついでによくよく耳を澄ませると、穴の底からも微かに快哉が聞こえる。本当に丈夫だなおい。
「お、おう。そうか? お前らがそれで満足なら良いけどよ」
 期待に応える女ヘルミ……なんかちょっと引いている様にも見えなくもないけど。
「次俺! 次俺お願いします!!」
「順番! 順番にやって来ましょーぜ!」
「二週目はありっすかね!?」
 だがそこで、ヘルミがバッと『此方』を見る。
 そう、猟兵達の来訪に気づいたのだ。つーか一連の茶番の最初から普通に居たんだけども。
「もう来やがったのか猟兵共。良いぜ、俺の力を……」
 拳を握り、臨戦態勢に入りかけたヘルミはしかし。不意に言葉を止め周囲を見回す。
「「「…………」」」
 居並ぶ獣の悪魔達の、捨て犬見たいなションボリしたウルウル目。
「……あー……」
 そしてヘルミはユックリとした動作で改めて猟兵達を見やり。
「……一周だけ待ってもらって良い?」
 割と無体なお願いをして来たのだった。
チル・スケイル
だめです(即発砲)

敵でも、面子を潰す趣味はありません
が、犠牲者が出る(?)事態は看過できないので

はじめまして。私は冒険者のチルです。

真の姿(イラスト参照)となり、更にユーベルコードで自己強化
私自身が氷になる

人魚と青年には強化した冷気放射を浴びせ、瞬間的にひるませます
そのスキに全力で飛翔し、ヘルミに肉薄。両腕に抱えた大魔砲で零距離射撃、氷塊弾による一撃で人魚達を消滅させます
スピード勝負です

ヘルミ自身も油断ならぬ悪魔、氷塊一つで沈むとは思いません
ですが冷気放射杖からの凍気により継続的にダメージを与え続け、ユーベルコードの封殺を試みます
それでも楽には勝てないでしょうが、猟兵は私だけではありません


クレア・フォースフェンサー
派手な音が聞こえると思ったら、アマミ殿も来ておったのか
加えてヨツユ殿も一緒となると……なるほど、あやつの角はそういうことじゃったか

と、それはさておきじゃ
あの悪魔達を見ておると、何のために戦っておるのか分からなくなるのう
正直、一度滅んでしまった方が……いや、多くは言うまい

しばし待ってくれとのことじゃが、済まぬがその者達の趣味に付き合うつもりはないでな
ゆえに
わしも落とすのを手伝ってやろうぞ

これで周りを気にせず戦えるというものじゃな
では、参るぞ

理性なく暴れられると、逆に動きが読みにくいのう
このまま建物を破壊されてはキョウコ殿に申し訳も立たぬな
UCの力を載せた光剣でヘルミの角を根元から斬り落とそうぞ


ハルア・ガーラント
●WIZ
はい、いいですよ
〈咎人の鎖〉で手遊びしつつ待ちましょう

彼女、腹筋が凄いので接近戦は遠慮したいかな
物陰に素早く身を隠し相手の銃の射線に立たないようにしつつ、こちらはその陰から〈銀曜銃〉で[マヒ攻撃を行う誘導弾]を撃ち出します
キョウコさんごめんなさい
柱とか壁あたりが傷つくかも

えっ、水を操る人魚と超高熱の青年?
なんでしょうその最高の設定
どんなに焦がれようが触れる事のできないふたり……まるで結ばれないことが決まっているかのよう
素晴らしいご友人達に妄想が捗りそうです([鼓舞))

大丈夫、当初の目的は覚えています
UC発動し纏めて動きを鈍らせてしまいましょう

さあ、運命を切り拓きなさい!

覚えてますけど!


神羅・アマミ
ついに現れおったな悪の親玉!
デビキン法に則る体をしちゃいるが、その心に根ざしたゲロ以下の臭いがプンプンする本性…妾には誤魔化せね~ぜ~!

そこで妾は真の姿・ヘッドレスホース形態に覚醒、発動UCは『介錯』!
完全覚醒体となった奴は早く動く者を狙うとあらば、敢えて妾も奴のスピードに同調する形で疾駆してみせる!

あの、どんなに早い車でも並走すれば互いに止まって見えるって奴あるじゃろ…アレじゃよアレ!
つまりな、誰でもいいから妾の背に乗れ!
【ダッシュ】で可能な限り【時間稼ぎ】を行うので、然るべきタイミングで奴の力の源と思しき両角を一刀でも一撃でもなんでもいいからもう一度ヘシ折るんじゃ!

トドメはワシが決める!


ヨツユ・キリングミー
■動機
「ヘルミ、アマミ……そしてここに集う猟兵たち。これはいつかの……いや、いつかとは今この時点のことを言うのか?」「おもしろい……居並ぶ星は○○星とでも言うべきか?」(勝手に参加キャラの人数を○○に入れる)

老人にとって時間は曖昧。

■戦闘
召喚された人魚と青年に対してはUCによって相殺を試みる。初回で失敗した場合は、できる限りヘルミ本体に攻撃して解除を狙う。二回目の召喚があった場合はUCの効果で先読みして召喚を相殺する。
「他人をかばいながら戦うのは辛かろう? んー! どうしたどうした? 全力が出せんかー?」「これが戦場の運命(さだめ)じゃ」



●オブリビオン
「ついに現れおったな悪の親玉!」
 その締まらない空気を割る様に最初に口を開いたのはアマミだった。
「デビキン法に則る体をしちゃいるが、その心に根ざしたゲロ以下の臭いがプンプンする本性……妾には誤魔化せね~ぜ~!」
 ビシリと言ったその物言いに、周りの獣の悪魔達が『だよな! だよなー! 分かってるー!』とか言ってテンション上がってるが。まあ、それは文化の違いなのでさて置き。
 いとけないとすら言えるその容姿と反比例する様な威勢の良い言葉。何か感じる所があるのかヘルミは少し眉根を寄せ考えていたが、やがて異様に大きい右手で不躾に指さして口を開く。
「お前か、報告にあった破壊魔アマミってのは。俺のシマを散々荒らしてくれた様だな」
 オブリビオンはもうこのマンション自体を自分の物と決めているらしい。……あの管理人をどう始末着ける気なのかはさておき、傲慢とも言えるその態度を前にしかしクレアが少し方向性の違う反応をする。
「派手な音が聞こえると思ったら、アマミ殿も来ておったのか」
 元より知己であった彼女は、道中聞こえたえげつない破壊音の音源が彼女と知りなるほどと納得している様だった。つまりまあ、知り合いが知ってなるほどと思う位には今回の所業はアマミの通常運行って事だが……それもさて置く。
「ヘルミ、アマミ……そしてここに集う猟兵たち。これはいつかの……いや、いつかとは今この時点のことを言うのか?」
 言葉を繋ぐようにヨツユが一歩踏み出し、ヘルミを真正面から見据える。言っている意味が分からないのだろう、ヘルミは少し不愉快そうに怪訝な顔をする。
 オブリビオンは過去から現れる存在、加えてこの地獄の女王は伝え聞ける過去の生き様と現在の在り方に乖離がある。丸で時の流れから外れた立ち位置から語る様なヨツユの言葉は、意味不明ながらも引っ掛かる文言なのだろう。
「いつじゃったかのぅ……あれは昨日? 30年前? いやあの戦場で……」
 まあ、実の所ヨツユは御年90。エルフの長命とかどこ吹く風と言動が普通に老人な彼女にとって時間は曖昧。要するにボ……あ、いや兎も角何か色々曖昧なだけと言う疑惑があるのだが、それもさて置く。……置くこと多いなこの人達。
「加えてヨツユ殿も一緒となると……なるほど、あやつの角はそういうことじゃったか」
 独自に情報を持っているのか、何か察した風のクレアの呟き。でも先のヨツユの物言いのせいでこっちもただの寝言なのではと言う懸念が出ると言う不具合が発生していた。酷い話である。
 だが事実、アマミとクレアの視線の先にあるヘルミの角。持ち主自身の手に拠って折られたそれは、その殆どを喪って尚脈動する様に不穏な雰囲気を放っている。
「それより! 結局一周って貰えるんですかね!」
 そんな叫びが響いた。言わずと知れた獣の悪魔の主張である。拙い丁寧語になっている辺り多少の遠慮はある様だが、他の悪魔達も口々にそーだそーだだのお願いしまーすだの言っている。
「お前ら……この空気の中で未だ続けてえって言うのか」
 ヘルミの声は一周回って感心した感じになっていた。
「あの悪魔達を見ておると、何のために戦っておるのか分からなくなるのう」
 クレアは普通に呆れている。『正直、一度滅んでしまった方が……いや、多くは言うまい』とか呟いてる。あー、猟兵様それは困ります。いけません猟兵様……でも気持ちはとても分かる。
「はい、わたしはいいですよ」
 一人肯定的な返事を返したのはハルアだ。悪魔達がおおおって嬉しそうな声を返すのをニコニコと見返し、手の中の聖鎖をジャラリジャラリと蠢かせる。……元々悪魔達の隙を誘発する為の手遊びだった筈だが、気に入ったのか、或いはヘルミにも効果があるのか試したいのか。ともあれ待つと言っている事自体は純粋に彼女自身の善意だろう。
「しばし待ってくれとのことじゃが、済まぬがその者達の趣味に付き合うつもりはないでな」
 だがサイボーグの言葉はにべもなかった。悪魔達はブーブー言うが、ぶっちゃけ翼の乙女が特別優しいだけで普通に考えたらこっちが当たり前の反応である。
 タン。と、クレアの足元から少し鋭い音が鳴る。
 見やれば単に一歩踏み出しただけである。けれど悪魔達は一斉にブーイングを止めた。足音一つに寄せられた注意の先、練達の武芸を磨いた達人の纏う空気に気圧されたのだ。彼女は開発官の趣味マシマシの美しい容貌とモデルの様な体型だが、だからこそその迫力は冴え冴えと栄え相対する者の目に恐ろしく映る。
「ゆえに、わしも落とすのを手伝ってやろうぞ」
 時間が短縮できるじゃろう? とばかりにもう一歩踏み出したクレアに、悪魔達が後ずさりしたのは『それは望むシチュエーションじゃないから』なのか、それともその迫力に対する無意識の恐怖故だったのか。
 だが何れにしても次の瞬間状況は大きく動いた。一発の銃声に拠ってだ。
「! テメエ……!」
 ギリギリで己の身体を庇ったヘルミの右腕が凍り付いている。チルの放った氷の魔法弾だ。
「だめです」
 チル・スケイルの視線は氷鱗の二つ名に相応しく冷たい。仲間である猟兵達の手前で無ければ、寧ろ即座に発砲して居たんじゃないかと言う位に。
「敵でも、面子を潰す趣味はありません。が、犠牲者が出る事態は看過できないので」
 だから、だめです。クレアの言葉通りになれば確かに獣の悪魔達はヘルミの手によってにせよ猟兵の手によってせよ底深い穴に落とされる事となる。だから止める。と。
 銃器(正確にはそう見える魔法杖)を構えあくまで落ち着いた態度を通す鱗の乙女。
「なら仕方ねえな」
 魔法弾一つではどうと言う事等無いとばかりに、バリバリと無造作に纏わり付く氷を剥がした右手を握り開きして見せながらヘルミは笑う。好戦的なその笑顔の底に、確かに暗く邪悪な色が見える。
「あ、それなら皆さんは離れてくれますか」
 気遣うハルアの言葉に悪魔達が大人しく従ったのは、何もデビルキングワールド人ならではの善良さや真面目さの為だけではあるまい。己達のボスである女から滲み出るそのオーラに、邪魔をしてはいけないと言う事が彼等にも伝わったのだ。
「これで周りを気にせず戦えるというものじゃな」
 これはこれで、と言うか寧ろより意に沿う流れなのだろう。クレアが笑い光剣を構える。
「おもしろい……居並ぶ星は五つ星とでも言うべきか?」
 ヨツユの言葉は相変わらず曖昧で分かり難いが、自然体な佇まいのまま握られたアサルトウェポンは遠い炎を写し鈍く光っている。……火事、未だ収まり切ってないんだなあ。
 その言葉の通りの五人、其々がこれから始まる戦いに相対し。
「では、参るぞ」
 武芸者のその言葉が、遅ればせながらの死闘の開始を宣言した。

●地獄の王女
「キョウコさんごめんなさい。柱とか壁あたりが傷つくかも」
 物陰に身を隠し、ヘルミの銃の射線を避けたハルアが少し後ろめたげに呟く。
 戦いが始まって即『彼女、腹筋が凄いので接近戦は遠慮したいかな』と判断した彼女は素早く立ち回り、<銀曜銃>から麻痺の魔弾を撃っている。魔力によって誘導弾にもなっているそれは遮蔽からの発射にも関わらず狙い過たずヘルミを狙うが。
「ハッ! 気にしてんじゃねえよ! とっくにテメエら猟兵のせいでブチ壊れ捲ってるし燃えてんだからな!」
 笑う地獄の女王はそれらの魔弾をリボルバー銃によって撃ち落として行く。粗野な言動に似合わぬ高い腕前、悪魔達の首魁を務めているだけはあるのだ。
 ……それはそれとしてハルア個人に関してはその物言いは冤罪だけれども。
「チッ、ラチがあかねえな」
 しかしヘルミも不機嫌そうに舌打ちをする。彼女の銃弾もまたクレアの剣戟が難なく切り払い、チルの凍気が凍らせ、ヨツユが撃ち落とす。アマミはその影すら踏ませない。
 膠着状態は本意でないのだろう、赤い肌の悪魔は一歩大きく後ろに距離を取る。
「ならこれだ! 俺のダチに挨拶しな!」
 その指が高らかに打ち鳴らされ、現れたのは奈落の穴では無く二つの人影。
 読心と水を自在に操る能力を持つ人魚、そして超熱の発火能力を持つ青年の二人……その言葉の通りであれば彼女の生前の仲間なのだろう。かつての友人達が悪の権化と化した彼女の事をどう思って居るのか、それは分からない。ハッキリしているのは、ヘルミが術に専念する事と引き換えに呼ばれた二人が難敵であると言う事だ。
「えっ、水を操る人魚と超高熱の青年? なんでしょうその最高の設定」
 誰よりも先にまず月下美人の天使が反応した。
「どんなに焦がれようが触れる事のできないふたり……まるで結ばれないことが決まっているかのよう」
 違うわ、この人全然別の部分に食い付いてる!?
「いや、俺のダチで訳の分からん妄想するな!?」
 ヘルミさんも怒りです。
「素晴らしいご友人達に妄想が捗りそうです」
「聞けよ!?」
 悪魔の苦情はさて置き。思っても見ない理由で鼓舞されたハルアは晴れやかに笑い、その翼と花を淡く輝かせ出した。
「大丈夫、当初の目的は覚えています」
 そして紡がれるは天使の歌声。夜明けへ至る導き、祝福の歌。
「……グ!?」
 ユーベルコード【オヴニルソング】。未知の言語によるその歌詞の意味は分からねど、旋律と共に放たれる光は裁きの力を以て敵対者であるヘルミとその友を蝕み、反対に猟兵達の力を支えその傷を癒す。
「だが、この程度でやられやしねえ。やっちま……」
 纏めて動きを鈍らせはしてもまだまだ意気軒昂。炎と水の壁に守られ、反撃を指示しようとしたヘルミの言葉がしかし止まる。その視線の先に青き竜が立ったからだ。
「はじめまして。私は冒険者のチルです」
 挨拶をしろと言られたのだから、挨拶をするのが礼儀だろうとばかりのクールな態度。それはこの状況に置いては埒外の胆力と裏表だ。
 水と火の力に対し、チルは氷の力を扱う。水と熱が氷を溶かすか、氷が全てを凍らせるか……それは単純に力比べとなるだろう。
 そしてパワープレイはある意味でチルの得意技だ。
「私自身が氷になる」
 その言葉が比喩では無いのだと、チル自身の身体が即座に証明した。その鱗が、肌か美しく透き通り半ば透明へと至る。その全身から冷気が迸りキラキラとした光の反射を纏う。言葉通りの氷の身体。生命の埒外、氷竜の末裔たる彼女の真の姿。
「氷鱗継ぐ我が身に、貴女の氷雪を巡らそう」
 そしてそれだけでは終わらない。
 その身の背後に、先にも見せた祖……氷竜そのものの霊が現れる。だが今度は冷気を吐くのではない。己が子孫に重なり融合する。
「吹雪と共に、彼方へと至らん!」
 言葉の通りの吹雪、いやいっそ豪雪の嵐が戦場を包んだ。
「クソ……これがマンションを凍らせやがったって力か……しまっ!?」
 吹雪に交えた冷気放射が人魚と青年を怯ませたその一瞬の隙。強化された魔力杖を四肢に装備し推進力にも転用するチルは、その一瞬で2人をすり抜けヘルミに肉薄した。
──ゴウンッ!!
 ユーベルコード【氷術・翔竜(アイスウィング)】。時速450kmにも達するその飛翔能力からの零距離射撃。それも威力増強された<冷気放射杖『マルヴァールマ・スロワー』>の一撃はヘルミを守る水と炎を容易く打ち破り、その身体に少なからぬ損傷を与える。そして召喚主が傷付き集中が溶けた事で人魚と青年が溶ける様に消滅した。
 スピード勝負による力押し。その理想的な流れに地獄の女王は歯噛みする。
「チィッ、速攻かよ。だが直ぐにまた呼べば……!」
 その身から沸き立つ邪悪の瘴気でハルアの光と冷気を振り払い、ヘルミが再度術を編む。ユラリと空気が歪み、再び先程と同じ人影が現出しようとする。
「見え見えじゃのぅ。そこじゃ」
 一発の銃声。ただそれだけで像を結びかけていた人影が霧散した。
 ユーベルコード【巫覡御霊返しの弾(フゲキミタマカエシノタマ)】。ヨツユの放った銃弾には清浄なる神の御霊を宿されており、長き戦場の経験と知識から見抜いた力の核を撃ち抜く事で召喚を相殺したのだ。
「天津罪國津罪、祓いたまえ清めたまえ……一度見た術を先読みする程度、容易いのぅ」
 アサルトウェポン撃ちまくってるから忘れがちだが、彼女はれっきとした巫女なのだ。不浄を払い邪を退ける……邪悪の権化であるヘルミからすれば天敵にも等しい。
「良いんじゃよ? もう一度召喚しても。またすぐにわしが相殺するが。例えそれに失敗してもお前自身を狙って撃ち続けるがのぅ?」
 そんなヨツユがその美しいかんばせを……あー。何と言うかちょっと感じ悪い感じの笑顔に歪ませながらヘルミに語り掛ける。と言うか煽る。
 実際、今も尚ハルアの裁定の歌は戦場を包みヘルミの邪悪を裁き、チルの猛吹雪はその身体を物理的に凍えさせ苛んでいる。噴き出すオーラに拠って相殺し抵抗し続けれるものでは無い。
「じゃが、召喚された二人も嬢をかばいながら戦うのは辛かろう?」
 良い感じに腹の立つ顔を向けて来るヨツユの煽り通り。人魚と青年の力で己を守らせていては二人の力が攻撃に回らず本末転倒だ。そのまま戦ってもジリ貧になる事は明白。
 それに加え、アマミとクレアの二人はフリーハンドでその身を狙っているのだ。リボルバーでの牽制程度では、羅刹と達人の猛攻を凌ぎ続けれる道理は無い。
「んー! どうしたどうした? 全力が出せんかー?」
 先の獣の悪魔達との戦いの際を思い返せば、これもヨツユの作戦なのだろう。封殺した上で挑発し冷静さを奪う……なるほど有効な戦術と言える。傍目の印象は兎も角。
 と言うか凄い顔になってる。元が美人なエルフだけにその威力は半端ではない。
「ぐぐぐぐ……うるせー! 顎突き出すなテメエ!!」
 進退窮まった状況に(と言うか多分ヨツユの煽りに)ヘルミがついにキレた。
 術を編む事を放棄し、リボルバーを地面に叩き付ける。どちらももう要らないとばかりに。
「良いだろう。良いじゃねえか! そんなに地獄が見たいって言うなら」
 唸る様にそう言うヘルミの身体から、今までとは比べ物にならないオーラが噴き出す。その目はこれまで以上に冷たく、だが燃える様な熱を湛え。丸で内側から噴き出るエネルギーの噴出孔の一つと化した様。
「見せてやるぜ……俺の。本当の姿を」
 その角が。へし折れ半ばから失われていた筈の角が、ユックリと逆再生の様に伸びて行く。彼女が生まれつき備え持っていた通りの、邪悪の象徴そのものへと。
『さあ唱和せよ! 我が真の名を!』
 文字通り地獄の底から響く様な重く濁った声が響き渡る。
 形を取り戻した角……邪竜の鍵を中心に、地獄の炎が如き邪悪のオーラが吹雪を押し退けんとばかりに戦場を荒れ狂った。
 唱和は無い。『ソレ』の真の名等喪われて久しいのだから。誰にも知られぬ彼女はこの時この場所で、過去の映し身たるオブリビオンとしてこの世界に浮かんできたに過ぎない。
 けれど。いや、或いはそれにも関わらず。
『皆殺しの時間だ』
 その力のみが、今此処に降臨してしまったのだ。

●邪竜の鍵
 それは邪悪と言う前に破壊の権化と言えた。
『ガアアアアアアア!!!!』
 理性を失っているのだろう。動く物を無差別に襲うそれは、蠢き時に襲い来るマンションの家具や建材を秒如き砕き、ぶち抜き、切り裂く。さらに巨大化した右手の、特に鋭い爪が生えている訳ですら無いその指でだ。
 ただただ圧倒的な腕力と噴き出すエネルギー、それだけで振り回した右腕が赤い虞風と化し、近づくもの全てを破壊し尽くす暴威となる。
「キャア!?」
 遮蔽としていた壁を根こそぎ砕かれ、ハルアが溜まらず悲鳴を漏らす。
 咄嗟に<咎人の鎖>を絡めその暴力を少しでも抑えようとするが、祈りと歌に意識の大半を向けている彼女の魔力は普段よりずっと低出力だ。どう考えても凶暴化したその悪魔の猛攻を抑え込めるとは思えず、ほうほうのていでその場から離れる。
『翼。ソノ羽根。全部毟って口にねじ込む! 飛べなくなった鳥はア、ハヤニエにして晒しモノだ! 下から頭マデ杭を通してやるウウ!!』
 ゲラゲラと笑いながら追う悪魔の言葉は邪悪其の物だ。余りに無体な言葉に、ハルアの愛らしいその目尻に涙すら浮かぶ。
「理性なく暴れられると、逆に動きが読みにくいのう」
 そんな翼の猟兵を庇う様に入れ替わり肉薄したのはクレアだ。愚痴めいた言葉とは裏腹に、練達の連撃が正確無比に邪悪の悪魔の四肢を刻むが、本性を現した地獄の女王は一向に怯む様子が無い。
 これはもっと根本的な弱点を狙うべきかと。達人はその再生した角を睨む。
『何だアアア! 何見てやがる! その綺麗な金色の目をコイツで刳り貫いて欲しいのカア!?』
 大きく状態を逸らしてからの頭突き。クレアが飛びずさって避けた後、残されたマンションの壁が貫かれ、余波でその周囲事大穴を開けた。
 直撃して居れば、目玉を刳り貫く所か首から上が消し飛んでいるだろう。その威力にしかしサイボーグの剣豪は恐怖を見せず、厄介だとばかりに顔を歪めるだけだ。
「このまま建物を破壊されては、流石にキョウコ殿に申し訳も立たぬな」
 実際、この勢いであれば全壊もあり得るだろう。……その方が世の為人の為な気もしなくも無いが、少なくとも今回請け負った仕事としてはそれは不味い。何とか弱点を狙い撃つ隙を探さねばと仲間達を見回す。
「これが戦場の運命(さだめ)じゃ」
 破壊と暴威を指しているのだろうか。言ってる事の難解さはともあれ、ヨツユの放つ御霊弾は今尚有効だ。寧ろ、その邪悪さが表に出た故か一層効果が上がっている様にすら見え、命中した箇所が砂の様に砕けて行くのが見て取れる……その数秒後には見る見る再生してしまうのだが。
「ヘルミ自身も油断ならぬ悪魔、氷塊一つで沈むとは思いませんでしたが……」
 チルの凍気も未だ戦場を埋め尽くし続けている。邪悪の化身の振るう暴威とオーラーは確かに猛吹雪を振り払うが、それは常時では無い。まして彼女の四肢に構えられた冷気放射杖からの凍気は常に戦果を挙げ続け、その動きを鈍くさせている。
 それでも楽には勝てない。この敵が如何に難敵で化物かを再確認しながら、けれど氷鱗の術士は怯まない。何故なら、そんな事は最初から分かっていた事なのだから。そして。
「猟兵は私だけではありません」
 クレアの目を見返し、コクリと頷く。
 オブリビオンは一人だ。ボスと慕う部下達は居るが、彼等獣の悪魔は単に世界の決まりに則りその邪悪さを尊敬しているだけだ。ある意味世界を滅ぼそうとしている彼女に騙されているだけであり、本質的に味方では無い。
 対する猟兵は一人では無い。強大な敵を前に、すべて一人で賄う必要等ないのだ。
 弱らせるのは私達がやります。だから、その先は任せました。そう伝える様に細められた氷の瞳は、最初からそうであった様に変わらず冷静で、そしてシンプル。
「さあ、運命を切り拓きなさい!」
 響いたのはハルアの声。
 危機に陥れど恐怖に煽られどそれでも決してユーベルコードを解除せず、祈り歌い続ける彼女もまた己にできる事を真摯にこなし続けている。目に見える戦果では無い、けれどその天使の歌はオブリビオンの力を間違いなく減じ続けている。
「心得た! 真の姿・ヘッドレスホース形態に覚醒じゃ。奴は早く動く者を狙うとあらば、敢えて妾も奴のスピードに同調する形で疾駆してみせる!」」
 別形態のお披露目はある意味様式美だろうか。
 乙女の言葉に答えたアマミは再びシュガースカルを掲げ、その身体が輝きに包まれ衣服が消える。
『何をしてやがる! その小せえ頭蓋、握り潰してミソ食ってやるぜエエ!!』
 変身中は攻撃しない事がルール。そんなセオリーは邪悪の化身に走った事では無いのだろう。その巨大な手が伸び。
「見え見えじゃと言うたろうに」
「させんよ」
 銃弾と光剣がそれぞれの脚を薙ぐ。
 邪悪の暴力はそれで倒れたりはしないが、それでも時間稼ぎとしては十分。
「我が身既に鉄なり、我が心既に空なり! 天魔覆滅への橋渡し、この大業果たせるならば我が命惜しむべくもあらず!」
 そこに立っていたのは黒の鎧で構築された馬。人馬一体が如く頭の代わりにアマミの身体を生やし、全身からオーラの奔流を迸らせる。……気のせいか、頭と肩の巨大な角飾りと合わせ、ある種相対するオブリビオンの本性にも何処か似通る力強い姿だ。
「誰でもいいから妾の背に乗れ!」
 いいや、正しくは『似て非なる』と言うべきだったか。強き力在りし姿に変じたアマミはしかし一人で戦おうとはせず、仲間との連携を求める。その背にはユーベルコードの力に拠って発生したタンデムを可能とする為の鞍と手綱が生じている。……誰かと共に戦う為の物なのだ。この特攻騎馬形態は。
 果たして即座に答えたのは気心の知れたクレアであり、軽やかに宙を舞いアマミのその馬体の背に乗った。
『何だあ!? 鬼ごっこか!? そんなに食われてエのかお前らはよオオ!!』
 即座に走り出したその速さを前に、凶暴化した邪悪の権化はその背を追って走り出す。圧倒的なその力の出力は、二本の脚でも凄まじい速度の疾走を叶え見る見るうちに追いつくが。
「なるほど、これは狙い易いのう」
「あの、どんなに早い車でも並走すれば互いに止まって見えるって奴あるじゃろ……アレじゃよアレ!」
 それはアマミの作戦通りなのだ。寧ろ速度を調整し、背に乗るクレアが動き易い様に横並びの瞬間を作る。
「奴の力の源と思しき両角を一刀でもう一度ヘシ折るんじゃ!」
「承知」
 短い了承。
 宙を舞う肢体。
 雲耀の間に奔る一閃。
 これまで、クレアはユーベルコードと言うよりユーベルコード並の域に達した技の極みを以て戦って来た。此度の一刀もまたある種ユーベルコードとは言いにくいのかも知れない、が……けれどそれは技の極みともまた言えない。
 全身を構築するナノマシンの動作により、オブリビオンとその力を骸の海に還す力を宿す【還送機能Ⅱ(エグザイルコード)】。それはUDCに拠って作られた人造人間に設定された機能の一つ。それは機能故に、この上なく確実にその力を発揮し。
『ウグガッ!?』
 その両の角を、邪悪の象徴を、呆気なく根元から斬り落として見せたのだった。
 元より自ら折っていた角だ。喪われたとて死ぬわけでは無い。まして高速で走り続けて居た身体は急には止まらないのだが、それでもその態勢がグラリと揺れる。そしてその身体から溢れ出ていたオーラが見る見ると薄れ。
「……クソ。テメエよくも……」
 其処に居るのは邪悪の権化では無く、ただの家賃滞納悪魔達の首魁ヘルミとなる。
「トドメはワシが決める!」
 その背を跳び立ったクレアに続くとばかりに叫んだアマミが、その身に纏う鉄と同じく黒く光るハルバートを振り被った。急旋回し、力を喪い急激に減速したヘルミに対しその速度を大きくは減じないまま迫る。
 彼女がこの形態を成すのに使ったユーベルコードの名を【介錯(カイシャク)】と言う。それは、かつて人々のため命を犠牲にしたとされる彼女。されどその時から邪悪の象徴である角を持っていた筈でもある彼女。そして、その角を自らの手で折りその邪悪を封じていた彼女。だけど、己の意志でその角を再生させその邪悪を存分に振るった彼女。幾重にも矛盾を重ねこの場に立つ彼女に引導を渡すには、なるほどある意味で相応しい力と言えるのかもしれない。
「死ねーッッ!!」
 掛け声はまあ、かなりバイオンレンスかつ身も蓋も無かったけども。

●マンション逸哭館の日常
 結局、全ての戦いが終わった後、マンション逸哭館は大負けに負けても半壊で済んだとしか言えない程度には損傷していた。
 だが住人達(家賃払ってた方)のカンパにより、近々大幅な立て直しと改築を予定しているとの事だ。心優しい管理人のキョウコさんは『自分の力を使って頑張れば皆さんに余計なお金を出させなくても……!(と言う意味合いのおどろどろしい唸り声)』と言ったのだが、丁重に遠慮された。彼女の力って要するにあのヤバい瘴気なんだから当たり前ではある。
 ボスを喪った獣系列の悪魔達は、彼女の邪悪さを胸に尚も悪の道を進むのだと言ってマンションの各部屋(概ね廃墟だが)に帰った。未だ住み続けるんかいと思わなくも無いが……まあ、もう放っておいても別に大丈夫だろう。
 残ったのは最後に斬り飛ばされた邪悪の象徴、二本の角のみだ。こんなものどうしろって言うんだと猟兵達は思ったが、其処に放置して置くのも危ない気がしたので希望者が預かる事になった。まあ、後々に処分するなり何なり自由にすれば良い。

 かくてデビルキングワールドの危機は人知れず未然に防がれ、ヘルミと言う女はこの再び世界から消えてなくなった。結局彼女がどんな存在であったかは誰にも分からないままで、その真の名とやらと同様にそのまま忘れ去られるのだろう。
 ホラー映画の如く、マンションの床から巨大な赤い腕が生えてくる事も無い。このまま一巻の終わりだ。その因果は断ち切られ、過去の残滓は過去の彼方へと消えた。ずっと覚えていると決めるのは、勿論個人の自由だけれど。
 マンション逸哭館の攻防は此処に終わり、平和が戻ったのだ。
「ギャー!? 床が足を齧って来たー!?」
「ああ! 窓に! 窓に! て言うか窓のサッシが首を絞めて来グエエエエエ」
「気のせいかな!? 燃やされたせいか壊されたせいかそれとも邪悪オーラ浴びたからか知らねえけど、このマンション前より凶暴化してない!?」
 ……平和って何だろうね。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年02月07日
宿敵 『邪竜の鍵を秘めし地獄の王女・ヘルミ』 を撃破!


挿絵イラスト