ディア・ブックアンドガール
●白い本の意味
「こんちには、アリスさん」
それは不意に後ろから聞こえた声。
「だれ?」
と私が振り向けばそこにはひとりの少女がいて。
「……っ!!」
彼女が持っている『モノ』を見た瞬間、ずくんっ、と何かが体に響いた。
「―、――、――」
何か言っている。けれども、耳に入ってこない。いや……『それどころじゃない』。
目に入ってきたのは、少女が持っていたのは……『白い本』。
――何で忘れていたの?
自分の不甲斐なさを悔やむ。白い本の持ち主は私の大切な友人で。彼女はいつも『何も書いていない真っ白な本』を読んでいて。いや、私たちはその白い本に物語を空想して、創造して。
(白い本は……私とシオリの……)
絆。あるいは赤い糸。
あの本は私たちの白い本じゃないけれども。
――じゃあ私たちの白い本はどこに?
ずくんっ、と頭が痛む。鉄の棒で頭を殴られたかのような衝撃。
視界が赤く染まる……これは、血? ああ、手も血だらけだ。手に握っているバタフライナイフも血に染まって。
「……え?」
不意に気付いた。この血は私の血じゃない。
ナイフから滴り落ちる血が主張する。自分の主は……彼女だと。
「シオリ……?」
溢れ出たのは私の友人の名。今、自分の足下で倒れている……。
――ああ、まさか。私は、キリエは……!
「うわぁぁぁぁぁぁぁああああああああ!!!」
「わっ?! びっくり」
突如絶叫したキリエに、猟書家『ホワイトアルバム』がびくっと震えるも。ホワイトアルバムの前で、狂乱キリエはオウガへと変貌していく。それは彼女の『忌まわしき記憶』が成せる業。
「……やっぱりだめだった?」
じっと、ずっと白い御本を見ていたから記憶を呼び起こしたのだけれども。やっぱりアリスの記憶に幸せはないらしい。
悲しいことだけれども、彼女もまた『だめだった』というだけ。
そしてホワイトアルバムはキリエに手を伸ばすのであった。
●白い本が訴えかけるもの
「パラレルワールド、とか、そういう感じの、です」
折紙・栞(ホワイトブック・ガール・f03747)は白い本を抱えながらそう言う。
『シオリ』と『キリエ』、そして二人の間にある『白い本』。それはたぶん、どこの世界にも偏在して、それでいて特別ではないけれども宿命的な何か。ならば、この栞のグリモアが反応するのもまた当然だったのだろう。
「助けて、あげて、ください」
曰く、狂乱がゆえにオウガへ変貌したキリエではあるが、彼女は生きながらにしてオウガに変じたために戦って倒すことで元に戻すことができる。ただ、戻った時に生きているかどうかは戦闘の中でいかに正気に戻すか、によるという。
「声、かければ……きっと……」
強く励ましたり、あるいは共感することで心を通じ合わせる。そうやってキリエの心が感じている負の感情やストレスを軽減させることができれば、彼女はオウガからアリスへと戻ることができる。
何より彼女の記憶は不完全すぎる。何故なら。
「シオリ……生きています……」
キリエがシオリを刺したのは事実だが、シオリはまだ生きている。その事実すらもキリエは忘れている。それはキリエが『自分の扉』を見つけたからではなく、ホワイトアルバムが関与して『忌まわしき記憶』のみを解き放ったからだ。
「だから……止めて、ください」
どんな事情があったのか、あるいはどんな真実が隠れているかはまだわからない。だとしても、シオリは生きていてキリエもまた生きている。
「死んだら……終わり、です」
腕の中の白い本をぎゅっと抱きしめて栞が言う。栞のキリエはもう居ないけれども、彼女たちはまだ間に合う。
「お願い、します……助けて、ください」
そう言って、栞は猟兵たちに頭を下げる。自分の代わりに行ってほしい、と。
●死に至る病い
「全部、全部、摘み取らなきゃ……」
ブツブツと呟きながら、狂ったように槍を振るうキリエ……否、変貌した彼女の今は『希望を摘み取る者』。自分の周辺から始めたその所業は不思議の国を地獄のような状態に追い込みつつある。キリエを見守っていた、助けてきた、この国に住む住民たちを巻き込みながら。
「ひとごろし。そう、私がひとごろしなの。だから、ころすわ」
彼女は絶望を振り撒いている。
今ならまだ間に合う。今ならまだ致命傷にはならない。そして今なら……キリエの体も心も命も救うことができる。
かける言葉に正解はない。真実を伝えたとしても最初は信じてくれないかもしれない。貴方の想いを伝えたとしても無意味だとあざ笑うかもしれない。
それでも、と。伝え続けてほしい。訴えかけてほしい。貴方の言葉で。
その言葉と思いが届いたならば……キリエは必ず応えてくれる。
るちる
『ディア・ブックエンドガール』るちるです。
なーんて当時の白い方の真似をしてみたり。2011年ですって奥さん。
元祖(?)ホワイトブック・ガールの栞から皆様に、猟書家ホワイトアルバムの討伐依頼をお願いします。
参考にした依頼は雑記に書いておきますので興味がありましたら参考に。キリエが死んでいない時点で別物のお話ですけども。
●全体
2章構成の幹部シナリオです。
リプレイはプレイングの雰囲気に左右されます。シリアスである必要はありません。お気軽に参加してください。
また、戦闘時には周辺に巻き込まれる住民はいませんのでご安心ください。
プレイングボーナス(共通)……アリス適合者と語る、あるいは共に戦う。
●1章
ボス戦。キリエが変貌した『希望を摘み取る者』との戦闘です。
声をかける、キリエに対する思いをぶつけることで攻撃の手が緩みます(プレイングボーナス)。得物は槍を使っていますが、本来の得物と違うので少々動きが鈍いようです。そのため、動きを完全に止める等はしなくても話しかけながら戦闘が可能です。
●2章
ボス戦。猟書家『ホワイトアルバム』との戦闘です。
現時点では特にお伝えすることはありません。ぶっとばしてやるといいと思います。章の開始時に、状況説明の文を追記します。
●以下の情報はグリモア猟兵から伝えられたとして知っていても大丈夫です
『キリエ』
中学生くらいの女の子。出身はUDCアース。れっきとした人間で、アリス適合者で、そして生きています。記憶はほとんど戻っていませんが、自分の扉を探して旅をしていました。本来の得物はバタフライナイフです。
思い出した記憶の断片は事実を伝えていますが、真実はいまだ闇の中です。
『シオリ』
小学生くらいの女の子。出身はUDCアース。こちらもれっきとした人間。キリエに刺された後、治療を受けることができて、入院中ではありますが生きています。傷は残る、かなあ? 白い本もきちんと所有したままです。
シオリにとってもキリエは大切な友人のままで、むしろ行方不明な彼女を心配しています。
それでは皆さんの参加をお待ちしています。キリエを助けてあげてください!
第1章 ボス戦
『希望を摘み取る者』
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POW : 絶望の光槍
全身を【輝く槍から放たれる光】で覆い、自身の【受けた傷を癒やし、猟兵が習得した🔵の数】に比例した戦闘力増強と、最大でレベル×100km/hに達する飛翔能力を得る。
SPD : 否定されたご都合主義
対象のユーベルコードに対し【輝く槍の一撃】を放ち、相殺する。事前にそれを見ていれば成功率が上がる。
WIZ : バッドエンド・イマジネイション
無敵の【自分が有利になる状況】を想像から創造し、戦闘に利用できる。強力だが、能力に疑念を感じると大幅に弱体化する。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
大成功 | 🔵🔵🔵 |
成功 | 🔵🔵🔴 |
苦戦 | 🔵🔴🔴 |
失敗 | 🔴🔴🔴 |
大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「ユナ・アンダーソン」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
上野・修介
※連携、アドリブ歓迎
UCは防御重視。
調息、脱力、敵を『観』る。
敵の体格・得物・構え・視線・殺気から相手の間合いと呼吸を量る。
タクティカルペンの投擲で隙を作り、間合いを詰める。
至近の間合いを維持して槍のリーチと飛翔を殺し、攻めながら呼掛ける。
「キリエさん、ですね」
「貴方と貴方の親友との間に何があったかは、俺は知りません」
「だがそのことを悔いているなら、償いたいというのなら」
「まだチャンスはあります」
「貴方は人殺しじゃない」
「必ず道を開きます。だから諦めないで」
こちらの言葉に目に見えて反応してくるようなら、UCを攻撃重視に切り替え、捨て身で渾身の一撃を叩き込む。
「少々、いや大分キツイの行きます」
●その一撃狂気を断ち切る
「うわぁぁぁぁぁぁっ!!」
狂い、叫び。迸るそれらがキリエを暴走させている。『希望を摘み取る者』と化したキリエは、程なくして不思議の国の希望という希望を摘み取ってしまうであろう。
ザッ。
大きく足音を立てて。そんなキリエの背後に立ったのは、上野・修介(吾が拳に名は要らず・f13887)。
「……」
キリエの動きが止まる。それはキリエが修介の強さを感じ取ったからか。振り向いたキリエと修介の視線が合う。
「キリエさん、ですね」
修介の言葉遣いは……キリエを敵ではなく、巻き込まれた被害者だと認めている証拠。
「……違う、違う違う違う!! 私はシオリを、私はっっっ!!」
修介の声に反応して。キリエが再び狂気をまき散らす。手にしている槍から輝く光が放たれ、キリエの体を覆い。直後、地を滑るようにして飛翔して突撃、キリエが絶望の光槍を修介に突きつける!
「……」
小さく呼気をひとつ。修介にとってその行動は予想済で、そして『観』る態勢は既に整っている。
キリエの体格と槍の長さ、視線や殺気から間合いと呼吸を量ることができたならば。キリエの直進的な動きを最小限の動きでかわす修介。
【拳は手を以て放つに非ず】は決して超常的な現象を再現するものではない。しかしだからこそ。常に修介はその効果を掌握している。それは『いつも通り』を意識的に行うだけ。『呼吸』の力で身体の機能と動作の制度を補助するだけの、それでいて絶大な効果。
(――力は溜めず――息は止めず――意地は貫く)
息を調え、程よく脱力した『自然体』に意地を乗せれば。思った通りに体も動くというものだ。
「くぅっ、あぁぁぁっ!!」
修介にかわされながらも槍を振り回すキリエ。
修介も今は防御を優先している。だがそれは受けるだけではない。踏み込みと拳による攻撃で絶妙の間合いをキープして、その間合いを崩すことでキリエの攻撃をいなしているのだ。そして……呼びかけは止めない。
「貴方と貴方の親友との間に何があったかは、俺は知りません」
槍は止まらない。ゆえに二人の動きも止まらない。
「だがそのことを悔いているなら、償いたいというのなら」
それでも。修介は呼びかけを止めない。
「まだチャンスはあります」
「……っ」
その言葉に一瞬、キリエの動きが鈍る。その反応を『観』た修介はさらに言葉を投げかける!
「貴方は人殺しじゃない」
「……っ!!!」
修介の言葉に、思わずキリエが『飛び退る』。それは修介の言葉に何かを感じ取ったがゆえ。大きく距離を取ろうとするキリエに。
「……!」
修介は間髪を入れず、タクティカルペンを投擲。
「なっ?!」
その攻撃をかわしたキリエの態勢が大きく崩れる……その隙へ。修介が大きく素早く踏み込む! 即座に間合いを詰めたことでキリエは迎撃の態勢が間に合わない。
「必ず道を開きます。だから諦めないで」
「や、いや、いやぁぁぁ!!」
キリエのそれは拒絶ではなく、錯乱の言葉。状況に対してキリエが追い付けていないその証左。ならば、一度それを止めてやらねば。
既に間合いは修介のもの。構えを取って、ぐっと握りこんだ拳に修介の覚悟と思いが宿る。
「少々、いや大分キツイの行きます」
呼吸を攻撃の型に切り替えて。
――放つは、捨て身。渾身の一撃!
「ぐっ、きゃぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
キリエの体に叩き込まれた修介の一撃は、キリエの体と同時に狂気すら吹っ飛ばすのであった。
大成功
🔵🔵🔵
文月・ネコ吉
やれやれ
これもまた縁という奴か
溜息と共に刀構え対峙
冷静に状況確認し情報収集
攻撃見切り、武器受けとカウンターで斬り結び
読心術で反応確認しつつ会話を重ねる
『シオリは生きている』
白い本の少女にそう聞いた
治療を受け入院中だそうだ
まあ信じる信じないは勝手だがな
シュレーディンガーの猫って奴かね
お前はシオリを刺したが
死体の確認まではしていない
故に全てを否定も出来ない、違うか?
(大丈夫、お前は殺しちゃいない)
(人殺しは寧ろ俺の方)
生きてて欲しいんだろ?
顔にそう書いてあるぞ
気になるならその目で確かめりゃいい
扉を見つけて会いに行け
何とかなるさ
お前が生きてさえいれば
希望の花は他の誰でもなく
お前自身の中にあるのだから
●雨が誰が為に降る
「く、ぅぅっ!」
呻きながら、それでも。キリエは、『希望を摘み取る者』は立ち上がる。猟兵の強烈な一撃を食らって決して無傷ではない。しかし、その槍を振るうことをやめない。
「やれやれ……」
「……っ!?」
声のした方へ槍を一閃するキリエ。しかし、そこにいた黒い影はひょいっと飛び上がって、音もなく後方へ着地する。その姿は黒猫。ケットシーの文月・ネコ吉(ある雨の日の黒猫探偵・f04756)であった。
「これもまた縁という奴か」
ため息ひとつ。言葉に言い表せない感情を胸に秘めて、ネコ吉は『叢時雨』を抜き放つ。古びた刀身、それを見た者は『なまくら』と言うかもしれない。されどその切れ味は……鋭い。
ネコ吉の言う縁。それはこの出会いを指してか、あるいは別の。
そんな感傷に浸る時間は程なく、刀と槍が切っ先を結ぶ緊張感がこの場を支配する。
「う、あぁぁぁぁっ!!」
口火を切ったのはキリエ。絶望を光と化してその身に纏ったキリエがネコ吉に向けて突撃してくる。
「……」
冷静に。ネコ吉は刀を斜めに構えてその切っ先を受け止める。刃同士がぶつかりあって甲高い音を立てて逸れていく。
すれ違いざま。
「『シオリは生きている』」
「……!」
先の戦闘によって、幾分か狂気の消えた状況。そこで叩きつけられる事実に、キリエに動揺が生まれる。
「そんっ……違、ちがうちがうちがう! 私の手は、血に染まっていた!!」
その事実を以て。キリエは振り向きざま槍を叩きつける。斬るのではなく柄で吹き飛ばす。ネコ吉は刀の腹でその一撃を受け止めながら、しかし質量差はどうにもできず。キリエが振るうままに空中に投げ出されて、しかしくるっと空中で回転して着地する。
「まあ信じる信じないは勝手だがな」
ゆっくりと、隙なく、あるいは殺気を纏いながら、ネコ吉が立ち上がる。その雰囲気が抑止力となって、キリエは攻め込むことができない。出来た間合いと時間でネコ吉がさらに問いかける。
「シュレーディンガーの猫って奴かね」
攻め込ませない間合いの外でネコ吉が続ける。
「お前はシオリを刺したが、死体の確認まではしていない。違うか?」
「……っ」
ネコ吉の言葉を否定できずに、それが故に攻め込めないキリエ。
もしかしたら確認はしたのかもしれない。しかし記憶が無い。無いものは……否定できない。その葛藤がキリエの動きを制止する。
その葛藤を見ながら、視線をキリエに定めながら。ネコ吉の意識は少し別の場所へ。
(大丈夫、お前は殺しちゃいない……そう、人殺しは寧ろ俺の方)
その言葉の意味を知っているのは彼だけであろう。何を以て、人殺しとするかも。
だが、それを確認するのは今ではない、と。ネコ吉は改めて意識をキリエに当てる。
「生きてて欲しいんだろ?」
『顔にそう書いてあるぞ』とネコ吉が切っ先を突きつける。
「気になるならその目で確かめりゃいい」
扉を見つけて。会いに行って。
「何とかなるさ」
「……!」
ネコ吉の言葉にキリエが視線を向ければ。いつの間にかネコ吉の手には黒い影の刀が顕れていて。
「……お前が生きてさえいれば、な」
【影ノ刀】一閃。ネコ吉がキリエを斬り付ける。
――希望の花は他の誰でもなく。
――お前自身の中にあるのだから。
大成功
🔵🔵🔵
白峰・歌音
思い出した記憶なんだから、容易く記憶とは違う事実は信じられなさそうだな。オレも記憶を失ったアリスだから分かる気がする。……でも、死んでいないって希望、信じてみろよ。希望は容易く壊せるものじゃないぜ?
絶望からキリエも住民も守り抜く【覚悟】、絶望を受け止め寄り添い慰めようとする【優しさ】、希望を決してあきらめず砕かせない【情熱】を以ってUC発動。完全に防御に徹して住民をかばいつつ攻撃を受け止め続けて、希望を容易く砕けない物だとオレ自身で証明する!
「希望ってのは、可能性ってのは、容易く砕けるものじゃない!今お前が壊そうとしているものも、過去にお前が壊そうとしてしまったものも!」
アドリブ・共闘OK
●アリスの迷宮を彷徨う渡り鳥同士は
「……ッッ!!」
体を大きく袈裟懸けに斬り裂かれて。それでも戦意を失わない『希望を摘み取る者』、キリエという名の少女は傷をかばいながら大きく後退して、目の前の猟兵を撒く。
度重なる攻撃に狂気は振り払われ、看過できない傷がズキズキと命を脈動させる。それは正気に戻りつつある、ということだ。
「くっ……」
それでもなお。思い出した記憶がキリエを責める。『お前はシオリを殺したのだ』と。
「う、あぁぁぁあぁぁッ!!!」
絶叫するキリエ。その手に持つ槍に再び絶望の光が宿る。
「思い出した記憶なんだから、容易く記憶とは違う事実は信じられなさそうだな」
再び狂気に包まれたキリエの前に立つ猟兵の名は、白峰・歌音(彷徨う渡り鳥のカノン・f23843)。彼女もまたアリス適合者、アリスの迷宮に縁を持つ者。
「オレも記憶を失ったアリスだから分かる気がする。……でも」
同輩の気配か、あるいは歌音の声か。ゆっくりと焦点のあっていないキリエの視線が歌音に向く。
「死んでいないって希望、信じてみろよ。希望は容易く壊せるものじゃないぜ?」
歌音はそう告げながら、その手にカードを握る。それは彼女のキーアイテム。彼女の力を封じた、そして。
「開放(リベレイション)!」
歌音が叫ぶと、カードから彼女の力が開放される。直後、そこに立つのは、ネオ・マギステックドレス『流浪の涼風』を纏った歌音。そこに降臨したのは『<マギステック・カノン>』という名のヒーロー。
「……ッ!!」
歌音が纏ったオーラに引き付けられるように、キリエの槍の切っ先が突きつけられる。
アリス適合者同士の戦いが今始まろうとしていた……!
突きつけられた切っ先に、油断なく構える歌音。
「来いよ……!」
「アァァァァァっっ!!」
歌音の声に反応してキリエが動く。発する絶望の光が全身に広がってその身に受けた傷が癒され。直後、最大速度で一直線に飛翔してくるキリエの攻撃を。
「……っ!!!」
歌音は交差した腕のオーラで受け止める! 切っ先とオーラがせめぎあい、それでも突破することは叶わない。
「オレのこの意志を……形に、示すっ!!」
歌音が叫んだ直後、その身が新たなオーラを纏う。【イマジネイト・リミットブレイク】。キリエと同じく、意志の力をオーラに変えるその術に込められていたのは、『絶望からキリエも住民も守り抜く覚悟』と『絶望を受け止め寄り添い慰めようとする優しさ』と『希望を決してあきらめず砕かせない情熱』!
「うぁぁッ!!」
歌音のオーラの勢いに弾かれるように引き下がったキリエを、今度は歌音が風のように飛翔して懐へ踏み込む。攻撃のためではなく、キリエの暴走が他へ被害を及ぼさないように。
間合いを詰めて常にキリエの行く手を阻み、そして振るわれる槍を受け止める!
それはアグレッシブでありながら、完全に防御の態勢であった。そして同時に歌音の在り方を見せる戦い。住民を守り、かばい、攻撃を受け止め続けて。それでも砕けぬこの姿こそが希望の在り方だと。
(希望は容易く砕けない物だとオレ自身で証明する!)
歌音の心が猛る!
「う、あぁぁぁぁぁッ!!」
その歌音の姿に怯んだキリエに歌音が畳みかける。あくまでそれは言葉で、そして態度で。
「希望ってのは、可能性ってのは、容易く砕けるものじゃない!今お前が壊そうとしているものも、過去にお前が壊そうとしてしまったものも!」
歌音の声に反応して。弾かれたように上段から槍を叩きつけるキリエ。振るわれた槍はキリエの絶望の形。それを、頭の上で受け止めると同時に、歌音のオーラが叩き折る。
それは希望が絶望を上回った、明確な瞬間であった。
大成功
🔵🔵🔵
バルメイ・シエ
被害「妄想」が得意なアリスちゃん、可哀想に。
キミの世界を、変えてあげたいんだ。
【使用UC】で生み出した杖で勝負する。
杖を使い、『光を吸収する』ことを願うことで相手の能力を無力化及び自分の強化を図る。
でも相手に与える攻撃は「デコピン一発」。力を吸収してるので強力ではあろうが、手加減をする。
ハッキリ言って、僕はキミの事情を知らないし、分かるはずはないかな。
でもね、僕は『愉快な仲間』。アリスを放って置けないんだ。
アリスならきっと、ソウゾウすることが得意。なら、こんなことを考えてみたらどうかな?
『キミとシオリちゃんはどっちも生きていて、仲良くて、友達のまま』。
キミの想像は、間違いなく創造できるよ。
●創造を想像して
その槍は彼女の、キリエの絶望の象徴であった。『希望を摘み取る者』と化したキリエの。
しかしその絶望は叩き折られ、彼女を苛んでいた狂気もまた霧散しかけている。
「ぐっ、うぅぅぅ……」
うずくまって、正気と狂気の間を行き来するキリエ。
「被害『妄想』が得意なアリスちゃん、可哀想に」
「……ッ!」
振り向いたキリエの視線の先にいたのは、バルメイ・シエ(意味不明と不可思議を掛けて2で割らない・f31453)であった。ネコ? ウサギ? コウモリ? 姿もさることながら雰囲気もまたどことなく掴みどころがないバルメイを目にして、キリエに狂気が戻る。
実際のところ、キリエにあるのは誤解。事実と違ってもその記憶は正しく彼女のものなのだから。でも事実と違う思い込みは妄想と言われても仕方がないのかもしれない。
「キミの世界を、変えてあげたいんだ」
だからこそバルメイの言葉にも嘘偽りはない。まぁなんか怪しげというか不思議というか、そういうのは別にして。
「う、う、うあぁぁぁぁぁぁッッ!!」
キリエが絶叫する。それは無理やり記憶を思い出すことを強要された反動。その狂気が再びキリエを包み込み、絶望の光が折れた槍すらも元の姿へと復帰させる。されど、絶望が死に至る病であっても、それは無限に湧き出るものではない。いや、正確には……世界が変われば、絶望が湧き出る泉は塞がれてしまうのだから。
「……ッッ!!」
言葉すら発することのできない速度で飛翔突撃してくるキリエ。しかし、バルメイは落ち着いて、その手に生み出すのは【柘榴石で出来た魔法の杖】。鈍く赤く輝く杖がキリエの突撃を真正面から弾き返す。
「これがあれば自由自在さ。願いはなんでもかんでも……は叶わないけどね」
想像から創造された無敵のガーネットの杖。それをくるくる回しながら、バルメイは少し嘯いて。しかし視線はしっかりとキリエを捉えている。
「くっ……!!」
まだ、と。折れることなく立ち上がってきたキリエが槍を構える。間髪を入れず、一直線に突き出した槍の一撃。それをバルメイは身を翻してかわしつつ。
「こーゆーのはどうだい?」
こつん、と杖で槍の柄を小突く。
「っ?!」
キリエが息を飲む。それは彼女の目があり得ない光景を目にしたから。
すなわち、絶望の光をバルメイの杖が吸収していく様を見たからである。絶望の光こそが今のキリエの力の根源。それを吸われたならば……戦う力が消えるも同然。
「く、ぅぅぅあぁぁぁッ!!」
それでも、と。槍を叩きつけるキリエ。
「おっとと」
重々しい槍の一撃を、バルメイは杖でひょいっと受け止めて。ガーネットの杖がキリエから吸収した光を纏って、その力を相殺しているのだ。受け止め続けるだけで削られていく力。そしてついにキリエを包む光が……消失する。
「ここでぇ、こうだ」
「ぐあっ?!」
バルメイの一撃はデコピン。キリエから吸収した光を使っての一撃は強烈だけれども、手加減されていて。キリエを大きく吹っ飛ばすに留まる。
「がっ!?」
木に叩きつけられて、そのまま地面まで崩れ落ちるキリエ。
その彼女の元までゆっくりと、しかし軽快に。バルメイは近づいていって無造作に座り込む。
「ハッキリ言って、僕はキミの事情を知らないし、分かるはずはないかな」
でも、とバルメイは告げる。
「僕は『愉快な仲間』。アリスを放って置けないんだ」
この世界における住民たる愉快な仲間だからこそアリスのことを一番よくわかっている。
「アリスならきっと、ソウゾウすることが得意。なら、こんなことを考えてみたらどうかな?」
――キミとシオリちゃんはどっちも生きていて、仲良くて、友達のまま。
「……っ!」
バルメイの言葉にキリエが息を飲む。想像を使いこなす術はまだ得意ではないけれども、彼女もこの地に来たからにはアリスとしての力がある。
だからこそ、鮮明に、詳細に。想像したイメージがハッキリと浮かび上がる。
「キミの想像は、間違いなく創造できるよ」
バルメイの言葉はユーベルコードでも何でも無い、ただの言葉で想像だけれども。
キリエは、バルメイの言葉が想像ではないことを悟る。
そして、絶望が希望に塗りつぶされる。
それは『希望を摘み取る者』が潰え、キリエというアリス適合者へと戻った瞬間でもあった。
大成功
🔵🔵🔵
第2章 ボス戦
『ホワイトアルバム』
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POW : デリシャス・アリス
戦闘中に食べた【少女の肉】の量と質に応じて【自身の侵略蔵書の記述が増え】、戦闘力が増加する。戦闘終了後解除される。
SPD : イマジナリィ・アリス
完全な脱力状態でユーベルコードを受けると、それを無効化して【虚像のアリス】から排出する。失敗すると被害は2倍。
WIZ : イミテイション・アリス
戦闘力が増加する【「アリス」】、飛翔力が増加する【「アリス」】、驚かせ力が増加する【「アリス」】のいずれかに変身する。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
大成功 | 🔵🔵🔵 |
成功 | 🔵🔵🔴 |
苦戦 | 🔵🔴🔴 |
失敗 | 🔴🔴🔴 |
大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠ライカ・リコリス」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●キリエとシオリ
パキィン、と。
絶望の砕ける音がした。
――ああ、思い出した。
そうだった、私はシオリを守っていたんだ。……UDC(アンディファインド・クリーチャー)から、UDC(アンダーグラウンド・ディフェンス・コープ)として。
あの子は何かと悪いモノを引き付けるから。あの子は身寄りもなくて何もなくて。私と出会ったのは偶然だっただろうけど、そこから一緒にいたのは不思議でも何でもなくて。ただ、私がシオリを好きだっただけ。シオリも私を愛してくれていたし。あ、もちろん友愛レベル。
だから、私がシオリを守るのは必然で当然で……そう、私は守ったんだよ、UDCに取り込まれそうになったシオリを。ただ手強くて手段を選んでいられなくて、危うくシオリも殺してしまうところだったけれども。
それでも『生きていた』ことをお互いに喜び合ったんだよ。
――そんなことも忘れていたなんて。
どうやら、私は『生きていく』ことに難がある宿命(さだめ)らしい。
●vsホワイトアルバム
それは一瞬。猟書家『ホワイトアルバム』の奇襲を防いだのは、突如顕現した白い本の防壁。それが【アリスナイト・イマジネイション】であることはその場にいる誰もが理解していた。それを発現した者も。
ホワイトアルバムからキリエを守るように猟兵たちが身構えて。
「ありがとう。芋づる式に色々思い出した」
その声は猟兵たちに。彼らの後ろでキリエがゆっくりと立ち上がった。その目は生きる意志に満ちて、ホワイトアルバムを見据える。
「その『白い本』に、私助けられたみたい」
ホワイトアルバムに告げるキリエ。そう、実は『ホワイトアルバムが仕掛ける前に、白い本に触発されたキリエが勝手に狂ってオウガになっていた』のが事実だ。
だから、この場において。ホワイトアルバムの思惑通りに進んでいることは、実は何もない。
「えーと、こういう時はなんて言うんだっけ? 『ざまぁ』でいい?」
にっこり笑顔を浮かべてキリエがホワイトアルバムを煽る。
そしてその笑顔のまま、今度は猟兵たちに好意を向ける。
「あなたたちは味方なのね」
アリスが無意識に頼る猟兵という存在。それはこの場においても当然のように働いて。
「どうでもいいよ。わたしが食べることには変わりないもの」
少しイラついた声でホワイトアルバムが告げる。
もうこのお話はおしまいだ、と。ホワイトアルバムが手にした猟書を開く。
走る緊張感。臨戦態勢を整える猟兵たちに。
「私、『ひとごろし』はしない主義なんだけど……アレは『ひと』じゃないよね」
さりげなくホワイトアルバムを『ひと』以外認定しながら、キリエも素早く身構えた。UDCエージェントである彼女は戦う術を持っている。
「ごめん。手助けは支援が精いっぱいかも。あ、自分の身は自分で守るから。用があったら呼んで」
愛用のバタフライナイフを構えながら、キリエはそう猟兵たちに告げて。
こうしてホワイトアルバムを撃退する戦いが始まったのである。
※補足※
プレイングボーナス条件はマスターよりコメント通り。
プレイングでの指定でキリエに援護を求めることができます。
キリエの攻撃手段はバタフライナイフ(対UDC仕様)と白い本を顕現させる【アリスナイト・イマジネイション】。本で出来そうなことはできるみたいです(角で殴打とか)
白峰・歌音
白い本に触発されず、あいつの力のせいでオウガにされてたら、もしかしたら戻れなくなってたかもしれないんだな。あんたたちの白い本の絆、とっても深くてかけがえのないものなんだな…
「無くした記憶が叫んでる!白い本が結んだ絆をこれ以上穢すなと!」
悪縁である記憶を弄ぶホワイトアルバムの白い本、このマギステックカノンが廃棄処分にしてやる!
UC発動して無数の氷輪を生み出し、取り囲む氷輪で動きにくくなるように、そうして生じた隙を狙って当てる氷輪をぶつけていく弾幕戦を仕掛ける!
掻い潜って接近してきたら【オーラ防御】で固めて受け、【カウンター】で全力の拳の一撃を打ち込む!
アドリブ・共闘OK
●悪縁の白きを壊す一撃
いまだキリエを獲物と、食事として狙う猟書家『ホワイトアルバム』。ホワイトアルバムとキリエの間に割って入り、身構えるのは白峰・歌音(彷徨う渡り鳥のカノン・f23843)、またの名をスーパーヒーロー『<マギステック・カノン>』である。
ちらりと後ろの様子を窺うと、そこにはバタフライナイフを隙なく構えるキリエがいる。
(白い本に触発されず、あいつの力のせいでオウガにされてたら、もしかしたら戻れなくなってたかもしれないんだな)
おそらく。キリエがこの世界に来た絶望の記憶と彼女が思い出した記憶は別物なのだろう。言い換えれば、シオリがキリエを守ったことになるだろうか。
(あんたたちの白い本の絆、とっても深くてかけがえのないものなんだな……)
記憶を失ってなお。残っている、真っ先に思い出す。それを絆と呼ばずして何と言うのだろう。
ゆえに歌音の拳にもより強く力が入る。
「無くした記憶が叫んでる! 白い本が結んだ絆をこれ以上穢すなと!」
ゆえにヒーローは猛る。
「悪縁である記憶を弄ぶホワイトアルバムの白い本、このマギステックカノンが廃棄処分にしてやる!」
いつどこの世界であっても、窮地を救う者の名は性別姿問わず『ヒーロー』なのだ。
気力十分、態勢万全と言わんばかりの歌音に。
「……」
ホワイトアルバムが少し苛立ちながら侵略蔵書を開く。しかし、その動作を見逃さず先に仕掛けるのは歌音。
「冬の暁に降り注ぐ 凍れる乙女の輪舞(ロンド)!」
天にかざした手の平に集うは冷気。それが無数の輪の形をなって群れを成す。
「【フリージングデッド・ハイロゥ】!!」
歌音が叫ぶと同時に腕を振り下ろす! 解き放たれた無数の氷輪はホワイトアルバムを取り囲むように高速で飛翔して。
「……!」
咄嗟に身を引こうとしたホワイトアルバムのわずかな隙へ。歌音の意志に応じた氷輪が斬り付けかかる。
「……っ!」
一撃は小さくとも。体勢の崩したホワイトアルバムへ次々と氷輪が襲い掛かる。
「氷輪の弾幕、かわせるか?!」
歌音の声を受けて、速度と切れ味を増していく氷輪たち。
しかし。
「わたしのお食事の邪魔だよ?」
抑揚の無い声ながら苛立ちを隠さず。ホワイトアルバムがこれまでに喰らってきたアリスの姿に変じる。ふわりと浮き上がると同時に、幾何学的な軌道で飛翔して氷輪を回避していくホワイトアルバム。そしてそれは単純ながら純粋な突撃という形で歌音に襲い掛かる!
「くぅっっ!」
その軌道をどうにか見切って。歌音は交差した腕にオーラを纏わせ、防御を固め、ホワイトアルバムを受け止める! 衝突した部分がじりじりとせめぎあって一進一退しつつ……膠着する。
(……今だ!)
そう、このタイミングこそが歌音の本当に狙っていたモノ。受け止めて動きが止まったこの瞬間こそが最大のチャンス!
片方の腕にオーラを集中、ホワイトアルバムを受け止めながら、もう片方の拳を強く、強く握って。
「くらえっ!」
気迫とともに、歌音が全力の拳の一撃を叩き込む!
「きゃぁぁぁぁっ!!」
打ち込まれたオーラの一撃にホワイトアルバムが文字通りぶっ飛ばされるのであった。
大成功
🔵🔵🔵
文月・ネコ吉
やれやれ
イキイキした顔しやがって
さっきまでの絶望具合が嘘みたいだな
成程UDC組織の人間か
人殺しはしない主義?
全く、頼もしい話じゃないか
そういう事なら遠慮なく利用させて貰うぜ(ニヤリ笑い連携
殺気をオーラ防御として纏いつつ
本の盾の陰にウミネコを隠しておく
前に出て一閃
攻撃見切り武器受け
カウンターにUC…と見せかけ刀で斬る
脱力状態なら急所を抉り
囮として注意を引きつけた所で
別方向からウミネコの突撃
だがこれも囮だ
2方向の攻撃に身構えた所に咎力封じ
倍の威力でUCを封じたら準備完了
キリエ!
本命はキリエの援護攻撃
遠慮なくやるといい
お前自身の手で未来を守り掴む為に
ナイフと見せかけて本命は本の角?
全くよくやるぜ(笑
●白くて遠くて忘れられない何か
ホワイトアルバムとキリエの間に割り込んだ文月・ネコ吉(ある雨の日の黒猫探偵・f04756)は背中にかばったキリエにちらりと視線を遣って。
(やれやれ)
内心で嘆息ひとつ。注意をホワイトアルバムから逸らさず、殺気で牽制しながらもネコ吉がキリエに話しかけた。
「イキイキした顔しやがって。さっきまでの絶望具合が嘘みたいだな」
「何か迷惑だった?」
ネコ吉の言葉に悪びれもなくそう告げて。オウガになったことではない。表情が変わったことに対してである。もちろんそこはたいした問題ではなく。ネコ吉は肩をすくめるばかり。
(人殺しはしない主義? 全く、頼もしい話じゃないか)
それはネコ吉の深奥と対極にあるようで、しかし何故か近しい感覚。思わずニヤリと笑いが零れて。
「そういう事なら遠慮なく利用させて貰うぜ」
「巻き込んでも気にしないから」
同類の匂いを感じ取ったのか、キリエもまたネコ吉にそう言い放つのであった。
「お話、終わった?」
苛立ちとともに言うが早いか、一気に距離を詰めてくるホワイトアルバム。
「キリエ!」
「はいはい」
ネコ吉の言葉にキリエが白い本を創造する。その本がホワイトアルバムの視界と進路を塞ぐと、ホワイトアルバムは素早く本を迂回する。
「できると思うな」
白い本の陰から飛び出したのは黒い影。殺気をオーラ防御として纏いながら、古びた脇差『叢時雨』を構えてネコ吉がホワイトアルバムに斬りかかる。
「知ってたよ」
しかしホワイトアルバムもまたネコ吉の一撃を予測していて。その一撃を回避しながら白い本の表紙を上からネコ吉に叩きつける。
「こっちもだよ」
慌てることなく、ネコ吉も本の一撃を叢時雨で受け止めて。
一進一退の攻防の中、仕掛けるのはネコ吉。突き出した手に込められた魔力。それにホワイトアルバムが気付いて、ユーベルコードの存在を察知する。
「……無駄」
と。イマジナリィ・アリスの態勢に入るホワイトアルバム。いかなるユーベルコードも無力化してみせよう、としたその挙動に。
「ハッ、甘い!」
それすらも予想の内と、ネコ吉は手を引っ込めて代わりに素早く叢時雨を突き出す。鋭く急所を抉る刀身。
「っ?!」
対ユーベルコードの技ではその一瞬の攻勢に反応できず。ホワイトアルバムの白い本に赤い血が散る。
「……邪魔!」
無理やり白い本を叩きつけてネコ吉を引き離しつつ、後方に下がって態勢を整えようとしたホワイトアルバムに。
「こいっ!」
とネコ吉が叫べば。
「みゃーみゃー!」
鳴きながら飛翔する影がホワイトアルバムの背中に激突!
「!?」
ホワイトアルバムが完全に体勢を崩す。
影の正体はネコ吉が仕込んでおいたのがこの『みゃーみゃー鳴くウミネコ』。キリエが先に出現させた白い本の本の内に潜ませておいたのだ。ちなみに鳥の方である。
完全に体勢の崩れたホワイトアルバムへ。
「今度こそ!」
とネコ吉が【咎力封じ】を放つ。
「もう!!」
猿轡だけはどうにか回避するホワイトアルバム。それでも動きを封じられたことには変わりなく、その身に大きな隙ができる!
――そう、これすらもフェイク(囮)。
「キリエ!」
ネコ吉がキリエに視線を遣りながら叫ぶ。そしてその視線が語る。
――遠慮なくやるといい。
――お前自身の手で未来を守り掴む為に。
「だから、具体的に言えっての!」
似た者同士なのだろうか。キリエは寸分も遅れず、自分の行動に移っていて。手にしたバタフライナイフを鋭く投擲。狙いは……ホワイトアルバムの目!
「……っ」
体勢を崩しながらもどうにかそのナイフを回避するホワイトアルバム。
「そんなの……っ!?」
何かを言いかけて、しかしその言葉は『舌を噛んで』中断された。その原因は……倒れこんできた白い本の角。それが真上からホワイトアルバムに直撃したのだ。
「やーい」
嘲るような笑みはキリエが敵にしか見せない表情で。それでいて挑発でも何でもなく、ただの嫌味だ。
「ナイフと見せかけて本命は本の角? 全くよくやるぜ」
それを見てネコ吉もまた笑みを浮かべるのであった。
大成功
🔵🔵🔵
上野・修介
※アドリブ、連携歓迎
「ここを乗り越えても、貴女の旅はまだ続くでしょう」
――恐れず、迷わず、侮らず
「でもどうか、諦めず進んでください」
――為すべきを定め、心を水鏡に
「この道は俺たちが開きます」
――推して参る
調息、脱力、敵を『観』る。
敵の体格・得物・構え・視線・殺気から間合いとタイミングを量る。
タクティカルペンの投擲による牽制から敵の懐に飛び込む。
そのまま至近に貼り付き、相手との体格差を利用し目隠しの役割をしつつ、肘膝による急所への至近打撃を主体に攻める。
キリエさんには死角からの奇襲で相手を崩して貰い、その隙に持てる渾身を叩き込む。
攻撃は全て自分が受け切る覚悟で。
キリエさんを傷一つ付けず送り出す。
バルメイ・シエ
共闘可。寧ろ共闘できると嬉しいです。
「キミだね、愛しのアリスを傷つける、まるで割れたティーポット」
【使用UC】を使い、祈る願いは「少女の肉」を自分の足元にテレポートさせること。相手のUCを無効化させる。あとの敵への攻撃は他の仲間に任せる。他の仲間がいない時はキリエに攻撃を促す。
「残念ながら、僕自身は他人を傷つけることが得意じゃないんだよねー。だから、僕はキミに、最大の『嫌がらせ』をしてあげるよ」
「……さあ、アリスちゃん。今が、キミの想像の使い所だ!」
●杖と拳と白い本
猟兵とキリエのコンビネーションによる一撃。猟書家『ホワイトアルバム』とてその強烈な一撃は防げず、大きく体勢を崩す。
その隙へ更に猟兵が駆けつける。これが最後の戦いと言わんばかりに。
「キミだね、愛しのアリスを傷つける、まるで割れたティーポット」
ホワイトアルバムの死角から回り込んだバルメイ・シエ(意味不明と不可思議を掛けて2で割らない・f31453)の手には【柘榴石で出来た魔法の杖】で創造したガーネットの杖。『あっちいけ』と言わんばかりに振り回せば、その一撃をホワイトアルバムが自身の血で赤く染まりかけている白い本で防ぐ。
「なんなの……」
ぶん、と相手も苛立ちとともに本で殴り掛かってくる。
その攻撃を素早く後退しながらかわして、バルメイは上野・修介(吾が拳に名は要らず・f13887)と合流する。既にキリエの前に立って、ホワイトアルバムの攻撃の射線を遮っていた修介と。
再び猟兵たち&キリエとホワイトアルバムが相対する。
お互いの動きを探るような、張り詰めた緊張感。
そんな中、ホワイトアルバムを牽制しながら、しかし視線はキリエに向けて。
「アリスちゃん、落ち着いたかい?」
バルメイがそう問いかければ、『ふんっ』とそっぽを向きながらキリエが答えて。それでも猟兵たちの戦闘を支援してきたキリエの【アリスナイト・イマジネイション】、その活性化にバルメイの言葉が『効いて』いることはキリエ自身が一番よく知っている。
そして。
「ここを乗り越えても、貴女の旅はまだ続くでしょう」
構えを崩さず、修介もまた言葉を、想いを届ける。
「でもどうか、諦めず進んでください」
アリスとして。元の世界に戻るために。
そのために『自分』は何をするか。もちろん決まっている。修介には既にその答えがある。
――恐れず、迷わず、侮らず。
呼吸を調える。
それは日常から自然と出来るように身に付けたもの。それを意識的に行えば、より深く、強く。息と気が体を巡る。
【拳は手を以て放つに非ず】。決して特殊ではないけれども修介の特別。基礎こそが最も大事である、という身体機能と動作精度を補助する術。
――為すべきを定め、心を水鏡に。
調えば後は駆けるのみ。
「この道は俺たちが開きます」
――推して参る。
言外にそう告げて。修介が地を蹴った。
修介の初動を受けて、張り詰めていた緊張感が戦闘のそれへと変化する。
「こっちは気にせずに」
バルメイがそう告げながら、キリエの側について守りの態勢。いつ何時でも『愉快な仲間』はアリスの友だ。
バルメイの言葉を受けて、修介は意識をホワイトアルバムに集中、『観』る。ホワイトアルバムの体格・得物を改めて捉え、動き・視線・苛立ち・殺気、そういったものからホワイトアルバムの間合いとタイミングを量る。
「……っ」
小さな呼気とともに、素早くタクティカルペンを投擲。タイミングの不意を打たれて回避し損ねたホワイトアルバムへ、修介が一気に距離を詰める。
「なんなの……!」
先ほどから壊れたように同じ言葉を繰り返すホワイトアルバム。そろそろアリスを食えない苛立ちが最高潮のようだ。
だからといって逃がさない。体格差と間合いの近さから決定打は打てなくとも、修介の重い肘や膝を使った急所への一撃はホワイトアルバムを確実に追い詰めていく。
至近距離を崩さず、ホワイトアルバムからキリエへの射線の悉くを潰す修介。反撃とキリエを狙った攻撃はその身で全て受ける。受け切る覚悟で以て『この間合い』にいる。
「なんなの、なんなの……!」
もう限界だった。ホワイトアルバムが次善策と取って置いた『少女の肉』を虚空から取り出す。それはこれまでにホワイトアルバムが食べたアリスの肉。そしてホワイトアルバムの力の源。
「もう食べた人には興味ないのに……あなたたちのせいだよ」
それでも食べれば力が強化される。そのために食らわんとして手を伸ばしたホワイトアルバム……の視線から少女の肉が掻き消える。
「えっ?!」
「残念ながら、僕自身は他人を傷つけることが得意じゃないんだよねー。だから、僕はキミに、最大の『嫌がらせ』をしてあげるよ」
のんびりとした、それでいてしっかりとした声はバルメイから。決して守りに徹して静観していたわけではない。彼は彼で打てる『一手』を探っていて、その一撃が今、炸裂した。
【柘榴石で出来た魔法の杖】で創り出したガーネットの杖は願いが叶う魔法の杖。
「これがあれば自由自在さ」
と無敵の力を振るえば、願いが叶う。何でもは無理だけれども、目の前で、しかも特定のモノを転移させる程度なら十分に。
バルメイによって少女の肉がホワイトアルバムの手からバルメイの足元にテレポートされる。いくら取り出しても一緒だ。だから食べることはできない。強化もできない。
ホワイトアルバムの奥の手は潰されたのだ。
だからこそ。ホワイトアルバムはアリスに、キリエに執着する。
「もういい! 今すぐその子を食べてあげる!」
アリスの絶望とかルールとかそんなものを無視して。
ホワイトアルバムが空飛ぶアリスの力を得て飛翔する。
「……さあ、アリスちゃん。今が、キミの想像の使い所だ!」
「……ありがと」
バルメイの声にキリエが小さく応える。バルメイが注意を引いてくれていたがゆえに、キリエはずっと集中していることができた。
すなわち、【アリスナイト・イマジネイション】。ホワイトアルバムの進路を塞ぐように現れた白い本がその内にホワイトアルバムを捉える!
ばちん、と明らかに痛い音がして。
そしてまるで、空飛ぶ虫を本で叩き落したがごとく、飛翔する力を失って落下するホワイトアルバムへ。
「……っ」
修介が間合いを詰める。拳を握って間合いを量り、そして『持てる渾身を叩き込む』その隙を捉える。
――キリエさんを傷一つ付けず送り出す。
その覚悟と意志を貫く。その想いの強さがそのまま拳に乗る力となる。落下地点に踏み込んだ修介の足が大地をしっかりと捉えて、一本の軸を形成する。それは足から螺旋を描くように力を辿り、伝え。足から腰、胸、そして腕へ。
「……ハッ!」
届いた力の全てを込めて、文字通りの渾身の一撃。
「?!」
その一撃はホワイトアルバムの体を叩き折らんとするほど強烈な一撃で悲鳴を上げる暇すらなく、ホワイトアルバムが木の幹に叩きつけられる。手にしていた白い本が地面に落ちて、まるでガラスのように砕ける。
「うわー、いたそー」
「そこなの?」
バルメイの言葉にキリエが戦闘態勢を解いて立ち上がる。
猟書家『ホワイトアルバム』。狂気の存在を猟兵たちとキリエが撃破した瞬間であった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
●旅は続く
「……」
キリエは自分を助けてくれた猟兵たちを見送って。先ほど自分が、というか自分が変異したオウガが暴れていた不思議の国へと踵を返す。
(借りは返しておかないと)
具体的には不思議の国が復旧するまで手伝いをして……そしてまた。
ホワイトアルバムとの邂逅は降って湧いた災難だったが、イイ事も二つほどあった。
ひとつは白い本。ホワイトアルバムのものではない。キリエが自分の記憶から創り出した、想像にして絆のカタチ。
(私はこれをシオリに渡すの)
それはキリエのアリスとしての新たな力のカタチでもあった。そして……これからの物語を綴る書物でもある。
ホワイトアルバムは言っていた。『自分がだれだか思い出せないし、この姿も本当じゃない』『だから大切な御本も真っ白だ』と。
それはきっと間違いではなくて。人生が物語とするならば記憶を失ったアリスの本はきっと真っ白なのだろう。
だからこそアリスはその記憶を取り戻す。白い本を元の『紡がれている最中の物語』に戻すために。
だから、本が白いことは決して絶望ではない。
そしてたとえ物語が取り戻せなくても。
また綴ればいいのだ、キリエとシオリがそうしてきたように。
白い本はただただ『何も描いていないキャンパス』と一緒で。それは『創り出した物語』を綴る、書き込む、記憶するものだ。キリエとシオリはそうやって『生を紡いできた』のだから。
もうひとつは、猟兵たちと出会えたこと。
彼らはキリエに言葉という現実を残していった。
あるヒーローは『キリエには白い本が結んだ絆がある』と言ってくれた。
あるケットシーは『キリエ自身の手で未来を守り、掴め』と告げた。
ある愉快な仲間は『キリエの想像は、間違いなく創造できるよ』と言ってくれた。
ある男は『旅はまだ続く』と告げて道を開いてくれた。
それが紡ぎ重なって、だからこそキリエが今ここにいる。
猟兵たちが告げてくれた事実がキリエの絶望を振り払い、希望という未来への道を切り開き、そして想像が力になることを教えてくれた。
――だから私は旅を続ける。
たとえ、この先に見つけ出すのが絶望の記憶だとしても。
(今の私なら……)
その絶望を覆せるかもしれない、と。
アリスのキリエ。彼女がこの後どのような物語(人生)を紡ぐかは、また別の話。