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春よあなたは儚くなった(作者 蜩ひかり
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#サムライエンパイア  #猟書家の侵攻  #猟書家  #『刀狩』  #妖剣士  #受付終了 


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 雪の降る音を深々と書くが、胸の裡で叫んでやまぬ声すらも、この冷ややかな真白には黙せよと諭されるのみだと、私は初めて知り得たのだった。風雪は村を囲む林にかき消え、ここにはもう、誰もいない。
 鉄塊めいて怠さを増す躰は別人のそれのように重い。己の死骸を引き摺るようにして、血腥い家から外へ這い出る。土はすべて白い雪に覆い隠されていた。雪の上に、唯ひとつ足跡が残されている。私はその終点を知っている。
 なにもなかった。
 そう、手繰った糸を切り離して雪に埋めてしまいたいのに、ちりばめられた紅が私を拘束して離さない。

 足跡は村の丘に続いている。丘の上に一本だけ立っている大きな桜は、老いた枝に哀しくも雪化粧を纏い、共に強く在ろうと誓ったあの日と変わらず、私『達』を見ていた。
 大樹の根元で、娘がひとり、仰向けに倒れている。白い雪。白に咲いた、花のような赤。その頬にも、唇にも、生気はひとかけらも残っていない。
「弥重、」
 気づけば私は刀を握っていた。――いや、はじめから持ってきていたのだろう。
 思い出す。私はここで、弥重を斬った。
 ともに切磋琢磨した、かけがえのない友を斬った。
 彼女のみで留まればまだ良かったろう。両親も、年老いた祖父母も、隣家の子供も家畜も、ひとり一匹残さずに斬ってしまった。
 なにもなかった。
 そうしてまた、ふりだしに戻る。父の遺体が、私の行為を否定しようもなく土間に転がっていた。

●scene
 今朝も弥重と稽古の約束をしていた。さめざめと未練たらしく降る雪が、私の刀にばかり纏わりつくものだから、些か面妖であると考えてはいた。
 刹那、全身の血が凍ったように心が白んで、私は疑いなく弥重の胸を突いた。白い心は透明で尖っていた。弥重には私の凶弾を防ぎようがなかった。
 弥重の胸に穴が空いたときも、どうとも思わなかったのを覚えている。人を斬るのも雉を撃ち殺すのとなにも変わりない、『これが正しい』という肯定感すらあった。
 ああ、そうだ、こうに違いないと、やけに合点がいって、村中の人々を撫で斬りにした。そうして最後に――何故か、あの咲いてもおらぬ桜を眺めに行ったのだ。そこでただ茫としていた。
 背中から胸にかけ、冷たい杭のような塊が私の躰を貫通していった。
 死に損なった弥重が最期の力を振り絞り、私を斃さんと差し向けた刃であった。

「……芳野、どうして、」
「どうして……? ……ああ。ああ、何故私は、」
「――私達は呪われてなんかいない!!」

 凍った心に刻みこまれた爪痕が疼いた。
 爪よりもっと鋭利な刃物で、幾重にも斬りつけられてきた傷だった。
 私はたまらず、息も絶え絶えの弥重を斬り捨てた。確かに隣を歩んできた娘の笑みはすっかり消え失せて、私の胸に空いた穴から、血の代わりにどす黒い影が漏れた。

 因果はわからぬ。ただ己が言い伝えの通り怪物と化したことを、私は初めて知り得たのだった。
 世界に白があふれた。弥重の死体だけが、消えない。

●warning
 その山奥の寒村に暮らす羅刹達は『呪われた一族』である。
 なんでも先祖が狂って焼き討ちに加担しただの、妖に憑かれ虐殺を繰り返しただの。信憑性の乏しい由来には事欠かず、自ら外部との交流を断ち、閉鎖的な社会で生きてきた者達だ。
 当の本人達が『呪い』なんてものを信じているのが問題だと、鵜飼・章(シュレディンガーの鵺・f03255)は鴉に餌を撒きながら言った。彼はオカルトの類には厳しいらしい。

「猟書家の『刀狩』が討伐されたのは知っているかな。あの子の遺志を継ぐオブリビオンの仕業みたいだよ」
 芳野という妖剣士の男は、村の長の子息であったらしい。代々一族に受け継がれてきた妖刀『雪代』を先日拝領したばかりであったが、その矢先に悲劇は起きた。
 妖刀に憑いた黒幕に操られ、一族を根絶やしにしてしまった芳野は絶望し、餓蒐という名の鬼と化した。餓蒐は殺した者達の屍を取りこみ、更なる力を得ようと動いている。ただ、弥重という娘の遺体だけを、如何しても喰らうことができずにいるようだった。
「芳野さんの手から『雪代』を取り落とさせれば、オブリビオンの洗脳は解けるし、黒幕も出てくる。……と、口で言うのは簡単だけど、注意してね」

 それは、この地が呪われているから。
 等という眉唾な話ではなく。
「問題の本質はもっとシンプルだよ。妖剣士はとても強いんだ」


蜩ひかり
●ご連絡
 タグが【プレイング受付中】となっている時のみプレイング受付中です。
 それ以外の時はほぼ流れますので、予めご了承願います。
 当方の都合により再送になる可能性もございます。
 恐れ入りますがご承知置きください。

 2章は1章で採用済の方のみ受付の予定です。
 ご縁がございましたらよろしくお願いいたします。

●プレイングボーナス……正気に返った妖剣士と共に戰う(第2章)
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第1章 ボス戦 『餓蒐』

POW ●屍山脈脈
全身を【掴み攻撃を行う数多の腕】で覆い、自身が敵から受けた【ダメージや、向けられた感情】に比例した戦闘力増強と、生命力吸収能力を得る。
SPD ●定離斬
【刀を使った連撃と、それに伴う衝撃波】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
WIZ ●凶夢の呪い
【右目に嵌まった鳴らない鈴】を向けた対象に、【動けなくなる程の深い悪夢】でダメージを与える。命中率が高い。
👑11 🔵🔵🔵🔵🔵🔵

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は藏重・力子です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●1
 土間に転がしてあった父の遺体を、異形の腕がずるりと呑み込んだ時、胸のすく思いを覚えた。誰よりも村の因習に固執していた父は、七つの時『お外にいきたい』と口にした弥重を鬼の形相で殴り、三日三晩門前に正座させ晒し者にした。弥重の両親は、愚かな娘をただ蔑んだ目で眺めるのみであった。
 家族であれば無条件に愛されるなど、勘違いも甚だしい。
 私も長子として、いずれこの『雪代』を継ぐためだけの触媒だった。
 父は私を愛していなかった。
 私も父を愛してはいなかった。

 弥重は好奇心の旺盛な娘で、度々狩りに出ると嘘をついては、村の者には内密で私を連れて、城下へ繰り出した。彼女は学習はしたが、反省はしなかった。弥重に対する度を過ぎた折檻は、外界にふれた私達に、里の異常性を伝えただけに過ぎなかった。
「いい、いつか芳野があの呪われた『雪代』を守る番になったら、あれを持って出奔するのよ。それで何も起こらなければ、父上や母上だって考え直してくれる筈だわ」
 ……その『いつか』が来た時。
 郷里からの追手にむざむざと斬られる訳にもいくまい。村を守る為と嘘をつき、私達は剣術の稽古に励んだ。集合場所は決まってこの桜の下だった。
 ふたりで背丈を比べあって刻んだ傷が、激しい打ち合いで刻まれた傷が、木の幹をよく観察すれば今でも見える。
 背比べはいつからしなくなったのだろう。私達はもう二十歳になっていた。

 そして、妖刀『雪代』は。……私は。
 弥重を斬った。斬ってしまった。
 何故斬れたのかが未だにわからない。
 弥重は……、

 弥重は、そもそも私より優れた妖剣士であった。
 長い黒髪が、血を吸った雪上に広がっている。
 彼女の強き力と真っ直ぐな想いさえ得られれば、この新たな躰も一層自由に使えよう。
 それなのに。ただ、それだけなのに。
 なにゆえ、この手は届かないのか。

●補足
・芳野は丘の上の桜の木の下にいます。雪が積もっていますが、見晴らしのよい開けた場所です。
・村にあるのは弥重の死体のみです。他はすべて餓蒐に取り込まれました。
・一章終了まで芳野が『雪代』を手放すことはありません(腕を狙われる等してもオブリビオンが離させません)。
・洗脳は説得によって解除されるものでもありません。
・基本的には普通に戦闘して頂ければOKです。各自有効と思われる行動をご自由にお取りください。
逢坂・理彦
『妖刀』と言うのはそもそも好まれない。
振るうたびに命を削る刀だからね。
他人の命だけじゃない自分の命さえ。
だから扱いに慎重になる。
堅苦しい掟は若い子には苦痛だろうが。

自分も妖刀を扱う身。
自身の『妖刀』には愛着はそれなりにあるし同じ『妖刀使い』を利用されるのは腹立たしい。
だからこそー

使う刀は退魔刀・翠月【破魔】を纏いて撃ち合いに望む培ってきた【戦闘知識】で攻撃を【見切り】つつ【早業】で攻撃

距離をとってUC【狐火・椿】使用。
敵UCに過去の里の壊滅と今の大事な人の死を見るが自身を【鼓舞】し乗り切る


鎹・たから
いけません、それ以上は
あなたが泣いているから
たからはあなたを、すくいます

遠くから手裏剣二振りを時間差で放ち
弾かれるのは承知の上
その瞬間、たからは彼の前から姿を消します
【2回攻撃、早業、忍び足

素早く駆けて懐に飛び込みます
例え体を掴まれたとしても
本人の肉体に辿り着けば問題ありません
これ位、痛くありません
【ダッシュ、残像

雪が赤く染まっても
もう、芳野の傍に誰もいなくても
…いいえ
居るはずです
心に、彼女が

あなたを取り戻せるなら
たからは諦めたくありません

斬られようと殴られようと
彼の体に魔鍵を突き刺す

目を覚ましてください!
あなたが弥重を弔わなければ
誰が弥重を想ってやれるのですか!
【祈り、暗殺、優しさ


●2
 そもそも好まれないのだ、『妖刀』という曰くのついたものは。
 妖剣士たる逢坂・理彦(守護者たる狐・f01492)は、身をもって理解していた。妖刀『朱月丸』を抜けば、この凶刃は誰だろうが斬り捨ててしまうに違いない。それどころか、主である理彦のいのちすら貪欲に貪るだろう。
 ――狐の命は長すぎる。いつか、誰かを置いて歩きだしてしまうかもしれぬ程に。
 それでも、軽々しく抜く訳にはいかなかった。理彦は指にはめた翡翠の指輪を一瞥すると、朱月丸ではなく、『翠月』と銘打たれた退魔の刀にその手を添える。
「おじさんはもう慣れちゃったけどさ。堅苦しい掟は若い子には苦痛なんだろうね」
「そういうものですか」
 そう、口先では若干の自嘲を交えながら。
 円熟した視線の先は、まさに若き力へ。今、ともに未来を拓こうと動く宝へ注がれていた。

 ※

 雪が飛んできた。
 芳野は雪の結晶を目にしたことがなかったが、『こういう形をしているらしい』という知識はあった。村に代々伝わる古文書を通し、厭というほど見せられた形状とほぼ同じだった。そして直感的に思った。これに触れてはいけない、と。
 操られるように、妖刀『雪代』を横薙ぎに振るう。結晶らしきものは硬質な金属音をたてて弾かれ、雪の上に刺さり、そのまま動かなくなった。これは雪などではない。暗器だ、と芳野は気づく。
「……忍びか。小細工は通じぬぞ。姿を見せよ」
 誰かを打ち損じたに違いないと思い、全方面に殺気を向ける。然して、手裏剣の主は姿を現した。
 同じように角を生やしてはいるものの、記憶にない顔だった。些か風変わりな装束の少女である。しかし、その眸と角に刻まれたうつくしい雪の紋様が、どうしようもなく芳野の心をざわつかせた。

「いけません、それ以上は。あなたが泣いているから」
「私が、泣いて……?」
 芳野は己の目許をぬぐった。乾いた肌に、冷え切った指の冷たさが凍みた。

「戯言を言う。この殺戮は全て私の意志によるものだ。悲しみはない」
「鎹・たから(雪氣硝・f01148)です。たからはあなたを、すくいます」
 まっすぐに立った少女は、一方的に名乗りをあげると、雪の華を模した手裏剣を再度投擲した。
 弧を描いて飛ぶ結晶を弾こうと、芳野が動いたタイミングで、反対側からもう一投。小癪な、と声がして、返す刀でそちらも退けられる。
 距離を詰めようと芳野が一歩踏みだした、その瞬間。
「……消えた?」
 視線の先に居た筈のたからが消えていた。いや……速すぎて視えなかった、が正しい。芳野の眼が微かにたからの残像を捉えた頃には、既に彼女は懐の内に入っていた。
「ぐ……っ!」
 腹部に強い衝撃を感じ、芳野はたまらず仰向けに倒れこむ。腰を落とし、直線的に突っこんできたたからの勢いを受けきれなかった。彼女は瞬きもせずに芳野を見下ろしたまま、なにかを構えた。
 ――ソレヲ受ケルナ。
 『雪代』がおぞましい声を発する。芳野が『これはいけないものだ』と認識した瞬間、全身から血で染まった影の腕が数多突きだした。影の腕はたからの腕に、脚に、首にからみつき、華奢な身体をへし折ろうと激しく絞めつけてくる。
 ……この腕は、どうやら向けられた感情に比例して力を増すようだと、芳野も気づいていた。
 だが。だとしたら。いったい何なのか。
「これ位、痛くありません」
 顔色ひとつ変えず、ただ己に得体のしれない武器を突き刺そうと、一心に向かってくるこの少女を動かしているものは。
 まだたからの想いを知らぬ芳野は、彼女を脅威だと感じた。同時に、この娘も取りこんでやろうとも思った。この強さは、弥重。いとしくも忌々しい、おまえに似ている。

「よいしょ、っと。ちょっと通るよ。ごめんね、もう一人いるんだ」
 澄んだ翠色のひかりが、やわらかな太刀筋とは裏腹な冴えをもって、たからを束縛する影の腕を断ち斬った。完全に意表を突かれた芳野は、驚いて目を見開く。
 一見するとどうにもぼんやりした印象の、中年の狐がそこにいた。こちらも芳野には見覚えがない。桜の裏に隠れて死角から接近していた理彦が、長年の戦闘経験で培った勝負勘を活かし、芳野が全く周りを見なくなったタイミングで攻撃を仕掛けたのだった。
「たからちゃん大丈夫? 怪我はない?」
「あとすこしで骨が折れていたかもしれません。でも大丈夫です。たからは負けません」
「無理はしないでねー。さて……若い子達が頑張ってるんだ。おじさんもちょっと真面目にいくよ」
 芳野は慌てて立ち上がり、理彦へ咄嗟の一突きを繰り出したが、単純な攻撃は容易く見切られている。理彦は上体を半歩ずらして突きを避け、まだ形を整えていない芳野へ打ちかかる。
「……!」
 芳野は間一髪、翠月の刀身を自らの妖刀で受けとめた。刃がかち合った瞬間、ざわりと胸を灼くような感覚が理彦を襲った。この『雪代』には確かに、何か良からぬものが宿っている。そう思わせるに充分な手応えがあった。
 そして、その『何か』……オブリビオンが、翠月の宿した破魔の力へ、激しく抵抗しているのを感じる。

『邪魔をしないでッ!!』

 芳野のものではない声が響いたのは一瞬。青年がぐるりと白目を剥き、今までとは比較にならない速度で乱れ斬りを放ってきた。理彦は斬撃のひとつひとつを落ち着いていなしながら、オブリビオンの邪気を少しずつ削ぎ落としていく。
 ――この子は、この刀をどう思ってるんだろうねぇ。
 若い二人にとって因習の象徴であったこの『雪代』は、この事件を通して、更に忌まわしきものになってしまうのだろうか。
 それが妖刀の宿命であろうと、自身の『朱月丸』にそれなりに愛着を持つ身としては、少々寂しいものがある。同じ妖刀使いをこのように利用され、腹立たしい思いもある。
 だからこそ――『刀狩』の残滓は、見過ごす訳にはいかない。

 打ち合いから退いた理彦の周囲を、無数の狐火が包んだ。雪景色を彩る椿のかたちをした炎は、はらはらと戦場へ散っていく。芳野の右目に嵌まった鳴らない鈴が、理彦をぎろりと睨んだ。
 理彦は思わず立ち尽くす。
 芳野の足元に寝かされていた弥重の黒髪が、見慣れた灰色に見えたから。
「――ちゃん!」
 理彦は大切なひとの名を叫んだ。只事でないその様子に、幾分数の減った腕と格闘していたたからも気を向ける。
(幻影を見せる類のユーベルコードですか)
 たからの眸にうつるのは変わらぬ寒村の風景だ。けれど、理彦は異なるものを見ていた。とうに壊滅した村。守護者たる己が、まさしく守れなかった村。己を責め、二度と幸福など望むまいと科していた頃の感情が、理彦の歩みを鈍らせる。
 ――ちゃんは……あの時、里の皆と一緒に死んだ?
 自分が殺めてしまった? いや、それは目の前の若者の話だった筈だ。これは只の幻だと、理彦は己に言い聞かせようとする。たからは渾身の念力を放出し、纏わりつく影の腕を振りほどいた。今度は、こちらが助けになる番だ。

「雪が赤く染まっても。もう、芳野の傍に誰もいなくても……いいえ。居るはずです」
 心に、彼女が。
 その言葉を口にした瞬間、『何か』から凄まじい憎悪を向けられた気がした。
 たからの接近を阻もうと掴みかかる腕を引き摺りながら、幾度となく殴られ痣をつくりながら、それでも前進を続ける。
「貴様……我らには無関係だろう。何故諦めぬ!」
「あなたを取り戻せるなら、たからは諦めたくありません!」
 ――届いた。
 雪を象った魔鍵が芳野の胸に刺さる。回せば、かちりと音がした。ああ、やはり彼はかなしんでいるのだ、という感触があった。ひとは誰もが善良であり、しあわせであるべきだ。その切実な祈りは、ただ、あたたかな雪解けだけを願っている。

「目を覚ましてください! あなたが弥重を弔わなければ、誰が弥重を想ってやれるのですか!」
 そうだ。
 目を覚ませ――たからの声は、悪夢に蝕まれる理彦にも届いた。茶色の耳がひくり、と動く。
 己の心を震わせ、斃れている人物をしっかりと直視する。あれは……違う。弥重という娘の遺体だ。悪夢に打ち勝った理彦は、漂っていた狐火を直ちに一点へ集める。
「伝えてください。あなたはいま、悲しくて泣いているのですと。芳野のこころに、ひかりを。灯してあげてください」
「うん。たからちゃんの声、おじさんにも届いたよ。一瞬熱くなるけど、勘弁してね」
「大丈夫です。たからは我慢できます」
 芳野を支配する『何か』はその時、必死の抵抗を試みた。己の頭上に――芳野とたからの真上に、巨大な炎の椿が咲こうとしている。何故だ。まるで施錠されたように、全身がぴくりとも動かない。

 おのれ、と恨みがましい声が響くとともに、椿は落ちた。
 迸る炎が鬼を焼き、血を焼き、影の腕を焼きつくす。たちまち一帯を覆った紅色のなかで、桜と横たわる弥重のからだだけが何者にも侵されず、ただ、静かにそこに在った。
大成功 🔵🔵🔵🔵🔵🔵