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無垢の面は笑わない

#UDCアース

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#UDCアース


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●善き面
 お子様との会話、しつけ等で、お悩みではありませんか?
 いじめ、不登校、引きこもり、暴力……。
 難しい現代社会の中で、子供の成長は早いもの。少し目を離した隙に知らない顔を見せ、我が子のことがわからない、子供の間違いを正しきれない、という保護者様も多いかと思います。
 人は常に己の『相』と共に生きていきます。未発達の子供の顔に『悪しき相』を映してしまえば、在り方を歪めされた心は歪み、荒んでしまうでしょう。逆に 正しき『善き相』を顔に宿すことで、その者本来の『善性』を浮かび上がらせ、心優しい素直なお子様へと成長していくことでしょう。
 我が『全相の会』では、そんな悩めるご家庭に祝福を授け、各々が本来もつ『善き相』を映せるお手伝いをさせて頂きます。
 迷える人々の顔に、どうか正しき道を示すことができますように。

●グリモアベースにて
「――なんて、全て嘘、ですよ」
 柔和な笑顔を浮かべた女性が映ったチラシを机に置きながら、真多々来・センリ(手繰る者・f20118)は溜息をついた。
「『全相の会』、そう名乗る団体は郊外の住宅地からやや外れた場所を拠点としているそうです。子供たちの成長をより良い方向へ導く、とのことで、主に幼稚園から高校生の子供とその保護者……とりわけ裕福な家庭を対象として活動を行なっているみたいですね」
 さらにいえばその会へと足を運ぶのは、子供が何かしら問題を抱えた家庭であるらしい。
「不登校や非行、いじめの被害者から加害者まで。何を問題とするか、なんて人それぞれでしょうけれど、いずれも親子の仲があまり上手くいっていない家庭が多いみたいですね」
 それが、この団体が行う『祝福』とやらを受けることで、嘘のように子供が落ち着きを取り戻すという。
「ええ、どの子も嘘みたいに良い子になるそうですよ……大人しくて親の言うことをよく聞く、従順な、お人形さんのような『良い子』に」
 逆らわず、親の言うことを何でも聞く絵にかいたような『良い子』――裏を返せばそれは自我を持たない操り人形に過ぎない。それでも、そんな子供を求めてくる人たちが一定数いるというのだから、嫌な話ではあるのだけれど。
「ご察しの通り、この団体にはUDCが絡んでいます」
 『全相の会』の正体。それは、とあるUDCを神として長きにわたり信奉してきた一族なのだという。彼らはUDCを奉ることで恩恵を受け、繁栄を続けてきた。
 その代償に、定期的に人間を生贄として差し出すことで。
「UDCは直接生贄の命を奪うことはないみたいです。現に、『祝福』を受けた子供達、および保護者たちの殆どは何事もなく帰還しています。……あくまで、表面上は」
 ならば内面はどうか。
「先程も言った通り、『祝福』を受けた人達は皆別人のように変わってしまいます。それがUDCが求めたものであり、そしてUDCがもたらす恩恵なのでしょう。そうして彼らは求める『良い子』を創り出すことで有力者との繋がりを得て、人知れず力をつけてきました」
 個を持たず、自我を持たず。ただ言われるがままに従順に動き、望まれた通りの道を歩く。
 ――だがそれは、本当に生きていると言えるのだろうか?
「個々の家庭に口出すつもりはありません。けれど……そんな弱みに付け込んだUDCを放っておく訳にはいきませんよね」
 故に、『全相の会』が催す『祝福』のイベントに紛れ、UDCを倒してきて欲しいとセンリは依頼する。
「『祝福』の日への参加手続きは済ませておきます。対象が子供ということですから、子供か、その保護者という体で言っていただいた方が自然でしょうね。UDCの力を過信してか、団体の人々の警戒心は薄い様ですので、取材やら見学と言い張って参加してもなんとかなると思います」
 始めに行われるのは一つの『規則』に乗っ取った上で行うオリエンテーションだという。
「やることは簡単な遊びです。鬼ごっことか、カルタとか、昔を懐かしむ遊び、みたいな感じでしょうか。その行為自体に特別な意味はありません。ただ一つ、その場の人々すべてに課された『規則』を除けば」
 その規則とは――まず一つ、『参加者は全員、必ず配られた仮面を被ること』。
 これは『祝福』に参加する以上、子供も、保護者も、見学者も全員例外なく被ることが強制されるらしい。
 そしてその上で二つ目――『参加中は名前を呼ぶことを許さず、仮面に基づいた渾名で呼び合うこと。
 例えば狐の面を被っていたら『狐の君』、花が描かれた模様の仮面なら花の名前で呼ばれることが多いらしい。
「このことに何の意味があるかはわかりません。が、逆らえば問答無用で追い出されるようなので、ここは大人しく従うのが良いと思います」
 オリエンテーションの後は、順番に奥の部屋に通されて『祝福』を授かる儀式が始まる。
「儀式が始まると、UDCの眷属たちが現れるので戦い、これを倒してください。戦闘が始まっても、儀式が中止されることはありません。UDCを信奉する人々はそれが負けることはないと思っていますから」
 ただし、儀式の生贄には何も知らない一般人もいるだろう。『全相の会』の人々は彼らだけでも先に『祝福』を行なってしまおうとするので、これの対策も必要になるかもしれない。
「眷属を倒しきれば、『全相の会』を統べるUDCが現れます。それは長きにわたり主神として奉られ、贄を喰らい強大な力をつけています。決して油断しないようにして下さい」
 一通りの説明を終えるとセンリは一度息をつく。
「殆どの人は生きて返してはいると言っても、信者の人々は道を躊躇いなく外れた人々です。当然、探せば罪はいくらでも浮かび上がってくることでしょう」
 事件の解決後、彼らに対してはUDC職員達が手を回し、然るべき法の裁きを受けさせる予定だという。
「ですから、私達がすべきことは事件の元凶を断つ事です。これ以上、被害者を増やさないために」
 宜しくお願いします、とセンリは最後に頭を下げると、魔導書からクラブのグリモアを呼び出し、転送を開始するのであった。


天雨酒
 仮面も能面もキツネとかの面も結構好きだったりします。
 最近は猫のお面もあって可愛いですよね。
 お久しぶりにUCDアースで邪神との戦闘のシナリオになります。
 一応純戦闘系の予定となっております。

 下記補足になります。

●第一章
 かごめかごめ。
 それぞれ会場で渡された『面』を被り、参加者や団体の方々と遊んでください。遊びながら一緒に参加した一般人や、団体の人と話す事も可能です。

 仮面は能面やキツネ面等、和物が多く、似た物はあれど全て異なる意匠になっております。会場では名前を呼ぶことは禁じられ、面にちなんだ渾名で呼ばれることになります。
 ご希望があればプレングにて仮面、呼ばれる渾名をご指定下さい。
 無い場合は直感にて決めていきます。

●第二章
 あなたはだぁれ。
 儀式が行われる中で、UDCの眷属との戦闘になります。
 放っておくと一緒に参加している一般人から『祝福』されていきますので、何かしらの対応をお願いします。
 詳細は断章にてご案内致します。

●第三章
 わたしは■■。
 ボス戦です。主神とされるUDCとの戦いになります。
 これを討ち倒し、『全相の会』を潰してください。
 こちらも断章にて詳細をご案内します。

●プレイング受付について
 毎章、断章を投下後からのプレイング受付となります。
 詳しい日時につきましてはマスターページ、Twitterにて告知していきますのでお手数ですがそちらをご確認お願いします。

 それでは宜しくお願いします。
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第1章 日常 『「祝祭」への参加』

POW   :    奇妙な食事を食べたり、奇怪な祈りのポーズを鍛錬する等、積極的に順応する

SPD   :    周囲の参加者の言動を注意して観察し、それを模倣する事で怪しまれずに過ごす

WIZ   :    注意深く会話を重ねる事で、他の参加者と親交を深めると共に、情報収集をする

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 渡された案内に従い、駅からバスへと乗り継いでたどり着いた先は屋敷と言っても過言ではないほどの建物だった。白を基調とした建物で、大きさは公民館ほどもあるだろうか。
「ようこそ、『祝福』をご希望の方ですね」
 入り口に看板らしきものはなかったが、インターホンを鳴らすと若い女性と思しき人物はそう快く迎え入れる。
 若い女性と判じることができたのはその声が高いものだったから。
 思しき、と断定できなかったのは、その顔が『翁』の覆われており、見ることが叶わなかったからだ。
「どうぞこちらへ。受付と同時に、皆様にはお好きな面を選び、付けて頂きます。『祝福』が終わるまで、これを外すことは決してしないようにしてください」
 中へと案内されると、女性が示したのは机一面に並んだ面の数々。縁日で見かけるような狐や猫、動物を模したものから、能楽や狂言で用いられる面によく似たものである。西洋のものもいくつかはあるようだが、全体的に見れば東洋のものが多いようだ。
「また、面をつけている間は、たとえ知り合い同士で合っても決して本名で呼び合わないようにしてください。『祝福』はそれまでの悪しき面を取り除き、無垢へと還った魂へ授けるもの。儀式までのオリエンテーションはそれまでの禊のようなものです。決して、他の方の準備を邪魔してはいけませんよ」
 そのように説明し、猟兵達が思い思いに面を手に取るのを見届けて、『翁』の女性は廊下奥の大きな扉を開いた。


 扉の先は、展示会などに使われるような大広間であった。すでに中には数人の参加者がおり、いくつかのグループに分かれて遊んでいる。
 参加しているのは年も服装もバラバラの子供たちとその保護者と思われる者。行っているのは――。
「かーごーめかごめー……♪」
「もういいかい」「まぁだだよ」
 現代では久しく聞かなくなった懐かしさを感じるような遊びの数々。広い空間を外に見立てて行うものから、カルタやおはじきなどお屋内で遊ぶものまで種類は豊富なようだった。
 もちろん、すでに遊びを始めているものたちは全員渡された面をつけている。また、部屋の壁際にあ団体の職員と思しき人たちが立ち、その様子を監視していた。彼らももちろん、面をつけて、だ。何も知らないものから見ればそれは異様な光景と思えるかも知れない。
「ねぇ、そこの、窓際のあなた」
 と、職員の一人が、どの遊びにも加わらず、所在なさげにしている中学生程の少年に声をかける。
「え、ぼ、僕……?」
 声をかけられた少年の肩が跳ねる。彼は狐に紫陽花の意匠が入った面を被っているようだった。その態度からでも見るからに気弱そうで、どうやら遊びの集団に馴染めずにいたようだった。
「こ、こういうの、苦手で……あの、見学って形じゃ――」
「駄目ですよ――『紫陽花狐の君』。皆さんと共に、禊を終えましょう」
 職員がそう、彼を呼称した瞬間。
「――」
 少年の言葉が、動きが止まる。そしてだらりと両腕を下げ、無言でカルタ遊びの集団へと入っていった。
 一連の流れを見届けて、猟兵たちは確信する。この空間は、何かがおかしい、と。
 いかなる邪神の力か、彼らの敷く規則がそうさせているのか。とにかくこの空間は、何かが異常だった。
 その間も、案内役の女性は何事もなかったかのように説明を続けていく。
「儀式が始まるまで、ここでお好きに遊んでいてください。人数が足りなければ私たちも参加致しましょう」
 それでは、善き面を授かりますように。最後にそう言い残し、入り口へと踵を返すのであった。
 
 問題の邪神が出てくるのは先の説明にあった通り、本格的に儀式が始まった後になる。それまでの間、猟兵達は団体の職員に怪しまずにこの場に紛れ込まなければならない。
 一般人ならとも知れず、猟兵達の強靭な精神力なら、先ほど見た光景の様に渾名で呼ばれても自失することはないだろう。
 純粋に遊びに紛れ、その時を伺うか。それとも職員や子供達と語らい、情報を得るか。行動は自由だ。
 猟兵たちはそれぞれ選んだ面を被り、部屋の中へと入ってくのであった。
御前・梨
◎ (仮面、渾名お任せ)

前線に異動させれて最初の任務が潜入調査すか…まあ、いきなり戦わさせられるよりはマシすかね。

…面を被るのも得意すしな

保護者として潜入、って言いたい所すけど、…まあこんなナリじゃ怪しまれるわな。 ほら、俺ってまだまだわかいですし??…若いよね??

だからまあ、怪しまれたら

…え?子を持つにはお若い?ははは、いや、どーも、童顔ってやつでして、これでも結構歳、いってるんすよ?あははは…

と演技で誤魔化して潜入


オリエンテーションが始まったら大人しくその班での遊びに参加しますかね

…で、まあこれは本当なんすけどね?

俺ってこういう遊びした事ないんすよ。だからまー、遊び方教わって親しくの方向で



●かくすものは
 渡された面を手の中で遊ばせながら、御前・梨(後方への再異動希望のエージェント・f31839)は目の前の扉を見上げ溜息をついた。
「前線に異動されて最初の任務が潜入調査すか……」
 まぁ、着任していきなり戦わされる、なんて想定よりはずっとマシではあるのだが。
 それに、元々UCD組織内の後方担当をしていたことを思えばこの手の仕事は業務の延長……と思えないこともない。きっと自分はまだ運が良い方なのだろうと、梨は己を納得させて面を被る。
 好きも嫌いも無いのだから適当で、と何気なくとったそれは、何故か若い女性の面だった。
 一般的に能面と言われると真っ先に浮かび上がるような、白く塗られた肌に切れ長の目と開かれた口が掘られた面。美しいと言い切れない不気味さがあるのは、目を暗い金で彩られているからだろうか。職員に名前を聞いたところ、『泥眼』と呼ばれるものらしい。
「それでは『橋の君』、どうぞ善い時間をお過ごしくださいませ」
 何故自分がその面を選んだのか、何故職員がその名で呼ぶのか。理由はてんで分からなかったけれど。
(……まぁ、面を被るのも得意すしな)
 元より、御前・梨という人物さえ似たようなものである。今更一つや二つ、何かを被ることなど苦ではない。
 狭くなった視界の中で改めて扉を、その先を見て、梨は『祝福』の参加者として歩みを進めるのであった。
 
 
 肩書は一応、子供の保護者。子供とは別行動をとっている、という設定だが、顔を隠しているとはいえ、梨はまだ30も行かない若者だ。些か年齢が若すぎるだろうか。
 多分、きっと、この年頃はまだ過程をもっている男性も少ない筈だし、多分。
「あら、貴方……」
 そう懸念しているところに、他の保護者と思われる女性が話しかけてきてどきりとする。
「いや、ははは。子供と一緒に来る予定だったんですが避けられてしまって……」
 咄嗟に聞かれる前に先手を打つように事情を説明する戦法をとる。これできっと違和感はない筈だ。
「そうなの。その……そんなお子様がいるようには見えなかったから」
「え? そう見えますか? ははは、いやどーも、童顔ってやつでして……」
 顎に手を当て見上げてくる女性に内心で冷や汗をかきながら、あくまで表面上は困ったような声色で女性に返答する。
 本音を言えば面を付けていて童顔も何もないだろうけれど。そもそもつけてるのは女性の面だったりするけれど。まぁそこは例えというか、なんというか。
 すると女性は何やら気付いてしまった、というように息を呑み、梨の肩に手を置いて深く頷いた。
「いやあの、こう見えて結構歳、いってるんす……よ?」
「……大丈夫よ、そういう方は他にも一杯いるもの」
 何やら勝手に納得したように言って、梨をトランプの準備をしている集団へ招き入れる。
 ……年を誤魔化したことがばれたのだろうか。
 いや、うん。実年齢は確かにまだ、若い、だから偽った方が自然の筈だ。
 ……若いよね? 子供持つ歳じゃないよね?
 そんな潜入とは無関係の一抹の不安を抱え、梨は大人しく遊びに混ざりに行くのだった。
 
 
 一度遊びが始まってしまえば、あとはされるがままに時間は進む。
「じゃあ次は、大富豪をしようか」
「大富豪……ってなんすか」
「お兄さん知らないの?」
「俺ってこういう遊びした事ないんすよ。教えてもらっていいすか?」
 それは、『被り物』の多い御前・梨の中では数少ない本当の事。
 自分より年下の相手のも見栄を張ることなく頼めば、年も顔もわからない彼らは遠慮なく梨にあれやこれやと説明やら助言をしていく。
 勝って、負けて。引っ掛かって、引っ掛けて。ゲームを続けていく内に自然とその距離は縮まるもので。梨は参加者と親睦を深めつつ、賑わしくも穏やかな時間を過ごすのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

外道・紫
ふむ、人を従順にする宗教団体か
従順にするだけなら、手は思いつくが……まぁ、外科的なことでは無いのだろう
お手並み拝見といこうではないか

……お、そのウサギの面を戴こうか
私はそれが好きなのでね

さて、遊ぶとの事だが……そうだな、鬼ごっこでも隠れんぼでもやってやるつもりだが、話はし辛いな
あやとりはやってるだろうか?あれなら少しは……と、ちゃんとそれが出来る『手』にはしておくぞ

さてさて、次はどう取ってみようかね……と子供と遊びながら、話をしていこうか
親からはどう言われて、ここにきたのかね?
ただの興味だ、私にも子供が居るのでね(※外道に子供は居ない)

……君らのような個性は大事だと思うが、親はそう思ったのか



●ゆかり
 次々と面をとっていく人混みの中に兎が一匹。
「ふむ、人を従順にする宗教団体か……」
 ボロボロのウサギの着ぐるみに身を包んだ外道・紫(きぐるみにつつまれたきょうき・f24382)は、その方法について思考する。
「従順にするだけなら、手は思い付くが……」
 方法自体はいくつかある。肉体的、精神的、その手段は多岐に渡るが、処置の過程も含めて周りの者達に一切気取られず、継続的に、となるとある程度方法は絞られるだろう。
「……まぁ、今回は外科的なことでは無いのだろうよ」
 そう結論付け、一度思考を止めた。紫の予測が正しければ、先は闇医者である紫の範疇からは外れてしまうだろうから。
 ……まぁ別に専門外だから興味が無い、という訳はないのだけど。
「どうぞ、お好きな面を。深く考えず、己の心に従えば自然と手が伸びる筈ですわ」
 そう頭の中を切り替えたところで丁度良く、面を選ぶ順番が回ってきた。
 紫は並べられた面の数々を眺める。すると彼女の言葉の通りか偶然か、すぐにこれだ、と紫は手を伸ばす。
「……お、そのウサギの面を戴こうか。私はそれが好きでね」
 兎を模した着ぐるみの手が持ったそれは、紫の恰好とは趣が異なる東洋風の兎の面。着ぐるみの頭部の代わりにそれを被り、紫は室内へと入る。
 では、お手並み拝見と行こうではないか。
 孤の形を描いた口元を、兎の面の影に隠しながら。
 
 
 自由な時間となった紫は早速何かを探すように辺りを見回す。
 できるのなら、少しでも子供達と話をしてみたかった。
 別に鬼ごっこでも隠れ鬼でもやれと言われればやってやるつもりではあったが、それでは会話をする暇など殆ど無いだろう。
 もう少し距離が近く、談笑しながらできることは無いと考え、紫は一つの遊びを思いつく。目当てのものはどうやらここには無いらしい。そこで監視をしている職員に一つのものを依頼する。
 目的のものはすぐに渡された。それを手に、早速紫は目に入った小学生程の子供達へと声をかける。
「なぁ君、あやとりはできるか?」
「あやとり?」
 猿面を被った少年は困ったように首を振る。そんな彼の前に、紫は先程渡されたもの――赤い毛糸を結んだ輪を見せた。
「私も専門ではない、が、少しならできる。一緒にやらないか?」
「でも、ウサギのお姉さん、その手だと……」
 少年は未だ動物のウサギ模した着ぐるみのままの手を指差す。それが意味することにああと頷き、紫は一度両手を己の背中へと隠して――。
「……ほら、これなら大丈夫」
 次に背中から腕を戻すと、その両手は着ぐるみのまま、五本の指をもつ人間のものへと変わっていた。
「ええっ⁉ 今の、どうやったの?」
「何、少し『手袋』を外しただけさ。」
 目を丸くする少年の目の前でひらりと両手を振って見せて、紫は五指に赤い糸を絡めた。


 始めに簡単に流れを説明して、あとは順次取り方を伝えながら、紫と少年の手の中で目まぐるしく毛糸が移動する。
「そう、次はそこを摘まんで上に取ってみると良い……そういえば、親からはどう言われて、ここに来たのかね?」
 次々と形を変えていく糸をお互いに眺めながら、何気なくそう、聞いてみた。
「……なんで聞きたいの?」
「ただの興味だ、私にも子供が居るのでね」
 勿論真っ赤な嘘だ、紫には子供など居ない。けれど情報を円滑に引き出す為には時には嘘も必要だろう。
 すると猿面の少年は暫し何かを考えるように黙り込み、やがて力ない声で告白した。
「……僕は期待外れだったから。お姉ちゃんと違って頭も要領も悪くて。勉強も好きじゃないんだ。だから、ここで好きになれる子になってきなさいって」
 そんな子供じゃ、だめなんだよね。そう言って項垂れる彼の指から、紫は赤い糸を掬い上げる。
「……君らのような個性は大事だと思うが、親はそう思ったのか」
 その考えに、否定も賛成もできない。所詮、お互い顔も名前も知らない関係だ。彼と自分を繋ぐ縁はあまりにも薄い。

 けれどどうにも、あまり良い気分にはなれなかった。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

セフィリカ・ランブレイ
善き相には善性が宿る
よい子って、何だろ?

私も色々やんちゃして両親には迷惑かけて怒られたけど
良い子になれ、は言われなかったな
自分以外の事も考えられる様になれって
誰にとっても正しいかは別だけど

『けどセリカはもう少し落ち着きのある行動を心掛けたほうがいいわ』
折角キメたのに相棒の魔剣…シェル姉は突っ込まないで!


まず潜入しないとね
『ピエロ』の仮面を被り『道化師』を名乗る

『好きなの?ピエロ面。その面のゴーレム作った時趣味悪いって言われてなかった?』
捉え方次第……だと思いたいね!

子供たちと遊ぶ。感じた「楽しい」には素直であってほしい
子供達と顔をつないで、非常時に信用されるくらい仲良くなっておきたいね



●おおくのみかた
 セフィリカ・ランブレイ(蒼剣姫・f00633)はこう見えても由緒正しきお姫様である。そんな彼女は自分の趣味に熱意を注ぎつつ、その傍らで相応の教育を受けてきたと思う。
 背負うべきもの、果たすべきもの。物事の善と悪。
 だからこそ、真っ直ぐに疑問に思った。
 『善き相には善性が宿る』。それがこの団体の教えだというのなら。
「じゃあ……よい子って、何だろ?」
 セフィリカは常に自分には正直な性格である。それはよく言えば素直ということであり、悪く言えば我が強いということ。好奇心のままに創作に没頭することなど日常茶飯事、色々やんちゃして両親に迷惑をかけ、怒られたことなど数えきれない。
 それでも、いくら両親から叱責を受けた時も、国の上に立つものとして教えを受けた時も、『良い子になれ』なんて決して言われなかった。
「……自分以外の事も考えられる様になれって。それは、ずっと言われていたけどね」
 ここでいう『良い子』が、セフィリカが言われたことに当てはまるのか、それを彼女が確かめる術はないけれど。
 彼女が示された正解も、誰にとっても正しいことかどうかの話は別なのだろう。
 見方とは、人によって全く異なるもので完全な正解などありはしないのだから。
 そう、自分なりに思考の着地をしたところで、茶々を入れるように割り込んでくる女性の声が一つ。
『けどセリカはもう少し落ち着きのある行動を心掛けたほうがいいわ』
「……ってシェル姉は突っ込まないで!」
 団体の職員には聞こえず、持ち主にだけ聞こえる声量で突っ込みをいれてきた相棒の意志ある魔剣、シェルファの声にセフィリカはがくりと項垂れる。
 折角キめたところだったのに、見事に台無しになってしまったではないか。
 こほんと咳払いして、閑話休題。
「とりあえず、まず潜入しないとね」
 気を取り直して、セフィリカは選んだ面を被り、招かれるままに部屋の中へと入った。
 選んだ面は派手なメイクと笑顔が印象的な西洋の造り、『ピエロ』の面。
『好きなの? ピエロ面。その面のゴーレム作った時、趣味悪いって言われてなかった?』
「捉え方次第……だと思いたいね!」
 そりゃあ時と場合によってはピエロの面は不気味に見えるときもあるけれど。本来は笑顔をふりまくために道化を演じる、とっても楽しくて明るい、そして優しい顔なのだ。多分、きっと。
『はいはい、どうぞ頑張って。『道化師の君』」
 シェルファの雑な送り出しを受けながら、いざセフィリカは子供たちの集まりに突撃する。
「こんにちは、私もいっしょに遊んでいいかな?」
 持ち前の明るさと話術で難なく輪の中に入り、中学生くらいの男女と共にコマ回しに奮闘する。
 面越しでの会話だ。もちろんお互い顔なんて分からない。けれど特徴的な面だからこそ、その記憶に残ってもらえるように、非常時に迷わず自分だと分かってもらえて、そして信用される程度には仲良くなっておきたくて、反応が薄い子供達にセフィリカは話しかけ続ける。
 そしてもう一つ、大事なことを、彼らに気付いて貰いたくて。
「……ね、『楽しい』ね」
 敢えて口に出していう。
 例え異様な空間の中だったとしても、この場で感じたその感情には素直であって欲しい、と。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

馬県・義透
四人で一人の複合型悪霊。生前は戦友。

第一『疾き者』唯一忍者
一人称:私 のほほん

見学者、ということでー。まあ
孫いても不思議ではない年齢ではあるので、そっちにもかこつけて。
いえ、実際いたの姪孫なんですけど(疾き者のみ独身)

仮面は『鬼の面』でも。実際に私、鬼って呼ばれてましたから気になりませんし。

カルタでもしますか。馴染みありますし。…ある程度は加減しませんと。
…名を奪うような、新たに名付けるような…そんな感じ。


残り三人は武士。
(…鬼って呼んだことあるなぁ…)


神代・凶津
『全相の会』ねぇ。胡散臭いったらありゃしねえな、相棒。
「・・・良い子と従順な人形は違うでしょうに。」

今回は潜入だから妖刀、薙刀、破魔弓は置いていかないとな。
相棒は子供の保護者のフリして潜り込んだ方がいいな。
面を選ぶ時に、隠し持ってた俺を被りな。
奴ら警戒心薄いらしいから堂々としてりゃバレねえだろ。
渾名は『赤鬼の君』ってか。

「・・・さっきの『紫陽花狐の君』って子が気になります。」
んじゃ、あの坊主が参加してるカルタ遊びに参加するか。
この坊主、本当に人形みたいになってるな。
遊びに紛れて『退魔の鈴』を鳴らしてみるか。上手くいけば正気に戻るかもな。


【技能・コミュ力、心配り、浄化】
【アドリブ歓迎】



●かくしおに
『全相の会、ねぇ。胡散臭いったらありゃしねぇな、相棒』
 人目に触れぬ様にポーチの中に収納されながら、神代・凶津(謎の仮面と旅する巫女・f11808)はそう言って鼻を鳴らした。
「……良い子と従順な人形は違うでしょうに」
 彼を運ぶ巫女姿の女性――神代・桜も声を潜めつつ、凶津の言葉に頷く。
 そう、ここを訪れる大人が求めるものは、結局都合ののいい人形でしかないのだ。一方的に望みを押し付けて、意のままに動かす。そこに本人の意思があることも忘れて、駒のように扱う。
 間違いないと断言できる。
「子供本人にとっての良い子は……此処では生まれることはありません」
『間違いねェな』
 相棒の同意の声を聴きながら、桜は並べられた面の数々へ目を向けた。多種多様の意匠で作られたそれは、人の顔を写しながらもその表情はどこか無機質に見える。まるで、決まった感情以外持つことを許さないというように。
 それらを一瞥し、選ぶ振りをして――桜はこっそりとポーチから凶津の本体を取り出し、己の顔に重ねた。
 潜入という依頼の関係上、薙刀や破魔弓といった武器の類は全て置いてきている。しかし、元々鬼の面の姿をしてる凶津本体であれば――オリエンテーション中の『規則』に便乗すれば、堂々と装着していても問題がないだろう。
 現に、堂々と凶津を付けてあるく桜をみて、職員も「あんな面用意していたかしら?」と疑問の顔を浮かべつつも引き留める事なく見送っていく。
『渾名はさしずめ、『赤鬼の君』ってか?』
「話の通り警戒心の薄い人たちで助かりました」
 それほどまでに邪神の行う『祝福』を崇拝しているのか、或いは、面の種類自体はたいした意味がなく、管理していないだけなのか。どちらにしても、二人にとっては好都合だった。
 誰一人、本物が混ざったことを気取らせることなく、赤鬼はこうして人々の中に紛れ込んだのだった。
 
 
 人々に混じり、鬼を被る者がもう一人。
「ええ、まあ見学者としてですねぇ」
 監視役の職員と穏やかに話している男性、四人の複合型の悪霊の内、『疾き者』として出ている馬県・義透(死天山彷徨う四悪霊・f28057)がそうだった。 
「ああ、孫がね。まだ小さいのだけれど、今後のためと思いまして」
 孫がいても不思議ではない実年齢であることをかこつけて、義透は飄々と周囲の人々との会話に溶け込んでいく。実際、孫にあたる人物は一応いるから嘘ではない。孫は孫でも姪孫で、今こうして話してる義透の中の『疾き者』は独身だったりするのだけれど、まぁ嘘では、ない。
「それでは、私は少し遊戯に混ざってきますよ。見学者も一緒に遊んで良いのでしょう?」
 詳しく詮索されない内に話を切り上げて、義透は確認するように職員へと問いかける。勿論だという快諾を得てから、彼は子供たちの元へと向かった。
 途中、誤って顔が見えることがないように面をかぶり直す。
 彼が選んだの朱色に塗られた小ぶりの鬼の面。かっと見開かれた目と開いた口元が特徴的な、鬼神を思わせるような面であった。実際、呼ばれた渾名は『鬼神の君』という物騒なものであった。
(まぁ、実際に私、鬼って呼ばれてましたから気になりませんけれど)
 鬼と謂える所業故にそう呼ばれたのか、そう呼ばれたから鬼の所業があったのか。知らないけれど、その呼称は彼にとって真新しいものではない。彼の中にいる残りの三人も、この件に関しては概ね同意の様だった。
 だから、目の前をいかにも、といった赤鬼――凶津が通り、
『お、鬼の仲間のお通りだ』
 なんて呼ばれた時も対して気にならなかった。
 寧ろ、その声が男性的なことに対し、声の主が女性だったことの方が気になったくらいだ。それもすぐに、自分と同業者だということに気付き合点がいく。
 聞けば、これからカルタをしている集団に混ざりにいくつもりだという。
「……さっきの、『紫陽花狐の君』って子が気になって」
 今度は女性の声――桜がその理由を話す。
 始めは嫌がっていたというのに、渾名を呼ばれると打って変わって大人しくなってしまった少年。その子の様子を伺いたいのだと。
「それなら、私も一緒にいきましょう。カルタなら馴染みがありますし」
 その言葉を聞き、義透はそう提案する。知っている遊びならやりやすいし、ある程度加減をすれば場を操作することも出来るだろうと。
 かくして、鬼面の二人はそろってカルタ遊びに参加することになった。


 床に並べられたカルタの場所を大まかに把握し、詠み人が絵札に対応した読み札を読み上げる。それに瞬時に把握し、誰よりも先に取ったものがその絵札を入手できる。最終的に一番多くの札を持っていたものが勝ち。
 ルールと言えばそれだけで簡単なように思えるが、やってみるとこれがなかなか難しい。まず無秩序に並べられた絵札を覚えるのが一苦労だし、絵札から読まれる句を事前に知っていれば、当然札は取りやすくなる。そういった理由で慣れた読み終わらない内に札を獲りにいくので、最終的に反射神経の戦いとなるのだ。
 そして、馴染みがあると言っていた義透もその慣れた者の類に入るものだった。
「……っと。いやあ、偶然ですね」
 かといって、あまり圧勝しては勝負にならない。こっそりと加減を加えつつ、義透は要領よく絵札を攫い、周りの注目を集めていく。
 その影に隠れるようにしながら、凶津と桜はこっそりと『紫陽花狐』の少年の隣を陣取り、様子を伺っていた。
『……この坊主、本当に人形みたいになってるな』
「――――」
 間近で観察していても、少年はまるでなにも見えていないかのように絵札を眺めていた。時折札に反応して手を伸ばす素振りはするが、それも明らかに反応が悪い。本気で獲ろうとしている訳では無く、体が『遊びに混ざる』という命令に従っている、といった印象だった。
『なんとかしてやりてぇが……』
 試しにと桜が浄化の気を込めて退魔の鈴を鳴らしてみる。札の読み上げる声に紛れてしゃらしゃらと澄んだ音が響き、音に反応するように初めて少年の視線がこちらを捕らえた。
「……あそびに、まざらなきゃ」
 しかし、そこまで。やや間を置いて再び少年の視線はカルタへと注がれる。多少彼の意思めいたものは見えるようになったが、そこまでだった。
 桜も凶津も、彼の顔も知らなければ本当の名前も知らない。故に、本当の意味で彼に呼びかけることができないのだ。
 何もできないもどかしさに唸っていると、一連のやりとりと見ていた義透が何かを思いついたように言葉を零す。
「……名を奪うような、新たに名付けるような……そんな感じかな」
 名を呼ばれることが無いということは、名奪われるようなもの。その上で渾名で呼ばれ続けるということは、それはもう新たな名であると言ってもいい。
 名前には意味がある。凶津達が今、名を知らぬ故に少年を目覚めさせることができないように。
 それが、この先にある『祝福』と関係があるのだろうか。
 鬼の面の下で、彼らはその意味を今一度その意味について思考を廻らすのであった。
  

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

小日向・いすゞ
【狐剣】
普段の関係は夫妻っスが
今日のあっしは家を出て行った、ままの連れ子(設定)
ぱぱが疎ましく折り合いの悪い親子を演じるっス
面は狐を

今回きりっスからね、こういうの
エッ嫌っス
普段から呼んでないっスけど?
アンタの事、ぱぱと認めた事は一度も無いっスし…
普段はふらふらへらへらしてる癖に
こういう時だけ親面止めてくれます?
そんなンだから―

アンタと楽しくなる事なんて何も無いっス

折り合いの悪さをアピールする様に
一方的に言い切って他の子に話しかけに行くっス

ねぇ、キミ
キミはどうしてこんな所に来たンスか?
へえ
あっしは無理に連れて来られて……
おはじきをする名前も知らぬ君に話しかけましょう
少し位はお話を聞けるでしょうか


オブシダン・ソード
【狐剣】
嫁に逃げられた旦那(設定)
嫁の連れ子の当たりがきつい…と悩む親を演じるよ
天狗のお面

それじゃあ「きつねちゃん」、いっしょに遊ぼうか
今日はパパじゃなくて「天狗さん」と呼ぶんだよ

…普段へらへらしてる自覚はあるから演技以上に刺さるね…
いや、僕はそんなつもりは、うー

そ、んなこと言わずに、騙されたと思って
こういうのはやってる内に楽しくなるからさ
ねえほらカルタ、カルタがあるよ
きつねちゃん、ああいうの得意じゃないの? 一緒に…ワッ居ない

困ったなあって雰囲気出して、他の参加者さんと交流を図ろうか
似たような悩みの人も結構来てるんじゃないかな
いやあ、どう接すれば良いのか…難しいよねえ



●ごっこあそび
 面をつけた人々を追い越すように、小柄な少女が速足で進んでいく。そしてやや遅れて、その影を追う男が一人。
 やっとのことで後ろについた男に気付き、彼女はおもむろに足を止め振り返る。緋色の隈取がされた狐の面を被った少女――小日向・いすゞ(妖狐の陰陽師・f09058)は大袈裟な溜息をつくと、努めて冷めた眼差しで追ってきた男を見上げた。
「今回きりっスからね、こういうの」
「そんなこと言わないでよう……」
 対する黒い天狗面を被った男――オブシダン・ソード(黒耀石の剣・f00250)の返答は弱り切ったものであった。
「それじゃあ『きつねちゃん』、いっしょに遊ぼうか。今日はパパじゃなくて、僕のことは『天狗さん』と呼ぶんだよ」
「エッ、嫌っす。そもそも普段から呼んでないっスけど?」
 必死に場を和ませようとするオブシダンの言葉にも、いすゞはまるで取り付く島もない様子である。
 そんな、一見気弱な父親に反抗気味の年頃の少女、といった親子に見える二人であるが、その実普段の関係は夫婦であったりする。今回は潜入調査ということで、周囲からみて違和感が無いようにちょっとした小芝居を打っているのだ。
 そういうことで、今日のいすゞは家を出ていった、ままの連れ子、という設定。
「そもそもアンタの事、ぱぱと認めた事は一度も無いっスし……」
 もちろん、血の繋がりのないぱぱが疎ましく、折り合いが悪い。つんとそっぽを向くいすゞに、説得を試みるオブシダン演じる継父(嫁には逃げられた)。
 相手の機嫌をとるように優しく話しかけつつ、相手の様子を伺う」
「それでもさ、僕らは二人っきりの親子じゃないか。これを機会にさ――」
「……親子? 今更?」
 情に迫るような言葉が逆に娘の神経を逆撫でしていることに、この父は気付かない。一度は逸らした視線を、今度は憎しみすら込めて真っ向からぶつける。
「普段はふらふらへらへらしてる癖に、こういう時だけ親面やめてくれます? そんなンだから――アンタと楽しくなる事なんて何も無いっス」
「いや、僕はそんなつもりは……」
 叩きつけるような言葉に、オブシダンはぐっと押し黙った。
 一応、ここまでの流れは事前の打ち合わせ通り。勿論彼女の視線も言葉も演技であり、本気ではないことは百も承知だ。
 ……それでも、なんというかこう。普段のオブシダン自体もへらへらしている自覚はあるので、演技以上に刺さるものがあるのだけれど。それは致し方ない。
 そんな複雑な傷心を堪えて、継父は必死で明るく振舞う。
「そ、んなこと言わずに、騙されたと思って。こういうのはやってる内に楽しくなるからさ」
 なにかとっかかりになるものはないか、そう想いながら見回し、目についたのはかるたの集団。
 これだ。これがいい。
「ねえほらカルタ、カルタがあるよ。きつねちゃん、ああいうの得意じゃないの?」
 そう、渾身の切欠を見つけて意気揚々といすゞの方を見れば――。
「一緒に……ワッ、居ない」
 悲しきかな。オブシダンがカルタの集団を探している内に、彼女はとっととどこかに行ってしまったのであった。
「あの……大丈夫ですか?」
 困ったなぁとため息をついていれば、一部始終を見ていたらしい男性が話しかけてきた。
「あはは、最近連れ子のあたりがきつくて……」
 頬を掻きながら答えれば、恵比寿の面をかぶった男性はわかります、と大仰に頷いた。
 聞けば彼も再婚相手に子供がいるという。
「私もいつも疎まれていて……腹を割って話そうにも何を話せばいいのやらと頭を悩ませていて」
「いやぁどう接すれば良いのか……難しいよねえ。似たような悩みのヒトも結構来ていたりするのかい?」
「そうみたいですね。けれど、人伝手によると『祝福』の後、どの親子も驚くほど喧嘩が無くなった、とのことですよ」
「それは羨ましい、期待しておくよ」
 楽しみですね、と応える恵比寿面の男に返し、ついでにもっと話を聞きたいと、彼が直前までいた保護者の集団へとお邪魔させてもらうことにする。
 移動しながら、オブシダンは内心でこっそりと先程の男の言葉を反芻する。
(仲が修復される、ではなく喧嘩をしなくなる、ね……)
 似ているようで、微妙に違う言い回し。その違和感が意味するところに、オブシダンはもう一度、今度は別の意味でそっと息を吐いた。
 
 
 その頃、一方的に話を打ち切って移動していたいすゞは、部屋の隅でおはじきを弄っていた茶髪の少女に声をかける。
「ねぇ、キミ。キミはどうしてこんなところに来たンスか?」
 俯いていた少女が面を上げる。弁財天を模したらしい面をかけさせられた少女は、ちっ、と舌打ちをして再び床へと顔を向けてしまった。
 そんな様子を気にした風もなく、いすゞは彼女の正面に座り散らばっていたおはじきの一つを指差す。
「……何?」
 胡乱気な眼差しを受けながら、今度は示したおはじきの直ぐ近くにある別のそれを狙って指で弾く。
 飛び出した硝子玉は寸分違わず初めにいすゞが差したものへとぶつかり、二つのおはじきが勢いよく跳ねた。
「こうして一個とったっス。外れたり、別のと当たったら交代っスよ」
 跳ねた赤いそれを自分のところへ引き寄せ、今度は別の、緑のおはじきを狙う。
 先ほどと同様に指を動かしながら、いすゞは淡々と話しかける。
「あっしは無理に連れて来られて……」
「さっきの、天狗のお面の人と?」
 今度は数センチ右へ逸れてはずれ。代わりに、少女の言葉が返ってきた。
「あたしも同じだよ。成績やら態度やら、理由をつけられてアイツに連れてこられた」
「アイツ?」
「さっき天狗の人に話しかけてたヤツ。ママの再婚相手」
 でも、と言いながら。少女は水色のおはじきを弾こうと試みながら続ける。
「アイツの狙いは知ってる。ママのお金が目当てなんだよ。だから、あたしが邪魔なんだ」
「……へぇ」
 硝子同士が擦れる澄んだ音を聞きながら、いすゞは平淡を装ってそう、還した。
 それから彼女達はおはじきで遊びながら少しだけ話をした。
 新しい父親は若くて怪しいこと。なにかを電話で話しているのを聞いたこと。そして、友達が最近性格が変わったかのように無口になってしまったこと。
 ぽつりぽつりと、互いの名も知らぬまま、知らないからこそ他人として、少女は胸の中で蟠っていた不安を吐き出しているようだった。
「……あたしが、家を守らなきゃ」
「……そうっスね」
 少女の話が全てではないだろう。きっと思い込みだって、存在している。
 彼女には彼女の世界があり、彼女なりに見て、聞いて、そして戦っている。
 子供はたしかに無力ではあるが、決して愚かではない。

 彼らだって、立派な個として、生きているのだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

波狼・拓哉


ふうん…?ペルソナを上書きして演じさせる…みたいなもんですかね
まあ、内面喰い切られなければ救うのは問題なさそうですね

目立たないようにさっと仮面を頂き仮面の集団に紛れましょうか
…若くして父親になった体で行きますか
流石にそういう人は少なそうだし…職員と思わしき人に本当に効果出るのか信じ切れてない感じで演技して情報収集といきますか
家庭の話は適当に丁稚上げ
まあ、細部までいわなくとも済むでしょうし何とかなるでしょう

というか目立たんようにと思って適当に取ったから何の仮面貰って……能面?…中々趣があるもんで
つーかこれ何の花…『月桂樹能面の君』?…なるほどねぇ、勝利、栄光…そして裏切りか



●ひきあう
「ふうん……? ペルソナを上書きして演じさせる、みたいなもんですかね」
 波狼・拓哉(ミミクリーサモナー・f04253)は既にそれ自体が儀式めいているこの場の『規則』についてそう仮定する。
 別に人は、一つだけの顔を持っているわけではない。時や場合により様々な顔を持ち、使い分けていくものだ。
 そして儀礼や祭りの際に面をつけるというのは、その役を演じ、なりきる――つまり己の中にはない全く別の顔を持つことを意識的に表すこと。そう考えれば、その結論に行き着つくが自然だろう。
 人格の上書き。もしもそんなことが本当にあったとして、それが完了してしまった後では治療は困難となるだ。けれどもしもその面の下の、本来の自己が消去される前ならば。
「まぁ、内面を食い切られなければ救うのは問題なさそうですね」
 大元の邪神さえ絶ってしまえば、助けることは不可能ではないだろう。
 そう判断して、拓哉はサクサクと潜入の手筈を進める。
 事務的な作業を手早く済ませ、肝心な面の選択――あっさりと決める。
 というか、選ぶことを殆どしなかった。
 自分は被害者ではなく、解決者なのだ。面はどうせ集団に紛れるくらいしか意味を成さない。ならば、下手に悩み怪しまれるより、さっさと取ってしまった方が目立たず良いだろう。
 たまたま近くにそれを手にとって、ろくに見もせず、拓哉葉迷わずそれを被った。


 建物内部の広さは外見の印象とほとんど変わらない。ただし、各一部屋の広さは大きめに取っているようだった。それこそ小学生程度と思われる子供達が少しくらい走っていったくらいでは窮屈を感じない程度には。
 解放されている部屋の奥には、大きな両開きの扉がある。そこには監視役の職員が二人ほど絶っており、曰く『祝福の準備をしております』とのこと。どうやら『祝福』とやらはこの部屋ではなく、別室に移動して行うものらしい。
 部屋の間取り的に奥にさらに別室、というのは考えにくいから、おそらく上階へ上がる階段などがあるのだろうと予想を立てた。
 内部の構造をおおまかに把握すると、今度は扉前の職員に話しかける。
「あの、よければ少しお話をいいですか?」
 一応建前としては、『若くして父親になった』という体。多少の探りはその場で矛盾しない程度に丁稚上げていく。流石にこのこの年そういう人は少ないだろう、と構えていたが、案外すんなりと彼の建前は受け入れられた。
(……つまり、そういう事情アリの人たちも少なくないってことね)
 それでいて、経済的、社会的に余裕があるもの達が、ここを求めてやってくる。
 ――例えばいるとしたら、妾の子、とか。
 なんて一瞬過るが、それは個々の問題。敵と結びつける情報ではないだろう。
「いや、疑う訳じゃないんですけど、『祝福』って本当に効果があるのかなーって」
「……『祝福』は正しき相を導く儀式。受け止めるお子様だけでなく、周囲の者も『善き相』を持って迎え入れなければすぐに歪んでしまいます。その疑念の心は、貴方の相に曇りがあること他ならないでしょう」
「なるほどね……」
 どうやら多少の不信では逆にこちらが疑われることなるらしい。よくある手段にといえばそうであるが。
 ――というか。
「さ、『月桂樹面の君』。貴方も『祝福』のため、そろそろ遊戯に混ざりなさいませ」
 なんでこの面にしちゃったんだかなぁ。幾度目かになる渾名での呼びかけに、拓哉は面の下でため息をつく。
 反抗的な態度ではないせいか、職員に呼ばれることはあっても異常な強制力は感じない。しかし、その大層な名前で呼ばれる度に拓哉は己の適当さ少しばかり後悔していた。
 室内に備え付けられていた鏡を見れば、己の顔の代わりに見えたのは植物が縁取られた男性の能面。……中々趣があることで。
「つーかこれ何の花って思ってたけど、なるほどね」
 確か無意識の選択には、意味があるって謂うけれど。これはよく出来ていると拓哉は笑う。
 
月桂樹の意味は、勝利、栄光。
 ――そして、裏切り。

大成功 🔵​🔵​🔵​

黒鵺・瑞樹
アドリブ連携OK
WIZ
面・渾名お任せ

「良い子」って言葉、あまり好きじゃないんだよなぁ。
規則ルールにのっとって行動できる常識あるだけならいいけど。でも今回のは「誰かにとって都合の『良い子』」って事だろう?
…そういう考えの奴に遭遇した事あるから、ちょっとなぁ…。
流石に俺自身が高校生は通らないかなぁ。
教育関係の職業で通らないかなぁ。

適当に面を選んで、渾名もまぁそれっぽく適当に。
一通り職員に話を聞いてから遊びに混ざる。
遊び自体は村の子達との子守りで慣れてるから、ローカルルールがなければ大丈夫。
遊びながらそれとなく様子を観察。
あぁなるほど。そうかこの儀式は「個を殺す儀式」か。
顔を隠し名を隠して殺すのか。



●くもがくれ
 黒鵺・瑞樹(界渡・f17491)が適当にと選んだ面は、黄褐色に金色の眼が嵌め込まれた男性の形の面だった。聞けば『三日月』という名の能面であるらしい。
 ならば渾名は面の名を取って『三日月の君』といったところか。
「大層な名前だけど……まぁそのまま関係無くは無いし……」
 参加の名目は一応、見学者ということにしておく。いくら瑞樹が年齢という括りで縛られないヤドリガミで、その外見がいくら年下に見られるといっても、高校生で通すのには流石に無理があると思ったからだ。下手に父親と言って詮索をされて困るので、教育関連の職についた者ということにした。
 立場が変われば見方も変わる、それは相手からも同じこと。もしかすれば保護者から聞くのとはまた違った答えを得られるかもしれない。
「近頃は難しいものを抱える子が多くて。何か参考にできるものがあればと思ったんだけれど」
 それらしいことを装って行ってみれば、成程というように職員は頷いた。
「そうですね……私達のものは教育とはまた異なったものですけれど。生徒を『良い子』へと導くという意味では近いものはあるかもしれません」
「そう、『良い子』にね……」
 覚えた蟠りに内心では眉を顰めつつ、瑞樹は表面上はあくまで穏やかに職員との話を進めていく。
(『良い子』って言葉、あまり好きじゃないんだよなぁ……)
 その言葉にはどうにも違和感があった。耳通りがよく、一般的には良いもの、称賛すべき指針とも言える言葉だけれど、どうしても彼にはそれを肯定することができない。
 もちろん、それが一般的な規則ルールにのっとって行動できる常識という意味であれば良いのだけれど。でも、今回のはそうではない。
 今この場で指すその意味は、「誰かに取って都合の良い子」ということだろう。
(そういう考えの奴に遭遇したことあるから、ちょっとなぁ……)
 全部、とは言い切れなだろうが、おそらくこの場にいる大人はそのような類のものが多いのだろう。
 多少なりともの苦手意識を覚えつつ、職員との会話を済ませた瑞樹は適当に子供達の遊びへと混ざりにいく。
 加わった集団が丁度していたのは鬼遊びの変種。
 鬼が振り向いている間は動いてはいけない。動けば鬼に捕まってしまう。
 鬼が全員を捕まえるのが先か、子供が鬼に触れるのが先か。そんな緊張感が漂う遊戯。
「だーるまさんがこーろんだっ!」
 まぁ、一般的にいえば『だるまさんが転んだ』という名前の、比較的ポピュラーな遊びではあるのだが。
 遊び自体は村の子達との子守りで慣れている。サムライエンパイアとUDCアース、ローカル的な違いはあれど、大まかな遊び方は変わらない。
「『花面』ちゃん、動いた!」
「『若狐』さん、タッチ!」
 一斉に散らばっていく子供達に倣いながら、瑞樹はそっと子供達の様子を観察していく。
 はじめは呼ばれる名前に違和感を覚え反応が鈍かった子たちも、遊びの中で呼ばれていくと自然と馴染んでいくようで、気づけば何の違和感も無く受け入れてしまうようだった。
 相変わらず面で隠され、子供達の顔はわからない。わかるのはただ記号のように子供達につけられた、作り物の『顔』だけ。その記号を互いに呼び続け、遊びは進行していく。
 顔を隠し、個の発露は塞がれる。そして生来に持った名前を隠し、違う名前を呼ばれ続け、本人もまたそれを受け入れていく。生まれた時に持ち得たものは、いつのまにか消えていく。
 そこで瑞樹ははたと気づいた。
「あぁ、なるほど……。そうかこの儀式は――」
 顔を隠し、名を隠す。
 そして隠れるとは、古い言葉でそのまま死を意味する事もある。
 異様な規則、その意味は。
「これは――個を殺す儀式、なのか」

大成功 🔵​🔵​🔵​

ルゥナ・ユシュトリーチナ

なる程…つまり仮面をぶち割れば良いのか(違います)。
個人的な趣味としては鉄仮面でも使いたい所だけれどそれはそれ。まぁ無難に狼のお面でも被りましょうかねぇ。
渾名はセンスが無いんで見た目に因んでお任せかな。

行動としてはそうさね…子供たちと遊ぶのも良いけれど、職員に対して相談と言う体で情報収集するとしようか。
話題はそうだね、「普段から何かと手が出てしまう」と言う悩みから口火を切ってみよう。
あ、その際は縋るように振る舞いつつ相手の手を握るよ。【UC】【怪力】【鎧無視攻撃】
具体的な『相』の見出し方とか、会の規模や歴史について探れれば御の字さね。
聞き終えれば、あとは祝祭まで【目立たない】様にするよ。



●かぶって、つぶす
 今回の潜入先は、面をかぶる集団の中。
 そしてその大元はというと、善き相へと導くとか宣っている、『全相の会』。
「なる程……」
 つまり、猟兵たるルゥナ・ユシュトリーチナ(握撃系無気力フラスコチャイルド・f27377)が為すべきことは。
「つまり仮面をぶち割ればいいのか」
 いいえ、違います。
 若干斜め上の方向に理解していたルゥナであるが、とりあえずここで奉られる邪神をボコって団体を壊滅させればいいので、或る意味正しいと言えるかもしれない。とても、平たくいえばの話であるが。
 そんなこんなでルゥナは意気揚々と『全相の会』へ乗り込んでいく。
「お面はうーんと……鉄仮面とかあれば嬉しいんだけれど」
「そ、そういうのは用意していなくて……すみません……」
「じゃあこれでいいや」
 ごねても何も出てこないのは知っていたので、大人しく無難に、ルゥナは狼の面を手に取った。
「渾名はお任せするよ、そういうのセンスないし。見た目に因んでっていうのでも何でも」
 名前も面も、特に執着するものではない。投げやり気味に言ってみれば、職員は慣れているのかルゥナの面と容姿を交互に見つめ考える素振りをする。
「それでは……『銀狼の君』といたしましょう」
 成程、どうやら彼女の銀髪を絡めたらしい。分かりやすいし、ついでに覚えやすい。
「オーケー、それで」
 一つ頷いて、ルゥナは改めて面を被り、『銀狼』となった。


 さて、どうしようか。
 無事会場へ入り込めた先で、これからの行動を考える。
 一応、建て前は童顔を活かしての高校生という体。普通に考えれば子供たちと遊んで紛れるのが順当だろう。けれどそれでは無難すぎると思う自分がいるのも確か。
 ここは一つ、もっと面白い穴を突いてみよう。そう決めると、遊ぶ子供達を見回しながら部屋の中を横断して、ルゥナは入り口から一番離れた壁際に立つ職員へと話しかけた。
「あの……」
「どうしました?」
 話す声はなるべく控えめに、緊張しているように声を震わせる。狼面のついでに、猫も被ったので、言葉遣いもとっても丁寧に。
「私、どうしても自信が無くて……相談に乗ってもらえます?」
「それは……私で良ければ伺いますが……」
 精一杯声と肩を落とし、不安げな雰囲気を創り出せば、職員の男は驚きながらも応えてくれる。乗ってきたことにしめしめと内心で思いながら、あくまでルゥナは俯きがちな角度を維持したまま話を続けた。
「私、普段からすぐに何かと手が出ちゃって……。自分でも悪いって思っていても、抑えられないんです」
 本当にここで直るんでしょうか。その言葉と共に、まるで縋るように彼の手を握る。
 ぎゅっと、握る。
「そ、それは……。でも安心してください、ここに来たからには貴方はきっと良い面へと導かれますよ」
 必死の様子のルゥナに押されたのだろう。面の下から若干引き攣った笑みを浮かべながら男はルゥナを安心させるようにお決まりの言葉を並べる。
「本当ですか? ここは素晴らしいですね、折角なので、色々教えて貰いたいんですが……」
 ぱっと顔をあげて、男の握る手に力をこめる。
 ぎゅっと、ぐっと。
「そ、そうですね……」
 男は彼女の気迫に押されたのか、さらに笑みを引き攣られながら『全相の会』について話してくれた。
 ――決して、彼の表情の原因がルゥナの異常な握力によるものでは、きっとない。と思って頂きたい。
 彼女の言外の脅迫に脅され――基い、彼が快く教えてくれたこと曰く。
 一つ、この会は名さえ変えつつではあるが、発足からの歴史はかなり長いということ。
 一つ、この会の規模は一族を中心として構成している為、人数は十数人と多くはないという事。
「それじゃ、運営は大変なんじゃ? 準備も色々あるだろうし……」
「いえ、職員以外でも子供たちがいますから」
「子供が手伝いをしてるの?」
 引っ掛かる言葉に思わず聞き返せば、男はしまった、という様に慌てて首を振る。
「……ええ、元参加者で。『祝福』に感銘を受け、そのまま修行としてここに留まるものもいるんですよ。そういう方に、多少」
「ふーん……」
 随分と濁した言い方だったが、それ以上の追及は此処では無理そうだと判断する。
 大まかにではあるが、聞きたいことは聞いたし気も済んだ。なら後は、大元を面ごとぶっ飛ばせばいいシンプルな話だ。
 ルゥナは男に礼を言うと、握っていた手を放して子供たちの元へと向かい、紛れていったのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ソルドイラ・アイルー
◎ WIZ
ギヨーム君(f20226)と

いやはや恐ろしいものですねえ。ですが、作られた善も吾輩は好きですよ。好きだからといって放っておく、なんてことはしませんがね

あああ! これはこれは職員の方! ええ、ええ。今回は見学者として禊に参加したく思いまして……実は吾輩には大きな娘が一人居るのですが、やはり義親だと話しづらい事もあるのでしょう。中々心を開いてくれる様子がなく……
今日は娘も連れてくる予定だったのですが、生憎都合が悪く……ですが、次回はぜひ娘も連れてきたいものです

……ふむ、このまま職員から何か情報をポロっと落とさないか、続けて会話してみましょう。なければさっさとギヨーム君と合流するまでです


ギヨーム・エペー
◎ SPD
ソルドイラくん(f19468)と

こわいね。家族がいつの間にか居なくなっていて、それを助長したと知ってしまえば
おれはやるせないと思うけども、当人たちはもっと、苦しいだろうな

あ。あー、うん見学かな。そうそう。……此処はソルドイラくんに任せて、おれは子供たちに話を聞いてみるかな
些細な出来事で物事は変化するから、注意深く見ておかないと、な

や。おれも混ぜて貰ってもいいかなー。みんなは懐かしい遊びだっていうけども、おれには馴染みがなくてね。ルールとかも教えてくれると嬉しい
……大人がオリエンテーションに混ざるのは珍しい事なのか? 見ている者ばかりだなーって。ごめんな、さっきから聞いてばっかりで



●いうこと、きくこと
 『祝福』を受けた者は人が変わったように大人しくなってしまう。人の個性というものは同じものは二つとない唯一のものだというのに、それが全て、等しく。
 きっとそれはもう、『変わった』という次元の問題ではない。きっと、その時に彼らはいなくなってしまうのだ。
 依頼した者は、関わった家族達は、果たしてその真実に気付いているのだろうか。
「こわいね。家族がいつの間にか居なくてなっていて、それを助長したのが自分達だったと知ってしまったら」
 こうして考えるだけで、ギヨーム・エペー(Brouillard glacé calme・f20226)はやるせなさを覚えるけれども。もしも本当に、子供たちのことを思ってここに来た者がいたとしたら。
 きっと当人たちはもっと苦しいのだろう。
「いやはや恐ろしいものですねぇ」
 彼と共に『全相の会』へと訪れていたソルドイラ・アイルー(土塊怪獣・f19468)も土塊で造られた竜の頭を上下に揺らし、ギヨームの言葉に頷く。
 すが、と言い、彼はその行いの一部、ほんの一欠片だけを肯定する。
「作られた善も吾輩は好きですよ」
 作られたモノでも善は善。それは異形として造られたソルドイラの肉体の中の、数少ない脆さであって。善を創り出そうとするからこそ、人は善に在れるのだと、思うから。
「いえ、好きだからといって放っておく、なんてことはしませんがね」
 それでも、相反する衝動を持つ竜からしても、これはいささか独善的で、趣味が悪いから。好きだからといって放置することは、許されない。
「……して、一応ここには見学、という設定で合っておりますでしょうか」
「あ。あーうん、見学かな、一応」
 そんな二人は既に、受付を済ませ、会場へと踏み入れた後であった。
 ギヨームは『慈童』と呼ばれるものを、ソルドイラはその見た目らしく派手な装飾が付けられた『金竜』をそれぞれ被っている。渾名もそのまま、面の名前を頂戴することに決めていた。
「それでは、吾輩は少し職員の方と会話をしてみたく」
「じゃあ、此処は『金竜の君』に任せて、おれは子どもたちに話を聞いてみようかな」
「承知しました、『慈童の君』」
 丁度良く意見が割れたところで二人の方針は決定した。『祝福』の時間にならなくても一定の時の後、再び落ち合って情報を交換することを約束しつつ、ギヨームは壁際へ向かったソルドイラと反対の方向、部屋の中央へと目指し、目についた子供たちへ声をかける。
「や。おれも混ぜて貰ってもいいかなー」
「お兄ちゃんが?」
 気さくに話しかければ、それぞれ動物の面をつけた子供たちは驚いたようにギヨームを見上げる。
「そ。みんなは懐かしい遊びだっていうけども、おれには馴染みがなくてね。ルールとかも一緒に教えてくれると嬉しい」
 そんな彼らが話しやすいようにしゃがみ込んで依頼すれば、子供達はおずおずとしながらもギヨームの為に場所を開けてくれた。
 彼らがやっていたのはどうやら『双六』というゲームだったらしい。道の形に並べられたマス目が大きい紙の上に描かれており、その上に人数分の駒を置く。二つのサイコロをふって出た目の数だけ進み、止まったマスにある指示を実行していく。これを順番に繰り返し、先にゴールしたものが勝ち。盤上遊戯の一種だと思ったが、日本特有のイラストやストーリー性があるところが若干異なっていて興味深い。
「……なぁ、大人がオリエンテーションに混ざるのは珍しい事なのか?」
 7つ駒を進めながら、ギヨームは何気ない風を装って子供たちに問いかける。
「な、なんでそんなこと聞くの?」
「いや、さっきから大人は見ている者ばかりだなーって思って。って、ごめんな、さっきから聞いてばっかりで」
「そう……かもしれないね」
 返ってくる子供の声はどうも力無い。
 些細な出来事で物事というものは簡単に変化する。それ故に注意深く見ていたつもりだったが、先ほどからこの卓の子供たちは皆同じような反応だった。
 この反応は……怖がっている? 誰を?
「大人と一緒に遊びたくない?」
 ギヨームが確かめるように聞けば、彼らはゆっくりと、周りの人達の様子を気にしながら頷いた。
「だって、たくさん言われるから」
 その一言だけで、彼が今まで何度『言われ』続けてきたのか、想像できた。
 ああしなきゃだめ、こうしなさい。そうしないといけないの。
 面なんて、渾名なんてなくても、きっと今も彼らは縛られている。それが良い意味を発揮することもあるだろうけれど、少なくとも今ことの時は、きっと悪い意味で作用している。
 だから、小さく首を振ってギヨームは語りかける。
「大丈夫、だって今回、おれは言う方じゃなくて、聞く方だからさ」
 たくさん、たくさんの。話を聞こう。

 
 所変わってソルドイラの方はというと。
「あああ! これはこれは職員の方! ええ、ええ。今回は見学者として禊に参加したく思いまして!」
 壁際に立つ職員を押し倒さん程の勢いで迫っていた。
「そ、そうですか……」
「そうなんです! 実は吾輩には大きな娘が一人いるのですが、やはり義親だと話しづらい事もあるのでしょう。中々心を開いてくれる様子がなくて……」
「そ、それはさぞ、お辛い日々だったでしょう。……ところで娘さんは?」
「ああ、ああそれなんです! 本当は今日は娘も連れてくる予定だったのですが、生憎都合が悪く……ですが、次回は是非娘も連れてきたいものです。そこで、何度もこうして足を運ぶ、というのは此処では可能なのかと思いまして――」
 ぶんぶんと尻尾を揺らし、ソルドイラは食い気味に職員の質問へ答える。猟兵としての力で異形の姿を感知できないとしても、彼の巨体だ。さぞかし迫力を伴っているだろう。次々と矢継ぎ早に話を進めていって、話の流れで情報が零れ落ちたりしないか、そう狙ってのことだったのだが――。
「それは勿論。次の『祝福』が行われる期日は未定ですが、『新たな相』を宿す者が来るととなれば我らが神もお喜びになることでしょう」
 どうやらやってみた価値はあったようだ。
「……ほう、『祝福』を求めるのでも、『善き相』と正す為でもなく、『新たな相』を?」
 職員が漏らした、聞き捨てならない言葉。ソルドイラが聞き返せば、職員は慌てたように首を振り、ズレた面を抑える。
「――っ、いえ。広義としては同じこと。新たに悩める人の『相』を正すのが我らの使命ですから」
 職員は取り繕うように言葉を並べるが、違和感は拭い去ることはできない。
 『全相の会』は常に、新しいものを求めている。その為にこうして『祝福』を開く。
 では、子供達を人形のように変えてしまうことは本来の目的ではないのだろうか――?
「ふむ、ああ、有難い! 次の『祝福』が待ち遠しいことです!」
 此処から先は、一度持ち帰り考えた方がいいだろう。
 ソルドイラはそう判断すると話を切り上げ、手にした情報と共にギヨームとの合流の場所へ急ぐのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

トリテレイア・ゼロナイン
【古城】
※騎士は愉快な仮面希望

(UDC組織の偽装で「会への寄付検討中の資産家代理のご息女と秘書の視察」という名目で参加)

親は子を案ずれど、操り人形では話が違うという物
疾く解決せねばなりませんが…

お言葉ですが、これが(兜)私の顔でありそれに面を付けるのも自然なのです、~の君
…そこまで笑わずとも…

(遊びに●世界知識で対応、かるたの読み上げ等しつつ)
私はこのような子供の遊びにはとんと縁なき身でしたが、
~の君はどのような遊びをして過ごされていたので?

……

…今はゆるりと楽しみましょうか

ひと段落すれば行動開始
センサーでの情報収集で監視の死角●見切り茫然自失の子供達の懐に保険として妖精忍ばせ『その時』に備え


フォルター・ユングフラウ
【古城】

【WIZ】

この麗貌を隠さねばならぬとは、全く嘆かわしい事よ
まぁ良い、折角だ
この禍々しい龍だか蛇だかの仮面でも被っていくか

……兜に、仮面?
妙な格好に見えるのは我だけか?
しかも、その巨躯に全く似合わぬ表情の仮面ではないか
まるで、頭部だけ挿げ替えた様な…ふふっ
と言うより、前は見えているのか…?

さて、子供に混じって遊べとな?
我も、子供らしい遊びなど殆どした記憶が無い
人形で独り遊びをした程度か…
そうだ、汝を模した人形を作れば子供に人気が出るかもしれぬな?
男はそういう物が好きなのだろう?

しかし、気色の悪い空間だ
遊ぼうにも気が散って仕方が無い
折角なので、UCを用いて職員に接触し情報収集でも行うか



●いつかのはなしに
「親は子を案ずれど、操り人形では話が違うというもの……」
 トリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)は歪んでしまったその心理にそっと嘆息する。
 親は子を想う者。それがヒトとしての一般的な心理であるだろう。
 願わくば我が子がより健やかに、より安定した道に。その為には自分が十全に用意した道を進ませるのが安全だ。多少強引にでも、それこそが我が子の為に――。
 そう願い、思って。想い過ぎる心がいつしかその目的と手段を歪めてしまったのだろうか。
「疾く解決せねばなりませんが……」
 理想を求める騎士は憂う。
 その歪んだ愛はきっと、邪神を斃すだけでは変えられない。如何すれば気付かせることができるのだろうか。
「他者と己の欲求を履き違えた者に変わりはあるまい。それに、始めから人形を求めて来るものもいるだろうさ」
 トリテレイアの言葉を、フォルター・ユングフラウ(嗜虐の女帝・f07891)は問答無用で切り捨てる。
「それよりも、この麗貌を隠さねばならぬとは、全く嘆かわしいことよ」
 何故造り物などで顔を隠さねばならぬのか。それがこの場の規則とは言え、わざわざ顔を隠すなど何も面白くないし、面ばかりで気色が悪い空間であることこの上ない。折角だからと禍々しい蛇竜の面を被ってはいるが、フォルターは未だ釈然としていなかった。
「その面も貴女らしく、とてもお似合いですよ」
「そういう汝は――」
 そんな彼女を宥めるトリテレイアを睨め付けようと見上げて、フォルターは思わず仮面の下で目を見開いた。
「……兜に、仮面?」
「はい、折角ですので、愉快な面をと」
 トリテレイアは自身の頭部である兜の上から、老爺の面を被っていた。
 俗に狂言面の類に入ると言われるそれは、老爺が口と目を歪めて笑っている。たしかに愉快そうだ。とても愉快そうに、老爺は大笑しているように見える。
 が、しかし。
「……妙な格好に見えるのは我だけか?」
 これがなんとも――トリテレイアには似合わなかった。
 何故よりによってこれにしたのか、そもそも前は見えているのか。或る意味想定以上の事態に視界と脳が不具合を起こしているのか。
 まず明らかに、西洋風の鎧に和風の面というのがちぐはぐだ。そしてその巨躯に対して、老爺の面というのが致命的にアンバランスだった。
「お言葉ですが、兜に当たる部位が私の顔であり、それに面を付けるのも自然なのですよ、『蛇竜の君』」
 そして、当然の如く面には覗き穴というものが備わっている。多少の不便はあれど、視界に問題はない、とのこと。
 止めとばかりに、至って真面目に返ってくる声が絶妙なミスマッチ具合を引き立てていて。かみ殺す端から自然と口元があがり、笑いがこみ上げてくる。
「確かに、そうではあるが……まるで、頭部だけ挿げ替えたような……ふふっ」
 耐え切れず顔を背け、肩を震わせるフォルター。
「……そこまで笑わずとも……」
 そんな彼女の笑いの発作が収まるまで、トリテレイアは大人しく待つ羽目になるのだった。


「さて、子供に混じって遊べとな?」
 腹筋が引き攣るかと思う程ひとしきり笑った後、フォルター改めてトリテレイアへと尋ねる。
 UDC組織の偽装により、今二人がこの場にいる名目は『会への寄付検討中の資産家、のご子息と秘書』というもの。視察という体で通っているので、規則に従いさえすれば後は好きにしてよいとのことだ。
「そうするのが目立たず自然でしょう。私はこのような子供の遊びにはとんと縁なき身でしたが、『蛇竜の君』はどのような遊びをして過ごされたので?」
「我も、子供らしい遊びなど殆どした記憶が無いな。強いていうなら人形で一人遊びをした程度か……」
 もっとも、その人形とてこの場に用意されている端切れを縫い合わせたようなものや、樹脂に細工をして作り上げたようなものとは似ても似つかない。ここはフォルターにとって全く無知の世界だ。
 が、一つ。人形と言って思いつくことはあった。
「そうだ、汝を模した人形を作れば子供に人気が出るかもしれぬな?」
「私を、でしょうか?」
「ああ、男はそういう物が好きなのだろう?」
 聞けば、UDCアースでもその手のものは溢れているという。玩具とは本来子供向けのものではあるし、気を惹くには丁度良いだろう。
「そうですね。検討してみましょう。他には、カルタなどの遊びもございますが……」
「いや。……このような場、遊ぼうにも気が散って仕方がない」
 笑いで気がまぎれはしたが、以前この空間は不快だ。そんな中ではとても遊ぶ気にはなれない。気晴らしがてら職員にでも接触してくると、彼とはその場で一度別れる。
 ヒールを鳴らし、フォルターは手近にいた男性職員の元へと向かう。そして、正面に堂々と立ち、話しかけた。
「そこの貴様」
「……は、い」
 いくら造り物の面で隠されようと、フォルターの魔性の美貌はその程度で失われるものではない。その声、その佇まい、面越しに垣間見える視線や流れるような洗練された指先の動き一つまでもが彼女の魅力となって目の前の男を虜とする。
 今この場では、彼は敬虔なる信者ではない。蛇竜の魔術に絡め捕られた子羊の一人だ。
「そうだな……此処の神とやらについてでも話してもらおうか」
 周りの目もある、今ここで儀礼に関する根幹部分を問いただせば他の職員が黙っているまい。あくまでぽろりと口を滑らせる形を装い、男に喋らせる。
「わ、我が神は――」
 彼らの奉る神の由来はこうだった。
 その昔、人を知らぬ神がいた。神はある時、善を求める人物と出会い、一つの契約をする。
 それは、遍く人々の顔を診て、その宿世に刻まれた善性に見せるということ。その代わり、神は契約者に相を宿す力を与えるという事。
 そしてその契約者こそが『全相の会』の創始者であるということだそうだ。
「成程な……」
 一見、ごくごくありふれた縁起の話。しかし、解釈しだいではこの儀式の意味を探すこともできるだろう。
 彼らが求める贄とは、そして『祝福』とは。
 惚けた男性をその場に捨て置き、フォルターはその場を後にするのであった。
 
 
「……問題はなさそうですね」
 職員の元へと向かうフォルターの背中を見送り、トリテレイアは子供たちに混ざり歌カルタの読み手を始めることにする。
 日本独特の和歌、その上の句を読み上げ、下の句の札をとる。ここでは和歌自体耳にしない子供も多いだろうと配慮して、敢えて聞き取りやすいよう抑揚や声色を調整する。基本的なルール、知識は事前に用意してきたため、ゲームの進行に支障はない。
 物珍し気に札を探していく子供もいれば、面倒くさいと投げ出すものもいる。そんな中に紛れて――。
「……」
 先ほどの少年の様に、自我が極めて薄く感じる子供もがいた。
 一見高校生程。服装は派手で、いかにも不良息子、といった感じ。ここに来るまでに反発し、職員に渾名を呼ばれでもしたのだろうか。
 一区切りした頃を見計らい、トリテレイアはそっと彼に近づく。そして、こっそりと彼のポケットへと鈍色の妖精を忍ばせた。
 その姿は、先ほどのフォルターの助言に従って己の姿をデフォルメしたものとする。これならば、他のものがみてもちょっとしたお土産程度と思われるだろう。
 この先に起こり得るかもしれない最悪の事態。『その時』に備えて、最悪が起きない為に。
 そして願わくば、彼が自宅でこれに気付き、家族の中でただの笑い話となることを祈って。
「……今はゆるりと楽しみましょうか」
 トリテレイアは再び札を集め、子供たちと遊びを興じるのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

朱赫七・カムイ
祝福を与える神というのは如何なる存在なのだろう
邪神嫌いのカグラが酷く不機嫌だ
子供の姿に変えた事も嫌らしい

少し我慢しておくれ
邪なる神が如何にひとに取り入り、堕としていくのか興味深くて
私は厄災には成れど邪には堕ちない
可愛い巫女が哀しむからね

『不登校のうちの子に祝福が欲しくて』
子供姿のカグラの手を引き解除へ
被るのは鴉の仮面―三つ目の鴉の―クロガラスとでも呼んでおくれ

祝福というより都合の良い人形造りかな
無垢の方が結びやすい

カラスは偵察を
大丈夫
カグラの事、守るよ

カグラは私と一緒に子供達と遊ぼうか
そなた達は何処からきたの?
祝福は楽しみかい?
なんて和やかに
かごめかごめに花一匁、遊びながら情報を集めていこうか



●さいをしめす
「少し我慢しておくれ」
 朱赫七・カムイ(約倖ノ赫・f30062)は共に歩く童に向けて、宥めるように話しかけた。彼の視線の先、手を引かれる十かそこらの童は、尚もごねるようにそっぽを向く。
 彼の本性は、桜竜人の荒御霊を宿す人形。その本質故に、カグラは邪神というものを嫌う。
 にも関わらず、今まさに邪神が巣食う場所へと乗り込もうというのだから、彼が酷く不機嫌なのは当然であった。それにどうやら、潜入の為とはいえ子供の姿へと変えたことも不服であるらしい。
 事前に周囲を飛び、偵察をしていたカラスも、敢えてカグラを危険へと晒そうとするカムイにはやや批判的な視線を送っている。
「大丈夫。カグラの事、守るよ」
 そんな、いつかの、だれかの分霊に苦笑交じりに安心して欲しいと視線で返して。それでも、彼は邪神への館へ向かうことを止めない。
 カムイには彼の邪神とやらに逢ってみたい理由があった。
「『祝福』を与える神というのは如何なる存在なのだろう」
 『祝福』が言葉通りである筈はあるまい。何故なら彼におわすは禍つ神。人を狂気へと導く古き者の骸であるのだから。
 では、邪なる神は如何にしてひとに取り入り、堕としていくのか。それがカムイにとっては興味深かった。
 ――尤も、いくら惹かれようとも神たる彼がその狂気に堕ちるつもりは二度と、ない。
 朱赫七・カムイは厄災には成れど、邪には墜ちない。厄は転じて塞へ。然ればいまのカムイは守護するものである。
 だってそうしなければ、可愛い巫女が哀しんでしまうから。
 それだけは、カムイにとって避けたいことなのだ。
 
 
 
「不登校のうちの子に祝福が欲しくて」
 以前むくれたままのカグラの態度がらしかったのかもしれない。特に怪しまれることなく、カムイ達は会場内へと入り込むことができた。
 それぞれの顔には三つ目の鴉の面。呼ぶならば『クロガラス』といったところだろうか。
「じゃあ、一緒に子供たちと遊ぼうか」
 カムイのものとよく似た、しかし全体的に小振りな『コガラス』の面を付けた童へ向かいそう言い、混ざれる集団はないかとあたりを見回す。
「勝って嬉しい花一匁……♪」
 そんな彼らに折良く聞こえてきたのが童歌を歌うあどけない声達だった。
「そなた達はどこから来たの? 私達も一緒にいいかい?」
 折角の縁だと、カムイとカグラはそろってその集団へと話しかける。過度な人数にならなければこの手の遊びは何人でも遊べるもの、混ざることは容易だった。
 勝って嬉しい花匁。負けて悔しい花一匁。
 それぞれ手を繋ぎ、調子を合わせて歌っていく。
 あの子が欲しい、あの子じゃ解らん。この子が欲しい、この子じゃ解らん。
 本来持つはずの名前を知らないから、指名する際の名は勿論仮面の名前だ。
 『白猫』ちゃんが欲しい、『狛犬』くんが欲しい。
「――成程」
 その様が、とても奇妙だと思えた。名を奪い、顔を奪い。まるで、子供の器を残したまま一から作り直しているようだ。
 かの神は正しき顔を与えることを祝福と呼ぶそうだが。
(どちらかと言えば、『祝福』というより都合のいい人形造りかな)
 真白の肉の器に挿げ替えるには、無垢へと削ぎ落した方がさぞかし結びやすかろう。
「ねぇ、『祝福』は楽しみかい?」
 試しにと和やかな遊びの合間にそっと、子供達へと問うてみる。
 返ってきたのは分からないという言葉。
 此処に集まるのは何かしらの問題――特に家庭内での不和を抱えるものが多いと聞く。年端のいかない子であれば、自分が何しに来たのか断片的にしかしらない子がいても不思議ではないだろう。
 カムイは思う。
 そんな、純粋な子供をさらに無垢へと返して。
 ――あの子が欲しい。この子が欲しい。
 ――相談しよう、そうしよう。
 大人たちが頭を廻らせて行きついた童たちは一体どのような『良い子』なのだろうかと。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『黄昏の冠』

POW   :    痛い痛い痛いイタイイタイイタイ――きもち、いい
【黄昏の救済による教義】に覚醒して【いく段階に応じて、肉体の素質に応じた化物】に変身し、戦闘能力が爆発的に増大する。ただし、戦闘終了まで毎秒寿命を削る。
SPD   :    嗚呼。救済の教えが、導きが、肉から溢れ出ていく
対象の攻撃を軽減する【為の痛覚鈍麻と、肉体が即時再生する状態】に変身しつつ、【肉体の損傷を顧みない肉弾戦】で攻撃する。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
WIZ   :    呼んでいる。何もかも、全部、救われる、呼び声が
自身に【邪神の寵愛による耳障りな歌声】をまとい、高速移動と【聞いた者の脳内に反響し続ける悲痛な絶叫】の放射を可能とする。ただし、戦闘終了まで毎秒寿命を削る。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●祝福
 やがて、その時は訪れた。
「皆様、お待たせしました。祝福のお時間となりました」
 厳かな声が部屋の中を響き渡り、部屋の奥の扉がひとりでに開かれる。
 扉の奥にあったのは階段だった。
 蝋燭が入れられたいくつものランプが壁にかけられ、揺らめきながら橙の明かりを落としている。多少の薄暗さはあるが、通る分には問題がなさそうだ。
「ご参加者の方はどうぞ階上の祝福の間へ。」
 或るものは誘われるようにふらふらとした足取りで、また或るものは無理矢理手を引かれながら、参加者たちは次々と案内に従い移動し始める。
「祝福を授かることをご希望の方は部屋の中央へ。そうでない方は壁際へとお並び下さい」
 子供たちに、保護者たちに紛れ、猟兵達も足早に会場へと足を急がせるのだった。
 面を被る人々、面に囲まれた人々。
 ――彼らは一様に、善性と謳われる顔を求め歩みを進める。
 
 
●無の無垢の無個性
 階段の先はそのまま、先程よりもさらに広い部屋へと繋がっていた。
 階段と同様ランプに照らされ浮かび上がったのは、一面真白の布で覆われた部屋。まるでこの部屋で行われる儀式が清純であることを強調するように、全てが白で塗りつぶされている。入ってきた場所以外、出入り口の類はない。
 部屋の中には既に数人の職員がおり、四隅に控えていた。もちろん、彼らも今までの者と同様面をかけており、特徴は不明。辛うじて男女の違いが分かる程度と言ったところか。
「さぁ……これから正しき相をあなた方に映していきます。共に無垢なる魂へと還り、善き相を宿しましょう」
 参加者が全員所定の位置についたころを見計らい、力強く言葉が響く。
 言ったのは、果たしてどの職員だったのだろうか。薄暗い中、口元まで覆われた面ではそれすら判別できない。
 子供達、保護者達に微かな緊張が走った。いよいよこれから、祝福が行われるのだ。
 
 その時だった。
 
 ばたん、と。扉が閉まる。
 振り返れば、そこには仮面を被った子供たちがいた。
「――」
 しかしそれは参加者の子供達とは明らかに様相が異なっていた。
 歳の差も服装もバラバラ。しかし、彼らは皆一同、まったくおなじ冠の様で、それでいて頭全体を覆う『仮面』を被っている。
「ア、アァ――!」
 『仮面』の子たちが奇声を上げる。それは聞く者の脳を揺らし、神経を揺さぶる常ならざる力ある声。
「彼らは我が会に感銘を受け、この場に留まり修行の道を選んだ『祝福の子ら』。他ならぬ彼らの手により、面に降ろした忌まわしき相を剥がし、その心を無へと還すのです。さすれば正しき相は自然とその肉体に降りるでしょう」
 厳かな声と共に仮面の子らは動き出す。奇声を上げながら両手を前へ突き出し、子供たちの顔につけられた面を剥がそうと迫る。
 職員たちはそれがさも当然とばかりに見守っている。壁際の大人たちは先ほどの声に当てられたのか、それとも事前に知っていたのか、誰も手出しをする様子はなかった。
 猟兵達は本能的に悟っていた。仮面の子供達は既に、この世のものではない。
 彼らはおそらく――残滓であり、残骸だ。
 祝福を受けた子供達、及び保護者たちの殆どは、何事もなくこの場から解放されたという。
 しかし、ほんの一握り、大多数の内の殆どに入らなかったものはどうであったのか?
 それら全ての行く先がそれらということでは無いだろう。しかし目の前にいるそれらにはもう、『個』と呼ばれるものは欠片すらもありはしない。
 それどころか、その肉体すら、既に人の形に留まりきれてはいなかった。一部に硬い皮膚を持つ者、以上に膨れ上がった腕を持つ者。人ではありえないものが生えているもの。
 ――おそらくとうの昔に、人としての生命活動は止めてしまっているのだろう。
 ただ一つ分かることは、彼らを止めなければ新たな犠牲者を生み出してしまうということ。
 職員の言葉を借りるなら、面と共にこれまでの相を奪われてしまい、人形のようになってしまうこと。そして運が悪ければ、異形となり果てた彼らと同じものになってしまうこと。
 部屋は充分な広さだ。参加者の人数を加味しても、戦闘には大きく影響はでるまい。明りも明瞭とまではいかないが、支障はない程度。
 ただ――仮面の子らの目的は参加者の面。それを最優先に動くだろう。
 
 偽りの無垢の祝福を阻止すべく、猟兵達は戦いへと備えるのだった。
ルゥナ・ユシュトリーチナ

忌まわしき相を剥がすって?
OK、ルゥナさんも手伝うよ、遠慮しなくて良いからさホラホラホラ!(とても良い笑顔)

取り敢えず、初手は煙幕弾とPDWで牽制。
動きに対しては持ち前の身体能力で追従するとして、問題は脳裏に響く絶叫カナ?
でもそもそもが戦闘中なんだし、悲鳴だの何だのは寧ろ有るのが当たり前。
つまり…普段と何ら変わらない訳だぁぁぁッ!

距離を詰め次第、全力を込めた拳打を叩き込む。(UCを使用)
かつての被害者という事で同情もしない訳ではないけれど、それはそれ。手加減はしないさね。

…あと、『全相の会』の人間がまだ残ってたらそっちにもUCを使うよ。大丈夫大丈夫殺しはしないよ社会的には死んで貰うがなぁッ!



●さしこむ
 へぇー……ふぅーん、ほーう。
 朗々と馬鹿けた口上を宣う声に、ルゥナ・ユシュトリーチナ(握撃系無気力フラスコチャイルド・f27377)は含みを持たせた笑みを浮かべた。俗にいう、とってもイイ笑顔というやつである。
 無垢なる魂? 忌まわしき相を剥がすって?
「OK。ルゥナさんも手伝うよ」
 場違いな程に明るい声で言うと、勢いをつけてルゥナは走り出す。
 折角だ、この滑稽な茶番にとことん付き合ってやろうではないか。
 ──但し、剥がす相手は子供たちではなく、面に侵された異形共であるがッ!
「遠慮しなくていいからさホラホラホラ!」
 立ち尽くす子供達の間をすり抜けながら、床へ向けて煙幕弾をぶちまける。あっという間に煙に塞がれる室内を前にして、思わず笑みが止まらない。
 お蔭様で馬鹿みたいに視界は不良。けれどそれは相手も同じこと。
 小銃を構え、ルゥナは躊躇うことなく引き金を弾く。長年の勘と経験で撃ちだされた鉛玉は煙る視界の中で正確に仮面の子らへの足元へと突き刺さり、その行動を牽制する。
 そのまま一定の間隔で銃を撃ち続けながら煙の中を駆け抜けた。攪乱の煙幕は長くはもたない。しかし、敵に近づいてしまえばこちらのもの、超近接戦こそがルゥナもっとも得意とする戦法なのだ。
 煙が薄くなる。小銃を捨て、空いた手を伸ばす。
 その手が目標の仮面の子らへ触れようとした直前──。
「っとお!」
 その鼻先を、高速移動で横入してきた別の個体の爪が掠めた。
 無理矢理身を引いた不安定の体勢のままバックステップ。バランスを立て直し、追ってくるように振り回される腕を掻い潜る。
 高速移動と言っても、理性を失ったモノの動き。冷静に対処すれば持ち前の身体能力で充分対応は可能な範囲であった。
「となると問題は──」 
「ア、アァ―――ッ!」
「っ……」
 それは何に例えることができるだろう。
 痛く、切なく、狂おしく、悍ましい。
 脳を直接揺さぶられるような声に、ルゥナは思わずたたらを踏む。
 歌なのか、叫びなのか、聞いているだけで精神を侵されるこの声だけは、ルゥナが如何なる動きをしようと防げるものではない。
 だが──それがどうした?
 此処は戦場で、ルゥナは戦闘中だ。目的の為に力を行使し、弱者を蹂躙し、勝利を掴み取る時こそが今である。
 そこに慈悲などなく、悲鳴や血は当たり前のように流れるもの。寧ろ、在ることこそが当たり前。
「つまり……普段と何ら変わらない訳だぁぁぁッ!」
 動くことを拒否する身体を叱咤する。己の絶叫が相手の声を遮り、揺れる思考を覚まさせる。
 止めとばかりに飛び掛かってきた仮面の子の腕を握りしめ、反対の手で拳を握った。
 力強い踏み込み、そして腹部へ向けた全力の、拳打。
「かつての被害者ということで同情もしない訳ではないけれど、それはそれ。手加減はしないさね」
 吐き捨てるように言って。ルゥナは相手の体を床へと転がした。
 ──ちなみに彼女が使用した今の打撃。その攻撃自体の殺傷能力はそれほど高くない。その骨子はあくまで腹部の殴打を起因とさせたその後の影響である。
 それ即ち、社会的な死。……何ってまぁ、全力で殴ればそうなるよね(意味深)。
 幸い、異形と化した肉体故か致命的な惨事は免れている様だったが、手加減しないというのならいっそ殺してやれと言いたい。それでももしっかりダメージとなるのだから一応効果はあるのだが。
 しかし、それはあくまで異形と化した場合のみの例外である。
「あ、おまけ見ーっけ!」
 つまり、たまたま傍にいてルゥナと目が合い補足された、暴動とも取れる一連の経緯を看過していた真人間の職員は、その例外には成り得ない。
「大丈夫大丈夫、殺しはしないよ社会的には死んで貰うがなぁッ!」
 故に……彼の末路はご察ししていただきたい。
 社会的に死んだのである。
 
 

成功 🔵​🔵​🔴​

神代・凶津
(ゲラゲラ笑う鬼の面)
おいおい、『共に無垢なる魂へと還り、善き相を宿しましょう』ときましたか。
何だ?仮面が笑うのが驚きか?
こちとら無垢とは程遠い面なんでな。
こんな茶番を見せられたら笑いを堪えきれないってもんだぜ。
「・・・凶津、笑うのは後。子供達を守るのが先。」
りょーかい、相棒。
んじゃ、派手に暴れますかッ!

「・・・式、召喚【飛び鎌鼬】」
召喚した式神達を敵にけしかけて乱戦に持ち込むぜ。
戦いの混乱に乗じて参加者の面に結界霊符を貼っていき結界術で敵の魔の手から護るぜ。

「・・・子供の『個』を奪う事を無垢にするとは決して呼びませんッ!」
その祝福、潰してやるよッ!


【技能・式神使い、結界術】
【アドリブ歓迎】



●きげき
 げらげらげら。
 けたたましい笑い声が上がる。
 その声は壁際に立つ巫女装束の女から上がっていた。
 しかし、笑い声は間違いなく男性のものだった。つまり笑っているのは彼女ではない。
 当たり前だ。
『おいおい、『共に無垢なる魂へよ帰り、善き相を宿しましょう』ときましたか』
 何故なら声の主──神代・凶津(謎の仮面と旅する巫女・f11808)は、彼女の顔にかかった鬼面に過ぎないのだから。
『なんだ? 仮面が笑うのが驚きか? こちとら無垢とは程遠い面なんでな』
 集まった仮面の子らの視線に凶津はげらげらと再び笑う。
 もしも彼に人間のように腹があれば、捩れてしまうだろう。それくらい笑えて仕方がない。
 無垢? 善き相? 一体何を言っているのか。
 面を突ければ穢れとやらは本当に消えると、この者達は本当に信じているのだろうか・
 本来顔を隠すための面、それが本来の顔を消してしまえるとでも。消したものが、消した先にあるものが、正しく善性であると。
 この赤い鬼の面の前で、そんな戯言を本気で言っているのか!
『こんな茶番を見せられたら笑いを堪えきれないってもんだぜ』
 ゲラゲラゲラゲラ。
「……凶津、笑うのは後。子供達を守るのが先」
 笑い続ける凶津を軽く叩き、肉体の主である桜が嗜める。
『りょーかい、相棒』
 そこでやっと、凶津は笑うのをやめ、目の前の敵へ意識を集中する。桜はその間に懐から符を出し、構え戦いに備える。
『りょーかい、相棒。んじゃ、派手に暴れますかッ!』
 凶津が声を上げ、桜が印をきった。
「……式、召喚【飛び鎌鼬】」
 虚空より二人の霊力を依り代として現れ出でたのは、およそ90匹以上にも及ぶ鼬の群れ。しなやかな身体を持つ彼らの手には、風を纏い、鋼鉄をも容易く斬り裂く鎌が召喚と同時に付与されている。
『そぉら行って来いッ!』
 凶津の声を合図に、それらが一斉に異形の子供達へと襲いかかる。悍ましき歌声と共に超加速を得た子供達も我武者羅に手足を振り回し鎌鼬を振り払うも、その数の差は圧倒的。
 一人が一匹を掴み、二匹がその背中を斬り裂く。二匹が叩きつけられ踏みつけられる内に、三匹が足を削ぎ、転ばせ斬りかかる。
 異形へとなり果てた者と、式としての妖。乱戦へと縺れ込んだ戦いの場は時を追うごとに大きくなっていく。
 しかし、その中で流れる血はあくまでこの世ならざるもの達のみ。仮面の子らは、誰一人として参加者に触れることは叶わなかった。
 凶津達を中心に群れを形成する鎌鼬の壁は厚い。力づくで抜けようとすれば、その前に風の刃がその手足を瞬き一つで切り落としてしまう。
 そして、なまじ抜けたとしても、
「……触らせません」
 子供達に貼られた桜の符が、そこに込められた退魔の力が、異形の手を阻んでいた。
 凶津が鎌鼬を呼び、誰もがそちらに気を取られた最中。戦いの混乱に乗じて桜は子どもたちの面一つ一つに結界霊符を貼り、気を込めたのだ。
 今すぐに、彼らを救うことはできないけれど。安全な場所に、送り届けることはできないけれど。
 完全な手遅れになるその前に。敵の魔の手が、二度と彼らに触れることが無いように。
 符の力が発動し、子供達の周りに神聖なる結界が生まれた。
 その前に仁王立ち、凶津と桜は式神を繰りながら宣言する。 
「……子供の『個』を奪うことを無垢にするとは決して呼びませんッ!」
『その祝福、潰してやるよッ!』
 鬼来る禍つ風が、偽りの善の手を切り払う。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

御前・梨


これまた真っ白な部屋に連れてかれたと思ったら…成る程、これが祝福の儀すか。…で、あれが祝福の効果と

…う〜ん、正直な話、何が良い子扱いになるのか、祝福って何なのかはさっぱりわかりませんすが

お仕事ですし、さっきの大富豪で負け越したままってのやですから

――さっさと片付けますか

あれ等の狙いは参加者の子供達、となれば子供達の側に居ればあっちから勝手に寄ってくると、…ならあれ等が近寄ってくるタイミングを…ずらしますか

暗器を投擲、死体に何処まで効果があるかはわからないすが、動いてるって事は少なからず、暗器に塗ってある【マヒ攻撃】は多少は効くでしょ。

で、近寄ってきた奴には指定UCで【切断】で片付けていくっす



●つづき
「これまた真っ白な部屋に連れてかれたと思ったら……成程、是が祝福の儀すか」
 始まった儀式とやらの内容に、御前・梨(後方への再異動希望のエージェント・f31839)はそんな感想のような、そうでないような言葉を漏らした。
 何か期待していたのか、そういう訳では全くない。ただ、言葉通り成程な、と思っただけだ。
「……で、あれが祝福の効果と」
 仮面をつけ、仮面に侵された哀れなもの達。善悪どころか、彼らの中にはそれを思考する心すら既に残っていないだろう。成程、彼らが目指すべきものはどうやらあんなものであるらしい。
 そう思って──それだけだった。
 梨はそのことに、良いとも悪いとも思わない。ただその事態を受け止め、理解し、納得しただけだ。
 何が良いとか、何が悪いとか、それは梨のやるべきことには関わらない。
「んじゃ……」
 ただ、彼が今ここでやることは。
「──さっさと片付けますか」
 仕事の遂行。それに関与する者達を、叩き伏せるだけだ。
 梨が行動を開始する。
 彼がまず向かった先は、相変わらず立ち尽くしたままの子供達だった。彼らの前に立ち、彼らを庇う様に敵との間に滑り込む。
 あれ等の狙いは参加者という名の犠牲者である子供達だ。一体多数の中、梨が下手に打って出たとしても、すり抜け、被害が出てしまう可能性は高いだろう。
 それならば、先に子供達の側で待機して備えていればいい。どうせ放っておいても敵は勝手に寄ってくる。梨は好機を待ち、必殺の攻撃をお見舞いする。それだけだ。
 そして、一度に二人を相手するよりも、一度に一人、確実に殺した方が効率が良いに決まってるから。
「……あれ等が近寄ってくるタイミングを、ずらしますか」
 袖口に仕込んでいた暗器を引っ張り出し、手近な敵に投擲する。今度は靴裏に仕込んであったものを出して同様に。それらは吸い込まれるように仮面の子供達へと命中し、皮膚を裂き、肉に食い込んだ。
 それらの刃には毒が仕込まれている。今回の場合は敵の動きを奪い、無力化する麻痺毒が。
 相手は異形。しかも、その肉体は既に抜け殻も同然。いっそ死体と言っても過言ではない。梨の毒がどこまで効くか、正直確証はない。
 それでも、人外だろうが死んでいようが、相手は動いているのだ。その神経伝達、筋肉の収縮、そのどれかが阻害されれば、多少なりとも動きは鈍る筈──!
「――」
 仮面の子が言語として聞き取れない悲鳴を上げる。その足が縺れ、床に転がった。転がった肉の器に足をとられ、他の子らも将棋倒しとなり陣形が乱れていく。
 それでも敵の侵攻は止まらない。立ち上がるもの、這ったまま進むもの、それぞれの方法で子供たちへ、梨へ向けて侵攻を再開していく。
 ぼこりと、異音。
 仮面の子の一人が身を起こす。
 その首が、伸びた。人の体を捨て、より効率的に儀式を成す為に。仮面の下から覗かせた顎を開き、子供たちへ襲い掛かる。
 しかしそれこそが彼らの致命的な過ちであり、梨の絶好の好機。
 何故ならその一手は誰よりも早く、故に、独りであったから。
「──終わりだ」
 異形となった首の動きが止まる。梨のユーベルコードにより対象の時が止まる。
 その隙に近寄って。
 傘に仕込まれた剣を抜き放って。
 斬った。
 斬って斬って斬って──斬った。
 何度も、何度も。何度も何度も何度も。肉が再び盛り上がろうと血が飛び散ろうと敵の肉体が痙攣しよう、その首を落とし命を完全に切り落とすまで、梨は斬り続けた。
「……うーん、正直な話、何が良い子扱いになるのか。祝福って何なのかはさっぱりわかりませんすが」
 ごとりと肉が落ちる。それを視線で追いもせず、流れるように近寄る敵に再び剣を向けながら、梨は普段と変わらぬ口調で独り言ちる。
 良い事なんて、梨には分からないし、梨が決めることではないけれど。
「お仕事ですし、さっきの大富豪で負け越したままってのやですから」
 次回は革命を決めてやる。
 そう意気込んで、また一つ、硬い肉を切り落とすのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

馬県・義透
引き続き『疾き者』
武器:漆黒風、四天霊障
たまにのほほんが消える。

何が祝福だ(壁際でぼそり)
こういうとき、この武器でよかったですよ。隠し持てますから。
【それは兵のように】で召喚した弓足軽たちを、二人ずつの合体で半数へ。
参加者を、結界術と武器受けでかばい守るように厳命。

私は漆黒風を近接武器として使いますね。
そして、再生阻害呪詛+風属性攻撃。軽減するとはいえ、傷はつきますからね。
それに、寿命を削るようですし、ねぇ?長くは続かない。

面へ手がのびてきたら、四天霊障による三重属性(氷雪、炎、重力)防御オーラで弾きます。

ここにあるは、鬼の所業。『潜入暗殺の鬼』が遅れをとるはずないだろう?



●すぎ去るは
 彼のその言葉を聞くことができたのは、果たしてどれほどいたのだろうか。
「……何が祝福だ」
 普段の彼、馬県・義透(死天山彷徨う四悪霊・f28057)を、彼の中の『疾き者』を知っているものであれば驚くほどに低い声。壁に凭れていた義透はそう吐き捨てると、おもむろに立ち上がり一歩前へ出た。
 同時に、彼の後ろに、ずらりと弓を携えた兵が並ぶ。
 『それは兵のように』。
 義透のユーベルコードにより生み出された弓足軽達である。最大数百近くにまで展開可能な彼らは、今この場では二人分の力を束ねた半数の軍勢。それでも、今この場にいる一般人を守り切るには十全な人数となる。
「貴方達は参加者を。決して誰も通してはいけませんよ」
 背後に敷かれた兵達にそう厳命すると、義透はさらに一歩踏み出す。
「こういう時、この武器でよかったですよ。隠し持てますから」
 優し気な口調、そして口元に乗せていた穏和な微笑みとは裏腹に、その目は欠片たりとも、笑ってはいなかった。
 言いながら構える手の中には、手の中に収まるほどの某手裏剣。蝋燭の炎を反射して時折緑色に光るそれを手の中で遊ばせて、仮面の子供達へと向かい合う。
 音も無く、彼の手が閃いた。
 予備動作もなく投げられる刃。風の魔力を乗せた某手裏剣は仮面の子らに気付かれる間もなくその肉を抉っていく。
 それでも、仮面の子らの侵攻は止まらない。急所を貫かれようと、血を流そうと、己の肉体で凶刃を受け止め、気する様子もなく彼らは子どもたちに向かっていった。
「痛みは既にありませんか……」
 よくよく見れ見れば、異形の身となった恩恵か、その傷は既に塞がり始めている。痛みを感じず損傷を厭わない精神と、再生を続ける頑丈な肉体。成程、生半可な攻撃では彼らを討つことは叶わないだろう。
 しかし。
「けれど……軽減するとはいえ、傷はつきますからね」
 義透は怯むことなく新たな某手裏剣を引き出し、再び投擲する。同様に突き刺さり、血飛沫が上がる。
「──、ア、ア」
 そして、その傷は、今度は塞がることは無かった。
「直らないでしょう?」
 刃に込めるのは先と同様に、風の魔力による威力の底上げ。そして更に重ねたのは、呪いによる再生の阻害。それにより、仮面の子らの捨て身は崩される。
 再生さえなくなってしまえば残るのは頑丈なだけの躰。こちらの得物は変わらず棒手裏剣だけだが、それでもやり様はいくらでもある。
「それに、どうやらその力、寿命を削るようですし、ねぇ?」
 参加者を守り切り、一方的に傷付けるだけなら。この戦い、圧倒的に義透の方が上手だ。 
 不死身の肉体に任せた力技が敵わないとみるや、仮面の子らの動きが変わる。
 一部の者を義透を足止めに置き、残りが弓足軽が守る子供達へと向かう。当然、守りを任された弓兵たちは次々を矢を打って発射するが、痛みを感じない彼らは止まらず突き進む。
 目を穿たれ、耳を削がれ。足を撃たれ、それでも手を伸ばし。
 結界を打ち壊そうと、その手を掛けたところで。
「甘すぎる」
 冷酷な鬼の声と共に、その腕が弾け飛んだ。
 氷が、炎が、重力が、その身に触れるのを拒むように。彼らの祝福を退けるように。
 足止めを倒し、子供達との間に滑り込ませた義透の躰。そこから身に宿した残りの悪霊達の霊障が立ち昇り、満身創痍の仮面の子を粉砕した。
 ここに立つ馬県・義透は『疾き者』。そして彼はかつて、その所業から鬼と呼ばれたもの。
「ここにあるのは、鬼の所業。『潜入暗殺の鬼』が、遅れを取る筈ないだろう?」
 風はどこにでも在り、どこにでも向かうもの。
 故に、その風を追い抜くことなど、できはしないのだ。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

黒鵺・瑞樹

右手に胡、左手に黒鵺の二刀流

善性とは面(おもて)ではなく、内から出る物じゃないのか?
あぁだけどこの子たちはあまりにも…哀れだ。
そういう感情を持つ自分に烏滸がましいとは思う。人に個を与えられた俺が、奪われたモノに憐れんでもいいのだろうか?と。

まずは伽羅を呼び出し雷撃を放ってもらう。
室内だしダメージより音による絶叫の相殺狙い。
俺自身は一応存在感を消し目立たない様に立ち回るが、マヒ攻撃を乗せたUC炎陽を部位狙いで腕に放って少しでも相手の行動を阻害する。
敵の攻撃は第六感で感知、見切りで回避。
回避しきれないものは本体で武器受けで受け流し、カウンターを叩き込む。
それでも喰らうものは激痛耐性で耐える。



●にじむ
 閃光が、白い部屋の中をさらに白く染め上げた。
「伽羅」
 黒鵺・瑞樹(界渡・f17491)に従い、水神たる竜が空中へ跳び上がり、咆哮を上げる。その呼び声は眷属たる水気を呼び、部屋の水気は巡って雷を招く。故に、竜の呼び声は今や室内であるにも関わらず、真白の部屋の中に雷を生み出していた。
 故に、落雷がまた一つ。轟音が走り、墜ちた青白い光が壁に掛けられた布を焦がしていく。
「善性とは、面ではなく、内から出る物じゃないのか?」
 それらが生み出す騒動の影に潜み、瑞樹は『全相の会』の言葉を反芻していた。
 面を剥がして、個を剥がす。その先には正しき道がある。まるで、正しいものがどこかから降ってくるかのような言い回しだ。
 逆だ、と思う。
 面はあくまで者で、個が、心が宿るのは、肉体のもっと深いところの筈だ。そこで生まれるからこそ、人の善には意味がある。刀というものとして、ヤドリガミというヒトの器を持つ者として、瑞樹はそう思うのだ。
 あぁ、だけど。それだから。
「この子たちはあまりにも……哀れだ」
 雷の中、虚空を見つめ面と共に歌う仮面の子らを見遣って、瑞樹はそっと目を細める。
 彼らにはもう何もない。善を生み出すものすら残っていない。そう思うと胸が締め付けられる様だった。
(そういう感情をもつ自分が烏滸がましいとは、思うけれど……)
 本来、人の手により個を与えられた者が物であり、それがヤドリガミたる瑞樹だ。それが個を奪われたモノを憐れむ。それを皮肉と言えずなんというのだろう。
 それでも、それを悲しく感じてしまう心は間違いなく瑞樹という個が持つ善性である筈だから。
 ここで、彼らを終わらせる。
 視線だけで伽羅に雷撃を続けるように合図し、瑞樹はそっと刀を構えた。
 雷は相変わらず振り続けてはいるが、それらだけで仮面の子らを抑えるのは不可能だろう。所詮室内の中、さらに言えばここには無力な一般人がいる。彼らに被害が及ばない様、伽羅には加減させている。この雷自体に、見た目ほど大きな殺傷能力は無い。
 伽羅による雷の狙いは大きく二つあった。
 内一つは、敵の注意を惹き、瑞樹が敵の死角を取りやすくするための陽動。
 そしてもう一つは、雷による轟音での、仮面の子らの絶叫の相殺。現に、動きの加速は見えても悲痛な絶叫は瑞樹の耳には届かない。代わりに聴覚に頼ることはできないが、それでも動きを阻まれるよりは幾分マシだろう。
 左に太刀、左にナイフ。二刀を構え、敵の死角に滑り込む。斬りかかる直前で気配に気付いた敵が殴りかかるが、それは己の本体たるナイフで受け、弾いた。
 そうして生まれた隙に、呼び出す。
「緋き炎よ!」
 鑪の中で生まれる、あらゆるものを融かし、育む錬鉄の炎を。
 瞬き一つの間に子供の体を呑み込み、その四肢を焼き、動きを封じる。暴れる子から散った火花は即座に周りへと燃え広がり、次の仮面の子を呑み込んでいく。
 これは、本当は瑞樹達が還る赫であるけれど。炎はきっと、全てを燃やし、浄化へと導いてくれるから。
 哀れ子供達の手も、きっと引いてくれるだろう。
 そう、願いながら。赤く光る彼らを、瑞樹は切り捨てていくのだった。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

外道・紫
あぁ、噂に聞いた仮面だな……たしか、黄昏秘密倶楽部の
なるほど、子供たちから抜き取ったものをアレに喰わせたか
はっはっは……同じモノを生み出させる訳にはいかないな

さて、子供たちに手をかけさせやしないさ……これでも足には自信がある
まずは一気に駆け寄り、黄昏の冠と子供たちとの間に入ろう
そうすればしめたもの、あとはメスで切り刻むとしよう
ああ、いくら人としての姿を失おうと無駄さ……私の瞳には、まだ君は人として映っている
君は人として殺してやろう

ああ、肉体を切り刻むのは非常に心地よい
これが生きた人間であればなお良いが……まぁ、文句は言わんよ
都合よく、私の素顔は表からは見えないからな
この笑顔は見せられないな



●まだら
「あぁ、噂に聞いた仮面だな……」
 外道・紫(きぐるみにつつまれたきょうき・f24382)は仮面の子が身に着けるそれに、いささかの見覚えがあった。と言っても、直接相まみえたことはない。鳥を象るような仮面に特徴的な目玉、その外見を聞きかじっていただけた。
「たしか、黄昏秘密倶楽部のものだったか」
 それはUDCアースの中で、ひそかに活動する邪教集団の名。長きにわたる活動の中、たまたま紛れ込んだ面の呪力に団体のものが気付いたのか、もしくは彼らの一部が此処の活動に一枚噛んでいるのか……どちらにしても、それがここに存在するという自称が彼女にとっては非常に興味深い。
 付けた者に寄生し、その肉体を乗っ取る異教の仮面だ。なるほど、子供達から抜き取ったものをそれに喰わせたか。そうすれば手駒は増えるし、残骸となったものをわざわざ処理する必要もなくなる、確かにあちらがわからすれば妙案だろう。
 それは確かにとても合理的で──なんという外道だろう。
「はっはっは……同じモノを生み出させる訳にはいかないな」
 これ以上一人足りとも、その存在を許す訳にはいかない。ウサギの着ぐるみの手にメスを握ると、紫は一気に駆け寄り、仮面の子らの進路へと割り込んだ。
「さて、子供たちに手をかけさせやしないさ」
 これでも足には自信がある。始めからこちらを注視している相手なら知らず、子供達を襲おうとしている敵の不意を打って先回りするくらいなら、紫には造作もない。なんせウサギの足はとっても速いのだから。
 仮面の子らに肉薄する。敵は無手、しかし、子供と変わらない見た目のその肉体はもやは異形の範疇である筈だ。
 その器に向けて、紫は己の得物を振るった。
 一息に九つ。彼女の寿命と引き換えにその瞳が輝く時、振るわれるメスの回数は激増する。
「……ああ」
 メス越しに伝わる重く、暖かな感触。紫は思わず口元を歪めた。
 着ぐるみに身を包むその身体に走るのは、快感である。
 肉体を切り刻むのは、非常に心地が良い。これが生きた人間であればなお良い、とまで思うが、猟兵たる身、文句は言えまい。
「今は只、こうして肉を刻めるのだから充分だ」
 紫の手の中で鈍色の刃が閃くたび、仮面の子の肉は千切れ、真白の部屋に赤いしみが増えていく。
 それでも──彼らはそれくらいでは斃れないのだ。
 仮面の恩恵は脆い肉の器をつよく造り変える。裂かれた傷は瞬き一つで塞がり、腕の二本や三本吹き飛んだとしても、一呼吸の後には新しい肉が盛り上がり、新品が生えてくる。
 彼らは異形、変わり果てたもの。その身体はもはや人に在らじ。
 けれど。
「いくら人としての姿を失おうと無駄さ」
 それでも、紫はメスを振るい続けた。
「……私の瞳には、まだ君は人として映っている」
 いくら痛覚が消え失せていようと、異常な回復を見せようと、彼女にとってはまだ彼らは人の範疇だ。
 ならば彼女は人を直す医者として、人を殺す殺人鬼として、彼らを見るまでのこと。
 斬って、摘出して、ばら撒いて。この白い部屋の部屋に大きな赤い花を咲かせ続けて。
 その最期を、紫は見送るまで手を動かし続ける。
「君は人として殺してやろう」
(……都合よく、素顔が表から見えない恰好で良かったよ)
 兎の着ぐるみで、己の狂気たる相を隠しながら。

 ──この笑顔は、とてもではないが見せられないのだから。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

ディスターブ・オフィディアン
第一人格で行動

翁の面をかぶって戦闘

心情
「ふん、忌まわしき相をはがす、か。子が勝手に歩き回って困るから、と子供の足を切るようなものだな。なるほど、困ることはなかろうが、親も子も不幸になるだけだ」

行動
レプリカクラフトで、無数のワイヤートラップと仕掛け弓を生成、一般の参加者を守るように展開しておこう

ロープワークを駆使して、宙づりや雁字搦めにしておこう、いくら再生しようと動きを封じておけばどうということはない。
敵からの攻撃は見切りでかわし、逃げ足で退避、罠の位置までおびき寄せる
ワイヤーを力づくで突破されたら、仕掛け弓の罠を起動、矢衾だ

「自由意思を奪われた神の傀儡か。哀れなものだ、せめて終わらせてやる」



●たおるものは
 参加者の集団の中で、黒い影の塊がゆらりとその身を起こした。
「ふん、忌まわしき相を剥がす、か。子が勝手に歩き回って困るから、と子供の足を切るようなものだな」
 翁の面をつけ儀式に紛れ込んでいたローブ姿の男性、ディスターブ・オフィディアン(真実を 暴く/葬る モノ・f00053)は、『全相の会』が与える祝福をそのように切り捨てた。
 誰かの行動を、別の誰かが一方的に押さえつけることはできない。だから人は話し合い、お互いの意思をぶつけ合って互いが納得する道を選ぶのだ。たとえ親子という仲であってもそこは変わらない。
 それなのに、この『祝福』とやらはどうだ。己の望み通りに咲かぬのならと不要な葉を片端から千切っているに過ぎないではないか。
 たしかに、見た目は綺麗になろう。望む華に見せることはできよう。
「なるほど、確かに困ることはなかろうが、親も子も不幸になるだけだ」
 しかし葉がなければ、花は開くことも、結ぶこともできずに朽ちていくだけだ。
 そんな愚かなことを、わざわざ目の前で見過ごす訳にはいかない。その為に、『叡智の灯』たるディスターブの第一人格は潜入を説き、彼らの前に名乗りを上げたのだ。
 対する仮面の子らの反応は極めて薄かった。わざわざ目立つ振舞いをしたにも関わらず、彼らの歩みは未だに参加者へと向け進められたままだ。
 今はまだ儀式の最中。仮面の子らは神の手足として参加者の面を剥ぎ取ることが役目である。この対応は想定の範囲内と言ってもいいだろう。
 ──故に、彼の攻撃はこの時点ですでに完成していた。
 『予定地点』に到達した仮面の子の足が、地面すれすれに張られていたワイヤーへと触れた。それを合図に彼の手に、足に、太く透明なワイヤーがその動きを阻まんと絡みつく。仮面の子は拘束を引きちぎらんと手足を振るも、さらにそれをきっかけとしてワイヤーが周囲の子らを絡め捕る。
「ほら、こうしてしまえば一纏めだ」
 そこに、ディスターブの手から生み出したばかりの新たなワイヤーが踊り、捕まえた敵を纏めて絡め捕り、宙へと吊り上げてしまう。
 いくら身体が頑丈で、尚且ついくら再生を続ける厄介な代物だったとしても、雁字搦めに動きを封じてしまえばどうということは無い。その為に、ディスターブは一般人を守る形で己のユーべルコードによって作り出した罠を事前に張り巡らせていたのである。
 新たに飛び込んできた仮面の子が殴りかかるのを避け、巧みに罠の『予測地点』へと誘導する。目測通りの場所で翻ったワイヤーが仮面の子の腕へと絡みつき──。

 ぶちり、と。絡め捕られた腕が地面へと落ちた。

 力づくでワイヤーを抜けようとした敵が、その腕ごと引きちぎって突破を試みたのだ。
「……嗚呼、残念だ」
 それを見届けたディスターブはため息をつき、指を鳴らしてもう一つの罠を発動させる。
 連続した射出音。絶妙な死角に取り付けられた仕掛け弓から飛び出した矢が突破した敵を矢衾とし、腕を生やしかけたまま仮面の子はその場に崩れ落ちる。
 二重、三重にも重ねられた仕掛け罠の檻。その中央で叡智の魔術師は翁の面を付けたまま嗤う。
「自由意思を奪われら神の傀儡、か。哀れなものだ、せめて終わらせてやる」
 次はどの罠にかかりたい、と敵の動きを操りながら。

大成功 🔵​🔵​🔵​

波狼・拓哉


わあ悪趣味
…まー失敗作の再利用って所ですかね
いや逆か?仮面に適応しちゃったのかな?

まあ、救えないならどうでもいいや
ほれ化け侵してきなミミック

適当に敵が密集してる所にミミックを投擲して…
あんなん正面から戦ってられませんからねぇ
味方同士で殴り合っといてくださいな…ま、一応一般人もいますからね
この技の利点は術中に嵌ったら味方しか襲わん所ですよ

自分は衝撃波込めた弾で術中にはまってない奴を優先して撃ち倒して回りましょうか
どうせ動揺とかは期待出来ませんし、闇にまぎれたり、第六感を使って目立たないように立ち回り
相手の動きを戦闘知識や視力で見切り、早業の撃ち込みみせてやりましょうか



●こわれた殻は戻らない
「わぁ悪趣味」
 現れた敵の軍勢に、波狼・拓哉(ミミクリーサモナー・f04253)はなんとも率直な意見を口から零した。
 だって、悪趣味なものは悪趣味だ。
 同じ面が一斉にこちらを向いてわらわらと。それだけでも壮観な上、問題の仮面は華美の割に異形の姿が露骨過ぎて、たとえ無意識だって手に取ろうと思えないデザインである。場の空気に呑まれていなければ、きっと拓哉以外の一般人だって同じ感想を持ったに違いない。
 手足が欲しかったとはいえ、何故このようなものを作ったのか拓哉には理解できなかった。
「……まー、失敗作の再利用ってところですかね」
 或いはその逆、仮面に適応しすぎてしまったのだろうか?
 誤って喰い過ぎ、人形としても使えなかったか、何かの要因で肉体の方がもたなかったのか、典型例として起きうることを指折り数えて……拓哉はあっさりとその思考を終了した。
「まあ、救えないならどうでもいいや」
 どうせいくら考えたところで推測は推測でしかないのだし。彼らはきっと応えることすら出来ないし、真実を知っていそうな職員があっさりと吐いてくれる訳がない。
 ──そもそも、知らなくても戦闘には何も支障がないものだし。
「ってことで、ほら。化け侵してきなミミック」
 切り替えた拓哉は、ひと抱え程もある箱型生命体、ミミックを召喚する。仮面の子らがこちらに攻め入るその前に、担ぎ上げたそれを敵の密集している場所へ向けて投擲した。
 着地と同時に口を開くミミック。宝箱の形をしたそれが吐き出したのは、様々な形状をした武器だった。
 剣、槍、斧。銃から鋸、チェーンソーまで。ありとあらゆる凶器がぶちまけられ、周囲の敵撫でていった。けれど、異形達の体に傷はつかない。何故ならそれらの武器は肉を切り抉る為のものでは無いのだ。
 ほら、典型の一つにあるではないか。
 特別な宝箱の中には、いつだって特別に『わるいもの』が入っているのだ!
「さあ……最厄の時が君に訪れる!」
 斬れない剣に貫かれた仮面の個体がくるりと向きを変えた。向かう先は、すぐ後ろに居た同朋の頸。両手を前に突き出し掴みかかって、その首を締め上げ骨を折る。
 斧に斬られた別の個体もそれに倣うように、隣の者を殴り飛ばす。殴られたものも自身の躰を異形化させながら己の味方で在る筈のものへと攻撃を加える。
 『偽正・平界空音』。ミミックの本来の力の一つである能力。彼のキョウキに触れた者は、見ている世界や思考を改変され、攻撃対象を己の味方へと挿げ替えられてしまう。
「あんなん正面から戦ってられませんからねぇ。味方同士で殴り合って下さいな」
 これにより、敵の軍勢は一気に崩れた。ミミックの攻撃を受けた者は同類同士で争うか、攻撃を逃れたものへ襲い掛かる。運よくどちらにも当て嵌まらなかったものは、同士討ちに巻き込まれない様物陰へと隠れた拓哉によって狙い打たれた。
 衝撃波を込めた弾丸により、敵の一人を後方へと押し込める。外れるのさえ阻止してしまえば、あとはミミックの狂気か敵の狂気の餌食になるだけだ。
 この技の最大の利点は、一度術中に嵌まったら味方しか襲わず、こちらの陣営に被害が出にくい所である。真の意味で発狂させればこうはいかない。敵味方問わず襲い掛かって、戦闘は乱戦へと変貌してしまうだろう。
「……ま、一応一般人もいますからね」
 被害はないことに越したことはない。同士討ちの漏らしを連射で対応しつつ、拓哉は互いに壊し合う仮面の子らを無感動に見つめるのだった。
「まだまだ後がつかえてるんで、さっさとやっちゃいましょうか」

大成功 🔵​🔵​🔵​

セフィリカ・ランブレイ
そんな情が深い方じゃないけど
子供の成れの果てを見るのは、気分が悪い

これ以上の事件は、絶対に止めなきゃね
シェル姉!ここはお願いできるかな?
私は逃げ遅れてる人がいないか確認して、その人のガードに回るからさ

【シェルファ顕現】にて、人形態の相棒を呼び出す
私のほうからも戦闘用のゴーレムを何機か出して援護に回す

実際シェル姉は、私よりずっと強い
何せ伝説の魔神と言われてた存在だ、素手のシェル姉でも私、勝てる気がしないもの

『……で、私へのオーダーは?』
できるだけ、苦しまないよう倒して。出来るよね?

『感情移入しすぎるの、悪い癖よ。セリカらしいけれど』
別にそんなんじゃない。やらなきゃならない事やるだけ!頼んだよ!



●はたすもの
 彼女──セフィリカ・ランブレイ(蒼剣姫・f00633)は、それほど自分が情が深い方ではないという自覚はある。
 人はいつか必ず死ぬものだし、不幸な人の全てを助けることは出来ないことも知っている。
過去の悲壮に捕われるよりも、今自分が望むことを優先してとことんやり尽くしたい。それが彼女というものだった。
 なのだ、けれども。
「……さすがに、子供の成れの果てを見るのは気分が悪い」
 そんな彼女にも、彼らの悍ましくも痛ましい姿はいささか目に余った。
 これ以上の事件は、絶対に止めなければならないと、思えるほどに。
 だから、セフィリカは今この場において最も最短に、効率的な手段にて彼らに対抗することを決めた。
「シェル姉! 此処はお願いできるかな?」
 腰に佩いた魔剣を抜き、その中の彼女に向けて呼びかける。
 顕現した蒼い髪の、セフィリカよりも幾分年嵩の女性――真の姿を取った魔剣シェルファは、そんなセフィリカを何か言いたげな表情で見つめる。
「私は逃げ遅れている人がいないか確認して、その人のガードに回るからさ」
 シェルファの視線を受け流し、さらに追加で戦闘用のゴーレムを呼び出し援護へと回す。その代償として、セフィリカ自身は戦う術を放棄することになるが、それを差し引いて尚こちらの方が戦いに分がある筈だ。
 なにせ、意志ある魔剣であるシェルファの実力は、現状のセフィリカの全力を遥かに凌駕する。かつての彼女は伝説の魔神ともい言われていた存在だ、たとえ素手のシェルファ相手だったとしても、セフィリカの力では勝てる気がしないのだ。
 だから、強い方が戦って、弱い方が援護と参加者の避難を誘導する。そちらの方が全体的に速くすむし、それはとても当然のことなのだ。
「その方が、セフィ姉も戦いやすいでしょ?」
『……はぁ』
 押し黙るシェルファに重ねて依頼すれば、彼女は一つ溜息をつく。
 そうしてようやく、重々し気にセフィリカへと問いかけを投げた。
『……で、私へのオーダーは?』
 その言葉に、今度はセフィリカが口を噤む番だった。
 だって、ずっと、ずっと、彼女がまだ幼い嬰児の時だった頃から見ていたシェルファは知っているのだ。
 セフィリカは確かに素直で、何事も自分本位。けれど目の前で悲しい目にあっている誰かを捨て置けるほどの悪人でもない。
 たとえ見ず知らずの誰かであったとしても、彼女の手の届く範囲であれば惜しみなく助ける。そういう善性ことが彼女の性分なのだと。
 それは敵であったとしても、いつかの犠牲者であるのなら同じこと。
「……できるだけ、苦しまないように倒して。出来るよね?」
 そう、願ってしまうから。わざわざ自分で戦うことをやめ、シェルファを呼び出したのだから。
『感情移入しすぎるの、悪い癖よ。セリカらしいけれど』
 一応と嗜めるように言えば、彼女は子供たちの背中を押しながら首を横に振る。
「別にそんなんじゃない」
 仮面の子らにセフィリカは同情などしていない。憐みなど感じていない。
 もう助けられないものを悼んでも何も変わらないのだから、それならばセフィリカは振り返らずに前を向きたい、前を向かなければならないのだ。
 そして今この場、前を向くとは一人でも多くの子供達を助け、敵を斃す事。
 だから顔を上げて、セフィリカは自身の姉貴分へと願う。
「私はやらなきゃならない事をやるだけ! だから頼んだよ!」
 言葉を背に受け、フェルファは再び溜息をつく。
 そんな彼女に攻撃の意思はないと見てか、仮面の子らが絶叫を上げなら子供達を追いかけんと彼女の横を通り過ぎる。
 その、直前──。
 敵の細い首筋を掴み上げる。難なく浮いた身体を無造作に床へと叩きつけ、次いで飛び出してきた者を振り上げた足を鞭の如く振るい蹴り飛ばす。
 吹き飛んでいった先にはセフィリカが残した戦闘用のゴーレムがある。あとは好きに片づけてくれるだろう。
 これはセフィリカの悪い癖だろう。その優しすぎる心は時として身を滅ぼしかねない。
 けれど。
『──頼まれたわ』
 けれどそんなセリカを、自分は主として認めたのだから。
 彼女の心を受けるように、シェルファは魔剣として、或る時の魔神として、彼女の望み通りの形で仮面の子らを斬り伏せていくのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

フォルター・ユングフラウ
【古城】

【WIZ】

迫って来るならば、辿り着かれる前に潰せば良い
単純明快だな
護りに関しては汝に及ばぬ
撃ち漏らしの処理は任せたぞ

さて、さて…どう料理してくれようか
折角なのでな、「蛇竜の君」たる所以を見せてやる
UCを発動し、我が下僕達を解き放つ
どうだ、この禍々しき面に相応しい業であろう?
何やら叫んでいるが、この程度の叫びは我が城に溢れかえっていた
全く足りぬな、出直して来い
「蛇竜の君」とは、「蛇竜の君主」を示すもの─すぐに果てる定めであろうとも、よく覚えておく事だ

残滓如きに我が美貌を開帳するのも勿体無く思えて来たのでな
汝はもう外したのか?
巨躯の翁騎士など、そう目にする事も出来ぬというのに勿体無い…


トリテレイア・ゼロナイン
【古城】

痛ましい姿ですが、これ以上彼らに今を生きる子供達を害させる訳には参りません…!

ええ、大勢はお任せします
後ろは気にせず、存分にお力をお振るいください

皆様、私の後ろへ!

保護者含めた参加者達を●かばいつつ剣盾を振るい撃ち漏らし迎撃する近接戦闘
センサー等での●情報収集と瞬間思考力で戦況や敵動向●見切り、脚部スラスターの推力移動で立ち塞がり

茫然自失の子供達に敵が近づけば(前章で忍ばせた)妖精ロボ起動し●操縦
●乱れ撃ちスナイパーレーザ―射撃で迎撃し近づかせず迎撃と保護の時間を稼ぎ

その面がとてもお気に召したようですね、蛇竜の君
確かに良くお似合いですが…
そろそろ外しても良いのでは

(既に外した機械騎士)



●おもてをあげる
 それは一瞬の隙だった。
 敵の伸ばした手が、自失し、動くこともままならない少年の腕を掴んだ。異形と化したものの力に引き寄せられるまま、少年の躰が傾ぐ。
 少年の倒れる先、そこには仮面の異形の手が彼の面を剥がさんと待ち受けており──。
 掻き爪のように開かれた敵の五指を、少年の懐から飛び出した光線が焼き貫いた。
『──ッ!』
 攻撃の正体は、トリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)が『その時』に備えてポケットへと潜ませていた鈍色の妖精だ。それは少年を守護するようにレーザーを乱射し、敵の手が少年に及ぶのを寸前で食い止めていた。
 妖精の奮闘が稼いでくれた時間を利用してトリテレイアは少年を担ぎ上げ、脚部スラスターを展開。他の参加者達の元へと避難させる。
 少年の怪我の有無を確認し、そっと床へと下ろして。改めてトリテレイアは仮面の子らへと向き直る。
「皆様、私の後ろへ!」
 その位置は、一般人を背後にとっての仁王立ち。彼らの面に固執する仮面の子らを決して近付けないと全身で表す絶対死守の構えだった。
 手遅れとなった仮面の子らに思うことがないと言えば嘘ではない。この鋼鉄の体は過去の犠牲者までは手を伸ばせない、その後悔はこれからも彼に付き纏っていくだろう。
 しかし、今には、未来には、まだ幾らでも、手が届く。それ故に。
「痛ましい姿ですが、これ以上彼らに今を生きる子供達を害させる訳には参りません……!」
 幾らでも、トリテレイアは手を伸ばし、身を挺す。敵がたとえどこまでも子供達を追い縋って来ようとも。
「追って来るならば、辿り着かれる前に潰せば良いだろう、単純明快だな」
 そんな彼と肩を並べて立つのはフォルター・ユングフラウ(嗜虐の女帝・f07891)であった。
 蛇竜の面をその顔にかけたまま、面の隙間越しに仮面の子らを見遣り、面白いと微笑む。
 そして、ここは任せろという様に一歩、優雅に前へと歩み出て見せた。
 後ろの彼はどうせ意地でも参加者を護ろうと尽力するだろう。ならば自分は、その余興に付き合いつつも己なりに楽しませてもらおうではないか。
「護りに関しては汝に及ばぬ。撃ち漏らしの処理は任せたぞ」
「ええ、大勢はお任せします。後ろは気にせず、存分にお力をお振るい下さい」
 素早く彼女の意図を察したトリテレイアの声が返ると、フォルターは満足気に頷き、腕を組む。
 さて、さて。此度はどう料理してくれようか。目の前の異形達を如何にして嬲るか、フォルターは舌なめずりをして考える。
「折角なのでな、『蛇竜の君』たる所以を見せてやる」
 出た結論は、己を表す渾名になぞるという戯れだった。
 ついとフォルターが指を向けると、彼女の足元より無数の毒大蛇が現れる。
「どうだ、この禍々しき面に相応しい業であろう?」
 彼女の嗜虐心や昂りによって生まれ墜ちるそれは、忠実なる下僕達。主たるフォルターをさらに愉しませる為にと顎を開き、仮面の子らへと喰らいつく。
 そこから先は、凄惨な光景だった。
 邪神の歌を纏う仮面の子らは、愚直に蛇の群れへと飛び込んでいく。蛇達は格好の獲物に喰いかかる。異形と化した腕を振り回し、蛇を叩き潰す。潰した先から新たな蛇が飛び出し、その喉笛を喰い裂く。
 なんとか蛇から抜け出そうとした異形の口から、悲痛な絶叫が上がった。
 聞くものの脳内に響き続けるという心を惑わす悲壮に満ちた声も、フォルターにとっては雑音の一つにしかならない。
 何故なら、彼女は嗜虐を愛する女帝。このような音など、彼女の城には溢れかえっていたものだ。そんなもの、今更この心は歯牙にもかけないのだ。
「全く足りぬな、出直してこい」
 喰って、潰して、喰われて、締めて。狙った獲物が殲滅するまで、蛇は主の愉悦の為に、憐れな子羊を喰らい続ける。
 幸運に地獄の様な群れを何とか抜けた個体に関しては、後衛からに戦況を読み先回りをしていたトリテレイアが回り込み、剣と盾を以ってその息を確実に仕留めていく。
 蛇竜と鋼鉄の騎士を相手に、仮面の子供らは一つたりとも、与えられた使命をこなすことはもはや不可能だった。
「『蛇竜の君』とは、『蛇竜の君主』を示すもの──すぐに果てる定めであろうとも、よく覚えておく事だ」
「その面がとてもお気に召したようですね、蛇竜の君」
 上機嫌に笑うフォルターの声に、剣を振るいながらトリテレイアは相槌を打つ。
 確かに、幾重もの毒蛇に囲まれ敵を屠る彼女にはその面はよく似合う。彼女の言葉通り、その本質を表していると言ってもいいだろう。
 本当に、良く似合っているのだが……。
「そろそろ外しても良いのでは?」
 合理的な思考の元、率直に意見を述べる。
 戯れの時間は終わったのだ。覗き穴はあるとは言えその視界は狭い。彼女ほどの人物が戦いに後れを取ることはないだろうが、邪魔ではあるだろうに。
「残滓如きに我が美貌を開帳するのももったいなく思えて来たのでな。そういう汝はもう外したのか?」
 面を外す様子の無い女帝に、騎士は無言で頷く。一方のトリテレイアは戦闘が始まると同時に即座に面を外していたのだ。
「巨躯の翁騎士など、そう目にすることも出来ぬというのに勿体無い……」
 先ほどの光景を思い出したのだろうか。クツクツと喉を震わせるフォルター。
 次第に本格的に笑いながら次の機会は無いのかと問うた彼女に、トリテレイアは善処しますと答え、抜け出た敵の一体を押し返すのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ソルドイラ・アイルー
◎ ギヨーム君(f20226)と

はあ~~っクソデカため息ついちゃいますよ全く。無償で働く奴隷なんて情緒がないでしょう全く!
しかし生還した子供の親、という者はこの現状を見て何を思ったのでしょうねえ。可能性の成長を止めるだなんて、ああ勿体ない

さてはて、真白な空間で作る壕はイグルーとも呼べますかね。雪の代わりに血肉が降ってくるのはまあ風情のない事!
恐ろしや、と言うべき対象は四方で見守る者に送りましょうか

攻撃はギヨ…失礼、慈童の君と呼ぶべきかな? 彼らは、彼の火で葬られた方がいいでしょう
さささ、小さき方々。どうか、金龍の後ろにおいでになって。その身を守らせてはくれませんか? これは吾輩からのお願いです


ギヨーム・エペー
◎ ソルドイラくん(f19468)と

……親だって、人の子だ。完璧じゃなくていい。でもそれは子供も一緒だろうに
きみたちは人ではなくなってしまったけれども、おれはきみたちを人として見る。だから俺の面を剥がしに来てほしいかなー! 誰一人とて見逃さないから。一人ずつ、火を焚べて燃やそう

後ろはソルドイラくんに任せるが、逃げ遅れた子がいたら間に割り込んで剥ぎ取りの行動を阻止させてもらう。親は襲われてない? 彼らだって人の子だ
だが、子と向き合う前に自分と向き合ってくれないと。この声を聞いて、平然としていられるのは職員だけだと思いたい
……たくさん聞くって決めたしなー。うん、きみの声を聞こうか。こっちにおいで!



●むきあわせ
 ……親もまた、人の子だ。
 大人として、子供を育てる側として振舞ってはいるけれど、彼らだってかつてのどこかでは子どもだったのだ。
 だから、思う。彼らは完璧でなくては良いと。
「──けれど、それは子どもも一緒だろうに」
「はぁ~っ、クソデカため息ついちゃいますよ全く!」
 渦巻くギヨーム・エペー(Brouillard glacé calme・f20226)の思考を遮る様に、ソルドイラ・アイルー(土塊怪獣・f19468)が宣言通りの特大の溜息を漏らした。
 全く、期待外れも良いところだった。
 造られたと言えども善は善。さてどのようなものかと思っていれば、蓋を開けばその中身は只の抜け殻ではないか。
「無償で働く奴隷なんて情緒が無いでしょう全く!」
 これは善を説くものではない。善を強制するものではない。そもそも善と呼べるものではない。
 たとえ善と遂になる所業であったとしても、面を奪われた犠牲者達は何の抵抗もなく命じられたままに動いてしまうのだろう。これはそういうものだ。
「しかし、生還した子供の親、というものはこの現状を見て何を思ったのでしょうねぇ」
「……きっと、驚いて、苦しむことになったんじゃないかな」
 ふと思いついたようなソルドイラの疑問に、ギヨームは再び先ほどの思考の渦に戻る。
 ──最初からそれが彼らの望みだった、という者も或いはいたのだろうか。
 いや、そうではない筈だ。ただなんとかしたかった。上手く和解して、やり直したかった。そう思っていながらその方法を潰してしまったものは、きっと居た筈だろう。
「そう思うと、やっぱりやるせないな」
「ええ、ええそうでしょうよ。可能性の成長を止めるなんて、ああ、勿体のない」
 さらに文句を続けながらもソルドイラは床に手をつき、龍を象る人形を呼び出して戦いに備え始める。土の属性を持つ彼らはそのままでも戦わせることが可能だが、今は役目が違う。
 白い床、白い壁。それらを材料とし、一般人たちの為の安全地帯を作らせるのだ。
「さてはて、真白な空間で作る壕はイグルーとも呼べますかね。雪の代わりに血肉が降ってくるのはまあ風情のない事!」
 ぴしりと大きな尾を振り、土人形たちが壕の用意を整えたことを確認すると、ソルドイラくるりと子供達へと向き直った。
 先ほどの憤慨はどこへやら、仰々しく礼をして、土人形を操り子供たちの手を引かせる。
「さささ、小さき方々、どうか金龍の後ろにおいでになって。どうかその身を守らせてはくれませんか? これは吾輩からのお願いです」
 放っておけばまともに動くこともできない子供たちを優しく移動させながら、ソルドイラはついと部屋の四隅に控える『全相の会』の職員たちを睨む。
 純白の部屋の中に降る雨を、彼は恐ろしいとは思わない。心を殺され、生きる死者となった異形の子らを恐ろしいとは感じない。
 全ての元凶はこの場が存在してしまうことだ。人の心の隙に入り込み、歪んだ形で恩恵を与え祝福などと呼ぶ、この儀式が。
「故に、恐ろしや、というべき対象は四方で見守る者に送りましょうか」
 真に奇なるは人の心かな。血風散り、自身の神たる存在の一部が殺されていく様を前にしても尚、盲目的に信じ続け疑うことない彼らはなるほど、土塊たるこの身でも恐ろしいと言えよう。
「吾輩はこのまま守りへと徹しましょうか。攻撃はギヨ……失礼、慈童の君と呼ぶべきかな? 貴方の火で葬られた方がいいでしょう」
「……ああ、勿論さ!」
 ソルドイラに後押しされ、ギヨームは拳を握りしめ仮面の子らへと向かう。
 後ろの彼のお蔭で、近くの子供たちの安全は保障されている。
 では大人は? 彼らの親は襲われはいないだろうか。
 彼らだって人の子だ。子供が大きくなって、親として手さぐりに生きている。何も知らずにここにきてしまった者ならば、大人しくして黙らせてしまった方が良いと思われるかもしれない──。
 敵が向かう大人たちの前に立ちふさがりつつ、ギヨームは子らに向かって声を張り上げた。
「きみたちは人ではなくなってしまったけれども、おれはきみたちを人として見る」
 もう彼らは助からないと、理解っている。けれど、親が誰かの子供であったと同じ様に、目の前の彼らもヒトで在ったことは変わりない。それを認めよう、頷こう。
 だからどうか。
「俺の面を剥がしにきてほしいかなー!」
 そうすれば、誰一人とて見逃さないから。一人ずつ見届けてあげられるから。
 ギヨームのその想いが伝わったのか、それともただ、手近で狙い易かったからか。仮面の子の手が彼の顔にかけられた面へと向かう。
 彼は動作に満足そうに微笑んでから、精霊から授かりし詠唱を紡いだ。
 彼の轍は太陽の軌跡。降り注ぐ御光は円環の恵みを、星のきらめきを廻らし、彼に天上の力を授け与える。
「──紅く咲かせ、日輪の蓮」
 日の色をした炎が彼の周囲に浮かび上がる。
 それを、丁寧に。目の前の『彼』へと焚べた。
 あらゆるものを融かす超高温の熱は間に燃え広がる。敵の異形の躰だけを隅へ、灰へと変えていく。
 その手が、足が、顔が消えていく様を、『人』が燃え尽きていく様を、ギヨームはしっかりと目を見開き見つめていた。
『──ッ!』
 絶叫がギヨームの鼓膜を震わせる。
 親だって人の子だ。それは当たり前のこと。
 けれど、子供と向き合うのならば。向き合う前に、まず自分と向き合ってくれないと。そうしなければきっと何も解決しない。
 ──解決しないから、きっとこんなところに来てしまうんだ。子供にこんな声を、上げさせてしまうんだ。
 後ろの彼らはこの声を聴き、何を思っているのだろうか。自分と同じように、苦い思いがこみ上げているのだろうか。今この声を聞いて平然としていられるのは職員だけと、そう思いたいのギヨームの身勝手なのだろうか。
(──たくさん、言われるから)
 少し前、遊んだ子供の声が蘇る。それに確か、自分はこうこたえていた。
「……たくさん聞くって、決めたしなー」
 うん、だから。
 燃え盛る仮面の子に向けて、ギヨームはそっと両手を開いた。
「君の声を聞こうか。だから、こっちへおいで!」
 そして、きみの話を聞こう。失くしてしまったこれまでを、訪れるはずだったこれからを。
 きみの気持ちを、心を。
 だから全てを話し終えたその後は、日輪の火の下でどうか眠って欲しい。
 おれが、ちゃんと聞き届けるから。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

オブシダン・ソード
【狐剣】
えっ何か怖くない?
大丈夫かいきつねちゃん、怖かったらこいつを使うんだよ
いすゞには器物の剣を渡す

褒めるんだったらよくキレるナイフって言って欲しいな
それに直剣だから反りも無くて素直だと思うんだけど…

魔力障壁によるオーラ防御を軸に、援護重視で行動
先程の恵比寿さん達なんかは積極的に手を引いてあげたい
僕達も怪しいだろうし、様子見がオススメだよ

いすゞには戦法について助言と鼓舞を
良い動きだねぇさすがきつねちゃん!
でも振りが雑になってるよ気を付けて、とか
えっ口うるさい? そんなー

いすゞの死角や襲われそうな人を庇う形で防御
異形化した部位での攻撃に注意して
埒が明かないならUCで敵を思い切り蹴っ飛ばすよ


小日向・いすゞ
【狐剣】
えっ、そんな剣持ち歩いてるぱぱの方がよっぽど恐いっスよ

ホントぱぱそういう所あるっスよね
キレたナイフって言うか…
ま、ありがたく使うっスけれど

一つも褒めてないっスけれど?!
はー
全くアンタとは反りが合いそうにも無いっス

慣用句って知ってます!?

一般の方も居るっスから
敵の害意だけを斬らせて貰うっス

あっしの剣筋はなまくらで、人を斬るのは得意じゃァないっスが
心はすこうしばかり斬れるっス
あんたらの『善性』とやら、見せてもらうっスよォ

剣で受けるのは得意、受けて流して
防御が必要ならば符を撒いて結界を張ったり
攻撃は身軽に跳ねて蹴って、尾で払ったり手数で押すたいぷ

あー、いつもながらぱぱは口うるさいっスね



●けんとさや
 仮面の子らに与えられた役目は、参加者である子供たちの面を剥ぎ祝福を完了させること。その矛先が壁際の保護者に向かうことが無くはないが、部屋の中央に集められた子供達の方に狙いは集中されやすい。
 入室時にわざわざ立ち位置を分けたのもより子供達へ向かいやすくするためだろう。室内の出入り口は一つ。自分達が入ってきた大扉から仮面の子らが入ってしまえば、子供達はすぐ目の前なのだから。
「えっなんか怖くない?」
 その為に、子供役である小日向・いすゞ(妖狐の陰陽師・f09058)と、彼女から離れようとしなかったオブシダン・ソード(黒耀石の剣・f00250)達もまた、彼らに囲まれる形となっていた。
「まー、そう来るっスよねぇ……」
 或る程度予想はしていたことではある。さてどう立ち回るかと考えていた彼女の目の前に突如、ぬっと黒い物体が出てくる。
 驚いて見れ見れば、隣のオブシダンが差し出してきたそれは彼女にとってよく見慣れた剣──彼の分身たる黒曜石の剣だった。
「大丈夫かいきつねちゃん、怖かったらこいつを使うんだよ」
「……えっ、そんな剣持ち歩いてるぱぱの方がよっぽど怖いっスよ」
 ちなみに親子の演技もまだ続行中である。口から出た言葉が演技か本心かはまぁ、この際曖昧ということにして。
「ホントぱぱ、そういう所あるっスよね。キレたナイフって言うか……」
「褒めるんだったらよくキレるナイフって言って欲しいな」
「一つも褒めてないっスけど!? はー……全く」
 或る意味大変息のあった掛け合いをしつつも、差し出された剣をいすゞは受け取る。助けになれと折角出してくれたものだ、ここはありがたく使わせてもらおう。
 黒曜の煌めきを持つそれを両手で握り、正眼の構えをとる。ずしりとした鉱石の重みが手に馴染むのがなんだが悔しい。
「アンタとは反りが合いそうも無いっす」
 ついた悪態とは裏腹に、彼女の口元には彼への信頼の笑みが宿っていたのだった。
「え、それ直剣だから反りも無くて素直だと思うんだけど……」
「慣用句って知ってます!?」


 いすゞの得意とする戦闘は、本来であれば後衛支援だ。故に、前衛は得意な方ではない。
 剣の重さを利用して、上段から剣を叩きつける。高質化した異形の腕がその刃を防いだとみるや、すぐに身を引き床を跳ね、敵との距離をとった。追ってきた仮面の子の殴打を剣で受け流し、衝撃を殺す為にまた跳ね、横からの攻撃はばら撒いた符による結界で相殺する。
 跳んで避けて、かがんで避けて。おまけとばかりに敵の足元に自慢の尻尾で足払い。相手が体勢を崩した隙に乗じて一気に斬りかかる。
 前衛をいすゞは本来得手とはしていない。その剣筋は自分から見たらなまくらで、人を斬るにはとても向いたものではない。この剣があったとしても、腕一つ、斬り落とす事は彼女にとっては容易ではないだろう。
 だが、その心となれば話は別だ。
「その心、すこうしばかり斬らせてもらうっス」
 剣を構え、薙ぎ払う。仮面の子に深く潜り込んだ刃はしかし、その肉体を一切傷つけない。
 ──代わりに肉体の奥、もっともっと深いところ。虚ろとなり、残滓となってしまった心の中の害意を削り取る。
「あんたらの『善性』とやら、見せてもらうっスよォ』
 肉体を通り抜けた剣を振り切って、さらに踏み込み振り上げる。一度で削り切れないのなら二度、二度で駄目なら三度、四度。起き上がったきた相手の手を掻い潜り、小柄な体躯を生かしていすゞは手数で勝負をしかける。
 その時。
「きつねちゃん、九時の方向!」
 オブシダンの鋭い声と共に、別の個体が割り込みいすゞに奇襲をしかけてきた。
 彼の警告により間一髪それを凌ぐいすゞ。鮮やかに跳ね反撃する彼女に、オブシダンは拍手を送る。
「良い動きだねぇさすがきつねちゃん! でも振りが雑になっているよ気を付けて」
「ありがたいっすけど一言多いっスよ」
 素直でない礼の言葉を受けながら、オブシダンは再び己の行動を再開する。
 何も彼女に注意を促し、警告する事だけが彼の役割ではないのだ。
 いすゞが立ち回りしやすいように、魔力障壁を展開し敵の動きを制限する。同時に彼女がこじ開けた包囲網を抜け出し、逃げ遅れた子供達を誘導を開始した。そして、壁際でようやく事態の以上に気付き始めた保護者達も。
「ほらほら、君もこっちに」
 その中にいた一人、先ほど話した恵比寿の面を被った彼も、もちろん避難の対象の一人だ。
「あのいや、私は……!」
「僕達も怪しいだろうし、ここは様子見がおススメだよ」
 これ以上巻き込まれたくはないでしょう? 言外にそう伝えて手を引けば、それ以上何も言わず彼は大人しく動き始めた。
「さってと、あとは……」
 遠ざかる彼の背中を見送った後、オブシダンはいすゞへの援護へと意識を集中する。
 離れてしまった彼女との距離を駆け、同時に気付く。
 彼女が切り払った個体。その影に隠れて一体の敵が近づいていることを。そしてその敵の腕が膨らみ、自身の身体ほどの大きさに異形化したことを。
 足に力を籠める。己の両腕に魔力を集中させ、オーラの障壁を生み出し、翳し、滑り込んだ。
 直後に起きる、衝撃と轟音。
「……駄目だよきつねちゃん、異形化した敵の部位には気を付けないと」
 直ぐ傍で起きた出来事に目を丸くする彼女にへらりと笑ってみせれば、いすゞはこほんと咳払いをして琥珀色の尾を振った。
「あーあ、いつもながらぱぱは口うるさいっスね」
「えっ口うるさい? そんなぁ」
 てっきり今度こそ褒めてくれると思ったのに。情けない声を上げながら仕方ないとオブシダンは受け止めたままの敵の巨体を押し返す。
 確かに異形化したその身体は厄介だけれど、彼女は無事に庇えたし。何故か憎まれ口を叩かれたけれど。
 だから、もう厄介だろうか異形化だろうが、関係がないよね。興味がなさそうにオブシダンが足を振り上げる。
 これでお終いとばかりに放った渾身のヤクザキックが、巨大化した腕ごと敵の肉体を木っ端微塵に破壊した。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

朱赫七・カムイ
カグラ……来たよ

不機嫌なカグラを庇いながら
いつも以上にやる気のカラスと共に迎え撃つ
カグラから、邪神等に頼るからだ、愚か者め、なんて声が聴こえて苦笑い
カグラ…彼らは本当に我が子を救いたかったんだよ
神に縋っても何とかしたかったんじゃないかな
例え愚かだとしても、私はその想いまでは否定しない

否定されるべきは――コレを行う邪なる神だ
之は祝福ではなく厄災だよ
カグラの張る光の結界で攻撃を防ぎ、面を奪われないようにしよう

カラスが念動力で動きを鈍らせてくれる
傀儡達にこれ以上ひとを傷つけずとも良いように終わりを約す

『再約ノ縁結』

喪った個に約された厄を、此処に祓い結びなおそう―祈りと共になぎ払い断つよ

もう、おやすみ



●かきかえ、むすび
 童子の周りに、仮面の異形達がにじり寄る。
「カグラ……来たよ」
 そんな彼らからの視線を遮るように童子の手を引き背中へ押しやって、朱赫七・カムイ(約倖ノ赫・f30062)はそっと背後に声をかけた。
 彼の傍らには、いつの間に建物内部へ潜入したのか、己の分霊たるカラスも控えている。大切なカグラの為か、二人の周りを跳び回り敵へ威嚇するその姿はいつも以上にやる気に満ちているようだった。
 ──邪神等に頼るからだ、愚か者め。
 背後から聞こえる、カムイ達にしか聞こえぬ声。相変わらず不機嫌なカグラの容赦のない言葉に、カムイは思わず苦笑する。
「カグラ……彼らは本当に我が子を救いたかったんだよ」
 一度罅が入ってしまったものを元に戻すのは生半可な事ではかなわない。迷って、嘆いて、苦しんで。そうして最後の頼みとして、ここへ行きついたのだ。
 例え神に縋ることになっても、何とかして欲しいと願いを抱えて。その先がたまたま邪神となってしまった、きっとそれだけのことなのだ。
 だから。
「例え愚かだとしても、私はその想いまでは否定しない」
 カムイは赦す。その手段が、方法が過ちだったとしても、その想いが本当であるのならカムイは赦し助けよう。
 そして、真に赦されざるは──その想いを利用したものたち。
「否定されるべきは──コレを行う邪なる神だ。之は祝福ではなく、厄災だ」
 カグラの身体から淡い光が立ち昇る。
 優しい桜色をしたそれは、カグラの身に宿る桜竜神、その荒御魂の力の片鱗。立ち昇る光の柱は彼らを囲う結界となり、仮面の子らの突進を防いでくれ、面を奪われるのを防いでくれる。
 宙ではカラスが囀り、その身から零れる通力で敵の四肢を抑え、その動きを少しでも鈍らせようと押さえつけてくれていた。
 手を貸してくれる二人に感謝の意を述べる。
 そしてカムイは、朱砂の太刀を抜き放った。
 カラスの健闘は大きいが、彼が抑えてくれるのは高速で動く仮面の子らの動きのみ。災いの歌声と共に上げられる叫びまでは止められなかった。
 そしてカグラの力とはいえ、光の壁も万能ではない。物理的な攻撃は受け止めてはくれるが、それ以外のものは通り抜けることを許してしまう。
 だからカムイには聞こえる。全てを失った彼らの虚ろな叫びが。彼らの痛みが思考を揺らし、胸を軋ませるのを感じる。
 故に──その絶叫を受け止め、還そう。
「──人もをし 人も恨めし あぢきなく 世を思ふゆゑに 物思ふ身は」
 古歌とともに放たれるユーベルコードは『再約ノ縁結』。
 厄は約へ、災は塞へ。偽りの祝福を盾に撒き散らす禍いを解き散らす。
 痛みも、悲しみも、彼らが受け、彼らが撒き散らすべきと約された事象を太刀をもって断ち切ろう。
 痛みは、悼みへ、そしてこの叫びが呼ぶ哀しみは愛へと書き換えて。失った個に約された厄を此処に払い、結び直す。
 歌声が静まる。壁越しに聞こえてきた仮面の子らの叫びが静まり、やがて消えていく。障壁が解除されても、叫ぶことをやめた彼らはもう襲ってはこなかった。
 そんな姿をみて、カムイはゆるりと微笑みを浮かべた。
「──もう、おやすみ」
 どうかもう、傀儡となってしまった彼らにこれ以上、ひとを傷つけずとも良い様に。
 神たるものが、その安らかな終わりを、約そう。
 祈りを込めた太刀が今、静かに。
 
 全てを薙ぎ払い、断つ。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『姿を奪う者』

POW   :    あなたの顔、いいわね
【触れた対象の仮面を剥ぎ取る繊手】で攻撃する。また、攻撃が命中した敵の【仮面を被り、対象の記憶や知識、癖】を覚え、同じ敵に攻撃する際の命中力と威力を増強する。
SPD   :    わたしはただの通りすがり
レベルm半径内の、自分に気づいていない敵を【無力な一般人の姿】で攻撃する際、ほぼ必ず狙った部位に命中する。
WIZ   :    残念だけど……
【パーカーの下から仮面を取り出し、被って】から【対象の好む姿へと変わって拒絶の言葉】を放ち、【対象を精神的に傷つける事】により対象の動きを一時的に封じる。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠アト・タウィルです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●面晒し
 ひとつ、そしてまた一人。
 次々と倒れ動かなくなっていく仮面の子供達を前にして、職員たちに焦りの色があらわれる。
 まさか、いやそんなことは。今にきっと。そんなことを口にしておきながら、目の前で儀式を妨害し続ける猟兵達を前にして、それでも彼らは動かない。
 いや、動けなかった。盲目的に与えられたものだけを享受し続けてきた彼らには、予想外の事態に対しての備えが何もされていなかったのだ。
 そして、最後の一人。
「こ、こんなの聞いていない!」
 残っていた仮面の子が倒れた時、彼らはやっとそう口にして騒ぎ始めた。
 私達はどうなるんだ。儀式は。今回の件で纏まった援助金は。己の欲にに塗れた言葉を口々に喚き出す。
 そんな中──。
 
「あーあ、上手くいってたと思ってたのになぁ」
 
 たった一人だけが、そうぼやきながら猟兵達の前へと歩み出た。
 出てきたのは若いと思われる女性。パーカーのフードの影から覗くその顔は、例に漏れず少年のカタチをした面に隠され定かではない。
 しかし、けらけらと笑う彼女の纏う気配の異様さに猟兵達の誰もが気付いていた。
 彼女は、人ではない。
「もうずーっと、こうやってうまく隠れてたのに。まさか見つかっちゃうなんて」
 まるで子供の様な口調で話しながら、女性は己のパーカーの前を開け、広げて見せる。
「どうだったかな? ぼくが作り出したぼくの為の餌場は」
 彼女が晒した服の内側には、子供の顔を模した面が無数にぶら下がっていた。
 それが意味するところは──そう、彼女こそがこの『全相の会』を統べる邪神であるということだ。
「ぼくは人の個の形が好きでね。その姿も、顔も、人生も。全部がとても愛おしいよ。だから、仮面って形にしてこうして集めているんだ」
 服の内側にある面の一つ、女の顔と思われるそれを手に取り猟兵達へと掲げて見せる。そして目の前で、少年の面から女の面へ、己の顔を付け替えて見せた。
 途端、彼女の立ち姿、声色、全てが別人へと変わっていく。
「……それなのに、この世にはその個性が必要がないっていう人がいるのよ。『私』はたくさんの人の『個』が欲しい。彼らはそれが必要ない、ただ言われるがままに動いてくれるものが欲しい。なら、ギブアンドテイクってやつ」
 だから、この会を作ったんだよ。とそれはくすくすと笑った。
「結構それらしい雰囲気は出来てたでしょう? 善性なんて其れらしいこと言って、仮面と名前で暗示をかけて。儀式何て、私がひとの個性を面として剥ぎ取りやすい様にしてただけなんだけど、皆面白がっちゃって。……ま、全部終わりだけれど」
 騒ぐ職員たちを尻目に邪神は笑い続ける。直前の無邪気な子供の笑いから今度は女の控えめな笑い声へ。面をかえた彼女はまるで人が変わったかのように別人だった。
 多くの人の面を剥ぎ取り、個性を集めてきた彼女は、奪うと同時に面をかけることでその人物になり切れるようである。
 無力に怯える一般人の振りも、もしくは誰かの近しいものによく似た人物のふりをすることも、彼女にとっては難しくはないのだろう。
「……ああ、でも」
 ひとしきり笑った後、不意に彼女の声が低くなる。女の面を外し、飽きたとというように床へと放って。
「全部をぶち壊しにしてくれた君達みないた異端の顔。すっごく興味があるや」
 誰にでもなれて、誰でもない凶つ神はフードに隠れた視線で猟兵達を射抜き、唇を舐める。
 己の最良の狩場を荒らした不届きものに、恨みと好奇の感情を滲ませて。
 邪神はけたけたと笑いながら、猟兵達にこう誘いかけるのだった。
 
「そうね、キミたちの望むものをあげるわ。──だから、その顔、くれない?」
馬県・義透
引き続き『疾き者』

利害の一致、だったわけですねー。なるほど。くだらない。
まあ、暗示ということですし。倒せばこの場の子は、元に戻りそうな。

この面を、顔をあげるわけにはいきませんよー。
望むもの?皆の幸せですけど?私は、別に鬼と呼ばれ続けてもいいので。
(ナチュラルに『皆』に自分を含めない願望)

白髪青眼…ああ、なるほど。彼ですか。
その程度で止まるとでも?
何故なら、彼…『静かなる者』は、共にいますので。
他に化けても無駄ですよ。

鬼蓮の花よ、舞いなさいな。これこそ、鬼たる私が受け入れられた証。
目標は邪神ですよ。切り刻みなさい。

※結界術応用の内部からの呼び掛け
「私はここにいますし、そんなこと言いませんからね」



●てのなるほうへ
 さも自慢げに話された種明かしに、馬県・義透(死天山彷徨う四悪霊・f28057)は合点が言ったように頷いた。
「つまり利害の一致、だったわけですねー」
 聞かずとも一方的に話してくれた話のお蔭で、疑問点は概ね解消できた。
 なんてことはない、お互いの望むを示した結果、そちらの方が都合が良かっただけなのだ。
 だから義透は納得したで、吐き捨てる。
「なるほど、くだらない」
 本当にくだらない。
 彼らが仕組んだ祝福という名の茶番も、邪神と協力したの愚かな者の考えも、事の真相も。
「まあ、聞く限り暗示ということですし。倒せばこの場の子は元に戻りそうですね」
「そんなに子供たちのことが気になるの? ならいっそ貴方が導いてあげたら? それを望むなら、わたしはあの子たちの親の代わりもできるもの」
 邪神は誘う。子供達は親に連れられてここに来た、ならどうせ、彼らの未来は大して変わらない。
 けれど義透が望むのなら、彼の手足に、文字通り『顔』となって子供達の健やかな未来を保証しようと。そして義透には彼らの尊敬の対象となる立ち位置を約束しようと。
 そしてその代償として──義透の顔を寄越せと。
「鬼なんて顔、怖がられるだけじゃない。ここで手放すのは悪くないんじゃなくて?」
 義透の顔につけられたままの鬼面を指差し、邪神はうっそりと笑う。
 鬼は人を喰らうもの。鬼は災いを招くもの。そんな面など不吉だろうと。その顔を対価に望みが叶うなら、彼女の誘いも悪くないだろうと。そう甘く囁く。
 その甘言を、
「……この面を、顔をあげる訳にはいきませんよー」
 義透は常の変わらぬ、ゆったりとした口調で切り捨てた。
「それに私の望むもの? 皆の幸せですけど、子供達だけじゃなくそれも叶えられるというのですか?」
「それは……」
 言い淀む邪神をさらに追い詰める様に、義透はさらに突き放す。
「それに私は、別に鬼と呼ばれ続けてもいいので」
 それはどれだけ鬼と罵られようと、どれだけ手を汚そうと、彼の目に映る人々に幸福が訪れることを願う無意識の自己犠牲。
 それ故に、『顔』を利用し短絡的な願いばかりを叶えてきた邪神には手が出せない領域の望みだった。
「だから、あなたは此処で倒されて下さい」
 淡々と暗器を構える義透。その様子に邪神は焦ったように服の内から新たな面を取り出す。
 投げられた棒手裏剣を横跳びに躱し、面をかけながら真っ直ぐに彼との距離を詰め寄って、囁いた。
「『本当に、鬼が人を幸せにできると思っていますか?』」
 ──その声は義透のよく知るものだった。
 声だけではない、彼女の顔はいつの間にか、彼のものへと変貌していた。
 白い髪。青い眼。
「ああ、なるほど……彼ですか」
 己の中に同居する『彼』の声と姿に義透は一瞬だけ目を見開き。
 そして、何のためらいもなくその身体を蹴り飛ばした。
「ガハッ……!?」
「その程度で止まるとでも?」
 驚きのまま吹き飛び床を転がる邪神。何故迷わない、と問う視線に義透はなんてことも無いように答える。
「彼……『静かなる者』は、共にいますので」
 馬県・義透は複合型の悪霊。彼らの中には常に、四つの人間が混在し、共生しているのだ。
 戦いの中である今この場でも、邪神が真似た彼の存在は感じている。
(──私はここにいますし、そんなこと言いませんからね)
 ……ほら、己の内側から聞こえてくる本物の彼の声もそう言っているのだから。
 彼が目の前に立ちふさがることなどあり得ない。それは、他の人格に化けても同じこと。
 だから、義透は躊躇いなく武器を己の眼前に翳す。
「鬼蓮よ、舞いなさいな。これこそ、鬼たる私が受け入れられた証」
 ふわりと、黒塗りの鉄が解け青紫の花へと化わる。
 花が孕む棘は誰かを守る為のもの。その為に、鬼としての牙を、爪を捨てずに生きていくと定めた証。
 己は鬼で良い。だから、鬼の自分にしかできない戦いを。
「目標は邪神ですよ。切り刻みなさい」
 鬼華の嵐が、邪神へとその爪を突き立てる。

大成功 🔵​🔵​🔵​

御前・梨


…えっ、望むものくれるすか。マジっすか?え〜どうしますっかねぇ…やっぱり後方への異動届け?それとも大富豪で勝てるコツ?

う〜ん、迷うっすねえ…

…あ、ちなみに教祖さん。望みを叶えるのを増やすてのは…駄目っすよ?いや、こういう時ついつい尋ねたくなっちゃうんすよねこういう事〜いや〜失礼、失礼





望むもの、望むもの


…あ〜それじゃ〜これ叶えられます?


――その仮面、くれません?


【演技、瞬間思考力】で隙だらけ、戦う気がないと相手に思わせる

そして相手が動こうとした瞬間、瞬時に指定UCを発動して相手を攻撃【早業、不意討ち、騙し討ち、暗殺、切断】


いや〜、色々考えたんすけど、今、教祖さん以外欲しいものなかったすわ。



●のぞむものは
 邪神からの囁きに、御前・梨(後方への再異動希望のエージェント・f31839)は真剣に悩んでいた。
「……えっ、望むものくれるすか。マジっすか?」
 梨とて人間だ。望むものをくれるというのなら、多少なりとも心惹かれるものがない訳ではない。
「え~、どうしますっかね」
 そんな梨の様子に手応えを感じたのだろう。邪神は服のほこりを払うと、にこりと笑みを張り付けて梨の方へと向き直る。
「僕は姿を自在に変えられるからね。何でもかんでもって訳にはいかないけれど、大体の望みは叶えられるよ。富でも、権力でも」
 勿論、君の顔と交換だけれど。含みを持たせて言う彼女に、梨はふむふむと望みを指折り数えた。
 もしも望みがかなうなら。梨は一体何を望むだろう。
 かねてからの希望だった後方への異動届け? そうすれば危険な前線で戦う必要はなくなる。
 それとも大富豪で勝てるコツ? 結局さっきのゲームでは負け越しのままだったし。ここは一つコツを掴んで、さっきの子供達をぎゃふんと言わせてやるのも悪くない。
 ああでも他には……。
「……あ、ちなみにカミサマ? 望みを叶えるのを増やすってのは……駄目っすよね?」
「それは反則かなぁ……ま、付き合ってこんなところを作るくらいだから、内容にもよるけどね」
「やっぱすよねー。いや、こういう時ついつい尋ねたくなっちゃうんすよねこういう事。いや~失礼、失礼」
 笑って謝る梨に、邪神は気をよくしたように笑って首を振る。どうやら望みに積極的な梨の様子を見て、彼には戦う気はないと判断したらしい。他の猟兵達に注意は配っているものの、梨に対しては完全に警戒を解いているようだった。
「あ、これってあんまり待たせちゃマズい感じすか?」
「そういう訳でもないけれど……他の奴らもいるからなぁ。後ででもいい?」
「あ、ちょっと待って欲しいすすぐ決めるんで!」
 望むもの、望むもの。
 繰り返しながら頭を抱える梨に邪神はやれやれと溜息をつく。
 望むもの……。望むもの……。
 やがてこれはもうしばらくかかりそうだと判断したのだろうか。邪神が梨へと背を向け、他の猟兵達を見回す。
「……あ~、それじゃ、これ叶えられます?」
 相手の視界から完全に自分が消えた頃を見計らって、ようやく梨はそれを口にした。

 己が欲しいモノ。
 御前・梨の望み。 

「──その首、くれません?」

 彼の体が、その場から掻き消える。
 背中を見せた瞬間に暗器を抜く。言葉にぎょととした相手が此方を見る。しかし動き出す、その前に、己のUDCを解放しユーベルコードを発動。
 時間を停止。同時に低い体勢で床を駆け、その背後へと回り込む。
「──ッ!?」
 時を止めたのはほんの数秒だけだ。けれど邪神にとっては、彼は瞬き一つの間に移動したように見えるだろう。邪神の顔が驚愕に歪む。
 一連の梨の言動は全てが虚実。邪神を騙し油断を誘うための演技である。
 全てはこの時の為に。
 梨の刃が走る。無音で走る銀閃。直後、邪神の頸から血が噴き出した。
 その血を被る前に元の場所へと戻り、梨は小さく舌打ちした。
 手応えが浅い。梨の暗器は確かに彼女の頸を書き切ったが、落すまではかなわなかった。
 肉体の強靭さもさながら、あの位置から寸前で身体を捻られたのだ。流石に永い時を生き、力をつけてきた邪神、といったところだろうか。
 それでも一撃、与えられた。
「こ、の……お前ッ……!」
 つけていた面が砕け散り、貌なき顔で邪神は梨を睨みつける。
「いや~、色々考えたんっすけど、教祖さん以外欲しいモノなかったすわ」 
 憎悪すらぶつけてくる視線をさらりと流し、梨はあはは、と軽く笑ってみせるのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

神代・凶津
漸く親玉のご登場って訳か。
てめえの趣味のお面集めは今日をもって終いだぜ。
「・・・貴女はここで祓います。」
と言う訳だ。覚悟しなッ!

いくぜ、相棒ッ!
「・・・転身ッ!」
炎神霊装を纏って戦闘開始だ。

炎刀を生成して敵の攻撃を見切って避けたり受け流したりしながら距離を詰めて攻撃するぜ。
破魔の炎で焼き祓ってやるよ。

邪神が騒いでる職員達に紛れて姿を変えたら厄介だな。
その時は、第六感を極限まで研ぎ澄まして見失った邪神を探すぜ。
いくら一般人に擬態しようがその禍々しい気配までは隠しきれねえだろ。
敵の攻撃に気付けたらカウンター攻撃を仕掛けるぜッ!


【技能・見切り、受け流し、破魔、第六感、カウンター】
【アドリブ歓迎】



●かさねるこころ
『漸く親玉のご登場って訳か』
 巫女姿の女性が被った鬼面、神代・凶津(謎の仮面と旅する巫女・f11808)はやれやれと言った調子で言う。異様な遊戯に悪趣味な儀式、邪神の趣味に合わせるのはいい加減うんざりという気分だった。
「……別に私としては最後まで出てくるつもりはなかったんだけれど。君達がこうして邪魔をするんだもの、困っちゃうよなぁ」
 対する邪神は飄々とした態度で新たな顔を被る。言葉とは裏腹に、誰かのその目は鬼面という姿で喋る凶津を興味津々で見つめていた。
「まぁ、お蔭でこうして君みたいな興味深い顔をみることもできたけれど。それなぁに? お面が、本当の顔なの? 剥ぐけどいい?」
 ぺろりと唇を舐め上げる動作は獲物を前にした獣の様。問いかけの答えも待たず、邪神は一直線に凶津へと襲い掛かってくる。
『ハッ、言ってろ。てめえの趣味のお面集めは今日をもって終いだぜ』
 そんな彼女を鼻で笑って、凶津はそうだろうと問いかける。
 応えは己の面の向こう──桜から返ってきた。
「……貴女はここで、祓います」
 静かながらも凛とした響きを、持つ力ある言葉。
 凶津の笑みが深まる。
『と、いう訳だ。覚悟しなッ!』
 そして、二人の意思と力が完全に重なることで、その霊装は顕現した。
「『転身ッ!』」
 緋く、朱く、鮮やかに。炎の翼が桜の背中から吹き上がり、熱風により装束が翻る。
 血色だった凶津の面は纏う火の色を映したかのような橙へ。桜の装束もまた同様の火色に染め抜かれた。
 未だ武器持たぬ手を宙へと伸ばし、何かを掴む動作をする。彼女の掌を中心に熱が生まれ、炎が刀の形となって手の中へと収まった。
 『炎神霊装(ブレイズフォーム)』。凶津と桜の力を一つと成し纏う、神降ろしの力だ。
 凶津の面を剥ごうと飛び掛かってきた邪神の手を見切り、寸前で回避する。二撃、三撃と繰り出される攻撃を下がりながら躱し、隙を見て炎刀を一気に薙ぎ払った。
 吹き上がる炎と熱風。しかし、攻撃を予測していたのか直前で邪神は大きく後退。凶津達の炎は僅かに彼女の服を焦がす程度に留まる。
「おっと、それは真向から受けたくないなぁ」
 炎の向こうから響く邪神の笑い声。
 そこで気付た、彼女の姿が見えない。気付けば邪神は影に融け消えてしまっていたのだ。
 見えるのは未だ取り乱し、目の前で広がる戦闘の光景に戦々恐々とする『全相の会』の職員達ばかり。そして彼らの顔は未だ、造り物の仮面が被されたままだった。
『あっちの仮面に紛れ込まれたら厄介だな……』
 凶津は舌打ちをする。始めからそれを狙っていたように、仮面をつけた職員の姿は無個性で、曖昧だ。憔悴したその様子は誰もが只人のように見えるし、演技だと思えばだれもが怪しく見える。
 視認での判断は不可能。それならばと、凶津と桜は敢えて目を閉じ視界からの情報を遮断する。
『……来るなら来いよ』
 それぞれの第六感を最大限に研ぎ澄まし、尚且つその呼吸を、心を合わせる。周囲の僅かな動き、息遣い、気配。それら全てを掬い取り、そして──捕らえた。
『相棒ッ!」
「そこっ……!」
 音も無く背後から近寄り襲い掛かろうとした邪神に、背の炎翼から刃を撃ちだし叩き込んだ。
「チッ……あと少しだったのにっ!」
 振り返れば、炎に巻かれながら歯噛みをする邪神の姿。続けざまに牽制の炎刃を打ち込み牽制をしながら凶津は不敵に笑う。
『いくら擬態しようが、その禍々しい気配までは隠しきれねぇだろ』
 両手に持ち直した刃を振りかぶる。二人の頭上で、刃が一際鮮やかに燃え熱を孕む。
『破魔の炎で、焼き払ってやるよッ!』
「これで、終わりです」
 踏み込み、一息に振り下ろして。今度こそそれを邪神へと叩き込む──!
  

大成功 🔵​🔵​🔵​

黒鵺・瑞樹

右手に胡、左手に黒鵺の二刀流

何となくかわいそうな邪神だな。
誰にでもなれるけど、でも唯一、自分自身になれないんじゃないか?
欲する心は自分にないから生まれる物だから。

伽羅には一応一般人の護衛というか抑えに回って貰って。大丈夫だとは思うけどな。
俺は先程同様、存在感を消し目立たない様に立ち回る。そして隙をついてマヒ攻撃を乗せた暗殺のUC剣刃一閃で攻撃。
敵の攻撃は第六感で感知、見切りで回避。
回避しきれないものは本体で武器受けで受け流し、可能ならカウンターを叩き込む。
それでも喰らうものは激痛耐性で耐える。

主の姿を写した自分に、本体以外に本当の姿ってあるんだろうか。
ふとそう思った。



●うつすかお
 憐れむわけでも、卑下するわけでもない。
 ただ何となく。
 何となく、彼女のことをかわいそうだと思った。
「……伽羅、ここは任せた」
 一般人の動向に注意を払っていた黒鵺・瑞樹(界渡・f17491)は己の使い魔たる竜に後を託す。残っている人々の大半は儀式を中断され、混乱している職員だ。今更彼らに被害を与える余力は無いだろう。
 右手に胡、左手に己が本体である黒鵺。それぞれを手にし、瑞樹は邪神の出方を伺いながら距離を詰める。
 視線の先には纏いつく橙の炎を払い、忌々し気に舌打ちをする邪神。その服の下にはいまだ無数の仮面が潜んでいる。
 それがあればきっと彼女は誰にでもなれるのだろう。
 故に、やはり思うのだ。
「……かわいそうだよ、お前」
「……何?」
 だって、誰にでもなれる彼女は──きっと唯一、自分自身にはなれないのだから。
 ヒトは何かを欲するとき自分に無いものを願う。
 満たされないからこそ、欲する心は生まれるのだ。
 けれど彼女は誰にでもなれてしまうから。彼女の中に無いものなんて、無い。
「だから……自分自身が無いんだよ」
 だから、かわいそう。
 闇雲に手を伸ばして集めては満たされたと勘違いして。けれどその心は決して満たされることを知らない。
 当たり前だ。だって、彼女には自分自身が無いのだから。本当に欲しいと思う心が、欠けているのだから。
「ふーん……」
 邪神が声を上げる。
 その声は、先ほどとは比べ物にならない程に低く、冷たい声だった。
「じゃあ試してみるよ。お前の顔を剥いでから」
 その言葉を合図に、瑞樹の視界から邪神の姿が掻き消える。
 顔にかかっていた面が宙へ飛ぶ。面を剥がれることで個を奪われるのはあくまで一般人の話だ、猟兵達には効果は薄い。
 けれど、その繊手に触れてしまったのなら。
「……嗚呼、やっぱり面白いな。人間とはまるで違うんだ」
 邪神の持つ権能に直接接触してしまったのなら、話は別であるのだ。
 フードの影から覗く瞳は青。零れる長い髪は銀。
 今や邪神の顔は、瑞樹と瓜二つのものとなっていた。
「もっと、もっと俺に見せてよ!」
 瑞樹と同じ声で笑い、邪神が再び顔奪う手を振るう。それを黒鵺で受け、反対の刀で応戦する。麻痺を乗せた瑞樹の攻撃はしかし、するりと邪神に躱され触れることさえきなかった。
 瑞樹の記憶や戦闘の知識、そして戦いの癖。それらを彼女は顔と共に奪っていたのだ。今の彼女には瑞樹の次の行動が手に取る様にわかるのだろう。
 死角から入り込んできた手が瑞樹の胴体を掠める。大切な何かが失われる感覚に歯を食いしばって耐え、腕を斬りつけ牽制する。
 至近距離でかち合う、自分と同じ顔。
 それを見て──とても、奇妙だと思った。
(これは……主の顔だ)
 瑞樹の姿はかつての持ち主の姿を写したもの。だから正確に云えば、これは瑞樹自身の姿とは言えないかもしれない。
 彼はモノとして長く在り続けたヤドリガミ。その本体は、今彼の左手に下げられている大振りのナイフなのだから。
 だから、己の全てを奪われたとは言えない。
 そう、例えば──こんな手が残っている。
 邪神の手が再び瑞樹を襲う。動きの切れ目を狙われたその手が向かう先は、己の心臓。
 それを瑞樹は迷いなく──避けることを放棄した。
 瑞樹の背中から邪神の手が生えた。
「しまった……っ」
 同時に落ちる、真っ二つに斬り裂かれた彼とよく似た仮面。
 そう、彼の体は仮の器。本体が無事であれば、肉体の損傷は彼にとっては大事ではない。そればかりは肉体だけでは辿り着けない情報だ。
 だってこの顔は……本当の瑞樹ではないのだから。
 邪神の体を突き飛ばす。邪神が大きく体勢を崩した隙に両の刀を構え、踏み込んで。
(じゃあ……)
 斬りながら、ふと思った。
 主の姿を写した自分い、本体の形としての姿以外。
 ──黒鵺・瑞樹の本当の姿は、あるのだろうか、と。

大成功 🔵​🔵​🔵​

トリテレイア・ゼロナイン
【古城】

興奮しての深い追いは危険…失礼!

頭部装甲を剥がれただけです、問題は

私の姿を…!

※コピー

父の教えと魔性の血…一時の悦楽に溺れ、残りし物は寂れた古城
恃みの美貌の仮面は時に剥がされ後に残るは醜悪な性根
孤高を気取る孤独な女帝、父に倣った血に酔う逃避
はてさて何時まで続くのか

真に欲したモノすら分からずに
一人寂しく朽ち果てる
それが貴女の定めと罰ですよ



…いいえ

いいえ!

私は垣間見てきました
裡に秘めた輝きを
己が罪を背負う覚悟を!

光求むならお連れします
闇に呑まれるなら刺し違えてもお止めします

貴女の路は孤独ではありません!

兄弟機との相対は慣れていても手間です
ご加勢を

やはり、その笑みこそが貴女にお似合いですよ


フォルター・ユングフラウ
【古城】

そのような姿と声で…
昂ってしまうではないか
もっと啼いて我を愉しませよ!

大丈夫か!?
すまぬな、我が深追いしたせいで…

…ちっ、好き放題言ってくれる!
あぁそうとも、所詮血は争えぬのは身に染みてわかっている
己が招いた孤独を孤高と偽り、侘しく死ぬ…百も承知の上よ!
だから我は、私、は…

─…!!
ふっ、はははっ…情けない姿を晒してしまったか
だが、汝のお陰で正気に戻れた
もはや、こんな面など不要
そう、我には傲岸不遜な笑みこそが似合う

そうだな、そうであった
我を孤独から引き摺り出してくれたのは、汝であった
鉄騎と外道の二人道中、まったく奇妙なものよ

では、旅の障害は排除せねばな
血濡れの鉄雨、存分に味わえ!



●わらう
「よくもまぁ次から次へと……!」
 立て続けに攻撃をくらい、邪神は疎まし気に猟兵達を睨んだ。
 このまままともにやり合っていては不利だと判断したのだろう。彼女が次に被った仮面は、無垢な子供のものだった。
 それは見る者が好む特性を備えた仮面。多くの者にとって戦いにくさを感じるそれを纏うことでこちらの油断を誘おうというのだろう。
 しかし、そんな小手先はフォルター・ユングフラウ(嗜虐の女帝・f07891)の前では逆効果であった。
「そのような声と姿で……昂ってしまうではないか」
 変わった邪神の姿をみて、うっとりとしたように彼女は言う。
 彼女にとって無力な民の姿など恰好の贄と同義。尚且つ今のフォルターは眷属との戦いで血に酔っていた。
 怯えた表情を浮かべ、背を向ける邪神。こみ上げる欲求のままに、フォルターはそれの後を追ってしまう。
「いけません、興奮しての深追いは……っ!」
 いち早く邪神の意図に気付いた戦友たる騎士の制止の声もきかずに。
 瞬間、邪神が急停止し身を翻す。
「なっ……!?」
 無垢な姿は間違いなく敵の動揺を誘うもの。しかし何も、攻撃の手を止めさせることだけが目的ではない。敢えて無力な振りをしてその間合いを誤らせることも、手段の一つとして在りうるのだ。
 邪神の繊手がフォルターの顔へと伸びる。対して興奮のままに捕食する側として踏み入ってきた彼女には対抗する術は、ない。
「……失礼!」
 どん、と身体を後ろへと押された。同時に生じる鈍い破砕音。
「お怪我はありませんか、フォルター様」
 寸前で駆け付けたトリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)が彼女を突き飛ばし、代わりに前へと立ったのだ。
「大丈夫か!? すまぬな、我が深追いしたせいで……」
 我に返ったフォルターは彼の足元に粉々となった仮面と、そして彼の鎧と同色の金属片を認めて色を失くす。不意打ちに反応してからの咄嗟の行動。さしものトリテレイアも防御態勢が間に合わなかっただろう。見れば、彼の兜は邪神の攻撃により一部が砕け、大きくひしゃげていた。
「お気になさらず、頭部装甲を剥がれただけです。」
 頭を一つ降ってトリテレイアは彼女の心配を否定する。彼の核たる電子頭脳は胴部に設置されている。たとえ頭部が破損したとしても大きな支障は起きない。
 それよりも、今の問題は。
「あぁ、失敗しちゃった。躊躇っても油断してもいいように、と思ったんだけど」
 邪神の手が、トリテレイアに触れたという事。
「じゃあ、お姉さんには『こっち』の方が有効かな?」
 それはつまり、彼女がその顔を盗んだということとなる。
「私の顔を……!」
 邪神の顔が、姿が変わる。
 愛らしい無垢な子供の顔は冷たい鉄で覆われた兜に。小さな体も見る見るうちに膨れあがり、見上げるほどの巨躯に。
 それは、フォルターの隣にいるトリテレイアの姿そのものだった。
『哀れな、孤独な鮮血姫』
 騎士の形を借りた邪神が喉の奥で嗤う。
 その口から放たれるのは、相手の心を挫く言の葉の呪い。
『父の教えと魔性の血……一時の快楽に溺れ、残りし者は寂れた古城。頼みの美貌の仮面は時に剥がされ、あとに残るは醜悪な性根』
「好き放題言ってくれる……!」
 心を許した筈の者から投げられる言葉にフォルターは忌々し気に舌打ちする。
 しかし同時に、苛立つ心の奥底から重い冷たさ湧き上がってくることを彼女は感じていた。
 知っている。あぁ、分かっている。
『孤高を気取る孤独な女帝。父に倣った血に酔う逃避。……はてさて、それは何時まで続くのか』
 いつか、こうして糾弾される時が来てもおかしくはないと、理解っていた。
 彼とフォルターはその思想を相反するもの。互いの意思を尊重し、理解し合うことはできても光と闇が交じり合うことはあり得ない。
 胸の中の氷が広がっていく。手足が凍えてしまいような程冷たい。これは如何なる魔術なのだろうか。
 だから、いつか。
『真に欲したモノすらわからずに一人寂しく朽ち果てる。それが、貴女の定めと罰ですよ。分かっているでしょう』
 いつか、彼にこうして詰られ、断罪されたとしても、不思議ではないのだ。
「……あぁそうとも。所詮血は争えぬのは身に染みてわかっている。己が招いた孤独を孤高と偽り、侘しく死ぬ……百も承知の上よ!」
 分かっている。全て覚悟していた。
 だから。
 だから。
「だから我は、私、は……」
 だから私は──ずっとひとりで。
「……いいえ」
 彼女の氷を、邪神の言葉の刃を砕いたのは、他らなぬ本物のトリテレイアの声であった。
「いいえ! 私は垣間見てきました、その内に秘めた輝きを!」
 彼女はただ、闇に呑まれるものではない。孤独に終わる死が彼女に残されたものではない。
 何故ならトリテレイアは見てきたのだ。孤高でありながらも、フォルターが貫いてきたその美しい生き様を。
 全てを覚悟し、敢えて己から血を被り、多くのものを諦めて。それでも己の在り方を貫こうとする残酷なまでの潔癖さを。己の罪を背負う、その覚悟を!
「フォルター様」
 故に、騎士は手を彼女の前に手を差し出す。砕けた兜のまま、凍り付いた彼女の目を真っ直ぐに見据えてその氷を打ち砕く。
「光求ならお連れします。闇に呑まれるなら刺し違えてもお止めします」
 それが、彼女の隣に居続けると決めた騎士の覚悟であると、宣言するように。
「貴女の路は孤独ではありません!」
「──……!」
 言葉を失ったフォルターが瞬きを繰り返す。己の手と、差し出された鋼の手を見比べた。
 そして、ふと息を吐いて。
 彼女は笑った。
「ふっ、はははっ……情けない姿を晒してしまったか」
 もう一度己の手をみる。痺れるほどの冷たさはもう、感じない。
「だが、汝のお陰で正気に戻れた」
 被っていた毒蛇の仮面をとり、床へと投げ捨てる。もはやこんな面など不要。そう、己には、傲岸不遜な笑みこそが似合う筈だ。
 そして漸く、フォルターは差し出された機械の掌の上に己の手を重ねた。
「そうだな、そうであった。我を孤独から引きずり出してくれたのは汝であった」
 ──分かっていたことだ。己の非道の対価など、端から覚悟の上。しかしそれでもこうして、共に並べる者がいる。
 それで、十分だ。
「鉄騎と外道の二人道中、まったく奇妙なものよ」
「それでも、私達らしいではありませんか」
 手を引かれ一歩踏み出せば、なんと身体の軽い事か。至極真面目に返答する彼の言葉も相まって、フォルターはもう一度笑みを浮かべた。
 そして傲慢に、不遜に。彼女らしく邪神へと改めて向き直った。
「……で? 次は何をしてくれる?」
『くそ……あと一歩だったのにっ!』
 決定的な一手を打ち破ったフォルターに邪神は悔し気に歯噛みする。その様子を鼻で笑っていると、トリテレイアが大剣を構え前へ出た。
「兄弟機との相対は成れていても手間です。どうかご加勢を」
「そうか。では旅の障害は排除せねばな」
 走り出す彼に合わせてフォルターは魔術で作り出した杯を呼び出し、邪神へと向ける。
 空の器と満たすべく虚空から出現するのは血濡れの鉄杭。騎士の剣を導くように、鉄の雨は降り注ぎ邪神の肉を削ぎ落す。
「血濡れの鉄雨、存分に味わえ!」
 その声を背に受け、彼女と合わせるように剣を振るいながらトリテレイアは改めて感じるのだ。
「やはり、その笑みこそが貴女に似合いですよ」
 それこそが、己が知り、隣に並ぶ彼女であると。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

波狼・拓哉


んー…何か話だけ聞くと真に悪いのは会を運営してた人たちぽいね?
一番最初は君がやったんだろうけど、軌道に乗ったら放置したでしょ

まあ、だからと言ってやる事は変わりませんけどね
這い蹲って忠誠でも誓ってくれるのなら一考でもしますが…やらないでしょう?

化け喰らいな、ミミック
その不透明な面事『かみ』殺せ
ああ、なにが出ようと止まらなくていいですよ

自分は衝撃波込めた弾で撃って行きましょう
戦闘知識、第六感で相手の動きを見切って、早業の二回攻撃で面事撃ち倒してやりますか
拒絶?どうぞご勝手に
その程度で止まれるほど正気に染まってないのですよ

…残念ながら、存在しないものは上げれませんし、渡せませんよ(ケラケラ)



●そのかおは
 『全相の会』の実態は分かった。事の次第も理解した。
 しかし、なら仕方ない、と言えるかというとそれは別問題である。
「んー……何か話だけ聞くと、真に悪いのは会を運営してた人たちぽいね?」
 今まで見てきた儀式と、邪神の話。それらを統合し、波狼・拓哉(ミミクリーサモナー・f04253)はそのような判断を下した。
 要するに、邪神は人の顔が集められればあとはどうでもいいのだ。問題はそれに付け込んだ人々の方。
 顔の全てを奪われ、抜け殻となった人々を『再利用』しようと思い付かなければ、こんな会など生まれなかっただろう。
「たしかに一番最初は君がやったんだろうけど、軌道に乗ったら放置したでしょ」
「だって、私は顔がもらえればいいだけだし。ヒトの権力とか、面倒ごととか興味ないもの」
 邪神は拓哉の言葉を別段否定もせず、いけしゃあしゃあと言ってのける。
 それを黙殺して、拓哉は無言で銃を構えた。
「まあ、だからと言ってやることは変わりませんけどね」
 ああ言ってみたものの、誰が悪いとか、どれが黒幕とか、正直拓哉には関係ないのだ。事の事態が収拾すれば、この団体は組織の手によって解体され然るべき措置が取られるだろうが、それも彼には些末なこと。
 だって拓哉は、邪神を殺すためにいて、その為に此処に来たのだから。
「見逃してくれないの? 真の黒幕は私じゃないのに?」
「這い蹲って忠誠でも誓ってくれるのなら一考でもしますが……やらないでしょう?」
「まさか。そうするのは君の方だろう?」
 ほら、やっぱり交渉決裂。
 当たり前だと言わんばかりの彼女の様子を嗤いながら、拓哉は足元で控える箱型生命体へと指示を飛ばす。
「そういうことだ、化け喰らいな、ミミック」
 ガタガタと蓋を鳴らして突進するミミック。
 その身体が、黒く染まる。死角の形だった身体は伸び、獣の躰へ。口である開閉部にはぞろりと牙が並び、影が溢れ出る。
「その不透明な面ごと『かみ』殺せ」
 ──神を、皇に、神を。噛み、咬んで。守ために。
 様々な言霊を乗せた拓哉の言葉に、狼の姿となったミミックはその身体から無数の影顎を生み出し邪神へと食いつきにかかった。
 その牙がかかる直前、邪神の顔がぶれた。今まで見えていた姿は朧となり、別人へと変わる。
 彼へ、彼女へ。対象の記憶から、対象の心を折るべきものへ、姿を変えて。
 変わった、ソレは──。
「……ああ。何が出ようと止まらなくていいですよ」
 衝撃音。邪神の顔が大きく仰け反る。その隙に、影の顎が彼女の四肢を喰い、その動きを奪っていく。
 後方で拓哉が撃ち込んだ衝撃波の弾丸が、その額を面ごと撃ち抜いたのだ。 
 想い人とか、全力な一般人とか。その程度のものは彼の心を動かさない。
「拒絶? どうぞご勝手に。その程度で止まれるほど正気に染まっていはいないのですよ」
 そんな言葉で挫く感情はとうの昔に食い尽くされた。知った顔を撃って動揺する常識は、とうの昔に持ち合わせていない。
 嗚呼、それに。
「そういえば、俺の顔が欲しいって言ってましたっけ」
 そもそもこの話、前提自体が間違えているのだ。
 ゆっくりとした動作で邪神の心臓に狙いを定めながら、拓哉は嗤う。
「……残念ながら、存在しないものは上げられませんし、渡せませんよ」
 ケラケラと笑いながら撃つ彼の顔は、果たして本当に彼自身のものだったのか。
 幾つもの弾丸で穿たれ、吹き飛ばされた顔の無い邪神には、その面を判断することは、できなかった。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

ルゥナ・ユシュトリーチナ

HAHAHA、誰がやるかコンチクショウだワンッ!(葉巻に火を付けつつ真の姿解放)
仮面被って騙し合いなんて人狼ゲームで十分なんだよねぇ!

んで、仮面が欲しいって?
良いよぉ、こちらにいらっしゃい。顔を剥ぐって事は至近距離に入ってくるって訳だよねぇ?
…こっちが全力を出せる間合いに相手から来てくれるなら是非もなし。
顔面vs顔面の握撃勝負が開幕だ、キャットファイトと洒落込もうこっちは狼だけどッ!(UC発動)【怪力】【鎧無視攻撃】【気絶攻撃】【暴力】【蹂躙】【覇気】
こっちの仮面を奪って記憶や知識、癖を覚えたってね…筋肉は一朝一夕じゃあ身に付かないのさ!

…ヤバそうになったら葉巻を飛ばして隙作ろっと【目潰し】



●じんぎなき
 ルゥナ・ユシュトリーチナ(握撃系無気力フラスコチャイルド・f27377)は葉巻を取り出す。慣れた手つきでそれを咥えて、残りはもとのポケットへ。
 如何なる戦闘の中でも、冷静さを欠いてはいけない。これはその為の一服だ。
 火を付けながら、ついさっきの、相手の言葉を反芻。
 なるほど、望みを叶えようと。その代わりに、こちらの顔を奪おうと、邪神はそう言っているようだ。
 うん、言っていることは理解した。
 ゆっくりと紫煙が立ち昇る。
 それを見届けて、
「HAHAHA、誰がやるかコンチコウショウだワンッ!」
 ルゥナは真の姿を解放し、邪神へと殴り込みにかかった。
「仮面被って騙し合いなんて人狼ゲームで充分なんだよねぇ!」
 銀色の三角の耳に、同色の長い尾。真の姿を解放し、ルゥナは言葉通りの人狼のような姿へと変貌していた。強化された身体能力で一息に間合いを詰め、邪神を捕らえていた影の狼と入れ違うように彼女とかち合う。
「んで、仮面が欲しいって? 良いよ、こっちにいらっしゃい」
 本来なら彼女の行動は自ら敵の射程範囲に飛び込むようなもの。危険極まりないものだろう。
 けれど、そんなこと分かりきったこと。ああ、よく知っているとも。
「顔を剥ぐって事は至近距離に入ってくるって訳だよねぇ?」
 何故なら、その条件はこちらも全く同じであるのだから。
 超至接近戦はルゥナの最も得意とする戦法。こちらが全力を出せる間合いに相手から来てくれるのなら、是非も無し。
「いらっしゃいって、君からから来てるじゃないかっ!」
「そっちからもぐいぐい攻めてるんだからおあいこでしょ?」
 ぱきりと手の骨を鳴らし、邪神の手が伸びるその前にルゥナは手を伸ばす。しかし敵は半歩身体をずらすことに寄って彼女の手をすり抜ける。カウンターにと伸ばされる女性の華奢な腕が、ルゥナの鉄仮面を掠めとる。
 相手とて、今まで多くの顔を奪ってきたのだ。この間合いを得意とするのは同じこと。
 ──加えて。
「これで条件は一緒、いや、わたしの方が上かな?」
 鉄仮面を奪い取った邪神の顔が変化する。
 ルゥナの記憶を、癖を、知識を読み取った、他らならぬルゥナ自身の顔へ。
 ぺろりと渇いた唇を舐めた。
 状況は互角、攻撃を読まれる分やや相手が有利か。
 こちらの必殺も顔面への攻撃。あちらの狙いもこちらの顔面、もとい顔。 
 さぁ、楽しくなってきた。
「じゃあ、顔面VS顔面の握撃勝負が開幕だ。キャットファイトと洒落こもうかこっちは狼だけどッ!」
「そういうことじゃない思うんだけどなぁ同じ姿でいうのもなんだけど!」
 今度仕掛けてきたのは邪神からだった。
 ルゥナの記憶を頼りにだろう、フェイントを交えつつ、敵はルゥナが一番苦手とする方向から攻撃を仕掛けてくる。冷静に相手の行動を観察し、ルゥナはそれを捌く。
 互いの手と手が交差し、牽制し、掴み合って。二人は両掌を掴み合ってがっぷりと組み合う形となった。
 暫しの拮抗。
 受け流しは聞かない。小手先の技も通じない。こちらの技術はネタが割れている。
 なら、筋肉と気力にモノを言わせて強引に押し切る──!
「なっ……!?」
 ぎしりと音を立ててルゥナが相手の掌を握り潰す。互角と思われた天秤が傾き、少しずつ、邪神が押し負けていく。
「こっちの仮面を奪って記憶や知識、癖を覚えたってね……筋肉は一朝一夕じゃあ身につかないのさ!」
 力で圧倒し、気力で押し込め、邪神を壁際へと追い詰める。あと一歩、という所で踏みとどまる邪神に、にやりと嗤った。
 ぷっ、とそれまで加えていた葉巻を口から放し相手へと吹きかける。
 宙へと放られた葉巻は円を描いて飛び、前方──敵の顔面へ。
 ずるりと相手の手から力が抜ける。
 そうら、止めだ。
 
 次の瞬間、邪神の顔面を捕らえたルゥナの手が、そのまま壁にめり込んだ。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

ディスターブ・オフィディアン
第一人格
「望むものをくれると言うなら貴様の全てを貰おう、その命も、お前が今まで奪ってきた『個』も、何もかもだ。ああ、代金か、心配するな」

「踏み倒させてもらう」
ロストエデンを発動し、強制的に真の姿の堕天使に変身、翁の面も外しておこう

強化した反応速度とスピードを生かして突撃、村雨小太刀での二回攻撃や衝撃波で攻撃を仕掛ける

敵の攻撃に対しては見切りで打点をそらし致命傷を避けながらカウンター攻撃
「愛おしい? 下らんことを言うな」
「そもそも貴様が人の人生を愛するというなら、なぜ子供の個を奪う? なぜ彼らの人生を見ようとしない」
「貴様のそれは愛ではない。ただの収集癖だ、鴉が光物を集めるのと変わらんよ」



●しこう
 望むものを与えよう?
 邪神の問いかけに、ディスターブ・オフィディアン(真実を 暴く/葬る モノ・f00053)は躊躇なく即答した。
「なら、オレは貴様の全てを貰おう。その命も、お前が今まで奪ってきた『個』も、何もかもだ」
 叶えてくれるんだろうな、膝を付く邪神を見下ろし、逆に問い詰める。
「……そうしたら、キミのそのおもしろい顔は貰えるのかな?」
 返ってきた声は、今まで何度も攻撃を受けてきたと思えない程に余裕のあるものだった。
 ゆっくりと立ち上がり、邪神はにんまりと笑ってこちらを見る。これだけ攻撃を受けてもまだ立っていられるのはさすが長きにわたり力をつけてきた邪神といったところだろうか。
「自分を犠牲にして、他者を助けるの? 涙ぐましいね」
 しかしその身体には戦闘の証たる傷が幾重にも生まれている。ダメージは確実に蓄積している筈だ。
 故に、ディスターブが行うことはただ一つ。
「……ああ、代金か、心配するな」
 ディスターブの闇の外套が床へと落ちる。現れたのは小太刀を携えながら、西洋の衣装に身を包んだ黒髪の青年。その背から覗くのは、外套よりもなお深い、漆黒を宿した天使の翼。
「踏み倒させてもらう」
 【ロスト・エデン】。停滞と虚妄から造り出された楽園を叩き潰し、撃ち砕く為に表した、ディスターブの真の姿であった。
 彼が行うことは、攻撃のみ。既に彼らが傷付けた後を、追うように、かの邪神が停止するまで。
 カツンと、顔にかけていた翁の面が外套の後を追うように床へと落ちた。


 翼を得たことで強化された速さを駆使して、ディスターブは邪神へと攻め入っていた。
かつての友から譲り受けた小太刀を振るい、邪神の行動を抑えにかかる。距離を置かれれば翼から生み出す衝撃波で足を止め、常に間合いから逃がさぬように敵へと張り付く。
 一般人に紛れさせる隙など与えない。何処までも追い続け、かの邪神の本性を徹底的に暴き切る。
 そもそもからして、この邪神の言動と行動には違和感があったのだ。
「人を愛している? 下らんことを言うな」
 業を煮やした邪神がこちらに反撃を仕掛ける。素手で以って繰り出された刺突の打点をそらし、その軌道から逃れた。
「貴様が人の人生を愛するというなら、なぜ子供の個を奪う? なぜ彼らの人生を見ようとしない」
 人は、生きていく中で変化するものだ。個は生まれながらにあるものではなく、生きる道程により変化し、作り出されていく。
 それなのに、この邪神は愚かにもそれを見届けることなく摘み取るのだ。
 過程を探求することもなく、個の起源を探すこともなく。ただ手当たり次第に食い散らかすだけ。叡智を求める者として憤らずにはいられない。 
「人生とか、そういうのには興味ないよ。人間だって、ご馳走を前にしていちいちレシピを考えないだろう?」
 嗚呼……そうか。ディスターブは得心する。
 前提が違う。
 これのいうものは、愛とか、そんな人間らしい感情ではないのだ。
 再び邪神の刺突が迫る。その軌道を予測し、最小限の動きで致命傷を避ける。避けきれず掠めた腕から血が噴き出るが、構わない。
 ただ、今目の前にいるこれを、一刻も速く斬り捨てたかった。
「なら貴様のそれは愛ではない。ただの収集癖だ、鴉が光物を集めるのと変わらんよ」
 代わりにがら空きとなった胴体に刃を突き入れながら、ディスターブは静かにそう宣言するのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

外道・紫
くっくっく……あっはっは
なるほど、ここは貴様の餌場だったのか
うまく考えたものだ、その手は人格を奪うのだな
やれるものならやってみろ、死者からでも奪えるのならな

邪神のくせに、人間に染まりすぎていそうだな……ならば、人のようにメスで斬り刻んでくれよう
手早く手術で腕や足を整え、人の限界を見せてやる

……1番堪えるのは、助けた者に私の顔を化け物だと言われる事だな
これでも元々は可愛い女の子だったんだぞ、私も……今は死体を繋ぎ合わせてるがな
顔の継ぎ接ぎだけはどうにもならん、もう元の顔も覚えてないさ
剥ぎ取ってみてもいいぞ……私である保証はないがな

お前が羨ましいな、好きな顔になれるのだから
だが……これで終わりだ



●ほんもの
「くっくっく……あっはっは」
 外道・紫(きぐるみにつつまれたきょうき・f24382)は笑う。耐え切れないというように、抑えきれないというように、ウサギの着ぐるみで顔を隠したまま腹を抱えて笑う。
 奥に隠れた組織との関連とか、儀式の意味とか。そんなのものは存在しない。暗躍も権力も、初めからそれにとっては関係がなかった。
 紫の予想をはるかに上回って、ここはとてもシンプルな場所だったのだ。
「なるほど、ここは貴様の餌場だったのか」
 合理的なのも当たり前だ。だって、もともとそれしか目的が無いのだから。
 ただ待っているだけで豊富に獲物が捕れる場所。下拵えも後始末も、放っておけば自分を崇める人間が全てやってくれる。それでいて人間たちは人間たちで利己的な甘い蜜を啜れる為、裏切りや漏洩の心配もない。
 なるほど、うまく考えたものだ。邪神にとってこれ以上居心地が良い場所はないだろう。
「仮面を剥ぐのも元の手法を真似ただけだろう。その手で人格を奪うのだな?」
 紫は敢えて、敵を挑発するように手招いて見せる。
 既に今までの戦いで敵の絡繰りは読めている。が、間近で見れるというのなら是非拝見したい。
「やれるものならやってみろ、死者からでも奪えるのならな」
 そして紫の期待通り、その挑発にのった邪神は彼女の顔を剥ぐべく襲い掛かった。
「随分っ、怖いモノ知らずだねぇ! 死んでいるのに考えて動いている顔なんて、最高じゃないか!」
 大振りに薙ぎ払ってきた手をあっさりと避ける。蓄積したダメージからか、その動きは初めよりも精細さを欠いていた。しかし、とうの本人はそんなことにも気づかず二撃、三撃と紫を追い詰めようと攻撃を重ねてくる。
 そんな様子に紫は着ぐるみの下で笑みすら浮かべた。
 嗚呼何て──赤子の様に扱いやすいのだろう。
「邪神のくせに、随分と人間に染まりすぎていそうだな……」
 それならば、人の様に、人と同じくこのメスで切り刻んでくれようか。
 紫の握ったメスが走る。その刃の向く先は、ほかならぬ己の四肢。
 切って、裂いて弄り回して、縫い合わせながら整えて。敵前でありながら目にも止まらぬ速さで己の体に手術を施し、より戦闘に相応しい躰へと作り直す。
「貴様が餌と呼び喰った人の、限界を見せてやろう」
 術後に振るわれるメスの速さは、先の戦いを遥かに上回るもの。
 銀閃が走り、邪神の被っていたフードが千切れ飛ぶ。その異常ともとれる速さに、邪神が息を呑むのが分かった。
「こ、の──ッ!」
 ぐにゃりと邪神の顔が歪む。彼女が被りなおした面から浮かぶのは、紫がかつて医者として助けたものの顔。
 その口が動く。紫に向かって言葉を吐き捨てる。恐怖と異物をみる目で、拒絶の意思を露わにして。
 ──『ばけもの』、と。
「……失礼だな。これでも元々は可愛い女の子だったんだぞ、私も。」
 少しだけ拗ねた口調で紫は唇を尖らせる。
  今は死体を繋ぎ合わせているから仕方ないけれど。この死せる身体がまだ真っ当な人間だった紫だってそんなこと言葉は無縁だったのだ筈なのだ。いくら己で改造を施しても、顔の継ぎはぎだけはどうにもならないのだ。
 ……まぁ、尤も。もう元の顔も覚えていないから、あくまで『筈』なのだけれど。
「ほら、試しに剥ぎ取ってみてもいいぞ? それが私である保証はないがな」
 すでにこの身は幾つもの死体を繋ぎ合わせたもの。たとえ邪神が奪ったところで、それは他人のものかもしれないし、そうでないかもしれない。
 確かめるすべもない。幾重にも混ざったこの身体は、既に原型の証すらあやふやだ。
 そういう意味では、そう。
「お前が羨ましいな、好きな顔になれるのだから」
 しっかりと、己だという証を顔につけることができるのだから。
「……だが、これで終わりだ」
 そんな微かばかりの痛みと執着を追いやって、紫はメスを振るった。
 風を切る音が走り、人へと堕とされた邪神の肉体からまた一つ、血潮が弾ける。

大成功 🔵​🔵​🔵​

オブシダン・ソード
【狐剣】
えっ望むものが貰えちゃうの?
そう言われると迷うけど、この顔、意外と気に入られてるからさあ

僕が対象にされると、やっぱりいすゞの姿に変わられちゃうよね
えっそんな、きつねちゃん…拒絶されると普通に傷つく…
僕は意外と繊細なんだよ、知ってた?
敵の攻撃はオーラ防御…魔法障壁で凌いで、魔術の炎弾でいすゞを援護

敵が僕の姿になったら喜んでおくよ
やー、仲が良くって困っちゃうね
ああ、でもフードで隠れてないとあんな感じなんだねぇ
何か恥ずかしいんだけど…

こちらは符をばら撒いて結界を張るよ
敵の力を封じる形でいすゞの隙をカバーできれば

そうそう、僕は君のなんだから、惑わされないでよ相棒
あとは彼女の斬撃のための援護を


小日向・いすゞ
【狐剣】
へえへえ
そんなー、何でも貰えるンスか?
何にしましょうかね
あー、…そうっスねェ
そういう訳で今回のお話はご遠慮するっス!

あっしが攻撃を受ければ、ソードの顔になるでしょうが
相剋符を撒いて化けの皮を剥ぐっス
何より本物はここにいるっスし

あーはいはいはいはい
照れるので雑に流します

仲が悪くないのかって
狐は化かすのが得意なモノ
あっしのっスからね、コレは
自分が言うのは大丈夫

しかしあんなにおおっぴらに顔を見るのは珍しいっスね確かに
驚くから出す前にちゃんと宣言してほしいンスけれど…

引き続き剣を手に斬り込んで行くっスよ
はぁいはい
――手の中にあるモノを見間違う事も無いでしょうて
しっかり働いて貰うっスよ、相棒!



●かたわらに
「へえへえ、そんなー何でも貰えるンスか?」
「えっ、望むものが貰えちゃうの?」
 連れ合い故に、だろうか。小日向・いすゞ(妖狐の陰陽師・f09058)とオブシダン・ソード(黒耀石の剣・f00250)は揃って同じ反応をする。
 見るからに甘い言葉ではあるが、望むものがないと言ったらそれも嘘になる。少しくらい話を膨らませても罰は当たらない筈だ。
「何にしましょうかね」
「うーん、そう言われると迷うけど、この顔、意外と気に入られてるからさあ」
 失くなっちゃうのは困らない? と聞き返すのはオブシダン。その言葉に、いすゞはフードに隠れた彼の顔を見上げる。
「あー、……そうっスねェ」 
 確かに、相手の顔が無くなってしまうのも、彼が彼でいなくなるのも、少々、少しばかり、結構、困るかもしれない。いや、困る。
 はい、膨らませ終了。
「そういう訳で今回のお話はご遠慮するっス!」
 にっこりとした笑顔で取引を突っぱねながら、二人はもう一つの選択肢を選ぶことにする。
 悪趣味な邪神を、徹底的にぶっ飛ばす方の選択を。


 敵は顔を奪う他、相手の好む姿へと変わる異能を持つ。
 例えばそれは庇護の対象を、思い出の中の人物を。そして、互いに思い合う者の姿を。
「って分かってたけど……やっぱり変わっちゃうかぁ」
 先ず、前へ出たオブシダンの前で邪神が姿を変えたのは、彼の予想通りいすゞの姿であった。
 いすゞの姿をした邪神はニタリと笑い、彼を拒絶する。
『……こっち来ないで欲しいっス』
 その言葉は、なんか割とシンプルだった。
「いや結構軽いっすね⁉︎」
「えっそんな、きつねちゃん……拒絶されると普通に傷つく……」
 がくりと膝をつくオブシダン。オーラによる防御でいくらか軽減はしているものの、邪神の言葉は深く、オブシダンの精神に損傷を与えていた。
「それで普通に効果あるんっスね⁉︎ 潜入の時に言った言葉と大差無い気がするっすけど!」
「僕は意外と繊細なんだよ、知ってた?」
 しくしくと言いながらうずくまるオブシダン。口で言っているあたり本気では無いようだが、それでも多少なりとも傷はついているようだ。
「あー、もう! 本物放っておいて何やってるんスか!」
 ぱんと彼の背を叩き、いすゞはその体を飛び越えて邪神へと向かう。
 手には未だ、彼から渡された本来の彼自身の形。
 標的を変えた邪神の姿は再び変わる。
 小さな妖狐の姿から、背の高い青年の姿へ。
 黒い髪、フードに隠され手普段は見えない赤い瞳。
 それは、いすゞが最も心許す、黒曜の剣のヒトの姿。
『キミなんて――』
 ――けれど、それは彼じゃない。だから、それが何を言ってもいすゞの心には響かない。
「何より、本物はここにいるっスし」
 手の中の符に力を込める。
 五行相剋。万物の理に従い、真逆の属性を以って。
 疾く、疾く、かの偽りを打ち砕け。
 いすゞの手から放たれた符が眩く光る。硝子が割れたような音が響き、彼の仮面が砕け散る。
「何度やったって無駄っすよ。何度だって消しとばしてやるっス」
「やー、仲が良くて困っちゃうねぇ。ああ、でもフードで隠れてないとあんな感じなんだねぇ。なんだか恥ずかしいんだけど……」
 敵の術を打ち砕き、再び彼の元へと戻れば、そこには妙に嬉しそうなオブシダンが居た。
 何故そこまで嬉しそうなのか。いすゞが相対した時に敵が彼の姿を取ったことが、そんなに嬉しかったのか。
「あーはいはいはいはい」
 にこにことするオブシダンの視線をいすゞは雑に流すことにする。いやだって、照れるから。
「しかしあんなにおおっぴらに顔を見るのは珍しいっスね確かに」
「もう少し見せたほうがいい?」
「いや驚くから出す前にちゃんと宣言して欲しいンスけど……」
「あ、はい……」
「あーもう、何なわけ君達?」
 そんな他愛もないやりとりをしていると、仮面を剥がれた邪神が苛立たしげな声をあげた。
「偽物って分かっていても、好きな人を前にしたら多少手は鈍るものじゃないの? 前のやりとりもそうだけどさぁ、君達、本当に好き合ってるわけ?」
 信じられないというような邪神の言葉に、いすゞはけらりと笑う。
 仲が良いのか、悪いのか、なんて聞かれたら――そんなもの、至極当然。
「そりゃ、狐は化かすのが得意なモノ」
 手の中の、傷一つない黒曜の剣を撫でる。緩やかに目を閉じて、当たり前のように言う。
「あっしのっスからね、コレは」
 きっと言っても伝わらない。
 良いとか悪いとか、そんな、簡単な言葉では、言い表せないのだ。
「そうそう、僕は君の何だから、惑わされないでよ相棒」
「はぁい、はい」
 後ろから聞こえる彼の声を聞き、目を開ける。
 もう邪神の抵抗は二度と見えない。何故なら、彼が作り出した結界がその異能を封じてくれる。
 まぁ尤も。
「――手の中にあるモノを見間違う事も無いでしょうて」
 炎の魔弾による牽制がダメ出しとばかりにいすゞに道を示してくれる。
 それをなぞり、狐は跳ねる。逃げようとする邪神を、相棒たる剣から放たれる炎が阻む。
「逃がさないよ」
 強く、強く。かの邪悪を戒め、其の根源を取り払え。
 放った符より大地に干渉し結界を構成、邪神へと流れる力の根源を堰き止める。距離を詰める彼女の隙を、補うように。何人も彼女に触れる事を許さぬ様に。
 今彼が持てる全ては、ただ彼女の援護のために。
 彼の器物たる剣を握り、彼女は振りかぶって。狙うは邪神の体。
「しっかり働いて貰うっスよ、相棒!」
 剣と狐。
 一匹と一振りの生み出した一閃が、邪神の体を切り裂いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ソルドイラ・アイルー
◎ ギヨーム君(f20226)と

おや、多少は情緒のある邪神ではー……いやカラカラ笑う姿にムカつきますね。吾輩と同様に収集癖があるだなんて特にムカつきますね!? この感情は同族嫌悪が当てはまりましょうか!

どうぞどうぞこの金龍の面皮などくれてやりましょう! 盾として神の御元に立ち塞がりましょう!
この象り崩したならば、土砂に覆われる事を覚悟せよ。実験体の結末を知りたくば手を伸ばせ!

まあ記憶空っぽなんですけどね……どうです、ご存じないですか? あ。ない! 使えね~っであります!
うろちょろ煽って、ギヨーム君の感情と行動を霧隠しましょう。怒りを隠すなら怒りの中です。吾輩沸点低いから、理不尽に怒れますよ


ギヨーム・エペー
◎ ソルドイラくん(f19468)と

餌場と、口にするか。そうか。きみは人を食いものと認識して見るか
へえ、長くやり過ごしてきた割には知恵がなくて覚束ない者だったか
統べを怠れば終わりは早まる。人としても神としても拙いから、視認される。当然の報いだ

そーだな、生きるためには食わなきゃならない。好きだから集めようとするのも分からなくもないさ
人の血を分けて貰うおれが言えた事じゃないが、……おれは人が好き。故にわしは生きものに触れる事に恐れを持つ

生命を扱う事に責任を持て。会の長として胸を張れ。手本が必要ならくれてやるよ、おれの外面なんて。きみに人間振るのはもう御免だ
集めた面を。集まった命を、この手で砕こう



●あざむき、くだす
「おや、多少は情緒のある邪神では……なんて思ったりもしたのですが」
 砂で構成された巨体を揺らしながら、ソルドイラ・アイルー(土塊怪獣・f19468)は肩で息をする邪神に歩み寄る。その姿がよく見えるようにと身を屈め、頭の先か爪先まで、ゆっくりと吟味してから、盛大にその姿を笑い飛ばした。
「いやカラカラ笑う姿にムカつきますね、吾輩と同様に収集癖があるだなんて特にムカつきますね!?」
 この感情は同族嫌悪とでも言えばいいのだろうか。勿体ぶった笑い方、人を愛すると口にするところ、そして、無作為に集める収集癖。見れば見るほど重なる点が鼻につき、浮かび上がる相違点が勘に障る。
 情緒豊かなどとんでもない。個が生み出すものが何たるかすら理解してないこの粗忽物を、一刻も消し去ってしまいたい!
「……うるっさいなぁ! その顔剥ぐよ?」
 鬱陶し気に怒鳴る邪神の手が伸び、ソルドイラの仮面を砂の皮膚ごと削ぎ落す。
 対して、ソルドイラは動かなかった。まるで獲られるのが当然とばかりにそれの繊手を受け、砂の体を零し崩す。
「どうぞどうぞ、この金龍の面皮など喜んでくれてやりましょう!」
 それが、己の目的へと至る道中にあるのなら。彼は喜んでその身を盾として、神の御元に立ち塞がろう。
 ──ただし。
 相手が己の顔を写し取り、そこに宿るものを糧とするのを見届けて、ソルドイラは声を低めた。
「……勿論代償は頂きますがね」
 この象り崩したならば、土砂に覆われる事を覚悟せよ。悍ましき実験体の結末を知りたくば、ためらわずその手を伸ばしてみるがいい!
 ……まぁ、もう触れてしまった後なのだけれど。
「そして吾輩も、ここぞとばかりに怒りましょう」
 不条理に、理不尽に。
 ソルドイラは怒りの感情を爆発させ、己の肉体を増大させた。
 何せ、我ながら己の感情の沸点は驚くほどに低いのだ。怒る理由など、先ほどの苛立ちで充分、いやこの際無くったって怒って見せよう。
 それが、彼の背後に隠れた『本物の怒り』を隠すことへ繋がるのだから。
 今はまだ、その感情と行動を隠しきる為に、自らの体を壁としてソルドイラは暴れ回る。
「さぁ、吾輩の記憶の味は、癖のスパイスは如何でありましょう!」
 大木のような尾で敵の体を打ち据える。巨岩のような腕で、小さな体を叩き潰す。
 相手がいくらこちらの動きを察知しても、こちらの弱点を突こうとしても気にも留めない。それを上回る圧倒的な質量で押しつぶせば良いだけだ。
「まぁ、吾輩の記憶は空っぽなんですけどね! どうです、何かご存じのものはありませんかね!?」
 部屋中を響き渡る声でのソルドイラの問いかけに対し、邪神からの答えは無い。いまやそれは、彼の大振りの攻撃を躱すだけで精一杯の様だった。
「……あ、ない! 使えね~っであります!」
 そう大袈裟に溜息をついて、邪神の体を掴み上げ。
「では、ここからが大本命。彼の君の真なる怒りをどうか、御照覧あれ」
 自身の躰で隠し通してきた『彼』の前へ、放りすてた。
 
 
 邪神が投げ捨てられた先にいたのは、静かに佇むギヨーム・エペー(Brouillard glacé calme・f20226)だった。
 呻きながら立ち上がるそれに向けて、ギヨームは感情を押し殺した声で確認する。
「餌場と、口にするか、此処を」
 そこに、本来の彼がもつ陽気さは欠片も無い。ただ、ただ感情のない顔で邪神を見下し、品定めをするように言葉をかける。
「そうか、キミは人を食いものとして見るか」
「……だって私達は、そういうものだろう?」
 悪びれも無く応える邪神に、ギヨームは深く溜息を吐く。
 それは、軽蔑の溜息だった。
 ──長くやり過ごしてきた割には知恵が無くて覚束ない者だったか。
 群とは常に流動的で、有限だ。統べることを怠ればそれは乱れ、自然と終わりは早まるもの。
 そういう意味で邪神は、何かを統べるという意味では致命的なほどに幼く、身勝手が過ぎる。
 故に、人としても、神としても拙いから、視認される。こうして自分達に視認されたのも、当然の報いと言えるだろう。
「ああそうさ、きみが言っていることも分かるよ。きみたちはそういうもので、人を食う。生きるためには食わなきゃならないだろうし、好きだから集めようとすることだって分からなくはないさ」
 生きるとは何かを糧とすること。知恵とは常に欲を抱くこと。それが悪いとは一概に言い切れないのかもしれない。吸血鬼の血を引くギヨームとて、その行為は禁じていてはも血を取り込まねば生きてはいけないのだから。
 けれど、けれど。
「人の血を分けてもらうおれが言えた事じゃないけれど……おれは人が好き」
 ギヨームの脳裏に、話してきた子供たちの姿が浮かぶ。
 救いを求めてきた親子たち。在るべきものを奪われ、虚ろとなった子供達。
 たくさんの話を聞こうと言った。
 話を聞きたいと、約束した。
 それらの姿が映っては消えて。
 彼の心の奥底で冷たい、冷たい炎が覚醒した。
「故にわしは生きものに触れることに、恐れを持つ」
 ──この神はあまりにも、彼らを、人というものを蔑ろにしすぎたのだ。
 ギヨームの血の中に宿る氷魔さえも焼き尽くし、紫の瞳が光る。
 日没の時は来たれり。陽光は暫し帳の向こうへかき消えて、彼の体は吸血鬼へと変貌する。
「生命を扱う事に責任を持て。会の長として胸を張れ。手本が必要ならくれてやるよ、おれの外面なんて」
 その代わり、それに対して人間振るのはもう御免だ。
 人外となることで得た膂力で邪神の体を蹴り上げる。浮いた身体を掴み上げ、握った拳を叩き込む。幾度も、幾度も。
 
 奥底から燃える怒りで、この者の全てを壊してしまおう。
 集めた面を。蔑ろにし、集まってしまった命を。
 いま、この手で壊してしまおう。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

朱赫七・カムイ
ひとの宿す個は
命を象徴するもの…白紙の頁に彩を塗るように生きる過程で紡ぎ彩っていく
己自身の路にも等しい
其れを、奪うなど

そなたは虚無であるのだね
もう誰からも奪わせない

カグラの不機嫌も限界のようだ
斬りはらおうか
攻撃を見切り躱しながら切り込んでなぎ払う
女が笑い、不意に歪み現れたのは私の、愛しいきみ
私の巫女たる桜龍の姿

『あなたと共に生き続けるなど、ごめんだわ』
紡がれる言葉に小さく笑う

── 再約ノ縁結

私の巫女を穢すな
厄災でしかないそれを約されないと拒絶し切断する
我が巫女を穢した罰を受けてもらおう
降す、神罰は全てを滅する枯死の厄災

心の奥、密かに恐れるその言葉ごと

全部を枯らす
そんな未来は約されていないのだと



●むすぶ
 幾度も受けた傷は深く。その存在は揺らめいて。
 されど、面の下は闇のまま。
 それでも未だ他者の面を求め続けるその存在に、朱赫七・カムイ(約倖ノ赫・f30062)はそっと息を吐いた。
 赤い瞳が宿す色は哀れみの色。
「そなたは虚無であるのだね」
 ひとの宿す個は、命を象徴するもの。
 白紙の頁に彩を塗る様に、生きる過程で紡ぎ彩っていくものだ。
 まるでそれは、己の路にも等しい。
 個とははじめから生まれない。けれど、個が無ければひとの生は輝かない。
 ──其れを摘み、奪ってしまうなど。
 個の色を、重みを、知らなければ出来ぬこと。故に、塞ノ神は貌無き禍つ神を哀れむ。
 なんて、哀しく、空虚な存在なのだろうと。
『──』
 傍らに立つ幼子がカムイの袖を引く。まるで何かを急くように、声なき声と瞳で訴えかける。
「……そうだね」
 幼子の意思を汲み取って、カムイはすらりと朱砂の太刀を抜く。
 カグラの不機嫌もそろそろ限界のようだ。これ以上時を伸ばしても、カムイが見定めた答えはきっと変わらない。
 今目の前にいるのは愚かで、哀しくて、空虚なカミ。
 だからこれで、確かめもお終い。
「もう、誰からも奪わせない」
 あとは──斬り払うだけだ。
 カムイが踏み込む。太刀は脇構えに、一足で相手との距離を詰める。
 邪神は既に満身創痍。こちらの顔を剥ごうと伸ばされる手も、今や見切るのは容易い。
 細くたおやかな手が空を斬る。赫を宿した神の姿はその背中。
 踏み込み、薙ぎ払う。振り返ったそれの口元が、歪んだ気がした。
『ねぇ……』
 その瞬間、視界に飛び込むのは淡い桜。
 長い桜鼠の髪、柔らかな桜の瞳。揺れるは桜枝の角。神の巫女たる桜龍の姿。
 それは何に代えても守りたい、カムイの愛しいきみ。
 花唇が開かれ、鈴のような声が鳴った。
 息が止まる。
『あなたと共に生き続けるなど、ごめんだわ』
 紡がれるのは拒絶の言葉。
 それに思わず笑みを零しながら──カムイは迷わず太刀を振り切った。
「──ッ」
 刃が纏った神気が定められた結果を解く。向けられた言葉を解く。
 そして偽りの巫女の姿を解き、邪神の目論見を断ち書き換える。
「私の巫女を穢すな」
 厄災でしかないそれは約さない。因果の理を拒絶し、太刀を以って切断する。
 結び直す糸の撓みが向かう先は、他ならぬ邪神自身。
「我が巫女を汚した罰を受けてもらおう」
 神は降ろす。正しき因果の矛先を、神の手による罰として。
 全てを滅する枯死の災厄を、邪神に下す。
「っ、アアアッ!」
 上がる悲鳴。ぶつけた神気をまともに浴びた邪神が悶え、自身の躰をかき抱く。
 それでもカムイはそれを睨み、決して逃そうとはしなかった。
 邪神の躰から煙が上がる。若々しい肌は老婆のような皺だらけのものへ。高い声は見る見るうちにしわがれていく。
 それでもまだ、逃がさない。
 涸れろ、枯れろ。禍つ神の全てが流れ出て、そのままたち消えてしまえ。
(あなたと共に生き続けるなんて──)
 心の奥底、カムイ自身が密かに畏れ続けたその言葉ごと。全部を枯らす。
 だって、
(──約束よ)
 だって、そんな未来など。
 愛しき巫女が拒絶する未来など約されてはいないのだから。

大成功 🔵​🔵​🔵​

セフィリカ・ランブレイ
個性は尊ばれるモノだが集団で何かを為すには個性を捨て、一つの流れを作り効率を尊ぶ
こんな話、UDCアースだと多いかも

エルフから見ると、生き急いでると感じるけど
好んで生き急ぐ方向に進む故郷にも他人事ではない話だ

『趣味の悪さと同じ位に厄介な相手よ。気を抜かない事ね』
シェル姉…相棒の魔剣の警告に頷く

私は唯一無二の個性派美少女だから、ね
どんな願い事とだって釣り合わないんだよね!

……とはいえ、顔が変わるごとに気配も動きも何もかも変わる
相手の癖を覚えて最適解を探る私とは相性悪いか

【夕凪神無‐柳布式】
力を抜いて、相手の攻撃を誘う
どんな相手でも、自身が優位な時にする動きは同じになりがちだ
そこを、突く!



●無垢のおもては
 こんな話を聞いたことがある。
 個性とは尊ばれるモノだが、集団で何かを為すには個性を捨て、一つの流れを作り効率を生むことを尊ぶ、と。
 似たような話自体は各地で耳にすることはあったとは思う。しかしそれでも、セフィリカ・ランブレイ(蒼剣姫・f00633)が知っている中だったとしても、その比率はUDCアースのものが多かったような気がする。
 永い時を生きるエルフである彼女には、なんて生き急いでいる話だろうと始めは思った。
個性を失くしてしまうなら、それは生きることではなく消耗だ。効率の為だけに、只でさえ短いヒトの命をさらに遣い潰してしまうなど、考えられないと。
 ただ、愚かとは言えなかった。だって、好んで生き急ぐ方向に進んでいるのは、彼女の故郷も又同じであったから。
 鉄エルフと揶揄される、軍事国家の彼女の故郷。穏健派であった父王は臥せ、国の勢力は軍部に傾くばかり。
 戦いを起こせば、血が流れる。戦争が始まれば、誰かが死ぬ。そんなことは誰もが分かっているはずなのに止められない。そんな自分達に、人間は生き急いでいると嗤うことは出来なかった。
 群に於いて、個は尊ばれるものではなく無用のもの。軍に必要なものは、ただ従順に、意思とは関係なく動く白紙の様な人々ことが重宝される。それは、どこの世界でも同じ。
 ──その答えが、これか。
「……その思想が、この会を生み出した」
 求める者がいるから、邪神は付け上がって。今まで誰も介入することなくここまで在り続けたのだ。
 そしてそれも……きっと他人事ではない。
『趣味の悪さと同じくらいに厄介な相手よ。気を抜かない事ね』
 握る相棒の魔剣から警告の声が飛ぶ。それに頷き、セフィリカは思考を切り替える。
 望みを叶えただけと嘯いて、己の都合のいい城を築き上げた邪神。しかし幾度もの攻撃を受け続けたその姿は始めの頃の勢いは微塵もなかった。
 傷付き、枯れ果てたそのその存在はもはや風前の灯。
「……私は唯一無二の個性は美少女だから、ね。どんな願い事だって釣り合わないんだよね!」
 だからここで、確実に終わらせる。
「畜生……畜生畜生クソッ!」
 セフィリカのはっきりとした拒絶に、邪神は地団駄を踏み暴言を吐く。そして、残っていた服の下の仮面を引っ張り出し──纏めて己の顔に押し当てた。
「僕は、わたしが、俺に……ッせめて一人だけでもッ!」
 次々と変わっていく声を姿を、セフィリカは冷静に観察し、その性質を見極める。
 誰でもあって、誰でもない邪神。今やいくつもの顔を取り込み、その性質は目まぐるしく変化している。誰と認識できない存在。誰でもない存在。それが、セフィリカの察知を阻む。
 顔が変われば気配は変わる。動きも、呼吸も、何もかもが変わってしまう。
「相手の癖を覚えて最適解を探る私とは相性が悪いか……」
 それならば。
 セフィリカは剣を握る手から力を抜き、目を閉じた。
 深く、深く息を吐いて。手を起点とし、全身からも力を抜く。研ぎ澄ました感覚はそのままに、彼女はただ、その時を待った。
 どんな相手であっても、自身が優位な時にする動きは同じになりがちだ。
 だから。
「──そこを、突くっ!」
 皺だらけの細い手が、彼女の顔に触れる直前。振り上げた魔剣がそれを弾く。返す刀で邪神を切りつけ、その態勢を崩す。
 さらに一歩踏み込む。構えは突きの形。邪神に回避する力は、もう無い。
「はッ──!」
 裂帛の気合と共に魔剣を邪神を突き刺し、セフィリカは邪神の存在に終止符を打つのであった。
 
 
 ◆
 
 
 気付けば、『全相の会』の建物の周りが騒がしくなっていた。
 邪神の討伐に合わせて組織が突入したのだろう。下の階では職員だったものが抵抗する声も聞こえてくる。
 しかし、頭を失った集団は所詮烏合の衆。彼らも程なく組織の人々により拘束され、逃げた参加者も無事に保護されることだろう。
 善き相を、と嘯いた神はもういない。そもそも、そんな神などいなかった。在ったのはどこまでも身勝手な、神と人の邪悪な欲望だけだ。
 邪神との戦闘が在った部屋には一つだけ。顔のない真白の面が残されていた。
 一切の装飾がされていないそれには何の個性も、感情も表せない。
 真っ新な面は、それだけでは何も生まれない。そこに彩りという刺激があって初めて、面は何かを訴える。
 ──故に、無垢な面が笑むことなど、ありはしないのだ。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年02月25日


挿絵イラスト