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“くれなゐ通り”の儚き再会

#サクラミラージュ #幻朧戦線 #籠絡ラムプ

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 会いたかった。
 会いたかったよ。
 ずっとずっと会いたかったよ。

  ――――真っ赤なリボンを結びましょう。

 抱きしめてほしかった。
 頭を撫でてほしかった。

  ――――桜の枝に結びましょう。

 嬉しいときは一緒に笑って。
 悲しいときは一緒に泣いて。
 そうやって、ずっとずっといたかった。


  ――――くれなゐが私を呼ぶでしょう。

 どうしていなくなってしまったの。
 どうして私をおいていってしまったの。

  ――――あなたが望むのデあレば。

 もう二度と離れないで。
 ずっとずっと一緒にいて。

  ――――私ハ、側ニ居ルデショウ。

 ◆

「サクラミラージュの流行でね、大切な人に、赤い色をしたプレゼントを贈る、というものがあるのだけど」
 集まった猟兵たちに、ミコトメモリ・メイクメモリア(メメントメモリ・f00040)は神妙な顔をして告げた。

「“くれなゐ通り”は、そんな流行に乗っかった商店街でね。売っているものはアクセサリから雑貨、食べ物も飲み物も、はたまた武器まで……とにかく全部赤づくしなんだ」
 リンゴ飴やいちご飴といったスイーツも目立つし、濃淡や装飾の違いはあれど、赤く染められた着物の数々には、道行く人々も思わず目を奪われることだろう。

「そんな“くれなゐ通り”の一番の売れ筋商品が、これさ」
 そう言って、ミコトメモリが取り出したのは、細長い、どこにでもあるような、なんの変哲もない、真っ赤なリボンだった。

「夜零時、“くれなゐ通り”の真ん中にある、大きな桜の木の枝にこれを結ぶと、死んでしまった人と再会できる――――――って言ったら、キミたちは信じるかい?」
 ぱちん、と指を鳴らすと、グリモアが明滅して、空間に一人の人物を映し出す。
 漆黒の長い髪、血のように赤い瞳、赤い着物に身を包んだ、妙齢の女性。

「彼女は杠・紅(ゆずりは・くれない)、“くれなゐ通り”の主にして――――籠絡ラムプの所有者だ」
 籠絡ラムプ。
 それは影朧を宿した不思議なオイルランプであり、悪しき【幻朧戦線】が市井にばらまいた、【影朧兵器】の名前でもある。
 一般人に、道理から逸脱したユーベルコードの力を与え、その力に溺れきった果てに暴走へと至らしめ、多大な被害を撒き散らす。

「この籠絡ラムプに封じられている影朧は『寄り添う存在』と呼ばれている。特定の姿や形を持たず、相対した者にとって忘れがたい……“もう一度会いたい誰か”の姿で現れるオブリビオンだ」
 それは死者であるかもしれない。生き別れになった家族かもしれない。あるいは、ペットかもしれない。

「…………紅女史に悪意があるかどうかはわからない。ただ、様々な人々が『もう一度、失った人』に会うために、その力を頼って“くれなゐ通り”を訪れる。親をなくした子供や、子供をなくした親、なんかがね」
 だが、そうやって力を使い続ければ、籠絡ラムプの中にいる影朧はいずれ暴走する。
 それが善意であれ、悪意であれ、止めなければならないのだ。

「さて、キミたちにはこの“くれなゐ通り”で、この赤いリボンを買って、実際に桜の木にリボンを結ぶ、“おまじない”をしてもらう。時間になれば紅女史が現れて、籠絡ラムプの力を使うだろう」
 猟兵達の前にも、『寄り添う存在』は現れるだろう。彼らとどんな会話をし、どんな結末が訪れるのかは、実際に遭遇してみなければわからない。

「出現した『寄り添う存在』さえ処理できれば、あとは力づくで籠絡ラムプを奪って破壊することは簡単なはずだ。注意することがあるとするならば――――」
 ――――たとえ、どのような存在が現れたとしても。
 決して、心を許し、側に行こうと思わないように。

「………………ま、夜まで時間はあるし、流行そのものはまっとうに素敵な文化なんだ。折角だから“くれなゐ通り”を見て回って、大切な人へ贈り物でも選んで、時間を潰してもいいんじゃないかな?」
 ミコトメモリはひらひらと手を降って。

「あ、なんならボクにお土産を買ってきてくれてもいいからね!」
 そう言って、キミたちを送り出した。


甘党
 もう二度と会えない、会いたい人は居ますか?
 お久しぶりです、甘党です。
 サクラミラージュの、ちょっぴりノスタルジヰなシナリヲです。
 本当かな?

◆アドリブについて
 MSページを参考にしていただけると幸いです。
 特にアドリブが多めになると思いますので、
 「こういった事だけは絶対にしない!」といったNG行動などがあれば明記をお願いします。

 逆に、アドリブ多め希望の場合は、「どういった行動方針を持っているか」「どんな価値基準を持っているか」が書いてあるとハッピーです

◆その他注意事項
 合わせプレイングを送る際は、同行者が誰であるかはっきりわかるようにお願いします。
 お互いの呼び方がわかるともっと素敵です。

◆章の構成
 【第一章】は日常フラグメントです。
 くれなゐ通りで散策しつつ『寄り添う存在』をおびき寄せるリボンを手に入れましょう。
 リボンはどの店舗でも購入できるので、目的はすぐに達成できるでしょう。
 夜になるまで時間があるので、デートしたり、気になるあの人に贈るプレゼントを漁ってみたりといった日常をお楽しみください。

 この章だけの参加も歓迎です。


 【第二章】はボス戦です。
  『寄り添う存在』は、『あなたがもっとも会いたい』と思っている存在の姿で現れます。
  それはかつての恩人であったり、家族であったり、ペットであったりするかもしれません。
  詳細は、第二章開始時に公開されます。


 【第三章】は日常フラグメントです。
  籠絡ラムプの所有者である、杠・紅(ゆずりは・くれない)に対する事後処理を行います。
  詳細は、第三章開始時に公開されます。
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第1章 日常 『くれなゐ浪漫』

POW   :    ひと目で気に入る贈り物を見つける

SPD   :    相手の好きそうな贈り物を見つける

WIZ   :    不思議と心惹かれる贈り物を見つける

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


「いっくん、嬉しそうだねえ」
「うん! だって今日はお母さんに会えるんだもん!」
 幼い子供が、道行く人に笑顔を向ける。
 赤いリボンを手に持って、桜の木へと走っていく。

 ◆

「ほんと? ほんとにパパとお話できるの?」
「本当よ、だから夜まで一緒に待ってましょうね」
 娘の手を引いた若い母親が、かばんの中に赤いリボンをしまう。
 疲れた顔に、ほんの少しの生気を宿して。

 ◆

「息子はね、お国のために頑張って戦ったんですよ」
「ええ、ええ、そうですね」
「たくさん褒めてあげないとねぇ…………」
「ええ、ええ…………」
 くたびれた老婆が、赤いリボンを握りしめながら悔いるように言葉を零す。
 傍らに寄り添う介護士は、その肩を支え続けていた。

 ◆

「会いたい人に、会えば良いでしょう」
 闇より黒い髪をなびかせて、女は着物の袖で、口元を隠しながら微笑んだ。

「私も、会いに行きましょう」
 薄汚れたラムプを撫でながら。
 闇の中で、くすくすと。
南・七七三

「はえー……マジでアホほど桜咲いてら。不思議だなー、異世界……」
きょろきょろ、見渡して
てきぱき目的のリボンを押さえたら、りんご飴を舐めつつうろうろ。

「リボン、お土産に良さそ。マリアこゆの好きかなー……イーリス……にまた髪飾りは意味深かぁ」

店先を流してちょいちょい買いながら、聞かれてもいない独り言
自分でも、まるで信じていない嘘

きっとアタシはここに来たことを誰にも言えないから、お土産は配れない
万一ガッコの子が見えたら、ささっと人込みに紛れちゃう

自分が一番分かってる
アタシは、来ない方がいい場所にいる

「――あ、そだ、ユノハおばあちゃんにもぼちぼちお礼しないと。お菓子のがいーかな……おし、味見味見っ」



「はえー……マジでアホほど桜咲いてら」
 南・七七三(“鬼灯"・f30098)の生まれ育った世界にだって、季節という概念も桜という花も存在したが。
 それにしたって、生えてる木が全部満開の桜、だなんてことはなかった。
 風が吹けば、そこかしこからはらはらと花弁が舞って、それだけで絶景なのに、この花は尽きることがないのだというから驚きだ。

「不思議だなー、異世界……」
 文化が違う、文明が違う。
 けれど、住んでる人は案外変わらないものだ。
 敷き詰められた石畳のメインストリートと、その両脇に店舗の立ち並ぶ商店街はどことなく懐かしさを覚えたし、行き交う人々はみな楽しそうで、つい足取りも軽くなる。

「すいませーん! リボンくださーい!」
「あいよー、三千円ね」
「うへ、ちょっと高くない?」
 適当な屋台があったので、値札を見ずに聞いてみたものだから、返ってきた金額に思わずびっくりする。
 なにせ、モノそのものは、長さにして1mに満たないような布切れなのだ。

「なあに言ってんだい、安いもんだろ? “あれ”に参加できるんだから」
「あー…………まぁ、そうかも?」
「俺も一ヶ月ぶりだからなあ、楽しみだよ、本当に」
 口ぶりからすると、これから起こるコトは、彼らにとっても周知のことらしい。
 喪った人と邂逅して、言葉を交わす。
 彼らはそれを、ありがたいものとして……そして、当たり前のものとして、享受している。

「ついでにりんご飴もどうだい、こっちは七百円ね、サービスしとくよ」
「……えー、じゃあそれも」
 少し悩んだ素振りをして、七七三はそう言った。
 薄いパリパリの飴がかかった、真っ赤なりんご飴は、驚くぐらいに美味しかった。

 ◆

「リボン、お土産に良さそ。マリアこゆの好きかなー……」
 愛すべき風紀委員長は、普段は黒いリボンで髪をくくっているが、赤もよく似合うだろう。

「イーリス……にまた髪飾りは意味深かぁ」
 実際に渡したら、どんな顔をするだろう。
 きっと苦笑しながら、ありがとうと言って受け取ってくれるだろうか。

「……はは」
 何という白々しさ。
 何という空虚。
 そんな事できないのはわかってる。

 本当なら。
 今すぐここから逃げるべきだ。
 ここは自分のいるべきところではない。

 だけど。
 だってしょうがないじゃないか。
 垂れ下がった桜の枝に、これ結べば。

「――あ、そだ、ユノハおばあちゃんにもぼちぼちお礼しないと。お菓子のがいーかな……おし、味見味見っ」
 ……アタシは何も持ち帰らない。
 ……アタシは、誰にも何も言わない。

成功 🔵​🔵​🔴​

キーシクス・ジェンダート

どんな存在であれ、どんな姿であれ…それは、そういう姿を取った別の存在だろう。大切だというのなら、尚更……止めるべきだ。死んだ存在が、簡単にかえってきて、たまるか。

目的の物はさっさと購入。とりあえず、呼び出す用に確保して……あとはお楽しみの買い物タイム。
最近猟兵としてやってきた息子へ贈り物。あの子は綺麗なものが好きだから、何か気に入りそうなものを……うーん。この間は確かハーバリウムを贈ったし…何にしようか。適当なものであの子の目は誤魔化せないからな。
仲間たちとお揃いにしたら喜ぶだろうか、同い年の仲間には懐いているようだし。折角だからリボンにしよう……ふふ、楽しみだ



 死者は還ってこない。
 それはキーシクス・ジェンダート(翡翠の魔人・f20914)が知る世の理、原則だ。
 くれなゐ通りを道行く人々は、皆一様に、リボンを大事そうに手にして、今か今かと夜を待っている。

(どんな存在であれ――――どんな姿であれ――――)
 親しき者の姿をしたニセモノ。
 愛しき者の姿をした鏡像。
 大切であればあるほど、喪った時の穴は大きく、それ故に、人は求めてしまう。
 ありえない奇跡を、あってはならない夢想を。

(死んだ存在が、簡単にかえってきて、たまるか)
 だから、キーシクスは、終わらせる為に、この地へとやってきたのだ。
 とはいえ。

「………………ううん」
 道沿いにあった雑貨屋の前で、キーシクスは足を止めて考える。
 喪われた人が居れば、そうではない人もいる。
 例えばそう、最近、全く予期せぬ形で再開した息子などがそうだ。
 折角サクラミラージュくんだりまで来て、まさか何も土産がないなどとは言えまい。
 “大切な人”に贈り物をするというのであれば、今のキーシクスにとってこれ以上に大切な人は居ないだろう。

 しかしながら悩ましいものだ。
 あの子は綺麗な物が好きだから、例えばこの紅桜のペーパーウェイトはどうだろうか。
 いや、今どきの子はあんまり紙に物を書いたりしないだろうか? インテリアとしても美しいが……。
 以前プレゼントしたのはハーバリウムだった。口では渋っていたが、大事にしてくれている事を父はちゃんと知っているのだ。本当ですよ。

「そうだ、仲間たちとお揃いにしてあげるのは……」
 父には若干反抗期というか、ツンケンしたところがあるが、同い年の仲間たちには懐いているようだし、そうだ、それが良い。
 そうと決まれば、早かった。くれなゐ通り名物のリボンは、価格こそ高価いが質は極上だ。手触り、強度、感触ともに高得点。

「これをもらえるかな?」
「兄さん、欲張りだねえ」
 大量のリボンをレジに出す男が、外見通りのそれではないことなど露ほどにも思って居ない店主が、呆れたようにそうつぶやいた。

 ………………若干難しいお年頃の、難しい感情を内包している息子が。
 父親から、友達の分までお土産を買ってこられた場合。
 一体、どういった反応をするのか。
 喜ぶのか、疎んじるのか、笑うのか、恥ずかしがるのか。
 それは実際に渡してみないとわからない。当事者のみぞ知ることである。

にしよう……ふふ、楽しみだ

成功 🔵​🔵​🔴​

フェルト・フィルファーデン
◯ケン様と
そうね……全然辛くない、なんて言うと嘘になるけれど、こういう経験が初めてってわけでもないもの。
それにね?今日は、あなたが一緒だから。さあ、いきましょう!ケン様!!

(とりあえず街中を散策しつつ)
何でもいいの?そうね……ねえ、ケン様は何か欲しいものってあるかしら?
あっ、ハンバーガーとフライドチキン以外でね?

えっ?その方がいいの?ガラかどうかなんて、別に……でも、ケン様がそういうなら……ちょ、ちょっと練習してもいいかしら?

(じっと彼の顔を見つめながら)
ええと……ケン?ケン。ケン!……ちょ、ちょっと恥ずかしいけれど、こんな、感じでいい?ケン……


ケンタッキー・マクドナルド
◯フェルトと

"死んじまった大切なヤツ"か。
……余計なお世話かもしんねェけど良かったのかよ。
(負けるだのは心配してねェが、辛くねェかは気掛かりで)
……そォかよ。
(帰ってきた言葉にぶっきら棒に返す。)

……まァ時間ァまだある、今ァ適当にブラついて好きな事してりゃいいだろ
お前の好きなモン見ろよ、何でもいいから

ン、欲しいモン?
ハン……ダメか いやそもそもこの世界にねェわな

欲しいモン、欲しいモン……あァあったわ
モノじゃねェけど

お前そろそろ俺呼ぶ時「様」つけンのやめろ。
様ってガラでもねェだろ俺

シアラ呼ぶ時は外してっし出来ねェ事ァねーだろ
構わねェ、試してみろ

……オウ。できンじゃねェか
(やっぱ可愛いなコイツ)



「"死んじまった大切なヤツ"、か」
 少し前の自分なら、そもそもこんな配慮を頭に思い浮かべることもなかっただろう。
 傍らにいる少女と出会ってから、嗜好は変わっておらずとも、思考は確かに書き換えられている気がする。
 それは多分、良いことなのだろう。ケンタッキー・マクドナルド(神はこの手に宿れり・f25528)は、それがある種、過保護な質問であることを理解しながら、頭を掻いて言った。

「……余計なお世話かもしんねェけど良かったのかよ」
 対して、少女――――フェルト・フィルファーデン(糸遣いの煌燿戦姫・f01031)は、柔らかくほほえみながら返した。

「全然辛くない、なんて言うと嘘になるけれど」
 それは強がりではなく、事実を告げているだけなのだろう。

「こういう経験が初めてってわけでもないもの」
 そして、フェルトは少女だが、か弱いと言うには、あまりにも歩んで来た道のりが険しすぎた。
 喪わなかったはずの、幸福だった己にすら、乗り越えてみせた。
 もちろん、それができたのは…………。

「それにね? 今日は、あなたが一緒だから」
「……そォかよ」
 全く、本当に変わったものだ。
 そんなひとことがで、心が揺れる様になるなどと。
 過去より今が居ることを肯定してくれることを。
 嬉しくないかと言ったら、それはもう、絶対に否なのだから。

 ◆

 フェアリー二人にとって、長いリボンは相応の荷物となる。
 “じいや”に一旦預かってもらって、さてどうしたものかと横を向けば。

「お前の好きなモン見ろよ、何でもいいから」
 ぶっきらぼうにそういう同行者が言うものだから、フェルトはんー、と小首をかしげた。

「……ねえ、ケン様は何か欲しいものってあるかしら? あっ、ハンバーガーとフライドチキン以外でね?」
「あァ?」
 しばし考える素振りをしてから、ケンタッキーは周囲を改めて見回す。
 可愛い雑貨やモニュメント、アクセサリの類に食べ歩きスイーツの群れ。
 正直、どれもピンと来るものはなかった。こんな小綺麗な商店街に、ジャンク屋なんぞはないだろうし、初手でファストフードを禁じられると興味のそそる物も特にない。
 フィギュアの一体でもあればよかったのだが――――。

「ケン様ったら……じゃあ、私の気になるところを見ていい?」
「あァ、そォしてくれ」
 それからしばしくれなゐ通りをうろついて、小物を見たり。
 おそろいの赤いマグカップを何故か買ってみたり(明らかにフェアリーには大きかった。フェルトがすっぽり入るぐらいには)。
 死ぬ程辛いレッドホッドキラーフライドチキンなる商品に心惹かれてみたり(非常に興味はあったが近づいた時点でフェルトが刺激臭で涙目になったので諦めた)。

「ふふ、次はどこに行きましょうか、ケン様?」
 ふわりと柔らかく微笑んで、今日一日、隣にいるフェルト。
 幸せだった過去より、大切だった人たちより、今そばにいるケンタッキーが居るから、と言ったフェルト。
 その口から紡がれる、自分の名前。

「……――――あァあったわ、欲しいモン」
 その時、ふと閃いた。

「え? 何かしら。さ、さっきのチキンは駄目よっ! 本当にお店に近づいただけでつーんとなっちゃったんだもの!」
「あれはあれで面白かったケドな……」
 そうではなく、じぃ、とフェルトの顔を凝視する。
 見つめられたフェルトは、あら? と目をぱちくりさせたが、見つめ続けると今度はソワソワし始めて。

「な、何かしら? ま、まさか……その、えっと…………?」
 何を思ったのか、口元を軽く押さえて、ドギマギしながら目をそらす。
 そんな姿がどこまでも様になる、妖精のお姫様に。

「お前――――――――」
「私――――――!?」

「――――――そろそろ俺呼ぶ時「様」つけンのやめろ。様ってガラでもねェだろ俺」
「――――――えっ」
「シアラ呼ぶ時は外してっし出来ねェ事ァねーだろ」
「そ、それはそうだけど! でも、シアラはその、特別で」
「俺は特別じャねェって?」
「そんなわけ無いでしょう!」
 言ってから、あ、と我に返ったフェルトは、うー、と顔を抑えながら、ちらりとケンタッキーに視線を向けた。

「…………………………ちょ、ちょっと練習してもいいかしら?」
 練習が必要なものなのか。けど、それが必要であると判断したのであれば。

「構わねェ、試してみろ」
「う、うん、えっと、じゃあ」
 すぅはぁと大きく深呼吸して。
 じっと、金の双眸がケンタッキーを見据える。

「ええと……ケン?」
 しっくり来なかったのか、音を確かめるように。

「ケン。ケン…………ケン!」
 繰り返す。

「……ちょ、ちょっと恥ずかしいけれど、こんな、感じでいい? ケン」
 やがて、馴染む響きを見つけたのか、それでも少し恥ずかしそうに――でも確かに、明確な形で少し変わった二人の関係を確認するように、名前を呼んだ。

「……オウ。できンじゃねェか」
 それでいいンだよ、と、彼女からしてみれば大きいだろう手を頭に乗せて、ぐりと撫でてやる。
 しかしまぁ。

(やっぱ可愛いなコイツ)
 口に出さないのは、ある種の気恥ずかしさであり。
 フェルトが恥じらったのも、多分同じ理由だろうと気づけたのが、ケンタッキー・マクドナルドが得た、一番の変化なのかもしれなかった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

唐草・魅華音
死んだ人に会える、か。

 
かつて、同じ師匠と共に。
世界は違うけれど、一緒に戦い方を教わっていた姉弟子である、カミーリャお姉ちゃん。
一緒に喜び合って、ちょこちょこケンカして。
けれど、いつか一緒に猟兵になって世界を救うんだと夢を語り合った。
わたしは猟兵になれた。お姉ちゃんだってなれたはず。夢は、叶うと信じていた。

――「魅ィィ華ァァ音ぇぇぇっっっ!!」
お姉ちゃんがオブリビオンとして立っていたのを見た時。
夢は、悪夢に変わってしまった。

――「あなたは、立派な猟兵になって、ね……。」
離れたくなかった、お姉ちゃん。
ずっとずっと一緒に


ふぅ……わたしらしくないな。死んだ人と会えるなんて、ありえないのに。



 リボンを片手に、表通りを歩く。
 皆、一様に嬉しそうだ。同じように、赤いリボンを持って、夜が来るのを今か今かと待っている。
 大切な人との再開を、待っている。

(死んだ人に会える、か)
 皮肉なことに、猟兵たる魅華音は、それが事実であると知っている。
 死者は過去だ。そして過去は、歪んだ実在となって現れる。
 その歪みの名前を――――オブリビオンと呼ぶ。
 光を遮るように、魅華音は静かに目を閉じた。





『魅華音、うまくなったじゃない!』
 明るい、弾むような声の持ち主だった。
 技術が一つ身につくたびに、一緒に喜んで。

『ちょろちょろしてるだけじゃ師匠無視しちゃってるじゃないの!』
 ほんの些細なきっかけで、バカみたいな喧嘩をして。

『大丈夫よ、魅華音。二人で、世界を救いましょう?』
 ずっとそばにいるものだと思っていた。
 ずっとそばにあるものだと思っていた。
 当然のように、そうなるものだと思っていた。
 少なくとも、昔の自分は。

『魅ィィ華ァァ音ぇぇぇっっっ!!』
 悪しき領主の傀儡となって再開を果たしたカミーリャの。

『どうして! どうしてよ! 私は世界を、世界を守るって、それだけだったのに!』
 その叫びを、今でも覚えてる。
 死してなお、過去に囚われてなお。
 抱いた想いだけは、忘れていなかった、愛しき姉の姿を。

 仲間の力を借りて。
 その存在に、決着をつけた。
 生きていてほしいと望んだ生命を、自らの手で終わらせた。
 一瞬だけ交わした言葉もまた、今も胸に残っている。

『……泣いてちゃ、ダメだよ……。師匠に、怒られるでしょ……』
 どれだけ無残な目にあって、どれだけ非業の死を遂げたのか、魅華音は知っている。

『あなたは、立派な猟兵になって、ね……』
 二度目の今際だって、魅華音のことを想ってくれた。
 離れたくなかった、お姉ちゃん。
 ずっとずっと一緒に





「ふぅ……わたしらしくないな」
 目を開ければ、満開の桜が、どこまでもどこまでも広がっている。
 この世界の桜は、死者の魂を宿すのだという。
 ならば――巡り巡って、たどり着くこともあるだろうか。

「…………また会えるなんて、ありえないのに」
 それでも、どこか期待をしてしまうのは。
 くれなゐ通りに、足を運んでしまったのは。
 きっとまだ、伝えきれない言葉が、胸のどこかに残っているからかもしれない。
 それは――――――――

大成功 🔵​🔵​🔵​

アリス・フォーサイス
○大切な人に、赤い色をしたプレゼントを贈る、か。友だちに配るプレゼントを探そうかな。

店員さんに聞いてみよう。友だちに贈り物をしたいんだけど、何をプレゼントしたらいいかな?

それ、素敵だね。いいお話も生まれそう。あ、やっぱり、包装も赤いんだね。いいね。

そうだ、赤いリボンも買わないと。



「赤べこ?」
「そう、赤べこ。かわいいだろう」
 アリス・フォーサイス(好奇心豊かな情報妖精・f01022)は、店舗の前に並べられた、どこか間の抜けた印象を感じさせる表情をした、真っ赤に塗られた木彫り細工の牛をじっと見つめて言った。

「んー、これは…………喜んでもらえるのかな?」
 カチカチ、と口が動いて、軽い音を立てた。

(それはわかんねーぜ)
 と、牛が言っているようだった。

 ◆

 せっかく色んなものがあるんだから、友だちに贈るプレゼントを探したい。
 そんな気持ちで、アリスはふらふらと道行く店舗を眺めては、訪ねて回る。

「へへ、くれなゐ通り特製、幸せのりんご飴だよ、どうだいおひとつ」
「ここにきたらこのイチゴ飴を食べなきゃ本当じゃないよ! ほら、食べていきな!」
「桜といえばさくらんぼ、この真っ赤なさくらんぼゼリーがくれなゐ通りの名物さ!」
「くれなゐ通りのアセロラドリンクを飲んでない!? そりゃあ何しに来たかわかんないよお嬢ちゃん!」

 なるほど、食べ物はなんだかたくさんあってとても良いところだ。
 でも、これから夜まで待つことを考えると生物はお土産に向かなくて、結局どういうものがいいのかな、という話になる。

「友だちに贈り物をしたいんだけど、何をプレゼントしたらいいかな?」
 だから素直に、雑貨屋に入って店員に尋ねてみた。
 そのお店の店主は、腰の曲がった老人で、目線は幼いアリスと同じぐらいの高さだった。

「それは…………どんな、友達だね?」
「えー、メル友とか、戦友とか?」
「…………戦友、か」
 その響きが面白かったのか、老人は乾いた声でからからと笑い。

「………………友達に、贈るなら」
「贈るなら?」
「………………今日という日に、キミが何を感じたか、伝わるものを、贈るといい……例えば、そうだ」
 言って、老人が持ってきたのは、硝子で出来た、丸い形をした、手のひらサイズのハーバリウムだった。
 中には舞い散る桜の花びらが、そのまま中に閉じ込められている。まるでサクラミラージュの景色をそのまま切り取ったかのように。
 裏側にはピンがついていて、ワッペンのように使える様になっている。

「“ここ”では、ありきたりなものだ。でも…………キミたちような客は、何故かこれを買っていく」
 桜にまみれたこの世界で、わざわざ買っていく人は居ないような、そんなお土産。
 だけど、外から来た誰かにであれば。

「それ、素敵だね。いいお話も生まれそう。……でも、これは赤くないんだ?」
「………………桜は、赤く染まらない。そういうものだ」
「ふうん。あ、そうだ、ここはリボンも売ってる?」
 そう尋ねられた店主は、一瞬だけ眉をしかめて、それから、悲しそうな顔で、少女を見つめた。

「………………キミにも、居るのか、会いたい人が」
「どうだろ?」
 そう返すアリスの真意は、老人にはわからなかった。
 きっと誰にも、わからなかった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ザッフィーロ・アドラツィオーネ
宵f02925と

宵と手を繋ぎ市内を進む
リボンはどの店舗でも購入できるのだったか?
そう声をかわしつつ宝飾店の店に入りリボンを買い求めようか
…会いたいものに会える、か
もう会えぬ者というならば俺は赤毛の前所有者に会えるのだろうかとそう瞳を細めながらも、繋いだ手の先へ視線を向ければ愛しげに瞳を細めつつ展示された赤の石が嵌るブレスレットを買い求め宵の腕へ
隣に在りたいと、離れたならば会いたいと思う相手はお前だからな
桜にでなくお前の腕に…とな
まあ、お前とは一生離れんが
そう照れ臭げに声を投げながらも宵の購入してくれた足輪を見れば嬉しそうに瞳を細めようか
ああ。きっと、な…と
だが、逸れぬよう手は放さんが、な?


逢坂・宵
ザッフィーロ(f06826)と

かれと手を繋いでくれなゐ通りへ
ええ、そのはずですとかれに頷いてみせながら
気になった宝飾店の扉を開けて入ってみましょう

……僕は、最後の……
様々なことを教えてくれた最後の所有者に会ってみたいですね
謝罪と感謝ではないですが、ただ報告をしたいです

そしてかれが購入した腕輪を手首へ嵌められれば
つやつやとひかるその赤い石の嵌った腕輪に目を細めて
ありがとうございます
そして僕もかれに同じ赤い石の嵌った足輪を買い求めましょう

跪きかれの足首へそれを嵌めたなら
僕も同じ気持ちです
ふふ、もちろんですよ
離れませんし、離れたとしてもこの装身具が僕たちを導いてくれるでしょう



「リボンはどの店舗でも購入できるのだったか?」
「ええ、そのはずです……なにか気になるものでも?」
 手をつなぎ、道を歩く長身の男二人の姿を切り取ると、まるで歌劇の一シーンのようだった。
 問いかけたザッフィーロ・アドラツィオーネ(赦しの指輪・f06826)は、少し考えるようにしてから。

「お前が良ければ、あそこに」
 指差す先は、くれなゐ通りでも一際格式の高そうな、宝飾店だった。
 道行く人々も、その店には入らない。せいぜい、店頭のガラスの中に収められた品々に憧れるように目を通しては、値段を見て目を丸くして、きゃあきゃあいいながら去っていくような、そんな店だ。
 宝石とは、ヒトの焦がれ。装飾とは、ヒトの羨望。
 そんな商品を扱っている、店だった。

「では、そのように」
 小さく微笑んで、逢坂・宵(天廻アストロラーベ・f02925)はそう返す。

「良いのか?」
「きみの行きたいところが、僕の行きたいところですので」
「……言ってくれるものだ」
 繋ぐ手の力を少し強めて、共に歩みをすすめる。
 すれ違う人々が、そんな二人を見て、美しいものを見るような、はあと熱のこもった視線をちらりちらりと向けてくる事には、気づかなかった。

 ◆

 指輪、ネックレス、イヤリング……。
 様々な宝飾が並んでいるのはもちろんだが、嵌っている石がすべて赤いとなると、それはそれで圧巻であった。

「ルビーに、ガーネットに……これはスピネルか」
 濃淡はあれど、共通するものは、どれも力強い生命力を感じさせる赤。赤。赤。
 煌々たる蒼きサファイアを本体とするザッフィーロにとっては、ある意味で対極たる存在に囲まれた空間であるが。

「ダイヤモンドのない宝飾店というのも、珍しい物ですね」
「それだけ赤が根付いているという事だろう、ふむ……」
 しばし、二人で店内を見て回る。
 店員にリボンがあるかを問うと、二つ返事で、真紅のベルベット・リボンが用意された。
 受け取り、手触りを確認しながら、ザッフィーロはこぼすように呟いた。

「……会いたいものに会える、か」
 もし会えるのならば。
 ヤドリガミたるザッフィーロが願うのは、赤毛が印象的な、前所有者だろうか。

 ――――人々に赦しを与える者。
 ――――人々に救いを与える者。

 何を想ったか。
 何を感じたか。
 言葉にして聞く機会があるのなら、問うてみたい。

「僕も同じ、ですね」
 ふと、そう呟いた宵に、ザッフィーロは軽い驚きを持って目をやった。
 口にしただろうか? と言わずに問う銀の双眸に、宵は小さく微笑んで返す。

「わかりますよ、きみの考えていることなら」
 宵もまた、ヤドリガミ――天図盤が生命を宿した種族故に。
 会えるのであれば、最後の所有者へ言いたい言葉がある。

「では、俺が今何を考えているかわかるか?」
 ザッフィーロの視線が、顔から、繋いだ指先へと向かう。

「そうですね―――ぼくにとって、嬉しいことをしてくれようとしているかと」
 それが正解であることを示すように、展示されている装飾の一つを、ザッフィーロは手にとった。
 例にもれず赤い宝石が嵌められたブレスレットは、決して華美ではなく、しかし高貴で、触れ得難い装飾が施された逸品だった。
 繋いで手を持ち上げて、何かの誓いの儀式のように、そっと宵の腕に嵌める。

「リボンを桜に結ぶのが、くれなゐ通りの風習らしいが――――」
 今在る誰かへとと贈るのであれば、それは。

「隣に在りたいと、離れたならば会いたいと思う相手はお前だからな」
 桜の代わりに、腕へと結ぶ。

「……まあ、お前とは一生離れんが」
 そうして口にしてしまえば、流石に照れくさい。
 けれど、向けた言葉を、正面から受け止めて、宵は静かに目を細め、彼が手にとったそれの横にあった装飾を手にした。

 絡まった指が解ける。
 けれど、離れるものはなにもない。
 そっと跪き、ザッフィーロの足に、同じ装飾が施された足輪が嵌められる。
 本来は一対、故に二人で分かち合えば、一心同体も同じ。

「僕も同じ気持ちです――――離れませんし、離れたとしてもこの装身具が僕たちを導いてくれるでしょう」
「だが、逸れぬよう手は放さんが、な?」 
 ルビーの石言葉は、愛情。
 言葉にせずとも、それを贈り合う意味がわかる。
 再び指を絡めあって、視線を交わすだけで良い。

 天図盤に刻まれた蒼い星は、何よりも眩い一等星。
 何があっても見失う事のない者であると、二人だけが知っている。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ティオレンシア・シーディア


わぁお、これはまた壮観ねぇ。
右を向いても左を見ても、四方八方天地も含めものの見事に紅赤朱。…長時間いるとちょっと目が痛くなりそうだけど。
影朧云々抜きにすればホントに真っ当に素敵な文化だもの、一時の流行り廃りに巻き込まれちゃったらちょっともったいないわねぇ。
…まあ、あたし正直赤は嫌いだけど。それはあたし個人の嗜好と八つ当たりだものねぇ。

とりあえず赤いリボンを買って、と。時間あるしちょっとお店見て回りましょうか。ミコ姫ちゃん様へのお土産も買っときたいし。
…あたしだと、何が出てくるのかしらねぇ…
…やっぱり、あの子?それとも…
…はぁ。考えても仕方ないことだ、ってのは、わかってるんだけどねぇ…



「わぁお、これはまた壮観ねぇ」
 サクラミラージュには幾度となく足を運んだことのあるティオレンシア・シーディア(イエロー・パロット・f04145)であったが、“くれなゐ通り”の『赤』に対する徹底っぷりは、それはそれは凄まじいものだった。
 売られている物すべてが赤い商店街なのだ、右を見ても左を見ても紅赤朱。
 細まったティオレンシアの目でさえも、若干目が痛くなりそうなほどだった。

(それだけ鮮烈に、皆の意識に根付いてるってことなんでしょうけどねぇ……)
 そもそも、籠絡ラムプが存在する以前から、赤いものを贈り合う風習と、この“くれなゐ通り”は存在していたのだから。
 風習そのものが悪いわけではないのだ――――だからこそ、オブリビオンの力で本来の有り様がねじ曲がっている現状を放置しておけないのだが。

(……まあ、あたし正直赤は嫌いだけど)
 なにせ、血の色だ。
 命の色だ。
 それを生きている証と感じるか、死の象徴だと感じるかは、その人物がどんな人生を歩いてきたか、という話に通ずる。

「さぁて、お買い物お買い物、ミコ姫ちゃん様へのお土産も買っときたいし……どんなものが好きなのかしらね?」
 図々しく土産を要求していたグリモア猟兵の顔を思い出しながら、ティオレンシアは“くれなゐ通り”の中へと足を踏み入れた。

 ◆

 土産もリボンもあっさりと決まって、時間だけが残ってしまったから、本職の研究も兼ねて、古ぼけた喫茶店に入ってみる。
 コーヒーまで真っ赤! などということはなかったが、お茶請けの食べ物などは、ベリーやら無花果やらを駆使して、全てが赤ずくめで、若干げんなりしたりもしたが。

(桜の風味のコーヒーは悪くないかもねぇ……)
 などと、一口すすって思ったりはする。文字通り散る程あるサクラミラージュではよく飲まれるのだろうが、他の世界ではウケがいいかもしれない。

「………………はぁ」
 似合わないため息を自覚する。気分だって良くはない。

「“もう一度会いたい誰か”……よねぇ」
 心当たりが、ありすぎる。
 何人もいて、誰が現れるのかわからないような気もするし。
 心のどこかでは、もうあの子しか居ないんじゃないかな、と確信しているのを、見ないふりをしているような気もする。
 ティオレンシアがここまで来てしまったのは、きっと心のどこかで、何かの期待をしているからだろう。

「もう一度、もう一度…………はぁ」
 考えても仕方ない。
 時が来るのを待つだけだ。
 心の整理ぐらいは、つけよう。
 誰が来ても良いように。
 誰に何を話すかを。
 弾丸は……撃たなくても良いはずなのだから。

大成功 🔵​🔵​🔵​

零井戸・寂

わぁ赤一色。
見事にまぁ鮮やかだな……

それにしても"もう一度会いたい誰か"、か。
まぁ僕の前に出てくるのが誰かは解り切ってるよな。
(あいも変わらず行方知れずの友人だろう。どんな姿で出てくるかはさておくとして。)

――ひとまずリボンは後で買うとして
「お土産買って来てくれていいよ」なんて言ってたしな。
ヘッドホンの御礼も兼ねて何か探そうかな。

コスメ……喜ぶかもだけど僕大して詳しくないし
髪が長いから簪とかしても似合いそうなんなけど普段冠付けてるしな
……あ、櫛。これがいいか。
(髪長いし何かと使うんじゃないだろうか。朱塗りの上等そうなのを選んで買ってく。)

喜んで貰えるといいな……
と、そろそろ任務に備えるか。



「見事にまぁ、鮮やかだな……」
 リボンの調達がてら、店舗をぐるりと見て回った零井戸・寂(PLAYER・f02382)は、あらゆるものが赤で染め上げられた“くれなゐ通り”の様相に、若干辟易しながら呟いた。
 しかしながら、グリモア猟兵――――姫たる彼女は、騎士たる己に『土産を買ってこい』と仰ったのだから、忠誠の証を示す為に手ぶらで帰るわけには行かないのである。

(ま、ヘッドホンの御礼もしたかったしね)
 もらってばかりでは男がすたる、お返ししてこそなんとやらだ。
 とはいったものの、女性向けのお土産を、異国で調達するというのは、これはなかなかの難題だ。
 『どんなものを好きそうか』はなんとなくわかるけれど、『その中でどれが好きか』は結構難しい。
 いや、よっっっっっぽど感性から外れたものでなければ、何でも喜んでもらえるとは思うのだが、できれば百点満点を目指したいのが男心というものだ。
 サクラミラージュといえば、桜コスメだが……。

「……喜ぶかもだけど僕大して詳しくないし」
 化粧なんて断じてしたことはない。
 もちろん一生するつもりもない、ので、当たりどころがわからない。
 売っているリップはもちろん赤一色なので、見た目の印象も派手になりそうだし……。

「あ」
 そんな中で、ふと見つけたのは、髪の毛を彩る装飾品を扱う店舗だった。

「簪…………うん、似合いそうだ」
 赤いガラス玉が先端についたそれをつけた姿を想像してみる、なかなか愛らしく思える、が。

「…………でも、普段冠付けてるしな」
 髪の毛をまとめ上げる簪とは、干渉してしまう。
 あれは確かアイデンティティだと言っていたような。
 名案だと思ったのだが、思わぬところで躓いた。これは駄目かな、と思いながらも、視線は店舗の中をさらに見回して。

「あー………………」
 それにたどり着いた。漆塗りの――もちろん、赤を基調とした――髪を梳かすための、櫛だった。

(髪長いし、いいんじゃないか。あわよくば――――)
 座る彼女の髪をとって、自分が梳いてやる光景を、頭の片隅に思い浮かべて。
 土産の内容を、決定したのだった。

 ◆

 同じ店でリボンを調達して、すべての準備は整った。

「…………"もう一度会いたい誰か"、か」
 口にしていってみるものの、誰が出てくるか、と言われれば、それはもうわかりきっている。
 今、この時以前に対面する機会だって、何度かあったような気がしなくもないぐらいには。

(……どんな姿で出てくるかはさておくとして)
 当時の姿か、それとも相応に成長した姿か。
 戦うのは、心も体もしんどい。
 願わくば穏やかに解決しますように。
 キミともう一度話したい、その心は、偽りなく本心なのだから。

大成功 🔵​🔵​🔵​

鳴宮・匡


捨てたものが、幾らだってある
心に浮いたものを切り取っては、黒い海の中に置き去りにして
そうして生きてきたから

こうしている今もまだ、一人で歩く通りの賑わいが
遠い世界のように感じることがあって

その度に思い知らされる
捨てたものはもう戻らなくて
拾い上げたところで何処に嵌まることだってないと

……だけど、拾い上げなきゃならない
名前もない、形もわからない、報われもしなかった気持ちを
二度と手放したりしないと決めたんだから

たとえ――
もう決して、心からそう思えないと知ってても

赤いリボンは、夕暮れの色みたいだった

会いに行かなくちゃいけない

あの時、受け止められなかった“自分”と
もう一度、向き合わなきゃ
前に進めないから



 捨てたものが、幾らだってある。
 捨てなければ生きてこれなかった。

 こころに生まれたカケラたちは、残念な事に、生きるためには不要だった。
 その時の彼に、未来を想う余裕なんて、これっぽっちもなかったのだから仕方ない。
 黒い海に、沈めて、失ってしまったものが、後からどれだけかけがえのないものかわかっても、もう取り戻せない。

 欠けたままだ。
 埋まったままだ。
 すくい上げてはめようとしても、もう元の形に収まらない。
 そういう性質のものだ。

 雑踏。
 子供が居る、大人が居る。
 男が居る。女が居る。

 男女で道を行く者もいれば、家族連れも居る。
 誰に会いたいのか、何を言うつもりなのか。
 そんな会話をしながら、誰もが嬉しそうに、少し先の未来に思いを馳せている。

 一人で居ると、そんな景色が、遠く、触れ得難いモノに感じてしまうことがある。

 人は彼のことを、『変わった』というだろう。
 自分でもきっと、数年前とは『違う』モノになったという自覚はある。

 それは、それは、耳の傾け方と、手の伸ばし方を覚えたというだけで。
 誰かとつながることを覚えただけで。
 本質は、きっと変わっていない――――そう望んだとしても、未だ変われないのが、鳴宮・匡(凪の海・f01612)という男だった。

 ◆

(喪った人に――――――)
 会いに行く。それを求めて、人々は“くれなゐ通り”へ集う。
 多分、そこに善悪はない。良し悪しもない。
 人の想いがあるだけだ。

(会いたい――――か)
 では、自分の中に“想い”はあるだろうか。
 喪った人に会いたい、と心から願えるだろうか。

「………………」
 喪うとはどういうことか。
 知っているはずなのに。

 いや。
 知っているからこそ、心が揺れ動かない。

 凪だ。

 風を止めなければ、バラバラにちぎれ飛んでしまっていたのだ。

 ……誰かに頼ることを覚えた。
 ……信じられる誰かが出来た。
 ……助けを求めることも、きっと今の男はできるだろう。

(だけど――――これだけは)
 これだけは。
 自らの手で行わなければならない。
 清算しなくてはならない。
 淀んだ黒い海の底に沈めてしまったモノたちを、拾い上げなくてはならない。

 きっと形もわからない。手に乗せても、それと認識できないかもしれない。
 名前もない、報われなかったそれらを、二度と手放したりしないと決めたのだから。

 わかっている。
 そんな事はわかっている。

 だけど男は。
 前に進みたかった。

 リボンは真っ赤だった。
 夕暮れにも、血の色にも見えた。
 誰が流した血なのだろうか。
 これから流れる、血なのかもしれない。

(――――――さあ)
 会いに行こう。
 鳴宮・匡を始めるために。

大成功 🔵​🔵​🔵​

マグダレナ・ドゥリング


「死人は生き返らない……」
「なんて安っぽいことは言わないよ。生き返るから僕はここにいるんだ」
「特にこの世界の桜は転生の力を持つという。そういうことも起こりうるだろう」

だけどまあ、仕事だから
人の希望を潰すことになるけど……今更気にすることではないか

……夜の0時、赤いリボンを桜の木に結ぶ、って結構複雑な手順だよね
この話、杠・紅から直接聞いたのかな?
お店でリボンを買うついでに話の出所を【情報収集】してみよう



「……お母様と、また話したくない、と言えば嘘になる」
「けれど。お母様はそれを望まないだろうな」

……そういえば、ミコトメモリ姫様へのお土産って何がいいんだろう
真っ赤に染められた木彫りの熊でいいかな



「死人は生き返らない……か」
 面白い冗句を聞いたように、マグダレナ・ドゥリング(罪科の子・f00183)は小さく笑った。

「なんて安っぽいことは言わないよ。生き返るから僕はここにいるんだ」
 女の本質は、気高きヴァンパイアの血を継ぐ人外たるモノである。
 生命がどれだけ脆く、儚く、そして“融通”が効くものかを、よく知っている。

「だけどまあ」
 しかし、くれなゐ通りに集う人々は、どうやらそうは思っていないらしく。
 ありえないはずの奇跡を求めて、こうして集い、縋ろうとしている。

「彼らの希望を潰すことになるけど……今更気にすることではないか」
 結果的には守るために。
 けれど短期的には――――尊き再会を奪うために。

「そもそも、この儀式は誰がやり始めたんだい?」
 雑貨屋でリボンを調達がてら、店主の老婆に尋ねると、特に隠し立てをするでもなければ、警戒することもなく。

「そりゃあ、紅ちゃんだよぉ。くれなゐ通りの、元締めみたいなもんさね」
「未だ年若いと聞いているけれど?」
「先代が組合長だったからねえ、アタシたちはほら、新しいことはよくわかんないからねえ、紅ちゃんが売り出し方を考えてくれてから、こうやってお客さんが来てくれるようになって」
「死者との会話が町おこしとは、随分と風変わりだね」
「私達も最初は驚いたさ、けどねえ、私も実際に、息子と会ってみるとねえ……」
 老婆の声が、徐々に沈み始める。
 最初は半信半疑だったのだろう、そして、『本物』と見まごう“息子”と出会ってしまった。
 けれど。

「…………どうも、参考になったよ」
 死んで過去になり、なおも現在にこびりつく執着の輩。
 猟兵はそれを、オブリビオンと呼ぶ。

 ◆

「……お母様と、また話したくない、と言えば嘘になるけれど」
 リボンを片手に、苦笑しながら、マグダレナは小さく呟いた。

「お母様はそれを望まないだろうな」
 実際に対面することになるのは、一体誰だろうか。
 仮に本当に会えたとして……やっぱり怒られるだろうか。
 とすると、なかなか気が重いものだが……。

「おや」
 不意に、道沿いの店頭に展示されている商品があった。
 1/2サイズの、木彫りの熊だ。なんとも立派な造形で、全体が真っ赤に染め上げられている点もなかなかクールで素晴らしい。

「なるほどね?」
 そうだ、これはあの姫様へのお土産に、ちょうどよいのではないだろうか。
 迷わずに購入を告げると、店主が信じられないものを見るような目で、マグダレナを凝視した。

大成功 🔵​🔵​🔵​

祇条・結月

時間は戻らない
去った人は還らない
僕は、普通の子供
だから、そういう奇跡を望んでしまう誰かの気持ちがわかる
ちゃんと逢えるなら、もう一度逢えるなら、って
僕だってそれがほんとに叶うなら、猟兵に、なるんだって思わなかったら。縋ってたかも

その願いが……もし、利用される可能性があるなら。
戦う。新しい傷になんかにはさせない


早々に必要なリボンを買って、時間まで散策してようかな
ここは相変わらず、いつも桜が綺麗で
けど、春の陽気が、やっぱ1番似合うかも

お店の雑貨とか眺めて歩いて
知らず知らずどんな赤なら、藤色に合わせれるかな、とか考えてて

気づいて小さく苦笑
迷惑だよね
うん。ちゃんと……頑張る



 時間は戻らない。
 去った人は還らない。
 誰もがそれを理解しているからこそ、“もしも”の存在は、酷く甘美に人を誘惑する。

(……奇跡を望んでしまう、誰かの気持ちは……わかるよ)
 母親にこんな話をするんだ、と嬉しそうに父に語る幼い子供とすれ違う。
 きっと彼は、心からその再開を待ち望んで、夜が来るのを待っているのだろう。

(………………僕も、きっと)
 もう一度逢えるなら。
 伝えられなかった言葉を伝えられるなら。
 猟兵になっていなければ―――このリボンを枝に結んで、縋っていたかもしれない。

 その願いは、きっと悪いことではないはずだ。
 救われるべき、尊いものであるはずだ。
 だから、もし。
 その願いを、誰かが利己的な目的のために利用するというのなら。

「新しい傷になんかには、させない」
 それが、祇条・結月(銀の鍵・f02067)がこの場所を訪れた、一番の理由だった。

 ◆

 何時来ても、桜は綺麗だ。
 店舗を染める真紅にだって、負けちゃいない。
 時期もいい、ぽかぽかとした春のひだまりの下に居ると、つい、思わずうとうとしてしまう。

「…………いけない、いけない」
 お昼寝をしに来たわけじゃないのだ。
 眠気覚ましがてら、時間潰しに店舗を見て回る。
 雑貨屋などは、色が赤で統一されているぶん、内容に個性があって、なかなか面白い。

 例えば、この林檎の様な飾りのついた簪ならば――――――。

「……藤色に、合うかな」
 まとめ上げた髪の毛を、この簪で止めれば、柔らかな紫の中に一点の赤が彩りを添えて、美しく映えるだろう。
 浴衣を着て、白い首筋やうなじが見えたりして――――――。

(…………フフ、似合うカナ?)
 そう、笑ったりして。

「……………………兄ちゃん? どうしたんだい?」
「…………はっ」
 店員にそう問われて、意識が戻ってきた。

「………………なんでもないです」
 そう言いながらも、手にもった簪を戻しはしなかったのは。
 想像の中の彼女にも、似合うと思ってしまったからだろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 ボス戦 『寄り添う存在』

POW   :    あなたのとなりに
【寄り添い、癒したい】という願いを【あなた】に呼びかけ、「賛同人数÷願いの荒唐無稽さ」の度合いに応じた範囲で実現する。
SPD   :    あなたのそばに
【理解、愛情、許し、尊敬、信頼の思い】を降らせる事で、戦場全体が【自分が弱くあれる空間】と同じ環境に変化する。[自分が弱くあれる空間]に適応した者の行動成功率が上昇する。
WIZ   :    あなたはもう大丈夫
自身の【誓約。対象の意思で別れを告げられ消える事】を代償に、【対象自身の選択で心に強さを持ち、己】を戦わせる。それは代償に比例した戦闘力を持ち、【過去を振り切った強さ】で戦う。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠宮落・ライアです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 夜が来た。
 道を照らすぼんぼりや提灯の光もまた、まるで血染めのように赤い。
 ざわざわと音を立てて、“くれなゐ通り”にある、全ての桜が、己から差し出すように、枝をしならせ、集う人々の手元まで降りてくる。
 赤いリボンを結べば、ほら。
 花びらが集まり、形を変えて、貴方の望む待ち人が現れる――――――。

 ◆

「願いを果たせばよいでしょう」
 赤い着物に身を包んだ女が、古びたラムプを片手に小さく呟いた。

「再会を、望めばよいでしょう」
 うっすらと上がる煙は、血の色をしている。

「私も、会いにゆきましょう」
 一つ、また一つ、愛し人を求める者たちの声が耳を打つ。
 この瞬間のために――――女は、きっと生きている。

+-+-+-+-+-+-++-+-+-+-+-+-++-+-+-+-+-+-++-+-+-+-+-+-+

 『寄り添う存在』は、「あなたが望む、“もう一度会いたい誰か”」の姿で現れます。
 どんな相手で、どんな関係で、どんな存在なのかをプレイングに明記してください。
 死人でも物理的に会えなくなってしまった存命の相手でも構いません、未来や過去の自分なども良いと思います。なんでもありだ。

 『寄り添う存在』は、ユーベルコードによって、変身した対象の記憶や行動を出来る限り忠実に再現し、「本人」に限りなく近いパーソナリティを有します。
 貴方の心残りや、伝えたかった言葉を親身に聞いて、心残りを叶えようとしてくれるでしょう。
 しかし、自分が偽物であることも自覚しており、ある程度の会話を終えると、自然に消滅します。
 基本的に戦闘能力はないので、攻撃すれば問答無用で倒すことが出来ます(『会いたい誰か』がものすごく強く、心残りが全力で戦う事だったりする場合はその限りではありません)。

 籠絡ラムプは使いすぎると暴走の危険を有しますが、このシナリオの間、猟兵相手の『寄り添う存在』が暴走することはありません。

 プレイングの受付期間は4/13 8:30から4/17 23:59位を予定しています。
 最速で送ると再送をお願いする場合がありますが、早ければ早いほど練ったりこねたりする時間が出来るのでお好きなタイミングでどうぞ。
 第2章からの参加も歓迎です。

 それではプレイングをお待ちしております。
南・七七三

南・勇魚

アタシを庇ってぐちゃぐちゃに爛れて
助かるなんて思えなくて
治療中のはずの
会わせてはもらえない
賢くてサバサバした、数学者のお母さん

「死んだ人」として、会えたなら――
……ううん
今は、考えない

話したいこと、いっぱいあるんだ
アタシ、頑張ってるんだよ

母さんを壊した悪魔に乗って
こわーい眼鏡に認めさせて
生き残って
弱い子を助けて
クリスマスはサンタもやったんだ
ご褒美で、母さんの治療が進むように手ぇ回したの
あいつら信用できないんだもん
凄いでしょ?

ぜんぶ、お母さんに、会いたくて
……会い、たくてぇ


(お願い、お母さん
よく頑張ったねって、撫でないで

されたら、ダメになるから
手が触れる前に、撃たないといけないから)



 Ⅳ.

 最初、アタシには“それ”が何かわからなかったんだ。
 熱くて、赤くて、ぎらぎらしていて。


 Ⅲ.

 一番印象に残っているのは、キーボードを叩きながら、コーヒーを飲む姿。
 常に時間と仕事に追われているような人だったような気がする。

(母さん、お弁当忘れてるよ!)
『ああ、ごめん、慌てたわ』
 朝はいつもアタシより早く出ていって、帰りはいつも遅いのに、アタシより先に寝ているところを見たことがない。
 泊まり込みで仕事をしてくるのもしょっちゅうで、父親の居ない我が家を守るのは、割と小さい頃からアタシの役目。

『じゃあ、今日も帰りは遅くなるから』
 寂しくなかったと言えば嘘になるけれど。
 少なくとも“愛されてない”と思ったことは……そんなには、無い。
 出かける前には、必ずくしゃりと頭を撫でてくれたし。

『今日の夜食はピザトーストがいいわ、前に作ってくれた、粉チーズを山程かけた奴。お願いね』
(はいはい、いってらっしゃーい)
『マヨネーズはかけないでね』
(わかってるって)
『ピーマンの輪切りだけは乗せないで――――』
(遅刻するから行ってらっしゃいってば!!)
 母さんは母さんなりに、アタシに、頼ってくれていた。
 頼るっていうのは、信頼しているって言うことだ。
 子供心に、それはとっても嬉しいことだった。

 Ⅱ.

 だから、違うんだよ。
 違うんだよ、お母さん。
 

 Ⅰ.

「…………七七三」
「ふぁい?」
 帰りが早い日でも、母さんは仕事の続きをしている。
 小気味の良いタイピング音に耳を傾けながら、家事をしたり、やることがなかったらテレビでも見たり。
 そもそも、一人で仕事をしたいときは部屋にこもるから、リビングに居る時は『大丈夫』な時だから、アタシから話しかけることもあれば、母さんから話しかけてくることもある。

「明日から一週間ぐらい、ラボに籠もる事になるわ」
 それは決まったことを告げる口ぶりで、アタシが「嫌だ」と言ってもどうしようもないことだ。
 ラボにこもる、ということは、重要な機密を取り扱うということで、アタシがお弁当を持っていっても、母さんに会うことはできない。

「留守を頼むわね」
 だから、そう言われれば。

「うん、わかった。じゃあ一週間は楽しちゃおっかなー」
 笑顔を作って、そう返した。
 ここで、不機嫌な顔をしたら、母さんはきっと困るだろう。
 なにせ、器用なヒトじゃないから、どう慰めていいかも、なだめていいかもわからないハズだ。

「お菓子、食べ過ぎたら駄目よ。あれは非効率的だわ。体にも良くないし」
「あはは、母さんこそ、アタシがいないからって三食飲むゼリーとかやめてよね。ちゃんとご飯は食べること!」
 だから、いい子だって思ってもらえればいい。
 だから、手のかからない子だと思ってもらえればいい。

 それだけで、寂しいという感情を、ある程度割り砕いて、飲み干すことが出来た。
 だって、死んじゃうわけじゃないんだから。
 二度と会えないわけじゃないんだから。

 0.

 母さんに言ったんじゃないんだよ。


 ⅠⅡⅢⅣⅤⅥⅦⅧⅨⅨⅨⅩⅩⅩⅩⅩⅩⅩⅨⅨⅨⅧⅦⅥⅤⅣⅢⅡⅠ

 心の底から信じていたわけじゃない。
 むしろ、出会えないことを臨んでいた節すらある。
 だから、眼前にいる“その人”の顔を直視することが、すぐには出来なかった。

 だけど。
 姿も。
 瞳も。
 微笑みも。
 部屋着の上から白衣を着た格好も。
 全部全部、記憶にあるそのままで。
 、、、、、、
 綺麗なままで。

「あ、あはは、えーっとさぁ」
 顔を見たら泣くと思ってたけど。
 何を言ったらいいかわかんなくて。
 感情が表に出るより先に、ただ頭がこんがらがってしまった。
 そんなアタシを。
 じっと見つめて。
 母さんは、微笑んでいた。

「話したいこと、いっぱいあるんだ、アタシ、頑張ってるんだよ?」
 そうだ、アタシは頑張った。
 あの日、アタシの全てを奪った悪魔にだって、乗った。
 戦った。
 戦う意味を、否定されても戦った。

「こわーい眼鏡がいるんだけどさ、認めさせてやったんだよ! ……赤点じゃないってだけだけど」
 戦うことにも慣れて、友達も出来て。
 たった一つのことを除けば、悪くないんじゃないか、なんて思う事も、増えた。

「クリスマスはさ、サンタもやったんだよ! みーんなが楽しめるようにいろいろ考えてさ、生徒会長にご褒美もらって」
 実行委員長として、サンタの務めを果たした生徒には、生徒会長が出来る限りの望みを叶える。
 アタシが望んだのは――――。

「だからさ、母さんはもう大丈夫。母さんの治療が進むように手ぇ回したの。あいつら、全然信用出来ないからさ」
 『治療を進めている』と言われても、アタシに確認するすべはない。それが正しいのかも、適切なのかもわからない。
 そもそも、アタシは四方山商会にとって、重要でも特別でもない。
 ただ使えるパーツと、使える状況が揃っているから使っている、というだけで。
 それに応じた“人道的な措置”として、母さんの治療を続けているだけで。
 それは義務でもなければ、責務でもないから。

「すごいでしょ? それと、あとさ――――」
 母さんが何か言おうとする前に、アタシはただ思いついた言葉を考えずに垂れ流した。

『ええ』
 何か言われてしまったら、もうだめだと思ったから。

『頑張ってるのね、七七三』
 一言でも会話をしてしまったら、もう無理だと思ったから。
 だから。

「ぜんぶ、お母さんに、会いたくて」
 流すつもりなんてなかった涙が、ぽろりと流れた。

「……会い、たくてぇ」
 う、ぁ、と喉から溢れてくるものを。
 アタシはもう、我慢できなかった。

 母さんが、近づいてくる。
 本当に、言いたい言葉が、たくさんある。
 伝えたいことがある。
 でも。
 でも。

「こないで――――」
 心にもないことを言った。
 心にはないことを言った。

 お願いだから。
 お母さん。
 こないで。
 抱きしめないで。
 よく頑張ったねって、撫でないで。
 されたら、ダメになるから。
 もう戦えなくなるから。
 アタシが、アタシでいられなくなるから。
 本物じゃないから。
 取り戻さないといけないから。
 だから。

 そうなる前に、手が触れる前に、撃たないといけないから!

 まるで、それがわかっているかのように。
 アタシの手が銃に伸びた、その瞬間、母さんは動きを止めた。
 動きを止めて、アタシを、じっと見た。
 上から、下まで、眺めるように。
 そして。

『よかった』
 安心したように、微笑んだ。

『怪我をしてないかだけ、不安だったのよ。後遺症もなさそうね』
「――――――――ッ」
 なんでそんな事を、言うんだって。
 なんでそんな風に、言うんだって。

「だって、だって母さんは!」
  、、、、、、、、
 アタシをかばって!
 “アイツ”の毒を浴びて!
 ぐちゃぐちゃに、ぐちゃぐちゃに爛れて!
 アタシの目の前で!
 なのに!
 なのにアタシは――――――!

『馬鹿ね、七七三、私がそんな事を恨んでると思ってた?』
 いっそ、呆れたような口ぶりだった。
 それから、止めていた歩みを再開する、近寄ってくる。
 反射的に、銃を向けた。
 もう、これ以上は――――。

『出来ないわよ』
 嘘だ。
 出来る。
 出来ると思ってた。
 アタシはアタシであるために。
 この引き金を引けると思ってた。
 強くなったと思ってた。

『七七三が優しいことを、私は誰より知ってるし』
 なのに。
 なんで指が動かないんだ。

『七七三は、こんな事で折れたりしない』
 なんで、安心しちゃってるんだ。

『自慢の娘だもの』
 なんで、涙が止まらないんだ。

『無事で良かった』
 なんで、なんでなんでなんで。

『…………“私”が言いたかったのは、それだけよ』
 頬に触れる手が、こんなに、温かいんだ。

『大丈夫、七七三が守ってくれてるから、“私”は、きっと目を覚ますわ。だから――――』
「待って」

『頑張れ、七七三』
「お母さ――――――」
 伸ばした手が触れる前に、桜が散って。
 もう、そこには、誰も居なかった。
 最初から、まるで誰も居なかったんだと言うように。

「ぁ」
 アタシは、馬鹿だ。
 こうなるってわかってたのに。
 会いたいよ。

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……………………」
 会いたかったよ。
 お母さん。

失敗 🔴​🔴​🔴​

ティオレンシア・シーディア


――「大切」と思えた存在は、初めてだったかもしれない。
自分より少し低い背丈、快活な群青の瞳、燃えるように鮮やかな真紅の髪。
友人のような、妹のような、それとも――

正直なんとなく予想はしてたけど。…やっぱりその姿なのねぇ――エスィルト。
…普段なら、その姿を借りた存在なんて出てきた瞬間眉間と心臓に二発ずつ鉛弾ぶち込んでるとこなんだけど――どういうわけか、今はそんな気になれないのよねぇ。なんでかしら。

さぁて、と…どうしよ。
色々とぐるぐる考えてはみてたんだけど…心残りも言いたいこともたくさんあったはずなのに、びっくりするぐらいなぁんにも思いつかなかったのよねぇ。
――ホント、我ながら薄情よねぇ。



『ねーさんは、薄情なんじゃなくてさ』
 エスィルトという少女は、いつもそうだった。
 学は無いかもしれないけれど、器量はよかった。
 誰もが振り向くとびっきりのの美人ではないけれど、笑顔が愛らしく、人から好かれていた。

『優しいんだと思うよ』
 辛い境遇の中にあっても、自分より他人を思いやることが出来て。
 誰かが辛い時、ほしい言葉をかけてあげられる娘だった。

「……あなたの顔を見て、何を言っていいかわからなくなってるのに?」
 ティオレンシア・シーディアの目の前に現れたのは、鮮やかな真紅の髪を持つ少女だった。
 快活な群青の瞳も、近寄れば頭一つ分小さな背丈も、何一つ、変わらず、記憶の中のままで。

『あはは、だって私に会いたいって思ってくれたんでしょ?』
 じゃなきゃ私、ここに居ないもん、と言って、くるりとその身を翻した。
 酒場の看板娘が着る、エプロンドレスのスカートがふわりと揺れる様は、桜の妖精かなにかのようで――――。

『それだけで私は嬉しいよ、ちゃーんとねーさんの中に、私は居たんだなって』
 全く、嫌になる。
 いっそ、悪趣味な偽物でいてくれたらどれだけ楽だっただろう。
 眉間に二発叩き込んで、それでお終いにできたのに。

「スィル、あなたって――本物なの? それとも、偽物?」
『本人かそうか、っていう意味なら、本人じゃないよ。私は、この夜しかここに居られないし、次に呼び出されても、記憶も連続してるわけじゃないし』
 幽霊みたいなもの、っていうのが正しいのかな、と頬に人差し指を当てながら、スィルは答えた。

『記憶は、多分私のものだけど、それが絶対っていう保証はないし。だから、桜が見せてくれる、一晩限りの夢みたいな――モノなんだ』
「…………そう」
 会いたいヒトに、会わせてくれる。
 これは自分が望んだ幻覚のようなものなのだろう。
 都合のいいユメならば、都合のいいコトも言ってくれるだろう。
 そう思うと、少しは気が楽になった。
 同時に、自分に罪悪感みたいなものがあったことにも、少し驚いて。

「だったら、気を使わなくてもいいのかしらねぇ?」
『ねーさん、私に気を使ったことなんてあったっけ?』
「……あったわよぉ、いくらでも。ガレオに強引に口説かれてた時、助けてあげたのは誰?」
『あ、あはは、その節は大変お世話に……』
「店の裏に迷い込んできた野良猫を面倒見たいってダダこねて、マスターに一緒に頭を下げてあげたのは?」
『そ、それはでも、ねーさんだって可愛がってたじゃん!』
「そうだったかしらぁ? 覚えてないわぁ」
『ずっっっっっるっ! それはずるいでしょ!』
 気づけば、他愛のない話を重ねていた。
 ああ、そんな事もあったな、とか、思い返せばそんなモノばかり。
 文字通り、時間を忘れた。
 ともすれば、相手が死者であることだって。

『あ』
 ふわり、と風が桜が舞わせたのを合図に。
 スィルの身体が、足元から、朧げになっていく。
 末端は桜の花びらになって、ふわりふわりと、景色の一部になっていく。

『ねーさん、ごめん、もう時間みたい』
「あら、そう」
 ユメはユメだ。
 いずれ現実に戻ってくる。
 でも、悪くないユメだった。

『えー、もう別れをちょっと惜しんでよー』
「惜しんでるわよぉ、あなたの騒々しさ、すっかり忘れてたわぁ、明日からまた静かな日々になりそう」
『ひどーい! ……でも、元気そうで良かった』
 始まれば、あとは一瞬だ。
 腰まで、胸まで、分解は進んでいって。
 そして。

『ねーさん』
 最後の瞬間。




















『何で助けてくれなかったの、なんて、思ってないよ』
 スィルは、そういって笑った。

「――――――スィ」
『だいすきだよ』
 咄嗟に手を伸ばした先には、もう誰も居なかった。

「………………馬鹿ねぇ」
 役目を終えた桜を誘うように、一際強い風が吹いた。

「知ってるわよぉ」
 想影を払うように、枝に結ばれたリボンが風に巻かれて、飛んでいった。

成功 🔵​🔵​🔴​

鳴宮・匡


長い黒髪に、黒いひとみ
同じくらいだった目線は、今は自分の方が少し高い

その姿を前にして、湧き上がる想いがある
最初に捨ててしまったもの
認めたら生きていけないからと
ずっと心の底に沈めていたもの

あの時、生きろなんて言わないでほしかった
一緒に死なせてほしかった
置いていかないでほしかった

それが寂しかった、辛かった、って

――そんな想いも
確かに“自分”だったとわかるのに

どこか遠い場所から生まれたものみたいに感じて
それが、苦しい

でも、そんなの最初からわかってた
だからその痛みごと受け止めて
幻影に、背を向ける

掛ける言葉はない
届かないってわかってるから
そうさせたのは自分だから

その後悔も抱えて
生きていくって決めたから



 過去の自分は、他人である。
 誰が言った言葉だったか。

 同じ自分のはずなのに。
 時を重ねたはずなのに。
 連続している、はずなのに。

 時間は不可逆だ、だから、イキモノだってそうだろう。
 過去に戻れないように、かつての自分には戻れない。
 まして、本人が、そう思っているのであれば。

-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-

 数多戦場を渡り歩いてきた筈なのに、解れやくすみの無い長い黒髪が、嫌でも目を引く。
 黒曜石を思わせる黒いひとみは、今では少し自分より低い位置にある。
 記憶の中にある姿のままなのに、酷く違ったように見えるのは、自分の見方が変わったからだろう。

(ああ)
 なのに、そのヒトは一言も喋らなかった。
 ただこちらの顔をじっと見つめて、懐かしいものを見るような目をしているだけだった。
 どことなく、悲しそうに見えるのは……気のせいだろうか。

(当然か)
 言いたい言葉がある。
 吐き出したいモノがある。
 抱え込んでいたモノがある。
 だけど、その思いすら――本物であるはずなのに、どこか遠くにあって。

(俺が、今更言う言葉はなくて――――)
 きっと、向こうにもないのだろう。
 あの時、言いたかった言葉を、言えなかった時点で。
 もう、きっと遅かったのだ。

 だからもう、何もいらない。
 立ち去ろうとする、最後に、もう一度だけその顔を見て…………。

 女は、同じ表情のままだった。
 懐かしいものを見るような、悲しいものを見るような。
 慈しむような、哀れむような。

(俺じゃ、ない――――――)
 咄嗟に振り返る。
 本来、後ろを取られるなど、鳴宮・匡が許すはずのないことだった。
 気づかなかったのは。
 未だ、存在していなかったからか。

 それとも、見たくなかったからか。
 見て見ぬ振りをしていたからか。

 きっと答えは出ないだろう。
 だってそれは、他人の話だ。

 少年が居た。
 短いボサボサの藍髪。
 まだ無垢なままの、焦茶色の瞳に、溜まった雫が端からこぼれ落ちていく。

 よく知っている。
 とても良く知っている。
 だけどもう、“それ”になることは二度と無い。











『置いてかないでくれよ!』
 “彼”に、男の姿は見えていないのだろう。
 だって、それはまだ至っていない姿だから。








『俺も一緒に連れてってよ――――何でだよ!』
 “彼女”にも、男の姿は見えていないのだろう。
 だって、それはまだ知らないはずの姿だから。







『何で俺に生きろなんて言ったんだよ!』
 一緒に死なせてほしかった。
 隣に、貴女がいない事が、想像できなくて。
 そんな世界は、あまりに寂しくて、悲しくて。









 会いたかった誰かに出会わせる、くれなゐ通りの桜。
 言えなかった言葉を、言わせてくれる最後の機会。
 、、 、、
 誰が、誰に会いたかったのだろう?










 少年は、男の真横を通り抜けて、女に駆け寄って、縋りついて、泣いて、喚いた。
 女の手が、少年の頭を優しく撫でる。

『■めん■』

『愛■■■■■■』

 女が口を開いて、何かを言おうとした。
 だから、鳴宮・匡は、今度こそ背を向けて、歩き出した。

 言えなかった言葉と。
 聞けなかった言葉。

 だから、その中身が何であれ、きっともう、今の自分が聞くべきではない。
 知るべきではない。
 知っては、行けない。

 けれど。

(あの日――――――)
 遠くにあったはずのそれが、今は少しだけ、側にある。
 忘れなくとも、風化しかけていたものが。
 確かに、痛みとして、この胸にある。
 決して、振り返りはしない。

 その後悔も抱えて。
 生きていくと、男は決めたのだから。

成功 🔵​🔵​🔴​

アリス・フォーサイス
あ、やっぱり。

やっぱり、キミのことはわからない。

でも、ぼくの想像したとおりなら、キミは、忘れてるキミなんだね。

電子の海でぼくと同じように自我を持った存在。だけど、ぼくは空腹からキミを食べた。

もし会えたらお礼を言いたいと思ってたんだ。ありがと。ぼくが今存在してるのは、キミのおかげだから。

そうだ。さっき友だちにプレゼントしようと思って買ったハーバリウム。キミにあげるよ。この世界ではありふれた景色を、このときの気持ちを伝えるために切り取ったモノ。きっとこれにはたくさんのお話がつまってるから。



 『会いたい人に会える』という言葉を額面通りに受け取るならば。
 自分にもそんな存在が居るのだろうか。

 アリス・フォーサイス(好奇心豊かな情報妖精・f01022)は、対面したその相手に、まったくもって見覚えがなかった。

 桜が集まってできたそれは、形はあやふやで一定の姿を取っておらず、人になったかと思えば動物の姿を取り、男になったと思えば女になったりする。
 だけど、確かに明確な自我を持ち、アリスに向けて、ただ、じぃと視線を投げかけてきた。

「あ、やっぱり、キミのことはわからない」
 アリスは、その敵意とも興味もつかない視線を受けて、納得したように頷いた。

「でも、ぼくの想像したとおりなら、キミは、忘れてるキミなんだね」
 推測でしか無い。
 推察でしか無い。
 おそらく、彼、あるいは彼女は。



 アリスがアリスという自我を確立する前に出会ったのだ。



「ごめんね、キミのことをたべちゃって」
 アリスは、情報を喰らう。
 “物語の結末”を喰らう存在だ。
 そして、そうなる前はただの概念だった。
 自我も意識も曖昧で、持っている欲求に、素直に従うだけの存在だった。
 電子の海でたゆたいながら、情報を貪っていたアリス・フォーサイスは。
 空腹に任せて――――キミを食べたのだ。
 そう――――。

「ぼくと同じように自我を持った存在。キミを食べたから、ぼくが生まれた」
 あるいは、自我が生まれた“キミ”と、欲求を持つ“ぼく”が混ざり合って。
 アリス・フォーサイスはアリス・フォーサイスとして、この世に生を受けたのだ。

『……………………』
 喰われたことを恨むでもなく。
 アリスの存在を喜ぶでもなく。
 ただ見つめ、その姿を捉え、向き合うだけ。

「ありがと」
 けれど、アリスはマイペースに、心からのお礼を告げた。

「ぼくが今存在してるのは、キミのおかげだから」
 ごそごそと懐を漁って、取り出したのは、丸い形をした、手のひらサイズのハーバリウム。
 先程、くれなゐ通りのお店で、リボンとは別に買ったものだった。

「キミにあげるよ、きっとこれにはたくさんのお話がつまってるから」
 この世界ではありふれた景色を、それでも得た気持ちを伝えるために切り取ったモノ。
 誰に上げるかは、決めてなかった。
 だけど、自分のルーツを見て―――渡したくなった。
 だって、きっとキミもこれを見たかったはずだから。

 それは、ゆっくり手を伸ばして、差し出されたハーバリウムを手に取って。

『……………………』
 言葉もないまま、胸に抱くようにして、ノイズと、桜の花びらになって、消えていった。

「あ、いっちゃった」
 見送りながら、考える。
 恨んではいないようだった。
 憎んでもいないようだった。
 それはなぜだろう?

「ま、いっか」
 喰らって、飲んで、身体になって。
 キミはもう、とっくに前からぼくの中に居る。
 今更、どうこうしたいわけじゃなくて。
 本当にただ――――――。








「お礼をいいたかっただけ、だからね」





.

成功 🔵​🔵​🔴​

マグダレナ・ドゥリング


お母様は……
人間が嫌いだった。だからその身をヴァンパイアに売った
人を殺し支配するために。そして、病に倒れこの世を去った

僕は……『私』は
死にたくなかった。負けるのが嫌だ、だから猟兵になった
結果、お母様の望みとは逆に人を救っている


僕も「普通の親子」と言う物に憧れを持っていたのかもしれない
怒られるほど、お互い情はなかったから

でもお母様は人を救う私を認めないだろうし
お母様が人に害をなす事を見逃すことは許されない

……だから、お母様が僕に仕込んだ人を殺す手管で
ナイフで喉を切り裂いて、ここで未練を断つ

「……すべては僕の自己満足だ」
「ごめんね、お母様」

いつか、骸の海で再会する、その時まで
僕は道化を演じ続ける



(あなたは■■じゃなくて■■を■す為に■きるのよ)
 はい、おかあさま。

 と、幼い少女は答えた。
 そんな記憶が、あった気がする。

(あなたは■■■だから大丈夫、あの方にそっくり)
 ワタシトチガッテ。
 抱きしめられて、ほっとした。
 そんな記憶が、あった気がする。

(どうして)
 首に触れられて、くすぐったかった。
 そんな記憶が、あった気がする。

(なんで私は――――――)
 首に触れる指が、強くなった。
 そんな記憶が、あった気がする。

 🌸


 白磁のような肌、と言えば聞こえがよいが。
 白樺のような、と言いかえれば、印象も変わるだろう。
 細くやつれた手足、伸び切った髪、荒れた肌。
 それでもみすぼらしいとは感じない――喪われた生命以上に、抱いた執念が身体に力を与えているからだ。
 身体を捧げ、命を捧げ、吸血鬼の慰み者となり、そして子を産み落とした女。

「…………お母様」
 マグダレナ・ドゥリング(罪科の子・f00183)の問いに。
 お母様、と呼ばれた女は、応じた。
 それが子供に向ける慈愛の目ならば、どれほど良かったか。
 会いたかったその女性の視線は、どこまでも冷え切ったそれだった。
 価値の無いものを見る目、軽蔑するような目。

『なにをしているの』
「お母様、僕――――私は」
『なにをしているの、あなたは』
 言葉は遮られた。

『どうして人が生きているのに殺さないの』
 交えるものはなにもなかった。

『どうしてあなたはあの方のようになっていないの』
 情も、意思さえも。

『あなたに与えてあげたのに』
 持っているものを全て。
 注ぎ込み、染めて、叩き込んで。

「………………」
 結局、これがこの人の世界。
 憎しみと、殺意と、全てを破壊したいという衝動。
 それだけが彼女を突き動かし。
 それだけしか見えてない。

 泣きそうな娘の顔も。
 奇跡のような再会の果てに、何を求めているのかすらも。

 ごめんの言葉なんていらなかった。
 ただ一言名前を呼んで。
 頭をなでてもらえたら。
 それで、多分良かった。

 『普通の親子』に憧れても、それが叶うことは無いと知っていたから。
 せめて、ひとかけらの情が欲しかった。
 母と子であることの証が欲しかった。
 でも、やっぱりそれは――――――。

「儚い、再会だったね」
 お母様。
 いっそ、美しいほどの足取りとともに。
 腕を振るう。刃を振るう。

 手を取って教えてくれたのは、繕い物の仕方ではなくてナイフの持ち方だった。
 叱ってくれたのは、包丁の扱い方を間違えた時ではなくて、上手く皮膚を裂けない時だった。

 どうしてちゃんとできないの。
 あれほどおしえてあげたでしょう。
 れんしゅうのどうぐはたくさんあるわ。
 できるようになるまでやりなさい。

 ええ、ちゃんと出来るようになった。
 きっと貴女は褒めてくれないだろうけれど。
 人を救う私のことを、認めてくれないだろうけれど、それでも。

「たしかに誰かを救ったんだ」
 助けることが、できたのだ、だから。

「僕はここで、貴女を殺さないといけない」
 母に望まれぬ事をし続けよう。
 誰にも認められぬ事をし続けよう。

 マグダレナ・ドゥリング。
 課した二つ名は罪科の子。

 いつか、骸の海で再会する、その時まで
 道化を演じ続ける、愚かで哀れな娘の名前。

成功 🔵​🔵​🔴​

唐草・魅華音
昔の懐かしいお姉ちゃんが、あの時のお姉ちゃんの力で襲い掛かる。
全力でぶつかったけれど……わたしは剣を突きつけられ。
「肝心な所で気が抜けてるよ、魅華音。手を抜いてる?」
そう言われて、気付く。
「お姉ちゃんを二度も倒すなんて……出来ないよ!」

「ただ稽古のつもりだったんだけど、やりすぎちゃったかな……ゴメンね、魅華音?」
涙をぬぐわれ、お姉ちゃんは落ち着くまで頭を撫でてくれて。
「あの時は魅華音の今の事、聞けなかったよね?教えてくれる?」
親を知らないわたしを、引き取ってくれたお父様がいる事とか、色々話して
「幸せに生きてるんだね。お姉ちゃん安心したよ」
いつも向けてくれた、笑顔でそう言ってくれて。

アドリブOK



 剣閃。
 喰らえば致命傷となる刃をしのいだと思った瞬間には、鋭い前蹴りが放たれている。
 ただの打撃と侮るなかれ。的確に急所を狙い、特殊な呼吸によって加速された打撃は、勝負に決着をつけるだけの力を持っている。

 機略縦横の流法とは、武器も身体も、全てが等しく凶器なのだ。

「っく――――――」
 みぞおちに食い込みかけたつま先を、後方に飛ぶ事で何とか凌ぐ。
 記憶にあるのと同じ動きと速度……であるはずだ。
 だって、今目の前のいる女性は、魅華音が再会を望み、現れた相手なのだから。

 経験を重ね、技術を磨き、成長した魅華音ならば、追いつき、追い越し、勝てるはずだ。


「――――――あぁっ!」
 理屈の上では、そうであるはずなのに。
 振り抜いた獲物を握る手を、足で弾かれて。
 眼前に刃が突き付けられているのは、なぜか。

 これが“魅華音の会いたかった“姿だからだろう。
 信じたかったのかも知れない。

 カミーリャという人は、誰よりも強く。
 未だ、自分の前を行っている――――――と。

『――――――肝心な所で気が抜けてるよ』
 それで勝負がついた、とばかりに刀を収め。

『魅華音。手を抜いてる?』
 最愛のお姉ちゃん…………カミーリャは、呆れたようにそう言った。


🌸


『わかったって、悪かったって』
 気づけば、魅華音の瞳からは、涙がぼろぼろとこぼれていた。
 負けたから悔しいのでは、なくて。

「……出来ないよ」
『そうだよね、魅華音は優しいから』
 優しいのは、カミーリャの方だ。
 だって、隣りに座って頭を撫でてくれる。滲んできた涙を拭ってくれる。
 強くなったはずなのに、こんなにも弱い魅華音に、言葉をくれる。

『いくら稽古って言っても……二度も私に剣を向けたくはないよね』
 こくんと頷いて、それからもう一度涙が滲んできた。
 本当なら、泣くなと叱られてもおかしくない、未熟な弱さ。

『でも、確認したかったんだ。魅華音がさ……その、強くなった事を』
 ――――私がいなくても、大丈夫?
 なんて、その言葉の裏が、読めないほど子供じゃない。

「…………わたし」
 喉から出てくるものを抑え込みながら、魅華音はぽつりぽつりと、口を開いた。

「孤児だったわたしを拾ってくださった、お父様がいて、飛行機が好きな人で……愛してもらう事を、教えてもらったんだよ」
 気づけば、空に興味を抱くようになって、自分の飛行機を、作り出してみたりして。

「帝竜っていう、大きなドラゴンと戦ったり、銀河帝国と戦ったり、異世界の魔王とも戦って、それで……」
 猟兵として、様々な世界を渡って、刃を振るった。
 約束通り――世界を渡って、救ってきた。

「あ、友だちもできんだよ、この前は、チョコレートを作ってみたんだけど、皆、頑張ってね、美味しかったって言ってくれて……」
 楽しい思い出を語っているはずなのに。
 どうして涙が止まらないんだろう。

 お別れが近いのがわかっているからだ。
 この一瞬は永遠じゃないと、わかっているからだ。
 言葉を止めたら終わってしまいそうだから、次から次へと吐き出していく。

「――――それでね、っ…………わたし、ちゃんと、やくそく……っ」
 守れてない。
 強くなったはずなのに。
 泣いたら、師匠に怒られるからって言われたのに。
 お姉ちゃんの前では、いつだって、泣いてばっかりだ。

『そっか、じゃあ』
 だけど、カミーリャは、怒ったりはしなかった。
 最後にあった時は、サヨナラの涙と、妹を心配させないために作った、悲しい笑顔で。

『魅華音は、今、幸せなんだ』
 今見る最愛の姉の笑顔は、きっと、心からの笑顔だった。

「…………うん」
 そう言ってしまえば、この時間は、終わってしまう。
 だけど、行かないで、なんて言えるわけがない。

「わたしは、大丈夫だよ」
 優しくて、厳しくて、心配性で。
 そんなお姉ちゃんに、妹ができる最後の事は。

「だから……安心して、お姉ちゃん。もう、泣かないから」
 そういって、送り出す事だけだ。

『だったら、よかった。うん、それだけ、ずーっと心配だった』
 桜が、ふわりと風に撒かれて、散った。





『魅華音、頑張れ』
「うん」


      桜が散る。





『魅華音、信じてるから」
「うん……っ」

           桜が散る。
 


『魅華音、死なないで……まだ、こっちに来ちゃ駄目だからね』
「うん……うん……っ!」

                桜が散る。







『魅華音』




              大好きだよ。





 もう一度、強い風が吹いて。
 桜が、一際大きく舞って。
 もう、隣には誰もいなかった。
 最初から、魅華音一人しかいなかったかのように。



「大丈夫だよ、お姉ちゃん」
 少女は、立ち上がって、空を見上げた。
 桜吹雪の向こう側に、月が、よく見えた。

「わたしも……大好きだよ」
 

成功 🔵​🔵​🔴​

キーシクス・ジェンダート
会える人:妻
優しく、しかし自己犠牲気味な一面があった。寿命が短かったが、ある日突如自殺。
今でも彼女を愛してる、そしてずっと引きずっている
きっと自分も、もう一度会えたら留まってしまうかもしれない。だから敢えて冷たく突き放す

「ごめんね、キーシクス」
「……わたしは、それでも、みんなを、あなたを守りたかったんだ」

蜃気楼の貴様が明確な答えを持ち合わせてるとは思わない。彼女は簡単に、そういう事を言わない……自分の苦しみを言ってくれない、人だったんだよ。
泣きそうに瞳が歪み。知ってる、キミはそういう人間だった。今の俺は、昔とは色々かけ離れてしまったけど。記憶が欠けても、奪われても、俺はキミを愛してるよ



 生命の長さが違う者同士が愛し合うのは難しい。
 別れは一方的に訪れて、逃れ得ない苦しみを背負うことになる。
 愛が深ければ深いほど、返す刃は鋭く刺さり。
 傷痕は永遠に痛み続けるのだ。

 🌸

 桜が舞い、花弁が形作ったその姿を見て、キーシクス・ジェンダート(翡翠の魔人・f20914)は息を呑んだ。
 記憶の中にある――――彼女が、そこにいた。

 儚い、と思ってしまうのは、己がヒトから逸脱した存在だからか。
 それとも、悲しそうに瞳を伏せて、今にも泣きそうでいるからか。

『キーシクス』
 女が、口を開いた。
 声も、あの頃のままだった。
 甘く耳に入り込んできて、嫌でも存在を主張してくる。
 居なくなってしまったはずのそれが、ここに在ることを伝えてくる。
 聞きたくなかった。聞いてしまえばもう戻れないと思った。

「帰ってくれ」
 キーシクスは、きっぱりと告げた。

「キミと話すことはなにもない」
 話したいことがたくさんある。
 キミがいなくなってから、どれだけの孤独と絶望が心を苛んだか。
 あの子がまた側に来てくれたことを、今自分がどう生きているかを。

 キミを失いたくなかったことを。
 愛していたことを伝えたかった。

 けれど、それを口に出したら、もう己は己で居られなくなるだろう。
 喪われた者をもう一度喪う事に、きっと心は耐えられない。
 人を愛し、魔を裏切った魔人でさえ、その喪失だけは。

『ごめんね、キーシクス』
 けれど。
 くれなゐ通りの桜は、会いたいと思った者の形を取る。
 どれだけ冷たく突き放そうと――その再会は。
 魔人が、桜に望んでしまったことなのだから。

『……わたしは、それでも、みんなを、あなたを守りたかったんだ』
「彼女はっ!」
 声が荒ぶる。
 感情がこぼれ落ちる。

 所詮、貴様は幻だ。
 彼女自身じゃない、それが、彼女のように振る舞って、彼女の声で話さないでくれ。
 そう言ってしまいたかった、叫んで、消し飛ばしてしまえばどれほど楽か。

「――――――――知ってるよ、知っていたよ、だって、キミはそういう人間だった」
 自分よりも誰かを愛せるひとだった。
 自分よりも誰かを守れるひとだった。
 そのためならば、命を捧げられてしまう、ひとだった。

「……今の俺は、昔とは色々かけ離れてしまったけど」
 あり方も、姿も変わってしまった。
 記憶は奪われ、欠落し、戻らない部分もいくつもある。
 けれど、絶対に忘れなかったことは――――。

「俺は、キミを愛してるよ」
 その言葉を告げた時。
 女の姿は、もうそこにはなかった。
 桜だけが、散っていた。

 目に熱いものが溜まっている事に――男は、ただ気づかないふりをした。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

ザッフィーロ・アドラツィオーネ
宵f02925と

宵と手を繋ぎ集まる花弁が己を暗い箱の中から盗み連れ出してくれた、共にエンパイアに神隠しに会い、肉を得た己と共に暮らした華やかな美しい赤毛の女性の姿を形取れば思わず胸が熱くなってしまうやもしれん
思わず言葉が詰まりかけるが、共に過ごした時間は幸せだったと
何故逝く時に共に連れていってくれなかったのかと絶望した時もあったが、俺が生きることを望んでくれたおかげで大事に思える相手と、宵と会えたとそう隣にいる愛おしい相手を見やりながら報告を出来ればと思う
宵の大切な者との遣り取りは確りと手を繋ぎ聞こう
ああ、照れ臭いが…幻だとしてもお前を紹介したいという願いがかなったからな
感謝せねばとそう思う


逢坂・宵
ザッフィーロ(f06826)と

かれと手を繋いで
花嵐が竜巻となり、そして人の形に集まって、よく見覚えのあるあの方の姿をとる
それは、最後の主人の姿
ヤドリガミとなり、人の形をもった僕に知識を授けてくれた恩師の姿

惺さま、僕は人にまじり、人の世で様々なことを学びました
学ぶこと、笑うこと、戦うこと
そして、愛することを
焼け崩れゆく屋敷から救えなかったあなたへの後悔は未だありますが
僕は、僕の意志で
贖罪ではなく、かれとともに生きてゆくことを選びます

そしてかれと繋ぐ手を握り直して
かれの見るまぼろしへの言葉を聞きましょう
……いやあ、少し気恥ずかしいですね
そう笑って、手首のブレスレットに触れましょう



 赤毛の、美しい女性(ひと)だった。
 あらゆる所作が、生命の輝きに満ちていた。
 小鳥の羽ばたきのように甘く儚さと、苛烈な炎の様な力強さを持ち合わせていた。

 大事にされるだけが、モノにとって喜びであるとは限らない。
 事実、その指輪は暗い箱の中にしまわれ、ただ『そこにある』事に価値を見いだされていただけだった。
 そのモノのあり方は関係なく、『価値がある』ことが重要であって、その本質を知るものはいなかった。

 だからこそ……そんな暗闇の中から、まだ身体すら得ていなかった己を、両手で抱き上げ包んでくれた温もりを。
 異邦の世界に招かれ、人ならざるモノとして生まれ変わった時の喜びを。
 それから長い時を、共に過ごしたことを――――ザッフィーロは、忘れないだろう。

🌸

 そのひとの姿は、記憶にあるそのままだった。
 夜闇の中にあって、桜花の中にあって、なお鮮烈な赤がよく映えた。
 姿を瞳に映せば――――こみ上げてくるものがある。
 自らに渦巻く感情を、なんと呼べばよいのだろう。

 言葉に詰まった己の手に、伝わる熱があった。
 ふと横を見れば、愛おしきかたわれがほほえみ、頷いてくれた。
 一人ではないのだと、告げるように。常に隣りにあるのだというように。

『――――変わらないのね、貴方は』
 口火を切ったのは、女の方だった。
 驚くやら、呆れるやら、あるいはその両方か。
 一つ間違いないのは、どうにも楽しそうで、浮かんでいるのは、微笑というには些か元気がありすぎるような表情であるということだ。

『私と一緒に居た姿のまま。羨ましいわ。いえ……もっと美しくなったかしら?』
「…………かも知れないな、君の手を離してから、色々とあったのだから」
『あら、私は離したつもりはないのだけれど?』
「だが、共に連れて行ってはくれなかっただろう?」
 本当は、こんな簡単に言える言葉ではなかった。
 あの日。
 共に逝く事を願う程だったのに。

『愛していたから、貴方の幸せを望んだの。いけない?』
 それに、独り占めは出来ないものね、と小さく添えた。

『ねえ、あなたが今握っているその手は』
「……ああ、俺の最愛だ」
 僅かにすらためらう事なく、告げることが出来た。
 そう、貴女に、これを伝えたかった。

「貴女が俺が生きることを望んでくれたおかげで、大事に思える相手と出会うことが出来た」
『ふふ……あら、妬けるわね』
 ちらりと、宵に視線を移してから、女は尋ねた。

『じゃあ、今、貴方は幸せなのね』
「ああ、だが――――」
 一度、言葉を飲む。
 告げたかった言葉は、もう一つ。
 逝く時は、涙で別れた。
 だから、再度与えられた、この時間は。
 どうか、笑顔で。

「――――君と共に過ごした日々もまた、俺にとって間違いなく幸せな時間だった」
 たくさんのことを教わった。
 愛することを。
 喪うことを。
 そして、生きる事を。

『そう』
 女は、淡く微笑んで。

『よかったわ』
 それから…………大きく、少女のように笑った。

 🌸

「お久しゅうございます、惺さま」
 花弁に撒かれ、現れたその姿を前に、宵は自然と――ザッフィーロと手をつないだまま、頭を垂れた。
 元は星を見る為の天図盤――アストロラーベだった宵が人の姿を得た時、言葉を、知識を、生きるために必要なすべてを与えてくれた恩師。

『息災、のようですね』
 第一声は、聞き間違えようもない、あの当時のままの声。
 対面して少しの間、宵は何というか迷った。
 向こうが口を開くのであれば、それは何を言うつもりなのか。
 自分が口を開くのであれば、何を言えばいいのか。
 その時間の隙間を突くように、そのひとは柔らかく微笑んで、告げた。

『わたしが、貴方を恨んでいると思いましたか?』
「――――っ」
 恨まれている、と思っていたわけではない。
 だが、後悔は常につきまとっていた。
 あの日。



 焼け崩れゆく屋敷から、あなたを救えなかったことを――――――。




『だとすれば、長い間――苦しんだでしょう。死者の声を聞く術など、本来ならばないのですから』
 もちろん。
 この言葉を告げる者だって、本人ではない。
 精巧なコピー、あるいは、一夜の幻。
 その言葉が、本物であるかどうか、ほんとうの意味で判別する術はない。
 それでも。

『あなたが無事でよかったと、私はそう思っていますよ、宵』
「…………惺さま」
 それから、ちらりと一瞬だけ、そのひとは、宵の隣にいるザッフィーロに視線を向けた。

『その悔恨は、今日で捨ててしまいなさい。星を見る為に生まれたのが貴方であるなら、顔を伏せる理由は無いはずです』
 かつて、モノだった宵に、言葉を、学びを、喜ぶことを、怒ることを、笑うことを、愛することを。
 すべてを教えてくれたひとは、まるでそんな過去を振り返るように、柔らかく告げる。
 
『あなたという天図盤は、もう星を見失わないでしょう。一際まばゆく光る、蒼い星を』
 はっと顔を上げて、隣を見る。
 宵の最愛は、静かに微笑んで、見つめていた。

「ええ、僕は、僕の意志で――――贖罪ではなく、かれとともに生きてゆくことを選びます」
 その言葉を答えとして受け取って、かつての主は微笑んだ。

『であれば――――道を違えることはありますまい。どうか幸せに……死者が生者に望むのは、いつだってそれだけです』
 その言葉を最後に。
 桜が一際、強く舞って、会いたかった者たちの姿は、かき消えていた。









「……いやあ、少し気恥ずかしいですね」
「俺もだ。だが…………お前を紹介したいという願いがかなった。この桜には、感謝しよう」
「――――ええ、ですがもう少し、このままで良いですか?」

 ヒトならざる器に愛を注がれて、やがて、生まれた命は愛することを知った。
 今、隣にいる最愛の手を、決して離さないように。
 残された二人は、繋いだままの手を、どちらからともなく、更に強く握りしめた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

夕凪・悠那

デスゲームで別れてしまった戦友
口端を引き攣らせた下手な笑顔で送り出してくれたキミ

正直、憂鬱な部分もある
"理想の"キミには逢ったことあるけど、本物そっくりな影朧なんて初めてだ
キミの本心を聞くのが少し怖い
大切な記憶だから、信じているからこそ、それを否定されたくない
だけどそれを理由に逃げたら自分をもう信じられなくなると思うから
思い出に勇気をもらって此処にいる

だいぶイメチェンしたよねボク

あれからホントいろいろあったんだよ
リアル異世界に行ったり、ゲームみたいなことできるようになったり
今年は高校生になったしさ

約束は守ってる
キミの分まで、ボクは――

…今頃気付いたんだけど
たぶん私、キミのこと好きだったみたい



 “理想”の君と出会った事はあったけれど、あれはある意味、悠那の心が作り出した幻影みたいなものだ。
 本物とほとんど等しい偽者――――キミと会うのが、本当は少し怖い。

 …………時間が訪れると、桜が一人でに舞った。
 花びらはより集まって、やがて一つの形を作る。

 もう一度会いたい、という気持ちは嘘じゃない。
 嘘じゃないけれど、そこに恐怖が伴わなかったかと言えば、それもやっぱり嘘だ。
 怖かった。
 キミと会うのは、怖かった。

「キミってさ――――――」
 だって。

「――――僕の事、恨んだりしてる?」
 その想像は、どれだけ時間が流れても、拭いきれるものではなかったから。

 🌸


 勇気を振り絞った問いに、“彼”が返した反応は、ぽかんと口を開いた、間抜けそうな表情だった。
 ええ、もしかして、君はそんな事を悩んでたのか? と言っているかのようで。

「…………悩むでしょ、そりゃ」
 悠那は唇を尖らせて、そっぽを向いた。

「僕を助けるために、キミは…………」
 だったら、君が元気そうでいる事を僕は喜ぶだろう、と肩をすくめて、“彼”は笑った。

「……変わらないね、キミって」
 君は変わったね、と言いながら、“彼”は悠那の隣に座った。
 離れていた時間が嘘のように、

「……あれからホントいろいろあったんだよ。リアル異世界に行ったり、ゲームみたいなことできるようになったり」
 高校生になったんだ、と“彼”は感慨深げに、悠那の顔を見つめて、頷いた。

「そ、花の女子高生ってヤツ。……どう? ……………………や、マジマジと見んな」
 聞かれたから見てただけなのに、と“彼”は渋々目をそらし。

「…………だからさ、何とか上手くやってるよ。キミのおかげかな」
 それなら、やっぱり僕の判断は間違ってなかったんだな、と、何故か得意げに、“彼”は鼻を鳴らした。

 それから少しの間、他愛ない話をした。
 少し先の未来の話をした。
 思い出話も、した。
 言葉は驚くほど自然に出て。
 会話のやり取りは、どこまでも心地よくて。
 ずっと続けばいいのに、と思う気持ちと。
 これ以上は良くない、という気持ちがあって。

 そろそろ、お別れの時間だね、と。
 不意に、“彼”はそう言った。体の端が、少しずつ桜の花びらになって、風に散っていく。

「…………もう、おしまい?」
 そういうものだよ、と“彼”は、また肩をすくめた。

 言いたいことは言い尽くした気もするし。
 まだまだ、言い足りない気もする。
 けれど、こうしていて、わかったことがある。
 気づいたことがある。
 思い出した、事がある。






「……今頃気付いたんだけど」
 ほんとうに、馬鹿な遠回り。
 最初から気づいていれば、すぐだったのに。

「たぶん私、キミのこと好きだったみたい」
 もう、叶うわけがない告白をして。
 流すつもりのなかった涙が、一粒だけこぼれた。







『ありがとう』









🌸

 口端を引き攣らせた、下手な笑顔は。
 あの時と、変わらないままで。
 もう一度、風がふわりと吹いて。
 あとに残ったのは、胸に残る、ほんの小さな傷痕と。

「………ありがとう、なんて」
 ずるいと思う。
 いいとも、悪いとも言ってない。
 …………どっちを言われたって、きっと困るんだけど。
 濡れた目を拭って、前を向く。
 彼が、助けてくれた命で。
 これからも進み続けていくのだから。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ケンタッキー・マクドナルド
◯フェルトと

ンなモン態々聞くまでもねェだろ。(手を握る。)
……応。

……随分と壮観だな。
(ずらりと並ぶ見覚えのある騎士達、じいさんばあさん、そして国民。こいつのちっぽけな背中で背負い続けてきた連中。)

……別に俺はお前らの代わりでも何でもねェ
騎士っつゥには糞偏屈で根性曲がりで
どう考えても王子ってガラでもねェ

……ただ、こいつのこれからを支えてやる事ァできる
だから まァ なンだ。

安心して任せろ。
(幻の騎士達、そしてフェルトに言い聞かせるように)
フェルトのすぐ隣に俺が居て
荷物も半分背負って一緒に進んでやる。
こちとら神の手だ
こいつが胸張って幸せだっていえる場所まで引っ張ってってやらァ。


フェルト・フィルファーデン
◯ケンと

(片手に護身剣を握り、もう片手を差し出して)
ねえ、手を繋いでも、いい?・・・ありがとう。


(現れたのは今は亡きかつての騎士達。その後ろに並ぶは国の民)
……ふふっ、よく出来てる。

(して欲しい事など数えきれない。――でも、幻には縋らない。たとえ本物と瓜二つでも)
今日は報告に来たの。紹介するわ。ケンタッキー・マクドナルド。わたしの居場所になってくれた、大切な殿方よ。
わたしはこの方と、ケンと一生を共に歩むわ。

本当はね?未練でいっぱい……でも、この未練も大切な故郷の思い出だから。
未練も後悔も、全ての想いを背負って、わたしは進むわ。もう何も、諦めないために。

……それじゃあ、また。会えると、いいわね?



 ……あるところに、小さくも栄えた平和な国がありました。
 そこには、たくさんの国民が暮らしており、その国の象徴である一人の姫と十の騎士がおりました。

 ある日、全ては失われました。
 国民全ても。
 十人の騎士も。

 残ったのは、お姫様一人だけでした。

 🌸

「…………ねえ、ケン?」
「ぁン?」
「手を繋いでも、いい?」
 浅葱色の刃を抱いている方とは逆の手を、そっと差し出すと、ケンタッキー・マクドナルドは眉をしかめた。
 それは、否定を意味するものではなく。

「ンなモン態々聞くまでもねェだろ」
 不安なら。
 怖れがあるなら。
 迷わずに頼ればいい。その程度の信頼は、積み重ねているはずだ。
 だから自ら、怯える姫の御手を握る。
 技師として培ってきた無骨な手は、柔らかい乙女を包み込むほど大きくて。

「…………ありがとう」
 ぎゅ、と力を込める。
 それが……“一人ではない”と伝わってくる感覚が、どれほど心強い事か。

 会いたいヒトが多ければ、桜はより多く舞う。
 はたして、ずらりと並んだ十人の騎士達が揃う頃には、視界を覆うほどの花びらが周囲を埋め尽くしていた。

「………………随分と壮観だな」
 話には聞いた。
 そして、由来も知っている。
 フェルトが繰る十の人形、その原型たる騎士達。

(そして、こいつの、ちっぽけな背中で背負い続けてきた連中)
 フェルトがか弱いだけの少女でないことは、重々承知で。
 それでも、その心が傷つきはしないかと、視線を向けた。

 はたして。

「――――皆、集まってくれてありがとう」
 ……その立ち振舞は。
 己が庇護する民に対して向ける、為政者のそれ、そのものだった。

 🌸


 言いたいことはたくさんある。
 言ってほしいこともたくさんある。
 してほしいことも、したいことも。
 だけど、それらはすべて、もう出来ないことだ。
 顔を見れば、わかる。
 彼らに意思が、自我が宿っていることぐらい。
 本物のそれに限りなく近しいものだということも、わかる。
 だけど。

(きっと――――――)
 頑張ったね、といってくれるだろう。
 立派になったね、と喜んでくれるだろう。
 役目を果たせなくてすまないと、涙ながらに悔いるだろう。
 …………そうしてもらえたら、どれだけ、嬉しいだろう。

(――――でも、幻には縋らない)
 それで慰められるのは、フェルトの心だけだ。
 たとえ本物と瓜二つでも……彼らの死は、否定してはいけない。
 だから、今日、ここに来たのは。

「今日は報告に来たの。紹介するわ」
 ざわり、と騎士達がどよめいた。
 彼らもまた、フェルトの意思をわかっていて、口を噤み、無言であったのだが。

「ケンタッキー・マクドナルド。わたしの居場所になってくれた、大切な殿方よ」
 握った手を軽く掲げ、その存在を示すと、なんだかもうそれどころじゃなくなったように顔を見合わせたりコソコソ話したりし始める。
 戸惑う彼らに、答えを告げるべく、フェルトは畳み掛けた。

「わたしはこの方と…………ケンと一生を共に歩むわ」
 おおおおお!? と声が重なった。
 じいやが詳しく聞きたそうに眉をしばしばしていて、なんだかおかしくなる。

 ……きっと本物も、こんな反応をするんだろうな、と思う。

「…………ぁー」
 がりがりと、空いた手で頭を掻きながら、ケンタッキーが口を開いた。

「……別に俺はお前らの代わりでも何でもねェ。騎士っつゥには糞偏屈で根性曲がりで、どう考えても王子ってガラでもねェ。だからまァ、お前らの不安は間違ってねェ」
 騎士たちの視線が、一斉に集まる。
 それは、生半可なことでは許さないという敵意の表れでもあり。
 我らが姫の隣に立つ資格があるか、値踏みする者の視線でもあった。

「……ただ、こいつのこれからを支えてやる事ァできる。少なくとも――――」
 対して。
 怯むことなく――――理由がないからだ。
 臆することなく―――それは彼らに失礼だからだ。

「――――二度と、一人にはさせねェ」
 だから、言う。

「まァ、なンだ。安心して任せろ。フェルトのすぐ隣に俺が居て、荷物も半分背負って一緒に進んでやる。あンたらの事も、これからの事も」
 彼らが一番不安であることは。
 彼らが何より心残りなのは。
 愛すべき姫が向かう未来の事であると、わかっているから。

「こちとら神の手だ。こいつが胸張って幸せだっていえる場所まで引っ張ってってやらァ」
 堂々と宣言する。
 隣を見れば、頬を赤らめた姫が、柔らかく微笑んで、意思を同じくするように頷いた。
 騎士たちは、一度、各々顔を見合わせて、それから一糸乱れぬ動きで、整列した。
 最も年老いた騎士が、彼らを代表して一歩前に出て、二人に向かって膝を付き、頭を垂れた。




『――――――どうか、お幸せに』




 それ以外の言葉は、何も言わなかった。
 ごう、と風が吹いて、花びらが舞う。
 ほんの瞬きの間に、騎士たちの姿は消え去っていた。
 伝えるべきことは伝えたというように。
 役割は、もう終えたというように。

「…………フェル」
 名前を最後まで呼べなかった。
 背中に回る腕、胸元に、体重をかけられる感触。
 ぎゅうとしがみつくようにして顔をうずめたのは、きっと見られないためだろう。
 お姫様は、強くなった。
 だから、これぐらいでは泣かないのだ。
 誰も、その涙を見ることは……無いのだ。

 🌸

 お姫様は、もうひとりではありません。
 親友と呼べる誰かと、最愛と呼べる誰か。
 彼らが居る限り、きっと進んでいけるでしょう。
 時折、後ろを振り返って、過去に思いを馳せることがあっても。
 それは、前に進むために、必要なことなのですから。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

零井戸・寂

……自分で言うのもなんだけど
どんだけ心残りなんだって話だよな。
鎧姿じゃない生身で逢うのは……確か三回目だ、ハル。

割と月日が経つのはあっと言う間だ。
君がいない4年と少し、僕も色々あった。

君以外の友達も出来て
戦友や兄貴分が出来て
帰るべき場所って言えるものが出来て
こんなしょうもない人間を好きだって言ってくれる人も出来た。

君を探す旅路にしては随分寄り道が多いし
いい事ばかりでもなかったけど
でもこれで良かった、とも思ってる

多分次に君と逢う時が
本物の君と出会う時で
約束を果たす時だと思うんだ
――僕、ちゃんと強くなったよ、ハル。

「必ず君を探し出す」。
……もう少しだけ、待ってて。

またね、ハル。



「……自分で言うのもなんだけど、どんだけ心残りなんだって話だよな」
 我が事ながら、呆れて吐いたため息に、困った顔をしたのは“親友”の方だった。

『お前にそう言われたら、オレの立つ瀬がないんだよ』
 桜が形作ったその姿は、記憶にあるそのままで……今の零井戸・寂より、少し背が低く、幼い顔立ちをしている。
 その割に、やり取りは年相応なのだから、やっぱりこれは、どこまでも都合のいい、幻のようなものなのだろう。

『……いや、メチャクチャ失礼だな。たしかにオレは偽者だけど』
「はっきり言うんだ、それは」
『まーな。けど、本物に限りなく近いっつーか……うん、駄目だ説明しきれねえ』
「なんだかんだでオブリビオンが絡んでるんだから、過去の情報を参照にしてるとかなんだろうなあ」
『多分それ。そう、そういう感じ。…………まぁなんだ、元気そうじゃん?』
「お陰様でね……色々あったんだよ、こっちも」
『貫禄出てきたもんなぁ、顔に』
「…………そう?」
『そうだよ、彼女でも出来た?』
「……………………」
『………………出来たの!?』
「…………うん、まぁ」
『エエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ』
「何だよそのリアクション!」
『一足先に大人になってんじゃねーよ!!!!』
「なるだろそりゃ! あれから四年経ったんだぞ!」
 そう。
 四年経った。
 四年も、経った。

『――――辛かったか?』
「…………そりゃね。でも、悪いことばかりなんてことはないよ。友達とか、戦友とか、兄貴分ができたりしてさ」
『はーん、それなりに上手くやってんだ』
「そりゃあ、結局僕一人じゃ何にも出来ないって学んだからね」
『オレを探すのも?』
「君を探すのも」
 親友は、なんだかなぁとバツが悪そうに頭を掻いて。

『これはオレが本物じゃないから、気軽にいうけどさ――――いいんだぜ、無理しなくたって』
「…………」
『今、ジャックがそれなりに充実してて、仲良いやつも出来て、彼女だって出来たんだろ? だったら――別にいいんだぜ、オレのことはさ』
「…………ハル」
『――――いや、わかってたよ、そういう顔するって。でもさ、オレはやっぱり言わなきゃいけねーんだよ。オレが今日ここに来た意味があったとしたら、それはこれを言うことなんだよ、ジャック』
 お互い、黙ったまま見つめ合って。
 先に口を開いたのは、“ジャック”だった。

「勘違いしてるよ、ハル」
『ん?』
「君の為じゃなくて、僕の為だ。僕が君と会いたいんだよ。本物の君に」
 ――――約束が、まだ残っているから。

『そか。じゃあ、待ってるわ』
「うん。時間はかかるかも知れないけど」
『ゆっくりでいいよ。今までも寄り道してたんだろ?』
「まあね――でも、必要なことだったと思う」
『だったらいいよ。今日のオレはジャック全肯定マンだなぁ』
「これ以上無いくらい軽口叩きまくってる気がするけど」
『そりゃお互い様だろ?』
 顔を見合わせて。
 どちらからでもなく、自然と笑いが溢れた。

『……じゃ、そろそろ行くわ。オレによろしく』
「うん。……ありがとう」
『礼を言われるようなことはしてねーって』
 へ、と親友はポケットに両手を入れて、快活に笑った。

『…………次にジャックが会うオレが、どんなオレでもさ』
 足元が、桜の花びらになって、舞っていく。

『オレは絶対、約束を覚えてるから』
 姿が少しずつ、ぼやけて、失われていく。
 それでも、親友は笑っていた。

『遠慮なんかするなよ』
 突き出された――もう、半分以上、桜と化した拳に。

「――――またね、ハル」
 ジャックもまた、拳を突き出して応じた。
 こつん、とぶつかったそれを最後に、一際強い風が吹いて。
 まばたきの間にはもう、誰も居なくなっていた。

「――――必ず君を探し出す。だから」
 ……もう少しだけ、待ってて。
 空がちかりと、瞬いた。
 一際明るい星が一つ、遠い、遠い空に流れていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

祇条・結月


祖父。唯一の家族
僕に普通をくれて。錠前師の師匠で
そして、僕が。何も返せなかった人
懐かしい元気な姿

ここにじいちゃんがいるはずがない、ってことだって解ってる
僕が助けられなかった人だから
今もUDCアースの病院にいて
生物学的には生きていても。きっと二度と、目を醒ますわけじゃないあなた

わかってるのに。

ごめんなさい
あなたの孤独を知っていた
そして、僕に話せなかった秘密を
知ってたのに、それを言葉にしてあなたを傷つけるのを怖がって、なにも言えなかった

赦して欲しくない
ただ黙っていられなかっただけ

……さっき買ってしまった、簪
きっと僕は、これを渡さない
渡せない

大事な人になにもできなかった僕が
大事な人にどうして今さら



 生死の境とはなんだろう。
 肉体が生体反応を続けていれば、それは生きていると呼べるのだろうか。
 心がなくても。
 意識がなくても。
 生物、と呼んでいいのだろうか。

「………………っ」
 二本の脚で地面に立って。
 真っ直ぐこちらを見据えている。
 そんな祖父の姿を見ただけで……心が“ずきり”と鈍く痛む。

 “おまじない”は、確かに会いたい人を呼んでくれた。
 たった一人の家族。
 祇条・結月を『人間』にしてくれた人。
 心の拠り所たる、技術を教えてくれた人。
 彼が彼であるために必要なものを、全てくれた、何よりも大事な――――。

「…………ごめん、じいちゃん」
 現れてしまった。
 会えてしまった。
 その事実を考えるだけで、腸でぐるぐるとなにかが渦巻いて止まらない。
 、、、、、、、、、、、、、、、
 だってじいちゃんは死んでいない。
 、、、、、、、、、
 ただ目覚めないだけ。

 なのに、現れてしまった。

 来てしまった。

 二度と会えないと認めてしまっているのは――――僕だった。

「知ってたんだ。じいちゃんの秘密も、全部、でも、言えなかった」
 傷つけるのが怖かった。
 傷つくのが怖かった。
 このままで居たかった。

『………………』
 許してはくれない。
 赦して欲しいわけじゃない。
 何も、聞きたくない。
 だから、祖父は何も喋らなかった。
 じっと結月の顔を、どこか悲しそうに見つめているだけだった。

 やがて、その姿が桜に撒かれて消えていく。
 言葉を交わすことなく。
 意思を交わすこともなく。
 ただ後悔だけを吐いて。
 その邂逅は、終わってしまった。

「………………」
 ポケットの中に、さっき買った簪があった。
 買った時の、少し浮ついた気持ちなど、今はもう、どこにもない。
 これを、彼女に渡すことはないだろう。
 渡そうとする自分を、認めることが出来ないだろう。

「大事な人になにもできなかった僕が」
 大事な人に、どうして今さら、何が出来るっていうんだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第3章 日常 『籠絡ラムプの後始末』

POW   :    本物のユベルコヲド使いの矜持を見せつけ、目指すべき正しい道を力強く指し示す

SPD   :    事件の関係者や目撃者、残された証拠品などを上手く利用して、相応しい罰を与える(与えなくても良い)

WIZ   :    偽ユーベルコヲド使いを説得したり、問題を解決するなどして、同じ過ちを繰り返さないように教育する

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 かくして、一夜の邂逅は終わった。
 残された猟兵達がするのは、残されたことへの後始末。

 ……ありえざる邂逅に、何を想ったのか。
 ……これから先を、どう歩んでいくのか。

「…………いい夢を、見せてあげられたと思うんだけどねえ?」
 籠絡ラムプの所有者。
 杠・紅は――…………怪しげな靄を漂わせるランプを撫でながら、窓の外をぼうっと見つめていた。

+-+-+-+-+-+-++-+-+-+-+-+-++-+-+-+-+-+-++-+-+-+-+-+-+

 3章は日常フラグメントです。
 大きく分けて三つのプレイングを想定しています。
 また、2章がある意味本番だったので、3章は不参加でも問題ありません。
 逆に、3章からの参加は想定していません、ご了承ください。

 1)杠・紅に接触する。
  杠・紅は幻影ラムプの所有者です。
  猟兵が現れた時点で観念し、幻影ラムプを差し出してきますので、攻撃したり説得したりする必要は特にありません。
  なんなら誰も接触しなくても自首してくるぐらいなので、触らなくても問題はありません。
  何か特別、伝えたいことややりたいことがある場合はどうぞ。

 2)感情を整理する。
  2章の結果を受けて、キャラクターがどう思ったか、これからどうしていくのか等、
  感情を整理したり今後のことを考えたりするようなリプレイになると思います。

 3)その他
  くれなゐ通りで改めて買い物をする。カップル同士でいちゃつく。その他思いついたことをご自由にどうぞ。

 プレイング受付は5:30(日)0:00から6/2(水):0:00までになります。
 
ティオレンシア・シーディア
〇・1)

はぁいこんにちはぁ、杠サン。それともこんばんは、かしらぁ?
そのラムプ、渡してもらいに来たんだけれど…やけにあっさり渡してくれるわねぇ?
正直鉄火場は無いにしても逃げ隠れするなりごねるなりもう一幕くらいあると思ってたから。余計な手間かからなくてよかったけど。
それと、調書ってわけじゃないけれど入手経路とか経緯とか聞かせてもらえるかしらぁ?
…多分、あたしたちが報告すればそうだった「ことになる」と思うし。

…あー…それと。一応お礼言っておかないとねぇ。
夢幻とかドッペルゲンガーみたいなものとはいえ。骸の海から還ってきたわけじゃない「あたしの知ってるあの子」に会えたってのは事実だもの。



 くれなゐ通りの一番奥。
 狭い道を通り抜けた先には、大きいけれど、老朽化して古ぼけた、今にも朽ち果てそうな屋敷があった。
 門は錆朽ちて、扉の鍵も開いている。入るものを拒む要素はどこにもない。

「はぁいこんばんわ、杠サン。それともおはようございます、かしらぁ?」
 真っ先にその場所にたどり着いたティオレンシアは、一応、いつでも銃を抜けるようにしながら――――唯一人の気配がする、屋敷の最奥にあっさりとたどり着いた。
 黒い長髪と、赤い着物が特徴的な女、杠は、それで初めて誰かの存在に気づいた、という様に、首をゆっくり動かして、そちらを向いた。

「――――ああ、貴女は、“ユーベルコヲド使い”……ですね。“これ”を回収に来ましたか」
 顔を見て、納得言ったように頷いて、膝に乗せていた籠絡ラムプを撫でる手を止める。

「それをこっちに渡してもらえるかしらぁ? って言ったら、聞いてくれる?」
「良いですよ」
「あら」
「どうぞ。どちらにしても、私に逆らう力はないでしょう」
 言葉に嘘はなく、あっさりと渡されたそれを確認して、ティオレンシアは眉をしかめた。

 …………この力は、魔性だ。

 自分がそうだったように、他に誰かにとってもまた、“死者との再会”は魅力的なものだろう。
 まして、それを自分の思い通りに使えるのであれば、執着しても何らおかしくはない。
 ごねるか、逃げ隠れするか、もうひと悶着、あると思っていたのだが…………。

「抵抗、しないのねえ」
「する意味も、もうないので」
「どういう意味かしらぁ?」
 返答は、着物の袖をめくることだった。
 陶磁器のように真っ白だった。肉がほとんどなくて、骨と皮しか残っていなかった。
 恐らく、もう大した時間は残っていないだろう、とわかった。

「私は満足しました。この街の人々も、外から来た人々も、大事な人に、会えたでしょう」
 だから、もう良いのです、と。
 杠は、ただ静かに繰り返した。

「…………じゃあ、これは預かっておくわねぇ」
 籠絡ラムプを確かに受け取って、本物であることを確認してから。

「………………」
 言うか言うべきか。
 少し悩んでから、ティオレンシアは口を開いた。

「杠サン」
「はい、なんでしょう?」
「…………一応、お礼は言っておかないとねぇ」
 籠絡ラムプを配った組織には、悪しき企みがある。
 この事件はその一つであり、決して見過ごせないものだ。
 けれど。




「夢幻とかドッペルゲンガーみたいなものとはいえ、『あたしの知ってるあの子』に会えたんだもの」




 それは、紛れもない事実。
 今宵、たった一時だけとは言え。
 あの時間は、たしかに合った。
 それが、自分を慰めるためだけのものだったかも知れなくても。

「…………大事な人に、おかわりはありませんでしたか」
「ええ、いっそ笑っちゃうぐらいにねぇ」
「……そうですか」
 やせ細った、幽鬼のように覇気のない女は。

「それは、よかった」
 その瞬間だけは、柔らかな笑みを浮かべるのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

マグダレナ・ドゥリング


流石に、少し疲れた。だけど、後始末まで含めて仕事、だね

1)杠・紅に接触する。

まったく、抵抗の一つでもしてくれれば理由になるのだけど
素直に渡されては八つ当たりの一つも出来やしない

今の『僕』は猟兵だからね、自分の感情一つで殺したりできない
僕の負けだよ。完膚なきまでの敗北だ

負けたくないから手を汚し、その結果がこれだ。笑われても仕方ないよね

ところで一つ、確認したいことがあるんだけどさ
結局のところ君は何がしたかったんだい?
信念があるにしては諦めが早すぎる
まさか本当に町おこしのためだけにこれだけのことを?

……何でもいいけどさ。それを知った所で何も意味はないし
君とはもう二度と、再会しないことを祈ってるよ。



「まったく、抵抗の一つでもしてくれれば、この手を汚す理由になるのだけど」
 籠絡ラムプは確保され、事態は収束に向かっている。
 一方で、ことの首謀者である杠の扱いに関しては……正直、決めあぐねている、というのが本当の所だった。
 帝都桜學府に突き出せば何かしらの沙汰はつけてくれるだろうが……。

「お望みであれば、そのようにすると良いでしょう」
「しないよ。僕の負けだよ。完膚なきまでの敗北だ」
 両手を上げて、肩をすくめて、マグダレナは告げた。

「そこまであっさり投降されれば、君を殺す理由がない。抵抗の一つでもしてくれたら理由にもなったのだけど」
 出てきたのは、苦笑だった。
 何より、もう、放って置いてもいずれ命の灯火が消えそうな女だ。
 今更なにかの罰を与えて、何か得るものがあるわけでもない。

「素直に差し出されたら、八つ当たりの一つも出来やしない」
「してくれても、構わないのですが」
 対する杠は、どこまでも平坦な声で。

「今の『僕』は猟兵だからね、自分の感情一つで殺したりできない」
 演じるならば、それを続けなければならない。
 舞台の上で、役者は踊り続けなくてはならない。

「どこへでも行けばいい、いや、去るのは僕の方か、ここは君の家だものね」
 ラムプの確保が終わった以上、長居する理由もない。
 立ち去ろうと扉の外に半分身を乗り出したところで。

「ところで一つ、確認したいことがあるんだけどさ」
 ふと思い出したように、マグダレナは言った。

「結局のところ君は何がしたかったんだい?」
 信念があるにしては諦めが早すぎる。
 だが、まさか本当に町おこしのためだけにこれだけのことをしたわけでもあるまい。
 疑問に、杠は、微笑って答えた。


「家族に会わせてくれました。もう居ない私の子供と夫に」
 微笑んで、答えた。

「誰もが何かを失っている。その空白を埋めてあげたいと思いました」
「…………そうかい」
 悪意であるなら、醜悪だ。
 善意であるなら、最悪だ。
 どちらにしたって、もう終わり。

「君とはもう二度と、再会しないことを祈ってるよ」
 扉が閉じて、杠の顔が見えなくなった。







 マグダレナの祈りは叶うことになる。
 知る良しもないだろうし、知らなくても良い話だ。
 女は、しばらくした後、安らかに息を引き取った。

大成功 🔵​🔵​🔵​

零井戸・寂
②○

結局、いつもの
僕の憶えてるハルと変わんなかったな

いや、都合のいい幻だったからかもしれないけど……
(でもきっと、あの何処までも能天気でちょっと頭悪くて
そして晴れやかな友人は、本物もあんな調子なんだろう)

(一度、君の"忘れ物"である眼鏡を外して
両手に持ってそれを眺める)

君には結局貰ってばっかだ
一つだって僕が返せた試しは―――

―――あ。

(一つだけ、閃く。
猟兵の"異世界を渡る"能力とか
"因果"とか そういうものが組み合わさり)

……そっか。
どうしようもなく遠回りだけど
僕はちょっとだけ君に出来る事があるかも知れない、ハル

(まだ閃きの段階だけど。
それを確かな形にする為に、思いつきを頭の中に刻んで帰る。)



「結局、いつもの。僕の憶えてるハルと変わんなかったな」
 “本物”のハルに会ったのは四年前だから、考えればそれから更新がないのは当たり前なのだけど。
 だが、もし同い年になっていたとしたら、どこまでも能天気で、ちょっと頭が悪くて、そして晴れやかな友人は、きっと変わらず隣に居ただろうことを思う。

 どれだけ仮初の“君”に会えても……いや、会えてしまうからこそ。
 その後に来る寂寥感もまた、消えることはない。
 過去を掘り返し、因果を捻じ曲げて、幾度目の前に現れようと、隣にいることは決して無い。

「君には結局貰ってばっかだね」
 かけていた、赤縁の眼鏡を外して、眺めてみる。
 忘れ物、君が預かった唯一のもの、君がいた確かな証。
 君が居なくなった、確かな証。

「一つだって僕が返せた試しは―――」
 その時、ぱちんと頭の中で、何かが弾けた気がした。

 過去を掘り返し、因果を捻じ曲げる、オブリビオン。
 異世界を渡る猟兵達。
 様々な“可能性”の存在。

「…………そっか」
 ただの思いつきだ。
 現実的じゃないし、可能かどうかもわからない。
 そこいらの百人に聞いたら百人がなにそれ? と問い返すだろう空想。


 だけど、今日まで生きてきて。
 結構、頼りになる友達が増えたんだぜ、ハル。
 どうしようもなく遠回りだけど、僕はちょっとだけ君に出来る事があるかも知れない。

 まずはこのひらめきを、カタチにできるかどうかから考えよう。
 時間はかかるかも知れないけれど、それでも、やってみよう。

 その衝動に従うように走り出す。
 薄っすらと、暗い空の向こうから、赤星が光るのが見えた気がした。

大成功 🔵​🔵​🔵​

夕凪・悠那

2)

失恋、しちゃったなあ
そりゃあ初恋は叶わないっていうけどさ
……まあ、自分の想いに今まで気づかなかったボクもボクか
ほんと、ずるいなぁ

相変わらず、笑顔を取り繕うのは下手なんだから
あの時だって、ボクに後悔させないように頑張って笑ってくれたの
言わなかったけど、気づいてた
最後までカッコつけすぎだよ

――忘れないよ
ふたりで駆け抜けたことも
背中を押してくれたことも
たったひとつだけの約束も
……この初恋も
全部、大切な思い出だ

最後に一度だけ振り向いて
"ありがとう"
キミと、この機会をくれた影朧に

さよなら
ずっとずっと、好きなひと

――さあ、帰ろう
キミがくれた、ボクの日常へ



「…………失恋、しちゃったなあ」
 そりゃあ初恋は叶わないっていうけどさ。
 厳密には、失恋と呼ぶべきかも微妙なところだ、相手ははいともいいえとも言ってないわけだし?
 全部終わった後に気づいてしまったその気持ちを、失くした、と呼ぶべきなのだろうか?

「……まあ、自分の想いに今まで気づかなかったボクもボクか」
 もっとずっと前に気づいていて。
 こうなる前に告げられていたら、なにか変わっただろうか、違う未来はあっただろうか。

「……そうは、ならないか」
 きっと、どうにもならなかっただろう。
 気持ちを告げていた所で、彼は同じ行動をしたはずだし。

「ほんと、ずるいなぁ」
 満たされたような、空っぽなような。
 嬉しいような、寂しいような。
 悲しいような、苦しいような。
 この気持も、きっとかわらなかった。

 だって、嘘を吐くのが下手なんだから。
 笑顔を取り繕うのが、下手なんだから。
 ボクに後悔させないように。
 心に傷がつかないように。
 自分の恐怖を飲み込んで、頑張って笑ってくれてた事を。
 気づかないわけ、なかったのに。

「――――最後までカッコつけすぎだよ」
 だから、ボクも今ぐらいは、格好つけて、言ってみよう。
 失恋しておいて、今更なんだって思うかも知れないけれど、これ以外にやり方もあり方も知らないから。

 何も忘れない。
 ふたりで駆け抜けたことも。
 背中を押してくれたことも。

 たったひとつだけの約束も。
 ……この初恋も。
 全部。

 大切な思い出だ。

「ありがとう」
 届くことのない声を、キミと、再開させてくれた影朧に。

 さよなら、ずっとずっと、好きなひと。

 さあ、帰ろう。
 キミがくれた、ボクの日常へ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

鳴宮・匡
【1】
婦人の所に足を運んで、籠絡ラムプを回収する
一応、簡単に事情は話しておくよ

……あのさ
人間って
生きている限り……生きていくなら
いつか前を向かなくちゃいけなくて

その時、支えになるのは
過去に喪ってしまった何かじゃなくて
今、生きてる誰かとの繋がりとか
そういうものなんだと思う

こういうの、柄じゃないんだけど
でも、俺には
そうやって助けてくれた人たちがいて
……そうやって支えていきたい大切なひとがいて
少しずつ、その思いが届いてるような気も、して

だから
余計なお節介かもしれないけど
もしこれが、誰かを思ってのことなら
時間はかかるかもしれないけど
こんな道具に頼らなくたって
できることがあるんじゃないかって、思ったから



「……あのさ」
 屋敷の外に出ようと、玄関に差し掛かった時。
 扉の前に立っていたのは、長身の男だった。
 一瞬、それの人当たりが良さそうに見えたけれど、すぐに間違いだと知らされた。
 彼もまた、ラムプの幻影を見た者なのだろう。
 影を見たものなのだろう。

 恨み言の一つでも吐かれるだろうか。
 あるいは、他の猟兵は彼女の有様を見て見逃してくれたけれど、彼はそうではないのだろうか。
 どちらでもよかったし、どうでもよかった。
 女にとって、ラムプの存在は全てであり、手放した以上は、もう終わりなのだから。

「……あのさ」
 先に口を開いたのは、男の方だった、頬をかきながら、なんともバツが悪そうに。

「人間って、生きている限り……生きていくなら、いつか前を向かなくちゃいけなくて」
 それは私に語りかけているようで、自分に言い聞かせているようでもあった。

「その時、支えになるのは、過去に喪ってしまった何かじゃなくて」
 きっと、幻影の向こうで何かを見たのだろう。
 そしてそれは、彼にとって、良い再会ではなかったのかも知れない。

「今、生きてる誰かとの繋がりとか、そういうものなんだと思う」
 ふふ、と思わず笑いが溢れる。

「つながるものなど、もうありませんとも。私は全てを失っていますから」
 失ったから、幻影を求めた。
 その力を独占することが、あまりに卑怯な事に思えた。
 だから、皆にも分け与えた、その末路が、杠という女だ。

「あなたは、こんな私にそのようなことを言うのですね」
 細く、枯れ果てたような手足。
 骨と皮しか残っていない、枯れ木のような体。
 先が長くないことぐらい、誰が見てもわかる。

「言うよ」
 それでも、男の口調は変わらなかった。

「だって、まだ生きてるだろ」
 男が、扉を押し開いた。
 薄暗い紫をほのかに照らす、わずかに陽が覗くような空。
 だから、少し目が慣れるまで、気づかなかった。

『大丈夫かな……』『無事なんだよな?』『猟兵の皆さん方は杠さんに何もしてないって……』
『あ、見ろよ』『杠さんだ』『おーい!』『おうい!』『そこの兄さん、どうなってんだい!』

 くれなゐ通りに住まう人々、決して全員ではないだろう、見覚えのある顔もあれば、見覚えのない顔もある。

「…………彼らは?」
「あんたに感謝してる人達、だと思う」
 そんな事を思わず聞いてしまう、女も女だが。
 男だって、なぜそこで、自信が無さそうなのか。
 思わず笑いそうになる。ちゃんと堪えられたけれど。

「文句がある奴は、ここには来ない。ラムプの効果が切れて、俺達猟兵が来て」
 そして、ラムプを持って出ていった。
 屋敷の主たる杠に、なにかあったのかと、心配して。
 駆けつけたのだろう、もう明け方近いというのに。

「……こういうの、柄じゃないんだけど、でも、俺には、そうやって助けてくれた人たちがいて」
 あるいは。支えていきたい大切なひとがいて。

「少しずつ、その思いが届いてるような気も、して、だから」
 見ろよ、ともう一度、集った人々を示す。

「悪いことじゃ、なかったと思うよ。誰とも繋がってないって言ったけど……あんたは、これだけの人の気持ちを、きっと助けてきた」
 だから、もう繋がってしまった。縁が結ばれてしまった。
 関係ないとも、知らないとも、意味がないとも、言えなくなった。

「…………残酷な人ですね」
 だから女は、もう一度笑った。

「私に力が無くなったと知れば、彼らは石を投げるかも知れません」
「投げないよ」
 男は、即座にそれを否定した。

「だって、ここにいる人達は、皆知ってるから」
 痛みを知っている。
 心の喪失を知っている。
 誰よりなくしたものを欲しがっていたのは、誰だか知っている。

「……偉そうなこと言ったな、ごめん」
「いえ、あなたの言うことは、きっと正しいのでしょう。私がそれを受け入れるのに、時間がかかるだけ」
 でも。

「灯火が尽きる前には、理解することもできるでしょう。もう少し、生きてみます」
「そう」
 それだけ言って、男は外へと歩き出した。

「あら、もうおかえり? ここまでしておいて、お茶でも飲んでいったらどうですか」
「気持ちはありがたいけど」
 男は、柔らかく笑った。

「なんだか今、会いたい人がいるんだ」
 なるほど。
 こういうふうに笑うのか。

「それは残念、では、いつかその人と一緒にお茶を飲みに来ると良いでしょう、お待ちしています」
 だから女も、笑顔で見送った。
 それからすぐに、屋敷の中に、どっと住民たちがなだれ込んでくる。

 こうして、ラムプを巡る騒動の一つは、騒々しく幕を閉じた。










 結論から言うと。
 この数週間後に、女は死んだ。
 病と体力の消耗からくる衰弱死で、避けようとして避けられるものではなかった。
 とっくに手遅れだったからこそ、幻影にすがったのだろう。

 墓石の前には、いつだって花が添えてあった。
 くれなゐ色の、真っ赤な桜。
 誰かが度々訪れ、添えていくのだろう。

 だから、いつか男がそこを訪れた時は。
 いつもより、柔らかに咲く桜が、少しだけ多く添えられていた。

 ただ、それだけの話。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年10月05日


挿絵イラスト