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地の底にて蠢くもの

#ダークセイヴァー #地底都市 #第五の貴族 #強敵

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●闇の淵はなお暗く
 そこは燭台一つなく、火の一つも灯らぬ暗闇であった。
 石造りの広い部屋。にも関わらず、そこに置かれたのは一つの玉座のみだ。
 窓もなく、立派な調度品も、権威を示す敷物も何もない。空の部屋で、男は足を組み玉座に腰掛ける。
 男は数多の色を持つ宝石を掌に乗せ、それを弄んでいた。
 陽の下にあれば眩い光を放つであろう宝石らはくすみ――時折、ゴソリと蠢く。
「光、光、光……煩わしいものだ」
 その宝石は「紋章」と呼ばれるもの。ダークセイヴァーを支配する吸血鬼……彼らにさらなる力を与える、寄生虫型のオブリビオンだ。
「僅かな篝火で、夜の闇を照らそうと思い上がる愚行」
 闇の中で紋章が蠢く。それらが男の手を離れ、カサカサと部屋を這い出ていく。
「今一度知らしめる必要があろう。奴らの縋る光など、ただ闇の暗さを増すものでしかないと」
 声が消えると、男は闇の中に溶け込む。部屋の中には、ただ誰が座ることもない玉座だけが残されていた。

●第五の貴族を討て
 グリモアベースにて。ポニーテールの少女、白神杏華が猟兵に声をかけた。
「みんな、お疲れ様。集まってくれてありがとう。今回は、ダークセイヴァーでのお仕事だよ」
 ダークセイヴァーでの猟兵の戦いは長く続いている。
 絶望に閉ざされていたかの世界にも、今や人類の砦が築かれ、辺境を拓き、人々の生存圏が拡大しつつある。
 そして、人々を支配する吸血鬼。それらを統べる存在もまた、明るみに出つつあるのだ。
「以前から目撃されていた、吸血鬼を強化する寄生虫型オブリビオン、『紋章』。
 それを地下からばら撒いている、第五の貴族……今回は、その一人を捕捉できたの」
 第五の貴族は地上世界を地下から支配しようと試みる、強力な力を持つオブリビオンだ。地上で活動している吸血鬼たちの多くは、ただ彼らに操られる存在に過ぎない。
 だからこそ。たとえ勝ち目が薄くとも、少しずつでも彼らを倒していかなければ、ダークセイヴァーに真の夜明けは訪れないのだ。

「今回みんなに行ってもらうのは、第五の貴族『渇きの王』の屋敷だよ」
 地底都市にあるその邸宅には、渇きの王とその配下のオブリビオンしかいない。
 門番として大量に配置された配下を倒し、屋敷内に侵入。内部にいる渇きの王を撃破する――ミッションは単純だが、その難易度は極めて高い。
「まず……屋敷の外にいる配下たちは『番犬の紋章』という紋章で強化されてるの。
 恐らく、一人で完全に倒し切れるのは一体程度まで。複数体を相手にしないほうがいい」
 ある程度門番を削れば、いずれその統率にも穴が空く。その隙に屋敷に侵入するのだ。

「屋敷の外にはまだ、壁に生えてる光る苔とかで明かりがあるけど。屋敷の中に入ったら一切の明かりがないから、足元に気をつけてね」
 屋敷に侵入できれば、あとは道なりに進めば渇きの王がいる部屋に辿り着くことができる。
 だが厄介なことに、敵の本丸に攻め入っても安心には程遠い。何故なら、「渇きの王」自身もまた紋章の強化を受けているためだ。
 その名も「闇の紋章」。闇の中にいる限り、闇と同化し一切の攻撃を受け流す紋章である。
「渇きの王を攻撃するには、どうにかしてまず闇の中にいる彼に光を当てないといけない。
 方法はみんなに任せるけど、準備は完璧にしておいたほうがいいよ!」
 こんなところかな、と杏華は息を吐く。
 己の予知した全てを伝え、彼女はグリモアを光らせた。
「とても危険な戦いだけど……みんな、無事に帰ってきてね」
 そして、猟兵たちは転移する。陽の光なき地底の世界へと――。


玄野久三郎
 玄野久三郎です。オープニングをご覧いただきありがとうございます。
 今回のシナリオでは、非常に強力な力を持つオブリビオン、第五の貴族を討伐していただきます。
 それぞれの戦闘にはプレイングボーナスが適用されますので、うまく弱点をつけるよう立ち回りましょう。

 第一章では、「番犬の紋章」を装着した集団戦オブリビオン、『人体キメラ部隊』と戦っていただきます。
 集団戦ではありますがその戦闘力は非常に高いので、だいたい一人で一体程度までしか討伐できません。
 目の前の相手を確実に倒すことを心がけることでプレイングボーナスが得られます。

 第二章では、第五の貴族『渇きの王』と戦っていただきます。
 屋敷内は一切の光がなく、かつ渇きの王は闇の中にいる限りあらゆる攻撃を受け流します。
 敵の位置を掴み、光で照らすことでプレイングボーナスが得られます。

 第三章での戦闘内容は不明です。断章の投稿をお待ちくださいませ。

 プレイングの受け付けに関しましては、断章やタグなどで随時お知らせいたします。
 それでは、皆様の熱いプレイングをお待ちしております。
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第1章 集団戦 『人体キメラ部隊』

POW   :    悪鬼投与
【身体超強化薬の投与による制御不能な狂暴性】【戦闘行為への常軌を逸した多幸感】【鈍化した痛覚】を宿し超強化する。強力だが、自身は呪縛、流血、毒のいずれかの代償を受ける。
SPD   :    蹂躙体術
【スカート内に格納している全武装の破棄】により、レベルの二乗mまでの視認している対象を、【超高速移動と背面の巨腕による体術】で攻撃する。
WIZ   :    四腕斉射
【背面の巨腕と本体が装備した銃器による弾幕】を放ち、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●這い廻る番犬たち
 荒い息遣いが響く。
 仄かな明かりの中に見えるのは、不気味な笑みを浮かべたドレス姿の少女たちだ。
 それがただの無垢な少女でないことは、彼女らの背中から伸びる巨大な腕が証明している。
「フ、フ、ウゥ、ウゥゥゥウ」
「アアアアァァァァッ!」
 呻き声。そして甲高い叫び声。それらが正気を失っていることは明らかだった。
「ヒ、ヒ、ヒヒヒ」
 少女がスカートの中から取り出したのは、人の肉を裂くためのナイフだ。狂気に潤んだ瞳が猟兵たちを捉える。
「ギィィィアアアァァァァ!!」
 番犬の紋章を携えたオブリビオンたち。その暴威が、牙を剥く。

※プレイングの受付は、【1/8(金)8:31~1/11(月)20:00】とさせて頂きます。
 〆切時点で章の達成数に届いていなかった場合、改めて期間を延長いたします。
エンジ・カラカ
賢い君、賢い君、頭の高いヤツのトコロダヨー。
うんうん。そうかそうか。
その前にコイツラを倒さなきゃ会えないのカ。

オーケー。
あーそーぼー。

薬指の傷を噛み切って
相棒の拷問器具の賢い君に食事を与える
賢い君、賢い君、アイツと遊ぼう。

狼の足は自慢の脚、狼の足はとっても速い。
賢い君の糸を戦場に張り巡らせながら
おびき寄せを使って戦う
逃げ足が速い。うんうん。そうだそうだ。
そんなコト言って無い?しーらない。

敵サンが君の糸にかかったなら
あとは一気に燃やすだけサ。
かからなかったら首に糸を巻き付けて一気に引きずり込む

コレは焼いた肉より生肉がイイ。
それよりもジャーキーの方が好きだなァ。

アァ……。
もっともっとあーそーぼ。



●静謐なる開戦
 空気が張り詰めている。
 数の多い番犬たちは、いずれも餌の足りぬ猛獣のようなものだ。
 涎を垂らし、目を光らせ、暗闇の中から獲物が現れるのを待っている。
「賢い君、賢い君。頭の高い奴のトコロダヨー」
 エンジ・カラカ(六月・f06959)は相棒たる拷問具に愉しげに語る。
 黒い屋敷。堅牢でありながら細部まで美しく作られたゴシック調のもの。
 それを作るためにどれだけの血が流れ、命が失われたのか、エンジには一目で見て取れた。
 まさしく、頭が高いと形容するに相応しい。
 「あそびたい」衝動が溢れ、彼の目をギラつかせる。
「うんうん、そうかそうか。その前にコイツラを倒さなきゃ会えないのカ」
 それは敵の様子を見れば明白なことだった。
 誰も通すつもりがない。誰も生かすつもりがない。見つかれば最後、どちらかが死ぬより他にないのだ。

「……なら、死ぬのハ」
 勿論、コイツラに決まってる。
 エンジは左手薬指の傷跡を噛み千切ると、そこから血を滴らせた。
 ――その血に反応し「起きた」のは、彼の拷問器具だけではなかった。
「アァァ……アアアア!」
 風に交じる微かな血の匂い。それを嗅ぎ、一体のキメラが昂ぶり、吼える。
 そしてソレが地を蹴ると、瞬きする間すらなく、エンジの眼前に少女が立った。
「へー。速いネ」
 巨腕を振りかぶった少女に、エンジは飛び退く。至近であった距離が再び開く。
「でも、俺も速いんだよね。狼だからサ」
 激しく動く視界の中、エンジは周囲の地形、そして周辺の敵の居所を探る。
 幸い、釣れたのは一体のみだ。加勢はない。ならば御しやすい。
「ギイイィィィッ……!」
 少女は細腕と太腕と四本で、それぞれ別の機関銃を取り出し構える。
 逃げるエンジを追いながらめちゃくちゃに放たれるその弾丸は、彼に直接命中はせずとも、時折危ういところを掠った。

「アハハハハハ! ハハハハ!」
 彼女、随分愉しそうだねぇ、賢い君。などと、エンジはぼんやりと考えた。
 笑って、追い縋って、我武者羅に撃って。悪足掻きする獲物を追い詰めるように。
 ――誘き寄せられたのは自分のほうだってのにサ。
 少女が二個目のマガジンを落とす頃、エンジの仕掛けは発動する。
 彼女は弾倉を入れ替えようとした。だが、その腕が途中でピタリと止まる。
「賢い君。見事に掛かったねェ」
 彼女の腕の動きを堰き止めているのは、そこに巻き付いた糸だ。
 彼が逃げながら張り巡らせていた糸は、少しずつ敵に巻き付き、その自由を奪っていたのだ。
「グ、ギ……!」
「あとは燃やしてサヨナラ。それじゃあね」
 拷問器具でもあるその糸が火を放つ。炎は容易く少女の全身へと広がり、その身を焼いた。
 苦悶の雄叫びが響く。まずは一体、とエンジは次の目標――屋敷に目を向ける。

 だが、しかし。
「オオオォォアアアア――!」
 キメラの少女が叫ぶ。それはただ苦悶に嘆く声ではない。
 激しい熱の揺らぎを感じて、エンジは咄嗟にその場を離れた。次の瞬間、彼が立っていた場所に巨腕が振り下ろされる。
「おっと……」
 あれでもまだ死なないのか。全身を糸で拘束され、炎で焼かれているのに、それを千切って攻撃に転じるとは。
「でも、もう無駄ダヨ」
 エンジは更に糸を引き寄せ、それを少女の首に掛けた。気道の圧迫により呼吸が奪われる。加えて、酸素を喰らい燃える炎が僅かな息すらも許さない。
「――――!」
 呼吸とはすべての動きの起点だ。それが絶たれれば、いかなる生物も活動を停止する。
 少女が焼け、やがて力を失う。彼は拷問器具を自らの手元に引き戻した。
「番犬でこれってことは、期待できるネ。アァ……もっともっと、あーそーぼ」
 エンジは笑みを浮かべ、闇が待つ館へと向かっていった。

成功 🔵​🔵​🔴​

春乃・結希
人類砦、地下都市…そこで暮らして、絶望に抗うヒト達に会う度に、どんどんこの世界が好きになっていく
第五の貴族…ここまで来た
行こう、『with』。希望を結ぶ為に

UC発動
『wanderer』の魔導力を移動力に集中させる
神速の踏み込みで距離を詰め、『with』を振るう【重量攻撃】
そう…あなたも、痛くないんですね
私も痛くないんです【激痛耐性】
戦うのに、痛みは邪魔やもんね
敵は、鈍い痛覚と多幸感で、どんどん攻めてくるかな?
なら、私も防御は考えない
傷はブレイズキャリバーの焔で補い、攻め続ける

あははっ、戦うの楽しいよねっ
私も好きだよ
『with』と私は強いんやって、感じられるから
だから、ね、もっと楽しもうよ!



●燃える焔のベルセルク
 幾度もこの世界を訪れた。
 ここは絶望に塗れ、明日の生存すら不確かな闇の世界だ。
 たとえ住む世界を自ら選べるとしたら、ここを選ぶ者はそういないだろう。
 けれど、春乃・結希(withと歩む旅人・f24164)はこの世界が好きだった。
 どれだけ絶望に汚されても、そこに生きる人々の心から希望が消え果てることはない。
 吸血鬼による支配から抜け出し、自らの手で生きる術を探す人類砦。
 光すら差さない地でも、必死に毎日を生きる地底世界の村落。
 ダークセイヴァーに根差す絶望は深い。しかし此度の標的、第五の貴族は、その根の奥深くにある存在だ。
(……ついに、ここまで来た)
 結希は息を整える。そうだ。目指す敵は近いが、まだ超えるべきハードルがある。
 館の前に集まっている番犬、キメラ部隊。彼女らを倒さねば、第五の貴族まで刃は通らない。
「行こう、『with』。希望を結ぶために」
 結希のブーツ、『wanderer』が光り輝く。それは彼女の望む通りに魔力の流れを書き換え、その足に神速を宿す。

 先手を取ったのは結希であった。
 彼女の恋人たる大剣『with』。その巨大な質量が、獲物を求め立っていた少女の鎖骨を砕き、胸を斬り裂く。
「――ヒヒ。へへへ、アハハハハハ!」
 異様な改造を受けたキメラがその時感じたのは、痛みではない。
 「攻撃された」。「つまり、敵だ」。「つまり、戦いだ」。
 それだけで、狂気の少女は激しく笑う。戦いが始まる悦びの前に、痛みは無意味となった。
 少女は目にも止まらぬ速度で、スカートからククリナイフを取り出し、結希を斬り付ける。一拍遅れて、その体から血が噴き出した。
「ヒャヒャヒャ……!」
 少女が笑う。この斬撃により、相手は痛みで動けなくなる。その隙に畳みかける。
 ――そのはずだった。
「そう……あなたも、痛くないんですね」
 しかし、結希は怯まない。斬り付けられたことに気付いていないかのように、涼しげな顔で、再び大剣を横薙ぎに振るった。
「ギィ……!?」
「私も、痛くないんです。戦うのに、痛みは邪魔やもんね」

 痛みを感じないのはキメラの少女だけではなく、結希も同様であった。
 互いに痛みを感じない戦士。それらが相対するとき、何が起こるだろうか。
 答えは、互いに防御を捨てた斬り合いだ。
 ただただ刃を振るう。目の前の相手が絶命するまで。やがて視界に映る血が、自らのものか相手のものかもわからなくなる。
 手数で攻める少女に対し、結希は一撃の重さで対抗していた。
 一つ斬るごとに、キメラの身体は崩れる。体を走る血液が抜ける。
「ヒャハハ、ハハ!」
「……あははっ」
 少女の狂笑に釣られて、結希も無邪気に笑った。
「戦うの、楽しいよねっ」
 戦いを通して結希は、自分と。そして『with』が強いのだと実感できる。
 事実、彼女は目の前の相手を、番犬の紋章を持つ強敵を、単独で撃破しかけていた。

 しかしながら、払った代償も大きい。彼女自身もまた、少なくない傷を受けていたのだ。
 ――その時、彼女の血飛沫に焔が混じる。
 ブレイズキャリバーが放つ地獄の炎が、全身の傷を傍から修復していく。
「アア――!?」
「ふふっ、驚いた? 傷は、私自身の焔で補えるんよ!」
 そう――キメラの少女の戦いは、破滅に向かってアクセルを踏み続けるだけの暴走。
 対する結希は、元より勝算のある戦いを仕掛けていたのだ。
 『with』と、敵のククリナイフがかち合う。質量に負け、ナイフが跳ね上がる。
「これでトドメ……!」
 その隙に。結希はがら空きとなった少女の首に、大剣を滑り込ませた。
「ギャハ、ハ――」
 首が飛び、狂笑が止む。
 静寂を取り戻した周囲には大量の血飛沫が舞い落ち、結希の姿を紅く彩っていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

リーヴァルディ・カーライル
…成る程。今回の獲物は紋章の創造主ね

…此処で紋章の供給を絶てば、地上の吸血鬼達も勢いを失うはず…

必ず、成し遂げてみせるわ。この世界に光を取り戻す為に…

今までの戦闘知識から敵の行動を暗視して見切り攻撃を避け、
直撃する場合は集中したオーラで防御して受け流し、
吸血鬼化した怪力の踏み込みで懐に切り込みUCを発動

…あれからまた多少は強くなった実感はあるけど、
番犬の紋章相手に余裕がある程じゃないもの
全身全霊、まずは眼前の敵を全力で打ち砕く…!

紋章目掛けて呪詛を纏う掌打と同時に生命力を吸収する血杭を放ち、
限界突破した血杭から傷口を抉る無数の血棘を体内で乱れ撃つ

…聖槍は反転する。喰らえ、血の魔槍…!



●反転する聖槍
 リーヴァルディ・カーライル(ダンピールの黒騎士・f01841)はこれまで、幾多のヴァンパイアを狩ってきた。
 その中で幾多の犠牲を見て、幾多の支配を見た。
 それでも、己にできることを。一体一体のヴァンパイアを倒し、一人一人の命を救い、ここまで来たのだ。
(……此処で紋章の供給を絶てば、地上の吸血鬼達も勢いを失うはず……)
 地上の吸血鬼のすべてというわけではないが、一部の強力な吸血鬼は、地底の第五の貴族より供給される紋章をパワーソースとしている。
 ここで渇きの王を討つことは、ただ一体の吸血鬼を討つよりもはるかに大きな意味を持つのだ。
(必ず、成し遂げてみせるわ。この世界に光を取り戻す為に……)

 とはいえ、リーヴァルディは無謀ではない。己の実力も弁えている。
 この広場に大量に立っているキメラ部隊。どれも多大な力を有した強敵だ。
 これら複数を相手にすれば、本丸に辿り着くより先に力尽きることになるだろう。
 だからこそ、今は全身全霊。眼前の敵を打ち砕く。
 リーヴァルディは暗視能力を駆使し、暗闇から少女たちの紋章の位置を探った。
(……紋章の位置は固定されていない。個体ごとにバラバラ)
 ならば、自らの攻撃手段で対応できる位置に紋章を持つ敵が望ましいだろう。
 リーヴァルディはその中で、胸元に紋章を装備した個体に目を付ける。
 彼女は一瞬だけ、その敵にのみ鋭い殺気をぶつけた。鋭敏に反応したキメラが彼女の方を睨み、突撃する。

「来た……!」
「ギャアハハハハハ!」
 少女はリーヴァルディに接近しつつ、三発の銃撃を放つ。
 彼女がダンピールであることを見抜いてか、撃ち出されるそれは銀の弾丸。
 魔を退けるそれは、リーヴァルディにとって避けねばならない代物。
 彼女は両の手にオーラを集中させ、飛来するそれを弾いて受け流す。
「こんな武器まで……」
 だが、弾丸はただの牽制だ。元より敵は、これで仕留めるつもりなどないだろう。
 その証として、少女の腕に動きの兆しが見えた。さらなる武器を取り出そうとする動き。
 ならば今こそ。敵が次の武器を取り出し、接近しきる前である今こそ攻撃に転じるチャンスだ。

 リーヴァルディは自らの裡に眠るヴァンパイアの力を解放する。筋力は倍加し、その踏み込みは瞬速となる。
「ギィ――!?」
 少女は虚を突かれた。到達目標であった敵が突如眼前に現れたのだ。
 突撃の勢いは殺しきれず、次の武器も未だ出し切れていない。
 リーヴァルディの手に纏われたオーラが、防御から攻撃のものへと転じる。その手に呪詛が満ち、暗い光を宿す。
 放たれた掌打は狂いなく、少女の胸元で光る紋章へと吸い込まれた。
「グ、ガアァ!」
 その衝撃で紋章に罅が入る。キメラは牙を食いしばり、取り出したナイフを振り上げる。
 その刃がリーヴァルディの顔面を捉える寸前で、彼女は僅かに後ずさり、それを回避した。
「ギィ、ヒヒヒ……ヒャハハハ!」
 少女の表情には悦楽が滲んでいた。これから始まる戦いへの期待である。
 ――だが、すべてはもう終わっていた。

「……聖槍は反転する。喰らえ、血の魔槍……!」
 紋章を通じて少女の体内に入り込んだ呪詛が暴れ出す。
 体内を蝕むリーヴァルディの呪詛はやがて形を成す。それは固体化した無数の血の槍となって、オブリビオンの体内から飛び出した!
「グゲァッ……!」
 飛び出した槍の刃は今度こそ紋章を砕く。
 紋章による強化が消えた今、体内をズタズタに引き裂かれた少女に、もはや生存の道はない。
「ヒ、ヒ……ヒ」
 少女は大量の血液をばら撒き、その場に倒れた。
 リーヴァルディが紋章を狙ったことは慧眼であったと言えるだろう。
 紋章があれば、たとえ今の一撃を以てしても倒しきれず、さらなる戦闘を強いられただろうからだ。
「……ふぅ。問題は、次ね」
 第五の貴族、渇きの王。彼女の標的は、未だ闇の中に居座っている。
 必ず引きずり出し、光を浴びせるのだ。この世界を照らす光を――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

シキ・ジルモント
なるほど、確かに手強い相手のようだ
交戦して改めて欲張るべきではないと判断
目の前の一体に専念して確実に倒す

紙一重での攻撃の回避を数度繰り返す
「番犬の紋章」の位置の特定を試みると同時に、背面の腕による一撃を誘う
背面の腕の攻撃を行うには、まず接近する必要がある筈だ
ユーベルコードの効果で接近を察知、その場を飛び退いて敵の目測を誤らせ、攻撃を空振りさせたい

空振りさせることができたらカウンターで射撃を見舞う
一撃で大きなダメージを与えられる急所か、紋章の位置が特定できているならそこを狙ってみる
遠くからの狙撃が無理なら懐に飛び込む事も考えておく
なるべく消耗は抑えておきたいが、手を抜ける相手でもないだろうからな



●銀の弾丸はどこに撃つ
 銃声が小さく響く。続けざまにもう一発の銃声。
 シキ・ジルモント(人狼のガンナー・f09107)は遠距離武器の利点を最大に生かし、攻撃対象以外には気付かれない位置からの射撃を行った。
 その作戦は功を奏した。身体に二つの穴を空けられた少女は怒りに牙を剥くが、他の個体の多くはそのことに気付かない。
 撃たれた少女は怒りの雄叫びを上げ、弾丸が飛来した方向へと突撃してきた。
(こいつは……)
 狙ったのは心臓と肝臓。人体で言えばいずれも急所であり、撃たれた直後から激しく動くなどありえない。
 見た目こそ人間だが、やはりオブリビオン。その生命力は人間とは程遠い。
 そして、一秒も経たぬ間に少女はシキの眼前に迫る。
 スカートから大量の武装を落下させながら、その速度はさらに上昇していくようだ。
(改めてわかった。やはり欲張るべきではない)
 耐久力、速度。いずれもかなり上級の力を持つオブリビオンだ。
 これを複数体同時に相手する、というのは現実的ではない。取った作戦は正解だった。

「グォオオオオ!」
 少女の背中から伸びる巨腕が振り抜かれる――と、シキは直感した。
 それは人狼の持つ狼の耳が捉えた風音、そして風の動きから来る直感だ。
 その予見がなぞられる。果たして彼の予測通りに、巨大な腕が彼の眼前を横切った。
「おっと……」
「ヒャハハハハ!」
 続けざまに繰り出される巨腕の一撃を、シキはまたも回避した。
 回避自体に危なげはなくとも、一撃でも食らえばそのまま命を刈り取られる威力だ。
 その連撃によるプレッシャーは僅かずつではあるが、シキの精神を追い詰めていく。
 直感による回避には高い集中力が必要で、それは目減りしていくものだ。時間切れまでに、決着を付けなければならない。

(だが……)
 シキは少女の膝を狙って引き金を引く。
 弾丸は吸い込まれるように命中し、その関節を破壊した。
 だがそれでも、彼女は止まらない。壊れた足を無理やり動かし、シキに迫る。
(どこを撃っても手応えがない。ならば狙うべきは)
 「紋章」だ。この少女のどこかに装備されている紋章を確認し、それを破壊する。
 だがどこにある? 遠目で見たとき、少なくとも衣服や頭にはなかった。
「うお……っと!」
 此度の回避は、これまでよりもさらに危なかった。紙一重、皮一枚のところを巨腕が通り抜けた。
 ――だがだからこそ、彼には見えた。今まで視認できなかった紋章を。
「ウオオオォォォ!」
 少女が力任せに巨腕を地面に叩き付ける。地が揺れ、砕ける。
 すべてがスローモーションに見えた。砕けた瓦礫がゆっくりと浮かび上がり、その奥――少女の背中から伸びる腕の関節部に、紫に光る宝石がある。

「そこだ」
 シキはその紋章に二発の弾丸を叩きこんだ。
 一発目の弾丸は弾かれる。しかし、それが刻み込んだ罅を二発目の弾丸が広げ、そして砕く。
「ギィィヤァァァァ――!!」
 少女が絶叫する。紋章による莫大な強化が消えたことで、今まで無視していた急所へのダメージが復活したのだ。
 心臓からは絶えず血液が流れだし、肝臓部からは激痛が走る。もはや戦える状態ではない。
「……悪く思うなよ」
 元より手を抜ける相手ではない。弱体化したとはいえ、侮れない。
 ならば、この隙は見逃さない。殺せるときに殺しておかなければ危険なのだ。
 銃声が響く。その弾丸は少女の眉間を射抜き、その命を絶った。
「ふぅ。……できるだけ消耗は避けたかったが、そうもいかないな」
 肉体的なダメージこそないが、一歩間違えば死ぬ攻撃を避け続けるのは存外骨が折れた。
 これが後に響かなければいいのだが……と、シキは館へと向かった。

成功 🔵​🔵​🔴​

リヴェル・シックエールズ
番犬の紋章にキメラ……趣味が悪いというか、人の命をなんだと思って……
いやもう単純に気に食わない!絶対に渇きの王をぶった斬ってやらなきゃ!

でもまずはこの子達を突破しないといけないんだよね。助けてあげたいけど、そういうのは苦手だし……倒すしかない、か!
相手は大勢なんだし【ハートボム】をいくつか投げ込むよ!
倒すは1人に絞るけど、爆風で他の子たちの足止めもできるはず!

あ、でも危ないから投げる前に一緒に来てるナターシャさんに声をかけとこうかな
「ハートがドッカーンしますから!避けるか防ぐか受け止めるかしといてください!!」
って!!

戦いは【捕食】を中心で行くよ
狙いは背中から伸びる余分な腕!!!


ナターシャ・フォーサイス
【聖恋】WIZ
紋章で狂気に落ちたのか、或いは元よりなのか。
いずれにせよ、哀れな魂たる貴女がたを楽園へ導くことこそ、使徒としての責。
ならばこそ、責を果たしましょう。

リヴェルさんもいますし、結界を張り備えとしましょう。
天使達を呼び、光を以て強化し数であたります。
分散させれば複数導くこともできるやもしれませんが…ここは、確実に。
【高速詠唱】【全力魔法】【2回攻撃】の聖なる光を以て、手向けとしましょう。

【祈り】【精神攻撃】を載せた聖句で彼女たちの精神に介入し、その目を晴らしましょう。
元よりキメラ、戻ったところででしょうけれど…それでも。
そして、どうか。貴女方への道行きにも、楽園の加護のあらんことを。



●Heart to Heart
 館の前には、大量の少女がそれぞれ呆然と立っていた。
 しかし、時折狂ったように笑ったり、殺気を込めて地面を殴ったりと、いずれもまともな精神状態の個体は見られない。
 リヴェル・シックエールズ(暴風恋娘・f24595)にとって、それはとても気に食わない光景であった。
 彼女は、自身と友人のために偽神細胞をその身に取り込んだ少女だ。
 偽神細胞を取り込んだストームブレイドはオブリビオン・ストームを喰らう力を得るが、一方で、細胞からの拒絶反応によりその寿命は短い。
 それを治す方法はどこかの世界にあるのかもしれないし、ないかもしれない。
 しかしいずれにしても、命というものの大切さは人一倍弁えているつもりだ。
 そんな彼女にとって、眼前に広がる少女たちは、あまりにも敵の悪辣さを強調していた。
「番犬の紋章に、キメラ……」
 少女の肉体にあまりに不釣り合いな巨大な背中の腕。
 思考能力も奪われ、ただ狂ったように戦うしかできなくなった少女たち。
「趣味が悪いというか、人の命をなんだと思って……」
 とにかく、渇きの王を絶対に斬ってやらなきゃ。リヴェルの胸に決意が宿る。

 一方で、隣に立つナターシャ・フォーサイス(楽園への導き手・f03983)もまた、この光景に思うものがあった。
 果たして彼女らは紋章によって狂わされたのか、それとも元々狂ってしまっていたのか。
 どちらであろうが、彼女にとってあれらは救うべき哀れな魂。
 それを救済することこそ、使徒であるナターシャの責務。彼女らを楽園へと導かねばならない。
 とはいえ、ここにいるすべての魂を救済することはできない。それはナターシャ自身が実感している確かなことだ。これだけ強力な集団では、先にこちらが力尽きる。
 とにかく、突破できるだけの数は減らさねば。と、リヴェルは懐から爆弾を取り出す。
「仕掛けますよ、ナターシャさん! ハートがドッカーンしますから、避けるか防ぐか受け止めるかしといてください!!」
「えっ、ちょっと待っ――」
 ナターシャがそれを止めようとするも、一足遅かった。爆弾は集団の中心へと投げ込まれる。
 そして、爆発。爆心地を中心に地面にハート型の紋様が広がり、少女たちを吹き飛ばす。

「――ヒヒヒヒッ」
「グヒャヒャヒャ、アヒャヒャヒャ!!」
 爆煙の中から聞こえてくるのは狂笑の合唱だ。そして、溢れんばかりの殺気が湧き上がる。
 少女たちは、投げ込まれた爆弾によって敵の存在を意識した。そして、来る戦いの予感に打ち震え、喜びの笑いを抑えきれない。
「あ、あれ……あんまり効いてない?」
 リヴェルの投げた爆弾はむしろ、少女たちの闘争本能を刺激した。そして爆弾の使い手を必ず殺そうと殺意を漲らせているようだ。
 ナターシャは煙が晴れるより早く、速やかに結界を展開させた。
 白い光が満ちる。その中にいるのはリヴェルとナターシャ、そして一体の少女だけだ。
「リヴェルさん、結界の外に向かってボムを投げ続けてください!」
「わ、わかりました!」
 言われたとおりにリヴェルは結界外に爆弾を投げる。次々に爆発するそれは絶えず爆風を放ち、地面にハートを描き、増援の少女たちを結界に近付けさせない。

「これで時間は稼げます……けれど、問題はこちらにもある」
 結界内にも敵はいる。これを撃破しなければ、ここを進めない。
 ナターシャは結界の光から天使を生み出し、それを使役した。結界にいる限り、その力は強化され、かつ敵から受ける傷も浅いものとなる。
 ――それでも、なお。
「グヒャハハハハ!」
 少女は四本の腕でそれぞれに機関銃を手にすると、それを乱射した。
 否、乱射のようでいてそうではない。それらの銃口はいずれもピタリと天使たちを捉え、全てを撃ち抜いているのだ。
「く……」
 天使らは剣や槍を持ち戦おうとするが、少女に接近しきる前にどれも撃墜され、光となって消えていく。
 今のところ、少女が天使を消滅させる速度と、ナターシャが新たな天使を作り出す速度は互角だ。
 しかし、戦いが長引けば困るのはリヴェルとナターシャ。いつ爆風が突破され、増援が飛んでくるかわからない。

「――隙ありッ!」
 その刹那、剣閃が薙いだ。
 それは機械的な機構を宿した長剣。偽神兵器、ウロボロス。リヴェルの愛刀だ。
 彼女は天使への対処に集中しすぎた少女の背後から接近し、その巨腕の片方を斬り落としたのだ。
「リヴェルさん!」
「これで爆弾のやつはチャラにしてもらっていいですか!?」
 リヴェルはすぐさま、また結界の外に爆弾を投げる。爆風による足止めが一瞬緩んだことで、周囲の包囲と結界の距離は縮まっていた。
「……考えておきます」
 ナターシャはくすりと笑うと、光からさらなる天使を生み出し、少女に突撃させる。
 先ほどまで少女と天使の軍勢が拮抗していたのは、四本の腕による迎撃があったからこそ。
 その腕が一本減れば必然、拮抗は崩れ去る。

「ガアアア――!」
 堕とし切れなかった天使による連撃により、キメラの少女のダメージが蓄積されていく。
 今だ、と。ナターシャは聖句を唱え始める。聖なる魔力を乗せ、彼女の僅かにでも残った精神に働きかけようとする。
「アア、ァァ――」
「その精神に、再びの安らぎを」
 その光は少女の心へと柔らかく侵入し、鈍化した精神を呼び戻す。刻み込まれた戦いへの欲求を暖かく溶かしていく。
「そして、どうか。貴女方への道行きにも、楽園の加護のあらんことを……」
「アア……あ……」
 少女の瞳から狂気の色が消えていく。
 それはかつて自分が人間であったことを思い出したのか。或いは聖なる光に目が眩んだのか。
 どちらだったとしても、その唸り声と狂った笑いは止んだ。息を引き取るその瞬間、彼女の表情はとても安らいで見えた。

「オオオオオオオ!」
「ギャァーッハッハッハッ!」
 結界の外から聞こえてくる喧騒がナターシャを現実に引き戻す。
 そう。少女を一人昇天させても、二人はまだ危機的状況の中にある。
「……こうなれば仕方ありません。リヴェルさん……」
「は、はい!」
「走りますよ」
 ナターシャは結界を解除し、館に向かって全力で走った。
「ちょっと待ってください、ナターシャさーん!?」
 リヴェルもまた、前方に爆弾を投げて道を開かせつつそのあとに続く。
 それでも、後ろから少女たちは猛烈な勢いで走ってくる。
 あわや追いつかれるか――その寸前に、ナターシャが館の入り口に手をかけ、扉を開けて滑り込む。
 リヴェルが慌ててそこに入りつつ、扉を閉めた。……館の中は外の騒ぎが嘘のように静まり返っていた。
「危ないところでした……でも、なんとか」
 館への進入には成功した。倒すべき第五の貴族はこの奥にいる。
 何も見えないほどの暗闇の中を、二人は奥に向かって歩き出した。

苦戦 🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

鷲生・嵯泉
僅かずつではあれど、人は生きる場を取り戻しつつある
過去の残滓なんぞに此れ以上其の歩みの邪魔はさせん
必ずや阻んでくれよう

成る程、吸血鬼らしい悪趣味な眷属な事だ
ならば其れ相応に対処するまで
――妖威現界、血に拠って命ず
集中した第六感で以って、視線に気の流れ、気配の揺らぎ
あらゆる前兆を用いて計り、攻撃を先読み見切り
衝撃波で初動潰しのカウンターと為し、一気呵成に接敵
フェイント絡めて怪力乗せて死角から
一度で斃れぬなら死ぬまで幾度でも叩き斬って呉れる

護る為に在る此の刃、折れる等と思わん事だ
お前達が番犬として主を守るモノなのだとしても
狂った輩なぞ何の役にも立たんと知れ
足止めとしても意味を成さん――疾く、潰えろ



●「番犬」と「守護者」
 ダークセイヴァーは、猟兵が来るまで一切の光の差し込まぬ世界だった。
 長きにわたる支配に、気まぐれに殺される命。ただ生きているだけでも幸運な世界。
 それを今、ここまで取り戻した。人が人らしく生きる場が広がっていくのだ。
 その歩みを妨げる権利など、誰にもありはしない。
(特に、其れが過去の残滓なんぞであるならば)
 鷲生・嵯泉(烈志・f05845)は守護者である。
 人々の営みを護り、その幸いを匿う。その為に鍛えた力、その為に積み上げた研鑽。
 だからこそ。番犬程度に後れを取るわけにはいかない。
「オオオォォォ――!」
「……成る程。吸血鬼らしい悪趣味な眷属な事だ」
 悪鬼を討つというならば、鬼神こそその役に相応しかろう。
 嵯泉は刀を抜く。闇の中で、陰を吸って光るような刀身の名は秋水。
「――妖威現界、血に拠って命ず」
 それを握る彼は今、天魔鬼神の力をその身に宿した。

 相対した少女との戦いは、殊の外静かに始まった。
 嵯泉は仕掛けない。獣のように唸る少女が両手にナイフを構えるのを、隻眼が射貫く。
 ――獣は獣なりに、此方を探って居るのか。
 しかしこの静寂がそう長く続かないことを彼は見抜いていた。
 敵の筋肉の強張り。瞳に光る高揚感。絶えず揺らぎ続ける気の流れ。
(……長く御預けを喰らっていられる獣では無いな)
 彼が予想した通り、次の瞬間に静寂は頽れる。
「ギィィヤァァァァ――!」
 絶叫と共に、少女が踏み込む――ことに、失敗する。
 その足には既に、嵯泉が飛ばした衝撃波による傷が刻み込まれていたのだ。

「ガァ――!?」
 後の先。後より繰り出し先に着くもの。
 達人の放つそれは、敵の攻撃の「起こり」を潰す。
 嵯泉によるその斬撃は、少女の移動を封じ、逆に彼に先手を取らせる形となった。
「ふッ――」
 接近し、上段に構えた刀。それを捉えた少女は、ナイフを交差させ上からの衝撃に備える。
 しかしながら、次の瞬間に男は消え、感じた熱さは背中からのものだ。遅れて血が流れ、少女は斬撃が後方から来たと知る。
「ギャアアアア――!?」
 ナイフを滅茶苦茶に振り回す。駄々っ子のようなその動作でも、その速度は嵐の如し。
 当たれば嵯泉といえど無事には済まない――だが、彼は既にその射程にはいない。

「ふむ。脊髄を断った筈だが」
 陽炎のようにその立ち位置を自在に変えながら、嵯泉は納刀した。
「だが構わん。一度で斃れぬなら死ぬまで幾度でも叩き斬って呉れる」
「グアアァァァッ!」
 少女は背中から伸びる巨腕に刃を持たせ、それを力任せに振り下ろす。
 人の身でそれを受ける手はない。……そう、人の身では。
「されど今、我が身は天魔鬼神。力任せの暴で、護る為に在る此の刃、折れる等と思わん事だ」
 嵯泉が正面からその斬撃を受け止める。血を犠牲に宿したその力、体幹には些かも揺れはない。
「お前達が番犬として主を守るモノなのだとしても――」
 彼は敵の刃を跳ね上げる。そしてその刀を横薙ぎに構えた。
 ――横からノ攻撃ガ来る! 守らなけレば!
 ナイフを垂直に構えた少女を尻目に、嵯泉は刃の流れを変え、敵の正中線を斬り上げた。
「ギィ、ガァ――」

「――狂った輩なぞ何の役にも立たんと知れ」
 膂力がいかに強くとも、どれだけ痛みを感じなくとも。
 狂気に堕ちた思考では、剣豪の刃を受け止めること叶わず。元より勝負にもなりはしない。
「足止めとしても意味を成さん――疾く、潰えろ」
 惚けたその頭蓋に、返す刀で振り下ろす。
 血が迸る。鬼神の一撃は番犬の命を、今度こそ見事断ち切ってみせた。
「さて。……問題は此の先にこそ在る」
 刃が向かうは護る為。血の道を辿り、彼は闇の館へと歩を進めた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ヴィクティム・ウィンターミュート
やれやれ、新年早々気が滅入りそうだぜ
ダークセイヴァーの連中もゆっくり休んでていいんだぜ?
ダメ?そいつは残念だ──しっかり殺すしかねーな
っかしこいつのビジュアルはなんだ?趣味も悪けりゃ機能性も劣悪だろう

銃を構えたなら、お前はお終いだ
セット、『Reflect』
大量の反射障壁をドーム状にして敵を囲む
その状態で撃ちまくったらどうなると思う?
あらゆる銃弾は跳ね返り、その身を食い破るだろうさ
よしんば避けたとしても、跳弾はまた跳ね、着弾して止まるまで終わりはない

被害をゼロにして敵だけを倒す
本当にスマートな戦い方ってのは、こういうことなのさ
さーてと、貴族様とご対面といこう
育ちが悪いからな、無礼を許せよ?



●Malice hurts itself most
 ――やれやれ、新年早々気が滅入りそうだぜ。
 それは彼、ヴィクティム・ウィンターミュート(Winter is Reborn・f01172)でなくても同じような感想を抱いたであろう。
 地底世界には太陽の光はなく、光源といえば壁に生えている苔くらいのものだ。
 その上、その広場にひしめき合っているのは狂気に満ち、目に付いたもの全てを殺そうとするキメラたち。
 誰が見ても気が滅入る光景だろう。こんな仕事は早々に片付けてしまうに限る。
「しっかし……ダークセイヴァーの連中も。こんな時期ぐらいゆっくり休んでていいんだぜ?」
 彼は肩を竦めて、視線の先にいる一体のオブリビオンにそう話しかけた。
「グアアァァァ――!」
 答えは咆哮で帰ってきた。それに付随するのはありったけの殺意だ。
「ダメ? あ、そう。しかしそいつは残念だ――」
 新年らしく餅でも搗いて、コタツででも寝っ転がっていれば。
「――ならしっかり殺すしかねーな」
 ここで死ぬこともなかったのにな。

(っかし、こいつのビジュアルはなんだ?)
 ヴィクティムは眼前の敵を観察する。
 ただ「見る」といっても、その映像は網膜にインプラントされた演算装置を通し、大脳のデバイスに送られ、解析される。
 その精度と解析能力はスーパーコンピューターも同然であり、敵の持つ武装、敵の肉体の可動領域まで全てが晒された。
 趣味が悪ければ機能性も悪いその背中に生えた腕は、莫大な筋力と引き換えに、比較的単純な動きしか受け付けないようになっている。
 所持している武装の多くは、その単純な動きしかできない腕に合わせてある。
 すなわち、斬ったり殴ったりの物理的な武器、または引き金を引くだけで弾が出る銃だ。

(と、なれば。型に嵌めやすいのは銃か)
 ヴィクティムは無数のUCを持ち、それをあらゆる局面に適応させる天才だ。
 しかしそれでも、純粋な身体能力のみにものを言わせた力押しへの対処は面倒だ。
(当然できないわけじゃないが、この後のことも考えると……肉体労働はなぁ)
 高速の思考が終わりきるよりも早く。彼の身体は並列で動き出した。彼は少女に背を向け、全力で走り出したのだ。
「ギィャハハハハハ!」
 その後の敵の行動は演算するまでもなく単純なものだ。
 敵が遠ければ撃つ。近ければ斬る。今回の場合は、遠いから、撃つ。
「ンー。コンビニの監視映像抜くより楽な計算だ」
 ヴィクティムの視界に、青白く光るプログラムの板が浮かび、それが少女を囲みこむ。
 四つの腕で銃を抜いたその瞬間、彼女の命運は尽きていた。

 一秒間に十、或いは二十にも届くか。それほどの連射だった。
 それを可能とするのは、キメラの少女が持つ膂力、指の力だ。
「セット、『Reflect』」
 その力を用いて放たれた無数の弾丸は、狙われたヴィクティムへと直進することはない。
 少女を囲みこむプログラムの障壁。
 それらは、弾丸を一度飲み込むと、再び元の方向へと弾を吐き出した。
「アァ――!?」
 そうと少女が気付いた時には、弾丸は既に彼女の体の中だ。
 嵐のような弾幕は障壁の中を跳ね回り、その体をズタズタに引き裂いた。
「あーあ。牽制射撃にしときゃ良かったのに……」
 お前らがそんな高等な戦術を扱わないことも織り込み済みの作戦だがね。
 そう冷笑し、ヴィクティムはコードを解除する。その身には、返り血一つない。

 被害をゼロにして敵だけを倒す。
 理想だが、そう簡単にできるわけではない「本当にスマートな戦い方」だ。
「さーてと……」
 お次は貴族様とご対面と行こう。さぞかし熱烈に出迎えてくれることだろう。
 だが生憎ストリート育ちで貴族のマナーには縁がない。
 ――殺しちまうような無礼を働いても、許せよ?

大成功 🔵​🔵​🔵​

ニルズヘッグ・ニヴルヘイム
【EVIL】
ヒト型してるだけにえげつねえなあ……
正直あんまりハイドラを前に出したかないんだけど――
……分かったよ、温存しとくのも大事だな
無理するんじゃねえぞ
私も全力で援護するからさ

起動術式、【悪徳竜】
体を張って守れないなら、そちらの体を害すまで
私の妹には指一本触れさせんよ
氷の属性攻撃を交え、狙うのは足と腕
視覚を削り動きを阻害すれば、ハイドラが一撃を通すのだって楽になる

終わったらすぐに戻って来いよ
時間稼ぎは得意なんだ
呪詛の天幕と氷の防壁で守り抜いてやるから
あいつがぶっ壊れるまで、兄ちゃんの影に隠れてろ

幾ら死なないからって、妹を傷付けられるのは我慢ならない性質でな
精々無様に死んでもらおう、レディ


ハイドラ・モリアーティ
【EVIL】
いや、――えぐすぎる
女の子の体に乗せていいようなパワーじゃねえだろ!
兄貴、俺が前に出るよ
……そりゃ兄貴のほうが頑丈だろうが
その硬さは後半に活かしてくれ、そのほうがまだ俺たちに勝ち筋がある気がする

【LONELINESS】
俺は全部分解するしかできねえ
兄貴、できれば氷で俺を補助してくれ
完全には守らなくてもいい、たった一撃刺せばそれでいいんだ
そしたらどいつもこいつも、毒がぶち壊していく。
つまり走るだけの隙さえありゃいい
文字通り「身を削る」。だが、安牌だ。そうだろ?
――怖いよ。怖いけど、「負けるほうがずっと嫌」でね
俺は死なないけど、兄貴は違う
前哨戦で無駄は作らねえ
――勝負だ、お嬢ちゃんたち



●死力を尽くして
「――ウオオオオォォォ!」
 突然、番犬の紋章を植え付けられた少女が叫んだ。
 同じ場所を任された者共は消えていく。それはつまり、戦って死んだということだ。
 だというのに、何故自分にはまだ戦いの機会が訪れない。
 哀悼の意などあるはずもなく。激情に任せ、背中の腕を地面に叩き付ける。
 その一撃が大きなクレーターを生んだのを見て、ハイドラ・モリアーティ(冥海より・f19307)は舌を巻いた。
「いや――えぐすぎる」
 背中の腕が生えている本体の華奢な印象に比べて、生まれる膂力が大きすぎる。
 明らかに少女の肉体に搭載してよいパワーではないし、何より、アレによる攻撃を繰り出すたび、相当の負荷が肉体に掛かっているはずだ。
 ここまで壊れた相手にもはや同情も何もあったものではないが、それにしてもだ。

「ヒト型してるだけにえげつねえなあ……」
 彼女の兄、ニルズヘッグ・ニヴルヘイム(竜吼・f01811)も同様の感想を抱いていた。
 人の形に押し込めているだけで、目の前のそれはすでにヒトではない。
 そうとわかっていても、嫌悪感とは拭えないものだ。
「兄貴、ここは俺が前に出るよ」
「ホントか? 正直あんまりハイドラを前に出したかないんだけど――」
 ニルズヘッグが止めるよりも先に、既にハイドラは彼の前に立っていた。
 客観的に見ても、そして彼ら自身から見ても、前衛と後衛は逆だ。
 普通の少女とさして変わりない肉体のハイドラに対し、ニルズヘッグは――術師とはいえ――十分な体躯を持つ。
 それでも、この場ではこれが相応しいのだと、ハイドラは判断していた。
「……そりゃ兄貴のほうが頑丈だろうが。
 でも、その硬さは後半に活かしてくれ。そのほうがまだ俺たちに勝ち筋がある気がする」

 ――間違いなく、「今回まで」だ。
 彼女が此度の戦いで前衛を張れるのは今回まで。
 続く「渇きの王」との戦いでは、彼女が前衛として戦える希望はないだろう。
 そのことは薄々、ニルズヘッグも理解していた。目の前の敵の戦力を見て忘れかけていたが。
「……分かったよ、温存しとくのも大事だな」
 だが、無理するんじゃねえぞ。と、彼は兄として警告する。
 そして猟兵として援護する。妹が、相棒が、無用な傷を負わないように。
「起動術式、【悪徳竜】」
 デッドエンド・オブ・ニヴルヘイム。その術式は周囲に白い冷気を湧き上がらせる。
「――ググググ。ギャアアアア!」
 その冷気に潜む呪詛、敵意に気付いたのか。少女の一人がそれを捕捉し、飛び掛かってきた。

「おっと待ちな、お嬢ちゃん」
 ハイドラはナイフを手に、少女の前に立ちはだかる。
 まずは一撃目。避け辛い胴を狙った薙ぎ払いは、敵のナイフに阻まれ失敗に終わる。
「チッ――」
「ウヒャハハハハハ!」
 嗤う少女。その生気のない瞳に、正気を失った顔つきに、ハイドラは背筋が凍る。
 無理はできない。一旦相手を蹴り飛ばして距離を開け、冷気が満ちるのを待つ。
 ――怖い。
 この敵も、その攻撃力も。そしてその背後に、これを量産できる力を持った者がいることも。
 ――だが、怖いから戦わないのか?
 それは違う。怖くても戦うのだ。その恐怖はきっと、負けるよりはまだマシなのだから。

 今の一撃で身に染みた。どうやらこの相手、まともに無傷で刺すのは難しい。
 何しろ反応速度が段違いだ。防御する腕が余っている限り、虚を突かねば通らない。
 しばらくして少女の足や腕、そして目に氷塊が生まれ、張り付きつつあった。
 悪徳竜の冷気は確かに少女の自由を奪っていっている。それでもまだ、半歩届かない。
「はぁー……しょうがねぇなぁ」
 ハイドラはナイフを逆手に持ち替えた。そして、手をクイクイと揺らし挑発する。
「来いよ。勝負だ、お嬢ちゃん」
 その言葉が理解できたわけではないだろう。しかし、それが持つ意味だけは、思考を失ったソレにも理解できた。
 侮られ、挑発されている。許せない。黙らせる動かなくする殺す。
 突撃した少女は握っていたナイフをハイドラに突き立てた。鮮血が舞う。

「ハイドラ!」
「げほッ、ェッ――ペッ」
 ハイドラが口に溜まった血液を吐き捨てる。オブリビオンは敵の負傷を確信し笑い――しばらくして、自らの腹部にもナイフが突き刺さっていることに気付いた。
「ア――!?」
「心配いらねぇよ兄貴。もう、終わった」
 proteção。それは逆手に握ることで敵の知覚を阻害する特殊なナイフ。
 その魔術、そして自らあえて刺されるという二重の虚を突き、彼女は少女に刃を刺した。
 そうまでしてハイドラが、そして二人がこの一撃に拘ったのには理由がある。
「グオ、オ、オ――!」
 刀身に塗られた狂毒。それが少女の肉体の結合を崩れさせ、死に至らしめる。
 一撃でも当てれば、終わり。それがヒュドラの毒なのだ。

「オ、オ、アアアァァァ――!」
 それでもなお、少女は止まらない。怒りの雄叫びを上げながら、再び飛び掛かる。
「ハイドラ、こっちだ!」
 ニルズヘッグは彼女の身体を自らのほうに引き寄せると、眼前に氷を集中させた。
 呪詛でコーティングされた絶対零度の氷で覆われた二人。その盾を砕けるものはそういない。
「オアアアア! ガァッ! アァァ!」
 氷の天幕の外で、少女は巨腕を叩き付ける。その体が崩れているという最中にも拘らず、殺気には些かの陰りも見られない。
「ハイドラ! 刺されたところ大丈夫か!?」
「あー、大袈裟だっつの……たぶんあの、氷? アレがあいつの関節に張り付いてたのが良かったんだろうな。そんなに深くないよ」
 それでも常人なら戦線離脱を余儀なくされる傷だったろうが、彼女は特別だ。
 死ぬことのない不死身の竜。ある程度の傷なら、時間はかかるが埋まってくれる。

「ガアアッ! ギアアアア!」
 叩き付けられ続ける巨腕から血が滲む。滲んだその血はすぐに氷に張り付き、その表面を赤黒く染め上げた。
「時間稼ぎは得意でな。貴様が壊れるまで、もう氷は溶けんさ」
 少女を見つめるニルズヘッグの眼は嫌悪に満ちていた。
 それは妹の敵を見つめる視線。死なない体質であろうが、傷が癒えようが、彼女は大切な妹だ。
 それを傷つけられることは我慢ならない。崩れゆくその姿に何の感慨も抱かぬほどに。
「……哀れなモンだな。自分が死んでいってることにすら気付いてないってツラだ」
 腹部を押さえつつ、ハイドラは氷越しに見えるその狂気に眉を顰める。
「当然の報いだ。精々無様に死んでもらおう、レディ」
 少女の下半身が完全に消滅した。それでも、残った上半身で氷を殴る。
 腹が消え、胴と背の腕だけが残っても、殴り続ける。血が流れようと、骨が砕けようと。
 その存在の歪さの証明たる巨腕が煤のように崩れ消える。もはや残ったのは首だけだ。
「――グアアアアァァ――!」
 最後に、少女は氷に向かって牙を突き立てた。その首が消え、顎が消え――何もかもが崩壊した最後に、鈍く光る紫の宝石だけが地面に落ちた。

 吸血鬼に力を与える宝石型オブリビオン、紋章。ハイドラはひょいとそれを拾い上げる。
「これさぁ、何かに使えねぇもんかなぁ」
「オブリビオンだぞ。汚いから捨てなさい」
「高く売れそうな見た目してんのになぁ」
 ハイドラは渋々といった様子でそれを放り投げる。
 紋章がその足を生やして逃げるより先に、ニルズヘッグがそれを凍らせ、踏み砕いた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

リューイン・ランサード
ひかるさん(f07833)と。

ついに第五の貴族と戦えるようになったのですね。
怖くないと言えば嘘になりますが(実際震えてますが)、ひかるさんもいますし、今迄の積み重ねを無駄にしないよう頑張ります!

常にひかるさんをかばえる態勢を維持。

相手のUC(範囲内全対象攻撃)に対しては、
①結界術による防御結界
②ビームシールド最大展開による盾受け
③自身のオーラ防御
による三段の構えと、ひかるさんの対応を合わせて防ぎます。

相手は番犬の紋章を持っていて、それが弱点なので、UCで紋章をピンポイントで切断して倒します。
紋章が見つからない場合や紋章を切断しても行動する場合は首を刎ねて倒し、ひかるさんと一緒に屋敷に突入する。


荒谷・ひかる
リューさん(f13950)と一緒に

震えるリューさんの手を握り、笑顔を向けて「わたし達なら、きっと大丈夫です」と鼓舞
(ただしいつもより声は硬く、表情もぎこちない。彼だけでなく自分にも言い聞かせている風)

リューさんの後ろで庇われつつ、いつでも動けるよう準備
敵のコードに対し【闇の精霊さん】発動、幾つかの指向性マイクロブラックホールを生成
銃弾を吸い込むことでその後ろに安全地帯を作成し、リューさんの防御と敵への接近を補助
また予め吸い込んでもらっておいたスタングレネードやたった今吸い込んだ銃弾等を状況に応じて放出
隙を作り出せたら精霊銃(火炎弾)で援護射撃しつつ二人で一気に仕留めます



●恐れずに進め
 心臓が高鳴っている。
 高揚とは違う。もっと根源的な畏れに、リューイン・ランサード(竜の雛・f13950)の脈は速くなっていた。
(ついに、第五の貴族と……)
 以前、彼はこの世界で辺境伯を名乗るものと戦った。
 その戦いを経て。「紋章」と呼ばれるものの力は知っている。それを携えたものがこんなにも多くいる、という異常さも。
 ――大丈夫、紋章の弱点はわかっている。――でも、数が多い。――紋章を装備した敵はとんでもなく強い。――危ない。死ぬかもしれない。
 恐怖とは身を守る為の感情である。それを持つことは悪ではない。それに身を委ね、逃げることもまた罪ではない。
 ――だが。

「わたし達なら、きっと大丈夫です」
 震えるリューインの手を、荒谷・ひかる(精霊寵姫・f07833)の手が優しく握った。
 彼と同様、彼女とて恐ろしくないわけではない。その声は堅く、笑顔も強張っている。
 それを見て、リューインは気付く。
 恐怖は我が身を守るもの。だが決して、他者を護るためのものではないのだと。
 恐怖に負ければ、これまでの足跡が嘘になる。彼女と共に戦ってきたことすら、過去の海に呑まれてゆく。
 それはできない。リューインは強く、その手を握り返した。
 自分一人では無理だったとしても。彼女の震えを止めるためなら戦える。
 誰かを護るための感情。恐怖と対を為す、勇気が胸に渦巻く。
「もう大丈夫。……行きましょう」
 彼の震えは止まっていた。己と彼女、そして世界を護るべく、彼は盾を構えた。

「――ウオオオオォォォ!」
 彼らと相対した少女が叫ぶ。いずれも術師である二人と対極に位置する、力一辺倒の相手だ。
 少女は四本の腕で銃器を掴むと、激しく引き金を引く。
 火薬が弾け、弾頭が飛び出す。その進路には、小さく丸い「闇」があった。
「闇の精霊さん!」
 それはひかると共に在る精霊の力。意思なきものを異次元へと飛ばす盾。
 その援護を得て、リューインは進んだ。構えた盾には時折重い弾丸がぶつかってくる。
「くっ……」
 それでも歩みは止めない。道は逸れない。退けば、避ければ彼女に危険が及ぶ。
 彼にその選択肢はない。命取りな道のりでも、一歩一歩進んでいく。

「闇の精霊さん、アレを!」
 敵の弾丸を吸い込んでいた黒い闇より、今度は逆に吐き出されるものがあった。
 ダークセイヴァーに似付かわしくない近代的な小型の筒。それは地面に落ちると、周囲の灯りを塗りつぶすほどの光を放つ。
「グアアァッ――!?」
 スタングレネード。予め、ひかるが闇の精霊の中に吸い込んでいたものだ。
 そんな武器も仕組みも知る由もない少女は視界を奪われ、ただ無差別に四つの銃を乱射し始める。
「今です、リューさん! 走って!」
「ありがとう、ひかるさん!」
 敵は視界を失った。その攻撃の脅威も減少した。今なら――と、リューインは盾を構えつつ走る。
 その籠手に魔力が籠められる。狙いはこの一発に賭ける。
 紋章を持つオブリビオンは非常に強力だが、その弱点もまた紋章だ。
 大きなパワーソースとなっているそれが砕かれれば、一気に畳みかけられる。

「ガアアア――!」
(ここだ――!)
 少女の目が眩んでいる間に、リューインはなんとかその懐まで忍び込むことができた。
 放たれるのはすべてを切り裂く次元の断裂。少女の胸元に光る紫の宝石めがけて、彼が手刀を振るう。
 空間が裂ける。その手刀をなぞるように闇が生まれ、紋章が吸い寄せられる。
「――グガガァアア!」
 だがその接近に、紋章への攻撃に。紋章が砕ける寸前、少女は気付く。
 気配を頼りに放たれた蹴りは、リューインの盾を蹴り飛ばし、彼を遥か後方へと下がらせた。
「うっ……!?」
「リューさん!? 大丈夫ですか!?」
 衝撃で明滅する視界の中で、彼は駆け寄るひかると、距離を離された少女を見た。
 その胸元に光る紋章は、真一文字の傷を刻まれているものの、未だ健在。一撃での破壊は失敗したのだと悟る。

「グググ……ギ、ヒ、ヒヒヒ……!」
 少女は不敵に笑う。その眼は光からすでに脱し、二人を捉えていた。
 ……心臓が高鳴っている。
 どうする。スタングレネードによる目潰しは既に見られた。次元刀による一撃も見られた。
 それを封じられたわけではないが、一度使った手札である以上、一度目ほどの効果は期待できない。
「次は、どうすれば……」
「リューさん。大丈夫です。チャンスはまだあります」
 一方で、ひかるに見えているものは違っていた。後方にいたからこそ見える、先ほどと今との少女の挙動の違い。
「彼女は今、壊れかけた紋章をかばおうとしている」
 胸を下げ、前傾気味になりながら銃を構える姿。
 それは弱点であり力の源である紋章の被弾を避けたい気持ちの表れだ。
「わたしがそこに攻撃を集中させます。一気に仕留めましょう。二人で」

 少女が発射した弾丸は、大半が闇の精霊に吸い込まれている。
 スタングレネードと同様、それは吸い込んだものを吐き出すことができた。小さな闇は今、即席の遠隔武装となっていた。
「ガアアア――!」
 少女の背中から生える筋肉質な巨腕は、彼女の胸の前で組まれていた。
 それは弾丸を受け止め、時折反撃の銃弾を放つ。闇の精霊はその位置を細かく移動させながら、様々な角度からの射撃を試みる。
 同時に、ひかる自身もまた精霊銃による援護を行った。撃ち出される火炎弾は少女の虚を突き、紋章を掠る。
「ガグアアァ、アア――!」
 苛立たしげに少女はひかるに銃口を向けた。だがその引き金が引かれるより先に、リューインの手刀がその腕に走った。
「ひかるさんに手出しはさせませんよ!」

 その飽和攻撃に、やがて少女の防御は限度に達した。闇の精霊が放つ弾丸が少女の銃を掠め、それを地面に弾き落とす。
「グ――」
 新たな武器をスカートから取り出そうとするその瞬間、胸元への防御が微かに緩む。
 至近にいたリューインも、そして敵の動きを注視していたひかるも、その隙を見逃さなかった。
「そこです――!」
「当たって――!」
 ひかるの撃った火炎の弾が、少女の腕を抜け、ついに胸元の紋章へと着弾した。
 元よりリューインの攻撃で傷を負っていた紋章は、その最後の一押しで完全に崩れ去る。
 同時に振るわれた、リューインの次元刀。それは少女の首元を走り――両断した。
 すべては一瞬のうちに片が付いた。首と紋章、その双方を失った少女が崩折れる。

 もし紋章が砕ける前にリューインの攻撃が入っていたならば、恐らく殺し切ることはできなかっただろう。番犬の紋章は、首がない者でもある程度は隷属させる。
 ひかるの弾丸もまた、初撃のリューインによる傷がなければ紋章を砕くまでの威力は持たなかった。すべては幸運、そして二人の呼吸によって導かれた勝利だ。
 荒い息を整え、高鳴る心臓を抑える。やがて、リューインがひかるに手を差し伸べた。
「怪我がなくてよかったです。……行きましょう」
「はい。一緒に」
 向かう先は闇。しかし例え怖くても、二人一緒なら進んでいける。
 ――あなたの震えを止めるために、強くなるのだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

トリテレイア・ゼロナイン
惨い姿です…
ですが『番犬の紋章』付きの脅威は幾度も相対し経験済み
慎重に、されど速やかに倒し侵入を図りましょう

怪力での武器受けと盾受けで攻撃を捌きつつ挙動を●情報収集

思考が極端に制限されているようですね
これなら…

UCの緩やかな挙動で攻撃を誘い、行動を誘導
●見切った攻撃を只一歩、脚を踏み出し位置をずらして紙一重で回避

単純な誘いにすら簡単に乗ってしまう訳です

すかさず番犬の紋章を剣で一突き
ただ一撃で仕留め

脚部スラスターの●推力移動で地形を滑走
他の番犬に囲まれる前に速やかに屋敷へ

この闇夜の世界を解放する為の鍵は地の底に…
其処へ辿り着くまで、騎士として歩みを止める訳にはいきません



●Rest In Peace
 血をだらだらと流し、牙を咬み合わせ、唸る。
 その姿はおよそ人間らしからぬものであった。番犬と名付けられ、貶められた存在が元は可憐な少女であったと、果たして誰が信じるだろうか。
 トリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)は騎士の心を持つ機械であり、機械の体を持つ騎士である。
 少女とは本来、守るべきもの。優しく手を伸べ、エスコートするもの。
 このような醜い姿に改造した挙句、番犬代わりに放つなど、到底許されるものではない。
(……ですが、『番犬の紋章』付きの脅威は幾度も相対し経験済み)
 幾多の戦場を戦ってきたトリテレイアにとって、第五の貴族との戦いは初めてではない。
 その中には今回と同様、番犬の紋章を用いた敵もいた。
 しかしそのどれもが例外なく、強敵であった。番犬の紋章が持つ力の強さは、彼自身が身をもって知っている。
 油断せず、慎重に。かつ速やかに切り抜ける必要がある。

「ゴ――アアアアァァ!」
 少女のうち、一体が彼に張り付く。両手、そして両の背中の腕に武器を構え、滅茶苦茶に叩き付けてくる。
 何の狙いも衒いもなく、ただただ振り回されるその攻撃には一切の知性の光が宿らない。
 とはいえその膂力は、やはり番犬の紋章を手にしたもの。彼の持つ盾が段々と歪み、ひしゃげていく。
(バズーカ砲の一発や二発では歪まない強度なのですがね……)
 トリテレイア自身の怪力により盾は支えられ、彼自身へのダメージは未だ薄い。
 だがこのままでは受けきれない。彼は少女の武器の命中に合わせ、盾を前に突き出し、その体幹を崩す。
「ガァッ!」
 トリテレイアが距離を離す。そして、その頭脳内で演算処理が重ねて走る。
 彼は盾が壊されていく様をただ見ていたわけではない。その敵の様子を通して観察していたのだ。敵の戦略、戦力を。
 そして、準備は整った。剣を構え、敵の行動を待つ。

 硬直は長く続かないだろう、と予測していた。
 その計算は正解であり、少女はすぐにまた武器を振り上げ、トリテレイアに飛び掛かる。
 その軌道。その着地点。その攻撃のリーチと方向を、彼は瞬時に見切る。
 そうして導き出される攻撃から僅かに一歩身を躱す。そして彼は、攻撃の間合いに留まりながら攻撃を避けて見せた。
「ご無礼を」
 その距離から繰り出されたのは、ごく簡単な剣の刺突だ。
 それは少女の胸元に光る宝石、紋章を突き砕く。少女が一際大きな絶叫を上げた。
 剣は紋章を砕き、なお進む。その胸の奥にて稼動する心臓を貫くまでに至る。
「ガァ――ゲ――」
「『そう』なってしまった以上。もはや速やかに命を絶って差し上げることこそが礼儀」
 それは騎士としての判断だったのか、或いは機械としての判断だったのか。
 とにかく、トリテレイアは少女を撃破した。その異形の亡骸をそっと地面に横たえる。

「ガアアアアアァァッ!」
「グオオオオオォォ――!」
 恐ろしげな叫び声がひしめき合う。その中を縫うように、トリテレイアは滑走した。
 脚部のスラスターによる加速に少女たちは追いつけず、その進行を止められない。
 やがて、彼は館の扉まで到達し、それを破り侵入した。
「……さて」
 背後から聞こえる声が消え、差し込む光もまた消える。振り向くと、破ったはずの扉は既に再生し、外の一切の光を館の中に入れようとしていなかった。
「闇に潜む貴族、ですか」
 この闇夜の世界を象徴するような存在だ。
 夜は明け、闇は照らされる。この世界の住人だけがそれを知らないのだ。
 それを知らしめるまで、騎士が歩みを止めることはない。

大成功 🔵​🔵​🔵​

納・正純
【暗路】
『紋章』に『渇きの王』か、興味深い対象だな
取引しろよ、巽。俺をそいつがいる場所まで連れていけ
そうすれば、対価としてお前に力を貸すぜ
合わせてやるから好きにやってみな
欲張らなくて良い、合わせるだけで良いんなら、全くもって楽な話さ

・方針
巽の作戦に乗り、闇の中で彼と共に動く
巽が音を出して敵を誘い込んだ隙にUC【互換病理】発動
視覚は既に闇の中だ、俺は敵さんの聴覚を奪って静寂をプレゼントする
スティムピストルでの弾丸なら、火薬を用いない分隠密性も高い
一体の始末だけならこれで十分、あいつは闇と静寂の中で自分の力の副作用に苦しむだけの獲物だ
仕上げは巽に任せるぜ、光も闇も使いこなしてこその陰陽師だろ?


水衛・巽
【暗路】
番犬と呼ぶには多少、いえ随分躾がなっていないようで
主人の不手際のほどが知れるというもの

欲はかかず確実に仕留めましょう
無作法な輩と同類に思われては困ります
あわせるだけのかんたんなおしごと という所ですか正純さん
ええ、簡単な仕事ほど かえって難しいものです

式神使いにて凶将・天空の力で闇を纏って姿を隠し、
風下から物音をたてつつ
確実に一体のみおびき寄せる
残る聴覚さえ潰せばただの暴れ犬ですよ

互換病理の発動を待ち
背後から急所狙いの剣刃一閃で仕留める
暗殺がキメラに通用するかどうかは知りませんけど

倒した後は即座にその場を離脱
他の番犬が音を聞きつけないとも限りませんし



●WATER
 『紋章』。『渇きの王』。
 第五の貴族という存在は、職業柄概要は知っていたが。
 しかし、それに属する貴族の詳細、そしてばら撒く紋章の詳細については、彼――納・正純(Insight・f01867)の手帳に刻まれてはいなかった。
 彼は蒐集家だ。蒐集の対象はただ「知識」であり、それを集めることと呼吸をすることは彼にとってほとんど同じと言える。
 たとえそれが、地底世界の闇に踏み込む過程を経たとしても。
 人が息を吸うための行動を躊躇わない様に、彼もまた知識を求めることを止めない。

 そんな正純に水衛・巽(鬼祓・f01428)が取引を持ち掛けられたのは少し前のことだ。
 ――取引しろよ、巽。俺をそいつがいる場所まで連れていけ。
 ――そうすれば、対価としてお前に力を貸すぜ。
 悪魔の取引めいたそんな契約を、巽は交わした。
 臆することなどはない。貸すというならば借りるし、使えるものならば何でも使う。
 猟兵として、オブリビオンを葬るために手段は択ばない。その点は、正純も巽も同様だった。
 そういう風に集った二人だからこそ、その相性は良いのだろう。
 狂気に満ちた少女の群れを前にしても、彼らの闘志には些かの揺らぎもなかった。
 むしろ、この局面をいかに突破するか。難しいパズルに挑む前のような面持ちで彼らは立っていた。

「番犬と呼ぶには多少……いえ、随分躾がなっていないようで」
 辺りかまわず吠えまくり、動くものを見れば我慢できずに飛びつく。
 それは番犬と言うにはあまりにお粗末な代物だ。秋田犬や土佐犬のほうがよほど行儀がいいだろう。
 犬の躾を見れば主人のお里も知れる。主はさぞかし怠慢な輩と見えた。
「巽、お前ならこれをどうする? 合わせてやるから好きにやってみな」
「そうですね……忠告通り、欲はかかず確実に仕留めましょう」
 無作法なこれらの犬と一緒と思われても困る。殺すなら一人ずつ、確実に。
 倒せるかもわからずに噛み付くような狂犬と違い、こちらは知恵を持った人間だ。
「それにしても、随分簡単に言いますね。あわせるだけのかんたんなお仕事、というわけですか?」
「実際簡単だからな。敵の情報も上々、お前の情報も十分集まってる。
 その上欲張らなくて良い、合わせるだけで良いんなら、全くもって楽な話さ」
 正純のその自信に満ちた物言いに対し、どうだか、と巽は肩を竦めた。

 しかし、合わせると言うならば、それに従うのは吝かではない。
 要はやりたいようにやればいいわけだ。一人でやるのと同じように。
「闇を纏え、天空」
 護符を取り出し、巽が使役するのは凶将・天空。
 十二神将において最も卑しいとされるその者は、天の名を冠しながら、巽の周囲を闇に覆った。
 地底世界の闇に迎合するように、彼の姿が消える。続いて、それに近付いた正純の姿も。
「さて。あとはどう料理するかです」
 巽は続けて、洞窟の鉱物に小柄を投げつけた。甲高く、かつ小さく響いたその物音を、一人の番犬が拾う。
「グアアァッ!? アアアア!」
 つくづく躾のなっていない犬だ、と冷笑し、巽は少女の後を追った。

「なるほどね。これで視界を奪ったわけだ」
 天空による闇は拡大し、今やおびき寄せられた少女をも覆っていた。
 闇に囚われたその視界には何も映ってはいないだろう。突如の闇に、番犬は狼狽した。
「それなら、お嬢さんにはこの曲が相応しいだろう」
 正純は懐から一つの銃を取り出す。バレルの代わりに透明なガラスが嵌まった特殊な形状の銃。その中には、注射器。
 その発砲音は至って静かだった。破壊を目的としないその銃で、弾を飛ばすのは火薬ではなく空気圧。
 だからこそ、鋭敏な五感を持つ少女であっても、その飛来には気付かない。腕に注射器が突き刺さり、そこから薬液が注入される。
「――4分半ほどの静寂だ」
 薬液は瞬時に少女の肉体を巡ると、その聴覚を奪った。
 正純の持つスティムピストルから放たれる【互換病理】。それにより、敵は今、視覚と聴覚の両方を同時に喪失したのだ。

「ガア、アアア――アアアア!?」
「吠えていますね。自分の声が聞こえないのを不思議がっているんでしょうか」
 それにしても見事に合わせたものだ、と巽は心の中で思う。
 天空を使うことは事前に相談していたわけではない。作戦開始前から考えてはいたが、使ったのはついさっきだ。
 視界を奪うという天空の性質を理解し、瞬時に聴覚を奪う技で繋げ、敵を完全に無力化した。
 自信満々に言うだけのことはある――口には出さないが。
「仕上げは巽に任せるぜ。光も闇も使いこなしてこその陰陽師だろ?」
 自分の簡単な仕事は終わったとばかりに、正純は巽の方を叩いた。
 この獲物はもはやただの暴れ犬。もちろん扱いを誤れば怪我をするが、誤るつもりもない。
 巽は鞘から刀を抜いた。宝刀は、天空の放つ闇の中でも輝いて見えた。

「ガアアア! グアッ! ガアア!」
 少女は周囲に向かって武器を振り回した。それが何度も空を切る。
 敵が奪われているのは視覚と聴覚だ。触覚、嗅覚、ついでに味覚は失われていない。
 元が人間である以上、嗅覚はそう発達していない。そもそも人間の嗅覚は通常、正確に物の位置を掴むような発達の仕方はしないものだ。
 警戒すべきは触覚。この一撃にしくじれば、みすみすこちらの存在を敵に教え、かつ位置を掴まれることにも繋がる。
(……仕上げという割に、随分な難題ですね)
 暴れまわる少女の背中に、紫色の宝石を発見する。これが紋章。敵に力を与える源であり、急所。
 これを破壊すれば、敵はただの集団型オブリビオンに戻る。
 一刀のもとにこれを破壊し、そして殺す。巽は刀を構えなおした。

(ええ。簡単な仕事ほど……かえって難しいものです)
 しかし、正純はやり切った。「簡単な仕事」を。ならばこちらも、仕損じるわけにはいかない。
 息を吸い込み、そして、振り下ろす。重さを乗せた刀は紋章に直撃し、それを砕いた。
「ガアアアアアァァ――!」
「ふう。それでは、お静かに」
 弱体化したその少女の首を跳ね飛ばす。あまり吠えさせて、他が寄ってきても面倒だ。
 首は一瞬高く飛ぶと、その辺りに落ち、ころころと転がった。
「お見事。巽の方も、簡単なお仕事だったろ?」
「……。ええ、簡単でしたよ」
 過程がどうあれ、実際に彼が行った工程はただ二太刀を無防備な番犬に入れるのみ。
 傍目から見れば簡単であるように映るし、振り返り見る巽自身も簡単だったと思うだろう。
 その難題を簡単にしたこれまでの研鑽というものは、案外と忘れられるものだ。

 二人が仕事を終えると、また次の仕事が舞い込む。
 天空の闇は未だ晴れていない。そのまま少女たちの群れを掻い潜り、館の扉を開く。
「暗いな。俺たちも失明した気分になるぜ」
 館の中はひどく暗い。自らの手足すら見えなくなるほど、一寸先は闇だ。
「お望みの渇きの王に会うための我慢ですよ」
 そりゃそうだが、と正純は眉を顰める。その表情すら誰に見えるわけでもないが。
「それと、4分半のアレは劇場の音を聞くためのものです。完全に失聴させたら意味ないですよ」
「物知りだな」
 暗路の中。闇に呑まれないよう、二人は声で互いの存在を確かめ合った。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 ボス戦 『渇きの王』

POW   :    『高貴なる赤』
単純で重い【先制 】の一撃を叩きつける。直撃地点の周辺地形は破壊される。
SPD   :    『夜を歩くもの』
無敵の【影の従魔 】を想像から創造し、戦闘に利用できる。強力だが、能力に疑念を感じると大幅に弱体化する。
WIZ   :    『渇きの王』
対象のユーベルコードを防御すると、それを【略奪】する。【自身の力を上乗せして 】、1度だけ借用できる。戦闘終了後解除される。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠ギド・スプートニクです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●闇の底より
 闇に包まれた館を道なりに進むと、猟兵たちは広い部屋に辿り着く。
 そこには窓がない。敷物も、置物も何もない。ただぽっかりと、誰が座ってもいない玉座が部屋の中心にあるだけだ。
『愚かなことだ……』
 闇の中に声が響く。それは確かに音でありながら、どこから発しているのか、まったく距離が掴めない。
 まるで、闇そのものが意志を持ち、喋っているかのような――。
『その弱き光で、闇を照らせるとでも思っているのか』
 闇の中で何かが動く。青白く揺らめく焔が浮かび、一頭の馬が飛び出し、そして消える。

『貴様らが私を照らすことは決して無い』
 一人の男が闇の中から現れる。その心臓部に光る青い宝石こそ、「闇の紋章」。その装着者を闇と同化させる紋章だ。
 闇を斬っても闇は晴れない。闇を殴っても闇は晴れない。
 それを払うのはただ一つ。古来より人が縋った「光」以外には何もない。
『そして、生きて地上の土を踏む事も、決して』
 男が消える。否。男は未だそこにいる。部屋を包む闇すべてが『渇きの王』。
 死力を尽くして、闇を祓うのだ。

※『渇きの王』は部屋の中の闇と同化しており、通常の攻撃は一切通じません。
 何らかの手段で闇の中にいる彼に光を当て、実体化させる必要があります。
※実体化させたうえで、さらに彼が繰り出すユーベルコードにも対応する必要があります。

※プレイングの受付は、【1/17(日)8:31~1/20(水)20:00】とさせて頂きます。
 〆切時点で章の達成数に届いていなかった場合、改めて期間を延長いたします。
水衛・巽
【暗路】
光闇、双方親しむのが陰陽師とは言え
こう頭まで闇に浸かられてはやりにくい
いい加減、ひきこもり貴族様には外へ出てもらいます
多少手荒ではありますが

全方位の照射になるよう雑鬼の半数を配置し
光量を限界突破させた
屋外用の強力LED投光器へ変化
相手の移動に合わせることで影も消す

残りの雑鬼には王座を隠してもらいましょう
椅子で影ができては困るので

知性有理で光への恐怖を植えつけた後
間合いに入らぬよう霊符で紋章を攻撃
正確な投擲で確実にダメージを狙います
ひきこもりでも一応はオブリビオンですし

…ところで正純さん
ただの興味本意ですが
紋章が手に入ったらどうします?


納・正純
【暗路】
影の術を用いるのも、渇きの王を自称するのも、どちらも今日までにした方が良いぜ
暗路から来た性格の悪い陰陽師と、ひどく渇いた欲張りとが、アンタをここで倒すからな

・方針
敵の実体化は巽に一任
姿が見えたら【知性有理】で敵に【光の恐ろしさ】という智慧を植え付けて質問する
「答えてくれよ、渇きの王。アンタは何を恐れてここにいる? 影が支配する地下世界で、アンタの天敵は何だっけか?」
質問で敵の影を用いる能力に疑念を抱かせ、後は手持ちの銃器で従魔と紋章を狙い撃つ
紋章にヒビでも入れとけば、他の奴らがどうにかするだろうさ

・台詞
雑談とは余裕だな、巽
俺は欲張りだが、飽きやすい方でね
手に入れただけで満足しちまうさ



●闇だけでなく、光だけでなく
 闇、闇、闇。
 周囲は完全な闇に包まれ、そこにいる者の視界には何も映らない。
『我は渇きの王。故に我は渇いている。
 闇の底にて。己の血の色さえ見ぬままに、死んでいくが良い』
 聞こえる音に指向性はなく、音の出所がわからない。
 それでも、正純は不遜に笑った。姿の見えない敵に嘲笑を浴びせる。
「影の術を用いるのも、渇きの王を自称するのも、どちらも今日までにした方が良いぜ」
『ほう――それは何故だ』
「簡単な話だ――暗路から来た性格の悪い陰陽師と、ひどく渇いた欲張りとが、アンタをここで倒すからな」
 闇を扱う術で上を行き、渇望でもまた上を行く。
 闇纏う貴族、渇きの王。その二つの名を一様に奪うには、それが必要だ。
『できるかな。貴様らごときに』

 巽は手探りで札を取り出すと、それに印を結ぶ。何度も何度も鍛錬した動きだ。闇の中であっても、間違うはずもない。
「急急如律令、雲の如く霞の如く」
 そこから生み出されるのは多数の鬼。しかし鬼といっても、それほどの力を持つものではないただの雑鬼だ。
 しかし、彼らは化け術を得意とする。特に、物への変異を。
「光闇、双方親しむのが陰陽師とは言え……こう頭まで闇に浸かられてはやりにくい」
 ならばどうするか。魔を以て闇を祓うべし。雑鬼たちが一体一体、「LED投射機」へと変じていく。
『これは……』
「いい加減、ひきこもり貴族様には外へ出てもらいますよ」
 瞬時に、室内が煌々とした輝きに包まれる。
 UDCアースでの正規品よりもさらに光量を増した屋外用の投射機だ。闇は消え、今度は光によって視界が覆われた。

「……ふむ。これは眩い。全くもって……」
 強烈な光によって渇きの王が実体化した。その証として、彼の声がはっきりと聞き取れた。
 闇の中にいた彼が実体を持ち、声を放ったのだ。巽はそこに霊符を投げる。
「――しかしながら、この光は紛い物」
 霊符は確かに声の方に向かい、そして命中した。
 だが、渇きの王の声が止まない。全く違う方向から声が聞こえる。
「光も過ぎれば、それは闇と同じよ」
 巽は思わず目を閉じた。部屋を照らす光が眩さを増し、彼自身の眼を焼く。
「これは……!?」
 暗闇の次はあまりに眩い光明。瞼を閉じても光から逃れられない。彼の目には白い光以外に何も映らなかった。

「そいつか」
 銃声。続いて何かが割れる甲高い音と共に、光がわずかにだけ緩む。
「受けたユーベルコードを奪う技。物に化けさせる鬼を使ってアンタは鏡を作った、と」
 正純は片腕で目を覆いながら銃を構える。そうでもしなければ目が潰れるほどの光だ。
「投射機の光をあっちこっちに反射させ、逆に俺たちの目を潰しにかかったってわけだ」
 なかなか機転が利くじゃねぇか。と、こんな状況にもかかわらず、正純は楽しげだった。
「となるともう一つの謎……何故声の方向にアンタはいないのか」
 脳内で数式が組み上がる。目が見えないならば音と洞察で敵を識れ。
 答えはそう複雑じゃない。奴が使った技を考え、そして巽自身の技を考えれば。
 ――つまり敵は、「自分に化けさせた雑鬼を多数配置し声を出させている」。

 それは巽のユーベルコードを逆手に取った策であるようで、その実苦肉の策だ。
 敵にとって最も戦いやすい状況は闇の紋章を活かす戦闘。つまり、結局光の中にいる限り敵の防御力は大きく減少している。
 わざわざ自分に化けさせた鬼を配置して索敵を掻い潜ろうとするのが何よりの証。奴は、「この状態で攻撃を喰らいたくない」のだ。
(……なら、次の問題だ)
 渇きの王は何処にいる。この光の中の、どこに身を潜めている。
 ――魔弾。必ず当たる弾丸とはつまり、緻密な弾道計算の結果によって成り立つもの。
 その射手として考えろ。渇きの王、第五の貴族。王様気取りのお前は、影武者を侍らせてどこに行きたがる?

「貴様にはわかるまい」
「私がどこにいるかなど、到底読めぬ」
「……近付くぞ。私の足音が聞こえるか?」
「貴様の死を告げる足音だ」
 声は光の中で二人に近付いてくる。足音は反響し、複数鳴り響く。
「さあ。貴様の血を頂こう」
 声は正純の耳元から聞こえた。……それらの情報はすべて、ただのノイズ。
「行くぜ――一発勝負だ」
 何も見えなくても、引き金を引く。その魔弾は必ず届くと信じて。
 不本意な防衛策を強いられ、渇きの王は不機嫌だ。男は不快を慰めるべく向かうだろう。
 部屋の中心、玉座へと、腰を下ろしに!

 銃声から暫くして、部屋中からガラスの割れる音が響き、光が薄れる。
 空間の端にずらりと並べられた鏡がすべて割れていた。そして玉座には、足を組み、掌を抉った弾丸の傷を不機嫌そうに眺める男が一人座っている。
「大当たりだ」
「ああ、やれやれ、やっと光が消えましたね。闇だけも厄介ですが、光だけというのも存外厄介でした」
「……下らぬ」
 渇きの王が鏡を砕いた理由。それは正純が撃ち込んだ弾丸にあった。
 智慧を刻み込む弾丸。その特殊な弾丸により、彼は光への恐れを刻まれていたのだ。
「答えてくれよ、渇きの王。アンタは何を恐れてここにいる?
 影が支配する地下世界で、アンタの天敵は何だっけか?」
 ……果たして。アンタが恐れて止まない光の中で、影は無敵でいられるか?

「舐めるな、小僧共」
 投射機の光の中から、黒色の蝙蝠が多数湧き出す。
 巽はそれらを霊符で撃墜し、正純もまた銃器でそれらを撃ち落とす。
 敵の思考に隙が生まれているのは明らかだった。この従魔はもはや無敵ではない。
 それでも、湧き出す手下の数は脅威だ。それらを堕としながら、巽はふと正純に目を向ける。
「……ところで正純さん。ただの興味本意ですが、紋章が手に入ったらどうします?」
「雑談とは余裕だな、巽」
 眉を寄せつつ、正純もまた考える素振りを見せた。弾丸を空中の蝙蝠に叩き込みつつ。
「俺は欲張りだが、飽きやすい方でね。手に入れただけで満足しちまうさ」
 だから、俺はアレはいらないね。そんな言葉の代わりに、彼は紋章に照準を合わせ、引き金を引いた。
「……小僧……」
 弾丸は宝石に弾かれる。だがその表面には確かに罅が入り、綻びを見せた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

春乃・結希
この世界の絶望、何度も払ってきたんだ
だから、私の光が弱いなんて思わない
withと一緒なら、どんな暗闇の中でも、希望への想いは消えることは無い
UC発動
焔の翼でも、全部は照らせない。だけど、それで充分
下手に動き回らずその場に留まり、気配と音、握りしめる恋人の感触に集中
攻撃のチャンスは、敵が攻撃のために近づいて、燃え盛る翼が照らし出した時
上昇した反応速度とスピードでwithを振り抜く
命中した手応えからどこへ吹き飛ばしたか予想は出来る
すぐにそちらへ飛び追撃を

この夜の世界で、さらに闇の中に逃げ込んで…あなたは臆病です
光が、希望が、怖いんですよね
この世界で生きて、絶望と戦ってる人たちの方が
よっぽど強いです



●身を焦がす焔の中で
 吸血鬼を倒してきた。
 異端の神々を倒してきた。
 狂える「同族殺し」を倒してきた。
 倒してきた彼らは決して弱くはなかった。決して小さくない闇を、絶望を、結希はこれまで祓ってきたのだ。
(……だから、私の光が弱いなんて思わない)
 この男が何を言おうとも。この男がどんなに強くとも。
 自分は自らの愛剣、withの力を信じている。withもまた、私の力を信じている。
 どんな暗闇の中にいようが、その信頼が揺らぐことはない。
 希望の灯が消えることもまた、ない。

 ――私は希望を結んでみせる。
 彼女の背から一対の焔の翼が広がった。それは周囲を紅く照らし、太陽のように熱を放つ。
「く……」
 真の姿の力を不完全ながら引き出すその能力は、しかし彼女自身への負担も大きい。
 焔は容赦なく彼女自身の体を焼き、熱が魂を焼き焦がす。
 それでもその光は、闇の中でただ一つ灯っていた。命を燃やしながら、懸命に。
 ――それを嘲笑するように、闇の中から声がした。
『私は貴様に近付かない』
「……!?」
『愚かなことだ。その身を灼く焔の翼……どれだけ保つ?』
 闇の中から声がする。それは、焔で照らし出せる範囲内に渇きの王が接近していない証明。
『私はただ闇の中で座して待とう。貴様が燃え尽きるときまでな』

 焔は、じりじりと彼女の体力を奪っていた。
 息が乱れる。恋人たるwithを握った手応えがどんどん重くなっていくように感じる。
 限界が近付く中……結希は、ふと笑った。
「この夜の世界で、さらに闇の中に逃げ込んで……あなたは臆病です」
 闇は答えない。それは肯定も同然だ、と彼女は続ける。
「光が、希望が、怖いんですよね」
 だから闇の中に籠る。地上で生きる、希望に満ちた人々を直視することも出来ず、紋章をばら撒いてどうにかその希望を摘もうとする。
「この世界で生きて、絶望と戦ってる人たちの方が――」
 自分で手を下すこともできない卑怯者なんかよりも――
「よっぽど強いです」

『……話は終わりか? 小娘が』
 闇はなおも近付かない。ただ結希の身を焔が焼くのを待ち続けている。
『それで、この現実をどうする。ただ焼かれていくだけの無力な貴様に何ができる?』
 無論、その炎が絶えるとき、闇はすべてを呑み込むだろう。
 その時、結希の体勢が崩れ、焔が明滅する。
 ――その揺れ動く光の中に。彼女は男の姿を見た。
「with!」
 焔の翼は真の姿の力を引き出すもの。それは彼女に常人離れした反応速度を与えていた。
 結果、接近した渇きの王の身を大剣が通り抜ける。手応えはあった。冷えた返り血の感触が頬に過る。

「トドメを刺しに来ると思ってました。あなたは私の言葉を否定できないから……!」
「抜かせ!」
 結希は追撃に飛んだ。剣を振り抜いた先、吹き飛ばした先に向かって剣を構える。
 焔の中に見えた男にwithを振り下ろす。が、渇きの王の腕に纏われた鎌のような刃に刀身が阻まれた。両者の間に火花が散る。
 次の瞬間、渇きの王の身体が無数の蝙蝠となって四散した。
『……貴様らごときが、私に何を語れると言うのだ?』
 影の従魔は瞬く間に散らばって闇の中に消え、再び闇と同化する。空間は再び、闇と静寂に包まれた。

成功 🔵​🔵​🔴​

リーヴァルディ・カーライル
…今まで幾人もの吸血鬼が似たような言葉を言ってきたけど、
その度に私はお前達にこう返してきたわ

…吸血鬼狩りの業を知るがいい、と

第六感が捉えた殺気や闘争心から行動を先読みして見切り、
闇に紛れた敵の攻撃を暗視して受け流しつつUCを発動

…防げるならば防ぐがいい。奪いたければ奪うがいい

…この輝きこそお前達を滅ぼす太陽の光

吸血鬼の血を浄化する傷口を抉るような反動を無視し、
大鎌に限界突破した光属性攻撃の魔力を溜めて開放

…っ、確かに。この光は私の力も奪う諸刃の剣

…だけどね、お前達を滅ぼす術を持たずして狩人を名乗りはしないわ

陽光のオーラで防御を無効化して敵の懐に切り込み、
銃を乱れ撃ちして追撃する2回攻撃を行う



●世界に光を
 「血を奪い、殺してやる」。「永遠に闇に沈めてやる」。
 そういった文句を、リーヴァルディは幾度も浴びてきた。
 多くの吸血鬼が彼女の前に立ちはだかっては消えていった。
 潔く散る者もいれば往生際の悪い者、道連れにしようとする者など様々だ。
 それら全てに、彼女は同じように死を与えてきた。
 そして、同時にこう返すのだ。
「……吸血鬼狩りの業を知るがいい」

 彼女にとって闇は恐怖ではなかった。
 完全な吸血鬼ほどではないが、その血を受ける彼女もまた闇に慣れ親しんでいる。
 夜の闇と違いこの闇は夜目も効かない。しかしそれでも、恐れはない。
 例え闇がそのまま牙を剥いたとしても、それを感知することは難しくはないのだから。
「……ッ!」
 闇の中から殺気が揺らめき出た。鋭い三叉の刃が自らの喉に突き刺さるのを、リーヴァルディは辛うじて鎌を間に挟み込み、間一髪で防ぐ。
『惜しいものだな。闇に近しいその力、こちらで活かせば良いものを』
「馬鹿なことを。私はこの世界に光を取り戻しに来た」
 それを聞くと、闇の中からは嘲笑が響く。
『光を取り戻す、と来たか。半魔の吸血鬼狩り。光を取り戻した先に貴様の居場所があるとでも?』
「居場所ならある。……それは一つあればそれでいい」
 それに、今は亡き二人の少女に誓ったのだ。人類の繁栄と救済を。
 その為になら、彼女はどんな手を使うことだって恐れはしなかった。

『ならば良い。一度死なねばわからぬらしい』
 今一度殺気が揺れ動く。それを、リーヴァルディはただ待った。
 攻撃の意志が近付いてくる。――その瞬間を見計らい、彼女は禁忌の力を鎌に宿す。
「……防げるならば防ぐがいい。奪いたければ奪うがいい」
 その鎌は光を放つ。それも単なる光ではない。地底になく、地上の遥か彼方に在るもの。
『貴様……それは……!』
「……この輝きこそ。お前達を滅ぼす太陽の光」
 闇を祓い、吸血鬼を祓う絶対の光。リーヴァルディが宿したそれは、吸血鬼を焼くための太陽だ。
 その光の前には、いかに闇と同化しようと無力。渇きの王が照らし出され、彼女の眼前に現れた。

「……正気ではないな。その光、食われるのは貴様とて同じはず」
 そう、リーヴァルディはダンピールだ。その身に流れる血は、目の前にいる吸血鬼と同じく太陽を拒む。ただならぬ脱力感が彼女自身を襲う。
「……確かに。この光は私の力も奪う諸刃の剣」
 例えそうだとしても、使うことを止めはしない。
 これが最適なのだ。これが最も吸血鬼を滅ぼすに相応しい術。
「お前達を滅ぼす術を持たずして狩人を名乗りはしないわ」
 光は渇きの王の身を灼き、その場に縫い留める。刃がそれを引き裂き、血が噴き出ては蒸発する。
「オ――オオオオオォォ――!」
 その傷口めがけ、リーヴァルディはさらにマスケット銃から弾丸を撃ち込んだ。
 食い込んだ弾丸は棘を放ち、その傷口をさらに抉る。
 渇きの王が倒れこむ。……その姿は闇に消え、やがて見えなくなった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

エンジ・カラカ
アァ……見えない見えない、アイツが見えないねェ。
賢い君、賢い君、アイツのニオイはするのに見えないヨ。

夜目は効いても闇の中に消えたヤツは見えない。
ならどーする?どーしよ。
光を照らせばイイ!
掴めないなら囲えばイイ!

噛み切った薬指を更に噛み切って君に食事を与える。
頭の高いヤツは卑怯モノが多い。
ケド、だから生き延びているンだ。
アイツも賢い。

君の糸で炎で出来た迷宮を作り出す。
闇を囲うようにして出来た迷宮は炎だから明るくなるヨ。
アァ……光のあるトコロには闇も出来るネ…。

それなら薬指に君の炎を巻き付けて戦えばイイ。
手元が見えれば爪くらは当たるはずサ。

かくれんぼはお終いにしよう。
ほら、みーつけた。



●迷宮を進む者
 ――アァ……見えない見えない、アイツが見えないねェ。
 闇の中に消えた渇きの王を、視認することはできない。闇と同化した彼に肉体と闇の境目はない。
 いわばこの部屋の闇そのものが彼であり、それ故に一切の攻撃は通じないのだ。
「賢い君、賢い君、アイツのニオイはするのに見えないヨ」
 エンジは人狼であるが故の鋭い嗅覚を有していたが、それでも敵の位置は掴めない。
 この部屋中、全てから敵の匂いがするからだ。いかに夜目が効いても、闇そのものを見つめても敵は見えない。
 だが人狼とは、狼であると同時に人間である。
 人間は遥か昔から闇を克服してきた。闇を照らす最初の灯――それは火である。

「賢い君。もう一度出番だ」
 彼は今一度薬指を咬み、血を流した。拷問器具が起き上がり、ゆらりと舞う糸が火を纏う。
「頭の高いヤツは卑怯モノが多い。ケド、だから生き延びているンだ。……アイツも賢い」
 だからこそ殺さなければ。賢く、そして君臨するからこそ殺さなければ。
 燃える糸は周囲に広がり、迷路のような道を作り出す。
『これは……』
「迷路の出来上がり。さぁ。張り切って進みなヨ」
 迷路の壁となった燃える糸は光を放つ。渇きの王が闇の紋章の力を活かそうとするならば、糸に近寄りその身を照らされぬよう、迷路の中を進むほかない。
 無論、その道筋をエンジは把握している。渇きの王がどう進むかもある程度予測できる。
「みつけたら最期。きちんと引き裂いてあげるカラ」
 炎の糸は彼自身の手にも巻き付けられていた。これを武器とすれば、闇と同化した渇きの王にも傷を与えられる。

『迷宮か』
 その時、エンジは感じた。炎の糸でできた迷宮の壁がざわめき、形を変えていくのを。
 彼が想定した迷宮に新たな壁が付け足されていく。その全容を彼自身すらも知覚できないまま。
 そして気付けば彼もまた、炎の迷宮の中に取り込まれていた。
「アレ? どういうコトかな、コレ」
『我は王、我は主。何者も我が前で主には成れぬ。迷宮の主はこの私だ』
 敵のユーベルコードを奪い、借用する能力。それを用いて、渇きの王は迷路をエンジ自身に返した。
 とはいえ、エンジ自身の作成した迷路も消えてはいない。互いが互いの迷宮にいながら、同時に自らの庭の中にもいるのだ。
(……とはいえこれで道はわからなくなった)
 前後左右。互いが彷徨っている以上、どこから敵と遭遇するかは全く掴めない。
 勝負は瞬発力。迷宮で遭遇した際、どちらが先に攻撃を叩きこむかに委ねられた。

(大丈夫ダヨ、賢い君)
 迷路の中を歩きながら、エンジは落ち着き払っていた。
 闇の中であるという前に、この迷宮は賢い君の中。その中で負けることなどありえない。
 道順が違う迷路を進み、やがて彼は呼吸を整える。
 ――その左手に纏う火に、男の姿が映し出される。
「みーつけた。かくれんぼは――」
「あぁ。終いとしよう」
 エンジの爪と渇きの王の爪とが交錯する。互いに急所を狙った突き。
 それが届くのは、渇きの王の方が早かった。その爪がエンジの首を掠め、血を迸らす。
「――!」
 しかし、エンジの爪もまた、渇きの王の心臓を射抜いていた。弱く遅い拍動に合わせ、その体から血が流れ出す。

 張り巡らされた炎の糸が一斉に解けた。光は消え、再び闇が訪れる。
 こちらの被害も大きかった。だが間違いなく、敵にも傷を与えたのだ。
 左手を濡らす血液を振り払い、エンジはニヤリと笑った。

苦戦 🔵​🔴​🔴​

ハイドラ・モリアーティ
【EVIL】
はーァ、出た出た。悪党お決まり文句!
「できない」!「決して」!
ハハ、テンプレで笑っちまうぜ
シリアスなアクション映画でも見たか?根暗野郎め

おっと、怒っちゃった?
無礼な物言いは俺のオハコ
そうカッカすンなよ、オジサマ
――先制の一撃は「兄貴で」カット
悪いねえ
俺もまた「悪党」なもんでさァ

【ξενογλωσσία】
燃やし尽くしてやるよ、蒼い炎は綺麗だろ
俺の好きな色でね
さて、よくも俺の兄貴に手ェ出してくれたもんだ
俺の体も燃やすほど、炎で照らしてやる
――かッははは!!地獄を作ってやるよ!!
お前を暴いて、お前を壊して、お前に――復讐してやるよッッ!!

てなわけで
頼むぜ、兄貴
無敵を「ひっくり返して」くれ


ニルズヘッグ・ニヴルヘイム
【EVIL】
我々の往き道を貴様に決めつけられる筋合いはないな
無明を照らすすべがないと思われるのも心外だ

致命の攻撃は槍で受け流すが基本は無視だ
後方のハイドラは決して負傷させない

ハイドラ、光源は用意出来るか
出来れば強い奴が良い
――起動術式、【氷霜】
突き刺した氷は鏡代わり
光を乱反射させれば一つくらいは当たるだろ
水鏡ってのを前に教わった
水が代わりになるなら、氷にだって出来るはずだ

影の従魔が無敵であろうとも、そいつを殺すのが目的じゃない
数の前には如何なる盾も無力と教えてやろう
魔力の全てを使って氷を生み出し続けてくれる

四方八方から光が差し込むと影は薄くなると知っているか
そいつ、本当にこの状況で無敵かな



●闇纏う王に復讐を
「はーァ、出た出た。悪党お決まり文句! 『できない』! 『決して』!」
 渇きの王、第五の貴族。絶対的な力をさらに紋章によって強化する強敵。
 だがそれがどうした、とハイドラは笑って見せる。
 要は狡っからい悪事を働いて私腹を肥やす奴ってことだ。じゃァ、その辺で偉そうにしながらハッパキメてる奴と何が違うって?
「ハハ、テンプレで笑っちまうぜ。シリアスなアクション映画でも見たか? 根暗野郎め」
 そう挑発するハイドラに対し、帰ってくる言葉はない。闇は佇み、動かない。
「何とか言ったらどうだ? それとも怒っちゃった?」
『――決して。貴様らではこの闇を照らすことはできない』
 そうして闇の中から厳かに響いたのは、先ほどの言葉に似たようなもの。
『命が老いてやがて死んでいくように……その事実は覆らん』
「我々の往き道を貴様に決めつけられる筋合いはないな。それに無明を照らすすべがないと思われるのも心外だ」
 ニルズヘッグもまた、闇に向かって言い返す。
 呪詛に塗れた邪竜であっても、闇を照らす術くらいは持ち合わせるものだ。

『我は王である。貴様らの命運も、そしてその辿る道も――』
 闇が揺れ動く。それは自分への攻撃の前兆だ、と気付いたハイドラは、その身をニルズヘッグの背後に隠した。
 次の瞬間に、ニルズヘッグの眼前に渇きの王が現れる。
「――全てこの私が決めてやる」
 闇から滲み出すのは殺気を孕んだ手刀による突き。寸分狂いなく心臓を狙ってきたそれを、彼は槍で逸らす。
「ぐっ……!」
 しかし、自らの身体から完全に矛先を逸らすまでには至らず。ニルズヘッグの肩に、男の爪が突き刺さる。
「……悪いね、兄貴」
「気に、するなって。さっきと役割が入れ替わっただけだからな。
 それに、兄貴は妹を守るものだろ?」
 だからハイドラには指一本触れさせはしない。ニルズヘッグは渇きの王を睨む。

『予言してやろう。貴様は妹を守り切れずにここで死ぬ』
 再び闇に消えた渇きの王からそんな言葉が投げかけられる。
「また断定か? 聞き飽きたっつーんだよ、お前の戯言は!」
 闇が蠢いた。だが、そこには実体があった。唸り、足音を立てるそれは渇きの王ではない。
「私の僕と戯れるが良い」
 ニルズヘッグに近付いてくるそれは、人型の獣。人を殺すに十分な爪と牙を備えた従魔だ。
「――起動術式、【氷霜】」
 フリームスルス。その術を以て、周囲は冷気に包まれる。
 空気中の冷気は凝縮し、やがて氷の槍となって、闇に潜む人狼めいた従魔を穿った。
 だが、その魔物は怯まない。氷の槍はその肉体を通り抜け、ただ地面にのみ突き刺さる。
 氷の槍は従魔を追って次々に地面に突き刺さった。そのいずれも敵を捉えることはできず、接近した従魔の爪がニルズヘッグの身を引き裂く。血が流れては闇の中に消えていく。

 それを見るハイドラの胸は痛んでいた。
 無論、彼が盾となることは打ち合わせ済み。あの傷も、きっと致命のものではない。
 そうだとしても、腹が立つ。そしてこの不快、この復讐心こそが原動力となるのだ。
「さて……よくも俺の兄貴にさんざん手ェ出してくれたもんだ」
 闇の中に光が灯る。その蒼色の光は、ハイドラの身を包む炎の色だ。
「――ξενογλωσσία。燃やし尽くしてやるよ」
 彼女はその色が気に入っていた。誰かを思い起こす、その蒼が。
 そしてその色を以て――家族を傷つける者に、甘美なる復讐を。
 身を焼くほどの炎がこの空間に満ちる。その光を、地面に突き刺さった氷の槍が受け取って乱反射し、部屋全体を満遍なく照らし出す。
「何だと……?」
 その光の中で、渇きの王は炙り出された。漸く二人の前に、その姿を晒す。

「――かッははは!! 頼みの紋章とやらの効果は消えちまったなァ!
 さァ、今から地獄を作ってやるよ!!」
 猛然と渇きの王に襲い掛かるハイドラの前に、影の従魔が立ちはだかる。
 邪魔だ、と炎を宿す手で振り払おうとするも、その攻撃はすり抜けるばかり。ハイドラは舌打ちし、一旦距離を取る。
「アレは頼むぜ、兄貴。無敵を『ひっくり返して』くれ」
「わかった。――予言してやろう。お前の従魔はこれから敗北する」
 渇きの王はフン、と鼻を鳴らし、従魔の背後でマントを翻す。
「面白い。貴様らごときが運命を定めるとでも言うのか?」
「当然だ。そう難しいことじゃない」
 ニルズヘッグはさらに氷の槍を地面に突き刺していく。光はますます拡散する。
 やがてその光は一箇所に向かう。そう――渇きの王を護る、従魔の元に。
「四方八方から光が差し込むと影は薄くなると知っているか」
 従魔の黒い輪郭が薄れていく。闇に潜む影は、光に追い出され消えかけている。
「――そいつ、本当にこの状況で無敵かな」

 二度目のハイドラの突撃。蒼い炎を纏うナイフが従魔の肉体を貫く。
 それは従魔が弱体化した証。渇きの王自身が、その力を疑ったという証明だ。
「どうやら予言対決はウチの兄貴の勝ちらしいな」
 ナイフを捻り振り払えば、影は消えていく。残るは光に照らされ、無防備となった渇きの王だけだ。
「さァ! お前を暴いて、」
 闇の紋章の力は破れた。その身が光に暴かれる。
「お前を壊して、」
 暴かれたその身に、ハイドラはナイフを滑らせた。骨を通り抜けた内臓を刃が傷つけるのを感じる。慣れた手応えだ。
「お前に――復讐してやるよッッ!!」
 血飛沫が舞い、蒼い炎に触れて蒸発する。
 ――渇きの王が歯を食い縛る姿は、彼女を大いに満足させた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

リヴェル・シックエールズ
【聖恋】SPD
さっきの子たちのことを前座って言う気は無いけど、ここからが本番だね……!

「お前が渇きの王……絶対にはっ倒してやる!」

闇の対策とか難しい部分はナターシャさんが得意みたいだからおまかせして、私は私の得意なことを、つまり!真っ直ぐ行ってぶっとばす!

とはいえ少しは手伝いたいし、ナターシャさんがユーベルコードを発動したら、その光を受けとめて、【叛逆の狼煙】を発動、コピーしたユーベルコードを使って闇をかき消すお手伝いをしてから突っ込むよ!

闇に紛れ直させるチャンスを作らないためにも、戦い方はとにかく攻めて攻めて攻めまくる!フォローはナターシャさんがやってくれるって(勝手に)信じてるから!


ナターシャ・フォーサイス
【聖恋】WIZ
貴方が第五の貴族、元凶たるものですか。
実力は申し分ないのでしょう。
ですがそれは闇あればこそ。
過去から蘇りし哀れな魂であるならば、為すべきことは変わらぬのです。

これより此処は未だ至らぬ楽園、光満ちる理想郷、その一端。
天使達を呼び、彼の退路を断ちましょう。
UCを奪うようですが、天使達の加護はそれをも封じます。
そして、天使達と共に【高速詠唱】【全力魔法】【2回攻撃】【焼却】の聖なる光を以て、紋章ごと彼の罪と闇を祓いましょう。
切込むリヴェルさんには天使達もつけ、畳みかけるのです。

貴方もまた哀れな魂であるならば、使徒として楽園へ導かねばならぬもの。
どうか、貴方にも楽園の加護のあらんことを。



●楽園に差す
「お前が、渇きの王……」
 リヴェルは忌々しげにその名を口にする。闇の中に潜む吸血鬼はそれを鼻で笑った。
『いかにも。私が渇きの王。……貴様らは何をしにここに来た』
 ――先ほどの少女たちの力は、決して前座と呼べるようなものではなかった。
 一体一体がそれぞれに何らかの事件を引き起こし、その首謀者となりうるほどの力。
 だがそれでも。それらと比べても、目の前の闇は格が違った。
「決まってるでしょ。……絶対にお前をはっ倒してやる!」
『不可能だな。貴様では到底私には及ばぬ』
「いいえ。……貴方もまた、過去から蘇りし哀れな魂に変わりはありません」
 ならば、導き救う。ナターシャの目標は、リヴェルとは僅かに違っていた。
 彼女にとっては、目の前の闇、第五の貴族もまた救うべき魂に他ならない。
 だからこそ、救わねばならない。楽園に至るよう、その魂を清めるのだ。

 闇に包まれた部屋に一筋の光が差し込む。
 それは彼女自身もまだ見ぬ、楽園の一端の現出。
 光は瞬く間に拡散し、部屋全体を優し気な光で包み込む。闇は祓われ、渇きの王が姿を現す。
「これは……」
「光満ちる理想郷。仇成す闇を祓い、歩む者を導く扉。……貴方では、この楽園を奪うことはできません」
 その空間は渇きの王の闇の紋章を無効化し、なおかつユーベルコードをも封じていた。
 逃げようにも闇はなく、奪おうにも力がない。
「……そのようだな」
 彼は瞬時に悟る。目の前の女はまさに、今の自分にとって天敵であることを。
「天使たちよ。私たちに加護を。そして彼の罪に祓いを」
 光り輝く朧げな人型が天から降り注ぐ。そして槍を手に、渇きの王へと飛び掛かった。

「――小癪」
 二体の天使が、吹き飛ばされて消える。
 それは渇きの王の打拳によるものだ。ユーベルコードではない。純粋な膂力による抵抗。
 渇きの王は奇跡の力を封じられ、紋章による絶対的な防御も失っている。
 しかしそれでも、その力が脅威であることに変わりはなかった。
「それなら、これでどう!?」
 リヴェルが構えたアサルトライフルに、楽園の光が吸収されていく。
 引き金を引けば、弾き出されるのは浄化の光。渇きの王がマントを翻し、それを防ぐ。
「てやあああぁぁッ!」
 弾幕を張りながら、リヴェルは接近し、偽神兵器ウロボロスによる斬撃を放つ。
 渇きの王の腕は鎌の刃のように変じ、これを受け止めた。火花が両者の間に散る。

(これが……第五の貴族)
 その力は、ナターシャの想像をさらに超えていた。
 天使による援軍、そしてリヴェルによる近接戦闘、ナターシャによる聖光の援護。
 それらの飽和攻撃を受けてなお、渇きの王を攻め切ることができない。
 自在に変化する腕による攻防はひどく安定し、彼女たちの攻撃を寄せ付けない。
(……それでも!)
 それでもリヴェルは、自分のやるべきことは変わらないと確信していた。
 闇の対策とか隙を突くとか、そういう難しいことは得意ではない。
 だが、得意でないことなら仲間に任せる。自分より得意な仲間に。ナターシャに。
 それを彼女も求めているはずだ。突っ込む事こそ今の私にできること。
 攻めて攻めて攻めまくる。そして戦い続けた先に、必ず――
「貴様らに勝機などない」
 ――ウロボロスが弾かれる。がら空きになったリヴェルの胴に、刃が滑り込む。

「リヴェルさん!」
 リヴェルの胸から血が流れ落ちる。刃がその身に食い込み、肉を抉る。
 ――しかしそれでも。彼女の攻撃が止むことはなかった。
「まだ、まだぁ!」
刃が震える。ウロボロスが再起動し、今度こそ渇きの王を袈裟懸けに斬り付けた。
「ぐッ……!」
「今、です! ナターシャさん!」
 魂から絞り出すようなその叫びで、天使たちは覚醒する。
 無垢なる少女を護ろうと。暴虐なる闇を祓おうと。先程にも増して奮戦する。
「下らぬ。邪魔だ!」
 渇きの王の腕のひと振りで、その光が吹き飛ぶ。
 しかし、その内一体が投擲した槍がついにその身に突き刺さった。
「ぬぅ……!」
 均衡は崩れ去っていた。リヴェルによる一撃で、渇きの王の肉体は万全ではなくなった。
 これまで通りの彼であれば、そんな槍など事も無げに弾いてのけただろう。だが、胴体から噴き出す血がそれを許さなかったのだ。ウロボロスによる傷口が!

「貴方もまた哀れな魂であるならば、使徒として楽園へ導かねばならぬもの」
 畳みかける。この者を楽園に誘うならば、今を置いてこれ以上の好機はない。
 ナターシャの放つ光が紋章の力を奪っていく。闇の紋章が陰り、渇きの王が唸る。……だが。
「……これまでだな」
 彼はニヤリと口角を吊り上げる。その瞬間、楽園に一筋の闇が差し込んだ。
 時間切れだ。それは単純にナターシャの能力維持に限界が訪れたというだけではない。
 渇きの王もまた、光を破り、闇を齎すために魔力を割いていた。それがここに来て、毒々しくも実を結んだのだ。
「貴方は……楽園を求めないのですか」
「私にとっての楽園とは、すべての命が私に傅く世界。誰もが私に血を差し出し、渇きを忘れられる世界のみ」
 楽園の中に闇が拡散する。ナターシャは、楽園の力が続く限りリヴェルに回復の光を放ちながら、闇が広がるのを見送る。
 やがて光は消え、そこには闇だけが残される。
 渇きの王もまた、吐き出した血だけを残して、その痕跡を闇に溶かし込んでいた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

トリテレイア・ゼロナイン
地上に紋章を広め世の人々を苦しめる以上、如何に強大な存在であろうと私達は貴方を打倒せねばなりません
騎士としてお相手いたしましょう

(儀礼剣を腰にマウント、盾に集中)
マルチセンサーでの全方位の動体反応の●情報収集、暗視も併用し先制の一撃の方向とタイミング●見切り、●怪力盾受けと脚部スラスターでの●推力移動の微調整した後退で衝撃受け流し

……後手の戦いは、慣れております故

●瞬間思考力で離脱方向把握
足の甲の装甲展開
蹴りの動作で隠蔽式UCの光刃伸ばし●騙し討ちの斬撃浴びせ実体化

不躾な戦法はご容赦を
今度はこちらから仕掛けさせて頂きます

大出力可変式型を取り出し光刃を短く収束し威力集中
闇の紋章へ●投擲



●如何なる敵でも、如何なる手でも
 闇の中に大敵がいる。このダークセイヴァーに紋章を撒き、地上の人々を苦しめる存在が。
 目の前の闇がそれである限り、トリテレイアがそこに立ち向かうことは必然だった。
 自らを騎士と置く以上。騎士を名乗り、人々を護る以上、いずれは必ずこのような敵と戦うこととなる。それが如何に強大な敵であれ、戦わざるを得ない。
 ――騎士とは勝てる戦いに身を置くものではなく、何者かを護る為に戦う者であるためだ。

(さて……どう来るでしょうか)
 トリテレイアは儀礼剣を腰にマウントし、両手で盾を構えていた。
 剣による反撃は恐らく無意味だ。敵が闇の中にいる限り、物理的なものも魔法的なものも、一切のダメージにはなるまい。光によるもの以外は。
 ならば、今は防御に集中するべきだ。
 どれだけ強力な敵であろうと、攻撃の機会は必ず訪れる。それを彼は知っていた。
 人の身では叶わぬ全方位への警戒。カメラ、センサー、マイク。それぞれの入力を最大限まで拡大し、敵の痕跡を探る。
 例え闇と同化していても、攻撃をするならば、その瞬間だけは実体化するはずだ。そう――

(――まさしく、この通りに)
 トリテレイアは斜め前方からの高エネルギー反応を検知し、そちらに盾を向けた。実体化した渇きの王の腕だ。
 受けた衝撃はエラー値を弾き出す。莫大な威力に肉体のフレームが軋む。
 これは――受けきれない。
 盾が大きく破損した。この衝撃を地面に流せば、その通り道となった脚部が破損する。
 瞬時に判断した彼はスラスターを起動し、その衝撃を空中に流した。その体が大きく後方に弾き飛ばされ、空中で姿勢が大きく崩れた。
「ぐ……!」
 スラスターを逆噴射し、その勢いを殺す。辛うじて踏み止まり、トリテレイアは真正面から渇きの王を見据えた。

 渇きの王は不機嫌そうに自らの右手を見ていた。
 その一部は抉れ、熱と光によって鋭く切り取られている。
「……それは何だ」
「不躾な戦法はご容赦を。……所謂光刃、光剣というものです」
 それはトリテレイアの爪先から飛び出す刀身だった。熱と光を放つそれは、ダークセイヴァーの技術体系では到底届かぬ未来にある、疑似フォースセイバー。
 彼は吹き飛ばされながらも、足先を、その先から飛び出す光を渇きの王に命中させていたのだ。
 光を固めた剣たるそれは、彼の闇の紋章の力を奪うには十分な役割を果たす。
「今度はこちらから――仕掛けさせて頂きます」
 そして、彼が手にしたのは爪先のものよりも遥かに大きく、出力の高い光剣。
 彼はその出力を絞り、威力を集中させ構える。上段に構えたそれを、不意打ちで闇の紋章へと投擲した。

「フン……!」
 回転しながら迫るその刃を、渇きの王は右腕で受ける。
 光刃は多大な光と熱でその腕を斬り落としてみせた。代償にその方向は逸れ、闇の紋章への命中は避けられる。
 とはいえ、右腕の欠損。紋章の破壊に勝るとも劣らぬ成果だ。
 それは渇きの王にとって大きい影響を与えるか否か。彼は顔を顰め、再び闇の中へと消えていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

鷲生・嵯泉
御大層な事をほざいているが
闇に紛れねば何をする事も出来ん、臆病者の妄言に過ぎんな
所詮過去の残滓がする事なぞ此の程度という事か

先ずは炙り出してくれよう
灯れ、破滅の焔――緋圏疾影、燎原と化せ
闇も影も欠片も遺さず、焔で以って照らし晒して焼き尽くす
実体化したなら機は逃さん
五感六感全て用い、動きの悉くを捉え見切り
焔を乗せた衝撃波を、囮と、反射での紋章位置の確かめに使い距離を詰め
怪力乗せた斬撃を叩き込み、下らん矜持ごと木端微塵に砕いてくれる
潰えろ、残滓。お前なぞの闇が夜の明ける光を阻めるものか

此れより先は生きるものの為の、光ある世界
骸の海より這い出る過去――其の闇に居場所は無い
絶ち斬られるだけの定めと知れ



●死して後
「御大層な事をほざくものだ」
 嵯泉は刀の柄を握り、闇を見る。そこにあるのは只の暗闇。それ以上でも以下でもない。
 王だ、主だと嘯いたところで、その実態は闇に住まう蝙蝠と変わりない。
「何を宣おうが、闇に紛れねば何をする事も出来ん、臆病者の妄言に過ぎんな」
『随分な物言いだな、剣士よ』
 全方位から聞こえてくるその声は自信と嘲りに満ちていた。
 猟兵との戦いで幾つもの傷を負い、右腕を斬り落とされて尚、その視野は揺らがないようだ。
『だがそういった挑発を重ねて私に敗北した吸血鬼は数知れぬ。死後の名誉を守りたくば、口を閉じるがいい』
「……愚劣極まる男だ」
 嵯泉が大きな溜息を吐くと、その左手の上に現れるのは小さな焔だ。
「灯れ、破滅の焔――緋圏疾影、燎原と化せ」

 灯ったその焔は徐々に大きさを増し、光を増していく。
 部屋全体を照らすまでには至らなくとも、それが放つ衝撃波は部屋中に波及する。
「幾度も、恥を知らずに黄泉返る貴様らとは違う。
 一度限りを生きる我らに、死して尚拾う名誉等在るものか」
 光持つ衝撃波はその時、部屋の中の渇きの王を一瞬だけ照らし出した。それを嵯泉は見逃さない。
 距離を詰める。そして刀を抜くその刹那――渇きの王もまた、彼の眼前にいた。
「ならば貴様に墓は要らぬな」
 血のような赤色を纏う左の拳。それが嵯泉の心臓に打ち込まれる。
「ここで無様に打ち捨てられよ」
 その一撃、『高貴なる赤』が持つ威力は人が受けられるものではない。
 それを喰らったからには心臓は砕け、二度と起き上がることはない。……そのはずだ。

「……?」
 渇きの王は、自らの放つ一撃に十分な威力が乗せられていないことに気付く。
 今のユーベルコードは不完全だ。只の打拳とさして変わりない程度の力でしかない。
「緋圏の焔は、奇跡を焼き尽くす」
 嵯泉の持つ力、緋圏疾影。それはユーベルコードを焼く焔と斬撃からなる二撃の必殺。
 焔の波を受けた渇きの王は、既にその時、自らの力を制限されていたのだ。
 嵯泉にとっての誤算は、それでも尚彼の肋を砕く渇きの王の膂力だったが――その程度で彼の刀は止まらない。
「潰えろ、残滓。お前なぞの闇が夜の明ける光を阻めるものか」
 狙うはその胸に光る紋章。これを奪えば、戦局は一気に猟兵有利に傾く。
 焔に照らされる剣閃が弾ける。それが紋章の上をなぞった。
「ぐぁッ……!」
 だが、完全に砕ける寸前、渇きの王は自ら後方に倒れこんだ。その身は倒れ埃に塗れたが、紋章は守られている。

「此れより先は生きるものの為の、光ある世界。
 骸の海より這い出る過去――其の闇に居場所は無い」
 刀身を向けながら嵯泉は歩み寄る。次は逃がしはしない。確実に紋章を砕く。
「貴様ら過去は、只絶ち斬られるだけの定めと知れ」
 渇きの王は彼を睨め上げながら舌打ちした。その身が闇に包まれていく。
 嵯泉が踏み込み、刀を振ったときにはそれはもう空を切っていた。一息早く、彼は闇と再び同化したのだ。
「逃げるか。死後の名誉を危ぶむべきはお前のようだな」
『小僧……!』
 与えた手傷は浅いものではない。とはいえ、受けた傷もまた浅くはない。
 嵯泉は一たび刀を納め、注意深く後退した。

成功 🔵​🔵​🔴​

シキ・ジルモント
敵の位置を探り攻撃の為の接近を察知する為、回避を主体に敵の出方を窺う
交戦しつつ味方から離れておく
先の戦闘での疲労は承知の上、完全に回避できなくても敵の位置を知る材料になると割り切る
俺の血が付着すれば、その匂いでも追えるかもしれない

ある程度位置や攻撃のタイミングを把握したら、敵接近に合わせて小型スタングレネードを高く投げる
同時に味方には耳と目を守るよう声を掛ける
部屋も広く予め距離も取った、味方の被害は恐らく最小限
敵を閃光に晒し実体化させたい

実体化後は叩き付けに合わせ敵頭上へ跳び、地形破壊の影響を攻撃ごと避けてユーベルコードで反撃
『番犬』同様に紋章で強化されているなら、闇の紋章への攻撃と破壊を狙う



●一撃の交錯
 闇の中、どこから攻撃が来るか。
 それを見切ることは不可能だ。相手は目で捉えられるようにはなっていない。
 敵の位置を探る為にはまずは回避だ。回避を主体に立ち回れば、自ずとその位置が見え始める。
(……とはいえ)
 それはシキ自身が自覚していることであったが、彼は先程の番犬との戦いでも回避のために集中力と体力を消耗していた。
 敵の攻撃力、速度は先程よりもさらに上。予備動作を見ることはできないと考えていい。
 となれば、もはや完全な回避は難しい。ある程度のダメージを覚悟すべきだろう。

 シキの考えに対し、渇きの王の狙いはやや異なっていた。
 彼は猟兵からの度重なる攻撃を受け、追い詰められていた。彼は闇の中に消えることはできても、その中で自らを癒す術を持たない。
 故に、これ以上の体力の消耗を避けたい。彼の狙いは、一撃でシキを仕留めることだった。
 彼は声を発さない。闇の中にいる限り、その接近に気付く者はおらず、その居場所も、狙いも掴むことはできない。
 左手に赤色が宿る。一撃で相手を死に至らしめる高威力のユーベルコードだ。
 いつでも放てるように構えつつ、渇きの王はシキの背後を取った。そのことに、シキは気付かない。気付くことはできない。

(……遅い。なぜ攻撃が来ない)
 気を張り詰めていたシキは、敵の攻撃が未だ訪れないことを訝しんでいた。
 攻撃が来ないということは、一体何を狙っている?
 闇の中にある敵の存在に勘付くことはできなくとも、洞察を巡らすことはできる。
(ある程度の攻撃を繰り返すことで体力を削ぎ、そして仕留める。……これが奴の戦法)
 だがこの戦法には欠点がある。攻撃を繰り返す以上、仕留めるまでの間にその位置を掴まれる危険があることだ。
 それはまさしくシキが狙っていたことであった。渇きの王はそれを警戒しているのか?
(戦法を切り替えた……なら、何をしてくる?)
 位置を探られる危険を冒して体力を削ぐことを諦めるならば、その逆の戦法を取ってくる。
 つまり、一撃必殺狙い。もしそうなら――
(――奴は既に、俺の近くにいる!)
 積み上げられた経験が彼の身体を動かした。スタングレネードのピンを抜き、上空に放る。

 閃光が部屋を満たす。同時に咄嗟に振り向いたシキと渇きの王の視線がかち合った。
「そこか――!」
「死ねい――!」
 銃を構え、引き金を引く。その動作より、渇きの王の攻撃のほうが速かった。
 引き金を引くと同時、渇きの王の拳がシキの胸元に辿り着く。
 ……だが、その拳がシキの身体を貫くことはなかった。シキ自身の身体が、渇きの王から遠ざかるように後ろに弾かれたからだ。
 デストロイ・トリガー。威力の代償として巨大な反動を使用者に叩き付ける弾丸。
 しかし反動が。シキの身体を後ろに引っ張ったその反動が、彼の命を救ったのだ。
 渇きの王の一撃と交差した弾丸が、彼の胸元を射抜く。その通り道にあった紋章もまた、その端が欠ける。
「がはぁ……!」
 渇きの王は血を吐き出すと、すぐに後ろに倒れこみ、同時にその姿を消す。
 敵が消えた後で、シキは自らの胸元にそっと手で触れた。痛みはあるが、傷はない。
「……九死に一生、だな」
 冷や汗が出る体験を経て、彼は思わず深いため息を吐いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

リューイン・ランサード
ひかるさん(f07833)と

あ…これ死ぬかも(;゚Д゚)ガクブル
とヘタレの虫が起きた所に女神の励ましを受けて立ち向かう

敵先制UCは、背中にしがみ付いたひかるさんを尻尾で抱き締め、第六感と見切りでタイミングを読み、残像を残しつつ翼を羽ばたかせての空中戦で二人とも空中退避

ひかるさんの鼓舞で恐怖を克服してUC発動
UCのバリアとオーラ防御を(ひかるさんごと)纏い、翼と手足と空中戦を使って室内を巧みに機動変えつつ高速移動(速度は程々)

残像をばら撒き、頭上から襲う残像を生み出しつつ即座に地面スレスレに接近

反撃はビームシールドで受け、双剣の光の属性攻撃・2回攻撃・怪力・鎧無視攻撃で闇の紋章を十字に斬る!


荒谷・ひかる
リューさん(f13950)と一緒に

大丈夫です、リューさん。
一人じゃ絶対勝てない相手ですが……二人でなら、絶対負けません!

リューさんの背にしがみつきつつ、即座に背後へスタングレネードを投擲
敵を炙り出しつつ、その閃光を光の精霊さんの力にして【光と風の精霊日和】発動
この場の環境を一時的に「快晴の屋外」へと書き換える
このコードの対象はあくまで「場」
それゆえに「防御する」という行動は取れず、略奪も不発のはず
そして効果が及ぶのは上空及び空間なので、地形破壊によっても書き換えは不可能です

その後はリューさんの背で彼を「鼓舞」しながら、精霊銃(レーザー弾)で援護
必要に応じてスタングレネードで光の精霊力を補充する



●二人でなら
 ――死ぬかもしれない。
 そう思って生きる者は一体どれほどいるだろうか?
 UDCアースにはそうはいないかもしれない。アルダワ魔法学園にも、強く意識して生きる者はいないだろう。
 だが、この世界、ダークセイヴァーにおいては。
 むしろ、死を意識せずに日々を生きている者はいない。
 吸血鬼たちが放つオーラ。幾千、幾万の命を事も無げに奪うことができるその力。
 ――ああ。それを前にしてダークセイヴァーの民が感じている恐怖とは、きっとこういうものなのだろう。リューインはそう感じていた。
『小癪な蟲共が。もはや容赦はしない』
 声が孕んだ殺気が全身に叩き付けられ、冷や汗が噴き出る。
 殺そうと思えば殺せる。そういう確信が敵にはある。この闇の中でどうやってそれを倒す?

「大丈夫です、リューさん」
 リューインの背中に声がかけられる。そっと触れる手は暖かい。
「一人じゃ絶対勝てない相手ですが……二人でなら、絶対負けません!」
 今までだってそうだった。一人では到底敵わない相手でも、二人でなら勝てたのだ。
「どんな闇の中でだって、わたしはあなたを見つけられる」
 どんなに強大な敵だったって、二人でなら立ち向かえる。足がすくみ、一歩も動けないような敵でも。
「だから」
 ――戦いましょう。言葉に応え、リューインの翼が大きく開き、その両手に剣が握られる。
 愛する者と世界を守る為には、盾だけでは足りない。
 敵を滅ぼすための剣もまた、守る為に必要なのだ。

 リューインの背にしがみつきながら、ひかるは背後にスタングレネードを投擲する。
 暫くして溢れた光は一瞬だけ渇きの王を照らし出す。
 だが、すぐに消えるその光では大まかな位置の絞り込みにしかならない。再び闇が満ちる。
『無意味なカラクリだ。その命が消えることに変わりはない』
「いいえ、まだこれからです」
 スタングレネードの光は敵を炙り出すためのものではない。あくまでも、糧だ。
 そう――彼女を守るもう一つのもの、精霊。その光の精霊にとっての糧。
 一切の光が差し込まないこの空間において、本来光の精霊の力の行使は難しい。
 だが、こうして光が用意されるならば話は別。
 その時、二人は部屋の中に風が吹くのを感じた。部屋に窓はない。風など本来は吹かないはず。にも拘らず、春の野原のような良い香りの風が吹いてくる。

『なんだ、これは……』
 戦場に現れた変化は風だけではない。闇が消え、光へと塗り替えられていく。
 塗り替えられるのは地面も壁も例外ではない。足元には緑が生え、壁は消えて地平線が見える。そこには、闇などどこにもない、遮蔽物のない屋外の光景があった。
 その緑に、男が降り立つ。負った傷が多く、そして右腕が欠損していた。
「奇怪な術を使うものだ……く……」
 渇きの王は何事か術を行使しようとして頭を抱える。
 奪うことができない。否、元より奪い、行使したところで意味がない。
 戦場そのものを快晴の屋外へと変えるその術は、彼自身にとって何の利も齎さない。
 故に、奪うという対抗策は無意味になるのだ。
「ならば致し方ない。……単純に、叩き潰せばそれで済む」
「来ます。……勝ってくださいね、リューさん」
「はい。必ず」
 絶対に勝てる、と彼女が言ったのだ。その言葉を嘘にはできない。リューインは尻尾で彼女を抱きかかえ、空中へと飛び立った。

 恐怖を克服すれば、それが力となる。
 リューインの持つそのユーベルコードは、まさしく彼に相応しいものだ。
 強大な敵を恐れ、それでも立ち向かう。その勇気に答えるように、何かが彼の背中を押す。
「竜人か。空ならば分があるとでも思ったか」
 渇きの王もまた空中へと飛んだ。マントが蝙蝠の翼のように変形し、彼を滑空させる。
 その空中での機動力は、強化を得たリューインとなお互角。第五の貴族、その力は計り知れない。
 リューインは高速機動を用いてヒットアンドアウェイを試みるも、双剣による剣戟は左腕で防がれ、退こうにも敵は至近に張り付いたまま離れない。
「ちっぽけな、小娘と小僧2匹ごときが。この私に及ぶものか!」
 渇きの王は空中で回転し、リューインに回し蹴りを放つ。
 その衝撃で彼は地上へと弾き飛ばされる。地面に叩き付けられる寸前、翼で何とか勢いを殺し切り、停止した。

「ひかるさん、大丈夫ですか!?」
「は、はい! それより、リューさん。敵の弱点がわかったかもしれません」
「え……!?」
 それは剣を振るい続ける彼では見えないもの。彼の背で、間近で戦いを見ていた彼女だからこそ見えたもの。
 殆ど無意識によるものだろうが――敵は紋章を狙われたとき、それを庇おうと動きが鈍る。
 とはいえ、それもほんの少し。確実に狙えるほどの隙が生じるわけではない。
 それでも、狙うだけの価値はある。リューインが再び羽ばたき、空中に復帰した。
「再び殺されに戻ったか。良かろう。望み通り縊り殺してやる」
「……いいえ。僕が戻ったのは証明するためです」
 一人では絶対に勝てない相手でも。二人ならば絶対に勝てる。
 光の精霊がこの空間を維持できる時間は残り少ない。このタイミングで、決めるしかない。

 我武者羅に剣を振るった。その狙いのほとんどは渇きの王の紋章。
 それを庇おうとする動きに対して、他を刺す。先ほどは防がれ続けた斬撃が当たるようになってくる。
「ぐっ……!」
 渇きの王が呻き、左腕が下がる。胸の紋章が顕わになった。
 今だ。リューインは全霊の剣を重ね、その紋章を奪おうとする。刀身が紋章に触れ――
「『高貴なる赤』……!」
 あと一、二ミリ刀身が入れば宝石が砕ける。その刹那、渇きの王の一撃が炸裂した。
 それは受けたリューインの身体を遥か後方まで弾き飛ばしつつ、彼の肉体深くにもダメージを叩きこんだ。纏ったバリアとオーラがなければ、傷は命まで届いていただろう。
「リューさん!」
「がはっ……ぼ、僕は大丈夫です。でも……」
 光が消えていく。精霊による力が消え、部屋は再び闇へと戻っていく。
 時間切れだ。あと僅かに、紋章を砕くには時間が足りなかった。

「残念だったな……勝ったのはこの私だ。闇は未だ、私の味方だ……!」
 そうして、彼が闇に溶け込もうとした――その時。
 これまで紋章に刻まれてきた、猟兵からの攻撃の数々。
 最後に与えたリューインの一撃が、それらを呼び起こし、表層に露見させた。
 刻まれた罅は瞬く間に広がっていく。そして、ついに耐えきれずに宝石が砕け散った!
「何ぃ……!?」
「や、やった……!」
 それは猟兵たちにとって、実質的な勝利を告げる破砕音であった。
 砕けた欠片がパラパラと地面を叩く。そして、渇きの王はその場に膝を突いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『亜神』

POW   :    ライフレス・スクィーズ
【触れたものから生命力を吸い取る触手】を放ち、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。
SPD   :    ソウルレス・バーン
【肩口の無数の顔から大爆発】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
WIZ   :    フェイスレス・マイン
自身からレベルm半径内の無機物を【触れると大爆発を起こすデッサン人形】に変換し、操作する。解除すると無機物は元に戻る。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠白神・杏華です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●決着
「あ、あり得ぬ……この私が……!」
 闇の紋章を砕かれ、渇きの王は憤りに震えていた。そして地面を殴りつける。
「この私が! このような猟兵ごときに敗れるなど……!」
 だがどれだけ憤っても、もはや決着は見えていた。あとは、闇に紛れる能力を失った渇きの王を仕留めるのみ。
 ――そのはずだった。
 渇きの王の元に、白く輝く謎の紋章が這い寄るまでは。
「!? 何だ、これは……まさか、『神成の紋章』……!?」
 渇きの王は明らかに狼狽し、それを引きはがそうとする。しかし紋章は剥がれることなく、彼は苦しげに呻く。
「こっ……こんな! 何者だ、失敗作をこの私に! ふざけるな……! 私は、私は第五の、貴、族――」
 男の肉体が膨張する。衣服が破れ、皮膚は紫色に染まり、顔面が溶け落ちる。
「ぐ、おおおオオオオァァ、アアアアアア――!」
 肉体は膨張と変形を繰り返す。そこにあったのはもはや第五の貴族、渇きの王ではなかった。
 不気味な肉塊。その肩口から、無数の頭が湧き出してくる。それらは徐々に膨れ上がり――

 ――大爆発を起こした。

●舞い降りる亜神
 ――猟兵たちが目を覚ました時、そこにはもう屋敷は存在していなかった。
 渇きの王だったもの……亜神が巻き起こした大爆発は屋敷を完全に破壊し、猟兵たちを屋敷の外の広場まで弾き飛ばしたのだ。
「ギャアアアア――」
「オオオォォ――」
 広場に響くのは、先ほどまでそこを護っていた「番犬の紋章」を手にした少女たちの叫び声だ。
 彼女らは皆一様に触手に貫かれ、空中に持ち上げられていた。触手が一つ脈打つたびに、見る見るうちにその体が萎れていく。
 触手の根元には、巻き貝のような亜神の下半身があった。少女たちは皆、彼に殺されたようだ。
「く、ズれる。クズレてゆク。私の、この私の身体ガ……」
 少女らから生命力を奪ったと思しき亜神だったが、その甲斐なく、すぐにその体が崩壊を始める。
 どうやら、亜神の肉体は崩壊し続けているようだ。放っておくだけでもいずれは死ぬのだろう。
「命、命、ダ。地上ダ。地上の生命を、啜らネば」
 しかし、彼の目標は地上のようだ。もし彼をこのまま地上に出せば、どれだけの犠牲が出るかわからない。
 とはいえ、亜神の攻撃を真正面から受け続けることは避けられない死を意味する。
 如何にしてこの厄災を足止めするか。人々を救うならば、早急にその策を練らねばならない――1


※『亜神』は『神成の紋章』によって超強化されており、基本的に真正面から攻撃を受け止めることはできません。
※『亜神』の肉体は高速で崩壊しており、攻撃しなくとも常にダメージを受け続けています。
※現在位置から地上の最寄りの集落までは一本道の洞窟のようになっており、一切の足止めがなかった場合は『亜神』が集落まで辿り着き、大虐殺が発生します。

※プレイングの受付は、【1/25(月)8:31~1/28(木)20:00】とさせて頂きます。
 〆切時点で章の達成数に届いていなかった場合、改めて期間を延長いたします。
リーヴァルディ・カーライル
…っ、不覚。まさか形振り構わず自爆するとは…
種族すら越えて変化する…疫病楽団と同じ力?

…いずれにせよ、お前を地上に出す訳にはいかない
これで最後よ、此処で全て終わらせる…!

"血の翼"を広げ"写し身の呪詛"を乱れ撃ち、
無数の存在感のある残像を囮に空中戦を行い、
吸血鬼化した自身の生命力を吸収してUCを二重発動(2回攻撃)

…来たれ、世界を覆う大いなる力よ
其は星々を揺るがし万象を打ち砕く、昏き闇…!

両掌に闇属性攻撃の魔力を溜め"闇の重力"を形成
怪力任せに両手を繋ぎ限界を突破して圧縮した重力球を放ち、
着弾地点を超重力のオーラで防御ごと圧し潰す"闇の渦"を放つ

…とっておきの重力崩壊の呪よ。逃げられると思うな



●闇の一撃
 ……それは何処で見た景色だったか、とリーヴァルディはぼやける思考をまとめた。
 爆発の衝撃はリーヴァルディの思考と視界をばらけさせていたが、徐々にそのどちらもが明瞭になってくる。爆発の直撃を避けられたからだろう。
 ……そうだ、疫病楽団だ。
 渇きの王が別物に進化したその光景は、彼らが奏でる音楽の効果に酷似していた。
 とはいえ、アレと比較すると、目の前の敵はあまりにも強烈に進化した。
 殆ど防いだ攻撃でもこれほどの威力だ。地上に出せば、そこには殺戮の嵐が吹き荒れるだろう。
(そうはさせない。此処で全て終わらせる……!)
 彼女の背で血色の翼が開く。吸血鬼としての力。呪わしき魔力の翼が。

「うゴオオおおぉ、命、血、よコせ……!」
 亜神は這うようにして地上への道を進んでいた。
 本能で生命の位置を感知しているのか、その進路に迷いはない。
「止まれ……!」
 リーヴァルディ――その姿を模した写し身が多数、亜神に躍りかかった。
 その右肩に湧き出た多数の頭の一つがぐるりと背後を振り向き、彼女を見る。
「邪魔、邪魔邪魔邪魔邪魔ダ……!」
 亜神は近くの洞窟の壁を腕の触手で殴りつけ、崩した。
 そこから転がり出た瓦礫の一つ一つが形を変える。顔のない、不気味なデッサン人形となり、それらがリーヴァルディの写し身に飛びついていく。

 人形の正体は爆弾。それも何かに触れれば即座に大爆発を起こす代物。
 彼らがリーヴァルディの写し身に触れ――しかし、その姿がすり抜ける。
「幻、か」
 写し身に激突して起爆するつもりだったその爆弾は、彼女の残像を超え、その背後の壁面に衝突し、大爆発を起こす。
 その熱がリーヴァルディの背中を焼く。だが、その爆風は彼女にさらなる加速をもたらし、亜神にその身を追いつかせる。
「……来たれ、世界を覆う大いなる力よ」
 血の翼を背に頂き、彼女の両手に闇の魔力が集まっていく。
 それはただそこにあるだけで、周囲の瓦礫を砕き、浮かせ、重力を狂わせる球。
「其は星々を揺るがし万象を打ち砕く、昏き闇……!」

 重力球は互いに反発しあった。強力な力を持つもの同士、本来ならば一人の肉体に宿すことすら、身を二つに引き裂かれる危険がある。
 リーヴァルディはそれを、さらに力任せに一つに圧縮する。
「……くっ……ぐっ!」
 吸血鬼の膂力をもってしても、それは明らかに限界を超えた駆動であった。
 筋肉が千切れ、骨が軋む。重力球が互いに近付くにつれ、反発するその力も強くなる。
 ――そうしてやがて、ふっと反発が緩む。重力球はついに、一つに融合したのだ。
 闇の魔力を宿す重力球は渦を巻く。今にも暴れようとするそれを、亜神へと投げつけた。

「――――」
 亜神はそれに対し、踵を返し、再び地上への道を一心不乱に進もうとする。
「逃げられると思うな」
 重力球は亜神の下半身、巻貝のような部位に着弾すると、周辺の地形諸共それを砕く。
「ガ、グガガガァァ」
 それでも尚、亜神は前に進もうとする。やがて押しつぶされたままの下半身は千切れ、解放された上半身だけで亜神が逃げていく。
「こいつ――」
「命、命命、命さえ啜れば、クククヒヒヒヒ……」
 腹部から飛び出ていた内臓が形を変え、再び巻き貝のような下半身を形成した。
 もう一撃、喰らわせるのは間に合わない。リーヴァルディは遠のいていくその姿を見る。
 ……とはいえ、十分なダメージは刻み込んだ。その執念が絶たれるのも、そう遠くはあるまい。

成功 🔵​🔵​🔴​

シキ・ジルモント
【狼と焔】
屋敷ごと吹き飛ばすとはやってくれる
地上へ通すわけにはいかない
…まだ行けるか、結希

崩壊を続ける敵を観察
下半身や腕等の前進に必要な部位の崩壊箇所を探す
あそこは脆い、攻撃を集中させ一時的でも破壊し足止めを試みる

攻撃目標を定めて結希に運んでもらい敵へ接近、ユーベルコードを連続で叩き込む
回避行動は最低限で攻撃に専念
部位破壊による足止めを優先、ここは通さない

行動中、常に敵の肩の顔に注意を払う
膨張は爆発の前兆、行動を中断し結希に知らせ再度助力を頼む
結希が勢い良く飛び込んできてもありがたく受け止めて爆発範囲外へ
結希の力を頼りにしてこそ攻撃に専念できたのだからな

もう一度?当然だ、予備弾倉まで撃ち尽くす


春乃・結希
【狼と焔】

…行けなくても行きます。シキさんもでしょ?

あの威力。地獄の炎でも補えないかもしれない
それよりシキさんが巻き込まれるのは絶対いやだ
だから…

攻撃はシキさんに任せる
私の役目は、シキさんの声を聞き逃さない事、予兆を見逃さない事、それから…今までで1番、速く飛ぶ事
翼の羽搏きと、wandererの踏み込みにより、瞬時に最高速へ
シキさんも連れて爆発から全力で逃れる
腕を掴めたら良いけど…余裕が無ければ身体ごと飛び込んで強引に飛ぶ
爆風を翼で捉えて、もっと早く…!

ごめんシキさんっ…。でも、もう一度行けます、よね!

大丈夫…この人と一緒なら絶対上手くいく
なりそこないの神様になんて、負けたりしません



●命を掴め
 シキは自らが負った損傷を確かめる。
 キメラの少女たちから受けた傷、渇きの王から受けた傷、そして先ほどの爆発。
 いずれも戦闘の続行に支障を来すほどのダメージではない。
 しかし、ならば問題なく戦闘ができるかといえばそうとも限らない。
 戦闘とは命を賭けるもの。万全の状態で臨むことが当然であり、それ以外の状況での戦闘続行はすでに博打。思わぬ失敗が落命につながる世界だ。
「……まだ行けるか、結希」
 それでも、シキは結希にそう呼びかける。自分が行けることは当然であるように。

 結希の状態はシキの状態よりもさらに悪い。彼女の場合、これまでの戦闘で負った直接的な身体へのダメージがある。
 地獄の炎である程度の欠損は補うことができるが、亜神の攻撃にそれでは足りないだろう。
 一手誤れば命を落とす。結希もまた、彼と同じ状況に立たされていた。だが。
「……行けなくても行きます。シキさんもでしょ?」
 自身とそう変わらないシキの状況を見透かしたように、結希が苦笑する。
 そうだ。行けなくても行く。例え危険だとしても行かねばならない。
 亜神をここで通せば、多くの命が失われる。
 しかもそれは、抗う術を持たない、一手の誤りがなくとも死ぬしかない無辜の民。
 止まっていられない。猟兵として、ダークセイヴァーを幾度となく救ってきた者として。
「絶対に、止めます」
「ああ。俺たちで、必ず」

 シキは亜神を逃がさないよう追いつつ、背後からその様子をうかがっていた。
「グオオオォォ、血、腹わた、命……渇キを、我が身体ヲ……!」
 猛然と進むその進撃を支えているのは、腕のように生えた触手だ。
 下半身はほとんど引きずっているだけで、その前進にあまり寄与していないらしい。
 その肉体は絶えず崩壊し続けており、彼が通った道はゲル状の体液で満たされている。
「結希、狙いどころがわかった。あの腕を狙う。運んでくれ」
「了解です!」
 結希の背中に生える焔の翼が羽ばたく。シキを抱え、亜神へと追いつかせ、追い抜く。
「降ろします!」
「頼んだ!」
 彼女が手を離せば、シキは亜神の眼前に着地する。――機関銃のような銃声が響いたのは、その直後だった。

 亜神がそのバランスを大きく崩し、その前進を止めた。
 シキの持つハンドガンが煙を吐く。圧倒的な連射により、その銃口が赤く熱されている。
「ヌ、ウゥ……邪、邪魔、邪魔立テを……!」
 亜神の左腕の触手が大きく抉れ、千切れ飛んでいた。崩壊に合わせる形で、シキの弾丸がその腕に大穴を開けたのだ。
「ここは通さない」
 マガジンをリロードしたシキが、再度嵐のような連射を右腕に叩き込む。
 左腕の時と同様、そこに大穴が穿たれ、亜神は両腕を失い這いつくばる。
「お、ノレ、貴様ラ如きが。この私に、渇きノ王に、地を舐めサセるか――!」
 その声には、隠しようもない怒りと憎しみが溢れていた。
 ――肩口にある無数の顔が沸き立つ。その前兆を見たのは、シキが最も早かった。

「結希! アレが来る!」
 ソウルレス・バーン――魂なき大爆発。堅牢な屋敷を丸ごと吹き飛ばす超威力の一撃だ。
 シキの声に、結希は高速でそちらに飛翔する。脇目に見えた敵の複頭は、すでにかなり膨張していた。
「すみません、歯を食い縛ってください!」
 あの爆発をシキがこの位置から喰らえば、間違いなく粉微塵に吹き飛ばされる。
 そんな最悪の未来だけは避けなければならない。結希は、これまでで一番の速度で、シキの胸に思いきり飛び掛かる。
「ぐぅっ!?」
 その勢いのままに、彼女はシキを掴んで上空に離脱した。
 とても振り向くことはできない。全力で風を叩くその翼を、不吉な光が照らす。

 ――そして想定通り、かつ想定以上の爆風が二人を襲う。
 迫り来る熱に捕まれば死は避けられない。結希は翼を目いっぱいに広げ、爆風を掴む。
(お願い……!)
 シキを抱えながら、彼女は祈った。絶対に彼を助けなければいけない。この場において、攻撃手の彼は希望なのだ。
 この人と一緒なら絶対上手くいく。そう確信して、共に戦っているのだ。
(だから、シキさんを守って……!)
 爆風に煽られる。バランスを崩しそうになる身体をどうにか支え、加速に繋げる。
 燃えるような熱さを背に感じながらも……彼女はやがて、自分が爆心地から離れたところにいると気付いた。

「や……やった。逃げ切りました……!」
「あ、あぁ……あと、もう少し腕の力を緩めてくれると助かる」
「はっ! ご、ごめんシキさんっ……」
「いや、問題ない。結希のおかげで助かった」
 祈り、縋るように込めた腕の力は、思いのほか強くなっていたようだ。
 結希は言われたとおりに腕を緩める。そして、振り返った。
「でも、もう一度行けます、よね!」
「もう一度? ……当然だ。予備弾倉まで撃ち尽くす」
 シキはマガジンを再び落とし、再装填する。
 敵は自爆のダメージから復活し、そろそろ前進を再開する頃合いだろう。
 引き返し、もう一度両腕を破壊する。何度成功するかはわからないが、成功する限りは繰り返して見せる。
 未来ある猟兵と、崩壊していく亜神。時間切れは、敵のほうが先だ。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

トリテレイア・ゼロナイン
(待機中の機械馬を遠隔●操縦し呼び寄せ。運搬させたUCに物資収納スペースの手榴弾取り付け●破壊工作。●騎乗し突撃)

このような形での形態変化は予想外でしたが…地上に累を及ぼさせる訳には参りません
完全崩壊まで時間を稼がせて頂きましょう

UCを点火し一気に肉薄
●怪力で槍を制御し機械馬含めた●推力移動の挙動を瞬間思考力で制御
センサーでの●情報収集で触手の機動●見切り躱し、バリアで●盾受けしつつ突撃し本体を串刺し

人々の安寧の為、地の底へ…骸の海までお引き取り願います

UC●ハッキング限界突破の推力で敵を後退
敵が体勢整え限界と判断すれば槍を手放し騎馬で●踏みつけ離脱
駄目押しに槍に仕掛けた爆弾で推進剤に起爆



●神速
 ――洞窟の道を駆けるものがある。
 それは四つの足を流麗に動かし、高速で進む。馬のようでいて、そうではない。
 大出力のスラスターを搭載し、疲れを知らず走る物。その正体はトリテレイアの操る機械白馬、「ロシナンテⅡ」である。
 馬はやがて、トリテレイアの前に膝を折る。
「来ましたね」
 トリテレイアは愛馬にマウントされた、身の丈ほどもある超巨大な槍を手に取る。
 それは中世の騎士の槍と同様の騎兵槍。移動を馬に任せねば、使うことも難しい代物だ。
「このような形での形態変化は予想外でしたが……地上に累を及ぼさせる訳には参りません」
 今こそ、騎士としての力を揮うべき時。トリテレイアはロシナンテⅡに跨ると、進む亜神の姿を追った。

 亜神は両の腕を激しく振るいながら洞窟の荒れた一本道を進んでいた。
 その背後から、トリテレイアがその巨体を追い抜く。
 彼は馬を翻し立ち塞がるが、亜神は盲人のようにその姿を認めず、速度を緩めない。
「では……人々の安寧の為、地の底へ」
 トリテレイアの握る槍から複数の炎が立ち上がる。たった一本の槍に搭載するには過剰なブースター。
 それもそのはずである。彼が握るその槍は本来、彼の故郷たるスペースシップワールドにて、宇宙船の外壁を破壊するために用いられた武装だからだ。
 仮想敵は宇宙の圧力にも耐える堅牢な壁。そんな代物を、目の前の敵に構える。
「否――骸の海までお引き取り願います」
 ブースターが青白い炎を放ち、限界を超えて駆動する。
 吐き出される推力に振り落とされることなく。馬と槍と一体となって、トリテレイアは突撃した。

「グオオオォォッ……!?」
 腹部を貫かれた亜神が叫ぶ。そのまま彼は突撃の勢いに押され、大きくその道を後退した。
 元より、異様な進化によってバランスの悪い体だ。その猛進を止められるはずもなく、体勢を崩して倒れこむ。
 巨大な槍が排熱の煙を吐く。……まだ、これで終わりではない。
 トリテレイアは倒れた亜神を注意深く観察した。やがて動体センサーに反応が映る。
「力……熱! よコせ……!」
 倒れた亜神の全身から、細長く不気味な触手が伸びてくる。その先端からは、並々ならぬ反エネルギー反応があった。当たれば、そこから一気にエネルギーを奪われるだろう。
 触手の動きは鞭のように鋭く素早い。振り下ろされるそれを盾で捌くも、二撃目の突撃を行う隙は見出せそうになかった。

(……潮時ですね)
 トリテレイアは手にした槍を手放した。重力に従い落ちていくその槍を、馬が蹴り飛ばす。
 再び馬を翻し、離脱する。――その背後で槍が光り、大爆発を巻き起こした。
「何ィ――」
 爆発に呑まれ、亜神の声が途切れる。トリテレイアは離脱時を想定し、槍に幾つかの手榴弾を格納していたのだ。
 洞窟中に亜神の肉片が散らばる。……それでもまだ、死んではいない。
「その様な姿で永らえること……些か同情いたします」
 肉塊が崩れつつも再生する。その姿を背に、トリテレイアは戦場を離脱した。

大成功 🔵​🔵​🔵​

エンジ・カラカ
うわー……。
賢い君、賢い君。失敗作

ボロボロ朽ちてあとはバーン。
生き延びないカラ失敗作。
賢くないヤツ。

アイツはさっさと楽にした方がイイ。
強い?うんうん。ソダネー。

知ってる知ってる

コノ世界を生き延びるヤツに弱い者はいないンだ。

コレは支援に徹する
アイツに近付くのは良くない
なんとなくそんな臭いがするする。
うん。

相棒の拷問器具の賢い君
それから自慢の足
まずは毒の糸を張り巡らせておく

悪いヤツは檻の中にいれなきゃいけないいけない
糸で作った檻に入れてしまおうそうしよう

肩口の顔には君の毒をたーっくさん詰め込む
美味しい?美味しいだろうそうだろう。

苦しんで苦しんでバイバイ
良い人生デシタネ

後は誰かに任せるサ



●牢獄破りて
「グ、グウウゥゥ……おの、オノレ。体が崩レる……」
 亜神の肉体は崩壊を続けている。肉塊がその体から剥がれ落ちたかと思えば、内部からまた腐ったような肉塊が生み出されるのだ。
 再生しながら崩れ続けている。その醜悪さに、エンジは眉を顰める。
「賢い君、賢い君。失敗作」
 どれだけの力があろうとも、エンジから見て、眼前のこれは失敗作だ。
 生物とは生きる物を差す。崩れ続ける肉体を持つコレは、生き延びる力のない失敗作。
 賢しかった頭脳も理性も失い、崩れる肉体を補おうと暴走する。大した凋落ぶりだ。

「アイツはさっさと楽にした方がイイ。強い? うんうん。ソダネー」
 死に向かって進み続けるような生き物でも、コレが強いのは見ればわかった。
「そもそも。コノ世界を生き延びるヤツに弱い者はいないンだ」
 大なり小なり、生存とは競争だ。今の今まで生きてきたということは、その競争に勝ち続けてきたということ。
 渇きの王として生き延びてきた力と知恵は、まだ目の前の相手から消えてはいない。
「……だから、近寄らナイ」
 下手に近付くのは危険だ、とエンジの直感が告げていた。
 屋敷を吹き飛ばした自爆の技はいつ放たれるかわからない。
 あの爆心地でもろに爆発を喰らえば、死は免れまい。
「まったく、悪いヤツだ」

 エンジは薄く笑い、武器を構えた。それは薄く引き伸ばされた毒性の糸。
「悪いヤツは檻の中にいれなきゃいけないいけない……」
 その糸の先が辺りを跳ね回る。気付けば糸は張り巡らされ、大きな檻となって亜神を取り囲んでいた。
「閉じろ」
 意思を持つように、糸が亜神に巻き付いていく。
 鋭さと硬さを併せ持つその糸は、容易く亜神の崩れかけの肉の中に食い込んでいった。
「何、だ……貴様……!」
「賢い君の毒は美味しいだろう? 悪いヤツは、苦しんで苦しんでバイバイしようか」
 毒性の糸は、亜神の肉体の内部に毒の根を張る。それにより、崩れ続ける肉体はさらに加速度的に崩壊していく。
「小、僧……!」
 亜神の肩口から顔が湧き出し、膨れていく。それは危険の予兆だ。
 エンジは糸を操り、さらに重点的にその部位を拘束する。しかし、膨張は収まらない。

(ちょっとマズイか)
 彼は糸を一旦切り離すと、即座に走り出した。その背を、爆風と熱風が激しく叩く。
「……!」
 壁が崩れ、瓦礫が吹き荒れる。飛んでくる岩や石から身を護るべく、エンジは地に伏せた。
 ……やがて爆風が収まるころ、振り返る。爆煙の中で見えたのは、上半身から折れた亜神のシルエットだ。
 シルエットは不気味にうねると、やがて体を元の形に戻し、再び進み始める。
「ちぇ。抜けられチャッタ」
 どうやら先ほどの自爆で糸は千切れてしまったらしい。
 罠の領域を抜けられては、エンジの真価を発揮することももはや難しかった。
「ま、イイ。後は誰かに任せるサ」
 彼は愛おしそうに拷問器具を引き戻す。そして離れていく異形を見送った。

成功 🔵​🔵​🔴​

ナターシャ・フォーサイス
【聖恋】WIZ
滅びに向かってなお、足掻くのですね。
…使徒としては、滅ぶ前に楽園へと導かねばなりませんが。
故にこそ、責を果たしましょう。

紋章の力は凄まじいもの。
真の姿たる機械仕掛けの天使となり、【オーラ防御】を纏い応じましょう。
リヴェルさんもいるとはいえ、やはり厳しいものはあるでしょう。
ただ…それこそが機。
乱発叶わぬ力ではありますが、まずは傷を癒し、欲のまま動く彼の罪を祓いましょう。
次点で天使を呼び、力を―紋章の力を封じましょう。
あまり長くは封じられません、天使達やリヴェルさんと短期決戦です。
【高速詠唱】で詠唱を短縮し、【全力魔法】【焼却】の聖なる光を以て導きます。
どうか、加護のあらんことを。


リヴェル・シックエールズ
【聖恋】 SPD
渇きの王を倒して終わりのはずが、どうしてこんな事に!
しかも生命力を奪って生きるなんて……絶対に止める!

でも中途半端な力じゃダメだよね
だから、奥の手を使うよ!
私の時間を、みんなのために!

「メビウス限定解除っ!嵐よ!吹き荒れろ!」


全力でも真っ向からは厳しそうだし、戦い方は主に足止め!
嵐で岩盤を吹き飛ばして道を封鎖したり、真正面から嵐を当てたり、足止め出来そうなこと全部試そう!
敵の攻撃は高速移動で避けるか、纏った嵐で逸らすなりなんなりして凌ぐ!必要そうならナターシャさんのことも嵐で守る!

でもナターシャさんのユーベルコードの効果が終わったら私は止まるよ

……やっぱり、まだ死にたくないもん



●残る命の削り合い
 ……渇きの王を倒して終わりのはずが、どうしてこんな事に。
 大剣ウロボロスを杖代わりにしながら、リヴェルは痛む体を無理やりに立たせていた。
 第五の貴族、渇きの王。それは紋章を振り撒く厄災であり、黒幕のはずだった。
 その場にいる誰もがそう信じていた――『神成の紋章』が現れるまでは。
「滅びに向かってなお、足掻くのですね」
 ナターシャは悲しげに、猛然と進む亜神を見つめていた。
 それは、自らの手で選ぶことも出来ずに滅びへと向かっていくもの。
 使徒として、救わねばならない。滅びてしまう前に、楽園へと導かねばならない。
 彼女は真の姿を開放する。その姿が変じ、機械仕掛けの天使の名を冠す。
「地上には出させない……絶対に止める!」
 リヴェルもまた、剣を構え、亜神へと向けた。亜神は振り向きもせず、進み続ける。

「メビウス限定解除っ! 嵐よ! 吹き荒れろ!」
 中途半端な力では亜神を削り切ることはできない。だから……と、リヴェルは決意する。
「私の時間を、みんなのために!」
 彼女の寿命は元より短い。刻一刻と迫る終幕に、時の重さを感じなかったことはない。
 リヴェルが手を伸ばした力は、そんな彼女の寿命をさらに削る代物だった。
 寿命を代償に、自在に操る嵐を身に纏う。リヴェルが剣を振るうと、それに従って嵐が吹き荒れた。嵐は岩盤を砕き、洞窟を崩れさせ、亜神の行く手を塞ぐ。
「ヌ、ううゥっ!?」
「行かせないよ。進むのは……私たちを倒してからだ!」
「小癪、ナ。愚か、な。なラば思い知らせてクレよう……!」
 亜神の肩口に無数の顔が生じ、膨れ上がる。爆発が、来る。

 ――それは、何度目の爆発だっただろう。
「ナターシャさん!?」
 耳の奥で鳴る高音に混じり、リヴェルの声が聞こえた。ナターシャはぼやけた視界のピントを合わす。
 真の姿となり、これまでの傷は解消させた。故に、未だ傷の多く残るリヴェルを、彼女がオーラの防御によって守るのは当然の道理。
 リヴェルもまた、ただ守られるだけではない。嵐によって爆風を逸らし、致命的なダメージからナターシャを救ってみせた。
 しかし、そんな彼女らを嘲笑うかのように、亜神は幾度も自爆してみせた。
 その圧倒的な威力は、どれだけ防ごうとしても彼女たちの体力を容赦なく奪う。
 ナターシャのダメージは特に深刻で、真っ直ぐ立ち上がることすら難しい有様だ。
「ナターシャさん、しっかり……!」
「小娘、ドも。ころ、ス……!」
 だが、ナターシャの脳裏にあるのは焦燥でも恐怖でもなかった。
 ――頃合いだ。

「……仇成すものへ……その罪を祓う光を」
 ナターシャの身を光が照らす。同時にその身体に刻まれた傷が癒え、その周囲に光纏う天使が現れる。
 それは、己の受けた傷の全てを癒す技。だが、それだけではない。
「グ、ガアアア……!?」
 亜神は、自らの腕の触手が焦げ、爛れていくのを見た。
 炎に包まれたような爛れは全身に広がっていく。まるで、爆発に巻き込まれたかのように。
「ナ、ナターシャさん。これは……!?」
「……楽園の神罰。自らの受けた傷を癒し、それを相手に倍にして返すものです」
 さらに、召喚された天使らが敵の能力を封じる。
 それはたとえ紋章の力であっても。彼らの放つ光を浴びれば、亜神を強化する神成の紋章の力が薄れていく。
 とはいえ、きわめて強力な技ゆえに、その代償もまた大きい。
 ユーベルコードの発動時間はせいぜいが一分半。それを超えれば、ナターシャは命を落とす。
「一気に決めましょう、リヴェルさん。今しかありません」
 短期に決着を付けなければ、救済の機会は失われる。
 リヴェルも同様、時間制限を抱える身だ。畳みかけるべく、剣を構えた。

 三十秒ほどが経過した。
 亜神は地面を破壊し、飛び出した瓦礫を爆弾人形へと変えて二人に突撃させる。
 ナターシャ操る天使がそれを遠距離から破壊するも、その度に起こる大爆発に視界が潰れる。
 地面を揺るがし、粉塵を巻き上げる爆発に、二人は思ったように攻撃が通せない。
「くっ、邪魔……!」
 リヴェルが嵐を吹き上げ、視界を塞ぐ煙幕を振り払う。その中から現れるのは、さらに多くのデッサン人形たちだ。
「っ……!」
 ナターシャの光がそれらを焼くと、人形は次々に爆発する。再び煙が舞い上がった。

 ――どうもおかしい。この振る舞い、この作戦。
 五十秒が経過したころ、ナターシャは亜神の戦いに違和感を覚え始めていた。
 理性が崩壊し、ただ滅茶苦茶に破壊を繰り返していた亜神が、やけに静かだ。
「まさか……」
 ナターシャは煙幕を振り払い、その奥にある亜神の姿を今一度視認する。
 その肉体は、崩壊していない。異様な姿ではあるものの、その崩壊は止まっている。
 同時に理解した。
 『神成の紋章』の力を無効化するとは即ち、敵の極端に強化された攻撃力を下げ――かつ、その肉体の崩壊を止め、幾分かの理性を取り戻させることを意味するのだ。
 無論それは事前に予測できるような代物ではなく、敵自身も全く知らない現象だっただろう。
 だが現実として、天使による紋章の無力化はそれを引き起こした。
 それを察した亜神は、目の前の敵を退けるべく時間稼ぎのような爆弾を振り撒いたのだ。
 それに気づいても、残り時間は三十秒。もう時間はない。

「リヴェルさん! 次の攻撃で最後です!」
 それは時間切れを告げる言葉だった。最後の攻撃。だから、全力ですべてをぶつける。
 リヴェルは刀身に目一杯の嵐を纏わせ、それを振るった。
 ナターシャは全身から光を放ち、凝縮し、光線として放つ。
 同時に弾けたそれらの力は空中で融合し、光の嵐となって亜神を叩き付ける。
「グオオ、オオォォ……!」
 盾代わりに放ったと思しきデッサン人形が弾かれ、あらぬ方向で爆発を起こす。
 光と嵐と爆発と粉塵。視覚も聴覚も役に立たなくなる、そんな世界の中で――二人は、立ち上がろうと藻掻く亜神の姿を見た。
「……倒し切れませんか」

 ナターシャの力が消える。天使が封じていた紋章の力が復活し、亜神の肉体は再度膨張し、そして崩壊し始めた。
「でも、時間は稼げました。敵の力も削いだ……」
 リヴェルもまた、嵐の力を解除する。もはやこれまでだ。これ以上寿命は削れない。
「そうですね。……一旦引きましょう」
 崩壊によるダメージの蓄積はできなかったものの、彼女らが稼いだ時間は膨大。
 それは他の猟兵たちの体勢を整えるための時間となり、大きな反撃の一手となるだろう。
 そう信じ、二人は亜神が立ち上がるまでの隙に、その場を離脱した。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ニルズヘッグ・ニヴルヘイム
【EVIL】

ったく厄介なことしやがって
攻撃が受け止められない相手の足止めって、私の不得意分野じゃねえか

って訳で、任せて良いか、ハイドラ
大丈夫、兄ちゃんもしっかり援護するから
そういう風に出来るようにしてもらったんだよ
――満願蕾開、【浄授】
私の呪詛なら全部くれてやる
手持ちの符が尽きるまで、全力でハイドラを回復強化し続ける

ハイドラが再生するにも隙はある
私に攻撃が向かうなら回避に専念しよう
呪詛の天幕は無機物ではないからな
デッサン人形なぞにならんで済む、都合の良い防護になる
妹が頑張っているというのに倒れる兄などあるものか
どれほど傷がつこうが死ななければ安いというものよ

洞窟が崩落するならそれも良い足止めだ


ハイドラ・モリアーティ
【EVIL】

ああ、同感
――だからこそチームワークが光るってもんだよ
任せてくれよ兄貴、「止められない」なら別の方法を使うまでだ

【Ὕδρα】
ハロー、神様もどき。邪神様が迎えに来てやったぜ
食らいがいがありそうで助かるよ!
突っ込んでくるお前を食らいつくしてやる
洞窟にミチミチの「俺たち」だ。出るンだったらどうするかわかるな?
さァ削りたきゃ削れ、好きなように壊してみろよ
暴れた端から食らってやる
ボロボロに壊れちゃってかわいそうに、もう見てらンないよ
――外に出ることも叶わねェまま、無様にここで俺に食われてろ

回復強化があるから出来るムチャだ
兄貴に攻撃がいかないようには気を配るが、なにせ俺もデカい
まァ、杞憂だわな



●クライアエ
 「攻撃を受け止めることはできない」。
 他の猟兵との戦闘から見るに、そう結論付けざるを得ないのが亜神の攻撃力だ。
「ったく、厄介なことしやがって」
「あぁ、同感」
 ニルズヘッグは不愉快そうに眉を顰める。
 彼は呪詛により、そうそう死ぬことはない。耐久力も並外れている。
 だから、受け止められる程度の攻撃であれば、それを受け続けて時間を稼ぐことができた。
 だが、今回はそれはできない。となれば、取れる作戦は限られてくる。
「って訳で……任せて良いか、ハイドラ」
 最初の戦闘に続いて、またも妹が盾になることにニルズヘッグは心を痛めていた。
「ああ――こういう厄介な相手だからこそチームワークが光るってもんだろ」
 だが対するハイドラにそういった感傷は見受けられない。得意げな笑みが光る。
「任せてくれよ兄貴、『止められない』なら別の方法を使うまでだ」

 亜神が洞窟を進んでいく。その先の光が、突如途切れる。
「何、ダ……?」
「ハロー、神様もどき。邪神様が迎えに来てやったぜ」
 そこにいたのは洞窟の道をピッタリと塞ぐ、多頭の竜であった。
 邪神ヒュドラ。ハイドラ・モリアーティの真の姿であり、その体躯は可変。
 ゆえにこうして、亜神の道を体で塞ぐこともできる。ハイドラの首の一つが吼えた。
「さァ。出るンだったらどうするかわかるな?」
「お――おおオ、ォオお――」
 亜神は両腕の触手で頭を抱えるような素振りを見せた。そして直後――

「おロか者めガ」
 瞬きの間に、右腕の触手がハイドラの身体に突き刺さる。血液が触手を伝う。
「……ケッ。なんだ? その悪い手はよォ」
 三つの頭が自身に突き刺さる亜神の触手を喰らい、引き千切った。
 切れたその触手を首が奪い合い、バラバラにして呑み込む。
「食らいがいがありそうで助かるよ。こんだけありゃ腹ァ減らずに済みそうだ」
 貫かれた肉体が再生していく。それはハイドラが元より持つ再生能力ではあるが、それだけではない。
「ハイドラ、大丈夫だ。兄ちゃんもしっかり援護するからな」
 ニルズヘッグは莫大な呪詛を抱える邪竜である。
 そして彼が持ち、そしてハイドラに与えた黒符は、呪詛を浄化し回生の力へと転換するもの。
 つまり、呪詛が続く限りその傷を強力に治癒し続けるのだ。
「回復し続けるハイドラと、崩壊し続ける貴様と。どちらがより強いかな」

 亜神の攻撃は止む素振りを見せない。
 一体どれだけ喰らったか、もう覚えてもいないが、全てのハイドラの頭に去来する想いがあった。
(どんだけしぶてェんだ)(こいつ)(もうどれだけ喰った?)
 先程ハイドラが喰らった右の触手は再生している。
 その部位に限らず、これまで喰べた部位のほとんどはもう何度目の捕食かわからない。
「命……命、命命命……!」
 精神を汚染する毒を含んだヒュドラの血液を、既に亜神は全身に浴びていた。
 だが、その精神は元より壊れているとでもいうのか、暴威と狂気に陰りは見えない。
「がッ……!」
 細く鋭い触手が、ハイドラの頭の一つを貫く。立て続けに突き刺さってくるそれは、拍動と共に彼女の生命力を奪おうとする。
「て、めェ、勝手な真似してんじゃねぇ……!」
 ハイドラは自ら頭の一つを斬り落とし、敵の生命吸収を最小限に留める。毒の血が洞窟を浸す。

 続く戦いに、二人は徐々に旗色の悪さを感じ始めていた。
 作戦に誤りはなかった。敵の肉体が崩壊し続ける以上、この足止めは最も敵を苦しめる策だ。
 すべての誤算は、「亜神の攻撃力」に集約される。神成の紋章による攻撃力の異常強化は、二人の想像をさらに超えたものだった。
「ハイドラ、大丈夫か!?」
「……あァ、全然問題ないね。俄然食欲が湧いてきたところだ……!」
 ハイドラの頭が二つ、無防備な亜神の両腕に咬み付き、千切り喰らう。
 だがニルズヘッグは解っていた。妹の虚勢を。今自分が感じている不利を、彼女自身が最も感じているのだと。
「フむ……私もダ……命、血、力、貴様のヲ私にもよこセ――!」
 亜神の全身を突き破って細長い触手が飛び出した。それらがハイドラに突き刺さる。
「グ、ア……アアアァッ!!」
 触手から奪われる命を補うように、九つの頭が目の前の相手の肉を喰らう。
 喰らい、糧としているのは果たしてどちらの命なのか。自らが奪った生命力を奪い返され、そしてそれをまた奪う。
 邪神と亜神。対峙する両者はどちらも怪物。その争いもまた狂気を帯びていた。

 ――亜神の触手を切り裂くものがあった。
 それはニルズヘッグの槍である。彼は亜神の前に、ハイドラを護るように立つ。
「オイ、何やってんだ兄貴! 危ないだろ、下がってろ!」
「悪いな、ハイドラ。……弾切れだ。今お前に付けたのが最後」
 怪物同士の喰らい合いの均衡が保たれていたのは、ニルズヘッグのサポートによるものが大きい。素のハイドラの再生能力では、先ほどのような芸当は不可能だ。
 それが切れたとなれば、もはや今までの戦闘は継続できない。
「だが、まだ――!」
「今の傷を回復するまで、私が時間を稼ぐ。それまでじっとしてるんだぞ!」
 ニルズヘッグは槍を片手に亜神へと肉薄した。
 触手による攻撃は受けられない。槍による捌きと回避に専念しつつ彼は戦う。

「ちょこ……マカト……」
 亜神は地面を砕くと、そこから大量のデッサン人形を湧き上がらせた。
 見た目は人形でも、その正体は爆弾。ニルズヘッグは下がりつつ、呪詛の盾を展開する。
「よく狙えよ、人形共」
 人形が突っ込んでくるのを、ニルズヘッグは避けようとしなかった。
 無数の爆弾が突撃し――大爆発を起こし、洞窟の壁や天井を崩れさせる。
「ヌ――!?」
 崩れた岩は積み重なり、壁となる。築かれていく壁の中で、亜神の瞳が揺れる。
「よくやってくれた。貴様は自分から道を閉ざしたのだ」
 崩落が道を塞ぎ、二人と亜神を隔離した。
 壁を破ろうと激しく打ち据える音を聞きつつ、彼は振り向く。

「ハイドラ。……怪我もだいぶ塞がったみたいだな! よかったよかった」
 ハイドラはバツが悪そうに、人間の姿に戻っていた。ニルズヘッグから目を逸らす。
「……兄貴のほうが重傷だろ。回復、とっときゃ良かったのに」
「え? 重傷? 私が?」
 ニルズヘッグは首を傾げたあと、額を拭った。手を見ると、確かにそこには大量の血が付着している。亜神の爆弾は、呪詛の天幕を以てしても完全には防げなかったようだ。
「あぁー……まぁ、死ななければ安いというやつだ!
 それに妹が頑張ってるのに、先に倒れる兄なんているものか!」
「……バカ」
 からからと笑うニルズヘッグに、ハイドラはまた悪態をつく。
「そろそろ壁が破られそうだ。さっさとずらかろう」
 十分な時間は既に稼いだ。こちらの負傷も軽くないが、敵もまた削られている。
 二人は荒れ果てた洞窟道を通り、戦場を離脱した。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ヴィクティム・ウィンターミュート
ハッ──随分ゴキゲンな見てくれになっちまったじゃねえか
末路としちゃお似合いだが、残念なことに笑える状況じゃあねえな
死の間際に腹減らし過ぎなんだよ──行かせやしねぇ

こっちもワイルドカードを開帳だ
Void Link Start
制限を解除、権能励起
───『Distortion』
テメェの爆発をまともに受けるわけにはいかない
だから、「そんな事実は無かった」と改変する
あとはゴールされちまう前に仕留めるしかねえ

下の巻貝と肉体の結合部分を重点的に狙う
ナイフで切り裂き、ショットガンで追撃しながら
「よりダメージ」を受けたと改変
爆発をしてこようもんならそれにもノーを突きつける
化物は大人しく、化物と遊んでいけよ



●時の支配者
 ハッ──随分ゴキゲンな見てくれになっちまったじゃねえか。
 貴族然とした振る舞いを失い、獣のように暴走する亜神を、ヴィクティムは嗤った。
 嗤える話だが、しかし生憎笑っていられる状況ではない。
 敵の攻撃能力は、所謂「幹部級」に相当する代物だ。ならば、手段は選んでいられない。
「行かせやしねぇ。――こっちもワイルドカードを開帳といくか」
 ――Void Link Start.
 ヴィクティムは、何処とも知れぬ闇と己を繋げる。
 ――Sudo Remove Restrictions.
 虚無に呑まれることなく虚無へと浸り、それを振るう権能を取得する。
 ――Function Excitation.
 漆黒の虚無は電脳から現実へと滲みだす。ヴィクティムの姿を黒で覆い、裡で暴れるその力は彼の体内を容赦なく傷つけ、その瞳から血を流させる。
 ――Void Break『Distortion』.

 骸の海から溢れる力を纏ったヴィクティムが、亜神の前に立ちはだかる。
「コ、アアァァ……邪魔、ダ」
 亜神がその腕を振るう。それがヴィクティムの身体に命中し、吹き飛ばされ――
 世界が黒く染まる。吹き飛ばされたはずの彼の身体は、気付けば亜神へと肉薄していた。
「何――!?」
 至近から亜神へとショットガンが撃ち込まれる。弾丸はその肉体へ食い込み――
 再び世界が黒く染まる。細かく小さいはずの弾丸に比して、その銃創はまるで大砲を撃ち込まれたかのようだった。
「ガ、アァ――小、僧ォォ!!」
 倒れ伏した亜神の肩口に無数の顔が浮かび上がる。それらが膨れ、爆発し――

「時ヨ、歪メ」
 世界が黒く染まると同時、ヴィクティムは無数のコードを周辺空間へと撃ち込んだ。
 時は止まり、爆炎が近くまで迫っている。彼はそれをその場から消滅させる。
「コノ場、コノ空間ノ支配者ハ俺ダ」
 彼の能力、『Distortion』。その正体は「過去改変」である。
 自らの身体に触手による攻撃が命中すれば、その事実を消し、さらに「自分は接敵していた」と改変し、敵へと迫る。
 ショットガンが命中すれば、その弾丸はより大きな傷を与えたと改変する。
 そして今再び、敵の爆発の事実を打ち消した。――世界が色を取り戻す。
「……これハ」
 続けざまに、ヴィクティムは亜神の上半身と巻貝めいた下半身の接続部を狙い、ナイフを滑らせる。
(何も、悟るな)
 ショットガンによるダメージも重なり、その身体が分かれそうになる。
(何も悟らず死んでいけ。化物は大人しく、化物と遊んでいけよ……!)
 亜神の目がヴィクティムを見つめていた。空虚な目で、何かを見定めるように、静かに。

 あと少しでその肉体を上下に切り離してやれる。ズタズタに引き裂かれた、身体を辛うじて繋ぎ留めている肉に、彼はナイフを振るう。
 ――それが命中する寸前、肉は自ら千切れ飛んだ。
「ア……?」
 亜神の上半身は空高く飛び上がると、天井にしがみ付き、蟲のように張り付きながら進む。
 その進路はこれまで同様、地上への道。
「クソガ、行カセ――」
 それを追おうとしたヴィクティムの心臓が強く脈打つ。衝撃に思わず膝を突いた。
「……時間切れか」
 過去を改変する虚無の力。それは到底、人の身で長く振るえるものではない。
 それを察してか、亜神はただ逃げていく。残された下半身が、ヴィクティムの近くで溶けていった。

成功 🔵​🔵​🔴​

鷲生・嵯泉
結局はこいつも唯の駒と云った処か……愚かも此処迄に至っては嗤えもせん
しかし此れ以上、此の愚物を先へ進ませる訳にはいかん

気配・身体の動きやブレ、氣の流れの変化等から動きの先読みを計って見切り躱す
流石に此の侭では近付き難い――祕神落妖、我が意に従え
岩の間欠泉を方々に出現させ傀儡へのカウンターに当て攻撃を相殺
同時に盾として使い、其の合間を縫い接敵
怪力乗せた斬撃で以って、1度で足りねば2度3度、斃れる迄斬ってくれる
王などとほざこうが所詮は過去の残滓――疾く潰えろ

命も未来も、お前如きにくれてやるものは何処にも存在しない
其の姿も腐った性根が齎した当然の帰結
此の地の底で、相応しい最後を迎えるがいい



●其の命の終わり
 ――第五の貴族としてすべての黒幕を気取っても、末路はこれか。
 嵯泉は狂気の行進を止めない亜神の進む先に立ち、刀を構えていた。
「愚かも此処迄に至っては嗤えもせん」
 その上、己の愚かさが招いた崩壊を無辜の民の命で補おうとは。
 形振りも構わないその突撃に未来はない。決して進ませはしない。
「邪、魔、ダ……!」
 亜神は進撃の勢いを殺さぬまま、右腕の触手を嵯泉へと伸ばす。それは伸縮自在の槍。人の肉体を突き破るに容易い一撃だ。
 嵯泉はそれを半歩ほど身体をずらして避け、返しに刀で切り裂いた。
「ガアァ……!」
 斬り落とされた触手が地面に落ち、悶えうねる。彼はそれを踏みにじり、本体を睨む。

 亜神は残る触手で洞窟の壁を殴りつけた。崩れた壁から、大量の人形が姿を現す。
 フェイスレス・マイン。顔なき地雷人形。それらが嵯泉に殺到する。
「所詮無駄な足掻きだ」
 その人形を叩き付ける水流が、突如壁から湧き出した。間欠泉である。
 勢いよく噴き出した泉は人形を弾き飛ばし、同時に起爆させた。
 爆炎と熱を持った泉が混じる。蒸気と粉塵は混ざり、周囲一面を真っ白に染め上げる。
「命も未来も、お前如きにくれてやるものは何処にも存在しない」
 視界がいかに薄れようと、常に呻き声をあげる亜神の位置を掴むことは容易い。
 嵯泉は一刀のもとに、残る腕の触手を斬り落とした。亜神はその身体を支えることができなくなり、その場に倒れる。
「王などとほざこうが所詮は過去の残滓――疾く潰えろ」
 彼は倒れた亜神の頭を踏みつけ、その首めがけて刀を振り下ろす。業物たる刃はその腐りかけた肉を切り離し、頭をゴロリと転がした。

「……死んだか」
 亜神の肉体が崩れ折れる。首を失った巨体は倒れ、腐り消えていく。
「……テ……ル」
 すると、亜神の頭から小さく声が聞こえた。嵯泉はそこに歩み寄っていく。
(遺言か、恨み言か。何れにせよ聞いてやる価値は無い)
 止めを刺す。再び刀を振り上げ――
「殺しテやルぞ、小僧」
 ――明瞭な発話ののち、亜神の目玉から大量のデッサン人形が飛び出した。
「此れは――!」
 頭に何か入れていた? いや、或いは頭内部の器官を変換した?
 どちらでも変わらない。嵯泉は人形と自らの間に間欠泉を噴出させつつ、後ろに跳ぶ。
 泉の壁に触れた人形らが大爆発を起こした。水で如何ほどかの勢いを殺すことはできたが、それでも無傷とはいかない。嵯泉の身体が後方に吹き飛ぶ。

「くっ……」
 ……最期に道連れを図ったか? 嵯泉は受け身を取りつつ、煙幕の先を見る。
「グ、オオ、オオォ――オオオォォォォ!!」
 彼が隻眼にて捉えたのは、咆哮を上げ立ち上がる亜神の姿だ。
 だが身体は崩れ、頭も今爆散して消えたはず。一体奴は何処から――
「――そう云う事か」
 彼が見たのは亜神の右腕。そこに、白色の宝石――神成の紋章が装着されている。
 先ほど嵯泉が斬り落とした触手に紋章が張り付いたのだ。それを起点として、再生し、亜神は再び地上へと進み始めた。
 頭を失い、身体を失い。アレにはもはや、渇きの王としての肉体も精神も残っていまい。
 それでも止まらぬのは妄執故か。神の成り損ない……静かになった洞窟内で、彼は刀を納めた。

成功 🔵​🔵​🔴​

荒谷・ひかる
【竜鬼】
逸る気持ちもわかりますけど、焦りは禁物ですよ!
じっくりと丁寧に、確実に仕留めましょう!

前回に引き続きリューさんの背中に乗せてもらい、飛行しながら戦闘
コード発動が間に合わない、或いは足止めや打ち消しを抜けてくる等の場合に備えて、精霊銃(レーザー弾)での迎撃も準備しておく

リューさんに先んじて【幻想精霊舞】を発動
闇と大地の精霊さんの力で高重力場と地形崩壊(地割れや流砂化)を発生させてもらい、敵本体やコードで出てくる人形を足止め
(地上かつ闇の強い場所のはずなのでいつも以上に効果は強力なはず)
また、先にわたしが仕掛けることで敵コードを発動させることでリューさんのコードの成功率上昇も狙う


リューイン・ランサード
【竜鬼】
(恐怖を乗り越えた心境のまま)誰も殺させない、ここで倒す!
背中にしがみ付いたひかるさんを尻尾で抱き締め、翼で空を飛んで遠距離から亜神に対処。

ひかるさんのUCで足止めし、僕のUCで亜神のUCを無効化。
僕のUCが間に合わない場合や通常攻撃に対しては、第六感で危険感知し、見切りで敵攻撃範囲を把握し、翼による空中戦で回避。
避けきれない場合のみ、防御結界とビームシールドで受け流しつつ後方に大きく移動、余波はひかるさんごと纏ったオーラ防御で防ぐ。

多重詠唱・高速詠唱・全力魔法で紡いだ風と炎の属性攻撃&精神攻撃を巻き貝及び足代わりの触手部分に放ち、切断し焼却し心を穿って崩壊促進。

亜神を倒す迄繰り返す!



●神と成る者
 再生と崩壊を繰り返すうち、亜神は既に、元の肉体の全てを失っていた。
 渇きの王としての人格ももはや消え失せているだろう。今のソレはただ、地上を目指して進み続ける一個の災厄に過ぎない。
 ひたすらに進み続けるうち、亜神は徐々に地上へと近付いてきていた。
 進む先。洞窟の外から、地上の光が差し込み始める。
「これ以上進ませない。誰も殺させない……ここで倒す!」
 竜の尾でひかるを抱きかかえながら、リューインは洞窟内を飛んでいた。
 亜神を追い越し、地上へと敵を出さないように先回りする。
「逸る気持ちもわかりますけど、焦りは禁物ですよ!」
 確かに、時間がない。だが時間がないからこそ、今ここで焦ってはいけないのだ。
 一手誤れば亜神は集落に辿り着く。ここで敵を仕留めることが何より肝要だ。
「じっくりと丁寧に……確実に仕留めましょう!」

 ひかるの付近に、闇と大地の精霊が浮かび上がる。
 大地の精霊が薄く光ると、亜神が進む先で地面に罅が入る。そこに彼が移動のために触手を叩き付けると、罅は瞬く間に広がり、砕け割れた。亜神が姿勢を崩し、地に呑まれていく。
「アアアアァァァ……!?」
 その穴の先は大地の精霊が作り出した空洞の空間だ。二人は亜神を追って、その中へ飛ぶ。
 作り出されたその空間には光が差し込まない。故に、闇の精霊もまたその力を発揮できる。
 闇より生まれた強力な重力が亜神に叩き付けられた。崩れる体がさらに崩壊する。
「小娘、ガ、アァ……!」
 亜神が蠢き、地面が隆起する。隆起した大地は形を変え、爆弾の人形が湧き出してくる。
「……あれが、亜神の能力」
 リューインはその発動を注意深く見ていた。恐らくは無機物を変換し操作するUC。
 どこで、何を変換するか。それさえ見逃さなければ――。
 湧き出した人形らは、高重力の中でも少しずつ這い上がってくる。
 リューインは登ってくる人形の群れに風の波をぶつけた。人形が壁から剥がれ落ち、亜神の元へと落ち……そして、爆発する。
「グオオオォォッ……!」

 自らの爆弾で大きなダメージを受けた亜神が叫ぶ。
 ……追い詰めている。この空間から出さずに殺し切れば、犠牲なく勝利できるはずだ。
「我、我は、私ハ、我我我――」
 亜神は狂ったように同じ言葉を繰り返しながら、再び地面を叩く。
「そこです! 世界に遍在するマナよ、時の流れを遡り穏やかなる過去を再現せよ――!」
 リューインは地面の隆起を見逃さない。
 湧き出そうとする人形にぶつけられるのは時の魔力。時を巻き戻す力だ。
 ユーベルコードの発動に対し、通常と異なる時の流れをぶつけ、発動自体を打ち消す魔術。
 これにより、亜神の新たな爆弾の生成は阻止される。そしてユーベルコードなしでは、亜神は空中にいる二人に手出しができない。
 これなら勝てる。このまま亜神を削り切ることができる――。
 リューインの右手に風の魔力。左手に炎の魔力が宿る。
 炎と風は互いに力を高め合うマナだ。地下めがけてそれを放れば、風に煽られ強まった炎が嵐となって吹き荒れる。炎の嵐の中で亜神が呻いた。
(よし、効いてる……! 殺し切るまで繰り返せば、必ず)

 ――その時、リューインは見た。
 亜神の心臓部に食い込む神成の紋章が光り輝く。更なる力を供給するかのように。
 次の瞬間、空洞の空間の壁が蠢いた。暗くゴツゴツとした岩肌が、何か別物に変わる。
「――これ、は」
 彼は見た。その壁の変化――正体は、爆弾の人形。壁中にびっしりと張り付き、カタカタと蠢く人形だ。
「アドヴェントパスト……!」
 ――ダメだ。これほど大量の人形全てを巻き戻すことはできない。
(なら、せめて……!)
 リューインは時の魔力を自らの付近の人形にだけぶつけて無力化すると、すぐに翼を羽ばたかせ、地下空間から脱出する。
「リューさん!?」
「しっかり掴まっててください、ひかるさん――!」
 加速に加速を重ね、とにかく距離を離す。空高く、太陽に手が届くほどの勢いで。

 その背後で、地上が吹き飛んだ。
 轟音と共に噴き上がる爆炎はどこまでも二人を追ってくる。風の魔力、そして風の精霊の助力で炎を逸らすが、その熱は消し切れない。
「くっ……!」
 リューインはビームシールドを展開し、熱と炎から自らとひかるを守った。
 さらに水属性のオーラを球状に広げ、その中に入り込む。上空に逃れたことも幸いして、やがて炎は勢いを失い、二人にとっての脅威ではなくなった。
 身を守り切った二人は、改めて地上を見渡す。
 まるで火山が噴火したかのように、周囲は溶岩だらけになっている。あの大爆発によって地底空間は完全に崩壊したようだ。
 幸いにして、大爆発によって崩壊した地形の周辺に人の姿はない。犠牲者こそないが、少なくとも周辺の地図を書き換える必要はあるだろう。
「あ……ありがとうございます、リューさん。助かりました」
「い、いえ。……それにしても、とんでもない威力……い、今更ながら寒気が……」
 リューインの脅威を見抜く力がなければ、間違いなく消し炭にされていた。
 或いは、ひかるの助力によって前もって敵の爆弾が生成される直前の挙動を知っていなければ、逃げ切ることも難しかっただろう。

「そういえば、亜神は……?」
 未だ強い熱の残る地上へ近づき、二人は亜神を探した。
 あれほどの大爆発の爆心地にいたのだ。もう消滅していてもおかしくはないが……。
「リューさん、あれ……!」
 ひかるは遥か遠くに集落と、そしてそれに近付いていく亜神を見つけた。
 集落までの距離はおおよそ10km程度か。……だが、その身体は既に崩れ切っている。
 妄執も、そして神成の紋章の力も尽きたようだ。ズルズルと身体を引きずりながら進むも、もはや辿り着くよりも先に死ぬだろう。
「……哀れですね」
 問題は、あの『神成の紋章』だ。何処から湧き出し、そして何者が操るものなのか。
 どこか胸に残る靄を覚えつつ、二人は帰還した。
 少なくとも。この戦いは、猟兵の勝利だ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

水衛・巽
【暗路】
在り方、ねえ
個人的には自業自得かなと感じますが
貴方の知的欲求につきあうのは吝かではありません
それにアレを看過するのは単純に面白くない

亜神の後方より青龍と共に奇襲狙いで接近し
「渇きの王」の真の名、あるいは
「渇きの王」が真の名かを確認するため
爆発を軽減させる前提で洞窟内に水流を放たせる

爆発は感覚を限界突破させた第六感で予測し
重傷以上のみを回避
さらに硬度をリミッター解除した結界術と
青龍の水流による防御壁で軽減

さて 飽くことなき渇望の王
才知ない獣のまま、暗路の中で文字通り壊れるより
尊い貴族として王として死するほうが
貴方にとってよほど望ましいのでは?


納・正純
【暗路】
力を貸しな、巽。紋章の正体よりも、俺はまだあの野郎の在り方に興味があるのさ
それに、対処療法は性に合わねえ。一発デカく賭けてみねえか

・方針
巽のUC発動を待ってから【知性有理】発動
敵の真の名とやらがまだ『渇きの王』のままなら、理性ある交渉の余地はある
亜神に取り込まれた渇きの王を狙い撃ち、知性と正気を与えて尊厳死できるよう取引を持ちかける
亜神の影響で良い返事が聞けない時はどうするか? 更に知性を与えて質問するだけさ
渇きの王が知性を取り戻せば、敵のUCの威力も弱まるだろ
取引だ、『渇きの王』。お前の尊厳とやらを見せてくれよ、第五貴族殿?
お前の名前は何だっけ? 自称で構わないから教えてくれよ



●其の魂の終末
 ――進め。進メ。ススメ。
 ――どこに向かって?
 ――命アル方ヘ。ヒタスラニ進メ。
 ――進んでどうする?
 ――命ヲ奪エ。奪イ尽クシ、蘇レ。
 ――何者として?

「力を貸しな、巽。紋章の正体よりも、俺はまだあの野郎の在り方に興味があるのさ」
 すべての決着が着いた。亜神は自らの力による大爆発によって致命的なダメージを受け、崩れ続ける体でのそのそと地上を進んでいる。
 だが、その背後から接近する二人の猟兵がいた。正純と巽の二人である。
「はぁ……もう死にかけのこれをどうこうする理由はない気がしますが……」
「そういう問題じゃァない。これは」
「ええ、わかってますよ。それに貴方の知的欲求につきあうのは吝かではありません」
 巽は崩れた体を引きずり動く亜神を訝し気な目で見つめた。
 彼個人の見解としては、こうなることは自業自得以外の何物でもなかった。
 力に溺れ、全てを操る気でいた第五の貴族が何者かに裏をかかれた。それだけだ。
「急急如律令。疾く暴け、青龍」
 彼が札を翳せば、そこに水の流れが生み出される。水流は水龍となり、進もうとする亜神を押し流し、遮った。

 ――何だ。邪魔だ、どけ。
 ――進め、ススメ、ススメススメススメ。
 ――この私を誰だと思っている。
 ――ススメ。ススメススメ、進ミ続ケロ。
 ――黙れ。私に命令するな、私は。私は……。
 ――私の、名は。

「オオオォォ――オオオオオ」
 もはや強い叫び声を上げることもなく、そして抵抗も薄く。亜神は激流に押し流されていく。
 青龍はこの一瞬の接触にて全てを識る。その対象の習性、そして真の名をも。
「正純さん、解りましたよ。彼の真名は未だ『渇きの王』。やってみる価値はあります」
「そいつは良いニュースだ。では――」
 正純は精霊銃を構える。そこに籠められたのは智性を授ける光の弾丸。
 亜神の肉体に、その光が撃ち込まれる。
「さぁ、取引だ、渇きの王。――お前の名前は?」
 虚ろな亜神の目に知性の光が宿る。同時に、それは憎しみに染まっていく。
「……わた……しの、名は」
 ――私の名は、渇きの王。吸血鬼を統べる第五の貴族。
 知性の光は正純の思い通りに、消えかけた渇きの王の自我を再び蘇らせた。

「さて……飽くことなき渇望の王。貴方には所謂尊厳死をお勧めしますよ」
 巽が形ばかりの敬意でそう持ち掛ける。亜神は崩れた体を無理やりに起こす。
「才知ない獣のまま、暗路の中で文字通り壊れるより。
 尊い貴族として王として死するほうが貴方にとってよほど望ましいのでは?」
「尊厳……死だと……」
 崩れた体から体液が噴き出る。血のように赤く、ドブのように濁った液が。
「ふざ、ける、な。私はまだ、負けていない……!」
 そして、亜神は――否、渇きの王は立ち上がる。肩口に無数の顔が浮かび、膨れ上がっていく。
「まだ、負けてなどいない。猟兵、ども。今一度勝負だ。今度こそ、葬ってくれる……!」
「……いいぜ。それがお前の尊厳、お前の望みかい」
 ニヤリと笑った正純が回転式拳銃『Divulge.Λ』を抜く。
 それは正純にとって魂ともいえる武器だ。構え、撃鉄を起こす。
「あーあ正純さん。藪蛇って奴ですよ、これが」
 巽はやれやれと、うんざりした様子で符を構えた。
 本来なら亜神は、ここで紋章の代償でただ朽ちて死んでいくはずだったのだ。
 それに知性やら活力やらを与えて、まさかもう一度戦う羽目になろうとは。
 これがサービス残業というやつか、と彼はどこか呑気に考える。
「上等だ。藪をつついて出てきたのが知識だったなら何よりだよ」
「猟兵ども。この一撃で、死に絶えよ――!」

 ――ダークセイヴァーの地上で爆発が起きた。地殻を砕くほどの威力はなく、さりとて人を殺めるには十分な威力の爆発だ。
 爆発の中心となったのはオブリビオン。その近くにいたのは二人の猟兵だ。
 だが猟兵は水の竜を従えていた。その水と、そして彼が展開した結界術は爆風から彼らを守っていたようだ。
 一方のオブリビオンは、自爆の威力に耐え切れずに四散。身に着けていた紋章ごとバラバラに砕け、今度こそ消滅していった。
 ――ここに、全ての戦いは終結した。
 一人の犠牲も出なかったことは奇跡と言えるだろう。それほどの壮絶な戦いで、それほどの相手だった。
 その最期に、オブリビオンは何を見たのか。それは、猟兵の手帳にのみ刻まれる――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年01月31日


挿絵イラスト