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涅槃で待つ(作者 夜行薫
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#アックス&ウィザーズ  #戦後  #リプレイ執筆&順次返却中 


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●水葬と花送り
 雪解け水で雪いだ月白の薄衣を着せ、木製の小舟に乗せて。
 花々を添えて、夜の海へと送り出す。
 身体を燃やさないのは、あちらの世界でいずれ蘇ると考えられているからだ。
 海へと送り出された小舟はやがてあちらの世界に辿り着いて、死者は街外れの海岸で目を覚ます。
 そうしてあちらの世界――死者が集う港街で、新しい生活を始めるのだ。
 古くから水葬が慣習として根付いている、とある港町での言い伝え。

 そして嘘か誠か、今まで送り出された小舟や死者の身体、乗せられていた花に至るまで。
 ――一片たりとも、見つかってはいないのだと云う。

●月白の港町
「死後の世界って、存在するのかしらね?」
 アックス&ウィザーズの世界。その一部地域の地図を広げながら、ハーモニア・ミルクティー(太陽に向かって・f12114)は疑問を口にする。
 何処の地域や世界でも在ると考えられている、死後の世界。その存在を。
「今回は、死者の世界――もとい、死者の街が信仰されてる港町からの依頼よ。花送りの時を狙って襲ってくる魔物を退治して欲しいって」
 依頼を出した港町では古くから水葬が慣習として根付いており、港町で亡くなった者たちは原則として海の向こうへと送り出されることになる。
 小舟に揺られて辿り着いた先には死者たちの集う港街があり、街外れの海岸で息を吹き返した死者は、そこで新たな生活を始めるのだと。
「死者を海に送る水葬以外に……。この町では年に一度、死者の街に向けて花を送る風習があるの」
 それは年に一度、新たな年が訪れて間もない頃――過去と現在の境が曖昧になると考えられているようだ――に決まって行われる。
 手の先から肘ほどまでの小さな小舟に沢山の花を乗せて、水葬と同様に海の方へと送り出す。人によっては、花の他に手紙を乗せたり、贈り物を乗せたりする者も居るという。
 さざ波に揺られて大海へと漕ぎ出した小舟たちは死者の街へと辿り着いて、それを死者たちが拾い上げるのだ。
 なんてことはない。生者が過去や死者を想い、近状を知らせるための、何処にでもあるような慣習だ。
「小舟が沈まないように、町の魔法使いたちが小舟に魔法をかけるの。他にも魔法で花を咲かせたり、灯りを用意したりってそれなりに忙しそうなのよね。
 その魔法使いの人たちが、毎年魔力を好む魔物の格好の餌になっているみたいなのよ……」
 とはいえ、魔物自体に対した力はない。精々齧られて歯型が付くくらいだ。
 それでも無用な痛みは勘弁だと、魔法を掛けながら逃げ回る魔法使いとそれを追いかける魔物たち――水葬と花送りの他に、ある意味もう一つの迷物だろう。
「それで本題に入るけど、今年の魔物はちょっと特別らしいわ」
 群竜大陸の影響か、偶々魔法の匂いに吸い寄せられたのか。
 今回は普通のモンスターに紛れて、実はオブリビオンである存在も港町に姿を見せるらしい。
 それを猟兵たちに退治してもらいたいと、ハーモニアは告げる。
「襲ってくる魔物は『エレメンタル・バット』って言う魔力を好む蝙蝠よ。魔力は身体の中心のコアに蓄えられるから、狙ってみるのも良いかもしれないわね」
 エレメンタル・バットのコアは良質な魔法石となる。倒した後で回収するかは、猟兵たちの自由だ。
「でも、不思議よね? エレメンタル・バットは海の向こうから飛んでくるの」
 港町は地図の端の方に在る。当然、その先は地図に載っていない。載せる意味もない。ただの海原が続くばかりなんだから。
 ――海岸の先はずっと海が続くばかりで、大陸や島はおろか、街すら存在しないのに。蝙蝠たちは何処からやってくるのだろう。
「まあ、それは些細な問題……でもないのかしら? なんにせよ、蝙蝠退治をお願いするわね!」
 嘘か誠か。真実は現場に行けば分かることだろうから。
 にこやかな笑顔を浮かべ、ハーモニアは手を振って猟兵たちを送り出すのだった。





第3章 日常 『摩訶不思議な夜に』

POW竜の骨付き肉、大海蛇の串焼き。一風変わった料理を食べ歩く。
SPD揺蕩う星が浮かぶ街並みや川。幻想的な風景を見に行く。
WIZお喋りな本、勝手に動くペン。摩訶不思議な魔法具店に行ってみる。
👑5 🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●朽無しの花筐
十年後か、二十年後か。もしかしたら、百年後かもしれない。
ひょっとしたら、君は別の新天地を目指し、此処には来ないのかもしれない。
でも、それでも。何れ此処に至るであろう君を待っている。
 浜で拾い上げた花を籠に詰めていたら、随分と積もっていることに気が付いた。
 この籠がいっぱいになって花が溢れてしまうのと、君が此処に辿り着くのと、果たしてどちらが早いのだろう。
 願わくは、前者でありますように、と。

●月白の港街
――ちゃぷりちゃぷりと、寄せては返すさざ波の音が聞こえる。

……いつの間に戻ってきたのだろうか。いいや、辿り着いたのだ。途方もない旅の終着点に。
真白い浜を超えた先に広がる港街は、依頼を受けて降り立った港町とは――規模が違った。
灯る灯りの数が、建物の大きさが、空気が、人が、違う。
 浜辺からちらりと見えただけだったが、あの港町はこれほど大きくなかったはずだ。
 港としての機能も良くて地方の漁港止まりで、異国情緒漂う大船がひっきりなしに行き来している様な、国の出入り口を担うような立派な港ではなかったはず。
 それになにより、走り回る魔法使いの姿もなければ、姦しいが一応は案内役である青年の姿すら見えない。
蝙蝠たちが残していった魔力の影響か、幻でも見ているのだろうか。
 それでも、足元に漂う数えきれないほどの花々と小舟がこれは夢ではないのだと――そうだ。小舟と花々が、港街へと足を踏み入れた猟兵と共に波打ち際に打ち上げられている。まるでここが、目的地であるというように。
 浜へと打ち上げられた花々と小舟たちは待ち人を待つかのようにその場に佇んでいた。不思議と、波に誘われても再び沖に戻ることはなく。
嫌がらせの如く花々がてんこ盛りなった小舟を複雑そうな表情で拾い上げるエルフのすぐ横を、花を担いだフェアリーが通り過ぎていく。
 浜辺に面した大通りでは食べ物や魔法具の市場がひしめき合っていて、竜の骨付き肉、大海蛇の串焼、深海魚のソテー――一風変わった料理の香りが鼻腔を擽った。
 食べ物の他にも、独りでに文字を紡ぐ羽ペンやお喋りな本に花を咲かせるランタンと言った、摩訶不思議な魔法具が売られている。
 川や海の浅瀬を、ゴンドラがゆったりと往く。今いる浜辺や大通りから枝分かれした無数の細い通りでは、星が浮かぶ街並みや川を眺め、のんびりと過ごす人々の姿が見えた。
 こうして見ると街を行き交う人々の姿は、一見するとごく普通の人々のようで――しかし、ふとした瞬間に、その姿が透明になったり、影が纏わりついていたりするように見えるのは、気のせいだろうか。

 ――もしかしたら、港街を歩む人々の中に、懐かしい面影を見るかもしれない。
 追うも追わぬも、声をかけるも見守るも。全ては君の思うがままに。

 きっとこれは一夜の夢。
 一夜限りの安寧を与える波止場でしかない。
 此処に蝙蝠達のようなオブリビオンの姿はなく、ただ、何かの残り香が漂うのみ。
 舞い戻った港町のことを港街と錯覚しているのか、蝙蝠達が残した魔力に酔い、海の上で夢や幻でも見ているのか。
 はたまた――本当に、死者の街なるものが存在するのか。

 後ろを振り返れば、変わらずに二つの星空が静かに猟兵たちのことを見守っているばかり。
 そうして後ろを向いている瞬間にも、次から次へと、花々と小舟たちが流れ着く。
死者へと手向けられる想いには終わりがなく。恐らく、想いが途切れるその瞬間まで、この港街はここに在り続けるのだろうから。
 きっと、港街の正体を探ることは野暮なこと。一夜の奇跡と、そう思うくらいがきっと、丁度良い。
 それにほら、こうしている間にも時間は過去へと過ぎ去っている。
 後悔の無いように歩いて往けよと、誰かの声が響いてきた気がした。
 星抱く幻想的な街並みと花溢れる浜辺、水面滑るゴンドラ。風変わりな食べ物を売るテントの群れに、珍しい魔法具店の数々。
大盛り上がりの酒場に、星を削りだしたかのような美しいアクセサリーを売る店。そして――懐かしい君の面影。
今見えている港街の顔もきっとごく一部だけで、探せば絶景のスポットや、食べ物や魔法具の他にも珍しい品々を売る店が見つかるのかもしれない。
同じように過ぎ去るのならば、どうか、より良い一時を――。
月見里・美羽

不思議な街…
この街で聞こえる曲はどんな曲なんだろう
魔法具のお店などを覗きながら耳を澄ましてみるよ
どんなメロディも逃さないように

ふと見知った男女が連れ添って歩いているのを見て
息を止めるんだ
あれは、ホログラムの中で笑ってる父と母の顔…そっくりだった
これは夢?
夢だとしても、嗚呼どうか

二人を別の道から追い越して先回り
花屋を見つけるよ
花束を作ってほしいんだ、お金は払うからここを通る二人連れに渡して
渡すだけでいい ボクの名前もいらない
ただ、幸せであれ、と

父さん、母さん、ボクは元気だよ
どうか、二人も安心して過ごしてほしい
この街で、幸せになって

これが一夜の夢ならば、なんて切なく温かいんだろう


●永久不変の旋律
 たった十二個の音の並びが、この港街に広がる数多もの音楽を創り出している。
(「不思議な街……。この街で聞こえる曲はどんな曲なんだろう」)
 きっと、忘れていたって覚えてる。記憶は無くたって、心の奥底に眠っている。
 月見里・美羽は露店に並ぶオルゴールを眺め、その旋律に耳を傾けていた。曲が進むごとにゆっくりと一枚ずつ花弁が綻んでいく、不思議な花のオルゴールを。
 うんと小さい頃に両親と聞いたかもしれない。電脳世界で耳にした電子音楽の中に在ったのかもしれない。ふと立ち寄ったお店で流れていたのかも。
 何処か耳に馴染みのある旋律に誘われて。暫しの間眺めていたオルゴールから視線を上げた美羽は――ふと、見知った男女が寄り添って歩いているのを見かけて。
(「――これは夢?」)
 足を止めた。息が詰まった。
 先ほどまで美羽の周囲に溢れていたはずの音色が、急にその音を沈めた気がした。
 視界に捉えたのは例え一瞬だとしても、見紛うはずがない。
 あれは、ホログラムの中で笑ってる父と母の顔……そっくりで。
(「夢だとしても、嗚呼どうか」)
 月白の石畳を打つ、乾いた足音。耳に響く吐息は短く乱れて。それでも、美羽は走ることを止めない。
 人で賑わう露店市。そこをゆっくりと歩む二人を追い越すために、裏路地に回り込んで。足が縺れて転びそうになりながらも、駆けて。
「あれは……花屋?」
 手を膝に置いて、冷たい夜の空気を吸い込むこと数秒。
 息を整えながらも顔を上げた美羽の視界に飛び込んできたのは、優しい色彩を湛えた花屋の存在だった。
「花束を作ってほしいんだ、お金は払うからここを通る二人連れに渡して」
 渡すだけでいい、ボクの名前もいらない。今はまだ、秘密のままで良い。
 不思議な、それでも柔らかな雰囲気を纏う花屋の店員に話しかけて美羽は開口一番、そう切り出した。
 想い願うはただ一つ――幸せあれ、と。それだけで、でも、それほどで。
 二輪のカサブランカと複数のブルースター、沢山のカスミソウ包まれていく過程を眺めながら、祈りを捧ぐ。美羽にとってはそのただ一つが、とても大事な願いなのだから。
「父さん、母さん、ボクは元気だよ。どうか、二人も安心して過ごしてほしい」
 もしもが赦されるのならば。どうかが届くのならば。
 そろそろ花屋の前を通りかかる二人から隠れるように、美羽は建物の陰へと姿を隠す。
 此処からでは、直接二人の表情や顔色を伺うことはできないけれど。花屋の店員と何かを話す、微かな喋り声が海風に乗って耳元まで運び込まれている。
「この街で、幸せになって」
 喋り声、沈黙、短く息を吐く音。それから――ありがとうの5音。先に紡がれた言葉よりも柔らかい感じのするそれから、言葉の主たちが微笑んだことを感じ取る。
 普通の暮らしを送っていたのなら、決して再会するはずのない二人だった。
 これが一夜の夢ならば、なんて切なく温かいんだろう。
 でも、再会を喜ぶのはきっとまだ早い。いつか、もっと沢山の刻が流れた後で。
 その時に。両手から零れ落ちるほどの想い出と数えきれないほどの曲を抱えて、二人に逢いに行こう。二人が知らない曲を歌って、経験した全てのことを話して。
 そして、今日この一夜のことを、笑ってネタ晴らしするんだ。実は、ボクからの贈り物だったって。
 その時、二人はどんな顔をするのだろう。それを知るのは――その時のお楽しみだから。
 だから、今はまだ。
 気が付けば、どう歩いて来たのだろう。あまりよく憶えてないけれど。最初に二人を見かけた露店市の通りへと戻ってきていた。
 両親を目にする直前まで眺めていたオルゴールに目を向けると、丁度曲の終わりに辿り着くところで。
 少しの間静かになったかと思うと――花がゆっくりと閉じ、また最初から、その音色を刻み始める。
 そして、これからも刻んでいく。何年何十年経っても変わらない音色を。色褪せぬままに。
大成功 🔵🔵🔵

ウィリアム・バークリー
同行:オリビア・ドースティン(f28150)

埠頭にて、彼女の訪れを待つ。オリビアさんの姿が見えたら手を振って呼びかけ合流。手を差し伸べて陸地へ引き上げる。

いらっしゃい、オリビアさん。
さて、色々お店が開いてるようだけど、どこへ行こうか?

まずは服屋さんかな。
既製服を何着か選んで試着してもらおう。ひらひらのドレスなんていいかな?

次はアクセサリを見繕おうか。
ペンダントトップに出来そうなものを選んで、お互い贈り合おう。
ぼくは銀製の兎型を選ぼう。目がガーネットなのがチャームポイント。

さて、魔法の夜が明ける前に、この幻の港街から立ち去ろうか。
まだ海面を歩けるね。
さすがにもう、流れ着いてくる小舟は少ない。


オリビア・ドースティン
【同行者:ウィリアム・バークリー(f01788)】

「ウィリアム様はお誘いありがとうございます」
埠頭で合流したらデートに向かいましょう

まずは服屋ですね
「このドレスも素敵ですね、普段着るものとは違いますし試着してみましょうか」
店員に許可を得たらオールワークスで試着してウィリアム様に見てもらいます
「私的にはよく似合うと思うのですがいかがでしょうか?」(微笑みつつ問いかける)

次はアクセサリーですね
「お互いに贈り合うのもいいですね、私からは・・・」
選んだのはサファイアの鳥です
綺麗に透き通った青がウィリアム様には似合いますよね

では二人で帰りましょうか
綺麗な夜空の下で海面を歩いて帰るのもロマンチックですね


●解けぬ魔法を
 埠頭から眺める海に、港街の灯りが映り込んでいた。
 水面に降りた星屑は寄せて返すさざ波にとって絶好の玩具のようで、右へ左へと揺れ動いて、さざ波に弄ばれている。
 のんびりと待ち人を待っていたウィリアム・バークリーは、そろそろだろうかと顔を上げたところで、丁度海からこちらへと歩いてくる存在に気付いた。海風に稲穂のように美しい金髪が流れる――ウィリアムの待ち人、オリビア・ドースティン(西洋妖怪のパーラーメイド・f28150)その人だ。
 オリビアの姿に気が付くや否や、ウィリアムは大きく手を振って彼女のことを出迎えた。
 オリビアもウィリアムの存在に気が付いたようで、水面を歩む彼女の足取りが少しだけ足早なものへと変わる。オリビアの跳ねるような足取りに飛び散った星屑が、キラリと宙を流れていく。
「ウィリアム様はお誘いありがとうございます」
「いらっしゃい、オリビアさん」
 埠頭からウィリアムが差し出した手に、ウィリアムよりも少し小さなオリビアの手が重なれば、それがデート開始の合図と成った。そのままウィリアムがオリビアを陸地へと引き上げると、彼女の視界に月白の街並みが飛び込んでくる。
「さて、色々お店が開いてるようだけど、どこへ行こうか?」
「それなら、服屋はどうでしょうか」
 重ねた手をそのまま緩く絡めて。今はこの一瞬さえも、時間が惜しい。二人で過ごす夢のような一夜は、あっという間だろうから。
 アクセサリーの露天商に、賑わいを見せる酒場、それから、香ばし匂いの漂う食べ物のマーケット。
 何処も一風変わった品々を扱っているようで興味は尽きないけれど、その中でもまずは服を見ると決めたのだ。
 三階建ての一階部分に店舗を構えるアパレルショップに足を向けると、少し風変わりなドレスたちが二人を出迎えた。
「沢山あってどれも捨てがたいね。そうだ。このひらひらのドレスなんていいかな?」
「ええ。このドレスも素敵ですね。普段着るものとは違いますし、試着してみましょうか」
 夜空の星屑をそのまま糸にして織ったかのように優しい光彩を抱くドレスに、綻んだり閉じたりをゆっくり繰り返す花のコサージュが所々に散った美しいドレス。
 既製品とは思えないほどの出来に圧倒されながらも、ウィリアムはオリビアに似合うであろう数着を見繕ってくる。
 一着ずつ試着をしていたオリビアの視線は、やがて、ウィリアムが選んできた一つに吸い込まれた。
 ガーネットにカーマイン、それからワインレッド。たっぷりのドレープがあしらわれたスカート部分は、光の当たり加減によって色合いを絶妙に変えていた。真紅のドレスに、白銀レースのサッシュが全体を引き締めている。
「私的にはよく似合うと思うのですがいかがでしょうか?」
「そうだね。オリビアにとても似合っていると思うよ」
 試しに着替えてみると、不思議と自分の身体にぴったりと合っていて。
 くるりとゆっくりその場で一回転してみれば、床に届かないくらいの長さのトレーンがふわりと優雅に翻った。沢山の布が使われているというのに不思議と全く重さを感じず、軽やかに動くことが出来る。
 微笑みつつ問いかけたオリビアに、ウィリアムははにかみながらも率直な想いを口にした。
 普段の彼女も可愛らしいが、目の前の姿もこれはこれで魅力的だったから。
「ドレスが決まったら、次はアクセサリーだね。ペンダントトップに出来そうなものは――」
 高級感溢れるケースを眺めていたところ、ふとガーネットの瞳と目が合った気がした。
 硝子ケースの中からウィリアムを見上げていたのは、スターリングシルバーの兎だ。両目に宿った深い赤色の輝きは、そのまま兎のチャームポイントになっている。大事そうにサファイアの星を抱きしめて、澄んだ瞳でウィリアムをじっと見つめていた。
「僕からは、これにしよう」
 運命的な出会いを感じたウィリアムは、店員に頼のんで銀製の兎をケースから出してもらう。
 柔らかいクッションの上に置かれた小さな兎は隔てる硝子が無くなった分、より透明な輝きをウィリアムに向けていた。
 その様子は何処となく、オリビアに似ている気がするようで。
「お互いに贈り合うのもいいですね、私からは……」
 ウィリアムの横で同じようにケースを眺めていたオリビアもまた、気になるペンダントトップを見つけ出していた。
 大空に飛び立ったかのように翼を大きく広げていたのは、透き通った青いサファイアをその身に宿した鳥の姿。ガーネットで作られた花を咥え、翼広げ空を飛ぶその様は、何処かの国で有名なお伽話の幸せを運ぶ青き小鳥のよう。
 鳥に宿ったサファイアと同じ透き通った青が、ウィリアム様にはよく映える。
だから、オリビアはウィリアムに贈るペンダントトップはこの鳥だ、直感的にそう思っていた。
「ウィリアム様、よくお似合いです。綺麗に透き通った青がウィリアム様には似合いますよね」
「ありがとう。オリビアも、ガーネットが綺麗に映えているね」
 お揃いのネックレスチェーンにペンダントトップを通せば、贈り合った兎と鳥が二人の首元を彩った。
 まるでそこが在るべき場所であるかのように、前からそこに在ったかのように。首元を彩ったばかりの兎と鳥は美しい煌めきを放っている。
 これで離れていても、きっと傍にお互いの存在を身近に感じられるから。
「さて、魔法の夜が明ける前に、この幻の港街から立ち去ろうか」
 アパレルショップを後にすれば、来る時に仰ぎ見た天頂の星々は、ゆっくりとながらもかなりの距離を移動していたようだ。
 夢のような時間はあっという間に過ぎてしまう事を肌に感じつつ、二人は再びさざ波の押し寄せる水面に降り立った。
 大切そうにドレスの入ったバッグを抱えたオリビアをウィリアムがエスコートしていく。
「まだ海面を歩けるね。魔法はかなり保つみたいだ」
「これなら、途中で魔法が解ける心配もないでしょうか。綺麗な夜空の下で海面を歩いて帰るのもロマンチックですね」
 街を去る頃には今日が昨日になり、明日が今日になっていた。
 夜も更け、さすがに流れ着く小舟の数も少なくなっている。
 行きは一人で、帰りは二人で。ゆっくりと歩く二つの星空は行き道と変わることなく輝いていた。
 一度だけ、どちらからともなく後ろを振り返ったが――先ほどまで居た摩訶不思議な港街は、夜靄に紛れ、忽然とその姿を消していた。あれほどの灯りを抱く大きな港街なら、靄に阻まれてもなお、光くらいは届きそうなのに。
 ふわりと海の果てに消えてしまった月白の港街。それでも、お互いの胸元を彩る赤い兎と青い鳥が。オリビアが抱えるバッグに入ったドレスが。
 あの一時がただの夢ではないことを、物語っている。
大成功 🔵🔵🔵🔵🔵🔵

シル・ウィンディア
【シルベルカ】
【SPD】
あ、さっきの睡蓮のお花の小舟が…

会いたいと思ってた
でも、もう会えないとわかってた

でもでも、ここならもしかしたら…
見つけたら…

伝えたいことがあるの、お母さん

わたし、好きな人ができました
だから、心配しないで
一緒に歩いていくから

妹もいれば大切な人も隣にいる
だから大丈夫

うれしい報告なのに
涙止まらないね



気がづいたら腕の中
ベルカさんの視線を追ってみるけど…

「ベルカさん、どしたの?」
不思議そうに見上げるの

「なんで涙が?」
夢だったのかな?

それでもいい
また、会えたのだから
ベルカさんの腕の中だけど
ぎゅっと抱き着くよ

「隣にいてくれて、ありがと…」
「もう、大丈夫だからね」

笑顔でそう答えるよ


ベルカ・スノードロップ
【シルベルカ】
【SPD】

ここに在るのに実在しない
不思議な街ですね

いつの間にか腕の中で眠ってしまったシルを抱き寄せて
街を行き交う人々を眺めます

(どんな夢を見ているのでしょうか)
シルの髪を優しく撫でていると
目の前に人と目が合う
シルの髪を長くして大人になった様な女性の姿
『娘のことをよろしくね』の口の動きが見えて
そのまま、消えてしまいました

目覚めて不思議そうに見上げてくるシルに
あった事を話します
「シルを託して貰えたみたいですね」
シルの目尻に浮かんでいた涙を優しく拭いながら
シルを悲しませないと誓いを自身にたて
「シルの事、ずっと離しませんからね」
妻となってくれた少女が抱きついてくれたので抱きしめ返します


●夢で逢えたら
 浜辺に流れ着いた沢山の花々と小舟と、想いと祈りの数々。
 海を往く途中で見かけたものや、自分たちよりも先にこの港街に辿り着いたのだろうか。初めて目にする小舟もあった。
 真白い色はそのままに、それでも港町の砂浜とは違う箇所が一つだけ。星を砕いて混ぜたかのように、青白い光を放つ綺麗な小石が骨のような砂と混ざり合って、砂浜全体がぼんやりと光を帯びたように輝いているのだ。
「あ、さっきの睡蓮のお花の小舟が……」
 顔も知らぬ沢山の人々が海に託し、此処に辿り着いた小舟から、シル・ウィンディアは自分が流した小舟を見つけ出していた。
 その場に縫い留められたかのように睡蓮の小舟をシルが眺めている間にも、一人、また一人と波打ち際を訪れ。魔訶不思議な存在に導かれたかのように迷いなく目当ての小舟を拾い上げると、思い思いの場所へと戻っていく。
 こんなに人々が居るから、きっと、シルが再会を切望しているお母さんとも。
 会いたいと思ってた。でも、もう会えないとわかってた。
 死者は蘇らない。それは分かりきったこと。覆すことの出来ない、絶対的な世界の理。
(「でもでも、ここならもしかしたら……。見つけたら……」)
 夢か現か、幻かさえも確かじゃない。一夜限りの逢瀬なら、神様もちょっとだけお目こぼししてくれるのかも。
 お母さんのことを見つけたら、その時はどうしよう。
 笑って「約束憶えているよ」って、そう伝えたいけれど。泣いちゃうかもしれないから。
「そういえば、ベルカさんは……?」
 ふと、先ほどまで隣に居たはずの存在が居ないことに気が付いて。
 辺りを見渡すけれど、行き交う人々は見知らぬ人ばかり。この人波に呑まれ、気付かぬうちにはぐれてしまったのかもしれない。
 キョロキョロと彼の姿を探すうち、こちらに向かって歩いてくる女性の存在に気が付いた。
「――あ。おかあ、さん……?」
 丁度睡蓮の小舟の前でしゃがみかける所だった、お母さん。シルの記憶そのままに、変わらぬ姿で此処に居る。
「伝えたいことがあるの、お母さん」
 駆け足でお母さんへと向かって行って。此処に居るはずの無いシルの存在に気付いたお母さんは、驚いたように小さくその瞳を見開いた。けれど、次の瞬間には笑ってシルを迎え入れてくれる。
 最初の声は震えてしまったけど、続けられた言葉ははっきりと口にすることが出来た。
「わたし、好きな人ができました。だから、心配しないで。一緒に歩いていくから」
 妹もいれば大切な人も隣にいる。一人じゃないし、幸せだから。だから、大丈夫。
 うれしい報告なのに。とても嬉しい報告なのに。
(「涙止まらないね……」)
 頬を伝う雫は溢れる一方で。
 目の奥が熱くなって、溢れる雫に滲んでぼやけて、お母さんの姿も涙に遮られて。
 それでも、お母さんの声ははっきりと耳に届いた。
 そうだね。お母さん。だから――……。
 
●託されたもの
(「ここに在るのに実在しない。不思議な街ですね」)
 広場の端に設けられた石造りのベンチに腰を下ろしながら、ベルカ・スノードロップは街を行き交う人々を眺めていた。胸の中でいつの間にか眠ってしまったシルを、その腕で抱き寄せながら。
 この街の浜辺に辿り着いた頃にはもう何故か夢現の状況だったから、眠ってしまうのも時間の問題だったのだろう。浜辺に足を踏み入れるまでは、あれほど元気で眠気の存在は少しも感じられなかったのに、不思議なこともあるようだ。
 最も、この街にしてみれば、突然湧いて来た眠りへの誘いも些細な不思議のうちに収まってしまいそうで。
 本当に地図に載っていないのか、それさえも疑いたくなるほどの、大きな街。
 それでも街を行き交う人々は、何処かその存在が朧げなもののように感じられた。確かに存在しているのに、此処には居ないような。
(「どんな夢を見ているのでしょうか」)
 安らかな寝顔でも、目元には微かな涙をためて。
 ベルカの腕の中で柔らかな微睡みの海を揺蕩う少女は、どんな夢を見ているのだろう。
 悲しいものなのだろうか。それとも、嬉しいものなのだろうか。
 どれほど近くに居たって、同じ夢までは見ることができないから。
 夢の話は、彼女の目が覚めた後でしよう。幸い、時間はたっぷりとあるのだから。
 ベルカがシルの髪を優しく撫でていると――ふと、視界に影が差して。
 突然訪れた人の気配に顔を上げると、優しく微笑む女性と目が合った。
「あなたは――」
 髪を伸ばして成人を迎えたら、シルはきっと目の前の女性のような感じになるのだろう。今、ベルカの腕の中で眠るシルの姿をそのまま大人にしたかのような、女性の姿。
 それでもシルとは少し違う雰囲気を纏っているようにも感じられて。
 ベルカの前に佇む女性は何も言わずに、ただ。

『娘のことをよろしくね』

 声は聞こえずに、口の動きだけ。それだけだったが、ベルカは女性が伝えたい言葉をはっきりと受け取っていた。
 短い言葉に全てを詰め込んだのだろう。それだけを告げると、女性はすぅっと街中に溶け込むように姿が薄くなって。
 そのまま、霞のように消えてしまった。
 広場を行き交う人々は女性が消えたことすら気づかずに、何事も無かったかのようにそれぞれ目指す場所へと歩いて行っている。
 白昼夢でも見ていのだろうか。いいや、とベルカは思う。
 確かに彼女は此処に居たのだ。
 ベルカはもう一度腕の中のシルへと視線を落とすと、そっと髪を撫でていく。シルが目を覚ます、その瞬間まで。

●共に歩む
「ベルカさん、どしたの?」
 視界が涙いっぱいだったのに。それに、お母さんは?
 夢から覚めたシルは自分がベルカの腕に抱かれていることに気付く。
 ベルカが見上げる視線を追ってみたけど、そこにはもう、誰も居ない。
「なんで涙が?」
 さっきまでお母さんが居たのに。夢だったのかな?
 それでもいい。また、会えたのだから。
 ベルカの腕の中、優しい温もりに包まれたまま、シルはぎゅっとベルカに抱き着いた。
「――シルを託して貰えたみたいですね」
「そうなんだね……。隣にいてくれて、ありがと……」
 不思議そうに自分のことを見上げながら抱き着く少女の髪をゆっくりと撫でて、ベルカは先ほどあったことを話した。
 シルの目尻に浮かんでいた涙を優しく拭って。
 託されたシルの母親の為にも。シルを悲しませないと、沢山の笑顔が咲くように。
誓いを自身に立てて。
「シルの事、ずっと離しませんからね」
「うん、ありがとう。もう、大丈夫だからね」
 これからは自分が、彼女のことを幸せにしていくから。抱き着いてきたシルを今一度抱きしめ返して、柔らかく微笑めば。
 腕の中のシルも、にっこりと笑顔を浮かべた。
 これからは、一人じゃない。共に、同じ道を歩んでいくのだから。
大成功 🔵🔵🔵🔵🔵🔵

シェキザ・シップスキャット
【ウミホタル】◆
※!は使わない

ああ、いい港町だ
夢か本当かわかったモンじゃあねぇが
ここが死の先かもしれねぇってんなら、
ちったァ気分も軽くならぁなァ

……もし、ここが魂の去る先なら
幻だったとしても、そういう場なら
――ああ、そうだよな

紫のカンパニュラを抱えた、フェアリーの女の子
金の髪に、海のような目をした――
……"カンパニュラ"
名前を知ることも、ふれあうこともなかった
思い出だけを遺していったあいつ

……ハハ、導き手だってのに、オレ自身迷っちまってる
あえて何も言わずいなくなったあいつに、声をかけても、いいモンかな

今しか……か
そか。……そだな。ありがとさん、珂奈芽
そんで悪い。少し、話してくらィ(そう笑って)


草守・珂奈芽
【ウミホタル】


ホントにたどり着ける場所があったんだ
生きてるときと同じくらい活気があって感動しちゃう
こやって幸せに過ごせるならなるほど安心なのさ

あれ、あの子が話してた子?
花みたいにキレイで、うん、シェキザくんの言ってた通りなのさ

…気遣ってくれたのかもしれないね
でもキミの思い込みかもしれないよ?
名前とか、分かってないこともまだあったくらいだしさ
だから話そうよ、言いたかったことは会えるうちに言わなきゃ
海へ出る前、キミがそう言ってたんだからさ

わたしの勝手な願いかもだけど、真剣に伝えるよ

ん、よく言ったのさ!
なーんも気にしないで、観光でもするからさ
手を振って見送るよ
…二人に、今だけは幸せがあれますように


●口に出して、声にして
 入り組んだ月白の港街。建物の数は数えきれず、通りの両端にある露店市では、風変わりな品々を取り扱っているようだ。
 海の果てにこれほど活気溢れた街が存在するとは思わなかったけれど、緑色の髪を揺らす夜風やさざ波が上げる水飛沫の冷たさが、これがただの夢ではないことを物語っている。
「……ホントにたどり着ける場所があったんだ」
 驚きと好奇心をちょうど半分ずつ宿した金色の瞳で、草守・珂奈芽はぐるりと港街を見渡していた。
 一日あっても回りきることが出来ない大きさの街に、露店市にならぶ商品はそのどれもが真新しく珍しい。何より活気に満ちていて、飽きを覚えることはなさそうだ。
「生きてるときと同じくらい活気があって感動しちゃう。こやって幸せに過ごせるならなるほど安心なのさ」
「ああ、いい港町だ。夢か本当かわかったモンじゃあねぇが」
 もしかしたら、生きているとき以上に活気があるのかもしれない。そんな思いをそのまま声にして吐き出せば、珂奈芽の真横を飛んでいたシェキザ・シップスキャットも珂奈芽の言葉に相槌を打った。
 夢か現か。存在が不確かであっても、死後の世界で一人どんよりと過ごすよりはずっと良い。
「ここが死の先かもしれねぇってんなら、ちったァ気分も軽くならぁなァ」
「さすがに、地獄みたいなところは勘弁なのさ」
 どうせならば、死後も穏やかに笑い合って過ごしたいし、何よりそちらの方が遺された人々も心穏やかに居られるだろうから。
 ――遺された人々にとって、港街の存在は確かな救いになるのだろうから。
(「……もし、ここが魂の去る先なら。幻だったとしても、そういう場なら」)
 夢であっても、幻であっても。もう一度を願ってしまうことは、きっと当たり前のことで。
 シェキザが自分と同じように空を飛び移動するフェアリーの中に、彼女の存在を探してしまうのも、仕方のないこと。
 それを弱さと捉えるのか。同じ後悔を重ねぬための祈りと捉えるのか。それは、その人次第だ。
(「――ああ、そうだよな」)
 そこには確かに、小さな海が存在していた。
 あの日からシェキザを捉えて離さない、深く澄んだ海の色が。
 紫のカンパニュラを抱えた、フェアリーの少女。
 時折花の重さにふらつきそうになりながらも、決して落ちることは無く。彼女もまた、何処かを目指して飛んで行っている。
 風に泳ぐ金色の髪に、シェキザの良く知る、海のような目をした――。
「……"カンパニュラ"」
 そうだ。彼女で間違いない。間違うはずもない。
 名前を知ることも、ふれあうこともなかった。
 思い出だけを遺していったあいつ。海を見る度に、彼女の瞳のことを思い出す。
「あれ、あの子が話してた子?」
 突然黙り込んでしまって、それでも視線だけは彼女から逸らさずに。じっと目線だけでフェアリーの女の子を追い続けるシェキザに、珂奈芽も彼女が件の女の子であるということを感じ取ったのだろう。
 シェキザと同じ高さに目線を合わせると、一緒になってフェアリーの行く先を追い始めた。
「花みたいにキレイで、うん、シェキザくんの言ってた通りなのさ」
 フェアリーの女の子は、確かにシェキザくんの言っていた通りだった。
 カンパニュラの花が大好きな――海みたいな目をした、綺麗な彼女のことを。
「……ハハ、導き手だってのに、オレ自身迷っちまってる」
 折角、彼女に出会えたのに。シェキザはその場に佇んだまま、動けなかった。
 このままでは、彼女はそのうち人波に紛れて、姿を追うことも難しくなってしまうだろう。
 分かってはいるのに。
 それでも、彼女の想いを知っていたからこそ。シェキザは彼女に話しかけることが、出来なかった。
「あえて何も言わずいなくなったあいつに、声をかけても、いいモンかな」
 あえて何も言わず、自分の前から姿を消したあいつのこと。
 此処で話しかけても良いのだろうか。あいつの想いを反故にすることに、ならないのだろうか。
「……気遣ってくれたのかもしれないね」
 名前を教えなかったのも。何も言わずに居なくなったのも。
 その全ては――。
 視線の先はフェアリーの女の子を見つめたまま、動けないでいるシェキザに珂奈芽は優しく語り掛ける。
 優しく、それでいて、真剣さを孕んだ静かな声色で。
「でもキミの思い込みかもしれないよ?」
 これからが楽しみで、だから次に会った時の為に。名前を伝えることを楽しみに、あえて伝えなかったのかもしれない。
 もっと話したいと思いながら、それでも離れなければいけない事情があったのかもしれない。
 他者になることは出来ない。他者の心情は想像することしかできず、想像の答え合わせを行うには、直接尋ねる以外に方法は無いのだから。
 全てはカンパニュラの彼女にしか分からないことで、きっとシェキザが考え込んで心配し過ぎてしまうことを、彼女も望んではいないだろう。
 それに、それは珂奈芽だって望んではいないこと。悩む暇があったら、話しかけてしまえば良い。それからのことは、その時に考えれば良いのだ。
「名前とか、分かってないこともまだあったくらいだしさ」
 もう二度とが、もう一度だけに変わった。チャンスは今しかないと、珂奈芽は告げる。
 話せる今のうちに。その姿を捉えている、今のうちに。
「だから話そうよ、言いたかったことは会えるうちに言わなきゃ。海へ出る前、キミがそう言ってたんだからさ」
 そう、その言葉はシェキザ自身が海に出る前に言っていたこと。
 少し前に言われた言葉を、珂奈芽はそっくりそのままシェキザへと返した。
 思っているだけでは伝わらない。伝えない限り、何もなかったことになってしまう。
 言葉にしてこそ、気持ちは初めて伝わるのだから。
 だから、シェキザの想いが無に帰してしまう前に。珂奈芽は友人の背を押すのだ。
 「今しか……か。そか。……そだな。ありがとさん、珂奈芽」
 何も言わず、少しの間考え込んでいたシェキザが、珂奈芽の方を見た。
 答えが、出たようで。
「そんで悪い。少し、話してくらィ」
「ん、よく言ったのさ! なーんも気にしないで、観光でもするからさ」
 にかっといつものように快活な笑みを浮かべたシェキザの背を、珂奈芽は勢いのままに押して送り出す。フェアリーである彼にとっては少し力が強かったかもしれないが、きっと気のせいだろう。
「いってらっしゃい」
「ああ。行ってくるよ」
 カンパニュラの彼女を追いかけたシェキザは程なくして、彼女に追いついた。珂奈芽の所まで会話は聞こえてこないが、2、3言葉を交わした後、二人揃って翅を広げ――何処かへ落ち着ける所へ、場所を変えるようだ。
 その様子を、手を振って見送っていた珂奈芽。
(「……二人に、今だけは幸せがあれますように」)
 二人に祈りを送ると、彼女もまた、観光の為に街の中へと消えていく――。
大成功 🔵🔵🔵🔵🔵🔵

ヘルガ・リープフラウ
❄雪月花


辿り着いた港街
行き交う人は皆幸せそうで
もし本当にここが「魂の還る場所」ならば

ふと目に留まる二つの人影
忘れもしない、忘れてはいけない懐かしい顔
行かなくては
言えなかった言葉を伝えるために

ごめんなさい……お父様、お母様
わたくしのせいでみんなが……
取り返しのつかないことをしてしまった……

涙零すわたくしに、目の前の二人は穏やかに微笑んで

私たちこそお前に辛い思いをさせてしまった
許しておくれ

良き伴侶を見つけたのね
今度こそ幸せにおなりなさい

願いを殺してしまってはいけない
お前はお前の信じる道を行きなさい

二人の手の中にあるその花は
ああ、先刻の花筏と同じ

ありがとう
どうか安らかに
そして、今度こそ皆に幸せを


ヴォルフガング・エアレーザー
❄雪月花


群衆の中に認めた人影を追って駆け出したヘルガに寄り添う
実際に顔を見るのは初めてだが
それが彼女の両親であろうことは分かる

誰のせいでもない
「みんなで幸せに暮らしたい」
それは誰もが夢見る理想、永遠不変の願い
悪いのはただ一人、その願いを悉く踏み躙ったオブリビオン
人の願いを歪め、裏切り、食らいつくして
絶望の淵で這いつくばる姿を嘲笑う醜い欲望
その悪意を砕き、失われた希望を取り戻すことが
今の俺の使命なのだと

誓います
あなた方が愛した娘を、愛した世界を守るために
俺は全身全霊かけて力を尽くすと

ふと遠くを見やれば
俺達を見守るように
銀の毛並みを持つ雌狼の影が一つ

ああ、俺にもあったのだ
温かく確かな「絆」が


●永遠に途絶えぬ絆
 長き航海の果てに、辿り着いた港街。
 港街を行き交う人々は花を腕に抱いたり、並んで歩いてお喋りに花を咲かせたりと皆幸せそうで。
 此処にはきっと、彼らの安寧を侵す邪な存在は、誰一人として存在しないのだろう。
 幻でも、現であっても。それはきっと、とても幸せなことで。ヘルガ・リープフラウは、暫くの間港街の人々を眺めていた。
(「――もし本当にここが『魂の還る場所』ならば」)
 もしも、言い伝えが本当ならば。
 もしも、二人が此処に居るのならば。
 そんな思いでヘルガが人々を眺めていたところ、ふと目に留まる二つの人影の姿があった。
 忘れもしない、忘れてはいけない、懐かしい顔。
 ずっと記憶の奥底で、ヘルガと共に在った懐かしい二人の顔を。
(「行かなくては」)
 それはほとんど、反射的な動きだった。弾かれたように、二つの人影に向かって走り出すヘルガ。
 その後ろから、街を眺めるヘルガの隣で何も言わずに居てくれたヴォルフガング・エアレーザーが慌てて追いかけてくる足音が響く。
 そうだ。行かなくては。言えなかった言葉を伝えるために。
 二人に直接、この言葉を届けるために。
(「――ヘルガの両親か」)
 群衆の中に認めた人影を追って駆けだしたヘルガに、数秒の間をおいてヴォルフガングも追いついた。
 そのままヘルガに寄り添うようにして隣に立ち、人影を眺めれば、二人が彼女の両親であることを直感的に理解する。
 顔を見るのは初めてだったが、見間違うはずがない。何処となく、彼女と面影がそっくりなのだから。
「ごめんなさい……お父様、お母様」
 ヘルガの呼び止める声を聞き、振り返った両親を前に、堰を切って溢れ出したヘルガの言葉は――懺悔だった。
「わたくしのせいでみんなが……。取り返しのつかないことをしてしまった……」
 わたくしのせいで。
「皆で幸せに」
 あの時、そう願わなければ。故郷の皆が死んでしまうこともなかったのではないかと。
 わたくしさえ道を誤らなければ、もう少しマシな結末が在ったのかもしれないと。少なくとも、両親や民が死んでしまうことには、ならなかったのではないかと。
『私たちこそお前に辛い思いをさせてしまった。許しておくれ』
 ヘルガにとっても、両親にとっても、それは苦渋の決断で。
 それでも、故郷の民を守る為に愛娘を差し出さなければならず。命を握られたからといって、おいそれと娘を差し出す両親が何処にいるのだろうか。
 顔を俯かせて、涙を流すヘルガに――二人は優しく顔を上げるように言い聞かせて。そっと、ヘルガの頬に触れた。
 長らく見ることの無かった、両親の顔。ヘルガを見て優しく微笑んだ後、二人は穏やかな声音で言い聞かせる――きっと、誰も悪くないだ、と。
(「そうだ。誰のせいでもない」)
 ヘルガの両親の言葉に、三人の様子をそっと見守っていたヴォルフガングも、静かに頷きを示す。
「みんなで幸せに暮らしたい」
 それは誰もが夢見る理想、永遠不変の願い。何処の世界でも、何処の時代でも誰かが願い――そして、多くは叶うことなく散っていく、儚い想い。
 平和の二文字を実現することの、何と難しきことか。
 ヘルガの故郷のことだって、誰も悪くはない。平和と幸せを祈るのは、何らおかしいことではないのだから。それが、吸血鬼に支配された闇の世界となれば――当然のこと。
 悪いのはただ一人、その願いを悉く踏み躙ったオブリビオンだ。
 ヘルガも、両親も、故郷の民も。誰も悪くない。それでも、人である以上責任を感じてしまい――邪なオブリビオンは、そこに付け入るのだ。
 人の願いを歪め、裏切り、食らいつくして。絶望の淵で這いつくばる姿を嘲笑う醜い欲望。
 彼らを討ち、ヘルガと共に闇の世界に真の意味での平和と幸せを齎すことこそが。
(「その悪意を砕き、失われた希望を取り戻すことが今の俺の使命なのだ」)
 ヴォルフガングの使命でもあり、誓いでもある。だから。
「誓います。あなた方が愛した娘を、愛した世界を守るために。俺は全身全霊かけて力を尽くす」
 ヘルガの両親へと、ヴォルフガングは真っ直ぐに向き合い。ハッキリと二人に対して、そう告げた。
 何があろうと、これ以上彼女を悲しませないために。愛した娘を、幸せにするために。
 ヘルガの両親は暫くの間、驚いたように顔を見合わせていたが――やがて、ヴォルフガングとヘルガに向かって、温かい笑顔を向けて微笑んだ。
『良き伴侶を見つけたのね。今度こそ幸せにおなりなさい』
 それは、最初で最後で、最愛の祈り。
 一度全てを失ったからこそ、次こそは、と。娘の幸福を祈る、両親からの愛の言葉で。
「何があろうとも、絶対に」
 ヘルガの両親の想いを反故にさせないためにも、ヴォルフガングは先の一言に想いの全てを込めて。
 今一度、両親へと誓いを立て、頭を下げた。
『願いを殺してしまってはいけない。お前はお前の信じる道を行きなさい』
 何があっても、私たちはあなたの味方なのだからと。
 ヘルガの背を押す両親からの言葉に、再び彼女の頬を涙が伝う。
 その時、ふと気が付いた。
 二人の手の中にあるその花は――。
(「ああ、先刻の花筏と同じ」)
 少し前に、二人で流した想いの小舟。花に祈りを抱かせて、どうか届きますようにと。
 ちゃんと届いていたのだ。しっかりと、想いを受け取っていたのだ。
「ありがとう。どうか安らかに。そして、今度こそ皆に幸せを」
 あちらで犠牲になってしまった分、どうかこの世界では。
 両親との別れを惜しむヘルガを見守っていたヴォルフガングは――ふと、誰かに見守られているような、懐かしい視線を感じた気がして。
 感じる視線を辿ると、遠くからヴォルフガング達を見守るように銀の毛並みを持つ雌狼の影が一つ。
 銀の雌狼は、ヴォルフガングの視線に気が付くと――一度だけゆっくり瞬きを返して、去っていく。
 まるで、何も言わなくても分かっていると、伝えるように。
(「ああ、俺にもあったのだ。温かく確かな『絆』が」)
 そうだ。ヴォルフガングにだって、確かに存在していたのだ。
 温かく確かな絆が。いつだって自分を見守ってくれている、大切な存在が。
大成功 🔵🔵🔵🔵🔵🔵

豊水・晶
たとえ一時の夢だったとしても、このような素晴らしい場所に出会えた幸運に乾杯。
花が咲き誇る浜辺を見ながら不思議な料理とお酒に舌鼓を打つ。幸せですね。
ふと近くの席に目をやると一組の家族が誕生日をお祝いしていました。嘗ての宮司と巫女でした。
ああ、本当になんと幸せな日なんでしょうね。少し飲みすぎてしまったのでしょうか。ウェイターさんに件のテーブルへの差し入れをお願いして、酔いを醒ますために夜風に当たりに行きましょう。


●この一夜に杯を
 例え、一時の夢だったとしても。明日の朝には何事にも無かったかのように、泡と帰してしまうのだとしても。
 今日というこの日が良き日であることに変わりはなく、この港街が素晴らしいことにも変わりはない。
 豊水・晶は浜辺が一望できるレストランのテラス席で、ゆったりとグラスを片手に海を眺めていた。
「――このような素晴らしい場所に出会えた幸運に乾杯」
 浜辺に向かって「乾杯」とグラスを掲げれば、晶の合図に応えるかのように、一際大きく波が押し寄せる。
 グラスを少し傾けてみれば、シュワシュワときめ細かな泡が星空を目指して上っていった。今は淡いピンク色を抱くこのシャンパンも、時間が経つにつれて深いレッドに変わっていくと云うのだから不思議だった。
 シャンパンと相性抜群なレストランの料理も、一風変わったものばかり。先ほど出されたメインディッシュは、一見すると香ばしい味付けを施されたお洒落なソテーなのだが――実は海竜の肉だというのだから、驚きだ。
「料理は美味しいですし、景色も美しい――幸せですね」
 少し深いピンク色に染まりつつあるシャンパンを少しずつ傾けながら、晶はデザートをゆっくりと味わう。花に見立てたマカロンや小さなケーキに、オレンジソースと金箔で描かれるのは夜空の星たち。この港街をモチーフにしているのだろう。
「お誕生日祝いでしょうか、おめでたい――あら、あの方々は」
 誕生日を祝う明るい歌声に誘われ、ふと近くのテーブルに目を向けると一組の家族が誕生日をお祝いしている最中であった。
 仲良く一曲の歌を歌い終えた彼らは、とても仲の良い家族なのだろう。見ているこちらも暖かい気分になると、そこまで考えたところで、晶は彼らと何処かで会っているような気がして。
「嘗ての宮司と巫女、ですね」
 そうだ。嘗て、自分の存在を信仰していた村で宮司と巫女をしていた二人だった。彼らと別れて長い年月が経てど、晶がその存在を忘れたことはない。
 港街での思わぬ再会に驚きつつ、晶はウェイターを呼んで彼らへの差し入れをお願いする。善き一年になりますようにと願いを込め、偶然の再会を祝うための数品の料理と、とっておきのお酒を。
 彼らの好む味でありますようにと祈りながら、しかし、自分の名前は伏せておいて――信仰していた竜神様からの差し入れなんだと知ってしまったら、きっと卒倒してしまうだろうから。
(「ああ、本当になんと幸せな日なんでしょうね。少し飲みすぎてしまったのでしょうか」)
 少し酔いが回ってきたのかもしれない。ポカポカと火照る頬に、冷たい夜風が丁度良い。
 酔いを醒ますためにも、晶は夜風に当たる為にテラスの端の方へと足を運んだ。
 テラスの柵に身体を預けながら眺める浜辺は、平和の二文字そのもので――こんな時間がずっと続けば良いですね、と。晶はそんなことを考えながら、花々と小舟の揺蕩う海上に想いを馳せる。
 と、一際大きなはしゃぎ声が晶の耳に飛び込んできた。振り返ってみると、差し入れをした宮司と巫女の一家のテーブルからだ。
 「とある方からです」と、テーブルに並べられる料理に家族は大盛り上がり。どうやら、とても喜んでもらえたようだ。
 家族の反応に微笑みを零しつつ、晶は再度、夜の浜辺に目を向ける。
 海に揺蕩う想いと祈りの多きこと。自身を信仰していた村の者達も、平和を愛し、祖先を敬っていた。
「今度こそは、守るべきものを守りたいですね」
 だからこそ。次こそは守り抜くのだと、晶は決意を胸に抱き。
 後方から聞こえてくる一家の明るい話声をBGMに、晶は暫しの間、浜辺を見つめてゆったりとした時間を過ごすのだった。
大成功 🔵🔵🔵