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リリィの葬送

#ダークセイヴァー #宿敵撃破

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#ダークセイヴァー
#宿敵撃破


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●純白のリリィ
 ――Hallelujah!

 この街では、誰もが私を崇め称えました。
 それは私が美しく尊いから。
 みな自らの血肉や命を捧げたいと願ってくる、とても愛おしいものたちです。
 私は彼や彼女達を等しく愛しています。
 だから、食べてあげたい。
 まずは瞳が綺麗な子、次は心が醜い子。笑顔が可愛い子、嫉妬に狂った子。生まれたばかりの子、嘆く父親と母親。老いて骨ばった子も、捨てられた子や、髪が美しい子も。
 ひとりずつ選んで食べました。
「綺麗に食べて差し上げますから、安心して眠って」
 私がそう告げれば、誰もがとても幸せそうな顔をしました。
 逆らう意志を見せる子たちもいましたが、等しく食べてあげました。少し意地悪をして食べ残したけれど、今はすっかり素直になった可愛い子たち。
 みんな私の血となり、肉となり、糧となるために生まれた子。
 ああ、全てが愛しきもの。

 だけど、もう食べてあげられる子がいなくなってしまいました。
 けれども、そうです。まだあの子が残っていました。ずっと食べてあげられていなかった、ちいさなあの子が。
 彼はどこにいるのかしら。
 私は何よりも美しいから。私は、みなに崇められるべき花ですから。
 きっと、あの子の方から逢いに来てくれるはず――。

●百合の花と滅びた街
 其処は極寒の街。
 雪に覆われた街には、百合の花が咲き誇っていた。
 満足な収穫も食料もなく、皆が飢えて痩せ細った貧しい場所だ。だが、街の人々の表情は暗くなどない。領主を心から崇め称え、仕えることを歓びとしていた。
 しかし、それは過去の話。
 その街の領主はオブリビオンだった。
 すべてを愛しているとかたる彼女は『純白のリリィ』と呼ばれている。
 その街では、領主に選ばれて食べられることこそが至高だった。領主は魔の美貌と花香で人心を操り、自らの身を捧げさせていたのだ。
 惑わされていた人々の中には聖なる力を得た者達もおり、正気に戻って領主に抵抗したものもいた。だが、その聖女達も領主が自ら葬った。
 ひとり、またひとりと人々は領主にその身を喰らわれ、死していき――。
 そうして、生きる者は誰も居なくなった。
 滅びた街を彷徨うのは、今も盲目的に領主への忠誠を誓う亡霊達のみ。
 彼女以外に誰もいなくなった街には、美しい白百合が不穏に揺らめいている。

●いとしき邪悪
 領主の館でたったひとり、純白のリリィは何かを待っている。
 そのような情景と未来が視えたのだと語り、ミカゲ・フユ(かげろう・f09424)はオブリビオンの討伐を仲間に願った。
「彼女は、これまでにたくさんの人を喰らって命を奪っています」
 この世界において、オブリビオンに支配された街は多い。
 無辜の民が領主の気紛れや趣向によって犠牲になることが当たり前の世界ではあるが、だからといって赦せることではない。
「喰らい過ぎて民をなくしてしまった今こそ、彼女を屠る好機です」
 既に犠牲は出てしまっており、過去は覆せない。だが、だからこそ討つべき相手なのだとしてミカゲは皆に協力を願った。
 純白のリリィが領主として君臨しているのは極寒の街。
 教会や民家、宿などの崩れかけた建物が並ぶ街には雪が積もっており、冬でも咲き続ける白百合が見える。
「まずは街の中にいる領主の眷属を倒してください。かつては領主に逆らった聖女さんだったらしいのですが、今はリリィに忠誠を誓うものになっているようです」
 狂った聖女は部外者に敵意を持っている。
 領主に仇をなすものだと分かれば、問答無用で襲ってくるだろう。彼女達を全て葬ってやった後は街の中央にある領主の館に向かえばいい。

「リリィは皆さんを快く迎えるはずです」
 何故なら彼女は全ての命を嘘偽りなく本気で愛しているという。猟兵もまた愛するひとりであり、『食べてあげる』対象として見られるに違いない。
 リリィが纏う花の香や、その美貌は人を惑わせる力があるらしい。また、これまでに彼女に食わられた街の者達も亡霊となって此方を迎える。
 蠱惑の魔力と亡霊の数々。
 それらにどうやって対抗していくかが猟兵の腕の見せ所だ。
「僕は皆さんの力を信じていますから、負けるなんてことは考えていませんが……どうか、お気をつけて」
 少年は両手を重ね、祈るようにして仲間達の無事を願う。

 純白のリリィは多くの命を奪い、愛の名のもとに葬ってきた。
 だが、今度は彼女が葬られるべきときだ。血と苦しみの連鎖を此処で止める為に。
 その白百合に、葬送を。


犬塚ひなこ
 今回の世界は『ダークセイヴァー』
 人を喰らい続けた領主オブリビオンを退治するのが今回の目的となります。

●第一章
 集団戦『罪を背負いし聖女』
 戦場は滅びた極寒の街。
 足元には雪が積もり、街の所々に魔力を受けて咲く白百合がみられます。
 敵は領主に抵抗した罪で中途半端に食われ、身体を残された聖女達。罪の意識を植え付けられ、今は領主の眷属として街を守っています。領主様への忠誠を誓う言葉を呟くのみで、会話は不可能です。
 聖女は街中の様々な所にいます。
 リプレイは皆様がそれぞれに敵と遭遇して、戦いが始まるところからとなります。

●第二章
 ボス戦『純白のリリィ』
 極寒の街の領主として君臨していたオブリビオン。
 全ての命を嘘偽りなく本気で愛していると語り、魔の美貌と花香を纏う女。街の人々を喰らい尽くしたことで孤立していますが、危機感は覚えておらず、誰かを待っているような節があります。会話らしいことは可能ですが、話は通じません。

 自らの血肉や命を捧げたいという衝動的な感情を与える攻撃や、望む幸せな夢を強制的に見せる花香を放つ力を用い、自分が今までに喰らってきた街の狂信者の霊を召喚することで戦います。

●第三章
 日常『忘れ去られた墓で』
 街の奥には雪に埋もれた墓地があります。
 犠牲になった人々へ弔いや祈りを捧げたり、あなたが抱く思いを巡らせてみたり、過去や未来を思ってみたりと、静かに自由にお過ごしください。
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第1章 集団戦 『罪を背負いし聖女』

POW   :    抵抗してはなりません、それは罪なのです。
【直接攻撃をしない者との戦闘に疑問】の感情を与える事に成功した対象に、召喚した【凄惨な虐殺の記憶】から、高命中力の【戦意を抹消させる贖罪の嘆き】を飛ばす。
SPD   :    私が犯した罪は許されません。
【自身が犯した罪】を披露した指定の全対象に【二度と領主には逆らいたくないという】感情を与える。対象の心を強く震わせる程、効果時間は伸びる。
WIZ   :    あなたの罪を浄化します。
全身を【流血させ祈ると、対象を従順な奴隷】に変える。あらゆる攻撃に対しほぼ無敵になるが、自身は全く動けない。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

夏目・晴夜
なんと悲しい、まさか本当に滅びていたとは!
名も能も選ばれる事も無い、ただ醜いばかりの愚図と
無視と罵倒の日常をもう過ごせないなんて!
いい気味ですね

昔に会っていたとしても、初めまして
へえ、領主様に逆らった事があるのですか
何処かの愚図は一度も無いらしいですよ
まず何かを命じられた事も、声を掛けられた事も
碌に顔を見た事も無いらしいです
確かに重罪ですねえ
それでは、さようなら

皿の中に残り続けた餌共も、死に絶えた街もどうでも良い
ただ、今の私の姿を見て
成長前の愚図しか知らない領主様は気付いて下さるのか
領主様の仰る愛とは果たして如何程のものか
それだけは実に興味深いです

もう少し待っていて下さいね
今すぐ殺しに参ります



●Hallelujah
 闇の街を覆うのは白い雪。
 遠い記憶の中にあるのは、街を行き交う人々の姿だ。
 夏目・晴夜(不夜狼・f00145)の胸裏には、あの頃の思い出が過ぎっていった。
 暖を取る為の薪も食事を作る為の蓄えも糧も殆どなく、満たされているはずなどないのに、満たされたような顔をした者ばかり。
 身も心も彼女に捧げたいと願う人々は酷く痩せ細っていたが、いつも笑っていた。
 陶酔とは、まさにあのことをいうのだろう。
 あの御方に祝福を、譽れを。すべてを領主様へ。
 ――ハレルヤ!
 領主を称える言葉を幾度も、何度も繰り返す人々。
 しかし、今やこの街には誰もいない。領主に捧げる織物を作っていた工房は崩れ落ち、領主を称えるための教会のステンドグラスも割れて見る影もなく、民家の屋根は雪によって壊れており、扉も風に揺られて軋んだ音を立てている。

 白い百合の花が咲いていた。
 冷たい風を受けて、揺らめく花を見下ろした晴夜は一度だけ目を伏せた。
 瞼を閉じていた時間は一瞬。
 その間に巡っていった思いや感慨を振り払うように、晴夜は顔を上げた。そうして、彼は敢えて笑ってみせる。
「なんと悲しい、まさか本当に滅びていたとは!」
 言葉とは裏腹に、晴夜の表情に哀しみの色はなかった。こうなっているかもしれないと想像していたことが現実になっている。そのことが当たり前のようでいて、未だ少し信じられなくもある。
 されど目の前にあるものこそが真実だ。
 名も与えられず、突出した何かや能もなく、いつまで経っても領主様に選ばれることもなかった――ただ醜いばかりの愚図と、無視と罵倒の日常。
「ああ、あの日々をもう過ごせないなんて!」
 いい気味ですね、と口許を緩めた晴夜の瞳は、揺れる白百合を映し続けていた。
 傍らに佇む絡繰犬は主である彼を見上げている。
 その様子に気付いた晴夜は、大丈夫ですよ、と語り掛けた。それはまるで、自分にも言い聞かせているかのようだ。
 すると、彼の声を聞きつけたらしい誰かが訪れた。
 教会の影から姿をあらわしたのは血塗れのシスター達だ。絡繰犬に持たせていた悪食の刃を手に取り、晴夜は身構える。
「初めまして、でしょうか」
 どちらも見覚えのない顔だと思った。過去に出会ったことのない彼女達はおそらく、この街に後から訪れた者だ。
 領主が平和に治めている街があるとでも聞いて来たのだろう。
 だが、実際は人心が操られているだけ。領主打倒を決意した聖女達は――どうなったかは今、この現状が如実に示している。
「申し訳ありません、申し訳ありません……私達が悪いのです」
「ああ、お許しください領主様。どうか、残りも食べてくださいまし……」
 彼女達は罪を償いたいと語るような言葉を繰り返している。片方の聖女は片足が無く、腹が破られている。もう片方の聖女は両腕がない。
 晴夜は刃を差し向け、血塗れのシスター達に鋭い視線を向けた。
「へえ、領主様に逆らった事があるのですか」
 晴夜には分かっている。
 彼女達は既に亡霊になっており、その身は罪という罰に侵されていることを。
「私が犯した反逆の罪はまだ許されておりません」
「そうですか。何処かの愚図は逆らった事は一度も無いらしいですよ。まず何かを命じられた事も、声を掛けられた事も、碌に顔を見た事も無いようですからね」
 虚空に向かって呟いた聖女に向け、晴夜は刃を振るった。
 彼が駆けることで真新しい雪に足跡が付き、踏み荒らされていく。それは純白の世界に自分を刻んでいくかのようだ。
 新雪を好きに踏み荒らすのも、既にある足跡を綺麗に辿って行くのも良い。
 刃が聖女達を切り刻み、欲求のもとに魂が削られていく。
「あなたも領主様には逆らわぬよう」
「忠誠を誓うことです」
 聖女達は自らが領主に反旗を翻したときのことを語った。手も足も出ず、領主の美しさと尊さに平伏したのだという。
 へぇ、と関心すら寄せずに頷いた晴夜は聖女達を見遣る。
「確かに重罪ですねえ。それでは――さようなら、美しい聖女さん達」
 罪を纏って彷徨う彼女達に与えるのは、晴夜なりの救い。
 切り伏せられた聖女は雪の上に倒れ込み、其処に在ったという痕跡すら残さずに消えていった。悪食の刃を下ろした晴夜は刀に付いた血を払おうとする。だが、その血すら残っていないことに気付いて肩を竦めた。
 皿の中に残り続けた餌共も、死に絶えた街もどうでもいい。
 領主様は誰かを待っている。
 それが誰であるのか。もしかしたら自分なのだろうか。
 あのときは見向きもされなかったのに、彼女は語る言葉通りに等しく愚図である己も愛していてくれていたのか。
 真意は知れない。
 今の晴夜の姿を見て、成長前の愚図しか知らない領主様は気付いて下さるのか。
 領主様の仰る愛とは果たして如何程のものか。彼女のことが嫌いで嫌いで、大嫌いだからこそ、そのことだけは実に興味深く思えた。
 そして、晴夜は白百合の花が導く先へ、歩を進めていく。
「もう少し待っていて下さいね」
 晴夜は遠くに見える領主の館に目を向け、己の裡に宿る思いを言の葉に変えた。

 今すぐ、殺しに参ります。
 貴女に捧げられた言葉を、名として抱くことを決めた――このハレルヤが。

 白き花は昏い風に揺られながら、彼を迎え入れるように咲き誇っていた。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

セプリオギナ・ユーラス
(雪は嫌いだ。寒さをあまり感じない身体でも、足元を奪われ行動が制限される)

──話を、しよう
たとえば、お前のおかれた状況について

もしお前が今の自分の状況を良しとするのならば、俺はただお前を敵として排除して進むことにする
だがお前が現状を良しとせず、治療を望むというのならば、俺はお前を患者として認識し、全力でお前の治療にあたることにする。

…ああ、対話が困難なのは分かっているさ
だが話しかけねば何も始まらない
これが俺のやり方だ
罪の意識を植え付けられ洗脳されているだけであるなら、治療も不可能ではないはずだ

方針:治療により流血を止める、罪の意識を拭えそうならその方針で治療を試みる
無駄ならチェーンソーで叩斬る



●看取る一閃
 一面に広がるのは廃墟群と、誰の足跡もない雪道。
 踏み入った街の建物の殆どは崩れかけており、生きる人の気配は感じられない。
 白い雪の上を進むセプリオギナ・ユーラス(賽は投げられた・f25430)は首を横に振り、息を吐くような仕草をした。
(雪は嫌いだ)
 寒さをあまり感じない身体でも、足元を奪われて行動が制限されてしまう。
 セプリオギナはゆっくりと、しかし確りと足場を踏み締めながら先に進む。人の居なくなった街は心淋しい。その雰囲気を更に深めているのは――彷徨う死者の亡霊の存在だ。
 半壊した宿屋の前、セプリオギナは行く手を阻む影を見つけた。
「領主、様に……仇を成す、者よ……」
 その正体は微笑を浮かべたシスターだ。だが、彼女は血塗れで、纏う服もかなり破れている。そのうえに片足がない。焦点の定まっていない視線は虚空を映したまま、唇からは途切れがちな言葉が紡がれるのみ。
 セプリオギナは身構えながら、彼女――敵に語りかける。
「――話を、しよう」
 たとえば、お前のおかれた状況について。
 呼びかけたセプリオギナに対して、聖女は反応しない。代わりにぶつぶつと何かを呟いているだけだ。
「リリィ様、ああ、リリィ様」
 セプリオギナはそれにも構わず、言葉を続けていく。
「もしお前が今の自分の状況を良しとするのならば、俺はただお前を敵として排除して進むことにする。だが――」
 聖女が現状を良しとせず、治療を望むというのならば話は別。
 セプリオギナは彼女を患者として認識し、全力で治療にあたると告げた。
 されど聖女は何も答えず、ただ両手を胸の前で重ねただけ。その指先もまた、千切れてなくなっている。
「選ばれたもの、しか……あの御方にはお目通りが、叶いません……。領主様に背いた我々も、愚かでした……」
 カタカタと震える唇が領主への敬愛と守護、更には自罰的な言葉を語っていた。
 それは聖女自身がそのように感じているから言っているのか、それとも言わされているだけなのか。いわゆる、領主の“食べ残し”である彼女の真意は見えない。
「……ああ、対話が困難なのは分かっているさ」
 セプリオギナは独り言ちた。
 しかし、話しかけねば何も始まらない。闇医者とて言論による状況調整ならずして診察も治療も出来ない、というのが根本たる思いであり、セプリオギナのやり方だ。
 罪の意識を植え付けられ洗脳されているだけであるなら、治療も不可能ではないはずだが、セプリオギナは気付いた。
 彼女の肌が透けている。それは聖女が既に亡霊でしかないことを示していた。
 身体はおそらくもう朽ちたのだろう。
 彼女の霊魂はそういうものとして顕現している。永遠に止まらぬ血を流し続け、永遠に消えぬ罪を背負って、償えぬ贖罪として領主を守るという存在。
 きっと彼女は、もう手遅れだ。
「看取ってやることも、務めだからな」
 セプリオギナは電動チェーンソーを振り上げ、罪を背負いし聖女に狙いを定めた。
 轟音が雪の街に響き渡る。
 自ら罪を償えぬのと定められた魂ならば、その偽りの罪ごと叩き切ってやるだけ。そして、セプリオギナは雪の地面を蹴りあげた。
 駆動音を立てる刃はひといきに聖女を穿ち、斬り裂いていき――。
 哀しき亡霊の一体は彼の手によって、雪の上でとけきえるように散っていった。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

政木・朱鞠
可哀想に…この世界の理不尽に抗いきれずそのまま眷属として取り込まれてしまったんだね…。
無力な咎人殺しの言い訳になっちゃうけど、貴方達が成せなかった反逆の心を引き継いで領主の打倒を肩代わりさせて貰うね…。
今は敵として討たせて貰うけど、転生の出口で奪われた誇りを取り戻せるよう祈っているよ…だから、今はオヤスミナサイだよ。

戦闘【POW】
足止めのため武器は拷問具『荊野鎖』をチョイスして【鎧砕き】や【鎧無視攻撃】の技能を使って体に鎖を絡めて動きを封じ確実な攻撃をしたいね。
心情的な攻撃だけど…『忍法・咎狐落とし』で植えつけられた罪悪感と本来の彼女たちの意識を切り離せれば良いんだけどね…。

アドリブ連帯歓迎



●咎に眠りを
 雪の上に白百合が咲いていた。
 冷たい風に揺られている花を見下ろしてから息を吐く。そうすれば冷え切った空気の一部が白く染まっていった。
 壊れて滅びた街の中を歩き、政木・朱鞠(狐龍の姫忍・f00521)は肩を竦める。
 崩れかけた建物の影に何かが見えたことで、彼女は立ち止まった。
「――Hallelujah」
 何かを称える声と共に影から現れたのは、血塗れの聖女だ。汚れて千切れたシスター服を纏った彼女には片腕がなかった。おそらくこれが領主に食べ残されたという証でもあるのだろう。
「可哀想に……」
 朱鞠はその姿を瞳に映し、亡霊聖女に憐れみの目を向ける。
 彼女らはこの世界の理不尽に抗いきれず、そのまま眷属として取り込まれてしまったものだ。そう感じた朱鞠はそっと身構えた。
 聖女の身は透けており、その身に滴る血は地面に落ちる前に消えている。
「領主様、我らをお赦しください……」
 焦点の定まっていない瞳で、ゆっくりと呟いた聖女。ないはずの片腕と、残ったもう片方の腕を胸の前で組むような仕草を見せた亡霊の瞳はひどく虚ろだ。
 朱鞠は唇を噛み締めながらも、決して彼女から目を逸らさなかった。
 領主様、と呟く彼女も元は悪しき者に立ち向かったひとりのはずだ。それが今、身体を食い荒らされた亡霊となって彷徨っている。
 永久に消えぬ罪を刻まれ、止まらぬ血を流す彼女達は哀れだ。
「無力な咎人殺しの言い訳になっちゃうけど、貴方達が成せなかった反逆の心を引き継いで領主の打倒を肩代わりさせて貰うね……」
 朱鞠は心苦しそうに双眸を鋭く細め、拷問具の荊野鎖を構えた。
 本当は丁重に弔うべき対象だ。
 しかし彼女達に罪を植え付けた領主という存在がいる以上、今は敵として討つのみ。
 朱鞠は命は巡るのだという思いを抱き、そっと思いを口にする。もし、彼女達を倒すことで呪縛から解放出来るのならば。
「転生の出口で奪われた誇りを取り戻せるよう祈っているよ」
 だから、と告げた彼女は荊野鎖を迸らせた。
 更に朱鞠は其処に浄化の炎を宿す。その瞬間、聖女も動いた。
「我らの罪を、お見せしましょう」
 凄惨な虐殺の記憶が朱鞠の脳裏に過ぎっていく。領主に逆らった聖女達が無残に食い殺されていく様子が、断片的に流れていった。
 領主に逆らえば皆こうなると示されているかのようだ。
 だが、朱鞠は怯みなどしない。蔓薔薇めいた鎖を聖女に絡みつかせた朱鞠は、其処にある咎人としての魂だけを縛りあげた。
 ――忍法・咎狐落とし。
「今はオヤスミナサイだよ」
 朱鞠の言葉と共に、聖女の身が崩れ落ちる。
 雪の上に倒れ込んだ相手は瞬く間に消え去り、跡形もなく消滅した。
 植えつけられた罪悪感と本来の彼女たちの意識が切り離せられていれば良いと願い、朱鞠は暫し雪を見下ろす。
 どうか、これで彼女達が救いの道を歩いていけますように。
 その姿を見つめているかのように、雪の上に咲く白百合が揺れた。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

ハニー・ジンジャー
愛してくださるのですって
我ら確と耳にしました
踊る足で逢いにきましたよ、ねえ

抵抗する気はありません
戦意など毛頭も
リリィもきっとそうでしたでしょ
我らには、ワカリマス
そうとも
ただ、お前たちを愛してる

百合に雪に吐く息すらも
きれいなしろいろ
塗り潰してしまうの、ごめんなさいね

薄翅蜉蝣

リリィ
我ら も お前を愛していますが
残念だ
喰い残しては、ダメですよ

ぱくり



●愛と云う名の
 足元の雪が、さくりと音を立てた。
 自分が踏み出したことで刻まれた足跡を振り返り、ハニー・ジンジャー(どろり・f14738)は茫洋とした瞳を幾度か瞬かせた。
 吐く息は白く、空気を淡く染めている。霞んだ景色の向こうには崩れかけた建物がたくさん並んでいた。
 その何処にも生きた人の気配はなく、静寂と雪が広がるばかり。
 向き直ったハニーは誰もいない場所に向かってふわりと笑み、静かに呟いた。
「愛してくださるのですって」
 自分以外には何もないが、ハニーは誰かと語り合うかのように言葉を並べていく。
 再び歩き出した彼は、此の街を治め、滅ぼした白百合の君のことを思う。
「我ら確と耳にしました」
 人々を、命を、我らを――遍く全てのものを愛するというオブリビオン。
 彼女は嘘偽りない愛を抱いているという。その寵愛を、その愛情を受けてみたいと感じたハニーは軽い足取りで進んでいく。
「踊る足で逢いにきましたよ、ねえ」
 彼が緩やかな視線を向けた先。少し遠くには領主の館が見えていた。
 しかし、ハニーの前に立ち塞がる者がいる。
「選ばれし者しか、この先には通せません」
 現れたのは血塗れのシスターだ。両掌を胸の前で重ねている彼女には片足がなく、片方の目玉も残されていないようだ。
 否、片側の瞳だけ残されてしまった、といった様子だ。
「抵抗してはなりません、それは罪なのです」
 対する聖女は警告めいた言葉と眼差しをハニーに差し向けた。
「抵抗する気はありませんよ」
 ハニーは遠慮なく彼女の姿を見つめ、戦意など毛頭もなのだと示す。
 リリィもきっとそうでしたでしょ、と語りかければ聖女は押し黙ってしまう。だが、領主の館に近付けさせないという意志がはっきりと見えた。
「我らには、ワカリマス」
「…………」
 二人の視線が交錯して、雪を踏み締める音が微かに響く。
 ハニーの真意をはかりかねているらしいシスターは片方しかない目を閉じ、首を横に振った。そして、其処から凄惨な虐殺の記憶を巡らせていく。
 ハニーにもその光景が見えたが、彼は動じなかった。
 ただ双眸を細めて記憶を見ていくのみ。足だけを喰らわれた瞬間、目玉を抉り出しされた一瞬。そして、それらが喰われていく時間。
 常人ならば目を背けたくなるようなものだが、ハニーは笑った。
 聖女を食らうリリィには愛が見えたからだ。そう、普通とは違う愛が――。
「そうとも。ただ、お前たちを愛してる」
 そうして、ハニーは薄翅蜉蝣の名を冠する力を解き放っていった。
 百合に雪に吐く息すらも、きれいなしろいろも。
「塗り潰してしまうの、ごめんなさいね」
 ちいさな謝罪と共に、白い世界に夜色の底無し沼が広がっていく。聖女の身は其処に呑まれ、不完全な身体が沈んでいった。
 ハニーは領主の館を見遣り、白百合の君への思いを向ける。
「リリィ――我ら も お前を愛していますが」
 残念だ、と呟いたハニーは聖女の方に視線を戻し、もがく姿を見下ろした。
 足もなければ片目もない。苦しんで、苦しんで、愛を受け取れない身体になってしまった聖女は此処に居てはいけないものだから。
「喰い残しては、ダメですよ」
 ぱくり。
 沈んだ夜の色に、魂が呑み込まれ――聖女の罪ごとすべてが消えた。
 

成功 🔵​🔵​🔴​

緋翠・華乃音
死してなお肉体や魂を縛られる必要は無い。
……もう眠れ、君の役目は終わったんだ。


さくり。さくり。
淡く積もる雪を踏み、神も去って久しい廃教会の前で対峙した。
かつて聖女だった者と。


一切の予備動作も無く彼我の距離を“殺した”。
銃爪に掛かる白花の繊指によって既に銃弾は放たれている。

拳銃とは対の手に携えるナイフが白い世界に黒い軌跡を残す。
白百合を散らさぬよう、蝶が不規則に羽搏くように翻弄する立ち回り。
虚実を織り混ぜた攻守自在の戦術。

戦意など端から欠片も無い。
言うなれば身勝手な救済の押し付けだ。


在るべき場所へと魂を還し、安らぎを与えるのも蝶の役目だ。
君は独りぼっちじゃない。だから安心して眠ってくれ。



●蝶の見送り
 冷たい風が髪を揺らし、頬を撫でていく。
 極寒の街に残されたのは壊れかけた家屋や建物ばかり。この街で過ごしていた人々の形跡すら消していくように、雪が降り積もっている。
 更に辺りには白百合の花が咲いており、季節に不釣り合いな景色を作り出していた。
 さくり、さくり。
 雪を踏み締めて歩く緋翠・華乃音(終奏の蝶・f03169)は、周囲の気配を探った。
 生者はひとりも居ない。
 街に君臨していた――否、誰も居なくなった今も領主の座につく者がすべてを喰らい尽くしてしまったからだ。
 しかし、生者ではないもの。すなわち死者の魂が彷徨っていることはわかる。
「死してなお肉体や魂を縛られる必要は無い」
「…………」
 華乃音は目の前に現れた者へと呼びかけたが、返事はなかった。
 彼が立ち止まったのは、神も去って久しいであろう廃教会の前。対峙しているのは片手と片足のない、ぼろぼろに破れたシスター服を身に纏った聖女だ。
「……もう眠れ、君の役目は終わったんだ」
「領主様……ああ、リリィ様……。今、邪魔者を排除致します……」
 華乃音の声には反応を見せず、聖女は領主への忠誠を口にしている。聖女、とはいっても今や眷属にされた身。かつてそうだった者と示すのがよいのかもしれない。
 二人が立つ教会。
 其処にあったステンドグラスは割れており、屋根に掲げられていた十字もひび割れて崩れている。足元に散らばっているはずの硝子も雪に覆い隠されている。
 言葉も聞いてもらえず、会話もできない。
 それならば、後に残された行動はただひとつしかない。
「抵抗してはなりません、それは罪なのです」
 シスターは虚ろな瞳を華乃音に向け、何事かを呟き始めた。それと同時に彼女が辿ってきた凄惨な虐殺の記憶が周囲に巡っていく。
 普通であれば、人の姿をしたものが女に喰われていく様など目を背けたくなるものでしかないだろう。されど純白のリリィが聖女をゆっくりと食べていく光景は、不思議な甘やかさが感じ取れた。
 だが、華乃音はそれを意識しない。
 一切の予備動作も無く彼我の距離を――“殺した”。
 銃爪に掛かる白花の繊指によって、既に銃弾は放たれている。刹那、拳銃とは対の手に携えるナイフが白い世界に黒い軌跡を残していった。
 辺りの白百合を散らさぬよう、華乃音は華麗に立ち回っていく。聖女も防御しようとしたが彼の速さに付いてこれていない。
 彼は蝶が不規則に羽搏くように敵を翻弄していき、その魂を削り取っていく。
 それは見事なまでの虚実を織り混ぜた攻守自在の戦術。
 そんな彼に戦意など端から欠片も無い。
 言うなれば、身勝手な救済の押し付けでしかないと華乃音自身は思っていた。
 聖女だった者は此処に存在していいものではない。いつまでも消えぬ罪を背負わされ、それ自体が罰となっているのなら――。
「在るべき場所へと魂を還し、安らぎを与えるのも蝶の役目だ」
 瑠璃色の蝶の群れが白い世界に羽撃く。
 星空にも似た瑠璃の炎は、彼女に贈る柩を作り出してゆくかのように迸った。炎に包まれ、崩れ落ちながら消えていく聖女を見下ろし、華乃音は瞳を伏せる。
「君は独りぼっちじゃない。だから安心して眠ってくれ」
 そして、言葉が紡がれ終わった時。
 哀しき罪と罰を与えられた聖女は、骸の海に還っていった。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

隠・小夜
袁(f31450)と
アドリブ歓迎、目の露出NG

その過食のお陰で
こうして、討伐の機会を得られたけど

袁、どうしたの
食べられそうな部分があれば、食べてもいいんじゃない?
……次の戦闘もあるから、程々にね

後衛で戦闘開始
袁から離れている敵に対しては
『遠見』を使い、簡易的な索敵を行う【偵察】【情報収集】
袁、羽付いてる目は食べるの禁止だから

僕の、罪?
笑わせてくれるよね
君が僕の何を知っているのさ
……何も知らない奴に罪だの何だの言われる筋合いは無い
だから――踏み躙られて、絶命しなよ

UC:拒む意思
レギオン達、頭部だけは残しておいてよね
多分、袁が食べるから
……君に心配されなくても、自分の身は自分で守る


袁・鶴
隠ちゃんf31451と

人食いの領主様、ねえ
ていうかさ、此処まで全滅させたら食べるものなくなっちゃうと思うんだけど
…俺を生み出した鳥達ならよくやったって言う状況なんだろうけどお腹減るでしょ…絶対

そう眉を上げつつも敵の姿を見れば目、食べられるかなと隠ちゃんへ視線を共に声を
特にあの浮かんでる水色の目とか…なんか懐かしくて食べたくな…って、嘘嘘。食べないよとそう笑みを向けつつ戦闘へ

戦闘時は前衛で行動
手にしたサバイバルナイフを敵の瞳に向け振るい『部位破壊』を試みるよ
瞳、若しくは肉をそげたら【羅刹鳥の性】肉を食べ細胞を活性化させつつ『滑空』敵へナイフを振るって行くよ
隠ちゃん、大丈夫?怪我しないで、ね?



●瞳の彩
「人食いの領主様、ねえ」
 雪が降り積もる街の中、袁・鶴(東方妖怪の悪霊・f31450)は周囲を見渡した。
 廃墟と化した家屋には生きる人の気配は感じられない。まるで白い雪が事実を覆い隠してしまっているかのようだ。
「ていうかさ、此処まで全滅させたら食べるものなくなっちゃうと思うんだけど」
「その過食のお陰で、こうして、討伐の機会を得られたけど」
 隠・小夜(怪異憑き・f31451)が鶴の声に答える。鶴は肩を竦め、良かったのか悪かったのか分からない現状を思った。
「そうだね……。でも俺を生み出した鳥達ならよくやったって言う状況なんだろうけど、お腹減るでしょ……絶対」
 鶴は暫し此の街の領主や現状についてのことを考えていた。
 二人はゆっくりと雪を踏み締め、領主の館があるという街の中央を目指す。
 しかし、あるとき。
「……あ」
「袁、どうしたの」
 鶴が立ち止まり、一点を見つめた。小夜も同じように歩みを止めて鶴の視線が向いている方を見遣る。
 すると其処にはボロボロに破れたシスター服を着た女性が立っていた。
 鶴は眉を上げつつ、敵の姿を見ている。
「目、食べられるかな」
 視線と共に小夜に声をかけた鶴。
 対する彼はというと、何のこともなしに答えた。
「食べられそうな部分があれば、食べてもいいんじゃない?」
「特にあの浮かんでる水色の目とか……なんか懐かしくて食べたく――」
「袁、羽付いてる目は食べるの禁止だから。それに次の戦闘もあるから、程々にね」
「って、嘘嘘。食べないよ」
 そうやって言葉を交わしつつ、鶴は戦闘体勢を取る。目の前の聖女は血塗れでありながらも陶酔した表情を浮かべている。
「領主様には近付けさせません。ああ、リリィ様……」
 シスターは此方を侵入者だと認識しているらしく、立ち塞がってきていた。
 話の通じる相手ではないと感じながら小夜は後方に下がる。同時に鶴は手にしたサバイバルナイフを振りかざし、一気に攻撃を仕掛けに向かった。
 敵は一体。
 されど油断は出来ないとして小夜は遠見を使う。他に眷属が居ないかどうかを確かめるべく、簡易的な索敵を行っていった。
 どうやら周囲には目の前の聖女以外はいないようだ。
 一体との戦闘に集中していいと鶴に告げ、小夜は後方支援に回っていった。
「その目、欲しいな」
 鶴はサバイバルナイフを聖女に差し向け、その瞳に向け振るうことで部位破壊を試みていった。しかし、その前に相手も動く。
「抵抗してはなりません、それは罪なのです」
 聖女の言葉と同時に凄惨な虐殺の記憶が辺りに浮かんでいった。
 それは酷く惨たらしいものであり、鶴や小夜の中に直接刻み込まれていく。其処から戦意を抹消させる贖罪の嘆きが響いた。
 だが、小夜は鼻で笑うような仕草をみせる。
「僕の、罪?」
 ふ、と本当に笑みを見せた彼は身構え直す。
「あなたの罪を浄化します」
 聖女は独り言のように呟き、流血したまま祈りを捧げた。小夜は溜息をつき、聖女の行動も言葉も自分には届かないと断じる。
「笑わせてくれるよね。君が僕の何を知っているのさ」
 何も知らない奴に罪だの何だの言われる筋合いは無い。小夜が感じていたのは苛立ち混じりの敵意だ。そうすれば彼のユーベルコードが発動する準備が整っていく。
 其処に雄山羊を模した獰猛なバロックレギオンが召喚された。
「だから――踏み躙られて、絶命しなよ」
「ついでに目も壊させて貰うよ」
 バロックレギオンが敵に向かって襲いかかる最中、鶴も凄惨な光景を振り払って駆けていく。瞳を、そして肉を削いで――羅刹鳥の性を発動させる。
 肉を食べ、細胞を活性化させつつ滑空。敵へナイフを振るっていく鶴は容赦がない。
 冷たい風が吹き抜け、周囲に咲く白百合の花を揺らしていった。
 その度に聖女が傷付けられ、嘆きの声が木霊する。
 小夜はバロックレギオン達に指示を出しながら、罪を背負いし聖女を穿ち続けた。
「レギオン達、頭部だけは残しておいてよね。多分、袁が食べ……あれ、亡霊だから肉ってないのかな? まぁいいや」
 雄山羊に襲われる聖女は穿たれる度に部位が消えていっている。
 おそらくその身が霊的なものであるからだろうが、鶴はそんなことなど気にしない。聖女が避けようとしても鶴の振るうサバイバルナイフによって身が断ち切られる。
 それは彼女が二度目の死を迎えるまで続けられた。
 やがて、聖女の亡霊は消える。
「隠ちゃん、大丈夫? 怪我しないで、ね?」
「……君に心配されなくても、自分の身は自分で守る」
 戦いが終わり、鶴から掛けられた言葉に小夜が答える。遠見の瞳はその傍で翼を揺らし、武器を下ろした鶴達を映していた。
 そして、二人は再び歩き出す。人食いの領主が待つという館を目指して――。
 

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

紬雁・紅葉
激しき思いは刃に似る
御鎮めするべきものです

羅刹紋を顕わに幽か笑み
十握刃を顕現

先制UCの木曜(木属性)に破魔氷属性を乗せて最大範囲発動
地形を利用し魔力を増強
強化効果を味方にも付与

残像忍び足で正面からゆるゆると接敵

射程に入り次第破魔氷雷属性衝撃波UCを以て回数に任せ範囲を薙ぎ払う

敵の攻撃は躱せるか見切り
躱せるなら残像などで躱し
さもなくば破魔衝撃波オーラ防御武器受け等で防ぐ
何れもカウンター破魔雷氷属性衝撃波UCを以て範囲を薙ぎ払う

窮地の仲間は積極的にかばい援護射撃

そは慈悲に似て
そは呪詛に似て
そは狂気に似て

目前の者達に

彼の愛鬼
我々が鎮めます

去り罷りませ…

※アドリブ、緊急連携、とっさの絡み、大歓迎です※



●浄化
 白い雪の上に足跡が刻まれていく。
 生きる者が誰もいなくなった街の中、紬雁・紅葉(剣樹の貴女・f03588)は現れた聖女と対峙していた。
 目の前にいるのは身体を食い残された者。
 まだ生きているのが不思議なくらいだと感じられたが、彼女は既に死んでいる身なのだろう。最期の姿のまま亡霊となって罪を植え付けられ、こうして街を彷徨うものとなっているに違いない。
 紅葉は聖女から感じる罪への思いを感じ取り、激しき思いは刃に似るのだと考えた。
「貴女の思いは、御鎮めするべきものです」
 静かに語り掛けた紅葉は羅刹紋を顕わにして、幽かに笑む。
 それと同時に十握刃を顕現させた紅葉は木曜の力に破魔と氷属性を乗せた。最大範囲まで効果を拡げて発動させた力は瞬く間に聖女を貫く。
「あなたの罪を浄化します」
 されど、血で汚れた聖女は痛みなど感じていないかのように呟いた。
 浄化されるべきはきっと聖女の方だと思い、紅葉は更に力を紡ぎ続ける。雪が降り積もる地形を利用して魔力を増強させ、巨大な九曜紋を描き出した。
 自らの力を強化した紅葉は、祈りを捧げる聖女に近付いていく。
 残像を纏い、忍び足で正面からゆるゆると接敵すれば聖女が顔を上げた。
「あなたの罪を……いいえ、私の罪を――」
 何かを口にした聖女が言い終わる前に紅葉が射程に入った。彼女は一瞬だけ、罪に押し潰されてしまいそうな表情を浮かべる。
 罪を浄化したいというのならば、この手で祓うだけ。
 紅葉は破魔の力、更には氷と雷の力を衝撃波に重ね、回数に任せて薙ぎ払う。
 聖女は祈ったまま動かない。
 代わりに邪悪なオーラが紅葉に迫ってきたが、見切れそうだ。その攻撃を躱した紅葉は残像で以て相手を惑わせる。
 何度も何度も聖女は力を振るったが、破魔の力がそれを寄せ付けなかった。衝撃波を放ち、オーラの防御で受けて武器で防ぐ。
 そうやって戦っていく紅葉はカウンター攻撃を叩き込み、聖女の力を削っていった。

 そは慈悲に似て。
 そは呪詛に似て。
 そは狂気に似て。

 目前の者が罪から解放されて逝けるように。背負わされたものが偽りであり、悔いることはないのだと報せるように、紅葉は全力を振るっていく。
「彼の愛鬼、我々が鎮めます」
 宣言と誓いにも似た思いを言葉にして告げ、紅葉は手にした得物を振り下ろした。
 それはまさに、聖女が望んだ浄化の如く――。
「去り罷りませ……」
 聖女が地に伏し、消えていく様を見つめた紅葉はそっと瞼を閉じた。
 彼女の罪を祓えたならば、これが最善の結末だ。どうか安らかに、と願った紅葉が瞼をひらいたとき、其処にはもう何もなかった。
 風を受けた白百合だけが、ゆらゆらと花弁を揺らめかせていた。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

ライナス・ブレイスフォード
リカルドf15138と

故郷を思い出し自然と生じる苛立ちを隠しつつリカルドと進むぜ
敵と会えば舌打ちをしつつ戦闘へ

戦闘時は敵の体に再度舌打ちしつつリボルバーにて『クイックドロウ』
リカルドへの攻撃を妨害する様『制圧射撃』を
けど、食い荒らされたその姿に思わず幼馴染の少女の姿を重ねると同時
白い皿に飾り付けられた肉と、そして解体小屋の隅に積まれた少女の記憶が蘇りつい動きが止まっちまうかもしれねえ

リカルドの声に僅かに意識を戻せばリカルドと確認する様な声を投げつつ【偉大なる糧】
集中力を高めつつリボルバーにて敵の動きを止める様『部位破壊』
…あんたの肉は誰にもやる気ねえからな
ここで捕まる訳にはいかねえだろ?なあ!


リカルド・アヴリール
ライナス(f10398)と
アドリブ歓迎

凄惨な光景に思わず、眉を顰めるも
ライナスの様子が普段とは少し違う気がして
一抹の不安を抱えながら進む

ライナスが銃撃に専念出来る様に
前衛で戦斧『鏖』を振るい、UC:虐
【体勢を崩す】べく、【範囲攻撃】を狙う

喪った故郷、守り切れなかった人々
虐殺の記憶を呼び水に、後悔が胸の内を占めるが
だからこそ、ライナスを【かばう】事を最優先に動く
もう二度と大切な者を失う訳にはいかない――ッ!

ライナス、おい!
しっかりしろ、俺はまだ生きているから……!
ライナスに喰らわれる事に抵抗はせず
以降も直ぐに庇える様に立ち回る
普段通りの言動には
思わず、安堵の息が漏れたかもしれない



●過去と後悔
 白い雪と白百合。
 降りしきる純白と、風に揺れる白花。
 それらは美しくもあったが、どうにも不釣り合いで奇妙な感覚をおぼえさせる。
 目の前に広がっているのは壊れた街の景色だ。
 それによって故郷を思い出し、自然と生じるのは苛立ち。
 雪景色と城に沈む街を見つめ、ライナス・ブレイスフォード(ダンピールのグールドライバー・f10398)は歩を進めていく。
 自分の隣を歩くリカルド・アヴリール(機人背反・f15138)には苛立ちを見せぬよう押し隠し、ライナスは領主の館を目指していった。
「チッ……敵か」
 その最中、ライナスは目の前に立ち塞がるように現れた影へと舌打ちをする。
 千切れた衣服を纏っているのはシスターめいた亡霊だ。血塗れの彼女は虚ろな目をしており、ぶつぶつと何かを呟いている。
「領主様……領主様……」
 お許しください、と語る聖女。その周囲にはぼんやりとした光景が浮かびはじめ、リカルドとライナスの目に凄惨な光景が飛び込んできた。
 ――許して、助けて。
 叫ぶ聖女の腕が千切られた。
 それから耳が切り落とされ、足が喰われていく。
 聖女の悲痛な嘆きが響く光景はおそらく過去のものだ。しかし、聖女の表情は次第に恍惚としたものに変わっていった。領主に喰われることが嬉しいといった様相だ。
 その光景の中で領主、純白のリリィはあえかに微笑む。
 愛していますよ、と囁かれる声を聞いた過去の聖女は陶酔しきった顔をしていた。
 奇妙過ぎる過去の投影にリカルドは思わず眉を顰める。
 だが、自分以上にライナスの様子が普段とは少し違う気がした。この惨状を見たからではなく、元から何かの感情を抱いているようだ。
 再びライナスが舌打ちをする。
 何かを隠しているらしいと感じたリカルドの胸に一抹の不安が宿った。
 されど、戦いは既に始まっている。
 リカルドはライナスが銃撃に専念出来るように前に踏み出し、戦斧の鏖を振りあげた。
 同時にライナスもリボルバーを構え、射撃に入っていく。
「そうなっちまったなら仕方ないよな」
 ライナスはリカルドが自分の為に動いてくれていると感じ取り、聖女を見据える。彼はリカルドへの攻撃を妨害するように制圧射撃を放っていった。
 だが、贖罪の嘆きは止まらない。
 そんな中でライナスの脳裏にある記憶が過ぎった。
 食い荒らされた聖女の姿に思わず幼馴染の少女の姿を重ねてしまったのだ。
 白い皿に飾り付けられた肉。
 そして、解体小屋の隅に積まれた少女。
 そのような記憶が蘇ってしまい、ライナスの動きがぴたりと止まってしまった。
「ライナス!」
 リカルドは彼の異変に気付き、敵の体勢を崩すべく全力で戦場を駆ける。聖女からの攻撃は決してライナスには通さないと決めていた。
 あの惨状を目にして心が乱されないはずがない。そう感じていたリカルドは、周囲に広がる光景から視線を逸らした。
 しかし、果敢に戦い続けるリカルドの裡にも或る思いが巡っている。
 喪った故郷、守り切れなかった人々。
 先程に見せられた虐殺の記憶を呼び水にして、後悔が湧き出てきた。苦しい感情が胸の内を占めている。
 だが、だからこそ――。
 ライナスを庇うことを最優先にしたいと強く考え、リカルドは思いの丈を叫ぶ。
「もう二度と大切な者を失う訳にはいかない――ッ!」
「……リカルド?」
 ライナスは彼の声を聞き、はっとした。
 僅かに意識が戻ってくる。リカルドが自分を守っているのだと察したライナスは、今が戦いの最中だということを思い出した。
「ライナス、おい! しっかりしろ、俺はまだ生きているから……!」
 リカルドからの必死の呼び掛けはライナスの意識を確実に引き戻す。すぐさまリボルバーを構え直した彼は、集中力を高めていく。
 刹那、銃声が響いた。敵の動きを止める一撃が撃ち放たれたのだ。
「……あんたの肉は誰にもやる気ねえからな」
 そうして、ライナスはリカルドの血と肉を食らった。それによって彼は更なる力を得ていく。これが自分達の在り方であり、喰らわれることに抵抗しない。
 血を流したリカルドは薄く笑む。
 するとライナスも普段通りの笑みを浮かべ、引き金を引いて敵を穿っていった。
「ここで捕まる訳にはいかねえだろ? なあ!」
「ああ……!」
 いつもと同じ言動を聞き、リカルドは安堵の息を吐く。
 そして――戦斧と銃弾は容赦なく聖女を貫き、その罪ごと骸の海に葬った。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

リーヴァルディ・カーライル
…かつて領主に逆らった者達の亡骸、ね
領主に抗う事が罪ならば、私は永遠に罪を抱く咎人で良い

…だから貴女の救いは不要よ、聖女様

吸血鬼化した自身の生命力を吸収してUCを発動
吸血鬼が光の力を使う傷口を抉るような反動に耐えながら、
限界突破した光属性攻撃の魔力を溜めて心中で祈りを捧げ、
光のオーラで防御を無視して浄化する"光の風"を放つ

…貴女の遺体をこれ以上、傷付けるのは忍びない
そしてこれ以上、貴女達の尊厳を踏みにじる行いも赦されない

…かつて貴女達が抱いていた意志は私が受け継ぐわ
今日、この日を以てこの地は人類の手に奪還される

…だから貴女達は光と共に眠りなさい
それが、私に出来る唯一の手向けよ



●闇に光を
 冷たい雪に覆われた街には静寂が満ちていた。
 滅びた街の中で聞こえるものといえば自分が雪を踏み締めて進む足音と、冬の風が吹き抜けていく鋭い音だけ。
 しかし、其処に何かの影が見えた。
 リーヴァルディ・カーライル(ダンピールの黒騎士・f01841)自身のものではない。
「……かつて領主に逆らった者達の亡骸、ね」
 それもそのまま亡霊になったらしき者がリーヴァルディの前に現れている。所々が千切れたぼろぼろのシスター服を纏う女は何かをぶつぶつと呟いているようだ。
「領主様に逆らった私達は……愚か、でした……」
 聖女は両手を重ねるような仕草をする。だが、食い残されたという彼女の片腕は失われており、僅かに残った腕が動いただけ。
 リーヴァルディは亡霊となってまで罪を背負わされ続ける聖女を見遣る。
「領主に抗う事が罪ならば、私は永遠に罪を抱く咎人で良いわ」
 その罪も此の街の領主に植え付けられたものなのだろう。背負わずとも構わない重荷を持って彷徨う聖女は哀れだ。
 されど敵の眷属となっている今、倒すべき相手でしかない。
「あなたの罪を浄化します」
「……貴女の救いは不要よ、聖女様」
 そして、二人の視線と言葉が交差した。その瞬間に戦いは始まった。
 聖女は流血したまま祈りを捧げる。すると此方を従順な奴隷として操る禍々しい力が周囲に満ちていった。
 だが、リーヴァルディはその力に対抗する。
 自身の生命力を吸収した彼女は、血の教義を発動させていった。
「……限定解放。テンカウント。吸血鬼のオドと精霊のマナ。それを今、一つに……!」
 光の力を使うと傷口を抉るような反動が走る。その痛みに耐えながら、リーヴァルディは限界を突破していく。
 其処から光の魔力を溜めていくリーヴァルディは、心中で祈りを捧げた。
 リーヴァルディの祈りと聖女の祈り。
 拮抗しあう力は雪の戦場の最中で静かにぶつかりあった。光のオーラはリーヴァルディの周囲に展開され、敵の防御を無視する勢いで浄化の力が放たれる。
 すると其処から光の風が巡った。
「たとえ亡霊でも……貴女の遺体をこれ以上、傷付けるのは忍びない」
「ああ、ああ……食べ残さないでください。領主様、私達をすべて食べて――」
 リーヴァルディが聖女へと言葉を向けると、相手は焦点の定まっていない瞳で虚空を見上げる。陶酔しきった顔をした彼女には最早何の言葉も通じないらしい。
 反逆した先で洗脳に近い忠誠を抱かされる。
 食べてもらえなかった、という思いを抱いたまま無為に戦う存在。これ以上の罰が何処にあるだろうか。否、罪など最初からなかった。
「これ以上、貴女達の尊厳を踏みにじる行いも赦されない」
 だから、領主を屠る。
 貴女達が戦う必要は何も無いのだと伝え、リーヴァルディは更なる光の風を放つ。
「……かつて貴女達が抱いていた意志は私が受け継ぐわ」
 今日、この日を以て。
 この地は人類の手に奪還されるべきもの。既に住民が全て滅びていなくなっているとしても、それがきっと正しき在り方だ。
「……だから貴女達は光と共に眠りなさい」
 それが、自分に出来る唯一の手向け。
 リーヴァルディの言葉と共に光が聖女を包み込み、亡霊は骸の海に還された。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

ユヴェン・ポシェット
罪、か…。
俺の罪を咎めることができるのはアンタ等じゃない

テュットがまっすぐ聖女の元へ向かい、そして覆い、包む。
聖女達にとっては罪の意識が苦しみで寒さも痛みも最早関係無いのかもしれないが…その姿を見て抱きしめずにはいられなかったのか。
寒さも痛みも視界も、感覚を遮断させようと包み、動きを抑える。

俺達は俺たちに出来ることをしよう。ミヌレ。
…一撃だ。
極熱を帯びた黒き槍となったミヌレを手に、聖女の方へ向かう。
一瞬で終わらせる、何が起きたかわからない程に。
槍が触れる直前にテュットが聖女を解放し、そのまま槍で貫く。

偽りの罪は、苦しみは、断ち切ろう。
それがせめて出来る事だ。



●慈しみと抱擁
 雪の廃都に彷徨うのは、罪を背負いし聖女の亡霊。
 人を喰らう領主に反旗を翻した結果、彼女達は敗北した。陶酔にも似た忠誠を誓わされた聖女達は今、食い殺された姿のままで終わらぬ罰を受けている。
「罪、か……」
 ユヴェン・ポシェット(opaalikivi・f01669)は頭を振り、足元に咲く白百合に視線を落とした。冬でも咲く花からは不思議な雰囲気が漂っている。
 この花が街に咲いている限り、此処は領主の領地だという証なのだろう。
 ユヴェンが顔を上げると、建物の影から人影があらわれた。
「領主様……許してください……ああ、領主様……」
 何事かを呟いているのは引き千切れたシスター服を身に纏った女性だ。片足がなく、身体が透けている。
 ユヴェンは身構え、静かな声で彼女に語り掛けていった。
「俺の罪を咎めることができるのはアンタ等じゃない」
 すると、意思を持つダークネスクロークがまっすぐに聖女の元へ向う。シスターは僅かな反応を見せたのみ。何故なら、テュットには敵意や害意がなかったからだ。
 そしてテュットは聖女を覆い、包み込む。
 それは優しい抱擁にも似ていた。
「テュット……」
 聖女達にとっては、罪の意識こそが苦しみ。
 亡霊となった今はそれに支配されるだけで、寒さも痛みも関係無いのかもしれない。だが、テュットは傷ついた姿を見て抱き締めずにはいられなかったのだろう。
 そして寒さも痛みも視界も、感覚を遮断させようとしたとき――。
「抵抗してはなりません、それは罪なのです」
 聖女は首を振り、テュットを振り払った。それは違うというようにテュットも聖女を再び包み込もうとするが、視界を遮ることは敵意だと見られてしまったようだ。
「大丈夫だ、テュット。下がれ!」
 よくやった、と告げたユヴェンはミヌレの槍を強く握り締める。結果的に振り払われてしまったが、ユヴェンはその一瞬の隙に聖女との距離を詰めていた。
「俺達は俺たちに出来ることをしよう。ミヌレ」
 ――もう、苦しませない。
 一撃で屠ると決めたユヴェンは、聖女の周囲に展開されていく過去の幻から意識を逸らす。其処には喰らい殺されたときの光景が巡っていた。
 辛かっただろう。苦しかっただろう。
 ユヴェンは極熱を帯びた黒き槍となったミヌレを手にして、聖女に目を向け続ける。
 贖罪の嘆きが響いているが、ユヴェンは槍の切っ先を鋭く差し向けた。
 そして、一瞬後。
 瞬きの間にすべてが終わった。相手には何が起きたかわからない程だったはずだ。
 槍に貫かれた聖女は雪の大地に伏した。
 テュットは倒れた聖女にふわりと近付き、消えゆくその身を抱き締めるように包み込む。贖罪を求めていた彼女に、静かな終わりが訪れるように。
 ユヴェンは消滅していく亡霊を見送り、別れの言葉を贈った。
「偽りの罪は、苦しみは、断ち切ったぜ。……おやすみ」
 これが自分達に出来る唯一のこと。
 白い雪の上で役目を終えた聖女の瞳は、最期まで白百合の花を映していた。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

メリル・チェコット
……寒い
日常で見る雪とは違う、寒くてさみしい雪
熱を、命を奪う白

この白百合だって
花は見るだけで心があたたまるものなのに
この花は違う
こんなに綺麗なのに、どうしてこんなに冷たいままなの

目の前のあなただって
相対する存在は人ではない
きっと、人だったもの
半端に傷つけてそのままだなんて
ひどいことするんだね
彼女たちが一体どんな罪を犯したって言うんだろう

彼女に逆らってひどい目に遭ったんだよね
もう逆らいたくないよね
伝わってくるよ
あなたはもう休んでいいの
後のことはまかせて

落ち着いて、狙いを定めて
魔力で作った光の矢を展開
あなたたちの作られた罪が、寒い夜が
これ以上続かないよう
精一杯の全力魔法で送らせて



●雪に沈む思い
 ――寒い。
 この街は何処もかしこも雪に塗れていて、死の匂いがする。
 メリル・チェコット(ひだまりメリー・f14836)は辺りをゆっくりと見渡しながら、不穏な空気が満ちる廃都を瞳に映した。
 踏み締める雪は柔らかいが、日常で見る雪とは違う、寒くてさみしい雪だと思えた。
 熱を、命を奪う白。
 雪の上に咲く不可思議な白百合からもまた、そのような雰囲気が感じられる。
 花は見るだけで心があたたまるものなのに――。
「……この花は違う」
 こんなに綺麗なのに、どうしてこんなに冷たいままなのだろう。メリルは足元に咲いていた百合に手を伸ばしてみる。
 どうしてか、その花は笑っている気がした。
 あたたかな微笑みなどではなく、何処か冷たい印象を感じるものだ。
 メリルが言葉に出来ない思いを抱いていると、前方に誰かの影が見えた。元は教会だったであろうステンドグラスが割れた建物の裏からふらふらと女性が歩いてきている。
 されど、その身は血塗れ。
 四肢は欠けており、身体は透けている。残酷な仕打ちを受けて死した者だとすぐに分かり、メリルは震えそうになる掌を強く握った。
 怖いのではない。
 彼女をそうさせた存在への言い表せぬ思いと、哀しみが入り混じった感情の所為だ。
 目の前に佇む聖女を見つめ、メリルはそっと身構えた。
「あなたはもう、人ではないのね。きっと、人だったもので……」
 罪を背負わされて彷徨う亡霊は、此処に居てはいけないもののはず。彼女らを喰らったという領主は悪いものだとメリルは感じていた。
「半端に傷つけてそのままだなんて、ひどいことするんだね」
「領主様を侮辱することは、罪です……」
「侮辱なんかじゃなくて本当のことだよ」
「あなたにも、罰を――」
 メリルの言葉に対して、聖女は焦点の定まらぬ視線を返してくる。声に答えているのではなく、己の中にある思いを吐き出しているだけなのだろう。
 話が通じていないと感じたメリルは悲しい気持ちを覚えた。一体、彼女たちがどんな罪を犯したというのだろうか。
 きっと罪ではなく、正当な反抗であったはず。
「領主様に……彼女に逆らってひどい目に遭ったんだよね。もう逆らいたくないよね」
 伝わってくるよ、とメリルは言葉を掛け続ける。
 メリルは角突弓を構え、両手を祈るように重ねた聖女に狙いを定めた。こうすることが彼女を救うことになるのだから容赦は出来ない。
「あなたはもう休んでいいの、後のことはまかせて」
「いいえ……私が犯した罪は許されません」
 すると聖女が返答のような言葉を紡いだ。メリルの身にも、聖女が感じたであろう恐怖や畏怖が伝播していく。
 しかし、メリルは息を吸って気持ちを落ち着けた。
 刹那、魔力で作った光の矢が展開されていく。解き放たれた一矢はまるで流星のように鋭く、光は群を成して広がっていった。
「あなたたちの作られた罪が、寒い夜が、これ以上続かないように!」
 ――貫く。
 与えられなくて良かったはずの罪も、苦しいだけの罰も。
 精一杯の力で放たれたメリルの一閃は、宣言通りに聖女の罪ごとすべてを穿つ。光が収まったとき、其処にはもう哀しき亡霊はいなかった。
 無事に罪から解放できたのかと考えながら、少女は俯く。
 そうして一度だけ瞳を伏せ、さよなら、と消滅した聖女への別れの言葉を送った。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

ルーシー・ブルーベル
【POW】

こんな雪の時期に白百合が
なんてうつくしい、
そして、なんて恐ろしい景色

いいえ、いいえ
ルーシーは歩みを止めない
ルーシーを食べるのはあなた達じゃない

あおに……いいえ
あかにまみれたものが見えたとしても
それでわたしは立ち止まったりしないわ
戦う理由はそれだけよ

あなた達だって何かに気づいて
何かを心に抱いたから戦ったのでしょう
その結果がこれでは
……あまりにも

ララ、共にいきましょう
『変身するお友だち』
あの聖女さん達を吹き飛ばして
あなたの香りと花弁で包んでしまって
彼女たちが本来の想いを抱いて還れるように

わたしもいつか
食べられないといけない
けれどその時まで
生きること
歩むことこそが、償いだから



●赦し
 白い雪が降り積もった街に、白い花が咲いている。
 こんな雪の時期に白百合が花をひらいていることが珍しく、ルーシー・ブルーベル(ミオソティス・f11656)はそっと花の傍で立ち止まった。
「なんてうつくしい、」
 そして――。
「なんて恐ろしい景色なの」
 花は綺麗だが、周囲の街には死の気配しか感じられない。ルーシーは顔を上げ、壊れた街の景色をじっと見つめていた。
 崩れた壁、割れた硝子。燃え尽きて随分と経つ薪の残骸。
 雪に押し潰された屋根や、霞んで読めない文字が並ぶ看板。
 そういったものをひとつずつ瞳に映していったルーシーは、足が竦むような感覚をおぼえていた。されど、すぐに首を横に振る。
「いいえ、いいえ」
 此処で立ち止まったままではいけないとして、ルーシーは自分を律する。
 ルーシーは歩みを止めない。
 ルーシーを食べるのはあなた達じゃないから。
 心のなかで何度も自分を奮い立たせた少女は雪を踏み締めていく。さくり、さくりと足跡が刻まれていく道筋の先はまっさらだ。
 まるで此処で生きていた人々の形跡を消すかのような雪は酷く冷たい。
 暫く歩いた後、ルーシーは前方に何かの気配を感じた。
 こんにちは、と少女はその人影に呼び掛ける。そうすれば影はゆっくりとルーシーの前に歩いてきた。
「あおに……いいえ、あかにまみれたものが見えたとしてもそれでわたしは立ち止まったりしないわ。あなた達だって、そうだったのでしょう?」
 ルーシーは千切れた衣服を身に纏う聖女に、そっと語りかける。
 この街で彷徨う亡霊の彼女達は嘗て、人食いの領主に反旗を翻したことで破れた者だという。彼女達もきっと、この街を領主から解放するために戦ったのだろう。
 立ち止まらずに進む。
 ルーシーの戦う理由がそれだけであるように、聖女達もそうだったはず。
 千切れて欠けた指先を重ね合わせた聖女は祈りをはじめる。血塗れの聖女は痛々しく感じられたが、ルーシーは怯んだりなどしない。
「あなた達だって何かに気づいて、何かを心に抱いたから戦ったのでしょう」
「抵抗してはなりません、それは罪なのです」
 すると聖女は返答ではない言葉を返した。ルーシーの瞳が僅かに揺れる。
 戦った結果がこれでは――。
「……あまりにも、」
 ひどい。酷い。苦しい。切なくて、辛い。
 浮かんだ思いは言葉にせず、ルーシーはぬいぐるみのララに呼び掛けた。
「ララ、共にいきましょう」
 その声と共にララが青い花咲く蔦竜に変化していく。
 あの聖女さんを吹き飛ばして、あなたの香りと花弁で包んでしまって。彼女たちが本来の想いを抱いて還れるように。
 ルーシーがまっすぐな思いで以て願うと、ララはその言葉に従っていった。
「わたしもいつか、食べられないといけない」
 敵を穿つ花弁が雪景色の中に舞う最中、ルーシーは独り言ちる。
 その声は誰にも聞かれることはなかったが、少女の中には或る思いが巡っていた。
 けれど、そのときまで生きること。
 歩むことこそが、償いだから――。
 青の花が舞い散る戦場で、やがて亡霊は消えていった。罪から解放された聖女が骸の海に還っていく様を見送り、ルーシーは双眸を細める。
 今にも泣き出しそうな表情ではあったが、その瞳の奥には確かな決意が宿っていた。
 

成功 🔵​🔵​🔴​

白霧・叶
【桔梗】
亡者―……いや、今でもあんたらは立派な聖者だよ。最後まで信念を貫いて、偽りの想いと忠義を誓わされたんだろ。苦痛の時間は終わりだ、せめて安らかに眠らせてやるさ

戦闘は蒼とディアナがサポートに回る動きをしているな。 なら俺は【破魔】を用いた攻撃でなるべく苦痛を与えないように、かつ一刻も早く苦しみからも解放させるように攻撃。 【第六感】で攻撃が来たら回避優先しつつ当たってしまうなら【覚悟】をもって堪えよう

領主に従う事があんたらの望みじゃないだろう? 過ちを過ちと言えるあんたらだったんだ、最後はもっといい終わりがあっても良さそうだってのに―……嫌な世界だな、ったく

【アレンジ大歓迎です】


戎崎・蒼
【桔梗】POW
ハレルヤ、か…厭に崇め讃えるような言葉だな
白百合もこんなに……と、気を取られている場合ではないのだろうね
兎も角、罪を背負った聖女だと言うのなら───立ち塞がると言うのなら、だ
潔く葬り去られて貰おうか

早撃ちは得意な方だ(スナイパー+暗殺)
なるだけ多くの敵に銃弾を当ててUCを発動、記憶自体を操作して相手の油断を誘ってみよう
そういったサポートが出来たなら、後は他の3人に譲る
過不足分はテルミット弾のSyan-bulletを使い、ダメージを負わせるようにするよ

僕は精々この程度のサポートしか出来ない
……後は頼んだよ、3人共


宮前・紅
【桔梗】POW
さて、と………敵さんのお出ましだね
皆も居ることだし、存分に暴れさせて貰おうか!
あはははは────最っ高!

俺と叶くんが攻撃
それに伴いディアナちゃんと蒼くんがサポートしてくれるみたいだから、任せようかな
まぁ、隙を作る為に……と攻撃がサポートの二人に向かないようにUCを使うよ

UC発動後はコンツェシュで捌きつつ、敵の攻撃は(ジャストガード)で防ぐ
攻撃を受けきれずとも、耐えてみせるよ(激痛耐性)
各個撃破を目指しつつ引力でまとめて、貫く(フェイント+貫通攻撃)

皆はどこまでも優しいと思うけど俺は優しくするつもりはないよ──死んだ人間に用はない

俺は君たちを貴ぶ心なんて持ってないんだから………ね?


ディアナ・ロドクルーン
【桔梗】SPD

ええ、来たわね。哀れな聖女のなれの果て―
領主に抵抗し、逆に眷属にされてしまった悲しい女たち

貴女方に恨みもないけれども、さよならよ
此処にいてはいけない―永久の眠りにつきなさい
それがせめてもの情け

蒼くんのUC発動後に出来た隙を見て私のUC「死者の宴」を発動して相手のUCを封じ、紅くん、叶さんの援護に回りましょう

UCを封じてしまえば後は剣でマヒ攻撃を交えながら
皆と連携を取り、一体一体確実に倒していくわ
長く苦しみを与えぬよう、急所を狙って。

敵攻撃は第六感で回避、または敵を盾にして攻撃を凌ぐ

どうか、安寧の地へ、旅立てますようにと
祈りを手向ける



●贖罪は雪に沈む
 ――Hallelujah.
 それは賛美の言葉であり、主を讃える意味合いが込められている。
「ハレルヤ、か……厭に崇め讃えるような言葉だな」
 戎崎・蒼(暗愚の戦場兵器・f04968)は周囲に降り積もる雪と、街の中にちらほらと咲いている白百合に目を向ける。
 そうね、と答えたディアナ・ロドクルーン(天満月の訃言師・f01023)と共に、白霧・叶(潤色・f30497)も辺りの様子を確かめている。
 蒼の隣を歩く宮前・紅(三姉妹の人形と罪人・f04970)はというと、まだ足跡のついていない白い雪に自分が歩いた証を刻んでいる。街に満ちている陰鬱な雰囲気とは裏腹に、紅は楽しげだ。
「見て、百合が綺麗!」
「白百合もこんなに……と、気を取られている場合ではないのだろうね」
 紅が指差した花に目を向けた蒼は、不意にはたとした。
 花は確かに綺麗だが、その向こう側から何者かが近付いてきている。叶もはっとして其方に向き直り、人影の正体を探った。
「亡者か――」
 二人の人影はボロボロのシスター服を纏った亡霊だ。彼女達こそが話に聞いていた罪を背負いし聖女なのだろう。
 叶が身構えると、紅はそれまで浮かべていたものよりも深い笑みを湛えた。
「さて、と………敵さんのお出ましだね」
 皆も居ることだし、存分に暴れさせて貰おう。そんな風に笑っている紅の後方で、ディアナも確りと敵を見据えた。
「ええ、来たわね。哀れな聖女のなれの果て――」
 領主に抵抗し、逆に眷属にされてしまった悲しい女達だと聞いている。
 それゆえに食べ残され、あのように四肢が欠けているのだろう。片方の聖女は右腕がなく、胸の辺りも酷く抉られている。もう片方の聖女は左足がすべて欠けた状態で、両手の指先も殆どない状態だ。
「私達が犯した罪は許されません」
「抵抗してはなりません、それは罪なのです」
 聖女達は自分が愚かであることを語り、焦点の定まらぬ視線を虚空に向けた。
 叶は首を横に振り、彼女達へと言葉を向ける。
「いや、今でもあんたらは立派な聖者だよ。最後まで信念を貫いて、偽りの想いと忠義を誓わされたんだろ。苦痛の時間は終わりだ、せめて安らかに眠らせてやるさ」
 声が届かないことは知っていた。
 領主に盲目的な忠誠を誓わされ、陶酔混じりの感情を与えられた者達だ。彼女達は叶の真摯な言葉を聞いておらず、領主様、と呟き続けるばかり。
 やり辛いと感じながらも蒼は戦いへの意思を固める。
「その罪は偽りだ。兎も角、罪を背負った聖女だと言うのなら――立ち塞がると言うのなら、だ。潔く葬り去られて貰おうか」
 蒼は一歩後ろに下がり、その代わりに紅が前に踏み出す。
 同時に叶が構えを取りつつ破魔の力を紡いだ。
「やるしかないな」
 いくぞ、と告げた叶に続いて紅が一気に踏み込む。
 その瞬間、紅いブローチが細剣のコンツェシュへと変化した。刃を振りかざしたことで紅い宝石が鈍く煌めく。
 叶が解き放った破魔の一閃に合わせ、紅も剣を振り下ろした。
「あはははは――――最っ高!」
 笑う紅の後方では、蒼が銃を構えている。
 銃爪を引いたことすら見えない早撃ちで以て二人を補助する蒼は冷静だ。できるだけ多くの敵に銃弾を当てていこうと決め、彼は力を発動させる。
 鴟梟へと相手を変化させ、記憶自体を操作して相手の油断を誘うという狙いだったが、不意に奇妙な力が巡った。
 聖女は変化せず、白百合の香りが周囲に強く漂ったのだ。
「――?」
「あれ、領主様の力ってやつじゃない?」
 首を傾げた蒼に対し、紅は予想を口にする。おそらく聖女を縛っている領主の力が変化と改変を防いだのだろう。
 記憶と意思を操作する力に支配された者に更なる変化は与えられないようだ。
 だが、蒼はそれならそれで構わないと感じた。この銃弾さえ当たれば相手の力を削ることが出来るからだ。
 其処に続き、ディアナも動いていく。
「貴女方に恨みもないけれども、さよならよ。此処にいてはいけない」
 先に別れを告げたディアナは死者の宴を発動していた。
 ――陽の明を忌み嫌う者よ、今宵は貴殿らの宴となろう。首なき影が物を謂う。亡き者達を纏わせて、歌えや踊れや慄けや。惡しき者を今ここに。
 詠唱と共に黄昏を彷徨う亡霊が現れて嘆き、宵闇に満ちる怨霊が怒り、暁に響き渡る亡者が叫びをあげる。
「永久の眠りにつきなさい。それがせめてもの情けだもの」
 蒼と同じく紅と叶の援護に回るディアナは、己の思いを言葉にしていった。
 叶は後方の二人の力を感じ取り、鋭い居合の一閃を解き放つ。
 この一撃でなるべく苦痛を与えないように、かつ一刻も早く苦しみからも解放させられるように願い、叶は攻撃を続けていく。
「領主に従う事があんたらの望みじゃないだろう?」
「…………」
「過ちを過ちと言えるあんたらだったんだ、最後はもっといい終わりがあっても良さそうだってのに――」
 叶の呼び掛けに聖女達は何も答えない。それでも、叶は自分が抱く感情を言の葉に変えながら伝えていく。
 蒼もサポートに徹しながら、過不足分を計算しながらテルミット弾を用いた。
 紅は聖女の力が弱っていると感じ、相手からの攻撃を受け止めていなす。更に其処へ、剣を構えたディアナが飛び込んでいく。
 四人は連携を重ね、聖女を斬り裂き、その身を穿っていた。
 長く苦しみを与えぬよう、急所を狙って――。
 そうすれば一体目の敵が地に伏して消えた。だが、残りの亡霊聖女は血を流しながら贖罪の嘆きを何度も口にしている。
「お許しください、お許しを……」
「……。許すも何も、罪なんてないんだよ。……後は頼んだよ、三人共」
 蒼はその言葉に答え、ディアナ達に後を託す。
 対する紅は聖女の紡いだ声など一切気にしていなかった。
 苦しめないように、と戦う皆はどこまでも優しい。けれども紅には優しくするつもりなど少しもなかった。
「――死んだ人間に用はない。俺は君たちを貴ぶ心なんて持ってないんだから……ね?」
 そういって、紅はコンツェシュを振り下ろした。
 刹那、聖女の身は貫かれてその場に倒れ込む。領主様、と最期に呟いて逝った聖女は跡形もなく消えた。
「……嫌な世界だな、ったく」
 叶は霊刀を鞘に収め、ディアナも静かに目を伏せる。
「どうか、安寧の地へ、旅立てますように」
 手向けた祈りは静かに、白い雪に包まれている廃都の中に沈んでいった。
 そして、四人は領主の館に目を向ける。
 導くように咲く白百合の花が、彼らの視線の先で妖しく揺れていた。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

朱赫七・カムイ
⛩迎櫻

喰らう愛
之も愛のカタチのひとつ?
そんな愛情表現もあるのだね
民達はその愛を認めていたのだろう
私は未だ理解に至らないが
この気配は巫女の障りとなることはわかる
…サヨ
之は食べたいって顔だね
障っている

リル、サヨが…リル…平気かい?
辛そうだったものだから心配だ
一人で悩まないで

カラスと頷きあい落ち着かぬ巫女に神血を
サヨ、お飲み
私の血なら大丈夫
カグラ…落ち着いて…

そなたからは虚ろを感じる
一度は反旗を翻し折られた心
厄を祓おうか

リルの歌が巻き戻す
疾く駆けなぎはらいその厄ごと切断する
奴隷になどさせないよ
其れは約されない

―祝災ノ厄倖

届くかは解らない
誰もが赦さぬならその罪は
私がゆるすよ
そなたが自分をゆるせるように


リル・ルリ
🐟迎櫻

滅びた街
湖底のような寒さ
聖女、か
誰もに褒め讃えられた美しい領主
領民のいのちを糧に咲き誇る華
胸の裡でうたわれる黒薔薇の物語と重なる

櫻…カムイ…ヨルも
僕は大丈夫だよ
食べることが彼女の愛し方で
正しいことだと疑いもない
それが彼女の正義で
逆らうことが悪
この街の在り方

僕は進むと決めた
とまらないよ

ふふー
櫻も食べるのが愛だったね
懐かしい
カムイ…甘やかし過ぎてない?

僕だって食べられるなら櫻が…
カグラがなんか怖いぞ!

君は負けてしまったんだね
でも痛みに折れて沈むのは…罪ではない
君は頑張った

カナン、フララ
守りのひかりを
ヨルの鼓舞に背を押されるよう歌う
「薇の歌」

最期に元の君が抱いた
祈りの欠片が取り戻せたらいいな


誘名・櫻宵
🌸迎櫻

愛することは食べてしまうこと
とろける愛をのみほして
蕩けるあいを噛み締めて
誰にも奪われないようにおなかのなかにしまう
己の血肉にとろける
あいの何と

弔いの花と共に美味しそうな血の香り
大蛇が這いずる甘い衝動に笑みを深め
神の視線にハッとする
なんでもないわ!カムイ
美味しそうとか考えてない

リル?大丈夫?
無理はしないの
あなたはあなたの想う路を
皆一緒よ
胸の裡治まらぬまま励まして

カムイなんで…もう、何で
甘い神の血を啜れば少し落ち着く
…リルは食べてあげな…カグラが怖い!

聖女様?
罪だとかどうでもいい
赦されようとも思わない
「艶華」
破魔と浄化巡らせなぎ払い斬り裂いて
終わらせる
美しい桜にお成り

己を許せるのは
己だけよ



●赦されるもの、許すもの
 滅びた街には静寂が満ちていた。
 雪が積もった街は深く冷たい寒さが支配しており、湖底を思い起こさせる。
「聖女、か」
 リル・ルリ(『櫻沫の匣舟』・f10762)は或ることを思い出し、自分の尾鰭が微かに震えていることを感じた。
 誰もに褒め讃えられた美しい領主。
 領民のいのちを糧に咲き誇る華。胸の裡でうたわれる黒薔薇の物語と、この街に君臨する領主の在り方が妙に重なる。
 この街の領主はすべてを愛し、愛ゆえに人を喰らうのだという。
「喰らう愛。之も愛のカタチのひとつ?」
「ええ、愛することは食べてしまうこと」
 雪を踏み締めた朱赫七・カムイ(約倖ノ赫・f30062)が疑問を口にすると、その隣を歩く誘名・櫻宵(爛漫咲櫻・f02768)があえかに笑む。
 とろける愛をのみほして、蕩けるあいを噛み締めて。誰にも奪われないようにおなかのなかにしまうこと。
 己の血肉にとろける、あいの何と――。
 微笑む櫻宵の瞳の奥には大蛇のような雰囲気が見える。
 カムイはそんな愛情表現もあるのだろうと考えていた。たとえ操られていたとしても、民達がその愛を認めていたのだろう。
「サヨ……」
 自分には未だ理解に至らないが、この気配が巫女の障りとなることはわかる。
 弔いの花と共に美味しそうな血の香りがしていて、櫻宵は裡に這いずる甘い衝動に笑みを深めていく。しかし、神の視線に気が付いてハッとした。
「なんでもないわ! 美味しそうとか考えてないわよ」
 慌てて誤魔化す櫻宵だが、カムイにはお見通しだ。ひとまず正気に戻ったのだと分かったことでカムイはリルに意識を向ける。
「リルは平気かい?」
「リル? 大丈夫? 無理はしないのよ」
 櫻宵も問いかけ、ヨルがきゅううと鳴いてリルを見上げていた。
「櫻、カムイ、ヨルも……僕は大丈夫だよ」
 カムイが問いかけると、リルは頷いて答えた。
 食べることがこの街の領主の愛し方で、正しいことだとされているならば――それが彼女の正義で、逆らうことが悪。
 この街の在り方を認めたリルは、否定も肯定もしない。
「辛そうだったものだからね」
「あなたはあなたの想う路を進んで。皆一緒よ」
 カムイはいつものように優しく、櫻宵も胸の裡が治まらぬままでありながら励ましてくれたので、リルは柔らかな笑みを浮かべてみせた。
「僕は進むと決めたから、とまらないよ。それよりも……」
 一人で悩まないで、と伝えてくれたカムイに笑みを向けたリルはちらりと櫻宵を見遣った。カムイも首肯してから、淡く笑む櫻宵の傍に立つ。
「噫、之は食べたいって顔だね」
 障っている、と一言で断じたカムイはカラスと頷きあい、落ち着かぬ様子の巫女に神血を櫻宵に捧げた。
「サヨ、お飲み」
「カムイなんで……もう、何で」
 甘い神の血を啜れば、櫻宵の心持ちも少し落ち着いてきた。
 もう大丈夫そうだと感じたリルは、カムイと櫻宵の様子を交互に見遣った。
「ふふー。櫻も食べるのが愛だったね」
 懐かしいけれど、と口にしたリルはカムイが櫻宵を甘やかし過ぎてないか心配になる。
「私の血なら大丈夫」
「僕だって食べられるなら櫻が……あれ、カグラがなんか怖いぞ!」
「いいえ、リルは食べてあげな……ひえ、カグラが怖い!」
「落ち着いて、カグラ……」
 しかし、カグラの様子が険しかったのでリルと櫻宵の声が重なった。カムイは彼を何とかしておさめ、一行は雪道を進んでいく。

 そうして、三人は或る家屋の近くに差し掛かった。
 その影からふらふらと近付く人影があると気付き、櫻宵はそっと身構える。影の正体は千切れた衣服を纏ったシスター風の女性達だ。
「あなたが聖女様?」
「……領主様に近付くものに、罰を」
「お許しを。ああ、お許しを……」
 櫻宵が問いかけてみても彼女は返答らしい言葉を返さなかった。虚ろな瞳と血濡れの姿を見つめ、リルとカムイはすべてを理解する。
「君は負けてしまったんだね」
「そなたからは虚ろを感じるよ」
 一度は反旗を翻し、折られた心は厄に塗れている。
 けれども、痛みに折れて沈むのは罪ではないのだとリルは思う。
「君は頑張ったよ」
「噫、その穢れを祓おうか」
 二人が聖女に声を掛けると聖女は祈るような仕草をした。衣服に隠れて見えづらいが、よく見れば彼女の片足は失われている。
「本当に食べ残しなのね」
 櫻宵は屠桜を抜き放ち、一気に駆けていく。
 罪だとか罰だとかはどうでもいい。赦されようとも思わないゆえに櫻宵は鋭い刃を真正面から差し向ける。
 破魔と浄化の力を薙ぎ払う一閃に乗せて聖女達を斬り裂いていった。終わらせるという意志を込め、桜龍は神罰を巡らせていく。
「美しい桜にお成り」
「きっと、本当は白百合から解放されたいんだね」
 カナン、フララ、とリルが黒の蝶々に呼び掛けた。
 すると守りのひかりが満ちていき、雪の上で跳ねるヨルの鼓舞がリルの背を押す。其処から歌いあげられていくのは、薇の歌。
 祈る聖女達は此方の心を操る力を放ってきていたが、リルの歌によってそれらは巻き戻されていく。
 カムイは櫻宵に続く形で疾く駆け、その厄ごと聖女を斬り祓っていった。
 自分や櫻宵、リルを奴隷になどさせない。
「其れは約されないからね」
 祝災入り交じる力が雪の世界に満ち、厄と倖を同時に振り撒いていく。
 この力や言葉が届くかは解らない。されどカムイは懸命な思いを以てして聖女達に相対した。誰もが赦さぬならその罪は――。
「私がゆるすよ。そなたが自分をゆるせるように」
「己を許せるのは、己だけよ」
 櫻宵は艶やかな華を咲かせるような剣戟で敵を裂き、其処に花を咲かせた。
 人に赦される罪。
 己が許しを齎す思い。
 リルは最後まで歌を紡ぎあげ、聖女達が花となって散りゆく様を見守った。
 どうか――。
「最期に元の君が抱いた、祈りの欠片が取り戻せますように」
 白く染められた街に桜の花が舞う。
 そうして屠桜と喰桜は鞘に収められ、人魚の歌は終わりを迎える。

 しんと静まり返る雪の街。
 亡霊がすべて屠られ、葬送された先では――次なる戦いが待ち受けている。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 ボス戦 『純白のリリィ』

POW   :    今日の私はあなたが欲しい
【その美貌】を披露した指定の全対象に【自らの血肉や命を捧げたいという衝動的な】感情を与える。対象の心を強く震わせる程、効果時間は伸びる。
SPD   :    綺麗に食べて差し上げますから、安心して眠って
【対象が望む幸せな夢を強制的に見せる花香】を放ち、自身からレベルm半径内の指定した全対象を眠らせる。また、睡眠中の対象は負傷が回復する。
WIZ   :    Hallelujah!
【レベル×1体の狂信者】の霊を召喚する。これは【対象を供物として捧げようと、痛覚】や【身体の自由を奪う麻痺毒】で攻撃する能力を持つ。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は夏目・晴夜です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●愛しているから
 街の中央に佇む領主の館。
 軋む門を潜った屋敷の前には白百合の庭があった。雪の上に咲く白い花は楽園を思わせるような香りを館中に満たしている。
 猟兵達は館の扉を潜り、その内部に入った。
 エントランスにあたる場所には豪奢なシャンデリアや柔かな絨毯、白で統一された調度品が並んでいる。玄関を抜けた先には大階段があり、二階には大広間があるようだ。
 百合の香は其処からも強く漂っている。
 階段を登っていくと、酷く軋んだ音が館中に響いていった。敵に自分達の存在を報せているのと同じことだが、構わないだろう。
 何故なら――。

「ようこそ、愛しき子達」
 大昼間の奥で、この街の領主――純白のリリィは此方を快く迎えた。
 百合が絡まり咲く豪奢な椅子に座っている彼女の腕には、布で包まれた何かが抱かれている。赤黒い血のような染みがあり、人の形をしていることから中身は分かった。
 しかし、猟兵達の視線に気付いたリリィは淡く笑って告げる。
「この子は、この街にいた最後のひとりです。もう骨しかないけれど……あたらしい愛し子が訪れるまで、大切に食べていたのです」
 でも、もうこの子も終わり。
 布の袋をそっと床に置いた純白のリリィは笑みを深める。その視線は慈愛に満ちており、猟兵達を本当に歓迎しているかのようだ。
 されど、その足元からは亡霊の手が縋るように何本も伸びている。
 ハレルヤ、ハレルヤ、と複数の声が響く。
 魔力の血溜まりに濡れた彼女の足元から聞こえてきたので、おそらくはリリィに喰われた街の人々の亡霊が発した声なのだろう。
 喰われて死して尚、彼らは領主に陶酔して縋っている。純白のリリィが持つ人心を惑わせる力はこれほどまでに強いということを、亡霊達は示しているようだ。

 そして、純白のリリィは此方を見つめる。
「せっかく来てくださったけれどいけませんね。こんなにたくさん、一度に食べてあげることはできません」
 私は少食ですから、と冗談ともつかぬ言葉を落とすリリィは、そうっと笑む。
 だから選んであげる。
 ひとりずつ、ゆっくりと。私とあなただけの愛のひとときを過ごすために。
 最初は誰にしようかしら、と呟いた純白のリリィは見定めるように双眸を細めた。
 それと同時に数多の亡霊が周囲に現れていく。痩せ細った子供、大柄な男、華奢な女や老人。どの亡霊もリリィを守るために動きはじめた。
 苦しい。辛い。
 もっと領主様に食べて欲しいのに。私達には身体がない。
 お前達が選ばれることなど認めない。
 リリィの思いとは裏腹に亡霊達は妬ましそうな表情で迫ってきた。それらが大広間いっぱいに広がっていく。
 どうやら領主に近付くにはまず亡霊達を蹴散らさなければならないようだ。
「ああ、みなを愛しています」
 だから仲良く、と告げたリリィは玉座にも似た椅子の上で微笑み続ける。
 花の薫が更に強く香った。
 心が惑わされそうになるが、此処は気を強く持たねばならない。
 たとえすべてを愛し、すべてを慈しもうとも、リリィが語る愛は世界を壊す。即ちそれは――彼女がこの世界にとって、屠るべき存在だということなのだから。
 
メリル・チェコット
…ハレルヤ?
この響きもそうだ
この街は、いつもと同じものでもいつもと違うことだらけ

いつ耳にしても口にしても楽しい気分になれる
その言葉は、わたしにとってはそういう響き
その名を持つ人がそうしてくれたの
ここでは随分と…狂気じみた言葉みたいだね

綺麗な人
まるで赤い血さえもがあなたを引き立てているみたい
美しさに吞まれそうになる
この身体も捧げたくなってしまうほどに

でも、だめ
後のことはまかせてって言ったんだから
両手でぱちんと頬をたたいて
弓を引き、亡霊たちに炎を降らせる

わたし、あなたに食べられにきたんじゃないんだ
この炎は街への弔い
あなたが愛と呼ぶ行為の被害者を、その人たちの負の想いを、弔うために
そのために来たの!



●弔いの標
 亡霊となった街の者達が幾度も、何度も繰り返す声。
「……ハレルヤ?」
 それが主を称え、崇める意味合いを持っている言葉だということは分かる。
 しかし、メリルが思い浮かべていたのは称賛の意ではなく、よく知った彼のこと。夜を晴らすという名を持つ、彼のひとと同じ響き。
 この街は、いつもと同じものでもいつもと違うことだらけ。
 今も聞こえる言葉の響きも、愛を語る領主の言い分も、何もかもが違和ばかり。
 ハレルヤ。
 この音はメリルにとって、いつ耳にしても口にしても楽しい気分になれるもの。
 その名を持つ人がそうしてくれたから。
「わたしは、とても素敵な音と響きだと思うよ。でも……」
 メリルは角突弓を構え、大広間の先を見据えた。奥には純白と漆黒のヴェールを纏う、この街の領主が穏やかに笑っている。
 本当に聖女様のようだと思えたが、やはり彼女は異様だ。
 領主の前には次から次へと亡霊が現れており、怨嗟や嫉妬、憎しみが混じった視線を此方に向けてきている。
「ここでは随分と狂気じみた言葉みたいだね」
 ――ハレルヤ。
 メリル達には厳しい視線や意思を向けていても、亡霊達は領主にだけは崇め称える言葉を捧げている。領主は彼らを止めるでもなく、咎めるでもなくただ見守っている。
「みなを愛していますよ」
 そのように口にした純白のリリィは笑みを深めた。
 とても綺麗な人だとメリルは思う。血溜まりの上にいても、その赤い血さえも彼女を引き立てるものに変わってしまっている。
「わたしも、愛してくれるの? 食べてもらえるの……?」
 ぼんやりとした感覚がメリルの中に巡り、不意に思ってもいない言葉が零れ落ちた。すぐにはっとしたメリルは食べられたくなどないとして首を横に振る。
 美しさに呑まれそうになっていた。
 これが彼女の力であり、領民を惑わせたものなのか。
 この身体を、心さえも捧げたくなってしまうほどの気持ちがメリルの中にも生まれている。されどメリルは陶酔しきったりなどしない。
 ハレルヤ、と領民が言葉を繰り返す度に彼を思い出したからだ。
 心をリリィに預けたくなるような感覚を振り払ったメリルは、だめ、と口にする。それは自分への戒めだ。
「……うん、大丈夫」
 後のことはまかせて、と言った言葉を嘘にしたくない。メリルは両手で自分の頬をぱちんと叩き、構え直した角突弓を強く引く。
「そこを退いて貰うよ!」
 撓った弓に張り詰めた弦。メリルは其処に渾身の力と思いを込め、亡霊達に向けて炎の矢を降らせていく。
 ああ、領主様。リリィ様。
 そんな風に嘆きながら亡霊は倒れていった。しかし、それで行く手を遮るものがなくなったわけではない。何せ領主はこの街の人々をすべて喰らったという。
 彼らが亡霊として次々と顕現するなら、その数はきっと膨大すぎるほどだ。されど、それならば何度だってこの弓を引き続けて矢を射るだけ。
「わたし、あなたに食べられにきたんじゃないんだ」
 メリルは純白のリリィに向けて、はっきりと宣言する。対する彼女はそれを気にするでもなく穏やかに微笑んでいるだけだ。
 この炎は街への弔い。
「あなたが愛と呼ぶ行為……それはわたしにとっては、愛じゃないよ」
 その被害者を、その人たちの負の想いを。
 この焔で弔うことで、闇に閉ざされてしまった未来への道を拓いていく。
「囚われた心を解放する。わたしは――そのために来たの!」
 亡霊を葬送する炎が戦場に満ちた。
 この先で巡り、終わりゆく運命と宿命。メリルが放ち続ける送り火は宛ら、宿縁の導きや道標となっていくかのように疾く迸っていった。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

政木・朱鞠
私が甘やかしてそこからこぼれ出た精を美味しく頂く妖狐だからかもしれないけど…一方的に搾取するだけでギブ&テイクの無い関係なんて愛とは言えない思うんだよね…。
もし、その方法しかわかってないかったとしても、罪悪感を植え付け不粋な殺生を行なった咎は償ってから骸の海に帰って貰うよ。

戦闘【WIZ】
命を散らした人々の為に私も命を賭さないとね…『忍法・鋳薔薇姫』でほんの数秒だけど相手の動きを封じて隙を作りたいね…。
得物は急所への【貫通攻撃】を狙って刑場槍『葬栴檀』をチョイスして【鎧砕き】や【鎧無視攻撃】の技能を使いつつ【傷口をえぐる】【生命力吸収】の合わせで間を置かずダメージを与えたいね。

アドリブ連帯歓迎


リーヴァルディ・カーライル
…死してなお魂を縛られ、狂信を植えつけられるなんて…

これ以上、死んだ人達の想いをお前に汚させはしない…!

敵の精神属性攻撃は気合いと全身を覆う浄化のオーラで防御して、
今までの戦闘知識から霊達の殺気や闘争心を暗視して見切り、
攻撃を受け流して迎撃する早業のカウンターで数を減らし、
彼らの狂信を大鎌に食らわせて魔力を溜めUCを発動

…お前の独り善がりな愛とやらが真実、彼らに通じているとでも?

…お前の愛を、存在を、全てを否定するわ

…過去を刻むものよ、その力を解放せよ

正気に戻した霊達を左眼の聖痕に降霊して大鎌を武器改造
限界突破した呪詛の光刃を展開した巨大剣に変形し、
怪力任せになぎ払い敵を切断する闇の斬撃を放つ


紬雁・紅葉
羅刹紋を顕わに幽か笑み
御託宣です

先制UC発動

成程
黄泉の愛
黄泉醜女の愛
葦原にあるまじき

この"剣神"布都主が
斬り祓って進ぜよう

天羽々斬を鞘祓い十握刃を顕現
残像忍び足で正面からゆるゆると接敵

射程に入り次第破魔風雷属性衝撃波UCを以て回数に任せ範囲を薙ぎ払う

敵の攻撃は躱せるか見切り
躱せるなら残像などで躱し
さもなくば破魔衝撃波オーラ防御武器受けUC等で防ぐ
何れもカウンター破魔風雷属性衝撃波UCを以て範囲を薙ぎ払い吹き飛ばす

窮地の仲間は積極的にかばい援護射撃

そは盲愛也
そは溺愛也
そは狂愛也

剣に血肉も命も無し
唯只斬り祓うのみ

去り罷りませ怨霊!


とどめは縁者に委ねる

※アドリブ、緊急連携、とっさの絡み、大歓迎です※



●愛の在り方
 領主の館の中で数多の亡霊が蠢きはじめる。
 リリィ様、と呟くたくさんの声が広間に幾つも響いては消えていた。その最奥で領主の女は静かに微笑んでいるだけ。
「……死してなお魂を縛られ、狂信を植えつけられるなんて……」
 リーヴァルディは亡霊達を見渡す。
 此方に向けられる憎悪や敵意の中には領主に陶酔する思いが見て取れる。首魁に近付く隙を与えぬよう、亡霊達は猟兵に迫ってきた。
 リーヴァルディが何体もの敵に取り囲まれそうになったことに気が付き、朱鞠と紅葉が駆けてくる。三人は視線を交わしあい、協力して亡霊を散らす構えに入った。
「愛、ですか」
 紅葉は最奥に見える領主を見て呟く。
 朱鞠も紅葉と同じように純白のリリィを見遣り、彼女が抱く愛の形について思う。
「一方的に搾取するだけのものが、愛?」
 自分が人を甘やかす対価に精を美味しく頂く妖狐だからかもしれないが、片方にしか捧げられない関係など愛とは呼べない。
「私はみなを愛していますよ。そう、あなた達も――」
 するとリリィは亡霊達の奥から、朱鞠やリーヴァルディ、紅葉達に語り掛けた。
 対する紅葉は羅刹紋を顕わにしていく。その間にも亡霊は近付いてきており、紅葉は其処に力を巡らせた。
「御託宣です」
 ――掛けまくも畏き布都主の遍く剣とす御力お越し畏み畏み申し賜う。
 そして、成程、と頷いた紅葉は幽かな笑みを返す。
 黄泉の愛。黄泉醜女の愛。それは葦原にあるまじきもの。
「この“剣神”布都主が斬り祓って進ぜよう」
 天羽々斬を鞘祓い、紅葉は十握刃を顕現させていった。同時に朱鞠は前に踏み出すことで亡霊を自分に引き付けていく。
 リーヴァルディもリリィが抱く愛について考えていたが、解ったことはただひとつ。たとえ愛があっても、死が尊ばれていないということだ。
「これ以上、死んだ人達の想いをお前に汚させはしない……!」
 リーヴァルディは気合を巡らせ、全身を浄化のオーラで覆っていった。防御と一緒にこれまでに培ってきた戦闘知識から周囲の気配を探る。
 亡霊達の殺気、闘争心。
 そういったものを悉に感じ取り、迫りくる者達の攻撃を躱していく。たとえ相手からの攻撃が当たろうとも、浄化の力で相殺する勢いだ。
 やるね、とリーヴァルディの動きに称賛を送った朱鞠も領主の信者達を減らすために動きはじめる。
 彼らは領主の愛を信じきっている。
 本来ならば己の身を捧げる程の狂信など、極一部の者しか抱かない。きっと彼らの大半は惑わされているだけなのだろう。
 やはり朱鞠にとっては、リリィの語る愛は理解できない。
「もし、そんな愛し方や方法しかわかってないなかったとしても……許せないよ」
 たとえば街を彷徨っていた聖女達。
 領主は彼女達に罪悪感を植え付け、不粋な殺生を行なった。その咎は償うべきだと考え、朱鞠は己の力を発動させる。
 ――忍法・鋳薔薇姫。
 朱鞠は自分の足で踏んでいる影から、金属鎖状の触手を放出していった。それは少しの間しか巡らせられないものだが、戦場内全ての攻撃的行動が制限されるものだ。
 敵は滅びた街の住民ほぼ全て。
 それゆえにたったひとりで立ち向かうなら時間が足りない。
 だが、今の朱鞠には共に戦う猟兵の仲間がいる。紅葉とリーヴァルディは朱鞠の力が敵を止めたと気付き、其々に斬り込んでいく。
 残像を纏った紅葉は足音すら立てぬ緩やかで、しなやかな足取りで以て敵の正面から一閃を解き放った。
 破魔の力。更には風と雷の属性を衝撃波に乗せれば、周囲の亡霊が薙ぎ払われる。そのまま回数に任せて敵を散らす紅葉の眼差しは、最奥の領主に向けられていた。
 そは盲愛也。
 そは溺愛也。
 そは狂愛也。
 領主の過ちと罪を知らせるが如き紅葉の視線は真っ直ぐだ。
 紅葉が朱鞠を起点として右側に駆けたことを見遣り、リーヴァルディは左の方向に刃を向けていった。
 近付いたことで腕を振るってきた亡霊の一撃を受け流し、リーヴァルディは早業で以て反撃に移る。その際に大鎌に食らわせたのは彼らの狂信の心。
 それを魔力として変換した彼女は、代行者の羈束を発動させていった。
 過去を刻むもの――レムナント・グリムリーパー。
 黒き咎人に断罪の刃を。
 犠牲者達の怨嗟は光刃を展開させる力となり、黒剣から闇の斬撃が放たれる。亡霊が散りゆく最中、リーヴァルディは領主に鋭い視線と言葉を向けた。
「……お前の独り善がりな愛とやらが真実、彼らに通じているとでも?」
「みな、私の愛を受けてくれていましたよ」
「そう……現状をそんな風にしか感じられないのね。それなら私はお前の愛を、存在を、全てを否定するわ」
 言葉が返ってきたことでリーヴァルディは拒絶の意思を強く持つ。
 紅葉は彼女の思いを肯定するように頷き、朱鞠も巡らせた力を収めていった。朱鞠が作った隙によって、周囲の亡霊は随分と数が減っている。
「大丈夫ですか?」
「平気だよ。命を散らした人々の為に私も命を賭さないとね……」
 紅葉からの心配の言葉に首を振り、朱鞠は気丈に振る舞った。そして、朱鞠は刑場槍の葬栴檀を構えていく。
 亡霊は再び動き出しており、紅葉達を襲おうとしていた。
 しかし紅葉も朱鞠も、リーヴァルディも後れを取ることなどない。紅葉は敵の攻撃を見切って躱し、そうでなければ破魔のオーラで防ぐ。
 朱鞠は彼女が自分を庇ってくれているのだと知り、その分だけ攻撃に出ようと決めた。
「纏めて骸の海に帰って貰うよ」
 亡霊が見せた一瞬の隙を突き、朱鞠は相手の傷口を抉る。その際に生命力を吸収していくことで間を置かずにダメージを与え、亡霊を消し去っていった。
 骸の海に還すことを誓った対象は亡霊だけではなく、奥にいる純白のリリィもだ。
 リーヴァルディも残りの者達を蹴散らすべく、更に力を巡らせた。
「……過去を刻むものよ、その力を解放せよ」
 霊達を左眼の聖痕に降霊させ、大鎌を瞬く間に改造する。そうすれば限界突破した呪詛の光刃が展開され、大鎌は巨大な剣に変形した。
 リーヴァルディが怪力任せに敵を薙ぎ払い、多くの亡霊を切り裂く。闇の斬撃が放たれていった後に続き、紅葉も剣神の力を最大限に解放した。
 剣に血肉も命も無し。
 今は唯只に斬り祓い、送っていくのみ。
「去り罷りませ怨霊!」
 そして、紅葉の鋭い一閃によって亡霊の姿は掻き消えていく。
 朱鞠達は純白のリリィを其々に見つめ、身構え直した。まだまだ亡霊は溢れてきているが、この仲間達とならば全てを葬ることが出来るだろう。
 戦いは続く。
 領主が纏う純白の衣が猟兵の手によって、彼女自身の血で染まるまで――。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

隠・小夜
袁(f31450)と
アドリブ歓迎、目の露出NG

君の愛なんて要らない
君との時間なんて必要ない
僕達はただ食われる前に、君を屠るだけだよ

戦闘開始と同時に、UC:怪異
消えろ、消えてしまえ
狂信者がぞろぞろと増え続けるなら
時間が許す限界まで僕が消し続けてやる……!

袁、さっさと攻撃して!
この悪魔、長時間維持は出来ないから
秘密を全部知っている悪魔の嗤い声が聞こえても、無視

対価に持っていかれた生命力が多過ぎて
思わず、立ち眩みをするかもしれないけれど堪える
別に平気、少し疲れただけ

は……?かばう必要ない
本当に、大丈夫だって言ってるでしょ……!
せめて攻撃に加わろうと
震える手で銃を握り締めて【クイックドロウ】


袁・鶴
隠ちゃんf31451と

食べてあげる、ね?
食べるのは好きだけど食べられるのは嫌いなんだよねえ、俺
それに隠ちゃん食べられる訳にもいかないし
だから俺の方が食べてあげるよ
その瞳、どんな味がするのかな。楽しみだね?

戦場に現れた怪異と共に響く声を聞けばリリィへ目掛け『滑空』
間合いを詰めナイフにて切り付け【連鎖する呪い】の呪いの力を借りつつ隙を見て敵の右目を狙い『部位破壊・目潰し』を試みるよ
半分でも視界を奪えれば動き辛くなるだろうからね
もし右目を奪えたなら口に放り反撃に備え一度隠ちゃんの元へ
平気っていう時って大体平気じゃないんだよねえ
ほら、次は俺の番だから。後ろ下がってなって
『かば』う位はしてあげるから、さ



●亡霊と悪魔
 白百合を纏う女は遍くものを愛していると語った。
 彼女に言葉は通じる。しかし、話が通じない相手だと察した小夜は、蠢く亡霊の奥に控える領主に意識を向け、首を横に振る。
「君の愛なんて要らない」
 君との時間など必要ないと、はっきりと告げた小夜に合わせ、鶴も首を傾げた。
「食べてあげる、ね?」
 喰らうことに重きを置く鶴にとって、領主の言葉は響かない。軽く肩を竦めてみせた鶴は身構え、周囲に集っていく亡霊を見渡した。
 その間も亡霊は此方に迫ってくる。
「お前達が選ばれるのは許せない……」
「アンタたちなんて、ただの供物として領主様に捧げられれば良い……!」
 恨めしそうな声を紡いだ亡霊。
 老若男女、様々な者がいるなかで誰もが領主に陶酔しきっている。異様な光景だが、鶴も小夜も動じたりなどしなかった。
「食べるのは好きだけど食べられるのは嫌いなんだよねえ、俺」
「僕達はただ食われる前に、君を屠るだけだよ」
 鶴と小夜は領主への言葉を向ける。
 されど彼女に近付くにはまず、数多の亡霊たちを蹴散らさなければならない。小夜は左目に宿るUDCを具現化させていく。
 ――消えろ、消えてしまえ。
 小夜は自身の生命力を対価として、擬似的な骸の海を顕現させたのだ。
 だが、すぐに亡霊たちが視界を覆い尽くしてしまった。それでも小夜は怯まない。狂信者がぞろぞろと増え続けるなら、此方とて力を尽くすだけ。
「時間が許す限界まで僕が消し続けてやる……!」
 己の生命よりも、願望の成就を優先する。これが小夜の戦い方だ。
 対する鶴は間合いを計っていた。
 領主が見えなくなっちゃった、とつぶやいた鶴は残念そうにしている。
「隠ちゃんが食べられる訳にもいかないし、だから俺の方が食べてあげるよ。その瞳、どんな味がするのかな。楽しみだね?」
「袁、さっさと攻撃して!」
「わかったよ、隠ちゃん」
 小夜はこの悪魔の長時間の維持は出来ないと語る。すると秘密を全部知っている悪魔の嗤い声が響いた。聞こえた声は無視をして、小夜は力を巡らせ続ける。
 鶴は様子をうかがう。
 リリィへ目掛けて滑空することは出来ない。無理矢理に突破したとしても、おそらく自分が使うユーベルコードに呼応して現れた亡霊によって撥ね退けられてしまう。戦い辛い相手だが、鶴とて怖気づいたわけではない。
 ならばやはり目の前の敵を倒すしかないだろう。
 鶴は亡霊との間合いを詰め、ナイフで切り付けていく。其処から巡らせた連鎖する呪いの力を借りつつ、隙を見て亡霊の右目を狙った。
 斬り裂いた亡霊の顔が掻き消える。
 先程に街で戦った聖女と同様に、亡霊はダメージを与えれば霧散してしまうらしい。それでも彼が狙った目潰しは上手くいっているので上々だ。
「亡霊って面倒かもね?」
 食べられる相手だったら良かったのに、と鶴は更に残念がる。
 しかし鶴は構うことなく次々とサバイバルナイフを振るっていく。たとえ霊であっても、半分でも視界を奪えれば動き辛くなるだろう。
 鶴は敵の反撃に備え、一度身を翻した。
 小夜の元に鶴が戻ると、彼は何だかふらついているように思える。
 対価に持っていかれた生命力が多過ぎたのだ。思わず眩むような感覚をおぼえた小夜だが、何とか堪える。
「隠ちゃん?」
「別に平気、少し疲れただけ」
「……そう?」
 小夜が平気だというときは大体が平気ではない場面だ。そのことを察した鶴は彼の前に立ち、ナイフを構え直す。
「ほら、次は俺の番だから。後ろ下がってなって」
 庇うくらいはしてあげる。そういって鶴は迫りくる亡霊から小夜を守り続けた。
「は……? かばう必要なんて――」
 立ち眩みに耐えながら、小夜は鶴に反抗する。それでも鶴はやめようとはしない。多くは語らずとも、こうしなければいけないと考えているからだ。
「いいから、隠ちゃん」
「本当に、大丈夫だって言ってるでしょ……!」
 鶴が刃を振るう中、小夜もせめて攻撃に加わろうと決めた。震える手で握り締めた銃を亡霊に向け、小夜は銃爪を引く。
 そして、其処から二人の戦いは続いていった。
 彼らは亡霊を蹴散らし、怨嗟の声を消していく。この戦いが終わりを迎える時、どのような結末を迎えるのか。
 それは未だ、誰も知らない少し先の未来のこと。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

リカルド・アヴリール
ライナス(f10398)と
アドリブ歓迎

狂信者達が信じる愛を
間違っていると断じる事は出来ない
だが……(ライナスの言葉を聞いて、噴き出す様に笑って)
いや、似たような事を考えていたんだなと思っただけだ

って、ライナス……お前な……
回復するつもりなら、すると一言くらい言え
お前の方こそ、怪我には気を付けてくれ

UC:虐
戦闘開始と同時に前へ出て
『鏖』を振るい、【先制攻撃】【範囲攻撃】
敵の攻撃に対しては紐飾りの【破魔】で対処
美貌とやらで血肉を与える相手を決めた訳じゃない
ライナス以外に捧げるつもりもない……!

ライナスを狙う様であれば
【かばう】ことを最優先に行動する
……俺の回復は助かるが、自分の回復も忘れるなよ


ライナス・ブレイスフォード
リカルドf15138と

あ?全部喰われたらそれ以上喰って貰えねえ事位え解るだろ
そういう相手に惚れこんだ自分を恨むんだなと、そう笑いながら左親指の腹を噛み切りリカルドの口に押し付け【血の洗礼】リカルドの回復を
いつも食ってるあんたの血肉から造られた血だからな
あんたのもんみてえなもんだろ
…ま、折角なおしたんだから怪我すんなよ?

戦闘時は後衛からリカルドの援護に回る様行動
リカルドに迫る敵へ弾丸を打ち込まんと試みんぜ
なあ、それ。熱烈な告白に聞こえんだけど?
リカルドへ揶揄う声を投げつつもリカルドが怪我をしたならば即座に【血の洗礼】
粒子状の血を飛ばし回復を
…俺はあんたみてえに無理しないからいいんだよ、ばぁか



●血と肉
 領民から捧げられるのは歪んだ愛。
 そして、この街の領主も彼らをひとり残らず愛しており、その証として喰らうのだと宣言していた。それは一般的に見れば愛などとは呼べない行為と感情かもしれない。
 だが――。
 リカルドには狂信者達が信じる愛を間違っていると断じることは出来なかった。
 思わず俯いてしまいそうになるリカルドだったが、反してライナスは飄々とした様子で亡霊達を見遣っている。
 領民だった者達は恨めしそうに此方を見つめ、虚ろな瞳と声で呟いていた。
 苦しい。辛い。
 もっと領主様に食べて欲しいのに。私達には身体がない。
 お前達が選ばれることなど認めない。
 そのような言葉を聞き、ライナスは軽く語り返す。
「あ? 全部喰われたらそれ以上喰って貰えねえ事位え解るだろ」
「……ふ」
「リカルド、どうした?」
 ライナスの言葉を聞いたリカルドは噴き出すように笑った。彼からの問いかけには笑みを浮かべたまま答え、そうだな、と頷くリカルド。
「いや、似たような事を考えていたんだなと思っただけだ」
 そして、リカルドとライナスは狂信者の亡霊を睨みつけた。
 向けられている憎悪めいた感情はお門違いだ。愛される対象になどなりたくはないし、食われる座を奪うつもりも毛頭ない。
「そういう相手に惚れこんだ自分を恨むんだな」
 ライナスはそういって笑いながら、左親指の腹を噛み切った。それをリカルドの口に押し付け、血の洗礼の力を発動させてリカルドの回復を試みる。
「む……。って、ライナス……お前な……」
 唐突で強引にも思える癒しの力を受け、リカルドはハッとした。対するライナスは悪びれるでもなく当たり前のように答える。
「良いだろ、いつも食ってるあんたの血肉から造られた血だからな。これもあんたのもんみてえなもんだろ」
「そうかもしれないが……回復するつもりなら、すると一言くらい言え」
 彼からの声に頷き、気にするなとライナスは答えた。そして、亡霊たちは血の洗礼を巡らせたことに反応して次々と迫ってくる。
「……ま、折角なおしたんだから怪我すんなよ?」
「お前の方こそ、怪我には気を付けてくれ」
 ライナスとリカルドは視線を交わしあい、攻勢に移る構えを取った。
 ――砕けて、墜ちろ。
 リカルドは自身の全機能の制限を一時的に解除していく。振るいあげた銃斧で持って領民の亡霊を穿つ。
 鏖は向こうが此方に近付く前に猛威を振るい、一気に亡霊を消し去った。
 だが、亡霊は次々とリリィの足元から沸いてくる。
 おそらく自分達がこれから相手にしなければならないのは、この街すべての住民だ。穏やかに微笑む純白のリリィは、彼らを止めるでも咎めるでもなく見守っているだけ。
 あれが愛だというのだろうか。
 リカルドは虐の力を巡らせ続け、腕を振るって襲いかかってくる亡霊の攻撃を受け止めた。それは幼い子供の姿をしてたが容赦は出来ない。
 紐飾りに宿る破魔の力が防護となり、更にライナスの援護が其処に巡る。
 前衛を担うリカルド。
 後衛から彼の補助にまわり続けるライナス。リカルドに迫る敵へ、ライナスは次々と弾丸を打ち込まんとしていく。
 二人の連携はとても見事であり、亡霊たちは消えていく。
 だが、別の亡霊の意識が後方に向いた。
 リカルドは敵がライナスを狙っていると知り、彼を庇うことを最優先にした動きに変えていく。そして、思いの丈を声にした。
「美貌とやらで血肉を与える相手を決めた訳じゃない。この身をライナス以外に捧げるつもりもない……!」
 真剣な思いは亡霊の奥に控えるリリィに届いただろうか。
 少なくとも、すぐ傍にいるライナスにはしっかりと聞き届けられている。
「なあ、それ。熱烈な告白に聞こえんだけど?」
 ライナスはリカルドへと揶揄う声を投げつつ、彼の怪我を察知して血の洗礼を施していく。粒子状の血を飛ばしながら回復を行うライナスに向け、リカルドは無理をしすぎるなと告げていく。
「俺の回復は助かるが、自分の回復も忘れるなよ」
 するとライナスは、ふっと笑ってから自分の思いを伝え返す。
「……俺はあんたみてえに無理しないからいいんだよ、ばぁか」
 その声には慈しみと親愛が込められており、不思議なあたたかさを宿していた。
 血は交わる。
 他の誰でもない、彼との血肉がとけてまざって――確かな力になっていく。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

白霧・叶
【桔梗】
待たせたみたいで悪いな。最後の晩餐は一人で―……いや、あんたの弄んだ抜け殻とじゃ長すぎただろう? 共に滅ぶなら俺を喰わせてやっても良かったんだがまだ夢の途中なんでな、街の連中の憎しみごと先に逝ってろよ

この面子だと俺は前に出るよりは後ろから状況を伝えた方が良さそうだな。まずは時間をかけないように相手を観察してUCを発動させよう
あとは隙があれば『破魔』『切断』を自分の武器に込めて前線の蒼とディアナが本命に集中出来るように露払いは任せとけ

戦闘が終われば百合を―…いや、せめて祈ろうか。犠牲になった者や、人を弄んだ元凶がせめて安らかで有るようにと。…誰かに見られるのも恥ずかしいからひっそりと、さ


戎崎・蒼
【桔梗】POW
貴女は宛ら自身が地母神(ガイア)であるかのように振る舞うんだな
"愛しき子"だって?…笑わせるな
博愛主義にでもなったつもりか知らないが、死者喰らいが慈しむ心を持っているだなんて信じられる訳が無い
偽善が過ぎる

紅のUCでのサポートやディアナのUCと連携を取るようにして、僕もUCを使う
幾数もの腕で殴打、石打ち、磔にするように動いてみよう《暗殺》
隙が出来たらテルミット弾を込めた銃で撃ち抜く《スナイパー》
後は叶の分析を聞いて、手順よく敵を崩せるようにやってみようか
…元々信仰心なんてあってないようなもの、相手の攻撃は強い意志で耐えてみせる

僕は偽りの愛で自分の罪を正当化する貴女を、心底軽蔑する


ディアナ・ロドクルーン
【桔梗】WIZ
噎せ返るほどの甘い香り。白百合が、咲き誇る
嗚呼、なんて美しく、なんて香しい、忌まわしき白百合
どんなに綺麗な言葉を繕おうにも香りを纏おうとも、死臭は隠せはしない
純白のリリィ、お前の言う愛は、愛とは言わない
言葉が穢れるわ

蒼君と連携を取りながらUCを発動
幾重にも重なる硝子の薔薇、その煌めきで相手の眼を晦ますように
亡霊どもを蹴散らしてやりましょう

敵の攻撃は第六感で回避を試みる
叶さんの戦況分析をもとに効率よく戦っていきましょう
長々と付き合うつもりは毛頭ないわ

白百合を『踏みつけ』、裂いた『傷口をえぐる』

痛みを感じるかしら?それでも愛を語るかしら?
私達からの愛は、お前の消滅。骸の海へ還すことよ


宮前・紅
【桔梗】WIZ
………随分イカれてるね
俺は、私利私欲に塗れた傲慢な下らない愛の囁きなんて聞きたくない
食べたい、それも"人間らしい"欲なんだろうけど──俺は一度死んだ容れ物には興味が無いからね

UCを発動して狂信者やリリィの動きを補足、制限
蒼くんとディアナちゃんの攻撃が通りやすい様に、敵の動く範囲を制限させて貰う

───うん、叶くんの戦況分析のお陰もあって戦い易い
攻撃は完全にお任せになると思うけど、俺も少しの応戦は可能だよ《貫通攻撃+フェイント+暗殺》
敵の攻撃はあの子たち(人形)にガードしてもらう《ジャストガード+激痛耐性》

この時だけは同情するよ──理性なき亡霊たち

どうか安らかに(囁く様な声で呟いて)



●花と祈り
 噎せ返るほどの甘い香り。
 まるで彼女そのものが白百合であり、咲き誇るかのように美しい美貌。
 淡い光すら纏っているように思える領主は、穏やかに微笑み続けている。
 ――嗚呼、なんと美しく、なんと香しい。
 されど、それは忌まわしき白百合だ。ディアナは蠢く亡霊の奥に控える領主を見つめ、尾を静かに逆立てる。
「どんなに綺麗な言葉を繕おうにも香りを纏おうとも、死臭は隠せはしないわ」
「“愛しき子”だって? ……笑わせるな」
 凛とした口調でディアナが告げると、蒼もリリィに向けての思いを言葉にした。紅も亡霊の向こう側を見遣り、素直な考えを口にする。
「…………随分イカれてるね」
 純白を纏っていても、その手も心も血に染まっているようだ。
 其処にあるのは愛と呼べるのか。
 紅はリリィを一瞥すると、それは私利私欲に塗れた傲慢だと断じる。
「下らない愛の囁きなんて聞きたくないね」
 紅の溜息を聞き、蒼も肩を竦めた。
 言葉は通じても話は通じないであろう相手だが、思ったままのことを語るくらいは赦されるだろう。
「貴女は宛ら自身が地母神――ガイアであるかのように振る舞うんだな」
「ふふ……」
 すると紅や蒼に対し、純白のリリィが微笑みを見せた。
 そうであると肯定しているのか、そうではないのだと否定しているのかも分からない笑みだったが、奇妙さだけは感じられる。
 叶は得体の知れぬ感覚をおぼえながら、周囲を見ながら身構えた。
「待たせたみたいで悪いな。最後の晩餐は一人で――……いや、あんたの弄んだ抜け殻とじゃ長すぎただろう?」
 そう語る叶は自分達に迫ってくる亡霊の数を確かめている。
 リリィを守ろうとしているのか、それとも恨めしい思いのままに此方を供物にしてこようとしているのか。老若男女、誰もがみな陶酔や怨恨の感情を抱いているようだ。
 彼らの動向を探りながら、叶もリリィへの思いを語る。
「共に滅ぶなら俺を喰わせてやっても良かったんだがまだ夢の途中なんでな、街の連中の憎しみごと先に逝ってろよ」
 叶の言葉を聞き、ディアナもそっと頷いた。
 亡霊は次々と現れては迫ってくるが、全てを屠って送ってしまえばい。
「純白のリリィ、お前の言う愛は、愛とは言わない」
 言葉が穢れる。
 鋭く言い放ったディアナは、蒼と共に一気に前に出た。
 死の舞踏――ダンス・マカブル。
 ディアナはクリスタルオパールの白き刀身を鋭利で透明な硝子の薔薇に変え、戦場に広げていった。
 幾重にも重なる薔薇。その煌めきで相手の眼を晦ませるように動く。
「亡霊どもを蹴散らしてやりましょう」
「そうだね、このままにはしておけない」
 蒼は紅の前に出ることで、彼が動きやすいように努めていく狙いだ。禁断の果実による智力を代償にした蒼は、自身に潜む影を顕現させる。
 亡霊が見る間に蹴散らされていくが、その数はかなりのものだ。
 屠られても別の亡霊が現れ、また別の者が呼び出されていく。その全てがリリィに喰らわれた者なのだと思うと眩暈がするようだ。
「博愛主義にでもなったつもりか知らないが、死者喰らいが慈しむ心を持っているだなんて信じられる訳が無い」
 偽善が過ぎる、と語った蒼から幾数もの手が迸る。
 腕で殴打と石打ちに加えて、亡霊を磔にするように動く蒼。その姿を細めた双眸に映し、紅も攻勢に入っていった。
「食べたい、それも“人間らしい”欲なんだろうけど――俺は一度死んだ容れ物には興味が無いからね」
 トランクケースをひらいた紅は敵を見渡した。
 其処から伸びた無数の腕は次々と現れる亡霊の動きを制限していく。狂信者は抵抗しようとするが、紅がそうすることを赦さない。
 蒼とディアナの攻撃が通りやすいように立ち回る紅の力は有効に巡った。
 叶は仲間の動きに感心し、更に一歩後ろに下がる。
 前に出ることはディアナ達に任せ、後方からの状況を伝えることに注力することに決めていた。何せ、敵の数は膨大だ。
 叶が巡らせていくのは灰色の戦術。
 これまでに積み重ねて来た戦闘知識を総動員すれば、敵の動きも読めてくる。そのうえ相手は亡霊とは言えど、元は一般市民だったものだ。戦術もなく襲いかかってくる動きや狙いは予測しやすい。
「右側に敵が集中している。気をつけてくれ」
「ええ、心得たわ」
 叶はディアナに注意を伝え、紅と蒼も彼の忠告や予測に耳を傾けていく。
 ディアナが頷きを返すと同時に薔薇を舞わせ、蒼は鋭い銃弾を放つことで亡霊を蹴散らす。紅も人形達に敵の攻撃を受けさせていった。
「大丈夫か?」
「うん、叶くんの戦況分析のお陰もあって戦い易いよ」
 叶からの問いかけに答えた紅は平気だと答えた。見れば、仲間達の攻撃や立ち回りによって徐々に亡霊も少なくなってきている。
 紅は先程に宣言した通り、死んだものになど興味はなかった。けれども今は少しだけ違う。領主だけを思って二度目の死を迎える彼らが哀れに思えた。
「この時だけは同情するよ――理性なき亡霊たち」
 紅が言い放つと、目の前の狂信者達が蒼の放ったテルミット弾で撃ち抜かれていく。
 叶も隙を見つけ、破魔の力を込めた一閃で以て皆を援護した。
「露払いは任せとけ」
「ありがとう、叶さん。……さぁ来なさい。貴方達に長々と付き合うつもりは毛頭ないから、終わらせるわ」
 ディアナは硝子の薔薇で狂信者を吹き飛ばす勢いで抉った。そして、相手が手にしていた白百合を踏みつけて駆ける。
 蒼も其処に続いて走り出し、純白のリリィとの距離を一気に詰めた。
 近付くことで彼女の美貌を目にすることになり、甘い香りも強く感じる。だが、蒼には元々信仰心なんてあってないようなもの。
 強い意志で耐えた蒼は、銃弾をリリィに撃ち込んだ。
「僕は偽りの愛で自分の罪を正当化する貴女を、心底軽蔑するよ」
「痛みを感じるかしら? それでも愛を語るかしら?」
 ディアナも彼に合わせ、鋭い一閃を相手に叩き込む。するとリリィはにこやかに微笑み、そして――。
「みなを愛していますよ」
 淡い言葉が紡がれた瞬間、蒼とディアナを阻むように新たな狂信者が現れた。
 激しい攻撃が二人を襲う。
 このままでは彼らが危ない状況に陥ると判断した叶は、一度下がってくれ、と二人に告げた。紅が蒼の手を引き、ディアナは自ら跳躍することで囲まれることを避ける。
 やはり厄介なのは亡霊たちだ。
 ディアナは体勢を整えながらも純白のリリィを見据える。
「私達からの愛は、お前の消滅。骸の海へ還すことよ」
 強く宣言したディアナは身構え直した。
 蠢く亡霊も、偽りの領主も、すべて闇に返して送ろうと決めている。
 蒼は此処から続く戦いへの思いを強め、紅も戦いの終わりが近付いていることを確かめていった。少しずつではあるが、猟兵が相手を押している。
「どうか安らかに」
 紅が囁くような声で呟けば、叶も戦いの先に巡る終幕を思う。
 終われば百合を捧げるべきか。否、せめて祈った方が良いのかもしれない。
 犠牲になった者や、人を弄んだ元凶がせめて安らかであるように。ひっそりと、けれども絶対に――。
 それゆえに自分達は終わりが訪れるそのときまで戦い抜くだけ。
 そうして、白百合と猟兵の戦いは続いていく。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

朱赫七・カムイ
⛩迎櫻

愛に様々な形があるというならば
之も愛なのだろう
他を食らい一体となる…其れもまた愛情表現であるのだろうね

私の血肉ならば
大蛇の毒になれど益にはならないからね
リルはだめだよ
サヨが哀しむ

己の血肉で愛しきを生かす悦びは分からないでもない
そなたらは些か献身が過ぎる
私の巫女への障りとなる
サヨ、きみとあの娘は違う
思いつめな…カグラ!
噫もう…溜めすぎも良くないよ
危うい時はしかと私とリルでとめる

サヨ、きみは護龍だ
厄災だって喰らってくれる、ね

カラスはヨルを守って
カグラは結界にオーラを重ねて悪しき厄霊を跳ね除けて
亡霊に降す神罰と共に澱む厄災を斬り祓う

祝災ノ厄倖

愛しき子らに祝愛を
あいはもっと優しくて
おいしいものだ


リル・ルリ
🐟迎櫻

噎せ返るような香
百合なのか血なのか
君が領主か
領主の在り方はしらないけれど
僕は君の愛は要らない
君は本当は愛されたいのかな

カムイ、僕だって
食べられるなら櫻がいい
そうする事で彼を苦しめてしまうこともわかってる
それに僕にはまだやるべき事がたくさんある

櫻が悩んでるよ、カムイ
嗚呼!カグラがいった!
大丈夫だよ、櫻はちゃんと愛のかたちをしってる
僕は君を否定しないよ

ヨル、食べられないようにね
カラスが守ってくれるなら安心かな
カナン、フララ
光のオーラで僕らを守って
さぁ歌おう
血色の都に弔いを
破魔を込めて響かせる
『薇の歌』
―僕の大切な人たちを供物になんてさせない

食事は命を繋ぐ行為だけど
食らい尽くしては意味が無い


誘名・櫻宵
🌸迎櫻

あなたに食べられてなんてあげない
喰らうことの愛を語る女への嫌悪感は同族嫌悪
全てを愛して慈しみ喰らう
彼女を否定する事は私自身を否定することにも似て

血の香も全部
甘くて美味しそうなんて思う
大蛇のせいだけでは無い
時折込み上げる衝動を神の血で抑えて
噫、情けない
夢に揺蕩うのは躊躇う事無く
私だって『あいしたい』と

痛い!
カグラにビンタされ我にかえる
カムイとリルの言葉に心が震える
私は私として咲いた
私は護龍

―喰華
ええ
喰らっ(愛し)てやるわ
淀も絶望も皆
破魔と浄化の桜吹雪を斬撃に纏わせなぎ払い
花香を塗り替える
惑わない
生命の残穢を喰らって咲かせ桜に変える

リルもカムイも一欠片だってあげない

彼らを愛するのは私だもの



●あいする意味
 噎せ返るような香りがする。
 その匂いが百合なのか血なのか、わからなくなるほどの薫りだ。
「君が領主か」
「ごきげんよう、愛しい子たち」
 リルが広間の奥を見つめると、純白のリリィは改めての挨拶を言葉にした。この街の領主の在り方をリルはしらない。けれども確かなことがひとつある。
「僕は君の愛は要らない。君は本当は、愛されたいのかな」
 或る都市の領主がそうだったように。
 リルが問いかけたことに対し、リリィは何も答えなかった。その代わりにリリィを崇拝する亡霊の狂信者達が怨嗟を呟きながら迫ってきている。
 愛とは様々な形があるもの。
 ひとえに愛と語っても、在り方は千差万別。
 そのことを深く知っているカムイは、純白のリリィが語る愛を否定しなかった。
「噫、之も愛なのだろうね」
 他を食らい一体となる。言葉通りにひとつになれる。
 其れもまた愛情表現であるのだろうと認め、カムイは傍らに立つ櫻宵に目を向けた。櫻宵は蠢く亡霊の奥に控える、リリィを強く見据えている。
「あなたに食べられてなんてあげない」
 食べてあげる、と告げた領主の言葉に覚えたのは反発心めいたもの。喰らうことの愛を語る女に覚えたのは同族嫌悪だ。
 全てを愛して慈しみ、喰らう。
 彼女を否定することは自分自身を否定することにも似ている。それゆえにカムイが其れを愛だと認めたことは救いでもあった。
「私の血肉ならば、大蛇の毒になれど益にはならないからね」
「カムイ、僕だって食べられるなら櫻がいい」
「リルはだめだよ。サヨが哀しむ」
「でも……」
 リルとて、櫻宵が其処に愛を見出していることを肯定している。食べられたって良いと願うことで彼を苦しめてしまうこともわかっているが、気持ちの上では愛を受け入れて認めるつもりだ。
 しかし、リルにはまだやるべき事がたくさんある。
 櫻宵も今すぐに人魚を喰らうつもりはない。その時が訪れるのはきっと、人魚がいつか寿命を受け入れる時か、或いは――。
 櫻宵は頭を振る。
 カムイとリルが交わす会話を聞きながら、櫻宵は何処かぼんやりとした感覚をおぼえていた。この広間に漂う血と死の香は濃い。
 甘くて美味しそう、と思ったことで意識は其方に引き寄せられていた。
 大蛇のせいだけではない。
 こうして、時折込み上げる衝動を神の血で抑えて――。
(噫、情けない)
 夢に揺蕩うのは躊躇うことなく、私だって『あいしたい』と思う。
「櫻?」
 はっとしたリルは櫻宵が思い悩んでいることに気付いた。カムイ、と名を呼ばれた神は櫻宵の意識を引き戻すために声を掛けた。
「サヨ、きみとあの娘は違う。思いつめないで……カグラ!」
「嗚呼! カグラがいった!」
 そのとき、カグラが櫻宵の方に向かっていき――思い切り引っ叩いた。
「痛い!」
 我に返った櫻宵は頬を押さえ、カグラを見遣る。何はともあれ、不安定な心の揺らぎはカグラによって抑えられたようだ。
 するとリルとカムイがそれぞれの言葉を櫻宵に送る。
「噫もう……溜めすぎも良くないよ。サヨが危うい時はしかと私とリルでとめるから」
「大丈夫だよ、櫻はちゃんと愛のかたちをしってる」
 カムイは強い視線を向け、リルは微笑む。
 そうしてリルはヨルと一緒に敵に向き直り、カムイはカラスに皆の守護を願った。
 彼らの言葉に心が震え、櫻宵も身構え直していく。
「二人共……」
「それじゃあいくよ! カナン、フララ!」
 蝶々達に光の力で僕達を守って欲しいと願い、リルは歌を紡ぎはじめる。
 それは瞬く間に戦いの序曲となってゆく。
 カムイはいつものように人魚の歌に耳を澄ませ、喰桜を亡霊達に向けた。
 己の血肉で愛しきを生かす悦びは分からないでもないが、彼らは些か献身が過ぎるように思う。巫女への障りとなるならば、祓って送るのが道理だろう。
「サヨ、きみは護龍だ。厄災だって喰らってくれる、ね」
「ええ。私は私として咲いたから――」
 己は護龍。
 カムイの言葉とリルの歌声を受け、櫻宵は蠱惑の龍眼で敵を睨み据える。
 彼らはもうこの世に居てはならぬもの。存在を桜花として咲かせる呪が巡り、領民の亡霊を花に変えていった。
 カムイも亡霊に神罰を降ろして澱む厄災を斬り祓っていく。カグラも結界を張り、リリィから齎される悪しき幻惑と厄霊を跳ね除けていった。
 リルも果敢に立ち回る櫻宵達を見つめ、歌を響かせ続ける。
 ――さぁ歌おう。
 この血色の都に弔いを齎していくために。
 薇の歌は亡霊たちの意思を巻き戻していく。憎悪と陶酔に塗れた心を本当のこころに還していくように、強く巡る。
「僕の大切な人たちを供物になんてさせない」
「ええ、リルもカムイも一欠片だってあげない」
 リルの声を聞き、櫻宵も同意の思いを示す。だから、と刃を差し向けた櫻宵は亡霊を薙ぎ払っていく。
 喰らって――愛してあげる。
 淀みも絶望もみんな、桜吹雪を斬撃に纏わせていく。花香を塗り替えるように、惑わされぬように。櫻宵は生命の残穢を喰らいながら桜を咲かせていった。
「だって、彼らを愛するのは私だもの」
 亡霊は消え去り、奥に控えるリリィの姿も見えてくる。
 宣言した櫻宵に頷き、カムイも祝災の力を強めていった。されど、哀しき亡霊に送るのは慈しみと葬送の思い。
「愛しき子らに祝愛を」
 あいはもっと優しくて、おいしいものであるから。
 リルも最後まで歌を謳い続けることを決め、終わりを見据えていく。
 食事は命を繋ぐ行為だ。けれど、食らい尽くしては意味が無い。即ち、街ひとつを食べ尽くしてしまった彼女に待つのは終幕だけ。
 リルは歌い、櫻宵は咲かせ、カムイは言祝でおくる。
 其の力はこの舞台の終わりを飾るかのように、深く廻っていく。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ユヴェン・ポシェット
愛する、愛している…やはり、あまりピンとこない言葉だな。

身体を失ってなお、心が囚われたままなのはあの領主の力はそれ程強いのだな。
しかしあの者の何も俺の心に引っかかるものがないんだ。
自らを差し出す気には全くならない…

亡霊達が此方へ向かってくるのなら好都合。
テュットが亡霊達を領主から隔てる様に回り込み、俺が槍で貫く。
身体がないのなら、もう眠れ。
それがアンタ達の望まぬ事だったとしても、これが俺のやるべき事だから。

愛しているなんて何故そうおもう。
愛しているなんて…言われたくないな。
俺がそう呟く事で…ミヌレとテュットに心配かけちまっているな。悪い。
とにかく、あの者を放っておく訳にはいかない、行こう。



●感情の拒絶
 愛する、愛している。
 この場に座する純白のリリィが語っていたその言葉を、胸中で繰り返してみた。
「……やはり、あまりピンとこない言葉だな」
 ユヴェンには言葉で語るほどの愛への理解はない。とはいっても共に過ごす相棒達や、自然に咲く花や草木がいとおしいと思うことはある。
 しかし、此処で語られたものはそういったものではない。
 広間に蠢く狂信者達は愛を求めている。
 純白のリリィから与えられる愛を。捧げることで示せると信じた、愛を。
「領主様……ああ、領主様にまた愛されたい」
「体が欲しい、食べてもらえるからだが……」
 亡霊達は身体を失ってなお、心が囚われたままなのだろう。ユヴェンは亡霊達を見渡すように揺れるテュットに背を預け、ミヌレの槍を構えた。
 あの領主の美貌が秘める力はそれほにど強いのだろう。
 己も彼女の力に惑わされぬよう、気を引き締める。されどユヴェンの心は少しも動かなかった。あの者の何も彼の心に引っかからない。
「確かにアンタは綺麗だ。だが、自らを差し出す気には全くならない……」
 狂信者の向こうに佇むリリィは微笑んでいた。
 それもすぐに亡霊達によって遮られたが、それでも構わない。寧ろ彼らが此方へ向かってくるのなら好都合でもあった。
「テュット!」
 ユヴェンが呼び掛けると、ダークネスクロークが亡霊達に向かっていった。彼女は領主から彼らを隔てるように回り込み、視界を防ぐ。
 その瞬間、ユヴェンが差し向けた槍が彼らを貫いた。
「あ、ああ……」
「身体がないのなら、もう眠れ」
「いやだ……まだ私達は、領主様に……」
 亡霊達は呻き声をあげながら消滅していく。ユヴェンはこれほどまでの狂信があることに奇妙な感覚をおぼえていた。
 哀れだと感じる以上に、言葉に出来ない思いが裡に巡っていく。
「それがアンタ達の望まぬ事だったとしても、これが俺のやるべき事だから」
 ゆえに容赦はしない。
 大人に子供、老人に至るまで。亡霊達はただ領主のためだけに猟兵達を襲おうとしていた。それらを蹴散らし、骸の海に還していく。
 やがて、亡霊によって遮られていたリリィの姿が見えはじめる。
 彼女はずっと微笑んでいた。
 其処には慈愛が感じられたが、もしかすれば錯覚なのかもしれない。慈愛ではなく自愛に近いのだろうか。
 ユヴェンは疑問を抱き、竜槍を構えながら問いかける。
「愛しているなんて何故そうおもう」
「私はそうするために生まれてきました。みなを愛していますよ」
 そう――あなたも。
 リリィが紡いだ言葉を聞き、ユヴェンは首を横に振った。
「愛しているなんて……言われたくないな」
 それは独り言にも似た思いだ。ユヴェンがそのように呟いたことでミヌレ達が心配そうな雰囲気を向けてくる。
 悪い、と告げたユヴェンは気を取り直した。
「とにかく、あの者を放っておく訳にはいかない。行こう、ミヌレ。テュット」
 亡霊をすべて蹴散らし、愛を騙る者を葬送するために。
 竜槍は鋭く吼えるように振るわれ――そして、戦いは佳境に入ってゆく。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

ルーシー・ブルーベル
あなたの言う愛って
どういう事をいうのだろう
あなたとひとつになる事?
それとも
おいしくなあれと眺める
木に生る果実に対するもの?

ハッキリしているのは
ルーシーも、他の人も
毛の一筋
心の一欠けらとて
あなたに食べられる訳にはいかないの

おいで
芥子色の炎

毒を掃う炎を自身に
霊を祓う炎を貴方に

身体の自由を奪われたとしても
炎が思いのままに舞えばいいわ

もし食べられてしまうとして
それは自身で選ぶもの
あなた達はそれすら奪われている
解き放ちましょう
選ばれる側になっては、だめよ

ああ、そうね
わたしも本当は
……ほんとうは
食べられたくは



●胸の痛み
「あなたの言う愛って、どういうことをいうの?」
 亡霊が蠢く広間の中で、気付けばルーシーは問いかけていた。
 純白のリリィは愛を示した。更には、みなを愛している、と狂信者や猟兵にまで言葉を掛けている。だからだろうか、こうして尋ねてみたくなったのは。
「あなたとひとつになること?」
 それとも。
 そっと呟いたルーシーは頭に浮かんだもうひとつの考えを言葉にする。
「おいしくなあれと眺める、木に生る果実に対するもの?」
「みな、等しく愛おしいものです」
 すると純白のリリィは答えになっていないことを返した。それに今の言葉はルーシーにだけ告げたものではないのかもしれない。
 彼女とは言葉は通じても話ができない。そう感じたルーシーは悲しげに頭を振った。
 愛しているから食べてあげる。
 ルーシーにとっては、そこがどうしても繋がらない。狂信者達はリリィに食べられたいとはいうが、その感情は幻惑から来るものだ。
 リリィが食べたいから、惑わされた人々も食べられたいと願う。
 それならば愛は何処にあるのだろう。
 考えれば考えるほどにわからなくなっていく。けれどもひとつだけ、少女の中ではっきりしていることがあった。
「どんな愛があったとしても、ルーシーも他の人も、毛の一筋、心の一欠けらとてあなたに食べられる訳にはいかないの」
 宣言したルーシーは片手をそうっと掲げた。
 ――おいで、芥子色の炎。
 怪火を呼び寄せたルーシーは、自分を襲おうとしてくる亡霊たちに目を向ける。
 そして、毒を掃う花菱草色の炎を自身に、霊を祓う蒼芥子色の炎を相手に解き放った。嘆きながら苦しむ狂信者の亡霊は炎に巻かれていく。
 相手からも鋭い力が巡ったが、ルーシーは構うことなく焔を巡らせた。
 たとえ身体の自由を奪われたとしても炎は舞い続ける。ルーシーの意思に呼応して動く炎の軌跡は戦場を彩っていく。
 其処から多くの亡霊を葬送したルーシーは純白のリリィを強く見つめた。
「もし食べられてしまうとして、それは自身で選ぶものよ」
 心を惑わされたことにすら気付けていない亡霊達は哀れだ。幻であっても幸せばかりに包まれているなら救いもあったかもしれないが、そうではない。
 怨嗟を口にして、嫉妬を抱き、自分だけが愛されたいと願っている。
「あなた達はそれすら奪われているから」
 解き放ちましょう、と語ったルーシーは更なる炎を躍らせた。
 選ばれる側になっては、だめ。
 選ぶ側になってこそ愛を語れるというもの。
 亡霊たちが散っていく中、少女はふと考え込んでしまった。胸の内に過ぎっていったのは自分が辿ることになる運命の先。
「ああ、そうね」
 誰に云うでもなく呟いた言葉は戦いの激しさの中に紛れて消えていく。
 わたしも、本当は。
「……ほんとうは、」
 食べられたくは――。
 しかし、その思いも言葉もそれ以上は続かなかった。凛とした眼差しを敵に向け直した少女は更に力を紡ぐ。
 今はこの戦いを終わらせる為に動くだけ。
 たとえどんなに心が痛んで軋んだとしても。ただひたすらに――。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

緋翠・華乃音
愛ゆえに。
そう言えば犯した罪が帳消しになるのか?

それとも罪ではないと君は言うのだろうか。
……そうだとするなら、君こそ憐れな存在なのかも知れないな。

本来は与えるべき慈愛によって他者を奪ってしまうなんて。
その在り方を変えられない君は――とても可哀想だ。


瑠璃色の蝶を纏わせて、気配も無く大広間の床を歩む。
そして微かに憐れみの瞳さえ向けて対峙した。

銃弾が放たれる。
ナイフが振るわれる。
一挙手一投足を見切り、最小の労力で最良の結果を。
敵の回避する先に攻撃を“置く”ように。

それは派手さや仰々しさの無い、静かで繊細で冷たい強さ。
鋭く研ぎ澄まされた合理性と、最善を瞬時に選択する計算力。

葬送の炎。献花に白百合を。



●蝶葬
 ――愛ゆえに。
 其れを愛していたから。愛が其処にあったから。
 そのように語れば、犯した罪がすべて帳消しにでもなるのか。
 それとも。
「その行為を、罪ではないと君は言うのだろうか」
 華乃音は蠢く亡霊達の奥に控える領主に目を向け、疑問を投げかける。
 答えは求めていないゆえに問いかけ未満のものだったかもしれない。現に華乃音の声は亡霊の狂信者達の呻き声に掻き消されてしまっている。
 しかし、その答えの代わりであるかのようにリリィは微笑みを向けた。
「愛していますよ」
 すべてを。遍くものを。
 そう語った純白のリリィの表情は変わらない。今も猟兵達によって亡霊が蹴散らされているが、それにも構わぬまま。誰を咎めるでもなく穏やかな笑みを湛えている。
 華乃音は己に瑠璃色の蝶を纏わせ、気配も無く大広間の床を歩んだ。
「……そうだとするなら、君こそ憐れな存在なのかもしれないな」
 亡霊の相手は他の猟兵に任せてもいいだろう。
 膨大だと感じられるほどに溢れていた狂信者達はもう既にかなりの数が減っている。華乃音は哀れだと思う対象、純白のリリィに近付く。
 本来は与えるべき慈愛によって他者を奪ってしまうなんて。
 愛という理由をつけて、己が得るべきものを失くしてしまうなんて。
「その在り方を変えられない君は――とても可哀想だ」
 華乃音は微かな憐れみの瞳を向け、この街の領主と対峙した。するとリリィを護るようにして、彼女の足元から何本もの手が伸びてくる。
 其処に銃弾が放たれた。
 華乃音はそれ以上の言葉を送ることなく、その手を穿っていく。更にはナイフが振るわれ、亡霊の手を斬り裂いて散らした。
 リリィは戦おうとしない。その美貌を披露して惑わせようとしてくるのみ。
 おそらくこれまではそれだけで全てどうにかなっていたのだろう。だが、猟兵である華乃音達には簡単に効かない。
 自らの血肉や命を捧げたいという衝動的な感情など、華乃音には生まれなかった。
 華乃音は蠢く亡霊の手の一挙手一投足を見切り、敵の回避する先に攻撃を置くように立ち回っていく。
 瑠璃色の蝶の群れが舞った。
 華乃音が動く様には派手さや仰々しさはない。喩えるならば静かで繊細で、とても冷たい強さ。そんな印象を感じさせる一撃や一閃が振るわれていく。
 ――灼き尽くせ。
 鋭く研ぎ澄まされた感覚と先を視て分析する華乃音の視線。その真っ直ぐな眼差しがリリィに向けられた刹那、星空にも似た瑠璃の炎が戦場を彩った。
 それは葬送の炎。
 燃え上がる蝶の軌跡は血に塗れた花へと続く路を描いていく。
 死を導く愛には終焉を。
 献花には白百合を。強く薫る花の香は揺らぎ、終幕が近付いてくる。華乃音は手にしていた銃を下ろし、銃爪から指先を外した。
 その間にも蝶々は亡霊や白百合を包み込んで昇華させていく。

 そして、此の先に巡る結末は――。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

夏目・晴夜
気持ちが悪い
吐きそうだ

認めない?それは此方の台詞です
何故お前らばかり
絶対に私の方が

領主様、貴女は誰を待っていたのですか
何故あの愚図を見てくれなかったのですか
私が、僕が誰だか解っているのですか
領主様
ああ、領主様
私はずっと、本当に今も、心の底から
お前が大嫌いなんですよ!

はは、私が愚かでした
貴女に期待するのは無駄だと知っていたのに
遠すぎる貴女の今の近さに浮かれて
このハレルヤともあろう者が!

ニッキーくん
必ず直すから
体が壊れるまで蹴散らして
私の為に死んで下さい

さて領主様、初めまして
私はハレルヤと申します
貴女を滅多刺しにして
残さず食べて差し上げますよ

私はお前が大嫌いですが
あの時の僕は死んでも良かった
本当に



●愛の無知
 愛とは、何を意味するものなのか。
 愛の形とは、どのようなものなのだろう。
 愛が行き着く先、その果てとは。

 たとえば、愛しい人と一緒になり、子孫を残して穏やかに生涯を終えることか。
 或いは大切な人の幸福を思って身を引き、独りで去っていくことなのか。
 もしくは此の街の人々のように、己の全てを捧げることを愛と呼ぶのか。

 それとも、彼女が――領主様が与えてくれるものこそが、愛なのだろうか。

●死の抱擁
 白百合を纏う魔性。
 何故、そのような力を持っていたのか。其処に理由などない。
 彼女は生まれついたときから、『そういうもの』として存在していた。
 花のように儚く、心を惑わせる美貌。陶酔を誘う声と甘い花の香り。微笑を向ければ誰もがひれ伏し、愛と忠誠を注いでくれる。
 それが当たり前であり、何も疑うことなどなかった。
 彼女が歩けば百合が咲く。極寒の地には花はあまり咲くことはなく、それは軌跡だとされて、誰もがその力に酔い痴れた。
 白百合の君。
 そう呼ばれた彼女を最初に崇め奉ったのは、この街の元領主だ。
 元領主は忠誠の証として彼女に地位を譲り、それまでの財を切り崩してまで様々な贈り物をした。しかし、白百合の君は何にも興味を示さない。
 ただ穏やかに笑うだけ。
 微笑むだけの白百合の君が満足していないことは明らかだ。
 悩み抜いた元領主は、自らの血を金の盃に満たして捧げた。すると、白百合の君は口許を歪ませて笑った。
 その生き血はこれまでのどんな捧げものよりも甘美な味がしたという。
 もっと欲しい、とねだったのが全てのはじまりだ。
 元領主は彼女に生まれたばかりの子供の肉を捧げた。柔らかな肉は血と同様に彼女を満たした。口許を赤く染めて、赤子に喰らいつく彼女の姿もまた、とても美しかった。
 白百合の君はいつしかリリィ様と呼ばれるようになった。
 純白のリリィ。
 それが此の街に君臨した崇拝の対象であり、至高の存在。
 それから元領主は街の人々を捧げた。
 リリィの美しさはすべてを惑わせるものだ。最初は生贄になることを知って、酷く暴れるものもいた。だが、彼女の前に行けば誰もが食べられることを受け入れた。
 皆、命を奪われながらも愛を誓った。
 リリィが纏う花の香りは望んだ幸せな夢を見せてくれるからだ。
 清く美しい彼女の姿が、血によって汚れていく。それは心を震わせるほどに甘美なる光景で――やがて、元領主自身も彼女に喰われることを願った。
 リリィは喜んで彼を食べた。
「今まで、よく頑張りましたね。愛していますよ」
 彼女に抱かれた元領主は、これまでにない恍惚の表情を浮かべていた。
 まさに愛と死の抱擁だ。
 これまでは元領主が選んでいた生贄はリリィ自身が選ぶことになった。彼女に統治の力はなかったが、周囲の者がすべてやってくれた。
 その頃には極寒の街の至る所に白百合が咲くようになっていた。花は殆ど領主の館を出ない彼女の瞳代わりでもあり、リリィは領民のすべてを見て知っていた。
 みな、リリィにとっての愛し子だ。
 今日は瞳が綺麗な子、次は心が醜い子。笑顔が可愛い子、嫉妬に狂った子。
 ひとりずつ、選ばれていく。
 いつしか街では領主様に食べて貰うことだけが至上の幸福だとされた。
 されど、選ばれる者がいるということは、選ばれない者もいるということでもある。領民は、我こそはと喰われることを願った。
 他の誰でもない、自分を選んで欲しい。貴女に食べて貰いたい。
 彼女の幻惑は街全体を狂信者で溢れさせた。極寒の地は元より裕福ではないというのに、領民同士での諍いが起きるのが当たり前になった。
 互いへの嫌悪と罵倒。荒んだ心。
 愛を向けるのは領主にだけであり、人々は常に争い、競い合っていた。
 極寒の街は崩壊の一途を辿っていくのみ。

 その中にひとり、孤独な少年がいた。
 誰もがこの街の在り方に疑問を持たずに生きている中、彼だけは少し違った。
 あるとき彼は街を出た。
 何処までも続く闇から逃げ出すように、その運命を変えるために。たった独りで。
 それから、時は流れ――。

●恋う欲求と放つ好意
 冷たい大地、貧しく孤独な暮らしに、狂った人々。
 こんな街など滅びていればいいと何度も思った。たとえ領主様が要因であったとしても、滅びて当然だと考えていた。
 人々を憎んだ。皆を狂わせた領主様のことが嫌いでしかなかった。
 それ以上に、愚図でしかない自分がもっと大嫌いだった。自分など選ばれるはずがない価値のない存在だと思っていたからだ。
 しかし、現在。
「――今日の私はあなたが欲しい」
 領主様が、あなた、と呼んだのは自分だ。晴夜は差し伸べられる手を見つめることしかできず、暫し動けなかった。
 気持ちが悪い。吐きそうだ。
 裡に込み上げてくるこの感覚は、感情は。
 声を出そうにも喉の奥がひりついている。上手く息ができない。あの方が領主様で、あのひとが他でもない、自分を見ていて――。
「……、……、領主、様」
 晴夜は何とか声を絞り出した。
 蠢く亡霊たちの奥で純白のリリィが微笑んでいる。あなたが欲しい、ともう一度紡がれた言葉は酷く甘美だ。
 夢心地とはこのことを呼ぶのか。信じられないが、自分は歓喜に震えている。
 だが、晴夜の意識は唐突に引き戻された。
『お前が選ばれることなど認めない。この愚図が』
 目の前に現れた亡霊が晴夜を口汚く罵る。はっとした晴夜は彼の顔に見覚えがあることに気が付いた。
 あの男だ。かつて唯一のともだちだった子犬を汚いと言って蹴り上げた男。
 彼もまた領主様に選ばれないと嘆いていた一人だったが、こうして亡霊になっているということは、そういうことなのだろう。
 呼吸を整えた晴夜は悪食の刃を構え、不敵に笑ってみせた。
「認めない? それは此方の台詞です」
 晴夜は襲いかかってくる亡霊に刃を差し向けた。そして、彼が次の言葉を放つ前に刀を振り上げる。
 一瞬で亡霊が散り、晴夜を罵った者は消え去った。
 これでともだちの復讐は出来たのだろうか。否、きっと出来てなどいない。晴夜は裡に渦巻く感情に振り回されないように心を強く持とうとした。
「何故お前らばかり。絶対に、私の方が――」
 されど、零れ落ちたのは彼らと同じ嫉妬や憎悪に満ちた言葉だった。口を噤んだ晴夜は首を横に振り、震えそうになる手で刀を握り直す。
 分かっている。
 認めたくはないが、自分だってこの街の住人だったのだ。
 常識とは生まれ育った環境で培われる。同時に信仰という名の信念も、其処にある常識と一緒に育まれていくものだ。
 即ち、晴夜自身も元はこの街の人々と同じであり――。
 領主様に焦がれていた。
 選んで欲しいと願い、食べられたいと願った。ろくに顔をみたことがなくとも、見向きもされていないと感じていても、彼女こそが敬愛の対象だった。
 何故なら、過去の自分にはそれしかなかったから。
「領主様、」
 気が付けば、晴夜はリリィに問いかけていた。
「貴女は誰を待っていたのですか」
 最後の領民まで食べ尽くしてしまった彼女は、あの子、という存在を示唆していたという。それは誰なのか。信じたくも期待もしたくなかったが、それは――この街から逃げ出した自分だったのではないか。
「何故あの愚図を見てくれなかったのですか」
 声が震える。
「私が、僕が……誰だか解っているのですか」
 涙が出そうになる。
 ちいさくて弱いものでしなかった自分を、彼女は待ってくれていたのか。覚えていてくれたのか。愛しているといってくれるのだろうか。
 するとリリィは穏やかな笑みを湛えたまま、両手を広げた。
「おいでなさい、私の愛しい子」
 慈愛に満ちた微笑みと言葉が晴夜だけに向けられている。間違いない。問いかけに答えてくれずとも、彼女は過去の少年を知っていて、今の晴夜を待っていた。
 晴夜の頬に一筋の涙が伝っていく。
「領主様。ああ、領主様」
 どれほどこの時を待ち望んでいただろう。
 貴女に逢って、貴女を見つめて、この言葉を告げるこの瞬間を、どれほど。
「僕は……私はずっと、」
 晴夜は刃を下ろし、一歩ずつリリィの傍に近付いていく。亡霊は他の猟兵によって散らされているので路はひらいていた。
 一歩、また一歩と晴夜とリリィの距離が縮まっている。
 数メートルほどまでに近付いたであろう、そのとき。二人の視線が交差した。
「本当に今も、心の底から、」
 リリィは微笑み、晴夜は僅かに俯く。やはり胸の奥が歓喜に打ち震え続けている。そのことを認めた晴夜は顔をあげ、溢れる想いを言葉にした。
 貴女を。否、貴女が。
「お前が……大嫌いなんですよ!」
 その瞬間、晴夜から殺気が満ち溢れる。
 だが、此方の気を察知したらしい亡霊がリリィの足元から顕現した。刃を振り上げた晴夜が領主に斬り掛かることを止めた男。彼は嘗て領主館の門番をしていた者だった。
 そうだ、彼のこともよく覚えている。
 幼い頃に一度だけ、領主様がどんな方であるかを見たくて館に訪れたことがあった。少しの期待を抱いた少年を待ち受けていたのは、完膚なき門前払いだった。
 門番を務めていた男は少年を酷く詰り、幾つもの雑言を投げかけた。その中でも心に残ったのが、今も胸の奥で燻り続ける思いの切欠になった言葉だ。
 お前のような愚図など領主様に選ばれるはずがない、と。
「そうですか、貴方も選ばれたのですか」
 恨めしそうな視線を向けてくる門番の男は、どの亡霊よりも手強そうだ。その奥に守られているリリィはというと何も変わらず微笑み続けている。
 一瞬、錯覚してしまった。
 彼女の愛を受けられるのは自分だけだと。しかし領主は死した者も、今を生きる晴夜も等しく愛している。其処には唯一の愛など存在しない。
「はは、私が愚かでした」
 貴女に期待するのは無駄だと知っていたのに。
 貴女の寵愛は誰にでも向けられるゆえ、無と同じだと定義していたのに。
 好意の反対は嫌悪ではない。無関心だ。
 本当にどうでもいい相手なら嫌いだとすら思わない。そのことが分かってしまい、晴夜は己の愚かさを自覚する。
「これまで遠すぎる存在だった貴女の今の近さに浮かれて、……ええ、期待してしまっていました。このハレルヤともあろう者が!」
 晴夜は自嘲するような笑みを浮かべ、悪食の刃を構え直した。
 そして彼は自分の腕を斬り付け、血を滴らせる。自分の血を代償にして絡繰人形に力を与えた晴夜はその名を呼んだ。
「ニッキーくん」
 必ず直すから、体が壊れるまで蹴散らして。
 立ち塞がる門番以外にも亡霊は次々と溢れてきている。彼らを示し、晴夜は絡繰人形に願う。私の為に死んで下さい、と。
 その声に呼応する形で両腕を上げた絡繰人形は亡霊に向かっていく。
 晴夜もその後に続くことでニッキーくんと共に駆け抜けた。豪腕が振るわれ、亡霊が蹴散らされる。
 その中には嘗ての少年を罵倒した女がいた。鬱憤の憂さ晴らしに少年を痛めつけた男もいた。くすくすと笑って見ているだけだった少女がいた。
 みんな、みんな狂っていた。
 死して尚、狂信者としてこの世に留まっている者達は哀れだ。
 絡繰人形は次々と亡霊たちを屠っていくが、晴夜にも彼らの腕が伸ばされる。爪が身を引っ掻いて血が流れる。絡繰人形も数に押されて破壊されていく。
 晴夜達は止まらない。
 彼らは自分達をただの供物にしたいようだが、そんなことはお断りだ。
 屈強な人形の腕が門番の男を真正面から穿った。だが、門番もニッキーくんを貫いてから散った。ひび割れた人形が倒れゆく中、晴夜は彼の背を駆け上って跳躍した。
 崩れ落ちた人形が真っ二つに割れた音を聞きながら、晴夜は前だけを見据える。
 もう亡霊はいない。
 猟兵達の手によって領民のすべてが骸の海に還されたからだ。
 ひた、と血が足元を汚していた。
 気付けば右目からも血が出ている。おそらく亡霊の中を駆け抜けたときにやられてしまったのだろうが、晴夜は気にも止めない。
 今、此処に。すぐ目の前に領主様がいるのだから。
「さて領主様、初めまして」
 滴る血もそのままにして晴夜は恭しく礼をしてみせた。彼女は自分を知っていて、覚えてくれているようだが御目通りが叶うのは初めてだ。
 されど、今の自分が名乗っている名前までは知らないだろう。
 それゆえに彼は自ら己の名を告げた。
「私はハレルヤと申します」
 ――Hallelujah.
 この街で何度も耳にした言葉だ。領主様だけに身を捧げることを示す称賛の言葉。呪いのような甘い賛美。
 彼女を称える忌まわしくもある言葉を己の名としたのは理由がある。
 自分を見て欲しかった。貴女に近付きたかった。彼女のように称えられる存在になってみたかった。晴夜が今も皆に褒めて欲しがるのは、自分を認めて欲しいから。
 貴女になりたかった。
 貴女のように、貴女のものに、貴女の――。
 ただの愚図でしかなかった少年時代とは決別している心算だった。しかし、こうして彼女を前にすると、自分がどれほど過去に囚われていたのかが解る。
「こちらにおいでなさい。さあ、愛してあげます」
 晴夜が刃を向けているというのにリリィは何も動じてなどいない。今も当たり前に、晴夜が自分の為に訪れたのだと信じている。
 彼女を真っ直ぐに見つめた晴夜の鼻先を、甘い花の香りがくすぐった。

●喰う幸福
 その瞬間、少しの夢を見た。
 細い彼女の腕に抱かれた血塗れの少年が微笑んでいる。
 僕もあなたを愛しています、と囁いた彼の血がリリィの口許を汚した。滴る血は彼女の純白の衣に赤い色を広げていく。
 歪んだ街に生まれ落ちた少年に、幸福な終わりが訪れた。そんな夢だった。

 だが、夢はほんの一瞬。
 晴夜は彼女が齎した幻想を振り払い、その胸元に刃を突きつけた。対するリリィは抵抗しない。此方を物理的に傷付けるようなこともしなかった。
 何故なら、彼女にはそんな力などないからだ。
 あるがままを受け入れ、遍く全てを愛して、受け止める。
 それが彼女の愛。
 晴夜は覚悟を決め、刃を握る手に力を込める。ずっと貴女に焦がれて、ずっと貴女に近付きたいと思った。
 歪んで絡まった思いではあるが、認めてしまった今は少しだけ楽だ。
 貴女のようになりたいなら、同じ愛を行使すればいい。そう――食べられることが至上の愛だというのなら。
「貴女を滅多刺しにして、残さず食べて差し上げますよ」
 晴夜が勢いよく刃を彼女の胸に押し込んだ、そのとき。
 純白のリリィが笑った。これまでの微笑ではない。本当に、ほんとうに嬉しそうな顔をして晴夜を見つめている。
 そのような笑みが浮かんだのは意外であり、晴夜は目を見開いた。
 既に彼女の胸には悪食の刃が減り込んでおり、刀は背まで貫通している。
「ああ、やっぱり……あなたを最後に残しておいて、よかった」
 口許から血を流しながら、リリィは双眸を細めた。
「領主、様……?」
 刃に貫かれながら倒れ込んだ彼女の身を晴夜は思わず抱き止める。するとリリィは晴夜をそっと見上げて、ゆっくりと語った。
「私は、ひとつの愛しか知りませんでした。みな、食べてあげればひとつになれる。私のなかで生き続ける。それが、私の……すべてへの、愛でした……」
 だが、リリィは或る時に思い至った。
 食べてあげることが愛。
 それこそが至上であるならば――自分も、いつか誰かに食べられてみたい。
 生まれた願いを叶えてくれる誰かを探したかった。
 そして、街に咲く白百合を通して可能性を秘めた少年をみつけた。他の領民とは違う何かを持っている彼は未だちいさくて弱い。それならば彼が育つまで待とうと決めた。
 だからこそ、彼を食べる対象としては選ばなかった。
 いつか彼は私を食べてくれる。
 予感に過ぎなかったけれど、その少年は時を経て――今、こうして此処にいる。
「さあ、どうぞ」
 リリィは自らの身を差し出すように晴夜を見つめ続けた。
 愛しているから食べてあげたい。
 愛されたいから、食べてもらいたい。
 彼女の愛は普通とは違う。けれども、この街ではそれこそが愛の形だった。
「リリィ様……」
 晴夜はそのとき、初めて彼女の名を呼んだ。
 まるでずっと彼女の掌の上で踊らされていたようでもあったが、今の晴夜にはそんなことはどうでも良かった。
 空腹だ。己の本能が空腹を訴えている。
 これが愛と呼ぶのなら。
 これを愛だとするのなら。
 彼女とこの街を包む愛は間違っているが、これで終わりを与えられるのならば。
「血の一滴だって、残しませんよ」
 晴夜は彼女に突き刺さったままの妖刀の柄を強く握った。
 嫌いだ。大嫌いだ。何よりも厭っていて、忌むべき貴女だけれど。残さず食べて差し上げます、と告げた約束は果たそう。
「私はお前が大嫌いですが、あの時の『僕』は――死んでも良かったんです」
 本当に。
 晴夜の右目から滴った血の雫がリリィの頬に落ちた。
 そのまま伝っていく血は彼女の花唇を汚して赤く染めた。やがて、喰らう側だった者は喰らわれる側になり、そして。
「――ハレルヤ」
 最後の最期に微笑んだリリィは、そんな言葉を呟いた。
 晴夜を呼んだのか。
 それとも賛美の言葉として口にしたのか。
 喰らわれることで消滅した純白の君の心は最後まで分からないまま。
 ただ、ほんの少しだけ。晴夜を支配していた空腹が、僅かに満たされた気がした。


●ひとつの街の或る終わり
 この街では何もかもが狂っていた。
 闇と雪に閉ざされた此処には、正しいことなどひとつもなかった。だが、それゆえに間違った方法でも終わりを齎すことが出来たのかもしれない。
 滅びた街に君臨していた白百合の領主は、喰われることで最期を迎えた。
 もう、此処にはなにもない。
 そのことを示すようにして街に咲く花が枯れていった。
 美しく咲いていた花は白から黒に変わり、解けて溶けていくかの如く消え去る。

 最後に散った花弁が冷たい風に乗って闇色の空に舞った。
 それは宛ら、リリィの葬送のように――。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​




第3章 日常 『忘れ去られた墓で』

POW   :    墓石を修理する

SPD   :    墓石に花を添える

WIZ   :    周辺を掃除する

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●闇と純白
 街の片隅に墓石が並ぶ一角がある。
 此処は誰からも忘れ去られた場所だ。今となっては何も埋葬されてない。
 何故なら、この街の者達はひとり残らず領主に喰われてしまったからだ。彼らは骨すら残されず、彼女とひとつになった。
 埋めるべき遺体や遺骸はなく、それを埋葬する者すらいなかった。
 誰も居なくなった街は雪に埋もれ、壊れたままの街として在り続けるだけ。
 だが、此処は紛れもなく墓だ。
 この街すべてが狂っていたとしても、多くの命が失われたことは間違いない。
 死者の魂に貴賤はないはず。それゆえに今一度、祈りを捧げよう。

 されど、君が此処で何を想うかは自由。
 過去に思いを馳せてもいい。現在を見つめ直しても構わない。未来をどう生きていくかを考えたって構わない。
 静かな闇の世界では、個々の思いを咎めるものなど何もない。

 雪が降る。すべての罪を覆い隠すように。
 すべての愛を示すように。そして――すべてを、白く染めていくかのように。
 
リーヴァルディ・カーライル
…消える間際まで領主への愛と狂信を叫んで…
結局、この街の人々は救われたのかしらね…

無意識に聖痕が刻まれた左眼に手をやる
"代行者の羈束"を持つ自身も決して他人事ではないと再認し…

…このまま力を使い続ければ、やがて私も彼らのように…
いいえ。それだけは絶対に許容できない

…私の意志を、魂の在り方を決めるのは私自身よ
たとえ神であっても、二度と操られたりはしないわ

神の呪縛からの解放の決意を新たに、
雪の中で死者達へ祈りを捧げる

…操られ、殺されて、死後も支配され…
その無念がどれ程の物か、私には想像するしかないけど…

少なくともこれ以上、貴方達の尊厳が汚される事は無い
だからどうか、安らかに眠れるように祈っているわ



●呪縛と解放
 忘れ去られた墓地に冷たい風が吹き抜けていく。
 これまで街中に咲いていた白百合の花はもう何処にもみつからない。リーヴァルディは全てが終わったことを確かめ、何も埋葬されていない墓を見つめた。
 本来ならば此処に葬られるはずだった人々を思い、リーヴァルディは頭を振る。
「……消える間際まで領主への愛と狂信を叫んで……」
 そして、思い出す。
 消えゆく終わりのときまで領主を敬愛し、領主だけを思っていた者達の末路を。
「結局、この街の人々は救われたのかしらね……」
 それはリーヴァルディにも、彼ら本人にもわからない事柄かもしれない。嫉妬や憎悪、崇拝の念に支配された人々はそういう運命を辿ってしまった。
 リーヴァルディは肩を竦め、無意識に聖痕が刻まれた左眼に手を添える。
 ――“代行者の羈束”。
 それを持つ自身も決して他人事ではないと思えた。自分が置かれた状況を再確認したリーヴァルディは思いを馳せていく。
「……このまま力を使い続ければ、やがて私も彼らのように……」
 なりたいとは思えない。
 それでも、この身に宿る力は否応なしにそういった未来を引き寄せてしまう。リーヴァルディは俯き、左眼に触れていた手を下ろした。
「いいえ。それだけは絶対に許容できない」
 力は必要なれど、ただ翻弄されるだけではない。抗わないまま終わるという選択はリーヴァルディの中には存在しないからだ。
 彼の人々のように操られるだけの未来は御免だ。それだけは絶対に否定したい。
「……私の意志を、魂の在り方を決めるのは私自身よ」
 たとえ神であっても、二度と操られたりはしない。
 リーヴァルディは闇が広がる空を見上げ、死の匂いが立ち込める風を払った。
 神の呪縛からの解放。
 その決意を新たにして、リーヴァルディは両手を重ねる。そうして彼女は雪の中で死者達へ祈りを捧げていった。
 闇の中にも白という彩がある。世界は黒一色に染まっているわけではない。
「……操られ、殺されて、死後も支配され……その無念がどれ程の物か、私には想像するしかないけど……」
 リーヴァルディは死というものにすら囚われてしまった人々を思う。
 満足して二度目の死を迎えたのか。それとも未だ足りないと嘆いて消えていったのか。やはりその思いは最後まで知れないままだったけれど。
「少なくともこれ以上、貴方達の尊厳が汚される事は無い」
 だからどうか、安らかに眠れるように。
 リーヴァルディが巡らせた祈りは静かに、雪景色の中に沈んでいった。
 ただひたすらに、救世を願って――。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

紬雁・紅葉
弔いを
死した街に弔いを

UCの月曜(月属性)に破魔氷属性を乗せ最大範囲展開
地形を利用し雪から氷の魔力を増幅
結界術を合わせて場を聖域化

月読…静か清かなる夜の弔い神よ…御力を…


礼儀作法降霊除霊残像忍び足ダンス

只静かに弔いの神楽舞を舞う

布都主よ 剣の神よ
黄泉の盲愛なる者が
自ら望んだ贄たちが
今葦原より旅立ちます

布都主よ 剣の神よ
総ての今生に幕引きを
全ての執着に幕引きを
後引く後ろ髪を斬り祓い
迷わず常世へ
送り出し賜え

逝かれませ
逝かれませ

御然らば御然らば 罷りませ

舞う内に口許に幽か笑み
頬には一筋涙


送り語りは縁者の物にて
私に音する事の葉無し

※アドリブ、緊急連携、とっさの絡み、大歓迎です※



●九曜陣・八雲
 ――弔いを。
 死した街に弔いを。
 静かな願いを胸に抱き、紅葉は忘れられた墓地を見渡した。冷たい風が頬を撫で、足元に積もる雪は凍えそうなほどに冷たい。
 まるでこの街の行く末を示しているような光景だと感じて、紅葉は足元を見つめる。
 この場所は訪れたときから既に終わっていた。唯一街に残っていた領主もいずれは破滅を迎え、放っておいても別の結末を迎えていたのだろう。
 此度、猟兵達の手によってあのような決着を付けたことで、はっきりと終幕が示されただけ。そのように思えるのだとして、紅葉は墓地を瞳に映し続けた。
 そして、紅葉は力を発動させる。
 月曜の陣に破魔。それから凍てつく氷の属性を乗せて最大範囲に展開。墓地の地形を利用した紅葉は雪から氷の魔力を増幅させていく。
 更に其処へ結界術を合わせて、墓地を一時的な聖域へと変化させた。
「月読……静か清かなる夜の弔い神よ……御力を……」
 礼儀作法に則り、紅葉は降霊術を巡らせる。其処から除霊の力を使い、残像を纏いながら静かにステップを踏む。
 ただひたすら、弔いの神楽舞を舞う紅葉の姿は美しい。
 紅葉は聖域になった墓地全体に広げるように祝詞めいた言の葉を紡いでいった。

 布都主よ、剣の神よ。
 黄泉の盲愛なる者が、自ら望んだ贄たちが今葦原より旅立ちます。

 自ら信仰するものに願い、祈り、言葉を捧げる。
 その声は穏やかに、鎮魂の思いとなって冷たい空気を僅かに和らがせていく。

 布都主よ、剣の神よ。
 総ての今生に幕引きを。全ての執着に幕引きを。
 後引く後ろ髪を斬り祓い、迷わず常世へ送り出し賜え。

 紅葉の声は闇ばかりが広がる世界にゆっくりと木霊する。死した者達に馳せる思いも、未来へと絆ぐ思いも、すべて此処に捧げていく心算で紅葉は願う。

 逝かれませ、逝かれませ。
 御然らば御然らば、罷りませ。

 紅葉は神楽舞を舞う内に、自分の口許に幽かな笑みが浮かんでいることに気付いた。
 しかし、その頬には一筋の涙が伝っていて――。
(送り語りは縁者の物にて、私に音する事の葉無し)
 紅葉はそれ以上は何も語らず、ただ目の前の光景に懸命な思いを込めていく。
 どうか、この街が静寂に包まれたまま眠れますように、と。
 白百合が咲かなくなった雪の街は白に沈んでいく。されど、きっと――この地で悲劇が繰り返されることは、もう二度とない。
 これこそが猟兵が成し遂げたひとつの終焉なのだから。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

政木・朱鞠
行動【WIZ】
確かに喰らうことで愛したつもりだったのかもしれないけど、一方的な消耗の連続で満足を得る行動ではいつまで経っても人は一つになれないと思う。
抗う者たちの心を折り隷属させた行動の咎は正直言うと今も許せないけど、今回の元凶である純白のリリィも思えばこの世界の理不尽に抗えなかった犠牲者だったのかもしれない。
一時の怒りに任せて敵意を向けてしまったことを詫びつつ純白のリリィと犠牲となった者達に弔いの気持ちを祈らせて貰いたい。

これは個人的な自慰行動だけど…迷った魂が来世に辿り着けるよう願って。
『フォックスファイア』の狐火を使って送り火の様な炎のモニュメントでも作ってみようかな。

アドリブ連帯歓迎



●送り火
 寂れた墓地には何も眠っていない。
 それでも墓というものは死を尊ぶシンボルでもある。遺された人が祈り、死者を懐うことが出来るのが墓というもの。
 朱鞠は雪が降り積もった墓所に歩み寄り、壊れた墓石を見下ろす。
 誰にも手入れされていないゆえにひび割れているものもあるようだ。しかし、こうして墓があるということは過去にはそういった風習もあったということ。
「……愛、か」
 朱鞠は此度に巡った出来事を思い返していく。
 一度は反旗を翻したが、領主の歪んだ愛に染まってしまった聖女達。
 最初から領主を敬愛し、その愛が無だと分かりもせずに二度目の死を迎えた亡霊。
 そのどちらも確かに愛を示し、領主も彼女や彼に等しく思いを向けたのだろう。
「確かに喰らうことで愛したつもりだったのかもしれないけど――」
 朱鞠は考えていく。
 結局それは、一方的な消耗の連続。そんなことだけで満足を得る行動ではいつまで経っても人はひとつになれない。
 少なくとも朱鞠はそのように思えた。
 抗う者たちの心を折り、隷属させた行動。正直な思いを表すならば、その咎は今も朱鞠にとって許せないことだ。
「けど、もう終わってしまったことだから……」
 朱鞠が幾ら思いを馳せたとしても、その償いは永遠に果たされない。
 深く考えていけば今回の元凶である純白のリリィも、この世界の理不尽に抗えなかった犠牲者だったのかもしれない。あの敵もまた、愛という言葉に巻き込まれたひとりだった。
 死が償いだったとは言えないが、それでも――。
「私は自身に出来ることをやった。だから、これで良かったはず」
 自分に問いかけるように朱鞠が呟く。
 そして、朱鞠は静かな謝罪の意思を墓所を通じて街全体に向けた。一時の怒りに任せて敵意を向けてしまったことを詫びつつ、朱鞠は純白のリリィと犠牲となった者達に弔いの気持ちを抱く。
 どうか、祈らせて貰いたい。
 そう願う朱鞠の行ったことは間違いではない。
 理不尽に怒り、不条理に憤り、無為に壊れていくものに歯止めをかけた。
 それが猟兵としての在り方のひとつであり、誰からも非難されることではない。朱鞠は内に燻る思いを抱えながらも、やるべきことを成した。
 そうして暫し後。
 祈りを終えた朱鞠は顔を上げ、辺りを見渡す。
 空は闇に包まれており、街も墓所も雪景色も暗い。しかし、一時的であっても此処に明かりを灯してみたいと感じた。
 朱鞠は印を組み、周囲に狐火を呼ぶ。
「……迷った魂が来世に辿り着けるよう願って」
 狐火を巡らせ、送り火めいた炎のモニュメントを作った朱鞠は天を振り仰ぐ。
 魂の行方は見えないが、今だけはせめて――。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

戎崎・蒼
【桔梗】
叶とディアナを見送った後、2人で

死体すらも無くなり、今となっては忘れ去られてしまった──彼等の確かに在った場所
後悔先に立たずと言うように、今更たらればで考えても意味の無い事なのだろうけれど……それでも、だなんて考えてしまう
1を淘汰する為に100(他)を見捨てる──、之を残酷な事だと、そう思うのは自分勝手で傲慢な"エゴ"なのかもしれないな

ならば、
亡くなった者へのせめてもの弔いとして手向けの花を

そうして降る雪を眺め過去を想起させる
咎人殺しとして……相手の言葉に一切耳を貸さずただ殺すだけだったあの時を
───自身の師であった人を殺したあの日を

誰もが赦されたいと思っている
……勿論それは僕も同様に


宮前・紅
【桔梗】
叶くんとディアナちゃんを見送って蒼くんと二人だけに
あーあ、なぁんも無くなっちゃった
この街からはもう温度も何も感じない
たった一人の傲慢が原因で始まった崩壊──……確かに今出せる最善の結果だったんだろうけれど、どうしてもあの女だけは許せないな

"エゴ"にも程度がある
強い傲慢は、徐々に侵食して蝕む
許容範囲を超えれば軈て零れ落ちて──気が付かない内に人を殺すんだ
だからこそ、何があろうと"エゴイスト"は赦しちゃならない

俺も─……赦されたくないからさ
そう思うのも自分勝手な我儘なのかな?

潰えた灯火たちよ、どうか、今は安らかに

そう言って弔いに花を送るよ
くるりと振り返り何時もの調子で笑って

「さ、帰ろう」



●赦し
 静寂が満ちる墓所は心淋しい。
 そう思うのはこの場所に残骸すら眠っていないからだろうか。
 形ばかりの墓地に佇むのは蒼と紅のふたり。冷たい風が吹き抜ける闇夜の世界には、明るい光など何処にもない。
 蒼はひび割れた墓のひとつを見下ろし、紅は両腕を頭の後ろで組んで軽く歩く。
「あーあ、なぁんも無くなっちゃった」
「そうだね、終わってしまった」
 紅が残念そうな言葉を紡いだことで、蒼はゆっくりと頷いた。
 真っ二つに割れてしまった墓の横を通った紅は片手を下ろし、その表面を指先でなぞった。積もった雪がはらはらと落ちて地面にちいさな跡をつくる。
 蒼はその光景を見つめながら、ひとり思いを馳せていく。
 この街の人々は本当に何もかも領主に捧げてしまった。死体すらも無くなり、今となっては忘れ去られてしまった――彼等の確かに在った場所。
 過去には此処に葬られた者もいるのだろう。
 されど、骨だけになった者もまたリリィに捧げられた。おそらく供物として。
 そんな状況にもっと早く誰かが気付いていれば。
 まだ人々が生きていた頃に、あの所業を止められたなら。
 後悔先に立たずと言うように、今更に考えても意味の無い事なのだろうけれど、それでも、と蒼は考えてしまう。
 紅は思いに耽っているらしい蒼を見遣りながら、そっと息を吐いた。
 凍てつくような空気が淡い白に染まる。
 この街からはもう温度も何も感じない。
 はじまりはたった一人の傲慢。それが原因で始まった崩壊は、自分たち猟兵の手で終わりを迎えた。
「……確かに今出せる最善の結果だったんだろうけれど、」
 どうしてもあの女だけは許せない。
 紅は本音を零し、未だ墓石に残っている雪を掌にすくいあげた。僅かな熱を受けて雪はとけていく。そして、紅の掌から雫がぽたりと落ちていった。
 透明な雫が地面を濡らす。
 それから蒼は紅の姿を暫し見つめていた。紅の方も、蒼からの視線を受けつつ冷たい風を感じていた。
 一を淘汰する為に百を、即ち他を見捨てる。
 之を残酷な事だと、そう思うのは自分勝手で傲慢な“エゴ”なのかもしれない。
「蒼くん、どうする?」
 紅は思いを巡らせている蒼に問いかける。頷いた蒼は手を伸ばし、近くにあった墓に歩み寄る。其処にはまだ比較的壊れていない墓石があった。
「せめてもの弔いをするだけかな」
 亡くなった者への手向けの花を捧げようと決め、蒼はささやかな祈りを捧げる。だが、紅には彼が抱く思いくらいお見通しだ。
「“エゴ”にも程度があるよ」
「……」
 不意に掛けられた言葉に顔を上げ、蒼は紅が次に紡ぐ言葉を待った。
 彼曰く、強い傲慢は、徐々に侵食して蝕む。
 許容範囲を超えれば軈て零れ落ちていき、気が付かない内に人を殺す、というのが紅の考えでありエゴについての論だ。
「だからこそ、何があろうと“エゴイスト”は赦しちゃならない」
「そう、だね」
 歯切れの悪い蒼の返答を聞きながら、紅は薄く笑ってみせる。
「俺も――……赦されたくないからさ」
 そう思うのも自分勝手な我儘なのかな、と紅が問いかけると蒼は首を振った。
 蒼は降る雪を眺める。それは過去を想起させるものだ。
 思い出す。
 咎人殺しとして、相手の言葉に一切耳を貸さずただ殺すだけだったあの時を。
 ――身の師であった人を殺した、あの日を。
「そう言うけれど、本当は」
 蒼はそれ以上は語らずに黙り込む。紅も追求や言及をすることはなかった。
 そのことに静かな思いを抱き、蒼は胸に手を当てる。
 誰もが赦されたいと思っている。
 勿論、それは自分も同様に。赦してはいけないこと、赦されたくないこと、赦されたいと思っていること。すべて間違いではない。
 相反して、矛盾ばかりの世界はまだ解き明かしきれない。
 紅は蒼の傍に立ち、もう一度墓地を見渡す。
 遠くの方で誰かが灯した送り火のような炎が揺れていることに気付き、紅は双眸を細めた。そうして彼はそうっと願っていく。
「潰えた灯火たちよ、どうか、今は安らかに」
「どうかもう覚めない眠りを」
 紅も先程の蒼と同様に弔いに花を送る。蒼も最後の願いを言葉にした。
 そして、墓石を見ていた紅はくるりと振り返る。それから普段と何にも変わらないようないつもの調子で蒼に笑いかけ、帰路を示した。
「さ、帰ろう」
「……うん」
 一歩、先に踏み出した紅を追いかけて蒼も進む。
 誰もいなくなった雪の街にはもう血に染まった白百合の花は咲かない。そのことが彼らが成すべきことを成した確かな証だ。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ルーシー・ブルーベル
弔うひとが居なかったとしても
其所に存在していたと
少なくともこの街の方々は
ルーシー達に知らしめる事が出来たのね
彼女とひとつになり
街というお墓を残して

積もる雪が街を白く塗りつぶす

食べられたくない
食べられないといけない
開かれた望みはなんて、恐ろしいの

雪が今までの事も
これからの事も
全て真っ白にしてくれたら

まさか

お父さまがした事も
わたしがした事も
白を被せたとて何も無くならない
わたしがそれを許さない

お父さまが今のわたしを見たら
なんて言うかな
良くやった?娘失格?
それとも
やっぱり関心のないまま

それでもいつか
あなたの元へ娘はいくでしょう
その時は、ええ
ララも一緒

見つけた望みは今は雪に隠して
帰りましょう
足跡残して



●望みと願いと終わりの未来
 凍てつく冬の風が頬や肌を撫でていく。
 街の片隅は中心部よりも更に寂れており、物悲しい雰囲気が満ちていた。
 ルーシーは墓地に訪れ、その中のひとつの墓石の前に立つ。此処には正式に葬られた者はいない。過去にはいたのかもしれないが、現在は全てが空っぽ。
 屠るひとも、弔うひとが居なかったとしても。
 ルーシーは真っ直ぐな瞳を墓石に向け、それから墓所全体を見渡した。
 ひび割れた墓がある。
 完全に割れてしまった墓もあった。
 どれもが雪に埋もれかけており、墓が暴かれた跡も少し見える。けれども、この街に住むひとびとは確かに其所に存在していたはず。
「少なくともこの街の方々は、ルーシー達に知らしめる事が出来たのね」
 彼女とひとつになり、街という墓を残した。
 そのことで愛を示したのかもしれない。それが傍から見て間違っていたとしても、愛を貫いて死んだということは変わらない。
 ふわりと雪が舞い降りてくる。
 ルーシーは手を伸ばして、雪の欠片を掌で受けてみた。幽かな雪はすぐに手の上でとけて雫となり、零れ落ちていく。
 そして、降り積もる雪が街を白く塗りつぶしていった。
 その光景はまるで、白百合の花が咲かなくなった代わりに街の色でもある白を示していくかのようだ。ルーシーは俯き、足元の雪を暫し見つめていた。
 食べられたくない。
 食べられないといけない。
 此度の出来事を通して自覚してしまった思いは、雪のようにゆっくりと心に積もっていく。ふわふわとした雪も地面に積もればいずれ重く硬いものに変化していく。
 そうして重くなって、開かれた望みは――。
「なんて、恐ろしいの」
 気が付けばルーシーはそんなことを呟いていた。
 重くなってもいい。固くなってしまったっていい。ただ今だけは、雪が今までのことや、これからのことも全て真っ白にしてくれたら。
(……でも、)
 ルーシーは胸中で独り言ち、頭を横にふるふると振った。
 まさか。
 お父さまがしたことも、わたしがしたことも、白を被せたとて何も無くならない。
「わたしがそれを許さないから」
 考えはふたたび言の葉になり、ルーシーは俯く。
 もし父が今の自分を見たら一体何というだろうか。答えは出ないというのに、少女の中でぐるぐると思考が廻っていく。
 ――良くやった?
 それとも、娘失格?
 或いは、やっぱり関心のないままかもしれない。
「それでもいつか、あなたの元へ娘はいくでしょう。その時は、ええ……」
 ララも一緒に。
 踵を返したルーシーは帰路につく。ひとつずつ、ちいさな足跡を残して。
 幽かに見つけた望みは、今は雪に隠したまま。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

朱赫七・カムイ
⛩迎櫻

サヨ……

リル?

愛し子の背が切ない
伸ばした手をリルに止められる
どうして?サヨが哀しむのは嫌だ

…でも
強いけれど……サヨは弱いよ
強いと笑うリルに思う
リルの前では強く在りたいのだと
頼られたい守りたい―その想いを感じる

湖?リルの故郷にも行ってみたいよ
そういえば『私』の墓もない

有難う
私は此処にいる
望まれて希んでもらえたから
厄災は反転したんだ

私は幼いだろう
未熟で至らない
胸の高鳴りの前に跪くしかなく
愛を知れど識る訳ではなくて

それでも私はサヨがいとおしい
そばに居たい
離れたくない
永遠に
きっと私は神として過っている

躓くなら共に躓こう
君が罪人だというなら
私も

きみの愛を肯定するよ
重ねる掌にあいをこめて
いこう、共に


リル・ルリ
🐟迎櫻

独り佇む櫻の背を見守り
手を伸ばすカムイをとめる
ひとりにしてあげよう
向き合う時間も必要なんだ
大丈夫
櫻は強いから

…弱いと案じるカムイに思う
彼は櫻にとって弱さをみせられる
甘えられる存在なんだ

お墓にヨルがそっと黒薔薇を供える
そうだ…とうさんとかあさんのお墓ない
むしろあの湖が?
カムイのお墓はなくていい!
君はここにいる

呪いに侵されながら
親友の元へ駆けていった黒の神の姿が脳裏に過ぎる

前世からずっと
かれのことが大好きなんて
なんだか羨ましい
君は君自身の抱く愛を自覚している?

ヨルの薔薇の横
一輪薔薇を供える

櫻!こんなに冷えてる
冷たい手で冷えた手を包む
愛を伝えるように

この命を歌い終えるときまでずっと
離さないよ


誘名・櫻宵
🌸迎櫻

二人から少し離れて
白雪に足跡を刻む
此処に己が居ると示すように

この墓の下に骸がないように
桜の樹の下に死体なんて埋まっていなくて
初恋も妹も従兄弟も全ては私の腹のなか

…あの領主と己が重なる

重ねた罪を愛と偽り重ねて
美しい桜雪に隠しても暴かれるもの
…暴いてほしい
日に日に増す大蛇の衝動がその証
本当は怖い
食べ尽くしてしまいそうで

私の今はここに
過去を重ねて今を結んで未来を斬り拓いて
私は生きる
咲いて咲かせて
だから――
雪の上に桜を散らす
今まで喰らった生命を弔うように

あいしていたよ
あいされたかったよ
―私のあいしかたは
きっと間違っている

握られた手に微笑む

カムイ、リル
いきましょうか

それでも
私のあいは此処にあるの



●喰愛
 雪が降る。
 沈んだ心と思いを覆い隠すように、ゆっくりと白い雪が降り続けている。
 静かな風が吹き抜ける墓地にて、櫻宵はひとりで佇んでいた。リルとカムイには断りを入れて、少し離れた場所で墓石を見下ろしている。
 誰のものかも知れず、何も葬られていない墓は何だか空虚だ。
 其処から少し歩を進めた櫻宵は白雪に足跡を刻んでいく。その姿はまるで、此処に己が居ると示すように見えた。
「私は――」
 櫻宵はそれ以上は続かぬ言葉を落とし、或る墓の傍で立ち止まった。ひび割れた墓石を撫でると冷たい感触が伝わってくる。
 この墓の下に骸がないように、桜の樹の下に死体など埋まっていない。
 亡骸があるのは、此処。
(初恋も妹も従兄弟も全ては私の腹のなかで……)
 今までに喰らわされてきた者や、自ら喰らって来た者を思う。
 食べることは愛だと語った、この街の領主と己が重なってしまった。
 重ねた罪を愛と偽ってきた。そうして、更に罪を重ね続ける。この身に宿る呪はまさに愛。美しい桜雪に隠してもいずれは暴かれるもの。
 否。
(……暴いてほしい)
 櫻宵は己の中で、日に日に増す大蛇の衝動を思う。これがその証だと思うと恐怖に押し潰されそうになる。恐ろしいのは、食べ尽くしてしまいそうなことで――。
 それでも今、櫻宵は此の場にいる。
 傍には愛と戀を謳う人魚と、巫女として愛してくれる神がいてくれる。
「私の今はここに」
 過去を重ねて今を結んで未来を斬り拓いて、生きる。呪いと畏れにとらわれてしまいそうな心を何とか保っていられるのは彼らのおかげ。
 咲いて、咲かせて。
 だから――。
 櫻宵は雪の上に桜を散らしていく。せめて此の時だけは、今まで喰らった生命を弔うための思いを巡らせるために。
 あいしていたよ。
 あいされたかったよ。それでも。

 ――私のあいしかたは、きっと間違っている。

●二人の在り方
「サヨ……」
 少し離れたところにいる櫻宵の背を見つめ、カムイは心配そうに双眸を細めた。
 大丈夫であると信じたいが、巫女の心が揺らいでいることは神にも分かっている。リルも櫻宵が独りで佇んでいる姿をそっと見守っていた。
 ふと櫻宵が先に歩き出したことでカムイは手を伸ばしそうになる。あのことを辛く思っているであろう愛し子の背が切なかった。
「リル?」
「ひとりにしてあげよう。向き合う時間も必要なんだ」
 しかし、首を振ったリルがカムイを止めた。リルはそういうが、カムイは常に彼の傍にいてやりたいと思っている。
「どうして? サヨが哀しむのは嫌だ」
「大丈夫、櫻は強いから」
 リルは真剣な表情でカムイに告げ、あわく微笑んで見せた。すると次はカムイの方が首を横に振る。
「……でも、強いけれど……サヨは弱いよ」
 強いと笑うリルには、櫻宵はそう見えるように振る舞っているのだろう。
 リルの前では強く在りたい。
 愛しの人魚には頼られたいし守りたい。カムイは櫻宵からそんな想いを感じていた。
 そして、弱いと語るカムイに対しては、櫻宵は別の面を見せている。
 彼は櫻宵にとって、リルに見せていない弱さを曝け出せる存在。甘えられる存在なのだと思い、リルは自分達の違いを確かめる。
 どちらが良い悪いかや、勝っているかどうかではない。
 強さと弱さ。
 どちらも見せられる相手がいるということが、櫻宵を繋ぎ留めている大切なこと。
 そのとき、リル達の近くにあったお墓にヨルが駆け寄っていった。ヨルの後にはカグラとカラスもついていっている。
 その間にヨルは墓にそっと黒薔薇を供えて目を閉じた。
 ヨルの様子を見たリルはふと気がつく。
「そうだ……とうさんとかあさんのお墓って、どこにもないな」
 むしろあの湖がそうなのだろうか。
 リルがぽつりと呟くと、カムイもふとしたことに思い至る。
「湖? リルの故郷にも行ってみたいよ。それに、そういえば『私』の墓もないな」
 何気なく口にした言葉なのだろうが、リルは思わずそれを否定する。
「カムイのお墓はなくていい!」
「どうして? 一度は滅された身で……」
「ううん、君はここにいる」
 リルの脳裏には嘗ての彼の姿が巡っていた。
 呪いに侵されながらも、親友の元へ駆けていった黒の神の姿は今でも忘れない。彼に斬られはしたが、そのおかげで神斬も真剣なのだと分かった。
 カムイは、そうか、と頷いて礼を告げる。
「有難う。そうだね、私は此処にいる」
 本当はあのまま消滅しても良いと思っていた。だが、望まれて希んでもらえたから厄災は反転して此処に存在しているのだろう。
 カムイは墓のひとつずつに黒薔薇を添えていくヨルを見つめ、そっと思う。
 自分は幼い。未熟で至らないことも多くて、胸の高鳴りの前に跪くしかない。愛を知れど、未だ識っているとは云えない。
 リルは素直に首肯してくれる神に思いを馳せていく。
 前世からずっと、かれのことが大好きな神。リルも櫻宵のことが大好きだが、なんだかカムイのことが羨ましい。
「カムイ、君は君自身の抱く愛を自覚している?」
「愛は確かにあるけれど、わからないことも多いよ。それでも私はサヨがいとおしい」
 そばに居たい。
 離れたくない。永遠に。
 そんな風に思ってしまうから――。
「きっと私は神として過っているんだろうね」
「そんなこと……ううん、愛のかたちが間違いだって言い切ることはしたくないな」
 それから二人は視線を交わしあう。
 リルはカムイと共にヨルの薔薇の横に一輪の薔薇を供えた。そして、墓所の雪の上に桜の花弁が散っていく。

●揺蕩うさくら
 そのとき、櫻宵がカムイとリルの方に振り返った。
 間違っていること、二人に支えられていること、呪いのこと。未だ心が揺らいでいないとは言えないが、もうこの雪の上に留まり続ける理由もない。
「二人共、帰りましょう」
「噫、戻ろうか」
 此方に歩んできた櫻宵をカムイが迎え、リルが手を伸ばす。
「櫻! こんなに手が冷えてるよ」
 リルは彼の冷たい掌を、同じように冷えた手で包み込んだ。今はぬくもりが伝えられなくとも、一緒にいれば熱は宿る。
 そうやって愛を伝えるように、リルは笑みをみせた。
 カムイも櫻宵の心情を察しており、穏やかな視線を向ける。きっと櫻宵は此度の件を経て、罪を更に自覚してしまっているのだろう。
 躓くなら共に。
 君が罪人だというなら、自分もそうだから。
「私はきみの愛を肯定するよ」
「カムイ、リル……」
「僕だって力になるよ。この命を歌い終えるときまでずっと、離さないから」
 右手と左手がカムイとリルによって繋がれている。重ねる掌にあいをこめて、三人で進むと決めた証がこの心地だ。
 そして、櫻宵も二人に微笑みを返すことで愛おしさを示した。
 桜のように揺らぎ、舞い続ける心模様。ひらり、ふわりと揺らめく思いは未だ少し定まってはいないけれど、それでも――。
 私のあいは此処にある。
 抱く思いもまた桜の如く。それはきっと、散っても再び巡り咲く花だから。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ユヴェン・ポシェット
「愛」か、そのかたちも様々なのだろうが、やはり俺にはよくわからない

ミヌレ、テュット…お疲れ。今回もありがとな
………。
暫く無言で、俺達はこの街の者の事を思い出す
誰も居なくなったとしても、この地を忘れる事は無いだろうな

そういえば、墓というものには縁がない
…つくってないんだ。
それこそ埋葬するものがないから。
あの人も、ミエリも、マドレーヌも。

ミヌレはあった方が良いか?アイツを弔うための場所。
俺が問うとミヌレは首を横に振り、テュットは俺とミヌレに抱きしめるように包み込む。
そうか、そうだよな。
場所なんて必要ない、いつだって想っているから。

それにしてもテュットは温かいな
暫くこのままで…この地を眺めていよう



●ぬくもりは此処に
 雪が降り積もっていく静かな墓地。
 其処にはもう何処にも白い百合の花は咲いていない。この街の領主を斃すまではきっとこの場所にも花が咲き乱れていたのだろう。
 彼女が倒れた今、墓所にある色は淡い雪の白のみ。
 その中に佇むユヴェンは足元の墓石を見下ろす。長く手入れがされていないことでいつしか割れてしまったらしいそれは、崩れた石の破片になっている。
 ユヴェンは墓石を見つめながらも、別のことを考えていた。
「愛か……」
 この街に訪れた時は罪について考えていた彼は、戦いを経た今は愛について思いを巡らせている。愛というものの形が様々であることは分かっていた。
 だが、ユヴェンにはまだその本質が理解できていないままだ。食べられること、食べること。それもまた愛であると認めたいのだが――。
「やはり俺にはよくわからないな」
 素直な感想が零れ落ちた。
 満足いく結末だったのか、思いは昇華されたのか。そういった考えが出口のない袋小路に入ってしまいそうになり、ユヴェンは首を振る。
 ユヴェンとて、すべてを理解しようとは思わない。それゆえに此度の件をあるがままに受け入れようと決めた。
「ミヌレ、テュット……お疲れ。今回もありがとな」
 崩れた墓石を出来る限り直しながら、形を整えたユヴェンは相棒竜達に告げる。
 ミヌレはユヴェンの肩に乗って目を瞑っており、テュットも墓石の前で静かに揺らめいていた。どうやら二人なりに弔いをしているようだ。
「…………」
 ユヴェンは暫し無言で、この街の者のことを思い出していく。
 此処に新たな住民が訪れることはないだろう。ゆっくりと雪に沈み、闇の世界で滅んだ街のひとつとして存在し続けるだけ。
 しかし、僅かでも縁を得たならば覚えていたいと思った。
「これから誰も居ない地になったとしても、この街を忘れる事は無いだろうな」
 そうだろう、とユヴェンが語りかけるとミヌレがちいさく鳴く。
 そのとき、ふと気が付いた。
 そういえば墓というものにはこれまで縁がなかった。見送ってきた者、見送らざるを得なかった者はいたが、墓に参るということはしない。
 何故なら、墓にあたるものをつくっていないから。それこそ埋葬するものがないから、何処かこの墓地の在り方にも似ている気がした。
「あの人も、ミエリも、マドレーヌも――」
 去っていった者達のことを思い、ユヴェンは少しだけ俯く。ミヌレが心配そうに覗き込んできたので、ユヴェンは問いかけてみた。
「ミヌレはあった方が良いか? アイツを弔うための場所」
「きゅうーう」
 するとミヌレは首を横に振る。テュットはというと、心境を察してミヌレとユヴェンを抱きしめるように包み込んでくれた。
「そうか、そうだよな」
 彼や彼女達を弔う場所など必要ない。
 いつだって想っているから、墓標はこの胸の中にある。
 胸元に手を当てたユヴェンはテュットの温もりに意識を向けた。ひとりではないと伝えてくれる仄かな熱が今は嬉しい。
 そして、ユヴェンは暫しそのまま、雪に沈む地を眺めていった。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

夏目・晴夜
見様見真似で立てた子犬の墓
見つかる筈がない
復讐を遂げる事も正しく弔う事も出来ない

代わりに嘗ての少年を、この血を埋葬していきます
今や私しか知らぬ憐れな愚図
唯一喰われなかった事は褒めてあげますよ

では、えだま…
えだまめ…もっと普通の名前にすべきでしたかね
いや私は気に入ってますけど
食べたい程に可愛くて、でも私は肉しか食べたくないので
なのに此処で喰ったのは花ばかり
昔も今日も

…帰りましょうか
ニッキーくんを直さねば

おやすみなさい、私の故郷
ご馳走様でした、リリィ様
さようなら、僕
忘れませんよ。振り返る事も無いでしょうが
全て喰らって、飲み込めなかった最後のひとつも葬って
これでハレルヤを縛る過去は無くなりましたから



●白から赤へ
 街の何処にも白百合が咲いていない。
 それまで当たり前に存在していたはずのものが消えた。それを空虚と呼ぶのか、安堵と呼ぶのかは未だ判断がつかないでいる。
 白い雪は薄く広く、大地を覆い隠すように降り積もっていた。
 その上に足跡を刻んでも今は何も思わない。訪れた時とは違う心境である自分が少し可笑しく思え、晴夜は足元を見下ろす。
 此処は墓地の片隅。
 目の前には見様見真似でつくった、ちいさな子犬の墓が立てられている。
 板を重ねて十字にしてよいものか迷ったが、この墓地にあるような崩れた石を積み重ねるよりは見栄えが良くていい。
 しかし弔う先や葬るものはない。見つかるはずがない。
 復讐を遂げることも出来ず、正しく弔うことも叶わなかった。
 こんなものがあの子の慰めになるとはどうしても思えない。それでも、これはあの日々を忘れないようにするための墓だ。何もないよりは良い。
 晴夜は墓の傍に屈み込む。
 片膝を地について手を伸ばし、最後に墓をそっと整えた。
 その仕草は以前、子犬にはじめて触れた時を思い出させる。幼い頃に子犬に触れたとき、雪に濡れて冷たいのにあたたかいと思った。
 まるで、真っ直ぐな瞳を向けてくる子犬だけが自分の味方のように思えて――。
 晴夜は感傷を振り払い、もう大丈夫です、と墓に向けて告げる。
 そして、ともだちの代わりに嘗ての少年を――己の血を埋葬することを決めた。
「今や私しか知らぬ憐れな愚図です」
 晴夜は独り言ちる。
 こうすることでともだちを悼むと同時に過去を葬れるだろうか。ひた、と雪の大地に血が滴る。白を染めた赤は鮮烈な色を其処に宿していった。
「唯一喰われなかった事は褒めてあげますよ」
 過去に向ける思いを言葉にした晴夜はゆっくりと立ち上がる。
 その傍には妖刀を咥えた犬型からくり人形が控えていた。本物にしか見えない白い犬はゆっくりと尾を振っている。
「では、えだま……」
 名を呼んで、行きましょう、と告げようとした晴夜は途中で言葉を止めた。
 えだまめ。
 可愛い名前だとは思っているが、もっと普通の名前にすべきだっただろうか。たとえば自分に合わせて晴丸だとか、或る種の定番であるポチやシロだとか、或いはスノウフレイムハウンドゼータだとかの格好いい名前でも――。
 なんてことを戯れに考えつつも晴夜は思考を止める。
「いや私は気に入ってますけど」
 食べたい程に可愛いともだち。けれど晴夜は肉しか食べたくないゆえ、えだまめを食べてしまわなくていい。えだまめ、ともう一度呼べばやはり白柴は尾を振った。
 そう、肉しか食べたくはないというのに。
「なのに此処で喰ったのは花ばかり。昔も、今日も……」
 この街にいるからだろうか。今は考えが過去にばかり向かってしまう。
 感傷的にはなりたくない。
 自分は今、成すべきことを果たしたのだから。胸を張って、このハレルヤを褒めてくださいと言える状況だ。それなのに。
 暫し考えが纏まらず、晴夜は子犬の墓を見下ろし続けた。
 すい、とえだまめが足元に寄ってきた。その仕草にはっとした晴夜は顔を上げる。もうこれ以上、この場に居る理由もない気がした。
「……帰りましょうか」
 晴夜にはまだやるべきこともある。
 まず手始めに残骸とまで呼べてしまうほどに壊れたニッキーくんを直さなくてはならない。直すついでに装飾や機能を増やしてあげていいかもしれない。修復後がどうなるかは分からないが、彼もまた立派に戦ってくれた。
 これが今の自分の力だと実感できる。もう此処にあの愚図はいない。
 晴夜は墓に背を向け、一度だけ瞼を閉じた。
 この街には静けさが満ちている。極寒の街にはもう二度と花が咲くことなく、いずれは雪に沈んでいくだけだろう。

 おやすみなさい、私の故郷。
 ご馳走様でした、リリィ様。

 さようなら、僕。

「忘れませんよ。振り返る事も無いでしょうが」
 全てを喰らって、飲み込めなかった最後のひとつも葬ったのだから。
 晴夜は歩を進める。
「これでハレルヤを縛る過去は無くなり……、……?」
 清々したと言い切ってしまいたかったが、不意に違和を覚えて足元を見遣る。其処には一輪、百合の花が咲いていた。
 まさか、と思って自分の胸に手を当ててみる。
 敢えて花が咲くことを意識して一歩を踏み出すと、其処にまた百合が生まれた。
 花は白ではない。
 赤い、紅い、血のような色の百合だ。
 乾いた笑いが浮かんだ。これは、この力は――彼女のものだ。リリィを喰らった自分の中に花を生み出すあらたな力が宿ったのだと知り、晴夜は深い息を吐いた。
 目の前の空気が白く染まり、足元は血色の花で満ちる。
 まだ過去に縛られたままなのかという思いも一瞬だけ過ぎったが、晴夜は頭を振った。
「……構いません。全て連れて行って差し上げます」
 この力は過去の呪縛ではない。
 己のものになった能力をどのように解釈して使い熟すか否かは自分次第。
 つまりは晴夜の新たなる門出を祝う花だとして、彼は街に背を向けて再び歩き出す。
 もう二度と、振り返ることなく。

 ――Hallelujah.

 此の街へ贈るに相応しい、弔い代わりの言葉を残して。


●謳う静寂
 彼が去った後、雪の墓地には暫し赤い花が咲き乱れていた。
 まるで其処に沈んだ命や思いすべてを葬送の意を送るかの如く、咲き誇る真紅の花は冷たい風の中で謳うように揺れている。
 されど花は次第に雪に埋もれて塗り潰されていき、やがて街に完全な静寂が訪れた。
 壊れて枯れた街がどうなっていくのか。それは誰にも知れぬことだ。
 此処は既に、思い出と共に葬られた街なのだから。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年02月06日
宿敵 『純白のリリィ』 を撃破!


挿絵イラスト