3
青嵐のグリム・リーパー

#ヒーローズアース #猟書家の侵攻 #猟書家 #カーネル・スコルピオ #スピリットヒーロー

タグの編集

 現在は作者のみ編集可能です。
 🔒公式タグは編集できません。

🔒
#ヒーローズアース
🔒
#猟書家の侵攻
🔒
#猟書家
🔒
#カーネル・スコルピオ
🔒
#スピリットヒーロー


0




●それは何度でも繰り返す
「はぁっ、はぁっ、はぁっ……!」
 走る、走る、走る。全速力で、逃げる。逃げている。
 逃げちゃ駄目だと、心の中のどこかで叫ぶ自分がいる。自分は「ヒーロー」なのだから。悪には、立ち向かわなければいけない――だけど、だけど!
(わたしに、できることなんて何もない!!)
 力に目覚めたばかりで。先輩ヒーローに手を引いてもらって、なんとか後方支援が出来るだけの、10歳。
 その先輩はさっき、血まみれで冷たくなっていた。わたしがはぐれてしまったから。わたしが何も出来なかったから。――わたしが、無能だったから!!
 ……カシャン。ガリ、ガリ、ガリ。
 鋼の刃が地面をひっかく音がする。びくっと全身が震えた。
 あの死神だ。あいつはどこまでも追ってくる。生きているものがいなくならない限り。
 咄嗟に自分自身に砂の迷彩を纏って、路地のガラクタと同化する。ああ、本当にわたしなんてガラクタ同然。役立たず。先輩を死なせてしまった。わたしなんかが、ヒーローなんかになれる筈がなかったのに。
 「あいつ」の気配が遠ざかるまで、呼吸を止めて、動きを止めて、震える体を無理矢理に押さえ込んで、ずっと息を潜める。
(ごめんなさい、ごめんなさい……ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……!!)
 涙をぼろぼろとこぼしながら、心の中で何度も謝る。ごめんなさい。許して。ごめんなさい。何も出来ないわたしを、どうか誰も責めないで。ごめんなさい。だってわたしには、こんな恐ろしいものに立ち向かうことなんて出来ない。ごめんなさい。許して――助けて。
(もう嫌だ……もう、嫌だよ……!!)
 「あいつ」の気配が完全になくなってから、わたしは立ち上がる。ここから抜け出すために走り出す。逃げなくちゃ。今は。走って、走って、走って――ああ、でも。ここはどこなんだっけ? わからない。それでも逃げなくちゃ……無能な私には、何も出来ない、誰かに、助けてもらわなくちゃ……。
 ――誰かって、誰に?

●観劇者はその惨劇に喝采を
 ……少女は逃げ続ける。死神から。逃げられるはずのない。入口も出口もない空間をぐるぐると、倉鼠のように周り続けながら。
 それを愉しげに、見下ろす影がある。
 男の影だ。蒼い炎のような男。男は少女が逃げ惑う様を見下ろしながら唇をにぃとつり上げ、涙袋を押し上げて笑う。
「あァ、全く、無力な少女が涙ながらに逃げ惑う様の、なんと愉しい事でしょうな」
 ……それが「ヒーロー」となれば、あァ全く!少しは溜飲も下がろうかというもの!
「ふ、ふふ、くふっ……さあ、もっともっと恐怖にうち震えるがいい……!さすればその悪夢より、さぞ歪で醜悪な「スナーク」が生まれ出ずることでしょうからなァ……!」

●1999年の爪痕
「ああ、来てくれてありがとう。それじゃあ、説明を始めるとしようか」
 贄波・エンラ(Liar Liar Liar・f29453)は、自らの呼びかけに集まった猟兵たちの姿を見ると、咥えていた火の点いていない煙草を口から離した。
「猟書家の事はもう皆知ってのことだと思うけれど――今回予知されたのは、ヒーローズアース。狙われているのは、そう。ヒーローだ」
 『シエラ・サンドストーム』。砂嵐を操るという女性ヒーローで、20年以上ヒーローを続けているというベテランだ。しかし彼女は現在昏睡状態に陥っているという。
「正確には、昏睡というのとは少しだけ違うかな。医学的な見地から言えば、夢を見続けている状態だそうだよ。そして、彼女は酷く魘されているらしい」
 医者が言うには、まるで、醒めない悪夢を見続けているようだ、とね――。
「猟書家の数は、ハロウィンの夜に見られた予兆以降も増え続けているらしいね。彼女、シエラに醒めない悪夢を見せているのも、そんな猟書家の一人のようだ。その名は、『カーネル・スコルピオ』」
 猟書家。オブリビオン・フォーミュラが斃され平和が取り戻されようとしている世界に散った彼らは、それぞれの世界で今も幹部を増やし続けている。ヒーローズアースを狙っていた猟書家『サー・ジャバウォック』は迷宮災厄戦にて猟兵に斃されたが、彼の代わりに『ミストレス・バンダースナッチ』たる猟書家がヒーローズアースに降り立ち、「超生物スナークの創造」たる目論見を引き継いでいるらしい。
「猟書家幹部である『カーネル・スコルピオ』がシエラに悪夢を見せているのは間違いない。この猟書家はどうやら、ジャスティス・ウォーで心に傷を負った者を標的としているようだからね」
 ――ジャスティス・ウォー。ヒーローズアースで1999年に起きた。善と悪との二大決戦。戦いはヒーロー側の勝利に終わったものの、世界だけでなく、戦いに参加したヒーロー・ヴィラン双方の多くがが体にも心にも大きな傷を負ったという。
「シエラは今でこそ砂嵐を操るベテランヒーローだ。けれど、ジャスティス・ウォー当時は能力に目覚めたばかりの少女……まだ10歳だった。出来ることといえば砂で敵の視界を遮るか、砂で作った迷彩を味方に纏わせるか、そんなサポートくらいしか出来なかったらしい。けれど、そんな幼い少女であっても参加せざるを得ないほどの苛烈な戦いだった。……そして少女だったシエラは、共に戦っていた先輩ヒーローを殺害され、敗走を余儀なくされた。さぞ恐ろしい体験だったろうね。トラウマになっても何もおかしいことじゃあない」
 そんな体験をしながらも、シエラはその後現在に至るまで20年間以上もヒーローとして最前線で戦い続けてきたという。そんなシエラが、現在そのトラウマを猟書家に利用されようとしている。
「悪夢の中のシエラは10歳の未熟なヒーローに戻ってしまっているようだね。先輩の死にショックを受け、敵だったヴィランのことも、無敵の怪物に見えている。そんな強大な存在に対して、シエラは泣いて、逃げ惑うことしか出来ない。……そうして悪夢を見せ続けることで彼女の力を暴走させ、現実と悪夢の世界を繋げて悪夢の中の無敵の怪物を「スナーク」として現実に具現化させようというのが、『カーネル・スコルピオ』の狙いのようだ」
 けれど。現実と悪夢の世界が繋がっているのならば、こちら側――現実世界からも悪夢に干渉出来るのだと、エンラは言う。
「こちらから悪夢の世界に乗り込み、10歳のシエラに勇気を与えてトラウマを克服させることが出来たならば。猟書家は焦れて、皆の前に姿を現すだろう。それを斃せば、シエラは無事に目覚めることができる」
 悪夢の中でシエラを追い詰めている、彼女のトラウマ。それは「刃の死神・拒絶を刻む嵐」という存在だ。
「繰り返し悪夢を見せつけられたシエラの恐怖心によって死神は超強化され、そのままでは殆ど攻撃は通らない。弱体化させるには、彼女に恐怖心を克服させ、トラウマと向き合う勇気を与えることが必要のようだね。もしも現在のベテランヒーローとしての心を取り戻させることが出来れば……そうだね。猟書家相手にはともに戦うことも出来るかもしれないね」
 彼女のところまでの転移は僕が請け負うよ。そう男は言う。
「くれぐれも気をつけて。……それじゃあ、戦いに赴く準備ができたら、僕に声をかけてくれ」


遊津
 遊津です。
 今回はヒーローズアースより、猟書家シナリオをお届けします。
 一章ボス戦、二章ボス戦の二章構成となっております。

 当シナリオには一章・二章共通してのプレイングボーナスが存在します。
 ※スピリットヒーロー・シエラにトラウマを克服させる、もしくは共に戦う。

「■スピリットヒーロー・シエラ■」
 シエラ・サンドストーム。現実では31歳になる、ベテランのスピリットヒーローです。
 猟所家「カーネル・スコルピオ」によって悪夢の中に閉じ込められています。
 彼女と話ができるのは彼女の悪夢の中のみです。
 悪夢の中の彼女は、精神がジャスティス・ウォー当時の10歳の頃に逆行してしまっています。現在が1999年だと思っており、自分が今夢をみているのだということも理解できません。
 そのため、猟兵やアースクライシス2019、49eresなどのこともわかりません。
 (シエラに言葉をかけるなどの振る舞い次第ですが、猟兵のことは恐らく「助けに来てくれたヒーロー」として認識するでしょう)
 10歳の彼女に何が出来るかはオープニングを参照して下さい。
 先輩ヒーローと逸れ、先輩ヒーローを殺され、敵が迫る中で極度の恐怖に陥っています。
 第一章で彼女にかけた言葉次第では、悪夢の中でもベテランヒーローとしての心や記憶・能力を取り戻すことが出来るかもしれません。

「■戦場について■」
 第一章の戦場はレンガの塀に囲まれた路地です。
 入口と出口が繋がっており、何度も同じ場所を10歳のシエラは逃げ隠れ続けています。
 戦闘を行う分には十分な広さがあります(種族による体格の差は影響しません)が、塀に囲まれているため空中戦などを行うには向きません。(行ったとしてもペナルティは発生しません)
 ガラクタがそこらに転がっており、戦闘に利用することも可能です(どんなものをどの様に使うか、具体的に書いていただけると助かります)。
 また、「殺された先輩ヒーロー」の遺体があります。これは悪夢が作り出した偽物ですが、シエラは何度も何度もこの遺体を見つけて恐怖心を煽られているようです。
 この遺体は動かすことは可能ですが、悪夢が作り出した偽物のため外に持ち出すことは出来ません。

「■ボス戦『刃の死神・拒絶を刻む嵐』■」
 シエラが1999年のジャスティスウォーで遭遇した、彼女のトラウマの元凶です。
 リプレイ内では指定されたユーベルコードの他にも、刃などで攻撃してくる可能性があります。
 シエラの悪夢の中に出てくる存在であり、彼女の恐怖心によって際限なく強化されているため、そのままでは攻撃はまともに通りません。
 戦闘に持ち込むためには、シエラに恐怖心を和らげるような言葉をかけるなど、彼女の恐怖を鎮める必要があります。

「■猟書家「カーネル・スコルピオ」■」
 ハロウィン以降に幹部に加わった猟書家です。
 詳細は第二章の追記にてご説明致します。

 プレイングの受付開始日時は1/2(土)午前8:31~となります。
 注意事項がございますので、プレイングを送信下さる前に一度マスターページを一読下さいますようお願い致します。

 それでは、皆様のプレイングをお待ちしております。
75




第1章 ボス戦 『刃の死神・拒絶を刻む嵐』

POW   :    全てを傷つける風
【呪詛の風を纏う高速移動】により、レベルの二乗mまでの視認している対象を、【毒や呪詛を含む全身の刃物による斬撃】で攻撃する。
SPD   :    世界を刻む嵐
【全身の刃物から、奇跡を断ち切る魔力刃】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
WIZ   :    死を振り撒く神
全身を【周囲のモノの傷を重症化させる呪詛の嵐】で覆い、自身が敵から受けた【傷を武器に肩代わりさせ、折れた武器の本数】に比例した戦闘力増強と、生命力吸収能力を得る。

イラスト:傘魚

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は浅倉・恵介です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

カトリーヌ・モルトゥマール
先輩を殺されたって身の上は同じかもしれないけど10歳、か。んー、私がしてあげられるのは奮い立たせてあげること位ね。
「泣いたって先輩は帰ってはこないわ。立ち向かうことは怖いでしょう、向き合うことは辛いでしょう」
指定UCを発動、ウィップで戦うわ。
基本的にはシエラの前に立ち、奮い立つまでの時間を稼ぐ。
「だから、あなたが立ち上がれるまで見ていてあげる。私は正義のヒーローではないからサービスはそこまでだけど」
私が避けてこの子に当たるような軌道の攻撃は代わりに受けるわ。【激痛耐性】があるから多少は平気でしょう。
下手な言葉をよりも、この子自身が向き合う事が大切じゃないかしら?
・その他
アドリブや連携歓迎です。


金宮・燦斗
[アド連歓迎]
夢というのは、どうにも手出ししづらいんだよな。
……が、やるしかないか。

夢の中に入りましたら、まずはシエラさんに味方であることを示します。
黒鉄刀で敵の攻撃を弾いてリスティヒ・クリンゲで敵を上手く撹乱しつつ。
少女が落ち着いたら、声をかけます。

先輩が亡くなった事はあなたのせいではない事。
戦いではあり得る事であり、気に病む必要はないこと。
……ぐらいでしょうか?

声をかけ終わったら、反撃開始です。
UC【悪意燃やす影の炎】でシエラさんの支援をしつつ、私も黒鉄刀で切りかかりましょう。
危険との隣合わせであることを示すため、敢えて攻撃を受けて。

生と死は表裏一体。
私の生は誰かの死を呼ぶもの。



●ゲヘナ×アビス~火の湖と奈落の深淵
 ――また、少女の前に死が倒れている。それは彼女の体感にしては先程まで己に雄々しい背中を見せて立っていた人。それがずたずたに全身を斬り裂かれて、血に塗れて転がっている。そこから何度も、何度逃げ出しても、死の象徴はいつの間にか彼女の足元に転がっているのだ。
「いや……もう嫌ぁッ……!」
 だ、と少女は駆け出した。屍が見えなくなるまで走った頃。次に聞こえてくるのは正面からの刃引きずる音。がりがりと、ずるずると、地面を引っ掻きながら近づいてくる。
「あ、ぁああ……!」
 がたがたと震えながら、少女はその場に膝をつく。早く、早く隠れなければと地面を這いずる。
かつ、かつん――その少女、幼きシエラの鼻腔を、死ではない香りがくすぐる。それは甘いバニラの香りだ。座り込んだ彼女の前に、二人の男女が立っていた。
「だ……れ……?」
 か細いその声を聞いて、カトリーヌ・モルトゥマール(ゲヘナ・f16761)は自身の過去を思う。
(10歳、か……)
 カトリーヌにも、先輩を殺された記憶がある。その身の上は少女と同じだろう。けれどあの時の自分はいくつだっただろうか――少なくともこんなに泣いて、泣きじゃくって逃げ惑うほどの年齢ではなかった。それでも胸の内側の柔らかな部分を引っ掻いて掠めるような己の過去の影に言い聞かせるように、カトリーヌはシエラに向かって口を開く。
「――泣いたって、先輩は帰っては来ないわ」
「……っ、」
「顔を上げなさい」
 胸元をぎゅうと握りしめて俯くシエラに向かって、カトリーヌは少しだけ強い口調で言った。
 その横で。金宮・燦斗(《奈落を好む医者》[Dr.アビス]・f29268)もまたいつもの微笑みを消し、シエラを見下ろす。
(夢というのは、どうにも手出ししづらいんだよな)
 燦斗は頭に「闇」がつくとは言え、医者である。とはいえ彼の専門は切って殺し、そして活かし、生かすこと。患者の心の内側に入り込む精神医療は、得手とするところとは異なるのだ。
(……が、やるしかないか)
 少女に目線を合わせ、にこりと初めて微笑む。
「はじめまして。私たちは、あなたの味方ですよ」
「……っ、ヒーロー……助けに来てくれたの?」
 少女の目に希望の光が灯る。
「いいえ。私はヒーローなどではありませんよ」
「そう。そして私も、正義のヒーローじゃあないわ」
 けれど二人はそれを、すぐさま否定する。
「でも……でも、味方だ……って」
「ヒーローは、あなたでしょう?」
「わたし、わたしは……!ヒーローなんかに、なれてない……!なれなかった、なにもできない!わたしが、わたしが無能だったから、先輩も、死んじゃって……!わたしっ……」
「――それでも、シエラ。あなたは……あなたが、ヒーローなんです」
 私などよりも、ずっと。燦斗がにこやかに目を細めたまま、そう言う。
「どういう、こと……」
 少女の問いは、最後まで口に出されることはなかった。埃っぽい路地の向こうから、再び刃を引きずる音が聞こえたからだ。そして現れる、刃の死神――拒絶を刻む嵐。
「あ、あ……!」
 恐怖に声を引きつらせる少女に近づく死神の前に、カトリーヌが一歩足を踏み出す。
「見ていなさい、シエラ。……私はゲヘナ。罪ある者に永遠の滅びをもたらす者……!」
 ぱちりと指を鳴らしたカトリーヌの姿がヴン、とぶれる。彼女だけしか立ち入ることを許されない、高速の世界に入ったのだ。
 死神が振るった刃を、カトリーヌは燃え盛る地獄の業火を纏ったウィップ「Fouet de l'enfer」で絡め取る。炎と鞭の二つの攻撃が、そして彼女の後ろから放たれた燦斗のリスティヒ・クリンゲが次々と投げつけられる、けれどその攻撃の殆どは少女の恐怖心により鎧われた殻によって死神を傷つけることなく弾かれる。
「……シエラさん。あなたの先輩が亡くなったのは、決してあなたのせいではありません」
 目にも留まらぬ速度で薙がれた刃を黒き刀、黒鉄刀で弾き、更に繰り出される斬撃を払いながら、燦斗は落ち着いた声のまま少女に語りかける。
「……でも、でも……わたしがもっとちゃんと役に立てていたらっ……」
「あなたの先輩は、襲い来る脅威に、悪に対して背を向けて逃げ出すようなヒーローだったのですか?」
「ッ、そんなわけない!!」
「そうでしょう。彼はこの脅威を相手に、臆すことなく、逃げ出すことなく、真っ向から戦って――そしてその結果が、敗北で死であっただけのこと。ヒーローとヴィランとの戦いには、どちらかが勝つか負けるかしかないのでしょう、ねぇ?」
「ええ、そうよ……聞こえているわね、シエラ。立ち向かうことは怖いでしょう、向き合うことは怖いでしょう!」
 燦斗から言葉を受け継いで、カトリーヌが叫ぶ。
「だから、あなたが立ち上がれるまで、ここで見ていてあげる――もう一度言うけれど、私は正義のヒーローではないから、サービスはそこまでよ」
 毒と呪詛の籠もった斬撃の嵐がごとき一斉攻撃をすべて絡め取って落とすには高速の時間の中でも長くかかりすぎる。ゆえにカトリーヌは鞭で刃を払い落とし続ける。
「そう、戦いにおいては死とはあり得るもの。あなたの先輩も、それを覚悟の上でこの脅威に立ち向かったのです。……亡骸の背中に傷跡はありませんでした。医者の私が言うのだから、間違いはありませんよ」
 それは嘘だ。燦斗の吐いた、些細な嘘。彼は転移で直接少女のところへ来た。だから、彼女が背を向けて立ち去った遺体を本当は見てはいない。けれど、そんな事は――少女を奮い立たせるためならば、本当に些細なことだ。
「あなたが気に病む必要はないのです。さあ、どうか立って下さい。ヒーロー、シエラ・サンドストーム」
 その名は今の彼女ではなく、未来の彼女が呼ばれるもの。ゆえに首を傾げながらも。少女は燦斗の手に導かれるままに立ち上がる。未だ膝はがくがくと震えている、けれどそれが何だというのだ、彼女は確かに、今、立ち上がった!
「どうか、支援を。あなたが望まれたままに、あなたの出来る事を、どうぞ為して下さい」
 それだけ言うと、燦斗もまた黒鉄刀を手に死神へと向かっていく。
敵が二人に増えたことを察した死神が、全身に纏った刃から全方位に向けて魔力の刃を放つ。
「……ッく」
「ぐ……ぅうッ……!!」
 カトリーヌも燦斗も、その攻撃を防ぎ弾き返しはすれども避けはしない。弾き損ねた斬撃が、彼らの頬を、腕を、脚を掠めて血を流させていく。ぼたぼたと路地に赤い血がこぼれ落ちる。奥歯を噛み締めて激痛に耐えながらも武器を持つ手はとまらない。少女に、戦いとはどういうものかを教える為に。
 その思いは少女に、確かに届いていた。握りしめられた手が開かれる。
「砂、よ……!!」
 震える声が紡ぎ出すままに地面から砂が巻き立ち、刹那、カーテンのように死神の視界を阻む。
((いける――!))
 今ならば。カトリーヌと燦斗は同時にそれを確信した。二人の呼吸が自然と合わさる。
「生と死は表裏一体――私の生は、誰かの死を呼ぶもの……!」
「喰らい、なさいッ……!」
 放たれた鞭の纏った業火が、そして燦斗の影から放たれた炎が、死神を包み込む。今度は弾かれることなく、死神の体が燃え盛る。
『ギィ、ァ、アアアアアア!!』
 死神が放つ叫び声を聞きながら、二人は更に追撃を放ち、刀と鞭とで一撃ずつ食らわせる。
 少女はそれを、震えながらも、二つの大きな眼でじっと見つめていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

水無瀬・旭
君は己の身を以て『正義』を示す『ヒーロー』か?
ならば、『ロード・ハガネ』と。助けてと、俺の名を呼ぶがいい。
君の『正義』の味方となろう。

【指定UC】により無敵の装甲姿に変身し、『救助活動』を強化。シエラへの攻撃の導線を塞ぎつつ、敵の攻撃は装甲で弾いてみせる。

声を掛ける時は視線の高さを合わせ、穏やかに。
シエラ、俺は護りに自信はあるが、動きは鈍い。故に、君の砂の援護が欲しい。
無能なものか。他でも無い、君が必要だ。
先輩が安心できる様、『今』の君を見せてやろう。
そして俺に命じてくれ、『勝て』と!

砂の迷彩で姿を隠しながら死神の懐に飛び込み、UCで強化した炎の『属性攻撃』で『焼却』する一斬を馳走してやろう。



●ハガネ~硬く、強く、靭やかな
 猟兵の言葉を受けて、少女は立ち上がった。それでも膝は笑ったままで、全身の震えは止まらない。赤くなった目と頬は痛々しく、涙の止め方を、しゃくりあげる声の止め方を忘れてしまったようにこぼれ落ち続ける。
そんな少女の前に、水無瀬・旭(両儀鍛鋼ロード・ハガネ・f25871)は立った。
「……あなたは……」
「――君は」
 誰、と問いかけようとする少女の言葉を遮り、身を屈めて少女に視線を合わせ、旭は言葉を紡ぐ。
「君は、己の身を以て『正義』を示す『ヒーロー』か?」
「……ぅ、あ……っ、わたし……わたしは……!」
 わたしが。無能なわたしなんかが、そう名乗っていいはずがないと、ついさっきまでは思っていた。だけど――だけど。それでもわたしは「ヒーロー」なんだって、さっきの人たちは言っていた。だから。だから。
 少女は、長く逡巡したあとで。ゆっくりと頷いた。
それを見て、旭は笑みを浮かべる。少女を安心させるような、強く穏やかな笑みだった。
「そうか。ならば、『ロード・ハガネ』と。助けてと、俺の名を呼ぶがいい。……君がそうするならば、俺は君の『正義』の味方となろう」
 それは。その言葉は。少女に決断を迫っていた。
助けを求めることがこんなにも勇気のいることだなんて思わなかった。さっきまでずっと、誰かに助けに来てほしいと願っていたのに、請うていたのに。その言葉を口にすることは、とても勇気のいることだった。だってそれは、目の前の人に、自身の味わったあの恐ろしいものに、何度も逃げ続けてきたものに、「立ち向かえ」と言うことだからだ。
 ――この人の運命をわたしが決定することは、わたしが思うよりもずっと、重いんだ。
旭の目を見て、少女はそう思った。だから、その言葉を口にするには、ヒーローだと肯定するときよりもずっとずっと長い時間がかかった。
「……っ、……、すけて……」
 声が上ずった。もう一度、少女は渾身の力を籠めて、叫ぶ。
「――わたしを助けて、ロード・ハガネ!!」
「ああ、このロード・ハガネ、その命令(ねがい)、確かに聞き届けたとも!」
 旭の体が装甲に覆われる。昏く黒く揺らめく焔がそれに纏わりつき、旭は『ロード・ハガネ』と成る!
 がり、がり、がり――がしゃん。鉄がアスファルトを引っ掻いて削り取る音が聞こえる。その声に少女はびくりと体を震わせた。剣を引きずりながら現れた刃の死神に、旭は少女を護る為に前に出る。少女に防護の為の透明なオーラを纏わせ、彼は馬上槍「鐵断・黒陽」を手にした。死神が振るってくる嵐のような勢いの斬撃の連続。それを少女に纏わせたものと同じオーラで防ぎながら、旭は槍を振るう。馬に乗って使うことを想定されたその槍は大きく、そして重い。ぶぉん、と風を切り、打ち込んだ一撃。しかしそれは少女の恐怖心に影響された殻に阻まれ、死神に僅かな傷しかつけることがかなわない。
死神が全身に纏った刃物から放たれる、奇跡を断ち切る魔力の刃。轟と音を立てるその刃は防護のオーラを斬り裂く。けれど、幾ら奇跡を切り裂こうとも、強い願いで織り上げられたロード・ハガネの装甲までをも断ち切ることが出来るものか!がきんがきぃん、甲高い音が立て続けに鳴って、死神の刃は旭の装甲に阻まれる。
「……す、ごい……」
 旭の後ろで立ち尽くす少女が、そうぽつりとつぶやいた。
(これが、「ヒーロー」の戦いなんだ……)
 やっぱりわたしなんか、と後ろ向きになりかける少女の思考を断ち切るように、声が少女に掛けられる。
「シエラ!」
 旭の声が、少女を現実に引き戻す。
「シエラ、俺は護りに自信はあるが、動きは鈍い。故に、君の砂の援護が欲しい!」
「……でも……でも、わたしは、わたしなんか、役に立たない……わたしが無能だったから、先輩が……」
「無能なものか、他でもない、君の力が――君が、必要だ。先輩が安心できるよう、『今』の君の姿を見せてやろう……そして、俺に命じてくれ!『勝て』、と!」
「……っ、わかった……『勝って、ロード・ハガネ』!!」
「ああ、聞き届けた!」
 ぐ、と少女が胸の前で握りしめていた拳を前へと突き出す。路地に積もった砂が、そしてアスファルトを削って作り出された砂が巻き上がり、旭の装甲に付着していく。それは絶えず留まることなく動き、周囲の光景に合わせて色を変えていく。
「凄いじゃないか……心強いな!シエラ、君は紛うことなきヒーローだとも!」
 砂の迷彩の操作に集中する少女、けれど旭の声は、しっかりと彼女の耳に届いているだろう。
旭はアスファルトを蹴った。がしゃん、装甲が音を立てる。正面から向かってくるその姿を、死神は捉えることが出来なかった。少女が纏わせた迷彩が確かに作用している証左だった。そのまま懐奥深くに飛び込み、馬上槍に豪炎を纏わせる。その姿を補足できていない死神に、奇跡を断つ斬撃を放たさせるその前に――燃え盛る槍の一撃が叩き込まれる、胸を真一文字、薙ぎ払う!
ごうと音を立てて傷口が燃える。炎を纏った馬上槍をぶんと取り回せば、残光が鮮やかに軌跡を描く。再びの一撃突きかからんと、旭は馬上槍を構え直し、死神を厳しい目で見据えた。

成功 🔵​🔵​🔴​

黒城・魅夜
責めないで?
いいえ、あなたは責められなければなりません
起きた結果に対してではなく
それを否定しようとすることに対してね

あなたは為すべきことを為したのです
その結果がどのようなものであっても己の最善を否定してはなりません
それはあなた自身も、そしてあなたを信じ未来を託した先輩方をも裏切ること
結果を受け入れるのは開き直りではありません
哀しみと苦しみを受け止めて、それでもと前を向くことです
それこそがヒーローである証なのですから

さあ力を貸してください
あなたの砂を相手の刃物にこびりつかせれば
敵はただの木偶の棒と化すのですから
そう、あなたはあの怪物の天敵なのですよ

力の鈍った敵に対し
我が時を超えた一撃でとどめです



●その身に絡みつく鎖を、己の武器に変えて
(許して、ごめんなさい、何も出来ないわたしを、どうか誰も責めないで――)
「――責めないで?」
 心を見透かすような声に、少女の肩がびくりと跳ねる。赤く泣きはらした目で顔を上げると、目の前に立つ黒城・魅夜(悪夢の滴・f03522)が黒曜石の如き瞳で、少女の瞳を射抜いた。厳しくも言い聞かせるような口調で、魅夜は少女に言葉を放つ。
「いいえ。あなたは責められなければなりません」
「……やっぱり、わたしが役立たずの無能だったから……あのひとを、死なせてしまったから……」
「いいえ。それも違います」
「じゃ、じゃあ、どうして……!?」
「あなたが責められなければならない理由。それは起きてしまった結果に対してではありません。それを、否定しようとすることに対して」
「否定、しようと、すること……」
「あなたは為すべきことを為したのです。その結果がどのようなものであっても、己の最善を否定してはなりません」
「……最善なんかじゃない……わたしは逸れて、戦いのサポートをすることも、出来なかった……!」
「そうですね。それは結果。けれどあなたは、逸れたからと言ってその時点で戦いから逃げようとはしなかったのでしょう? 先輩と、合流しようとしたでしょう? それが、あなたに出来た、そして為した最善なの」
 ――魅夜の指摘したそれは、事実であった。少女の体感、先輩ヒーローと逸れた直後前の記憶は。少女は確かに先輩を追っていたのであるから。それが心細さから来るものであっても、逃げようとしなかったのは少女の記憶の中にある事実だった。
「己の最善を否定すること。それはあなた自身も、そしてあなたを信じて未来を託した先輩方をも裏切ることです」
「……わたし、わたしは……」
 自らの弱さに打ちひしがれる少女の心を、魅夜の言葉はひとつひとつ解きほぐしていく。彼女はなおも少女に向けて言葉を紡いだ。
「結果を受け入れることは、決して開き直りなどではありません。哀しみと苦しみを受け止めて、それでもと前を向くことです。――それこそが、ヒーローである証なのですから」
「ヒーローの、証……」
 少女が魅夜の言葉を繰り返した時。がりがりと、煉瓦の塀を引っ掻く音が聞こえた。幾本もの鋼の剣が、路地の両側に続く煉瓦の塀を、アスファルトの路面を掻きむしりながら近づいてくる音。少女が肩を震わせる。
――現れたのは、無数の剣を纏った刃の死神。
「呪いと絆」――そんな名を持つ拷問具、先端に鈎のついた鎖が魅夜の手の中でじゃらりと音を立てる。
悪夢の中に閉じ込められたヒーローたちを救うために悪夢に飛び込むのは、魅夜にとっては初めてではない。もう何人も、この1999年の悪夢に囚われたヒーローたちを救ってきた。そして何より、「悪夢」は――魅夜にとっては、自身の魂の半身、魂に絡みつく鎖。そして鎖は、自身を苛んだ悪夢の力をもその手の中に収めた魅夜の主武装だ。
魅夜の姿を認めて無数の刃を抜き、斬りかかってくる死神の剣を、魅夜の鎖は次々と打ち払い、弾き飛ばし、時に絡め取っていく。そして隙を見て死神自身に鎖を絡みつかせようとするが、その試みは上手くはいかない。少女の恐怖心が見えない殻となって、死神を幾重にも覆っているからだ。
「やはりですか――聞いていますね。力を貸してください」
「わたしの……? わたしに、なにが……」
「あなたの砂を相手の刃物にこびりつかせて。そうすれば、敵はただの木偶の坊と化すのですから」
 ひゅ、少女の喉が鳴る。目を見開いた少女には、そんな戦い方が自分にできることなど今の今まで思い至りもしなかった。
「そんな、ことが……」
「そう、あなたはあの怪物の天敵なのですよ」
 ――天敵。わたしが? 今まで怯えて逃げることしか出来なかったあの死神の?
その腕を、全身を震わせながらも、少女は握りしめた拳を胸の前へと突き出した。そして死神へと向かって手を開き、喉から声を絞り出す。
「……す、砂よ、応えて……!」
 少女の力で、路面に溜まっていた砂埃が舞い上がる。死神が削った煉瓦の、アスファルトの塵を、それでもまだ足りぬならばと削り巻き上げながら、それらは生き物のようにうぞうぞと動いて死神の手にする無数の刃を覆い尽くした。武器を封じられた死神は焦れたように身を捻ると、砂塗れになった刃から幾条もの斬撃を放つ。それは奇跡を切り裂く魔力の刃。全方位に放たれるそれを、しかし魅夜は避けない。彼女の後ろには、力を使うことに集中している少女がいるからだ。
「……ッ、ぅ……っく――!!」
 身を裂く激痛に耐え、魅夜はじゃらりと鎖を鳴らす。痛みなど知ったことかと全神経を集中させて。
「……時よ、脈打つ血を流せ。汝は無敵無傷にあらぬもの――!」
 ――ふっと、魅夜の姿が消えた。それは物理的に消失したのでは勿論無い、透明になったのでもない。彼女の姿を、誰も捉えることができなくなったのだ。
【我が白き牙に喘ぎ悶えよ時の花嫁(ザイン・ウント・ツアイト)】。『時間』という概念すらも支配下に置く、魅夜のユーベルコード。支配した時間の流れを操り、その流れを止めた、斬撃の衝撃波すら止まった世界の中で、魅夜の鈎鎖は今度こそ死神の鎖骨にかかり、それを砕く。そのままじゃらじゃらと空中で回転し、瞼に鈎をかけて引き裂いた。
 正常な時間の流れが戻ってくる。鎖骨を砕かれ瞼を引き裂かれた死神は、血を噴き出して身悶えしながら絶叫した。
「さあ、まだまだ。合わせられますね?」
 魅夜は凛とした声でそう言う。今の彼女にとっては初めての技を使ったばかり、否、使い続けている少女は脂汗を流しながら頷いた。
ふっと笑みを浮かべて、魅夜は手の中でじゃらりと音を立てる鈎鎖を握りしめるのだった。

成功 🔵​🔵​🔴​

フォルク・リア
シエラに声をかけ
「俺は、そう。君を助けに来た。
だけど一人じゃ戦えない
シエラも一緒に戦って欲しい。
怖いのは分る、悔やむ心も分る積りだ。
だけど、いやだからこそ先ずはその恐怖に打ち勝って貰いたい。
今を変えたいなら立ち向うしかない。」
「それでも怖ければ想像してみるんだ。
その力と勇気でシエラが憧れるヒーローになれる未来を。」

戦闘
シエラの作る砂に紛れ攻撃を躱し
グラビティテンペストを発動。
重力で辺りの瓦礫を浮遊させ自身と瓦礫に
迷彩を施して貰い。見分けを付かなくさせてから
瓦礫で攻撃しつつ自身は接近。
敵の持つ武器にもグラビティテンペストを使いそれを封じ
傷を肩代わりさせる武器をなくした上で
敵に超重力を掛けて攻撃。



●導、みちびくもの
 震える腕を力ずくで押さえつける。がたがたと鳴る奥歯を、軋むほど噛みしめる。流れる汗を、涙をなんども拭う。猟兵たちの尽力によって少女はそこまで立ち直るに至った。それでも幾度も繰り返された悪夢が、今は幼い少女のやわらかな心を掻き毟った傷跡は深い。がくがくと震える膝からふっと力が抜けて、座り込みそうになる。
あ、と空に向けて伸ばされた手を取ったのは、フードを深く被った男――フォルク・リア(黄泉への導・f05375)だった。
「……あ、あなた……は……?」
「俺はフォルク――そう、君を助けに来た」
 柔らかな声音に、少女の緊張が溶ける。けれどフォルクは、少女へと向かって次の一言を放つ。
「だけど、俺は一人じゃ戦えない。シエラ、君も一緒に戦って欲しい」
 びくりとフォルクが握る少女の手が強張った。
「わたし……わたしは……」
「怖いのはわかる。先輩と逸れてしまったこと、死なせてしまったこと――悔やむ心も、分かるつもりだ。だけど……いや、だからこそ。先ずはその恐怖に打ち勝って貰いたい。今を変えたいなら、立ち向かうしかない」
「変えたい……なら、立ち向かう、しか……」
 ごくりと唾を飲み込む音が聞こえた。フォルクの手を握る少女の手にぐっと力が込められる。
「それでも怖ければ、想像してみるんだ。その力と勇気で、シエラが憧れるヒーローになる未来を」
「わたしが、あこがれる、ヒーロー……」
 少女は考える。自分が憧れたヒーローとは、どんなものだっただろう?
まだ力に目覚める前に漠然と抱いていたのは、華やかなものだった。力が目覚めて、それを振るうには責任が伴うのだと理解して。己の力を律しながら戦う先達のヒーローたちの背中を見て、其処に抱いたのは、確かな憧れだった。
――そして、ここは夢の世界だ。故に少女は幻想を見る。砂嵐を自由自在縦横無尽に操り、毅然として戦う女のヒーローを。それは現実の彼女の姿。どんな「現実の辛さ」にも負けずに戦ってきた、二十年後の彼女の強さだ。
 ぎゅう、と目を瞑り、ぱっと見開いて。腹の奥底から、深呼吸を一つして。そうして少女はフォルクの手を取って、立ち上がる。フォルクはその姿を見て、一つの壁を乗り越えた少女の姿を見て、笑みを浮かべた。
 ぎゃりぎゃりぎゃりぎゃりぎゃり!!レンガ壁を掻き削りながら、刃の死神が近づく音がする。立ち上がった少女の体が震える、けれどそれを、少女自身が懸命に抑え込む。はっ、はっ、と、連続的な呼吸の音。フォルクがその背中をさすってやれば、乱れていた息が整っていく。――そして、少女はゆっくりと顔を上げ、浮かんだ涙を拭いながら、フォルクに問うた。
「わたし……、わたしは、なにをすれば、いいの?」
「君の最も得意なやり方で。俺の姿を隠して欲しい」
 こくり、と少女が頷く。ぎゅっと握りしめた拳をまっすぐにフォルクに向かって突き出し、そして手を開く。巻き起こった砂がゆらゆらとゆらめきながらフォルクに纏わりついた。それはフォルクが動くたび、位置を変え光景に紛れさせる。
 路地の角から、刃の死神が現れる。ひゅっと少女の喉が鳴る、それを庇うかのようにフォルクは黒杖を手にして一歩前に出た。
死神が剣を振りかぶる。その狙いは少女だ――何故なら、少女が施した迷彩によって、死神の目にフォルクは映っていないのだから――けれど少女には、自分を庇おうとするフォルクの姿が見えている、誰あろう少女自身が施した迷彩であるからだ。刃を黒杖の中に封じ込めた大鎌の力で受け止め、弾き返す。不可視の阻害を受けた死神は困惑するようにあたりを見回す素振りを見せる。
(……これは、早めにカタをつけたほうがよさそうだな……!)
 フォルクは黒杖を掲げた。魔力が、黒杖に集う。
「“押し潰せ、引き千切れ、黒砂の陣風を以て”」
「“其の凄絶なる狂嵐の前には何者も逃れる事能わず”“ただ屍を晒すのみ”」
「“吹き荒れよ、滅びの衝撃――!!”」
 その詠唱を聞いて、やっとそこにフォルクが存在することを認識した死神が斬撃を放ってくる。しかしその刃の一撃は、浮き上がったガラクタによって受け止められた。路地のガラクタと瓦礫がフォルクの周囲に浮かび、ぐるぐると周囲を旋回する。
「シエラ、これにも迷彩を」
「……うん……!」
 ざらざらとした路地に積もった砂に飽き足らず、レンガ壁とアスファルトの路面を削り取って作られた砂塵が瓦礫に纏わりつき、その姿形を周囲の風景に溶け込ませた。
フォルクは死神へ向かって駆ける。彼の周囲を巡る瓦礫が、死神に向かって降り注いだ。迷彩によって不可視の攻撃となったそれを死神は正面から喰らう。少女の恐怖心という死神を護る殻は、猟兵たちによって、そして何よりフォルクの言葉によってもうほとんど剥ぎ取られていた。
『ァアアアァア……ォォォオオォオオオオオ!!』
 死神が吠える。呪詛の嵐が死神に纏わりついて、近づくことすら難しくなる。瓦礫が死神にぶち当たる度、死神の手にしていた無数の剣が折れていく、けれどそれは、死神自身の力を高めさせる代償となることをフォルクは知っている。
(それならば……!)
「“吹き荒れよ、滅びの衝撃”!!」
 唇の中で高速で詠唱を終え、黒杖に集った魔力を解放する。無機物を重力と斥力を操る微粒子へと変換する彼のユーベルコード【グラビティテンペスト】の次なる標的は、死神の持つ無数の刃そのものだ。がらん、がらんがらんと音を立て、死神が纏っていた無数の刃が地に落ちる。その刃すら己の武器として、自在に宙に舞わせる。自身の「傷」を肩代わりするはずの無数の剣を失った死神に対して、フォルクは再び黒杖を掲げた。
「“押し潰せ、引き千切れ――”!!」
 無限の超重力が死神の体にかかる。まるで粘土を叩き潰すのをスロー再生するように、死神の体が不可視の力によって轢き潰される。悲鳴を上げることすらかなわず、悪夢の中の怪物としては、あまりにも呆気なく。死神のその体は超重力によって潰され、ぱぁんと弾けた。砂の迷彩を被った瓦礫に、そしてフォルクにも、撒き散らかされた真っ赤な血飛沫が飛び散る。

「……やった……の? ……たおせた、の……?」
 砂が迷彩の役目を終え、路面へと積もっていく。真っ赤な血の跡も、積もった砂塵によっていくらかは覆われ隠されていった。
「ああ。けれど――戦いは、これからだ。……そうだろう?」
 フォルクは路地の向こうを睨みつける。――その先に揺らめくは、蒼い炎。咄嗟に目を瞑り、少女の目を覆い隠す。ち、という舌打ちが聞こえた。
目を開けば、通路を構成していたレンガ壁が消えている。地面に転がっていたガラクタも、死神の残した血の跡さえも何処かへと消え去っていた。ここが、夢の世界であるからか。広がるはただ、どこまでも黒いアスファルトの路面。……そして。
「……あァ。あぁあぁ、忌々しい。お前達はどこまでも邪魔をするのですな、猟兵……!」
 蒼い炎のような髪をした、軍服の男。
猟書家「カーネル・スコルピオ」が、すべてを焼き焦がさんとするような金色の眼を光らせて、其処に立っていた――。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 ボス戦 『カーネル・スコルピオ』

POW   :    パニッシャー・ヴァーリィ
【二挺拳銃から炎を纏った弾丸の一斉掃射】を放ち、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。
SPD   :    侵略蔵書「スコルピオインフェルノ」
【自身の侵略蔵書から放たれた蒼い炎】が命中した対象にダメージを与えるが、外れても地形【を炎上させ】、その上に立つ自身の戦闘力を高める。
WIZ   :    スコルピオン・ブレイズ
【二挺拳銃から放たれた弾丸】が命中した対象を燃やす。放たれた【蒼い】炎は、延焼分も含め自身が任意に消去可能。

イラスト:亜積譲

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠シャオロン・リーです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


========================================
「……あァ。あぁあぁ、忌々しい。お前達はどこまでも邪魔をするのですな、猟兵……!」
 アスファルトの地面以外に何もなくなった世界で、蒼い炎のような髪をした軍服の男は金色の目を光らせてそう言った。
この世界はスピリットヒーロー・シエラが見ている夢の世界。1999年に起こったジャスティス・ウォーの最中の夢。その世界の中で、猟兵を「猟兵」と認識できる人物は、彼ら同様に悪夢の世界の外から来た存在に他ならない。
即ち。この事態を引き起こした張本人――「猟書家」。
猟書家「カーネル・スコルピオ」は、憎々しげに猟兵たちへ向かって焼けつくような視線を向ける。
「現実世界ではこの身を引き裂いてくれた憎きヒーローどもも、この世界ではどこまでも無力。ひぃひぃと泣きながら逃げ惑うさまは一時の慰めにもなっていたのですがな。……やはり真に憎きは猟兵、お前たちということですかな」
 猟書家は手にした二挺拳銃を握る手に力を込めた。
「どのみちお前たちの目的もあの様な舞台装置を斃すことではなく、私なのでしょうな?ならばこちらも遠慮は要らぬというものですな。正面から踏み躙ってこそというもの。あァ、勿論……「スナーク」を生み出すと言う目的は忘れてはおりません。お前たちを葬った後でゆっくりと新たな悪夢を作り出し、もう一度そちらの小娘には恐怖の海に沈んで頂くこととしましょうかな」
 ぺろりと赤い舌が青く塗られた唇を舐める。びくりと視線を向けられた少女の体が震えた。
勿論、そんな事を許すわけにはいかない。
1999年の悪夢を彷徨った少女を、2021年の現実へ帰す為の戦いが、今こそ始まろうとしていた――。
========================================
第二章 猟書家「カーネル・スコルピオ」が現れました。

■戦場について■
 引き続き悪夢の中です。第一章とは異なり、煉瓦塀などや路地のガラクタなどは消え去り、どこまでも地平線までアスファルトが広がる世界となっています。地下方向にも水道管などが通っていることはなく、ただアスファルトだけがずっと続いています。
 あまり遠くまで移動しすぎると、元の地点に戻ってきてしまうようです。
 戦場に存在する敵と猟兵以外の人物はシエラのみとなっております。
 戦闘に利用できるようなものはなくなってしまいましたが、逆に戦闘の邪魔になるような心配もありません。

■カーネル・スコルピオについて■
 猟書家の幹部です。近年ヒーローたちの活躍によって壊滅した犯罪組織を率いていたヴィランでした。対応するユーベルコード以外にも、二挺拳銃と蒼い炎を用いて戦います。
 拳銃の扱いには長けており、彼の手から拳銃を離させる事は至難となるでしょう。また、彼の炎はアスファルトの地面を燃やすことが可能です。
 彼の目的はスピリットヒーロー・シエラの能力を暴走させて「スナーク」を生み出させることであるため、シエラをあまり遠くまで逃がすと彼女を追うことを優先し、場合によっては危害を加えることによって恐怖を与えようとする可能性があります(殺害には至りませんが、シエラの心には傷が残るでしょう)。

 第一章に引き続き、以下のプレイングボーナスが発生します。
 ※プレイングボーナス:スピリットヒーロー・シエラにトラウマを克服させる、もしくは共に戦う。

■シエラについて■
 猟兵の激励、及びともに戦う経験を行った結果、新米ヒーローとしては十分な勇気を持つに成長しました。
 引き続き、砂で敵の視界を遮る、砂で作った迷彩を味方に纏わせる、その他猟兵の提案で彼女に可能なサポートであれば行うことが可能です。
 相変わらず今は1999年、ジャスティス・ウォーの最中だと思っており、自分は10歳だと思っています。猟書家のことは敵対者=ヴィランだと単純に認識しています。
 2021年を生きるベテランヒーローの能力と心にこそ覚醒することは出来ませんでしたが、戦いを終えれば無事に目覚めることが出来るでしょう。
 今の彼女に現実(今が2021年であることや現実の自分がベテランヒーローであること、ジャスティス・ウォーが終わったことなど)を教えることは混乱を起こしてどんな行動を取るかわからない為、推奨出来ません。

 第二章のプレイング受付は1/7(木)朝8:31から開始いたします。

 それでは、猟書家カーネル・スコルピオを斃し、スピリットヒーロー・シエラを目覚めさせる為の戦いを開始して下さい。
========================================
黒城・魅夜
真に忌々しいのはあなたです、猟書家
この私の前でよくも悪夢を弄ぶなどという身の程知らずができたもの
さあその増上慢の報いを受けなさい

「早業」「範囲攻撃」で鎖を舞わせアスファルトを撃ち砕き
無数の瓦礫を作りだしてスコルピオに叩きつけます
ふふ、しかし狙いはスコルピオ自身ではなくその炎
そう、あなたの炎は「何かに命中してダメージを与えた」時点で
その効果を失うつまらぬ技
瓦礫を燃やし尽くしてしまえばそれでおしまい、強化効果も発生しません

そしてあなたがこの攻防に気を取られている間に……
シエラさんの操る砂がその足元に忍び寄っていることでしょう
体勢を崩した猟書家にUCを叩きこんでとどめです
お見事でしたよ、シエラさん



●繰り返したのは何度目か、全て見てきた
「――真に忌々しいのはあなたです、猟書家。この私の前で、よくも悪夢を弄ぶなどという身の程知らずが出来たもの」
 魅夜はそう言って鈎鎖を手に冷たい声を「猟書家」カーネル・スコルピオへと吐いた。猟書家はそれを聞いてにぃと涙袋を押し上げて嗤って言う。
「ほう? 何か悪夢に思うところでもありましたかな。お望みならばその悪夢も再び繰り返してお見せしましょうかな? 猟兵の悪夢から生まれた「スナーク」というのも、また一興でしょうなァ」
「ぺらぺらとよく回る口です。けれどそれももうおしまい。さぁ、その増上慢の報いを受けるときです」
 魅夜は鈎鎖をじゃらりと宙に舞わせた。鎖は高速で長く伸びるとアスファルトの地面を叩き割り、飛び散った破片がスコルピオへと襲いかかる。
スコルピオは銃をいつでも撃てる状態にしたまま分厚い本――自身の侵略蔵書を取り出すと、ぱらぱらと頁を捲った。そこから巻き起こるは、蒼い炎。
「……ふふ。やはりあなたはそうするのですね」
 炎はアスファルトの破片を焼き尽くすと、そのままに消える。燃え残りの落ちた地面を踏み躙ると、魅夜はふぅと退屈そうな溜息を吐いて言った。
「あなたの炎は『なにかに命中してダメージを与えた』時点でその効果を失うつまらぬ技。瓦礫を燃やし尽くしてしまえでそれでおしまい。自身に対する強化効果も発動しません」
 そう、魅夜はこれまでにシエラ同様にこの猟書家によって悪夢に囚われたヒーローたちを救うため、幾度も悪夢の中に入ってきた。そしてその度に、幾人ものこの猟書家「カーネル・スコルピオ」と退治し倒してきているのだ。その侵略蔵書から放たれる炎の効果は熟知していた。それを封じる方法も。
 そしてそれを、猟書家は魅夜の振る舞いから察したようだった。
「ほう、成程。よもやよもやとは思っておりましたが、確信に変わりましたな。……その口ぶりからして、貴女は他の私と戦ったことがあるのですな? 悪夢を弄ぶが許せぬとなればそうでしょうなァ。……ならばもう一度受けてもらいましょうかな、其方がつまらぬと言った、我が侵略蔵書の炎!」
 再び分厚い本の頁から蒼い炎が迸り、魅夜へと襲いかかる。何度来られても魅夜がやることは同じだ。何せこの猟書家と対峙する度にこの技を使わせ、それを完封してきたのだから。鎖でアスファルトを叩き壊し、瓦礫を作り出し、その瓦礫を炎が焼く対象としてしまえば、それで終わり――
「……え、っ?」
 魅夜の唇から、驚愕の声が漏れる。確かに蒼い炎は瓦礫を焼き尽くした。しかしそれでもまだ足りぬかと言わんばかりに、尚燃え盛る蒼い炎が魅夜へと蛇のように牙を向いたのだ。炎に焼かれ、魅夜の美しい黒髪が焦げる匂いがする。炎の熱が、彼女の纏う黒い衣を焦がし、皮膚を炙る。
「ふ、ふふ、くふふっ、あァ、その顔が見たかった!」
 信じられない、といった表情の魅夜に対し、猟書家は嗤う。
(どうして、確かに完封した筈……!いえ、まさか!)
「あなた、今の炎は自前……ユーベルコードとは別のもの――!」
「さて、如何でしょうなぁ? そうであったとして、何が悪いのか!そして貴女に私の使う炎が見分けられるものでしょうかな……!」
 魅夜は知っていたはずだ。この猟書家が、ユーベルコードとは別に、同じ色の蒼い炎を武器とする事を。そしてユーベルコードと武器を同時に使えないという道理はない。つまり、そして男はユーベルコードと同時に、それと区別のつかない蒼い炎を放っていたのだ。ユーベルコードの炎の効果は瓦礫を燃やした時点で終わりかも知れない、が、そうでない「武器である」炎はそんな法則に縛られる事なく、魅夜を焼いたのだ。――これが初めての相手であれば、魅夜もこのような失策はしなかったであろう。しかし魅夜は、同じ相手に同じ方法でユーベルコードを封じることをこれ迄の戦いで続けてきた。そしてこれまでの相手は、皆同様に封策にかかってくれた。――だからこそ生まれた油断に、魅夜は足を取られたのだ。
「そうですか……覚えておきましょう、あなたを斃した後、次のあなたを斃す時の為に」
「ふ、くふふふふっ!私をここで倒せると思っておられるのですかな……!」
 ガン、ガンッ、猟書家の二挺拳銃から蒼い炎を纏った弾丸が発射される。その弾丸を鎖で弾き飛ばし、魅夜はだっと後方へ飛ぶ。その着地した足元に突き刺さる弾丸。また、飛ぶ、その足元に燃える弾丸が突き刺さる――
「ええ、思っています。……聞こえていますか、今です!」
「――な、っ」
 遠くへ逃げた魅夜を追おうとした猟書家カーネル・スコルピオの、その足元。アスファルトの地面が、蟻地獄のように削りとられ砂と化していた。うごめく砂は猟書家の足に絡みつき、その歩みを止める。――シエラの操る砂だった。
「この小娘ッ……ヒーローにもなりきれぬ半端者がぁッ!!」
「違う……わたしは、ヒーロー……!そうだって言ってくれたから……こんなことくらいしか出来ないけど、それでもここに立つ限り、わたしはちゃんと、ヒーローなんだから……っ!!」
「ならば小娘、ヒーローとして!あの日の私の仇として、この炎に焼かれるがいい……ッ!!」
 叫んだシエラに、カーネル・スコルピオが逆上する素振りを見せた。その拳銃をシエラへと向け、放たれた蒼く燃える弾丸を魅夜の鎖が弾き飛ばす。そしてそのまま魅夜の鎖は、スコルピオの軍服へと鈎を引っ掛け、その体にぐるぐると巻き付いた。
「油断しましたね? あの子を居ないもの同然だと、脅威にはなり得ないちっぽけな存在と思っていましたね? それこそがあなたの悪癖。やはり奢りです――“愚か者の骸を糧に、咲き誇れ鋼の血華”!!」
――【緋色の弔花は悪夢の深淵に狂い咲く(フューネラリィ・クリムゾン)】。百八の鎖が、猟書家カーネル・スコルピオを次々と打ち据えていく。全身を幾度も幾度も強かに打たれ、その体が地に伏した。その体に砂が纏わりつき、締め上げていく。そこにもう一度骨を砕かんとするほどの威力で鎖を叩き込み、魅夜はシエラへと向き直る。
「人は成長するもの。あなたもまた、成長していますね……あの男への啖呵。お見事でしたよ、シエラさん」

苦戦 🔵​🔴​🔴​

フォルク・リア
「高みの見物はもう御仕舞いか?
これからが大詰めだっていうのに。
まあ、此処に来たのなら確りと辿って貰うよ。
悪役の末路ってやつを。」

シエラに
「よく歩みを進めてくれたね。
さあ、共に終わらせようか。この悪夢を。」
悪夢が文字通りなのか比喩なのかは告げず。

デモニックロッドから放つ闇の魔弾で敵を攻撃しながら
シエラには砂を自分とシエラの間に展開し敵の視界を遮り
それは砂の濃さよりも敵にその範囲から抜けられない事を
重視して貰う。

自身は死霊縋纏を発動、
敵近くに霊を伏せ気づかれない様に敵を監視し
自身は砂に隠れて呪装銃「カオスエンペラー」で正確に狙撃。
シエラと共に周囲を動いて攻撃を躱し
炎は零下の碧玉の冷気により消火。



●黄泉への導、屠るもの
 かつり、かつりと猟書家「カーネル・スコルピオ」の軍靴の音が響く。
「なんだ、高みの見物はもう御仕舞いか? これからが大詰めだっていうのに」
 少女を背後に、フォルクは軽口のように猟書家へと言葉をかける。
「残念なことですがな。お前たちを片付け、早く私も観客席へ戻りたいものですなァ」
「生憎だけど、此処に来たのなら確りと辿って貰うよ……悪役の末路ってやつを!」
 フォルクは黒杖を掲げる。其処に集う魔力が闇色に染まってゆき、放たれたのは漆黒の魔弾。それを猟書家が放った蒼い炎で掻き消せば、闇の魔力はさらに高まり、雨霰の如くにカーネル・スコルピオへと降り注ぐ。
魔弾を放ち続ける黒杖を手に、膨大な魔力を制御しながらも、フォルクは少女へ向かって微笑みかけた。
「シエラ。よく歩みを進めてくれたね。……さぁ、共に終わらせようか、この悪夢を」
 少女にとって、これは文字通りの悪夢の世界だ。けれどフォルクの言う悪夢が本当のことだとは少女には思いもつかない、ただの比喩表現だと思うだろう。フォルクにはそれでよかった。これは悪夢。目覚めてしまえば消えるもの。自分たちは夢の中の登場人物で構わないのだ。――けれど、だからこそ確実に少女には、目覚めを迎えさせなければならない。彼女が今もなお第一線で戦う現実へと、帰さなければならないのだ。
「よく聞いて。俺の言うとおりに、砂を操ることが出来るかな」
 フォルクの囁きを聞いた少女は少しだけ考える素振りを見せて、そしておずおずと答えた。
「……たぶん、できると思う。何度か訓練も受けたし……それに」
「それに?」
「あなたたちが、いてくれるから。今は、うまくいく気がするの」
 少女の目には光があった。それは希望の光。覚悟の光。猟兵たちの言葉を受けて、そして共に戦う中で目覚めた、未熟ながらもヒーローとして戦おうというものだ。フォルクはそれを見て微笑み、黒杖を握る手に力を籠める。少女と言葉をかわす事を優先した分、魔力の制御は単純になっている。魔力弾の爆撃は、すぐにでも突破されることだろう。
 少女が胸の前に両手を広げて突き出せば、アスファルトがガリガリと削れて砂塵の山ができていく。闇の魔弾の絨毯爆撃がアスファルトを破壊し瓦礫に変えた事も功を奏し、作戦に重要な分だけの砂塵を用意することが出来た。魔弾を放つのを止めると同時、ぶわりと砂塵が舞い上がり、カーネル・スコルピオの周囲にカーテンのように巻き上がる。
「これは……っ、あの小娘の……猟兵、お前の入れ知恵ですかな……!」
「さぁね。俺が言わなくたって、彼女ならこれくらいできるさ」
 砂塵のカーテンは向こうが見えない程度のものではない。けれどその勢いは強く、カーネル・スコルピオを中心に、容易くは通り抜けられないほどだ。ざりざり、ざりざりと地面を掻きながら、更に砂塵の量を増してゆき、カーネル・スコルピオは例えるならば台風の目の中心に閉じ込められた状態だった。
「ふ、く、ふふふ……しかしこれだけで私を封じたつもりですかな? 暴風の中にあろうと、この銃の狙いを外さぬ自信はあるのですがな!」
 カーネル・スコルピオは二挺拳銃を構え、砂のカーテン越しにフォルクへと向かって弾丸を放ってくる。否、正確にはフォルクの足元――着弾した弾丸は蒼く燃え盛った。ガン、ガン、ガン、次々と撃ち込まれる弾丸がアスファルトに突き刺さり、そして燃える。
「しまっ……」
 フォルクは相手の狙いに気づき、呼吸を止めた。フォルクを囲むように撃ち込まれた弾丸、燃える炎はフォルクを焼くだけでなく、フォルクの周囲の空気を変えていく。人が炎に巻かれて死ぬ時、それは火傷によるものよりもずっと煙による一酸化炭素中毒や窒息の方が多い。それをフォルクは世界を巡るうちに学んでいるし、このヒーローズアースにかつて生きていたオブリビオン、しかも炎を操る猟書家カーネル・スコルピオならば十分に理解していることだろう。
 勿論、ずっと息を止めているわけにもいかない。何よりフォルクを囲む炎が彼を焼いていくことには変わりない。フォルクは自身の装身具から氷のごとく透き通った蒼い石を取り出す。それは「零下の碧玉」と呼ばれるもの。碧玉に宿った死霊が纏う冷気を以て周囲の温度を下げ、炎を消し止めて、フォルクは息を大きく吸い込んだ。
「“其れは、闇の中から覗く者”――【死霊縋纏】」
 喚び出された霊が砂嵐のカーテンの中へと入っていく。気付かれないように猟書家の男を監視させながら、フォルクは少女に目配せをする。少女の操る砂の迷彩が、フォルクと、そして少女自身をも覆っていく。カーテンの向こうから、ち、と舌打ちの音がした。
「どこまでも忌々しい真似をするものですなぁ……!」
 声を荒げるカーネル・スコルピオ。過去を観察する霊が彼の情報をフォルクに伝えてくる。炎を操る力を持ち、けれどそれを弱者を護るためでなく自らの欲望のために振るうことを決めた男が、やがてひとつの犯罪組織を率いるに至り――そして、ヒーローに追い詰められて死ぬまでの過去。そこには強く強く焼け付くような衝動があった。――誰かを加虐しなければ、自分の心が死んでしまう程に飢え渇く。生まれ持っての、悪党としてしか生きられない性質。そして、己の末期を齎したヒーローへの焼けつくような憎悪。悪夢に惑うヒーローを観劇して、その憎悪への手向けとしていること――
「ああ、成程な。君にとってはシエラがヒーローであっては困るわけだ。自分を殺したヒーローと同じものであってはね」
「ふ、ふ、くふふ……私の心でも読みましたかな? 困るわけではありませんがな、未熟なら未熟なりにただ泣き惑いていればよいものを、まことに腹立たしいことこの上ない」
「シエラは、未熟なんかじゃないさ」
 フォルクは銃を取り出す。「呪装銃『カオスエンペラー』」――その中に宿した幾多の死霊を顕現させ、砂のカーテンの中の猟書家へと照準を合わせる。
「君の事情は解析した。けれどそれを俺が理解して受容する事はないよ。君は猟書家で、オブリビオンだ。俺たちにとっては――ただ、斃すべき存在だからね」
 ――ぱぁん。カーネル・スコルピオが額を撃ち抜かれ、その場に倒れ込む。迷彩を纏ったフォルクの動きは、猟書家からは銃を構えていることすら視認することは出来なかっただろう。
「ふ、ふふ、くは、ふははっ……理解も受容も今更不要、不要のことですなァ……!」
 さすが猟書家――といったところか、カーネル・スコルピオが脳を撃ち抜かれて尚立ち上がる。砂の迷彩を纏いながら彼女とともにゆっくりと動き、フォルクは再び呪装銃を構えた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

カトリーヌ・モルトゥマール
私は人型の炎みたいなものだし銃も炎も通用しないけど、この子はそうもいかないか。
守る戦いって得意じゃないのよね・・・・・・まあ、今回は特別。
「シエラ、あなたには私の攻撃に合せてあいつの視界をふさいでほしい。任せたわよ」
それ以外は、私の仕事だから。
「罪人よ罪人よ。火を畏れ賜え罪を贖い賜え」
この技ならシエラに向かう焔や銃弾も多少はカバーできるはず。
まあ、そもそもこのゲヘナを相手に余所見してる余裕があればだけどね。
「この世に迷いでた罪人を裁くのが私の正義。有象無象の区別なく、私の炎は許しはしない」
一斉に飛ばすだけではなく、少しずつタイミングをずらして捌きづらくしておこうかしら。
さあ、罪を償う時よ。



●ゲヘナ~永遠の滅び~
 ガン、ガン、ガンッ……猟書家「カーネル・スコルピオ」の放った弾丸がカトリーヌへと迫る。カトリーヌは自らの中に眠る真実を解放する。ごう、と巻き起こった紅蓮の炎が弾丸を燃やし尽くし、蒼い炎を飲み込んでいく。今の彼女は、人型をした炎そのものだ。弾丸も炎も、今のカトリーヌには通用しない。
(……とはいえ。私はこれでなんとかなっても、この子はそうはいかないか……)
 後ろに庇う少女を視線だけで見やる。カトリーヌに自らの技が効かぬと知った猟書家が、ターゲットを少女に変えないとも限らないだろう。
(守る戦いって、得意じゃないのよね……まあ、今回は特別)
「シエラ、あなたには私の攻撃に合わせてあいつの視界をふさいでほしい。出来るわね?」
 背後に立つ少女が頷く気配を見せる。
「任せたわよ」
 ――其れ以外は、私の仕事だから。
タァン、銃声がしてカーネル・スコルピオがその二挺拳銃より弾丸を発射する。ガ、ガン、ガン、ガガガガガッ、銃弾が突き刺さったのは、けれどカトリーヌではなくその足元。ごう、アスファルトを燃やす炎が蒼いカーテンを作り出す。それを腕で薙ぎ払い――異物を体内に埋め込まれるような、遠い昔に感じた違和感を感じながら、カトリーヌは朗々と歌うように声を上げた。
「罪人よ罪人よ。火を畏れ賜え、罪を贖い賜え!」
 その言葉に応じるように織り上げられるのは、燃える炎の剣が描き出す精緻な幾何学模様のタペストリ。
カーネル・スコルピオは彼が手にした拳銃から放たれる銃弾でもって、己へと降り注がんとする炎の剣を弾き飛ばさんとする。しかし、その視界を砂塵のカーテンがばさりと遮った。
『……な、にっ……!?』
 それは少女が作り出した砂塵。少女は両手を胸の前に突き出し、アスファルトを削って作り出した砂塵を舞い上げて猟書家の視界を塞ぐ。
『お、のれぇぇッ、邪魔をするか、ヒーローにもなれぬの未熟者が……!』
「違う……わたしは、ヒーロー……!どんなに役立たずでも、どんなにちっぽけでも……!わたしは、今、ヒーローとしてここに立ってるんだから……!」
『ならば“ヒーロー”、この身の仇として貴女から恐怖に沈めてくれましょうかな……!』
 カーネル・スコルピオの銃が少女へと向けられる――けれど燃え盛りながら踊る炎の剣は、その引き金を引かせることを許さない。
「このゲヘナを相手に、余所見をしている余裕があるの?」
『ぐぅっ……ぎ、ぃぃっ……おのれ、おのれおのれ、ヒーローどもがァっ……!ッ、が、アアアアァァッ!!』
 カーネル・スコルピオは吠える。その拳銃より放たれる弾丸が炎の剣を撃ち落とさんとするも、カトリーヌによって少しずつタイミングをずらされ、それが叶わない。六百八十の燃え盛る炎に包まれた剣が、少しずつ少しずつ猟書家の男を切り刻んでいく。
「この世に迷い出た罪人を裁くのが私の正義。有象無象の区別なく、私の炎は許しはしない」
 剣にその身を焼かれ、焦がされ、刻まれ、苦痛の声を上げながらも、猟書家の男は笑う。それを、円舞を踊る剣は地面に縫い付けていく。
「さあ、罪を償う時よ――!」
『くっ……ぐぅぅっ……ふ、ふふふっ……くふふふふっ……おのれ、おのれおのれおのれ……ヒーローどもぉぉぉッッ!!』
 地面に広がる血とアスファルトとが焼ける匂いが立ち込めた。がらり、アスファルトが剣によって砕かれ、そうして出来た瓦礫を退けながら、それでも猟書家の男は立ち上がる。
『ふ、ふふふふ、く、ふふふっ……!ヒーロー……!幾度!幾度私を引き裂かんとも、忘れるものか許すものか……!ふふふっ、くふっ、ふはははは……!』
 ぼたぼたと血を砕けたアスファルトに垂らし、ふらりふらりと上体を揺らしながら、男は金色の瞳を光らせて笑う。その両手には、未だ二挺の拳銃が握られている。ガァン、放たれた弾丸を己の体で受け止めて、カトリーヌは少女を庇う為に前へ出た。

大成功 🔵​🔵​🔵​

木々水・サライ
【灰色】

バカ親父、先に一人で走ってんじゃねぇよ。
アンタにゃ目付役が必要だろうが。

ちょ、待て待て待て!
アンタが理性ぶっ飛ばしたらそれこそただの殺人鬼だろうが!!

ああ、クソ! 俺にシエラを任せる気だな!?
仕方ねぇ、シエラには俺から付かず離れずの距離を保って支援行動するように指示するぞ。
こっちを狙ってくる蒼い炎はUC【複数の白黒人形達】で何人も呼び出して防ぐ。
俺自身も一応白銀刀で援護するが、親父の攻撃範囲内には入らないように注意するぞ。

トラウマってのは、そうそう克服できるもんじゃねえ。
ヒーローをやめる理由にも出来る。
けど、トラウマをバネに戦うやつがいるのも確かだ。
……シエラ、お前はどうしたい?


金宮・燦斗
【灰色】

ああ、サライ。遅かったですね?
え? やだなあ、私にお目付け役なんていりませんよぉ。

だって、ねぇ。
これから理性ふっ飛ばして、気持ちよくなるんですから。

サライにシエラさんをおまかせして、私は猟書家の野郎をぶん殴りに行きます。
UC【影をも超える狂気の黒】を使ってね。
今回は黒鉄刀による完全なる肉弾戦。ナイフによる遠距離は一切使用しませんよ。
蒼い炎? なんのことでしょうか?
理性が飛んだ状態だと、第二火傷ぐらいならどうってことないですよ。

トラウマを刺されるのって確かに痛いんですよね。私もそうです。
が、だからこそ今の私があると思ってます。
シエラさんもきっと、乗り越えたら新しい自分が待ってますよ。



●狂気と凶器、生まれる狂喜
「バカ親父、先に一人で走ってんじゃねぇよ」
 転移門より新たに現れたのは、木々水・サライ(《白黒人形》[モノクローム・ドール]・f28416)。彼が「親父」と呼ぶ相手――燦斗は、にっこりと絵に描いたような笑みでサライを迎えた。
「ああ、サライ。遅かったですね?」
「まぁ、ちょっとな……って、違ぇよ。アンタにゃ目付役が必要だろうが」
「え? やだなぁ、私にお目付け役なんていりませんよぉ。……だって、ねぇ」
 ――これから理性吹っ飛ばして、気持ち良ぉくなるんですから。
燦斗はうっとりとそう言うと、背にしていた少女の方へと向き直り、その肩を掴んで、目線を合わせた。
「……ねぇ、シエラさん。トラウマを刺されるのって確かに痛いんですよね。私もそうです」
「え、あ……」
 どう答えたものかと逡巡する少女へと、燦斗は微笑む。
「ですが、だからこそ今の私があると思ってます。ですからね……シエラさんもきっと、乗り越えたら新しい自分が待ってますよ」
 彼は知っている。目の前の少女が、現実に戻ればこの悪夢のような出来事をも乗り越えて二十年以上も前線でヒーローとして戦い続けてきたということを。未だこの夢の中にいる少女にはわからないだろう、新たな彼女を知っている。そして、この悪夢を乗り越えた現実の彼女は、もっと、もっと遥かな高みへ行けるだろう――そう、予感している。
 言うべき言葉を紡ぎ終えると、燦斗は立ち上がり、少女をサライへと預ける。その胸で少女をしっかりと受け止めたサライは、けれど先程燦斗が口にした言葉を思い出して声を荒げた。
「ちょ、待て待て待て!今アンタなんて言った!アンタが理性ぶっ飛ばしたら、それこそ……」
 ――それこそただの、殺人鬼だろうが!!
サライのその声を背中に受け、燦斗は猟書家の男へと歩みを進めていった。
「ああ、クソ!親父のやつ、俺にシエラを任せる気だな? ちっくしょう、仕方ねぇ……シエラ!」
「は、はいっ」
「アンタは俺から付かず離れずの距離を保ってくれ、絶対に、親父の行動範囲内に入るんじゃあねぇぞ!頼むから!」
 絶対に、を強調された切羽詰まったような言葉にこくこくと頷きながら、少女は思った。……彼らは不思議な関係だ。親父と先程の彼を呼ぶこの青年はつまり、彼の息子で。なのに、彼のお目付け役でもあるらしい。普通、親父、と呼ばれる方がお目付け役になるんじゃあないだろうか。
(……ふしぎ)
 少女の思いを知ることなく、サライは自身の足元から彼自身の複製義体を数体呼び出す。彼らをそれぞれ少女を守れるだけの位置に着かせ、己自身も光溢れる刃――白銀刀を抜いた。
猟書家、カーネル・スコルピオは両手の銃をいつでも発砲できる状態に保ったまま、分厚い本――自身の侵略蔵書の頁をぱらりと捲る。其処から放たれるのは、蒼い炎。次々と放たれたそれが燦斗、サライ、少女へと向かって牙を向いた。これを避ければ、相手を強化する土壌を作り上げてしまうだろう。サライは白銀刀で蒼い炎を斬るように打ち払う。少女へと向けて放たれた炎は複製義体がその身で受け止めた。
 燦斗は――何もしなかった。蒼い炎をその身に浴び、炎が衣服に燃え移り、己の皮膚を炙るのをただただ黙って受け入れていた。唇に、いびつな笑みを浮かべたまま。
『貴方。炎に耐性があるといった体質なわけではないでしょう?』
「そうですねぇ。そんなものはありません」
『そう、ですかな……もう一つお聞きしてもよろしいですかな?』
「ええ、どうぞ」
『どうにも貴方からは私と同じ匂いがいたしましてな。そう――どっぷりと臓腑まで浸かった“悪”の匂い。その香水などでは誤魔化しきれない血の匂い。その匂いをさせる貴方がそちら側についているという事は、さて何らかの事情があるのでしょうがな』
「おや、『何故そちらに』とは訊かないので?」
『“悪”には“正義”と違って、柵も縛るものもありませんのでな。まァ、想像は付きますとも……後ろにいる『彼』でしょうかな』
「ふふ、さて、どうでしょうね――まぁ、どうであろうと」
 燦斗の手の中に、闇を溢れさせる刃が現れる。
「――今から死ぬお前には関係ねぇことだがなァ!!」
 黒鉄刀の刃が猟書家の喉を狙って真一文字に薙がれる。寸前で躱され、喉を裂くには至らないが、首の皮が裂かれて猟書家の喉からびしゃりと赤い飛沫が飛び散り、燦斗の顔を汚した。
猟書家カーネル・スコルピオは目を見開き、口元をにやりと吊り上げる。
『ふっ、ふふふふ、くっふふふふっ!!あァ、あァあァ納得が行きましたな!……ふふ、ふふ、ええ、そう、それが貴方の本来の姿でしょうなぁ!いえいえ結構、私にとっては正義ぶった貴方と戦うよりも“こちら”の貴方と戦う方が余程面白い!!』
「別にお前を楽しませてやる趣味も義理もねぇんだがな――」
 ガン、ガン、ガン、ガァンッ、猟書家の男の二挺拳銃から弾丸が発射される。それを黒き刃で弾き飛ばし、だ、と駆けると猟書家の背後に周り、黒鉄刀で真っ直ぐに心臓を裏側から貫こうとする。それをさせまいと、蒼い炎が燦斗に向かって広がった。だがこの程度の火傷、何だというのか。
理性を飛ばしていても燦斗は医者だ。この炎によって負う火傷はせいぜいがⅡ度。その程度の火傷の痛みと熱さぐらい、人を殺すという快楽の前には容易く消し飛ぶだろう!ぞぶりと猟書家の胸から黒鉄刀の刃が生えた。涙袋を押し上げて嗤ったまま、男は前方に飛ぶ。
黒鉄刀の柄は燦斗が握ったままだ。故に血を噴き出させながらも、猟書家は刃から逃れる形となった。
『く、ふふふふふっ……残念ながら!心臓を貫かれた程度では、死ねない体ですのでなァ!』
「じゃあ、こっちはそのぶん長く楽しめるって訳だ!」
『ふふふくふふっ、然り!!』
 返り血で全身を真っ赤に染め、また至るところを火傷に覆われながら、燦斗は歪な笑みを浮かべる。対峙する猟書家、カーネル・スコルピオもまた同様。只人であったなら死んでいておかしくない傷を喉と胸の両方に受けて、それでもまだ笑っている。
『貴方が欲するは殺しの快楽!私が欲するは加虐の快楽!されど貴方はこの炎では苦しんではくれないと言う!困ったものですなぁ!』
「手前も死んじゃぁくれねぇんだから、お相子だろうが?」
『ええ、ええ、全くですなぁ……!』
「……どうでいいが、」
 ――五月蠅ぇよ。歪な笑みを貼り付けたまま、声だけがいつもよりもずっと冷たく、ずっと低く、そう口にした燦斗が黒鉄刀を薙ぐ。腕を落とす勢いで振るわれたそれは、刀を持つ手を狙った銃弾を躱そうとしたことで切っ先がぶれる。腕から血を噴き出しながらも、カーネル・スコルピオは決して拳銃を手から落とすことなく、燦斗の肩を撃ち抜いてみせる。幸い弾丸は貫通している、快楽のアドレナリンで痛みを理性ごと吹き飛ばして、燦斗はにぃと笑いながら黒鉄刀を真下から振り上げる。狙うは下顎。そこには骨がない。故に猟書家のそのお喋りな舌ごと引き裂いて口内まで貫いてやれるだろう。そうして振るった刃は、拳銃で受け止められ、しかし再びその喉を突く事に成功する。
『ふっ……くふっ、あまり首ばかり斬られては……転がり落ちてしまいますなぁ』
「そのつもりでやってんだよ」
 黒き刃から闇を噴き出させ、猟書家の視界を遮りながら、燦斗は更に黒鉄の刃を振るう。放たれる炎は熱くも何ともない、けれどその蒼色が目に障る。何より炎の熱気が目に入って眼球の機能を低下させる。軍服を貫き、ガリガリと肋骨に阻まれながらも再び胸を刺し貫くと、燦斗ははぁっと息を吐いた。
 ――血の赤と炎の蒼、二色に染まった戦いを、少女はずっと眺めていた。こんな戦い方は少女は知らない、見たこともない。二人共が重傷を負いながら、それでも二人共笑っているなんて。
 そんな少女に、サライは飛んできた蒼い炎を打ち払って言葉をかける。
「トラウマ、ってのはよ。そうそう克服できるもんじゃねぇ」
 サライにもある、トラウマになっておかしくない経験が。両腕両足を壊され、思考さえ儘ならぬ激痛の記憶が。
「……だからよぉ、ヒーローをやめる理由にだって、できる」
「ヒーローを、やめる……」
「けど。トラウマをバネに戦うやつがいるのも、確かだ。……なぁシエラ、お前は、どうしたい?」
 サライのその言葉に、少女は考える素振りを見せた。サライは知っている、今さっきまで泣いていたこの少女が、その悪夢のような経験を体験した上でなお二十年間も前線に立ち続け、現実ではベテランヒーローの肩書を得たということを。だからこれは、今の10歳の少女にだけ問える言葉。現実には悪夢のような体験を乗り越えたヒーローが、けれど悪夢の直後にどんな答えを返すのか――答えは、サライもわかっていたのかも知れない。けれど少女の口から出てきたのは、少しだけサライの予想とは違っていた、
「わたしは……わたしは、ヒーローを、やめない。だって、それでもわたしがヒーローなんだって、あの人が言ってくれたんだもの」
 あの人。それは、まさに今彼女の眼前で戦っている燦斗にほかならない。
「だからわたしは、どんなに役立たずでも、この先ずっとサポートしかできなくても……ヒーローを、やめない」
「……そっか」
 自身が“親父”と呼ぶ男の言葉が、少女の戦う心を支えていることを、半分は驚きに、そして半分は照れくさいような感情で受け入れながら、サライはぽつりと言った。
「……すげぇだろ。あれ、一応俺の親父なんだぜ」
 彼らの目の前では、未だ血に濡れた殺し合いが繰り広げられていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

水無瀬・旭
…正義を掲げる資格は、俺にはないのでね。俺の『悪』を以て、君の『悪』を断とう。

【指定UC】で装甲を展開、銃弾なら跳弾の心配もないこの戦場、射線から彼女を護りながら立ち回る。
シエラに俺の武器に砂を纏わせて貰い、【呪詛】と【スナイパー】を併用して振り抜き、その勢いで火の【属性攻撃】を付与した焼け砂を放ってみようか。

シエラ、奴の足場。一瞬でもいい。崩すか…砂で足枷なんて出来るかい?
体勢が崩れたなら【エネルギー充填】で強化した鐵断・黒陽断で溶断してやろう。
善悪両儀の火床で鍛えられたこの鋼。悪のみを抱く炎に負けはしない。

君無しに勝ちはなかった。有難う、シエラ。
…君は…どんなヒーローになりたいんだい?



●ロード・ハガネ~「正義」の味方~
 猟兵たちの奮闘により、「猟書家」カーネル・スコルピオの体は満身創痍であった。けれど骸の海から蘇ってきたオブリビオン、猟書家である男はそれでもまだまだ二挺拳銃をその手から離すことなく、口元を歪め、涙袋を押し上げて笑っている。
 旭は再び、その体に装甲を纏う。それは攻撃を無効化することに特化した装甲だ。手に掲げた馬上槍には黒き炎が纏わりつく。少女の一歩前に出た旭に、猟書家が問いかける。
『ほう、その姿、貴方もご自分はヒーローだなどと仰いますかな?』
 かつての我が身を引き裂いたヒーローたちと、同類だと?
「……正義を掲げる資格は、俺にはないのでね。代わりに俺の『悪』を以て、君の『悪』を断とう」
『ふ、ふふ、くふふっ。……何を言いますかな。貴方からは悪の匂いなど致しません。其処にあるのは苛烈すぎる正義。ご自分で理解しておられないのですかな?』
「いいや、俺は『悪』さ。俺なんかが、『正義』であれる筈がない」
『はぁ、頑固な方ですなぁ……悪とは何にも縛られぬもの。柵なき者。故に正義に出来ぬことが出来る。故に強いのです。そこを行くと、貴方は柵で雁字搦めに見えますがな!』
「……君とは、話が合わないようだ。だが、悪には正義に出来ないことが出来る、というのは否定しないよ」
 ――俺がしたことは、到底正義なんかでは出来たことじゃない。
旭は炎を纏った馬上槍を掲げる。攻撃を無効化する装甲を纏ったこの体、そして先程とは異なり煉瓦塀も消えたこの戦場であれば、銃弾ならば跳弾の心配もない。
「シエラ、俺の武器に砂を纏わせてくれるか?」
「見えなくすればいいの?」
「いや。纏わせるだけでいい」
 少女は手のひらを胸の前へと突き出し、力を込める。彼女の呼びかけに従い、アスファルトが削れ、砂塵となって旭の馬上槍「鐵断・黒陽」に纏わりついた。
「……ありがとう、それから。俺の戦いを見ていてほしい。タイミングが来たら、合図するから」
 そうして囁かれた作戦に、少女はぐっと頷く。馬上槍を掲げた旭に、猟書家の男は手にした二挺拳銃から燃え盛る弾丸を雨霰の如く放ってきた。それだけならば、攻撃は装甲が無効化してくれる。しかし、弾丸の放たれる範囲は広い。旭に攻撃が届かぬと悟った猟書家は、わざと少女を巻き込む形で発砲する形へとシフトしつつあった。その射線を切り、少女に攻撃が届かぬ位置を保とうとすれば、旭の動きも若干ながら制御される。馬上槍にて突きかかろうとするが、それのいずれもがカーネル・スコルピオに避けられてしまう。
『ふふっ、くふふふふっ!申しました筈、悪は正義に出来ることが出来るから強いと!その小娘を護りながらでは、自由に戦えますまいな!』
 猟書家の男は唇を吊り上げて笑いながら言う。それに答えぬまま、旭は狙いを定めて馬上槍を振り抜いた。纏う燃え盛る炎が、馬上槍に少女が付着させていた砂を焼き、熱く焼けた砂が呪いの力を籠めてカーネル・スコルピオへと降り注ぐ。咄嗟に目を庇う猟書家の男。
『ぐぅ、っ……!?』
「シエラ、今だ!」
 少女が突き出していた手のひらをぐっと握り込む。カーネル・スコルピオの足元のアスファルトが一瞬で砂塵の蟻地獄と化した。軍靴が砂に埋まり、そしてその足をうぞうぞと蠢く砂が足枷のごとくに拘束する。
『おのれっ……未熟者の小娘が、ヒーローの真似事をッ……!』
「未熟なんかじゃない!わたしは!ここに立っている限りは、わたしだってヒーローなのっ!!」
『くっ……ならばヒーローとして、この私自身の仇として、この炎に焼かれるがいい……!』
 だぁん、と放たれた燃える弾丸が少女へと迫る。それを旭は装甲で受け止め、今だ足を取られたままの猟書家の男へと馬上槍を振るう。
「善悪両儀の火床で鍛えられたこの鋼、悪のみを抱く炎に負けはしない……ッ!俺の『悪』を以て、君の『悪』を灼き斬らせて貰うッ!!」
ぶぉん、槍が風を切る。旭の力をたっぷりと充填した炎を纏った馬上槍の重い一撃が、猟書家カーネル・スコルピオへと叩き込まれる――【鐵断・黒陽断】。
『が……ァア、アッ……!!』
 肩からざっくりと体を斬り裂かれ、猟書家の男が片膝をつく。旭はすぐに槍をぐるんと返し、その心臓を全体重を掛けてアスファルトの大地へと縫い止めた。
『ぐぅぅッ……が、はァっ……!!』
 それが止めとなったのだろう、猟書家の男の体が、燃える炎のような髪の先から、ボロボロと灰になって崩れ始める。しかしそれでも――既に勝負はついているというのに――猟書家は、崩れ始めた体を引きずるようにして槍を自身の体から抜き、立ち上がる。そして蒼い炎が猟書家カーネル・スコルピオを包んで燃え始めた。
『くっ、ふふふふっ……失礼。もはや私は此処で終わりですが……屍を晒す趣味は、“この”私にはないものでですな……!ふふふっ、くっ、ふふ、ふふふふふ……!』
 ――笑い声だけを後に引かせて。
蒼い炎の中で猟書家、カーネル・スコルピオの体が燃え落ちていく。完全に崩れ、全てが灰となって散り散りになる頃に、漸く炎は消え失せた。からん、がらんと彼が最後まで手放さなかった二挺拳銃がアスファルトに落ち、それもまた黒い灰となって風に攫われ消えていく。
「やった……か……」
 旭は装甲を解いた。背後で脂汗を拭い、肩で息をしている少女へと向き直る。
「――君無しに勝ちはなかった。有難う、シエラ」
「……うん」
 もう少女は、「わたしなんか」とは言わなかった。旭は少女へと問う。
「なぁ、シエラ。……君は……どんなヒーローになりたいんだい?」
 旭は知っている。少女の未来の姿を、語り聞いただけだけれど知っている。この悪夢のような体験から、現実の少女は生還し。そして二十年間以上も前線に立ち続けるベテランヒーローとなるのだということを。けれど旭は、今この瞬間の少女に聞いてみたかったのだ。
「わたし……わたしは」
 少し考えて、少女は言った。
「今日わたしを助けてくれた“ヒーロー”たち、みんながいたから、わたしは立ち上がれた。わたしは、ヒーローになれた。だから、そんな風に……今日のわたしみたいな誰かを助けられるような、ヒーローに」
 憧れてもいいかな、って。そう思ったの。
「……ああ、いい憧れだ」
 旭は言った。

 東の空が白んでいく。もうすぐ、少女の夢は覚め。現実のベテランヒーロー、シエラ・サンドストームが目を醒ますのだろう。
青嵐の悪夢は、もはや終わりを告げたのだから。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年01月12日
宿敵 『カーネル・スコルピオ』 を撃破!


挿絵イラスト