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ドウシテ……

#サクラミラージュ #真面目な方のみみずね

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#サクラミラージュ
#真面目な方のみみずね


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●理由を求めて
「……どうしてかなぁ」
「……どうしてなのかなぁ……?」

 か細い声が漏れる。

 往来を行く“ソレ”の恨みの籠もった声に人々はどよめき、距離を置き、道を開ける。
 影朧の存在をこの世界のひとはみな知っている。辛く、悲しい過去から生まれたもの。虐げられ、傷付いた過去の具現化。
 ……そして多くはその嘆きから、恨みから、ひとに害をなすものでもある。

 それ故に誰もが“ソレ”を忌避する。さける。

「どうして……?」

 だがそれでも“ソレ”は手を伸ばす。
 道行く誰かに声をかけようとする。

「おねがい、だれか……」
 だれか、
 話をきいて。“わたし”を知って。“わたし”を教えて。

 ──だれか、わたしをたすけて。

●弱々しいオブリビオン
「ってぇな訳で」
 場所はグリモアベース。少し顔をしかめた男はグリモア猟兵、エリオス・ダンヴィクトル。
「サクラミラージュ、その帝都をさまよっちまってる影朧がいる」

 そもそも影朧とは、他の世界のオブリビオンに比べてひどく不安定な存在だ。それ故に、かどうかは不明だが、荒ぶるそれを鎮めることができれば、桜の精の協力があれば『転生』させることもできる……癒やし、救済することができる存在なのだ。
 とは言えオブリビオンはオブリビオン。猟兵を見れば敵と認識するし、民間人にも危害を加えるものであることには違いない。

「無力化するのは多分そう難しくない。……特に今回のは、最初っからずいぶん弱ってるみたいなんだよな」
 ただ、叶えられなかった望みを叶えたくてさまよっているだけなのだ。
「で、みんなに頼みたいのは無力化したその後。影朧が望んでることを、叶えてやってほしい」
 もちろん、民間人を守るのは大前提だが、しかし帝都桜學府の目的は『影朧の救済』である。無害になった影朧が目的地に向かう間、一般人を傷付けたり、あるいは影朧の姿を見て攻撃的になったりパニックになる一般人から影朧を守ってやってほしい。

「なあ、たのむよ。……ソイツの欲しかったものなんて、なんてことない……“普通のしあわせ”なんだ」
 ただ、普通に生きて、ちょっとした旅行なんかもして、誰かと一緒に美味い飯を食って……。それだけのことが叶わなかったヤツの、ささやかな願い。
「……たすけてやってくれ」
 情けない笑みを一瞬だけ浮かべたエリオスは、しかしまたパッと表情を切り替える。

「ま、そんなワケ。嫌なら嫌で行かなきゃいいさ」
 影朧と行くのんびり帝都紀行……行きたいやつだけ残ってくれればいい。
「それじゃ、よろしく」
 頼んだぜ。

「Good Luck」


みみずね
 ぼーっとしてたら丸一ヶ月、何も書いてないなどしましたね! いや戦闘が苦手なので猟書家シナリオ書きづらいって問題もあるんですけど……。
 ともあれお久しぶりです、あるいははじめまして。PBW初心者駆け出しMSのみみずねと申します。MSに関しての詳細はマスターページをご覧ください。
 今回の路線は『まぁまぁシリアス』の予定でおります。執筆ペースは『そこそこ』、体調次第では再送をお願いするかもしれませんが極力ないように目指します。

●第一章(ボス戦)
 先の説明通り、弱った影朧との戦闘です。いきなり街中に現れた影朧なのでとりあえず大人しくなってもらいましょう。
 倒したからってすぐに消えたり転生したりはしません。凶暴性や猟兵への敵意を失い、ゆっくりと目的地へ向かいはじめます。

●第二章(冒険)
 目的地へ向かう道中です。弱った上に弱らせた影朧が希望を失ってしまわないように守りつつ、目的地まで一緒に行ってあげてください。
 民間人に強い悪意を向けられたりすると、道半ばで諦めて消えてしまうかもしれません。はかない……。

●第三章(日常)
 誰かにとっての日常も、誰かにとっては非日常。かつて得られなかった安らぎを求めてたどり着いた場所がここ。
 一緒に楽しんであげてください、たぶん喜びます。

 第一章のプレイング受付開始は【オープニング公開即時】、その後は各章、【追加情報が入り次第】となります。
 その他、受付終了や再送のお願いなどの情報はマスターページやTwitter(マスターページに記載)、タグなどにて随時情報を更新する予定でおりますので、必要に応じてお手隙の際にでもご確認くださると幸いです。
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第1章 ボス戦 『顔無しの悲劇』

POW   :    理由無き悲劇の意味は
対象への質問と共に、【自身の身体】から【自身の一部である死霊】を召喚する。満足な答えを得るまで、自身の一部である死霊は対象を【自らの死因の再現】で攻撃する。
SPD   :    値打無き命の価値は
自身の【内の一つの魂】を代償に、【その魂を象徴する魔人】を戦わせる。それは代償に比例した戦闘力を持ち、【生前の特技】で戦う。
WIZ   :    稔り無き歩みの成果は
【何かを為しえた妄想の自分たち】を召喚し、自身を操らせる事で戦闘力が向上する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠エルディー・ポラリスです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


「どうして……?」
 “ソレ”は問いかける。

「どうして、わたしは死ななければならなかったの?」

「どうして誰も、ごはんをくれなかっ」「誰も、薬をくれな」「れもたすけてく」「どうし」「ドウシテ」
「どうして……誰にもたすけてもらえなかったの?」

 問いかける。
 問いかける。

 ソレの中にある数多の魂が、記憶が、悲しみが、問いかける。
 『どうして』と。

 問いながら、さまよう。
 こんなはずじゃなかったのに。しあわせに、なりたかったのに。
 ……何も、手に入らなかった。

 かつてと同じに、求める手を伸ばす。
 人々は逃げていく。
 だれも、だれも……応えてくれない。

 おねがい。だれか、
 ……誰か、この手をとって……
幽遠・那桜
WIZ
……ただ、幸せが欲しかった。
ただ、誰かに助けられたかった。
転生前の私もそう。
私はね、転生前は人間だったんだ。
お姉ちゃんも居て……でも、生きていることが辛かった。
お母さんに虐められて、いつ怒られるか怯えて。
助けて欲しくて、ただ、幸せが欲しかったんだぁ。
まぁ、色々あって今は桜の精なんだけど……ううん、だからなのかな。
幸せになる、手伝いなら出来る。

「全力魔法」で、水「属性魔法」。水流の腕輪を通じて、精霊さんにお願いする。墨染の私の時はやっぱり、怖い?
でも、お願い。少しの間動きを止めて欲しいの。
もし、上手くいったら。
UCで、暫くゆっくりおやすみ。
……今、斬られてた霞桜の枝の存在を感じた、ような?



●似た色を見て
 たすけて、と求める声。誰か、とすがろうとする手。

 知っている。
 “私”はそれを、知っている。

 ソレの嘆きを聞いた幽遠・那桜(微睡みの桜・f27078)は一度、ゆっくりとその琥珀の瞳を閉じた。
 ……わかる。分かるよ。
 開いたその瞳には、まだ幼い少女の姿が映る。顔はなく、なにか黒い靄のようなかかっている。誰ともしれない誰か。
 『どうして』と問うソレは。
 『しあわせに』と請うソレは。

 ……他ならぬ、かつての那桜の姿と同じに見えた。

「……分かるよ」
 ソレに応える声色は、いつもの明るい那桜ではなく、墨染のそれ。もう過ぎて終わってしまった日々の、苦い思い出の数々が脳裏を過ぎる。
 ただ、幸せが欲しかった。ただ、誰かに助けられたかった。
(転生前の私もそう)
 那桜は……今は墨染の彼女は、自分が一度死んだことを覚えている。
「私はね、転生前は人間だったんだ」
 静かに、優しい口調で話しかける。彼女は転生前の記憶を持っている。今の那桜とは違う那桜。お母さんがいて、お姉ちゃんがいて。いや、お母さんは……。
「生きることが辛かった」
 お姉ちゃんは一緒だった。けど、お母さんは怖かった。暴力を受けた。常に虐げられていた。いつ怒られるか分からなくて、ずっと怯えていた。
 お母さんがいなくなってからは……少しだけ、楽になって、だけどそれも。
「どうすればいいか分からなくて。誰かに助けてほしくて……」
 壊れていくお姉ちゃんと、一緒に壊れていく自分。怖くて、怖くて、でも抜け出せなくて。今にして思えば、誰かの幸せが妬ましくて、羨ましくて……、でもたぶん、本当はただ。
「ただ、自分の幸せが欲しかったんだぁ」
 お姉ちゃんと、あの子の面影を思い浮かべる。届きそうだった気がする幸せ。お姉ちゃんに助けてもらった記憶と、その反対の記憶。……前の私は上手く、いかなかった。きっと、“あなた”もそうだったんじゃないかな。

「……どうして……」
 影朧がもらす不安そうな声。どうしてしあわせになれないの。
 その問いかけには、那桜がいつもそうするように、なるべく明るい声で応えよう。
「分からないけど。私は、」
 色々あって今は桜の精として生まれ変わった身なんだけど、……ううん。だから。だからこそ、なのかな。
「幸せになる、手伝いなら出来るよ」

 ……この影朧にとって、転生はどんなものだろうか。猟兵に倒されると思えば、やっぱり怖いかもしれない。でも、桜の精の癒やしがあれば、転生できる。今の那桜にはそれができる。

 身につけた水流の腕輪を通じて、全力で魔法を行使する。普段なら精霊は墨染には応えてくれない。
(精霊さん……墨染の私の時はやっぱり、怖い?)
 でも、お願い、今は。
 水の精霊に呼びかける。どうか応えて。少しの間、動きを止めてくれるだけでいいの。
 影朧を傷付けるつもりは毛頭ない。あげたいのは、癒やしだ。

「……暫く、ゆっくりおやすみ」
 応えてくれた、精霊さん。動きが止まったところへ、【桜の癒やし】を使う。周囲を舞い散る花びらに、影朧はうつらうつらと揺れ始める。
 舞う薄紅色に、ふと那桜は顔をあげた。
(……今、斬られてた霞桜の枝の存在を感じた、……ような?)
 気のせいだったろうか?
 ──その問いかけに答えるものは、いない。

成功 🔵​🔵​🔴​

朱酉・逢真
坊っちゃんと/f22865
心情)坊っちゃん、"フツウのしあわせ"ってなんだと思うかい。"生"とはいのちが織りなす布のがら。幸福不幸はその種類。ヒトのフツウはよくよく知らんし、俺ぁ救いの神じゃねェ。あのちびの手を引いてやれやしねェが、雲珠坊。お前さんはそうじゃねェ。だろう?
行動)俺は誰の手も引きゃしない。なンにもしないで付きそうだけさ。だが、ホレ。ここにゃ桜がいるよ。賑やかしにちびども喚ぶか。暴れようとしたらおどろかして止めな。雲珠坊がすることをジャマさせるでないぜ。ドウシテ問われりゃお前たち。自分のムカシでも語っておやり。死んだやつどうし、生者にゃできんハナシもあるさ。


雨野・雲珠
かみさまと/f16930

むつかしい問いですね…えっと…えっと。
朝起きた時、なんとなく
「いいことありそう」って思える感じでしょうか。
飢えてなくて。怖くなくて。
臭かったり痛かったり、みじめになることもなくて。
願いが叶えられる予感に満ちた…

…手に入らない「ふつう」は、どんなにか光って見えたことでしょう。

いつも「俺のせいにしちまいな」で
人の暗がりに寄り添っておられるのに?
…とは、内心でだけ

膝をついて、伸ばされた手を両手でとります。
どうしてでしょうね。
どうしてでしょう。
答えはもっていないから、訴えを聞いて頷いて、
様子を見つつ腕を広げます。おいで。
辛いことは今日、ここで終わり。
今までよく頑張られましたね。



●フツウって、なんだい?
「……どうして……」
 どうして。どうして。特別なことなんか、なにひとつのぞまなかった。ただ、普通にしあわせになりたかっただけなのに。

 小さな影朧の口から、繰り返される問いかけ。
 普通のしあわせを、普通に望んだだけだと説明されているソレと対峙するのは、朱酉・逢真(朱ノ鳥・f16930)。普通のしあわせ。フツウの幸福。ふつう、フツウ。
 逢真は朱色の瞳を細めて、同行者を見る。なあ、坊っちゃん。
「“フツウのしあわせ”ってなんだと思うかい」
 生きるものが求めるしあわせ。フツウのしあわせ。……“生”とはいのちが織りなす布のがら。幸福も不幸もその種類の名前でしかない。神の身である逢真もその色柄に差異は見出せど、どれが不幸でどれが幸福かは、それぞれのいのちがそれぞれに勝手に判じることだ。
 だが、“普通”と云うからには、多少なりとも一般性のある基準もあるのだろう。逢真がそれを感じられないだけで。
「ヒトのフツウはよくよく知らんし、俺ぁ救いの神じゃねェ。あのちびの手を引いてやれやしねェが」
 ……雲珠坊。お前さんはそうじゃねェ。だろう?

 問われた雨野・雲珠(慚愧・f22865)は、桜色の目を少しだけ瞬いて、
「むつかしい問いですね……」
 普通ってなんだろう。“フツウのしあわせ”とは。ううん、とちょっと呻って、考えてみる。なんとなく、分かっているつもりでいることも、これこれであると言葉にするのはとてもむつかしいことだ。

 えっと、……えっと。
 しばし言葉を選んで、雲珠は話し出す。そう、たとえば。
「朝起きたとき、なんとなく『いいことありそう』って思える感じでしょうか」
 憂いなく始まる一日。飢えてなくて、怖くなくて。
 臭かったり痛かったり、みじめになることもなくて。
 それはきっと、願いが叶えられる予感に満ちた……そんな“感じ”を、それを感じながら、そんな日々を過ごせること。

 でも、彼らはそれを享受することなく死したものたち。その魂、その悲しみそのもの。誰もが当たり前にもっているそれを、得られなかったものたち。
 ……手に入らない『ふつう』は、どんなにか光って見えたことでしょう。その眩さゆえに、今も求めて泣くのでしょう。『ほしい』と縋って手を伸ばすのでしょう。
 ──かみさまは。その手を引いてやれやしないとおっしゃるけれど。救いの神なんかじゃないからとおっしゃるけれど。……いつもいつも、「俺〈神様〉のせいにしちまいな」と、悪いことを全部引き受けておられて。そうやって、ひとの暗がりに寄り添っておられるのに。……口に出すのは憚られるが、雲珠から見た逢真は、救いの神などではなくとも、確かに、いつだってかれらを救おうとしてきたし、実際そうであったと思う。
(そういうところも、かみさまですけど)
 雲珠は何も言わない。逢真には逢真のやりかたが、信条が、在り方がある。

「ドウシテ……」
 か細い声で差し出された手。雲珠は地に膝をついて、その手をそっと両手で包み込んだ。
「……どうしてでしょうね」
「たすけて……くれない……」
「……ええ、どうしてでしょう……」
 雲珠は、ソレの問いかけへの答えを持たない。彼らがなぜ助けられなかったのか。なぜしあわせを得られなかったのか。だから、話を聞くことしかできない。
 何がほしかったのか。どうしてほしかったのか。誰といたかったのか、何をしたかったのか。
 ひとつひとつ、聞いては頷いた。

 ……それで。
 たくさん話を聞いた後、雲珠はそっと手を広げてみた。決して大きくも広くもない懐ですけれど、それで良かったら。おいで。
 だがしかし、ソレは戸惑った様子を見せた。──愛されたことがない者には、どうしたらいいのか分からなかっただけなのだけれど──さておき、そこへ。
「ばー!」
 元気よく、子どもが飛び込んできた。
「はい?!」
 驚きながらも思わず抱き止めたが、よくよく見れば薄っすら透けて見えるそのからだ。子どもの……霊だ。心当たりに思い至り周囲を見回すと、へらり、と笑うかみさまが手を振っていた。なるほどやはり、これは彼の喚びだしたものだ。

 手を伸ばされても、俺は誰の手も引きゃしない。だが──
 ホレ、そこに桜もいるだろう。な、ちびども。賑やかしておいで。悪さしようとしたら止めるんだ。
「坊のすることのジャマをさせるでないぜ」
「わかったー」「はーい」「いけるー」「やったるなー」
 逢真の言葉に口々に返事をする子ども霊たちは、影朧を囲んで楽しげにはしゃぎ回っている。雲珠の次には影朧のもとへと飛びついて、抱きついて、おどろかせている。
「どうして……?」
 不安げにつぶやく影朧に、子ども霊はそれぞれに応える。幼くして死した己らの、ムカシを語る。それらはどれも、どこにでもあるハナシ。ありふれた、だけれど弱く小さな子どもが死に至るには十分の、ささやかな事柄たち。
「ドウシテ?」「どーして?」「なんでかなぁ」
 影朧の口真似をして、ふざける子どもは、雲珠までも巻き込んで。何度も繰り返されるその問いを、茶化して楽しく遊んで。
 見ている雲珠も少しいい気分になって、もう一度腕を広げてみた。さっきは子どもが飛び込んできた。影朧の胸にも飛び込んでいった。ならば、さあ。どうしてかはともかく、どうすればいいかは、わかるのじゃないでしょうか?

「……」
 躊躇いがちながら、とんと子どもに後ろから軽く押されもして、小さな影朧はそっと雲珠の腕にからだを預けた。
 もう大丈夫。辛いことは今日、ここで終わり。
「今までよく頑張られましたね」
 おつかれさま。もう、苦しまなくていいんですよ。
 ゆっくり、おねむりなさい。

 桜の花びらが舞う。傷を癒やし、眠りへいざなう。
 ねんねん、ころり。みいんな、良い子だ……ねんねしな……。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

箒星・仄々
複数の魂が集まっておられるのですね
数多のご無念がお労しいです
お可哀そうに

お心に温かでほっとする明かりが灯るよう
幸せを感じていただけるよう
せめてお手伝いをさせていただきます

リートを起動し
風に舞う桜の花びらに合わせた円舞曲を爪弾きます

花びらを躍らせる風
煌めく陽光
咲き乱れる幻朧桜の息吹

弦を爪弾き魔力を練り上げ
世界を満たす温かな力へと呼応させて
風炎水の矢と為し放ちます

私たちが貴女(方?)のお力となります
どうぞ気をお鎮め下さい

影朧さんが静かになられたら
肉球ハンドでその御手をとりましょう
ぷに

是から私たちと一緒に楽しみましょう
帝都探索、楽しみですね
何処へ行きましょうか?



●めぐりまわるワルツ
「どうして……」「だれか」「……おねがい……」
 繰り返す。何度も何度も、同じような言葉を、助けを求める言葉を、様々な声で繰り返す。

(複数の魂が集まっておられるのですね)
 その分、たくさんの悲しみも抱えて。数多の無念がお労しい……。
「お可哀そうに」
 小さな声でそう呟いたのは、箒星・仄々(ケットシーのシンフォニア・f07689)。
 お心に温かでほっとする明かりが灯るよう、幸せを感じていただけるよう……せめてお手伝いをさせていただきます。

 仄々はリートを起動する。カッツェンリートはねこのうた。蒸気機関式の竪琴だ。風に舞う花びらに合わせて円舞曲を爪弾く。
 ぽん、ぽろ、ぽん。
 ……大丈夫、怖くありません。編んだ魔力が音に乗って。ゆるやかに、穏やかに旋律を紡ぐ。

 花びらを躍らせる風。
 煌めく陽光。
 咲き乱れる幻朧桜の息吹。

 世界をつくる様々の、あたたかいもの。三千世界を満たす温かな力へと呼応させて。風と、炎と、水と。
 生み出された三種類の魔力の矢が射抜くのは、影朧ではない。仄々が消し去るのは、影朧が作り出した幻だけ。『あったかもしれない』『あり得たかもしれない』未来の彼ら。哀しい夢想の産物でしかない、無意味な幻想。
 ああ、でも。そうはならなかった。そんな未来はなかったのです。悲しいけれど、でも。
「そうではなかったから、私たちはここで出会えました」

 ……どうか。
「私たちがお力になりますから……」
 貴女の。そして貴女が内包する数々の哀しい魂たち、みんな。私は、貴方がたのお力になりたいのです。だから。
「どうぞ、気をお鎮めください」
 あたたかな、やわらかな声で仄々は語りかける。

「……ほしかった、のに……」
 影朧は……一見、少女のようにも見えるそれは、消えた幻へと手を伸ばす。消えてしまった未来へ、あり得なかった未来へと手を伸ばす。
「なりたかったのに……」
 求めても求めても、得られなかったそれへと伸ばした手を、しかし、受け止めたのは、ケットシーの小さな手のひらだった。この為に私たちは今日この場所で出会ったのだとばかりに。迎え受けた。
 ぷに。と手にあたる肉球は、ひどく柔らかくて、温かい。仄々に伝わってくるのは、仄々の肉球よりもいくばくか冷たいその手の温度と、わずかに怯えるような震え。
「……大丈夫ですよ」

 だいじょうぶ。もうなにも怖いことなんかありません。
 これからどこへ行きましょう?
 どこへだって、貴女の行きたいところにご一緒します。私たちと一緒に楽しみましょうね。
 みんなで行く帝都探索、楽しみです。きっと、きっと、素敵な時間になるでしょう。
 さあ、この手をちゃんと握って。

 今度こそ、迷子にならないように。

大成功 🔵​🔵​🔵​

カイム・クローバー
『たすけてやってくれ』、ね。こういうのは結構、請けて来たつもりなんだが。
影朧に対して真剣に懇願されたのは、思えば初めてかもしれねぇな。

魔剣も銃も引き抜かず。影朧──いや、彼女が手を伸ばすならその手を取るぜ。
身体から一部である死霊を召喚するんだって?質問の内容は『どうして死ななければならなかったのか?』ってトコか?
生憎と答えは持ってねぇ。『死因の再現』ってのをあえて、この身で受けるぜ。
【激痛耐性】で耐えながら、彼女と同じ苦しみや痛みを味わってやる。
握った手は離さないぜ。根競べだ。
どうして?違うね。そもそもアンタは死ぬ必要なんざなかったのさ。
答えが欲しいなら言ってやる。『アンタは何も悪くねぇのさ』



●その手をはなさない
 ──たすけてやってくれ。

 こういうのは。
 カイム・クローバー(UDCの便利屋・f08018)は振り返って思う。何度も請けてきたつもりだった。誰かを助ける依頼なんてのは、何かを倒す依頼の次くらいに多いんじゃないかってくらい、よくある“仕事”だ。
 こういうのは、結構請けてきたつもりなんだが。

 思いながら、眼前のソレを見る。か細い声で救いを求めるものを見る。一見ではただの少女のようにも見えるが……顔の見えないそれは影朧。オブリビオンだ。
 オブリビオンなら、常ならば討伐する依頼がほとんど。影朧であれば癒やしが受けられるところまでが仕事であることもあるが、それでも。
(影朧に対して真剣に懇願されたのは、思えば初めてかもしれねぇな)
 グリモア猟兵の情けない笑みと共に託された願い。『たすけてやってくれ』。……その依頼、便利屋Black Jackが確かに請け負った。

「だれ、か……」
 ソレはカイムへと手を伸ばす。
「……ああ」
 カイムはソレの──否、“彼女”の手を取る。迷うことなく、捕まえる。
「どうし、て……?」
 何故、と顔の無い彼女は問う。名前もなく、理由も無い悲劇によって死んでいったいくつもの魂を抱える彼女が、カイムに問う。
「“わたし”たちは、どうしてしななければ、ならなかったの?」
 伸ばされた手を掴んだ、繋がれた手。その指先から流れ込んでくるのは、彼女の、彼女たちの死の再現。それは、なんの変哲もない交通事故であったり。或いはよくある痴話喧嘩の末の殺人であったり、虐待の果ての死であったり、先天的に運命付けられた病の先にあった死であったり、すべてただの只のただの……よくある、普通の……どこにでもある、悲劇的な死。

 ……『どうして』?
 何故そんな悲劇が何故起きたのか、なんて質問の答えは、カイムは持ち合わせていない。故にただ、繰り返される死の再現を堪え続けた。繰り返される彼女の問いかけに応える代わりに、彼女たちの苦しみと痛みと辛さを一緒に味わってやる。最初からそういうつもりで彼女の手を握った。
 魔剣も銃も、引き抜くことはない。そんな必要はない。その代わり、握った手は絶対に離さない。どんなに痛くとも、辛くとも──彼女の手を握り続けた。

「……どうして……?」
 もう一度、しかし先ほどまでよりもなお弱々しく、彼女の声が問う。何故こんなふうに、どうして“わたし”たちはこんなに、苦しく、悲しくしななければならなかったのか……。
「違うね」
 だが、カイムは断ずる。キッパリと否定する。『何故』? 『どうしてしななければならなかったのか』?
 違う。その質問自体が間違っているのだ。
「そもそもアンタは死ぬ必要なんざなかったのさ」
 死ななければならなかったなんてことはない。だから、どうしてもなにもない。それでも答えが欲しいなら言ってやる。何度でも言ってやろう。アンタは。アンタたちのうちの、誰も。何も──
「何も悪くねぇのさ」
 幾度目の幻だったか──ちょっとからかうだけのつもりで始まったイジメで死んだ少女の夢を最後に、それは途切れた。

 わらう。
 掴まれた手はそのままに。問うのをやめ、改めてカイムを見上げた“彼女”を見て。顔の無い彼女に、それでも何らかの表情を見てとって、カイムはわらう。
「もう、大丈夫そうだな」
 彼女は静かに小さく頷き、そっとカイムの手を引いた。行きたいところがあるのだろう。
「分かってる。……付き合ってやるよ」
 どこへ行くのかは聞いていないが、別に問題ない。
 ありふれた死を迎えたものの、ありふれた願い。それを叶えることだって、きっと、どこにでもある、普通のことでしかないはずだろうから。

大成功 🔵​🔵​🔵​

スキアファール・イリャルギ
……"どうして"、か
どうしてなんでしょうね
普通に生きていたかったのに
幸せで在りたかったのに
もう『普通』は手に入らない

助けてと泣いて苦しいと叫んでも
声は届いてるのに言葉は届かない
怖がられ、無視され、罵られ、嘘を吐かれて――
……私は助けを求めるのを諦めてしまった
「助けて」と言えなくなってしまった
『普通』はもう、"影"になった私には眩しすぎて

……でも
あなたはまだ諦めたくないんだね
「助けて」と訴え続けている

目線を合わせるようにしゃがみ込み、その手をとりたい
厭がる様子がなければ、そっと頭を一撫でしてあげよう
痛くて、苦しくて、辛かったでしょう
……我慢しないで泣いていいんだよ

零れた歌は、励ましになるだろうか



●普通の
「どうして、どうしてなの……?」
 繰り返される問いに、スキアファール・イリャルギ(抹月批風・f23882)は俯く。はっきりとした解答を、すぐには用意できない。
 ……“どうして”か。
「どうしてなんでしょうね……」
 スキアファールは同じ問いをおうむ返しに繰り返す。どうしてだったのだろう。それは、ささやかな願いだったと思うのに。

 ただ、普通に生きていたかったのに。
 ただ、幸せで在りたかったのに。
 ……なのに、もう『普通』は手に入らない。

 怪奇人間とはそういうものだ。無論、決して望んでなったのではない。もとは人間であったもの。人間だったはずのもの。それだのに人間として扱われず、壊されて、崩されて……、
 助けてと泣いて苦しいと叫んでも、……声は届いてるのに言葉は届かない。
 怖がられ、無視され、罵られ、嘘を吐かれて──

 そうして。……助けを求めるのを諦めてしまった。
 「助けて」と言えなくなってしまった。『普通』はもう、"影"になった身には眩しすぎて。

 “影”は諦めたのだ。“影人間”となったもう己はヒトではないと。もはや『普通』にはなれないと。誰も助けてはくれない。声は届かない。どうやっても……元通りのニンゲンにはなれないのだと、そう、飲み込んで、諦めた。
 ……だというのに。あなたは、

 「どうして」「たすけて」と繰り返し求め、訴え続けている。

 あなたはまだ、諦めたくないんだね。
 諦めないんだね。

 スキアファールは少女の形をしたそれの前でしゃがみ込み、目線を合わせる高さに膝を折る。たすけを求めて伸ばされた手を取り、両の手で包み込む。
「……どう、して……?」
 どうしてなのか、ハッキリとした答えは持たない。それでもスキアファールは、そうしたいと思った。諦めずに答えを、助けを求めるその手を取りたいと思ったのだ。
 怯えるような気配に、少しだけ手探りながらもスキアファールは自分の手を彼女へと伸ばす。ゆっくり差し伸べた手で、優しく……頭をひと撫でした。
「痛くて、苦しくて、辛かったでしょう」
 彼女から伝わってくる、その内側に渦巻く苦しみは、彼も身に覚えのあるものがある。
「……我慢しないで、泣いていいんだよ」
 わんわん、ぎゃんぎゃんいって叫んでいい。辛いことは辛い、苦しいことは苦しいと、泣いていいんだよ。誰もあなたを責めやしない。

 ぽつり。音がこぼれる。あふれる想いを、旋律に乗せて。
 ……そうして零れた歌は、励ましになるだろうか。あなたのこころに届くだろうか。

 彼女は何も言わなかった。ただ、じっと静かに、その歌声に耳を傾けているようだった。
「……いきましょうか」
 そう言ってみると、少しだけ躊躇ったあと、こくりと頷いた。
 立ち上がると、思った以上に身長の差があって歩きにくいことがわかった。それでも。
 ……それでも、救いを求めたその手を離さずに、ふたりは並んで歩きはじめた。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 冒険 『はかない影朧、町を歩く』

POW   :    何か事件があった場合は、壁になって影朧を守る

SPD   :    先回りして町の人々に協力を要請するなど、移動が円滑に行えるように工夫する

WIZ   :    影朧と楽しい会話をするなどして、影朧に生きる希望を持ち続けさせる

👑7
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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 帝都をさまようは、ひとつの影朧。
 問い続けることをやめ、どこかへと向かおうとするソレ。否、“彼女”を代表とする、その内包する魂たち。
 彼女の移動する先々には、一般人もいる。……彼女の顔を見れば恐ろしく思うものもいるだろう。攻撃しようとする者も中にはいるかもしれない。或いは、列車に乗り合わせたりすればちょっとしたパニックが起きるかもしれない。

 だが、彼女自身には誰かを害そうという気はもはや無い。
 ……どうか、彼女が目的地にたどり着くまで、その身柄を守ってやってはくれまいか。

▼マスターより
 一章では『えっ、このボス戦、実は集団戦だった……?』みたいな描写ですみませんでした。しかし二章も似た感じで進みます。他の猟兵のかたに気兼ねすることなくお好きに町中を歩き回ってください。
 起きると言ったトラブルは基本的にそのまま起きますし、起きないと言えば起きません。ご自由にどうぞ。
幽遠・那桜
行きたいところがあるの?
良いよ。一緒に行こ?
あ、途中で買い物しよっか。お面あると、いいんじゃないかな?
手を繋いでいこ! はぐれないようにね。

もし、彼女に意地悪とか、陰口とか言うなら……「恐怖を与える」。
ちょっと待っててね。すぐ戻るから。

害はないの。あの子は私のお友達。
あんまり悪いこと言ったり、悪いことしようとするなら……悪夢を見るくらい怖いこと、しようか?(にっこり。)

お待たせ♪ じゃあ行こ! 時間は待ってくれないもんね。
……微睡みの時の私程じゃないけど、いっぱい、いっぱいあなたが明るい気持ちに出来るように笑うね。
少しでも、幸せになるように。
そして、この先ももっともっと幸せになるように。



●おともだち……?
 そろり、そろり。
 ゆっくりとした足取りで、影朧が歩きはじめる。なにか目的地があって、そこへ向かおうとしているように見えた。
「行きたいところがあるの?」
 幽遠・那桜(微睡みの桜・f27078)は彼女の顔無しの顔を覗き込む。影朧はゆっくりと頷いた。
「良いよ。一緒に行こ?」
 そのまま歩きだそうとしたが、不意に彼女を振り返る。
「あ」
 そうだ。いいことを思いついた。
「途中で買い物しよっか」
 お面あると、いいんじゃないかな?
 そうしたら顔も隠せるし……。うん、可愛いのがあったらいいね。
「手を繋いでいこ!はぐれないようにね」
 きゅ、と手を握って、彼女と共に歩きだす。商店街を塗って、お面を行っていそうなお店を探す。

 ……だが、お面を買う店に着くまでの間。
 (ねぇ、あれ……)(顔が無いよ)(おばけ?)(きっと影朧よ)(なんでこんなところに)(どうして桜の精が一緒にいるのかしら?)(何か企んでるんじゃねぇだろうな……)(おい、何か武器になりそうなもの)
 ひそひそときこえる、こえ。無辜なる人々の声。
 好奇の目。或いは畏怖と、憐憫と……ほんの少しの敵意と。様々な感情と共に、だが直接声をかける勇気もないのか、ただ遠巻きに視線だけを寄越してくる。
 ……当の彼女は、その視線に僅か怯えているようにも見える。
「……」
 黙っていられるはずもない。
「ちょっと待っててね。すぐ戻るから」
 怖がらせないように、そっと、なるべく柔らかい声と笑顔で言って、彼女の傍を離れる。

 影朧から離れて、人々のもとへとやってきた猟兵へと、彼らは口々に声を上げる。
「害はないの」
 あの子はもう、誰かを傷付けるつもりなんてない。あなたたちが恐れる必要なんて、どこにもない。
「でも、影朧は影朧じゃ……」
「あの子は私のお友達」
 相手の言葉を遮って言う。あの子と私はもうお友達。誰にも悪いことしようなんて思ってないし、むしろ今、悪いこと言ってきてるのはあなたたちのほうだよ。
 ……だから、ねぇ?
 もしあなたが、私のお友達に、あんまり悪いこと言ったり、悪いことしようとするなら……、
「悪夢を見るくらい怖いこと、しようか?」
 にっこり。墨染が見上げた男は、ヒィと情けない声を上げて退いた。

「……さ。お待たせ♪」
 とことこと、彼女のもとへと戻る。会話の内容は聞こえていなかっただろうが、ひそひそ声に囲まれていたときよりは、ほんの少し気楽そうにも見えた。
「じゃあ行こ! 時間は待ってくれないもんね」
 改めてその手を取り、微笑みかける。……うまく、笑えているだろうか。
 墨染のこの私は……微睡みの時の私ほど上手じゃないけど、いっぱい、いっぱい。あなたを明るい気持ちにできるように笑うね。今のあなたが少しでも、幸せになるように。

 そして、この先ももっともっと幸せになれるように。

大成功 🔵​🔵​🔵​

カイム・クローバー
目的地へ向かう道中。周りからは奇異な目で見られたりするのかい?
俺は気にしねぇが…彼女はそうでもねぇのか。誰かを傷付けるつもりもねぇのに、妙な視線でジロジロってのは気に入らねぇな。

……ちょっと待ってろ。頭に軽く手を置いて、適当な店に入って帽子を買うぜ。カプリーヌっつーんだっけな。黒髪に映えるライトグレーの明るめの帽子を頭に被らせるぜ。
これで表情は少し隠れる。要らねぇ無遠慮な視線に晒される必要もねぇさ。
それ、やるよ。クリスマスプレゼント……って、この世界じゃクリスマスねぇのか?
あー…とにかく、それはやる。
手を繋いで、彼女の向かう場所に共に向かうぜ。行きたいトコってのは一体どんなトコなんだろうな…



●くりすますプレゼント……?
 さてと。ふらりと歩きだした彼女と一緒に街を歩く。どこだかは知らないが、彼女の目的地へと向かう道中。
 ……すれ違う人々の視線がこちらに向いているのを感じる。奇異の目。ま、そりゃそうか。
 カイム・クローバー(UDCの便利屋・f08018)は軽く息を吐く。カイム自身はどんな目で見られようと別に気にすることはないが……彼女は違うだろう。周囲を見回しながら、怯えるような挙動で少しずつ歩いている。
 すでに害意を無くした影朧だ。ただほんの少しの心残りを果たすために街を横切るだけで……誰を傷付けるつもりもないのに。
 影朧であるというだけで、姿がヒトらしからぬというだけで、ジロジロと妙な視線で見られるってのは……気に入らねぇ。
 カイムは逆にジロリ、と彼らのほうを睨めつけてやる。それだけでも少しはマシになったように思えたが……、

「……ちょっと待ってろ」
 ひとつ思いついたことがあって、カイムは彼女の頭に軽く手を置き、そう言ってやる。
『……?』
 彼女は少し首を傾げたが、待っていろと言われたのでそこで彼の帰ってくるのを待つことにしたようだ。街中によくある、待ち合わせに使われがちなオブジェの前。
 その間に、彼女が一応見える範囲の店に入って、急ぎの買い物を済ませる。ブランドだのなんだのはよく分からないが、似合いそうなものを選んだつもりだ。
「ほら」
 お待たせ、と言いながら彼女に渡したのは、黒髪に映えるライトグレーの帽子。確かカプリーヌっつーんだっけな。とにかくこれで表情は少し隠れるし、要らねぇ無遠慮な視線に晒される必要もねぇさ。
 ……彼女はその帽子のつばを両手で抑えて、おろおろとしている。カイムを見上げる。戸惑っているのだろうか。
「それ、やるよ。もうすぐクリスマスだし……」
 クリスマスプレゼントだ、と言おうとして、彼女が一層困惑しているのを見て取る。
「って、この世界じゃクリスマスねぇのか?」
『??』
「……とにかくそれはやる」
 理由がなけりゃプレゼントをしちゃいけないなんて決まりもないだろう。
「さ、行こうぜ」
 カイムは彼女と手を繋ぐ。
「行きたいとこがあんだろ?」
 言うと、彼女も小さく頷いた。弱々しいながらも、手を引いて歩きだす。

 ……にしても。
(行きたいトコのは一体どんなトコなんだろうな……)
 様々の想像を巡らせながらも、帽子をかぶって心なしか少しだけ機嫌の良さそうな彼女と並んで歩く。
 彼女の行きたがっているそれがどんな場所なのかはまだ分からないが──おそらく。きっと、楽しいところなのだろう。そんな予感を胸に抱いて。

大成功 🔵​🔵​🔵​

朱酉・逢真
坊っちゃんと/f22865
心情)おンやそいつァおもしれェ案さ。いいよォ、"虚飾"は得意のひとつさ。かわり嬢ちゃんらの相手は任せるぜ。
行動)おいでネム坊(*ネメアーズライオン)。俺を乗せとくれ。《服》をいじって装飾多めのピエロになろう。ああ、ネム坊も飾ってやろうな。眷属ども。ハデな獣に、きれいな鳥ども。蝶をウンと飛ばして。ああ、ゾウでも呼ぼうかい? 俺の眷属だ、体躯にゃめぐまれてねェかもな。さァさ仕上げだ、みィんな面をかぶりな。俺の《服》から分けてやろう。ああ、顔に蝶はっつけてもいい。坊は自前で頼むぜ。いざ進めやサヨナラパレード。サーカスは足かけ非日常。影朧が混ざっても気づきやしないさ。


雨野・雲珠
かみさまと/f16930

この子も皆様も怖くないのが一番ですよね…
かみさま、ご相談なんですけど。
いっそのこと…(ごにょごにょ)

うわぁ…!うわー!
想像の百倍すごいです!とても楽しげです!
俺たちも仮面をつけて、
【六之宮】で風船を山ほど出して、お嬢さんにも渡します
これで俺たちもパレエドの一員。
もうこの子が何者かなんて、誰も気になさらないでしょう。

行き先は君任せ。
参りましょうかみさま、パレエドの出発です!

怯えてないでしょうか。
仮面で少し気が大きくなればよいのですが…
最初はしっかり手をつないで、
手を振ってくれる子には二人で振り返したりします。
ほら、あの子。風船がほしいみたいですよ。
ひとつさしあげてみては?



●しあわせ……?
 さて、どうしましょうか。
 どこかへ行こうとする影朧を前に、雨野・雲珠(慚愧・f22865)は考えを巡らせる。顔のない影朧の隣。彼女を連れて街中を歩くとなると……街の人は怯えてしまうかもしれないし、もう無害だとはいっても心無い言葉をかけられれば彼女も傷ついてしまうだろう。
「この子も皆様も傷付かないのが一番ですよね……」
 ふーむ……。
 しばし、考える雲珠。
 ただ目的地に行くだけなら簡単だ。最初に彼女から行きたい場所を聞き出して、あとは……たとえば箱宮に入ってもらってでも……姿を隠して移動すればいい。彼女が傷付けられることもないし、道行くひとが怯える必要もない。
 ……でも。
 それなら確かに直接誰かにひどいことは言われないだろうけれど、……誰にも見られないようにひっそりと移動しなければならないと、そういうふうに突きつけられる彼女は……辛いのではないでしょうか。
(せっかく帝都の街を歩けるかもしれないのに……)

「!」
 『街を歩く』。そうだ、それならいっそ。
「かみさま、ご相談なんですけど」
 ごにょごにょ。
 耳を寄せてもらって、ひそひそ声でのご相談。もしできたら、なんですけれど、こういうのはどうでしょう。
「おンやそいつァおもしれェ案さ」
 ひひ、と笑って答えたのは朱酉・逢真(朱ノ鳥・f16930)、ヒトの陰に寄り添う神。
「いいよォ」
 逢真は二つ返事で引き受ける。"虚飾"は得意のひとつであるから。 ただし、と断りを入れて。かわり、嬢ちゃんらの相手は任せるぜ。
 彼女と、彼女が抱える幾多の魂たち。逢真はその手を引こうとはしない。それは雲珠がやる役割だ。

 雲珠がそれはもちろん、と答えれば話は早い。さあ、おいでネム坊。俺を乗せとくれ。
 逢真が喚びだした不殺の獅子……ネメアーズライオンがその背に逢真を乗せる。それから《服》も変えよう。いつもの格好から、装飾多めのピエロの姿に。ああ、無論ネム坊も合わせて飾ってやるとも。
 それから他の眷属たち。派手な獣も喚んで、きれいな羽の鳥に、美しい羽根の蝶たちもウンと飛ばしてやって。ああ、そうだ。せっかくピエロになったんだし、ゾウでも呼ぼうかい?
 サーカスにゾウはつきものだろう。……逢真の眷属なので、少々体躯には恵まれていないかもしれないが、そこは愛嬌というものだろう。
「さァさ仕上げだ」
 みィんな面をかぶりな。俺の《服》から分けてやろう。顔に蝶はっつけてもいい。
 いざ進めやサヨナラパレード。サーカスは足かけ非日常。帝都の街中を突き進む仮面の行列。大きなライオンに乗ったピエロを先頭に、ちょっと頼りないゾウ、仮面を着けた様々の獣、きらびやかな羽根の鳥……こン中に影朧のひとりくらい混ざっても、だァれも気づきやしないさ。

「ああ、そうだ。坊は自前で頼むぜ」
 逢真は雲珠へと声をかける。仮面は自力で調達してくれ。眷属と違って《服》を分けてやるわけにいかない。
 ええ、それはもちろん。と答えそうなものだったが、雲珠は。

「うわぁ……!」
 う、うわぁ、うわー!

 ──雲珠は、はしゃいでいた。

「想像の百倍すごいです! とても楽しげです!」
 きらきらと目を輝かせる。逢真は苦く笑うが、まァ喜んでいるなら何よりだ。
「さ、お嬢さん」
 雲珠は隣で呆然と立っていた影朧へと微笑み、仮面を差し出す。お揃いですよ。
 やたらと大きなライオン、とびきり派手なピエロに、不思議な模様の蝶々。それから、【六之宮】で山ほど出した風船をふたりで分けっこして、さあ、愉快なパレエドに加わりましょう。これで、このなんでもありの仮面パレヱドの一員です。
 これなら誰も、俺たちが何者かなんて気になさらないでしょう。

 もちろん、行き先は君任せ。さあ、行きたいほうを教えてくださいね。
「参りましょうかみさま、パレエドの出発です!」
 雲珠が彼女に道をきいて、かみさまに伝える。先頭のピエロが号令をとれば、仮面の行列は進みだす。

(……)
 雲珠はそっと隣の彼女を見やる。ついつい大掛かりなことをしてしまったけれど、怯えていないでしょうか。しっかり繋いだ手。もう片方の手には、ふたりとも風船を持って。
 続く行列。どこまでも続く一夜限りのパレエド。なんの祭りかは分からなくとも、通りがかりの人は手を振ってくれたりもする。そっと繋いだ手を離してみて、彼女と一緒に手を振り返したりなんかもして。
「あっ。ほら、あの子」
 風船がほしいみたいですよ。声をかけようかどうか、悩んでいる様子の子ども。
「ひとつさしあげてみては?」
『……』
 その言葉に、彼女はしばし戸惑うように、手にした風船と雲珠と子どもとを見比べた。
「……では、一緒に行きましょうか」
 雲珠は彼女の手を取り、子どものほうへと向かう。おずおずと、といった様子でついてきたが、抵抗する素振りはなかった。
「どの風船がいいですか?」
 訊ねてみると、彼女が持っていた風船のうちのひとつを指差したので、彼女がそっとそれを手渡した。ありがとう、と笑って手を振る子どもに、自然とふたりで手を振り返した。
 お互いに仮面をしているから表情は分からないけれど、もし見えるとしたら、きっと同じ表情をしているのだろう。なんとなくだけれど、そんなふうに思えた。
る子どもに、自然とふたりで手を振り返した。
『……』
 ふと、何かに気付いたように彼女は雲珠を振り返る。走り去った子どものほうを示して、
『……?』
 その問いかけは、たぶん。彼女がずっと求めていたものの答えでもあって。はっとしたけれど、なるべく落ち着いた声で、返事をした。
「はい。……きっと」
 雲珠は頷く。たった今、彼女自身が、彼女の手で“それ”を誰かに受け渡すことができたのだ。
『……』
 彼女もまた静かに頷いて、改めて繋いだ雲珠の手を引いて行列に戻った。手を握るその力は弱く、彼女が本当にもうなんの害意もない影朧であることと……“彼女”の終わりが近いことを感じさせた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

箒星・仄々
理由を問うのは過去に囚われているから

今日の旅路で何かしら喜びや楽しさを感じられたら
それらをまた味わいたいと思って下さったら
きっと未来へ進む=転生への後押しとなるはず

御供を仕ります
折角ですから
沢山回り道しましょう

手をつないだまま散策

ベールを購入しプレゼント
一般の方への対策も兼ねて

他者を慮ることは卑下とは違います
それにとってもお似合いですよ

影朧の転生の必要性はご存じでも
反応は様々でしょう
許容や好意
恐怖や拒絶

様々な人の感情も
世界を彩るものかもしれません
闇夜も好きですが…星空の下の方が
歩くのは楽しいですよ

オープンカフェでお茶で一服(色々な方々の反応も横目で楽しんで
さて参りましょうか
と肉球ハンド



●へんじゃない……?
(理由を問うのは、過去に囚われているから)
 箒星・仄々(ケットシーのシンフォニア・f07689)はそう思う。どうして、なぜ、と彼女が繰り返し訊ねるのは、きっと過去の悲しい思い出に囚われてしまっているから。
 でも今の彼女は、帝都の街をどこかへ歩いていこうとしている。なにか、やりたいことが……目的があるのだ。それはきっと、未来につながること。今日の旅路のなかでもしほんの少しでも楽しさや喜びを感じられたなら。それらをまた感じたいと思ってくださるのなら。
 きっとそれこそが、貴女が転生する……過去から解き放たれ、未来へと進むための希望になるはずですから。

 いいでしょう、御供を仕ります。何かがしたいという前向きな気持ちは、とても大切なことです。折角ですから、沢山回り道しましょう。帝都の色んなものを見て回りませんか?
 仄々はぷにっとした肉球で、しっかり彼女と手を繋ぐ。帝都散策、始めましょう。

 そうそう、散策の最初にこれを。これから未来へ向かう貴女へ、私からのプレゼントです。
 ちょっとだけ屈んでもらって、彼女にベールをかぶせる。すぐそこのお店で、レースで編まれた素敵なのを選んできたのだ。
『……』
 彼女は少しだけ戸惑った様子で辺りを見回す。ショウウィンドウのガラスに姿が映る。
「とってもお似合いですよ」
 不安そうな彼女に、仄々は笑ってみせる。大丈夫。誰も変になんて思いません。
 そりゃあ、影朧が街を歩いているのを見たら怖がるひともいるかもしれませんし……どこかの誰かのその感想自体は否定できません。でも、他者を慮ることは、卑下とは違います。
「ほんとうに、ちゃんと似合っています。素敵ですよ」

 ──帝都の人々だって、影朧の転生の必要はご存知でしょう。転生には癒やしが必要であることもご存知のはず。……それでも、帝都に現れる影朧が暴力を振るうこともまた周知のこと。
 影朧を見たときの彼らの反応も様々でしょう。許容してくれるかたもいるかもしれません。癒やしを得る最中の彼女に好意的なかたがいらっしゃるかもしれません。或いは単純に恐怖し、怯えるひともいるかもしれません。拒絶されるのは悲しいことですが……そういう、様々なひとの感情も、世界を彩るものの一部です。
 それはたとえば、覗き込んだ万華鏡の中のようにきらきらと輝いて、くるくると様変わりしていくもので。夜空の星のように、ちかちかと瞬くもので。
「個人的には闇夜も好きですが……星空の下の方が、歩くのは楽しいですよ」

 そんなことを話しながら、オープンカフェでお茶を一服。もちろん色んな人から見えますが、こちらからだって色んな人が見えます。誰にも恥じることなんかない。むしろ、色々な反応をしてくれるいろんな方々の反応を楽しむくらいが良いと思いますよ?
「さて、参りましょうか」
 とて、と椅子から降りた仄々は手を差し出す。肉球ハンドで手と手を繋いで、さあ。鼻歌交じりに堂々と街を歩きましょう。

大成功 🔵​🔵​🔵​


●……あったかい……
「あ、」
 先生。

 偶然と言えば偶然。しかしここはサクラミラージュであるから当然と言えば当然。スキアファール・イリャルギ(抹月批風・f23882)が遭遇したのは、帝都桜學府所属の桜の精であり彼の主治医でもある桃原医師。ちょっとばかり声が大きいが、お節介焼きで正直で……いや、ちょっと煩いしテンションが高かったり過保護なところもある変人でもあるが……、情に厚く、信頼に足る人物だ。
「ちょうど良かった。実は……」
 これこれ然々、と事情を説明する。街の人々にも協力していただけるように要請したいと思っていたところだったので、先生がいてくれたのは助かった。學府からの情報ならば街の人々も安心出来るでしょうし、互いに無駄な警戒を生まなくて済むはず。

 先生が手はずを整えてくれている間に……、
「あの、これ」
 スキアファールは自分が着ていた上着を脱いで、影朧の子に羽織らせる。もちろんサイズはぶかぶかだし、彼女が着ているサクラミラージュの古風な着物とのコーディネートとしては……あまり似合っているとは言えない。
 でも。
「最近は寒いですし。ね?」
 耳が出ているとすごく冷えますから。
 そう言ってフードを被らせる。……周囲から顔を隠す意味でも、そのほうがいいと思ったのだけれど、それについては口に出さずに。そっとかぶせてあげる。
『……』
 彼女はきゅ、とフードを深くかぶった。

「さあ、どこへ行きましょうか」
 どこか行きたいところがあるんでしょう?
「……あなたのペースで大丈夫ですよ」
 スキアファールは屈んで彼女の顔を覗き込む。表情が見えるわけではないが、戸惑っているようなのは分かる。不安だろう。本当に街を歩いて大丈夫か、傷付けられないか誰かを傷付けないか分からないのだろう。
 最初の一歩を踏み出すのに勇気がいるなら、小さな声で歌を歌ってあげよう。大丈夫、私も一緒です。

「……そうだ」
 ふと思い出してポケットを探る。
「よかったらこれどうぞ」
 ころん。出てきたのは飴玉ひとつ。小さな影朧の子はおずおずとそれに手を伸ばし、受け取った。
 それを見ていたのは、桃原医師。なんですかその視線。ニヤニヤして。
 ……え。親子みたい?

「ち、違いますよ」
 つい否定したが、
「あっ、別にあなたが子どもなのが嫌ってことではないんですよ」
 慌てて彼女へフォローを入れる。ただちょっと恥ずかしかっただけです。照れちゃって……。

 ……おやこ。
 ああ、でも。“普通”の親子って、こんな感じなんでしょうかね。
▼操作ミスしましたごめんなさい(土下座)
スキアファール・イリャルギ
あ、先生
(※帝都桜學府所属の彼の主治医、桜の精の医師に会いました)
丁度良かった、お願いがあるんです
影朧の子の事を先生に話し、街の人々の協力の要請を依頼

あと上着を脱ぎ影朧の子に着せましょう
サイズは大きいし、お召し物とは似合わないかもしれませんが
最近は寒いですし、ね?
耳も冷えないようにとフードを被らせる
……周囲から顔を隠す為でもありますが、それは言わずに

あなたのペースで大丈夫ですよ
ゆっくり景色を楽しんで歩きましょう
繋いだ手はしっかりと握って離さずに
不安そうな時は勇気が出るような歌を歌ってみます
そうだ、よかったらこれどうぞ(飴玉ひとつ差し出し)

……何ですか先生ニヤニヤして
親子みたい?
違います(照れ)



●……あったかい……
「あ、」
 先生。

 偶然と言えば偶然。しかしここはサクラミラージュであるから当然と言えば当然。スキアファール・イリャルギ(抹月批風・f23882)が遭遇したのは、帝都桜學府所属の桜の精であり彼の主治医でもある桃原医師。ちょっとばかり声が大きいが、お節介焼きで正直で……いや、ちょっと煩いしテンションが高かったり過保護なところもある変人でもあるが……、情に厚く、信頼に足る人物だ。
「ちょうど良かった。実は……」
 これこれ然々、と事情を説明する。街の人々にも協力していただけるように要請したいと思っていたところだったので、先生がいてくれたのは助かった。學府からの情報ならば街の人々も安心出来るでしょうし、互いに無駄な警戒を生まなくて済むはず。

 先生が手はずを整えてくれている間に……、
「あの、これ」
 スキアファールは自分が着ていた上着を脱いで、影朧の子に羽織らせる。もちろんサイズはぶかぶかだし、彼女が着ているサクラミラージュの古風な着物とのコーディネートとしては……あまり似合っているとは言えない。
 でも。
「最近は寒いですし。ね?」
 耳が出ているとすごく冷えますから。
 そう言ってフードを被らせる。……周囲から顔を隠す意味でも、そのほうがいいと思ったのだけれど、それについては口に出さずに。そっとかぶせてあげる。
『……』
 彼女はきゅ、とフードを深くかぶった。

「さあ、どこへ行きましょうか」
 どこか行きたいところがあるんでしょう?
「……あなたのペースで大丈夫ですよ」
 スキアファールは屈んで彼女の顔を覗き込む。表情が見えるわけではないが、戸惑っているようなのは分かる。不安だろう。本当に街を歩いて大丈夫か、傷付けられないか誰かを傷付けないか分からないのだろう。
 最初の一歩を踏み出すのに勇気がいるなら、小さな声で歌を歌ってあげよう。大丈夫、私も一緒です。

「……そうだ」
 ふと思い出してポケットを探る。
「よかったらこれどうぞ」
 ころん。出てきたのは飴玉ひとつ。小さな影朧の子はおずおずとそれに手を伸ばし、受け取った。
 それを見ていたのは、桃原医師。なんですかその視線。ニヤニヤして。
 ……え。親子みたい?

「ち、違いますよ」
 つい否定したが、
「あっ、別にあなたが子どもなのが嫌ってことではないんですよ」
 慌てて彼女へフォローを入れる。ただちょっと恥ずかしかっただけです。照れちゃって……。

 ……おやこ。
 ああ、でも。“普通”の親子って、こんな感じなんでしょうかね。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第3章 日常 『偉人の愛した秘湯』

POW   :    秘湯に使って疲れを癒す

SPD   :    旅館の料理に舌鼓を打って疲れを癒す

WIZ   :    幻朧桜を愛でて疲れを癒す

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 辿り着いたそこは、なんの変哲もない旅館。
 幻朧桜を眺めることができ、温泉に入ることができ、ゆっくり食事をとることができる。
 ただそれだけ。

 それだけのことを、どうか。


▼マスターより
 ここが目的地です、お疲れ様でした。
 二章と同じく、バラバラ行動になります。(彼女がどうなったのかも含めて)みなさまそれぞれに、お好きに過ごしてくださいませ。
カイム・クローバー
取り立てて特別なモンも無ぇが……ああ、けど、幻朧桜は美しく眺められる。

呆然と幻朧桜を眺めながら話でもするか。
来るだけで良かったのかい?……色々な。死んじまったヤツの想いが今のアンタを作ってる。……会いたい人だって居たんじゃないのか?
家族や恋人、友人…望むなら探してやってもいい。会えりゃ、未練も無くなるとは言わねぇが、ちっとはマシになる。
俺は桜の精じゃねぇから転生ってのは出来ねぇ。だから、それぐらいなら追加で仕事してやっても良い。

人探しは得意なんだ──何だ、もう行くのか?
もうちょっとゆっくりしていけば良いのによ。こんなイケメンと来れるなんて機会、そうそう無いぜ?
惜しい事してる(苦笑)──またな?




 正直に言ってしまえば、ちょっと拍子抜けだった。影朧になってまで彼女が執着した場所は……辿り着いてみればなんの変哲もない、普通の旅館だった。偉人が愛したとかいう看板はあれど、それだけ。
 カイム・クローバー(UDCの便利屋・f08018)は辺りをぐるりと見回して、その事実を再確認する。特筆すべきことはなにもない。
「取り立てて特別なモンも無ぇが……」
 見上げても、咲いているのはサクラミラージュのどこにでも見られる桜だけ。……ああ、けれど。
 けど、ここは幻朧桜を美しく眺められる場所だ。
 そういう意味でも、偉人が愛した秘湯というだけのことがあるかもしれない。

 カイムは特に何をするでもなくぼんやりと桜を見上げながら、彼女へと話しかけてみる。
「……来るだけで良かったのかい?」
 これ以上どこへ行こうともしない彼女への問い。小さな影朧は、質問の意味が分からないとでもいうように、首を傾げた。
「いや、ほらなんつーか」
 ……色々な。死んじまったやつの思いが今のアンタを作ってる。心残りってやつは、そりゃ人にもよるだろうが……会いたい人だって居たんじゃないのか?
 例えば家族や恋人、或いは友人……。もしアンタが望むなら探してやってもいい。会えりゃ未練が無くなるとは言わねぇが、たぶんちっとはマシになるだろ。
「俺は桜の精じゃねぇから転生ってのは出来ねぇ」
 そのために必要な癒やしを、カイムが与えてやることはできない。だから代わりと言ってはなんだが、人探しぐらいなら追加で仕事してやっても良い。そういう提案だったのだが。
『……』
 ふるふると、静かに首を横に振る。会いたい人がいない、のだろうか、それとも要らない、だろうか。
「そうか? 人探しは得意なんだ──」
 そう言いかけて、
「何だ、もう行くのか?」
 ほんの少し、苦笑した。ああ、なんだよ。時間が無いのか。……もうちょっとくらい、ゆっくりしていければ良いのに。だってさ、
「こんなイケメンと来れるなんて機会、そう無いぜ?」
 勿体ない。せっかくのチャンスなのに、惜しいことしてるぜ。

 そう茶化してひとつウィンクもしてみせて──もう一度、柔らかく笑った。
「──またな?」
 転生したら、また会おう。どんな形になるかは分からないが、きっとまた会える。その時にはまた……桜の木の下で。今度はもう少しゆっくり、さ。
 彼女はこくりと頷いた。ライトグレーの帽子に、大事そうに手を添えて──

 疲れ切っていた影朧は、まるではじめから何もなかったかのように……だが確かにそこに“居た”と、証をのこして……その場から、その世界から姿を消したのだった。

「……『たすけてやってくれ』、か」
 残されたカイムは、最初の依頼の言葉を思い出してひとりごちる。眼前には満開の幻朧桜。その加護はきっと、彼女を導いてくれるだろう。
「この依頼、果たしたぜ」
 ひとり、彼女が最後に見せた仕草を思い出しながら、便利屋は微笑んだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

スキアファール・イリャルギ
お疲れ様です、頑張りましたね
労うようにそっと頭を撫でてみる
あ、お腹空いてませんか?
食事をしながらお話ししましょうか
何でもいいんですよ
思ったことをその儘言ってみてください
聴いて、頷いて、応えますから
嫌いな食べ物があったら代わりに食べますね

ご馳走様でしたの後は幻隴桜がよく見える場所へ
消えてしまう前にそっと影隴の子を抱く
両親や先生が私を慰める為によくしてくれたことなんです
やっぱり親子みたいだって笑われますかね
……私も、少しだけ『普通』になれたってことかな
あなたのおかげです、ありがとう

……あなたを救えたでしょうか
少しでも幸せにできたでしょうか
零れるのは子守唄
どうか来世は幸せになれますように
……おやすみ




「……お疲れ様です」
 頑張りましたね。

 スキアファール・イリャルギ(抹月批風・f23882)の手が、そっと彼女の頭を撫でる。いたわりとねぎらいを込めて。
「あ、お腹空いてませんか?」
 ぽんと思いついたことをそのまま言ってみる。影朧もお腹はすくだろうか。影人間でもご飯は食べるのだから影朧だってそうかもしれない。
 せっかく旅館まできたのですし、ねえ。お食事しながらお話ししましょうか。ああ、ほら。あそこにちょうど良さそうなお食事処もありますし。

『……』
 なにを喋ったらいいのか分からないのか、席についてからも彼女はしばし無言だった。食べたいものを尋ねたけれど、何を聞いても困ったように首を横に振るので、とりあえず何品か頼んでみて、気になるものを好きに食べようということになった。
「……なんでもいいんですよ」
 あなたが何を食べようと、食べ残そうと、文句をつけたり叱ったりしません。嫌いなものがあったら代わりに食べますし、お喋りだって……何も言いたくないなら、それでもいいんです。
 でも何か思ったことや言いたいことがあるなら、思ったことをその儘言って見てください。聴いて、頷いて、応えますから。

 『ご馳走様でした』をふたりで言って、食事処を後にする。旅館の中でも、とびっきりに幻朧桜がよく見える場所へ移動した。
 スキアファールは彼女のからだをそっと抱く。細くて、はかない躰。今にも消え入りそうな彼女を抱きしめる。そうするのが、なんだかとても自然なような気がして。
「……嫌じゃないですか?」
 一応確認して、
「両親や先生が、私を慰めるためによくしてきれたことなんです」
 照れ隠しに少し笑って。でも、手は離さないで。

 さっきのあの先生、私たちを見て笑ってたでしょう。こんなところを見たらやっぱりまた親子みたいだって笑われますかね。
 まだ『普通』だった頃の両親も、昔はよくこうしてくれました。
(……ああ)
 私も、少しだけ『普通』になれたってことかな。
「あなたのおかげです。……ありがとう」
 
 やがて、

 かれの腕に抱かれたまま、彼女という影朧だったものはあるべき場所へ還っていく。
(私は)
 ……あなたを救えたでしょうか。
 桜の舞い散る空を見上げ、問うてみる。
 私はあなたを、少しでも幸せにできたでしょうか。

 返事はない。
 零れるのは子守唄。
 どうか来世は幸せになれますように。願いを込めて。
「……おやすみ」
 おやすみなさい。どこかを巡ってまたどこかで生まれ変わる、そのときまで。今は安らかに、ねむってください。

大成功 🔵​🔵​🔵​

箒星・仄々
温泉をぜひ楽しみましょう

近くを散策
温泉饅頭をぱくり
温泉の前には甘いものをとるといいんですよ(ほく

旅館に戻ったら当然卓球です
卓球部だった魂さんもおられるかも?

貸し切りの露店風呂でどうぞごゆっくり
その間私は外で弦を爪弾きお待ちしましょう

夕食をお部屋でいただきましょう
お刺身とかお鍋とか美味しいですね~

人心地ついたら近くの広場で花火
線香花火にはついついじっと見入ってしまいますよね

魔力の矢を打ち上げ花火として
翠緋蒼で空を彩ります

…またこんな風に楽しみたいと
未来への眼差しが芽生えていたら
花火の明滅の中
舞う桜吹雪の中
影朧さんはいつの間にか消えるでしょう
笑顔で転生の旅路へ

またいつの日か

さて温泉をいただきますね




 さて、辿り着いたのは偉人が愛した秘湯を看板にする旅館。……となれば、もちろん。
「温泉をぜひ楽しみましょう」
 箒星・仄々(ケットシーのシンフォニア・f07689)は彼女の手を握ったまま、歩きだす。温泉の楽しみかた、ご存知ですか?

 まずは辺りを散策しましょう。お湯に浸かるばかりが温泉ではありません。ほら、あそこにお店があります。
「温泉の前には甘いものをとるといいんですよ」
 二人分の温泉饅頭を買って、茶屋で並んでいただく。ぱくり。ほくほく。美味しいですね。これも温泉の醍醐味です。
『……』
 彼女はしばし戸惑った様子だったが、結局は仄々に倣った。

 旅館に戻ったら、温泉に入る前にこれ。温泉旅館と言えば当然、卓球です!
 元卓球部のかたは貴女のなかにいらっしゃいませんか? ふふ、いいんですよ、本気を出しても。
「私も全力で楽しませていただきます」

 ──そんなこんなで、しばし運動して。

「お疲れですか?」
 ちょっと汗をかいてしまったかもしれませんね。でも、それがちょうど良いのです。
「どうぞ、ごゆっくりしてください」
 露天風呂は貸し切っておきました。誰にも気兼ねすることなく秘湯を堪能していらっしゃい。
『……?』
「私ですか?」
 首を傾げる彼女に、
「私もあとでいただきますよ。今日の主役は貴女ですから」
 外でお待ちしていますけど、気にしなくても大丈夫です。貴女のリラックスに一役買えるよう、弦を爪弾いていますからね。

 お風呂から上がったらお部屋へ。お夕食をいただきましょう。お鍋はやっぱり一人で食べるより誰かと一緒がいいですね。新鮮なお刺身も美味しいですね〜。
「食べ終わったら、もう少しお付き合いいただけますか?」
 もぐもぐ、ふたりで一つのお鍋を食べ進めながら次の予定を確認する。せっかくだからあと少しだけやってみてほしいことがある。彼女は不思議そうにしながらもこくりと頷いた。

 部屋にあった浴衣を着て、旅館の近くの広場まで。あたりはもう暗くて、だけれど月明かりがその分綺麗で。
「花火にはもってこいですね」
 仄々は彼女に花火を手渡す。ここをちゃんと持ってくださいね。一応、火ですから気をつけて。
 ぱちぱち。音と光を放つそれを眺める。
「……線香花火って、ついつい見入ってしまうんですよね」
 ぱち、ぱち、ぱちり。最後の名残を残してぽたんと落ちる火花の珠。これで終わりじゃ、ちょっと寂しいので。
「いきますよ!」
 せーの、と勢いをつけて魔法を放つ。三色の魔法の矢。風の翠、火の緋に水の蒼。打ち上げ花火が夜空を彩る。

(……ねえ、貴女)
 今のこの時間が、貴女のこころを潤せていたらいい。
 またこんな風に楽しみたいと、いつかの未来に思いを馳せることができたなら。未来への眼差しが芽生えていたら。

 花火の明滅の中。
 舞う桜吹雪の中。

 ──いつの間にか。
 あまりに自然に、風景に溶けるかのように、彼女の姿は消えていった。

 仄々はやわく笑う。笑顔で見送るのが一番だとおもった。
「……また、いつの日かお会いしましょう」

 小さな声で別れを告げて。
 ──さて、約束もしてありますし、改めて温泉をいただきましょう。
 とて、と仄々は旅館のほうへと足を向けた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

朱酉・逢真
頼れる坊と/f22865
心情)ああァ、こりゃ坊を頼るしかなさそうさ。メシは食えんで風呂も結界越しときちゃア、すまねェ雲珠坊。桜の子よ。俺ァなにもできなさそうさ。任しちまうが構わんかい?
行動)頼れんついでだ、ちびを呼ぼうか。お兄ちゃんの手伝いしておいで。なァにたやすいさ。ヒトの"フツウ"をすりゃいいさ。旅先ではしゃぐ兄弟姉妹のように、嬢ちゃんらと遊ぶがいい。起きてる間は任せよう。寝かしつけるが俺の仕事さ。さァ、もう寝る時間だ。そばへおいで、子どもたち。まぶたを閉じて、子守唄をお聞き。"夜明け"まで"俺(*夜)"が抱いていよう。さあ、おやすみ。おやすみ。かわいい子たち。赦(*あい)しているよ。


雨野・雲珠
かみさまと/f16930

はっ…ここは俺がしっかりせねば!
お嬢さんが温泉を楽しめる、
お風呂つきの部屋とかあるとよいのですが…
(二人を後方に残し受付へ)

もはや桜の導きすら不要なほど、旅立ちが近いご様子。
皆で一緒にいましょう。
おなかも心もいっぱいになって、眠くなるまで。
かみさまも…ふふふ、なんにもなんて。
見ててあげてください。いつも通りの、お優しい目で。

とはいえ温泉だけはおひとりで…
あっ、おちびさんたちが後を…まあいいか…
湯上がりに子供用の浴衣を着せてあげます
弟や妹とはこういう感じかも

おいしいごはん、パレエドの思い出話、暖かな寝床
まだ消えないで、楽しんでいってと祈りながら
眠くなるまで遊びましょう




「ああァ、」
 ウン。こりゃお手上げだ。
「坊を頼るしかなさそうさ」
 メシは食えんで風呂も結界越しときちゃアな。

 温泉旅館の温泉旅館である部分の大半で何も出来ない、と早くも降参モードに入るのは朱酉・逢真(朱ノ鳥・f16930)。
「すまねェ雲珠坊、任しちまうが構わんかい?」
 先のパレードに引き続き多くのことを押し付ける形になってしまうが、いいかい、桜の子。
「……はっ……?!」
 問われた雨野・雲珠(慚愧・f22865)は逢真と連れてきた影朧とを交互に見る。なるほど、確かにかみさまには制限が多すぎることのようだ。
(ここは、俺がしっかりせねば……!)
「は、はい!」
 ピンと返事をする雲珠。
 ええと、まずはお部屋を手配しなくては。
「ちょっとここで待っていてくださいね」
 二人を残して受付へ向かう。人の目を気にせずにお嬢さんが温泉を楽しめるような……お風呂付きのお部屋とかがあるとよいのですが……。
「おへや!」「温泉ごようぼうー」「ひろびろだと良い?」
 ああ、そうだ。俺たちだけでなく、もしかしたらかみさまの眷属(おともだち)も、と考えたら広めのお部屋のほうがいいかもしれな──。
「……んん?」
 足元にわらわらとよってくる子ども霊たち。霊である故だろうか、どうやら受付のかたには見えていない様子。おちびさんたちはばらばらに、口々に言う。
「かみさま、何もできなさそなので」「お兄ちゃんのおてつだい、おもうしつかりー」「ヒトのフツウ係いたしま?」「はしゃいでよいとのこと」
「あ、ああ……なるほど……?」
 確かに、彼女の望んだのは“普通のしあわせ”だったはずだ。旅先ではしゃぐ弟妹というのも、確かによくある『普通の』風景と言われればそうかもしれない。

 受付で(子ども霊たちの意見も取り入れた)要望を聞いてもらって、ちょうどいい部屋をとってもらった。食事も部屋で取れるようにお願いしてある。
「さあ、どうぞ」
 雲珠は彼女の手を引いて部屋まで一緒に歩く。細く、頼りない手。もはや桜の精による導きも不要なほど、旅立ちのときが近いのだと感じさせた。けれど、だからこそ。
「一緒に過ごしましょう」
 残りの時間は僅かかもしれないけれど、その時間をめいっぱいに使って楽しく過ごしましょう。ほら小さな子たちも遊びたがっています。
 おなかもこころもいっぱいになって、眠くなるまで。
「かみさまも」
 子ども霊はなんにも、なんて言ったけど。一緒に食事ができなくても、お風呂に入れなくても、できることならたくさんある。
「……ふふふ、なんにもなんて」
 そんな風に言わないで、見ててあげてください。いつも通りの、お優しい目で。

 ひ、と逢真は軽く笑う。そうは言っても、昼間は俺の領分じゃあねェからよ。今は任せるさ。
「ちびどもが遊んでくれるだろ」
「そうですか?」
 ああ、でも、賑やかなのはいいんですが温泉だけはおひとりで……
「おんせーん!」「ろてん? ろてんです??」「外みえーる!」

 えっ、怒涛。
 なんですその怒涛の勢い??

 お嬢さんを脱衣所に送り出した直後。止める暇もなく、浴室へ駆けて行かれては雲珠にも追いようがない。
「……まあいいか……」
 お風呂からは楽しげな声が聞こえてくる。……見えなくても何が起きているか分かるくらい。
「のぼせる前には上がってくださいねー?」
 声をかけると、元気よく「はーい」と返事がかえってきた。

 湯上がりには、部屋にあった子供用の浴衣を着せてあげましょう。
(弟や妹とは、こういう感じかも)
 雲珠にはきょうだいはいないが、もしそういうものがいて、一緒に旅行をしたりしたら、こんなふうなのだろうか。

 おちびさんたちが手伝ってくれてお布団を敷き詰めたら、まるで修学旅行。さあ、消灯時間ですよ。
 でもすぐには眠くはならないでしょうから、お喋りをしましょう。今日あった色々なこと。おいしいごはん、パレエドの思い出話。ゆったりお風呂に、暖かな寝床。清潔な浴衣と飛んでくる枕のやわらかさ。
 まだ消えないで、楽しんでいってと祈りながら、眠くなるまで……。

 ……。

 さァ、て。寝かしつけるが俺の仕事さ。

 雲珠もうつらうつらとしてきた頃、逢真がゆっくり動き出す。
 さァさ、おまえたち。ほんとうに、もう寝る時間だ。
 そばへおいで、子どもたち。まぶたを閉じて、子守唄をお聞き。"夜明け"まで"俺(*夜)"が抱いていよう。さあ、おやすみ。
「……おやすみ。かわいい子たち。赦(*あい)しているよ」

 やがて、聞こえてくるのは静かな寝息。
 ゆらり、ゆうらり。ゆりかごにかえるように。誰もがあたたかな場所に、あるべき輪に帰れるように。

 夜明けを待たず、夜に抱かれて。
 ──その内に、寝息がひとつ、いつの間にか消え失せていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年01月01日


挿絵イラスト