鋭鋒は春雷を穿つか
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毎年この時期、ミスラの村から臨める山の頂は、黒い雲に覆われる。
それに続くのは春告げの雷。村人達はその様子を窓から眺め、一年の巡りに感謝するのが常だった。
そう。今年もそのつもりだった。黒雲の一部が山を下り、こちらに飛んで来るまでは。
やがて草原へと降り立った闇色の塊に、ぎろり、と金色の瞳が開く。
その正体は、一体の竜だった。
遠雷の如き咆哮を上げたかと思えば、いつの間にか平野に展開していた兵団に向けて、無数の稲光が降り注ぐ。
竜が軍勢を圧倒する恐ろしくも荘厳な光景を前に、村人たちはその場に平伏する事しか出来ない。
輝く稲光を纏ったその姿は、暴虐の限りを尽くす雷神そのものであった。
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「あの……アックス&ウィザーズで、事件です」
グリモアベースに集まった猟兵達を前に、クララ・リンドヴァル(白魔女・f17817)が、おずおずと話を始める。
「猟書家『異端神官ウィルオーグ』の活動が確認されました。ウィルオーグは、とある村ひとつの全住民を洗脳し、彼が『偽神』と呼ぶ一体のオブリビオンを熱心に信仰させています」
現場であるミスラの村は、街道沿いに長く伸びる、農耕や牧畜を主産業とする村だ。
村民たちはこの時期になると、平野の向こうにある山脈で発生する雷を頼りに、春祭りの準備を始める慣習がある。
雷そのものは自然現象に過ぎないが、それ自体が素朴な民間信仰と化してもいる。事件の日は曇り。村人たちは各々が、山頂の稲光を待ち侘びていた。
故に、村のほぼ全員が、山から下りて来るオブリビオンを目にしてしまった。
「その名は『レーヴィン』……己を受容する事の出来ない世界への侮りを胸に、破壊をもたらす、災害級の雷竜です」
そして、村人たちに畏怖を注ぎ込まれた事で『偽神』はさらに力を増している。
密かにウィルオーグの手で洗脳を受けた村人達に、逃げるという選択肢は存在しなかった。完成した『偽神』は、ゆくゆくは天上界到達の中心戦力に据えられるだろう。
だがウィルオーグの陰謀に、いち早く気付いた者達がいる。
「パラディンの一派、『エギュレ神のパラディン』達です」
『知識の神エギュレ』を信仰する騎士たち。
聖堂も信者も持たず、清貧のままに世界を流離い、影の騎士団として人々を密かに守っていた存在である。
ある日彼等に下された天啓は、衝撃的なものだった。
何しろ、その内容は、自分達のエギュレ信仰を興した始祖『大神官ウィルオーグ』その人が蘇り――竜にミスラの人々を襲わせる、というものだったのだから。
彼らの行動は、早かった。
「人々を守る為、パラディン達は汚濁と共に蘇った始祖を倒そうと、既に現場に駆けつけています」
だがそれよりもウィルオーグが竜を『偽神』と化すのが、僅かに早かった。現在、兵団は平野でレーヴィンを足止めしている。
「パラディン達は全員『無敵城塞』を使えます」
動けなくなる代わりに全ての攻撃に耐え抜く、強力なユーベルコードだ。
「そして『エギュレ神のパラディン』が無敵城砦を使うと、レーヴィンは必ずそちらを攻撃してしまうようです」
遥か後方の村人たちに流れ弾が行く心配も無ければ、今すぐ陣が崩される恐れも無い。
だが、救援の当てがある訳でもない。旗色は良くないと言えるだろう。
「もはや一刻の猶予もなりません……皆さんに現場に赴いて頂く事になるでしょう」
始祖を倒す決意を固めた彼等と力を合わせ、『偽神』諸共討ち取るのだ。
「彼等の影で、攻撃をやり過ごすなどの戦い方も有効ですが……油断は禁物です。どうか、宜しくお願いします」
最後にそう言って、クララは頭を下げるのだった。
白妙
白妙と申します。
今回の舞台はアックス&ウィザーズ。先に駆けつけたパラディンたちと共闘し、「『偽神』と化したボスオブリビオン」と「異端神官ウィルオーグ」を倒すのが目的です。
●幹部シナリオについて
これは幹部シナリオです。全2章で完結するシナリオとなります。
●第1章【ボス戦】
光り輝く偽神と化したボスオブリビオンとの戦いです。
超強化されていますが、エギュレのパラディンが「無敵城塞」を使用すると、必ずその方向に攻撃を仕掛けてしまいます。
戦場は草地の広がる平野。村までは結構距離があるため、戦闘による村人への被害は出ないでしょう。
●第2章【ボス戦】
幹部『異端神官ウィルオーグ』との決戦を行います。
パラディンは幹部に通用する特殊なアクションを持たず、猟兵に比べて特別強いという訳でもありませんが、無敵城塞は問題なく使う事が出来ます。
●パラディン
20名。全員が5mの長槍装備、かつ全員が無敵城砦を使えます。
現在密集陣形を組んでいますが、レーヴィンに苦戦中です。
●無敵城塞
全身を【超防御モード】に変える。あらゆる攻撃に対しほぼ無敵になるが、自身は全く動けない。
●プレイングボーナス(全章共通)
『パラディンと共闘する』です。
1章プレイング受付開始はシナリオ公開直後。
2章は断章投下後となります。宜しくお願いします。
第1章 ボス戦
『レーヴィン』
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POW : コンダクター
【雷を纏う旋刃】【そこから放たれる空間を砕く雷鳴】【眩く世界を白に灼く閃光】を対象に放ち、命中した対象の攻撃力を減らす。全て命中するとユーベルコードを封じる。
SPD : サンダーボルト
自身に【雷光】をまとい、高速移動と【轟咆雷烙の領域内であれば無制限に雷撃】の放射を可能とする。ただし、戦闘終了まで毎秒寿命を削る。
WIZ : ライトニングラム
【旋刃や雷撃】が命中した対象にダメージを与えるが、外れても地形【内の雷撃を強める迅雷領域:轟咆雷烙を深め】、その上に立つ自身の戦闘力を高める。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
大成功 | 🔵🔵🔵 |
成功 | 🔵🔵🔴 |
苦戦 | 🔵🔴🔴 |
失敗 | 🔴🔴🔴 |
大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「ルーダス・アルゲナ」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
カタリナ・エスペランサ
生憎、教義信仰の話題は苦手な身の上だけど。皆を守る騎士様と共闘できるとは光栄だね
人々に仇為す神紛い、見事仕留めてみせようか!
防御は騎士たちを頼れるならその隙に《学習力+読心術》で敵の行動・思考の癖を《見切り》把握
同時に響かせる《歌唱+高速詠唱》は味方の傷を癒し加護を与える《鼓舞+ドーピング+結界術+拠点防御》の領域形成さ
さて、キミたちが至高の盾となってくれるならアタシは最高の矛となって応えよう!
【閃紅散華】発動し《空中戦》、纏う《封印を解く+限界突破+リミッター解除》の紅雷は《電撃耐性+オーラ防御》でもある
ダガーと体術で《早業+怪力+鎧砕き》、《2回攻撃》も重ね18倍の攻撃回数で《蹂躙》するよ
黒き巨体は漆黒の闇の如く。咆哮は雷の如く。
偽神化を施された雷竜レーヴィンの進撃を、『知識の神エギュレ』のパラディン達はその身を挺して防ぎ止めていた。
だが、さしもの『無敵城塞』も、超強化されたオブリビオンを前にしては、崩れるのも時間の問題。
騎士たちの身体が疲労を訴え始めたその時、空の高みから、歌が響いて来た。
明るくもどこか愁いを帯びた、心に染み通るその響きが、長槍を握る騎士たちの手に力を取り戻す。
そこへ降り注ぐ敵の雷光を不可視の障壁が逸らし、騎士たちが陣形を立て直すだけの時間を稼いだ。
そして草原の真っ只中、レーヴィンと騎士たちの間に、歌の主である少女が舞い降りる。
「皆を守る騎士様と共闘できるとは光栄だね」
双翼を畳み、そう声を掛けたのは、カタリナ・エスペランサ(閃風の舞手(ナフティ・フェザー)・f21100)。
旅芸人として様々なもを見て来た彼女の身の上からすれば、絶対善としての神を奉じる事は難しい。
当然、エギュレ神も例外ではないが、それを奉じるパラディン達を軽侮するような真似は決してしない。
よって、カタリナの複雑な内面は、表向きのあっけらかんとした態度と相俟って、さっぱりとした謙虚さとして現れるのが常だ。
それを受けてか、隊長と思しきフルプレートの騎士がカタリナの前に一歩進み出て礼を言う。
「ご協力、感謝します」
「いいっていいって」
カタリナがそう言い終える前に――現れた邪魔者に、レーヴィンが怒りの咆哮を上げた。
次の瞬間、凄まじい稲光が大地を叩く。
だがそれよりも早く、カタリナは後方に飛び去っていた。
「堅守防衛!!」
追い縋る雷撃を、一斉に無敵城塞を発動したパラディン達の戦列が受け止める。
その強固な盾の真後ろで、カタリナは敵の動きを冷静に観察していた。
自身の領域内における無制限の雷撃と高速移動は、確かに強力なアドバンテージだ
だがそれは侮りのままに世界を壊そうとするレーヴィンの隙を、どこかしらで助長するものだろう。
その思考が、領域外で俯瞰するカタリナには、ありありと見て取れた。
空中戦を仕掛ける心積もりを固めたカタリナは、翼を波打たせ、一気に飛び込む。
「その目を以て焼き付けよ、その身を以て刻みつけよ。此処に披露仕るは無双の演武――」
ぐんぐん迫る竜の目前、なおも城塞を展開する騎士たちの真上を越えた所で、カタリナの身体で紅の雷が爆ぜる。
それは纏う身体の能力を大きく底上げし、その手にある何の変哲もないダガーすらも竜殺しの武器に変える、必殺の力だ。
一気に加速。味方の掲げる鋭鋒に二撃を残し、紅雷の矢と化したカタリナの身体が金雷を弾いてレーヴィンへと肉薄。
「――要するに。後悔しても遅いって事!」
次の瞬間、怒涛の連撃が叩き込まれた。
紅の斬撃と侵食に、たまらず咆哮を上げる神紛いの雷竜を背に、カタリナはふわりと地上に舞い降りたのだった。
大成功
🔵🔵🔵
雨谷・境
パラディンの皆さんがお困りっすね
今助けに行くっすよー!
パラディンさんとは別の方角から敵へ向かうっす
あ、でも挨拶と目配せはするっす
俺は大丈夫っす!
あやかしメダルを貼りつけてめっちゃ目立ちながら参上っす!
おらー!でっかい竜だって恐れず行くっすよー!
敵の動きに翻弄されないよう、攻撃はバス停で武器受けしつつ立ち回るっす
敵の注目が俺に注がれれば、攻撃も集中するっすね
そのまま少しずつ距離を縮めるっす
そして敵が大きい攻撃を放つ瞬間に……
パラディンさん達に無敵城塞を発動してもらうっす!
敵の攻撃がそちらへ向いた瞬間に俺も一気に踏み込む!
そのまま怪力でバス停を振るい、分厚い鱗も砕く鎧砕きの一撃をお見舞いするっす!
『偽神』レーヴィンの進撃をその身で押し留めるパラディン達。だが、影から人々を守っていた彼等にとって、救援などそう簡単に来るものではなかった。
今回もきっとそうだ。そう口に出す者こそいないが、暗澹たる空気がメンバー全員を包み始めた、まさにその時。
「おーい!」
……暗い空気を吹き飛ばす、良く言えば明るい、有体に言えば喧しい声が響いた。
「今助けに行くっすよー!」
パラディン達が振り向けば、バス停を担いだ雨谷・境(境目停留所の怪・f28129)が、ぶんぶん手を振りながら走って来ていた。
「俺は大丈夫っす!」
棒立ちの騎士達に向けて、目配せと一緒に軽い挨拶。境がやった事はそれだけなのだが、にもかかわらず、戦場の注目を一人で集めまくっていた。
それもその筈。境の額に貼り付いているのは他でもない、あやかしメダル「お祭りニャンコ」。そのたった一枚のメダルが、辺りにエモさを撒き散らしていたのだ。
だが、注目を一身に集めた甲斐もあってか、騎士たちは境の送った目配せの意味を正しく汲み取ったようだ。
「おらー! でっかい竜だって恐れず行くっすよー!」
騎士たちの注目を浴びながら、単身レーヴィンに突っ込んでいく境。その雄姿は、己の肉体と腕力を武器に、荒事に飛び込むバーバリアンのあるべき姿そのものだ。
レーヴィンもまた雷の双眸で境を睨み据え、その巨大な翼を広げると――次の瞬間、境に向けて突進。
「……っ!」
回り込み、背中を狙った爪の一撃を、肩に担いだバス停で咄嗟にガード。凄まじい衝撃が境の身体を走り向ける。
何とか体勢を整えた境の後方で上がる咆哮。即座に雷撃が降り注ぐ。
超強化されたレーヴィンの集中攻撃は凄まじい。だが境も一歩も退かない。敵の攻撃を耐え凌ぎつつ、着実に距離を詰めていく。
そして遂に境が至近距離に迫った時、レーヴィンもまた必殺の体勢を整えていた。
強力な攻撃の前兆を示すように、体に纏う雷光が一際眩く煌いた、その時。
『――!!』
その首が、ぐるりと横を向いた。
果たしてレーヴィンの視線の先には、無敵城塞を発動するパラディン達の姿があった。
それは『偽神』化に伴う呪縛のようなもの。二十人ものエギュレ神のパラディンが一斉に展開した無敵城塞を無視できず、レーヴィンは境から目標を変えたのだ。
「――今っす!!」
瞬時、注意力が散漫になったレーヴィンの懐に、境が全力で踏み込んでいた。
得物に描かれた「雨谷」の二文字が雷閃に照らされ、シューズが草原を噛み締める。
次の瞬間、バス停が綺麗な袈裟の軌道を辿った。
竜の分厚い鱗すら砕いたのではないかと思われる程の渾身の一撃が、オブリビオンの首の付け根に叩き込まれる。
「見たかっす!」
大きく揺らぐレーヴィンの巨体を前に、境はバス停を構え直し、追撃の態勢を整えるのだった。
成功
🔵🔵🔴
御狐・稲見之守
ふむ、農耕と稲妻の縁は何処の世界でも深いものよナ。
さてま、文化人類学の話はさておき
あーエギュレ神の僧兵達よ、派手に行くゆえ
村からウンと離れたところで亀のように守りを固めておれ。
そら、霊験あらたかな特製稲見ちゃんステッカー(電撃耐性のついた雷除けの呪符)をあげやう。
さて、天翔ける雷禍がなにするものぞ
此れよりめちゃんこキャワイイ狐のカミ様がまかり通るゾ☆
[UC荒魂顕現]――我為す一切是神事也、天裂き地割る神業畏み畏み奉願祈るべし。さあ降れよ降れよ星の雨、その礫暗雲切り裂き地を穿ちて遍く全てを微塵とせむ。
[結界術]を張り防御したら制御なんてせん、暴走するがままに雨霰よ。
ハハハ、これは草も生えんナ。
アウラ・ウェネーフィカ
◎アドリブ等歓迎
ほう、これが竜種か……
実際に対峙するのは初めてだが、中々の威圧感だな
だが、竜種相手となれば都合が良い
いまだ未完成とは言え、例の魔法の威力を試すには相応しい相手だ
■戦闘
あまり一ヵ所に留まって、敵のUCの領域を深めてしまうのも不味いな
ここは敵の周囲を飛翔して、気を惹きながら攻撃を【見切り】、回避をしていこう
仮に避け切れなくとも、魔力結界による【オーラ防御】で数発程度なら耐えられる筈だ
その間にも隙を見つつ、【魔力溜め】と詠唱を行っていく
特にパラディン達がUCで攻撃を引き受けてくれている間は絶好の機会になるだろうな
そして詠唱が終わり次第、十分に溜めた魔力による【UC】で攻撃を仕掛けよう
「ふむ、農耕と稲妻の縁は何処の世界でも深いものよナ」
御狐・稲見之守(モノノ怪神・f00307)の言う通り、天から降る雷は古くから田植えや農耕と関連付けられる事がある。地域にもよるが、そういった事情は、この世界にも当て嵌まるのかも知れない。
「ほぅ……」
興味深い、と、翼の腕で口元を軽く覆いながら、アウラ・ウェネーフィカ(梟翼の魔女・f25573)も小さく溢す。
「さてま、文化人類学の話はさておき」
稲見之守とアウラは、目の前のレーヴィンを見上げる。
「中々の威圧感だな」
この世界に住むアウラにとっても、竜種はそう度々お目にかかれる存在ではない。実際に対峙するのはこれが初めてだ。
煌く雷光を纏う巨体からは、その存在の格がひしひしと伝わって来る。
だが、アウラと稲見之守の視線は、前方で雷撃を耐え凌ぐパラディン達の周囲に向けられていた。
逸れた落雷があちこちで力場にも似た領域を形成し、レーヴィンの力を高めている。そして落雷が重なる程に、効果も増すようだ。
「となれば……あまり一箇所に留まるのは不味いな。敵の気を惹いて、攻撃を散らす必要があるだろう。それに、例の魔法の威力を試すには相応しい相手だろうからな」
「ふむ」
アウラの言葉に、稲見之守も頷く。
「ならば騎士団にはワシから話を通そう。どのみち村からウンと離れたところで守りを固めて貰う積りだった故」
「済まない。それまで私が敵の気を惹こう」
「心得た。……あーエギュレ神の僧兵達よ、そのまま」
雷鳴の中だが、稲見之守の声は不思議な程によく通る。彼女の的確な指示に従い、騎士達は移動を始めた。
「そら、霊験あらたかな特製稲見ちゃんステッカーをあげやう」
パラディンの一人一人に、稲見之守が何かを手渡していく。
それは、お手製の雷避けの呪符だった。稲見ちゃん、と思わず復唱する女性の騎士もいたが、派手に行くゆえ、という稲見之守の言葉に押され、てててと駆け去った。
その間アウラは両腕の翼を打ち振り、大きく空中に舞い上がると、そのままレーヴィンに大きく接近。
顔近くを滞空すれば、レーヴィンはその雷光に覆われた双眸から、射かけるような視線を注ぎ込んで来る。
そして前兆と思しき金雷が敵の眉間を奔ると同時に、アウラは、すい、と回避行動を取った。
直後、アウラのすぐ横を落雷が駆け抜け、音を立てて大地が抉れる。
「……流石は竜種と言った所か」
凄まじい威力。事前に展開していた魔力の障壁を以てしても、耐えられるのは数発が限度だろう。
「だが生憎、此方は一人では無いのでな」
アウラが詠唱を始めれば、その胸元で魔力が球体となって収束する。次に繋げる為の、大切な布石だ。
それから、どのくらい経っただろうか。
(「もう、少しだ」)
少しずつ詠唱と魔力の蓄積を行っていたアウラの牽制を支援するように――辺りを紙片が飛び交い、レーヴィンの動きを鈍らせ始めた。
アウラが地上に目を落とすと、そこには、真言を篭めた呪符を手にした稲見之守が居た。
どうやら騎士団が移動を終えたようだ。彼等は村から大きく離れた場所で、がっちり密集陣形を組んでいた。
「展開!!」
声が響いたかと思えば、無数の稲妻がパラディン達に降り注ぎ始める。だがその半分以上が直前で逸れ、周囲の地上に落下した。
稲見之守の渡した呪符は、確かに霊験あらたかなものだったようだ。
「これなら……」
明後日の方向に攻撃が集中するのを確かめ、アウラは一気に詠唱を進める。
一方。
「さて、天翔ける雷禍がなにするものぞ。此れよりめちゃんこキャワイイ狐のカミ様がまかり通るゾ☆」
敵の領域は大きく動き回るアウラによって散らされていた。その隙間を縫うような位置に陣取る稲見之守は、ばちこーんとウインクをかましたかと思うと、一転、厳かな声で祝詞を唱え始める。
「――我為す一切是神事也」
すると曇天を割って輝いた何かが、急速に飛来し始める。
それは星の雨だった。属性と自然現象を合わせた現象が、稲見之守の手によって引き起こされたのだ
思わず頭上を見上げたレーヴィンを、稲見之守の構築した結界が素早く覆う。
「天裂き地割る神業、畏み畏み奉願祈るべし」
次の瞬間、着弾。レーヴィンの周囲で土煙が上がった。
制御など端から捨てている。結界の中で暴走する輝きが文字通り地を抉り、オブリビオンの身体に凄まじい衝撃を叩き込んだ。
そして稲見之守の祝詞を継ぐように、アウラの詠唱が響く。少しずつ継続していた魔力の蓄積が、ようやく完了したのだ。
「我が魔力を以て、今より擬するは偉大なりし竜の王」
アウラの胸元の魔力が弾け、同時に、周囲に五色の魔法陣が描かれる。かの帝竜の力を模した、高度な複合属性魔術だ。
「森羅万象を統べるその力、世界に終焉を齎すその力を今、此処に再現せん――」
アウラが詠唱を終えた瞬間、一斉に放たれた五色の奔流がレーヴィンを貫く。
強固な結界の中で、星々の白い輝きと鮮やかな魔力の輝きが、土煙と共に氾濫を続けた。
「ふぅ……」
「ハハハ、これは草も生えんナ」
やがて轟音が止み、全てが終わった時、地上に降り立つアウラの横で稲見之守は呵々と笑った。
『偽神』レーヴィンは猟兵達の手により、この世から跡形も無く消滅していたのだ。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
第2章 ボス戦
『異端神官ウィルオーグ』
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POW : 第一実験・信仰に反する行動の規制
【論文】が命中した対象にルールを宣告し、破ったらダメージを与える。簡単に守れるルールほど威力が高い。
SPD : 第二実験・神罰の具現化
【自身や偽神に敵意】を向けた対象に、【天から降る雷】でダメージを与える。命中率が高い。
WIZ : 第三実験・反教存在の社会的排除
【名前を奪う呪詛】を籠めた【蝶の形をした黒い精霊】による一撃で、肉体を傷つけずに対象の【縁の品や周囲からの記憶など、存在痕跡】のみを攻撃する。
👑11
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
大成功 | 🔵🔵🔵 |
成功 | 🔵🔵🔴 |
苦戦 | 🔵🔴🔴 |
失敗 | 🔴🔴🔴 |
大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠クシナ・イリオム」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●
レーヴィンが力尽きた瞬間、強大な圧が戦場から消えた。
村を振り返れば、無傷。激戦の中にあって人々を守り切ったのは、猟兵達の奮戦の賜物だろう。
戦いを制したのは、猟兵達とパラディン達だった。
その時、後ろから声が響いた。
「人の想いや信仰の力は強い。だからこそ利用価値がある」
全員が同時に振り向けば、そこには、白髪頭の老人が立っていた。
「違うかね?」
その人物こそ、ウィルオーグ。
『知識の神エギュレ』の初代大神官。かつては人格者で知られた人物――その黄泉還りだ。
「私が『偽神』と呼ぶあの存在は、いずれ来るであろう『天上界攻略』の中心戦力となる筈だった。お前達と、猟兵。共に間に合ったのは計算外だったが」
無造作な話しぶりにもかかわらず、その穏やかな声は広い草原の全員に届く。これだけでも、術者としての力量が知れる。
ウィルオーグが掌を上に向ければ、黒い炎が燃え上がった。
神官としては異端の力、呪詛の力を込めた炎弾であった。
「大天使ブラキエル様の『天上界への到達』。その目的の為に」
オブリビオンとなった今、その豊富な知識は世界の滅びの為に用いられる。
信仰の方も、今はもう、歪み果てているようだ。
『偽神』は簡単に揃えられる存在でもない筈だ。
それが倒されたにも拘らず、目の前のウィルオーグが慈悲深い笑みを崩す事は無い。
一人ずつ、確実に。邪魔者である猟兵達とパラディン達を、この世から消していくつもりなのだろう。
風吹き渡る草原で、猟兵達は応戦の構えを取る。
カタリナ・エスペランサ
確かに想いの力は途方も無く強力だ
だからこそ他者のそれを都合よく利用するなんて企みには、手痛い報いがあるのも道理ってものさ
敢えて敵意を強く持って攻撃を引き付けようか
元がご立派な存在でも、今が悪辣な破壊者でも。生前とオブリビオンは分けて考えるようにしてるしね
【神狩りし簒奪者】発動し白雷槍を《クイックドロウ》、《マヒ攻撃+属性攻撃+先制攻撃》で敵の攻撃力を削ぐよ
敵UCは《第六感》で予兆を《見切り》、《早業+投擲》のダガーを避雷針に《武器受け》
立て続けに黒炎と影鎖で敵の動きとUCを封じ込めよう
仕上げは《神罰+全力魔法+属性攻撃》の雷霆で追撃。
神狩りの御業、紛いの信奉者に堕した身で凌げると思わない事だ!
カタリナ・エスペランサが目にも止まらぬ速度で放った何かが、反応する隙すら与えずウィルオーグの長衣に突き立つ。
それは、雷だった。白い雷で出来た槍。そこから迸る電流が、ウィルオーグの動きを容赦無く鈍らせる。
「確かに想いの力は途方も無く強力だ」
カタリナにとっては一番大事なのはただ一点。それが人々の笑顔へと繋がる大切なものだという事だ。
「だからこそ、他者のそれを都合良く利用するなんて企みには、手痛い報いがあるのも道理ってものさ」
『なるほど。だが私が『偽神』を作り出せば、全て違ってくる』
「……!」
エギュレ信仰の始祖。生前は一廉の人物だったのだろう。だが今やその心は歪み果て、カタリナの示す道理に対し論理で立ち向かおうとする。知識はおろか、信仰すらもそのための武器に過ぎないようだ。
そんな目の前の事実が、オブリビオンは過去の亡霊に過ぎないというカタリナの確信を補強する。
カタリナが眦を決し、ウィルオーグの柔和な表情を睨み据えた――刹那。頭上で閃光が閃いた。
「!」
だがカタリナは素早くダガーを抜き放ち天へと投擲。
弾けるような音を立て、即席の避雷針がカタリナを守る。
『……』
落雷は避け辛いが見切る事は不可能ではない。発動条件が判明していれば、それに合わせた防御も可能だ。初手で敵の動きを鈍らせた白雷も、効果を及ぼしているようだ。
次の手を打とうするウィルオーグだが……その影が、ゆらりと蠢く。
そのまま影は闇色の鎖と化して地から湧き出し、主であるウィルオーグを雁字搦めにした。
足掻こうとする暇も無く、急速に変わる風の流れ。それに混じって飛来する黒い火の粉はたちまち炎の竜巻と化し、ウィルオーグを包み込む。
闇色に閉ざされようとするウィルオーグの視界の中、一瞬見えたのは、すぐ頭上を舞うカタリナの姿だった。
仕上げは上々。カタリナが着実に積み重ねた布石が、敵の動きを完全に封じ込める。
「神狩りの御業、紛いの信奉者に堕した身で凌げると思わない事だ!」
宣言と同時に、天から下った巨大な雷霆がウィルオーグを縦に貫いた。
成功
🔵🔵🔴
アウラ・ウェネーフィカ
◎アドリブ等歓迎
ああ、その通りだ
人の想いも信仰の力も強い
だからこそ、貴方は利用されたのだな
人格者として知られた者であるなら、
本人としてもこれ以上の醜態を望んではいまい
早く終わらせてやるとしよう
■戦闘
雷を降らすと分かっているなら対処も容易い
ここは聖騎士達には守り重視で戦ってもらい、私は上空へ飛ぼう
そして【UC】のバリアを頭上に展開しながら飛び、自身は勿論
騎士達に落ちる雷もなるべく吸収して防ぐ
そのまま上空から【フェザーブレット】で牽制を掛けつつ
タイミングを見計らって【E・ポーション】の【爆撃】や
【貫く銀針の瓶】で【串刺し】を狙う
あとは雷が途切れるのを見計らい、変換して放つ大量の氷の矢で貫いてやろう
一糸乱れぬ統率の下、無数の長槍が一人の老人に向けて殺到する。
だがその老人――異端神官ウィルオーグ――は滑り込む様な動きで槍の穂先を捌き切ると、同胞である筈の騎士達に躊躇い無く反撃の意志を向けた。
頭上で瞬く激しい閃光。同時に、高熱の落雷が降り注ぐ。だが。
「ああ、その通りだ。人の想いも信仰の力も強い」
直撃の寸前、風切りの音すら無くアウラ・ウェネーフィカが割り込んだ。
「だからこそ、貴方は利用されたのだな」
ウィルオーグが何時その信仰を歪めたのかは謎に包まれている。
だが確かなのは、ウィルオーグが生前、その力を正しく使っていた時期が存在していたという事だ。
アウラの推理は当たっているだろう。だとしたら、もし彼が生きていたら、今の自身の所業を悔いたに違いない。
そんな彼に対して、アウラが出来る事は一つだ。
「――早く終わらせてやるとしよう」
地上で展開する聖騎士達。その先頭に立つ隊長に、アウラは一瞥を送る。
それに応えるように、聖騎士達が陣形を変えた。
長槍をハリネズミのように並べ、機動力を犠牲に互いを守り合う、緊密な密集陣形だ。
彼等の頭上でなおも降り注ぐ閃光。だがアウラの展開した魔力障壁がそれを防ぎ止める。此方の人数の多さもあり、敵意をトリガーにした反撃の雷は完全に発動を抑える事は難しいが、それでも来るとわかっていれば対処のしようはある。
弾ける電光、徐々に戦場を包む灰色の煙。それらを切り裂いて飛来した何かが、オブリビオンの肌を掠める。
『……』
それは、褐色の羽根だった。決して威力は高くないが、アウラの羽ばたきと共に放たれるそれは、牽制に十分な速度を秘めている。
空から戦場を俯瞰しつつ、アウラは空中での防御と反撃に全力を注ぐ。それにより攻撃の余裕を得たパラディン達は、少しずつウィルオーグを追い詰めていく。
そして繰り出された槍の一つが額を掠めた瞬間、オブリビオンの態勢が大きく揺らいだ。
それを見逃さず、アウラは猛禽のような鉤爪で火魔法を封じたポーションを掴み上げると、それを地上に向けて幾つも投じた。
草原が一瞬緋色の光に染まる。
撒き散らされる轟音と火の粉。ウィルオーグの後方に炎の海が作り上げられる中、陣形を組んだパラディン達は、正面から炎を切り分けるように槍衾を突き出す。
辛くも回避するウィルオーグの目の前を――今度は銀色の液体金属で満たされた瓶が通過した。
ガラスの割れる澄んだ音と共に、無数の銀色に輝く針が隆起し、その黒の衣を地面に縫い留める。脱出を試みるウィルオーグだが、頭上の気配に顔を上げた。
そこにはアウラの姿があった。彼女の胸元で収束する大きな魔力は、戦闘開始時からバリアによって吸収され続けたものだ。その魔力も既に、雷から氷へと変換を終えている。
「悪いが、元素の扱いには自信があってな」
騎士達の踏み込みに合わせるようにアウラが魔力を操作すれば、刹那、降り注ぐのは大量の氷の矢。
火の粉を切り裂き、銀針を砕き。戦場を制圧する冷気の雨と無数の鋭鋒。
それら全てが逃げ場を失ったウィルオーグに殺到し、深い傷を刻んだ。
大成功
🔵🔵🔵
杉崎・まなみ(サポート)
まなみは正当派後衛職のヒロインタイプです
聖職者教育を受講中の学生ですが、特に依頼に縛りは無く、どのような依頼も受けられます
但し人並みに気持ち悪いモノ、怖いもの等は苦手で遭遇した際は多少なりとも嫌がる仕草が欲しいです
甘いモノ、可愛いモノが好きで少し天然な所があります
初対面の人でもあまり物怖じせず、状況を理解して連携を取る動きが出来ます
シリアス2~3:ギャグ7~8割くらいのノリが好みです
ただシリアスもやれますよー
UCは状況に応じて、MS様が好きなのを使ってください
その他、細かい部分はMS様にお任せします
ラムダ・ツァオ(サポート)
A&Wの遊牧民出の自由人。
見た目からダークエルフと揶揄されることもあるが、当人は特に気にしていない。普段は外套と丸サングラスですっぽりと身体を覆っているが、外套の下はかなり身軽。
なお、見た目は怪しいがわりと気さくな性格。
臨機応変に動くが、完全勝利よりは条件達成を目指す。
行動指針としては以下の3通りが主。
1.囮役としてボスの注意を引き付け、味方の攻撃を当てやすくする。
2.ボスの移動手段→攻撃手段の優先順で奪っていく。
3.仕留められそうな場合は積極的に仕留めに行く。
(他に仕留めたい人がいればその手助け)
台詞回しや立ち位置などは無理のない範囲でご随意に。
ユーベルコードは状況に応じて使い分けます。
異端神官ウィルオーグが手を翳せば、長衣の裾から無数の黒い蝶が飛び立ち、杉崎・まなみ(村娘・f00136)の視界を闇色に染める。
「これが……エギュレ信仰の開祖、ウィルオーグ」
だった者。である事は、まなみも重々承知している。
それでもアルダワの門を叩いた程に神官職に強い憧れを抱くまなみである。目の前のオブリビオンが備える慈悲深い笑みと身に纏う呪詛の気配は、奇妙な対照を為すものと映らざるを得ない。
「……あの人、ちょっと怖いかも」
ぎゅ、と、まなみは着ている服の裾を握り締める。そう、きっと大丈夫。私はあの人みたいにはならない。だってこの白い服は、由緒ある――。
「……?」
まなみの思考がそこで途切れた。何か大事なものを思い出せないような、そんな気がする。
軽く首を傾げたまなみの耳元で。
ヒュン、と音を立て。白い刃が一閃された。
「!?」
二つに分かたれ、まなみの衣服の肩にはらりと落ちたのは、ウィルオーグの放った黒い蝶の一匹。
――そうだ。これは私が聖職者教育を受講している、アルダワ魔法学園の学園服だ。オーダーメイドの。
「大丈夫?」
目をぱちくりさせながらまなみが振り返ると、そこにはいつの間にか、ラムダ・ツァオ(影・f00001)が立っていた。
「は、はい。ありがとうございます。ツァオさん」
「いいっていいって」
外套に丸サングラスという出で立ちのツァオだが、まなみからの礼を受け取るその振る舞いは、第一印象よりも遥かに気さくなものだった。
飄々とした態度のツァオの周囲では、複製された白鋼の脇差が宙で揺れている。百に迫ろうかというその数からも実力の程がわかる。
「縁の品から記憶を奪う術式……酷い事するのね」
ざ、と前衛に立つツァオ。その後ろでまなみもメイスを構え、自身の立ち位置を確保する。
『人の想いは強い。それを意のままに操れれば、それは目的への近道となる』
「そう……ならばこれはどう?」
ツァオが軽く頷くような動作をすれば、次の瞬間、無数の白刃が一斉に殺到する。
『!』
奇襲を前にウィルオーグは後退しつつも、飛来する刃の間に自身の身体を滑り込ませようとする。
風と共に駆け抜ける刃の煌き。紙一重の回避は成功したかのように見えたが、それでも全ては回避し切れず、その長衣には引き裂き傷が刻まれた。
そしてツァオの行動はウィルオーグの攻撃のトリガーともなる。だがそれは織り込み済み。彼女が選択したのは最初から囮役だったのだから。
刹那、頭上で瞬く閃光。それとほぼ同時に飛び退いたツァオの褐色の左の肩を、高熱の落雷が焼いた。
「……っ!」
「やぁっ!」
後退するツァオに代わり、まなみが前線に飛び出す。
両手で後方に引き絞ったメイスをウィルオーグに向けて横殴りに振るえば、充分な重さを備えた先端が、ツァオの仇とばかりに左肩を直撃する。
『む……』
崩れ落ちるウィルオーグを尻目に、まなみはツァオに駆け寄り、その傍にしゃがみ込む。
「大丈夫ですか!?」
「うん、なんとか」
まなみが傷口の様子を診れば、幸い敵の雷撃は急所を外れ、二の腕を掠めていた。
この程度の傷で済んだのも、ツァオの臨機応変な判断あってこそだ。
「地の神よ……彼の者の痛みを和らげてください……」
まなみは祈りの言葉を唱えると、杖の先端の宝石をツァオの傷口に近付け、目を閉じた。
すると宝石に神々しい光が収束し、みるみるうちに傷が癒え始める。まなみのユーベルコード『聖癒』。神官としての本領であった。
「ありがとう」
にこやかな表情を見せつつツァオはまなみに礼を言う。しかし、まなみが懸命の治療を続ける間も、ツァオのサングラスの奥にある瞳は、不気味な沈黙を保つウィルオーグを観察していた。
まだ勝利には足りない。だが、終わりは着実に近づいている。敵意を取り払ったクリアな意識の中で、ツァオはそう確信するのだった。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
雨谷・境
よっし!黒幕登場っすね!
……誰かを救うような話をしていた人が、歪んだ形で出てくる
それはすごく悲しいことっす
だから少しでも早く終わらせようっす!
正直俺はあの人の術に抵抗出来る気がしないっす
だから損傷覚悟で突っ込むしかないっすね……
じいさん個人の考えとか猟書家の思想にはもちろん賛同できないっす
でもエギュレ信仰には賛同できるっす
何故なら……こんなに素敵なパラディンさん達がいるっす!
彼らが信じるものなら、俺も信じられるっす!
攻撃のダメージを気合いで押し込め、時にパラディンさんに守ってもらいつつ敵との距離を詰める
そのまま怪力で放つのは全力の『断ち切り』っす!
甦った歪な過去を、今の世界から断ち切るっすよ!
「……誰かを救うような話をしていた人が、歪んだ形で出てくる。それはすごく悲しいことっす」
赤い三白眼を伏せがちに、雨谷・境はそう溢す。
異端神官ウィルオーグ。
『偽神』を作り出した張本人ではあるが、見た目には穏やかな老人に過ぎない。
顔に浮かべた柔和な表情は、生前のウィルオーグの人柄をそのまま示すものだろうか――おそらくはその通りだろう。確たる証拠こそ無いものの、そんな確信が境の胸にはあった。
「……私達も天啓が下った時は驚いたわ」
「ああ、だが……これも俺たちの義務だ」
境と肩を並べるパラディン達も、震える声で自分達の心情を吐露する。
今回の事件は、ともすれば彼等の流浪の日々を、無意味なものに変えるかも知れない出来事だった。
境はそこに駆けつけてくれただけでなく、心にも寄り添ってくれたのだ。
「じいさん個人の考えとか、猟書家の考えはもちろん賛同できないっす。でも――」
今なお息づく知識の神エギュレへの信仰。これには賛同し得る。
「何故なら……こんなに素敵なパラディンさん達がいるっす!」
溢れる想いが境の言葉に熱を帯びさせ、次第に周囲の騎士達にも伝播していく。
「……彼等が信じるものなら、俺も信じられるっす!」
境がそう強く言い切った時、騎士達が天に向けた槍の穂先が、感極まるように揺れた。
それを聞いていたウィルオーグもまた口を開く。
『なるほど。見解の相違という訳か』
それは大望を前にした瑣事に過ぎない。穏やかではあるがそう言いたげな響きが、草原へと掻き消える――前に。
「じいさん、覚悟っす!」
境は地面を蹴っていた。対するウィルオーグは後退。それと同時に境の視界を大量の紙片が塞ぐ。
「……!」
バス停を横殴りに一閃。そのまま距離を詰める。だが全てを振り払う事は出来ず、数枚の紙片が境の肩を掠めた。
耳の中を暴れる風音に、ウィルオーグの放った矢継ぎ早の命令が混ざる。
境が選んだ答えは――沈黙。
「くっ……!」
たちまち宣告が効力を発揮し、境の精神が悲鳴を上げる。
だが境も歯を食い縛り、持ち前の気合でダメージを抑え込もうとする。
そこへ容赦なく論文の第二陣が飛来した、その時。
「前進!!」
号令と共に、境を囲い込むように騎士達が展開した。
構えられた無数の穂先が、降り注ぐ紙片を払い、貫き通し――それでも防ぎ切れなかった紙片を、騎士達はその身で引き受ける。
論文を受けた騎士は即座に無敵城塞を展開して他の騎士と交替。彼等に守られながら、境は駆け足のスピードを取り戻していた。
舞い散る紙束の中、徐々に減っていく足音。だがそれに反比例するように、境と騎士達はさらに速度を上げ、一丸となってウィルオーグに突撃をかける。
そして。
「……行って!!」
最後のパラディンが目の前の紙片を纏めて掴み取った瞬間、遂にその向こうに、ウィルオーグの姿が覗いた。
「了解!! 切り裂くっす!!」
境は両手で持ったバス停を大きく引き、担ぐような構えを作る。
切った手札は『断ち切り』。己の間合いにある物体を文字通り両断する、必殺の一撃。
そう。境の間合いに入った瞬間、全ては終わっていたのだ。
「――その歪な過去、今の世界から断ち切るっすよ!!」
フォン! と空気を断つ音と共に、重量を備えたバス停が、袈裟の軌道でウィルオーグに叩き込まれる。
『――』
半分ほど肩にめり込んだ「雨谷」の文字が、噴出した黒い焔に覆われたかと思えば、それはたちまちウィルオーグの全身を包み込み、焼き尽くす。
そして炎が収まった時……そこには何も残っていなかった。
今度こそミスラの村は、異端神官ウィルオーグの魔の手から救われたのだ。
「……ふぅ、何とかなったっすね」
全てが終わった事を確かめた境は、自らの象徴であるバス停を、改めて肩に担ぎ直す。
すると丁度そのタイミングで、背後から、エギュレのパラディン達の勝鬨が響いたのだった。
成功
🔵🔵🔴