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さよなら、モナミ

#ヒーローズアース #猟書家の侵攻 #猟書家 #ラグネ・ザ・ダーカー #ヴィジランテ #心情系

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●あなたはだあれ?
 『ホワイト・ゼファー』は、爽やかな風を纏うスピリットヒーローだった。
 疾風のように街を駆ける彼は、いつでも弱き者の味方。突風を起こして悪い奴をやっつけたり、風を操ることで飛んで行った風船を子どもの手許に戻してあげたり。とにかく人助けを生きがいにして居るようなヒーローだった。
 きっと誰もが、彼のことを「好青年」と呼ぶだろう。けれども、彼は“事故”を頻繁に起こすようになった。
 ――最初の犠牲者は、兄だった。
 彼が起こした突風に吹き飛ばされたヴィランと、私の隣を歩いていた兄が“運悪く”衝突してしまったのだ。頭を割られた兄は、即死だったと云う。
 早くに両親を亡くした私にとって、少し年の離れた兄は親代わりだった。弱くて甘えん坊の私はたくさん心配を掛けたけど、漸く結婚が決まって。これからは兄にも、自分の為に人生を歩んで欲しいと思っていた、――その矢先のことだった。
『嗚呼、俺はなんてことを……!』
 冷たくなった兄の傍に膝を着いた彼は、頭を抱えながら慟哭した。「力の暴走」だとか「赦されないことをした」とか、そんなことを叫んでいたと思う。彼の嘆きように、人々はこころの底から同情していた。
 それも其の筈。兄とホワイト・ゼファーは親友で、おまけに私は彼の婚約者だったのだから。
 事件のあと、彼は私の許を去って行った。罪悪感に耐えられなかったのだと云う。事の顛末を耳にした人々は「運が悪かった」とか「悲劇だった」なんて、在り来りな言葉で私達を慰めた。
 けれども、私だけは知っている。
『ホワイト・ゼファーがまた事件を解決しました。しかし、ヴィランとの戦闘に民間人が巻き込まれ……』
 ニュースで彼の活躍を目にする度に、疑念が確信に変わって往く。彼は本物のヒーローじゃない。あの「ホワイト・ゼファー」は、偽物だ。
 本物の彼が何処に行ったかなんて、知る由は無いけれど。私はきっと、此処で立ち止まっていては駄目。前に進む為にも、自分なりにケジメを付けなければ――。
「……今の私は、護って貰うばかりの存在じゃないの」
 スーパーパワーなんて使えないけれど、それでも「ヴィジランテ」として少しは場数を踏んで来た。私は必ず、兄の仇を討ってみせる。
 丁寧に研いだナイフを放り投げ、壁に貼り付けた偽の彼の写真に向かって投げつける。その貌に見事命中したところで、気分は全然晴れたりしない。
 彼から貰ったリングを嵌めた侭の薬指が、甘く痛んだ。

●偽善者
「ヒーローズアースで、成り代わり事件が発生したようだ」
 グリモアベースに集った面々を見回して早々、神埜・常盤(宵色ガイヤルド・f04783)は本題に移った。
 胡乱な男いわく――幹部猟書家『ラグネ・ザ・ダーカー』の暗躍が確認された。変身能力を持つ彼女は今、とあるヒーローに化けて活躍している。その一方で「任務中の不慮の事故」に見せかけて、一般人の殺戮を繰り返しているのだと云う。
「あァ、変装を見破ったのは僕じゃないよ。とあるヴィジランテの“勘”さ」
 グリモアの予知でも見抜けなかった擬態を、ユーベルコードも持たぬヴィジランテの女性『クロエ』は見破ったのだ。殺戮の被害者の妹である彼女は、兄を奪ったヒーローへ復讐を誓っている。その「正当な怒り」が、本能的にヒーローの正体を見破ったのだ。
「彼女に敬意を払いつつ、共に猟書家を追い詰めてくれ給え」
 ラグネが成り代わっているスピリットヒーロー『ホワイト・ゼファー』はいま、ホテルで取材を受けている。そしてヴィジランテの女性もまた、復讐の機を伺う為に取材スタッフとして現場に潜り込んでいるようだ。
 ――そこに、大戦の英雄である猟兵たちが現れたらどうなるか。
 勿論、取材陣の注目は一気に此方へ集まるだろう。そこで猟兵たちには、ゼファーと共にインタビューを受けて貰いたい。
 ヒーロー気取りの猟書家に、そして共に幹部と戦うクロエに、「本当の英雄の在り方」を見せてやるのだ。そうすれば、クロエの信頼を勝ち取れるだろう。猟書家も監視できるし、一石二鳥である。
「成り代わられたヒーローだが、多分もう――」
 常盤は僅かに眸を伏せて、結論を言い淀んだ。なにしろ件のヒーローは、クロエと婚約をしていたのだと云うのだから。兄を奪われ、恋人も奪われた彼女の胸中の壮絶さたるや、一体どれ程のものか。
「兎に角、偽ヒーローの殺戮を止められるのは君達だけだ」
 頼んだよ、と真面目な調子で付け加えながら、常盤はグリモアを解き放つ。血彩の其れはくるくる、くるくる、軽やかに回転し始めた。
 導く先は英雄たちが集う世界――ヒーローズアース。


華房圓
 OPをご覧くださり有難う御座います。
 こんにちは、華房圓です。
 今回はヒーローズアースで、猟書家シナリオをお届けします。

●このシナリオについて
 こちらは二章構成の幹部猟書家シナリオです。
 本シナリオには全章共通して、以下のプレイングボーナスが存在します。
 『ヴィジランテと共に戦う』
 『猟兵組織「秘密結社スナーク」の一員であると名乗る』
 以上のことを意識して行動すれば、良い結果が得られるでしょう。

●一章〈日常〉
 ゼファーは今、ホテルで雑誌の取材を受けています。
 ヴィジランテの女性も取材スタッフとして、現場に潜り込んでいるようです。
 そこで、アースクライシスの英雄である皆さんの登場です。
 取材陣の関心は既にゼファーから皆さんへと移っているので、
 快くインタビューを受けてあげましょう。

 特に「戦う理由」や「護りたい物の話」などを聴かせて頂けると、
 その場に居るヴィジランテの心にもよく響くでしょう。
 こちらの章はぜひ、心情中心にプレを書いていただけると幸いです。

●二章〈ボス戦〉
 猟書家『ラグネ・ザ・ダーカー』との戦闘です。
 彼女を逃がしたら別の「偽ヒーロー」に化けてしまいます。
 次なる犠牲を出さない為にも、ここで確実に仕留めましょう。

●ヴィジランテ『クロエ』
 偽ヒーローに兄を殺され、復讐を誓った女性です。
 ナイフで戦います。ユーベルコードは使えません。
 本物のホワイト・ゼファーと、婚約していました。

●偽ヒーロー『ホワイト・ゼファー』
 変身能力を持つ猟書家『ラグネ・ザ・ダーカー』が化けた姿。
 任務中の「不慮の事故」に見せかけた殺戮を繰り返しています。
 本物のゼファーは、風を操るスピリットヒーローでした。

●連絡事項
 今回は期限内での完結を最優先に、シナリオを運営いたします。
 一章のリプレイは基本的に「個別のご案内」と成る可能性が高いです。
 プレイングの募集期間は断章投稿後、MS個人ページ等でご案内させて頂きます。
 どの章からでもお気軽にどうぞ。単章のみのご参加も大歓迎です。

 またアドリブの可否について、記号表記を導入しています。
 宜しければMS個人ページをご確認のうえ、字数削減にお役立てください。
 それでは宜しくお願いします。
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第1章 日常 『これがホントのヒーローインタビュー』

POW   :    言葉で語るよりもヒーローの力を実際に披露しよう!

SPD   :    当意即妙の回答でウケを取るぞ!

WIZ   :    豊富な知識や高度な教養をアピールせずにはいられない!

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●Noblesse oblige
 都市部の中心に聳え立つ高級ホテルのフロントに本物の英雄――猟兵たちが降り立った時、辺りは一時騒然とした。
 猟兵たちの登場は当然、上階で「ホワイト・ゼファー」の取材を行っていた記者たちの耳にも届いたらしく。黄色い悲鳴が飛び交うなか、スーツに身を包んだ男が猟兵たちの元へ駆け寄って来た。
 平身低頭して名刺を差し出してくる男の話を聞くに、彼は『Heroes Journal』のインタビュアーらしい。「ぜひ皆さんのお話を聞かせて下さい」と乞う聲に頷く猟兵たちは、案内される侭エレベーターに乗ってミーティングルームへ向かうのだった。

 エレベーターは15階で止まり、幾何学模様の絨毯が敷かれた廊下を一同は進んで行く。やがて奥の部屋まで辿り着けば、インタビュアーの男は清潔な白色の扉を徐に開けた。
 椅子と机が規則的に並ぶ、如何にも会議室と云ったその部屋で最初に視界に入って来たのは、白いスーツを身に纏った優男――件の偽ヒーロー「ホワイト・ゼファー」だ。
 入室してくる猟兵たちを横目に捉え、彼はちいさく微笑んで見せる。自身の変身能力に絶対の自信を持っているのだろう。動じる様子は、全くない。
「取材を受けて頂き有難う御座います、イェーガー」
 猟兵たちがその場に揃えば、取材スタッフたちは一斉に頭を下げる。インタビュアーにカメラマン、コーディネーター、そのどれもが男性だ。
 唯一例外なのは、そそくさと人数分のミネラルウォーターを用意している雑用係のスタッフだ。貌を隠す様に帽子を目深に被っているが、此方はどうやら女性のようである。恐らく、彼女こそが偽ヒーローの正体を見破ったヴィジランテ「クロエ」なのだろう。
 彼女の様子をそれとなく気に掛けながらも、猟兵たちは促される侭に着席する。取材陣の興味は完全に、偽ヒーローから猟兵たちへ移行しているようだった。
『あなた方は何故、世界の為に戦うのですか?』
『あなた方が守りたいものは、何ですか?』
 お決まりのような問いが、インタビュアーの口から紡がれる。カメラマンは猟兵たちの姿を捉え、頻繁にシャッターを切り続ける。クロエは壁際で事の顛末を静観していた。
 ――その問いには、きっと正解は無い。
 ならば、自分なりの答えをぶつけてやろう。本当のヒーローの在り方を、偽ヒーローに見せつけるのだ。
 それに回答次第では、クロエの心が救われることも有るかも知れない。喩え救われずとも、自らの想いを語ることで彼女の信頼を勝ち取ることは出来るだろう。

 カメラのフラッシュに包まれながら、果たして猟兵たちは何を語るのか――。

≪補足≫
・プレイングボーナスは『猟兵組織「秘密結社スナーク」の一員であると名乗る』です。
・アドリブOKな方は、プレイングに「◎」を記載いただけると幸いです。
・「戦う理由」や「護りたい物の話」の他にも、「吐露したい心情」や「伝えたい思い」等ありましたら、ご自由にご記載ください。

・リプレイは「インタビュー開始時から」描写します。
・プレイングで言及がない限り、ゼファーはリプレイに登場しません。
 →ご希望が無い限り、ソロインタビューに成る予定です。
・プレイングには「心情」を詰め込んでいただけますと幸いです。

≪受付期間≫
 断章投稿後 ~ 12月15日(火)23時59分
ウィルフレッド・ラグナイト

インタビューという席は初めてなので緊張しますね
肩に乗る小竜ゼファーを撫でて

私が戦う理由は…身の上話となりますが、かつて大切な人たちを目の前で奪われました
幼い私にとって、それだけで絶望すら感じるものでした
けれど、そんな私を救い、道を示してくれた人がいました
私の師匠です

私は師匠がそうしてくれたように、私のように苦しむ人たちを救いたい、できるのなら悲劇が起きる前に助けたい、護りたい
そう思い戦っています

もしも、私の戦いが原因で誰かが苦しむことになるなら
私はその罪を背負っていく覚悟です
もちろん、そんな人を出さないようにしますが

そういえば言い忘れてました
私、猟兵組織「秘密結社スナーク」の一員なんです



●竜騎士『ウィルフレッド』
 人助けのため西へ東へ旅をしているが、インタビューの席に案内されたのは初めてだ。緊張した様子で背筋を伸ばした青年、ウィルフレッド・ラグナイト(希望の西風と共に・f17025)は、己の肩に乗る真白の小竜「ゼファー」を優しく撫でた。柔らかなシルエットの小竜は、興味津々と云った様子でカメラを見つめている。
「では、ウィルフレッドさん。あなたが戦う理由をお聞かせください」
 質問と共に傾けられるマイクは少しだけ威圧感があるものの、これもヴィジランテのこころを救うためだ、怖気付いてはいられない。身の上話となりますが、と断りを入れて、青年は静かに語り始めた。
「……私はかつて、大切な人たちを目の前で奪われました」
 その言葉に、壁に寄り掛かっているクロエが反応する。彼と同じ境遇を持つ彼女の双眸はいま、青年の整った貌をじっと見つめていた。
「幼い私にとって、それは絶望を感じさせる光景でした」
 目の前で命が喪われて行く恐ろしさ、大切な人が二度と戻って来ない哀しみ。様々な感情は、幼い彼のこころを圧し潰すには充分だった。
 ――それでも、彼はいま高潔な精神を抱いた儘で、戦場に立っている。
「そんな私を救い、道を示してくれた人がいたのです」
「おお、運命の出会いですね!」
 その方とは一体、とインタビュアーは軽い調子で問い掛ける。青年は一度だけゆっくりと瞬きを零し、はっきりとした音色で答えを紡いだ。 
「私の、師匠です」
 その人は絶望に染まりかけたウィルフレッドに正しき路を示し、立派な騎士に育て上げてくれた。彼の教えがなければ、今頃ウィルフレッドは此処に居なかっただろう。
「私は、苦しむ人たちを救いたい」
 尊敬する師匠が嘗て、自身へそうしてくれたように――。
 叶うことなら、悲劇が起きる前に助けたい、護りたい。まだ彼の人の足元にも及ばないけれど。託された剣が及ぶところの人々だけは、せめて……。
「そう思いながら、戦っています」
 背筋を伸ばした侭、凛と語る英雄の崇高な様に取材陣は思わず息を呑んだ。事態を静観して居る、クロエすらも。
「けれど、もし私の戦いが原因で誰かが苦しむことになるなら」
 青年は涼し気な青い眸をちらり、彼女へ向ける。この科白が、彼女を救う言葉に成るか如何かは分からないけれど。
「――私はその罪を背負っていく覚悟があります」
 もちろん、そんな人を出さないように最善を尽くしますが。そう言葉を重ねるウィルフレッドは、何処までも真摯だ。インタビュアーはすっかり感心した様子で、彼の話に耳を傾けていた。
「なるほど、有難う御座いました。最後に、何か一言お願いします」
「……あ、そういえば言い忘れてました」
 フリートークを促され、青年はふと大事なことを想いだす。この世界の猟書家の中には、『スナーク』の名の元に恐怖を集めようとしている者が居るのだ。それを妨害する術は、ただひとつ。
「私、猟兵組織『秘密結社スナーク』の一員なんです」
「イェーガーたちの組織ですか、それは頼もしい!」
 きっと『秘密結社スナーク』の件も雑誌に記載されるだろう。ただし、弱きを助け悪を挫く“正義の味方”の組織として。任務を果たした竜騎士は、穏やかに微笑みながら目礼ひとつ。彼の崇高さはきっと、クロエにも伝わった筈である。
 ウィルフレッドもまた、誰かの歩むべき路を照らし出すことが出来たのだ。嘗ての師と同じように――。

成功 🔵​🔵​🔴​

ミネルバ・レストー


ああ、何て外道
今すぐくびり殺してやりたいけど、仕方がないから付き合ってあげる
ニコニコ笑顔と弾む声、目いっぱいの演技をご覧なさい

わたし――まあ、強化人間みたいなものだと思って頂戴
(ネットゲームのアバターという出自を説明するのが面倒と判断)
元々戦うために生まれたも同然だから、理由って言われても難しいわね
強いて言うなら、それは最近はっきりした感じかしら

言いながら見せるのは左手薬指のリング
横目で白スーツの優男を見ながら続ける

わたし、ハッキリ言ってそこそこ強いから
愛しい人は当然この手で守るし、ついでに世界だって守ってあげる
ねえ、あなたはどうかしら?
大切な人に恥ずかしくない「ヒーロー」たる自信は、ある?



●召喚師『ミネルバ』
「じゃあ、こっちに笑顔お願いしますー」
「ふふ、綺麗に撮って頂戴ね」
 フラッシュを焚くカメラに向かって営業スマイルを向けながら、ミネルバ・レストー(桜隠し・f23814)は、ちらり。部屋の隅に追いやられた、偽ヒーローへと視線を向ける。彼は相変わらず涼しい貌で、猟兵たちの取材風景を見学していた。
 ――……ああ、何て外道。
 奪った其の姿で悠々と寛ぐ様は、赦し難いものだ。本音を言えば、今すぐにでも縊り殺してやりたかった。けれど、此処を戦場にする訳にも行かない。
 ――仕方がないから、付き合ってあげる。
 湧き上がる怒りはにこやかな笑顔に隠し、少女は燥ぐように聲を弾ませるのだった。

「ミネルバさんは、どんな特性をお持ちですか?」
「わたしは……――」
 素直に出自を説明しようとして、少女は少し逡巡する。そもそも彼女は「PvPオンラインゲーム」の「アバター」として生を受けたのだが、こういう硬派な雑誌を作る人達に、果たしてその説明が理解できるだろうか。
「まあ、強化人間みたいなものだと思って頂戴」
「なるほど」
 一から説明するのは面倒なので、適当にお茶を濁しておく。インタビュアーは其れだけの説明でも、どうやら納得してくれたようだ。それ以上は追及されなかった。
「では、あなたが戦う理由は?」
「……難しい質問ね」
 傾けられたマイクと共に紡がれた問い掛けに、ミネルバは腕を組んで考える。PvPゲームのアバターである彼女は、戦うために生まれた存在。もともと“そういう風に”プログラムが施されて居るのだ。けれども、最近。彼女は漸く自分の意思で、力の振い方を決められるようになった。
「強いて言うなら――」
 少女はそっと、取材陣に向けて左手を上げて見せる。その薬指には、永久の愛を誓う指輪が燦燦と煌めいていた。おおっ、と男性陣が歓声を上げる傍らで、その煌めきから貌を背けるクロエの姿は痛ましい。
「わたし、ハッキリ言ってそこそこ強いから。愛しい人は当然この手で守るし」
 ついでに世界だって守ってあげる――。
 白いスーツの優男「ゼファー」を横目に、ミネルバはきっぱりとそう言い切った。彼女の力は、愛する者の為に有るのだ。
 少女は徐に頸を巡らせ、傍観者を気取っていた偽ヒーローへ問いを編む。
「ねえ、あなたはどうかしら?」
「……というと」
 彼女が言わんとしていることなど、既に察して居るだろうに。ゼファーは涼しい貌のまま、そう恍けて見せた。苛立ちを隠しながら、ミネルバは更に言葉を重ねて往く。
「大切な人に恥ずかしくない“ヒーロー”たる自信は、ある?」
「手厳しいな――」
 苦笑して肩を竦めながら、ゼファーは頸を横に振る。恋人の兄を殺めた自分には、そんな自信など無いのだと彼は云った。
「正義の為なら、恥くらい幾らでもかいてやるさ」
 此れ以上ないほどの、欺瞞。
 悪意が潜んだ彼の科白に、クロエは拳を震わせる。抑えきれぬ彼女の哀しみを、ミネルバの双眸は、確りと見つめていた。
 ――なにが、正義よ……。
 結婚を目前にした女の喜びは、先月まで同じ立場だった彼女が一番よく分かっている。その幸せを踏み躙った猟書家は、絶対に許せない。
 殺意は未だ、笑顔の裏に隠しておこう。偽物が尻尾を現す、その時まで――。

成功 🔵​🔵​🔴​

月居・蒼汰

インタビューは少し照れくさいけど
ちゃんとヒーローっぽく振る舞えるよう頑張ります

と言っても…何故戦うのかなんて
そういえばちゃんと考えたことがなかった
守るべき世界があって、守るべき人がいて
戦わなければならない敵がいたから、戦ってきた
それくらい、俺にとっては戦うこと自体が当たり前というか、身近なもので
言わば生きるために戦っている…それが理由、でしょうか

でも、ヒーローとして戦えるのは光栄なことです
こんな俺でも誰かを守ることが出来るんだって思えるし
誰かのために戦えるのは、やっぱり、嬉しいことだから

秘密結社スナークの一員として
これからも、このヒーローズアースのために
この世界に生きる人々のために、戦います



●スピリットヒーロー『月居・蒼汰』
 眩いフラッシュが其の身を明々と照らし出し、黒塗りのマイクがいま己の口許へ向けられている。この世界における猟兵は、すっかり芸能人扱いだ。月居・蒼汰(泡沫メランコリー・f16730)は、はにかむように口許を弛ませて、「宜しくお願いします」と取材陣に軽く会釈した。
 こうして取材を受けるのは、少し照れくさいけれど。このインタビューは雑誌に載せられると云うのだから、ヒーローらしく振舞えるように努めるとしよう。
「早速ですが、あなたが戦う理由を教えてください」
「そう、ですね……」
 投げかけられた問いに金の双眸を伏せた青年は、暫し思案する素振りを見せる。“猟兵”と“戦い”は切っても切れぬ仲なので、改めて問われると答えを導くことが難しい。
 ――そういえば、ちゃんと考えたことがなかったな。
 彼の眼前には何時だって、守るべき世界があった。そして其処には、守るべき人がいた。蒼汰はただ“戦わなければならない敵がいた”から、戦ってきたに過ぎないのだ。
「俺にとっては戦うこと自体が当たり前というか、身近なもので」
 ふと振り返った時にはもう、すっかりヒーローとしての道を歩んでいて。序に何時の間にやら、猟兵にも選ばれてしまっていた。思い返せば自分の半生は、戦場と共に在ったような気さえする。

 言わば、生きるために戦っているのだ――。

「それが理由、でしょうか」
 本音を言うと、戦うことは余り好きじゃない。傷つくことも、矢張り「怖い」と思う。我が身を襲う痛みには、まだまだ慣れない。けれども、恐怖や痛みを知っているからこそ、蒼汰は強く優しい英雄で在り続けられるのだ。
「……ヒーローとして戦えるのは光栄なことです」
 誰かの為に戦えるのは、やっぱり、嬉しいことだから――。
 先の大戦『アースクライシス』を通じて、こんな自分でも誰かを守ることが出来るのだと、そう想うことが出来た。
 それから蒼汰は少しだけ前向きな気持ちで、戦場に立てるように成ったのだ。
「成る程、有難う御座いました。最後に何か一言お願いします」
 思いの丈を吐露した青年に向けて、再びマイクが向けられた。ヒーローとして他に語るべきことは、只ひとつ。
「秘密結社『スナーク』の一員として、これからも、このヒーローズアースのために。そして、この世界に生きる人々のために、戦います」
 胸を張ってそう語る青年の眸には、一寸の迷いも無かった。
 確りと前を見据える彼の姿勢は、壁際で彼らの遣り取りを見守るヴィジランテの娘にも、きっと良い影響を与えたことだろう。
 得てして「ヒーロー」と云うものは、人々に希望を与える存在なのだ。

成功 🔵​🔵​🔴​

本・三六

御免。顔は。いやあ、照れくさいんだ
猟兵組織スナークとして素顔はこの通り
君たちがよく見て覚えておくれよ。……いいかな?

『試作八八號』ゴーグルをつけ
真剣に柔らかく。元婚約者の彼女の様子も視界に入れて
何か伝わるといいね

ボクの片親はさ
神隠しでこの世界に来たんだ
特徴があってね
感情が昂ぶると光が出る。そういう種族
そのせいかな
拐われた事があったらしい

助けてくれたヒーローが居てね
ボクの師とする人だ
彼は親に限らず、困った誰かをたくさん助けた
おかげで元気にボクも彼らも生きてるってわけ
師は、残念だが亡くなった

けど、救った命は道を歩み続けている
ボクも少し人の役に立ちたいんだ

犠牲者?贖いを考えるよ。罪とそれは別だから



●スーパーヒーロー『本・三六』
 着席すると同時に、重たげなカメラが向けられる。シャッターが切られる前に、本・三六(ぐーたらオーナー・f26725)は急いで己の貌を両手で覆い隠した。
「御免、顔は――」
「おや……撮影はNGでしたか?」
「いやあ、そういう訳じゃないけれど。少し照れくさいんだ」
 はにかむように青年が微笑み掛ければ、カメラマンは大人しくカメラを降ろす。少し残念そうな取材陣へ向けて、三六は己の貌を指差しながら、おっとりと笑い掛けた。
「猟兵組織スナークとして素顔は、ほらこの通り」
 君たちがよく見て覚えておくれよ。そう戯れて見せたなら、場の空気は途端に和む。満足気に頷きつつ、青年は愛用の電脳ゴーグル『試作八八號』で双眸を隠すのだった。
「では始めましょう。まずは、あなたが戦う理由を伺っても?」
 己の方へ向けられたマイクを見降ろしながら、「少し昔話をしようか」と、青年は和らかに言葉を紡ぐ。その場の誰もが、彼が如何なる話を語るのかと云うことに注目していた。
「――ボクの片親はさ、神隠しでこの世界に来たんだ」
「ああ、異世界からの“迷い人”ですか……」
 悪が蔓延るこの世界では、大いなる力が働いているのか、何故か神隠しで連れて来られる者が少なく無いのだ。そして、そういう異邦人が世界を救ってくれるヒーローと成ることも有るので、“迷い人”現象は一般人にも周知されているのである。
「感情が昂ぶると光が出る、そういう種族でね」
 文字通り“後光を背負って”いるんだ――。
 そう語る彼の口許は、何処までも柔らかだ。昔話を語り聞かせるような聲彩すら、聴く人のこころを何処か落ち着かせるようだった。
「そのせいかな、攫われたことがあったらしい」
「それは……災難でしたね、親御さんはご無事でしたか」
「ああ、助けてくれたヒーローが居てね」
 遠慮がちに掛けられた問い掛けに、青年は小さく頷いて見せた。ちらり、視界の端にクロエの姿を映しながら、彼は言葉を紡ぎ続けて行く。
「――それは、ボクの師とする人だ」
 噺の劇的な展開に、語り手だけではなく、聞き手の表情にも真剣さが漲り始める。其の場の誰もが、後に続く言葉を待ち焦がれていた。
「彼は親に限らず、困った誰かをたくさん助けた」
 そのおかげで斯うして元気に、ボクも彼らも生きてるってわけ。青年がそう明るく締め括れば、間髪を入れずに次の質問が飛んでくる。
「その師匠はいま、どちらに?」
「……残念だが、亡くなった」
 口惜し気に紡いだ答えに、沈黙が漂う。されど、彼の語る噺は決して悲劇で終わらない。壁際に佇むクロエを見つめながら、青年は静かに口を開いた。
「けれど、救った命は道を歩み続けている」
 嘗て師匠に救われた三六たちのように。本物のゼファーが救った人々もまた、人生と云う名の路を歩み続けている筈だ。喩えもう彼が居なくとも、その意思を受け継ぐ人はきっと何処かに居るのだということを、彼女には知っていて欲しい――。
 果たして、そんな彼の想いが伝わったのだろうか。遠巻きにインタビューを見守るクロエはいま、掌で口許を覆い隠して必死に嗚咽を堪えていた。
「ボクも少し、人の役に立ちたいんだ」
 そんな彼女を暖かく見守りながら、三六は優しく言葉を重ねて往く。最後にひとつだけ、と云う断りと共に紡がれた問いを耳に捉える迄は。
「ヒーロー活動の際、民間人に犠牲が出ることも有りますが。それについてのお考えは?」
「……もしボクが同じ立場なら、贖いを考えるよ」
 人を殺めた罪と悪人討伐の功績は、きっと別物だから。
 正義は殺戮の冤罪府では無いと、青年は猟書家の企みを否定する。クロエの兄の死は、“仕方のないこと”などでは無いのだ。
 そう言外に語る彼の科白は、まるで恵みの雨の如く。クロエの乾いたこころへ、優しく染み渡って往くのだった――。

成功 🔵​🔵​🔴​

尖晶・十紀

…え、うん十紀も猟兵組織の…スナークの一人だけど…何、インタビュー?別にいいけど、手短にね。

戦う理由
望まれたから、手を貸した。ただそれだけ。別に世界がどうだとか、正義のためだとか、そんな大義名分ひとまずどうでもいい。目の前に困ってる人がいて、そいつが十紀の力を求めてる。戦う理由なんてそれで十分だよ。……結局直接護れるのは、目の前にいる相手、手の届く範囲にいる相手だけなんだしさ。

護りたい物
そうだね………今は、友達、かな。強くて、面白くて、優しくて……十紀にはもったいないくらいの……いい人達なんだ。
だから、守らなきゃ、って思う。



●白い悪魔『尖晶・十紀』
 転送されて早々、会議室のような部屋へ連れて来られてしまった。しかも、カメラマンやインタビュアーの注目を一身に受けている。
「貴女も『スナーク』の一員なのですか?」
「……え」
 差し出されたマイクに、そして繰り出された唐突な質問に、尖晶・十紀(クリムゾン・ファイアリービート・f24470)は、焔彩の双眸をぱちぱちと瞬かせた。
「うん、十紀も猟兵組織の……スナークの一人だけど……」
「矢張りそうでしたか! 是非、インタビューにご協力お願いします」
 戸惑いながらも頷けば、更にインタビュアーは喰い付いて来る。どうやら秘密結社『スナーク』は、彼らに好い印象を与えているようだ。
「……別にいいけど、手短にね」
 お喋りは、少し不得手なのだ。眩しいフラッシュから目を逸らすように貌を背け、白い指先で柔らかな髪を弄りながら、少女は小さく肯いた。

「では、十紀さん。あなたが戦う理由を教えてください」
「――望まれたから、手を貸した」
 己の方へ向けられた黒いマイクに向けて、少女は淡々と聲を落とす。言葉少なに紡がれた彼女の返答に、インタビュアーとカメラマンは思わず貌を見合わせた。
「ただ、それだけ」
 大義名分なんて、どうでも良かった。世界がどうだとか、正義のためだとか、そういう大層なことは端から考えていない。ただ、十紀は生まれつき戦う力を持っていて。眼前の困っている人が、彼女の力を求めている。
「戦う理由なんて、それで十分だよ」
 弱き者の為に力を振るうことは、彼女にとって当たり前。けれども常人からすれば、其れは十分に高潔な生き方だ。素晴らしい、とインタビュアーも感嘆を漏らしていた。
「……結局直接護れるのは、目の前にいる相手」
 手の届く範囲にいる相手だけなんだしさ――。
 感銘を受けた様子の彼をクールに眺めながら、少女はぽつりと独り言ちる。今の自分なら、生き別れた姉のことも護って遣れただろうか。

「それでは、十紀さんが護りたいものとは?」
「そうだね……」
 銀絲の髪を指先で弄びながら、少女は暫し思考に耽る。自身を求める人の力には、何時でも成ってあげたいけれど。“護りたいもの”と限定されるなら、答えはひとつ。
「――今は、友達、かな」
「成る程、ご友人ですか」
「強くて、面白くて、優しくて……。十紀にはもったいないくらいの……いい人達なんだ」
 小さく首肯しながら、十紀は大切な友人たちへと思いを馳せる。共に戦場を駆け、時に遊び、時に音を奏でた。彼女たちと過ごしたひと時は、掛け替えのない宝物だ。
「だから、守らなきゃ、って思う」
 いまの自分には、それを叶えるだけの力が有るのだから。
 拳をぎゅっと握り締めて想いを語る少女を、ヴィジランテの娘は神妙な眼差しで見つめていた。
 十紀の高潔さはきっと、彼女の傷付いたこころを光の如く照らすだろう――。

成功 🔵​🔵​🔴​

旭・まどか


ヒーローなんて柄じゃあ無いし拒否したいのだけれど
駄目?嗚呼そう
仕方ない
面倒と思わない範囲であれば応えてあげる

僕が戦う理由は“あの子”がそれを望んでいるから
あの子が力を行使出来なくなったから
“代わり”の僕が其をしているだけ
僕自身は世界がどうなろうが知った事では無いよ

――薄情?そうだね
だから嫌だって言ったじゃない
耳障りの良い言葉の方が望ましいのだろうけれど
生憎と嘘は嫌いでね

虚偽も虚構も甚だ頭に来る
ねぇ、君もそう思わない?

僕の問いかけに彼が何て応えるのか、見物

守りたいものは、何だろう
少なくともこの“身体”と“力”は失いたく無いと思っているよ
でないと“僕”が此処に在る“意味”が、無くなってしまうから



●写し身『旭・まどか』
 順調にインタビューを熟して行く同胞たちの姿を眺めながら、旭・まどか(MementoMori・f18469)は独り、憂鬱そうに吐息を零した。
 ――ヒーローなんて柄じゃあ無いし、本当は拒否したいのだけれど……。
 それも含めての任務なのだから、引き受けた以上は遣るしかない。気が乗らないからと云って仕事を投げ出す程、彼は子供じゃ無いのだ。
「じゃあ次は……まどかさん、お願いします」
「仕方ない、面倒と思わない範囲で応えてあげる」
 相変わらず気の無い素振りで、ただ視線だけをインタビュアーに向ける少年へと、容赦なくフラッシュの光が襲い掛かる。無遠慮な其れに不愉快そうに双眸を細めながらも、彼は問いかけを待った。
「あなたは何故、戦うのですか?」
「……“あの子”がそれを望んでいるから」
 言葉少なに、ただ其れだけを答える。まどか自身は、望んで戦場に立っていない。しかし、世界を愛する“あの子”が力を行使出来なくなってしまった。だから、
「あの子の“代わり”に、僕は力を行使しているだけ」
「それで、“あの子”とは一体?」
 興味深げにマイクを向けられて、少年は深い溜息を唇から吐き出した。こころの裡へ無遠慮に踏み込まれることは、何よりも不愉快だ。まどかは問いかけに答えず、彼らへチクリと牽制の棘を刺す。
「言っておくけれど、僕自身は世界がどうなろうが知ったことでは無いよ」
 自分は自分、他人は他人。
 喩え同朋たちがどんな想いで戦禍に身を置いていようと、口出しする心算は無い。けれども、其れを見習う道理も無い。彼としては他人と自分を同化することを好まぬ故に、自然と距離を置くような言動を取ってしまうだけなのだが。彼の信条を知らぬ記者の目には、その態度は冷たく映ったらしい。
「……その発言は、聊か薄情なのでは」
「そうだね」
 本日二度目の、深い溜息。こういう展開になることは分かっていたから、インタビューなんて嫌だったのだ。本当は耳障りの良い言葉の方が、望ましいのだろうが。
「生憎と、嘘は嫌いでね」
 虚偽も虚構も、甚だ頭に来る。
 そう淡々と語る少年は、隅の方で愉快そうに遣り取りを見守っていた偽ヒーローへと視線を向けた。気取ったような眼差しと、視線が絡む。
「――ねぇ、君もそう思わない?」
「ああ、欺瞞は恥ずべきことだろうね」
 欺瞞の化身のような存在が、よく言ったものだ。
 少年は冷たい眼差しをひとつ彼に呉れて、未だ向けられたままのマイクへと視線を戻す。未だ、この茶番は続くのだろうか。
「では、護りたい物も無いのですか?」
「……少なくともこの“身体”と“力”は、失いたく無いと思っているよ」
 それは、事実だ。もっとも、まどかは我が身が可愛い訳では無い。
 彼にとって躰を、戦う力を喪うことは、“まどか”が此処に在る“意味”を喪うことに等しいのだ。
 “あの子”の望みを叶えることこそ、此の虚ろな躰の生きる意味。誰かの生を華奢な躰に背負って、少年は今日も苦界を生きている。
 果たして彼が裡に秘めた覚悟の片鱗に触れて、ヴィジランテの娘は何を想ったのだろうか。――否、彼女が何を想おうと、まどかには関係無い。
 胸中に抱いた感情の名前は、本人だけが知って居れば、それで良い。

成功 🔵​🔵​🔴​

ヴォルフガング・ディーツェ
◎☆
弑するのみならず成り代わって死者の名誉を汚すか、猟書家

殺意は笑顔とスーツ、柔い香りのコロンの下に隠し取材に

「秘密結社スナーク」の一猟兵、ヴォルフガングだよ、今日は宜しくね

戦う理由か…言葉にするなら若き戦士達の支えとなる為、かな

個人的な怨恨もあるが、それはベッドの中ででならお教えしようかな。…ふふ、冗談だ
…これでも俺は見た目より年寄りでね、ついお節介を焼いてしまうんだ

高潔なる彼等が生を全う出来る様に、その願いが叶うようにとね
戦う者は孤独だ、時に願いに、命の重さに潰れてしまう事もある
そうならないよう、少しだけ荷を支えるのが老兵の役目

然り気無くクロエに目配せし、命の重さは猟書家への皮肉として紡ぐ



●魔狼『ヴォルフガング』
 悪しき企みを抱く猟書家がその場に居ると云うのに、取材は極めて順調に行われていた。猟兵も、猟書家も、未だ互いの出方を伺っている段階なのだ。
「秘密結社『スナーク』の一猟兵、ヴォルフガングだよ」
 滑らかなスーツに敵意を隠し、柔らかなコロンの馨に殺意を紛らせながら、ヴォルフガング・ディーツェ(花葬ラメント・f09192)もまた、取材陣へと笑顔を振り撒いて見せる。序に、白いスーツの優男にも。
 ――成り代わって死者の名誉を汚すか、猟書家。
 眼前の猟書家『ラグネ・ザ・ダーカー』は、英雄を殺めるだけでは飽き足りぬらしい。彼女の悪辣さに内心で怒りを燃やしながら、「今日は宜しくね」なんて取材陣へファンサービス。軽やかに片目を閉じて、手慣れたウインクを披露する。すかさずフラッシュが注がれるところを見るに、取材陣も矢張りプロであった。
「ありがとうございます。では、戦う理由をお伺いしましょう」
「……若き戦士達の支えとなる為、かな」
 普段意識して居ないことを、改めて言葉にするのは新鮮だ。勿論、個人的な怨恨もあるけれど。後進たちを気遣う想いも確かに、彼の中には存在していた。
「若者たちの支え、ですか?」
「ああ、これでも俺は見た目より年寄りでね」
 ついお節介を焼いてしまうんだ――、なんて。不思議そうな反応を返すインタビュアーに、青年の姿を取りながらも百年生きる人狼は緩く笑って見せる。
「高潔なる彼等が生を全う出来る様に、その願いが叶うようにとね」
 つまり、ヴォルフガングは若者たちのサポート役として、戦場に立っているのだ。天命を全うできぬ年若い者達の姿を視るのは、いつだって辛いもの。ゆえに、人狼は彼らを支えたいと願っている。
「――戦う者は孤独だ」
 力を持つが故に、戦士には何時だって責務が付き纏う。人々から託される純粋な願いは、そして戦士たちが背負う人々の命は、何よりも重い。
 そのプレッシャーに押し潰されてしまう若者も、決して少なくは無いのだ。
 君も分かるだろうと、偽ヒーローに皮肉を交えて問い掛ける。されど優男は曖昧な笑みを滲ませるのみ。――それもそうだろう、彼にとって命は正義より“軽い”のだから。
「そうならないよう、少しだけ荷を支えるのが老兵の役目」
 ヴォルフガングの語る戦士の中には勿論、本物の「ホワイト・ゼファー」も入っていた。未来ある彼を救えなかったことは、矢張り惜しい。彼の死を胸中で悼みながら、人狼の青年は然り気無く、クロエに目配せひとつ。
 たった一人の戦士の喪失を嘆く者は、此処にもちゃんと居るのだ。どうか、その想いが彼女にも伝わるようにと、人狼の青年は密やかに祈るのだった。

成功 🔵​🔵​🔴​

琴平・琴子


昔戦争があったのでしたっけ
その戦争は私は知らないのですけども
それでも
助けを求められたらきっと駆けださずにはいられないのでしょうね

どうして呼吸をするのですかと言われてどのように答えますか?
目の前に助けを求める声があれば其方に向かうのは当然ではなくて?
そこに正義も邪悪も関係無い、自警団だって誰もがヒーローになれます
私の様な子供にだって誰もがなれます
それを志した時から、誰もがヒーローですから

私は私に期待する顔に、声に、それに応えたい
それがどんなに重たいものでも
清く正しくありたい
その期待に、胸を張って誇れる様に



●前を向く王子『琴平・琴子』
 同朋たちに、マイクとカメラが向けられていく。まるで芸能人の如き扱いに、琴平・琴子(まえむきのあし・f27172)は独り頸を傾けていた。
 ――昔、戦争が有ったのでしたっけ……?
 先の戦争「アースクライシス」で大活躍した猟兵たちは、この世界では将に英雄であり、有名人なのだ。然し、琴子はその戦争の実態を知らないので、いまいちその扱いがピンと来ない。けれども、ひとつだけ確かなことが有る。
 ――助けを求められたらきっと、駆けださずにはいられないのでしょうね。
 常に正しく在らんとする自分は勿論。他の猟兵たちも、きっとそう。
 けれども、その時の戦争についてコメントを求められたらどうしよう。知らないことの話は出来ないし。そう、そわそわしている内に、取材陣は琴子の許にも遣って来た。悩んでいても仕方がない、腹を決めて取材を受けるとしよう。
「では、琴子さん。あなたは何故、戦うのですか?」
「……どうして呼吸をするのか問われたとして、貴方はなんと答えますか」
 長い睫を伏せながら、琴子は静かに答えを紡ぎ始める。彼女にとってそれは、きっと単純で簡単な問題だ。
「目の前に助けを求める声があれば、其方へ向かうのは当然ではなくて?」
 少女が解くのは、正義の在り方ではない。ただの、人としての道理だ。弱きものを護り、助けを乞う者に手を差し伸べる。そこに、正義も邪悪も関係無い。
「自警団だって、私のような子供だって、誰もがヒーローになれます」
 それを志した時から、誰もがヒーローですから。
 悪人であろうと善人であろうと、助けを求める聲に答えたなら、その瞬間からもうヒーローに成っている。それはきっと、ヴィジランテのクロエも同じ筈だ。
 喩え「復讐心」が根本にあったとしても、彼女は確かにゼファーの意思を継いでいるのだろう。
「私は私に期待する顔に、声に、人々に応えたい」
「ご立派な志ですね。しかし、辛くなる時は在りませんか」
 気遣うようなインタビュアーの科白に、琴子は気丈にも頸を振って見せる。喩え、救いを求める人々から寄せられる期待がどんなに重かったとしても、彼女は挫けないのだ。
「私はただ、清く正しくありたいのです」
 人に誇れる自分で居るために――。
 そうじゃないと、ここまで育ててくれた両親に、そして嘗て憧れた王子様に、胸を張ることは出来ない。
 少女にとって其れは、自身のこれまでの生き方を否定することと同義である。
 如何なる時も正しさを求め続ける少女の姿勢に、その場の大人たちは感嘆を禁じ得ない。彼女の取材を遠巻きに見守るクロエのこころにも少しずつ、覚悟のようなものが芽生え始めていた。
 真に正しい道を往く者は、時に迷い子の標と成るのだ。

成功 🔵​🔵​🔴​

コノハ・ライゼ
◎

こーゆー席ってのは正直性に合わない
……でも許せねぇンだよね、同じ「なりかわり」としてはさぁ
ホンモノの尊厳踏み躙るやり口ってのが

いつものように調子よくカメラに笑顔向け手を振り
戦う理由?
笑顔を守りたいからに決まってる、月並みだけどネ
オレは笑顔が大好物……んんっ、大好きだもの

ケド世の中ってどうしようもない事も起きるじゃナイ?
オレ達のこの力は、そのどうしようもない事をどうにかする為にあると思ってる
ナニカを諦める人を、笑顔を失う人を、生まないようにネ
そう思わなくて、ヒーロー?

そうそう、秘密結社スナークなんだケドね
最近名を騙る偽物が多くて、オレも一員として困ってるワケ
ソコんトコも宜しく広めておいてねぇ



●悪食家『コノハ』
 カメラ越しに注目を浴びるうえに、マイクに向かって立派な感想を求められる。くるくる言葉を操り、妖狐らしく嘘も誠も気分次第なコノハ・ライゼ(空々・f03130)にとって、こういう取材の席は性に合わないのだが。
 ――……許せねぇンだよね、同じ「なりかわり」としてはさぁ。
 虚ろな此の躰は、“あの人”の愛したもので塗り固められている。しかし、其れは“自分”を罰し、殺した結果に過ぎない。
 されど、部屋の端に居るあの猟書家は、敢えて本物の尊厳を踏み躙っているのだ。「ヒーロー」に対する疑念を、人々に抱かせるために。
 胸中に渦巻く不快感はいつもの笑顔に隠し、青年は愛想よくカメラに手を振って見せる。すかさずシャッター音が響き渡り、眩いフラッシュに其の身は包まれた。
「コノハさん、あなたは何故戦うのですか?」
「そんなの、笑顔を守りたいからに決まってる」
 月並みだけどネ、なんて。片目を閉じて見せながら、コノハは軽い調子で答えを紡いで往く。別に嘘はついていない、何故なら――。
「オレは笑顔が大好物……んんっ、失礼」
 一瞬漏れ出た本音を咳払いで誤魔化して、にっこりとカメラに向けて笑い掛ける。悪食の趣味を全世界に曝す程、彼も物好きでは無いのだ。
「笑顔、大好きだもの」
「成る程、皆の笑顔を護る為に戦われているのですね」
 物は言いようだ。納得した様にメモを取るインタビュアーへと、コノハは満足気に微笑みながら頷いて見せる。
「ケドさ、世の中ってどうしようもない事も起きるじゃナイ?」
 ヒーローズアースは、豊かで平穏な世界だ。それでも、この世界にだって悲劇は溢れている。オブリビオンが居る限り、人々はいつでも危険に晒されているのだ。
「この力は、そのどうしようもない事をどうにかする為にあると思ってる」
 猟兵たちには、力が有る。
 それを如何に使うかは個々に委ねられているけれど。生きることを諦める人が、笑顔を奪われる人が、これ以上生まれないように戦う者は矢張り多い。
「――そう思わなくて、ヒーロー?」
 ちらり、黙って取材に耳を傾けている偽物へと流し目を呉れる。ゼファーは憔悴の欠片も見せず、涼しい貌で彼の意見に頷いた。
「そうだ、力は正義を行使する為にある」
「……気が合って何より」
 そうじゃないデショ、なんて突っ込みは口に出さなかった。偽物が語る正義は、弱者の犠牲のもとに成り立っている。コノハが抱く想いとは、正反対だ。
「そうそう、秘密結社『スナーク』なんだケドね」
 悪意ある成り代わりと議論を交わすのも無駄だと割り切って、青年は徐に話を返る。『スナーク』の名を悪用させぬことも、任務のひとつだ。
「最近名を騙る偽物が多くて、オレも一員として困ってるワケ」
「イェーガー……いや、スナーク詐欺ですね?」
「そ、だからソコんトコも宜しく広めておいてねぇ」
 インタビュアーは記事を掲載する際に、秘密結社『スナーク』を騙る者への注意喚起も併記してくれることを約束してくれた。
 しかし、喩え目の前で猟書家の企みを挫こうとも、成り代わりへの嫌悪感が消えることは無い。腹に燻ぶる憤りを吐き出すのは、“食事”の時間まで取っておこう。

成功 🔵​🔵​🔴​

カイム・クローバー

英雄なんて大それた存在じゃねぇよ。少なくとも俺はそんな存在になるのは御免だね。俺が戦ってるのは俺自身の為だ。――結果として世界が救われた、その程度の話さ。

ああ、けどな?
嫌いなモンなら答えられるぜ。俺はな、クソッタレの外道が大嫌いなんだ。信念も誇りも覚悟も。持たねぇ癖に命を何とも思わねぇクソッタレを見てると吐き気がする。そういう連中は決まって叩き潰してきた。
精々、俺に睨まれねぇよう気を付けな。ヴィランだヒーローだ、御託はあるだろうが、んなモン、関係ねぇ。

ああ、それと――もう一つ、言い忘れていた。
俺は猿真似野郎も大嫌いなのさ。誇りも尊厳もそして、魂も。そいつだけのモンだ。誰にも汚せやしねぇのさ。



●便利屋『カイム』
 カメラとマイクを向けられて尚、カイム・クローバー(UDCの便利屋・f08018)は不機嫌さを隠さぬまま腕を組み、背凭れに身を預けていた。
「いやあ、先の騒乱の英雄たちのお話を聴けて大変光栄です」
「……英雄なんて大それた存在じゃねぇよ」
 そんな存在に成るなんて、御免だった。他の猟兵たちのこころの裡は分からないが、少なくとも彼はそう思っている。
「またまた、ご謙遜を……。では、あなたは何のために戦うのですか?」
「俺が戦っているのは、俺自身の為だ」
 きっぱりと、そう云い切って見せる。護りたい人は居るが、それとこれとはまた別だ。自分の為に銃と剣を取り、戦場を駆けた結果、たまたま世界が救われた。
 ただ、それだけの話。
「――ああ、けどな?」
 刹那、カイムの眼光が鋭くなる。視線の先には、涼しい貌の偽ヒーローが居た。未だ行動を起こすタイミングでは無いが、何か言って遣らないと気が済まない。
「嫌いなモンなら答えられるぜ」
「おや、それは何ですか」
「俺はな、クソッタレの外道が大嫌いなんだ」
 吐き気がする――。
 カメラにもインタビュアーにも視線を向けず、青年はただ偽者へと感情をぶつけて行く。偽のゼファー、『ラグネ・ザ・ダーカー』のやり口は、外道そのものである。
 信念も誇りも、覚悟すら持たない癖に、命を何とも思っていない。
「そういう連中は、決まって叩き潰してきた」
 ヴィランだヒーローだ、そんな御託は関係ねぇ。偽物から目を逸らすことなく、殺気すら放ちながら、カイムはそう語る。憮然とした貌をする偽物だが、その眸には何処か愉快そうな彩が浮かんで居た。
「精々、俺に睨まれねぇよう気を付けな」
 偽物のゼファーと、その正体に気付いたクロエには分かる、密やかな宣戦布告。カイムの不穏な発言に、ミーティングルームはたちまち緊張感に包まれた。
「あ、ありがとうございました。では、そろそろ……」
「ああ、それと――」
 流石に気まずさを感じたのか、早々に取材を切り上げようとするインタビュアー。しかし彼の発言を遮って、青年は更に言葉を紡ぐ。まだ、話は終わって居ないのだ。
「俺は猿真似野郎も大嫌いなのさ」
 善行を重ねることで磨かれて来た誇りも、ヒーローとしての尊厳も。そして、ひとりの人間としての魂も。
 ――全部、そいつだけのモンだ。
 ゼファーの姿だけを借りた偽物が、喩え彼が歩んで来た人生を穢そうとしたところで。ひととして大切なものは絶対に、誰にも汚せはしない。
 総てを見透かしたようなカイムの科白を、クロエは不思議な心地で聴いていた。
 何故だろう――。
 成り代わりへ怒りを露わにする青年の姿に、少しだけ、こころが軽くなったような気がした。

成功 🔵​🔵​🔴​

トリテレイア・ゼロナイン

理由は…『私が私である為に』
…利己的な物です

悪を挫き人々に手を差し伸べる御伽噺の騎士…理想であり標であるそれを追いかけるよう私は戦ってきました

多くを救い、多くを無力から取りこぼしました
多くの既に失われたモノへの涙を目の当たりにしました
戦いを得手とする戦機が騎士として役目を果たす場所には、取り返しのつかぬモノが数多ありました

…『めでたしめでたし』など御話の中にしか存在せず、騎士の出番など本の中以外に無い方が良いのです

それでも私は騎士として戦います
己の存在意義をこの世から無くすため
届かぬ『めでたしめでたし』を諦めたくないが故に

命、名誉、尊厳、心…これ以上失わせない為に戦うことが、私の騎士道です



●白騎士『トリテレイア』
 “heroes 49ers”の一人として、注目を受ける機会は少なく無い。故に慣れてしまったのか、それとも元から動じない気性なのか。マイクとカメラを向けられても尚、トリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)は冷静だった。
「お会いできて光栄です。早速ですが、戦う理由をお伺いしても?」
「……利己的な物です」
 それでも良ければ、と丁寧な物腰で断りを入れたのち。機械仕掛けの白騎士は、静かに答えを紡いで往く。

『私が私である為に』

 それこそが、彼を戦場に駆り立てる理由である。
 遠い昔、彼の記憶と人格は破壊された。そうして長い眠りから覚めたあと、彼に遺って居たのは、子ども向けの夢物語の記憶のみ。
 それは悪を挫き、力無き人々に手を差し伸べる、優しい騎士の御伽噺――。
「理想であり標である、それを追いかけるよう、私は戦ってきました」
 彼の容貌は正しく騎士然とした立派なものだ。それに見合う中身と成るようにと、彼は清廉な優しき騎士としての振舞を心掛けた。
 けれども、現実は残酷だ。
 御伽噺のなかの騎士は、華やかに戦場を駆け、悠々と乙女の涙を拭い、軽々と総ての人を救って見せるのに――。
「私は多くを救い、多くを取りこぼしました」
 その清廉な白き躰に希望を託し、生命とこころが救われた者は大勢いただろう。されど、救えなかった人々のことを想うと、無力感を抱かずには居られない。
「多くの既に失われたモノへの涙を、目の当たりにしました」
 悲劇と向き合う内に、分かって来たことが有る。
 戦うために造られた“戦機”が、“騎士”として役目を果たすには、この世は余りにも複雑なのだ。
 きっと本物の騎士には、“力”以外にも感情の豊かさが必要だ。それは理想を追い求める愚鈍さでもあり、叶わぬものに手を伸ばし続ける無謀さでもある。
 時に機械らしく合理主義となる彼にとって、“清く正しい理想”に天秤を傾け続けることは、少しばかり困難だった。
 それに敵を屠ったところで、“現実”は終わらない。
 悪が滅びても奪われた者は戻らず、人々は過去を悔やみ続ける。取り返しのつかぬモノは、世界には沢山あるのだ。
「騎士の出番など本の中以外に無い方が良いのです」
 『めでたしめでたし』など、御伽噺の中にしかきっと存在しないから――。
「それでも私は、“騎士”として戦います」
 騎士を名乗る己の存在意義を、そして騎士の力を必要とする戦場を、この世から無くすため。
「誰かの命、名誉、尊厳、心……。それらをこれ以上失わせない為に戦うことが、」

 ――私の騎士道です。

 『めでたしめでたし』で結ばれる物語を、矢張り諦めることは出来ない。
 理想と現実のはざまで苦悩しながら、トリテレイアはそれでも人々の盾と成り、剣と成るのだ。真直ぐな白騎士の姿勢はきっと、迷えるヴィジランテの標と成っただろう。
 高潔な騎士の後にこそ、ひとは続いて行く――。

成功 🔵​🔵​🔴​

天音・亮


カメラは慣れている
いつもの私で、マイクの前に立つ

私ね、人の笑ってる顔が好きなの
きらきらして幸せだって心から感じてる笑顔
見てるとこっちまで幸せになってきちゃう
みんなよく不幸は伝染するなんて言うけど
幸福も同じだって思うんだ

心から笑ってほしい人が居る
だから私はヒーローになった

まだまだ卵も同然なヒーローだけど
私が出来る何かがあるなら全部したい
泣いてる誰かがいるなら
世界中どこだって走っていって手を伸ばしたい
笑顔を取り戻してあげたい

私の両手だけじゃ足りなくても
私には信頼できる仲間が
秘密結社スナークの仲間達がいるから!

ねえクロエさん
「本物のヒーロー」の彼が愛したきみの心を
復讐に染めさせたりなんてしないよ



●音階のヒーロー『天音・亮』
 モデルを生業としているお蔭で、カメラには慣れている。眩いフラッシュだって、まるでスポットライトのようで心地好い。天音・亮(手をのばそう・f26138)はかんばせに笑顔を咲かせた侭、マイクの前にいつもの自分を曝け出した。
「では亮さん、あなたの戦う理由とは?」
「……私ね、人の笑ってる顔が好きなの」
 こころから笑って欲しい人が居る。だから彼女は、ヒーローになった。
 確りとインタビュアーの目を見つめながら、娘は胸中を語り始める。「幸せ」をこころから感じているような、きらきらした笑顔。見ている此方まで、なんだか幸せに成れる気がするから、亮はそれが好きなのだ。
「みんなよく不幸は伝染するなんて言うけど、幸福も同じだって思うんだ」
 誰かが機嫌よく笑顔を咲かせていれば、周囲の雰囲気もきっと和らぐ筈だ。そうして、少しずつ笑顔が溢れて行って。いつか世界が、幸せで埋め尽くされると良い。
「まだまだ卵も同然なヒーローだけど、私が出来る何かがあるなら全部したい」
 もしかしたら、それは欲張りなのかも知れない。でも、太陽の名を冠するブーツと一緒なら、何処までも駆けていける。
 泣いてる誰かの聲が聴こえたら、世界中何処であろうと走っていこう。そして手を伸ばして、その涙を拭ってあげよう。いつか必ず、笑顔も取り戻してあげよう。
 清潔な白い部屋で寂し気に笑う“きみ”の笑顔も、幸せも、いつか――。
「しかし、亮さん一人の力で全部やり遂げるのは大変ではありませんか?」
「それは大丈夫!」
 亮は金絲の髪を揺らし、インタビュアーの言葉を否定する。成し遂げたいことが両手じゃ足りなく成ったとしても、彼女は独りでそれに立ち向かう訳ではない。
「私には信頼できる仲間が――秘密結社『スナーク』の仲間達がいるから!」
 亮が誰かの涙に応えたいと願うように。多くの猟兵たちもきっと、誰かの命を、笑顔を護りたいと思っている筈だ。
 彼女の手が届かない所は、同じ志の仲間がカバーしてくれる。反対に、誰かが取り零した哀しみは、亮が駆けつけて払い除けてあげる。
 独りじゃないから、きっと亮は不条理に立ち向かい続けられるのだ。
 ――……ねえ、クロエさん。
 ちらり、ヴィジランテの姿を盗み見た。「本物のゼファー」が愛した彼女はいま、壁に背を預けながら、取材風景を見守っている。果たして彼女は何を想い、英雄たちの言葉に耳を傾けているのだろうか。
 ――きみの心を、復讐に染めさせたりなんてしないよ。
 そんなことは、彼女の恋人も、兄も、きっと望んで居ないだろうから。
 悲運の娘の笑顔も取り戻そうと胸に誓い、亮はカメラに向かって笑い掛ける。いつかこの笑顔が、誰かの幸せの種と成ることを祈りながら――。

成功 🔵​🔵​🔴​

水無瀬・香唄
◎△

インタビュー前にクロエと話す
他人に無関心だがクロエの境遇を聞き目を伏す

心中お察し致します
僕がクロエさんの立場なら
絶望し
復讐を成し遂げた後に
自ら命を断つかもしれません
僕はヒーローでは御座いませんが微力ながら力添え致しましょう
貴女の芯の強さに少々揺り動かされました


僕は心より慕う大事な彼女の為に戦えれば良い
そう思っています
守りたい人も彼女唯一人です
彼女の為なら自分の命も惜しくありません(彼女の為に死ねるなら本望
僕の恩人であり
最愛の人
僕の生きる糧ですので(指輪撫ぞり

僕には全員を護る力は御座いません
ですが
亡骸を前に悲しむ彼女を見たくはありませんので
優しい彼女が守りたい、救いたいと願うこの世界を
僕も─



●殉愛『水無瀬・香唄』
 壁際で存在感を消しているヴィジランテの娘――クロエは、取材に挑む猟兵たちの姿を熱心に見つめていた。紳士風の青年――水無瀬・香唄(がらんどう・f24171)は、それとなく彼女の傍に並び立ち、穏やかに聲を掛ける。
「ちょっと、構いませんか」
「……」
 返事は無い。代わりに、ほんの僅かな首肯が返って来た。香唄は「こっち」と小さく手招いて、彼女をさり気無く廊下へと連れ出してやる。
「クロエさん、ですよね」
「……ええ、そうよ」
 黒い女の双眸が、青年の整った貌を見上げた。悲劇に見舞われても尚、光を喪わぬ其の眸を視界に捉えながら、香唄は僅かに睫を伏せて見せる。
「心中、お察し致します」
「やめてよ、同情は聞き飽きたわ」
 真実を知らぬ人々の善意に、傷つけられて来たのだろう。彼の言葉にクロエはふい、とそっぽを向く。されど青年は落ち着いた様子で、「そうではないのです」と頸を横に振った。
「貴女の芯の強さに、少々揺り動かされました」
 他人には無関心な香唄だが、大切なひとを想う気持ちはよく分かる。彼女の立場を自分に重ねて、思わずその心が痛むほどに。
「僕がクロエさんの立場なら、」
 きっと絶望する。
 もちろん、復讐は成し遂げて見せるが。それは、彼女のように過去を断ち切り、前へと進む為じゃない。寧ろ、その逆だ。
「――自ら命を断つかもしれません」
 彼女が居ない世界に、果たして何の意味が有るのだろうか。
 言外にそう語る彼を前にして、クロエは小さく息を呑んだ。誰かを深く愛した者同士、きっと通じ合う所があるのだろう。
「僕はヒーローでは御座いませんが、微力ながら力添え致しましょう」
「……ありがとう」
 ぶっきらぼうに礼を告げるクロエを促して、香唄はミーティングルームへ戻る。少し話し込んでしまったらしい。彼への取材の準備は、既に整っていた。

 着席すれば、すかさずカメラとマイクが向けられる。問われる内容は、至ってシンプルなものだ。特に、護るべき物が明確な青年にとっては――。
「香唄さん、あなたが戦う理由は何ですか」
「僕は、心より慕う大事な彼女の為に戦えれば良い」
 そう思っています、と微笑む青年の双眸は何処までも穏やかだ。如何いうことか、と質問を重ねられるより先に、更に言葉を連ねて行く。
「守りたい人も、彼女唯一人です」
 広い世界で己を見つけ出し、拾い上げてくれたうえに、名前まで付けてくれた、スタァの原石。こころから愛してやまぬ彼女しか、彼の世界には居ないのだ。
「彼女の為なら自分の命も惜しくありません」
 寧ろ、彼女の為に死ねるなら本望だ。なぜなら、
「僕の恩人であり、最愛の人、――僕の生きる糧ですので」
 うっそりと微笑みながら、青年は蒼硝子を飾った指輪をなぞる。比翼の片割れの証たる其れは、彼女と香唄を繋ぐ宝物。誰にもこの絆を傷つけることは出来ない。
「しかし、それではなぜ、世界の為に……」
「僕には全員を護る力は御座いません」
 不思議そうに紡がれた問い掛けに、香唄はきっぱりと答えて見せる。彼女の騎士ではあるけれど、正義の味方を気取るつもりは無い。
「ですが、亡骸を前に悲しむ彼女を見たくはありませんので」
 総ては愛しき彼女のこころを、笑顔を護るため。優しい彼女が守りたい、救いたいと願うこの世界を、香唄もまた救いたいと願い、戦い続ける。
 きっとこれも、ひとつの純愛の容なのだ。

成功 🔵​🔵​🔴​

荒谷・ひかる


恋人と家族を、どちらも奪われるなんて……辛い、ですよね。
(自身も最愛の恋人と大好きな姉がいるので重ねつつ)
っとと、いんたびゅーはちゃんと笑顔で受けないと。
(49ERS入りして映画等に出た経験もあり、すっかり慣れた様子でカメラに笑顔を振りまく)

わたしの戦う理由、ですか?
そうですね、今は一言で言うなら……かつてのわたしみたいな目に遭う子をなくしたいから、かな?
(命を狙われ、助かるために6歳で遠く(異世界)へと旅立った)

あんな辛い思いをする子が他にもいると思うと、いてもたってもいられなくて。
だから……戦うのは、苦手ですけれど。
(クロエに視線を送り)
少しでも、力にになりたいんです。



●精霊使い『荒谷・ひかる』
 同胞たちの取材風景を眺めながら、羅刹の少女――荒谷・ひかる(精霊寵姫・f07833)は、悲運のヴィジランテへと思いを馳せていた。
 ひかるにも最愛の恋人と、大好きな姉がいるのだ。どうしても、彼女に自分を重ねてしまう。
 ――……辛い、ですよね。
 家族と恋人、両方を一気に奪われるなんて。そして、彼らの不幸を誰も理解してくれないなんて。クロエは、どれほど傷付いたのだろうか。
 ――……っとと、いんたびゅーはちゃんと笑顔で受けないと。
 つい、感情移入してしまった。しゅんと成りかけたこころを叱咤して、少女はかんばせに明るい笑みを咲かせながら席へ着く。
 “Heroes 49ers"入りを果たした彼女は、この世界ではすっかり有名人。映画の出演経験もあるため、降り注ぐカメラのフラッシュにも動じることは無く。にこにこと、少女は笑顔を振り撒いている。すっかり場慣れしている様子だった。
「お話が聞けて光栄です。早速ですが、あなたの戦う理由をお伺いしても?」
「わたしの戦う理由、ですか。そうですね……」
 問いを反芻する少女は、かくりと頸を傾ける。彼女の脳裏に過るのは、遠い昔の哀しい出来事。
 幼い頃、ひかるは悪鬼羅刹に付き纏われ、その命を狙われていた。助かるために取った手段は、6歳の子供には余りにも酷なもの。――異世界への逃避行だ。
「かつてのわたしみたいな目に遭う子をなくしたいから、かな?」
 家族と引き離され、縁もゆかりもない土地に、ひとり放り出される。その心細さや寂しさは、きっと経験した者で無いと分からない。
「あんな辛い思いをする子が他にもいると思うと……」
 いてもたってもいられなくて――。
 その優しさゆえにこそ、羅刹の少女は願うのだ。骸の海より滲んだ“過去”に虐げられる子供を、ひとりでも減らしたいと。
 ひかる自身は、戦闘能力を持たない。
 彼女は精霊さんたちの助力でしか、敵と戦うことは出来ないのだ。それでも、人の幸せを願い、戦場に立ち続ける彼女は正しく英雄に違いなかった。
「……戦うのは、苦手ですけれど」
 ぽつり、言葉を重ねながら。少女は真直ぐな視線をクロエに向ける。目深に帽子を被った彼女と、確かに視線が絡まったような気がした。

「少しでも、力になりたいんです」

 ひかるの真摯な眼差しと、言葉に、凍り付いたこころが溶かされたのだろうか。少しだけ唇を震わせながら、クロエはゆっくりと頷いた。少女もまた、頷き返す。
 今は未だ、彼女は闇の中にいるのかも知れない。
 けれど、きっと大丈夫。彼女に手を差し伸べてくれる猟兵は、少なく無いのだから。

 決着の時は、近い――。

成功 🔵​🔵​🔴​




第2章 ボス戦 『ラグネ・ザ・ダーカー』

POW   :    ダーカー・インジャスティス
全身を【鮮血の如きオーラ】で覆い、自身の【悪意】に比例した戦闘力増強と、最大でレベル×100km/hに達する飛翔能力を得る。
SPD   :    侵略蔵書「キル・ジ・アース」
レベル×100km/hで飛翔しながら、自身の【侵略蔵書「キル・ジ・アース」】から【具現化された「死のイメージ」】を放つ。
WIZ   :    マッド・デッド・ブラザーズ
【死せるヴィラン】の霊を召喚する。これは【強化された身体能力】や【悪辣な罠】で攻撃する能力を持つ。

イラスト:津奈サチ

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠鏡繰・くるるです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●rendez-vous
 取材が終わる頃には、窓の外はすっかり昏くなっていた。
 取材陣は原稿を纏める為に、慌ただしく会社へと戻って往く。遺ったプロモーターや、取材陣と入れ替わりに遣って来たホテルのオーナーが、猟兵たちとぺこぺこ挨拶を交わす間に、偽ヒーロー「ホワイト・ゼファー」とヴィジランテ「クロエ」は、そそくさと部屋を後にする。彼らが向かった先は――。

●Tu me manqueras beaucoup
 空には、月が昇っている。地上には、花々が咲き誇っていた。
 夜風を浴びながら、ひとり屋上庭園を歩く。
 闇彩に染まった石畳の上を進み往けば、やがて小さなチャペルの前に辿り着いた。先ほどまで追っていた背中は、もうどこにも見当たらない。
 けれど、此処で待っていたら逢える気がして、私はひとり立ち尽くす。
「クロエ」
 彼の聲が聴こえて、反射的に振り返る。――嗚呼、ちがう。彼はもう居ないのに。其処に居るのは、彼の姿をした偽物なのに。
「ほら、やっぱりクロエだ」
 冷たい眼差しが、私を射抜く。ナイフを構える指先が、威圧感に思わず震えた。私の知ってる彼は、こんなに恐ろしい人じゃない。やっぱり、コイツは偽物なんだ。
「あなた、誰なの……」
「ホワイト・ゼファーさ。君もよく知ってるだろう?」
 そう、彼のことはよく知っている。その笑顔も、聲も、足音も、総て。
 だからこそ、私は胸を張って言い切れる。
「あなたは、ゼファーじゃない!」
 思い切りぶん投げたナイフは、彼の顔面目掛けて飛んで行く。けれども、突如巻き起こった風に、呆気なくそれは弾かれた。
「そう想っているのは、世界で君だけだ」
 ゆっくりと後退る私を、彼は戯れる様に追い詰めて行く。どんどん遠ざかって行くチャペル。憩いの噴水すら通り過ぎて。気づけば、端まで追い詰められていた。
 柵は有るけれど、こんな化け物相手に何の安全を保障してくれるのだろう。

「さよなら、モナミ」

 あの世で仕合わせに暮らせ――。
 彼の貌をした悪魔は、そう笑った。

●La nuit porte conseil
 幾つもの足音が屋上に響き渡る。猟兵たちが駆け込んで来たのだ。
 クロエを悠々と追い詰めていた偽物は、流石に分が悪いと察したのか。石畳を滑るように後退り、彼女と、彼女の許へ駆け寄って来る猟兵たちと距離を取る。
「イェーガー……!」
「ああ、君たちは悉く邪魔をしてくれるね――」
 窮地に陥れど不敵に笑う偽物の躰が、突如巻き起こった竜巻に包まれる。猟兵たちが衝撃に身構えた、次の瞬間。其処にはもう、ゼファーの姿は無かった。

「折角、ヒーローの役目を引き継いであげたのに」

 代わりに現れたのは、鍛え抜いた躰にヒーロースーツと白衣を纏った、ひとりの女。彼女こそが『スナーク』の名の許に、ヒーローへの疑心と恐怖を世界に振り撒こうとしていた猟書家『ラグネ・ザ・ダーカー』である。
「まあいい、ヒーローは星の数ほどいるからね」
 ひとりくらい消えた所で、如何ということもないだろう――。
 涼しい貌でそう宣う女は、手に持った魔導書をぱらぱらと捲る。その様子は、酷く楽し気だ。
「次は誰に成り代わって、正義を行使しようか」
 悪びれぬ女の姿を目の当たりにして、クロエは悔し気にナイフを握り締めた。ここで彼女を取り逃したら、復讐が果せないどころか、更なる犠牲が出てしまう。
「……おねがい、力を貸して」
 ヴィジランテの懇願に、否を唱える者は居ない。それぞれの想いは如何で在れ、オブリビオンを倒すことこそ、猟兵たちの役目なのだから。
「私の侵略蔵書に、君たちの死も刻んであげよう」
 各々の得物を構える猟兵たちを見降ろして、ラグネは不敵に微笑むのだった。
 この世界の人々を護るためにも、彼女だけは逃がしてはならない――。

≪逃亡について≫
・猟書家はピンチになると、逃亡を図ります。
 →ゼファーに化けて、クロエの情に訴えかけてくるかもしれません。
 →彼女が流されないよう声を掛けたり、逆に問答無用で敵を吹っ飛ばしたり。
  余裕が有れば、自由な発想で対処してあげましょう。

・以上の要素は「フレーバー」です。
 →プレイングに記載がない場合は、猟書家は逃亡を図らず、本来の姿で普通に戦います。
 →どんな流れにするかは、参加者様のお好みでどうぞ。

≪補足≫
・プレイングボーナスは『ヴィジランテ(クロエ)と共闘する』です。
・アドリブOKな方は、プレイングに「◎」を記載いただけると幸いです。
・リプレイは個別の返却になる可能性が有ります。

・屋上庭園は充分広いので、キャバリアなどの使用も遠慮なくどうぞ。
・プレイングは心情寄りでも、戦闘寄りでも、どちらでもOKです。
・性的要素を含むプレイングは不採用とさせていただきます。
 申し訳ありませんが、ご了承くださいませ。

≪受付期間≫
 12月18日(金)8時31分 ~ 12月20日(日)23時59分
水無瀬・香唄
怪我◎△

僕も性格が良いとはお世辞でも口に出来ませんが
貴方程、卑俗では御座いませんね
逃げられるとお思いで?

慈悲は無し
クロエの前へ立つ
花散らし教会の鐘を鳴らす

近接に持ち込まれない様に敵と一定の距離保つ
UC使用
上空の敵へナイフを矢の如く一斉発射・串刺し
地へ縫い付け
敵の攻撃は野生の勘で回避

僕はこの世界を護りたいと願う彼女の為に死ねるなら本望
死は僕にとって
何の障害にもなりえません

一切恐れ抱かず武器をチャクラムに変形
的外れな所へ投擲
敵を油断させ背後から斬り刻む
返り血を舌で舐め

クロエさん
貴女はお兄さん、そして恋人の仇を取ると仰いました
その機会はきっと今なのでしょう
貴女の心が挫けなければ必ずや終止符を打てます



●開幕の鐘
冷たい夜風が頬を撫ぜ、咲き誇る花々を揺らして行く。月明りを浴びた屋上庭園は静謐な美しさに溢れていたが、其処に漂う空気は殺気と緊張に塗れて居る。
「自分は性格が良いなんて、お世辞でも口に出来ませんが――」
 その場に悠々と佇むラグネ・ザ・ダーカーの視線から庇うように、水無瀬・香唄はクロエの前へと歩み出た。
「少なくとも僕は、貴方ほど卑俗では御座いませんね」
「好きに云えばいいよ」
 ショコラのような彩の眸に青年が不快を滲ませれど、ラグネはどこ吹く風だ。それだけ、自身の力に絶対的な自信が有るのだろう。
「どうせ君は、すぐに死ぬのだから」
 刹那、猟書家の女は地面を蹴り上げ高らかに飛翔する。月を背負う女の腕に抱かれた魔導書が、ひとりでにパラパラと捲られ始めた。其処から放たれるのは、具現化された死の幻想――荒ぶる竜巻だ。
「それが“侵略蔵書”ですか……」
 頁から放たれる死の幻想には、極力触れない方が良いだろう。ユーベルコードを持たないクロエは特に。
 香唄はヴィジランテの前から動くことなく、ただじぃっと猟書家の姿に意識を集中させる。嗾けられた竜巻が彼の躰を切り裂くが、それでも視線は逸らさない。
「――死は僕にとって、何の障害にもなりえません」
 この世界を護りたいと願う優しい彼女の為に死ねるなら、本望なのだから。
 漸く青年が動いたのは、10秒が過ぎた頃だった。まるで弓を放つように、十指に挟んだナイフを一斉に投擲すれば、月光を浴びた刀身はきらきらと煌めきながら、宙に浮かぶ女の躰へ降り注いで往く。
「英雄というヤツはこれだから……」
「僕が相手だなんて、貴方も運が悪いですね」
 ナイフが纏う重力に導かれる侭、地面へ叩きつけられるラグナ。地に縫い付けられた彼女の許へ、間髪を入れずに円形の刃が飛んでくる。青年は五指に挟んだナイフを重ねて、チャクラムを象って見せたのだ。
「もう勝ったつもりでいるのかい」
 猟書家とて、黙って死を待つばかりではない。鍛え抜いた躰で無理やり刃の戒めを解き、来る刃の一撃に備えんとする。しかし、

 ――ごぉん、ごぉん……。

 ラグネを敢えて避けるように飛んで行ったチャクラムは、咲き誇る花々を散らし、チャペルの鐘へと強かに激突した。場違いなほど清らかな、祝福の鐘が鳴る。
「残念、外れてしまったようだね」
 チャクラムの行方を確認した猟書家は、視線を正面へと戻す。されど、其処に青年の姿は無い。
「本当に、貴方は低俗すぎます」
 戦場で敵から目を離すなんて――。
 ラグネの視線が逸れた瞬間、香唄は彼女の背後へ駆け出していたのだ。ナイフを女の背に突き刺せば、血飛沫が宙を舞った。青年の整った貌を、鮮血が赫く染める。
「逃げられるとお思いで?」
 返り血をぺろり、舌で舐めとりながら香唄は静かに微笑む。猟書家は憎々し気に彼を見上げながら、崩れ落ちて往く。

「――クロエさん」
 化け物と互角に渡り合う猟兵の姿に、ヴィジランテは呆気にとられるばかり。香唄はそんな彼女へと、穏やかに聲を掛けた。
「貴女はお兄さんの、そして恋人の仇を取ると仰いました」
「……っ」
 己の無力さに拳をきつく握り締めるクロエ。されど、青年に彼女を責める心算は無い。寧ろ彼は、彼女の背中を押す為に此処に居るのだ。
「貴女の心が挫けなければ、必ず終止符を打てます」
 彼の言葉にクロエは静かに頷いて見せる。チャンスは、きっと今しかない。彼女の掌の中、未だ返り血ひとつ浴びていないナイフは、真白の煌めきを放ち続けていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ウィルフレッド・ラグナイト


クロエさんの傍に立ち
「この後、貴女のお兄さんやホワイト・ゼファーさんのこと教えてください。そのためにも今は共に戦いましょう」
手が届かず助けられなかったのなら、せめて私も覚えていたい

ユーベルコードを使ってゼファーを体に憑依させラグネと戦闘
【空中戦】や【残像】で高速機動を行いながら手に持つ武器で攻撃
逃げようとするのなら【ダッシュ】で先回りし逃がさないように戦う

「貴方は風を穢し、多くの人を傷つけた」
ゼファー
西風を意味し、優しい風を表す名
本当のホワイト・ゼファーさんもきっとそんな人でクロエさんにとっての優しい風だったのかもしれない
「彼女を傷つけた貴方を私もゼファーも許しはしない。覚悟してください」



●優しき風を身に纏い
 拳に握り締めたナイフを震わせながら、仇を前にクロエは佇む。これが復讐を果たす最後のチャンスであることは分かって居た。それでも、気後れしてしまうのだ。
 ユーベルコードを持たぬ自分が、あれに食らい付くことは出来るのだろうか。
「……クロエさん」
 そんな彼女の隣へ、ウィルフレッド・ラグナイトは静かに並び立つ。不安げな彼女の姿を見降ろす翠の双眸を、穏やかに弛ませながら。
「この後、貴女のお兄さんや“ホワイト・ゼファー”さんのこと教えてください」
「……うん!」
 自分以外に、彼らのことを想ってくれる人が居る。その事実は、折れそうな娘のこころの励ましと成った。僅かに表情を弛ませて首肯する彼女に、青年は優しく頷き返す。
「そのためにも、今は共に戦いましょう」
 本物のゼファーも、彼女の兄も、手が届かず助けられなかった。猟兵は万能ではない。だから、悔やんでも仕方の無いことだけれど。
 ――せめて、私も覚えていたい。
 ホワイト・ゼファーという英雄が、妹想いの優しい青年が、確かにこの世界に存在していたことを。
「ゼファー、どうか貴女の力を貸してください」
 肩に乗せた白竜へとそう助力を乞えば、彼女は従順に彼の躰に溶け込んで行く。刹那、ウィルフレッドの背中からは白竜の勇ましき翼が生え、腰からは強靭な竜の尾が伸びる。彼はいま、「竜騎士」と化したのだ。
「その子の名前……」
「ええ、彼と同じですね」
 嬉しい偶然だと驚くクロエに笑い掛けた青年は、翼を揺らして夜空を舞う。暗闇によく映える其の姿を見上げながら、猟書家の女は不敵に笑った。
「その高潔な姿、汚してしまいたくなるよ」
 ラグネがパチンと指を鳴らせば、揺らめく彼女の影から悪霊が現れる。それは、彼女がかつて殺めたヴィランであった。
 悪霊は現れて早々に周囲へトラバサミを撒き散らし、ユーベルコードを持たぬヴィジランテへと飛び掛かる。
「クロエさん……!」
「ッ、私のことは良いからアイツを……!」
 己を掴もうとするヴィランの太い腕をナイフで切り裂きながら、クロエは気丈に聲を張りあげた。彼女の雄姿に一度だけ頷いて、竜騎士は本体――猟書家へ向き直る。
「貴方は風を穢し、多くの人を傷つけた」
 “ゼファー”とは、西から吹く優しい風を現す言葉。ヴィランを吹き飛ばし、無辜の人々を傷つける暴風とは、程遠いもの。
 ――本当のホワイト・ゼファーさんも、きっと……。
 クロエにとっては、優しい風のような存在だったのだろう。そんな彼の命を、眼下の女は容易く奪い、果ては彼の尊厳に泥を塗ったのだ。
「彼女を傷つけた貴方を、私もゼファーも許しはしない」
「それは断罪の槍のつもりかね、驕るのもいい加減にしたまえ」
 常ならば穏やかな双眸に鋭い光を宿した青年は、地上に向けて宙から騎士槍を投げ放つ。凄まじい勢いで飛んでくる其れを、ラグネは両掌で受け止めようとするが。
「ぐッ……!」
 白竜“ゼファー”の加護を受けた槍は、邪悪な魂ごと女の躰を突き飛ばした。背中から安全柵に激突して、彼女はゆらりと地面へ崩れ落ちる。
 その隙にちらり、ウィルフレッドはヴィジランテの娘へと視線を向けた。彼女は未だ、ヴィランの悪霊と格闘しているようだ。戦況は互角だが、悪霊相手にナイフでは分が悪いだろう。
 竜騎士は翼を揺らし、ひといきにヴィランの許へと突っ込んで行く。誓いの剣を構えた侭、敵とすれ違った刹那。悪霊の躰は、一瞬で四散した
「体勢を立て直す必要が有るね……」
 一方のラグネは、激突の衝撃が僅かに癒えたらしい。安全柵を掴みながら立ち上がる彼女は、逃げ出そうと踵を返す。あの竜騎士は先ほど、ヴィランの方へ向かった筈だ。今なら追い付けまい――。

「逃がしませんよ」

 これは、何ということか。
 女が踵を返した先には、既にウィルフレッドの姿が在った。信じられないと云う貌で、ラグネはヴィランが居たほうを振り返るが、其処にも未だ青年の姿はある。
「……はは、残像か」
 ゼファーの加護を得たいま、青年は風に乗って何処までも自由に羽搏けるのだ。その速さときたら、正しく神速。
「さあ、覚悟してください」
 引き攣った貌で笑う女に向かって、竜騎士は白銀の剣を振り下ろした。月明りの下、赫い飛沫が宙を舞う――。
 清浄なる風を纏う竜騎士は、人々の希望を護る誓剣で、邪な企みごと悪を切り裂いたのだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

旭・まどか


――良いよ
君がそれを、望むなら

ねぇ、確りと狙って
怒りで手を震わせている暇があるなら
その怒りで以って感覚を研ぎ澄ませて
一瞬の隙を見逃さないで

復讐なんて何の意味も無い
死んだ者もそんな事は望んでいない
そんな風に謳う者もいるけれど
そんなのは――詭弁だ

僕らに死者の声が届かないのと同じ様に
それを口にする偽善者にだって声は聞こえない

――死人は何も語らない
語れない

だのに如何して彼の気持ちが解るの?

彼の気持ちも望みも
本当の所は誰にも解らない

だから僕は君の背を押すよ
例え此処にいる全ての猟兵が君の復讐を妨げようとしたとしたって
僕だけは君の味方で居てあげる

だって、これは君の為の戦いだから
終止符を討つのは僕らじゃない



●月桂の加護
 血だまりの中で、猟書家の女はあえかに肩を震わせて笑う。あれだけ深手を負っても、オブリビオンは未だ健在なのだ。
「さすがに君たちは、タダじゃ死んでくれないようだね」
 あのヒーローと違って――。
 言外にそう語る女の聲に恋人への侮蔑を感じて、クロエは拳を震わせた。こんなに悔しいのに、自分の力では彼女に一太刀も浴びせられないのだ。
「お願い、力を貸して」
 喉に張り付いた聲を絞り出し、ヴィジランテは猟兵へ助力を乞う。愛しい人たちを奪った女への復讐を、成し遂げる為に。

「――良いよ」

 果たして、彼女の懇願に応える者がいた。繊細な容姿の少年、“旭・まどか”だ。娘を見つめる薔薇彩の双眸には、憐憫も同情も浮かんで居ない。
 そもそも彼と娘は初対面で、彼は娘の半生について殆ど知らない。だからこそ、少年は彼女に肩入れしない。ただ――。
「君がそれを、望むなら」
 あの子の為に、応えてあげる。それが、“まどか”の存在意義だから。
 彼がクロエに手を貸す理由なんて、それだけで十分なのだ。
「……ありがとう」
 敢えて人と距離を取ろうとする少年のこころの裡は、クロエにも分からない。けれど、いまは手を貸してくれることが、何よりも有り難かった。

「君たち程度に、一体なにが出来るのかね」
 血だまりから立ち上がった女は、ふたりを見降ろして嘲う。彼女の目の前に居るのは、儚げな雰囲気の少年と、ユーベルコードを持たぬヴィジランテの小娘だけ。
 一見すると非力な彼らのことを、ラグネは完璧に見縊っていた。
「……ッ」
「ねぇ、確りと狙って」
 震える指先でナイフを構えるクロエに向けて、まどかは静かな聲彩で囁き掛ける。まるで、彼女を鼓舞するように。
「怒りに手を震わせている暇があるなら、その怒りで感覚を研ぎ澄ませて」
「そう、そうね、貴方の云う通り……」
 少年が齎す鼓舞は、クロエのこころへと雫のように零れ落ち、少しずつ染み渡って行く。娘はゆっくりと深呼吸を繰り返すが、彼女の指先は未だ小刻みに震えて居た。その様を見かねて、少年は更に言葉を紡いで往く。
「復讐なんて、何の意味もない」
「……!」
「死んだ者もそんなことは、望んでいない」
 此処に来て紡がれた正論に、娘の眸が丸くなった。驚いた様な彼女の眼差しを受け止めながら、少年はゆるりと唇から音を奏で続ける。
「そう謳う者もいるけれど。そんなのは、――詭弁だ」
 生者には死者の聲など届かない。それと同じように、偽善じみた科白を口にする者たちには、死者の聲など聴こえていない。
「死人は何も語らない」

 ――否、“語れない”のだ。

 それなのに、どうして人々は、分かったような口を利くのだろうか。
 彼女の愛する人だって、本当は敵を討って欲しいのかも知れない。もしかしたら、オブリビオンを恨みながら、死んでいったのかも知れない。
 彼の気持ちも望みも、本当の所は誰にも分からないのだ。
「だから僕は、君の背を押すよ」
 少年の薔薇彩の双眸は、ただ真直ぐに娘の貌を見つめていた。
「僕だけは、君の味方で居てあげる」
 喩え他の猟兵たちが彼女の復讐を止めたとしても、自分だけは彼女の選択を肯定しよう。
 だって、これはクロエの戦いなのだから。
 辛い現実と向き合い、戦うことを選んだ彼女に、余計な口出しは不要で無粋だろう。思いの丈を伝えきる頃にはもう、娘の指の振るえは収まっていた。
「ほら、隙を見逃さないで」
 少年は涼し気な貌で倒すべき女を見る。クロエもまた彼の視線を追い掛けて、静かにひとつ、頷いた。
「分かったわ、ありがとう」
 少年に背中を押されたヴィジランテは、月の光を浴びながら猟書家の許へ駆けて行く。道中、抜き放ったナイフを纏めて数本投げつけるが、ラグネはそれを易々と指先で受け止めて見せた。
「自暴自棄になったのかね、可哀想に」
 せせら笑う女はクロエに向けて次々と凶刃を投げ返す。されど、まどかの鼓舞で運動神経を底上げされた彼女には当たらない。
「いいえ、私は諦めない……!」
 娘は軽やかな動きで床を滑り、仇の懐へと潜り込んで行く。そうして軽々と彼女を飛び越えようとするラグネへ、擦れ違い様に一閃。
「くっ……」
 ナイフに脚を切り裂かれ、猟書家は地に堕ちる。侮った者たちの前で無様を曝す敵の姿を、まどかは冷めた目で見つめていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

琴平・琴子


ゼファーという正義は死んだんです
それは揺るがない事実
それを継ぐのは誰でしょうか
私ではない、他の誰でも無い
クロエさん、貴女ではなくて?

正義に猟兵も自警団も関係ありません
どうかご協力をお願いします

正義の名を騙る悪ならば
同じ悪役なら同じ悪役同士で踊って頂けますか?

オディール、心臓に狙いを定めて射止めて
王子の心を射止めた時の様に
この黒鳥、気性が荒いですから一緒に踊るのは一苦労じゃないですか?

オデット、邪悪なオーラはしなやかな羽で受け流して
湖面を撫でて飛び立つ前の様に
何人たりとも白鳥の翼は汚せません

悪が栄える事に碌な事はありません
さあ、地に落ちてくださいませ
オディール共々ご一緒に



●月の下で鳥は踊る
 脚から止め処なく流れる血で地面を汚しながら、猟書家はゆらりと立ち上がる。赤い眼鏡の奥の眸は、今もなお不敵に笑っていた。
「私はゼファーの代わりをしてあげているんだよ、クロエ」
 そんな私を、君はちゃんと殺せるのかな――。
 こころの迷いを的確に突くような嘲りに、ヴィジランテの表情が凍り付く。ラグネが消えれば、ホワイト・ゼファーは完璧にこの世から消えてしまうのだ。
 それは、愛しいひとの消失を認めることに他ならない。
「……ゼファーという英雄は、もう居ないんです」
 真直ぐに響いた聲がふと、冷えた空気を引き裂いた。揺るぎない、残酷な事実を淡々と語ったのは、琴平・琴子の花唇だ。
「彼の正義を継ぐ人は、誰でしょうか」
 それは琴子ではないし、猟兵たちでもない。勿論、下手人であるラグネなんて以ての外だ。ならば、遺された選択肢はただ独り。
「クロエさん、貴女ではなくて?」
「私……?」
 凛と背筋を伸ばして佇む少女は、翠の双眸でヴィジランテの貌を仰ぎ見る。当のクロエは驚いた様に、ぱちぱちと瞬きを繰り返して居た。
「彼の正義を守るためにも、どうか。ご協力をお願いします」
 琴子はそんな彼女に頷き返して、礼儀正しく頭を下げて見せる。「正義」に猟兵や自警団という区分も、ユーベルコードの有無も関係ない。
 正しく在ろうとする意志さえあれば、誰だって正義の味方に成れるのだ。
「……それは、此方の科白だわ」
 クロエもまた迷いを振り切ったように頷いたのち、凛とナイフを構え、愛する人の仇と改めて対峙する。すっかり戦意を取り戻した彼女の姿に、ラグネはわざとらしく肩を竦めて見せた。
「残念だよ、分かり合えなくて」
 刹那、ラグネの赤いマントがふわりと揺れた。鮮血の如きオーラが女の躰を包み込み、鍛え抜かれた肢体は空高く飛翔する。
「分かり合えるわけ無いでしょ……!」
 月を背負いながらふたりを見下ろす彼女へ向けて、クロエは勢いよくナイフを投げつける。されど、凶刃はオーラを纏う女の腕に玩具の如く弾かれてしまった。
「正義の名を騙る悪の相手は、彼女が相応しいでしょう」
 さあ、いらっしゃい――。
 クロエを庇うように猟書家の前に躍り出た少女の許へ、一羽の黒鳥が舞い降りる。それは、童話の中で悪役として描かれる不実の象徴。
「オディール、彼女の心を射止めて」
 嘗て王子様のこころを射止めた、あの時のように。
 黒鳥は夜空に溶け込みながらも優雅に宙を滑り、高みの見物をしているラグネへ飛び掛かって行く。貌の正面でバサバサと繰り返される獰猛な羽搏きに、女は思わず舌打ちを零した。
「……ダンスの誘いにしては、随分と乱暴じゃないか」
「彼女と一緒に踊るのは一苦労でしょう?」
 同じ悪役同士、脚が動かなく成るまで踊り続ける末路こそ相応しい。
 夜空のステージで繰り広げられる聊か品の無いダンスパーティーを、琴子は冷ややかな眼差しで見つめ続ける。其の隙を突くようにナイフを投擲するクロエ。果たしてその凶刃は今度こそ、女の腕を強かに穿った。
「――調子に乗るのもいい加減にしたまえ」
 刹那、ラグネの低い聲が響き渡る。其の貌にはもう、先ほどまでの余裕は無かった。付き纏う黒鳥を無理やり掴み引き剥がせば、何処へと放り投げて、己は地面へ急降下する。ふたりへ、拳を叩きこむ為に。
「オデット」
 されど、琴子は動じずにもう一羽の眷属を招く。優雅に翼を揺らしながら彼女の許に降り立つのは、純潔の象徴たる白鳥だ。
「あの拳を、受け流して」
 琴子が命ずるままに彼女は羽を伸ばし、此方へ突っ込んで来るラグネの許へと飛び立ってゆく。
「的が増えようと結果は同じだ」
 せせら笑う女は鍛え抜いた拳を、邪悪なオーラと重力を乗せて、思い切り白鳥へと叩きつける。しかし、しなやかなオデットの羽根は、彼女の拳をさらりと受け流した。まるで、湖面を撫ぜるように――。
「なに……」
「童話をご存じありませんか、何人たりとも白鳥の翼は汚せませんよ」
 渾身の一撃をさらりと往なされて呆然とするラグネ。そんな彼女の耳へ、またあの羽搏きが近付いて来る。
「お前ッ……!」
 引き剥がされたオディールが宵闇に紛れて、彼女の貌へと再び纏わりついたのだ。宙で格闘し合うふたりは、まるで不格好なダンスを踊っているよう。その光景から翠の双眸を逸らさず、琴子は女にとって残酷な宣告を紡ぐ。
「――さあ、地に落ちてくださいませ」
 力尽きたオディールとラグネは、やがて仲良く地面へと堕ちて行く。されど、これは彼女達の自業自得。
 悪が栄えた試し無し。喩え栄えたとしても、きっと碌なことにはならないのだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

月居・蒼汰

ヒーローとしての役割だけを引き継いだとしても
心や在り方まで引き継げていないのなら
それは見た目が同じだけの誰かであって
元のヒーローとは全く別の存在
成り代わりの正義なんて、正義じゃない

クロエさんが戦いやすいよう
立ち回りに気をつけつつ煌天の標で攻撃を
クロエさんが狙われたら身を挺して庇います
ヴィランの霊には破魔の力を込めた拳で応戦
敵が逃亡を図るなら空を翔け、先回りして阻止を試みる
ヒーローのホワイト・ゼファーはきっと
最後まで逃げたりしなかったはず
だからあれは彼ではないのだとクロエさんに伝えたい

その口で正義を語るな
ホワイト・ゼファーの正義を、誇りを
何より彼女の心を踏み躙ったお前を
俺達は絶対に許さない…!



●導きの光
 うつくしい屋上庭園が、猟書家の血で穢れて行く。石畳に刻まれた赫は、楽園の如き此の場に不似合いなほど生々しい。されど、猟書家――ラグネ・ザ・ダーカーは涼しい貌のまま、血溜まりから再び立ち上がった。
「この姿では矢張り、信じて貰えないのかな」
 わざとらしく溜息を零した女は、その場でくるりと回る。すると次の瞬間、白いスーツを纏ったヒーロー、「ホワイト・ゼファー」がクロエの前に姿を現した。
「あ、ぁ……」
「ほら、私はちゃんと彼を引き継いでいる」
 不意に現れた恋人の姿に、クロエが握りしめたナイフが、そして彼女のこころに灯った覚悟が揺れる。
「……違う」
 寸での所で彼女のこころを繋ぎ留めたのは、ふたりの間に割り込んだスピリットヒーロー“月居・蒼汰”の存在だった。
「彼の心や在り方まで引き継げていないのなら、それは見た目が同じだけの誰かだ」
 “役割”だけを引き継いだところで、それは何の意味も無い。ヒーローにとって最も大切なものは「魂」だ。ゆえに本質が邪悪に染まっている彼女は、幾ら完璧に擬態できようとも、元のヒーローと同じ存在には成り得ない。全くの別物である。
「成り代わりの正義なんて、正義じゃない」
 誰かの笑顔を奪う者が“ヒーロー”を名乗るなんて、蒼汰は絶対に認めない。
 高潔な志を持たず、ただ力を振るうだけの存在は、ヴィランと何ら変わりないから。
「クロエさん」
 折れそうなこころを支えるように、ヴィジランテの名を呼ぶ。娘は眼に涙を溜めながら、こくりと小さく頷いた。
「――私、戦うわ」
 そう語る彼女の聲には、もう迷いは滲んで居ない。ナイフを五指に挟みながら、娘は貌を上げて、ただ前だけを見据えるのだった。

「ヒーローを気取るなら、ヴィランと遊べばいい」
 ゼファーの皮を被ったラグネがパチンと指を鳴らせば、伸びた影からヴィランの悪霊が現れる。血がこびり付いた鉈を持ったヴィランは、脇目も振らずにクロエの許へと駆けて行く。振り上げられた凶刃を、無謀にもナイフで受け止めようとする彼女だが――。
「彼の相手は、任せて」
 クロエを庇うように躍り出た青年が、悪霊の腕をギリギリと締め付けて、凶悪な得物を落下させる。
 カラン、と固い音が零れた時にはもう、娘はすぐさま狙うべき敵を視界に捉えていた。視界の端で猟書家へナイフを飛ばす彼女の雄姿を眺めながら、青年は自由な方の肘を思い切り後ろへ引く。
「お前はもう眠るべきだ」
 そうして一気に、ヴィランの腹へと拳を突き出した。
 破魔の加護が宿った鉄拳は、一瞬で悪霊の姿を掻き消して行く。オブリビオンでも無い敵に、手間取っている場合じゃ無いのだ。
「ラグネ・ザ・ダーカー……」
 クロエが投げたナイフを指先で捕まえては投げ返す遊びに興じる、猟書家の気を惹くように、低い聲彩で名を紡ぐ。
「分が悪いようだね、退散させて貰おうか」
 彼の聲から怒りを感じ取ったか、踵を返して早々に逃げ出そうとするラグネ。されど、みすみす悪を逃がすヒーローなど、世界のどこに居るだろうか。
 石畳を蹴り上げた蒼汰は薄紫の翼を広げ、夜空を駆ける。追走劇は空を飛べるものに有利である。猟書家の前へ素早く舞い降りた青年は、月と星の魔力で編んだ数百本もの光り輝く魔法の矢を放つ。
「がっ……」
 美しく煌めく矢の雨に打たれて、ゼファーに化けた猟書家は苦悶の聲をあげる。其の様を、クロエは複雑そうな貌で見降ろしていた。
「……ヒーローのホワイト・ゼファーはきっと、最後まで逃げたりしなかった」
 蒼汰はそんな彼女を責める訳でも無く、寧ろ傷付いたこころを励ますように、優しく言葉を紡いで往く。
 青年は、本物のホワイト・ゼファーを知らない。けれども同じヒーローだから、それだけは言い切れるのだ。
「だからあれは、本当の“彼”ではないよ」
「……そうね」
 クロエは睫を伏せ、静かに首肯した。彼女にとって“英雄の誇り”を知る青年の科白は、どんな気休めよりもきっと信頼できたのだろう。
「正義の前では、多少の犠牲なんて、細事だろうに……」
 どうしてそう必死に成るんだい。煌めく矢に全身を射抜かれて満身創痍なラグネは、息を荒げながらもそんな疑問を口にする。
 未だ正義の執行者を気取る敵の欺瞞に、青年は拳を震わせた。
「その口で――」

 正義を、語るな。

「ホワイト・ゼファーの正義を、誇りを。何より、彼女の心を踏み躙ったお前を」
 蒼汰の掌中に、再び星と月の魔力が集って行く。
 とうてい見過すことが出来ぬ巨悪を、この世から打ち払う為に。
「俺達は、絶対に許さない……!」
 もはや避けることも叶わないラグネの頭上から、数百本もの光の矢が雨のように降り注ぎ始めた。悲鳴を上げる猟書家だが、踏み躙られた被害者たちの痛みを想えば、未だ足りぬ。
 導きの光はきっと、消えることは無いだろう。悪を灼き尽くすまで――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ミネルバ・レストー
前言撤回よ、楽には死なせない
クロエに泣いて詫びなさい、徹底的に嬲り抜いてあげる
許されるかどうかは別としてね

仕事よ、クソダサドラゴン
【全ては静寂の白へ】で召喚した氷竜への交渉カードは
昔のようにレイドボス戦で存分に活躍させてあげられるってこと
お互い全盛期のようには行かないけど――できるわよね?
そう言いくるめてけしかける
凍えなさい、苦しみなさい、その幾万倍も多くの人が悲しんだのよ

逃亡を図られたらわざと冷ややかに対処
別に好いてもらおうとは思わないから
クロエ、あなたも見たでしょう? あれは偽者、あなたの恋人じゃない
今あいつがしていることは、あなたとゼファーに対する冒涜よ
惑わされないで、引鉄を引きなさい



●静寂に還る
 光り輝く矢の雨が、ぽつり、ぽつりと降り止んで行く。幾百もの矢に穿たれ、満身創痍に成ろうとも、猟書家は尚も戦場に健在だった。
「この姿でも揺らがないなんて、君たちは存外に薄情みたいだね」
「……!」
 ゼファーの皮を以前被った侭で、ラグネは口端から垂れる血を拭いながら、薄く嗤って見せる。そんな敵の姿を前に、ミネルバ・レストーの双眸が剣呑に細く成った。
「前言撤回よ、楽には死なせない」
 何処までも人のこころと尊厳を弄ぶ其の姿勢は、彼女の逆鱗に触れたらしい。傷ついたような顔をした娘の隣で、縊り殺すだけでは足りぬと、桜彩の髪を揺らす少女は唇をぎりりと噛み締める。
「クロエに泣いて詫びなさい、徹底的に嬲り抜いてあげる」
 許されるかどうかは別として。最低でもそれ位させないと、この怒りは収まりそうにない。
「――仕事よ、クソダサドラゴン」
 八尺瓊勾玉が、芒と光を放ち始める。次いで現れるのは、氷の鱗を持つ蒼き龍――アイストルネードドラゴン。少女の傍へ降り立った氷龍は、金色の眸で彼女を見降ろし指示を待つ。
「昔のように活躍させてあげる。悪くない噺でしょう」
 これは、レイドボス戦だ。
 フィールドは屋上庭園。ラスボスのHPは無限大。ゆえに手加減は不要。だから在りし日のように、存分に氷龍を活躍させてあげられる。
「お互い全盛期のようには行かないけど――」
 できるわよね。そう有無を言わさぬ視線を氷龍へ向けたなら、彼女の信頼に応えるように、氷龍は猛き翼を羽搏かせて宙を舞った。
「おやおや、ドラゴンハントは専門分野じゃないのだけれどね」
 ラグネが指を鳴らすのと同時に、伸びた影からヴィランの悪霊がゆらりと現れる。殺気を纏った彼は、凶器を振り回しながら娘達の許へ駆けて往く。すかさずクロエがナイフを投げつけるけれど、実体を持たぬ敵の足止めには至らない。
「ドラゴン、まずはアレを片付けて頂戴」
 ファンタズムには、ファンタジーを。
 見かねたミネルバが支持を呉れてやれば、氷龍は襲い来るヴィランの前へ舞い降りて、氷を纏わせた尾で強かに其の躰を引き裂いた。
 悪霊の消滅を見届けた氷龍は、ぎろりと金瞳を巡らせる。次に狙うのは、フィールドのラスボス。ラグネ・ザ・ダーカーだ。
 猛き翼を羽搏かせ、氷龍は再び空へ。夜の冷えた空気を吸い込めば、猟書家に向けて氷の吐息を大きく吐き出して行く。

 ――そして、総ては静寂の白へと還る。

「凍えなさい、苦しみなさい」
 吹雪めいたドラゴンの吐息に曝されて、苦悶の聲を漏らすラグネ。寒さに切れた皮膚は痛々しい赫絲を刻み、ガチガチと歯を震わせる様子は何処までも痛々しい。されど、その姿を冷ややかに見つめるミネルバの留飲は、決して下がらなかった。
「その幾万倍も、多くの人が悲しんだのよ」
 理不尽にいのちを、大切なひとを奪われた人々の痛みは、ラグネが味わっているそれとは、比べられぬほどに辛いものだ。

「――っ、クロ、エ」

 ふと、ゼファーの容をしたラグネの喉から、掠れた聲が漏れる。その瞬間、クロエの躰がひたりと凍り付いた。
 愛する人の貌が、聲が、いま、自分に助けを求めている――。
「クロエ。あなたも見たでしょう、あれは偽者」
 あなたの恋人じゃないわ。
 間髪を入れずに、傍らの少女が冷ややかな聲を響かせる。薄情に想われるかも知れないが、別に好かれたくて此の場に居る訳でも無い。
 ただ純粋に、ラグネの行為が赦せないのだ。
「今あいつがしていることは、あなたとゼファーに対する冒涜よ」
 正しきこころを持った英雄を殺め、成り代わり、尊厳を穢すだけでは飽き足らず。彼を想う恋人のこころすら、この猟書家は弄ぼうとしている。
 そんな卑怯者に正しき人が負けるなんて、赦せない。
「惑わされないで、覚悟を決めなさい」
「……ッ」
 厳しくも優しい少女の言葉に背中を押されて、クロエはナイフを振り被る。月光を浴びて煌めくナイフは、彼女の指先を離れ、弧を描きながら宙を舞い――。
 軈ては白銀に鎖されたラグネの腹へと、深く深く、突き刺さったのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

カイム・クローバー
この依頼、クロエは降りても良いんだぜ。
猿真似とはいえ、猟書家が相手だ。只のヴィジランテのアンタには荷が重い。それでも――震えながらでも、立てるってんなら。
あの猿真似野郎の化けの皮、俺が剥がしてやる。

魔剣を担いでラグネに声を掛けるぜ。
ヒーローの役目を引き継いだんだって?ホワイト・ゼファーの風を操る能力も使えるんだろ?…侵略蔵書の力か。
試してみようぜ。アンタの【風を操る能力】で俺を殺せるかどうか。
見せてくれよ、引き継いだ力ってやつをよ。(【挑発】)
【オーラ防御】と【激痛耐性】で風を耐え抜くぜ。ハッ、こんなモンかよ。
随分と軽かったな、所詮は真似事。アンタ如きじゃ本当のヒーローの魂の前に及ばないのさ。



●風を裂く紫雷
 躰に纏わりつく氷を無理やり剥ぎ取れば皮が裂け、腹に突き刺さったナイフを抜き払えば、鮮血がごぽりと溢れる。それでも、猟書家『ラグネ・ザ・ダーカー』はゼファーの容を保ったまま、猟兵たちと向き合い続けていた。
「見上げた執念だ、恐れ入るよ」
 疵は深いと云うのに、肩を竦めてそんなことを宣うラグネの態度は相変わらずだ。一方、恋人の姿をした敵にナイフを突き刺したクロエは、吐息を荒げながらあえかな肩を震わせている。
「この依頼、降りても良いんだぜ」
 そんな彼女を見かねて聲を掛けたのは、カイム・クローバーだった。彼の発言を耳に捉え、クロエの眸は大きく見開かれる。
「逃げ出せっていうの……」
「猿真似とはいえ、猟書家が相手だ。只のヴィジランテのアンタには、荷が重い」
 彼女のこころの弱さには敢えて触れず、カイムは淡々と目に見える事実だけを口にする。普通のオブリビオンならいざ知らず、「猟書家」は一般人の手に負えない代物だ。
 何度倒れても起き上がって来る、ラグネの頑丈さを間近で目の当たりにしたクロエは、彼の正論に思わず俯いた。悔しいけれど、返す言葉が見つからない。
「それでも――」
 不意に、青年の口調が柔らかくなる。おずおずと貌を上げた娘の眸には、真剣な貌に何処か優しさを湛えた、カイムの姿が映った。
「震えながらでも、アンタが立てるってんなら」
 クロエには“才能”がない。ユーベルコードも扱えないヴィジランテに、猟書家が倒せる訳も無いけれど。奴を倒したいという想いが、本物だというのなら。

「あの猿真似野郎の化けの皮、俺が剥がしてやる」

 カイムは神殺しの魔剣を肩に担ぎ、静かにラグネの許へと歩み寄って行く。敵が逃げる様子は、未だ無い。
「ヒーローの役目を引き継いだんだって?」
「この力は、弱きものの為に振うべきだからね」
 軽口で話しかければ、悠々とした返事が飛んで来た。澄ました其の態度は、インタビューの時から気に入らないのだが。何とか堪えて、青年は更に問いを編む。
「ホワイト・ゼファーの能力も、使えるんだろ」
「そうじゃなければ、成り代われないからね」
 あらゆる英雄と悪党の「死」を刻んでいると云う「侵略蔵書」の力だろうか。窮地に在れど、ラグネは自身の能力に絶対の自信を抱いているようだ。
「なら、試してみようぜ」
 ゼファーから奪った風を操る能力で、果たして猟兵が殺せるのか。そう待たずとも、直ぐに結果は分かる筈だ。

「――見せてくれよ」

 アンタが引き継いだ“力”ってやつをよ。
 口端を二ィと弛めながら紡いだ挑発は、自信家のラグネに火をつけたらしい。彼女が抱く侵略蔵書の頁が、独りでにパラパラと捲られて行く。
「いいだろう、後悔しないでくれたまえよ」
 刹那、ラグネを中心として、突風が巻き起こった。
 それは絢爛に咲き誇る花々を浚い、チャペルの鐘をぐらぐらと揺らし続ける。猟書家の傍にいるカイムも当然、無事では済まない。オーラの壁で飛来物を弾こうと、鎌鼬のごとき風が、柔い皮膚を切り裂いていく。
「……ハッ、こんなモンかよ」
 しかし、青年の口から零れるのは苦悶の聲に非ず。屋上庭園に響き渡るのは、猟書家の力量を見極めたかのような、たいそう不敵な科白のみ。
「なに……?」
「随分と軽かったな」
 いつものように軽口を叩き、ニヤリと口端を上げて見せる。
 矢張り、所詮は猿真似。猟書家の攻撃には、信念も重さも足りない。そんなもので、カイムが膝を着く筈も無いのだ。
「魂が篭ってないぜ、猿真似野郎」
 ジジ、ジジジ――……。
 青年の躰へふと、紫電が纏わりつく。担いだ魔剣を振り下ろし、それを正面へ向けた儘、カイムは思い切り駆け出した。誇りも信念も持たぬ、偽ヒーローの化けの皮を剥ぐ為に。
「アンタ如きじゃ、本当のヒーローの脚元にも及ばないのさ」
 敵の懐へ滑り込むと同時に、刺突。
 猟書家はその衝撃に勢いよく吹っ飛んで、安全柵と激突する。ずるりと崩れ落ちる躰を包み込む黒銀の焔は、彼女が纏った化けの皮を燃やして行く。
 焔が漸く燃え尽きた頃。
 ラグネは猟兵たちの前で再び、痛々しい疵を無数に刻んだ、本来の姿を現したのだった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

荒谷・ひかる



(二丁の精霊銃を構えつつ)
他人に成り代わって、悪事を為すなんて……
貴女、よっぽど自分に自信が無い方なんですね。『可哀想』に。
(最早怒りでなく、憐憫の感情を向け挑発)

挑発しつつ【風の精霊さん】発動
総勢465体の風の精霊さん達を召喚、こっそり潜ませておく
正面で銃を構えるわたし自身を囮に、彼らを敵本体へ向けけしかける
彼らは風である故に不可視、そして狭い場所へも侵入できる
敵の呼吸に乗って体内へ侵入、内部で鎌鼬を発生させての自爆攻撃を敢行してもらいます
一部の風の精霊さん達はクロエさんについてもらい、風でのジャンプや突撃の強化での援護を

これが……貴女が踏み躙った、風の力。
逃げられると、思わない事です。



●シルフィードは月下に舞う
「他人に成り代わって、悪事を為すなんて」
 漸く化けの皮が剥がれ、本来の姿を月下に曝した猟書家を見降ろして。羅刹の少女――荒谷・ひかるは、ちいさく溜息を洩らした。
「貴女、よっぽど自分に自信が無い方なんですね」
 左手と右手にそれぞれ一丁ずつ精霊銃を握り締めながらも、ひかるは憐憫の眼差しを隠すことなく、満身創痍の女へと送る。
「……何だって?」
「『可哀想』に――」
 この猟書家は、無敵の変身能力を誇ると云うけれど。裏を返せば其れは、他人から奪った能力に頼らなければ、何も成し遂げられ無いと云うこと。
 憐憫を口に出したのは挑発の意図もある。しかし、そんな哀れな存在には最早、怒りすら湧かないのも事実。
「私はただ、自分の才能を有効活用しているだけさ」
 喜色ばんだラグネは指を鳴らし、戦場にヴィランの悪霊を招く。突如現れたヴィラン――殺気を放つ覆面姿の男を視界に捉えるや否や、クロエは懐からナイフを取り出した。
「共に戦いましょう、クロエさん」
「ええ、ありがとう」
 羅刹の少女もまた、両手に構えた拳銃を悪霊へと向ける。戦闘能力に欠けているのは、ひかるも同じ。しかし、彼女が構える中には精霊の加護が宿っている。悪霊の足止めくらいは、出来る筈だ。
 頷き合ったふたりは、悪霊を仕留める為に夜の庭園を駆けて行く。

 星獣の外殻を誇る精霊銃が、何度目かの火を噴いた。銃口から放たれる弾丸は、星の息吹のように煌めいて、ヴィランの躰を強かに貫いて行く。精霊の加護が宿った魔法の弾丸は、悪霊の力を確実に削ぎ始めていた。いまなら、クロエの物理攻撃も通るだろう。
「クロエさん、風に乗ってください」
「すごいわ、空を飛んでいるみたい!」
 こっそりと彼女の支援に回らせていた“風の精霊さん”の力添えで、クロエはふわりと宙を舞う。月を背負った彼女は、風が導く儘にヴィランの許へ急降下。風圧を纏いながら、ナイフの切先を思い切り悪霊の躰へ突き刺した。
「やはり、私が直々に相手してあげないといけないか」
 四散して行く眷属の姿を遠目に眺めながら、ラグネは深い溜息を吐く。そもそも悪霊如きに、倒される猟兵たちでは無いのだ。
 得物を構え直す少女たちの許へ、一歩、二歩。ゆるりと歩み寄ったところで、女は唐突に立ち止まった。
 何事かと怪訝な貌で様子見するクロエと、何かを悟ったような貌で敵の様子を見守るひかる。ふたりの前で、猟書家の女は苦し気に胸を掻き毟っていた。
「う、ぐっ、ガアァッ……!」
 やがて、女は思い切り仰け反り吐血する。全身の至る所から、夥しい程の血を吹き出しながら――。
「き、さまッ、何をした……」
「これが……貴女が踏み躙った、風の力です」
 冷たい地面へ仰向けに倒れながら、ラグネは悔し気に少女の貌を睨めつけた。されど、ひかるは至極冷静だ。こうなることは、最初から予測していた。
 “風の精霊さん”たちは、風であるがゆえに不可視の存在。そして其の性質上、狭い所への侵入もお手の物。
 術者である彼女は敢えて派手に立ち回ることで、ラグネの注意を逸らし、風の精霊たちの大部分を、密やかに女の方へと嗾けていたのだ。
 ラグネの呼吸に乗って彼女の体内へ侵入した精霊たちは、内部で思い切り鎌鼬を発生させて自爆して行く。彼らの雄姿が、この結果に繋がったのである。
「逃げられると、思わない事です」
 猟兵たちはあらゆる手を使って、ラグネを此処で“終わらせようと”するだろう。次なる犠牲を出さぬ為に。
 ひかるはちらり、赫い双眸をクロエに向ける。視線に籠められた意を悟った娘は、ちいさく頷きラグネの上へと影を落とす。
 ヴィジランテの掌中で、ナイフは月光を浴びて物騒な煌めきを放っていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

トリテレイア・ゼロナイン

(UCを装着した姿で滞空し)
騎士としてこの姿は不本意ですが…
貴女のような巨悪が空を駆けるならば、先ずはクロエ様の刃が届く場所まで落ちて頂きましょう

●瞬間思考力とセンサーでの●情報収集で挙動を●見切り重力・慣性制御活かした緩急自在、縦横無尽の●推力移動で敵に対抗
●盾受けからの●怪力大盾殴打で体勢崩し照準レーザー●スナイパー射撃
重力波解放、地に叩きつけ全備重量乗せ●踏みつけ
首に剣突き付け

成程、ゼファーを生かして隠した場所を教える、と…

それで、貴女が喪わせた命と、ホワイト・ゼファーの名誉が還ってくるのですか?
仮に生きていたとしても
彼らの尊厳と心を踏み躙った罪は赦されるものではありません

さあ、審判を



●断罪の時は来たり
「まったく、君たちには付き合って居られない」
 鍛え抜かれた肢体に無数の疵を刻まれて尚、女は生き延びることを諦めぬ。赫く染まった白衣をふわりと揺らし、ラグネは宙へと駆けて往く。
「あっ……!」
「逃がしません」
 飛行能力のないクロエの代わりに、猟書家を追い掛けるのは機械仕掛けの白騎士――トリテレイア・ゼロナイン。
 重力と慣性の制御機構を備えた強化ユニットを纏い、大型のスラスターと二門のキャノンを背負う其の姿は、将に戦闘兵器そのものだ。
 ――騎士としてこの姿は不本意ですが……。
 飛翔能力を開放するには、致し方ない選択である。緩急をつけながら夜空を滑らかに泳ぎ、たちまちラグネの背後を取ったトリテレイアは、挨拶代わりとばかりにレーザーを射出する。
「嗚呼、しつこいな」
「貴女のような巨悪を、野放しには出来ませんので」
 ひらりとレーザーを躱しながら、女は彼の方を振り返った。刹那、女の躰は血彩のオーラに包まれて。眼鏡の奥の双眸が、忌々し気に異形の騎士を睨め付ける。
「その有様で騎士を気取るつもりなのかね」
 女はそんなことを宣いながら、拳を思い切り振りあげた。紡ぐ科白から悪意が滲むほどに、彼女が纏うオーラが血潮のように赤々と燃え滾る。
「……ええ、理想には程遠い姿です」
 否定は、しない。
 彼自身、御伽噺の騎士といまの己の姿が掛け離れていることは理解していた。されど、容に拘るあまりベストを尽くせない方が、よほど“騎士らしくない”だろう。
 理想は未だ遠く、それでも英雄としての誇りを胸に、白騎士は敵と向かい合う。
「ならば、君に相応しい姿にしてあげるよ」
 ニヤリと口端を上げた女は、風圧を纏いながら思い切り拳を振り抜いた。凄まじい圧だ。今までの経験で培った思考力と、内蔵されたセンサーで、咄嗟にその動きを見切ったトリテレイアは、間一髪。大型シールドで、彼女の拳を受け止める。
「……成程、比喩表現では無いようですね」
 素手で攻撃されていると云うのに、大盾はミシミシと軋んでいた。もしかしたら、罅でも入っているのかも知れない。しかし、未だ壊れそうな様子もない。
「しかし、力比べなら此方に利があります」
 ぐい、と大盾へ全体重を加え、今にもめりこみそうな勢いの拳を弾き飛ばす。そのまま、返す刀で大盾を振り回し女の躰を強かに殴りつけた。
「がッ……」
 衝撃によろめくラグネへ、即座にレーザーの照準が合わせられる。白騎士の頭部から、放たれるその熱戦こそ微弱なものだが――。
「ぐっ、からだ、がっ……」
 レーザーを浴びた者は漏れなく、重力波に曝され続けるのだ。トリテレイアの攻撃は、此方が本命と云えよう。
「さあ、クロエ様の許へ――」
 浮遊能力を無効化された猟書家は、重力が導く儘に庭園の石畳へと叩きつけられる。衝撃に其の身が跳ねる暇もなく、白騎士の脚が女の背中を強かに踏みつけた。
「ラグネ・ザ・ダーカー。なにか、言い残すことは有りますか」
 女の頸筋に長剣を突き付けながら、トリテレイアは淡々と問い掛ける。月光を浴びて白銀に装甲を煌めかせる彼の姿は、将に聖騎士然としていた。
「……私を殺せば、ホワイト・ゼファーの所在は分からなくなるよ」
「つまり、ゼファーを“生かして隠した”場所を教える、と」
 この期に及んで、生き延びる為に交渉を持ちかけようとするラグネ。彼女の意図をいち早く汲み取ったトリテレイアは、彼女の頸に剣を当てた侭、交渉内容を反芻する。漸く状況を理解したクロエが息を呑む音が、微かに聞こえた。
「――それで」
 無機質な聲が、夜空の下に冷たく響き渡る。白騎士は矢張り、剣を離さなかった。悪戯に希望をちらつかせるのは、クロエの為に成らないだろう。
「貴女が喪わせた命と、ホワイト・ゼファーの名誉が還ってくるのですか?」
 いまさら人質交渉をしたところで、彼女の悪行は見逃せない。そもそも、彼女の科白は信用できない。
 ラグネは、罪と嘘を重ね過ぎたのだ。
「彼らの尊厳と心を踏み躙った罪は、赦されるものではありません」
 喩えゼファーが生きていたとしても、関係ない。彼が歩んで来た道程は既に、穢されて仕舞ったのだから。
「クロエ様」
 女を抑えつける脚に体重を掛けながら、トリテレイアはヴィジランテへと視線を向ける。碧に煌めくアイセンサ―は、言葉よりも雄弁に、彼女へ想いを伝えていた。
「わかってる。わかってた。彼はもう、いないから」
 眸を揺らしながらも気丈に頷くクロエは、ナイフ片手に女の許へと歩み寄る。復讐を目前にしたところで、彼女の貌は晴れない侭だ。

 いまこそ、審判の時――。

 重力に押し潰されて地面へ伏せるラグネの背へ、クロエは思い切りナイフを振り下ろした。娘の眸の端にたまった雫が、夜風に攫われ何処かへと飛んで行く。
 御伽噺の騎士ならば、彼女の涙も拭えたのだろうか。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ヴォルフガング・ディーツェ
役目を引き継ぐ?言葉は正しく使った方が良いぞ
「自分のままでは誰にも見向きもされないから」、とな!
聞くに堪えぬ戯言には魔力と精神干渉を乗せた呪言で激高を誘いつつ…さあ、理知的に殺し合いを始めようか

【指定UC】でクロエや自分、可能なら周りの猟兵を強化
兄と婚約者の仇を正しく取れるのは君だけだ、クロエ。迷うな、進め。そして生き残れ
2人がきっと願っただろう君自身の未来の為に

俺は復讐の下拵えだ
限界突破し相手の懐に高速で踏み込み、狂風の属性を纏わせた魔爪で腹部を破壊
返す刃で内臓を抉り、情報体を用いて記憶に干渉・奪還
…ゼファーの最期を視て、クロエに伝えよう

人知れず奪われた命の、最後の灯火までは決して奪わせんよ



●Last message
 地面に広がる赫い血を、月が煌々と照らしている。
 庭園に咲き誇る花の馨と、周囲に漂う血の匂いが混ざり合い、ヴォルフガング・ディーツェは不快気に眉を顰める。彼の眼前には、安全柵にもたれながらも、どうにか立ち上がろうとしている猟書家の姿があった。
「ゼファーの役目を引き継いだ私を、君たちは否定するのかい」
「……役目を、引き継ぐ?」
 ラグネの口から零れた意外な言葉を、人狼の青年はゆっくりと反芻する。罅割れた眼鏡を掛け直す女は、気だるげに頷きながらニヤリと口端を上げて見せた。
「弱きを助け悪を挫くことは、力ある者の責務だからね」
「はは、言葉は正しく使った方が良いぞ」
 されど青年は、聞くに堪えぬ其の戯言を一笑に付す。彼女自身が、挫かれるべき巨悪であると云うのに。欺瞞も此処まで来るとお笑い草だ。
「『自分のままでは、誰にも見向きもされないから』とな!」
 ラグネの本質を突くような科白に、精神を揺さぶる呪言を滲ませて。ヴォルフガングは、彼女の在り方そのものを否定して見せた。
「……君こそ、余り吠えない方が良い」
 果たして、彼の呪言はラグネの感情を酷く揺さ振ったようだ。女だてらに鍛え抜かれた彼女の躰が、燃え滾る血の如く赫いオーラと殺気に包まれて行く。
 みごと術に嵌った其の様を見て、人狼青年は老獪に笑う。
「さあ、始めようか」
 花々が咲き誇る月下の舞台にて、理知的な殺し合いを。

「指令――」
 此処に集いし朋を、永遠の葉擦れの城へ誘い給え。
 人狼の青年がナノマシンに命じれば、傍らでナイフを構えるクロエと己の周囲へ、たちまち物理法則を書き換える特殊領域が生成される。
「すごい、力が漲って来るわ……」
「それでは、復讐の下拵えといこう」
 ナノマシンの加護によって身体能力を限界突破させたヴォルフガングは、地面を蹴り上げるや否や、一瞬にして其の姿を消す。神速で駆け抜けた彼が次に姿を現すのは、猟書家の前。
「しまっ……」
「教えてやろう」
 風と云うものは、こう使う。
 魔爪『スニークヘル』が、鍛え抜かれた女の腹へ深々と食い込んだ。荒ぶる風を纏った其れは、女の腹をズタズタに切り裂いていく。
「ぐ、あぁッ……!」
「奪われたままでは、終わらせんよ」
 苦悶の聲を聴き流しながら、ぐちゃりと内臓を抉る。別に、猟奇趣味が有る訳では無い。
 ただ、女の裡に秘められた記憶の一欠片を、人知れず奪われた命の最後の灯火を、彼は探し求めているのだ。
「――嗚呼、やっと見えた」
 軈てお目当てのものを見付ければ、魔狼は漸く凶爪からラグネの躰を開放してやる。荒い息を零す彼女は地面に捨て置き、彼はクロエの方をゆるりと振り返った。
 忘れぬうちに、教えてやらねばなるまい。
「ゼファーは最期まで、諦めなかった」
「……そう」
「君の許へ、帰るつもりだったんだ」
 ヴォルフガングの言葉に、クロエはそっと睫を伏せる。愛する人が殺されたのだ。今際の際まで想われて居たことに、手放しで喜べる筈も無い。しかし、彼女が愛したヒーローが、最期まで気高く戦い続けたことは、一抹の救いと成るだろう。
「兄と婚約者の仇を正しく取れるのは君だけだ」
 猟兵たちでも見抜けなかったラグネの擬態を、彼女だけは見抜いたのだ。それは、クロエの怒りが“正当であること”に他ならない。
 これが過去を振り切るための、復讐だと云うのなら。
「迷うな、進め」

 ――そして、生き残れ。

「2人がきっと願っただろう、君自身の未来の為に」
 青年の言葉にクロエはぎゅっと、ナイフを握り締めた。一度だけ頷いた彼女は、ラグネの許へ駆けて往く。彼女が振う刃にはきっと、様々な想いが乗せられている。

大成功 🔵​🔵​🔵​

コノハ・ライゼ


可愛いコのお願いならこの身を削るのも喜んで
ーーどのみち気にいらねぇからぶっ倒すンだしネ

クロエちゃんの傍に立ちいつでも彼女を庇えるようにしておくわ
悔しい、ナンてモンじゃ無かったでしょう
だから必ずその手を届かせる

敵攻撃のカウンター狙い【黒嵐】起こし
継続ダメージで捕縛し続けその力を封じるわ
流れ弾や余波はオーラ防御広げ防いで
さあ、撃つなら今の内
アナタは強い、必ずイケるわ
2回攻撃で「氷泪」から放つ雷にもマヒ攻撃乗せ
とことん邪魔していきましょーか
ついでに傷口抉って生命も頂くわねぇ

大事な人を、その死を、侮辱された悔しさを知れとは言わねぇよ
ただオレの前で下手な成り代わり晒した事
骸の海で後悔しな



●黒き旋風と踊れ
「本当に容赦がないな、君たちは……」
 砕かれた腹を抑えながら、ラグネは戦場に在り続ける。その強靭さに思わず、クロエのこころは折れそうになるけれど。傍らには、頼もしい味方が居るのだ。
「もう少しだけ、力を貸して」
「可愛いコのお願いだもの、喜んで」
 コノハ・ライゼは双眸を細めて、ゆるりと笑う。彼女の想いに応える為なら、この身は幾らでも削ってみせよう。
 ――どのみち、気にいらねぇからぶっ倒すンだしネ。
 漸くお待ちかねの、メインディッシュに有り付けた。殺意と云う名のスパイスは、獲物を美味しく彩ってくれるだろう。
 ――……悔しい、ナンてモンじゃ無かったでしょう。
 クロエの傍らに並び立ち、血に濡れた彼女の指先を眺めながら、青年はそんなことを物思う。平凡な娘が此処まで至るには、相当の努力と覚悟が必要だっただろう。
「アナタは強い、必ずイケるわ」
 だから絶対、その手を届かせてみせる。悲運に見舞われた彼女の人生、なにかひとつでも報われて欲しいから。青年もまた人知れず、覚悟を決めるのだった。

「私は少し休ませて貰おうか。代わりに彼と遊べばいい」
 安全柵にもたれかかるラグネがパチンと指を鳴らせば、伸びた影が揺れて、邪悪な雰囲気を纏った悪霊が現れる。登場して早々、トラバサミをまき散らす其れは、かつてこの世界で恐れられたヴィランである。
「出会い頭の挨拶にしては、お行儀が悪いんじゃなくて?」
 クロエの貌に向かって飛んで来たトラバサミをオーラの壁で弾きながら、コノハはつぅ――と双眸を細めて見せる。アレは美味しくなさそうだ。
「さあ、追い払って頂戴」
 コノハの影がふるりと震えた、その瞬間。黒き管狐が、ぴょんと其処から飛び出して来る。彼は主の命に従い、戦場に黒き旋風を巻き起こす。
 旋風は瞬く間に膨れ上がり、軈ては黒き嵐と化した。荒ぶる其れに真先に巻き込まれたのは、無骨な罠をまき散らす悪霊――ではなく、それを操る本体「ラグネ・ザ・ダーカー」だ。
「くっ、離したまえ……!」
 荒ぶる風に捕らわれて、猟書家の女は必死に藻掻く。気づけば、彼女が呼び出した悪霊は宵闇に消えかかっていた。黒き旋風は、敵の術を封じるのだ。
「風の力ってヤツ、せいぜい思い知りなさいな」
 次の瞬間、青年の薄氷の眸から雷が迸る。其れは捕らわれたラグネを、甘い痺れで更に苛んで行く。これで、暫くは抵抗できまい。
「さあ、撃つなら今の内よ」
「……ええ、ありがとう」
 クロエは五指に挟んだナイフを次々に、身動きとれぬ女へ向けて投擲して行く。彼女が放った刃は総て、的と化した敵の躰に命中した。それを見届けたコノハは術を解き、石畳を蹴って走る――。
「大事な人を、その死を、侮辱された悔しさを知れとは言わねぇよ」
「がァッ……!」
 血を吐きながら崩れ落ちる女へ、ナイフを握った手を伸ばす。痛々しく切り裂かれた彼女の腹を切先で穿てば、血に濡れた口から聲に成らない悲鳴が漏れた。対照的に、青年の躰には生気が漲って往く。
 削った我が身を潤せるのは、其の命のみ。されど、死者への敬意に欠ける“成り代わり”への嫌悪感は、どうしても拭いきれぬ。
「オレの前で下手な成り代わり晒した事――」
 骸の海で、後悔しな。
 鉱石の貌をした『柘榴』に刻まれた溝が、深紅に濡れた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

天音・亮


星の数ほどいるからと言ったヒーロー
その一人一人は他の何にも替えのきかない希望の光
きみが戯れに成り代わってはいけない存在なの
クロエさんが信じ愛したヒーローも
この世界にただ一人の存在
偉大なヒーロー、ホワイト・ゼファーの名を汚す事は許さない

アドくん行くよ!
地を蹴って相棒と共に駆け出す
早業で蹴撃を繰り出しながら
オーラ防御、悪路走破・地形の利用で罠に対しての警戒も怠らない
アドくんもヴィランの霊にジャミングでちょっかい出しながら気をひいて
隙あらば思いっきり蹴りを入れてやる

逃げようとしたり
クロエさんにちょっかい出そうとしたらノエノエで足止め
もし大きな隙が出来たらその時は
一発ガツンと行っちゃえ、クロエさん!



●瞬く星の如く
 腹から溢れる出血が止まらずに、ラグネは地面へ蹲る。罅割れた眼鏡のレンズ越し、猟兵たちの姿を睨め付けながら。
「たかが独りの男の為に、此処までやるとはね……」
「君はヒーローなんて、星の数ほどいるって云うけれど」
 こんな有様に成ろうと未だ英雄の命を軽んじる女の科白に、天音・亮が見兼ねて口を挟んだ。
「その一人一人が、希望の光。きみが戯れに成り代わってはいけない存在なの」
 彼女もまた、ひとりのヒーロー。
 ゆえにこそ、同業者たちの覚悟も思いも、よく分かっている。そもそも、替えの利く存在なんて、この世界にはひとりも居ないのだ。
「クロエさんが信じ、愛したヒーローも、この世界にただ一人の存在だよ」
「たったひとりの命なんて、正義の前では矮小だろう?」
 諭すような亮の言葉を、ラグネは一笑に付す。ヒーローに汚名を着せようとする彼女には、誰かの為に命を掛ける尊い人々の精神など、理解できないのだろう。
 猟書家にどんな思惑があろうとも――。
「偉大なヒーロー、ホワイト・ゼファーの名を汚す事は許さない」
 確りと前を見据えた侭そう告げる亮の背中を、クロエは静かに見つめていた。今ばかりは、あえかな背中が頼もしい。亮もまた、尊い星のひとつなのだ。
「――分かり合えなくて、残念だ」
 女が指を鳴らしたならば、其の影から悪霊が生まれ出ずる。出現と同時にトラバサミのトラップをばら撒く悪霊は、生前名の知れたヴィランだったのだろう。
 ならば、彼の退治はヒーローの仕事だ。
「アドくん、行くよ!」
 太陽の名を冠するブーツで地を蹴った娘は、相棒のAI『アドくん』と共に駆け出して行く。ヴィランの懐へ滑り込めば、片足を思い切り曲げ伸ばして何度も蹴りを撃ち込んで行く。霞を攻撃するような感触だが、蹴れば蹴るほど其の存在が朧に成って往くのが分かる。
 最後の悪あがきだろうか。防戦一方だったヴィランが不意に脚撃を受け止めて、彼女の躰を突き飛ばし、同時にトラバサミを再び戦場へ撒き散らす。
「……っと」
 体制を整えながら着地した亮は、素早く周囲へ視線を巡らせた。開けた場所では罠の脅威は下がる。位置を覚えておけば、脚を取られる心配も無いだろう。
「お願い、アドくん!」
 亮の聲に応えるように、まあるいフォルムのAIがヴィランの許へ突撃する。透き通った悪霊の躰に纏わりつきジャミング機能を開放すれば、電磁波の乱れで悪霊のシルエットにノイズが走る。当然、ヴィランは邪魔なAIを振り払おうとするが――。
「隙あり!」
 猟兵から目を離したのが運の尽き。死角から飛び込んで来た亮の蹴りに吹き飛ばされて、ヴィランの躰は四散して行った。

「矢張り、頼れるのは自分の力だけらしい」
 一方その頃、クロエは仇敵であるラグネと対峙していた。手負いといえども矢張り、オブリビオン。ユーベルコードを持たぬ一般人など、容易く追い詰めてしまう。
「あなたなんて、ただの卑怯者じゃない……!」
「調子に乗るのもいい加減にしたまえ。君程度なら、素手でも殺せるのだよ」
 気丈にもナイフを構えて立ち向かう其の姿を嘲りながら、一歩、また一歩と、ラグネはクロエを追い詰めて行く。軈てクロエの背中が安全柵にぶつかり、鍛え抜かれた女の腕が細い頸筋に伸びた、其の刹那。

 ――この途、止まれ。

 AI『アドくん』から、不快を齎す音の衝撃波が放たれる。様々な音に加工を加えたその調べに脳髄を揺さぶられて、女は思わず耳を塞いだ。
「ぐっ、な、なんだ……」
 それはラグネだけを苛むもの。戸惑うようにクロエが周囲を見回せば、涼し気な青い眸と目が合った。
「ガツンと行っちゃえ、クロエさん!」
「……ありがとう!」
 明るいエールに背中を押されて、クロエはナイフを思い切り振う。その切先は、激しい頭痛に苛まれて身動きできぬ女の躰を、強かに切り裂いた。花弁が散るように、血飛沫が宙を舞う――。
 猟書家の運命は、いま此処で尽きようとしていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

本・三六
◎⭐︎

風が強いね
彼女の想いは痛いほど伝わってきた
ボクも初心を思い出したよ

バトルキャラクターズを召喚
頼もしい相棒たちだ
これだけの猟兵がいる。逃げるなら、空だろうか

クロエが孤立しないよう
相棒たちを半分側に置き
残りは屋上で待機させ『試作八八號』で通信、密に連携を

ボクは『Mr.』を操縦し敵を追跡
『黒賽子』を放って敵の動きを限定しよう
さすが凄い速さだ。当たればこれごと壊される……キツいね
だが迂闊に殴り飛ばせば、巻き添えを狙うかもしれない
下には街もある
だから、受け止める
Mr.頼むよ、ヤツを止め、弱らせよう
キャバリア全身を使い限界突破と怪力で敵を捕縛

破片や敵が弾かれたら、全力で相棒とかばい防ぐ
決着は君の手で



●鋼鐵の紳士
 冷たい夜風が、吹き荒ぶ。
 もしかすると天に居るゼファーが、彼女の戦いを見守って居てくれているのかも知れない。
「……風が強いね」
 黒い機体のキャバリア『Mr.』のなかで、灰彩の髪を抑えながら、本・三六がぽつりと呟く。インタビューを通じて、クロエの想いは痛いほど伝わってきた。彼女が流した涙を、無駄にする訳にはいかない。
 ――ボクも、初心を思い出したよ。
 三六は口許を僅かに弛ませながら、機体の周囲へバトルキャラクターズを召喚する。色鮮やかな彼らは、頼もしい相棒たちだ。
 およそ80体もの敵兵に囲まれて、一方のラグネは苛立たし気に舌打ちを零した。もはやこの疵では、逆転も叶うまい。斯くなる上は……。
「さよなら、諸君」
 逃亡あるのみ。地面を蹴りあげ真上へ飛びあがった女は、血に染まった白衣を揺らし、そのまま宙を泳ぎ往く。
「矢張り、空へ逃げたか」
 鋼鐵の紳士を操り屋上庭園から飛び立ちながら、電脳ゴーグル『試作八八號』を通じて、三六はキャラクターたちに指示を出す。
 半分はクロエのフォローに、そしてもう半分は己に追従するように、残ったひとりは通信係として屋上で待機するように――。

「まさか巨大ロボットで追い掛けて来るとはね」
 夜の空を泳ぎながら、ラグネは独りほくそ笑む。ヒーローの世界において、ああいう機体の操縦者は非力と相場が決まっている。侵略蔵書にも、道具に頼りがちなヒーローの死は記載されていた筈だ。
「あの玩具ごと、壊してあげよう」
 其の破片が哀れな通行人の頭上へ降り注げば、英雄への信頼は失われるだろう。ラグネは未だ、逆転の夢に酔い痴れていた。

「さすがに、凄い速さだ」
 夜空を駆けるラグネを追い掛けながら、三六は猟書家の底力に舌を巻く。満身創痍に視えたが、此処までしぶといとは。光線を放つ鈍色のダイス「黒賽子」を射出して敵の軌道を制限しているが、なかなか追い付けそうにない。
 不意に動きを止めた猟書家が、くるりと此方を振り返る。その腕に抱かれた侵略蔵書は、ひとりでに頁をぱらぱらと捲り出し、彼に相応しい「死」を吟味していた。
「……キツいね」
 あの魔導書から放たれる攻撃が当たれば、鋼鐵のボディごと粉々にされてしまうだろう。そうすれば、下界にも被害が出よう。上空から落ちて来たパーツが通行人に当たったらどうなるか、余り想像したくはない。
 かといって迂闊に殴り飛ばせば、どうなるだろうか。あの猟書家のことだ。最期の最期に、一般人の巻き添えを狙う可能性は高い。

 だから、受け止める――。

「Mr.頼むよ」
 三六は覚悟を決めて、コックピットの操縦棍に力を籠め直した。失敗は許されない。いまは彼とキャバリアの絆を信じるしか無いのだ。
「ヤツを止め、弱らせよう」
 眼前に広がるモニターには、此方に飛んでくる巨大なエネルギー弾の姿が映っている。あれが、侵略蔵書が選別したこの機体に最適な「死」なのだろう。
 黒きキャバリアは全身を用いて、その弾を受け止める。ぐらぐらと揺れるコックピットの中、三六もまた歯を食いしばりながら、機体の出力を最大値に上げて耐える。衝撃に幾つかのパーツがキャバリアから零れ落ちるが、それは可能な限り相棒たちが回収して行く。
 どれだけの時間、そうしていただろうか。
 キュルキュルと暴れ回っていたエネルギー弾は、軈てキャバリアの腕の中で勢いを喪い、沈黙した。
「なに……」
 鋼鐵の紳士と三六は、侵略蔵書に刻まれた「死」に打ち勝ったのだ。
 呆然とする猟書家へと、キャバリアは思い切りエネルギー弾を投げつける。勢いよく飛来する其れとぶつかった女は、狙ったように屋上庭園へと弾き飛ばされてゆく。

 墜落した先には彼女が殺めた男の妹であり、彼女が成り代わったヒーローの恋人でもあるヴィジランテ、クロエがいた。三六から連絡を受けた彼の相棒たちは、ラグネの周囲へ群がり、尚も抵抗する彼女の躰を取り押さえている。
「……兄さん、ゼファー」
 どうか、見ていて。
 猟書家の後を追い庭園へ戻って来た三六を始め、その場に居る全員の視線がクロエに集中する。注目のなか、ヴィジランテの娘は、ゆっくりと脚を踏み出した。軈てクロエは女の傍に膝を着き、返り血に染まったナイフを振り上げる。
 幕引きは、一瞬のこと。
 赫く濡れた其の切先を心臓へ深々と刺し込まれたラグネは、もう二度と動かなかった。事切れた女の躰は、静かに宵闇へ溶けて行く。
 静寂を取り戻した屋上庭園に、ふと柔らかな風が吹いた。黒きキャバリアから降りた三六は、まだ膝を着いた侭の娘の傍へ歩み寄り、そっと天を仰ぐ。
「お兄さんは星に、ゼファーは風に成ったんだ」
 これから先もきっと、君を守ってくれるよ――。
 言外にそう伝えたなら、クロエの口から嗚咽が漏れる。彼女の薬指の煌めきは血には染まらず、ただ静かに輝き続けていた。

●épilogue
 事件解決後、ホワイト・ゼファーの死は様々なメディアに取り上げられた。
 同時に彼が起こした不自然な事故死の数々も、成り代わっていた「偽物」による犯行であったことが明るみに成った。これで、彼の汚名も晴れる筈だ。
 いまや人々は、ゼファーの死を悼んでいる。
 人助けが生き甲斐だった好青年は、ヒーローとして、これからも人々のこころの中で生き続けるのだろう。

 クロエは復讐を果たした後も、ヴィジランテとして活動を続けて行くのだと云う。ゼファーが出来なかった分まで、人助けをする為に。そして猟兵たちのように、誰かの未来を照らす光に成れるように。前を向き始めた彼女の薬指には今も、彼から貰ったリングが煌めいている。

 猟兵たちのインタビューが乗った雑誌『Heroes Journal』の新刊は、飛ぶ鳥を落とす勢いで売れたそうだ。
 また多くの猟兵が『秘密結社「スナーク」』について言及したことにより、その単語は人々にとって“プラスの意味を持つ言葉”と成った。
 彼らのインタビューは、記事を目にした誰かの憧れに、或いは希望に成るだろう。
 猟兵たちが撒いた希望の種は、そう遠くない未来にきっと、新たなヒーローの誕生と云う形で、世界に確かな実りを齎してくれる筈だ。

 数多の英雄が命懸けで護ったこの世界は、今日も恙なく回って行く。
 ――しかしそれこそが、英雄の誉れである。

≪Fin≫

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年12月24日


挿絵イラスト