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自由は死せず

#ダークセイヴァー #一人称リレー形式

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#ダークセイヴァー
#一人称リレー形式


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●ダークセイヴァーにて
「覚悟はいいわね?」
 背後に偉丈夫を従えた小柄な少女が視線を巡らせた。
 大きな納屋の中には少女と偉丈夫以外に十数人の男たちがいる。
 皆、若い。
「次の新月の晩に攻め込むわ。領主の城に……」
「でもよぉ」
 と、男の一人が情けない声をあげた。
「たったこれだけの人数で勝てるのか?」
「勝てるわけないでしょ。あっという間に鎮圧されるわ」
 偉丈夫を従えた少女――この弱小極まりない反乱軍のリーダーはあっさりと言い切った。
 彼女たちが暮らす村(に限らず、同じ領主が治めている他の村でも)では過去にも反乱が起きている。それも一度も二度ではない。
 そして、常に鎮圧されてきた。
 反乱者たちは当然のように処刑されたが、一族郎党までに累が及んだことはない。反乱者といかに親しい間柄であろうと、反乱に手を貸さなければ、罪は問われないのだ。
 それが判っているから、反乱者たちも捨て鉢になれる。
「そう、あっという間に鎮圧される」
 と、少女は繰り返した。
「そして、あたしたちは死ぬ。でも、あたしたちの勇気と誇りは死なないわ。残された人々がそれを受け継いで後の時代に伝えてくれたら、いつかもっと大きな反乱が起きるはず。領主を倒せるほどの反乱がね。だから、あたしたちの死は無駄じゃない」
「だけど、死に急ぐ必要はないだろう」
 男はなおも食い下がった。
「この村を捨てて新天地を目指そうとしている連中もいる。俺らもそいつらと協力したほうが……」
「黙れ」
 と、偉丈夫が初めて声を発し、男の言葉を遮った。偉丈夫といっても顔立ちは幼い。まだ十代の半ばだろう。
 サブリーダーたる彼は弱気な男を見据えて、静かに言った。
「男なら、戦って死ね」

●グリモアベースにて
「今夜のディナーはダークセイヴァーで捕まえた野鳥の香草焼き!」
 伊達姿のケットシーが猟兵たちの前で鳥の腿肉に齧りついていた。
 グリモア猟兵のJJことジャスパー・ジャンブルジョルトだ。
 腿肉をあっという間に骨に変えると、JJは本題に入った。
「健啖家の俺様もこんなに硬い骨は食えねえけど、ダークセイヴァーでは領民たちを骨の髄までしゃぶり尽くすようなヴァンパイアどもが幅を利かせてやがるんだよな。そんなヴァンパイアの統治下にある小さな村で、若い連中が反乱を企ててるんだよ」
 その地方を治めているのはダイン・ウェッサーマンなるヴァンパイア。多くのヴァンパイアと同様に圧政を敷き、生かさず殺さずの方針で領民たちの生き血を絞っているという(ヴァンパイアではあるが、この場合の『生き血を絞る』は修辞的な意味だ)。
「猟兵としては村人の反乱に協力したいところだよな。でも、ウェッサーマンはいかにも難攻不落って感じの堅固な城に引きこもっているから、猟兵といえどもおいそれとは手出しできねえんだ。まして、戦い慣れてない村人が勝てるわけがない。しかも、反乱を起こそうとしているグループは二十人にも満たないんだぜ。無謀ってレベルじゃねえよな」
 無謀と判っていても、立ち上がらずにはいられない――それほどまでに村人たちは追いつめられているのだろう。
「で、今回の任務の内容だが、なんとかして反乱を思いとどまらせてほしいんだ。やり方は任せる。言葉で諭すもよし、力尽くで止めるもよし、もっとなにか別の手段で中止に追い込むもよし。グループのリーダーはテオドラとエルンストという姉弟だ。熱血な姉貴と寡黙な弟で、両親は十年ほど前に反乱を企てて処刑されたらしい。二代続けての反骨漢ってわけだな」
 説得するにせよ、力で止めるにせよ、その対象が姉弟である必要はない。グループの他の面々をすべて思いとどまらせることができれば、リーダーたる姉弟も諦めざるをえなくなるだろう。
 最後にJJは皆に警告した。
「『やり方は任せる』とは言ったが、あまり派手に動くなよ。下手すると、村に反乱グループがいることが領主側に勘付かれちまうかもしれないからな」


土師三良
 土師三郎(はじ・さぶろう)です。

 本件は、領主の圧政に苦しめれている村を救うシナリオです。『救う』といっても領主を打ち倒してスカっと爽快に終わるような内容ではありません。よって、領主のダイン・ウェッサーマン(じつにあくにんらしいなまえだ!)も本編には登場しません。
 第1章ではテオドラ(十八歳)とエルンスト(十六歳)を始めとする反乱グループを説得してください。

 それでは、皆さんのプレイングをお待ちしております。

 ※章の冒頭にあるPOW/SPD/WIZのプレイングはあくまでも一例です。それ以外の行動が禁止というわけではありません、念のため。

 ※基本的に一度のプレイングにつき一種のユーベルコードしか描写しません。あくまでも『基本的に』であり、例外はありますが。
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第1章 冒険 『レジスタンス達を止めよう』

POW   :    実力でねじ伏せて言うことを聞かせる

SPD   :    領主を討つ以外の行動を提案して行動の矛先を変えさせる

WIZ   :    情に訴える

👑11
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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

ベガ・メッザノッテ
【SPD】

反乱グループのリーダー二人は「もし自分達の意志を受け継ぐものがいなかった時のこと」を考えたことがあるかしラ?

確かに誰かが勇気ある行動をしたことによって歴史は紡がれているけれド、基本的には成功例と大失敗しか語り継がれないヨ?

成功すれば良いけド、その人数じゃあすぐ朽ちて「自分達はあんな馬鹿げたことしないように」って肝に銘じちゃう住民の方が多いと思うナー?

そうネー、反乱軍を「直ぐには行動させない」って意味で「人数を増やす」ことを提案するワ

一時しのぎにしかならないけド、ここまで無謀な計画なら人来ない→計画破綻にならないかしラ?

●口調プレイングに合わせて下さい。改変アドリブ連携歓迎です。


リカルド・マスケラス
SPD

「後世へ繋ぐために自らがその礎になる。まあ、そのことに対しては自分は何も言えないっすよ」
喋るお面とかよく分からない存在が納屋にエントリー
「でもね、そう言うのは他人に強要するものじゃないっすよ。それに若い身空で命を散らしたら、繋げるべき次も生まれないじゃないっすか」

ここから実質的な説得
「今ここで反乱するのは領主の思う壺っすよ。小さな反乱をあえて起こさせて選定しているようなモンすから」
「今はまだ力を溜める時。使う潮目はもうすぐっすよ」
「ここまで耐えてきたこと、意思を絶やさなかった先人たちの想いは無駄にはならないっすよ」
潮目=猟兵の実力披露は他に任せたいが、いなければ、村人の身体を借りて自分が


ヴェスター・アーベント
目的/実力の違いを示し、反乱計画を断念させる
「無駄だ、貴様らでは秒と持たん」

戦術/UC【聖魔二刀流】を使用
重視は『攻撃力』
『怪力』を以って振るう攻防一体の剣技。
聖剣で『受け流し』て、魔剣で斬りつけながら『吸血』し『生命力を奪い』、受けた傷を癒しながら敵を倒すまで戦う継戦能力に長けた戦術。

行動/リーダー姉弟に面会を願い、正面から2人を打ち負かす。
「俺はレジスタンスの一員だ、リーダーに話がある」
面会出来たら2人に反乱を思い留まるよう話し、圧倒的な力で秒殺。
「お前達の死は無駄死により最悪になる、お前達が逆らい無残に殺されればその無意味さは瞬く間に伝わり勇気ではなく恐怖を広める結果にしかならぬからだ」


零落・一六八
あー、はいはい。
正義感振りかざして無駄死にね。それは結構。
そうしたい奴だけでやってください。
人を巻き込んでんじゃねえよ。
死にたくない。いいじゃないですか。
アンタ、綺麗事でかっこよく言ってますけど、人に死ねって言えるほど偉いんです?思い上がってんじゃねえよ。やってること領主と大差ないですよね。死にたいなら死にてぇやつだけで死ね。生きたい奴まで巻き込むな。

生きたい人。いいと思います。じゃあ行きましょうか。
生きたいとまだ思い止まってる人だけ逃がします。
こういう馬鹿は人が減っただけで思い止まるとも思えませんが、他の人の説得材料にでもなれば。あとは任せます。
(終始笑ってるが笑ってない)
アドリブ絡み大歓迎


三千院・操
【WIZ】
へー、なかなか面白い子たちじゃん
でも死に急ぐのはよくないなー、死んだら何されるかわかんないよ? あは!
それにそれは蛮勇だ。希望に縋るのは自由だけど、それで前が見えなくなったら元も子もないよねぇ?
ここはひとつ! お兄さんがとめてあげよーっと!

『情に訴えて止める』よ!
勇気と誇りは死なない? ほんとかな? 恐怖は何よりも強い気持ちだよ?
もし君たちの死がなんにもならなかったらどうするの? ただの無駄死にだよね!
酔っ払ってないかな? 『村のために死ぬ自分』に酔ってるんじゃないかな? ねぇ! きみに聞いてるんだよ、テオドラ!

って感じで、【呪詛】の応用でみんなに死の恐怖を与えたいな!

※アドリブ歓迎


ルセリア・ニベルーチェ
アドリブ歓迎ですの

戦って死ね、死が無駄じゃない。何を言ってるのかしら
甘えてんじゃないわよ、最後の最後まであがきなさい
それが生命あるものの義務ってもんでしょ?

まぁ、それ程までに追い詰められているのは見て分かるわ
後の事はルセリアさん達、皆さんは知らないでしょうけど
猟兵と呼ばれる奴らを狩る専門家にお任せなさいな
本当に出来るかって?
そうねぇ、じゃルセリアさんは力を示す事にしましょう

付近の手頃な木を【契約者権限】で加減して1本のみ射出し切断
大きな音を立ててしまわないよう、切断した木は念動力でゆっくり降ろす

ざっとこんなもんです!本来これを数百射出出来るのですがね
この木は村の焚き火や建材にでもお使いなさいな


アンリ・オヴォラ
んもぅ!なんでこうもおブスばっかりなのかしら!
アタシがするのはお説教よ!

アンタ達、死んだところで何も変わらないわよ
それどころか、野犬の餌が増えるだけ!
そもそも戦いにもならないんだから、戦って死ねるだなんて傲慢だわ
寝覚めが悪くなるような真似しないで頂戴
ていうか、10年後のイイオトコを潰さないで頂戴!
あらヤダ、本音が出ちゃったワ

かと言って、このままにする訳にもいかないわね
情報が少なすぎるわ
アンタ達、領主の事でも自分達の事でも好みのタイプでもなんでもいいから、教えて頂戴
そこからはアタシ、復讐代行アンリちゃんのオシゴト
……になるかもネ
逃避行のアテンドも請け負うわよ

お代は弟クン、10年後にヨロシク❤


スピレイル・ナトゥア
「でしたら、私があなたたちの死を無駄にしてあげましょう」
自信満々な態度で反乱グループさんたちの前に立ちます
こんなに強い私があなたたちの代わりに領主と戦ってあげるのですから、領主とも猟兵とも強さの土俵が違うあなたたちの存在や死は完全に無駄です
だから、無駄死にする必要はありません
さあ、帰りなさい……ということを冷静に反乱グループさんたちに向かって言いましょう
反乱グループさんに負け犬のように尻尾を巻いて帰ってもらうためなら、実力行使も辞しません
雷の精霊さんで命を奪わず、うまく麻痺だけさせられると良いのですが……
反乱グループさんたちを助けるために、反乱グループさんたちを全力で叩きのめさせてもらいます


セゲル・スヴェアボルグ
【POW】
周りの奴等は言葉でどうにかなるだろうが、あの姉弟はそう簡単にはいかんだろう。しかも、死ぬ覚悟ができているとなると厄介だな。

とりあえず、姉弟に俺を倒してから行け的な挑発をするか。
別に俺は攻撃されても構わん。【無敵城塞】で凌げるからな。
弾いてしまえば、後は軽く押さえつけてやればいい。
力のない反乱など、ただの見せしめにしかならんだろうに。

死に場所っつーのは自分で決めるもんだ。
だがな。お前さんたちの死に場所は本当にそこか?
お前さんたちは親の死に様を見て何を感じた?
彼らがなんのために戦ったのか、もう一度よく考えてみるんだな。
死に急ぐのなら、それからでも遅くなかろう。


ヴォルフガング・エアレーザー
『自分が死んでも残された人々が後を継ぐ』か……。
亡くなった両親も、正に『その想い』を君たちに託したのではないのか?
自分たちの過ちを繰り返さぬよう、もっと多くの仲間、大きな戦力を集めろと。
君たちまで後を追えば、語り継ぐ者はいなくなる。より強力な反乱軍を組織するなど夢のまた夢だ。
君は両親の遺志を無駄にするつもりか?

どうしてもというのなら、まずはこの俺を倒して見せろ。
(武器を捨て丸腰の状態で【無敵城塞】発動)
俺のような流れ者に傷ひとつ負わせられずして、強固な城と兵を擁する領主を倒すなど笑止千万!

悔しいか? ならばもっと強くなれ。泥を啜ってでも生き延びろ。
命あればこそ、好機を知ることも出来るのだから。



●ベガ・メッザノッテ(残夢紅華・f00439)
「な、なんなの、貴方たちは!?」
 アタシたちが納屋に入ると、反乱グループのリーダーのテオドラが声を張り上げタ。ものすごーく驚いてるみたイ。まあ、秘密の会合をしているところに見知らぬ人たちがどやどやと踏み込んできたんだから、驚くなというほうが無理よネ。
 クールぶった感じのサブリーダーのエルンストもさすがに目を丸くしていたけれど、すぐに我に返って、お姉さんのテオドラを庇うように前に出てきタ。グループの他の面々も慌てふためきつつ、次々と武器を構えていク。武器といっても、大鎌とかピッチフォークとか山刀とかだけド。しかも、全員がへっぴり腰。こんなんじゃあ、オブリビオンどころか、そこらへんの夜盗にも勝てないと思うナ。
 警戒心を露わにする(恐怖心も思い切り露わになってるけどネ)彼らに向かって、リカルドが声をかけタ。
「落ち着いてくださいっす。自分ら、ぜっんぜん怪しい者じゃないんで」
 いやいやいやいや、怪しすぎるでショ。白い狐のお面が宙に浮かんで、しかも喋ってるのヨ? まあ、猟兵には世界の加護が働くから、反乱グループの人たちの目には普通の姿に見えてるだろうけド。
 そんな『恐怖! お面人間!』ならぬヒーローマスクのリカルドに続いて、アタシも皆に語りかけタ。
「アタシはアナタたちの味方。反乱に協力するために来たのヨ」
 なーんて、ウソ! 本当は邪魔をするために来たノ。無茶で無謀で無意味なことを企んでる人たちを無駄死にさせないためにネ。

●零落・一六八(水槽の中の夢・f00429)
「味方かどうかはさておき……領主の手の者じゃなさそうね」
 エルンストの肩越しにボクらを見回すテオドラ。驚きは去ったけど、警戒心は消えてないようですね。
「そういえば、聞いたことがある。ヴァンパイアどもの圧政に苦しむ人々を救っている流れ者たちのことを……」
 と、グループの一人――いかにも気の弱そうな男の人が誰にともなく呟きました(JJが見た予知の中でテオドラに食い下がってたメンバーがいたらしいですが、それはこの人なのかもしれませんね)。ダークセイヴァーの住人は猟兵の存在を知りません。でも、ボクたちの活動は噂になって、いろんな人の耳に届いているようです。
「あんたらもそんな流れ者なのか?」
「まあネ」
 男の問いかけに頷くベガ。
「で、その正義の流れ者たるアタシから忠告させてもらうとネ。アナタたち、人数が少なすぎるワ。もっと沢山の仲間を募るべきヨ」
『流れ者』の前にちゃっかりと『正義の』という枕詞を付けてますが……それはさておき、ベガは本気で忠告しているわけではなく、逆にテオドラたちを止めようとしているのでしょう。ボクたちはそのために来たんですから。
「バカなことを言わないで。これ以上、増やせるわけないでしょう」
 案の定というかなんというか、テオドラはベガの意見を却下しました。
「私たちは決死隊なのよ。生きて戻ることはまず不可能。だから、多くの人を巻き込むわけにはいかないわ」
 はぁ? バカなことを言ってるのはそっちでしょう。

●リカルド・マスケラス(ちょこっとチャラいお助けヒーロー・f12160)
「多くの人を巻き込むわけにはいかない? もう巻き込んでるじゃないですか」
 ずいと前に出てテオドラに言い放ったのは、バーチャルキャラの一六八。にこにこ笑ってるけど、目は笑ってないような気がするっす。
「それとも、ここにいる十何人かは『多くの人』ではないとう認識なんですか? 人数が多くないから、巻き込んでも構わないと思ってるわけですか?」
「巻き込んだわけじゃない」
 おっと、エルンストがテオドラに先んじて答えたっすよ。こっちは目が笑ってないどころか、もう血走ってるっす。英雄的行動に水を差されたもんだから、頭に来てるみたいっすね。
「ただ、『未来のために戦って死ぬ』という道を示しただけだ」
「だから、そういうのを『巻き込んだ』って言うんすよ」
 自分、エルンストに思わずツッコミを入れちゃったっす。
「死して後生のための礎になるってのは立派な覚悟と言えなくもないっすけど、そういうのは他人に強要しちゃダメっすよ。それに――」
 エルンストの背後にいるテオドラをじっと見るっす。自分、狐のお面なので、目はないっすけど。
「――若い身空で命を散らしたら、繋げるべき次の世代も生まれないじゃないっすか」
「あー。言われてみれば、そうよネ」
 ベガがわざとらしく頷き、テオドラに尋ねたっす。
「アナタ、考えたことがあるノ? 自分たちの意志を受け継ぐ者が一人もいなくなってしまった時のことヲ?」
「考えてるわ! だからこそ、そういう事態にならないように決死隊の人数を絞ってるのよ!」
「で、その絞った人数を死地に追い込むわけっすか? それじゃあ、領主の思う壷っすよ。」
 と、自分は言ってやったっす。
「たぶん、領主は小さな反乱を何度もあえて起こさせて返り討ちにしてるっす。そうやって無駄な人死にを出さずに危険分子だけを排除してるわけっすよ。言ってみれば、領民の剪定っすね」
 つまり、反乱を企てるっていうのは、剪定すべき枝を領主に差し出しているようなモンなんすよ。どうして、それが判んないっすかねぇ。

●三千院・操(ネクロフォーミュラ・f12510)
「違う! 領主側はあたしたちを簡単に殺せるでしょうけれど、そんなのは『排除』とは言えない! あたしたちが命を落としても、勇気と誇りは絶対に死なないんだから!」
 テオドラったら、必死になってリカルドに言い返してるよ。ほーんと、面白い子だ。
 でも、黒い剣を何本も携えたダンピール娘――ルセリアは面白いとは思ってないみたい。
「さっきから聞いてれば、『戦って死ぬ』だの『勇気と誇りは死なない』だの……甘えてんじゃないわよ」
 おかんむりだねぇ。
「生きている限り、最後の最後まであがきなさい。それが命あるものの義務ってもんでしょ」
「言われなくても、あがいてやるわ! 戦って死ぬことが私たちのあがきなのよ!」
 テオドラがルセリアに反駁し、エルンストが『そうだ』と頷き、他のメンバーも次々と勇ましい声をあげ始める。さあ、盛り上がってまいりました。
「んもぅ! なんで、こうもおブスばっかりなのかしら!」
 お? 咎人殺しのアンリがオネエ語で怒りつつ、呆れつつ、嘆いてるぞ。
「戦って死ねるわけないでしょ! アンタたちごときでは、そもそも戦いにもならないんだから! 瞬殺されて、野犬の餌になるのがオチよ! それとも、自分を犠牲にしてまで野犬を肥え太らせたいわけ? どんだけ愛犬家なの!」
 オネエ語ってのは毒舌の攻撃力が五割り増しくらいになるね。
 さて、他の連中ばかりに任せてないで、お兄さんも説教タイムに入ろうかな。
「勇気と誇りは死なない? ホントかな?」
 と、テオドラに揺さぶりをかけてみたりして。
 でも、当人はそう簡単に揺さぶられるつもりはないらしく、おれの目を見据えて、力強い声で答えた。
「ええ、本当よ。どのような結果を迎えても、勇気と誇りは死なない。だから、私はなにも怖くない」
「それはどうかなー? 恐怖ってのは、なによりも強い気持ちなんだよ」
 このちっぽけな反乱軍のユーカンなる人々をゆっくりと見回して――
「もし、君たちの死がなんにもならなかったら、どうするの? ただの無駄死にだよね」
 ――リーダーのテオドラに視線を戻す。
「きみ、酔っ払ってないかな? 村のために死ぬ自分に酔ってるんじゃないかな? ねえ! きみに聞いてるんだよ、テオドラ! テ、オ、ド、ラ!」
「……」
 これだけプレッシャーをかけても、テオドラはおれをまだ見据えている。
 もっとも、その目には恐怖の色が滲んでいるけどね。

●アンリ・オヴォラ(クレイジーサイコカマー・f08026)
 操ってば、お姉ちゃんたちに恐怖心を植え付けてイジめてるわ。悪い子なんだから、もう。
 でも、効果は覿面。みーんな、お顔が恐怖で引き攣ってるわね。
「臆するな!」
 ただし、弟クンを除く。『臆するな』とか言っちゃってるけど、自分のお姉ちゃんが臆していることには気付いてないみたい。それとも、気付いてない振りをしているだけ? 自分の中にある理想のお姉ちゃん像を壊したくない……みたいな? やーん、かわいいー。
「余所者の言葉に惑わされるな! ここで尻尾を巻いて逃げ出したら、一生、後悔するぞ! 男なら、戦え! 戦って死ね!」
 トーンダウンしたお姉ちゃんに代わって吠えまくる弟クン。この子も実は熱血系だったのねぇ。
 そんな彼に――
「そうやって、カッコつけて綺麗事をほざいてますけどね。アンタ、人に『死ね』って言えるほど偉いんですか? ……思い上がってんじゃねえよ。やってることは領主と大差ないじゃないですか」
 ――一六八が横槍を入れてきた。あいかわらずにこにこ笑ってるけど、言葉は辛辣。吠えることでしか怒りを表せない弟クンと違って、一六八は笑顔で怒ってる。こういう怒りかたのほうが重みがあるのよねー。
「そんなに死にたいなら、勝手に死んでくださいよ。でも、生きたい人まで巻き込まないでください」
 ぐるりと視線を巡らせる一六八。反乱グループの何人かが気まずそうに顔を伏せた。
「生きたい人、いますよね? 恥じることはないですよ。生きたいと思うのが当然なんですから。ボクと行きましょう。そして、生きましょう」
 一六八は背を向けて、納屋から出て行った。少し遅れて、グループの半分くらいの面子(その大半は顔を伏せていた人たち)もそそくさと退出。
「勝手にしろ!」
 去りゆく同志(元・同士って言うべき?)をもの凄い目で睨みながら、弟クンは吐き捨てた。

●スピレイル・ナトゥア(蒼色の螺旋の巫女姫・f06014)
「お言葉に甘えて、勝手にさせてもらうわ。この復讐代行屋のアンリちゃんが――」
 アンリさんがエルンストさんに怪しく微笑みかける。
「――アンタたちの代わりに手を汚してあ、げ、る。だから、有用と思われる情報を教えてちょうだいな。領主のことでも、自分たちのことでも、好みのタイプでも、なんでもいいから」
 ……『有用』の定義とは?
「ふざけるな! おまえらごときになにができる!」
 怒鳴ってばかりのエルンストさん。おまえらごときになにができるって……その言葉、そっくりそのままお返ししたいです。
 すると、そっくりそのままではありませんが、ルセリアさんが言い返しました。
「あなたたちにはできないことができるわ。言ってみれば、ルセリアさんたちは『猟兵』と呼ばれる対ヴァンパイアの専門家だもの」
 どうでもいいことですけど、ルセリアさんは自分のことを『ルセリアさん』って呼んでるんですね。
「なんだとぉ? だったら、その専門家とやらの力を……」
「見せてあげるわ!」
 エルンストさんの言葉を遮り、ルセリアさんは腕を軽く振ってみせました。
 次の瞬間、彼女が携えている多くの黒い剣とはまた別の黒い剣の群れが出現しました。『群れ』というのは大袈裟な表現ではありません。見たところ、百本以上(いちいち数えていられませんが、もしかしたら二百に達しているかも)もあるんですから。
 そのうちの一本がもの凄い勢いで後方に放たれ、扉を突き破って外に飛び出たかと思うと、またすぐに戻ってきました。
 そして、剣の群れが一斉に消失し――
「うわっ!?」
 ――グループの一人(あの気の弱そうな人です)が声をあげました。
 破られた扉の向こうで、樹木が音もなく倒れたからです。黒い剣で切断されたのですね。音がしないのはルセリアさんが念動力で制御しているからでしょう。
 見えざる力で木をゆっくりと地面に降ろすと、ルセリアさんは勝ち誇った顔をして言いました。
「ざっと、こんなもんです! あの木は焚き火か建材にでもお使いなさいな」
「お見事、お見事」
 操さんが楽しそうに拍手をしました。

●ルセリア・ニベルーチェ(吸血鬼嬢は眠らない・f00532)
「先程、無駄死にに終わった時のことを操さんが皆さんに尋ねましたが、もう一度、それについてよく考えるべきだと思いますよ」
 そう言いながら、このルセリアさんの横に並んだのはキマイラのスピレイル。
「なぜなら、皆さんが無駄死にすることはほぼ確定しているからです。領主たちに挑み、死んで、残された人々に勇気と誇りを託すことができたとしても無意味です。その勇気と誇りとやらが活かされる前に私たちが領主を倒してしまいますから」
 スピレイルは自信満々に振る舞っているけど、エルンストたちのほうは半信半疑って感じね(ルセリアさんが力をアピールしなかったら、半疑どころか全疑だったかも)。まあ、当然か。彼からすれば、スピレイルは十歳になるかならずかの女の子でしかないから。
 でも、猟兵には年齢も性別も関係ない。それを教えてあげなさいな、スピレイル……と、指示するまでもなく、キマイラ娘は青い瞳を光らせた。
「雷の精霊さん。出番です!」
 凛とした叫びに続くは閃光と雷鳴。
 そして、百本を超える稲妻の矢が天井から降り注ぎ、グループの面々を次々と打ち倒した。だけど、死人は出てないみたい。力をセーブしたのね。
「判りましたか? 私たちがいかに強いか。自分たちがいかに弱いか」
 床に這いつくばって痛みに呻くメンバーたちを傲然と見下ろすスピレイル。
「私たちと領主との間で繰り広げられるであろう戦いは、あなたたちが想像している戦いとはかけ離れているのです。その戦いにおいては、あなたたちの存在も死も意味はありません」
「そのとおりだ」
 と、黒い甲冑に身を包んだ同族のヴェスターが静かに頷いた。

●ヴォルフガング・エアレーザー(蒼き狼騎士・f05120)
「だ、黙れぇーっ!」
 エルンストが立ち上がり、ヴェスターに武器を突きつけた。もっとも、武器と呼ぶには貧弱すぎる代物だ。樫棒の先に鉈を括り付けた即席のグレイブ。まあ、戦い慣れた者が手にすれば、それなりの力を発揮するかもしれないが……構えから判断する限り、エルンストは『戦い慣れた者』ではないな。
「アンリも言っていたはずだぞ。そもそも戦いにならない、と……」
 ヴェスターが二本の剣を抜いた。
 だが、彼が行動を起こす前に――
「待て」
 ――俺は前に出て、エルンストと対峙した。
 すると、竜派ドラゴニアンのセゲルが横に並んだ。同じこと考えているらしい。
 セゲルと目顔を交わした後、俺は鉄塊剣とバスタードソードを捨て、エルンストに言った。
「どうしても領主たちに挑みたいのなら、まずはこの俺を倒してみせろ」
「……」
 ごくりと唾を飲み、俺とセゲルに交互を目をやるエルンスト。ドラゴニアンのセゲルはともかく、人狼である俺の姿は普通に認識しているだろう。この世界の種族だからな。
「どうした? かかってこい」
 悠然とした態度でセゲルが声をかけると、エルンストはようやく意を決したらしく、斬りかかってきた。
「うぉりゃあぁぁぁーっ!」
 勇ましい咆哮だが、グレイブの動きは鈍い。見知らぬ相手を攻撃することに躊躇いがあるのだろう。
 その鈍いの動きの末にグレイブはセゲルの肩に命中した(さすがに急所を狙う度胸はなかったらしい)が、毛ほどの傷も与えることはできなかった。武器を振り下ろす速度や力が足りなかったのではない。セゲルが無敵城塞を発動させたのだ。
「……!?」
 当惑しながらも、エルンストは返す刀で俺を攻撃した。
 こちらも無傷。セゲルと同様、無敵城塞を使ったからな。簡単に身を躱すこともできたが(セゲルもそうだろう)、圧倒的な力の差を見せつけるためにあえて攻撃を受けてみせた。
「くそっ! くそっ! くそぉーっ!」
 悔しげに叫びながら、エルンストはグレイブを振り回し、斬撃になっていない斬撃を俺とセゲルに浴びせ続けた。
 何度も、何度も、何度も。

●ヴェスター・アーベント(テラーナイト・f09560)
 即席のグレイブの柄の役割を果たしていた樫棒がへし折れ、先端部の鉈が床に落ちた。
 だが、エルンストは諦めるつもりはないらしい。折れた樫棒を捨て、鉈を拾い上げ、また身構えた。戦士としては役立たずだが、その闘志だけは賞賛に値する……などとは言えない。この若造は闘志を燃やしているのではなく、現実が受け入れられないから、やけを起こしているだけだ。鉈を構えて俺たちを睨みつけている様は、壊れた玩具を手にして泣きべそをかいてる子供を思わせる。
 しかし、笑うことはできない。かつての俺も……そう、〈聖天騎士団〉を吸血姫カルマリアに壊滅させられた時の俺も、今のエルンストと同じような醜態を晒していたのだから。
 俺は改めて二本の剣を構え、ヴォルフとセゲルに言った。
「もういい。俺が相手になる」
 二人は無敵城塞を解き、左右に分かれた。
 その奥からエルンストが突進してくる。
「遅い」
 唸りをあげて迫ってきた鉈を俺は右手の聖剣リヒトクライスで受け流した。同時に左手の魔剣ブラッドイーターをエルンストに叩きつける。
「……ぐあっ!?」
 苦鳴とともに倒れ込むエルンスト。手加減したから、死んではいない。それでも立ち上がることはできなかった。セゲルが素早く駆け寄り、押さえ込んだからだ。
「おまえたちの死は無駄死にどころではない。敵を利する有害な死だ」
 剣を鞘に納めながら、俺はエルンストに言った。
「なぜなら、おまえたちが無惨かつ無様に殺されることによって、残された村人たちに間に恐怖が広まっていくからだ。そう、勇気や誇りではなく……」

●セゲル・スヴェアボルグ(ドラパラ・f00533)
「死に場所っつーのは自分で決めるもんだ。だがな。おまえさんたちの死に場所は本当にそこか?」
 立ち上がろうとして身をもがくエルンスト(ガタイの割りには非力だな)を軽く押さえつけて、俺は問いかけた。
「……」
 エルンストはなにも答えない。だが、もがくのはやめた。
「亡くなった両親のことを考えてみろ」
 と、ヴォルフがエルンストに語りかけた。
「残された人々が自分たちの意志を継いでくれる……と、君たちは思っているようだが、両親もまた君たちに意志を託したのではないか? 自分たちと同じ過ちを繰り返さぬよう、もっと多くの仲間、大きな戦力を集めろ、と……」
「そうっす!」
 と、狐面のリカルドが同意を示した。
「今はまだ力を溜める時! 使う潮目はもうすぐっすよ!」
 まあ、仮に両親の意志がヴォルフの言うようなものではなかったとしても、『無駄死にしろ』なんて意志じゃなかったことだけは間違いないだろう。
「両親の死に様を見て、おまえさんたちはなにを感じた? 彼らがなんのために戦ったのか――」
 俺はエルンストから離れた。
「――もう一度、よく考えてみるんだな。死に急ぐのなら、それからでも遅くなかろう」
「エルンスト!」
 テオドラがエルンストの傍に駆け寄ってきた。彼女もスピレイルの雷でそこそこのダメージを受けているはずだが、弟のことが気にかかるのだろう。
「もういいの……もういいのよ……」
 エルンストを抱き起こすテオドラ。
 そして、しくしくと泣き始めた。テオドラではなく、エルンストのほうが。やれやれ。
 なにはともあれ、こいつらを思いとどまらせることはできたようだ。
 しかし、すべての問題が解決したわけじゃない。
「ルセリアやスピレイルはああ言っていたが、猟兵たる俺たちといえども、領主を倒すのは難しいだろうな」
 俺が懸念を口にすると、あの気の弱そうな男が恐る恐るといった調子で話しかけてきた。
「あのぉ……それでしたら、別の計画にお力を貸していただけないでしょうか?」
「別の計画?」
「はい。このグループの他に、『村を捨てて新天地を目指すべきだ』と主張しているグループもいるんですよ。いえ、主張しているだけでなく、準備を着々と……」
「逃避行ね!」
 と、男がすべてを言い終える前にアンリが割り込んできた。
「だったら、アタシがアテンドを請け負うわ。お代は――」
 アンリが指さしたのは、姉の胸の中で泣きじゃくるエルンスト。
「――弟クンね。十年後にヨロシク」
「若い男を青田買いか」
「やーねぇ、セゲルったら! 先行投資って言ってちょうだい!」
 アンリはウィンクを決めた。
 こういう時、どういうリアクションをすればいいんだろうな?

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​




第2章 冒険 『ついにこの里を捨てる時が』

POW   :    重い荷物を持つなど、スムーズに移動できるように手助けする。

SPD   :    敵の斥候を捕らえたり罠を仕掛けたりして、追っ手を妨害する

WIZ   :    移動の痕跡を消すなど、敵から発見される危険を取り除く。

👑11
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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●幕間
 翌日、猟兵たちは初老の男に引き合わされた。
 逃亡計画の主導者である。
 ダークセイヴァーのような過酷な地では領民たちの逃亡(サムライエンパイアなら、『逃散』と呼ばれるだろう)というのは珍しいことではないのかもしれない。
 しかし、成功例は珍しいのではないか?
 そんな懸念を抱く猟兵たちに男は言った。
「ここは小さな村ですし、ダイン・ウェッサーマンの領内には他にも沢山の村があります。つまり、ウェッサーマンにとって、この村の重要度はさして高くないということですよ。だから、追跡に全力を傾けたりはしないでしょう」
 確かに『全力』を傾けることはないだろう。とはいえ、それは『なにもしない』という意味ではない。逃亡が発覚すれば、領主は間違いなく追手を放ってくるはずだ。
 そして、いずれかの時点で発覚することも間違いない。小さな村とはいえ、すべての住人が移動するのだから。
 あるいは領主は既に逃亡計画のことを知っているのかもしれない。
 知った上で泳がせているのかもしれない。
 村人たちの希望を最悪の(領主からすれば最高の)タイミングで摘み取るために。
ヴェスター・アーベント
目的/殿を務め、脱走計画を成功させる

作戦/殿として脱走する者達の最後尾を守り、追手が現れたら1人残り足止め。
更にその戦いの最中に【終焉ヲ齎ス黒】で地形を破壊、道を通れない状況にして追撃軍の侵攻を阻む。
「これで彼らも村には戻れない、だがこれで良い…未練を断ち切らねば、生き残れないのだから」

戦術/UC【終焉ヲ齎ス黒】を使用
『怪力』を以って攻防一体の剣技を振るう。
聖剣で『受け流し』て、魔剣で『鎧すら容易に砕く』ほどの破壊力を持つ【終焉ヲ齎ス光】を叩きつけ、地形を破壊しながら敵から暗黒の力で『吸血』し『生命力を奪い』、受けた傷を癒しながら敵を殲滅するまで戦う継戦能力に長けた戦術。

※アドリブ歓迎


スピレイル・ナトゥア
「なるほど。逃亡することで領主さんをこの場に誘い出す計画なのですね」
そんなふうに、ひとりで勝手に納得しておくとしましょう

私はできることの少ない猟兵です
だからこそ、いまはみなさんの逃亡のために全力を尽くしましょう
土の精霊を宿したゴーレムさんの、雑用もできる特性を活かしてみんなのために働きます
重い荷物を運搬してもらったり、老人や病人、子供を担いで運んでいってもらったりします
それと、進路の確保もゴーレムさんに任せるとしましょう
進路上に敵がいた場合に、遭遇したのが村人さんだったら村人さんたちが逃亡したことがすぐにバレてしまいますが、ゴーレムさんだったら猟兵が存在していることしか敵にはわからないはずです


アンリ・オヴォラ
愛の♪逃避行♪(るんるん)
うふふ、ワクワクするわね
アテンドを請け負ったんだもの、アタシは極力危険を回避させる方向でいくワ
可能な範囲で逃げるルートを幾つか下調べしたいケド……
もし準備してるなら、聞かせて頂戴
精査しましょ
こーゆーのは焦らずじっくり
ねっ❤

さぁ、皆なるべく目立たないような暗い服を着て頂戴
身軽にね
前を行く人と同じ足跡を辿るの
アタシは【第六感】と【忍び足】フル活用よ

絶対バレないって訳じゃないケド、怖がらなくていいわ
アタシ達がいるんだもの
戦いには混ざろうなんて絶対に思わないでネ
周りや上を警戒して、何かあったら教えて頂戴
邪魔する悪い子は死霊騎士を嗾けて、アタシと死霊蛇竜でアンタ達を守ってアゲル



●アンリ・オヴォラ(クレイジーサイコカマー・f08026)
 うふふ。なんだか、ワクワクしちゃう。
 月のない深夜(本来なら、領主の城を襲撃するはずだった晩なのよね)に森の中の道を行く人々の群れ。ちょっと詩的で素敵な光景だと思わない? 全員が黒い衣装に身を包んで闇に紛れてるのがまた良い感じ。まあ、着るように指示したのはアタシなんだけど。目立っちゃいけないもんね。
 何故に目立っちゃいけないかというと、これは逃避行――自由を求めてのエクソダスだからよ。そう、黒服集団の正体はあの村の住人たちなの。もちろん、弟クン(予約済みよ❤)とお姉ちゃんもいるわ。二人とも鼻っ柱をへし折られて、すっかりしょげ返っちゃってるけど。
「それにしても大がかりな計画ですね」
 と、弟クンの傍を歩くワタシに声をかけてきたのはスピレイル。
「そうね。ホント、大がかりよねぇ」
「まさか、村一つを囮にするとは」
「そう、村一つを囮に……って、なに言ってんの?」
「え? これは逃亡するように見せかけて、領主さんを誘い出す計画なのでしょう?」
 やだ、もう。この娘ったら、思い切り勘違いしてるぅ。
 とはいえ、領主はともかく、その手下どもは誘い出すことになっちゃうかもしれないわね。好むと好まざるとにかかわらず。
 でも、だいじょーぶ!
 アタシがばっちりアテンドしちゃうから!

●ヴェスター・アーベント(漆黒の騎士・f09560)
「愛の逃避行ぅ♪ ふふっふぅ~ん♪」
 アンリが楽しげに口遊み始めた……いや、確かにこれは逃避行だが、『愛の』という枕詞は必要なのか?
 しかし、奴も遊び半分でこの任務に臨んでいるわけではない。緊張感を微塵も漂わせていないが、その実、周囲をしっかりと警戒している。追っ手の襲撃に備えて。
 追っ手といっても、後方から迫ってくるとは限らない。こちらの動きを読み、待ち伏せしている可能性もある。
 しかし、俺たちが不意打ちを食らう可能性は低い。
 理由は二つ。
 一つ目。アンリが事前にルートを下調べしてくれたから。おかげで待ち伏せに最適な場所をこちらもすべて把握できた。
 二つ目。スピレイルに召喚されたゴーレムたちが先行しているから。行く手に敵が潜んでいたとしても、そいつらが最初に遭遇するのは俺たちではなく、ゴーレムというわけだ。
 ゴーレムの数は百二十体。そのすべてが先行しているわけではなく、荷物や老人や病人や子供を運んでいる者もいる。
『私はできることの少ない猟兵です。だからこそ、今は皆さんのために全力を尽くしましょう』
 出発する前のスピレイルの言だが、とても『できることの少ない猟兵』とは思えんな。
 なんにせよ、先鋒はゴーレムたちに任せておいていいだろう。俺は殿(しんがり)を……おっと、言ってるそばから、招かれざる客どもが来たようだ。

●スピレイル・ナトゥア(蒼色の螺旋の巫女姫・f06014)
 最後尾にいたヴェスターさんが立ち止まり、振り返りました。
「ほらほら! アンタたちは足を止めちゃダーメ! ここはアタシたちに任せてちょうだい! 戦いに混ざろうなんて絶対に思わないでね!」
 村人たちにそう言いながら、アンリさんがヴェスターさんの斜め後ろに陣取りました。
 二体の助っ人と一緒に。
 リザレクト・オブリビオンで召喚された死霊騎士と死霊蛇竜です。
 死霊蛇竜はその場から動きませんでしたが(アンリさんや村人たちを守るためでしょう)、死霊騎士のほうは歩き出した。
 同時にヴェスターさんも足を踏み出しています。
 両者の進行方向――私たちが歩いてきた道の先にいるのは三つの人影。いえ、『人影』といっても、人ではないのかもしれません。灰色のローブに付いたフードを目深に被っているので顔は見えませんが、袖の先端から覗く両手は獣じみています。
「ウェッサーマンの手の者か?」
 ヴェスターさんが問いかけました……が、答えを待たずに地を蹴ったかと思うと、空中で漆黒の剣を抜き、着地ざまに振り下ろしました。
 そして、世界が闇に包まれました。盛大な砂煙が巻き起こり、ただでさえか細かった星明かり(今夜は新月なので、月明かりはありません)が覆い隠されてしまったのです。
 数秒後、砂煙が晴れました。私の視界に入ったのは、徹底的に破壊された地形、その中心に立つヴェスターさん、獣人の死体が二つ、そして、生き残った一人にとどめを刺す死霊騎士。
 いとも簡単に全滅させることができましたが……おそらく、追っ手はこの三人だけではないでしょう。
「道がこんな有様になってしまっては、彼らも村には戻れないかもしれんな。だが――」
 ヴェスターさんがゆっくりと見回しました。自身のユーベルコードによって、ところどころに亀裂が走り、あるいは抉れ、あるいは隆起し、あるいは陥没した地面を。
「――これで良い。未練を断ち切らねば、生き残れない」

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

ベガ・メッザノッテ
幾ら重要度の低い村でモ、一度に多くの住民が消えればそりゃ怪しまれちゃうよネー
それでもやっと立ち上がった住民の意志を尊重したいノ、あと少しで手に入るであろう自由のために協力するワ!

【POW】
ン?お菓子食べてばっかのアタシが荷物を持つのが不安?だってキャンディがオイシくテ。
テオドラも一つどウ?オイシくて涙も引っ込むヨ!
それにこう見えても、力持ちなのヨ!

『血統覚醒』で身体能力を向上させテ、ひょいひょい荷物を担ぐヨ!両手埋まったらウチの人形たちにも運ばせるワ。
荷物はアタシとウチの子に任せテ、住民はいざという時すぐ逃げられるようにネ。

●口調プレイングに合わせてください。改変アドリブ連携、歓迎です。


リカルド・マスケラス
「こんな時こそ自分の出番っすね」
宇宙バイクで大きな荷物も牽引してくっすよ。コイツ一台で馬何頭分もの働きをしてくれるっすよ。情報の行き来があまりない世界なら、異世界の技術も外国の道具もさして変わらないっすよね。
子供達とか乗り出そうなら座席に乗せてあげるっすよ

判定はPOWだが、ユーベルコードでSPD判定いけそうだったらそっちで

あとは、テオドラとエルンストの様子を見ておくっすよ。猟兵達とやりあって、精神的に色々と消耗してるかもしれないし。



●ベガ・メッザノッテ(残夢紅華・f00439)
 後方での戦闘はかたづいたみたいネ。
 前方にも敵はいるかもしれないけれど、今のところ、先行組のゴーレムはまだ何者とも接触していないみたイ。
 ちなみに村人たちのために働いているのはゴーレムだけじゃないのヨ。アルタイル、デネヴ、ウィーバー、ハーズマン――アタシの人形たちも荷物をいっぱい運んでいるワ。
 まあ、『いっぱい』と言っても、アタシが担いでいる荷物の量に比べれば、たいしたことはないけどネ。
「見かけによらず、力持ちですねぇ」
 近くを歩いていた村人の一人(脱出計画の主導者であるオジサンヨ)が感心半分驚き半分といった感じの顔でアタシを見てル。半分じゃなくて、ぜーんぶ感心でいいのニ。
「これくらい、どうってこうってないワ。アタシ、オイシいキャンディさえあれば、なんだってできちゃうノ」
 オレンジ味のキャンディを口の中で転がしつつ、余裕の態度で応じるアタシ。実はヴァンパイアの血を覚醒させて一時的に筋力をあげてるだけなんだけど、種明かしはしないでおこうっト。
 このユーベルコードって、秒単位で寿命が削られるから、コストパフォーマンスはいまひとつなのよネ。でも、力を出し惜しみはしなイ。やっと立ち上がった村人たちのため、できることはなんでもするワ!
 ……なんて盛り上がっていたら、さっきのオジサンとは別の視線に気付いタ。こっちを見てるのは誰? ああ、リカルドのバイクに乗っかったお子ちゃまネ。どうやら、あのオジサンみたいに感心したり驚いたりしてるわけじゃなくて、キャンディを舐めてるアタシのことが単純に羨ましいみたイ。
 じゃあ、分けてあげようかナ。

●リカルド・マスケラス(ちょこっとチャラいお助けヒーロー・f12160)
 村をあげての大規模なお引っ越し。
 こういう時こそ、スターライダーたる自分の出番っすよね。
 大きな荷物もこの宇宙バイクでスイスイと牽引。ゴーレムやからくり人形にも負けない運搬力っす。
 荷物を引っ張るだけじゃなくて、何人かの子供たちも乗せてあげてるっすよ。この世界に宇宙バイクなんて代物は存在しないから、遠い異国の見知らぬ乗り物として認識してるんすかね? それとも、馬とかの類? まあ、なんにせよ、子供たちは楽しそうっす。喜んでもらえてなによりっすよ。
「ねえねえ、アナタたチ」
 と、バイクに近寄ってきたのは、大きな荷物を両肩に担いだベガ。
「これ、あげるワ」
 傍を歩いてた村人に荷物の一つを預けて(めちゃくちゃ重かったらしく、その村人はよろけてるっすよ)、空いた手で子供たちにキャンディを配り始めたっす。自分にはくれないっすか? ああ、くれないみたいっすね。いや、べつにいいっすけど。
「テオドラも一つどウ? オイシくて涙も引っ込むヨ!」
 バイクの斜め後方を歩いていたテオドラにもベガはキャンディを手渡しました。
 テオドラは受け取りましたけど、口に入れようとはしないっすね。納屋で猟兵たち(その中には自分も含まれているんすけど)とやりあった時以来、落ち込みっぱなしなんすよ。ダークゼイヴァーという過酷な世界で生きてきた割りには打たれ弱いっすね。もしかしたら、物心ついた時からずっと無理をしていたのかもしれないっす。
 ちょっと、自分も励ましておこうか……と、思った矢先、行軍が止まったっす。なにやら先頭のほうが騒がしいっすよ。
「先行組のゴーレムが一体だけ戻ってきたみたイ」
「やっぱり、敵が待ち伏せしてたんすね」
 じゃあ、その敵の顔を拝みに行くとするっすか。
 爆音を轟かせて、バイクを発進! ……させる前に子供たちを降ろして、牽引用の縄を解いておくっすよ。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

セゲル・スヴェアボルグ
逃亡するにしても、一体どこにするつもりなんだろうな……
当てはあるんだろうな?

【POW】
力仕事なら任せておけ。
とは言ったものの、手が塞がっていては何かあった時に対処ができんな……
それなら、剛勇ナル手勢を使うか。護衛にもなるし、資材運搬もできる。
なにこの人数だ。多少人が増えたところで目立つことは変わらんだろう。
まぁ、俺自身が戦えなくなるがそれは致し方ない。その分、余分に物を運べばいいだけの話だ。
場合によっては俺自身が村に残って、追っ手の状況把握をしてもいいしな。
俺が傷を負えば追手が迫る合図にもなる。そうなった際はもちろん時間稼ぎをするがな。


セツナ・クラルス
追手の注意を分散させる方向で行動

本隊から離れた位置に配置
おどおどした様子で辺りを見回したり
後ろを振り返ったりと落ち着かない様子
うっかり石に躓いたり
木の枝を踏んでしまったり
わざとだとは思われない程度に音を立てて
追手の注意を引く

首尾よく敵の注意を引きつけることができたら
本隊から遠のく方向に逃げる
ある程度距離を取ったら
…さて、ゼロ。行こうか
私はただの囮
隠密で、付かず離れず傍にいたゼロと共に
追手を挟み撃ちにしよう
迷いはしない
速やかに終わらせる

もし追手の数が多すぎて
我々の手に余る場合は
…ゼロ、他の猟兵に連絡を頼むよ
それまでは逃げ回って時間を稼ごう
ちょろちょろ逃げ回るのはそこそこ得意なのでね


ヴォルフガング・エアレーザー
恐らく領主の追手はまだ他にもいる。
引き続き警戒を怠らないようにしよう。

護衛だとばれない様に狼の姿に変身。
一行からやや距離を取った位置取りで、「目立たない」ように「忍び足」で「追跡」
追手が潜伏しやすい物陰や獣道を「野生の勘」で重点的に警戒

敵を発見したら狼形態のまま奇襲を仕掛ける。
【疾風の青狼】で敵の攻撃を「見切り」回避しつつ、一行から引き離すように森の奥に誘い込み、隙を突いて「カウンター」で反撃し仕留める。
人気のないに獣道に無用心に入り込んだ者が『野生の狼』に襲われるなど、よくある話だ。

追っ手を排除したら一行の後を追い合流。引き続き狼形態のまま警戒活動。

※他猟兵との絡み、アドリブ歓迎



●セツナ・クラルス(つみとるもの・f07060)
 私は村人たちから距離を置き、一人で森の中を歩いていた。
 時にはおどおどと視線を巡らし、時には怯えた目で背後を振り返り、そして、時には――
「痛っ!?」
 ――こうやって石に躓き、転んでみせたりしながら。
 しかし、さすがに今のはわざとらしかったかな? ……いや、そうでもなかったようだ。お客様の気配を感じる。私に目をつけらたしい。
 実際は私が彼ら(あるいは彼女ら?)に目をつけたのだが。
 とはいえ、今すぐにことを起こしたりはしない。もう少しだけ、村人たちから離れよう。
 怯えて慌てふためき、こけつまろびつ……といった調子で(今度はわざとらしく見えないように気をつけた)森の中を進んでいく。
 さて、そろそろいいかな。
 私は足を止め、振り返った。
 木々の間から三つの人影が近付いてくる。領主に放たれた追っ手だろう。獣人の類であるらしく、ローブのフードから犬だか狼だかの口吻が突き出ている。しかし、優秀な猟犬とは言えないな。村人たちの本隊よりも私たちのほうに注意に引かれたのだから。
 そう、『私たち』だ。最初に『私』は『一人』で歩いていると言ったが、あれは真実ではない。
 ローブ姿の獣人たちを見据えて、私は言った。
「出番だよ」
「言われなくても判ってるっての」
 獣人たちの後方から一人の男が現れた。
 闇に身を潜めて私に随伴していたゼロだ。
「くたばれ、犬っころ!」
 獣人に襲いかかるロゼ。
 同時に私も動いていた。
 合わせ鏡のように。

●セゲル・スヴェアボルグ(豪放磊落・f00533)
 すべての村人が脱出計画に参加したが、だからといって、村が無人となったわけじゃない。
 俺がこうして残っている。
 それにしても、村人たちはどこに逃亡するつもりなんだろうな? ウェッサーマンの領外に出ることができたとしても、村一つ分の人口(小さな村ではあるが)を養えるだけの新天地など簡単に見つかるわけがない。きっと、分散して暮らすことになるだろう。それに定着した地もまた別のヴァンパイアの支配下にあるかもしれないし、そのヴァンパイアがウェッサーマンよりも悪辣な奴だという可能性もある。
 結局は一時しのぎ。この世界を根本から救うためにはオブリビオンたるヴァンパイアどもを殲滅するしかないが……まあ、今はできることからやっていこう。
 お? そうこう言ってる間に敵が姿を現したぞ。ローブ姿の獣人らしき者が二人。村の様子を探りにきた斥候といったところか。
 俺の正面――五十メートルほど離れた場所で奴らは立ち止まった。かなり戸惑っているらしい。まあ、当然だ。俺が奴らの立場だったとしても戸惑う。住人たちが消えた村の広場に直立不動のドラゴニアンがいるんだから。
 直立不動といっても、べつに睨みをきかせてるわけじゃない。今の俺は動きたくても動けないんだ。ユーベルコード『剛勇ナル手勢(トゥルバーディッグ・フロッタ)』を使って、五十人近くの兵士を召喚したからな。数ではゴーレムに負けるが、戦闘能力は俺とほぼ同じ。護衛兼荷物運びとして村人たちと一緒に……ぐぁっ!? 獣人どもが石をぶつけてきやがった。なんで石なんだ? 野蛮人め。
 こうして俺が傷を負ったからには、『剛勇ナル手勢』の兵士たちは消失したはずだ。しかし、構わない。兵士が消えたことによって村人たちは村に追っ手が来たことを知り、警戒心を強めるだろう。
 それに俺もユーベルコードから解放され、動くことができるようになった。まさに一石二鳥……って、ちょいと寒いか。
「おい、野蛮人ども」
 錨型の斧(というよりも斧として使っている錨だが)『イースヴィーグ』を構えて、俺は獣人たちに笑いかけた。奴らには悪鬼のような笑顔に見えてるかもな。
「文明的な戦闘法ってのを教えてやるよ」
 彼方から狼の遠吠えが聞こえてきた。

●ヴォルフガング・エアレーザー(蒼き狼騎士・f05120)
 俺という同行者がいることに村人たちは気付いていないだろう。付かず離れず、闇にまぎれて移動しているからな。
 もしかしたら、俺の姿を視界の端にでも捉えた村人がいるかもしれないが、まさか猟兵だとは思わないはずだ。なぜなら……む!? 敵だ。ねじ曲がった大樹の陰から村人たちの様子を伺っている。
 俺は迷わず地を蹴り、そいつに飛び付いて押し倒した。喉笛に牙を立てながら。
 牙を? そう、俺は狼に姿を変えていた。
「……こあっ!?」
 悲鳴と喘鳴の中間のような声が男の口から漏れる。狼のような長い口。俺の同族だろうか? 心が痛まないこともないが、牙に込めた力は緩めない。貴様は仕える相手を間違えた。あるいは人生の指針とする信条を。彼女と出会う前の俺がそうであったように……。
 体を旋回させるようにして喉の肉をちぎりながら、同族かもしれぬ敵から離れる。もう悲鳴も喘鳴も聞こえない。
 死体をその場に残して、俺はまた影の同行者となった。
 新たな敵を見つけ、殺した。
 また別の敵を見つけ、殺した。
 そして、四人目を――、
「おいおい。同士討ちは勘弁してくれ」
 ――と、思ったが、そいつは敵ではなかった。俺と同様に村人たちから距離を置いて移動していたセツナだ。いや、正確に言うと、多重人格者たるセツナの分身たるゼロだ。
「先遣隊のゴーレムどもがやられちまったらしい。どうやら、行く手を大物が塞いでいるようだ」
 ゼロに促されて、俺は森から道に出た。進行を止めた村人たち(セゲルが召喚した兵士たちはいつの間にか消えていた)の不安げな視線を浴びつつ、道の先に向かって走り出す。
 ほどなくして、ゴーレムの残骸が散乱する場所にたどり着いた。他の猟兵たちの姿もあった。皆、武器を構えて見据えている。
 獣の頭蓋骨のような顔をした異形の存在を。
「骨なんか被りやがって。シャーマンでも気取ってんのかよぉ?」
「いや、被っているわけじゃなくて、あれが本物の顔なのかもしれない」
 ゼロがせせら笑い、セツナが呟く。
 どちらの意見が正しいのかは判らない。
 確かなことは一つ。
 奴がオブリビオンであるということ。

 俺たちとオブリビオンが睨み合っていると――
「やれやれ。道が派手に破壊されていたから、ここまで来るのに難儀したぞ」
 ――こぼしながら、セゲルが合流した。
 すると、オブリビオンがゆらりと進み出た。どうやら、こちらの数がある程度まで揃うのを待っていたらしい。なめられたものだ。
「私の名はエルシーク。往生集めエルシーク」
 と、オブリビオンは名乗った。
「しかし、覚える必要はないよ。代わりに私が君たちのことを記憶に刻もう。果敢に戦い、命を散らした者として……」

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​




第3章 ボス戦 『往生集め『エルシーク』』

POW   :    賢者の双腕
見えない【魔力で作られた一対の腕】を放ち、遠距離の対象を攻撃する。遠隔地の物を掴んで動かしたり、精密に操作する事も可能。
SPD   :    蒐集の成果
自身が装備する【英雄の使っていた剣】をレベル×1個複製し、念力で全てばらばらに操作する。
WIZ   :    幽暗の虫螻
【虫型使い魔】の霊を召喚する。これは【強靭な顎】や【猛毒の針】で攻撃する能力を持つ。
👑11
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種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠エルディー・ポラリスです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●幕間
「私は蒐集家でね。死者の遺品を集めているんだ」
 猟兵たちにゆっくりと近付きながら、エルシークは語り始めた。
「死者なら誰でもいいというわけではないよ。私が価値を認めるのは、オブリビオンに挑んで死んだ者の遺品だけだ。だから、『もうすぐ、反乱が起きる』とウェッサーマンに聞いた時は嬉しかった。反乱者たちの遺品がコレクションに加わる日を思い、恋する乙女のごとく胸をときめかせたものだ。そのときめきを君たちは台無しにしてくれたわけだがね」
 エルシークの足が止まった。いや、足に相当するものは猟兵たちに見えなかったが。
「しかし、許そう。その代わり、君たちの遺品を貰うよ。さあ、私にかかってきなさい。そして、見事な死を遂げなさい。遺品を価値あるものにするために!」
スピレイル・ナトゥア
あまりみなさんから『できることの少ない猟兵』とは思われなかったみたいですが、もしかして比較対象のお姉様(f04161)が多才過ぎるだけなのでしょうか……?

「私の遺品をコレクションに加える……? もしかして、私の下着をコレクションに加えるつもりなんですか? 変態ですね!」
そんな変態さんと話すための言葉は、私にはひとつもありません
それに、オブリビオンに支配されているこの世界を少しでも明るい世界にするために、自分の欲望のためだけに多くの命を奪ってきたあなたを許すことなんて絶対にできません!
土の精霊の力を宿した拳で地面を殴って、地面を無数の槍へ隆起させて英雄さんの剣ごとエルシークさんを吹っ飛ばします!


リカルド・マスケラス
「うわっ気持ち悪い趣味っすね。領主もよくそんな気持ち悪いコレクション集めてる奴、手元におけるっすね」
と、【挑発】混じりにコイツの住処が領主の館の内外かを確認したい。外であれば、いつかはコレクションを回収できるかも。
反逆者の遺品なら、兄弟の両親のものも見つかるかもしれない

「テオドラ、エルンスト、二人は運がいいっすよ。オブリビオンに対抗できる力を与えてくれる猟兵が今回はいるんすから」
「今回だけになるかもっすけど、力を貸すっすよ」
と、どちらかに自分の依代となって戦うことを提案。彼女達に到達できない戦いを体験してももらいたい。
戦闘では装着者をかばいつつ、鎖鎌で攻撃や捕縛。多少不利になってもそれはそれ


ヴェスター・アーベント
目的/オブリビオンの滅殺
「フン、なら俺も教えてやろう…俺が価値を認めるオブリビオンはな、死んだオブリビオンだけだ」

戦術/UC【黒風鎧装】を使用
「消してやる、オブリビオン」
基本戦術は『怪力』を以って振るう攻防一体の剣技。
聖剣の『武器受け』で攻撃をいなしながら、容易く『鎧砕き』を為す暗黒を纏う魔剣で斬りつけて『吸血』しながら『生命力を奪い』受けた傷を癒して、敵が沈黙するまで戦う継戦能力と破壊力に長ける戦術。
「貴様の闇、貴様の魔、全てが俺を満たす…赤き血などなくとも、凡ゆる負の力が暗黒となり俺の力を増して行く」

※アドリブ歓迎
※真の姿は何も変わらず、外見変化なし。


セツナ・クラルス
……
ああ、失礼
こういった状況で恋というフレーズを聞いたのは初めてだったので
対応に困ってしまって、ね
ふふ、殺戮と略奪を恋のときめきに例えるとはロマンチストだね
でも、残念ながらあなたは何も得ることはできないよ
好みじゃないのでね
申し訳ない

複数を相手取ることを得意とする様子
一か所に留まらないように
常に移動しながら交戦
第六感のみを頼りに全ての攻撃を見切れるなんて贅沢は言わないが
私もそれなりに経験を積んだ
見切れそうな攻撃は回避したりなぎ払って相殺するように努める

受けた攻撃は
一時的に創造した別人格に使用して貰おう
あなたの遺品は特にいらない
あなたはここにいるべきものではないからね
何も残さず消えて貰おう


アンリ・オヴォラ
いるのよねえ、聞かれてもない事ベラベラ喋るクソ男
あらヤダ、枝毛(ちょっきん★)
そうそ、こうやってすーぐ大物ぶるの

ボロボロの鉈に恋焦がれてたなんて、安い男
アタシ、もっといいモノ見つけちゃったんだから❤

血統覚醒で能力の底上げ
皆を苦しめてたヴァンパイアみたいになっちゃうけど、嫌いにならないでネ
寿命なんて生きてる限り減るのよ

そうしたら鉤爪で傷口ゴリゴリに抉ってアゲル
フェアなファイターじゃないから、フェイントいれたり音なく近付いたり
勿論生命力吸収のオマケつきよ
基本はヒット&アウェイ
近付いたままのがよさそうならそうするケド……
遠距離攻撃が村の子達に行かないかちょっと心配

すぐ倒せばいいだけ?
それもそーね!


ヴォルフガング・エアレーザー
勇敢なる人々の生きた証を、コレクションと称して冒涜するか。
その非道、その悪辣、その驕慢、断じて許してはおけん。
この剣も、命も、人々の未来も、貴様になぞくれてやるものか。
貴様の命は、ここで終わる……!

人間形態に戻り、鉄塊剣を構える。
【獄狼の軍団】を召喚し、敵の腕や剣、使い間に狼犬たちをけしかけ、エルシークの攻撃を「野生の勘」と「見切り」で避けながら突撃
至近距離から鉄塊剣を振り下ろし斬撃。狼犬や仲間の攻撃で挟み撃ちにする
避けきれず負ったダメージは「激痛耐性」で耐える

※アドリブ、共闘歓迎


セゲル・スヴェアボルグ
奴に挑もうとする馬鹿たれが村人の中にいなければ問題はないが……
どうせあの姉弟のことだ。俺達が倒れでもしたら、躊躇うことなく武器を向けるんだろうよ。だが、刃は生きるために振るえ。死ぬために使うもんじゃねぇからな。

そのような状況にならんようにするのが俺たちの仕事だ。
だが、村人の安全確保が最優先なのは変わりはせん。
遠距離攻撃も多いようだしな。村人を常にかばう事が出来る位置取りは心がけておこう。
当然、こちらも遠距離攻撃で攻めねばなるまい。
絶巓の帝で槍投げに注力するとしよう。
余り重そうななりをしていないが……多量に突き刺せばさすほど重くなる。
戦いはやはり数だな。無論、村人を戦わせるような愚行はせんよ。



●ヴェスター・アーベント(漆黒の騎士・f09560)
「いるのよねえ。訊かれてもないことをベラベラ喋るクソ男ってのが。ホント、やになっちゃう」
 エルシークとやらをアンリが挑発した。いや、挑発の意図はなく、本音をそのまま吐露しただけかもしれないが。
「気を悪くしたのなら、謝る」
 エルシークの被る頭蓋骨(あるいは奴の本当の頭か?)が上下に小さく揺れた。頭を下げたつもりらしい。
「ただ、君たちに知っておいてほしかったんだ。自分たちの死によって、価値あるものが生まれることをね」
『価値あるもの』と来たか……。
「くだらぬ自分語りの礼に俺も教えてやろう。俺が価値を認めるオブリビオンは――」
 光を宿した聖剣『リヒトクライス』と漆黒の魔剣『ブラッドイーター』を構え、俺は真の姿を取った。
「――死んだオブリビオンだけだ」
 真の姿といっても、普段とさして変わらない。そのせいか、奴はさして驚いていないようだ。
 いや、異形の姿に変わったとしても、驚かなかったかもしれない。奴の目(人間の目に相当する器官があの眼窩の奥にあるとすればの話だが)と意識は『リヒトクライス』と『ブラッドイーター』だけに向けられているようだから。
「いい剣を持ってるじゃないか。もっとも、それらを価値あるものにするためには、まず君に死んでもらわなくてはいけないのだがね。いやはや、死にしか価値を見出せないとは……お互い、業が深い」
「同類扱いするな」
 俺は黒風鎧装を発動させた。

●スピレイル・ナトゥア(蒼色の螺旋の巫女姫・f06014)
 ヴェスターさんの姿が黒い旋風に覆われていきます。
 それに対抗して……というつもりなのかどうか判りませんが、エルシークも自分の体を覆いました。どこからともなく現れた、ヤスデともムカデともつかない大きな蟲で。
「気持ち悪いっす!」
 と、叫んだのはリカルドさん。蟲が苦手なんでしょうか。
「死者の遺品のコレクションとか、マジで気持ち悪い趣味っすね!」
 ああ、趣味のほうの話でしたか。
「ウェッサーマンとやらも、こんな悪趣味な奴をよく手元に置けるもんっすね」
「彼は私の趣味嗜好に理解を示してくれたよ。できれば、君たちにも――」
 エルシークの蟲が私たちに襲いかかってきました!
「――理解してほしいね」
 痛っ!? 蟲に噛みつかれちゃいました。
 リカルドさんも攻撃されてます。噛みつきじゃなくて、針を使って。
ちなみに今のリカルドさんはお面だけの状態じゃありません。ここに来るまでの間に装着してくれる人を見つけたんですね。もっとも、針の攻撃は本体の仮面で受けましたけど。装着者をかばってるのでしょうか?
 いえ、そんなことを考えている暇はありません。エルシークに反撃しないと――
「消してやる、オブリビオン」
 ――そう思っていたら、ヴェスターさんが先に動きました。
 光る剣で蟲を払いのけて一気に距離を詰め、黒い剣でエルシークを刺し貫きましたよ。なにかどす黒いものが黒い刀身を更に黒く塗りつぶしてヴェスターさんに伝わっていくように見えますが……あれはエルシークの血でしょうか? 赤くないんですね。
 と、言葉にすると長いですが、ヴェスターさんが攻撃と吸血をおこなっていた時間は十秒もありません。すぐに剣を引き抜いて、反撃を受ける前に間合いを広げました。
 そして、黒い剣に付いた黒い血を指先で拭いながら、エルシークに言いました。
「赤き血などなくとも、貴様の闇が、貴様の魔が……俺の力を増していく」

●アンリ・オヴォラ(クレイジーサイコカマー・f08026)
 あらあら。ヴェスターったら、決めてくれるじゃないの。
 同じダンピールとして負けてらんないわ。ヴァンパイアの血を覚醒させて、戦闘能力を底上げしちゃおうっと。
「その技を使うと、寿命が削られるんじゃないのか?」
 狼から人型に戻ったヴォルフガングが声をかけてきた。ワタシの素敵な瞳が真紅に変わったのに気付いたのね。
「ええ、そうよ。でも、そんなことは気にしなーい。寿命なんて、生きてる限りは減るんだから。人生、太ぉーく短く……あ? 『太く』っていうのはヘンな意味じゃないわよ、もう!」
「いや、なにも言ってないんだが……」
「マジメねぇ。もうちょっと可愛いリアクションを見せないよぉ」
 あら、いけない。こんなやりとりをしてる場合じゃないわ。エルシークを攻めまくらなくっちゃ。
 さあ、行くわよ!
 蝶のように舞い――
「あ、そーれ!」
 ――蜂のように刺す! この白魚のような指にはめた美しき拷問具『Neuf heures』の長ぁーい鉤爪で。あ? 『長い』ってのはヘンな意味じゃないわよ、もう!
 ヴェスターと同じく攻撃のついでに生命力を吸い取っちゃたりなんかして。そして、これまたヴェスターと同じく反撃を食らう前に離脱。ヒット・アンド・アウェーイ!
 でも、エルシークってば、攻撃を受けても苦しんでいる様子を見せないわ(骨みたいな顔をしてるから表情はよく判んないんだけどネ)。やせ我慢して余裕ぶっこいた振りをしているのか、本当に痛みに鈍感なのか。どちらにせよ、つまんない奴ぅ。
「その鉤爪も私のコレクションに加えよう」
 なーに言ってんだか。こいつ、『恋する乙女のごとく胸をときめかせて』云々とかほざいてたけど、知ってんのかしら? 恋焦がれた末に手に入るのが、ボロボロの鉈だったかもしれないことに? 知ってた上で恋焦がれてたのだとしら……やっすい男よねぇ。
 その点、アタシは違う。だって――
「――もっといいものを見つけちゃったから!」
 リカルドに向かって、ウィンク! いえ、正確にはリカルドじゃなくて、その中身のほうなんだけど。

●セゲル・スヴェアボルグ(豪放磊落・f00533)
 リカルドの装着者にアンリがウィンクしている。装着者くんには同情を禁じ得ないが、干渉はしないでおこう。人の恋路を邪魔するのは野暮ってもんだ。
「もっと見せてくれないか。私のコレクションの候補をね」
 エルシークが大きな手を差し出した。
 その途端、俺は衝撃を食らい、片膝をついた。敵の手で物理的に攻撃されたわけじゃない。そもそも、手が届く距離にはいない。目に見えないなにかの一撃を受けたんだ。
 やってくれるじゃないか。ならば、こちらも遠距離攻撃といこうか。道の向こうにいる村人たちを守るためにも、この場所をできるだけ動きたくないからな。
「ふざけるな」
 俺が体勢を直している間にヴォルフガングが怒声を発した。
 怒声といっても静かなもの(俺の位置からは背中しか見えないが、顔にもあまり感情は表れていないだろう)だが、どんなに鈍い奴でも感じ取ることができるはずだ。
 その声に込められた憤りを。
「勇敢なる人々の生きた証を、コレクションと称して冒涜するか。その非道、その悪辣、その驕慢……断じて許してはおけん」
「ええ! 絶対に許せません!」
 エルシークに指を突きつけて、スピレイルが叫んだ。こちらはストレートな怒声。
「遺品と称して、私の下着をコレクションに加えるつもりなんでしょう! このヘンタイ!」
 あー、なんというか……おもしろい娘だな、うん。
「仮にヘンタイさんじゃなかったとしても、自分の欲望のためだけに多くの命を奪ってきたあなたを許すことなんてできません! 私たち猟兵は――」
 拳を地面に叩きつけるスピレイル。
「――オブリビオンに支配されているこのダークセイヴァーを少しでも明るい世界にするために戦っているのですから!」
 無数の槍がいきなり地面から生えた。いや、地面のそこかしこが隆起して槍状になったんだ。スピレイルの拳に宿っていたなんらかの力が地中に伝わったのだろう。どうやら、ただの『おもしろい娘』じゃないらしい。
 エルシークは悲鳴こそ発しなかったが、さっきの俺よりも派手に体勢を崩し、倒れ込んでいた。足下から突き出てきた何本もの槍に串刺しにされて少しばかり宙に浮いたた挙げ句、それらが消えた拍子に落下したってわけだ。
 もちろん、立ち上がる隙など与えるものか。
 俺は、プログラム化されていた槍を素早く実体に還元して(こう見えても電脳魔術士なんだ)エルシークめがけて発射した。

●セツナ・クラルス(つみとるもの・f07060)
「この突撃槍は、攻撃対象の重量が一時的に加重される代物でな。おまえさんはあまり重そうななりをしてないが――」
 セゲルさんは間断なく槍を連射し、エルシークをハリネズミにした。
「――突き刺されば突き刺さるほど重くなるぞぉ。だが、コレクションが増えて嬉しいだろう?」
「ああ、嬉しいとも」
 セゲルさんの皮肉に対して機嫌を害した様子も見せず(皮肉だということに気付いていないのかもしれない)エルシークは立ち上がった。たいした生命力だね。常人なら、これまでの攻撃で二度か三度は死んでいるはずだよ。いや、四度かな?
「たいしたものだ。私にこれほどの傷を与えるなんてね。そんな君たちを無惨に屠り、価値ある遺品を手に入れることができると思うと……ああ、また恋する乙女のように胸がときめいてきた」
「ふふふ……」
 私は思わず笑ってしまった。
「殺戮と略奪を恋のときめきに例えるとはロマンチストだね。でも、残念ながら、あなたはなにも得ることはできないよ。好みじゃないのでね。もうしわけない」
「そうよ! あんたなんか好みじゃないわ!」
 アンリさんがエルシークの横手に回り込み、深い傷を鉤爪で抉り抜いて更に深くした。
 続いて、リカルドさんとヴェスターさんが追撃。前者は鎖鎌で、後者は二本の剣で。
 じゃあ、私もいこうか。得物は『宵』と名付けた簒奪者の鎌。
 アンリさんと同様にヒット・アンド・アウェイを狙って……いたのだけれど、ヒットさせる前にアウェイせざるをえなくなった。
 エルシークを守るように数十本の剣が出現したからだ。奴のユーベルコードの一つだろう。
 しかも、ただ守るだけでは終わらず、それらは個別に動いて、私たちに襲いかかってきた。
 何人かの仲間が剣に傷つけられたが、私はなんとか『宵』で払いのけることができた。
 敵がそうであったように、こちらも守るだけでは終わらない。今の行動は攻撃に繋がる。なぜなら、防御したユーベルコードを私は一度だけコピーできるから。それを使用した者を脳内に創り出すことによって。
「あなたの能力を利用させてもらうよ」
 そして、私の脳内に生まれたもう一人のエルシークが二十一本の剣を出現させた。
 もうヒット・アンド・アウェイは意識しなくていいかな。近付かなくても攻撃できる。

●ヴォルフガング・エアレーザー(蒼き狼騎士・f05120)
 セツナを取り囲むようにして浮かんでいた剣の群れが矢のように飛び、エルシークを刺し貫いていく。剣の本数はエルシークのそれよりも少ないが、ダメージは勝っているはずだ。こちらは標的をただ一人に絞れるからな。
「やはり、戦いは数だなぁ」
 後方からセゲルの独白が聞こえた。
 まったくもって、そのとおりだ。俺も数に頼るとしよう。
「忌まわしき魍魎どもよ、己があるべき場所へと還れ! 何者も地獄の番犬の顎門から逃れる術はないと知れ!」
 詠唱に応じて現れたのは、地獄の炎を纏った狼犬の群れ――獄狼の軍団(ケルベロス・レギオン)。
 炎と咆哮を同時に口から吐き出し、燃える足跡を地に刻印し、火の粉を散らして、軍団はエルシークに襲いかかった。
 その後に俺も続く。
 召喚された剣と蟲が迎撃してきたが、軍団がそれらを蹴散らして道をつくった。そこを走り抜けてエルシークに肉迫し、セゲルの槍とセツナの剣(どちらも何本かは既に抜かれていたが)によって剣山のようになった異形の体に鉄塊剣を横薙ぎに叩き込む。
 軌道上にあったすべての槍と剣をへし折って、鉄塊剣の巨大な刃はエルシークの左半身にめり込んだ。
 もっとも、俺も無傷ではない。軍団の牙を逃れた数本の剣にそこかしこを斬り裂かれている。痛みに耐えるのは難しいことではなかったが。
「この剣も、命も、人々の未来も、貴様になぞくれてやるものか。貴様の命は――」
 鉄塊剣を振り抜き、エルシークを弾き飛ばす。
「――ここで終わる!」
「ここで終わるっす!」
 リカルドが復唱した。
 あるいはリカルドではなく、彼を装着している者が叫んだのかもしれない。
 そう、エルンストが。

●リカルド・マスケラス(ちょこっとチャラいお助けヒーロー・f12160)
『二人は運がいいっすよ。オブリビオンに対抗できる力を与えてくれる猟兵が今回はいるんすから』
 ここに来る前、自分はテオドラとエルンストにそう言ったっす。
『今回だけになるかもっすけど、力を貸すっすよ』
 そして、エルンストに装着してもらったというわけっす。アンリには釘を刺されたっすけどね。曰く『弟クンはワタシの予約済みなんだからね! 傷物にしたら、承知しないわよ!』。
 まあ、さすがに無傷とはいかなかったっすけど、エルンストの体が受けたダメージはそんなに大きくないっすよ。自分、常にエルンストを庇うような動きをしてたんで。
「ここで終わるっす!」
 エルンストの声で叫びながら、自分は鎖鎌の鎖を振り降ろし、先端の分銅をエルシークの頭に叩きつけました。通常よりもダメージは上昇してるはずっす。今、自分は身体能力がめっちゃ上昇してるんすよ。『ジャスティス・ペイン』を発動させた上でエルンストを庇いまくりましたからね。
 はたして、エルシークはもう立ち上がりませんでした。骨の目と目の間を叩き割られて虫の息っす。
「ああ……君たちはなんと残酷なんだ。私のときめきばかりか……命まで奪うなんて……」
 おや? まだ喋るだけの力は残ってたみたいっす。
「しかし、許そう。その代わり……私の遺品を受け取るがいい……それが勝者の権利にして義務。この命の炎が消えても……遺品を手にした君たちの記憶の中で……私は……生き続ける……そう、生き続けるんだ……」
「あなたの遺品なんていらない」
 と、すげない態度で応じたのはセツナっす。
「あなたはここにいるべき者ではないからね。なにも残さずに消えてもらおう」
「い、嫌だ。私はこの世に……なにかを残したい……刻みつけたい……頼むから、遺品を受け取ってぎゅあぁぁぁ……」
 言葉が呻き声に変わって、そのままフェイドアウト。
 しっかし、こいつはなにが不満だったんすかね? 十二分に残したし、刻みつけたじゃないっすか。
 嫌なものばかりを。
 たださえ暗いこの世界に。
「あれ?」
 スピレイルが顔を見上げてきました。
「リカルドさん、泣いてるの?」
 いや、自分じゃないっすよ。
 涙を流してるのはエルンストっす。
 今は泣かせてあげましょう。

 自分、エルシークと戦ってる時に領主の名前を出して挑発したっすけど、あれはエルシークの住処が領主の城の内か外かを確かめたからなんすよ。もし、城外だったら、奴のコレクションとやらをいつか回収できるかもしれないし、その中にはテオドラとエルンストの両親の形見もあるかもしれない――そんなことを期待してたっす。
 でも、エルシークの口振りからすると、コレクションは城内にあるみたいっすね。今すぐに取り戻すのは無理ってことっすか。
 とはいえ、そのほうがテオドラとエルンストのためには良かったのかも。過去にとらわれてばかりじゃあ、未来に進めないっすから。
 その未来が厳しいものなら尚更っす。
 そう、未来は厳しいっすよ。新天地なんて簡単に見つからないだろうし、見つけた後も苦労の連続になることは判りきってるっす。
 だけど、進むしかないっすよね!

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2019年02月15日


挿絵イラスト