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劇場に光る一番星

#アルダワ魔法学園 #猟書家の侵攻 #猟書家 #ドクター・パラケルスス #ミレナリィドール

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●宝石の見下ろす場所
「おお、ロメオ! どうしてあなたはロメオなの?」
「嗚呼、ハリエット! 僕にこのしがらみを超える翼があれば、すぐに君の元まで飛んでいけるのに!」

 役者達の謳い上げる台詞に合わせて、舞台が軋み、動き出す。蒸気仕掛けによるものだろう、ライトアップされた彼等の周りを漂う白い蒸気は、同時に舞台の上を幻想的な空間に見せていた。
 ここはアルダワ世界の北方帝国にある、『蒸気魔導劇場』。観客席に囲まれたこの舞台は、様々な仕掛けによって自在に動き、演目をあらゆる形で演出していく。歴史あるこの劇場の象徴は、舞台を見下ろすように飾られた大きな宝石。だが、劇場のエンブレムにも象られているこの宝石の傍に、一人の少女が近づいていた。
「ううーん、いまいち! 悲劇だか喜劇だか見せ方もどっちつかずだし、演出も地味でありきたりだよねー」
 足下の演目を酷評しながら、舞台の上の梁を歩いていった彼女は、取り出した『災魔の卵』を巨大な宝石と融合させる。
 『冥想のパンセ』、そう呼ばれる彼女の一手で、災魔化したその宝石は、催眠ガスを放出し始めた。舞台を彩るスモークに混じって広がったそれは、舞台上の役者を、観客席の者達を、速やかに眠りに落していく。
「ええっと、この後は眠ってしまった人達を機械に改造すればいいんだっけ?
 ……あ! それで僕の言う通りに動く機械化劇団を作っちゃえばいいんじゃない!?」
 意のままに動く人形達は、きっと監督の意図を正確に伝える優れた役者になるだろう。『仕掛け』に長じた自分が監督も演出もしてしまえば、名舞台間違いなし! そうすれば観客もじゃんじゃん呼べて、機械化した下僕も作り放題! それに、もしかしたら、いっぱい話題が広がれば、あの人も見に来てくれるかもしれない!!
「さっすが! 僕って頭良い~!!」
 名案だ、と語尾を弾ませて、冥想のパンセは人体改造用の『手術室』を設けるべく姿を消した。

●眠りを撒く宝石
「猟書家の幹部、ドクター・パラケルススが倒されたのは知っているかい? これも皆の尽力の成果だよね」
 いくつもの世界を襲う猟書家の侵攻、それに対抗する中で得られた嬉しい報告ではあったけれど、どうやらその遺志は他のオブリビオン達に継がれているらしい。集まった猟兵達に、オブシダン・ソード(黒耀石の剣・f00250)がそう続ける。
「今回、その後を継いだ動きを見せているのは、『冥想のパンセ』っていうオブリビオンなんだ」
 魔術師のような姿をした、人間に見紛うばかりの作りをしたミレナリィドール。魔書に封じた魂を使って戦う彼女は、迷宮内のトラップなど、魔導蒸気機関の扱いにも通じているらしく……。
「そのパンセが、災魔の卵を使って、劇場を一つ乗っ取っちゃったみたいなんだよねえ」
 催眠ガスを広げて役者と観客を眠らせた彼女は、手術室に彼等を運んで、次々に手駒へと変えて行ってしまうだろう。すぐにでも阻止したい所だが、劇場の仕掛けを自在に操る彼女を見つけ出すのは、恐らくかなり難しい。
「まあ、こういう場合は、自分から出て来てもらうのが手っ取り早いと思うんだ」
 予知から察するに、彼女は舞台監督や演出家を気取っている。劇場の舞台で良い感じの芝居を演じれば、我慢できずに手か口を出してくるに違いない。
 仲間と組んで一芝居演じても良いし、劇団員のミレナリィドールの協力を得ても良いだろう。催眠ガスの影響を受けなかった彼等は、ひとまず身を隠しているはずだ。意図を伝えれば、きっと手を貸してくれる。
「彼女の企みを挫いて、猟書家に対抗する一手にしよう。みんな、よろしくね」
 最後にそう告げて、グリモア猟兵は一同を送り出した。


つじ
 どうも、つじです。当シナリオは『猟書家の侵攻』に関わるもので、二章構成となっています。
 また、犬塚ひなこMS、絲上ゆいこMSのシナリオとはほんのり合わせになっています。例によって直接的な関係はありませんので、ご自由にお楽しみいただければと思います。

●蒸気魔導劇場
 蒸気機関により、舞台が上下したり背景が変わったり役者を宙に発射したり色々なことができる劇場です。これらの仕掛けは現在『冥想のパンセ』に掌握されていますので、こちらから手を出せるのは一部分、もしくは極短時間になるでしょう。

●災魔化宝石
 猟兵ならばしばらくは催眠ガスに耐えることが出来ますし、種族次第では完全に無効化できます。
 宝石はとても目立つ位置にありますが、『冥想のパンセ』を倒さない限り手を出すのは不可能だと思ってください。

●第一章
 舞台の上で『劇的なシーン』を演じていただきます。喜劇でも悲劇でも構いません。そのシーンと演技がとても劇的であれば、監督魂をくすぐられたパンセが勝手に舞台を演出してきます。同時に敵の居場所も判明するでしょう。
 独り芝居ではなく、劇団所属のミレナリィドールを見つけて一緒にシーンを演じる事でプレイングボーナスが得られます。また、他の猟兵と協力して同じシーンを演じた場合も、同様のボーナスが入るものとします。

 あんまり長くやっていると猟兵にも催眠ガスが利いたり、改造手術の犠牲者が出てしまいますので、前振りや設定は匂わせる程度にして、1シーンに全力を傾けていただければと思います。

●第二章
 オブリビオン『冥想のパンセ』との戦闘になります。
 詳細については二章冒頭でお伝えさせていただきます。

 以上になります。それでは、ご参加お待ちしています。
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第1章 冒険 『蒸気と魔法の星』

POW   :    力や物理で挑む

SPD   :    素早さや技で挑む

WIZ   :    魔法や知恵で挑む

イラスト:葎

👑7
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

御園・ゆず
いつかのアリスラビリンスで見た、海の底の人魚姫のお話を演じよう
哀しかった物語を、ハッピーエンドに変えて
ねぇ、ドールさん。手伝ってくださいますか?

蹲る彼女の手を取り、目線を合わせた後に抱きしめる
ありがとう、ぼくのために沢山頑張ってくれたんだね
きらきら光る、眩しいたいようの元で一緒に暮らそう
今まで不幸だった分、ぼくたちは幸せになれるんだよ

ここでキス……ですが、さすがに角度を付けて誤魔化しましょう
わたしの演技力なら大丈夫……と思いたいです

「ぼくは、キミを。キミだけを愛してる」

……パンセさん、出て来て下さるでしょうか?



●たいようの国の人魚姫
 いつかのように背筋を伸ばして、御園・ゆず(群像劇・f19168)は舞台の上へと歩み出す。堂々とした佇まいの『王子様』は、劇場の真ん中に蹲ったミレナリィドール……『人魚姫』の方へ。
 ここは半分が眩いお日様に照らされて、もう半分は一面の海になった、たいようの国。あの日、不思議の国で見た彼女のあり様を、ゆずは即席でその場に描く。悲しみも嘆きも目の当たりにしたからこそ、叶うことの無かった夢を此処に。
「良かった。ここに居たんだね」
 屈託のない笑みを浮かべた王子様は、大地と海の境目を超えて、暗く沈んだ海の底の、人魚姫へと手を差し伸べる。
「ああ、王子様、王子様! 本当に、見つけてくださるなんて……!」
「キミのおかげだよ。ありがとう、ぼくのために沢山頑張ってくれたんだね」
 深海に沈めた星の雫も、声と命と体を削って得たものも、全て無駄ではなかったと言うように。顔を上げた人魚姫の顔を優しい眼差しで見つめて、彼女の手を取り、その身を強く抱き締めた。
「きらきら光る、眩しいたいようの元で一緒に暮らそう。今まで不幸だった分、ぼくたちは幸せになれるんだよ。
 擦れ違いの日々もまた、今と未来のために在ったのだと信じよう」
 目に涙を浮かべた人魚姫を胸に抱き、王子様はそう語り掛ける。すると、二人の前途を祝福するように、柔らかな光が降り注ぎ――。
 舞台の天井に設えられた小さなランプの群れ、そして中心の大照明が星と太陽の光を模擬していることにゆずが気付く。同時に床が徐々にせり上がり、人魚姫と王子様がクローズアップされる形に。「さすがにやりすぎでは?」という疑問が浮かばないでもない。とはいえ、愛おし気に微笑む王子様の表情には微塵の曇りもないままで。
 顔を上げた姫の涙を拭って、王子様は彼女と口付けを交わした。

「ぼくは、キミを。キミだけを愛してる」
「ああ、夢のようです。王子様……」

 ……事前の接触で協力する話になっているとは言え、さすがにそこまでするのはどうかと、そこは口付けをしている風に見えるよう、顔に角度を付けて誤魔化してはいたが。
 きゃーっ、キスしたー! よかったー! みたいな小声で騒いでいる声が聞こえて、ゆずはそっとそちらに視線を送った。ヘタな観客より余程舞台にのめり込んでいるオブリビオンが、恐らくそこに居るのだろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​

南雲・海莉
髪は帽子に隠し、吟遊詩人の少年役
共演には「主役のユウを慕う連れの少女」役を頼み、設定説明

高らかに歌いながら登場も途中で咳き込み倒れ
気遣う少女に
「…急がないと
間もなく大地は虚無に飲まれる
それまでに一人でもこの呪い歌で多く船に導かなくては」
体を起こすも、血糊を吐き
「僕は咎人の子孫だ
僕自身も故郷の人々を傷つけ逃げてきた」
暗く、決意を込めた表情で血を拭いながら少女を振り払い
「僕の命など使い潰すに惜しくない」
「君も逃げろ
これ以上付き合う事はない」
少女が背中に縋り叫ぶ言葉に、驚き
「何故、そこまで僕を」
「僕だって…ほんとは生きたい!」
「赦されて、赦されて本当にいいのか」
やがて再び、力強さを取り戻した声で歌う



●咎人は歌う
 舞台に響く、美しい歌声。不思議な音色のそれを、高らかに紡ぐのは、帽子を被った吟遊詩人の少年――南雲・海莉(コーリングユウ・f00345)の演じる『ユウ』だった。歌い上げられるそれは、聞く者全てを引き込むだけの力を持っていたが。
「――ッ!?」
「大丈夫ですか!?」
 その半ばで咳き込み、ユウが倒れる。彼を慕う娘――ミレナリィドールの劇団員が演じる少女は、慌ててそちらに駆けよった。助け起こそうとする彼女を手で制して、ユウは自らの足で立ち上がる。これは、他の誰でもない、自分にだけ課せられた使命なのだから、と。
「……急がないと」
 口元を拭い、彼は言う。間もなく大地は虚無に飲まれる。それまでに、この呪い歌で一人でも多く船に導かなくてはならないのだ。もう一度声を張り上げ、呪い歌を紡ごうとしたユウは、しかしもう一度その場に倒れる事になる。咳き込み揺れる背、喉は既に破れ、口からは血が零れる。
「どうして、そこまでするのです……?」
「僕は、咎人の子孫だ。僕自身も故郷の人々を傷つけ逃げてきた。だから……!」
 やらねばならないのだと、遠く見える海岸に目を遣り、ユウは言う。口元の血を拭い、暗く決意をその表情に滲ませて。
 こうしている間にも、世界は霧と闇に侵食され、やがては虚無へと墜ちていく。
「僕の命など、使い潰すに惜しくない。……君も逃げろ。これ以上付き合う事はないんだ」
 振り返る事もなくそう告げて、ユウはまた呪い歌に取り掛かった。少しでもこれが贖罪となれば――。
「いけません!」
 けれど、少女はその背に縋りついた。
「何故、そこまで僕を……」
「あなた一人を置いていくことなど出来ません! あなたが命を捨てると言うなら、私も……!」
 涙をにじませた彼女の言葉に、ユウは帽子のつばを下ろす。零れ落ちたのは、使命を、枷を別にした、本当の願い。
「僕だって……ほんとは生きたい!」
「でしたら、私と共に……!」
 そんなことが叶うはずもない。そう首を横に振ったユウの頬に、差し込んだ光があたたかな熱を与える。
 これは、と見上げれば、世界を包み始めた霧を、分厚い雲を描いた天井を、真っ二つに割るようにしながら陽光が降り注いでいた。その輝きは、もはや歌うことも難しい状態だったユウの傷を癒し、力を与える。
「赦されて、赦されて本当にいいのか」
 天からの思し召しに声を震わせ、もう一度、ユウは高らかに歌い始めた。

 陽光に似せた大照明の光に紛れて、降りてきた霊魂達が海莉に合わせて合唱を始める。まず間違いなく、それはオブリビオンの手によるものだろう。あとは、ふわふわとどこか不安定に動くその姿を追って行けば――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

神蛇・ツバキ
ミレナリティドールの人を見つけて手伝って貰うよ。

お遊戯会から絶大な人気を誇った俺の演技が冴える時だよね。
ま、見てなよ!

演目『走れメ〇ス』
主役:俺
他:ミレナリティドールの皆さん
照明他:ミレナ(以下略)

うぉおおおおおおお!!!!何が人間不信じゃい!!!!
(怒りを込めた渾身の叫びと共に舞台を走り回る。結婚式の為に)

ぐっ…!
セリヌごにょごにょ…!すまん!
俺はここまでの漢だったみたいだ…
って、なるかボケェエエエ!!!
絶対助けるかんな!!セリヌごにょごにょ…

は?王様?
何言ってんの??意味わかんねーし。俺の役も大概だけど。
こんだけ拗らせといて仲間にしてやれる訳ねーだろ。
ま、可愛い子なら別かも知れないけどね!



●走れメトス
 舞台を満たし始めた朝の霧――蒸気と催眠ガスを掻き分けて、神蛇・ツバキ(UROBOROS・f16540)が駆けていく。激怒したに相応しい厳しい表情と、渾身の叫びを引き連れて。
「うぉおおおおおおお!!!! 何が人間不信じゃい!!!!」
 簡単に言うならば、人間を信じられなくなった王に、誠実さや信頼と言った人の善なる部分を証明するために、この男は山野を駆けていた。兄妹の晴れの舞台を見届け、思い残すところはもはやないとして、自ら死地へと向かう。そんな悲壮な場面を、絶大人気の演技力を駆使してツバキは演じていた。こういうのはまあ、お遊戯会以来だったような気もするけれど。
「ぐっ……うおぉ!?」
 全力で走り続けていた彼は、ついにここで限界を迎え、その場に倒れ込んだ。
「セリムン……! すまん! 手は尽くしたが、俺はここまでの漢だったみたいだ……!」
 精魂尽き果て最早ここまで。無念、ときつく目を瞑るのに合わせて、舞台は暗転――と見せかけて。
「って、なるかボケェエエエ!!!」
 跳ね起きた彼は、必死の形相でまた走り出す。
「おおおおお!! 絶対助けるかんな!! セリムン!!!!」
 なりふり構わず走り続ければ、やがて彼を待ち受ける『王様』――協力者であるミレナリィドールの元へと辿り着いて。
「おおお……まさか本当に戻ってくるとは! 間違っているのは私の方であったか……!!」
 突如感動のあまり咽び泣きはじめた『王様』は、両手を広げてメトスの方へと走り出した。
 これこそ真実の友情、可能ならば自分もそこに加えて欲しい、心を入れ替えた『王様』の申し出を、ツバキは怒りの表情そのままに迎え撃った。
 意味わかんねーし。可愛い子ならいざ知らず、こんだけ拗らせといて仲間にしてやれるわけねーだろうが。
 抱擁を求める『王様』に、彼は思い切り拳を振り上げ――。
「――あぁッ!?」
 すこんと足元の床が抜けて、ツバキも『王様』もまとめて落とし穴の下に落ちていった。
 ひゅーん、ばたっ。そんな効果音が舞台の下方から聞こえてきて、誰かの笑い声が響き渡る。

「フフフ! やっぱり最後は喜劇らしくしないと駄目だよねー」
 この舞台が喜劇であるかは諸説ある。言いたい事もいろいろある。が、とにかくこの声の主こそがオブリビオンだろうと、穴から這い出しながらツバキは見当を付けた。

成功 🔵​🔵​🔴​

アニー・ピュニシオン
初めて劇をやるのだけど、私に出来るでしょうか?
短い間だけど、全力で取り組んでみるわ。

隠れていたミレナリィドールを探し出し
ここは危険だと伝え、君を舞台に連れ出そう
ついでに服に血糊を仕込んで

連れだした舞台は大雨と窓を叩く強風
そして、雷が響く豪華な屋敷の一室
そう、ここからアルダワ劇団殺人事件のプロローグの開幕。

……入ってきた扉の閂を閉じ、徐に凶器を取り出して
ドールに詰め寄りながら語り掛けるわ

あとは、あなたさえ消えれば秘密を知る者はいない
この一連の事件の真相は永遠に闇のままよ、と
怯えた相手の表情を見て、ほくそ笑み
手にした凶器で仕込んだ血糊を破るのです

血飛沫が舞い散る中、
高笑いを決めながら閉幕しましょう



●アルダワ劇団殺人事件
 蒸気に紛れて催眠ガスの漂う劇場の中、アニーは隠れていたミレナリィドールの一人を見つけて、すぐにその手を差し伸べた。
「ここは危険よ、早く逃げましょう!」
 暗がりから手を引いて連れ出し、導くように駆けていく。それはさながらアリスと時計兎のように。形の変わってしまった劇場廊下を抜けて、暗幕の向こう、大きな扉をそっと開いて、隙間にその身を滑り込ませた。
「誰も追いかけてきてはいないようね。……ここまで来れば、大丈夫」
「本当に? あ、ありがとう……!」
 ミレナリィドールの後ろで、扉の向こうを確認したアニーは、重たいそれを閉じていく。そして、安堵の息を吐いたミレナリィドールが、今居る場所が『舞台の上』であると気付いたところで、その扉に閂を掛けた。
「え……?」
「そう、ここまで来れば――」
 屋敷の一室のようなセットの中、表情を隠すように俯いて、アニーは一歩一歩相手に近付いていく。すると、恐らくはパンセの呼び出した霊魂達が、びゅうびゅう、ごうごうと窓を揺らす嵐の音色を歌い出し、舞台背景が光ると同時に、地を揺らす雷の轟音が鳴り響いた。
「――あとは、あなたさえ消えれば秘密を知る者はいないの。この一連の事件の真相は永遠に、闇のままよ」
「そんな、騙していたの!? あなたのこと、ずっと信じてたのに!」
 ついにナイフを取り出した彼女の姿に、ミレナリィドールは涙混じりの声を上げる。その怯えた様子にほくそ笑みながら、アニーは凶器を振り上げて――。
「そう、ごめんなさいね。私とあなたはどうあってもこうなる運命なのよ……分かるでしょう?」
 雷が落ちる演出に合わせて、刃が振り下ろされる。少女の甲高い悲鳴、一瞬の光の中を飛び散る鮮血、舞台背景までもが徐々に赤に塗れていき、同じ色に染まったアニーの高笑いが、暗転していく舞台の上に、ずっと響いていた。

 ……うーん、全力で取り組んでみたけれど、うまく出来ていたでしょうか。暗闇に落ちた舞台の上で、アニーが視線を巡らせる。説明している時間を惜しんでの一発勝負だったが、あそこで倒れた振りをしているミレナリィドールの子も、思ったよりこちらの意を酌んで動いてくれた。事前に渡した血糊も上手く使ってくれたようだし。
 そうして、彼女は一点、目指す場所を見定める。先程、刃の振り下ろされるタイミングで、役者以外に悲鳴を上げた者が居た。その声の主こそが、間違いなく今回の黒幕だろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ジャック・スペード
エドガー(f21503)と

芝居の経験は俺も無いが
華のあるあんたが居れば何とかなりそうだ
ああ、良い舞台にしよう

演じる一幕は『戦場での死別』
凶弾に倒れた友の許へ駆け寄り
哀し気に最後を看取ろう

『しっかりしろ、エドガー……!
 ――……なぜ、俺なんかを庇った』
『俺は、アンタを犠牲にしてまで
 生き残りたくなんて……』
『……ッ、エドガー!』

帽子を目深に被って目許を隠し
友へと黙祷を捧げる素振り
その傍らでサイバーアイも活かして
舞台監督――もとい、パンセの反応を探るとしよう

しかし、エドガーは名演技だったな
惜しむらくは、観客が殆どいない点か
――特等席か
なるほど、そうかもな
此方も上手く演じられていたなら幸いだ


エドガー・ブライトマン
ジャック君(f16475)と参上しよう
演技の経験はないけれど、私たちならきっといいカンジになる
頑張ろう、ジャック君!

演じるのは『戦場での死別』
私が凶弾からかれを庇って、死んだフリをするんだ
倒れたトコロから始まるよ

『ウッ――…
 無事かい?ジャック ああ、それなら本当に良かった
 キミさえ無事ならそれで…』
『私ね ヒーローとして皆を守るキミだって
 たまには守られてほしかったんだ
 これからも そのままのジャックで、……(ガク)』

どうかな~こんなもので
ここからは離れていたオスカーの出番
視界を借りて、敵の居場所をチェックだ

フフ、そうかい?ありがとう
キミの素晴らしい演技は私がばっちり見ていたから
特等席でね!



●戦場での死別
 白の剣と黒の銃。二人は何度も、何度も共に戦場を駆けてきた。これからも続いていくかのように思われた、そんな日々は、しかし一発の銃声で終わりを迎える。凶弾の前に身を晒し、仲間を庇ったエドガー・ブライトマン(“運命”・f21503)は、思いのほかあっさりと、戦場――舞台の中央に倒れ込んだ。
「ウッ――……」
「しっかりしろ、エドガー……!」
 仰向けに倒れた彼の元へ、ジャック・スペード(J♠️・f16475)が急ぎ駆け寄る。傍らにしゃがみこんだジャックの様子を見て、エドガー薄く目を開いた。
「……無事かい? ジャック」
「ッ……、俺は……俺は、大丈夫だ」
 だが、と言葉を続けようとした彼を遮って、エドガーは力無く笑みを浮かべる。
「ああ、それなら本当に良かった。キミさえ無事ならそれで……」
 対して、負傷の程を確認しながらジャックは言葉を詰まらせる。言うべきことを探しても、浮かんでくるのは疑問ばかり。それでも聞かずには居られまい、といった調子で彼は問うた。
「――……なぜ、俺なんかを庇った?」
 声に苦い色が滲む。優先順位など馬鹿げた概念だが、本来は逆であるべきだと、少なくともジャックはそう感じられたのだろう。そんな様を見透かしたように、エドガーは答える。
「私ね。ヒーローとして皆を守るキミだって、たまには守られてほしかったんだ」
「俺は、アンタを犠牲にしてまで、生き残りたくなんて……」
 悪戯っぽく笑う彼の様子に、ジャックは苦し気にそう返す。
 ごめんね、と小さく呟いたエドガーは、苦笑気味に喉を鳴らす。まあ、喜んではくれないよね。でも、そんなキミだからこそ……。
「これからも、そのままのジャックで、……」
「……ッ、エドガー!」
 台詞半ばでその手が落ちて、がくりとエドガーの身体から力が抜ける。この先、彼が返事をすることも、目を開けることもないのだろう。帽子を目深に被り、ジャックは友へと黙祷を捧げる。舞台の照明が、急速に絞られていき――。

 その間、密かにツバメが宙を舞い、エドガーはユーベルコードでその視界を共有、周囲へと探りを入れる。帽子のつばを下げたジャックもまた、サイバーアイで周囲へと視線を向けていた。芝居の経験はなかったけれど、良い感じに、何とかなったのではないだろうか。互いに互いの演技を特等席で見る事になった二人は、そう確信している。そうすると、これを見ているはずのオブリビオンが動き出す頃合いなのだが……。
 そうして、二人はそれぞれに目を凝らす。すると、変化は思いのほか身近で発生した。
 暗転しかけた舞台の上に一筋の光が差して、事切れた振りをしているエドガーを照らす。うん? と疑問を感じる暇もなく、何やら荘厳な讃美歌が響き渡る中、エドガーの身体がふわーっと空へと浮かび上がりはじめた。

 えっ、何だいこれは。キミの仕込み? 薄目を開いたエドガーがこっそりとジャックを探り見るが、そちらも「心当たりがない」というように僅かに首を横に振って返す。そうこうする内に、エドガーの身体は舞台の上方向に退場し、そこを走る梁へと乗せられた。
 それぞれにもう一度気配を探れば、エドガーを運び、賛美歌を合唱していた半透明の何か……霊魂っぽいものが、舞台の上から去っていく。その先に居るのが、恐らく――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ロカジ・ミナイ
【エレルA】

好きだカスカ!愛してるカスカ!
その瞳が夕焼け空のように僕を映すとき、風呂を沸かさなきゃと奮起させ
その瞳が黎明のように僕を見つめれば、朝餉の味噌汁が恋しくなる
そうすりゃ二日酔いでも動けるってもんで
僕には君が必要なんだよ、カスカ!

十雉より僕を選ぶべきだ
そうに決まってる
ねぇ、どっちにすんのさ!僕と十雉、どっちが大事なの!?

……?カスカ、今なんて?
…フラれた!?この僕が!?
そんな、嘘だと言っておくれよ!嗚呼!

まさかどちらも選ばれないなんて、なんという悲劇
あの子のしあわせはここにはないらしい

…酒でも呑もうか、同志
可愛い店員さんのいる店知ってんだけど


ーーっていう、悲恋を乗り越える漢達の話


宵雛花・十雉
【エレルA】

ちょっと待ったぁー!
オレだよカスカ、覚えているかい
子どもの頃に将来を誓い合った、お隣の大福屋の十雉さ
美しいひと、キミが都会に出て離れ離れになってから、ずっと探していたんだ

そんなステキ眉毛に騙されちゃいけない
オレの方がカスカの作った味噌汁を旨そうに飲んでみせる
だからカスカ、さぁカスカ…!
オレの手を取ってくれ

なんだって…!?
カスカそんな、遥々キミの元へやってきたというのに
キミの心は別の場所にあるというのか
破れ去る恋のなんと儚いことか…
これを悲劇と呼ばずして何と呼ぼう
(ここでとびきり悲劇的なBGM)

ああ、呑もうかロカジ
今日は美味い酒と味噌汁をとことん飲みたい気分だ


朽守・カスカ
【エレルA】
嗚呼、私の美しさがこのような争いを生み出してしまうとは
私の美貌のなんと罪作りなことだろうか!
(手鏡を持ちながら両手で顔を覆い、さめざめと嘘泣き)

熱烈な告白に揺れる乙女心
大福屋に嫁いで町で評判の若夫婦を夢見た時も
その素敵な眉毛に添い遂げる日々を夢見た時もあったさ
しかし、此処でどちらかを選べば
残されたものは深く傷付き
世を儚んで身投げをするかもしれない
私が美しすぎて

この美貌だけで充分罪作りなのに
これ以上罪を重ねるわけにはいかない
ゆえに、ごめんなさい!!!!

胸は痛むが、これでよかったのだ
私の美しさは遠くで輝く星の如く
誰かの手にあって良いものではない

君達の門出に幸多からんことを願っている、よ



●うつくしすぎる
 舞台の上には女が一人。抑えた照明の下で、朽守・カスカ(灯台守・f00170)が背を向けて立っていた。そこに舞台袖から現れたロカジ・ミナイ(薬処路橈・f04128)が駆け寄り、跪いて彼女に言う。ここでの台詞は愛の囁き、彼女への求婚である。
「好きだカスカ! 愛してるカスカ!」
 ド直球の告白を、カスカに背に向け彼は続ける。
「その瞳が夕焼け空のように僕を映すとき、風呂を沸かさなきゃと奮起させ、
 その瞳が黎明のように僕を見つめれば、朝餉の味噌汁が恋しくなる。そうすりゃ二日酔いでも動けるってもんで――」
 洒落ているかはわからないが、絶妙に実感のこもったたとえを駆使。
「僕には君が必要なんだよ、カスカ!」
 よく通る声でそう告げて、手を差し出す。さあ、応えて、この手を取っておくれと乞うロカジに、カスカは……。
「ちょっと待ったぁー!」
 その時、舞台の反対側から宵雛花・十雉(奇々傀々・f23050)が現れる。彼もまた、カスカに思いを寄せる者。ロカジと同様に、彼女の背へと語りかける。
「オレだよカスカ、覚えているかい? 子どもの頃に将来を誓い合った、お隣の大福屋の十雉さ。
 美しいひと、キミが都会に出て離れ離れになってから、ずっと探していたんだ」
 昔の思い出も並べながら、ようやく会えたと彼は言う。しかしそんなことをされては面白くないのが、先に求婚したロカジだ。
「何だい、突然割り込んでくるんじゃないよ。カスカは僕と――」
「カスカ、あんなステキ眉毛に騙されちゃいけない。オレの方がカスカの作った味噌汁を旨そうに飲んでみせる」
「いいや、十雉より僕を選ぶべきだ、そうに決まってる」
 そうした言い合いが繰り広げられる中、ついにカスカが二人を振り向く。二人の言葉に少しも反応を見せなかった彼女は、しかしその言葉はちゃんと聞いていたものらしい。顔を見せた彼女は、さめざめと泣いていた。
「嗚呼、私の美しさがこのような争いを生み出してしまうとは、この美貌のなんと罪作りなことだろうか!」
 手元の鏡を覗き込んでいた彼女は、そう嘆いて、両手で顔を覆ってしまう。
「大福屋に嫁いで町で評判の若夫婦を夢見た時も、その素敵な眉毛に添い遂げる日々を夢見た時もあったさ。
 しかし、此処でどちらかを選べば、残されたものは深く傷付き、世を儚んで身投げをするかもしれない。
 ああ、こんなにも私が美しすぎて――」
 二人に言い寄られ、揺れる乙女心。しかし、二人を夢中にさせる美貌こそが、新たな障壁となって立ち塞がる。
「この美貌だけで充分罪作りなのに、これ以上罪を重ねるわけにはいかない!」
 そう、恐るべきは罪。そして、それを生み出すこの美貌だ。それゆえに――。
「だからカスカ、さぁカスカ…! オレの手を取ってくれ」
「ねぇ、どっちにすんのさ! 僕と十雉、どっちが大事なの!?」
 両側から手を差し出す二人の男を前にして、カスカが選んだ道は。
「ごめんなさい!!!!」
 どちらの手も取らない事だった。

 衝撃の一言により、水を打ったような静寂が、一時その場を支配する。無音になった舞台の上を、驚愕の波がじわじわと広がって。
「なんだって……!?」
「……? カスカ、今なんて?」
 舞台を照らす光が翳り、何やら重苦しい歌が舞台裏から聞こえ始めた。
「……フラれた!? この僕が!?」
「カスカそんな、遥々キミの元へやってきたというのに、キミの心は別の場所にあるというのか……」
 さらに舞台の床が複雑に駆動しはじめ、両者の隔絶を示すようにカスカの立った部分だけが上昇していく。男どもが手を伸ばそうとも、もはや届かず。
 二人の言葉を振り切るようにして、カスカは空を振り仰いだ。胸は痛むが、これでよかったのだと。
「私の美しさは遠くで輝く星の如く、誰かの手にあって良いものではない――」
 そうしてちらりと二人を振り返って、舞台の高みへと去っていく。
「君達の門出に幸多からんことを願っている、よ」
 いってしまった彼女を呆然と眺めていた男二人は、やがて我に返ったように眼を合わせる。
「破れ去る恋のなんと儚いことか……これを悲劇と呼ばずして何と呼ぼう」
「まさかどちらも選ばれないなんて、なんという悲劇。あの子のしあわせはここにはないらしい」
 揃って溜息を吐く。確かに先程までは敵同士だった二人だが、今は揃って敗れし者だ。
「……酒でも呑もうか、同志」
「ああ、呑もうかロカジ。今日は美味い酒と味噌汁をとことん飲みたい気分だ」
「それなら任せておくれよ。僕は可愛い店員さんのいる店知ってるからね――」
 とぼとぼと歩き出した二人の向かう先に、灯の列と小さな居酒屋のようなセットが形作られていく。そうして舞台は幕、なのだが。

 途中からやたらと動き出した舞台セットの出所、そしてBGMを歌い上げる霊魂達の向かう先を、三人はそれぞれに探っていく。こんなもの用意していない以上、オブリビオンによるものに間違いないのだから。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ヨシュカ・グナイゼナウ
【エレルB】

ではわたしは弟の役で!

伝説のジャーキーを探すといって出て行ったまま
帰ってこない両親をにいさまと探して幾星霜
伝説のジャーキーって何だと思います?にいさま
それはそれとして、漸く見つけましたよ!とうさまかあさま!
え、出て行ったのはとうさま達では…?ですよね?

(エンジさまー!台本が違います!そっちはボツの方!)(などと念をおくる)
(泣くンだ!という念を受け取る)
……探すのすっごくすっごく大変だったんですからね!
にいさまと二人で頑張ったんですから…!
兎に角…!見つかって…会えて良かったです…!!(泣くふり)


久しぶりに家族揃って食べたジャーキーはとっても美味なのでありました!
終幕!


アイネ・ミリオーン
【エレルB】

なら僕、は、兄役、ですね

ちいさな弟と、ふたりで両親を探し、て、幾星霜
伝説のジャーキー、って、なんでしょう、ね
そんなに、すごいもの、なんでしょうか

(……あれ?)
(エンジ、エンジ、台本が没本です、よ)(ヨシュカより控えめな念を送る)
(泣けと言われた気がしたが、どうしよう即座に涙を出す機能は付いていない)(とりあえず、袖で顔を覆って俯いてみた)

本当に、本当、に、長かったです……
ふたり、寒さに震え、て、眠る日も、怖い人に、追われる日も、ありました、ね
でも、やっと、やっと見付けましたよ、父さまたち……!

ふたりで、父さまと母さま、を、ぎゅっとして、一緒にジャーキーを、食べましょう
幸せな、終幕!


エンジ・カラカ
【エレルB】

コレはパパの役をやる
ママの役は賢い君

賢い君、賢い君、二人の息子が迎えに来てくれた
うんうん、偉いネー。賢いネー
なになに?

『ジャーキーを食べ残す息子は息子じゃありません!』

うんうん。確かにそうだそうだ
ジャーキーは美味しい!
朝も昼も晩もジャーキーを出してたら息子達が出ていった。うんうん
え?台本と違う?

アァ……コレと賢い君は伝説のジャーキーを探す旅に出ていたんだ…。

二人のランデブーを邪魔するな息子たちヨー。
で。そうそうココでヨシュカとアイネが泣く
泣くンだ!!って念を送ろう

最後は伝説のジャーキーをヨシュカとアイネに渡して
仲良く食べてめでたしめでたしで終わろう

一件落着!



●ジャーキーは美味しい
「ここ、に、父さまと母さまが……」
「ええ、長い旅路でしたね……」
 伝説のジャーキーを探しに行く、そう言い残して消えた両親を探して幾星霜。アイネ・ミリオーン(人造エヴァンゲリウム・f24391)とヨシュカ・グナイゼナウ(明星・f10678)演じる兄弟は、ついに二人の居所を探し当てた。
 舞台の上に立った彼等は、改めて台本を思い出す。説明台詞でその辺りをお伝えしてみるが、どうしても気になってしまうのが。
「伝説のジャーキーって何だと思います? にいさま」
「さあ……そんなに、すごいもの、なんでしょうか」
 常人にはついていくのが難しい設定と言わざるを得ない。とはいえそこは気にしても仕方のない事だろう。
「それはそれとして、漸く見つけましたよ! とうさまかあさま!」
 強引に進めに行ったヨシュカは、舞台の上に設えられた扉を潜る。そうして訪れた兄妹を、父親――エンジ・カラカ(六月・f06959)が迎えた。
「賢い君、賢い君、二人の息子が迎えに来てくれた。うんうん、偉いネー。賢いネー」
 にこにこと笑った彼は、手元から伸びる赤い糸へと話しかけ、頷いて見せる。どうやらそちらが母親役らしい。
 そうして、『彼女』の台詞を代弁する様に、彼は続ける。
「なになに? 『ジャーキーを食べ残す息子は息子じゃありません!』――うんうん、確かにそうだそうだ」
 ジャーキーは美味しい。それは世界の真実だ。だからこそ、この行いは必然だったのだと。
「朝も昼も晩もジャーキーを出してたら息子達が出ていった。うんうん」
 ……あれ? それに対してアイネが首を傾げる。それはそれで聞き覚えはあるけれど。それにその状況になったらまず子供はグレると思うけれど。ヨシュカとアイネが顔を見合わせ――あ、と二人はそこで気付いた。
 エンジが言っているのは、打ち合わせで没にした方のお話だ。設定が違う。
「え、出て行ったのはとうさま達では……? ですよね?」
「んん?」
 探り探り、どうにか軌道修正を図りながら、二人は揃って念を送る。テレパシーとかではないアイコンタクトと表情を頑張って駆使したところ、どうにかそれは通じたようで。
「アァ……コレと賢い君は伝説のジャーキーを探す旅に出ていたんだ……」
「思い出して、くれました、か……」
「二人のランデブーを邪魔するな息子たちヨー」
 アイネとヨシュカが安堵の息を吐いたのも束の間、今度はエンジの方から逆に新たな念が返ってくる。
 神妙な表情から多分『泣くンだ!』と言っているのは分かったけれど。即座に涙を出す機能は付いてないなとアイネが頭を悩ませる。ヨシュカの側もそんな天才子役みたいな真似は難しい。
「そんな……邪魔だなんて言わないでください!」
 どうにかこうにか、ヨシュカはその場で流れに合わせるよう試みて。
「……探すのすっごくすっごく大変だったんですからね! にいさまと二人で頑張ったんですから……!」
「本当に、本当、に、長かったです……ふたり、寒さに震え、て、眠る日も、怖い人に、追われる日も、ありました、ね」
 なるほど、それならその方向で、とアイネもそれに合わせて、袖で目元を隠しながら言う。
「でも、やっと、やっと見付けましたよ、父さまたち……!」
「兎に角……! 見つかって……会えて良かったです……!!」
 二人とも、泣き真似しながら父親の胸を借りる形で抱き着けば、それも誤魔化してしまえるだろう。
「アア……わかった。ジャア息子たちも食べる? 伝説のジャーキー」
 家族と抱擁を交わしたところで、父親から伝説のジャーキーが二人にも配られる。家族そろって、一緒に仲良く、美味しいジャーキーを食べればこのお話はお終いだ。
 ほんわかした感じの音楽が舞台裏から響いて、優しい色味の照明が舞台を照らす。ほどなく、舞台には幕が下りて――。

「はーっ!!! ハッピーエンドなのはいいけどこの脚本難解すぎない!? どう演出すればよかったの!!!!?」
 最後にちょこっと手を加える程度しか出来なかったことに、オブリビオンが頭を抱えていた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

メリル・チェコット
【こもれび】

ロイちゃーん!
ロイちゃん、ロイちゃん!
よしよし、可愛いねぇ
色違いのおめめがきれいだね
ツンツンしてるところも可愛いよぉ
友人の大切な仲間である黒猫をもふもふなでなで
煮干いっぱいあげようね
メリルもうロイちゃんと結婚しちゃいたい!

……はっ
背後に感じる気配
これは……殺気!

わっ、苺ちゃ……
じゃなかった、こほん
苺!
今日は仕事で遅いはずじゃなかったのか…!
待ってくれ、苺! 勘違いなんだ!
彼女はそう、今夜だけの関係だよ!
ボクが愛しているのは妻であるきみだけだ!
だ、だからその包丁を……うっ
バタッ

亡骸がふたつ並ぶ
……
照明も効果音もすごくいい感じだったね
ねえロイちゃん、パンセちゃん見つけられそう?(小声)


歌獣・苺
【こもれび】

ロイ『ちょっと、あんまりベタベタ触んないでくれる?毛並みが崩れる』

『…そうね、煮干しを沢山くれるっていうのなら結婚してやってもいいわ』

………アナタ?(とてつもない殺気)
今日は早くお仕事終わったから
ラブラブしようと思って急いで帰ってきたのに…誰なのその猫ッ!!!
なんか煮干しの食べ過ぎかちょっと太ってるし!

『あ"!?』

今夜だけの関係……?
ふざけないでッ!
……もう無理。
アナタを殺して
私も死ぬんだから!!!

ーーザクッ、グサッ、ドスッ。

ほんと、すごかったねぇ…!(倒れながらにぱっ)

『パンセ、ねぇ……。あ、あの何か
1人で大興奮してるアイツじゃない?』



●修羅場
「ロイちゃーん! ロイちゃん、ロイちゃん!」
 よしよし、可愛いねぇ、色違いのおめめがきれいだねぇ。そんな緩み切った表情で、メリル・チェコット(ひだまりメリー・f14836)が黒猫にかまう。気位の高そうなその猫は、特にそれに喜ぶ様子もないようだが。
「ちょっと、あんまりベタベタ触んないでくれる?毛並みが崩れる」
「あ~、そんなツンツンしてるところも可愛いよぉ……メリルもうロイちゃんと結婚しちゃいたい!」
 むしろそれが良いらしく、メリルはでれでれべたべたと可愛がりを続ける。頬擦りとかしたら嫌がりそうだなあ、でもそれも良いなあ。夢中になるメリルの様子に、黒猫はフンと満更でもなさそうに鼻先を上げて。
「……そうね、煮干しを沢山くれるっていうのなら結婚してやってもいいわ」
「ふふふ、本当? それじゃあ煮干いっぱいあげようねー」
 まあ、条件が付いていなくても、ねだられたら即用意していただろうが。早速ざらざらと煮干しを取り出したメリルだったが。
「……アナタ?」
「……はっ」
 後ろから響く小さな声に、その身を強張らせる。背筋を走る寒気に震えながら、ゆっくりと振り向けば、歌獣・苺(苺一会・f16654)が立っていた。
「苺ちゃ……じゃなくて、苺! 今日は仕事で遅いはずじゃなかったのか…!」
 じり、と後退りながらメリルが言う。纏う雰囲気というか、ただただ本当に目が怖い。
「今日は早くお仕事終わったから、ラブラブしようと思って急いで帰ってきたのに……」
 張り詰めた空気のせいか、むしろ舞台そのものが動き出したのか、ゴゴゴと地鳴りのような音が響き始めた。それはさながら、煮え滾る怒りを表すように。
「――誰なのその猫ッ!!! なんか煮干しの食べ過ぎかちょっと太ってるし!」
「あ゛!?」
 爆発する怒りに黒猫もまた殺気立つ。が、本題というかこれに対処すべきは黒猫ではない。
「待ってくれ、苺! 違うんだ!! 彼女はそう、今夜だけの関係だよ!!」
「今夜だけの関係……?」
 メリルの咄嗟の台詞によって、舞台に静寂が戻る。代わりに僅かな風が吹き、舞台に薄く張っていた蒸気の靄を押し流していった。
 熱気が去った代わりに感じる寒気。あれ、これ地雷踏んでない? 嫌な予感しかしないが、もう突き進むしか道はないのだ。
「そ、そう! ボクが愛しているのは妻であるきみだけだ!!」
「ふざけないでッ!」
 やっぱり駄目だった。背景に雷が描かれ、轟音が鳴って、誰かが複数で重苦しい曲を歌い始める。
「……もう無理」
「えっ待って落ち着いて、とりあえずその包丁を置こう、ね?」
「嫌よ!! アナタを殺して私も死ぬんだから!!!」

 ――ザクッ、グサッ、ドスッ。
 色付きの照明で真っ赤に染まった舞台の上、苺の影が包丁を幾度も振り下ろし、最後に自らの胸を突いて、ゆっくりと幕は下りていった。

「ねえロイちゃん、パンセちゃん見つけられそう?」
「んー、多分あっちじゃないかしら」
 床に転がった亡骸が二つ、そしてその近くに座った黒猫が視線を向ける。先程までの演出の中で、BGMらしきものを歌っていた霊魂っぽいものが、揃って一方向へと戻っていくのが見えた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 ボス戦 『冥想のパンセ』

POW   :    断章の花
【開いた魔導書から散る花の幻影】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
SPD   :    観想の星
【敵意を込めた視線】を向けた対象に、【流星の如く突撃する魂】でダメージを与える。命中率が高い。
WIZ   :    鏡鳴の魂
対象の攻撃を軽減する【魂の鏡を展開。魂は対象と同じ姿】に変身しつつ、【相手と同じユーベルコード】で攻撃する。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。

イラスト:えな

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠鴛海・エチカです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●トップスター
「はー、やっぱりこのパンセちゃんが演出したやつが一番出来が良いよね!」
 それにしても、色んな演劇が見れて楽しかったと、どこか満足気な顔で彼女は言う。そう、その満足気な顔を晒すことになったという事は、まんまと猟兵達に見つけられたという事と同義なのだが、その辺りはまあ置いておこう。
 ついでに言うなら舞台に手や口を出すのに夢中になって、目的の改造手術がさっぱり進んでいないのだが、それもとりあえず置いておこう。……いや、置いておいて良いのかなコレ。
 徐々に口元が引き攣っていくのが見えるが、それを振り払うようにして、彼女は台詞を続ける。

「見つかっちゃったみたいだけど、まあしょうがないよね! ボクってば舞台に上がってもスバラシイから!!」

 すっとぼけた相手にも見えるが、彼女が猟書家の遺志を継いで動くオブリビオンであることに変わりはない。場内に広がり始めた催眠ガスのこともある。ここは手早く、撃退するべきだろう。

 さあ、出ておいで。身構える猟兵達に対し、彼女の開いた本から霊魂達が躍り出て、呪文に応じて舞台の仕掛けが動き始める。そうして特に意味もなくせり上がった足場の上から、オブリビオン『冥想のパンセ』は高らかに言い放った。
「さあ、かかってきなさーい!!」
 同時に、展開した霊魂達が声を揃えて歌い出す。
 らーらーらーらー♪
アニー・ピュニシオン
確かに演劇の貴女は演出や音響、舞台の配置から何まで
ワンマンで全てをこなせるぐらい超一流なのでしょう。
其処の所は、本当に尊敬するぐらい認めている。

……しかし、演劇は操った役者を使ってやるべきではないわ。
名演をしてくれた血塗れドールな彼女の様に
真に熱い感情がこもっていなければ、何の打ち合わせも無しで
誰かに悲鳴を出させる程の芸当なんて出来ないはずよ。

朱く燃ゆるドレスに火花と呪詛を身にまとえば、
いざ、演劇を始めましょう。
流星だろうが何だろうが、今の私は無敵の殺人鬼の配役。
痛くても殺人鬼に涙は似合わない。貴女に凶刃を刺すまでは。

アルダワ劇団殺人事件は未だ続いてるの
事件の真相は闇のままにしとかないと駄目よ



●真相は闇の中へ
 現れると同時に、舞台効果でぐんと高い場所に上った『冥想のパンセ』の方を、アニーは静かに見上げていた。そして、調子付いたようなパンセの言葉に、一つ頷いて見せて。
「確かに、演劇の貴女は演出や音響、舞台の配置から何までワンマンで全てをこなせるぐらい超一流なのでしょう」
 先程の演劇で起きた一部始終、そしてこの絡繰りの利用振り。その辺りの腕は本当に、いっそ尊敬するくらい認めているとアニーは言う。ひたすら自慢気に言った台詞を全肯定してもらえて、パンセはますます調子に乗った。
「そうでしょう、そうでしょう! よくわかってるねーキミ! サイン要る?」
 ふふんと鼻を鳴らす彼女に対して、アニーはしかし、首を横に振って返す。
「でも、残念ね。演劇は操った役者を使ってやるべきではないわ」
「え、なんで!? それなら全部ボクの目論見通りの舞台になるのに!」
 普通なら「はいはい」と流してしまう所だろうが、一回持ち上げられたこともあり、パンセは思い切りそれに釣られた。食いついてきた相手の様子を見ながら、アニーが反証として挙げたのは、先程ともに舞台に上ったミレナリィドールのこと。
「彼女の名演を覚えている? 真に熱い感情がこもっていなければ、何の打ち合わせも無しで、誰かに悲鳴を出させる程の芸当なんて出来ないはずよ」
「そ、そうかも!? でもボクの熱い感情のこもった操作なら何とかならないかなあ!?」
「貴女本人が演じているならともかく、操り人形を使ってそこまでできる? やっぱり、意志あるヒトが演じてこそじゃないの?」
「くっ……確かに、人形にボクを超える演技が出来るとは思えない……! ボクの『パンセちゃん一番星劇団計画』は根本から間違っていたというの……!?」
 何だかわからないが論破してしまったらしい。足元の揺らぐ様を表すように、高みに上っていたパンセが見る見る内に下がってくる。
「こうなったら仕方がないわ! 貴女を消して証拠を隠滅してから、ちょっと計画を練り直しましょう!!」
 ででーん、と彼女の後ろに控えた霊魂達が衝撃の効果音を歌い上げる。事件の黒幕みたいなことを言い出したパンセに、アニーは強く一歩を踏み出した。
「恨むなら、勘の良い自分を恨んでね!!」
 暗躍する黒幕は、力無い被害者を殺してしまうもの。けれど、今のアニーが担うのは『無敵の殺人鬼』だ。
 いざ、演劇を始めましょう。朱く燃ゆるドレスが彼女の身を包み、そこから溢れる炎と呪詛が、降り注ぐパンセの『流星』を弾いていく。当然アニーも無傷とはいかないが、それで泣き出すのも、膝を折るのも、プリンセスならぬ『殺人鬼』には似合わない。
 弾き落とされた霊魂達が、舞台上に轍を刻む中、彼女はパンセの元へと至った。
 輝く足跡の先、殺人鬼はその凶刃を輝かせ――舞台は暗転、衝撃の音色。
「あっ、これボクがやられるやつ!?」
 反射的に自分でやった演出の中、パンセは被害者らしい悲鳴を上げた。
 『アルダワ劇団殺人事件』は、こうして演出家死亡で幕を下ろす。

大成功 🔵​🔵​🔵​

歌獣・苺
【こもれび】

わ、すごい!あんなところに!
私は飛んでいけるけどめりるちゃんをこんなガスまみれの所に置いてく訳にはいかないなぁ…

…よし、それなら!
ロイねぇ!おねがい!

『ちょ、まって!アタシを使う気!?毛並みがぐしゃぐしゃになるじゃない!』

んー、じゃあデブ猫ちゃん
まっしぐらだね。ロイねぇ?

『う、ぐぬぬ、言うじゃない…
分かったわよ!
やればいいんでしょ!!』

そうこなくっちゃ♪

ーーこれは、皆に美貌を晒す謡

さ、めりるちゃん乗って!
いっくよー!
せーのっ!それっ!それ!
ふふ!さっすがロイねぇ!
ぱんせちゃんが
目の前にいる今がチャンス!

やっちゃえダーリン!
めいっぱいの流れ星をぱんせちゃんとみんなにお届けしちゃって♪


メリル・チェコット
【こもれび】

パンセちゃん、いたー!
むだに高い所に!
おーい! わたしたちのドロドロ昼ドラ劇は楽しんでもらえたかなー!
後ろの二人のやりとりには気がつかず

苺ちゃんロイちゃん、なるべくガスを吸い込まないように気をつけ……て?!
ロイちゃんが大きくなってる!?
か、かわいい……え、乗っていいの? お邪魔します!
わっ、さすがの身のこなし!
そのままパンセちゃんの元まで駆けて
途中で攻撃がきたら、メリルが援護射撃で守るね

人体改造なんてしなくたって、みんなの演劇とっても楽しかったでしょ?
まだ未遂みたいだけど……だめだよ、勝手に眠らせるなんて
流れ星とともに、お仕置きです!
劇の最後は派手に決めないとね
いくよ、ハニー!



●キャットウォーク
「パンセちゃん、いたー!」
「わ、すごい! あんなところに!」
 天井近くまでせり上がった足場の上、そこに立つ『冥想のパンセ』を見上げて、メリルと苺が声を揃える。
「むだに高い所に!」
「え、今もしかして無駄って言った??」
 メリルの言葉に、パンセの問い詰めるような声が返ってくる。こうして声が上手く聞き取れていない時点で、無駄な高さと言う指摘には反論しようもないのだが。
「おーい! わたしたちのドロドロ昼ドラ劇は楽しんでもらえたかなー!」
「なかなか良かったよー! 女優の才能あるんじゃない?」
「ほんとー?」
 でもなんかちょっと遠くない? そう言われるとやりすぎたかもー。そんなやりとりの後、がっちゃんがっちゃんとパンセが足場の高さを調整し始める。そして、この雑談としか言いようのない会話の後ろでは――。

「私は飛んでいけるけど、めりるちゃんをこんなガスまみれの所に置いてく訳にはいかないなぁ……」
 苺はチラリと連れている猫に視線を遣る。
「ロイねぇ! おねがい!」
「アタシを使う気!? 毛並みがぐしゃぐしゃになるじゃない!」
「んー、じゃあデブ猫ちゃんまっしぐらだね」
 そうして拒否する使い魔に、的確な指摘を入れてやる。
「う、ぐぬぬ、言うじゃない……分かったわよ! やればいいんでしょ!!」
「そうこなくっちゃ♪」
 というわけで、話はまとまったようだ。

「ねーねー、そろそろ眠くなったりしてない?」
「えっ、そんなことは……」
 ない、と返そうとしたメリルだが、そこで催眠ガス混じりの蒸気が濃くなってきていることに気付く。
「苺ちゃんロイちゃん、なるべくガスを吸い込まないように気をつけ……て?!」
 そうして振り向いたそこには、苺のユーベルコードによって巨大化した使い魔の姿があった。
「か、かわいい……」
「さ、めりるちゃん乗って!」
「え、乗っていいの? お邪魔します!」
 しょーがないわねー、みたいな顔をしている猫の背に跨れば、ロイはその身軽さを活かして、一気に敵に向かって加速する。
「わっ、さすがの身のこなし!」
「ふふ! さっすがロイねぇ!」
 歓声を上げる二人に、自慢げな表情を浮かべつつ、距離を詰めて――。
「えー、ちょっと待ってそんなの聞いてないんだけど!」
 それに対し、パンセは魔導書を広げて、呼び出した霊魂を流星の如く突進させる。ついで高い足場から舞台上の梁へ、それからまた上昇させたあらたな足場へと、仕掛けと構造を活かして迫る彼女等から逃れていく。
「めりるちゃん!」
「まかせて!」
 身を躱しても追尾してくる霊魂達を、メリルが弓矢で迎撃、空中で相殺する。その間にも、ロイはパンセの足取りをなぞるようにして追走。ついにはその背に追いついた。
「人体改造なんてしなくたって、みんなの演劇とっても楽しかったでしょ? まだ未遂みたいだけど……だめだよ、勝手に眠らせるなんて」
 お仕置きです、と口にして、メリルはしっかりと弓を引く。
「今がチャンス! やっちゃえダーリン!」
「劇の最後は派手に決めないとね! いくよ、ハニー!」
「わーん! さっきまでドロドロの昼ドラしてたくせにー!」
 パンセの目の前に着地すると同時に、素早く狙いを定めたメリルが矢を放つ。『牡羊座流星群』、放たれた一本に付随する数多の光の矢が降り注ぎ、オブリビオンを次々と射抜いていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

神蛇・ツバキ
さて、っと…!
パンセ!何色にする?
俺は情報の「赤」!!
【指定UC】巨大ブラシを手に塗料をぶちまける。当たればオッケー、外れても全然オッケー!どんどんいくぜ!
頭で考える戦法なんてない
こういうのは感覚でやるもんだろ?
迷彩ダイナミックにドカン!って

【コミュ力】でパンセと会話しながら戦闘
パンセもどんどん来いよな!
ランダムに色んな色がある方が楽しいし!
それに、落とした事許してねぇーからな!アハハッ!

(って、向こうはコレ使うと命削るんだっけ?命削ったら消えんのか?コイツ)
(なら、消える前に一つ落書きしてやるか!)
おい、こっち向け
もっと顔!

小さい筆に持ち替えてパンセのほっぺに大きな花丸を書く

次はこうなれよ!



●彩色
 舞台上に生じた穴から這い上がって、ツバキは高みから見下ろす敵へと視線を返す。過剰なまでの舞台演出も、霊魂達が歌い上げる荘厳なBGMも、彼は構うことなく声を張り上げた。
「パンセ! 何色にする? 俺は……!」
 心の奥から溢れ出る色を選び取り、巨大ブラシに乗せて放つ。そうしてぶちまけられた塗料は、身を躱したパンセの元居た場所を、真っ赤に染め上げた。
「あーっ!?」
 舞台仕掛けでせり上がった次の足場に移りながら、パンセが悲鳴を上げる。ツバキの攻撃は彼女自身には命中していない、が。
「ちょっと! ボクの劇場を何だと思ってるの!」
「んん? 何だよ細かいことは気にすんなって!」
 そもそもパンセに所有権を主張する道理はないのだし。どんどんいくぜ、と意気込むままに、ツバキは敵へと追撃をかける。
「もー! 赤はボクの趣味じゃないの!」
 それに対し、パンセは手にした魔導書を開き、彼の前へと鏡を展開する。映し出されたその姿のままに、彼女の放つ霊魂の一つが形を変えて――。
「お、俺の姿に……?」
「どうせならそうね、夜空の星が映えるような、深い青を!」
 パンセの意思に従って、ツバキを模した霊魂は同じ技――『グラフィティスプラッシュ』で反撃を始める。ツバキの身体ごと、赤く染まった地形を塗り返して。
「どう? 舞台に合わせた色使いならこの方が――」
「なるほどな! 良いぜ、どんどん来い! ランダムに色んな色がある方が楽しいし!」
「あっ、全然わかってない!」
 互いの巨大ブラシが行き交い、敵自身を、そして地形をそれぞれの色に染め合っていく。
「こういうのは感覚でやるもんだよな。迷彩ダイナミックにドカン! って」
 相手との力量差を考えれば、同じ技をぶつけ合う以上ツバキの苦戦は免れない。だが、あの敵の動きをコピーするタイプのUCも、消耗が激しいはずだ。オブリビオンで、なおかつミレナリィドールという素性の彼女に、寿命の概念は通用しないのかも知れないが……。
「今だ!」
 その消耗の隙を突く形で、ツバキはブラシの裏から小筆を振るう。
「――次はこうなれよ!」
 そんな願いを込めて、パンセの頬に、大きく花丸を描いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

南雲・海莉
UCで風の魔力を纏い、防御力を上げるわ
剣に纏わせた風で花弁を受け、吹き飛ばす

「演劇とは夢を魅せる場所
希望も絶望も愛も哀しみも喜びも、観客の胸に灯すためにある」
霊魂達に負けぬように謳うように声を張り上げ
振り切る刀も演舞のように
自分のペースに相手を巻き込む
「演者や演出家だけの夢など、舞台を蝕む虚無でしかない」
ダンスのような足運びにフェイントを混ぜ、間合いに入る
「観客の夢見る意志、決して奪わせない」

脳裏に過ぎるは義兄の姿
彼が説いた役者の心得を忘れはしない
裡に秘めた希死念慮や内罰的思考もまた

ゆう…義兄さん
心から溢れる血を拭い声を紡ぐ一人の少年の姿こそ、今の私を導く灯
彼の愛したものを穢させはしない!



●灯火
 現れたオブリビオン、『冥想のパンセ』を前にして、海莉は携えた剣に風を纏わせる。舞台上を漂う蒸気がそれにつれて、彼女を中心にゆっくりと渦を描き始めた。
「いいねいいね! ボクの魔法とぶつけると、舞台映えしそうだよ!」
 それを見て、喜色を浮かべたパンセは魔導書を開き、対抗するように花の嵐を展開、舞い散る幻影の花弁を海莉へと向ける。海莉を包む風は迫りくるそれを迎え撃ち、逆巻き乱れる気流の中を、光り輝く花びらが踊る。色鮮やかな光景は、しかし海莉にとってはそう楽しめるものでもない。防御しきれなかった花弁は彼女を苛み、確実にその体力を削っていく。
「ほら、やっぱりとっても綺麗! 夢みたいな光景じゃない?」
「勝手な事を……」
 ただただ目の前の光景に笑う相手の様子に、海莉は静かに目を細める。そうして、その身を刻む花の嵐を吹き払うように、霊魂達の歌声に負けぬように、強く風を呼び、声を張り上げた。
「演劇とは夢を魅せる場所。希望も絶望も愛も哀しみも喜びも、観客の胸に灯すためにある」
 朗々と謳い上げて、太刀の切っ先を演舞のように。照明を反射する刀身を踊らせ、これもまた一つの演目であるかの如く、大きな仕草で敵の方へと踏み込んだ。
「演者や演出家だけの夢など、舞台を蝕む虚無でしかない」
 ステージ上を行く足取りは、不規則なリズムを刻むダンスのように。そして振り下ろした刃で、花弁を含んだ風を切り裂き、彼女の懐にその身を滑り込ませる。
「観客の夢見る意志、決して奪わせない」
 輝く舞台の上で、海莉が思うのは、記憶の中の義兄の姿。
 彼が説いた役者の心得は、決して忘れることはないだろう。そしてその裡に秘めた、希死念慮や内罰的思考もまた。

 ゆう……義兄さん。胸の裡で彼の名を呼ぶ。
 心から溢れる血を拭い、声を紡ぐ一人の少年の姿。それこそが彼女を導く灯。舞台の上で垣間見たそれを、心の標に。
「彼の愛したものを穢させはしない!」
 決意を込めた彼女の刃は、確かにオブリビオンへと届いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ロカジ・ミナイ
【エレルA】

まさか僕の弟子に女優の才能があったとはねぇ
ってことは、師匠の僕は名優か世界的映画監督辺りに違いないよ
ああ、十雉の迫真の叫びもリアリティがあって良かったよ、うんうん

こんな立派な舞台装置があるなら
もっと派手で粋な感じに演じられたに違いない
カスカも更に輝けただろう
演出のクセに自分が立つために隠してたのかい?
やれやれ、これだから目立ちたがり屋は

…しかしまぁ、いい眺めだねぇ
…煽りアングルの美女
……

え!?霊、…何?
あはは、やめとくれよ十雉
ここにいるのはやっつけられる奴
そうだろう?そうじゃないのはいない
……よね?

まぁ、それならそれで
霊をも喰らう僕の艶花で
改造なんて外道を働く輩ごと
斬り捨てるまでよ


宵雛花・十雉
【エレルA】

いやぁ名演技だったよなぁ、オレたち
よっ、大女優に世界的映画監督
ほんとにフラれちまった気分だったぜ
ま、カスカちゃんがホントに別嬪さんなのは否定しねぇよ

おうおう、こんなド派手な演出まで隠してやがったのか
確かに自分が立つために隠してたってのは癪だけど、親玉との決戦にはお誂え向きじゃないかい?

あぁ、さっきのBGMはあの霊魂が歌ってたんだな
ああいう霊魂は平気なわけ?
ロカジさんよ

ナントカと煙は高いとこが好きって言うけど
高いとこに居る奴は撃ち落としたくなっちまうよなぁ
【八千代狩】をお見舞いしてやんよ
たーまやー!
あ、違った、はーまやー!

アンタの大好きな舞台上で華やかに散りな


朽守・カスカ
【エレルA】
嗚呼、振られたことをそう嘆くことはない
私が美しすぎることが……ん?もう演じる必要はないのか
別嬪と言われれば面映さを覚えつつ
ふふ、師匠も十雉君も素晴らしい演技で楽しかったよ

パンセ君の演出も面白かったが
観客の改造手術はいただけない
それに劇場に光る一番星の座は、この美しい私のものだ
譲る気は…いけない、役が抜けきっていないね
ああ、そうそう、高い所で得意満面になってるのもあまり良くないよ
具体的にどうとは差し控えるが…(言葉を濁しつつ師匠を見やる)

【幽かな標】
舞台に関わる者達それぞれが
より良いものを作ろうとすることで
素晴らしいものが出来上がるのだろう
全てを意のままに、というのは間違っている、さ



●星墜とし
 ふ、と星々に向けて小さく笑う。舞台上のカスカの表情には、深い自負と共に世の無情さを儚むような、静かな憂いが滲んでいた。
「届かぬと分かってはいても、人は星に手を伸ばしてしまうもの。そう、美しく在るとは、つまり――」
「えっ、まだ続いてる!? ボクの話聞いてた?」
「……ん? もう演じる必要はないのか」
 姿を現した『冥想のパンセ』の声に、カスカは小首を傾げて台詞を切る。
「いやぁ名演技だったよなぁ、オレたち」
「ああ、十雉の迫真の叫びもリアリティがあって良かったよ、うんうん」
 一方、舞台袖に引いていた十雉とロカジも、それぞれの功績を称え合っていた。
「ふふ、師匠も十雉君も素晴らしい演技で楽しかったよ」
「僕にかかればこれくらいはね。……でもまさか、僕の弟子に女優の才能があったとはねぇ」
 そうすると、師匠である僕は名優か世界的映画監督辺りに違いないよ。そう嘯くロカジに、十雉が「よっ、大女優に世界的映画監督」などと軽口を叩く。
「確かに良い演技だったよ。ほんとにフラれちまった気分だったぜ」
「嗚呼、振られたことをそう嘆くことはない。私が美しすぎることが……」
「そうそうその感じ……ま、カスカちゃんがホントに別嬪さんなのは否定しねぇよ」
 改めてそう言われると面映ゆいもの、照れ隠しに何か、と口を開こうとしたカスカを、舞台上に轟く雷鳴が遮った。
「ちょっとー! そういう微笑ましい感じは舞台を下りてからやってもらえるー!?」
 ていうか話を聞け。舞台装置で遥か高みから見下ろしながらパンセが言う。轟く雷鳴に続き、いくつものスポットライトが彼女を照らして――。
「おうおう、こんなド派手な演出まで出来たのかよ」
「こんな立派な舞台装置があるなら、カスカももっと派手で粋な感じに演じられたろうに……演出のクセに自分が立つために隠してたのかい?」
「は!? 違うけど? あそこは他とのバランスも鑑みてあれが最適で――」
「またまたぁ、これだから目立ちたがり屋は」
「ちがーうっ!!」
 ロカジのからかうような言動に、高く昇った足場の上で、パンセが地団駄を踏む。
「確かに自分が立つために隠してたってのは癪だけど、親玉との決戦にはお誂え向きじゃないかい?」
「そうかも知れないね。面白い演出ではあるけれど……やっぱり観客の改造手術はいただけないよ」
 十雉の言葉に頷いて、カスカはしっかりと敵の姿を見据えた。
「それに劇場に光る一番星の座は、この美しい私のものだ。譲る気は……」
 あれ、そういう勝負だったっけ。まださっきの演技が抜け切ってないなとカスカは頭を横に振るが。
「はーっ!! 生意気!! いいよ、じゃあボクとキミのどっちが高みに相応しいか教えてあげる!!!」
 地響きのような軋みを上げて、カスカの足場も上昇を始める。あっという間に上層に運ばれた彼女は、パンセと同じ視線の高さに至った。
「……ああ、そうそうパンセ君。高い所で得意満面になってるのもあまり良くないよ」
「なに、ボクに頭を低くしてろって言うの!?」
「いや、そうじゃなくてだね……」
 怒りのボルテージを上げている彼女から目を逸らし、カスカはちらと下方へ視線を送る。そこには、彼女の師匠の姿があって。
「しかしまぁ、いい眺めだねぇ」
「やっぱり……」
「カスカ、今何か言ったかい?」
「ああ……何でもないんだ。とりあえずそれ以上そっちに行かないでくれるかな?」
 何とは言わないが絶妙な立ち位置を探している彼を制止しながら、カスカは敵の方へと向き直った。
「さあ、どっちが一番星に相応しいか、教えてあげる!」
 魔本を開いたパンセに従い、荘厳なBGMを歌い上げていた霊魂達がひゅるりと飛んで、流星の如く彼女を狙う。一方のカスカは、舞台装置の上から舞台上層の梁へと跳び移る。手にしたランプに火を入れれば、その微かな灯は彼女を導くように小さく揺れた、
「流れ星かい、綺麗なものだね」
 こっちに飛んでこなければなお良いのだけど、そう呟きながら、カスカは光の差す方へ、狭い足場をどうにか駆使して敵の攻撃を躱していく。その間に、下方では――。
「カスカが良い具合に引き付けてくれているね。僕達は今の内に――」
「ああ、でもロカジさんよ、ああいう霊魂は平気なわけ?」
「え!?」
 十雉の指差す『流星』、唄い飛び交う霊魂達を認識して、ロカジが言葉に詰まる。考えようによっては、あれもお化けには変わりない。そう、考えようによっては。
「あはは、やめとくれよ十雉。ここにいるのはやっつけられる奴だけさ」
「そうか? それなら良いんだが……」
「ああ、そうだとも。そうだよね? いや、そうに決まっているよ」
 誰にともなくそう言い聞かせながら、ロカジは震えかけている手を抑えるようにしながら太刀を抜いた。
 そして再度、上方では。
「舞台に関わる者達それぞれがより良いものを作ろうとすることで、素晴らしいものが出来上がるのだろう」
 迫り来る流星を躱したカスカが、演出家を気取るパンセへとそう語り掛けていた。
「全てを意のままに、というのは間違っている、さ」
「間違ってなんかいない! ボクの言う通りにしていれば――」
「ああ、残念。高いとこに居る奴は撃ち落としたくなっちまうよなぁ」
 偉そうなやつはなおさらだよ。そう彼女の言葉を遮って、十雉の放った紙飛行機がパンセに命中、破魔矢へと形を変えて突き刺さる。
「痛ったい! 邪魔しないで!!」
 悲鳴を上げたパンセの魔導書に力が籠められ、そこから霊魂に続いて花弁の嵐が吹き荒れる。広範囲を無差別に掻き乱す幻の花は、回避することも難しく、カスカも含めた三人をまとめて包み込んでしまう、が。
「あ、あれ?」
 足元が傾いで、パンセが姿勢を崩す。
 花弁の中を突き進み、振るわれた紫電を伴う刃が、彼女の足場を支える柱を両断していた。成す術もなく落下した彼女の元へ、ロカジは悠々と歩み寄る。
「改造なんて外道を働く輩は――」
 霊をも喰らう艶花で――いや、あれが霊だとかは考えない方向で。とにかく、そう。斬り捨てるまで。
 そうして振り下ろされた刃が、オブリビオンの身体を斬り裂いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ヨシュカ・グナイゼナウ
【エレルB】
ううん、流石伝説のジャーキー…
あれ、もう終わりですか?うん、少し残念です

え、へへ!舞台に立つなんて初めての事でしたけど…!
ふふ!なんだかとっても楽しかったですねえ

賢い君がそう言うなら間違いないのです、我々の方がスゴイ
ね、アイネにい…間違えた。アイネさま!

はい、はい!わたしも歌います!(音痴)
らー(↑)るー(↓)らー(↗︎→↓)
差し詰め第二幕はミュージカル、ですね!


ふふ!では決戦の舞台に相応しいよう黄金の【刺霧】(スモーク)を!

とうさま、かあさま!過酷な旅で一回りも二回りも成長した
兄さまとわたしをご覧ください!
なんて!なんて!(きゃっきゃ)


エンジ・カラカ
【エレルB】

オー、ムスコタチヨー。
アァ……もう終わってた…。うんうん。
コレと賢い君とヨシュカとアイネの劇の方が良かった良かった。

賢い君と伝説のジャーキーと、ハートフルな家族たちの笑いあり涙ありの劇は
とっても、とーっても良かった!
アァ……うんうん…。賢い君もそう思うって言ってる。

薬指の傷を噛み切って君には本当の食事を与えよう。
アイツよりスゴイってコトを教えるンだ。

コッチも歌える歌える。
ラーラーラー、ラーラーラー

ヨシュカとアイネも歌う?歌う?
劇の続きする?
アレは伝説のジャーキーを奪った悪いヤツだ!
アイツを倒すぞー!パパとママに付いて来なさい!

……ってのはダメ?ダメ?
オーケー!
マーマーマー、ラーラー


アイネ・ミリオーン
【エレルB】

終わってます、終わってます、よ、ふたりとも
演技、って、した事なかったです、けれど、楽しかったです、ね

賢い君が言う、なら、きっとそう、ですね
……にいさま呼び、ちょっと照れます、けれど、何だか、ぽかぽかして、好きです、よ

ええ、歌いましょう
歌う事なら、負けません、よ
僕は、その為に居るのです
歌う為に、音を世界に広げる為、に、造られたのです、から

ふふ、素敵な舞台、で、感動のあまり、動けなくなる、かもしれません、ね
父さま、母さま、ヨシュカ、きっとこれが最後の試練です、よ
家族で乗り越え、て、一緒にお家に、帰りましょう

ちょっと楽しくなって、来ました、ね
ふふ、高揚のまま、歌いましょう、高らかに



●続・伝説のジャーキーを求めて
「どうだムスコタチヨー、これが伝説のジャーキーの味ダー」
「ううん、流石伝説……」
「そのターン終わってます、終わってます、よ、ふたりとも」
 エア伝説のジャーキーをもそもそとむさぼるエンジとヨシュカに、アイネがとりあえず演技の終了を告げる。敵を見つけ出すという目的は果たされた、というかそのオブリビオン、『冥想のパンセ』は既に舞台上の高みに居る。
「アァ……もう終わってたか……」
「うん、少し残念ですね……」
 もうやらなくてもいいとわかり、安心したような、それでも少し寂しいような表情で二人は言う。アイネの方もまた、そこには共感できる部分もあるようで。
「演技、って、した事なかったです、けれど、楽しかったです、ね」
「え、へへ! わたしも舞台に立つなんて初めての事でしたけど……!」
 とっても楽しかったですねえ、とヨシュカが嬉しそうに応じる。
「賢い君と伝説のジャーキーと、ハートフルな家族たちの笑いあり涙ありの劇は、とっても、とーっても良かった!」
「え……? そんなお話だった……?」
 エンジとはどうやら認識の違いがあるらしく、納得いかなそうにパンセが眉根を寄せる。が、そんなものを気にする彼等ではない。
「アァ……うんうん…。賢い君もそう思うって言ってる」
「賢い君が言う、なら、きっとそう、ですね」
「間違いないのです、我々の方がスゴイ! ですよね、アイネにい……ではなく、アイネさま!」
 その呼び方はちょっと照れるけれど、何だかぽかぽかする、ような。どこか満足気に頷くアイネに、今度は上から声が降ってきた。
「ちょっと! 勝手に勝ち誇られても困るんだけど!」
 彼女のやっていることも大概なのだが、とにかく自分を棚上げしたパンセの訴えに、エンジは仕方ないとばかりに薬指に歯を立てる。そうして、賢い君に本当の食事を。さあ行こう、という彼の呼びかけに応じ、赤い糸がその身を舞わせる。
「アア……アイツよりスゴイってコトを教えるンだ」
「やる気!? やる気なんだね!? だったらボクの演出した舞台の方が優れてるって教えてあげる!!」
 それに対抗したのか、パンセの操る魔導書から、霊魂達が飛び出して、決戦を控えた重厚な曲を歌い始めた。
「コッチも歌える歌える。ラーラーラー、ラーラーラー」
「なにそれ? そんなものでボクのバックバンドに対抗しようなんて……」
「ヨシュカとアイネも歌う? 歌う?」
「ええ、歌いましょう。歌う事なら、負けません、よ」
 エンジの調子外れのそれに続いて、アイネが唇から旋律を紡ぎ出す。舞台を満たす、色鮮やかな優しい音色。歌う為に、音を世界に広げる為に造られて、そのために在る――ソーシャルディーヴァたるアイネの歌声は、聞く者を心地良い酩酊にも似た感覚に引き込む程だ。
「エッ、上手……じゃなくて! このままだとマズイわちょっと待って!!」
 一瞬聞き惚れかけたところで、どうにか意識を引っ張り戻したパンセが魔導書を繰る。そうして召喚した鏡を、アイネの前へ。霊魂の一つを彼の写し身へと変えて、同じ力を持つ歌を紡がせ始めた。
「マーマーマー、ラーラー」
「はい、はい! わたしも歌います!」
 拮抗する歌声、その互角の戦いを援護するように、エンジに続き、さらにヨシュカが参戦する。
「らー(↑)るー(↓)らー(↗︎→↓)♪」
「ワッ!! コメントしづらい!!!」
 音程が独特の上下動を伴い、曰く言い難い音色に化ける。パンセは明らかに動揺しているようだが、ともかく。
「劇の続きする?」
「なるほど! 差し詰め第二幕はミュージカル、ですね!」
「本気!? キミはちょっとこう、別の手を考えた方が良くないかな!?」
「ふふ! では決戦の舞台に相応しいように――」
 楽しげに笑って、ヨシュカはその身から黄金の霧を、舞台上のスモークのように展開する。煌びやかに彩られたステージの上で、エンジが敵を真っ直ぐに指差して――。
「アレは伝説のジャーキーを奪った悪いヤツだ! アイツを倒すぞー! パパとママに付いて来なさい!」
「え!? えーっと……そうはいかない! おまえ達に伝説のジャーキーは相応しくない! 速やかに去るが良いー!!」
 応戦するようにして紡がれる呪文。パンセの魔導書から溢れ出した幻の花弁が一同を襲う。広範囲を無差別に攻撃するそれを防いだのは、先程展開されたスモーク……ヨシュカの『刺霧』だ。黄金の霧は花弁に触れたそばから鋭い刃となり、その侵攻を食い止めていく。
 その間隙を突いて、エンジの伸ばした赤い糸がパンセに絡み、さらなる追撃を無効化。そして。
「父さま、母さま、ヨシュカ、きっとこれが最後の試練です、よ」
「とうさま、かあさま! 過酷な旅で一回りも二回りも成長した、兄さまとわたしをご覧ください!」
 なんて、こういう普段全く言う機会のない台詞を口にできるのも、演劇の醍醐味だろうか。楽しげに笑うヨシュカにつられて、アイネもまた高揚のままに歌声を紡ぐ。
「さあ、家族で乗り越え、て、一緒にお家に、帰りましょう」
 家族、と。舌に乗せるだけで妙に心がくすぐられるような。その感覚に合わせて、アイネの歌は写し身のそれを僅かに、凌いだ。
「え、ちょっと……ねむ……」
 動きの鈍ったそこ、せり上がった高い足場の上へ、ヨシュカ素早く駆け上がり――刃が一閃。
 伝説のジャーキーは、彼等一家のもとへ、見事奪還されたのだろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ジャック・スペード
エドガー(f21503)と
ああ、本格的な演出で少し驚いたが
気を取り直して――戦闘へ移行しよう

名演出だったな、監督
舞台成功の祝いに花をくれて遣ろう
薔薇妃の恩寵、其の身で受け止めると良い

リボルバーから銀の弾丸を放ち
着弾地から伸び往く蔦薔薇でパンセを戒める

飛び交う花の幻影は展開したシールドで防御
エドガーが力を貯めている間は
この身を彼の盾としようか
芝居の中では守られて仕舞ったからな
次は俺が、あんたを庇う番だ

時が来れば、駆けるエドガーを援護射撃で支援
喝采の代わりに闇を纏う弾丸の雨を降らせ
花の幻影を撃ち抜いて行きたい

……別に、気にすることは無い
それが俺の役割だからな
だが、先ほどの台詞は覚えておこう


エドガー・ブライトマン
ジャック君(f16475)と
いやあ、まだ浮いているような感覚があるな……ビックリしたよ
さて、ココからはジャック君と生き返った私が相手

ごきげんよう、パンセ君
私たちは通りすがりの名俳優さ!

舞台監督に花を贈るなんて、ジャック君は気が利くなあ
実際のトコロ、演技ってヤツは楽しかったよ
私の贈り物は少々時間が掛かるんだ。待ちたまえよ

ジャック君が蔦薔薇やシールドで抑えてくれている間に
“Hの叡智” 攻撃力を重視しよう
《早業》でパンセ君へ間合いを詰めて
《捨て身の一撃》の勢いで彼女へ
私からの贈り物は、この剣技さ!受け取ってね

作戦とはいえ、庇わせて悪かったよ
先ほどのアレは演技だったけれど
台詞はちゃんと、私の本心なのさ



●その身を呈して
「いやあ、まだ浮いているような感覚があるな……ビックリしたよ」
「ああ、本格的な演出だったな」
 さすがに空中浮遊を始めた時はびっくりした。ようやく降りてきたエドガーの言葉に、ジャックがそう頷く。先程劇的に死んだエドガーと、似たような方向性で高く昇った『舞台監督』へ、二人は共に迎撃の構えを取った。
「さて、ココからはジャック君と生き返った私が相手だ」
「本当? そのまま寝ていてくれても良かったけど」
「そうもいかないさ、ちゃんと挨拶はしたいからね」
 こちらを見下ろす敵――冥想のパンセへ、飽くまで紳士的に彼等は言う。
「ごきげんよう、パンセ君。私たちは通りすがりの名俳優さ!」
「名演出だったな、監督。舞台成功の祝いに花をくれて遣ろう」
「えっ、本当? 困ったなー、照れちゃうなー」
 調子に乗って照れ笑いを浮かべる彼女へ、ジャックは申し出の通り、銀の拳銃をそちらへ向けて。
「ああ、薔薇妃の恩寵、其の身で受け止めると良い」
 舞台の幕引きに相応しい銘の、その銃口から、放たれた弾丸がパンセの足元を穿つ。
「へ!?」
 それだけでは当然終わらず、銀の弾丸から即座に芽吹いた紅の蔦薔薇が、目を丸くしたパンセを絡め取るように伸び出した。
「ち、ちょっとなにこれ!? 要らないから仕舞ってくれる!?」
 痛たたた、と悲鳴を上げながら、高みの足場からパンセが逃れる。空中に踏み出したその身を受け止めるように、床板が新しくせり上がっていき――。
「遠慮はしなくて良い」
「労いのために花を贈るなんて、ジャック君は気が利くなあ」
 蔦薔薇を振り払うべく走るパンセの後を追って、銀の拳銃が次々と咆哮を上げる。その間に、エドガーは細剣を手に、敵を見据えて。
「私の贈り物は少々時間が掛かるんだ。待ちたまえよ――」
「もーっ、ボクのステージが薔薇まみれになっちゃうでしょ!!」
 しかし彼の準備が整う前に、パンセの魔導書からその力が溢れ出る。薔薇を超える勢いで、激しく舞い散る花吹雪が、彼女を中心に舞台の上を吹き荒れ始めた。
「悪くないと思うんだがな、薔薇で満ちた舞台も」
「そうだよねえ」
 敵の反撃を前に、ジャックはその巨体を風除けとするように、エドガーの前に立つ。僅かずつながら反撃の銃弾で花の幻影を相殺し、シールドを展開して向かい来る嵐を受け止める。
 そう、先程演じた芝居の上とは、役割が逆だけれど。
「ジャック君――」
「次は俺が、あんたを庇う番だ」
 この方がジャックにとってはしっくり来るのかも知れない。
「何故私なんかを庇った……とか言った方が良いかい?」
「……やめてくれ」
「まあ、そうだよねえ」
 そうして、彼のおかげで準備は整ったと、エドガーが前へと踏み出した。『Hの叡智』をその身に、素早く駆けた彼は、蔦薔薇から逃れるあまり、かなり地表近くまで下りて来ていたパンセへ迫る。一方のジャックも素早く銃弾を再装填し、連続射撃でエドガーの行く手を開いた。
「待たせたねパンセ君。私からの贈り物は、この剣技さ!」
「え!? それはあんまり要らない!!」
「そう言わないでくれたまえ!」
 ジャックの銃弾を以てしても、抑えきれなかった花の嵐の内側へ、その身を無理矢理割り込ませるようにしてエドガーが踏み込む。捨て身の一歩、そしてそこから放たれる一太刀は、過たず敵の身を貫いた。

「作戦とはいえ、庇わせて悪かったよ」
「別に、気にすることは無い。それが俺の役割だからな」
 敵を退け、武器を仕舞いながら、二人はそう言葉を交わす。舞台を一度振り返れば、自然と思い出されるのは、演じていた『戦場での離別』についてだろうか。
「そうかい? でもね――先ほどのアレは演技だったけれど、詞はちゃんと、私の本心なのさ」
「……覚えておこう」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

御園・ゆず
ふふふっ、ご機嫌よう、演出家さん?
わたしにも演出をつけてくださいますか?

ほっぷ、すてっぷでパンセさんへ近付きます
ほら、手取り足取りお願いしますね?

腰後ろのホルスターからFN Five-seveNを抜いて撃ち込みます
台本ではわたしはここで倒れますが……
まだ粘って踊る方が盛り上がると思うんです
演出的にどうでしょう?

……では、わたしはそろそろ退場しますね
あとは、『あたし』の出番なので
ごっちゃごちゃになった芝居は、機械仕掛けの神様に丸投げです

さようなら、パンセさん
舞台に立てて、とっても楽しかったです!



●デウス・エクス・マキナ
「ふふふっ、ご機嫌よう、演出家さん?」
 現れたオブリビオン、『冥想のパンセ』に向かって、ゆずはそう笑いかけて、歩み寄る。
「わたしにも演出をつけてくださいますか?」
「ワッ、歓迎だよ『王子様』! キミは演技がとっても上手だから、ボクもやりがいがあるなぁ!」
 立場を踏まえ、友好的に近付いた彼女を、パンセの方もまた足場を下ろして迎え入れた。ふわりと舞台袖に浮かんだ霊魂達が、先程までの重厚な曲から一変して、軋むような緊迫した音色を奏で出す。
 油断……ではないのだろう。この後の行動を予見されていることを感じながら、ゆずはそれでも予定通りに動いた。
「ほら、手取り足取りお願いしますね?」
 腰の後ろのホルスターから自動拳銃を引き抜き、発砲。牙を剥いた5.7mm弾は、しかしパンセの呼び出した霊魂達に受け止められる。
「そうそう、やっぱり良い感じ! それじゃあそこでターンしてみて!」
 喜んだ様子のパンセが本を閉じると、その勢いで噴き出た花弁が、ゆずの居た場所を一撫でする。それをまともに喰らった際のダメージを、下げた髪の先で感じながら、ゆずはそのまま至近距離でオブリビオンへと挑みかかった。
 跳ね上がった床板が銃弾を防いで、ステップを踏むたび足場が狭められる。後ろで合唱している霊魂達は、ゆずが追い詰められるほどに声量を増しているようで。
「台本では、わたしはここで倒れますが……」
 ついには逃げ場を失ったと感じて、ゆずがそう申し出る。
「まだ粘って踊る方が盛り上がると思うんです。演出的にどうでしょう?」
「そうだね、でも、できるかな?」
 などと笑って返しながら、パンセが魔導書を開く。今度は全方位に噴き出た花吹雪が、避ける暇もなくゆずに襲い掛かり――視界を埋めるほどの花弁の中、最後まで爪を突き立てようとしながらも、あえなく彼女は膝を付く。
「……では、わたしはそろそろ退場しますね」
「はーい、おつかれさま!」
 とさ、と床に倒れる軽い音を最後に、舞台は暗転し――。

「ご機嫌よう、演出家さん!」
「……へ?」
「今度は、『あたし』と踊ってくれるかな?」
 ゆず自身が倒れてなお、紡がれるのは『道化芝居』。ゆずと同じ姿の、けれどどこか決定的に違う『彼女』は、忍ばせたプッシュダガーを、拳銃を、全て駆使して敵へと仕掛ける。演出は最早追い付かず、奇襲に近いはじまり方も相まって、『ゆず』は速やかにパンセを追い詰めた。
「勝ったと思ったのにー!?」
「さようなら、パンセさん」
 踊るあたしと、伏したわたしが同時に言う。さて、最後の言葉は、果たしてどちらが口にしたのか。

「舞台に立てて、とっても楽しかったです!」


●幕引き
 おかしいな、こんなはずじゃなかったのに。
 舞台の上の大宝石を見上げながら、倒れた床の冷たさを思う。
 災魔の卵でここを自分のものにして、たくさんの人形を作って、劇団を作るはずだったのに。
 一番星になれなかった彼女は、ついにはそこで力尽きて、骸の海へと還っていく。災魔の卵も消え去って、この蒸気魔導劇場は、ようやく平穏を取り戻した。
「助けていただいて、ありがとうございました」
 猟兵達に協力していた、劇団員のミレナリィドール達がそう頭を下げる。寝入ってしまっていた観客も、関係者たちも、じきに目覚めてくるだろう。

 こうして猟兵達の活躍により、猟書家の侵攻はまた一つ挫かれた。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年12月22日


挿絵イラスト