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剣客乙女流離譚

#サムライエンパイア #猟書家の侵攻 #猟書家 #真田神十郎 #剣豪 #上杉謙信 #魔軍転生

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●剣客乙女、敗走中
 峠の坂道を、武者が一人駆け抜けていく。
 ただの武者ではない。女だ。長い黒髪を翻し、坂道を爆走しながら下っていく。
 「うっぐ……ぐぐ、おのれ、不覚っ……!」
 女武者は唇を噛みしめる。背後から聞こえてくるのは、木と鉄で出来た絡繰がたてるがしゃんがしゃんという耳障りな駆動音。
 彼女は逃げていた。逃げるしかなかった。剣豪と名高い彼女のその力を、退却にのみ使う他ないことに悔しさを感じざるを得ない。
 されど、戦うわけにはいかなかったのである。
 追いかけてくる絡繰を斬ることは、彼女にならば出来る。
 しかしなにぶん、忍たちは数が多い。多かった。多すぎた。一体一体斬り捨てていくには、時間がかかりすぎる。
 峠の道中には茶屋がある。老爺と若い孫娘が営んでいる。辛い峠越えの途中の人々が疲れを癒やすために立ち寄り、賑わっているのを彼女は知っている。
 心なきからくりの忍どもは、そんな罪もない人々を花を手折るより容易く虐殺していくだろう。
 故に彼女は、あの男を見たときから。
 絡繰の忍どもを引き連れた、六文銭を刻んだ赤き甲冑の武者と対峙した瞬間から、敗走に転じるしかなかったのである――。

●グリモアベース、作戦開始
「皆様におかれましては、猟書家の事はもはやご存知でございましょうが――此の度サムライエンパイアにて、幹部の動きを予知いたしました」
 フェイト・ブラッドレイ(DOUBLE-DEAL・f10872)は、自らの呼びかけに集まった猟兵たちに礼を述べた後、そう切り出した。
 猟書家。すでにオブリビオンフォーミュラが倒され、これから平和が訪れようとしている世界へと散り、各々の目的のために動こうとしているオウガ・フォーミュラたちと、その幹部たち。猟書家の幹部たちはそれぞれの世界で活動しながら、数を増やそうとしているようであるが――。
「今回予知によって捕捉されたのはサムライエンパイア、猟書家幹部の「真田神十郎」。彼はハロウィンの夜の予兆でその姿を目にした方も多いでしょう。彼は「クルセイダー」を主君と定め、彼の目論む「江戸幕府の転覆」を実現するために、行動しております」
 猟書家、サムライエンパイアのオウガ・フォーミュラ「クルセイダー」。彼の秘術「超・魔軍転生」――かつて織田信長の用いていた「魔軍転生」の強化版ともいえるその力は、エンパイアウォーで倒した魔軍将の魂を「大量に複製して召喚し、猟書家幹部の配下全員に「憑装」……装備として憑依させることが可能であるらしい。
 これにより、真田神十郎はかつて織田信長の魔軍将であり、そしてその実態を猟書家であったとも予兆にて示されている「上杉謙信」を己の忠実な家臣団たちに「憑装」し、彼らを率いて新たな配下を探して進軍しているのだという。
「真田神十郎、彼の目的は「優秀な剣豪の命」です。剣豪を殺し、オブリビオンとして蘇らせるとで、己の配下として蘇らせようとしているのですが……今回予知にてひとりの剣豪を狙うことが判明いたしました」
 その剣豪の名は、竜胆。武者修行として諸国を旅していた女武者である。
「彼女を追う真田の家臣団は「からくり忍者軍団」。その名の通り、絡繰にて構成された真田の忍隊でございます。彼らは軍神と名高い上杉謙信を憑装された為か軍略に優れており、彼女を峠の山道の途中という非常に戦いにくい場所に追い込んでおります。そして、戦いにくいのは我々も同様。転移にて彼女のすぐそばに移動することは出来ますが、忍たちは山道の上から下からと攻め込んで参ります。この挟撃されている状態、何らかの策を講じなければ突破することは難しいでしょう」
 絡繰の忍たちをある程度退ければ、主である真田神十郎が自ら現れるだろうと少年は言った。
「彼、真田神十郎は憑装してはおりません。何でも猟書家としての力が制限されてしまうのだとかで――これは、こちらにとっては非常に好都合なことです。彼を倒せば……残った家臣団は速やかに撤退し、また別の真田の元へと合流するようですが、一先ず竜胆さんの無事は確保されます」
 女武者・竜胆も決して弱いわけではない。殺してオブリビオンとして蘇らせようという策略の標的に選ばれる程度には強者である。しかし彼女は、峠の山道にある茶屋の人々を戦いに巻き込まぬため、敗走に甘んじている最中であるという。
「ですが、相手は疲れを知らぬ絡繰。永遠に逃げ続けることはかないません。それでも今から向かったならば、彼女が疲弊しきる前に助けに行くことが可能です。そして、彼女とともに戦うこともできるでしょう」
 女武者竜胆を助け、守りながら、軍略に長けているからくりの忍者たちを撃破し、そして彼らを率いている猟書家・真田神十郎を倒してほしいのだ、と。
「現場への転移は僕が承ります。準備の整われた方から、僕にお声掛け下さいませ――」
 緑色の右目を瞬かせ、少年はにっこりと微笑んだ。


遊津
 遊津です。
 サムライエンパイアでの猟書家シナリオをお届けします。
 一章集団戦、二章ボス戦の二章構成となっております。

 このシナリオには第一章・第二章共通して以下のプレイングボーナスが発生します。
 ※剣豪・竜胆を守る(本人もそれなりに戦うことはできます)。

 「戦場」
 峠の山道です。道幅はあまり広くなく、三人ほどが横に並ぶのでギリギリです。足場はしっかりとしていますが、行き過ぎると落下してしまいます。
 道は山を螺旋状に通っており、敵は上から飛び降りて山道の下からも追いかけてきています。空中を飛んだり歩いたりする事が可能ならば、落下する心配なく移動や戦闘も可能でしょう。
 人々が近づいてくることはなく、邪魔をしてきたり保護する必要などはありません。冒頭にて語られた峠の茶屋は戦場からは離れているため、安心して戦うことが可能です。

 剣豪「竜胆」
 齢十八の女武者、剣客乙女です。武者修行のためにサムライエンパイアを旅して回っていました。
 敵に命を狙われており、人々を戦いに巻き込まないために山道を全力疾走で逃げている最中です。
 走り続けた為に疲労困憊状態のため、猟兵が駆けつけてすぐの間は休む時間が必要ですが、十分に休むことが出来れば、刀とユーベルコード「剣刃一閃」相当の攻撃を用いて戦うことも可能です。

 集団的「からくり忍者軍団」
 その名の通りの絡繰で出来た真田神十郎の配下である忍隊です。
 ユーベルコード以外にも、苦無や忍者刀などの忍らしい武器で攻撃してくることがあります。
 猟書家幹部「真田神十郎」によって「魔軍将・上杉謙信」を憑装されており、軍略に優れています。
 彼らは絡繰かつ忍であるため、狭い山道を巧みに上下から挟撃してきており、策を講じなければ攻略することは難しいでしょう。

 「真田神十郎」
 剣客乙女竜胆を追って現れた猟書家幹部です。
 詳細は第二章追記にてご説明いたします。

 プレイングの受付開始時間は12/11(金)午前8:31~となります。
 注意事項がございますので、プレイングを送信下さる前に一度マスターページを一読下さいますようお願いいたします。

 それでは、皆様のプレイングをお待ちしております。
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第1章 集団戦 『からくり忍者軍団』

POW   :    からくり・自己犠牲術
【死角から超高速で接近し、忍刀】による素早い一撃を放つ。また、【壊れたパーツを破棄する】等で身軽になれば、更に加速する。
SPD   :    からくり・自己複製術
完全な脱力状態でユーベルコードを受けると、それを無効化して【からくり忍者】から排出する。失敗すると被害は2倍。
WIZ   :    からくり・麻痺拘束術
【麻痺毒の煙幕爆弾】が命中した対象を爆破し、更に互いを【鎖】で繋ぐ。

イラスト:なかみね

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

地籠・陵也
【アドリブ連携歓迎】
そんな優しい人なら、尚更護らないといけない。
……が、忍者か。
素早い相手はなかなか手ごわい、ここは相手の策にハマったとみせかけた方がいい気がするな。

とりあえずまずは彼女を助けに行かないと。
【オーラ防御】と【結界術】を予めしておいてから割って入るぞ。
彼女に向かってくる攻撃を【かばう】時に【武器受け】する。
その時に【高速詠唱】で結界術を竜胆にかけつつ、相手のUCで鎖で繋がれたら【拠点防御】の応用で位置を維持し、【カウンター】で【指定UC】だ。
からくりは冷気に弱いと思ったんだがどうだろう。

動きが止まったら【高速詠唱】と氷の【属性攻撃】で関節等の動きに関係する所を【部位破壊】しよう。



●白き龍の静かなる咆哮
 山道を、女武者が駆け下りていく。背後から絶え間なく聞こえてくる、がしゃり、がしゃりと絡繰忍の立てる音。
「――はっ、はっ、はぁっ……」
 ぜぇぜぇ、息が荒い。喉の奥からこみ上げる唾の粘度がどろりと高くなる。冷たい冬の山の空気、吐き出す息が白くけぶる。逃げて、逃げて、逃げ続けた彼女の目の前に現れたのは――。
「……!」
 山道の下から登ってくるのは、背後にせまるのと同じ木と鉄の絡繰の忍。ああ、そんな、どうして、ここまで逃げてきたのに。女武者、竜胆の胸に絶望がよぎる。がくりと脚から力が抜け、へたりとその場に座り込みそうなその寸前、ぎりぎりの胆力でもって堪える。
 けれど立ち止まったその足を、絡繰の忍は見逃しはしない。無骨な手に握られた忍刀が彼女の目の前に翳される。咄嗟に腰に手をやる、けれど刃が振り下ろされる方が速い――。
 がきぃん、竜胆の目の前に広がったのは透明な盾、否、刃を受け止めた透明な氷。空気中に白く描かれた、複雑な紋様……魔法陣。
「……あんたは、優しい人だ」
 魔法陣を展開させた地籠・陵也(心壊無穢の白き竜・f27047)が、竜胆の身体に身体保護のための結界術をかけながら、忍の前に出る。
「わ、たしは……」
「戦えない人々を庇って。そのためにこんな戦いにくい場所へ降りてきて。……だから。そんな優しい人は、尚更……護らないといけないと、思ったんだ」
「私は、護られぬともっ……」
 戦える、と言おうとした喉が咳で詰まる。全力で走り続けた代償は確実に彼女の体力を削り取っている。
「……無理しないでくれ。あんたが休める時間を、俺が作るから。その間だけでも、体を休めていてくれないか」
 その静かな口調に、知らず竜胆は頷いていた。はらり、黒髪が揺れる。
陵也は竜胆を守るようにして、更に一歩前に出た。既に防護の術は自らの身体に施してある。
――道幅が狭いということは、敵も数だのみでの攻撃を仕掛けては来られないということ。
それぞれが忍者刀、苦無といった忍器を手に、自然、素早いものから襲いかかってくる形になる。矢継ぎ早に繰り出される攻撃を、陵也は続けざまに魔法陣を展開させ、氷で作った即席の盾で受け止めてゆく。
(……っ……忍者というだけあって……!!)
 一体一体が素早い。そして、ばらばらに動いているようでそれぞれの連携が取れている。
その手強さに内心で舌を巻きながら、陵也は次々と術式を展開させ、魔法陣を描き出していく。
その攻防に割って入る様に、後方から紙で包まれた小さな手毬のようなものが投げ込まれる。そう思ったときには包みはぱんと爆ぜ、陵也の目の前に真っ白な煙幕が広がった。
(これは、毒……か!)
「――息を止めろ!!」
 竜胆に向けて陵也は叫ぶ。そして己も息を止めるが、叫ぶために息を吸い込んだ分だけ、僅かに毒の粉塵を吸い込んでしまっていた。ぴりぴりと指先の先端が痺れる。氷の盾を掻い潜った刃が、陵也の手を、腕を斬り裂いていく。いつの間にか陵也の左手首に嵌っていた枷の先に続いた鎖は、後方の忍とつながっているようで。じりじりと鎖を引かれ、背後に守る竜胆との距離を離されていく――否、このまま振り回されれば、落下も危うい。
(こう、なれば……!!)
 竜胆を中心とした円を頭の中に描く、それが己が死守すべき拠点。左手の鎖を掴んで、逆に一気に引き寄せながら、陵也は一息に忍たちの群れの中に飛び込んだ。白色の魔法陣が大きく空中に幾重にも展開される。
「“術式、展開”――」
 【霧氷侵食(グレイシャルイロージョン)】。物言わぬ絡繰の忍たちは、しかしこの瞬間みな確かに白き竜の影を見、その咆哮を聞いた。
おびただしい冷気が魔法陣から吐き出される。ぴきぴき、ぱきぱきと忍たちの体を構成する鉄と鋼とが凍りついていく。更に高速で詠唱を重ねて出現させた魔法陣から、氷柱のように尖った氷が現出し発射される――それらは狙いを過たず、絡繰の関節、可動部分を凍らせ、突き刺し、破壊していく。
がらん、がら、がらん……鈍い鉄の音を響かせて、絡繰の忍どもが手足を失い山道に転がる。陵也の左手首につけられた枷も消えていた。それでもまだまだ、忍たちは上から下から迫ってくる。
「此処から先には行かせない」
 陵也は竜胆の前に立ち、更に魔法陣を展開させる。
絶対に、ここは通さない。
その決意を瞳に宿して、押し寄せる忍たちの前に立ち塞がった。冷たい風が陵也の短い髪を揺らしていく。

成功 🔵​🔵​🔴​

木々水・サライ
【灰色】

おーおー、女剣客か。良いねぇ、刀を使う者としては見過ごしちゃぁおけねえよ。
まあ、サムライとは全く違う戦い方になるけどな。

竜胆にはなるべく俺と親父の間にいてもらうようにしよう。
俺自身は竜胆の周囲を守るように、UC【無謀な千本刀の白黒人形】で刀を全て出して戦うぜ。
なるべく黒い瞳の四白眼で敵を捉えるようにして、戦闘知識を絞り出しつつ。
竜胆が戦うと言うなら、俺の知識も少し貸すとするか。

爆弾を投げ込まれたときには素早く竜胆の前に立って、シースルーコートで覆ってやる。

おい親父! アンタならこの煙幕どうにか出来んだろ!!
仮にも医者だってんならどうにかしろよ!!
……あっダメだ、スイッチ入ってるなコレ。


金宮・燦斗
【灰色】

ふむ、追われているのですか? ならば私達がお守りしますよ。
……私、あなた(サライ)より前に出たことなんてありませんけど?

サライの言うように竜胆さんの定位置は決まってます。
私はなるべく竜胆さんに近づく敵をリスティヒ・クリンゲで撃ち落とします。
あまりにも近距離なら、UC【命削る影の槍】で貫きますよ。容赦なく。
UCの発動が遅れるなら、黒鉄刀で叩き落とします。

爆弾が投げ込まれたときには素早く距離を取り、黒鉄刀の闇を撒き散らしましょう。

え? 医者は医者でも闇医者ですからねぇ、私は。
今にも死にそうなからくり忍者を、"救って"さしあげなきゃいけません。
……ねぇ? 手術、しましょうか?



●七色七振り千本刀、甘き心地に影嗤ふ
 南蛮菓子がごとく甘い香りが、竜胆の鼻を擽った。
けれど武者修行として諸国を旅してきた彼女はすぐに気がつく。その奥から嗅ぎ取れるのは闇の匂い、べったりとこびりついて落とすことの出来ない血の匂い。香り袋か、甘い香りは血臭を隠すための隠蔽に過ぎないと。からくりどもがけっして持たないその匂いに竜胆は体を固くする――しかし次の瞬間、人の血の通った暖かさが彼女の肩を抱く。
「そう警戒しねぇでも大丈夫だぜ。親父の標的はアンタじゃねぇからよ」
「……あ」
 それは木々水・サライ(《白黒人形》[モノクローム・ドール]・f28416)の腕だった。竜胆を安心させるように回された手が、ぽんと肩を叩く。
「おーおー、それにしても女剣客か。良いねぇ、刀を使う者としては見過ごしちゃぁおけねえよ」
 ま、俺のはサムライのとは全く違う戦い方になるんだけどな。
サライがすと竜胆の前に出る。彼よりも刀身の長い、黒の刃を抜き放ち――絡繰の忍から投げ放たれた苦無を叩き落とす。
「戦うなら、なるべく、俺と親父の間にいてくれ」
「無理にとはいいません、今まで追われていた分、走った分だけ……休んでいても、構いませんよ?」
 更に竜胆の背後から声がした。振り返れば、丈の長い黒い衣に身を包んだ糸目の男――金宮・燦斗(《奈落を好む医者》[Dr.アビス]・f29268)。その男こそ、濃い血の匂いを隠す甘い香りの持ち主だった。
「わ、私とて戦える……!休んでおるわけにはゆかぬ!」
「ええ、でしたら私が上の敵を。サライが下の敵を。あなたは私とサライの間に。全く、私はサライより前に出たことなんてないんですけどねぇ……」
 忍者刀を握りしめて襲いかかってきた忍に、投擲用の刃――リスティヒ・クリンゲを投げ、燦斗は口角を上げる。
「ふふ。敵が前からも後ろからも来るのなら、仕方ないですよねぇ」
「……どの口が言いやがる」
 場数を踏んだ剣客であるが故、竜胆にはわかってしまう、燦斗が殺しを愉しむ類の輩であると。その手綱を握っているのが白黒の男――サライであるように、竜胆には思えてならなかった。この男がいるのならば、彼は危険ではないのではないかと。
「さぁて、敵さんは待っちゃくれねぇようだ!ちゃっちゃと片付けちまおうぜ……“まずは、黒”!」
 サライが闇を撒く黒き刃で迫るからくり忍を斬り捨てる。その屍を飛び越えて同時に二人の忍が迫る、それを竜胆が貫く間に、サライは二振り目の刃――ましろの光輝く刀を取り出し、真一文字に切り払った。
「“次いで白を用いて、”“紅で描き”!」
 そのまま血を押し固めたが如き色をした紅の刃を抜き、雫滴る蒼色の刃を抜き、目にも止まらぬ速度でそのまま五振り目、翡翠色に煌めく刃を抜き放ち、からくり忍を斬って捨ててゆく。
「“蒼を用いて、翠を走らせ”」
 うつくしき琥珀色の刀で忍を逆袈裟に斬り上げると同時、そのままに空中に放り投げた刃が天にある間に次の刃を抜く。次の刀は角度によって色を変える、七振り目。
「“琥珀を用いて”、“灰を作る”――“これぞ!無謀の刃なり”、ってなァ!」
 七振り目の刃が忍を貫いた時、全ての刃が緋色に染まった。絡繰に命はなく、血も流れてはいない、けれどそれらががらがらと崩れ倒れる度に命脈を、血を啜れたことを喜ぶかのように、剣は血の、緋の色に輝く――。
「竜胆!頭下げろ!」
「!」
 身を屈めた上を敵の苦無が通っていく。それは背後にいた燦斗の手にした黒鉄刀によって弾かれ地に落ちた。
怒涛の勢いで一体一体を斬り伏せ、貫き、斬り捨てていくサライ。それと対象的に、燦斗の戦い方は静かだった。絡繰忍の動力部を的確に見抜き、リスティヒ・クリンゲを投げてその部分だけを貫いていく。たったそれだけで、木と鉄、鋼でできた絡繰は地面にがしゃりと崩れ落ちる。
「……息を止めろ!!」
 サライが叫んだ。竜胆の目の前に投げ入れられた小さな紙手毬のようなそれがぱんと弾ける。サライがコートの布で竜胆の口を覆い、竜胆もまた咄嗟に呼吸を止めた。素早く距離をとり、黒い刀から闇を撒き散らして敵の目を眩ませる燦斗。紙手毬の中に仕込まれていたのだろう、黄みがかった白い煙幕が漂う。ぴりぴりとした痺れが指先に走る。それが煙幕に仕込まれた毒であることを知って尚、サライは大声を上げる。
「おい親父ぃ!アンタならこの煙幕どうにか出来んだろ!!仮にも医者だってんならどうにかしろよなぁ!!」
 ――竜胆は己の耳を疑った。医者? この男が? この、こびりついた血の匂いを甘い香りで覆い隠した男が?
“息子”の言葉に、燦斗は笑みを返す。それは了承の笑みでは決してなかった。
「ふ、ふふふ……え? 医者は医者でも闇医者、ですからねぇ、私は……ほら、今にも死にそうなからくり忍者たちを、“救って”差し上げなきゃいけませんから、ねぇ……――ふふ、うふふふふふふふ」
 ねぇ? 手術、しましょうか?
肩を揺らして嗤うその姿はまるで血に酔う悪鬼が如く。彼もまた常人の目では追うことも儘ならぬ速度でリスティヒ・クリンゲを投げ――影を伸ばす。伸びた影同士がつながり、絡繰の忍の影からずるり、影の槍が浮かんで忍を貫いた。
「さぁ、悶え、泣き叫べ……その顔を私に見せろ……と、顔などあなた方絡繰風情には有りませんでしたねぇ!」
 己の左手に繋がった鎖にも構わぬまま忍びたちに対し的確に“執刀”してゆく燦斗。その姿を見て、サライは額を同じく鎖に繋がれた手で覆った。息を止めていた竜胆でさえぴりぴりとした痺れが走っているのに、構わず話して――呼吸をしている彼らはその痺れすら意に介していないようだ。
「……あっダメだ、スイッチ入ってるなコレ」
 すいっち、という言葉の意味は竜胆には理解できない。ただ、燦斗が話を聞かないであろうことは理解が出来た。仕方ねえ、とサライは七振りの刃を器用に操りながら絡繰忍たちに向き直る。
「いいか、煙幕が晴れるまでアンタはできるだけ息はすんなよ……死なない程度にな!……俺は!その間に!こいつをぶん投げたやつまで纏めてぶった切るからよ!」
 七色の刃を続けざまに振るいながら、サライは絡繰忍たちを斬ってゆく。がらんがらんと道を外れて山の下、茂みの中へと動力を絶たれた絡繰が転がり落ちていく。押し寄せる忍の先頭を蹴倒し、サライは縦横無尽に忍びたちをがらくたへと変えていく。
彼が撃ち漏らした忍を斬り捨てた竜胆の後ろでは、燦斗が笑いながら絡繰忍をその影で貫き続けていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

牙・凜宇
・さて、我が出身世界の荒事に首を突っ込んだはいいが。件の剣豪は中々に強き女人のようだ。ここで散らすには惜しい花だな……まずは彼女の安全を確保しよう。

・絡繰忍者の数はいかほどか……とにかく多いのは間違いない。なれば、俺の取る戦法は俺と乙女を中心にして【ミゼリコルディア・スパーダ】を発動することによる包囲殲滅。煙幕爆弾は「見切り」「早業」で避けることとするが、場合によっては乙女を「怪力」で抱えて避けることも視野に入れておこう。
乙女よ、恥ずかしいかもしれんがここは我慢してくれ。ここを凌いだら、このけったいな絡繰を使う者の首級を我ら猟兵と共にあげてみせようぞ。



●猛き赤龍、山道に吠ゆる事
 だん、力強い足音が山道を鳴らした。ガサガサと樹々が揺れる。
「ほう、此度の荒事、首を突っ込んで見れば……なかなかに強き女人のようだ」
 ――此処で散らすには、惜しい花だな。
牙・凜宇(ドラゴン侍・f31156)の赤き竜の体躯が剣客乙女、竜胆を守るように絡繰忍たちの前に立ちはだかった。腰より妖刀「顎」を抜き放ち、近づく忍を牽制する。
修行の旅の最中とは言え、サムライエンパイアは凜宇の故郷にあたる世界だ。あるいは武者修行の旅の途中である竜胆のその身の上を聞いて思うこともあったのかもしれない。飛んでくる苦無を妖刀にて叩き落としながら、凜宇は竜胆を担ぎ上げた。
「ひゃうっ!? ……な、なっなっ、何を……」
 突然のことに竜胆が裏返った声を上げる。
「乙女よ、恥ずかしいかも知れんがここは我慢してくれ」
 竜胆を軽く肩の上に抱え上げたまま、襲いかかってきた絡繰忍の忍者刀に対して妖刀「顎」が噛み合う。がりがりと鋼同士の軋り合う音が鳴る。その刀を持った忍を足で蹴り倒せば、後続の絡繰たちを巻き込んでがしゃがしゃと木と鉄の塊が山道を転げ落ちていった。次いで、地に残った足を軸にぐるりと体を半回転させ、背後から斬りかかろうとしていた絡繰忍の刃を弾き飛ばし、貫いて、そのまま薙ぎ払うように山の下へと落とす。
――と、後方から紙で包まれた小さな手毬のようなものが投げ込まれる。瞬間、肩の上の竜胆が声を上げた。
「息を止めよ!」
 凜宇にもそれは覚えのあるものであった。忍が使うそれは、紙を貼り固めて作った玉の中に火薬と、また多種多様な薬を調合した煙幕玉。たちまち大きな音が鳴り響き、黄色みがかった白い煙があたりに立ち込める。咄嗟に息を止め、爆発そのものからは距離をとったが、爪先、手足の末端がぴりぴりと軽く痺れる。
「む、これは……」
 左手に枷がつけられていた。それには鎖が巻き付き、じゃらりと鳴る。おそらくは煙玉を投げてきた後方の忍へと繋がっているのだろう、が、忍の数が多すぎて。その主を見定めることはかなわない。
(ひ、ふ、み、よ……とにかく数が多い事には変わらぬな!!)
 繋がれた鎖の主までを数えようとして、途中でその作業を投げ捨てる。人の二人三人が通りすがるにやっとの山道を、忍は絡繰でありながらも柔軟にして機敏な身のこなしでもってギリギリまで追い縋ってきている。ならば凜宇が取る戦法は一つに定まった。
 ――己と抱えた竜胆を中心に、呼び出すは一、十、百の刃。虚空より現れしその刃は複雑にして荘厳な幾何学模様を描きながら飛翔し、宙を舞い、絡繰の忍たちを斬り捨て貫き、薙ぎ払ってゆく。
 がしゃんがしゃん、がらがらと音を立て、忍達が山道を転がり落ちていく。煙幕はとうに晴れ、すっきりとした視界に、または駆動部分を、核を砕かれてその場に瓦解した絡繰が転がる。その屍を踏み越え、また忍たちが押し寄せる――。
それらを厳しい目で見つめながら、凜宇は言った。
「乙女よ、此処を凌いだなら、このけったいな絡繰どもを使う者の首級、我らと共にあげてみせようぞ」
 その言葉に竜胆の体が強ばったのが、肩越しに伝わってくる。
「……!あの、真紅の鎧の武者か……!」
「うむ、その男をだ!」
 吠えるようにそう言うと、再び百の魔法剣をその場に出でさせる。紋様を描きながら荒れ狂う魔剣の嵐の中を掻い潜って来ようとした一体の忍の胸を妖刀「顎」にて真っ直ぐに貫く。動力炉を破壊されて爆ぜ、がらくたと化した忍を踏みつけ、竜胆を担ぎあげたまま、凜宇は翔ぶように忍びたちを斬り捨てていった。

成功 🔵​🔵​🔴​

クロム・エルフェルト
狭い場所に挟み撃ち
流石は音に聞く越後の龍
凄く嫌な戦い方をする、ね

――竜胆殿、助けに来たよ。
借火・反転陽炎を発動
挟撃から守るよう、分け身と手分けし
竜胆さんを挟む形で襲撃に備える

迎撃準備、[結界]を周囲に拡げる
分け身が織るのは「敵対者への平衡攪乱」
この戦場で敵の足が縺れれば
それは此方の利になる筈

……けど、相手は上杉謙信
この程度で勝てるとは思えない
苦無、手裏剣の類は風切り音を拾い
[咄嗟の一撃]で弾き落とす

肉薄する攻撃に拍を合わせ
刃に焔纏わせて[カウンター]の斬撃放つ
私の織った結界は「敵内部への酸素収束」
UDCアースで教わったバケガクの知識を用いて
[切断]で内部に至る刀の焔で着火、爆発を狙っていく



●剣狐舞う、焔は朱く奔り
 転移の門から出るなり走った金色の影。ふわりと足音も無く、クロム・エルフェルト(縮地灼閃の剣狐・f09031)が竜胆の前に降り立った。
「――竜胆殿、助けに来たよ」
 静かに言葉を紡ぐと、クロムは刀を抜いた。「刻祇刀・憑紅摸」のその刀身から焔が迸り、火と煙とがひとの姿をかたどる。
【借火・反転陽炎(ウラヤキ)】。竜胆の後ろに、彼女の背を守るようにもうひとりのクロムが現れた。それはクロムと寸分違わぬように見えて、着物の合わせとスカートのスリットの位置が鏡に映したように左右逆しまだ。
本物のクロムは憑紅摸を、分け身のクロムは左文字の脇差を手にして、同時に襲いかかってくる絡繰の忍の刃を受け止める。
「……狭い場所に挟み撃ち。流石は音に聞く越後の龍、すごく嫌な戦い方をする、ね」
 実像と分け身、二人のクロムがめいめいに絡繰忍を薙ぎ払い。きぃん、甲高い音がして分け身が結界を織り上げた。等間隔で発せられる高い音は外側に向かって広がり、襲いかかる忍たちの平衡感覚を崩していく。絡繰忍の動きが目に見えて鈍ったその隙を、二人のクロムが二振りの刃を振るい、切り払っていく。
ひゅん、風を切る音がする。クロムは咄嗟に投げつけられたそれを刀でもって弾き落とす。狙いを逸れて地面に突き刺さったのは四方手裏剣。更に後方から打ち放たれる手裏剣の飛来する音をクロムの耳は敏感に拾い、刃を返して次々と叩き落としていく。
(やっぱり、相手は上杉謙信……分け身が織った平衡攪乱の結界だけでは勝てるとは思えない……!)
 結界の効果か、絡繰忍たちの動き、統率は僅かに乱れている。それでいてまだ命なき絡繰はクロムたちへと斬りかかってきていた。忍の手にした苦無を弾き、クロムは己の持つ刀「憑紅摸」に焔を纏わせる。それは神の刃に封じ籠められた伽藍を呑む劫火。燃え盛る刃が絡繰を構成する木の体に燃え移り、ごうと焼いた。
ぎん、ぎん、きぃん、きんきんきんきん、忍の忍者刀とクロムの焔纏った刃が打ち合わされる。更に打ち込もうとしてくるその動きの半歩先を見抜き、斬撃を紙一重で躱して一撃を叩き込んだ。
 クロムもまた結界を織り上げている。緻密に織られたそれは、肌触りの良い薄い紗の織物の如く戦場を包み込んでいた。それは此処ならぬ世界で学んだ知識を取り込んだ術。既に戦場内部は只人が吸い込めばたちまち昏倒するほどの空気で満ちている、しかし呼吸をしない絡繰の忍たちには気づかない、気づけない、自身の周囲の酸素濃度が異常に上昇していることを。その濃密な酸素が何を意味するか、何を引き起こすか――やはりこの世界のモノには予測が付かない、「空気」の中に「酸素」が「ある」という概念すら殆ど無いであろう、それが戦うことを絡繰の忍であれば、尚更。
 その答え、仕組みをクロムは外の世界で学んできた。分け身のクロムもまた刀に炎を纏わせる。その炎は憑紅摸のそれとは異なり、その身を構成する“借り物の焔”によるもの。そして二人は同時に、舞うが如くに押し寄せてきた絡繰忍の先頭にそれぞれ斬り込む――酸素濃度を高濃度で保ち続ける結界内部に、「燃え盛る刃に宿る焔」でもって!
どぉん、山肌が揺れた。大爆発を起こした地面は焦げ、クロムたちと竜胆がいた場所の上下は大きく荒れている。結界の持つ内に封じ込めるという作用がなければ、山道にもにも大穴が空いていただろう。ぼろぼろと小石と砂が落ちたが、結界に護られ地崩れを起こすことはない。あくまでも影響があったのは敵陣のみ――木と鉄で出来た絡繰の忍たちは巨大な爆発を前にその身を千々に吹き飛ばされ、がらくたになった屍だけがごろごろと転がっていた。
 だが、それでも。鉤縄が樹々の枝に次々とかかった。荒れた地面と仲間の屍を飛び越えて、更なる忍達が追い縋ってくる。はるか前方では、螺旋状になった山の上から飛び降りてくる忍の姿が見える。いずれまた、此方に押し寄せてくることだろう。
二人のクロムはめいめいに手にした刃に纏った炎の色を濃くする。来たる第二陣に対抗するために、再びそれぞれに結界を織り上げていった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

花盛・乙女
諸国武者修行の剣客乙女か。ふふ、他人と思えんな。
助太刀いたそう。羅刹女、花盛乙女。いざ尋常に。

さて、数ばかり多いからくり素波共。
死角を突いてくるのが得意だそうだが、簡単に私の死角をとれると思うなよ。
【黒椿】と【乙女】を構え、前に背中に来る刃を「武器受け」でいなそう。
返す剣閃でからくりを蹴散らす。あるいは「敵を盾にする」ことで防ごうか。
さて、これで終わりと思うなよ。
舞うようにとうたわれる我が鬼吹雪、六文銭の変わりに冥土の土産に持っていくが良い。

剣客殿の体力が回復できるよう「かばう」。
ふむ、剣客殿と呼ぶのも距離があるな。
名前を教えてもらいたいな。同じ道を歩む身として、貴殿とは共に戦場にありたいな。



●剣客乙女、羅刹女にその背預ける事
 猟兵たちの猛攻により、女武者の周囲は荒れ、焼け焦げてさえいる。
「おお、おお、派手にやったものだ!ははっ!」
 次に彼女の前に現れたのは花盛・乙女(羅刹女・f00399)であった。明朗に笑顔を浮かべ、女武者の隣に並び立つ。
「諸国武者修行中の剣客乙女か。ふふ、他人と思えんなあ――助太刀いたそう!羅刹女、花盛乙女……いざや、いざいざ尋常に!」
 名乗りを上げるや否や、苦無を手に飛びかかってきた絡繰忍の脳天を瞬時に抜き放った「黒椿」にて刺し貫く。木で出来た絡繰忍の頭部に詰まっていたよくわからない絡繰が弾けて飛ぶ。そのまま逆の手で小太刀「乙女」を握り、流れるようにその頸を刈り飛ばした。
「うぅむ、絡繰の首を獲っても何も楽しいことはないな!して剣客殿よ、まだ呼吸は戻らぬか、休みが必要だろうか!ならば私の背に……」
「……いいや、いいや!お前たちが何者かは知らぬが、おかげで十分に呼吸も戻った、私も戦えるぞ!」
「ならば僥倖!剣客殿……あいや、剣客殿と呼ぶのも距離があるな。名前を教えてはくれぬか? 同じ道を歩むものとして、貴殿とは共に戦場にありたい!」
「そうか……そうか、乙女どのと言ったな、私は竜胆と言う、よろしく頼むぞ!」
「うむ、竜胆殿か、良い名だ!」
 乙女の言葉に女武者――竜胆も破顔する。彼女もまた腰から刀を抜き、正眼に構えた。
「よぉし、それじゃあ……共に此奴らと戦おうぞ、竜胆殿!」
「応!」
 二人の剣客乙女たちは互いに背を預け、押し寄せてくる絡繰の忍たちへと向き合う。
竜胆の剣はその細身に似合わず剛剣であった。ひと息のもとに絡繰の胴を薙ぎ払い、真っ二つにしてみせる。乙女はそれを見て負けてはいられぬと、自然口角が上がる。同じ道を歩む境遇の似た者と並んで戦えるというものは、なんとも心地の良いものだった。
前からは忍刀を携えた絡繰忍が、後ろからは寸鉄を手にした絡繰忍が同時に乙女を狙う。それを乙女は両の手に構えた二振りの刀でもって受け止め、大きく腕を振って拍子を外す。そのまま前の忍を斬り、そして体を半回転させて後ろの忍の頸を刈る。頭部を失った忍の胴を蹴倒せば、司令系統を失ったらしきがらくたと化した体がどうと倒れる。その仲間の屍を超えて来た忍を、竜胆の鋭い太刀が叩き伏せた。
「竜胆殿、どうやらこやつらからくりなれど――首をとれば人と同じく、止まる様子!」
「――承知したッ!」
 ざん、ざん、ざんッ、次々と繰り出される乙女たちの剣が忍びの首を刈り取っていく。絡繰であるがゆえに血飛沫が飛ぶことはない。ただ鉄と木の塊が弾け飛ぶだけだ。遠くから飛来した手裏剣を、頭部を失った絡繰忍を拾い上げて盾にすることで防ぐ。
脳と同じ司令系統のあるらしい頭部を斬ることは効果的であるようだった。すぐに糸が切れた人形のようにその場に崩れ落ちる。絡繰ゆえに痛みも感じぬらしき忍は、腕の一つや二つ飛んだくらいではまだ襲いかかってくる。とはいえ、この絡繰には人間のようには目鼻も口もない。腕を二つほどもぎとってしまえば武器を加える口もなく、向かっては来るがそのまま心の臓の位置にある動力炉を壊せば動きを停止する。
されど腕を一つ残せば痛みを感じぬ絡繰は残ったそこに武器を構えて飛びかかってくる。破損したがらくたと化した、かろうじてまだ繋がっていた片手片足を自ら廃棄して、忍者刀を手に飛びかかってくるそれは、余分なものとなった部分を捨てたせいか、速い。それを「乙女」で薙ぎ払い、続けざまに「黒椿」でもって胸部の炉を穿いて、刃を引き抜くと同時に足で蹴り出し、向かってくる忍への牽制とする。
「さて、これで終わりと思うなよ……!」
 乙女の足が地面を蹴った。そのまま駆け出し、乱れ放つは神速にして無数の剣閃!
舞うが如きその所作に、一瞬竜胆も目を奪われる。しかしすぐに正気に帰り、襲いくる絡繰忍の首を刎ねた。その間にも、乙女の剣撃は無数の忍を屠ってゆく。ざん、ざん、ざん、がん、がんがんがんがんがんッ!!その袖が舞うたび、一体の絡繰が首を斬られてガラクタへと変わる。それを蹴倒し、次へ、次へ次へ!
「からくりがごとき雑魚に用はなし!冥土の六文銭の代わりに、我が一撃、持っていくがいい……!」
 【花盛流剣技【鬼吹雪】】。次々に首を取られ、頭を割られ、鋼の機構を剥き出しにしたがらくたへと変わる。かろうじて動力部分が生きていたものも、二撃を受けて地面へと転がった。下から来ていた忍たちは転がり落ちていく仲間の屍に巻き込まれて山道を落ち、上から来た絡繰たちは斬られ、薙がれ、貫かれ、木と鉄の塊となってその場に崩れ落ちた。
「凄いぞ、乙女どの!」
 竜胆が称賛の息を吐く。しかし乙女は厳しい目つきをしたままで、はるか前方を睨む。
「まだ、来るか……!」
 蠢く影が見える。それが関係のない旅人や山の獣であるなどという希望的観測は抱きようがない。これほどまでに斬って、斬って、斬り尽くして尚――絡繰忍は絶えてはくれないらしい。しかし――それを迎え撃つ剣客乙女二人の顔に、憔悴の色は微塵もない!
「竜胆殿、今ひとたび、もう少しの間つきあっていただけるか!」
「勿論だ、乙女どの!」
 二人の剣客乙女は迫りくる絡繰忍に向かって剣を向け、互いに背を預け合うのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ティオレンシア・シーディア
※アドリブ掛け合い絡み大歓迎

数と質が保証されてる手合いが軍略まで使ってくるとか、ホントタチ悪いなんてもんじゃないわねぇ…

上下が山肌の隘路、確かにハメるには絶好の地形だけれど。…前提条件をひっくり返せば、こっちにとって最高の条件なのよねぇ。
エオロー(結界)で〇オーラ防御を展開、ミッドナイトレースに○騎乗して●轢殺で○騎乗突撃ブチかますわぁ。空を飛べるなら地形も高低差も一切無意味、〇切り込みも爆撃も思いのままねぇ。
そっちだって袋叩きにしようとしたんだもの、一方的に釣瓶撃ちされたって文句言う権利はないわよぉ?…ま、絡繰にはそんな口もないわけだけど。
逃してもいいことないし、残らず〇蹂躙しちゃいましょ。



●剣客乙女、天高く飛ぶ事
 猟兵たちに斃されがらくたと化した仲間たちの屍を踏み越え踏み越え、絡繰忍は再び竜胆へと迫ってくる。もはや十分な休息も取れた、竜胆が腰のものに手をかけた時だ。ど、ど、ど、と低く重い音が隣から聞こえた。
「数と質が保証されてる手合いが軍略まで使ってくるとか、ホント、タチ悪いなんてもんじゃないわねぇ……」
 脳に響くような甘い声。驚いて横を向けば、其処には宙を飛ぶ鉄の機械――宇宙バイク「ミッドナイトレース」に跨ったティオレンシア・シーディア(イエロー・パロット・f04145)の姿があった。山道に横付けしたティオレンシアは竜胆に向かって緩やかに微笑む。
「後ろ、乗ってちょうだいなぁ?」
「だ、だが……」
「そうじゃないと貴方まで巻き込みかねないもの」
 見様見真似でおずおずと後部座席に跨る竜胆を見届けると、ティオレンシアはミッドナイトレースを高く飛ばせる。息を詰まらせて竜胆がティオレンシアの腰に掴まってきた。
竜胆を追ってきた絡繰忍達を遥か下に見ながら、結界のルーン文字《エオロー》を刻むと、自身と竜胆の体をオーラの防護膜で包む。そしてティオレンシアは愛用のシングルアクションリボルバー・オブシディアンをガンベルトから抜いた。
「上下が山肌の隘路、確かにハメるには絶好の地形だけれど。……前提条件をひっくり返してしまえば、こっちにとって最高の条件になるのよねぇ」
 ぱぁん。弾丸を撃ち込まれた絡繰忍の頭が爆ぜて弾け飛ぶ。司令系統が脳の位置にあるのか、脳天をぶち抜かれた忍はそれによって崩れてただのがらくたと化した。そのまま次々と忍の頭部を、あるいは関節駆動部分を、あるいは動力炉のある胸の部分を弾丸によって撃ち抜いていく。忍たちの刀が届く位置関係では到底ない。
やがて忍びたちは山路を埋め尽くし、竜胆がいた場所までもがずらりと絡繰忍たちに占拠された。
 これが、竜胆を不慣れ極まりないであろう宇宙バイクの後部座席に乗せた理由だった。いくら上空という安全地帯からの射撃戦法が可能であろうとも、肝心の竜胆が地上にいては、絡繰の忍たちは数に物を言わせて竜胆を追い詰め、彼女を殺す方を優先してしまうだろう。それでは敵に「竜胆を殺す」というもともとの目的を果たさせてしまう。ティオレンシアだけ安全であったのではこの作戦は意味がないものと化してしまうのだ。その竜胆はと言えば、ティオレンシアの腰にしがみついたまま時折小刻みに震えている。
「あら、刺激が強かったかしらぁ」
 くすりと笑って、まだまだ行くわよとティオレンシアは己の唇をぺろりと舐めて湿した。ミッドナイトレースは空中を走り、忍たちを見下ろす位置へと陣取る。クレインクイン・クロスボウ「アンダラ」でもって焼夷手榴弾を撃ち出した。焼夷弾はたちまち爆ぜ、焔が木と鉄で出来た絡繰忍たちを包み込む。
「そっちだって袋叩きにしようとしたんだもの、一方的に釣瓶撃ちにされたって文句言う権利はないわよぉ? ……まぁ、そんな事言う口もついていないようだけれど」
 今や山路は焔燃え広がる海、その中からも焼け焦げたパーツを脱ぎ捨て、片腕だけで絡繰忍が次々と跳躍……仲間の絡繰忍の手を借りて、「射出」される。忍刀が届く距離ではない、投げて――打ってきたのは手裏剣たち。その中には火薬のついた火車剣も混じっている。距離で敵わないと見るや、こちらも遠隔攻撃に切り替えてきたようだ。しかし、足元が燃える海と化したことと自分たちが山路に逆に封じられてしまい、竜胆を後ろに乗せたティオレンシアは空中自在とくれば、それは単純な遠距離戦の撃ち合いとなる。折角の策ももはや見る影もない。投げられた手裏剣を縦横無尽に避け、初めての経験にしがみついてくる竜胆を背中に、ティオレンシアは忍びたちを一体一体適切に撃ち抜いていく。
 螺旋状の山道をずっと登った先、空を飛べば上に移動するだけの距離の場所に、見晴らし台があった。其処まで飛べば、猟兵たちの攻撃によって数を減らされた絡繰忍達は全て眼下におさめられる。ティオレンシアはアンダラを構え、立て続けに焼夷手榴弾を射出した。
「残してもいいことないし、残らず蹂躙しちゃいましょ――」
「――その必要も、もう無い。放っておけば全て燃えて尽きる」
 背中から冷たい鉱石のように尖った声がかけられる。見晴らし台にいたのは紅い甲冑に身を包んだ男、その甲冑に刻まれた紋は六文銭――。
 ざ、と男が砂利を踏む音が、遠く離れた空中にまで聞こえる。
「あの、男……!!」
 ティオレンシアの腰に掴まる竜胆の腕が小刻みに震えている。それが宙を飛ぶ恐怖ではないことを、ティオレンシアはまざまざと理解できた。彼女は、見晴らし台に立つこの男をこそ警戒しているのだ。
「降りてくるがいい、猟兵。この真田神十郎が……お相手仕る」
 ――猟書家。
紅い甲冑の男、猟書家「真田神十郎」が、そこに立っていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 ボス戦 『真田神十郎』

POW   :    不落城塞
戦場全体に、【真田家の城郭】で出来た迷路を作り出す。迷路はかなりの硬度を持ち、出口はひとつしかない。
SPD   :    神速十字斬
【両手の十字槍と妖刀による連続攻撃】を発動する。超高速連続攻撃が可能だが、回避されても中止できない。
WIZ   :    侵略蔵書「真田十傑記」
自身が戦闘で瀕死になると【侵略蔵書「真田十傑記」から10人の忠臣】が召喚される。それは高い戦闘力を持ち、自身と同じ攻撃手段で戦う。

イラスト:瓶底

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠蛇塚・レモンです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


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 角のついた額当て。赤い甲冑。その胸に刻まれるは、六文銭。
その男――猟書家は、猟兵たちに向かって硬質な声で言う。
「軍神と名高き謙信殿を憑装させた我が真田絡繰忍隊が、ここまで殲滅され尽くすとは。女武者一人に随分と手こずったものだ」
 手にした十字槍の石突が石畳を突く。かぁんと高い音が鳴った。
「来い、猟兵。ここからは、この真田神十郎が直接御相手仕る――」
 ――来ぬのならば、此方から参るぞ。
彼が言葉を発する度、ぴりぴりとした空気が冬山の見晴らし台を震わせる。
かの男は猟書家、真田神十郎。
これからの戦いが厳しい戦いになるであろうことを、張り詰めた冷たい空気が伝えていた。
山に、ましろの雪がちらりちらりと降り始める。
========================================
第二章 「真田神十郎」が現れました。

■戦場について■
 山の中腹にある見晴らし台です。そこそこ広い場所であり柵も設置されている為、余程無茶な動きをしなければ下に転落する心配はありません。
 一般人は居らず、また戦闘中に近づいて来る者もおりません。
 戦場にいる敵と猟兵以外の人間は竜胆のみです。
 殺風景な見晴らし台のため、周囲に戦闘に利用できるものは特にありませんが、逆に戦闘の邪魔になるような心配もありません。
 
■真田神十郎について■
 猟書家の幹部です。猟書家としての能力が制限されるために憑装を行ってはおりませんが、それでも十分に強力な相手です。対応するユーベルコード以外にも、槍と刀を用いて戦います。
 上杉謙信を憑装した配下のからくり忍者軍団は僅かに残っていますが、遥か下方で足止めされている状態であり、助力しに来ることが出来ないため、戦闘には一切参加しません。
 神十郎の目的は竜胆の殺害であるため、彼女を戦場から逃がすなどした場合は猟兵との戦闘よりも彼女を追うことを優先します。

 第一章に引き続き、以下のプレイングボーナスが存在します。
 ※プレイングボーナス:剣豪「竜胆」を守る(本人もそれなりに戦うことはできます)
 以下に竜胆の状態を改めて記載致します。

■剣客乙女「竜胆」■
 真田神十郎に狙われていた剣豪です。彼女を殺し、オブリビオンとして蘇らせることが敵の目的となります。
 そのため、あまり猟兵から離れた状態にすると、神十郎に優先して狙われる可能性が高いです。
 猟兵の戦闘の結果、疲弊からの回復に十分な時間をとることが出来たため、戦闘に参加することも可能です。
 刀、及びユーベルコード「剣刃一閃」相当の攻撃を用いて戦うことが可能です。
 (「剣刃一閃」……【近接斬撃武器】が命中した対象を切断する。)

 第二章のプレイング受付は12/17(木)朝8:31から開始いたします。

 それでは、猟書家真田神十郎を撃破し、無事剣客乙女・竜胆を守りきるための戦いを開始して下さい。
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火土金水・明
「相手は真田を名乗る存在ですか。こちらも本気を出して戦いましょう。」
(立ち位置は、いざという時に狙われた「竜胆」さんを【かぼう】事ができる位置です。)
【WIZ】で攻撃です。
攻撃方法は、【先制攻撃】で【継続ダメージ】と【鎧無視攻撃】と【貫通攻撃】を付け【フェイント】を絡めた【全力魔法】の【新・ウィザード・ミサイル】を【範囲攻撃】にして、『真田神十郎』と召喚された忠臣達を纏めて攻撃します。相手の攻撃に関しては【見切り】【残像】【オーラ防御】で、ダメージの軽減を試みます。
「(攻撃を回避したら)残念、それは残像です。」「少しでもダメージを与えて次の方に。」
アドリブや他の方との絡み等はお任せします。



●山間に白雪
「相手は、真田を名乗る存在ですか」
 赤き甲冑に六文銭の紋。そして名を真田とくれば、UDCアースの日本の歴史の知識を持つ者であれば一人の武将を連想することだろう。はたして猟書家・真田神十郎と名乗るこの男がその武将と同じ者であるかはわからない。しかしその出で立ちと名とはある種の警戒を抱かせる。すなわちこの男が、日の本一の兵と呼ばれた男ともしも同一であるのなら。彼は、それだけ強力だと言うことだ。
「……ならば、こちらも本気を出さざるを得ませんね」
 火土金水・明(夜闇のウィザード・f01561)は竜胆の前に立つと、躊躇うことなく行動に出た。即ち、先制攻撃である。彼女が手にした七色に輝く杖の中に、万色の光が集まってくる。炎、水、土、氷、雷、そして光と闇、毒――全ての属性が織り込まれた魔法の矢が杖の先から放たれる。真田のもとに一斉に眩い光が着弾し、けれど最初の光はフェイクだ。次いで如何な鎧も防ぐこと能わぬ加護を得た魔法の矢、【新・ウィザード・ミサイル】が真田神十郎へ向けて放たれる、
「――ぐ、ぁ、あああああアッ!!」
 一気に矢達磨となった真田神十郎が堪らず声を上げた。同時、彼の手にした侵略蔵書が光る。光の中より現れたるは、十の影。いずれ劣らぬ勇者たる忠臣達、真田の十勇士。真田神十郎が「瀕死になった時に」発動し現れるものたち。一撃で瀕死へと追い込んだ新・ウィザード・ミサイルの威力、それを発した明の実力は確かなものだった。
『殿、ここは我らにお任せを!』
『案ずるな。まだ我が両足は折れてはいない。お前たちとともに、今一度、戦える!』
 血の赤に染まりながらも、真田は引き連れた十の勇士とともに明へと突きかかってくる。手にした十文字の豪槍による突きを、明は銀の剣で受け止めた。ぎりぎりと互いの刃が噛み合い、軋り合う。その間にも、勇士の一人が刀を抜き放ち、斬り裂かんとしてきた、明は真田の槍を防ぐので手一杯だ、女の首を刈り取ったか――そう見えた次の瞬間、彼女のの姿は消えて、はるか後方、竜胆の手前に現れる。
「私の首を獲ったと思いましたか? ――残念、それは残像です」
 湧き出したオーラによる防護の加護を自分自身、そして竜胆にも与え、明は再び七色に輝く杖を掲げて詠唱を開始した。その間にも加えられる十の勇士と真田の猛攻を、ひとつまたひとつと躱し、いなしてゆく。
 ……今度は忠臣たちをも纏めて、確実に仕留める。そのために出来ることは全ての魔力を注ぎ込むこと。圧倒的な虚脱感に襲われるが構わない。確実に首を狙って放たれた勇士の槍の一撃を避け、竜胆を巻き込まぬようにしながら超高速で動き回り、残像を斬らせ、そして彼女は必要な魔力を注ぎ終える。詠唱を終える、魔力を織り上げ、無数の魔法の光を、竜胆を背に庇いながら、今度は前方の敵全てに向けて発射する。
『何の……!』
 勇士の多くが最初の光を避けた。しかし光はフェイク、フェイント。避けられたところで何の支障もない。既に彼らを射抜く矢は、番えられている――戦場に着弾する矢。その数たるや、実に四百と七十五。
『無念ッ……』
『――殿、申し訳……ありませぬっ……!』
 全身を矢に貫かれた勇士達の姿が透き通り、次々と消えてゆく。部下たちを失った真田は歯噛みし、明を睨みつけた。その眼力だけで只人ならば失神しそうなほどの憎しみが籠められている。
『この世に蘇りて、再び我が元に戻りし勇士たちを……お前は、再び殺したか……!』
 そんな呪いの言葉を吐きかけられても、明は涼しい顔で答える。
「その再会は紛い物です、真田を名乗る者。そして貴方が今在る事もきっと間違い」
 彼が「かの」日の本一の兵と謳われた真田であるならば、もうこの世には居はしない。何より猟書家――それはオブリビオンだ。過去より蘇りて今を滅ぼすもの。彼の居場所は、もう二度とこの世のどこにも許されてはいけない。そのために明たち、猟兵が戦っているのだから。――けれど。
(私の力だけでは、彼を倒すこと罷りなりませんか……ならば少しでも攻撃を重ねて、ダメージを加えて、次の方に引き継がなければ……!)
 ふたたび魔力を織り上げる明。それを察知して、真田が動く。
『三度目はやらせはせんぞ、猟兵……!!』
 槍が大きく振り回される。その切っ先を躱しながら、明は詠唱を続けるのだった。

成功 🔵​🔵​🔴​

木々水・サライ
【灰色】

……親父、まだスイッチ入ってる?
頼むから医療行為って言って俺に斬りかかるんじゃねえぞ!?

戦いはUC【二人の白黒人形】で複製義体を呼んで。
義体には紅玉刀、蒼玉刀の二刀流で竜胆を守っておいてもらうぜ。
俺自身は黒鉄刀、白銀刀の二刀流を以て戦闘知識をフル活用で戦う。
なるべくなら親父が呼び出した狼とも連携を取りつつ、だな。

竜胆に近づくならば義体が戦い、遠くにいるなら俺自身がと言ったところか。
超速の連続攻撃には翡翠刀、琥珀刀、燐灰刀をも活用して上手く攻撃を反らすよう戦うぞ。

刀の扱いだけなら、そこの親父にクソと言うほど教わってるんだ。
ちょっとだけ自己流入ってるけどな!


金宮・燦斗
【灰色】

え? まさか。ちょっと楽しくなってるだけですよ。
確かに斬っちゃうかもしれませんけど、そこは我慢ということで。

戦いではUC【影の狼の協力】を用いて狼を呼び出して、サライとの共闘をお願いしておきます。
私は竜胆さんの近くで黒鉄刀を構えて、近づいてきた猟書家に対応します。
竜胆さんはお好きに行動してくださいな。

猟書家が遠くにいる時はサライにお任せしましょう。
近くにいる時? ああ、敢えて連撃を受けてあげますよ。
出来るなら部位破壊を用いて手とか足とか思いっきりぶち壊してあげたいですからねぇ。

私自身の刀の技量はサライには遠く及ばず。
だが、あの子と肩を並べるためならばいくらでも黒鉄刀を振るってやろう。



●怒りの狼、遠吠え樹々を震わすの事
「……なぁー親父、まだスイッチ入ってる?」
「ふふふ、え? まさか。ちょっと楽しくなってるだけですよ」
「頼むから医療行為っつって俺に斬りかかるんじゃねぇぞッ!?」
「ええー、確かに斬っちゃうかもしれませんけど、そこは我慢ということで」
「斬ることを否定してはくれねぇのかよ……」
 頭を抱えるサライに、くすくすと笑う燦斗。燦斗の漂わせる甘い香りに、竜胆は少しだけ身を強張らせる。彼らが味方だと分かっていても、この菓子のような甘い香りに――それが巧妙に隠す、燦斗に深く染みついた香りに慣れることは竜胆にはできそうもない。
 相手が二人と見るや、真田神十郎は腰の刀を抜いた。どうやら妖刀であるようで、常のものならぬ輝きを纏っている。
「竜胆さん、あなたはお好きに行動してくださいな。あなたの命を狙ったあの男を斬るも、自由です。……ところで」
「な、なんだ?」
「狼、お好きです? ……まぁ、影なんですけれども」
 燦斗の足元から、まるで水中から顔を出すように現れたのは二頭の黒狼。彼らは泳ぎ出るように地上に姿を現すと、高く長い吠え声を上げた。
 それを見届けるや、サライの影の中からももうひとりのサライ――複製義体が呼び起こされる。
「二頭とも、サライをよろしくお願いしますよ」
「逆だろ逆。頼まれるのは俺の方じゃねぇのかよ」
 複製義体に蒼紅の二振りを与えると、サライは自らの手の中の黒鉄刀と白銀刀をそれぞれに構える。と、同時――二頭の狼は、真田神十郎へ向かって我先に駆け出した。
 真田の妖刀携える手に、狼の牙が喰らいつかんとする、それをざんと斬って捨てようとした真田だったが、影の狼は斬られても再生する。そこへサライが二振りでもって斬りかかり、連撃を繰り出す。それを槍で弾き返した真田の背から、複製義体の手にした刀が襲いかかる。ぐるりと体を回転させた真田によって攻撃を凌がれると、複製義体はざっと下がって竜胆の元に戻ってきた。
 真田の瞳が光る。一息の後、繰り出されるは槍と刀による超絶技巧の連続撃。それをサライは白銀と黒鉄、それぞれの刃で凌ぐと、更に新たな刃を抜く。翠、琥珀、そして万色の色をした五振りの刀を器用に扱い、次々と真田が繰り出す斬撃と刺突とを受け流していく。
「はっ、刀の扱いだけならそこの親父にクソというほど教わってんだ!」
 ――まぁ、ちょっとだけ自己流入ってるけどな!
七刀流というまさに無謀な剣技が、教わったものか自己流の範囲内なのかは見ている竜胆にはわからなかったが、二本を複製義体に渡して五刀流になったところでそれに翳りが見られることはない。鮮やかに器用に五振りの刃を使い熟し、真田の刀と槍とを反らし、撹乱していく。
ざざざざ、と真田の具足が砂利を滑った。連続攻撃が止まったのである。サライに弾かれたが故か、それとも流れが途切れたのか。
『……小癪な』
 動きが止まったと見るやいなや狼は一斉に真田へと食らいかかり、そしてサライも二頭と連携を取りながらその演算回路に刻まれた戦闘知識をフルに回転させて斬撃を繰り出す。撹乱しながらの一撃が、真田の腕を斬り裂く。甲冑よりもなお紅い血飛沫が飛んだ。
『――お、のれっ……』
 再び真田の瞳が光る。竜胆と、彼女の前に立つ燦斗の方へと向かってきた。
咄嗟に刀を構えた竜胆の肩をぽんと燦斗が叩く、ぞくりと竜胆の肌が粟立った。
「大丈夫ですよ――ふふ、いいでしょう……」
「な、何か秘策があるのか?」
「いいえ? 特にありませんとも。……ただ、ですね?」
 真田の攻撃を燦斗は手にした黒鉄刀で凌いでいく。複製義体が加勢に加わり、それでやっと何とか押し負けずにいると言う状態。しかし燦斗の横顔は、笑っていた。
「私が――教えたとは言え。私自身の刀の技量はサライには遠く及ばず。だが、だが……それでも。あの子と肩を並べて戦うためならば、いくらでもこの刃を振るいますとも。ええ、それに!」
 ざくりと音がした。真っ赤な血飛沫が見晴台に噴き上がる。しかしそれは、燦斗のものではなく、複製義体のものでも勿論無い。
『――ガ、ぁ。あッ……!!』
「……もし与しやすしと見て私の方を狙ったのならば御生憎様だ。私これでも医者なので――人体の破壊の方法ならば、いくらでも心得ていますとも、えぇ!」
 妖刀を握る真田の左腕が、自然には決して曲がらぬ方向に曲がっていた。歯噛みし奥歯を軋らせる真田の唇には血が伝う。剣士の意地か、それでも彼は刀を手放しはしない。
「ナイス親父、続けていくぜ……!そっちだって女を多勢で追い詰めたんだ、背中から斬るとは卑怯なりとか、冗句でも言うんじゃねぇぞッ!!」
 サライの五振りの刃が次々と真田へと叩き込まれる。背中から一撃斬り上げて――ぐるりと真田の正面へと回り、甲冑を叩き壊さん勢いで薙ぎ払い、ざん、ざん、ざん、斬り込む!その攻撃を防ぐ腕は、二頭の狼と複製義体に遮られて届かない!
「ぐぅっ、おの……れェッ!!」
 サライの斬撃を振り切ろうとして後退った真田の、その先にいたのは――
「……鎧通し、って言いましたっけ? あまり詳しくはないんですけどね。短刀の使い方は、甲冑の間を貫くためにもあったんでしょう――ほら、このように?」
 ずぶりと。燦斗の刃が、黒鉄刀ではない、短刀《絶望の刃》が真田の甲冑の隙間から、背中を貫き――それは内臓へと達していた。
 ざくりとそれを抜かれ、血が噴き出す。かはりと、真田が赤黒い液体を地面に吐いた。
『……悉く死に尽くせ、猟兵』
 血走った目が、サライと燦斗の二人を睨めつける。二人はそれぞれに刀を構え、その視線を受け止めた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

牙・凜宇
・真田神十郎……かの武人もオブリビオンとなり果てたか。既に戦国の世は終わって久しい。が、ご所望なら戦に付き合おうぞ。そして再び骸の海で眠るがよい! そして竜胆よ、俺が守るが故、安心して戦え!

・神速十字斬。こちらも顎の力を解放し、「怪力」と「早業」で立ち向かうが、竜胆を守るべくまともにぶつかり合えば勝負は明白…なれば。
打ち合う最中にふいと俺が目の前から消えるとどうなるか。かの技は全てを終えるまで止まれないと聞く。打ち合う中で「空中浮遊」で上空に「早業」で「ダッシュ」し、真田の目の前から消え、止まれなくなったかの者の脳天に一撃を見舞おう。

・竜胆よ、この隙に刀を一閃せよ。この戦を終わらせるのだ!



●剣客乙女、その剛剣を振るうの事
 ごきゅり、紅い甲冑に六文銭の武者、猟書家・真田神十郎の腕から異様な音が鳴る。それは猟兵によって与えられた身体のダメージの中でも重大な、戦えぬほどの損害を即興で強引に「戦える状態」に整えていく、オブリビオン故に可能な無理な戦い方だ。猟兵の間で用いられる言葉に当て嵌めるなら、「限界突破」といったあたりが適当か。猟兵に出来ることが、猟書家たるその男に出来ぬと誰が言えようか。或いは、そう――武人の意地だ。
彼がまことに戦国の世を生きた、日の本一の兵と呼ばれるほどの男であるならば。たかが片腕を折られた、その程度で戦えなくなるはずがない。何はともあれ、今、こうして。真田が猟兵に折られたはずの腕は、問題なく槍を振るえる程度までになっていた。他にも傷つけられた場所は数あろう。猟兵たちの与えたダメージは確実に真田の中に蓄積している。これは戦闘を続行するための仮の処置に過ぎない。
「真田、神十郎……かの武人もオブリビオンと、成り果てたか」
 凜宇は竜胆の前に立ったまま、妖刀「顎」を抜き放つ。
「既に戦国の世は終わって久しいぞ」
『何の、我が主君の悲願が成ればこの仮初の平和も戦乱に立ち戻るであろうよ』
 真田が主君と仰ぐ者。それはこの世界のいずこかで儀式魔術を行っているといるらしい「クルセイダー」にほかならない。そして、その男の狙いが「徳川幕府の転覆」であることを、凜宇は知っている。
『徳川の統治による泰平など、勝てる者が現れぬから続いているだけの事だ。彼奴らに頭を押さえつけられている諸国大名共も、徳川が敗れればこぞって自らの領地に戻り、旗を揚げるであろうよ』
 それを自らの主君が成すと、己はそのために動いていると、そう切れそうなほどに真っ直ぐな視線が語る。それにけして劣らぬ竜の眼光で、凜宇はその視線を断ち切った。
「残念だが、それを成させぬ為に我らがいるのよ。ご所望ならば戦に付き合おうぞ。……そして再び、骸の海で眠るが良い!」
 竜胆よ、と凜宇は刀を構えたまま、後ろの女武者に言う。
「俺が守るが故、安心して戦え!」
「うむ!お前たちの因縁は私にはわからぬ、だが私とて意地がある!この剣、振るわせてもらおうぞ!」
「心強い!」
『……笑止!所詮は戦乱を知らぬ泰平の剣、何が出来る!』
「――女の剣と、笑わなかった事だけは加点してやろうッ!!男武者!!」
 竜胆の剣はその軽く細い体つきに似合わぬ剛剣だ。ぶん、風を切って彼女の太刀が真田の鎧に叩き込まれる。しかしまだその剣は鎧を叩き壊すには届かない。真田が槍を振り回し、竜胆がその剣で受け止める。ぎりぎりと軋り合う力比べは、やはり真田の方に分がある。凜宇はいざとなれば竜胆をいつでも守れる位置を保ちながら、竜胆とは逆の方向から真田へと斬りかかる。真田は逆の手で、一瞬で腰の刀を抜いた。妖刀であるのだろう、抜かれた刀はただならぬ光と空気を放ち、がりがりと刃を噛み合せながら凜宇の「顎」を受け止める。
ぶぉん、真田が十文字槍を大きく振り回す。竜胆がたたらを踏んだ。すかさず霖雨が援護に入る。二人の剣を正面から受けた真田の瞳が、己の妖刀の纏うものと同じ色に光る。
(来る、かっ……!)
 十文字槍と妖刀を両の手にしての、超高速の連続攻撃――神速十字斬。それを察した凜宇は自らも妖刀「顎」の力を解放する。封じられねばならぬ妖刀の力。「顎」のそれは一度手にすれば闘争を求めてやまなくなるもの。凜宇は「顎」の黒い怨念をその身に纏い、真田の超速連撃を竜種ゆえの力と速度でもって追いつき、一撃一撃を確実に弾き、往なしてゆく。しかし竜胆は真田の超高速の動きには追いつけていない、彼女を庇いながら受け手に回る、このまま続ければ勝負は明白なことはわかっていた。故に。
――真田の神速十字斬、超速による連続攻撃は早々続けれらるものでもなく、一度回避されたものを追いなおすのも難しい。技の速度が、世界の速度と違いすぎるのであろう。故に竜胆を真田が既に通った道、安全圏へと誘導し、自身は真田の剣と槍とを凌ぎに凌ぎ――そして彼の刃を弾き返すやいなや、竜の翼を広げて空へと飛び上がった!
『……ッ!!!』
 空にある見えぬ坂道を駆け上がる様に空を翔ける。真田の技は標的を逃そうともその動きを止めることは出来ない。竜の翼を羽撃させ、天を高速で移動しながら、凜宇は顎の怨念を纏ったまま真田の脳天へとその刃を振り下ろす!
『がぁ……ァッ!!』
 骨をえぐる重い音が響いた。互いが高速で移動しているが故に狙いはうまく定まらず、脳天串刺しとはいかなかったが、真田の額当ての下からだくだくと血が流れていく。
「竜胆よ――今!」
「うむ……!!」
 竜胆の剣が真田へと振り下ろされた。脳天を狙うには頭蓋骨は滑りやすい。叩き刻むような斬撃を受け、真紅の甲冑の一部が砕け散る音がする。ざざざ、と真田の脚が砂利道の上を滑った。
「くっ、仕損じたか――」
『……ッお、の……れェッ……』
 赤い血がぼたぼたと見晴台の土を濡らす。戦鬼の眼光が圧となって凜宇と竜胆に向かって放たれた。
 ――この戦の終わりは、まだ訪れそうになかった。

成功 🔵​🔵​🔴​

地籠・陵也
【アドリブ連携歓迎】
【指定UC】を使って真の姿になるぜ。

竜胆と共闘だ。
本当は護って逃すのが一番だろうが護られっぱなしは本人が嫌そうだし、あいつに一発はくれてやりたいって顔してるし。
なら俺が全部防ぎきればいい。何、適材適所ってやつさ。
俺は護ることの方が得意だからよ。耳打ちで話合わせて前に出るぜ。

竜胆への攻撃は全部【かばう】!
【高速詠唱】で【結界術・オーラ防御】を互いに、その上で攻撃は【武器受け】するぜ。【激痛耐性】で表情は絶対崩してやんねえ。
隙を見て【多重詠唱】で光の【属性攻撃・レーザー射撃】も使おう。
腕や脚狙って【部位破壊】の容量でな。

護るとは言ったが、「攻撃しない」とは一言も言ってねえぜ?



●白竜の子、ましろなる姿を顕すの事
 ぼたりぼたりと、真田の血が見晴らし台の地面を汚す。猟兵達が加えた攻撃は、ひとつひとつ、着実に真田神十郎にダメージを蓄積させている。それでもこの男はさすが猟書家と呼ぶべきか、それとも戦乱の世最後の武将・日の本一の兵と呼ばれた男と呼ぶべきか。否、この男がかの武将と同一人物であるかどうかは定かではないが――それでも、六文銭に赤備え。限りなく縁近い人物であると見てよいだろう。尤もその是非は、この時代を生きる竜胆には、そして陵也にも、関わりのないことであるのだったが。
「……俺は、絶対に誰も見捨てない。誰も失わせない、俺が、あんたを守ってみせる……!」
 誓いの言葉を口にした陵也の姿が、変わってゆく。黒髪が、その鱗と同じ純白に。背には翼をはためかせ、三対六本の白い角を生やした、どこもかしこも真っ白な中で、翠だった瞳の色だけが蒼玉がごとくに。――その姿たるや、荘厳。
 大盾のごとき杖を手に、陵也は竜胆に静かに、小さく語りかける。
「俺が、護る。あんたへの攻撃、全部俺が引き受ける。だから、あんたは全力で戦ってくれ」
「う、む……だが、しかし、良いのか? すべて引き受ける、などと……」
「いや、本当はあんたを護りきって逃がすのが一番だと思うんだけどよ。護られっぱなしはあんた、嫌いだろ」
 一発くれてやりたいって顔、してる。
「それは……それは、そうだ。あの様な悪鬼か妖が如き男が相手とて、私も剣の道を歩むもの。私とて、一太刀くれてやるくらいは出来る……!」
「なら、俺が全部防ぎきればいい。何、適材適所ってやつさ。俺は――護ることのほうが得意だからよ」
「そう、か……ならば、頼んだぞ……!」
「ああ、任しとけ」
 そう言って陵也は竜胆の前に出る。そのまま大盾をまっすぐに構えた。がぎぃん、金属同士がぶつかり合う高く鈍い音がする。真田の槍が真っ直ぐに突き出され、大盾に突き刺さっていた。一撃を防がれたと見てとるや、真田はすぐに後退する。次の瞬間、見晴らし台に石壁が突き立った。陵也は竜胆の腕を引く。まばたきひとつの間に、見通しの良かった見晴らし台はサムライエンパイア特有の城郭で作られた迷路に変じていた。
「これはっ……面妖な……!」
「迷路か。厄介な技を出してきたな……絶対に俺から離れないでくれよ」
「わかっている、逸れるのは勘弁願いたい!しかし、これを抜ける算段は出来ているのか?」
「……あいつが迷路の外にいるって確証もない。いや、むしろ……!」
 ――迷宮を作り出すことによって、戦場を狭めたと見るほうがいい!
竜胆の視界、知覚の外側から刀が閃めいた。ガンッ、陵也の大盾が刃を受け止める。それは妖刀の一撃か、刀身が妖しく輝き、がりがりと大盾を抉らんばかりの勢いで斬りかかられてくる。一瞬力が抜かれたかと思えば、やはり狙いは竜胆だ。真一文字に斬り払われた斬撃を、大盾で受ける。
「ち、なりふり構わなくなってきたな……!」
 真田神十郎にとっての第一目的は「剣客乙女・竜胆の殺害」である。そこに猟兵が間から横槍を入れてきたに過ぎない。「オブリビオンは猟兵を見た瞬間に殺すべき敵であると認識する」と言うが、しかしクルセイダーという主君を抱く真田神十郎というもののふにとって、主君の悲願の成就が第一。故に手勢を増やすために竜胆を狙ったのだ、猟兵という邪魔者を放ってでも竜胆を殺したいはずである。それをしないのは、竜胆が邪魔者故に殺そうとしているのではなく、オブリビオンとして蘇らせて手勢に加える為であるから。殺してすぐに配下になるというものでもないのだろう。或いは、剣豪であっても只人である竜胆をいつでも殺せると見ているから。そして最も重要であろう因子は、真田神十郎という男が武人であるからだ。敵たる猟兵を全て撃退して目的を果たす、それがもののふの持つ一種の美学であるからであろう。ここに来て、猟兵の猛攻を受けた末にか、真田はそれを捨てつつある。
 狭い迷路の中で、大盾は動きを制限される。陵也は高速で防護の膜と結界とを己と竜胆とに張り、竜胆への剣撃を文字通り己の体で、身を挺して庇う。磨き抜かれた妖刀の刃が、槍の一撃一撃が、陵也の体を傷つけていく。痛い、痛い、痛い――そう思っても、意地でも顔には出さない、表情は絶対に崩さない。
 真田もまた迷宮を展開し戦場を狭めることで竜胆と陵也に近づいたは良いものの、狭い迷宮の中では長い十文字槍を使いあぐねているようだった。自然、振るわれる武器は取り回しやすい妖刀が主となる。がきんと槍の柄が迷宮の壁に当たり、竜胆へと――ひいては陵也へと届かない。ち、と舌打ち一つ、逆の手に持った刀を閃かせる直前の隙を、陵也は見逃さなかった。唇の中で幾重にも力ある言葉を詠唱し、放たれたましろき光の一条一条が真田の脚を、そして刀持つ腕を、次々と穿いてゆく。
「護るとは言ったが……「攻撃しない」とは一言も言ってないぜ? ――竜胆ッ!」
「ああ、承知したっ!」
 待ち侘びたぞ――!!
竜胆の剣が妖刀を跳ね飛ばし、真田の腕に食い込む。一刀両断とは行かなかったが、遂に真田にその手から刀を手放させることに成功したのだ。
『……く……』
 拾っている暇は惜しい。しかしてこの狭い中では残った槍を取り回せない。竜胆の刀が払われ、真田の腕から血飛沫がびしゃりと迷宮の壁よりも高く噴き上がる。ざざ、その身から血を噴き出させながらも真田は二人から距離をとった。城郭で出来た迷路が、雲散霧消していく。
 がきぃん!!それは槍の間合いだった。陵也もそれを分かっていたからこそ、大盾で受け止める事に成功したのだ。いつのまにか真田の手には竜胆が弾き飛ばしたはずの刀が再び握られている、しかしその手からはぼたぼたと血が流れ落ち、柄から刀身まで真田自身の血を吸って妖しくぬらついている。
『……まだ、だ』
 陵也の光に両足を貫かれ、血を流し、それでも真田は地を踏みしめて立っている。その脚を地面に着かせるまでは、彼を破ること罷りならん――
「だったら、何度でも護るだけの事だ……!」
 竜胆が背後でちゃきりと刃を握り直す音が聞こえる。陵也もまた、手にした大盾に力を籠め直すのだった。
 決して、それから手を離すわけにはいかない。誓いを違えぬために。
竜胆を、護り抜く為に――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ティオレンシア・シーディア
本人がひたすら「シンプルに強い」上に知略策略アリアリとか、ホント厄介ねぇ…
遠間から釣瓶打ちしたいとこだけど、戦闘駆動で不慣れなバイクから落っこちられてもコトだし。素直に降りましょ。

…とはいえ、正面切っていざ尋常に、ってのは正直あたしには荷が重いわぁ。――せめて前衛がいてくれないと、ね。
さんざ追っかけまわされたんだもの、恨みのひとつもあるんじゃない?

竜胆さんに前衛任せて、あたしは●縊殺で援護射撃しましょうか。仕込むのはイサ(停滞)・ソーン(障害)・ニイド(束縛)の遅延のルーン三種に十一面観音印、その権能は「修羅道の救済」。
どれだけ速かろうが強かろうが、当たらなければどうってことないものねぇ。



●剣客乙女、戦鬼と対峙するの事
 六文銭の紋を刻んだ紅い甲冑――それを身に着けた男の全身が、猟兵たちの猛攻を受けて流した紅に染まりつつある。けれど、それでも、男が膝をつくことはない。
(もし彼が「あの武将」なら――ああ、もう)
 ティオレンシアはミッドナイトレースに跨ったままで溜息を吐く。
彼がかの日の本一の兵と呼ばれた猛将と同一人物であるかどうかはわからない。しかし、彼が一人の武士(もののふ)であるということは各々がかつて見た予兆からも明らかであろう。このサムライエンパイアにて、徳川の統治する今、泰平の世を侍の時代と呼ぶなら、それ以前の戦乱の世は武士の時代とも呼べるだろう。そして、UDCアースにおける赤備えに六文銭の武将の話を紐解くならば――彼は、戦乱の世最後の武士と呼んでも良い。過去から蘇りしオブリビオンは、時として数奇なる縁をも結ぶ。されど、その存在の全ては現在と未来の破滅へと繋がるものだ。故に――真田神十郎は、斃さねばならない存在。
「本人がひたすら「シンプルに強い」上に知略策略アリアリとか。ホント、厄介ねぇ……」
 先程のように遠間からの釣瓶撃ちをするという選択肢もある。けれど、この男を相手にするならば今まで以上に複雑な、曲芸まがいの動きをすることになるだろう。先程もずっとティオレンシアの腰に掴まりっぱなしだった竜胆が、これ以上の戦闘駆動で落ちないとも限らない。ティオレンシアは竜胆を見晴らし台に下ろし、自身もミッドナイトレースから降りた。
「……とは言え。正面切っていざ尋常に、ってのは正直あたしには荷が重いわぁ。……せめて、前衛がいてくれないと、ね?」
 ティオレンシアは蕩けるような甘い声で竜胆に向かって微笑みながら、片目を瞑ってみせた。
「さんざ追っかけ回されたんだもの。恨みの一つもあるんじゃない?」
「……ああ、私の出番ということだな!」
 竜胆が剣を抜いた。その剣の刃紋は使い手に似て真っ直ぐな直刃。雪雲の隙間から注ぐ光を反射して、背を正すようにぎんと光る。対する真田神十郎もまた刃を構えた。その妖刀の刃には妖しい色の念が取り巻き、そして神十郎自身の血を吸って紅くぬらついている。
『お前が直接我が相手と成るか』
「貴様らが手にかけるであろう罪なき者たちがおらぬここでなら、私は存分にこの刃、振るおうぞ!」
『面白い――!』
 二人が同時に大地を蹴った。一歩の距離は真田に分がある、しかし竜胆もまた速い!ぎぃぃぃん、刀と妖刀とが鍔迫り合い、軋り合い、ぎゃりぎゃりと火花と音を立て、ぶつかり、また離れ、そしてぶつかり合いを繰り返す!
 それをティオレンシアは冷静に見ていた。真田の刃についていっているどころか、竜胆の剛直な剣は五分にまで持ち込んでいる。しかしそれも、長くは続かないだろう。相手はオブリビオンだ。竜胆はあと一刻も打ち込み続ければ息切れを起こすだろうが、真田は同じペースでも戦い続けることが可能だろう。故に、決着は短期で付ける必要があった。
 ティオレンシアはペン型の鉱物生命体、ゴールドシーンを取り出した。ルーンならば指先で刻むことも出来るが、何かを書くという事にペンの形は長けている。
『停滞』の力を持つ《イサ》、『障害』の力を持つ《ソーン》、『束縛』の力を持つ《ニイド》、三種のルーンを刻む。空中に刻まれたルーンは仄青く光を放った。次いでティオレンシアは、両手で印を結ぶ。
「オン・ロケイ・ジンバラ・キリク・ソワカ、オン・マカ・キャロニキャ・ソワカ!」
 唱えたるは十一面観音真言、――世の中をを照らすものよ、あらゆる苦を抜く願いを成す者よ――。その権能は「修羅道の救済」。
 シングルアクションリボルバー「オブシディアン」を手に、竜胆と切り結ぶ真田神十郎へと向かって発砲する。撃ち込まれた弾丸は真田の鎧へと吸い込まれていく。がん、がん、がん、叩きつけるようなそれは鎧をへこませてゆくが、確定的な瑕をつけるには至らない――否、それでいい。すでにティオレンシアのユーベルコード【縊殺(ルイン)】は、効果を発揮し始めている。
「あたしは臆病なの。完膚なきまでに徹底的に潰さないと……安心、出来ないのよねぇ」
 ティオレンシアが二人の真ん中に手榴弾――グレネードを投げ入れる。竜胆、真田、共に一瞬で退いた。両者の間でグレネードが爆発する。次いで二度目のグレネードが真田に向かって投げられた、真田がそれに対して何かをする前に、グレネードは爆発する。それは爆風によってごくごく狭い範囲にのみ殺傷効果をもたらす攻撃手榴弾(コンカッション)だ。顔面に爆風の直撃を受け、真田が顔を覆って呻いた。その隙を見逃す竜胆ではない。
「貰った――!!」
 竜胆の、しなやかでまっすぐ、されど剛直な太刀筋が真田の鎧を貫き、鎖骨から喉元を貫く。大事な血管を断たれ、びしゃあと真っ赤な血飛沫が真田の周囲に撒き散らされた。それでも真田はオブリビオンである。彼はまだ立っていて――そしてその瞳が、妖刀の刃と同じ怪しい色に染まる。
「来る!避けてっ!」
 ティオレンシアが竜胆へと叫んだのと、真田の超速連撃による剣技を繰り出し始めたのは同時であった。竜胆が地面へと転がる。だが、それでいい。どんなに無様でも、それで竜胆は真田の攻撃を躱した。そしてこの技は、回避されても中断することの出来ないものだとティオレンシアは知っている。真田の剣はそのままティオレンシアへと向かってくる。それを彼女は知っていた。誰あろう、彼女が自身の戦略によってそう仕向けたから――竜胆ではなく、ティオレンシアを狙うように、それしかないのだと、真田の思考をそう誘導したからだ!矢継ぎ早に弾丸と手榴弾を受け、それでも真田は止まらない。止まれない。ざざ、ざざざざざっ、砂利、石畳の上を滑り、火傷と弾丸を全身に受けて、漸く真田は動きを停止する。――そして。その時には竜胆が体勢を立て直し、真田へと追いついてくるのもティオレンシアの読み通り。
「やぁぁぁぁっ!!」
 竜胆が刃を一閃させる。ばきり、真田の鎧が度重なる刺突と斬撃を受けて遂に砕け、一部が剥がれ落ちた、紅く塗られた鉄が弾け飛ぶ。もう一度、竜胆の剣が閃く。真田の胸、鎧の剥がれ落ちたその箇所へと、刃はまっすぐに吸い込まれていく――
 ぞぶり、竜胆が身を翻すと同時に刃を抜く。夥しい量の血が真田の体から溢れ出し、見晴らし台の大地を真っ赤に染め上げた。
「莫迦な……っ?」
 竜胆が呟いた。――この男、まことの戦鬼であったかと。
そう、真田神十郎は既にこの世のものに非ず。過去より蘇ったオブリビオン。故に、今の一撃を受けて、まだ――立っている。おぞましいほどの血を流しながらも、尚。はあ、はあ、はあ、その荒い息が、ティオレンシアにも伝わってくる。
『まだ――まだだ。猟兵よ。剣豪よ。この真田神十郎の首、この程度では獲れぬと知れ……!!』
 ティオレンシアは黙ってオブシディアンをリロードした。彼女の策はまだ活きている。ならば、終結のときは近い――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

クロム・エルフェルト
刹那、竜胆殿に[催眠術]で白昼夢を見せ作戦を伝える
一つ賭けに乗って頂戴
私があの男を釘付けにする
動きを見切って槍の穂先を斬り落として欲しい

竜胆殿と分断されぬよう付かず離れず
迷路の行止りで待受ける

大胡……いえ
上泉武蔵守信綱が弟子、クロム
いざ尋常に、参る

[カウンター]を織り交ぜ斬結ぶ
以前ちらと見た仲間の凄まじい槍捌き
それと殆ど同等、流石に全て受け切るのは厳しい
抜けてきた刀に槍、[咄嗟の一撃]で必死に防ぐ
成長したとはいえ、お師様には及ばぬ身
きっと満身創痍
嗚呼、でも
[騙し討ち]として斬結ぶ太刀筋の中にUCを仕込んでいた
そろそろ槍が重くなってきた頃かな

槍の穂先が飛んだ隙を突き
御身の首級、貰い受ける――!!



●剣客乙女、剣狐と共闘するの事
 ――竜胆はつかの間、夢を見た。それは時間にすれば刹那、瞬きほどの時。しかし、体感時間はずっと長い。その白昼夢の中で、クロムが竜胆に語りかける。
「……一つ、賭けに乗って頂戴」
「賭け、か? それは、一体どのような……?」
「やってほしいことがあるの。あの男と戦うには、私では未熟。あなたが重要になってくる……だから――……」
「……――なるほど、その手があるか……出来ぬこともないが……いや。ここでやれずして、何が剣客か。良かろう、その賭け、乗ったぞ……そなたのことは、なんと呼べば良い?」
「クロム、と」
「クロム殿だな。此度の件、助けてくれている皆の殆どが名前を聞く暇など無いからな……名を呼べて嬉しいぞ、クロム殿。……任せよ、必ずや私は、やり切ってみせよう」
「ありがとう、竜胆殿」
 その声を聞いたところで、はっと竜胆の意識が現へと戻ってくる。夥しいほどに血がぶちまけられた見晴らし台。目の前には先程話していたクロムが刃を抜き、そして流れ出した血の持ち主である紅い甲冑の武者が全身に傷を負いながらも立っている。
 ぐらり、竜胆の頭蓋が揺れた。クロムが竜胆の袖を掴む、飛び散った血が消え、両側に石と土で作られた塀がせり上がってくる。あっという間に迷宮――真田の城郭で持って作られた、迷路の中へと二人の乙女は閉じ込められた。
「はぐれないように、奇襲を警戒しながら進みましょう」
「うむ、わかっている」
 そう頷いた竜胆の掴んでいた袖を、クロムは放す。先程術を使って行った秘密の会話は
滞りなく竜胆に伝わっている。彼女も覚えているだろう、いる筈だ。こればかりは受け手の竜胆の主観の問題になる。しかし彼女は自身の名前を問うてきてくれた、きっちりと会話ができていた、意思の疎通が出来ていた――ならば。自分は、やるべきことを、やり遂げるだけだ。
迷宮の中に幾つも幾つも存在する死角から奇襲を受けぬように警戒を怠らずに迷路を進みながら、何度も何度も行き止まりに突き当たっては取って返す。どこへ行くべきかなどわからない、入口から入ったわけでもない、迷路のど真ん中に自分たちは出た――いや、迷路のほうが湧いて出てきたのだ。クロムが幾つか知る迷路の必勝法もこうなっては役に立たない。クロムは息を吐き、何度目かになる行き止まりで足を止めた。
「……? どうしたのだ、クロム殿」
「――ここが、最も動きやすい場所でしょう」
 クロムにはわかっている。真田神十郎、かの男が自分たちを迷宮に閉じ込めたのは、迷わせるためでもなければ時間を稼いで傷を癒やすためでもない。前者の意味は彼にはないし、後者を行うには彼は傷を負いすぎている。幾ら彼が猟書家、オブリビオンといえどもこの程度の僅かな時間休んだところで傷が癒えるものではないだろう。何より、おそらくはもののふとしての彼の矜持が許すまい、傷を癒やすならば、竜胆を殺して本懐を遂げ、それからである筈だ。ならば。――広い見晴らし台から、死角だらけの迷宮へと戦場を狭めるために。竜胆を襲いやすくするために迷宮を生み出したと考えるほうが自然だ。無論、それをしないためにクロムたち猟兵はこの場にいるのだが――この行き止まりは、先程から行き当たってきたところよりも僅かに広い。
(槍使いが攻めてくるならば、槍を十分に取り回せるこの場所――)
 途端、クロムたちの周りに重圧がのしかかってくる。否、これはただの重みではない。殺気、剣気だ。二人の前に、六文銭の紅い甲冑――真田神十郎が降り立つ。
「来ましたか――真田、神十郎」
 クロムは腰に下げた刀の柄を握り、真田へと向きあう。
「大胡……いえ。『上泉武蔵守信綱』が弟子、クロム。――いざ尋常に、参る!」
 名乗りを上げたクロムに、真田もまた槍を構えて返す。
「我が名は真田神十郎。今は「クルセイダー」を主君と定めた身。故に、そして。お前たち猟兵の敵となる者なり。……いざ」
 ぶおん、真田の槍が空気を唸らせる。豪槍の突きを受け止めるは、一瞬にして抜かれたクロムの刃。息もつかせぬ程の速さで、一撃一撃が重い突きが繰り出され、クロムはそれ刻祇刀・憑紅摸でもって受け止める。槍の穂先と刃とががりがりと軋る音がする。襲い来る猛攻は空気を斬り裂き、一撃受け止める度に手が痺れた。――それでも。
 かつてクロムは、槍を扱う猟兵の戦いをちらりと見たことがある。決して近くでまじまじと観戦できたわけではない。クロムとて敵と戦う中、本当に視界の隅に収めただけのこと。けれど――その猟兵の凄まじい槍捌きを思い出していた。きっとあの槍も、重く、そして激しく。……そう。全てを受けきるのは、かの槍であっても、今受けている真田の槍であっても同じく難しいだろう。
「くぅっ……ぐ……!」
 槍の鋒を受け、斬り裂かれる。重い甲冑を纏っていない分だけ、露出が多い分だけ、同じだけの攻撃を繰り出したとしても受ける傷はクロムのほうが多くなる。突きこまれる合間合間に刃を返し、血に濡れた真田のその体に更に傷を増やしながら、クロムは退りそうになる足を懸命に留める。何故なら、彼女の後ろには竜胆がいるから。クロムが少しでも退がれば、その槍は竜胆の胸へと吸い込まれるかもしれない。それだけはさせてはならない。それをさせないために、クロムたちはここへ来たのだから――!
 ……と。不意に、真田の槍先がぶれた。彼の意図しての事でないのは、見開かれたその目を見れば一目瞭然。
「そろそろ、槍が重くなって来た頃かな」
 クロムの剣技【仙狐式抜刀術・牡丹】――。相手の隙を突く抜刀術でもって斬りつけた相手の「機動力」を削ぐ呪いを纏った斬撃を放つもの。名乗りを上げてから、打ち合うこと何合か。そのすべてに、槍の、真田の、機動力を削ぐ呪いはたっぷりと真田に、そしてその槍に染み込んでいる。ぎりぎりと逃れようとする槍を、クロムの憑紅摸は絡め取る――そして!
「――ぁぁあああああああぁぁぁぁっ!!」
 竜胆の雄叫びが迷宮に響いた。その細い体に見合わぬ剛剣が、真田神十郎の槍先めがけて振るわれる。

 ――私があの男を釘付けにする。してみせる。だからあなたは、あの男の槍の穂先を斬り落としてほしい。

 クロムが竜胆に見せた白昼夢の中で告げた「賭け」の中身はそれだった。
竜胆は賭けに乗った。抜き放った刀でもって、クロムと息を合わせ、憑紅摸が引いた瞬間を見切って、真田神十郎の十文字槍の穂先を斬り落とす!
『…………!おのれッ……』
 からん、……金属の穂先が落とされ、転がる音が聞こえる。真田が言葉にできたのは、ただ一言だった。
「真田神十郎ッ……御身の首級、貰い受ける――!!」
 クロムが吠え、その刀で持って真田の首を刈る。ざん、たっぷりと勢いのついた一撃が猟書家の首を一撃のもとに落とした。
――はくり、真田の唇が動いた。何かを言おうとしたのかも知れない。けれどもクロムはその唇を読むことはしなかった。声を出すために空気を送り出す肺から切り離された首は、声を紡ぐことはもうかなわない。ごろん、と首が地面に転がって。どうと首を落とされた体がその場に倒れ。最後に持ち主同様頭を失った槍が、胴体の直ぐ側に転がる。
そのときには、もう迷宮は消え、血に濡れた見晴らし台に、二人は戻ってきていた。
「……これで、終わったか?」
「……はい」
「そうか。それにしても。……面妖な。やはりこの男、鬼か妖の類であったのか……死体が消える、とは――いや、もはや、何も聞くまい」
 転がった首も、それを失った胴体も、そして槍も……灰のごとくに黒くぼろぼろと崩れながら散ってゆく。
散って、そして風に紛れて消える。

 猟書家、真田神十郎はここに討たれた。
見晴らし台から下を覗けば、彼が引き連れていた絡繰忍たちの姿ももはや見えない。おそらくはどこかにいる、別の主の元へと撤収していったのだろう。
かくして、剣客乙女竜胆の命は護られた。

 山には雪がしんしんと降り積もりはじめ。
見晴らし台を汚す、今も残る血の跡さえも、白く塗りつぶされ始めていた――。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年12月22日
宿敵 『真田神十郎』 を撃破!


挿絵イラスト