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呱々の声

#サムライエンパイア #猟書家の侵攻 #猟書家 #『刀狩』 #妖剣士

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 鼻についたは鉄錆の。
 視界に映ったは紅の。
「……あ?」
 忘我の果てより己を取り戻した男は、それを認識する。
 此処はサムライエンパイアにある寂れた片田舎。
 男の生まれた土地であり、妻子と慎ましやかに暮らしていた筈の家。そこは寂れた片田舎だけあって、隣家との距離も田畑や藪を挟んでの彼方。
 だが、今やそこは見慣れた筈なのに、見慣れぬ光景へと塗り潰されていた。
 床に、壁に、天井に、飛び散る紅と倒れ伏す――。
「あ、ああ、ああああ!?」
 棒立ちの姿から慌て、男が駆け寄ったは彼の愛する者達。
 四肢落ち、臓腑零れ、自らより溢れた紅にてしとどと濡れた姿の。変わり果てた姿の。
「どうして、どうして、誰が!?」
 男は戸惑いもなくとソレらに触れる。されど、その問い掛けに答える声などあろう筈もない。
 ふと、その愛する者達に触れていた手へ違和感を覚える。
「なんで、俺はこいつを……」
 手の白くなるほどに握り込まれた刀の柄。
 それは男の意思になど微塵も応じず、その柄を離さない。
 言う事を聞かぬ己の手に、男の混乱は加速するばかり。
 されど、その刀には見覚えがある。当然だ。何故なら、それは男の愛刀で、武芸者を気取った若りし頃からの付き合いであればこそ。そして、なにより――。
「……俺が……俺が、こいつらを?」
 自らが愛する者を惨殺した刀であればこそ。
 それを認識した瞬間、男の脳裏に蘇るは惨劇の時。自らが引き起こした殺戮の時。
「アアアアア!? アアアアアアア!!」
 信じられぬと心は言う。だが、そうであったのだと記憶は言う。
 否定する心と否定出来ぬ現実に、男の心は罅割れ、絶望の淵へと堕ちていく。
 ――そして、一匹の鬼が生まれ落ちた。
 男の嘆きを産声として、誕生の祝福ではなく血と絶望に塗れて。
 変わり果てた男――誕生したばかりの鬼の手の中で、刀が嗤うように身を震わせていた。

「皆さんもご存知かもしれませんがぁ、猟書家さん達は大層に勤勉なご様子ですねぇ」
 集まった猟兵達の前、ゆらゆらりと揺れたは兎耳。その根元で、ハーバニー・キーテセラ(時渡りの兎・f00548)がゆるりと語る。
 最初に確認された数より、じわりじわりとその数を増やしつつある猟書家達。ならば、引き起こされる事件の数も、内容も増えていくのは当然でもあると言えるだろう。
「今回の依頼もですねぇ、それ関連となりますよぅ」
 示される情報はサムライエンパイアのモノ。
 そこで巻き起こされるのは、妖剣士を狙ったモノであるのだと言う。
「妖剣士の皆さんが扱われる武器ぃ……ええとぉ、妖刀の類ですねぇ。今回はぁ、その特性を利用して事件を引き起こしたのだとかなんとかぁ」
 妖刀に纏わりつくは呪い。持ち主を蝕むモノである。
 今回、事件を引き起こした黒幕――猟書家はその呪いを利用し、その持ち主を自らの操り人形にして事件を引き起こしたのだ。
「自分を喪わせてぇ、その隙にそのヒトの大切なものを滅茶苦茶にするぅ。そしてぇ、もう戻らない程に壊したらぁ、その様をまざまざとぉ」
 自分がやったのだ、と。壊したのだ、と自覚させる。そうすることで、その持ち主の心を壊す。それさえ成ってしまえば、後はその容れ物を使うだけ。今回で言うのなら、鬼へと変じさせて、江戸幕府転覆のための手駒と変えるために。
「……皆さんをお送りさせてもらうのはぁ、その鬼が生まれた直後となりますぅ」
 それはつまり、始まりの惨劇はどう足掻こうとも避けられぬことを示す。
 だが、まだ一つだけ。
「男性の心はぁ、まだ完全に壊れきってはいませぇん」
 男を鬼足らしめているのは、まだ彼の持つ刀に因るところが大きく、どのような手段であろうとも、それさえ彼の手から離すことが出来れば鬼化も解除することは出来るのだ。
「この時を逃せばぁ、彼が元に戻ることは出来ずぅ、鬼となった彼は被害を広げ続けますよぅ」
 家を出、まずは手近な家々を襲うことは間違いなく、彼を止める時があるとすれば、今、この瞬間しかない。この瞬間を逃せば、彼の行方は杳として知れずとなることだろう。
「大切なものを喪った彼を正気に立ち返らせることがぁ、彼にとっての救いとなるのかは分かりませぇん。ですがぁ、助けられる命があることは間違いのないことですよぅ」
 どのように鬼と対峙し、鬼を退治するかは、猟兵へと委ねられたのだ。
 そして、恐らくは――。
「彼を鬼の姿から解放すればぁ、黒幕もまた姿を現すことでしょう」
 それを討つことで、初めてこの依頼は目的を達成できたと言えるのである。
「過酷な戦いとなることは間違いのない事でしょう。ですが、皆さんならば、皆さんが思い描く結末に導けるものと信じています」
 ――それでは、いってらっしゃいませ。
 銀の鍵が虚空に差し込まれ、カチリと音立て扉が開く。
 眩きの零れだす先は、きっともう別世界。


ゆうそう
 オープニングを読んで頂き、ありがとうございます。
 ゆうそうと申します。

 今回の依頼はサムライエンパイアの猟書家に関連するもの。
 二章構成からなり、第一章、第二章ともボス戦です。
 第一章では、鬼となった男(鬼としての名は餓蒐)の手から刀を如何にして手放させるか。
 第二章では、出現した猟書家を如何に打ち破るか。
 それぞれ、以上のことが目的となってくるかと思います。

 また、第二章にて男がまだ動ける場合、彼もまた戦う力となってくれることでしょう。
 男が十全であれば、この戦闘のみですが、猟書家に対する怒りと怨みで猟兵の妖剣士に匹敵する力を発揮します。
 第一章を経ての怪我等の状態によって、男の戦う力は増減するものと思って頂ければ。

 なお、、第一章中、ないしは第二章にて男が死亡しても、依頼の失敗とはなりませんので扱いは皆さんにお任せします。
 あくまでも、刀の奪取と猟書家の撃破が目的です。

 それでは、皆さんの活躍とプレイングを心よりお待ちしております。
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第1章 ボス戦 『餓蒐』

POW   :    屍山脈脈
全身を【掴み攻撃を行う数多の腕】で覆い、自身が敵から受けた【ダメージや、向けられた感情】に比例した戦闘力増強と、生命力吸収能力を得る。
SPD   :    定離斬
【刀を使った連撃と、それに伴う衝撃波】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
WIZ   :    凶夢の呪い
【右目に嵌まった鳴らない鈴】を向けた対象に、【動けなくなる程の深い悪夢】でダメージを与える。命中率が高い。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は藏重・力子です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

臥待・夏報
おっけー、殺すくらいのつもりで行く
じゃなきゃ足手纏いになりかねないもの
夏報さん腕っ節は全然だからな……

極力感想を抱かないようにする
時代劇とかの映画でよく視る感じのやつ、だ
基本的には逃げ足を活かしつつちょこまか挑発
銃やフックロープでの攻撃は単なる時間稼ぎで、大したダメージは与えられないだろう
……その腕で掴みかかってくる時には、僕のこと、簡単に殺せる相手だと思ってくれてる筈だ

ほら、やってみなよ
無責任な野次馬を縊り殺すのはさぞ気持ちがいいでしょう

溢れた血と臓腑が内臓を抜かれた牛の真実を描き、一帯が呪詛の炎に包まれるーーのはただの派手な演出だ
本命は騙し討ち、意識が逸れた一瞬を狙って刀を握る拳を叩くよ!



 踏み入った先は紅の世界。
 噎せ返る程の血香が漂い、靴底越しに感じるは赤黒くと固まりつつある血液か。
 臥待・夏報(終われない夏休み・f15753)はその不快感に僅かと眉を顰め――今はそれを覚えるべき時ではないと、その意識を切り捨てる。
「時代劇とかの映画でよく視る感じのやつ、だ」
 ちょっとばかり、レーティングは高くなりそうだけれど。なんて、心の内で零してみれば、臭いも感触も、画面越しへと早変わり。もう、気になりはしない。
 そうだ。この環境へ対する感想に意識を割いている場合ではないというのは、夏報が最も良く知ればこそ。
 視線/画面がゆるりと動き、紅の世界に佇む男であった者を映す。
「時代劇とかの映画でよく視る感じのやつ、だ」
 同じ言葉を、もう一度。今度は、そこに立ち尽くす生まれたばかりの鬼へと向けて。
 その言葉へと反応するかのように――ただ、音という刺激に反応しただけかもしれないが――鬼が、夏報を確かに見た。
 年の頃で見れば、三十路かそれに届かぬぐらいか。だが、その姿形があてになるものではないと、夏報は知っている。知っているからこそ――。
「時代劇と言うよりは、和風ホラーも入ってる?」
 瞬き一つ。その僅かな時で彼我の距離を詰めんとする鬼――餓蒐の動きへの対応を可能とするのだ。
 鬼へと堕ちる前の男が大切にしていたであろう妻子。その生命の滴に濡れた紅い刃がぬらりと光り、大上段から虚空を薙ぐ。
 夏報は、既に餓集の手の外。
 だが、空を断ち割った刃風は夏報へと届き、ふわりとその身体を撫でて通り過ぎていく。
 真正面から受け止めるを選んでいたら、さて、どうなっていたことか。
 灰色の髪が風に揺れたをそのままに、深い青の瞳はその輝きの奥で冷徹な現実をはじき出す。
「……おっけー、殺すくらいのつもりで行く」
 潜入調査と一撃離脱。それこそが彼女の本来の領分であればこそ、今のような、真正面からぶつかり合うではやや分も悪いか。しかし、それで退くも出来ぬであればこそ、殺すつもりで掛からねばなるまい。この紅の世界で転がる亡骸に仲間入りするつもりなど、夏報には毛頭ないのだから。

 ――また、視界の中で餓蒐の動き出さんとする姿が視えた。

「それは流石に見え見えでしょ」
 餓蒐が獣の如くと跳ぶ。
 距離を詰めるためか。否。躱すために。
 遅れて、凝固しかけの紅が弾け、壁に新たと弾痕が刻まれた。
 くゆる硝煙は夏報が手の内に納めるものよりあがるもの。餓蒐の出鼻を挫いた、彼女の弾丸。
「……全身がバネか何かなのかな?」
 ややもすればの呆れ顔。
 明らかに前傾となっていた餓蒐の動き出し。そこを目掛け、遠慮は無用と撃ち込んだ筈なのに、躱されるとは。それだけではない。跳ねて躱した勢いもそのままに、餓蒐は鞠もかくやと家屋の中を跳ね回る。狙いを付けさせぬを学んだとでも言わんばかりい。
 横から、下から、上から、薙ぐように、掬い上げるように、断ち割るように、刃が流れる。
 だが、逃げる躱すは夏報とて負けてはいられぬ。
 室内であればこそ、取っ掛かりに足場は幾らでも。銃を握らぬ手の内より縄を駆使して、体躯の跳ねるを駆使して、餓蒐に劣らぬと動くのだ。
 だん、がしゃん、ばしゃん。
 足場を蹴り、物を砕き、赤い水たまりを跳ね、止まらぬ/止まれぬ二人の踊りは続く。
 ――だが、その拮抗もいつまでとは続かない。
「それが、切り札って訳だ。いや、それとも今、自分の中にあるモノに気付いたのかな?」
 夏報を求める手が増える。
 それは餓蒐の身より生じた、数多の腕。生え、伸び、夏報を掴み止めんとする腕。
 この拮抗を打破するためか、はたまた、夏報が言うように戦いの最中で餓蒐がそれを学んだのか。それは分からない。だけれど、不意に伸びたその腕が、餓蒐の腕だけであれば届かなかった空間を埋め、夏報に届いたことは確か。
 ――騒がしかった舞踊の音が止まる。
「あーあ、一張羅が台無しだ」
 生じた腕に掴まれ、床に転がってしまったことで、夏報の色に赤が付く。だが、気にするべきところはそれだけ。

「――ほら、やってみなよ。画面越し感覚の無責任な野次馬を縊り殺すのは、さぞ気持ちがいいでしょう」

 むしろ、その言葉でもって挑発するかのように。焚きつけるかのように。
 腕を振り払える訳でもなく、動きを抑えられた今、餓蒐の一刀を避ける術も、受け止める術もないと言うのに、何故か
 それへ、言われるまでもないとばかり、餓蒐は無造作に近づき、その刃を再びと大上段に掲げ――。
「そら、炎上騒ぎだ」
 轟と燃え上がるは、災厄を宿し、悪意を齎す炎。周囲に溢れる血を、臓腑を媒介として燃え盛る炎。
 それは餓蒐と夏報とを隔てるように燃え盛り、一瞬、餓蒐の視界から夏報の姿を覆い隠す。そして、炎は勢いもそのまま、餓蒐をも焦がさんと迫り、敢え無くとその刃の一振りに蹴散らされるだけ。
 これが夏報が動き抑えられてなお平然と出来ていた仕掛けであるのか。だが、それも既に吹き散らされ、意味を失っているのではないか。

「悪いね。騙し打ちは、こちらの十八番でね」

 ――否。
 その炎振り払う一刀を引き出すことこそが、隙を生み出すことこそが、その真なる意味。
 炎は目隠しに過ぎず、演出に過ぎず、己を抑え込む腕を焼き落とすために過ぎぬ。
 吹き散らされた炎、火の粉散る中を突き進み、踏み込むは、蜂の如き一刺し。
 それは的確に餓蒐が刃掲げる腕を叩き、その身ごととかの者を吹き飛ばす。
 生まれ落ちたばかりの鬼と、それに比しては腕っぷしに劣る夏報。しかし、その老獪さにおいては、数多の戦場を越えた彼女の方が何枚も上手であったのである。
 吹き飛ばされた餓蒐の身が、ガツンと家財に激突し、転がる音が響いた。

成功 🔵​🔵​🔴​

土斬・戎兵衛
自分の意思なき殺しは俺ちゃんも人生でさんざっぱら殺ってきたけど、どーでもいい人しか殺してこなかったから、それで傷つくこともなかったしなぁ
大切な人がいるが故の悲劇ってーのは、悲しいね

UCで敵の動きを【見切り】
経験則だが、こういう手合いは遊びなく殺しに一直線が多い
掴んで、封じて、斬り殺す
迫りくる緋腕は片っ端から斬り落としていかないとヤバかろうね

衝撃波は首枷を叩きつけて【盾受け】
刀には刀で対処

禍ってるあの右眼は嫌~な感じがするし、眼は合わせないでおこう
大丈夫、胴体のだけでも見られれば動きは読める

やあ、殺すために作られた御同類、斬りたい相手は俺ちゃんで良いのかい?

隙をみて右腕をザックリいかせてもらおう



 惨劇の空間は、人によっては眉を顰めるでは済まぬものではあろう。
 だが、土斬・戎兵衛("刃筋"の十・f12308)にとっては、それはその程度には値しない。
「自分の意思なき殺しは俺ちゃんも人生でさんざっぱら殺ってきたからなあ」
 むしろ、人斬りたれとして生み出された彼にしてみれば、この程度の血の海など慣れ親しんだもの。今更と目の前の光景に傷つく程、軟な心の持ち合わせはない。
 とは言え、だ。彼が斬り捨ててきたのは、彼にとっての無価値なる――金銭的な意味では価値が発生したのかもしれないが――者達だけ。
 目の前の、他の猟兵の一撃を受け、今は家財の山にうずもれる鬼のように、大切なモノを斬った記憶はない。強いていうのなら、己が創造主を斬り捨てたような気もするが、それをカウントするは彼の中ではきっとまた違うのだろう。
「大切な人がいるが故の悲劇ってーのは、悲しいね」
 ご愁傷様です。なんて、どこまで本気かは分からぬ言葉。
 ――家財の山が弾け飛ぶ。
 中から跳び出してくるのが誰かなど、何かなど、予想するまでもない。

「やあ、殺すために作られた御同類、斬りたい相手は俺ちゃんで良いのかい?」

 身体ごとぶつかるように踏みこんできたは餓蒐。その刃を戎兵衛は小太刀一つで受け止めて、かき鳴らすは金属の不協和音。
 顔と顔がくっつきそうな程の至近。
 戎兵衛の視界の中で、きとりきとりと虚ろな左眼が落ち着きなくと動き回る。右目は見ない。見てはいけない。明らかに超常の彩を宿すそれを直視するは危険と勘が囁けばこそ。
 ――それが戎兵衛を視るより早く、その脚は動いた。
 重たい物――具体的に言えば、成人男性一人分の重さが戎兵衛の脚に掛かって、吹き飛ばす。
 斬った張ったは、何も手だけで、刀だけで行うものではない。その四肢全ても、また武器なのだ。
 だが、相手もその動きが素直とは言え、生まれたばかりとは言え、オブリビオンであることは伊達ではない。吹き飛ばされた勢いを転がりいなし、その勢いのままに立ち上がる。そこに、痛痒の類が残っている様子はなし。
「――まあ、そう動くよなぁ。素直なことで」
 声は目前。態勢を整えたばかりの餓蒐の前には、既に刃振りかぶる戎兵衛の姿。蹴り飛ばすと同時、彼は既にその距離を詰めていたのだ。その経験則に従って。
 風鳴りの音すら立たず、刃は静かに空を断つ。
 ――火花が、散った。
 受け止めたは餓蒐が刃。抑え込むは戎兵衛が刃。先ほどとは、真逆の構図。
 ならば、そこからの行動は、先程の戎兵衛の焼き直し。餓蒐が学んだ行動のそれ。ただし、出てきたのは足ではなく――。
「そいつに掴まれるのは、ちくっとばかしヤバかろうね」
 餓蒐の身体より新たに生じる、四対の腕。それはまるで嫋やかで、それはまるで小さくて。だが、かの者の瞳と同じく、触れるは危険と戎兵衛の勘が囁きを齎す。
 対処せねばならない。だが、鬩ぎ合う刃を手放すは出来ない。いや――。
「折角の能力も、それを活かしきる経験がなければ意味もないねぇ」
 抑え込むも、対処するも、それぞれに腕一本あれば十分だ。
 積み重ねてきた戎兵衛の経験があればこそ、餓蒐の心が手に取るように、筋肉の動きが手に取るように。それを腕一本、巧みと重心ずらして抑え込むのだ。これが最初の相手に勢いを持たせた状態であれば、また違ったであろうけれど、今は抑え込む側に立てばこその。
 そして、腕一本で抑えるが叶えば、戎兵衛にももう一本の腕がある。
 ――すらりと引き抜かれた、白刃の瞬き。

「違う刻、違う処であっていたら……仲睦まじくはなれまいか。どうせ拙者らは人殺し」

 たかが四対、ヒトの解体するを修めた戎兵衛であれば、腕一本あれば十二分。
 その四対の腕がなんであるかなど考えるまでもなく、感傷を覚えるでもなく、ただ斬り落とすのみ。
 己が刃を掴み、相手の動きを封じ、迫りくるを斬り殺す。
 初めて、餓蒐の瞳に驚愕と言う名の感情が過った気がした。
 そして、その揺らぎは、小さな動揺は、戎兵衛にしてみれば十分な隙。
「その右腕、もらっとこうかな」
 四対を斬り捨てた動きのままに銀閃が奔り、火花が散らされることもなく、宙に一筋を刻み込む。
 ――ぽたり、ぽたり。
 辛うじて反応した餓蒐の身体。無理矢理に身体を動かし、転がり、躱そうと試みる。その結果として猟兵達から距離を取れはしたけれど、床の赤に新たと混じる紅の量が、その右腕に刻まれた傷の浅くなきを示していた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

上野・修介
※連携、アドリブ歓迎

「拳を、向けたくはない」

操られたとはいえ、大切な人を自ら手に掛ける。
その苦しみが、痛みが、どれ程のモノか。

だが今すべきは同情や慰めではない。

「貴方を止めます」

――為すべきを定め、心を水鏡に

調息、脱力、真正面から相手を観る。

UCと呼吸法による硬功の併用にて肉体強度を強化。
防御・回避を捨て、あらゆる攻撃を受ける覚悟を決める。

拳を固めず、構えを取らず、目を逸らさず、真っすぐに前へ。
斬撃をその身で受けて刀をホールド。

――受けて、耐えろ
――この人の受けた痛みも苦しみもこんなものではない

妖刀といえど、構造上鎬に対しての衝撃には弱いはず。
狙うは刀の鍔元。
横方向から拳を叩き込む。



 右腕の傷より零れ落ちる雫は、男が流せぬ血涙の代わりのようにぽたりぽたり。しかし、その腕の今の主である餓蒐の顔には、変わらぬ無貌がそこにあるばかり。
「拳を、向けたくはない」
 相手がなんであれ、今は戦いの最中。それ故に、その言葉は甘いと言われても仕方のないものであろう。だが、上野・修介(吾が拳に名は要らず・f13887)にとっては、嘘偽りなき言葉。
 その証明とするかのように、巌すら砕く修介の拳は、今はそれを握ることもなし。
 それは大切なヒトを自らの手で殺めた男への同情か、はたまた憐憫か。――否、そのどれでもない。
 ゆらりと傷を負った右腕のことなど顧みる様子もなく、餓蒐が構える。それを視ながらも、修介の瞳には折れぬ意思が垣間見えていた。
 かの男の苦しみが如何ほどであったか。心の痛みが如何ほどであったか。それを理解できるなどとは言えないけれど、それでも。

「貴方を止めます」

 それ以上、男が外道に堕ちぬよう立ち塞がることは出来る。
 己の裡にて為すべきを定め、心を水鏡の如くと波立たせず。
 修介の瞳が、餓蒐の脚に力籠るを視た。
 ――来る。
 その思考と同時、かの脚が床に広がる赤を跳ね、その身も飛沫と同じく跳ねさせる。狭い室内を所狭しと蹴り、跳ね、動き、獣の如くと。
 その動きは攪乱のそれであろう。常人であるならば、室内という限られた空間の中であってもなおと見失い、容易くとその頸を刎ねられていたことだろう。
 そう、常人であれば、だ。
 修介は依然として拳は構えぬまま。そして、吸い、吐く、呼吸のリズムは動き回る餓蒐を前にしても変わらず、その身に余分な力を溜めはしない。ゆるり自然体の姿がそこにはあった。だが、その瞳は跳ね回る獣の動きを確かに観ていた。
 ――前。跳びあがって後ろ、床蹴り左へ跳んで、壁蹴って……。
 修介は自然体であり、迎撃のための構えも、避けるための力も溜めてはいない。
 不動。
 だと言うのに、不落の城塞がそこに聳えているかのような印象を、餓蒐は覚えていた。
 しかし、いつまでもと手をこまねいてはいられない。攻めるは我にあればこそ。一対の腕で足らねば、三倍として攻めるのみ。
 餓蒐の身より新たと生じるは、腕の4つ――嫋やかな女性のそれのようであり、小さき子供のようなそれである。
 ――修介の瞳が鋭さを増した。
 その害意に対してか。ある意味でそうであり、ある意味で否。
 彼は伸び来るそれが何であるかを理解して、その上で――その手に掴まれるを受け入れたのだ。痛みを覚悟の上で。
「――っ!」
 痛みを噛み殺す。されど、瞳は逸らさず。
 纏わりついた腕を介し、生命の根源とも言えるものが修介の身体から流れ出るを理解するが、それでもなおと。
 餓蒐の踏みこむ音が、様子が知れた。
 攻撃を受け入れる修介の様子に、そこから流れ込んでくる力に、餓蒐の警戒も解けたのだろう。
 ――刃が降ってくる。
 修介の背後、死角に回り込んだそこから袈裟懸けにと。

「貴方の、貴方達の受けた痛みは、苦しみは、きっとこんなものではなかったのでしょうね」

 初めて、修介が動いた。
 腕の束縛などものともせず、流れ出す生命力による虚脱感などものともせず。
 ガツンと感じた手応えは餓蒐の手が伝えたものでもあり、修介の身体に響いた感覚でもあり。
 刃が触れ、修介の身を切り裂く刹那、彼は身をズラし、刃筋の通るをもズラしたのだ。
 しかし、切り裂かれなかったとは言っても、鉄の塊で叩かれたという鈍い痛みはある筈。

 ――だから、どうした。

 修介は痛みなどないかのように、刃引かれる前にと餓蒐の腕を掴む。
 彼の右腕より流れ落ちていた血は固まりかけ、掴んだ修介の手にぬるりとした感触を残すのみ。
 その右腕の傷もあればこそ、それによって握りが甘くなっていればこそ、そして、そこに修介の身のこなしが加わればこそ、この結果はあるのだ。
 修介の真っ直ぐな瞳が餓蒐を貫き、餓蒐/男の瞳が揺れた気がした。
「……いきます」
 告げたのは餓蒐にではなく、その身の内にて眠る男へと。
 逃げるように餓蒐が身を動かすが、ガチリと掴まれた腕はビクともせず。
 そして、巌を砕く拳が刀身の横っ面を叩く音が、妖刀の悲鳴のような甲高い音が響いた。

成功 🔵​🔵​🔴​

キリカ・リクサール
アドリブ連携歓迎

フン…なんとも胸糞の悪い話だ
だが、まずは目の前の彼を何とかしなければな

シガールQ1210の銃弾を低致死性のゴム弾に変えて装備
相手を覆う腕に撃ち込み怯ませる
その隙に素早く懐に入り、腕に掴まれないように見切りながら、本体にグラップルによる格闘攻撃行う
相手を強化させないように、無心で戦おう

少し、動きを止めさせてもらう
…踏ん張れよ

相手が再度腕で全身を覆い尽くす前にUCを発動
エギーユ・アメティストで良心の呵責を呼び起こし、動きを止めたら刀を手放させるために手や腕を狙って攻撃をする
相手にも気を配り、決して殺さぬように行動しよう

後悔も、懺悔も、全てが終わったら聞いてやる
だから…今はまだ死ぬな



 呪のように餓蒐の手に吸い付く妖刀。それを手放せぬが故に、餓蒐もまたその衝撃に身を流され、ごろりごろり。そして、バキリと木板を破る音と共に、その身は家屋の外へとまろび出る。
 鉄錆の臭いが遠ざかり、虫の音と吹き抜ける風の香りが代わってそこに。
「外だと少しは血腥さも薄れるか。ついでに、外の風で頭も冷えてくれると助かるんだがな」
 家屋内より響いた声と共に、吹き抜けるは銃弾の風。
 地に弾痕刻むそれを、餓蒐は転がる勢いとその身より生やす第二、第三の腕をもって避け、起き上がる。起き上がった拍子に、その身体からパラパラと赤黒さの混じった土が落ちた。
 ――カツリ、カツリ、カツリ。
 硬質な靴音を響かせて、家屋の影より姿見せたはキリカ・リクサール(人間の戦場傭兵・f03333)。その手に硝煙棚引く銃/葉巻を携えて。
「しかし、フン……なんとも胸糞の悪い話だ」
 血色交じりの鬼を見て、聞き及んだ事情を想う。
 異形によって一人生き残ったまでは同じであれど、かの者は鬼に、キリカは猟兵に。さて、ともすれば、あれは己の可能性であったのだろうか。UDCがキリカを捨て置くでなく、利用するとしていたのならば。
 思わずと浮かんだIFの空想に、キリカの口元へ苦い笑みが浮かぶ。
 そんなもしもを考えたところで意味などない。キリカにとっての現実は今でしかないのだから。
「そうだ。まずは目の前の彼を何とかしなければな」
 故に、今は目の前にある問題を片付けることが第一。そういった空想は、全てが落ち着いてからでも十分なのだから。
 鈍い輝きが餓蒐へと、その口を再び向けた。

「痛い思いをするだろうが、まあ」
 ――我慢してくれ。

 銃声が掻き消す言葉。
 吐き出された弾丸は、真っ直ぐにと餓蒐へと。
「ほう」
 感嘆の声は思わずと。
 風を断つように餓蒐がその刃を振るえば、はらりと勢い失くして落ちる弾の名残り。
 ぽとりぽとりと落ちたそれは、かの身に突き刺さるだけを選んで真っ二つ。
 射撃と同時、かの懐に踏みこまんとしていたキリカであったが、刹那にと踏みこむ力の向きを変える。彼女が跳び込まんとしていた空間には、4つの腕。そのままにと跳び込んでいれば、その抱擁を受けていたことだろう。
「厄介なことだよ」
 手が多ければ、その分、出来ることも増えるのは自明の理。
 餓蒐の懐ではなく、その側面へと跳んだキリカを追うように、腕が伸びる。追従して、餓蒐もまた地を踏み、土を巻き上げ、ゴム弾の欠片を蹴飛ばして。
 ゴム弾。そう、地面に散らばるはゴム弾の欠片だ。
 キリカが放ったのは殺傷のためのそれではなく、なるべくなら殺さぬための。普通の弾倉を使用していれば、如何に鬼と言えども断ち割る衝撃に身体も泳いでいたことだろう。そして、キリカが踏み込むを許していたことだろう。
 しかし、彼女が選んだのは茨の道。殺さず、殺されずの道なのだ。
 IFを語ったところで今が変わらぬのは同じで、ゴム弾を選んだ今だけが此処にある。そうするべきだと選んだキリカの意思が、此処にはあるのだ。

 ――再びと銃口が吼える。

 同じ事の繰り返しだと言わんばかり、餓蒐は大地を削りながら足を止め、ゴムの弾丸を斬り落とす。
「動きながらは、流石に難しいようだな」
 これから成長すれば分からないが、今の餓蒐には出来ないと知れれば十分。
 弾倉撃ち尽くす程の勢いでキリカはシガールの引き金を引き続ける。連続して弾けるマズルフラッシュに、キリカの手元が見えなくなる程に引続ける。
 ばらり、ばらり、ばらり。
 撫で斬りの結果が地面に落ちて、その隙間を縫うように化生の腕がキリカに迫っていた。

 ――空気を裂く音が響いた。

 餓蒐の刃か。――否。
 では、伸びていた化生の腕か。――否。
「……正念場だ。踏ん張れよ」
 答えとなるは、キリカの片手。葉巻燻らせるとは反対の手で握った、蠍が尾の如き。振るわれた紫水晶の先端が、弾丸の雨に隠れて餓蒐の身を捉えた音であったのだ。
 空を裂く程の速さが通り抜けたというのに、餓蒐へ痛みはない。血もまた流れてはいない。
 何が。と思うより早く、餓蒐の心臓がドクリと一つ、意思に反して跳ねた。いや、一回だけではない、二回、三回、四回――ドクリ、ドクリと。
 己の意思に反するへ、餓蒐の左手が胸を掻き毟る。最早、化生の腕を操る余裕などない。
 ドクリ、ドクリ、ドクリ。
 鼓動の跳ねる度、まるで全身へ毒回るかのように餓蒐の身体は熱く。
「オ、アアァ、オ゛オ゛……こ、ろして……止め、てる、内にぃィィ!!」
 餓蒐が零した初めての言葉。だが、それはきっと鬼の言葉ではない。その身の内に取り込まれた――。
 そう。キリカが振るった蠍の尾より齎されたのは、まごうこと無き毒。良心を刺激し、精神を押し潰す毒。それが、今回は男の魂を一時的にだが賦活させたのだ。そして、男はなけなしの力でもって餓蒐の動きを抑え込んでいたのだ。

「――いいや、断る」

 殺してくれ。その男の願いを、キリカは問答無用で斬り捨てる。
「な、ぜ……!?」
「踏ん張れと言ったろう? 私はお前を殺さない。お前の中の鬼だけを殺すんだ」
「……!」

「後悔も、懺悔も、全てが終わったら聞いてやる。だから」
 ――今はまだ死ぬな。

 踏みこむ彼女を遮るものは、ない。
 妖刀がカタリカタリと怒り表すように震え、餓蒐の目に浮かんでいた光が急速に消えていく。
 支配権を取り戻した餓蒐が大振りにと目前のキリカへと振るう。だが、その冴えは先頃に比べて幾分も劣る。きっと、その内にて抵抗がまだ残っているのだろう。
 そんな粗い一撃など、キリカにとっては障害と見做すまでもない。髪の一房も斬らせることなくやり過ごし、遂にと懐に踏み込んだ彼女の一撃が強かに餓蒐の腕を叩き、その体躯ごとと吹き飛ばすのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

トリテレイア・ゼロナイン
惨い…

しかし生き延びても、己の無力さは精神殺す毒
妻子殺めた衝撃…私が抱える負荷と比べ物にならぬ筈
出来れば外部からで無く『彼自身』に刀を手放させねば…

(戦闘の隙付き家に侵入。遺体にエンパイア式に(世界知識)手を合わせ)

故人の物を漁る等、騎士どころか人失格ではありますが…
彼を揺さぶり引き留める為、お力添え願います

彼女らの装身具か血に塗れていない着物…出来れば印象深いと思われる晴れ着回収し外へ

衝撃波を盾で防ぎつつ接近戦

盾裏に潜ませた着物などを宙に投擲、広げて目潰し
すかさずUCで刀を宙へ弾き飛ばし

刀を取り、彼女らを再び血と泥に汚して御覧なさい
真の鬼として討伐して差し上げましょう

選びなさい!



 家屋の外より聞こえ来るは、猟兵と餓蒐とのぶつかり合う音であろう。
 それを壁越しと聞きながら、トリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)は紅の世界を見る。
「惨い……」
 荒れた形跡は戦いの場が外へと移る前のモノでもあるだろうけれど、それ以前の――男が操られた結果の惨劇のモノでもあった。
 ガシャリと音立て、トリテレイアの身が屈む。
 膝付き、床に手を触れれば、感度センサーが紅の滑りの感触を拾い上げる。ともすれば不快な感触ではあるけれど、それがなんであるかを知る彼からすれば、そう感じる筈もなきもの。
 そこにはもう暖かさはなく、温かさもない。だが、まだ一つだけ残っている者はある。
「『彼自身』に刀を手放さねば……」
 本人の意図はなく、されど、この惨劇を引き起こした男こそが、唯一の。
「どうか、彼を揺さぶり、引き留める為、お力添え願います」
 『この』行為はきっと騎士としては、ヒトとしては相応しくない行動なのだろうけれど、それでも、まだ惨劇を生き残った男を生かすために必要な行為だと考えればこそ。
 白銀の手が時折ぬるりと赤の上を滑り、その感触ではなく己が行為にトリテレイアの回路が負荷を訴える。だが、それでも彼の手は止まらない。
「それでは、暫しの合間」
 物言わぬ妻子へと合掌と感謝を。
 そして、トリテレイアは己が立つべき場所へと。

 吹き飛ばされた体躯を獣の如くと四肢使い、餓蒐はその身の横たわるを防ぐ。
 ザリザリと音立て、土煙あげ、大地に線を引いて、その身はようようと止まった。
「フゥーッ! フゥーッ!」
 荒い呼気は猟兵との戦いを経た証であり、少しずつ追い詰められている証。
 汗と血と泥の混じりが、顎を伝って滴り落ちていた。
「妻子殺めた衝撃……それは、きっと私が抱える負荷とは比べ物にならぬものなのでしょうね」
 その前に現れたは、白銀に赤の斑を浮かべたトリテレイアが姿。大楯掲げ、ズシリ、ズシリと重き足を大地に刻む。兜の奥より垣間見える緑の光は、さて、何の感情を浮かべているのか。
「ですが、その身をそれ以上、誰かの血と死で染め上げる訳にはいかないのです」
 それはきっと覚悟の光であることだろう。男の――今は餓蒐へと堕ちた者をすくい上げるという。
 一歩、重き歩みが彼我の距離を詰める。また一歩、そして、一歩。
 だが、餓蒐とてそれを傍観などしていない。己が懐に入られることの拙さは、既に幾度もと経験済み。しかし、刀では、伸ばす怪異の腕では、届く範囲にも限界がある。近付く者を払うには――。
「……!」
 その斬撃を飛ばせばよい。
 剣風巻き起こす程の太刀筋は既にあった。ならば、それを昇華させるのみとばかり、餓蒐は空を断つ。然して、それは成ったのだ。矢の如くと鋭く、されど形は見えず、トリテレイアを刻まんと。
 ――衝撃に風が渦巻き、草は伏す。
「風を……鎌鼬のようですね」
 咄嗟にと翳した大楯へ押しかかった圧は、それ防ぐを叶えた証拠。
 受けるが常人であれば、目にのみ頼るであれば、防ぐは叶わなかったことだろう。だが、世界を視る眼/センサーを持つトリテレイアであれば、その起こりを察知するは可能。そして、それ故に風の刃を捌いて見せたのだ。
 しかし、風は吹きやまぬ。
 一太刀で足らぬであれば二太刀、三太刀と大楯に傷を刻み、一念巌を通さんと。
 圧が増していく、鋭さが増していく、トリテレイアの巨躯を大楯ごとと押し退けんとして。

 ――だが、それでもまた一歩。

 大楯を傘の如くと前に突き出し、命吹き散らさんとする風の中をトリテレイアは進む。
 あと三歩、二歩、一歩――もう、十分だ。
 大楯の奥より、ばさりと宙に影が舞う。
 如何なる攻撃か。餓蒐もその正体を確認せんと、一瞬の間、その視線をトリテレイアから逸らし、それを見た。見て、しまった。

「それ以上、その刀を振るってはなりません! 奥方と御子が見ていますよ!」

 宙に舞うは、白き衣と簪三つ。そして、着物を継ぎ接ぎしたかのような一枚布。
 それらが何であるかなど、誰よりも『彼』は知っていた。
「お、れの、俺の身体、でぇっ! よ、くもっ、なぁ!!」
 それは夫婦となるを誓い合った日の思い出。それは宝物を抱き上げた時の思い出。
 そう。トリテレイアが大楯の影で大切に大切にと守り通したは己に非ず。紅の世界より借り受けし物達。亡き妻子の、遺品。
 他の猟兵によって賦活されていた良心――男の心が、それを目にしたことで再びと顔を覗かせる。餓蒐の、それすらをも斬り捨てんとする動きを縫い留める。
「その心の力や見事! 選択や見事! 今暫しの辛抱を! 必ず、その呪いを解いてみせましょう!」
 もしも、もしもそれを見ても何の反応もしなければ、血と泥で汚すのであれば、かの存在を真の鬼として討伐するつもりであった。しかし、トリテレイアの目前で選び取られた結末は、それに反する――彼が期待していた結末であればこそ、ここで心奮わせねば騎士に非ず。
 顔を覗かせた男の精神によって縫い留められた餓蒐の動き。最早、風によって塞がれていた道は既に拓かれ、無人の野を往くが如し。

「この手は私だけのものではない! その方を案じる者達の手でもあると知りなさい!」

 男/餓蒐の手の中、カタカタと独りでに震える妖刀を、二人分の紅で染まったトリテレイアの拳が打ち抜いた。

成功 🔵​🔵​🔴​

フィーナ・ステラガーデン
セシル(f28562)と参加
(フィーナより後に猟兵となったらしいので先輩面している。今回先輩として指導がてら参戦)

碌な刀がないわねこの世界!とりあえずこいつぶっ飛ばしても何か後味悪そうだし仕方ないわね!刀をへし折るわよ!

【作戦の流れ】
①UCを使用して打ちまくる!出来れば敵の足元も一緒に狙い
弾丸が切り払われても炎の煙と砂煙で視界を塞ぐ
②こちらからも煙で見えなくなるかもしれないけれど弾丸を切り裂く火花等で刀の位置の把握
③セシルに突撃の合図を送る。「今よ!叩き折るのよ!」
④昏倒したセシルの顔をぺちぺち。「よくやったわね!」軽く労う

(アレンジアドリブ大歓迎!)


神代・セシル
フィーナ(f03500)先輩と参加

「人を操り人形にして…私は許しません」と思って光の剣【レオナルソード】を強く握る。

万が一、男がフィーナ先輩に近接するつもりはある場合、剣で止めさせ、その間右目の鈴を狙って破壊する。
「いまの私は先輩のナイト(当日限定)です、一歩も近づけさせません」

適当な時間にUCを使用する
一旦距離を取り、強化された視力、聴覚と火花で敵特に妖刀の位置を把握する。
突撃号令と合わせて飛び出し、妖刀を狙って剣を振る

【アレンジ・アドリブ歓迎】



「はは、ざまあ、ぐぅゥゥッ!」
 猟兵による一撃は、甲高くと妖刀へと悲鳴を上げさせていた。
 それに言葉のみだが喝采を送る男/餓蒐ではあったが、次の瞬間には苦悶を上げ、再び無貌へと戻る。その変化を齎したが何かなど、言うまでもなく明らか。
「ほんっとに! 碌な刀がないわね、この世界!」
「人を操り人形にして……私は許しません」
「いい事言うじゃない! そうよ! こいつをぶっ飛ばしてもいいけど、それよりはあの胡散臭い刀をへし折るわよ!」
 その変貌を目の当たりとするは、フィーナ・ステラガーデン(月をも焦がす・f03500)であり、神代・セシル(夜を日に継ぐ・f28562)である。その表現こそ動と静ではあるが、どちらもがその非道へと怒りを露わと。
 だが、餓蒐はその怒りを柳に風。否、その怒りそのものが理解出来ない。産声を上げたばかりだからか。はたまた、鬼であるからか。どちらにせよ、そのどちらにないにせよ、それが敵であることは変わりない。
 餓蒐の刃が妖気放つかのように揺らめき、踊る。
「何よ! わっかりやすい演出しちゃって!」
「刃を光らせるぐらいでしたら、私にだって出来ます」
「そうそう、ガンガン言ってやんなさい! 私が許可するわ!」
「はい、でしたら遠慮などせずに」
 妖気など蹴飛ばす勢いで宝石の煌きが、光剣の輝きが、持ち主の少女らが意思を示すようにと強く。

 ――激突の時は、間近。

「ゴキゲンなヤツを喰らわせてやるわ!!」
「――!」
 餓蒐を指し示す杖の先、展開した二重の魔法陣より放つは機銃もかくやの炎の乱射。轟々と空間に紅蓮の線を引き、フィーナが語った『ぶっ飛ばす』の意思を現実のものとせんとするのだ。
 されど、餓蒐とて猟兵達に叩きのめされながらも、僅かずつと経験を蓄積しているのだ。先刻にて弾丸を斬ったように、風を飛ばしたように、それを再びと。
 ――爆ぜ、交じり、激突した炎と風の共演に熱風が渦を巻く。
 互いへと吹き付けたそれは晒す肌をチリチリと熱し、過ぎ去る。残されたは衝撃の余波で巻き上がった土煙。熱を孕んだ土煙。
 両者の間を隔てるそれに、一瞬の静寂が舞い降りた。
 だが、それは本当に一瞬で――。
「自分の身体じゃないからって、無茶してくるわね!」
 その肌を焦がしながら、熱された土煙の中より餓蒐が飛び出してくる。
 その狙いは一つ。フィーナの頸。
 迎撃に杖が閃くが先か。それとも、風を既に孕んだ刃が閃くが先か。
「いえ、させません。いまの私は先輩のナイトですので」
 ――否。誰よりも迅くと動いたのは、動いていたのは、セシルの身体。
 フィーナと餓蒐との間にその小柄な身体を滑り込ませ、振るう光剣が振り下ろされんとしていた妖刀とガチリ噛み合う。火花を散らす。
「ナイスよ、後輩!」
「どうもです、先輩」
 その矮躯のどこに鍔迫り合いをするだけの力が宿っているのか。しかし、餓蒐の刃を止め続ける現実はそこに。
 今日一日だけではあるが、今ばかりはセシルは騎士なのだ。フィーナを守る盾なのだ。ならば、脅威を彼女の後ろに進ませぬための最善を尽くすのみ。
「一歩も近付けさせませんから」
 押し切るように、押し切られたように、互いの刃が噛み合うを止める。
 押し切ったのは薄青で、押し切られたのは妖気の揺らめき。
 セシルの手には餓蒐の胴を薙いだ感覚はあるが、それはとても希薄。
「薄皮一枚。押し切ったというよりは、流された感覚です」
「問題ないわ! 距離が離れたなら、私がぶっぱなすだけだから!」
「流石、先輩。頼りになります」
「もっと敬っていいわよ!」
 押される勢いを利用し、化鳥の如くと跳び退った餓蒐。その胸元に刻まれた一筋から零れるは血の僅か。セシルの自覚通り、薄皮一枚といったところであろう。だが、それで止まってくれるような相手でないことは理解の上。
 ――再びと響くは、紅蓮の轟き。
 餓蒐の着地地点を予測し、フィーナのそれが荒れ狂う。鍔迫り合いの最中ではセシルに当たるを懸念し、撃てなかった分を上乗せして。
 瞬く間と膨れ上がり、捲れ上がる大地。
 ぱらぱらと土煙を巻き上げながら、その内にて餓蒐を抱き込む。それはフィーナ達にとっての目隠しともなり得るが――。
「ひゃっはー!」
 そんなものは関係ない。数撃てば当たるとばかりに土煙目掛け、紅蓮は迸り続ける。
 だが、それでも撃ち抜いたという手応えは、まだない。
「正面やや右寄り! その辺りに居るわ!」
 いや、違う。最初からそれを期待などしてはいない。ばら撒く弾丸は敵の気勢を削ぐ物でもあると同時、立ち込めると予想されていた土煙の中を探索するソナーでもあったのだ。最初と同じく断ち切られたのなら、それをフィートバックしてセシルに伝えるための。
「了解です。手早くと参りましょう」
 フィーナの杖先より吐き出され続ける紅蓮の雨。その中へと溶け込むように、セシルの薄青が翻る。
 一歩、二歩、三歩。
 視ることにおいて秀でたセシルの赤が、土煙の中の僅かな違和感を見出す。明らかに、誰かが剣を振るい続けている空気の動きを見出す。
 四歩、五歩、六歩。
 土煙の中に飛び込んで、振るわれ続ける妖刀を目掛け、常以上の力でもって光剣を――鈴、と。鳴る筈のない鈴の音が二人の耳に届いた。

 視えたのは雪の日。/視えたのは火に包まれた住処。
 血濡れの母と忘我の妹。/燃え落ちるは知識の蔵書。
 冷たき眼差しは刃よりも鋭く。/手を伸ばせども掴むは灰ばかり。
 悪意は容赦なくと幼きを襲う。/残るは空っぽの自分だけ。

 まるで時が止められたかのように、全ての音が止まっていた。
 フィーナの赤も、セシルの赤も、そのどちらもが虚空を呆と見つめるのみ。鈴の音が齎した悪夢を映すのみ。
 全てが止まったかのような世界の中で、唯一と響くは餓蒐の足音だけ。晴れつつある土煙の中から、ざくりざくりと土踏み、その姿を見せる。
 彼女らが餓蒐を見ていたように、餓蒐もまた、その鈴が如き眼で彼女らを視ていたのだ。
 それこそが基点。結んだ視線を介して、悪夢を齎す基点。
 そして、動けぬ彼女らの頸を刎ねんと、まずは手近なセシルからと、刃が振り上げられる。

「ええ、やはり土煙の無い方が良く見えます」
「ソイツの間抜け面もついでにね!」

 響かぬ筈の声が響いた。動かぬ筈の者達が動いた。
 それに餓蒐は僅かと目を見開き――。
「何故? って顔をしているわね? いいわ! 教えてあげる!」
「種明かしの時間です」
「この程度の悪夢なんてもんはね! 見飽きてんのよ!」
「この程度の呪い/狂気なら、既に学んでいます」
 叩きつけられるは、堂々たる二人の宣告。たかが悪夢で、たかが呪いで、彼女らの歩みを止められる筈などなかったのだ。
 虚を突かれた餓蒐が身を固めた一瞬に、二人は既に動き出していた。
 薄青が跳ねあがり、宙に軌跡を描き出す。紅蓮の咆哮が静寂を打ち破って殺到する。
 目指すべき場所は同じ、餓蒐の持つ妖刀。
 餓蒐が硬直を脱してももう遅い。逃げ場は紅蓮に塞がれて、ただただ薄青の一刀を受け入れる他になし。
 ガツンと鋼打つ鈍い音が響き、それに遅れて、ドサリと吹き飛ばされた体躯が地に伏す音が響いた。

「……少し、休みます」
 一時的に限界を越えた力の代償。セシルの瞼が鉛の如くと重く、塞がる。
 脱力した彼女の身体はふらりと倒れ、しかし、それは餓蒐のように地へと伏すことはない。
「ええ、よくやったわね」
 その背を、いつの間にかと距離詰めていたフィーナが労いと共に優しく抱き留めたから。そして、フィーナの腕の中からは間も置かずにすぅすぅと寝息の音。
「こうしていると、幼い感じよね」
 ぺちぺち、つんつん。
 頬を軽くと叩いても起きぬ様子に、ひとまずは安全圏に運ばねば、と。そろり、フィーナはセシルを連れて下がるのであった。
 そんな、僅かな幕間の出来事。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

冴島・類
※ 黒羽(f10471)と

彼が喪うのは…止められないとして
人であるのをやめ、奪う側になること
血を吐くようなその嘆きを
利用されるなんてのは、嫌だなぁ

ああ…とても気に入らない

悔しいと言う呟きに、自然と頷き
命も人生も、戦の駒にして堪るか

ねぇ黒羽、彼を生かすには
まずあの刀だ
致命傷は避け、狙えるかい?
僕は、攻撃をなんとか逸させる

剣筋や衝撃波の軌道は見切り
最低限は避け、己も接近
フェイントと残像用いて挑発じみた動きをして引き付け
その隙に、鏡片を撒き彼の視界から
黒羽の位置をずらしたい

黒羽が接近する瞬間は、特に
気をこちらにと声を

飲まれるな!そちらへ行けば
貴方に大切な者を奪わせた呪いの思うままだ
そう、させないで


華折・黒羽
類さん/f13398

高みの見物を決め込んでいる敵は
今も何処かで笑っているんだろうか
嗚呼、憤りで血が沸騰しそうだ
零れ聴こえた声から類さんの怒りも垣間見え
ちり、と肌がざわつく

悔しい、ですね
こうなる前に助けられなかった事が
もうこれ以上、猟書家に利用させはしません

はい
辛い道が待っているかもしれずとも
あの人の手からこれ以上、何も奪わせたりはしたくない
だから必ず、刀を奪ってみせます

類さんの動きに合わせ
間合いを取った位置で盾代わりの氷花織を発動
彼の右目を見ない様にしながら
聞き耳で位置を読み取り
隙が生まれる瞬間を逃さず
猫の脚力で地を蹴り一気に刀を狙う

刀をなぎ払うか
彼の体勢自体を崩し押さえるか
状況によって対応を



 喪ったものは戻らない。
 それは当然の理で、だからこそ、ヒトは喪わぬようにと今を懸命に生きるのだ。とは言え、現実と言うのは非情で、どれだけ懸命であろうとも、賢明であろうとも、不意の出来事に容易く大切なモノが喪われてしまうことはある。
 かつての過去、幾度とそれを見送ってきた冴島・類(公孫樹・f13398)には、身に沁みていることだ。
 だがしかし、だがしかしだ。
「ああ……とても気に入らない」
 不意の出来事が自然的なモノであれば呑み込めもしようけれど、人為的に――しかも、利己的に――行われたのであれば、それを諾々と受け入れるは出来よう筈もない。それが、類の短き言葉の内、端々から零れ出ていた。
 男の零した血を吐くような嘆きを、慟哭を、利用させるのは許容しかねる、と。
 そして、その想いを共にとする者が、類の隣にはあった。
「悔しい、ですね」
 ふつり、ふつり。
 華折・黒羽(掬折・f10471)が半人の肌にて粟立つは、零れ出る類の激情を受けたものか。はたまた、かの想いと同じく、黒羽が抱いた血の沸騰する程の怒りを表してか。
 嗚呼、嗚呼、考えるだけで臓腑が煮えくり返る。
 男を鬼に落としたその所業が、今も何処かで高みから見下ろしているであろう存在が。
 常は柔らかき青を宿す双眸が、今ばかりはと冷厳を宿して鋭くと。
「そうだね。悔しい。命も人生も、戦の駒なんかじゃないのに」
「だからこそ、もうこれ以上、猟書家に利用させはしません」
「ああ、これ以上、猟書家なんかに命を弄ばさせて堪るものか」
 彼――先んじて仕掛けた猟兵の一撃を受け、地に倒れ伏した餓蒐の内に眠る男をこそ、二人は見る。
 ――ざり、と音が鳴った。
 その出所は探すまでもない。餓蒐の指がを土掻き、その身を起こし始めたから。膝を立て、刃を杖の代わりと立ち上がったから。
 幾度もと地に転がされ、腕に、刃にと打撃を受け続けた餓蒐の身体は、満身創痍に程近い。だと言うのに、それはまだ立つ。まだ抵抗を示す。
 ――カチャリ、と刃の構える音が響いた。
「……ねぇ、黒羽」
「はい」
「彼を生かしたいかい?」
「勿論です。この戦いの後に辛い道が待っているかも知れずとも、あの人の手からこれ以上、何も奪わせたりはしたくない」
 何を当然のことを。などとは、黒羽は言わない。自身を見つめる緑の光が、同じ想いを宿していると知っているから。綯いで結んだ絆があるから。
 類もまた、黒羽に敢えてと問うことで己の内を改めてと確認したのだ。その結果は、語るまでもない。
「まずはあの刀だ。致命傷は避け、狙えるかい?」
「必ず」
「十分だ。僕は、攻撃をなんとか逸らさせよう」
 言って引き抜く枯れ尾花。しゃらりと涼やかな音を立て、類は冴え冴えとした輝きをその手に。
 まだ踏みこまぬ、踏み込むより前に挨拶代わりと叩きつけるは、内にて燻る怒りとそれを糧とした敵意。
 ――空気が震えた。
 それは伝播した類の意思でもあり、それに反応した餓蒐の動きでもある。
 風が薙がれて鎌鼬。
 色形は見えずとも、大元の餓蒐の動きが見えていれば対応するに十分。直線状より自身の身体をずらしてやれば、類も黒羽も傷つけることなく風は過ぎ去っていくのみ。
「それじゃあ」
「頼みました」
 一人は目を惹き、盾となるために。一人は伏したる刃となるために。

 風が類のすぐ傍を流れていく。
 それは駆け抜ける身体が空気を掻き分けるからでもあり、餓蒐の刃が類へと向けられているからでもあり。
「流石に、こうも近いと密度が違うね」
 だが、完全に退ききるという選択肢は選べない。
 互いの刃が交差する至近距離。噛み合い、喰らい合い、火花を散らす。
 それに紛れて、鎌鼬が、化生の手が伸び来るのだ。遠間にて意思を叩きつけ合った場より、向かい来る脅威が濃密となるは当然でもあった。
 刃で逸らし、足捌きで誤魔化し、緩急にて騙す。
 退くと見せかければ刃を向けて、刃を向けると見せかければ躱すに専念して。かと思えば、刃を率直にと振るい、退くべきは退く。無数の選択肢を相手に見せ、虚の中に実を隠すのだ。それが、火花散り、ともすれば命も容易く尽きる刃が共演の中、類の命を繋いでいた。
 だが、幾合も続く中であれば、時として虚を見抜かれ、実を読まれる時も訪れる。

 ――振り抜かれた妖刀の軌跡。妖しく揺らめくその切っ先に、飛び散るは紅。

 浅く、薄くと類の腕を裂いた餓蒐が切っ先。
「おっと……?」
 痛みは少なく、その程度で短刀を握る手自体に影響はない。だが、僅かな痛みとて、綱を渡るこの場においては足踏み外す原因ともなりかねない。
 裂いた刃が翻り、追撃の軌跡を描けば――。

「類さん!」

 ――地も凍える冷気が駆け抜けた。
 それは機を待ち、伏していた刃――黒羽が一閃。氷雪纏う黒剣より放たれた、氷の花道。
 本来であれば、それは餓蒐の妖刀を狙うここぞにて放つ筈であったが、類の傷付くを見て、その身は思わずと動いていていたのだ。
 だが、駆け抜けた冷気が類と餓蒐との間を割ったがために、追撃の刃は退かざるを得ず、類を守る目的は達成されたと言えた。ただし――。
「うっ!?」
 類から黒羽へと餓蒐の意識が動いた結果、その右目が彼を視た。
 聴こえぬ筈の鈴の音が響き、悪夢への誘いは黒羽へと手を伸ばす。

「――お蔭で、態勢を整えられたよ。ありがとう」

 その手が黒羽へと届くより早く、ちらちらと舞ったは氷雪の欠片――ではなく、魔鏡の欠片。
 欠片は無数。映すは無限。
 その鏡面に黒羽の姿を数多と映しだせば、悪夢の誘いはどれを誘えばと迷いての立往生する他になし。
「其の両目、拝借をば」
 どこかから類の声が響く。しかし、最早、餓蒐にその実を見抜くことは出来ぬ。何処を向こうとも、無数の虚像が映るばかりであるから。
 ぐるり、ぐるり、ぐるり。
 取り囲んで、見つめて、逃さじと。

「――動くな」

 餓蒐の耳に届いた声は、すぐ間近。
 黒羽が宿すもう半分。人ならざる、獣の素質。類の生み出した隙を見逃さず、その本来の役割を果たすべくと黒猫が軽やかにと舞ったのだ。
 餓蒐へと目掛け、同時、無数の黒羽が飛び掛かっていた。その内の実はたった一つのみ。それを見つけられる筈など、ありはしないけれど。
「飲まれるな! それ以上は、貴方に大切な者を奪わせた呪いの思うままだ!」
 その万に一つの可能性すらも、類の言葉が摘み取る。
 届いた言葉に、そうはならぬようにと告げられた言葉に、餓蒐は妖刀を掲げたまま不自然にと動きを止めていた。その手の中で、唯一と妖刀だけがカタリカタリと抵抗するように。
「ああ、まだ耐えているのですね」
 それはきっと、鬼の内にある男の抵抗であったのだろう。と、黒羽は感じ取る。
 掲げられたままの妖刀は狙うに容易く、最早、黒羽であれば目を摘むっていたとしてもその一閃を外すまい。

 ――冷気を名残りと残し、黒剣の鮮やかが駆け抜けた。

 無数の黒羽が餓蒐と交差して、過ぎた先にて黒剣を鞘/自身へと戻す。
 ピシリと、妖刀の刃に罅入る音が小さく響いていた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

リュカ・エンキアンサス
うたいの鼠を準備
男性が目に入り次第先制攻撃で麻痺弾を使用
気絶や無力化を図る
後は隙を見て早業で奪えれば
我慢比べ的に何度か試してみるけど、効きが悪いようなら灯り木に撃ち換えて腕や足を狙う
死なせないようには、なんていうか、頑張る
その際は戦闘後に医術で救助活動を行う。援護は期待しない
拾った命なら大人しく寝てて

…俺の、この命は、誰にも顧みられない、大事にされない命だ
だからこそ、自分だけは自分の命を大事にしようと決めている
なにを殺したとしても、自分のために

あなたも、大事にして。あなたの幸せを決めるのは、あなただ
あなたが死ぬことが幸せなら、それも、幸せのひとつだ
幸せに死ねるなら、それでもいいと思う
けど……


天狗火・松明丸
起きた事までは変えられぬ
とすれば、受け入れるほかない
それが、どれだけ残酷であろうと

火を扱うには、ちと狭いが
一層、焼いてしまった方が
良いのかもしれんな

天狗火を男に向かって撒きながら
傷を重ねた腕を灼いてゆく
辺りの空気も何かも
なあに、痛くはねえさ
…痛い方が良かったかも知れないが

掴み掛かってくる腕に結ぼうか
朱の染みた祟り縄で呪を転じて
その身体の動きを封じられりゃあ良し
為せずとも炎が伝えば焼くだろう

鬼とは産まれくる者も在れば
こうして生まれ堕ちる者も居る
さてな、吸われていく感情は
愚かと思うか、憐れみだろうか
何方にしても、妖刀の餌にはならんだろうが



 罅入る妖刀を掲げたままに、その動きを止めていた餓蒐。
 しかし、いつまでもとそれは続かない。幾分かとぎこちなくではあるが、刃構えるは再びと。何故なら――。
「残念。これで止められれば良かったのに」
「なに、そう簡単に済むようでは、これまでで終わっているだろうよ」
「道理だ」
 飛来する弾頭の幾つを斬り捨てねばならなかったから。
 その銃弾の主こそ、リュカ・エンキアンサス(蒼炎の・f02586)。常に持つ自動小銃ではなく、硝煙吐き出す拳銃を今ばかりはその手に納めた。
 そして、その傍らにて茫と焔を付き従えるは、天狗火・松明丸(漁撈の燈・f28484)。傍らの同輩に道理を説きつつ、されど、瞳は餓蒐より片時とて離さずに。
「だが、まあ、これまでのお蔭でもう一押し、二押しといったところでもあろうさ」
「その一押し、二押しが……いや、我慢比べか、根気の勝負か。やることは変わらないよね」
「道理であろうな」
 二人指し示す先の罅割れ刀。持ち主たるの動きも、先頃と比べれば精彩を欠くは事実。どのような結末が待つにせよ、着実に、着実にと終わりへと向かっていることは間違いない。
 ――ガチャリと、澄んだとは程遠い刃鳴りの声。
 刃に罅入ろうとも、動きに精彩欠こうとも、餓蒐が殺戮への意思を捨てることは無い。
「死なせないようには、なんていうか、頑張る」
「応とも。まあ、動けなくすれば、少なくとも止まりはするだろう」
 ならば、その意思を止めるは猟兵に他ならぬ。
 応じるようにと鼠の銃が掲げられ、焔が空気を喰らいて燃え上がる。

 ――先手は、風。

「鋭さがないのは敢えてか、それとも、そうとしか出来なくなったか」
 本来であれば鋭利なるとして放たれる風ではあったが、今はその面影もなく吹き荒れるのみ。だが、ヒトを裂く程に束ねられていた風が好き放題と荒れれば、それは轟と叩きつける鈍器とも変わらない。
 轟々と吹き抜けていく風に足を踏ん張り、顔を守るようにと腕を前に掲げる。それはまるで、北風に抗する旅人のように。
 風に逆らわず、木の葉の如くと跳んで流すも出来ぬではないが、そうしてばかりでは埒も明くまいからと。そして、なにより――。
「折角と火を煽ってくれる風が吹いているんだ。利用しない手はねえさ」
 燃えろよ、燃えろ。
 強風のただ中であれば消える火もあろうけれど、松明丸の焔が、天狗火が、そうであろう筈もない。逆にと風を喰らい、その身をより激しくと。
「屋内のままならちと狭くもあったろうが、こうして外に戦場が移ったのは僥倖だったな」
「それだけ燃え上がれば、家ごと焼いてしまいそうだ」
「……嗚呼、そうか。一層、焼いてしまった方が良かったのかもしれんな」
 惨劇の家。紅の世界。そこに遺された者達を送る焔として。
 ――風が、止んだ。
 それ以上の風を叩きつけるは無駄と判じたか、それとも――。
「目晦ましの宛が外れたね?」
 刃が過る、すぐ真横。
 風に目を、動きを潰されていれば、その刃の露となっていたであろう。だが、風の幕なきであれば、精彩欠いた餓蒐の動きを見切るは容易い。
 踏み込み、自身の頸へと狙い薙がれた刃をリュカは、その軌跡より身体をズラして躱し、お釣りの弾丸を忘れじとその手に握った銃口より吐き出すのだ。
 一発、二発、三発――弾かれ、躱され、身を穿つ。
 餓蒐とてと刃を引き戻し、それを受け入れまいとはするが、一つばかり届かずにその身へと遂に受け入れる。
 ――ぐらり。
 痛みは最小限。だと言うのに、まるで酩酊したかのように餓蒐の視界が揺れた。
「ほう、催眠の類か?」
「いいや、麻酔弾」
「ふむ?」
「……眠気を催すから、催眠でいいや」
「はは、説明を面倒くさがったな?」
 ぐらり、ぐらり。だが、倒れない。
 一発では足りなかったか。
 そうでもあるし、それだけでもなし。
 餓蒐の揺れる身体を支え、包んだは、その身より生じし四つ腕。女性が如き嫋やか一対、童子が如き小さき一対。鬼の身体を取り巻き、銃弾がそれ以上潜り込むを許さぬ鎧のように。
「ああ、それは……」
「機会が巡ってこようとはなあ」
 一層、焼いてしまった方が。と言ったのはつい先ほど。
 餓蒐を巻いて、巻いて、巻いて、その身を包んでなおと伸びる手は、それだけでは足らぬと言うかのようにリュカと松明丸へも手を伸ばす。

「起きた事までは変えられぬ。とすれば、受け入れるほかない。それが、どれだけ残酷であろうと」

 己が死を受け入れよ。愛すべき者の死を受け入れよ。そして、それぞれがあるべき場所へ。
 伸び来る手に縄が絡む。朱殷が搦める。
 伸び来る手へ気軽に、まるで握手でもするかのような自然さでもってそれを為したは松明丸。
 死者が辿るべき道への縁を結び、天への道を歩まねばらぬと呪を結ぶ。
「なあに、痛くはねえさ……まあ、痛い方が良かったかも知れねいが」
 ――朱は紅へと変じ、劫火を成す。
 搦め取れられた手はパチリパチリと燃え包まれて、大地に転がるコロリコロリ。
 松明丸が言うように、きっと痛くはなかった筈だ。
 炎に包まれ動けぬ腕から、もくりもくりと煙が昇る。空へと向けて、解き放たれたかのように。
 ――いつの間にか、腕の姿は消えていた。
「いやさ、妖怪が祓う側だなんて、世も末だとは思わねえか」
「そうでもないよ。結果的に救われるのであれば、誰がやったって同じことだと思う」
「そんなもんかねえ」
「そんなもんじゃないかな」
 餓蒐の身体には、もうその身を支える手/鎧はない。向けられた感情が流れ込むことも、もうありはしない。

 ――未来が、視える。

 リュカは引き金に指を掛け、まだ辛うじて立つ餓蒐を見据える。
「痛いかもしれないけれど、きっと死にはしないよ」
 火薬の弾ける音響き、麻酔弾が餓蒐の身体に吸い込まれた。はたり倒れる姿は、リュカが垣間見た未来の光景そのもので、男の身にて産声あげた鬼の終わりの光景。
 静寂の中、カラリと、その手から妖刀が零れ落ちる音がした。

「う、うぅ……」
「拾った命なら大人しく寝てて」
 駆け寄り、抱え、助けだした男の姿。起き上がろうとするその行動をリュカは制止する。
 命は確かに繋ぎ留めた。だが、餓蒐であった時に負った打ち身、切り傷は山ほどに。それをテキパキと旅行鞄から取り出した救急キットで手当を施していく。
「……すまねえ」
「謝りたいなら止めない。でも、それをしたいのは俺にじゃないでしょ」
「……っ」
「……俺の、この命は、誰にも顧みられない、大事にされない命だ」
 処置の手は止まらぬまま、だが、リュカの口から言葉が零れる。本来であれば寡黙な彼の口が、言葉を選びながらと。
「だからこそ、自分だけは自分の命を大事にしようと決めている。なにを殺したとしても、自分のために」
 そこに善悪の挟まる余地はない。リュカにとって、命とはそういうものだから。
「あなたも、大事にして。自分の命を。でも、それでも、あなたが死ぬことが幸せだと思うのなら、それでもいい。幸せに死ねるなら、それでもいいと思う。けど……」
 罪の意識に圧し潰され、自死を選ぶのは男の自由だ。だが、それは果たして幸福なのであろうか。自身が男の立場であったとして、求めるものなのであろうか。他に選択肢はあるのではないかとリュカは投げかけるのだ。そして――。
「鬼とは産まれくる者も在れば、人より生まれ墜ちる者も居る」
 リュカの言葉を継ぐように、松明丸もまた言葉を紡ぐ。
 餓蒐は明らかに後者。自然に生じたものではなく、誰かの手によって歪められた人の心より生まれ墜ちたもの。
「なあ、お前さん。此度の原因となった者を放置して死ぬを選ぶのは、お前さん的には正しいのかい?」
 復讐を唆すではないけれど、生きる意味を与える言葉。心に灯をともす言葉。リュカが投げかけた言葉と同種の。
「……そうだ。放っちゃおけねえ。俺は、俺のために、あいつらのために!」
 弱弱しかった男の瞳に、光が戻る。活力が戻る。少なくとも、今すぐにと自死を選ぶことはあるまい。
 ――カタリ、カタリ。
 僅かに遠く、大地に擦れ、揺れる音が届く。
 誰もがその音に目を向ければ、それは戦いの名残りの中で大地に手放されていた妖刀の動く姿。
 音は次第に大きくなり、揺れは大きくなり、そして、妖刀の内より諸悪の根源がこの世へと姿を現すのだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 ボス戦 『刀狩』

POW   :    刀龍変性
真の姿を更に強化する。真の姿が、🔴の取得数に比例した大きさの【己が喰らい続けた武具が変じた鱗 】で覆われる。
SPD   :    妖刀転生
自身の【体の一部 】を【独りでに動く妖刀の群れ】に変形する。攻撃力・攻撃回数・射程・装甲・移動力のうち、ひとつを5倍、ひとつを半分にする。
WIZ   :    修羅道堕とし
自身の【背の刃の羽 】から【見た者を幻惑する妖刀】を放出し、戦場内全ての【遠距離攻撃】を無力化する。ただし1日にレベル秒以上使用すると死ぬ。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠ヴァーリ・マニャーキンです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 震える妖刀より立ち昇ったは、白き影。
「あな惜しや。猟兵共が現れねば、堕ちきっていたものを」
 影が完全にと妖刀を離れれば、それは宙にて実体を見せる。
 ――それは白き龍であった。
 しかし、誰もがそれをただの龍などとは認識しない。胴に、鱗に、尾にと、あちらこちらから刃を生やす、その龍を。
「なんで、俺の刀から出てきやがった……いや、そんなことはもうどうでもいい。手前が、そうなんだな?」
「おお、おお、猛りおる。心ばかりが十全で、最早、満足にも戦えぬ程度の男が」
 龍が――猟書家が一、刀喰らいの妖怪『刀狩』が睨みつける男を見下ろして嗤っていた。
 だが、それもそうであろう。猟兵の配慮によって生かされた男であれど、その身に負った傷により十全と言うには程遠い。刀を握ることは出来るが、怪我の影響にてその力は猟兵と同等とは決して言えぬ。ただ、その心に煮えたぎる憤怒と憎悪ばかりが身体を動かそうとしているに過ぎない。
「貴様など、鬼に堕ちねば価値もない」
 龍にとっては障害としてすら目に映す価値もなかった。
 ギリと男が歯を食いしばる。その奥歯を噛砕かん程に。
「さて、それよりも猟兵共よ。どうだ? お主らも鬼となり、我が主の戦列に加わらぬか? 妖刀越しにとは言え、我が身を打った業を失くすには惜しい」
 そんな男の様子などは、最早、龍には毛筋ほどの興味もない。それよりもと、龍は猟兵達へとその意識を向けるのだ。
 だが、猟兵達が龍へと返すべき言葉があるとすれば、それは――各々の得物を突き付けての拒否でしかない。
 その光景を目にし、男もまたふらりと立ち上がる。龍が抜け出て本来のあるべきに戻った、罅割れた妖刀を拾い上げ、猟兵達へと立ち並ぶのだ。
「俺は……俺はあいつの言う通り、足手纏いにすらならねえのかもしれねえ。だが、どうか! どうか、この藤代景元に、一矢報いるため、あんた達の隣に立たせてくれ! 頼む!」
「つまらぬことだ」
 男の切願と龍の咆哮が響き渡る。
 戦いの第二幕が開いた瞬間であった。
上野・修介
※アドリブ・連携歓迎

男が己の意志で戦場に立つと決めた以上、挟む口など俺にはない。

「さて」

自身の状態を確認。
致命的ではないが、決して浅い傷ではない。
十全な状態とはいえないがもとより覚悟の上。

「推して参る」
いつものように、拳を構える。

相手の体格と獲物、視線と殺気等から間合いと彼我の距離を量る。

敢えて負傷は隠さず、捨て身の相打ち覚悟と見せて真正面から突貫することで振り下ろすような攻撃による迎撃を誘う。

敵の間合いに入る直前で地を打撃し急制動。
攻撃を遣り過ごすと同時に衝撃を利用し頭まで跳躍。

狙うは目。
そこまでは鱗で覆われていないはず。
持てる渾身を叩き込む。

例え俺が仕損じても、相手に隙が出来れば良し。



 咆哮が響く。
 覚悟の意思示すそれと嘲笑うそれ。
 その二つを聞きながら、上野・修介(吾が拳に名は要らず・f13887)は吐息を一つ。
 両の腕を掲げ、拳を握り、開く。
 身を固めて受けたとはいえ、やはり鉄の塊の殴打を受け止めた身体は鈍痛を訴え続ける。
 ――だが、問題はない。動く。動くのだ。
「……さて」
 かの男は己の意志で戦場に立つと決めたようだ。ならば、それへと口を挟む気など修介にはない。痛みを抱きながら戦うは修介とて同じ。そして、この場へと立つ『覚悟』ならば、修介にもある。

「――推して参る」

 握り込んだ拳。身の内より生じる鈍痛は生の証。
 それを叩き込むために、修介は再びと戦場の地を踏みしめる。
「呵々、我等が軍門に下るつもりなのかな?」
 答えない。答えるつもりもない。
 ただ、龍を己が視界の真正面とし、意志貫くための道を駆け抜けるのみ。
「ふん……応えぬか」
 見上げる龍の大きさは近付けば近付くほどに圧を感じさせる。鋭きの生える尾に刃の如き歯は、当たれば容易くと肉抉られよう。
 どこを削ぎ落してくれようか。
 そう言わんばかりに、龍の視線は近付く修介の身体をじろりじろり。そこには意図を隠すつもりなど欠片も感じられない。
 ――鞭の如くと尾がしなり、衝撃をもって大地に穴を穿つ。
「む?」
 尾の先の速度は音をすら置き去りにする程の。だがしかし、それを修介の真上から落とした筈だと言うのに、大地を叩いた尾は赤に濡れることもなければ、肉片の一つもついてはいない。修介の歩み来る姿だけが、健在を示してそこに。
「どうした?」
「いや、どうもしはせぬよ」
 もう一度、空の上から鉄槌の如く。
「……っ」
「どうした?」
 もう一度、もう一度、もう一度。
 叩いて、叩いて、叩いて。
 だが、修介の歩みは止まらない。その存在を叩き潰せない。
 当然だ。視線が、呼吸が、筋肉が、その全てが、龍が如何にもって動かんとするかを、修介はその類稀なる眼力で見抜いていたのだ。
 修介の歩みは止まらない。その姿を龍へと見せつけるかのように。その背中を男へと見せつけるかのように。
「――っ!!」
 呼吸の意味は憤怒、屈辱。
 龍のそれを示すように、叩きつける尾の鋭さは増し、大地に伝える衝撃は増す。

「――それを待っていた」

 尾を躱すは同じ。されど、その身は大地を離れて宙へ。
 衝撃強ければ、生じる風もまた強く。その風を利用して、修介はひと際高くと跳んだのだ。龍と同じ舞台へと。
 ――先程まで見下ろして/見下ろされていた視線が、確かに合った。
 尾を引き戻すには時間がない。その鋭きで噛砕くにも、爪で裂くにも同じ。そして、巌すらをも打ち砕く拳が――。
「ば、馬鹿め! 自ら刃の中に手を埋めるがいい!」
 言葉の澱みは慢心が招いた混乱の結果。されど、修介の拳が届くより早く、龍の鱗が変化する。刀へ、槍へ、斧へ、曰く、刃と語られるものへと。
 それは剣山のようにと生え揃い、如何な修介の拳と言えど、正面から叩きつけたならば裂けるは彼の拳の方。
「視るべきものを間違えたな」
「はっ? ァ、グルアアアァァァ!?」
 ――だが、悲鳴を上げたは龍のみ。
 何故か。
 修介の狙いは龍ではあれど、その身には非ず。鱗言犇めく中にて、鱗の生じ得ぬ箇所――龍の瞳であったから。
 拳は狙い違わずとそれを射抜き、渾身と共に龍の脳裏へ火花を散らさせるのであった。
 痛みに身を捩った龍が、地へと堕ちていく。

成功 🔵​🔵​🔴​

キリカ・リクサール
アドリブ連携歓迎

フン…寄生虫が何か言ってるな
この場で一番価値が無いのはお前自身だろう?

シルコン・シジョンとシガールQ1210を乱れ撃ち
弾丸による貫通と鎧無視攻撃で敵の鱗を貫いて攻撃を行う
ダッシュやジャンプで動き回りながら敵の攻撃を見切りつつ、次々と位置を変えながら撃ち込んで敵を此方に釘付けにする
そして敵の攻撃にが来たらカウンターでUCを発動
撃ち込んだ銃弾で動きを封じ込め弱体化させたら、視線だけで景元に攻撃するように伝える
妻子の仇として、奴にせめて一太刀を浴びせねば彼の気が済むまい
その後は景元が攻撃される前に装備武器の一斉射撃を行う

ああ、「仲間になるか?」への答えがまだだったな
―地獄へ堕ちろ、だ



 響いた音は大地の揺らぎ。地へと墜とされた龍の衝撃に、土煙の幕がもわりもわりと。
 訪れた静寂は、まるで世界が息継ぎをするかのよう。
 だが、そんな余韻などキリカ・リクサール(人間の戦場傭兵・f03333)には関係がない。その両の手に握られた銃砲より無骨な歌声を、硝煙の煙を吐き出し、静寂を打ち破るのだ。
「小賢しいわっ!!」
 戦いはまだ終わってはいないと知るからこそ。
 弾丸が土煙を貫いて、その奥で火花が散った。しかし、手応えはまだ大きくはない。
 ――土煙を掃うように、その奥から尾が薙がれた。
 銃弾を弾き、牽制を兼ねたであろうその一撃。逆巻いた風に土煙が晴れ、片目閉じたままの龍がそこに。
「フン……寄生虫が何か言ってるな」
 皮肉をたっぷりと込めた言葉の刃。尾が薙がれるより速く、既にその範囲より逃れていたキリカは銃弾の代わりとそれを放つのだ。
「寄生虫、だと?」
「なんだ気付いていなかったのか。武器に寄生し、人に寄生し、お前のその在り様を示すのに、これ以上ない言葉だと思っていたが」
「――ほ、う」
「依り代がなければ何も出来ない。この場で一番価値が無いのはお前自身だろう?」
「……いいだろう。お主は特に、念入りに壊してやる」
「出来ればな。出来ない事を語るのは惨めだぞ?」
 話す最中の流し目一つ。
 言葉にはせぬ。しかし、恐らくは伝わったことだろう。此度においては、己の意思で手の白くなるほどに刃を握っている男には。

 ――風の流れる音が聞こえた。

 肌で感じる脅威。だが、それも己に触れればこそ。
 土煙の無い分、目視の下に鋭くと振るわれた尾であったが、キリカはそれを持ち前の脚力と戦闘経験で触れるを許さない。
 触れれば脚を失うであろう大地薙ぐ軌道も、受ければ大地の赤い沁みとなるであろう大上段からも、尾の動くへ合わせて不規則に波打つ刃の鱗も、対象を捉えてこそ意味を成す。キリカはその全てを跳び、走り、龍の片瞳閉じた死角を利用し、時に泥土付くことも厭わずに転がり、己を守り通す。それだけではない――。
「ええい! 鬱陶しい!」
「頑丈さは褒めてやろう」
「生半可な銃弾程度で撃ち抜ける我ではないわ!」
「生半可な、か」
 初めから変わらぬ銃弾の雨霰。
 その手に握った二挺の銃から銃弾を吐き出させ続け、龍の鱗に火花を彩っていたのだ。
 だが、手応えもまた土煙越しと変わらぬそれ。

「――そう思うんなら、そうなんだろうな」

 その筈だと言うのに、キリカの表情に変わりはない。むしろ、憐れみすらをも敢えてと浮かべて。
「……何?」
「我らに日用の糧を与え給え。我らが人に赦す如く、我らの罪を赦し給え。我らを試みに引き給わざれ、我らを悪より救い給え」
 ――アーメン。
 聖句を括り、希望への祈りを此処に。
「お、ご、おおぉぉぉお!?」
 光と生命、聖なる言葉に苦悶の声を漏らすならば、それ即ち、主の敵に他ならない。
 龍はその身――鱗/刃食い込んだ弾丸――より生じた百合に蝕まれ、鱗/刃を罅割れさせ、脆く、脆く。
 手応え薄くとも、キリカが硝煙の聖歌を撃ち続けていたのには理由があったのだ。全ては盤面を己の色で染める、この時のためにと。
 ――再び、キリカの目が流れた。
 それは合図。
「おおぉぉぉぉぉぉ!!」
 龍の苦悶の声を掻き消さんばかりの大音声。
 悶える龍の、その閉ざされた瞳の死角より、跳び出した男の。キリカの視線を受け、この時を伏して待ち続けた男の。
 ――せめて一太刀を浴びさせてやろう。
 その想いがあればこその、挑発するような台詞回し。龍が男に最早と価値を見出していないとは言え、それでももしもがあってはならない。男に龍の意識が欠片でも向かわないようにするための。
 傷付いた男の、それでもと振るわれた刃が、龍の朽ちた刃が一枚を断ち落とす。
 ――断たれ、剥がれ落ちた鱗の奥、皮膚が視えた。
「そう言えば、誘いへの返答がまだだったな」
 掲げる二挺拳銃の武骨な光。咆哮あげる時を今か今かと待ち望む光。

「――地獄へ堕ちろ、だ」

 男の下がる姿を守るように、彼がこじ開けた鱗の奥を目指すように、キリカからの痛烈な返事が容赦なくと駆け抜けていく。
 空気震わせる悲鳴が龍の口より溢れ出し、大地染める紅が鱗の奥より吹き出した。

成功 🔵​🔵​🔴​

フィーナ・ステラガーデン
セシルと協力

図体がでかいだけのトカゲ風情が人に価値つけてんじゃないわよ!
男が共に戦うならフォローするわ!見せつけてやればいいわ!
こっちはこっちで男にかかる攻撃を【属性攻撃】で弾き返しつつ
隙を見つけていくわね!
敵UCにて鱗に覆われて攻撃が通りにくくなってからが勝負ね!
こちらも本気を出していくわ!何度か攻撃をしてこちらの攻撃力に油断した所で
UCを発動、セシルと共に同時に切り込むわ!
そのまま【限界突破】を行い鱗の【部位破壊】を狙うわ!
後は男に合図を行い、その破壊箇所に向かって攻撃を促すわよ!
あんたが決め付けた価値の無い人間にやられんのよ!

(アレンジアドリブ連携大歓迎!)


神代・セシル
フィーナ先輩と一緒

命はオモチャではありません。
必要な時は使う、価値がない時は捨てる。こんなものは有能なボスになれないとおもいます。

あっ、トカゲさんはこんな話を理解できないですね、すみませんでした。

フィーナ先輩をサポートします
敵の攻撃を【見切り】で対応し、この間弱点を見つけてみます。

その硬い鱗は、トカゲさん、あなたが自分の弱さを隠すためのものです。

UCを使います。魔力で光の剣を最大出力させ、先輩と共に同時に切り込みます。

藤代さん、あなたの覚悟、見せてください。

【アレンジ・アドリブ歓迎】



「羽虫風情がぁ!!」
「うるせぇ! 角の生えた蛇風情が!」
 脆くと崩れた鱗の奥、吹き出す紅に龍の白が一部と染まる。
 痛みに、傷つけられた怒りに咆哮が轟けば、負けじと男も怒鳴りを返す。
 だが、一太刀を入れたとは言え、否、一太刀を入れたからこそ、男の身は龍の懐近く。狙われるは、当然。
「襤褸屑に引き裂いてやろう!」
 鋭き爪が男へと迫る。逃げるを図るには、その身は重すぎた。
 猟兵のお蔭で一矢は報いたのだ。ならば、せめて背中傷は負うまいと男は迫る死を睨み続けるのみ。

「たった一回ぶん殴った程度で満足してんじゃないわよ!」
「命を、諦めてはなりません」

 紅蓮が、光輝が、その死を否定する。
 男と龍との間、立ちはだかったはフィーナ・ステラガーデン(月をも焦がす・f03500)が炎であり、神代・セシル(夜を日に継ぐ・f28562)が刃。その鋭きを受け止め、弾き、死神の足音を遠ざけるのだ。
「す、すま――」
「謝ってる暇があるなら、まだ戦うつもりがあるなら、その手に力を籠めなさい! こっちはこっちで援護するから!」
「藤代さん、あなたの覚悟、見せてください」
「――っ!! ああ!」
 身体が十全に動かぬとて、死を避けるは叶わぬとて、最後の最後まで足掻くことは出来た筈。死中に活を見出さんとすることは出来た筈。死に物狂いで戦う事と命を諦めて戦うことは違うのだ。
 それを目の前に並び立った二つの背中――男より随分と小さい、しかし、大きな背中は教えてくれていた。

 ――パキリと、何かの剝げ落ちる音が響いた。

「余計なことを。死んだとて価値もない男だろうに」
「ハッ! 図体がでかいだけのトカゲ風情が、人に価値つけてんじゃないわよ!」
「命はオモチャではありません。価値がなければ捨てるは違います」
「そうか。人の世では同族殺しにも価値を見出すか」
「いえ、それはあなたが原因でしょう」
「だが、下手人はそこな男よ」
「屁理屈ね!」
「はい、そういう罪のお仕着せは有能なボスには程遠いと思います」
「よくよく口の回る」
「あっ、すみませんでした。トカゲさんにはこんな話は理解できないですね」
 折角と朽ちたを落とし、元の鱗/刃を取り戻した龍だと言うのに、その白きへ朱を差したかのように憤怒を示す。
 ――尾が、大地に波打った。
「くるわよ! 用意!」
「サポートはお任せを。藤代さんも、無理は構いませんが、無茶は控えることをお勧めします」
「肝に銘じとくよ」
 ざりざりと大地に引っかき傷を残しながら、迫りくるは長大なる。
 迎え撃つは、紅蓮の華。幾つもの爆風で、迫りくる尾の速度を殺す。そして、僅かでも速度が落ちたのなら、飛び出す小柄と光輝の剣。噛み合わせ、喰い合わせ、火花を散らして受け止めるのだ。
「図体だけはあって、そこそこに重いじゃない!」
「鱗も、刃も、その頑丈さを増している様子ですね」
「呵々、これが我の喰ろうてきた力よ!」
「なによ! そんなの、あんたの力じゃないってことじゃない!」
「ようは武具のお蔭で強いのだと認めているようなものですね」
「それを取り込み、使いこなすこそが我の力よ!」
 一合、二合、三合――撃ち合い、打ち合い、火の粉が散って。
 男もまた、その合間に僅かな隙を見出しては龍の尾を叩くが、その硬さに罅割れた刃では刃毀れを進めるだけ。
「どうしたどうした。我を討つつもりではなかったのか? ん?」
「むっかつくわね!」
「ですが、決定打に欠けるは本当のことです」
「さっきの傷も、今は鱗に覆われちまってるしな!」
 フィーナの爆炎にて受け、セシルの刃にて逸らしは叶うが、それでもその硬きの内にまで衝撃を伝えきれぬ。
 今は良いが、彼女らの体力とて無限ではあり得ない以上、いずれどこかが破綻すれば、その結末は推して知るべし。
 ――このまま拮抗を保てればいずれは。
 龍が己の勝利を脳裏に描いて、その口元に邪悪とも言える嗤いを浮かべていた。そして、幾度目かの尾が薙がれるのだ。フィーナの、セシルの、男の体力を削らんと。

「セシル!」
「了解です、フィーナ先輩」

 杜撰な尾の一撃など、必殺の意思なき一撃など、彼女らを前にして成してはならぬこと。だが、己の勝利を疑わぬ、ヒトに利用する以上の価値を見出さぬ龍であるが故の慢心がそこにはあった。そして、それを見逃す彼女らであろう筈もないのだ。
 互いの名を呼ぶ以心伝心。この時を置いて、それを為すは他になし、と。
 フィーナの杖先より伸びるは黒。光輝燦然と照らすはセシルの薄青。
 それは二人が身の内に宿す力を喰らって、その出力の限界を振り切って、強く、強く。
 鱗を抜く威力が足りないのなら、足りるまで己の内から引き出せばいい。
 シンプルであるが故に、最も難しい行為。だが、それを二人は成していたのだ。今にもその手を離れて暴れ出しそうな力。それを歯を食いしばって抑え込みながら。
 刃が、龍をも断つ刃が形成されていく。
「だが、我の方が僅かに早――」
「いいや、そうはさせねえ!」
 その脅威に今更と気づく龍ではあるが、腑抜けた尾の一撃は既に放たれた後。僅かにと彼女らへの到達が早いは確かであるが、男にとて出来ることはあるのだ。
 ――妖剣解放。
 己が寿命を代償に、今一度の力を得る。その僅かな時を稼ぐために。
 ガチリと龍の尾と男の妖刀とが鬩ぎ合い、僅かな拮抗の後に男の身が弾き跳ばされる。
「邪魔立てを……!」
「へへ、いいのかい? 俺なんぞに意識なんて向けていて」
「――っ!!」
 男に受け止められ、衝撃を伝えたがため、既に尾の勢いは殺されている。その先で、二振りの刃が既に完成をしていた。

「無茶をして」
「はは、これは無茶じゃなくて無理ってもんだ」
「全く……ですが、覚悟は受け取りました」
「そうね。よくやったわ! さあ、思い知りなさい! あんたは、あんたが決め付けた価値のない人間の稼いだ、価値ある時間にやられんのよ!」
「その硬い鱗の下、トカゲさん、あなたが隠す自分の弱さを曝け出してもらいます」

 振るわれるは二刀。漆黒にして、薄青の。
「なぎぃ……払えぇぇえええ!!」
「――」
 月をも焦がし、星をも断つ。
 極大にまで膨れ上がった黒炎/光輝が、龍の体躯に交差する二筋を刻み込む。その前には、龍の自慢する鱗/刃など、なんの障害にもなり得なかったのだ。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

土斬・戎兵衛
刀狩の龍かぁ
どうだい、俺ちゃんは美味しそうに見えるかい……?

遠距離攻撃を無効化してくるならまとわりつくように近距離戦だ
躰の刃、一本一本がそれなり以上に価値のある武具か
だが、その使い方が叩きつけるだけというのは、随分と値打ちの知らない使い方をする

定切で回避や防御に徹しつつ、最適な角度を【見切り】分渡でUCを決める
最良の入射角で入れた刃は万物を斬り開き、逆にどんな名刀も刃筋がズレれば鈍同然
その刃の鱗を切断しよう

俺ちゃんは最適角度の斬撃に特化した殺刃人形十号機
そちらが刀狩を名乗るなら、俺ちゃんは刀斬(かたなぎり)とでも名乗ろうかな?

そら、景元殿
元気を出さないと拙者が先に敵を殺しちゃうよ
ガンバ、ガンバ



「一本一本がそれなり以上に価値のある武具だろうに」
 ざくり斬り落ち、どろり融け落ち、龍の身より剥がれ落ちる鱗/刃。それでもとまだその身に残る鱗を土斬・戎兵衛("刃筋"の十・f12308)が見るに、その予想へ間違いはない。
 ――ぱちりぱちりと弾けるは火の粉の残り香か。はたまた、戎兵衛の脳裏にて弾ける算盤の玉の音か。
 鱗一つに付き、さて、いったい幾らほどの値打ちモノが使われていることだろう。
 それを試算し、無駄となった額を思えば、血腥さにすら眉を顰めなかった戎兵衛の眉に、深々と皺が刻まれるは致し方なし。
「その使い方にせよ、随分と値打ちの知らない使い方をする」
 鎧防具として使うにはまだしも質量での叩きつけなど、そんな風にしか扱えないのなら、いっそ、その刃の一本二本と失敬してしまおうか。そんな考えも戎兵衛の頭を過る。
 だがしかし、今はそれを実行するよりも――。
「刀狩の龍かぁ。どうだい、俺ちゃんは美味しそうに見えるかい……?」
 己の二刀を見せつけて、まるで挑発するかのように。
 龍は刀狩の名が示す通り、数多の刃を喰らい、己の肉体の一部としてきた存在だ。ならば、猟兵との交戦でその肉体の一部を失った今、それはきっと何より美しく、美味しそうに見えたことだろう。
 血走った眼が、苦悶と食欲とで零れ落ちる血混じりの涎が、それを雄弁に示していた。
「はは、どうやらお眼鏡には適ったようだ」
「寄越せ、それを今すぐに寄越せ!!」
 ガパリと開いた大口の中、ギラリと光るは名刀が如き牙の生え揃い。
 おぉ、怖い怖い。と嘯くは、どこまで本当か。どこまで嘘か。
「避け――」
「いやいや、景元殿。まずは景元殿がしっかりと立てるようにならないとでござるよ」
 迫りくる大口へと逆に踏み込んで、狙いをズラすは戎兵衛の足捌き。
 すぐ傍が巨体と風が通り過ぎ、ガチリと遠くで音と火花が弾けて、届く。
 恐らく、いや、必ず、かの龍は戎兵衛を追ってくることだろう。そのための挑発であり、そのための踏み込み。先の一戦の中、吹き飛ばされ、態勢を崩したままの男が態勢を整えるための時間を稼ぐための。
 その証明とばかり、伸びきった龍の頸の下――胴体より伸びる手が、爪の鋭きを持って戎兵衛へと振るわれる。
「ひゅ~、少しはそれらしくと振るえたのね」
 龍の片手、その三指。そこより伸びる爪が描く軌跡は、正しく、触れたものを切り裂くための。
 戎兵衛が――殺刃人形十号機としてが付ける及第点。少しだけ、見直したと言わんばかりに口笛吹いて。

「――でも、まだまだ入射角が甘いかなあ。そんなんじゃあ、俺ちゃんは斬れないよ」

 演算。
 戎兵衛の瞳――みおむその瞳と呼ばれるそれが弾き出す最適解には程遠い。
 だから、ほら。
「こんなにも簡単に弾かれる。斬り開かれる」
 三つ指を受け流し、逆に斬り飛ばすは黒鉄色の。
 どんな名刀であろうと、鈍であろうと、大切なのものは如何に最良の入射角で刃を通せるか。と、戎兵衛は言う。そして、その実演こそがそこにはあった。
「お、おぉぉぉ!? 我の、我の指が!?」
「どうだい。爪も短くなって、清潔になったろ?」
「きさ、貴様はァ!」
「貴様と言われるのもなんだなぁ……そうだ。そちらが刀狩を名乗るなら、俺ちゃんは刀斬とでも名乗ろうかな?」
 どうだい。似合ってるでござろう。なんて、笑わぬ瞳で彼は言う。
 頸を引き戻し、斬られた指を引き戻し、戎兵衛の姿をその目に映した龍の背筋に奔るは怖気。
「そら、景元殿も。そろそろ元気を出さないと拙者が先に仇を殺しちゃうよ。ガンバ、ガンバ」
 ――納刀の音。
 あ。と疑問に思うより早く、龍の胸元に奔ったは熱さ。
 かの龍が身体を引くより迅く、既に戎兵衛の刃がその身に第三の太刀傷を刻んでいたのであった。男へ、その奮起を促しながらと。

成功 🔵​🔵​🔴​

トリテレイア・ゼロナイン
その勧誘には否と
騎士とは鬼…悪魔を討つのが役目
…疾く討たせて頂きます

●かばいながら関節部等の武具の隙間●見切らんと●情報収集しつつ

その意向、騎士としてお引き受けいたします
ですが藤代様…一矢向いた後の事を考えておられますか?

格納銃器の●不意打ち目潰しの隙にUC発射
武具鱗の隙間掴んで電流流し拘束
地に叩きつけ龍の身体●踏みつけ

その妖刀で世に仇成す悪を斬る道
妻子の冥福を祈る…この世界では『出家』といいましたか
その様な道も御座います

超重フレームの鉄爪展開
出力限界突破した怪力で敵の顎を外す勢いでこじ開け
鱗の無い口内晒し

ですがどの様な道を選ぼうとも…貴方の妻子はその先に光あることを望まれる筈です
さあ、一刀を


リュカ・エンキアンサス
灯り木に持ち替え
今度は加減をせずに撃つよ
向こうが喋ってくれるなら幸い、先制して制圧する
景元お兄さんの動向には注意を払って、適度に援護射撃
復讐したいなら、できる限りすればいい
それで、あなたの気が済むなら
…とはいえ、さすがに危険が過ぎそうなら止めるけどね

相手が妖刀転生を使うならよく見極めて、急激に攻撃力や移動力が変化するようなら即座に対応できるように気は払っておく
転生部位は早めに撃ち落として解除させたい


俺は鬼にはならないよ
俺は人間でいたい
どれだけ、自分が人間の枠からこぼれ出ていようとも、人間でいたいんだ
そうだね。復讐なんて正直詰まらないと思う
無駄だと思う
でも、俺はそういう、人間ってのが好きなんだ



 ぼとぼとと大地に滴り落ちるは、龍の血雫。
 とある世界でなら、龍の血を浴びれば傷の一つも負わぬ身体になれると言うが。
「ご無事ですか?」
「ああ、すまん」
 トリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)が助け起こすは、幾度かと龍の血を浴びている男の身体。その手を借り、よろり立ち上がる姿からは到底と伝説に語られる効能はないと窺い知れた。
「……失礼ながら、今一度、お聞きしたい」
「何をだ」
「貴方の願いを」
 そう言ったトリテレイアの瞳――緑の輝きからは、男は何も読み取れない。だが、何故。だとか、今更どうして。などとは言えはしない。
「奴に一矢を……いや、違う。一矢だけじゃねえ。奴を、奴を討つ!」
 だから、男は赤子が世界へ産声をあげるように、己の意思を告げるのだ。そうすることで、己を確かめるようにと。

「ええ、了解いたしました。その意向、騎士としてお引き受けいたします」

 戦いの場故に礼は省略したが、それでも、その言葉には真摯なる響きが籠っていた。
「……ん、そっちのは終わった感じ? なら、こっちも手伝って欲しいんだけれど」
「ああ、申し訳ありません。すぐに」
 響く声の静か。されど、その手に握るより響くは火薬の咆哮。リュカ・エンキアンサス(蒼炎の・f02586)が、その銃火でもって痛みに怒り狂う龍の動きを抑え込んでいたのだ。男と対峙した時とは違う、遠慮のない弾丸で。
「景元お兄さんって言ったっけ?」
「お兄さん……もう、そんな年でもねえが、そうだ」
「復讐したいなら、できる限りすればいい。それで、あなたの気が済むなら」
「あ、ああ……」
 凪のような瞳。夜明けの輝きが、それだけ言って、ふいと男から外れた。
 リュカからすれば、己の命を大切にする彼からすれば、誰かのための復讐は詰らない物に感じていた。いっそ、無駄だとも。
 ――だが、それでいい。
 そういう無駄があるからこそ、他人にとってはどうしようもない無駄でも自身にとっては大切ないものを積み重ねるからこそ、人間ってものをリュカは好きなのだから。
 口元に描き出す弧はない。当然だ。既に命の奪い合いをしているのだから。でも、少しだけ、愛銃を握るその手には力が籠っていた。

 ――正確無比の弾丸が龍の傷口を抉り、暴れ狂う暴威を不倒の大楯が受け止める。

「よもや、よもや我が身体がここまでの傷を負おうとはな!」
 幾度も幾度もと重ねられた痛みに、隠しようのない苦悶が滲む。
 だが、それで背中を見せて逃げるは猟書家に名を列ねる者として、主君たるクルセイダーに忠誠を誓う者として、それは出来ぬ。
「身体を残し、鬼と変えるなどとはもう言わぬ。貴様らという脅威を、ここで殺さねば!」
「答えは最初から否ではありましたが、勧誘を自ら取り下げて頂けるとは有り難いことです」
「俺も人間であり続けたいから、鬼になるつもりなんてなかったけれど、鬱陶しい勧誘がなくなるならそれでいいや。勿論、死ぬつもりもないけれど」
「ええ、騎士とは鬼……悪魔を討つことも役目。人を堕落の道へと誘う龍など、疾く討たせて頂きましょう」
「……そこまで格好いいことは言えないけれど、早く片付けるってのは賛成かな」
 龍が悪鬼もかくやと顔歪ませて、その身を地に滑らせて迫りくる。その体躯で、刃で、立ち塞がる者を全て轢き潰さんと言うのだろう。
「止めれそう?」
「止めます」
「援護は?」
「あればあるだけ頂けると」
「了解」
「俺は……」
「お兄さんは力を溜めてて」
「ここは私達の出番ですから」
「……すまん。頼む」
 迫る龍を正面から受け止めるは、男には荷が勝ちすぎる。故にこそ、二人はそこに立つのだ。
 土煙あげて大地に突き立つ大楯の誉れ。その後ろから、火薬――星が瞬いた。
 顔を正面に突き出し迫り来れば、それを狙ってくれと言っているようなもの。トリテレイアの火器が、リュカの愛銃が、その口々よりそれ目掛けて弾丸を吐き出す。
 勢いを殺す為か。否。それだけでは龍の鱗を撃ち抜けぬは、他の猟兵にて証明済み。ならば――。
「目が、目が潰されようとも逃がさぬぞ!!」
 狙いはその目。龍が猟兵達を捉えるための。
 弾丸が突き刺さり、暴れ狂い、その金色を真っ赤と染めた。
 だが、龍はその勢いでもって正面に捉えていた三人を目掛けて突き進む。暗闇に閉ざされた眼のままで。

「我武者羅だけであれば、捉えるは容易い事です」

 暗闇の世界の中、龍は己の身体がぐるりと天地を一回転としたを感じる。
 何が起きたかは分からない。ただ、大楯の堅きに触れ、そのまま轢き潰そうとした刹那、そうなったという混乱だけ。そして、絡みつく何かが――。
「少し、大人しくして頂きます」
「ぎゃあ!?」
 暗闇を埋め尽くす白。それはバチリバチリと弾け続けて、龍のその身を意図せぬ痙攣で縫い留める。
 視界が残されたままであれば、龍も気付けたことだろう。
 龍の巨躯にすら抗し得るトリテレイアの怪力に、電流放つ隠し腕の絡繰りに。
 だが、全てはもしもにしかすぎず、今は大地に転がり、打ち上げられた魚の如くと跳ねる身があるのみ。
「藤代様――」
「いや、まだだ」
 脳裏に鳴り響くは虫の報せ。リュカの第六感。遅れて、トリテレイアのセンサーが拾い上げた異音。刃擦れ合うような異音。
 龍の身体は依然として拘束の内。ならば、どこから。
 ――それは戦場の様々にと飛び散った鱗/刃。かの竜の、身体の一部から。
 無数のそれが意思持つように解れ、分かれ、妖刀の群れとなりて跳ね回り、トリテレイアを、リュカを、男を串刺しにせんと。

「――伏せて」

 銃口が滑らかにと宙を薙ぐ。その口から火薬の瞬きを繰り返しながら。
 弾け、弾け、弾け。
 火薬の炸裂音が、鋼とぶつかる火花が、砕けた妖刀の破片が。
 ぱらぱらと散りゆく様はまるで流星群のよう。
「今の内に」
 願いが届くを妨げさせはしないから。
 その言の葉に背中押されて、男が遂にと足を踏み出す。

「藤代様は……一矢報いた後の事を考えておられますか?」
「いや、まだ何も考えちゃあいない」
「では、その妖刀で世に仇名す悪を斬る道、もしくは妻子の冥福を祈る……この世界では出家と言いましたか? その様な道も御座います」
 未来を語り、想う、それは生きることの証でもある。それを今、トリテレイアが語り掛けたのは何故か。
 男を突き動かすのは龍への怒りだ。だがしかし、それは龍を討てば向かう先を失い、立ち消えてしまうものでもある。その時に、新たなる道を示すことで、生への執着を捨てぬためにと。
 それは、一度空っぽになり、それでもその胸の内に抱いた唯一でもってこの時まで歩んできたトリテレイアだからこその。
「ですが、どの様な道を選ぼうとも……貴方の妻子はその先に光あることを望まれる筈です」
「……そうだと、いいな」
「さあ、一刀を」
 抑え込んだ龍の口をトリテレイアが無理矢理とこじ開ける。鱗の無い、柔らかな肉の中身を。
 ズブリと男の妖刀が柔肉へと潜り込み、断末魔に程近い悲鳴がその奥より零れ出す。そして、役目を果たしたかのように、罅割れ、歯の毀れた妖刀はその身を砕いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

天狗火・松明丸
さて、けしかけたのなら
その行く末を見届けさせてもらおうか
…付け焼き刃だが、この熱を貸そう

不要ならば払えば良いさ
灯りを降らせ、ひとときばかりの火を刀へと
傷に痛みに染み入らせ
出血は焼いて止めてやれば良い
他の兵に負傷が出るようであれば
範囲を広げるとする

藤代景元――景元か
死なずに立てよ
鬼と変わるを止められず
残して逝くしかなかった
妻子の想いは誰にも解らぬが
お前さんの死を望むかは
景元が一番よく知る事だろう

にしても、だ
刃の龍より鬼への勧誘とは笑い話にもならねえな
お前さんを鍛えた覚えも無し
余所へ当たれと言う前に
何なら熔かしてしまいたいところだ


臥待・夏報
さっきは殺すつもりだと言っといて
一転、命を大事にだなんて言えると思う?
野次馬だろうと最低限、主旨は一貫させなくちゃ
――貴方には、命の使い道を選ぶ権利があると思うよ

お兄さん、力が欲しくないかい?
例えば目を瞑っても敵を斬れる程の鋭い感覚とかさ
僕はそういう呪術が使える
代償はほんの少しの寿命でいい……
そう言った方が乗ってくれる気がする

景元氏に小さな切り傷を付けて【くちづけの先の熱病】
実際は命を削るどころか不死性が彼を守ってくれる
目を瞑るよう誘導したのは妖刀を見せないため
それでもし刀狩が斬れたとしたら、単なる彼の怒りの勝利だ

炎に灼かれないための注意点は……忠告する必要もないかな
彼は嘘吐きには見えないもの



 龍の断末魔は、その喉奥より迸った声は轟風となって吹き荒れる。それこそ、その口内にあった男を容易くと吹き飛ばす程に。
「おお、おお。山風もかくやだな」
 だが、男が地に転がるより早くとその身を受け止めたは天狗火・松明丸(漁撈の燈・f28484)。ばさりとその翼を一打ちし、ふわり大地に舞い降りる。
「ありがとう。助かった」
「なに、けしかけた手前もあるからな」
 死ぬを選べぬようにと誘導した選択肢。それを言ったは松明丸で、ならばこそ、その身に手を伸ばしたはある種の必然でもあったのか。
「――しかし、あれも幾分しつこいようだ」
 拘束に囚われ、口内を貫いて刃埋め込まれた身体は最早、死に体。だが、否、だからこそ、せめて男を道連れにせんと龍は力を振り絞って拘束を引き千切ったのだ。それによって鱗がはげ落ち、肉がこそげようともと。
「いらねぇ縁なんだがな」
「ほう。もう、あれの命はいいと?」
「いや、そういう訳じゃねえ。だが、あんた達に助けられて、背中を叩かれて、ちょっとだけ吹っ切れただけさ。まあ、この騒ぎが終われば、またあいつらを想って、胸は苦しくなるんだろうが
「……そうか」
 今迄に幾人もの猟兵が男に関わり、助け、道を示した。その結果がそこにはあったのだろう。
 だが、その結果を台無しにせんと龍は猛る。男の生きるを許さぬと龍は猛る。
「しかし、奴と戦うにも、俺にはもう刀の一つも――」
「それなら一つ提案だ。どうだいお兄さん、理不尽に抗う力は欲しくないかい?」
 囁くような提案は風にと乗って届く。その風が流れ来た先を見れば、そこには臥待・夏報(終われない夏休み・f15753)が超然と。
 宵の色か、はたまた明ける空の色か。不思議な色を宿した彼女の視線が、男の姿を確かと捉えていた。
「何だと?」
「力が欲しくないかって聞いたのさ。例えば、目を瞑っても敵を斬れる程の鋭い感覚。例えば、限界を超えるための魔法。僕はね、そういう呪術が使えるんだ」
「願ったり叶ったりじゃああるが、都合の良さはまるで悪魔の囁きだな」
「勿論、代償はあるよ。そうだね、お兄さんの寿命。そのほんの少しばかりを頂くことになる」
 戦えぬ者へ即席と戦う力を与えるに、代償がない訳がない。夏報の提案は寿命を代償とした力の前借を意味しているのだから。
 ――竜の咆哮はより強く、噴き出る血液はより紅く。この場へ到達するに、時間は余り残されてはいまい。
「いいだろう。なら、その力を貸してくれ!」
 死ぬためにではない。これからを再びと歩むために、今を生きる力を。

「いいよ。それじゃあ、目を瞑って。熱さ痛さは我慢しないで、いいからね」

 するりといつの間にかと距離を埋め、言われるがままにと目を瞑った男の身体に小さな切り傷を一つばかりと贈り物。
 燃えて、燃えて、燃えて。
 その傷を介して力が、熱が、男の身体全体に広がっていく。それこそが、夏報の言う力であったのか。
「……なあ、お前さん」
「命の使い道を選ぶ権利は、彼にあるんだよ」
「そうか。人間ってのは、面白いもんだなあ」
 その熱の正体に気付いたは松明丸。抱いた不思議を問いかければ、遠まわしの肯定が一つ。
 夏報が与えたのは戦い抜くための力ではあれど、戦う力に非ず。それは不死性。その熱を宿す限りは、如何なるからも死を退ける力。ただし、痛みはそのままにあるけれど。夏報はそれを男へと与えることで、彼がこの戦いで命を落とさぬをこそ優先したのだ。
 ――殺すくらいのつもりで行く。
 餓蒐であった頃の男にそう言ったのは夏報自身であり、今更とそれを翻すのは彼女の矜持が許さなかったのだろう。だからこそ、不器用な、遠回しな援護をと。
 それに松明丸は興味深げの視線を送り、ヒトの不思議に口元を小さく歪めるのだ。人真似し続けてはいるが、まだまだ知らぬことも多いと。

「なら、俺からもこの熱を貸そう。不要ならば払えば良いさ」

 広げる翼は火の怪鳥のそれ。だが、今、火の粉を巻き散らすは疫病撒き散らすために非ず。戦に疲れ果てた身体に暖かきを、立ち向かうを求める心に焔を宿す為の。
 火の粉の触れた端から男の身体が茫と一瞬燃え上がれば、火の消え去った後には黒炭ならず、傷みなき身体そのもの。折れた刀に集まれば、その先に伸びるは炎の刃そのもの。
 夏報が戦い抜くための力を与えたのであれば、松明丸はまさしく戦うための力を。
「藤代景元――景元、か。ああ、死なずに立てよ。鬼と変わるを止められず、お前さんを残して逝くしかなかった妻子の想いはもう誰にも解らぬが、その者達がお前さんの死を望むかは、景元が一番よく知る事だろう」
「さあ、行って。その熱が貴方を導いてくれる」
「――応!」
 燃ゆる熱は男の魂を打ち直す炎そのもの。
 一度は心折れども、今は刃折れども、それでも新たなる心と刃を得た男が、迫りくる龍へと逆に挑みかかるように地を駆ける。
 その瞳は閉じられたまま。龍の齎す幻惑を映させまいと夏報が誘導したまま。だが、それでもと彼は果敢に。

「にしても、だ。刃の龍より鬼への勧誘とは笑い話にもならねえな」
「妖怪同士のよしみはなし?」
「まさか。それになにより、俺はあんなものを鍛えた覚えも無し。誘うなら余所を当たれと言いたいもんだ」
「だから、当てつけのように火の刀を」
「熔かしちまっても、何の問題もないだろう?」
「それはそう。他には何かしたのかな」
「いいや、あとはちょいと傷を焼いて、血を止めてやっただけだ。そう言う、お前さんは?」
「死なないようにしてあげただけ。だから、この勝利は彼の怒りの勝利でもある」

 劫火の刃が、男の身に宿った熱が、傷付いた龍を断つを二人は見る。
 それが刀狩と呼ばれた龍の終わりで、男が猟兵の介入によって修羅道と完全に決別した瞬間でもあったのだ。
 絶望の生まれ落ちた声とは違う、想いを吐き出すように叫ぶ鬨の声が、二人の見守る先で響いていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年11月29日
宿敵 『餓蒐』 『刀狩』 を撃破!


挿絵イラスト